1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十九年四月九日(金曜日)
午前十時三十分開議
出席委員
委員長代理 理事 青柳 一郎君
理事 中川源一郎君 理事 松永 佛骨君
理事 古屋 菊男君 理事 長谷川 保君
助川 良平君 田子 一民君
降旗 徳弥君 山口六郎次君
亘 四郎君 滝井 義高君
萩元たけ子君 杉山元治郎君
山口シヅエ君
出席政府委員
厚生事務官
(保険局長) 久下 勝次君
出席公述人
早稲田大学教授 末高 信君
全日本海員組合
組織部長 和田 春生君
社会保険診療報
酬基金理事長 清水 玄君
富士紡績株式会
社労働部長 波多野則三郎君
全日本造船労働
組合中央執行委
員 小西 昌二君
大阪市立大学教
授 近藤 文二君
非現業共済組合
連合会理事長 今井 一男君
委員外の出席者
専 門 員 川井 章知君
専 門 員 引地亮太郎君
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本日の公聴会で意見を聞いた事件
厚生年金保険法の全面的改正について
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/0
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001・青柳一郎
○青柳委員長代理 これより厚生委員会厚生年金保険法案に関する公聴会を開会いたします。
この際公述人の皆様方に一言ごあいさつ申し上げます。本日は御多用中にもかかわりませず、当公聴会に公述人として進んで御出席くださいましたことにつきましては、委員一同を代表いたしまして厚くお礼を申し上げる次第であります。申すまでもなく社会保障の問題は、当委員会といたしましても最も重要な問題でありまして、現在多種多様な社会保険行政について、各方面から社会保険の統一問題、保険経済の再検討等が叫ばれておりますが、その一段階として、お手元に差上げましたような厚生年金法の全面改正案が政府から提出せられることと相なった次第であります。このような全面的な改正は、国民に大なる影響を与えるものと考えまして、当委員会も特に審査に慎重を期しているわけであります。加えまするに、かかる重要法案につきましては、広く国民の輿論を反映せしめるとともに、これらの問題に携わっておられる方々、研究されておられる方々の御意見を拝聴いたし、審査に万全を期すべきであるとの委員会の意思によりまして、本日公聴会を開き、公述人の皆さん方に御足労願った次第であります。公述人におかれましては、本問題についてあらゆる角度から忌憚のない御意見を御発表くださるようにお願いいたします。ただ時間の都合上、公述の時間はお一人二十分以内といたしますが、公述のあとに委員諸君から質疑があると思いますから、その際も忌憚なくお答え願いたいと存じます。
なお念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、公述人の方々が発言なさいます際は、委員長の許可を得なければなりませんし、発言の内容につきましては、意見を聞こうとする問題の範囲を越えてはならないことに相なっております。また委員は公述人の方々に質疑をすることができますが、公述人の方々は委員に質疑をすることはできません。以上お含みおきをお願いいたします。
次に公述人の皆様が御発言の際は、便宜上、劈頭に職業または所属団体名並びに御氏名をお述べいただきたいと存じます。
なお発言の順位は、かってながら委員長にきめさせていただきます。
それではまず末高公述人に御発言をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/1
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002・末高信
○末高公述人 私、早稲田大学教授の末高信であります。ただいま当衆議院におきまして審議せられておりまする厚生年金保険法改正案は、政府の責任において提案せられておりまするいわゆる政府案であることは、私が申し上げるまでもないところでありまするが、この政府案は、すでに社会保険審議会及び社会保障制度審議会の審議を経たものであることも、今さら申し上げるまでもないことであります。ところが右の審議会のうち、前者すなわち社会保険審議会におきましては、私会長の地位にありますし、また後者すなわち社会保障制度審議会におきましても、委員の地位にあるものであります。そしてこの二つの審議会は、この問題について慎重に審議をいたしまして、すでにその結果を厚生大臣あるいは内閣総理大臣に答申申し上げている次第でございます。そしてその答申の内容はすでに皆様熟知しておられるところであります。従って私を本日この公聴会において公述人として御選定になりました理由を、私みずからそんたくいたしまするに、審議会の会長や委員というような資格においてではなく、いわゆるかみしもを脱いで、一人の自由人として、あるいは研究者として、思うところを述べよとのことであろうと推察いたしたのであります。そこでただいまこれから述べようといたしまする私の意見は、右の審議会の公式の意見とは異なるもののあることを、あらかじめ御了承願いたいと思うのであります。
さて、わが国の社会保険制度は、昭和二年から大体進められて来たと思うのであります。かれこれ三十年の歳月を経過いたしております。ところがいずれの制度もまだ十分満足すべきものにはなっていないのでありますが、しかしながら健康保険であるとか、あるいは失業保険であるとか、労災保険のような短期給付をいたしまするものにつきましては、ほぼ一応の形が整っておりまして、世界水準に照して見てもあまり見劣りしないものであると考えられます。ところがこの厚生年金保険という、老齢やあるいは廃疾や、あるいは遺族の生活を保障し、長期の給付を必要とするところのこの保険部門は、その成立が非常に遅れたばかりでなく、いまだに勤労者の生活の保障を確保するという社会保障制度本来の機能を果しておらないと考えられます。
なぜこのようにこの厚生年金保険制度が、ただいままでその本来の機能を果すことができなかったかと申しまするのに、第一にはこの保険制度の成立の由来にあると思います。すなわち本制度は昭和十六年に制定せられたものでございまするが、当時の戦時体制のもとにあっては、労働者の勤労意欲を高めるために老後の生活保障を行うことが必要であり、また他方当時上昇を見ましたところの賃金の一部分を強制貯蓄にかわって封鎖し、インフレを防止し、さらにまた生産拡充のためにその資金を利用するというような必要があったのであります。かくてこの保険が本来強制貯蓄の方法として実施せられたために、資格期間を二十年というような長きに規定するとともに、個人的貯蓄の色彩の濃厚であるところの脱退手当というような、厚生年金本来の目的から申しますと、まことにふしぎな制度が附加せられたのであります。すなわち純粋に勤労者のための生活保障として生れたものではなくて、戦時立法として、生産拡充という動機で生れたことが、この保険をして今日まで、勤労者の生活保証としてわれわれの納得の行くものにならなかったところの根本的理由があると思います。
さらにこの厚生年金保険が本来の機能を十分果し得なかった第二の理由といたしましては、それは戦後にとられたところの暫定措置であります。すなわち戦後の困難な経済のもとに、企業も労働者も保険料の負担能力を失ったという理由によりまして、その保険料率を約三分の一に引下げ、その保険料を負担するところの標準報酬をも八千円にくぎづけすることにしたのであります。そこで労使双方の保険料負担が軽減せられたのでありますが、それとともに老齢年金を一様に年額千二百円、すなわち月額にいたしますとわずか百円に押えることになったのであります。このことは一面におきまして保険料負担を軽減はいたしましたが、他面におきましてこの厚生年金保険をまったくただ保険料を吸い上げるだけの悪い制度であるとの感を国民に抱かしめまして、国民はまつたくこれに無関心になったというわけでございます。
第三に、厚生年金保険の改正に関する基本的方針について申し上げてみたいと思います。そこで、一時休眠の状態にありました老齢年金につきまして、最近その受給権者が発生したということを機会といたしまして、政府がその全面的、根本的改正に乗り出しましたことは、まことに機宜を得たことであって、私は双手をあげて賛成するものであります。かくて今日厚生年金保険を改正するにあたりましては、必ずやその面目を改め、その樹立以来になって来たところの欠陥を根本的に払拭し、戦後の暫定措置を徹底的に検討して、真に老後、廃疾、及び遺族の生活に対しまして保障を与えるところのものとして、この制度を確立しなければならないと思います。しかるにこのたび提案せられております改正案は、決して私どものこの期待にこたえるものではないのであります。以下順を追いまして、私の不満とするところを指摘したいと思います。
その一つは給付でございます。給付のうち老齢年金につきましては、定額制かあるいは報酬比例制かの問題が特に重要な問題になっております。私は、定額と報酬比例との併用をいたしましたところの原案の考え方を支持いたします。社会保障としての年金給付は、定額制が学問的であるとか理論的であるとかの主張であるのでありますが、私の不敏にして納得のできないところであります。もし社会保障における給付は定額制が正しいというならば、その論者は失業保険や健康保険につきましてもその主張を貫くべきであると思います。なるほどイギリスにおきましては、老齢年金も、疾病給付も、それからまた失業給付も、定額制であり、同率でございます。ところがアメリカにおきましては絶対に報酬比例でございます。定額制にも報酬比例制にもおのおの長所はございます。普通折衷ということは宙ぶらりんのものになりまして、両者の短所を持ちがちでございますが、私は老齢年金の給付額をこの定額制と比例制の供用にするということは、完全に両者の長所をあわせ備えることになると思うのであります。
次にその具体的の額でございますが、政府原案のように定額部分を月千五百円、報酬比例部分を月千分の五はまことに低きに失しており、生活に対する保障としてまことに不十分であります。なるほどこの額は、政府の説明のごとく、生活保護における扶助額にほぼ当つているようではございますが、生活保護は冬季手当等々の附加部分がございますから、これらの附加部分を考慮に入れれば、厚生年金保険の給付はむしろ生活保護に対してバランスを失したものといわなければなりません。そこで私は、定額部分を月三千円程度、報酬比例を月千分の五とするように修正をすることを提案したいと思います。報酬比例については最終十箇年または五箇年の平均を標準とすべしという御意見があるようでありますが、これは定額部分を月三千円と私の申し上げるようにいたしますならば、すでに生活保障の問題はある程度解決ができることと、第二にインフレのごとき特別の事情の発生した場合には、臨時措置といたしまして、過去の報酬額を引上げて計算することが妥当であると考えられます。なおこの老齢年金の給付額につきましてのILOの決定いたしました基準との関係につきましては、後ほど申し上げたいと思います。
それから次は、障害年金の額と遺族の範囲の問題でありますが、この二つの問題につきましては私は原案を支持したいと思います。原案の考え方によるところの障害年金の額では、生活を維持することができないものがあったり、また遺族の範囲を原案のように限定いたしますと、それからはみ出した部分についての生活保障として役に立たないというような、いろいろの考え方ももちろんあり得るのでありますが、それらの部分につきましては、当然に生活保護法によるところの補充的保護で処置せらるべきであると考えるものでございます。
それから次は、保険料と国の負担部分について申し上げたいと思います。右に申し上げたように、原案よりも年金額の増加を見るとかりにいたしますれば、所要経費は当然に増大するわけでございます。それは保険料と国の負担の両者を増加することによつてまかなわなければならないものであります。国の負担は、所要経費の全額を負担すべきか、あるいはその一部分にすべきか、また保険料につきましても、労使の負担部分をどういう割合において決定すべきかということにつきましては、学問上別段定説はないようであります。要するに被用者、事業主及び国の力関係できまることであると思います。そこで今日の段階におきましては、失業保険におけると同じように、それぞれ三分の一ずつの負担の方式を採用すべきでおると考えるものであります。
次は脱退手当金について申し上げたいと思います。老齢及び遺族の生活を保障することを使命といたします厚生年金保険は、決して個人的の貯蓄制度ではないのであります。先ほど申し上げましたように、個人的貯蓄の性質を多分に持っておりますこの脱退手当金は、まさに廃止すべきであると考えるものでございます。
それから次は、老齢年金の開始年齢でありますが、男子六十才の原案には賛成いたしたいと思います。最近平均年齢が五箇年も延長したのでありますからして、それに相応して従来の五十五才から六十才に延長することは当然であると思うのであります。
それから次は、ILOの社会保障の最低基準に関する条約との関係について一言したいと思います。一九五二年に成立いたしましたところのILOの社会保障の最低基準に関します条約は、できるだけ早く批准することが望ましいのでありますが、わが国の社会保障制度の各部分のうち最もこの基準に遠いものは、厚生年金保険に含まれておる老齢、廃疾及び遺族等に関する諸給付でございます。この改正に関する政府原案をもつていたしましても、右の基準に達することはできないのであります。すなわちこの基準によりますれば、年金額は、その国の標準賃金の四〇%を下まわってはならないことになっております。わが国の標準賃金というものを、一応一箇月一万円程度といたしますれば、年金額は四千円を下まわってはならないわけであります。政府原案では一万円の標準報酬をとったものでありましても、定額部分千五百円、比例部分千円を加えましてわずかに二千五百円、すなわち二五%にしかならないのであります。私の主張いたしますように、定額部分を三千円といたしますれば、比例部分の千円を加えて年金月額は四千円となりまして、ILOの基準にほぼ相当することになると考えるものであります。
最後に結論を申し上げたいと思います。母上きわめて簡単に一研究者として私の思うところを述べたのでありますが、私はこのたびの厚生年金保険法の改正の機会におきまして、最小限度右に指摘いたしました諸点につきまして反省を加えまして、真に老齢、廃疾及び遺族の生活に対して適切な保障が確立せられることを念願いたすものでございます。
