第024回国会 文教委員会 第22号
昭和三十一年三月二十九日(木曜日)
    午前十時四十二分開議
 出席委員
   委員長 佐藤觀次郎君
   理事 赤城 宗徳君 理事 加藤 精三君
   理事 高村 坂彦君 理事 坂田 道太君
   理事 米田 吉盛君 理事 辻原 弘市君
   理事 山崎 始男君
      伊東 岩男君    植木庚子郎君
      荻野 豊平君    千葉 三郎君
      塚原 俊郎君    並木 芳雄君
      吉田 重延君    河野  正君
      木下  哲君    小牧 次生君
      高津 正道君    平田 ヒデ君
      山本 幸一君    小林 信一君
 出席国務大臣
        文 部 大 臣 清瀬 一郎君
 出席政府委員
        文部政務次官  竹尾  弌君
        文部事務官
        (初等中等教育
        局長)     緒方 信一君
    ―――――――――――――
三月二十九日
 委員稻葉修君及び田中久雄君辞任につき、その
 補欠として吉田重延君及び荻野豊平君が議長の
 指名で委員に選任された。
同日
 委員荻野豊平君及び吉田重延君辞任につき、そ
 の補欠として田中久雄君及び稻葉修君が議長の
 指名で委員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 公聴会開会承認要求の件
 地方教育行政の組織及び運営に関する法律案(
 内閣提出第一〇五号)
 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の施
 行に伴う関係法律の整理に関する法律案(内閣
 提出第一〇六号)
    ―――――――――――――
○佐藤委員長 これより会議を開きます。
 地方教育行政の組織又び運営に関する法律案又び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の施行に伴う関係法律の整理に関する法律案の両案を一括して議題といたします。
 この際昨日の理事会において協議決定いたしました事項についてお諾りいたします。すなわち、ただいま本委員会におきまして審査を進めております地方教育行政の組織及び運営に関する法律案並びに地方教育行政の組織及び運営に関する法律の施行に伴う関係法律の整理に関する法律案は重要な案件でございますので、公聴会を開き、広く各界の学識経験者より意見を聴取し、委員会の審査の慎重を期したいと存じます。つきましては公聴会を開くにはあらかじめ議長の承認を得なければなりませんので、衆議院規則の定めるところにより議長に対し公聴会開会承認要求をいたしたいと存じますが、これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔総員起立〕
○佐藤委員長 起立総員。よって公聴会開会承認要求をいたすことに決しました。
 なを議長の承認が得られましたならば、公聴会開会の日時は四月七日及び九日の両日午前十時よりとし、その他公述人の人選等につきましては委員長及び理事に御一任願いたいと存じますが、これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔総員起立〕
○佐藤委員長 起立総員。よってそのように決しました。
    ―――――――――――――
○佐藤委員長 それではこれより前会に引き続き両案に関する質疑に入ります。高津正道君。
○高津委員 どうも短かい用語できちんとまとめることができないで、大臣もお困まりだろうと思いますが、あるほんの少しの部分はダブることもあるかもしれませんが、関連があってそれを言わざるを得ないで言うのでありますから、御了承を得ておいて質問に入ります。
