第002回国会 司法委員会 第49号
昭和二十三年六月二十八日(月曜日)
   午前十時二十五分開会
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  本日の会議に付した事件
○刑事訴訟法を改正する法律案(内閣
 送付)
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○委員長(伊藤修君) それではこれより司法委員会を開会いたします。
 本日は刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題に供します。前会に引続いて審議を継続いたします。尚審議に入る前にお諮りいたしたいことがございますから‥‥刑事訴訟法は御承知の通り大部な法案でありますから、これを小委員会に付託いたしまして、小委員会において尚詳細に審議を継続いたしたいと存じますから、これを設置することに御異議ありませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(伊藤修君) では御異議ないものと認めまして小委員会を設置いたします。就きましては小委員の数及び人選については委員長に御一任願うことに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(伊藤修君) それではさように決定いたします。
 では政府委員の御説明をお伺いいたします。本日は第四編再審から御説明をお願いたします。
○政府委員(宮下明義君) 引続いて逐條について御説明申上げます。第四編再審に入ります前に、改正案におきましては、現行法第四編大審院の特別権限に属する訴訟手続の編を削除いたしたのでありまするが、これは現在の裁判所法によりますると、最高裁判所の特別権限事件というものはございませんで、ただ高等裁判所の特別権限事件として内乱罪だけがあるだけでありまして、特にこの内乱罪の高等裁判所の特別権限につきまして、その捜査等について特別規定を設ける必要もないものと考えまして、現行法の第四編を削除いたした次第であります。
 次に改正案第四編再審でございますが、第四百三十五條は現行法の四百八十五條に相当する規定でありまして、その内容におきましては第七号が現行法とやや変つておるだけでありまして、その他の点は現行法と変りございません。第七号におきましては、現行法においては、原判決だけでなく、前審の判決に関與した裁判官等及び公訴提起に関與した檢察官等につきまして、職務上涜職等の行爲がございました場合におきましても再審をなし得るものといたしておつたのでありますが、改正案は公訴提起というものにそれ程重要な意味を持たせておりませんし、若し公訴提起前に非違がありましても、或いは前審の判決につきまして非違がありましても、これらはすべて原判決をいたします際に、すべて洗い去られておるという考え方から、第七号におきましては、原判決に関與した裁判官、原判決の証拠になつた証拠書類の作成に関與した裁判官等につきまして職務上の非行があつたとき再審の事由といたしたわけでございます。
 次に再審の編におきましては應急措置法第二十條と同樣、被告人のために不利益な再審というものはすべてこれを削除いたしました。これは憲法三十九條後段におきまして、何人も同一の行爲について重ねて刑事上の責任を問われないという憲法の精神を承けまして、すでに或る判決を受けました以上これを不利益に変更されるということは憲法の精神に反するという趣旨から、被告人のために不利益な再審というものはすべて削除いたしたわけでございます。
 次に四百三十六條は、現行法の四百八十七條と四百八十八條とを併せて一つの條文にいたしたわけでございまして、その内容は、再審の請求というものは、有罪の言渡をいたしました確定判決に対してのみではなくして、控訴棄却の確定判決、又は上告棄却の確定判決に対しても、被告人のために利益な再審はこれをすることができるという規定を置いたわけでございます。これによりまして、この再審が許されまして再審開始決定がございますれば、その事件は控訴中の事件或いは上告中の事件として、その控訴裁判所又び上告裁判所において通常の手続に從つて審理がなされるわけでございます。
 次に四百三十七條は現行法の四百八十九條に相当する規定でございまして、その内容は現行法と変りがございません。
 次に四百三十八條は現行法の四百九十條に相当いたしまして、再審の請求は原判決をした裁判所がすべてこれを管轄するということに定めたのであります。
 四百三十九條は現行法の四百九十二條に相当する規定でありまして、その内容におきまして民法の改正等に則りまして、幾分字句の修正をいたしてございまするが、内容においては殆んど現行法と変りがございません。
 次に第四百四十條は現行法の四百九十三條に相当いたしまして、檢察官でなくして檢察官以外の者が再審の請求をする場合には弁護人を選任することができる。で、この弁護人は再審開始決定がありまして、その後再審の判決があるまでその選任の効力が持続いたしまして、弁護人として活動できるという規定にいたしたわけでございます。
 四百四十一條は現行法の四百九十四條に、相当いたしまして、その内容は現行法と変りがございません。即ち再審の請求というものは、刑の執行が終つた後でありましても、又は執行の免除等によりまして執行を受けることがないようになつた場合におきましても、尚且つこれをすることができるといたしたわけでございます。この場合に再審によつて無罪等の判決がありますれば、受けました執行に対しては刑事補償の問題が生ずるわけでございます。
 四百四十二條は現行法の四百九十六條に相当いたしておりまして、再審の請求そのものは必ずしも刑の執行を停止する効果を持つているものではない。併しながら檢察官は事情によりまして、確かにこの事件は再審が立つに相違ないというような事情のある場合には、前以てその執行を停止することができるといたしたわけでございます。
 四百四十三條は現行法の四百九十八條に相当いたしておりまして、再審の請求の取下に関する規定でございます。
 四百四十四條は現行法の四百九十九條に相当いたしております。
 次に四百四十五條は現行法の五百三條に相当いたしております。再審の請求を受けた裁判所が必要がある場合には会議体の構成員に事実の取調をさせ、又他の地方裁判所、簡易裁判所の裁判官に事実の取調の嘱託をすることができるという規定を設けたわけであります。
   〔委員長退席、理事鈴木安孝君委員長席に著く〕
 四百四十六條は現行法の五百四條に相当いたしておりまして、この内容は現行法と変りがございません。
 四百四十七條は現行法は五百五條に相当いたしております。第二項のおきまして現行法と幾分言葉を改めまして、再審の請求の棄却の決定があつたときは、何人も同一の理由によつては更に再審の請求をすることはできないといたしまして、解釈上の疑問を避けたわけでございます。
