第094回国会 本会議 第2号
昭和五十六年一月二十六日(月曜日)
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    開 会 式
午前十時五十八分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長、特別委員長、議員、内閣総理大臣その他の国務大臣及び最高裁判所長官は、式場である参議院議場に入り、所定の位置に着いた。
午前十一時 天皇陛下は、衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
衆議院議長は、左の式辞を述べた。
    …………………………………
  天皇陛下の御臨席をいただき、第九十四回国会の開会式を行うにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
  わが国をめぐる現下内外の諸情勢はきわめて多端であり、緊急に解決すべき幾多の問題があります。
  われわれは、この際、わが国の国際社会における立場を深く認識し、外に対しては、諸外国との友好親善関係をますます進め、世界平和の維持増進に寄与するとともに、内においては、政治、経済の各般にわたり、当面する諸問題に対処して、十分な審議に努め、適切な施策を強力に推進し、もつて国民生活の安定向上と国運の隆昌をはからなければなりません。
  ここに、開会式にあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。
    …………………………………
次いで、天皇陛下から左のおことばを賜った。
    …………………………………
  本日、第九十四回国会の開会式に臨み、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
  国会が、永年にわたり、国民生活の充実発展と諸外国との友好親善の維持強化のため、たゆみない努力を続けていることは、深く多とするところであります。
  ここに、国会が、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
    …………………………………
衆議院議長は、おことば書をお受けした。
午前十一時六分 天皇陛下は、参議院議長の前行で式場を出られた。
次いで、一同は式場を出た。
    午前十一時七分式を終わる
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昭和五十六年一月二十六日(月曜日)
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 議事日程 第二号
  昭和五十六年一月二十六日
    午後一時開議
 一 国務大臣の演説
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○本日の会議に付した案件
 永年在職の議員中野四郎君に対し、院議をもつ
  て功労を表彰することとし、表彰文は議長に
  一任するの件(議長発議)
 北海道開発審議会委員の選挙
 鈴木内閣総理大臣の施政方針に関する演説
 伊東外務大臣の外交に関する演説
 渡辺大蔵大臣の財政に関する演説
 河本国務大臣の経済に関する演説
    午後一時三分開議
○議長(福田一君) これより会議を開きます。
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 永年在職議員の表彰の件
○議長(福田一君) お諮りいたします。
 本院議員として在職二十五年に達せられました中野四郎君に対し、先例により、院議をもってその功労を表彰いたしたいと存じます。(拍手)表彰文は議長に一任せられたいと存じます。これに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。
 表彰文を朗読いたします。
 議員中野四郎君は衆議院議員に当選すること十 二回在職二十五年に及び常に憲政のために尽くし民意の伸張に努められた
 よって衆議院は君が永年の功労を多とし特に院 議をもつてこれを表彰する
    〔拍手〕
 この贈呈方は議長において取り計らいます。
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○議長(福田一君) この際、中野四郎君から発言を求められております。これを許します。中野四郎君。
    〔中野四郎君登壇〕
○中野四郎君 ただいまは、永年在職議員として、院議をもって表彰の御決議をいただきましたことは、議会人として、この上もない光栄でありまして、感激にたえません。ありがとうございました。(拍手)
 二十五年を顧みまして、私の政治家としての道は、まさにイバラの道でありました。不肖ではありますが、私は戦前、戦時中、戦後を通じて政治の道を一筋に歩いた体験者ではありますが、往時を顧みまして、憂うることはまことに多うございましたけれども、そのなすところ、まことに足らざるを恥じ入る次第であります。
 敗戦直後第二十二回の総選挙に当選以来、同志議員とともに日本農民党を立党し、祖国再建の道をこいねがって悪戦苦闘、以来今日までに十五回の選挙を戦いまして、十二勝して三敗を喫しました。
 その間、郷土西三河に衣浦貿易港を、そして尾張−三河を通ずる海底トンネルをつくり、いままた矢作川流末に河口ぜきの実現を見つつありますのも、これひとえに同僚議員各位を初めとして、選挙民の方々のおかげでありまして、政治家としての光栄これに過ぐるものはありません。(拍手)
 本日の表彰は、まさにわが政治家としての道の一つの節でありまして、今後いよいよ奮励努力をいたし、国家及び郷土の繁栄、発展のために大いに働く決意であります。
 ここに、謹んで各位にお礼を申し上ぐるとともに、この上ともの御指導、御支援を伏してお願い申し上げまして、ごあいさつといたします。ありがとうございました。(拍手)
     ――――◇―――――
 北海道開発審議会委員の選挙
○議長(福田一君) 北海道開発審議会委員の選挙を行います。
○鹿野道彦君 北海道開発審議会委員の選挙は、その手続を省略しく議長において指名されんことを望みます。
○議長(福田一君) 鹿野道彦君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
 議長は、北海道開発審議会委員に吉浦忠治君を指名いたします。
     ――――◇―――――
 国務大臣の演説
○議長(福田一君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説、外務大臣から外交に関する演説、大蔵大臣から財政に関する演説、河本国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣鈴木善幸君。
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕
○内閣総理大臣(鈴木善幸君) 第九十四回通常国会が再開されるに当たり、内外の情勢を展望し、これに対処する政府の基本方針を明らかにいたします。
 われわれは、激動の一九七〇年代を乗り越え、新しい時代を迎えております。
 二度にわたる石油危機に象徴される七〇年代は、世界の多極化の進展と自由世界を支えてきた経済秩序の変化のうちに、二十一世紀へ向かう新たな時代の胎動が始まった十年間でありました。そうした中で、わが国は、この世界的な変動の影響を強く受けながらも、国民のすぐれた英知と努力により、対処を誤ることなく、多くの国から高い評価を受ける安定と繁栄を見るに至りました。この間、わが国の国際的地位は大いに向上し、同時に世界に果たすべき責任も著しく増大したのであります。
 しかしながら、七〇年代に生じた問題の多くは、なお未解決のまま八〇年代に引き継がれています。すなわち、石油を初めとする資源及び環境の面での制約、通商摩擦、人口の高齢化、財政収支の不均衡など、七〇年代の課題の多くは、わが国にとって今後なお根本的な対応が求められており、また、その幾つかは世界の国々とともに解決していかなければなりません。
 これらはいずれも、緊急に対処すべき当面の問題であるばかりでなく、未来を切り開くための基本的な課題であり、その解決には、何よりも厳しい自制と粘り強い努力が必要であります。私は、進んでその解決に当たり、八〇年代を二十一世紀への足固めとするため身を挺していく決意であります。
 われわれは、これまで幾たびか、創意と努力によって難関を克服してきました。厳しい試練を乗り越え、高い理想を実現する力はわれわれ自身の内にあります。私は、賢明な国民の英知と努力を結集して、わが国の未来を確実にするため全力を傾ける所存であります。(拍手)
 最近の国際情勢は、ソ連のアフガニスタンへの軍事介入、イラン・イラク紛争、ポーランドをめぐる緊迫感など、世界の各地に緊張の高まりが見られます。また、経済面でも、石油を中心とする資源・エネルギー情勢はきわめて不安定であり、産油国に資金が偏在する一方、非産油発展途上国では、貧困と失業が蔓延しています。さらに、世界の一部には、人口の爆発的な増加などによる深刻な食糧不足を生じています。
 このような状況のもと、わが国は、世界が当面するこれらの問題の解決に積極的に貢献することにより世界の平和と安定に寄与しつつ、みずからの平和と安全を求めていかなければなりません。
 近年、防衛問題に対する国民の理解と関心が高まっております。国の防衛は国家存立の基本であり、国民全体の問題として、広く建設的に論議され、国民的合意が形成されることを願うものであります。
