1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十二年十一月十五日(土曜日)
午後二時三十八分開議
—————————————
議事日程 第五十八号
昭和二十二年十一月十五日(土曜日)
午後一時開議
第一 農地開発営團の行う農地開発事業を政府において引き継いだ場合の措置に関する法律案(内閣提出、参議院送付)
第二 国際電氣通信株式会社等の社員で公務員となつた者の在職年の計算に関する恩給法の特例等に関する法律案(内閣提出)
第三 恩給法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第四 失業手当法案(内閣提出)
第五 失業保險法案(内閣提出)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/0
-
001・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 諸般の報告をいたさせます。
[参事朗読]
昨十四日委員会に付託された議案は次の通りであります。
(内閣提出)漁業法の一部を改正する法律案
水産委員会に付託
(内閣提出)健康保險法及び厚生年金保險法の一部を改正する法律案
厚生委員会に付託
(内閣提出)所得税法の一部を改正する等の法律案
(内閣提出)非戰災者特別税法案
(内閣提出)昭和十四年法律第三十九号災害被害者に対する租税の減免、徴收猶予等に関する法律を改正する法律案
(内閣提出)印紙等摸造取締法案
(内閣提出)持株会社整理委員会令の一部を改正する法律案
以上五件
財政及び金融委員会に付託
(予備審査のため内閣から送付)郵便貯金法案
通信委員会に付託
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/1
-
002・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) これより会議を開きます。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/2
-
003・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 昨十四日内閣総理大臣より、船員中央労働委員会の委員に、明年三月三十一日まで、参議院議員板谷順助君を充てるため、議決を得たいとの申出がありました。右申出の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/3
-
004・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 御異議なしと認めます。よつてその通り決しました。
—————・—————
第一 農地開発営團の行う農地開発事業を政府において引き継いだ場合の措置に関する法律案(内閣提出、参議院送付)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/4
-
005・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 日程第一、農地開発営團の行う農地開発事業を政府において引き継いだ場合の措置に関する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。農林委員会理事大島義晴君。
———————————
農地開発営團の行う農地開発事業を政府において引き継いだ場合の措置に関する法律案(内閣提出、参議院送付)に関する報告書
[都合により第六十四号の末尾に掲載]
———————————
〔大島義晴君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/5
-
006・大島義晴
○大島義晴君 ただいまより、本日の議題となりました政府提出、参議院送付、農林委員会付託にかかわる農地開発営團の行う農地開発事業を政府において引き継いだ場合における措置に関する法律案に関し、その審議経過及び結果の概要について御報告申し上げます。
農地開発営團は、昭和十六年、食糧事情ようやく緊迫せる情勢下、食糧自給の強化をはかるため、大規模な農地造成改良事業を計画的に遂行する目的で、農地開発法に基き、資本金三千万円、うち政府出資一千五百万円の國家代行機関として設立され、爾來現在まで六箇年間にわたり相当の成績を收めてまいつたのであります。
その実績を二、三の数字について見まするに、まず農地開発法による事業においては、農地造成事業が、地区数二百四十七、造成面積田畑合計一万七百八十六町歩、農業水利改良事業が、地区数二十四、受益総面横十五万八千町歩でありまして、次に緊急五箇年開拓計画に基く開拓事業においては、昭和二十年から本年七月までの間に、受拓地区数五百四十五、造成田畑二万八千町歩に及んでいるのであります。
