1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十七年四月十八日(金曜日)
午前十時三十三分開会
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出席者は左の通り。
委員長 小野 義夫君
理事
宮城タマヨ君
委員
加藤 武徳君
鈴木 安孝君
長谷山行毅君
岡部 常君
内村 清次君
吉田 法晴君
齋 武雄君
一松 定吉君
羽仁 五郎君
政府委員
法務府法制意見
第四局長 野木 新一君
民事法務長官総
務室主幹 平賀 健太君
法務府民事局長 村上 朝一君
事務局側
常任委員会専門
員 長谷川 宏君
常任委員会専門
員 西村 高兄君
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本日の会議に付した事件
○参考人の出頭に関する件
○小委員の選任の件
○平和條約の実施に伴う民事判決の再
審査等に関する法律案(内閣提出、
衆議院送付)
○平和條約の実施に伴う刑事判決の再
審査等に関する法律案(内閣提出、
衆議院送付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/0
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001・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 只今より委員会を開きます。
先ずお諮りいたしたいことがございますが、前回の委員会におきまして羽仁委員より、日本国とアリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案について公聽会を開かれたいとの旨申出がありましたが、その後本件につきまして理事の各位とも相談申上げました結果、公聽会は開かず参考人を呼ぶことにいたしました。つきましては本案審査のために参考人より意見を聴取いたしたいと思いますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/1
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002・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 御異議がないと認めましてさよう決定いたします。なお参考人の人選につきましては便宜上委員長に御一任願いたいと思いますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/2
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003・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 御異議がないと認めます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/3
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004・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 次に小委員追加選定の件につきてお諮りいたします。先般委員となられました内村清次君より青少年犯罪に関する小委員に加わりたいとの申出がありました。つきましては内村君を只今申上げました小委員に選定いたすことに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/4
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005・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 御異議がないと認めます。さよう決定いたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/5
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006・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 次に法案の審議を行います。平和條約の実施に伴う民事判決の再審査等に関する法律案及び平和條約の実施に伴う刑事判決の再審査等に関する法律案、両案を便宜上一括して議題に供します。質疑に入ります。質疑のおありのかたは御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/6
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007・羽仁五郎
○羽仁五郎君 ちよつと懇談に入られたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/7
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008・小野義夫
○委員長(小野義夫君) ちよつと速記をとめて……。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/8
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009・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 速記を始めて下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/9
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010・羽仁五郎
○羽仁五郎君 今議題になりました平和條約の実施に伴う刑事判決の再審査等に関する法律案、並びに民事についての同様の法律案、或る意味において両者に共通しておる問題でありますが、特に今刑事関係の法律案について政府にこの際質しておきたいと思うことがあるのですが、第一に伺つておきたいのは、これは言うまでもなく平和條約第十七條(b)項を受諾した以上こうした法律案を提案しなければならないということから来ているのでしようが、併しながら何故にこの平和條約第十七條(b)項のごとき規定を日本が受諾しなければならなかつたかという点について、政府は果してどの程度までお考えになつておるのであるか、その理由からしてこの際伺つておかなければならない。で、すでに平和條約でそれは受諾したのだからという形式的なことでいいとお考えになつているか、それともこういう第十七條(b)項というふうなものを受諾したことは極めて喜ばしいことなのか、いわゆる友愛と信頼との精神がそのままここに現われているものなのかどうなのか、その点については今この平和條約に遡つて質問するのじやないのですが、それに基いてこの法律案が提案されておる、その根拠について政府はどういうお考えを持つておられるのか、その点を先ず第一に伺つておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/10
