第019回国会 本会議 第4号
昭和二十九年一月二十七日(水曜日)
   午後四時三十七分開議
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 議事日程 第四号
  昭和二十九年一月二十七日
   午後三時開議
 第一 国務大臣の演説に関する件
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○議長(河井彌八君) 諸般の報告は朗読を省略いたします。
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○議長(河井彌八君) これより本日の会議を開きます。この際、お諮りをいたします。重宗雄三君及び小笠原二三男君から十七日間、近藤信一君から二十八日間、いずれも海外旅行のため請暇の申出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。よつていずれも許可することに決しました。
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○議長(河井彌八君) 只今、副議長重宗雄三君の海外旅行につき請暇が許可せられました。つきましては、副議長が帰朝いたすまでの間、議長のみでは議事に支障を来たすやも計られませんので、この際、あらかじめ仮議長の選挙を行いたいと存じます。御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。
○杉山昌作君 私は、只今の仮議長の選挙は、国会法第二十二条第二項の規定によりまして、この選任を議長に一任することの動議を提出いたします。
○寺本広作君 私は只今の杉山君の動議に賛成をいたします。
○議長(河井彌八君) 杉山君の動議に御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。
 よつて議長は、仮議長に小林英三君を指名いたします。(拍手)
 都合によりまして五分間休憩いたします。
   午後四時四十分休憩
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   午後四時四十五分開議
○議長(河井彌八君) 休憩前に引続き、これより会議を開きます。
 日程第一、国務大臣の演説に関する件。
 吉田内閣総理大臣、岡崎外務大臣、愛知国務大臣及び小笠原大蔵大臣から発言を求められております。順次発言を許します。吉田内閣総理大臣。
   〔国務大臣吉田茂君登壇、拍手〕
○国務大臣(吉田茂君) 第十九回国会の休会明けに当り、政府の所信を述べる機会を得ましたことは、私の最も喜びとするところであります。
 最近の国際情勢を通観いたしますと、国際的緊張はかなり緩和されたように見受けられるのでありますが、東西の冷戦状態は依然存続していると考えられます。かかる情勢を前にして、我が国としては、世界平和の確立を念願する見地より、自由諸国との協力提携を強化せんとする従来の基本的方針を堅持し、なかんずくアジアの自由諸国との友好関係の増進に努めるべきであります。特に東南アジア諸国に対しては、賠償問題の早急なる解決を期し、正常なる国交の樹立を急ぐと共に、経済協力を通じて相手国の繁栄に寄与し、善隣相助けて世界の平和に貢献したいと考えておるのであります。
 李ライン問題その他隣邦韓国との間の懸案が、年を越えてなお解決を見ないのは、最も遺憾とするところでありまするが、政府は改めて最善の努力をいたすつもりであり、両国唇歯の関係からも必ずや公正妥当の結論を得るに至ることを信じて疑わぬものであります。
 昨年十二月奄美群島が復帰したことは、誠に同慶に堪えないところであります。過去八年間に亘る二十万同胞の労苦に深甚の同情を表すると共に、政府としては今後同群島の復興と民生の安定につき能う限りの助力を吝まないつもりであります。沖縄諸島、小笠原諸島等の復帰についても、政府は今後機会あるごとに全国民の強い要望を伝えて、その早期実現を要請する所存であります。
 未復帰の領土と共に想起を禁じ得ないのは戦犯者の問題であります。政府は昨年、濠州、フイリピン両国政府によつてとられた寛容の措置に改めて謝意を表すると共に、同様の配置が成るべく速かに残存する戦犯者の上に注がれることを期待するものであります。けだし、独立後三年、戦争の記憶と創痍とを一日も早く払拭し、国民的気概を新たにして、世界平和に寄与せんことは、独立日本の切なる念願であるからであります。
 政府は二十九年度予算案を編成するに当り、極力財政規模を圧縮して、これを一兆円以内におさめることにいたしたのであります。我が国の経済が最近インフレ的傾向にあることは、もろもろの数字より見てこれを否定し得ないところであります。若しこの趨勢が更に速められ、インフレーシヨンによる悪循環が堰を切つて奔流するに至れば、それは直ちに日本経済の崩壊であるのであります。かかる実情に鑑み、昭和二十九年度においては、我が国経済の基調を、積極的な物価の引下げ及び円の対外価値の強化に置き、通商貿易の振興、従つて国際収支の発展的均衡に最善の努力を傾けるつもりであります。問題は決して単なる財政の圧縮のみを以て能くするところではありません。即ち、政府は金融引締めを継続強化する一方、資本の蓄積、貯蓄の増強等に資するため税法の改正を行う所存であります。民間においても、この際産業設備の合理化、技術水準の向上に努め、以て国際競争力の強化に最善を尽されんことを切望する次第であります。
 政府はこの間においても、治山治水、道路等、国の根本に培うものについては、乏しき財源の中から能う限りの施策をなさんとするものであります。昨年の屡次に亘る大災害は、もと天災によるとはいえ、戦前戦時を通じ治山治水の対策を等閑にした結果であります。これ政府が先に治山治水対策協議会を設けてその根本対策を検討したゆえんであり、本予算においても災害復旧費と共に一つの重点をこれに置いたゆえんであります。道路もまた治山治水と同様、国の将来に対する投資であり蓄積であります。これは財政圧縮の中にあつても特にこれを取上げた次第であります。
 財政圧縮を前に当然に考えられるのは食糧問題であり、経済自立の基盤を培うためには、総合的な食糧自給度の向上を図ることは急務中の急務と存ずるのであります。政府が過般北海道開発に関する専任大臣を任命した一つの理由も、以上の観点から国の関心をより強く北海道開発に注がんとするものにほかなりません。一面、政府は、農地の改良、営農技術の普及改善等、従来の方針を更に強力に推進すると共に、近時国民的食嗜好の変遷の傾向に鑑み、この際、積極的に米食偏重の食生活を改善すべく鋭意検討を進めたい考えであります。
