第026回国会 法務委員会 第14号
昭和三十二年三月十三日(水曜日)
    午前十一時二分開議
 出席委員
   委員長 三田村武夫君
   理事 池田 清志君 理事 横井 太郎君
   理事 菊地養之輔君
      清瀬 一郎君    小林かなえ君
      高橋 禎一君    林   博君
      古島 義英君    松永  東君
      山口 好一君    横川 重次君
      神近 市子君    田中幾三郎君
      吉田 賢一君    志賀 義雄君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 中村 梅吉君
 出席政府委員
        検     事
        (大臣官房調査
        課長)     位野木益雄君
 委員外の出席者
        判     事
        (最高裁判所事
        務総局総務局
        長)      関根 小郷君
        判     事
        (最高裁判所事
        務総局総務局総
        務課長)    海野 安昌君
        専  門  員 小木 貞一君
    ―――――――――――――
三月十三日
 委員小島徹三君、片山哲君及び西村彰一君辞任
 につき、その補欠として清瀬一郎君、古屋貞雄
 君及び吉田賢一君が議長の指名で委員に選任さ
 れた。
同 日
 委員清瀬一郎君辞任につき、その補欠として小
 島徹三君が議長の指名で委員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 裁判所法等の一部を改正する法律案(内閣提出
 第八九号)
    ―――――――――――――
○三田村委員長 これより法務委員会と開会いたします。
 裁判所法等の一部を改正する法律案に議題とし審査を進めます。
 本日は法案作成までの経過を政府当局より聴取することといたします。位野木調査課長。
○位野木政府委員 この最高裁判所の機構改革及び上告制度の改善の問題が法制審議会で取り上げられますに至る経緯につきましては、提案理由で述べられておりますので、その部分は省略いたしまして、いきなりこの法制審議会の審議についてその経過を御説明いたしたいと思います。
 法制審議会では、昭和二十八年の二月に、裁判所の制度を改善する必要があるか、あるとすればその要綱を示されたいという諮問が出されまして、これに基きまして司法制度部会というもりが設置されたのであります。この司法制度部会は、昭和二十八年の三月から翌昭和二十九年の一月までの間、八回にわたって会議を開いて審議を開いて審議を重ねたのでありますが、ここで出た意見の内容は大体次の三つの類型に分けられると思います。
 その一つは、現在の制度を維持すべきであるという意見であります。この意見は、最高裁判所の未済事件は増加いたしておりますが、これは異常な状態でありまして、こういうふうなまだ一時的な現象、異常な状態から直ちに最高裁判所の制度を根本的に改めるということは早計である、であるから、できる限り手続法とか運用の改善でいましばらく事態を見た上で機構の改革もやむを得ないとするまで待つべきだと、こういうふうな意見でありまして、そういうふうな機構改革をしなくても十分やっていけるのだというふうな考え方であります。この意見は、最高の裁判所が最終的に違憲審査権を行使する点が最高裁判所としては非常に重大な使命である、この点を十分に認識しなければならない、それから、憲法問題を審判するためには、構成員が広い視野と高邁な識見を有する国家第一級の人物でなければならないという要請と、それから、憲法問題等の重要な事項について裁判所の判断が区々になるということを極力避けなければいけない、そうして国民の心服を得るためには裁判官の全員が裁判の会議に関与しなければならないということを強調するのでありまして、そういう結果から必然的にその人数は少数でなければならないということを主張するわけであります。多数の比較的軽微な事件を処理するために最高裁判所の裁判を増員するということは適当ではないという考え方であります。