これをもちまして私の公述を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/2
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003・青柳一郎
○青柳委員長代理 ありがとうございました。
次に和田公述人にお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/3
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004・和田春生
○和田公述人 日本海員組合の組織部長、全日本労働組合会議の常任幹事をいたしております和田でございます。
先ほど末高先生からもお話がありましたが、私も社会保険審議会の委員といたしまして、今回政府から提案されました厚生年金保険法の改正案については、終始審議に参画をして参った者の一人でございます。社会保険審議会の答申が出ておるわけでございますが、その社会保険審議会の審議を経て、政府が独自の見解においてこの国会に出された年金保険法の改正案に対しましては、社会保険審議会の経過とも関連がありまするけれども、労働者の立場といたしまして、また単に労働者という狭い立場からだけでなく、国民的な見地からどうなければならないかということにつきまして、私見を申し上げてみたいと思うわけであります。
その前に、この年金保険法の改正をめぐりまして、いろいろな反対の意見が述べられておりまして、それがまた政府の提出する案にも作用したように聞いておるわけでございます。たとえば現在企業の経営が非常に苦しい、非常な不況下にあるので、これ以上の負担増に耐えるわけに行かない、あるいはまた総合的な社会保障制度が確立されないのに、厚生年金保険法だけ抜本的な改正をするというようなことははなはだ行き過ぎである、従つて現在受給資格が発生しております坑内夫関係についてのみ、当面どの程度支給するかという応急措置を講じておいて、全般の改正はなお今後の研究にまつべきである、こういうような議論が行われております。なかんずく経営者の側からは、厚生年金保険法の改正に対しまして、今回の改正によっても六割あるいは八割の負担増になるので、これはとうてい耐え得るところではない、そういうような改正をすべきではないという主張をされてわるわけでございます。しかしながら、先ほど末高先生からも指摘がございましたように、現在まで置いて参りました厚生年金保険法のあり方ははなはだしく時代離れをした、まったく実情に適しないものであつて、これを改正するという前提に立ちますならば、どうしてもこの際ある程度の負担の増もやむを得ないし、またそのためにいろいろと困難な面もできるでございましようけれども、これを回避しておったのでは、ほんとうに労働者の生活を保障する意味において、老齢、廃疾、遺族等の給付を満足にすることは困難であると考えるのであります。現在までそういう点に関しまして、時代の進展に応じ、また経済情勢の変化に応じて、その都度改正をして来ておりさえするならば、今日大幅の改正をせずとも済んだのでありますが、その努力をまったく怠って来たという点に、今日厚生年金保険制度を改正する際の現実的な難点があると思うのでありまして、これはどうしても先ほど申し上げたように越えなければならない、このように考えるわけでございます。
厚生年金保険法の改正という点につきまして、基本的にはいろいろ申し上げたいことがたくさんございまするけれども、限られた時間でございますので、出されております法律案の要綱に従いまして、それぞれ意見を開陳してみたいと思うのであります。
まず第一番目に、この要綱には出ておりませんが、適用範囲の問題がございます。現在の厚生年金保険法は、五人以上の事業所に適用するようになっておりますが、この適用範囲は拡張すべきであります。この年金の恩恵に浴さない労働者がたくさんおるわけでございまして、将来の国民的な年金保険制度の確立ということをにらんで考えた場合には、少くとも国民的な社会保障の中核組織としての労働者保険の中において、年金の適用範囲を拡張することが絶対に必要ではないかと考えるのでございます。このことは労働者側からはしばしば要求されて参つておりますが、今回の改正においても遂に見送られる形になりました。この適用範囲の拡張が行われないために、あとでいろいろな問題点が生じて来るわけでございます。これはぜひともこの際国会においても真剣に検討していただきまして、労働基準法の適用を受ける労働者にはすべて適用されるようにしていただきたい、このように考えるわけでございます。
次に要綱の第一の標準報酬の点でございますが、これは最低を三千円、現行最高八千円のところを一万八千円に引上げるということになっております。料率におきましては、従来千分の三十、坑内夫関係は千分の二十五でございましたが、これはすえ置くということになっておりますけれども、最高の八千円を一万八千円に引上げることによって保険料率の負担が非常にふえるという点が、特に経営者側から反対の強い根拠とされておるようでございます。しかしこの標準報酬は賃金の実態に見合つたものでなければ無意味でございます。現在すでに健康保険法におきましては最高三万六千円でございます。船員保険法におきましても三万六千円でございまして、特に船員保険法におきましては、陸上の健康保険、厚生年金、失業保険、労災保険、これらに相当するものの総合的な適用を含んでおりますために、三万六千円の標準報酬は年金部門にも当然それが適用されるような仕組みになっております。ここにおきまして船員保険法における同じ年金制度の標準報酬の最高額と厚生年金保険法における最高額との間に倍の開きが生じて来るわけでございます。なるほど八千円の額を一万八千円に引上げることになりますと、はなはだ負担がふえるように思えます。しかしなぜこの負担がふえるかといいますと、先ほど申しましたように、大体今までの標準報酬が不当なものであったからであります。大人と中学生と比較いたしますならば、もちろん中学生よりも年令が上でございますが、中学生を幼稚園の子供と比較いたしますならば、年令が上でありしっかりしている。一万八千円にすることによつてはなはだしい負担増加を来たすというような主張をする人は、この中学生の状態を幼稚園の子供と比較しており、そのはかる尺度の置き方を間違えておるのでありまして、現在の賃金の実態から考えますと、どうしてもこの最高額は三万六千円程度にしないことには今後の運営に支障を来しますし、また問題を残すというふうに私どもは考えるわけでございます。
さらに定額標準報酬の取扱いでございますが、政府の原案では、三千円に満たないものは三千円にするということでございます。これは一見非常に改正のようでございますし、確かに前進であるに相違ございません。しかしながら、従来最高八千円という不当に低い状態に置かれて来ております場合に、この三千円ということを考えますならば、特に長期保険の性質上、全部の標準報酬が平均をされるわけでございます。そうなりますと、今まで低い標準報酬が続いて参っておりますから、過去の分が三千円ないしそれから上に出ても大したものではない、こういうことになります。そうなると、平均標準報酬のとり方が非常に低いところにおちつくことになるわけでありまして、結局過去の標準報酬を問題にするのは、激しいインフレの結果貨幣価値が下落したこれの調整であり、この責任は労働者にはない、これを救ってやるという趣旨に立つものであります母上、一定の年限を切りまして、その以前の低い標準報酬は切つて捨てて、大体現在の賃金制度に近いところから以降の平均標準報酬をとるという考え方に立つべきである、このように思うわけであります。そうしますると相当現在高いようになりまするが、だんだん年数がたつに従いまして常態に近ずいて行く、こういうことになるわけでございます。特にこのことは船員保険法とも関連があるのでございますが、現在の保険制度の中において最終標準報酬をとるというような制度になつておるものを、本来の形の平均標準報酬にもどすという場合に、過去の分を三千円に引上げただけでは徹底した措置とは言えないのでございまして、少くとも昭和二十六年ないしは二十七年以前の標準報酬は切つて捨てて、その以後の平均標準報酬をとつて行くという行き方に進んでいただきたいと考えるわけであります。
次に給付の問題でございますが、年金の支給年令の開始であります。これは原案におきましては六十才、坑内夫及び女子については五十五才ということになつております。もちろんこの措置につきましては五年の引上げを二十年間にわたつて消化をするような建前になつておりまするので、現在の期待権あるいは既得権に関しましては影響がないやに考えられます。この年令引上げの根拠といたしまして、わが国の平均年令は非常に上つた。平均余命が延びたということが理由とされておるようでございます。しかしながらここで考えなければならないのは、この種の老令年金の受給の場合には、単に平均年令あるいは平均余命だけをもつて考えることは不当でございまして、労働に従事し得る年令というものを考えてみなければならないと思います。この場合に現在の日本におきましては非常に人口が過多でございまして、労働生産年令というものの最高額というものはかなり低きに押えられる。各会社や官庁等の停年でありましても、五十才、五十五才——五十五才というのは高いものでございまして、五十才というのが普通の状態でございます。大体それ以上老令になると、実際に命は続いておる、働き得る体を持つておるが、実際に社会的な条件で働けないという形になる者が、はたして今後五年間延長し得る保証がないかあるかという点はきわめて問題であろうと思うのであります。そういう点を考えました場合に、今回六十才に引上げるという措置をとるのは非常に早きに失するのでございまして、実際十分に働き得る年令も延びるという状態になつて引上げるのが当然でございまして、あえて反対する理由ではありませんが、単に平均年令が延びた、余命が延びたというだけで年令五才を引上げるということは問題があると考えるわけでございます。
原案において大体問題のない点は、時間の関係もありますので、省略をすることにいたしまして、問題のある点を指摘して行きたいと思うのでございます。
次に年金の額でございますが、これは定額一万八千円に報酬比例千分の五ということになつております。このあり方につきましては、私も定額部分と報酬比例部分の併合した措置を支持するものでございます。定額一本にすべきであるという主張が行われておりますけれども、現実に日本における賃金状態というものを考えてみました場合は、男女同一労働同一賃金の原則さえもいまだに実現していない、同一労働同一賃金という状態も徹底していないいろいろな賃金形態を持つておる、しかも一定の定額中において十分に生活をまかない得るだけの条件を保障し得るかということになると、これはなかなか困難であるわけであります。従つて理論的に定額がいいかあるいは標準報酬がいいかという前に、これを折衷いたしまして、実情にできるだけ近く、しかも不当に低い部分は引上げる措置を講ずることは、妥当であると考えます。ただ報酬定額部分の一万八千円というのははなはだ低きに失するわけでございまして、これで参りますると、政府の説明資料等によりますれば、たとえば平均標準報酬一万円のところにおきましては二万七千円の年金になるというようなことが言われておりますけれども、平均標準報酬一万円というものは実際においてなかなか出て来ない、過去において低い人がおるわけでございますので、インフレの影響部分は切つて捨てても、なかなか一万円というような平均標準報酬に達する者は少い。従つてこの報酬比例部分は定額部分における弊害の面といいますか不足する面を埋め合す作用をするだけでございまして、年金額そのものを引上げるという点については、遠い将来のことは別といたしましてあまり重点を置くわけには参りません。そうなりますと、定額部分は少くとも月額三千円にするということは適当である、報酬比例部分については原案通りの千分の五において大体よろしいというふうに考えております。
次に坑内夫の特例の問題でございますが、これは年金保険法の中自体においてこの際政府の原案には出ておりませんが、考えていただかなければならない重大な問題があるのでございます。それは坑内夫として勤務をいたしております場合に、坑内夫で勤務を継続いたしておりますと、一般の労働者よりも期間が短縮され、支給年令も若くして支給をされることになるわけであります。これは坑内夫の作業が非常に重労働であり、また長い間の労働ができないというところから来ておるわけでございまして、一般が二十年のところが坑内夫は十五年において支給をされる、この場合に坑内夫をある程度の期間勤め上げまして、その後体が坑内夫としての作業に適しないという状態になつたために、坑外夫あるいは職場転換をする、こういうような状態になつた場合にどうなるかと言いますと、一挙にしてこれは一般労働者並みに扱われてしまつて、その間における坑内夫としての労働というものが生かされないという仕組みに現在の年金保険法はなつておるわけでございます。坑内夫が十五年において年金が支給され、五十五才において年金支給が開始されるという場合に、十四年十一箇月坑内夫を勤めまして坑外夫に行くというような場合には、支給年令は六十才に引上り、また年限も十五年ではだめである、こういうような状態が続くことになるわけであります。こういう点から考えました場合に、過去の労働の質に応じての年金支給はそれに耐え得る労働力というものを前提にいたしておるわけでございますから、合理的に解決される措置というものが厚生年金保険法の中で徹底される必要があるというふうに考えておるわけであります。なおこの支給の特例は、単に坑内夫のみならず、非常に高熱の作業場で働く労働者等の、危険労働に従事する者にも適用を広げるべきである、かように考えるわけでございます。
それから次に傷害年金と傷害手当金に関しまして、考え方といたしましては原案の趣旨に賛成をいたします。しかしながらここで問題がありますのは、単にこの考え方で一級から三級までわけて適正にする、そうしてその後の廃疾の程度の増減に応じて変化を加えるという考え方よりも、問題はこれにつけ加わつた別表の方の廃疾の程度にあると思います。いろいろ学問的に医学的に研究はされておるとは考えるのですが、今回の改正案で見ますると、この廃疾の程度を現わした表によりまして、現行法における一級のものが二級に落ちる、二級のものが三級に落ちるというふうにかなり広い範囲にわたりまして悪くなつておる部面がございますので、こうした面につきましてはもう一つつつ込んだ検討が必要であろう一と考えておるわけであります。
