1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十六年五月十日(木曜日)
午後二時三十一分開会
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委員氏名
運輸委員
委員長 植竹 春彦君
理事 岡田 信次君
理事 小泉 秀吉君
理事 高田 寛君
仁田 竹一君
山縣 勝見君
内村 清次君
菊川 孝夫君
小酒井義男君
高木 正夫君
前田 穰君
村上 義一君
前之園喜一郎君
松浦 定義君
鈴木 清一君
法務委員
委員長 鈴木 安孝君
理事 伊藤 修君
理事 宮城タマヨ君
理事 鬼丸 義齊君
北村 一男君
左藤 義詮君
長谷山行毅君
山田 佐一君
齋 武雄君
棚橋 小虎君
岡部 常君
一松 定吉君
羽仁 五郎君
須藤 五郎君
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本日の会議に付した事件
○道路運送車両両法案(内閣送付)
○道路運送車両法施行法案(内閣送
付)
○自動車抵当法案(内閣送付)
○自動車抵当法施行法案(内閣送付)
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〔植竹春彦君委員長席に着く〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/0
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001・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) これより運輸、法務連合委員会を開会いたします。前例によりまして私が連合委員会の委員長の職を勤めさして頂きます。どうぞ御了承をお願いいたします。
それでは道路運送車両法案及び道路運送車両法施行法案、自動車抵当法案及び自動車抵当法施行法案を一括して議題に供します。先ず政府より提案理由の御説明をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/1
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002・山崎猛
○国務大臣(山崎猛君) 道路運送車両法案及び道路運送車両法施行法案の提出理由について御説明申上げます。
最近における自動車の発達は極めて顕著なものがありまして、自動車車両は三十八万両を越え戦前の最高両数を遙かに凌駕いたすと共に、その行動はますます長距離且つ高速度化して参つておりますが、その反面車両の老朽化、車両整備の不完全等による車両事故が増大し、又自動車登録においても虚偽の申請が次第に増加している実情であります。現在道路運送車両の保安につきましては道路運送法に規定されてありますが、その詳細は大部分同法に基く省令によつて規定しておりますので行政の民主化を徹底いたしますために省令で規定している事項を法律に規定すると共に、最近の車両事情に即応するため諸外国の例にならい若干内容を改正した上、単行法として道路運送車両法案を提出いたした次第であります。以下簡単に内容を改正した要点について申上げます。第一に自動車の登録制度を整備充実いたしまして自動車の実態把握及び盗難予防の徹底を期しますと共に、この制度を利用して自動車を目的とする私法関係の安全の確保に資したことであります。第三に車両の構造及び装置につきまして、保安上必要な最低限度の技術水準を設定いたしますと共に車両検査制度を整備充実しまして車両の保安を強化することにより、その安全性の確保に資したことであります。第三に自動車使用者の自主的な車両整備に必要な体制の確立を期しますと共に自動車整備事業を認証して、その健全な発達を図ることによりまして車両検査と相待つて、自動車保安の完璧を期したことであります。
なお本決案による検査登録制度を利用しまして自動車の動産抵当制度を実施するために別に自動車抵当法案を提出いたしました。
以上が道路運送車両法案の大要でありますが、この法律を施行するための経過措置を規定する必要がありますので道路運送車両法施行法案を同時に提出いたした次第であります。
以上によりまして二法案の提出理由につきまして御説明を終りますが、最近の車両事情に鑑みまして、この両法律の制定は緊急を要するものと考えますから何とぞ十分御審議の上速かに可決されるようお願いいたします。
次に自動車抵当法案及び自動車抵当法案施行法案の提出理由について御説明いたします。
自動車運送事業の健全な発達及び自動車輸送の振興を図るため、老朽車を速かに新車に改めて車両の保安度を向上することとこれが実現のために金融の円滑化を確保いたしますことは、今日の車両及び金融情勢下において極めて緊要であります。然し現行の金融取引におきましては自動車を担保に供するためには所有権留保又は譲渡担保の形式によるよりほかなく、法律上極めて不備であり取引の安全を害すること甚だしいのであります。この弊を除去するためには現在最も進歩した担保制度として自動車の動産抵当が必要と考えるのであります。動産が担保権の目的となるためには抵当物の同一性が何らかの形で確保されなければならないと共に更に抵当権の存在を示す適当な公示制度が必要であります。先に説明いたしました道路運送車両法による車両検査及び登録割度はこの動産抵当の必須條件を十分に充足するものであるので、道路運送車両法と関連してここに自動車抵当法を制定しようとした次第であります。
以下簡単に自動車抵当法案の骨子について申上げます。第一には、道路運送車両法による登録を受けた自動車を以て自動車抵当権の目的といたしております。第二には、自動車抵当権は物権でありますから民法の物権総則の規定は別に定めるものを除いて当然に適用されますが、民法抵当権に関する規定中採用すべきものは本法に相当の規定を置きました。又、民法の規定中一部のものは自動車抵当制度運用の簡素化を図るために採用をいたしておりません。第三に、自動車抵当法特有の規定としては、前述のように道路運送車両法の自動車登録原簿に抵当権の得喪変更を登録することによつて対抗力を附與いたしたこと。抵当権の実行についての特則等がありますが、何分新しい制度でありますから法律関係はできるだけ簡単にいたして、本制度の円滑な運用を期しております。
以上が自動車抵当法案の大要でありますが、本法施行についての経過措置並びに各種財団制度等との調整について規定する必要がありますので、自動車抵当法施行法案を同時に提案した次第であります。
以上によりまして二法案の提出理由につきまして御説明を終りますが、金融の円滑化を確保し自動車運送事業の発達及び自動車輸送の振興を図りますためには、是非ともこの両法律の制定を必要とするものと考えますから、何とぞ十分御審議の上可決されるようお願いたす次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/2
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003・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) 運輸大臣は只今衆議院の運輸委員会に緊急な要務を帶びておられますので退席なさいますが、別に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/3
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004・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) それじやどうぞ……。
それでは次に本法律案の内容詳細説明を政府側からお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/4
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005・牛島辰彌
○政府委員(牛島辰彌君) 只今運輸大臣から、道路運送車両法案及び同法施行法案、自動車抵当法案及び同法施行法案の提出理由の御説明がございましたが、この四つの法案につきまして更に詳細に私から御説明申上げたいと思います。
お手許に道路運送車両法案及び同施行法案説明要綱、自動車抵当法案及び同法施行法案説明要綱というのが用意してあると思いますがこれを御参照お願いいたします。
最初に道路運送車両法案及び同法施行法案の概要について御説明申上げます。
一般産業経済の復興、諸資材の緩和等に伴いまして最近における自動車交通の復興ぶりは目ざましいものがございます。
