第109回国会 本会議 第11号
昭和六十二年八月二十一日(金曜日)
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  昭和六十二年八月二十一日
    午後一時 本会議
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○本日の会議に付した案件
 労働基準法の一部を改正する法律案(第百八回
  国会、内閣提出)の趣旨説明及び質疑
    午後一時二分開議
○議長(原健三郎君) これより会議を開きます。
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 労働基準法の一部を改正する法律案(第百八
  回国会、内閣提出)の趣旨説明
○議長(原健三郎君) この際、第百八回国会、内閣提出、労働基準法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。労働大臣平井卓志君。
    〔国務大臣平井卓志君登壇〕
○国務大臣(平井卓志君) 労働基準法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 労働基準法に定める労働時間に関する規定等は、昭和二十二年に制定されて以来改正されることなく今日に至っておりますが、この間、我が国の経済社会は未曽有の発展を遂げ、二十一世紀に向けてさらに大きな変化が予想されているところであります。
 このような状況の中で、労働時間の短縮は、労働者の福祉の増進、長期的に見た雇用機会の確保等の観点から重要であるのみならず、特に最近においては、経済構造の調整、内需拡大等の観点からも重要な課題となっており、国際社会における我が国の地位にふさわしい労働時間の水準とする必要性が高まっております。
 労働時間の短縮は、労働生産性向上の成果を労働時間短縮にも適切に配分すること等により労使の自主的努力によって進められることが基本でありますが、我が国においては、労使の自主的努力のみに期待することは困難な事情もあり、あわせて適切な法的措置をとることによって労使の自主的努力を補完し、その促進に資することが必要であると考えられます。
 また、労働基準法制定当時に比して第三次産業の占める比重の著しい増大等の社会経済情勢の変化に対応して、労働時間に関する法的規制をより弾力的なものとすること等も必要であると考えられます。
 このため、政府としては、かねてから中央労働基準審議会において労働時間法制等の整備について検討をいただいておりましたが、昨年十二月同審議会から建議をいただきましたので、この建議に沿って法律案を作成し、同審議会にお諮りした上、ここに労働基準法の一部を改正する法律案として提出した次第であります。
 次に、この法律案の内容の概要を御説明申し上げます。
 第一は、法定労働時間の短縮であり、欧米諸国において社会的実態として定着している週四十時間労働制を法定労働時間短縮の目標として明らかにするとともに、他方、我が国の労働時間の実態等を考慮し、当面の法定労働時間については、週四十時間労働制に向けて段階的に短縮されるよう命令で定めることといたしております。なお、中小企業等については、法定労働時間の短縮に当たって一定の猶予期間を設けることができることといたしております。
 第二は、労働時間に関する法的規制の弾力化であり、第三次産業の占める比重の増大等の社会経済情勢の変化に対応し、また、労働時間の短縮に資するため、労使協定の締結等一定の要件のもとに、フレックスタイム制、三カ月単位の変形労働時間制、一週間単位の非定型的変形労働時間制を認めることといたしております。
 第三は、年次有給休暇制度の改善であり、年次有給休暇の最低付与日数を六日から十日に引き上げるとともに、労使協定により計画的付与ができることといたしております。また、パートタイム労働者等所定労働日数が少ない労働者に対する年次有給休暇については、通常の労働者の所定労働日数との比率に応じた年次有給休暇を付与することといたしております。なお、年次有給休暇の最低付与日数の引き上げについても、中小企業については一定の猶予期間を設けることといたしております。
 その他、労働者が事業場外で業務に従事する場合等における労働時間の算定について、合理的な算定方法を定めることといたしております。
 また、賃金について、一定の確実な支払いの方法による場合には、通貨以外のもので支払うことができることとするほか、退職手当について、就業規則の記載事項の整備を図るとともに、退職手当請求権の時効の期間を延長することといたしております。
 最後に、この法律の施行期日は、周知に必要な期間を考慮し、昭和六十三年四月一日といたしております。
 以上が労働基準法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
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 労働基準法の一部き改正する法律案(第百八回国会、内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
○議長(原健三郎君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。永井孝信君。
    〔永井孝信君登壇〕
○永井孝信君 私は、日本社会党・護憲共同を代表し、ただいま議題となりました労働基準法の一部を改正する法律案について、総理並びに関係各大臣に対して質問をいたします。
 我が国の長時間労働が欧米諸国から厳しく批判され、国際経済摩擦の要因としてクローズアップされるようになってから既に十年以上が経過いたしておりますが、この間ほとんど改善されなかったことは周知のとおりであり、まさに政府の怠慢と言わざるを得ないのであります。なぜならば、我が党は十年以上も前から、我が国においては労働時間を短縮するためには思い切った法的措置が必要であることを指摘し、完全週休二日制、週四十時間労働制を柱とする労働基準法改正案を毎年のように国会に提出し、政府に対しその法改正を受け入れるよう繰り返し要求してきたのでありますが、政府は、これに耳を傾けようとせず、行政指導で十分との態度をとり続け、対処してきているのであります。
 しかし、その結果はほとんど見るべき成果のなかったことは、政府自身が最もよく承知しているはずであります。そのことが今日の我が国経済に重くのしかかっている急激かつ大幅な円高、貿易摩擦を招く要因の一つともなっている事実は、まことに遺憾であります。
 なお、この際、お聞きしておきたいと思うのでありますが、先日の宮澤大蔵大臣の円高問題に対する楽観的発言から、百五十円台に落ちついていた円が、本日は百四十二円台に突入をしております。これが経済的にお労働者の暮らしにとってもさらに大きな影響をもたらすことは必至と考えられます。この点について総理の御答弁をいただきたいと思います。
 さて、我が国の年間総実労働時間は、労働省の公表資料によりましても、フランスや西ドイツと比べ実に五百時間以上、つまり欧米流に完全週休二日制で計算すると約三カ月間もの開きがあり、世界一の不名誉な長労働時間国となっているのであります。今日の国際化の中で、しかも、世界のGNP一割国家、世界最大の債権国となった我が国において、このような長時間労働が放置されたままでよいはずはないのであります。
 また、我が国は、サミットにおける中曽根総理の公約でもある内需主導型の経済成長を目指さなければなりませんが、そのための消費拡大を進める上でも労働時間の短縮が大きな効果をもたらすことは、これまた周知のことであります。加えて、円高不況のもとで最悪の事態となっている雇用情勢に対処して雇用機会の創出を図るためにも、労働時間の大胆な短縮が求められているのであります。
 四月に発表されたいわゆる新前川レポートは「これまでの経済成長の成果が生活の質の向上に反映されているとは言い難い状況」と指摘し、その状況の象徴として、低い居住水準及び高い生計費とともに長い労働時間を挙げ、「今後中長期にわたり労働時間を着実に短縮し、我が国の経済力にふさわしいものとすることが、画期的な国民生活向上の必須の要件である。」と強調しておりますが、こうした基本的な認識については私も全く異存がありません。問題は、生活の質的向上の観点に立った労働時間の短縮とは何か、いつまでにどのようにして我が国において実現するかの具体策なのであります。
 そこで、まず第一に質問申し上げたいのは、政府は一体、我が国の労働時間水準についてどのように、またそれをいつまでに引き上げようとお考えになっているのかということであります。
 新前川レポートは、二〇〇〇年に向けてできるだけ早く年間千八百時間程度を目指すとしているのでありますが、これが政府として統一した目標なのでありましょうか。私は、欧米並みの労働時間水準を早急に、できればここ数年で実現すべきであると考えるのでありますが、サミットにおける中曽根総理の国際公約からして、どのような御見解をお持ちか、明らかにしていただきたいと思うのであります。