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011・野木新一
○政府委員(野木新一君) お説のように平和條約を受諾いたしまして、第十七條の(b)項によつて何らかの立法措置をなすべき義務を負つたわけでありますが、さて立法に当りまして、この法理的理由を考えて見たわけでありますが、この十分な陳述ができなかつたということが、再審査の理由になつておるわけであります。裁判はもとよりその当時の法規の下においてその法規が各人に共通に適用せられる法規であるならば、それは正当な法規としてその法規の下おきまして、原告なり被告、或いは被告人に正当な陳述なり、証拠提出の機会というものを與えて裁判するのが、まあ正当な裁判だろうと存ずるのであります。ところが連合国人につきましては、戰争のために時として抑留されたり、或いは送還等のために期日に出頭を命ぜられた者が出頭できなかつた、そういうようなことがありまして、今申上げたのは一番典型的な事例だと思いますが、その他のいろいろな主張とか申合せとか、立証をすることが戰争のため十分できなくてそのために何らか不利益な判決をこうむつたというような場合が若しあるとすればそれは救つてやらなければならないというのは日本の訴訟法の再審におきましても普通の民事訴訟法、刑事訴訟法の再審事由によりましても、例えば民事訴訟法の例を申しますと、訴訟代理人など訴訟代理の行為をするに必要な授権の欠缺があつたときはとか何とか、そういうようなことがありまして、授権の欠缺というようなものも再審事由になつておるのでありまして、それらの思想的に相通う点があるのではないか、即ち代理人ではないけれども、自分自身が十分に陳述ができなかつた、本人が戰争状態のため証人等を申請しようと思つたがその証人がおらなんだ、或いは主張しようと思つたが送還等のために期日に出頭してそれができなかつた、そういうような事情があつた場合には、只今言つたように代理人の代理権が欠缺しておつたというような場合と思想的に相通ずるものがありますので、実質的にこれを再審事由としてもまあ必ずしも不当でない、特に戰争中などで連合国という相手方の国民が万一不利益な取扱を受けたということがあつたならばこれを考慮すべきで、このような再審の措置は止むを得ないところであろうと存ずる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/11
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012・羽仁五郎
○羽仁五郎君 この戰争中に日本に……、只今の政府の御説明は私の質問の趣旨とは外れているので納得しにくいのですが、続いて次の点について伺つて行きたいと思いますが、この同様の規定が、戰争中には諸外国に日本国民がおつて、そうしてその間に訴訟に関係した場合があると思うのですが、或いはその場合に関して同様の規定があるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/12
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013・野木新一
○政府委員(野木新一君) 只今までのところ、調べたところではそういう規定はございません。多分まあ戰勝国におきましてはこういう規定は想像でございますが、ないのじやないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/13
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014・羽仁五郎
○羽仁五郎君 そうすると、政府はこの平和條約は勝者が敗者に押付けた條約だというお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/14
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015・野木新一
○政府委員(野木新一君) 講和條約の御審議のときにもいろいろ議論されたと思いますが、やはり勝者、敗者という関係でなくて、普通言われているように、和解と信頼の下に作られた條約だと考えておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/15
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016・羽仁五郎
○羽仁五郎君 和解と信頼との原則の上に基いて作られたものだとするならば、正面から解釈しますと、戰争中日本では十分な陳述をなす機会を與えないで裁判が行われていたという著しい事実がある、そうして外国においては日本国民に対してはそういうことが行われたという著しい事実はないということでなければこれは説明がつかないと思うのです。そうすると政府は現在この戰争中において日本の、これは最高裁判所のほうからの御答弁を伺つておきたいのですが、日本の裁判所では、或いは又日本のこれは法務府のほうに関係するわけですが、検察なり或いは警察なりというところにおいては著しく不当なる訴訟その他の手続をあえて行なつていたという事実をこの際お認めになるのかどうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/16
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017・野木新一
○政府委員(野木新一君) 私ども裁判所検察庁に関係あつた者でありますが、戰争中におきましても、日本国の裁判所及び検察官は法律の命ずるところによつて非常に公正な活動をしておるものと思つておるわけであります。従つて特に連合国人なるが故に差別的待遇をして不利益に扱つたということは殆んどなかつたのではないかと想像しておるものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/17
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018・羽仁五郎
○羽仁五郎君 それならばこの平和條約第十七條の(b)項というものを日本が受諾すべき理由がないじやありませんか、且つ又それに基いてこういう法律案を提出される理由がないのじやないか。堂々と、日本は戰争中において決して公正なる裁判の原則を著しく踏みにじつたことはないのである、従つてこういうことをこつち側だけが義務を負うということは、これは講和條約はいわゆる敗者に対する勝者の命令だ、或いは強制であるという印象を著しくする、そういうようなことを平和條約の過去に遡つて伺うことはいささか妥当を欠きますけれども、法務府としては当時の日本政府の見解として申入れられたことはあるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/18
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019・野木新一