自動車の数におきまして、戦前最高の昭和十三年の二一万七千両に対しまして昨年十二月末の数は三十八万七千両となつておりまして毎月一万両近くが増加致しておる状況であります。このほか連合軍関係の自動車も多数運行されておりまして御覧の通りの自動車交通の輻輳ぶりを呈しているのでございます。これらの自動車の中には、バスにおいて最高乗車定員九〇人を越え、トラックにおいて最高積載屯数十屯を越えるようなヂーゼル車やトレーラー附自動車のような大型のものから、二輪及び三輪の自動車、スクーターのような小型のものがありますし、又最新式高速自動車に対し車齢十数年の旧式自動車や代燃車が動いているような実情であります。
車両数が増加し、各種車両が交錯し、スピードが増し、長距離に亘つて行動するようになりますと勢い車両事故も増加して参るのでありまして、昭和二十五年中における事業用自動車の重大事故だけでも八百七十件を数えているような状態であります。
自動車登録の面におきましても、現下の社会経済事情等を反映いたしまして、虚偽の登録申請が次第に殖えて参り、遺憾ながら登録事故が漸増している現状でありまして自動車が殖えれば殖えるほど自動車の実態把握と流通の安全確保の必要性が増大して参るのであります。
以上のような実情でございますから、車両事故及び登録事故を防止して車両の安全性を確保し日進月歩する自動車の発達に即応いたしますことは極めて緊急を要するものと存じます。
このため国の統制的強権力を拡充強化いたすことは極力避け、極めて合理的な沖規律のもとに民主的な行政の運営によりまして保安の目的を達成して行きたいと考えるのでありまして、今回道路運送車両法案を提出致しましたのもこの趣旨でございます。
現在道路運送車両の保安に関しましては道路運送法の第五十四條、第五十五條、及び第五十六條、の三箇條において原則的に規定され、具体的詳細は、同法に基く車両規則、自動車整備工場認定規則、自動車整備士技能検定規則、自動車の指定に関する省令等の諸省令に委任しているのであります。
国民の権利を制限し義務を課します事項等は極力具体的に法律に規定することが民主的でありますので、右の諸省令に規定いたしております事項を法律事項とする必要がありますのと、民主的合理的方法によります車両保安の確保のために、あとに御説明いたしますような事項を法律に規定する必要がありますので、道路運送法第八章車両関係規定の改正を要するのであります。このようにいたしますと條文が極めて厖大になりますので、海上運送法と船舶安全法との関係並びに米国における州際交通法と統一車両法との関係のように、事業監理法規と保安法規との二つの法体系に分離いたす方が妥当であると考えまして道路運送法の全面改正を機会に、單行法としての道路運送車両法案を提出いたした次第でございます。以下本法案におきまして改正いたしました事項を中心としまして、法案の要点を御説明いたしたいと存じます。
第一章総則におきましは、本法の目的、本法中に使用される用語の定義及び自動車の種別を規定いたしております。
第一條本法の目的は、道路運送車両の安全を確保いたしまして公共の福祉を増進することにあるのでありますが、この目的の規定の中に本法の構成及び要点を示しております。即ち第一に所有権の公証でありますが、これは自動車を目的とする所有権を第二章に規定いたしております自動車登録原簿に登録することによりまして行政上(実態把握盗難予防)及び民事上(所有権の得喪変更の対抗力附與)の目的を達成いたすということであります。第二に安全性の確保と申しますのは、車両の構造及び装置が運行に耐えるために必要最少限度の安全性を有することを確保することでありまして第三章保安基準、第四章整備、第五章検査、第七十八條自動車分解整備事業の認証等において規定されております。第三に、整備についての技術の向上ということは車両の安全性を増進するために整備技術の向上を促進することでありまして、第五十五條の自動車整備士の技能検定、第九十四條の優良自動車整備事業者の認定、第九十五條自動車整備振興会等において規定されております。第四に、自動車の整備事業の健全な発達ということは、自動車整備士の技能検定制度(第五十五條)、自動車分解整備事業の認証制度(第七十八條)、優良自動車整備事業者の認定制度(第九十四條)、自動車整備振興会の法規制等によつて自動車の整備事業の健全化を期したことであります。
次に法案の第三條及び第三條の関係でありますが、現行法におきましては、原動機付自動車は自動車として取扱われておりますが、それに対する法規制を緩和して実情に即応いたしますために自動車の範囲から分離独立させました。従いましてこの両法におきまして道路運送車両と申しますのは、従来の自動車及び軽車両と原動機付自動車に区分されるのであります。
第二章について申上げます。第二章は自動車の登録制度に関する規定であります。現行法におきましては、道路運送法第五十六條に基きまして車両規則の第四節第四十條乃至第四十四條に規定されているのでありますが、これをできるだけ詳細に法律に規定いたしますと共に、従来自動車の登録が、自動車両数、分布状態等の実態把握を主たる目的といたしておりますのに対しまして本法におきましては登録に完全な権利の証明及び車両検査合格の証明となるような効力を附與いたしまして登録制度の役割を拡張したのであります。このため本法におきましては次のような新らしい方法によりまして登録の正確を期し制度の目的達成を図つたのであります。
その第一に、自動車の実態把握、盗難予防、安全性の維持等の行政目的のために、第四條の非登録自動車の運行禁止、第十二條乃至第十五條の各種登録の強制等に関しまして規定いたします。これと同時に登録の手続といたしまして、例えば第六條の一両一用紙、第二十一條の登録原簿の保存等、第三十二條の登録原簿謄本等の緒規定を置きまして、不動、及び船舶の登記手続に準じまして、第五條におきまして自動車登録に対しまして不動産及び船舶の登記に匹敵する登記的効力を與えまして、私法制度における安全の確保の手段といたすと共に後に御説明申上げます自動車抵当制度創設の途を開いたのであります。第三に、第十九條におきまして自動車登録番号標の表示制度を規定いたしておりますが、現行法によります車両番号標が車両検査に合格した証明のみでありますのに対しまして登録番号標はその証明と共に正当な所有権を有する証明といたしたのであります。第三に登録制度の目的達成のために第十七條におきまして、その検認制度を規定いたしたのであります。即ち、登録自動車の所有者は行政庁が公示又は通知する期間内に自動車及び自動車検査証を行政庁に呈示しなければなりません。第四に、第十一條の自動車登録番号標の交付制度及び第二十五條乃至第二十八條自動車登録番号標交付代行者の制度を採用いたしておりまして、この標板の適正を確保したことであります。標板の行政庁交付制度は米国等において実施されておりますが、本法におきましてはこの国家事務の信託に堪えうる適正な者に対して標板の販売業務を代行させる新らしい制度を加えたのであります。第五に、第二十九條から第三十二條におきまして、自動車の同一性を表示する手段であります車台番号及び原動機番号の打刻及びその保存につきまして明確に規定いたしました。自動車の登録に登記的効力を與えますためには、打刻の厳正は絶対に必要となるのであります。第六に、第三十七條及び第三十八條におきまして登録に関する訴願の前位手続といたしまして異議の申立制度を採用し、事務処理の迅速化とその民主化を期した次第であります。
