第136回国会 本会議 第17号
平成八年四月十二日(金曜日)
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 議事日程 第八号
  平成八年四月十二日
    正午開議
 第一 林業改善資金助成法及び林業等振興資金
    融通暫定措置法の一部を改正する法律案
    (内閣提出)
 第二 林業労働力の確保の促進に関する法律案
    (内閣提出)
 第三 木材の安定供給の確保に関する特別措置
    法案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
 日程第一 林業改善資金助成法及び林業等振興
  資金融通暫定措置法の一部を改正する法律案
  (内閣提出)
 日程第二 林業労働力の確保の促進に関する法
  律案(内閣提出)
 日程第三 木材の安定供給の確保に関する特別
  措置法案(内閣提出)
 議員佐藤守良君逝去につき弔詞を贈呈すること
  とし、弔詞は議長に一任するの件(議長発議
  )
 宮澤喜一君の故議員佐藤守良君に対する追悼演
  説
 民事訴訟法案(内閣提出)及び民事訴訟法の施
  行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(
  内閣提出)の趣旨説明及び質疑
    午後零時四分開議
○議長(土井たか子君) これより会議を開きます。
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 日程第一 林業改善資金助成法及び林業等振興資金融通暫定措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
 日程第二 林業労働力の確保の促進に関する法律案(内閣提出)
 日程第三 木材の安定供給の確保に関する特別措置法案(内閣提出)
○議長(土井たか子君) 日程第一、林業改善資金助成法及び林業等振興資金融通暫定措置法の一部を改正する法律案、日程第二、林業労働力の確保の促進に関する法律案、日程第三、木材の安定供給の確保に関する特別措置法案、右三案を一括して議題といたします。
 委員長の報告を求めます。農林水産委員長松前仰さん。
    ―――――――――――――
 林業改善資金助成法及び林業等振興資金融通暫定措置法の一部を改正する法律案及び同報告書
 林業労働力の確保の促進に関する法律案及び同報告書
 木材の安定供給の確保に関する特別措置法案及び同報告書
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
    〔松前仰君登壇〕
○松前仰君 ただいま議題となりました三法律案につきまして、農林水産委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
 まず、三法律案の主な内容について申し上げます。
 林業改善資金助成法及び林業等振興資金融通暫定措置法の一部を改正する法律案は、地域の林業を担うべき者を育成することが急務となっていることにかんがみ、林業改善資金制度に新林業部門導入資金を新たに設けるほか、農林漁業金融公庫からの資金の貸し付けの特例を設ける等、林業経営基盤の強化を促進するための措置を講じようとするものであります。
 林業労働力の確保の促進に関する法律案は、林業労働力の確保が急務となっていることにかんがみ、事業主が一体的に行う雇用管理の改善と事業の合理化を促進するための措置並びに新たに林業に就業しようとする者の就業の円滑化のための措置を講じようとするものであります。
 木材の安定供給の確保に関する特別措置法案は、木材産業につき大規模化によるコストの低減を図ることが急務となっていることにかんがみ、森林所有者等から木材製造業者等に対する木材の安定供給を確保するため、木材の生産の安定及び流通の円滑化を図るための特別の措置を講じようとするものであります。
 これら三法律案は、去る四月五日本会議において趣旨説明及びこれに対する質疑が行われ、同日本委員会に付託されました。
 委員会におきましては、四月九日大原農林水産大臣から三法律案の提案理由の説明を聴取し、昨十一日に質疑を行いました。質疑終局後、直ちに採決いたしましたところ、三法律案はいずれも全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
 なお、これら三法律案に対しそれぞれ附帯決議が付されました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
○議長(土井たか子君) 三案を一括して採決いたします。
 三案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(土井たか子君) 御異議なしと認めます。よって、三案とも委員長報告のとおり可決いたしました。
     ――――◇―――――
 弔詞贈呈の件
○議長(土井たか子君) 御報告することがあります。