 四百四十八條は現行法の五百六條に相当いたしておりまして、再審の請求が理由がある場合には再審開始決定をしなければならないという規定であります。再審開始決定がございますると、その後通常の手続に從つて再審手続が継続されるわけであります。
 四百四十九條は現行法の五百七條と五百八條を併せて一つの條文といたしたのでありまして、控訴棄却の確定判決と第一審の判決との両方に対して再審の請求があつた場合における技術的な問題を解決しておりまする規定でございます。
 四百五十條は現行法の五百十條に相当いたしておりまして、再審の各種の決定に対して即時抗告をすることができることの規定を設けておるのであります。
 四百五十一條は、現行法の五百十一條と五百十二條に相当いたしておりますが、この規定は現行法と立て方を著しく変えておりまして、再審の手続におきましても原則としてそれぞれの審級に從つて審判をしなければならない。言い換えますれば、第一審の確定判決に対して再審の請求があつて、その請求に対して再審開始決定がありました場合において、原則として第一審の手続に從つて再審手続をするというふうにいたしたわけであります。今現行法の五百十一條は再審開始決定が確定した事件については、それぞれその審級に從つて更に審判をしなければならないと規定いたしまして、五百十二條において死亡者又は回復の見込のない心神喪失者の利益のために再審の請求をした事件については、公判を開かないで、檢察官及び弁護人の意見を聽いて判決をしなければならないと、このように規定をいたしまして、五百十二條の第二項におきまして、有罪の言渡を受けた者の利益のために再審の請求をした事件について再審の判決をする前に、有罪の言渡を受けた者が死亡したり、又は心神喪失の状態に陷りまして、回復の見込がなくなつた場合においても同樣公判を開かないで、ただ單に檢察官及び弁護人の意見を聽きまして判決をしなければならないというふうに規定いたしておりまして、この死亡者又は心神喪失者についての再審の場合には、現行法においては公判を開かなかつたわけでありまするが、今度の改正案の四百五十一條におきましては、このような場合におきましても、やはり公判は開くという立て方に改めたわけでございます。即ち第二項におきまして、「死亡者又は回復の見込がない心神喪失者のために再審の請求がされたとき。」第二といたしまして、「有罪の言渡を受けた者が、再審の判決がある前に、死亡し、又は心神喪失の状態に陷りその回復の見込がないとき」におきましても、原則としては公判は開くのである、即ち三百十四條第一項本文、即ち公判手続の停止に関する規定及び三百三十九條第一項三号の規定、即ち公訴棄却の規定、これらはこの場合には適用をしない、從つて原則として公判を続けて行く、こういうふうに立て方を改めまして、被告人の利益を図ろうといたしたわけでございます。
 四百五十二條は現行法の五百十四條に相当いたしまして、「再審においては、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。」といたしまして、不利益変更禁止の原則を採用いたしたわけでございます。
 四百五十三條は再審において無罪の言渡をしたときは、その判決を「官報及び新聞紙に掲載して、その判決を公示しなければならない。」ということを定めたものでありまして、現行法の五百十五條に相当いたしております。
 次に第五編非常上告について御説明申上げます。改正案におきましては、四百十五條乃至四百十八條におきまして、上告裁判所の判決に対して檢察官、被告人又は弁護人の申立によつて訂正の判決をすることができるという新らしい制度を採用いたしたのでありまするが、この制度と現行法にもございましたところの非常上告という制度とは、おのずから制度の趣旨と目的が相違いたしておりまするので、四百十五條の判決訂正の手続に拘わらず、非常上告は、やはり存置いたして置くべきものであるという見解から、改正案におきましても第五編として非常上告の手続をそのまま置いたわけでございます。而してその内容におきましては現行法と殆んど変つておりませんので、この点は各條文についての御説明を省略させて頂きたいと思います。要するに判決が確定した後に、その事件が法令に違反したことを発見したときは、檢事総長は最高裁判所に非常上告をすることができるということにいたしまして、四百五十五條以下にこの非常上告についての手続規定を定めたわけでございます。
 次に第六編略式手続について御説明申上げます。新憲法が実施されまして、昨年の五月三日から應急措置法が施行されておるのでありますが、この新憲法の下においては、略式命令は憲法違反であるという説が可なり強く主張されたのであります。その根拠は、憲法三十七條第一項及び第二項並びに憲法八十二條第一項に基いて憲法違反の説が主張されたのであります。憲法第三十七條第一項には「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を売する」と規定いたしておりまして、第二項においては、刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を十分に與えられなければならないと、こう規定いたしております。而して八十二條第一項には「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。」こう規定いたしておりまして、これらの公開裁判を受ける権利というものは放棄を許さない権利である。然るに略式命令というものは、たとえ被告人が略式命令によることを同意いたしたといたしましても、この憲法の公開裁判の原則に反するというところから、憲法違反の説が可なり強く主張されたのであります。併しながら政府におきましては、終始この憲法三十七條第一項の公開裁判を受ける権利というものも必ずしも放棄を許さない権利ではない。從いまして略式命令も必ずしも憲法違反でないということを強く主張いたして参りまして、昨年憲法が実施されまして暫くの間は、この点について疑念を持つた裁判所がございましたが、その後大多数の裁判所がこの略式命令は憲法違反でないという説を承認いたしまして、現在においては殆んどすべての裁判所が略式命令を発布いたしておるのであります。改正案におきましても、この政府の見解に從いまして、略式命令手続をそのまま存置いたしたのでありますが、只今申上げたように、一部において憲法違反という説もあるくらいでありまするので、十分愼重を期しまして、この略式命令について或る程度の制限を設けて、これを存置することといたしたのであります。即ち四百六十一條におきましては簡易裁判所は、檢察官の請求によりまして、その簡易裁判所の管轄に属する事件について、公判前、略式命令で五千円以下の罰金又は科料を科することができる。このように規定いたしまして、罰金の最高限を五千円に限つたわけでございます。