第三章は、道路運送車両の構造、装置及び性能につきまして保安上必要最少限度の基準を規定したものでありまして、この基準に適合しなければ道路運送車両を運行することはできないのでありますが、この基準に従いまして第四章に規定されております道路運送車両の整備及び第五章に規定されております道路運送車両の検査が行われることによりまして、車両の安全性が確保されるのであります。現行法におきましては車両の保安基準の規定はすべて車両規則に包括的に委任いたし、その第六條乃至第二十三條の三に具体的に規定されているのでありますが、本法におきましては現行規定と同じような保安基準の必要項目につきまして具体的に規定いたしました。併しその内容につきましては、日進月歩いたします道路運送車両の発達に即応するため、法律に国定いたしませんで省令に委任することとしております。なお第四十六條の保安上の技術基準の原則の規定は、本法において、道路運送車両の保安基準を規定したのは、道路運送車両の安全性確保の目的だけでそれ以外には何ものもないという意味であります。道路運送車両の発達は、車両生産が活溌化し、それを随所に使用いたしまして公共の便益を増進することであります。従いまして運輸大臣が運輸省令で定めます保安基準は、不必要な制限を加えて車両の使用による道路運送の発達及び車両生産者の創意工夫による車両生産の発達を阻害するものであつてはならないことは当然でありますので、このことに関しまして注意的に規定いたしたものであります。次に第四章について申上げます。第四章は道路運送車両の整備についての規定であります。車両は前章に規定した保安基準に適合しないと、運行の用に供することができませんから、その使用者は常に車両を整備して置かなければなりません。現行法におきましては、第五十五條に車両の使用者に対し整備をすべき義務、行政庁に対し整備命令権の附與及び行政庁に対し整備命令違反者に対する強制措置権の附與を規定し、具体的事項は車両規則第三十五條乃至第三十九條及び第四十七條に委任いたしております。本法におきましては、使用者の自主的整備に重点を置きまして、次の諸点につきまして、新に規定を加えました。第一に第四十七條の規定によりまして運行開始前の仕業点検により日常整備の完璧を期することであります。第二に自動車使用者の自主的整備体制の充実のために、第四十八條整備の技術基準による勧告制度第五十條乃至第五十三條の整備管理者制度及び第五十六條の自動車車庫に関する勧告制度を設けたことであります。整備管理者の制度は、乗車定員十一人以上の自動車即ち、バス型車両の使用者、自動車運送事業者又は十両以上の自動車使用者に対し、車両整備励行に関する責任者を選任せしめ、その技術者としての良心に信頼しまして自動車の自主的整備を確保いたしたものであります。なお整備技能の向上を図りますため、自動車整備士検定規則によつて実施いたしておりました整備士技能の任意検定制度を第五十五條に法定事項として規定いたしました。次に第五章について申上げます。第五章におきましては、道路運送車両の安全性を確保するため国の行う手段として、当該車両が第三章に規定する保安基準に適合しているかどうか、その使用者が使用の権利を有するかどうかを確認いたすための車両検査について規定いたしております。道路運送車両は、第五十八條及び第七十三條に規定いたしますように、その使用の本拠の位置を管轄する行政庁の行う検査を受け、その検査証の交付を受けなければ連行の用に供することは出来ません。現行法におきましては、第五十四條に原則を規定いたし具体的規定は、車両規則に委任いたしております。本法におきましては、第五十八條新規検査、第六十二條継続検査、第六十三條臨時検査及び第六十四條において自動車を分解整備した場合に受ける分解整備検査についてそれぞれ規定すると共に、車両の検査証に関しまして第六十條、第六十一條及び第六十六條乃至第七十條に極めて具体的詳細に規定いたしております。併しその内容は、自動車の分解整備検査の規定を加えたこと及び原動機付自転車を自動車より分離して検査を簡單にしたことのほかは現行と全く変りがないのであります。次に自動車の保安及び使用効率の向上並びに使用者等の利便の増進を目的として、自動車の指定に関する省令に基きまして現在行なつております自動車の型式指定制度につきまして第七十五條に規定いたしました。自動車の型式指定制度は、申請の自動車の構造、装置及び性能が保安基準に適合し、且つ均一性を持つております場合、その型式を指定し、第五十九條第二項新規検査の省略、第七條第三項新規登録の場合の自動車呈示の省略等の効果を與えまして自動車製作者、自動車使用者等の便利を図つた制度であります。次に現在車両規則第二十六條によつて行なつております使用前の自動車即ち商品自動車に対する予備検査の制度に関しまして、その手続その他を詳細に第七十一條に規定いたしました。この制度は、自動車の所有者の申請により車両検査を行い、保安基準に適合する場合は自動車予備検査証を発行し、これにより自動車の新規検査の手続の省略を受けることができるのでありまして、所有者の自動車販売を円滑にいたすと共に新所有者、使用者の便益を図つたものであります。なお原動機付自転車が自動車の範疇から分離されたことによりまして、その検査は旅客軽車両の検査と同様に第七十三條第一項におきまして都知事または市町村長の権限となつております。次に第六章について申上げます。第六章は自動車の整備事業に関する規定であります。自動車の保安を確保いたしますためには、その保定基準を定め自動車使用者の整備及び国の車両検査を完全正確に行いますと共に、自動車整備を業といたします整備事業者の体制を確立することが同時に必要であります。現行法におきましては、自動車整備事業に関する法規制として前に申し上げました自動車整備士技能検定規則に基く自動車整備士の検定制度、及び自動車整備工場認定規則に基く整備工場の認定制度の二つの任意制度があるだけでありますので、自動車の保安確保上、片手落と言はざるを得ません。本法におきましては、第六十四條第一項本文によりまして、自動車を分解し整備した場合は使用者はその都度車両検査を受けなければならない建前になつておりますが、この検査の実施は現在の車両検査設備及び車両検査要員を以てしてま到底不可能でありますから、自動車分解整備事業者に国に代つて分解整備検査を正確に行わしめる体制を考える必要が生ずるのであります。又最初に申上げましたような車両事情即ち整備不良に基く車両事故の頻発、自動車の高速度化に基く保安向上の必要性、老朽自動車の増加に基く分解整備の必要性の増大等に鑑みましても、自動車使用者の全面的委託を受けて整備作業を行います分解整備事業者の体制を確立いたすことは緊急事であります。過般のアジア及び極東経済委員会におきまして、自動車整備体制の遅れているアジア諸国においてはこれが体制確立のため特段の措置を講ずべきであることを決議いたしております。本法におきましては、整備技術の特殊性に応じまして、第七十七條で自動車分解整備事業を普通自動車分解整備事業、小型自動車分解整備事業及び電気自動車分解整備専業の三種類に分類いたし、次のような事項を法律に規定いたしております。
第一に第七十八條、第七十九條、第八十條及び第八十四條の事業認証に関する規定であります。自動車分解整備事業を経営しようとする者は、第七十八條第一項によりまして事業の種類及び分解整備完成検査を行う事業場ごとに陸運局長の認証を受けなければなりません。認証と申しますのは、国の検査に準ずる完成検査を適正に施行し得る最低限度の技術上の能力を有するかどうか、及びその事業場が完全な分解整備を行い、且つ完成検査を施行するために必要な最低限度の設備を有するかどうかを純粋に技術的、物理的に確認いたすと共に、依頼自動車を信頼して管理させ得るかどうかについて、最低限度の欠格要件に照して形式的に確認し、その結果要件を具備するものであるときは、表示等の方法により自動車使用者その他一般に対し、自動車の保安の見地から国が行政上証明するものであります。この認証は、第八十條に規定する認証基準に従つて行われるのであります。
第二に第九十條におきまして、自動車分解整備専業者が分解整備を完了したときは、その自動車について国に代つて完成検査を行わなければならないことを規定すると共に、その完成検査の責任を明確にして安全性の確保上遺憾のないようにするため検査主任者の制度を定め、その選任方法、監督方法等について第八十五條乃至第八十八條に規定いたしております。検査主任者の完成検査が終つた自動車に対しましては第六十四條第一項但書によりまして国の分解整備検査が省略されます。
第三に第八十一條事業内容変更の場合の届出義務、第八十二條事業者の相続、又は合併及び第八十三條の事業の譲渡の規定を設けますと共に、一般自動車使用者の便利のために第八十九條で分解整備事業者の標識表示の義務を規定し、実態把握、行政監督のために第九十一條におきまして分解整備記録簿備付の義務を規定いたし、更に第九十二條及び第九十三條におきまして設備が技術基準に適合しない場合の保安命令並びに事業継続の適格性を欠くに至つた場合の事業の停止及び認証の取消湾関しまして規定を設けました。これらの規定は、整備事業の健全な発達を図り且つ完成検査の代行等のごとき民主的な方法により、行政上の保安目的を達成するためのものでございます。又整備技術及び整備設備の質の向上を図りますために運輸省令の自動車整備工場認定規則に基きまして自動車整備工場の認定制度を実施いたしておりますが、二十三年八月規則施行以来本日までに三百六十六工場について確定をしております。本法におきましてはこの制度を第九十四條に規定いたしましたが、実施の要領は従前通りでございます。