 わが国の防衛は、平和憲法のもと、専守防衛に徹し、近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国とならず、さらに、非核三原則を国是とすることをその基本方針としています。私は、今後とも、との方針を堅持し、みずからの国はみずからの手で守る気概を持って、節度ある質の高い防衛力の整備を図りながら、日米安全保障体制を基軸として、わが国の安全を確保していく決意であります。(拍手)
 同時にまた、最近の国際情勢とわが国の立場を顧みるとき、単に防衛力の整備のみでわが国の平和と安全を確保することが困難であることも明らかであります。わが国の平和と安全を守るためには、広く外交、内政の諸施策を総合的に、かつ整合性を持って、進めていくととが肝要であります。
 そのためには、たゆまず平和外交の努力を続けていかなければなりません。とりわけ、発展途上国の抱える諸問題の解決に貢献するため、本年開催が予想される南北サミットなどに進んで参加するとともに、経済協力及び技術協力を積極的に推進していくことが重要であります。
 私は、厳しい財政再建期間中ではありますが、政府開発援助の拡充とその国民総生産に対する比率の改善に努め、そのために、今後五年間における政府開発援助に関する予算の総額を、これまでの五年間の倍以上とすることを目指すなどの措置を講じてまいります。
 また、エネルギーなどの資源及び食糧の安定的かつ円滑な供給の確保についても、世界各国との協調を図りながら、これを進めていく必要があります。
 私は、以上の考え方に立って、昨年十二月、内閣に総合安全保障関係閣僚会議を設置いたしました。今後は、この会議を通じて、各般の施策の整合性を保ちつつ、わが国の総合的な安全保障政策を進めていく決意であります。
 私は、総理大臣就任後最初の外国訪問として、このたびASEAN諸国を歴訪してまいりました。この間、各国首脳との忌憚のない意見交換を通じ、わが国とこれら諸国がいまや成熟した関係の域に達していることを痛感するとともに、わが国の平和と安全がこの地域の平和と発展に深くかかわっていることに、改めて思いを深くいたしました。私は、今回の訪問の成果を踏まえ、また、今次歴訪を通じて得たこれら諸国の指導者との信頼関係を大切にしながら、アジアの重要な安定勢力であるASEAN諸国との関係に一層の深さと広がりを求めて努力していく決意であります。なお、カンボジア問題については、国連決議にのっとり、国際会議が早期に開催されるよう、引き続き訴えていきたいと考えます。
 わが国は、戦後一貫して平和に徹し、自由と民主主義を堅持して、国力の発展に努めてきました。この間、わが国は、日米友好協力関係を基軸とし、基本的理念を同じくする西欧諸国、カナダ、豪州、ニュージーランド等自由主義国との連帯を強化しつつ、全世界に友好と協調の輪を広げていくことをもって外交の基本方針としてきました。わが国は、今後ともこの方針にのっとり、国際社会の平和と安定のため、世界が直面する諸問題の解決に最善の努力をいたします。
 まず、米国との関係についてであります。私は、このたび発足したレーガン新政権のもとで、米国が国際社会の平和と繁栄のために強力な指導力を発揮することを強く期待いたします。日米両国は、双方のたゆまぬ努力により、揺るぎない友情と信頼を築き上げるに至っていますが、レーガン新政権との間にも、一層成熟した日米関係の構築に努力してまいります。また、そうした基盤に立って、国際社会に生じた諸問題の解決に当たっても、両国間の緊密な連携のもとに、わが国に期待される役割りを果たしていく考えであります。
 EC諸国を初めとする西欧諸国との間においても、政治、経済の両面で、さらに対話と協力を進めてまいります。
 日中両国間の平和友好関係は着実に進展しており、昨年十二月には第一回日中閣僚会議が成功裏に開催されました。私は、こうした実務的な交流の深まりを通じ、安定した両国間の協力関係を発展させたいと考えております。
 一衣帯水の間にある韓国との関係は、特に重要であります。両国は近い間柄にあるがゆえに常に相互理解を深めることが必要であります。政府・は、今後とも円滑な両国関係の発展を希望し、そのため努力していく考えであります。
 ソ連との関係については、政府は、アフガニスタンへの軍事介入、北方領土での軍備強化など、遺憾な事態の速やかな是正を引き続き強く求めるとともに、北方領土問題を解決し平和条約を締結するとの一貫した基本方針のもとに、ソ連との関係を真の相互理解に基づいて発展させるため、誠意を持って対処する考えであります。(拍手)日ソ関係発展への展望を開くためにも、ソ連側がその誠意を具体的行動をもって示すことを強く期待いたします。
 全世界に友好と協調の輪を広げていく上で、国連、主要国首脳会議などの場での貢献も外交施策の主要な一環をなすものであります。政府は、この面でも、引き続き積極的に対応してまいります。
 なお、イランにおける米国人の人質問題は、関係国の粘り強い努力により平和的に解決され、その全員が無事解放されましたことを心から歓迎いたします。他方、イラン・イラク紛争は、その拡大後四カ月を経過した現在、なお、その解決の兆しさえ見えないことを深く憂慮しております。私は、両国が一日も早く戦闘を停止し、両国間の紛争を平和的に解決するように強く希望いたします。
 最近の世界の経済情勢に目を転じますと、多くの国々が、相次ぐ石油価格の上昇など困難な経済環境のもとで、景気の後退、物価の高騰あるいは国際収支面の悪化などへの対応に苦悩しています。その中で、わが国の経済は、このところ比較的順調に推移していますが、今後のわが国をめぐる経済環境は、ますます厳しさの度を増すものと思われます。ことに七〇年代の経験を通じて、もはやかつてのような高度成長を期待できる環境にないことが明らかとなった以上、今後は、石油依存体質の積極的転換を図りながら、わが国の経済を中長期的な安定成長路線に定着させる努力が必要であります。
 七〇年代後半の財政主導による経済運営の結果、大量の公債依存という財政体質が八〇年代に受け継がれ、財政の国民経済に果たすべき役割りに多くを期待できない現状にあります。自由な経済体制をとるわが国経済の中心は、民間の経済活動でありますが、特に、財政を再建してその対応力を回復させるまでの間の経済運営は、より一層民間部門を主軸とした息の長い成長に重点を置き、機動的な金融政策などによって、自由で安定した民間活動の環境を整えることに努力していく必要があります。
 このための具体的施策は、まず、物価の安定であります。物価の安定は堅実な消費と安心できる国民生活の基礎であります。また、健全な労使関係と投資環境の確保にとっても欠くことはできません。さらに、企業活動を円滑にするためには、世界各国との協調を図りながら、積極的に自由貿易体制を堅持する努力が重要であります。また、中小企業がその特性を発揮しつつ、経済の活力の源泉としての役割りを高めるよう配意し、あわせて、雇用の安定のため、きめ細かな施策を展開してまいります。
 農業については、長期的展望に立った農政のもとに、日本型食生活に即した農業生産の再編成と経営規模の拡大を軸とする生産性の向上に努め、自給力の強化を図ります。また、新時代に対応した水産業の発展を図るとともに、緑豊かな国土を保つため、森林資源の整備と林業の振興に努めてまいります。
 私は、さきの臨時国会で、昭和五十六年度予算では二兆円程度の公債減額を行いたいとの決意を明らかにしましたが、このたび国会に提出した一般会計予算では、この方針のもとに、二兆円の特例公債の減額を予定しています。このため、経費の節減合理化に努力し、国債費と地方交付税以外の一般歳出は、その増加率を四・三%と、昭和三十一年以来の低い率に抑えるとともに、全体としての歳出規模を一けたの伸び率にとどめました。
 このような厳しい歳出抑制努力の中で、エネルギー対策、科学技術の振興、経済協力など、中長期的見地から充実を図る必要のある施策には、積極的に予算を配分するとともに、社会保障、文教などの重要施策にも重点的な予算の配分に努めました。
 防衛費については、「防衛計画の大綱」に定める水準にできるだけ早く到達するとの基本方針のもとに、装備の近代化を中心に、防衛力の着実な整備を図りました。
 一方、歳入面では、極力歳出を抑制してもなお必要となる財源を確保するため、特殊法人からの国庫納付の実施など政府部内での財源調達に努めるとともに、現行税制の枠組みの中で必要な増収措置を講じました。私は、こうした措置が国民生活や企業活動にとって厳しいものであることは十分承知していますが、他方、今日の不健全な財政状態を放置し、いわゆる赤字公債の償還のために新たに赤字公債を発行しなければならないという状況に立ち至れば、国家経済はもとより国民生活にとってもゆゆしい事態となり、やがてはより大きな国民の負担となることを憂えざるを得ません。
 財政の再建は、多くの困難と忍耐を伴うものでありますが、私は、今後とも着実に再建の努力を続けていく決意でありますので、国民各位の御理解と御協力を切にお願いいたします。(拍手)
 私は、財政の再建とあわせて、行政改革の一層の推進を図ってまいります。政府は昨年末、行政事務、事業の整理委譲など、行政の減量化を中心とする新たな角度からの行政改革を実施する方針を決定しましたが、その実施に万全を期するとともに、引き続き、行政機構や定員の厳正な管理等を行ってまいります。さらに、臨時行政調査会を早い機会に発足させ、八〇年代以降の展望を踏まえ、あらゆる角度から行政の適正かつ合理的なあり方は何かを問い直し、官業と民業の役割り分担、国と地方の事務配分、あるいは府県単位などの国の出先機関のあり方等、行政の基本的制度とその運営について同調査会に御検討願うこととしています。また、政府はその結論を尊重し、順次実行に移す決意であります。
 最近の国際石油情勢は、イラン・イラク紛争の長期化、先般のOPEC総会における原油価格の引き上げ決定など依然として懸念材料が多く、また、中長期的にも、石油を温存したいという産油国の姿勢、中東政治情勢の不安定などから、緊迫した状態が続くものと思われます。
