第001回国会 司法委員会 第10号
  付託事件
○國家賠償法案(内閣送付)
○刑法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
○岐阜地方裁判所多治見支部を設置す
 ることに関する請願(第十一号)
○帶廣地方裁判所設置に関する陳情
 (第四十九号)
○刑事訴訟法を改正する等に関する陳
 情(第六十号)
○民法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
○連合國占領軍、その將兵又は連合國
 占領軍に附属し、若しくは随伴する
 者の財産の收受及び所持の禁止に関
 する法律案(内閣提出)
○昭和二十一年勅令第三百十一号(昭
 和二十一年勅令第五百四十一号ポツ
 ダム宣言の受諾に伴い発する命令に
 関する件に基く連合國占領軍の占領
 目的に有害な行爲に対する処罰等に
 関する勅令)の一部を改正する法律
 案(内閣提出)
○罹災都市借地借家臨時処理法の一部
 を改正する法律案(衆議院送付)
○皇族の身分を離れた者及び皇族とな
 つた者の戸籍に関する法律案(内閣
 送付)
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昭和二十二年八月七日(木曜日)
   午前十時三十五分開会
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  本日の会議に付した事件
○刑法の一部を改正する法律案
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○委員長(伊藤修君) これより開会いたします。刑法の一部を改正する法律案に対する質疑を継続いたします。それでは第二編第一章皇族ニ對スル罪、第七十三條から七十六條までの質疑をお願いいたします。
○小川友三君 七十三條から七十六條までの、これは、日本國憲法第十四條によりまして、「すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」この條項によりまして、当然削除すべきものであると思います。
○松井道夫君 ちよつとお尋ねいたしたいのでありますが、七十三條の「天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ對シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ處ス」とありましてこの「危害ヲ加ヘ」ということの中には畏多い話でございますが、殺害いたすということも入つておることと存じますが、その点は私まだ調べてございません。当局に教えて頂かなければなりません。仮に殺害申したという場合も入つておるとすれば、刑は新しい改正案によればどういう刑を科することに相成るのか、殺人の刑で行くということに若し解釈すべきものであるならばこれは殺人の罪で、百九十九條の「人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ處ス」、これに当ることになるのじやないかと存じます。ところが、二百條を見てみますと、「自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス」、これは改正案は別に削除になつておるような様子もないようであります。これとの釣合い上いかがなものであるか、片つ方の方は三年まで下すことができる。ところが、親或いはお祖父さんに対しては死刑に処する。何だか我々の観念では頗る奇異な感がいたすのですが、その点御見解を伺いたいと思います。
○政府委員(國宗榮君) 「皇室ニ對スル罪」の第七十三條の中の「危害ヲ加ヘ」この中にはお説の通り殺害の点までも含んでおるものと解しております。從いまして、第七十三條を削除することによりまして、仮に天皇等に対しまする殺害の事実が発生いたしました場合は、一般の殺人罪の規定によりまして百九十九條によつて処断することに相成ると思います。そういたしますと、只今御指摘になりましたように、この第二百條の規定におきましては、「自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役に處ス」、かような規定がありまして、直系尊属殺害の場合に比して、百九十九條のみを適用するにおいては、刑の上において均衡を欠くではないかということも、御尤もな御意見だと存ずるのでありまするが、「皇室ニ對スル罪」を削除いたしましたのは、前に御説明申上げました通り、新憲法の精神に照らしまして、天皇の個人の面におきまして、個人平等の思想に基くその考えからいたしまして、削除いたしたのでございます。いわゆるこの尊属に対する罪は、特定の個人を対象にして、特にこれを重く保護しようというのではないのでありまして、我が國におけるところの長上敬愛の國民感情を基礎といたしまして、一般的に尊属に対する殺傷の罪を重くすると、こういう趣旨であると考えております。從いまして、この憲法に明らかにされておりまする個人平等の思想に、この規定は反するものではない、かように考えまして、特にこの規定を存置した次第でございます。
○齋武雄君 「皇室ニ對スル罪」を廃するということは、これは止むを得ないことでありまして、憲法上当然であると考えるのでありますが、只今七十三條に、「危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ處ス」と、非常に重い刑罰に現行法はなつておるのであります。これは無論殺人も入るのでありましようが、傷害罪もこれに入ると私は考えておるのであります。その場合において、傷害罪は十年以下の懲役となつている。これは非常に軽過ぎやしないか。人命の保護ということを、人体の保護ということから考えて、これは重くしてもよいのじやないか。特に天皇に対しては、國民の感情からいつて……平等でなければならんけれども、併しそういう場合においては、法定刑を重くしてもよいじやないか。一般の法律によるのでありますから、刑法によるのでありますから、そういうことを考慮いたしまして、傷害についてもつと重い刑罰に処するような、そういうことをお考えになつたらどうどしようか。
