第051回国会 科学技術振興対策特別委員会 第6号
昭和四十一年三月九日(水曜日)
   午後一時四十七分開議
 出席委員
   委員長 原   茂君
   理事 菅野和太郎君 理事 西村 英一君
   理事 前田 正男君 理事 石野 久男君
   理事 岡  良一君 理事 田中 武夫君
      大泉 寛三君   小宮山重四郎君
      渡辺美智雄君    三木 喜夫君
      山内  広君   米内山義一郎君
 出席政府委員
        科学技術政務次
        官       田川 誠一君
        総理府事務官
        (科学技術庁長
        官官房長)   小林 貞雄君
        総理府技官
        (科学技術庁研
        究調整局長)  高橋 正春君
        総理府技官
        (科学技術庁資
        源局長)    橘  恭一君
        厚 生 技 官
        (環境衛生局
        長)      舘林 宣夫君
 委員外の出席者
        厚 生 技 官
        (環境衛生局食
        品化学課長)  小高 愛親君
        厚 生 技 官
        (国立衛生試験
        所食品部食品第
        一室長)    田辺 弘也君
        農 林 技 官
        (農政局参事
        官)      河原卯太郎君
        参  考  人
        (東京歯科大学
        教授)     上田 喜一君
        参  考  人
        (東京大学教
        授)      浮田忠之進君
        参  考  人
        (東京大学教
        授)      白木 博次君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 参考人出頭要求に関する件
 科学技術振興対策に関する件(水銀性農薬の生
 物資源に及ぼす影響等に関する問題)
     ――――◇―――――
○原委員長 これより会議を開きます。
 科学技術振興対策に関する件について調査を進めます。
 まず、最初に参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。
 水銀性農薬の生物資源に及ぼす影響等に関する問題調査のため、東京歯科大学教授上田喜一君、東京大学教授浮田忠之進君及び東京大学教授白木博次君を参考人として意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○原委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。
     ――――◇―――――
○原委員長 この際参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席くださいまして、どうもありがとうございました。どうか忌憚のない御意見をお述べくださるようお願い申し上げます。
 それでは最初に上田参考人よりお願いいたします。
○上田参考人 ただいま御紹介をいただきました上田でございます。
 私は、公衆衛生、ことに産業中毒を専攻している者でございますけれども、ちょうど日本におきまして、昭和二十八年ごろから稲のいもち病に対して有機水銀でございますフェニル水銀が非常に有効であるということを日本の技術者が発見されまして、それが広く使われるようになりました。このことは、当時の食糧事情から申しますと、たいへんりっぱな貢献でございますけれども、私どもの立場から申しますと、水銀というような重金属を食品に用いること、ことに主食である米に用いることに対しては、大きな心配がございました。当時は、まだ小規模でございましたが、だんだんとそれが普及いたしまして、そのほかに水銀の農薬としての用途と申すものは、どろの中のばい菌の殺菌、つまり土壌消毒あるいは種をまきます前の種子消毒、あるいは果実などに使います水銀ボルドーというようないろいろな用途を寄せまして、次第にふえてまいりまして、現在では年々金属の水銀にいたしまして四百トンくらいを使っていると申すことでございます。
 まず最初に申し上げたいのは、外国ではこのような重金属、ことに水銀は、種の消毒に使いますことは許されておりますが、農作物のはえております葉っぱ、茎にじかにまくということは、どの国でも使わない、あるいは許可しないのが常識になっております。それは、こういう重金属は必ずどろの中にたまり、それから農作物として収穫された後私どもが食べますと、私どものからだの中にたまるということがわかっておりますので、あらかじめそういうものは使わないという態度をとりませんと防ぐことができないという考えだと思いますが、世界的の習慣あるいは常識は、じかに農作物の上にはかけないということなのでございます。
 そう申しましても、これがはたして有害であるかどうかということは、常識だけではいけませんから、欧米にも研究がございますし、私どももそれを昭和三十四年、五年ごろからやっております。
 第一に、はっきり区別していただかなければならないと思いますことは、種子消毒、土壌殺菌に使います水銀は、アルキル水銀というものでございまして、メチル水銀、エチル水銀、あるいは最近はエチルフェネチニル水銀というのも使われておりますけれども、これはいわゆる水俣病を起こす水銀でございます。これからあとの参考人の諸先生がおもにそこを集中的におっしゃると思いますけれども、これは非常に悪い、あるいは世界的におそれられている物質でございます。したがいまして、稲に直接まきますフェニル水銀とは区別して考えていただかないといけないと思います。
 さて、稲にまきます水銀が収穫のときどれくらい米にあるだろうかという問題は、私どもも少しいたしましたし、昭和三十五年ごろには農林省の農薬検査所が広範にいたされました。現在では、昭和三十九年から三年計画で厚生省が全国的規模で米の水銀分析をやっておられます。この発表はまだございませんが、農林省のほうの発表でございますと、玄米として百万分の〇・一から〇・二くらいが一番多いということが出ております。これは言いかえますと、米一キロに対して〇・一ないし〇・二ミリグラム水銀があるということでございます。これはあまり多い量ではございませんが、とにかく普通まかないときよりも多くございます。私どもの分析は、あまり量が多いので、数はたくさんやっておりませんけれども、一例としますと、二つの相接近しますたんぼに、片方は水銀農薬をまいて、片方のまかないのと比べますと、まかないほうが白米で〇・〇四PPM、まいたほうが〇・〇七PPMというような、約二倍という結果になりました。玄米でもほぼそうでございますが、玄米と白米とを比べますと、ぬかの部分、油があるところにたいへん多いものですから、約四〇%くらいはぬかのほうにあると思いますが、したがって、白米は玄米の半分あるいは六〇%くらいに減ることは減ります。この点では玄米食より白米がいい――と申しますと、玄米食を礼賛する人からは悪口を言われますけれども、現在では農薬というものがしみ込んでおりまして、くだものにしろ玄米にしろ、何か洗剤で洗ってもとることはできませんので、結局はくだものは皮をむいて食べるのが最もよろしく、米は、栄養分を失いましても白米のほうが安全であるというような状況でございます。もしも水銀農薬を一回、二回でがまんせずに、もっと増収しようと思って四回もまきますと、十倍くらいふえたというのが農林省の報告にございます。
 その結果、私どものからだの中に取り入れる水銀がそれでは多いだろうかと申すと、今度は人体の側から考えますと、私どもとしては、尿の中に一日に出る水銀の量を目安にいたしました。水銀というものは、わりあいに多くとりますと、尿よりも腸のほうにふえるのですけれども、いま問題にしておりますような少量でございますと、ほとんど尿に出ます。したがって、それをずっと同じ人で追及いたしますと、毎日毎日は動きはございますが、大体一日に四十ガンマ、言いかえますと〇・〇四ミリグラムの水銀を二十四時間に出す。それはほんとうに超微量でございますが、そのような見当になりました。ところが、外国では二十ガンマをこすことはないと申しております。つまり日本人は少なくとも外国のマキシマムの二倍くらいを出している。普通の人、つまり都会に住む人が出しているわけでございまして、農民だともうちょっと、私どもの調べた四十ガンマの二倍、三倍出す人ももちろんございますが、いま一般の都会の人としてそれくらい出しております。まあ確かに外国よりは多いということに考えてよろしいと思います。それでございますから、いまのルートから入りますものは米が主でございます。
 もう一つのルートは、先ほど申し上げました土壌殺菌に使うアルキル水銀をまいて、あまり時がたたずにすぐ野菜をまきますと、野菜の中にこれを吸い上げてしまいます。たとえばハクサイとかホウレンソウとか、そういうものに来た水銀は、あぶないほうの水銀だというおそれがあるのでございます。もちろんこれは正しく使って、どろを殺菌して一週間もたってから地面にまいてくれればそういうことはないのでございますが、急いでやるようなときにはそういうことが起こるといわれております。
 さて、それでは食品の中に全体として水銀が多いのは米だと申しますと、むろん玄米、ぬかは多いほうでございますが、そのほかに、特徴といたしまして、お魚の肉は一般に非常に水銀が多いのでございます。ことにマグロのように遠海魚、日本のそばには育ったこともない魚が非常に多く、たとえばいまの米の五倍も六倍もございます。それから卵の黄味がやはり相当たくさん水銀を持っております。水銀というものは地面の上にたくさんある、微量でございますが、広く広く広がっている元素でございますから、どうやって取り入れたか、ことにお魚は水銀を濃縮する作用があると考えられておりますが、濃縮してしまいます。
 そこで、水銀をはかるということ、つまりこのような微量の水銀をはかるということに私どもは一生懸命努力してまいったのでございますが、今度はその水銀が天然にあった水銀か農薬としてまいた有機水銀かを識別する必要が出てまいりました。いままではそういうことはほとんど不可能だったのでございますが、今回の新潟県の阿賀野川事件に際しまして、お魚の肉あるいはどろの中、患者の毛の中の水銀をはかる必要上、この鑑別法に努力を集中いたしまして、幸いにいまでは、少なくともアルキル水銀は非常によくアルキル水銀として検出できるようになりました。したがって、さっき申し上げました野菜の中にアルキル水銀があるかないかということも今後わかってくることと思います。少なくともことしじゅうにはわかってくることと存じます。
 それからフェニル水銀のほうは、それに比べまして少し困難でございます。それともう一つは、フェニル水銀はわりあいにこわれやすい水銀でありますので、稲にまきましても、私どもが収穫として取り入れた米を食べますときに、もはや有機水銀ではなくて、無機の水銀になっているかもしれないのでございます。その点が、いまだはっきりしておりません。それはどういう価値があるかと申しますと、無機の水銀と有機水銀では、毒性が有機のほうが強うございますから、いま申し上げました米の中の水銀が有機のままで残っているか無機のままであるかという点で、少し判断のしかたを変えなくてはならないからでございます。このことは、皆さま手ぬるいようにお思いになりますでしょうが、外国でそのような有機と無機を分けてこういう微量をはかった例は一例もないのでございまして、むしろ日本のほうが悲しい中毒を出しました関係上、現在では一番進歩していると考えております。
 人間のからだの中に取り入れている水銀、これを五年前に私どもが東京都監察医務院で、急に原因不明で死んだ人たちの解剖をしました臓器を分析いたしました結果では、もちろんじん臓に一番多く、肝臓にその次という順序はありますが、若い人に少なく、年を取った人に多いというような傾向はありませんでした。つまり米のめしを長く食べているから多くたまっているというような、その段階にはいまはございませんで、毎日取り入れた量は、水銀はあるレベルになると、尿から出ていくものとバランスしまして、それ以上にはならないでとまっている、そういう状況であると思います。したがいまして、差し迫った危険があるかと問われれば、決してそれほどではない、つまり水俣病を起こすような量から比べますと、質的には違いますが、水銀の量としてもまだ五十倍、百倍の安全圏はあると思います。
 それでは、そうやってほっておいていいかと申しますと、いま言ったように、水銀の使用量というものは切りなく年々増加しておりまして、もしもこれが危険な状態になりましたときに手を打とうと思いましても、日本の畑とたんぼのどろはすべて水銀に濃厚に汚染されていてどうにもならないという状況になるのだと思います。
 日本の科学技術の一番欠点と思いますことは、ことに衛生のほうから見ますと、人が大量に死なないと対策が出ないということでございます。そうではなくて、いまの放射能というものの対策をごらんになりますと非常に厳重でございますが、いま原子爆弾のちりによって汚染された野菜をおそれるというこわさとこの問題とがどれだけ違うかというと、あまり大差はないと私は考えます。ただ放射能というのは新しく発見されました科学分野でありまして、予防措置を早くから国際的に高い水準ではかっておりますので、日本もそれにならっているにすぎません。もし同じ概念をこの農薬の問題に当てはめれば、やはりそれはおそるべき汚染であると申さなくちゃいけないと思います。