 防衛問題については、国力に応じて自衛力を漸増する基本方針において何ら変るところはないのでありまするが、米国政府が財政緊縮の方針に基きその駐留軍漸減の希望あるに対し、来年度においては国家財政を勘案し、保安隊を増強する考えであります。それはひとり日米安全保障条約上の要請であるばかりでなく、国力の許す範囲において、自由諸国の共同防衛体制の樹立に寄与するため、みずからの手によつてみずからの国を守る体制を一日も早く樹立することは、当然の責務であると考えるからであります。これがため近くアメリカとの間に相互援助協定が締結される運びになつておるのであります。政府は叙上の情勢を考慮して、この際、保安庁法その他関係法律に所要の改正を行い、保安隊、警備隊をそれぞれ自衛隊に切り替えると共に、航空自衛隊を新設し、自衛隊に直接侵略に対処する任務を持たせるため、必要の規定を設けたいと存じております。
 政府は、更に、最近の治安状況に鑑み、その確保と責任の明確化に腐心しつつあつたのでありまするが、たまたま今回の行政機構改革に当り、独立後の懸案であつた警察制度の根本的改革を行うことに決し、近く案を具して国会に提出する所存であります。その主眼とするところは、現在の国家地方警察と自治体警察とを共に廃止して、新たに都道府県警察を設け、警察官理の民主的保障を保持しつつ責任を明確にするところにあります。
 一部極端なる傾向が教育界に現われつつある事実もまた政府として見逃し得ないところのものであります。学校教育は心身の発達の未熟な生徒児童を対象とするものであり、従つて特定の政党政派の主義主張を刻印するがごとき教育を施すことは厳に戒めるべきであります。然るに現状においては、学校教育の政治的中立性が侵されんとする危険性が少くないので、政府はこれに対し所要の立法措置を講じ、国の将来のため正常な学校教育の運営を保障したいと考えております。
 財政の緊縮に伴い、行政の整理と地方諸制度の合理化は、思うに当然の措置であります。政府は、過去六年の間、常に行政各部門の機構とその事務の簡素化を検討して参り、なお今後も努力を続けるつもりでありまするが、二十九年度においては警察制度の改革と人事院の改組等を行い、人員整理の面においても事務の簡素化に伴い約六万人の縮減を断行する所存であります。地方制度については、先に地方制度調査会の答申を得ましたので、その結論の線を尊重し、逐次所要の改正を行う考えであります。
 以上、政府の所信の一端を述べましたが、緊縮予算の趣旨を貫くことは必ずしも容易でありません。政府は、国民各位がよく一段の耐乏生活を克服して、各界一致、労使協調、国家経済の自立達成に協力せらるることを信ずるものであります。(拍手)
 政府においても、この際、特に民生の安定に努め、この重大時局の打開に際し、いやしくも国民的階調が害せられざるよう、最善の努力を傾ける覚悟であります。切に各位の御協力を希望いたします。(拍手)
○議長(河井彌八君) 岡崎外務大臣。
   〔国務大臣岡崎勝男君登壇、拍手]
○国務大臣(岡崎勝男君) 最近の国際情勢と、これに関連して、政府の外交方針について申上げます。
 国際間の情勢を見まするに、昨年春から始まつたソ連の平和攻勢が依然として現在までも続いている点に、従来と異なつた特徴が見出されるのであります。これがため、一部には、右は、単にスターリンの死に伴つて表面化した内部的困難の調整や自由主義諸国間の結束の切崩し等の目的以外に、何らか平和を希求する意図もあるやに考えられております。併しながら、自由圏諸国においてはいち早く軍備縮小の声も起つておるに反し、共産国家側からは、しばしば平和的な言説が繰返されているのみで、従来の厖大な軍備拡充の努力を軽減した証左はないのであります。従つて自由諸国側のこれに対する態度は、米国と英仏等との間に意見の調整等も行われた結果、結局、自由諸国の結束並びに防衛態勢確立の政策は飽くまでこれを堅持しつつ、現実の対ソ政策には或る程度の弾力性を持たせ、ソ連の宥和的態度に応えながら国際的緊張の緩和に資せんとするもののごとくであります。
 かかる両者の基本的態度から考えまして、現に開催中の四国外相会議や、近く開催を予想される原子力会談或いは朝鮮政治会議等についても、従来は困難であつたこの種会議が一応開催され得る程度に国際緊張が緩和されて来たことも確かでありますが、同時に、具体的成果を挙げるためには今後よほどの努力が心要であることも又事実であります。我々としてもこの間の推移は十分注視すべきであると考えております。
 以上のような国際情勢の一環として東亜の状況を観察いたしますれば、この方面における自由国家間の相互依存及び結束強化が今日ほど切実に要請されることはないにもかかわらず、又、各国いずれもこれを要求しつつも、なお十分な成果を挙げ得ていない実情にあります。然るに、共産陣営におきましては、内部的な連繋と一定の計画の下に、朝鮮及びインドシナにおいてはいわゆる代理戦争を敢行する一方、我が国その他の諸国においては、それぞれの事情に応じて再軍備反対又は植民地化反対等のスローガンを以て輿論をあおり、統一戦線を結成せんとする傍ら、平和攻勢により、自由諸国間の離間やその中立化、無防備化を図り、場合によつては武装蜂起にまで持つて行かんとする気配さえ示しております。東西両陣営の根本的対立と共産側の平和攻勢に基く輿論の動揺とを最も典型的に現わしているのが、現在の東亜の情勢であるともいえるのであります。
 政府においては、かかる国際情勢に対処する外交方針として、先ず、一般的基本政策については、国際連合との協力、並びに自由主義諸国、特に東南アジア諸国との提携を強化し、集団安全保障理念の実現を期し、以て我が国運の振興とアジア及び世界の平和促進に寄与せんとするものであります。
 これを具体的に申上げれば、その一は国際連合との協力の点であります。我が国はこれが一員となり、名実ともに協力の実を挙げるよう、加盟に関する施策を続けて参りますが、他方、その実現を見るまでの間においても、国連の精神に即応して諸般の対外活動を規律するほか、経済関係等特定の附属機関又は会議には極力参加する方針であります。
 その二は、自由主義諸国との提携強化でありますが、先ず米国との関係が十分なる相互信頼と相互依存の域に達していることは欣快に堪えないところでありまして、願わくば、かかる関係を他の自由主義諸国家全般にも推し進めて行きたき意向であります。又我が国として特に重視するのは、近隣の自由諸国特に東南アジア諸国との親善強化であります。東南アジア諸国とは年々親交を加えて来ておりますが、未だ正式国交の回復せざる国々に対しては、先ず賠償問題の公正なる解決を図ると共に、これと並行して、国交未回復の現状においても、可能な限りの経済並びに文化の交流を進めて行く方針であります。韓国との国交打開につきましては、すでに御承知の通り、我が方の真摯誠実な努力にもかかわらず、三度まで日韓会談が不調に終つたまま現在に及んでいるのは遺憾の至りであります。殊にいわゆる李承晩ラインの問題は、我が漁民に多大の損害を与えている現状にも鑑み、政府といたしましては、引続き韓国側の反省を促すと共に、必要あらば、米国等の斡旋を依頼してでも、一日も早く公正妥当な解決を図りたき意向であります。