しかるに、國土資源の合理的開発の見地に立ち、眞に恒久的政策として開拓事業を観察するとき、その本來の性質上、やはり政府みずからの責任においてこれを実施する体制を徹底させることが妥当であると思われるし、また一面、御承知のごとく営團という特殊法人は逐次解散され、公團その他の形式に移行している現状にありますので、農地開発営團についても、またこの一般方針に即應して閉鎖機関に指定されたのであります。ここにおいて、農地開発営團の実施し來つた農地開発事業及び緊急開拓事業も、あげてこれを政府に引継ぐことになつたのであります。
しかるに、政府の行う開拓事業に要する土地その他の取得及び処分に関しては、自作農創設特別措置法及び自作農創設特別措置特別会計法の適用を受けるから、政府が営團から引継ぐ土地物件は、あたかもこの措置法によつて買收したと同一の取扱いをするのが妥当であるという点並びに農地水利改良事業については、農地開発法中に受益者負担の制度がありますので、政府引継き後においても同樣の制度を認めていく要があると思われます点、以上の二点の理由に基き、それに伴う所要の規定を設ける必要があるというのが、本法律案提出の理由であります。
以下、その内容の細部についてなお若干の説明を附け加えておきます。
政府が農地開発法第四十四條第一号の農地開発事業で農地造成の用に供されている土地物件または造成された農地で農地開発営團の所有に属するものを譲り受けた場合には、この土地物件または農地は自作創設特別措置法の規定による未墾地買收計画によつて買收されたものとみなされるので、この土地の対價の支拂は、同法第四十三條の規定を準用し、三十箇年以内に償還する証券をもつて行うことができることになり、この規定により政府の発行する証券は、自作農創設特別措置特別会計がこれを負担するのであります。
次に、政府は農地開発営團から農地開発法第四十四條第二号の農地の改良を目的とする農業水利施設の新設、廃止または変更等の事業を引継いで行うときは、この事業の費用の一部を都道府縣に負担させることができ、都道府縣は、さらにこの負担金の一部を、この事業によつて利益を受ける者に、その受ける利益の限度で負担させることができるのであります。
以上をもつて本法律案の要旨に関する説明を終りますが、この際、今後における開拓の基本方針、予算関係、北海道、岩手の拓殖計画等々に関連して農林委員会と政府側との間に行われた質疑應答中の主要なる事項につき御報告申し上げます。
まず第一に、從來の開拓政策の欠陷は、その経営主体が農地開発営團、縣、市町村等にわかれ、統一がなかつたことである、今後は國家の手で強力に遂行してもらいたい、これに対する政府の所見いかんという質疑に対して、今後は基本施設について國家が直轄してこれを行い、実際の開墾については農業者みずからこれを行う方針でいく、また畜産、林業等他の担当部門とも密接な連繋を保ち、総合的計画を立てるつもりであるという答弁でありました。
質疑の第二は、開拓補正予算に関する政府の方針を説明されたいというのに対して、政府の答弁は、予算の一般編成方針に即應し、本年度予算補正は最小限度に止めたが、現在の入植者及び今後の入植者の営農には支障のないようにくふうするというのであります。
質疑の第三といたしましては、北海道開拓方針の変更に伴う機構の改革、運営方針につき説明せられたいというのに対する政府の答弁は、北海道の開拓については、七日以降農林省直轄となり、他の都府縣と同一方式をとることになつた、しかし、北海道開拓の重要性に鑑み、知事のもとに特に局を設置し、そのもとに三つの部を置いて実施するよう準備中である、北海道の現地事情を中央に反映せしめるため、中央・地方の人事交流についても考慮する河川、港湾関係との調整は、委員会を設置して行う、また畜産、林産、農村工業との総合的運営についても、北海道の特殊事情に鑑み十分考慮したいという答弁でありました。
第四に、岩手山麓の開発に関し具体的計画があれば伺いたいという質問に対して、仙台の農地事務局で総合計画を立案中である、農林省所管以外の事項については目下協議中であるとの答弁でありました。質疑應答中の主要なるものは、以上のごとくであります。
本法律案は、九月二日農林委員会に付託せられるや、二十二日提案理由の説明を聽取したる後、予備審査を続行中でございましたが、十一月五日参議院を通過、本院に送付されましたので、十一月十二日政府委員を招致して本法律案に関連する若干の事項について疑義を質したる後、討論を省略してただちに採決に入りました。しかして農林委員会は、農地開発営團は現に閉鎖機関に指定せられ、政府はすでにその業務を引継ぎ着々実施中であるので、対價の支拂方法、経費の負担等に関し細部の規定をつくることは、これを当然の措置であると認め、全員賛成、政府原案の通り可決するに至つたのであります。
以上、農地開発営團の行う農地開発事業を政府において引き継いだ場合の措置に関する法律案を可決するに至つた経過の概要を御報告いたしましたが、御賛成あらんことをお願いする次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/6
-
007・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 採決いたします。本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/7
-
