第190回国会 法務委員会 第10号
平成二十八年四月二十六日(火曜日)
   午前十時二分開会
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   委員の異動
 四月二十二日
    辞任         補欠選任
     石井 正弘君     溝手 顕正君
 四月二十五日
    辞任         補欠選任
     柳本 卓治君     三木  亨君
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  出席者は左のとおり。
    委員長         魚住裕一郎君
    理 事
                西田 昌司君
                三宅 伸吾君
                有田 芳生君
                矢倉 克夫君
    委 員
                猪口 邦子君
                田中  茂君
                鶴保 庸介君
                牧野たかお君
                丸山 和也君
                三木  亨君
                溝手 顕正君
                江田 五月君
                小川 敏夫君
                加藤 敏幸君
                真山 勇一君
                仁比 聡平君
                谷  亮子君
       発議者      西田 昌司君
       発議者      矢倉 克夫君
   国務大臣
       法務大臣     岩城 光英君
       国務大臣
       (国家公安委員
       会委員長)    河野 太郎君
   副大臣
       外務副大臣    武藤 容治君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        櫟原 利明君
   法制局側
       第五部長     加藤 敏博君
   政府参考人
       警察庁長官官房
       総括審議官    村田  隆君
       警察庁長官官房
       審議官      斉藤  実君
       法務省人権擁護
       局長       岡村 和美君
       厚生労働省社会
       ・援護局障害保
       健福祉部長    藤井 康弘君
   参考人
       東京大学大学院
       法学政治学研究
       科教授      川出 敏裕君
       弁護士      西村 幸三君
       立命館大学特別
       招聘教授
       奈良女子大学名
       誉教授      浜田寿美男君
       立命館大学大学
       院法務研究科教
       授        渕野 貴生君
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  本日の会議に付した案件
○刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(第百八
 十九回国会内閣提出、衆議院送付)(継続案件
 )
○政府参考人の出席要求に関する件
○本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消
 に向けた取組の推進に関する法律案(愛知治郎
 君外二名発議)
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○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 昨日までに、石井正弘君及び柳本卓治君が委員を辞任され、その補欠として溝手顕正君及び三木亨君が選任されました。
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○委員長(魚住裕一郎君) 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、四名の参考人から御意見を伺います。
 本日御出席いただいております参考人は、東京大学大学院法学政治学研究科教授川出敏裕君、弁護士西村幸三君、立命館大学特別招聘教授・奈良女子大学名誉教授浜田寿美男君及び立命館大学大学院法務研究科教授渕野貴生君でございます。
 この際、参考人の方々に一言御挨拶申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見を賜り、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 議事の進め方について申し上げます。
 まず、川出参考人、西村参考人、浜田参考人、渕野参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたします。
 それでは、川出参考人からお願いいたします。川出参考人。
○参考人(川出敏裕君) 皆様、おはようございます。
 まず最初に、このような機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
 私は、今回の法案の基となりました答申を決議しました法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会に幹事として参加をいたしましたので、特別部会の議論を踏まえまして、法案に賛成の立場から意見を申し上げたいと思います。
 また、時間も限られておりますので、本日は、通信傍受法の改正案に絞ってお話をさせていただきます。
 今回の改正案の主たる内容は、通信傍受の対象犯罪の拡大と、通信傍受の手続の合理化、効率化です。
 まず、対象犯罪の拡大の点ですが、この当否については、それが憲法上許されるのかという観点と、仮に合憲であるとしてその拡大に合理性があるのかという二つの観点から考えてみる必要があると思います。
 まず第一の点ですが、これは、通信傍受が通信の秘密やプライバシーを侵害するものであることから、それが憲法十三条及び二十一条二項に反しないと言えるためには、それに見合うだけの重大な犯罪でなければならないという観点から問題とされるものです。
 通信傍受法の制定前に検証許可状によって電話傍受したことの合憲性が問題とされた事件において最高裁は、電話傍受は一定の要件の下では捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであるとした上で、それが憲法上許容されるための要素の一つとして、重大な犯罪に係る被疑事件についてなされたものであるということを挙げていました。この決定は覚醒剤の営利目的譲渡事件を対象としたものでしたので、判例上は、覚醒剤の営利目的譲渡は電話傍受の合憲性を認め得る重大な犯罪であるという立場が取られていることになります。
 通信傍受が合憲であるためには対象犯罪が重大なものでなければならないとする考え方は、通信傍受法の下においても同様に妥当します。
 そして、通信傍受法は、判例上合憲性を認め得るとされた覚醒剤の営利目的譲渡を含む現在の四種類の犯罪は、この意味での犯罪の重大性を満たすものだという前提で制定されたものであるわけですから、そうだとすれば、少なくとも、これらの罪に匹敵するような重大性を持った犯罪に対象を拡大したとしても合憲と言い得ることになります。
 そして、この意味での犯罪の重大性は、要は、通信の秘密やプライバシーの権利を制約しても、その事実を解明し、犯人を処罰すべき必要性が認められるかどうかによって決まるわけですから、重大な犯罪に当たるか否かは、罪名や法定刑だけで判断されるものではなく、その犯罪が国民の権利利益を侵害する程度が大きいかどうかという観点から、その社会的有害性や危険性をも考慮して判断されるべきものだと言えます。
 その観点から見ますと、今回対象犯罪として加えることが予定されている罪は、いずれもそれに見合ったものであると言えると思います。これは、暴力団によってその意に沿わない行動を取る一般市民を標的にその生命、身体に対して危害を加えられる事案はもちろんのことですが、多数の国民の老後の蓄えを奪うような振り込め詐欺の事案、さらには、児童の心身に計り知れない危害を及ぼす児童ポルノの組織的な製造、提供事案などが、侵害される権利利益の性質やその侵害の程度から見て、薬物の密売事案と比べて重大性に劣るということは到底言えないと思います。
 もっとも、例えば窃盗や詐欺などについては、その罪名だけからはこの意味での重大性を持たない軽微な事案が対象に含まれる可能性があります。そこで、改正法案では、重大な犯罪が対象であることを明確にするため、新たに対象犯罪に加えられる罪については、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものという組織性の要件を付加しています。
 特別部会における議論では、こういった要件を付加しなくても、数人共謀の要件と補充性の要件を満たす場合というのは、実際には組織によって行われるものに限定されるのだという意見もありました。現実にはそうであるのかもしれませんが、しかし、そうなるという保証はありませんので、それを法律上も担保するためにこの要件が入ったという経緯がございます。
 他方で、これだけでは組織犯罪に限定するには不十分であり、例えば組織的犯罪処罰法でいう組織や団体の定義を適用すべきだという意見もありました。しかし、組織的に行われる犯罪の中には、ここでいう組織や団体の定義には当てはまらない形態もありますし、また、改正案の組織性の要件というのは、捜査機関として傍受令状を請求する時点で疎明ができるぎりぎりの線を規定したものです。したがって、これ以上のことを要求すると傍受制度自体が機能しなくなるおそれがあります。また、実際問題としても、単発に行われる共同正犯のような軽微な事案を外すという点からは、今回の改正案の要件で十分であろうと思います。
 以上のように、今回の対象犯罪の拡大は憲法に適合したものであると言えると思いますが、その上で、次の問題は、現行法が四種類の罪に限定していることとの関係で、対象犯罪を拡大することに合理性があるのかということです。
 現行法上、対象犯罪が四種類の罪に限定された経緯を見ますと、政府提出法案では、一定の重罪と組織的に敢行されることが多い犯罪を広く通信傍受の対象としていたのですが、その時点では通信傍受制度を導入することへの反対論が強かったということもありまして、国会審議において、その当時の犯罪情勢に照らしてこの捜査手法が必要不可欠と考えられる最小限度の範囲に限定されたという経緯をたどっております。四種類の罪の中に、その当時深刻な問題とされていた集団密航が含まれている点にそれはよく表れています。
 そうであるとしますと、その後の犯罪現象の変化を踏まえて、既存の対象犯罪に匹敵するだけの必要性が認められる犯罪を通信傍受の対象に加えることは十分に合理性が認められるはずです。そして、振り込め詐欺事案を典型として今回対象犯罪に加えるものとされている罪については、現時点において、この意味での必要性が認められると言えると思います。
 以上が対象犯罪の拡大の問題です。
 次に、通信傍受の手続の合理化、効率化の方に移ります。
 現在の通信傍受は、通信事業者の施設で事業者の立会いの下にリアルタイムで行う形になっています。このことが捜査機関、事業者双方にとって大きな負担となっているということが特別部会のヒアリング等でも紹介されました。そして、負担が大きいということだけならまだしも、それが通信傍受に対する事実上の障害となっているとの指摘もなされています。例えば、深夜に傍受を行うということは立会人の確保という観点から困難であることは容易に想像が付くところですし、ましてや、二十四時間体制で傍受を行うのは事実上不可能です。また、傍受を行う場所の準備や立会人の確保のためには、捜査機関と通信事業者との間での協議と通信事業者側の準備期間が必要となりますので、緊急に傍受を行う必要が生じたとしてもそれには対応できないということになります。
 こうした点を考えますと、これまでは、本来傍受できたはずの犯罪関連通話が傍受できないままに終わっていた例が少なからずあったものと推測されます。しかし、傍受の必要性があり、かつ法律上の要件が備わっているにもかかわらず事実上の理由から傍受ができない、実施できないというのは適当ではありませんので、それに対しては何らかの対応をする必要があると思います。
 これに対しては、他方で、通信事業者の施設で事業者の常時立会いの下にリアルタイムで傍受を行うことが必要とされていることにより運用上通信傍受の実施が抑制され、そのことが補充性の要件を担保してきたのであるから現在の制度を維持すべきだという意見もあります。
 しかし、通信傍受法で求められている補充性の要件というのは、通信傍受以外の捜査方法によっては犯人の特定や犯行状況、内容の解明が著しく困難であるということを意味していまして、事実上の制約から実施を差し控えることは補充性とは全く関係がないことです。この意見は、傍受の実施は少なければ少ないほどよいという考え方を背景として、誤った要件解釈を行っているものと言わざるを得ないように思います。
 そこで、さきに述べた問題を解決する必要があるわけですが、今回の改正法案では、そのために、大きくは三つの点で新たな傍受の仕組みを設けるものとしています。第一に、一時的保存による傍受の仕組みをつくり、捜査機関がリアルタイムではなく一旦保存された通信を事後的に再生していくことができる形も取れるようにしています。それから第二に、通信事業者の施設で傍受をするのではなく、通信事業者から通信を送信させ、捜査機関の施設でそれを傍受することができる形を取り入れています。第三に、特定電子計算機を用いた捜査機関の施設での傍受については、それを立会いなしで行うことができるものとしております。
 こうした三つの新たな傍受の方法を導入することについては、それぞれに問題となり得る点がございますが、ここでは、最も多くの懸念が表明されています最後の立会いなし、立会人なしの傍受の問題について意見を申し上げたいと思います。
 通信事業者による立会いをなくすことについては、これにより不適正な傍受がなされるのではないかという懸念が表明されております。この点につきましては、そもそも現行法の下で立会人にはどのような役割が期待されており、それが今回の新たな仕組みによって代替し得るのかということが問題となります。
 立会人の主たる役割は、通信の外形的な状況についてチェックすることです。具体的には、第一に、傍受のための機器を接続する通信手段が傍受令状により許可されたものに間違いないのかどうか、第二に、傍受令状により許可された傍受ができる期間や時間等が遵守されているか、第三に、傍受すべき通信か否かの該当性判断のための傍受、いわゆるスポット傍受が適正な方法で行われているか、第四に、傍受をした通信について全て録音がなされているか、この四つの点がチェックの対象になります。
 これが今回取り入れられることになる新たな仕組みによって代替できるのかということですが、まず、一点目と二点目については、新たな仕組みの下では通信事業者が傍受令状によって許可された傍受実施期間内において令状で対象とされた通信手段を用いて行われた全ての通信を暗号化した上で捜査機関の施設にある特定電子計算機に送るということになりますので、これは、通信事業者自身によってこの二つの点の適正は担保されることになります。
 それから四点目についても、特定電子計算機は傍受ないし再生させた通信をそれと同時に全て自動的に暗号化して記録するように設定されておりますので、この点も代替し得るということになります。
 また、三点目のスポット傍受のチェックについても、特定電子計算機にスポット傍受の形でしか傍受ないし再生を行うことができない機能を装備することが予定されているというふうに伺っておりますので、これにより代替が可能となります。
 更に言いますと、現行法の下でも立会人は通信の内容を聞くことはできませんので、立会人がなし得ることは外形的にスポット傍受と思われる措置を捜査機関が行っているかどうかのチェックにとどまります。スポット傍受の適正さを担保する核となるのは、むしろ傍受の経過が全て記録されることによりそれを事後的に検証できるということにあるわけでして、この点は新たな仕組みの下でも担保されておりますので、立会人がいる場合と差異はないと言うことができます。
 以上が外形的な状況のチェックということですが、それと並ぶ立会人のもう一つの役割は、傍受の終了後に裁判官に提出する記録媒体を封印することです。この趣旨は、記録の改ざんを防ぎ、傍受が行われたか否かを事後的にチェックできるようにすることにあります。これについても、新たな仕組みの下では、特定電子計算機が傍受をした通信の全てと通信の経過を自動的にかつ暗号を掛ける形で改変できないように記録することになっておりますので、封印に代わる機能を果たし得るということになります。
 以上のとおり、現行法の下で想定されている立会人の役割は新たな仕組みによって代替し得るものと考えられますが、これに対しては、立会いには人の目があることにより捜査機関が違法行為を行いにくくなるという事実上の効果があり、立会いを廃止することによってそれが失われてしまうという批判もあります。こういった事実上の効果は法律が立会いの機能として予定したものではありませんが、立会いがそうした効果を持つ、そのこと自体はそうであろうと思います。
 そこで、立会いをなくすことによってこうした抑止効果がなくなることをどう考えるかということが問題となりますが、その前提として、こうした抑止効果、そこで抑止が想定されていた違法行為とは一体何であるのかということを具体的に考えてみる必要があるだろうと思います。
 まず、新たな仕組みの下では、そもそも現在立会いによって事実上抑止されると想定されている違法行為自体が想定できなくなる場合があります。例えば傍受期間の不遵守といったことは、これは、先ほど申し上げましたように、通信事業者が傍受令状によって許可された傍受実施期間内の通信だけを送信しますので、そもそもあり得ないということになります。
 さらに、違法行為をしても無意味となるという場合もあります。例えば、指定された特定電子計算機に他の電子計算機を接続することによって通信事業者から伝送された通信を二重に傍受するということ、これは違法であるわけですが、こういうことをやったとしても、暗号鍵というのは特定電子計算機でしか利用できないようにする技術的措置が施されておりますので、捜査機関は二重に傍受した通信を復号化することができず、そういったことをしても意味がありません。したがって、そういう違法行為というのはやらないだろうということです。
 それから、問題はそれ以外の場合ですが、例えば無関係な通信の傍受といったことですけれども、これも、先ほど申し上げましたように、傍受をした通信の全てと傍受の経過が自動的に記録され事後的に検証可能である以上、その過程で捜査機関が違法行為をすれば当然に発覚するということになりますので、そのことが立会いがなくとも抑止効果として機能するであろうと思います。
 以上のとおり、新たな仕組みの下では立会いをなくすことが不適正な傍受につながることはないという理解の下に特別部会でも合意が得られております。もちろん、それは暗号化や特定電子計算機が想定どおりに機能するということを前提とするものですので、そこが担保される必要がありますが、特定電子計算機については仕様書が公開されると伺っておりますし、さらに、改正法の下ではこうした新たな仕組みを使った傍受を行うかどうかも裁判官の審査対象になりますので、それを通じて装置等の適正さが担保されるということになると思います。
 早口でしたが、以上で終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 次に、西村参考人にお願いいたします。西村参考人。
○参考人(西村幸三君) 私は、平成十三、四年頃から闇金融対策や振り込め詐欺対策に関わってまいりましたが、やくざ同然の闇金融業者と対峙し続けてきた中で、余りの悲惨な被害に目を覆うしかないような経験を何度も味わいました。
 法外な利息により膨大な借金を背負わされるだけではなく、その過酷な取立てから家族関係を壊されたり、身も心も追い詰められ、実際に亡くなった方もいました。また、私自身も、闇金融業者から脅迫まがいの暴言を受けたことは一度や二度ではありません。こんな理不尽な暴力がまかり通るのかと憤りを感じると同時に、組織犯罪の陰湿さ、その隠蔽性の高さも実感したのです。
 そして、このような被害を少しでも減らしたいとの思いから、携帯電話不正利用防止法の立法の必要性も訴える活動もしてきました。それでも、昨今の情勢でも被害が減っていきません。逃げ得を決め込む組織犯罪集団を上層部まで摘発し、被害を元から断つにはどうすればよいのか、私自身の経験からずっと問題意識を持ち続けてきました。
 現在、私は、日弁連の民事介入暴力対策委員会幹事も務めておりますが、本日申し上げることは、所属する組織としてではなく、あくまで個人の知見と経験に基づき、犯罪組織の壊滅のために何が必要なのか、どうすればよいのかといった観点から、主に改正通信傍受法について御意見を申し上げたいと思います。
 振り込め詐欺対策を始めとする特殊詐欺は、認知件数、被害総額共に増加傾向にあります。被害者の多くはお年寄りです。家族を思う心に付け込んで老後の資産を奪い、あるいはまだ未熟で弱い若者に恐怖心を植え付け金品を詐取するなど卑劣な犯罪で、その被害は深刻です。また、振り込め詐欺被害に遭われたお年寄りが家族から嘆かれ、叱られ、被害を申告することすらつらく、後悔でさいなまれて心が折れてしまう事例も見てきました。幸せだった老後が、お金も家族関係も奪われ、残された人生そのものが奪われてしまうのです。
 犯罪組織から追い込まれたある家族の悲劇を私は忘れることができません。知的障害を持ったお嫁さんが闇金に手を出してしまい、追い込まれましたのをおしゅうとめさんがかばい、二人で約七十件の闇金から恐喝された事例がありました。怖くて家に帰れないというので日中は私の法律事務所に居続けてもらい、励ましながら、私自身も脅迫を受けながら何日も闇金業者に電話を掛け続け、ようやく脅迫電話が止まってきたので、もう大丈夫ですよと言って帰っていただいたその翌日の朝におしゅうとめさんが脳溢血で亡くなっていました。御主人から掛かってきた電話口での号泣ばかりは、今思い出しても胸が締め付けられます。何とか救えたと思った命が救えなかった、今でも思い出すたびに無念でなりません。
 このような弱者を食い物にする振り込め詐欺等の犯行を行うグループは、リーダーや中枢メンバーを中心として、掛け子や受け子など役割を細分化して分担し、組織的に犯罪を敢行しています。出し子や受け子などの末端のメンバーであれば、現金の受渡しの場面やATMでの引き出しなどの場面である程度被疑者を割り出すことは可能でしょう。しかし、彼らは上位者から口止めされていたり、そもそもグループの構成やリーダーを把握していないこともあるため、このような末端被疑者が判明したからといって犯行グループの中枢の関与までが判明することは非常にまれなことです。摘発という点でも被害回復という点でも、組織犯罪の中枢が捜査の追及を逃げ切ることで多くの被害者は泣き寝入りしてきたのです。犯罪組織によるトカゲの尻尾切りがまかり通ってしまっている現状には大変理不尽さを感じます。
 次に、暴力団犯罪という観点でお話しします。
 御存じのとおり、暴力団は、その威力を背景として経済的利益を追求し、様々な不法、不当な活動を行っています。最近では山口組が分裂したことにより対立抗争と思われる事件も頻発していますし、過去には暴力団排除活動に賛同した事業者襲撃事件も発生しており、その存在はまさに国民生活の平穏や安全を脅かすものです。
 私は、平成七年に発生した山口組と会津小鉄との対立抗争事件で警察官が射殺された事件、いわゆる藤武事件の遺族代理人として、暴力団組長に対するいわゆる使用者責任を求める訴訟に原告側弁護団の一員として加わってまいりました。
 この訴訟は、最終的には高裁、最高裁で勝訴いたしましたが、地裁では敗訴しており、まさに薄氷の勝利と言えるほど暴力団幹部に民事上の責任を認めさせるのは困難なことでした。擬制血縁関係に基づく絶対的な服従統制など強固な組織性の下、上層部からの指揮監督や組員同士の連絡は携帯電話などを隠れみのにして行われ、機動的かつ隠密裏に組織犯罪が遂行され、末端組員は上層部の組織的関与を一貫して否認します。関与が隠蔽される中で暴力団上層部に対する責任を立証することは極めてハードルが高いのです。
 我々原告弁護団は、暴力団の強固な組織性や指揮監督関係の立証に大変苦しみました。証拠の優越によって判断がなされる民事訴訟においてすら、膨大な資料を一つ一つ積み上げ、暴力団という特殊な組織性、事業性を立証してようやく使用者責任を認めさせることができたのですから、刑事事件の立証となれば、そのハードルは更に高くなることは必至です。現に、襲撃事件や抗争事件における暴力団幹部の刑事責任の追及は余り進んでいないとも聞いています。
 今回の改正で傍受の対象となる殺傷犯、窃盗、詐欺などの新たな罪種については、現行法上も規定されている厳格な要件に加えて更に組織要件が課されることとなっており、組織犯罪に焦点を絞った改正と理解します。
 弁護士としての活動を通じて、国民の多くは、振り込め詐欺などの被害がない、暴力団から平穏な生活が脅かされない生活を望んでいることを痛感しております。地元府警の捜査員からも、振り込め詐欺や暴力団関連事件での捜査で組織実態を解明する捜査の困難性を伺ってきました。振り込め詐欺グループや暴力団が通信手段を隠れみのに利用して、その実態の隠蔽を図りつつ組織的に犯行を繰り返している以上、組織犯罪捜査に通信傍受を活用し、その実態を解明することが被害の撲滅につながると考えております。
 弁護士の中には今回の通信傍受の拡大について反対意見を主張される方も多く、その内容もおおむね承知しております。もちろん、制度の運用においては、今後も引き続きその運用の適正性に関する検証を続けることは大切だと思います。
 とはいえ、例えば中高生の万引きにも通信傍受が適用されるといった情緒的批判も目に付きました。倉庫荒らし、商店荒らし、事務所荒らしといった侵入盗の被害のすさまじさは大変なものがありますし、そういった組織窃盗団の犯行の組織性、隠蔽性に照らせば、通信傍受の対象罰条に組織的な窃盗を加えることには十分な根拠があると思います。
 しかしながら、中高生がする万引きで組織的窃盗団が見せるような強い組織性や隠蔽性を持っていたり、活動の広域性を持っていたりすることはほとんど考えられず、通常の捜査方法では共犯関係などの解明が困難と言えるほどの事件はほとんどないか、あっても極めてまれでしょうから、通信傍受の法定の要件である補充性の観点から裁判所が令状を出さないのではないかと思いますし、それ以前に、捜査機関がわざわざ捜査方法として大掛かりな通信傍受を選択しないと思われますから、中高生の万引きに通信傍受という批判は、的外れで現実的ではないと思います。
 本論からは余談となりますが、万引きについて、たかが万引きともう言わんばかりに引き合いに出されることに私は大変強い違和感がありまして、万引きが町の商店の方たちにとって大変に深刻な被害をもたらしているという現実は是非御理解いただきたいと思います。
