第040回国会 本会議 第11号
昭和三十七年二月二十八日(水曜日)
   午前十時四十二分開議
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 議事日程 第十号
  昭和三十七年二月二十八日
   午前十時開議
 第一 緊急質問の件
 第二 義務教育諸学校の教科用図
  書の無償に関する法律案(趣旨
  説明)
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○本日の会議に付した案件
 一、人事官の任命に関する件
 一、日程第一 緊急質問の件
 一、日程第二 義務教育諸学校の教
  科用図書の無償に関する法律案
  (趣旨説明)
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○議長(松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。
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○議長(松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。
 この際、日程に追加して、
 人事官の任命に関する件を議題とすることに御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
 内閣から、国家公務員法第五条第一項の規定により、佐藤正典君を人事官に任命することについて、本院の同意を求めて参りました。
 本件に同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本件は全会一致をもって同意することに決しました。
   ――――・――――
○議長(松野鶴平君) 日程第一、緊急質問の件、
 小柳勇君から、ILO条約第八十七号早期批准に関する緊急質問が提出されております。
 小柳君の緊急質問を行なうことに御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。小柳勇君。
  〔小柳勇君登壇、拍手〕
○小柳勇君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ILO八十七号条約批准案件に関して、総理並びに労働大臣に対しまして緊急質問をなさんとするものであります。
 ILO八十七号条約の批准は、岸内閣当時から政府の公約であり、政府は毎国会その早期批准を明言しているのであります。今国会、まだ条約批准案件が提案されないのみか、二月十九日の政府、与党連絡会で、ガリオア・エロアやタイ特別円が重要であるから、ILO八十七号条約批准の提出をしないと申し合わせて、加藤労働政務次官をはるばるジュネーブまで釈明に派遣したのであります。私は、このような政府並びに与党である自民党の態度に対し、深い失望と憤りを感じているものであります。(拍手)
 第一に総理に質問いたしたいことは、去る二十二日午後五時、加藤労働次官と会談した後のモース事務総長の主張に対し、総理は、現在いかなる見解をとっているかという点であります。外電の伝えるところによりますると、「加藤次官が、日本政府の慎重な態度を述べ、誠意を伝えたことに対して、モース総長は、日本に対する総長個人の友情から、また、国際機関にあって広い世界的視野から、八十七号条約批准の問題は、単なる日本国内だけの問題でなく、アジア、さらにまた、国際的視野の観点に立って考えるべきであると、再三再四繰り返し強調した。加藤政務次官に伝えられたこの言葉から受け取られる印象は、八十七号条約批准に関する限り、もはや論議の余地はないことを、事務総長モース氏みずから率直に表明したとしか考えられない。」このように外電は伝えているのであります。昨年十一月のILO理事会では、一九五九年以来九回にわたって批准の意向を表明してきた同条約が、いまだに批准されない事実に失望を表明するときめ、今回また、このモース事務総長の表明に対して、総理はどのように考えておるのか。また、こんな表明を知っても、なお批准案を国会に提出する気にならないのか。しかも、さきのILOの理事会では、社会党の責任をもって批准がおくれておると報告している。批准がおくれた責任を野党の責任に転嫁しているが、社会党には、あるいは野党には、そのような事実は毛頭ないのであります。一切の責任は、総理であり与党の総裁である池田首相みずからにあるのでありまして、三月六日にはILO理事会が開催されようといたしておりますが、首相の本日のこの答弁をILO加盟諸国が注目して聞いているのでありまするが、イエスかノーか、明確に総理の答弁をお願いいたします次第であります。(拍手)
 同時に、総理並びに労働大臣に質問いたします。日本政府を代表してILO事務総長に面会した加藤政務次官は、八十七号条約批准案提出に対してきわめて慎重な態度をとっていることを率直に述べるとともに、この問題についての日本政府の誠意を伝えたといわれているのでありますが、この問題についての日本政府の誠意とは一体何か。具体的に説明を願いたいと思うのであります。池田内閣の所得倍増政策によって貧富の差はますます増大している。低所得階層は日々の生活にさえ脅威を覚え、中小企業、零細企業は金詰まりのために倒産が続出し、中農以下の農民諸君は、働くだけで、もうあすへの生活に希望を失ったといっているのであります。また、石炭政策の貧困のために、千数百名に上る炭鉱労働者が、全山、生活保護の申請をなしておるのを労働大臣は御存じのはずであります。タクシーの運転手たちが労働組合を作れば、直ちに中心人物は解雇され、これに反対してストライキをやれば、暴力団、警察官を導入してストライキの切りくずしをやる。そうして団体行動を制約しているのであります。時代は、明治から大正、昭和と、三代百年の歴史が流れたが、勤労大衆を搾取し、みずからだけ肥え太らんとする資本家根性と、労働者を弾圧する思想は、昔も今も少しも変わっていない。もし政府に一片の誠意があるならば、一切の案件に先んじて八十七号条約批准案件を上程し、労働者が安んじてその職に精進できるよう措置することこそ、フィラデルフィア宣言にいう「結社の自由は不断の進歩のため欠くことができない」という思想を尊重したことであります。また、ILOが実現しようとする社会正義の確立への努力をなしたといえるのでありまして、政府の誠意とは一体何か、明確にお伺いしたいのであります。