 第二の意見といたしましては、最高裁判所の裁判官を増員すべきであるという意見がございました。この意見は、最高裁判所における未済事件の増加は裁判官の数が十五名にすぎないということが大きな原因である、昔の大審院では四十数名いたという時代が相当長かったのでありますが、そういうふうなことから見ても裁判官の数は少いのだ、この際裁判官を二倍ないしそれ以上に増すべきだ、同時に、最高裁判所は憲法違反等の重要事項にとどまりないで民事、刑事とともに広く一般の法令違反について審判すべきであるという主張をいたしまして、上告理由の範囲を拡張すべきであるということを強く主張するわけであります。この意見は、最高裁判所といえどもやはり司法裁判所である点においては、旧大審院とは異ならないのであって、憲法違反の事件のみならず広く他の一般法令違反を審理すべきである、この一般上告事件についての申し立てを制限しようということは、最高裁判所が最高の司法裁判所であるという性格と矛盾するというのであります。かりに増員いたしましても、判断が区々に分れるこいうふうなことについては適当な方策を講ずれば防ぎ得るのではないかということを言うわけでありまして、結局、上告理由を拡張するとともに、最高裁判所の裁判官を増員すべきであるという主張であります。
 第三の意見は、上告事件を取り扱うために特別の機関を設置すべきであるという意見であります。この意見は、東京高等裁判所またはその他の適当な裁判所に上告部を設ける、あるいは全く独立の上告裁判所というものを設けまして、ここで一般の上告事件の審判をさせる、そうして最高裁判所はこの上告部または上告裁判所から送致を受けた憲法違反、判例抵触その他の重要な上告事件を取り扱うというふうにしてはどうか、このようにいたしまして、最高裁判所の負担を軽減いたしまして、最高裁判所の裁判官はむしろ若干減員する方が適当であるというのであります。こういうふうにすることによってのみ、一方においては新司法制度の理想を高めていき、他方において一般法令を違反をも上告理由として認めようとする要求に応ずることが可能であるということを主張するわけであります。
 司法制度部会では以上のような三つのグループの意見を中心といたしまして種々論議を重ねたのでありますが、何分にも重大かつ困難な問題でありますので、意見が対立して容易に結論に到達できなかったのであります。
 ところが、御承知のように、最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律、これが臨時法として成立しておりまして、昭和二十九年六月一日から効力を失うことになっておったのでありますが、その期限が迫りましたので、早急に善後措置を講じなければならない状態になったのであります。そこで、法制審議会では、根本論を一応中止いたしまして、さしあたりの必要に応じまして、民事上告特例法の失効の善後措置について審議をすることになったのであります。
 これにつきまして法制審議会の司法制度部会及び民事訴訟法部会で審議をいたしました結果、中間報告意見というものが出されたのであります。これに基きまして、法務省の事務当局では、裁判所法及び民事訴訟法等の各一部改正法律案を立案いたしまして、第十九国会に提出いたしました。これらの法律案は一部修正の上可決されて成立いたしましたことは御承知の通りでありますが、この両法律によりまして、民事事件につきましては、憲法違反のほか、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反を上告理由とするということになったのであります。そのほか、簡易裁判所の民事に関する裁判権の範囲の拡張、そのほかの若干の最高裁判所の負担軽減のための措置がとられたことは御承知の通りであります。
 この両法律の成立によって、最高裁判所の民事上告事件の負担の調整についてはある程度の効果を上げることができるようになったのでありますが、もとより問題はこれによって根本的な解決を見たわけではなかったのであります。国会でも、この両法律案の審議中から、上告制度の改善の問題に対して根本的対策を研究されることを決定されまして、当法務委員会におかれましては、上訴制度に関する調査小委員会、違憲訴訟に関する小委員会を設置いたしまして、国会閉会中も熱心に研究を続けてきておられたのでございますが、法制審議会におきましても、そのよう状況等ともにらみ合せまして、問題の研究をさらに促進するために、昭和二十九年の八月に、司法制度部会、民事訴訟法部会及び刑事法部会から選出された小委員をもって構成する上訴制度に関する合同小委員というものを設けまして、この問題について総合的な調査をさらに促進することになったのであります。
