1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十六年三月二十八日(火曜日)
午後一時二十八分開会
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本日の会議に付した事件
○結核予防法案(内閣提出・衆議院送付)
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001・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) それはは只今から厚生委員会を開会いたすことにいたします。
本日は結核予防法案を議題といたすわけでございますが、この結核予防法案は、御存じのように政府におきましても、私たち厚生委員会におきましても、社会保障制度の実施を日本がいたしますことにつきましての一環の問題といたしまして、非常に重要に思つておりますので、愼重に審議をいたしたいと存じておる次第でございますが、私今日はこの審査のためその途の権威者でいらつしやいますところのお三方をおいで頂きまして、種々御経験の御意見を拜聴させて頂くことになつておるわけでございます。お三人のかたがたを最初に皆さんにお見知り願います。社会保障制度審議会委員の武見太郎さんでいらつしやいます。御苦労様でございました。財団法人結核予防会、結核研究所所長の隈部英雄さんでいらつしやいます。御苦労様でいらつしやいました。東北大学名誉教授の熊谷岱蔵先生でいらつしやいます。御苦労様でございます。お三人のかたがたはお忙しいところ、又御遠路のところを今日は私どものためにおいで頂きまして、本当に御苦労様でございました。有難うございます。つきましてはこのたびの結核予防法案につきましていろいろ御意見の御説明を雑誌を通じまして発表になつておりますしいたしますときでございますので、一応それらの批判に対しまして、厚生省側におきましての本法案に対しまする、結核予防に対します厚生省の態度そのほかにつきまして先ず御意見を承わらして頂きたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/1
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002・黒川武雄
○国務大臣(黒川武雄君) 只今政府が御審議願つております結核予防法案及び同法案に基きまして二十六年度以降実施を計画しております結核対策は、昨年第七国会において衆参両院とも全員一致を以て可決されました結核対策の強化についての決議の線に副つたものでありまして、全国民の要望に応えた、民主的な立法及び施策であると確信いたすものであります。そればかりでなく、昨年社会保障制度審議会よりなされた社会保障制度に関する勧告からも多大の指針を与えられたものでありまして、結核予防法案に盛られた種々の規定も、大綱におきましては右の勧告に合致するものと考えております。勿論政府の施策も国家財政に制約されております関係上、結核予防のために万全を期したものではなく、国家財政の向上と相待ち今後改良すべき点も少くないのであります。従つて政府の施策に対する国民の真摯な批評は十分に拝聴し、これを取入れるにやぶさかでないのであります。併しながら本日問題とされつております批判の中には保健所整備の不十分な点の指摘と、一部につきましては政府としても更に努力を要する点もあるのでありますが、全般的には政府の施策に対する誤解が多く、私どもといたしましては甚だ了解に苦しむものであるのでございます。今回の結核対策は法案の総則にも謳われております通り、結核の予防によつて公共の福祉を増進することを目的としたものでありまして、政府といたしましては社会保障制度確立へ一歩前進したものとして、全国民の協力を切に期待するものであります。どうか皆様におかれましても政府の意図するところをお汲み取り下さいまして、御理解ある御審議をお取計らい下さるようお願いいたす次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/2
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003・山下義信
○山下義信君 只今政府の所見を伺つたのでございますが、非常に大まかな御説明でございまして、問題になつておりますることについての御見解を承わるに対しましては余りに茫漠としておるように思います。前回の厚生委員会で問題に相成りましたのは、有馬委員、松原委員、谷口委員並びに本員等からいたしまして、政府のとらんといたしておりまする結核予防対策に関して、世上いろいろこれに批判を加えますのはもとより当然でございますが、併しその中に最も顯著に現われました批判といたしまして、具体的に雑誌文芸春秋に掲載された、本日参考人として出席を煩わしました武見太郎君のこの論文に対して、政府は如何なる見解をとるかという点が問題に相成つたのでございます。従いまして右の武見君の論文中には具体的に批判せられた点が多々あり、又政府の結核対策について幾多国民に疑問を持たせるような点もあるのであります。それらに対して具体的に政府はその批判を無言で承認するのか、どう考えておるのかという点を承わりたい。従いましてその政府の所見に対しましては、この席に武見君を煩わしたのでございまするから、又武見君の御意見も当委員会として拜聴いたしたい。関連いたしまして、例えばBCGの有效、無效という議論がございますれば、その道の権威者の隈部氏も御出席でございまするので、この席で承わりたい。私どもはこういう問題に対しまして、我が国の学術の上において最高の議論、或いは科学の上におきまして有益な議論が国会に持ち込まれて議論せらるることをかねてから望んでおつたのでございまして、この機会にそういう問題について具体的に政府並びに民間の権威者の議論を承わりまして、本案の審議に資したいと、かように考えたのでございますので、願わくば文芸春秋に書かれましたる武見君の公開状ともいうべき政府対策に対する批判について、具体的なる政府の見解を承わつて、続いて参考人の御意見を聞くように議事の進行をお諮り願いたいし、併せて政府の具体的な所見を承わりたいと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/3
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004・山口正義
○政府委員(山口正義君) 只今山下委員から御指摘がございました今回の論文につきましての具体的な事項につきまして、私から政府当局といたしましての見解を申上げたいと存じます。
第一に申上げたいと存じますのは、在来政府がとつて参りました結核対策が、我が国の結核予防上或いは治療上全然無效であつたかのように御指摘になつておるのでありますが、細かい数字を一々取上げて御説明申上げるのを省略さして頂きたいと思いますが、大きく考えて見ましても、我が国の結核死亡率というものを考えて見ますと、人口一万人に対する死亡率は戦時中約二十、或いは二十を少し越す二十二、三、又終戦間近の統計でございまして、やや正確を欠く憾がないとは言えないのでございますが、二十八という数字も出ておるのでございますが、併しながらその後結核の死亡率は逐次減少して参りまして、昭和二十四年には人口万対一六・九、昭和二十五年には人口万対一四・七というようなところまで下つて来ておるのでございます。なお戦時中から結核対策の重点を特に青少年層に置きましたために、青少年層の結核死亡の減少が特に顕著に現われて来ておると思うのでございます。なお又結核対策全般を特に強力に取上げました石川県におきましては、青少年の結核死亡は、もとより全年齢層における結核死亡が顕著に減少して来ているのでございまして、これらの数字或いは死亡率の趨勢等を見まして、従来とられて参りました結核予防対策というものが、決して我が国の結核予防上全然用をなさなかつたのであるというようなことは、私どもとしては考えられないというように存ずるのでございます。又戦時中の昭和十二、三年頃からの我が国の結核対策の総本山が軍事保護院であるというような御指摘も、私どもといたしましてはそういうふうには到底考えられないのでございまして、私どもといたしましては、勿論軍事保護院関係の結核対策もいろいろ強力に策を施されたのでありますが、国民全般に対して結核対策、先ほど申上げました特に青少年に対して重点を置いて、いろいろ工場或いは学校その他に対しましても強力に結核対策を実施して来たと、そういうふうに考えているのでございます。
それから今回の法案で考えておりますような健康診斯を広汎に実施するということが、果して現在の能力で可能であるかどうか、不可能であるという御指摘でありますが、併しながら昭和二十五年度におきまして保健所の健康診斯実施状況は前年度と同様に、大体一千万人実施いたしております。そのほかに都道府県自身がレントゲン自動車その他の施設を利用いたしまして実施いたしました健康診断の数が五百万人分ございます。従いまして千五百万人程度の健康診断を従来実施したわけでございます。従いまして今後各施設の強化等によりまして、又その実施の運営を調整する等のことによりまして、現在の私どもの企図いたしております健康診断の人員は十分賄い得るという見通しを持つているのでございます。又世界的に承認されないいろいろの方法を、法律の力で強制するというお話でございます。これは後刻それぞれ本日専門のかたがたにおいで頂いておりますので、御意見を伺えるかと思うのでございますが、政府といたしましてはBCGによる結核予防は、BCGの問題は、昭和十二年に学術振興会の第八小委員会で取上げられまして、爾来昭和十八年に至りますまで三十有余人の各学者のかたがたが、それぞれの立場におかれて研究された結果、有効であるというふうに認められまして、それに基きまして私ども本法制定以前よりBCGの予防接種による結核対策を実施して来ているのでございますが、我が国のみならず、ヨーロツパにおきましてもスカンジナビア・レツドクロス、ユニセフ、W・H・Oクロアチア、これらが協力いたしましてヨーロツパの各国に広汎にBCGの接種による結核予防対策を実施しているのでございまして、決して我が国だけの特技であつて、我が国だけが一人よがりにそれをやつているというふうには考えていないのでございます。それからツベルクリン反応の検査、或いはBCGの予防接種というようなこと、或いは健康診断、そういうふうなことにつきまして開業医のかたがたを全部関与させないような方策をとるというようなお話でございますが、これは非常な誤解であると存じているのでございます。今回の法におきましても、一般の開業医のかたがたのやられる予防接種、或いは健康診断をこの法に基くものとして取扱つて、一般の国民が自発的に、自分から進んで健康診断を受け、予防接種を受けるということを法的にはつきり有効なものとして取扱つて行くというふうに考えているのでございます。BCGの検定の問題、或いは乾燥BCGの効果の問題につきまして、それぞれ主管の局長も見えておりますので、御説明願えるかと存じますが、私どもといたしましては、BCGの製造検定につきましては、学者のかたがたの御意見を十分伺い、それに基いて制定されました基準に従つて製造検定を得ましたものを実施に移しているのでございまして、私どもはそういう点につきまして、BCGが有効であるということを確信して実施いたしております。いろいろ御批判がありますが、私どもは非常に誤解があるのではないかと、そういうふうに考えているのでございます。