 その三は、集団安全保障理念の実現に関するものであります。国連との提携も、又、特に日米安全保障条約のごときはこの方針の現われでありますが、昨年夏から開始されましたいわゆるMSA協定交渉が妥結いたしますれば、この関係において更に一歩を踏み出すこととなるわけであります。
 次に、当面の政策として政府の最も重視するところは通商貿易の促進であります。我が国は本質的にその生存を外国貿易に依存せざるを得ないにもかかわらず、最近の対外収支は膨大な輸入超過となつており、且つこれを補填する貿易外収入は、大部分、防衛分担金及び駐留軍の消費等米軍の国内駐留に関連するものと、いわゆる特需とであります。これは決して健全なる状態とは申されませんので、この際、我が国としては、経済を立て直し、正常なる輸出によつて正常なる輸入を賄い得るがごとき措置を講ずべき緊急の必要があるのであります。輸出の増進については、世界のあらゆる地域を目標とすることは当然でありまして、そのため今回も、緊縮せる予算中において、貿易上枢要な地を選び、十の在外公館設置を予定しております。併し地理的及び歴史的関係よりして、近隣諸国特に東南アジアの市場が我が国にとり最も重要なること勿論でありますから、この方面に対する輸出増進策として次の諸点を推進する考えであります。
 第一は貿易上の障害の除去でありまして、例えば、関税障壁を除き、輸入制限を緩和し、我が商社の進出を容易ならしめる等の施策であります。我が国のガツト加入や英国との貿易協定締結等はこの点に大なる寄与をなすものと信じます。
 第二は我が商品のコスト引下げでありまして、この具体策は種々ありましようが、現在の国際価格より見て我が国が思い切つたコスト引下げをなす必要のあることは説明を要せぬところであります。
 併しながら、東南アジア諸国は戦後の経済回復未だ十分ならず、購買力も自然限定されておりますので、第三に、先ずこれら諸国が豊かとなり、その購買力が増大することを期待いたします。このため政府は、経済の許す範囲において賠償の支払もあえて辞せず、又経済協力により資源開発等に資する機会あらば喜んでこれをなしたき考えであります。
 更に、共産圏殊に中共との貿易につきましても、我が基本方針なかんずく国連又は自由諸国との協力の方針に背馳しない範囲でこれが増進を期待しております。
 以上の外交方針に立脚し最近政府がとりつつある具体的施策につき概説いたしますと、
 先ず諸国との国交回復の状況については、昨年中において国交を再開いたしました国は計八カ国に上り、これによりまして現在我が国との修交国は総計五十五カ国を数えるに至りました。なお、この点に関連し、我が国は、国別の修交のみならず、国際的且つ多辺的規模において関係事項の処理を図るため二十以上の国際機関に参加いたしております。
 第二は日米相互援助協定であります。このいわゆるMSA交渉は逐次妥結に達し、現在僅少の細部調整を残すのみとなりました。余剰農産物の買付と我が国防衛産業増進のための贈与並びに投資保証等、これから派生した二、三の案件につきましても右とほぼ同様であります。文具体的な援助内容に関する交渉もさほど時日を要せずしてまとまる見込であります。
 第三は、東南アジア諸国との賠償問題であります。
 先ず、フイリピンとの中間賠償協定に基く沈船引揚作業は近く実施の運びとなつております。インドネシア及びヴエトナムとの間にも同様の沈船引揚協定を交渉しました結果、インドネシアとの協定はすでに昨年末調印を了したので、本国会の御審議を仰ぐ予定であります。ビルマとの間においては未だ具体的成果を収めておりませんが、近く調査団の派遣や中間賠償交渉の開始が期待されております。
 なお賠償問題に対する政府の方針は、単に相手国の損害の一部を償うというような消極面にとらわれず、前述いたしました基本方針に基いて本問題の妥当な解決を図り、これにより関係国との親善関係を強化すると共に、これら諸国の経済回復に資すべしとの積極面に着眼いたし、賠償の内容も、役務の入でなく資本財による支払も考慮せんとしておるのであります。ただ関係国においても我が国の支払能力に極めて限りのあることは了解せられたいのであります。
 第四にオーストラリアとの漁業紛争の件がありますが、これは、同国がその国内立法に基いて公海上における我が漁業を一方的に制限せんとしたことに端を発したものであります。併し問題は公海における漁業の自由という国際法の原則に関するものであります関係上、我が国としてはこれを国際司法裁判所に提訴して公正なる判決を求めることにし、オーストラリアの同意を得て所要の準備を進めております。我が国が本問題に特に重大な関心を寄せているゆえんは、アラフラ海における我が国漁業の自由は即ち一般的に公海における漁業の自由の原則に関連するものであり、漁業国たる我が国の利益に至大の影響を及ぼすからであります。
 その五は、移民問題であります。政府といたしましては、移民送出は、我が人口問題解決の一助になるほか、移民が受入国の経済発展にも貢献する点を考慮し、でき得る限り多数の者を送出すべく努力しております。その結果、昨二十八年度における移民送出数は、ブラジルに二百五十七家族、一千四百七十一名に上りましたが、本年度は計画移民として、ブラジル向け約四千三百名、その他パラグアイ等への者を合し約五千名を見込んでおります。時たまたま本年はブラジル国サンパウロ市におきまして四百年祭が挙行されますので、我が国としてもこれに全面的に協力し、同国との伝統的な友好関係の促進に資したいと考えております。
 最後に引揚及び戦犯並びに領土の問題について申上げます。
 昨年中における引揚者は、中共及びソ連よりの者を合せて約二万七千余名に達したことは誠に幸いでありまして、関係者の努力を多とする次第であります。戦犯問題については、昨年はマヌス島からの濠州関係者の内地送還を初めフイリピン政府の好意的措置による同国の関係者の全員釈放並びにフランス関係戦犯の大部分の釈放等を見ましたことは、誠に喜びに堪えません。又関係国による仮出所の措置も漸次増加しつつありますが、今なお巣鴨には七百九十八名の者が拘置されており、これら戦犯者及び留守家族の窮状は誠に胸を打つものがあります。政府といたしましては、の引揚並びに戰犯釈放は人道上の問題として、早期解決を図るため一層の努力をいたす所存であります。
 領土問題につき、昨年末、奄美大島が復帰しましたことは御同慶の至りでありまして、米国政府の友好的態度を深く多とするものであります。併し領土については他にもなお解決すべき幾多の問題がありますので、政府としては、国民の総意を体し十分善処する考えであります。