 それでは、水銀をなくしたら農作物は困るかと申しますと、これは農林省の、あるいは農業専門家の範囲でございますけれども、私が経験した範囲では、水銀がいけないいけないということを唱えてこの四、五年のうちに、代用薬というものが非常な進歩をいたしまして、日本独特の抗生物質、ストレプトマイセスからつくりました二種の抗生物質も、あるいはペンタクロロフェノールの誘導体であります合成物質も、いずれも水銀とあまり変わらない効果を見せているように思います。つまり日本の技術は、ある課題を与えればそれにうちかつだけにもうなっていると思うのであります。ですから方針さえきめてくだされば、この問題は早急に解決するのではないか。ただ問題は、代用薬のほうが水銀より値段が高いではないかということだけでございまして、価格のような問題は、行政の力で何とでもできることであろうと思います。多量生産をいたせば安くなるのでありますけれども、片方に安い水銀というものがあります限り、新しく考案されたものの値段はなかなか下げるわけにいかないような状態だと思います。ですから、私自身は、水銀をよすことは、もう農業技術上も可能なのだ、また、よしてもらうことが国際的に私どもが学会に出ても非難されないで済むということ、それを申しますより、日本国民の将来の健康に対してこの辺でよすべきであろうと考える次第でございます。
 第一回はこれで終わらしていただきます。
○原委員長 ありがとうございました。
 ここで国立衛生試験所食品第一室長田辺弘也君より説明を聴取いたします。田辺第一室長。
○田辺説明員 ただいま御紹介いただきました国立衛生試験所の食品部第一室長をやっております田辺でございます。
 私どものところでは、主として食品につきまして、その中の、多くの場合きわめて微量でございますが、有害性物質の試験、検査、それとそのために必要な分析法の検討、こういうことをやっております。
 食品といたしましては、米をはじめいろいろな農産物、水産物あるいは畜産物、ありとあらゆるものが試験の検体としてまいり、また、研究の対象になっております。有害性物質といたしましては、きょうのテーマでございます水銀はもちろん、そのほかのいろいろな有害性金属、そういうものを含んだ農薬、そのほかDDTとかBHCのような塩素剤、それからパラチオンのような燐剤も含みます。主として農薬がこのごろ一番多いわけでございますが、そういうことをやっております。特に最近、先ほど上田先生からもお話がございましたが、阿賀野川の事件、それから粉粒農薬に関します一斉調査もございまして、水銀の試験、検査、それの分析法の検討というものは、私どもの研究室におきまして非常に大きな比重を占めているものでございます。
 きょうの生物資源に対する影響でございますが、いま申し上げましたように、私ケミストでございますので、影響といいましても、もちろん生理学的、病理学的あるいは薬理学的影響でございませんで、広く解釈しまして、蓄積ということに関連しまして、その分析法をごく簡単に申し上げたいと思います。
 その一部は、先ほどすでに上田先生がお話しされたとおりでございます。私どもが特に重要と考えてやっております研究は、その微量の水銀、もちろんこれはトータル水銀としての水銀、並びに先ほどお話がありましたように、その化合物の水銀がフェニルであるかあるいはアルキルであるか、そういう問題、それと同時に、一番問題になっております米の中の水銀の形、これも先ほど上田先生のお話がございましたが、そういう方面の検討も始めております。特に後者につきましては、厚生省でもっていろいろな取り締まりをする上にも非常に大きなファクターになることでございまして、すでにこの点につきましては農林省の農業技術研究所におきまして研究発表があるのでございますが、その内容は必ずしも私どもを十分納得させるには足りないものでございまして、私どもは私どもなりの仮説を立てまして、その線に沿っていま着々と準備を進めております。
 あとで申し上げますが、いま上田先生からもお話がございましたが、ここ数カ月、特に阿賀野川の事件に関連しまして、有機関係の水銀化合物の分析法が長足の進歩を遂げておりますので、アイソトープのような技術とあわせ検討いたしますれば、その米の中の水銀がどういう形をしているかということを突きとめることは必ずしも至難のわざではないのではないかという気がいたしております。
 それから話が逆になりましたが、トータル水銀並びに簡単なメチル水銀とかフェニル水銀、そういうものの分析感度の向上、そういった検討もいたしております。トータル水銀につきましては、各国ですでにオーソライズされておりますジチゾン法というのがございます。これはすでに数年来微に入り細にわたって検討いたしまして、相当改良を加えたわけでございますが、さらにこれはすぐ後ほど、ここにいらっしゃいます浮田先生からもお話があるかと存じますが、浮田先生が開発されました放射化分析によりましても、米の中の水銀がジチゾンと分析値が合うかどうか。ジチゾンというのは非常に複雑な方法でございまして、一つの検体を一人がやるのに一週間――一人で三つくらいは並行してやれるのでございますが、非常に時間を食うわけでございます。今回の一斉調査のように多量に試料がまいりますと、とてもジチゾンではやり切れません。放射化分析でやりますと、一定の期間、二週間なりそういう期間はかかりますが、大量の試料をその期間中にこなしてしまうことができる、こういう特徴がございますので、そちらのほうの検討もやっております。そのほか、原子吸光分光分析あるいは強力なエックス線を使います螢光エックス線分光分析、そういうふうなことを検討いたしまして、それぞれかなりの成果をおさめて、これからの研究に役立たせるべくつとめておるわけでございます。
 それから特に阿賀野川で問題になっております、先ほど上田先生からもお話のございましたメチル水銀につきましては、いままでにそれなりの委員会で発表されましたものを追試いたし、それに私どものくふうを加えまして、さらにガスクロマトとか、そういう機器の進歩とともに、現在では十億分の一グラム程度のメチル水銀も検出されるようになっております。
 大体、私どもがやっております研究範囲のお話は以上でございますが、私どもの国立衛生試験所におきましては、さらに毒性部、薬理部というのがございまして、そこでフェニル酢酸水銀、エチルマーキュリッククロリド、それに酢酸水銀、この三つをただいま動物実験をやっておりまして、三カ月の亜急性毒性試験が終わりまして、いま、二年を予定しております慢性毒性にかかっているということでございます。私、ケミストでございますので、そちらのほうを詳しく申し上げる知識は全然持ち合わせませんが、簡単に御紹介だけ申し上げておきたいと思います。
 簡単でございますが、以上でございます。
○原委員長 御苦労さまでした。
 次に、浮田参考人にお願いいたします。
○浮田参考人 私、ただいま御紹介をいただきました東京大学薬学部の浮田でございます。私はただいま薬学部の衛生化学、裁判化学教室を担当いたしております。
 いまから約五年ほど前に、東京大学附属病院の沖中内科からあるサンプルがまいりまして、診断の用に供するのでこれについて分析をやってくれという依頼がございました。これが、ただいま上田教授の御説明にありました水銀の中毒というものの一つでございまして、それがきっかけになりまして水銀の中毒に関する研究を始めることになりました。
 ただいま上田教授のお話にもありましたように、農薬に使われる水銀あるいは薬剤に使われる水銀、いろいろな種類の有機水銀が使われるわけでございますが、大別してこれを三つに分けることができると存じます。
 すなわち、まず一番初めは、昔から消毒剤によく使われております無機水銀である昇汞のようなもの、それから二番目には、ただいまお話のありましたような、非常に危険な中毒を起こすところのアルキル水銀という名前で呼ばれているもの、第三番目は、本日の委員会で最も問題の対象になりますところの、特に米のいもち病を防除する農薬として使われておりますところのフェニル酢酸水銀というものでございます。
 これらのものがからだの中に入りますと、どういうことになるかということでございますが、われわれの得ました経験で、あるものはあるところにたまり、あるいはあるものは特定の臓器の中にたまりますけれども、一般に人体というものは、そういう有害なものが入ってまいりますと、それを何とかして体外に出そうという傾向がございます。その出口はどこかと申しますと、一つは尿、それから一つは大便でございます。それからもう一つは汗にも出てまいります。それから、あまり気づきませんけれども、そういうものが出るところとして髪の毛というものがございます。髪の毛は毎日どんどん伸びているわけでございますが、そこにからだの中で要らないものがやはり排せつされております。尿やふんや汗は、出ますとなかなかこれをとるのにむずかしゅうございますけれども、髪の毛は、一定の時間たちましても、切りさえしなければ頭にくっついているわけでございますから、これにたまっているものをはかることができます。その髪の毛の中の有害物質、特に重金属を測定するということが、非常にそういう場合の状況判断に役に立つものであるということが、かねて裁判化学の分野で砒素の中毒のときに知られておりました。そこで私は、これから私たちの研究室でこの五年間やってまいりましたこれに関する仕事のスライドをお見せいたしまして、順を追って御説明したいと思います。
  〔スライド映写により説明〕
 一番初めのスライドは、一九六一年でございますから、いまから約五年ほど前に、ただいま申しましたように、沖中内科から参りました患者が非常に重厚な脳症状を起こしておりまして、これの診断に供しますために、尿、血液、毛髪、この三つの重金属を定量いたしましたところが、ここにごらんになりますように、尿にはあまりない。これはPPMで、マイクログラム水銀であらわしてございますが、尿にはあまりない。血液には、この患者が十七歳の男でございますから、健康な十七歳の男の対照をとりますと、健康人の約三倍くらい入っております。ところが毛髪をごらんになりますと、非常にたくさんの水銀が入っているということがわかりました。これは一九六一年の十二月十九日から始まりまして、一九六三年、二年後の四月二十日まで沖中内科の担当医の懸命なる努力によりまして、からだの中の水銀を追い出すということをやられまして、時間を追って定量いたしますと、だんだん下がってまいります。しかしながら、からだの中の水銀量は下がりましたけれども、おかされた脳の細胞は完全にはもとへ戻りませんで、大体この患者はVIIというくらいの時日に整肢療護園に送りこまれたわけでございます。
 そういう例はもう一例あります。三十一歳の男の人、これも全く同じことで、これの原因となりましたのはメチルメルクリチオアセトアミド、こういう薬剤がある会社で発売されておりました水虫の薬に主剤として〇・二五%含まれているのですが、この患者は非常に重厚な水虫にかかりまして、入院する前に二カ月にわたってこの薬六百CCを非常に面積の多い水虫の患部に連続塗付したということが原因であったわけであります。
 こういう経験がございまして、それで分析をいたしましたときに、私非常にふしぎに思いましたことは、健康人の髪の毛の中にもある一定量の水銀が含まれているということでございます。健康人のからだの中にどうして水銀が入るだろうかと考えてみますと、外から入るところは呼吸、つまり呼気が一つございます。それから食べものが一つございます。それで、これはどうしても食べものとか空中から水銀がからだの中に侵入したのである。これは健康人でございますから、おそらく世界じゅうどこでも非常に微量な水銀がございまして、食べものあるいは空気中から入ってきて、髪の毛に蓄積されているのであろうと初めは軽く考えておりました。しかし、この数字を見ますと大体六PPMくらいありますので、これは少し多いんじゃないかと思いまして、次の実験に取りかかりました。
 そこで、私は日本と外国とではどういう事情の違いがあるだろうかと思いまして、――その前に、われわれの付近の健康人、東京に住んでおられる方の髪の毛をできるだけたくさん集めまして、そうして分析をいたしました。それが次のスライドでお目にかけられると思いますが、その場合に、大体七十何名の老若男女を含めまして東京周辺の人たちの、いまこれは四十名になっておりますが、髪の毛を分析いたしました。これは性別でございます。これは年齢でございます。それからこれがその中に含まれている水銀の量でございますが、少ない人は一・六三PPM、多い人は一六・二〇PPM、こういう値が出ております。ここまでは男の方で、ここから下は女の方でございます。女の方の例数は少ない。三十四番というのは、これはわれわれの教室で水銀の実験をやっている男、つまり大学院の学生の髪の毛でございます。これでわかりますように、水銀を取り扱っている人は頭の髪の毛の水銀量は多い。しかし、そういうものを全然取り扱っていない人でも、東京周辺の方はこういうデビエーションを持って平均値は六・五〇PPMあるということがわかります。これは特に東京都内が多いのでございましたが、それでは東京以外のところはどうであるかということで、神奈川県、千葉県、茨城県、鳥取県、非常に協力してくださいましたところの県は例数が多いわけでございますが、サンプリングをいたしましてやりましたところが、やはり大体デビエーションは同じようでございますが、五から一〇のところに平均値があるような値が出てまいります。それで、この人は、星印が多いのですが、これはあとから調べましたところが醸造業者でございまして、醸造のための菌糸の株を取り扱っている職業の方で、毎日昇汞の水で手を洗って消毒しているという方であったということがわかりました。この方は非常に多い、二二PPM入っている。それでこの神奈川、千葉、茨城、鳥取を平均いたしますと五・四七PPMで、全日本のいままでのデータを集積いたして平均をとりますと、六・〇二PPMという水銀が、平均日本人の髪の毛の中に入っていることがわかりました。