なお御指摘の中に療養所の運営方針、特に国立療養所かとも存じますが、治療方針が、中央官庁の指示に従つて、それよりほかに出ない、医師の自由意思を許されないかのようなふうに示されているのでございますが、又療養所に全然患者の治療の統計がないかのようなお話でございますが、これらにつきましては医務局もお見えになつておりますし、私どもの聞いております、私どもが医務局長と連絡いたしておりまして承知しておる範囲におきましては、かかる事実はないというふうに聞いております。又胸廓整型術に対して一々奨励金を出しておるというようなお話でございますが、これも私ども医務局のほうと連絡いたしまして承知いたしております点によりますと、胸廓整型術といたしますれば、いろいろ資材、器材、その他の損粍が多く出ますので、それを支給しておられるというので、決して奨励金を出しておるというふうなことはないというふうに承わつているのでございます。
保健所の問題につきましては、先ほど大臣からも申し上げました通り私ども現在の保健所の整備状況が、必ずしも満足の状況にあるとは考えていないのでございまして、この点につきましては、私ども今後保健所そのものの増設拡充と、或いは保健所の医師の充足というようなことにつきまして、先般来御審議願いました来年度の予算の中にも、保健所の増務拡充或いは医師に対する研究費の支給というようなことによりまして、保健所の拡充、或いは機能の増設強化を図つて行かなければならんと、そういうように考えているのでございます。この点は私ども今後大いに努力しなければならない点であるとそういうふうに考えているのでございます。
以上山下委員の御指摘によりまして、今回の論文に示されました主な点につきまして政府の見解を申述べました次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/4
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005・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) なお補うところがありましたらどうかおつしやつて下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/5
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006・山下義信
○山下義信君 今の公衆衛生局長からやや詳細な所見が発表されましたが、問題の中心であるBCGの効果の問題については、政府部内にも専門家がおるので、具体的な説明をしてもよろしいということでありましたから、その点をなおこの際説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/6
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007・有馬英二
○有馬英二君 議事の進行について、只今山下委員から御発言がありましたが、その前に私が、武見君の論文に書かれておるように予防対策全般について一つ御意見を伺いたい。それからその全般についての御意見は、先ほど厚生大臣から大体においてありましたが、もう少し内容の充実したところを一つやつて頂きたい。それからなお療養所の問題、それからBCGの問題というように、一つ一つの項目について御意見を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/7
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008・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) 有馬委員の御提案に従いまして進めたいと存じます。それでは今日おいで頂きました社会保障制度審議会委員といたしましての武見太郎さんから、先ず全般的な一つ御主張を伺うことにいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/8
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009・山下義信
○山下義信君 ちよつと私念を押したいのですが、有馬委員の今の御提案は、いろいろ項目を分けてという、議事進行について御意見が出ましたが、それは参考人のかたから、そういう順序で聞こうというのですか、或いは又政府から聞こうという御提案でありましたでしよか、ちよつとその点を確かめて置きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/9
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010・有馬英二
○有馬英二君 私は政府委員から聞きたい。こういう考えであります、参考人のかたからはいずれ又あとから……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/10
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011・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) それでは全体のことは厚生大臣から伺いましたですね、それからなお又一般につきまして山口公衆衛生局長から伺いましたから、ちよつと各論について、あなたの御主張は、今山口公衆衛生局長から伺いましたうちで、なお詳しくいうと、どれから始めてよろしうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/11
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012・有馬英二
○有馬英二君 総体的にもう少し充実したことを私は聞きたいと思つておるのですが、それとも或いは政府のほうから、先ほど申上げましたように結核療養所、或いは保健所の問題BCGの問題というように一つの問題について御説明を願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/12
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013・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) そういう順序でよろしうございますか。有馬委員の御提案は、政府のほうからそういうようなものについて細かいことを伺いたいということですが、皆さんよろしうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/13
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014・山下義信
○山下義信君 有馬委員の御提案御尤もでありまして、大体において異議はございませんけれども、本日は武見君の論文が中心になつて政府の所見を求むる、その中の主要題目について更に参考人の御意見を伺いたいということがポイントでありまするので、成るべくそういう線に沿いつつ、できる限り有馬君の御提案もそこに展開せられるように議事のお裁きを願つたらいいのじやないか、かように考えるのでありますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/14
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015・有馬英二
○有馬英二君 只今私の足らざるところを山下委員からなお附加えられてもらいました。実は例えば療養所の問題にいたしましても、もつと数字を挙げて、もう少し詳しく政府から御説明があつてもよさそうだと私は思うのです。これは療養所の問題でもBCGの問題も、すべて武見君の論文の中に書かれておるのであります。そういう点について政府からやはり説明があつて然るべきだと私は思うのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/15
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016・山口正義
○政府委員(山口正義君) 今後私どもが実施して参ります結核予防対策の趣旨につきましては、先ほど大臣から御説明申上げた通りでございまして、なお只今有馬委員の御指摘にございました、もう少し具体的に説明をしろというお話でございます。私どもの今後実施して参りたいと存じております、この法に基いて結核対策を実施して参りますのにつきまして、先般も御説明申上げたのでございますが、広範囲に亘る健康診断の実施、特に結核に感染しやすいような集団或いは個人という者を対象といたしまして、健康診断を普及徹底さきて行くその数字、健康診断の実際の対象者は二十六年度におきまして定期、定期外を合せまして約四千万人を見越しておりますが、併しその中で間接撮影を実施して参ります者は或る程度減少して参るのでございます。更にその健康診断に引続きましてツベルクリンの反応の陰性者に対しまして予防接種を実施して行きたいと、そういうふうに考えているのでございます。その予防接種の実施予定数約三千二百万人というふうになつております。このように健康診断の普及徹底、予防接種の普及徹底を図りますというのが、私どもの結核対策の中の一つの事項でございまして、更に患者の届出を励行してもらいまして、保健所において管下の患者をしつかりとつかんで、そうしてそれらの在宅患者に対して保健指導の手を伸べて行きたい、そういうのが次の点でございます。なおそれらの患者に対しまして伝染予防上、或いは療養上は勿論でございますが、必要な指示を医師からして頂きたいというのでございます。なお次の問題といたしましては、伝染防止の措置といたしまして職場の関係上、或いは住居の関係上、特に他に結核を伝染させる虞れがあるというような場合には、職場におります者につきましては従業禁止を命ずる、或いは住居の関係上他に結核を伝染させる虞れがあるというような場合には、療養所に強制的に入所を命ずるというような措置によりまして、伝染防止を図つて行きたいというのが私どもの狙いでございます。