現行法におきましては略式命令で五千円以上如何なる金額の罰金をも科し得たのでありますが、改正案におきましては最高限度を五千円に限つたのであります。而して第二項におきまして檢察官が略式命令の請求をしようという場合には、予め被疑者に対してこの事件について略式命令の請求をするということを告げなければならないということにいたしまして、檢察官が被疑者に対してその旨を告げた日から七日を経過いたしまして、而もその期間内に被疑者から異議がない場合に限つて初めて裁判所は略式命令を発することができるというふうに、愼重な手続きを取ることといたしたのであります。要するに要点といたしましては、罰金の最高限を五千円に限つた点、及び一定の期間を置きまして、その期間内に被疑者から異議がない場合に限つて初めて略式命令を発することができるという建前を取りまして、根本において憲法、違反でないことは間違いがないのでありまするが、尚、憲法違反の論議を避ける意味におきましてこのような愼重な立法をいたしたわけでございます。
 四百六十二條は現行法の五百二十四條に相当する規定でありまして、「略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面ではこれをしなければならない。」ということにいたしました。即ち略式命令の請求は公訴提起そのものとは別個でありまするが、同一の書面において略式命令の請求がなされるということになるわけであります。
 四百六十三條は現行法の五百二十五條に相当いたしておりまして、略式命令の請求があつた場合に、その事件が法律上略式命令にすることができないものである場合、又は裁判所がその事件を略式手続で片付けるのは相当でない、通常の公判を開くべきものであると考える場合におきましては、略式命令を発しませんで、通常の規定に從つて審判をしなければならないということにいたしたのであります。而して通常の手続に從つて審判をする場合において、裁判所法第三十三條第二項の場合には、簡易裁判所はその事件を「管轉地方裁判所に移送しなければならない」ということに定めたわけでございますが、この裁判所法第三十三條第二項の点につきましては、改正刑事訴訟法に應じまして裁判所法の一部を改正いたしたいと考えるのでございまするが、その法案を引続いて國会に提出して御審議を願う予定になつております。
 四百六十四條は現行法の五百二十六條に相当いたす規定でありまして、その内容におきましては変りがございません。
 四百六十五條は現行法の五百二十八條に相当いたしておりまするが、第一項におきまして、正式裁判の請求をすることができるものに、新たに檢察官を加えまして、現行法におきましては、略式命令に対して正式裁判の請求をすることができる者は、その命令を受けた者に限られておつたのでありまするが、改正案におきましては、必ずしもその命令を受けた者ばかりでなく、檢察官に対しても正式裁判の請求権を認めたわけでございます。現行法においては、檢察官に正式裁判請求権を認めておらない関係上、解釈論といたしまして略式命令は檢事の意見通り発すべきもので、裁判所は檢事の意見を少しでも変える場合には普通の公判を開くべきものであるという誤つた解釈もあつたのでありまして、改正案におきましては、そのような解釈は取らない。裁判所は必ずしも檢事の意見に拘束されませんで、裁判所独自の考えで刑を定め、略式命令を発すべきものであるという解釈を明らかにする意味もございまして、そのような場合においては檢察官はその略式命令に不服のある場合も考えられまするので、第一項において檢察官に正式裁判の請求権を認めたわけでございます。
 四百六十六條は現行法の五百三十條に相当いたしておりまして、正式裁判の請求は第一審の判決があるまでこれを取下げることができるということにいたしたわけでございます。
 四百六十七條は正式裁判の請求というものは、一面、上訴と似通つた点がございまするので、三百五十三條の被告人の法定代理又は弁護人の被告人のためにする上訴権の規定、三百五十五條の原審の代理人又は弁護人の被告人のためにする上訴権の規定、その他上訴権回復の規定等、すべてこれを正式裁判の請求又はその取下げについて準用することといたしたのであります。
 四百六十八條は現行法の五百三十一條に相当する規定でありまして、内容においては現行法と変りがございません。
 次に四百六十九條は現行法の五百三十二條に相当いたし、四百七十條は五百三十三條に相当いたしまして、内容においては変りないのであります。
 次に第七編裁判の執行の編を御説明申上げます。
 四百七十一條は現行法の五百三十四條に相当いたしまして、裁判は原則として確定後これを執行するという原則を掲げたわけでございます。
 四百七十二條は裁判官の執行指揮に関する規定でありまするが、裁判の執行はその裁判をした裁判所に対應する檢察廳の檢察官がこれを指揮するものである。併しながら例外の場合においては、裁判所又は裁判官が指揮する場合もあるということを第一項において明らかにいたしました。「上訴の裁判又は上訴の取下により下級の裁判所の裁判を執行する場合には、上訴裁判所に対應する檢察廳の檢察官がこれを指揮する。」併しながら「訴訟記録が下級の裁判所又はその裁判所に対應する檢察廳に在るときは、その裁判所に対應する檢察廳の檢察官が、これを指揮する」ということにいたしたのであります。
 四百七十三條は現行法の五百三十六條に相当いたしまして、裁判所の執行指揮の方法についての規定でございます。
 四百七十四條は、現行法の五百三十七條に相当いたしておりまして、二つ以上の主刑の執行は、罰金、科料を除いては、その重い方から先にその執行をするという原則を規定したのであります。併しながら最高檢察廳の檢察官は檢事総長の許可を受け、その他の檢察官は檢事長の許可を受けまして、場合によりましては重い刑の執行を停止して、他の刑の執行を先にさせることができるという規定を設けたのであります。この場合におきまして、ただ單に檢察官にこの但書の権限を認めないで、最高檢察廳の檢察官につきましては檢事総長、その他の檢察官については檢事長の許可を受けしめるということにいたしましたのは、特に濫用を避ける意味において愼重を期したわけでございます。
 四百七十五條は現行法の五百三十八條に相当する規定でございまして、死刑の執行に関する規定であります。その第二項の規定は全く新らしい規定でございまして、即ち法務総裁が死刑執行の命令をするのは、判決確定の日から六ヶ月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がなされまして、その手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、只今申上げました六ヶ月の期間にこれを算入しないということにいたしたのであります。現在におきましては、死刑の判決が確定いたしましてから相当な日数を経過いたして後に、初めて死刑執行の命令が出ておるのでありまするが、すでに死刑の判決を受けた者に対して、長い期間その執行をいたしませんで、いつまでも眼の前に死刑ということを考えながら拘禁されておるということは、如何にも残酷でありまして、憲法が残酷な刑罰を禁止しておる趣旨にも反すると考えまして、死刑の判決が議定した後は、その確定の日から六ヶ月以内に法務総裁は、その執行の命令をしなければならない、というふうに規定いたしたわけでございます。勿論但書にございまするように、再審とか非常上告とか、恩赦というようなことについては、十分な考慮が拂われるわけでございます。
