第112回国会 法務委員会 第7号
昭和六十三年四月一日(金曜日)
    午前十時二十四分開議
 出席委員
   委員長 戸沢 政方君
   理事 逢沢 一郎君 理事 井出 正一君
   理事 今枝 敬雄君 理事 太田 誠一君
   理事 保岡 興治君 理事 坂上 富男君
   理事 中村  巖君 理事 安倍 基雄君
      赤城 宗徳君    稻葉  修君
      上村千一郎君    加藤 紘一君
      木部 佳昭君    北村 直人君
      塩川正十郎君    塩崎  潤君
      虎島 和夫君    丹羽 兵助君
      宮里 松正君    稲葉 誠一君
      佐藤 敬治君    冬柴 鉄三君
      山田 英介君    塚田 延充君
      安藤  巖君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 林田悠紀夫君
 出席政府委員
        法務大臣官房長 根來 泰周君
        法務省民事局長 藤井 正雄君
        法務省刑事局長 岡村 泰孝君
        法務省保護局長 栗田 啓二君
 委員外の出席者
        外務大臣官房外
        務参事官    田辺 敏明君
        大蔵省銀行局保
        険部保険第二課
        長       山本 孝之君
        文部省初等中等
        教育局高等学校
        課長      森  正直君
        運輸省国際運
        輸・観光局観光
        部長      吉田 耕三君
        最高裁判所事務
        総局刑事局長  吉丸  眞君
        法務委員会調査
        室長      乙部 二郎君
    ─────────────
委員の異動
四月一日
 辞任         補欠選任
  佐藤 一郎君     虎島 和夫君
  松野 幸泰君     北村 直人君
  佐藤 敬治君     山花 貞夫君
  塚本 三郎君     塚田 延充君
同日
 辞任         補欠選任
  北村 直人君     松野 幸泰君
  虎島 和夫君     佐藤 一郎君
  塚田 延充君     塚本 三郎君
    ─────────────
本日の会議に付した案件
 刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出第四八号)
     ────◇─────
○戸沢委員長 これより会議を開きます。
 お諮りいたします。
 本日、最高裁判所吉丸刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○戸沢委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
     ────◇─────
○戸沢委員長 内閣提出、刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。安倍基雄君。
○安倍(基)委員 今度の刑事補償法は非常に重要な問題でございますけれども、その前にちょっと関連といたしまして、同じ補償問題で今いわゆる上海における事故が非常に問題になっています。私は何でこの問題を持ち出すかといいますと、これは人間のいわば命ということについてのいろいろ各国における評価の差があるということを含めまして、また、これからこういった問題がどう対処されるのか、非常に大切な問題であると思いますので、その点ちょっと先に触れておきたいと思っております。
 今度の上海事件、列車事故は非常に痛ましい問題でございますけれども、ある意味からいうと非常に大きな警鐘であったと思います。従来、方々の国でいろいろな事故がある。それに対してどう対応するのか。日本なんかの場合には大体生命の値段がこのくらいになっているという、これは後で刑事補償法のときに、間違って死刑にした場合に提案の二千五百万円では低過ぎる、少なくとも五千万円くらいにすべきだという反対提案をするわけでございますけれども、それとの関連で、今度はほかの国で、例えば後進国とか今度の共産圏の国というところで事故を起こしたときにどのぐらいどうするのかというのは、非常に大きな問題だと思います。今回の問題は痛ましい事件でございますけれども、これをむだにしないように今後どうそれに対処するのか、非常に大きな問題だと思いますので、その点をちょっと先に聞きたいと思っています。
 まず第一に、今回の上海の列車事故でいろいろ見舞い金なり補償金、保険金なりが支払われていると思いますけれども、どういう状況で支払われているのでございますか。
○森説明員 御説明申し上げます。
 亡くなった生徒さん、教員一名の方への補償につきましては、もちろん大きな意味では中国との問題があるわけでございますけれども、文部省といたしましては、文部省所管の特殊法人に日本体育・学校健康センターというのがございまして、そちらの方に平素日本のほとんどの国公私立の学校が加入しておりまして、一種の共済制度でございますけれども、そちらの方から今回の件につきまして、この制度は事故のあった本人の遺族から学校を経由して申請があって、そこでいろいろ慎重な手続をした上で、平素かなりの時日を要して死亡見舞い金等を交付するわけでございますけれども、こういった非常に悲惨な事故でございましたので、文部省の方からセンターに指導をいたしまして……(安倍(基)委員「簡単にしてくださいね、いろんな質問しますから」と呼ぶ)失礼いたしました。昨日一人当たり千四百万円を生徒さんに死亡見舞い金として交付いたしました。
○安倍(基)委員 これで、例えば重傷を受けてこれから非常に長い間治療せなければいかぬ、あるいはこれから半身不随じゃないけれども、長期間にわたって治療を要するあるいはハンディを負う、そういうものに対する補償的なものはあるのでございましょうか。
○森説明員 けがをされた方につきましては、生徒さんに対しましては、先ほど申しましたセンターの方から傷病に関する見舞い金それから手当が支給される仕組みになっております。また、亡くなった先生以外のけがをされた先生につきましても、これは労災の方でございますが、そちらの方から給付がなされるわけでございます。
○安倍(基)委員 このケースはそれとしまして、外務省の方にお聞きしたいのですけれども、あとは訴訟でやれということを外務省の人が言ったとか言わぬとかいう話がございますけれども、それは確かに民間人が行って事故に遭った話ですから、それはそれなりにどの程度政府が介入するか、大きな問題になっております。この点についてどうお考えかを先にお聞きしたいと思います。
○田辺説明員 お答えいたします。
 この種の問題の基本的な考え方でございますけれども、事故に遭った人たちと、今回の場合であれば中国の鉄道ですが、それとの間で話し合いを行って問題を解決していくというのが基本でございますけれども、当然のこととしまして、外務省としても、こういうふうな話し合いが円滑に行われるようにできる限りの助力を行うということでございます。できる限りの助力ということは、ただ単にその関係者の要望を向こうに伝えて、また向こう側の答えをこちらの方に伝えるということだけではなくて、さらに向こうの法制度を調べるなりなどして、できるだけの助力ができるような形にするということでございます。
○安倍(基)委員 これは大分前の事件になりますけれども、南ア航空とかそれから大韓航空、この大韓航空はソ連に撃墜されたやつですね、それについてはその後いわば補償問題はどういった進展になっているわけですか。
○田辺説明員 まず南ア航空でございますが、これにつきましては、南ア航空の事故調査委員会ができて今調査をやっている最中でございます。具体的な話し合いにつきましては、関係の方々にも聞いてみましたけれども、まだ具体的な話は始まっていないというのが南ア航空の現状でございます。
 それから大韓航空につきましては、最初当事者間の話し合いというふうなことでやっていたわけでございますが、その後話はうまくいかず、結局訴訟に発展しているということでございます。ただ、この間におきましても、日本政府としては、大韓航空に対してもまた韓国政府に対しても、いろいろな機会をとらえて補償問題の円満な解決というふうなことについて強く申し入れをしているということでございます。
○安倍(基)委員 大韓航空あるいは南ア航空は、訴訟でやって、それは勝てるか勝てないかという問題がありますし、また、勝ってどのくらいまでの補償を受けるかといいますと、韓国の場合のいわば生命の価値、評価額と日本における評価額とは違うというような問題がありますね。この辺、外務省としてどういうスタンスで臨むのか。特に今回は相手が、少なくとも南アとか韓国となりますとそれぞれ会社がきちっとあって、それを相手にすればいい、そして弁護とか訴訟もそれなりのことは行われるだろう。中国の場合に果たしてどうなるのか。これは、共産国家の場合に本当の意味の裁判所みたいなのがちゃんと民事訴訟をやってくれるのだろうかという懸念があるわけですね。しかもその中身が、南ア航空なら国営とはいっても要するに一つの会社になっておる。これはナショナルレールウェーでしょうから、訴えるとしたら国になるわけですね。その辺、一体、全く介入なしでいけるのか。つまり、彼らの訴訟を応援するといっても、じゃどこへどう訴訟するのですか、一体訴訟をやって勝てるのですか、どのくらいもらえるのですか、そういう基本問題があるのですね。
 この問題について、あなたはどのくらいの権限を持っているかわからないけれども、私は部長なりもう少し上の人に来てもらいたいと思ったので、参事官といっても別にあれでございますけれども、基本的にどうお考えなのか、その辺の外務省としての方針をお聞きしたいと思います。
○田辺説明員 先生御指摘の南ア航空の場合及び今回の中国の鉄道の場合、いずれも国営であります。ただ、それは南ア航空の場合であろうともそれから中国の鉄道の場合であろうとも、基本的にはやはり、先ほど申し上げましたようにその当事者間の話し合いというようなことになろうかと思います。そこから先どうなるかということでございますが、その場合果たして訴訟の相手が国になるのか、あるいは依然として運行主体である中国の鉄道になるのか、この辺のことにつきましては今関連の国内法令をいろいろ調査しているというところでございます。
○安倍(基)委員 じゃ、過去にある程度の犠牲者も出た個別案件があると思いますけれども、そういうときに一体、果たしてどういう裁判が行われているのですか。その相手が国になる、ならないだけじゃなくて、じゃ、過去におけるそういう訴訟があったのかどうか、訴訟において例えば弁護人を立てたりそういったことの弁論があったのかどうか、その辺はどうですか。
○田辺説明員 過去の事故等について、日本が直接絡んでないことでもありますので、必ずしもつまびらかではない部分がございますけれども、一、二のケースについて訴訟まで行ったという話はございます。ただ、具体的にそのときにどういうふうな形で訴訟が行われたかというようなことについては、詳細存じておりません。
○安倍(基)委員 私は中国について聞いているのですが、この問題を、私は何も野党といっていつも政府が悪い悪いという言い方じゃないのですよ。だけれども、皆さんが民事でやらせたらいいですと言うぐらいだったら、過去におけるケースをちゃんと調べておく必要があるのじゃないですか。どうですか。
○田辺説明員 先ほど私がお話ししましたのは、中国に関する過去の幾つかの事件でございます。例えばの話として、この前上海郊外で落ちた飛行機事故なんかの場合について申し上げますと、我々が得ている話では、一部、あれはたしかイギリス人だったかアメリカ人だったかの人たちは訴訟に話を持っていくというふうなことは聞いております。ただ、具体的にその場合どういうふうな形でなったのかというようなことについてまでは調査が行き届いておりません。そういうことでございます。
○安倍(基)委員 私が言っているのは、民間の訴訟に任せますと言う以上は、過去におけるどういう訴訟があったのか、それがどういうぐあいに発展しておったのかということぐらいはつかんで答弁すべきですね。それを知らないで、単に民間に任せておけばよろしいと。民間に任せるのも一つの方法ですよ。私は、これはすべてのケースを国が全部責任を負えとまで言ってないのです。これからいろいろ事故が起こると思います。しかし、そのときに一体どうするのか、過去はどうだったのかということぐらいは調べた上で、それでもって救済措置が行われていればそれもいいですね。それを知らないでおいて民間に任せますということだけでいって、それで突っぱねられるかどうかという問題を私は聞いているのですよ。そこを私は、外務省が民間に任せますよと言う以上は、それなりの過去のケースをきちっとつかんだ上で、過去がどうなっているか、どういった経過があったのか、どういう状況まで発展しているのかという程度の調査の上でやっていただきたいと思いますね。いかがですか。
○田辺説明員 お答えいたします。
 最近の外国人を巻き込んだ、これは航空機事故ですけれども、一九八五年一月に起きた事故では、イギリス人一名が死亡していまして、この場合には中国民航側は二万ドルを支払うというふうなことで提示したけれども、遺族はそれを不服として訴訟を提起している。
 それから八六年春の事件で、これは吉林省か何かで起きた事件ですけれども、二人の米国人が死亡して、やはり民航側は一人二万ドルというふうなことを示したようですけれども、遺族側はこれを不服として訴訟を起こしている、こういうふうな情報がございます。
○安倍(基)委員 じゃ、日本人の場合に、ないのですね。その場でいいです。ないのですね。
○田辺説明員 お答えします。
 日本人の場合につきましては、ことしのたしか一月だったと思いますけれども、上海郊外の事故で三人の日本人の方が亡くなりました。そのうちの一人の方については二万ドルであるいは妥協するというふうな話も聞いております。ただ、ほかの方たちはそれに不満で、場合によったら訴訟に持っていくかもしれないというふうな話は聞いております。
○安倍(基)委員 じゃ、いずれにせよまだ訴訟まで行ったケースはないと理解していいと思いますけれども、これから本当に共産国あるいは発展途上国、いろいろ事故が起こってくるはずですよ。これは一つの大きな警鐘でして、それぞれの国、例えば向こうの立場に立てば、それは二万ドルでも三万ドルでもべらぼうな額だと観念しているわけでしょうな、こちらとしては大した額じゃないけれども。そういうのが方々で発生するわけですよね。
 じゃ、こういった面、どう対処するのか。共産国の場合にある程度協定でも結ぶのか、あるいは全く個人責任なんだからということで個人に任すのか。それは確かにいろいろ、自分が観光なり、どんどんと出かけていく者に対して一つ一つ国が面倒を見ると言われてもそれは困るよという話が出てくるかもしれない。だから私もいつもいつも国を責めるというわけじゃないんだけれども、こういった後進国、特にいわば我々通常の資本主義社会における、訴訟があってちゃんと民事で請求してそれなりのあれが出るというような国でない国について何らかの協定的なものをつくるのか、それとも保険に任せてやらせるのか、要するに、それのスタンスをきちっとここで考えてもらわないと。特に日本の場合には、中国に対して弱いから余り物を言わないだろうというような話もよく出てきております。この辺、いわばどういうスタンスでこれから外務省は臨むのか、その辺をきちっと決めた上で、決まっているのなら決まったではっきりしてほしい。いかがでございますか。
○田辺説明員 外務省の基本的なスタンスとまで言われますと、私にちょっと荷が重いかと思います。ただ、先生がお話ありましたとおり、確かに外国では要するに日本では予測のつかないようないろいろなやり方があるわけでございますので、まず第一義的には、それは我々自身も含めてですけれども、十分いろいろな保険を掛けていく、これはいずれにしても大事だと私は思います。
 それから、先生の御指摘の協定でございますけれども、これは協定にどういうふうなことをどう書き込むのかというふうなこと等、いろいろ検討しなければならない点があろうかと思いますし、果たして先生の御指摘の、共産圏諸国との間でそういう協定が本当に結べるのか結べないのか、この点も検討しなければならないと思いますけれども、そういう難しい問題があるのではないかな、こう考えております。
○安倍(基)委員 いや、荷が重いと言われるけれども、私は、ですから代表して来てくれと言っているのですよ。政府委員室にはっきりと言ったわけです。それは今の話、私荷が重いから答えられませんじゃ困りますな。その辺、どうなんですか。協定を結べないなら結べない、結ぶことになじまないと考えるならなじまない、そう答えてください。どうなんですか。
○田辺説明員 もろもろの状況から考えますと、なかなか協定を結ぶには難しいのではないか、この種のものを特に共産圏諸国との間で結ぶということはちょっとなじまないのではないかな、こう考えます。
○安倍(基)委員 それから、私どもODAを随分方々の国へ出しているのですよね。別に金を貸しているから、あるいは援助しているからどうということはないけれども、共産圏以外のいわば発展途上国、そういうのもあるわけですね。そういったものに対してはどうなのか。共産圏の場合にはまだそういう協定みたいなのが結べないというのであれば、そういった発展途上国の場合にどう考えるのか。それは向こうの国にとっては、金を貸している意識をむき出しにしてそんなことを言ってくるのかといういわば見方もあるかもしれない。だから私は何もODAをそれに使えとまで言わないけれども、これはある意味から言うと、国民の税金でいろいろな援助をしているわけですな。とするならば国としてある程度、ODAの問題は非常に微妙な問題で、私はこれから大蔵委員会でも質問しようと思っているのだけれども、大体日本の円がどんどん上がってきて、例えば二、三年前はドル価格で五〇%伸びているのですよ。それを円価格で何%伸びでやるものだから、ドル価格で一年間で五〇%も伸ばすような、そんな必要があるのかという考えがあるわけです。これは私は大蔵委員会で質問しますけれども、その面で、向こうの立場から言えばそんなに援助面するなと言うかもしれないけれども、国民としては税金をそれに使っているわけですから、その辺の問題があると思うのですね。どうお考えですか、そういった途上国に対する考え。
○田辺説明員 申すまでもなくODA、これはもう先生もよく御存じなんでございますけれども、供与する目的というのはあくまでも開発途上国の経済発展、福祉向上というふうなことを目的としてやるわけでございまして、確かにODAをもらっているのだからその辺について感謝したっていいじゃないかというふうな気持ち、あるいはそういう感情が国民の中にもあるというふうなことは確かにあるのだろうと思います。と同時に、まさに先生も御指摘のとおり、今度受け取る途上国の方にしてみると、それは感謝していると同時に、やはり日本としてもODAを供与するそれなりのメリットがあって供与している、こういうふうなあれもあると思うのです。そのときに、ODAを出しているからといって、当然のこととしてというふうになるかどうかわかりませんですけれども、自国民と比べて格段に云々というふうなことが果たして今度向こうの政府あるいは向こうの途上国の中でなじむのかなじまないのかというようなことについても考えていかなければならないと思いますし、我々としてはその辺も踏まえた上で先生の御質問にも対処していかなければならないのじゃないかな、こう考えているわけでございます。
○安倍(基)委員 私は一つの例として、私自身もそうわからず屋じゃないですから、金を貸しているんだからやれというほど――もっともアメリカは割とそういうところはあるのですが、日本というのは割合と謙譲の美徳というか、言うべきことも言わないでいるのです、実際のところ。私はアメリカで二年半生活していますから、アメリカ人の気質をよく知っているのですよ。そういった意味で日本人というのは非常に遠慮深いなと思いますけれども、ただ、そういったものに対して協定を結ぶということでいくのか、あるいはやはり民間の保険でいくのか、その辺が、共産国のみならず一般的に民間でカバーしてくれ、政府は全然タッチしないよというのであれば、それなりの一つのスタンスなんですよ。
○田辺説明員 まず協定の点でございますけれども、この点につきましては、共産圏のみならず途上国等との間でもすぐ結ぶになじむようなものかどうなのかという点についてはなかなか難しいのじゃないか、こう思います。
 それから、例の保険の問題、私は、これはいかなる場合にも各個人が、特に外国に旅行される場合には十分手当てしていただかなければならぬのじゃないか。もちろん外務省としてというか政府として、こういういろいろなあれがあった場合に、一切民間に任して、関係ないということじゃないと思います。我々としてもできるだけのことは協力さしていただきたい。特に事件が外国で起こる場合ですから、どういうふうな状況になっているとかなんかということについて、やはり我々が向こうの状況をこちらの方たちに知らせ、また、こちら側の要望も向こうにきちっと知らせるというようなこと等、いろいろやらなければならないことがあると思いますし、それは誠心誠意やるつもりでございます。
○安倍(基)委員 今回の事故について、特に中国、よく日本はどうも中国に弱いよという話が出ていますけれども、その辺は別に弱い強いじゃなくて、確かにこれは初めて大きな事故として中国で出てきた、これからの大きな警鐘になると思いますけれども、それなりにみんなが注目しているわけですね。
 しかも、私が冒頭に述べましたように、果たして中国に、公正なと言っては悪いけれども、資本主義社会におけるような裁判があるのかどうか。しかも、相手が国という場合に、運転士が失敗したにしても国がどの程度責任を負うようになっているのか、非常に心もとない状況ですね。私はこの辺、ある程度国として保証人というか、それぞれの被害者のバックに立ってそれなりの、いわば交渉というか役割をすべきだと思いますけれども、いかがですか。
    〔委員長退席、井出委員長代理着席〕
○田辺説明員 まさに先生の御指摘のとおりで、我々としてもその辺は大いにバックアップしていかなければならない、こう考えております。
 ただ、一番最初に申し上げましたとおり、基本的なスタンスというか基本的な立場としては、最終的な話し合いは両当事者間の話し合いだと思います。その基本原則はございますけれども、その原則を踏まえた上で、特に中国ほか途上国等々の場合においてもできるだけのことはやっていかなければならない、こう考えております。
○安倍(基)委員 当事者間といっても、中国あたりは本当に当事者にお互いになれるのかという問題があるわけですよ。こちらは個人個人で、向こうは国家で、しかもその国家が裁判権も何もかも、要するに三権分立的な要素がどのくらいあるのかわからないような国家ですからね。それは、ああ気の毒だったということでいろいろやるかもしれませんけれども、これだけ大勢になってきますと、なかなかそう簡単にいかない。これはやはり一つのテストケースだな。これからどうするかという問題はまたありますけれども、これについてはそれなりの外務省の対応があってしかるべきだと思います。いかがですか。
○田辺説明員 我々としても、それなりの対応はするつもりでございます。
○安倍(基)委員 法務大臣、これは大体外務省の問題でもありますけれども、裁判管轄権以外にできた事件でありますけれども、こういう基本的な社会構造の差を考えますと、非常に大きな問題なんですね。こういった今までの議論のいわば動きについての御感想をひとつお聞きしたいと思います。
○林田国務大臣 先生のいろいろな御質問を通じまして、大変示唆を受ける次第でございます。
 まず、多くの死傷者を上海において出しましたことにつきまして心から哀悼を申し上げ、また遺憾に存ずるところでございます。これは閣議におきましても問題にしておるところでありまするが、中国におきましては、駐日大使が高知へ出かけ遺憾の意を表し、また中国から日本の総理大臣、外務大臣に対しまして遺憾の意が伝えられてまいっております。
 これは中国の国鉄でありまするので、おっしゃるように中国として対応すべきものと存ずるのでありまするが、日本の方は、個人の集まりが補償を要求するところの委員会をつくった、こういうように新聞報道も出ておりまするが、そういう委員会で共同いたしまして中国の国を相手として補償を要求するということになるだろうと存じます。そうして日本の国が、外務省でありまするが、これを支援をしていく、また、必要とあれば国同士で話し合うということも出てくるのだろうと存じまするが、これから政府としても十分見守りながら努力をしていかなければならないと存じておるところでございます。
○安倍(基)委員 今後の問題ですけれども、運輸省の方にお聞きしたいのですが、旅行あっせん業者にどの程度責任があるのかな。これからそういう発展途上国なり共産圏あたりに旅行を組む、あるいはあっせんするときに、これは別に保険会社の肩を持つわけじゃないけれども、何かほかの国、例えば後進国で事故が起こると、幾ら騒いでもちょっとしかもらえないよ、特に共産国なんかの場合にはどうなのかということをある程度、ただお客さんを集めるだけじゃなくて周知徹底させるというか、その辺の措置がやはりこれから必要なんだろうかな。旅行あっせん業者に従来どういう責任があるのかな。その辺をどうお考えなのかをお聞きしたいと思います。いかがですか。
○吉田説明員 お答えいたします。
 まず旅行業者の責任でございますが、旅行業者と申しますのは、運送機関とかホテルなどの宿泊施設などと旅行者の間に立って、その旅行者のために代理、媒介、取り次ぎというようなことをしておるわけでございますので、旅行業者の故意過失による場合は別といたしまして、そういう運送機関等の事故、その運送機関の責任での事故というような場合には、そういう運送機関等が責任を負うという建前になっております。
 そして、そういう旅行の形態に二通りございまして、旅行業者が旅行計画をつくって、そして利用者を募集する、そして旅行業者の計画に従って旅行するという主催旅行契約と、それから今回のような修学旅行の場合はすべてそうでございますけれども、手配旅行と申しまして、旅行者、今回の場合は学校側でございますが、学校側の計画に従って旅行計画が立てられて、そして旅行業者はその計画に従って運送機関等について手配を行うにすぎないという場合の二通りがございます。前者の方におきましては、旅行業者がいろいろな計画を立てて募集するものでございますから、そういう旅行上いろいろな事故がございました場合に、一定の特別な補償をすることにしております。死亡の場合には千五百万円というような限度で特別補償をするということになっております。ただ、手配旅行の場合には、単に手配を行うにすぎないということで、そういう特別の補償の規定はございません。以上のようなことは旅行業約款によって明示されているところでございまして、旅行社の責任というのは以上のようなことでございます。
 今後、こういう海外での安全対策ということにつきまして、私どもこの事故が起きる前から、日本人の海外旅行促進ということをやっております。対外経済摩擦の緩和に資するというような観点から海外旅行促進計画というのを進めておりますけれども、その際には当然安全などにも注意しながらやっていかなくちゃいかぬということで、今回の事故が起きる前から日本人海外旅行安全等対策研究会というものを開催することにしておりまして、実は昨日第一回を開催したわけでございますが、旅行会社とか保険会社とかいろいろな方々に集まってもらいまして、そして海外における安全等の情報提供とか、事故発生時における連絡体制とか対処方法、補償等の問題につきまして関係者からの報告を受けたわけでございます。そういうものに従って今後問題点の整理及びその対策の樹立ということをやっていきたいと考えております。
○安倍(基)委員 私も海外におりましたから、こういったものは個人責任であるという原則はあると思うのだけれども、やはりあっせん業者なりなんなりが場所によって危ないところは危ないですよというような、それだったら保険でも入りなさいと、保険は勧誘して回ることはないけれども、それなりの危険度についての警告というか、警告をしながらお客さんを集めるというのも難しいかもしれないが、たばこじゃないけれども吸い過ぎると体に悪いですよと言っては悪いが、この地区はこうですよという程度の、告知義務とは言わぬけれども、そういう指導をしておくべきじゃないかなと私は思います。その点、旅行業者は、そんなこと口にしたらお客さん減っちゃうよという話かもしれないけれども、今回のこういったことを見ますと、ある程度そういう周知徹底ということが必要なんじゃないかと思いますけれども、この点いかがですか。時間がないですから簡単にしてください。
○吉田説明員 旅行業者の代理店は、通常保険業の代理店も兼ねております。旅行パックとかそういうものを売り出す場合に、旅行者に対しまして、保険に入りませんか、その中身はこういうぐあいになっていますよということを勧めております。ただ、最終的に入るかどうかというのは個人の判断の問題でございますので、海外旅行者がすべて保険に入っているというわけではございませんが、一応そういうことで店頭で説明はいたしております。