 議員佐藤守良さんは、去る三月七日逝去されました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
 つきましては、佐藤守良さんに対し、弔詞を贈呈いたしたいと存じます。弔詞は議長に一任されたいと存じます。これに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(土井たか子君) 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決まりました。
 弔詞を朗読いたします。
    〔総員起立〕
 衆議院は 多年憲政のために尽力し 特に院議をもってその功労を表彰され さきに逓信委員長の要職につき またしばしば国務大臣の重任にあたられた議員正三位勲一等佐藤守良君の長逝を哀悼し つつしんで弔詞をささげます
 この弔詞の贈呈方は議長において取り計らいます。
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 故議員佐藤守良君に対する追悼演説
○議長(土井たか子君) この際、弔意を表するため、宮澤喜一さんから発言を求められております。これを許します。宮澤喜一さん。
    〔宮澤喜一君登壇〕
○宮澤喜一君 ただいま議長から御報告がございましたように、本院議員佐藤守良先生は、去る三月七日、急逝されました。
 七日未明、体の不調を訴えられ入院されたとのことでしたが、直前まで先生の元気なお姿を拝見しておりましただけに、この計報は余りにも突然のことであり、ただ茫然としていまだ信じがたい思いであります。
 私は、ここに諸君の御同意を得て、議員一同を代表して、先生の御遺徳をしのび、謹んで哀悼の言葉を申し述べたいと存じます。(拍手)
 先生は、大正十一年三月、広島県御調郡向島町にお生まれになりました。先生の父君憲悌氏は、地方政界で活躍された人格識見ともに豊かな方であり、その父君の感化と御母堂の薫陶を受けられて少年時代を過ごされた先生は、長じて、尾道商業高等学校を経て、中央大学法学部に進まれました。
 学徒出陣により学業を中断された後、終戦とともに大学に復学された先生は、卒業に当たって元最高裁判所長官田中耕太郎博士の推薦により、郷里の大先輩であった永野護先生の秘書として前後十年余り仕えられ、その後永野先生が運輸大臣に就任されるや、その秘書官となり、実務多端な大臣を支えて挺身されました。このころから君の才腕は広く政官財界に知られるようになったのであります。
 このような長い秘書生活を通じて得た信念と経験を国政に具現すべく、先生は、昭和三十五年十一月の第二十九回総選挙に「積極進取の気風に富む、親しみのある政治」を掲げて、無所属で立候補し健闘されましたが、志を達することができず惜敗されました。
 自後、先生にとってはまさに雌伏のときが続いたと言えましょう。しかし捲土重来、昭和四十四年の第三十二回総選挙では、年来の宿願を達成して見事に本院の議席を得られたのであります。(拍手)そして、以来連続して当選すること九回、逝去まで在職二十六年五カ月の長きに及ばれました。
 本院議員となられた先生は、運輸、内閣、商工等各般の分野に幅広く活躍されましたが、とりわけ、先生は通信分野に大変御造詣が深く、かつ、時代の先を見る確かな目を持っておられました。昭和五十八年には、来るべき高度情報社会の到来に備えて、自民党内にニューメディア促進議員連盟を結成、みずからその副会長・事務局長に就任し、今日も高く評価されている情報社会の将来についての報告をまとめられました。
 昭和五十九年十一月、先生は第二次中曽根内閣の農林水産大臣として入閣されました。当時、二百海里経済水域の設定が世界の大勢となる中、我が国とソビエト社会主義共和国連邦との漁業交渉は難航を極めておりました。先生はみずからモスクワに赴かれ、カーメンツェフ漁業相と持ち前の粘り強さで交渉に当たられ、一時中断も心配されておりました交渉を見事に打開され、妥結へ導かれたのであります。(拍手)
 第二次海部内閣では国土庁長官に就任、土地問題の解決に力を尽くされ、さらに政界再編成後の羽田内閣では北海道・沖縄開発庁長官に就任され、その才腕を存分に発揮されたのであります。
 先生は、郷土を殊のほか愛し、絶えず郷土の発展のため心を砕き、骨身を惜します奔走された方でありまして、先生が残された業績は枚挙にいとまがありません。一昨年十月のはえある永年表彰の日、「本四架橋・新尾道駅・東福山駅・広島新空港などが陽の目をみた時の郷里の皆さんの笑顔が今も脳裏に焼き付いております。」と、郷土の人々と喜びを分かち合えることが無上の喜びである旨を語っておられた姿が眼前にほうふつとし、胸が迫る思いでございます。それだけに、郷里にあって先生を柱とも思い、敬慕してやまない人々の落胆はいかばかりでございましょうか。
 思えば三十年の年月、お互いに十回の選挙を戦いました。しかし、この間、君は私に対して私憤を発せられたことは一度もありませんでした。互いに切瑳琢磨しつつ、それが君子の争いであったことに、先生に改めて感謝いたします。(拍手)そして、それだけに、今、好敵手を失った虚脱感を禁じ得ません。