○政府委員(國宗榮君) 傷害の罪に関しまして、憲法の趣旨から申しまして暴力否定の観点から、暴行罪、脅迫罪等の刑を加重いたしましたが、この「皇室ニ對スル罪」の七十三條の危害を加える中には、御説の通りやはり傷害も含んでおるのでありまして、從いまして、天皇に対しまする傷害の罪が発生いたしました場合は、二百四條によつて処断をすることに相成ります。この七十三條の規定は、死刑一本を以て処断しておりますが、二百四條になりますると、十年以下という刑で、その間に非常に違いを生ずるのであります。御説の通り、十年では、かような場合に賄い切れないではないかという感じがいたすのでありますが、この「國交ニ關スル罪」の九十條によりますと、「帝國ニ滯在スル外國ノ君主又ハ大統領ニ對シ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス」ということがございまして、この暴行というのは傷害を含むというふうに学説上解釈されておりまして、これが先ず一應十年の刑になつておりますから、この際は改めて二百四條の刑を重くするまでもないと考えまして、そのままの刑にいたしておる次第であります。
○松井道夫君 先程の問題についてでありますが、どうも二百條が死刑と無期に限ついてる、それが新しい改正の今の第一章の罪の削除の問題に関聯いたしまして、どうも重過ぎるんじやないかという氣がいたすのであります。成る程日本從來の一つの道徳的美風でございまする親子関係、その親を殺傷する、どんな惡性の親であつても殺傷することは許されない。しかし、それは美風でありますけれども、余りにも封建的の美風ではないかという氣もするのであります。それが度が過ぎました場合のことを言つている次第であります。封建的な美風というものが多分にあるのではないかと思います。民法におきましても、未成年者に対する親権というもののみにいたしまして、成年者に対する親権というものを新しい民法の改正案ではなくいたしたのでございます。そういうことを考えて参りますると、この刑法全般に、直系尊属に対する罪につきまして加重した規定がぼつぼつあるのでありますが、この際全般的に檢討を加える時期に達しているのではないかという点、特にこの二百條は皇室との関係、今の第一章の罪の関係、余りにも均衡がとれないのではないかという感じがする。その二百條について再檢討を加えて見るというお考えはないかということをお尋ねしたい。
○政府委員(國宗榮君) 「皇室ニ對スル罪」を削除いたしまして、二百條の規定を存置いたしますことは、その法定刑の関係におきまして甚だ不均衡のものがあるように考えられるのであります。併しながら仮に陛下に対しまする殺害の事実が発生いたしました場合には、その運用におきましては、十分百九十九條によつて適当な刑が賄えるというふうに一應考えたのであります。二百條の法定刑の死刑又は無期が、今日の民法の改正に伴いまして、重過ぎやしないかというお考えに対しましては、多少その嫌いもないではないかというふうに考えられますけれども、まだこれを直ちに変えるというふうな考えは持つておりませんでございます。
○齋武雄君 七十四條の不敬罪の廃止これも新らしい憲法の下では当然であると考えるのでありますが、これと関聯いたしまして、あとの方に、名譽毀損のところに、侮辱罪というのが廃止になつております。その廃止の理由として、政府当局は十二條に適しないものはよろしいではないか、言論の尊重の立場において認めたらいいじやないか放任しておいてもいいじやないかという御意見のようでありますが、私は民主主義の立場から見ても、侮辱罪は罰すべきものであると考えておるのであります。私が申すまでもなく、民主主義は各人の人格を尊重するということでありまして、無論言論の自由は許さなければいけませんが、人の迷惑になる言論はどこまでも抑圧しなければならないのでありまして、そこまで自由がないのでありまして、十二條に適しなくても、日本國の象徴であるところの天皇に対して侮辱の言をする、それが罰せられないことになる。無論不敬も名誉毀損も侮辱に入るのでありますが、名誉毀損の場合には罰せられるが侮辱の場合には罰せられない、外國の使臣に対しても廃止されることになつている。國交の調整ということは非常に大切な問題と私は考えるのであります。昨日侮辱罪を廃止することは疑問であつて、國会の考慮を願うと、こういうお話でありましたが、私もそれに疑問を持つておるのであります。改めてお伺いするところは、この点は固執しないであるか、そういう天皇に対する関係、或いは外國使臣に対する関係等もあるので、侮辱罪についはて廃止するということについて、絶対支持するのであるかどうか、いま一度お伺いしたいと思います。
○政府委員(國宗榮君) 侮辱罪は具体的な事実を示しませず、單に侮蔑の意思を表示したという場合でありましてこういう場合には被害者の感情を傷つけることはありましても、被害者の名誉、即ち社会的に承認されておるところの價値、又は地位、これを低下させる虞れは比較的少いと思われるのであります。いわば礼儀を失したような行爲のやや程度の高いものに過ぎないのではないか、これに対しまして刑罰を科するのは一應適当ではない、こういう趣旨で、現に英米の名誉毀損罪は、かような行爲までは包含していないというような点を参照いたしまして、一應この廃止案を立てた次第でございます。併しながら、我が國の実情並びに御指摘になりました皇室に対しまする罪及び外國の元首並びに外交使節等に対しまする罪を削除いたしました関係上、國交の維持その他に関しまして、或いは侮辱罪を削除するのは行過ぎである、こういうような意見も十分に考えられると思うのであります。政府は今申上げました理由によりまして、これを廃止する、削除することにいたしましたが、尚この点につきまして、必ずしも削除しなければならないということを固執する意思はございません。
○委員長(伊藤修君) 第一章に対する御質疑はありませんですか。
○松村眞一郎君 今の天皇、太皇太后皇太后、皇后、皇太子又は皇太孫に対する関係は、大体御説明があつたわけでありますが、七十四條の第二項の「神宮又ハ皇陵ニ對シ」という関係は後の二十四章でやるというわけでありますか。不敬罪というものがこの第一章と二十四章にあるわけであります天皇の関係は一般の人と同じようにする。神宮又は皇陵に対する関係は二十四章によると、こういう意味であろうと思いますが、それで大体よろしいというお考えなのでありますか。これは二十四章に関係がありますから、二十四章の所で御質問いたしたいと思いますが、これは改正の中に入つておりませんが、後でこの所に参りましたときに又一緒にしたい、こういう関係でありますか。
○委員長(伊藤修君) 関聯事項でありますから、ここで二十四章の分も御質疑願つた方がいいと思います。