 この小委員会は昭和二十九年の八月から審議を開始いたしました。その開始後間もなく、最高裁判所から意見の発表があったのであります。これはお手元にお配りいたしてありまする資料をごらんいただきたいと思います。「上告制度改正に関する諸案及び法制審議会答申」という資料がございますが、これの数字の2のところに書いてありますのが最高裁判所の意見であります。その要旨は、最高裁判所の裁判官を減員いたしまして、一般法令違反を審理するためには別に上告を取り扱うための裁判機関を設けるべきであるという趣旨でございます。この意見が合同小委員会におきましても最高裁判所側の委員によって主張されたのであります。
 これに対しまして、弁護士側委員からは、その前に日本弁護士連合会から法務大臣あてに提出されておりましたところの裁判所法等の改正案という意見書がございますが、これは今申しました資料の第一番目に出ております。これの趣旨に沿った主張をなされたのでありまして、その内容は、最高裁判所の裁判官を増員する、そうして上告理由を拡張するというのがその内容であります。最高裁判所判事の員数は八人以上とする、最高裁判所は大法廷または小法廷で審理及び裁判する、大法廷は長官及び大法廷判事八人以上をもって構成し、小法廷は大法廷判事及びその他の判事と合せて三人以上をもって構成する、大法廷は憲法違反のみを理由とする上告事件及び憲法違反とあわせてその他の事由を上告理由とする事件の審理及び裁判をする、小法廷は事件の種類により刑事部小法廷、民事部小法廷及び特別部小法廷とする、刑事部小法廷は刑事上告事件を、民事部小法廷は民事上告事件を、特別部小法廷はその他の上告事件を審理及び裁判する、小法廷が従来の判例を変更する必要ありと認めたときは小法廷の連合部で審理及び裁判しなければならないというふうなのがこのおもな条文でございますが、こういうふうな意見書に沿った主張がなされたのであります。
 なお、これに先立ちまして、衆議院の当法務委員会におきましては、上訴制度に関する調査小委員会というものを設けられておったのでありますが、昭和二十九年の十月に、やはり今申しました日本弁護士連合会の案と基本的構想を同じくするような案を出されたのであります。すなわち、上告理由を拡張するとともに、最高裁判所の裁判官を十五名増員するという内容でありまして、これは資料の三番目に出ております。
 このような次第で、合同小委員会における審議も、最高裁判所側の裁判官減員論と弁護士会側の裁判官増員論とをめぐって行われたのであります。ところが、今申しました最高裁判所の意見、昭和二十九年の九月に発表された意見の中でははっきり触れられていなかった点があったのであります。それは、一般法令違反を審議するための裁判機関をどういうふうにして設置するかということははっきりいたしておらなかったのでありますが、それが、この合同小委員会の審議の途中でだんだんとはっきりいたしまして、この裁判機関は最高裁判所に置くのが適当であるという意見が最高裁判所側の委員から述べられるようになったのであります。そういたしますと、基本的な考え方は非常に違うのでありますが、実質的には最高裁判所側の意見と弁護士側の意見との間の差異が相当減縮された結果にも見えたのであります。
 そこで、二十九年の十一月の小委員会の会議に、法務省の幹事側から上告制度改正要綱試案という妥協案を提出したのであります。これが資料の中の四番目でございます。この案は、最高裁判所は大法廷または小法廷で上告事件の審判をする、大法廷は憲法第七十九条により任命される裁判官七人で構成する、小法廷の裁判官は総数三十人で憲法第八十条により任命するという案であります。これに対しましては、裁判所側の委員及び学界関係の委員からは特に反対はなかったのでありますが、弁護士側の委員のうちからは反対の意見が表明されたのであります。
 その後しばらく委員会は中断いたしておりました。中断と申しましても四、五ヵ月でございますが、昭和三十年に入りましてから、小委員会では、今まで十分論議の尽されていなかった上告理由の範囲の問題、特に刑事の上告理由の範囲をいかにすべきかという問題を中心とする審議に入ったのであります。