 例えば、書店の経常利益率は、最近の書店経営指標という統計では平均一%をかなり割っています。つまり、一冊万引きされてしまえば百冊以上余分に売り上げないとその損を取り戻せません。一方、平成十四年十月と少し前ですけれども、経済産業省の統計では、書店の売上げに占める万引き被害額の割合は推計で一%から二%に上ります。そのほかの資料でも似た数値が出ており、漫画や写真集の被害が多いとされています。つまり、万引き被害で利益が吹き飛んでいるわけです。
 万引きで店が潰されてしまうというのは、町の書店から実際に上がっている悲痛な叫び声です。書店のみならず、スーパー始め町の商店での万引き被害も深刻だということも、被害を受ける側がどれだけ苦しめられているのかという目線でよく御理解いただきたいと思うのです。私自身も弁護士として刑事弁護事件を真摯に扱ってまいりましたが、犯罪を行う者が適正かつ効果的に検挙され、被害をなくせるような法制度を築いていくことが、弁護士法一条にも言う人権擁護と社会正義の実現にとって大切なことと考えます。
 少々話は変わりますが、平成十六年、私は、米国におけるテレマーケティング対策、通信手段利用詐欺対策について訪米調査を行う機会がありました。その際、日本で機運が高まっていた携帯電話不正利用防止法のアイデアを話題にしたところ、米国の捜査官から、日本では通信傍受ができないから犯罪に使用された携帯電話を止めるという発想になるようだが、米国なら通信機関はその携帯電話を傍受する、そうして組織の実態を解明し、犯人たちを検挙すると言われました。
 通信傍受に対する批判の中に、通信傍受は犯罪検挙の役には立たないから反対だという批判もありますが、これは批判としては当たらないのではないかと感じます。
 被害者と向き合う立場としては、日本と米国との法制度の違いにより犯罪組織への追及の強さに差が生じてしまうことにはじくじたる思いがあります。法制審議会においても諸外国との比較調査があったと承知しております。例えば、先ほども例に挙げたアメリカでは、対象犯罪も百以上、組織要件は設けられておらず、年間実施件数も約三千六百件に上ると聞きます。このように、通信傍受が捜査手法としての有用性も認められ、高く評価されており、米国以外の諸外国と比較しても、日本での今回の改正は、慎重と評しこそすれ、安易な拡大という批判も当たらないと考えています。
 さらに、新制度における通信傍受では、暗号技術を活用し、記録の改変等ができない機器を用いるなどの技術的措置が講じられ、これを通じて通信傍受の合理化が図られているものと理解しております。十分な強度を有する暗号技術は、近年の国際商取引などの基盤ともなる信頼性の高いものです。通信事業者の立会人がなくなることについて懸念を示す意見も承知しておりますが、暗号などの技術は十分に信頼に足りるものとして既に広く実用化されていますし、機械的なシステムにより人為的な管理ミスが防止され、事後検証の客観性も含め、少なくとも現行制度の立会いと同等の手続の適正性が担保されると考えています。
 また、通信傍受の合理化は、現状の通信事業者や遠隔地の捜査機関の過大な負担を軽減し、機動的、効果的な通信傍受捜査の実施につながるものです。貴重な国民の税金を限られた資源として使う上で、合理化できるところは合理化し、信頼できる技術は活用すべきです。犯罪集団の側が高度に発展した通信手段を利用して犯罪を遂行している現実がある以上、摘発する側の法執行機関もまた時代に即し法制度を整備していかなければ立法のサボタージュとなってしまいます。
 繰り返しますが、私自身、弁護士としての活動を通じて、振り込め詐欺や暴力団犯罪の被害に遭わない平穏な生活の実現を国民が切に願っていることを実感しており、組織犯罪捜査に通信傍受をより積極的に活用していく必要性も高まっているのではないかと感じております。諸外国の状況も踏まえ、自白に過度に頼らない捜査の在り方を目指す一連の改正の中で、今回の通信傍受法の改正は時宜を得たものと考えております。
 以上です。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 次に、浜田参考人にお願いいたします。浜田参考人。
○参考人(浜田寿美男君) 浜田です。
 今日は刑訴法の改正ということで、通信傍受がお三方のテーマのようですけど、私は、先週行われました委員会での可視化の問題にむしろ焦点が当たりますので、少し議論が重なるところが少なくなるかと思いますけれども、よろしくお願いいたします。
 私は、法の人間でもなくて、どちらかというと一般の方たちに近い形で刑事事件の問題に関わってきました。専門は心理学です。
 元々が、甲山事件という、一九七四年に起こりました、兵庫県で知的障害児の入所施設で二人の子供が行方不明になって、後に学園内で浄化槽で見付かったというこの事件で、当時職員をしていました、保母をしていました方が疑われて逮捕されるという中で、自白も出たんですけれども、証拠が十分じゃないということで一旦不起訴になった。ところが、亡くなったお子さんの親御さんが諦められないということで検察審査会にかけて、不起訴が不相当じゃないかということで改めて検察側の方で再捜査を行って、元々疑われたのが、知的障害の子供がその先生が連れていくところを見たというそういう目撃供述があって最初疑われ、一旦十分じゃないということで不起訴になったんですが、三年後開始されました再捜査では、同じく学園で住んでいました知的障害の子供たちに事情聴取をしたところ、私も見た、僕も見たということで更に三人の子供たちが目撃者として登場するということで、その子供たちの証言が果たして信用できるかどうかということで、私、元々は子供の心理学を専門にしておりましたので、知的障害の子供の目撃供述をどう見たらいいのかということで、刑事裁判に初めて関与することになりました。それが一九七八年、七四年の事件で七八年から裁判が始まりましたので。いろんな因縁がありまして、特別弁護人という形でこの裁判に弁護人の一人として関与することになりました。
 以来四十年近く、弁護士さんとの付き合いの中でいろんな冤罪主張の事件に出会うことになって、外からは全然見えなかったんですが、中に入ってみますと、被疑者、被告人の自白の問題がすごく大きなテーマになっているということに改めて気付かされ、心理学の視点から、虚偽自白というのは一体どうして起こるのかということを私なりに勉強させていただきました。その中で、本当にたくさんの冤罪被害の方たちと出会い、また文献的にもいろんな形で調べていった結果として、世間の人たちが思う以上に虚偽自白は頻繁に起こっている、しかも、世間の人たちが思う形ではなくて予想外のところで虚偽自白が起こっているという現実を突き付けられました。
 ということで、例えば刑事訴訟法の中では、今回の刑訴法の改正による可視化問題については、可視化によって取調べ室の中で行われている供述についての任意性をチェックするというのが本来の筋のようですけれども、その任意性のチェックということで、可視化が全面的になされなければ十分それが機能するのかどうかということをすごく懸念をしているわけです。
 刑事訴訟法の中には、強制、拷問又は脅迫による自白、あるいは不当に長く抑留された、勾留された後の自白は任意性がないという形になっていますけれども、私が出会ってきた事件の多くは、形の上だけ見ますと刑訴法の上でのこの任意性チェックをクリアしているというふうに見えるものが多いんですね。つまり、一般の方たちは拷問とか暴力とかそういうものでやむなく自白してしまうんじゃないかというふうに思っている方が多い。これは、弁護士さんの中にもそういう方も多いし、裁判官もまたそういう形で考えられる方が多いと思うんですけれども、実際には、むしろ、もちろん言わせられるという点では一緒なんですけれども、自ら犯人として語らざるを得ない状況に心理的に追い込まれるという現実があるんですね。ですから、一見自発的に自分からしゃべっているように見えます。ですから、録音テープでその外形だけ捉えたときに、果たして一般の方たち、あるいは裁判官も含めて、これを任意性がないという形でチェックできるかどうかということについてすごく懸念を持っております。
 実際にどういう形で、じゃ、虚偽自白が起こっているのかということですけれども、これを十五分という僅かな時間で語ることはほとんど不可能ですので、お手元に、これは警察学校で私がしゃべったときのレジュメなんですけれども、これをまた読んでいただいたらいいかと思うんですけれども。
 無実の人が虚偽自白をする、どうしてそんなことになるのかということなんですけれども、任意性が一見あるかのように見えるような取調べ状況でも起こる。非常に簡単に言うと、今の日本の刑事取調べの基本的な形は謝罪追求型になっているんですね。ある事件が起こって、とんでもない事件だ、ひどいやつだということで一定の容疑があって取調べ室にやってきたときに、謝れというところから始まるケースが非常に多いように見えます。諸外国から日本の警察研究をしている研究もありますけれども、その中でも、日本の刑事取調べというのは謝罪追求型になっていないかと。
 例えば足利事件の菅家さんという、これはDNA鑑定で再審が認められ、物証上無実だということが明らかになった方ですけれども、彼の自白なんかも、任意同行の一日目で落ちているわけですけれども、その中で、暴力的なことがというか、ちょっと肘鉄を食らうような形になったということはありましたけれども、基本的には、外から見ますと直接的な暴力はないし、ただ問題は、謝罪追求型ということを言いましたけれども、任意同行で連れていくときに、被害者の女の子の、四歳の女の子が被害者なんですけれども、写真を用意しておいて、それを見せて、これに謝れというところから始まっているわけです。
 世間の常識でも、とんでもない事件を起こした犯人に対しては当然ながら憎しみが湧いてきますし、許されないという思いが付きまといますから、謝れという気持ち、捜査官の気持ちもよく分かるんですけれども、しかし、謝罪追求型ということは、実は有罪前提なんですね。有罪前提だから謝罪追求ができるわけで、捜査官の心理の中にしばしばその謝罪追求、有罪前提での謝罪追求に走りやすい。ですから、捜査官が分かっていて無実の人間を自白に追い込んでいるわけじゃなくて、ある意味で職務上の熱意で、あるいは善意でもって本人に謝罪を求めている。
 有罪前提で迫りますとどういうことが起こるかというと、被疑者が幾ら弁明しても、有罪前提ですから聞いてくれないんですね。ほとんど聞く耳持たないという形で対応されることになる。それぐらいで落ちるのかと皆さん思われるかもしれませんけれども、朝から晩まで、やっただろう、やっていません、やっただろう、やっていませんが続いたときに、どれだけの無力感を味わうことになるのかということ、これは想像ではなかなか考えることが難しいんですが、それこそ、実際にそれを体験した人は、これはこういうことを体験した人にしか分からないということをしばしばおっしゃいます。
 その中で、つまりそういう無力感で落ちるという、これは、それだけ聞いたら、そんなことでは普通の根性を持っているやつだったらそんなことはないだろうと思われるかもしれませんけれども、多くの冤罪事件でその無力感の中で落ちているということを知ってほしいと私は思っているわけです。
 逆に言うと、真犯人の方が落ちにくい。何でかというと、真犯人がやっただろうと言われて否認している場合は、自分がうそで否認をしているということが分かっていますから、やっていないということを言って相手が納得しないのは当然なんですね。ですから、開き直って否認をしても相手が納得しないということで無力感を感じることがないわけです。
 一般には、無実の人を落とすのはよほどのことがないと落ちないだろうと思っている。真犯人は反省の気持ちとかなんとかがあって落ちることがあるかもしれませんけれども、無実の人が落ちることはあるまいと思っていらっしゃる方たちにとっては非常に分かりにくいことかもしれませんけれども、しかし、実はその無力感でさえ人は落ちるんだということなんです。幾ら言っても聞いてくれないというその無力感で落ちるという、そのことをまず一つ知ってほしい。
 しかも、落ちた後、私がやりましたと認めてしまった後は、当然、捜査官はますます犯人としての確信を深めますから、それじゃどうやったんだというふうに犯行のストーリーを語ることを求めることになります。もちろん、やっていない人間は分からないわけです。だから、分からないから分かりませんと言えるかというと、分かりませんと言うと、また否認するのかということに戻ります。また元のつらさに戻ることになってしまいます。したがって、分かりませんでは通らないということになります。そこでどうするかというと、結局、自分が犯人として振る舞う以外にないということになるんです。その中で、突き付けられた事件について自分だったらどうしただろうかということを自分の側から想像して語るということが起こるわけです。
 一般に虚偽自白というのは、捜査官がストーリーを考えておいて、でっち上げてのみ込ませるみたいなイメージが強いので、犯行筋書を語らされてしまうというふうに思われるかもしれませんけど、実は、犯行を自分から考えて、自分がやったとしたらどうなっただろうかということを想像して自分の側から語るという側面があるんだということを知っていなければ、録音テープを聞いても任意性でチェックすることはできないと私は思うんですね。
 今市の事件が前回の委員会の中で話題になっておりましたけれども、被疑者が身ぶり手ぶりで犯行の過程を語った、それを見て任意だ、しかも迫真性があるという形で有罪判決が出たわけですけど、非常に危ないと私は思うんですね。虚偽自白は、実は本人が引き受けて語らざるを得ない部分がある。実際にそういう形で捜査官が犯人だと思い、自分自身、被疑者本人は犯人だと振る舞わざるを得ないという中で、ある種の人間関係ができるんですね。これも非常に奇妙ですけれども、被疑者と捜査官との間で、犯人と振る舞う被疑者を犯人として処遇するという非常に奇妙な人間関係ができ上がってしまいます。
 足利事件の菅家さんのケースなんかは典型的でしたけれども、そういう人間関係ができ上がったところで起訴されて、法廷に出てきたときも、自分の自白を取った捜査官が傍聴席に来ているんじゃないかという思いだけで、そのときに否認に転じることができなかったわけですね。彼の場合は一年余り法廷で自白を維持したわけです。
 そういうことが現実の刑事事件の中で起こる。これは、彼に根性がないからとか彼自身の個性の問題みたいな形で言われることもありますけど、実はそうじゃなくて、誰でも同じ立場に置かれれば同じことが起こるんじゃないかと私は思いますし、虚偽自白が一体どういうものかということを十分に知っておかなければ任意性判断も信用性判断も正確にできないということを、私自身、この自白に付き合う中で痛感させられてきました。
 その意味で、録音テープを取るということで一定程度、捜査の外部から見て何が起こっているかということを見ることができるようになる第一歩だという考え方はありますけれども、一方で、非常に危険だという部分を感じるんですね。少なくとも、身柄を取られて以降、つまり逮捕以降の取調べを可視化するということになっていますけど、現実の事件を見ますと、かなりが任意の段階で自白に落ちて、それから逮捕されているケースが多いんですね。
 そういうものになりますと、もう言わば捜査官と被疑者との間で、おまえが犯人だ、私たちはおまえを今後の更生も含めて関係をつくって面倒を見てやるんだという中で、人間関係ができ上がってしまったところで録音テープが取られてしまったときに、それを誰が見抜くことができるのかということになる。したがって、それは逮捕以前の任意の段階も含めて、あるいは別件で逮捕されて起訴されて以降の形の上で任意になった段階も含めて可視化をしておかないと虚偽自白は防げないというふうに私自身思います。
 これは、よく私自身は比喩で言っているんですけれども、虚偽自白を見抜こうと思えば虚偽自白がどういうものかを知っておかなきゃいかぬ。例えば、きらきら光る金属があったときに、そのきらきら光る金属が本物の金なのかどうかということを判別しようと思えば、本物の金がどういう物理的特性を持っていて、偽物のきらきら光る金属の中にどういうものがあるかということを正確に知っておかなければ本物の金とまがいものの金の区別ができないわけですね。それと同じように、自白があったときに、その自白が虚偽のものであるか、それとも本物の真犯人の自白であるのかということを判別するためには、虚偽自白がどういうものであるかを知っておかなきゃいけない。
 私自身は、虚偽自白を曲がりなりにも四十年近く具体的な例を通して学ぶ中で本物の、本物の虚偽自白って変ですが、虚偽自白が一体どういうものかということについて一般の方たちが本当に知らない、そのことをしっかり認識してもらわないと可視化は怖いというふうに、部分的な可視化は怖い、例外を設けるような形のものは非常に怖いというふうに思っております。
 言わば編集された形で目の前に登場するわけですね。その編集されたもので実際の実態を見抜けるかどうかということを私たちは慎重に判断しなきゃいけないと思いますし、是非とも、この可視化の問題に関しては、虚偽自白が一体どういう形で起こるのかを認識していただいた上で決定していただきたいと思います。
 僅かな時間ですので十分なことはできません。お手元に資料を用意していますので、それをまた読んでいただく、あるいは文献も幾つか用意しておりますので是非読んでいただいて、認識を深めて判断に生かしていただけたら有り難いというふうに思っています。
 どうもありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 次に、渕野参考人にお願いいたします。渕野参考人。
○参考人(渕野貴生君) 立命館大学で刑事訴訟法を担当しております渕野でございます。
 本日は、貴重な機会を与えていただき、感謝いたします。
 時間に限りがございますので早速本題に入らせていただき、本日のテーマである通信傍受法を中心に、市民の基本的人権保障や被疑者、被告人の適正手続保障の観点から法案には重大な問題があるということについて所見を述べさせていただきます。
 通信傍受に関し、法案の第一の問題点は、通信傍受対象犯罪が大幅に拡大されている点です。
 現行の通信傍受法では、通信傍受の対象犯罪は、薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の四つのカテゴリーに一応限定されております。もちろん、現行法でもこの四つのカテゴリーを合わせますと対象犯罪は四十種類にも及び、ごく限定された範囲にとどまっているとは言い難いところもございますが、しかし、対象犯罪は辛うじて組織的犯罪及びその周辺の犯罪の範囲に枠付けられているという説明を許容し得る範囲にとどまっております。
 ところが、法案では、現住建造物放火、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐関連犯罪、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、爆発物取締罰則関係、児童ポルノ関連犯罪にまで対象犯罪が拡大されており、一般刑法犯のかなりの領域が侵食されたと言っても過言ではありません。これに対しては、例えば詐欺罪とか窃盗罪について、行為態様を限定せずに通信傍受の対象とすると余りにも傍受の範囲が広がり過ぎるという批判がなされてきました。
 そこで、法案では、この批判に応えて、当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限るという要件を付加しています。しかし、この要件は、指揮命令系統の存在及び結合体の継続性を求めていないなどの点で、適用を限定する効果をほとんど持たないというふうに言わざるを得ません。
 このように、法案では対象犯罪の範囲が一気に拡大しており、それだけプライバシー侵害の範囲が拡大することになります。しかも、対象となる犯罪には、詐欺や窃盗など必ずしも組織犯罪とは関わりのない、通常の市民が日常生活を送る中でうっかり関わってしまう可能性のある犯罪が含まれており、現行の通信傍受法と比べて飛躍的にプライバシー侵害の可能性が高まります。
 通常の市民が日常生活を送る中でうっかり関わり合うということの意味を少し敷衍します。
 この法案の下では、捜査機関から窃盗や詐欺の嫌疑が自分あるいは自分の知り合いに掛けられたら、自分の通信が傍受される可能性があるわけです。仮に私たち市民が、自分は窃盗や詐欺などの犯罪には絶対に関わらない、そういう犯罪は絶対に行わないと断言できたとしても、自分は窃盗や詐欺の嫌疑を絶対に掛けられないとは断言できないはずですし、ましてや、自分の電話の相手方である友人、知人が窃盗や詐欺の嫌疑を絶対に掛けられないとは絶対に言えないわけです。
 そして、更に問題であるのは、市民の日常のプライバシーがこのように深刻に侵害されるにもかかわらず、法案では、犯罪に関連しない会話を傍受された人に対しては傍受した旨の通知がなされないことになっている点です。つまり、犯罪に関連しない会話を聞かれてしまった一般市民に対して不服申立て等の救済手段が全く整備されていない点が問題であるというふうに考えます。
 この点、会話を聞かれてもその会話は事後の手続に使われないのだからよいではないかというふうに考える考え方もあるかもしれませんが、決してそうではありません。仮に家族や知人との親密な会話を誰かがひそかに盗み聞きして録音していたというときに、録音していた人がその会話を悪用しなければ権利侵害は生じないなどという理屈は到底成り立たないからです。聞かれた人にとっては、他人に聞かれたこと自体が不気味で気持ち悪いのであり、プライバシー侵害は聞かれた瞬間に既に完成しているのです。したがって、聞いただけだから権利救済の機会を与えなくてもよいということには絶対にならないように思われます。
 このように、通信傍受という捜査手法は、元々市民のプライバシーを広く侵害する危険が大きい上に、さらに、傍受対象通信の特定が困難であるため令状主義によるコントロールが本来的に難しいという難点を抱えております。
 捜索、差押えに当たって場所及び対象物を特定した令状の発付を受けなければならないことは憲法三十五条が要求するところです。通信傍受においては犯罪関連通信が差押対象物に当たりますので、傍受令状を発付する際には犯罪関連通信を特定しなければなりません。しかし、通信傍受の場合は、対象となる犯罪は令状審査の段階ではまだ行われておりませんので、その審査は、将来犯罪関連通信がなされる見込みがあるか否かという判断にならざるを得ません。その結果、必然的に特定性の審査は甘いものにならざるを得ないわけです。
 これに対しては、組織犯罪で使われる携帯電話等では犯罪に関連しない通信が行われる可能性は低いから、回線を特定すれば無関係な日常会話が傍受される危険性は低いという説明もなされてきました。しかし、現実を見るとどうかといえば、現行の通信傍受法の下で、平均すると実に約八〇%の通信が、ヒット率が高かった平成二十七年度に限っても六五%の通信が令状発付の根拠となった犯罪にも関連しない、他の犯罪にも関連しない通信であったことが統計上明らかにされています。
 法制審議会ではヒット率など問題ではないという議論もなされていましたが、とんでもないことであり、この数字が持つ意味は極めて重大です。なぜなら、傍受した会話の八〇%が本来であれば聞くことが許されなかった、聞くことに正当な理由がなかった日常会話であったことを意味するからです。もちろん、通常の捜索、差押えでも、令状審査が証拠物の存在する蓋然性という予測判断である以上、百発百中というわけにはいきません。しかし、八割もの会話が犯罪に関連しない会話であり、市民の正当なプライバシーが侵害されてしまっているという事実は、令状審査がきちんと機能していないのではないかという疑いを生じさせるのに十分であります。
 このような問題点が明らかになっているにもかかわらず、そのことに対する検証を行うことなく対象犯罪を拡大するとすれば、それは、市民の日常生活の隅々まで捜査機関が入り込んでいってもよいのだと居直ることにほかならないように思います。
 法案の第三の問題点は、通信傍受の合理化として通信事業者の常時立会いを不要とした点です。すなわち、立会いを不要とすることで通信傍受の運用は爆発的に拡大することが懸念されます。
 確かに、現行の通信傍受法では、傍受期間中捜査官が通信事業者の施設に常駐しなければならず、立会人もその期間中常時立ち会うことが要求されるために、通信事業者が立会人を捻出することにも困難が伴い、結果的に、実体的要件がそろっても実務運用上傍受の実施までこぎ着ける数が少数にとどまらざるを得ないことは指摘されるとおりです。しかし、まさにそうだからこそ捜査機関による濫用的使用を効果的に防止することができてきたと言えます。
 既に述べたとおり、元々、通信傍受は傍受対象会話の特定要求が緩くなりがちという性質上の難点を抱えています。その意味で、令状審査の実効性に疑問が持たれてきたところであります。つまり、通信傍受には、捜査機関の行き過ぎた活用を規範的にはなかなか効果的に縛り切れないという弱点があるわけです。現行通信傍受法は、常時立会いを要求することによって物理的な障壁を設けたことで通信傍受が有する性質上の弱点を補い、辛うじて捜査機関の暴走に歯止めを掛けることに成功してきたというふうに言えるかと思います。
 一般的に言って、ある捜査手法について、要件を厳格に法律で定めるという規範面からのやり方だけでは実効的に権限濫用を防止できないという場合に、それと併せて物理的な障害を設けることによって権限行使を慎重にさせるというやり方を取ることは決して不合理ではありません。現行の通信傍受法で立会いの仕組みを国会が法に組み込んだのは一つの見識であったと考えます。多くの件数を実施できないからこそ、捜査機関は本当に必要な場合に限って令状請求をすることになり、その結果、他の捜査手段では解明できない場合という補充性要件が実効的に担保されるわけです。
 立会い要件を外すことは、このような微妙なバランスの上に成り立っている現行の通信傍受の在り方を根本的に変容させることになります。傍受令状請求に向けたハードルは一気に下がり、傍受の日常化ともいうべき雪崩現象が起こることが強く危惧されます。
 最後に、今回の法案全体を通じた問題点を二点指摘したいと思います。
 第一に、今回の法案は、協議・合意制度や証人保護なども提案されております。そうすると、例えば、通信傍受を行って被疑者を特定し、傍受内容を示しながら他人の犯罪について情報提供することの協力を求め、そして他人の犯罪について供述をさせ、これを使って別の人物を裁判にかける。しかし、その際、協力者には証人保護の措置がとられるので、売られた他人は協力者の身元も分からないというようなことが起こり得ます。
 このような手続の積み重なりは、無実の第三者を巻き込み、法廷での反対尋問権の行使を深刻に侵害し、冤罪を生み出す危険が極めて大きいと言わなければなりません。個々の制度を単独で評価するのではなく、法案全体の危険な性格をトータルに把握する必要があることを強調したいと思います。
 第二に、今回の法案では、例えば取調べの可視化の例外事由を始め捜査機関の裁量に委ねられるところが非常に多い、このことの問題性を指摘したいと思います。