 次に四百七十六條は、現行法の五百四十條に相当いたしておりまして、「法務総裁が死刑の執行を命じたときは、五日以内にその執行をしなければならない。」ということにいたしたのであります。
 四百七十七條は現行法の五百四十一條に相当いたしておりまするが、第一項におきまして、死刑の執行の立会人に新たに監獄の長又はその代理者というものを附加いたしまして、現行法におきましては、立会は檢察官と裁判所書記であつたわけでありまするが、更に愼重を期しまして、監獄の長又はその代理者も立会わなければならないということにいたしたのであります。
 四百七十八條は現行法の五百四十二條に相当いたしておりまして、死刑執行始末書に関する規定であります。
 四百七十九條は現行法の五百四十三條に相当いたしまして、死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態にあるとき、又は死刑の言渡を受けた者が女子であつて懷胎しておる場合には、法務総裁の命令によつて、その執行を停止しなければならない、という規定を設れたわけでございます。而してこの執行を停止いたしました場合に、その後において心神喪失の状態が回復した場合、又は出産がありました場合に、改めて法務総裁の命令がなければ執行をすることができない、というふうに規定いたしたわけであります。第四項におきまして、四百七十五條第二項の規定を準用することにいたしまして、この場合においても、心神喪失の状態が回復した日、又は出産の日から六ヶ月以内に執行の命令をしなければならないということにいたしたのであります。その趣旨は四百七十五條第二項において御説明いたしました通り、長い期間死刑を眼の前の置いた拘禁を継続するということは、余りにも残酷ではないかという考えから出ておるわけであります。
 四百八十條は、現行法の五百四十四條に相当いたしております。即ち体刑の言渡を受けた者が、心神喪失の状態にありまする場合には、その心神喪失の状態が回復するまで、執行を停止しなければならない、という規定であります。
 四百八十一條は現行法の五百四十五條に相当いたしております。決行法におきましては、心神喪失者に対する刑の執行を停止した場合に、檢察官はその者を監護義務者又は市町村長に引渡し、病院その他適当な場所に入れることができるということになつておつたのでありまするが、改正案におきましては、特に檢事に対して、この場合においては必ず監護義務者又は地方公共團体の長に引渡して、病院その他適当な場所に入れなければならないという義務を課しまして、その者の保護を厚くいたしたわけであります。
 四百八十二條は、決行法の五百四十六條に相当いたしておりまして、刑の言渡を受けた者について、第一号乃至第八号の事由がありまする場合には、その執行を停止することができるという刑の執行停止に関する規定でございます。この第一項に新たに但書を附加えまして、最高檢察廳の檢察官は、檢事総長の許可を受け、その他の檢察官は檢事長の許可を受けて、この執行停止をすることができるというふうにいたしましたのは、同樣檢察官の権限に濫用を防止しよう、檢事総長又は檢事長の許可によつて適当にこの執行停止がなされるように、配慮しようといたしたのであります。
 四百八十三條は新らしい規定でございまして、改正案におきましては、五百條において訴訟費用の負担を命ぜられた者が、貧困のためにその訴訟費用を完納することができないときには、訴訟費用の負担を命ずる裁判をいたしました裁判所に、訴訟費用の全部又は一部の執行の免除を申立てることができるという、訴訟費用の免除の申立に関する規定を新たに設けたわけでございまするが、この五百條に規定する執行免除の申立の期間内、即ち訴訟費用の負担を命ずる裁判が確定した後十日以内にその申立があつたときは、訴訟費用の負担を命ずる裁判の執行は、その申立についての裁判が確定するまで、執行を停止しなければならない、という規定を設けたわけでございます。
 四百八十四條は現行法の五百四十七條に相当いたし、四百八十五條は現行法の五百四十八條に相当いたしております。この場合に檢察官が收監状を発することができるという規定を設けておるのでありまするが、これは現行法においては逮捕状という用語を用いておつたところであります。併しながら改正案におきましては、逮捕状は起訴前の犯罪捜査の段階における逮捕について、逮捕状という名称を用いましたので、混同を避ける意味において收監状という言葉に改めたのであります。憲法は司法官憲以外の者について、人を逮捕する令状を発する権限を否定しておるのでありまするが、この場合におきましては、すでに有罪の判決が確定いたしておりまして、その裁判を執行するために、有罪の言渡しを受けた者を收監する令状を発するのでありまするから、必ずしも憲法第三十三條の予定しておるところではないというところから、檢察官に対して收監状を発する権限を認めておるのであります。
 四百八十六條は現行法の五百四十九條に相当いたしております。死刑、懲役等の言渡しを受けた者の現在地が判らない場合に、檢察官は檢事長にその收監を請求いたしまして、請求を受けた檢事長は、自分の管内の檢察官に收監状を発せしめて、これに協力するという規定でございます。四百八十七條は收監状の記載要件に関する規定であります。四百八十八條は、「收監状は、勾引状と同一の効力を有する。」という規定でございます。四百八十九條は「收監状の執行については、勾引状の執行に関する規定を準用する。」という規定でございまして、決行法五百五十條乃至五百五十二條に相当いたしまして、その内容は現行法と変りはございません。
 四百九十條は決行法の五百五十三條に相当する規定でありまして、罰金、科料、没收等の裁判の執行の関する規定であります。これらの裁判は檢察官の命令によつて執行するのでありまするが、この檢察官の命令は執行力のある債務名義と同一の効力を有しまして、その裁判の執行については、民事訴訟に関する法令の規定を準用するという建前を取つたことは、現行法と同樣であります。