さらに傷害手当金の額が三級年金の二年分、つまり老令年金の一年分に相当する額の百分の百四十でありますが、これは低きに失しますので、少くとも百分の二百以上にする必要があるというふうに考えております。扶養加算の考え方に対しては賛成をいたします。
次に遺族の年金、遺族の範囲の問題でございます。政府の原案によりますと、遺族年金を統一をして整理をするということになつておりまして、その点についてはあえて異論を唱えるものではございません。しかしながら遺族の範囲については私は非常に問題があると思うのであります。現行法よりもかなりしぼりまして配偶者、子を中心といたしまして、それがいない場合に父母、祖父母、孫に適用範囲を延ばすような建前になつております。この場合にまず第一に配偶者の問題でございますが、五十五才以上の女子配偶者というのは実情から考えましてこれは不当に失するのでございまして、もつと年齢を引下げる必要があるというふうに考えます。さらに女子配偶者あるいは男子配偶者とわけまして年齢の差をつけているという点は、これは、男女同権の思想からいつてもはなはだ問題があろうかと思うのでありまして、特にその前提条件の、施行当時そのものによつて生計を維持しておる配偶者ということになつております。従いまして妻が働いて、夫が十分に社会的に働ける能力がないということで扶養されておる場合に、その夫についてなぜ妻と年齢の差をつけなければならないかという問題がございますので、こういう前提条件がつく限りにおいては、配偶者は男子も女子も平等に扱うのが男女同権の建前からいつても至当であるというふうに私は考えるわけでございます。さらに子の年齢につきましては十六才未満ということになつておりますが、これは少くとも十八才に引上げる必要がある、新制中学を卒業するのは十六才でございまして、ここまでは義務教育でございますが、大体高等学校程度まで行くものが非常に多いわけでありまして、しかも生計を維持していたという前提条件がつきます場合には、現に働いておつて、生計を維持していない場合には支給対象にならないわけでございますから、十八才未満というふうに考えて行く、またその程度に引上げるのが適当ではないかと考えるわけであります。
さらに遺族一時金を廃止したことには非常に問題がございます。遺族一時金の制度あるいは脱退手当金というような問題については、純理的に申しますと多くの矛盾もあると思います。しかしまた一面この保険の適用というものを考えた場合に、いまだ総合的国民的な社会保障が確立されていないという現段階におきまして労働者の老齢また障害等に対する給付は、唯一この厚生年金にたよつておるわけでございます。そうなつた場合に、この遺族年金の対象に入らないつまり若い父母であるとかあるいは祖父母であるとか、そういうような人たちにこれを適用しない場合に遺族年金が行かない、一時金も打切られるということになると、これは何ら救済の道がそこに残らないという問題が残りますので、現行法のごとくに生計を維持していた者にはどこまでも範囲を広げて——一時金をやるというような考え方にはもちろん再検討をすべき必要がありますが、少くとも近親関係の者に関しましては遺族一時金の制度を活用しまして、年金の救済の対象にならない者を救うという措置が必要であるというふうに考えるわけでございます。
次に脱退手当金の問題でございますが、先ほど末高先生もおつしやいましたけれども、なるほどこの種の老齢、廃疾等に対する給付の考え方では、個人貯蓄ではございませんから、脱退手当金というものはまことに妙な制度であることは私どもも否定をいたしません。しかしながら論理的に合わないから廃止していいかという問題になりますと、冒頭に申し上げましたように、適用範囲がきわめて限られておるのが現実でございます。従いましてこの厚生年金法の適用の外に出ている者がたくさんある。制度の外に出ておりますと、せつかく保険料をかげながらも年金をもらう資格がなくなつてしまうという労働者層がたくさん出て参ります。国民的総合的な年金制度というものが相当整備をされて来るという段階になりますならば、もちろん脱退手当金の廃止というものは当然の日程として上つて参りますけれども、現在の段階において脱退手当金を廃止するということは、この年金保険に対する労働者の関心なりあるいはかけていた保険料というものに関して何ら報いることがない、それを取上げてしまうという結果になるのでございますから、脱退手当金というものはぜひ残す必要があるというふうに考えるわけでございます。
保険料率につきましては現行料率から出発をいたしまして、進展に応じて改訂をして行くという考え方に賛成でございまして、どうしても保険の負担というものはある程度内容の改良に従いましてふえなければならない、国庫は打出の小づちではございませんので、その点におきしましては将来保険料の改訂引上げということはやむを得ないものであると考えます。しかしながらこの費用の負担につきましては、やはりこの種保険の制度といたしまして政府、使用者、労働者が三等分負担という原則を立てるべきでございまして、少くとも給付金の三分の一は国庫から出すという原則を貫くべきでございますが、この点一般に対しまして一割五分という国庫負担ははなはだ低い、厚生省の当初の考え方の二割が一割五分に減らされたという後退の方向をとつておりますが、これはさらに増額をすべきであるというふうに考えます。
終りに積立金の運用について申し上げたいと思います。経営者並びに労働者がその給料の中から、あるいは収益の中から積み立てたこの積立金でございますけれども、これが何ら厚生年金に、その保険関係に関係のないところに現在置かれているわけでございますが、少くともこれはこの種の保険関係者の手が加わる範囲内におきまして有効な福祉、あるいはそういう労働者の福祉関係の費用に運用ができるような措置を講ずべきである、そういうことによりましてこの保険に対する期待、また経営者や労働者からの非常な関心というものも高まるというふうに考えております。
以上非常に要点的に述べましたが、今回出されております厚生年金制度に対する公述を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/4
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005・青柳一郎
○青柳委員長代理 末高公述人は御用事の都合で非常にお帰りを急いでおられます。従いまして末高公述人に対しまして御質問がありますならばそれを許可いたしたいと存じますが、御質問ございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/5
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006・滝井義高
○滝井委員 末高先生に二点にわたつてお尋ねいたしたいと思います。
まず第一点は、現在の改正に直面いたしております厚生年金の発生の由来を先生はお述べになりました。すなわち当初の昭和十六年後における産業戦士の生活を守るということ、いま一つは生産力拡充のための資金確保の財源としてこういうものが出て来たという二点を述べられましたが、現在の日本の客観情勢はその当時の情勢に非常によく似て来たと思う。いわゆるサンフランシスコ態勢からMSA体制、しかも再軍備、そうして現在すでに藤山さんあたりは強制貯蓄を労働者の賃金の中からやるべきだというようなことを日本商工会議所ですか、そういうところで言つております。あるいは今回の外貨割当の問題を通じて見てみましても、いわゆる統制経済、要綱統制、中間統制という声が徐々に出て来ているわけです。そうしますと、この時期に、今和田さんからも問題がありましたが、この標準報酬率を一万八千円に引上げることによつてこの金は一千億くらいになる、ピークのときには二兆に達する、こういう状態も出て来ているわけであります。そうしますときちめて戦時立法的な要素を持つて生れたこの法律が、再び現在の再軍備段階において大きくクローズ・アップされて来たという点において、何か私はかには自分の甲羅に似せて穴を掘るといいますけれども、やはり日本の資本主義の発展の矛盾がこういう社会保障立法の中にも鋭く現われて来て、今のこの段階で同じかにの甲羅に似せて穴を掘るような形が出ておるというような感じが濃厚に感じられる、その点先生はどう考えられるかという点が一点。
いま一つは、五十五才から六十才に年齢を引上げられた点について、先生は平均寿命が延びたということだけ一点述べられたんですが、これは先般の委員会でも指摘されたんですが、現在日本の平均寿命が延びたということは、乳幼児の死亡率が非常に改善された、公衆衛生がある程度進展して保健所その他が各所にできましたものですから、それと同時に結核死亡というのが今までは主として青年がおもにこれで死亡しておつたが、最近はむしろ中年層に結核が増加して来た。しかも死亡というものがパス、マイシン等の最近の抗生物質の出現によつてだんだん延びておるというような点、しかもそれが延びて、がんあるいは高血圧による脳溢血、そういう老人性の病気の死亡率がふえてクローズ・アップされたという点で、いかにも日本の平均寿命は非常にうまい形で延びた形は表面的に出ておりますが、しからば平均寿命が延びたそういう情勢につれて、日本の経済界、産業界における就職の状態が伸びて来たかというと、これはまつたく逆な状態が出て来ておるのではないか。というのは今後日本がやはり貿易を振興して自立経済の達成をやつて行くためには、必然的に重化学工業というものが伸展しなければならぬ、そうしますと——すでにこれは労働科学研究所の暉峻先生等が戦時中にも研究されておつたと思いますが、工業が精密化して来ると、いわゆる一万分の一あるいは二万分の一というようなものを目でどんどん見て行くというような形が出て来ますと、実際に精密工業に働いた場合に、労働科学的に見ると、十五年も働けばそれからは役に立たないということを、戦時中労働科学研究所が発表していたと思う。二十年はとても働けない、せいぜい限界は四十五才までだ、精密工業あるいは重工業における労働者の働き得る限界というものは……、そういう結論が出ておつた。ところが今後やはり日本が戦時態勢の強行、あるいはそうでなくても日本の自立経済の達成からいつて、重化学工業、精密工業になつて来るとすれば、六十才まで働く余地はほとんどなくなるのじやないかという感じがする。あるいはもつと具体的に、たとえば現実に学校の女の先生なんかの状態を考えてみますと、やはり四十五才までの先生を、現在はもう教育委員会がやめてもらいたいという勧告を非常にしている。こういう点から考えて、今乳幼児の死亡、結核死亡の状態が公衆衛生の進展で減つて来たが、一方日本の経済構造の面から考えると、六十才まで延ばしても、どうもその五年のブランクを何も働かずに失業者で——日本の家族制度が非常に健全な状態になつて来れば別だと思いますが、現在の憲法で日本の家族制度も崩壊の危機に瀕しているという情勢から考えると、どうも……。この点の先生の御解明をいただきたいと思いますが、この二点をひとつお尋ねいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/6
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007・末高信
○末高公述人 お答えを申し上げます。第一点の現在の状況が昭和十六年、十七年の戦時態勢のころと非常に似通つておる、従いましてピークにおいて二兆というような資金の蓄積が、結局国家的と申しますか、軍事的な方面に流れて行くようなきらいがあるのじやなかろうかという問題、これは私も非常に憂慮するところでありまして、最近厚生省と申しまするか、政府がこの厚生年金保険を改正するという意図を持つた、現在の内閣がそういう意図を持つたということは、私は表面的に双手を上げて賛成をするということを先ほど申し上げましたが、これは再びその戦時経済的な資金蓄積のために行うんだということになりますると大問題だと思うのであります。従いまして資金の運用につきましては、先ほど和田君もお述べになりましたように、これは勤労者のための厚生福祉あるいは一般産業から出たところの資金でありまするから、そういう方面にこれを公平に運用するということによりまして、あくまでも戦争または戦時経済的な圧力がかかつて来ることを排除しなければならないというぐあいに考えるものであります。お答えになつているかどうかわかりませんが、第一点はそういうぐあいに私は考えております。あくまでも平和的な一般民衆の生活を守る、特に老齢、廃疾、遺族に対する生活の保障の制度として、これを守つて行くといういろいろな用意この際必要であるというふうに私は考えております。
それから第二点の、私が、六十才に老齢年金の開始を引上げたと申しまするか、そのことについて賛成をしたということについての御疑問でございますが、これは労働基準法におきまして、勤労することのできる最低年齢を決定しておることは御案内の通りでありますが、同時に働き得る最高年齢もまた労働基準法において決定すべきではなかろうか。単に老齢のゆえをもつて首を切る——その人がほんとうに働くことができない、労働能力を喪失したという場合に、職場から去らなければならないということはやむを得ないことであると思うのでありますが、退職年齢を、ある企業におきましては五十才にし、ある企業におきましては五十五才にしておるという現状は、国民が勤労によつて生活を維持する、国家というものの根源的な力が国民の勤労にあるということを考えてみますると、全体の国民が常に働ける態勢を持たなければならない、従いまして私が老齢年金開始年齢を六十才に引上げたことに賛成する反面におきましては、それぞれの法律的あるいは社会的な措置に基きまして、およそ人間は六十才までは確かに働けるのだ、社会といたしましても、国家といたしましても、すべての人に六十才までは働く場所を与えるのだという措置が同時に講ぜられなければならない、かように考えるものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/7
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008・滝井義高