 そこで今度は外国との対比になるわけでありますが、日本人であるからであるか、人種の差別であるかということで、外国へ留学しております若い学者の方で、向こうで一年半以上住んでいる方に手紙を書きまして、こういうことなんで髪の毛を送ってくださいということでお願いをいたしましたところが、――一年半と申しますのは、大体髪の毛が一カ月に一センチ伸びるといたしまして、一年半だとそのくらいの期間の後をとれば、その方が日本を出発する以前の影響はないのではなかろうかということで、一年半ないしは二年住んでいる人にお願いいたしましたところが、非常に協力的に、そのまわりの在アメリカの中国人、インド人、ギリシア人、いろいろな方の髪の毛を送ってまいりました。これを分析いたしましたところが、こういうふうに全部五PPM以下であるということがわかりました。これが北アメリカ、これが南アメリカ、それからこの二つはボリビア、これは日本人の留学生でありますが、ボリビアに留学していたおとうさんと坊や。それからこれはヨーロッパでございますが、ここまで出たわけであります。その次に、ちょうど一昨年のオリンピックという非常に絶好のチャンスがまいりましたので、オリンピック村の理髪所に参りまして、そうして状袋を渡しまして、国籍と年齢を書いて髪の毛のサンプリングをお願いいたしました。ドイツ、フィンランド、ユーゴスラビア、スイス、スペイン、イギリス、アフリカ、ニュージーランド、ウルグァイ、ブラジルに至るまで、いろいろな国のが集まりました。ごらんのとおり、全部非常に少ないということがわかりまして、調べました限りにおいては、外国の平均は一・八九という非常に小さい値を示したのでございます。
 そこで、これは住居地区による水銀の汚染の差異というものがどうやらあるらしいということがわかってまいりましたので、それならば日本人でアメリカに住んで留学していた人が帰ってきてから日本に住みついたらどういうことになるかということを調べてみたのが次の――ここにも入っておりますが、これは先ほど田辺さんから放射化分析の問題が出ましたが、いままでお見せしましたスライドの水銀の分析はジチゾン法でやっております。そこで、ジチゾン法は非常にオーソライズされたいい方法でございますけれども、時間がかかる。それから非常に微量の水銀があるときに、そのデータが、ほんとうにそれだけの水銀が入っているかということが誤差のファクターが多いものでございますから、放射化分析を採用いたしまして、これと合うかということを調べましたら、大体合うわけです。放射化分析のほうがむしろ高く出るということがわかってまいりました。この表はそのための表であります。そこで髪の毛の中の水銀量が非常に少ない髪に、ジチゾン法では不安であるというので、これはやはりオリンピックの外国人の選手でございますが、やってみますと、これまた非常に少ないということが出てまいりました。それから留学生が帰国する前にはかったものと帰国後にはかったものを比べますと、帰国後にふえている。アメリカに行っていた人が一・八であったのが一四になるし、それから二。八六が一五になる。四が六になる。ここらはあまり違わない。
 そこで、次にこれをグラフにしてお目にかけますと、三十歳、四十歳、三十六歳の三人の方が帰ってこられたときの時間をゼロとして、六カ月、一年、二年、それから二年半と見てまいりますと、経時的に髪の毛をサンプリングしましてやりますと、だんだん日本人らしくなってくるということがこれでおわかりになると思います。こっちの例は四人の人ですが、それになり方が早い。これはおそらく体質の違う関係でございましょうが、いずれにいたしましても、日本に帰ってきて、日本に住みついて、日本の空気を吸って、日本のものを食べれば、一年半ないしは二年目には日本人と同じ髪の中の水銀量になるということが明らかになったわけでございます。それを集計いたしましたのがこれでございますが、結局こちらに東京周辺のデビエーション、神奈川、千葉、茨城ととりまして、ここに平均値を出しまして、それから北アメリカ、アメリカ、ヨーロッパその他をここに平均値を出しまして、これは留学生が帰ってきてから一年、二年目までの毛髪中の水銀量のコンテントのバラつきをとってまいりますと、だんだんこっちの平均からこっちの平均に近づいていくということがわかったわけでございます。
 そういうことで、冒頭に申しましたように、この結果から非常に高い可能性をもって推察できることは、日本の中で住む限りにおいては、外国と比べて人体が水銀に汚染される率は非常に高い、そういうことが言えます。ということはどういうことかと申しますと、日本の国内に水銀の汚染源が非常に濃厚にあるということでございまして、先ほどの上田教授のお話に、現在はフェニル酢酸水銀を水銀として毎年約四百トンまいている。水銀というものは、紫外線が当たったからといって、暴風雨が来たからといって、なくなるものではございません。元素でございますから……。それが土の中にだんだん蓄積していくという状態は継続されているものであると考えてしかるべきかと思います。そうすると、この日本人の髪の毛の中の水銀量は、これからもなおこのままであればどんどんふえていくだろう。しかしながら、先ほど上田教授も申されましたように、だからいま非常に危険かというとそういうことでもございません。
 冒頭に申しました水銀剤を分けますと、昇汞、無機型の水銀、これはエチル、メチル水銀、これはいわゆるアルキル水銀、これもアルキル水銀、これが問題のフェニル水銀、つまりいもち病に使うものでございますが、そういう型のものでございます。これをラットに皮下注射いたすわけでございます。そうして時間的に、実線はふんに出てきたもの、それから点線は尿に出てきたものの出方、それを調べてみますと、脳症状を起こすような非常に激しい中毒を起こすアルキル水銀というものは非常に出方がスローでございます。ところが無機水銀とかフェニル酢酸水銀型のものは、投与いたしまして比較的早く出るわけです。これがふん、これが尿でございます。こういうふうな特徴がございますから、アルキル水銀とフェニル水銀というものは、その毒性のあらわれ方というものがいささか違いまして、アルキル水銀のほうがよほどあぶないということが申せます。しかしフェニル水銀はあぶなくはないけれども、どうやら日本人の髪の毛の中の水銀の多いのは、このフェニル水銀らしいということも申せるわけでございます。
 私たちの研究は、いまこういうところにまいっておるわけでございますが、何かきょうの委員会の御参考になれば幸いだと存じております。どうもありがとうございました。
○原委員長 ありがとうございました。
 次に、白木参考人にお願いいたします。
○白木参考人 私、ただいま御紹介にあずかりました白木でございます。
 私の専門というのは、いま東大の脳の研究所におりまして、神経病理学が専門でございます。これはいろいろな精神病だとかあるいは神経病でなくなられた方を解剖しまして、その脳の変化がどういうふうになっているか、それがどうしてそういうようなことになるのか、あるいは患者の示しますいろいろな症状と脳の病変とはどういう関係にあるかというようなことをやっておりますものでございます。
 先ほどから上田先生あるいは浮田先生からいろいろなお話がございましたように、有機水銀というものが脳を非常に強くおかすということでございますけれども、結局この問題が一番大きな脚光を浴びましたのは、皆さま御承知のように水俣病だと思います。私も、かなりあとでございますが、その研究班の中に加わりまして、実際水俣病でなくなられた方の脳にどのような変化があるかというようなことを研究いたしました。
 御承知の方も多いと思うのでございますが、水俣病というのは、どういうような由来でそのようなことになったか、また、その脳の変化がどういうふうなものであるかというようなことをお話し申し上げ、それと同時に、水俣病だけでございませんで、先ほど浮田先生のお話がございましたように、水虫の治療薬がやはり有機水銀を含んでおりまして、それを長く使っておりましたために死亡する、そういう患者の脳を見る機会もございました。あるいはまた、水俣病が有機水銀であるというヒントは、これは実はイギリスのある有機水銀の農薬をつくっております工場の工員が、そのような水俣病的な症状を出しまして、十五年たってから死亡しましたケース、このケースが一例報告になっておりまして、これが水俣病と申しますか、有機水銀中毒の脳の変化というものを知る唯一のきっかけになったものでございます。そういうような症例も、私、イギリスの人からスライドを取り寄せましたり、また、私がロンドンに行きましたときに、いろいろお会いしてお話を伺ったりしておりますものですので、そのようなものをまじえてお話し申し上げたいと思います。
  〔スライド映写により説明〕
 水俣病は、御承知のように、いまとなれば非常にはっきりしていることでございますが、日窒水俣工場からの汚水の中に含まれております有機水銀というもの、それが水俣湾に流れ出まして、そして魚であるとかあるいは貝類を汚染しまして、それを食べた漁民あるいはまたその家族、そういう者に起こりましたものでございます。熊本大学の医学部がその水銀量をはかっております。この四角は海底のどろ、マルは貝の中に含まれております水銀量でございます。先ほどから問題になっておりましたジチゾン法によってはかりましたものでございますが、それであれしますと、この排水溝口付近に圧倒的に多い。そしてだんだん遠くに行くに従いまして少なくなっているということを示しております。
 患者は、一九五三年から五八年にかけまして、大体この水俣湾の沿岸の漁民の中からたくさん発生しております。こういうところにぽつぽつとございますのは、これは漁民ではございませんけれども、非常に釣りが好きで、こういうところへ行きまして魚を釣って、その釣った魚を食べたというような市民から発生しているものでございまして、その原因が全く水銀に汚染されました魚にあるということは、まず問題ないわけです。工場側は一九五七年にこの排水溝口を水俣湾側の河口付近に変更しておりますが、そうしますと一九五九年、二年たちましてこの辺の漁民からまた新しい患者が発生しているわけでございます。
 その原因が工場と関係があるという証拠といたしまして、このように工場が塩化ビニールとアセトアルデヒドの大量生産を一九五二年ころから始めておりますが、それと並行しまして患者の数がどんどんふえているわけでございます。ややずれておりますが……。そして、一九五六年には四十三人の患者が発生しているわけでございます。ここで驚いて禁漁したわけでございますが、しかし結局、その当時はまだ漁民に対する補償というものが十分行なわれませんでしたために、漁師のほうはとても食べていけないわけでございます。したがって、禁漁の命令をおかしまして、また出漁しております。そのためにまたここで十四人という患者が発生しているわけでございます。
 ここで初めて工場は排水浄化装置を設置いたしまして、そのあとは患者数は激減しているということでございますが、私はこういうものを研究しておりまして感じますことは、当然工場法によってそのような排水浄化装置をつけなければいけないという規定が私はあるのではないかと思いますが、それにもかかわらずそれをやらない。そして患者がずいぶん発生してから初めてとのような装置をつけておることにつきましては、いささか問題があるというふうに考えるわけでございます。
 ともかく、一九五三年から六一年までに八十九名、死亡三十六例、したがいまして、その死亡率は四〇%という驚くべき死亡率でございます。そして生き残っております患者さんも、私も最近は見ておりませんけれども、非常にひどい状態でありまして、ほとんど人間らしさを失っている、いわゆる植物的な存在というような患者さんも決して少なくはないのでございます。
 その工場の排水の中で、問題になります水銀がどこに含まれているかと申しますと、この塩化ビニール、それからアルデヒド酢酸工場、その排水の中の問題でございますが、工場側といたしましては、この生産過程におきまして、触媒といたしまして昇汞あるいはHgSO4というような無機の水銀を使っていたわけでございます。しかしながら、患者の症状並びにその解剖しました所見というものは、決して無機の水銀によって起こるものではなく、有機水銀によって起こるということでありまして、そのために工場側としては、これは無機の水銀を流しているのだから、それは関係ないというような話が最初のうちはあったわけでございます。したがいまして、こういう無機の水銀が結局海に流れ込みまして、何か海水の中で有機化するのではないか、つまりプランクトンだとか魚のからだの中、あるいは貝の中で有機化するのではないかというようなことを最初は考えていたわけでございます。しかしながら、その後汚水の中からじかにとって調べてみますと、実にここにメチル塩化水銀がはっきり証明されたわけでございまして、それは結局いろいろな生産工程の過程においてこういうような化学反応をとりまして、これは触媒でございますが、そして結局は昇汞、HgSO4からこのようなメチル塩化水銀ができ上がるということが証明されたわけでございます。したがって、その原因がメチル水銀、アルキル水銀であるということは決定したわけでございます。
 ただ、汚水の中の化学構造物と、それからこれは熊本大学の生化学の内田教授が海底におります責からじかにとって調べたその毒物は、メチルメチルマーキュリックサルファイド、つまりメチル基が一つ多い。そしてこれが塩素ではなくてサルファであるというだけの違いがございます。しかし、先ほどから上田教授あるいは浮田教授からもお話がございますように、問題なのはこういうところではなくて、それがメチルであろうとエチルであろうと、要するにアルキル水銀であるというところに問題点があるという点に焦点をしぼりますならば、これくらいの化学構造の違いは、それほど私は問題にならないというふうに思うわけでございまして、やはりその原因は明らかに工場の排水の中にある有機水銀であるということを断定してはばからないと思います。