なお、第九十五條に自動車整備振興会に関する規定を設けましたが、これは民法第三十四條による公益法人でありまして、自動車整備の設備の改善及び技術の向上を図り自動五整備事業の全体のレベルを向上せしめるための法的措置でございます。自動車整備振興会の活動は事業者団体法の範囲内に限られるのでありますが、自動車整備の向上及び事業の発達に役立つものと考えております。
第七章雑則は、前各車の規定に対する補充規定を列挙したものであります。第九十七條、登録自動車に対する強制執行等は、登録自動車であつて軽自動車及び二輪の小型自動車以外のものが第五條の規定によりまして不動産的な取扱を受けることになりましたので、その強制執行及び競売につきまして不動産及び船舶に準じた取扱によるための規定であります。第九十八條は、自動車登録番号標、自動車登録の検認票、臨時運行許可番号標等を偽造、変造などを行いますと、本法の目的達成を阻害いたしますから刑法の公文書偽造の罰に準じて罰則を課する必要があるので本條に規定したのであります。第九十九條は、工場敷地内、飛行場、岸壁等道路以外の場所のみにおいて自動車を使用する場合の保安基準を定めたものであります。第百條は実情把握の長も端的な方法であります報告徴收及び立入検査に関する規定であります。行政の公正と国民の権利の保護を期しますための民主的規定としまして、第百一條、一般に対する運輸大臣の告示の義務、第百三條、聴聞の制度、第百四條、訴願の規定があります。第百二條におきましては、登録その他に要する経費に対する受益者負担の適正化及び国の財源確保のための手数料に関することを規定いたしております。第百五條は職権委任の規定であります。本法に基く行政処分はすべて国の事務でありますが、事柄の重要度に応じまして陸運局長に対し職権を委任し、又は更に陸運局長の権限を都道府県知事に委任することとしたのでありますが、現行法の第四條第三項の規定に相当するものでありまして現行と殆んど変りありません。ただ原動機付自転車が自動車より分離されましたことに伴いまして、その行政庁が都の特別区以外の区域、及び道府県においては市町村長になりましたこと(第五十七條、第七十三條検査)と、自動車の臨時運行の許可権限庁が現行は都道府県知事でありますが、本法におきましては、申請者の便利のために都道府県知事、市長、特別区の区長及び政令で定める町村長となつたことであります。
第八章の罰則は、前各章の規定の励行を確保いたしますために各種の刑罰及び行政罰に関して規定いたしました。第百十一條は、いわゆる両罰規定でありまして、一般の行政法規にありますように、行為の主体のみならずその使用主に対しても罰金刑を課しまして、使用主の監督の励行を図つたものであります。
附則におきましては、本法施行の日を規定いたしましたが、本法を一般に周知さす期間、法律によつて委任された命令の制定を準備いたす期間等を考慮いたしまして七月一日を施行期日といたしております。ただ本法におきまして、新たに軽自動車及び二輪の小型自動車以外の登録自動車に対しまして不動産的な取扱をするようにいたしましたので、登録内容を再確認してその真正を期しますための期間、新らしい民事的効力を附與したことを一般に周知徹底させるための期間等、その、円滑な実施のためには相当の準備期間を必要といたしますので、本件に関する第五條並びに第九十七條第一項及び第三項の規定は、昭和二十七年四月一日から施行することといたしました。以上を以て道路運送車両法の御説明を終ります。
次に道路運送車両法施行法案でありますが、これは、本法実施のために関係法令を廃止又は改正いたすと共に、現行法に基く処分の経過措置等に関して規定いたしたものであります。
第一に道路運送車両法におきまして、従来車両規則等の省令で規定されておりました事項を極力法律事項といたしましたので、第一條はそれからの省令を廃止いたしたのであります。第二、道路運送車両法におきまして、原動機付自動車を自動車から分離いたすと共に、自動車登録番号標交付代行者の指定(道路運送車両法第二十五條—第二十八條)、自動車の車台番号及び原動機番号の打刻(道路運送車両法第二十九條—第三十二條)、自動車車庫についての勧告(道路運送車両法第五十六條)、自動車の使用に係る整備管理者等(道路運送車両法第五十條—第五十三條)、自動車整備士の技能検定(道路運送車両法第五十五條)、自動車整備事業の認証(道路運送車両法第七十八條—第八十條)及び優良自動車整備事業者の認定(道路運送車両法第九十四條)を新たに法律に規定いたしましたので、それに伴いまして第二條により、運輸省設置法の関係箇所を整理いたしました。第三に、現行法に基く処分の経過措置に関するもので第三條乃至第十六條の規定がこれに相当いたします。即ち自動車の登録に関する第三條及び第四條の規定、臨時運転の許可に関する第五條の規定、自動車の検査に関する第六條及び第七條の規定、原動機付自動車に関する第八條の規定、旅客軽車両の検査に関する第九條の規定、自動車整備士技能検定に関する第十條の規定、自動車の指定に関する第十一條の規定、自動車整備工場の認定に関する第十二條の規定、車両番号標及びその封印に関する第十三條乃至第十五條の規定、臨時運転許可証、臨時車両番号標、車両検査証等に関する第十六條の規定でありまして、それぞれ旧法による処分を新法による処分とみなすことと規定したものであります。第四に、新らしく規定されました事項に関しまして猶予期間等を規定いたしたのでありまして、第十七條乃至第二十二條の規定がこれに当ります。即ち、道路運送車両法施行の際、現に自動車の車両番号標の販売を業としている者に関する第十七條の規定、整備管理者の選任に関する第十八條の規定、道路運送車両法施行の際、現に自動車分解整備事業に相当する事業を経営している者に関する第十九條の規定、検査主任者の選任に関する第二十條の規定、手数料の免除に関する第二十一條の規定及び陸運局長の自動車登録番号標の交付及び購入に関する第二十二條の規定であります。第十七條におきましては六カ月、第十八條乃至第二十條におきましては一カ年の猶予期間を認めております。第二十一條は、旧法による登録の確認の意味の新規登録に対しまして手数料を免除する規定であります。第二十二條は、予算その他の関係で当分の間、陸運局長の自動車登録番号標の交付及び購入の事務を行わない旨の規定であります。附則は法律施行の目を定めておりまして、昭和二十六年七月一日を施行の日といたしております。
以上によりまして短路運送車両法案及び同法施行法案の御説明を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/5
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006・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) ちよつと速記を止めて下さい。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/6
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007・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) それでは速記を始めて下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/7
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008・牛島辰彌
○政府委員(牛島辰彌君) 自動車抵当法案及び同法施行法案の概要について御説明申上げます。
最近におきます自動車輸送の復興の状態は極めて目ざましいものがあるのでありますが、現下の経済情勢下におきまして事業資金調達等金融面に関しましては関係業者は非常な努力を要するのでありまして、これが救済策として金融円滑化のための制度を法律化いたしますことは自動車輸送の健全な発達のために緊急事であるのでございます。自動車抵当制度の創設を必要といたします第一の理由は車両更新の促進ということであります。自動車は消耗率が大きく物理的耐用年数が短いものでありますから、これを適切に更新いたしませんと燃料費、整備費等が激増しまして事業の収支が不健全になりますと共に、老朽車両は往々事故の原因となりますので安全性の確保が困難となつて参るのであります。併しながら新車を購入いたしますときにその代金を自己資本によりまして即時拂をすることは自動車運送事業者の現状におきましては殆んど不可能に近いのでありまして、月賦による方法と購入資金借入の方法とが考えられるのであります。昨年七月調査によりますと運送事業用車両は殆んど百%、自家用車両はその過半数が月賦販売によつております。現在の月賦販売制度におきましては、販売業者は、債権の担保として車両の所有権を保留しつつ現車の使用は買主に委ね、月賦金を完済したときに初めて所有権を買主に讓る方法をとつているのでありますが、自動車は動産でありますので、所有者はそれを占有しない限り即時取得、先取特権の効力等によりましてその所有権を失う虞れがありますから極めて不安定であります。この欠陷を除去いたしますために、現在の最も進歩した担保方法であります抵当権の設定を自動車に対しても可能にいたしますことが強く要望されるのであります。次に車両購入資金の借入の方法といたしまして、現在所有している自動車の使用はそのままとして、その所有権を銀行等、債権者に譲渡し債務完済後再び所有権を取戻す方法いわゆる譲渡担保の形式が用いられております。併しながらこの譲渡担保の方法も、自動車が動産であります限り前の月賦販売制度による方法と同様な欠陥があるのでありまして、自動車抵当制度が要望されるのであります。