○安倍(基)委員 もう時間もないですから、最後、参考までに大蔵省の方、こうやってどんどんと保険を払った、求償権というか、例えば中国政府はおかしいじゃないか、おれはこれだけ払ったんだから、向こうに完全に故意または過失があれば求償できるというような要素が若干あるのかどうか、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。
○山本説明員 今議論になっております海外旅行傷害保険の場合につきまして申し上げますと、死亡した場合あるいは後遺症が起こった場合にそれぞれ保険金が支払われますが、この保険金は実損てん補じゃなくて定額払いとなっておりますので、これにつきましては求償ということは出てこないわけでございます。ただ、傷害の治療費用等につきましては実損てん補でございますので、保険会社が加入しておられた保険に基づきまして保険金を支払った場合には、その被保険者が第三者、今回の場合ですと中国の国鉄なんでしょうが、に対して有するであろう損害賠償請求権は保険会社に転移するということになります。つまり、求償権が生ずるということになるわけでございます。
○安倍(基)委員 本論の刑事補償法に入らなければいけませんから、この辺にしておきたいと思いますけれども、いずれにいたしましても今回の犠牲をむだにしないように、これから海外旅行がどんどんふえる、そのときに外務省あるいは運輸省が十分協力して、これからどうするんだということをよく検討していただきたいと思います。よろしゅうございますね。――よろしいと言ったら、それで一々また答えると時間がもったいないから、この辺で上海事件の話は終わります。上海事件関係の方は帰られてよろしいです。
 本論の刑事補償法でございますが、私ども実は反対提案をしようと思っているわけです。簡単に申しますならば、死刑については原案では二千五百万だけれども、我々はそれでは安過ぎる、それから抑留及び拘禁ですか、この補償については少なくとも通常の民間の賃金というか、それを上回るべきであるというぐあいに考えておりますけれども、この補償金の額について、両方について一体どういう根拠で皆さんはこれを算定されたのかということをまず明らかにしていただきたいと思います。
○岡村政府委員 まず、補償金の額のうちいわゆる身柄の拘束を受けました場合の金額を七千二百円から九千四百円に引き上げることが改正案の一つの点でございます。
 この引き上げの根拠でございますが、この点はこれまで七回にわたりまして引き上げの改正が行われてきているところでございますが、その際と同じような手法によりまして、労働者の一日の平均給与額と消費者物価指数の上昇率を勘案いたしましてこういう数字にいたしたものであります。
 もう一点は、死刑が執行されました場合のいわゆる慰謝料に相当いたします金額の引き上げでありまして、現行法が二千万円になっておりますのを二千五百万円に引き上げるものでございます。
 この点につきましては、刑事補償法が当初制定されました当時は五十万円でございました。この五十万円という金額につきまして、確実に計算上こういうふうになるというだけの根拠はないと言えばないわけでございます。その後の改正におきましてこれが逐次引き上げられているわけでございますが、その際はやはり身体の拘束を受けました場合の補償金の上限を引き上げるので、死刑執行の場合についても引き上げるのが相当であるという判断で引き上げが行われてきたわけでありますけれども、その際も確実にこういう計算的根拠であるということではなしに、全体的に見ましてこの程度が相当であるという判断であるわけでございます。今回二千五百万円といたしましたのは、最近におきます交通事故等におきます死亡の際の慰謝料の金額、こういったものも考慮いたしまして二千五百万円に引き上げるのが相当であるという判断によるものであります。
○安倍(基)委員 これは参考人との質疑でも出てきているし、私どもも勉強しておったわけでございますけれども、大臣もよく聞いていただきたいのですけれども、要するに昭和七年に決められたときも、いわば当時の日当が大体二円五十銭だった、そのときに五円と決められているのですね。戦前のあの公権力が強いときでも日当の倍と決められているわけですね。戦前のことを悪く言う人が多いけれども、この点から見ると、今よりよっぽどそういったことに対する配慮があったのじゃないかという気がするのですね。我々が調べてみますと、例えば一日一万円といったら月給二、三十万円の話ですな。初任給よりはちっとは高いかもしれぬけれども、我々の計算によると一万五、六千円というのが通常の、いわば昭和七年における二円五十銭に相当するようなものである。そうすると、少なくともその倍くらいはあってもいいはずなんだということになるわけですね。でございますから、今までの計算が昔の数字をもとにして、要するにそれに何となく指数を掛けてきたというだけの話で、現実からまさに遊離しているのですよ、現実問題として。今の我々の修正案の一万六千円というのも、本当は観念的に考えれば、慰謝料を含めば倍ぐらいにしてもいいはずなんですね。まさにこれはおかしな話だな。
 もう一つは、自賠責の、つまり交通事故。私も今までも議論したのですけれども、交通事故で死んだのと誤って死刑になって、それの要するにあれがパラレルだなんというのはまさにおかしな話。一方は国が間違って死刑にした、片一方はもう要するに偶然というか、やられてしまった。それと一緒にされたのでは、まさに間違って殺された者というのは泣くに泣かれない話じゃないかと思いますけれども、この点どうお考えですか。その点を事務方と大臣のお考えを聞きたいと思いますね。
○岡村政府委員 ただいま御指摘のありましたように、今回の刑事補償法の改正によりまして、死刑執行の場合のいわゆる慰謝料の上限額を二千五百万円ということにいたしますと、自賠法による死亡の場合の保険金の上限額と同額ということにはなるわけでございます。しかしながら、自賠法によります保険金につきましては財産的損害と精神的損害の両者を含むものであるわけでございまして、直ちに両者の数字を同列に見るといいますか、同列で比較するといいますか、そういうことはできないような点があるわけでございます。一方、昭和五十年に刑事補償法を改正いたしました際に、政府原案は五百万円から一千万円に引き上げるということで提案いたしたのでありますが、同じ国会で自賠法が一千五百万円に引き上げられるということから、死刑執行の場合も一千五百万円に引き上げるのが相当であるということで修正をいただいたというような経緯もあるわけでございます。
 そういうようなことから、この刑事補償におきます死刑執行の場合の慰謝料と申しますか、その金額の上限の算定に当たりましては、自賠法の金額というものも一つの参考にはいたしているところでございます。今回たまたま一緒にはなるわけでございますが、そうだからといって直ちにこの二千五百万円が低過ぎる、相当ではないということには、今申し上げましたような事情から見まして、ならないのではないかというふうに考えているところであります。
○安倍(基)委員 大臣が答えられる前にもう少し技術論をしますけれども、私は実は個人的に自賠責保険の引き上げのときに立ち会った人間なんです。私は昭和三十八、九年に大蔵省の保険二課の補佐をしておりましたから、たしか五十万円を百万円に引き上げたときにタッチした一人なんです。でございますからこの辺はよく知っているのですけれども、今おっしゃいましたように、要するに財産的損害を含むとおっしゃいますけれども、いわば無過失責任でやっているわけであって、それ以上の損害について過失が立証されたときには損害賠償できるわけですよね。自賠責保険というのはあくまで無過失を、要するにいわば立証するもしないもいいからこれは払う、被害者補償の面ですから。実際上の財産的損害がもっと多ければそれなりのあるいは要求ができるわけですよね、相手の故意過失について。それでありますから、それは自賠責の方は財産的損害が入っているから、片一方は入ってないからとおっしゃるけれども、その辺は必ずしも今の説明だけじゃ十分じゃないのです。しかも、これはまさに国が間違って捕まえて間違って殺したわけですから、自賠責の被害者補償と同一視されてはとんでもない話なんですね。この点どうお考えですか。
○岡村政府委員 金額だけで比較するといいますか、申し上げてみますと、まず死刑が執行されました場合の刑事補償でございますが、一つには、死刑が執行されるまで拘置されておりました期間の補償、すなわち今回の改正案によりますれば、一日上限九千四百円の範囲内で拘束期間中の補償が行われるわけでございます。
    〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
 次に、死刑が執行されましたことによります財産上の損害につきましては、これは個々の案件で立証されればその範囲内で裁判所が判断をいたしてこれを補償することになるわけでございます。そしてさらに慰謝料ということで、二千五百万円の範囲内で裁判所が金額を決めて補償をいたすわけでございます。もっとも死刑の執行ということが誤って行われるようなことがあってはならないわけでございまして、これまでにも誤って死刑の執行が行われて、その結果補償されたという事例はないわけでございます。今後ともこういう事例があってはならないというふうに私どもも考えておるところでございます。
 そういうような点をいろいろ総合いたしますと、直ちに自賠法と同視することはもちろんできませんけれども、現行の刑事補償法はそれなりにやはり手厚い補償を行おうとするものであると思われますし、さらにまた公務員の側に、捜査機関の側等に故意過失があれば、国家賠償法によりまして損害の賠償を請求することもできることになっているのであります。
○安倍(基)委員 この場合、財産上の損害というのが、ともかくある人間が相当の期間拘留されて死刑になった、得べかりし利益というか、人によっては社会的活動をどんどんしていけば随分大もうけする人もあり得たわけですから、その辺の得べかりし利益がどのくらい含まれているのですかな、財産上の損害というのが。
○岡村政府委員 死刑が執行されました場合においては、死亡によって生じた損害を補償することになるわけでございます。その際の補償の上限額は決められておりませんので、これは個々の案件に応じまして立証されました損害額を補償するということになると考えられるのであります。したがいまして、得べかりし利益と申しますか、死亡によって生じた逸失利益でございますか、これにつきましては補償が行われるということになると思います。
○安倍(基)委員 これは故意過失がなくても、要するに死んだ前あるいは死んだ後、両方の得べかりし利益が全部含まれるのですか。
○岡村政府委員 死刑執行による補償の場合でありますけれども、本人の死亡によって生じた財産上の損失額が証明された場合には、その損失額に、現行法でございますが、二千万円を加算した額の範囲内とするということでございますので、死刑執行、すなわち本人の死亡によって生じた財産上の損害、さらに具体的に申し上げれば、いわゆる逸失利益、こういったものが証明されれば、この二千万円に加えたその金額の範囲内で裁判所が補償額を決めるわけでございます。もっとも、死刑が執行される前にいわゆる拘置という身体の拘束期間があるわけでございます。この身体の拘束期間につきましては、先ほど来申し上げましたように、一日現行法では七千二百円以下の範囲内で補償されるわけでございます。さらにそのほかに捜査機関等に故意過失があれば、これは国家賠償法で請求できる、こういうことになるわけであります。
○安倍(基)委員 今の、要するに得べかりし利益というのは、一つは死ぬ前の時間だってあるのですよ。日当、日当と言っては悪いけれども、一日一万円前後もらえるよりはもっともっと給与をもらえたかもしれない。場合によれば、若いのが捕まってだんだん年をとってくれば、本来はそのときには給与がもっとあったかもしれません。死んだ後も、三、四十歳で死ねばもっともっと稼いだかもしれない。得べかりし利益がうんとあるわけですね。それは全部もらえるのですか。しかも、証明されればと言うけれども、本当にそれを認めた例があるのですか。
○岡村政府委員 先ほども申し上げましたように、これまでに死刑を執行したことによりまして刑事補償した事例はございません。したがいまして、具体的事例を挙げてこの程度の範囲のものが支給されている、補償されているということは申し上げられないわけでございます。
 ただ、先ほど来申し上げましたように、死刑執行する以前の身柄拘束の期間につきましては、定額補償と申しますか、現行法では一日に七千二百円以下という金額の範囲内で補償されることになるわけでございます。この分につきましてさらに損害が生じているというのであれば、これは故意過失を要件といたしますけれども、国家賠償法による請求が行われることになるわけでございます。
○安倍(基)委員 では、過去の例はなくても、そういったケースがもし生じれば死刑までは定額、死刑がなされてしまった後はやはり逸失利益があれば出すという観念でございますね。
○岡村政府委員 そういうことでございます。
○安倍(基)委員 ここで問題になりますのは、西ドイツの例でございますけれども、西ドイツの例は定額というよりは、死刑は方々で廃止されていますから、実損害額が証明されればその分を補償する、定額じゃないのですね。これがむしろ正しいのじゃないか。でありますから、拘留期間についてはむしろ定額は一応めどにして、それは少なくとも早目に処理するために一応定額が必要かもしれぬ、しかし、それを超える損害が証明されればすんなり認めてやるということが拘留についての議論、しかも定額そのものももっと上げるべきだと思います。それと死刑の場合に、死んだ場合の逸失利益というか、それも含めてやはり観念すべきじゃないかと思いますけれども、いかがでございますか。
○岡村政府委員 ただいま御指摘がありましたように、ドイツにおきましては財産的損害に対する補償は立証された損害額を補償するということになっているわけでございます。こういうふうに個々の案件に応じてどれだけの財産的損害があったかを個別に立証させまして、その立証された額を補償するというのも刑事補償のあり方としては一つの考え方であると思うのであります。
 しかしまた一方、我が国の刑事補償のように身体の拘束がなされた者につきまして無罪の裁判が確定いたしますと、そういった個々的な財産の損害を立証させるという手間を省くと申しますか、そういった負担を相手方にかけないで、そのかわり一定の幅の中、すなわち上限が決められておりますので、その上限の範囲内で迅速に、また定額的な補償を行うという補償の制度もやはり合理性があるというふうに思うのでありまして、要するに問題は全体の法制の問題、あるいは国の補償制度のあり方ということにもかかわってくる基本的な事柄であるわけでございます。今後とも、そういった面については広く検討はいたしていきたいというふうに考えているところであります。
○安倍(基)委員 大臣、いろいろ議論を聞かれたと思いますけれども、実は昭和二十五年に、間違って死刑にしたときが五十万だったのです。そのときにこれは低過ぎるじゃないかという質問があったのに対して、これは財政上に限度があるからというような答えがあったらしいのですが、その後昭和三十年にいわば自賠責が発足したのです。そのときの上限は三十万なんです。ですから、そのときの観念からいえば、自賠責が三十万のときに、二十五年に死刑のいわば補償が既に五十万だった。ということは逆に、二十五年当時に三十年の三十万を置き直しますと、指数によっても違うのですけれども、大体十七、八万から二十万ちょっとぐちいになるのです。そのパラレルからいけば自賠責の倍以上であってもいいはずなんですね、生命の価値というのはどんどん上がってきていますから。その面で、今まで法務委員会でいろいろ議論し、あるいは法務省が議論したというのは単に決まった指数、つまり三十九年に自賠責が百万円になったときに、それに一緒に合わせてそれをスライドしてきているのですね。
 ところが、基本的には二十五年に既に死刑のときには五十万、三十年に自賠責が三十万、スタートラインが死刑が重くなっているわけです。それにもかかわらず、今ずっと自賠責と一緒になっているというのは、まさに死刑についての、いわば生命についての、しかも今の財産的損害も含まれているとおっしゃるけれども、これは無過失でそれを払うのであって、実際上、訴訟で請求すればもっともっとそれを上回る話であれば支払われているわけですよ。無過失責任の限度だけであって、これは実際上個々のケースによって裁判されればとれるわけです。でございますから、財産の分が入っているからということは理屈にならないので、既に二十五年において死刑の方が五十万円であった。三十年に始まった自賠責が三十万円だった。その伸びからすれば、指数にもよるのですけれども、当然五、六千万か七千万くらいにしてもいいはずなんです。それが第一点。
 第二は、いわば日当との関係、これも昭和七年においては通常のものの倍だったわけです。だから、現在でさえ日給は一万五、六千円ですから、本当はその倍くらいあってもいいのです。それが日当そのものも単に指数でやっているわけですから、これもおかしい。
 第三点ですけれども、これは定額さえ払ったらいい、みんなに立証させるのは大変だ、立証してきた人間についてはそれを認めてやってもいいではないかというのがあるのです。
 この三つの点があるのですけれども、どうお考えですか。
○林田国務大臣 この刑事補償二千万円以内というのは、いわば慰謝料のようなものであろうと存じます。そのほかに、財産上の損害が立証されましたならばそれは支払う、こういうことになっておるわけでありまして、また、国の方が故意過失があるということになりますると、国家賠償も支払われるということになっております。今までこの実例がありませんので、どういうふうに支払ったかということが出てこないわけでありまするけれども、そういうような三つの方法によりまして賠償をしていくということになるわけでありまして、自賠責の方は保険に入っておってそれから支払われていくというわけであり、今回の刑事補償とか財産補償、また国家賠償というものは国民の一般の税金から支払われていくということもございまして、最初はかえって自賠責の方が低かったということがあろうと存じまするけれども、税に対しまする国民の観念もだんだん厳格になってきておるということもありまするので、この辺でしかるべきものであり、しかし今後先生のおっしゃることも十分判断の材料にいたしまして、さらに財政当局ともこれからの問題としてよく話し合いまして、努力を重ねていくべきもの、かように存ずる次第でございます。
○安倍(基)委員 余り技術論を言うと大臣も答弁しづらいのかもしれませんけれども、少なくとも出発点で、死刑に対するものは二十五年に五十万だったわけですよ。それで、自賠責は三十年に始まって三十万だったのですよ。これはその観念からいけば、今のはいかにも低いわけですよ。
 二番目の、大臣が言った税金だなんという話は問題にならないですよ、そんな議論は。間違って死刑にした人間に十分払うのは当たり前の話で、さっきのODAも、外国には一兆円ぐらい援助しているのですよ。国が間違ってそれをやったのに、予算の問題とか税金に対するシビアな関係なんというのは議論にならないですよ。それは全くおかしい話です。余り大臣をこうやって追い詰めるのは気の毒だけれども。
 技術論から言っても、これはさっきの、定額にしておいてすぐ出してやる、そのかわり立証してきたら認めてやるというのも当然なんですよ。時間もないから私がここで話しますけれども、今までも議論があったけれども、国家賠償法によってやればいいじゃないかと言いますが、一体裁判官や検察官の故意過失をどうやって立証するのですか。故意はほとんどあり得ませんわな。過失といったって、要するにどこまでが過失かと言えないわけですよ。
 私は、思いついたもので、参考人を呼んだときに議論したものを論文に書いたのです、論文が好きだから。この間の養子縁組のときにも、死後離縁について論文を書いて「ジュリスト」に載せてもらいましたけれども。私は、誤審というのはそもそも国家の過失だと思うのですよ。そこにおいて、担当者の、裁判官とか検察官の故意過失を論ずることそのものがおかしい。誤審そのものは国家の過失である。システム、つまり例えば勾留期間が短いとか自白を証拠に用いるとか、いろいろな制度がありますね。そういった裁判官を任命したということそのものも一つの問題なわけですよ。一つのシステムとして当然責任を負うべきなんですね。誤審そのものが国家の行った過失ですね。
 しかも、通常の国家賠償法というのは、例えば物を施設して、そこに傷があったから何か事故が起こった、賠償しましょう。この場合には、自由な人間をつかまえてきて拘禁するわけですよ、刑罰に付するわけですよ、間違うわけですよ。こんなことで、これを普通の国家賠償法のジャンルで考えることそのものが間違いですよ。そこには財産的な損害プラス自由権の剥奪があるわけですよ、名誉の剥奪があるわけですよ。法益が違うのですよ。それを通常の国家賠償法のジャンルで考えて、こういう場合には国家賠償法だから故意過失を立証したら払ってあげますよ、とんでもない話ですよ。私はシステム責任という論理があるだろうと思っておる。
 私は「刑事補償法におけるシステム責任の論理」という表題で、誤審そのものが国家の過失ではないかという論文を今書いて、僕の字は汚いからまだ載っけてくれるかどうかわからないけれども、皆さんに読んでもらいたい。そこで私が言っていますのは、国家賠償法と刑事補償法の二本立てはおかしい。刑事補償法は完全に通常の国家賠償のジャンルから外れている。今の公権力によるいわば自由の剥奪、精神的な損害、そういったものを含めれば、国家賠償法のジャンルから一つ独立させるべきだ。憲法四十条はその意味だ、その精神である。そこにおいては誤審そのものは国家の過失であると見て、全くの無過失責任を考えるべきだ。したがって、その場合に損害額が実証されたら、定額補償してもその上も考えるべきだという論文を私は今書いて、それは載せてくれるのかわかりませんけれども、そういう議論を展開しているわけです。
 今までの議論の中で、国家賠償法なんかやったって一つも認めてくれないじゃないか、まさにそのとおりですよ。一体検事や裁判官に故意過失をどうやって立証するのですか。同僚委員は挙証責任の転換をすべきだ、それも一つの考えですよ。しかし、そういうことじゃなくて、誤審そのものが国家の行った過失であるという観念で考えるべきで、普通の国家賠償法のいわば思想系、もちろん昔はいろんな参考書で私も読みましたけれども、キング ダズ ノット ドゥ ロングか、ちょっと言葉ははっきり覚えていませんけれども、要するに国王は悪をするはずがない、公権力によるものは免責だ。だから、むしろ裁判官もしくは検察官の個人に責任を負わす英米法の体系だった。ところが最近は、逆に国家であるがゆえに責任を負うべきだ。フランスあたりは比較的無過失責任を多く認めていますね。
 そういったことを調べてみますと、結局現在は、国家であるがためにむしろ責任を負うべきだ、そういう観点が出てきている現状において、この国家賠償法でやればいいじゃないかという観念は全くおかしい。刑事補償法を独立させて、そこにおいてすべてのことをやる。故意過失の立証なんか要求すべきじゃない。誤審そのものは国家の過失であるという概念で考えるべきだ。そこで今の個別的な定額補償もいいですよ。その上に損害があったら、それを立証されたらすぐそれを全部認めるべきだ。しかも、逸失利益も全部認めるべきだ。今回の改正法では余り細かいことまで全部できなかったからそういう金額の引き上げだけで済みましたけれども、そういう基本的ないわば再構築を考えるべきじゃないかと私は思います。この点、ひとつ法務省と裁判所と、両方の御意見を承りたいと思います。
○岡村政府委員 裁判で無罪になりましたときの損害の賠償でございますが、国家賠償に任せればよいという趣旨で私申し上げたところではないわけでございまして、刑事補償の範囲内では故意過失を問わないで損害を補償しようというのがこの刑事補償法であるわけでございます。ただ、故意過失を問わないで迅速に補償しようという制度に内在するものといたしまして、定額補償と申しますか、一定の上限を定めてその範囲内でできるだけ簡易に補償を行おうということになっているわけであります。したがいまして、刑事補償の制度は、損害のすべてを立証させてそれを証明されたものについて全部支払っていこう、補償しようという思想ではないわけでございます。
 そういう意味で、現在の刑事補償制度に内在する一つの制約というものがあるわけでございます。それを超えたものにつきましては、国家賠償法によりまして、これは故意過失が要件とされておりますけれども、さらに損害の賠償を請求する道があるんだということを申し上げているところであります。(安倍(基)委員「時間が短いから簡単にしてください、ほかの人にも聞かなくてはいけませんから」と呼ぶ)それでは簡単に結論を申し上げることにいたしますが、そうは申しましても、この刑事補償の充実を今後とも図っていこうということは、私どもも、また最高裁判所も同じ考えであると思うのでありまして、刑事補償制度のあり方につきましても幅広く勉強はしていかなければいけないと思いますし、委員が何かお書きになったそうでございますから、それもひとつ読ませていただきまして、勉強はいたしたいと思っております。また、今後とも補償金額の引き上げ等につきましては努力をいたしたいと思っております。
○吉丸最高裁判所長官代理者 刑事補償と国家賠償との関係につきましては、ただいま法務省の岡村局長がお述べになったとおりであろうと私どもも考えております。
 なお、今後とも刑事補償の充実につきましては、私どもにおいても十分努力いたしたいと考えております。
○安倍(基)委員 非常に短い答弁でよろしかった。いや、ここで現行の刑事補償が無過失責任で国家賠償が故意過失を要件とする、それは当然なんですよ。私が言っていますのは、この刑事補償に関連しては、もともと国家賠償法に最後に原則戻るということではなくて、刑事補償法自体が通常の国家賠償法とは違う、故意過失を問わないですべてを補償するのだ、その考えからいえば、いずれにせよ補償が足りないのだ。立証されれば当然補償すべきである。もう一つ、例えば若いころ捕まった、十年も十五年も捕まったとしますよ。ずっと一生懸命やっていれば、本来彼らは努力していけば、モンテ・クリストではないけれども、どんどん社会的に成功する可能性もある。一般的にも賃金も上がっていくわけですね。そういう長期間のものについては実額というか、例えば二十歳で捕まれば、四十歳までだったら当然給与も上がっていくだろう、平均給与の上昇で見るということも考えられるのですよ。
 こういったすべて、これを刑事補償法で、要するに無過失責任で貫いて、それで全部補償する。それで、もし定額でやって足りなかったら、ひとつ国家賠償法でやれよというのが現行の制度かもしれないけれども、現行の制度そのものが、今の刑事補償の本質というか、誤審そのものが国の過失であったというシステム責任というか、そこにおいて個別的に検察官、裁判官の故意過失を立証しようといったってできやしませんよ、もともとできない話なんですよ。だから、そういう裁判官、検察官を任命した、あるいは勾留期間が短い、自白が証拠になっているとか、そういう要素が絡まって国が過失を犯したのですよ。その面で、刑事補償法というのは通常の国家賠償と違って、無過失責任は当然ですよ。無過失責任の中でもってすべてを補償する。それを、これで足りない分は国家賠償法にいきなさいという考え方そのものがおかしいのだと私は思うのですよ。これは大分議論になりますからあれですけれども、私はそういった意味で、いろいろ補償について各国の差がありますし、今言った観点の差が少しずつありますよ。昔は公権力に基づくものは責任なしということで、むしろ個人の故意過失に抑え込まれていたわけだ。逆に現在は公権力に基づくものはそれこそ責任があるのだという観念が展開してくれば、むしろ個人責任よりも国家責任なんだ、個人の過失は問わない、むしろ誤審そのものが過失なんだ、こう構成すれば、これはまさに刑事補償無過失責任、それですべての損害を網羅すべきだ。それを、これで足りない分は国家賠償でいきましょうという観念そのものがちょっと問題なわけですよ。
 僕の演説ばかり聞いてもしようがないから、最後に、刑事補償法というもので、誤審というものが通常の国家賠償とは意味が違うのだ。生命を強制的にとる、あるいは自由権を剥奪する、名誉を剥奪する、それは国家賠償法とちょっと、自由権とかすべてが別の法益があるわけですよ。それだから、刑事補償法で足りない分は国家賠償へいけというのではなくて、刑事補償そのものを充実して得べかりし利益も全部見る。死刑の方も思い切って出す。日当だってみんなよりも、そこに慰謝料というものを加えるべきだと思うのです。その点、私は今回の改正、ともかく不満ですからあれを出しますけれども、その辺についての大臣の考え方を最後にお聞きして、私の質問を終わりたいと思います。
○林田国務大臣 先生の御説はまことに新しい説でありまして、私たち古い考え方を持って慣習的にやってきたという点もあるかと存じます。これから最高裁また法務省一緒になりまして、よく勉強をさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いします。
