第177回国会 法務委員会 第16号
平成二十三年六月十四日(火曜日)
   午前十時開会
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   委員の異動
 六月十三日
    辞任         補欠選任
     丸山 和也君     渡辺 猛之君
     溝手 顕正君     石井 浩郎君
     森 まさこ君     青木 一彦君
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  出席者は左のとおり。
    委員長         浜田 昌良君
    理 事
                中村 哲治君
                前川 清成君
                金子原二郎君
                桜内 文城君
    委 員
                有田 芳生君
                今野  東君
                田城  郁君
                那谷屋正義君
                青木 一彦君
                石井 浩郎君
                山崎 正昭君
                渡辺 猛之君
                木庭健太郎君
                井上 哲士君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        田村 公伸君
   参考人
       首都大学東京法
       科大学院教授   前田 雅英君
       弁護士
       日本弁護士連合
       会国際刑事立法
       対策委員会委員
       長        山下 幸夫君
       独立行政法人産
       業技術総合研究
       所情報セキュリ
       ティ研究センタ
       ー主任研究員   高木 浩光君
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  本日の会議に付した案件
○情報処理の高度化等に対処するための刑法等の
 一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付
 )
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○委員長(浜田昌良君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 昨日、森まさこ君、丸山和也君及び溝手顕正君が委員を辞任され、その補欠として青木一彦君、渡辺猛之君及び石井浩郎君が選任されました。
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○委員長(浜田昌良君) 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、三名の参考人から御意見を伺います。
 本日御出席いただいております参考人は、首都大学東京法科大学院教授前田雅英君、弁護士・日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会委員長山下幸夫君及び独立行政法人産業技術総合研究所情報セキュリティ研究センター主任研究員高木浩光君でございます。
 この際、参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見を賜り、今後の審査の参考にしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 議事の進め方について申し上げます。
 まず、前田参考人、山下参考人、高木参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと思います。
 それでは、前田参考人からお願いいたします。前田参考人。
○参考人(前田雅英君) それでは、ただいま御紹介いただきました前田でございます。
 私は、東京都立大学というところで三十五年ぐらい刑事法の研究、教育に携わってまいりましたが、IT関係に関しましては、今の内閣の情報セキュリティ委員を約十年ぐらい、それから総合セキュリティ対策委員、これは警察庁ですけれども、これもやはり十年ぐらい携わらせていただいております。
 その中で、法律家だけで議論するということではなくて、いわゆる技術系の方々とも議論していただく機会を得まして、やはりITの世界というのは、いろいろな文化が混ざり合っているところで誤解が生じやすいという感じを実感しております。
 あともう一つは、やはりITの発展に伴って、国民一般にとって非常に重い存在になってきていると。その意味で、単に技術の問題だけではなくて、国民一般の目線ですね、自分たちの生活がどうなるのかということも非常に重要になってきているということなんだと思います。
 もちろん、我が国にとって非常に重要なITの世界を発展させるために、技術系の方々が萎縮しない法規制でなければいけないと。このバランスをどう取るかということで、今回の立法の提案は基本的には私は穏当なものであると。ただ、一部誤解を招くようなところの議論があるようなので、私の所見を述べさせていただきたいということで伺った次第でございます。
 これまでの議論を伺っていまして、先生方の非常に密度の高い、レベルの高い議論を拝聴いたしまして、私が付け加えるところがどれだけあるかというところはあるわけですけれども、特に参議院の方からテーマをいろいろいただいているわけですけれども、議論になっているところに十五分の時間を有効に使って集中的にお話を申し上げたいと思います。
 ほかの方と違って私はレジュメで申し訳ないんですが、二番目の刑法九十六条以下の改正の意義、これはもう当然やっていただかなければ困ると。やはり国民の生活を守る上で、占有屋が何だとかというような問題、これはやっぱり少しでも生活を改善するためにやっていただくことで、マイナスはもうほとんどないと思うんですね。むしろ、タイミングの問題だと思っております。
 問題は三番目の、いわゆる不正指令電磁的記録作成等の構成要件の問題、特に明確性のことについて私見を述べさせていただきたいと思うんです。
 そこに作出罪と、ワープロミスで作成罪という言葉をちょっと誤ってしまったんですが、作成罪というのは、やはりウイルスを作っただけで処罰するというのは確かに早いんですね、ある部分。
 ただ、これは先ほど申し上げた国民目線という話につながるんですけれども、日常生活の中でネット抜きとか電子計算機の世界抜きに動いている部分というのはもう非常に少なくなっていて、それが止まれば、例えば被災地に残された貴重なデータがウイルスで消されちゃった、復興業務がウイルスで滞ると。いや、被災地に関係なく、家庭の買物、子供のゲーム、あらゆるところで水と空気のような存在になっていますので、その安全性を確保しなければいけないと。まさに、公共危険罪という言葉はそういうものなんだと思うんですね。国民の共有の重要な財産をきちっと守る、安全を確保するのがやっぱり国の責務であるということはあると思うんですね。そこのところがやはり一つ大前提になければいけないと。
 ただ、先ほど申し上げましたように、これによって技術系の方々が、研究開発をやって、不意打ちで処罰されるんじゃないかと萎縮してしまうというようなことがあっても日本の発展のためには非常にマイナスであるということなんだと思いますね。
 構成要件、条文というのは明確なほど良くて、ただ、逆にこれは法律家の一番常に悩むところなんですけれども、明確に形式的に処罰範囲を決めていきますと狭くなって、逆に、国民目線から見ると、何でこの行為を処罰しないのというのが落ち過ぎても困ると、そのバランスなんだと思うんです。
 その意味で、今回のウイルス罪、俗称で申し上げて恐縮ですけれども、不正指令電磁的記録作成罪、これは、やはり要になっているのが、そこに書きましたように、意図に沿うべき動作をさせない、ないしは意図に反する動作をさせる不正な指令という、これが核の概念で、それと、後で出てきます、実行の用に供する、この実行の用に供するというのは、コンピューターで何か使えば実行の用に供するなんというふうには絶対に読まないわけですね、法律家の議論としては。やっぱり、意図に沿うべき動作をさせない用に供するんですね。
 そこのところ、つまり、いや、そもそも御議論としては、意図に沿うべき動作をさせないとか、それから意図に反する動作、曖昧じゃないかと、こういう議論はもちろんあると思うんです。ただ、これに関しては、もう既に刑法典で、二百三十四条の二、業務妨害に関する電磁的記録のものがございまして、ほぼ同じ言葉を使ってずっと運用をしてまいっております。いや、条文が違えば運用の仕方も違いますので微妙なところはあるかと思いますが、この言葉自体が不明確だという問題は、これは法律を作るときに必然的に伴うものに近いんだと思っております。
 ただ、御議論を伺って、まだ十分に勉強していない部分があるので誤解があると申し訳ないです、特に衆議院の議論なんかを伺っていますと、この意図に沿うべき動作をさせない、これ、要するにウイルス罪の中核なんですが、そのことと実行の用に供するということが切り離されて議論されちゃった部分が少しある。これはミスに近い議論だと思うんですね。
 やっぱり、立法の趣旨からいっても、何かインターネット社会を守るために危険なものを作った人を処罰するなんて言っていないんですね。意図的に人を誤った方向に誘導して、まさに意図に沿うべき動作をさせない、意図に反する動作をさせるとか、させるとさせない、これも誤植があって申し訳ないんですが、動作をさせないような不正な指令が問題で、これは二百三十四条の二でも、要するに偽計的なもの、欺罔的なものが必ず裏にくっついた概念なんだと思うんですね。その意味で、構成要件がそんなに広過ぎるということはないんだと思うんです。
 そこにちょっと書いたんですが、ウイルス機能を持つバグ云々というところなんですけれども、これソフトの開発というのはバグは不可避なんですね。私も、十何年前、技術系の方とお付き合いするまでは、法律家というのは完全な法律を作って社会に出して、動き出してから直していくなんてとんでもないことだと思っていたんですが、技術系の世界ってまた違うんです、ネット社会というのは。バグを一切禁じて、それのないものを作らなかったら処罰するなんといったら、それはパニックだと思います。
 そこに書いたんですが、ウイルス機能を持つバグを見落とした不作為、これ処罰の対象にもちろんなるわけはないわけですね。ウイルス機能を持つバグというのはそもそも概念矛盾に近いんですね、この書き方は。要するに、いや、ハードディスクの中身を全部一遍に消してしまうような機能を持ったことを導くバグというのはあると思いますよ。ただ、バグというのは、元々これは意図しない、ただし不可避的な不具合なんですね、意図しないものなんですね。この構成要件自体が全部故意犯なんですね。意図してやるものしか処罰しないんですよね。ただし、例外的に、意図の問題とそのバグの問題が結び付くところが皆無ではないと。皆無ではないと。ただ、このような構成要件をつくっておいたからといって、そこで不当に処罰が広がって萎縮効果を持ってしまう、チリングエフェクトを持ってしまう、技術系の方に、という問題は私はないと言ってもいいと思います。
 そこに、ウイルス機能を持つバグの存在を指摘されながらあえて放置したらどうなるのかということですけれども、バグがある、それから、ひょっとしてそのハードディスクの中、全部消してしまうとか止めてしまうというようなことを少し懸念したということで、未必的な故意があったとしても、それでこの構成要件の趣旨からいって該当性が出てくるかということなんだと思います。
 やっぱり、不作為、こういう放置したみたいなものというのは曖昧なんですね、元々、どこから処罰するか。そこのところは、例えば交通事故で人をはねた、あっ死ぬかもしれない、放置したと。殺意があるから全部殺人にするかといえば、それは殺人にしないんですね、実際に。運用も、恣意的なとおっしゃるかもしれませんけど、それはやっぱり全国、裁判所以下、日本の刑事司法の体系の中できちっとそこは処罰に値するものというのを選別するんだと思いますね。
 唯一残るのは、その一番下に、その前に、ウイルス機能を持つバグを意図的に残すというのは、これはもうですから文章として成り立たないんですね。それは、ウイルス機能を持っていることを知りながら意図的に残したらバグじゃなくなるんですね、もう。
 最後に書いた、バグを知りながら、作った人じゃなくて、受け取って、取得後に、これは物すごい機能を持っている、だからこれを使って悪用してやろうということが供用罪になる可能性はあるかといえば、それはないと困るんですね。それは、だからプログラマーの世界の話とは関係ない。これがある、これを処罰するからといって萎縮する云々という話は出てこないんだと思うんですね。
 その意味で、先ほども申し上げましたけれども、何かネットに危険な、何か不具合が生ずるようなものを作った行為を処罰するためにつくられている構成要件ではないと。やはり意図的に、まさに意図に反するような動作をさせるべき不正な指令、ここの中核部分が入っているわけですから、この構成要件には、そこを踏まえた解釈でなければいけないと。