 これは解剖例でございます。水俣病でなくなられた方を十八人解剖しております。三十六人の死亡の中で十八例の解剖というのはまことにたいへんなことであったと思います。熊本大学は実によくやったと思いますが、この問題に関連しまして私考えますことは、三井三池の炭鉱爆発の場合には四百何人の死亡者がありながら、一例の解剖も行なわれていない。そういう事実は一体どういうことであろうかということが実は考えさせられるのでございます。もちろん、炭鉱爆発の場合には非常に急激な一酸化炭素中毒が起こりまして、非常に大量な人が死ぬのでございますので、水俣病の場合と少し状況は違うと思います。しかし、もしあの三井三池の爆発のときに一例でも数例でも解剖が行なわれていたとしましたならば、その脳の変化はこうだ、そしてそれは明らかに一酸化炭素によって起こったものであるということが、はっきり私は証明できたと思います。そのようなことが行なわれなかった事情は一体どういうことであったのだろうかということを非常に残念に思うわけでございます。これはおそらくお医者さんのほうも悪かったと思うし、あるいはまた、組合の問題になるかと思いますし、あるいは工場側もさわらぬ神にたたりなしというふうな気分もあったのじゃないかと私は思うのですが、科学の立場としては実に残念なことだと思っております。それにいたしましても、大学はよくこれだけの解剖をされたと思います。
 何といっても、幾ら生前にいろいろな議論をいたしましても、やはり解剖して、その最終の結果を見るということがいかに大事であるかということを私はいつも思うのでございまして、ドイツあたりですと、ある州によっては法律的に、なくなられた方は必ず解剖するという習慣がございますが、日本にはまだそういうものができておりません。こういった点も、いまここでそういうことを言うのはどうかと思いますけれども、科学の立場としてはそのようなことがぜひ行なわれるように、われわれも努力いたしますけれども、やはり政府の方もできるだけそういうような習慣をつくるという方向にひとつ進めていただきたいものだと思います。
 その中の水銀量がはかってございますが、これは対照を十五例とってございます。これは肝臓、じん臓、これは脳でございます。千四百六十七日も生きておられたケースでも、なおかつ、脳の水銀、あるいはほかの臓器の水銀というものは、明らかに対照に比べまして高い値を示している。つまり、一たん入った有機水銀というものは簡単に外には出ていかないのだということを明瞭に示していると思います。もちろん、十九日だとか二十六日というようなケースですと、水銀量が非常に高いというのは問題ないわけでございまして、たいへんな高い値を示しているということが、おわかりいただけると思います。
 そこで、これが水俣病の、先ほどのメチルマーキュリックサルファイドでございますが、これが先ほど浮田先生が言っておられましたいわゆる水虫の軟こうの中に含まれております有機水銀、それからこれが先ほど私がちょっと触れましたイギリスの、いわゆる農薬の粉末を吸入してやったわけでございますが、そのあれでございます。みなメチルアーキュリックとか、あるいはメチルメチルマーキュリックとか、こちらのほうはあまり問題にならない、ここが問題だということを示しております。熊本の方々はいろいろなそういうアルキル水銀、有機水銀を使いまして動物実験をやっておりますが、その症状とかあるいは脳の変化というものは、いずれも水俣病ないしはこういうものと全く同じような変化を示しておる。ですからやはり、アルキル水銀が問題であるということであります。
 そこで、これがイギリスの例でございますが、これは二十二歳の工員でございますが、農薬、つまり有機水銀をつくっております工場に働いております工員で、これがちゃんと防毒マスクをしてやればいいのに、めんどうくさいので少しマスクをはずしたり何かしておったのであります。四カ月ほど働いておりますうちに、だんだん視野が狭くなってきた。普通ですと、これが全部見えなければいけないのですが、まん中の白い部分だけ見えまして、この周辺のほうは全く見えなくなってしまう。つまり視野が非常に狭くなってくるわけです。そうして、ちょうど細い管を通して、ヨシのずいから天井をのぞいたというような、そういう視野になっております。
 それから、いろいろな症状がございますが、一つは非常にからだの平衡が保てなくなってきます。手がふるえる、からだがよろけてしまうというような、いわゆる小脳がやられます症状を呈してまいります。したがって、その人の書いた字を見ますと、これが病気になる前の字でございますが、病気になってからは、手が非常にふるえてうまく手が、共同運動と申しますか、それがうまくいきませんために、非常に字にならない。これは十五年間ずっと見ております。そして十五年後に死んだわけでございますが、十年たちましても完全にもとに戻っておらない。つまり脳というものは、傷を受けましたとき、それはもうあとには戻り得ないような傷を受けておるということを、これは明瞭に示しているわけでございます。
 これが水俣病患者の字でございまして、やはりたいへん字がふるえておるし、まっすぐ書けなくて、少し横のほうにずれていくというようなことで、こういうのは小脳がやられている証拠でございます。
 それをちょっとお目にかけたいと思いますが、これは脳をちょうど縦切りにした模型図でございまして、どこがやられているかといいますと、これがいまの小脳でございます。この部分がやられますと、まっすぐ歩けない。よろよろしてしまう。手がふるえる。字がああいうふうになってしまうわけでございます。この傷でございます。そのほかに、こういう部分、これは後頭葉、うしろのほうでございまして、これは視覚の最高中枢、つまり光が目に入りましてそれがずっと神経を伝わって、最後に後頭葉のこの部分に行って、初めてわれわれはものが見えるという、そういう感覚をあれするわけでございますが、この部分がやられます。それから、これは手足を動かす――私がこうやってさしておりますのは、さそうと思うから動いているわけであります。その運動の中枢がやられます。こっちが感覚の中枢でございます。つまり、痛いとか、かゆいとか、冷たいとか、そういうような感覚を受け取る細胞の中枢です。すべて末梢の神経あるいは脊髄というものがやられるのでなくて、水俣病はまさに大脳の一番最高の中枢、そこがやられるということを、この模型図は示しているわけでございます。
 そこで、実物をちょっとお目にかけます。いまの小脳でございますが、普通ですと、こういう黒いのが全部ずっとあるわけですが、このまわりの部分だけは残っております。この深いところにいきますと、こういうところの神経細胞が全部落ちてしまって、なくなっております。したがって、手がふるえて字が書けないとか、あるいはまっすぐ歩けないとか、そういうことが起こってくるわけであります。
 ここは学生の講義ではないのでありますけれども、少し大きくしますと、ここにプルキンエ細胞――大型の神経細胞は比較的残っている。ここはほんとうはまっ黒けに神経細胞がなければならない。これがすっかりなくなっている。おそらくここに有機水銀がたくさんだまって、そして神経がなくなってしまったものだというふうに考えられます。これはノルマルといいますか、有機水銀がない、何でもない人の小脳でございます。この小型の神経細胞がすっかりなくなっておるわけであります。
 水俣病は、人間だけでございません。ネコにも起こっております。ネコは、汚染した魚を食べて、そのためにやはり体がふらついたり何かして、あるいは目が見えなくなったりして、そして死んでいるわけですが、やっぱり小脳ですね。表面のほうは比較的いいのですが、この辺はみな神経細胞が落ちてしまっております。
 ネコにも水俣病が発生した。それから、カラス、水鳥、そういうものも、やはり汚染された魚を食べて、そのために飛べなくなって、のたうち回るというような状況で、小脳を見ますと、これは非常にデリケートな変化でございますが、こことこの辺を比べますと、明らかにこっちが濃くて、これが薄いのでございます。これを大きく拡大いたしますと、明らかにこの小型の神経細胞が減ってしまっております。そういうことで、カラスにも水鳥にも起こっている。もちろん魚の小脳もやられている。ですから、水俣病というのは、魚から人間まで全部侵している。非常に雄大なスケールの中毒であるということもいえるわけであります。
 それから、先ほどイギリスの例が非常に視野が狭くなるということを申しましたが、やはりこの水俣病も同じことでございまして、これが視野でございますが、結局この中心部の白いところだけが見えて、あとは全部見えなくなってしまう。ですから、うしろから自動車が来ましても、この辺まで来なければわからない。われわれでしたら、かなりうしろのほうがわかるわけでございますが、それがわからないというような、非常に危険な状態でございます。しかし、その場合には、眼球だとか途中の神経はやられませんで、ここに来まして、先ほどの後頭葉、つまり視覚の最高中枢のこの部分がやられます。しかも、前のほうがひどくて、そうしてうしろのほうにいくと軽いのです。ということは、この中心視野をつかさどっている中枢はこのうしろのほうにございます。末梢のほうは前のほうにあります。前の中枢が強くやられますから、したがって、視野は周辺からずっと同心円性に見えなくなってまいるということでございます。
 これを実物でお目にかけます。ここの部分ですね、これをこういうふうに輪切りにしましたところを出します。
 これは後頭葉。いま輪切りにした、こっちが前でこれがずっとうしろのほうになります。そうすると、視覚の最高中枢はここでございます。ここでごらんになっても明らかなように、こちらのほうはやられていないのです。ここに神経細胞がたくさんございますが、これがこの視覚の最高中枢になりますとひどくやられているわけです。それで縮まって非常に小さくなってしまっているということがおわかりになると思います。前の方が非常にひどくてうしろにいくとやや軽くなっている。これはまことにふしぎなことであります。水銀というのはおそらく血液に乗りまして、脳の中に全部に回っているに違いない。そうして大体同じような量であちこちにみんなばらまかれているに違いない。しかし水俣病あるいは水銀中槽に限りまして、この視覚の最高中枢だけがぴしゃっとやられておるということを示しているわけです。水俣病というのは非常に不幸な病気でございますけれども、しかしわれわれの神経、脳に関しますいろんなものを考える者にとりましては非常に参考になるわけです。小脳の皮質とか、それからこういう後頭葉皮質だけがどうしてやられるのか、おそらく、水銀というのは量的には同じようにばらまかれているに違いないとしますと、後頭葉だとか、小脳だとか、あるいは手足を動かすそういう中枢だとか、そういうところはおそらく生化学的には同じものに違いない。そこに水銀が行って水銀とこういう場所の特殊な化学性とのからみ合いにおいて、そういうものは非常に強くやられておるというふうに私には思えるわけでありまして、これは水俣病と離れまして、脳の持つ生化学、生理学、解剖学、そういうものに非常に貢献するということになるわけであります。われわれは、そういう犠牲者のあれを生かすためには、そのような方向にこれから研究を進めていかなければならないという気がいたすわけでございます。
 いまの後頭葉皮質を大きく拡大いたしますと、ここに普通は神経細胞があるはずですが、そういうものがなくなってしまって穴ぼこだらけになってしまう、そういう状態でございます。
 輪切りにして見ますと、こういうことでありまして、ここが聴覚、つまり耳が聞こえているというのは最後にここで感じているわけですが、そこがやられるわけです。したがって、こういう有機水銀の中毒の患者さんというのはたいてい耳が聞こえなくなります。これは鼓膜だとか、そういうところが悪いのじゃございません。電線が悪いのじゃなくて発電所がやられているわけです。したがって、そこではせっかく電気がここに来ましても、それを受けとめるあれがないわけです。したがって聞こえない、あるいは非常に耳の器械が悪くなるというのはそのためでございます。
 ところで、水俣病というのは、そう申しますと、からだの調子がとれないとか、手足が動きにくいとか、あるいは手がしびれるとか、あるいは目が見えなくなるとか、そういうような人間の、どちらかといいますと高等な脳の働きではない。つまりむしろ神経と申しますか――脳卒中の例で申しますと、脳の出血が起こる、あるいは軟化が起こる、そうすると手足が半分きかなくなる。これは精神現象じゃございませんで、手足が動かないとか感じがにぶいとかいう神経です。そうしますと、水俣病というのは神経病だというふうに御理解なさるかもしれませんが、私は、ある段階では確かに水俣病は神経病であるということは言えると思うのです。しかし、長く患者さんを見ておりますと、それは神経病だけではない、そこには精神病的なものも加わっているということをこれから申し上げられると思います。
 と申しますのは、水俣病の現在生存者をよく精神医学的に調査いたしますと、その大部分の方は知能が落ちている、あるいは性格が非常に変わっておるというような、いわゆる精神病的な症状を示しているわけです。それは一体どういうことかということをこれから考えなくてはならない。つまり長く追いかけておりますと、患者さんは神経病だけでなく精神病も示すということをこれから申し上げたいと思います。
  〔委員長退席、田中(武)委員長代理着席〕
と申しますのは、先ほど後頭葉の写真をお出しいたしました。そのときに視覚の最高中枢がひどくやられておる。しかし、ほかの部分は一見したところは何ともないように見えます。しかし顕微鏡でよく拡大して見ますと、一見無傷に見えますところの大脳も非常に強くやられていることがわかります。というのは、これが神経細胞でございます。ここにたくさんあります。これがみなやられておるのでございます。というのは、神経細胞がやられまして非常に縮まります。したがって、神経細胞のまわりにちょうど穴のようなものがあいているわけです。ということは、これをもう少し拡大しますともっとはっきりします。これがいわゆるやられた神経細胞です。そして非常に小さくなったために、この間にすき間ができてこれだけ穴があいている。これは、もう少しこの患者が生きておれば、おそらくこの神経細胞も消え去ってしまって、そうしてあとは何も神経細胞がないという状態になる。こういう状態は実は先ほど出しました大脳のほとんど全体にわたっていると申し上げていいと思います。つまり、水銀というのは確かに全脳にばらまかれておる。しかと、ある比較的早い時期には、非常に強くやられるところは、先ほど申し上げたような小脳だとか、ああいうような神経症状を起こすような場所が強く先にやられる。しかし、水銀は依然として脳の中に残っているわけですから、一年、二年とたつうちには脳全体をじわじわ侵していくということに考えざるを得ない。これはその証拠を示している。だから精神現象が起こってくるというふうに申し上げていいと思います。