○安倍(基)委員 終わります。
○戸沢委員長 中村巖君。
○中村(巖)委員 本日は、刑事補償法の改正案の審議でございます。
 そこで、まず刑事補償法の関係をお伺いしてまいりますけれども、いろいろ今日まで参考人の御意見も含めまして議論があったところでございますが、そもそもに戻って刑事補償法が制定をされたという趣旨そのもの、なぜ刑事補償をするのかということについて伺っておきたいと思うのであります。
 刑事補償というのは損失補償で、いわばこれは損害賠償ではないのだというようなことも言われておりまして、国家賠償は国家賠償法によって別途求めればいいので、それと離れても補償というものはしなければならない、こういうようなことのようでありますけれども、改めて補償法を制定しなければならないそのゆえんのものについてお伺いをいたします。
○岡村政府委員 刑事手続で身柄の拘束を受けた者が裁判で無罪になった場合には、相当のいろいろな被害を受けるわけであります。こういった被害につきまして、公平の原則から見まして国が賠償するのが相当であるという考えからこの刑事補償法ができているところであります。損害の補てんであるという点におきましては、国家賠償法とその思想を同じくするものであります。
 ただ、先ほど来からも説明しておりますように、国家賠償法との違いと申しますと、国家機関の故意過失を要件としないという点と、もう一つは、補償金の額が定型化されていると申しますか、定額化されていると申しますか、上限が定められている、こういうことであります。
○中村(巖)委員 そこで、同僚議員の議論にもありますけれども、この補償をするということについては、それは補償であるから責任とは関係ないのだ、責任というものが問われるためには故意過失が必要だ、それは国賠の方なのだ、こういうふうな考え方でおられるのではないかというふうに思いますけれども、誤判というものがあったとすれば国家責任が、故意過失ということを離れて広い意味での責任があるというふうに考えなければいけないのじゃないか。参考人の中には、賠償責任というものと補償というものとの境界が、現代では法律の中で、法律的観念としてだんだん薄れていって、補償そのものも拡大をしていかなければならないのじゃないか、要するに境界線が明瞭でなくなってくる、そういう趨勢にあるのじゃないか、こういう御意見もありました。それについては、法務省としてはどうお考えでしょうか。
○岡村政府委員 近代の不法行為論と申しますか、そういったものから申しますと、故意過失というものがあくまで損害賠償の要件になっているわけでございます。そうは申しましても、やはり今問題になっておりますように、身体の拘束を受けたけれども無罪になったというような者の受けます被害が少なくない、かなりの被害があるという点から見まして、こういう人たちをやはり何らかの形で国として救済する必要がある、そういう場合に故意過失ということの立証を待たないで補償をする必要がある、こういう考えのもとにこの刑事補償法が定められているところであるわけでございます。だから、故意過失と故意過失でない場合との限界が定かでないのではないかと言われますと、これは私何ともちょっとお答えいたしかねるところでございますけれども、少なくとも刑事補償法に即して申し上げれば、これはもう故意過失を問わないで補償するということであります。
○中村(巖)委員 無過失賠償責任というのが民事責任の中でもふえてくるということになると、そこの限界というもの、損失補償と損害賠償の限界というものは非常にはっきりしなくなってくるということだろうと思うし、例えば厚生省が認可した薬品についての薬害の問題というようなもの、それの国家責任ということになると、判例の中でも挙証責任に転換するというような形で大きく無過失賠償責任に近づいているものもあるわけでございます。そうだとすると、やはりその損失補償、補償ということであって損害賠償ということでないとしても、故意過失があるとした場合というか、補償額というものは、額の点でそういう損害賠償額に無限に近づいていかなければならぬのではないか。その辺について、法務省が配慮がおありになるのかどうかということを伺います。
○岡村政府委員 損害の補てんであるという点では、国家賠償法と刑事補償法はその本質を同じくしているものでございます。私どもといたしましても、刑事補償法の制度を一層充実いたしたものにしたいという考えは持っているところでございまして、具体的にはやはり補償金額の引き上げということにそれが反映されてくるだろうと思います。これまで七回にわたりまして経済情勢の変動等に応じましてその引き上げを図っているところでありますし、今後ともこの引き上げにはさらに引き続いて努力をいたしたいと考えているところであります。
○中村(巖)委員 そういう御努力があるのだろうとは思いますけれども、今回の改正で提案されている補償の上限額というものは余りにも低過ぎるのじゃないかということでございまして、損害賠償という観点からするものとの間に非常にギャップがあるのではないかというふうに思うのでございます。
 例えばこの抑留、拘禁された場合の補償というものについて考えてみましても、今度一日九千四百円にしよう、こういうわけでありますけれども、例えば自動車損害賠償責任保険において補償がされるという場合、今裁判所の入院一日に対する補償というものもかなり金額的には上がっている、一カ月で四十万ぐらいのものに上がっているわけで、それからすると、やはりこの一日九千円台であるというのは余りにも低過ぎるのではないか、こういう感じがするわけでありますし、あるいはまた死刑の場合におきましても、やはり今日、死刑になった者に対する遺族の補償がまだわずか二千五百万円程度では、恐らくこれは自動車損害賠償の場合の慰謝料の額とはほぼパラレルになっているかもしれませんけれども、しかし、これは常に上がっていっているわけですから、やはり低過ぎる。しかも、なおかつ国家のある種の責任に基づいているわけで、国家が誤った行為をしている、そのことに対する謝罪的な意味、そういうものを考えれば、民間のそういった自動車の場合にほぼ並行しているという程度では低過ぎるのではないかというふうに思いますけれども、その点いかがですか。
○岡村政府委員 まず、身柄が拘束されました場合の補償金の関係から申し上げます。ただいま御指摘のありました交通事故の場合に、被害者が入院いたしますと月四十万ぐらいが損害ではないかという御指摘でございます。私、詳細を把握いたしておりませんけれども、それはあるいは入院費用とか看護の費用とか、そういったものも加味されているのでありましょうか、その辺がよくわからないわけでございますが、いずれにいたしましても、刑事補償の場合は、現行が上限七千二百円、改正案では九千四百円ということになるわけでございます。これは、これまでの七回にわたります引き上げの場合と同じように、労働者の一日平均給与額と消費者物価指数の上昇率というものを勘案しながらその引き上げを図ってきたところでありまして、私どもといたしましては、今回の引き上げ額がやはり現在のいろいろな情勢の中で相当なものであるというふうに思っているところであります。
 また、死刑が執行されました場合の二千五百万円でございますが、これはいわゆる慰謝料というものに当たるわけでございまして、これ以外に刑事補償で補償があることは既におわかりのことと思うわけでございます。この二千五百万円という金額につきましては、正直申しまして計数的にそんなに明確な根拠はないと思うのでありまして、当初は五十万円であった、それが順次引き上げられていった、今回は二千万円から二千五百万円に引き上げるということでありまして、五百万円引き上げの計数的根拠と言われましても、どうも説明いたしがたいところでございますけれども、いずれにいたしましても、最近の交通事故におきます死亡者の場合の慰謝料の額というものなどとも対比いたしましても、二千五百万円というものは慰謝料の額といたしましては決して低過ぎるものではないというふうに思っているところであります。
○中村(巖)委員 この抑留、拘禁の場合につきましても、これはもう既に言われておりますけれども、少なくとも制度発足の当初におきましては四百円が上限である、その場合に、常用労働者の賃金というものはそれより低かったということであります。したがって、常用労働者の一日当たり平均賃金を上回るものがこの補償額の上限として決められておったということでありますけれども、それがいつの間にか常用労働者の賃金よりも低いものにされている。法務省の資料によりましても、一日当たりの現在の常用労働者の平均賃金は一万六千円弱である、こういうことでありまして、今回は九千四百円であるということでございます。また、自動車損害賠償保険の死亡保険金とこの死刑執行の補償の関係につきましても、先ほども指摘がありましたけれども、昭和二十五年に補償法の発足当時は五十万円であったものが、自動車損害賠償責任保険の方は昭和三十年当時、その三十年時点で三十万円で、したがってそこには差がついておって、この刑事補償の方が額が大きかったわけです。ところがいつの間にか、いつの間にかというのは、現実的に言えば昭和三十九年の時点で並んでしまいまして、以後は自動車損害賠償責任保険の死亡保険金額が上がるにつれてこの刑事補償額も同額で上がってくる、こういう構造になってしまったわけで、もともと制度発足当初の三十万円と五十万円というふうに差がついていたその差というものは、本来的にはやはり今日においても維持をされなければならない。自動車の場合に二千五百万円であったらばそれ以上、いわば倍に近いようなものでなければおかしいんじゃないか。
 これはやはり、もともと制度そのものが、ただ単に自動車事故で死んだ場合と違って国家の責任的な要素というものを加味をしてあってそういうふうに差がついておったものであったはずであろうと思うのでございます。今日こういうふうに合わしてしまうということは制度の趣旨を没却をするものであるというふうに思われるわけでございまして、法務省も今御答弁の中でやはりもっと充実をすべきであるというお考えはあるのだということでありますけれども、そうだとすると、自動車保険に合わせなくちゃならないというような何か具体的な理由があるのか。ざっくばらんに申し上げて、これは法務省の意図に反する障害というようなものがあるのではないか、こういうふうに考えるわけです。さらに具体的に言えば、大蔵省当局が認めてくれないとかそういうことがあるんじゃないかというふうに私ども勘ぐるわけでありますけれども、その辺のことはいかがでございましょうか。
○岡村政府委員 今回二千五百万円に引き上げられますと、自賠法によります死亡の場合の保険金の上限額と同額ということになるわけであります。ただこの点につきましては、要するに自賠法の場合は財産的な損害も精神的な損害も両方含むものであるのに対しまして、死刑執行の場合はいわゆる慰謝料相当の金額であるという点におきましてその性質が違いますので、両者同列に比較することはできないであろうと思います。
 また、これまでの改正の経緯の中で、政府提案が五百万円から一千万円の引き上げであったのが、自賠法が一千五百万円に引き上げられましたために議員修正で刑事補償法の金額も一千万円から一千五百万円に引き上げられたというような経緯もあるところであります。そういう意味で、自賠法の金額と刑事補償法の金額が全く無関係というわけでもないだろうとは思います。しかし、先ほど来申し上げましたような両者の性質の相違もあるところでございまして、自賠法と同額でなければならない理由もないだろうと思います。ただ、自賠法が死亡の場合の保険金額というものを定めておりますので、やはりそれも一つの参考にはしながら、経済情勢の変動、物価の変動、こういったものを考慮しながら金額の引き上げに努力をいたしているところでございます。もちろん予算措置を伴うわけでございますから、財政当局にはいろいろ説明もいたすわけでございますけれども、これはやはりそういったいろいろな情勢の変化に対応していかに相当な金額に引き上げるかという判断のもとに話をいたしているところでございまして、これまでも申し上げておりますように、法務省といたしましてもまた最高裁判所といたしましても、この補償金額が充実したもの、適正な、相当な金額であることが望ましいとかねがね考えているところでありまして、今後ともその引き上げ等には引き続き努力はいたしてまいりたいと思っているところであります。
○中村(巖)委員 次に、この補償法の四条ですが、一項が抑留、拘禁の場合、三項が死刑の場合、それぞれ規定されておりますけれども、その規定方法に若干違いがありまして、一項の場合においては精神的損害と実損とを含めたというか、そういう区別をしないで一定の上限額までの金額を支払うということで、ここでは実損がこれだけあるということを立証したら余計もらえるという話はないわけです。ところが三項の方は、死刑の場合については、今度改正で提案されている二千五百万円というのは慰謝料的な意味であって、そのほかに実損があればそれが付加して支払われる。こういうふうに規定の仕方が違っているわけでありますけれども、どうして現行法はこういうふうに書き分けてあるのでしょうか、その理由をお聞かせをいただきたいと思います。
○岡村政府委員 現在の刑事補償法は、できるだけ補償を迅速かつ簡単な手続で行いたいということから、いわゆる上限額を定めて定額という制度をとっているところでございます。これがすなわち四条の一項で、拘禁されました間一日の上限額が現行では七千二百円以下であるという定め方をいたしているのであります。ところで、死刑が執行されました場合の補償でありますが、その場合は、一つといたしましてはやはりこの四条一項が適用になりまして、死刑が執行されるまでの拘置期間中につきましては一日七千二百円以下の割合による補償が行われるわけであります。その限りにおきましては、死刑執行の場合とその他の場合とに差異はないわけでございます。
 差異が生じてまいりますのは、死刑が執行されたということに伴います慰謝料的な問題と、死刑が執行されまして死亡したことによって生じたその後の損失額をどうするかという二つの問題であります。こういった二つの問題につきましては、やはり事柄の重要性にかんがみまして刑事補償法としても手厚い補償を行うべきであるという考えから、拘禁されている場合の補償にはない補償といたしましていわゆる慰謝料相当のものを、現行は二千万円でございますが、その範囲内で支給するということにいたしております。また、死亡後のいわゆる逸失利益等の財産上の損失額もこれを補償するということにいたしております。
 ただ、この場合定額方式で計算できるかと申しますと、これは非常に難しい問題があるのだろうと思います。死亡後の逸失利益等につきましては、もちろん収入の差もありましょうけれども、やはり何歳で死亡したかというようなことが大きな問題になってくるだろうと思います。そういう意味におきまして、死亡後の損害についてまで定額制というのは非常にとりがたいような実情にあるわけでございまして、これはやはり個々の案件に応じまして適正な、相当な補償を行うためにもそこは定額制を設けないで、財産上の損害が証明されればそれは補償するというのが相当だ、こういう考え方によるものと思っております。
○中村(巖)委員 そこで、額の関係で大臣に最後にお尋ねをいたします。
 私どもは、現在の額が大変不満足だというふうに思っておりますけれども、法務省当局もまたこれから引き上げを、できるだけ充実を図りたい、こういうことでございます。大臣として御意見はいかがでございましょう。
○林田国務大臣 今後、できるだけ充実を図っていくように努力をしてまいりたいと存じます。
○中村(巖)委員 次に、刑事補償法における補償決定の公示の問題でございます。
 これにつきましては、第二十四条に規定があるわけでございますけれども、既に御承知のように、実際この公示のやり方は大変不十分じゃないか。これでは無実の罪によって長い間裁判で苦しめられた人に対して十分な補償をしたことにならないのではないかという意見があるわけでありますけれども、今公示の実態としては、法によれば、決定の要旨を官報及び申立人の選択する三種以内の新聞紙にそれぞれ一回以上掲載して公示しなければならない、こういうことになっているわけですけれども、実際裁判所としてはどういうふうにしていらっしゃるわけですか。
○吉丸最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘のとおり、現行刑事補償法の二十四条一項によりまして、補償決定の公示は官報及び申立人の選択する三種以内の新聞紙に各一回以上掲載して行わなければならないというふうにされております。したがいまして、掲載する新聞紙の種類は三種以内において、申立人の選択によって定まることになります。掲載回数等につきましては、私どもすべての事例を把握しているわけではございませんが、回数については一回というのが多いようでございます。また、公示の大きさ及び位置についてでございますが、官報の場合には官庁報告欄の法務の部というところに掲載されまして、その大きさは、事件によって若干異なりますが、縦が一段、これは約六・四センチメートルでございます。横が大体四センチメートルから五センチメートル程度のものが多いようでございます。新聞の場合は広告欄に記載されまして、その大きさは、私どもの承知している限りでは縦が二段、これは約六・五センチメートル、横が大体二・五センチメートルから三センチメートル程度のものが多いように承知いたしております。
○中村(巖)委員 二十四条の趣旨というものは補償決定の要旨を掲げろ、こういうことでありますが、補償がありましたよということを皆さんにお知らせをするということになっておるわけであります。しかし、補償の公示制度というものを本質的に改めなければおかしいのじゃないかというのが私どもの考えでございまして、ある事件について、その者が犯人であるとして逮捕されて、拘禁をされて、裁判を受けて、裁判中も犯人であるかのごとく取り扱われてずっと経過をする。
    〔委員長退席、井出委員長代理着席〕
しかし、結果的には無罪であったということになれば、その間に新聞、テレビ、ラジオでいろいろ報道されるわけでございます。世間の人は今度無罪の判決があったって、それは無罪の判決そのものが新聞に大きく報道されれば別ですけれども、そうでない限り、その者が無実であったということはよくわからない。事前に、殊に逮捕時点、捜査段階での新聞報道が犯人と決めつけたような報道で、それが犯人であるかのごとく思い込んでしまうということになれば、無実であるということになった結果というものは、やはり国でもって多くの人にこれは無実でありましたよということを知らせなければならないということが、一点あろうかと思います。
 それと同時に、国が誤って裁判をしてしまいましたというか、それは再審の場合ですけれども、あるいは誤って起訴をしてしまったというようなことで御本人に対しては大変申しわけなかった、そういうようなことを、ただ補償の決定を公示するだけではなくて、謝罪の意味も含めて、多くの人に無実であるということを知ってもらうという趣旨を含めて公示をする制度に改めるべきじゃないか、こういうような感じがするわけですけれども、その点について法務省なり裁判所はどうお考えでしょうか。
○岡村政府委員 委員も御承知だと思いますけれども、民法では不法行為法、不法行為によりまして、すなわち故意過失によりまして何らかの損害を与えたときに、名誉回復の措置といたしまして謝罪広告等を行うということが可能であるわけでございます。
 ところで、刑事補償につきましては、故意過失というものを要件としていないという点におきまして、この民法の不法行為法と同じように考えることは困難ではなかろうかと思っております。ただ、刑事補償を行うという決定の内容の公示ということ、これはやはり一つの名誉回復の措置ではあると思うのでありまして、これを新聞紙等に載せるということによりまして周知ということもそれなりに図られているものと思っているところであります。
○中村(巖)委員 裁判所、何かお考えがございましょうか。
○吉丸最高裁判所長官代理者 立法政策の問題でございますので、特に積極的に申し上げることはございませんが、御参考までに現在の補償決定の公示の文言を申しますと、何某に対する何々被告事件について、昭和何年何月何日に言い渡した無罪判決が確定したので、昭和何年何月何日次のとおり抑留、拘禁による補償決定をしたというような文言が普通でございます。
 法の趣旨は、このような公示をすることによって無罪判決が確定したこと、またそれに対する補償が行われたことを社会に明らかにして、これによって名誉の回復を図ろうということによっているものであろうというふうに考えております。
○中村(巖)委員 今のような制度的な考え方をしていると、同じ無罪であってもあるいは再審で無罪であっても、もともとは抑留、拘禁をされていない、したがって補償がないという無罪者、これは、つまり在宅起訴になっておって、そして裁判がなされたけれども無罪であった、だから補償がないわけですから、それについて公示の手段がこの法律からは出てこないということになってしまうわけです。そういう者についても、やはり無罪であったということを周知せしめる方法というものは必要なんじゃないかというふうに思うわけで、その意味でこういう二十四条の立て方。それは先ほど刑事局長言われるように、これは故意過失があるかないかを問わないのだから、名誉回復はできないのだ、そういう考え方でなくて、そういう在宅起訴になった無実の者についても、そういうものをも含めて謝罪、あるいは少なくとも国家がこういうふうに間違って起訴をした結果が御迷惑を及ぼしたということについての公示の手段というものを制度的につくれないものだろうか、こういうふうに思いますけれども、重ねていかがでしょう。
○岡村政府委員 確かに御指摘のありましたように、刑事補償法は身体の拘束ということを前提といたしておりますので、身体が拘束されない者につきましては、仮に無罪の判決がありましても刑事補償法によるそういった措置はとれないところであります。しかし、刑事訴訟法によりますと、再審において無罪の言い渡しがありましたときは官報及び新聞紙に掲載するという規定があるところでございます。これは身柄の拘束の有無を問いませんので、身柄を拘束されない、いわゆる在宅の場合につきましても再審無罪についてはこういう規定があるところであります。
○中村(巖)委員 そこで、今立法論の問題として、この二十四条を改正して私が申し上げたような点について対応するということを考える余地がないのかどうか、その点を確認をいたしたいと思います。法務省としては検討するおつもりがございましょうか。
○岡村政府委員 先ほど申し上げましたように、身柄の拘束されてない者までこの刑事補償法の中に含めることは可能かという問題はあろうかと思います。ただ、いずれにいたしましても、刑事補償のさらに一層の充実を図るための検討ということにつきましては、法務省といたしましても幅広く行いたいと思っております。
○中村(巖)委員 その点で、さらに裁判所にお尋ねをいたしますけれども、先ほど実態はこういうことであるということを伺ったわけでありますけれども、さらに、例えばスペースの点について言うならば、スペースについては法に規定がないわけですけれども、スペースを拡大をしてこの二十四条を運用をする、予算もかかることでありますけれども、そういうふうにこれから改善をする御意思がありや否やということを伺います。
○吉丸最高裁判所長官代理者 私どもといたしましては、先ほど申しましたような公示制度の趣旨等から申しまして、現在行われております公示の内容、大きさ等で足りるのではないかというふうに考えているところでございます。しかし、今回いろいろ御指摘いただきましたので、なお検討いたしたいと考えております。
○中村(巖)委員 ちょっとことで刑事補償法そのものと離れますけれども、法務省の訓令で被疑者補償規程、こういうものがあるわけでございまして、その中で先般同僚委員がいろいろお尋ねを申し上げておるのでございますけれども、私もちょっと聞いておりましたところが、やはり被疑者補償規程によってすべての不起訴、つまり罪とならずあるいはまた嫌疑なしということで不起訴になった人間が補償されているわけではないように伺います。ある程度の数の方はそういう補償を受けているけれども、その残余は補償を受けてないということでございましたけれども、それはどうしてそういうふうになるのかということについて、数字も含めて若干詳しくお話しをいただきたいと思います。
○岡村政府委員 被疑者補償規程につきましては、昭和五十三年から六十二年までの運用について御説明いたしますと、この間に補償事件としていわゆる立件手続を行いましたのが三千百七十七名であります。そのうち実際に補償いたしましたのは九十一名でありまして、拘束日数はトータルで八百十三日になります。また、補償金額の合計が二百八十八万八千百円ということになります。
 立件いたしました人員に比較いたしますと、補償いたしました人員が非常に少ないわけでございます。これは、立件いたしました人員のうち、心神喪失というものを理由とする者が相当多数に上るわけであります。何らかの犯罪を犯した事実は認められるけれども、精神分裂その他で責任能力を欠くために心神喪失ということで罪とならずという裁定をした者がかなりのパーセントを占めておるということでございます。例えば昭和六十一年で見ますと、このときの立件総人員が三百五十五でございます。そのうち三百三十が心神喪失ということになるわけでございます。残りますのが二十五名でございます。この二十五名のうち実際に補償いたしましたのは四名でございます。これも数が少ないわけでございます。
 なぜそんなに少ないかと申しますと、この二十五名のうち十一名というのはいわゆる交通事故等におきます身がわり犯人でございます。検察が捜査処理いたしております段階で、特に交通事故に関しましては、みずから身がわりとなって、自分が運転していた間に事故を起こしたということで他人をかばうために虚偽の自白を積極的にする者があるわけでございます。こういった者が捜査の過程で身がわりであることがわかりまして犯罪の嫌疑なしという処分を受けますために、これが被疑者補償規程の一応の対象になるわけでございますが、しかし、そういうふうに積極的に虚偽の自白をいたしました者については補償の必要がありませんので、こういったものは補償をいたさないわけでございます。そのほかに、虚偽の自白なんかをした者が五名、先ほどの二十一名の内訳でございますけれども五名おりますし、別の犯罪が成立をしたという者が二人、それから補償を辞退いたした者が二人というような計算になっておるわけでございます。そういう意味におきまして、現実に補償しております人員は比較的少ないということになるわけでございますけれども、今述べましたような実情からそういうことになっているのでありまして、決して検察官の方で被疑者補償をできるだけ絞り込もう、そういうような考えでやっているわけではないのであります。
 なおまた、つけ加えますと、罪とならずとかあるいは嫌疑なしの処分をいたしますと、この被疑者補償の対象になるわけでございます。こういった事件はいわゆる在宅で送られてくる事件もある程度あるわけでございます。身柄が拘束されまして罪とならずとか嫌疑なしという裁定になる事案は、それほどないわけでございます。これは、逮捕状を請求する段階、また勾留を請求する段階、それぞれ裁判官の審査を受けるわけでございますから、捜査機関といたしましても犯罪の嫌疑の有無につきましてはそれぞれの段階で慎重に検討をいたしておりますので、身柄を拘束したけれども結果的には嫌疑がなかったという事件はそれほど多くはないという実情にあるわけであります。
○中村(巖)委員 そうすると、この場合に補償の申し出があったときは必ず立件しなければならないというふうに思いますけれども、そうでなくて嫌疑なしあるいは罪とならずという裁定をした場合には、検察官としては必ず立件はしているということになりますか。
○岡村政府委員 必ず立件するように各地検の方にお願いもいたしているところでありまして、これは各地検におきましてもこの被疑者補償規程の趣旨を体しまして立件漏れのないように努めているものと思っております。
    〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
○中村(巖)委員 それで、補償の内容ですね。金額的には現在まで刑事補償法と同等の金額ということになっているようでありますけれども、これはやはり刑事補償法というものが改正されて施行されれば、その当日から刑事補償規程そのものもそういった金額で運用ができるように対応しておられるわけでしょうか。
○岡村政府委員 そのとおりであります。被疑者補償規程につきましても、刑事補償法と同額にする方針であります。
○中村(巖)委員 金額を同額にするだけではなくて、要するに刑事補償法の改正法が施行されたその同日からそういうふうに運用できることになるわけですかということを伺っているのです。
○岡村政府委員 そのとおりであります。
○中村(巖)委員 次にまた問題を変えまして法務省にお伺いをいたしますけれども、本当は無罪になる事件とかあるいは再審において無罪になる事件というようなものがなければ、刑事補償という問題は起こらないわけであります。確かに今日本の裁判所での有罪判決の率は物すごく高いわけです。しかし、無罪事件というものが起こってくるということは事実でありまして、これをなからしむるために法務省としてはどういうふうな研究というか、そういうことを行っておられるのか、お伺いをしたいと思います。