次に考えておりますことは、医療費の公費負担を一部いたしまして、そうしてそれによりまして結核患者が正しい医療を受けられるように策を施して行きたいというのが次の問題でございます。この医療費の負担につきましては一般の患者、一般と申しますと、あとで申上げます命令入所、或いは従業禁止というような区別をいたしまして、一般の結核患者につきましては省令で定めました方針に基いて治療を受け、そうして一定の、指定された医療機関で医療を受けられるというときには、私どもといたしましては一応人工気胸による療法、或いは外科手術による療法、或いはストレプトマイシンの注射、パスの服用というような一応四項目を考えておりますが、そういう療養の場合には、本人の請求に基いて医療費の負担をする。その場合に本人の負担が二分の一になり国と都道府県がおのおの四分の一を負担するということにいたしまして、そういうことによりまして本人の医療費の転減を図つて、徹底的に普及を図つて行きたい。更に従業禁止とか或いは命令入所のような措置をとりました患者につきましては、費用を国と都道府県が半分ずつ負担いたしまして、本人の負担をなくするということを考えておるのでございます。医療費の負担を転減して正しい医療を普及さして頂きたいということを計画しておるのでございます。なおそのほかに国の結核対策を、今後予防医療或いは後保護の面も含めてどういうふうに進めて行くかという方針を、日進月歩の科学に基いて新しく立て、又社会情勢の変化に副つて新しい策を講じて行く必要がございますので、厚生大臣の諮問機関といたしまして結核予防審議会を設けて、それに基いて今後私どもの進んで行きます、進めて行かなければならない結核予防対策をいろいろ御審議願いたい、そういうふうに考えておるのでございます。極く大綱で、私どもは今度の予防法に基いて今後対策を実施して参りますのに以上のような項目を掲げたのでございます。
なおこれらのにとを実施して参りますのに、先ほど有馬委員から御指摘がございましたように、保健所の整備ということが非常に重要な役割を占めておるのでございます。如何に法が整備されましても、それを実施する機関が整備されなければ運営が円滑に行えないのは当然なことでございます。現在保健所は全国に七百四カ所ございます。そのうちいわゆるAクラスと称しておりますものが百五十カ所、そのあとはCクラス、これは定員の少い規模の小さいものでございます。私どもの将来の計画といたしましては、一応すべての保健所をAクラスまで持つて行きたいという計画で進めておりますが、取りあえず来年度におきましてはCクラスからAクラスに格上げと申しますか、拡張整備いたしますもの三十カ所、即ち来年度におきましてはAクラスが百八十カ所ということになると思います。それから更に二十六年度におきましては、従来ございませんでしたBクラスという規格、AクラスとCクラスの中間に存します規格のものを六十カ所にしたい。それにはCクラスからBクラスに格上げいたしますものを五十一カ所、Bクラスの新設を九カ所、そのほかにCクラスを十一カ所新設ということに、少し数字がややこしくなりましたが、結局格上げいたしますものが、CからAに上げますものが三十カ所、CからBに上げますものが五十カ所、そのほかに新設二十カ所というようなことをいたしまして、保健所の数を殖やし、又規模を大きくして行こうということを考えております。そのほかに現在保健所の医師の充足状況がなかなか十分でございませんので、これにはいろいろな原因があるのでございますが、保健所の医師の質を向上させ、又経済的な面の一助にもなるという意味で、来年度から保健所の医師に対しまして研究費の支給ということを予上計上いたしておるのでございます。なお保健所の活動につきましては、保健婦の活動ということが非常に重要なる役割を占めておりますので、保健婦の動きやすいように、従来の額に加えまして、保健婦一人当り一年二百円ずつ旅費の増額をいたしておるのでございます。このようにいたしまして先ほど申上げました現在の保健所の状況、多々御指摘を受ける点があると思うのでございますが、私どもといたしましてはできるだけの努力をいたしまして、この結核予防行政の第一線の機関になる保健所の整備ということにつきまして、その整備にできるだけの努力を払つて行きたい、そういうふうに考えているのでございます。以上で今回の法に盛られました結核対策の今後の行き方の概要、保健所の整備状況につきまして御説明申上げたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/16
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017・山下義信
○山下義信君 議事進行でありますが、先ほど私はBCG等について具体的に政府の意見を求めたのでございますが、これはあと廻しでよろしうございますから、一応全般的な政府のとらんとする結核対策には八十三億の金を使うが、これで有効であるかどうか。一般対策につきまして有馬委員の御指摘の通り一応この辺で参考人の意見を、三人のかたに簡単に御陳述願つたらどうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/17
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018・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) そういうふうに進めて参ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/18
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019・有馬英二
○有馬英二君 今日の参考人に来て頂きましたのは、この前の委員会において私が発言いたしました通り、主として武見太郎君が雑誌に御発表になりました「結核撲滅対策を撲滅する」という題で書かれておりますが、私ども結核予防法案を審議するに当りまして、この法案がやはり結核撲滅に非常に役立つておる。殊に重要なる施策であると私どもは信じている。然るに武見君は、結核撲滅策を否定しようという御意見のように私どもには窺える。もう武見君の御意見は十分雑誌に発表されておりますから、それ以上武見君はここに附加えて何らか御発表がありますかどうか。若しなければそれを私どもはそのまま承認してもよろしいと思います。こういうような見解は、これは個人の見解でありますから、ことによるというと武見君の意見がほかの人の意見と違つておる。或いは私どもの意見と違つておつてもそれは一向に差支えないのでありまして、事はこの結核予防法の審議に非常に関係するのでありますりから、又世人の疑惑を非常に生ずることでありますから、この点について十分我々の納得の行くような一つ御説明を願いたい、かように考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/19
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020・谷口弥三郎
○谷口弥三郎君 只今有馬委員の言われました通りでありますが、とにかく本日は参考人としてわざわざ御三方においでを願つておるしするので、先ず武見君からいろいろとこういうことを書かれたというので、書かれただけで十分であるか、もう少し書きたかつたが、頁の関係で書けなかつたのか、或いはこういうことを書いたが、これに対して今後は御自分としては如何なる対策を持たれているかということを武見さんから先ずお話を聞くことが、我々が今後いろいろ審議をする上に非常に参考になると思いますから、早速そういうふうにお進めを願いたい。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/20
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021・有馬英二
○有馬英二君 只今谷口君委員から言われた通りで、私も賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/21
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022・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) それでは御苦労さまでございますが、社会保障制度審議会委員武見太郎さんから、先ほどの皆さまがたの御言葉に副うような方向に、又内容、範囲におきまして十分あなたの御所見をお聞かせ願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/22
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023・武見太郎
○参考人(武見太郎君) 私の書きましたことに関しましていろいろ御意見を承わりましたので誠に光栄に存じております。
私がここに書きましたことは、サブタイトルにもございますように、これは人ごとの問題ではない。とかく国民大衆は、自分の家に病人がなければ病気のことなんということはかまつておりません。それから又急に出れば家だけで問題にいたします。併し人に対する迷惑とかそういうことは余り考えないものでございます。こういうふうなことでは結核対策はできないのだということを国民に知らせるのが一つの目的でございました。これが私は国民的運命をかけてもやらなければいけないのだということを一番目に書いておりますが、その問題については別に御説明を申上げなくてもよろしいのじやないかと存じます。
それから最後のところに書いてございますが、社会的疾患、ソシヤル・デイジーズと考えております結核に対する現在の政府の施策を全部否定するのではありませんが、生物学的な方法だけで全部の極め手になるというような考え方を国民大衆に与えることは、これは私は最も誤ちではないかと考えます。この点に関しまして今回の結核予防法は何ら触れておりません。社会保障制度審議会におきまして、私はこの問題に関して何回も強力に主張をいたしました。又社会保障制度は、本来国民生活の国家的管理によりまして或る程度の危機を切り抜けて行こうとする方法であることは議論の余地はないと考えます。今度の結核対策が国民の生活を管理して行くという面におきまして、殊に我が国の結核が百五十万と推定されます患者の八割が在宅患者であるということを考えますならば、その家庭生活の或る程度の国家管理でもよろしいが、成るべく民主的な管理によりまして……、それらの手を一つも打つていないということを私は一番問題にしたいのであります。社会的疾患を社会性を無視して、生物学的の方法だけで極め手があるというように国民に印象付けるということが一番危ないものだと私は考えております。ここが私が書きました論文の最大の眼目で去ります。