 第二は、その実現方法についてであります。
 周知のように、我が国においては労働条件が、大企業、中小零細企業によってその格差が著しいのであります。産業、雇用の二重構造のもとで、特に下請中小零細企業においてはなかなか労働条件が改善されません。下請企業の保護措置を講じることとあわせて、労働基準の引き上げにより中小零細企業の労働条件を改善するとともに、中小企業に対しては時短促進のための援助措置が必要であると考えますが、労働大臣の御所見をお伺いいたします。
 また、官公庁や金融機関の土曜日閉庁方式による完全週休二日制の推進は、その社会的波及力を考えますと、ぜひとも必要であります。従来の民間準拠の思想を大胆に転換し、官主導による労働時間短縮を進めることとし、来年四月からでも実施に踏み切るべきではないでしょうか。これらとあわせて学校五日制についても早急に実現すべきだと考えますが、中曽根総理及び関係大臣の明快な御答弁を求めるものであります。
 さらにまた、法律を制定しても、これが守られなければ何の意味もありません。現状でも違反が絶えないのでありますが、現在の労働基準行政の体制では限界があると指摘せざるを得ません。大幅に拡充する必要があると考えますが、この点について労働大臣の率直な見解を求めるものであります。
 第三に、提案されております労働基準法改正案の内容についてであります。
 この内容を見ますと、週法定労働時間についても年次有給休暇の付与日数についても極めて不十分であるばかりか、一九三五年の週四十時間労働制を採択したILO四十七号条約あるいは一九七〇年の有給休暇に関するILO百三十二号条約にもほど遠いものとなっているのであります。
 さらに、その適用に当たって、事業規模三百人以下の事業場については猶予措置が講じられ、大幅に格差を認め、むしろつくり出すものとなっております。これは、最低基準を定めるに当たっては企業規模によって格差を設けるべきでなく、労働者を平等に保護するという労働基準法の目的、本旨に反するものであると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)これに対し労働大臣はどのような見解をお持ちなのか、明らかにしていただきたいと思います。また、このような法改正によって政府は一体どの程度の実労働時間の短縮が見込まれると考えておられるのか、あわせて御答弁を求めます。
 さらに重大なことは、三カ月単位の変形労働時間制を導入するなど、労働時間規制を大幅に弾力化しようとしていることであります。
 労働者の生活の質的向上という観点から見れば、変形労働時間制は原則として認めるべきではありません。仮にこれを認めるとしても、西ドイツやフランスのように一日、一週あるいは年間の労働時間の上限を定めるとか、一週に一日は休日付与を義務づけるなど、厳しい規制が不可欠であります。政府案では、企業、事業場によっては、労働者がある時期に多かれ少なかれ集中的に労働させられ、人間としての健康と生活リズムが損なわれるおそれが極めて大きいと言わねばならないのであります。総量としては同じ労働時間であっても、賃金の引き下げにつながる危険性もまた多分に持っているのであります。
 とりわけ問題なのは、幼児を抱える女性労働者や妊産婦にとっては、三カ月単位の変形労働時間制のもとで働かされることになれば、職業生活と家庭生活を両立させることは極めて困難になり、事実上退職を強要されることにもなりましょう。そうならないという保障が一体どこにありますか。これは、政府が鳴り物入りで制定した男女雇用機会均等法の趣旨にも反するものではありませんか。女性に人気の高いと自負しておられる中曽根総理の御見解をお聞きいたしたいと思います。(拍手)
 今、労働基準法の改正に求められていることは、週四十時間制の確立、時間外・休日労働の制限、年次有給休暇の付与日数の引き上げなどでありますが、政府案では、これらについて極めて不十分である一方、今指摘しましたように、変形労働時間制が厳しい規制措置を講じないままに拡大されようとしているのであります。
 政府は一体何を考えているのか。新前川レポートは生活の質的向上を強調しておりますが、本音では、それは単なる作文、欧米諸国へのその場しのぎの言いわけであって、我が国は経済大国とはなっても、労働条件、生活面では相変わらず欧米諸国よりも劣悪なままでよいとお考えになっておられるのかと疑わざるを得ないのであります。政府にとって都合のよいことは答申や報告を盾にどんどん取り入れ、国民の願う生活の質的向上にかかわる部分はなおざりにするという態度は、断じて許すことはできないのであります。(拍手)
 政府案は、労働基準法研究会の報告をたたき台とし、中央労働基準審議会における論議の経過及びその建議を踏まえて取りまとめられ、本年三月九日に提出されたものでありますが、四月に発表された新前川レポートを引き合いに出すまでもなく、今日我が国が直面する国内外の情勢は、労働基準法研究会や中央労働基準審議会において論議、検討が行われていた当時の情勢からは大きく変化しているのであります。したがって、本来なら、政府としても情勢変化を踏まえて再検討し、提出し直すのが筋道でありましょう。少なくとも政府としては、原案に固執することなく、むしろ大胆にこれを修正するという態度をとるべきであると考えますが、中曽根総理いかがでございますか。
 我が国の労働時間短縮、労働基準法の改正問題の動向は、我が国の勤労国民のみならず、世界の各国が注目するところであります。労働基準法改正は単に労働時間の問題にとどまらず、我が国の勤労国民に今後どのような生活が保障されるのか、また、我が国経済社会がどのような方向に向かって発展していくのかにもかかわる重要な問題であります。したがって、労働基準法改正問題については、国会も政府も国民各層の意見や要望を十分受けとめ、その期待を裏切ることのないよう十分慎重な審議を行い、適切妥当な結論を導き出すべき責任があります。
 この点について、中曽根総理並びに関係大臣が十分御留意されつつ、勤労国民の不安を解消し、その期待に沿うような明快かつ積極的な御答弁を重ねてお願い申し上げて、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 永井議員の御質問にお答えをいたします。
 まず円相場の問題でございますが、我が国の経済の現況を見ますと、輸出がこのところやや減少ぎみではあるものの、国内需要は引き続き増加しておりまして、景気は回復局面にあるとはっきり言える段階になりました。今朝の月例経済報告におきましても景気回復という言葉が使われておるのでございます。
 政府は、内需を中心とした景気の積極的拡大を図るため、五月二十九日に決定した緊急経済対策の着実な実施を今図っておりますが、ここ数日の為替相場の動きが、直ちにこのような回復基調への経済動向に影響を与えるものとは考えません。もとより我が国は、今後とも主要国との協調的な経済政策の実施を推進しつつ、円レートの安定化を図ってまいる所存であります。もとより相場は市場によって自律的に決められるものでありますが、乱高下に対しては、従来のように適切な対策をとる考えであることは当然であります。
 次に、労働時間水準の目標でございますが、御指摘のように経済審議会建議は、労働時間短縮の目標として、二〇〇〇年に向けてできるだけ早期に年間総労働時間を千八百時間程度とすることを提言しておりまして、政府としては、この提言は時宜を得た適切かつ貴重なものとして高く評価いたしており、この実現のために最大限の努力をいたす所存でおります。
 官公庁の完全週休二日制の問題でございますが、諸外国の現況を見ますと、我が国においても完全週休二日制を目標として努力する必要があると考えます。ただ、その具体化に当たりましては、国民の御理解を得つつ、着実に推進する必要があります。
 公務員の週休二日制については、当面、人事院の勧告にもある四週六休制への円滑な移行を考えております。
 閉庁方式の導入については、総務庁を中心に現在いろいろ検討中でございます。
 金融機関の週休二日制の拡大については、昨年八月より、これまでの第二土曜日に加えて第三土曜日を休業日としたところであります。今後さらにこれを拡大することについては、金融界のコンセンサスのみならず、広く利用者たる国民や企業等の理解を得ながら進めていくべき問題であると思います。
 学校の五日制の問題は、社会情勢の変化を考慮し、教育課程や教員の勤務形態など学校運営の問題と同時に、さらには子供の生活行動の問題、かつ、父兄との関連も重視すべき問題であります。この問題については、現在教育課程審議会において検討が行われており、その審議結果などを踏まえて慎重に対処することといたしたいと思います。
 三カ月単位の変形労働時間制の問題ですが、家庭責任を背負っておる女子労働者の職業生活と家庭生活との調和を図ることができるようにすることは、重要な問題であると考えます。三カ月単位の変形労働時間制は、労使協定の締結等の要件のもとに認められるものでありまして、また、女子労働については、男女雇用機会均等法及び労働基準法の保護規定等が適用され、これらの規定に基づき必要な配慮が加えられますので、男女雇用機会均等法の趣旨に反することはないと考えております。