 四百九十一條は没收又は租税その他の公課若しくは專賣に関する法令の規定により言渡した罰金若しくは追徴というものは、特に刑の言渡しを受けた者が判決の確定した後死亡した場合でありましても、相続財産についてその執行をすることができるという規定でありまして、現行法の五百五十四條と同樣であります。即ち改正案におきましても、有罪の判決というものは、本來その本人のみを対象として言渡され、その裁判の効果というものは、その本人一身に專属するわけでありまするが、この場合のごとく没收その他租税等の法令の規定によつて言渡した罰金等につきましては、特に相続財産についても執行することができるということにいたしたわけでございます。
 四百九十二條は法人の場合におきまして、法人に対して罰金、科料、没收、追徴等を言渡した落合に、その法人が、判決確定後、合併によつて消滅したときには、合併後存続する法人、又は合併によつて設立された法人に対して、その裁判を執行することができるという規定でありまして、現行法の五百五十五條に相当する規定であります。この場合におきましては、裁判の言渡しを受けた法人というものは、一旦合併によつて消滅するのでありまするが、実質においてはその後の法人に引継がれておるという考えから、後に法人に対して執行をすることができるということにいたしたのであります。
 四百九十三条は新らしい規定でありまして、改正案におきましては、三百四十八條におきましていわゆる仮納付の制度を設けたのでありまするが、第一審と第二審とにおいて、仮納付の裁判があつた場合に、すでに第一審の仮納付の裁判について執行をしてしまつたという場合に、その第一審の仮納付の執行は、第二審の仮納付の裁判で納付を命ぜられた金額の限度においてその執行とみなすという規定を設けたのであります、具体的に御説明申上げますると、第一審において千円の仮納付の裁判がありまして、千円の執行をした、その後第二審において五百円の仮納付の裁判がありました場合においては、第一審の裁判に基いて執行をいたしました千円の内、五百円の限度において第二審の仮納付の裁判について執行があつたものとみなされるわけであります。而して第二項によつて、その超過部分である五百円はこれを返還しなければならないということになつておるのであります。
 四百九十四條は同樣新らしい規定でありまして、仮納付の裁判の執行があつた後に、罰金、科料又は追徴の裁判が確定したときは、その金額の限度において刑の執行があつたものとみなされるのであります。即ち千円の仮納付の裁判の執行がありました後に八百円の罰金の裁判が確定した場合には、この八百円の限度において刑の執行があつたものとみなされるわけであります。而して第二項におきまして、この超過部分である二百円はこれを返さなければならないという規定を置いておるわけであります。
 四百九十五條は現行法の五百五十六條に相当する規定でありまするが、その第一項は新らしい規定でありまして、改正案におきましては、被告人の上訴権の保護というものを特に配慮いたしまして、上訴の放棄の制度を廃止いたしたのでありまするが、そのために被告人がすでに原判決に満足いたしておりまして、直ちに執行を受けてもよいという場合でありましても、判決の言渡しを受けた直後執行を受ける可能性が、改正案においてはなくなつておりまするので、このような場合には、「上訴の提起期間中の未決勾留の日数は、上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部これを本刑に通算する。」ということにいたしまして、この点被告人に不利益のないように配慮いたしたわけであります。從いまして判決言渡し後十四日というものは、その判決は確定しないわけでありまするが、その間の未決勾留というものは後に本刑に通算されるということになるわけであります。第二項におきましては、立て方は現行法の五百五十六條と殆んど変りがございません。未決勾留の一日を折算する場合に関する規定を、現行法においては全額の一円を折算してあつたのでありまするが、如何にも現在の物價事情に合いませんので、金額を二十円に折算するというふうに改正いたしました。
 四百九十六條は現行法の五百五十七條に相当し、四百九十七條は五百五十八條に相当し、四百九十八條は五百五十九條に相当いたしておりまして、その内容は現行法と変りがございません。
 四百九十九條は現行法の五百六十條の相当いたしておりまするが、この場合押收物の還付を受ける者の所在が判らない場合、又はその他の事由によつて、押收物を還付することができない場合に、檢察官はその旨を公告しなければならない、という規定が現行法にもあつたのでありまするが、何に公告するかという点について規定がございませんで、権利者の保護に欠くる点がありましたので、改正案におきましては特に「官報で公告しなければならない。」ということにいたしました。手続の明確化を図つて、権利者の保護を図ろうといたしたのであります。
 第五百條は新たな規定でありまして、最前四百八十三條に関連いたしまして御説明いたしました通り、訴訟費用の負担を命ぜられた者が、貧困のためにこれを納付することができないときには、その訴訟費用の免除の申立をすることができるという制度を新たに設けました。この申立は訴訟費用の負担を命ずる裁判が確定した日から、十日以内にこれをしなければならないということにいたしたのであります。改正案におきましては、國選弁護人の旅費、日当、宿泊料、報酬等も訴訟費用として、場合によりましては被告人に負担を命ぜられまするので、現行法よりも訴訟費用の金額というものが、相当多額になることが予想されておるのであります。ところが被告人が貧困等のために、これを完納することができないという場合には、特に裁判所に申立てまして、その免除をして貰うということにいたしたわけであります。憲法におきましても、被告人が自己の努力によつて、弁護人を得ることができない場合には、國がこれを附するということになつておりまするので、貧困等のために弁護人を得ることができない者に一旦國選弁護人を附するのでありまするが、これを訴訟費用として又その被告人からすべて取立てるというのでは、憲法の精神に反する点もありまするので、このような場合には後に裁判所がその免除をしてやるということにいたしたわけでございます。
 五百一條は現行法の五百六十一條に相当するものでありまして、刑の言渡を受けた者の裁判の解釈について疑がある場合には、その裁判の解釈を求める申立をすることができるという規定であります。五百二條は現行法の五百六十二條に相当いたしまして、いわゆる執行異議に関する規定であります。五百三條以下五百六條までの規定は現行法五百六十三條乃至五百六十六條に相当する規定でありまして、その趣旨においては現行法と変りがございませんので、説明を省略いたします。