 こうした状況のもと、わが国は、第一次石油危機の教訓を生かし、国民は冷静に対応してきております。また、石油消費節減意識の浸透、高水準の備蓄などの裏づけもあって、当面、供給面の不安はありません。
 しかしながら、中長期的な見地に立てば、わが国の基盤の弱いエネルギー供給構造をそのまま次代に引き継ぐことは許されません。また、自由世界の石油消費の一割を占めるわが国が、エネルギー問題に真剣に取り組むことは、国際的な責務でもあります。
 私は、エネルギーの節約、原子力を初めとする石油代替エネルギーの供給目標の達成及び石油の安定供給の確保等の基本政策を総合的に実施することが現下の急務であると考え、安全性の確保と環境の保全にも十分留意しながら、積極的に次の諸施策を進めてまいります。
 まず第一に、石油消費の節約を一層徹底することとし、昭和五十六年度の節減目標量を二千五百万キロリットル以上といたしました。この目標達成のため、政府は国民各位とともに真剣に努力いたします。
 第二に、省エネルギー及び代替エネルギー関係投資を促進し、国民の理解と協力を求めつつ、原子力を初めとする電源立地の促進に努めます。
 第三は、エネルギー関係の技術開発であります。省エネルギー関係技術や、石炭の液化、地熱、太陽熱利用などの技術開発を進めるとともに、核燃料サイクルの確立の推進、新型炉の開発など長期的観点に立った原子力の利用について、より積極的に研究開発を進めます。
 第四は、国際協調に基づいた石油の安定供給の確保であります。このため、先進工業国間での協力関係を確立するとともに、中東を初めとする産油国と絶えず話し合って相互理解を増進し、経済協力、技術及び資本の交流等により相互依存関係の強化を図ります。
 わが国が今後直面する幾多の制約を打開するかぎとなるのは、科学技術の振興であります。科学技術の進歩は、経済発展の原動力であり、国民生活向上の基盤であります。
 わが国は、幸い、国民の高い知的能力に恵まれています。私は、この貴重な国民的資質を十二分に活用して、独創的な科学技術を振興し、民族発展の可能性を切り開き、世界の進歩に貢献することがわれわれの世代に課せられた責務であると考えます。(拍手)
 私は、このような観点に立って、宇宙開発から生命科学に及ぶ広い分野にわたり、また、基礎研究から実用化に至る各段階の連携を保ちながら、次の世代に引き継ぐ科学技術の発展を図ってまいります。そのため、来年度予算において、科学技術振興調整費の制度を創設するなど、施策の充実に努めました。
 わが国は、世界に例を見ない速さで人口の高齢化が進んでいます。二十一世紀への基礎づくりのためには、この問題に真剣に取り組まなければなりません。人口構造の変化による社会の高齢化の進展は、単に老人問題の深刻化にとどまらず、社会の仕組み、生活のあり方全体にかかわる問題であります。八〇年代は、来るべき人生八十の時代に備え、健康、家庭、雇用、教育、住宅、地域社会等々、各般の問題に新たな角度から取り組み、高齢化によって社会の活力が失われないよう備えを固めていく必要があります。
 私は、このような見地から、高齢者の就労機会の確保と健康に配慮してまいります。あわせて、年金、医療など、福祉に関する諸制度について、高齢化社会にふさわしい給付の実現と負担の公平に重点を置いた見直しを進めてまいります。このうち、老人保健医療制度については、今国会に所要の法案を提出するよう検討を進めております。
 また、今年は国際障害者年であります。私は、この機会に、社会的、経済的に真に恵まれない立場にある人々に対しては、一層きめ細かな配慮のもとに福祉の充実を図り、わが国をこれまで以上に温かい思いやりに満ちた社会とするよう努めてまいります。このため、来年度は、心身障害者、老人、母子世帯等に対して、福祉年金の改善、社会福祉施設と在宅サービスなどの施策の充実を図ることにしています。
 思いやりは、ゆとりのある心と生活から生まれます。ゆとりのある心と生活は、自然と人間の調和した環境によって培われます。広く地球的な視野に立った環境問題への取り組みの中で、汚染の未然防止のための施策並びに制度の推進等環境の改善に努めるとともに、生活の質と利便の向上のため、各種の社会資本の充実を図り、豊かで潤いのある地域社会を築き、災害から住民を守り、健全な生活の基盤にふさわしい住居と職場の環境を整備することによって、ゆとりと思いやりに満ちた社会を実現したいと思います。(拍手)
 なお、この冬、豪雪による被害が相次いでおります。政府は、豪雪対策本部を設置し、除雪の推進、生活物資の確保等の各般の対策の実施に全力を挙げていますが、今後とも、住民生活の確保を図るため、雪害対策に万全を期してまいります。(拍手)
 われわれの目指す充実した社会は、物質的豊かさのみでは築くことはできません。その根幹となるのは、豊かな人間性であります。
 ことに、二十一世紀を担う青少年については、家庭、学校そして社会を通じ、その個性と創造力を開発するとともに、わが国の文化と伝統に誇りを抱き、進んで世界に開かれた視野を持った国民に育てていかなければなりません。
 教育の大本は、親子、師弟の情愛にあります。昨今の家庭内、学校内での暴力の頻発は、憂うるべきものがありますが、私は、深い愛情と信頼と、これに裏づけられた厳しさを持って、社会全体で、青少年の健全育成に当たらなければならないと考えます。(拍手)
 また、最近の覚せい剤事犯や青少年非行の増加は、経済的豊かさの中で精神面の成熟がおくれていることのあらわれであり、見逃し得ない問題であります。このような社会の病理現象は、その徴候の初期に芽を摘み取らなければなりません。政府は、この対策に最善を尽くしますが、健康で安全な社会を築くため、広く国民各位の御協力をお願いいたします。
 一たび社会の秩序が乱れると、その回復が容易でないことは、多くの先例によって明らかであります。長い伝統に培われた健全で安定した社会を大切に保ち、一層みがき上げて二十一世紀に引き継ぐため、国を挙げて努力したいと思います。
 清潔かつ公正な政治と行政は、社会秩序の基礎であります。政治の倫理を確立し、行政の綱紀を維持することによって、国民の社会及び国家への信頼を高めるため、政治と行政に携わるすべての者が自戒の念を持って事に当たらなければなりません。
 政治倫理の確立に資するため、私は、さきの臨時国会以来検討されている倫理委員会の設置について、各党各会派の間で速やかに建設的な合意が得られることを期待いたします。
 また、多年の懸案である選挙制度の改革については、現在国会で審議されている選挙運動の規制に関する公職選挙法の改正案の早期成立を願うものであり、また、参議院全国区制の問題や政治資金のあり方の問題等についても、引き続き各党各会派の間で十分に論議を尽くし、成案が得られるよう切望いたします。
 以上、私の施政の方針について述べてまいりました。
 私は、わが国が、戦後、ここまで発展し得たのは、平和と民主主義、基本的人権の尊重と自由経済体制のもとで、国民がその能力を存分に発揮してきた成果であると思います。(拍手)
 私は、こうした認識に立ち、和の精神を持って、新しい時代に生きる国民の未来を切り開くための施策を一歩一歩着実に進めてまいります。
 私は、また、これからの日本が、活力にあふれ、ゆとりに満ちた安定感のある国家に成熟し、国際社会で期待される責任を着実に遂行し、一段と厚い信頼と尊敬を得られるよう、全力を傾ける決意であります。(拍手)
 国民の皆様の賢明な御理解と御支援を切にお願いいたします。(拍手)
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○議長(福田一君) 外務大臣伊東正義君。
    〔国務大臣伊東正義君登壇〕
○国務大臣(伊東正義君) 第九十四回国会が再開されるに当たりまして、わが国外交の基本方針につき所信を申し述べます。
 わが国外交は、特に昨年一年、波乱に富んだ国際情勢に対処してまいりましたが、これはかつてないほど国民各位の御理解と御支援を必要とするものでありました。わが国が、数々の試練にもかかわらず、平和で安定した国民生活を確保するための外交を推進することができましたことは、国民各位の御協力のたまものであり、ここに改めて感謝申し上げます。
 今日の国際社会の顕著な傾向は、各国間の相互依存関係を支える国際秩序が、政治面でも経済面でも不安定化の様相を示していることであります。政治面では、ソ連のアフガニスタン侵攻を契機として、東西間のデタントは大幅に後退しております。中東地域やインドシナ半島で継続している地域的紛争も、全世界的な影響を及ぼしつつあります。経済面では、たび重なる石油価格の上昇が要因の一つとなって世界経済は低迷し、それがIMF、ガットを中心とする国際経済秩序を大きく揺るがせております。こうした背景のもとで、多くの開発途上国において経済的困難が増大しつつあり、また、このような困難が政治的不安定の要因ともなっております。
 かくして、世界が直面している焦眉の問題は、いかにして調和のとれた国際秩序を再構築し、国際社会の方向を安定と発展の軌道に乗せるかということであります。そのためには、米ソ二超大国が大きな責任を有していることはもとよりでありますが、あわせて、国際社会のすべての構成員がおのおのその責任と役割りを自覚して、最善の努力を払うことが必要であります。
 わが国がそのような責任と役割りを積極的に果たしていかなければならないのは、単に、国際社会の有力な一員としてのわが国に対する期待が高まっているという理由からだけではないのであります。それは、わが国が平和国家を国是とし、資源にも乏しく、したがって平和で安定した国際環境の中でのみ、その安全と繁栄を確保し得る立場にあることからも当然であります。政府としましては、このような認識に立ってわが国平和外交の具体的展開を図ってまいる決意であります。特に、わが国としては、国際連合の役割りを重視し、安全保障理事会非常任理事国として、国連の平和維持機能の有効な発揮とその一層の強化のため、積極的かつ建設的な貢献を行ってまいる所存であります。
