第101回国会 本会議 第3号
昭和五十九年二月六日(月曜日)
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    開 会 式
午前十時五十八分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長、特別委員長、議員、内閣総理大臣その他の国務大臣、最高裁判所長官及び会計検査院長は、式場である参議院議場に入り、所定の位置に着いた。
午前十一時 天皇陛下は、衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
衆議院議長は、次の式辞を述べた。
    …………………………………
  天皇陛下の御臨席をいただき、第百一回国会の開会式を行うにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
  昨年十二月十八日衆議院議員の総選挙が行われ、十二月二十六日をもって特別国会が召集されたのでありますが、われわれは、新たなる決意のもとに、現下内外の諸情勢に対処して、外に対しては、諸外国との相互理解と協力をいっそう深め、世界の平和と繁栄に寄与するとともに、内においては、政治、経済の各般にわた
 り、適切な施策を強力に推進し、国民生活の安定向上に努め、もって国連の隆昌を期さねばなりません。
  ここに、国会は過般の総選挙による新議員を迎え、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もって国民の委託にこたえようとするものであります。
    …………………………………
次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。
    …………………………………
  本日、第百一回国会の開会式に臨み、衆議院議員総選挙による新議員を迎え、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
  国会が、永年にわたり、世界の平和と我が国の繁栄のため、たゆみない努力を続けていることは、深く多とするところであります。
  ここに、国会が、当面する諸問題を審議するに当たり、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
    …………………………………
衆議院議長は、おことば書をお受けした。
午前十一時六分 天皇陛下は、参議院議長の前行で式場を出られた。
次いで、一同は式場を出た。
    午前十一時七分式を終わる

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昭和五十九年二月六日(月曜日)
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 議事日程 第三号
  昭和五十九年二月六日
    午後一時開議
 一 国務大臣の演説
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○本日の開議に付した案件
 議院運営委員長の政治倫理に関する協議会設置に関する発言
 議員請暇の件
 中曽根内閣総理大臣の施政方針に関する演説
 安倍外務大臣の外交に関する演説
 竹下大蔵大臣の財政に関する演説
 河本国務大臣の経済に関する演説
    午後一時三分開議
○議長(福永健司君) これより会議を開きます。
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 議院運営委員長の政治倫理に関する協議会設
 置に関する発言
○議長(福永健司君) この際、議院運営委員長から、政治倫理に関する協議会の設置に関し発言を求められております。これを許します。議院運営委員会理事山崎拓君。
    〔山崎拓君登壇〕
○山崎拓君 政治倫理に関する協議会の設置につきまして御報告申し上げます。
 昨年十一月十二日衆参両院議長から、各党に対し、速やかに両院に政治倫理確立のための具体策を講ずる機関を設けるべきであるとの御提案がありましたが、その後、本院における協議は、総選挙後に持ち越されておりました。
 議院運営委員会では、特別国会が召集されました直後から、理事会におきまして鋭意協議を重ねてまいりました結果、政治倫理に関する協議会設置要綱について各党の合意を得、本日の議院運営委員会におきまして、政治倫理に関する協議会の設置を決定いたした次第であります。
 要綱の要旨は、
 議長の諮問機関として、政治倫理確立のための具体策を調査検討し、速やかに提言するため、政治倫理に関する協議会を設置すること。
 協議会は、議院運営委員長及び議員十二名をもって構成し、議長が諮問した事項及び協議会が必要と認める事項について調査検討すること。
 議長は、協議会から報告を受けたときは、議院運営委員会に諮り、適切な措置をとるものとすること。
 その他、協議会の運営に必要な事項でございます。
 なお、議院運営委員会におきまして政治倫理に関する協議会が設置されましても、具体的な事件を調査するため、特に必要があると認められた場合には、特別委員会の設置を妨げるものでないこと。また、各委員会において、その所管に係る事項に関し政治倫理問題について審議することを妨げないこと。なお、本協議会の運営に当たっては、一年以内に提言を行うよう努力するものとすることを確認いたしましたので、申し添えておきます。
 以上でございますが、最後に、政治倫理に関する協議会が所期の目的を達成できますよう議員各位の御協力を心からお願い申し上げまして、報告を終わります。(拍手)
     ―――――・―――――
 議員請暇の件
○議長(福永健司君) 議員請暇の件につきお諮りいたします。
 高橋辰夫君から、海外旅行のため、二月七日から二十一日まで十五日間、請暇の申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(福永健司君) 御異議なしと認めます。よって、許可するに決しました。
     ―――――・―――――
 国務大臣の演説
○議長(福永健司君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説、外務大臣から外交に関する演説、大蔵大臣から財政に関する演説、河本国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣中曽根康弘君。
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 私は、昨年十二月二十七日、再び内閣総理大臣の重責を担うことになりました。
 私は、現代が大きな歴史的転換期にあることを深く自覚しつつ、国際的信頼の維持強化を図り、堅実に内政を固め、二十一世紀へ向けて順を追って内外の準備を進めるべく、国民の皆様の信頼にこたえ、その御協力を得て全力を傾けて国政に取り組んでまいります。(拍手)何とぞ御理解と御鞭撻をお願い申し上げます。
 我々を取り巻く内外の環境や時代の潮流には、最近顕著な転換の兆しがあらわれております。我が国も、政治、経済、文化、教育、福祉、外交、安全保障等各分野をさらに総合的に再点検し、適切な改革を強力に推し進め、転換期のハードルを乗り越え、日本の未来を開くべき時期に来ていると確信いたします。
 しかしながら、その実現は決して容易なものではありません。それは明治以来百年余の間に蓄積され、あるいは終戦以来三十八年の間に生じたもろもろのひずみを是正することであり、また、二十一世紀という未知の世界への挑戦と準備のための軌道を敷設するということであるからであります。
 これらの改革と挑戦は、早晩日本民族が遭遇しなければならない宿命の試練であり、これを乗り越えてこそ、我が国の希望とさらに偉大な繁栄と発展があると確信いたします。私は、国民の皆様とともに手を携え、謙虚に国政の衝に当たっていく決意であります。
 このため第一に、さきの総選挙における国民の皆様の審判を厳しく受けとめ、深い反省のもとに政治倫理の確立に取り組みたいと考えます。政治倫理の問題は、第一義的には私たち政治家の良心と責任感に帰着する問題であると考えます。この見地から、日常の行動、政務の処理等につきましては、慎重かつ公明正大に実践する所存であります。また他面、国民の皆様や各党、各会派の御意見に十分注意を払いつつ、具体的に実効性ある政策が進められるよう努力いたします。先般、その一つの手段として、閣僚の資産公開を行ったところでありますが、今後、両院における御議論等を踏まえ、必要かつ適切な措置を講じていく考えであります。
 なお、懸案である国会議員の定数是正等のための公職選挙法の改正につきましても、各党、各会派の今後の合意に基づき具体的な成果が上がるよう政府としても努力してまいります。
 第二に、新しい民主政治の運営と展開に心がけてまいりたいと思います。私は、さきの総選挙の結果の意味するところに深く思いをいたし、心を新たにして各党、各会派との協調による政治運営の舞台を開いてまいりたいと思います。既に新自由クラブとは政策による院内会派の結成を行ったところであります。
 今後、野党の皆様とも政策面における対話と相互理解を深め、重要国策の推進、円滑な国会運営、我が国政局の安定に向かって懸命の努力を行い、国民の皆様の御期待におこたえする決意であります。
 先ほど私は、戦後の日本の政治、経済、社会各面の総点検と二十一世紀に向かっての新しい軌道の敷設の必要性について申し述べました。二十一世紀まであと十六年、我々は必要な対応を今から急がなければなりません。その目標は、自主、連帯、創造を基調とする「たくましい文化と福祉の国」づくりであり、平和を志向する国際国家日本への前進であります。
 このため、私は、三つの大きな基本的改革に取り組み、これを着実に推進してまいります。