 たとえば、このお子さんは四歳のお子さんでございますが、やはりお父さんの釣ってきました魚をたくさん食べまして千四百七十日、つまり四年近く生きておってなくなられた方でございます。その方は、全く自分からものを言うこともできません。そうしてまた、外からいろんな刺激を与えましても、音を与えましても、つっついても全然反応しない。そうして手足はこのようにかたく曲がってしまった。こういう状態で固定した、こんな状態のまま死んでおるわけであります。ということは、その大脳の変化というものは、おそらくもっともっと広範囲なものではないかということを考えさせます。ここがちょうど飛び出ておりますが、これは実は非常に強く筋肉が収縮したために脱臼が起こっているわけであります。外側に骨が飛び出ておるためにこのように見える。このような四年間も生きておった患者さんは、どういう変化を示したかというと、このようなひどいものでございます。全脳がぼろぼろになっております。これがそうです。ここに神経細胞のある皮質が中にある。ところがそこが穴ぼこだらけになっております。そうなりますと、もはや先ほどの神経病と全く違う。全脳に広がっておる。ここでは人間らしさというものは失ってしまって植物的な存在になってしまっているというふうに申し上げなければならぬ。しかも、先ほど一番先に表に出しましたように、この患者さんの脳の水銀量はやはり少ないですけれども、明らかに正常値よりも十倍近くのものが依然として証明されます。四年たっても水銀は決して脳から出ていっていないということ巻を明らかに示していると思います。ああやってみますと、水俣病でないように見えます。しかし小脳を見ますと、ここがやはりまっ黒に見えなければならないのですが、これがすっかりなくなっちゃっているわけです。やはりこれは明らかに水俣病でございます。ただ、その変化が非常に広範であるということに尽きると思います。
 最近、私、特別なケースを経験いたしました。これは先ほど浮田先生のお話でございまして、水虫がひどくて、そうしてメチール水銀チオアセトアマイドという有機水銀を含んでいる軟こうをからだにすりつけております。そうしますと、この患者さんは十九歳の男でございますが、水俣病的な症状を示しまして、そうして九カ月生きておってなくなられたのです。その水銀量はまだはかってございませんけれども、これは私は問題なく水俣病と同じようなものであると思います。水俣病は魚を食べて腸から水銀が吸収されて脳に行く。この患者さんは皮膚にすり込んで皮膚から吸収されて血液を通って脳に行く。ルートは違います。しかしその起こっておる変化は全く同じでございます。やはり小脳の表面のほうはあまりやられておりませんけれども、深部のほうはやはりひどくやられて落っこちております。それからこの脳が非常に全体としてひどく変化しておるわけであります。この辺がぐじゃぐじゃになっております。そうして大脳の表面をおおっておりますところも深部のこういうところもみなぐじゃぐじゃになってしまっております。
 一体、こういう強い変化はどうして起こったのだろうか、水銀だけではちょっと説明つかない。水銀だけでありますと、普通は白質と申しまして、これは神経細胞から出てきますいわば電線、それがみな集まっているところでございます。この場所はまっ黒に見えなければならないのに、ここのところがやられて白くなっております。こういったことはいままで私たちは経験しなかった。これはどうして起こったのかというふうに思って、いまの脳をもうちょっと大きくしてみたいと思うのですが、この神経細胞のあるところがすっかり空洞になってぼろぼろになっております。このぼろぼろになった原因が何だろうと思って注意して、今度は脳の血管を見てみます。脳というのは、この脳の表面に膜がかぶさっております。その膜の中に脳を養っております血管があるわけですね、その血管を示しております。ところがその血管は壁がひどく厚くなっておりまして、わずかに血液はこの中だけを流れております。普通はこれ一ぱい流れているはずなんです。ところがずっと細胞がふえまして、脳の血液の流れる場所がひどく狭くなっているということを示しております。つまり普通ですと、これだけの広さがあって、この中を血液が通って、そして脳の中に行って脳を養っているわけでございますが、それがずっとふえてまいりまして、わずかにここだけになっている。場所によりまして、これは全くふさがっている。血液が通いませんから、したがって脳はとろけてしまう。これが脳軟化でございます。お年を召すとこういうふうになるわけでございます。ところが、この患者さんは十九歳です。十九歳でこうななったということは、これはやはり十九歳の男にたまたま脳動脈硬化が起こったというものではないのでありまして、おそらくここにまだ水銀が九カ月たっても残っておりまして、これを絶えず刺激しますために、その刺激によってこういうものかずっとふえてきたというふうに考えられる。したがって、やはり水銀というのは、簡単に脳の中からもあるいは血管からも出ていかないものである。そして絶えず刺激している。そしてそれが長い年月の間にだんだんと強い変化をより強く起こしてくるということがあるのではないかというふうに思わざるを得ないのでございます。
 また、水俣病の話にもう一度戻りますが、水俣病は、ただ単に生まれてからの子供、おとなを侵すだけでないということがわかってきております。つまり水俣地区で生まれた子供さんの中に精神薄弱児あるいは脳性麻痺、手足が非常に突っぱってしまって動かない、先天的に精薄であり、あるいは手足がきかないという子供さんが多いということが熊本大学の精神科の教室によって追及されたわけです。これがその水俣地区で生まれましたお子さんの脳性麻痺、手足がこういうふうに曲がって動かないわけです。これ以上伸びない。もちろん非常な精薄でございます。自分の名前はもちろん言えませんし、それから自分からものを要求するということもできない、着物を着ることもできないというようなひどい精薄でございます。しかしながら、それがはたしてほんとうに水俣病と関係があるかどうか、つまりおかあさんの有機水銀というものは、血液を介して、胎盤を通って、そして妊娠時の胎児の脳に行ってそういう問題を起こすかどうかということはたいへんむずかしい問題であります。はたしてほんとうにそういうことがあるかどうかということが問題でございますけれども、しかし、やはりそういう胎児性の水俣病患者さんというものは、生まれてからの子供さん、あるいはおとなの患者さんが発生した地域と同じ地域に発生しているということ。これがおとなの水俣病でございます。これがいわゆる胎児性といいますか、先天性水俣病といいましょうか、そういう患者の数でございます。そうしますと一九五六年に一番数が多いのでございますが、生まれてからの子供さんあるいはおとなの患者さんと大体並行関係においてやはり胎児性水俣病というものも多いという事実がございます。あるいはまた、この家系を見てみますと、このまっ黒けなのはほんとうの水俣病です。この中に点を打ってございますのは、いわゆる胎児性水俣病というものでございますが、そうしますと、その同胞の中に、あるいはその両親の一方に明らかに水俣病があり、そしてその家系にいまのような脳性麻痺とかあるいは精薄患者さんがいらっしゃるということになりますと、これはやはり何か胎盤を介してなり、あるいは場合によってはおかあさんの乳を飲ませるとき、その乳に水銀が含まれておって、そしてそれがともかくお乳をやっている間に子供の脳に変化を来たすという可能性があるということを示していると思います。この解剖例もございますが、時間がもうありませんので、申し上げません。
 最後に私が申し上げたいことは、結局こういうアルキル水銀、有機水銀というものは、それがどんなルートをとろうと、ともかくからだの中に入り、おそらくは脳の中に入りますと、そう簡単に出るものではない。そして長い間かかって徐々に脳をむしばんでいく可能性があるということ、それから胎児性の水俣病、つまりおかあさんの妊婦の血液を介して胎児の脳に働いて、そしてこのようなものを起こしていく可能性があるということ、そういうことを考えざるを得ないと思います。もちろん水俣病なりここに出しましたケースは、これは非常に大量の有機水銀が入ったという特殊ケースであります。しかし、現在ここで問題になっておりますような非常に微量のものが一体どのような影響を与えるであろうかということは、いまのところ私たち何とも言えないと考えますが、しかしながら、先ほどから申し上げておりますように、一たん入った有機水銀というものは簡単に外に排せつされないで、だんだん蓄積されていく過程があるといたしますと、将来何が起こるということは決して断言できないであろうということが一つございますのと、もう一つは、かりに微量でございましても、もし妊婦にそういうことが起こってくるとしまして、そしてそれが胎児の脳に影響を与えるというようなことがあるといたしますと、一体これはどういうことであるか。一般に子供の脳にしても、あるいは胎児の脳にしても、それはおとなの脳よりもずっといろいろな病気、いろいろな原因によって侵されやすいものでございます。したがって、微量であってもあるいは問題を起こすかもしれない、そういう可能性は決して否定できないというふうに私は思います。しかし、これは何も証明されたわけではございませんので、何とも言えませんけれども、先ほどから上田先生あるいは浮田先生のお話がございましたときにお述べになりました意見と私は全く同じ意見でございます。
 それからもう一つのポイントは、これは有機水銀だけではないのではないかという気がいたします。つまりメチルあるいはアルキルプラス水銀、アルキル水銀のほかにアルキルすずだとか、アルキル銅だとか、アルキル何とかとか、そういうふうないろいろな重金属類とアルキル・グループがつながっているようなものを扱っている、そういうものがあると思います。たとえばアルキルすず、これをやはり工場で使っておりますけれども、それに中毒した患者がやはりひどい脳の変化を起こしております。これは脳浮腫と申しまして、脳がぶくぶくにふくれ上がるという病気がございますが、そういう病気をアルキルすずが起こしている事実がございます。したがって有機水銀、有機すずというようないわゆる有機重金属類というものを扱うところのいろいろな公衆衛生という問題もここで同時に考えるべきであろうと私は思いますし、そういうものに対する予防対策もいまのうちに講じておいたほうがいいのではないか、私はそういう感じがいたします。
 たいへん長くなりましたが、一応……。
○田中(武)委員長代理 以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。
    ―――――――――――――
○田中(武)委員長代理 質疑の通告があります。これを許します。米内山義一郎君。
○米内山委員 いま参考人の諸先生から水銀農薬のおそるべきことを承りまして、いまさらにはだえにアワの立つ思いがいたします。この問題はいま先生のお話にもありましたが、さわらぬ神にたたりなしではもう済まされない問題じゃなかろうか、むしろ積極的にまっ正面からこの問題と取り組まない限りたたりがあり、災いを全国民に及ぼすものではなかろうかという気がしてなりません。そこでこの問題は、いいかげんに取り上げることはかえって悪い影響を及ぼすのじゃないか、こういう点もあります。私は政府側の御見解を聞きたいのでありますが、その前に参考人の先生方からお聞きしておきたいことは、いまのお話の中に、研究室で水銀の取り扱いをされている方の頭髪に含む水銀量が多いということもありました。また、水銀薬を塗った人が発病した、こういうふうなお話もありましたのでお聞きしたいのですが、農家が水銀農薬を散布している状態を見ますと、まるで薬の中で泳いでいるようなかっこうです。特にいもち病を防除する季節というものは暑い季節でありまして、厚着が許されません。それに大型機械と違いまして、かなり重量のあるミスト機と申します、人間一人でやっとささえる程度のものをしょって、ひざまでぬかるたんぼを歩くのですから汗ばみます。したがって、どうしても皮膚も露出しますし、粉がはだに付着しやすい性質を持っている。現に、あの薬が付着することによってびらん症を起こします。それでも米をとりたい一念で、水銀農薬のおそろしさを知らずにやっている。その結果は国の食糧を満たしているかもしれませんが、米に吸収された水銀を間接に食う人よりも、そういうふうな危険な状態でからだに直接水銀を浴びながらやって、さらに一般消費者よりもたくさんの米を食っている農民にどういう状態があるだろうかと、いまお聞きしながら心配になりました。まあこういうふうなことについての大学などの研究の事例がありましたらお聞きしたいと思います。どなたでもけっこうでございます。
○上田参考人 実はその問題は、長野県の小諸のそばにございます佐久総合病院の若月院長が、きょうたしか参考人の候補者になっておられましたが、県の会議のために来られないのだそうでございます。この若月院長は非常に熱心で、そこの農協の病院の中に農薬中毒の研究所をつくっておられるくらいですが、そこのデータに、農民の毛髪中の水銀の一番多い人は、さっきの浮田先生の日本人の平均が六といたしますと、一〇とか一五という人がかなりたくさん出ております。これはこの農薬を散布いたす以上当然だと思います。それから赤ちゃんに非常に多い人がありまして、母親が六か四なのに子供が一一だとか八だとか、これはひとつは子供にきたので、そのうち一人はいまの水虫の水銀の薬を使っていたことがわかったそうでございますが、やはり子供にも、つまり胎盤を通しても相当親より多いくらいあったと申します。