○政府委員(野木新一君) その点は私は関係しておりませんでしたから、法務府としてこの十七條(b)項について何か意見を申述べたかという点は今のところ承知しておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/19
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020・羽仁五郎
○羽仁五郎君 御承知がないというのであれば法務総裁なり何なりに伺わなければならんのですが、或いはお聞き及びのところのみならず事実上においてはないのかも知れない。事実上においてないとするならば、そうして只今御指摘のように、戰時中日本のほうの裁判所又検察又警察は著しく国際的に確立せられておるところの公正なる争いの手続というものを踏みにじつたことはない、まあちよいちよいしたことはあつたにしても著しく踏みにじつたことはないということを今おつしやいましたが、それが事実でありとするならば、何故に対等の態度を堅持せられなかつたか、それは非常に大きな問題じやないかと思うんですが、どうでしようか。ここで著しく踏みにじつた事実はある、公正なる取扱の原則を著しく踏みにじつた事実はある、そこで止むなくこういう條項を受諾し、こういう法律案を提出するのだというか、いずれかでなければなりませんが、そのいずれかであるかをはつきりされないと、我々は本法案審議を進めることはできないと思います。どつちなのか、それをはつきり答えて頂きたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/20
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021・野木新一
○政府委員(野木新一君) 原則といたしましては、先ほども申上げましたように、著しく踏みにじつたことはないと確信いたすものであります。併しながらたくさんの事件がありますので、個々の具体的の場合にどうであつたということは、やはり具体的の事件について審査して見なければなりませんので、結局連合国と話合いの上で、万一そういうことがあつてはならないということで、こういう條項が入つたものと信ずる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/21
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022・羽仁五郎
○羽仁五郎君 今の御説明のようであるならば、何も事々しく平和條約の中に特に條項を設けてこういうことを義務を負うという必要はないので、先ほどお話のように、日本の国内法でもそれはやれる範囲内のものでしようし、又当然自発的にもなし得ることである、それを強制されるという形をとるということになつて来ると、今の御説明のように、個々の事件については或いは再考すべきものがあるかも知れないということならば、これは当然自発的になされるべきことであつて、殊にこうした義務付けられて、そうして強制に基いてなさなければならないということは、私はないのじやないか。その点も今申上げた政府は戰時中において日本の法廷、或いは検察、警察、その他において外国人に対して裁判、或いはそのほかの争いの解決の国際的に確立せられたる基準というものを、著しくふみにじつた事実があると認めて、この平和條約第十七條(b)項を受諾し、且つそれに基いてこの法律案を提出しておられるのか。それともそうではなくて、日本は特に国際的な基準から見て、只今のような著しい原則の蹂躪ということをしていたわけではない、併しながら敗戰国としてこうした條項を無理やりに受諾せしめられ、従つてこれに基いて本法律案を提出しておるものであるか、そのいずれであるかを次の機会にはつきり伺つておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/22
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023・野木新一
○政府委員(野木新一君) 只今その点について申上げます。御質問の点につきましては、政府といたしましては、戰争中日本の法廷が国際的の慣例なり、基準なりを著しく逸脱して、特に連合国民に対して不利益な取扱をしたということはないと信じております。ただいろいろのたくさんの事件がありますし、個々の事件におきましては或いは行過ぎがあつたかどうか、その点がはつきりいたしませんので、連合国との話合の上で、自発的に連合国民からそういう点を申出があつたならば、その点について反省して見ようという意味合で、講和條約第十七條項(b)は入つたものと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/23
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024・羽仁五郎
○羽仁五郎君 その点について依然として明確な認識を得ることはできないので、その点についての質問は保留しまして、次の問題に移りますが、このここに提出されたこの法案に言うところの連合国の国民が有罪の判決の言渡を受け、と言つておるのは、どの、この範囲は日本の裁判所に限るのですか、或いはそれ以外にも及ぶのですか。その点はどうなんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/24
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025・野木新一
○政府委員(野木新一君) 日本国の裁判所に限るわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/25
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026・羽仁五郎
○羽仁五郎君 そうすると日本国の裁判所以外でなされたところのさまざまの当時の連合国国民に対する取扱、或いは軍が行なつた裁判というふうなものもあるのじやないかと思いますが、それらのものについてはどうなんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/26
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027・野木新一
○政府委員(野木新一君) 日本国の裁判所以外のほかの国の裁判所は勿論入らないと思います。ただ軍で行なつた裁判として、軍法会議は憲法上の裁判所でありますから、内地にあつたものは、これはやはり日本国の裁判所のうちに含まるべきではないかと思つております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/27
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028・羽仁五郎
○羽仁五郎君 それから裁判にまで行かなくて、或いはそのかたが生命を失われたとか、本人が……。そういう場合はどうなるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/28