 労働基準法改正案の修正の問題ですが、今回の改正法案は、週四十時間制を目標に法定労働時間を段階的に短縮することを内容としており、その方向は、その後提出された経済審議会建議、いわゆる前川レポートと同じであると認識しています。なお、同法案に対する関係委員会での御意見は、十分承って対処いたしたいと考えております。
 労働時間短縮問題は、単に労使間の問題であるのみならず、我が国の今後の国民生活、国民経済に大きな影響を及ぼす重要な問題であると認識しており、国民各層の御意見を十分承りながら対処することが必要であり、今回の改正法案についても関係委員会においてこのような見地に立った審議を希望いだすとともに、政府としてもそれらの御論議を十分傾聴いたしたいと考えております。
 残余の答弁は関係閣僚がいたします。(拍手)
    〔国務大臣平井卓志君登壇〕
○国務大臣(平井卓志君) 御質問が数項目にわたりますので、順次お答えをいたします。
 まず、時短促進のための中小企業に対する援助措置が必要ではないかというお尋ねでございますが、御案内のように、中小企業は大企業に比べ、経営基盤等の問題もございまして、労働時間短縮を進めていくためには政府の指導援助が極めて重要であると認識をいたしております。このために、労働省では、これまでも中小企業集団による自主的な労働時間短縮の取り組みを援助してまいったわけでございますが、今後は、この援助措置の充実についてさらに検討を重ねてまいりたいと考えております。
 次に、労働基準行政の体制を大幅に拡充すべきではないかということでございますが、現下における労働時間短縮の重要性にかんがみまして、組織、定員等行政体制の整備につきましては、最大限の努力をしてまいる所存であります。
 次に、この適用に当たりましての猶予措置の問題でございますが、法定労働時間等について恒久的な規模別格差を設けますことは、御指摘のとおり適当でないと考えておりますが、新たな基準の適用に当たって、労働時間等の実態に即して一定の猶予期間を設けることは必要であると考えております。
 当面の法定労働時間の適用を猶予される事業場の範囲につきましては、このような考え方に立って、規模別、業種別の労働時間の実態に即し、当該規模、業種に属する事業の相当数の所定労働時間が週四十六時間を超えているものに限定する所存であります。
 また、今回の法改正によりどの程度の労働時間短縮が見込まれるかという御質問でございますが、今回の法改正による直接的な労働時間短縮の効果といたしましては、当面、労働者一人平均、年間で約五十五時間と試算をいたしております。
 次は、変形労働時間制の問題でございますが、労働時間に関する法的規制の弾力化は、労働基準法制定当時に比して、御案内のように第三次産業の占める割合が大変増大しております等の社会経済情勢の変化に対応いたしますとともに、労使の工夫によりまして労働時間短縮を進めやすくするためにも必要であると理解をいたしております。
 三カ月単位の変形労働時間制に御指摘のような上限規制を設けますことにつきましては、この制度が、これまでの変形労働時間制の要件に加えて、原則として三カ月平均で週四十時間以下とすること及び労使協定の締結という二つの要件のもとに認められるものでございまして、これまでの変形労働時間制の運用の実際に照らしまして乱用のおそれはないものと認識をいたしております。ただし、一部に新しい変形制の運用について御懸念の向きもございますので、労働省としては、そのようなことのないように関係事業場を十分指導する等適切に対処する所存であります。
 次に、国民各層の意見を幅広く徹すべきではないかということでございますが、今回の改正法案は、公労使三者構成の中央労働基準審議会におきまして労使の鋭い意見の対立がございました中でのぎりぎりの接点である建議を踏まえたものでございまして、労働省としましては、この建議の趣旨は尊重すべきものと考えておりますが、関係委員会での御意見は十分に承った上で対処してまいりたい、かように考えております。
 以上であります。(拍手)
    〔国務大臣塩川正十郎君登壇〕
○国務大臣(塩川正十郎君) 私に対する御質問は、官庁とか金融機関が週五日制を実施するならば、学校もそれに引き続いて週五日制を実施すべきである、こういうことでございます。
 この問題につきましては、先ほど総理の答弁の中にもございましたが、まず、学校の中におきましては、授業時間の総数をどのようにして確保するかということと、教育水準を落とさないようにしなければならないということが一つございますことと、さらには、先生の勤務形態が変わってまいりますので、この確保を十分にいたさなければならないなど学校運営の問題がございます。さらには、生徒が日曜日以外にさらに一日休むということでございますので、これに対応いたしまして、家庭なりあるいはその地域において、この一日余分に休む生徒をどのように受け入れていくかということ等を考えなければならないと思っております。要するに、週五日制に移行するについての環境の整備をこれから進めていかなければならないということでございまして、慎重に対処してまいりたいと思っております。(拍手)
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○議長(原健三郎君) 新井彬之君。
    〔新井彬之君登壇〕
○新井彬之君 私は、公明党・国民会議を代表して、ただいま提案説明のありました労働基準法の一部を改正する法律案について、総理並びに関係大臣に質問をいたします。
 かねてから、対外経済摩擦問題の背景として、我が国の長時間労働、住宅、居住環境の未整備など国民生活の質的向上のおくれが指摘されてまいりました。すなわち、日本は経済成長の成果を勤労者の生活水準の改善に振り向けるべきであるということであります。
 我が国は、世界経済の中で重みを持つ存在となりながら、年間総実労働時間は二千時間を超えているという実情にあり、その観点からすれば、勤労者生活の充実のための労働時間の短縮は時代の趨勢であり、法改正の手続はむしろ遅きに失した感さえあるのであります。労働時間の短縮は、個人消費を中心とする内需拡大やワークシェアリングに通ずる雇用の確保のためにも重要な施策であります。しかしながら、今回政府が労働時間短縮のためと称して提出した本改正案は、肝心の週四十時間労働をいつ達成するかについて明確にされていないなど、多くの問題を持つ内容となっておりますことは極めて遺憾であります。かつて総理は、時間短縮は国際的信頼関係の強化のために必要であり、時代の流れであり要求であると言われております。そこで、まず総理にお尋ねをいたします。
 昭和五十年から六十年にかけての十年間の一人平均月間実労働時間を見ると、百七十二時間から百七十五時間と、短縮するどころか逆に増加しているのが実情であります。政府は、六十年度までに欧米主要国並みの労働時間の水準にするとの方針で推進してきたはずでありますが、このような実情に放置されている理由はどこにあったのか、どのように認識されているのか。
 本改正案では一週四十時間制を掲げながら、その移行時期を政令によって定めるとして、週四十時間実現の時期を明らかにしていません。しかし、憲法第二十七条第二項には「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と規定しております。そこで、週四十時間制への移行時期、そのプロセスについて明らかになるように今回の法改正で措置すべきであると思いますが、いかがでございますか。また、労働条件の基本的部分である労働時間の決定を政令に委任することは国会を軽視するものであり、労働条件法定主義に反する疑いがあると考えますが、あわせて御答弁いただきたいのであります。
 第二は、完全週休二日制の実施と有給休暇の完全消化の問題であります。
 経済審議会の経済構造調整部会報告書によれば、二〇〇〇年に向けてできるだけ早期に、完全週休二日制の実施と有給休暇二十日の完全消化にほぼ対応する年間千八百時間を実現するとの目標を掲げております。総理は、この部会報告書をどのように受けとめられ、具体的に完全週休二日制実施のためにいかに取り組まれようとされているのか。また、五〇%と言われる年次有給休暇の取得状況をどのように改善されようとしているのか。それぞれについて御所見を承りたい。
 また、欧米先進諸国の週休二日制の定着、週四十時間から三十五時間、年次有給休暇が二十日から三十日という実態と比較した場合、週四十時間制が実現したとしても遠く及びません。将来の展望についての御見解を承りたい。
 第三には、労働時間の短縮の問題は、国民経済の仕組み全般の改革にかかわるものであって、労働行政の推進だけでは実効を期することは不可能であります。労働省任せの対応だけでは不十分であり、国を挙げての対応でなければ達成できないと考えるものでありますが、総理の御決意を承りたいと思います。
 次に、通商産業大臣に質問をいたします。