 第二に総理にお尋ねしたい点は、政府と与党の国際労働感覚についてであります。この点については、去る二十一日の朝日新聞の社説が国民多数の意見を代表しておると思いまするので、その要点をここに申し上げますると、「八十七号条約も、ガリオア・エロアの対米返済処理協定も、あるいはタイ特別円協定も、ともに対外的な問題である。いずれも日本政府としての信義をかけた問題であるに変わりはない。ただ、この信義の軽重について、あとの二者を重しとし、ILOを軽しと見たことが、批准案延期の意味する結果であろう。少なくともそう解釈せざるを得ない。一口に言って、与党がILOそのものを軽視し、労働問題を厄介視し、国際労働関係がそのまま日本をめぐる国際貿易環境にいかに敏感にはね返るかを理解する能力を持たぬ、その近視眼的な国際感覚、労働感覚に、問題の根源がある。八十七号条約問題の処理がおくれているために、ガット交渉その他で日本がどれだけ不利益な立場に置かれているかを、EECへの輸出増大を呼号する政府と与党は、十分理解しているであろうか。それを心底から理解しているというならば、政治活動の制限強化など、八十七号条約批准を労組抑圧対策に置きかえた関係法案の改正などに固執せず、条約批准とそれに伴う最小限度の法律改正にとどめて、国会通過をはかるよう努力すべきである。」と社説は述べておるのであります。(拍手)
 後者は二国間の問題であります。前者――ILO条約は九十カ国に及ぶ国際問題であります。八十七号条約批准は他の国際問題より軽いと思っているのかどうか。また、社説の最後の主張こそ、一九五九年二月十八日の労働問題懇談会の答申の真意であると思うが、総理は一体どう考えておるか。一九五三年に九十八号条約を批准したわが国としては、公労法四条三項、地公労法五条三項は、条約に抵触しているのであるから、これを削除することだけで、八十七号条約を批准してよいではないかというのが、この新聞の主張であると考える次第であります。これに対する総理並びに労働大臣の見解をお聞きしたいのであります。
 第三に、労働大臣に質問いたしたいのは、あなたは一体みずからの労働行政を持っているかどうかという点であります。八十七号条約批准の問題は、期間として満六年、担当する労働大臣は、倉石、松野、石田、福永と、四代の労働大臣を数えるに至っております。いずれの大臣も自民党の大臣で、まことに顧みてさびしい限りでありますが、その中に、わずかだけ前進した発言を私はここに紹介したいと思います。昨年の春、日経連の総会におきまして、八十七号条約に縁の深い石田労働大臣は、こう述べているのであります。「わが国の労働法規は、ILO諸条約と基調を同じくするもので、批准可能な条約も少なくない。それがどうしてできないのであろうか。その理由は簡単である。わが国では、条約と法律との関係がきわめてきびしく考えられており、きわめて神経質に取り扱われている。その結果、過度に慎重論が生まれてきているのである。このために批准可能な条約まで見送るというのは、いたずらに内外からの批判を招き、ついにILOをわが国にとっては都合の悪い存在にしてしまっているのである。ILOの道は、ガットその他の国際貿易にも通じる。わが国は、ILOに対する被告的立場を脱却して、積極策に出るべきである。」と、石田元労働大臣は述べておるのであります。一九五三年にわが国がILOに復帰するときに、憲法二十一条の「結社の自由」と憲法二十八条の「労働三権の保障」の全文をあげて、わが国にはこのようにりっぱな憲法がありますから、国際慣習に従って公正競争の中において世界の平和を守っていきますと、世界に宣言してILOに加盟したのであります。しかも、一九五四年には常任理事国となっているのであります。これだけの「みえ」を切り、それだけの責任を負って加盟しているILOに、どうしてもっと責任を感じないのか。(拍手)前述のような見解を発表している元労働大臣もあるのであるが、福永労働大臣は一体どういうお考えであるか。国際的視野に立って、しかも労働行政の担当者として、日経連からも拘束されず、内閣には積極的立場をもって、今からでもおそくはないから、八十七号条約批准の案件を直ちに出すような気持にならないのかどうか、労働大臣にお聞きしたいのであります。去る二月十三日の衆議院社会労働委員会では、大平官房長官が、内閣を補佐するという意味で特別に出席いたしまして、労働大臣と一緒に、「一週間以内には批准案件を国会に提出するという政府、与党の意見の一致をみた」と発言しているのであります。それから六日間して十九日には、国会提出をやめてしまったのであります。そうして、その釈明に加藤次官を派遣している。あまりにも労働大臣は無定見ではないか。国会を愚弄していないか。国民をばかにしていないか。このまま推移するならば、六月開催されるところのILO総会に、政府代表として、一体、労働大臣あるいは政府代表が出れるのか出れぬのか。そのことは、今でさえ孤立しております日本経済がますます孤立化して、危機に直面している日本経済の崩壊を招くと私は考えるのでありますが、労働行政をみずからのものとする労働大臣の決意を聞いておきたいと思うのであります。
 最後に労働大臣にお尋ねしたいのは、零細企業、中小企業に従事する労働者の組織化の問題であります。政府が八十七号条約の批准をさぼり、批准した九十八号条約に抵触する労働法をこのまま修正をしないでおるものですから、この方面にも波及いたしまして、千二百万人に及ぶ労働者がまだ未組織のままであります。しかも、低賃金と重労働にあえぎ、生活不安に戦々きょうきょうとしており、産業界の谷間に放置されているような未組織労働者は、賃金未払いになっても仕方がない、首切りが出てもやむを得ないと言ってあきらめている。五人以下の労働者を雇う事業所では、社会保険の適用すら制限があり、野放しの状態であります。団結権も、団体交渉権もないし、もちろん団体行動権など考えてもみない労働者を、一体どうしようとするのか。われわれは、中小企業基本法を出して、この法律の中で、これら法の保護から見放された谷間の労働者を組織し、大企業労働者、公企業労働者と同様に法によって保護し、憲法による労働三権を平等に享受して、すべての者が同一水準の生活ができるように、これを啓蒙し、組織しようと考えているが、労働大臣は、一体、これらの零細企業、中小企業労働者に対して、どのような方途を持っているか、お聞きいたしておきたいと思うのであります。