 通信傍受の点でも、要件を満たす結合体の行う全ての窃盗に対して通信傍受を実施するわけではない、日常的な窃盗に適用されるわけではないと説明されています。しかし、刑事手続においては、捜査、訴追という国家の最もむき出しの暴力装置の発動を認めざるを得ないがゆえに、刑事手続法が行政当局による恣意的、濫用的な権限行使を招かないように、市民に対する不当な権限行使にならないように、立法府が法律によって権限行使を許す条件を厳格に限定し、かつ明確な枠付けをすることが求められているのです。それが適正手続保障の要請の真の意味であると言えます。適正に運用されるはずだという期待を掛けて捜査・訴追機関の裁量に任せるという考え方は、刑事手続法の立法の在り方として根本的に間違っていると言わなければなりません。
 捜査機関は、権限を与えられれば、それを最大限使いたい集団です。それは、組織の属性としてむしろ当然の行動パターンです。通信傍受について、法律で拡大するけれども運用は厳格に行われることを期待するというのは、例えて言えば、子羊の群れの中にオオカミの群れを解き放った上で、オオカミに対して、食べてもいいけど三日に一匹だけにしてね、三日に一匹しか食べないでねとお願いするようなものです。刑事手続法の立法はこれでは駄目なのであって、餌やり係が厳格に三日に一匹しか与えないというルール、すなわち、一般化して言えば、捜査機関が濫用したくても濫用することができない制度にしなければ決して守られない、こういうふうに考えるべきかと思います。
 以上、通信傍受を中心に法案に対する問題点を指摘してまいりましたけれども、今回の法案は、通信傍受のみならず、刑事訴訟法の基本原則に照らして看過できない重大な問題点を多く含んでおり、賛成することはできないということを結論として述べ、私の意見とさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○三宅伸吾君 自由民主党の三宅でございます。
 本日は、四人の参考人の皆様、有意義なお話をいただきましてありがとうございました。
 まず、浜田参考人からお聞きをしたいと思います。
 先ほど御意見の中で、有罪を前提にして謝罪追求型の取調べをされて、やっただろうやっただろうと、やっていませんと言っても、またやっただろうと何度も何度も言われて、そうしますと、言うことを聞いてくれないということで無力感に襲われる、そして、一度無力感でうその自白をしてしまうと、その後もあたかも自分が犯人であるかのような供述を任意性があるような形でやってしまうことがあるというようなお話がございました。そのような虚偽の自白が任意性の外観をまとってなされるということを一般の方に是非知っていただきたいという表現がございました。
 私は、今のお話をお聞きしておりまして、検察官と警察官と裁判官に是非知ってもらいたいと思ったわけでございますけれども、浜田参考人は、今日されたようなお話、それから様々なところで教鞭を執ったり、それから論文もお書きになられていると思いますけれども、例えば司法研修所でこういうようなお話をされたことはあるんでしょうか。
○参考人(浜田寿美男君) 司法研修所では一度だけ話をさせていただきました。弁護士さんの先生からの依頼で一度しゃべりました。
 それ以降はないですが、ただ、ついでに言っておきますと、先ほどちょっと言いましたけど、警察学校で最近呼んでいただいて、足利事件以来、警察学校の中でも取調べについてどう考えるべきかということをいろいろ考えておられる方が多くなって、年に七、八回は警察学校の方で話をさせていただいています。
 その中で私が強調しているのは、謝罪追求型じゃなくて、被疑者だからひょっとしたらやっていないかもしれないという無実の可能性を必ず念頭に置きながら調べてほしい、本人のやっていないという弁明があればその弁明を裏付けると。つまり、裏付けというと有罪方向の裏付けしか考えない方が多いですけれども、実は、無実の側の裏付けをやっていけば、ああ、言えば捜査官も調べてくれるんだなという実感を持てますから、無力感に陥らなくて済むということで、無実の可能性を念頭に置きながら調べてほしいと。逆に無実だということを見抜くことができれば、それは周りから称賛するという雰囲気をつくってほしいと。実際には、有罪方向で自白を取ると周りから表彰されるような状況がありますけど、逆に無実の人間を無実だと見抜けば、それはもう周りから称賛されるというような文化をやっぱり捜査の中につくっていかなきゃいけないんじゃないかと。
 そういうふうに思って伝えているつもりなんですが、ただ、そういうことを伝えても、現場はそうじゃない方も、理解してくださる捜査官も多いんですけど、なかなかそういうふうにならずに、現場でそれが生きていかないことも多いような気がしております。
○三宅伸吾君 最後のところをもう少しお聞きしたいんですけれども、有罪前提じゃない可能性があるということを頭にもう一度置いて逆の裏付け捜査をしたらどうかとか御提案されたそうでございますけれども、もう少し具体的に、どういう反応が警察学校であったのか、それから、司法研修所での講義のときどのような反応があったのか、教えてもらえますか。
○参考人(浜田寿美男君) 割合熱心に聞いてくれるので、私もおっかなびっくりで最初は行っていたんですけれども、すごく熱心に聞いてくださいますし、捜査官も、自分が落とした被疑者が後で無実だというようなことが分かるというのは、それは非常に本人にとってはつらいことですから、逆に私も脅しで、足利事件みたいな事件で自白をさせた相手が本当は物証上も無実だというふうに分かったら夢見が悪いでしょうと言って脅しているんですけれども、実際に、だけど無実方向でもし無実だということを見出すことができれば、逆にこれは、冤罪を引き起こしてしまうということは真犯人を取り逃すということでもあるわけですから、無実の人だということを明らかにすることは実は捜査として非常に大事なことだということをお伝えして、それは納得して聞いていただいているというふうに思いますし、後で質疑で、いろんなそういう形で、私の意見を酌み取ってくれた形で言ってくれる捜査官もたくさんいらっしゃいます。
○三宅伸吾君 恐らく浜田参考人は、全ての、任意の段階も含めまして可視化をした方がいいというふうに多分お考えだと思うんですけれども、仮に、じゃ、捜査官と参考人というか、まだ被疑者になる前の段階の例えば全てのコミュニケーションを可視化していた場合に、そもそもうその自白は、無力感に追い込まれてうその自白をするということは絶対になくなるのか。それからもう一つの質問は、仮に任意の取調べ、参考人段階から可視化をしておいて、例外的に、それでもうその自白がなされたという場合、浜田参考人であれば、全過程の記録を見たり聞いたりすればこれは虚偽の自白だと見抜けますか。
○参考人(浜田寿美男君) 一つは、全面可視化して全てを可視化しても虚偽自白が完全になくなることは僕はないだろうとは思います、それは実際やってみないと分からないですけれども。ただし、相当減るだろうというふうに思います。
 それからもう一つは、全面可視化していれば、逆に、自白した後、犯行ストーリーを語るって相当難しいことなんですね。体験していることであれば自分の記憶に基づいてしゃべるということでできますけれども、やっていない人が犯行のストーリーを語るということは本来無理なんですね。だけど、語らざるを得ないということで語る。想像で語りますから間違うわけですね。だけど、捜査官は証拠を握っていますから、証拠と合わせてどうもおかしいということになると、そうかと、こう聞き直す。そうかと聞き直された本人は、想像で言っている、うそで言っていると知っていますから、ああ、間違ったんだということで、じゃ、こうですと言う。そうしたら、いや、そうかとまた言われる。じゃ、また間違ったんだと思って直すというふうにやっているうちに、結果として捜査側が握っている客観的証拠と合致するような自白が取られるということになります。
 ただ、それを後から可視化されて見ますと、本来真犯人が記憶としてとどめていないというようなことはあり得ないような肝腎な部分で、しかも、うそをつく必要のないようなところで実際に客観的証拠と明らかに違うものが出てくるということがあるわけですね。それを私は無知の暴露と言っているんですが、秘密の暴露に対して無知の暴露、つまり、本人が事件のことを知らないということがそこに表れているという意味で、実は、可視化をするとそこの中から無実の証拠を取り出すことができるというふうに思っているわけで、かなりを見抜けるというふうに私は思っております。
○三宅伸吾君 川出参考人にお聞きしたいんでございますけれども、今回の改正法案、対象犯罪も広がるということでございます。
 ただ、可視化義務付けの対象犯罪であっても、例外規定に該当すれば捜査機関はその義務付けの義務を負わないということになるわけでございます。ただ、これは義務を負わないというだけであって、勝手に、勝手にというか場合によっては、被疑者が可視化は困ると明言していた場合でも、法律を読むと、例外的には本人が拒否をしても無理やり可視化できる場合もあるような気もするんです。
 今の浜田参考人のお話を伺っていますと、やっぱり全過程録音したら虚偽の自白は相当減るだろうということを陳述されたわけでございます。義務化対象犯罪であって例外規定に合致して、捜査機関には録音、録画の義務がなくても、本人の同意を無視して、それか本人の知らない間に録音、録画をして、その状況を、まあ証拠として出すかどうかは分かりませんけれども、今私が申し上げたような状況で、義務付け対象の義務が外れた場合において本人の同意なく録音、録画をしても、この改正法案上は捜査機関としては違法な取調べにはならない場合があると私は思うのですが、いかがでしょう。
○参考人(川出敏裕君) そこはおっしゃるとおりで、例外規定は録音、録画の義務が外れるということだけですので、その上で録音、録画するということは、別にやること自体が違法ということにはならないと思います。
○三宅伸吾君 もう一つ、川出参考人にお聞きをいたします。
 東京大学法科大学院ローレビュー二〇一五年の十一月号に参考人はこのようにお書きになられていらっしゃる。「立会いには、人の目があることにより、捜査機関が違法行為を行いにくくなるという事実上の効果があり、立会いを廃止することにより、それが失われてしまうという批判がある。 このような事実上の効果は、法律が立会いの機能として予定したものではないが、立会いがそうした効果を持つこと自体はそのとおりであろう。」というふうにお書きになられておりまして、それに関連するような今お話もあったわけでございます。
 私は素朴な疑問があるんですけれども、暗号化されてデータが保持されている、だから事後検証がきっちりできるようになっているから問題ないだろうという趣旨の御発言だったと思うんですけれども、全ての記録が事後検証を実際されるわけではないと思うんですね。事後検証がなされるという蓋然性、蓋然性までいかないかもしれませんけれども、事後検証されるであろうという可能性が抑止効果を持つというのは分かるんですけれども、事後検証される割合が低ければ、事後検証されないからまあちょっとスポット傍受長めにやってみようかと。例えば、立会人がもしいれば、何かにこにこ笑いながら、捜査官が本来なすべき傍受じゃないところまで聞いちゃってにこにこ笑っていると、立会人見ているわけですから、何聞いているか分からなくても顔は分かるわけですから、そうすると牽制機能が僕は働くと思うんですね。
 ですから、事後検証の可能性があるからの一点をもって違法な傍受がなされなくなると決め付けるのもどうかなと思うんでございますが、いかがでしょうか。
○参考人(川出敏裕君) それはもうおっしゃるとおりで、事後検証があるから、当然、何というんですかね、抑止効果が今までと同じように働くというところまで言えるかどうかというのはおっしゃるとおりだと思います。
 ただ、それは捜査機関の立場に立ってみないと分かりませんが、しかしそれは、違法なことをやれば発覚する可能性があるわけですよね。そういうリスクを冒してまでそんな違法なことをやるだろうかというのを考えたときに、それはやらないというのが恐らく捜査機関の立場じゃないのかというふうに思いますし、部会でもそういう形で皆さんが合意をされたということだと思います。
○三宅伸吾君 西村参考人にお聞きしたいんですけれども、様々な弁護を通じて通信傍受の必要性を訴えられたわけでございます。
 非常にその思いはよく分かるんでございますけれども、その上でお聞きしますけれども、違法な盗聴のリスクがゼロとは僕はやっぱり言えないと思うんです。ないことが望ましい、その方向にきっちりと制度的な枠組みをつくるのは当然でございますけれども、その違法な盗聴リスクがないという状態に向けて、参考人として、捜査機関への、運用への注文といいますか期待があればお聞かせいただけますか。
○参考人(西村幸三君) 捜査機関が違法な盗聴、やり過ぎの通信傍受、これをしないようにどう心理的な抑制を働かせるかということを、私、今回の特別部会の議論なども聞いていろいろ考えていました。
 捜査機関、警察あるいは検察において最もサンクション、制裁として働くのは、裁判所が違法収集証拠としてその通信傍受の記録を証拠から排除してしまうことです。それが違法な通信傍受であるとして現実に指弾されてしまうことであると考えます。
 今回の通信傍受の、もちろん制定当初からそうなんですけれども、全記録確実に裁判所に封印されて送られます。暗号鍵によってでないと、それを捜査機関が読むことすらできない。暗号鍵が仕込まれた機械でスイッチが入っているときだけしか聞こえないように、機械的に相当な高いセキュリティーによって保護されている。つまり、捜査機関が何を聞いたかが全て裁判所が後で見ることができて、違法収集証拠であるというふうに攻撃されるおそれがあるという状況になっております。
 捜査機関からすれば、違法収集証拠排除によって事件が潰されてしまうというのが組織自体にとって強烈なダメージであります。それを担当している捜査官なりその捜査官を統括する捜査官だけの問題ではなくて、それこそ、県警の本部長であったり検察庁であれば検事正であったり、そういうところまで責任が発展する大問題であります。つまり、裁判所が違法収集証拠排除というプロセスを適切に働かせて監視するということが捜査機関にとって最も違法な通信傍受を行わないための心理的抑制になると思っております。
 現在の立会人が全く音声が聞こえない中で捜査しているコンピューターの後ろから見ていると、捜査状況をですね、それによる心理的抑制と組織全体が懸かる違法収集証拠排除の問題と、これは、もう心理的抑制の程度というふうに考えますと、全く次元の異なる強いものだと思っております。
 ですので、いかに改ざんなく傍受記録がきちんと裁判所へと保存されるか、これこそが大事であると。現行法もそうですけれども、これにつきましては、かなりセキュリティーのレベルも含めて改正通信傍受法は強化されたというふうに私は見ております。
○三宅伸吾君 終わります。ありがとうございました。
○真山勇一君 民進党・新緑風会の真山勇一です。
 四人の参考人の方、ありがとうございました。非常にお伺いをしていて明快で、しかも具体的ないろいろ御指摘を受けました。
 私は、法律の専門家でないし法律の世界の人間でもないんですけれども、法律の世界での見方をお示しいただいたのと、それと同時に、実際にそのフィールド、いわゆる現場でどういうことを感じていらっしゃるかということの意見も伺えて、大変参考になったというふうに私は思っております。ありがとうございました。
 まず初めに、ちょっと具体的にお伺いしたいんですけれども、まず川出参考人にお伺いしたいというふうに思います。
 私は、この通信傍受で一番やっぱり気になる点というのは立会人の話なんですね。確かに、現行、立会人がいても実際にそんなに権限はないんだよ、ただいるだけなんだよ、だから時間の無駄なんだよ、経済的にもロスが多いんだよみたいな論議になっているんじゃないかというふうに思うんです。でも、そこに人が立ち会うということというのは、やはりこれは機械では代えられない何か大事なものが私はあるというふうに思うんですね。川出参考人のその辺りの、やはり立会人がなくなったとしても、特定電子計算機は信頼性があるし、それから今の立会人というのはただいるだけということなのだから、経済性、合理性からいくと余りいい仕組みではないというようなふうに私は伺ったんです。
 だけれども、やはり通信傍受、いわゆる分かりやすい言葉で言えば盗聴ということになるわけですね。つまり、人の通信というものを、ないしょの部分を聞き取る、盗み聞きするということになるわけですけれども、やはり必要ならやるということは分かります、そしてその歯止めも掛かっていることは分かるんですけれども、必要ならやるということが、やはり逆に言えば無理をしてもやるということにつながっていきかねないというふうに思うんですね。その濫用を防止するという観点からいえば、確かに、機械に任せてその部分の担保をつくるということも必要ですが、やはり立会人がいるということの必要性、私は、それを法的なものではなくて人間の心理的な面でやはり必要じゃないかというふうに思っているんです。人の目ですね、人の目、大事だと思うんです。機械に代用ができるでしょうか。
 そして、例えば、東京の繁華街に交番があります。防犯カメラが今非常に普及してきました。いろんなことが防犯カメラで犯罪解決していきます。びっくりするぐらい解決しますね。捜査しなくても、映像があるからということで事件が解決してしまいます。そういう状況の中で、もしかしたら将来は、防犯カメラの社会になったら交番が要らなくなってしまうのかなと私は思っているんですね。
 何を言いたいかというと、つまり、交番がある抑止効果というのはあると思うんですね。人の目なんですね、警察官がそこにいる。例えば住宅街なんかでいうと、交番があって、そこにお巡りさんがいなくても交番があるということだけで犯罪の抑止効果というのが言われています。その辺というのを川出参考人はどんなふうに考えられるのかということをお伺いしたいと思います。
○参考人(川出敏裕君) まず前提として、立会人がいることが何か無意味であるというふうには私は決して思っていなくて、それは、立会人が現行法の下ではいて、外形的なチェックをし、それから封印すると、それはそれとしてもちろん重要な機能を果たしていると思います。それが機械、この特定電子計算機というシステムを入れることによって代替できるかというところが問題で、それは代替できているだろうということですね。
 その上で、人の目がある場合というのはやっぱり違うんじゃないかというのは、前の先生の御質問とも関わるんですが、人の目があることによって抑止できているものは一体何なのかというのを考えたときに、今度のシステムを入れることによって、そもそも抑止しようとしている対象が違法行為が行えなくなるという場合が少なからずあって、その部分は、ですから、人の目のあることによって何か防止できていたものが今度のもので完全に代替できるわけですね。その上で、そうでないような場合について、人の目でその時点で違法行為を見ているということがどのくらいの意味を持つのかということだと思います。
 先ほどの交番と防犯カメラの話でいえば、多分、交番があってお巡りさんがいてということになると、その時点で何か違法な行為が見られてしまうということによる抑止と、それから、防犯カメラがあって、それを後から検証することで何か違法行為をやったら分かってしまうと、そこの抑止効果の違いだと思うんですが、それがこの通信傍受の場合、先ほど西村先生がおっしゃったように、それは、後から違法なことをやったということが分かって、それで一定の効果が生じるその抑止効果と、現に見ていて、外から見ていて何か違法行為を防げるという抑止効果というのを考えたときに、それは、後から分かるというところの抑止効果というのは十分現時点で見ているということに代替できるものではないのかというのが私の考えですし、西村先生がおっしゃったとおりだと思います。
○真山勇一君 私は、その特定電子計算機、先ほど川出参考人もおっしゃいましたけど、これからどういうものができるかという、まだどういうスペックなのかとか仕様書も分からない段階でこの機械、まさに万能の機械のような、つまり、人間に代われるんだ、悪用もできない、チェックもできる、後から調べることもできる、外にも漏れないと、何かもういいことずくめの機械ですけれども、まだこれから作る機械に対してこういうふうなことになっている。私は、やっぱりこの機械を運用してみてからどうだというのを決める方が筋じゃないかなと。
 いきなりもうその機械、万能の、これで大丈夫だから人要らないよということになることの一つ疑問を感じるのと、それから今おっしゃった、私は思うんですけれども、盗聴というのは無理してもやってしまうということがやっぱり過去のことでもあるわけですよ。そういうことを防ぐためには、心理的抑制というのはこれはやっぱり大きいものじゃないかなと私は思うんですね。立会人がどんな権限があるとか、もちろん権限はあった方がいいと思います、これは。でも、やっぱりその辺りは抑止効果というのが大事だと思うんですが、もう一回ちょっとお願いします、その辺り。
○参考人(川出敏裕君) ですから、立会人が見ているので違法行為を行わないというのは抑止効果ですよね。それはおっしゃるとおりで、あると思うんですね、事実上の効果として。そのことと、繰り返しになりますが、事後的にその違法行為をしたことが分かってしまうということによる抑止効果というのがそんなに差があるのかということだと思うんですね。
 それは、捜査機関の側からしてみたら、やはり事後的に分かって、自分たちがやった捜査の結果というのが無に帰してしまうという、そういった方の抑止効果の方が大きいのではないかと。まさに、盗聴ですか、通信傍受をとにかくやりたいというふうに捜査機関が思っているとすれば、それは、その結果が無意味になってしまうというのは全くそれに反する結果になるわけですから、そうだとすれば、そちらの抑止効果というのは十分あり得るだろうというふうに思います。
○真山勇一君 ありがとうございました。
 続きまして、西村参考人にお伺いしたいんですが、今回の改正は犯罪対象の拡大ということもやりまして、特に、西村参考人からお話を伺った闇金融の悲劇、これは確かに防がなくちゃいけない、私もそう思います。幾らこれは対応しても増えるばかりですね。減らないということがあると思います。やはり手をもう焼いてしまっているという感じがあります。私は、これ何とかしてやっぱりこの闇金融、そして振り込め詐欺というのをなくしていかなければならないというふうに思っています。
 その一方で、西村参考人が挙げられた窃盗なんですね。私も、新たに窃盗が加わるというのはやはりちょっと違和感を感じているんですね、ちょっとこれが本当にいわゆる重大な犯罪であるのかどうかということ。もちろん、窃盗にもいろいろなことがあるので、これは、中身をしっかりと具体的に吟味したらこれは重大な犯罪だよということもあるかもしれませんが、先生が挙げられたその高校生の万引き、情緒的なこれは反対であって的外れ、現実的でないというふうにおっしゃいました。私も、そうなんですよ、そう思うんです。だから、万引きというのをなぜ今回入れたのか、この入れた理由がやはり何かあるのかなということを私は非常に感じてならないんですね。
 例えば、万引きということでしたら、本屋さん、書店の例を挙げられましたけれども、確かに、本屋さんにとっては大きなダメージを受けますね。決してささいな犯罪ではないと思います。この万引きによって本屋さんが潰れてしまうということも今起きているわけですから、それはささいな犯罪だというふうには思いませんけれども、例えば、やっぱり一つの例として、そういう万引きといったような窃盗を捜査するためにあえて通信傍受、盗聴をするというその捜査手段をする必要があるのかどうかという辺りをちょっとお伺いしたいんです。
 それはなぜかというと、また話が出てきますけれども、万引きの一番取締りで効果があるのはやはり防犯カメラじゃないかと思うんですね。例えば、本屋さんに防犯カメラがあればその現場を押さえられる。特に窃盗、万引きなどというものは、あるいは振り込め詐欺もそうですけれども、やはり現行犯でどうやって捕まえるかということがとても大事だと思う。そうすると、通信傍受で長々と、多分通信傍受でそういうものをやるとしたら時間もお金も私は掛かるんじゃないかと思うんですが。例えば、防犯カメラをもう少し有効的な活用をして、窃盗などは通信傍受を入れない、私は、通信傍受というのはやっぱりプライバシーの問題からいってできる限り捜査に必要な最小必要限にした方がいいというふうに思うんですよね。
 例えば、そういうことから見れば、本屋さんの万引きというのも防犯カメラの効果というのもあると思うんですが、その辺りのお考えを伺いたいと思います。
○参考人(西村幸三君) 防犯カメラなどを書店が防犯対策としてどんどん導入していっておられることは事実です。これは町の商店でもそうだと思います。万引きの防犯に関しては、やはり警備員を増やしたりだとか防犯カメラを置く、これが大変重要なことだと思います。
 ただし、じゃ、そのコストは誰が負担しているんでしょうということです。防犯コストに掛かる経費というのもやはり調査されたことがありますけれども、相当なコストが掛かっております。その防犯コストが現実にやはり町の商店の利益を相当圧迫してしまっていることも事実であります。防犯カメラですればいいんじゃないかというふうにおっしゃっている質問ではないとは思うんですけれども、現実に民間の努力が必要になる、警備員を置けばそれだけ人件費が掛かる、大変薄利の中で商売されている町の商店からして、それをどういう思いで聞かれることになるのかなというふうには思います。
 それと、重ねて申し上げますけれども、万引きで通信傍受がされるという事例というのは、私はほとんどないだろうと考えております。
 通信傍受というのは、現実、捜査員が六人とかそれぐらいの人数は掛かって、必死になって傍受内容を聞いて、関係ないところは切って、後で違法収集証拠などと言われないようにという統制の下、実施している。現実に、傍受された事案のほとんどで多数の犯人が逮捕されているという事実がありますけれども、大変人的なコストが掛かります。捜査員をそれだけの期間、一か月といった期間張り付けるわけですから決して軽いものではない。貴重な限られた捜査資源と予算の中でどこまでそういうことをするか。
 中高生でしたら、防犯カメラなり従来の面通しといった、写真で参照したり、あるいは一部の子供を事情聴取すれば簡単に共犯関係をしゃべってしまうというような事案がほとんどだと思います。それに、まず、単独犯については、これは傍受できません、全くできません、これは。要件欠缺ということになりますので。
 ですので、万引きを例えにするのは良くないと私は思っております。あくまで倉庫荒らし、商店荒らし、事務所荒らし、あるいは自動車を組織的に窃盗して海外に売り飛ばすといった事案、こういうものがやはり対象になって想定されていると。ここは世間の皆さんも誤解されないようによく理解を得ておかないといけないところだろうというふうに思っております。
○真山勇一君 ありがとうございました。
 あと、お二人にもお伺いしたいんですが、ちょっと時間がなくなったので、私が是非お聞きしたいことを四人の皆さんにそれぞれお伺いしたいと思います。
 今回のこの刑事訴訟法の改正、一番最初のきっかけは、やはり冤罪をなくすということがスタートにあったんじゃないかと思います。具体的に言えば、冤罪というのはこれまでも数限りなくあったと思いますね。あったと思うんですが、やはりこのきっかけになったのは、厚生労働省の村木厚子さんのあの事件をきっかけに、やはり冤罪をとにかくなくそうじゃないかということで今回の改正が進められてきたというふうに私は理解しております。