 労働時間の短縮は、勤労者福祉の向上、国際協調の上で大いに歓迎すべきことであると考えますが、中小零細企業においては、長時間の営業、長時間の労働で経営、雇用を維持してきたという現実があります。一部の中小零細企業からは、円高不況の中で時間短縮どころではないという声があることも事実であります。しかし、これを裏返せば、政府の中小零細企業対策のおくれと不十分さが、結果として、同じ勤労者であるにもかかわらず中小零細企業に働く者だけが、法のもとの平等を欠き、時間短縮の適用が受けられないという不利益をこうむるのであります。
 いずれにしても、我が国の勤労者数のうちその八割以上が中小零細企業に属しており、中小零細企業の勤労者こそ労働時間の短縮が必要なのであります。そうでなければ、だれのため、何のための法改正なのか、その意味がありません。したがって、政府は、中小零細企業が進んで労働時間の短縮を図れるような環境を積極的につくっていかなければなりません。通産大臣は、この問題にどのように取り組まれようとしておられるのか、特に下請保護、業種転換等の施策についての御決意と方針を承りたいのであります。
 また、中小零細企業経営の活性化と発展のために、金融、税制上の手厚い保護は不可欠の要件であります。この点について大蔵大臣の御所見を承りたいのであります。
 次に、労働大臣に対し、六点にわたってお尋ねいたします。
 第一に、当面の週法定労働時間は週四十六時間を予定している点であります。
 労働省が昨年四月に実施した労働時間総合実態調査によると、過所定労働時間が既に四十四時間以下の勤労者の割合は、事業場規模三百人以上で九二%、百から二百九十九人で六四・三%に達していることが明らかにされております。また、勤労者一人平均の過所定労働時間は四十三時間五十七分となっており、中小零細事業所に対する限定した経過措置を考慮するならば、当面の週法定労働時間を四十四時間からスタートさせることは可能であると考えられます。したがって、労働時間短縮を早期に実現させるためにも、当面の週法定労働時間の適用を猶予する事業所については対象適用範囲を縮小し、四十四時間からスタートすべきではありませんか。御所見をいただきたいのであります。
 第二には、三カ月単位の変形労働時間制についてであります。
 これは本改正案において最も問題のある点でありますが、まず、三カ月単位の変形労働時間制は、労使協定さえ結べば、三カ月を平均して週の労働時間が四十時間であれば、一日に十時間でも十二時間でも働かせることが可能となることであります。これでは勤労者の人としての日常生活のリズムは崩れ、健康を害することは目に見えております。労働基準法第一条にある「人たるに値する生活」はどのようにして保障するのでありましょうか。勤労者の福祉を守るためにも、一日についての、また過当なりの上限規制を定めるべきであると考えますが、大臣の所見を承りたいのであります。
 次に、時間外手当と変形労働時間制についてであります。
 現行労働基準法においては、原則として八時間を超えて労働すれば残業扱いになり、通常の二割五分増しの賃金を支払わなければならないことになっておりますが、例えば三カ月単位の変形労働時間制が導入され、一日十時間が所定労働時間と決まりますと、二時間分は残業扱いとはなりません。いわばこの制度は、経営者側から見れば残業手当を払わなくても済むのでありますが、勤労者にとっては、労働過重の一方で所得は減少し、生活レベルは低下する、改正ではなく改悪と言わざるを得ません。このような問題をどのように救済されるお考えか、大臣の所信を承りたいのであります。
 また、変形労働時間制の妊産婦への影響も見逃せない重大なことであります。
 業態により、業務の繁忙時において午前九時から午後八時までの十一時間が所定内労働時間になりますと、午後五時になっても拘束は解かれないので退社はできません。体調の変化でやむを得ず退社すれば早退扱いとなり、これがたびたび重なるならば職を追われることも十分予測されるのであり、家事責任を持つ婦人にとってフルタイムで働くことが不可能となるばかりか、労働基準法六十六条の妊産婦の残業免除規定が死文化するおそれがあります。
 育児時間についても同様のことが言えるのであります。
 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、時間外労働や休日労働、深夜業をさせてはならないことになっておりますが、妊産婦の残業免除規定及び育児時間の確保と変形労働時間制とどのように調整を図るおつもりか。重要な点でありますので、明確に御答弁いただきたいのであります。
 さらに、三カ月単位の変形労働時間制や一週単位の非定型的変形制については、いずれも労使協定の締結が条件とされておりますが、労働組合のない企業における対抗手段のない勤労者は、使用者の言われるがままになるおそれが多分に考えられるのであります。どのような施策をもって勤労者の権利を擁護されるのか、大臣の御所見を承りたいのであります。
 重点項目に絞って質問をいたしましたが、国民、勤労者は四十年ぶりの改正に重大な関心を寄せ、その抜本策を期待して、政府の対応を見守っております。総理並びに関係大臣の誠意ある御答弁を強く希望して、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 新井議員にお答えをいたします。
 まず、四十時間制へのプロセス及び憲法第二十七条との関係でありますが、オイルショック以後労働時間短縮のテンポが鈍化しましたのは、経済成長率が低下いたしまして、労働生産性向上の成果配分としての労働時間短縮に振り向ける余裕が少なくなったことが大きな原因であると認識しています。言いかえれば、景気が悪くなったということであります。
 労働時間短縮については、経済審議会建議は、二〇〇〇年に向けてきるだけ早期に千八百時間程度、完全週休二日制実施、年次有給休暇二十日の完全消化を目指すことが必要と提言しておりまして、本改正法案は、この提言を実現するための重要な第一歩であると考えております。
 週四十時間制への移行時期については、経済審議会建議の目標の実現に資するという点に十分留意しながら、できるだけ早期に移行できるよう努力してまいりたいと思っております。
 今回の改正法案では、法定労働時間について、週四十時間制を目標に政令で段階的に短縮していくこととしておりますが、この場合、政令で定める労働時間については、その範囲、定め方、手続等を法律上明らかにしておりまして、御指摘のような憲法上の問題は生じないものと考えております。
 完全週休二日制への具体策でございますが、経済審議会建議は時宜を得た適切かつ貴重なものとして高く評価いたしております。週休二日制の普及を図るため、国民各層に対する普及啓発、公務員、金融機関の週休二日制の推進等に取り組むとともに、週四十時間制を目標に法定労働時間を段階的に短縮することを内容とする今回の労働基準法改正案を提出しておるところなのであります。
 年次有給休暇については、夏季休暇等の連続休暇の普及に努めているところであり、また、今回の改正法案においても年次有給休暇の計画的付与を認めることといたしておる次第でございます。
 将来の展望については、経済審議会建議の目標が実現された場合には、年間総労働時間は現在のアメリカ、イギリスの水準を下回ることとなるので、当面その実現に向けて最大限努力してまいりたいと思っております。
 政府全体としては、労働時間の短縮は、労働者の福祉向上はもとより経済構造の調整、国際的調和、内需拡大等の観点からも重要であり、政府全体の課題と認識しており、労働省を中心に政府全体として対策を積極的に推進してまいります。
 残余の答弁は関係大臣がいたします。(拍手)
    〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
○国務大臣(宮澤喜一君) 金融並びに税制の関連でございますが、中小企業の構造転換等を支援いたしますために、いわゆる円高特別貸し付けあるいは特定地域における特別融資等の各種の施策を実施しておりますことは御存じのとおりでございます。
 税制につきましては、税制上の特例といたしまして、軽減税率の特例四二%を三〇%に軽減いたしておりますが、ほかに機械の特別償却など特例を設けております。それから、今年度、中小企業等基盤強化税制の創設を行ったところでございます。
 なお、今後とも、時宜に応じまして、通産大臣とも十分御相談をしながら、対策に誤りなきを期してまいりたいと存じます。(拍手)
    〔国務大臣田村元君登壇〕
○国務大臣(田村元君) 中小企業の労働時間短縮のための条件としては、中小企業の経営基盤の強化、生産性の向上が不可欠であります。通産省といたしましては、中小企業に対する税制、金融上の措置を含む各般の施策を講じ、中小企業の経営基盤の強化及び生産性の向上を図っておりまして、これらの施策の推進を通じて労働時間の短縮など労働条件の改善のための環境が整備されることを期待しております。