自動車抵当制度の創設を必要といたします第二の理由は、運転資金等の資金確保を容易にするということであります。自動車運送事業者の固定資産のうちその約八〇%は自動車でありまして、それを担保として資金を調達いたします場合は前にお話いたしました讓渡担保の方法をとつているのであります。従いまして確実迅速且つ簡易な担保方法といたしまして自動車抵当制度が要望されるのであります。現行法上、動産に抵当権の設定が認められておりますのは、農業動産信用法によります農業用動産と、商法の規定(商法第八四八條)によります船舶のみでありまして、自動車にそれが認められていない理由は適当な公示の方法がなかつたからであります。然るに今回の道路運送車両法によりまして自動車抵当制度実施の必要條件が十分に充足されることになりました。即ち自動車の登録制度は二十三年道路運送法の施行と同時に実施しておりますので実際の運営も次第に整備されて参つたのでありますが、道路運送車両法におきましては既に御説明いたしましたように、自動車の車台番号及び原動機番号の打刻及び保存につきまして明確に規定し(道路運送車両法第二十九條—第三十二條)自動車の同一性の把握を容易にいたしますと共に、自動車登録の手続を更に整備充実することによりまして、道路運送車両法第五條におきまして自動車登録に対して自動車の所有権に関する公力示を與え、自動車を不動産的に取扱うようにしたのであります。この登録制度を抵当権の公示方法として利用することによりまして動産抵当として自動車抵当制度の実施が法律的に可能となつたのでございます。
以下法案の内容につきまして御説明いたします。第一に、この法律の制定の目的について第一條に規定しておりますが、これは自動車抵当制度の必要な理由につきまして御説明いたしましたように、自動車抵当制度を創設いたしまして、車両更新の円滑化及び資金調達の確保を図ること、従つてそれによりまして自動車運送事業発達と自動車輸送の振興を図るということであります。
第二に自動車抵当権の意義及び性質であります。自動車抵当権は物権、即ち一定の物を直接に支配して利益を受ける排他的権利でありますが、民法に定める物権でなく民法第百七十五條にいいますところの他の法律即ち自動車抵当法により創設せられた物権であります。抵当権は、民法第三百六十九條第一項に規定いたしておりますように、債務者又は第三者が、占有を移さないで債務の担保に供しました目的物に対しまして、債権者が他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける権利でありますから、本法第四條におきましても、自動車を対象といたします動産抵当権であります自動車抵当権につきまして民法と同様な内容について規定したのであります。抵当権と債権との根本的な相違は、前者にありましては、目的物を引続き担保権設定者の占有にとどめるのに反しまして、後者にありましては、目的物を担保権者に現実に引渡しますか或は少くとも第三者に占有せしめまして、担保権設定者が自らこれを現実に占有上得ないのであります。(民法第三百四十二條、第三百四十四條、第三百四十五條)なお抵当権の不可分性及び物上代位性につきましては、あとで御説明いたします。第三に自動車抵当権の設定でございます。第二條及び第三條は自動車抵当権の目的となり得る自動車を規定したものであります。軽自動車及び二輪の小型自動車は物理的に小さく簡易に過ぎますので、事実と公示との符合を確保することが困難でありますのでこれを除いておりますが、これは、船舶が二十総トン以上のものに限られる(商法第六百八十六條、第六百八十七條、第八百四十八條)のと同じ理由であります。又抵当権の公示方法といたしまして、道路運送車両法によります自動車登録を利用いたします関係上、同法による登保を受けていない自動車は抵当権の対象となり得ないのであります。なお法律関係の錯綜を防止いたしますために、第二十條におきまして抵当権の対象となり得る自動車を質権の目的とすることはできないことを規定しております。抵当権を設定し得る債権に関しましては農業動産信用法のごとき制限を設けておりません。自動車抵当権は他の抵当権と同様に契約のごとき意思表示だけで設定することができるのでありまして、これは民法第百七十六條によるのであります。例えば質権の設定が目的物を質権者に引渡すことを必要としている(民法第三百四十四條)のと異なるのであります。第九條に規定いたしておりますが、抵当権の設定は自己の債権ばかりでなく他人の債権を担保するためにも可能でありまして、この場合抵当権設定者が債務を弁済し、又は抵当権の実行によりまして抵当自動車の所有権を失つたときには、債務者に対して求償することができるのであります。この規定は民法第三百七十二條におきまして準用する第三百五十一條質権の物上保証人の求償権の規定と同じ趣旨でございます。前に申しましたように、自動車抵当権の設定は意思表示だけで可能でありますが、抵当権の取得、喪失及び変更に関しまして第三者に主張いたしますためには、第五條に規定しておりますように自動車登録原簿に所定の登録を受けなければならないのであります。
第四は抵当権の効力についてでありますが、おおむね條文の順位に従いまして御説明いたしたいと存じます。
(一)第四條の規定によりまして、抵当権者が他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受け得ることにつきましては抵当権の性質として御説明申上げた通りでありますが、更に第十五條によりまして、抵当権者は抵当自動車の代価で弁済を受けられない債権残額につきまして、他の債権者と同様に抵当自動車以外の一般財産から弁済を受けることができるのであります(第十五條第一項)。又第十五條第二項は、抵当自動車の代価に先立つて一般財産の代価の配当を受けられますときには、抵当債権者は債権全額で配当に加入し得ることを規定しております。併しこの場合一般債権者の保護を図るため、第十五條第三項は、一般債権者は抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる旨を規定しております。即ち抵当権の実行によりまして弁済を受け得ない債権の不足部分につきまして供託金から弁済を受けるのでありまして、供託金になお余りがあります場合は一般債権者に分配されるのであります。第十五條は民法第三百九十四條に相当する既定であります。
(二) 次は第六條に規定いたしております抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲でありますが、これは民法第三百七十條に相当するものでございます。抵当権は、抵当自動車自体と共にその効用を確保するために附加して一体となつている物、例えばシートのごとき従物(民法第八十七條)に及ぶという規定であります。併し同條但書によりまして抵当権設定行為におきまして別の定めをすることもできますと共に、債務者が抵当自動車に物を附加させたために債務者の一般財産が減少して一般債権者の権利を詐害いたすような場合には、自動車抵当権の効力はその附加物には及ばないのであります。
(三) 次は第七條に規定いたしております抵当権の不可分性でありますが、これは民法第三百七十二條によります民法第二百九十六條の準用と同じ趣旨のものであります。例えば債務者が債務の半額を弁済いたしましても、債権者は後の債権のために抵当自動車の全部の上に抵当権の効力を及ぼすことができる規定でありまして、債権担保の効力を強固にするためのものであります。
(四) 次は第八條に規定いたしております抵当権の物上代位でありますが、これは民法第三百七十二條によります民法第三百四條の準用と同じ趣旨のものであります。抵当権は、抵当自動車の譲渡、貸付、滅失又はき損によりまして抵当権設定者が受けるべき讓渡対価、賃貸料及び賃貸借の権利金、保険金及び損害賠償金その他に対します請求権の上にも及ぶのであります。