 以上は政府の外交方針の大要でありますが、現在の国際情勢下、我が国の外交は、今後ますます多時且つ多難加えて来るものと考えまするについては、同僚議員諸君並びに国民各位の深い御理解と一層の御支援とを期待してやまない次第であります。(拍手)
○議長(河井彌八君) 愛知国務大臣。
   〔国務大臣愛知揆一君登壇、拍手〕
○国務大臣(愛知揆一君) 今日の我が国経済を概観いたしまするに、経済規模ば拡大し、国民生活も著しく向上して参つたのでありまするが、当面最も重要な問題は、輸出の伸び悩み、輸入の膨張、その結果としての国際収支の逆調であります。而して、このまま推移いたしました場合には、我が国の手持外貨は次第に減少し、経済の自立を達成し得ないばかりでなく、国民経済の安定が害される虞れも生ずるのではないかと考えるのであります。よつて、私は、この機会に、世界並びに我が国経済に関する最近の諸情勢を申述べまして、これに対処する政府の経済政策の大綱について所信を明らかにいたしたいと存ずるのであります。
 先ず、我が国をめぐる世界経済の最近の情勢について簡単に申し述べます。
 海外の主要諸国におきましては、ここ数年来、国民の非常な努力によりまして、その経済的地位も著しく向上して参りました。例えば、イギリス、西ドイツ等の西ヨーロツパ諸国におきましては、昨年以来、貿易も順調に増加し、手持外貨も著しく増大いたしております。特に、右両国においては、国内経済力の充実に伴いまして、ポンド、マルクの対外価値が強化せられ、その自由交換化に対する熱意も高まつて来ておるのであります。
 次に、朝鮮における休戦に伴いまして、世界経済の動向は若干景気後退の徴候を示し、物価は低落の傾向にあり、対外購買力も漸次減少が予想されるのであります。アメリカにおいても、年頭の大統領教書においてこの点を述べております。世界における景気の後退は、一般的に貿易規模の縮小を招来する虞れがあるのでありまして、先般の英連邦蔵相会議における新通商政策として、特に非ドル地域との貿易促進と連邦特恵制度の強化に重点を置いたことは、これを物語るものと考えられるのであります。かくて、今後は、東南アジア、中南米等、世界各市場における輸出競争はいよいよ激化するものと覚悟いたさなければなりません。
 このような世界主要各国の経済情勢であるにもかかわらず、我が国経済はこれに反するがごとき傾向を辿つて参わました、即ち、我が国物価は、異例の風水害と凶作の影響もあつたのではありまするが、内需の旺盛に支えられまして、世界物価の動向とは逆に漸騰を示し、その国際的割高はますます拡がり、加うるに、ポンド地域等諸外国の輸入制限措置、世界的輸出競争の激化の影響もありまして、輸出は昭和二十八年においては十一億五千万ドルと、前年に比し一億三千万ドルの減少となつております。これに対し、財政支出の増大と信用の膨脹は、国内購買力を増大し、生産と消費の増大を来たし、輸入の増加を招いたのでありまして、昭和二十八年の輸入は二十一億ドルと、前年に比し三億八千万ドルを増加いたしたのであります。これは金額において二割余の増加でありまするが、数量的には約四割の著しい増加に当るのであります。その結果、昭和二十八年におきましては、年間八億ドル余のいわゆる特需収入があつたにもかかわらず、国際収支は差引一億九千万ドル余の赤字となつたのであります。なお、従来、我が国の国際収支と経済規模の上に極めて大きな役割を果して参りました特需収入は、昭和二十七年八億二千万ドル、昭和二十八年八億ドル余でありましたが、今後は、国際情勢の変化に従いまして、年々若干の減少傾向を迫るでありましようし、たとえ近い将来に予想せられまするMSAの援助等を考慮いたしましても、昭和二十八年以上の期待をかけることは困難ではないかと考えられるのであります。
 この間、我が国の国内生産水準は大幅に上昇し、昭和二十八年におきましては、鉱工業生産指数は昭和九―十一年を一〇〇といたしまして一五〇程度になるものと推定されるのであります。これは前年に比し約二割以上の増加であります。又、消費水準も、国民所得の増加に伴いまして、都市、農村を通ずれば戦前の水準を超えるに至つたのであります。特に繊維の消費量はほぼ戦前の最高水準に達したものと思われるのであります。
 以上要するに、現在の我が国経済における国内消費の上昇、国内生産の拡大は、一見好ましいように見えるのでございますが、輸出の伸長を伴わないものでありましたため、国際収支の逆調を結果いたしており、逆に我が国経済の自立に対し重荷となつたのでございます。
 私は、この際、たとえ消費水準や生産の上昇の停滞を招来しても、国際収支の均衡を回復し、正常な均斉ある経済を確立することが、当面最大の急務であると考えるのであります。(拍手)従つて、政府といたしましては、昭和二十九年度の経済政策の基調を、先ず第一に、我が国経済の正常化、特に、我が国物価の国際水準への鞘寄せを通じての国際収支の均衡の回復に置かんとするものであります。そのため、政府は、財政面、金融面におきまして引締め政策を実行し、購買力の抑制を図ることといたしておるのであります。
 即ち、財政においては、一兆円内の予算を編成し、財政支出を圧縮いたしますると共に、財源としての国債の発行、過去の蓄積資金の放出は行わないことといたしたのであります。これに対応いたしまして、金融面においては、これが引締めを強化し、通貨の収縮を図る所存でございます。特に、輸入金融の引締め、滞貨金融の抑止、過剰設備投資の防止等により、国内購買力の減少を図り、物価水準の引下げに努めたいと存ずるのであります。併しながら、重要部門に対する必要資金につきましては、その確保を図るよう一段と工夫いたす考えであります。又、物価下落を妨げるがごとき不当な価格協定等の取締を強化し、不況カルテルのごときは安易にこれを認めない方針といたしたいと思うのであります。
 右は、将来の発展のため、我が国経済の均衡を回復せんとの趣旨に出たものでありまするが、今後特需収入が減少した場合におきましても、国際収支の均衡を図るためには、常に資本蓄積を強化し、国際競争力を充実して、輸出振興の基盤を育成し、更に国内自給度を向上して外貨の節約を図る措置を怠つてはならないのであります。
 先ず、輸出力の増加のためには、国内購買力の減少と国内物価の国際水準への鞘寄せが重要でありまするが、これと並行して、市場開拓を目途とする経済外交の推進、対外信用の確保、輸出商社の強化、生糸その他繊維類の輸出振興、機械、石炭、鉄鋼、硫安等、重要産業に対する財政投資の重点的投入によるコストの引下げ並びに税法上の優遇措置その他各般の輸出奨励策を講じまして、国際競争力を培養して参りたいと存ずるのであります。この点におきまして特に重要なことは、設備の近代化とその完全操業でありましよう。例えば、西ドイツの機械工業が世界的に強力な競争力を持つておりますることは、その稼動設備の殆んど大部分が戦後の近代的設備であることによるのではないかと考えられるのであります。私はこの際、各企業が資産再評価を断行し、経営者も職員も、その他あらゆる関係者が企業の実体を明らかに把握することによりまして、経営の合理化、設備の近代化に邁進することが最も肝要ではないかと存ずるのであります。政府におきましても、資産再評価の促進のため、税制上特別の措置を認める考えであります。