 もちろん、あらゆる構成要件というのは広がる可能性を持っているわけですね。構成要件の限界というのは非常に微妙で、例えば人を殺したといったって曖昧なところはあるんですよね。だって、我々大学で教えるときに、母親の体から一部出たら人になるというけど、いや、中絶したら全部出てきて生きているわけですよ。だから人なんですね。じゃ、中絶して出てきた子供を殺したら全部殺人にするかというと、絶対に今していないですよね。それは、じゃ曖昧じゃないか、殺人罪の構成要件は曖昧じゃないか。この手の議論はあらゆる構成要件に付いて回ります。そこのときに私が大事だと感じるのは、今回つくられたものが関連する方にとって不安感を与えない程度に明確な、そしてここで御議論をしておいていただくということが何より重要だ。本体自体は、決してそんなに処罰が不明確なものになるというものではないと思います。
 次に、あと二分ぐらいしかないので急ぎますけれども、百七十五条の改正、これは本当は議論あると思いますが、今の段階で私は先ほど申し上げたように基本的に賛成でございます。電磁的記録をわいせつ物の外に出したと。今までは、そこに岡山の判例ありますけど、電磁情報も物にしていたんです。物にした判例もあったんですね。情報は物でないというとハードディスクがわいせつ物なんですよ、でやってきたんです、ビデオがわいせつ物だとかね。
 それに対して、やはり電磁的記録を切り分けて、そうすると頒布の概念が少し動きますが、これは私は今の段階では合理的な法改正ではないかというふうに考えています。
 もう時間がなくなりましたので一言にしますけれども、ログの保存要請、これもずっとやってきて、法律系の側とそれから総務省、経産省、経営の側でログの保存をどこまでするかというのが大問題、押し合いへし合いしてきたところなんですが、お互いの利益は当然なんですが、その折衷の線として、このような保全要請の制度、それからあともう一つは記録命令付差押えの制度というのは非常に合理性があるものだというふうに考えております。
 以上でございます。どうもありがとうございました。
○委員長(浜田昌良君) ありがとうございました。
 次に、山下参考人にお願いいたします。山下参考人。
○参考人(山下幸夫君) 私は、日本弁護士連合会におきまして、この法案を所管しております国際刑事立法対策委員会の委員長をしております弁護士の山下と申します。
 私は、かつて、この法案の前身となる法案審議の際に、平成十七年十月二十六日に衆議院の法務委員会において、参考人として意見を述べる機会をいただいたことがございます。今回、参議院の法務委員会においても意見を述べる機会をいただいたことに心より感謝申し上げます。
 本日は、資料として、日弁連がこの法案の前提となる要綱案を法制審議会で検討していた際に日弁連として意見をまとめた二〇〇三年七月十八日付けの意見書と、今回の法案審議に際して慎重審議を求める本年五月二十三日付けの会長声明、これを資料として配付させていただいておりますので、適宜御参照いただければと思います。
 まず最初に、日弁連は今回の法案提出に当たって、従前の法案が修正された上で提出されたというそういう経緯に鑑みまして、この法案の一部に反対するという立場から慎重審議を求めるという立場に態度を変更しておりますことを最初に明らかにさせていただきます。
 以下におきましては、このような日弁連の立場から、国会でのこの間の審議の経過を踏まえて、この法案に対する意見を述べさせていただきます。
 まず、不正指令電磁的記録等の作成等に関する罪についてでございます。
 日弁連はかつて、正当な試験行為やアンチウイルスソフトの作成が処罰されないことが明確にされることを求めており、法務省は、このような場合は人の電子計算機における実行の用に供する目的がないという説明をしておりましたが、今回の法案提出時に「正当な理由がないのに、」との文言が付けられたことにより、この点はより明確になったと考えます。
 問題は、作成、提供、供用等の対象となる不正指令電磁的記録の範囲が明確になったか否かという点でございます。改正される予定の刑法百六十八条の二第一項第一号の「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」との文言は、誰もが異論なく処罰すべきであると考える電子ウイルスを含む広い概念と考えられることから、この点が問題となります。この点をめぐっては衆参の法務委員会において、特にフリーソフトウエアなどのバグをめぐって議論を呼んでいるところであります。
 先ほど前田参考人からこの点について御指摘があり、またこの後、高木参考人からも詳しい御意見が述べられると思いますので、これ以上深く立ち入らないことにしたいと思いますが、コンピュータープログラマーやインターネットを利用する多くのユーザーがその適用をめぐって不安を抱くことがないように、法務省において条文解説を公表したり、その具体的な運用を通じてその外延を明確にする必要があると考えます。
 次に、記録命令付差押えや電磁的記録に係る記録媒体の差押えの執行方法の整備についてでございます。
 衆議院法務委員会での審議において、原本である電磁的記録と別の記録媒体に複写等をした電磁的記録の同一性をどのように担保するのかについては、江田法務大臣から、書換えが不能な記録媒体に記録をしたり複写の過程を記録することなどが考えられる旨を答弁されており、その方向性は明確になったと考えられますので、今後の運用上それを具体的に実行することが求められると考えられます。
 他方、記録命令付差押えを定める刑訴法九十九条の二と同法百十条の二の差押えの関係について江田法務大臣は、被処分者がどの程度協力してくれるかなどの事情によってこれを使い分けるとして、プロバイダー等の第三者であっても記録命令付差押えではなく、刑訴法百十条の二によりサーバー等を全て差し押さえることもあり得る旨を答弁しております。
 かつて、いわゆるベッコアメ事件についての東京地方裁判所平成十年二月二十七日決定、判例時報千六百三十七号百五十二ページは、プロバイダーのサーバー全部の差押えに対する準抗告に対し、被疑者以外の会員のデータを差し押さえたことにより被疑事実と関連性のないデータを差し押さえたことになるとして、その差押えは違法であると判断しております。
 したがって、プロバイダーのような通信事業者が記録命令付差押えに協力しないことが予想されるからといってサーバー全部を直ちに差し押さえることができるとするには無理があると考えられますので、この点についてはより慎重な運用が期待されるところであります。
 次に、いわゆるリモートアクセスについてです。
 憲法三十五条一項が、捜索する場所と押収する物を特定した令状にそれを明示することを求めていることから、日弁連は、リモートアクセスによって接続されている接続先のコンピューターにある電磁的記録を差し押さえるリモートアクセスが憲法三十五条の趣旨に反するおそれがあることを指摘しております。
 今回の法案では、従前の法案にはなかった、「当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況」という文言が今回追加され、リモートアクセスで閲覧できるだけの電磁的記録を差し押さえることができない点が明確にされた点は評価することができます。
 例えば、ネットストレージサービスのように特定のIDとパスワードでアクセスすると特定の記憶領域だけにアクセスすることができるという一対一の関係にある場合には機能的に一体であることが明確であると考えられるのに対して、本社のコンピューターと地方にある複数の支社のコンピューターが電気通信回線で接続されているような一対一の関係にない場合、この機能的一体性というのは大変弱いものと考えられます。
 このような場合には、実際にリモートアクセスして初めてどの支社のコンピューターに被疑事件と関連性がある電磁的記録があるか否かが判明する場合もあると考えられるところ、そのような場合においては裁判官による事前の令状審査の範囲を超えて現場の捜査官の判断によって差押えが執行される可能性がないとは言えず、この点についての衆参の法務委員会の審議においてはその濫用のおそれをどのように防ぐかについて必ずしも十分な審議がなされたとは言えないと考えられます。
 また、リモートアクセス先が海外サーバーである場合について、衆議院法務委員会の審議においては、江田法務大臣は、明らかに他国にある場合には主権侵害になるから捜査共助などを要請することが望ましいと答弁していますが、他方で、記録命令付差押えを利用し、命令を受けた民間人が海外サーバーにアクセスして複写等をすることは主権侵害の制約に掛からない旨を答弁し、民間人を介することで越境的な捜査の可能性を認めていますが、それが濫用されないかどうかが危惧されるところであります。
 以上から、リモートアクセスについても今後法務省が条文解説を公表したり、具体的な運用を通じてその運用の在り方について明確にされる必要があると考えられます。
 次に、通信履歴の保全要請についてです。
 今回の法案提出時に保全の必要性を要件としたこと、保全期間の短縮及び保全要請を書面で行うこととした点は評価することができます。また、衆議院法務委員会での審議において江田法務大臣が、いわゆるヘッダーという、中にある件名、タイトル、これは通信内容そのものであり、保全要請の対象となるその他の通信履歴には含まないということを答弁で明確にした点は評価することができます。
 次に、サイバー犯罪条約十六条が通信内容と通信履歴を区別しないで迅速な保全を要請しており、通信内容に関する保全要請の国内法化、今回これは法案に入っていないんですけれども、その国内法化が必要か否かという点につきましては、衆議院法務委員会の審議において、外務省総合外交政策局長から、サイバー犯罪条約十五条により国内法制との整合性が前提となっているとの答弁がなされ、江田法務大臣からは今回の法案でサイバー犯罪条約が求めている国内法整備は全て満たしているとの答弁がなされたことにより、この点に関する国内法化はなされないことが明確にされたという点は評価することができます。
 ところで、電子メールの通信履歴というものは通信内容に対してコンピューターが自動的に付与するもので両者は事実上一体のものであると考えると、通信履歴に対する保全要請によって事実上通信内容も保全されることになり、保全要請の後に裁判官の発する差押許可状によって通信履歴とともに通信内容についても同時に差し押さえられることになるのではないかとの懸念があります。
 江田法務大臣は、衆議院法務委員会の審議において、内容も残っておれば今後差押えのときにその内容も取得することにはなると答弁しておりますが、この点がいかなる意味なのか必ずしも明確でないことから、この点の懸念については今後の国会での審議などを通じて明確にされることが必要であると考えられます。
 次に、保全要請はあくまでも任意捜査であるとされています。衆議院法務委員会の審議において江田法務大臣は、プロバイダー等が協力してくれないということを捜査機関によって事前に察知したらサーバー等の差押えに踏み込んでいく旨を答弁していますが、そうだとすると、プロバイダー等が半ば強制的に保全をしなければならなくなる事態も懸念されるところでありますので、そのような運用がなされることがないように十分な配慮がなされるべきであると考えられます。
 日弁連は、かつて公表した意見書において、通信履歴の保全要請が任意捜査とされ裁判官による事前の審査を経ないことから、捜査機関による濫用を外部からチェックするために、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律、以下通信傍受法と言いますが、この法律に倣って、政府が国会に対して、保全要請の件数並びにそのうちの差押許可状請求までに至った件数、保全要請に係る罪名、保全要請に係る通信手段の種類、及び保全要請が行われた事件に関して逮捕した人員数を国会に報告させることを提案しました。
 衆議院法務委員会における審議において、今回の法案では書面により保全要請することとされたことや、サイバー犯罪の検挙数は年間約七千件程度であることから、保全要請について国会報告の対象とすることは十分に可能であり、かつ導入すべきであるという意見が出されております。
 保全要請の件数と、そのうち実際に差押許可状請求までに至った件数を比較することによって保全要請が濫用されていないかどうかを判断することがある程度可能であることを考えると、国会報告については少なくとも運用によって実現することが望ましいと考えられます。
 最後に、この法案が成立した後に予定されるサイバー犯罪条約の批准による影響について述べます。
 国会は、平成十六年四月、サイバー犯罪条約を批准することを承認する決議をしておりますので、この法案が成立すると速やかに批准されることが予想されます。サイバー犯罪条約二十条は、締約国に対してリアルタイムで通信履歴、サイバー犯罪条約上はこれを通信記録、トラフィックデータと呼んでいますが、これを収集することを求め、またサイバー犯罪条約二十一条は、通信内容を傍受することをそれぞれ国内法で整備することを求めています。
 サイバー犯罪条約二十一条が自国の国内法に定める重大な犯罪について、通信内容の傍受、すなわち収集又は記録することを国内法で整備することを求めている点については、通信傍受法によって担保されていると考えられます。これに対してサイバー犯罪条約二十条が、特に犯罪を限定することなく、通信の履歴をリアルタイムで収集又は記録することを国内法で整備することを求めています。
 通信傍受法は、薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航の罪、組織的な殺人の四類型の重大犯罪についてしか通信の傍受を認めていませんので、サイバー犯罪条約二十条を満たしていないのではないかが問題となります。なお、サイバー犯罪条約四十二条はこの規定の留保を認めておりません。