 わが国外交の基盤は、揺るぎない相互信頼に裏打ちされ、日米安保体制を基軸とする日米友好協力関係にあります。自由と民主主義を共有する日米両国の関係は今日世界的な広がりを有しており、国際社会の直面する諸問題の解決のために、おのおのがみずからにふさわしい責任と役割りを果たしていかなければなりません。そのためにも、レーガン新政権と引き続き緊密な対話と協力を保ってまいる所存であり、私もできるだけ早い機会に訪米したいと考えております。
 今日、日米関係は、イラン、アフガニスタン問題等への対応、あるいは双方のたゆまぬ努力による個別経済問題の解決に見られるように、かつてないほど良好な状態にあります。今後両国の間にいかなる問題が生じようとも、両国は、これまでと同様、その円滑な解決を図っていく意思と能力を有していると確信をいたしております。
 日加関係は近年急速に発展してまいりましたが、その重要性にかんがみ、両国がその関係を多角的に発展させていくことが肝要であります。
 わが国と地理的にも近く、歴史的にも緊密なかかわりを有するアジア地域は、わが国にとってとりわけ重要であり、同地域の平和と発展のために政治、経済的な役割りを積極的に果たしていくことは、わが国外交の重要な柱であります。
 この観点から、私は、昨年外務大臣就任早々アジア諸国を歴訪し、また、このたびは、鈴木総理大臣自身が総理就任後初の外国訪問としてASEAN諸国を公式に歴訪いたしたのであります。わが国は、ASEAN諸国の発展と地域的連帯の強化がアジアの平和と安定、ひいては世界の平和と安定に大きく貢献することを確信し、「ともに考え、ともに努力する」との基本的精神に立脚して、これらの諸国との協力と信頼の関係の発展に不断の努力を払ってまいる考えであります。
 今日、アジアの平和と安定に大きくかかわる問題にカンボジア問題とインドシナ難民問題があります。わが国としては、カンボジア問題について、外国軍隊の全面的撤退、カンボジアの主権、独立及び領土保全の尊重等を求めた国連総会決議にのっとり、同問題の早期平和的解決がもたらされるよう、今後ともASEAN諸国とともに積極的に努力してまいる所存であります。今般の総理ASEAN諸国訪問の際、わが国は、国際連合事務総長がカンボジア問題解決のために国際会議を招集すべく、早急に必要な措置をとることを要請いたしました。なお、インドシナ地域に恒久的な平和が実現した暁には、その復興のためできるだけの協力を行う考えであります。また、現在の情勢では、ベトナムに対する援助を再開する環境にないことを遺憾とするものであります。
 私は、昨年八月、タイにおいてカンボジア難民キャンプ及びタイ被災民の村を訪問し、親しくその実情に触れ、インドシナ難民問題の重要性を痛感した次第であり、政府としては引き続き難民の窮状打開のために協力する方針であります。
 私は、外務大臣として二度にわたり訪中するなど、中国側首脳との意見交換の機会を重ねてまいりました。特に昨年十二月の第一回閣僚会議における忌憚のない意見交換は、両国間の友好協力関係がいまや実務的な基盤にたった新たな段階を迎えたことを明らかにするものでありました。わが国としては、中国が現在進めている近代化の努力に対しできる限りの協力を行い、日中間の友好のきずなを強めていくことが、広くアジアの平和と安定に貢献するものであると確信をいたしております。
 朝鮮半島の平和と安定は、わが国の安全と東アジアの安定に重要なかかわりを有しております。わが国は、同地域の安定確保と緊張緩和のための環境づくりに今後とも積極的に協力する所存であります。また、わが国としても、実質的な南北対話が速やかに再開されることを強く希望するものであります。
 韓国においては、昨年秋、新憲法が公布され、各般の改革措置が進められております。わが国としては、同国の安定と発展への努力が着実に成果を上げることを期待するとともに、日韓両国の間に引き続き円滑な友好協力関係を維持発展させてまいりたいと考えております。北朝鮮との関係については、今後とも貿易、経済、文化等の分野における交流を漸次積み重ねてまいる考えであります。
 わが国にとって大洋州地域の重要性は近年特に高まりつつあります。わが国としては、同地域の平和と繁栄を分かち合うために、今後とも、豪州、ニュージーランド及び経済社会開発に努める南太平洋島嶼国と友好協力関係を進めてまいる所存であります。
 アジア・太平洋地域諸国間の協力を促進し、この地域の平和と繁栄に貢献することは、わが国外交の重要な課題であります。わが国は、このような努力の一環として、関係諸国との密接な協議のもとに、二十一世紀に向けての長期的課題として環太平洋連帯構想の推進に努めており、今後とも内外における民間の機運の盛り上がりを支援してまいる考えであります。
 昨年十二月私は西欧五カ国及びEC委員会を訪問し、先方首脳と親しく意見の交換を行い、相互理解と信頼の度合いを深め得たことは大きな成果でありました。わが国が、共通の政治、経済上の理念を有する西欧諸国との間で政治、経済、文化等広い分野での協力を推進していくことは、今日のごとき厳しい国際情勢のもとでは特に重要であります。今後ともかかる対話と協調の努力を継続してまいる所存であります。日欧経済関係についても、貿易不均衡等の諸問題の着実な解決を図り、経済問題が政治問題化し、日欧協調関係全般に影響を与えることのないよう努めてまいりたいと考えております。
 ソ連は、わが国の重要な隣国でありますが、両国関係は、ソ連のアフガニスタンへの軍事介入、北方領土での軍備増強などへきわめて遺憾な事態により、引き続き困難な局面にあります。私は、昨年の国連総会等あらゆる機会をとらえまして、ソ連に対し、かかる事態を速やかに是正するとともに、日ソ間の最大の懸案である北方領土問題を解決して、平和条約を締結するよう強く求めております。政府としては、かかる一貫した基本方針にのっとり、ソ連との関係を真の相互理解に基づいて発展させるべく、引き続き粘り強い努力を払っていく決意であります。このような日ソ関係発展への道を開くためにも、ソ連側において、みずから強調してやまない善隣友好を言葉の上だけでなくて、誠意のある具体的行動で示すよう切望する次第であります。
 東欧諸国との関係については、政府としては、相互理解の増進と友好関係の発展のため、さらに一層の努力を払ってまいる方針であります。最近のポーランドをめぐる情勢については、先般の訪欧の際にも各国との間で意見交換を行いましたが、その進展いかんによっては、欧州のみならず全世界の平和と安定に深刻な影響を及ぼす可能性があると言わなければならないのであります。ポーランドの問題は、外部からのいかなる干渉にもよることなく、ポーランド国民自身の手によって解決されるべきものであります。
 中近東地域は、世界の主要なエネルギー源供給地として、また東西均衡の観点から、きわめて重要な地域でございます。わが国としては、同地域諸国の安定と発展に貢献するため、経済面での協力のみならず、政治的対話や人的、文化的交流を一層強化していく所存であります。
 中東和平問題については、私は、昨年秋の国連総会に出席し、あるいは十二月のエジプト訪問等、機会あるたびに、関係諸国首脳との率直な意見交換を行い、問題の平和的な解決を呼びかけてまいりました。わが国としては、今後とも関係諸国の和平努力に協力し、公正かつ永続的な中東和平の早期実現に貢献してまいる所存であります。特に、問題の核心であるパレスチナ問題については、パレスチナ人の自決権とイスラエルの生存権が相互に認められることが、これは不可欠の問題であり、改めて、このことを強調いたしたいと思います。
 一年以上にわたった在イラン米国大使館員人質事件が、今般関係国の努力により平和裏に解決され、人質全員が無事解放されたことを心から歓迎するものであります。わが国としては、この機会に改めて、各国が国際社会の基本的諸原則を遵守することの必要性を強調いたしたいと思うのでございます。
 イラン・イラク紛争については、わが国は繰り返し両国に対し、戦闘を一日も早く停止し、紛争の平和的な解決に向け努力するよう要請しております。同紛争の拡大防止、平和的解決のための国際的努力に対しては、わが国としてもできる限りの協力を惜しまないものであります。
 アフガニスタンにおいては、すでに一年以上にもわたってソ連の軍事介入が続き、いまだ解決の糸口すら見出し得ていないことは、まことに遺憾であります。わが国としては、米国を初めとする友好諸国との協調、連帯のもとで、アフガニスタン国民がみずからの手で国内問題を解決し得るよう、ソ連軍の即時無条件全面撤退を今後とも粘り強く求めていく考えであります。
 近年、南西アジア地域が世界の平和と安定にとって有する重要性は急速に増大しており、特にパキスタンはアフガニスタン問題の影響を直接にこうむるに至っております。わが国としては、同地域諸国の政治的、経済的自立強化のための努力に対しできる限りの協力を行い、この地域の安定的発展に貢献をしていく決意であります。
 中南米は、移住を通じ古くからわが国になじみの深い地域であります。広大な土地と人的、物的資源に恵まれた同地域の重要性は今後さらに高まることが予想され、わが国としても同地域諸国との関係の緊密化に一層努力してまいる所存であります。
 アフリカ諸国では国づくりの基礎を固めるための努力が払われております。このようなアフリカ諸国の努力に対する積極的協力を通じて、近年緊密化しつつあるこれら諸国との友好関係を一層強化していきたいと考えております。ナミビア問題については、その早期平和的解決を強く希望するものであります。