 ILO八十七号条約批准に関し、総理大臣並びに労働大臣に、世界の関係者各位の注視の中に、責任ある回答を求め、私の質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕
○国務大臣(池田勇人君) 世界平和と社会正義を確立しようとするILOの精神には、われわれ全く同感でございます。この各種の条約には、できるだけ参加調印したいと考えているのであります。私は、自由にして民主的な労働運動の発展を期する上から、八十七号条約につきましては、できるだけ早く批准手続をとりたいと思います。ただ問題は、この批准によりまして、国内法との関係が重要でございますので、国内法の整備をはかり、しかしてまた、国会内におきましてこの審議が円滑にいくめどをつけまして、提出する考えであるのであります。
 先ほど申し上げましたように、ILO条約八十七号条約はわれわれ大賛成。何もガリオア・エロア、あるいはタイ特別円よりもこれを軽く見るわけではございません。そういう二つの、ガリオアとかタイ特別円というのは、国内法との関係がないのであります。われわれはこの国内法の整備をいたしましたならば、できるだけ早く御審議を願うことにいたしたいと思います。
 その他の点につきましては労働大臣よりお答えいたします。(拍手)
  〔国務大臣福永健司君登壇、拍手〕
○国務大臣(福永健司君) ILOの精神を尊重いたしまして、八十七号条約を早期に批准したいということは、われわれの変わらざる信念でございます。ただ、従来の経過にかんがみまして、提出はしたが審議未了になるというようなことになってはならないというので、ぜひ、めどをつけたいというのが本意でございます。いまだ提出に至っていないことは私の深く遺憾とするところでありますが、このわれわれの早期批准の意思を伝えるというのが、先ほど御質問の、加藤政務次官を派遣いたしました政府の誠意を表明するということに相なろうかと思うのでございます。
 国際感覚は、ことに労働行政の面において必要であるということを私も強く感じておる次第でございます。したがって、先ほど御質問にございました、ガリオア・エロア、タイ特別円の問題等が優先して、ILO八十七号条約批准案件等があとにされているというようなことであってはならないのであります。そういうことの理由でILO八十七号関係の案件が提出されないということでは断じてありません。また、そういうことであるならば、第一、私が承知できないのであります。
 なお、この早期批准につきましては、私も従来終始努力し来たったのでありますが、今後ともさらに一そう、今小柳さんが強調されましたような意味においても、努力を続けたいと存ずる次第でございます。
 零細企業、中小企業等の労働者が多く未組織であり、そのために非常に不利な事情にあるというようなことにつきましては、私も重大関心を持ってこれが改善に努めたいと存じておる次第でございます。これが組織化、近代化につきましては一段の努力をいたしまして、労働条件等の向上をはかりたいと存じます。(拍手)
   ――――・――――
○議長(松野鶴平君) 日程第二、義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律案(趣旨説明)、
 本案について、国会法第五十六条の二の規定により、提出者からその趣旨説明を求めます。荒木文部大臣。
  〔国務大臣荒木萬壽夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(荒木萬壽夫君) このたび政府から提出いたしました義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律案の提案理由及びその内容の概要について御説明申し上げます。
 この法律案は、第一条で、義務教育諸学校において使用される教科用図書は無償とする方針を確立し、その措置に関して必要な事項は別途立法措置を講ずることとしているのであります。
 教育の目標は、わが国土と民族と文化に対する愛情をつちかい、高い人格と識見を身につけて、国際的にも信頼と敬愛を受け得るような国民を育成することにあると思います。世の親に共通する願いも、意識するといなとにかかわらず、このような教育を通じて、わが子が健全に成長し、祖国の繁栄と人類の福祉に貢献してくれるようになることにあると思うのであります。この親の願いにこたえる最も身近かな問題の一つとして取り上げるところに、義務教育諸学校の教科書を無償とする意義があると信じます。
 しこうして義務教育諸学校の教科書は、学校教育法の定めるところにより、主要な教材としてその使用を義務づけられているものであります。感じやすい学童の心に最も影響のあるこの教科書について、かつて各方面からいろいろの批判を受けましたことは御承知のとおりでありますが、最近新しい学習指導要領が作られるに及び、日本人としての自覚を持たせるに足る教科書が刊行されるようになりました。
 このように教科書は改善されつつありますが、政府は、昭和二十六年以降、小学校一年に入学した児童に対し、あるいは義務教育無償の理想の実現への一つの試みとして、あるいはまた、国民としての自覚を深め、その前途を祝う目的をもって、一部の教科書を無償給与したことがありますが、間もなく廃止されたことは御承知のとおりであります。今日では要保護、準要保護児童生徒合わせて百二十万人に対し無償交付が行なわれています。