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029・野木新一
○政府委員(野木新一君) 條約十七條(b)項は、「連合国の国民が原告又は被告として事件について充分な陳述ができなかつた訴訟手続において」、「日本国の裁判所が行つた裁判を、」とありますのを、裁判がないものはここに含まれないものと解します。従つて警察、検察の段階のものは、この十七條(b)項の対象にはならないものだと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/29
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030・羽仁五郎
○羽仁五郎君 若しこの裁判にまで至らないで、いずれかの連合国の国民が、原告又は被告としてのこの事件について十分な陳述をなそうとしてもなし得なかつたというような、訴訟手続を求めても、訴訟手続が開始せられるにも及ばなかつたという問題について、この平和條約十七條(b)項というものは直ちにそれを指してはいないとして、併しそうした点において不当な取扱を受けたと確信する連合国の国民が、日本政府に対してこの趣旨と同様の再審査、或いはその他の処置を要求せられた場合には、日本政府はどうなさるお考えでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/30
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031・野木新一
○政府委員(野木新一君) その点は條約十七條(b)項の直接関係するところでありませんので、條約のほかの條項にその規定があればともかく、そうでなければその條約十四條(b)項によつてそういう請求を受けることがないわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/31
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032・羽仁五郎
○羽仁五郎君 今のような御答弁ですと、さつきの御答弁と矛盾することになりますが、裁判の場合、全体としては著しく裁判の公正の原則を踏みにじつた覚えはない、併しながら個々の裁判においては、或いは本人の利益を十分に考慮せられなかつたという事実があるかも知れない、従つてそれについては当然再審査をすべきであるという、自由の意思に基いてこの條項を受諾し、本法律案を立案、提案しているのであるというお説が、本心からお出になつたものであるとするならば、必ずしも裁判という形をとるに至らなかつたまでも、又現に当時は裁判を求め、或いは訴訟手続を求めても、それさえも與えられなかつた、従つてその場合には陳述の機会を與えられるどころじやなく、その陳述を要求することさえもできなかつたというような場合に対して、例えば十七條(b)項によつて強制され、或いは十四條(b)項によつていよいよその点において何らの強制を求められていないとしても、日本政府として、先ほどの御説明が若し妥当で、政府の本意であられるならば、そうした要求があり、そして日本政府がそれは如何にも不当な取扱であつたということをお認めになる、或いはそうした疑いがあると、十分なる疑う根拠があるということを認識せられた場合には進んで自発的に自由の意思に基いてそうした点について再考するという処置をとられるということでないと、先ほどの御説明は首尾一貫しないのじやないですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/32
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033・野木新一
○政府委員(野木新一君) 十七條(b)項はやはり裁判という特殊なものでありますので、その裁判の正当、不正当はやはり日本国の裁判は一応尊重した上で日本国をしては自主的に再審査の手続をとらせよう。そういう考え方に出ておりますので、別に矛盾はないものと存ずる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/33
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034・羽仁五郎
○羽仁五郎君 そうすると平和條約第十七條(b)項、或いは第十四條(b)項などによつて強制されている範囲内においてだけやるんだ、その強制されていない範囲内においてはやる考えはないのだ、そういう考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/34
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035・野木新一
○政府委員(野木新一君) 強制されていると申しましようか、自発的に條約を以て、みずから受諾して義務を負つた範囲でやる、それで足るものと思つております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/35
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036・羽仁五郎
○羽仁五郎君 日本の政府はそれで足りるとお考えかも知れないが、いずれかの連合国の国民が、たとえそれは裁判にはならなかつた、或いは裁判は求めたけれども裁判が與えられなかつた、それに至るまで……だからさつきの御説明のちやんとした裁判が行われたということならまだしも、その裁判も行われないで非常に不利益な処置がとられたという場合については、当然その救済を求めることが妥当であるというふうにそのいずれかの連合国国民がお考えになつて、それでそれに対する救済の措置を求められる場合には、日本政府はそれは拒絶するというお考えなんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/36
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037・野木新一
○政府委員(野木新一君) そういう場合について私平和條約の他の條項にそれに関する規定があるかどうか、裁判にもならないで連合国人が不利益を受けたというような場合の救済規定があるかどうかは別途研究してお答えいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/37
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038・小野義夫
○委員長(小野義夫君) ちよつと関連して委員長から質問します。今羽仁委員の質問は、まあ時効なんかかからんで……、事件が時効にかかつた場合におきましては、日本の国民といえども裁判権を喪失するかも知れないのですが、たとえ連合国の人でも、時効にかからん以上は普通の裁判を請求することは可能ではないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/38
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039・野木新一