○滝井委員 第一点の方なんですが、生活保障のできるような制度として、厚生年金の積立金が用意をされなければならないということでございましたが、何か先生の方で、いろいろ社会保障制度審議会というものがありましたけれども、個人的な御意見で、先生のお考えになつておる、資金運用部に今委託されておる厚生年金の積立金を、こういう方向に使われたら一番勤労者の生活保障に有利じやないかというお考えがあれば、あわせて承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/8
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009・末高信
○末高公述人 お答えを申し上げます。まだ具体的にどういう方向にその資金を運用利用すべきであるかということについて考えたことはございませんが、但し民主的にまた真に勤労者のためにこの資金が運用されるための特別な審議会が設置せられまして、その審議会には勤労階級の声が十二分に反映するような方式においてその審議会が運営せられ、その審議会の決定に基いて資金が運用せられるということになりますれば、その憂い、すなわちこの日本の戦時態勢を確立するあるいは推進するというような方向にこの資金が流れることがおそらく阻止せられるのではなかろうか、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/9
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010・青柳一郎
○青柳委員長代理 他に御質疑はありませんか。長谷川君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/10
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011・長谷川保
○長谷川(保)委員 末高先生にお教えをいただきたいのでありますが、先ほど先生は脱退手当金についてお話がございましたが、日本の現状のように職業の転換が著しい——私ども政府から提出されておる資料を見ましても、すでにきわめて短期間に転換をして行く人が多いのでありますが、こういうような職業転換の非常にはなはだしい現状において、またことに今日の短期間的な見方といたしますれば、失業者がおびただしく出て行くであろう、また現在出ておる、今後盛んに出て行くであろう、こういうような場合におきまして、やはり脱退手当金を廃止すべきである、こういうように考えるべきでありましようかどうか、この点、先生の御教示をいただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/11
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012・末高信
○末高公述人 お答えを申し上げます。私の公述におきまして、省略せられておる部分がたくさんあるのであります。それは他の公述人が多分お触れになるだろうと思つた部分をかなり省略せられております。従つて脱退手当金の廃止に賛成したということは、和田公述人がすでにお述べになりましたように、これは適用範囲の拡張によりまして、事実いかなる職場にありましても、厚生年金の保護が受けられるというように措置せられなければならないということと相応するところの問題であると思います。特に私が脱退手当金の廃止に賛成するもう一つの理由は、脱退手当金が今御指摘のように、職場転換等々によりまして、なかなか厚生年金の被保険者として継続することがむずかしいというような状態に陥つた場合に、安易にこれをとつてしまつて、失業保険の補充的なものとしてこれを使つてしまうということによりまして、勤労者が再び幸いにして厚生年金適用の工場あるいは職場に入つた場合に、新たにスタートしなければならない。従来三年なり五年なり勤労に従事して資格がついた期間がまつたく無になつてしまう。わずかの涙金のために無になつてしまう。むしろそのおそれの方がおそれとしては大きいものではなかろうか、こういう懸念から、今日の段階におきましても脱退手当金の廃止に賛成するものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/12
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013・長谷川保
○長谷川(保)委員 御承知のように婦女子におきましては、特に結婚等の関係もありまして、職場におります年月が非常に短かいのでありますが、これは女子の問題を考えました場合でも、やはり脱退手当金は廃止した方がよろしいということになりましょうかどうか、この点をお教えいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/13
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014・末高信
○末高公述人 お答えを申し上げます。私は女子につきましては、ある時期におきまして、厚生省の原案の中にも取入れられたと思いますが、女子に対する特別な手当金というものが考えらるべきである。たとえばそれは結婚手当というようなことは、これは厚生年金保険の本来の趣旨から申しますと妙な話になると思いますが、この点はなはだ私妥協的になつておりまして、ただいま現在の女子の勤労状態が今日のごとくである限りにおいて、少数の女子の、たとえば小学校、中学校の先生方等はかなり長年月お勤めになることができますが、他の職場の方はおそらく数年にして結婚のためにやめられるという実情にかんがみますときには、女子に対しては特別の措置を講ずべきである、かように考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/14
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015・青柳一郎
○青柳委員長代理 他に御発言がないようでありますので、次に清水公述人の御発言をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/15
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016・清水玄
○清水公述人 私清水玄であります。私は社会保険診療報酬支払基金理事長でございますが、この方は厚生年金保険に関係がありませんので、社会保障制度審議会あるいは社会保険審議会の委員をやつております関係でお呼出しになつたものと考えております。ただいまお話になつております厚生年金保険法の改正案でありますが、私は賛成か反対かと申し上げますとまず賛成であります。あと簡単に理由を申し上げます。
先刻委員長が厚生年金保険の全面的改正とおつしやいましたが、なるほど今度の案を見ますと全面的改正でありますが、実はこれは根本的の改正ではありませんで、広い範囲にわたつておるという意味での全面的改正ということであろうと思います。内容を拝見しますと、これは非常に暫定的な改正だと考えます。しかしながらこの暫定的の改正が今日の日本の経済的現状、あるいは社会的の現状に照らしまして、この程度でやむを得ぬものと考えますので、そういう意味で賛成をいたすわけであります。もちろん厚生年金保険の理想的の形と申しますか、相当進んだ形というか、あるいはILOの最低基準以上の形と申しますか、そういうような形としての改正案として見ますならば、これははなはだ不十分なものでありまして、そういう意味においては、はなはだ了承いたしかねる改正なのでありますが、今申しましたように、現在の日本の経済状態が非常に基礎の浅いものでありまして、今後の見通しも実はあまり明るいとも言えぬような状況であると思われる際であります。一方労働者の福祉、社会保障という面から考えましても、どうも根本的の改正をやることは、この際できない状態であろうと考えます。従いましてまあ原案でやむを得ぬということで賛成をいたさざるを得ない、かように考えるわけであります。たとえば今の状態でありますと、被保険者の範囲もある程度限局されておるわけであります。そこでこれは五人以下のものにも広げたらよかろう、こういうことは前々から言われておりますし、またそうすべきであると思います。しかしそうしますことは一方非常に小さい企業の負担をこの際急に増すことにもなりますし、また一方におきましては行政的の負担、事務費の負担というものも、従来よりは比率的に非常に大きな負担をしなければならぬことになります。でありますので、そういう点から考えましても、これもなかなかむずかしい。従つて現状で改正して行かなければならぬ、こういうことになるのではないかと思います。それならもう少し見送つたらよいではないかということになるのでありますが、それは実は先刻もお話がありましたように、坑内夫の年金の支給という時期がもう始まつておりますので、年千二百というような年金でがまんしておれというわけには行かないのでありますから、これは改正せざるを得ないのであります。そうしますとこの改正につきまして、老齢年金の改正だけをしておけばよろしいかと申しますと、これは障害年金にも関係がありますし、その他それぞれ関係がありまして、老齢年金の一部改正だけでは済まぬことであります。そうしますと結局あらゆる面に少々の改正をそれぞれ加えて行かなければならぬ。従つて今私が申し上げましたような全体をいじるような改正になる。こういうことになりますので、従つて全体的の改正もやむを得ない。但し根本的の改正はできない。こういう状態ではないかと考えるのであります。従いまして給付の面について考えてみましても、千二百円では困るが、さればといつて実際に役に立つ程度の——と言うのはちよつと語弊があるかもしれませんが、まず常識的に考えられる程度の年金を支給するということになりますと、これは実はやはり相当の経費がいりますので、やはり原案程度もやむを得ないのではないか。それではたとえば脱退手当金もやめてそつちの方にまわしたらよかろうということになるわけでもありますが、これも実は今申し上げましたように、全面的の改正で広く国民全般にわたるようなことになりますれば、経過的以外には脱退手当金はいらぬことだと私は思うのです。但し現状におきましては相当の範囲に年金の適用を受けていない事業がありまして、その分の被保険者はやはり適用がないのでありますから、そういう人があるいは急に新しい適用になつて一部入つて来るとか、あるいは事業が入つて来るという場合に、やはり相当の年齢の人がおりまして欠点となるような被保険者が出て参りますので、これはやはり現状としては脱退手当金も、ある程度必要になるということではないかと思います。その他こまごましたことを申し上げますと、結局全面的の改正と申しますか、根本的の改正ができない関係上、やはり臨時的暫定的措置でありますために、いろいろの点で差響きがありまして、結局負担の点等を考慮すると、現状以上にはなかなかむずかしい。こういうことになるのではないかと思います。一方負担の点を考えますと、原案では現在の負担程度で——負担というと語弊がありますが、現在の料率程度でまかなつて行つて、五年後からはまた考え直す、こういうことのようでありまして、今の場合と負担においてはあまり大差がないようなかつこうでありますので、急激な変化を与えないという点でこの程度が適当ではないかと考えるのであります。ただ国庫負担の関係につきましては、これは先刻和田公述人もお話がありましたように、私も国が三分の一を持つというような考え方が年金としては適当であろうと思つておりますが、これも暫定的の関係上そうも行きませんので、これは初めの厚生省の原案にありましたような——ここの原案ではありません、審議会に出ました原案にありましたような保険給付の二割くらいのものは持つべきではないか、これは長期給付の関係上そういうふうに考えるのであります。
それから同じく負担の関係で、保険料率と積立金の関係でありますが、これは厚生省の案では五年間すえ置きでその後だんだん保険料率が上つて行くようなことに一応なつておるようでありますが、実はこの年金保険につきまして、いわゆる営利保険のような保険料率の計算をし、積立金を置いておく必要があるかどうかという点について、私は多少疑問を持つておるのであります。そういう意味で今度の厚生省の原案は多少そういう積立て方式に緩和がされておるように実は考えておりますので、その点は多少私は賛成なのでありますが、実はこの点は私も専門でありませんのでよくわかりませんが、もう少し積立金を少くして保険料率の平時の負担というものの方をかえて行くという形ができないものかということを考えるのです。それはなぜかといいますと、インフレが終息しておりますかどうかはなはだ疑問の現状におきまして積立金のために現在の被保険者からたくさんの保険料をとるということは、結局将来のためでもありますが、同時に一方インフレの進行がもしありますと非常にむだな金を積み立てたようなかつこうになるのであります。従つてこれはある程度もう少し積立て方式に——今の原案は多少考慮されておるようでありますが、さらにもう少し一層の考慮を払つてもいいのではないか、こういうように考えるのであります。それから積立金につきまして先刻来もお話がありましたが、これは当然厚生年金保険の積立金は厚生年金保険関係に還元せらるべきものと私は考えております。ところが現状におきましてはそういうふうな制度になつておりませんので、これは何か特に規定をつくりまして、そういうことにするような方向に行きたいものだと考えるわけであります。
その他こまかい点につきましては、先刻申し上げましたように、根本的にこれは暫定の措置であつて、現在よりもあまり負担を増大しないで、ある程度千二百円というような年金をもう少し合理的にする、こういう見地に立つて改正がされておると思いますので、そういう考え方をいたしますと、こまかい点はあまり申し上げる必要がないと思います。大体全体といたしまして暫定的のものであるからやむを得なかつたのだ、こういう意味においてこの原案に賛成をいたしたいと思います。はなはだ簡単でありますが、以上で終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/16
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017・青柳一郎
○青柳委員長代理 和田公述人、清水公述人お二人は、御用事の都合上午前中のみしかおいで願えませんので、このお二人に対する質疑を許可いたそうと存じます、御質疑はございませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/17