それからこの問題につきましてはいろいろと考えさせられますが、社会保障制度審議会はこのほかいろいろと結核の問題についても論議をいたしましたが、生物学的な方法だけで行こうというようなことは、社会保障制度審議会の答申にはなかつたはずであります。公衆衛生のところには結核だけの問題が入つておりまして、ほかのソシヤル・デイジーズに関しては勧告されませんでした。これは日本の結核対策が公衆衛生的処置なしには到底対策が立たないという観点から、公衆衛生編は結核だけしか取扱つていないほど重視されていたのでありますが、その公衆衛生編を実施されました新結核予防法におきましては、或るほど今までの予防法より確かに健康診断、ツベルクリン、BCGと一連の外形的な繋がりはできております。私はこれは体系的な施策を必要とする、と申しますのは、社会的疾患の社会性をつかまえないで、生物学的の方法のみを以てすることは体系的だとは考えておりません。社会的基盤が確立いたしませんければ、到底生物学的な方法ではその効力を発するということは困難であると考えております。その点については十分の御審議を願いたいと存じております。それからもう一つの問題でございますが、多少断片的になりますが、時間の都合上簡単に申上げます。国民生活を、殊に患者生活の管理の問題になりますが、これは保健所の保健婦が年に四回や五回廻りましても到底管理はできません。私は新潟県と長野県の境い目の山の中を最近見て参りましたが、役所ではこういうふうにして置けというが、本当はそうでないのだということ、百姓は、仲よくなつていろり端で話しますと、皆そう言つております。こうして置けというけれども実施されていない。これは私はどうにかいたしまして、私は社会保障審議会でも提案いたしましたが、地区別的な組織を持ちまして、公衆衛生委員会を小さな地域ごとに作つたらいいと考えております。それによりまして、その地方々々の生活の特色のうち悪いものを是正し、いいものを育てい行く、そうしてその家の生活様式というものは大体隣り近所の人は知つておるのでありますから、その人たち……、相当知的程度の高い医師、歯科医師、薬剤師、学校の教員、看護婦、保健婦が加わりまして、三百六十五日、年中その人たちのために考えて上げ、生活を管理するという態勢をとらなかつたならば、到底農村の結核に対しては打つ手はないと考えております。本来公衆衛生は、組織なき公衆衛生はナンセンスであると考えます。今度の結核予防法の組織は、保健所以外は何もございません。こういうふうに末端組織の非常に空白な公衆衛生組織というものに私は十分な活動を期待することは困難であります。どうしてもこれは末端の公衆衛生組織を確立いたしまして、それを保健所が握ることが私は得策であると考えます。組織の強力でない公衆衛生は私は意味がないと考えております。こういう点が私が強力に主張いたしましたところでございます。そういう立場から、体系的でないという表現はそういう考えかたでございます。
それからこの問題は如何に重大であるかということは、軍事予算を如何に尨大に取りましても、国民生活が破綻いたしましては戦争に勝つわけには参りません。私たちは結核の予算が尨大に取れることは結構でございますが、国民生活がその尨大な予算を十分に受け入れて利用できる態勢に整備されることを先決問題と考えております。殊に数字の上から申しまして八割の在宅患者に対しましては、入院入床患者と比べますと非常な不公平がございます。その不公平を是正いたします点から考えましても、どうしてもこれは地区別に小委員会なり何なりを作りまして、三百六十五日その人たちの生活を管理する、これが民主的に管理するということが私は望ましいと考えます。その具体的方法につきましては、いずれ又御質問があればお答えいたしたいと思います。
それから先ほどからのお話でございますが、私は公衆衛生局長のお話もよくわかります。私は生物学的な方法が、現在普通の肺炎に対するペニシリンのような最後の極め手が結核には生物学的方法ではないのでありますから、生物学的方法の限界というものを国民にはつきり示して、これだけの限界しかないのだからこうやらなければいけないというのが、私は科学的な態度だと考えます。そういう方針が現在果してとられておりましようか。私はこの点を甚だ遺憾に思うのであります。先日もラジオで聞いておりますと、結核菌来たらば来たれBCGをやつておれば何でもないということを堂々と言つております。又街頭録音におきましてもどなたかの御説明は、誠に頼もしいようなBCGのお話であります。私は人工免疫というものに対しましてBCG以外に有力なもののないことは医者としても存じております。又外国でもあることも存じております。又最近は非常にこれが復活しかかつて、熱烈な研究が行われていることも承わつております。併しながらこれだけやつて置けば結核菌来たらば来たれというような宣伝は、これは薬屋の宣伝ならよろしいが、少くともそうでない人たち、専門家のする宣伝としては私はこれは国民を迷わせるものではないかと考えます。この問題につきまして私と同じ意見に聞いている者がほかにもございます。私は放送協会で確かめましたがそれはやはり事実であります。生物学的方法の限界をはつきりと国民に示しまして、そうして国民生活がちやんとその医学的な生活、生物学的な方法を受け入れる国民生活の態勢が整うことが私は非常な急務だと考えます。そうして社会保障制度審議会の勧告におきましてもう一つ重要な勧告をされておりますが、先ほどからどなたもお話になりておりませんが、これは医療従事者の生活安定を保障するということを社会保障制度の勧告ではいたしております。これは先ず第一に主として私たちは保健所職員の生活の安定を保障して頂きたいという点からあの勧告を持つたのでございます。そうして私たちはその当時大阪の公聴会に勧告案を持つて参りました、そうしたところが、大阪、関西の保健所の代表者から痛烈な批判を受けました。その際私どもの仲間で近藤委員は、この勧告の中の保健所の問題は、保健所の生みの親である勝俣委員が全部お作りになつたのであるから、かれこれ言われる筋はないということを言つたのでありますが、そのときに関西側の保健所長会議の代表者は、それは困る、勝俣先生は保健所の実態を御存じないのだ、厚生省はわからないのだというふうなことを言つております。又九洲地区の保健所長の会議におきましては、BCGの強行は困るというようなことも言つておりました。こういうふうな声を私たちは聞いて帰つたのでございます。その保健所の職員の生活の安定を保障するということは私は最大の急務であると考えます。私はその当時伺いましたときには、今山口局長のおつしやいましたように総数七百四で、医師の定員が三千百十七人、現在実人員が千百十六人しかいないというお話でございました。その後支所を作つたりいろいろいたしまして、とにかく三千名の医者が必要なんでございます。これを補充する方法はないというお話でございました。こういうふうな状態はなぜに来たかということを考えますと、私は全く保健所職員に対する待遇の問題が大部分であると考えております。国民保健の第一線機関でありまする保健所職員をもつと優遇いたしまして、そうしてこれは地方公務員でありますところから、地方におきましては早く帰つて自転車で往診して駈け廻つておるというような実情がたくさんにございます。これでは本当に公衆衛生に一生を投じてやろうという人が、到底不可能なことは極めて明らかであります。この状態を脱却するために、私たちは医療従事者の、生活安定の保障を最大限度に保健所職員に対して欲しいということが、社会保障制度勧告の中にされております。その点について研究費を支給するというふうなお話でございますが、研究費と申しましても、私は生活費の問題に追われておりまして、それで研究費が十分に活用できるとは考えておりませんが、私は大ぴらに保健所職員が堂々と公衆衛生業務に盡し得るだけの給与を与えて頂きたいと思うのであります。
それから療養所の問題でございますが、これは成るほど今度の日本医学会の総会にも厚生省から統計解析的な報告が出されております。私はこういうふうな立場の統計的解析がされましたことは、厚生省にとつて私はエポツクメーキングなことだと思つております。今までの数字はおありになりますが、これは大体におきまして静的な統計でありまして、動的な要因をつかんで、要因間の問題を数学的に解析して行くというふうな方法は余りとられておりません。でこれはアメリカの療養所におきましては必ずスタテステイシヤンがおりまして、そうしてこれが或る一定の企画の下に全部レポートを解折しでおります。そういうふうなことが日本においては行われていないのでありまして、これをぜひ行なつて頂かないと、将来の対策上の問題になると考えましたので、こういうことを申上げた次第でございます。
それから先ほど奨励金ということについてお話がございましたが、これはお出しになるほうは費用の負担でお出しになつておるかも知れませんが、受取るほうは奨励金と考えて受取つておることはこれは事実であると申し上げていいと思います。その他BCGの問題もいろいろありましたが、これは私はBCGが先ほども申上げましたように、自然免疫を獲得させます以外には、人工免疫を与えるとすればこれ以外に方法がないことは十分にわかつております。