008・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 御異議なしと認めます。よつて本案に委員長報告の通り可決いたしました。(拍手)
————◇—————
第二 國際電氣通信株式会社等の社員で公務員となった者の在職年の計算に関する恩給法の特例等に関する法律案(内閣提出)
第三 恩給法の一部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/8
-
009・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 日程第二、國際電氣通信株式会社等の社員で公務員となつた者の在職年の計算に関する恩給法の特例等に関する法律案、日程第三、恩給法の一部を改正する法律案、右両案は同一の委員会に附託された議案でありますから、一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長小野孝君。
———————————
國際電氣通信株式会社等の社員で公務員となった者の在職年の計算に関する恩給法の特例等に関する法律案(内閣提出)に関する報告書
[都合により第六十四号の末尾に掲載]
———————————
恩給法の一部を改正する法律案(内閣提出)に関する法律案
[都合により第六十四号の末尾に掲載]
———————————
〔小野孝君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/9
-
010・小野孝
○小野孝君 ただいま議題となりました國際電氣通信株式会社等の社員で公務員となつた者の在職年の計算に関する恩給法の特例等に関する法律案及び恩給法の一部を改正する法律案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
まず、両案の内容を簡単に申し上げますと、國際電氣通信株式会社等の社員で公務員となつた者の在職年の計算に関する恩給法の特例等に関する法律案については、さらに連合國最高指令官より日本國政府に対して発せられました覚書によりまして、國際電氣通信株式会社及び日本電信電話工事株式会社の通信事務を政府において引受けることとなり、これに伴いまして、通信事務を行うために必要な両社の職員をそのまま政府職員として採用するのでありますが、これらの職員については、從來の会社において在職した勤続年数に関する利益をそのまま留保させて、一般政府職員と同等の公正な待遇を與える必要があるので、会社退職の際一時退職金の支給を受ける権利を放棄した場合には、それらの者がさらに公務員を退官した際、会社の社員としての在職年数を公務員としての在職年数に通算して恩給の計算をすることとしたものであります。なお退官手当につきましても、閣議決定によつて同樣の措置をいたすこととなつておりますが、これらの措置に伴いまして、会社職員としての在職年数についての恩給金及び退官手当の見返り財源として、大蔵大臣の定める金額を会社から國庫に納付させる必要がありますので、これに関する措置を併せて規定したものであります。
次に、恩給法の一部を改正する法律案でありますが、これは恩給法の実質的な内容の改正ではなく、諸般の制度改正に伴う事務的な改正であります。すなわち第一は、國会職員に関するもので、國会職員の恩給につきましては、前議会におきまして暫定的な取扱いを定めたのでありますが、今回國会職員法等の制定により、その身分取扱いが一般政府職員とほぼ基準を同じくして確定いたしましたので、一般政府職員と同一恩給制度のもとに恩給を給することとしたのであります。
第二は、学校教育制度の改革に伴う改正でありまして、新制の公立の小学校、中学校、盲学校、聾学校及び幼稚園の教育職員につきましては、恩給法における取扱いを從前の公立の國民学校、青年学校、幼稚園、盲学校、聾学校の教育職員と同樣にいたし、また新制の公立の高等学校及びこれに類する各種学校の教育職員につきましては、恩給法における取扱いを從前の公立の中等学校の教育職員と同樣といたしたのであります。
第三は、経済監視官補の新設に伴うもので、新たに設置せられました経済監視官補は、その職務内容及び身分取扱いから見まして、恩給法上警察監獄職員として指定することといたしたのであります。
第四は、裁判官、会計檢査官の懲戒的退職制度の制定に伴うもので、裁判官が裁判官弾劾法により弾劾裁判所の罷免裁判によつて退職させられることとなつた場合及び会計檢査院の檢査官が会計檢査院法の規定によりまして懲戒退職せしめられた場合は、これらのものも一般官吏についての懲戒処分による退職の場合と同樣に、恩給受給資格を喪失せしめることといたしたのであります。
最後に第五は、親任官の廃止、内閣恩給局長が総理廳恩給局長となつたというような官制の改正等に伴う字句の修正に類する改正であります。
厚生委員会におきましては、この両法律案とともに恩給の増額に関する諸般の請願及び陳情を一括議題として、去る十月二十七日より四回にわたつて審議を重ねたのでありますが、この間委員及び政府当局との間に行われました質疑應答のおもなるものを一、二御紹介申し上げますと。