 この上告理由の範囲に関する意見といたしましては、現状維持論から、広く一般法令違反をすべて上告理由とすべしという意見に至るまで、ほぼ六通りの案が出されたのであります。これは資料の五番目に載っております。現行通りとするのが一案、それから、法令の解釈に関する重要な事項について判断を誤まったことを上告理由とするというのが二案、これは刑訴の四百六条にならうもので、刑訴の四百六条を正式の上告理由とするというのであります。三案は、一般法令違反を上告理由とするが、法令の解釈に関する重要な主張を含むと認めるものに基いて調査すれば足りるとするもので、これは民事上告特例法の線であります。四案は、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反することを上告理由とする。これは四百十一条の一号を上告理由とするもので、これは今度の案でございます。五案は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを上告理由とする。六案は、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを上告理由とする。まだそのほかにもバラエティがある意見が出たのでありますが、大体の線はこの六通りであります。
 この上告理由の点につきましてもいろいろ意見が分れたのでありますが、結局、おもな分れ方を見ますと、一般法令違反を上告理由として認めるべきであると主張する弁護士側の委員の意見と、これを制限的に認めるべきであるとする最高裁判所側の委員及び主として訴訟法関係の学者側の委員――これも全然上告理由の抗張を認めないという趣旨ではない、ある程度一般法令違反を上告理由とすることはやむを得ないだろう、しかしこれをあまりに大幅に拡張するということは適当でない、こういう意見でありますが、その意見の間に対立が見られたのであります。ところが、合同小委員会における審議も回を重ねるに従いましてだんだん歩み寄りの機運が強まりまして、昭和三十一年二月の会議には、委員の間の要望によりまして、法務省の幹事側から試案を出せということになりまして、試案を提出したのであります。
 その試案の第一は、この資料の六番目に出ております上告制度改正に関する試案(甲案)というものでございます。その要旨は、最高裁判所の機構はおおむね現在通りとする、しかしながら刑事の上告理由は拡張するということにいたしまして、最高裁判所の負担の調整のための若干の方策をそのかわりとる、こういうふうになっております。すなわち、機構はそのままにしておいて、上告理由を拡げる、それに見合うための、機構に触れないような負担調整のための方策を法律上講じよう、こういう考え方であります。これが試案の甲案であります。もう一つ試案を出したのでありますが、これが上告制度改正に関する試案(乙案)というのでありまして、資料の七番目に出ております、これは前に昭和二十九年の十一月に法務省の幹事側から提出いたしました上告制度改正要綱試案の線に沿ったものでありまして、大法廷の裁判官を長官以下九人、小法廷の裁判官を三十人とし、同時に刑事の上告理由を拡張することを内容とするものであります。この二通りの試案を小委員会に提出したのであります。
 その後の会議におきましては、甲案の方はあまり取り上げられなかったのであります。そして乙案の方を中心として審議が進められたのであります。最高裁判所側からは、この法務省側の試案に対しまして、一部修正を加えるほかは、この案でよろしいという多数意見と、それから、この案に根本的に反対する少数意見、――これはいずれも資料の八番目と九番目に出ております。この多数意見と少数意見が最高裁判所側から発表されたのであります。また、弁護士会側からは、資料の十に出ておりますように、最高裁判所は長官及び最高裁判所判事三十人をもって構成するという趣旨の上告制度改正案要綱という意見書が出されたのでありますが、これは今までの意見を確認するという意味で出されたものと思われますが、そういうふうな意見書が出されたのであります。しかしながら、合同小委員会におきましては次第に多数の委員の賛成を得られるような方向が明らかになりまして、ついに三十一年の三月十二日の第十七回の合同小委員会におきまして、法務省側の提出いたしました上告制度改正に関する試案の乙案、これに若干の修正を加えた内容の合同小委員会としての案が決定せられるに至ったのであります。