 この点について、衆議院法務委員会での審議の際に江田法務大臣は、サイバー犯罪条約二十条は刑事訴訟法二百十八条に基づく検証によって担保されていると答弁しました。
 通信傍受法の成立前には電話の傍受を検証許可状で実施した例があり、最高裁判所平成十一年十二月十六日第三小法廷決定、判例時報千七百一号百六十三ページは、一定の条件の下では憲法に違反しないと判断しています。
 通信傍受法は、厳格な要件を満たす場合に裁判官の発する傍受すべき通信及び傍受の実施の対象とする通信手段を明示する傍受令状によって通信傍受を認めており、この法律が制定された後は、通信の内容を成す通信履歴についても通信傍受法の定める要件と手続に従って実施されるべきであり、サイバー犯罪条約二十条が求める通信履歴のリアルタイムでの収集又は記録については検証許可状によって実施すべきではないと考えられます。
 日弁連のこの度の会長声明において、この法案が成立すれば、我が国もサイバー犯罪条約を批准することになるが、その結果、通信傍受法の改正につながる可能性もあると述べたのはその趣旨であります。衆参の法務委員会の審議においてこの点についての審議が十分に尽くされたとは言い難く、今後の国会審議においてこの点をより深める審議がなされることに期待したいと思います。
 コンピューターネットワークが高度に発達し、私たち国民の生活においては今や不可欠の存在となっています。この法案が成立することによって、コンピューターやネットワークの利用に支障を来したり、その利用を萎縮させることがあってはならないと考えられます。国会にはそのような国民の不安を払拭することが強く期待されており、今後も慎重で充実した審議を期待したいと思います。
 以上で、私からの意見陳述とさせていただきます。
○委員長(浜田昌良君) ありがとうございました。
 次に、高木参考人にお願いいたします。高木参考人。
○参考人(高木浩光君) 産業技術総合研究所の高木浩光と申します。
 私ども産総研といいますのは技術の研究をしているところでございます。私は十年ほど前から情報セキュリティーの研究に携わっているのですけれども、そうしますと、どうしても社会の問題について取り組まなくてはならず、このウイルス罪を含む法律の考え方についても研究の対象としてまいりました。最近ではプライバシーの問題等についても取り組んでいるところです。私のような法律家でない技術者にこのような法務委員会という場で意見を述べさせていただく機会をいただきましたこと、大変心より感謝しております。私、この法案について、今回は情報技術の当事者として、不正指令電磁的記録に関する罪の部分についてのみ意見を述べさせていただきます。
 この法案ですけれども、基本的立場として、情報セキュリティーに携わる者としてはウイルスの取締りというのは必要であると考えております。特に、暴露ウイルスなどと呼ばれる情報を漏えいさせるタイプのトロイの木馬が二〇〇四年ごろから猛威を振るっております。その結果として害を被るのは情報を漏らされてプライバシーを侵害される第三者であって、この問題の深刻性は大変大きいと思います。そして、これは現行法では処罰できないという問題があると思います。そういうことから、私としましてもこのウイルス罪の必要性ということを説いてきたつもりです。
 このトロイの木馬というのは、人をだまして、引っかけてプログラムを実行させてしまってというものなんですけれども、これが日本では合法だという、野放しにされてきた関係で、こういったトロイの木馬で人を引っかけてあざ笑うような、そういうあしき文化すらこの五年ぐらいで生まれつつあったというふうに思います。ですから、今こそ、こういったことは倫理的に許されないだけではなく、刑事罰の対象になるということをはっきりさせるべきであるというふうに思います。
 私がこの問題に関心を持ちましたのは、平成十六年に情報処理学会が会長名で意見書を発表したところから始まりました。ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備に関する要綱が発表されたときに、情報処理学会としては、攻撃を意図しないソフトウエアのバグや仕様の不完全性を処罰対象としないようにという意見が発表されたわけです。このとき、法律家の方々は、それは杞憂ですよと、故意がなければ処罰されないのであるから問題ありませんよというふうに一蹴されてしまったと聞いております。しかし、本当にそうだろうかと、法律家が技術を御存じないがゆえに見落としている点に何か技術者が直感的に違和感を覚えているのではないかというふうに私は思いまして、この問題について長年勉強し、また刑法学の先生方と何度も議論させていただきながら、どこに問題があるのかということを研究してきました。
 そういう経緯があるところ、本日は、この法案の条文解釈にぶれがあって無視できない問題を生じさせていると、したがって、解釈についてここで明確に確認されるべきであるという意見を述べたいと思います。
 その条文解釈のぶれというのはどこかといいますと、百六十八条の二第一項の「人の電子計算機における実行の用に供する目的で、」という条文の「実行の用に供する」という部分です。また、第二項にも同様に「実行の用に供した者」とありますけれども、この「供した」との条文、これがどのような解釈になるか。これが二つの解釈があり得ると思います。
 一つ目の解釈というのは、「実行の用に供する」というのは、その実行がどのような実行であるかにかかわらず、他人のコンピューター上の実行に用いられるものとして供される行為一般を指すという考え方で、例えばフリーソフトウエアなどをウエブサイト上で不特定多数に提供すると、どなたかが拾っていって実行されますから、そういうものも実行の用に供したというという解釈が一つ目です。
 そして、二つ目の解釈というのは、そういうことではなく、ここで言う実行というのは、あくまでも百六十八条の二、一項一号に規定されているところの、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」、そういうような、そういう実行を指すんだという、この実行という一言がそれを指しているのだという解釈の二通りができると思います。
 実際に、衆議院での法務委員会の議論を拝見しましたところ、五月三十一日の回でもって、例のバグが不正指令電磁的記録に当たり得るかという議論の中で法務大臣は次のように答弁されました。あえてウイルスとしての機能を果たさせてやろうといったような、そういう思いで行えば、そういう可能性があるという話をしたまでであると述べられています。これは先ほどの二つの解釈でいえば二つ目の方、つまり意図に反するような動作をさせてやろうというような、そういう思いで行った場合という解釈をされているんだろうと思います。
 これに対して委員であるところの柴山昌彦委員から、大臣は、成立する可能性はあるけれども、目的として、損害や誤作動を与えるというような積極的な目的を持っていなければ処罰できないというようなお話をされたけれども、しかしながら条文を見ると、目的はあくまでも電子計算機における実行の用に供する目的と書かれているので、これは大臣がおっしゃるような目的というふうには解釈できないんではないかという見解を述べられています。これは恐らく一つ目の解釈、単にニュートラルな意味で実行の用に供するというふうに解釈したためにこういう違和感を持たれたんではないかというふうに思います。
 これは実際のところ、どちらかといいますと、この法案の基となりました要綱が議論された平成十五年の法制審議会刑事法部会の議論を引いてみますと、事務局からの説明でしょうか、次のように説明されています。実行の用に供するという概念につきましては、当該電磁的記録を電子計算機を使用している者が実行しようとする意思がないのに実行される状態に置く行為をいうものとして記載しておりますとあるんですね。したがって、意思がないのに実行される状態というふうに言われているということは、先ほどのような二つ目の解釈が想定されているものであって、一つ目のような解釈は立法意思とは異なるのではないかというふうに思います。
 なぜこのような解釈の曖昧さがこれまでそのままにされてきたかということを考えてみますと、この平成十五年の法制審議会もそうですし、これまでの国会の議論を振り返ってみますと、全てこの法案に対する懸念として出てくる意見というのは、ウイルス対策ソフト等の正当な研究開発が阻害されないかという懸念が示されると。そうしますと、出てくる答えというのはいつも、人の電子計算機の実行の用に供する目的がないのでそういうことは心配ありませんと、こういうふうになるわけですけれども、このときに、この、人のというのは他人のという意味であって、同意がある場合は人に当たらないという説明が常にされてきています。
 つまり、どういうことかといいますと、いわゆるウイルスをウイルス対策ソフト会社に検体として提供する場合というのは、人の電子計算機の実行の用に供する目的がないわけですが、この、人のというのが他人のであって同意がないという説明というのはどういうことかといえば、電子計算機の実行の用に供するという言葉は、とにかく相手に渡して相手が実行すれば、それは意味を、該当してしまうという前提だからこそ、この、人のというところを同意がないからというふうに説明せざるを得なかったんだろうというふうに思います。
 私が疑問に思っているこの二つの解釈、どちらが正しいのかということについては、ちょうど先ほど前田参考人から御回答が既にあったところで、これは刑法学的に言って当然二番目の解釈であるというお答えがあったと思います。そうすると、この実行というのがそういう意図に反する動作をさせるという意味を含むということを意味しますから、この、人のの部分の解釈が、同意があるとかないとか、そういう問題ではないはずであろうというふうに思うわけです。
 したがいまして、是非この解釈がどちらかということを明確にしていただきたいというふうに思います。より具体的には、例えば、どんなプログラムであってもウエブサイト上で不特定多数に提供すれば常に実行の用に供したに該当しますよなどという解釈は誤りであるということを明確にしていただきたいというふうに思います。
 次に参りまして、立法趣旨の理解についてもぶれがあるように思います。
 そもそも、これは何を処罰しようとするものなのでしょうか。衆議院での議論を拝見していますと、この立法趣旨についても二つの異なる理解が混在しているように思われました。
 この不正指令電磁的記録に関する罪というのは、プログラムに対する社会的信頼を害する行為を犯罪にするという考え方だと説明されていますが、このプログラムに対する社会的信頼というのは一体何であるか、もう少し具体的に言うとどういうことか。これは二つの理解があり得て、一つ目の理解というのは、危険な結果を生じさせるようなプログラムが誕生するとプログラムに対する社会の信頼が害されるという考え方も一つあり得るだろうと思います。もう一つは、そうではなくて、人々をだまして実行させるようなそういうプログラムの提供の仕方、これがプログラムに対する社会的信頼を害する行為とみなして、その目的でプログラムを作成、提供することも害するという考え方。この二つが考えられる、混在しているように思います。
 この違いがなぜ重要かというのは、まさにこれまで議論となってしまいましたバグの議論であるかと思います。
 もし二つ目の方の理解であれば、すなわち人をだましてというような趣旨の方であるとするならば、それがバグである限り、それはバグという言葉の定義から自明ですけれども、人をだます意図はないものですから、そもそも犯罪になり得ないはずだと思います。一方、一つ目の理解をしますと、重大な結果をもたらすものであれば、結果の認容さえあれば刑事責任を負わすことができるというふうになるかと思います。
 まさに衆議院の五月三十一日の法務委員会で、このバグが処罰されるのでは困るという世論に対する説明として、法務大臣からは、先ほどのような、あえてウイルスとしての機能を果たさせてやろうというような、そういう思いで行えば、そういう可能性がある、そういう限定的なことを一言で申し上げたと説明されて、これは要するに先ほどの二つ目の方の理解をされていると思うんですが、一方の、参考人でありました今井猛嘉参考人からは、不正な動作がどの程度のものであるかということが問題でありまして、重大なバグと先生はおっしゃったかと思いますが、そういったときには可罰的違法性を超える程度の違法性があるということですので、これに当たることは十分考えられると御説明されました。この説明というのは、プログラムが結果として重大な危険をもたらすような場合にはプログラムに対する社会的信頼が害されるという一つ目の方の解釈をされているのではないかというふうに私は受け取りました。
 このように理解がぶれているように思いますので、では、立法府としてはどちらの立法趣旨であるのかということを明確にする必要があるのではないかと思います。
 このことは、実は先ほどの「実行の用に供する」という条文解釈がどちらなのかということと、この立法趣旨がどちらなのかということとは一対一に対応していると思います。私は、二つ目の条文解釈であり、二つ目の立法趣旨だと理解しておりますが、この一つ目の条文解釈、また一つ目の立法趣旨の理解というのは誤りであるということを、この際明確にしていただきたいというふうに思います。先ほど前田参考人からは、私と同様の意見で、当然にそちらであるという意見が述べられたと理解しております。