 しかし、やはりその審議の過程、そしてこのでき上がった法案、そしてそれぞれの法案に対する考え方、意見というのを伺ってきていますと、私はやっぱりどうしても感じるのは、一つは、捜査の今いろいろなものがどんどんどんどん進歩していく中で、適正化とか多様化、そういうものをしていかなくてはいけない、それができないと犯罪の進み具合に追い付いていけないということがあって、それをやるということと、それからもう一つは、やはりたびあるごとに強調されるのは合理化と効率化ということですね。つまり、お金が掛かり過ぎる、人手が掛かり過ぎる、無駄が多いということで、それを機械に任せるとか省くとかということになっているんですが、私は、こういうやり方で、当初の目的である冤罪を防ぐというその目的が今回のこの改正で達成できるのかどうか、それを四方に、時間がちょっとないので一言ずつで結構です、お聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
○参考人(川出敏裕君) 御指摘のとおり、元々、厚労省の村木さんのあの事件から始まって、冤罪の防止ということはもちろん出発点としてあったわけですが、その上で、そのきっかけとなった事件からできた検察の在り方検討会議、あそこから冤罪ということを、この事件が発生した背景にあるものは何かということで、結局、取調べと供述調書に過度に依存した捜査、公判の在り方があったんだろうと。それを見直すということが出てきまして、その一つの、そこの見直しの内容としてこの捜査手段の適正化とか多様化というものが出てきていますので、決してその出発点と矛盾する形でこれを審議したわけではないというふうに思います。
 それから、合理化、効率化というのも、この通信傍受でいえば、合理化、効率化というのは、まさに捜査手段としての通信傍受を適正化し、かつ多様化するというか、より通信傍受ということによって客観的な証拠を得るというための手段として位置付けられているものですから、そこは最初からのつながりで一貫したものとして出てきているということになると思います。
○委員長(魚住裕一郎君) 答弁は簡潔にお願いいたします。
○参考人(西村幸三君) 冤罪防止という観点で私が一番大切なのは、弁護権の保障をいかに充実させるかと考えております。
 今回の改正で、弁護人による援助の充実化ということで、被疑者国選弁護制度の対象事件が拡大されました。勾留された全事件に拡大するというふうに拡大されております。これは大変大きなことで、重大事件でなくても勾留された全事件に対して拡大されるようになった。これは大変大きな前進で、やはり弁護人が関与して充実した弁護活動をすることによって、あるいは合意による制度につきましても、必ず弁護人が関与することを要求することによってやはり一番冤罪が防止される。弁護人がいないところで、付いていない段階で起きる冤罪というのは相当程度減少している、これは、被疑者国選制度が始まったとき以降、確実に私は言えることだと考えております。
 また、そのほかの改正点いろいろございます。いずれも捜査の客観化という、客観的な証拠の収集の充実ということを念頭に置いてなされている前向きな改正であると考えておりますので、各改正点、いずれも私は賛成しております。
○参考人(浜田寿美男君) 供述調書が証拠の中心にあった時代から、実際に生でしゃべったものを基にしてということは非常に大事なことだと思っているんですけど、供述調書そのものが実は捜査側が編集したものだということは一般の理解としてあるだろうと思うんですけど、録音についても全部を全面可視化しない限りは、捜査側の編集の結果として、証拠として裁判員、裁判官の前に登場する危険性があるという意味で、やっぱり全面可視化してデータを全て洗いざらい見せる形にしないと逆の形の冤罪が起こる危険性もあると認識しておりまして、その点で、全面可視化という形で是非進めていただきたいというのが私自身の意見です。
○参考人(渕野貴生君) 今回の改正が取調べへの過度の依存からの脱却ということを目指して、当初の目的はそこにあったということを考えますと、通信傍受を入れたら取調べに依存しなくてよくなるというふうには私はならないというふうに考えます。
 というのは、幾らたくさんの範囲を傍受しても、日常で行われる会話というのは所詮断片的なものです。これは、犯罪に関する会話が行われている場合でも断片的であることに変わりはありません。したがって、傍受した会話というのは、調書で初めからストーリーを立てて台本どおりに話してくれるというようなものではないわけです。
 結局、その会話がどういう背景や意図を持っているかというのは、取調べによってその会話の意図等を聞かなければ分からないということになるのではないかと。そうすると、かえって通信傍受の内容を確認するために取調べを濃密にしなければならなくなるのではないかというふうに考えます。更に言えば、結局、取調べにおいて、通信傍受の記録をそのものとして証拠に出すのではなく取調べで、傍受した内容を、こういうふうにおまえはもうしゃべっているじゃないか、だからもうここで自白してしまえというふうに、取調べで当てて自白を迫るというような手法も生み出しかねないのではないかというふうに危惧しております。
○真山勇一君 ありがとうございました。
○矢倉克夫君 矢倉克夫です。
 四人の参考人の先生方、貴重なお話、本当にありがとうございます。私からは、まず渕野参考人に二問お答えを、その後、西村参考人にちょっとまずお伺いもしたいと思います。
 まず一点目ですが、通信傍受、私、やはりこのようなことを考えざるを得ないような理由というのは、当然ですけれども、話のあった組織犯罪が非常に増えている、とりわけ上層部に対しての立証というのが難しいという現実はあるという部分はあると思います。渕野先生、先ほども、今回の対象犯罪について罪名という観点から御意見をいただいたわけであります。今回、御意見としては、新しく入った罪名のものには軽微な犯罪が多いからというようなこともあったと思うんですが、他方で、おれおれ詐欺であったり児童ポルノであったり、非常に組織的な犯罪となり得る罪名もあると。そのような事案について、じゃ、現実にどのように立証していけばいいというふうにお考えであるのか。これがまず一点目であります。
 もう一点目は、やっぱりプライバシーとの関係、個々のプライバシーの侵害というところ、これはもう大変に重視をしなければいけない問題であります。他方で、それの担保として令状主義というのがある。今回新しく加わった組織性の要件も含めて、令状でしっかりと記載していって裁判官の目で見るというところで適正を担保するというところでありますが、先生の御意見は、その令状主義自体が機能をしていないと。先ほども無関係なものも入るというところもあったわけですけれども、じゃ、例えばその令状の特定の在り方にしても、現実に、なかなかこのときに関係する通信を得るとかそういうことはやっぱり分からないから、ある程度概括にしなければいけない。じゃ、どの程度の令状の在り方であれば機能しているというふうにお考えであるのかをちょっと御意見をいただいて、それを受けて西村参考人から御所見をいただければと思います。
○参考人(渕野貴生君) まず、組織的犯罪について上層部までたどり着くための立証をどうするかということですけれども、これは、二つの観点からお答えをしたいと思います。
 一つは、やはり現在、捜査機関が現在の刑事訴訟法の下で与えられている捜査権限を本当に的確に、そして最大限に活用したときに、本当にこういった組織犯罪について解明できないというような事実があるのかどうかということをまずはしっかりと検証する必要があるかと思います。
 現在、捜査機関は、伝統的な捜索、差押えだけではなくて、例えばサーバーに対する差押えというような新しい手法、これは二〇一一年だったと思いますけれども、の刑事訴訟法改正で新たに認められた、サーバーからデータを送ってもらってそれを差し押さえるというような、そういった手法も与えられておりますので、こういった手法を駆使して本当に摘発できないのかということをやはり一件一件きちんと検証していく必要があるであろうというふうに思います。
 それから、令状主義との関係で、どこまで令状に書き込めば特定したことになるのかということですが、これは、率直に申しますと、特定をすることは不可能であるというふうに考えます。どうしても会話というのは、まだ発生していないものに対してそういう会話が行われるかどうかの判断を強いるものでありますので、令状だけで特定性を完全にカバーするということは非常に極めて難しいというふうに思います。であるからこそ、そこを、規範的な令状の厳格な要件だけでは絞り切れないというところを立会い等の物理的な障害を設けて濫用にわたらないようにするという、これはいささか変則的なやり方ではあるんですけれども、そうしなければ結局適切なコントロールができないという通信傍受の特性を踏まえて議論をする必要があるというふうに考えます。
○矢倉克夫君 じゃ、今の御意見を受けて、西村参考人、御所見をいただければと思います。
○参考人(西村幸三君) 私は、二年前にもやはり訪米調査をいたしまして、通信傍受によって組織犯罪がどのように上層部まで摘発される流れになるのかということをヒアリングしてまいりました。
 アメリカの捜査機関が現在非常に重視しているのは、いかに組織犯罪の上層部の犯罪収益を剥奪してしまうか、当然、懲役刑だけではなくて、いかに剥奪するかということを重視していると。それには、実行犯段階と上層部あるいはその周辺者の人のつながりをどれだけ解明するかが決定的に重要であるというふうに捜査官はほぼ口をそろえて言われております。
 その人と人とのつながりを、じゃ、通信傍受だけで実現できるかというと、実はそうではありません。でも、通信傍受は決定的に重要な役割を果たしています。
 例えば、通信傍受だけではなくて、アジトを突き止めるGPS傍受なども併せて、あるいは張り込みですね、物理的な張り込み、これによってアジトを突き止める。そうすると、そこに出入りする者、そのアジトの賃貸借を契約している者、車で乗り付ける者、じゃ、その車の所有者は誰なのか、その車に乗った者は誰なのか、こういうことが次第次第に解明されていきます。振り込め詐欺のアジトを突き止めてほしいと私がさんざん警察に言っても、できないんですという、もうパンクしてできないんですというのが十年前の話でした。
 これは一つの本当に例えなんですけれども、通信傍受が万能ではありません。でも、大変重要な一つの捜査手段としてアメリカの捜査官は、もう伝統的な捜査手法として、張り込みなどの一つとしてこれは必要なんだと、組織犯罪を本当に解明して上層部の逃げ得をなくすのにはやはり必要な捜査手法であると当然のように言われていたのが大変印象的でした。
 以上です。
○矢倉克夫君 ありがとうございます。
 西村参考人にもう一点、令状の関係、もし何かございましたら御所見をいただければ。
○参考人(西村幸三君) 通信傍受で拡大されました罪状、今回の通信傍受法において拡大されました罰条につきましては、あらかじめ定められた役割分担に基づく数人の共謀という規定になっております。これは大変厳格な定めだと考えます。もちろん、団体が何なのかとか団体が継続しているのかという要件までは、これは入っていませんね。
 ただ、通信を利用して犯罪が遂行されているその団体を特定せよといっても、それが本当にその団体なのかが分からない中で通信傍受を始めないと、現に行われている振り込め詐欺、恐喝、こういったものに取りかかることすら許さないと。団体を証明しなさい、一体どういう団体で、それがどういう継続性を持つのか疎明しないと摘発してはいけませんと言っている間に大量の振り込め詐欺が迅速に遂行されます。迅速な着手、これをしていただかないといけないわけです。
 そういう意味では、余りに過剰な要求をしたら捜査が当然潰れてしまう、できなくなってしまう。だから、振り込め詐欺の被害者も、当然、適用罰条どころか、余り厳しくしたら結局救済されない。立会人の確保をしないといけなくて、日程調整に数週間を要するこれまでの現状を放置しては、結局、やり得、逃げ得を許すということになるわけです。
 令状の要件というのは、こういう立法事実をよく考えて決めていただかないといけないというふうに私は考えております。
○矢倉克夫君 ありがとうございます。渕野参考人もありがとうございます。
 川出参考人にちょっとお伺いしたいんですけど、今の渕野参考人の御意見の中で、立会人の位置付けについて、特定の要件との関係で微妙なバランスを取るための立会人の位置付けというような御意見があったわけですけど、現行法に基づいてこの立会人はどのような理論的な位置付けであるのか、今の渕野参考人の御意見について、御所見をいただければと思います。
○参考人(川出敏裕君) 立会人がいることで事実上の障害になって、本来的に特定が難しい通信傍受というものなので、それが、何というんですか、事実上抑制されているという御意見だったんですが、まず、例えば特定が十分にできていない、それで本来正当な理由のないような会話についてまで傍受されてしまうと、そういう前提で、ただ、その立会いがあることで事実上それが制約されるといっても、結局、それは無関係な通話が聞かれるという部分がなくなるわけではありませんから、その意味での総量規制というのは、私は、元々の出発点というのと必ずしも整合していないというふうに思います。
 それともう一つは、意見の中で申し上げましたが、事実上障害があるということによって補充性が担保されているというのは、そもそも補充性の要件の解釈としてはおかしいだろうというふうに思いますので、そこは渕野先生と意見を異にするということになると思います。
○矢倉克夫君 最後、浜田参考人、いろんな法律を作る上で、やはり当然ですけど、捜査機関が信用できないから法律を作ってはいけないというわけにはこれはいかないとは思うんですね。
 ただ、他方で、しっかりと法律を作って制度はしっかり確立しながら、捜査機関の濫用というのは、これはしっかりと確認しなければいけない、この両方でやっていかなければいけないと思うんですが、特に、そういう部分での今後の運用の在り方について、大変時間が短くて申し訳ありません、一言ちょっと御示唆をいただければと思います。
○参考人(浜田寿美男君) 法の人間じゃないのでかみ合う話なのかどうか分かりませんけれども、これまでの自白の問題に関して言いますと、任意性、信用性で判断するというところで、その部分をくぐり抜けた形で冤罪事件が頻繁に起こり、かつ、それが再審段階に至ってもなおかつ正されないままに至っている事件が相当あるというふうに思うんですね。
 その意味では、任意性、信用性判断でチェックするという在り方が、これまでの在り方はある部分破綻をしているんじゃないかと私は思う。その点で可視化がなされるというのは非常に大事なことだと思うんですが、もう一つ、それに加えて、先ほどちょっと言ったことですけれども、捜査官は、無実の主張があったときに、それの裏付けをするということを、つまり消極証拠に対して誠実に対応するということを是非具体的な、こういう訴訟法という法律で規定できるかどうか分かりませんけれども、推定無罪という原則があるぐらいですから、無実の方向の主張に対する裏付けを、言わば一つの文化としてだけじゃなくて一定の規制として、その主張があったときにはそれを裏付けることをしなきゃいけないというようなことを組み込んでいただけたら随分変わるのになというふうなことを思っております。
○矢倉克夫君 丁寧にありがとうございました。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 今日は、四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。
 まず、浜田参考人にお尋ねをしたいと思うんですけれども、これまで、人はなぜ自白をするのか、それから、そのうその自白をどう見抜くのか、あるいは見抜けるのかと。
 まだ先生のこれまでの長い経験と研究からすればほんの触りの部分だけなんですけれども、お話をいただいているところなんですけれども、ちょっと違った角度で、人はなぜうその自白やうその共犯者供述を信用してしまうのかということについて、先ほどお触れになりました足利事件の職業裁判官たちが、後にDNA鑑定によって明白なうその自白であったということが明らかになった供述を、詳細、迫真だといって、それを有罪立証の根拠にした。そして、多くの冤罪事件で、物的証拠が乏しい中で、事実上、うその自白が真犯人と被告人を結び付けるほぼ唯一の証拠になるという、そうした場面もあるわけですけれども、そうした極限の場合において判断者がうその自白を信用してしまうというか、あるいは乗りかかってしまうというか、そうした現象がなぜ起こってしまうのか、参考人の御意見がありましたらお聞かせください。
○参考人(浜田寿美男君) うそをなぜ見抜けないのかという話なんですけれども、普通は、うそはつかれる人間が相手のうそを暴こうとする、うそというのはつかれた人間が相手を暴こうとするというものだと一般には思われていますけど、虚偽自白というのは逆で、おまえがやったんじゃないかということで追及する、真犯人がうそで否認をしているとすれば、それを暴くというのはうそを暴くという形でぴったりはまるんですけど、虚偽自白は逆なんですね。おまえがやっただろう、おまえがやっただろうと言って、やっていません、やっていませんというのが、最後、とうとうやりましたと言うと、ああ、やっぱりおまえかということで、その後、犯行のストーリーを語って、妙なものが出てきても、それは間違ったんじゃないかという形でうそを支えるんですね。
 うそは暴かれるものとして考えられていますけど、虚偽自白というのはついた途端に相手が支えてくれるんです。多少違うものが出てきても、ええ、そうかという形で問いただしたら、うそで言っているものですから、自分の方で、ああ、間違ったんだと思って直すという形になりますから。
 うそは暴かれるものだというのが世間の常識ですけど、支えられるうそがあるということを余り知られていない。裁判官も真犯人にだまされたくはないと思っているんですけど、実は、虚偽自白をした人間がいれば、これだけの重罪事件で自白をするというのはよっぽどの、うそであることはまずないだろうからというところで、うそを支えてしまう一翼を担ってしまっている現実があるんじゃないかと思います。私も、まだ再審が果たされていない事件を幾つも重ねて分析せざるを得ない立場にいるんですけど、何でこれが見抜けなかったんだろうかということを本当につくづく思います。
 だから、その虚偽自白というのが、先ほど言いましたように、本人が言わば犯人になって語らざるを得ない状況に置かれているんだということさえ分かれば、いろいろ間違ったことを言うわけですから、それが調査上も残っているわけですね。録音テープになれば、ましてまさにそれがはっきり残っていくわけですから。虚偽自白はこういうものだということを知っていれば見抜けるはず、知らないので見抜けないという現実があったんじゃないかと思います。
 もう一つ言っておくと、九九・九%の有罪率という言われ方をされていますけど、もう少し今は下がってきたかもしれませんけれども、逆に言うと、裁判官から見ると、目の前に座る被告人のほとんどが有罪者なんですね、千件に一件ということですから。だから、裁判官をずっとやってきて、一生の間一度も無罪判決を書いたことのない人もいると私は思うんです。
 ですから、まあ大体座ったら犯人だろうという目で見てしまうというところがやっぱり現実的にあるんじゃないかというふうに思います。その点でも、虚偽自白がなぜ起こるのか、これは例外的に起こるんじゃなくて、私の目から見ますと、ほとんど誰もが落ちてしまうんじゃないか、同じ状況の中に置かれたらという部分を裁判官が知ってさえいれば相当見抜けるはず、それを知らないというところが最大の原因だというふうに思っております。
○仁比聡平君 そうした中で、先生が虚偽自白を見抜く一つのポイントとしての無知の暴露などの部分も、取調べはしているんだけれども録音、録画をしない、完成された自白を中心にした取調べ官の裁量によっての録音、録画が行われて、そういう意味での部分録画が、しかも裁判において有罪を立証するための証拠、つまり、任意性の証拠ではなくて犯罪事実そのものを証明するための実質証拠として使われるということになると、裁判官や裁判員の判断を誤らせる危険性というのは極めて高いと思うんですけれども、参考人はどうお考えでしょう。
○参考人(浜田寿美男君) おっしゃるとおりだと思います。
 これは繰り返しになりますけれども、無実の人が虚偽自白をするというのは、ただ言わされる、強引におまえ言えという形で言わされるというわけじゃなくて、犯人であるという立場を言わば演じざるを得なくなってしまう。それは外から見たら分からないわけですね、演じているのか、実際に真犯人で体験に基づいてしゃべっているのかが見えない。その中で、例えば裁判官は裁判官で、その場面を見ますと、自分からしゃべっているじゃないかというだけで信用性を取ってしまう危険性がありますので、その点で、録音テープ、録音、録画されますと余計にそのところは迫真性を持って見えてしまう。
 苦しくて苦しくてやむなく自分で犯人で語っている人と真犯人が自分の記憶に基づいて語っていることを外から見て判別することは、僕は不可能だと思います。その意味では、プロセスを全部明らかにしなければ見抜けないというふうに思っております。
○仁比聡平君 完成された自白の供述録画だけ見て外から判断するのは不可能という参考人の発言は、指摘は極めて重いと思うんですね。
 時間がありませんので、申し訳ない、渕野参考人に、そうした一部可視化と言われる部分についても重大な問題をはらむこの刑事訴訟法改悪案が全体としてどのように使われ得るのかということで、トータルに捉えた問題点把握の必要があるという点を先ほど最後の部分で指摘をされたんですけれども、もう少し、どんな問題があり得るのか、何が懸念されるのかという点について御説明いただいてよろしいでしょうか。
○参考人(渕野貴生君) 今回の法案の下では、次のようなことが実際に起こる可能性といいますか、そういうシミュレーションができるというふうに考えています。
 警察が、ある集団が一定の犯罪を行おうとしているのではないかという疑いを持って、その組織を一網打尽にして、その主導者、首謀者を処罰しようという方針を立てます。警察は、この集団に対して通信傍受を行って関連する通信を傍受します。傍受の内容を解析して、通信の当事者を特定して、まずはXという人を被疑者で逮捕します。逮捕後はXに対して取調べを行いますけれども、この取調べは、窃盗とか詐欺であれば元々今回の可視化、録音、録画の対象ではありませんし、仮に録音、録画の対象犯罪であったとしても、これは事後に犯罪主導者の処罰を念頭に置いたものですので、例外規定、すなわち犯罪の性質、関係者の言動、構成員である団体の性格等の事情に照らして、Xの身体、財産に害を加え又は畏怖、困惑させるおそれがあるということで例外規定に当たるとして可視化せずに取調べが行われる。
 この中で、Xに対して自白を迫るとともに、主導者の訴追への協力を迫ります。これが協議・合意制度につながっていくわけですけれども、協力を持ちかけられたXは、既にもう通信傍受された証拠があり、そのままでは自分が有罪になることが分かり切っておりますので、通常は協力を拒める立場にはないわけです。仮に協力を拒んだとしても、刑事免責によって、これも新しく設けられようとしている制度ですが、強制的に証言させることもできますので、ますます協力を拒むことは難しいということになります。
 結局、Xは協議に応じて、そして、捜査機関が元々狙っているYという捜査機関が首謀者だというふうに考えている人物の名前を恐らく捜査機関から指示されて言うことに。実際は、Yはその犯罪には関わっていないかもしれない、無実の人を巻き込んでいるかもしれないんだけれども、そういう協議、合意を成立させる。そして今度は、Yの裁判になったらXが証人として申請されるわけですけれども、証人に対する報復のおそれがあるということで、検察官はXの氏名や住所をY及びYの弁護人に開示しないということができるわけです。これも新しい制度ですね。
 結局、Yの側は、Xの組織内での人間関係であるとかXのYに対する人間的な感情とかいった、そういう周辺的な情報を十分に収集できないまま、防御の手掛かりを失ったままに反対尋問をせざるを得ないということになりはしないか。
 こういうふうな法案のそれぞれの制度の組合せが行われることによって被告人の防御権、適正手続保障が非常に大きく損なわれるのではないかということを懸念をいたします。
○仁比聡平君 今のような改定案の使われ方というのは、これはあり得ると私も思うんですけれども、しかも、その一つ一つが捜査官の裁量的判断によって行われるということによって、先ほど浜田参考人が指摘をされた、うその自白を支えてしまう冤罪を生み出す刑事裁判の構造が更に強化される危険というのがありはしないのかと。それは、本来、うそを暴くことによって真実を発見するということが刑事裁判の目的であるとするならば、それに反するものになりはしないかという懸念があるのですが、渕野参考人はいかがでしょうか。
○参考人(渕野貴生君) おっしゃるとおりだと思います。
 元々、先ほどのシミュレーションで一部御紹介をしました協議・合意制度というのは、協議・合意制度がない現在の共犯者同士の自白においても、共犯者が自分の罪を軽くしたくて無関係の第三者を巻き込むという引っ張り込みの危険が指摘をされているわけです。これが、協議・合意制度が通信傍受等と組み合わされて導入されますと、言わば正式の制度として用いられるようになるわけですので、引っ張り込みの危険というのはますます大きくなるかと思います。
 というのは、協議、合意では協議に応ずれば恩典が得られるわけですから、引っ張り込みをした後、自分の協力した供述内容を死守しなければいけないということになります。そうでなければ恩典が剥奪されますし、さらには虚偽供述で処罰されるということになりますから、うその第三者を売る供述、これが虚偽の供述なわけですけれども、この虚偽の供述を非常に固めてしまう、そういう危険性を持っているというふうに考えます。
○仁比聡平君 浜田参考人に、今の渕野先生のお話を踏まえて一点、通信傍受によってプライベートな情報、これが犯罪に関連しない情報であることが多いんですけれども、何にせよプライベートな情報、誰にも知られていないはずの情報というのが取調べ官によって示されるということがうその自白なり、あるいはうその共犯者供述なりということを引き起こしていく危険というのも私はあると思うんですけれども、浜田参考人、いかがですか。
○参考人(浜田寿美男君) 現実にそういうケース、もちろん法改正以前ですけれども、私のところに相談に来るケースでもそういうものがあって、非常に危ないというふうに思っております。
○仁比聡平君 そうした中で、通信傍受の要件に関わって川出参考人、それから西村参考人にお尋ねをしたいと思うんですが、これまでも議論ありましたけれども、川出参考人のおっしゃるのは、つまり組織性の要件の問題なんですが、これは、法文によっては特殊な組織犯罪、つまり、特殊詐欺と言われる振り込め詐欺とか、それから組織窃盗、あるいは暴力団の引き起こす組織的な犯罪、これをこれまでの対象四種ではなく、例えば放火などにも広げるという、ターゲットがそこにあるんだというお話はよく分かるんです。そのターゲットがそこにある犯罪に法文上限定されますということなんでしょうか、それとも、そうではなく運用でそうなるはずであるということなんでしょうか。