 激動する九〇年代にあって、我が国は、内政、外交ともに極めて多事多難な状況に直面しております。国会に課せられた使命がいよいよ重きを加えようとするとき、政治家として円熟、練達の域に達し、一層の御活躍を期待されていた先生をこの議場から失うことは、新進党はもとより、本院にとっても、国民にとっても、まことに大きな損失と申さなければなりません。(拍手)
 ここに、謹んで佐藤守良先生の生前の御功績をたたえ、その人となりをしのび、重ねて心から御冥福をお祈りして、追悼の言葉といたします。(拍手)
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 民事訴訟法案(内閣提出)及び民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明
○議長(土井たか子君) この際、内閣提出、民事訴訟法案及び民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案について、趣旨の説明を求めます。法務大臣長尾立子さん。
    〔国務大臣長尾立子君登壇〕
○国務大臣(長尾立子君) 民事訴訟法案及び民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 現行の民事訴訟法は、明治二十三年に制定され、大正十五年に全面的に改正されましたが、基本的には、大正十五年改正当時の手続の構造が維持されております。
 しかし、その後の社会の変化や経済の発展等に伴って民事紛争も複雑多様化しており、現行法の規律については、現在の社会の状況に適合していない部分が生じております。また、裁判に時間と費用がかかる等の民事訴訟の現状に対するさまざまな問題点が指摘されている状況にあります。
 そこで、民事訴訟法案は、これらの問題点に対処する見地から、民事訴訟を国民に利用しやすく、わかりやすいものとするために、新たな民事訴訟法を制定し、民事訴訟手続の改善を図ろうとするものであります。
 以下、この法律案の要点について申し上げますと、第一は、争点及び証拠の整理手続を整備することであります。
 適正かつ迅速な裁判を実現するためには、事件の争点が何であるかを早期に明確にする必要がありますが、現行法においては、争点及び証拠の整理の手続についての規定が不十分であります。そこで、これを改め、争点及び証拠の整理のための手続の種類を多様化するとともに、その内容を充実する等の整備を図ることとしております。
 第二は、証拠収集手続を拡充することであります。
 現行法の文書提出命令等の証拠収集の制度は、当事者が充実した審理に向けて準備をするための手続として十分なものとは言えない状況にあります。そこで、文書提出命令の対象となる文書を拡張するとともに、その手続を整備するなど、弊害が生じないように配慮しながら、証拠収集手続を拡充することとしております。
 第三は、少額訴訟手続を創設することであります。
 現行法は、少額事件を訴額に見合った経済的負担で迅速に解決するための手続としては、十分なものとは言えない状況にあります。そこで、請求額が三十万円以下の金銭の支払い請求事件について、原則として一回の期日で審理を遂げ、即日判
決の言い渡しをすることができるようにするなど、一般市民がより利用しやすい特別の訴訟手続を創設することとしております。
 第四は、最高裁判所に対する上訴制度を整備することであります。
 最高裁判所は、憲法判断及び法令解釈の統一という重大な責務を担っておりますが、その責務を十分に果たすことができるようにするため、上告については、最高裁判所は、法令の解釈に関する重要な事項を含まない事件は、決定で、上告を受理しないことができるようにするとともに、決定手続で処理される事件のうち、法令の解釈に関する重要な事項を含むものについては、高等裁判所の許可により、最高裁判所に抗告をすることができるようにするなど、最高裁判所に対する上訴制度を整備することとしております。
 なお、この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとし、また、現行の民事訴訟法につき所要の整理をし、必要な経過措置を定めております。
 次に、民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案は、民事訴訟法の施行に伴い、民法ほか四十三の関係法律の規定を整備し、所要の経過措置を定めるものであります。
 以上が、民事訴訟法案及び民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の趣旨であります。(拍手)
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 民事訴訟法案(内閣提出)及び民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
○議長(土井たか子君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。貝沼次郎さん。
    〔貝沼次郎君登壇〕