○松村眞一郎君 私はこの二十四章について、前に司法大臣に御質問いたした際の司法大臣の御答弁が憲法の解釈に觸れて來ると思うのであります。これは非常に重大な問題でありまして、憲法の第二十條の解釈が今日まだはつきりしておらない、立法の当時においても、十分に論議を盡さなかつたのであろうかと思いますが、大臣の御説明によりますと、この礼拜所というようなものも、特に或る宗教に対して保護するのでなくて、全体の宗教に対して保護しておるのだから、政治と宗教との分離ということ、特に宗教を國法で保護したりすることはしないという規定には觸れない。特殊の宗教を保護することはいけないのであつて、全般の宗教なれば保護してもよろしいというような解釈をされたのであります。これが第二十條の解釈であります。こういうやうな解釈を前提として刑法の改正の際には御論議になつたのでありますが、憲法で、そういうことを決めて、二十四章はそのままでよろしいということにされたのでありますか、その点をお伺いいたします。
○政府委員(國宗榮君) 只今の御質問の七十四條の二項の「神宮又ハ皇陵ニ對シ不敬ノ行爲アリタル者亦同シ」、この條項を削除いたしました結果は、第二十四章の第百八十八條によつて処断することに相成ると存ずるのであります。神宮は刑法の百八十八條の神祠に皇陵は墓所というものに該当するものと思うのであります。但し不敬の点になりますと、百八十八條の場合におきましては公然性を必要とするのであります。公然性を欠く場合には、処罰の外に置かれることに相成ろうかと存ずるのであります。更に只今憲法の二十條との関係から御質問がございましたが、前囘大臣から御説明申上げました通りと信ずるのでありますが、この第二十四章の「禮拜所及ヒ墳墓ニ關スル罪」、これは特定の宗教を保護するという趣旨ではないのでございまして、國民の宗教感情、これを保護するということがこの二十四章の法益になつておると、かように考えております。特に憲法違反、憲法の條章に触れるというふうには考えておりません。
○松村眞一郎君 條章に触れないという御議論は、第二十條の解釈がやはり決まるわけであります。それは大臣と同じ解釈をしておられるだとの思います。宗教というものは法律が保護してもよろしいという思想になるわけであります。それは私は根本問題として考えなければならんという立場であります。この憲法の趣旨は、宗教は宗教で行こう、法律で國家は宗教というものに全般的にいろいろな特権を與えないというのが憲法の趣旨だと思います。政治と宗教というものは全く別物である。非常に明確な観念からできておる立法と考えます。それですから宗教教育をやつたりすることはしない。宗教に参加することはしないということは、特定の宗教に参加してはいけない、全部の宗教に参加することはよろしい、という思想でないことは明瞭であります。宗教に関與することは全部希望しない。そういうことは止めろという趣旨であると私は解釈するのであります。そうでないと、宗教は法律によつて保護されておることになる。宗教の礼拜と道徳上の礼拜とどこが違う、道徳上の礼拜については明かでない、宗教の礼拜には保護があるということでは、政府委員が云はれた通り、やはり宗教というものは國家で保護する必要があるという思想になりますから、結局國で宗教を保護するということが憲法上認められたことであるということに立脚することになる、それは私は間違つておりはしないかと思う。全然宗教は宗教として保護しない。一般的の秩序を害するような行爲があつたならば、或いは礼拜所であれば、他人の集会の行爲というようなものを妨害すれば、それで行つてよろしい。宗教なるが故に、礼拜所なるが故にというために、不敬罪が成立するということは憲法は考えていないのじやないかというように思いますから、やはり憲法の解釈から出発するのであります。この規定を置くことは、憲法の趣旨に反するという思想であるのでありまして、刑法の改正の際に、憲法にまで触れて檢討されたのであるかどうかということを伺うのでありまして、ただ政府委員の御答弁、大臣の御答弁を求めておるのではないのであります。刑法の改正を論議されたときに、憲法の二十條を考えてから立法をされたのであるかということを伺いたいのであります。
○政府委員(國宗榮君) 二十四章の規定は、先程申上げましたように、國民の宗教感情というものは、一つの國民といたしまして善良な風俗であり道徳である、こういうものは、宗教ということを切離しましても、保護していいのではないか、こういうふうに考えておりましたので、勿論刑法の改正法案を考えまするときには、憲法との関係を考えたわけでございまして、二十條とは別に牴触するところはないと、かように考えたわけであります。
○松村眞一郎君 もう解釈の相違でありますから、私はただそれはいけないということを申上げておきます。憲法はもう宗教は離す、國法の保護はしない宗教は宗教として立つて行くべきものであるというふうに私は考えております。今政府委員の仰せられたことは、憲法と関係のない昔からの議論であると思います。私、宗教というものを國家として保護した方がよかろうということは、何に立脚されておる議争か存じませんけれども、二十條を見たならばそういう考えがあつちやならない、宗教は宗教であり、法律は法律である。これは他のことを申しますと例えばキリスト教の聖書でいえば、カイザーのことはカイザーに任せる、神のことは神にさせると書いてあります。佛教の方でも同じだと思います。徹底して行けば……。そういうことを私は申しておるのでありましてこれは解釈の相違でありますからこれ以上申上げません。
○齋武雄君 只今の問題でありまするが、私はこの二十四章の百八十八條の規定を存置することが、憲法違反になるかどうかということについては、議論に亘りますので、申上げませんが、ただ百八十八條には「公然不敬ノ行爲アリタル者」、こういうことになつております。皇族に対する不敬罪は全部廃止されたのでありますが、若しこの規定を存置するとしても、不敬という文字について、当局がこれを取つた方がいい、別な文字を使つた方がいい、こういうことについて論議されたでしようか、又このまま漫然とこれを認めることにしたのでしようか、その点を伺いたいと思います。
○政府委員(國宗榮君) この点も立案の当時には考慮いたしたのでございます。第七十四條の「不敬」という中にはいわゆる神祠、皇陵に対しまするところの尊嚴を冒涜する行爲それが公然と行われなくとも、七十四條の規定に該当する。併しながら百八十八條に相成りますると、やはり神祠、佛堂、墓所、礼拜所、これに対しまして公然これらの場所を冒涜するような行爲というふうに考えまして、「不敬」の言葉を此処で削除いたしましたが、百八十八條には、やはりそういう事態を現わしますに、從來の「不敬」という言葉の方が、これまで通りで分りいいのじやないかというようなことで、そのまま存置いたしたのでございます。
○岡部常君 先程尊属殺のお話が出ましたから、ちよつと伺つて置きたいのでありますが、尊属殺に対する加重刑というものに対しては、この立案に際して御考慮になりましたでありましよかどうでしようか。
○政府委員(國宗榮君) この点は十分考慮いたしたつもりでございます。