 世界経済は、二度にわたる石油危機を背景に、インフレ、低成長、国際収支の不均衡、保護主義圧力の増大等の諸問題を依然として抱えており、その解決は容易ではありません。かかる困難を克服し、世界経済の持続的成長を達成するためには、わが国を含む先進工業国が、主要国首脳会議等の場を通じて国際協調を一層推進し、需要面での政策のみならず、労働生産性やエネルギー効率の向上、経済の体質改善等、供給面での政策を進めていく必要があることを改めて強調したいと思います。
 イラン・イラク紛争の長期化に伴い、石油市場の不安定化が懸念されております。先進消費国は、石油市場安定化のためIEAの場を中心として諸施策を講じていますが、特にわが国は、自由世界第二の石油消費国としての立場と責任を十分認識して行動しなければなりません。また、わが国と産油国との間の建設的な協力関係の構築を通じて、石油供給の安定化、多角化を図ることが必要であり、さらに、石炭、天然ガス、原子力等の代替エネルギーの開発利用のための国際協力を一層推進する必要がございます。わが国のエネルギーの安全保障は、かかる国際協調を通じて初めて可能となるのであります。
 南北問題は近時一層重要性を増しており、開発途上国側の要求は国際経済秩序の改変の問題にまで至っております。政府としては、この問題の深刻さを十分に認識し、目下開催準備が進められている南北サミット、国連南北交渉ラウンド等の場を通じて積極的に南北対話に参加し、建設的な南北関係の構築に貢献をしていく決意であります。
 南北問題解決への努力の一環として、経済協力は特に重要であります。経済協力は、平和国家であり、大きな経済力を有するわが国が世界の平和と安定に寄与し得る主要な分野であります。これは、わが国の広い意味での安全保障の確保のためにも必要であり、わが国が近年パキスタン、トルコ、タイ等の紛争周辺国への援助を拡充しているのは主としてかかる観点からであります。また経済協力は、開発途上国との友好増進を図る上でも重要であります。
 わが国は、政府開発援助を三年間で倍増するとの中期目標を最終年に当たる昨年、かなりの余裕を持って達成したのであります。政府は、今後とも政府開発援助を積極的に拡充し、引き続きそのGNP比率の改善を図り、一九八一年から五カ年間の政府開発援助実績総額を、一九八〇年までの五カ年間の総額、これは百七億ドル程度に達すると見込まれるのでございますが、この総額の二倍以上とするよう努力をいたす所存であります。このため、政府開発援助に関連する国の予算を、同じ五カ年間の比較において、二倍以上とすることを目指す所存でございます。また、政府借款の積極的拡大を図り、国際開発金融機関からの出資等の要請に対し積極的に対応する方針であります。
 同時に、援助の質的改善にも引き続き努力する方針であります。また、わが国は、引き続き人道援助、人づくり協力、農村開発、エネルギーの各分野における援助を重視をしていく考えでおる次第であります。
 さらに、多くの開発途上国が多大の関心を有しております一次産品問題における最近の特記すべき進展は、一次産品共通基金の設立協定が合意されたことであります。わが国は、今後とも同基金の早期発足とその円滑な運営のため積極的な貢献を続けていく所存であります。
 わが国の安全を確保するためには、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用と、あくまでも専守防衛を旨とする節度ある質の高い自衛力の整備が必要であります。(拍手)
 他方、わが国の安全と繁栄の総合的な確保のためには、平和で安定した国際環境をつくり出すための努力が不可欠であり、そのための外交の重要性はますます高まっておるのであります。経済協力の積極的な推進、エネルギー・資源面での国際協調、科学技術分野における国際協力等がこのような外交努力の重要な一環であることはもとよりであります。また、わが国は、軍縮、軍備管理面での国際的努力が世界の平和と安定に不可欠であるとの強い認識を持っております。わが国としても、平和国家として、また核不拡散条約の当事国として、核軍縮を中心とする軍縮の促進のために一層大きな役割りを果たしてまいる決意でございます。(拍手)
 今日の国際社会においては、各国間の相互依存関係の深まりが必ずしも相互の文化的、社会的事情に対する十分な理解を伴っておらず、このことが国際関係を必要以上に複雑化し、国家間の摩擦を増大させる一因となっております。特に、その存立と繁栄を諸外国との円滑な関係の維持発展に依存しているわが国としては、文化交流、広報活動等を通じて諸外国との相互理解の増進を図っていくことが外交の基本的な課題の一つとなっております。政府としては、この面での事業を引き続き積極的に推進してまいる所存であります。
 以上のとおり、わが国外交はきわめて広範な分野において多くの課題に直面しております。この関連で、私が最後に申し上げたいことは、わが国がこのような外交課題に今後一層適切かつ強力に対処していくための外交実施体制の整備の重要性についてでございます。特に、今日の流動的な国際情勢を的確に把握するため、情報収集機能を一層強化する必要があります。また、経済、文化等の交流増大に伴って近年著増している海外邦人の生命財産の保護の観点からも、在外公館の機能強化が焦眉の問題になっております。政府としては、かかる外交機能強化のため可能な限りの措置を講じていく方針であります。
 昨今の厳しい国際情勢のもと、政府としては、自由主義諸国との連帯を堅持しつつ、国際秩序の安定化を求め、この中でわが国の安全と繁栄を確保するという一貫した外交を強力に展開していく決意でございます。
 ここに国民各位の一層の御理解と御支援を求める次第でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(福田一君) 大蔵大臣渡辺美智雄君。
    〔国務大臣渡辺美智雄君登壇〕
○国務大臣(渡辺美智雄君) ここに、昭和五十六年度予算の御審議をお願いするに当たりまして、その大綱を御説明申し上げ、あわせて当面の財政金融政策の基本的な考え方について、私の所信を申し上げさせていただきます。
 昭和五十六年度予算は財政再建元年予算であります。前年度予算で第一歩を踏み出した財政再建をさらに一段と進めて、本格的な軌道に乗せることができたと考えております。
 顧みれば、第一次石油危機後の停滞する経済の中で、景気の回復と国民生活の安定を図るため、わが国財政は、あえて大量の公債の発行という非常手段によって主導的な役割りを果たし、わが国経済を高度成長から安定成長へ円滑に移行させる土で、世界にもまれな成果を上げてまいりました。(拍手)
 しかしながら、その反面、国の財政収支は巨額の赤字に陥り、いまだに特例公債を含む大量の公債に依存をせざるを得ない状況が続いております。
 公債による財源の調達は、いつかは国民の負担によって、利子をつけて返さなければならない債務を負うことであります。しかるに、それは増税による財源調達と異なって、国民にとって当面の負担感がないということから、公債依存の財政下では、どうしても財政に対する期待が過大なものとなりがちであります。
 しかも、第一次石油危機以前の十数年にわたる恵まれた高度経済成長下に根づいた財政への過大な依存の風潮は、国民と政府があたかも別なものであるかのごとき感を抱かせるほど強いものでありました。そして、遺憾ながらいまだに高度成長時代の惰性が断ち切られていないというのが実情であると存じます。かかる環境のもとでは、とかく財政に対する要求を抑えるということよりも、公債にまる財源調達という安易な道に流れやすいことは、否めない傾向であります。
 しかしながら、個人の生活や企業活動の面では、すでに安定成長時代への適応が進んでいるのにもかかわらず、財政だけがいつまでも過大な期待にこたえていくことは不可能であります。
 いまや、社会経済情勢の変化に対応した新たな施策を講ずる力を財政が失い、また、公債残高の累増は、経済金融政策の円滑な運営に大きな影響を及ぼすに至りました。
 一方、遠からず高齢化社会の到来が予見されており、また、流動的な社会経済情勢の変化に即応するため、財政の果たすべき役割りが一層重要度を加えていくものと考えています。したがって、そのときどきの要請にこたえて、国民が豊かで平和な日々を送ることができるように、一刻も早く公債依存体質から脱却をして財政の対応力を回復しておくことがぜひとも必要であります。
 財政再建は鈴木内閣に与えられた使命であり、私に課せられた最大の責務でもあります。
 このような考え方に立ち、昭和五十六年度予算の編成に当たりましては、公債発行額を、前年度当初予算よりもさらに二兆円減額することを基本方針といたしました。
 このため、歳出面におきまして、一般行政経費を極力抑制するとともに、政策的経費についても根底から見直すなど、節減合理化に格段の努力を払いました。
 さらに、行政の整理簡素化を積極的に進め、その減量北を図る現地から事務・事業の整理、委譲を行うほか、昭和五十五年行政改革を引き続き着実に実施することといたしました。
 また、歳入面におきましても、特殊法人からの国庫納付金などを実施もて税外収入の増収を図るとともに、現行税制の基本的枠組みの中で、相当規模の増収措置を講ずることとし、法人税を初めとする五税目について税率の引き上げ等を行うことにいたしております。
 このような歳出面における思い切った節減合理化と、歳入面における徹底した見直しにより、昭和五十六年度予算は、財政再建元年予算と言えるものになったのであります。
 しかし、すでに六年間続いてきた公債依存体質は、単年度で治癒し得るものではありません。財政再建を引き続き前進させていくためには、歳入歳出両面を通じて、施策の水準がいかにあるべきか、費用の負担はいかにあるべきか、その相互の関連性を十分念頭に置きながら考えていく必要があります。たとえば、高福祉を望めば高負担は避けられません。
 予算は有限であります。欲望は無限であります。
 国の施策により利益を受けるのも、その費用を負担するのも同じく国民であります。財政の健全化の達成は、財政を支える国民各位の御理解と御協力によらざるを得ません。