 それから若月院長によりますと、このごろ農村で肝機能検査をすると、非常に肝臓の悪い農民が多い。それは一般的に栄養が悪いことも当然でありますけれども、やはり水銀農薬もそれに一役買っているのではないかというような御意見でありました。このことは、私が直接やったことではございませんから申せませんけれども、私どもがやりました範囲では、農民の尿の中の水銀は一一〇ガンマくらいだったと思いますが、私ども四〇といたしますと、多いことは多いのでございます。このことは接触がある以上当然でありますので、これだけで有害だとは申せないのでございますが、いま明らかになっていることは、いま委員がおっしゃいましたような皮膚のただれ、これはことに露がおりております朝露のあるたんぼに入りまして、もものところをぬらしながら水銀農薬をまきます人に、ちょうど内またのところがひどくただれた例がたくさんございます。それは確実な害作用の一つです。
 それから肝臓がやられるということを言う人が多いのでございますけれども、いま言ったように、ほかの要素もございますから、水銀それだけということは申せないと思います。ただ日本の農家は非常に小規模でございますので、数日まくと、もうまかないで済むというような、つまりまく期間が少ないので蓄積がわりあいに少ない、大農と比べまして。私がいまやっておりますのは、ヘリコプターの操縦者と農薬を積み込む人たちをずっとこの数カ月――もう冬になってしまいましたので、また、ことしやりますけれども、その人たちが一番職業中毒が起こる人だと思っております。
○米内山委員 その次にお聞きをしたいことは、阿賀野川下流に水俣病が発生しました際に、妊娠中の人は出産しないように堕胎と申しますか、早期に中絶するように指導をしたということを新聞か雑誌で見ております。これはおそらくいまの先生のお話にもありました、水俣で子供に胎盤を通してそういう影響が出た経験からかと思うのですが、そういう際の母親の水銀量というもの、これはまあ肝臓を見るわけにいきませんでしょうが、血液とか頭髪等にある水銀量というものは一体どの程度にあるものなのでしょう。
○浮田参考人 阿賀野川の有機水銀中毒事件に関しまして厚生省で調査の委員会をつくられまして、着々といまデータが出つつあるところでありまして、おそらく非常に近い将来にそれの全貌が厚生省から発表されることと存じます。
 いまの御質問に対しましてのお答えといたしましては、私がその委員会の委員といたしまして、毛髪中の水銀の分析を担当いたしました検体の中の数値を二、三拾い上げて申し上げますと、ある患者は五一五PPM、その次の患者は五六五PPM、それからその次が七六三PPM、こういう非常に高い数値を示しております。その家族でまだ罹病していない人がございますが、そういう人でも二七PPMとか七九PPM、そういうふうな高いPPMを示しております。私の手元にございますデータはそういうデータでございまして、患者及びその家族の頭髪中の水銀の測定データはございますが、ただいまの御質問の妊娠とそれからその胎児に対する影響ということに関して頭髪中の水銀の分析からお答えするデータは持ち合わせておりません。残念ながら何とも申し上げられません。
○米内山委員 この問題につきまして、当面水銀農薬という限りにおきましては農林省が一番重大な責任があるわけですが、いろいろなこれまでの調査があると思います。しかし、ある雑誌などによりますと、これは去年出ました雑誌の記事なんですが、私たちは水銀の入ったごはんを食べているという見出しの雑誌記事がありました。これに、農林省が研究した資料を秘密にしておるという記事があるのです。実は、近ごろ社会全般、いろいろなこういう公害に対して非常に神経質になっております。まあ、一例を申し上げますならば、私も青森県なんですが、青森県から香港へ輸出したリンゴに鉛が検出されたというのでキャンセルを食ったことがございます。ところが、その記事が、日本へさましたらリンゴを食べる人がリンゴの皮をメロンのように厚くむいて食うというようなことさえ聞くわけです。そういうふうなことですから、水銀農薬の水銀の毒が米にあると言ったら、これは一つの大きい問題になろうと思いますが、しかし危険であるものを国民の前に伏せておくということは、これはちょっと問題じゃなかろうか、私はそう思います。ですから、農林省がいままでこの種の問題について研究した情報等を、この問題が国会で取り上げられましたことを機会に、明らかにしていただきたいと思うのですが、その点資料がありましたら、この席でお知らせ願いたいと思うのです。
○河原説明員 お尋ねの研究データを伏せておるという事実はございません。昭和二十七年ごろから、御存じのとおり水銀農薬というものが非常にいもち病に卓効があるということで、だんだん使用量がふえてまいっておりますが、いままで農薬自体だけで問題にされたことは実はないのであります。ただ、水俣病が非常にやかましくなりまして、あるいは最近の阿賀野川事件がございましてから、これは農薬の問題も相当関係があるのではないかというようなことで、実は阿賀野川事件を契機にいたしまして最近ばたばたとこれはやらなければいかぬじゃないかというようなことで、農業技術研究所なり農薬検査所でもって目下いろいろ、農作物に散布いたしました水銀の行動等につきまして研究を始めておる段階であります。いままで確認したもののデータを伏せておるというようなことはございません。
○米内山委員 伏せておかないかもしれないが、この問題を積極的に明らかにして、対策を一般社会に問うというようなことはやっておられましたでしょうか。
○河原説明員 これにつきましてはやはり農薬の使用量が非常にふえておりますから、国民一般に安心をしていただくという意味からも早急に検討しなければならぬというようなことで、厚生省ともよく御連絡いたしまして、それぞれ分担して研究を始めておるわけでございます。なお、水銀農薬にかわる、先ほど参考人からも御説明がございましたように水銀を含まないいもち病の新薬の開発というようなことにつきましても、ここ両三年積極的に研究を展開してまいりまして、ある程度実用化の見通しが立ってきております。昨年の実績で申しますと、いもち病の農薬全体のわずか五%程度でございますけれども、全然水銀を含まない農薬をこれから積極的に開発してまいりたい、そういうふうなことでこういった水銀問題に対処していきたい、一般的にはそういうふうに考えております。
○米内山委員 研究を進めておられるということですが、それではどの程度の研究があるかをお尋ねしたい。たとえば阿賀野川の水銀中毒というのは、直接水銀の水を飲んだわけじゃない。これは川の下流へ行きましてどろに沈積した、あるいはプランクトンに含まれたものを魚が食った、その魚を人間が食って発病したという経路をたどるわけですが、農林省は研究をしておるというが、そういうふうにたんぼにまいた水銀農薬が何%かは稲に吸着される、その次には土壌に吸着される、あるいは用水とともに水路に入る、それが大きい河川に入る、さらには湖沼、河川の下流等に沈でんする、こういうふうなことを、単に農薬と米ということだけじゃなしに社会的な問題、社会環境の問題としてこれをどういうふうに研究していんか、そうしてこういう調査の方法というのは簡単じゃないと思います。非常に微量のものを検出し、これを明らかにするのは簡単じゃないと思いますが、農林省としては十分な資材とか研究費とか技術とか、そういうものを持っておやりになったのですか、この点をお聞きしたい。
○河原説明員 これは先ほど参考人からもお話がございましたように、阿賀野川の対策の一環といたしまして、われわれのほうで分担すべき問題は分担いたしまして、農業技術研究所なり農薬検査所――これはそのために特に予算をとったということはございませんが、現在の陣容を動員いたしまして、その中でいま検討いたしておるという段階でございます。
○米内山委員 そうすると、研究したのじゃなくて、検討しておるという段階にすぎないと思うのです。実に、これは無責任きわまりないと思います。科学技術庁の方に聞きたいのですが、こういうものをやるための研究費なんです。研究のしかたなんです。たとえば魚がプランクトンを食ったというのですが、そのプランクトンのどのくらいの中にどのくらいの水銀を含むかということ。結晶として抽出するというのは容易ならざる経費や設備が要ると思うのですが、そういうことを科学技術庁としてやっておるのですか。
○高橋(正)政府委員 科学技術庁といたしましては、各省庁が研究を進めます上に、総合的にやりますものに対しまして、特別研究促進調整費というものを各省庁に移しかえまして、研究の推進を行なっております。今回の新潟の水銀中毒問題につきましては、四十年度におきまして九百六十三万九千円、これを支出いたしまして、水銀中毒の疫学的調査研究、それから水銀化合物によりますところの汚染様態に関する研究、それから水銀汚染によりますところの水棲生物の分布調査並びに医学的な診断の研究、これを厚生、農林両省で担当いたしまして、ただいま研究調査を続行いたしております。三月末くらいには調査結果が出ると思います。
○米内山委員 今後、たいへんだということになってからではもう手おくれだと思うのです。特にいもち病防除のことは全国一斉に同じ年次に同じような結果があらわれるものじゃないと思います。南のほうと北のほうではいもちの発生度合いが違うし、同じ地域でも稲作環境の悪い地域はこういう薬をまく度数も多いわけです。いろいろな違いがある。さらには、たんぼが広いと河川によって集まる薬の分量も違う。さらに、それが魚などに移っていく度合いというものも地域によって非常に複雑、千変万化だと思う。こういうものをあらかじめ予知しながらこの対策を立てていく必要があると思うのです。そういう研究調査なしには、いまの航空事故と同じように、たくさんの出血がない限り対策は講ぜられないということになると思う。そういうふうなことについて、政府はいまどういうふうなお考えを持っておるか、お聞きしておきたいと思います。
○橘政府委員 先ほど白木先生からもお話がありましたように、水銀農薬の残留毒性と申しますか、いま現在はどうということはございませんが、入った水銀がなかなか抜けない、そういうお話で、いまからそういう慢性毒性に関することも研究しなければならない。そういうことで、農林省、厚生省と数次にわたり、昨年の夏ごろからその対策を検討してまいったわけです。いまの段階では結局農薬がまかれまして、それが稲なら稲――いもち病の場合、稲に入ってきます。それから稲は花を開いて実を結び、それから今度は米が食べられる。その米の中にもそういう水銀はある。そういうことで、その全体の過程を総合的にずっと系統を追って研究する必要がある、そういうことになる。
 その研究並びに対策は大きく分けて三つになります。一つは、農薬の成分である水銀あるいは水銀の化合物、そういうものの動態、結局散布してから稲に入るまでの動態、そういうものを調べる。もう一つは、稲に入って、植物の体内、あるいは米が人間に入って、人間の体内においていろいろ代謝過程があるわけですが、そういう代謝過程の研究、またその代謝生産物のいろいろな毒性等をいろいろ実験してみなければならない。そういうような動態と残留過程に関する研究。もう一つは、先ほどお話がございましたように水銀剤にかわるべき新しい農薬、これは当然値段のほうもかわるべきものでなければ困るわけでございますが、そういうものの開発研究がなお必要である。その三番目は、研究はともかくとして、現在使っている水銀農薬のまき方あるいはまく時期、まく量、そういうようなことに対してさらに指導となければならない。本件は農薬取締法においてもそういう条項があるように存じております。そういう三つのことでございます。科学技術庁、農林省、厚生省のそれぞれの研究機関なり外郭団体において、そういう系統的な研究をやらなければならない。それが先決である。そういうことで、いまから始めて決しておそくはない、こう思っております。
○米内山委員 それでは国としてのこの問題に対する見解をお聞きしたいのですが、いまのところたいしたことはないという見解なのか。したがって、当分はこれでいって、もっと害毒が顕著になったら何とか対策を考えるというような考え方ですか。それとも、これは使っちゃいけないから、使わないことに方針をきめて次の段取りをとろうとする御見解なのか。国としてのそういう方針がはっきりしていますか。
○橘政府委員 先ほど白木先生のお話にもございましたように、いま現在これという問題は残留毒性については聞いていないわけであります。ただ、いまからはっきりと科学的にこうだということを言えるのであれば、直ちにその対策はとるべきでありますが、現在の農薬もやはりしかるべく認められており、また、厚生省なり農林省でもそれぞれの法規がございまして、現段階で科学技術的なきめ手というような結論が出ていない。また、そういうことについてあまり組織的な研究が行なわれていないので、至急にこれをはっきりさすことが先決である。そういう見解で、もしもお説のように非常にいけないとあらば、これはまた研究もさることながら、応急の措置をとらなければいけないと思います。いまの段階では、まず、いま言った毒性問題についての調査研究の系統的なものを即刻やる、こういうことが必要だと思います。