○貝沼次郎君 私は、新進党を代表して、民事訴訟法案の趣旨説明に対し、政府に質問いたします。
 司法は、人権の保障と紛争の解決という二つの役割を担っております。我が国社会経済の発展と行政の肥大化は、国民生活の隅々まで行政の関与、規制が及び、行政と国民のあつれきが多発しております。また、国民相互の法的紛争も増大しており、法による適正な解決を担う司法の役割はますます重要なものとなっております。
 しかし、現実は憲法が期待した理想像とはほど遠い現状にあります。その原因は、我が国政府の小さな司法政策であり、これに甘んじた司法の担い手たる法曹の意識であったと考えます。我が国の司法は、関係予算、法曹人口なども、先進諸外国に比べその規模・容量は余りにも小さなものであります。今般の民事訴訟法改正は、こうした状況を改革するものと私は受けとめております。
 政府は、本法改正の目的は、「国民に利用しやすく、わかりやすいものとし、訴訟手続を現在の社会の要請にかなった適切なものとするため」としています。時間がかかり、利用しにくいと久しく国民から批判されてきた民事裁判の改善は、その目的において国民の期待にこたえるものであり、司法が憲法の理想に一歩近づくものであると評価します。また、内容もほぼ妥当なものと考えております。
 しかしながら、看過できない重大問題もありますので、今後の審議ではぜひとも修正すべしとの主張を加え、質問いたします。
 まず、総括的な重大問題は、公務員の職務上の秘密に関する文書、いわゆる公務秘密文書については監督官庁がその提出を拒否した場合文書提出の義務を負わない、その結果、その文書は法廷に出せない、必要とする当事者が証拠として使えないという点です。
 この点では、マスコミ論調でも一様に反対の主張がなされております。すなわち、「官庁の情報隠しを助長するものだ」、「官庁の特別扱いであり、不当な官民差別、国民軽視だ」、「行政情報の公開は時代の要請であり、時代の流れに逆行する」などです。そのほか、消費者団体や弁護士会などからも同様の意見が寄せられており、この点については、反対意見が国民世論を形成していると言っても過言ではありません。
 また、原子炉「もんじゅ」の資料隠し問題、エイズウイルス感染のHIV訴訟における厚生省の情報文書隠しを見たとき、このような改正では到底国民の支持は得られないと思いますが、政府はどう対処されるのか、答弁を求めます。
 また、欠陥商品・製造物責任訴訟、消費者問題訴訟、公害・環境訴訟、住民訴訟などいわゆる現代型訴訟において、行政官庁の証拠が提出されず事件の真相解明に手間取り、紛争の解決が困難となっている事態が多発しております。こうした事態を直視し、時代と社会の要請にこたえることこそ本改正の目的であったはずです。
 七十年ぶりの改正こそ我が国の民事裁判の未来を決する大改正であることを思えば、後世の批判にたえ得る議論でなければなりません。国民世論反対の中、ごり押しして国民の期待を裏切り、司法改革の芽を摘むことになってはなりません。修正も含めた慎重審議こそ求められていると思いますが、政府の誠意のほどはいかがでしょうか。
 次に、法案の中で公務秘密文書の定義を明確にすべきだという主張です。
 すなわち、文書提出義務を例外的に免れる文書の定義ですから、当事者も官庁も一番関心のあることです。定義の不明確は裁判官に混乱を与え、官庁の権限乱用の余地を残します。
 裁判例による定義では、「公表することによって国家利益又は公共の福祉に重大な損失、重大な不利益を及ぼすような秘密(文書)」とあり、今回の法案では、官庁の公務秘密文書提出拒否要件として、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」となっております。したがって、この法案の概念は提出義務免除の範囲拡大ともとれる広範な内容も含み得るものであります。予定されている情報公開法では、非公開となる行政文書のメルクマールの具体化を図っているようですが、それとの整合性からも重要であります。したがって、公務秘密文書の定義と提出拒否要件とを法律に明記すべきと考えますが、総理の答弁を求めます。
 もし仮に拒否要件が公務秘密文書の定義となるならば、現在の裁判例や学説と異なり、公務秘密文書の範囲が拡大し、提出義務を負う行政文書の範囲は狭くなり、従来裁判所が努力してきた方向性と行政情報公開の流れに逆行するからであります。また、行政文書の提出問題と公務員の証人尋問の場合とは同列で考えるべきでなく、妥当でもないと思いますが、総理、この点もあわせて御見解を求めます。
 次に、法案では文書提出命令申し立てに係る文書が公務秘密文書に当たると裁判所が判断した場合、監督官庁の承認を得ることになっており、提示手続の対象外となっている点です。
 すなわち、裁判所は、他の文書はインカメラという提示手続によって直接に文書を見て判断できるのに、公務秘密文書に限っては見ることができないことになっております。これでは公正な、客観的な判断は到底無理。官庁の情報隠しとの批判にはたえられません。自治体の情報公開条例の場合でも、第三者機関による提示手続のあるところは行政情報の提出がスムーズになされているが、ないところは行政の拒否に遭ってほとんど提出されないのが実情であります。裁判所は国の最も公正な中立機関であり、強い守秘義務も課せられています。したがって、公務秘密文書も裁判所による提示手続の対象とすることは不可欠であると考えますが、政府の御見解を求めます。