○政府委員(野木新一君) 只今の点は誠に委員長の御質問のように、これとは関係なく時効にかからない限りは請求し得るものと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/39
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040・小野義夫
○委員長(小野義夫君) もう一遍質問をいたしますというと、ここはつまり裁判をした者を再審査するのであるが、裁判にかからなかつた事件については、一般の日本の裁判の手続によつて連合国の人は何時でもその刑事若しくは民事の問題を起訴し得る。そして日本の裁判の判決を受けることができるというのが建前であるのでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/40
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041・野木新一
○政府委員(野木新一君) その点はなお調査してお答えいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/41
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042・羽仁五郎
○羽仁五郎君 この法律案においては、その時効の関係はどうなつているんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/42
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043・野木新一
○政府委員(野木新一君) この法律案におきましては、時効の点は刑事について言いますと、原判決当時の事実及び刑罰法令に基いて審判するという点におきまして、当時の事実及び当時の実体、刑罰法令という点で抑えておりますので、裁判所が当持のところまで返つて行つて調べるということで、時効の問題は刑事については生じないわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/43
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044・羽仁五郎
○羽仁五郎君 今質問している点は、形式的な点を伺つているんじやなくて、この法律のよつて以て立つているところの原則、従つてこの法律に準じて、或いは解釈を要求されるかも知れないというような問題に触れているので、従つてこの法律案を我々が審議して行く際に、これを仮に可決するというふうになると、その及ぼす影響がどういうところにまで行くのであるかということも関連をいたしますので、先ほど来申上げている点は第一が原則の点ですね。それから第二にはこの法律がどの程度の範囲に及ぶものであるか、先ほど軍法裁判というものはこれにも含まれるというふうに言われたのですが、その他裁判に至らなかつた検察或いは警察の段階において不当の取扱を受けたと考えられる場合などについて、第一には原則、第二にはその範囲についてですね、どの程度にこれが及ぶものであるのか。そしてそれらについては第一の原則に従つて第二の範囲については政府はどういう態度をとるかということが、これは首尾一貫して来ないと困ると思う。それから第三の点として伺つておきたいのは「充分な陳述をなし得なかつた」という用語がこの法律案の中に出て来るのですが、この充分な陳述をなし得ないというのは如何なる範疇であるのか、どういう範囲をこれに含んでいるのか、如何なる場合がこの中に含れていないのか、この点について極めてあいまいな感じを抱きますが、政府はこの充分な陳述という点についてどういうふうに明確にお考えになつているのか、その点を伺つておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/44
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045・野木新一
○政府委員(野木新一君) 「充分な陳述ができなかつた」という法案の文字は、條約の文字をそのまま借りて来たわけであります。ここで言うところの「充分な陳述」と言いますのは、戦争のために原判決に影響を及ぼす慮れのある申立とか立証等の訴訟上の権利の伸長防禦の方法ができなかつたために何か不利益な判決を受けたというようなものを指すものと考えております。一番典型的な事例といたしましては、例えば民事の裁判において期日の呼出しを受けたところが、抑留、送還等のためにその期日に出頭ができず、従つてその期日において主張、立証できなかつたそのために敗訴になつてしまつたというような場合が一番適当な事例ではないかと存ずる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/45
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046・羽仁五郎
○羽仁五郎君 その平和條約の文字をそのままこつちに持つて来られたという程度で、そして引用されるのは只今の程度の引例では、我々立法者として明確な観念を受けるに甚だ困難を感じますから、もう少し充分な……、充分な陳述をなし得なかつたというのはこれこれの場合であるというふうに列挙して御説明を頂きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/46
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047・野木新一
○政府委員(野木新一君) 陳述と申しますのは、申立とか、主張とか、立証等の訴訟上の権利の伸長防禦の方法を言うものと考えるわけであります。又その上についた「充分な」というのは、結局原判決に影響を及ぼす虞れのあるというような意味になると思います。即ち、原判決と関係ないようなことを言わなかつたということだけでは駄目でありまして、何らか原判決に影響を及ぼす慮れのあるような、即ち原判決と噛み合うような点の訴訟上の権利の伸長防禦の方法でないと、これに入らないものと思います。できなかつたというのは、何か戰争に起因して、戰争状態のために、本来ならば正当にできるのができなかつた、そういう場合だと考えておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/47
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048・羽仁五郎
○羽仁五郎君 その点については、前の第一の原則の問題と、第二のこの範囲の問題、どの程度まで及ぶものであるかということと関連して来ますので、もう少しはつきりした御答弁を伺つておきたいと思うのですが、それについては、その質疑はあとに保留いたします。第四に伺つておきたいのは、この立法によつて、大体においてこの適用を受けるのであろうと思えるような事件ですね。これにはどういう種類の事件がどれくらいの数あるだろうというように大体お考えになつておられるか。それについては、勿論これは、その不当なる取扱を受けたと信ぜられる側からの申立というものによるものでありましようけれども、併しながら、我々はこの法律案を審議する際に、およそそれらの見当がついていることが必要だと思うのです。その意味から只今の点についてお答えを願つておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/48