 第一の改革は、行政改革であります。
 政府は、これまで臨時行政調査会の答申に示された趣旨を踏まえて誠実にその推進に努めてまいりました。既にこれまで国鉄事業の再建への着手を初め種々の改革に取り組んできております。特にさきの第百回臨時国会におきましては、国家行政組織法の改正、総理府本府と行政管理庁の統合再編成等七つの法律の成立を見たところであります。
 今や行政改革もいよいよ正念場に差しかかってまいりました。私は、全国民の御支援を得て、不退転の決意をさらに全省庁、全政府関係機関に徹底させ、その一層の推進に取り組んでまいります。
 特に今国会におきましては、行政改革の最重要課題の一つである電電公社及び専売公社の改革、年金や医療保険制度の本格的改革、特殊法人の整理合理化、地方事務官制度の改革等を推進するための法律案を提出することといたしております。また、中央の十省庁の内部部局の再編合理化を断行するとともに、国家公務員の定員につきましても、三千九百五十三人にも上るこれまでにない大幅な縮減を図ることとしたところであります。
 さらに国と地方の関係の見直しの一層の推進を図りつつ、地方公共団体における機構定員、給与制度やその運用等のあり方について、国民の皆様の御納得が得られるよう、特に指導の強化を図ってまいります。
 行政改革の次の段階では、日本国有鉄道再建監理委員会の献策を得て国鉄の大改革を進め、また、中央地方の行政機構の簡素効率化、公社公団等の整理合理化、公務員の定数の適正化、補助金の整理等行政改革の核心部分に一層のメスを入れていく決意であります。
 第二の改革は、財政改革であります。
 財政改革の目的は、単に危機に瀕している我が国の財政収支の均衡化を図ることにとどまるものではありません。それはむしろ行政改革と同様に、新たな経済社会情勢の進展に即応して財政のあり方を再検討し、その適正な対応力の回復を図り、国と地方、公的部門と民間との新しい関係を導こうとするものであります。また、それは対外的な環境条件の整備安定を図りつつ、民間活力を最大限に発揮させ得る礎を築くものであり、経済、社会の運営における活力を保持し、新しい成長経路を追求しようとするものであります。
 政府は、これまで臨時行政調査会の答申の趣旨を踏まえ、一歩一歩財政改革の実を上げてきておりますが、先般策定した「一九八〇年代経済社会の展望と指針」においては、昭和六十五年度までに特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引き下げに努めることを示したところであります。
 昭和五十九年度の予算編成に当たりましても、引き続き歳出構造の徹底した見直しを行い、特に医療保険制度、地方財政対策等について中長期的展望のもとに本格的な改革に踏み切り、また、補助金等につきましては、従来にも増して積極的な整理合理化を行う等により、一般歳出を前年度に比し三百三十八億円削減いたしました。
 一方、国民の皆様の強い要望に沿うべく所得税、住民税合わせて一兆一千八百億円の減税を行うとともに、現下の厳しい財政事情にかんがみ、法人税、酒税、物品税等の税収増加、さらには特殊法人、特別会計からの一般会計納付等税外収入の増加を図った次第であります。
 以上のような歳出歳入両面における諸般の努力の結果、公債発行予定額は、前年度に比し、六千六百五十億円減額することができ、財政改革にさらに新たな一歩をしるし得たものと考えております。
 第三の改革は、教育改革であります。
 既に教育の刷新改革については久しく論じられてきたところでありますが、現在ほどその必要性について世論が盛り上がったときはありません。
 もちろん、今日の我が国の興隆と繁栄は、これまでの我が国のすぐれた教育制度のもとに育てられた人材によってなし遂げられてきたことは事実であります。しかしながら、これまでの教育制度は、明治以来の我が国の諸外国に対する追いつき追い越せ時代に最もふさわしい、画一的な制度の性格が強かったのではないでしょうか。
 また、今日における校内暴力、青少年非行の激増等の実情の背景には、戦後今日まで、教育が学校教育にのみ強く依存し、家庭、社会教育等、より広い視野からの総合的教育の重視という考え方が弱かったということがあるのではないでしょうか。もちろん教育は国家百年の計であり、拙速は戒めなければなりません。しかしながら、私は、今こそ、来るべき二十一世紀を展望し、教育全般にわたる改革を断行する時期に来ていると考えるものであります。(拍手)
 私は、今後日指すべき教育改革の視点は、教育制度、教育内容の多様化、弾力化、家庭や社会教育の重視、個性の尊重や教室外における実践、体験の奨励等による学生生徒等の全人的育成、教育を受ける側の選択の自由の拡大等総合的、人間的な教育のあり方の探求であり、また、国際国家日本の国民にふさわしい教育の国際化の追求にあると思います。
 もちろん、これらの改革の根底に、知育のみに偏せず、道徳性や社会性、純真な理想と強健な体力、豊かな個性と創造力をはぐくもうとする人間主義、人格主義の理念が脈々と流れていることが不可欠であると考えます。(拍手)
 私は、今後、このような考え方に立って、教育理念、幼児教育、六・三・三・四制を初めとする教育制度、教育内容、教員の資質、入試制度、海外子女教育、家庭や社会教育等広範な分野にわたっての論議と改革を目指してまいります。
 また、特にこの教育改革は、全国民の皆様の御支援のもとに、長期的かつ国民的すそ野をもって進められるべきものであります。このため、内閣総理大臣の諮問に応じて改革案を調査審議する新たな機関を設置すべく検討を進めてまいりたいと思います。広く国民各位の御助言と各党、各会派の御協力を切にお願いをいたします。
 次に、経済運営について申し述べます。
 最近の我が国の経済情勢を見ますと、景気は緩やかながら着実に回復してきていると考えます。私は、今後、物価の安定基調を維持し、国内民間需要を中心とする景気の自律的拡大を実現し、我が国経済の持続的安定成長の定着と雇用の安定を図ってまいります。
 政府は第一に、我が国にとって不可欠である良好な対外関係の実現に努めます。このため、貿易の拡大均衡を目指し、引き続き一層の市場の開放、輸入の促進、特定品目に係る節度ある輸出の確保、新しい多角的貿易交渉のための準備の促進等を進め、国際的保護貿易主義台頭の風潮の中で、自由貿易体制を堅持するため懸命の努力をしてまいります。また、金融資本市場の自由化、円の国際化、為替相場の安定のための国際協調にも十分力を入れていきたいと考えます。
 第二に、民間の創意ある経済活動を引き出すための具体策を工夫し、一方でその制約要因となっているものの見直しに努めます。
 この観点から、既に一部着手している国公有地等の有効活用を今後全国的に展開し、また、民間再開発を推進するための環境整備を一層進めてまいります。また、今回の関西新空港建設の例のように、公共事業の官公民協力による新しい実施体制の創出等新機軸により民間活力の最大限の活用を図り、我が国経済がさらに力強く発展する新しい道を開いてまいりたいと思います。
 第三に、高度情報社会の実現を、二十一世紀に向けての中長期的な経済発展の重要な戦略的動因として位置づけ、そのための政策を周到に、かつ総合的に進めてまいります。
 我々は、現在、始まりつつある高度情報化への大きな潮流が、経済構造、社会システム、さらには個人の生活等広範な分野に及ぼすさまざまな影響について細心の配慮をしつつ、その積極面の利益の享受に努めなければなりません。このため、今後の高度情報社会のあり得べき姿等について国民的合意の形成に努めるとともに、先端技術の研究開発と国際協力の拡大、情報、通信技術の広範な利用促進、新しいソフト産業の多様な発展、情報の公開やプライバシーの保護等さまざまな分野における適切な対応を進めてまいります。
 さらに、政府は、産学官の連携による創造性豊かな科学技術の振興、生産性の向上を中心とした農林水産業対策の推進、長期的な視野に立った資源エネルギー及び食糧の安定的確保、きめ細かい中小企業対策の推進等にも引き続き力を入れてまいります。
 戦後三十八年の営々とした努力により、今日我々は、我が国の歴史上との時代にも実現し得なかった、現代文明の恩恵に多数の国民があまねく浴するという時代を迎えています。しかしながら、この過程で、我々の意識や社会の構造は大きく変化してきました。今、人々が求めているものは精神的豊かさであり、日常生活における安心、安全、安定であります。
 政府は、国民のこのような要請にこたえ、地方公共団体の創造的努力と呼応しつつ、心の触れ合う連帯と文化の地域社会づくりに着実な努力を重ねてまいります。このため、地方の文化や芸術の振興に力を注ぐとともに、社会資本の整備や災害対策、交通安全対策に全力を尽くし、花と緑に囲まれた快適な潤いのある生活環境の創造に努めてまいります。(拍手)また、時代にふさわしい町づくりの推進と、未来を展望した各種産業活動の定着と振興を図ることによって、生活と産業の調和ある地域社会の建設を目指します。
 国民の健康保持の面では、疾病の予防からリハビリテーションに至る総合的な保健医療対策を講じ、特に国民の死亡率の第一位を占めるがんについては、対がん十カ年総合戦略に基づき重点的にその対策を推進いたします。さらに、難病対策にも特段の意を用いることとしております。
 また、迫りくる高齢社会に備え、老後の医療保障や所得保障を一層確実かつ安定したものとするため、退職者医療制度の創設や基礎年金制度の導入等、医療保険や年金保険制度を効率的かつ公平な制度とすることを目指した抜本的改革に着手するとともに、高齢者の雇用機会を確保するための対策の充実、雇用保険制度の改革等を行うこととしたところであります。
 さらに、老人や障害者等社会的、経済的に弱い立場にある方々に対してきめ細かい配慮を行ってまいります。