質問 今國会において制定された國家公務員法の規定によれば、「恩給制度は、本人及び本人がその退職又は死亡の当時直接扶養する者をして、退職又は死亡の時の條件に應じて、その後において適当な生活を維持するに必要な所得を與えることを目的とするものでなければならない。」と規定しているが、現在の恩給はきわめて低額であつて、この目的を離るることはなはだしいものがある。この際恩給法を根本的に改正する意思はないか。
答弁 國家公務員法に基く恩給制度の根本的な改革については、今後人事委員会において檢討を加えるが、國家財政との関係もあり、未だ成案を得るに至つていない。
質問 一般恩給の根本的改正はともかくとして、現在最も困窮の状況にある老齢者の恩給について、速急に應急的な措置を講じなければならぬと思うがいかん。
答弁 老齢者について特別の措置を講じなければならぬ必要は政府も痛感しているので、財政その他の事情ともにらみ合わせて、速やかにその実現を期し得るよう一段の努力を拂いたい。
質問 旧軍人軍族の傷病恩給ははなはだしく低額に失するから、これを増額する考えはないか。
答弁 旧軍人軍族の傷病恩給については、一定のやむを得ざる制限があり、厚生年金受給者の問題を解決しないと増額し得ない。厚生年金については、さきに改正の結果増額にはなつたが、改正前の受給者の受給額は増額されておらない。從つて、そのわくに押えられて、旧軍人軍族の傷病恩給も遺憾ながら増額するというわけにいかない実情にある。
かくして審査を終りまして、請願、陳情についてはその採否を後日に譲り、両法律案につきまして、討論を省略して採決いたしました結果、厚生委員会は全会一致をもつて両案とも原案通り可決すべきものと決した次第であります。以上、簡単てすが、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/10
-
011・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 両案を一括して採決いたします。両案の委員長報告は可決であります。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/11
-
012・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 御異議なしと認めます。よつて両案は委員長報告の通り可決いたしました。
————◇—————
第四 失業手当法案(内閣提出)
第五 失業保險法案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/12
-
013・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 日程第四、失業手当法案、日程第五、失業保險法案、右両案は同一の委員会に付託された議案でありますから、一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。労働委員長加藤勘十君。
———————————
失業手当法案(内閣提出)に関する報告書
[都合により第六十四号の末尾に掲載]
———————————
失業保險法案(内閣提出)に関する報告書
[都合により第六十四号の末尾に掲載]
———————————
〔加藤勘十君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/13
-
014・加藤勘十
○加藤勘十君 ただいま議題となりました、政府提出にかかる失業保險法案及び失業手当法案の審議の経過並びに結果を御報告いたします。
両法案は、現下の経済危機突破の総合的な対策として樹立いたしました経済緊急対策の一環として制定を見ることとなつたのでありますが、そのうち失業保險は、新憲法により定められました國民の最低生活の保障の精神に則り、文化國における失業者に対する恒久的な社会施設として、失業した労働者に対し失業保險金を支給するとともに、その就業の促進をはかり、失業者の生活の安定をはかることを目的とするものであり、これに対し失業手当は、失業保險の保險給付が開始せられるまでに必要な六箇月の期間において発生すると予見される失業者に対し失業手当金を支給することを目的とするものでありまして、両者相まつて今後の失業対策の中核をなすものと考えられるものであります。
失業保險制度は、すでに欧米の先進國におきましては三十年以上の歴史をもつており、わが國でも從來しばしば識者によつてその必要が唱道されていたのでありますが、政府は今回遅ればせながら、新憲法の精神に則り、各國の失業保險の長をとり、その調査立案を進めておりましたところ、成案を得たので本國会に提出せられ、労働委員会に付託となつたのであります。しかして本委員会は、九月十六日から十一月十三日に至るまで十二回にわたつて開催し、愼重に審議をいたした次第であります。政府からは片山総理大臣、米窪國務大臣その他の政府委員が出席せられ、眞摯なる答弁、説明があつたのであります。以下、その主要な点を申し上げます。
まず、本法案審議の前提となる政府の経済再建計画、労働政策、産業合理化の基本方針及び完全雇用、失業対策について政府の所信を質しましたところ、政府よりは次のやうな答弁があつたのであります。