○岡村政府委員 検察当局といたしましては、無罪事件がありますと、その都度、無罪の理由がどこにあるのか、捜査機関として反省すべき点があるのかといったことにつきまして個々的に検討を加えまして、それを今後の執務の資料といたしているところでございます。
 ところで、重大な事件につきましていわゆる再審無罪が相次いだという実情にもあるわけでございまして、こういう事態につきましては検察といたしましても深刻に受けとめているところでありまして、最高検察庁に再審無罪になりました三つの事件につきまして検討を行うための委員会を設けまして、そこで免田、財田川、松山の三つの事件につきましていろいろ検討をいたしたところであります。これらの検討を通じまして捜査機関として反省すべき点はどこかというような点を資料としてまとめまして、まことに個々の具体的事件に関します事柄でありますので内部だけの資料でございますが、それをまとめまして今後そういう事態が起きないように十分反省をし、また執務の参考にしたいということで、各検察官にそれを配付いたしたところであります。こういうような措置を講じまして、今後こういうような再審無罪、特に重大な事件についての再審無罪という事態を招かないように、いろいろ努力をいたしているところであります。
○中村(巖)委員 内部的には研究されておるのだろうと思いますけれども、今触れられました再審無罪事件については、捜査のやり方がおかしいのだというふうに判決の中でも批判をされている部分が多いわけでありまして、それに対して検察庁サイドの反省点があるかどうか。今検討、研究はしているのだと言いますけれども、検察庁の反省というものが世間には聞こえてこないという点がございまして、何とかこういうことで反省をして今こうやっておりますというようなことを公にできないものなのかと思いますけれども、その点はいかがですか。
○岡村政府委員 具体的に捜査をどうするかというようなことが一番の大きな問題であるわけでございます。また、検察官といたしましては、抽象的な事柄で反省をいたしていても意味がないわけでございまして、具体的にこういうような経過にあって、こういうところに問題があったという具体的な検討を通じまして、それを今後の執務に生かさなければならないわけであります。そういう意味におきまして、非常に生々しい具体的事件をテーマにしての事柄でありますし、一般的にこれを公表するというのはどうも相当でないように思っております。また、一般的に、検察官が捜査をさらに適正に行うというようなことを公表するというのもいかがかと思うわけでございます。ただ、各種の検察官の会議等におきましては、捜査の適正ということにつきましてはかねがね申しているところであります。
○中村(巖)委員 次は裁判所に伺うわけですけれども、最近多くの事件で再審無罪というものが出ているわけでございまして、再審無罪ということになりますと、そのことは言い直せば原裁判が誤判であった、こういうことになるわけであります。そこで、そういうような誤判事件が、言葉は悪いけれども、続出しているような状況の中で、裁判所としてはこれに対応するための研究あるいは検討というようなことをどういう形で行っているのか、お話しいただきたいと思います。
○吉丸最高裁判所長官代理者 再審無罪が相次いだことにつきましては、私どもとしても深刻に受けとめているところでございます。近年、裁判官の会同あるいは研究会等におきまして、事実認定を適正に行うための方策ということがしばしばテーマとして取り上げられまして、その際証拠調べの運用や証拠の証明力の評価の問題等につきましていろいろな角度から、またいろいろな事例をもとに各裁判官の経験を持ち寄って討議、検討が重ねられているというような状況でございます。
○中村(巖)委員 その検討の結果、具体的にどうするということは裁判所としてはないわけですか。
○吉丸最高裁判所長官代理者 委員も御承知のとおり、事実認定というのは非常に個別具体的な問題でございまして、先ほど申しました討議からいわば一般的な結論を導くということは大変難しいのだろうと思います。しかし、例えば自白の任意性を審査するに当たってどういうところに気をつけたらよいかというような問題につきまして、いろいろな例に即して、またいろいろな審査の方法が紹介され、それについて皆で考え合う、そういうことが効果的な検討になるのではないかというふうに考えておるわけでございます。
○中村(巖)委員 続いて、再審法制といいますか、刑事訴訟法上の再審の規定のことについて伺いますけれども、この再審法制を改めるべきじゃないかということは、私どももかねて言ってまいったところでございます。これにつきましては、日弁連あたりでも、再審法改正に対する要綱というか案というか、そういうものも提出をしておるわけでございまして、国会におきましても、再審法を改正すべきではないかという観点からたびたび質問が行われているところでございます。それに対して、現時点では、何か法務省の姿勢というものが大変に前向きではないのではないかということが巷間言われております。特に今言われていることは、再審の事件、再審の開始決定というか、そういうものがどんどん出てまいりました昭和五十一、二年のころの政府の答弁と最近の政府の答弁というものの間には、やはり差があるんじゃないかというふうに言われている向きもございます。当初、例えば昭和五十二年の三月の時点で、当時の安原政府委員はかなり具体的に、こうこうこういう点について検討するというような答弁をされておったわけでありますけれども、今度だんだんそのうちに外国の制度を研究しなければならぬとかいうような言い方になりまして、あるいはまた、制度全般を考えなきゃならないので、例えば再審の請求事由を広くするとか狭くするとかという個々の問題ではないんだというような答弁に徐々になりつつあるというふうに感ぜられるところもあるわけでありまして、私自身もこの問題について五十九年に質問をしております。
 今、再審法制の改正が問題になりましてから十幾年たちましたけれども、依然として政府の答弁はただいま検討中でございます、研究中でございます、こういうことで変わりがないわけでございます。そろそろ研究の成果として、具体的な改正問題になってくるかあるいはまた改正は必要なしというふうになってこなければならぬと思うのですけれども、まずその辺いかがでございましょうか。
○岡村政府委員 残念ながら、今の段階ではやはり検討中と申し上げるほかないのであります。再審の制度、手続がどうあるべきかということにつきましては、いろいろ御意見があるところでございます。また、法務省といたしましても、かねてからそういった御意見を踏まえまして、再審制度のあり方についていろいろ検討はいたしているところであります。しかし、もう御承知のように、再審ということになりますと確定判決によります法的安定性の問題と個々の事件についての具体的妥当性の問題、この両者の要請をどう調和するかという基本的な問題がありますし、また、再審制度なり再審の手続だけを改正するということで果たして事が済むのであろうか。やはり再審の制度なり手続といいますものは、その前の通常の捜査、公判という手続の上に立って確定判決があって、その後の手続でもありますので、再審のところだけをとらえた改正というものは非常に難しい問題がありまして、刑事訴訟法全般の問題としてこれを検討していかなければならないという問題もあるわけでございます。そういう問題を含めまして、法務省としても真剣な検討を続けておるというところで御了解をいただきたいのであります。
○中村(巖)委員 そういうことをおっしゃるから私は非常に後退という感じを受けるわけでございまして、例えば昭和五十二年三月十二日の予算委員会における安原政府委員の答弁の中では、読み上げますと、
 いま御指摘のように、再審開始決定をするにつきましての手続におきまして、貧しい人は弁護人も雇うのに大変だ、あるいは決定をするのが全くの書面審理であって、そして書面審理でなくても、いわゆる再審を請求した人あるいはその弁護人が立ち会うようになっていないというようなこと、あるいはそういう再審開始決定をした以上は、たとえば刑務所におる者でありましても、弁護人との間に刑事訴訟法の確定判決前のような秘密交通権を認めることはできないかというような、つまり国選弁護人制度を再審開始決定手続についてもやる、あるいは事実調べの立会権を認める、あるいは秘密交通権を認めるというような、開始理由ではなくて、開始をするまでの手続の中に被告人の権利をもっと主張できるようなことを考えてはどうか
というような事柄を検討するのだというふうにおっしゃっておったものが、今度はだんだん抽象的になってくる。
 果ては、国会答弁ではありませんけれども、最高険でその当時、昭和六十年ごろの公判部長でありました鈴木義男という方は、「研修」という雑誌の中で、
 再審請求の権利があることを再審請求の条件とするのが合理的である。すなわち、刑の執行の終了(遅くとも刑の言渡しの効果の消滅)後あるいは有罪の言渡しを受けた者の死亡後まで再審を認めることが必要かどうかは、慎重に検討に値する
とかというようなことを書いておられまして、むしろ現行よりも後退するような再審法制を考える、つまり死後の再審なんというものは認めないのだという方向に改正しなければならぬのではないかというような考え方になっている。その意味で、非常に後退をしているように思われるわけです。
 そこで、今まさに御答弁では、刑事訴訟法全般を検討する中で再審の規定を検討するのだというようなお考えを述べられた。こうなると、いつまでたっても再審法制の改正というのはできないのではないか。刑事訴訟法全般という見直しの中の一環だなんということが言い始まったら、大変なことになるのだろうというふうに思います。とりあえず、いろいろ再審手続あるいは再審法制全般の中でこういうところはおかしいじゃないか、こういうところはおかしいじゃないかというふうに指摘された部分について応急的に対応する、応急的にというとおかしいですけれども、その部分だけについてより再審手続がスムーズに行われるような方向へ改正をするというお考えにはなられないのか、私ども大変不満であります。再度その点についてお答えをいただきたいと思います。
○岡村政府委員 刑事訴訟法全体の見直しの一環というほど刑事訴訟法全体との関連を強調しているわけでもないのでございまして、要するに、再審のところだけ改正することがどうなのか、刑事訴訟法全体の中でやはりそれは考えていかなければいけないのではないかという趣旨であります。
 それから、いろいろ具体的に制度なり手続をどうすればいいかという具体的な意見のうちの幾らかでも採用してはどうかという御指摘でございますけれども、これは、そういった具体的な問題を検討はいたしておるところでございますが、先ほど申し上げましたように、再審の制度、手続はいろいろ慎重な検討が必要でありますし、いろいろな角度からの検討が必要であるということで、現在も真剣に検討を続けておるというところであります。
○中村(巖)委員 細かい手続の一々について今申し上げている時間はありませんけれども、例えば、これは前に私も申し上げましたが、再審開始事由の問題、再審請求権の問題について門戸が狭過ぎるのではないかということですね。現在の刑事訴訟法の規定の解釈として、最高裁の白鳥決定あるいは財田川の判決があるわけですけれども、それから見ても今の規定の仕方というものは、最高裁がいろいろ解釈の手法を駆使してやったからいいようなもので、規定そのものは余りにも最高裁の考え方とそぐわないのではないか、そこだけでも改正をすることはどうなんだというふうに思われますが、その点はいかがですか。
○岡村政府委員 再審事由が狭過ぎるのではないかという御意見があることは、私どもも承知いたしているところでございます。しかし、外国の再審制度などと比べまして、日本の場合の再審事由がそんなに狭いというふうには思われないわけでございます。また、白鳥決定もございまして、再審の事由というものが現行の刑訴法の規定によって再審しようとする者の利益を非常に損なっているというような事態ではないように思っているところでございます。
 ただ、いずれにいたしましても、再審事由の問題等も含めて、再審問題全般について検討をいたしているところであります。
○中村(巖)委員 その問題も終わりにいたしまして、次に、全然関係がないということで申しわけないのですけれども、仮釈放制度のことについてお伺いをしてまいりたいというふうに思います。
 受刑者が一定程度の刑期を勤めれば仮釈放になるという制度があるわけです。最近の仮釈放の運用について、法務省の考え方としては、仮釈放を積極的に運用すべきであるという考え方に立っておられるのか、それとも必ずしもそうでないのか。また、現実に仮釈放というものはかっての時代よりもより積極的に実施されているのか、そのことをお伺いをいたします。
○栗田政府委員 仮釈放制度については、法務省といたしましては、昭和五十九年にこれを積極化する方針を採用いたしております。申し上げるまでもなく、刑務所の中での生活と申しますものは一般社会と非常に違っております。刑務所からいきなり一般社会へ出しますときには、なかなかその間の対応に苦しむ人が多いわけでございます。もし満期釈放でいきなり出してしまいますと、国としましても積極的にこちらからお世話をするということができないわけでございますので、極力仮釈放という形で保護観察を付しまして、その更生のための手助けをしたい、そのことが本人にとっての更生のためにも、また、社会全般にとっての安全のためにも有効であろう。またもう一つは、保護観察の期間と申しますものが余り短くても、例えば極端な場合でございますと一週間、二週間というような期間の保護観察でございますと、これはもう保護観察所に参りまして、いろいろ身上関係などについて話し合っているうちにすぐその期間が過ぎてしまうので、保護観察の期間も少し長くしたい。このような二つの点から、要するに保護観察の対象者をふやしたい、それから期間を長くしたい、こういう考えで今御指摘のように、昭和五十九年に仮出獄の積極化という方針がとられたわけでございます。
 ちなみに、ちょっと数字を申し上げさせていただきますと、刑務所を出ます者のうち、満期釈放で出る者と仮出獄で出る者を分母といたしまして、仮出獄で出た者がそのうちどれだけを占めているかという数字で申し上げさせていただきますと、過去十年ほどを見ますと、昭和五十七年が五〇・八%の者が仮出獄で出たわけでございます。ところが、その翌々年の五十九年に、ただいま申し上げましたような方針をとりましたためにそれから数%上がっております。少し細かくなりますが、数字を申し上げますと、ただいまの五〇・八%から五十九年には五七・六へ、六十年はちょっと下がりましたが五五・七%、六十一年は五七%、六十二年は五六・八%と、六、七%程度仮出獄で出る者の占める比率が上がっているわけでございます。そういう意味で、仮出獄対象者がふえているということが御認識いただけるかと存じます。
 もう一つ申し上げました仮出獄の期間、私どもの立場でいいますと、保護観察の期間をもう少しいただきたいという面の関係は、刑の執行率ということで私どもは計算いたしております。執行すべき刑期のうち何%を経過してから仮出獄になったかということを全国平均で見てまいりますと、これは過去十年ほどを見ますと、昭和五十二年ごろ八五%と低いのがございましたが、先ほどと同じ起点をとらえますと、五十七年が八五・七%でございます。それから五十九年、この積極化に踏み切りました年が八二・九%、六十年が八〇・七%、六十一年が七九・四%、六十二年は、申しわけございませんが、私どもは正確な数字をとらえておりませんので、六十一年と大体同じ程度の数字かと思います。このように、現実に刑務所の中で刑に服している期間は徐々に減少してきている傾向にございます。
○中村(巖)委員 私どもは社会内処遇というか、そういうものをふやしていくというのはいいことであると思っておりますけれども、巷間では、凶悪犯罪者を仮出獄させてまたそういう者が犯罪を犯す、だからそういうことをやってもらっては困るじゃないか、こういうような論調というか、世論もないわけではないのでございます。
 先般、無期懲役刑で服役した者が仮出獄になった、そして一カ月もたたないうちに、昨年の八月でしたか、女店員を刺して金を奪おうとした。これは、六十三年三月九日の毎日新聞に載っております。名前もわかりますけれども、名前を言っても仕方がないので、そういう事件があったということです。ところがそれに対して、もちろん保護観察はついているわけですが、保護観察が全然機能してないではないかということを言われているわけですが、この事件をめぐって法務省としてはどういうふうにお考えですか。
○栗田政府委員 ただいまの御質問につきまして御返事いたします前に、亡くなられました被害者の方、遺族の方、また御不安を与えました社会に対しまして深くおわび申し上げます。
 ただいま御指摘の事件は、本年一月十五日に大阪で発生した事件をお示しだと存じます。この事件、まことに申しわけないことだと私ども思っております。あってはならない事態だと存じます。
 ちょっと申し上げますと、昨年四月三十日、大阪刑務所を約十七年服役した後に出てきたわけでございますが、しばらくしましてちょっと所在が不明になった事態がございまして、保護観察官としましては保護観察の傘下に入れるべく一生懸命努力したようでございます。しかしながら、結局、私どもの力が及びませんでこのような大変な事件を起こしてしまいました。この辺につきまして、私どもはいろいろと反省をいたしております。また、本省の所管課長を大阪に派遣しまして、書面だけの報告だけではなしに実態につきましても調査してもらいました。
 内部的に細かな点はいろいろございますが、私が今非常に反省いたしておりますことは、保護観察と申しますのは、御案内のようにいわゆるケースワークの手法でやっているわけでございます。つまり、対象者と観察官あるいは保護司との人間関係を樹立して、その人間関係によって指導していこうということでございますので、観察官にいたしましても保護司にいたしましても相手の言うことを聞く、いわゆる受容的な態度ということをその理論では非常に申すようでございますが、相手を信用しよう、相手の言うことを信用しようということにまず重点がかかる、そういう教育を従来から受けているわけでございます。そのために、一生懸命やります、まじめにやりますという話を聞きますと、それをそのままに受け取りがちな傾向があるわけでございます。
 また、本件の本人、普通に会いますとまことにまじめな態度をとる人間だそうでございます。仮釈放の審査のために面接いたしました観察官にいたしましても審査委員にいたしましても、相手の態度に非常に感銘を受けて、この人間なら間違いないんじゃないかというふうに考えたようでございます。この辺が、実は私どもの仕事の大きな反省点ではないか。つまり、目の前にいる人をつい信用し過ぎてしまった。この人が前にどういうことをした人か、また今後どういうことをしそうな人かということについて、こういう言葉は嫌な言葉でございますが、もう一遍吟味してみるという態度が少し足らなかったんじゃないかという感じを私ども持っております。ある時期に思い切りをつけまして、保護観察を打ち切って刑務所へ戻すような考え方がもう少しあってもよかったんじゃないか、そういう方向に、社会の安全ということを保護観察の中でも考えるということは、ここのところ非常に力を込めて指導はいたしておるところでございます。くどいようでございますが、相手を信用することから面接が始まるということで長いこと訓練を受けてきております観察官にとりまして、ついついその大事な視点が、手が緩んでいてこのような事態になったんじゃないかというような反省をいたしておるところでございます。
○中村(巖)委員 新聞によりますと、その男は全然保護観察官あるいは保護司と連絡もとっておらなかった、そして勝手に旅行へ行ってしまっておった、こういうような状況があるということでございまして、それでは全然保護観察の意味がないじゃないかというふうになってくるわけでございますけれども、その辺はどうなんですか。
○栗田政府委員 ただいま御指摘のとおり、昨年夏に勝手に旅行に出まして保護観察の目から外れた時期がございますが、その後所在がわかりまして、もう一遍どうだということで、観察官が連れてまいりまして本人にいろいろ事情を聴取しました。この段階あたりで実は思い切りをすべきではなかったか、そういうおしかりは当然出ると思います。私自身も部内におきましては、これは大きなミスではないか、前に事件を起こしてきたんだということをよく考えた上で、今本人が言っていることを考え直したらどうだ、保護観察中にもかかわらずそのルールを破った人だということを頭に置いて相手の今言っていることを考えるべきじゃなかったか。私、厳しく部内指導いたしました点もまさに御指摘の点でございます。
○中村(巖)委員 最後に一点、その関係で伺っておきますけれども、俵谷前保護局長がある雑誌の中で、保護観察に関して、「遵守事項、良好不良措置等に関する現行法の規定を改める必要がある」、こういうふうなことを言っておられるわけですけれども、何かその点について法務省お考えなんでしょうか。
○栗田政府委員 俵谷局長が個人的にどういうお考えをお持ちになっておったか、私としては直接の引き継ぎを受けておりませんので、あるいは不正確な点があるかと思いますが、御案内のように保護観察対象者によりまして適用される法律が違うわけでございます。執行猶予者保護観察法による場合と犯罪者予防更生法による場合と保護観察規定が違っておりまして、特別遵守事項があったりなかったりというようなことがございまして、時としまして、そのような手続の差異が観察官に戸惑いを与えたりしている事例もあるわけでございます。
 そのような点も含めまして、私どもとしては、保護法規の改正、これは実は宿題を衆議院からちょうだいしているわけでございます。昭和五十年でございましたか、犯罪者予防更生法の一部改正がございましたときに、衆議院法務委員会で保護観察制度に関係する法令の整備を行うべきであるという附帯決議をちょうだいいたしておりまして、私どもそれからずっと勉強は続けてきております。幸い、当委員会に付議されておる刑事施設法、これが私どもの保護のことを十分考えた法案になっているわけでございます。この刑事施設法の御審議をいただいておる過程におきまして、この刑事施設法に盛られております保護についての考え方、これをどのように国会の御審議、つまりは国民の意向がどのように向いておられるか、この辺を私ども十分に把握いたしました上で、それに即応した保護法規の立案をいたしたい、このように期待いたしておる次第でございます。
○中村(巖)委員 終わります。
○戸沢委員長 午後一時四十分再開することとし、この際、暫時休憩いたします。
    午後一時五分休憩
     ────◇─────
    午後一時四十分開議
○戸沢委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。稲葉誠一君。
○稲葉(誠)委員 きょうは刑事補償法の一部を改正する法律案に関連する質問でございますので、私は、その法案が持つ位置づけ、まず第一は憲法との関係の問題がありますね。それから一つは刑事補償法、それから刑事訴訟法百八十八条の二の関係、それから国家賠償法の関係、それが法律として関連して並ぶわけですね。それから、これは法律じゃありませんけれども、被疑者補償規程が存在する。こういう形になってきておるわけです。
 そこで私が最初にお聞きしたいのは、憲法四十条ができた、私の知っている範囲ではこれは最初なかったのですね。この前松尾先生も言われましたように、三十一条から三十九条までというのは前からあった。それが国会の中で十七条と一緒に追加されたわけですね。それはどういう経過なのか、まずそこからお聞かせを願いたいと思います。
 それから、最初にお断りしておきますけれども、今言った四つの法律に関連をして聞きますけれども、私は率直に言うとフェアプレイで、私の持っている手持ち証拠を開示して質問をするわけです。ただ、法案に関連することはもう当然政府側が持っていなければならぬ、準備していなければならぬことですから、それに関連することはあるいは開示しないで聞くかもわかりませんが、その点は御了解を願いたい、こう思うわけです。
 そこで、憲法四十条はなぜ、どこで、どういうような形で加わってきたのか、こういうことを最初にお尋ねをいたしてまいります。
 これは金森さんの答えがありますね。金森さんはそこまで入れなくてもよかったんだというあれがあって、高橋英吉さんが質問して芦田委員長がまとめた答弁というか、意見を述べておるということですけれども、どうして四十条が入ってきたのか、そこのところですね。
○岡村政府委員 旧憲法のもとにおきましても刑事補償法というものがあったわけでありますけれども、いわゆる旧憲法には新憲法四十条に相当する刑事補償に関する規定は設けられていなかったわけであります。
 そこで、御指摘のありました高橋英吉委員の質問の要旨といいますものは、要するに無罪者に対する国家の賠償制度の規定がない、しかも、旧刑事補償法でありますけれども、非常に制限された補償であって、制限された状況のもとに補償金が払われているけれども、これでは到底国家が賠償するという趣旨には適していない、したがって憲法に人権擁護規定とともに補償に関する規定を置く必要があるというような質問をしているところであります。そういう趣旨でこの規定が置かれたものだと思われます。
○稲葉(誠)委員 じゃ、なぜ最初の憲法の草案には四十条というのは入ってないわけですか。
○岡村政府委員 そこのいきさつにつきまして私も深く研究はいたしておりませんけれども、やはり人権保障の規定を置いた中で、これは人権保障とはいいながら国家の賠償、補償、責任という面で若干ニュアンス的には違うような面もあるのかと思いますけれども、どうもその辺につきまして私つまびらかにお答えすることはできかねるのであります。
○稲葉(誠)委員 これは金森さんが答えているじゃありませんか。
○岡村政府委員 金森国務大臣の答弁というものは、要するに無罪の賠償といいますか、国家補償につきましては、憲法の問題じゃなしに法律事項、立法問題として研究するのが相当であるというような考えは述べておられるところであります。
○稲葉(誠)委員 そこで、私の疑問はこういう疑問です。憲法四十条に規定されるようになった、そのことと、規定されないで刑事補償法が憲法体系下にできた、変わったということによってどういうふうに違うのですか、こういうことですね。わかりますか。質問の意味はおわかり願えると思いますが。だから、憲法四十条がなかったときには一体どこがどういうふうになるのですか。
○岡村政府委員 仮に現在の憲法四十条の規定がないと仮定いたしましても、立法政策上刑事補償に関する法律をつくるのが相当であるという判断があれば、同じ内容と言っていいかどうかわかりませんけれども、刑事補償に関する法律というものが制定されるということになるだろうと思います。ただ、現憲法は四十条で刑事補償に関する規定を置いておりますので、この憲法の趣旨に沿いますためには、必要的と申しますか、やはり刑事補償という法律は現憲法のもとにおいては必要なものであり、また、置かなければいけない法律であるということになると思います。
○稲葉(誠)委員 そうすると、刑事補償を請求する権利というのは公法上の権利と見ていいわけですね。一身専属権のようですけれども、譲渡は禁止されていますね。憲法上の権利だ、こういうふうに考えてよろしいわけですか。
○岡村政府委員 憲法の規定がありますので、憲法の精神に沿った権利である、請求権であるということになると思いますけれども、それじゃその請求権の由来する根拠は何かといいますと、これはやはり刑事補償法ということになると思います。
○稲葉(誠)委員 ちょっとよくわからないところがあるのですが……。
 そこで、この刑事補償法ができて一番大きな問題は、ちょっとお話ししましたように国家賠償法との関係だと私は思うのですよ。ちょっとよくわからないのは、刑事補償法の権利というのは一身専属権で譲渡が禁止されているわけですか。それで条文がありますね。そうすると、国家賠償法上の権利は普通の債権であって、これは譲渡はできるわけですか。
○岡村政府委員 突然の御質問でございまして、国家賠償法に関する請求権の譲渡といいますか、それについてはちょっと今直ちにお答えいたしかねるところであります。
○稲葉(誠)委員 いやいや、刑事補償法の権利はどうなっているのですか。条文がありますね。
○岡村政府委員 刑事補償法につきましては、相続人からの補償の請求ができることになっております。
○稲葉(誠)委員 譲渡を禁止されてないですか。条文があるでしょう。
○岡村政府委員 補償の請求権は、譲り渡し、差し押さえることができないという規定になっております。
○稲葉(誠)委員 そうすると、国家賠償法はどういうふうになっているわけですか。
○岡村政府委員 国家賠償法は、その点が、私今見ましたところでは規定がないと思うのです。
○稲葉(誠)委員 そうすると、どういうふうになるのですか、損害関係は。国家賠償法の関係はどうなるのですか。最初、本人に発生するのでしょうか。それで譲渡しちゃった場合には帰属が変わってきますね、刑事補償の帰属と。その場合はどういうふうになるのですか。損害のてん補の問題はどういうふうになるのですか。