 特に下請中小企業対策につきましては、下請代金支払遅延等防止法の厳正な運用によりまして下請取引の適正化を図るとともに、六十二年度におきましては、下請取引あっせん体制の一層の充実、新分野進出等のための技術開発補助事業及び低利融資制度、金利年四・二%のものでございますが、これを創設するなど下請中小企業の構造転換の円滑化に努めているところであります。
 また、事業転換等の支援策につきましても、新転換法、新地域法に基づく低利融資、信用保険の特例等の施策を積極的に推進しているところでございまして、今後ともこれらの施策の充実に万全を尽くしてまいる所存でございます。(拍手)
    〔国務大臣平井卓志君登壇〕
○国務大臣(平井卓志君) 四十四時間からスタートすべきでないかということでございますが、御案内のように、労働基準法はすべての事業場に罰則つきで強制される最低基準を定めた法律でございます。中央労働基準審議会の建議に沿って当面は週四十六時間とし、なるべく早い時期に週四十四時間とすることが適当とされております。
 なお、当面の法定労働時間の適用を猶予される事業場の範囲につきましては、先ほども御答弁申し上げましたように、当該規模、業種に属する事業の相当数の所定労働時間が週四十六時間を超えているものに限定する所存であります。
 三カ月単位の変形労働時間の問題でございます。
 この上限規制の問題でございますが、三カ月単位の変形労働時間制に御指摘のような上限規制を設けますことについては、この制度がこれまでの変形労働時間制の要件をさらに厳しくしておりますと同時に、これまでの変形労働時間制の運用の実際に照らして乱用のおそれはないものと認識いたしております。運用についての御懸念の向きもございますので、労働省といたしましては、そのようなことのないように関係事業場を十分指導する等適切に対処してまいりたいと考えております。
 さらに、救済するつもりはないかというお話でございますが、三カ月単位の変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせて労働時間を設定することにより、全体としての労働時間を短縮することを目的としたものでございます。その結果、短縮された時間分だけ時間外労働手当が減少する可能性がございますが、そのような形での労働時間短縮を選択するかどうかは労働者代表の判断にゆだねられると思うわけであります。
 妊産婦問題でございますが、御承知のように、今回の法改正によって初めて導入されるものではございませんで、現行労働基準法にも規定されておるところでございます。さらに、ただいま申し上げましたように、要件も一層厳しい中で認められるものでございまして、妊産婦等に御指摘のような問題が生ずるとは考えておりません。いずれにしても、妊産婦等の保護につきましては、労働基準法の運用上十分留意をいたしまして、関係事業場をよく指導してまいる所存であります。
 最後でございますが、三カ月単位の変形労働時間制における各種労使協定の締結当事者につきましては、中央労働基準審議会の建議において、適正なものとなるよう指導することとされているところでございますので、十分指導してまいる所存であります。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(原健三郎君) 田中慶秋君。
    〔議長退席、副議長着席〕
    〔田中慶秋君登壇〕
○田中慶秋君 私は、民社党・民主連合を代表し、ただいま提案されております労働基準法の改正案について、中曽根総理並びに関係大臣に質問いたします。
 四十年ぶりの労基法改正は、国民の関心の的になっているわけであります。言うまでもなく、ゆとりと潤いのある国民生活を実現するためには労働時間の短縮は不可欠であり、同時に、現在深刻化しつつある貿易摩擦の解消、内需拡大の実現にとっても急務であります。
 労働時間の短縮は、当然余暇活動、例えばスポーツや趣味に振り向ける時間を長くいたします。国民生活にゆとりが生まれるだけではなく、余暇関連産業への需要が高まることでしょう。現在、余暇関連産業の市場規模は約五十兆円と言われ、年々その規模を拡大していることは御承知のところだと思います。労働時間の短縮は、内需拡大を通じて貿易摩擦の解消へ寄与するところ極めて大と言わざるを得ません。現に、ある試算によれば、休日を年間十日ふやすと、経常収支は昭和六十年度価格で九十二億ドル減ると言われております。労働時間の短縮は、貿易摩擦の解消を果たすには効果抜群のものと私どもは考えているわけであります。
 さらにまた、労働時間の短縮が雇用の増大にも大きな効果を発揮することを指摘しなければなりません。現在、完全失業率が三・二%に達するという厳しい雇用状況にあり、加えて、高齢化社会の到来を迎えでできるだけ多くの人々に仕事を分かち合う必要性が高まっていることは、改めて指摘をするまでもありません。労働時間の短縮が雇用機会の拡大につながることは、既にさまざまな試算でも明らかなことであります。西ドイツ、フランスなどでは、政府、労働組合が中心となって労働時間短縮によるワークシェアリング政策に取り組み、完全失業率を引き下げる上で大きな貢献をしたのであります。
 以上申し上げましたように、今や労働時間の短縮は、日本が国際的責任を果たし、経済大国にふさわしい生活水準を達成するために避けて通れない最大の課題の一つと言わざるを得ません。労働時間短縮に取り組む政府の基本姿勢を、総理並びに労働大臣にお尋ねいたします。
 四月二十三日に提出されましたいわゆる新前川レポートでは、西暦二〇〇〇年に向けてできるだけ早い時期に年間総実労働時間千八百時間程度への短縮を進めるべきだとしております。二〇〇〇年までに千八百時間を実現するという目標は、諸外国からも国際的公約と受け取られております。しかしながら、新前川レポートにおいても、千八百時間を達成する具体的なプログラムは全く示されておりません。政府は、千八百時間の実現に向けて具体的なプログラムを策定する責務を負っていると考えておりますが、総理並びに関係大臣の所見をお伺いしたいのであります。
 既に政府は、昭和五十五年に週休二日制等労働時間対策推進計画を策定し、年間総実労働時間を昭和六十年までに二千時間にすることを打ち出しました。しかし、同計画が思うように進まなかったために、昭和六十年六月に「労働時間短縮の展望と指針」を改めて策定し、昭和六十五年までに二千時間に短縮することを打ち出したのであります。また、昭和六十年十月十五日の経済閣僚会議で策定しました「内需拡大に関する対策」では、週休日等の年間休日日数を今後五年間で十日程度ふやし、これを欧米主要国並みに近づけていくとの方針を示しました。
 しかしながら、これほど多くの方針、提言がなされながら、我が国の労働時間短縮は遅々として進んでいないのであります。一九八五年の国際比較統計によれば、日本の労働者の年間総実労働時間は二千百六十八時間に達し、アメリカ、イギリスよりも二百時間以上、西ドイツ、フランスよりも実に五百時間以上長くなっているのであります。しかも、OECDの統計によれば、一九七五年を一〇〇とした場合の労働時間は、先進諸国がおおむね九〇台に減少する傾向にあるのに対し、日本は一九八四年で一〇二・四と、むしろふえる傾向にあるのであります。
 このように労働時間短縮が進まず、政府の施策が達成できなかった理由についての十分な反省と検討がなくては、これから労働時間の短縮を推進していくことは困難であると考えております。なぜこれまで労働時間が思うように短縮できなかったのか、その原因をどのように考えているのか、御答弁をいただきたいのであります。
 このたびの労働基準法改正案では、本則に週四十時間労働制を定めてはいるものの、当面の労働時間は政令で別に定めるとしており、週四十時間制への移行時期が全く明らかになっておりません。これではまたもとのもくあみとなることは必至と言わなければなりません。二〇〇〇年までに千八百時間を達成するという政策目標との関連はどのようになっているのでしょうか。我々は、一九九〇年代のできるだけ早い時期に週四十時間制へ移行するのでなければ、千八百時間の達成は不可能であると考えております。週四十時間制への移行時期を明らかにしていただくとともに、今回の改正が千八百時間達成につながるということの具体的な効果について明確な答弁をいただきたいものであります。
 あわせて変形労働時間制についてお尋ねいたします。
 本改正案で導入されることになっている三カ月単位の変形労働時間制でありますが、労使協定を結ぶと、従業員三百人以上の企業では、三カ月を平均して週の労働時間が四十時間であれば、一日八時間、週四十六時間を超えて働かせてもよいということになります。一日、一週の最長労働時間の規制がなければ、繁忙期には一日十時間でも十二時間でも働かせてよいということになるわけであります。それだけでも過重労働を認めるがごときことと言わざるを得ません。
 さらに問題になるのは、この変形労働時間制は、労使協定こそ必要としているものの届け出不要ということから、労使の力関係いかんでは、使用者側の都合でどうにでもなるおそれがあることであります。また、この場合の超勤手当の支給についても、週平均四十時間を超えた場合、超勤手当を支払うということでありますが、三カ月経過しないと、超勤したかどうか本人にもわからないという不明な点が数多くあるのであります。加えて、零細企業の場合、こうした変形労働時間の導入は一層労働条件の劣悪化を招くことは必至であり、一日、一週、一カ月の労働時間の上限を明確にする必要があると思いますが、この点についての見解をお伺いしたいと思います。