 このことというのは、実はバグの問題だけではございません。バグの議論というのはおおむね終息したかと思いますけれども、条文解釈、立法趣旨の理解がこのようにぶれておりますと、不適切な運用につながりかねない懸念があると思います。
 具体的には、衆議院の五月二十七日の法務委員会で大口善徳委員からなされた質問が該当します。どういう御質問だったかといいますと、使用説明書等が存在しないプログラムはどうなのかという質問がありました。すなわち、ハードディスクを消去してしまうようなプログラムというものを説明書なしでウエブサイトで不特定多数に公開していた場合、これは該当するのかという質問をされました。
 これに対する回答はなかったんですけれども、なぜこれが重要かといいますと、もし立法趣旨を一つ目の方の理解、すなわち危険なプログラムというものを社会にもたらしてはいけないという趣旨だと想定しますと、そういった説明のないプログラムというのは、誤って開いてしまったら危ないではないかという観点でいえば、刑事罰の処罰の対象になってしまうというふうな運用につながりかねないと思います。
 しかし、これは実際、情報処理の分野で現に行われているプログラム配布の形態の実態にそぐわないものです。説明のないプログラム配布というのは一般的に行われているものでありまして、もしこのような立法趣旨でもってこの法律が成立してしまいますと、プログラムの全てに説明を加えなければならないという行為規制を生むことになるのではないかと思います。このことからも、立法趣旨が二つ目の理解であるということを明確にしていただきたいというふうに思います。
 最後に、もう一点の論点ですけれども、正当なプログラムが他人によって悪用されるケースというのが考えられます。
 衆議院、五月二十七日の法務委員会で大口委員からなされた質問がございまして、全て消去するプログラムというものがあって、それ自体は有用なプログラムとして作られたんだけれども、それとは異なる説明、例えば気象速報を随時受信するプログラムであると、そんなうその説明を付けて配布された場合に、それで被害が出たらば不正指令電磁的記録等に当たるのかという御質問だったかと思いますが、これに対して法務大臣の答弁は、該当するというお答えでした。ということは、すなわち、有用なプログラムであっても、それが人をだまして実行させるような説明の下で提供されれば不正指令電磁的記録に該当するということを意味することになります。
 そうしますと、元々の有用なプログラムとして作成した作成者も、その不正指令電磁的記録の作成者という解釈になるのでしょうかという疑問がございますが、この点が明らかにされていないと思います。もし、ならないとすれば一体どのような解釈からそのように解釈できるのか、あるいは、なるとすれば作成者も処罰対象になるのかという疑義が生じると思いますが、当然、これは正当な有用なプログラムとして作成しておりますので処罰対象としないのが当然であるところ、どのような解釈からそのように言えるのかということが明確になっておりません。これらの点について解釈が明確にされることが望ましいと思います。
 平成十五年の法制審議会刑事法部会の議事録を見ますと、こうしたケースが起き得るということについて一切の議論がなされておりませんでした。また、これまでの国会の議論、以前提出されたときの議論を拝見しても、こういったケースを想定して検討しておらず、正当な研究開発行為を処罰対象にしないためにはどうなのかという議論だけがずっと行われてきたため、複雑かもしれませんが、このようなケースについて議論がされないまま来ていると思いますので、この機会に是非明確にしていただきたいと思います。
 私からは以上とさせていただきます。ありがとうございました。
○委員長(浜田昌良君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○有田芳生君 民主党の有田芳生です。よろしくお願いします。
 地獄への道は善意で敷き詰められているというイギリスの古いことわざがあります。例えば、私はずっと反対をしてまいりましたが、東京都青少年健全育成条例。これ文言だけ引くと、青少年を健全に育成するという、もっともらしい、当たり前のことであるという世間一般の評価がありますが、実は、修正が後になされましたけれども、表現の自由あるいは言論の自由に対して重大な問題をはらんでいた。
 ですから、一見して、これは正しいんだ、これはすばらしいことだというふうに思っていても、行き着くところは全く逆の結論があるというのが、残念ながらこの世間の不条理だというふうに思います。ですから、そういう立場で、今度の法案についてもいろんな危惧あるいは不安をお持ちの方もいらっしゃるというふうに思います。
 一方で、ネット業界の方々で、やはり不安とかあるいは反対の意思、あるいは危惧を表明されている方もいらっしゃいますけれども、少なくとも私が話を伺ってきたインターネット業界の方々は、当然であると、これまで自分たちでなかなか対処ができなかったものが、今度この法律が通れば、自分たちの努力というか大変な困難の下でネット犯罪に対処しなければいけなかったのがやりやすくなるというような評価をなさる方もいらっしゃいます。
 事ほどさように評価が違ってくるこの法案ですけれども、それについて参考人の方々からお話がありましたけれども、そもそもこのいわゆるサイバー法について、立法趣旨、つまりこの法律が必要なのかどうなのか、そのこと、あるいは構成要件、何をもって罪に問われてしまうのか。そのことを、先ほどのお三人の方のお話が大学での講義のようなものだとすれば、これから市民講座のような形で、例えば具体的に言えば、今はもう子供からお年寄りまでインターネットに接触する時代になりましたけれども、専門的な知識のない皆さんの御両親の世代に向けて分かりやすく説明をしていただきたいというふうに思います。
 特に、今度の法案について、コンピューターを監視する法案であって、これが通過をすればネット検閲社会が来るというような危惧を表明されている方もいらっしゃいますので、果たしてそうなのかどうかということも含めて、皆さん方のお立場から分かりやすく、具体例も示しながら御説明いただければなというふうにお願いを申し上げます。
○委員長(浜田昌良君) それでは、前田参考人、山下参考人、高木参考人の順でお願いしたいと思います。
○参考人(前田雅英君) お答えさせていただきます。
 先ほども申し上げたこととちょっとダブってしまうかもしれませんけれども、これは決してコンピューターを使うヘビーユーザーの人たちだけの利益ではなくて、国民一般がもうコンピューターによって生活する、物の売り買いから含めて、あらゆる部分についてコンピューターが介在しているわけですね。そこのところで不具合を生ずるような、重要な問題を起こすようなウイルス、それから個人情報がどんどん流れてしまうようなこと、これを規制しなければいけないということは共通の理解なんだと思うんですね。
 有田先生御指摘のように、そういういいことだけではなくて陰の面、マイナスの面もあるということはあるわけですけれども、それは例えば今回のものがウイルスを作る自由を侵す、それはやっぱり技術系の方に関していえばなるべく自由なほどいいというのはあるんですけれども、少なくとも今回のものが、最後の御質問につながるんですけれども、ネット社会を監視するとかそういうものではなくて、ネット社会で成り立っている日本を守ると、あらゆる国民の利益につながるという面は間違いなくあると思いますね。監視といって、保全要請とかいっても罰則付いているわけではありませんし、今まで以上にのぞき見をするようなシステムが加わるわけでもないと。
 先ほどるる御説明しましたように、不正指令電磁的記録作成罪等は、先ほどの高木先生の議論、私全く同じ意見なんですが、きちっとした解釈で行えば、立法趣旨はそういうものだと思いますので、その範囲で実施していけば国民に害を及ぼすというか脅威を与えるような面は非常に少ないと。
 あらゆるもの、風邪薬だってたくさん飲ませれば人を殺す手段になるわけですね。害のないものはないんですが、今回のものはその意味でなぜこれほどの問題になってしまったのか、私は理解し難いという面があります。
 以上でございます。
○参考人(山下幸夫君) 元々は、この法律はサイバー犯罪条約を批准するために国内法を整備するということで作られたものです。ただ、その際に、やはり少し日本的なといいますか、視点からの法案として提出されておりまして、例えば先ほどのウイルス作成罪という問題についても、これは非常に日本的な法律の書き方になっていたり、それから捜索、差押えというか、特に差押えの新しい制度、それからリモートアクセス、保全要請、これらについても、日本の法律の性質として、性善説といいますか、捜査機関はちゃんとやるという前提で作られている部分がありまして、その点が逆に私ども危惧するところですが、いざ、じゃ捜査で濫用されたりした場合に歯止めがあるのかという問題、ここについては若干、今回の法案についてはそこがいま一つ明確でないといいますか、歯止めになるものが必ずしも十分でないと。
 今回の衆参の審議を見ていても、捜査機関の方、ちゃんとやりますから信用してくださいというような精神論になっている部分がある。ここは本来、もう少し私はきちっと歯止めが掛けられるような、そういう整備を本当はすべきだったと思うんですが、今回そこがちょっと不十分な点があると思っておりますので、そこはきちっと、取りあえず今回は運用上そうならないようにきちっと歯止めを掛ける、そういう審議を尽くしていただきたいと、そのように思っております。
○参考人(高木浩光君) 私も、先ほど冒頭で述べましたように、このウイルスの取締りというものは、特に情報を漏えいさせるタイプのトロイの木馬の猛威を振るっている点を考えれば、早くこの摘発ができるように犯罪化するべきであると思っております。
 ただ、解釈のぶれがあると先ほど述べました。一つ目、二つ目の解釈、理解があると申しました。これが二つ目の方であるということが明確に確認されるのであれば特に問題はないであろうというふうに思います。しかし、国会の議論においてさえ一つ目の理解、解釈をされているような発言があったものでございますから、今日ここでそのことについて意見を述べさせていただいたという次第であります。
 前田先生も私と同じように二番目の方の解釈で当然であるという御意見のようですけれども、私ども参考人の意見というレベルではなく、立法府の見解として、立法趣旨はどちらで、どちらの条文解釈なのかということを明確にした上で成立させていただきたいというふうに思います。
 以上でございます。
○有田芳生君 私はこれまでストーカー事件等々いろんな事件について取材、調査をやってきましたけれども、やはりきっちりしたすばらしいように見える法律であっても、現場レベルでなかなかその趣旨を徹底することができなくて、恣意的な運用がなされたり、あるいは放置をされたりということはありました。
 ですから、今回の法案についても、例えば、東日本大震災が起きてから全国で四十一件、警察庁から八つの都道府県に口頭で注意が行って、そして公序良俗に反する書き込みだとか、あるいは遺体の写真を何とかしなきゃいけないとプロバイダーに注意がメールで行っているんですよね。ところが、その中に陰謀説、ある国が地震兵器を使って東日本の大震災を起こしたんだというようなことまでもが問題にされたんですよ。それはプロバイダーの方で削除することはなく、いまだ残っているんですが。
 そのように、この法律ができたとして、やはり現場レベルで恣意的に運用してしまうというようなケースが例えば愛知県などでもこれまで起きてきたということを顧みますと、果たして、今、山下参考人が述べられたような、その歯止めというものをどのような形で保障していくのかというのは、実際には大きな課題だというふうに思うんですよ。
 その歯止めというのをどのように置くべきなのか。きっちりとそういうものに対して監視をしていくということなのか、あるいは、短い審議時間ではあっても、そこに何らかの条件を付けていくことができるのかということを含めて、お三人の参考人の御意見を伺いたいと思います。
○委員長(浜田昌良君) それでは、山下参考人、前田参考人、高木参考人の順番でお願いします。
○参考人(山下幸夫君) 元々、捜査機関が権限を濫用するという問題は、別に今回の法案に限らず、現在既にある刑事手続についても同じことが言えるわけです。おおむねきちっとされてきたとは思いますけれども、時々やはり濫用されて冤罪を生むということもあるわけですので、それについてはもう少し、この法案というよりも、全体的な意味で捜査機関に対する濫用を防止するような、そういう新しい仕組みというんですか、それから国民の目をそこに入れる、監視をする目を入れる。
 今回の保全要請については、やはり、先ほど私も言いました、国会にその数を報告させてきちっと第三者がチェックすると。これは令状主義ではなくて今回は任意で行うということですので、どれだけ保全要請がきちっとされているか、やはりこれは数を明らかにして、国会でそれを報告させた上できちっと外部からチェックをするという、そういうシステムを入れるという、これは運用でもできることだと思いますので、そういうことをいろいろ考える必要があると思っております。
 以上です。
○参考人(前田雅英君) 先ほどの有田委員の御指摘、ごもっともなんだと思うんですね。どこまで、特に震災の画像とか排除するかというのは難しくて、ただ、現行のシステムはかなりその意味で、国民目線とそれから技術者とそれから捜査の側とのバランスを取るために、インターネット・ホットラインセンターというようなものを使って問題のある画像をプロバイダーに削除していただくわけですけれども、あくまでもやっぱり民の力を中心に、これはただ長い時間掛かってできてきたんだと思いますね。