○岡村政府委員 国家賠償法の四条で「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。」と書いてあります。これは責任の立場から規定がありますけれども、これが請求権という関係において民法の適用があるのかどうか、そこであろうかと思います。少し研究いたしたいと思います。
○稲葉(誠)委員 いや、そういうことではなくて、損害のてん補の問題なんですよ。国家賠償法でてん補を受けるでしょう。普通の場合にはこっちから、刑事補償法でてん補を受けた場合に、それは損益相殺みたいな格好で引かれるでしょう。そういうことを言っているわけでしょう。そうなった場合に、国家賠償法の方で譲渡しちゃった場合でも結局同じことなんですかと聞いているのです。これは当たり前なんです。同じなんです。公平な考えからいっても同じなんじゃないですか。言っていることがわかりますか。
 国家賠償法で請求しますね。請求権が発生する。しかし、それは譲渡ができるから譲渡しちゃった。となると、てん補を受けた主体が違ってくるわけでしょう。そうすると、刑事補償法の方は譲渡できないわけです。その場合でも、全体の損害として刑事補償法と国家賠償法との関係では、金額の問題で、全体の損害額の中から刑事補償を引いたものが国家賠償の請求という形になるのかとか、あるいは逆の場合もあるのかもわかりませんが、その点を聞いているわけです。
○岡村政府委員 刑事補償法につきまして請求権の譲渡が禁止されているわけでありますから、刑事補償法によりますところの補償金は、当該本人あるいはその相続人も含みますけれども、当該本人にのみ支給されることになるわけであります。その場合、譲渡いたしました国家賠償法の請求権でどの範囲までそれでは請求できるかということが御質問の趣旨だと思いますけれども、やはり刑事補償法によって支給された分は差し引かれてくるのだろうと思います。
 国家賠償法の関係でも、補償を受ける権利は、あれは一身専属的だということで譲渡が禁止されているのではなかろうかというふうに思います。これは、例えば刑事訴訟法によります費用の補償請求につきましては一身専属的であるという解釈にどうもなります。
○稲葉(誠)委員 きょうは国家賠償法のあれじゃありませんから詳しく聞きませんけれども、それほど余り意味のある質問でもないと思うのです。「他の法律」ということの意味もそこでちょっと問題になってくるかと思うのです。
 こういう意見があるのです。憲法の四十条の刑事補償の規定、これは国家賠償法に置くべきであった、こういう意見があるのです。横井大三さんはそういう意見です。こういう意見はどこから出てくるのでしょうね。刑事補償法五条二項の規定、刑事補償を受けるべき者が同一の原因について他の法律によって損害賠償を受けた場合において、その損害賠償の額が刑事補償法によって受けるべき補償金の額に等しいかまたは云々のときには、という規定です。これはむしろ国家賠償法の中に規定すべきことではなかったか、こういう意見があるわけです。横井大三さんはそういう御意見のようなんですが、これはどうなんでしょうか。
○岡村政府委員 私も正確にその趣旨を御説明いたしかねる点がありますけれども、国家賠償法といいますものが、公権力の行使が不法であった場合、違法な損害を発生させたことに対します損害の賠償といたしましては、一般的な法律と申しますか、こういう刑事補償だけに限らない一般的な規定としてあるわけでありますので、そちらの方に設けてはどうかという御意見ではなかろうかと推察いたしますが、今の点は確信を持ってこうだというふうには申し上げかねるところであります。
○稲葉(誠)委員 今の刑事補償法の五条二項の「他の法律」というのは何を指すのか。国家賠償法だけを指すのか、あるいは民法を含むのかということは議論があるわけです。これは私もよくわからないのですが、どういうふうに理解したらよろしいのですか。
○岡村政府委員 まず国家賠償法がこれに当たると思います。また、通常は国家賠償法によって損害の賠償を請求するということになるのだろうと思います。
 その他の法律といたしまして国家賠償法以外にあるのかということになりますと、あるいはそれは民法その他損害賠償請求の根拠となります法律がありますので、これも当たるだろうと思いますけれども、現実の運用の問題といたしましてはどうも国家賠償法が多いのではないかと思います。
○稲葉(誠)委員 それは国家賠償法が多いのはわかっていますけれども、その他の法律に民法が含まれるという説とそうでないという説があるものですから、ちょっと私もよくわからない。それでお聞きしているのです。
 そういうふうな問題はそれとして、問題はこの前刑事局長がおられないときにどなたかが聞かれた中で、参事官か審議官がお答えになった中で、今までの国家賠償の裁判例についての説明があったわけです。私はちょっとメモをはっきりとつていなかったのですが、二件が認められて、二十三件が却下で、二十三件が何かまだ係属中だとかというお話があったように思うのですけれども、そこら辺のところ数字はどういうふうになっていますか。
○岡村政府委員 最近十年間におきます国家賠償請求事件のうち検察官の捜査等の違法を請求原因とするものでありますが、全部で五十二件あります。その裁判結果は、請求が認められたものが二件、棄却されたものが二十四件、取り下げたものが三件、係属中のものが二十三件であります。なお、このほかに調停で解決いたしましたものが一件あります。
○稲葉(誠)委員 そこで、その認められたものというのは、恐らく足立の放火事件と富士高校の放火事件じゃなかろうか、こう思うのですが、どうでしょうか。
○岡村政府委員 奈良地検で起訴いたしました事件が一件と、佐賀地検の分が一件であります。
○稲葉(誠)委員 足立区の放火事件、五十九年六月二十六日判決ですか、富士高校の放火事件、これも最終的に認められたのではないかもわかりませんけれども、ある段階では国家賠償が認められておったのじゃないですか。
○岡村政府委員 富士高校放火事件につきましては、控訴審で国側には責任は認めない、警察を所管いたしております都の側に損害賠償を命じた、こういうことであります。
○稲葉(誠)委員 足立の放火事件はどうなっているのですか。
○岡村政府委員 今ちょっと資料を持ち合わせておりませんので、後でお答えいたします。
○稲葉(誠)委員 そこで、今の佐賀の事件と奈良の事件を私ちょっと資料を持ってきていないわけですが、ここで検察官の責任が認められたということは、確定的じゃないですよ、最終的に認められたという意味ではなく、一審なら一審だけでも、検察官の起訴が過失があったとかあるいは検事公訴が過失があったとか、そういうことで認められた例がありますか。
○岡村政府委員 国家賠償法で個人責任が認められた例があるかという御趣旨でございますか。国家賠償法は国の責任ということでありますので、個人責任は認められないと思います。
○稲葉(誠)委員 国家賠償法はそうですけれども、国家賠償法に附属してというと語弊があるかもわかりませんが、共同不法行為のような形で検事なら検事が訴えられているという場合もあるわけじゃないですか。裁判官の訴えられた例はまた後にしますけれども、そういうのもあって、究極的には別として、一審だけでもあるいは認められた例があるんじゃありませんか。
○岡村政府委員 検察官の個人責任が認められた例はないというふうに私聞いておるわけでございます。
○稲葉(誠)委員 終局的にはないのです。一審なら一審の段階で認められたのはあるんじゃありませんか。ちょっと私も資料を十分あれしていませんけれども、あるいは検事公訴があれだということがあるんじゃありませんか。
○岡村政府委員 私も詳細調査いたしておりませんので、ただいまの御質問に対して的確にお答えはいたしかねるところであります。
○稲葉(誠)委員 私の記憶なものですから、たしか公訴提起が違法というか、過失があったということで検察官の責任が認められたような気もするのです。検事公訴があれだと認められたような、私も十分調べてないですから恐縮ですけれども、そういうようなあれがあるのですけれども。警察官の方はあるわけでしょう。警察官個人というか、あるいは都というか、それはあるわけでしょう。
○岡村政府委員 国家賠償法上は国が賠償の責任に任じまして、公務員個人が責任を負わないわけであります。したがいまして、国家賠償法の関係では個人が責任を負った例はないと思います。それ以外に、例えば民法の不法行為責任というようなことで公務員個人が責任を負った事例があるのかどうか、私、今の段階ではそういう事例があったという記憶はございません。ただ、これは調査いたしておりませんので、正確ではございません。
○稲葉(誠)委員 国家賠償の問題については、これはきょうは国家賠償の法案を審議しているわけではありませんから、別の刑事補償の法案ですから、また別のときにお聞きしたい、こういうふうに思うわけですが、私の疑問は、この前も、松尾先生は余り言われなかったかな、横山教授が言われておったことにも関連するのですが、これは刑事局長に聞いてもあれかもわかりませんけれども、立証責任の問題だと思うのです。だから、不法行為というのは立証はもちろん請求者側にあることは間違いないにしても、無罪の判決なら無罪の判決が出て、あるいはそれが確定していない段階あるいは確定した段階においては、もうある程度の疎明をすれば立証責任というものは当然国側というか、そういうところに転換すべきではないか、こういうふうに私は考えるのですが、私の考え方ももちろん十分熟しているわけではありません。
 そこで私の疑問は、民事事件なら立証責任という問題はあります。だけれども、刑事事件でも立証責任という問題は当事者訴訟ということになれば当然出てきていいものではなかろうか、こう思うのです。これはちょっと基本的な問題かもわかりませんけれども、その点についてはどういうふうにお考えでしょうか。
○岡村政府委員 刑事事件についても立証責任の転換を考えるべきではないかということでございますか。
○稲葉(誠)委員 民事裁判の中では当然原告と被告で主張責任、立証責任の問題があるでしょう。刑事裁判でも当事者訴訟だという限りにおいては主張責任、立証責任という問題が、これは民事とは違うかもわからぬけれども、当然それが起きてきていいのではなかろうか、こう言っているわけですね。
    〔委員長退席、井出委員長代理着席〕
○岡村政府委員 現在は検察官が立証につきまして、全部と言っていいと思いますが、責任を負っているところであります。
○稲葉(誠)委員 そこで、きょう聞くわけではありませんけれども、よく研究しておいてもらいたいのは、一番の問題は、やはり憲法で強制による自白は許されないということになっていますね。だから、自白調書についてこれが任意性がないということを言うときの、主張責任は別として、立証責任は一体どちら側にあるのかということですよ。被告人なら被告人側がこれは強制によるのだということを立証しなければいけないのか、任意じゃないのだということを立証しなければいけないのか、あるいはそうじゃなくて、検察側がこれは任意に吐いたものであるということの立証責任があるのか、これは今後の一番大きな問題なんですよ。これはいろいろな考え方があるかと思いますが、私はこれが今後の日本の刑事訴訟の中の一番大きな課題になってくるのだ、こういうふうに思っておるのです。それはきょうでなくていいですよ。いろいろ研究して勉強しなくちゃ私もわからないところが非常に多いのですが、それが一つの大きなポイントになってくる、こういうふうに私は考えます。
 余り話が、横道でもないのですけれども、それてもいけませんので、もう一つお聞きしたいのは、例の刑事訴訟法の費用法というのがありますね。費用法というのか何というのか、百八十八条の二で、これは私よくわからないのは、昭和五十一年にこの法律が改正になったわけですね。あのときは山本和昭検事、それから藤永幸治検事お二人が立法に当たったらしいのですが、なぜそのときに、昭和五十一年にそういうふうなものが立法されるようになったのでしょうか。
○岡村政府委員 この点は、私正確ではありませんけれども、国会でもいろいろそういった問題について法務委員会で御議論もあったし、また法務省、裁判所その他においてもそういった費用の補償をするのが相当ではないかという考えもあったからではないかと思います。
○稲葉(誠)委員 それはどこから出てくるのですか。何か特定のある程度の事件があって、そしてその問題が出てきたのじゃないのですか。私、その点ちょっとよくわからないのです。五十一年の立法当時の資料をずっと調べておりませんからわからないのですが、それはどういうところから出てきたのでしょうか。また、国会で論議があったといったって、どういう見地からどういう論議があったわけですか。
○岡村政府委員 私も今正確にこういう議論があったということは申し上げられないところでありますけれども、今回刑事補償法改正案を提出するに当たりまして、過去の刑事補償法の改正案に関します法務委員会の議事録をずっと読みましたけれども、たしかその中にそういう問題も出てきておったように思うのであります。
○稲葉(誠)委員 これは何だかはっきりしないな。ちゃんとあるでしょう、議事録が。率直に言うと刑事局長、きょうは局付の皆さんの活躍する場なんですよ。どうぞお答えください。
○岡村政府委員 私、今ここで資料を見るわけでございますが、日弁連の働きかけもあったし、また、国会方面においても費用補償制度等の新設を行うべきであるという主張もあった。また、社会党議員から刑事補償法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の提案もあった。こういうような事情も背景といたしまして、法制審議会で審議を開いて改正に至ったということであります。
○稲葉(誠)委員 その刑訴法百八十八条の二というのは、これは憲法四十条とはどういう関係になるわけですか。
○岡村政府委員 百八十八条の二は、身柄が拘束されたとか拘束されていないとか、そういうことには関係のない規定であります。要するに、身柄が拘束されておりましても拘束されておらなくても、無罪の裁判がありましたときにその費用を補償する、こういう趣旨であります。憲法四十条の方は身柄が拘束された場合の補償ということになりますので、直ちには一致はしてこないだろうと思います。
○稲葉(誠)委員 私も十分その点資料を調べていませんけれども、たしか議事録で鈴木義男さんが、それは憲法四十条から出てくる二つの流れだというような意味のことを言っていませんか。
○岡村政府委員 どうもそこの辺は正確ではありません。ただ、刑事補償を行うというその精神と申しますか、そういったものは、やはり費用面での補償を行うということには生かされているといえば生かされていることになるのだろうと思います。
○稲葉(誠)委員 それは、鈴木義男さんが言っているのは、私も正確ではありませんけれども、正確に憲法四十条から出ているとは言ってないと思いますけれども、同じような流れというか、精神だというようなことはたしか言っておられるようにちょっと見たのですけれども。
 そうすると、そこでは、再審のためのいろいろな調べが始まるまでに随分時間がかかるわけですが、そのために一生懸命やられるわけですが、その点が入らなかった理由というのは、これは山本さんなり藤永さんなりの説明にありますけれども、それがよくわからないといえばわからないし、わかるといえばわかるのですが、これはどういうふうなことですか。
○岡村政府委員 この点につきましてはいろいろな御議論、御意見のあったところでありますけれども、費用補償制度は、検察官の故意過失のあるなしにかかわらず、客観的に定型化できるところの費用を補償しようという趣旨のものであります。定型化できる費用といたしましては、公判期日あるいはその公判準備への出頭のための被告人、弁護人の旅費、日当、こういったものが定型化できるわけでありまして、こういったものにつきまして簡易迅速に補償しようという趣旨であるわけであります。
 これに対しまして、再審請求審の手続は公判手続とは異なっているわけであります。対審構造をとっていない点もありますし、したがいまして、公判期日なりあるいは公判準備期日というものもないわけでありますので、そういったものへの出頭という観念もないわけでございます。そういうような点からいきますと、この再審請求審のために要した費用は非常に立法技術上も定型化しがたいというようなこと、あるいはまたこの改正前の手続のもとにおきましても、通常手続で無罪になりました場合の費用補償はなされるわけでございますけれども、捜査段階での費用にまでは補償の範囲が及んでいない、こういうような点、あるいは各種の行政手続等も考え合わせますと、定型化できる費用についてのみ補償するのが相当である、こういうことで再審請求審段階は除かれるということになったわけであります。
○稲葉(誠)委員 これは加藤新一という方の広島における請求に対するあれですが、広島地裁ではたしか六人の弁護人の費用を認めていましたね。それで、高裁で四人の弁護人の費用を認めたわけでしょう。どうやってそれを判断するのですか。これはあなたの方に聞いてもしようがないかもわからぬ。裁判所が判断したことだからしようがないといえばしようがないことなんだけれども、どうやってそれを判断したのでしょうかね。
○岡村政府委員 出頭に要した費用ということでございまして、その辺の事実認定の結果ではないかと思いますが、私、正確にはお答えいたしかねると思います。
○稲葉(誠)委員 そこで、このことに関連をしてこういう意見があるのですね。「政府は、再審により無罪の確定裁判を受けた者に対し、再審請求手続に要した費用を補償する制度について、更に調査・検討すべきである。」という意見があるのです。これは附帯決議の案ですよ。これは一体どこを調査するのですか、何を調査するのですか。あなたの方はそういうものは今だめだと言うのでしょう。僕はそれ以上は言いませんけれども、だめだと言うものを何を調査するのですか。
○岡村政府委員 刑事訴訟費用の補償制度につきましては、私先ほど申したところでありますけれども、さらに幅広い検討というもの、これが絶対不可能というわけではないと思います。
○稲葉(誠)委員 幅広いといって、どういうふうに広いのかちょっとよくわからないのだけれども。
○岡村政府委員 補償する訴訟費用の範囲をどうするかというような問題につきまして、先ほど私が、定型化しにくい面があるとかあるいは一番の捜査段階の費用についても補償の範囲外であるというようなことを申し上げましたけれども、こういったものを全体もう一度含めて勉強し、あるいは検討するということはできるわけであります。
○稲葉(誠)委員 再審というのは制度がちょっと国によって違いますね。刑事訴訟法の仕組み全体が違うわけですから、一概に外国の立法がどうだかんだということは比較にならない場合もある、私はこう思うのですが、「更に調査・検討すべきである。」こう言っているのです。これはただおざなりに「調査・検討すべきである。」ということを受けて、これはまだ附帯決議が決まらないのにそんなことを言っては悪いんだけれども、何を、あなたの方は定型化、定型化ということに非常にこだわるわけでしょう。そうすると、定型化できないものはだめだということなんですか。定型化できなくてもあるいはいいんだと言うし、あるいは定型化の範囲を広げたいと言うのですか。調査研究すべきだ、これをあなた方は受けて一生懸命やりますと言うのでしょう。何をどういうふうに一生懸命やるのか、どうもよくわからないのですよ。だからちょっとお聞きしているわけなんですけれどもぬ。
○岡村政府委員 ただいま御指摘のような趣旨の附帯決議があれば、これはなくても国会の御議論等を通じて検討はいたさなければいけませんけれども、そういう附帯決議があれば法務省としてもさらに検討をいたすわけであります。
 それじゃどういうことを検討するかということでありますけれども、やはり一つは外国制度の検討も必要であると思います。御指摘のように、刑事訴訟法なり捜査構造あるいは公判の構造がそれぞれ違っておりますので、外国の例が直ちにそのまま当てはまるとは言えないかもしれませんけれども、全体の流れがどういう方向にあるのかといったようなことも調査をする必要がありますし、先ほど来申し上げましたように、補償する費用の範囲につきましてさらにこれが拡大できるのかどうかというような点も含めまして、検討はいたしたいと思っております。
○稲葉(誠)委員 私は、定型化ということがよくわからないのですが、刑事補償法の場合は定型化していますね。これはわかった。そうするとこの費用の万は、定型化、定型化と言うけれども、どういうふうに定型化しているのですか。ちょっと不勉強なものですからよくわかりませんが。
○岡村政府委員 百八十八条の六で補償費用の範囲を定めているところであります。これによりますと、「被告人若しくは被告人であった者又はそれらの者の弁護人であった者が公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費、日当及び宿泊料並びに弁護人であった者に対する報酬に限る」と言っているところであります。こういうふうに定型化ができるものを法律で費用の範囲として限定して記載したということであります。
○稲葉(誠)委員 さらに調査検討すべきだ、仮にこうなれば十分それを調査し検討してもらいたいと思うのですが、一体そのときに、日本の場合に外国の法制としてどこが一番参考になるのですか。
○岡村政府委員 日本の刑事訴訟法なり捜査構造あるいは公判、再審の構造は、これと全く同一の制度をとる国は恐らくないだろうと思います。かなり日本特有のものがあるわけであります。したがいまして、直ちには適用はできないかもしれませんけれども、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスといったところの法律関係というものは、その思想なり考え方という点で我が国においても多分に参考になるところであると思っております。
○稲葉(誠)委員 それではもう一つの問題は被疑者補償規程の問題なんですが、最高裁決定ですか、何か一つありましたね。これはどういう決定で、どういう事案に関連するものなんですか。
○岡村政府委員 最高裁の決定とおっしゃいますのはちょっと私よくわかりませんが、刑事補償法に関しまして、高裁の判例と申しますか、裁判例は何かあったと思いますが。
○稲葉(誠)委員 こういうことなんですね。ある人が書いた本ですが、「被疑者補償規程による補償との関係」。読んでみますと、
  刑事補償は、無罪の裁判があったときに認められるものであるから、たとえ未決の抑留・拘禁を受けたとしても、裁判所による無罪の裁判を受けることなくして手続が終了した場合、例えば、検察官の不起訴処分があったような場合には、刑事補償は受けられないことは前述したとおりである。ところが判例(最決昭三一・一二・二四刑集一〇・一二・一六九二頁)によれば、不起訴となった事実に基づく抑留又は拘禁であっても、そのうちに実質上無罪となった事実についての抑留又は拘禁であると認められるものがあるときは、その部分の抑留又は拘禁も憲法四〇条に包含される等として、形式的には不起訴処分であった被疑事実についての抑留・拘禁についても刑事補償が認められることとなった。
こういうことを言っている人がいるのです。だからお聞きしているわけなんです。あるいは引用した人が間違っているのかもわかりませんよ、これはある裁判所の方ですが。
○岡村政府委員 昭和三十一年十二月二十四日の大法廷の決定であります。これは刑事補償法の解釈に関するものであります。御指摘のありましたように、ある事実で逮捕、勾留中である場合に、その間に別の事実についての取り調べが行われるなど、要するに実質的には無罪となった別の事実の取り調べのために勾留されているというような事情が認められる場合には、最初の事実についての逮捕、勾留もまた刑事補償法に言う補償の対象に当たるという趣旨であります。
○稲葉(誠)委員 私が引用して読んだのとは違うのですか、どうもよくわからないのですが。不起訴となった事実に基づくものであっても、実質上無罪となった事実についてのあれならば刑事補償になるのだと言っている。不起訴であってもなるのだ、こう言っているのですよ。
○岡村政府委員 不起訴になったということを強調されておられますけれども、要するにある事実について無罪になった。すると、その事実について勾留されている期間は刑事補償の対象になるわけであります。ところが、それ以外の別件の逮捕、勾留があった場合において、直ちにはその別件の逮捕、勾留は刑事補償の対象にはなりませんけれども、その別件の逮捕、勾留が、実質的には無罪となった事件の取り調べのための逮捕、勾留だというふうに見られるような場合は、それは刑事補償の対象になる、こういう趣旨であります。
○稲葉(誠)委員 具体的に言うとどういうことなんですか、その事例は。よくわかりませんけれどもね。今私が読み上げたような言い方は端的にしてまとめてしまったのかもわかりませんけれども、これはある人が書いたものを引用しているものですから。その人の名前は、現職の人らしいからちょっと勘弁願いたいのです。私の言っていることは間違いなんですか、間違いでないのですか、どうなんですか。
○岡村政府委員 間違いか間違いでないかと言われましても、私も何ともお答えいたしかねるのですけれども、要するにある事実で逮捕、勾留したけれども不起訴になった、これは刑事補償法の少なくとも対象にはならないわけであります。ところが、それに相次いで別の事実で逮捕、勾留されて起訴されて無罪になった、その後の事実についての身柄の拘束は刑事補償法の対象になるわけであります。本来の刑事補償法の対象はそれに限るわけであります。
 ところが、最高裁判所に特別抗告したこの事件の実態を見ますと、一番最初に逮捕、勾留されて不起訴になったその逮捕、勾留の間に、無罪になった別件の事実について取り調べをするなどしているので、実質的に見ると最初の身柄の拘束が後の無罪事件による身柄の拘束というふうに評価できる。こういう場合は、それも含めて補償の対象にするという趣旨であります。
○稲葉(誠)委員 そうすると、ある程度拡充というか、事案の特殊性かがあるかもわかりませんけれども、拡充したというふうに考えられるわけですね。そうなってくると、刑訴の百八十八条の二のときに、再審の出頭に要した費用というものは、開始決定までですよ、それは認めないというけれども、公判準備なりなんなりでそれが非常に密接に関連をしている、そのことがあるために再審裁判というものは非常に簡略化されたとか、いろいろな事例がある場合にも当然認めていいというような解釈が出てくるのじゃないのでしょうか。
 だから、この前ここで横山教授が言われておったあれについて、特別抗告を最高裁が棄却したわけですね。それに対してある人は、これは現職の方ですから名前は言いませんけれども、ある雑誌にこう書いているのです。
  再審事件の判決書によると、再審請求事件の審理の過程で収集された証拠が、再審事件の審理にかなり利用されたようであって、そのため、再審事件の審理のための証拠調は三開廷ですんでいる。したがって、本件の場合においては、再審請求事件の審理のための証拠調は、結果的には再審事件のための公判準備的機能をはたしており、しかも、請求人としては、再審請求事件の審理において最も費用を要したわけであるから、その費用の補償を請求することは、理解しえないわけではない。
これはこれだけ引っ張ったのでは間違いと言うと語弊がありますけれども、この人の書いたものを全部読むと、結局これは立法論だという結論に達しておるわけなんです。これは現職の方ですから名前は言いませんが。
 そうなってくると、今言った形である程度不起訴の場合でも出すというようなことで拡充しているならば、再審の準備の過程の中でも当然ある程度拡充していってもいいだろう、こう私は思うのですが、そういう点も、「政府は、再審により無罪の確定裁判を受けた者に対し、再審請求手続に要した費用を補償する制度について、更に調査・検討すべきである。」ということの対象に入るのですか、入らないのですか。まだそこまで言えないわけですか。
○岡村政府委員 検討しあるいは調査するということになりますと、ある制度なり手続に関しますいろいろな学説があり得るわけでありますので、そういったものを参考といたしまして、どうあるべきかという検討を行うことになると思います。
○稲葉(誠)委員 私は刑事補償法の金額の問題に入っていきたいと思うのですが、最初に申し上げましたように、これが憲法上の権利である、憲法上の権利という意味が必ずしも法律的に精査されたものではないと思いますけれども、少なくとも憲法に規定された権利であるということになってまいりますと、それなりの金額でなければならないというふうにも思うわけですが、そこでお尋ねをいたしたいのは、これは昭和二十五年から改正になっていますね。昭和二十五年、昭和三十九年、昭和四十三年、昭和四十八年、昭和五十年、昭和五十三年、昭和五十五年、昭和五十七年ですか、改正になっておるわけなんですが、そこで一つの例として昭和五十三年の改正をとってみたときに、そのときに最初に請求した金額はどうなんですか、幾らぐらいの金額だったのですか。これは国会に出したという意味じゃないですよ。大蔵省に請求したのかどこへ請求したのかわからぬけれども、それは幾らだったのですか。