それから最近のBCGが非常に立派なものができたこともよくわかつております。併しながらBCGさえして置けば、結核菌来たらば来たれというような宣伝は、これは私は誇大的広告に類するものであります。その限界を示す親切があつてもいいのじやないかと考えます。そういうふうな点と、又そのほかに幾つかの点がございますが、このBCG問題に関しましては、私は適用できるところに適用することは結構でございますが、適用すべからざるところにも末端においては適用されておる事実があるのであります。中村教授がBCGをどうしてもやれと言つてやつた患者で、自分は非常に困つておるということを言つておられました。これは一人や二人の小児科医者の話ではないのであります。私は小児科でもございませんし、結核専門の医者でもございませんから、直接ぶつかりませんが、そういうことを言つておる人も相当におります。これは大量生産的に予防接種をなさいました場合には、若し何か問題が起きますと、そのあと始末は必ずかかりつけの開業医のところへ持込まれるのが常でございます。それをしてくれたお役所にはどうも行きにくくて、ふだんかかつておる医者のところへその尻尾が来るというのが実際の状況でございます。もつと私が最近開き捨てならんと思いましたことは、静岡県の伊東市におきまして、同じ市内でBCG接種後に脳膜炎で死んだ子供が二人おります。この親たちはBCGのために脳膜炎で死んだと、こういうことを言つておりますために、その町内ではBCGに対する恐怖症を生じておるような始末であります。又取扱いました医者も、BCGに対しては極めて消極的な態度しかとらざるを得ないというふうな状態になつております。BCGの問題はツベルクリンとの関係において解決しなければなりませんが、これは私はBCGが效きますということについでは決して疑いを持つておりませんし、又学界の定説もこれを当り然信用すべきものと考えでおりますが、実際に大量的に実施されました場合に起きたいろいろな困難な事柄や問題は、これはぜひ厚生省なり日本医師会なりが全国的に調査をなさつて、今後そういうふうなことがないということ、これをはつきりさせてなさる方法をされないと、幾つかの問題が起きると思います。こういう点につきましては、私は必ずしも厚生省が本当に気が付かれたかどうか知りませんが、国民に対する親切心からはぜひそれだけの御手配は願いたいと考えております。私が申上げましたことはまあそんなことでございますが、先ほどの健康診断が一千五百万人やつておるから、あとはできるというお話も、私は現在の保健所の診定能力はそんなに高くはないし、開業医の診定能力もそんなに高くないし、厖大な予算をとつて健康診断をやつて、その結果がでたらめになつては困る。そういう点から考えまして、この健康診断をやる保健所職員なり、指定医療機関たる開業医は、少くとも結核の公共性を考えて十分に勉強をいたしまして、そうしてその上で厖大な予算を消化して頂きたいという考え方でございます。すべて基礎的なしつかりしたものがあつた上でなければ、私は科学技術は社会化されることは非常に少いのじやないかと考えます。
私は今日の間接撮影の方法で、今日の技術的な面でこれがそんなにうまく行くとは私自身は考えられないのであります。どうかこの点につきまして私が書きましたことについていろいろ御批判なりあれば、これは私は受けます。受けますが、少くとも私は現在の結核対策が、疾病の社会性を無視しておるという点、この点は労働基準法に従いまして職場における結核患者は、比較的よくこのことの社会性をつかまえられておりますが、在宅患者は、而も農村或いは自営者におきましてはこの方法がとられることがないのであります。そのためにどうしても結核予防法の中でこれをつかまえて行かなければ私はできないことじやないかと考えております。これで私が書きました点の大体の趣旨と補足とをお話申上げたつもりでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/23
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024・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) 有難りございました。
それでは引続きまして隈部先生にお願いたします。財団法人結核予防会結核研究所長隈部英雄先生です。どうぞ。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/24
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025・隈部英雄
○参考人(隈部英雄君) 民間における結核予防団体に職を奉じている者としまして、この武見君の論文について具体的にいちいち御質問をし、且つ私の意見を述べさせて頂きたいと思います。
只今武見君のお話を伺いますと、なぜ今言われたことを文芸春秋にお書きにならなかつたかということを先ず第一番に私は申上げたい。いやしくもこういう雑誌に社会保障制度審議会の委員であり、且つは短期間ではあるとしても日本医師会の副会長という重要なポストにおられたかたが、こういう雑誌にかかる論文をお書きになるということについては、私は科学者として非常な憤りを感ずる。又只今お話を伺つて見ますと、本論文とは似てもつかない御所説のように承わります。希くば今度雑誌に発表される前によく愼重審議お考えになつて、御発表を願いたいと思つております。又この本論文を通読いたしまして受けました偽らざる感じは、何を書いてあるのか、その言わんとする重点がどこにあるのか、その把握に苦しんでおる。これは私の不敏のせいであるかも知れませんが、只今伺つて見ますと、結核という病気がソーシヤル・デイジーズである。社会的疾患である。であるから在宅患者、百五十万の患者に対する社会的保護なり施設についてこれを重点にして書いたものだといつておられますが、この論文を通読いたしまして、そこに重点があるということを感じ得る人は恐らく筆者だけではないかと私は思います。又本論文を通じて読んで見ますと、矛盾撞着が甚しくある。例えば世界的に承認されていない学説云々ということを言つておられますが、又外科手術のところにおいては、徒らに外国の流行に引きづられて、新薬や新手術を追つかけたりしておるという文章も出て来る。こういうように、又武見氏は結核というものがソーシヤル・デイジーズであるために生物学的の方法のみを以てしてはこれは撲滅はできない。併し只今の御所説を伺つて見ますと、BCGについては自分も非常によく知つておるというお話でありますが、かかる雑誌にこのように若し書かれたときに、果して一般民衆の受ける実際の感じはどうであるか。又只今伺つて見ますと、又この本に書いてありますことを見ますと、BCGの接種のために不慮の災難をこうむることはしばしば実際に起つておるというようなことを書かれ、又BCGに対しては学界においても有力な反対論があり、又欧米の結核が今日のように減少したのはBCGによつたものではないということを書いておられる。私は武見氏も医学者である限りは、若し実際BCGによつて思わざる不慮の災難がしばしば実際に起つておると言われるのならば、私はこれは学界のためのみならず、国民のためにそれを堂々と学界に報告として御提出を願いたい。又この欧米の結核が今日のように減少したのはBCGによつたものではないことを認識して置く必要がある。これはイギリスの結核が、結核菌も、ツベルクリンも一切のものが発見されない一八六
○年を頂点として減少して来ておる。又現在の日本の結核の状態は、その死亡率から見ればアメリカの一九〇三年或いは一九〇四年と丁度匹敵している。それが五十年近くにおいてアメリカは万対三に減つて来ておる。なぜ減つたか、イギリスにいたしましても又アメリカにいたしましても、BCGはおろか新薬を使つたということも聞いていない。これこそ国民生活の水準の一般的向上、国家社会の経済的條件の上昇というものが欧米各国の結核を減らしたということは、これはいやしくも少しでも医学を学んだ者は知つておるはずであります。それを如何にもBCGを論駁するがごときためにこういうように続けて書くということは、これは一体果してどういうことであるか。又ここにおられます有馬先生にいたしましても、熊谷先生にいたしましても、又私にいたしましても、BCGが絶対に結核の予防に、完全に結核を予防し得るものであるというようなことは、日本の学者のみならず、為政者といえどもBCGが唯一のものである、BCGさえさして置けば結核は大丈夫だというようなことは、夢にもこれは考えもしないし思いもしない。欧米の結核が減つたのは社会生活の向上であり、日本も希くば欧米各国のごとく各個人が、最大多数の者が幸福に、裕福に、いい生活條件で暮らせるようになつたときは、何を好んでBCGを我々が用いる必要があるか。現実の日本、又近き将来の日本においてかかる高い生活水準というものは我々は望んでも望めない。やむにやまれずBCGに頼らざるを得ないというのが実情であり、又これが一切の方策の私は根本をなしておると思つております。又BCGも只今のお話を伺つて見ますと、武見氏自身もBCGの効果は非常に認めておると言われておりますから、これ以上のことは申しませんが、反聞き捨てならないことは、療養所の運営におきまして外科手術のところに、かくのごとき滑稽なことが起つて来ておると書いておられる。例えば胸廓整型術の効果が、いい者が五〇%、悪い者が五〇%である。だから結局プラス・マイナス・ゼロである。こういう杜撰な計算を以て統計を云々なさるということ自体が私はおかしいのじやないか。成るほど小学校の算術ならばプラス五十とマイナス五十はゼロということは、落第生じやない限りはわかる答であります。但し外科手術の成績、これがいい者が五〇%、悪い者が五〇%、それを単に算術的にプラス。マイナス・ゼロであるというようなことを書かれておられる。これを読んで一体患者はどういう感じを受けるか。いやしくもこういう本に書かれる以上は、書いたものに対しては絶対の責任を持たなくちやいけない。又社会の起す不安混乱というものに対しては、絶対にこれは責任を持つて頂きたい、私はこう思います。成るほど先に有馬委員からもお話がありましたように、如何に何を批判しても、これは私は一向差又えない。併し批判は常に向上発展するために建設的な意見の開陳であるときに、本当の批判精神というものは生命をかち得る。批判のための批判は、徒らに観念の遊戯に終り、徒らに世に不安と混乱を残すだけではないか。只今武見氏の御意見を聞きまして、実は私は唖然としたのであります。この一文を読んで、果して本日の武見氏の言がこの中から汲み取れるか、汲み取れないか。これはこの本論文をお読みになつたかたが、本日の武見君の論とこの文芸春秋に出ておる論とを比較して読んで見ると、私はよくわかることではないか。又私は一人の医者として、非常にやはり心からなる憤りを感ずることは、療養所の医者が如何にも中央官庁の指示のままに患者の治療方針を決定するかのごとき文がここに書いてある。如何に療養所の医者が知識経験が乏しかろうとも、医者である以上それほどみんな腑抜けな人間ばかりいない。又療養所に職を奉じておるような医者は、これはみんな非常に研究心に富んでいる医者である。それが本論文を読んで見ますと、如何にも国立療養所の医者は中央官庁の指示のままに或いは胸廓整型を行い或いはブロンベを行い、或いはストマイを使うかのごとき印象を与える。印象を与えることについてはこれは間違いがない。私はこれは武見氏自身が私どもと同様な医者である以上、上を向いて唾を吐いた。而もそれで何ら悔むところがないというような気がして、私は暗澹たる気持になつた。又七十九頁におきましては、昭和二十六年度にはBCGの大量生産は実際上不可能であると聞いているが、これを使うのは云々」と書いてありますが、昭和二十六年度の乾燥ワクチンの製造が必要量不可能であるという事実はどこでお調べになつたか、ただ徒らに人の噂、そういうことだけで二十六年度のBCGは実際上不可能であると、私並びに熊谷先生が、晝夜を分かたずBCGの生産に努力し、むしろオーバープロダクトさえもいとわないと思つておるのに、かかることをかかる雑誌に発表されて、私は黙つていることができない。そうして最後に、これを読んで見ますと、盛んにフアツシヨだとか国民的監視というような非常に美字麗句が並べてある。又その最後に七ユーマニズムが云々、科学性が云々としてありますが、五〇%か零であり、二十六年度の生産が不可能であり、又BCG、ツベルクリンがこうである、これが果して科学であるか、私は本論文が、殊に医療制度審議会の委員であり、曽ての日本医師会の副会長たりし人の文である。実際に結核予防を阻むものはかかる論文そのものであると私は考えるのであります。なお最後に只今は野犬を処置するにしても撲殺というような殺伐な字は使わない。それを撲滅というような字を使う心境、その中において実に恐るべきフアシズムの温床があるということを私は最後に申上げて責を塞がせて頂きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/25