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018・長谷川保
○長谷川(保)委員 和田さんにお伺いいたしたいのでありますが、積立金の運用につきまして具体的にはどういうような方策をとられればよろしいと思われますか、この点お伺いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/18
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019・和田春生
○和田公述人 積立金の運用につきましては、具体的にどういうふうに運用するかというこまかい計画は持つておりません。しかしながら運用の方法といたしましては、少くとも被保険者の代表、それから事業主の代表、積立金の源泉となるべき費用を支出した代表を加え、公益を代表する委員等も加えました民主的な運営の方法をきめる委員会等を設置いたしましてきめる。なお私どもの立場から申し上げますならば、当面非常に大きなそういう費用を使う方面といしたましては、産業労務者用の住宅、結核療養の病院、サナトリウム、こういうものの大規模な建設が必要ではないか、こういう問題につきまして、やはりこれをつくりますのには当面相当多額の費用がいるわけでございまして、長年かけてぼつぼつためて行くというわけには行かない。従いまして弁済の方法さえ計画を立てますならば、当初そういう方面から融資をいたしまして、こういう方面に費用を投じまして、現在日本で最も不足しております福祉方面等に活用するのを重点的に考えてもらいたい、こういうふうに考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/19
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020・長谷川保
○長谷川(保)委員 金融方面にお使いになるような御意向はございませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/20
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021・和田春生
○和田公述人 金融方面等につきましても、十分その用途を考えて使いますならば適当であろうかと思いますが、これは産業に対する融資等になつて参りますと、どういう事業にどういう条件でもつて使うかという点でなかなか問題が多いと思うのでございますので、簡単に産業融資等にこれを使つてよろしいという結論を、この運用の委員会で出すということはなかなか困難ではないか。ただ方法といたしましては、そういう場合に福祉方面に使う費用と、あるいは大蔵省の預金部の責任において一般的な財政投融資等に提供される資金等をわけて考えるというような方向もあろうかと思いますが、私どもといたしましては、ともかくこれをそういう福祉の増進の面に、特に遅れている方向に使つていただきたい、こういうふうに考えているわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/21
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022・長谷川保
○長谷川(保)委員 もう一つ、先ほどのお話の中に、標準報酬一万八千円で押えましたことにつきまして、三万六千円に、船保、健保同様に持つて行くようにという御意向がございましたが、今日まで不幸にいたしまして、厚生年金保険が十分有効な働きをいたしませんで、これをかけました労働者諸君に対しまして十分報いておりませんために、相当厚生年金保険自体に対しまして、労働者の感情といたしましては問題があると思うのでありますが、その場合に、三万六千円に引上げます場合、これによつてもちろん一万八千円以上の諸君の負担が多くなつて参ります。これは人数から申しますと、私ども知つております資料から申しますと、全労働者に対しましては、そう大きな比率ではありません。しかし、一万八千円以上の賃金をとつております方々は、大ざつぱに申しますれば、労働階級に対しましてはいわば指導的な立場に立つておる重要な方々が多いと思います。従いまして、その方々の発言、考え方は、相当大きな影響を全労働者に与えると思うのであります。一万八千円から三万六千円に引上げますと、当然保険料を増額しなければならぬということになりますが、当事者であります方々のそれらに対する感情はどういうものでありましようか、伺いたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/22
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023・和田春生
○和田公述人 その点に関しましては、労働組合の方において各組合が連絡をとりまして、今回の改正の際にも基本的にどういう態度をとるかということを相談をいたしました。その際に、現在幹部になつております者は、それぞれその職場の意思を無視して態度を決定できないわけでありますが、少くとも厚生年金保険法の改正という問題に直面をいたしましてやはり何らかの負担増はやむを得ないのではないか、しかしながら、この際料率を引上げることはすべての労働者に響くところでございますし、特に収入に弾力性のない、ぎりぎりの最低生活ないしはそれ以下の生活をしいられておる労働者に対しても、負担増をしいることになる、そういう方法でもつて当面やることは避けるべきでありまして、その点は標準報酬の引上げによつてまかなうべきであるということに、意見が一致をいたしたわけでございます。この意見の一致は、現在労働戦線は総評あるいは全労会議、産別等々にわかれておりますが、全部の意見の一政として現われて来た結論でございます。もちろん個々の労働者にいたしますならば、入る方が多くて出すのが少い方がよろしいわけでありますから、そういう点でいろいろ考えられる点もあり、あるいは不満を持つ人たちもおろうかと思います。しかしながら千分の三十ということは、一万円にいたしまして三百円でございます。二万円といたしましても六百円でありましてやはり社会保障をやる場合には、もちろんあるところで多く負担をしてもらう、しかし労働者の方においても、低額所得者で非常にきゆうくつな、もうちよつとの金もほしいという者よりも、生活は苦しいが若干でも弾力性を持つておる者の負担増において社会保障の前進がはかられるならば、これは多少の不満がありましようとも、労働者としてもその点忍んで協力すべきである、そういう考え方においてわれわれもこの問題を推進すべきである、こういうふうに考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/23
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024・長谷川保
○長谷川(保)委員 五人未満の事業場に対しましてもこれを適用するということになりますと、清水先生からもお話がありましたように、当然保険財政にもあるいは事務費等にも相当な影響があります。従いまして今日この厚生年金保険に入つております労働者諸君に対しましては、ある意味ではマイナスになる点が出る。直接の被害はありませんけれども、保険財政全体から見ますと、そういうことになると思うのであります。従つてまた、これがやがてはあるいは保険料の負担自体にも、次の改訂においては影響するところなしとは言えないわけでありますけれども、労働者の皆様の感覚といたしましては、同じ労働者である、ことに非常に待遇の悪いこれらの人々に対しましては、同志的な深い同情を持つて、少しは自分たちは犠牲を払つても、これらの諸君をやはり入れるべきである、こういうような感覚がございましようか、それとも少しでも不利になることであればごめんだという感覚が強いでしようか、この点を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/24
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025・和田春生
○和田公述人 ただいまの点でございますが、先ほど清水さんが御指摘になりましたように、適用範囲を拡張いたしまして五人以下の小さな事業場に広げますと、行政処理上いろいろな困難が伴うことは確かでございます。しかしながら、もつと本質的に考えてみますと、どうしても、これが労働者保険の中の年金だけではなしに、国民的な総合年金制度は確立しなければならないという目標がございまして、従つて当面そういう問題に躊躇いたしておつたのでは、国民年金保険の制度はとうていでき得ないということになるのじやないか。そういう大前提から考えます場合に、現在の労働者保険の中で五人未満にも適用事業場を拡張するということは、さして困難な問題として回避すべき問題ではないと私どもは考えております。さらに、そのことによつて労働者に不利が来るということ、これは保険料の負担というか、そういつたことであろうかと思いますけれども、そういう行政処理上の問題が、被保険者、受給者に転嫁さるべきものではないのでございまして、これは国の費用としてまかなわるべき性質のものであり、そういう問題は、打算をしたわけではありませんが、そう多額の費用を要するものでもない。従つて私どもとしては、この五人未満のものにも適用するという理由の第一は、そういうところの労働者にも適用してやりたいということ、第二には、年金保険法の内容をすつきりしたものにいたしましてできるだけそういう方向に近づけるためには、適用範囲を広げてどこに行つても働ける状態になりますならば、脱退手当金等についても考えることができますし、あるいは保険全体も前進をする、さらに将来の国民年金の前進に対しても考えられる、もちろんそれだけでは不足でございまして、総合的な国民的な年金制度の発展にまで行かない限りにおいては完全な形にはなりませんけれども、少くともそういう方向に前進する方向をとる、この点に対して強い要望を持つておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/25
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026・長谷川保
○長谷川(保)委員 清水さんにお伺いをいたしたいのであります。あるいは私が先ほど聞き落したのであるかもしれませんが、積立金の運営につきましては、これを厚生年金保険に還元するように使うというようなお話があつたかと思うのであります。これについて、具体的にはどういう方法をもつてそういうふうにいたすべきか、具体的なお考えがございましたらお伺いいたしたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/26
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027・清水玄
○清水公述人 私が考えておりますことは、大体和田公述人からお述べになりましたようなことでありまして運用の関係は、いずれこれらの委員会か審議会ができましたらきまることと思いますが、さしあたりの問題といたしましては、関係者の入りました審議会のようなものでも、これは法律ででもつくりまして、実際に厚生年金保険関係の面に還元できるようにしたい、こういう考えであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/27
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028・長谷川保
○長谷川(保)委員 もう一つ伺いたいのでありますが、先ほど五人以下に広げることにつきましては、小企業の負担が大きくなるという点を御心配になつておられたと思うのであります。これらにつきまして、小企業としてその負担はとうていたえ得ないというような、何らか確たる調査をしたようなものがお手元にございましようか、支払い基金の処置をしておられますので、何かそういうたぐいのものがありますかどうか伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/28
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029・清水玄
○清水公述人 今長谷川さんのおつしやいましたような正確な材料を持ち合せておるわけではございませんので、大体全体の達観と申しますか、そういつたものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/29
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030・青柳一郎
○青柳委員長代理 次に山口シヅエ君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/30
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031・山口シヅエ
○山口(シ)委員 和田さんにお尋ね申し上げたいと存じます。私も清水さん並びに和田さんに、この積立金の運用に対しましてもう少し具体的に御指導いただきたいと考えておるのでございますが、後日また案がございましたらば、何らかの方法で御指導をたまわりたいと存じます。さて和田さんにお尋ねしたいことは、先ほど末高先生の御意見の中で、老齢年金開始年齢五年引上げに対する賛成の御意見の理由といたしまして労基法を改正して、労基法の中に一定の定年制を設けるというような御意見のもとに賛成されておりましたのですが、和田さんはこの点どうお考えになつていらつしやいますか、ひとつ御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/31
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032・和田春生