 今御指摘いただいたような声があって、やはり国民から見て自分たちの利益をきちっと守るようなシステム、また逆に言うと本当におぞましいようなものが流れてもやっぱり困るわけですよね。片一方で、そんなことはどうだか首をかしげる、じゃ、それを最終的に誰が判断するかと。それを今までは官だけが、警察だけがやるというシステムが強かったんですけれども、プロバイダー協会の代表とか、いろんな方が集まって、我々学者も一部お手伝いするわけですけれども、やるようになっている。また、今のような御指摘を踏まえながら、今回の問題も含めて、やっぱり公明正大に納得のいく解決をしていく。
 ただ、今回申し上げたいのは、この法案、特に刑法の部分に関しては、先ほどの高木先生の御指摘のようなことを踏まえれば、それほど国民に問題は生じないのではないかと。作成罪というのは非常に曖昧だから、全然問題のない人が犯罪者にでっち上げられると言うとあれですけど、その可能性は非常に低いと思います、そこは。
○参考人(高木浩光君) 恣意的な運用をどのようにして防止するかということについての御質問かと思いますが、その具体的な手だてについては、私はその専門から外れますのでそのアイデアはないのでございますけれども、その解説をしていくということに関しては、私は技術者であって法律家ではございませんので、私のような者が幾らこの点を解説したとしても何の権威もないであろうと思います。したがいまして、こういう疑問が生じていて、どちらの解釈、理解が正しいのかということは、是非公式なもので明確に残していただく必要があるのではないかというふうに思います。
 以上でございます。
○有田芳生君 ウイルス作成罪といったときに、一般的にそれが使われたときにそれが社会問題になって事件になっていくという理解をするわけですけれども、今回、批判的な見解を述べられる人たちは、いや、ウイルスを作成しただけで罰せられるんだと、つまり日常的にサイバーパトロールをやって、それでチェックをされるんだという評価をされる方もいらっしゃるんですが、その点についてはどのように評価、判断されますでしょうか。
○委員長(浜田昌良君) 時間が限られております。どなたに、限定して。
○有田芳生君 前田参考人。
○参考人(前田雅英君) ウイルス作成罪をつくること即監視というのは、それは不可能で、サイバーパトロールで常に監視するというのは、それは事実上は考えにくい。やはり何か問題が起こって、それが捜査の端緒になって、これを作ったのは誰かということでたどっていって、保全をしておいていただいて、基本的には任意の御協力を得てIPアドレスを調べてたどり着いていって誰が作ったかということで、およそ網を掛けて世の中でそういうものを作った人間を全部捜査機関が把握するというふうなことは、これはあり得ないと思います。
 ですから、もちろんここは捜査機関の側の問題として国民から信頼を得るということが何より大事で、そういうことをするのではないかと思われていることが問題なんだと思います。
 以上でございます。
○委員長(浜田昌良君) おまとめください。
○有田芳生君 一言だけ。
 人間というのは性善説、性悪説ありますけれども、私は性弱説という立場に立っておりまして、弱いものであると。だから、捜査機関などもやはり現場では無理をすることがあるという前提に立ってこの法案の判断をしていきたいというふうに思っております。
 終わります。
○渡辺猛之君 自由民主党の渡辺猛之でございます。
 今日は、三人の参考人の先生方、貴重なお時間とまた貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。私は、刑法についても、またネットについても余り詳しくないものですから、今日、三人の参考人の先生方のお話を聞きまして大変勉強になりました。
 その中で幾つか三人の先生方にまずお伺いしたいんですけれども、今回の刑法改正案で不正指令電磁的記録等作成罪、いわゆるウイルス作成罪について、人の電子計算機における実行の用に供する目的でウイルス等を作成した場合、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金を科すということになっておりますけれども、例えば不正アクセスの行為の禁止等に関する法律に基づく不正アクセス行為の罰則というのが一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金とされていることと比較をすると、ちょっと重いんじゃないかという指摘が一部であるように聞いております。
 ウイルス作成罪の法定刑が重過ぎるのではないかという意見について、三人の参考人の先生方の御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○委員長(浜田昌良君) それでは、前田参考人、山下参考人、高木参考人の順番でお願いします。
○参考人(前田雅英君) どうも御質問ありがとうございました。
 確かに不正アクセスに比べれば重いと。ただ、今回、これは刑法改正で刑法典に載る。我々が扱う犯罪と言うときには刑法犯とそれ以外と分けるぐらい、やっぱり言わばメーンストリームなんですね。それに載せるというのは、やっぱりそれだけの法益を侵害する重大なものである。
 もちろん、不正アクセスが軽いということではないんですが、やはりより周辺的な技術的な側面があって、これは直に、さっき申し上げた公共的な利益としてもうほぼ国民が認知するようになっているネット社会の安全性みたいなものに対しての侵害性が高いと。ほかの業務妨害とかのバランスから考えて、恐らく三年というのは刑法の世界の人間から見ると穏当な線だというふうに考えております。
 以上でございます。
○参考人(山下幸夫君) 日弁連はこの問題については、かつて表明した意見書でも書いてあるんですが、やはりちょっと重いのではないかというふうに考えております。
 とりわけ作成罪につきましては、本来これは供用行為から見れば予備的な行為でありまして、例えばスタンドアローン、すなわちネットにつながっていないパソコン上でウイルスを作ったというだけではまだ恐らく本当の意味での危険性はないと思うんですが、それでも今回処罰をすると、それについて三年という刑は非常に重いのではないか。
 そして、これは、三年という刑は、先ほど前田さんも言われたんですが、業務妨害罪と同じこれは今回の法定刑なんですね。業務妨害罪は明らかに業務妨害という結果が発生していると。これに対して、今言ったウイルスの作成というのは作成しただけでまだ具体的な危険はない、抽象的危険はあるんでしょうけれども、そういうものを同じように罰するというのは、これは重過ぎるのではないか。
 そして、三年という刑は、基本的には三年を超えますと、三年以上ということは、いわゆる原則としてはこれ実刑になる可能性がある。法律的にはもちろん一回減軽をすることで執行猶予を付けることはできますけれども、一応法定刑としては実刑になる可能性のある刑罰である。そういうことを考えるとやはりちょっと重過ぎる、とりわけ作成罪についてこれを三年としているこの法案は少し重過ぎると考えております。
○参考人(高木浩光君) 私は法定刑の評価については門外漢でございますけれども、不正アクセス禁止法との比較ということについてだけ述べさせていただきますと、むしろ不正アクセス禁止法の法定刑が一年であることの方が軽過ぎるのではないかということを個人的には思っております。
 それはなぜかといいますと、不正アクセス禁止法というのはその構成がちょっと変わっておりまして、その後何をするか、不正アクセスをした後何をするかを問わず、とにかく他人のID、パスワードを使ってログインした時点で違法であるとするという、言わば実際に問題とされる行為の前段階、準備段階の行為でもって規制しているものであるという性質から法定刑が軽めに設定されているんだと理解しておりますが、そういう意味では、本来、サイトに侵入して中の情報を持ち出すといった重大な犯罪が行われた場合にも、不正アクセス禁止法で一年の懲役しか最大できないということの方がどうかという考え方もあるかと思います。
 以上でございます。
○渡辺猛之君 ありがとうございました。
 保全要請についてちょっと二つの角度から質問させていただきたいんですけれども、今回、保全要請の期間について原則として三十日以内、また特に必要があるときは三十日以内の延長ということでマックス六十日となるわけですけれども、保全要請を受けて通信履歴から実際にデータ探して保存するという作業、先ほど前田先生、最後でちょっとお触れをいただきましたけれども、プロバイダー等にとりましては大変な負担になるんじゃないかという心配がされるわけであります。今回の改正案では経費の負担等までの踏み込んだものにはならなかったわけでありますけれども。
 そこで、まず、今回提出されました刑事訴訟法改正案における保全要請の期間、これマックス六十日、この六十日ということの妥当性について三人の先生方にお伺いをしたいというのが一つと、そしてもう一つは、実際の運用に当たって、プロバイダー等の経費負担等を軽減する必要性についてどうお考えなのか、三人の先生方の御意見をお聞かせいただければと思います。
○委員長(浜田昌良君) 前田参考人、山下参考人、高木参考人の順番でお願いします。
○参考人(前田雅英君) 三十日、六十日というのは、これは、ですから、先ほどから申し上げている、こういう侵害の大きさ、それに対して捜査をしていくために保全しておいていただく時間としては私は短いんだと思うんですね。
 ただ、こういう期間というものは、やはり同じ直線上で数字を並べて比較というのは難しいんですけれども、やはり片一方で、先生御指摘のプロバイダーの負担の問題とかで決まってきた面もあると。ただ、我々がいろんな研究会とかで御一緒しているプロバイダーの大きなところは、これはログの保存というのはそんなに負担でないというような感じも、もちろん全部と言うとまたそれはミスリーディングなんですけれども、ただ、プロバイダーの世界というのは非常にいろいろおありになるというのも伺っております。
 ですから、経費負担の問題をどうするかというのは、これはちょっと私なんかの法律屋の専門外になりますのであれですけれども、もし、そこのところで手当てをしていただくことによって長い期間のログの保存が可能になるとすれば、それは国民の利益としては非常に大きいというふうに考えております。
○参考人(山下幸夫君) 元々、サイバー犯罪条約は九十日間、三か月というのを求めておりまして、実は前回出されていた法案は九十日ということだったんですが、これを今回、プロバイダーに対する負担を考慮して原則三十日、最大六十日と短くしたものです。
 ただ、日本の捜査の現状をいうと、国内犯に関していうとそんなに期間は掛からないと思うんですが、主としてサイバー犯罪条約は海外からの国際共助という場面を想定して最大九十日と言っていたと思われます。すなわち、海外から依頼された場合には、海外から証拠を送ってもらって、日本の場合はそれを全て翻訳をして、そして裁判所に令状を請求するわけですので、それにはある程度時間が掛かるということです。
 したがって、国内犯に関していうと三十日、六十日というのはほとんど考えられないと思うので、非常に短い期間で十分差押えの許可状を得ることができると思いますので、この三十日、六十日というのは、国内の犯罪についていうとほとんどそんなに必要ない。しかし、一応海外から来ることを想定して最大そこまでであるということなので、実際には非常に短く運用されるべきであると考えます。
 そして、負担については、実はこれ、野党時代の民主党が費用負担を定めた修正案を出していたことがありました。私としては、やはりこれは、もちろんそんなに負担にならないという考え方もありますけれども、例えば、じゃ、あるプロバイダーに対して一日百件ぐらい保全要請が来たとしたら、これはかなり大変な負担にやっぱりなると思うんですね。
 したがって、私は、費用負担をこれは当然やはり認めるべきであって、さっき言った通信傍受法が実はこの費用負担のことを全く書いていないために非常に通信事業者に負担を課している、逆に、負担を課しているがゆえに逆に協力を得にくくなっているという、それによって通信傍受がやりにくくなっているという面もあろうかと思うので、やはりこれをきちっと捜査としてやりたいのであれば、費用負担をした上で、負担を掛けない形で運用していく方がより捜査にとっても望ましいのではないかというふうに考えます。
○参考人(高木浩光君) 刑事訴訟法の部分につきましては、私の専門から完全に外れておりまして、特にここで述べることのできる意見はございません。
○渡辺猛之君 ありがとうございました。
 私、先ほど申し上げましたけれども、余りネットに対して詳しくなく、今回、こうやって法務委員会で質問させていただくに当たってちょっと勉強させていただいたんですが、昨年の愛知県の岡崎市立中央図書館の事件のように、多分これ、捜査機関の方も、もちろん法を整備すると同時に、先ほどの恣意的な運用の件とも関係すると思うんですけれども、やっぱり捜査する側も相当な知識を持って当たらないと多分誤りが出てくるんじゃないかなということを思うんですが、その捜査機関の専門的知識をどのように高めていくか、あるいは、どれぐらいのレベルを確保すべきなのかというところで、参考人の先生方の御意見、聞かせていただけたらなと思います。
○委員長(浜田昌良君) それでは、前田参考人、山下参考人、高木参考人の順番でお願いします。簡潔にお願いします。