 次に改正案におきましては、現行法第九編私訴の編を削除いたしておるのでありまするが、その理由とするところは、從來の実際の運用を考えますると、私訴というものは余り活用されておりませんし、尚裁判というものが次第に專門化して参りまして、民事の裁判官と刑事の裁判官というものが、可なり專門化して來たという実情も考慮いたしまして、私訴を存続する必要がないのではないかというのが、その理由の一つでありまするが、更に憲法は特に刑事訴訟につきまして、迅速な裁判というものを要求いたしております。今公訴に私訴を附帶いたしまするときは、どうしても公訴が遅れるのでありまして、これは憲法の迅速な公開裁判を受ける権利を有するという規定に反するという方もありまするので、改正案におきましては私訴を廃止するということにいたしたのであります。現にアメリカの各州等におきましては、例えて申しますれば、ニユーヨーク州等においては、公訴に私訴を附帶することはできないという明文が、刑事訴訟法中に設けられておるくらいでありまして、アメリカの解釈といたしましても、附帶私訴というものは、憲法上許されないという解釈もありまするので、特に私訴を廃止することといたしたのであります。
 最後に刑事訴訟法を改正する法律案の正誤表がお手許に参つておりまするが、その中に実質的な変更が数ケ所ございますので、極く簡單に御説明申上げたいと思います。その第一点は、從來の五十一條を五十條の第二項といたしまして、第五十一條として新たに公判調書の正確性についての異議の規定を設けた点であります。即ち「檢察官、被告人又は弁護人は、公判調書の記載の正確性につき異議を申し立てることができる。異議の申立があつたときは、その旨を調書に記載しなければならない。
 前項の異議の申立は、遅くとも当該審級における最終の公判期日後十四日以内にこれをしなければならない。但し、最終の公判期日後に整理された公判調書については、整理ができた日から十四日以内にこれをすることができる。」という規定を新たに設けることにいたしたのであります。改正案につきましては、公判調書そのものについて、その正確性に関する異議の規定が欠けておつたのでありまするが、今後控訴の場合に、原審の訴訟記録に現われておらない事実を援用することができないという場合がございまするので、特に公判調書の記載というものが、いろいろの点で重要さを持つて來ることを考慮いたしまして、特に当事者が公判調書の記載の正確性について不服がある場合には、異議の申立をして、その異議を調書に留めておいて貰う、その場合にはこの記載を援用いたしまして、控訴等において適当に主張することができるということになるわけでございます。
 その第二点は、五十三條に関する修正でありまするが、五十三條の末項に「訴訟記録の閲覽については、別に法律で、手数料を定めることができる。」となつておりましたのを、「訴訟記録の保管及び閲覽の手数料については、別に法律で、これを定める。」というふうに訂正いたしたのであります。その趣旨は、この改正案五十三條は今後訴訟記録の保管者が裁判所であるか、檢察廳であるかという点を明文を以ては解決しておらないのであります。從來の立案経過を申上げますると、法務廳におきましては、裁判の執行を檢察官が担当いたしておりまするし、又恩赦事務を檢察官が担当いたしておりまする関係上、判決確定後その訴訟記録というものは裁判所から檢察廳の手に移りまして、その執行事務が終了するまで、恩赦事務が終了するまで、その訴訟記録というものは檢察廳が保管して然るべきものであるという考え方から、訴訟記録の檢察廳保管を主張しているのであります。ところが裁判所側におきましては、自分のところで作成したものであるから、その訴訟記録というものは裁判所が保管するのが当然であるという主張をいたしておりまして、立案途中において話合いが付かなかつたのであります。從いましてこの改正案五十三條はその点が非常に曖昧になつておつたのであります。併しながらこのように折角刑事訴訟法を全面的に改正いたしまする場合に、問題を將來に残しますことは如何にも残念でありまするので、むしろこの点は國会の御意思によつていずれなりとも理論の正しい方に決して頂くのが適当ではないかというところから、訴訟記録の保管者という問題については別に法律でこれを定めるということにいたしまして、刑事訴訟法とは別個にこの訴訟記録の保管に関する法律案を提出いたしまして、國会の御審議を受けたいと、こう考えておるのであります。
 次に百五條と百四十九條の但書の、「押收の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合」の下に括孤をいたしまして、「被告人が本人である場合を除く。」という言葉を附加えることにいたしましたが、この意味は、被告人が本人でありまして、その被告人が例えば弁護士に犯罪事実に関するいろいろな証拠書類、証拠物等を預けている場合に、その弁護士が特に被告人の利益を図つて、その押收を拒絶するというような場合も、この但書のままにいたしておきますると、押收拒否権がなくなるという解釈が出て参りますので、それは如何にも不当であると、被告人が本人自身である場合にはこの但書の適用はなく、原則に帰つて、その弁護士は本人のため、言い換えますれば被告人のために押收を拒否できるというふうに改めたわけでございます。証言拒否の百四十九條につきましても、同じ趣旨であります。
 その他の点は逐條の御説明の際随時触れましたので、正誤についての御説明は省略いたします。
 以上で時間の関係もございまして、取り急いで逐條に亘つての御説明を終えるわけでありまするが、尚附則の部分は御質問に應じまして十分御説明申上げたいと思います。
 この改正案につきまして、いろいろな点について特に在野方面において反対の強いということは、政府におきましても十分承知いたしたおります。殊にこの控訴制度について反対の声が非常に強いということも承知いたしているのであります。併しながら日本國憲法の精神を忠実に実現いたしまするとすれば、第一審の手続はどうしてもこの改正案にようにいたさなければならないのでありまして、第一審を改正案のごとく丁重な十分審理を盡した制度に組立てます以上、控訴制度というものは從來の覆審制度から事後審制度に改めるのが適当ではないか、又制度全体を考えます場合には、全体として調和のとれた、而の今の日本の國情において運用のできる制度を考えなければならんというところから、從來の覆審制度を事後審制度に改めたのでありまして、政府といたしましても被告人保護のために十分に手を盡す方がいいということは勿論承知しているのでありまするが、現在の裁判所の実情等もいろいろ考慮いたしまして、又証人が控訴裁判所に遠い所からすべて呼び出されるというのは、証人側の利益、國民側の利益というものも亦考えてやらなければならないのではないか、今後の訴訟においては少くとも、第一審において眞劍勝負として檢察官も被告人も弁護人もすべての主張をし、すべての証拠を出して、そこで眞劍に爭つて裁判所の判断を仰ぐような運用が望ましいというところから、この改正案を組立てたのでございまして、いろいろな御議論もあろうかと存じまするが、全体の制度の仕組みを十分に御檢討願いまして、何とぞ愼重に御審議の上速かに可決あらんことを切に希望いたす次第であります。