○米内山委員 これは、私らから見るとまことに驚くべき御見解だと思うのです。これが真犯人だという断定が下らないとなわをかけられないというのは、これは警察の話だと思うのだが、しかしこういう重大な問題について、はっきりした結論が出たときはたいへんでしょう。これでもまだ疑う余地がないというのか。こういう問題というのは頭から疑ってかかったほうが正しいやり方だと私は思う。私は、そういう見解で政府がいままでこの問題についてはっきりした研究さえもしていないというのは、実におそるべきことじゃないかと思う。口に入るものは、子供のおもちゃや茶わんに赤い薬が塗ってあると、これは鉛だとかなんとかといって発売禁止にしたり、食品衛生法上の違反だといいながら、国民の全部の人が日常食っている毒について、きめ手がないからというのは、これは少しおかしいじゃないか。そんなことならば、食品衛生法なんというものはあってなきがごときものだ。多く食べてころっと即死する、腹を病めるようなものでないならば毒じゃないという見解ならば、これはたいへんじゃないですか。こういう種類のものは、単に農薬の問題だけじゃなく、たとえば食物に対する防腐剤とか着色剤とかいろいろありますが、この問題は、農民の利害あるいは生産者の利害、薬屋の利害と衝突しまして、簡単なものじゃないが、しかし、ここらで政府がはっきり腹をきめて、国民の命の問題ですから、もっと積極的な前向きの方針を立てるべきじゃないかと思う。特に農林省なんというのは、百姓を米をつくる機械か道具のように考えておるんじゃないかと思う。現に水虫に薬を塗っただけで死ぬ人がある場合に、全部の人が年中の作業としてやっているのに、ちっとも心配そうな顔つきもしない。この米が輸出品でないからいいようなものの、もし、これがアメリカに売るものだったら、一升も一斗も売れないのじゃないか。国民に食わせるものだからいいとか、国民が黙っているうちは対策も立てないでいいというような見解じゃ、これはとてもじゃないがわれわれは安心して農業政策を受け取るわけにはいかない。特に、いま私がこういうことを言うのは、やめようとすればやめられる段階になっておる。私も村で四十町歩くらいの水田単作の共同農場を指導しております。三年前から水銀農薬を使っていません。いわゆるプライスMを使うのですが、最初は多少目を痛めたりして困ったことがあるが、噴霧器を改良して風上からやるとそういう障害もないし、イモチなんというものは水銀剤よりもよく防げる。しかも、水銀剤は、防ぐことはできるが、なおすことはできない。プライスMはできる。さらにカスガマイシンなんというのもあるという話を聞いておる。こういう方針をきめれば生産の態勢は徐々とその方向に移るでしょう。いま急にやろうとすれば単価が高くて農民が困るというならば、金を出せばいい。差額を補償する。量産化されれば安くなる。こういうふうな前向きの姿勢をとって、国民にものを、単にカロリーを食わせるだけじゃなしに、もっと安心して食える主食を供給するのが農林省の任務じゃないか。量の問題じゃなく、千三百万トンとれればいいというものじゃなく、国民がみんな不安に思っている、こういうところから日本のいまの政治に対する不信感も出るのですが、この点で、きょうは大臣やそういう責任者がいないのですが、農林省はどういう気持ちであるか、ひとつ聞かせてください。
○河原説明員 御指摘のように、確かに有機水銀農薬にかわる農薬が開発されてまいりまして、ある程度実用段階に入っておりますけれども、残念ながら目下のところは非常に単価が高いということと、それから生産体制というものが全体をまかなうだけの生産体制ができていないというようなことで、だんだん切りかえてまいりたいということでやってはおるのでございますが、現実には五%程度しかまだ使われていないという実態でございます。
 それから農民に対する指導が非常に不徹底じゃないかという御指摘でございますが、これにつきましては、御存じのとおり毎年五月十五日から六月十四日を危害防止月間というふうにきめまして、厚生省と連絡いたしながら毒物及び劇物取締法の趣旨を徹底いたしますとか、農薬の危害ができるだけ実際の作業者に及ばないような指導をやっておるわけでございます。そういうことで先ほど資源局長からお答えいたしましたように、結果が間もなく出てまいると思いますが、出てまいりますれば、その線に沿ってまた対策を考えていきたい、こういうように考えております。
○田中(武)委員長代理 関連質問の申し出がありますので、これを許します。三木喜夫君。
○三木(喜)委員 関連ですから一つだけ聞いておきたいと思いますが、いま米内山さんから経験を通してこれを防除するには、やるという気なら相当やり切れる、こういう根底に立っての話があったのです。そこで方針をきっちり出せ、こういうことなんですが、農林省が踏み切れないという根底には、やはりこういう農薬をつくっておる会社と関係がある。こういうことを排除されるということになるとこれはたいへんですからして、そういう問題は考えに入れずに、いま米内山さんが言われたように、政府は思い切ってこれに助成をして、被害の及ばないようにしなければいかぬ。機会を設けてそういうようなことを防護する方法を教えても――私は、根源を大切にせずして、頭隠してしり隠さずというような結果になるのではないかと思う。
 それから私がお聞きしたいのは、農林省としては、これについて研究をいままで進めてこなかったのではない、かなり研究は進めておられるように思うのです。それにきょうの説明をしておられる人は、責任のある説明のしかたではないと私は思うのです。もう少し責任のある方が来て説明をしてもらう必要があると私は思うので、あなたではというと非常に悪いんですが、もし、そのことを調査された結果がはっきりしておるなら、後日でもよろしいから言っていただきたいと思うのです。私がこう見ましたところでは、農林省の技術研究所の富沢長次郎技官が昭和三十一年十二月、植物病理学会に、白米より玄米に水銀の集積が多いので非常に危険である、こういう発表をデータによってしたわけなんです。そうしますと、三十二年に水銀問題対策委員会というものが農林省内にできて、三十二年から計画的に水銀の残留量について調査することになった。こういうことなんです。いまの除草薬のPCPにしましても、メイ虫に対するパラチオンの問題にしても、これは水銀があって非常に危険だということでこういう問題が提起されたように思うのですが、具体的にこういうようなことが記録にちゃんと載っておるのですから、三十二年からということになると、研究せなければいかぬということになって対策委員会を設けてからもう十年近くなる。水銀問題対策委員会は農業技術研究所、農薬研究所が中心となって、三十二年から農林省内に設けられた、こういうことが発表されておるわけですから、もうその結果を言っていただく段階にきていると思うのです。いま科学技術庁のほうから聞きましても、もうちょっとしたら結果が出るのだ、こういうことなんです。その辺どうなっておるのですか。私はやられておるように思うのですがね。
○河原説明員 これは私、先ほどお答えの中で申し上げませんでしたけれども、事実、日本植物防疫協会の水銀問題対策委員会というところでこの問題を取り上げまして、いろいろ稲に散布しました水銀のその後の行動といったようなことについて検討してまいったわけでございますので、その一応の結果は四十年に公表いたしております。しかし、当時、先ほど参考人からも御意見がございましたように、微量な水銀を分析するという的確な方法もないままに、一応従来の方法でやりました結果から申し上げますと、稲に散布しましたものは、先ほどお話がございましたが、稲の葉から稲の体内に入りまして、だんだんと生長の旺盛な部分に移行するといったような行動がわかっておるわけでございます。それから稲の体内に入りました水銀は、まきましたときから形が変わってまいりまして、それが細胞膜でありますとか、あるいは繊維質の中に結合しまして、それから残りの水銀は可溶性のたん白質と結合していく、こういったような結果がわかっておるわけでございます。全散布量に対しまして約一〇%の水銀が稲のからだに付着しまして、そのうち約五〇%が稲の体内に入る。さらに穂にはその五%程度のものが集まるというようなことが、いままでの結果では出ております。しかしながら、その毒性につきましては、先ほど参考人の御説明がございましたように、これがはっきり重大な被害があるというような御見解もないままに、また阿賀野川事件等が起こりましたものですから、さらにこまかくこれから検討してまいりたいという段階でございます。
○三木(喜)委員 いまの参考人のお話では、日本では四百トンもこういう水銀を使用しておるということで、いまあなたのお話では、五%ほどしか抗生物質の開発による実用化はできてない。そうすると、まだ手放しでこれをやっておるということになる。外国では種子の消毒には使うけれどもほかのものには使わない、こういう諸外国の例も出ておるのですよ。そしてそれだけ大量に使って、いま参考人が言われたようにこれだけ危険なものである。いまのお話ではこれはまだわからない、将来集積された結果がどうなるかということで、非常にこわい予想もあるわけです。それが植物に非常に影響がある。それをつくるのに非常に被害を受けるところの農民が、頭からからだから浴びて、そして卒倒して死んだという例もあるのですから、そういうのんきなかまえ方では私は問題があると思うのです。農林省として幸いそういう研究の基盤をつくられたのですが、私は五%では問題が残っておると思いますが、関連質問ですからこれはまた後の機会に大いに聞きたいと思います。
○米内山委員 私も、これ以上政府側から聞いたってろくな答弁ももらえるわけでもありませんが、きょうのところ政府側の答弁に対しては非常に不満足です。そうしてこれは、一たんここまで問題になった限り中途でこれをおさめるわけにはまいらぬです。参考人の諸先生方のお話を聞いていますと、これは被害者の立場を守る訴えとしてわれわれが聞けるものですが、政府側の答えは、これはことごとく加害者であるかもしれないと自分を誤認しながら弁解しているのじゃないか、これじゃ問題の解決にならぬと思います。
 そこで、最後にお聞きしたいが、この種の問題、特にこの農薬問題というものは、単に日本だけで起きている水銀問題じゃなくて、世界的な一つの問題になっている。アメリカの婦人学者のカールソンの報告にまつまでもなく、重大な世界の問題になっている。この際この問題について、わが国としても、世界の科学研究機関と協力して研究すべき研究の交流等もあると思いますが、いろいろな情報等を聞きますと、昨年OECDの関係で世界のこういう研究協力会議があったとき、日本政府は旅費がないとしてこれに代表の派遣をしなかったということを聞いているが、こういう事情は一体どうなっていますか。
○高橋(正)政府委員 御指摘の向きは直接の所管でございませんが、OECDのどのような委員会でございましょうか。
○米内山委員 これはおとといか科学技術庁からもらった報告なのですが、これに書いてありますよ。「国際科学情報」の第二巻第一号一三三ページ、これにちゃんと書いてある。「殺虫剤」のところに、「殺虫剤による環境汚染に関する国際会議を本年末または明年初めに行なう予定で準備が進められるが、わが国は予算の関係から出席困難である。」とちゃんと報告しておる。こんなぶざまで、あれをやっている、これをやっていると言ったって、われわれはまともに聞くわけにいかぬ。
 これに対しての追及はあとの機会にしたいと思いまして、きょうはこれで打ち切ります。
○田中(武)委員長代理 米内山君に申し上げます。いまお読みになりました資料は外務省のものです。したがって、後日外務省から来てもらって当委員会で審議することにいたします。
 岡委員。
○岡委員 私も農業県の選出でありますから、特に米地帯でもあり、いもちには百姓が非常に困っておられる実情はよく知っているわけです。それだけに最近いもちのための妙薬ができたということでお百姓が非常に喜んでいることも私は知っている。そこで、きょうはわざわざ東大等から専門の先生も来ていただきましたので、この機会にお聞きをいたしたいのは、まず第一に、たとえばフェニル水銀をまいたときに、葉に吸収されて以後のフェニル水銀の行動、これは農業技術研究所かどこかで御発表になっておると思うのですが、その経過をこの際ひとつ御説明願いたい。
○河原説明員 お答えいたします。
 農業技術研究所の富沢技官のところでアイソトープを使いまして行動を実験したデータがございます。それは先ほどお答え申し上げましたように、植物防疫協会の水銀問題対策委員会の見解として発表しました。稲に散布した水銀が表面から稲の体内に入りまして、それで生長が旺盛な部分に移行する、それから全体の農薬の散布量のうち約言〇%が稲のからだに付着しまして、その五割が稲の体内に入る、穂にはその五%程度が移行する、こういったようなことが、アイソトープを使って追跡しました結果明らかになったわけであります。
  〔田中(武)委員長代理退席、岡委員長代理着席〕
○岡委員長代理 私は十分記憶しませんが、ここに資料もありますけれども、その場合に、葉に吸収されたフェニル水銀が細胞のたん白と結合するなどして、白米あるいはぬかに残存する水銀の化学構造は可溶性のものに変化するのじゃないかというようなことが報告の中にあったかと思うのですが、そういうことはないのですか。
○舘林政府委員 これは、ただいまお話のございました農林省の農業技術研究所の行ないましたアイソトープの実験を私どもが承知しておるところによりますと、稲の葉に付着いたしました酢酸フェニル水銀はすみやかに稲の体内に移行いたしまして穂に出てまいりますが、散布一日後の葉の組織の中の水銀は、たん白と結合した形でございまして、無機水銀の形になっておる、かように推定されるわけです。したがって、フェニル水銀の形では存在しないというふうに推定されるということでございまして、これから類推して、米粒におきましてもほぼ同様な推定がなされるのではなかろうかという御意見がございました。ただ、米粒に関しましては確認がなされておりません。したがいまして、フェニル水銀がいもち病の消毒に使われましてもフェニル水銀よりさらに毒性がやや弱い無機の形に変わっておるかもしれない、こういう御報告がございました。
 なお蛇足でございますが、フェニル水銀は、散布された後、比較的容易に分解されやすい水銀と承知いたしております。
○岡委員長代理 それでは三先生どなたでもけっこうでございますが、アイソトープをトレーサーとして追及していったところが無機水銀に変わったというこの経過、こういう化学構造がアイソトープで追及して一体それほど確実に確かめられるものなんですか。上田先生でも浮田先生でも、どなたでも……。
○浮田参考人 ただいまの御説明を承っておりますと、それから御質問でございますが、アイソトープを使っておられるのはおそらく水銀二〇三の核種でやっておられると思いますが、それは水銀があるかないか、水銀がどこへ行ったかということを確かめるのには役立っていると思います。ただ、まいたフェニル酢酸水銀というものが、その米の中でどういう形態になっているかということに関しましては、ただいまの御説明では、可溶性になっているから無機水銀と推定されるというような表現のしかたであったと思いますが、可溶性であるということと無機水銀であるということを直接つなげて推定を立てることは非常にむずかしいと存じます。