 婦人の地位向上、女性の幅広い社会的活躍をも重視しなければなりません。このため、政府は、各分野について制度の整備を図ることとし、昭和六十年を目途に婦人差別撤廃条約の批准の実現に努力するとともに、妻の年金権の保障等婦人の地位確立のための対策を強化してまいります。(拍手)
 私は、深い相互依存関係にある今日の国際社会においては、世界の平和と繁栄なくして日本の平和と繁栄はあり得ないことを痛感いたします。また、国際社会における我が国の地位向上に伴って各国の我が国に寄せる期待と要請がいかに大きいか、今さらながら深く考えさせられるものがあります。私が、国際国家日本の建設を提唱するゆえんであります。
 私は、戦後三十八年間を見て、国際関係における仕組みや意識にも大きな変化が進みつつあると考えます。そしてそれには、国際的な情報化時代の到来が大きく寄与していると考えるのであります。
 私は、現在の世界各地における宗教的、民族的対立、外部の政治的浸透による紛争、テロリズムの続出について深い懸念を有しております。
 私は、これらの紛争の中には、当事国相互の対話や情報の交流がもっと密であれば防止できたものが多いのではないかと思います。情報の普及は、双方の国民の相互理解を深め、戦争の愚かさを知らせるものであると考えます。もし第二次世界大戦勃発当時、通信衛星が存在し、テレビが今日ほど普及していたら、あるいは大戦は起こらなかったのではないでしょうか。
 また、スポーツ、芸術、文化の交流が、政治、経済、社会の相違を乗り越えて人間性の交流をもたらし、相互信頼感の醸成につながりつつあることに注目したいと思います。本年は、オリンピックの年でありますが、国際競技における世界新記録の達成や名演技には、東西の対立を越えて嵐のような拍手が起こります。(拍手)特にスポーツにおいては、国境を越えた共通のルールが厳然と守られております。私は、この現実を踏まえて、世界の平和を守るために、各国に対し情報やスポーツ、芸術、文化の交流をさらに増幅し、これらの国境の垣根をさらに低くし、これを終局的には撤廃するよう訴えたいと思います。(拍手)
 私は、このように各種の分野において、体制の相違や過去の経緯を乗り越え、人類的共感の上に立って平和維持を呼びかけることこそが、国際国家たる我が国にふさわしい役割であると確信しております。(拍手)
 さきの主要国首脳会議における声明、東京声明、日中不戦の誓い、日本・ASEAN科学技術関係閣僚会議の開催、本年七百五十名に及ぶASEAN諸国の青年の日本招待、来る三月箱根で開かれる予定の生命科学と人間の会議の開催提唱等、世界の政治、文化における我が国のこれまでの営々とした努力は、こうした国際国家日本の世界平和と人類文明の進歩に貢献しようという決意のあらわれなのであります。(拍手)
 次に、我が国自身の防衛については、必要最小限の質の高い防衛力の整備を図り、日米安全保障体制を維持し、その円滑、効果的な運用によって現在の国際環境における我が国の安全保障を実現していかなければなりません。その際、平和憲法のもとで専守防衛に徹し、非核三原則を堅持しつつ、近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国にならないことは当然であります。
 私は、平和と軍縮を唱え、今、防衛力の整備と日米安全保障体制の維持の必要性を訴えました。これは世界の現状に照らしても、独立国家の政策としていささかも矛盾しているものではありません。まず国家にとって大切なことは、独立を維持し、国民の生命財産と文化を守り、侵略を許さないことであります。(拍手)それが防衛であり、日米協力による相互安全保障体制の目的であります。
 その国の生存のための基本条件をまず確保した上で、相互に軍備の拡大、なかんずく核兵器の増加を抑制し、特に米ソの超大国が互いに脅威とならずに次第に互いの軍事力の水準を低下させ、核兵器の削減について至急に協議を成立させて、ついにはゼロにまで持っていくよう訴えることは、国際緊張を緩和させ、世界の平和と安定のため必要であります。(拍手)私は、日本のように核を持たず、専守防衛の節度ある防衛力を持つ国にして、初めて平和と軍縮は強く主張し得ることであると考えます。(拍手)
 また、国際国家としての重要な責務の一つに開発途上国への協力があります。私は、この責務を果たすため、五十九年度予算編成において厳しい財政事情下であっても経済協力費については特段の配慮をいたしました。
 我が国は、今後とも、新中期目標のもとで、開発途上国への経済技術協力の拡充に努めるとともに、債務累積問題に関しても、国際協調のもとでその解決に向けてできるだけの貢献を行っていきたいと考えます。
 また、人類の生存の基盤である地球環境の保全の問題についても、世界の資源に大きく依存している我が国として、これに積極的に貢献したいと考えております。(拍手)
 このような諸施策は、我が国の総合安全保障の推進に大きく役立つと思う次第であります。
 さらに、現在四十七万人に上る同胞が、海外の各分野において活躍しておられますが、これらの方々に後顧の憂いのないよう、その子女の教育の充実、選挙権の確保等について十分な配慮を払っていくことが政府の責任であり、そのための施策を進めてまいりたいと思います。
 次に、二国間の関係について申し述べます。
 日米関係は、我が国外交の基軸であります。私は、昨年の訪米の折やレーガン大統領の訪日の際、両国の首脳レベルの相互信頼関係の確立を図り、日米関係を一層強固なものにするよう積極的努力を行いました。日米間の強固な提携と安定は、世界及びアジアの平和と安定の重要な礎石であると確信します。私は、日米間の諸懸案の解決について今後とも一層の努力を払い、両国間の緊密な関係の維持発展に努めてまいります。(拍手)
 昨年、コール西独首相の来日の折には、東京声明で日独両国が世界の平和と繁栄を目指して不断の努力を積み重ねていくことと、東西両陣営が絶えず対話と交渉を持続して交渉のテーブルを離れないことの必要性を宣明したところであります。私は、今後とも、欧州各国との友好協力関係の一層の緊密化に努め、本年のロンドンにおける主要国首脳会議に出席の機会には、欧州各国を訪問する考えであります。
 アジア地域におきましては、昨年、韓国及びASEAN諸国を訪問いたしましたが、これらの諸国との関係を引き続き重視してまいりたいと存じます。
 また、国会の御了承を得て、本年三月に中国を訪問し、両国の友好協力関係の一層の強化に努めたいと考えております。さきに日中両国は、体制の違いにもかかわらず、平和友好、平等互恵、相互信頼、長期安定の四原則を守り、子々孫々にわたって相戦わずとの決意を確認することができました。(拍手)このような日中両国の堅固な友好協力関係は、アジア及び世界平和に大きな貢献をしていると確信するものであります。
 ソ連との関係につきましては、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、真の相互理解に基づく安定的関係を確立するため、今後とも粘り強く話し合ってまいる所存であります。私は、双方が世界の平和と両国間の現状打開のために互いに対話の糸口を広げ、誠意を持って対応し合うよう心がけるべきであると思っております。
 時代が大きな転換期であればあるほど生起する問題は深刻であり、国民の皆様の心の中にも、国際平和や日本の将来、教育、医療、年金、老後の生活等の先行きについての不安が影を落とすこともありましょう。すべての家庭が一日の平安を感謝して夕げの明かりに家族団らんのひとときを過ごし、あすへの希望を語り合える世の中をつくり、家庭を守り続けることが、いつの世にも変わらぬ政治の責任であります。(拍手)私は、国民の皆様が安心して日々の生活が送れるように心骨を砕き、安定と信頼の政治実現に全精力を傾けていく決意であります。
 さきに述べた行財政改革、我が国の国際的責務の遂行に当たっては、国民の皆様に、時にやむを得ない負担をお願いする場合も生じてきておりますが、政府は、それを最小限にとどめるよう全力を尽くしてまいります。私は、この場合、何よりも公平と公正を念じ、国民の皆様によく御説明し、納得と協力が得られるよう心してまいります。私は、このような困難を克服していくことが、次の繁栄への跳躍台であることを、国民の皆様一人一人に御理解いただきたいと心から願うものであります。
 二十一世紀は日本の世紀であると一部に言われて既に久しくなりますが、私は、この期待を我々が真に現実のものとするためには、三つの条件があると考えております。その第一は、日本が国際社会の中で、協調的な信頼できる国として引き続き受け入れられていけるかどうかであり、第二は、日本人が今後とも勤勉性を維持できるかどうかであります。そして第三に、日本人が、物質的豊かさの上に、人間精神の崇高さをとうとび、相互の人格の尊重と礼儀を重んずる共同社会をつくり、その団結を維持して、世界の人々に尊敬される国柄を実現し得るかどうかであります。(拍手)
 もちろん現実は厳しいものがあります。しかし、行く手には、もはや光が見え始めてきております。その向こうには、アジア大陸の東の岸に波打つ緑の太平洋国家として、東西文明を融合し新しい文明に向かう日本列島の未来の姿が開けております。(拍手)
 私は、国民の皆様と手を携え、その光明に向かって全力を尽くして進みたいと考える次第であります。
 重ねて国民の皆様の御理解と御協力をお願いする次第であります。(拍手)
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○議長(福永健司君) 外務大臣安倍晋太郎君。
    〔国務大臣安倍晋太郎君登壇〕
○国務大臣(安倍晋太郎君) 第百一回国会が再開されるに当たり、我が国外交の基本方針につき所信を申し述べます。
 今日、我が国を取り巻く国際情勢は、まことに厳しいものがあります。
 米ソ関係を中心とする東西関係は、ソ連の多年にわたる軍備増強どこれを背景とした第三世界への進出、さらには昨年の大韓航空機撃墜事件、米ソ間の中距離核戦力交渉をソ連が中断したこと等により、対話再開の努力は見られるものの全体として冷却したまま推移しております。