 現在、完全週休二日制の採用など労働時間の短縮は、大企業では、徐々にではありますが、進んでおります。しかしながら、七月十三日の昭和六十一年賃金労働時間制度等総合調査の結果によれば、完全週休二日制を享受している労働者の割合は、中企業で一五・六%、小企業の労働者では三・五%と、企業の規模による格差は極めて大きくなっております。労働時間の短縮を進めるためには、中小企業の勤労者、経営者への配慮を欠いてはなりません。この点について総理の御見解をお伺いしたいと思います。
 労働時間の短縮を進める際に影響力の大きいのは、金融機関と官庁であります。八月六日の人事院勧告においても、隔週週休二日制、いわゆる四週六休制の本格実施を求めております。四週六休制について、既に一部では試験実施が行われているわけでありますが、その間の経過を見ても本格実施の機は熟していると言えましょう。国民に対する行政サービスの低下を招かないよう、行政事務の効率化を進めるとともに、土曜閉庁方式を含めて公務員の週休二日制をさらに推進すべきだと考えておりますが、御所見を賜りたいと思います。
 次に、所定外労働時間についてお尋ねいたします。
 日本の勤労者の労働時間の中で特に所定外労働時間、言いかえれば残業時間の長さが目立っておりますが、一九八五年の推計によれば、アメリカの百七十二時間、イギリスの百六十一時間、西ドイツの八十三時間などと比べて、日本は二百十九時間に及んでおります。しかしながら、他方、時間外労働による収入が、現在住宅ローンの支払いや高額の教育費負担に苦しむ勤労者の生活を支える貴重な収入源になっていることも事実であります。所定外労働時間を短縮するためには、法定労働時間の短縮と並んで、所定外労働時間に頼らずに済むように、中長期的な観点から住宅土地政策の充実、教育費の負担の軽減など、他の政策と並行して進めるべきではないかと考えておりますが、御所見をお伺いしたいのであります。
 労働時間の短縮は、単に国内的な目標だけではなく、それ自体国際的目標になっているのであります。それは、経済の国際化が進んだ世界で公正な国際競争を進めるためには、労働時間など経済成長の要因となる条件をできるだけ統一しなければならないからであります。そのために設定されておりますのが、ILO条約・勧告に示されているいわゆる国際労働基準であります。我が国の労働時間を含めた労働条件も国際労働基準にできるだけ近づけていかなければならないと考えております。
 しかしながら、現在、我が国のILO条約批准数は、昭和六十二年七月現在で総条約百六十二のうちわずか三十九にしかすぎません。また、ILOが創立五十周年記念として設定された基本十七条約についても、九条約の批准にとどまっております。先進諸国では批准数は百を超えているところもあり、我が国の条約批准の現状は発展途上国並みであると言えましょう。
 労働時間についても、週四十時間労働制を定めた第四十七号条約、年次有給休暇について定めた第百三十二号条約はいまだ批准されておりません。本改正案でも、年次有給休暇の最低付与日数が六日から十日に引き上げられますが、これはILO条約に言う最低付与日数、三労働週、週休二日として十五日から見ると、いまだ不十分なものにとどまっているわけであります。
 再度申し上げますが、労働時間、労働諸条件を国際水準に近づけることは、経済大国から生活先進国への道を進むためには、また諸外国からアンフェアとのそしりを受けないためにも欠くことのできない施策ではないでしょうか。この点から考えてみますと、労働基準法の抜本改正など国内条件の整備とともに、ILO条約の批准を積極的に進めなければならないと考えておりますが、総理及び外務大臣の見解をお伺いしたいと思います。
 また、年間休日数の増加についてお伺いいたします。
 昭和六十年に与野党間で構成された時間短縮及び連休問題懇談会の報告を受け、連休の谷間であった五月四日の休日化が実現されました。労働時間短縮がいよいよ緊急の課題となっている今日、労働者の祭典である五月一日をも休日とし、太陽と緑の週として五月の飛び石連休を丸々一週間休めるようにすることは極めて意義深いものでありましょう。太陽と緑の週の実現に向けての努力について、総理の見解をお伺いしたいのであります。
 最後になりますが、総理は「戦後政治の総決算」とよく言われます。また、国際国家日本を信条としておられました。日本は今日まで経済大国として成長してまいりましたが、そのことが円高、貿易摩擦を招いております。
 そこで、民社党は、今、経済大国より生活大国、すなわち生活先進国として、今回の時間短縮、労働基準法改正もその一歩として受けとめております。総理並びに労働大臣の御見解をお伺いし、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 田中議員にお答えをいたします。
 まず、労働時間に関する政府の基本方針でございますが、労働時間の短縮は、労働者の福祉の向上はもとより、雇用機会の均等、確保あるいは国際協調、内需の振興、さまざまな観点からも重要であると認識いたしております。このため、今まで国民各層の御理解を得つつ週休二日制の普及等に努力してきましたが、新しい労働基準法のもとで労働時間がさらに着実に短縮されるよう今回配慮したものなのでございます。具体的には労働大臣から御答弁いたします。
 この具体的プログラムの策定でございますが、経済審議会建議では、御指摘のように西暦二〇〇〇年に向けてできるだけ早期に年間総労働時間千八百時間程度への短縮が必要としておりますが、具体的には、中小零細企業への指導、公務員、金融機関の週休二日制の推進等も提言しております。政府としては、労使を初め広く各界の御意見をお聞きしながら、経済審議会建議の目標を実現するため、今後も鋭意努力してまいるつもりでおります。
 この際、中小企業への配慮が非常に重要であると考えております。このため、一面におきましては、公務員や金融機関の週休二日制を積極的に推進してこの制度を着実に実施するとともに、他方、中小零細企業に対する指導援助についても従来以上に強化してまいる所存でございます。
 公務員の週休二日制は、緊急経済対策にあるとおり、政府として推進する方向でございます。当面は人事院から勧告された四週六休制への円滑な移行に努めてまいります。従来から、事務処理方法の改善等、行政サービスの低下を極力招かないよう各般の工夫によって対応してまいりました。閉庁方式の導入については、総務庁を中心に具体方策を今検討中であります。
 労働条件を国際水準に近づけることはもとより同感でございます。しかしながら、労働時間の制度は、それぞれの国の雇用慣行、生活習慣等に適合したものとすることが必要であるため、その内容を細部までILO条約に合致させることは困難な面もありますが、労働時間関係のILO条約が基本としている水準の確保には今後とも努力してまいる所存であります。
 なお、未批准の条約につきましても、適当と認められるものについては、当該条約を履行し得るよう国内法制等を整備した上でこれを批准することとしておりまして、この方針にのっとり検討を進めてまいります。
 五月一日を祝日として休みとするということについては、我が国の祝日は現在十二日と定められて、その数は先進国並みになっております。また、この祝日の中には既に勤労感謝の日が設けられておりまして、さらに祝日を新たに設けることは、国民生活や経済活動等の各方面に与える影響も大きく、国民世論の動向を見きわめる必要があると思いますが、当面は難しいと考えております。
 経済大国から生活大国への移行という御指摘はまさに同感でございまして、これからはやはり生活の質の向上に向けて我々は努力してまいりたいと思っております。今回の法改正もその一歩である、このようにお考え願いたいと思います。
 残余の答弁は関係大臣がいたします。(拍手)
    〔国務大臣平井卓志君登壇〕
○国務大臣(平井卓志君) 順次お答えをいたします。
 基本方針でございますが、先ほど総理もお述べになりましたように、労働時間短縮につきましては、週休二日制の普及を基本に、連続休暇の定着及び年次有給休暇の消化促進、所定外労働時間の短縮を重点に、社会的、国民的合意の形成と労使の自主的努力の促進に努めてまいったところでございます。我が国の労働時間の実情にかんがみまして、労使の自主的努力の促進とあわせて労働基準法を改正することが適当と考えまして、本改正法案を提案いたした次第でございます。労働省といたしましては、新しい法制度のもとで労働時間短縮にさらに努力をしてまいりたいと考えております。
 次に、新前川レポートとの関係でございますが、労働時間短縮の目標につきましては、中央労働基準審議会の意見に基づきまして、昭和六十五年までに年間総労働時間を二千時間とすることを目標とする「労働時間短縮の展望と指針」を策定したところでございます。今後につきましては、経済審議会建議という新しい目標を踏まえて、労働基準法の改正という新たな事情も考慮に入れながら広く各界の御意見をお聞きし、経済審議会建議の目標の実現のために鋭意努力をしてまいりたいと考えております。