(五) 次は抵当権の順位に関します第十條及び第十一條の規定であります。第十條は民法第三百七十三條に相当する規定でありますが、同一の自動車に対しまして数個の抵当権が設定されましたときの抵当権の順位は、登録の前後即ち対抗力を具備した時期によるということであります。なお登録をしていない抵当権者は第三者に対抗する効力を持ちませんから、他の登録のあります抵当権者に対しまして先順位を主張できないばかりでなく、一般債権者に対しても優先権を主張することはできません。第十一條は抵当権と先取特権の順位を規定したものでありますが、動産抵当権であります自動車抵当権は動産質権と同等以上の保護を受けるべきでありますことは当然でございますから、動産質権の先取特権に対します順位関係を踏襲したのであります。即ち自動車抵当権は、民法第三百三十條第一項に既定いたします第一順位の先取特権でありますところの不動産賃貸、旅客宿泊及び運輸の先取特権と同一の順位としたのであります。
(六) 次は第十二條に規定いたしております被担保債権の範囲でありますが、これは民法第三百七十四條に相当するものでございます。抵当権者が約定利息その他の定期金(例えば賃借料)を請求する債権を持ちそれも抵当権によつて担保されております場合に、抵当権実行のとき抵当権の及び得る範囲を満期となりました最後の二年分に制限いたしまして、二番抵当権者のように抵当自動車について正当な利益を持つております第三者を保護する規定でございます。同條第二項によりまして遅延利息に対しましても同様な制限を受けるのであります。
(七) 次は抵当自動車の第三取得者の保護の規定でございます。第十三條は代価弁済でありまして、民法第三百七十七條に相当する規定であります。例えば六十万円の債権の担保となつております自動車を五十万円で買う第三者があります場合、抵当権者が買主に対しましてその代価を請求し買主がこれに応じて弁済する制度であります。債権残額十万円は無担保債権として存続しますが抵当権はこれによつて消滅するのでありまして、この制度は抵当権者と第三取得者とが共にこの結果を欲した場合のものでありますから、抵当権者も第三取得者も好都合であるわけです。第十四條は民法第三百九十一條に相当する規定でありまして、抵当自動車の第三取得者が抵当自動車の価値を維持するために、例えば日常整備費等の必要費及び例えば自動車改良費等の有益費を支出いたしましたときは優先的にその費用の償還を受けることができるのであります。
(八) 次は抵当権の実行に関します第十六條及び第十七條の規定であります。自動車抵当権の目的とすることのできます自動車は道路運送車両法によります登録自動車で軽自動車及び三輪の小型自動車以外のものでありまして(第二條)、その対抗力は自動車登録原簿への登録に対して附與されているのでありますから、道路運送車両法によりまつ消登録があつた場合にはそのときかう抵当目的物も対抗力もなくなる理窟でありますが、これでは抵当権者に対しまして酷でありますから保護規定を置く必要があります。第十六條の前段は抵当自動車につきまして道路運送車両法第十五條によるまつ消登録の場合の規定でありまして、車両法第十五條第一項各号に規定しておりますように、登録自動車が滅失し、解体し又は自動車の用途を廃止したときと、当該自動車の車台が変つて自動車の同一性がなくなつた場合におきましては、抵当権者は先に御説明いたしました物上代位権を発動することができるのでありますが、そのために必要な差押を確実にいたすために陸運局長の抵当権者に対します通知義務を規定したのであります。第十六條後段及び第十七條は道路運送車両法第十六條によります任意まつ消登録の場合の規定でありまして、道路運送車両法第十六條の規定によりまして、登録自動車を運行の用に供することをやめまつ消登録を申請いたしましたときは、自動車の同一性はそのままでありますから第八條によります物上代位権の発動は不可能でありますので、特に抵当権者の保護を規定したものであります。第十六條後段は陸運局長の通知義務を規定し、第十七條第一項は、右の通知があつた場合は抵当権者は債権の弁済期到来前でも直ちに抵当権を実行することができることを規定したのであります。第二項によりましてこの実行着手可能の期間は通知を受けた日から三箇月に限定し所有者の利益を保護しております。第三項に陸運局長のまつ消登録処分の保留を規定いたしましたのは抵当目的物及び対抗要件の喪失を防止するためであります。更に第四項は、裁判所の競落を許す決定が確定いたしましたときは、任意まつ消登録の申請がなかつたものとみなして競買人に移転登録をすればいいことにしたのであります。元来ならば一たんまつ消登録を行い更に競買人の新規登録を失するのを簡便にしたのであります。抵当権実行の手続に関しましては、不動産に準ずることとしまして、道路運送車両法第九十七條に規定いたしております。
なお、この新制度の円滑な運用のために、絶対必要な法律関係以外のものは成るべく省略して、登録内容等の簡素化を図りまして、民法第三百七十五條及び第三百七十六條の抵当権の処分(抵当権者がその抵当権を他の債権の担保としたり、自分より順位のあとの人に順位を讓つてやる方法)、民法第三百七十八條乃至第三百八十七條の條除(抵当権の対象となつている不動産を買つた人が抵当権者に一定の金額を支拂つて抵当権を消滅せしめる方法)、民法第三百九十二條、第三百九十三條の共同抵当における特則(一つの債権の担保として数個の不動産の上に抵当権を設定した場合において、同時にその代価を配当するときは債権の負担を按分とし、或る不動産の代価のみを配当したときは次順位の抵当権者に抵当権の代位を認める方法)。等の法律関係は本法に援用しておりません。
第五は抵当権の消滅でございます。抵当権は、被担保債権の消滅、競売の完結、目的物の滅失(物上代位権を行使しない場合)、代価弁済(第十三條)、混同(民法第百七十九條)、目的物の收用(物上代位権を行使しない場合)等によつて消滅するのでありますが、第十八條及び第十九條は抵当権の消滅に関します特殊の事項を規定いたしたものでありまして、民法第三百九十六條及び第三百九十七條に相当する規定であります。第十八條は自動車抵当権の時効消滅の規定であります。抵当権は債権を担保する目的を以て存在する権利でありますから、債務者及び抵当権設定者に対しては、被担保債権か民法第百六十七條第一項の規定によつて消滅時効にかかるまでは時効によつて消滅しないことを規定したのでありますが、抵当権の消滅時効は民法第百六十七條第二項の原則によりまして二十年でございます。なお債務者及び抵当権設定者以外の者例えば、次項位の抵当権者又は抵当自動車の第三取得者に対します関係では、被担保債権が消滅時効にかからなくとも抵当権だけが單独で消滅時効にかかるのであります。第十九條は、取得時効によります自動車抵当権の消滅を規定いたしたものであります。民法第百六十二條第一項の規定によりまして、二十年間占有の意思(所有者として占有する意思)を以て、平穏(占有を取得又は保持するために法律上許されない強暴の行為をしないこと)且つ公然(占有を取得又は保持するために特にこれを秘して世人の目に触れないようにしないこと)に他人の自動車を占有した者は、時効によつてその所有権を完全に取得するのでありますから、その自動車の上の他人の抵当権を消滅するのでありますが、本條は、債務者又は抵当権設定者がたとい時効取得に必要な占有状態を継続しても(例えば物上保証人が提供した抵当不動産を債務者が時効取得する場合)、これによつて自動車抵当権は消滅しないという点に意義があるのであります。最後に附則におきましては本法施行の日を規定いたしましたが、本法施行のために必要な道路運送車両法の関係條文、即ち登録自動車の所有権の得喪の対抗力に関します第五條、登録自動車に対する強制執行等に関します第九十七條第一項及び第三項の施行の日が昭和二十七年四月一日になつておりますので、それに本法も一致させますために昭和二十七年四月一日を施行の日としたのであります。これは道路運送車両法の施行期日について御説明申上げましたように、自動車抵当権の対象となります軽自動車及び二輪の小型自動車以外の登録自動車の登録内容を再確認してその真正を期しますためめ期間、新しい制度でありますから一般に周知徹底されると共に役所がその実施の準信を致します期間等、相当の準備期間を要するからであります。次に自動車抵当法施行法案でありますが、これは自動車抵当法実施のため関係法令を改正いたすと共に現に各種跡目等に属しております自動車に対します経過的措置等を定めたものであります。