 世界経済には、米国の本格的な景気回復を中心に明るい展望が開けてきておりますが、回復はいまだ跛行的であり、また、各国とも雇用情勢は依然として厳しく、保護主義的傾向にもなお根強いものがあります。開発途上国も、中南米諸国を初めとする債務累積問題等多くの困難を抱えております。
 中東、アフリカ、中米・カリブ海、インドシナ等の諸地域においては紛争や混乱が継続し、また、特にテロ事件等の暴力的事件が続発しております。
 相互依存関係の深まった今日の国際社会において、国際関係の動向は直接間接に我が国の政治、経済、社会に多大の影響を及ぼす状況となっておりますが、とりわけ現下の厳しい国際環境の中で、我が国の平和と繁栄を確保していくために、外交に課せられた使命は極めて重大であることを改めて痛感する次第であります。
 他方、今日、我が国は自由世界第二位の経済力を有し、その国力と国際的地位は著しく高まっており、これに伴い、我が国の果たすべき国際的責任も大きなものとなっております。特に我が国が確固たる主張を持ち、東西関係初め世界の直面する諸問題について明確な姿勢を打ち出してきたことは、我が国の国際社会における重みを改めて諸外国に認識せしめてきたところであります。このことは、私自身、就任以来の各国訪問等を通じ、強く感じてまいりました。世界は、我が国の発言と行動を大きな期待を持って注目しており、今こそ我が国は、国際社会における責任を一層鮮明に自覚して、日本は世界のために何を行い得るかとの視点に立ち、単に経済面のみならず、政治面その他あらゆる分野で、その国力と国情にふさわしい国際的役割を果たし、もって世界の平和と繁栄に積極的に貢献していかなければなりません。(拍手)これこそは、とりもなおさず我が国がみずからの存立と繁栄を確保し得るゆえんであります。
 私は、このような基本的な認識のもとに外務大臣としての職務に邁進してまいったものでありますが、今後ともかかる努力を一層発展させ、西側の一員として、また、アジア・太平洋地域を基盤としつつ、幅広い自主積極外交を展開してまいる所存であります。
 以下、当面する外交の諸課題について基本的な考え方を申し述べます。
 東西関係を安定した軌道に乗せることは、世界の平和と安定にとり最も基本的な課題であります。このためには、我が国を含め自由と民主主義という基本的価値観を共有する西側先進民主主義諸国が結束を維持しつつ、互いに協力していくことが肝要であります。我が国としては、こうした観点から、昨年もウィリアムズバーグ・サミットにおける政治声明に積極的に参加する等諸般の努力を行ってまいりました。
 西側としては、基本的姿勢として、今後とも平和を確保するための十分な抑止力を維持するとともに、ソ連を初めとする東側諸国との対話と交渉を進めていくことが重要であります。特に、核軍縮を中心とする米ソ間の軍備管理交渉の促進が焦眉の急であります。中距離核戦力交渉については、アジアの安全保障をも考慮したグローバルな観点に立った解決を図らなければならないとの我が国の主張が、西側の共通の立場として認識されておりますが、ソ連が交渉を一方的に中断したことは遺憾であり、ソ連が交渉の席に戻り、真剣な交渉努力を行うよう強く訴えるものであります。(拍手)戦略兵器削減交渉についても、ソ連が速やかに交渉再開に応じ、その実質的進展が図られるよう希望いたします。また、我が国としても国連、軍縮委員会等の場を通じ、実効的かつ具体的な軍縮措置の着実な実現に向けて、引き続き積極的な貢献を行っていく所存であります。
 現下の厳しい国際情勢のもとにおいて、東西間の対話の重要性はいかに強調しても強調し過ぎることはありません。東西間の対話を継続することは、軍縮問題も含めて、単に双方に共通の問題の解決を促進するだけでなく、その過程における率直な意見の交換を通じて相互の意思疎通を増進し、東西間の対決の危険性を減ずる効果を持つものであります。この意味で、政府は、先般のレーガン大統領の演説で改めて示されたソ連との対話を重視する米国の姿勢を支持するものであります。
 日米安保体制を基盤とする日米友好協力関係は、我が国外交の基軸であり、この関係が良好に保たれ発展していくことは、ひとり我が国の安全と繁栄を確保するためのみならず、アジア、ひいては世界の平和と安定にとって重要な要素であります。昨秋のレーガン大統領の訪日は、平和と繁栄のための日米協力を増進する上で極めて意義深いものであり、首脳会談では、日米両国間の信頼関係がより一層強化されました。また、私は、本年一月末に訪米し、レーガン大統領、ブッシュ副大統領、シュルツ国務長官及びその他関係閣僚と会談を行い・揺るぎなき日米関係の一層の強化に向けての両国の決意を新たにした次第であります。私は、今後とも二国間の問題解決にさらに努力を払うとともに、日米間の積極的な協力面を推進することにより、両国関係の一層の発展に尽力する所存であります。
 日欧関係の一層の強化を図ることは、西側の結束を図る上で欠くことができません。昨年一月の私の訪欧を契機として、日欧関係は画期的な進展を見ております。日・EC議長国間の外相政治協議が制度化されたのを初めとして、欧州との政治対話の緊密化が図られてまいりました。また、経済面でもEC委員会との閣僚会議が新たに発足する運びとなりました。さらに、本年も政治、経済両面にわたる幅広い協力を一層充実していく所存であります。
 先般首相を我が国に迎えた豪州初め、カナダ、ニュージーランドといった太平洋地域の先進民主主義国との協力をも一層強化していく考えであります。
 アジアは種々の不安定要因を抱えておりますが、他面、極めて活力に富み、将来に向けて大きな発展の可能性を有する地域として、域外の関心も高まっております。アジアの一員である我が国にとっては、なおさらこの地域の安定と繁栄は死活的に重要であります。私は、このような認識のもとに、米欧等のアジアに対する理解の増進にも寄与しつつ、対アジア外交を外交の重要な基盤として推進してきたものであります。今後ともアジア諸国との相互理解の増進に努め、これら諸国の信頼と期待にこたえてその発展と繁栄に寄与し、もってアジアの平和と安定に資するよう努力していく所存であります。
 朝鮮半島の情勢は、ビルマにおける不幸な事件もあって、以前にも増して厳しいものがあります。政府としては、同半島の問題が南北両当事者の直接の対話により解決されるべきであると考えておりますが、関係諸国の努力により対話再開の環境が醸成されることを期待するとともに、我が国としても可能な努力を継続してまいる所存であります。隣国たる韓国とは、現在の良好な関係を基礎として、今後は二国間の問題のみならず広く国際問題についても話し合う多元的な関係をさらに発展させたい考えであり、そのためにも両国国民各層が幅広く交流し、両国関係をすそ野の広いものにするよう努力していきたいと考えております。北朝鮮との関係については、経済、文化等の分野における交流の基本的枠組みまこれを維持する考えであり、同時に北朝鮮が朝鮮半島の緊張緩和に向けて真摯な努力を傾けることを期待するものであります。
 中国との間には、両国関係の安定的発展のための堅固な基礎が既に築かれております。政府としては、先般の胡耀邦総書記の訪日の成果を踏まえ、平和友好、平等互思、相互信頼、長期安定の四つの原則に基づき、今後とも友好協力関係を幅広い分野において発展させるべく努めてまいる考えであります。また、中国の近代化の努力に対しては引き続きできるだけの協力をしていきたいと考えております。
 ASEANは、ブルネイを新たな加盟国として迎え、ユニークで調和のとれた一つの国際社会として、東南アジアひいては世界の平和と繁栄にとりますます重要な役割を果たすことが期待されます。我が国とASEAN諸国との友好協力関係は、昨年来、科学技術等の幅広い分野にわたる新たな次元にまで高まってきております。私は、ASEAN諸国の経済、社会開発及び連帯強化のための努力を引き続き支援する考えであります。
 依然未解決のカンボジア問題は、東南アジアの平和と安定にとって大きな障害となっております。同問題の解決のためには、話し合いによる包括的政治解決が必要であり、我が国は今後ともその実現に向けてのASEANの努力を支援するとともに、ベトナムとの対話を維持しつつ、問題の解決のためにあらゆる努力を続けてまいります。
 南西アジアでは、域内諸国間の地域協力構想の進展などこの地域の安定にとって好ましい動きも見られます。我が国としては、今後とも同地域の安定的発展に対してきる限りの協力を行うとともに、同地域諸国との関係強化に努力していく所存であります。
 インドシナ及びアフガニスタン難民問題は、依然としてアジア諸国、なかんずくタイ及びパキスタンに多大の負担を強いているのみでなく、周辺地域の不安定要因となっております。我が国は、資金援助やインドシナ難民の受け入れなどを通じ、今後とも問題解決のため貢献していく考えであります。
 我が国の重要な隣国であるソ連との関係は、厳しい東西関係を反映し、また、北方領土問題が依然として未解決であるのみならず、近年、極東、なかんずく北方領土においてソ連が軍備強化を行っていること等により、遺憾ながら引き続き厳しい局面にあります。我が国は、従来より国連での日ソ外相会談及び事務レベル協議等日ソ間のあらゆる対話の機会をとらえ、ソ連に対しこのような事態を速やかに是正するとともに、日ソ間の最大の懸案たる北方領土問題を解決して平和条約を締結するよう粘り強く求めてきております。政府としては、通すべき筋は通すとの毅然たる姿勢を今後とも維持しつつ、ソ連との間で対話を続け、二国間問題のみならず広く国際情勢についても意思疎通を図ることにより、真の相互理解に基づく安定的な日ソ関係を確立するため、引き続き努力を払っていく決意であります。ソ連側においても、我が国に対して、善隣友好を言葉の上で強調するだけでなく、誠意ある具体的行動で示すよう強く希望する次第であります。(拍手)