 さらに、すべての公務秘密文書について官庁の承認を文書提出のための要件とすることには反対であります。私は、提出義務を免除すべき公務秘密文書は、法に定められた具体的メルクマールに
基づき、提示手続と相まって、裁判所の客観的かつ公正な判断により提出義務の有無を決定すべきと考えます。
 また、公務秘密文書の中には、内閣や国会議員の職務上の秘密や外交・防衛上の秘密など、あるいは裁判所への提示ですら検討を要する機密事項もあるでしょう。しかし、その場合には議院証言法との関連を検討するなど例外規定を考えればよいと思いますが、政府の御見解はいかがでしょうか。
 いずれにせよ、公務秘密文書と文書提出命令との関係を規定する今回の法案部分は、複雑かつ不明瞭であり、情報公開法との関連など極めて不十分な検討であったと思えてなりません。
 また、文書提出義務を負わない文書として「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」、いわゆる自己使用文書が挙げられたことも問題です。この概念のあいまいさが最大の理由となって、裁判の現場で激しい議論となり、混乱が生じていたものです。「専ら」という言葉があるものの、概念のあいまいさをそのまま残した法律は、現場の混乱を解消するものとは言えず、問題の先送りです。政府はこれでも改正だとお考えですか、お伺いいたします。
 もう一つ大きな問題は、弁論準備手続を原則非公開の密室審理とした点です。
 訴訟の争点を早く整理し、法廷では証人調べを集中して行えるようにすることは、書面交換の儀式と批判されてきた法廷のあり方を変えて、審理を促進するものであり、弁論準備手続の効用も少なくありません。しかし、争点及び証拠の整理を目的とする手続とはいえ、準備書面を提出させ、文書の証拠調べもできるとなれば、そこでは単なる当事者間の主張の突き合わせにとどまらず、実際には法律論争を含めた裁判の行方を決めるやりとりのほとんどが終了してしまうことも予想されます。
 その上、当事者以外にも裁判に重大な関心や利害関係を有する場合や国民的関心の高い事件も少なくありません。このような訴訟が公正に行われるためには、国民の監視が不可欠であります。裁判の公開原則が憲法で保障されている理由もここにあります。裁判の充実や審理の促進の名のもとに、不透明な密室の裁判が恒常化するようなことがあってはならないと考えます。裁判の公正を確保するために、公開原則の趣旨は尊重されなければならず、弁論準備手続も傍聴自由を原則とすべきであると考えますが、総理の御見解を求めます。
 最後に、最高裁判所への上告理由が現行より制限され、結果的に当事者救済の道を狭くした点に強い疑問を抱きます。
 なぜ最高裁判所への上告制限を行ったかが不明瞭であります。仮に最高裁判所の裁判官不足ないし負担減を理由とするものであれば、上告制限に賛成することはできません。法による適正な紛争解決の必要性は今後ますます増大するでしょうし、国民の司法への期待もこれに伴って拡大すると思います。法改正の目的が、訴訟手続が時代の要請にこたえるためであるならば、司法の規模・容量を人的、物的に拡大することこそ正しい法改正の方向というべきではないでしょうか。
 総理の御見解を求め、質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣橋本龍太郎君登壇〕
○内閣総理大臣(橋本龍太郎君) 貝沼議員にお答えを申し上げます。
 まず、公務上の秘密文書の定義と文書提出の承認拒絶の要件を法律に明記すべきであるとの御指摘でありましたが、本法律案におきましては、その定義については「公務員の職務上の秘密に関する文書」として、承認拒絶の要件につきましては、文書を提出することにより「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」として規定をいたしております。この定義及び要件をさらに具体化するということにつきましては、行政情報公開のあり方という大きな問題にかかわる事柄であり、民事訴訟手続の場面におきまして現段階で対処することは適当ではないと思います。
 次に、行政文書の提出の問題と公務員の証人尋問の場合を同列で考えることの妥当性についてお尋ねでありますが、現在の民事訴訟法におきまして、公務員の職務上の秘密について尋問する場合に監督官庁の承認を要するとしております。その趣旨は、その事項が公表されることによって公共の利益が害され、または公務の遂行が著しく害されるのは適当ではないということにあると思います。証人尋問と文書の提出は、その方法の違いはありますが、事実が公表されるという意味で実質的に同様であり、文書提出の制度におきましても、公務員の職務上の秘密に関する文書については証人尋問の場合と同様の考慮が必要になると思います。