○参考人(川出敏裕君) 組織性の要件を満たすものについては、想定されているような組織犯罪になるだろうということですね。
 ですから、運用上とおっしゃるのは、それは、捜査機関側として通信傍受令状を請求するものはそういうものに運用上限定されるだろうということであれば、それはそうだろうと思います。
○仁比聡平君 先ほど来の川出参考人と西村参考人のお話でいうと、つまり、捜査側の令状請求、それから補充性の要件の判断も含めた令状審査、つまり裁判官の判断ということによってそれは認められないだろうというお話があっているので、それはつまり運用上の問題なのかなと思うんですよね。
 といいますのは、その組織性の要件について政府は、複数犯、つまり二人以上の共謀があれば足るという旨の答弁を繰り返していまして、これは、詐欺でいうと詐欺の共謀があるというにとどまる話なんですね。一般的に共犯行為が行われるときの共謀があると言っていることと大して変わらないと私は思うんですけれども、それ以上の組織性の要件というのの限定はないわけです、政府答弁では。
 ですから、法案の法文上でいいますと、川出参考人や西村参考人が指摘をしておられる組織犯罪以外の窃盗あるいは詐欺などの共謀の嫌疑が掛けられる場合もこれは含まれる、法文上は含まれるけれども捜査機関はそのような運用はしないであろうという理解でしょうか、川出参考人。
○参考人(川出敏裕君) 数人共謀の要件にプラスして、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体というのが出ていますので、単に共謀があるという意味での共同正犯の場合とは違うわけですね。それにプラスされた要件があると。
 それが典型的な暴力団とか本当のもっと大規模な組織犯罪だけにこれで限定されるかと言われれば、それはそうではないので、そこはおっしゃるように、実際の運用のところである程度限定されていくだろうと、そういうことになるんじゃないでしょうか。
○仁比聡平君 川出参考人が論文でもお書きになっているとおり、組織的犯罪処罰法の定義とは全く違う規定になっているわけです。
 先ほどの御答弁の、あらかじめ、結合体の、ここの部分の意味ですね。人数は二人以上であれば含まれるというふうに政府は言っているんですけれども、そのあらかじめと結合体ということはどう解釈されるということでしょうか。
○参考人(川出敏裕君) 結合体というのは結合体なんですが、あらかじめというのは、例えばその場で示し合わせてある現場で共謀するような形ではないわけですよね。あらかじめまさに話をして役割を、あらかじめ定められたですから、済みません、役割の分担というのがあらかじめ定められているわけですよね。
 その場で、その現場で何か示し合わせてやるという、そういう問題ではなくて、事前にこの役割分担というのが定められているということによって単なる共謀ということとは違うということだと思います。
○仁比聡平君 西村参考人に、私も、かつて闇金や日掛けに拉致された多重債務被害者や家族を自分の車で救出に行くというような闘いをやっていまして、この撲滅を願う西村参考人のお気持ち、すごくよく分かるんですけれども、その上で、今の要件について大変厳格であるというふうに先ほどお話しになったんですけれども、私は厳格だとは思えないんですが、ちょっと改めて伺います。
○参考人(西村幸三君) 弁護士会でももちろん様々な議論がされ、反対だ、これは広過ぎるという意見もございましたし、そうおっしゃる先生方の御意見を私は正面から間違いだと申し上げるつもりはございません。
 ただ、例えば組犯法レベルの要求をすれば、団体がはっきり特定されるまでは、裏に隠れた首謀者、首魁者がどういうものかが特定されなければ通信傍受はできないんだ、決定的な関与の証拠をつかみに行けないんだということであれば、やはり逃げ得を許してしまうというわけです。
 要件について、通信傍受法改正案の第三条では、要は、今回新設される、追加される罰条については、「当該罪に当たる行為が、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限る。」と。これは、数人の中に二人も含むというふうになっておりますけれども、例えば児童買春あるいは人身売買などにおきまして、例えば売春なりしている女性の、あるいは人身売買としてさせられている女性の携帯電話で、実際客が電話してくるその首謀者というか紹介する男の携帯電話、これが特定されているというときに、二人だけじゃ足らない、通信傍受してはいけないと、これはいかがなものなんだろうというふうに私は思います。
 人身売買問題については、国際的には、日本は通信傍受含めいろんな対策を怠っているとかなり厳しく指弾されている。日本は売春天国、児童ポルノ天国だと言わんばかりの言われ方をされています。大変恥ずかしいことだと考えております。
 その中で、通信傍受の要件を……
○委員長(魚住裕一郎君) 時間が過ぎておりますので、簡潔にお願いします。
○参考人(西村幸三君) はい、済みません。
 通信傍受の要件を考えるに当たりまして、今回の要件はかなりバランスの取れたものではないかと考えております。
○仁比聡平君 よく議論していきたいと思います。
 終わります。
○谷亮子君 谷亮子です。引き続きよろしくお願いいたします。
 初めに、浜田参考人の方にお伺いさせていただきたいと思います。
 取調べの録音、録画を行うということで、新たな冤罪、そして虚偽自白、そしてうその自白を生まないという視点で本日はお伺いさせていただきたいと思います。
 今回、本委員会におきまして審議されております刑事訴訟法等の一部を改正する法律案につきましては、取調べの録音・録画制度の導入が規定されております。対象事件としましては裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件に限定されているものの、仮に本改正案が成立、施行された場合には、法施行後三年経過後に録音、録画の実施状況について検討を加え、必要があると認めるときには所要の措置を講ずることとされております。
 そこで、先週二十一日の本委員会における対政府質疑の際に、私の方から、現状では、被疑者が取調べ室に入るときから録音、録画されているという状況になるわけでございますが、取調べを行う側の取調べ官はその運用状況を、取調べ室に入るときから録音、録画されているということを把握されますけれども、取調べを受ける側、被疑者は取調べ室に入るときから録音、録画されていることを知っているのか、周知されているのか、伝えているのかということについて私の方から述べさせていただきました。
 このことは、本法律案の刑事訴訟法三百一条の二第四項におきまして、逮捕、勾留中の被疑者を対象事件について取り調べる場合に捜査機関に取調べの録音、録画を義務付けていますけれども、録音、録画の際に被疑者に対する告知を義務付ける規定を設けるということはされていないというわけでございます。このような現状は、被疑者にその運用状況等を周知せず、勝手に録音、録画を始めるということになるわけでございますが、その運用状況は、取調べを行う側は、被疑者に対して今から録音、録画を始めますよということを伝える場面から録音、録画をすべきとも考えますし、まず最初に周知徹底すべきとも考えるところでございます。
 そこで、取調べの録音、録画を行うことを被疑者に周知、通知して取調べが行われるとすると、録音、録画されているということを被疑者が認識することによって、うその自白であったり、また、実際に犯罪等を行っていたとしてもやはり本当に言うということにつながっていくと思いますし、また、虚偽の自白をしてしまう、またさせられてしまうということをそれぞれ両方の観点でこれはなくすことができていくのではないかとも考えられるわけであります。
 そこで、取調べを行う側、また取調べ官は知っていて被疑者は知らない、知らされていないということで今後取調べにどのような影響を及ぼすとお考えになられますでしょうか、是非御教示いただきたいと思います。
○参考人(浜田寿美男君) 録音、録画をしているということを被疑者が十分承知した上でそれを受けると、これは大原則だと私は思います。
 ただ、その上で、全面可視化をしていなければ、一部であれば、それ以前のところで既にもう犯人として振る舞わざるを得ないという状況の中に置かれている可能性がありますので、それで録音を取りますよということで取られたとしても、それは虚偽自白を防ぐという機能を果たさないことになるんじゃないかというふうに思います。
 現実に、過去、これが法制をされる以前から、当然、録音テープ、録音、録画というのは使われてきたわけで、古くは一九五〇年代から録音テープは既に取られているわけで、それが、例えば仁保事件という大きな事件がありましたけど、その事件の場合でも隠しマイクで取っている、落ちてから取っているわけですね。私がやりましたと認めてから取って、ただし、本人はやっていないものだからしゃべれないんですね、どうやったかがしゃべれない、その様子が録音テープに入っているのがあります。ところが、これ裁判所に任意性の証拠として出されたんですが、裁判所は任意性ありというふうに判断してしまう。そういう現実が起こっている。
 これは歴史的に古い事件ですけれども、今でも同じことが起こり得るというふうに思いますので、その意味では、全面可視化とセットで初めて機能するというふうに私は考えております。
○谷亮子君 貴重な御意見をありがとうございました。今後の対政府質疑でも反映させていただきたいと思っております。
 続きまして、西村参考人にお伺いさせていただきたいと思います。通信傍受の対象犯罪の拡大について御意見を伺いたいと思います。
 報道によりますと、振り込め詐欺などの特殊詐欺の平成二十七年度の被害額は四百七十六億八千万円でございまして、三年連続で四百億円を突破しているという状況にございます。また、警察の取締り強化によりましてその被害額は減少していると言われていますけれども、特殊詐欺の被害者の年齢別では四分の三が六十五歳以上の高齢者であるなど、まさにこれは悪質な犯罪であると考えられます。
 そこで、今回の改正案によりまして振り込め詐欺等が通信傍受の対象犯罪に追加されましたけれども、多くの国民の皆様にとって極めて重大な、大変大きな犯罪であるこの振り込め詐欺等の特殊詐欺については、首謀者等の背後関係を含む事案の解明が進むことを心から私も期待したいと思っておりますけれども、現行の通信傍受法が規定する四つの犯罪類型から、これはあらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限ると要件を課した上で、殺傷犯関係、そして逮捕及び監禁、そして未成年者略取及び誘拐、そして窃盗、強盗、詐欺、恐喝、また児童ポルノ関係の罪を追加することとされております。
 そこで、この対象犯罪が追加されることにつきまして、期待される点や今後課題とされる点があるとしましたら、その点を教えていただきたいなと思います。
○参考人(西村幸三君) 世界各国の情勢につきましては、特別部会におきましてもかなり調査されております。
 対象犯罪が日本の現行法のように四種類に限定されているという国は、少なくともOECDの主要国を対象にした調査においては皆無で、今回改正法で増設される罰条以外にも広範に適用罰条は記載されております。捜査機関の施設において実施されていますし、立会いの要件もございません。令状発付件数は、日本は年間でいうと四十二件、年によって変わりますが、イギリスで二千八百件、アメリカで三千六百件、ドイツで二万三千件、フランスで二万六千件、イタリアで十三万件、こういった具合でございます。
 まず、たった四十件しか日本において重大犯罪として通信傍受になじむ事案がないとはとても思っておりません。国民の被害の声、数百億円の被害額を思い起こしただけでも、ようやく前進したなというふうに考えております。亡くなった方、家庭が崩壊した方は声を上げられないですよね。誰かがやはり公の場でちゃんと訴えないといけない、そういう思いで今日は来ております。
 課題につきましては、やはり通信傍受が適切に行われることはきちんと検証していかないといけないというふうに思っております。毎年の国会報告もそうですけれども、個々の刑事弁護士がやはり通信傍受、適法であったかどうか、違法収集証拠の主張なども含めて適正にチェックしていく、裁判所もそれを注視していく。一罰百戒ではないですけれども、そういうふうにきちんと検証していくことで、具体的な裁判の事案の中でそれが大きな、違法な通信傍受の抑止効果になるであろうと期待しております。
○谷亮子君 ありがとうございました。
 やはり被害者救済ということを第一義的に考えながら、課題等もたくさん残っているということで、今後更に審議を深めてまいりたいというふうに私も思っております。
 続きまして、川出参考人、そして渕野参考人にお伺いさせていただきます。
 捜査機関の施設において特定電子計算機を用いる通信傍受の実施に際しまして、立会人をなくし、捜査に従事していない警察官等による適正な捜査の指導体制を導入することについて伺いたいと思います。
 今回の改正法案により、捜査機関の施設において特定電子計算機を用いる通信傍受の実施方法では現行法の要求する通信事業者の立会いは不要となりますが、その際に、第三者の立会いを代替する意味も含んで、捜査に従事していない警察官等による適正な捜査の指導体制が導入されることとされております。
 そこで、通信事業者の負担を軽減し、各都道府県警察において適正捜査の指導を行う部署の警察官による通信傍受の際の適正な指導確保に期待する声がある一方、通信の秘密という憲法に関わる事項であるのに、外部のチェックが働かないまま傍受を認めていくということは、国際的に見ましても問題であり、警察官の立会いは実効的な監視にはならないという声もございますが、この両方からの考え方があるんですけれども、このような今後行われる運用について、川出参考人、渕野参考人に御評価を伺いたいと思います。
○参考人(川出敏裕君) 意見の中で申し上げましたように、立会人を置かないということについては、今回の新たな仕組みによって私はもう代替されているというように考えますので、ただ、その上で、より慎重な手続といいますか措置をとるという意味で、警察の方で捜査に従事していない警察官の方が指導等に当たると、それは望ましいことではないかと思います。
 それから、国際的な話ということでいえば、先ほど西村先生からも御紹介ありましたように、立会いを置くというのは必ずしも国際的にスタンダードになっている話ではないので、その点は特に問題はないのかなというふうに思います。
○参考人(渕野貴生君) 立会いにつきましては、私は、特定電子計算機によって立会いは完全には代替できていないというふうに考えます。
 現在の立会いですと、例えば該当性判断のための傍受、すなわちいわゆるスポット傍受ですけれども、スポット傍受をしているときに犯罪に関連しないところの会話を捜査官がこっそりとメモを脇で取っているというようなことはできないわけです、立会人にそれを見られますので。だけれども、特定電子計算機でありますと、そこは誰も見ておりませんので、こっそりメモを取るというようなことがあり得るのではないかというふうに考えております。
 それからもう一つ、そういった違法なことを抑止するという手段として違法収集証拠で排除するということが何回か議論で出ておりますけれども、私は、この違法収集証拠排除による抑止というのは機能しないというふうに考えております。
 というのは、現在の通信傍受法の運用でも、実際にこの通信傍受記録が証拠請求されることはほとんどありません。実際にどういう使われ方をしているかというと、これは特別部会の中で警察関係者の委員自らが言っていることですけれども、普通は証拠として使うのではなくて、傍受した会話を取調べで使って、取調べで被疑者に当てて自白を取るために使うんだと、それが普通の使い方ですというふうにおっしゃっているところからも明らかです。
 したがって、そもそも証拠請求されないものを排除するとか排除しないとかいう問題にはならないので、排除法則による抑止というのは私は期待できないというふうに考えております。
○谷亮子君 川出参考人、渕野参考人、大変貴重な御意見をいただきました。御教示いただきまして、ありがとうございます。
 時間となりましたので、終わらせていただきます。ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、長時間にわたり御出席を賜り、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
 本案に対する本日の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。
   午後零時三十六分休憩
     ─────・─────
   午後一時三十分開会
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案の審査のため、本日の委員会に、理事会協議のとおり、法務省人権擁護局長岡村和美さん外三名を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
    ─────────────
○委員長(魚住裕一郎君) 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○小川敏夫君 民進党・新緑風会の小川敏夫でございます。
 まず、公安委員長にお尋ねいたします。
 先般の質疑の中で、ヘイトスピーチを規制できないか、あるいはヘイトスピーチを公然と行うヘイトデモをこれを不許可にできないかというような趣旨の議論がある中で、公安委員長は、そのデモを不許可にする、それは根拠となる法律がないからできないんだと、このような趣旨の御発言をいただいたというふうに思いますが、その趣旨についてもう一度改めて御説明いただけますでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 公安条例というものがございますが、過去、最高裁判所がこの公安条例の合憲性を認めるに当たって、許可することが義務付けられており、不許可の場合が厳格に制限されているので、この許可制は実質において届出制と異なることがないというふうに判示しております。
 そういうことを考えますと、表現しようとしている主張の内容においてこのデモを不許可にすることはなかなかできないのではないかというふうに承知をしております。
○小川敏夫君 その表現の内容においてということでありますが、その表現する行為が具体的に違法であるという行為であるということであれば、いかがでございましょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 名誉毀損ですとか侮辱罪に当たるような違法行為があれば、これは警察として法と証拠に基づいて厳格に対応いたしてまいりたいと思います。
○小川敏夫君 違法行為であればという答弁を貴重に受け止めさせていただきますが、そうすると、例えば今審議しているこの法案は、ヘイトスピーチ等に対して努力義務でしないようにと、あるいはなくすように努めなさいということでございます。違法という評価がなくて、単に国民に努力を課したというだけの法律では、やはりそうしたデモの不許可にするという根拠にはなり得ないと、私はそういうふうに理解をするんですが、そういうことでよろしいでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 同じように、表現しようとしている主張の内容だけによって不許可にすることはできないというふうに思います。
○小川敏夫君 公安委員長はこれで御退席いただいて結構でございます。
○委員長(魚住裕一郎君) じゃ、御退席いただいて結構でございます。
○小川敏夫君 外務省の副大臣にお越しいただきました。
 ヨーロッパ、特に例とすればドイツとフランスにおきましてヘイトスピーチを犯罪として処罰する法整備がなされておるようでございますが、その状況について御説明いただけますでしょうか。
○副大臣(武藤容治君) 他国の法律について、各国はそれぞれ固有の歴史的な体験を背景に憲法を始めとする法制度、法体系を有しております。このため、必ずしもその制度の詳細について把握できているものではございません。
 その前提で申し上げさせていただきますが、外務省において把握している範囲では、ヘイトスピーチという用語は用いられておりませんが、これに当たると思われる行為について、先生おっしゃられたドイツ、フランスのいずれにおいても罰則規定が設けられていることと承知しております。
 具体的には、ドイツでは刑法において、国籍、民族、宗教又は人種的起源によって特定される集団等に対しまして、特定の集団や個人等に属していることを理由に憎悪をかき立てるような行為に対し三か月以上五年以下の自由刑、いわゆる直訳でございますが、いわゆる拘禁刑に当たるものと思いますけれども、設けられていることと承知しております。
 また、フランスにおいては、刑法及び出版の自由に関する法律において、出自、特定の民族、国籍、人種、宗教への帰属等を理由とする差別、憎悪又は暴力の扇動に対して一年の拘禁刑又は罰金刑が設けられているものと承知しております。
○小川敏夫君 ありがとうございます。
 外務副大臣はこれで退席していただいて結構でございます。
○委員長(魚住裕一郎君) どうぞ。
○小川敏夫君 さて、本法案の内容でございますが、それにちょっと先立ちまして、じゃ、法務大臣から、今、法務省としてはヘイトスピーチを許さないということで取り組んでいらっしゃいますが、その取り組んでいる、許さないというヘイトスピーチ、これを法務省としてはどのようなものがヘイトスピーチと考えているでしょうか。
○国務大臣(岩城光英君) お答えいたします。
 ヘイトスピーチの定義は必ずしも確立したものではございませんが、昨年度、法務省が公益財団法人人権教育啓発推進センターに委託して実施した調査におきましては、一般的にヘイトスピーチと指摘されることの多い内容として、一つに、特定の民族や国籍に属する集団を一律に排斥するもの、二つに、特定の民族や国籍に属する集団の生命、身体等に危害を加えるもの、三つに、特定の民族や国籍に属する集団を蔑称で呼ぶなどして殊更に誹謗中傷するものという三つの類型があることを念頭に調査が実施されております。
 ヘイトスピーチの対象とされている方々などに御協力いただきました聞き取り調査におきましても、多くの方々がヘイトスピーチと聞いてイメージするものとしてこれらの内容を中心に挙げられていたものと承知をしております。
○小川敏夫君 それで、提案者にお尋ねしますが、この法案の第二条で、いわゆるヘイトスピーチの定義、本邦外出身者に対する不当な差別的言動というものについて定義してございますが、どうも今法務省が説明された、今現に法務省がヘイトスピーチの対象として取り扱っているそうした類型の行為よりもかなり狭いように感じるんですが、これはいかがでしょうか。
○西田昌司君 我々が挙げましたのは一つの例示でありまして、それ以外も、「など、」という言葉にありますように、その周辺のいろんな、著しく侮蔑するなど、様々なことがその中に入ってくると思います。例示のこの中に外れているからといってヘイトスピーチを我々は認めるものでもありませんし、またその以外のところのことを我々は認めるものでもないと。
 ですから、要はこれ理念法でありますから、具体的なこういう例示を挙げまして、こういうことに関連するようないわゆるヘイトスピーチはやるべきでないということを宣言して、そして国民と一緒にそういう差別のない社会をつくっていこうということを目指すものであります。御理解いただきたいと思います。
○小川敏夫君 この条文からは侮蔑的な表現というのはどうもヘイトスピーチに入るとはちょっと読めないんですがね。
 ちょっとこの条文に沿ってお尋ねしますが、この「差別的意識を助長し又は誘発する目的で」と、まあそこまではいいとして、その後、「公然と」、そこまでいいとして、その後ですね、「その生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。」というふうに書いてあります。
 まず、そうすると、この書き方は、生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えるというだけじゃ足らなくて、そういう危害を加える旨などを告知するなどして、かつ地域社会から排除することを扇動するというこの二つの要件が両方とも満たしたときに初めてこの二条の定義に当たると、こういう文章だと思うんですが、いかがですか。
○西田昌司君 まず皆さん方に御理解いただきたいのは、この法律の目的はあくまで理念法であります。そして、そのためにわざわざ禁止規定を書いていない。それはなぜかというと、そういう禁止規定で書いた場合には、今、小川委員が御指摘なさったように、その定義から外れた場合、それは禁止されていないのじゃないか、そしてそういうヘイトスピーチは逆に言えばお墨付きになるんじゃないかと、そういう解釈も生まれ得るわけであります。
 しかし、我々は、これを禁止規定を設けずに宣言をして理念法という形にしたために、その周辺も含めて当然にこれはヘイトスピーチというものに全体の文脈から認められると。ですから、一言一句で、この言葉言ったらいいとかこの言葉は使わなければヘイトスピーチにならないとか、そういうことを私もインターネット上で言っている人を見たことあるんですけれども、それは大きな思い違いであります。
 そうじゃなくて、これは総合的な文脈の中で解釈するものでありますし、そして、これは理念法であるからこそ、そういった解釈で、国民全体にいわゆるヘイトをやめようじゃないかと、そういうことは恥ずべき行為なんだということを呼びかけることができるわけで、余り細かい、これとこれとが重なったらこうじゃないかというような私は解釈は我々も提案者としてするつもりもありませんし、そうすべきではないと思っております。
○小川敏夫君 いやいや、そう解釈すべきじゃないし、そうすべきじゃないというんだったら、そう解釈できないような法律にすればいいんでね。
 例えば、法務省は言っていましたよね、排斥、危害、誹謗という三つの類型と言ったわけですよ。三つの条件が重なったらヘイトとは言っていないんで、三つの類型があると言っているわけです。
 この第二条の書き方はこの類型になっていないんですよ。だから、文章は、さっきも言ったけど、危害を加える旨を告知するなどというだけじゃヘイトに当たるんじゃなくて、さらに本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動すると。だから、危害を加えるという告知するということと地域社会から排除するということが、二つこの要件を満たしたときに初めてヘイトになるという、そういう日本語の文章なんですよ。これ、理念法だからいいんだとか禁止法だからという話じゃなくて、やっぱり法律ですから、法律は文章によって決まるんでね。
 今、西田委員が当然おっしゃられたように、法律で規定すると、ここでは、いわゆる不当な差別的言動とは、つまり国民がそういうことは許されないからしないように努めましょうというふうに努力義務を課した行為というのはこういう行為だというふうに規定すれば、そこに規定された以外の行為は別に法律は何も触れていないんで、逆に言えば許されるという反対解釈ができる余地があるわけですよ。ですから私は聞いているわけで、こういう書き方ですと、いわゆるヘイトスピーチの定義を非常に厳しく限定しているものですから、厳しく限定した分、例えば法務省が今普通にヘイトスピーチとして扱っているものも実はヘイトスピーチでないと、そういう扱いに読めるという条文になるから私は聞いておるわけです。