 それで、この合同小委員会の案を司法制度部会、民事訴訟法部会及び刑事法の各部会において審議をいたしましたところ、それぞれの部会で承認が得られましたので、三十一年の五月八日の法制審議会第十三回総会におきまして審議いたしました結果、刑事訴訟法の改正に関する諮問、民事訴訟法の改正に関する諮問及び裁判所制度の改善に関する諮問に対する一部答申案として、上告制度改正要綱という法制審議会の答申案が決定されまして、同日法制審議会長から法務大臣あてに答申が行われたのであります。その答申は、この資料の一部最後に載っておりますのがそのものでございます。
 大体法制審議会の答申がまとまるに至りました経緯を申し上げたのであります。この答申案の趣旨に基きまして今回の法律案を作成して提出したというような経過に相なっております。
○三田村委員長 この際法務大臣から今の経緯について何か御発言がありますか。
○中村国務大臣 ただいま政府委員から、この法案を立案するに至るまでの諸般の経過について詳細に御説明を申し上げたのでありますが、御承知の通り現在の最高裁判所の制度が事件の積滞その他の点において非常な行き詰まりを来しておりまして、国会におきましても、数年前からお取り上げになりまして、小委員会等を設けられて種々御検討をいただいておりましたのですが、法務当局といたしましても、法制審議会で、ただいま政府委員から御説明申し上げましたような経過をたどりまして、いろいろな検討を続けて参ったのでございます。
 この間いろいろ意見がありまして、ただいまお手元に配付されております資料にも明瞭でございますように、単純に最高裁判所の裁判官を増員すべきであるという意見であるとか、あるいは別個に上告裁判所を設置すべきではないかとか、あるいは上告の範囲の問題であるとか、その他小法廷、大法廷の構造に関するいろいろな論議が戦わされて参りまして、あらゆる角度からこの間合同小委員会を中心に各方面の識者の意見が戦わされて、だんだんと煮詰められてきたのであります。その結果、今回提案をいたしました法律案を立案するに至ったのであります。
 これに関しまして、大きな問題になると思われる点を考えてみますと、まず第一には、どうして現在の裁判所の機構で何とかやっていけないのか、こういう点が第一点であろうと思いますが、これはすでに御承知の通り、現在の最高裁判所は、違憲審査を行う権限を有する終審裁判所である、こういうことを憲法で定められておりますほかに、訴訟手続その他に関する規則の制定及び下級裁判所の裁判官の指名、こういうような重要な権限を最高裁判所は与えられまして旧大審院とは全く趣きを異にする存在になっております。かような関係から、現在の十五人の裁判官をもってしては負担が過重でありまして、事件の処理等も非常な困難を来たし、従いまして、そこに年々五、六千件の上告が続いて参りますので、この事件の処理にも困難を来たしまして、勢いのおもむくところ、十五人の裁判官が下審査から判決の原稿書きから全部取り扱うということは至難でございますので調査官がいろいろな資料を集め、あるいは調査官が裁判の案を作る、こういうようなこと等も起らざるを得ない事態から世間ではあるいは調査官裁判であるとかいうような批判すらもあるようになって参りまして、現状をもってしては上告審としての任務を全うすることが非常に困難であるという段階に逢着いたしておりましたわけであります。一面また、当事者の権利擁護という点から、学識経験者、特に在野法曹とか学者の側からは上告範囲の問題が非常に問題にされております。今までの刑事訴訟法におきましては、違憲の問題と判例抵触の場合しか刑事については上告が認められておりません。民事におきましては、先ほど御説明申し上げましたように、上告の範囲が明確にされまして、法令の違反があってそれが判決に影響を及ぼす場合には上告の理由になるということになっておりますので、民事、刑事の上告の間口が現在そろっていない。そういうことも一つの原因でありまして、事件についても上告の範囲を拡張すべきであるという議論が次第に強くなって参りまして、これも正論であると認められますので、こういうことを取り入れるとするならば、なおのこと、現在の最高裁判所をもってしては上告審としての任務を全うすることができない、こういうことになって参りました。