○岡部常君 そういたしますと、その條文は存置せられまして、それとは違うかも知れませんが、「皇室ニ對スル罪」を全部削除するということになりまして、尊属に対する加重刑は認められ、皇室に対する加重刑というものは全然削除になる。而も新らしい憲法におきましては、やはり一般國民とは違つて、「日本國の象徴である」という言葉が使われておるのであります。尤もこの象徴という言葉が、これは憲法上もいかなる意味を持つかということになりますと、これははつきり決まつたものもないかのように考えられるのでありますが、とにかく普通の國民とは違うものではないかと考えられるのであります。親が……これは封建的というようなことを先程松井委員が言われましたが、その言葉の意味はともかくといたしまして、少くとも日本の國民感情において尊重せらるべきものであるならば、日本の國民の信念の中における天皇、又新らしい憲法においても「象徴」という特別な文字が使われて居りまする至尊に対して、特別の考慮が拂われても一向差支ないのではないか、かように私は考えるのであります。それに関しまして「象徴」という字句に対して、どういうふうなお考えを持つておりますか、この刑法改正を撓りまして司法当局が、いかにお考えになつておりますか、お示しを願いたいと思います。
○政府委員(國宗榮君) 只今の御質問誠に御尤もなことと存ずるのであります。天皇が新憲法の下におきましても國家の象徴であり、國民統合の象徴であらせられることはお説の通りでありまして、而も新憲法上、天皇の行わせらるるところの國事につきましても内閣の助言と承認とを得られまして、そうして天皇には相当の國事をとられることに相成つておるのでありまして、この点から見ますると、確かに天皇の御地位は一般國民とは違うのではないか、こういう点も考えられるのでございます。併しながらこの「皇室ニ対スル罪」の七十三條、七十四條は、旧憲法の下におきましては、一つの國家の基本組織と申しますか、國家的利益の保護のためでございまするが、この内容は、天皇の御個人の身体、名誉に対しまするところの危害を主といたしておるのでございまして、陛下も又個人たる御資格を持つておられるのでありまして、今日の新憲法の下におきましては、個人平等の憲法の規定に照しまして、この規定を削除するのが適当だと、かように考えたのでありまして、ただ國家の象徴であらせられ、又國民統合の象徴であらせられる、これは國民の感情の上に、國民が陛下に対しまする敬愛の感情に基きまして、刑法においてかような規定、「皇室ニ對スル罪」を削除いたしましても儼として存在する事実であろう、かように考えたのであります。從いまして陛下が新憲法上の國家の象徴であらせられ、國民統合の象徴であらせられるというような特殊な御地位につきましては、決して第一章の「皇室ニ對スル罪」を削除することによつてこれを否定するものではないのでございまして、ただ法律上特別の規定を廃して一般の規定によることとしたということに過ぎないのでございます。ただ併しながら國民感情から申しまするというと、甚だ國民の陛下に対しまする敬愛の感情を刺戟することが多いのではないかという虞れもあります。この点につきましては十分な檢討を加えまして、当初におきましては尚この規定を存置いたしましてやはり國民の統合であらせられる陛下の御地位を、特殊に刑法上も認めて行こうという考えも持つておつたのでありまするけれども、いろいろな事情と、日本がこの新憲法下におきまして、國際的に民主化するというような事情からいたしまして、この規定を削除いたしまして、一般の規定によらしめることの方がよろしいのではないかと、かような考えに到達いたしましたので、削除することにいたしました。
○松村眞一郎君 私も只今の御説明では十分満足をいたさないのでございます。それは從來の刑法は「皇室ニ對スル罪」ということで規定しておるのであります。私共の今ここに疑問にいたしておるのは、皇室という思想じやないのであります。國の象徴というものに対する或る刑罰観念を考えたかどうかということが要点なんです。それはいろいろな箇條、我々は刑法の全般について眺めなければなりません。例えばこの九十二條には「外國ニ對シ侮辱ヲ加フル目的ヲ以テ其國ノ國旗其他ノ國章ヲ損壊、除去又は汚穢シタル者ハ二年以下ノ懲役」という工合に体刑がございます。こんなようなものを考えた場合に、日本國民の象徴であるというものに対して、或る侮辱を加えた場合には、何らかの考慮があつて然るべきじやないかというようなことを私は考えるのでございまして、ただ皇室という問題じやない、今度新らしく國の象徴ということがここに憲法として認められた場合において、新らしい観念に対する國の秩序という考え方を刑法で考慮すべきものじやないかというのが私の要点なのであります。そうして今度お書きになつております「各譽ニ對スル罪」の二百三十二條の規定で告訴をいたします場合に、「天皇、皇后、太皇太后、皇太后又ハ皇嗣ナルトキハ内閣總理大臣」云々とあつて、天皇、皇后、皇太后というものを一つに見て考えておられますが、皇室ということの問題が考えられる外に、象徴ということを考えたならば、天皇という御地位と皇后、太皇太后という御地位とは一律に考うべきものではないかと考えます。これによりますと、旧態依然たる考えであります。やはり皇室という考えで眺めておられる、それであるから一律に皇嗣であろうが、皇太后であろうが、内閣総理大臣がこれに臨むということになつておつて、その象徴に対する侮辱と申しますか、そんなようなことに対しての特別の考慮をしていないということを考えるのですが、そんなようなことは刑法改正の論議の際、象徴ということを目標にした何らかの御考究があつたかどうかということを伺いたいのであります。
○政府委員(國宗榮君) お答えいたします。只今天皇は國家の象徴であり、統合の象徴である、この象徴という点につきまして何らかの考慮が拂われたかという御質問でありますが、勿論改正にあたりましては、その点も十分檢討いたしたのでございましてこの天皇に対しまする名誉毀損罪につきまして改正法案におきまして、天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣につきましては、内閣総理大臣が代つて行うというふうにいたしましたのも、実は象徴ということを考慮に入れた結果でございまして、天皇は國民の象徴であらせられますし、皇后はその配偶の方でいらせられますし、太皇太后、皇太后はいずれも曾て天皇の配偶であらせられた方であります。皇嗣は今後象徴たるべき天皇の御地位に就かせられる方でございまするので、この象徴という点につきましては、相当の考慮をいたしたのでございます。併しながら先程來申上げましたように、象徴という点を以ちまして、天皇の御個人の一面もありますので、象徴の点につきましては、國民の敬愛する感情に委ねまして刑法において特別の規定を設けなくてもよろしいのではないか、かように考えまして、天皇御個人の面のみにつきまして一般的な規定によらしむる。この趣旨から皇室に対しまする罪を削除いたした次第でございます。