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049・野木新一
○政府委員(野木新一君) この法案の対象となる事件につきましては、正確な数字は出し得ませんが、一応調べたところは、資料にしてお手許に差出してあります。即ち、刑事につきましては、平和條約に署名した連合国国民に関する犯罪といたしましては、只今調査したところによりますと、通常裁判所におきましては三十七名程度でありまして、うち懲役が三十五名、禁錮が一名、罰金が一名ということになつております。勿論、これは多少の落ちこぼれがあるかも知れませんが、大差ないのではないかと思います。なお、参考のため、一番正確な統計がございます。昭和十七年、十八年二カ年中における全外国人、日本人以外の全外国人の犯罪人員を調べて見ますと、二年間合計が三百十二人。昭和十七年、十八年三百十二人でありますが、このうち、直接今度の対象になる欧米人というものは、やはり先ほど申上げた数と大差ないものと信ずるわけであります。なお、民事につきましても、お手許に資料を差上げておきましたが、連合国人等を当事者とする訴訟事件は、昭和二十一年二月以前のものは、平和條約署名国人を当事者とするものはほぼ十九件ぐらい、その他全部の連合国人を入れても三十三件ぐらいでございまして、これも多少落ちこぼれがあるかも知れませんが、大体大差ないのではないかと信じておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/49
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050・羽仁五郎
○羽仁五郎君 次にこれらの今参考資料として頂戴しておるものに基いて御説明がありましたのですが、この中の特に重要なものについて、それはどういう事件で、そうしてどういうふうな経過を辿つたものであるかということについての、今おつしやる刑事関係が三十数件、民事関係で三十数件ということでありますが、その代表的なもの二、三について御説明を願うことが今できますか、それとも次の機会にお願いできますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/50
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051・野木新一
○政府委員(野木新一君) 刑事事件につきましては、この資料に一部掲げてありまして、例えば……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/51
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052・羽仁五郎
○羽仁五郎君 この資料の三頁ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/52
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053・野木新一
○政府委員(野木新一君) 資料の三頁です。こんな見当でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/53
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054・羽仁五郎
○羽仁五郎君 先ほどから伺つております原則的な点、それからその範囲、どの程度に影響を及ぼすものであるかという点、それからその「充分な陳述」という概念の明確な規定などのために必要だと考えますので、この中のこの資料の三頁の第一は、米国人に対し、東京刑事地方裁判所において十八年三月五日に詐欺横領の罪名によつて懲役一年、それからその次のフランス国民に対して、横浜地方裁判所において十八年一月二十五日、国防保安法、陸軍刑法違反懲役二年、それからそのあとに、米国人に対して、札幌地方裁判所において、昭和十八年六月十一日、軍機保護法違反の罪名において懲役十五年、同じく札幌地方裁判所において、米国民に対して同日に同じ罪名において懲役十二年というのを挙げておられますが、これらはどういう事件であつたのか、この事件及びその取扱の概要の御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/54
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055・野木新一
○政府委員(野木新一君) このうち判決の謄本を取寄せたものもございまするし、又判決の謄本のなくなつておるものもあるようでありまして、次回までにあるものについて調べてお答えいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/55
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056・羽仁五郎
○羽仁五郎君 念のために申上げておきますが、勿論その何らの不当がなかつたというように確信せられるものについては伺う必要はないと思うので、或いは不当だと考えられる理由があるのではないかと思えるものについて伺つておきたいと思います。それからその次に第五に伺つておきたいのは、これは本法律案に直接関係しないのでありますけれども、本法律案によつて外国人が戰争中不当な取扱を受けたということに対して救済の措置を政府はとろうということになるわけであります。それに対して、日本国民自身が日本国内において戰争中不当な取扱を受けたということに対する取扱とこの法律案とはバランスのとれたものだというふうにお考えになつておられますか、どうでしようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/56
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057・野木新一
○政府委員(野木新一君) 日本国民が日本国外でいろいろの迫害を受けたかも知れないという点とこの法案とはバランスがとれているかという点でございますが、日本国外におきましては、その裁判した者についてどういう措置をとられておるかということにつきましては私ども承知いたしませんが、日本国内で行われたものにつきましては日本国が自発的にかれこれしてみようということを決意したのでありまするから、必ずしもバランスという問題をとつて強いてその点を考えるまでのことはないのじやないかと考える次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/57
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058・羽仁五郎