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026・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) それでは熊谷先生御苦労さまでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/26
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027・熊谷岱蔵
○参考人(熊谷岱蔵君) 積極的に結核を征伐するといいますか、正攻法は、伝染病ですから、見付ければ早く始末して治すか、隔離する、これが本当の正攻法で、そうして確実な方法に違いない。今度一般に検査をして、隔離をして治してやるということは、非常に結核をやつておる私どもとして愉快に感じておる。ただこれは趣旨としてはそれで結構なんですが、方法はよほど研究しなければいけない。例えば三十才まで検査する。あれは十五六年前、或いは二十年前でしようか、私どもの見たところで、あの頃は本当に三十才までで大丈夫だと思つておつたが、今は違つておる。恐らく皆さん各人経験されておると思います。年寄でも幾らでも結核になる。あの昭和の初め頃は年寄ならば結核は大丈夫だと、こう思つてた。今はそうではないのです。年寄でも結核になる。大学の先生などは停年近くなつてから、又停年を済んでから結核になつて死ぬ人も相当おる。これが最近の社会の情勢で、支那人なんかは前からそうだつたです。二十才というのもどうかと思います。私も最近患者を見ておりますが、三十才以上の者が三分の一、場合によれば半分ぐらい、これだけの患者が流されるわけです。そうして家にいて孫や子供にうつしておる、こういうことになると、あれは私が二十年ばかり前にやつておつた仕事を元にしてできた仕事じやないか、実際のところ社会は非常に変革をして来た。この社会革命が起ると一緒に病気も革命になつておるので、丁度そういうことも思い付いたので申しました。次の年度はこれは国民一般にしたほうがいいじやないかと、こう思つております。
それからペツトが非常に殖えてこれはいいんですが、これを如何に使うか、ただしぺツトだけ殖やしても、あれは患者を飼つて置くということになります。先ほど武見さんが五五%はとおつしやつたが、私が始めた頃は、医者になつた頃は肺病というものは殆んど治らない。たまには治るが、転地をさせるのが上等だつた。今はそうじやない、手術でもすれば五〇%から六〇%治すことができる。その他いろいろのもので、いろいろな方法を集めれば七割、或いはよく行けば八割ぐらいは治すことができる。丁度大正、明治の終りから大正初め頃の膓チフスの治し方と同じような工合に進歩した。できるだけ治すものは治す、それから隔離するものは隔離する、こということを考えて置かれていいじやないかと思います。例えば隔離といつても、或いは療養所のようなところ、保養所というようなところに隔離するのも一つ、又は各家庭に保健婦を雇つてやれば非常に有効な隔離だ、これは医者ならば普通のことである。それからBCGの問題、これについてはかなり世の中に誤解がある。なおあれが効くか効かないか、そればかりでなく、医者のほうにも相当誤解がある。それはこういうふうにBCGが効くか効かないかよりも、BCGを効くようにすることができるかどうか、こういうことが問題になる。強くやれば効く、これは私ども学術振興会の第八小委員会で、たしか十八年頃有馬さんも一緒でしたが、よほど苦心して、殊に戦争中だつたものですから、ほかのいろいろの方法ができなかつたが、これは一定限まで効く、併し相当強くやらなければ効かない。ただ申訳的にやつたならば殆んどお呪のようなものである。こういうことを言われた。それで結論を出したときには、つまりどのくらい強くすればいいかと、よほど議論したのであります。少くとも陽転率が七〇%にしよう、こういうことにして、それならば一定度まで効く。それでもほかの泡瘡のようには効かないのです。併し確かにあそこに書いたように、いろいろな人の成績を集めてやれば、病気が三分の一になり死亡率が八分の一か十分一になる。非常に結核としては一人々々の例によればこれは幾らでもある。注射をしても病気になつたとか、私は毎日外来を診ているが、注射しても一人ぐらいなる人もある。それをつかまえてこれは効かんと言えば効かんし、ただ弱く注射すればこれは殆んど効かない。本当のお呪になる。それでそこが問題になる。如何に注射をし接種するかということ、そういうことがまだしつかりわかつていないのじやないか、そういう感じがするのです。それからもう一つ難点は、初めから強くして来るといろいろな苦情が出てくる。つまりうんだり痕がいろいろ出て来る、こういうことになるのです。それでこの境いが……、非常に強くしたいが、いろいろな問題が起つて来る。非常に強くやれば前に言つたように問題が起つて来る。たくさんうんで、半年も一年もかかつて困つたということがある、こういうことなんです、BCGというのは……。そこでその一定度まで効く、そこまでだつた。戦時中だから、とにかく余り金を使わないで一般にやるのがいい方法だと言つて、あの委員会が発起になつて、学術振興会から政府に建議して、BCGを一般化してはどうかと、こういうわけなんです。その後になつて、十八年だつたと思いますが、その後になつてアメリカ人などが来たりしていろいろ混乱してしまつた。あの乾燥BCGは、その前までは乾燥でないものでやつておつた。それでその時分は長與又郎君が委員長をやつておつて、いろいろなことをやつて、私一番知つておると思いますが、そのときに私は病気になつたりして混乱してはつきりしなかつた。そうして乾燥になつたのです。そうすると今度は乾燥だとどのくらい効くかということになつた。これ実際私正直に言うとわからないのです。これはBCGを一般化してやる、併し一定度の制限がある、制限というのはつまり力がオールマイテイではない、リミツトのものである。こういうことははつきりして置かなければ誤解があるのではないかと思います。つまりどんな方法でもBCGをやつて置けば、黴菌を出した人のところに行つても何をしてもいいというようなことは危い話で、幾らでもうつる。こういうことをはつきりして置いてBCGをやることが必要である。先ほどBCGのをやつても結核になる虞れがあるという武見さんの御意見は、私も賛成です。極く制限されておる。併し僅かなプラス・アルフアーというようなものは、結核のような長い病気は非常に影響して来る。例えばこういうことをよく聞かれる。「あなたはお孫さんがツベルクリンが出なければBCGをやりますか」と聞かれたら、「私はやります」と答えます。それだけ一定度の利益がある。ただ厚生省のかたがたが、これは少し技術的の問題になりますが、今のあの量では私余り効果はないと思います。それはこういうことをすればわかります。生のワクチン〇・〇五ミリで見た成績、あの成績で、今は乾燥したもので同じ量をさしておる。あれは〇・〇三か或いは二かも知れませんが、今殆んど同じ量をさしておる。そうして一方で、乾燥ですればどのくらい死ぬかというと、非常にいい場合でも三〇%内外生きているのである、一般には一五%ぐらい生きている。そうすると前にさしたもののよくて三分の一か四分の一かしかさしていないということになります。これは死んでいても役に立つということは、理論的に主張できるかも知れませんが、実験もなく、実際この乾いたので病人を減したというのは誰もないのです。それですからただ前に私がやつたので、生きた黴菌に対して、アナロギーでそのくらいでいいじやないか、ツベルクリンの出方によつてそれを推量してやるより仕方がない。これを今は学術振興会がないから少し混乱しておりますが、昨年から学術研究会議で取上げて、この問題を今やりつつある。そこで死んでしまつたあれではいけないから、ああいう死んでしまつたのをさせば、これはお呪だと私ははつきり申上げます。ですからこれを改良するには、これは原理としてはBCGは一般化されなければいけません。併しその量だとか、そういうテクニツクについては、厚生省の実際に当られるかたがたは研究者と密接な連絡を常にして、うんと進歩して行くことが必要でないか、こういうふうに思われます。併し今度予防審議会、そういうものができるそうですから、そういうところでもいいですが、又実際に学術研究会議の結核科というのがありますから、そういうところと密接な連絡をしてやられたら、もう少し有効に使えるかと思います。そうでなければ、ただ武見さんのおつしやるように、やつたということだけで終る杞憂もないわけじやありません。まあそのくらいにして置きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/27
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028・山下義信
○山下義信君 なお、あとで参考人のかたから補充的の陳述を願つたほうがいいのじやないかと思いますが、その前に、只今の参考人の御所説を拝聽いたしまして、この際政府に私伺つて見たいことがあります。今回の結核予防法案の立案に当りまして、どれだけの学術的の御準備、御研究、或いは各方面の権威者の御協議等々との階段を経てこの対策、予防法案等の立案に当られたか、その点を承わりたいと思います。なお只今熊谷博士の御指摘のありましたように、今後この施策を実施して行く上においてどれだけ科学的な調査といいますか、実施上の推移についてどこまで学術科学を十分取入れて、国民の納得行くような施策を併用されますか、どうかという点を伺いたい。これが第一点であります。
なお第二といたしましては、開業医のこの対策に対する協力を求めるということでありましたが、この法案の立案、即ちこの結核予防法対策をお立てになるに対しまして、この開業医の団体であります日本医師会等とも大いに御協力なり御連絡になつたでありましようかどうですかということを伺います。