○松村眞一郎君 條文が外にあるので此処で論ずるのは適当ではないかと存じますが、関聯いたしておりますからお許し願います。先程申上げました九十二條ですが、これはこのままでよろしいということで進んでいるわけですね。國旗というようなもの、或いは國章、これは外國については非常に強い観念を以て尊敬しているのですが、そういうようなことは、國内関係についてはどういうようにお考えになつておりますか。
○政府委員(國宗榮君) 第四章の「國交ニ關スル罪」は、我が國の國交関係の安全を維持するという趣旨の規定であろうと考えますので、第九十二條におきまして、「外國ニ對シ侮辱ヲ加フル目的ヲ以テ其國ノ國旗其他ノ國章ヲ損壞」云々という規定を存置いたしましたのは、かような場合におきましては、國際間の紛爭を起し易い、外國がその國の権威の象徴として揚げました國旗に対する、この規定によりまするところの損壞とか除去とか或いは汚穢というような行爲がありまするというと、我が國と外國との間の國交関係に対しまする危殆な状態に陷らしむる虞がある、そういう行爲をこの刑法におきましては処罰する、こういう趣旨であろうと考えますので、九十二條はこのままで存置してよろしい、かように考えた次第でございます。
○松井道夫君 只今松村さんの御質問によつて問題になりましたことに関聯するのでありますが、当局の御説明によると、当初は七十三條乃至七十六條についてその全部を削除するという考えではなかつたという趣旨のことを言われたのでありますが、然らばどういつた形にしてこの章を残すつもりであつたのかということをお尋ねしたいのであります。要するにこの單に刑を変えるという、例えば七十三條によれば死刑だけではどうかと思うから刑を変えるというような建前なのか、或いは象徴ということを考えて、例えば七十三條では天皇だけという趣旨で残すお考えであつたのか、その辺のところをお聞きしたいのであります。
○政府委員(國宗榮君) 当初これを存置するという考えで参りますときには勿論天皇が象徴であらせられるという点に考えをおきまして、大体このままの規定で存置してもよろしいのではないか、かような考えでおつた次第であります。
○松井道夫君 それと関聯いたしましてもう一遍……。結局これを削除なすつた趣旨は、天皇の象徴という面はこれは刑法上の問題にしないで、御一身天皇の個人の面をまあこの刑法上の問題にして、その意味で削除したのである。さような趣旨に承つてよろしいのですか。
○政府委員(國宗榮君) さような趣旨でございます。
○委員長(伊藤修君) 第一章について他に御質疑ございませんですか。では第三章「外患ニ關スル罪」につきまして、八十一條乃至八十九條までについて御質疑をお願いいたします。
○齋武雄君 九十條と九十一條における大統領若しくは外國の使臣に対する特別の規定を削除したのでありますが九十二條は存置しておるのであります私は侮辱を加うる目的を以て國旗、國章を損壞するよりも、大統領に対して侮辱を加え、或いは外國使臣に対して暴行とか侮辱を加えるという方がより以上に國交上問題が重大と考えておるのであります。若し九十條、九十一條を廃止するならば、九十二條も廃止いたしまして、一般の器物損壞の規定に一任したらいいのじやないか、こういうようにも考えるのでありますが、特に九十二條を存置し、他を廃止するということについて、その理由を伺います。
○委員長(伊藤修君) 只今第三章「外患ニ關スル罪」の分について質問いたしております。
○齋武雄君 そうですか。ではこの次に……。
○小川友三君 八十八條から八十六條までにつきましてお伺いいたします。「外患ニ關スル罪」が削除されておる点が多いのですが、特にこの八十一條につきましてお伺いいたします。旧法では「外國ニ通謀シテ帝國ニ對シ戰端ヲ開カシメ又ハ敵國ニ與シテ帝國ニ抗敵シタル者ハ死刑ニ處ス」、これでありますが、これは八十一條の方は「戰端」でなく「武力ヲ行使スルニ至ラシメタル者ハ死刑ニ處ス」というのでありますが、武力の範囲についてお伺いいたしますが、「外國ニ通謀シテ日本國ニ對シ武力ヲ行使スル」範囲が、短刀を振廻しただけでも武力に入るというような解釈でしようか。又戰爭までは行わないが、デモを行つて、そのときに竹槍を持つて大きなデモをやるとか、中型のデモをやつた、小型のデモをやつたという行爲が、武力を行使した範囲に入りますか。竹槍というものは武器の一つでありますので、その見解を御答弁願いたいのであります。むしろこれは「武力」という言葉を使わないで「戰端」という工合におやりになつた方が適当でないかと思います。
○政府委員(國宗榮君) 新憲法は「第二章戰爭の放棄」という章におきまして、第九條に「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠実に希求し、國権の発動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰権は、これを認めない」、かように戰爭放棄の規定を設けておるのでありまして、その関係上この「外患ニ關スル罪」を改めたのでございまするが、只今御質問の「戰端」というのは、これは我が國の方に武力を存しておりまして、兵備を持つておりまして、そうして外國との戰に至らしめるという虞れがありますので、八十一條におきましては單に「武力ヲ行使スル」というふうに改めたのでございます。そうしてこの「武力」と申しますのは、固より外國の軍隊による我が國の領土への侵入、我が領土の空襲というような、一つの外國から日本國に対してされる武力の行使でありまして、單に外國人が匕首を振つて、日本國民に対しまして危害を加えるというようなものは、この観念には包含しないのであります。從いましていわゆる軍隊の兵器等を武力行使と申すのでございます。尚單なる外國人の集團が、日本國民たる個人に対しまして武力を行使する場合には、本條に該当しないものと考えるのでありまして、或る他國がその國として、日本國に対しまして兵器を以て武力を行使する手段に出た場合を八十一條で規定しておるわけであります。
○委員長(伊藤修君) 小川委員は「武力」の意義を問うておるのですから、意義を明確にして頂きたい。
○政府委員(國宗榮君) 「武力」と申しまするのは、軍事行動に必要な実際の軍隊で使用するところの武器、從いまして銃器、火砲、或いは一切軍隊の機動に必要とするところの兵器、彈藥貨車、電車、そういうものを「武力」と考えております。