 また、時短が進まなかった理由でございますが、一つには、オイルショック以後経済成長率が低下いたしたこと、労働生産性向上の成果配分としての労働時間短縮が非常に困難な状況であった、とりわけ中小企業において労働時間の短縮が進めにくい状況であったこと、さらに大企業においても雇用調整を所定外労働時間の増減により行う傾向が強くなったため、所定外労働時間が長目となったことなどのためであると認識をいたしております。
 次に、本改正法案は、週四十時間制を目標に法定労働時間を段階的に短縮すること、年次有給休暇の最高付与日数二十日はそのままとして、最低付与日数を現行の六日から十日に引き上げ、さらに労使協定による計画的付与を認めることによりその消化を促進すること等を内容にいたしておりまして、新前川レポートとさしたる違いはございません。労働省といたしましては、週四十時間制への移行時期については、経済審議会建議の目標の実現に資するという点に十分留意しながら、できるだけ早期に移行できるよう条件整備に全力を挙げる所存であります。
 次に、変形制の上限問題でございますが、先ほど来御答弁申し上げておりますように、三カ月単位の変形労働時間制に御指摘のような上限規制を設けることにつきましては、この制度がこれまでの変形労働時間制の要件をさらに厳しくいたしておりますし、また、変形労働時間制の運用の実際に照らして乱用のおそれはないものと認識をいたしております。一部に乱用のおそれを指摘される向きもございますので、労働省としては、そのようなことが生じないよう関係事業場を十分指導する等、適切に対処する所存であります。
 最後でございますが、勤労者福祉の向上を進めるためには、我が国の世界のトップクラスの経済力を生活のゆとりと質の向上につなげることが現在最も重要な課題と認識をいたしております。そのためには、経済成長の成果を労働時間短縮にも適切に配分することが重要でございまして、本改正法案の早期成立を期待し、新たな法制度のもとで労働時間短縮に一層の努力をいたしたい、かように考えております。
 以上であります。(拍手)
    〔国務大臣倉成正君登壇〕
○国務大臣(倉成正君) 政府は、ILOの未批准条約の検討を進めておりますが、昨年もILO百二十二号及び百四十二号の二条約を批准いたしたところでございます。今後とも、批准することが適当なILO条約につきましては、先ほど総理が申されましたとおり、国内法制との整合性を確保した上で批准するとの方針により、田中先生の御指摘の点も踏まえ、鋭意検討してまいりたいと思います。(拍手)
    〔国務大臣近藤鉄雄君登壇〕
○国務大臣(近藤鉄雄君) 田中議員も言われましたように、労働時間の短縮は、国内的目標のみならず、国際的目標でもございます。そこで、所定外労働時間によらず、所定内労働時間によっても勤労者の所得向上が図られるように、経営の合理化、生産性の向上等により賃金率の向上を図ることが望ましいと考えるものでありますが、他方、御指摘にもございましたように、勤労者の実質生活水準向上のためには、住宅土地政策等の充実や教育費負担の軽減などを初め、生活に必要な財貨サービスの価格安定、改善を今後とも積極的に進めてまいる所存でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
○副議長(多賀谷真稔君) 安藤巖君。
    〔安藤巖君登壇〕
○安藤巖君 私は、日本共産党・革新共同を代表して、労働基準法の一部を改正する法律案に対し、総理並びに関係大臣に質問をいたします。
 労働基準法は、一九四七年、戦後日本の民主主義確立の重要な一環として、憲法第二十五条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という規定を受け、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」ことを基本理念とし、違反した場合は刑罰に処することも含めて、労働条件の全国一律の最低基準を定めたものであります。その最も重要な具体的な中身の一つが一日八時間労働制であることは言うまでもありません。
 ところが、政府は財界の意を受け、法制定四十年にして、この労働基準法の根幹に挑戦をしてきたのであります。まさに「戦後政治の総決算」の労働版であり、断じて認められません。(拍手)
 総理、本案は変形労働時間制の大幅な導入をうたっております。労働者の生活ではなく、企業の都合に合わせて一日の労働時間を自由自在に伸縮し、労働者に一日十時間、十二時間も、あるいはさらに長時間の労働を強制できるようにすることは、この八時間労働制を根底から覆すことになるのではありませんか。このような事態は、一日二十四時間を、八時間働き、八時間眠り、そして残る八時間をみずからと家族のために使うというバランスを破壊し、労働者とその家族の生活と健康に重大な悪影響を及ぼすことは明らかではありませんか。所定労働時間の短縮に役立つなどはとんでもない詭弁であります。はっきりとお答えいただきたい。
 最近、例えばトヨタ自動車、日産自動車及びその関連企業が、カレンダーを勝手につくりかえ、トヨタカレンダーとか日産カレンダーとかいって、土曜日、日曜日を半ドン、休日とみなさず労働者を働かせ、水曜日、木曜日とかを休日にするという、歴史的に確立された人間の生活のリズムを企業の利益のために崩させております。このため、労働者と家族の生活は完全に破壊されてしまっているのであります。これはゆゆしき大事であります。労働大臣は、このようなことを結構なことだと考えておられるのか。変形労働時間は、このような企業の異常なやり方を野放しにし、常態化させるのではありませんか。
 総理、変形労働時間制の導入は、とりわけ婦人労働者にとって深刻であります。家事や子育てなど家庭での主婦としての責任を営々として果たしている婦人労働者にとって、職場と家庭との両立が不可能になることは目に見えております。婦人労働者の七〇%を占めるこの人たちが、パートタイムなど不安定な労働に追いやられる危険性さえ高くなるのであります。これでは婦人の労働権を侵害することになるではありませんか。明確な答弁を求めるものであります。(拍手)
 婦人の問題に関連をして厚生大臣にお尋ねします。
 現在でも保育園の保育時間が短く、働く母親たちは長時間保育や夜間保育の充実を切実に望んでおります。そこへ今回の改正で変形労働時間制が行われることになれば、営利本位のベビーホテルに子供を預けざるを得ないことになるのではありませんか。児童福祉から見てこのようなことが許されるのですか。知らぬ顔では済まされない問題であります。どうですか。
 働きながら学ぶ定時制高校生や夜間大学生への悪影響も見逃すことができないのであります。変形労働時間制が実施されることになれば、不規則な長時間労働が強制されることになり、勤労学生や生徒から学ぶ機会と権利を奪うことになるのであります。働きながら学ぶ人たちの権利をどのようにして守っていくお考えなのか、文部大臣の答弁を求めます。
 変形労働時間は、労働者の生活リズムを破壊するだけではありません。残業代の値切りを合法化し、労働者に実質的な大幅賃下げを押しつけ、独占・大企業に莫大な利潤を保障しようとするものであります。労働省政策調査部の一九八六年版毎月勤労統計要覧に基づいてなされた試算によれば、日本の労働者の残業代の総額は、膨大なサービス残業の横行にもかかわらず、年間十兆五千八百二十七億円に上っております。一人平均二十六万八千円であります。変形労働時間制が大量に導入された場合、この残業代は当然大きく減らされることになります。そこで、労働大臣、幾ら減らされることになるのか、試算とその根拠を示していただきたい。
 次に、週四十時間制の問題について伺います。
 本案は、週四十時間労働制を本則で規定しながら、附則で「当分の間、命令で定める時間」として、週四十時間を全く見せかけだけのものにしております。総理、週四十時間を完全実施するのは一体いつになるのですか。これを実現する何の手がかりも目標もないのであります。まさに無限のかなたに向けて振り出された空手形にすぎないではありませんか。にもかかわらず、外国に対して労働時間短縮に踏み切ったかのごとく宣伝するのは、我が国の国際的信用をますます失墜させることになるのではありませんか。しかと答弁いただきたい。
 次に、労働大臣、命令で当面四十八時間のまま据え置くという三百人以下の事業所で働く労働者は、総務庁の事業所統計調査によれば全労働者の八四・八%に及んでおります。一方、残りの週四十六時間が適用される大規模事業所は、既に協約などによって全部と言っていいほどそれ以下になっているのであります。これでは何のためにこの法案を提出したのかさっぱりわからない。この法案によって所定労働時間の短縮の効果を直接に受ける労働者は一体何人になるのですか。四千三百万人労働者のうちのわずか三十五万人弱にすぎないのではありませんか。まさに羊頭を掲げて狗肉を売るたぐいと言うべきであります。