第三点といたしまして、只今武見参考人からお述べになりましたことにもあつた通りでございますが、この結核予防対策を政府がいたします予算の中には、結核予防協会に対して三千数百万円の補助費が出ている。その使途は極めて公明であり、一点疑いを入れる余地はありませんが、金額として三千数百万円の補助金を厚生省から出している。なおBCGの生産は、この結核予防協会が一手独占の事業でありますることは言うまでもありません。それらの代価を合せますと、一億円に近いもの、或いはそれ以上のものが結核予防協会に国家として支払われるわけである。従いましてBCGの有效、無效の学術的御議論も極めて有益でございますが、併せてこの予防協会の御事業は、厚生省ともどれだけの関係があるのか、全然ないのか、例えばBCGの政府の買上げに対してどれだけの手数料といいますか、マージンが予防協会に払われたのか、或いはそれは漸く生産費を償うに足る利益があるのかどうかというような点についても、この際簡明に政府から説明して置いてもらいたい。ややもすると結核予防対策は、結核予防協会と、厚生省の合作である。いわゆる日本医師会、全国の開業医というのはこの対策からオミツトされて、袖にされている。この結核予防対策については結核予防協会が主役を演じているがごとき風説も一部あるのでありますから、この公開の席において厚生省の立場というものを明確にいたして置くべきだと考えます。以上三点について御答弁を願つて置きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/28
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029・葛西嘉資
○説明員(葛西嘉資君) 山下委員の御質問にお答えいたしますが、第一は、この法案の立案について学界方面、特に専門的な学界とどのような連絡をととつておるかという点でございますが、これは学術会議等のいろいろの研究のことは私どもよく伺つておりますし、その後いろいろお話のありまたように外科的手術の発展、或いは反特別の薬というようなもの等を併用するということが必要であるというようなことで、まあざつと申しますればそういうふうな点、学術研究会等を基礎にしてやれば、特にまあ連絡というふうなこと、そういうことが起つておりまするものですから、そういうものを基礎にして只今案に盛つてあるようなものを立案いたしたわけでございます。なお結核の問題が、武見さんからもお話もあつたように、いろいろ多面的に研究をして行かなければならんというふうな点もあり、又或いは結核の実際療養所等の人とか、各方面の人の意見を聞く必要があるというふうなことで、この法案を作りまするときには、特に大臣の名におきまして委員会とか何とかいうようなことになりますといろいろ制限もあることでありまするので、間に合わないというようなこともありまして、いろいろ学界の人三十名ばかりのお集まりを頂きまして、当時予算の途中にありました案等を御披露いたしまして御批判を頂き、そうして立案のときにはそれを汲み入れてやるというようなこともいたしたわけでございます。その際には医師会長として谷口委員を御出席を頂きまして、いろいろ御注意を頂いたのでありまするし、今日参考人としてお見えになつている隈部先生も当時おいで頂きまして、いろいろ御注意を頂いたようなわけでございます。
それから第二に御質問になりました、この開業医等の協力を得なければならんという点で、日本医師会と如何なる連絡をしたかという点でございますが、これは丁度会の途中谷口先生が来られましたので、今の点全く大臣もそういうふうにお考えになりまして、谷口先生にはその際に、ぜひ一つこの案はかような案でありまするから、日本医師会の全面的な御協力を得たいというふうなお願いをいたしまして、谷口先生からも尤もなことであるからというようなことで、包括的なお話を伺つておつたようなわけであります。それからその後かような会長の意思でもありましたものですから、事務のほうといたしましては医師会の事務当局に対しまして、この案ができました末におきましては全面的に御協力を得たいということを申入れまして、大体の大綱がきまりますれば医師会の事務当局とお話をして、そうして医師会の手を通じて全国の開業医師のかたにこの案を示し、御協力を得たいというふうなことに相成つておるわけでございます。
それから第三に御指摘になりました結核予防会の点につきましては、あの費用は結核予防会にいろいろ専門的な点の研究の仕事を委託する、これは細部に亘りますから、或いは他の人から申したらいいかと思いますが、そういうふうに実ははつきりしておる使途のものでございまして、その懇談会の際にも隈部さんから、このくらいの金で一体いいでしようか、予防会はどのくらい持出しますかというようなお話が当時あつたわけであります。金の点につきましては、なおほかの説明員から説明願うことにお許しを頂きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/29
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030・山下義信
○山下義信君 私の質問のBCGの買上げは、一体どれだけの買上げをして、どれだけの利益があるのか、その利益というものが適当かどうかということを明白にしてもらいたいということがありましたから、他の政府委員からでもよろしうございますから、その点を御答弁願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/30
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031・慶松一郎
○政府委員(慶松一郎君) 只今のお話でございますが、BCGは国としては買上げておりませんです。これはすべて市町村その他で自治体が取扱つておる次第でございます。なおBCGのワクチンを結核予防会のみが現在は作つておりまが、これはたまたま現実の問題としてそうなつておるわけでございまして、決して結核予防会だけにこれを作らせるという方針ではございませんです。但しこれを作りますには相当な技術或いは施設等を必要といたしますので、その点で今日未だ結核予防会以外にはこれらの技術を持つておるところがない次第でございます。なお結核の診断に使いますツベルクリンにつきましては、これは結核予防会のみならず、ほかに六カ所の私立の研究所等で作つている次第でございまして、ツベルクリンにつきましてはそういうふうにほかでも作り得る能力があるから作つてもらつておる次第でございまして、若しも他の製造所或いは研究所、研究機関等におきましてBCGを作る能力ができましたならば、それらが厚生省におきます規格、基準等に合致いたしますならば、これをして作らしめることについてはやぶさかでない次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/31
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032・山下義信
○山下義信君 只今の薬務局長の御答弁で、国が直接に買上げるという言い方をしましたのは本員の誤りでございます。要するところ各種の地方公共団体等が予防協会に注文する、要するところ薬務局長の監督下にあるその予防協会の生産高、或いはその販売高等について、どれだけの販売をしておるか、又その価格或いは生産コストとの差はどういうふうになつているかということが薬務局においてわかつておるかどうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/32
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033・慶松一郎
○政府委員(慶松一郎君) 昨年度におきましてBCGのワクチンが作られました量は約三千万人分でございまして、実際にこれが配給されました量は千七百万人分でございます。で金額にいたしましてはおよそ私の記憶では、一人分七円と存じておりますので、従いまして約一億円くらいの金額になると思つております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/33
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034・山下義信
○山下義信君 この結核予防法案が成立した暁に、結核予防対策がかくのごとく画期的に行われる、従つてBCGの需要は非常に増加すると考えるが、今年はどういうふうに政府はその生産高、或いは需要高について見込んでおるか、その価格は本年度はどういうふうに、昨年度と同じように見ておるか、どういうふうでありますか、御説明を願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/34
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035・慶松一郎
○政府委員(慶松一郎君) 今年現在持つておりますBCGのワクチン手持量が約八百万人分ございまして、十二月までには少くとも二千三百万人分ぐらいを生産する予定でございます。従いまして合計三千万人分余のものが本年は供給できる見通しでございまして、これに対しましての接種対象が同じく三千万人分であります。なお結核予防会におきましては、従来の製造所、製造量では十分でないと考えられまして、目下新らしく非常に理想的な製造所を建設途中でございまして、これができますならば年間にこれに倍するくらいの量が供給できるだけの施設ができるはずでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/35
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036・山下義信
○山下義信君 私の質問は、コストとそれの価格とはどれだけの差がその間にあるかという点を尋ねたのでありますが、その点がまだ落ちておりまするが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/36
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037・慶松一郎
○政府委員(慶松一郎君) 只今申上げましたように、大体の使いますときの金額は七円くらいでありますが、コストは幾らということは只今ちよつと資料を持つておりませんので後ほど…。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/37
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038・山下義信