そこで、しからばどうすればいいかということになりますと、今申し上げましたようにいろいろな説がございますが、一番簡単なのは、最高裁判所の裁判官を思い切って増員する、そして小法廷の数をたくさん、ふやしてやったらいいじゃないか、こういう考え方が一つできますが、これになりまと、現在の憲法が、最高裁判所の裁判官については国民審査に付する、こういう非常に重要な取扱いをいたしておりまして、最高裁判所の重要な任務にかんがみて、国家第一流の人物をもって構成させようとしておることが明確であります。この国民審査との関係を考えましただけでも、現在の十五人でさえいろいろ批判があるところへ、さらに大量の裁判官増員をいたしまして国民審査に付するということは、どうも憲法の予期したところに反するのではないか。また、小法廷で個々の事件を扱うにいたしましても、憲法に関する問題、それから判例の変更等、判例の統一に関することはどうしてもワンベンチで、一つの組織でやりませんと、判例に安定性を置くことができない。憲法の解釈に統一性を持たせることができませんから、従って、何十人の全員裁判官が裁判に参加するということになりますと、その間審議及び合議等の円滑を非常に欠くことになります。現在の十五人でさえも円滑な大法廷の運営ということがなかなか困難であるところへ、さらに多数の者が裁判官になりました場合には、とうてい円滑な運営というものは困難ではないか。しからば、やはり、そういうような憲法問題、判例抵触等の、あるいは判例の変更等の重要な案件も、幾つにか分けて大法廷を構成したらいいじゃないか、こういう考え方もできますが、そういたしますと、先ほど申し上げたように判例の安定性が欠ける。そうして時に食い違った判例が出るということになりましては、非常な大問題でありますから、こういうことは許されない。同時に、同じ裁判官の増員をいたしましても、今なお五千件近くの事件が積滞いたしまして、裁判がなかなか解決をしないことについて世間から大きな批判のあります際に、小規模の裁判官増員ではこれまた問題を解決することができない、こういうことになって参ると思うのであります。しからば、大ぜいの裁判官を増員して、そのうちの一部の人をもって、ワンベンチの大法廷を構成したらどうか、こういう考え方ももちろん今までの論議の中にもあったわけであります。考えられると思うのでありますが、これも、そういうことになりますと、同じ最高裁判所の裁判官の中に格式の違う、権限の差異のある裁判官が、できてしまうということになりますので、これらもとうてい筋の通らないものであるということになると思うのであります。それから、最高裁判所が一つの最高裁判所である場合に、大法廷の裁判官だけ国民審査に付して、他の自余の裁判官については国民審査に付さないということなども論議の中に出ておるようでありますが、これらも、最高裁判所の中に国民審査に付する裁判官と付しない裁判官ともしあったとするならば、これは憲法上重大な疑義を生じてくると思う。憲法は、そういう差別を与えないで、最高裁判所の裁判官については国民審査に付すべしということになっておるのでありますから、これらにかなわないことになると思うのであります。さような点が基本的な一つの問題かと思います。
 さらに、今度の案につきまして問題になる点は、四審制を招来するのではないか、これが一つの大きな論点かと思いますが、しかし、私どもの考えでは、原則としては四審制にはならないのだ、こう考えます。上告事件はまず小法廷で審査されるのでありますが、小法廷自身が審査をいたしました結果、憲法の判断を必要とする事件、あるいは判例の変更を必要とする事件、こういう重要な事件であるということがわかりましたならば、その事件については、みずから裁判をせず、直ちにこれを最高裁判所に移して、最高裁判所で判断をさせて、小法廷は最終的な判決をしない、こういう建前をとっておりますから、この意味から言えば、小法廷の裁判所は大法廷である最高裁判所の一つの事前審査のようなことになるかと思いますが、そういう憲法について判断を必要とする、あるいは判例の統一を必要とするという見解が出ましたら、みずから判断をせずして最高裁判所の大法廷の方に事件を移す、そうして大法廷の方で裁判をするのでありますから、これはその意味からいたしますれば明らかに四審ではないのであります。ただ例外的に四審になる場合があり得ると思います。すなわち、小法廷の裁判に対しましては異議の申し立てができることになっておりますが、異議の申し立ては、すでに法案でも明瞭でございますように、裁判の確定を妨げないのであります。ただ、その場合に、小法廷の裁判に対して異議の申し立てがあって、その異議が理由のあるものというような観点に立った場合には、執行の停止を裁判所みずからがすることができます。この場合には四審制のような姿になっていくのでありますが、これはきわめて例外的の場合であると思うのであります。現在の民事事件についての特別上告の点などと比較してみますると、大体これは民事訴訟法にあります特別上告に匹敵したものであろうかと思います。