○大野幸一君 私の質問は、或いはこれは一般質問の場合にすべきであつたかも知れませんが、関聯するからお聞きしたいと思います。八十一條、八十二條共に日本國に対して武力を行使するに至らしめた場合と、武力の行使せられるときに、日本國に対して武力の行使せられる場合を規定しておるのであります。これは憲法第九條の戰爭放棄との関係において新らしく必要になつたのだろうと思うのであります。ここで考えなければならないことは、憲法第九條によつて、陸海空軍その他の戰力は、日本はその保持を放棄して、國の交戰権はこれを認めないことになつたのであります。そうして特に憲法第九十九條においては「天皇又は攝政及び國務大臣、國会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」、こういうことに相成つておるのであります。そこで、永久に日本は戰爭には介入しないといういわゆる大原則を立てたのでありますそうするとき、第三國の戰爭において他の一國に日本が加担する、又日本が加担するのでなくて、日本國民が個人として加担する場合でも、これを何とかして禁止しなければならないと思うのでありますが、こういう点についてこの刑法草案、この章に関聯してお考えなさつたでしようか、ということをお聞きしたいと思うのであります。
○政府委員(國宗榮君) その点につきましても、一應は考慮はいたしたのでございまして、第四章の「國交ニ關スル罪」の第九十三條に、「外國ニ對シ私ニ戰闘ヲ爲ス目的ヲ以テ其豫備又ハ陰謀ヲ爲シタル者ハ三月以上五年以下ノ禁錮二處ス但自首シタル者ハ其刑ヲ免除ス」、こういう規定がございまして、いわゆる私戰に対する予備、陰謀の処罰ということがございますが、只今の御質問は私戰に類するのではないかと存ずるのでございます。この私戰の問題に関しましては、日本が戰爭を放棄すると否とに拘わらず、いろいろ從來より刑法上の問題になつたのでございます。前囘にも確か御説明申上げたと存じまするが、旧刑法にもその規定がございました。刑法の仮案にもございますが、現行刑法には私戰の実行方法につきましては懲罰規定を欠いておるのでございます。これは実はその点につきまして学者の間でもいろいろなことを申しておりまして、実際そういう場合には、観念上私戰ということが考えられるけれども、余り実益がないのだというような見解もございまするし、又実際の問題として起つて参ります場合が、これまで殆どなかつたというような点から、現行刑法に規定されなかつたものと考えておるのでございます。多少、今の御質問の場合と私戰の場合とは違うかとも考えられるのでありますけれども、大体同じような趣旨と考えまして、そこまで刑法の規定をおく必要はなかろうと考えて、この際には入れなかつた次第でございます。
○小川友三君 八十二條の「日本國ニ對シ外國ヨリ武力ノ行使アリタルトキ之ニ與シテ其軍務ニ服シ其他之ニ軍事上ノ利益ヲ與ヘタル者ハ死刑又ハ無期若クハ二年以上ノ懲役ニ處ス」という頁でありますが、「軍事上ノ利益ヲ與ヘタル者ハ」ということろでありまするが、今我が國は占領せられておるのであります。この占領せられておるときに当りまして、何万人かの青壯年が雇われまして、占領軍の進駐に労役しておりまして、そうして、占領軍に軍事上の利益を與える行爲を沢山やつておるのではないかと思つております。これは勿論、八十二條には触れないのだろうとは思つておりますが、「其他之二軍事上ノ利益ヲ與ヘル」という工合に曖昧な文章を使つておりますると、今の労役に服した者は、後日になりまして、連合軍に軍事上の利益を與える行爲であるから、君たちは死刑に処する、或いは二年以上の懲役になるということが、十年、十五年後になりましてこの法律を振廻されて、何万人かが懲役になつてしまつたというようなことがないように、これをはつきりとして頂きたいと思いますが、政府委員の御答弁をお願いいたしたいと思います。
○政府委員(國宗榮君) その他の軍事上の利益を與えるということは、例えば糧秣を供給したり、輸送手段を提供したり、その他の軍事行動に有利な下働きを提供をするなど、一切軍事行動を利する有形無形の手段を言うのでありまして、只今御質問のように、現在我が國民が進駐軍のためにいろいろの労務に服し、いろいろな利益の供與をいたしておりますことは、この八十二條の法文にそのまま該当することがあるけれども、この連合軍の進駐は、我が國のポツダム宣言を受諾いたしましたそれに伴う效果として発生したものでありまして、固よりそれらの行爲は違法でないのであります。今後とも八十二條によつてそれが処断されるということはあり得ないと考えております。
○小川友三君 八十三條から八十六條までにつきまして削除せられておりますが、これは大きな欠陷であると思いますので指摘いたしたいと思つております。八十三條から申上げますが、旧法におきましては「敵國ヲ利スル爲メ要塞、陣營、艦船、兵器、彈藥、汽車、電車、鐵道、電線其他軍用ニ供スル場所又ハ物ヲ損壞シ若クハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス」という項目でありますが、現行法にはこれを削除せられているのでありますが、これは大きな誤りであると思います。それは日本は現在連合軍の占領下にあり、將來は國際委任管理國家、委任統治というような何らかの形態をとられる状態に入るのであろうということが想像されるのでありまして、その場合、その連合國の或いは管理國の要塞或いは陣營、艦船兵器、彈藥、飛行機、飛行場、汽車、電車、鉄道、電線というものが、軍用に供するものが沢山ある筈でありまして、それを日本國人が破壞し、若しくは使用すること能わざるに至らしめた者は、死刑又は無期懲役に処すということが必要であろうと思うのでありまして、占領軍或いは管理國のものを壞わした者は、日本國では処罰ができないというような感を抱かしめるのでありまして、管理國或いは占領連合國のものを壞わして、日本の法律でこれを処断するという法律を作つて置くことが、日本國として、法治國として、正しいのであると私は思うのであります。