○山下義信君 ここに隈部博士がお見えになつておりますので、若しコストがおわかりでありますれば大体のことを……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/38
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039・隈部英雄
○参考人(隈部英雄君) コストは大体本年度も昨年度と同じコストになつております。又実情を申上げますと、今実際に出しまして、未回収の金が三千万円近く当予防会の負担で、それからまだストツクが七、八百万人分も現在持つております。実はその点で、予防会といたしましては施設も何も全部借金でやつておりますところへ、それだけの実は寝かした金があるので、これはいつも厚生省にも文句を言つておりますが、人件費にも時には事を欠くというような苦境にありますけれども、又技術的にも本年度からは小分けの、大体二十人分のものを造るべく、今全く新らしい構想によつた機械がやつとモデルケースができまして、大体夏或いは秋から二十人分の小分けもできるのではないかと思つております。
それから私からこういうことを申上げるのはちよつとどうかと思いますが、三千万円というお話がありましたけれども、これは実は結核予防というようなことを推進して行きますときに、大事なのは勿論施設も必要でありますが、最も私が大事だと思いますのは、そこで働く人間というものの養成が最も緊急なものであるというので、昭和二十二年から予防会の研究所で専門医の講習会を全く無予算で始めましたけれども、今年度政府からその講習所の宿舎並びに講堂の設置のために約一千万円の補助金、これにつきましても実はこの前の厚生省の懇談会のとにも、なせくれるのならば全額くれないのか、半額をもらいますと、予防会としますと又あと半額をどこからか金融をしなければならない、大変有難迷惑であると、実は笑つたのでありますが、それとその諾度調弁費並びにランニングケースとして四百万円、二千万円、それに研究委託費といたしまして一千万円、これだけを実は昨年度やつと予算に組まれまして、それで実は三千万円という数字が出ております。併しこの医者の教育、予防会では保健婦の補充もやつておりまするが、本当の結核予防を推進して行くためには、そのフイルドに働く人間の教育というものはゆるがせにできないという意味で始めたのでありますが、それに対してやつと本年度千万円、諸度調弁費を混せまして約二千万円の補助費を頂いたというのが実情でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/39
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040・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) ほかになお御質問がございましたらこの際伺つて置きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/40
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041・有馬英二
○有馬英二君 参考人に対する質疑は大体これで完了したものと思います。ほかの委員は如何でしようか。何かほかに……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/41
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042・山下義信
○山下義信君 それでは隈部博士に伺うのですが、最近あなたのほうでは、アメリカの医師会がBCGの効果に対して疑問的な声明を発表したということでありますが、それは事実でしようか、どうでしようか。
それからなお最近厚生大臣が行かれるという例の国連の保健機関、ユニセフが大変盡力しておられるようでありますが、BCGの研究について日本に特別の援助をするという意思表示をしておるようでありますが、あなたのほうにも御関係か何か、お聞き及びのことがありましようか、どうでしようか。この二点を伺つて置きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/42
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043・隈部英雄
○参考人(隈部英雄君) アメリカで、丁度昨年私がアメリカに行つておりましたたしか七月だつたと思いますが、シカゴで胸部疾患の専門家が集りまして、アメリカではBCGは大々的には使わないという決議をしております。これは事実であります。なぜアメリカでこういう決議をしたかと申しますには、これは理由がある、御存じのようにアメリカの現在の結核の死亡率は大体万対三になつております。でデトロイトのごとき大工業都市におきましては、三百六十万ぐらいの大都市でありますけれども、その区の中に、千代田区とか神田区とか何とか区というような区の中に年間を通じて結核死亡者ゼロという区が三つもあるような国において、先ほども申しましたように、何を好んでBCGを大量にする必要があるか、但しアメリカにおきましてもバラードのスラブ街に対しましてやはり強力にBCGの接種を行なつております。これにつきまして私が只今思い出しましたのは、アメリカで有数なBCGの、アメリカ第一人者と言われておりますドクター・アラン氏に、私フインランドに呼ばれましで私が帰りますときに、博士曰く、日本の現状においては結核は大変だろう、だからいろいろなことを言う人間があるかも知れないけれども、日本ではBCGをせざるを得ないだろう、だから大いにやり給え、これはアメリカインデアン、それからバラードのほうで盛んにBCGを使つておりますが、国の状態によりましてBCGを使わざるを得ない国もあれば、使わなくても済む国もある、国情によつてやはり違います。現にフランスで発見されたBCGがリユーベツクの事件を転機といたしまして、これは伝統的な反目も手伝つておりますが、ドイツではBCGを使つていなかつた。併しこの大戦後、ベルリンの死亡率は人口万対三十ということになつて、このときにやはりドイツでは何をやつたか、好むと好まざるとにかかわらず、やはりBCGをやらざるを得ないので、あれだけ国民が伝統的に相反目していたドイツでさえもBCGを強力に行なつた。アメリカで使わないと決議したということは、アメリカの結核がすでにその必要を認めないということだと私は思つております。又アメリカで最もTBコントロールをよく行なつておりますミシガン州におきまして、ミシガン州の結核の減りかたを見てみますと、一九三七年から非常に組織力と機動力を以てミシガン州では結核予防計画をしております。一九三七年に人口万対五だつたものが、十三年の間にそれだけの金とそれだけの機動力を以ても人口万対三にしか減らしていない。如何に結核予防というものがむずかしいかということは、これは私はしみじみ考える。又今度厚生大臣が行かれます会議でそういう話しがあるというようなお話でありますが、日本のBCGプログラムというものは、只今全世界の注目の的になつております。デンマークの有名なホルムから私のところに手紙が参つておりますけれども、今回の会議については直接まだ何ら私のところには連絡はございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/43
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044・谷口弥三郎
○谷口弥三郎君 緊急動議ですが、只今参考人のかたからいろいろと必要なお話を承わることもできましたし、又厚生省のほうに対しましては、いずれいつでも又いろいろ質問できるわけでありますから、本日はこの程度でこれを小委員のほうに持ち込むようにして、これで中止をしたら如何でございましようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/44
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045・山下義信
○山下義信君 只今の谷口君の結核予防法案を結核に関する小委員会に付託するの動議に賛成をいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/45
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046・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) 皆さん如何ですか。
[「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/46
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047・河崎ナツ
○委員長(河崎ナツ君) それでは本法案は重要でありますから、結核予防に関しまする小委員に付託をいたしまして審議して頂くことにきめます。では小委員会でよろしくお願いいたします。
それでは本日は本当に皆様がたお忙しい中を参考人のかたがたは特にお差し繰り下さいまして、特に熊谷先生は遠く仙台から駈けつけておいで下さいまして、御老体のところ本当にありがとうございました。御三人のかたがたに厚くお礼を申上げます。私ども委員一同いろいろと御指示頂きまして有難うございました。又厚生省のかたがたには御苦労様でございました。
今日の厚生委員会はこれを以ちまして閉会いたします。
午後三時二十二分散会
出席者は左の通り
委員長 河崎 ナツ君
理事
小杉 繁安君
有馬 英二君
委員
石原幹市郎君
中山 壽彦君
長島 銀藏君
上條 愛一君
藤原 道子君
山下 義信君
谷口弥三郎君
松原 一彦君
委員外議員
小林 英三君
国務大臣
厚 生 大 臣 黒川 武雄君
政府委員
厚生省公衆衛生
局長 山口 正義君
厚生省医務局長 東 竜太郎君
厚生省薬務局長 慶松 一郎君
厚生省社会局長 木村忠二郎君
引揚援護庁長官 宮崎 太一君
事務局側
常任委員会專門
員 草間 弘司君
常任委員会專門
員 多田 仁已君
説明員
厚生事務次官 葛西 嘉資君
参考人
社会保障制度審
議会委員 武見 太郎君
財団法人結核予
防会清瀬結核研
究所長 隈部 英雄君
東北大学名誉教
授 熊谷 岱蔵君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101014237X02019510328/47
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