 そこで、このたび政府は、義務教育諸学校の教科書は無償とするとの方針を確立し、これを宣明することによって、日本国憲法第二十六条に掲げる義務教育無償の理想に向って具体的に一歩を進めようとするものであります。このことは、同時に父兄負担の軽減として最も普遍的な効果を持ち、しかも児童生徒が将来の日本をになう国民的自覚を深めることにも、大いに役立つものであると信じます。またこのことはわが国の教育史上、画期的なものであって、まさに後世に誇り得る教育施策の一つであると断言してはばかりません。
 しかしながら、義務教育諸学校の教科書を無償とする措置を行なうには、その実施の方法、手続、発行、供給のあり方等について、十分検討を加える必要があると考えられます。
 政府はとりあえず明年四月小学校第一学年に入学する児童に対しての経費を、ただいま審議を願っておる三十七年度予算に計上いたしましたが、この実施の方法を含めて調査審議を行なうため、文部大臣の諮問機関として臨時義務教育教科用図書無償制度調査会を設置することとしたのであります。
 無償の実施に必要な事項は、調査審議の結果を待って別途立法措置を講ずることになります。調査会の存続期間は一カ年、委員は二十人以内とし、学識経験者及び関係行政機関のうちから、文部大臣がこれを任命することといたしました。
 諮問事項のうち、特に昭和三十七年度の予算の執行及び昭和三十八年度の予算の作成に関係ある事項については、調査審議の結果を、おそくとも昭和三十七年十一月三十日までには答申いただくこととし、所要の立法措置及び次年度以降の準備に資することができるよう配慮しているのであります。
 なお、この法律の施行期日は本年四月一日からとし、また、昭和三十七年度の予算の執行にかかる措置を実施するため必要な事項は、別途、政令で定めることができることとして、万全の措置を講じました。
 政府は、この法律案をわが国文教政策上の全国民的な重要課題として、御審議を願わんとしているのであります。
 以上がこの法律案の提案理由及びその概要であります。(拍手)
○議長(松野鶴平君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。豊瀬禎一君。
  〔豊瀬禎一君登壇、拍手〕
○豊瀬禎一君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま説明されました義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律案に対し、総理並びに文部大臣に対し、四、五点にわたって質問をいたします。
 まず、池田総理にお尋ねいたします。日本国憲法の第二十六条には、「義務教育は、これを無償とする。」と定めております。これは、単に授業料を徴収しないという趣旨ではなく、就学の強制と無償とは義務教育という概念の本質的な要素であり、その費用はすべて国が負担するという、全額無償の精神を宣言したものであることは、論を待たないところであります。しかるに、荒木文部大臣は、参議院の文教委員会において、「憲法二十六条は、当分の間は授業料を徴収しないことと解しております」という趣旨の答弁をいたしております。これは義務教育無償の精神をはなはだしくじゅうりんするものと断定して差しつかえないと思います。このような見解が政府に横行しておればこそ、憲法が制定されまして十数年後の今日においても、父兄は、単に教科書代だけではなくして、学用品その他直接教育費はもとより、学校の施設設備に至るまで、その負担を余儀なくされ、義務教育生徒一人当たり年間一万円以上の負担となり、全国父兄の負担総額は二千億に上る多額に達しているのであります。その上に、御承知のごとく、高校急増対策は放置され、給食費の補助はしり細りとなり、すし詰め学級の解消はおろか、昨年の臨時国会におきましては、御承知のとおり、高校の一学級生徒収容数を現在よりも一割増すという法律を制定いたしました。欧米諸国が、義務教育諸学校についてはほとんど全額負担している実情に比し、きわめて貧弱な文教政策であるとの一語に尽きるのであります。日本社会党や日教組が、政府や自由民主党の反対にもかかわらず、多年にわたって義務教育の教科書無償の配布を主張して参りましたが、これは、このようなものではなく、教材費、給食費、修学旅行費その他PTAの負担金、寄付金ないしは義務教育による一切の教育費を国が負担すると同時に、すし詰め学級の解消とか、高校急増対策の解決あるいは僻地教育の振興、特殊教育の振興等、諸政策と相待って、義務教育に関する教科書無償が実現してこそ、初めて憲法二十六条の精神は生きてくるのであります。本案は、日本社会党の多年にわたる主張の名だけをとり、その実はきわめて遠く、万里の長城を竹馬に乗って進むがごとき法案と断じて差しつかえないと思うのであります。この法律案は、憲法二十六条に違反するとは断定できませんけれども、その精神には、はなはだ遠いものと考えますが、池田総理は憲法二十六条をどのように解しておられるか。さらに、私が主張したごとく、単に教科書を支給するということでなくして、すべての教育費を完全に無償にしていくということが二十六条の精神と思いますが、その決意と今後の具体的施策を承りたいのであります。
 第二にただしたいことは、本法案と教育の目的、目標との関連についてであります。池田総理は、施政方針におきまして、「青少年は民族の純潔と勇気を代表するものであり、遠大な使命感を身につけてもらいたい」と要望いたしました。また、本日の文相の提案の説明の中には、「教育の目標は、国土、民族、文化に対する愛情をつちかう」とか、「日本人の自覚」云々という考え方が散見されております。しかしながら、人権に関する世界宣言の全体を貫く精神や、憲法における基本的人権の確立、及び、教育基本法第一条の、「教育は、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとぶような人間を育成する」という規定からいたしましても、教育の目的は、この趣旨に述べられておるがごときものではなく、平和を愛し、真実を貫く個性豊かな人間像を目ざしていることは明らかな事実であります。(拍手)特に民主教育は、国家、社会目的に対する人権の尊厳と優先とによって支えられていると断言しても差しつかえないのであります。しかるに、本法案の提案理由は、国土、民族、文化に対する愛情、すなわち世にいうところの愛国心の強調が、個人の尊厳に優先しているがごとき印象を強く受けるのであります。これは、世にいう、池田・ロバートソン会談の中にある「愛国心の養成による国防力の強化」を意図しているのではないかとの疑いを抱かせるものであります。もし、しかりとするならば、教科書無償の法律案を通じて、その意図の背後には、やがては教育基本法の改正を意図しているのではないかと思量されますが、池田総理並びに荒木大臣の答弁を求めます。