 それから八十四條も削られているので申上げたいと思つております。八十四條は、旧法は「帝國ノ軍用ニ供セサル兵器、彈藥其他直接ニ戰鬪ノ用ニ供ス可キ物ヲ敵國ニ交付シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス」という項目を全く削つてありますので、それは信託管理國或いは占領連合國等の軍用に供せられる兵器、彈藥、その他直接戰鬪の用に供すべきものを敵國に交付したる者は、無期又は三年以上の懲役に処すということにした方がいいと思うのであります。それは、御承知の通り、今連合國は占領しておりまするが日本の警察又は警察協力補助員というものに対しまして、相当連合國が占領しておるところの兵器を日本人に管理さしておるのでありまして、その例は枚挙に暇ない程あるのであります。一例を申上げましたならば、関東地区に満洲から駐屯した何千台かの戰車隊があつたのでありまして、その戰車の大部分が現在埼玉縣にも現存しておるのであります。占領当初は、占領軍が参りまして、それを監視しておりましたけれども、お引揚げになり、御移動になりまして、現在は特に埼玉縣北埼玉郡志多見村の元拓部隊の戰車は、警察の依頼によりまして、民間の青年團がこれを管理いたしておるのでありますそこに沢山の子供が遊びに來て、或いは青年が遊びに來ておりまして、殆ど警備は形式だけの警備でありますのでそうした戰車の部品を取外し、又戰車の機密を知り、いろいろその戰車の連合國の所有に属しておりますものを紛失する、盜むという危險が非常に多いのでございますが、その被害にあつた場合には、日本國の法律でこれを処断するのが当然でありまして、一々そうした被害があつた場合に連合國軍の軍事裁判に廻すということは、立法國の建前でないと私は信じますので第八十四條には申上げた通りの條項を入れて貰いたいと私は思うのでありますが、政府の御意見をお伺いいたします。
 それから八十五條も全く削られております。これも又削らないで加えて貰いたい條項を申上げます。八十五條は「敵國ノ爲メニ間諜ヲ爲シ又は敵國ノ間諜ヲ幇助シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ五年以上ノ懲役ニ處ス軍事上ノ機密ヲ敵國ニ漏泄シタル者亦同シ」と書いてありますが、日本國信託管理國、或いは占領連合國が今後できるのでありまして、相当長期間に亙つてあるのでありますから、この日本を含む國際信託管理國又は占領連合國に不利な間諜をなし、又はこれらのことを敵國に機密を教えた者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処すということをお入れ頂いた方が、立法國としてよろしいのではないかと思いますが、お伺いいたします。
 又、八十六條も削られております。八十六條の旧法は、「前五條ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵國ニ軍事上ノ利益ヲ與ヘ又ハ帝國ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス」という項目であります。日本において駐屯しておりますところの國際信託連合管理國の軍隊又は占領連合軍と申しますか、その軍隊に対しまして、前五條に記載したる以外の方法を以て、敵國に軍事上の利益を與え……敵國というのは國際管理國に入つていない國を指すのでありますが、又おりましても脱退をして戰爭をやつた場合の敵國であります。その敵國に利益を與えた者は五年以上の有期懲役に処すということをお入れ頂いた方がいいと思いますけれども、政府当局の御意見をお伺いいたします。
○政府委員(國宗榮君) 只今御質問の第八十三條乃至第八十六條削除につきましての御説明を伺いましたが、第八十三條乃至第八十六條を削除いたしましたのは、憲法に規定されました戰爭放棄の第九條の規定の趣旨に從いまして、日本の軍備のあることを前提といたし、或いは戰爭を前提といたしましたものは、これらの條章であろうと考えましたので、これを削除いたした次第でございます。尚、第八十三條削除によりまして、只今御質問のような趣旨にこれを生かすという点になりますると、その問題につきましては、將來の條約によつて決まるべき問題と考えておりますので、この際は八十三條はそのまま削つた方がよろしいとかように考えた次第でございます。尚八十三條、八十四條同樣でございますが、この八十四條の点につきましても、現在我が國に進駐しておりますところの連合國軍、或いは將來我が國に駐屯するかも知れないところの外國軍隊に関しましては、やはり條約によつて將來の問題は決めらるべきことと存じますが、現在におきましては、占領目的違反罪といたしまして、特別に三百十一号という法律が現に出ておりまするし、その他各種の法令が出ておりまして、占領軍の安全と占領目的に有害な行爲につきましての処罰規定が相当出來ておると考えております、更に八十五條につきましては、間諜という問題は、やはり武力行使を前提としての規定であろうと考えますので、これも憲法の趣旨に從つて削除するのが妥当と考えて削除したのでありまして、八十六條も同樣の趣旨でございます。將來條約によつて決定さるべきものは後に條約で決められることと存ずる次第であります。
○齋武雄君 「外患ニ關スル罪」で、八十一條と八十二條を訂正いたしまして、あとは全部削除したのでありますが、これは憲法の戰爭法棄の規定上当然であると考えておるのでありますが八十一條と八十二條だけで十分であるかという先程の大野さんからの質問に対して、それは九十三條、或いは九十四條の、私鬪をなした場合、或いは局外中立の命令に違反した場合、こういうものは九十三條、九十四條にあるから、それで沢山だと思う、こういうお話でありましたが、その外にこういうことも想像されると思うのであります第三國の戰爭の場合、戰爭を誘発した場合、日本に対して武力を行使するのでなく、他の國に対して、乙の國に対して甲の國を誘発させた場合、そういう場合があり得ると思うのであります第三國を誘発して第三國に戰爭を行使させた、誘発させた、そういう行爲があり得ると考えるのでありますが、そういう行爲は九十三條にも九十四條にも私は入らんと思うのでありますが、あらゆる面を考えて、八十一條、八十二條において十分であるというお考えの下にやつたのでありましようか。
○政府委員(國宗榮君) 憲法の戰爭放棄の規定から申しまして、第八十一條と第八十二條で先づ十分ではないか、かように考えたのでございまして、只今御質問の第三國間の戰爭を誘発せしめた行爲、これに対して処罰を加えるかどうかということにつきましては、尚研究の余地があろうかと考えております。
○大野幸一君 八十一條の方は死刑一つにしてあるのですが、通謀してやつた場合に、いろいろ首謀者と又首謀者にあらざる人といろいろあるだろうと思います。非常に重大なる犯罪ではあるけれども、こういう場合はやはり一つの國事犯に属するのである、政治犯の部類に属すると思うのでありますから、死刑だけにしたということではどうかと思いますので、その他の選択刑を考慮されなかつたでしようか。又死刑だけにしたのについては、何か御議論があつたのか、お伺いいたします。
○政府委員(國宗榮君) その点につきましては、現行の第八十一條か「外國ニ通謀シテ帝國ニ對シ戰端ヲ開カシメ又ハ敵國ニ與シテ帝國ニ抗敵シタル者ハ死刑ニ處ス」、これが死刑の一つになつておるのに対應いたしまして、改正法の八十一條におきましても死刑にいたしたのでございまして、日本が戰爭を放棄いたし、軍備を一切放棄いたしました場合におきまして、外國を誘発せしめまして、日本國に対して武力を行使するということは非常に重大なことであろうと考えましたので、現行法の八十一條の趣旨を活かしまして、そのまま死刑だけに止めた次第でございます。