 じゃ、どうぞ。
○矢倉克夫君 こちらの二条の読み方ですが、こちらは定義として、そのまさに定義の部分は、この「本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、」以下がこちら定義でありまして、「など、」より以前はこれは典型例というふうな位置付けでございます。というのも、今、法務省の方も実態調査などもいたしました。いろんなヘイトスピーチの内容なども調査して、今、三分類という形であったわけですが、とりわけ多かったのが、排斥をするものとやはり危害を告知する言動というのが多かった、そのような事情も踏まえて典型例としてはこちらを挙げているわけであります。
 ただ、西田発議者からもありましたとおり、こちらは、当然ですが、この理念法で理念として、もうこのような排斥することを扇動する言動というのはこれは許されないということを理念として訴えた、それに文脈上該当するようなものはこれは広く捉えるということが、理念法であるが以上のこの立て付けになっております。
 他方で、禁止規定等の、逆に反対解釈という話があったんですが、禁止規定、あらゆる人に義務が及ぶというような規定にすると、これは公権力がそれぞれの行為に介入をすることになって、どこまでがいけない言動かということをこれ明確にしなきゃいけない、そういうようなときになったときに初めてそれに対しての反対解釈という議論があるわけですが、理念法という立ち位置を取る以上は、反対解釈ということは法解釈としてはもうないという理解で発議をいたしております。
○小川敏夫君 例えば、この文章の結論は、いいですか、いろいろ告知するなど云々、理由としてとあるけれども、それで、「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。」というふうに、これが結論ですよね。ここに、などは入っていませんよね。
 そうすると、本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動するというのがこれ結論的な要件じゃないですか。などが入っていないから、例えば地域社会から排除するということを言わないで、ただ単に侮蔑するような言葉は要件に入らないと思うんですが、どう読んでも入らないと思いますよ。どうでしょう。
○矢倉克夫君 その地域社会から排除するという言葉、それはまた、更に言えば、その人の、相手の存在を否定しているというような部分もある。その表現の対応いかんも全て含めて文脈上捉えるわけですが、根底にある部分は、その目の前の人の人格を排除して、そこの地域社会に存在するに値しないんだというような意図も当然入ってくるわけであります。そういうものと併せて、扇動の対応等も踏まえて、当然該当し得る表現であるというふうに理解もいたしております。
○小川敏夫君 お気持ちは分かりますが、文章はそうなっていないので、法律ですから。
 例えば、細かい話を言いますと、地域社会から排除すると。じゃ、桜本から出ていけとか東京から出ていけという、地域社会から出ていけというのは分かるけど、日本から出ていけというのは、日本は地域社会ですか。
○西田昌司君 日本というのは社会であって、地域社会という、そういう小さなくくりではありませんが、当然日本から出ていけということは地域社会から出ていけということも含まれてきますので、当然それも入ってくると思うんです。
 それで、小川先生の方から個別にいろいろ御質問あるんですけれども、私元々、何度も言いますけれども、皆さん方がかつて、今も出されているいわゆる人種差別撤廃法、これは禁止規定でされているわけであります。しかし、禁止規定でされているけれども、実はその実、中身的にはこれは禁止規定だけど理念法なんだということも前回の国会で御答弁、御説明されているわけなんです。そういう意味でいうと、私は余りその中身的には大きな差はないと思うんです。
 しかし、問題は、禁止規定を作ってしまうと、先ほど、今、小川先生がおっしゃったように、明確にどれが、何が禁止の対象になるかという定義、そこが非常にはっきりさせなきゃならないわけです。しかし、我々が提案している方は禁止規定を設けずに理念法にとどめている。しかし、この理念法にとどめていることが、逆にいろんなそういう周辺のことも含めて、理念ですから、こういうことはすべきでないという話になってくる。
 ただ、これを禁止規定していない、それは、何度も言いますけれども、いわゆる憲法の保障する表現の自由ですよね、思想信条の自由、様々なそういう基本的人権の一番根幹に関わるところを公権力が規定したり制限したりするということは、逆に言うと、いつ、誰もが、逆のことで同じように公権力からそういう制限を受けることだってあり得るわけなんです。だから、そういうことを考えて我々はあえて理念法にして、そしてもっと広く、法律の運用によってこの法律の目指すものを一つの解釈指針にして様々なこの法律を使っていただく。
 先ほど河野委員長は、出られましたけれども、河野委員長もおっしゃっているのは、要するに、この法律ができたらしっかりとこの法律の理念にのっとって当然警察官にもそういう教育をしなければなりませんし、そうなってくると、様々な侮蔑罪とかそれから脅迫とか、そういう様々な法律の解釈をするに当たってもしっかりとそれを厳正に対応していくということになると、そのことを我々は期待しているわけであります。
○小川敏夫君 私は地域社会が日本に当たるのかと聞いただけなのに、何か延々と自分の法律を宣伝されていて、余りにもテーマが多過ぎて議論が困るんですけど。
 ただ、西田議員は、河野委員長が云々かんぬんでちょっと重要な点を言いましたですね。侮蔑罪、まあ多分侮辱罪の間違いだと思うんだけれども、侮辱とか名誉毀損とか、特定の人に対する行為であれば現行法で対応できるんですよ。今困っているのは、そうした特定人を相手にする行為ではなくて、まさに刑法の侮辱罪あるいは名誉毀損に当たらない、まさに今、不特定多数に不快感を与える、あるいは排外的な言葉を浴びせ付けるというような行動をして練り歩くというような行為、不特定多数に対するこうしたヘイトが何らの対応もできないから困っているわけで、そうした立法を考えているわけですから。だから、侮辱罪の云々かんぬん、それで警察は一生懸命やるといっても、全く議論がかみ合っていないんですがね。
 で、何か西田さんのお話しの長い長いお話の中で、何か私どもが出した案と今与党が出している案が大して変わらないというような御発言もありましたけれども、大して変わらないどころじゃなくてひどく変わるわけでありまして、先ほど公安委員長に確認しました。違法ということでなければ警察はデモの不許可もできないし、規制もできないということでありました。与党案のこの法律は、これ定義したいわゆるヘイトスピーチを違法とは宣言していないわけで、そうすると、この法律ができても、従来行われているこのヘイトデモ、これを不許可にする根拠には全くなり得ないし、それから今まで行われているヘイトスピーチが同じ形で繰り返されたとしても警察は何も規制ができない。
 そうすると、この法律で、前回も質問しました、この法律について努力をしようとする気もない人、あるいはこの法律に逆らって殊更やろうという人に対して何の効果も及ぼさないですねと私は聞いたわけですが、そういう結論になりますね。
 じゃ、聞き方を変えましょう。今行われているヘイトスピーチあるいはヘイトデモ、これをやめさせることができる法律なんですか。
○矢倉克夫君 やめさせることに寄与する法律であると思います。
 今、小川委員がおっしゃったとおり、まさに問題点は、これまで特定人に対してのこのような差別的言動については法は意識を明確にしていたわけであります、どういうものであるのか。ただ、不特定については何も言っていなかった。これを今回初めて、不特定に対しての侮蔑的な表現等であってもこれは許されないものであるということ、これをしっかりと宣言したわけであります。
 これがどのような役割をするかといえば、例えば騒音防止条例であるとか、様々な文脈で表現に対して規制をするとき、この規制の対象になるかどうかの価値判断にこれは当然影響してくる。いろんな既存の法律を解釈し、またその解釈が裁判で問題になったときに、このような理念法があり、不特定多数に対してのこのような言動というのは許されないものであると国がしっかりと言及をしたということが必ず裁判の方で判断をされるという理由があります。こういうような部分を含めて、おっしゃられているような効果をしっかりと発揮していくというふうに理解をしております。
○小川敏夫君 今行われているヘイトスピーチ、ヘイトデモ、これを防止することに寄与するというお話でしたけど、どういうふうに寄与するのか全く具体性がない話でして、この法案ができても、施行されても、ヘイトデモ、何一つ変わらずに行われますよ。行われたとして、それを何もこの法律を根拠に規制することができないと。
 ただ、提案者がおっしゃる趣旨は、この許されないという精神が様々なところで、行政なりなんなりで反映されるでありましょうから、そうした精神が広まればいいですねぐらいの話であって、ヘイトスピーチをやめようと思っていない人がヘイトスピーチをやる、ヘイトデモをやろうとしているわけですから、法律で規制されなければ構わないといってやっているわけですから、そういう人たちに対して何の法律効果も及ぼさないですね。
 ですから、寄与するとか、風が吹けばおけ屋がもうかるみたいな話じゃなくて、この法律の効果として私は聞いているわけです。ヘイトデモが申請されたらデモを不許可にする根拠になり得るかどうか、あるいはヘイトスピーチが行われている、それを規制するということの根拠になり得るかどうか、その法律効果、これについてもう一言でお答えください。私の質問について何かえらく長々と答弁するんで、私の質問について一言で端的にお答えください。
○西田昌司君 なかなか一言で答えられるような質問をされていないんですね。
 それで、先ほど私は、民進党が出されているのと変わらないというのは、その方向性の話なんですね。それで、ちょっと思い出していただきたいんですが、平成二十七年の八月六日、参議院法務委員会、この本委員会で、これは仁比議員から質問があって、小川議員がこういうふうに答えられているんですよね。
 してはならないという差別的行為をしたということがあっても、この法律で、つまり皆さん方が出された法律で、直ちに刑罰を科するという構造にはなっておりません。また、刑罰を科さないというだけでなくて、この法律をもって直ちに何らかのそうした差別的行為が行われたことに対する行政的な措置がなされるという意味の規制があるという趣旨でもございません。これは、ですから、具体的な処分がなされるというのではなくて、あくまでも、してはならないという理念を定めて、その理念に基づいて、これからの国の施策あるいはこれからの立法や条例の制定におきまして、様々なそうした行政の分野、立法の分野におきまして、この理念を生かした形で行ってほしい、こういう意味で理念を定めた理念法でございますと答弁をされているのは小川委員であります。まさに我々が言っているのも同じことを言っているわけです。
 そして、なぜここで、それじゃ禁止じゃなくて理念にしたかというと、もし禁止規定を置きましたときには、しっかりとした定義をしなければならない、違法それから合法の判断をしなければならない、その外れるところの問題、それが出てきますし、また、まさに違法行為があった場合にはそれを排除しないと、違法と国が定めていることを放置するのかという話が次出てまいりますね。ですから、そういう様々な立法上の問題が出てくることを踏まえて我々は理念法にしていると。
 そして、この効果はあるのかないのかということを一言でおっしゃれというふうにおっしゃいましたけれども、先ほど申しましたように、理念法でも行政の判断に、そこに作用して防止ができるという、そういう趣旨の発言を小川委員がおっしゃったように、我々もこの理念法で一つ一つ対応していく、そのことを申し上げたいと思います。
○小川敏夫君 私の発言の趣旨は、様々な場面で、行政で、そうした趣旨が浸透して効果が及ぶでしょうということは言いました。それしかできないとは言っていません。今回の与党の法案はそれしかできないんです。だから全然違うでしょう。
 要するに、最後に結論らしきものをお話しされたけど、また重ねて聞きます。あるいはもう分かっているのかもしれないけれども、この法律ができても今行われているような形のヘイトデモ、このデモをこの法律を根拠に不許可にすることはできない、それから、今現に行われているようなヘイトスピーチがまた公道上公然と行われても、警察はそれを規制することができないと。このことは、今、西田委員も首を縦に振っていらっしゃるから、そういう趣旨でよろしいわけですよね。
 ただ、そのことについて端的に答えないで、またあれこれあれこれいろいろ言うから私の質問時間がなくなっちゃうわけで。ですから、一言で言ってくれればいいんですよ。今、私は聞いているんですよ、この法律ができても今行われているこの態様のヘイトデモ、これを不許可にすることの根拠法律にはならないし、そして、今行われているような態様の公然と行われているヘイトスピーチ、これを警察が規制することができないと。
 ですから、そういう場面においては法的な効果は持たないですねと聞いているわけだから、はいか、はいならもうその一言でいいんですよ。違うなら違うという理由を説明してください。
○西田昌司君 これは、イエスかノーか、クイズじゃないですから、そういうことじゃないんです。
 つまり、今大事なことを委員おっしゃって、要するに、確かにこの法律ができても、また、もっと言えば、民進党の法律がもし成立したとしても、そういうヘイトデモをやる人は恐らくいるでしょう、これは。そういう方がいるのも事実だと思います。
 しかし、我々は、この法律を成立させることによって、我々日本国民がそういうことは許さないと言っているわけなんですよ。そして、国権の最高機関である国会がそのことを法律として認めたと。この意味は物すごく大きくて、その結果、何が起こるかというと、先ほど言いましたように、様々な行政の立法や条例を作ったり、また、解釈することに大いに影響を当然与えていくことになると。
 その結果、要はヘイトデモというのは、まず一つは、禁止じゃなくて、そういう方々に改心をしていただかなければなりませんから、結局、教育そして啓発、そういうことになるわけですけれども、世の中にはそれを幾らやっても直らない人がいますよ。しかし、これは、それを刑罰で直すんじゃなくて、やっぱり最後は、こういうばかなことをしてはいけないと彼らが悔い改めてもらわなければいけない問題でありますから、やはり、我々は、国会がこういう議論をして、この法律を皆さんと一緒に成立させていただいたと、その我々国会のこの意思が彼らの行動に私は影響を与えるものだと確信をしております。
○小川敏夫君 ヘイトスピーチをやって世論から非難を受けながら何とも思わずにヘイトスピーチをやっている人たちが悔い改めるのを待っていたら、いつになるんでしょうかね、終わるのは。終わらないと思いますよ。
 それから、与党の法案と私どもの法案の大きな違い、決定的な違いは、私どもは刑罰は科していないけれども、いわゆるヘイトスピーチは違法だと、ですから禁止しているんですよ。与党の案は、違法だからといって禁止はしていないんです。ただ、なくなるように努力しましょうというお話ですから。
 公安委員長も言いました、違法であれば対応できると。ですから、私どもの法案は、ヘイトスピーチは違法だ、国民はしてはならないといって法律で禁止したんです。ただ、刑罰は科していないだけです。与党の法案は、あなた方の法案は、本文の方で何か「許されない」というような表現があるけれども、結局、第三条で「努めなければならない。」と、ここに終わっているわけで、国民に対して禁止していないんですよ。ですから、もう何回も何回も議論させていただきました。努力をしない人、努力をあざ笑って繰り返す人には何の効果もないじゃないですかということを繰り返し質問させていただいたわけであります。
 私の質問聞いているときにはうんうんうんうん首を縦に振るから、私の考えを賛成してくれるのかと思うと、何か話し始めると違うことをおっしゃるので、まあ、どうぞ、答弁してください。
○西田昌司君 つまり、小川委員が目指しておられることも我々が目指していることも大して変わりはないと思うんです。ただ、手法が、先生方のおっしゃるように禁止規定をもし書いてしまうと本当にいいんでしょうか。国家がこのことはしてはいけないと。その定義が、じゃ、ヘイトとは何かという話が非常に厳格に決めなきゃならなくなってきますね。そして、その決めたことは、まさに言論を国家が統制してしまうわけですよ。これはかなり大きな問題になりますし、私は、間違いなくこれは憲法違反問題だといって訴えられる可能性は大いにありますよ。そうなってしまうと、これは元も子もない。逆に言えば、もうヘイトは野放しでどうしようもないじゃないかという話に逆になっちゃうんですね。
 そうじゃなくて、あえて禁止規定を設けないことによって、もう少し教育や啓発や、そういうモラルに訴えることによって広くヘイトスピーチを包み込んで、そして、国民の中でこういうことは恥ずべきことだからやめようと、そういう機運を盛り上げていくと、まさにそのことを小川先生自身も御自分の答弁で同じような趣旨のことをおっしゃっているわけですよ。だから、そこは……(発言する者あり)いや、もう一度読ませていただいてもいいんですけれども。やはりこうした種類の差別の禁止理念が法としてあるということが踏まえて、この法律や条例、規則等が定められていくと、十分その意義はあると、こういうことをおっしゃっております。
 是非、御理解いただきたいと思います。
○小川敏夫君 提案者は、まさかヘイトスピーチそのものが表現の自由だとして許されるのか、ヘイトスピーチそのものが表現の自由として許されるものだとは考えていないと思いますがね。
 質問時間がなくなりましたので。
 先ほどドイツとフランスの立法例を紹介していただきました。ここではもう時間があと一分しかないので具体的に言いませんけれども、非常にざくっとした内容の規定でありますけれども、これで実際に刑罰法規として機能しているわけで、ドイツ、フランスがこういうようなヘイトスピーチを刑罰をもって禁止する規定があるからといって、ドイツやフランスが表現の自由を侵害する国だとは思いませんが。
 どうでしょう、やはり最後の結論として言わせていただければ、みんなで努力しましょうといってみんな国民の多くがヘイトスピーチやめようとして努力をしているときに、努力をしないで努力する人をあざ笑うようにやっている人に対して、また改心するのを待っているようでは何の効果もないですねということを繰り返し質問させていただきました。それに対して明確な答弁がなかったのは残念でありますけれども、時間が来ましたので、私の質問は終わります。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 前回に続いて法案の意味するところを発議者にお尋ねをしていきたいと思うんですが、まず、法案の第四条で国と地方公共団体の責務を定めようとしておられます。特にその二項についてお尋ねをしたいんですけれども、地方公共団体に何を求めるか、あるいは期待をするかという法律上の用語として当該地域の実情に応じた施策という概念がありますが、この当該地域の実情に応じた施策というのは発議者はどのようなものを考え、具体的にはどのようなことを想定をしておられるのでしょうか。
○矢倉克夫君 ありがとうございます。
 当該地域ごと、それぞれこのような言論の対象になる方が人口の中でどれくらい比率があるかであるとか、どれくらい頻繁に行われているか、それぞれ地域ごとにあると思います。日本の中ではこのようなヘイトデモが行われていないような場面もある。そのような事情、事情を考慮して、例えばその事情に合った相談体制であるとか、そういうものを整備することを一つ考えております。
○仁比聡平君 もう少しお尋ねしたいんですけれども、つまり、例えば在日コリアンの集住地区が自治体の中に歴史的に存在するという自治体や、あるいはよくコリアンタウンというふうに称されるような大きな町があると、そこがにぎわいの場でもあるという地域もありますよね。一方で、そうした集住地区などはないんだけれども、けれども、そこでヘイトスピーチが許されていいはずももちろんないということだと思うんです。
 ですから、地域によって様々な実情があるといいますか、実情がそれぞれであると。それから、戦前戦後にわたる歴史的な在日外国人の皆さんとの共生の取組あるいは過去排斥をしてきた経過などがそれぞれの地域で、歴史もあるいは取組の到達点も違うと。であるから、どんな取組を行うのかというのは、それぞれの地方自治体ごとにいろんな取組があり得るというような意味なのかどうか。改めて、法文の用語は「当該地域の実情に応じた施策」となっているわけで、これがどれほどの深みを持って発議者が提起をしておられるのか、もう一度お尋ねいたします。
○矢倉克夫君 仁比委員おっしゃるとおりの趣旨であります。
 例えば、桜本などこの前も視察へ行かせていただいた、やはり外部からわあっと人が来て、元々そこで共生をしていた社会が分断されていく、子供たちの間でも友達であった同士が謝り謝られというような関係に追いやられる、こういう卑劣な行為、許されてはいけないと。そういうような場面では、相談体制通して、やはり共生という社会をどうやってつくっていくのかということをこれはしっかり行政と一体になって考えていくというような施策もまた考えなければいけない、その後の体制もつくらなければいけない。
 他方で、この前お話のあった銀座とかで、じゃ、こういうようなヘイトデモがあった場合どういう対応があるのか。当然、銀座だから許されるという話ではありませんで、まさにこういうような言動はそういうような場面でも許されないということをこれは理念法として表した。
 で、その理念法の文脈といいますか、これを、例えば騒音防止であるとか公安の、やはり全体の平和を乱す行為に対してどのように対処をするかというような文脈でこのような法律が作られる、そしてそれに応じて、その場の、銀座であるとかその辺りの自治体がしっかりと対応すると、それぞれごとの、地域ごとの対応の仕方はあるわけでありますし、それに応じた措置をとるということを趣旨としてこの法文は規定しているという理解であります。
○仁比聡平君 つまり、確認をすると、地域によって、この地域では許されないが別の地域では許されるという意味ではそれは毛頭ないと。で、地域の実情に応じて、法案の用語で言いますと、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組」、この解消に向けた取組の内容といいますか、講ずべき対応措置についてこれはいろんなことがあるだろうと、そういうことなのかなとも思うんですけれども、それぞれの地域においてヘイトスピーチは許されない、断固として許されないという立場に立って、そこそこの自治体が取り得ることを行うべきであると、そういう意味でしょうか。
○矢倉克夫君 まさに許されないということをここでしっかりと規定をし、その思いの下で地域も社会も、そして個人も一体となってこのような社会、そういうようなものを根絶していこうというところを訴えた理念であります。先生のおっしゃるとおりであります。
○仁比聡平君 ということであれば、その地方公共団体が取り組むその措置というのは、法的な根拠も、あるいは手法もいろんなことがあり得るんだろうと思うんです。
 私たちが訪ねた桜本のような集住地域に迫ってくる、踏み込んでくる、そうしたデモ申請を許すのかという許可の問題があるでしょうし、あるいは公園などの使用許可という問題もあるでしょうし、あるいは、そうした集住地区ではないんだけれども、一般的に、公民館などの公的会館をヘイトを行っている集団が使用許可申請をしてきたときにどう対応するのか、あるいは、先ほど騒音防止条例などというお話もありましたけれども、銀座や新宿をそうしたヘイトデモを行うという行為に対してどう対処するのかなどなど、場面によっていろいろでしょう。
 そのそれぞれの場面に応じた施策にこの提案されておられる理念法が生かされる施策というのが、この当該地域の実情に応じた施策の意味ということでしょうか。
○矢倉克夫君 おっしゃるとおりであります。
○仁比聡平君 そのそれぞれの、つまり、地方自治体とそのデモ申請者などとの関係で見ると、これは言わば法的関係になるんですよね。この許可、不許可というのは、これはつまり行政処分ということになって、西田発議者も前回からよくおっしゃられるように、これが、例えば不許可にしたことが不当であるといって争われる、そのことが裁判になり得るというような場面なわけですが、つまり、与党発議者がおっしゃりたいのは、そうした行政判断を行うとき、そしてその行政判断の当不当、あるいは適法、不適法が争われるときにこの理念法が規範として働くはずであるという、そういうことでしょうか。
○西田昌司君 まさに今、仁比委員がおっしゃったことを我々は期待しているわけであります。
 ですから、要するに、表現の自由を公権力が規制したり、直接的にそういうことをすること自体はやっぱり憲法に抵触してくる。しかし、この理念を設けることによって、それぞれ具体的な行政が許可、不許可、道路使用許可だってそうですね。ただ、内容で一概に駄目だということはなかなかできないわけでありますけれども、トータルで総合的に判断してきたときにある一定の行政判断が出てくる。そのときの行政判断をしていただくときに、我々は、いわゆるヘイトは許さない、あってはならないというこの理念法を設けたことによって行政判断がなされて、そして、そのことについて、そのヘイトを行っている側がそれは不当な行政判断なんだと、我々の表現の自由、集会の自由を行政がそういう公権力によって禁止することはおかしいという裁判が出る場合も当然考えられますね。出てきたときに、我々が、国権の最高機関としての国会がこういう理念法を定めて、そういうヘイトというのはあってはならないのであると、そういうことを基に行政が判断し、そして裁判所も同じく我々の立法趣旨を基にして判断がされていくものと期待しております。
○仁比聡平君 まず、西田議員がよく御答弁の中で使われる公権力という言葉なんですけれども、広い意義でいいますと裁判所も公権力の一環だということになるんだと思うんです。今ずっとお使いになられている意味は、つまり行政機関が、国であれ、あるいは地方公共団体であれ、行政として表現の内容に立ち入って当不当の審査をする、そういうことはやるべきではないという、そういう意味合いで使っておられるわけですよね。
○西田昌司君 まさにそういうことです。行政府の側が当不当の判断をすべきではないと。あくまでそれは、最終的には司法の方の場の話になってくると思います。ですから、最終的には司法判断になるでしょうけれども、行政の側が自分たちで基準を設けて、こういうことはしてはいけない、してもいいとかいう、そういうところの形のことをすることは私は憲法違反になってくると思っています。
○仁比聡平君 今の点について各会派のところでいろんな議論があるということはもちろん一つのテーマなわけですが、ちょっと先に進みたいと思うんですけれども。