 国民各位に切にお願いを申し上げる次第でございます。
 昭和五十六年度予算は、以上述べました基本的な考え方に立って編成をいたしました。
 その大要は、おおよそ次のとおりであります。
 第一に、歳出面におきましては、経費の徹底した節減合理化に努め、特に国債費及び地方交付税交付金以外の一般歳出を極力圧縮することによって、全体としての規模を厳しく抑制し、一般会計予算の前年度当初に対する伸び率を一けたにとどめました。
 このため、各省庁の経常事務費を初めとする一般府政費を極力抑制するとともに、政策的経費についてもい既存の制度、慣行にとらわれず根底から見直しを図りました。また、各種施策の優先順位を厳しく検討した上で、限られた財源の重点的、効率的な配分を行い、歳出内容の質的充実に努めたところであります。補助金等については、昭和五十四年末に決定された整理合理化計画に基づいて整理目標の達成に努めるとともに、積極的に減額、統合、終期の設定等を推進してまいりました。
 さらに、国家公務員の定員については、計画的な削減を着実に実施するとともに、増員を極力抑制し、国家公務員数の縮減を図ったところであります。
 これらの結果、一般会計予算の規模は、前年度当切に比べて九・九%増の四十六兆七千八百八十一億円となっております。また、このうち一般歳出の規模は、前年度当初予算に対して四・三%増の三十二兆五百四億円であります。一般会計予算の伸びが一けたにとどまったのは昭和三十四年以来二十二年ぶりであり、一般歳出の伸びが五%以下にとどまったのは昭和三十一年度以降実に二十五年ぶりのことであります。
 第二、税制面におきましては、現行税制の基本的枠組みの中で相当規模の増収措置を講ずることといたしまして、法人税率の一律二%引き上げを初めとして、酒税、物品税、印紙税及び有価証券取引税の各税について、税率の引き上げ、課税対象の拡大などを行うことといたしております。
 所得税については、その負担水準の現状や財政の実情にかんがみ、一般的に負担を軽減することは見合わせざるを得なかったところであります。しかしながら、最近における社会情勢の変化に対応して、財源面の制約をも考慮しつつ、家計を助ける主婦などに対する配慮といたしまして控除対象配偶者の適用要件を改正するなどの税負担の調整を図ることとしたのであります。
 また、租税特別措置については、期限の到来する花のを中心に洗い直しを図り、交際費課税を強化するとともに、エネルギー対策の促進に資するため所要の税制士の措置を講ずることといたしました。
 以上のほか、税務執行面における公平確保の観点から、脱税の場合の賦課権の除斥期間を延長する等の措置を講ずることといたしております。なお、税の執行に当たりましては、国民の信頼と協力を得て、今後とも層一層適正公平な税務執行を実現するよう、不断の努力を払う所存でございます。
 第三に、公債につきましては、さきに申し上げましたように、その発行予定額を前年度当初より二兆円減額することとして、十二兆二千七百億円といたしました。この結果、公債依存度は二六・二%となり、前年度当初予算の三三・五%よりも七・三%依存度が低くなったのであります。この二兆円の減額は、そのすべてを特例公債の減額によっておりますので、特例公債の発行予定額は五兆四千八百五十億円となり、建設公債の発行予定額は前年度当初予定額と同額の六兆七千八百五十億円となっております。
 特例公債の発行等につきましては、別途、財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律案を提出して、御審議をお願いすることといたしております。
 また、公債の円滑な消化に配慮いたしまして、資金運用部資金による引き受けを前年度当初予定より一兆円増の三兆五千億円とし、国債引受団による引受予定額を前年度当初予定よりも二兆七千六百億円圧縮いたしまして七兆百億円にとどめたのであります。
 第四に、財政投融資計画につきましては、限られた原資事情にかんがみ、対象機関の事業内容、融資対象等を見直しまして、規模の抑制を図るとともに、重点的、効率的な資金配分に努めることといたしたのであります。
 この結果、昭和五十六年度の財政投融資計画の規模は、十九兆四千八百九十七億円となって、前年度当初計画に比べて七・二%の増加となっております。
 第五に、主要な経費について申し上げます。
 まず、社会保障関係費につきましては、今後の高齢化の進展等に備え、一律総花主義を排し、社会的公正の確保を旨として、給付の重点化、適正化を図るとともに、負担の公平化を着実に進め、社会保障施策を重点的に推進していくことといたしております。
 このため、老齢福祉年金及び児童手当につきましては、比較的裕福な世帯の方にはできる限り自助の考え方に立って対処していただくこととして所得制限の適正化を図る一方、障害福祉年金等につきましては、所得制限を緩和することといたしました。また、社会的、経済的に弱い立場にある心身障害者、老人、母子世帯、低所得者世帯につきましては、重点的に給付の改善を図るなど、社会福祉諸施策を着実に推進していくことといたしております。
 医療費につきましては、人口の老齢化、医療の高度化等に伴い、今後とも必然的に増加し、それにつれて国民の負担も増加することが予想されるだけに、いやしくも乱診乱療、不当不正請求にわたることのないようその効率化、適正化を図ることが重要であります。このため、医療機関に対する指導、監査の強化を初め、社会保険診療報酬請求書の審査の改善充実、高額医療機器の適正配置と共同利用の促進、医療費通知の充実など、各般の施策を講ずることといたしております。一方、医療供給の面では、僻地・救急医療等の整備を初め、難病対策の拡充、がん研究体制の整備など、一層の充実を図っております。
 さらに、雇用対策につきましては、高年齢者、心身障害者等の雇用安定のための諸施策に意を用いているところであります。
 文教及び科学振興費につきましては、公立文教施設の事業量の見直しを図りつつ、小中学校校舎の改築や、高校新増設建物に対する国庫補助制度の継続等に十分配慮するほか、私立学校に対する助成、新大学の創設など各般の教育施策について着実な進展を図ることといたしております。
 また、科学技術の振興につきましては、資源に乏しいわが国が今後一層の発展を遂げるためには、その着実な充実を図る必要があるとの長期的展望に立ちまして、時代の要請に応じたプロジェクトの推進、基礎研究の充実等に重点的に配慮いたしております。
 次に、エネルギー対策につきましては、厳しい国際石油情勢のもとで、国民生活の安定と経済の着実な発展を確保する観点から特段の配慮を行い、石油の安定的供給の確保、石油代替エネルギーの開発利用、地元福祉に配慮した電源立地の円滑化及び省エネルギー対策等の諸施策を積極的に推進することといたしております。
 経済協力費につきましては、国際社会の一員としての責任を果たしていくために、二国間無償援助及び技術協力予算を中心に大幅な増額を図るとともに、国際機関に対する分担金等について応分の協力を行うことといたしました。
 防衛関係費につきましては、「防衛計画の大綱」に基づき、国際情勢にも配慮し、経済財政事情等を勘案しつつ、質の高い防衛力の着実な整備に努めることとし、特に装備の更新、近代化を図るとともに、基地周辺対策を推進することといたしております。(拍手)
 公共事業関係費につきましては、厳しい財政事情にかんがみ、引き続き抑制を図ることとし、国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に配慮しながら、その総額においては前年度と同額にとどめることといたしました。
 中小企業対策費につきましては、中小企業の経営力の一層の強化、地域中小企業振興施策等の充実に努めるとともに、中小企業金融を円滑に進めるため、政府系中小金融三機関に対する出融資の拡充及び信用補完制度の拡大を図ることとしました。
 以上のほか、総合的な食糧自給力の向上と農林水産業の健全な発展を図ることを基本として、食糧管理費につきましては、米の需給均衡を図るため水田利用再編対策の大幅な見直しを行う一方、米麦の政府売り渡し価格の改定等の措置を講じ、財政負担の軽減を図ることとしました。また、引き続き地域農業生産の再編成、沿岸漁業の振興、林業活動の促進等に必要な経費を計上いたしております。
 日本国有鉄道の財政再建問題につきましては、昨年、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が制定されましたので、昭和五十六年度においては一万一千人に及ぶ定員削減等の思い切った経営合理化を推進することとし、さらに運賃等の改定を見込み、これらとあわせて必要な助成措置を講じることといたしております。
 第六に、地方財政対策について申し上げます。
 昭和五十六年度の地方財政につきましては、一兆三百億円の財源不足が見込まれます。これに対して、一般会計から臨時地方特例交付金、資金運用部資金からの借り入れ及び建設地方債の増発等によって所要の財源を確保し、その運営に支障が生ずることのないよう配慮しております。これらの結果、地方団体に交付する地方交付税交付金の総額は八兆七千百六十六億円となります。
 この際、私は、地方公共団体に対しましても、財政再建に向けて、国と同一の姿勢によって、歳出の節減合理化を推進し、財源の重点的かつ効率的配分を行うよう強く要請するものでございます。(拍手)また、これに関連して、定員及び給与についての適切な管理を行うよう、あわせてお願いしたいと考えております。
 次に、この機会に、さきに提出いたしました昭和五十五年度補正予算について一言申し上げます。
 歳出につきましては、農業保険費、災害復旧等事業費等、当初予算作成後に生じた事由に基づいて特に緊要となった事項について措置を講ずることといたしました。