○参考人(前田雅英君) これは、解釈学者のテリトリーから超えることになるかもしれませんけれども、仄聞するといいますか、警察の研究会なんかに出ていることが多いので見ていますと、やはり今は物すごいスピードで追い付いていく。各警察大学校とかそこの、教養と彼らは言いますけれども、教育の中にそういうものを組み込んで、やはり、もう一つは情報通信局というのを持っていますので、そことのつながりを持ちながらどんどんどんどん追い付いていく。ただ、まだ補わなければいけないといいますか、努力しなければいけない面があるというのは先生の御指摘のとおりなんだと思うので、これは私がそうお答えするというよりは、これを聞いている警察庁で更に頑張っていただくしかないんだと思うんですけれども。
○参考人(山下幸夫君) 愛知県の不正アクセス事例については、大変不幸なといいますか、そういう誤解の下に行われたという点、しかも身柄拘束までされたという点で大変問題があったと思うんですが、そういうことがないためにも、やはりこれは専門の技術者を警察の中に配置する、それから、最近警察庁の方では、ネット捜査については中央集権的にといいますか、警察庁と各地方自治体警察が協力してやっていくというような体制も含めて検討されていると聞いていますけれども、やはりそういう専門的な知見を持った人が捜査に必ず加わるという形で、今回はとりわけネット関係の法整備をされるわけですので、きちっと整備していただきたい、そういう人をきちっと配置して誤りがないように運用していただきたいと思っております。
○参考人(高木浩光君) 今、委員御指摘の岡崎市立中央図書館の事件のケースを考えてみますと、このウイルス作成罪が成立した場合に同様の問題というのはやはり懸念されると思います。
 その岡崎の事件についてどういうものだったかといいますと、あちらは偽計業務妨害罪に問われたもので、未必の故意があったとみなされて起訴猶予処分となったという事件でございますけれども、実名を報道されて逮捕されたということになっているんですが、やはりこの問題が難しかったのは、偽計業務妨害罪が比較的広く適用され、実際に故意でもって、DoS攻撃と言いますが、サービス不能攻撃などとも言いますが、大量のアクセスをしてサーバーを止めてしまう。これ、わざとやれば当然業務妨害に当たる。しかし、正当な目的で情報収集のために連続アクセスをしていたところ、たまたまサーバー側の不具合でもって止まってしまったという事件だったんですが、それが、捜査機関はこれは典型的なDoS攻撃だと誤解して捜査を開始したところ、そうではないということが分かったときにどうするかですね。そこで、そうなることは分かっていたようだということで未必の故意というふうに判断してしまったようですが、非常にこの未必の故意を取られるというのは危ういものだと思います。
 その点、このウイルス罪について考えてみますと、バグの話もありましたし、あるいはハードディスクを消去するようなプログラムを作って公開したときに責任がどうなるかという論点において、故意があったかどうかということが問題になるときに、やはり未必の故意を取られると考えると危ういと思います。
 その点、先ほどの解釈が一つ目なのか二つ目なのかという論点において、そもそも解釈が二つ目の方であれば、すなわち人をだまして実行させるという、そこまで含んで実行という言葉が意味しているのだとすれば、それは故意どころか、そもそも実行行為自体がないというふうに言えるのではないかと思いますので、この解釈を明確にすれば、あのような不幸な事件というのは起きにくくなるんではないかというふうに思います。
○渡辺猛之君 ありがとうございました。終わります。
○木庭健太郎君 三名の参考人の方には貴重な意見をお述べいただきまして、心から感謝を申し上げます。
 まず、お伺いしたいのは、ウイルス作成罪の新設の問題でございます。
 前田参考人と山下参考人、お二人にお伺いしたいんですが、実際にこのウイルス作成罪、いざ本当に検挙しようというようなことになった場合には、例えば、正当な理由がないのに人の電子計算機における実行の用に供する目的で、さらに、人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、またその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録に当たるのか当たらないのかなどの判断というのが非常に難しく、どういうところを基準にして検挙が行われるのか。
 例えばウイルス作成罪について言うならば、作成に至る経緯であるとか作成の方法などを示したメモなど、具体的な事実関係を踏まえて立証しないと実際検挙ってできるんだろうかというような思いもするんですが、この点について前田参考人と山下参考人の見解をお伺いしたいと思います。
○参考人(前田雅英君) ちょうど先ほど岡崎の話が出ましたけれども、あれも明らかに外形的には、まあ間違えている面はあるんですが、DoS攻撃があるわけですね。それで、じゃ誰がやったんだということでたどっていって、そこのところで最後、先生御指摘のように、客観的な資料、単に供述を取ればいいということではなくて、やはり正当な理由もそうですし、その目的、実行の用に供する目的というのも、ソフトの中身を見れば、これは本人は絶対にそんな目的ないと言ったって、それしか使いようのないものを現に使っているといえば、目的があったというふうにやっぱり認定はされるんだと思いますね。その意味で、これができてもそう簡単にどんどん立件できるかというと、確かに大変だと思います。
 ただ、先ほどもるるいろんな方から出されましたように、本当に国民の生活に困るようなトロイの木馬みたいなのがあってそれが見付かったと、それを摘発するためにはこれはどうしても要るわけですね。これがあることによって周りにどんどん広がっていくということよりは、むしろ我々もこれを使って本当に国民の生活を守れるような摘発ができるかどうか。
 ただ、それは刑事手続の原則で、正当な理由、実行の目的、これはきちっと合理的な疑いを超える程度の心証を形成する立証をしなければいけない。それは今までのやり方で、業務妨害や何かもそうなんですけれども、やってきたし、これができれば少なくとも一歩前に進むということは間違いないと思います。
○参考人(山下幸夫君) 御指摘のとおり、大変、この罪は故意それから目的が必要である。つまり、主観的な要件が必要であるということですので、結局どれだけその主観的要件を客観的な証拠から認定することができるか。
 そういう意味では、当然コンピューター、被疑者とされる人のコンピューター等を押収して、その中を分析することによって、その人の傾向というんですか、いろいろな傾向とか、どういう情報を入手しているのかとか、どういう人と付き合っているのかとか、そういうことも含めたその辺りから目的とか故意というものを認定するということになろうかと思いますので、実際にはこれかなり捜査としては大変な捜査になりましょうし、そういうもの全て、例えばもう消去されている、又は全てそのコンピューター自体が廃棄されているということもあり得ますので、証拠の収集というのは非常に難しくなる可能性があります。
 したがって、私としても、この法律ができたからといって直ちに次から次へ検挙されるということは難しいのであって、非常に捜査はかなり難しい捜査になろうかと、そのように思っております。
○木庭健太郎君 先ほど山下参考人が陳述の中でおっしゃっていただいたように、今回のこの法律、例えば一つの条文を読んでみますと、今申し上げるように、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」、これはウイルスのことなんですけれども、つまり何を言いたいかというと、今回のこの法律の条文そのものが非常に一般市民にとってよく分からないものになっていることという問題点は私はあると思っております。
 また、それとともに、高木参考人がおっしゃいましたが、例えば実行の用に供する目的の解釈にぶれが生じる。ただ、やり方としては、さっき高木参考人おっしゃったように、国会のこの議論の中でそこを一つの明確化させておくことと、その必要性も御指摘もいただきました。
 ただ、私は、国会の議論とともに、例えばやはりこういった法律を作るに当たって、正当な目的とか実行の用に供する目的、こんな文言、条文について、やはりこういった法律のときは法務省そのものも、例えばガイドラインを作成するなど、言わばこの法律の目的、趣旨含めて、条文の解釈含めて、ある意味ではその周知徹底というのを行っておかないとなかなか実際の運用上は大変なんじゃないかなという思いを強くいたしております。
 つまり、何を申し上げたいかというと、こういうときはきちんとしたものを、その後何らかの方法で伝える方法を更にやっておく必要があるというふうに私は思いますが、各参考人、三人の参考人からこの点についてお伺いをしておきたいと思います。
○委員長(浜田昌良君) それでは、前田参考人、山下参考人、高木参考人の順番でお願いします。
○参考人(前田雅英君) もうこれは木庭先生のおっしゃるとおりだと思います。
○参考人(山下幸夫君) 実は、この法案は成立した後、公布後二十日で施行するとされております。しかし、実際には、通常この種のものの法務省とかが作られる解説というのは数か月後になるのでありまして、そういう意味では、法律の施行された段階ではまだ正式なそういう解説がない状態でこれが施行される。これは極めて問題であって、本来周知期間というのはもう少し長く取るべきなんですが、最近のこの種の刑法等の改正においては非常に短い期間、この間の時効廃止だと即日施行というのもありましたですけれども、要するに非常に周知期間が短過ぎる問題があります。
 とりわけ、このウイルス作成罪と言われているものについてはいろいろ問題があることがはっきりしているわけですから、そういう解説がきちっと出されて、国民が安心してそれを理解できるようにしないといけないと思うんですが、なぜか二十日間というこの施行期間は短過ぎるのではないかという疑問を持っております。
○参考人(高木浩光君) 今委員の御指摘の点、法務省は今年の五月になりましてサイバー刑法に関するQアンドAというコンテンツをウエブサイトで公開されております。そこにバグなどは問題ございませんというような記述があるんですけれども、今日私が問題としましたような二つの解釈があって、一番目の方の解釈ではありませんということについて明確には書かれておらず、読みようによっては依然どちらとも取られるような記述になっておりますので、今あるそのQアンドAというのは少なくとも不十分であるというふうに思います。
 したがいまして、今後、是非こういった点が明確にされるものを立法府のみならず法務省におかれましても明確に出していただきたいというふうに思います。
○木庭健太郎君 今、図らずも高木参考人がバグの問題を御指摘をいただいたんですが、先ほどの陳述の中でもこのバグの問題をいただきました。
 私は高木参考人にちょっとお聞きしておきたいなと思ったのは、先ほどもおっしゃっていただきましたが、国会の議論の中で、衆議院の議論の中で、法務大臣が最初、バグの問題について、正確に言うと、重大なバグのあるフリーソフトを公開し続けた場合は、それを知った時点で少なくとも未必の故意があって、ウイルス提供罪が成立する可能性があるかという質問ですけど、これに対して一言、あると思いますと答弁されたんですね。
 これを聞かれたときに、プログラムの開発者のお一人でございますから、そういう人たちから見たら、この発言というのはどんなふうにとらえられたのかなというのをちょっとお聞きしておきたいし、その後、少し補足できちんと法務大臣おっしゃっておりますが、このあると思いますという一言を聞かれたときのどんな感じを持たれたかだけ、ちょっと御感想があれば聞かせておいていただきたいと思います。
○参考人(高木浩光君) 私は、予想していた範囲といいますか、この解釈一の方で考えられているかなと思いましたので、やはりこれはまずいので明確にしないといけないと思ったところですが、これを伝え聞いた技術者の皆さんがどういうふうに反応したかといえば、もちろんそんなばかなというふうに思われたようです。
 実際いろいろ反応を見て回っていますと、現に、これまで無償でフリーソフトを提供してきていたプログラマーの方、御専門は生物学者の方のようですけれども、そのプログラムを近々もう公開を一部停止しますというようなことを既に予告されているような方もいらっしゃって、もちろんそれは抗議の意味もあるのかもしれませんし、本当にこのような間違った解釈のまま成立するとすれば、本当にやめなくてはいけないと思われたのかもしれません。
 そういった反応は既に出ておりますので、この二番目の解釈だということを明確にして成立されれば、私としても、こちらの解釈なんであるからそういう萎縮する必要ありませんよと、これまでどおりプログラムを作って公開していけばよいのだということを私からも説明していきたいというふうに思っております。
○木庭健太郎君 最後に、前田参考人、山下参考人に、通信履歴の保全要請という問題でちょっとお聞きしておきたいと思います。
 これは議論の一つとしてあるものですから、根本的な問題なのでお尋ねしておきたいと思うんですけれども、我が国においては憲法二十一条二項で保障する通信の秘密というのは、通信履歴も含まれるというのが伝統的に解されているというようなことがございます。
 だから、今回の保全要請の制度の創設というのは、この通信の秘密というものを侵害するという根本的な投げかけをする方も中にはいらっしゃるわけでございまして、したがって、専門家の前田参考人、山下参考人のお二人から憲法二十一条二項で保障する通信の秘密とこの保全要請との関係についての見解をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