 更に、昭和二十八年の輸出が伸び悩みました主要な原因が、特にポンド圏貿易の不振にあつた事実に鑑みまして、日英間の新協定が締結せられました暁におきましては、その完全な実施を図るよう諸般の措置を講じたいと考えるのであります。
 又、東南アジア諸国との貿易につきましては、最近プラント輸出の増加も見込まれるような情勢となつておりまするが、今後、賠償の早期解決等により、更にこれが一層の促進を図りたいと存ずるのであります。
 次に、国際収支の均衡に資するため、科学技術の振興、国内自給度の向上、その他外貨支払の節減の方策は、引続きこれを行う所存であります。
 食糧につきましては、その増産対策といたしまして、引続き相当額の財政支出を行いますると共に、特に、その重点化、効率化によりまして、増産効果の可及的増大を期しておる次第でございます。又、外米輸入が年間約二億ドルにも上ることに鑑み、食生活の改善に必要な措置を講じ、米食偏重を是正し、外貨払及び財政負担の節減を期したい所存であります。又、水産及び畜産の振興につきましても特段の配慮をいたすことにしたのであります。
 合成繊維につきましては、すでにその拡充計画の実行により、昭和二十九年度においては前年度に比し約千五百万ポンドの増産を見ることとなつておりまするが、昨年における繊維原料輸入の増加傾向に鑑み、今後一層増産を奨励いたしまして、早急にその能力を倍加いたしたい所存であります。
 又、石炭その他地下資源の開発の合理化を促進するのほか、石油の増産を積極化することといたしたのであります。
 なお、電源の開発、外航船の建造、国際航空事業の拡充につきましても、引続きこれを実施するものであります。
 又一方、食糧、綿花等、国民生活の安定のため極めて緊要な物資につきましては、必要量の輸入を確保いたすことは勿論でありますが、奢侈品、高級品その他不急の外貨支払は、今後一層削減し、国際収支の改善を図る所存でございます。
 次に、資本蓄積の促進を図ることが重要であることは申すまでもありません。政府においては、新規増資と長期貯蓄の増加を図るため、税法上特別の優遇措置を講じたのであります。
 中小企業につきましては、従来に引続き、その振興対策を促進いたしまするほか、今後一層、協同組合の結成等、組織化を推進し、相互扶助の効果を発揮するよう奨励し、特に、中小企業信用保証制度の充実等により金融の円滑化を図る等、随時適切な措置をとり、誤まりなきを期したいと考えております。
 以上は、来たるべき昭和二十九年度においてとらんとする施策の概要であります。政府は、これらの経済政策が我が国の企業及び国民生活に少からざる忍耐と努力とを求めるものでありますことは、よく承知するところであります。併しながら、すでに述べましたごとく、我が国経済の実態は安易な方策を許さないのであります。従つて、この際、事務的消費の徹底的抑制、食生活及び衣生活の合理化、国産品の使用等、国民生活の堅実化について、国民各位の積極的協力に期待するところが誠に大なるものがあるのであります。政府においても、諸経費の節約を図りまするほか、物資の購入に当りましては、できる限り国産品に頼ることといたす考えでございます。
 前述のごとき諸政策が政府民間の一本的な協力によつて着々その実を挙げ得るならば、現在の憂慮すべき事態は逐次改善せられることとなりましさり。即ち、逐年上昇傾向を辿つて参りました物価は、財政規模の圧縮、金融の引締めに伴う消費需要減退の影響を受けて、次第に下降に転じ、年度間を通じて大体五乃至一〇%程度の低落を見るものと予想されるのであります。鉱工業生産も、漸次横這い乃至若干下向きとなり、年度間を通じてほぼ二十八年度並み、即ち、昭和九―十一年を一〇〇として一五二程度になろうかと考えられるのであります。従いまして、国民所得の規模は、大体二十八年度と大差なく、五兆九千八百億円程度と推計せられるのであります。一方、貿易の面においても、逐次購買力の減退、国内物価の下落が進展するに伴いまして、輸入の規模は縮小し、反対に輸出は次第に伸長するでありましよう。かくて我々は年度末においては、ほぼ国際収支の均衡点に近づくべく全幅の努力を傾けたいと存ずるのであります。
 右のごとき我が国経済の改善は、先に申し述べました諸政策の実施を前提とするものでありまして、今後の我が国経済の前途と運営とは、なかなかに容易ならぬものがあることを痛感せざるを得ないのであります。政府は、この最も重大な時期におきまして、決意を新たにし、日本経済の正常化とその自立発展のために最善の努力を傾注し、国民各位の協力を得まして、その成果の達成を期せんとするものであります。(拍手)
○議長(河井彌八君) 小笠原大蔵大臣。
   〔国務大臣小笠原三九郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(小笠原三九郎君) 政府は二十九年度予算案を提出いたしました。この予算は緊縮予算であります。日本経済をインフレから脱却せしめ、正常な軌道に乗せる第一着手であります。なぜこのような予算を編成するに至つたか、又、今後の財政金融政策はどうあるべきかについて、この際、政府の考えを率直に申し述べてみたいと存じます。
 我が国の経済は、終戦以来、一般に予想されていたよりも遙かに急速に回復向上し、生産も著しく増加し、国民生活も相当よくなつて参りました。最近は街にはビルデイングが立ち並び、ネオン・サインが輝き、(笑声)贅沢な輸入品が店頭に飾られ、その他消費生活も派手になつて、我が国経済は非常に繁栄しているような外観を呈しているのであります。併しながら、深くその実態を掘り下げてみますると、誠に寒心に堪えないものがあるのであります。
 戦後我が国の経済は、援助や特需等の臨時的な外貨収入によつて支えられて来たのでありますが、これらの収入は早晩減少消滅すべき性質のものであります。現に、最近の世界情勢の推移は、我が国が一日も早く正常な輸出を増進し、これによつて必要な輸入を賄う自立態勢を整える努力をしなければならないことを示唆しているのであります。
 然るに昭和二十八年の我が国の国際収支は、特需等の臨時収入が減少していないにもかかわらず、輸出の不振と輸入の増大のために、なお全体として二億ドルに上る赤字を示したのであります。この赤字は、前年まで毎年三億ドル以上の受取超過を続けていたことを思えば、真に我が国国際収支の急激な悪化を意味するものと申さなければなりません。