 これらの措置に必要な歳出の追加額は一兆二千八十四億円でありますが、他方、既定経費の節減等によって一千百五十九億円の修正減額を行うことといたしましたので、この補正による歳出総額の追加は一兆九百二十五億円となります。
 歳入につきましては、最近までの収入実績等を勘案し、租税及び印紙収入について七千三百四十億円、専売納付金等税外収入については三百二十億円、それぞれ増収を見込むとともに、前年度剰余金受け入れ三千二百六十五億円を計上しております。
 以上によりまして、昭和五十五年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算に対して一兆九百二十五億円増加して四十三兆六千八百十四億円となります。また、その公債依存度は三二・七%であります。
 以上、昭和五十六年度予算及び昭和五十五年度補正予算の大要について御説明をいたしました。
 次に、最近の経済情勢と当面の政策運営の基本的考え方について申し上げます。
 先進諸国はいずれも第二次石油危機への対応の過程で、物価の高騰、景気の落ち込み、国際収支の赤字といった三重の困難な状況に直面いたしました。ましてエネルギー資源に乏しいわが国にとって、石油価格の上昇が大きな重荷となったことは言うまでもございません。このような厳しい環境の中にかかわらず、わが国が、企業、労働組合、家計等の堅実な対応によって、諸外国と比べてこれらの困難を最小限度に食いとめ、乗り切りつつあることは喜ばしいことであります。
 まず、物価については、卸売物価はすでに鎮静化しており、消費者物価も落ちつきの傾向が定着しつつあります。
 景気につきましては、個人消費の伸び悩みなどから経済の拡大テンポは緩やかなものとなっておりますが、今後、物価の安定とともに個人消費の回復が期待され、次第に明るさが増してくるものと考えます。
 国際収支につきましては、経常収支はなお赤字基調でありますが、貿易収支の好転を反映して着実に改善を示しつつあります。これに加えて資本収支も海外からの対日証券投資を中心に流入超過の傾向が続いております。
 このような経済情勢下で、経済運営の基本的態度として求められるものは、何よりもまず物価の安定を図りつつ、景気の回復を着実なものとし、民間設備投資や個人消費支出等の民間需要を中心とした息の長い成長を持続せしめることであると思います。今後とも物価に悪い影響の出ない範囲内で景気に配慮し、機動的、弾力的な政策運営を行っていくことが肝要だと考えております。
 また、国際収支につきましては、今後とも国際的に調和のとれた形でその改善を図るべく着実な努力を積み重ねてまいる所存であります。
 為替相場につきましては、昨年の後半以降、円高方向に推移してきております。これは基本的には、わが国経済の実力が評価されていることのあらわれであると考えます。為替相場の動向は、ひとりわが国経済の諸情勢のみならず、海外の要因にも大きく左右されますので、関係諸国とも緊密な協調を保ちつつ、円相場の安定に努めてまいりたいと考えております。
 今後のわが国を取り巻く国際経済情勢につきましては、世界経済は、多くの先進諸国でことし後半から景気の立ち直りが予想されるなど、総じて見れば次第に明るさが増すものと期待されますが、また同時に、流動的な国際石油情勢、海外金利動向、非産油発展途上国の債務累積等懸念すべき要因も決して少なくはありません。
 わが国は、世界経済に大きな影響を及ぼす立場にある国の一つとして、世界経済の調和のある発展に貢献していかなければなりません。保護貿易主義の台頭の回避、南北間の対話と協力の促進などは、世界経済の持続的発展を実現する上で基本的な課題でありますし、こうした課題に対してじみちに取り組んでいく必要がございます。
 開発途上国の経済発展のための努力を支援することは、これらの国々の国民生活の向上のためのみならず、世界経済全体の均衡のとれた成長を確保するためにも重要でございます。こうした観点から引き続き経済協力の着実な拡充を図るとともに、効率的な実施に努めてまいる考えであります。このため、厳しい財政事情にかかわらず、このたび政府開発援助に係る国の予算につきましては、今後五年間の目標を掲げることといたしました。また、関税政策の面におきましても、本年度末に適用期限が到来する特恵関税制度につき、その期限をさらに十年延長する等の措置を講ずることといたしております。
 次に、当面の金融政策の運営について申し上げます。
 金融面におきましては、さきに申し上げました経済運営の基本的態度のもとに、昨年十一月から十二月にかけて預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図るとともに、預金準備率の引き下げなど金融の量的緩和にも配慮をしてまいりました。
 今後の金融政策の運営に当たりましては、物価、景気、海外情勢等、経済の動向を総合的に判断いたしまして、機動的に対処してまいりたいと存じます。
 金融政策の機動的運営にとって看過し得ない問題は、規模の大きくなった郵便貯金と累増する国債残高であります。
 このほど内閣に、金融の分野における官業の在り方に関する懇談会が設けられ、いわゆる金利政策の一元化等の問題について早急に検討されることとなったのは、時宜を得たものと考えます。
 公債残高は昭和五十六年度末に約八十二兆円に達し、また五十六年度に約八千九百五十億円予定されている借りかえ債発行額も、年を追うて急増が見込まれています。このような状況にかんがみ、今後とも安定的な消化の促進、流通市場の整備等国債管理政策については、なお一層の配慮をしてまいる所存でありますが、改めて申し上げるまでもなく、国債発行額の減額にまさる対策はあり得ないのであります。
 金融制度につきましては、社会経済情勢の変化に対応して、金融機関の健全経営を確保するとともに、国民経済的、社会的要請に適切にこたえ得るようその整備改善を図りたいと考えております。そのため、普通銀行制度の全面改正とともに、相互銀行、信用金庫等の制度の一部改正を行うこととし、関係方面とも調整を図った上で、所要の法律案を今国会に提出したいと考えております。また、これと関連して証券取引法の一部改正をお願いする予定であります。
 最後に、すでに申し述べましたとおり、第二次石油危機に際しましても、わが国民は柔軟な適応力を発揮し、これをまさに乗り切ろうとしております。
 わが国経済は、物価、成長、雇用等を総合的に見て、諸外国に比較しても最も良好な状態にあります。
 このわが国経済のしなやかな強さは、つとに諸外国から驚異と称賛の目をもって見られているととろであります。
 しかし、他方でわが国経済は、エネルギー制約と並んで諸外国に例を見ない巨額の財政赤字という弱点を抱えているということを忘れてはなりません。また、世界経済を離れて日本経済はあり得ず、わが国経済の繁栄とともに、世界の中の日本として果たしていくべき責務もそれだけ大きなものになるということを十分認識する必要があります。(拍手)
 問題の所在は明らかとなりました。道は近きにあります。順次実行あるのみです。わが国民のすぐれた資質と能力を生かして、内に財政再建の課題を達成し、外に国際社会の一員としての責務を果たすことができれば、一層明るい未来の展望を切り開いていくことができるものと信じて疑いません。(拍手)
 国民各位の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(福田一君) 国務大臣河本敏夫君。
    〔国務大臣河本敏夫君登壇〕
○国務大臣(河本敏夫君) 私は、わが国経済の当面する課題と、経済運営の基本的な考え方につきまして、所信を申し述べ、国民各位の御理解と御協力を得たいと存じます。
 波乱に満ちた一九七〇年代がまさに終わろうとするとき、イラン革命に端を発する第二次石油危機が発生し、わが国の経済は、再び大きな試練に見舞われることとなりました。しかしながら、幸いにも、国民各層の賢明で冷静な対応に助けられて、わが国経済は、この試練に耐え、石油危機後の調整過程をほぼ乗り切ろうとしております。これは国際的にも高く評価されているところであります。
 昭和五十六年度は、この成果を踏まえて、わが国経済を中長期的な安定成長路線に定着させ、一九八〇年代の展望を切り開くべき重要な年であります。
 このような年を迎えるに当たり、今後の経済運営上重視すべき課題として、私は、特に以下の諸点を指摘したいと存じます。
 まず、第一は、物価の安定を基礎として、適切な経済成長の維持を図ることであります。
 物価の安定は、国民生活安定の前提であり、均衡のとれた経済発展の基本的な条件でもあります。
 その上に立って、適度な経済成長を実現し、働く意思を有する人々に対し、その能力と適性に応じた就業の機会を提供することは、経済社会の安定にとって欠くことのできない要件であることは申すまでもありません。
 第二は、経済の活力を維持し、その活用を図ることであります。
 私は、積極進取の気概に富み、高度の教育によって陶冶されたわが国民性が、自由な経済体制を豊かな土壌として、わが国経済の活力を生み出してきたと考えております。
 わが国の将来には多くの試練が予想されます。その中で、着実な経済発展と充実した国民生活を確保するためには、経済の活力を維持し、育てていくことが何よりも大切であると信じております。
 経済成長の成果は、国民福祉の向上に結びつけるべきものであります。この点でも、自由な経済社会の持つ創造的な活力を積極的に生かすことが肝要であります。
 特に、今後、わが国の人口構成は急速に高齢化が進むことを考慮いたしますと、自由経済のすぐれた機能を生かしながら、効率よく適正な公的福祉を保障することが必要であります。
 第三は、国際社会への協調、貢献と経済的安全の確保であります。
 わが国経済の規模は、昭和五十六年度で国民総生産約二百六十五兆円に達すると見込まれ、世界全体の総生産の一割を占めるに至るものと思われます。また、貿易の面でも、わが国は、先進国貿易の一割程度を占めております。経済運営に当たっては、わが国経済の動向が世界経済に大きな影響を与えることを常に配慮し、世界経済の安定と発展のために、十分な責任と役割りを果たしていかなければなりません。