○鬼丸義齊君 疑問な点は殆んど泉のごとくありますが、最も重要な点について二、三伺いたいと思いますのは、証人の証言拒絶の点でありまするが、第百四十六條によりますと、「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受け虞のある証言を拒むことができる。」と、こういうふうになつております。そういたしますると、自己又は配偶者或いは三親等内の血族若しくは二親等内の姻族とか、その他最も自己と同体一身のような近親者の場合を一括いたしまして、刑事訴追を受け或いは有罪判決を受けるというような場合に限つて証言を拒む権限を認めたことになりますが、各人の利益というものは、ひとり刑事訴追を受けるとか、或いは又有罪判決を受ける場合に限りません。その他幾多の権利を持つております。而も憲法の第三十八條によりますると、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」かようにあります。一方においては、新刑事訴訟法の改正案が被告人のみずからが刑事上の審判を受けておりまする場合に、自己の沈黙、いわゆる黙秘すら、沈黙すら法律は認めております。にも拘わりませず、苛くも証人として立ちました場合に、その一言が自分の一生を卜するような大きな重大な利益までも証言を強要されますることは、又大変な実は眞理に反することではないかと思います。殊にこの憲法に明らかに、この自己を守るの権利を保障されておりまするにも拘わりませず、証人台に立つて、みずからの一言は自己を殆んど没しなければならないような重大なことすら、陳述するにあらざれば陳述拒否の刑罰制裁を受ける。こういうような大きなことになりますならば、拷問以上の拷問になると思います。况んやみずからが刑事被告人となつて法廷に立つておる場合ばかりでなくして、他の刑事事件を証する一つの資料に供せられる場合におきましては、そうしたような重大な陳述を強要いたしますることは、如何にしても私共は了解でき難いのであります。この点をなぜ一体旧法のごとくに、もう少しこの証言拒否の範囲というものを廣くしなかつたか。なぜ一体こう狹くしたのかということが承わりたい。例えば刑事判決を受ける。刑事訴追を受ける。或いは有罪判決を受けるということばかりが自己の利益、不利益というふうなことではなくして、その他その一言は、名誉上においても、その他財産上におきましても、みずからの口によつてみずからを滅ぼすようなことを強要されますことは、如何にも不自然なことだと思います。この点はどうして一体旧法のごとき極めてこの合理的なる注文をなぜこういうふうに狹く解するようになつたのであるか。
 それから更に、百四十九條の末項にありまする、「証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合、」これまではよいとしても、「その他裁判所の規則で定める理由がある場今は、」その裁判所の規則によつて、かような重大なことが特に自由に定められることといたしましたならば、何を好んで……一体かような場合には証言してもよろしい、こういう場合には証言しなくてもよろしいというような特段な規定を数ヶ條に亙つて作つております意味というものは、全く没却されている。そもそも一体裁判所の規則で定めるというものの範囲は、何を狙いとしておるか。その点を先ず一つ承わりたいと思います。
○政府委員(宮下明義君) 先ず第一点の御質問は、改正案が現行法よりも、証言拒否権の範囲を狹めておる理由は奈辺にあるか。これは憲法の趣旨にも副わないものであるし、又各個人が自己を守るという根本的な権利にも相反するのではないかという御質疑の点についてお答えいたしたいと思います。憲法三十八條第一項が「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定いたしておりますることは、すでに御承知のことと存じます。この自己に不利益な供述という表現の解釈につきまして、私共といたしましては、この憲法が或る程度参考にいたしましたアメリカの憲法のこれに相当する條文の解釈等も参考といたしまして、この不利益な供述というのは、いわゆるセルフ・インクリミネートする供述、言い換えますれば、刑事手続におきまして、我と我が身を縛るような不利益な供述を強要されないというふうに解釈いたしておるのであります。ただ單に、経済上の不利益を受けるとか、或いは自己の恥辱になるというような供述は、憲法三十八條第一項は意味していない。刑事手続において、自分自身を縛つてしまうような供述、言い換えますれば、刑事訴訟を受け、又は刑事手続において有罪判決を受けるような虞れのある供述は拒み得る。こういう供述は強要されないと、こういう意味に解釈いたしておるのであります。從いまして憲法が最少限度要求しておるのは、只今申上げましたような、セルフ・インクリミネートする供述を強要してはならないという意味であると、こう解釈しておるのであります。而して現行刑事訴訟法の百八十六條によりますると、被告人の配偶者、四親等内の血族若しくは三親等内の姻族又は被告人とこれらの親族の関係のあつた者、被告人の後見人、後見監督人、保佐人、これらの者は、この関係がございますと、すべての証言を拒否することができると、こうなつておるのであります。この点を改正案百四十七條は、必ずしもこのような関係がありましても、すべての証言は拒否できない、ただ單に刑事訴追を受け、又は有罪の判決を受ける虞のある証言のみを拒否できる。言い換えますれば、我と我が身を縛るような証言は拒否することができるというふうに改めたのであります。勿論現行法におきましても、二百二條におきまして、或る者の恥辱に帰し又はその財産上に重大な損害を生ずる虞れのある場合には、宣誓をさせないで訊問することができるという特別な考慮をしておつたのでありまするが、このような恥辱に帰し、又はその財産上に重大な損害を生ずるような場合には宣誓をしないで訊問をせよという或る程度の軽い考慮をしておるのでありまして、自分が起訴され、又は有罪の判決を受ける虞れのある場合とは区別をして考えておるのであります。從いまして改正案におきましては、憲法三十八條第一項の精神から申しましても、亦一面、改正案が被告人の供述拒否権というものを非常に強く規定いたしておりまするので、これを補足する意味におきまして、被告人以外の証人が刑事訴訟というものに十分に協力して頂かなければ刑事訴訟の実体的眞実発見の目的は達することができない。言い換えますれば、憲法十二條も、憲法の保障する基本的人権も、公共の福祉の枠内において初めて認められるものでございまするので、各人の自己を防衞する権利というものも、公共の福祉との調和を図つてその限度において主張して頂きたい、こういう考え方から、從來の何らの差別なしに配偶者、その他親族等の関係がございますればすべて証言を拒否することができるという立て方を改めまして、特にそのような関係のある場合でありましても、刑事訴追を受け、又は有罪の判決を受ける虞れのある証言のみを拒否することができる。その他の証言は必ずしも拒否できない。言い換えますれば、ただ自分の恥辱に帰するとか、或いは財産上不利益を受けるというような証言は必ずしも拒否できないというふうに改めたわけでございます。この点が各人の権利を著しく侵害するものではないかという御批判でありまするが、繰返して申上げまするように、各人の権利も十分に尊重しなければならないのでありまするが、被告人の黙秘権、供述拒否権というものを憲法が非常に強く保障いたしておりまする関係上、他の一般國民に対しては或る程度証言拒否の範囲というものを制限して頂いて、刑事訴訟に協力して頂かなければ訴訟の目的が達しかるというところから、この百四十七條のような立て方をいたしたわけでございます。