○和田公述人 ただいまの、労基法の中に就労者の、何才までは使わなければならないという年齢をきめるという問題でございますが、確かにそういう行き方も一つの方法であろうかと思います。しかし現実の問題を考えた場合に、何才以下の労働者は使つてはいけないということならば実行が保障されますけれども、そこまで使えといつても、使うような社会条件というものをこしらえ、また産業経済も計画的に運営されまして、そういう条件がつくられない限り、これは空文にひとしいものになるのではないかというように考えるわけであります。従つて何才までは働くことを保障するというためには、やはり政治経済の機構をそれに沿うように改革して行くということが私は前提になると思います。それが伴わない場合におきましては、今ただちに五才を引上げるということは、先ほど私が申し述べましたように、単に平均年齢が延びて余命が延びたというだけでは——働き得る年齢が延びて初めて年齢を引上げる根拠ができて来るわけでありますから、現在においてはそれは不適当である、かように考えているわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/32
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033・青柳一郎
○青柳委員長代理 他に御質疑はありませんか——それでは午前はこの程度にとどめ午後一時まで体感いたします。
午後零時二分休憩
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午後一時二十九分閣議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/33
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034・青柳一郎
○青柳委員長代理 休憩前に引続き厚生委員会公聴会を再用いたします。
引続き公述人の方々より御意見を聴取することといたします。まず波多町公述人の御発言を願います。波多野公述人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/34
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035・波多野則三郎
○波多野公述人 私は富士紡績株式会社取締役、労務部長、日経連の理事、社会保険審議会の委員をいたしております波多野則三郎と申します。
今回政府が厚生年金保険法の改正法案を国会に提出いたされましてその根本的な改正を企図されております御趣旨はよくわかるのでございますが、さきに社会保険審議会並びに日経連その他がしばしば表明いたしておりましたごとく、各種社会保険制度の整理統合を念慮に入れて改正すべきであると思います。次にわが国経済の危機的な現状、緊縮予算を強行せなければならない今日の情勢下におきましては、さしあたり暫定的な措置を講じておきまして将来経済の安定が確立しましたあかつきにおいて根本改正を行うべきであると思います。しかしながら一面現行法があまりにも実情に沿わないということも、これは十分認められますので、私はただいま申しました私の属しておりまする団体を背景にいたした考えを申し述べることはもちろんでありまするが、私の私見をもあわせまして、二、三意見並びに要望を申し述べたいと思います。
第一に厚生年金が防貧のための最低限度の保障であるということ、また国庫負担の均等性並びに保険事務の簡素化、この三点その他から考えまして老齢年金の給付額は報酬比例でなく、定額制一本とすべきであると思います。
第二に、標準報酬の最高限度を現在の八千円より一万八千円に引上げましたその事情、それらはよくわかるのでありますが、先ほども申しましたように、この日本経済の置かれました危機的な現下においては、極力保険料の増収による負担は軽減すべきであろうと思います。今回八千円から一万八千円に引上げられましたことによりまして、総体には約七割、高いところでは十割以上の負担になるのでございます。なお現在中小企業を除きました大企業にありましては、大体退職手当制度が確立とまでは行つておりませんが、ほとんど退職手当制度が労働協約その他によつて制定されておりまする現状にかんがみまして社会保障制度並びに年金保険制度の確立に従つて、退職手当制度というものもにらみ合せて考えるべきであろうと思うのであります。
第三に、国庫負担金でありますが、これは労働者側の委員からはしばしば使用者並びに労働者、国庫、この三者の三等分の負担を主張されておるのでありますが、現下の情勢においては少くとも二割程度の国庫負担は必要と思います。
第四には、積立金の効率的、民主的運用をはかりまして、保険関係者への還元融資を拡大せられたいことでございます。これは午前中の三人の公述人がこの点につきましてはことごとく主張されたのでございました。私どももこの点については特に国会議員各位の御協力を得て、早急にこれを実現いたしたいと思います。現在約八百億円に上る厖大な積立金を持つておりますが、これが大蔵省の資金運用部の運用にまかされておりまして、昭和二十七年度におきましてはその余剰金が三億何がしかは一般会計に繰入れられておるという事実があります。先般社会保険審議会の席上、大蔵当局のこれに対する御説明を聞いたのでありますが、積立金の運用は、厚生年金の利子は大体三分五厘から五分五厘くらいの程度にまわされておるのでありますが、それを融資される方面には、低いのは三分五厘、高いのは七分五厘くらいにまわしておられるように聞いております。しかもその余剰利息を一般会計に繰入れるというがごときは、厚生年金の性質からして非常に納得の行かない措置であると思うのであります。なお国家公務員の共済組合の積立金も当初はこの大蔵省の資金運用部にまかされていたのでありまするが、共済組合当局の非常な明断によりまして、それが大蔵省の運用部から自主的に共済組合当局の手にゆだねられたということを聞いております。虎の門のりつぱな共済会館なんかも、それらの運用によつてできたのではないかと思いますときに、私ども厚生年金八百億の積立金の運用は、ぜひわれわれ厚生年金の当事者の手にゆだねられなければならぬと思うのであります。
次に脱退手当金でございますが、これは当初私ども繊維関係の業者は、厚生年金の利得を受ける女子の大部分は、その勤続が非常に短い、そこで老齢年金の支給を受ける人は非常に少いという見地から、女子にとつては強制加入でなく、これを任意加入に願いたいということを願つたのであります。が、それらが厚生年金保険の趣旨精神から非常に無理であるということを知りまして、その主張を譲りまして、せめて脱退手当金の存続を主張したのです。しかし脱退手当金もこれはやはり社会保険制度から申しますと、その本旨ではない、外国にもこのような脱退手当なんかはないという政府当局の懇切なる説明によりまして、われわれも厚生年金保険の社会性を認識いたしまして、それをも撤回いたしまして、ただ女子の被保険者を救う救済の道といたしまして、女子一時金制度でがまんをするということを申し上げたのでありますが、今回の政府の最終の案によりますと、この脱退手当金が存続されておる。これは非常に根本的な改正をされておる上において非常に遺憾に存ずる次第であります。
なお二、三申し上げたいのでありますが、大体現下の情勢におきましては、今回政府が提案されました程度の改正は、私個人としてはやむを得ないのではないか、これを通過さすべきであると存じます。以上はなはだ簡単でございますが、私の意見を申し上げた次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/35
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036・青柳一郎
○青柳委員長代理 それでは次に小西公述人にお願いをいたします。小西公述人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/36
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037・小西昌二
○小西公述人 私は、全日本造船労働組合中央執行委員並びに労働省難聴研究専門委員会委員、それからただいま審議されておる厚生年金に関連いたしまして、社会保障、社会保険の審議委員、それから労働者の珪肺対策審議会幹事、以上を勤めております小西でございます。
ただいま政府の方から御提案なされております厚生年金改正法につきましては、昭和二十八年の十二月二十一日から総会五回、厚生年金部会九回、その他懇談会の形式をもちまして数回にわたり審議いたしました。その席上、私は被保険者代表として、最終回一回休みましたが、全部出席いたしましてつぶさに被保険者側の代表としての意見を発表したわけでございます。この中において、今度の改正法におきまして私どもの希望するものは、昭和十七年の六月一日から実施されました労働者年金でございます。この年金をつくる場合に参画されましたのは、現吉田内閣総理大臣、緒方副総理、それからさきに公述に立たれました清水公述人、末高公述人、このようなたくさんのお方、現役におられるお方がつくられました。この労働者年金が今後どのように発展して行くかということになりますと、六十年後交叉するということでつくられた、私はかように信じております。そうしますならば、昭和十七年から今日までを振り返つてみますと、十二年くらいになりますが、六十年間のうちの十二年間にすでにこのように改悪しなければできないということにつきまして、私は大きな不満を持つておるわけでございます。と申しまするのは、今回十一年七箇月で坑内夫の老齢年金の受給資格者が三千二百名出て参りましたが、この人たちが現在八千円の報酬の場合には、百二十円の保険料を納めているわけであります。百二十円の保険料を納めて、もらう金額は昭和二十三年のあのインフレの当時に千二百円、月額に直しますと百円にしかならない、こういう矛盾した制度であつたわけであります。それで私は就任以来これを早く改正しなければいけないということを再三当局にも相談したわけでございますが、その結果持ち出されましたのは、先ほど申し上げましたように、二十八年十二月二十一日諮問されまして、今次十九国会に上程される。その間短かい期間でありまして、そのためにこの大改正でございますところの厚生年金が二箇月や、三箇月では私はこれは徹底的に審議できないということを第一番から申し上げたわけでございます。
まずこの厚生年金と申しますのは、やはりわれわれ労働者側のただ一つの年金でございます。軍人には恩給法があり、国家公務員には共済組合法がございます。また国家公務員共済組合法の退職金制度、人事院勧告を見ましても、やはり今度は大幅に引上げられようとしております。そういうさ中におきまして、先回の社会保障制度審議会は、やはり年金制度は統合一本にするということを答申いたしております。そういう関係から、私は被保険者側の代表としてこれはどうしても統合しなければできないという考え方で、この厚生年金の改正法の審議に臨んだわけでございます。
標準報酬の問題もやはりこれにからみ合いますので、ちよつと申し上げてみますと、和田委員の方から御説明がありましたように、これは船員の場合には四千円から三万六千円まででございます。そうしますと、今度の厚生年金法と船員法とで交渉法というのをつくりまして、期間を通算してすべてのものを統一しようという今回の挙に出ております。そういう関係から参りますると、われわれ陸上関係といたしまして、これはやはり船員法と一緒に審議しなければできない。そうすると政府提案でありますところの三千円から一万八千円というものは低いじやないかということをわれわれは考えておるわけでございます。それで船員法と統一するということになりますと、やはり船員法の最低の四千円でわれわれも押えるべきであると考えております。まず最高が三万六千円までやらなければできないということも考えておりますが、やはり現在の経済情勢から考えまして、われわれの負担能力がどこにあるかということも一応は考えなくてはできない。現在の八千円の場合でも千分の三十でございますので、百二十円納める、使用者側が百二十円、合計二百四十円納める。一万八千円にした場合にはわれわれとしては二百七十円納めなければできない。三万六千円にいたしますと、相当の金額を納めなければできないようになつて来るわけです。そういう関係から現在の予算面から考えましても、一挙に相当大幅に引上げるということについては、労働者側にも不満があるのではないか、と申しますのは、この法案の中に盛られております支給内容でございます。支給内容の中にやはり脱退手当金を廃止するということがうたわれております。それを今回は存続するということになりましたが、それもやはり現行よりも合理化するという線で大分改悪になつておるわけでございます。それでそういう法案をわれわれが見まして審議いたしましたその席上で、この資格年齢が五十五才を六十才に引上げられたということになると、たとえは私が現在四十四才でございますが、私が五十五才で停年になるわけでございます。六十才になりますと、五十五才の停年制でありますので、私はすでに会社におらない。そうするともらう権利がなくなる。そうすればわれわれの五百円も七百円も、三万六千円に引上げてない場合にこれはかけ損になります。そうすると現在七百四十万からの被保険者がおりますが、被保険者の中の何パーセントしか受給資格はないであろうと考えるのでございます。それでやはりこの標準報酬は現在のところは、さきに波多野公述人から御説明がありましたように、やはり負担能力の問題から来まして、一万八千円でもしかたがないじやないかという線を持ち出しておりますが、やはりわれわれとしては基本方針として三千円から三万六千円までに統一したいという考え方を持つております。それで保険料率を現在の千分の三十と抑えまして、この場合にわれわれといたしましては、その千分の三十もあまり大き過ぎるというところから、一部では引下げなければできないという各単産も出て参りましたが、一応千分の三十に押えましてそれでそのときの審査の内容といたしましては、給付内容を引上げてもらうという前提のもとだつたらよろしいということで確認されたわけでございますが、今次国会に上程されております厚生年金法は老齢年金と附加給だけはよろしいのでございますが、その他の問題は全部下に下つておる、改悪になつておるということを御説明申し上げたい。
まず第一に、坑内夫の特例期間でございますが、これは当時の委員がやられましたときにもこれは三分の四という特例期間を設けております。それを今新法ができたならばその特例期間をはずしてしまうということを言つております。それでなぜ特例期間を設けたかと申し上げますと、その当時は坑内夫は国家管理でございます。そういう国家管理であるという関係上から、やはり早く石炭を掘つて出さないと戦争に負けるというところから、坑内夫を優遇しまして三分の四というものをつけた。現在の情勢と昭和十七年の情勢とはほぼ似たり寄つたりの情勢でございます。そういうところから見ますと、今後どのようになるかと申しますと、坑内夫につきましてもやはり国家管理という方面になるのではないかとすらも考えざるを得ない。MSAを受入れた以上はそういうかつこうになるのではないかと考えております。前回入れておつたのを今度はずしてまた入れるというかつこうになりますので、特例期間は一応認められておりますが、新法ができましたならばはずすということは、一応はこれを延ばさなければならぬのではないかということを考えております。