 第三にただしたいのは、本法案の組み立て方の問題であります。荒木大臣にお尋ねいたしますが、第一に、本法案付則の第四項によりますと、本法律の第二条は三十八年三月末をもって無効となる。したがって、義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律案は、第一条のみ、すなわち「義務教育諸学校の教科用図書は、無償とする。」という言葉のみの、題名のほうが条文より長いものとなります。さらに第一条の第二項によれば、「必要な事項は、別に法律で定める。」と規定いたしております。したがって、別に法律が制定されれば、第一条は全く内容なき亡霊にしかすぎません。一体、第一条は何を意図し、何を具体的内容としているか。また、三十八年四月以降、本法律はいかようにするつもりか。文部大臣の見解をお尋ねいたします。
 第二に、第一条の第二項の「別に法律で定める。」というのは、別個に法律を新たに制定するのか。もし、しかりとするならば、基本法第四条並びに学校教育法第六条、さらに義務教育国庫負担法第三条の教材費の国庫負担との関係はいかようにするつもりか、明快な答弁を求めます。
 第三に、第一条にいう無償とはいかなる内容のものか。負担法であるのか補助法であるのか。もし負担法とすれば、全額国庫が負担するのかどうか。全額持つとすれば、三十八年度分についてノミの涙ほどの七億の予算が計上されておりますが、世にいう百六十億の教科書無償はいつから実施するのか、答弁を求めます。
 第四に、最も重要なことは、本法案は三十七年四月一日の施行を予定いたしております。三十七年施行である以上、最もこの法律の重点であるところの第一条の「教科用図書は、無償とする。」との定めは、三十七年度の無償の予算が伴わない限り全くの空文であるか、世俗にいうところの参議院選挙対策用の広告宣伝にしかすぎません。(拍手)文部大臣は、第一条の無償の内容を、三十七年四月以降本法律が施行された暁に、三十七年度分の教科書無償に対してはいかように予算を組むつもりか、明確にお答え願います。
 最後に、法案全体について特にただしておきたいことがあります。教育基本法の精神は、私から申し上げるまでもなく、人間の価値観は固有の基本権であり、本提案理由のいうがごとく、指導要領や教科書や、あるいは教師でさえも、これを強制すべきでなく、ましてや教育委員会や文部省のごとき教育行政権がこれに介入することは、かたく禁じているところであります。これが戦後民主教育の背骨であることは周知の事実であります。しかしながら、本法案の運営いかんによっては、価格の統制が内容の統制となり、あるいは文部省の意に沿わないところの教科書出版会社に対しては資金ルートの凍結となったり、あるいは末端小売業者との関係における供給機構の統制等、幾多の憂慮を否定するいかなる保障の存在も見出すことができません。しかして、やがては教科書の一括買い上げとなり、さらに進んで教科書の国定化の方向をたどり、教科書という教材が文部省という国家権力を通して人間の価値観を左右していく可能性につきまして、単に私一人でなく、単音、文化人が深く憂慮しているところであります。池田総理にお尋ねいたしますが、現在将来ともにわたって、教科用図書を国定化することは絶対に否定する意思があるかどうか、文部大臣に対しましては、教科用図書の無償配布を通じ、文部省の地方教育委員会に対する権限をこの上ともに強化する意思がないかどうか、答弁をお願いいたします。
 要するに、本法案は無償法案とうたいながら、実は無償は有名無実であって、実体は調査会設置法案であることは、万人のひとしく認めるところであります。(拍手)政府はあやまって改むるにはばかるなかれ、この際、法案の題名を調査会設置法と改正して、あらためて提案されることを強く要望いたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕
○国務大臣(池田勇人君) わが国の将来の繁栄と民族の発展を期するために、私は、経済政策のみならず、すべての根本になる文教政策に格段の努力をいたしました。国民すべての能力を開発し、高い資質を持ってもらうように努力することが政治の根本であると考えまして、施政方針でああいうふうに述べたのであります。今回の教科書無償に私が踏み切りましたゆえんのものも、ここから出ておるのであります。お話のとおりに、憲法第二十六条に、義務教育は、無償とすると、この理想は掲げましたが、文部大臣の言うがごとく、ただいまのところでは、教育関係法に、国公立学校の授業料を免除するということにとどまっておったのであります。私は、これでは十分でない。われわれの理想に向かって進もうと、今回大きな歩を進めておるのであります。したがいまして、当初におきましては、今までの教科書の配布の方法とか、あるいはいろいろな点につきまして十分検討を加え、将来、二十六条の無償の理想を実現するように努力していきたいと考えておるのであります。
 なお、国定教科書という問題につきましては、共産主義の国はやっているようでございます。しかし、私は、ただいまのところ、国定にするという考え方は持っておりません。(拍手)
  〔国務大臣荒木萬壽夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(荒木萬壽夫君) お答えを申し上げます。
 第一点は、教育基本法を改正する意図があるのじゃないかというふうな御質問でございますが、今はございません。ただ、教育基本法の成立過程等から考えまして、憲法と同じような意味において、はたしてこれでいいかどうかを全国民的な視野に立って再検討する課題であるとは思っておりますが、すぐ改正しようなどとは思っておりません。