 一方、最近の我が国の物価の趨勢を見まするに、世界各国の物価が次第に下りつつあるのに反し、昨年中漸騰を続け、秋以降は朝鮮動乱の勃発直後よりも高く、戦後の最高を示している状況であります。
 我が国の保有外貨は、昨年末においてドル換算で九億七千万ドルに減少しております。若しこのような情勢のまま推移するならば、遠からず貿易のために運転資金として必要な最少限度の金額、四、五億ドルを割ることとなり、我が国経済の運営上欠くことのできない貿易にも支障を来たすこととなりましよう。外貨に余裕のある間は、輸入を増加することによつて国内の物価騰貴を抑えることもできますが、外貨が減少いたしますれば、それに連れて、物価騰貴を抑えることが困難となり、これがために却つて輸入を刺激し、外貨の減少に拍車をかけ、悪循環的にインフレは高進することとなるのであります。かくして必要な食糧や原材料の輸入に事欠くに至れば、悪性インフレのために、民族独立の裏付けとしての経済の自立は不可能に陥るのみならず、我が国経済は崩壊し、国民生活は困窮を告げることになるのであります。今にして今日のインフレ的な経済基調を転換是正しなけば、悔いを千載に残すこととなりましよう。(「遅い遅い」と呼ぶ者あり)
 そもそも、独立国家として国際経済社会に伍して行く以上は、国際経済との関連を無視して自国の経済を運営するわけには参らないのであります。あたかも独立人格を有する個人が家計の収支を相償わせなければならないと同様に、国家も又、国際収支の均衡を確保しなければ、独立国としての誇りを保つことはできないのであります。これがためには、常に経済の基調を世界経済の基調に適応させることが必要であります。
 今日世界各国は、いずれも、通貨の健全性の維持、インフレの抑制、国際収支の均衡確保に多大の努力を払い、経済の合理化、消費の節約等、堅実な経済施策を続けていることは周知の事実であります。我が国も又、経済の運営に当つては、国際収支の均衡を確保することの重要性について一段と認識を深め、通貨価値の安定を経済政策の中核とすべきであると存じます。
 最近における我が国国際収支の急激な悪化に鑑み、この際、率直に昭和二十八年の財政金融について反省を加えたいと存じます。昭和二十七年度補正予算以後、占領からの解放に伴う反動的機運も手伝い、又政局の不安定にも基因し、加うるに累次に亘る異常な災害の発生もあり、財政は総合収支均衡の原則から遠ざかり、相次いで予算の膨脹を来たしたのであります。このような財政面の緩和も、国際収支の均衡を破らない限度においては差支えないと考えられたのでありますが、今日から見れば行き過ぎとなつたことを認めざるを得ないのであります。戦争による荒廃消耗から未だ十分に立ち直らない我国としては、国民生活の向上を初めとして、種々急速に実施いたしたいことは山積しているのでありますが、国力及び国際収支の均衡という観点から、おのずから限度があるのであります。他面、金融面においても、財政上過去の蓄積資金が放出されるのに対応し、信用の収縮が行われ、財政と金融との総合調整によつて経済が適正に運営せられることを期待したのでありますが、実際は相当の信用膨脹を生じ、インフレ的傾向を助長する重要な要素となつたことも深く反省しなければならないと存じます。
 従つて、今後は、財政の緊縮を図り、金融の引締めを強化することが絶対に必要であります。即ちこれにより物価の引下げを図り、我が国通貨の国際的価値を確立し、経済の合理化近代化を促進し、輸出を増進し、堅実にして正常な国民経済の発展を期さなければなりません。
 今回の予算編成に当つては、以上申し述べました経済運営の基本的な考え方に立脚し、輸出の増進、輸入需要の減退を通じて国際収支の均衡を回復するため、金融その他の施策と相待つて、積極的に物価の引下げを図ることを基本方針といたしたのであります。朝鮮動乱勃発後の物価勝貴率は、米国の約一割、英国の約二割七分に対し、我が国は約五割六分となつているのでありますが、昭和二十九年度においては、昭和二十八年中の物価騰貴を考慮し、取りあえず五分乃至一割の引下げを図ることを目標といたしたいと存じます。将来の特需の減少を考慮いたします場合には、右程度の物価の引下げでは十分ではないと思われますが、経済界に対する急激な影響を避ける等の考慮を加えて、先ずこの程度が適当であると考えた次第であります。
 昭和二十九年度予算においては、右の基本方針に基き、均衡財政の原則を貫き、又、断固たる決意を以て財政の緊縮を実行いたしました。
 先ず均衡財政の原則に立ち帰る意味において、歳入面におきまして、過去の蓄積資金の取崩しに依存しないのは勿論、公債の発行も取りやめ、財政面からのインフレ要因を厳に排除する考え方を以て臨んでおります。又租税収入等につきましては、財政の緊縮と金融の引締めに基く物価の低下等を前提として、堅実にこれを見積ることが妥当であると考えたのであります。
 これと同時に財政支出の緊縮を断行いたしました。従来からの趨勢によれば、財政上の規模は相当の膨脹を来たすべきところでありましたが、これを大幅に削減し、又、支出の重点化、効率化を図ることに努めたのであります。即ち一般会計の予算総額を一兆円未満に縮減することを目途とし、九千九百九十五億円にとどめました。これは昭和二十八年度の予算額一兆二百七十二億円に比し約二百七十七億円の減少であり、又、一般会計と財政投融資を通じて見ますれば五百九十億円の減少となつております。なお、これにより、昭和二十五年度以来逐年膨脹の一途を辿つて来た傾向に終止符を打ち、久しぶりに前年度を下廻る予算を編成したのであります。この結果、国民所得に対する比率におきまして、一般会計の場合の割合も、又、財政投融資を含めた場合の割合も、それぞれ本年度に比し若干の減少となるのであります。
 財政規模の縮小に伴い、特に配意いたしましたのは、限られた財源の範囲内において経費を有効に配分するということであります。
 内外の情勢を勘案し、自国の防衛はみずから行うという態勢に一歩を進める方針の下に、防衛関係費を増額し、又、積極的に賠償問題を解決して、東南アジア諸国との友好的な経済関係を確立するため、賠償の支払等に必要な経費を計上いたしました。同時に、財政の緊縮、経済の正常化に伴う失業等の摩擦に対処するため、民生安定のための社会福祉関係経費についても、これを重点的に確保いたしました。
 財政投融資、公共事業費及び食糧増産対策費等につきましては、資金の重点的且つ効率的使用を図ることとし、本年度予算に比し多少減額したものもあるのでありまするが、これらの経費に重点を置く従来の方針は、なお充分に踏襲されておるのであります。他面、中央、地方を通ずる行財政の整理刷新、各種補助金等の根本的再検討その他一般経費の節約を実行いたしたのであります。なお、物価引下げの基本方針にかんがみ、予算編成上、一般物価に影響を及ぼす虞れのある米の消費者価格、官業料金の引上げは、能う限りこれを避けることといたしました。