第一に、経済再建計画については、組閣後樹立した八項目の経済緊急対策を足場として今後長期の経済再建計画を立て、これに基いて実際的、効果的に諸施策を行つていきたいとの答弁があつたのであります。
第二に、経済再建の基盤たる労働政策については、労働運動の進み方を健全にするとともに、経営協議会の活用によつて労資間の諸問題を解決し、他方事業家が私利私欲にはしらぬようにしたいとの答弁があつたのであります。
第三に、経済再建と関連いたすのでありますが、産業合理化の基本方針については、企業経営上の冗費を省き、生産能率を向上し、從業員の配置転換等により極力経営の健全化をはからせたいが、他方職業・生活の安定の見地から努めて失業者を出さぬようにする所存であるとの答弁があつたのであります。
第四に、完全雇用策、失業対策については、何よりも輸出産業、中商工業等の振興によつて経済の復興をはかつて労力を吸收したいが、完全雇用を果し得ない現実もあるので、やむを得ず出る眞実の失業者に対しては、職業紹介機関運営の効率化、公共事業、職業補導事業、職業指導の充実、失業保險、失業手当の実施等によつて就労の促進と失業時の生活保障をしてまいりたいとの答弁があつたのであります。
次に、本法案の審議に入り、まず本法案を実施するにあたつて予想される諸種の弊害についての政府の所信を質すとともに、從來の退職手当との関係について政府の見解を求めたところ、次のような答弁があつたのであります。
第一に、失業保險は惰民を養成する結果にならぬかとの質問に対し、政府からは、資格期間、待期、受給期間等にそれぞれ限度を設けていること、支給金額と実收賃金との間に相当の差を設けていること、殊に定期的に公共職業安定所に自身出頭して失業の認定を受けることを必要とし、相当の理由なく公共職業安定所の紹介する職業に就くことを拒んだときは給付を制限することとしているので、いたずらにぶらぶらしながら支給を受けるような弊には陷らないと思うとの答弁でありました。
第二に、両法が施行されると、各工場で不必要に人員整理を促進され、いわゆる首切り法律となるのではないかとの質疑に対しまして、政府からは、新憲法下の文化國の失業対策として制定されるものであり、國会に本法案を提出した際における労働大臣談話として発表したごとく、本法が首切りの交換問題になるようなことは嚴に戒め、本法を惡用する業者に対しては反省を求めるとの答弁がありました。
第三に、失業保險金、失業手当金と從來の退職手当との関係については、退職手当は労働者の勤続年限に應じて逓増して支給されるものであり、離職後の生活保障的な意味もあるが、失業保險金または失業手当金とは別個の意味をもつているので、失業保險金または失業手当金の支給を受けることができる者について退職手当を考慮することはしないとの答弁があつたのであります。
続いて、本法案の各條項について詳細に政府の説明を求めたのであります。
第一に、失業保險法案第七條の、政府職員を当然被保險者の中から除外することについては、政府職員各個人別に除外、加入のいかんを決するのではなく、現行の政府職員に対する退職給與の額を実質的に失業保險金の支給額よりも上げることによつて一括して除外する方針であるとの答弁があつたのであります。
第二に、失業保險を労働組合に代行せしめてはどうかとの質問に対しまして、政府からは、失業保險は、失業という政治的、経済的、社会的原因によつて発生する事象を、大数の法則に基き危險を分散して行う保險制度であつて、個々の労働組合においては経営が成り立たない、保險と不可分の関係にある失業の認定と就業の斡旋とが密接に関連し、全國的組織の國営紹介機関である公共職業安定所で行わしめることが適当である、これらの理由から、労働組合に失業保險を代行せしめることには困難があるから、將來の問題として研究したい旨の答弁があつたのであります。
第三に、失業保險金の支給額には扶養家族を考慮してはどうかという質問に対して、政府よりは、失業保險金の支給の基礎となる賃金のうちには家族手当を含むこととしているから、扶養家族の数は支給額の中に考慮されているという答弁があつたのであります。
第四に、失業保險金の支給を受けつつやみ行為をするようなことはいかにして防止するかという質問に対しまして、政府からは、定期的に公共職業安定所に自身出頭して失業の認定を受けることを必要としていることから、かかることは相当程度防止できるが、なおこの点は今後運用にあたつて十分考慮したいという答弁があつたのであります。
第五に、失業の認定方法いかんについて質問がありましたが、これに対して政府からは、失業の認定は公共職業安定所長がするのであるが、その認定の基準については失業保險委員会にも諮つて示したいとの答弁がありました。
第六に、保險給付に要する費用の負担の割合については、政府、事業主、労働者各三分の一を、労働者の負担を軽減するため、政府の負担を十分の四としてはいかんとの意見がありましたが、これに対して政府からは、財政の負担力よりして原案が妥当と考える旨の答弁があつたのであります。