○羽仁五郎君 それは大変納得しがたい御答弁なんですが、どうも日本は昔からどうかとすると、えらく日本が偉い国になつて諸外国が皆鬼畜のようになつて、そうすると反対に今度は外国のおつしやることは何でも御尤もで、併し日本国民の言うことは皆否定されるというように非常な排外主義と、それから非常な外国崇拝主義と言うか、それが裏になり表になつて現われて来る、そういう印象を與えてはならないと私は思う。それで又そういうことがあつてはならない。だからこの法律案によつて外国人に対してはその時効というふうなことも顧慮されることなく不当な取扱を受けた者があるとするならば、その救済ということについて誠意を盡すという態度をとられるとするならば、外国人にあらず日本国民自身に対してやはりそうした著しい不当な取扱があつた場合には進んで時効、その他の顧慮、二義的な技術的の問題というものに拘泥しないでその救済の態度をとるということがなければ、外国人ばかりを鄭重に扱つて、肝心の日本国民を鄭重に扱わないのじやないかということになりはしませんか、その点はどうでしようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/58
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059・野木新一
○政府委員(野木新一君) 国内の日本人につきまして、日本の裁判所で何か不当な取扱を受けたという者についてこれと同じように何か救済の措置を講ずる必要はないかというような御質問だと思いますが、その点につきましては、日本国民につきましては、普通の訴訟法に再審とか上告とかそういう手続がありますし、日本国人につきましては戰争中と言つても又外国人と違いまして個々の事件におきましてもそう不当だということは殆んど考えられませんので、特段のこれと似通つた措置というものはあえてやるまでのことはないのじやないかと考えるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/59
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060・羽仁五郎
○羽仁五郎君 最後に本日の質疑として伺つておきたいのは、こういうことが、勿論私としては絶対に将来繰返されるということは絶対にないと確信しておりますけれども、併しながら同じ原因が存在すれば同じ結果が出て来るということは考えなければならない。
そこで将来に対して、勿論将来に対して日本が侵略戰争を開始するということは絶対にあり得ないことなんですが、その点についてじやなく、日本の裁判、検察、警察というものの制度の上で国際的に見てどうも不当な裁判なり、検察なり、警察なりの処置があるのじやないか、いわゆるザ・サード・デイグリーということは諸外国で日本の特色の一つのように言われているが、この法律案を政府が今提出される際にそれらの問題についてはどうお考えになつているのか、過去においてそういう点があつたと、従つてそれらの点はどういう原因によるのであるか、従つてそれらの原因は今日これがすでに取除かれているのか、或いはまだ取除かれていないものはこれを取除く努力を政府としてもこういう点においてなすつもりである、そういう点についてのお考えがあろうと思うんですが、伺つておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/60
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061・野木新一
○政府委員(野木新一君) 只今の御質疑の点は誠に御尤ものところでございます。政府といたしましても、新憲法自体が旧憲法に比して一層人権尊重という点を建前にしてできておりますので、新憲法制定後直ちに刑事訴訟法の改正をいたしまして、英米式の思想を取入れ、例えば令状をもらわなければ逮捕できないといつたような、そうして弁護人を付ける場合非常に大幅に擴げた等いろいろな点で人権権尊重の手当をいたしておるわけであります。そうしてこの新憲法の人権尊重という精神は、検察官及び警察官についても機会あるごとに徹底させておりますので、人権尊重ということにつきましては、旧憲法時代と格段の人権尊重の意思と申しますか、そういうものが検察官とか、警察官の間に擴がつて来ておるかと思います。なお別に警察官等が違法行為をした場合につきましては、それを検事が不起訴処分にしたような場合につきましては、これについて特別の刑事訴訟法の規定を設けまして、最後に裁判所の公判にまで付し得るというような特別の規定も設けたりいたしまして、御質疑の点につきましては法制上におきましても十分な考慮を拂つており、なお又その運用につきましても努めて注意いたしておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/61
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062・羽仁五郎
○羽仁五郎君 その点についてもやはりさつき質問しました通り、第二の点、つまりどの程度までの範囲を考えなければならないかというかということも関連して来ますが、日本の裁判、検察、警察の関係で以て特に国際的に悪名が高いのは主として裁判ではなくして、それ以前の検察や警察のそれで、そのために或いは裁判が不当に国際的に不信の目を持つて見られておるのじやないかと私も非常に恐れるのです、その点についても只今お考えがなかつたのですが、その裁判に行くまでにおいて特に警察や検察において、なかんずく警察において、ザ・サード・デイグリーが依然として消えないのじやないか、若しそういうことがあるとすれば、或いは今後も日本の裁判につき国際的に不信の目を以て見られるという虞れが多分にある、これらの点についての政府の今日までの御努力というものは必ずしも所期の結果を実現していないし、その間に最近法務府は或いはこれらの関係と重大な問題のある人権擁護局というものを縮小するとい
うようなことを考えたりしておられるようだが、そういうことがありますと、この法律案を我々が今ここで審議をする際に、前に起つたこういうことについてこういうことをやり、又前にあつたために今こういう法律案を出さなければならない、同じ原因を今後にも存続させて行くということではこの法律案を審議する上に重大なる関係があると思うので、それらの点についてもなお次の機会に一層質疑をせざるを得ないと思うんです。
それからもう一つ伺つておきたいのは、この法律案とやはり直接に関係はないのですけれども、併しながら間接に関係のある問題ですが、戰争中日本が外国人に対して不当な裁判その他の公正でない取扱をした、そのためにこういう法律案を今出すとしますと、占領期間中に今度は逆に占領と関係して日本国民が或いは十分の陳述の機会を得ず、その他公正にして妥当な取扱を得なかつたというように考えておる事件があるかも知らん。私自身としても必ずしもそういう事件がないとは言えない。そういう点については政府はどういうふうにされるおつもりであるのか、その点も伺つておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/62
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063・野木新一