 近ごろ地方新聞も中央新聞も、私のいわゆる米ソ両大国の中間にある独立、半独立の国々の動向を大きく報道しておるのであります。それは米ソ両国がおのおの軍事的な面のほかにそれら中間地帯の国々に対して経済文化の面での競争を特に強化しているという大きい事態が新たに発生しているし、またそれらの中間地帯諸国の地位が隔世の感があるほどに国際政局に大きい発言力、影響力を高めてきたという事実もあるし、さらにその上日本の貿易拡大のため、わが国連加盟の協力を確保するためというような実に多くの理由から出ているのであって、新聞雑誌が大きく扱うのも理由があることだと存じます。私はこれらの国々がかつての日本の明治維新のころの新興の意気、創業の喜びに燃えて、為政者も国民も、なかんずく青年が、民族独立行進曲を歌って進歩へあるいは向上へと、新しい国家建設に立ち上っている姿を非常に注目しているのであります。私は日々の外電によりあるいは同僚、知人の報告により、そこから若干の教訓を学び取ったと自負しているのであります。それらの諸国に共通するものは、外国にたよる、おまけに腐敗したる古き指導者が排斥され、失脚して純粋な民族独立の精神と、新しい政治理念と、米ソ両国の対立抗争からの中立、この三つの特徴を持った政治家が指導的地位を新しく得ているという事実だと存じます。これらの生まれかわり、化身とも言うべき人物をもし求めるならばネール首相であります。このような国際的国内的環境に包まれている青年は、おのが国家、民族の行く手に大きい不動の希望を持ち得るに違いない。彼らみずからは貧しくとも、心の奥底には祖先や両親のいまだかつて味わったことのない自信と希望、それはあきらめの反対のもの、そのような心理状態にあると十分想像されるのであります。文教委員の一人たる私は、日本の置かれている国際的地位はそれらの国々と共通部分が非常に多い、そして彼らが目的を完遂してくれることも、完全な独立国として成長してくれることも日本のプラスとなり、世界のプラスとなる、このように考えております。
 ところで清瀬文部大臣は、この文教委員会において幾たびか君が代論、紀元節論あるいは占領下的体制の排除論、さては愛国心涵養論をお述べになったので、何だか私が今指摘した米ソ両国に対する批判的な世界的傾向と、一見民族主義的な見通しが合っているように見えるのでありますが、しかしお説をよく吟味して拝聴していると、実は若干似ているだけなのであります。すなわちちょうちんとつり鐘とがぶら下っている。まる長いという点で似ているが、一方は軽い紙であるのに他方は重い金属というような大きい違いがあることが発見されるのであります。正確な表現を使えば、この世界の新しい動向の正反対を考えておられるのが清瀬文相の思想体系であります。理由を簡単に申しますと、清瀬文相はもちろん第三次鳩山内閣の閣僚であられ、その内閣はさきの吉田内閣以来吉田さんと同様に鳩山さんも日米協力でいくのだと施政方針で大原則を打ち立てられており、岡崎前外相もその後の重光外相もその大原則にいかに忠実であられるかはだれ知らぬ者もありません。清瀬文相の文教政策理念はその線に沿うものであるし、またそうあるべきはずのものであるし、断じてこの大原則に反対するものではありません。
 私のもう一つの論拠は、アメリカが鳩山内閣を支持し、こまかい問題は別といたしまして、この内閣の大きい諸政策を支持し、歓迎しているという事実であります。アメリカは、日本の総選挙の投票日が近寄ると、保守党が勝つような作用を持つ声明をどんどんAP電、UP電に乗せて日本に打ち込んで参っているという事実がございます。ダレスの秘密の分は知らず、公けの今回の旅行報告はやはり日米協力は調子よくいっているという要旨でありました。アメリカは日本の総評を憎み、総評の中の日教組を強く憎んでいます。あなた方が昨年保守合同以前に御出版になった民主党の「うれうべき教科書」のあの執念深い日教組攻撃を、アメリカがどれだけ喜んだか想像にあまりあるものであります。従いまして、この法案ににじみ出るどころか、はっきり現われているところの教育の中央集権化の根本政策はアメリカの喜ぶに違いないものであります。米国の喜ぶところの政策、これを代表しているところのものが、ただいま本委員会にかかっているところの略称教育委員会法改正案であります。従いまして、文相の文教政策理念はアメリカ色を払拭すると言いながら、実は新しいアメリカ世界政策の一翼をになっていると私には思われるのであります。