 第二点は、この法案は、調査会に関する部分は一年間となっておるから、一年経過したら、あとは第一条だけじゃないか、こういうことでございますが、そのとおりでございます。第一条の趣旨は、提案理由の説明でも申し上げましたように、今、総理からお答え申し上げましたように、憲法第二十六条が宣明しておりますその事柄の一部として、教科書を無償にするということを現実に宣言した規定でございます。このとおりにやる決心をいたしましたという法案でございます。そこで、第二項は、この第一項の、第一条本文の実施方法については重要な事柄がいろいろございますから、調査会に諮問いたしました結果を、事柄によりましては立法措置、あるいは政令等でやる部分もございましょうが、そういうことをやろうという具体的な実施段取り、それが第二項でございます。
 第三番目には、全額か一部か、国が負担する金額はどうだというふうなお話でございましたが、これもまた国が全部負担するやり方もございまするし、国と地方とであたかも今義務教育の施設費を分担しておりますようなやり方もあるわけでございまして、どうしたがいいか、そのこと自体をやはり調査会で検討してもらいたい、こう考えておるのであります。
 第四番目に、三十七年度に七億円ばかり予算を計上しておるようだが、これは三十八年四月一日に入学する小学校一年生用の教科書を無償としますための経費でありますので、三十七年度には何にもやらぬじゃないかというお話でございます。何にもやりません。三十八年度から具体的に着手をして、順次、なるべくすみやかに、小中学校の教科書全部を無償にすることに踏み切ったスタート・ラインは四月一日だ、こういうことであります。
 最後に、この教科書無償を契機として、だんだん内容を統制していくんじゃないかというお尋ねのようなふうに受け取りましたが、教科書の内容は、御承知のとおり、現在、学校教育法第二十条等に基づきまして、文部大臣がその内容の大綱を定める責任と権限を与えられておりますから、学習指導要領という形で、現に内容を全国民のために定めておるのであります。それ以上のことをやる意思は毛頭ございません。
 さらに、供給、発行等についても、いろいろと権力をふるうんじゃないかというようなお疑いを含んだ御質問がございましたが、その意思はございません。現在御承知のごとく、義務教育諸学校の教科書の発行に関する臨時措置法がございまして、それで従来やってきておりますが、原則として、この現行法の趣旨を体してやっていくべきものと私は考えております。
 さらに、地方教育委員会への権限をまた強化するつもりではないかというふうなお話ですけれども、そういう意思も毛頭ございません。現在で十分だと存じております。国定化などということを考えていないことは、総理の答弁いたしましたとおりでございます。(拍手、「答弁漏れがある」「憲法二十六条についてどう考えているか」と呼ぶ者あり)憲法第二十六条につきましては、総理からお答えをいたしましたので、それで十分かと思いましたが、さらにまだ足りないようなお説もあるようでございます。それは、私が文教委員会において、二十六条の教科書無償の趣旨を、現在のところ授業料を徴取しないという限度にとどまっておる趣旨のことを申し上げましたことについてお話があったようでありますが、教育基本法第四条第二項で明記いたしておることは、豊瀬さんも御承知のとおりでありまして、そのことを申し上げたのであります。(拍手)
○議長(松野鶴平君) 片岡文重君。
  〔片岡文重君登壇、拍手〕
○片岡文重君 私は、民主社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律案につき、総理大臣並びに文部大臣に対しまして、若干御質疑を申し上げたいと存じます。
 時間がたいへん制約されておりますから、質問は要点だけを申し上げますので、御答弁は質問の舌足らずの点について十分補足をされて、国民の了解しやすいようにお答えをお願いいたします。
 第一点は、池田総理及び水田大蔵大臣は、従来から、教科用図書の無償給与につきましては、過当競争のために、業者が総売上金額の二〇%近くも売り込み費に使っている現在の教科書行政の建て直しが先決である、そのほか、すなわち、本質的な問題ではなくて、政府と業者間との醜いうわさをお認めになっておられるような理由によって、つい最近まで強く反対をされておったはずであります。総理や大蔵大臣が反対理由として指摘された、これらの理由の中に内包するいろいろな問題、たとえば新しい学習指導要領によって、ある楽器会社の株が一挙にはね上がったなどという事実も、巷間広く伝えられているところでありますから、これらの点については、いずれ、しかるべき委員会において十分丁寧に御質問申し上げる所存でありますけれども、いずれにせよ、こうして強く反対されておった諸君が、急転直下、十分な法形式すら備えるいとまもないほど、あわただしく賛成されるに至った理由は、一体どこにあるのか。国民の氷解されるよう、納得のいく説明をお願いしたいのであります。
 さらに、同僚豊瀬君も触れておられましたが、本法案の法形式についてであります。第一条第一項において、「義務教育諸学校の教科用図書は、無償とする。」とあり、その措置についての必要な事項は、同条の第二項で別に法律で定め、その無償とする措置については、第二条で調査会を設けるという、この二カ条に尽きております。そうしてこの第二条、すなわち調査会の規定は、三十七年度限りで廃止される。その後は第一条だけで、そのとおりでありますと、今答えられました。しかし、昔から法三章という言葉がございますが、本法案は法二条、法二章ではありません、法二条、しかも、これが来年の四月一日からは法一条となるのであります。のみならず、この法第一条は、本法の目的を示しているのでもなければ、何ら明確なものを言っているのではなくて、単に「(趣旨)」とうたってあるのであります。法の内容も目的も明確にせずに、実施の方法、構想等、およそこの法案の行なわんとする範囲、責任、すべてを一切明らかにしないで、言いかえれば、後日になって、どんな言いのがれでもできるという仕組みになっているのであります。このような立法形式が、かりに法律上の論理として言いのがれることができるといたしましても、政策の具体性を明示しておらないこれらの悪法は、まさに前代未聞の醜態であると言って私は過言ではないと思うのであります。笑いを後世に残すものとして、責任ある立法府の議員として、私はこの無責任な法案を見のがすわけにはとうてい参りません。(拍手)もしも、このような法案が平然と許されまするならば、今後あらゆる公約について、この種ごまかし立法を行ない、国民をたばかる悪習が横行することになるでありましょうことは、特に、ムード政治を好み、アドバルーン政策を得意とする池田内閣のごとき政権下におきましては、あまりにも明白に予想されるところであります。(拍手)われわれが国民からゆだねられた立法権の行使について、池田内閣はあまりにも無責任であり、少なくとも軽率に過ぎるのではないかと私は考えますが、総理の御所見を伺いたいのであります。