 今、西田議員がおっしゃった意味で、つまり行政機関が表現内容にわたって審査をすることはない、そういう意味で理念法であるということと、今私がお尋ねしている地方公共団体の責務ですね、つまり、四条の二項の最後の部分を「努めるものとする。」という表現にしていること、つまり国は責務を有するんだが地方公共団体は施策を講ずるよう努めるものとすると、言わば努力義務のような形に規定をしていることとの間に私、論理的必然はないんだと思うんですよ。
 といいますのは、先ほど来確認をしているとおり、求められる施策というのは、これは当該地域の実情に応じてそれぞれなわけですよね。これは当然なんです。それが憲法の定める地方自治の本旨に直接かなうものであるし、私たちが訪ねた川崎の取組を踏まえても、つまり、共生というものを実現をしていくのは、地域社会においていろんな闘いがあり歴史があって前進をしてくるわけで、それはつまりそれぞれのコミュニティー、自治、共生を大切にするという取組の中で行われるわけですよね。そうしたものとして当該地域の実情に応じた施策というものが求められるのであれば、それは、自治体それぞれがそれぞれですよというのは、それはそうなんだから、別に努めるものとするというふうに引かずに、腰を引くのではなくて、国と同じように責務を有するとはっきり書いても差し支えはないのではないかと思うんですが、いかがですか。
○西田昌司君 仁比委員がおっしゃるところもそのとおりだと私も思います。
 ただ、これ一般論として、国はそういう様々な規則や法律で、ある種公権力として行政府として仕組みをつくって、ある種のこういう強制的な面がありますよね。ところが、いわゆる地方自治体の場合には、コミュニティーの、その社会の皆さんの中の仕組みでありますから、どちらかというと、そういう言葉よりも柔らかい言葉の方がなじみやすいのではないかと、そういう意味で使っているわけでありまして、だからといって、国はやるけれども地方公共団体はしなくてもいい、まあ努めるようにしてくれたらいいというような、何か腰の引けたつもりで言っているわけではもちろんございません。
 ただ、今委員がおっしゃるように、要するに、地域社会というのは余り四角四面な法律で縛り付けるというよりも、皆さんがやっぱり長い間そこに住んでコミュニティーを築いてこられた、それをいかにして安寧な社会を続けていくかという、お互いがお互い、お互いさまで協力し合うという、そういう社会でありますよね。だから、努力義務のような形をしておりますけれども、我々が思っているのは、それを国の方には義務があるけれどもこちらの方には義務がないとか、そういうつもりで使っているわけではございません。
○仁比聡平君 ということであれば、これから行われる協議においてもきちんと検討の余地は十分あるなというふうに今受け止めたんですけれども。
 地方自治体といっても、これはやっぱり大きな力を持っているんですよね。例えば、私の、九州、地元の例えば福岡市あるいは北九州市ということを考えたときに、市がどんなスタンスで物事に臨むのかというのは、これは決定的です。このときに、この大切な法案において、国は責務があるが地方公共団体は努めるものとするとされているというこの表現一つで地方公共団体の構えが変わるようなことになるならば、それは法案提案者の意図とも違うのだなと今改めて思ったわけですね。
 例えば、前回も申し上げましたが、札幌市議会で当時の市会議員さんがアイヌ民族なんていないという趣旨の発言をされて、これがアイヌ民族に対する極めて悪質な、しかも政治家による、公人によるヘイトであるということが大問題になり、辞職勧告決議が出されたという経過があります。
 こうした地方議会も含めて、あるいは首長がそうした言動を行うなんてもってのほかだと思いますけれども、特定の民族や人種に属することを理由にしてこうした社会から排斥するというような言動から守らなければならない行政の側が自らヘイトを行うということは絶対にあっちゃならぬということをはっきりさせる上でも、私はもう責務ときっぱりはっきりさせた方がいいと思うんですが、いかがですか。
○西田昌司君 今おっしゃったことは一考するべきところがあると私も思います。
○仁比聡平君 そうした中で、協議を続けていくことを求めて次のテーマに移りたいと思うんですけれども。
 対象となる言動についてどのように定義をするか、これは法案の大きな課題なわけですが、私どもの法務委員会で、せんだって国連人権理事会特別報告者のデビッド・ケイ教授とお会いをいたしました。委員長始め理事の中心メンバー、私も含めて懇談をさせていただいた中で、このヘイトスピーチの規制をどう考えるのかということが大きなテーマになり、後、デビッド・ケイさんが記者会見をされた中で、ヘイトスピーチの定義が曖昧なまま規制すれば表現の自由に悪影響を及ぼす可能性があるというふうに指摘していると報じられています。また、獨協大教授の右崎正博さんが、不当な差別的言動という言葉は曖昧であり、言論と行為を区別すべきだというふうに指摘もされているんですね。
 不当なという概念が、これが評価も含めて広範、曖昧ではないか、それから差別的という表現が、用語がこれ曖昧ではないかというこの懸念は、これは以前から示されているわけですけれども、このデビッド・ケイさんや右崎先生の指摘に発議者はどのようにお答えになるでしょうか。
○矢倉克夫君 まさにこのデビッド・ケイ氏のおっしゃっているところはそのとおりであるかなと。我々も懸念しているところはまさにこの点でありまして、表現のとりわけ内容に関する規制というもの、これが外延が明確でなければ、どこまでが公権力が介入する言論かというところの外延が明確でなければ、全ての言論の規制にもなるし言論に萎縮効果を生むと、ひいては民主主義に甚大な影響を与えるというところであります。まさにそういう問題点に立って、私たちは、表現の内容というものに着目した禁止に基づく法律ではなく理念法として法の立て付けをすることが、表現の自由をしっかりと遵守しながらこのような卑劣な言動というものをなくす社会をつくる上で唯一の手段であると、最善の手段であるというふうに理解もしてこのような形で法規をさせていただいた、そういう点では、デビッド・ケイ氏の発言はそのとおりであるというふうに思います。
 そして、もう一つ、右崎先生の御発言であります不当な差別的言動というところでありますが、こちらの法律は不当な差別的言動というものをこれ定義付けておりまして、本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動という形であります。この不当なとか、そういった文言の曖昧さという部分ではなく、まさに扇動であるとかそのような形での定義も入れているところでありますので、曖昧であるという御批判はこれは当たらないというふうに理解をしております。
○仁比聡平君 今のお話は、つまり、不当なというのが、その裸で不当なというふうに評価される概念ではないという意味なんでしょうか。つまり、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動するものが不当なのであると、そういう意味でしょうか。
○矢倉克夫君 まさにそういう意味を込めて二条で定義条項という形で加えさせていただいたところであります。先生おっしゃるとおりです。
○仁比聡平君 先ほど、侮蔑あるいは侮辱というような概念をここで、この部分に盛り込めないのかという趣旨の議論もありますし、この定義をどう明確にしていくのかというのは協議の大きなテーマなんだと思うんですね。
 そうすると、今の与党としては、この法文のここの部分をきちんと議論していくことで、許されないヘイトスピーチを明らかにし、外延を明確にしたいと、そういうことでしょうか。
○西田昌司君 この法案を提出しまして、民進党から、また御党、共産党からも修正項目の要求があったわけでございますが、実は今日の四時から我々与党のワーキングチームでそのことについて協議をすることになっております。その中で、今おっしゃったようなことも含め考えていきたいと思っております。
○仁比聡平君 ということなのですけれども、念のため確認をしておきたいと思うんですが、我が国の法制でこの不当な差別的言動という用語は極めてまれです。
 法制局においでいただいていますが、この用語例というのはどのようなものがあるでしょうか。
○法制局参事(加藤敏博君) 不当な差別的言動という語句でございますが、これは一つの法令用語として用いているわけではございませんで、不当、差別的、それに言動という三つの用語を組み合わせた語句でございます。
 その上で、不当な差別的言動という語句を用いた立法例としましては、いわゆる障害者虐待防止法、この法律の中で、定義規定の中で、「障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。」というふうに定義規定を置いているところはございます。
○仁比聡平君 今お話しの、つまり、今御紹介のあったいわゆる障害者虐待防止法に唯一例があるということなわけですね。
 近年制定をされたわけですけれども、この障害者虐待防止法における不当な差別的言動という概念が法制上どんなふうに位置付けられているか、つまり何のための規定として設けられ運用されているか、厚労省、お答えください。
○政府参考人(藤井康弘君) お答え申し上げます。
 いわゆる障害者虐待防止法第二条第七項及び第八項におきましては、虐待の通報義務の対象となってまいります障害者福祉施設従事者等又は使用者による障害者虐待に当たる行為が定義をされております。
 この中で、いわゆる心理的虐待につきましては、「障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。」と定義をされておりまして、この不当な差別的言動は著しい心理的外傷を与える言動の例として規定をされてございます。
○仁比聡平君 つまり、今の現行法で例のある規定は、障害福祉事業を利用する方、その事業者からサービスの提供を受ける方、いわゆる利用者ですね、利用される障害者、高齢者の場合もあるでしょうけれども、そうした方に対してその事業を行っている側、それを従業員というふうに呼んでいるわけですが、つまり、サービスを提供される、しかも、介護度や障害の度合いにもよりますけれども、極めて弱い立場にある方々に対してサービスを提供する、言わば支配をする側による不当な差別的言動という意味で主体が限定をされているわけですね。あるいは、障害者を雇用している使用者がその雇用関係にある従業員、障害のある従業員に対して虐待をする、ここを捉まえて不当な差別的言動という概念がある、そうした場合に通報義務があると。
 そういう意味では、不当な差別的言動という概念は主体の面でも限定をされているということだと私は理解するんですが、厚労省、そういう理解でおおむね間違いないですか。
○政府参考人(藤井康弘君) 先ほど御答弁申し上げたとおりでございますが、この障害者虐待防止法におきましては、障害者福祉施設従事者等又は使用者による障害者虐待に当たる行為が定義をされておりまして、その中で、いわゆる心理的虐待につきまして、その一つの例示としてこの不当な差別的扱いということが規定をされてございます。
○仁比聡平君 つまり、私の指摘はそうは間違ってはいないという趣旨なんだと思うんですよ。ですから、対象となる許されない行為を、言動をきちんと明確にするというのは、これまで与党発議者がお話しになっていた基本的なお立場を踏まえながら、やっぱりもっともっと議論して、きちんと定めていかなければならないと改めて私思うんです。
 ちょっとそことの関わりもあって、この二条の定義に与党の皆さんは「公然と」という用語を使っておられます。具体的に言うと、「公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知する」という文案になっていまして、ここに言う「公然と」という意味が何なのか。私は、不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法による言動というふうに捉えるべきだと思うんですけれども、与党の皆さんの意味するところはどうなんでしょうか。
○矢倉克夫君 一般に、公然とというのは、不特定又は多数人が認識できる状態という意味であるというふうに解釈されているというふうに理解もしております。ですので、こちらの「公然と」という意味は先生の御指摘のとおりであると思います。
○仁比聡平君 不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法というのは様々なものがあるわけですけれども、矢倉発議者、そういう理解でよろしいですか。
○矢倉克夫君 そのような見解で結構です。
○仁比聡平君 あと、具体的な中身については、各党協議の中で更に詰めた上で、こうした委員会の場で確認をできるように議論していきたいなと思います。
 そうした中で、私どもとしては、前回に指摘をさせていただいた、例えばアイヌ民族に対するヘイトスピーチ、あるいは難民認定や在留資格が争われている外国人に対するヘイトスピーチ、これが許されないということは当然であって、まずここ確認しましょう。
 自民党、公明党、それぞれ発議者、許されないと、規定の仕方をどうするかはおいておいて、アイヌ民族や難民認定、在留資格が争われている外国人に対するヘイトスピーチが許されないと、この認識は同じですね。
○西田昌司君 そのとおりであります。許されるものではありません。
○矢倉克夫君 全く許されるものではありません。
○仁比聡平君 そのことを明確にする必要がやっぱりあるんですよ。適法に居住するという要件を法律上の文言にしてしまうと、つまり適法に居住するという要件が在留資格をめぐって争われているときにはその者に対するヘイトスピーチは許されるのではないか、この許されないという対象に入らないのではないかというような議論が現にあるわけですよね。
 ですから、この適法に居住するというこの文言そのものは、これは私は削除すべきだと思うんですが、それは私の提案であって、日本共産党の提案であって、与党はお立場がいろいろあるんだ、これから協議をされるんだと思うんですけれども、ここはやっぱり議論をしていく課題だという御認識ではあるんですか。
○西田昌司君 今、仁比委員がお示しになったような議論がインターネット上でされていると。つまり、適法に住んでいない人ですね、いわゆる不正に入国されたとか、そういう方だったらヘイトスピーチをしてもいいんだというようなことをインターネット上で情報が蔓延していることを私も承知しております。しかし、当然のことでありますけれども、それを我々は認めるものではありません。要するに、適法であるかないかというのは、適法でない場合には入国管理法違反ですから、そのことはそのこととしてその法律でしっかりとした措置をされるというのは、これ当然だと思っております。
 しかし、だからといって、その方々にヘイトスピーチを浴びせかけて、それがいいのかというとそれはまた別の話でして、これは禁止規定ではありませんから禁止はしておりませんけれども、当然そういうことは許されるものではないと。要するに、これはモラルの話なんですよね。日本人としてのモラルをこの理念法で掲げているわけであります。
 したがいまして、今おっしゃいましたように、我々が立法事実として想定していたことのほかにも、今おっしゃっているような様々な、アイヌの方々の話もそうでありましょう、そういう事実があることは私も事実だと思います。ですから、ここは、この法律は理念法でありますから、今私が発議者として申し上げているこの答弁も含め、この法律の運用の仕方、これを理念法として運用していくときに、様々な皆さん方からの意見も踏まえて、例えばこの法律の運用に対する附帯決議を付けていただくなり、また今我々が発議者として申し上げていることを踏まえて運用していただければ、私は法律のその隙間は埋まっていくものと期待しております。
○仁比聡平君 協議を続けたいと思うんですけれども、つまり西田議員がおっしゃらんとするモラルの問題というこの言葉なんですけれども、私なりに翻訳しますと、民主主義社会、市民社会の根底である互いの人格を尊重するというこのモラルなり、あるいは憲法用語で言えば人格権ということにもなるでしょうし、あるいは良心、あるいは倫理というふうに置き換えてもいいんだと思うんですけれども、これを踏みにじって、社会から排除しよう、排斥しようとするヘイトスピーチに対して我々がどう根絶のために力を尽くすのかということが問われている下で、法の規定ぶりということはこれは極めて重要だと。
 ですから、いや、この部分は許されるんじゃないか、これは大丈夫じゃないかというふうに抜け穴だとかを探そうとするような、そういうやからに対して駄目だということをこれははっきりさせると、そういう規定に仕上げようじゃないかと私呼びかけたいと思うんですが、いかがですか。
○西田昌司君 おっしゃることは全く私も賛成であります。また、そういうつもりでこの法律を提案させていただいております。
 つまり、立法事実は、先ほど言いましたように、元々はいわゆる在日の方々に対するヘイトスピーチであったわけですけれども、それ以外にもあることは事実であります。それをやっていく場合に我々が一番感じましたのは、要するにモラルでありますから、モラルだから理念法にしておりますが、モラルを法律の規制にしたり、それを行政府側が、ここから外側は駄目だという禁止規定を作ったり、それを排除するような措置をつくったりするのは、今度は逆に公権力が個人の生活を縛ったり規制したりする、そういう表現の自由に関わることになってくる。
 ですから、そこはあえてしていないわけでありますけれども、今言われたような様々な我々が想定していなかったことも含め、それは広くこの理念法の中で包み込んで解釈していくべきだと思っておりますし、そういう形の解釈は当然ここから私は読み取っていけるものだと思っております。
○仁比聡平君 その今の後段の部分がいろんな議論になっているところなんだと思うんですよ。
 例えば、西田議員が繰り返しておっしゃるような戦前の治安維持法体制というのはどんなものだったかと。最高刑死刑と、極刑をもって、しかも特高警察が私ども日本共産党を始めとした国民の思想、そして結社そのものを弾圧すると。予防拘禁含めて身柄を拘束して絶対に外に出さないという弾圧体制なんですよね。これをイコール言論統制になってはならないというふうに引っ張ってこられると、この規制のありようの問題がちょっと議論がしにくいんじゃないのかなと思ったりもするんです。
 というのは、この法案も前提にしている教育あるいは啓発というのも、教育でいいますと、例えば子供たちが中心でしょうけれども、子供たちの人格に直接働きかけるというとてもデリケートで大切な営みなのであって、この教育の場面で例えば教師が子供たちに、何を許されない、なぜ許されない、それをなくすためにはどうしたらいいという、そうしたことを語りかけ、そしてその子たち一人一人のものに本当にしていく、これは教室の中で教えればいいというものではないですよね。教科書に書いてあるのを覚えればいいということじゃないじゃないですか。そうではないということを私たち桜本の取組でも学んできていると思うんですけれども、そういう意味では、教育というのはとても深い取組ですよね。
 これを例えば地方公共団体立の、市町村立の学校などで行っていくことということになる、私立だって求めることになるでしょうと。というときに、何が許されないのかということを定義を明確にするということは、この教育においても、あるいは啓発においてもですけれども、これは大事なのであって、罰則の構成要件の明確性というのとは意味合いの違うものとして、私は、ヘイトスピーチの明確性、何が許されないのかをはっきりさせるということは大事だと思うんですよね。そこはいかがですか。
○西田昌司君 非常に大事な御指摘だと思います。しかし、そこを定義してとやったところで、私はこれは本当に外側、外側が出てくると思っています。
 しかし、一番私は大事なのは、教育の話、啓発の話もそうですけれども、もう少しこれかいつまんで言うと、やっぱり思いやりだと思うんですね。自分がその相手の立場になったときにどうかということですよ。だから、ヘイトをしている人に私は申し上げたいのは、もしあなた方がヘイトをされる側にいた場合、何を感じるかですよね。何もしていない、平穏な、そして合法的に、適法に暮らしておられる方に向かってそういう言葉が浴びせかけられたときに、普通の人間ではやっぱり耐えられないですよね。そういうことは許されない。それを彼らやっている方が感じていただくべきなんですね。それを我々教育とか啓発という言葉で表しておりますけれども、だから、その相手の立場になって考える思いやりですよね、そういうところがやっぱり大事なことだと思うんです。
 だから、それはまさにモラルの問題であり理念の問題であり、そして国民全体がそういう差別のない社会をつくらなければならないという、国民全体がそういう努力義務があるという、そういう意味でここに書かせていただいたのは、私が言いましたように、そういう思いやりの心、お互いさまなんですから、我々のこの日本の国で、地域社会で平穏に暮らしている、それはどなたにもあるわけですよ、そういう暮らすことができる権利は。それをしっかり守っていくというのを我々は目指しているわけであります。
 したがいまして、余り細かい規定で、このヘイトの定義というのは私はこの法律の趣旨からすると小さな問題で、むしろ思いやりの心という方を我々は訴えるべきではないでしょうか。その方がより理解ができるんだと思うんです。
○仁比聡平君 法とは何かという、これ、委員長、是非我々の中でよく議論して定めていかなきゃいけないんじゃないでしょうかと御提案をしておきます。
 私どもが与党の皆さんに御提案をしている定義というのを改めて申し上げると、ヘイトスピーチとは、人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は集団、例えば民族などというふうに呼ぶとして、その民族などの社会からの排除、権利、自由の制限、民族などに対する憎悪又は差別の意識若しくは暴力の扇動を目的として、不特定多数の者がそれを知り得る状態に置くような場所又は方法で行われる言動であって、その対応が民族等を著しく侮辱、誹謗中傷し、脅威を感じさせるものをいうといった定義、この一字一句こだわるわけじゃないんですが、こうしたものに置き換えてはどうかなという提起をしております。
 それは、人種、民族による差別という人種差別撤廃条約にも通ずる理念を折り合える形でこの法文の中に盛り込むということ、それから、社会からの排斥、権利、自由の制限、憎悪又は差別の意識若しくは暴力の扇動という、こうした要素を明記することによって、人間の尊厳の根底にあるアイデンティティーを排斥しようとするもの、攻撃し排斥しようとするものであるというヘイトスピーチの本質をきちんと明らかにできるからだと私は考えているんですね、是非御検討いただきたいと思うのですが。
 最後に、そうした定義を明確にしながら、行政機関が直接言論の違法性を認定するという仕組みは取らないという理念法なわけで、教育、啓発についても、これやっぱり違法であると。与党の皆さんの案でも、前文において、あってはならず、あるいは許されないことを宣言するというふうにおっしゃっているのであって、それはつまり違法だと、この法には反するよと言っていることと私はほぼもう同義なんじゃないかと思うんですけれども、先ほど来の議論のように禁止規定は置かないとおっしゃるんですが、これは、そのようにおっしゃって門前払いするつもりではないと思うんですが、これから行われる協議でもきちんと議論をするべき大きなテーマだと思うんですが、いかがですか。
○西田昌司君 このところは我々も一番公明党との間で、二党協議で一番実は詰めてきたところであります。禁止規定を置かない、あくまで理念法であると。それはなぜかといえば、法律で言論の自由を規定して禁止するということをやってしまうというのは、この法律に限らず、全ての法律において私たち問題だと思っております。
 今、日本には、かつてはそういう治安維持法があったかもしれませんが、今そういう法律はありません。これからも作るべきではないと思っています。ですから、この法律においてもあえて禁止規定に係るようなものは作らなかったというところで、このところだけは我々譲ることができないと思っています。
 しかし、かといって、禁止規定を設けていないからといってヘイトを許しているわけではない。これは、理念においてしっかり駄目だということを宣言して、そして教育、啓発、先ほど言ったように思いやりの心ですよね、そういうことをみんなが持ち合えば、結果としてこのヘイトを根絶できるのではないかと、そういう思いで作っているというところを御理解いただきたいと思います。
○仁比聡平君 禁止規定を置かない、あくまで理念法であると西田議員が繰り返されるんですけれども、野党案、民進党さんたちを中心にした案にあるように、理念法で禁止規定を置くというようなこと、当然あるんですよ。これ、だから、理念法だから禁止規定を置かないという理屈にはならない。それは論理必然ではない。やっぱりそのことを前提として、ここの点は本当に極めて重要な点ですから、大いに議論をしていかなきゃいけないと思っています。
 私たち日本共産党は、民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶するために、立法措置を含めて政治が断固たる立場に立つことが必要であると政府にも求め、私たち自身も政治家としてその先頭に立つべきだと、議論と運動を求めてまいりました。
 今回、与党案が提出をされ、こうやって実質審議に入る中で、いわゆる野党案、そして与党案とともに刑訴法案がこの委員会で並行審議をされるという状況になっているのは極めて異例のことだと思うんですけれども、それは、何よりヘイトスピーチによる被害の深刻さとその根絶を求める当事者、国民の皆さんの強い声によって動かされてきた大きな一歩だと思います。
 だからこそ、私たちは、このヘイトスピーチ根絶に向けた第一歩、一歩前進を実らせるために、今国会でより良い法律案をできる限り全会一致で成立をさせるという立場で、深い協議をしっかり行っていくべきだという立場でこれから臨んでいきたいと思いますので、よろしくお願いを申し上げて、質問を終わります。
○有田芳生君 民進党・新緑風会の有田芳生です。
 昨日、高松高裁で画期的な判決が下されました。二〇〇六年に在特会などが徳島県教組を襲撃をしてヘイトスピーチのあらん限りを尽くし、さらには、そのときには拉致問題までもが利用されました。それに対して、昨日の判決では、損害賠償額が一審よりも二倍近くになったということと同時に、大事なのは、人種差別撤廃条約の精神に基づいて、在特会などの行為、言動というものが人種差別的であると、そう認定されたことです。
 今日、与党案の審議が行われていて、今ずっと拝聴しておりまして、問題点、課題というのはかなり明らかになったというふうに思います。一つは、後で詳しくお聞きをしますけれども、与党案にある適法居住要件。
 さらには、小川委員からも話がありました、私たちの野党案には明記をされていたヘイトスピーチは違法なんだと、そういう規定がないところなんですが、ただ、人種差別撤廃条約をこの問題を考えるときの精神にした場合、与党案にある、先ほども仁比委員が指摘をされておりました、前文のところで「このような不当な差別的言動はあってはならず、」というのがあり、さらに数行後に「このような不当な差別的言動は許されない」とあります。
 許されないということを人種差別撤廃条約の規定に基づいてその精神を生かすならば、例えば人種差別撤廃条約第二条一項の(d)にありますように、国と地方公共団体はこういう差別を、人種差別も禁止し、終了させると。これは、日本が人種差別撤廃条約に加入をしているわけですから、国と地方公共団体の責務になっているんですよね。