○岡委員長代理 農林省の参事官でもけっこうですが、いま浮田先生からこのような御説明がありましたが、そういたしますと、農林省のほうで、先ほど舘林環境衛生局長が発表しておったあの水銀の吸収後における行動というものについては、学問的に、少なくとも専門的には断定し得ない、こういう断定でございますか。
○河原説明員 いまおっしゃるとおりでございます。
○岡委員長代理 それでは上田先生にお尋ねをいたしますが、特に浮田先生が先ほどスライドでお示しになりました水銀の排せつ能力、特に、たとえ無機であっても――無機であれば有機よりも非常に排せつの速度が早いというスライドの御説明がありましたが、それにしてもやはり蓄積が可能である、そういう状態で推定をされるわけですが、現在これがきわめて持続的に少量ずつ蓄積をされつつある現状だと思います。このことについては将来の臨床的な問題としての懸念があると思われますが、いかがなものでしょうか。あるいは白木先生でもけっこうです。
○上田参考人 この問題に直接関係はございませんけれども、アメリカではDDTが国民のからだの中にたまっていく、脳の中にたまっていくということを、先ほど米内山委員がおっしゃいましたように、カールソンも指摘いたしておりまして、アメリカのたいへん感心なことは、一九五六年から大体五年ないし三年おきに、解剖した人たちの――一九五一年から五六年、五八年、六四年と四回、少なくとも一般住民の皮下脂肪の中にあるDDTの量が測定されております。それを見ますと、最初は少し多かったのでございますが、最近の一九五八年ごろからあとにはふえていったというような形跡はございませんで、公衆衛生の学者は、いま増加することはストップしているというような結論に立っております。しかし、その増加しなかった因子の一つに、大体一九六一年ごろから牧草に一切DDTはじめ有機塩素の殺虫剤をまいてはいけない。それはやがて牛の肉にきて、ミルクにきて、バターにくる、ことにバターに濃縮いたしますから、それは国としてそういう規制をいたしまして、そのことがふえないことに貢献しているのではないかと思います。それから英国は、一九六三年でございましたか、初めからドリン剤と申します、非常に脳にたまりやすい有機塩素の殺虫剤を極力農薬に使わないようにという措置をいたしております。それで、こういうような微量のものがどんどんたまるかどうかということの経過は、そういう人工的な規制が入りますとストップされるのではっきり申せませんが、水銀の場合も、日本の場合には、いまのような規制はなくてむしろ使用量は増加しております。このDDTの例で見ますと、あるいは水銀でもけっこうでございますが、からだの中に入る量が多いときにバランスするレベルは高いところでバランスいたします。ですから、米ばかりでありませんで、一切の食品、それから私ども分析しますと、ガソリンの排気にも煙突の煙にも石油ガスの排気にも、みな水銀が――どうせこれはどろからできましたもので、オリジンは植物でしょうから、水銀がございますが、こういうものを全部寄せました量というものは、減っていくことはなくてむしろふえていくはずでございます。そうすると、だんだん高いところでバランスするわけでございます。それで、それをさっき言った水俣病のようなバランスになるのは何年かというと、これは私すぐ近くに来るとはとうてい考えられませんけれども、しかし、科学技術を尊重する国では人工的にそれをストップさす、あるいはむしろ下げようということを努力しているのが現実だと存じます。
○白木参考人 米の中の有機水銀の将来の問題、これは私何とも言えないと思うのですが、先ほどから申し上げておりますように、四年以上たった水俣病の患者の脳にも十倍の水銀がまだ残っているという事実は非常にはっきりしておると思います。また、最後にスライドを出しました、水虫で中毒して九カ月生きておったその患者さんのものを考えますと、これは水銀量ははかってございませんけれども、脳の変化はもちろん水俣病的でございます。しかし、まだ問題がほかの臓器にもあるのではないか。と申しますのは、スライドを出しませんでしたけれども、あの患者は最後に黄だんで死んでおります。この黄だんの原因が何であるかということは一がいには言えないと思うのですが、しかし有機水銀は脳だけでなくてほかの臓器にもたまっている可能性があるわけで、あるいはそういうものと関係があるかもしれません。それからラッセル・ハンターのイギリスのケースでございますが、これは十五年生きておったのですけれども、二十二歳の男の工員で、血圧などは普通であったのでございますが、十五年間にだんだんと血圧が上がっております。そして最後はやはり高血圧症状が出まして、そのための脳の変化あるいはじん臓の変化というものが起こっております。この高血圧というのは、ですから、ただ単に脳の欠陥だけの問題でなくて、全身の欠陥にやはり問題があっておそらく血圧が上がったに違いない。したがって、私考えますのに、可能性としましては、非常な微量な水銀でありましても、それが血管系などにたまっていきますと、ああいう脳の変化として、そして精神症状あるいは神経症状というものが出てくる、そういう問題と別に、あるいはまた高血圧とかそのほかのいろいろな臓器の病気という形をとる可能性もあるのではないか、そういう感じがいたします。
 それから最後に触れましたけれども、子供、特に胎児の脳あるいはからだに及ぼす影響というのは、これはおとなの量よりもうんと少ない量で非常な強い変化を起こす可能性があるわけでございますから、微量であっても、これは胎児という問題を考えますと、私はやはり見のがすことのできない問題が現在の時点でもないとはいえないという感じがいたします。ですから、上田先生おっしゃったように、われわれの国がかりに先進国である、科学的な国であるとするならば、現在の時点でもそういうことはやはり基本的に考えたほうがいいんじゃないかと思います。
○上田参考人 一つ申しおくれましたけれども、三年ほど前からフェニル水銀のほかにアルキル水銀が土壌殺菌として次第次第に使われております。つまりそれはメチル水銀とエチル水銀の混合物でございますが、今回の阿賀野川事件も、それも原因かもしれないと問題になりましたが、幸いにおととしあの阿賀野川の上流で使うはずでございました農薬のアルキル水銀はちょっと使用が見合わされまして、昨年の初夏から使われておりますので、患者はそれより前に出ておりますので、まずまずこの農薬を否定することができたわけでございます。しかし、もしそうでございませんで、同時にそのころ使っておりましたら、農薬もまた考えなくてはいけないわけでございます。つまり今後川の沿岸で使えば、そういうことを起こすかもしれないのでございます。
 それからこのアルキル水銀は非常に防腐力が強いものですから、パルプ工場で木材パルプが腐敗しないように非常に有力な防腐剤として使われておりまして、現在はちょっと水銀の値段が高いためにあまりはやりませんが。それと卑近な例では、うちで使いますヤマト糊を腐らせないために入れてもたいへんよくきくわけでございます。ところが現在あります厚生省の法律では、それがそこに使われましても何ら取り締まることができません。たとえばヤマト糊にアルキル水銀をまぜてあっても、それで実際に人間が中毒するまでは取り締まれない。ある濃度以下使いますと、たしか取り締まれないのだと思います。いわんや産業の現場でバルブ防腐に使うような場合に取り締まる法律はないのでございます。そういう意味で私は何かこの取り締まりにも抜けたところがあるのではないかと思います。それを申し上げたいと思います。
○岡委員長代理 現在農薬の毒性等についての取り締まり規定、それは農薬の残留部分を含めてですが、いかなる立法がありますか。
○河原説明員 農薬取締法という法律がございます。それで取り締まっております。それから一方厚生省に毒物及び劇物取締法というのがあって、両方でひっかかるわけでございます。
○岡委員長代理 食品衛生法もありますね。
○河原説明員 ええ、そうでございます。
○岡委員長代理 それでは、農林省の農薬に関する取り締まり法規は農薬を使用する者についての有害性等を中心とする取り締まりということになっておるわけですか。
○河原説明員 残留毒性の問題につきましては、それは規定してございません。
○岡委員長代理 阿賀野川の事件を契機として、残留毒性の研究は、調整費を出された科学技術庁としてはどこにこれを求めようとしておられますか。あるいはまた、その研究は開始されておらないわけですか。
○高橋(正)政府委員 すでに研究は開始されておりまして、研究の結果は、三月末でございますか、各班の総合的な取りまとめに入る段階である、このように聞いております。
○岡委員長代理 それではここ両三年前に国際農業機構と国際保健機構が農薬の残留性の毒性について合同のシンポジウムですか、作業委員会のようなものを持ったはずでありますが、その場合における有機水銀剤についての結論はどのようなものでございますか。
○小高説明員 これは一九六三年にWHOとFAOとの残留農薬に対する専門家委員会というものが報告を出しておりまして、その中でフェニル酢酸水銀につきましては、人体に対する許容量が一キログラム当たり〇・〇〇〇〇五ミリグラムである。この値はゼロと同じに考えなければいけない、このように報告されております。
○岡委員長代理 それでは、いまそういうような結論が合同委員会によって出されておるわけですが、専門の立場から浮田先生にお伺いいたしますが、たとえば無機水銀でも、先刻お示しのスライドによりますると、若干の残留をいたすようでございますが、これが蓄積をしてくるということになってまいりますると、それがさらに臨床的な症状をも予想されなければならない。ただ問題はいまお話のように、有機水銀の白米等における挙動等についての研究が進められておるようでございますが、ここで臨床的な立場からと申しますか、お話を承りたいのですが、かりにじん臓の排せつ能力あるいは肝臓の解毒作用というものがバランスをとる、実験室的には無菌動物的なものを通じての実験になりますので、それはバランスはとれるかもしれぬ。しかし個々の人間ということになりますると、あるいはビールス肝炎になった者がいるかもしれぬ、あるいは肝硬変の者がいるかもしれない、その前期的な症状の者がいるかもしれない、じん臓機能にしたってやはり全部が画一的なものであり得ないと思うので、こういうような実際の人体の実情から見た場合には、刑法では疑わしきは罰せずということでございますが、社会問題としてこの農薬を取り上げたときには、やはり疑わしきは罰するという立場における国の規制というものが必要と思われますか。その点についての御所見を三先生どなたでも、共通の御意見であろうと思いますから、承りたいと思います。
○浮田参考人 先ほど上田教授並びに白木教授が結論として申されましたことと、私全く同意見でございます。と申しますのは、科学者としてのお答えをいたしますと、ただいま非常に興味ある表現で委員長が申されました、疑わしきは罰せずという刑法上の考え方と、それから疑わしきはやめさせるという考え方との二つに分けますと、学者の立場といたしましては当然後者でなければならない。一国の科学水準を高いレベルに保って、しかも将来ともども国民の福祉を考えるという立場からはそれが当然の考え方であろうと思います。
○岡委員長代理 本委員会といたしまして、約三年前にも公害対策についての決議をいたしました。当委員会は、科学技術の振興ということが一応当委員会に課せられた使命ではありまするが、技術革新の名のもとにいわば煙突ばかりが多くなって、その結果大気が汚染され、水質が汚濁され、その結果、それが人間という最も貴重な存在に悪い影響を与えるということはわれわれ委員会の目的ではないということで、公害に対する予防対策についての決議案を委員会として採択し、政府に進言をいたしました。このいまの問題もやはり広い意味のいわばパブリックニューサンス、公害にも当たるかと思うのであります。先ほど来、米内山委員から、特にみずから耕作しておられる米内山委員から適切なお話もございました。上田参考人からも御発言がございましたが、日本で有機水銀剤にかわる、新しきいもちに対する農薬を開発するということの可能性が――現に若干開発をされておるし、また使用もされておる。ただ問題は開発し得るものであれば、これがやはり農家の所得等に関係のある問題だから、できるだけ安いものが開発されなければならぬ、同時にまた、もし安くなければ何らかの助成措置を講ずるというような、こういう配慮。まず第一に開発の問題ですが、理化学研究所がこのことにタッチをしておるという情報があるが、この事情はどうなっておりますか。
○橘政府委員 理化学研究所では四十年度予算までで研究室を四つつくっております。四十一年度予算でさらに一研究室をふやすことになっております。そうして既往に理研で開発したものは、ブラストサイジンがただいま使われております。それから四十一年度に理研としましては、新しく設ける研究室において、いま言った水銀剤にかわる、またブラストサイジンはすでに済んでおりますので、さらに新しい研究に着手する予定と聞いております。その設備につきましては、朝霞につくります、いろいろえさを与える設備あるいは温室等の設備の完成を待って現場的な研究を開始する予定であるということでございます。
○岡委員長代理 開発に要する国の予算の問題、あるいはまた、もし有機水銀剤に比べてこれらが高い場合においていかなる形の助成をするか等の問題は、時間も経過いたしましたので、後日に譲りたいと思います。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、本問題調査のためたいへん参考になりました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申します。
 本日はこの程度にとどめ、次会は明十日午前十時より委員会を開くこととし、本日はこれにて散会いたします。
   午後四時三十六分散会