第一に、軽自動車及び二輪の小型自動車以外の自動車は、道路運送車両法におきまして不動産的取扱を受け、自動車抵当法によりまして抵当権の対象となるようになりましたから、それが鉄道抵当法によります鉄道財団工場抵当法によります工場財団等の組成物件になります場合にも不動産と同じような取扱いにいたしたものであります。第一條は鉄道抵当法の改正でありまして、「不動産」に対します「自動車」、「不動産の登記」に対します「自動車の登録」、「管轄登記所」に対します「管轄陸運局長」等を鉄道抵当法の関係規定の中に加えたのであります。第二條は工場抵当法の改正でありまして、第一條の鉄道抵当法の改正と同じ趣旨であります。ただ工場抵当法に第十三條の二を加え、道路運送車両法による自動車で軽自動車及び二輪の小型自動車以外のもの、即ち不動産的取扱を受ける自動車は、自動車登録原簿に登録を受けなければ工場財団に属することができない旨を規定いたしましたのは、工場抵当法第十二條におきまして、工場財団を組成すべき土地又は建物について所有権保存の登記を義務づけておりますことに対応したのでありまして、これも右の自動車を不動産的に取扱うことから出たのであります。
なお鉱業財団抵当、漁業財団抵当及び自動車交通事業財団抵当については、工場抵当法の規定を準用し(鉱業抵当法第三條、漁業財団抵当法第六條及び自動車交通事業法第四十七條)、軌道財団、抵当及び運河財団抵当については鉄道抵当法の規定を準用している(軌道抵当ニ関スル法律第一條、運河法第十三條)から本條と同じような規定を別に必要としないのであります。
第二、自動車抵当法によりまして新に自動車が抵当権の目的となるようになりましたので、自動車の動産抵当につきましては農業動産信用法による必要もなくなりましたし私法関係の錯綜を防止する意味もありまして、自動車抵当はすべて自動車抵当法によることとしたのであります。これが第三條によります農業動産信用法施行令の改正であります。
第三に、自動車抵当法施行の際に、各種財団の組成物件となつております自動車農業動産信用法によりまして抵当権の目的物となつております自動車及び質権の目的となつております自動車に関します必要な経過措置を規定いたしております。
第四條は、自動車抵当施行法の際鉄道財団に属しております自動車に関するものでありまして、その自動車が道路運送車両法による登録を受けるまでは当然動産として取扱いまして、改正前の鉄道抵当法の規定を適用するのでありますが、道路運送車両法による登録を受けました場合は不動産的取扱となりますので、鉄道抵当法におきましても改正後の規定が適用されることとなるのであります。本條第二項以下の規定は、現在財団の組成物件となつております自動車が登録自動車となつた場合の取扱方法を規定いたしたものでありまして、第二項及び第三項によつてその自動車は財団目録に表示の変更が登録されると共に、第四項及び第五項によつて鉄道財団に属する旨が自動車登録原簿に登録されるのであります。これによりまして自動車抵当法の円滑な施行が期し得られるわけでございます。
第五條は、自動車抵当法施行の際に工場財団、鉱業財団等の財団の組成物件となつております自動車につきましても、鉄道財団の組成物件となつております場合と同様に取扱うのが当然でありますから、第四條によります方法を準用したのであります。
第六條は、自動車抵当法施行の際、農業動産信用法によりまして抵当権の目的物となつております自動車に関する規定であります。第三條によります農業動産信用法施行令の改正によりまして、軽自動車及び二輪の小型自動車以外の自動車は農業動産信用法による抵当権の対象とはなり得ないのでありますが、現に対象となつておりますものにつきましては適正な調整をいたす必要があるのでありますので次のような方法によつたのであります。第一條によりまして二箇月の猶予期間を置いてありますが、抵当権設定者が道路運送車両法によります自動車登録原簿に登録を受けた場合は、抵当権者が右の期間内にその自動車が農業動産信用法による抵当権の目的となつている旨の登録を自動車登録原簿に受けますと、自動車抵当法によります抵当権とみなされるのであります(第二項、第三條、第四項)。若し二箇月以内に抵当権設定者がその自動車につきまして道路運送車両法によります登録を受けない場合は、抵当権者は直ちに抵当権を実行することができるのであります(第五項第六項、第七項)。
第七條は、自動車抵当法施行の際、現に質権の対象となつております自動車に関する規定であります。自動車抵当権の目的となり得ます自動車は、自動車抵当法第二十條によりまして質権の目的となこることを禁ぜられておるのでありますが、現に質権の対象となつておりますものにつきましては適正な調整をいたす必要がありますので、二箇月の猶予期間を認め、その期間内に質権の目的となつている旨を自動車登録原簿に登録を受ければ、質権の効力が存続するとしたのであります。
第四は、自動車抵当権の登録は私権の登記と同様でありますので、登録税を徴収する必要がありますから、第八條によりまして登録税法を改正したのであります。その税額は農業用動産抵当の登記の場合の登録税と同額であります。
第五は、自動車抵当法によります自動車抵当を社債の物上担保とする途を開き、運送事業者等のために相当長期の比較的多額の資金確保を図りますために、第九條におきまして担保附社債信託法の改正を行い船舶抵当の次に自動車抵当を規定したのであります。
最後に附則は法律施行の日を定めております。施行法は自動車抵当法実施のための法律でありますから、自動車抵当法施行の日即ち昭和二十七年四月一日を施行の日としたのであります。
以上によりまして自動車抵当法案及び同法施行法案に関しまして御説明を終りますが、よろしくお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/8
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009・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) それでは次に古谷専門員から報告をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/9
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010・古谷善亮
○専門員(古谷善亮君) お疲れのところ恐縮でございますが、御審議の御参考になるような事項を一、二申上げておきたいと思つております。詳しい御説明は只今局長からいたされましたので重複するような部分は一切避けますのでございますが、これは先ず道路運送車輌法について申上げますと、八章百十二條及び附則という尨大なものでございますけれども、先ほど御説明の通り省令に従来規定してありました部分まで繰入れられてありますので、従来とその点におきましては内容におきましては先ず変りはないというような部分が非常に多いのでございます。ただ例えば條文を御覧頂きますと條文の二十九ページには自動車の構造という規定がございまして、これが一、二、三、四とずつと項目が挙がつております。車両規則におきましては、これらの項目、その次の四十一條の自動車の装置というのがございますが、これらも一、二、三とずつと列挙してございますが、省令におきましてはこれらの内容の規定があるのでございます。従いまして、私が調査いたします際に、政府にいろいろお伺いをいたしたのでありまするが、それらのことはいずれ又省令で以て書かれるのだそうでございます。従つて法律と省令と合併になりましたけれども、やはり省令で以て残る部分があるということを一つお含みおき願いたいと思います。同様に一例を申上げておきますが、六十九ページをお開け願いますというと優良自動車整備事業者の認定というのがございますが、これにつきましてもこれは只今の認定工場という規則でございますが、これにつきましても恐らくやはり、この認定をいたします場合の手続等は、又再び手続の省令が出るものと心得ます。この附則によりますと、そういう省令は一応廃止されることになつておりまするけれども、やはりこの法律の実施のためには必要な手続省令は出るものだというふうに考えてよろしかろうと思います。
それでなお私どもこれを見ましたときに、どうせ全面改正されるのならば、この際もう少し従来の事故防止その他の点から考えまして、そういつたような法律の規定に書きたいというような事項が二、三ございました。それらの点、まあ例えて申し上げますというと、エマージェンシー・ドアというようなもの、或いはエキゾオースト・パイプのようなもの或いはフレーム・ハイトの寸法といつたようなものを、これほど細かく法律ができるのならばいつそ書いたらどうかというようなことを考えたのでございますが、これも政府当局にていろいろ調査を進めて参りますというといずれさようなことは省令で書かれるのだそうでございます。その点をお含み置き願いたいと思います。