 そのほか、この法案について重要な問題点を考えてみますると、小法廷の性格、これは一体下級裁判所か最高裁判所の一部か、こういうような点が、これまた大きな論点になろうかと思いますが、これは、本会議でも御説明申し上げ、先日も趣旨説明を当委員会で申し上げましたように、小法廷は、独立いたしました憲法七十六条にいう下級裁判所でございます。すなわち、一般事件の上告を取り扱う最高裁判所の下級裁判所であります。しからば、その下級裁判所である小法廷になぜ最高裁判所小法廷という名称を付しまた最高裁判所と別個に事務組織を設けないか、こういうような問題も派生して参ると思いますが、しかし、先刻来申し上げましたように、大法廷である最高裁判所とこの小法廷とは非常に緊密な関係にございますので、そういう緊密な関係にあります下級裁判所が、全然独立した事務局を持ち、あるいは長官を持ち、いろいろな機関を持つということは、かえって運営を困難ならしむるおそれがありますので、むしろこれは最高裁判所の傘下に下級裁判所としての最高裁判所小法廷を置くというのがよかろう、こういう結論になって立案されたのが本案でございます。
 なおいろいろ申し上げるべき重要な点は多々あるわけでありますが、いずれ委員の方々からの御質疑に伴いまして必要に応じて御説明を申し上げ、お答えをいたしまして、慎重御審議のほどをお願い申し上げたいと思います。
○高橋(禎)委員 この際私は政府に御要望を申し上げておきたいことがございます。それは、最高裁判所の機構改革、それから上告制度の改正ということは、もう相当長い間論議されておるのでありまして、今国会においては一応その結論を出さないと、国会としての国民に対する責務も果たされないような気がするのであります。そこで、政府側としては、この政府提案の法律案を維持するための資料だけでなくて、むしろ、これとは反対の理由となるような資料もどしどし一つ提出をしていただきたいと思うのであります。
 そこで、先ほど来政府側から御説明のございましたこれまでの経過については一応了承いたしましたが、この問題については意見が大体三つに分類される。先ほど御説明のように、法制審議会司法制度部会においてやはり意見が三つ出た。すなわち、現行制度維持論、最高裁判所の裁判官を増加しかつ上告理由を拡張すべきであるという意見、三番目に、上告事件取扱いに特別裁判所を設置すべきであるという意見、大体この三つの意見が私どもこの法案審議中十分検討してみなければならない問題であると思うのであります。そこで、法制審議会にはこの道の権威者がお集まりですから、将来当委員会において公聴会を開いて公述人として御苦労願ったり、あるいはまた参考人として御意見を伺ったりする便宜のために、最初から最後の答申案が出ますまでの間の各委員会の委員の方のお名前なりあるいはその方の持っておられる意見なりを簡単に集約していただいて、そうして当委員会へ書面で御提出願えれば、非常にこの審議促進のために、また審議を慎重にするためにも役立つと思いますから、それを一つお願いいたしたいと思います。こういうことは決して秘密でも何でもありませんから、大っぴらに堂々と国内の有力なる意見をお持ちの方の意見を当委員会にさらけ出して、そうして各方面から検討して正しい結論を出すようにいたしたいと思いますから、その点特お願いをいたしておきます。
○三田村委員長 ただいまの高橋委員の御発言は、当委員会の審査上非常に重要な御発言と思いますから、政府側はその趣旨に沿うよう御準備願います。
○中村国務大臣 まことにごもっともと思います。ぜひ一つ私の方も至急に御趣旨に沿いたいと思います。
○三田村委員長 本日はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
 次会は公報をもってお知らせいたします。
   午前十一時五十七分散会