 東欧諸国との相互理解と友好関係の増進も重要であり、昨年の私の訪問の成果等を踏まえ、今後とも各国の国情及び政策を十分勘案の上、きめ細かい努力をしてまいる所存であります。ポーランドの事態につきましては、真の国民的和解が速やかに達成されることを希望しております。
 中近東地域では、国家間あるいは民族間の対立や紛争が継続し、情勢は非常に流動的であります。この地域において事態が悪化する場合には、回復基調にある世界経済の動向にも重大な影響を与えかねません。
 とりわけ戦略的、経済的に重要な湾岸地域を臨むイラン・イラク両国の間では武力紛争が長期化しております。私は、昨年両国を同時に訪問して以来、これまで両国に対し紛争を拡大させないよう自制を求めるとともに、和平に向けての環境づくりのため独自の努力を行ってまいりました。かかる我が国の努力は国際的にも評価されておりますが、今後とも一層の努力を行ってまいる決意であります。
 レバノン情勢も憂うべき状況にあります。我が国は、レバノンが国内諸勢力間の和解を達成し、全外国軍隊の撤退により、一日も早く主権を回復することを希望するとともに、事態をこれ以上悪化せしめぬよう今後とも関係当事者に自制を求めていく所存であります。
 また、中東和平については、我が国は、この問題の解決が中東地域の安定のために不可欠との認識のもとに、和平実現の好機を逃すことのないよう、関係当事者に柔軟かつ現実的な対応を示すよう働きかけてまいります。
 アフガニスタンでは、ソ連軍の介入が既に四年以上続いていることは遺憾であり、我が国は、ソ連に対しその即時全面撤退を今後ともあらゆる機会をとらえて訴えていく所存であります。
 我が国と伝統的に友好関係にある中南米諸国は、近年経済困難に直面しておりますが、我が国としては、他の先進諸国とも協力しつつこれら諸国に対してできる限りの協力を行っていくとともに、引き続き人的交流の促進を図り、友好協力関係の増進に努めてまいります。我が国は、最近の中米情勢の推移を懸念を持って見守っておりますが、コンタドーラ諸国を中心とする域内及び関係諸国の努力によって、中米問題の平和的解決が早急にもたらされることを強く期待しております。
 アフリカ諸国は、厳しさを加える経済状況の中で国づくりに懸命の努力を傾けております。また、ナミビアの早期独立達成に向けて、国連や関係諸国の努力が引き続き行われております。我が国は、かかる努力に対してできる限り協力していく考えであります。
 現下の世界経済情勢のもとで、自由貿易体制を維持強化しつつ、インフレなき持続的成長を達成し、西側社会の基盤をなす市場経済体制に対する信頼を確たるものとすることが強く求められております。そのためには、西側先進工業諸国が内外に均衡のとれた経済運営に努めつつ、時代に即応した経済社会の構造調整に積極的に取り組み、その活性化を図っていくことが肝要であります。世界経済がようやく三年越しの不況から脱出し、薄日の差す状況に転じた今こそ、保護主義の巻き返しに一層の努力を払うべきことは言うまでもありません。また、債務累積問題の解決のためには、開発途上国への資金の流れを確保するなど金融、貿易両面での適切な対応が必要であります。
 かかる観点から、私は、我が国がその経済力に見合った国際的責任を十分認識し、内需を中心とした成長を図るとともに、一層の市場開放に努め、また、金融資本市場やサービス取引等の問題についても適切に対処し、世界に一層開かれた日本の経済社会を積極的に形成していくことが必要であると考えます。また、昨年十一月中曽根総理大臣が提唱した新たな多角的貿易交渉の準備促進については、我が国は今後とも関係諸国との協議を通じ、これに対する支持の輪を広げていくことに力を注いでいく所存であります。さらに、科学技術分野での国際協力を積極的に推進していくことも重要であります。
 こうした努力を進めるに当たっては、世界各国との強調を図っていくべきこと、とりわけ我が国と緊密な関係にあるASEAN諸国初めアジア・太平洋地域の経済発展に一層貢献していくべきことは申すまでもありません。さらに、米国やECを初めとする諸外国との間の問題については、経済的側面のみならず政治的、社会的側面にも十分配慮し、国民の理解を得ながらできるだけ早急に解決するよう努力してまいる考えであります。
 開発途上国が政治的、経済的、社会的に安定して発展することは、世界の平和と繁栄にとって極めて重要であります。
 我が国としては、南北問題の解決に向けて、南北間の建設的対話と協調を促進し、債務累積問題等南の諸国の諸困難の解決に寄与しつつ、今後とも双方のかけ橋としての役割を積極的に果たしていく所存であります。私は、かかる我が国の立場を、昨年も第六回国連貿易開発会議、第三十八回国連総会といった場で強く訴えたところであり、南北双方から好感と期待感を持って迎えられました。特に開発途上国に対する経済協力の推進、とりわけ政府開発援助の拡充は、経済大国である我が国の国際的責務であるのみならず、世界経済の発展及び世界の平和と安定に資するものであり、我が国の長期的国益にもかなうものであります。我が国は、こうした認識に基づき、引き続き新中期目標のもとで、政府開発援助を拡充していく方針であります。
 さらに、開発途土地域における紛争と混乱を未然に防止することを初めとして、世界の平和と安全を確保する上で、国連の果たす役割は大きなものがあります。我が国は、この観点からも、国連の平和維持機能の改善強化に引き続き積極的な協力を行っていく考えであります。
 今日の国際社会において、しばしば相互理解の不足に基づく誤解や相互不信が国際関係を必要以上に複雑にしているというのが私の実感であります。我が国としましても、諸外国との相互理解を増進し、互いの国情についての正しい認識を確立していくことは、外交の重要な課題の一つであります。このため、政府は、今後できる限り多くの機会をとらえ、多種多様の方途により、我が国の実情について諸外国の認識を深めるよう海外啓発活動を一層強化するとともに、学術、教育、芸術、スポーツ、日本語の普及等の文化面における交流や協力を促進し、特に、将来を担う青少年を中心とする国民レベルでの人的交流を一層拡充していく所存であります。他方、我が国の国際化に伴い、姉妹都市を中心とする地方自治体や民間においても文化交流が急速に進展しつつあります。政府としては、さらに、このような活動との連携に意を用い、これを積極的に支援してまいりたいと考えます。
 以上申し述べましたように、厳しい国際環境のもとにあって、我が国の外交は幾多の重要な課題を抱えております。このような外交を強力かつ機動的に推進していくためには、外交活動に対し国民の幅広い理解と支持を得ていくことが不可欠であると同時に、在外公館の機能も含め外交実施体制を強化拡充することが急務と考えます。
 二十一世紀は目前に迫っております。今や外交は、今日に生きる我々自身のためだけでなく、次に続く世代のために平和で豊かな日本、そして世界を築いていくという、まことに重大な責務を負っております。私は、決意を新たに、この責務を全うし、日本の未来を切り開いてまいる所存であります。
 国民各位及び同僚議員のこれまでの御協力に感謝申し上げるとともに、今後の力強い御支援をお願いするものであります。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(福永健司君) 大蔵大臣竹下登君。
    〔国務大臣竹下登君登壇〕
○国務大臣(竹下登君) ここに、昭和五十九年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的考え方につき所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明いたしたいと存じます。
 今や我が国は、これまで実現してきた物の面の豊かさを超えて、ゆとりと活力のある安定社会の構築に取りかかるべき時期を迎えていると考えられます。
 顧みますと、世界経済は二次にわたる石油危機を経て、成長率の鈍化や失業の増大、インフレの高進や財政赤字の拡大、国際通貨の動揺や貿易摩擦の激化といった幾多の経済的困難に逢着し、今後の進むべき道を模索し続けてまいりました。この間、我が国は、国民のすぐれた英知とたゆみない努力によってインフレを早期に鎮静化し、高度成長から安定成長への円滑な移行と国際収支の赤字解消をなし遂げ、経済大国としての地歩を固めてまいったのであります。
 昨年三月に、それまで上昇する一方であった原油価格が引き下げられたことを一つの契機として、世界経済には明るい展望が開けてきた観があります。この原油価格の低下に加え物価の安定等の好条件を背景に、米国で予想を上回る景気回復が見られるほか、主要先進国は総じてインフレ克服と成長回復に自信を深めております。
 我が国経済につきましても、生産、出荷や企業収益等の動向を中心に顕著な改善が見られ、景気は緩やかながら、しかし着実に回復の過程をたどりつつあります。我が国経済は、第一次石油危機発生以来約十年の歳月を経て、今ようやく大きな節目を迎えるに至ったように思われるのであります。
 この十年間、我が国は、二度にわたる試練を乗り越える過程で、経済活動の面でも社会意識の面でも、大きな構造的変化を遂げてまいりました。そしてソフト化、成熟化とも呼ばれる多彩な動きが現に進んでおります。これは多様性の尊重と個性の発揮を通じて新しい活力や自立自助の精神を生み出す動きであり、また一方では、物の豊かさとともに心のゆとりと精神的豊かさを希求する動きでもあります。
 我が国が今後進むべき安定成長の道は、かつてのような量的拡大を強く指向する道への回帰ではなく、人々に、物の面の豊かさに加えて精神的な潤いや生きがいをもたらし、進取の活力を生み出す新しい道でなければなりません。この目的のため、我々は、国民の英知と努力を結集して、ゆとりと活力のある安定社会を二十一世紀に向けて築き上げていきたいと考えるものであります。(拍手)