○参考人(前田雅英君) 今御指摘のとおり、基本的には通信の秘密を侵すのではないかという議論が出てくるのはよく分かるんですが、これは保全要請の後、実際にそれを押さえるにはやはり令状が要るわけですね。その意味では全く変わっていないと。保全要請はその意味で言わば強制的なものではなくて、お願いと言うとちょっと言葉は弱いんですけれども、ただ、片一方で、犯罪、先ほどのいろんな問題で出てきたものを摘発したり何かするためには、なくなっちゃったら終わりですから、取っておいていただきたいと。そのすり合わせのぎりぎりの線でこういう知恵ができているんだと思うので、私は、少なくとも憲法上の通信の秘密を後退させるものでは全くないというふうに考えております。
○参考人(山下幸夫君) かつて、先ほどから話題になっている不正アクセス禁止法制定時に、ログを法律で例えば六か月間保存するというふうな規定を作ったらどうかというような警察庁側の提案に対して、当時の郵政省は、これは通信の秘密を侵害するという理由で反対したと聞いております。
 それからすると、今回、通信履歴というのも同じようなものがありまして、確かに保全ということなので一時的に消さないようにする、その情報が捜査機関に渡るわけではない、そういう意味では辛うじてぎりぎりのところでとどまっているとは言えるんですが、しかし、私が先ほど指摘したように、内容が同時に事実上保全されて一緒に後で差し押さえられるということがあるとしたら、これはかなり通信の秘密そのものにかかわる重大な問題でありますので、しかも今回これは令状ではなく任意でやるということですので、非常にチェックがないという問題があります。
 したがって、通信内容にそれがわたらないようにするということをきちっと明確にした上で運用されないと問題が残るというふうに考えております。
○木庭健太郎君 ありがとうございました。
○桜内文城君 みんなの党の桜内文城です。
 本日は、三人の参考人の皆様方、お忙しいところ、このように法務委員会に来て陳述をしていただきまして、本当にありがとうございます。
 では、早速質問をさせていただきます。まず、記録命令付差押えに関してお尋ねいたします。
 まず、山下参考人にお尋ねしたいんですけれども、本日の陳述の中で、サイバー犯罪条約を批准することになると通信傍受法の改正につながる可能性があるという御指摘をされました。その御懸念の背景といいますか、理由といいますか、その点についてもう少し詳しくお話しいただけませんでしょうか。
○参考人(山下幸夫君) 今回、実はこの法案の中にはサイバー犯罪条約二十条にかかわる規定がないためにどうなるんだろうかというふうに心配しておったんですが、衆議院法務委員会での質疑の中で法務大臣の方から、これはもう既に検証で担保されている、すなわち検証許可状を取ることによってできるという、そういう答弁がありました。これは正直言うと、全く意外な回答でありました。
 すなわち、これは現在そういうことはされていないわけです。通信傍受法ができた後、運用上、実はいわゆる位置情報というものは検証許可状によって取得されています。すなわち、携帯電話のGPSによって通信会社の方に保存されている位置情報、これを検証許可状で取得して捜査に利用しているということはよく言われていて、これはまさに位置情報は通信ではないからという理由で検証許可状でされているわけです。
 ところが、通信履歴は先ほどからもありますようにまさに通信の内容を成すものでありまして、これをリアルタイムで収集するということは、これは通信傍受法でやらないとできないはずなんですね。ところが、サイバー犯罪条約二十条というのは、犯罪を限定することなく、どのような犯罪についてでも、それは捜査としてリアルタイムで通信履歴を取れるようにする制度をつくりなさいというふうに書いてあるわけでして、これは今の通信傍受法では対応不可能です。つまり、通信傍受法は四類型の犯罪しか使えませんので、それ以外の犯罪については傍受はそもそもできないわけです。ところが、検証許可状でやれるとなりますと、どのような犯罪でも確かにできるんですけれども、じゃ通信傍受法は何なのかということになるわけであります。
 したがって、この点はちょっと私は法務大臣は誤解されているんじゃないかと思うんですが、検証許可状でこれをやるということは非常に問題があるというふうに認識しております。
○桜内文城君 ありがとうございます。
 それと関連して山下参考人と前田参考人にお伺いしたいんですけれども、この記録命令付差押えですけれども、今IT技術というのは大変進歩しておりまして、こういった記録、記録といいますか電磁的な記録というものが、メールにしても、それから今インターネット上で音声通話ですね、これもう電話と同じように通信がなされて、かつその記録というものが、もう話したそばから記録としてプロバイダーに蓄積されていくような、そういう技術的な進歩があるわけです。
 そういったときに、日弁連のこれ二〇〇三年の意見書の方なんですけれども、今日お配りいただいているもので二十三ページには、差押えの対象となる電磁的記録の範囲まで令状に記載しろと。要は、差押えの対象物の特定をより厳格に行うべきだとの意見が掲載されておるところなんですが、今回の改正法案の中ではそこまでの特定というものが求められておりません。
 そうしますと、犯罪の捜査と無関係な電磁的記録、それもメールなり、先ほど言いました通話の記録ですとか、どんどん積み重ねられて、リアルタイムかそうでないのかという区別がなかなか付きにくくなっているのが現状だと思うんですけれども、そういったものも差押えの対象として、それも範囲が余り特定されずに無関係なものまで差押えの対象になってしまう、このような懸念を私は抱いておるんですけれども、この点について、山下参考人そして前田参考人の御意見をお聞かせいただけますでしょうか。
○委員長(浜田昌良君) 最初に山下参考人、お願いします。
○参考人(山下幸夫君) 日弁連のこの指摘というのは、やはりなるべく被疑事件との関連性を明確に令状にも記載して、それを現場で濫用されることがないようにという趣旨であえて提案しているものですが、もちろん今回の法律の中にそれがないとしても、実際には当然これは被疑事件との関連性がないものを差し押さえることはできませんので、当然その歯止めというのは法的な意味では掛かっているわけですが、実際には現場においてそれが濫用されるとかいうことがないためにどうするかという、先ほどの歯止めの問題かと思っております。
 その点については、きちっとこれはそういうことがないことを、運用上それを明確にして運用をしていかないといけないし、本当は令状についてはなるべく可能な限り範囲を明確に書いて、令状を示された人が現場でそれに対して抗議等ができるような、ある意味できちっと令状には可能な限り範囲を明確にして書くように運用をしていただきたいと思っております。
○参考人(前田雅英君) 今の桜内委員、二つ問題があると思うんです。
 一つの方は、山下参考人がお答えになったことと関連してその問題だと思うんですけれども、差押えの対象をどこまで特定するか。それは特定した方が望ましいんですけれども、逆に、そうすると十分な捜査に必要な資料を取りはぐれるというか、射程が狭過ぎて真相の究明に害が生ずると。そのバランスで、これは差押えの対象に関しては、ほかの電磁的記録を離れてずっと判例が積み上げられて、この程度までということで法律の知恵でやってきているんだと思います。今回のところは、やはり電磁的記録に関してはこの程度のもので書いておけばそんなに濫用の危険はないという法務省の御判断なんだと思います。私は、そこにそんな不合理なものは見られないと。
 もう一つは、技術の発展で、リアルタイムで電話までというと、電話を押さえるというと通信傍受とのつながりみたいなものが非常に不明確になる。僕らはまだIP電話とか使ったことがないので、その実感というのはちょっと弱いんですけれども、将来的にはそういう問題も必ず起こってくるんだと思います。
 ただ、今の時点では、やっぱり電磁的記録として明確に残ったものと、それからリアルタイムで音声でやり取りしている通信傍受の問題とは分けられるのかなという感じはいたしております。
 以上でございます。
○桜内文城君 ありがとうございます。
 今、前田参考人から通信傍受との関係についても御指摘いただいたところなんですが、今日配付していただいておりますレジュメの一番最後に通信傍受との比較論というのが、これは保全要請なり記録命令付差押えとの関係で、最後の行に書いてあるんですが、先ほどお時間の関係か、ほとんど言及がなかったものですから、その辺について参考人の御意見をお聞かせいただけませんでしょうか。
○参考人(前田雅英君) 実は、今委員が御質問になった点が私もいろいろ勉強して気になったということで、ただ、通信傍受とこの問題はやっぱり結論としては分けて考えるべきだと。
 通信傍受、先ほど出てきましたけれども、検証でやっていたわけですね。それを今度非常に厳しい要件でやって、また、さきの費用負担の問題とかでなかなか通信傍受進まないという問題あります。それが進まない方がいいことだというお考えもあるし、いろいろあると思うんですけれども、通信傍受と同じような要件、似ているから、それと同じような要件で差押えの書き込みとかをしなければいけないとは必ずしもならないのではないかというふうに考えているということを申し上げたかったんですね。
 理由は、やっぱり少なくとも通信傍受というのは、将来にわたって何が起こるか分からない、もう同時進行でとか、将来のことを含む捜査になってきますね。それに対して、これはもう既に電磁的記録としてあるものを押さえるかどうかということで、今のところでは分けられるんではないかという感じを持っているということでございます。
○桜内文城君 ありがとうございます。
 技術の発展ということを申し上げたかったという点は、ちょっと私の方から質問の補足をさせていただきますと、今通話の記録というのは、もちろん普通の電話のようになされたりする場合も多いんですけれども、例えば、これは動画でありますけれども、ユーストリームですとかそういったものは、リアルタイムで中継をしながらその記録がそのままサーバー上に残されていって、仮にそういったのを捜査するというのは余り考えられにくいんですけれども、インターネット上の話ですので、視聴者を限定するとか、いろんなそういった通信の秘密を守ろうとするやり方はあるのかもしれませんけれども、こういったものが、仮にログの保存要請をした上で、後ほどになって、これはどうも怪しいからということで、記録が端からなされているものですから、これを差し押さえていくというようなことになりますと、リアルタイムなのか記録なのかというところが、境目がやや不明確になってきているところが技術上の発展に伴って生じているんではないのかなという懸念を抱いた次第でございます。
 もう一つ、百七十五条について前田参考人にお伺いいたします。
 情報がわいせつ物なのかという御指摘がございました。それは解釈上いろいろと解決の手段あると思うんですけれども、もっと広くわいせつの解釈、わいせつという概念の解釈といいますか、昔から大変広くて問題があるとも言われたりしておるところでございますけれども、実際、現実としてネット上にはんらんしておりますわいせつと思われるような情報、これとても大変いっぱいある話でして、これは解釈論とは別になるんですけれども、実際の法の執行という意味でわいせつに該当するのか否かという点がなかなかこれもう判断付きにくい現実というのがあると思うんですけれども、その点についてはどのようにお考えになるでしょうか。
○参考人(前田雅英君) その問題は、量的には少なかったのかもしれませんけれども、昔からずっとあったわけですね。ビデオが何だとかいって全部きっちり取り締まられているかと。ところが、ネット社会になって、外国から入ってくるものなんかも含めて、子供とか茶の間に入ってくる画像として性器が露出しているようなものがいいのかというのは、よりシリアスな問題が起こっていると思います。
 それは、いろんな方向で力が加わって、だからわいせつの取締りというのはもう限定せざるを得ないというふうに考えるのか、やっぱりそれに対応するきちっとした対策を考えるべきなのか。基本的にはやっぱり国民の決める問題であり、国会でどう考えていっていただくかという問題だとは思いますけれども、ただ、ややパッチワーク的ではありますけれども、現実には余りにもひどいものを押さえるという形で、全部その法執行の対象にするのは不可能なんだと思いますが。決して、一罰百戒というニュアンスで取られるとまずいんですが、やっぱり余りにもひどいものは押さえることによって、今までずっと続いてきた性犯罪に関する秩序はある程度は保たれていると。
 それに対して、ネット社会というのは非常に大きな波、津波みたいなもので掛かってきているということがあるかもしれないですね。やっぱりそれは、そういうものについて、子供たちに何を見せるかというようなことで、それは保護法益ちょっと別になりますけれども、そういうものも含めて国会で御審議いただく、お考えいただく問題かと思っております。
○委員長(浜田昌良君) おまとめください。
○桜内文城君 ありがとうございました。
 最後に、今のに関連して一つだけお伺いしたいのが頒布の概念ですね。若干販売と整理されたところですけれども、これも処罰範囲と関連してくると思うんですけれども、この頒布という文言をこういうふうに統一されたことについて、最後に御意見お聞かせください。
○委員長(浜田昌良君) 前田参考人、簡潔にお願いします。