それからこの法律は全体として見まして、前半が登録の規定になつておるのでございますが、この登録の規定は実は前からも登録というものはあるのでございます。今回は殊に民事的効力を付與したということが大きな新らしい改正の要点でございまして、この次お話申上げようといたしまする抵当法案と相待ちまして、まあ今度の自動車三法案を通じまして、大きな改正の狙いと申しまするか新らしい思想と考えられます。なお御審議の準行に伴いまして細かい点で御参考に申上げたほうがよろしかろうと思われる点は、その際に譲りまして、本日お疲のところでございますから車両法につきましてはこの程度にいたします。
抵当法について少し申上げます。この法律案は個々の自動車を抵当権の目的となし得る途を開いたのでありまして、まあ陸運法規といたしましては新らしい思想でありますので、我が民法におきましても動産抵当の例外を設けたということになりますので画期的なものと見ることができようと思います。従いまして政府当局におかれましても、この法律案を立案されるに当りましては相当前からいろいろ準備研究をされたようでありまして、この間の事情をよく承知いたしております。で、自動車を抵当権の目的となし得るということにつきましては、現行の一体制度があるのかないのかと申しますというと、現行の法制といたしまして農業動産信用法というものがあるのでございます、これは昭和八年の二月二十九日法律第三十号。それで我々専門員といたしましても法務委員会の調査員のかたの御紹介で関係の向へ参りましていろいろ調査をやつて来たのでございます。で農業動産信用法の場合におきましては実は自動車の抵当はあまり活用されておりませんでした。これは当局の御説明では農業経営の用に供する自動車購入資金の貸付につきましては先取特権を有しておりますので、まあその法律の反射的効果といたしまして抵当権を設定するまでの必要を認めない方がいいだろうというようなことを申されておりました。そこで今回は自動車につきましてかような抵当権の制度ができたのでございまするが、抵当権の通則といたしまして物が特定しなければなりませんし、物の移動が行われました場合にもそれに遡及して物権的効果を持つものでなければならんのでありまするが、それには抵当権の目的となる物権につきまして同一性を確保するということが絶対に必要となるわけでございます。この点がこの制度を創設するに当りまして先ず重要な点の一つであろうと考えます。この点につきましてはこの法案におきましては念入りに研究をまとめられたのでありまして、従来の登録制度を根本的に整備いたしまして不動産の登記の場合と同様、これに民事的効力を持たせることにいたした次第であります。この自動車抵当法案におきましては主として抵当権の意義、効力等について規定しておりますが、この抵当権はこの法律でもつて創設されました抵当権でありますので、まあ此法と別固の抵当権という意味合で民法と同趣旨の規定を置いてございます。御審議の御参考にその條文を申上げますから若し何でしたならばお書取を願つても結構だと思います。二ページから始まりますから、法律案の二ページの第四條は民法の三百六十九條、第五條が民法の百七十七條、第六條が民法の三百七十條、第七條が民法の三百七十二條によつて準用いたしておりまする二百九十六條でございます。第八條が同じく三百七十二條で準用いたしておりまする三百四條、第九條が同じく三百七十二條で準用いたしておりまする三百五十一條でございます。第十條が民法の三百七十三條、一條飛びまして第十二條が三百七十四條と同趣旨でございます。第十三條が三百七十七條、第十四條が三百九十一條、第十五條が三百九十四條、それからずつと後になりまして七ページに移りますが、七ページの第十八條が三百九十六條、第十九條が三百九十七條でございます。これで民法の抵当権を凡そこの自動車の抵当権に援用いたしまして、一般に援用いたし得る法律を殆んど全部拾つたようなことになつておりますが、でありますからして例えば土地建物だけについての抵当権といつたようなものは自動車に関係はございませんのでこれを取つておりません。自動車の抵当権に援用し得る実益のありまする規定を取つておるのでありますが、ただここで抜けておるのがございます。それを申上げておきます。その一つは抵当権の讓渡、同じく相対的拠棄、それから順位の譲渡、順位の拠棄に関するものでありまして、これは民法の三百七十五條、つまり簡単に申上げますと、讓渡と拠棄に関する規定が抜けております。それから次は民法の三百七十八條以下約十箇條に亘つておりますが、滌除に関するもの、これが抜けております。次は民法の三百九十二條の代価配当に関する規定でございます。この三項目が或いは自動車のこの場合におきましても適用いたしてはどうかと一応考えられるもので抜けておるものでございますが、これはまあ私ども一応研究いたしましたところを更に立案当局の政府について確かめたのでございますが、自動車により垂すところの金融取引が短期の取引を原則とする人情や、この法規を運用いたしますというと附記登録や代登録をしなければならない。従つて規定を不必要に複雑にする、而もそれだけの実益に乏しいといつたような事情を勘案されまして、まあ最初の制度でもありますので、必要と認めます範囲にこの規定をきめたものと考えます。政府のほうも同様の御意見でありまして、同じくやはり民法以外の抵当権で交通関係に鉄道抵当法というものがありますが、鉄道抵当法におきましてもやはり同様に考えられるような場合には必ずしも民法の規定を全部載つけてはおらないのであります。この自動車抵当の方が多いのでございまして鉄道抵当権の場合の方がまだ少いくらいなんでございます。従いましてこれで一応援用いたして差支ないものと私どもは一応考えておるわけでざいます。
只今申しました民法の條文との対照におきまして申上げるのを落し條文が二つございますから、これを最後に申上げておきます。その一つは二頁の第五條の二項でございます。「前項の登録に関する事項は、政令で定める。」これと同趣旨の規定が農業動産信用法の第十三條にございます。つまり農業動産信用法におきましても、こういう特別のこういつたいうな抵当権に関する登記は政令でやつておりまして、農業動産信用登記令というものが別にございます。それから第十一條でございますが十一條で先取特権との順位の規定がございます。これは農業動産信用法の十六條と同じでございます。以上現行法との対照を申上げまして、御審議の御参考に供しました次第でございます。なお御審議の進行に伴いまして又御参考になるようなことがありましたら申上げます。
なお私はこの法案が議せられるに当りましていろいろ政府の立案当局のかたと質疑応答をやつております。これは公式のものではございませんので政府のほうでも相当不用意にいろいろ私との間に話を交して頂いたわけでございますが、従つて私の発言いたしましたことについて、政府側におきまして若し補正しなければならないことがございましたら、どうぞ御遠慮なく委員長に御発言を願いまして御訂正になつて結構であります。
以上簡単でありますが今日はこの程度で……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/10
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011・植竹春彦
○委員長(植竹春彦君) では合同委員会もこの程度で散会いたします。
午後三時四十六分散会
出席者は左の通り。
運輸委員
委員長 植竹 春彦君
理事
岡田 信次君
小泉 秀吉君
高田 寛君
委員
山縣 勝見君
内村 清次君
菊川 孝夫君
小酒井義男君
高木 正夫君
前田 穰君
松浦 定義君
鈴木 清一君
法務委員
委員長 鈴木 安孝君
理事
伊藤 修君
宮城タマヨ君
委員
長谷山行毅君
齋 武雄君
棚橋 小虎君
岡部 常君
国務大臣
運 輸 大 臣 山崎 猛君
政府委員
運輸省自動車局
長 牛島 辰彌君
運輸省自動車局
業務部長 中村 豊君
事務局側
常任委員会專門
員 古谷 善亮君
常任委員会專門
員 岡本 忠雄君
常任委員会專門
員 長谷川 宏君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101013828X00119510510/11
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