○岡村政府委員 御承知かと思いますけれども、刑事補償金額の引き上げに関します大蔵省との折衝は最高裁判所が担当しておられるところであります。古いことでもありますので、私どもは承知いたしておりません。
○稲葉(誠)委員 最高裁判所が担当しているのは間違いないとしても、最高裁判所が二重予算を行使しているわけでも何でもありませんし、それから、この金額について法務省が責任を持って提案しているのですから、これはあなたの方でキャッチしていかなければいけないわけですが、それは、五十三年は古いんだと言うけれども、請求した金額は議事録の中に出ているじゃないですか。ちょっと今見てごらんなさい。
○岡村政府委員 もし日にちなど御指摘いただければ、非常にスムーズに調査いたします。
○稲葉(誠)委員 だから、私は法案に関連することは手持ち証拠の開示はしないと言っているのですよ。そのほかのとき、一般質問のときは全部出しますよ。だから、そうでないと出すのだが、これはやはり関連しているのだから、刑事補償の今度の金額が妥当か妥当でないかということのあれになるのですから、よく見てごらんなさいよ。だから、昭和五十三年の法律第二十八号の審査のときにどういうふうなことが答弁されていますかと聞いている。
 じゃ、僕の持っている証拠を開示しましょう。余りアンフェアだとまずいから。これは、ここにおられる安藤議員の質問に対して答えているのです。昭和五十三年三月三十一日の議事録をごらんください。
○岡村政府委員 今、該当する議事録を手元に持っておりません。
○稲葉(誠)委員 それはおかしいよ。だってあなた、この金額がここで一番問題なんだからね。今までどういうふうに、どういう案がどういう根拠で上がってきたかということをはっきりするのは当たり前の話じゃないですか。それを持っていないなんて、だめだ。これはちゃんとしなければいけませんよ。前もってそこまで知らせておけばよかったのかもわからぬけれども、そこまで知らせたのではね。興味がわかないと言っては語弊があるけれども。――では、これを見せましょう。
○岡村政府委員 最高裁判所の方の説明では、六千円から千円ということであったという答弁をしておられます。
○稲葉(誠)委員 そこまで僕の方で説明しなかったのですがね。このとき幾らになったのですか。
○岡村政府委員 昭和五十三年の改正は、上限が四千百円、下限が一千円ということであります。
○稲葉(誠)委員 それじゃ、六千円という根拠は一体どういう根拠になっているのですか。その資料はちゃんと出てこなければだめじゃないですか。
○岡村政府委員 どうも残念ながら、その辺はどういういきさつであったかということは私は承知いたしておりません。事前に御通告をいただければ、その辺は調査いたしてまいったところでありますが。
○稲葉(誠)委員 事前通告の義務なんかないよ。これは国会でやるので、そんな、あなただめだ、それでは。
 では、ことしはどうなの。九千四百円というのは幾ら請求したのですか。
○岡村政府委員 ことしは、改正案によります引き上げ額の九千四百円ということで大蔵省と折衝いたしたと聞いております。正確ではありませんけれども、一万何百円かで要求したということであります。
○稲葉(誠)委員 別に違うからといってどうこう言いませんけれども、私の疑問は、いいですか、憲法に規定された権利だというわけでしょう。それで、しかも無罪になった者のあれをするのに、単なる財政上の理由でこれを削るということはおかしいということなんですよ。だから、ことしは、上は幾らになったのです、請求したのは。問題は、その根拠ですよ。その根拠がどういう根拠でそういう最初の数字が出てきたのかということです。そこなんです、問題は。
○岡村政府委員 九千四百円の根拠でありますか。(稲葉(誠)委員「違う、違う。前の」と呼ぶ)そのもう一つ前の根拠でありますか。(稲葉(誠)委員「それが一番大事なところでしょうが」と呼ぶ)
○吉丸最高裁判所長官代理者 委員長。
○稲葉(誠)委員 いやいや、呼んでいないよ、最高裁は。私は、最高裁は国会へ出てくるべきじゃないという立場なんですよ。本当にそれは筋ですよ。司法権の独立もあるし、司法行政であっても、法務省が責任を持って提案しているのですから、ちゃんと法務省がその程度のことは答えなければだめですよ。最高裁は、もう裁判官の人は裁判に専念してくださいよ、国会に来なくていいのだから。
○吉丸最高裁判所長官代理者 実際に予算要求いたしておりますのは私どもでございますので、その経緯についてだけ御説明させていただきます。
 概算要求いたしましたのは一万四百円でございます。そして、この計算の根拠は、今回提案いたしております金額のそれとほぼ同様でございますが、このときはまだ概算ということでございましたので、その間に差異が出ましてこれだけ額が下がったということでございます。
○稲葉(誠)委員 よくわからないのですね。だから、一万四百円という数字の根拠はどういう根拠なんですかと聞いているのです。労働賃金がどうだとか物価がどうだとか、いろいろあるでしょう。それは、最高裁の方を僕はその点は通告しないでお呼びしてないわけですよ。今私が申し上げたように、裁判所当局というのは国会へは余り来てもらうべき筋合いのものではないというのが私の立場ですから、お呼びしてないのですよ。法務省が提案している以上は責任を持って答えなければいかぬわけですから、そこでお聞きしているわけです。決して引き延ばそうという意味じゃありませんからね。
○吉丸最高裁判所長官代理者 どうも御配慮いただきましてありがとうございます。
 先ほどの私の説明が不十分でございましたが、計算の根拠といたしましては、やはり労賃と物価の値上げを基礎として計算したという点は同様でございます。ただ、予算要求の当時といたしましてはそのあたりの数字がまだ十分詰まっておりませんので、そのためにこのような差異が生じたということでございます。
○稲葉(誠)委員 最高裁はもういい。いいと言っては語弊があるのですけれども、具体的にどこの数字が違ってきたのですか。私が聞きたいのはそこなんですよ。問題はそこですよ。
○吉丸最高裁判所長官代理者 どうも恐縮でございますが、私ども予算要求するときはなるべく高い数字で要求するというようなこともございます。殊に六十三年度につきましては推計でございますので、従前の数字をもとにいたしまして推計をいたします。そのあたりでかなりの誤差が生ずるということになるわけでございます。
○稲葉(誠)委員 きょうのあれは金額のことが法案にかかって、最高額の問題でしょう。それでかかっているわけですから、この根拠が一体どこからどういうふうに出てきたのかというのは、政府が出した資料にもその点はないわけですよ。だから、私は聞いているわけなんですよ。だから、何がどういうふうになってどういう金額でどうなのか、ここら辺のところですよね。例えば、常用労働者の一日平均の給与がどうだとか、物価がどうだ、賃金がどうだとか出てくるわけでしょう。ここら辺のところは、前に概算要求したときとそうでないときと一体どう違うのか、どこが違ってきたのか。これは慰謝料の場合なんかだとよくあるのですよね、目の子算みたいな形であるけれども。具体的な引っ張り方が違うんじゃないですか。
 私のもう一つの疑問は、ずっとあるわけでしょう。余り古いことは別として、五十三年、五十五年、五十七年、今度でしょう。その金額の基準の引っ張り方が違うのですか、違わないのですか。問題はそこなんですよ、私の聞いているのは。憲法上の権利だということを、財政上の理由、財政といったってわずかな金額でしょう。わずかな金額と言うと語弊があるけれども、後でお聞きしますけれども。裁判所費の中でどういうふうになっているかは、せっかくおいでになりましたからお聞きしますけれども、どこが違ってきたのですか。
 問題は二つありますね。六十三年度の要求の中で、一万四百円というのと九千四百円というのはどこが違ってきたのかということが一つありますね。それから法務省の方に聞きたいのは、五十三、五十五、五十七、今度と基準のとり方が違ったのですか、違わないのですか。どうなっているのですか。聞きたいのはそこですよね。
○岡村政府委員 昭和五十七年八月の改正当時の計算方法といたしましては、制度発足当初にさかのぼりまして、制度発足当初からの賃金、物価の上昇率を求めまして、これで計算をいたしておるわけであります。言いかえれば、昭和二十五年を基準といたしまして昭和五十七年における指数を推定いたしまして、それに基づいて上限額の計算をいたしているところであります。それで、今回もそれと同様の方法をとっております。それ以前は、要するに前改正時との比較と申しますか、前改正後の物価等の変動を計算して金額を決めるというような計算方法をとっていたところであります。
○稲葉(誠)委員 だから、法律案関係資料というのが法務省から出ているでしょう。その中にそれはないでしょう。あるのですか、ないのですか。どうなんですか。
○岡村政府委員 御指摘のその資料には、今回の計算の根拠と申しますか、それについては記載しております。過去の分は記載しておりません。これは、余り複雑になるとかえってわかりにくいというようなことから、従来の線にも沿いましてできるだけ簡明にしたいということで今回分だけを添付したものであります。
○稲葉(誠)委員 この資料は、昭和二十五年と比べただけの資料じゃありませんか。この前のときと比べていますか、この資料の中で。
○岡村政府委員 私が申し上げましたのは、昭和二十五年と比べたということを申し上げたわけであります。五十七年の改正時と今回の改正時では、昭和二十五年を基準に計算をしておるということを申し上げたのであります。
○稲葉(誠)委員 だから、昭和二十五年を基準として改正しているとするならば、指数なんかいろいろと出ていますけれども、それはどこから引っ張ってきた指数なんですか。最高裁の方には、前の金額のあれ、わかっている範囲でお聞きします。
○吉丸最高裁判所長官代理者 この指数は常用労働者の賃金の日額と消費者物価指数を使っているわけでございますが、常用労働者賃金の日額は、労働省がつくっております毎月勤労統計調査報告によっております。また、消費者物価指数は総務庁の消費者物価指数月報を基準にしたものでございます。
○稲葉(誠)委員 それを基準にして、どうして一万四百円という数字が出てくるのですか。提案者は法務省なんだから、法務省がもう少しちゃんと答えられるようにしておかなければいけないのではないですか。これは法務省に聞くのはちょっと無理かな。時々意識的に誤導質問をしますから、あれかもわかりませんけれども。
 だから、私の聞いているのはこういうことですよ。憲法上の権利なんだということになれば、単なる財政上の理由でこれを削減することはできないのではないか、ことにくるのではないか、こういうことですよ。すごく当たり前の話じゃないですか。最初から山をかけて請求したのだというならこれはまた話は別ですけれども、そこがよくわからないのですね。
 そうすると、法務省の方では一万四百円の内容と九千四百円の内容とでどこがどういうふうに違うのかということはわからないわけですか。
○岡村政府委員 九千四百円の計算の根拠はわかっておりますけれども、一万四百円との関係については詳細を御説明いたすだけの資料をちょっと持ち合わせておりませんので、御説明いたしかねます。
○稲葉(誠)委員 そうすると、あなたの方でもこれが大蔵省によって財政上の理由でカットされたということはなかなか言いづらいものだからいろいろなあれがあるのだと思いますけれども、いずれにしても、これは何もそう遠慮することはないのだと私は思うのですね。前々からずっと論議されているように、九千四百円が非常に低いという数字については、後から修正案の説明がありますから、その中に詳しく出てまいりますから、これ以上私も申し上げないことにいたします。昭和五十五年、五十七年、全部そういう数字を本当は出すべきだと思うのです。だけれども、ここではあれしませんけれどもね。いずれにいたしましても、この金額はどうもよくわからない金額である、こういうふうに考えざるを得ないということです。聞きたいのは、一万四百円と九千四百円とどこが違ってきてどこがカットされてこういう数字になってきたのか、見解がどこがどう違ってきたのかということなんです。これが私の疑問なんですけれども、私は前にもお話ししましたように、裁判所には余り物を聞かない立場ですからこれ以上聞きませんけれども、もしおわかりならばお答えになっても結構です。どちらでも結構です。
○吉丸最高裁判所長官代理者 私、きょうは前の要求のときの細かい数字を持ってまいりませんでしたので、大変準備不足で申しわけございませんが、基本的には先ほどから御説明申し上げておりますとおり、先ほど申しましたような報告の数字なども、推計ということも入りましていろいろ動くわけでございます。結局そういうことで、最終的には九千四百円が相当であるということでお願いしたわけでございまして、決して財政上の理由からこれが削減されたという関係にあるものではございません。
○稲葉(誠)委員 私が法務省当局にお聞きをしたいことは、こういうことなんですね。無罪が出るということで、殊に大きな事件について無罪が出た、そういう事件を集めて、最高検の内部といいますか、法務省といいますか、そこで、どこからそういうようなことが起きてくるのかということについて研究したものがあるわけですね。あるのだけれども、外部に出てこないのですね。だから、最高検を中心としてそういう研究をしたことがあるのかないのかということが一つと、それから法務総合研究所というのがありますね、あれは何部になるのですか、何部だか知りませんけれども、その中でもそういう研究なりなんなりが行われたことがあるのですか、ないのですか。これはどういうことなんですか。
○岡村政府委員 無罪の判決がありますと、その判決を受けました各検察庁におきましてそれぞれ個別に、その事件の無罪の原因はどこにあるかということを検討いたしまして、今後一層捜査等の適正化を図るための参考の資料とするように努めているところであります。
 ところで、重大な事件が相次いで三件再審で無罪になったという経緯があるわけであります。財田川、免田等の三つの無罪事件が相次いだことを契機といたしまして、最高検察庁におきまして再審無罪事件検討委員会というものを設けまして、これら三つの事件の記録に基づきまして捜査の経過、公判の経過、さらに再審に至る経過、こういったものにつきまして具体的に検討をいたしまして、その間の問題点等につきまして部内資料としてこれをまとめたところであります。この資料は検察官に配付いたしまして、検察官が今後の捜査処理におきましてさらに一層その適正を期するための参考資料として活用してもらいたいという趣旨で配付をいたしたところであります。
○稲葉(誠)委員 経過はそうなんですけれども、そこからどういうような、教訓というとあれかもわかりませんけれども、将来留意すべき点とか、あるいはそういう点についてどういうことが出てきたのですか。
○岡村政府委員 具体的に申し上げますと非常に細かくなるわけでございますけれども、一般論として申し上げますと、こういった三つの再審無罪事件にほぼ共通のものといたしましては、一つは、自白の信用性ということが問題であったわけであります。確定審等におきましてはいずれも自白調書等がありまして、それがやはり有罪の一つの根拠になっておるわけでございます。それが再審におきましては結局自白の信用性が失われた、自白の信用性が認められなかったということがやはり一つの理由として無罪になっておるわけであります。したがいまして、自白の信用性の確保という面から見まして、どういう点を今後の執務の参考としなければいけないかといったようなことが一つの問題であります。
 それからもう一つは、やはり初動捜査の問題であります。犯行現場におきます実況見分あるいはその結果の記載あるいはまた犯行現場におきます採証活動、こういったものが十分であったかどうか、その辺に漏れがなかったのかどうか、その辺の問題が一つはあるわけでございます。
 もう一つは、いわゆる鑑定でありまして、これがいろいろ、同じ事項の鑑定でも結論が違ってくるような場合があり得るわけであります。こういった場合にどういうふうにしてその鑑定の信用性を確保するかとか、そういう食い違った鑑定があった場合の問題、こういったことが大まかな問題点であるわけでございます。
 これらの問題につきまして、三つの事件の中でどういう点が問題とされたか、それに対して今後反省すべき点はどうかといったようなことをまとめたものであります。
○稲葉(誠)委員 それは、一部新聞にも出ましたね。具体的内容については僕らいただいてないし、部内資料だということでくれないのかもわかりませんけれども。
 そこで、今お話がありましたことで非常に問題なのは、きょうここで質問をして、すぐ結論が出るという問題ではございませんが、私が疑問に思っておりますことは、今自白の信用性の話が盛んに出ましたね。任意性と信用性と一体どういうふうにどちらに重点を置いて考えるのかということの問題が一つです。
 それから、任意性ということになれば憲法との関係があって、私がさっきちょっとお話ししましたように、立証責任というか何というか、どっちにあるのかということもあるし、それから、実際日本のあれの場合には検面調書というものの位置づけといいますか、そういうふうなものがあって、私はいろいろ問題があると思うのです。だから、任意性というものと信用性の中の問題で、むしろ逆に、今おっしゃったように、信用性の問題というものを非常にあなた方は問題にされておるわけですね。だから、それは検察なり検事のもとでしゃべったということが、それは任意性のある場合もあるし、ない場合もあるので、そこら辺のところで、任意性の問題にまず重点を置いて考えるべきなんです。その次に問題として、その内容に信用性があるかないかの問題が出てくる。任意性がなければもうすぐそこで証拠に採用しないという形になってこなければ、私は人権の保障ということが十分できない、こういうふうに考えるわけです。これについてはいろいろな論文があります。裁判官の書いた論文もあるし、検察官の書いた論文もあるし、弁護士の書いたものもあるし、大学教授の書いたものもあるし、いろいろなものがありますが、私も少し論文を読ませていただいて、勉強させていただきたいと思っておるわけです。
 そこで、きょうは、一つの問題は無罪率の問題が出てきているわけですね。これは松尾先生も言われましたし、日本の場合は無罪率が非常に少ないですね。そのことは非常に高く評価されていいことだ、こう思うわけですけれども、また逆に考えますと、危ない事件は起訴しないわけです。検察審査会があったところで強制力がない。危ない事件は起訴しない。起訴した以上は何とかして有罪に持ち込まないと後で責任問題が起きるということで、何とかして有罪に持ち込もうとする。場合によると、証人を偽証か何かでやって、すぐちょっと来いなんて言って、近どろは余りないかもしれませんけれども、昔はよくあったのです。そうすると、今無罪率、そういうふうに言いますけれども、日本の場合でもどうなんですか、否認事件だけとって考えてみると、否認事件の無罪率というのは〇・〇幾つではなくて、ある程度なものなのか、そこがよくわからないのですね。
○岡村政府委員 現在のところ、無罪率は、略式手続等を除きまして通常第一審におきます無罪率が〇・一四%あるいは〇・一五%という数字になっているところであります。
 ところで、否認事件の場合はどうかということでありますが、正確に否認事件の無罪率について統計はないわけでありますけれども、地裁の場合は大体八%ぐらい否認事件があるわけであります。そういったことを考えてみますと、これは計算上の問題でありますけれども、否認事件についての無罪率はおよそ一・四%ぐらいではなかろうか。全部の事件を合わせますと〇・一四あるいは〇・一五%という数字になっておるわけです。
○稲葉(誠)委員 否認事件というのは〇・一四ですか。どういう数字から〇・一四というのは出てくるのですか。
○岡村政府委員 これは略式命令が確定したものを除きまして、略式命令のうち正式裁判は含みますけれども、通常第一審におきまして判決を受けました人員のうち、全部無罪の人員の占める割合をただいま申し上げたわけであります。
○稲葉(誠)委員 一・一四とかいう話があったでしょう。全体がどうで、否認事件がどのくらいあって、どういう無罪があって一・一四が出てくるのですか。
○岡村政府委員 例えば昭和六十年で申し上げますと、第一審判決人員が七万九千八十人であります。これに対しまして全部無罪の人員が百十三名であります。これを計算いたしますと、無罪率〇・一四ということになるわけであります。
○稲葉(誠)委員 その無罪になった人で刑事補償をもらっている人はどのくらいなんですか、統計があれば。却下になったのは相当ありますか。
○岡村政府委員 昭和六十年で申しますと、補償の決定がありました人員が三十五名という数字になっております。
○稲葉(誠)委員 それは千円というのもあるわけですか。よくわからないのですが、どういう人のを、千円の下限のものを考えておるのか。干円というもの、下限というものがなくてはいけないのですか。
○岡村政府委員 具体的に一日最下限の千円の補償が行われた事例があるかどうか、詳細は承知いたしておりませんけれども、例えば殺人なり傷害致死の事実は認められるけれども精神障害による心神喪失で無罪という例も間々あるわけであります。こういう場合もやはり無罪の言い渡しを受けたことには変わりがありませんので、刑事補償法の対象になってくるわけであります。
 そういう場合、犯罪事実は認められるけれども責任能力がないという点で無罪になった者につきまして、身柄拘束期間中の補償を支払う必要があるのか、またはそれが相当多額のものを払う必要があるのかというような点は、いろいろ御議論もあろうかと思います。したがいまして、一般的に申しますと、そういう心神喪失で無罪になった者につきましての補償金額は必然的にやはり低い金額で決定されることになるだろうと思います。
○稲葉(誠)委員 それは、十分に鑑定なりなんなりしないで起訴した方が悪いのじゃないですか。まれには、起訴したときはわからないけれども、その後になってわかってきたのもあるかもわかりませんし、あるいはその後になって悪くなったというのもあるかもしれませんけれども、ちょっとおかしいのじゃないか。そういうのを区別して、そういうのは千円でいいとかなんとかいうのはおかしいのじゃないですか。検察官の起訴が間違っていたのじゃないですか。そのために勾留されたのじゃないのですか。
○岡村政府委員 検察官がどういう場合に訴追すべきかという、訴追のあり方論にもかかわってくるわけであります。検察官が絶対無罪を出すべきでない、一〇〇%有罪だということはまずもってあり得ないわけであります。特に精神障害によります犯行につきましては、やはり犯行直後の二十日くらいの間の捜査、あるいは場合によっては鑑定留置いたしますけれども、その間で全貌がわからないという場合もあるわけでありまして、その後のいろいろな行動その他から見て、その後に精神鑑定が行われた場合の方がより正確になる場合もあり得るわけでございます。したがいまして、一概に、検察官が起訴した結果、心神喪失で無罪になったのは検察官の責任だということは言えないと思うのであります。むしろそういう場合に、訴追のあり方としてはどうすべきかということ、これにかかわってくることだと思います。
○稲葉(誠)委員 それはそのとおりですね。すべて起訴したあれが悪いとかなんとかいうことを私は言っているわけではありません。
 そこで、今のあなたのお答えというか私の質問に関連してよくわからないのは、否認事件という話をしましたね、否認事件、否認とは何なんですか。どういうことを否認というのですか。
○岡村政府委員 要するに、捜査段階で申せば被疑事実を認めないということであります。公判段階で申せば、公訴事実をそのとおりであるというふうに認めないということであります。もっとも認めない中にもいろいろあろうかと思いますけれども、一般的には認めないものが否認という部類に入るわけでありまして、全面否認から、例えば外形的事実は認めて犯意だけ争うというのもやはり一般的には否認ということで呼んでいると思います。
○稲葉(誠)委員 そうすると、憲法で不利益な供述を強制されないわけでしょう。強制されないで、では黙秘権を使うといったら、黙秘権という権利があるかどうかは別として、黙秘権を使うと言ったら、それも否認ですか。
○岡村政府委員 黙秘権は黙秘ということでありまして、これが直ちに否認と言えるのかという、認めていないという意味では否認かもわかりませんけれども、普通は否認といいます場合は、積極的に違うことを言う場合だというふうに理解されると思います。
○稲葉(誠)委員 そうすると、黙秘権を使っている場合には、今言った否認事件の中には入っていないと理解してよろしいですね、そういうことですか。その統計の中に入ってないですか、入っているのですか。
○岡村政府委員 今ちょっと私、正確にそこのところを把握いたしておりません。
○稲葉(誠)委員 そこで、こういうことをお聞きしたいわけなんですが、任意性の問題や信用性の問題が出ましたね。例えばある事件、これは通告したかしないかあれですが、旭川の日通営業所長殺しというのがありましたね。六十年に無罪になった。この事件に関連した裁判官か関連しない裁判官か、ちょっとはっきりしないところがありますけれども、この人は、今やめて大学教授になっている方ですが、無罪になった事件で、一日十時間以上調べたのが十三日ある、十二時間以上調べたのが二日ある、十三時間以上調べた場合が四日ある、十五時間以上調べたのが一日ある、十六時間以上調べたのが一日ある、こう言っておられるのですが、私の最初の疑問は、一体こういうことがどうしてわかるのだろうかということなんですよ。
○岡村政府委員 これは、身柄を留置しております先、この場合はあるいは警察であったかと思いますけれども、警察の留置場で被疑者の身柄の出し入れと申しますか、そういったものが恐らく記録してあったのだろうと思います。
○稲葉(誠)委員 恐らくでなくて、一般的にはどうなんですか、それは。一般的にはどうなっているのですか。どうなっていて、じゃ何時間以上調べた場合にはどうなったかというあれはあるのですか、ないのですか。どうなっているのですか、これは。
○岡村政府委員 どうなっているかという趣旨は、長時間にわたる取り調べが任意性に影響しないかという御趣旨でございますか。
○稲葉(誠)委員 いや、そういう意味じゃなくて、長時間にわたる取り調べを一体してはいけないというのか、していいというのか、それは刑事訴訟法なりなんなりでどういうふうに規定をされておるのですかと聞いているわけですよ。
○岡村政府委員 それは、刑事訴訟法には規定はございません。ただ、任意性に疑いのある自白は証拠能力がないという規定がありますので、任意性のある取り調べをしなければいけないという大前提があるわけであります。そうだとするならば、そういう任意性を確保する上から見まして、余り深夜にわたるとかそういったことがやはり任意性に疑いがあると見られることにもなるわけでございますので、そういう面の取り調べには十分配慮しなければいけないのはもとよりであります。したがいまして、任意性の確保というような意味で、どの程度の取り調べをするかという問題になってくるのだと思います。
○稲葉(誠)委員 だから、任意性の確保ということで日本の刑事訴訟法なりなんなりに規定があるのですか、ないのですか。
○岡村政府委員 私、今任意性の確保と申し上げましたけれども、要するに任意性に疑いのある自白は証拠能力がないという規定があるわけであります。その規定を裏返して言うならば、やはり捜査官といたしましては任意性のあるような取り調べをしなければいけないということになるわけであります。
○稲葉(誠)委員 そんなことは当たり前なんですけれどもね。
 これは事実ですか。ある大学教授が言っているのですが、高裁の判事をやっていた大学教授ですが、西ドイツの刑事訴訟法では、疲労こんぱいさせるような取り調べをしてはならぬという条文がある、こう言っているのですが、そういう条文があるのですか、西ドイツの刑事訴訟法に。
○岡村政府委員 これは、たしかそういう趣旨の条文があったと思います。
○稲葉(誠)委員 じゃ、それはもう少し詳しく説明してくれませんか。
○岡村政府委員 西ドイツ刑事訴訟法の百三十六条のaに、「禁止された尋問方法」という規定があります。一項によりますと、「被疑者の意思決定及び意思活動の自由は、虐待、疲労、身体に対する侵害、薬物の投与、欺罔、又は催眠によって侵害されてはならない。強制は、刑事手続法がこれを認めている場合に限り用いることができる。同法の規定の定めるところにより許されない処分をもつてする威嚇及び法律上規定されていない利益の約束は、禁止する。」こういう規定になっております。
○稲葉(誠)委員 そういう規定がどうして日本の刑事訴訟法にはないのですか。そこまで具体的なものがないのですか。
○岡村政府委員 日本の刑事訴訟法は、先ほど申し上げましたように自白の任意性という面では規定を置いているわけでありまして、それ以上の取り調べに関します具体的な規定は置いていないわけであります。
○稲葉(誠)委員 だから、それはどうして置いてないのですか。
○岡村政府委員 これは、そういう具体的な規定を置くかどうかというのはやはり一つの判断であるわけでありまして、刑事訴訟法がつくられました当時は、そういった具体的なことまで設ける必要性というものが指摘されなかった、そういう必要がなかったということだろうと思います。