 ここに最後にぜひともあなたの御注意を喚起したい一事がございます。それはあなたが払拭されようとされているところのアメリカ色なるものは、当時アメリカが長くドイツ、イタリア、日本を相手に同盟関係にあったソ連とまだ表立って争わず、もう一つおのれの国だけが原爆を持っている自信を持ち、さらにマッカーサーがしばしば日本を太平洋のスイスにするのだと言っていたころのアメリカ色であります。しかるにアメリカとソ連との関係が一変して冷戦状態となり、朝鮮戦争もあり、せとぎわ的対立をするに至った結果といたしまして、アメリカが対日政策を少くとも百数十度転換いたしました。今日のアメリカには憲法第九条がじゃまになり出し、日本の軍事力は利用に値すると認識し、蒋介石軍や李承晩軍よりも日本軍をどれだけ高く評価し、希望をつないでいるかはだれ知らぬ者もない常識的事実であります。従いまして教育の地方分権、教育に対する直接国民の手による運営、あの時代のアメリカの喜んだところのものは、変れば変る世の中の一つのできごとでありましょうが、これを守ろうとしているのが今や革新勢力であります。近年のアメリカの対日政策こそはおそろしい毒素、日本の現在にも将来にもためにならないと見ているのであります。このような考え方ならば、世界のアメリカ批判と、ハ調にせよト調にせよ、調子がぴったり合うのであります。申し上げにくいのでありますが、忍びがたきを忍んで申し上げますと、落ちないで六回当選になっている者をも含めて、戦後派の政治家が少数の精神的復活を経たる戦前派政治家とともに、これが民主主義というものだ、これが平和国家というものだと、確信をもって苦心して打ち立てた民主主義的、平和主義的教育内容と、それに見合う教育制度、不思議に最近の世界的革新的の傾向に合致するところのそれらのとうとい成果を、どういう深い御事情があるか存じませんが、あなたや、今は法務大臣であられる牧野良三氏や、今は故人となられた大達さんや安藤さんが、いきり立って教育や教育制度を今度は反対の方向に向きを変えようとしていられるのであります。同じ愛国心でも、この人々は君が代といい、紀元節といい、私たちのいう民族独立や愛国心とは並行線をたどっており、むしろ逆にかち合うといえるように真反対のものであります。私はこの法案には絶対反対であります。阻止のために暴力はふるいませんが、このように国会における三分の一以上が、やれ国が危うくなる、日本が損をしてアメリカが得をするといって、まじりけのない愛国心から反対しているという事実、そしてあらしのごとく洪水のごとく、反対が各界各層から叫ばれつつあることは、これはすでにこの民主主義的、平和主義的教育と教育制度とが、わが若き世代やインテリの血となり肉となり、板につくようにりっぱに洋服を着こなすように成果をあげ得ているという事実、この二つの事実を、虚心たんかいに御認識いただきたいと存じます。私はそこでかかる論理と認識に立って次の質問をいたします。
 この法案のねらうこのような急角度の方向転換は必ずや教育界に末長くしこりを残し、教育界のほんの一部分は、泣く子と地頭には勝てないと鳴りを静め、あるいはさらにその中の一部少数は政府の現在のねらう方針に身をまかせて、理論的にちょうちん持ちを始めるかもしれませんが、教育界の九割八分はこれを了承せず、文部省と冷戦的なにらみ合いの状態を長い期間続けると私は思います。文部大臣の御所見を承わりたいと思います。これが一つの質問です。
○清瀬国務大臣 あなたの世界情勢の観察とは私は少し意見を異にいたしております。しかしながら教育は非常に幅の広い大きなものでありまして、日本の次の時代の国民の性格陶冶にあるのでございます。始終引かれる教育基本法にも、人格を完成すること、自主的にして心身ともに健全な国民を作ることとあります。それゆえに世界外交、思想の情勢がいかようにあろうとも、健全なる教育という点においては同様であります。かりにあなたの方が日本の政権を取っても、同じように国民は教育さるべきものと私は思っておるのであります。これがために教育界にしこりを残したり、政局の変動によって変化を生ずるといったような幅の狭いものではないと了解いたしまして、その了解の上に今度のこの法案、教科書法案、すべてその上に築いたものでございます。