○政府委員(野木新一君) 先ず最初の点をちよつと補足的になお答弁しておきたいと思いますが、旧憲法時代警察が非常に悪かつたというような非難を受けるのは、私の見るところでは一つは法制的の面から見ますと、警察犯処罰令というのがありまして、警察署長が即決処分ができたという点と、それから行政執行法というのがあつて検束処分ができたというこの二点が法制的に見ますと非常に濫用されたと申しますか、悪いことを起しがちの原因になつたと思います。併しこの二つの点は新憲法と共に廃止されましたので、そういう法制的の点では昔のような合法的な形をとつた非難されるような点が起り得る余地は今はなくなつておるわけであります。その点が実際問題は非常に大きな濫用の余地をなくしておるのではないかと思います。あとは警察官の教養、訓練とか何かという点が非常に関係して来ると思いますが、これも国警当局その他が非常に盡力しておりますので、旧憲法時代のようなことは起さないという努力を今政府が法制的にも実質的にもそつちのほうに向つて努力をして来ており、又将来も努力するという点は御了解願いたいと存ずる次第であります。
なお第二の点の、占領中日本国民が何か不当な裁判を受けたことはないか、その救済について何か考えていないか、という点でございまするが、この点につきましては或いは軍事占領裁判所の裁判というようなことを頭にお考えであるかとも思いますが、この点の処置につきましてはまだ具体的に考えるという点には至つていませんが、将来これに対して研究問題として研究して見たいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/63
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064・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 小委員会の参考人が来ておられますから、或る程度でこれは打切つてしまいたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/64
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065・羽仁五郎
○羽仁五郎君 それでは最後の点ですが、具体的に考究しておられないというのは、恐らくそういうことじやないのだろうと思うのです。十分御研究にはなつておられることだろうと思う。それで占領軍によつてなされた取扱だけではないです。日本の裁判所が占領軍最高司令官の覚書とか、そういうものに関係していたものには裁判権、管轄権その他の問題でその事件に関係されたかたに満足を與えることができなかつた事実は御承知の通りで、それらの問題がいろいろにある。そうしてそれらの問題を解決するのも実はこの講和発効と同時であることは、事実上にも理論的にも最も妥当であります。そうして又同時に只今我々が審議しておるこの法律案が発効する際に、或る意味においては理論上の意味においてそれと引替になさるべきものだと私は思う。それで政府も勿論外国人についての不当な取扱を救済するという誠意を十分披瀝する必要があると同時に、この占領期間中に、日本国民が占領期間中に占領軍の権力によつてさまざまの面において不当な取扱を受けたという事実を疑う十分な理由がある場合においては、これに対してやはり本法律案成立と同時、即ち講和発効と同時に措置をとられないと、その機会を逸し、且つ又その努力が効果を奏しないという点があると思いますので、今の点は私が今申上げたように御努力を願つているものと了承してよろしいですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/65
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066・野木新一
○政府委員(野木新一君) お言葉のことは言外で、趣旨はわかつたような気持はいたしますが、いわゆる占領中連合国司令官の命令等に基いて作つた法令違反の罪とか、そういうものについては私ども政府としても講和発効と同時にその何と申しましようか、刑の効果というものについては相当考えておるように承知しております。それから現にプロヴオスト・コートに繋属中の事件又はすでに確定して刑の執行中のものについては、その事件を選り分けてどうしても、殺人強盗とかそういうようなもので、こちらで処置しなければならないようなものは、日本の検察当局で調べ直して振り分けるというような措置に出る方針に今のところなつております。それで一つ御了承願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/66
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067・羽仁五郎
○羽仁五郎君 大体今の御説明で殺人とか強盗とか、そういう日本の国の刑法においても追及しなければならないというふうに考えられるものを除いて、いわゆる占領という状況によつて発生したものについては、講和発効と同時にそれらについて、それらのものが成立しなくなるというお考えであることを了承しましたが、その他についても例えば印刷庁の封鎖、印刷機械の封印であるとかいうことについて、どう見ても甚だ行過ぎだというふうに考えられるものがあります。それらのこともこの占領軍が講和発効と同時に直ちに撤退せられるならば別ですが、併しいわゆる駐留軍と名を変えてその実力は日本におられるという関係があるので、その機を逸すると、それらについて公正にして妥当なその関係者をして服するに足るような措置をとる機会を逸する虞れがある。それらについてもお考えになつておることと思いますが、よろしいですか。それから今の点について、私が大体七点について質問したのですが、これらの点について裁判所側からの御意見も伺つておきたいと思うのであります。それから次の機会に本日私が質問を留保したその意味は御了解が頂いておると思うのですが、つまり今日伺つた七つの点についてもう少し詳細な御説明を伺う必要があるというふうに考えるので、それらの点を委員長にお願いしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/67
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068・小野義夫
○委員長(小野義夫君) はい、わかりました。速記をとめて下さい。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/68
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069・小野義夫
○委員長(小野義夫君) 速記を始めて下さい。両案に対する質疑は次回に継続いたすことにいたしまして、本日はこれで散会いたします。
午前十一時五十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315206X02519520418/69
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