 さらに、教科書以外の諸経費について、「義務教育は、これを無償とする。」という憲法の規定に忠実であろうとするならば、教科書以外の諸経費についても当然無償措置がとらるべきであると考えられますが、総理はこれをいつごろから実施するお考えか、そのお見通しを伺っておきたいと存じます。
 次に、荒木文部大臣にお尋ねをいたしますが、この法案によりますると、無償給与される教科用図書の範囲は、当然全科目と解するのが至当であると思われますけれども、そのように確認してよろしいかどうか。調査会にすべてをまかせるということの中には、学習科目の範囲、また、全児童か否か、さらに、給与は、国が一括現物支給を行なうのか、あるいは市町村が現物支給を行なって、その費用を国が負担するというのか等々、根本的な重要問題がたくさんありますが、これらの問題点全部を調査会にまかせるというのでありまするならば、豊瀬君が指摘されましたように、本法案は、まさに「無償に関する法案」ではなくて、「義務教育教科用図書関係調査会設置法案」ではないかと言って過言ではありません。したがって、あなたが無償に関する法律案として提案されましたゆえんのものは、少なくとも、これらの諸点について、ある程度の構想なり見通しなり、あるいは計画を持っておられることを意味するものと判断をするのは、むしろ常識であると思うのであります。したがって、この際、文部大臣は、給与の範囲は、すなわち全科目か一部の科目か、または全学童か一部の学童か、または支給の方法、費用の取り扱い等々について、調査会の答申を待ってということではなくて、本法案の提案者としてのあなたの構想、それが言えないというのであるならば、少なくとも、あなたの思惑だけでもけっこうですから、この際、ぜひお聞かせをいただきたいのであります。
 さらに伺いたいのは、調査会の意見がどう決定されたにせよ、教科用図書が無制限に認可されるはずがなく、現行制度よりもさらにきびしい検定制度となるであろうことは、容易に推察されるところでありますが、この結果として、当然、検定制度の強化、少なくとも教科書内容の規制にまで及んで、実質的な国定教科書制度の復活になりはしないかということでありますが、今の総理大臣のお話では、国定教科書制度の復活は今のところ考えておらないということでありまするけれども、いかなる事態といえども将来絶対に復活はさせない、国定教科書にはしないという、名実ともに国定教科書にはしないというお約束を、この際さらにお願いをいたしたいのであります。
 いま一点は、教科用図書の無償の実現にあたって、文部当局の責任が重大になりますことは当然でありますけれども、教職員に対して実質的指導の立場にある教育委員会制度が、この間にあって、好むと好まざるとにかかわらず、重要な役割を果たすことに相なろうかと考えられます。そこで、私ども民社党といたしましては、無償配布を実施する最も重要なる前提条件の一つとして、教育委員会の委員を公選に改め、公選された教育委員会が、それぞれの都道府県段階において教科書の選定を行ない、市町村段階の教育委員会において、教職員との合議のもとに、教科書の選択に当たるべきものと考えております。官選にあらずして、公選された教育委員を中心にして教科書の選定を行なうことが絶対に必要であると考えるのでありますが、この点について文部大臣はいかにお考えになられるか、御所見を伺いたいのであります。
 最後に一点伺いたいのは、かりにこの法案が可決されましても、昭和三十八年度からの義務教育父兄の軽減される額は、月額三十六円といわれております。一方、小中高校の教科書定価は三十七年度から一四%の値上げをすることになります。全国小中学校の児童生徒一千八百万人、約百五十億の教科書が一四%も値上げされる父兄の負担増には目をつぶって、あまつさえ、文教予算の三大柱といわれた学校給食費、高校生徒の急増対策、科学技術の振興等については、いずれも要求予算を大幅に削減しておるのでありますが、学校給食の必置義務制については、将来いかにお考えになっておられるか。願わくば、近い将来にこの学校給食の必置義務制を施行するという明るい見通しを、この際ぜひお聞かせをいただきたいのであります。
 以上をもって私の質問を終わります。(拍手)
○議長(松野鶴平君) 池田内閣総理大臣。
○片岡文重君 議長、いつも私は注意するんですが、質問者が着席してから答弁者の指名をしていただきたいと思います。他の議員についても同様であると思うのであります。(「早くすわれ」と呼ぶ者あり)すわる時間はないじゃないか。
  〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕
○国務大臣(池田勇人君) お答え申し上げます。
 教科書無償交付について私が反対であるというお言葉でございましたが、そういう意見を総理として述べたことはございません。私の考えは、今回のこの法案でおわかりいただけると思います。また、この法律は、これは法二条で役に立たぬのではないかと、こういうことでございますが、しかし、との法律の通過は、全国民ひとしく願っておるので、国民はよくわかって下さっておると思います。で、三十八年度から着々実行に移ることは、これはもう国民はそう承知して下さっておると思います。私は誠実にこれをやっていく、そうして、また、教科書ばかりでなしに、学用品についてはどうかというお話でございまするが、われわれは、理想としてはそこまでいきたいと考えております。しかし、まず教科書から始めようという考えであるのであります。