 他方、わが国は、資源・エネルギー、食糧など国民経済上不可欠な物資の多くを海外に依存しております。常に激動の可能性を免れない国際情勢のもとにおきまして十分な注意を払い、経済的安全の確保のため、各般の施策を多角的に進めていくことが必要であります。
 私は、国際的な協調と連帯に積極的に貢献することが、わが国の安全にとって不可欠であると信じております。
 また、これらの課題に対応し、経済の安定した成長を確実なものとするためには、わが国財政の再建を急ぎ、財政の対応力の回復を図るべきことは申すまでもありません。
 わが国経済の主要な課題についての所信の一端を申し述べましたが、一昨年八月策定いたしました新経済社会七カ年計画は、これらの課題に対する政策の基本的方向を明らかにしたものであります。
 このたび、計画策定後の経済情勢の変化を踏まえ、中長期的安定成長の中で、物価の安定、雇用の改善及び財政の再建をあわせて達成し得るような今後の経済の姿を検討いたしました。
 この結果、計画で示した公共投資額と社会資本の整備水準の目標は維持しながら、その達成時期を調整することにより、民間需要を中心とした年平均五・五%程度の実質成長が可能であり、全体として整合性のある経済が実現できるとの結論を得たところであります。
 このような経済の姿を達成することは、わが国経済の中長期の課題を解決していくために必要であり、また、わが国の活力から見て十分可能であると考えております。
 ここで、わが国経済の現状と昭和五十六年度における経済運営の基本的な考え方について申し述べたいと存じます。
 昭和五十五年の中ごろ以降、第二次石油危機のデフレ効果が経済各部門に浸透してきた上、冷夏の影響が加わったため、国内需要の拡大テンポが鈍化し、企業の生産活動も次第に弱含みとなりました。このような情勢に対処し、物価の安定と景気の維持を図るため、政府は昨年九月、八項目の経済対策を決定し、その推進に努めているところであります。
 この結果、昭和五十五年度のわが国経済の実質成長率は、当初の見通しどおり、四・八%程度を達成するものと見込まれます。
 昭和五十六年度は、第二次石油危機の影響を克服し、わが国経済を中長期的な安定成長路線に定着させるべき年であります。
 流動的な中東情勢に伴う国際石油情勢など懸念すべき材料もありますが、国内では第二次石油危機の影響が次第に吸収され、他方、国外では多くの先進諸国で年後半から景気の立ち直りが予想されるなど、全体として明るさが増すものと見られます。しかしながら、海外需要に過度に期待することは適当ではなく、また、財政に依存することもできません。
 このような状況のもとで、昭和五十六年度の経済運営の基本的態度としては、第一に、民間設備投資や個人消費など国内民間需要を中心に、景気の着実な拡大を実現することが必要であります。
 したがって、政府といたしましては、引き続き、適切かつ機動的な政策運営を行い、民間経済の活力が十分に発揮されるよう環境整備に努める所存であります。
 昭和五十六年度の名目成長率につきましては九・一%程度、実質成長率につきましては五・三%程度を見込んでおります。この実質成長率は、先進諸国の中で最も高く、雇用の安定にも資するものであります。
 第二は、物価の安定をより確実なものとすることであります。
 第二次石油危機の影響で高騰していた卸売物価は、昭和五十五年五月以降、目に見えて鎮静化をしてまいりました。
 消費者物価は、原油価格の高騰に異常気象の影響が加わり、昭和五十五年初め以来、前年比ほぼ八%台の上昇率で推移してまいりました。しかし、このところ卸売物価からの波及も鈍化するなど、消費者物価は落ちつきの方向にあり、今年度末にかけて、前年比の上昇率は顕著に低下するものと見込んでおります。
 物価の安定は、国民生活安定の基本条件であり、経済の持続的成長の基盤をなすものであります。政府といたしましては、引き続き、通貨供給量を監視するとともに、生活関連物資等の安定的な供給の確保、価格動向の調査、監視、輸入政策や競争政策の積極的活用など、各般の対策を総合的に、かつ、機動的に実施することといたしております。
 公共料金につきましては、経営の徹底した合理化を前提とし、物価及び国民生活に及ぼす影響を十分に考慮して厳正に取り扱う方針で臨んでおります。
 このような観点から、昭和五十六年度の予算関連公共料金の改定に当たっても、真にやむを得ないものに限るとともに、その実施時期及び値上げ幅について極力調整をしたところであります。
 政府といたしましては、昭和五十六年度の卸売物価については前年度比四・一%程度に、消費者物価につきましては前年度比五・五%程度の上昇におさめるよう、早目早目に時宜を得た物価対策を推進をしてまいる所存であります。
 もとより、物価対策が実効を上げるためには、国民各層の協力がぜひとも必要であります。御理解をお願いする次第であります。
 国民生活の安定と向上のためには、物価安定対策と並んで消費者行政を一層充実することが重要であります。
 消費者を取り巻く諸条件の変化に対応して、各種商品の安全性の確保、苦情処理体制の整備、消費者に役立つ情報の提供、その他所要の施策を進めてまいる所存であります。
 次に、今後におけるわが国の国際協調の推進について申し述べたいと存じます。
 現下の世界の困難の多くは、エネルギー問題と発展途上国における貧困の問題に起因していることは明らかであります。
 まず、エネルギー情勢につきましては、石油供給の不安定化、価格の上昇が、世界経済の順調な発展にとって重大な脅威となっております。このような制約を克服することが最も緊急な課題であります。エネルギー問題は世界各国の共通の課題であり、各国がそれぞれ努力することはもとより、国際的な協力を進めていかなければなりません。
 わが国は、自由世界第二の石油消費国で、しかも現状ではエネルギーの三分の二を海外の石油に依存しており、世界のエネルギー問題克服のために大きな責務を負っております。エネルギー問題を克服するためには、産業、民生、運輸等各部門の省エネルギー化、原子力や石炭など石油代替エネルギーの開発利用の促進のほか、核融合など新エネルギーの研究開発が特に必要であり、これら技術開発の役割りはきわめて大きいものがあります。
 わが国も、この分野において、国際的な協力関係の中で最大限の努力を傾けなければなりません。
 第二の問題は、経済協力の拡充であります。
 世界経済の安定的な発展のためには、発展途上国の経済開発が必要であります。しかし、現状を見ますと、これらの国の多くは依然として貧困から脱することができず、インフレや国際収支の赤字に悩まされております。特に非産油発展途上国の状況はきわめて深刻であり、経済協力の拡充が切望されております。
 同時に、経済協力の実施に当たっては、相手国の国情、ニーズ等を見きわめ、その自助努力を効果的に支援し、発展途上国にとって最も効果を上げるよう工夫を加える必要があることは申すまでもありません。
 わが国は、政府開発援助の三年間倍増目標を掲げてまいりましたが、昨年この目標をかなり上回って達成したところであります。今後ともわが国の国際的な地位にふさわしい貢献を行うよう強く期待をされております。
 このため、政府は、新しく開発援助に関する中期目標を設定したところであり、政府開発援助の一層の拡充に努めることといたしております。
 以上、わが国経済の当面する課題と経済運営の基本的考え方について、所見を申し述べました。
 わが国を取り巻く環境には、依然として厳しいものがあります。
 わが国のこれまでの経済発展の跡を顧みますと、幾多の困難に遭遇しながら、そのたびに、国民の英知を結集し、努力を重ね、困難を克服して、今日に至っております。
 引き続き、創意と工夫を積み重ね、長期的な展望のもとに、世界的な視野に立って、道を切り開くことが大切であります。
 昭和五十六年度は、そのための基礎を固めるべき重要な年であります。
 国民各位の御支援と御協力を切にお願いを申し上げます。(拍手)
     ――――◇―――――
○鹿野道彦君 国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来る二十八日午後一時より本会議を開きとれを行うこととし、本日はこれにて散会されんことを望みます。
○議長(福田一君) 鹿野道彦君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
 本日は、これにて散会いたします。
    午後三時七分散会
     ――――◇―――――
 出席国務大臣
        内閣総理大臣  鈴木 善幸君
        法 務 大 臣 奥野 誠亮君
        外 務 大 臣 伊東 正義君
        大 蔵 大 臣 渡辺美智雄君
        文 部 大 臣 田中 龍夫君
        厚 生 大 臣 園田  直君
        農林水産大臣  亀岡 高夫君
        通商産業大臣  田中 六助君
        運 輸 大 臣 塩川正十郎君
        郵 政 大 臣 山内 一郎君
        労 働 大 臣 藤尾 正行君
        建 設 大 臣 斉藤滋与史君
        自 治 大 臣 安孫子藤吉君
        国 務 大 臣 大村 襄治君
        国 務 大 臣 鯨岡 兵輔君
        国 務 大 臣 河本 敏夫君
        国 務 大 臣 中川 一郎君
        国 務 大 臣 中曽根康弘君
        国 務 大 臣 中山 太郎君
        国 務 大 臣 原 健三郎君
        国 務 大 臣 宮澤 喜一君
     ――――◇―――――