まず資格年齢の問題でございますが、資格年齢をただいま申し上げましたように、一般を六〇才、坑内夫を五十五才、それから女子を五十五才といたします場合に、これも前回の審議会にお要してもいろいろ説明を求めたわけでございます、日本の労働能力とそれから外国の労働能力とはおのずから限界がかわつていると私は考えております。衛生関係も違つております。また作業関係も違つております。そういう関係から、外国の例をあげて外国は六十だから日本も六十にするんだというようなことはおかしいと思います。日本としては所得税法におきまして、われわれが扶養控除を適用されるのは六十才でございます。それからもう一点は、われわれが勤めております会社には停年制というものがしかれております。男子はたいてい五十五才でもつて停年制をしかれている。そういう場合に五年間のブランクができるということは、皆さん方にお話申し上げるまでもないと考えております。それで今後のわれわれの産業構造と停年制の見通しというものを、一応は審議会でもつて審議しなければこの結論は生れて来なかつたわけであります。そういう関係から社会保険審議会といたしましては、これが一本の答申案にまとまらなかつたといううらみがあつたわけでございます。それで問題点になりますのは、やはり現在の五十五才を六十才にした場合に、これがはたして可能であるかどうかということを、ごく簡単に、こういう問題があるということだけ御説明申し上げたいと思いますが、坑内夫の現在の五十才を五十五才に引上げた場合に、これは金属鉱山であれ、炭鉱の鉱山であれ、または隧道工事をやる石工さんであれ、この中には今参議院の労働委員会で問題になつております珪肺法という法律を議員立法で出しておりますが、あの法律に基きしても、われわれが考えてみますと、珪肺に一度かかりますと、これは絶対的に直すことができないといわれております。金属鉱山で十年間働いておれば必ず珪肺になる。そうすれば二十才で坑内に入りますと二十五才にはすでに珪肺になる。三十五才で立つことはできない。それで労災病院では四十才から五十五才くらいの人がすでにばたばたと倒れている現状であります。そういうことから五十五才に持つて行くのが坑内夫では無理ではないかと考えております。それで六十才にするという案でございますが、これはあくまでも外国の案でありまして、日本人の体力、作業状況、こういうものからにらみ合せて、六十才にしてはたしてそのとき以後何年生きるか、余命の年数をはかつてもらいたいということを申し上げたわけです。まず日本の労働者の余命年数がはつきり把握されておらない。それに持つて行つて外国では六十才だからということを言われておりますが、アメリカでは六十五才でございます。そういうぐあいで外国の例を一々引いておりますと、日本としてのこういう制度はおそらく環境衛生が違つている以上無理ではないかということを申し上げておきます。
第二点は老齢金額でございますが、この老齢金額をわれわれはフラツト額、標準比例制の二本建にいたしました。どういう理由でわれわれとしては標準比例とフラット額に求めたかと申しますと、やはり現在恩給法でも職階制がある、また国家公務員共済法でもこのようにランクが認められておりますので、労働者の年金だけを上も下もないフラット額一本でやるということが、どうも打ち出されております社会保障制度を統合する場合に、はたしてこれが現実に結びつかるであろうか。また結びつく場合に高い方に結びつけるか低い方に結びつけるか。その場合におそらく高い方の恩給制度をもらつてる方、また国家公務員の共済組合法の方をもらつている方、こういう方がはたして厚生年金にくつついて来るだろうかということが考えられる。その中間には船員法がございますが、船員法でございましてもやはりこの厚生年金よりも上まわつたものをもらう。先ほど申しました標準比例制の問題にからみ合せまして標準比例制が高いからそれに対するだけ向うが高くなります。そういう関係でやはりこれにつきましては職階制——それに現在外国の例をとつても全部標準比例制になつている。そういう関係で現在の、今度の提案の前の法律でございますが、これを見ましても標準比例でございます。それをフラット額一本に持つて行くということはおそらく現在の段階では無理ではないかと考えまして、フラット額と標準比例制と二本建にいたしたわけであります。
それでその金額でございますが、年金額がILOの勧告にもあります通りに現在の物価指数から押えましても二千円か二千五百円の金では絶対に承服できない。ということは次に関連がありまして、生活保護法との関連が出て参ります。それでわれわれといたしましては現在の俸給の四〇%だけは見てやらなければできないというところから、三千円プラス標準比例制ということを出したわけでございます。その結果いろいろと審議の過程におきまして統一することができなかつたので、社会保険審議会の経過の中にもうたわれておりますが、われわれといたしましては若干歩み寄りまして統一した答申案を出したいと私は苦慮したわけでございますが、結果的にはまとまらなかつたということで、現在の改正案が出されております。この案をちよつと見ました場合に、非常にあとの問題にさしさわりがあるので、皆様国会議員の方にはもう少し考えていただきたいと考えております。
次は、障害年金を二級にする、二級を老令年金と同額にするということを言われております。それから遺族年金は老令年金の二分の一にするということを言われております。そういう関係で皆様方の御審議を煩わしたい、かように考えております。
第三点の障害年金の問題でございますが、現在の一級、二級を一級、二級、三級、手当金という四つのランクにわけておりますが、この一級、二級、三級、手当金にはわれわれとしては異存はございません。異存はございませんけれども、やはり先ほど和田公述人の方から御説明がありましたように、身体障害者の別表の方に異議があるわけでございます。これは審議を煩わしたということがいわれておりますが、私たちはこれに対して審議をした覚えはございません。はつきりと申し上げます。現在の法律の一級から二級に下つた分におきましては、「咀嚼又は言語の機能を廃したもの」、この草案の百六ぺ−ジ、それから「両上肢のすべての指の用を廃したもの」、これは十指でありますが、現在一級でございます。これが二級に下げられておる、それから第三級、二級のものが三級に下げられておりますのは、「両眼の視力が〇・一以下に減じたもの」、「咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの」、第三点は「脊柱の機能に著しい障害を残すもの」、第四点は「一上肢の三大関節のうち、二関節の用を廃したもの」、第五点は「一下肢の三大関節のうち、二関節の用を廃したもの」、以上二級のものが三級に五つ下つております。なぜこれを私は問題にしますかと申し上げますと、一級、二級は遺族年金を支給するのであります。三級は遺族年金を支給しないということがうたわれております。そうする場合に、新法で三級に下げられた者は遺族年金をもらうことができなくなります。現在もらつている人は既得権でございますが、これからの人は全然もらうことができないという矛盾がここに生まれて来ているわけであります。ここでやはりこういう問題につきましてはもう少しわれわれとしても審議したら、と申しますと、私はさつき肩書を申し上げましたように、難聴研究会の方で医学者の方と一緒に研究しております。難聴の人の専門研究会でございます。それから珪肺の方も私はやつております。そういう関係上身体障害には特に関心があるわけであります。そういう関係からこの障害の問題についてわれわれとしてはもう少し考えさせていただきたかつたのです。それから現在われわれが審議しないうちにこの法案が国会に上程されたということにつきまして、私は非常に不満を感じておるものであります。
次は業務上の疾病の場合には、現在は期間が六箇月でございますが、これはわれわれとしてあくまでもはずしてもらいたいという考えを持つております。どういうわけかと申しますと、仕事上のために好んでけがをする人間はおらない、その場合にたとえば二月でも二月でも保険料を納めた場合には、やはりそれだけの権利を持つているわけです。被保険者という権利を持つておるならば、これはやはり労災及びこの障害年金の方にかけなくてはいけない、それを追究いたしました結果におきまして、これは法案には盛られておりません。われわれの意見が通つておりませんが、この審議委員会の席上におきましては、労災及び国家公務員恩給法は、こういうすべての障害に対しましては審査期間を設ける結果、この六箇月間の期間をはずすということが相談し合われている、これに対してそういう意向がひとつも盛られていないということについて、皆さん方にもう少し考えていただきたい、こう考えておるわけでございます。
その次は障害年金の算定方式でございますが、算定方式は現在までは最終の報酬の三箇月間の平均にかける何箇月でございます。それを今回は老齢年令と同じように全期間の平均を出すということになりますと、これはわれわれとしては改悪にひとしいものになつて来る、と申しますのは、三千円以下のものは三千円にまで上つて来ましても、現在八千円が最高でございます。そうしますと、これを平均すると五千円ぐらいにしかならない、その五千円に対するところの率が出て来るわけであります。そうすると現在の七百四十万人の被保険者の、四百何十万という六〇%の人は全部八千円です。それでたいていの人は最終報酬は三箇月間八千円を納めております。八千円かける一級は五箇月間、二級は四箇月、障害手当金は十箇月分でございます。一番最高の人は五万円それから四万円、手当金は八万円、こういうことになつておるわけです。それを今度のような字句の書きかえ方におきまして非常に改悪になる、但しこれは既得権は認めるということでありますが、現在の疾病者だけであつて、新しく疾病する人にはこれが適用できないといううらみがあります。それで恩給法とか国家公務員共済組合法、障害法には、これは老齢年金とそれから障害年金とが併給になつております。どちらの法律を見ましても併給でありますが、この厚生年金だけは老齢年金か障害年金かどちらか高い方一本しかやらないという、こういうことになりますと近い将来に社会保障制度審議委員会で統合するという案をつくつた場合、やはりこれは現在の二本建を併給されておつたものも一本々々切離してやるということがおそらく可能であろうということ 考えますと、やはりこれをひつつけなければいけない、ひつつけることにおきましてこの保険料率というものに関連がありまして、非常に無理な厚生年金の操作をやらなければできないのじやないかということが考えられます。この点につきましてこの件を皆さん方で御審議を願いたいと考えております。
次は遺族年金の問題でございますが、遺族年金は先ほど申し上げました通り老齢年金の二分の一でございましてこの法律案で見ますと、今までの方は全部一万円々々々と言つておられますが、一万円ではございません、現在最高が八千円でございます。今度の坑内夫の三千二百名、この方たちを入れましても、坑内夫につきましては必ずしも一万円にはならないということが言えます。八千円の期間と三千円の期間を通算しますと、これが平均上八千円というのが出て来ない、そういう場合に千五百円のフラット額と標準比例、たとえば一千円にいたしましても二千五百円、二千五百円の二分の一でございますので千二百五十円でございます。千二百五十円と申し上げますと、生活保護法は現在九月一日から、物価指数、お米が七十六円五十銭になりましたので、若干三十円から四十五円くらいはね上つた支給方法になつておりますが、大体におきまして六十才以上の方で男の方だつたら二千二十円という金額が出ております。これが生活保護法の基準でございます。これは一級地でございます。説明の場合二級地に取上げましたけれども、やはり一級地あたりを見ておかないと非常にまずいのじやないか。それで二千二十円と一千二百五十円との差、これはどこに求めるかと申しますと、苦しいから生活保護法にまわつて行かなくてはいけない、また千二百五十円の遺族年金をもらう場合には、独身の場合にはもらえない、子供がおらないともらえない、五十五才以上になつて初めて、これは一人の場合にもらえる、御主人がなくなつて五十五才前のときには十六才以下の子供さんがおらないともらえない。そうするならば附加給の子供さんにつきましての一月四百円、それと本人の千二百五十円、千六百五十円であります。千六百五十円で二人が生活しなければならない。生活保護法で行きますと四千円になります。そういうことから考えますと、どうしても国家保障というものが生活保護法で、厚生年金受給者が生活ができないから、民生委員に行つて生活保護法を受けなくてはできない、そういう場合、現在の社会保障の削減されたときにおきまして、民生委員の方ですぐそういうものを取上げていただけばけつこうなのです。けれどもなかなか取上げてくれない、制限給付をしようという現在におきましてみな却下して行くというようなことにおきまして、厚生年金をもらつておる人間は厚生年金でいいじやないか、だからこつちだけ助けるのだということで現在打切られております。そういう関係でやはりこの保険財政は苦しゆうございますけれども、この方面には考えていただかなければいけないのではないかということを私は考えております。
次は遺族年金の遺族の範囲でございますが、遺族の範囲につきましては、先ほど申し上げましたように、独身の場合には全然遺族年金がないのです。子供さんがあつて初めてもらえる。そうなつた場合に五十才ぐらいの人あるいは四十五才くらいの人がもしも寡婦になつた場合には、この遺族年金がもらえないということになつて、その人はあくまでも自活の道をたどらなければいけない。自活をする場合に、はたして現在の経済状態の中で受入れてくれる事業場がどのくらいあるだろうか、女の方をどのくらい受入れてくれるだろうか。たとえば受入れてもらいましても、きたない話でございますが便所掃除、雑役婦とか、また特殊に腕を持つているというような人々でもなかなか入りにくい。大学出の人が就職難に陥つている現在において、そういう人たちをはたして救うだけの社会情勢にあるかということを考える。そうするならばやはりこれは五十五才でもつて大体において二分の一といたしましても、それからパーセンテージを引いて、若干でもお恵みと申したら失礼でございますが、つけてやる必要があるのじやないか。男の人はどうにかして暮せますが、女の人というものは、廃頽した今日においてはおそらく助かる見込みはないと思います。そういうところまで助けるようなことが現在におきましては全然審議されておりません。それでこの女の方が独身の場合に、遺族になつた場合のことをもう少し皆さんに御審議を煩わしたい、かように考えております。