○稲葉(誠)委員 いや、刑事訴訟法が設けられたときというのは、刑事訴訟法はどのくらいかかって設けられたのですか。私の記憶では二年ぐらいかな、何か割合に急いでつくられたのでしょう。何回も草案がありましたよね。
 この前ちょっと私の記憶をお話ししましたね。一条で、基本的人権の方が上にあって、そして公共の福祉が下にあったのを、それが最後の二回ぐらい前かな、ひっくり返っているのですよ、これは。そういう事実があるかないかということを、この前、ちょっと調べておいてくれと言ったのですけれども、調べてあれば、どうなっていますか。
○岡村政府委員 制定当時のことを今直ちに申し上げるだけの資料も持ち合わせておりませんので、調査いたします。
○稲葉(誠)委員 それから、私はずっと刑訴の運用の問題をここで問題にしているわけですよ。これは日本の中で一番大きな問題だ、こう思うのですが、そうすると昭和二十七年、二十八年になりますか、三点にわたって一部改正で改正になりましたよね。それはどういうことから改正になったのかということと、私もその間のいろいろな問題をまだ調べてないのでよくわからない点があるのですが、どうも刑訴そのものの運用をむしろ、逆戻りという言葉は悪いかもわかりませんが、そういう、だれかが言っていた日本的な方法ですか、あるいは革新というのかな、よくわかりませんが、そのときの原案と、きょうわからなければわからないでもいいですけれども、最初議論になったところと法案で出てきたところとがこれは相当違うわけですね。と私は聞いているのですが、三点だと思いましたが、そこはどういう形でなってきたのかということを、わかっておられればお答え願いたい、こう思うのです。
○岡村政府委員 このときは簡易公判手続などを設けるといったような改正が行われておるわけでございますけれども、ただいま御指摘の点につきましては、調査いたしました上お答えいたしたいと思います。
○稲葉(誠)委員 それから、私はこの前も松尾教授にも質問したことなんですけれども、ミランダ判決というものがあって、具体的にどういうものなのか、それがどういうふうに変わってきたのか、それの一体日本の刑事訴訟法への影響は、その中で学ぶべき点があるのかないのかとか、そういう点については一体どういうふうに考えておるわけですか。まだそこまでずっと十分な論議をしてないということならば私はそれでもいいと思うのですけれども、それについては前々から何回も問題になっていることなんです。ミランダ判決の内容をまず説明していただいて、それがどういうふうにアメリカの中で変化をしていったのか、後退していったという説もありますけれども。そうすると、それは日本の刑事訴訟法の運用の中でどういう点が参考になるのかあるいはならないのか、あるいは考えようと思えば考えられるのか、こういう点について御説明願えればと思うのです。
○岡村政府委員 ミランダ・ルールにつきましては、身柄拘束中の被疑者の取り調べに当たりまして、黙秘権と弁護人選任権の告知を絶対的な要件として要求しているところであります。そういう条件を満たさない限り、自白が証拠として許容されないという判断であります。これが一九六六年の六月に連邦最高裁判所がミランダ事件について判断いたしました一つのルールであります。
 ところが、その後、自白の許容性という問題につきましては、ミランダ・ルールによる手続といいますものは自白の任意性判断の一つの要素にすぎないという連邦法が制定されたわけであります。また、判例上も、ミランダ・ルールに反して得られた自白であっても弾劾証拠としては使用される、あるいは大陪審において使用が認められるというような判例も出ているわけであります。また、憲法上の権利ではなく、黙秘権の保護を図るために設けられた予防的な準則にすぎないので、拘束中の者に限ってこのルールが適用されるし、これを放棄することも可能であるという判例も出ておるところであります。
 これを日本の刑事訴訟法と対比いたしますと、日本の刑事訴訟法におきましては、委員既に御承知のように、被疑者の取り調べに当たりまして、黙秘権と弁護人選任権の告知、これはそのとおりでありまして、やっておりますけれども、弁護人の立ち会いのもとにおける取り調べということは日本の刑訴法としてはとっていないところであります。なお、先ほどミランダ・ルールを説明いたします際に、弁護人の立ち会いのもとに取り調べを受ける権利を認めたという点を抜かしてしまったかもわかりませんが、ミランダ・ルールは、今言いました弁護人の立ち会いのもとに取り調べを受ける権利を認めているのであります。その点は日本と違っているところでありまして、現在日本の捜査の過程におきまして弁護人の立ち会いを義務づけるということにつきましては、やはり捜査行動その他いろいろ問題があるところであると思っております。
○稲葉(誠)委員 もう一つの問題は、刑事訴訟法の運用の中で一番大きな問題は、同時に証拠の開示の問題だと私は思うのです。
 これは非常に難しいのは、当事者主義というのが刑事訴訟の中で一体一〇〇%貫徹されるのかどうかということが問題だ、こう思うのですが、一番極端なのは、検察官が最小限、手持ち証拠を全部出さなければいけない、ならば弁護人や被告人が持っているものも全部出さなければいけない、これが一番公平だと私は思うのです。といって、そんなこと言ったってそれは無理だ。無理だというのは、被告人や弁護人の方で証拠があるかないか、手持ちの証拠なんてわかりっこないじゃないかということも考えられるのですが、いろいろ議論があると思うのですが、この辺は今後非常に大きな課題になってくる問題だと私は思っているのです。こういうようなことが、あなた方が調べた中で一体ありますか。私は、アメリカの連邦最高裁の判例というのを調べてくれとあなた方の方に言ったつもりですが、例えば「証拠開示は昭和四十年代になって、やっと最高裁が不完全な形で認めるようになったんです。」これはそうですが、「ただ開示させるかどうか及びその範囲を裁判官の裁量に委ねるような形なんです。」ここが非常に問題があるところですね。そうじゃなくて、これは法律にしろとか、何かいろいろな議論があるわけですが、「しかし、アメリカの連邦最高裁の判例によると、検察側が被告人に有利な証拠を隠すというのは絶対にいけない、被告人に有利な証拠は必ず開示すべき憲法上の義務を検察官は負うのだ」、こういうことを言っている大学教授もおられるのですが、こういう連邦最高裁の判例というのはあるのですか。あるとすればどういうものなのであって、それは現在も生きているのかどうか。そして、それに従ってアメリカの刑事裁判は行われているのかどうか、そこは一体どういうふうに考えたらいいのですか。
○岡村政府委員 ただいま御指摘の連邦最高裁判所の判例は、一九六三年のブレィディ事件に関するものであります。その要旨は、被告人が請求をしている以上、検察官の善意、悪意にかかわりなく、有罪、無罪あるいは科刑に重要な証拠が被告人に有利である場合には、その証拠を検察官が提出するのを除外する行為は適正手続に違反するという判示をいたしているところであります。この事件は、被告人が殺人の実行行為者は共犯者であるという主張をいたしていたところでありまして、検察官に対しましてその共犯者の供述調書の開示を要求したところであります。検察官はこれに応じまして手持ちの供述調書を開示いたしたのでありますが、死刑判決がなされました後になって検察官の手持ち証拠の中に被告人の主張に沿う内容の供述がありまして、これが開示されなかったということが判明した、こういう事案についての判例であります。
○稲葉(誠)委員 その判例は、その後もアメリカの中では維持されていると見てよろしいのでしょうか。
○岡村政府委員 そのとおりでありまして、この判決がありました当時の連邦刑訴規則は、被告人の防御にとって重要であり、かつ、その要求が相当であるときは、裁判所は被告人の申し立てにより、検察官に対し文書等の閲覧を許すよう命じることができるというふうにされていたところであります。その後、一九七四年の改正によりまして、被告人の防御に重要なもの、検察側の重要証拠として提出予定のもの、または被告人から入手し、もしくはその所有に係るものについては、被告人の要求により検察官が開示の義務を負うというふうにされております。
○稲葉(誠)委員 それと日本の刑事訴訟法あるいは日本の刑事裁判の場合とどういうふうに違いますか。
○岡村政府委員 日本の刑事裁判につきましても、最高裁判所の決定に基づきまして証拠の開示ということが規定されておるわけでございまして、この最高裁判所の趣旨に沿って、日本側でも検察官としては必要な証拠の開示は行っているところであります。
○稲葉(誠)委員 私の聞いているのは、アメリカの連邦最高裁の今の証拠開示のあれと日本の最高裁の決定とはどこがどういうふうに違うのですかと聞いているわけです。あなたは説明はしないけれども、全く違うんじゃないですか。全くと言っていいかどうかわからぬけれども、ほとんど違うんじゃないですか。
    〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
○岡村政府委員 最高裁の決定は、証拠調べの段階に入った後、弁護人から、具体的必要性を示して一定の証拠を閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申し出がなされた場合は、事案の性質その他いろいろな事情を勘案して、被告人の防御のために重要であり、かつ、これによって罪証隠滅、証人威迫等の弊害を招来するおそれがなく、相当と認めるときは、訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させることを命ずることができる、こういう規定になっているわけであります。
 そういう意味におきまして、我が国におきましてもこの決定の線に沿った運用が行われておりますので、証拠の開示ということにつきましては、検察官としてもこの決定を十分尊重して、それに従った開示に努めるよういたしているところでありまして、それでは細かい点でどういうふうに違ってくるかという点は、それはいろいろあろうかと思いますけれども、基本的な方向としましては、証拠開示という点では日本側もやはりそれに努めておるということになると思います。
○稲葉(誠)委員 日本側もそれに努めているのはわかりますけれども、日本側の場合、裁量である訴訟指揮権の範囲の問題でしょう、実際の問題としては。アメリカの場合はそうじゃないように聞こえるのですよね。アメリカの今の連邦最高裁の判例と今の日本の最高裁の決定と、一体どこがどう違うのか、どこがどういうふうに同じなのか、そこら辺のところは答えとしては難しいかもわからぬけれども、余りはっきりしてないんじゃないか。ちゃんと比べて、実際にどこがどう違うのか、よく説明をお願いしたいと思うのですよ。これは大きな問題ですよ、今後一番問題になってくるところでありますから。
○岡村政府委員 形の上だけを見てまいりますと、我が国の最高裁判所の場合は罪証隠滅、証人威迫等の弊害を招来するおそれがないというようなことで、一つの条件みたいなものをつけておるところであります。アメリカの最高裁判所の判例は、私が持っております資料によりますと、どうもそういう要件はございませんけれども、これはもう少し詳細に検討いたしませんと、具体的に違いがあるのかないのかということは申し上げかねますので、今後調査いたしたいと思います。
○稲葉(誠)委員 これは今の場合非常に大きな問題ですから、よく調査していただきたいのです。
 それから、大臣、この前大臣のお話を聞いていたら、法務省からも大使館にアタッシェ、一等書記官が行っているでしょう。アタッシェが行っているから、法務省でもいろいろなことを勉強させているんだというような話がありましたけれども、それはちょっと違うのですよ。アタッシェが行っていることは間違いないのですよ。行っていることは間違いないんだけれども、法務省関係の勉強のことをやる時間が余りないのですよ、率直な話は。そこら辺のところは、私は実態をこれ以上申し上げませんけれども、アタッシェの人はなかなか大変なんですよ。殊に、場所によっては奥さんが大変なんです。余り余計なことは言わないけれども、外交官の奥さんになると着物の数だけでもなかなか大変だとか、いろいろな問題があるのです。それから、仕事が多過ぎちゃって、法務省出身のアタッシェが専門のところを勉強できないのですよ。ここら辺のところをよく事情を聞いて、しかるべき方策を立てていただきたいと思うのです。
 今の問題でも、アメリカにアタッシェが行っているわけです。ずっと行っているのですよ。よくいろいろな勉強をしているわけですけれども、もっともっといろいろなアメリカのあれのことなんかを研究されなければいけないわけですね。
 それから、イギリスの場合でもそうです。ロンドンの場合でもそうなんです。この前、一筆書記官が帰ってきましたね、新しい人が行かれましたけれども。一番大きな問題は、イギリスの場合ちょっと日本と違いますから、現行犯で警察官がつかまえて、メモをとっていて法廷へ出てきて、そしてそれに基づいて警察官が証人でやるわけですけれども、それでもうそが多いというので問題になって、今テープレコーダーの法律が、これはもう全国的に実施されておるんだと思っておるのです。ですから、供述調書のとり方が問題なんですよ。供述調書が作文だという説は、私は前からそう言っているのですが、私が何々いたしましたとかなんとかというのは本当に作文なんだね。やはり問い答えという形で出てこなければいけないし。テープレコーダーの問題をめぐる供述調書のあり方ということも問題なんですが、これはイギリスへ行っているアタッシェによくあれして、よく勉強していってもらいたい、こう思うのです。この前の人が帰ってきていますからね。彼なんかもよく勉強していたはずですから、よく聞いていただきたい、こう思うのです。
 これはまだいろいろな問題があるのですけれども、私が問題にしておりますのは、刑事訴訟法というものを改正しろと私は言っているんじゃないですよ。それは率直に言ってすぐには無理だから。刑事訴訟法の運用の中で、四十年たっているわけですから、問題になるところが幾つかあるので、それについては少なくとも検討しなければいけないんじゃないかというのが私の議論なわけです。
 そこでもう一つの問題は、こういうことが出てくるのです。法二百九十九条ですか、証拠の開示。これの証拠物の問題です。
 証拠物の開示について、当時のメンバーがこういうことを言っておられるわけです。これは在職中に言わないで、みんなやめてから言うのですね、だからちょっとあれだと思いますけれども。ある高裁長官をやった方で、刑事訴訟法の立法にも関与した方だと思うのですが、
 各種の帳簿、伝票、手紙など証拠物については検察官に独占する権利は全くなく、それは客観的なものとして弁護人も完全に利用できるはずです。供述調書などの捜査書類は検察官が努力して作ったものなのだから、当事者主義の建前からいっても全部見せる必要はない、
こういうことをこの人は言っているわけなんです。そこの中で証拠物に関連して、
 私達裁判所関係の委員が規則の改正によって総て弁護人にも見せるように……と主張し、
これは最高裁の規則制定諮問委員会ですね。
 学者、弁護士出身の委員の多くの方が同調されましたが、検察側委員の強い反対でうまくゆきませんでした。しかしいろいろ議論した末、「検察官は、公訴の提起後はその事件に関し、押収している物について、被告人及び弁護人が訴訟の準備をするにあたりなるべくその物を利用することができるようにするため、法二二二条により準用される一二三条(押収物の還付・仮還付)の規定の活用を考慮しなければならない」(規一七八の一一)という妙な規定が生まれることになったのであります。結局妥協の結果、妙な規定になったわけですが、今、考えてみても、証拠物は、客観的な存在として検察官が独占すべきものではないので、規則どおり速やかに仮還付の措置をとるか、それができないなら、被告・弁護側に押収後直ちに閲覧の機会を与えるかすべきであると考えます。
こう言っているわけです。
 まず、こういうふうに書いた規則があることは事実ですか。それから、規則があって、その規則ができてくる経過はどういう経過ですか。
○岡村政府委員 刑事訴訟規則の百七十八条の十一といたしまして、御指摘のありましたように、「検察官は、公訴の提起後は、その事件に関し押収している物について、被告人及び弁護人が訴訟の準備をするにあたりなるべくその物を利用することができるようにするため、法第二百二十二条第一項の規定により準用される法第百二十三条(押収物の還付、仮還付)の規定の活用を考慮しなければならない。」こういう規定が新たに追加されたところでございます。
 この関係につきましては、その当時いろいろな方々が集まりまして、法制審議会ではないと思いますが、ほかの委員会のようなものをつくりまして、この辺のことを含めた議論をなした結果こういう改正がなされたというふうに承知いたしておりますけれども、具体的なその際の意見の中身につきましては、本日のところ十分調査いたしておりませんので、今直ちにここでは申し上げかねるところであります。
○稲葉(誠)委員 時間が来ましたので、これで終わります。刑事補償法の改正に関連してずっといろいろな面でお聞きしてまいったのですが、私の主眼とするところは、前にちょっとお話ししましたように、刑事訴訟法というものをすぐ改正しろということを決して言うのではない。そうではなくて、四十年たっていろいろな運用の中の問題があるのだから、その点についてどこにどういう問題点があるのかということをやはり検討すべきは検討すべきではなかろうか、こういうことを私は再三申し上げているわけでして、今後もこの問題についてはいろいろな角度から刑事訴訟法の運用の再検討といいますか、あるいは法の再検討とでもいいますか、そういう問題について質問を事あるどとにというか、チャンスのあるごとにずっとフォローしていきたい、こういうふうに思いますので、皆さん方の方でもせっかく優秀な局付の方がいらっしゃるわけですから、だから、英米の問題だとかあるいはドイツの問題、日本の問題、いろいろあると思うので、十分勉強していっていただきたい、こういうふうに考える次第でございます。
 私の質問を終わります。
○戸沢委員長 安藤巖君。
○安藤委員 先日、今回提案されております刑事補償法の改正にかかわる金額がいかにも少ない、低額であるということを申し上げたわけであります。そこで、この前の続きでありますが、私の質問に対して法務省の方から、昭和二十五年当時の最高額日額四百円、この中に慰謝料も入っているという答弁があったわけであります。もちろんその関係については、法務省からいただいた参考資料によりましても、その当時の一日平均現金給与額四百四円ということからすると、どうして慰謝料が入っているのだ、これに賃金の指数と物価指数を平均したものを掛けて出してきた金額それだけではないかということを指摘したわけであります。ですから、四百円の中に慰謝料が入っているというような答弁については決して納得するわけではないわけでありますが、これまで数回にわたる改正案審議の際に当委員会でいろいろ議論がなされてきたところ、それを踏まえますと、この前も申し上げたのですが、一日平均給与額から生計費を引いて、そして慰謝料を足して大体とんとんになるのだというような答弁がずっとなされてきておるわけです。
 そこで、私は計算してみたのです。だから、これは大臣にお尋ねしたいと思っておりますので、よく聞いておってください、難しい数学を申し上げるわけではなくて普通の足し算、引き算、掛け算ぐらいのものでございますから。いろいろな議論の中で、昭和二十五年当時一日の平均賃金は三百五十二円だという議論がなされてきております。それで、補償額の最高限が四百円だから、そっちの方が高いからいいではないかみたいな話も実はあったわけでありますが、この関係でまず計算をしてみたいというふうに思うのです。
 そこで、まず生計費をどれだけに見るかというのが一つの考え方でありますが、これはいろいろ議論のあるところですけれども、計算の都合上一応三分の二というふうに生計費を見た、これを前提にして計算をしてみたわけです。そうしますと、三百五十二円の場合でいきますと、その三分の二というのは二百三十四円、こういうふうに出てくるわけであります。ですから、三百五十二円から二百三十四円を引くと百十八円、これが生計費を引いた平均賃金日額として補償される金額だ、こういう格好になるわけですね。それで四百円から百十八円を引くと二百八十二円、これが慰謝料、こういう計算になるわけです。これは、四百円の三分の二強に慰謝料の額がなりますね。法務省の参考資料の四百四円ということで今のような計算をしますと、慰謝料の部分は二百六十四円、これは四百円のほぼ三分の二、こういうふうになります。もちろん、これは生計費の部分が下がれば慰謝料の部分もまた下がってくる。足し算、引き算の関係ですから、こうなってくるわけであります。
 ところで、今回の改正案の額に従って今やったような計算をしてみたのです。そうしましたら、法務省からいただいた参考資料による一日平均現金給与額、昭和六十三年推定でありますが、一万五千九百七十七円とあります。先ほどのように三分の二はどれだけかと計算しましたら一万六百五十二円、これが生計費ということになるわけです。一万五千九百七十七円からこの一万六百五十二円を引きますと、五千三百二十五円というふうになるわけです。これが先ほど来申し上げております生計費を引いた賃金として補償される額だ。そこでこの五千三百二十五円を今回の改正案の最高限度額、上限額九千四百円から引きますと、四千七十五円になるわけです。これがいわゆる慰謝される金額ということになるわけです。この四千七十五円は九千四百円のどれくらいになるかということを見てみますと、これは二分の一以下であります。
 そこで、先ほど来申し上げておりますが、四百円という昭和二十五年当時の一日平均現金給与額の計算でいきますと、三百五十二円で計算をすればその慰謝される金額というのは三分の二強、四百四円で計算してもほぼ三分の二。ところが、今回の改正案の関係でいくと、先ほど言いましたように二分の一以下、こういうふうに低いわけです。だから、この四百円というのもおかしいのだが、そこに慰謝料も入っているとおっしゃるから計算してみたら、昭和二十五年当時の現行の刑事補償法、新法ができたときから比べると、慰謝される額がぐっと下がっておるわけですよ。これは、三分の二ということになれば六千二百六十六円。だから、実際四千七十五円しかないわけですから、引いてみれば二千百九十一円少ないという計算になります。だから、この二千百九十一円と九千四百円を足せば一万一千五百九十一円。昭和二十五年当時の、私が納得するわけではないが、刑事局長が答弁をされたやり方によって計算をしてみても、今回のこの改正案なるものがいかに低いものであるかということが実にはっきり出てきておるというふうに思うのです。
 だから、先ほど来、最高裁が憲法四十条に基づいてどうやって計算をして出してその金額がどれだけであったのかということもいろいろ質問されておられましたけれども、妥当だ妥当だとおっしゃるけれども、新法制定のときの、あのときに出した四百円の考え方を御答弁どおりに計算をしてみても、今度は下がっておるのですよね。だから、これは改正案でございますといって、金額の上限額を引き上げましたといって出してこられるような代物ではないということがこのことからもはっきりすると私は思うのです。
 それで、この前の参考人の方々の御意見を拝聴しますと、再審で無罪の判決をかち取る、獲得するというまでの間の無念さ、苦しさ、恐怖感、これは本当に筆舌に尽くしがたいものだということを参考人の方々は強調しておられました。特に竹沢参考人はそのことを強く強調しておられましたし、横山参考人の御意見にもありましたが、昭和七年の旧刑事補償法のように、これは補償法というのに基づいて請求するというのじゃなくて恩恵的に行われたものでも平均給与日額の倍以上であった。だから、本当に精神的な苦痛を慰謝するというのであれば、まさに平均現金給与額の二倍以上でなければ補償とは言えないのだということを横山参考人も強調しておられたわけです。となると、今回のこの改正案というものはもう補償の名に値しないと言わなければならぬと思うのですよ。
 そこで大臣、どうですか。この期に及んでという話もあるかもしれませんが、この改正案なるものが補償の名に値しない、少なくとも昭和二十五年のこの刑事補償法ができたときにはじき出された四百円、あの計算をたどった経過から見ても、全然これは低いですよ。だから再考していただく必要があるのではないかというふうに思うのですが、いかがでございましょう。
○岡村政府委員 先にもう少し補足して説明させていただきます。
 刑事補償法が制定されました当時の四百円という金額の中に慰謝料が入るのかどうかということでありますが、この点につきまして当時の政府委員が答えておりますことは、要するに本人の生計費などは差し引かれるべき金額である、すなわちマイナス方向に作用するものである、一方プラス方向に作用するものとしては慰謝料相当のものがある、そういったものを勘案して四百円ということにしたのだということでありまして、生計費と慰謝料が全く同額であって、それが相殺されるといいますか、そういうところまで当時の政府委員が述べたわけではないのでありまして、そもそもこの四百円という金額がいろいろな賃金あるいは物価あるいは使用人の日当、その他いろいろな事情を総合いたしまして、大体この程度というところで四百円が決まったといういきさつがあるわけでございます。しかも、その四百円の中には慰謝料も入っておる、しかし慰謝料は幾らかと言われてもこれはやはり計算上幾らだということはお答えいたしがたいわけでありまして、例えというわけでもありませんけれども、当時の政府委員が言いましたのがマイナス方向では生活費がある、生計費がある、プラス方向では慰謝料があるというような説明をしたのであります。こういうことで制定当時は四百円ということで上限が定められたわけでありまして、その後七回にわたりまして引き上げの改正が行われまして、今回は八回目でございます。引き上げの都度、賃金の上昇あるいは物価の変動、こういった要素を考慮いたしまして、できるだけ充実したものにするため、引き上げのための引き上げを図ってきているところでありまして、この四百円というものをそもそも出発点といたしまして、その後の経済事情の変動を考慮いたしますと、九千四百円という数字が相当であるというふうに私どもは考えておるところであります。
○林田国務大臣 今刑事局長から答弁したとおりでございますが、先生の計算、よく拝聴いたしました。それで、昭和二十五年当時の生計費が大体賃金の三分の二、こういうことでございまして、私はその時分もう既に相当年をとっておりまして、生活をしておりましたので、大いに生計費を必要としたわけであります。二十五年当時は大変な苦しい時代でありまして、給料をもらったものがもうほとんど生計費に費やされるという時代であったわけであります。しかし現在は、三分の二を占めておるというその生計費は、私は数字はよくわかりませんが、今三分の二は占めていないのじゃないだろうかと考えますると、その慰謝料の方のウエートはもっとふえるということにもなるのじゃないかと思うのであります。
 そういうような数字の上からもいろいろありまするけれども、しかし、今刑事局長が答弁いたしましたように、当時の四百円からその後の経済事情の変動だとか諸般の事情を考慮いたしながら最善と認められる算定方法によって計算をしたものでございまして、もちろんそれがそんなに高いものということはございません。したがって、今後とも刑事補償の改善につきましては、法務省も最高裁判所とともに大いに努力をしていかなければならないと存じておりまするけれども、数字の上からの先生の計算とされましては、ウエートが次第に変わってきておるのじゃないかということもあるだろうと存じます。
○安藤委員 先ほどもちょっと途中で申し上げたのですが、生計費の部分が減れば慰謝料の方も減る。生計費の方が減れば、慰謝料の分は余計減るのです。これはそういう計算なんです。そうなるのです。だから、今大臣がおっしゃったのは、生計費が減れば慰謝料がふえるのじゃないかとおっしゃったのですが、この計算のあれは違うのですよ。ですから、そういうことでこの期に及んで改正するということはおっしゃりにくいと思いますが、今大臣がおっしゃったように、せいぜい御努力をお願いしたいというふうに思います。
 そこで、これは前からもいろいろ議論があったことでございますが、ほかの問題であります。刑事補償法はもちろん抑留または拘禁による補償ということになっておりますが、身柄非拘束で無罪の判決を受けた場合の補償の問題についてお尋ねをしたいと思うのです。
 この問題につきましては、これまでもいろいろ議論がありました。私もお尋ねをしたことがあります。そのときに法務省の方の答弁は、研究すべき課題だというふうに言っておられるのです。しかし、いろいろほかの制度とのバランスもこれあり云々というようなお話がありました。しかし、これは検討課題、検討課題ということでずっと続けておられるのではなくて、やはり真剣になって一遍考えてみていただきたいと思うのです。例えば、起訴されることによって、国家公務員でも地方公務員でもそうですが、それぞれの国家公務員法、地方公務員法によって休職ということになるわけですね。休職になれば賃金は六〇%になるのですか。それから、ほかの民間の会社でも起訴されるということになればやはり休職、そして賃金も六〇%以下。無罪になって復職してもその間の昇給は全然行われないし、ストップされたまま、こういうような損害を受けるわけです。そして、先ほど来申し上げております、その精神的な苦痛というのは、これはもうはかり知れないものがあるというふうに思います。だから、研究課題だといる御答弁をこれまでいただいたのですが、これは今どういうふうになっておるでしょうか。