 このような社会を実現していくため、私は、社会経済の大きな変化に対応すべく、三つの課題、インフレなき持続的成長の確保、財政改革の一層の推進及び調和ある対外経済関係の形成、これを念頭に置いて、今後の財政金融政策の運営に当たってまいりたいと考えております。
 昨年五月に開かれましたウィリアムズバーグ・サミットにおいても、インフレなき持続的成長の実現を目指し、財政赤字を削減するとともに金利の一層の低下に努力するほか、貿易や国際金融面等におきましても、先進各国が協調していくことが確認されたところであります。
 まず第一は、引き続きインフレなき持続的成長の確保を図っていくことであります。
 申すまでもなく、物価の安定は、経済の発展と国民生活安定の大前提であります。現在は、物価が戦後最も落ちついた動きを示している時期の一つと言っても過言ではありません。今後ともこのような安定した基調を維持し、持続的成長の基盤としてまいりたいと考えております。
 景気の面では、先行きに一層の明るさを増してきておりますが、昨年十月に総合経済対策を策定したところであり、さらに昭和五十九年度予算におきましては、民間資金の活用等による事業費の確保、投資促進のための税制上の措置の導入など、できる限りの配慮を行っているところであります。また、所得税及び住民税の大幅減税を実施することといたしておりますが、これは社会経済情勢の変化に対応して所得税制を見直そうとするものであり、経済に対して好ましい影響を与えることになると考えられます。
 また、金融政策の面では、昨年十月、一年十カ月ぶりに公定歩合の引き下げが行われ、これを受けて預貯金金利を含む金利全般の引き下げを図ったところであります。今後の金融政策の運営につきましては、従来同様、物価、景気、内外金利の動向、為替相場の状況等を見守りながら、適切かつ機動的に対処してまいる所存であります。
 第二は、財政改革の一層の推進であります。
 石油危機後の経済の停滞と税収の伸び悩みの中で、政府は巨額の公債発行に踏み切り、景気の下支えと国民生活の安定向上に力を尽くしてまいりましたが、これは財政に大きな傷跡を残しました。
 まず公債の発行残高は、昨年ついに百兆円を突破し、昭和五十九年度末には約百二十二兆円にも達する見込みであります。その利払い等に要する経費も昭和五十九年度予算においては予算の一八%強を占め、公共事業関係費をも上回り、社会保障関係費にも迫る状況にあります。また、歳出総額に占める税収の割合は六〇%台と先進諸外国に比べ著しく低く、このような状態が昭和五十年度以降十年間も継続しているのであります。
 このため、我が国財政は、本来期待されている諸機能の発揮を十分には行い得なくなっており、このままでは、人口の高齢化や国際社会における我が国の責任の増大など、今後の社会経済の変化に対応する力が失われることは必至であります。
 したがって、財政改革の推進を通じて、新しい時代の要請にこたえ得る財政の対応力を回復させることは、今後の我が国経済の発展と国民生活の安定の基盤を確かなものとするため、ぜひともやり遂げなければならない緊要の政策課題であります。このことは、同時に、自立自助の精神に基づく民間の創意とエネルギーを最大限に発揮し得る社会経済の構築にもつながる道であります。
 このような考えのもとに、政府としては、先般策定した「一九八〇年代経済社会の展望と指針」において、その対象期間中に特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引き下げに努めるという努力目標を示したところであります。
 この努力目標に向けて、今後とも財政改革を推進するため、最大限の努力を積み重ねていく所存でありますが、このため歳出面におきまして、政府と民間、国と地方との間の役割と責任を明確にする見地から、既存の制度、施策についても引き続き改革を行うなど、その節減合理化にさらに積極的に取り組んでまいりたいと存じます。また、歳入面におきましても、社会経済構造の変化に対応して、歳入構造の合理化、適正化に努めるほか、行政サービスの受益と負担のあり方という観点から、基本的な見直しを行う必要があると考えております。
 このように、歳出歳入構造の合理化、適正化について最大限の努力を続けるとともに、今後、多額に上る特例公債の償還財源をいかにして調達するかという問題に対処しなければなりません。この問題については、我が国経済の着実な発展と国民生活の安定を図りながら、どのように財政改革を進めていくかという観点から検討する必要がありますが、今後の厳しい財政事情を考えれば、特例公債の償還財源の調達について借換債の発行を行わないという従来の方針については、遺憾ながら見直さざるを得ないと考えるものであります。
 これらの問題に対処し、今後、財政改革を進めていくに当たっては、中期的な展望を持って幅広い視野から検討を行う必要があります。このような検討に資するため、昭和五十九年度予算を踏まえた中期的な財政事情の展望を作成するとともに、財政改革を進めていく上での基本的考え方を明らかにいたしたいと考えております。
 社会経済情勢は、今後ともなお極めて流動的なものと考えられ、財政改革への道は決して平たんなものではありません。これまでも連年血のにじむような改革努力が重ねられてまいりましたが、今や行財政改華についての国民の関心は、これまでになく高まっているとの感を深くするものであります。私は、今後とも引き続き国民の一層の御理解と御協力を得ながら、さらに着実に財政改革を推進するため、渾身の努力を重ねてまいる所存であります。(拍手)
 第三は、調和ある対外経済関係の形成に努めることであります。
 最近における我が国社会経済の国際化の進展には、まことに顕著なるものがあり、また我が国経済の規模は、世界経済のほぼ一割を占めるに至っております。我が国経済の繁栄と発展は、世界経済との調和ある関係を欠いては、もはや考えることができない状況にあり、同時に、我が国が相応の国際的責務を果たさなければ、世界経済の繁栄と発展は望み得ません。
 このような環境のもとで、昭和五十八年度の我が国の貿易、経常収支は、原油価格の低下、ドル高及び米国を中心とする世界景気の回復を主因として、大幅な黒字を続けており、諸外国では、我が国に対してその不均衡の是正を求める声が高まってきております。
 このような最近の我が国の貿易、経常収支の黒字は、必ずしも我が国のみの努力では制御し得ない要因によるところが大であります。しかし、世界経済の重要な一翼を担う我が国としては、この際率先して自由貿易体制を維持強化し、調和ある対外経済関係を形成していくため積極的な努力を行うことが緊要な課題となっております。
 以上のような情勢を踏まえ、政府は昨年十月総合経済対策を策定し、市場開放、輸入促進のほか資本流入の促進、円の国際化、金融資本市場の自由化及び国際協力の推進等広範多岐にわたる施策を講ずることといたしたところであります。
 まず、市場開放につきましては、我が国はこれまでに一連の対策を実施してまいりましたが、さらに昭和五十九年度関税改正において、鉱工業品に関し東京ラウンド合意にのっとった関税引き下げの繰り上げ及び特恵関税シーリング総枠の拡大を行うとともに、諸外国の関心の強い半導体、再生木材等の関税の撤廃または引き下げ等を行うことといたしております。
 次に、円の国際化及び金融資本市場の自由化の問題につきましても、さきの対策において種々の具体的措置を盛り込んだところでありますが、我が国の金融制度等の有する長い歴史と伝統あるいは日本の土壌を踏まえて、主体的かつ積極的にこの問題に取り組み、引き続き、内外経済の今後の進展に柔軟に対応し得るような金融資本市場の形成を図ってまいりたいと考えております。
 為替相場の動向につきましては、昨年十一月以降、ドイツ・マルク等の欧州通貨は、米ドル金利の反騰懸念や国際政治情勢などを反映し、記録的な安値となっておりますが、円相場は、昨年十月以降比較的堅調に推移しております。今後、円相場につきましては、さきの対策に盛り込んだ資本流入の促進等を初めとした各般の措置の着実な実施と相まって、我が国経済の良好なファンダメンタルズを十分反映したものとなるよう期待しております。今後とも関係諸国と密接な協調を保ちながら、円相場の安定に努めてまいりたいと考えております。
 債務累積問題につきましては、これに端を発して国際金融面で混乱が生ずることのないよう注意深く対応してきたところであります。債務累積問題の解決のためには、今後とも、世界経済の持続的な回復や世界的高金利の是正とともに、債務国自身の厳しい自助努力による経済調整、債権国の政府及び民間銀行並びにIMF等の適切な対応が必要であり、我が国としてもこのような見地に立って対処してまいる所存であります。
 また、先般の世銀の増資交渉におきまして、我が国が米国に次ぐ第二位の出資国となることが合意されました。これは我が国の世銀グループに対するこれまでの積極的な協力の結果であり、同時に我が国の国際社会における責任が従来以上に重大となることを意味するものであると考えております。このような認識に基づき、我が国としましては、今後とも国際協力の一層の推進に努めてまいりたいと考えております。
 なお、調和ある対外経済関係の形成を図るとの観点から、さきの対策に掲げられた措置のうち一括して法律改正を提案することが適当な事項につきましては所要の改正法案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。
 次に、昭和五十九年度の予算の大要につきまして御説明いたします。
 昭和五十九年度予算は、財政改革を一層推進するため、特に歳出構造の徹底した見直しを行うことを基本とし、あわせて歳入面についてもその見直しを行い、公債の減額に最大限の努力を払うこととして編成いたしました。