 ですから、その精神を生かすならば、この与党案の差別的言動はあってはならず許されない、法務省の言うヘイトスピーチ許さないと、そのことを条約の精神に基づいて判断するならば、これは違法だという理解でよろしいですね。提案者にお聞きします。
○西田昌司君 人種差別撤廃条約の精神は、我々、もちろん尊重しております。ただ、今おっしゃったように、禁止規定のことについては我々留保しているわけなんですよね。ですから、その部分についてその条約は、我々はこの禁止規定を置いてやるという形にはなっていないというふうに理解しております。
○有田芳生君 人種差別撤廃条約で日本政府が留保しているのは四条の(a)項、(b)項であって、今お示ししたのは第二条の一その(d)、各締約国は、全ての適法な方法、状況により必要とされるときは立法を含む、により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させると。
 ですから、これからやはり人種差別撤廃条約の精神をこの与党案をこれから考えるときにも基本にすべきだなというふうに判断しているということを初めに指摘をしておいて、河野太郎国家公安委員長来てくださっておりますので、実効ある中身にしていくために何が必要なのかということについてお聞きをしたいというふうに思います。
 その前に、一つ前提ですけど、今年三月二十七日、東京新宿の職安通りでヘイトスピーチのデモが行われました。そのとき、女性たち四人が、少なくとも私が確認しているだけで、傷害、けがを負いました。それに対して、警視庁新宿署にこの当の女性たち三人が氏名不詳の警察官三名を刑事告訴いたしました。警察官が刑事告訴され、さらには、私が確認しているだけでも既に現場検証なども行われておりますけれども、現場警察官が、そこにも写真を示しておきましたけれども、喉輪で女性の首を絞める、あるいは後頭部を打つというような事態が起きたことに対して、国家公安委員長としてどのような所感をお持ちでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) この三月二十七日のデモに関しましては、今警視庁において事案の解明に向けて必要な捜査が行われているというふうに認識をしております。
 デモですとかあるいはそのデモに対する抗議活動の中で違法な状況が発生をした場合には、この解消をしなければなりませんが、それに当たっては、関係者の皆様の安全にきちんと配慮できるように警察をしっかり指導してまいりたいと思います。
○有田芳生君 違法な状況が起きていないときに警察官によって喉輪が行われ、首を絞められた。明確な写真もあります、動画もあります。韓国のテレビでも放送されました。それについてどうお考えですか。
○国務大臣(河野太郎君) 今、この事案につきましては警視庁が捜査をしていると思いますので、個別の事案についてお答えをするのは差し控えたいと思います。
○有田芳生君 喉輪で首を絞めるというのがいいというわけはないというのが前提ですけれども、写真を示したので、上の方の二枚を御覧ください。左側は、今年の三月二十七日、東京都新宿区、職安通りですね、喉輪が行われた現場、右側は、四月十七日、岡山市で行われたやはり在特会の前会長桜井誠氏などが行ったヘイトスピーチの警備の状況です。
 見ていただいたら分かりますように、国連の人種差別撤廃委員会で委員から何度も、日本のヘイトスピーチの現状については警察が差別主義者たちを守っているようにしか見えない、そのような現実があります。新宿署の左側の写真を見ていただいたら一目瞭然です。
 一方で、右側は岡山県警ですけれども、ヘイトスピーチをやっている集団、それに抗議をする集団、警察官が交互にお互いを見ながら事故が起こらないような対応を取っております。更に言えば、東京新宿で女性たちが傷害を負ったのと同じことですけれども、岡山県警の四月十七日の現場の状況は、女性たちに対しては女性警察官が対応されているという、そういう丁寧な取組が行われていたんです。
 これは私が確認するだけでも、札幌あるいは福島では、ヘイトスピーチをやる人たち、それに反対をする人たち、警察官交互に見ているものですから、先ほど申しましたように、国連の人種差別撤廃委員会の委員の皆様のように、日本では差別をしている人たちを警察官が守っているというふうにしか見えないんですよね。だから、そのようなきめの細かさが大事だというふうに思います。
 今日は、資料のもう一枚に、四月十九日に院内集会、今こそ人種差別撤廃基本法の実現をパートフォー、ここに中根寧生さん、中学二年生ですけれども、発言をされたその全文を御紹介をいたしました。その中学生の目から見ても、桜本にやってきたヘイトスピーチ集団は、ゴキブリ朝鮮人、たたき出せ、死ね、殺せと警察に守られながら叫んでいました、さらに、警察はそんな大人を注意してくれませんでした、さらに、警察がヘイトスピーチをする人を守りながら桜本へ向かってきました。やっぱりそのように見られている現状があるんですよね。
 一方で、河野大臣にお聞きをしたいんですけれども、やはり警察官にヘイトスピーチあるいはヘイトクライムについての教育というのがなされているのかどうかなんですよね。差別をやっている者と差別に反対する者、どっちが悪いのかというような基本的なことから、例えばアメリカなんかでは、連邦レベル、州レベル、地方自治体レベルでヘイトクライムについての研修プログラムがある。それで皆さん研修をなさっている。あるいは、ニュージャージーでは、新任の警察官には全員にヘイトクライム対応の歴史などの研修が行われている。だから、日本でもうずっとこういうヘイトスピーチあるいはヘイトクライムが起きている現状の下で、これからの課題として、警察官に対してもそういった教育が必要だと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 警察職員に対しましては、人権の尊重あるいは関係法令に関する教育のほか、デモ現場における対応などに関する教育をこれまでも行ってきたところでございます。
 こうしたヘイトデモのようなものが多く見られるようになった今日、その実情に合わせた教育をしっかりやってまいりたいと思っております。
○有田芳生君 先ほど、小川委員からもこれで、与党案でヘイトスピーチのデモを止めることができるんだろうかと率直なお考え述べられたというふうに思います。
 そのことについて幾つか細かくお聞きをしていきたいんですが、まず現実の問題として、東京の新大久保、コリアン、在日コリアンの方々が商売をなさっているところに、二〇一三年の二月、三月を頂点にしてずっと毎週のようにヘイトスピーチのデモが行われてきました。しかし、多くの抗議あるいは警察の指導もあったんでしょう、二〇一三年の九月をもって新大久保でヘイトスピーチのデモはできなくなっております。
 しかし、不思議なことに、二〇一五年の十二月二十日、そして写真でもお示しをしました今年の三月二十七日、東京の新宿の職安通りで、ずっと焼き肉店とかコリアンショップがあるその横をヘイトスピーチのデモが通っていったんです。私たちもそこで抗議をしましたけれども、そういうときに、先ほど大臣は、公安条例に基づいてデモの許可制で、実質上届出制であって、したがって最高裁も合憲だとしているというふうに答弁されました。
 しかし、明らかに在日コリアンたちが御商売なさっている、日本人も含めて多くの買物客がいるところに、そういう確実にヘイトスピーチをやるデモが通ろうとしたときに、デモの指導、コースの変更というのはなされるべきだと思うんですが、いかがでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 交通の円滑な確保ですとか、違法行為、犯罪行為を防止する観点から助言をするということはございますが、最終的には申請者の意思が尊重されることになりますので、条例等の要件を満たしていれば、これは許可をしなければならないということになっております。
○有田芳生君 それは現実とは違いますね。新大久保でヘイトスピーチのデモができなくなったのは、警察の方から明らかなデモコースの指導があったからだと理解していますが、まあ細かいことは御存じないでしょうから、そういうことができるんだということを指摘をしておいて。
 もう一つ、先ほど小川委員に対して国家公安委員長は、最高裁も合憲だとしているから、デモの許可制であって、表現内容のいかんで不許可とすることはできないとおっしゃいました。しかし、この与党案がもし法律になったとき、表現内容を根拠にして不許可にできないにしても、表現内容というものを特定して、これを使わないことを条件にして許可をするという運用できるでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) それはなかなか難しいと思います。
○有田芳生君 そうしたら、ヘイトスピーチのデモはなくなっていかないんですよ。公安条例を変えるとか、あるいは公園を使用したいというときに公園の使用条件を変えるとか、あるいは約束をして条件を付けて、それを破った場合には次はデモもさせない、あるいは公園使用もさせない、そういう運用できるんじゃないんですか。
○国務大臣(河野太郎君) 犯罪行為の防止やあるいは円滑な交通の確保ということを考えて助言等をすることはできますが、最終的には申請者の意思を尊重して許可をしなければならぬということになっております。
○有田芳生君 京都朝鮮第一初級学校襲撃事件の最高裁の決定でも、ヘイトスピーチは何かということが、人種差別撤廃条約に基づいて具体的にこれはヘイトスピーチだという確定はしているんですよ。だから、そういうことと、今度与党案が通ったときの各地の公安条例あるいは公園使用条件というものが変わっていかなければ、ヘイトスピーチのデモは終わらないですよ、確信犯でやるわけですから。西田委員、いかがでしょうか。
○西田昌司君 先ほどから答弁をさせていただいておりますが、我々のこの与党案には禁止規定はございません。しかし、理念、前文でしっかりそのことをうたい、国民として差別のない社会をつくっていこうという責務を我々は負っているわけであります。
 それが成案されました場合は、当然のことながら、警察においてもこの法の趣旨が警察の現場の警察官にも教育され、そのことを受けて、この法律で禁止はできなくてもほかの様々な法律があるわけでございます、そして騒音防止条例から、侮蔑じゃなくて侮辱罪ですよね、それから様々なそういう法律を駆使して私は警察が取締りもやってくれるものと期待しております。
○有田芳生君 繰り返しになりますけれども、もう一度西田委員に、ヘイトスピーチのデモをなくしていく、減らしていくイメージとしてお聞きをしたいんですが、例えばこの与党案が成立をしたとする、そうすると、先ほども言いましたけれども、ヘイトスピーチをする集団というのは、まず公園の使用許可を求める、そしてさらにはデモ申請を公安委員会に行うわけですよね。だけど、そこで、例えばこの間の岡山にしたって拉致問題をテーマにしているわけですから、それは河野大臣がおっしゃるように許可されますよ。だけど、現場にいればヘイトスピーチ丸出しのデモが続くわけですよ。あるいは、二年前ですけれども、東京の新宿でも、公園使用許可で、そこでは集会やってはいけないという条例になっているんだけれども、実際には集会やってからデモに向かっているんですよね。新宿区の職員に、あれ、約束違うじゃないと言っても、いや、そうなんですけれどもと言うだけで口を濁してしまう。
 だから、そこで、この法案が成立したならば、やはりそういう公園使用許可あるいはデモ申請についても、これは各地方自治体が決めていくことでしょうけれども、やはりこれまでどおりのやり方はやりにくくなるということを広げていかなければいけないと思っているんですが、そのイメージとして、西田委員、いかがでしょうか。
○西田昌司君 これも再三答弁させていただいておりますが、この法律でスピーチの内容で規制するということはできないわけであります。しかし、ヘイトスピーチ自体を我々はあってはならないと、こう宣言しているわけでありますから、その教育を受けた警察官が、この法律では禁止できなくても様々なほかの法律の違反規定が、もしそれに抵触する行為があれば、当然のことながら警察官がその警察権を行使してそれなりの対応をしてくれるものと思っております。
 そして、そういうことがされた場合、今度はそのことについて、多分相手方は確信犯でありますから、自分たちの言論が不正に止められたと、そういう形の裁判があるかもしれませんよね。そういう裁判を通じて、今度は、我々が作ったこの法律が、裁判官にも、国権の最高議決機関がヘイトスピーチというのは駄目だということを言っているわけでありますから、そのことを受けた判例が重なってくると、そういうことの積み重ねが結局はヘイトスピーチというものを社会から根絶させていくことになるのではないかということを期待しているわけであります。
○有田芳生君 河野国家公安委員長に一般的なイメージとしてお聞きをしたいんですけれども、今、多くの当事者を何年にもわたって苦しめてきているヘイトスピーチの街宣やデモなんですけれども、それをなくしていく、少なくしていくためにはどんなことができ得るとお考えでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) このヘイトスピーチというのは大変恥ずべき行為であるというふうに認識をしておりますが、現在もこうしたデモに当たっては違法行為がないように助言をしているところでございます。こうしたデモの中で刑罰に触れるような違法行為、犯罪行為があれば、あらゆる法令を駆使して厳正に対処するよう警察を指導しているところでございまして、引き続きしっかりとやってまいりたいと思っております。
○有田芳生君 そこで、提案者にお聞きをしますけれども、違法行為があればそれは現行法で対処できるわけですけれども、ヘイトスピーチというのは、特定の個人になされる場合もありますけれども、不特定多数の集団に対して行われるわけですよね、民族あるいは国籍も含めてですけれども。そのときに一番大きな課題だろうと思いますのは、やはり適法居住要件だと思うんです。
 今日の委員の皆様方には、昨日、法務大臣も含め、河野太郎国家公安委員長も含め、この数年間行われてきた適法居住要件に関する映像、ヘイトスピーチの実態をお配りをいたしました。西田委員も見てくださったということで、ほかの委員の方からも見ましたよということをお聞きしましたけれども、要するに、例えば今年、与党案が出てから二日後に浦和駅の東口で行われた外国人犯罪対策本部なるもののヘイトスピーチだと、短いですから御紹介しますけれども、こう言っている。日本に不法に滞在する外国人に対する糾弾、不法滞在外国人の追放、外国人犯罪者の糾弾、こうしたものはね、ヘイトスピーチだとかヘイト規制とか、そういったものはね、全くあの規制の対象外ですと。
 つまり、不特定の多数に行うものがヘイトスピーチなんだから、その不特定多数の人たちが適法居住しているかどうかなんていうのは分からないじゃないですか。いかがでしょうか。
○矢倉克夫君 私もDVD見させていただいた、本当にこういう言動は許せないなという思いをしたところであります。
 今、問いは、そのような不法な滞在した者に対してのものでも該当するというような問いということでよろしいんでしょうか。
○有田芳生君 時間の関係で早口になってしまうものですから、もう一度お尋ねしますと、ヘイトスピーチというのは不特定多数の人に向けられているものですよね。だけれども、その不特定多数の人たちが適法に居住しているかどうかというのは誰が分かるんですか。
○矢倉克夫君 まず、そもそも今回の法律は、適法に居住するというような文言が今入っております。ただ、これは、立法事実として我々が想定していたのは、まさに在日の方々に対してのこのような許されない言動、そのような形からこういうような形もしました。ただ、何度も申し上げているとおり、理念法として、こういった言動が許されるような社会はあってはならないと、排斥するような言動はあってはならないという理念を掲げて、その理念を実現するためにあらゆる施策を取っていくということをこれ訴えたわけであります。
 ということで、今おっしゃってくださったようなデモが対象にならないというようなことではございません。その不特定の者が適法かどうかというところは、判断という部分は、そういう部分では必要もないという理解であると思います。
○有田芳生君 皆さんにお配りしたDVDの中で、昨年十二月六日のこれは鶯谷で行われたときのシュプレヒコール、一つだけ御紹介しますと、不法入国外国人の在日を日本からたたき出せ、これは与党案では許されるんでしょうか、許されないんでしょうか。
○矢倉克夫君 許されない言動であると思います。
○有田芳生君 ですから、与党案、素直に読むとやはりそういう疑問が出てきてしまうんですよね。だから、そこのところをやはり穴埋めをしていって実効性のあるものにしていかなければならないというふうに私は考えております。
 私たちは六項目にわたる修正要求をお出しをしております。日本共産党からも修正要求が出ておりますので、今日の審議などで明らかになって、ああ、そこはそうだなというところがあれば、是非ともより良い方向に持っていっていただきたいというふうに思います。
 矢倉委員にもう一点だけ確認をしておきたいんですが、その適法居住要件についてですけれども、不法入国者イコール非適法居住者ではないと、そういう理解でよろしいですね。
○矢倉克夫君 不法入国者イコール非適法入国者、それは概念の範囲として一体ではないということで、それはそういうことであると思います。
○有田芳生君 だから、不法入国者、つまり皆さんの法律案では適法に居住する人を対象にしているわけですよね、これ、法案は。適法に居住するその出身者又はその子孫に対して排除することを扇動する不当な差別的言動はあってはならないということですよね。だから、適法に居住する人でなければ、ヘイトスピーチ、だけど、いけないとおっしゃっているわけですよね。だから、そこをやはりもう少しきっちりと区別をされるべきだと思うんですよ。
○西田昌司君 先ほどこれも質問に答えたんですけれども、要するに、適法に居住していない違法入国者の方々がもしおられたら、それは当然入国管理法で本国に送還なり法的な措置がされるべきことだと思っています。しかし、だからといって、その方々に罵声を浴びせることが許されるものかといえば、そうではないということなんです。
 ですから、その方々に対して、例えば私がヘイトをする側として、私は違法入国者、不法入国者に対してけしからぬと言ってがなり立てることは許されるんだというような論法をインターネット上で言われたりなんかしているようでありますけれども、それは全く通用しないと。我々は、そういうヘイトスピーチはもちろん許されるものではないということをこの法律の適用するときに考えなければならないということです。
○有田芳生君 この間の質疑でもお尋ねしましたけれども、与党案が出て直ちに反応があった大きな特徴の一つは、ヘイトスピーチをもう職業的にやっている連中がお墨付きをもらったと、そう言っているわけなんですよ。だから、そこのところをしっかりと対応しなければ、ヘイトスピーチをやっているレイシストたちに抜け道を与えることになると思うんですよね。ですから、そこをはっきりさせたいんですけれども。
 難民申請者の中には不法入国をせざるを得ない方が、これは日本だけじゃありませんけれども、シリアの問題を含めて国際問題になっている難民問題というのはそういう本質ですよね。そこに対して、適法居住者じゃないからヘイトスピーチ幾らでもやっていいんだというふうにやっている連中は理解してしまっている、そのことについてどうお感じですか。
○矢倉克夫君 まず、反対解釈という手法そのものがおかしいんであります。これは、申し上げましたとおり、禁止規定というのは、何人も何々してはいけないとか、そういう禁止規定である場合はここまでが公権力が禁止をする範囲の言論だという、そうすると、それ以外は禁止されないんだねという反対解釈はあり得るかもしれないですけど、これは理念法として、まさにこのような社会をつくっていこうと、こういうような排斥するような言論はなくしていこうという社会を理念としてうたって、それに向けたあらゆる施策をやっていくというところであります。だから、そもそもが、立て付けとして、ここに適法と書いてあるからそれ以外はやっていいんだというようなことをお墨付きを与えたということは法としてはあり得ない話であります。
 その上で、今の難民申請の部分などは、まず適法かどうかというところの問題としてちょっと限定してお答えをさせていただければ、これは当然いろんな事情があるから不法に来られるという部分もある。ただ、それも仮滞在という立場もありますし、一時庇護上陸とか様々な立場でいらっしゃっているわけであります。そういう部分ではまさに適法というふうにこれは言っていいというふうに思います。
○有田芳生君 だから、適法に居住するということをお書きになったからそういう疑問が生まれ、さらにはヘイトスピーチの職業的な人たちがお墨付きをもらって、これから幾らでもこれまでどおりできるんだと、結果的にヘイトスピーチを行う人たちに対して本当にお墨付きを与えてしまっているというふうに捉えられているという、現実なんですよ、それは。
 ですから、適法居住要件という問題は、要するに、誰に対してもヘイトスピーチは駄目なんですよ。だから、それはもう人種差別撤廃条約に基づいて、それは基本の基本なんですよね。だけど、この法案のままだと、今のままだと非正規滞在者に対する差別が助長されるおそれもあるからこういう質問をしているんです。
 ですから、もう一点確認したいんですけれども、矢倉委員あるいは西田委員、どちらでも構いませんけれども、要するに、今お二人がおっしゃっていることを違った言葉で言うならば、在留資格に関わりなく外国の出身であることを理由とする不当な差別的言動は許されない、そう理解してよろしいですか。
○西田昌司君 難民申請とか今おっしゃいましたけれども、我々がなぜ適法かというのを書いたかというと、まず、先ほど言いましたように、やはり違法に不正に国内に入国されること自体を我々は認めるわけにはいかない、これは当然のことだと思います。それを認めてしまうと、これは法律として成り立たないし、我々の国民生活自身の秩序安寧が保たれないおそれも出てくる。ですから、これはやっぱり適法かどうかというのは、この入国管理法等様々な法律の適用はしっかりしなければならないと思っております。
 しかし、逆に、だからといってそういう方々に対してヘイトをすることを、それを公然と認めるということでもないわけなんですね。ですから、これは、先ほど矢倉委員から説明ありましたけれども、我々が理念法としていることと関連しているわけでございますが、要するに、この理念の掲げているところを拡大解釈をして、そういう方々も含めて我々はヘイトは許さないということは、国民の言論の自由とかそういうことを制限するものではありません。むしろ、モラルをしっかり高めて日本人として恥ずべき行為をしないようにしようという、こういう倫理規定でありますから、そのことに拡大的に解釈することには何ら問題はないと思っています。
 逆に、今おっしゃっているような議論というのは反対解釈論をされているわけですけれども、それはあくまで禁止規定、皆さん方が禁止規定を設けるべきだというところから発想をされている発想でありまして、そういう禁止規定を設ける場合には、禁止規定があるからそこから外れたものはやってもいいということになるじゃないかという、そういう解釈されているんですが、我々は禁止規定を設けていませんから、そうじゃなくて、あくまで理念でありモラルであり啓発であると、こういうことですから、ここは拡大的に解釈をしていただいて私は対応すべきだと思っております。
○有田芳生君 適法居住要件を入れているから、ややこしくなるんですよ。
 じゃ、違った視点からお尋ねをします。
 適法に居住するかどうかというのは個々人が、例えば難民にしても脱北者でもそうですけれども、入ってくるときは不法な形かも分からないけれども、個人個人が日本の法律に基づいて適法な手続に従って最終的には裁判所が判断するものですよね、違いますか。だから、対象とする集団を適法に居住するかどうかという条件で線引きするところから混乱が生じているわけで、やはり多くの当事者の方々もこの適法居住要件というのが一番気になるというふうにおっしゃっている。
 もう時間来ますので、だから、そこのところも、今日四時からだそうですけれども、与党の協議の中で私たちの修正についても是非とも検討していただきたい。
 もう一つ、第二条の、先ほどもお話出ましたけれども、定義についても修正を是非ともお願いしたいというふうに思います。
 先ほどるる指摘がありました第二条の定義の中では「公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、」ということで、排除、扇動、不当な差別的言動をいうという第二条の定義なんですが、法務省がこの間発表されましたヘイトスピーチに関する実態調査報告書、ここの中では、ヘイトスピーチについての定義はいまだ未確立だけれども、しかし法務省の文書の中では、先ほど小川委員も指摘をされました、一つは特定の民族などに対する排斥、そしてさらには生命、身体等に危害を加える、もう一つ、三番目の類型として特定の民族等に属する集団を蔑称で呼ぶなどして殊更に誹謗中傷する内容、その三点目が与党案では明確ではないんですよね。
 ですから、私たちはそこは修正要求として、是非とも定義はそこのところは変えていただきたいというお願いをしておりますので、その検討も是非ともお願いいたします。いかがでしょうか。
○西田昌司君 しっかり検討したいと思います。
○有田芳生君 もう時間が来てしまって、岩城法務大臣あるいは人権擁護局長などにもお尋ねをしたかったんですけれども、もう一つ与党案に課題があると思いますのは、インターネット対策なんです。
 私たち野党の法案には、インターネット上のヘイトスピーチ、あるいは差別の扇動というものをどう対処していかなければいけないのかという、なかなか難しい課題ではあるんですけれども、やはりこれも新しい時代の課題として迅速に対応しないと差別の扇動がまき散らされたままになる。在特会などを始めとするヘイトスピーチをもう職業的にやっている人たちが、この間、数年間にわたって、今でもインターネット上で差別の扇動、ヘイトスピーチが流れているわけですから、これに対する的確な対応というものもこれはお互いに考えていかなければいけないことだと思いますが、いかがでしょうか。
○西田昌司君 大変問題があるということは承知しております。これはヘイトに限らず、様々な分野でインターネット上の情報というのは問題があるということは承知しておりますが、しかし同時に、非常にこの規制というのは難しいということもあり、これからの課題だと考えております。
○有田芳生君 仁比委員も語っていましたけれども、この法案審議、そして私たち野党案も含めて、人種差別撤廃条約をこの日本でようやく具体化していく半歩、それが始まったというふうに思いますので、これからさらに、いろんな委員会を含めて、日本から人種差別、ヘイトスピーチをなくすためにお互いに努力をしていきたいということをお伝えして、質問を終わります。
○委員長(魚住裕一郎君) 本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後三時三十二分散会