第七に、保險給付に対する不服の申立に対する裁決の方法を從來の社会保險のように煩雑なものとせず、簡易なものにしてほしいという意見があつたのに対しまして、政府からは、單独の失業保險審査官を配置して、簡易迅速に不服の申立を処理し得るようにしてあるとの答弁があつたのであります。
第八に、失業保險委員会については、議案審議の意義及び権限の範囲について政府の所見を質したのに対し、政府からは、委員会は決議機関でなく、民主的運営をはかる諮問機関であるとの答弁があつたのであります。
次に、公益を代表する委員の選出にあたつては、從來の委員会に見られるような偏つた選出方法によらないでほしいという意見に対しまして、政府としては廣く國民的立場から人選をすることとしたいとの答弁があつたのであります。
第九に、第五十三條及び第五十四條に規定している最高一万円または五千円の罰金は、現在のインフレ下低きにすぎると思う、むしろ体刑を科し得ることとしてはとの意見に対しまして、政府からは、通貨の安定した先においては低いとは思われぬし、他の社会保險との振り合いを考えて、この程度で適当だと思うとの答弁があつたのであります。
かくいたしまして、本法案に対する質疑は十月三十日終了し、十一月十四日に討論にはいりましたところ、社会党前田種男君より各派一致の修正意見が述べられ、原案に対する修正議決をした次第であります。その主たる修正点を讀み上げます。
第一に、去る九月一日より施行せられました労働基準法において、労働者が労働の対象として事業主より受けるものはすべて賃金といたすことになつたのに相應し、本法案中標準報酬または報酬を賃金に改め、これに関連して保險金、手当給付及び保險料について規定してある失業保險法案第四條、第五條、第十七條、第三十條、第三十三條、第三十四條及び失業手当法案第五條に所要の修正を加えることといたしたのであります。
第二に、失業保險法案第十四條の被保險者期間については、現在の労働者の実稼働日数を十日以上をもつて一月とすることにし。
第三に、失業保險法案第十七條及び失業手当法案第五條の支給金額に関する規定については、失業保險金または失業手当金算定の基礎となる賃金のきめ方を、各種の賃金の形態に應じて明確に規定し、物価の上昇に伴つて失業保險金額表を改定し得る規定を設けるとともに、失業した労働者の最低生活の保持及び財政上の負担軽減の見地より、若干の減額規定を設けることといたしたのであります。
第四に、同法第十九條の十四日間の待期は失業した日数七日に改めることとし、これに相應して手当法案第七條を修正いたしたのであります。
第五に、失業保險法案第二十一條の給付の制限中に、職業安定法案の第二十條の規定に應じて労働爭議の発生している事業所に受給資格者を紹介したときは、これを正当に拒み得る場合に加えたのであります。
第六に、失業保險法案第二十四條及び失業手当法案第十三條の失業保險金または失業手当金の支給方法及び支給期日に関する規定については、支給の回数及び期日を原則として一週間に一回と明示することとし、
第七に、失業保險法案第四十九條、第五十一條及び失業手当法案第二十五條、第二十六條の規定に関し、「出頭」または「臨檢」等の字句は、新憲法下の法律の文句として適当でないと考え、それぞれ所要の修正を加えました。
第八に、失業保險法の民主運営をはかるべき失業保險委員会の規定を修正して、その権限等を明確にすることといたしたのであります。
第九に、保險給付に重大な関係のある給付の制限の認定基準、失業保險金または失業手当金の支給期日等の変更及び就職のために必要な事項は、必ず本委員会の意見を聽いて定めることに修正いたしたのであります。
第十に、失業保險法案第五十三條、第五十四條及び失業手当法案第二十七條の罰則に関する規定については、労働者災害補償保險法の規定と同樣に、最高六箇月の懲役を科し得ることとし、なお、被保險者に支拂う賃金より保險料を控除したにもかかわらず保險料を納付しない事業主に対しても罰則を適用いたすこととしたのであります。
最後に、本法案審議の経過に鑑み、両法案の実施期日を十一月一日とすることとし、さらに失業手当金の支給に関する失業保險金との調整規定を修正することととしたのであります。
以上、簡單でありますが、御報告を終わる次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/14
-
015・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 両案を一括して採決いたします。両案の委員長報告はいずれも修正であります。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/15
-
016・松岡駒吉
○議長(松岡駒吉君) 御異議なしと認めます。よつて兩案は委員長報告の通り決しました。
これにて議事日程は議了いたしました。次会の議事日程は公報をもつて通知いたします。本日はこれにて散会いたします。
午後三時二十五分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100105254X05919471115/16
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。