 歳出面におきましては、制度の根本にまで踏み込んで徹底した節減合理化を行い、その規模を厳に抑制したところであります。概算要求の段階におきましては、前年度よりさらに厳しいマイナス・シーリングを採用し、各省庁において所管予算の根本的見直しを行ったところであり、その後の予算編成に当たりましても、聖域を設けることなく見直しを進め、地方財政対策の改革、医療保険制度や年金制度の改革を初めとする種々の制度改正を行うなど徹底した歳出の削減を行いました。また、食糧管理費の節減合理化、国鉄経営の合理化等をさらに推進したところであります。
 補助金等につきましては、すべてこれを洗い直し、制度改正を含め従来にも増して積極的に整理合理化を行い、真にやむを得ない増加要素に対処して、なお、総額において前年度に比べ四千三百五億円の減と厳しく圧縮いたしました。
 国家公務員の定員につきましては、定員削減計画を着実に実施するとともに、増員を厳に抑制いたしました。この結果、行政機関等職員については、三千九百五十三人に上る大幅な縮減を図ることといたしております。
 以上の結果、一般歳出の規模は、三十二兆五千八百五十七億円と前年度に比べて三百二十八億円の減に圧縮いたしております。これに国債費及び地方交付税交付金を加えた一般会計予算規模は、前年度当初予算に比べ、〇・五%増の五十兆六千二百七十二億円となっております。
 次に、歳入面につきまして申し述べます。
 まず、歳入の大宗をなす租税につきましては、昭和五十九年度税制改正において社会経済情勢の変化に応じて所得税制全般を見直すことにより、初年度一兆一千八百億円に上る所得税及び住民税の大幅減税を行うことといたしております。具体的には、扶養家族のある中堅所得者、給与所得者等の負担の軽減に配慮しながら、課税最低限の引き上げや税率構造の改正等を行うことといたしたところであります。
 また、エネルギー利用の効率化、中小企業の設備投資等を促進するため、所要の措置を講ずることといたしております。
 それとともに、現下の厳しい財政状況をこれ以上悪化させることのないよう、法人税、酒税、物品税について税率の引き上げ等の措置を講ずることといたしておりますが、これは歳出削減、税外収入の確保等に最大限努めても、なおかつ必要な措置であることを国民各位にぜひとも御理解いただきたいのであります。
 以上のほか、所得税制において、制度及び執行の両面にわたる実質的公平確保が強く要請されてきていることを踏まえて、申告納税制度の一層の定着と課税の公平を図るため納税環境の整備に向けて所要の措置を講ずるとともに、今後とも国民の信頼と協力を得て、一層適正公平な税務行政を実施するよう努力してまいる所存であります。
 また、税外収入につきましては、さきにも申し上げたとおり、極めて厳しい財政事情にかんがみ、特別会計及び特殊法人からの一般会計納付等の措置を講ずるなと思い切った増収を図ることといたしております。
 公債につきましては、以上申し述べました歳出歳入両面の努力により、その発行予定額を前年度当初予算より六千六百五十億円減額し、十二兆六千八百億円といたしました。その内訳は、建設公債六兆二千二百五十億円、特例公債六兆四千五百五十億円となっており、この結果、公債依存度は二五・〇%となっております。
 この公債につきましては、その円滑な消化に配慮し、国債引受団による消化は六兆八千億円、中期国債の公募入札による消化は二兆二千八百億円、資金運用部資金による引き受けは三兆六千億円とすることといたしております。特例公債の発行等につきましては、別途昭和五十九年度の財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。
 財政投融資計画につきましては、厳しい原資事情にかんがみ、対象機関の事業内容、融資対象等を厳しく見直すことにより規模の抑制を図り、政策的な必要性に即した重点的、効率的な資金配分となるよう努めるとともに、民間資金の活用を図り、円滑な事業執行の確保に配慮したところであります。
 この結果、昭和五十九年度の財政投融資計画の規模は二十一兆一千六十六億円となり、前年度当初計画に比べ、一・九%の増加となっております。
 次に、主要な経費につきまして申し述べます。
 昭和五十九年度予算におきましては、異例に厳しい財政事情のもとで、さきに申し上げたように制度の改革を行うなど経費の合理化、効率化を図っておりますが、その中にあって、真に恵まれない人々に対する施策等については、きめ細かな配慮を行うとともに、中長期的観点から充実を図る必要があるものにつきましては特に配意いたしました。
 まず、社会保障関係費、文教及び科学振興費につきましては、今後における高齢化社会の進展等社会経済の変化に対応して、今後とも各種施策を安定的に維持する等のため、医療保険、年金、児童扶養手当、雇用保険及び育英奨学事業について本格的な制度の改革を行うなど、合理化、効率化を図るとともに、老人や心身障害者に対する福祉施策の充実、保健事業の推進、高年齢者の就業機会の確保、基礎科学研究の充実など施策の推進に努めております。
 経済協力費につきましては、国際情勢等を考慮して積極的にその推進を図ることとしており、防衛関係費につきましても、他の諸施策との調和を図りながら質的充実に配意することとしております。また、エネルギー対策費につきましても、石油税の税率引き上げ等により所要の財源を確保しつつ、中長期的な需給見通しを踏まえ、各種施策を計画的かつ着実に推進することとしております。
 中小企業対策費につきましては、中小企業を取り巻く環境の変化に対応していくため、その近代化、構造改善を促進していくための措置を講じております。また、農林水産関係費につきましては、需要の動向に即応した生産の再編成を行いながら、生産性の高い農業の実現を図ることを基本に施策の重点的、効率的な推進に努めております。
 公共事業関係費につきましては、厳しい財政事情にかんがみ、国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に重点的に配意しながら、総額として前年度を下回る水準としておりますが、一般公共事業の事業費につきましては、民間資金の活用など種々の工夫を行うことにより、前年度を上回る水準を確保することといたしております。
 昭和五十九年度の地方財政につきましては、約一兆五千億円の財源不足が見込まれますが、地方財政対策について、国と地方の財政運営の中期的な展望に立って、地方の自主責任の原則を踏まえ、抜本的な改革を行い、地方交付税について当分の間総額の特例措置を講ずることとし、その適正な運営に支障のないよう配慮しております用地方団体におかれましても、歳出の節減合理化を推進し、より一層有効な財源配分を行うよう要請するものであります。
 この機会に、昭和五十八年度補正予算につきまして一言申し述べます。
 昭和五十八年度補正予算につきましては、昭和五十八年分の所得税の臨時特例等に関する法律の実施に伴う減税一千五百億円等に対処するとともに、災害復旧費の追加、義務的経費の追加等やむを得ない歳出の追加等の措置を講ずることといたしておりますが、現下の厳しい財政事情のもとにおいて、これらに必要な財源の捻出には極めて苦慮したところであります。
 すなわち、特例公債の増額を行わないことを基本として、既定経費の節減、予備費の減額、税外収入の増加、前年度剰余金の受け入れ等により財源の捻出に最大限の努力を払った結果、これらによって、義務的経費の追加等通常の追加財政需要を賄うことといたしました。しかし、昭和五十八年の相当規模の災害につきましては、早期にその復旧を図ることとし、これに要する経費については、建設公債四千四百五十億円を発行することによりその財源を確保することといたしました。
 この結果、昭和五十八年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算に対し四千五百九十八億円増加して、五十兆八千三百九十四億円となり、その公債依存度は二七・一%となっております。
 以上、昭和五十九年度予算及び昭和五十八年度補正予算の大要について御説明いたしました。何とぞ御審議の上、速やかに御賛同くださるようお願い申し上げます。
 我が国の社会経済は、現在絶えざる変化の過程にあります。私は、この変化に適切に対応し、将来、私たちの子孫が生まれた幸せを感じ、ゆとりと活力を持って過ごしていくことができるような安定した社会を築き上げたいと念願するものであります。(拍手)
 そのためには、勇気と決意を持って、今なすべきことは毅然として実行していかなければなりません。財政改革への取り組みにおいても、またしかりであります。私たちの子孫に大きな重荷を残すことのないよう一歩一歩改革の実を上げていかなければなりません。(拍手)
 また、我が国経済の国際化への対応に際しても、私たちが自信を持って守り育ててきた日本の土壌の中において今後のあるべき姿を主体的に模索し、創造していく必要があります。
 我が国が抱える課題解決のための今日の私たちの努力と忍耐は、必ずや、新しい時代における我が国の一層の発展と繁栄の礎となるものと確信をいたしております。
 国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願いするものであります。(拍手)
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○議長(福永健司君) 国務大臣河本敏夫君。
    〔国務大臣河本敏夫君登壇〕
○国務大臣(河本敏夫君) 我が国経済の当面する課題と経済運営の基本的な考え方について所信を申し述べたいと存じます。
 激動する内外経済情勢のもとで、我々が目指すべき経済運営の基本的な課題は、次の二点に集約できると考えます。その第一は、自由な経済社会を豊かな土壌として、その成長の成果を国民に還元し、国民生活の充実向上を図ることであります。第二は、日本経済が世界全体のGNPの一割を占める世界国家であることを自覚し、世界経済の発展のために相応の責任と役割を果たして、世界経済に積極的に貢献することであります。