 次に、予算の内容のうち特に重要なるものについて概略誤明いたします。
 先ず、防衛関係の経費につきましては、自衛力の漸増を図るために、保安庁経費において本年度に比し百七十五億円を増額すると共に、これに対応して防衛支出金において三十五億円を減額し、合計一千三百七十三億円を計上いたしました。
 次に、平和回復善後処理費を本年度に比し百二十億円増額し、総額百五十億円を計上いたしましたのは、賠償問題の解決を図る等のためであります。なお、連合国財産補償費は二十六億円を計上するにとどめたのでありますが、繰越を合せますると百億円の支出を行い得ることに相成つております。
 次に、経済力の充実発展のための措置であります。先ず、財政投融資の面におきまして、全体としては金融引締めによる民間投資の抑制と相待つて財政投融資の削減を行うことといたしたのでありますが、電源開発、中小企業等については特に配意を加えております。
 公共事業費及び食糧増産対策費につきましては、従来総花的傾向の憾みなしとしなかつたのでありまするが、来年度におきましては、治山治水対策、道路事業、土地改良等に重点を置いて計上し、この際、新規計画は一切認めず、更に一部既定計画の休止を断行するほか、零細補助金についてもこれを大幅に整理し、本年度に比し総額において百四十一億円を削減し、一千六百九億円を計上いたしました。
 次に、民生安定のための経費といたしましては、先ず住宅対策として約十万戸の建設を行うことを目途とし、公営住宅の建設等に百三十四億円を計上し、住宅金融公庫及び勤労者住宅に対する投融資百八十億円と相待つて、本年度に引続き住宅対策の推進を図ることといたしております。
 又、生活保護、社会保険、失業対策、結核対策等、社会福祉関係経費につきましては、本年度に比し三十八億円を増加し、七百七十四億円を計上いたしました。なお、旧軍人遺族等の恩給については寸制度の平年度化に伴う増額等により、本年度に比し百八十八億円を増額し、六百二十八億円を計上いたしております。
 次に、文教の振興につきましては、教員の給与費支出額の半額を国庫において負担することとし、義務教育費国庫負担金として七百億円を計上いたしました。文教施設については、六三制実施のための一般校舎の整備に重点を置くと共に、戦災復旧、危険校舎改築のため所要額を計上いたしました。
 警察につきましては、我が国の実情に即した警察制度の改革を行うため、本年七月より国家地方警察及び市町村自治体警察を廃止して、都道府県警察を置き、これに伴い定員を大幅に減ずると共に、負担区分を調整いたしましたので、本年度に比し六十二億円の減少となつたのであります。
 地方財政につきましては、中央、地方を通ずる財政の調整を図り、地方財政の健全化に資するため、入場税を国税に移管し、たばこ消費税を創設すると共に、地方財政平衡交付金制度を廃止し、新たに地方交付税交付金、地方譲与税譲与金制度を設けるほか、警察制度の改正整備に伴い、経費の調整減額を行うことといたしました。
 申すまでもなく、予算の厳正な執行なくしては、予算編成の目的を達成することは望みがたいのであります。政府は、我が国経済の健全化の成否が、方かつてこの予算の厳正な執行にあることを深く銘記し、いやしくも経費が不正不当に使用されることなきよう、監査の強化を図るは勿論、経費の適正且つ効率的な使用に万遺憾なきを期する所存であります。
 地方公共団体においても、この際、行財政の徹底的整理を断行し、財政規模を極力圧縮することに努め、以て地方財政の再建整備を強力に推し進められんことを特に要望してやまない次第であります。
 次に、歳入に関連し、税制の改正について申し述べます。
 過去数回に亘る減税にもかかわらず、国民負担はなお過重であり、更に租税負担の軽減を図ることが望ましいのでありますが、現下の財政及び経済の情勢に鑑みるときは、この際、消費意欲を刺激し、歳入総額の減少を来たすがごとき租税の軽減措置は、これを避けることを適当と考えたのであります。
 併しながら、特に低額所得者の負担が過重になつている不合理な現状を是正するため、税制につき若干の調整を加えることが望ましいと考えられますので、所得税につき、基礎控除及び扶養控除の引上げを行う半面、奢侈的消費の抑制を図るため、奢侈品、高級品に対する課税を中心とする間接税の新設、増徴を行うことといたしました。なお、資本蓄積の促進等のための税制改正については後に申し述べる通りであります。
 次に、金融に関する施策について申し述べます。財政緊縮の方針と相呼応し、金融面においては、健全金融の方針を強化し、通貨の信用を高めるために万全を期して参る所存であります。この際、金融面において安易な態度に堕することは絶対に避けるべきものと考えております。即ち、昨年九月以降、日本銀行の信用政策、国庫の指定預金の運用等について、金融引締めの方向をとつて参つておるのでありますが、本年当初、日本銀行高率適用制度を更に強化すると共に、輸入金融抑制のための措置を講じた次第であります。これらの基本方策は、今後更に強化することが必要と存ずるのであります。このように信用の収縮を図る方針でありまするから、産業界においては、今日よりこれに即応して事業計画の調整等を行い、円滑なる経営を図ることに努められたいのであります。又、金融機関においても、信用の収縮に伴い、信用の供与に当つては一層適実を期することに努められたいと存じます。政府といたしましては、従来から銀行その他の金融機関がみずからの判断に基いて不要不急の融資を避け、国民経済全体の立場から特に緊要と認められる部面に対し重点的に資金を供給することを期待する方針をとつて参つたのであります。私はこの際、金融機関が我が国経済の当面する重大にして困難な事態を十分に認識せられ、融資の面を通じてこの難局の打開に積極的に協力せられることを切に希望するものであります。金融機関は日本銀行からの借入に依存し、企業は金融機関からの多額の借入金に依存しているために、ややもすれば経営の安定に欠けるのが現状であります。又、安易な経営に堕する傾向も認められるのであります。この状態は速やかにこれを是正し、経済及び金融の正常化を図ることが極めて肝要であります。而して、これがために基本的に必要なことは、実質的な国民資本の蓄積を促進することであります。即ち、企業はみずからの努力によつて自己資本を充実し、金融機関は預貯金等の資金吸収に着実な努力を傾けることが特に要請されるのであります。
 私は、この際、国民諸君がこの上とも勤倹貯蓄に努め、消費を節約し、国民経済の必要に即応して生活を合理化し、企業も又不健全た経営体制を刷新し、真剣に合理化近代化に努力し、相ともに資本蓄積の大道を邁進せられんことを切望してやみません。