○委員長(伊藤修君) 御質疑ありませんですか。……では、第四章「國交ニ關スル罪」につきまして、九十條乃至九十四條までについて御質問を願います。
○齋武雄君 私先程質問したところをお伺いいたします。九十二條を残して九十條、九十一條を廃止した以上は、九十二條も廃止してよろしいのじやないか、こういう考えを持つております。特別にこの規定をおいたのはどういう理由でありますか。
○政府委員(國宗榮君) 御尤な御質問と存ずるのでございますが、九十條、九十一條を削除いたしましたのは、先に御説明申上げました「皇室ニ對スル罪」を削除いたしました関係上、これらのものを削除いたしましても、他の一般の條文の規定によりまして、外國使節の特権である治外法権、或いは外國元首の不可侵権等の保護に欠くるところはないではないかということを、九十條、九十一條の「皇室ニ對スル罪」を削除いたします関係上削除いたしましたので、九十二條は、これは外國がその國の権威を象徴するものとして掲げられた國旗、そのものに対しますところの損壊、除去或いは汚損という行爲であります。これはやはり外國との間の國交を維持して行く上において、かような規定があつた方がいいのではないか、かように考えまして、この規定はそのまま存置いたした次第でございます。
○小川友三君 第九十條、第九十一條の削除に対しまして、政府に御質問したいと思います。これは日本人という特異な存在は二千六百年の傳統を有して、金甌無欠という國体に生まれたというような、非常に自尊心的虚僞な教育をされて來ましたので、この日本人が一番偉いのだという考えが末だに拭い去れない人が末だ幾らかあるのであります。そこで、この九十條は、日本に滯在する外國の君主又は大統領に対し、暴行又は脅迫を加えた者は一齊に死刑に処す、という工合にして、外國に敬意を表するということが、私はそのくらいに他の國を敬うということで、罪にした方がいいと思うのであります。そうして外交交渉を有利にして、日本はこのくらいにして敬うということが一番必要であると思うのであります。勿論九十一條も帝國に派遣せられたる外國の使節に対し、暴行、脅迫を加えた場合には死刑に処すという條項を入れて、大いに外國を尊敬するということを入れたいと思いますが、政府の所信を伺いたいと思います。
○政府委員(國宗榮君) 只今九十條につきまして、外國の元首、君主、大統領並に外國の使節等に対しまするところの殺害その他の行爲に対しまして、非常に苛酷な死刑を以て臨んだ方がよろしいではないかという御質問でございましたが、第四章の規定は、我が國に滯在するところの外國の君主又は大統領、或いは外國の使節、これらの者が國際法上、外交使節の特権として、治外法権と並んで不可侵権が確立されておりますので、これに準じまして、外國に滯在するところの元首の不可浸権も認められておる。この原則に対しまして、これを國際法上巖粛に履行して行く上におきまして、日本國民がその原則を守りますために、破らないように刑法上規定を設けまして、他國間との國交の紛擾を來さないようにいたしたのであります。外國の立法例等におきましても、主として軽微なる犯罪、例えば暴行、脅迫、侮辱などにつきまして、「國交ニ關スル罪」という規定を設けております。これらの元首或いは外國使節に対する殺人等は、各國ともこれを一般の規定に讓つておるのでありまして、軽微な暴行、脅迫或いは侮辱などが、往々にして國交に対して惡い影響を與える場合がありまするので、これに対する特別な規定を設けて、その保護を厚くしておるに過ぎないのでありまするから、この「國交ニ關スル罪」の條章の趣旨から申しましても、死刑一つでこれに当るということは、政府としては考えていないのでございます。その点御了承願いたいと思います。
○委員長(伊藤修君) 他に御質疑ありませんか。
○松村眞一郎君 「國交ニ關スル罪」の九十條、九十一條を廃止したというのは、「皇室ニ對スル罪」を廃止した権衡から廃した、こういう御説明のように伺いましたが、そうでありますか。
○政府委員(國宗榮君) 大体そうであります。
○松村眞一郎君 そういたしますと、そういう関聯に問題を置かないで、その規定を單独に考えた場合はどうなりますか。別に國外と國内ということなく、凡そ「國交ニ關スル罪」ということを單独に考えた場合に、これを独立性をもつて存置するという頭はないのですか。
○政府委員(國宗榮君) 皇室に対しまする罪と、関聯をせずして考慮した場合に、どうかという御質問でございますが、只今「皇室ニ對スル罪」を削除した関係上、九十條、九十一條を大体において、その趣旨に從ツテ削除したというふうに御答弁申上げましたが、やはり基調といたしましては、皇室、天皇、皇族は、法の前に平等であるという憲法十四條の規定に從いまして、削除いたしたのでございます。この九十條、九十一條につきましても同樣、個人の身体、名誉等に対しまする保護規定であるという趣旨を十分に持つておりまするが、その趣旨におきまして、両方相関聯して削除いたしたのでございます。若し「皇室ニ對スル罪」をそのまま無関係に考えまするならば九十條九十一條は敢て削除しなくともいいのではないかと私自身は考えております。
○松村眞一郎君 そうして、それを更に分けて、暴行、脅迫というものと侮辱とかいうものとを小分けするというお考えもないのですか。例えば暴行に対するものは廃めても、侮辱だはを残して置こうというような、そういう小刻みの御考慮はなかつたのですか。
○政府委員(國宗榮君) そういう考えはございません。
○宮城タマヨ君 ちよつと速記を止めて……。
○委員長(伊藤修君) 速記を止めて……。
○委員長(伊藤修君) 速記を始めて。本日はこの程度にて質疑を打切りまして、明日午後一時から引続いて質疑を継続いたしたいと思います。本日はこれにて散会いたします。
   午前零時十三分散会
 出席者は左の通り。
   委員長     伊藤  修君
   理事
           鈴木 安孝君
           松井 道夫君
   委員
           大野 幸一君
           齋  武雄君
           平野 成子君
          大野木秀次郎君
           岡部  常君
           小川 友三君
           來馬 琢道君
           松村眞一郎君
           宮城タマヨ君
           阿竹齋次郎君
  政府委員
   司法事務官
   (刑事局長)  國宗  榮君