 これらの課題にこたえていくためには、我が国経済の潜在的な活力を目覚めさせ、十分に発揮させるような経済運営を行う必要があります。我が国経済は、物価の安定、高い貯蓄率、すぐれた国民の資質等の好条件に恵まれており、経済政策のよろしきを得れば、我が国経済の活力を一層引き出すことは十分可能と考えております。また、このような活力を引き出すことによって、行財政改革の円滑な推進も対外経済摩擦問題の基本的解決もより容易になるものと考えます。特に、現在は世界経済も我が国経済も回復基調にあり、我が国経済の潜在的な活力を引き出していく、まさにその好機であると考えております。
 ここで、内外経済の現状と当面の経済運営の基本的な考え方について申し述べたいと存じます。
 世界経済は、総じて、第二次石油危機を契機とした三年続きの不況から脱却しつつあります。その原動力は、アメリカを中心とした先進諸国の景気回復であります。この回復の特徴は、インフレの鎮静化等による国内民間需要の拡大であり、これには原油価格の低下も大きく貢献しているものと考えられます。そして予想を上回る景気拡大が続いておりますアメリカを中心とした景気回復が貿易を通じて世界の他の国々へ広がっております。
 しかし、欧州諸国を中心とした高水準の失業、アメリカの金利の高どまり、発展途上国の債務累積等経済的諸困難は依然として続いております。こうした状況を背景に、保護貿易主義的傾向は依然衰えを見せておりません。
 このような中で、我が国経済も第二次石油危機後の三年にわたる景気調整を終え、昨年春以降緩やかながら着実な回復過程にあります。アメリカの力強い景気回復を契機として、輸出や生産が増加していることに加え、物価の安定、企業収益の改善等を背景として、昨年の夏以降、中小企業の設備投資、住宅投資等国内民間需要の一部に持ち直しの動きが出てきております。また、雇用情勢は厳しいものの改善の動きが見られます。一方、対外面を見ますと、円安修正が定着し、輸入が増加傾向を示しておりますが、経常収支は依然大幅な黒字が続いております。こうした中で、政府は、昨年十月総合経済対策を決定し、その着実な実施を図っているところであり、昭和五十八年度については、当初見通しの三・四%程度の実質成長が十分達成可能になったものと考えております。
 昭和五十九年度は、このような明るさの見え始めた我が国経済を国内需要を中心とする持続的成長に導くべき年であると考えますが、その経済運営に当たっては、特に次の諸点を基本として考えてまいりたいと存じます。
 その第一は、国内民間需要を中心とした景気の持続的拡大を図るとともに、雇用の安定を確保することであります。
 財政面では多くを期待し得ない現状でありますが、今後とも景気情勢に即応して、適切かつ機動的な財政運営を図るべきことは言うまでもありません。さらに国内需要の拡大を図るためには、民間経済の活力が最大限に発揮されるような環境の整備を行うことが重要であります。
 このためには、特に内外経済動向及び国際通貨情勢を注視して、金融政策の適切かつ機動的な運営を図る必要があります。金融政策については、現在なお存在する種々の制約条件の改善を図り、今後とも機動的運営が確保されるよう努めていかなければなりません。
 民間設備投資については、我が国経済の成長に大きな役割を占めていることにかんがみ、その積極的な拡大を促し、創造的技術開発の推進、生産性の向上、産業構造の高度化を図ってまいります。個人消費につきましては、我が国経済が明るさを増してきたことに伴い、所得の増加を通じて回復するものと期待されますが、政府としては、物価の安定基調を維持することによりその回復の基礎を固めていくことといたしております。住宅建設につきましては、地価の安定、宅地の円滑な供給を図り、引き続きその促進に努めてまいります。
 このような政府の諸施策と民間経済の活力とが相まって、昭和五十九年度の我が国経済は、実質で四・一%程度成長するものと見込んでおりますが、今後の内外経済の動向いかんによっては、我が国の民間経済もさらに勢いを増す可能性もあり、引き続き民間経済の活力を最大限に生かすような適切かつ機動的な経済運営に努めてまいりたいと考えております。
 第二は、物価の安定を図ることであります。
 経済政策を進める前提条件として、物価の安定は絶対に必要なものであり、また、物価の安定なくして活力ある福祉社会の実現は望めません。
 政府といたしましては、物価の安定を重要な政策目標の一つに掲げてまいりましたが、最近の我が国の消費者物価は、前年度比上昇率二%前後と近年にない安定ぶりを示しております。今後の物価動向につきましては、為替相場の動向等不透明な面が残されておりますが、原油価格が落ちついていること等から、全体としては引き続き安定的に推移し、昭和五十九年度は、卸売物価一%程度、消費者物価二・八%程度の上昇にとどまるものと見込んでおります。
 政府といたしましては、今後とも、物価の動向に細心の注意を払いながら機動的な政策運営に努めるとともに、公共料金についても物価及び国民生活に及ぼす影響を十分に考慮して厳正に取り扱っていくことにより物価の安定基調を維持したいと考えております。
 また、国民生活の安定と向上を図るため、高齢化、情報化、国際化等に対応した国民生活のあり方について検討を進めるとともに、消費者行政を引き続き充実し、消費者を取り巻く諸条件の変化に対応して、各種商品、サービスの安全性の確保、消費者取引の適正化、その他消費者利益の擁護、増進のための所要の施策を進めてまいる所存であります。
 第三は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済への貢献であります。
 保護貿易主義の高まりが懸念される中で、我が国は、率先して自由貿易体制の維持強化を図り、調和ある対外経済関係の形成と世界経済活性化への貢献を図っていく必要があります。このような状況のもと、我が国は、内需の拡大による輸入の増加を図って世界経済を相互に拡大していくとともに、円の適切な対外価値の維持に努めることが重要であります。
 こうした観点から、政府は一連の市場開放対策を決定し、関税率の引き下げ、輸入検査手続等の改善を図る等の努力を払ってきたところでありますが、さらに昨年十月二十一日に総合経済対策を決定し、内需の拡大のほか関税率の引き下げ等一層の市場開放を図るとともに、輸入の促進に努めることとしております。また、資本流入の促進、円による国際取引の促進を図るとともに、金融資本市場の環境整備に努めることといたしております。
 また、我が国が平和国家として国際社会へ積極的に貢献していくためには、経済協力の推進が肝要であります。発展途上国のほとんどは、あるいは債務累積問題あるいは食糧危機等なお困難な状況に置かれております。我が国は、発展途上国の経済発展及び世界経済の活性化に資するため、新中期目標のもとに経済協力の一層の充実と効率、効果的な推進に努めてまいる所存であります。
 次に、中長期の経済運営について申し述べたいと存じます。
 中長期的視野から我が国経済社会を見ますと、国際化、成熟化、高齢化といった変化の潮流が見られ、大きな転換期を迎えております。我々は、今や欧米に範を求める時代から、独自の道を創造的に切り開いていくべき時代に差しかかっております。また、国際的に見ても、戦後の世界経済秩序を再構築していく時代を迎えております。
 今後の我が国経済社会は、国際環境、経済活動、国民生活の各面で多重的に変化していくものと考えられますが、これらの変化に対し、積極的、創造的に対応していくことにより、経済社会の安定と発展を目指していかなければなりません。
 このため、中長期の経済運営につきましては、昨年八月に決定した「一九八〇年代経済社会の展望と指針」をよりどころとして、行政の改革、財政の改革を進めること、産業構造の高度化に支えられた新しい成長への歩みを進めること、民間活力の役割を重視しその活用を図ること、国際協力を推進することの四点を中心に、経済環境の変化に即応した諸般の施策を適切に推進していく必要があります。このことにより、着実な経済社会の発展を図り、豊かな国民生活を築いてまいる所存であります。
 以上、我が国経済の当面する課題と経済運営の基本的な考え方について所信を申し述べました。
 現在は世界経済の激動期であります。世界経済は、回復過程にあるとはいえ、多くの問題を抱え、我が国経済も解決すべき幾多の困難を抱えております。しかし、我が国経済は困難を克服していく旺盛な活力を有しております。戦後三十有余年、我が国経済はすぐれた適応力を発揮し多くの困難を乗り切ってまいりました。物価の安定、世界経済の回復等の条件を生かし、創意と工夫を重ねることにより、昭和五十九年度は、持続的安定成長への道を切り開くことが可能な年であると確信をいたしております。
 私は、世界経済との調和を図りながら、豊かで活力ある経済社会の実現に向けて全力を尽くす所存であります。
 国民の皆様の御支援と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手)
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○古賀誠君 国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来る八日午後一時より本会議を開きこれを行うこととし、本日はこれにて散会されんことを望みます。
○議長(福永健司君) 古賀誠君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(福永健司君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
 本日は、これにて散会いたします。
    午後二時五十一分散会
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