 政府といたしましては、資本蓄積の重要性に鑑み、企業の自己資本の充実、資本構成の是正を図り、資産の再評価を促進するため、新規増資等について税制上特別の措置を講ずる方針であります。又、資金吸収面におきましても、長期預貯金、生命保険等につきまして税制上の優遇措置を講じ、一段と貯蓄の増強に資せしめたい考えであります。又、貯蓄の増強については、金融機関の預貯金の安全性を確保し、世人の金融機関に対する信頼感に応えることが大切であります。これがため、金融機関の資産内容の健全化及び預金者等の保護については、更に特段の配意工夫を加えて参りたい所存であります。なお、この際、金融機関の日本銀行依存の弊風を改めて、金融の正常化を促進するため、適当な方策を講ずることを考慮中であります。
 次に、貿易、為替等、国際金融の問題について一言申し述べます。
 現下我が国の貿易為替政策の最大の課題は、貿易の振興、特に正常輸出の増大を図ることにあります。
 先ず、今後輸出の増進を図るためには、経済外交を積極的に推進し、友好諸国との経済協力を一層緊密にして参りたいと存じます。過般、我が国のガツトへの仮加入が実現し、各国との友好的な通商関係が一層促進されることが期待されるのであります。今後更に、諸外国との通商航海条約の締結、賠償の早期解決による通商関係の回復に努め、輸出の伸長、海外市場の開拓を図る所存であります。特に、東南アジア諸国との経済関係を増進し、これら地域との貿易の拡大を通じて世界経済に寄与して参りたいと存じます。一
 昨年十二月からロンドンにおいて開催された日英会談の結果、日英両国の貿易収支の目標額についても、近く両国間に了解が成立する運びになつたのでありまして、これに応じて今後英国側が輸入制限の緩和を図ることが期待されるのであります。これは、今後ポンド地域への輸出の伸長を通じて国際収支の改善を図る上において、少からざる効果のあることを信ずるのであります。
 併しながら、貿易振興の基本は、企業の合理化、設備技術の近代化を一段と進め、品質、価格において国際的に優秀低廉な商品の生産に撓まざる努力を傾注することにあると存じます。これがためには、企業の生産コストを切り下げることに努めなければなりません。
 このように、輸出の増進に対し努力しなければならないことは勿論でありますが、これと同時に、今日の外貨の状況等を考えますると、輸入面の施策についても改善すべき点があると存じます。輸入の減少を図るためには、財政金融の引締めによつて一般的に輸入需要の減退をもたらすことが必要でありますが、需要を無視して為替政策上輸入を制限することは、却つて物価の騰貴を来たす結果ともなるのであります。従つて、今後の外貨予算の編成及びその実施に当つては、不要不念の賛沢品につき徹底的に輸入の抑制を図る半面、生活用品、原材料等の輸入についても、財政金融政策の強化に伴う輸入需要の減退状況等を勘案しつつ、調整を図る考えであります。
 なお、我が国の貿易上の地位を強化するためには、直接貿易の衝に当る貿易商社等について、その強化を図ることが必要であります。政府におきましては、輸出取引に関する租税上の優遇措置の拡充等の施策を講ずる所存であります。
 又、国際金融及び為替取引の正常化に資する一環として、近く外国為替銀行制度の整備について法的措置を講じたい所存であります。
 最後に、為替政策の基本たる為替レートの問題について、この際、世上一部の臆測を一掃するために政府の所信を申し述べますが、現行為替レートを切下げることは百害あつて一利なく、政府としては飽くまでも現行為替レートを堅持する方針であります。
 以上申し述べました財政金融政策に関連して、失業その他のデフレ的現象を過度に懸念する向きもありましよう。又、逆に補正予算の編成及び金融引締め政策の後退によつて、結局はこの健全化の方策が故郷されるのではないかと見る向きもありましよう。併しながら、今日我々日本国民が強く銘記しなければならないことは、年々通貨量の増発を前提とした従来のインフレ的な経済から(「誰がやつた」と呼ぶ者あり)敢然として離脱しなければならないということであります。終戦後今日まで、我が国経済は、前述のごとく国際収支等の面において恵まれた関係もあり、又物価が漸騰を続けて来たために、賃銀水準、農家所得も逐次上昇し、企業も又比較的高利潤を挙げて来たのであります。このようなことは、もはや期待すべきではないのでありまして、今後は、所得や利潤の増加は、特需等の臨時収入によつてではなく、又インフレの継続によつてでもなん、国際的に適正な物価水準を維持しつつ、正常な輸出や生産を増加することによつて実現しなければなりません。即ち、徒らに名目的な所得の増加に期待することなく、物価の引下げによつて実質的に国民生活の改善を実現し、経営の合理化近代化により生産コストの引下げを図り、輸出の増大のために国際競争力を培わなければなりません。従つて、この予算案を中心とした一連の健全化方策は、民族の独立発展のために断固として貫徹しなければならないものであります。もとより、その間に生ずるデフレ的現象については、これによつて経済の混乱を来たし、社会不安を醸成するような事態に立ち至らぬよう考慮すべきは勿論であります。本年度の予算案及び金融引締め政策についても、この点を考慮し、急激な変化を避け、漸進的に健全化を進めるよう配意いたしておるのであります。言うまでもなく、万一、対策を必要とするような事態が生じた場合には、適宜の措置をとるにやぶさかではないのでありまするが、インフレからの脱却の過程において或る程度の摩擦的現象が生ずるのは止むを得ないのでありまして、この故に直ちに健全化の方針を緩和するがごときことは、国民経済全体のためになすべきところではありません。即ち、今後、補正予算を編成したり、金融引締めの方針を緩和することは避けるべきものと考えております。財政の規模を一兆円以内にとどめるということは、国民輿論の一致した要望でありまして、私はこれを日本民族の独立精神の現われとして、誠に力強く感じている次第であります。
 政府は、ここに国民諸君と相携えて、飽くまでも日本経済を健全ならしめるための着実な努力を続け、以て日本経済永遠の繁栄発展の基礎を確立いたしたいと存じます。(拍手)
○議長(河井彌八君) 只今の国務大臣の演説に対し、質疑の通告がございますが、これを次会に譲り、本日はこれにて延会いたしたいと存じます。御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。次会は明日午前十時より開会いたします。議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後六時八分散会
     ―――――・―――――
○本日の会議に付した事件
 一、議員の請暇
 一、仮議長の選挙
 一、日程第一 国務大臣の演説に関する件