○高津委員 この法案を私は教育に対する荒療治で急激な方向転換命令だと考えております。この法案は教育の内容に対し、影響という言葉では不足でありまして、形を与える、形を変えさせる、方向を変えさせるハンドルとも見られ、容器とも見られ、牛の鼻ぐりとも見られるし、一定の方向へぐんぐん引っぱるワイヤー・ロープとも見られる中央集権的教育行政機構の確立、これがこの法案のねらいだと思います。中央集権化することは、急激なる方向転換だと思います。本法案第五十二条の内容は、一口に申しますと、文部大臣は、府県市町村の教育行政当局のしたことが違法、不適正と認めたるとき、また教育の本来の目的達成を阻害しているものがあると認めるときは、必要な措置を要求することとなっているのであります。そして、阻害の事実ありというその判断は、結局今はあなた、将来はあなたのような思想の文部大臣の主観によってきめられるわけであります。そして、この新たに文部大臣が持つことになるところの措置要求権は、本法案第十六条の規定により、府県教育長の任命は文部大臣の承認を要するとあるものと相待って、実質的には指揮命令権となるのであります。学問思想の自由を守ろうとする者にとって、そのおそろしさが痛感されるのは、義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法の第五条の処罰請求についても、やはり今あげた第五十二条の第二項によって、政党人たる時の文部大臣が措置要求権を持つことになると考えられるからでありまして、こうなると、この実質上の指揮命令権たるや想像以上の激しさを持つものでありまして、かくのごとき中央集権化は、放送事業に対する国家統制の企てと同様、当文教委員会においてぜひとも押し切って通がすごときことは、あってはならないと存じます。これは明らかに急激な百八十度的荒療治でありまして、教育の地方分権も、教育の民主化も、教育の自由も、泣くにも泣かれなくなるでありましょう。
 十人の大学総長と元総長との声明が、清瀬文相から実際を知らない学者的抽象論だという意味の反駁を受けましたが、この温厚なクリスチャンの総長は、昨二十八日、巣立ち行く二千五百名の卒業生を前にして、一歩前進し、一歩具体的な論陣を張られました。総長は左のように申しております。「言論と教育に対する国家的統制の動きがあるのが日本の民主化を中途でせき止めて、過去の国家主義日本への復帰の傾向を示すのではあるまいか。」「戦前及び戦時中日本のファッショ化に積極的に活動し、自由に対する干渉に大きな役割を果した人物が政治の表裏に再び登場しつつある点に注目しなければならない。もしも国民が無自覚無批判に大勢に動かされ、これに迎合して行くなら、折角始まった新しい民主主義日本建設の事業は中途で座折し、もとのモクアミになる恐れがある。」というのであります。学界でも尊敬されているこの学者の目には、東条内閣の閣僚たりし大麻唯男氏や、同じく重光葵氏が現内閣に居並び、小選挙区制担当の太田正孝大臣もまた同じく戦時中の閣僚、与党の大幹事長は東条の閣僚、駐米大使谷正之氏も東条の閣僚、アメリカはこのような顔ぶれをきらうかというに、近ごろは決してさにあらずであります。いよいよ日本を大戦に突っ込む前の時代には、林銑十郎大将が文部大臣を兼務したり、荒木貞夫大将が相当期間専任の文部大臣であったり、あの大戦中に東条大将が文相の事務管理を兼任したこともありました。あの時代の光景をこの学者は思い浮かべて、現代に警告し、また全国の新聞紙を通じて清瀬文相に答えているのだと思われます。
 この法案の作成のときには、世論がこのように反対気勢に盛り上るだろうことは想像し得なかったと思われ、絶対多数で通せる議案だから、欲ばって清瀬イズムを多量に盛り込まれたのであろうと私は判断いたします。
 この法案はあなたの常識では、仁丹か太田胃散程度に見えても、私たちの鑑定では大へんな劇薬です。これでは教育界が大反対をしているのもうなずけますし、教育界が混乱し、表面相当おさまるとしても、教育の大損失となると思われます。もし混乱しない、法案通過の上は、教育の世界はよくなるとでもお答えになるならば、その積極的な理由をお示し願えれば幸いと存じます。
○清瀬国務大臣 この案は重大な案でありますから、一部にはこれに反対の御意見も出ておりますが、また他方には非常に賛成で、通過を熱望し、今朝も私を激励に来た人もございます。皆様の御審議の結果、適当なるところに落ちつくものと私は信じておるのでございます。お尋ねの趣旨は、混乱を来たすのではないかということでありましたが、民主主義的方法で議事を進め、政治の最高機関たる国会がもしこれを通過して下さるならば、日本国民はこれを是認して、次の時代の国民を育成するためにこの機構を使うてくれることと確信いたしております。
○佐藤委員長 質疑の途中でございますが、清瀬文部大臣が参議院の方へ出席されることになっておりますので、本日はこの程度にいたします。
 次会は明三十日午前十時より開会いたします。これにて散会いたします。
    午前十一時九分散会