○参考人(前田雅英君) 頒布という概念が、非常に難しくて議論があったところですけれども、その意味で、こうやって統一したということですっきりするのではないか、もう一つは、これで処罰範囲が広がるのかというと必ずしもそうではないというふうに考えております。
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 参考人の三人の皆さん、本当にありがとうございました。
 まず、ウイルス作成罪にかかわって、それぞれに何点かお聞きしたいと思うんですが、まだ作成をされた段階でどのような被害をもたらすか分からない、しかもまだコンピューターの中にあるものを処罰することは内心の自由を侵すことになるんではないかという議論があります。
 これに対して、かつ、非常に恣意的な捜査も行われるんじゃないか、そういう危険性が増すんじゃないかという指摘に対して、実際は、実害が出てから遡って作成者に当たってそれを処罰することになるであろうというような答弁もありましたし、先ほど前田参考人からもそういうことになるだろうというお話がありました。
 ただ、当時法案が最初に出されたころの少なくとも与党幹部の方からは、例えばサリンのように、使ったら重大な被害が出るものを使うまで処罰しなくていいのかということで、むしろ使われる前に処罰することが必要だから作成罪が要るんだという御説明があったと思います。
 私はちょっとこれは矛盾しているなと思うんですが、やはり内心の自由を侵すというようないろんな危険性があるということを考えるならば、そして実際は被害が起きてから遡るという捜査が行われることが多いということであるならば、むしろ提供とか供用の段階で処罰をする、そして、今処罰ができないような例えば暴露ウイルスなどについては、そういう犯罪類型もつくっていくというようなことで対応すれば懸念等も解決をするんではないかと、こう思うんですけれども、この点、前田参考人と山下参考人にお聞きしたいと思います。
○参考人(前田雅英君) 御質問ありがとうございます。
 おっしゃる御懸念といいますかお考え、非常によく分かるんですけれども、全部が起こってから遡った捜査しかできないかというと、そうではなくて、やはり意図的に人をだまして、パソコンをコントロールして情報を取り出すようなものであるということが、作られたということがはっきり明確な証拠で立証できれば、それはやっぱり処罰すべきなんだと思います。
 ただ、先ほど申し上げたのは、やっぱり客観的な証拠なしにそういうことに内心まで踏み込んでなんてことはあり得ないわけですから、そこから遡っての捜査しかあり得ないんですが、客観的にそういうデータが出てくれば、これは処罰していいんだと思います。これは、データが破壊されなければ処罰する必要がないというと、やっぱり国民の目から見たら、いや、事前に、そんな自分のハードディスクの中身ばっと外に出してしまうとか、自分のアドレスが全部分かっちゃうみたいなものを作って、分かっていて放置したんですかということだと思います。
 サリンというのは人の身体に直接攻撃を加えるものですが、さっき社会法益と申し上げたのは、ある種それに近いような利益を国民が失うのではないかという気持ちをほぼ共有し出してきているんじゃないかと私は思うんですね。これはいろいろ御意見あると思うんですけれども、生活していく上で、ネット社会で安心してコンピューターが使えないということになると非常に困ると。先ほど議論、明らかになりましたように、これは人をだましてそういう誤操作をさせるためのウイルスということははっきりしているんですね。それがはっきりしたら、それを作った人を処罰するのは私は当然だと思います。
○参考人(山下幸夫君) 日弁連の意見書においても、作成については当面すぐに法制化しないで、提供、供用をまず法律化した上で、運用を見て、その後作成についても処罰するかどうかを検討するということも考えられるというふうなことは述べております。
 一つは、作成というのはまさにプログラムをする行為そのものでありまして、これは一種の表現の自由に近いというんですけれども、どのようなプログラムをするのも自由であるという考え方はあり得ると思うものですから、それが直ちに犯罪になるということに対するやはり抵抗とか懸念というのが恐らくこの世の中にある、とりわけプログラマーの方々から見れば、プログラムをする行為そのものが直ちに処罰の対象になるということに対して強い抵抗があるのかと思うんですね。
 しかも、プログラムをする人の中には、まさにプログラムをすることが、何といいますか、楽しみというんですか、それが好きでやっているという方がいらっしゃって、目的を持って本当にやるのかどうか、又は作った後に目的、まさに供用目的が出てくるということもあり得るかもしれませんし、そういう意味では、もちろんこれは目的犯ですから目的がないと罪にならないんですけれども、そこは、作成しただけで犯罪になるということはいろいろ問題がやはり私はあろうかと思いますので、本当はそこは分けて規定する、又は作成は今回規定しないとか、そういう選択肢はあったかと思うんですが、今回、これは全部一緒にまとめて法律にするというのが今回の法案であるということで、それについてはやっぱりまだ懸念が示されることはある程度理解はできるというふうに思っております。
○井上哲士君 同じようなことを高木参考人に聞くんですが、とりわけプログラムを作る皆さんにとってみれば、コンピューターの中で作っている行為自身は表現の自由だということも言われる方がいらっしゃいます。最初はどこかで使ってやろうと思って作り始めて、やっぱり心が落ち着いて、それは自分の趣味にとどめておこうとかというケースもあろうかと思うんですが、その際にどういうことでその人が作っていたかというふうなことが問題になってきますと、非常にやはりまた見込み捜査とかということにもつながるという懸念もあろうかと思うんですが、そういうプログラムを作る側の皆さんとしてのこの点での御意見はいかがでしょうか。
○参考人(高木浩光君) 私も、最初は作成を処罰する必要はないのではということを思いましたけれども、刑法学の先生から説明をいただきますと、これは文書偽造罪とパラレルにつくられているんですよと、すなわち、行使の目的がないけれども偽造文書を作ったというときには犯罪には当たらないのだという説明を受けますと、なるほど、そういうふうに考えるんですか、ああそうですかというふうに理解するしかないと思いました。そういう意味では、実際のところは、これをウイルスとしてばらまくという目的が明確に客観的に証拠がある場合にだけ犯罪として実際に捜査されるんだろうとすれば、技術者としても納得がいくところではあります。
 ただ、気になりますのは、そうした文書偽造罪とパラレルだ、あるいは、さらには通貨偽造罪とパラレルだという説明を受けたときに感じる違和感というのは、偽造文書というのは作った時点で明らかに偽造文書かそうでないかが明確に決まりますし、通貨においてはもう当然にそうであるわけで、どのように相手に渡したかによってそれが偽造通貨になったりならなかったりとか、偽造文書になったりならなかったりということはあり得ないのに対して、この不正指令電磁的記録の場合は、相手をだますような説明の下で提供すると該当し、そうではなくて、これはハードディスクを消去するプログラムですよと言って渡せば該当しないというような性質のものであるとすると、そもそも文書偽造罪等とパラレルという考え方には何か無理があったのではないか、綻びがあったりはしないかということが技術者からすると直感的に気になるところで、それが当初から出ていた不安の声の根本的なところかなというふうに思います。
 その部分に関しては、今日意見として述べさせていただいたどちらの解釈かを明確にすればある程度懸念は払拭されると思いますし、今日最後に意見で述べた、作った人は正当な目的であったけれども、それを他人が悪用したケースについて不正指令電磁的記録該当性はどう考えるかというところを突き詰めて考えていくと、今の御質問へのお答えになるかなというふうに思います。
 以上でございます。
○井上哲士君 ありがとうございました。
 この法案の立法趣旨についてそれぞれ参考人からお話があって、人々をだまして実行される行為、その目的でのものを罰するものだと、こういうお話がありました。
 一方で、例えばだますといっても、ちょっとしたいたずら程度のものを出すプログラムもあれば、ハードディスクを破壊してしまうような大変重大なこともありますから、どこからを罰するかという問題もやっぱりあろうかと思うんですね。その辺が逆に非常に捜査当局の恣意的な運用にもつながるんではないかなという思いもしているんですが、その辺の、どこら辺を可罰的違法性とするのかという基準等については、それぞれの参考人どうお考えかと。
 特に高木参考人には、先ほどの岡崎の図書館の話もあったんですが、あのときに三万三千の不正アクセスと言われたけれども、一日二千回程度といえばネットの専門家からいえば全く当たり前のことだということも出ておりました。つまり、ネット専門家から見ればごく当たり前のことでも相手から見れば大変なことだったり、サーバーの容量によっても違ったりすると思うんですが、その辺の点で、どの辺りを可罰的違法性と線引きをしていくのかという点で、特にプログラムの専門家として御意見をいただけたらなと思います。
 それぞれからお願いいたします。
○委員長(浜田昌良君) それでは、高木参考人、山下参考人、前田参考人の順番でお願いします。
○参考人(高木浩光君) お答えします。
 岡崎の事件との比較という点でいえば、先ほど来述べておりますように、一つ目の解釈をするか二つ目の解釈をするか。
 一つ目の解釈をした場合には、委員御指摘のとおり、捜査側の恣意的な運用で、警察官が情報技術に無知であるがゆえにこれは非常識なプログラムだと思ってしまうかもしれません。しかし、二番目の解釈の方、すなわち相手をだます意図があるという解釈であるというふうにすれば、それをさすがに客観的に確認するというのはそれなりにハードルがあるだろうと思います。それでもなお境界領域にあるケース、境界ケースとしては、ジョークプログラムのようなものをどう考えるかという辺り、それからスパイウエアまがいの宣伝プログラムですね。事業者が営利目的でもって若干人をだましてお金を取るというような場合が、果たしてこちらのウイルス罪の方で処罰するのかどうかという辺りが微妙な論点になってくるかと思うんですが。
 いずれにしても、悪質なものはそれは処罰して当然かと思いますし、残るのはジョークプログラムの辺りかなと思いますが、どうなんでしょうか、その辺りがうまく運用ができるかどうか、今の時点で私も何ともその点については分からないというところでございます。
○参考人(山下幸夫君) この不正指令電磁的記録については、条文上、不正なというものが入っております。この不正なというのは、要するに違法なというふうに言い換えてもよいと思うんですが、結局、違法だと言える程度の意図に沿うべき動作をさせないとか、意図に反する動作をさせるものということになりますので、でも違法かどうかというのは確かに程度問題ですので、私としては、ここは若干やっぱり分かりにくいというんですか、非常に現場での判断によって多少差が出る部分だと思うので、そこの明確性というところが本当は問われているんですが、違法性というふうに言ってしまうと結局ケース・バイ・ケースということになりますので、若干そこはやはり運用上の、恣意的な運用も含めてそういうこともあり得る余地があると。そこを本当はもう少し明確化すればよかったと思うんですが、まさに今言われたジョークプログラムのようなもの、これも意図に反するということなので、そういうものはもちろん本来入るべきでないことは明らかだとは思うんですが、条文上、それがどれだけ明らかになっているかという点については、私は若干の疑問を持っているところであります。
○参考人(前田雅英君) この不正なというのはどうしても規範的基準ですのでね。ただ、先ほど申し上げたんですが、あらゆる構成要件はその意味では規範的で、髪の毛一本抜いても傷害なんですかと。でも、髪の毛一万本抜けば傷害なんですね。じゃ、何本から傷害かというのは法律で書けるかといえば、それは書けないんですよね。
 今回のものも、やはり国民の目から見て処罰に値するだけの違法性があるもの、そこのところで捜査官が恣意的にそれをつくり上げて基準を動かすというようなことがどれだけあり得るかということだと思うんですけれども、私はやっぱり、それが事件化して、いろいろな段階で、起訴の段階、裁判の段階、司法全体の中でのチェックが働いて、マスコミのチェックも入ります、そういう中で最終的には国民の目から見てこの程度のことをやればウイルスと言われたってしようがないでしょうというのがだんだん形成されていって、初めはやっぱり明確に、先ほど何回も御説明ありましたトロイの木馬型のものとか明確なものから徐々に広がっていくんだと思いますね。常に新しいものが出てきますから、この領域は、特に初めからきちっと書き込むというのは難しいと思います。
 ただ、だから今これを放置していいかと。そうではなくて、やっぱり動かすことがまず第一ということだと私は考えております。
○井上哲士君 時間ですので、終わります。
 ありがとうございました。
○委員長(浜田昌良君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。本委員会を代表して厚く御礼申し上げます。
 御礼の気持ちの一つとして、ここで皆様に、三人の参考人にもう一度拍手をお願いしたいと思います。(拍手)
 本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後零時二分散会