○岡村政府委員 公訴を提起されまして無罪ということになりますと、公訴を提起されたことあるいはそれに対する防御活動等におきまして、いろいろな損害もあると思うのであります。しかしながら、やはり身柄の拘束を受けました場合の方がその損害の程度は大きいというふうに思われるのでありまして、現在の刑事補償法は憲法の要請も受けまして、身柄を拘束されました場合に無罪の裁判がありますと、これはその損害を補償するという制度をとっているところであります。身柄が拘束されなかった者と身柄が拘束された者との間にはやはり相当大きな違いがあるということから、そういう取り扱いになっていると考えられるのであります。
 そのほかいろいろ事情もあるわけでございますが、法務省といたしましては、国会でもその点いろいろ御議論のあることは十分承知いたしているところでありまして、いろいろな角度から検討は行っておるところでありますけれども、今言いましたような事情から、直ちに拘束されない者について刑事補償の範囲にのせるということはなかなか難しい問題があるというふうに考えておるところであります。
○安藤委員 時間の関係もありますからあれですが、いろいろな問題があるというふうにおっしゃるのですが、この前お尋ねしましたときは、ほかの例えば海難審判とか特許法の特許審判事件とか、そういうようなこととの並びもこれあり、身柄非拘束の場合に補償するということはどうかというお話もあったのです。しかし、それはやる気があるかないかの順序の問題であって、向こうから先やるか、こっちの方から先やるかというような問題だと思うのですね。
 それから、いろいろ議論されておりますのは、刑事訴追を受けている間は無罪の推定があるのだからというようなお話なんです。しかし、身柄拘束されておっても、刑事訴追を受けておれば無罪の推定がある。それから、判決が確定をしてそれから再審請求してという場合とは違うかもわからぬですが、その場合でも、有罪判決が確定するまでの間、やはり無罪の推定がある。それも計算の中に入るわけですからね。だから、考え方としては一緒ではないか。
 それからもう一つは、慰謝料の関係が先ほども議論がありました。定型化しにくいというような理由もあるのだという話も聞いておるのです。しかし、これもいろいろな勉強をしていただいて、名誉棄損の事件とかあるいは暴行を受けて傷害を受けた、そういう場合の慰謝料の算定は一体どうなっておるのかとか、そういうようなものをきちっとお調べいただけば、大体大まかなところでありましょうが、おのずと出てくるのではないかというふうに思うのです。国家賠償はまた別ですからぬ。そういうふうに御努力をしていただいて、今おっしゃったように研究課題として努力をしていくということを御答弁いただいたのですが、やはり今私が申し上げましたようなことも含めて努力していただきたいと思うのですが、再度お答えいただきたいと思います。
○岡村政府委員 刑事補償法は故意過失を問わないで補償するということであります。そういう無過失の補償制度の中にどの範囲のものを取り込んでいくかということでございまして、これはやはり国の補償制度全体のあり方の問題ともかかわると思うのでありまして、行政手続の問題等、御指摘のありました点を含めましてさらに幅広く検討を続けてまいりたいと思っております。
○安藤委員 やはりそういうことが公訴権の乱用の問題なんかを、これは刑事訴訟法で公訴権の乱用をしてはならぬとかそんなことはちっとも書いてなくて、起訴便宜主義になっているわけですが、そういう公訴権の乱用なんかも、先ほどもちょっと議論がありましたが、やはりきちっとチェックをする。刑事補償ということで補償金を出さなきゃいかぬということにもなりかねぬというようなこともやはり考えていただくことによって、そういうものをチェックすることもできるのではないかというふうに思いますし、それから、先ほどもお話がありました、無罪判決をして刑事補償をすることに決まったという公示の場合ですね。身柄非拘束の場合は全く刑事補償の対象になっていないものですから、先ほどの不十分な公示でさえも全然行われない、こういうことですね。名誉回復なんという機会は全くない、こういうことですので、鋭意御努力をお願いしたいと思うのです。
 そこで最後に、いろいろな冤罪事件では別件逮捕というようなことがあって、別件で逮捕して実は本件で、冤罪になったその件で取り調べをするというようなことがよく行われておるのですが、私はそのうちの一つの例として、香川県のあの財田川事件のことをちょっとお尋ねしたいと思うのです。
 まず、最高裁判所の方にお尋ねをしたいのです。これは裁判所からいただいた資料ですが、財田川事件、請求人氏名谷口繁義氏、逮捕年月日昭和二十五年八月一日、釈放年月日昭和五十九年三月十二日、こういうふうになっております。これはやはり刑事補償を受けられたわけですけれども、この起算日はいつになっておりますか。
○吉丸最高裁判所長官代理者 刑事補償につきましては、七月十九日以降の分について支給するという決定になっております。
○安藤委員 これは「刑事補償決定のあった著名事件」ということですが、そうしますと、刑事補償の対象になった日にちが逮捕年月日と一致しておるわけではないのですね。わかりました。最高裁にお尋ねするのはそれだけでございますので、お帰りいただいて結構です。
 そこでお尋ねをしたいのですが、この財田川事件の谷口さんが逮捕をされたのは、実は昭和二十五年の四月一日であります。この関係について、私が今持ってきておりますのは「財田川暗黒裁判」という本ですが、これは、元担当判事をしておられて、この人の再審実現のために非常に努力をされ、記録を克明に調査された人が書いた本であります。
 この人は四月一日に逮捕をされたのですが、これは、その少し前にあった強盗傷人事件で逮捕されたということになっております。逮捕されてからその事件については四月十九日に起訴される、こういうことになるわけですね。そして、二十五年のその起訴された翌日、これはどう読むか知りませんが、三豊地区本署、警察署に移監をされる。ちょっと飛ばしますが、そして六月十五日、先ほど言いました強盗傷人事件の判決が言い渡しをされる。六月二十一日、今度は高瀬警部補派出所、ここへ移監をされる。それからちょっといきまして、その強盗傷人事件の判決が昭和二十五年六月三十日に確定をする、こういうことになるわけですね。ところが、確定しても、どういう理由か、その辺のところまでわかりませんし、本件と余り関係ありませんから質問はいたしませんが、普通は刑の執行指揮というものが検察官によってなされていくという段取りになると思うのですが、それがずっとなされないままで、今度は窃盗事件で逮捕されて、そして勾留をされて釈放される。この窃盗事件は不起訴になるわけです。こういうような経過で、同じ生の七月十一日に今度は暴行恐喝事件で逮捕される。これも勾留されて釈放される。それが八月一日。そして、八月一日に強盗殺人事件で逮捕される。この強盗殺人事件がいわゆる財田川事件、こういうわけです。
 この事件で逮捕されたのが、先ほど言いましたように昭和二十五年八月一日。だから八月一日から補償の対象になっているかと思っておったのですが、それよりも前の七月十九日というふうに今お伺いをしたわけですけれども、先ほどずっと経過を申し上げたのですが、強盗傷人事件で勾留中のところ起訴されたのが昭和二十五年四月十九日。起訴されればその関係の捜査はする必要はないわけですね。だから、その翌日の四月二十日に三豊地区本署という警察署へ移監される。それから拘置支所へ行く。それから警部補派出所へ行く。ずっと警部補派出所におるのですが、この関係も、取り調べをした宮脇警部補という人が公判廷で証言をしたところによると、強盗傷人事件で起訴された以後はこの財田川事件で専ら捜査をし尋問をしておったのだ、こういうような証言もあるわけです。そういうような事実関係については、刑事局長、把握しておられますか。
○岡村政府委員 把握いたしております。私の持っているメモとでは若干日にちの違いがありますけれども、大筋におきましてはただいま御指摘のありましたような関係になっております。
○安藤委員 この財田川事件、本件というふうに言いますが、この関係についての谷口さんの供述調書を作成された日付、昭和二十五年六月二十四日が第一回。同じく二十六日、七月二十日、七月二十六日、七月二十七日からずっとあって、第四回、第五回、第六回供述、弁解録取書が逮捕された八月一日になっておるのです。だから、こういうようなことからしますと、供述調書の作成の関係からもこれは実にはっきりしているわけです。補償の起算日は七月十九日だとおっしゃったのですが、それよりも前に第一回の供述調書を六月二十四日に作成されておる、こういうような事実があるのですが、この供述調書の作成関係も間違いないですか。
○岡村政府委員 そのとおりであります。
○安藤委員 こういうような経過からいたしますと、前の強盗傷人事件は一応別にして、これは四月十九日に起訴になっておりますが、それ以降、四月二十日以降というのはこの財田川事件で取り調べを受けている。途中、窃盗、暴行恐喝等々あるのですが、これはいわゆる別件逮捕というもので、その捜査はほとんどなされなくて、全く財田川事件そのものについて捜査が行われた。そしてそのために身柄が拘束されておったということになりますと、これは裁判所の補償決定にあれこれ言うわけじゃないのです、だから裁判所にはお尋ねしないわけですが、一般論として、別件逮捕されて、そして実際はその別件の方で捜査ではなくて、身柄を拘束されて取り調べを受けておったということになると、この刑事補償法の趣旨からすると、先ほど来申し上げておりますような昭和二十五年四月二十日から補償の対象として計算をされなければおかしいのではないかと思うのですが、その点はどうでしょう。
○岡村政府委員 一番当初逮捕されました昭和二十五年四月二日以降は、強盗傷人の罪で逮捕、引き続き勾留されまして、かつ身柄勾留中に起訴されて裁判で懲役三年六月が確定いたしているわけであります。したがいまして、この間の身柄の拘束といいますものは、仮にその中に本件に関します調書の作成がありましても、それは参考人としての調書の作成ではなかったかと思います。そういうような点から見まして、昭和二十五年四月二日から以降の勾留につきましては、本件無罪になりました強盗殺人のための身柄の拘束とは見られないだろうと思います。
 一方、再審で無罪になりました強盗殺人の関係で申しますと、昭和二十五年八月一日に強盗殺人で逮捕されまして、以後勾留で身柄が拘束されておるわけでございますから、昭和二十五年八月以降が刑事補償の対象となります身柄拘束の期間になることは争いのないところでございます。
 ところが、本件に関します高松地裁の刑事補償に関します決定によりますと、昭和二十五年八月一日以前の、昭和二十五年七月十九日以後につきまして刑事補償を認めているところであります。言いかえますと、この七月十九日から七月の末までの間は、先ほど御指摘のありました三回目の暴行恐喝による身柄の拘束が行われておったわけであります。本件強盗殺人による身柄の拘束ではありませんけれども、別件であります暴行恐喝の身柄の拘束の期間中に本件強盗殺人についての取り調べが行われたりしているような事情にかんがみまして、別件の暴行恐喝の身柄の勾留期間の一部も強盗殺人の刑事補償の対象となる身柄の拘束期間に当たる、こういう判断を高松地裁はしたものであるというふうにその決定書からは読み取れるわけであります。
○安藤委員 確かに、この強盗殺人事件による逮捕は昭和二十五年八月一日。高松地裁の刑事補償の決定はそれよりも前だということは、その辺については活眼を開いていただけたというふうに私は思うのですが、それは今おっしゃるように暴行恐喝事件で逮捕されたのは七月十一日、それから八月一日にその事件で勾留されたのが釈放される。その間、その件で勾留されておったわけです。そういう形になっているわけです。ところが、実際はこの財田川事件の強盗殺人事件で捜査が行われておったという部分を勘案されて先へ繰り上げたということだと思うのですね。だから、その辺は結構だと思うのですが、先ほど来言うておりますように、強盗傷人事件は昭和二十五年四月十九日起訴済みです。そして、その翌日警察署へ行っているのです。そして、拘置支所へ一時行きましたが、今度は高瀬警部補派出所という派出所へ身柄を移されているのですよ。これが六月二十一日です。だから、何のために警察の地区本署へ行ったり警部補派出所へ移監されなければならぬか。強盗傷人ではもう起訴した後なんですよ。
 これは財田川事件について捜査する以外の何物でもなかったということは、こういう経過からしても、それから先ほど参考人というふうにおっしゃったのですが、この人の書いた本によりますと、六月二十四日から第一回の供述というのがずっと出ているわけです。これは、克明に資料を調査された上で書かれたのですが。そうなると、七月十九日からではなくてまさに四月二十日からこれは起算をすべきではないのかというふうに思うのです。それでないと、別件逮捕してきてそうしてそれで勾留して、実はその件では調べなくて本件について調べる、こういうような、冤罪事件ではつきもののそういうものが全部見逃されてしまうということになりかねないと思うのです。だから、その辺についてはどうですか、今私が申し上げたのですが、七月十九日からというのはどう考えてもおかしいのです。その辺はどういうふうに思われますか。そしてその別件逮捕の関係についても、これはきちっと刑事補償の対象にすべきであるというふうに思うのです。時間が来ましたから、この御答弁だけいただいて終わりにします。
○岡村政府委員 最高裁の決定がございまして、その趣旨は、ある事実について身柄を拘束されてそれが不起訴になった、その後また別の事件で身柄を拘束されてその事件が起訴されて無罪になった、こういう場合、当初の身柄の拘束が後の事件の取り調べのための身柄の拘束であると認められるような状況があれば、最初の身柄の拘束についても刑事補償の対象になるというのがその趣旨でございます。したがいまして、そういう事実関係にあったのかどうかということが問題でありまして、裁判所の決定は七月十九日からということになっておりますが、これは何か弁護人の方の刑事補償の請求がその日以後の請求ではなかったかと私は思うのでございますが、いずれにしましても、その辺の関係は決定書を見ましても詳細にわかりませんので、具体的なことは申し上げかねるところでございます。
○安藤委員 これで終わります。ありがとうございました。
○戸沢委員長 この際、暫時休憩いたします。
    午後四時二十二分休憩
     ────◇─────
    午後四時四十分開議
○戸沢委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。
    ─────────────
○戸沢委員長 ただいま委員長の手元に、刑事補償法の一部を改正する法律案に対し、中村巖君外三名から、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議、民社党・民主連合及び日本共産党・革新共同の四派共同提案に係る修正案が提出されております。
 提出者から趣旨の説明を求めます。中村巖君。
    ─────────────
 刑事補償法の一部を改正する法律案に対する修正案
    〔本号末尾に掲載〕
    ─────────────
○中村(巖)委員 私ども、刑事補償法の一部を改正する法律案に対する修正案を提出をいたしたわけでありますけれども、まず最初にこの案文を朗読をいたします。
    刑事補償法の一部を改正する法律案に対する修正案
  刑事補償法の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。
  第四条第一項の改正規定中「九千四百円」を「一万六千円」に改め、同条第三項の改正規定中「二千五百万円」を「五千万円」に改める。
以上であります。
 これに対する提案の理由を申し上げます。
 現在審議中の政府提案に係る刑事補償法の一部を改正する法律案は、刑事補償法第四条第一項に規定する抑留または拘禁による補償の日額の上限七千二百円を九千四百円に、同条三項に規定する死刑の執行による補償額の上限二千万円を二千五百万円に改めようとするものであります。
 しかしながら、刑事補償制度の本来的意義、制度発足当時の理念、さらには国民感情等にかんがみると、その引き上げ額は余りにも低いと言わなければなりません。誤って抑留、拘禁された結果、人は本来獲得し得るべき収入を失い、加えて精神的にも多くの苦痛を受けるのであり、この場合の一日当たりの補償の額が勤労者一般の平均稼働収入の日額を下回るということは到底あり得べからざるものであります。
 また、誤った死刑判決の執行によって死亡した場合、財産上の損失が補償されたとしても、遺族らのこうむる精神的痛手は筆舌に尽くしがたく、これを慰謝するに足る補償額は直接的な算定基準は見出しがたいとはいえ、高額であることが当然というべきであります。
 そこで、前者については現時点での勤労者の稼働収入日額を上回り、これに近接する一万六千円をもって補償日額の上限とし、後者については制度発足時に定められた補償上限額五十万円の価値を同時点で自動車賠償責任保険法が制定されていたとした場合想定される死亡保険金額と対比した上で、現時点ではそれが五千万円台に相当することから五千万円とすることが妥当であると認められます。
 よって右のごとき引き上げを図るべく、本修正の提案をなすものであります。
 以上でございます。
○戸沢委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。
 この際、本修正案について、国会法第五十七条の三の規定により、内閣において御意見があれば発言を許します。林田法務大臣。
○林田国務大臣 ただいまの修正案につきましては、政府といたしましては反対でございます。
    ─────────────
○戸沢委員長 これより討論に入ります。
 刑事補償法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案を一括して討論に付します。
 討論は五分以内に制限することに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○戸沢委員長 起立多数。よって、さよう決しました。
 討論の申し出がありますので、これを許します。坂上富男君。
○坂上委員 私は、まず本日の討論に参加する意味について申し上げたいと思います。二番目に、原案に反対して修正案に賛成する意見を申し上げたいと思います。三番目に、刑事補償法の運用について意見を申し上げたいために討論に参加をいたします。
 私は、日本社会党・護憲共同を代表して、以下の意見を申し上げるものであります。
 本日刑事補償法の一部改正について議了することに、私は昨日来から強く反対をしてまいりました。しかしながらまた、議了やむなしという御意見もありましたので、私はきのうの理事懇が終わりましてから法務部会を我が党で開いていただきました。その結果、私は次のような提案を決に基づきましていたしたわけであります。
 その一つは、特にこの刑事補償法の質問を委員としてお許しをいただきたいといううちの同僚議員が一人おられるということ、よってこの人から私たちは今提案になりました修正案もあわせて質疑をさせていただきたいということを申し入れました。そして、その質疑は四月八日の午前中一時間をもって終了してもよろしいということを通告をいたしました。そして自後、不動産登記法等の関係について自民党が御質問をなさることについては、意見を申し上げないで賛成をするということを言ったわけでございます。このことをもとにいたしまして、けさ理事会で議論をいたしました。理事会といたしましては結論が出ないまま昼食になりまして、今度休憩時間で議論をいたしました。何とか譲歩してくれというので、私の方は次のような条件で譲歩することを意見表明をいたしました。
 すなわち、この点については私たちは質問をこれで打ち切りましょう、そのかわり、本会議の上程については四月八日以降に上程をしていただくよう努力をお願いしたい、こう申し入れをいたしたわけであります。出席の理事さんらはいずれも、大変よい案であるから検討いたし、努力いたしましょうということに相なったわけであります。しかし、事は議運の問題でもあるものでございまするから、議運にそのことを要請をし、そして議運がこれを努力することを約束をしてもらうことを私は願ったわけであります。私は、早速我が方の清水勇理事にそのことをお願いいたしました。八日以降ならばよろしい、協力をしますという回答をいただいたわけであります。
 当然自民党からもそのような御回答があるかと思っておりましたところが、自民党の議運あるいは国対では、これが反対であるというような意向であります。だとするならば、私たちの最後の提案をもとに戻しまして、次回には質疑を続行していただきたいということを申し上げたわけであります。しかるに、本日最後の理事会におきまして委員長は裁断をいたしまして、本日議了して討論、そして採決をするというふうに相なったわけでございます。私といたしましては、まことに不本意であるということを強く申し上げたのであります。
 殊に法務の伝統は、私は大塚委員長、相沢委員長、それから現委員長の三氏の指揮のもとで審議をしたわけでありますけれども、一応合意のもとで進行してきたわけでありますが、本日ここで強行されるということについては、私は極めてよき伝統とよき慣習を今ここで破壊をしたのだというふうに申し上げて過言でないだろうと思うのであります。
 自来いろいろとお話し合いの上で運営をされなければならない問題を、このようにどうしてもせっぱ詰まった事情にないのに、いろいろの話し合いのもとに物事を進行してきたのを、本日ここで強硬に採決をされるということに強い私は憤りを感じつつ、反対の意向をその点においてまず表明をしたいのであります。
 その次、二番目でございますが、原案に反対をし、修正案に賛成をするものであります。
 その理由でありまするけれども、御存じのとおり刑事補償法は刑事訴訟法の刑事費用補償、国家賠償法の損害賠償、それから被疑者補償規程と隣接をしておるわけであります。二日間にわたる討論、一日間におきまするところの参考人の意見を聴取いたしました。いずれも、国家賠償法はほとんど機能してないということであります。そしてまた、被疑者の補償規程についても完全なる運営がなされていないということもほぼわかったわけであります。そうだといたしますならば、私は費用補償だけで賄えない現状から見てみまして、刑事補償法こそもっと充実されてしかるべきだろうと思うのであります。
 そこで、かつてのこの刑事補償についての経過を申し上げますと、次のような事実が出てきておるわけであります。
 まず、旧刑事補償法はいわば昭和七年にできたものでありまして、これが一円五十八銭から二円五十一銭という平均賃金でございます。その平均賃金がありましたところへ、最高の算定基準日額が五円ということになっております。それから、この現行の刑事補償法ができたとき、昭和二十四年の五月でございますが、三百五十二円で労働者賃金があったところが、この最高算定基準日額が四百円である、こういうことであります。その次に、昭和三十九年の改正はいわば千八十九円の労働者の平均賃金であったのでありますが、これが一千円の基準日額になっております。四十三年の改正時では、一千六百二十四円の労働賃金が一千三百円の基準日額になっておるわけでございます。昭和四十八年は、三千七百九十七円の平均賃金が二千二百円になっておるわけであります。昭和五十年の改正におきましては、一日平均賃金が五千九百十七円が、いわゆる日額といたしましては三千二百円となっております。昭和五十三年は、七千六百七十三円の賃金が四千百円ということになったわけであります。今度、これは平均賃金を刑事補償法のパンフで言っておるわけでございまするけれども、約二分の一でございます。いわば、現在の一日平均現金給与額は一万五千九百七十七円と思われるとき、今回の一日日額の計算をこの刑事補償法におきましては約半分、一日九千四百円という金額でございます。
○戸沢委員長 坂上君に申し上げます。結論をお急ぎ願います。
○坂上委員 ましてや死刑の場合の二千五百万円はいわば五千万円にすべきなのに、今の労働賃金の関係、それから無実で殺されてあげくの果ての補償を受けるのが、さっき提案理由があったとおりまさに自動車賠償保険法以上に補償されてしかるべき金額なのでありまするけれども、わずかに二千五百万円というのは余りにも人命を軽視し、心なくして、まさに無実の罪で死刑にされた人への補償といたしましては余りにも安過ぎるものでなかろうか、こう思っておるわけであります。
 かかるがゆえに、私は修正案に賛成し、いわば原案に強く反対をし、あわせて委員長に再度考慮を求めるものでありまするけれども、このような職権的な、意見を無視したやり方に真っ向から反対をいたしますので、再度御考慮くださいますよう要請をいたしまして、私の反対討論といたしたいと思います。
 以上であります。
○戸沢委員長 これにて討論は終局いたしました。
    ─────────────
○戸沢委員長 これより採決に入ります。
 刑事補償法の一部を改正する法律案及びこれに対する中村巖君外三名提出の修正案について採決いたします。
 まず、中村巖君外三名提出の修正案について採決いたします。
 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○戸沢委員長 起立少数。よって、本修正案は否決されました。
 次に、原案について採決いたします。
 原案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○戸沢委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
    ─────────────
○戸沢委員長 次に、ただいま可決いたしました刑事補償法の一部を改正する法律案に対し、井出正一君外四名から、自由民主党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議、民社党・民主連合及び日本共産党・革新共同の五派共同提案に係る附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
 まず、提出者から趣旨の説明を求めます。井出正一君。
○井出委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。
 まず、案文を朗読いたします。
    刑事補償法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
 一 政府及び最高裁判所は、刑事司法の厳正を期するとともに、刑事補償制度の趣旨にかんがみ、国民感情等をも考慮して、無罪の確定裁判を受けた者に対する適正な補償を行うため、補償金額の引き上げ等について、早急に努力すべきである。
 二 政府は、再審により無罪の確定裁判を受けた者に対し、再審請求手続に要した費用を補償する制度について、更に調査・検討すべきである。
 三 政府は、被疑者補償制度の趣旨にかんがみ、その一層適切な運用に努めるべきである。
以上です。
 本案の趣旨については、当委員会の質疑の過程で既に明らかになっておりますので、省略いたします。
 何とぞ本附帯決議案に御賛同くださいますようお願いいたします。
○戸沢委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 直ちに採決いたします。
 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○戸沢委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。
 この際、林田法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。林田法務大臣。
○林田国務大臣 ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を十分尊重いたしまして、鋭意努力してまいりたいと存じます。
    ─────────────
○戸沢委員長 お諮りいたします。
 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○戸沢委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
    ─────────────
    〔報告書は附録に掲載〕
    ─────────────
○戸沢委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後四時五十九分散会