 また、教科書の国定問題でございますが、将来ともやらぬか――今の池田内閣の閣僚だれ一人として考えている人はございません。はっきり申し上げておきます。
 また、学校給食の問題、いろいろ議論はございますが、私は、この問題は、やめるという議論もございますが、十分検討してみたいと思います。(拍手)
  〔国務大臣荒木萬壽夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(荒木萬壽夫君) お答え申し上げます。
 第一点は、この法案第一条からは、具体的にどういうことを方法手段として考えておるかわからない、抽象的な規定だというお立場からの御質問でございました。第二条に定めます調査会の答申待ちでございます。それはもちろん、さっきも触れました現行の教科書の発行に関する臨時措置法、これがございますれば、ただ経費を国なり公共団体で全部持ちますれば、無償の措置はできる道理でございまするが、その趣旨がはっきりいたしませんので、第一条に特に明記する意味がございます。同時に、いやしくも国民の血税をもって全部の無償を考えるとするならば、教科護会社も今のように完全自由企業であってよろしいだろうか、どうだろうか、これも一つの問題だろうと思います。これも、文部省だけで、こうするのだ、ああするのだということは慎しみたい、調査会で検討していただいた結論待ちの土に立って、立法措置を新たに――現行の教科掛発行に関する臨時措置法の改正なり、あるいは、今御審議を願わんとしておりまするこの法律に、第二条以下に規定するという、方法はいろいろございましょうが、新たに立法措置を講じながら、そういうところも合理化するという課題も考えねばなりません。さらに、全学童かどうかもはっきりしないじゃないかという仰せでございますが、全学童を対象にすることは、憲法二十六条の趣旨を受けて、第一条が、無償とすると明言し、確立した方針を宣明しました以上、言わずもがなのことだろうかと思います。さらに、経費の分担、あるいは今後の年次計画、その他の供給方法等も、現在の制度でやれぬことはございませんが、もっといい方法はないだろうかというようなことも、考慮すべき課題であろうと思いますが、それらを含めまして、調査会で審議してもらって、現行法の改正なり、さらには、新たな立法措置を必要とするならば、この法律の第二条以下に立法措置を講ずる等の措置を講じて、来年の四月一日に入学します小学校第一学年の無償措置を完璧にし、着々答申されました年次計画を原則として受け入れまして、完全実施の方向へ具体的な歩を進めていきたいと思う、こういうことでございます。
 第二番目は、検定制度が、何か現在よりも強化されることが必至であるように仰せになったと思いますが、その点は、そんなことは毛頭考えておりません。と言うよりも、必要がないと思います。先刻も豊瀬さんの御質問にお答え申し上げましたけれども、現在、学校教育法は、小学校、中学校等の教科内容を文部大臣が定めろと明記いたしております。その具体的方法は、すでに御案内のごとく、さっきも申し上げましたとおり、学習指導要領という形で、小学校、中学校の各学年の各科目ごとのその教育内容を、基準的ではございますが、相当くわしく定めたものであることも御承知かと思います。その学習指導要領に準拠いたしまして、また文部大臣が検定した教科書以外は使ってならないと学校教育法二十一条等に明記いたしております。その責任と権限に基づいて、専門家を委嘱して、義務教育関係の教科書の検定を現にやっておるわけであります。現行法に基づく学習指導要領、これはむろん将来に向かって改善される余地はあると思いますけれども、現に現行法に基づく権限なり責任を与えられておる検定制度をそのままやっていけばよろしいのであって、特にそのために、御質問者の御意図がどこにあるかはよく理解できませんけれども、強化するなどという必要がないことと私は心得ます。
 第三番目は、現在の教育委員会制度、これは御承知のとおり地方の公共団体の長が案を作りまして、当該議会の承認を受ける形で教育委員を任命するという形になっております。当初の公選制そのものが、数年の経験に顧みますると、厳正中立なるべき教育委員が、ともすれば、その選挙を通じて、背後勢力の、あるいは政党色彩的な影響の悪い面をずいぶん露呈した苦い経験にかんがみて、むしろまあ間接選挙的なやり方がよくないかということで、現行法になったと承知いたしております。依然としてその改正当時の懸念は、私は、当然念頭に置くべき立場が教育委員の立場であろうと思いますので、かつまた今日までの現行制度になりました実績からみましても、何ら支障がない、むしろ以前よりはずいぶんいいと思われますから、公選制にまた逆戻りさせることは悪政だろうと思っております。
 第四番目に、一割四分の値上げの問題を御指摘になりましたが、これは、当面する経済問題、物価問題として、やむを得ず一割四分のきわめて自粛されました値上げを認可をいたしたのであります。その原因は、申し上げるまでもないことですけれども、印刷ないしは製本等の労賃の値上がり、あるいは材料の値上がり等、やむを得なかったからいたしました。これは経済問題であり物価問題でございます。別個の問題と御理解いただきたいと思います。教科書無償は、再々総理からも申し上げましたとおり、提案理由にも申し上げましたとおり、憲法第二十六条の理想に向かって具体的一歩を踏み出そうという国民的な課題である。別個の問題――それが具体的一歩を印するところに意味があると考えまして、別個の問題と御承知をいただきたいと思います。
 学校給食につきましては、総理からお答えのとおりでございますが、なるべくすみやかに完全給食まで、憲法二十六条との関連は別といたしまして、やっていくことを、子供の親たちは望んでおるというふうに理解いたしております。努力して参りたいと思っております。(拍手)
○議長(松野鶴平君) これにて質疑の通告者の発言は全部終了いたしました。質疑は終了したものと認めます。
 次会の議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時五十八分散会