 次に百四十九條但書の「その他裁判所の規則で定める事由がある場合」とは如何なる場合を指すか、若しこの除外規定が非常に廣いものであるならば、百四十九條本文の規定を設ける趣旨は没却されるのではないかという御質問でございまするが、誠に御尤もな御意見と考えるのであります。前にもこの問題について御説明申上げましたように、立案当局といたしましては「その他裁判所の規則で定める事由」というものを、現在においては画然とは予定いたしておりません。併しながら或る例を申上げますると、例えばこの医者にかかつた本人といふものが非常に小さな子供であつて、必ずしも名誉感情というものもない、秘密もないというような場合、例えば十二、三歳以下であるというような場合におきましては、裁判所の規則によつてそのような場合の医師というものは必ずしも証言拒否権がない。又この本人が事件当時においては死亡してしまつて、承諾の余地がない。併しながら諸般の情況から考えるならば、若し本人が生存しておつたならば当然承諾する情況と認められるというような場合につきましては、裁判所の規則で、一定の本則に対する例外が規定できるということを予想いたしておりまするが、必ずしもこのような例外を廣く規定するというようなことは毛頭考えておらないのであります。
○大野幸一君 私がこの前、証人尋問の場合であつたと思いますが、証人尋問の百四十三條の「何人でも」という中に天皇は含むのかどうかということに対して御答弁の用意があるようでしたら、それに対する見解、それに対する法律上の根拠を伺つて置きたいと思います。
○政府委員(宮下明義君) 前回、私から、この「何人でも証人としてこれを尋問することができる。」という「何人」の中には天皇を含まないという答弁を申上げまして、尚その理論的根拠等について十分な檢討を加えました上、改めて御答弁いたすことを約束いたしておつたのでありまするが、政府部内におきまして尚協議中でございまするので、今暫く御答弁を御猶予願いたいと思います。
○大野幸一君 次に百四十八條の「共犯又は共同被告人の一人又は数人に対し前條の関係がある者でも、他の共犯又は共同被告人のみに関する事項については、証言を拒むことはできない。」という後段の「他の共犯又は共同被告人のみに関する事項」とはどういうことをいうか、例示を以て御説明の御用意がありましたらお伺いして置きたいと思います。
○政府委員(宮下明義君) 百四十八條の規定は現行法におきましても、このままの形で規定されておる條文でありますので、御質問の点につきましてはいろいろな事例が考えられるわけでありまするが、例えて申上げますれば、他の共犯のみに関する事項と言いまするのは、甲乙両名が共犯として、而も共同被告人として起訴されておりまして、甲の配偶者が証人として尋問を受けておる場合に、その甲乙両名の共犯に関する事実については証言を拒否できるわけでありまするが、その共犯に関する事実ではなくして、乙のみの犯罪事実、或いは乙の性格を証する証言等については必ずしも証言拒否権がない。次に、共同被告人のみに関する事項については、という例につきましては、いろいろな例があろうかと考えまするが、この共同被告人は必ずしも共犯とは限りませんで、共犯関係がない場合がありましても、例えて申上げますれば牽連事件等で同一訴訟に共同被告人として起訴されておる場合も考えられまするので、このような場合には全然関係のない犯罪事実については、他の共同被告人のみに関する事項については、証言を拒否することができないわけでございます。
○岡部常君 今回の改正案におきまして、死刑の執行が六ヶ月以内に行われることに相成りました。この点につきまして私、聊か疑念を抱いておるのでありますが、死刑の最近何年間か、まあ約十年間くらいの推移は、どういうふうな統計になつておりますか、その点御調査願いたいと思うのであります。相当な期間内に執行するというのも結構でありますが、何分人の生命に関することでありますから、愼重に愼重を期するということは、國家として勿論である。又死刑の宣告を受けた者、或いはその親削、友人というものが非常にそれに関心を持ちまして、從前とても再審の申立等が、随分行われておつたのであります。それが六ヶ月以内に片付くものであるかどうかという点に、非常な疑問があるのであります。一方又これは沢山の人によつて提唱せられておるのではありませんが、場合によつては死刑の執行を一定期間猶予してはどうであろうか。それで本人の心情の変化等によつて、更に又刑罰を変えるというようなことも、刑法改正においては考えたらどうかというようなことも聞いておるのであります。そんなことも考えますると、この際六ヶ月という短い期間に、急いで執行するのはどうかと考えられるのであります。就きましては死刑の十年間の統計、その中に判決が確定してから執行までに至つた期間が、どういうふうであるかということも、併せて御調査願つて書類を提出して頂きたいと考えるのであります。
○政府委員(宮下明義君) 只今御要求のございました最近十年間における死刑の統計及びその死刑の判決の確定後、どれだけの期間を置いて執行したか、という点についての統計につきましては、只今手許に用意がございませんので、後刻調査の上、書面にして御提出したいと考えております。
○理事(鈴木安孝君) 後の質疑は次にいたしまして、本日はこれにて散会いたします。
   午後零時四分散会
 出席者は左の通り。
   委員長     伊藤  修君
   理事
           鈴木 安孝君
           岡部  常君
   委員
           大野 幸一君
           中村 正雄君
           鬼丸 義齊君
          前之園喜一郎君
           宇都宮 登君
           松井 道夫君
           松村眞一郎君
           宮城タマヨ君
           星野 芳樹君
  政府委員
   法務廳事務官
   (檢務局刑事課
   長)      宮下 明義君