 弁論準備手続の傍聴につきましては、この法律案は、公開の法廷で争点の整理を行う手続として準備的口頭弁論を設けております。しかし、多種多様な事件の中には、公開の法廷では争点の整理を円滑に行うことが困難なものも少なくありませんので、必ずしも公開を要しない手続として弁論準備手続をも設けております。また、弁論準備手続におきましては、当事者が傍聴を求められる場合には、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると裁判所が認める場合を除いて、その傍聴を許さなければならないこととして、当事者の立場にも配慮いたしております。したがいまして、弁論準備手続の傍聴についてのこの法律案の内容は適切なものだと考えます。
 次に、最高裁判所に対する上告及び司法の規模等の拡大については、今回の改正は、司法の規模等の拡大という御指摘の問題とは別に、最高裁判所に対する上訴の制度を手続面から見直すものであります。上告制度につきましては、憲法判断や法令解釈の統一という最高裁判所の本来の使命を十分に果たしていただくために上告受理という制度を採用するものでありますし、あわせて同様の趣旨から、新たに決定に対する許可抗告の制度をも採用することといたしております。この両者が相まって、時代の要請にこたえ得ると考えております。
 残余の質問については、関係大臣から御答弁を申し上げます。(拍手)
    〔国務大臣長尾立子君登壇〕
○国務大臣(長尾立子君) 貝沼議員にお答えを申し上げます。
 まず、本法律案における公務員の職務上の秘密に関する文書の取り扱いについて、国民の支持を得られないのではないかとの御指摘及びこの点についての国会における審議に関してのお尋ねでありますが、本法律案は、民事訴訟において当事者が十分に主張立証をすることができるようにし、充実した審理を実現するためには、裁判に必要な証拠を現行制度よりも集めやすくする必要があるとの観点から、文書提出命令の対象となる文書の範囲を、現行法のような限定的なものではなく、文書一般に拡大することとしております。
 このように、文書の提出義務を一般化するに当たり、証言義務については、現行法上、職務上の秘密について公務員を尋問するときは監督官庁の承認が必要とされ、承認がない場合には証言を拒むことができるとされていることなどから、公務員の職務上の秘密に関する文書につきましても、その提出について監督官庁の承認を要することとしております。
 このような考え方は、刑事訴訟法における押収、証人尋問などにおいてもとられているところであり、今回の改正は、このような現行制度の考え方の枠内で提出命令の対象となる文書の範囲を拡大することとしたものでありまして、証拠収集手続の拡充について相当の前進が図られているものと考えております。
 御指摘のように、行政情報の公開につきましては、現在、さまざまな議論がされているところで
あると承知いたしております。この問題は、行政情報の公開のあり方という大きな問題にかかわる事柄でありますので、その議論の結果等を踏まえまして、必要があれば、今後これとの整合性を図る見地などから改めて所要の検討を進めてまいりたいと考えております。いずれにいたしましても、御指摘の点につきまして、十分な御審議をいただきたいと考えております。
 次に、公務員の職務上の秘密に関する文書を裁判所の提示手続の対象としなかった理由について御説明いたします。
 本法律案は、ただいま申し上げましたように、職務上の秘密に該当するかどうかの判断は監督官庁がするという枠組みの中で文書提出命令の対象となる文書の範囲の拡大を図ったものでありますので、公務員の職務上の秘密に関する文書につきましては裁判所の提示手続の対象としなかったものであります。
 次に、公務員の職務上の秘密の取り扱いについて、秘密の種類などに応じて例外規定を設けることとすればよいのではないかとの御指摘でありますが、この点につきましては、先ほども申し上げましたように、行政情報の公開のあり方という大きな問題にかかわる事柄でありますので、これについての議論の結果等を踏まえ、今後、必要に応じて所要の検討を進めてまいりたいと存じます。
 次に、いわゆる自己使用文書を提出命令の対象となる文書から除外した理由について御説明いたします。
 いわゆる自己使用文書は、外部の関係のない者に見せることを予定しない文書でありまして、それが後に文書の所持者の意思に反して公表されるとすると、文書の所持者が著しい不利益を受けるおそれがあると考えられます。今回の改正は、文書の所持者が不当に不利益を受けることがないように配慮しつつ文書の提出義務を一般化することとしたものでありまして、これにより、証拠収集手続の拡充について相当の前進が図られているものと考えております。(拍手)
○議長(土井たか子君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
○議長(土井たか子君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後零時四十七分散会
     ――――◇―――――