 日本の生産労働者の一年間の労働時間の平均は、一九八五年現在で二千百六十八時間であります。これに対して、アメリカは一千九百二十四時間、西ドイツ一千六百五十九時間、イギリス一千九百五十二時間、フランスは一千六百四十三時間。日本の労働者は西ドイツやフランスの労働者より五百時間以上、アメリカ、イギリスより二百時間以上も長く働かされているのであります。加えて、我が国と欧米諸国との貿易摩擦の国内要因が日本の労働者の低賃金とともに長時間労働にあることは、国際的にも指摘されている事実であります。総理は、この深刻な現実を本当に認識されているのですか。もしそうであれば、このようなとんでもない法案を提出するのではなく、真に実効ある労働時間短縮措置をとるべきであります。
 総理、労働時間総合実態調査によれば、三百人以上の事業所では所定労働時間の平均は既に週四十時間を切っております。零細企業を含む総平均でも四十三時間台であります。中小企業に必要な援助を行えば、一日八時間制厳守の上に、今すぐ全労働者に週四十時間を実施することができるではありませんか。なぜ踏み切ろうとしないのですか。
 日本の長時間労働の大きな原因は、残業時間に対する法的規制がないことと、割り増し賃金率が二五%と低いことにあります。これまで独占・大企業が労働者に低賃金、長時間過密労働を押しつけてきた根源の一つがこれであります。労働大臣、時間外労働を野放しにしておいて、総労働時間の短縮が実現できると本気で思っているのですか。ヨーロッパ諸国は、西ドイツ年三十時間、フランス百三十時間など、いずれも明確に上限を定めております。我が党は年間百二十時間以内に制限するよう提案をしておりますが、これを実現すべきときではありませんか。はっきりとお答えいただきたい。(拍手)
 最後に、重ねて総理に伺いたい。
 我が国は資本主義国中第二位の経済大国でありながら、労働時間、労働基本権、休暇関係などについてのILO条約を一つも批准しておりません。八時間労働制を定めた七十年前のILO第一号条約さえ今もって批准していないではありませんか。まさに国辱物であります。労働時間の短縮、労働条件の改善を言い、国際的責務を強調するのであれば、このような改悪法案を提出するのでなく、国際的に認められた労働基準であるILO諸条約をこそ急いで批准し、実行すべきであります。しかと答弁願いたい。
 労働時間の制限は、歴史上、労働運動の中心的課題でありました。資本による搾取の強化を防ぎ、健康と体力を回復させ、家族と団らんし、人間として生きるための基本であるからであります。前世紀半ば、イギリスの労働者は大量の血と引きかえに十時間労働制を実現させました。一八八六年五月一日、アメリカの労働者は八時間労働制を目指して大規模なストライキをもって決起しました。これが今日のメーデーの起源となったことは周知であります。日本でも、戦前の暗黒政治、無権利状態の中で、我が日本共産党は、一九二二年の党創立の当初から八時間労働制の実現を目指して闘ったのであります。
 八時間労働制はまさに近代労働運動の闘いの歴史の成果であります。日本共産党・革新共同は断固としてこの基本を守り、本法案の撤回を要求し、賃下げなしの真の労働時間短縮実現のため、引き続き全力を挙げて闘う決意を表明して、質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 安藤議員の御質問にお答えをいたします。
 まず、変形労働時間制の導入の問題でございますが、これは、労働基準法制定当時に比しまして第三次産業等の占める割合が著しく増大してまいりまして、社会経済情勢や労働の情勢等にも大きな変化が生じてきた、そういうことから、労使の工夫により労働時間短縮を進めやすくするためにも必要であると考えておるのであります。これによって八時間労働制が破壊されるということは考えていないのであります。
 今回の改正法案は、要するに労働時間短縮を目的にやるものでありまして、四十八時間から四十時間制に向けて改革しようという重大な画期的な前進を行わんとするものであります。共産党の意見を聞いてみると、何でもけちをつけて、何でも反対という態度のように思われる。これには反対であります。(拍手)
 変形労働時間制と生活との関係でありますが、今回導入される三カ月単位の変形労働時間制は、これまでの変形労働時間制の要件に加えて、労使協定の締結等の一層厳しい条件のもとに認められるものでありまして、御指摘のような影響を及ぼすものとは考えられません。
 次に、女性労働者の問題でございますが、職業生活と家庭生活との調和を図ることができるようにすることは大事であります。そういう意味もありまして、労使協定締結という条件のもとでこれが認められておるのであり、男女雇用機会均等法、労働基準法の保護規定等も適用されておるので、御指摘のような心配はないと考えます。
 次に、週四十時間制への移行の時期でございますが、これは経済審議会建議の目標の実現に資するという点に十分留意しながら、できるだけ早期に移行したいと考えておるところであります。
 時間短縮のための実効措置でございますが、公務員、金融機関の週休二日制の推進等に取り組むとともに、週四十時間を目標に法定労働時間制を段階的に実行していく今度の労働基準法の改正を誠実に実行したいと思います。
 次に、週四十時間制を直ちに実施せよという考えでございますが、しかし、これは罰則つきで強制される最低基準を定める法律でありまして、中小企業の労働時間の実態等を考慮すれば、直ちに週四十時間制にできないことは御存じのとおりであります。
 ILO条約の未批准の問題につきましては、順次国内法等を整備いたしまして、必要とするものについてはこれをするように検討を進めてまいるつもりであります。
 残余の答弁は関係大臣がいたします。(拍手)
    〔国務大臣塩川正十郎君登壇〕
○国務大臣(塩川正十郎君) 定時制、通信制課程の生徒に対しましては、勤労青少年福祉法におきまして、事業主は勉学の時間を確保するよう配慮することが求められております。すなわち、これは勤労青少年福祉法第十二条において明記されておることでございます。
 そこで、今回の法案の改正でございますが、改正の趣旨にもございますように、労働時間の短縮を目指したものであって、変形労働時間制についても、このような観点を踏んまえ、法施行後の運用において勤労青少年の勉学時間の確保について適切な指導がなされるものと考えております。なお、大学の夜間部に通学する学生についても、前記趣旨を踏んまえて、事業主は勉学の配慮を行うものといたしておるのでございまして、それを我々は確実に実行せしめるようなお一層の推進を図ってまいります。(拍手)
    〔国務大臣斎藤十朗君登壇〕
○国務大臣(斎藤十朗君) 私に対しましては保育の問題でございますが、婦人の就労形態の多様化等に対応するため、従来から、延長保育特別対策及び夜間保育事業により、保育所の保育時間の延長に努めてきたところでございます。今後ともその一層の推進を図り、保育所において、地域の実情を踏まえ、多様な保育需要に適切に対応できるよう努めてまいる所存でございます。(拍手)
    〔国務大臣平井卓志君登壇〕
○国務大臣(平井卓志君) お答えいたします。
 御指摘のカレンダーの件につきましては、完全週休二日制にする場合でも、土日を必ず休日にしなければならないというものではございませんで、休日をどのように配置するかは労使間で決めるべきことであります。
 次に、三カ月単位の変形労働時間制を導入いたしました結果、短縮された時間分だけ時間外労働手当が減少する可能性がございますが、そのような形での労働時間短縮を選択するかどうかは、労働者代表の判断にゆだねられておるところであります。したがって、この制度によって時間外労働あるいは時間外労働手当がどの程度減少するかを試算することは困難であります。
 当面の法定労働時間として予定されている週四十六時間を超えている労働者数は約千六百三十万人であります。ただし、このうち約三百十万人はいわゆる特例の対象となっておりまして、この特例は来年三月で原則として廃止することとなっておりますが、この点は中央労働基準審議会の審議の結果定まることとなっております。
 次に、時間外労働の上限を法的に規制することは、時間外労働が我が国の労使慣行のもとで雇用維持の役割を果たしていること、時間外労働の実態は業種等によりかなりの差異があることから適当でないと考えております。労使が締結する時間外労働協定の内容の適正化について行政指導に努めておるところであります。
 以上であります。(拍手)
○副議長(多賀谷真稔君) これにて質疑は終了いたしました。
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○副議長(多賀谷真稔君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後二時四十八分散会
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