それからお年寄りになりまして、やはりこれは生活保護法の関連でございますが、私はこの法案を審議する場合青砥の養老院に参りましたところ、その養老院の六十才から六十五才くらいのおじさんが、やはり二千百円くらいのあの金額ではやつて行けない、そのために養老院におりながら内職をして、できるだけ働きながら小づかい銭をかせいでやつているのが現状でございます。それだけ生活保護法がすでに下まわつている。その下まわつたものより、なお下まわつておるのが厚生年金の遺族年金であるということを考えていただきたい。
それからもう一点、遺族年金に関連がございますが、この法案の中には医療機関というものが設けられてございません。そのかわりこの遺族者がもしも疾病した場合には、やはり民生保護法の手を借りまして、生活保護法の方から医療にまわつて行かなければできない。その場合に先ほど申し上げましたように医療をすぐ受けることができません。やはり申請をするのにも長い日数がかかるわけでありますから、急患者がおつたときに金がないから病院にかかれない、そういう場合にはたしてどういう処置があるかということで、私は遺族年金の中にこの医療機関を設けてもらいたいということを力説したわけでございますが、その結果認められなかつたということは残念でございます。ここで皆さんに国会議員としてもう少し御審議を願いたい。
次は脱退手当金でございますが、この問題につきましても、やはり先ほど申しました通りに、現在におきましては、これは私たちがまだ十何年かかけなくてはできない。その場合に十年間に何百円かお金をかけて、その結果もしもそれがもらえないということになつたならば、この厚生年金は無用だということが出て来るのじやないか。そうなると今まで積み立てて来た厚生年金が崩壊の道をたどる。だからこの受給資格が出るまでは、やはり脱退手当金は置くべきであるという考え方を持つております。それで女子の一時金の問題につきましては現行制度は六箇月でございますが、これを二年間に引上げております。これは非常に改悪になつておりますので、われわれといたしまして、この問題につきましてはもう少し皆さん方の御審議をお願いいたしたいと思います。この女の方の六箇月を二年間といたしますと——名前は隠しますが、現在二年間ぐらいで首を切つて行こうという会社がだんだん出て参りました。これはなぜかと言うと、新陳代謝をしてなるべく新しい工員を入れて行こうというので、年とつた方は二年ぐらいでみな退職させようという考え方を持つた経営者がおるわけであります。そういう関係上、二年ということになりますとこれは非常に改悪になりますので、六箇月間の現行通りに納めていただきたいということを皆さんにお願いしておきます。
次は料率の問題でございますが、これは保険財政でございますので、この料率につきましては若干経営者側から反対がございましたけれども、現在の情勢からいたしまして一万八千円になりましようが三万六千円になりましようが、やはり千分の三十という保険財政にしないと、完全附加式ということになると非常に問題があります。それでわれわれとしては千分の三十でよろしいという線を出しておりますので御審議をお願いいたします。
それから国庫負担の問題になりますが、国庫負担の問題につきましては、今回の国会におきまして予算で一割から一割五分にはね上げて、二億五千万円出すからいいではないかということを言われておりますが、これはわれわれといたしましてはあまり関心はございません。と申しまするのは、今度の給付内容は——坑内夫でございますが、坑内夫の三千二百名につきまして、やはり現在の三万円が三万六千円になりました。それに対する国家補償がございますが、国庫負担が現在は二割でございます。二割でございますので、これを一割五分に引下げる必要はない。二割は二割でございまして、一つも関係がない。だから国家補償は三分の一ということを要求しております。この一割五分になりますと、若干ひつかかつて来ますのは比較給の問題だけであります。その他の問題は、障害年金にいたしましても、障害年金は現在四万円をまだ下まわつておる。というのは、三万円になりましたら——三千円の老齢年金が十二箇月で三万六千円、そうすると現在の八千円の四箇月でございます、四八、三十二、三千円にいたしましてようやくとんとんでございますが、そういうことでほかの問題につきましては、一般の十分の一を十分の一・五としたことはあまり影響しない。国家への影響としては、二億五千万円に手をつけないでいいのではないかと私は考えております。
次は特別会計になつておりまする現在問題になつておる積立金の問題でありますが、積立金は現在八百億ばかりございます。これが昨年、昭和二十八年の場合でも、特別会計の中から一般会計の中に三億八千七百万円繰入されております。それも事務費、手数料を差引いて三億八千七百万円であります。このようにわれわれ労働者と使用者側と両方で出して積み立てましたこの金額の利子を、政府が特別会計から一般会計にただどりするような方式はやめてもらいたい。そういうお金がございますならば、われわれは住宅で困つておりますから、住宅の方にでも——参議院の本会議を私は傍聴に参りましたが、自由党の方も、改進党の方も、緑風会の方も、社会党の方も、全部住宅の問題にこだわつております。こういう金が余つて一般会計にまわるようでございましたら、どうか住宅を一軒でも建ててもらいたい。
以上をもちまして、ごく簡単でございますが、私の公述を終りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/37
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038・青柳一郎
○青柳委員長代理 ありがとうございました。
次に近藤公述人の御発言を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/38
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039・近藤文二
○近藤公述人 私は大阪市立大学の商学部長を勤めております者で、社会保障制度審議会の委員の末席に列しておるものでございます。今回の厚生年金保険法案の提出にあたりまして本日公述をせよとの話でございますが、私の最も遺憾といたしますことは、このような法案を御審議になる場合に、その前提となるところの予算的措置がすでにきまつているという点でございます。すなわち今後国会におきましていろいろ御審議が行われること思うのでございますが、それはすでに決定した予算のわくの中で行わざるを得ないということになるのではないかと思うのでございます。もしはたしてそうでございますならば、そのこと自体に私は多大な疑問を持たざるを得ないのであります。ただ厚生年金保険につきましては、すでに七百数十億円の余裕金及び積立金がございまして、これが二十九年度にはさらに三百二十六億円ほどふえるような見通しでございますので、この積立金の利子の点に何らかの措置を講ずるならば、多少の財政的な余裕がここに出て参りまして、制度をつくり上げて行きますところの財源になるのではないかというふうな点も考えられますから、そういうようなことを含めまして簡単な私見を述べさしていただきたいと思います。
御承知のように、この制度を法律案として御提出になるに先だちましては、それぞれ社会保険審議会、さらには社会保障制度審議会に付議されまして、各界の意見を求められたのでございます。そうしてその一部を取入れられまして、本日の御提案の法案をおつくりになつたのでございますが、社会保険審議会におきましては、労使の委員、公益側の委員の御意見が一致いたしませんでしたために、むしろ政府はそういう事情があつたことを前提とされたとは申しませんが、原案をそのままで推進されて今日に至つたのではないかというような感がないわけではございません。しかし私が委員として末席を汚しております社会保障制度審議会におきましては、満場一致一つの結論を見出しまして政府に答申をしておるのでございます。しかるに政府は、その答申の中でわずかに脱退手当金についてのみ審議会の見解を尊重されたにとどまり、審議会が最も重要視いたしました各種年金制度との調整、整備、年金額の引上げ、さらには積立金の運用などの点につきましては、ほとんど何らの考慮をも払つておられない感が深くございまして、この点はなはだ遺憾と言わざるを得ないのでございます。審議会がどういう見解を持つていたかということにつきましては、すでに皆さんが御承知でございますから、あえてここで繰返す必要はなかろうと思います。本日は私個人としての資格で意見を述べるのでございますが、右審議会の見解をも援用させていただきまして意見を述べさしていただきたいと思います。
まず第一に、右の答申におきまして、最後のところでこのように述べております。「公私の被用者を問わず、各種年金制度は、厚生年金保険法を基礎とすべきであり、たとえば、健康保険法が、現に行つているごとく、すべての被用者を厚生年金保険法の被保険者とし、その上で必要に応じ代行等の途をひらくべきである。」こううたつているのでございます。厚生年金保険こそ、全国民を対象とする国民年金保険制度を将来確立するための礎石ともなるべきものであるから、現に行われている国家公務員の恩給制度や共済組合制度を認めるとしても、それは厚生年金保険法において除外するのではなく、一応は公務員にも厚生年金保険法を適用し、その上で代行させるという方法をとつておく方が、将来国民年金制度を確立する場合にも論理が合うのではないかと考えたからであります。また現に健康保険法におきましては、国家公務員をもその被保険者としております。そうして第十二条におきまして「国二使用セラルル被保険者又ハ地方公共団体ノ事務所二使用セラルル被保険者ニシテ他ノ法律二基ク共済組合ノ組合員ナル場合二於テ其ノ被保険者二対シテハ本法二依ル保険給付ヲ為サズ」と定め、共済組合に代行せしめているのであります。それにもかかわらず、今回の改正案におきましては、かたわら民間労働者については健康保険法とまつたくその被保険者の範囲をひとしくしながら、公務員につきましては、現行法と同じように、改正法案におきましても、その第十二条において公務員を適用除外としているのは、どうもふに落ちないのであります。それのみでございません。内閣総理大臣は、先般市町村職員共済組合法案要綱なるものを社会保障制度審議会に諮問せられました。市町村職員につきましては、現に何らの年金制度を持つていないものがあるのでございます。これは厚生年金保険法をむしろ適用すべきものではないか、そしてその上において共済組合との問題を考えるべきではないかと思うのでありますが、ここにおきまして厚生年金保険法にむしろ持込まない、その逆の方向へ持つて行こうとする見解をとろうとしておられるこの政府の態度は、はなはだ不可解といわざるを得ないのであります。しかもこのような考え方は、昨年制定せられました私立学校教職員共済組合法の場合におきましてすでに示されていたのでありまして、このような態度を政府がおとりになりますならば、年金制度の整備、調整はますます困難となり、憲法第二十五条の趣旨をはなはだしく遠ざかつて行くのではないかと懸念いたしますので、先生方御審議の際にひとつこの点をよくお考え願いたいと考えるのであります。もちろん公務員の恩給制度を含めまして、全被用者を対象といたしました総合的年金保険制度を確立するということは、これはそう簡単なことではございません。そのためには、ただちにその制度を確立するための準備としての企画を立てるべき必要があるのでございまして、社会保障制度審議会は、前述の答申においてその必要を指摘いたしております。さらに三月一日付で建議をもいたしております。即刻そういつたような企画を政府が行いますように、この法案を御審議のときに附帯的に何らかの希望を述べていただくようなおとりはからいができましたならば、しごく幸いだと存ずるのでございます。
そこで今回の厚生年金保険法の改正にあたつては、今申し上げましたようなわけでございますから、まず第一に公務員を同法の被保険者として、そうして恩給法及び共済組合法による代行の措置をとる、そのため必要とあれば、右関連法の修正をも同時に行われんことを切望してやみません。
第二に年金額の引上げでございますが、これにつきましては、社会保障制度審議会の答申は、すでに申し上げましたように、労使、公益その他各委員の一致いたしました一つの見解を示しておるのでございますが、私はこの見解を支持いたしたいと思います。すなわち今回の法案を見ますと、月額一千五百円というきわめて低い定額に、わずかな報酬比例分を附加するという考え方でございますが、かりに平均標準報酬一万円の方を例にとつて考えましても、二十年間被保険者であつた場合でも、月額一千円という標準報酬が附加される案になつております。これによりますと、最低の標準報酬三千円の場合には、報酬比例分はわずかに月額三百円となり、定額分を合せても月額は一千八百円にしか当らないことになります。十五年で年金を受取られるような方について見ますならば、年金額は月額一千七百二十五円でございます。現在生活保護法で六十才以上の男一人世帯のものに支給される生活扶助の月額は、最も低い地区で見ますと一千七百四十円、最も高い地区で二千四百四十五円となつております。しかもこの上に、三百六十円から五百四十円程度の住宅扶助が加わるという点を考えます場合、改正案に示された年金額の最低がいかなるものであるかということは、おのずから明らかとなるのではないかと思います。もつともイギリスの制度を例におとりになりまして、生活扶助より下まわる年金額であつてもかまわない、こういうような御意見をお持ちの方もあるいはあるかと思うのでございますが、しかしながらその点につきましては、すでにイギリスにおいても、そういつた年金額は問題であるというふうにいわれておるのでございますし、ことにイギリスの場合と違いまして、日本の制度を考えまする場合にはその絶対額において非常に低いのでございますから、どうしてもこういうような低いものでは年金としての存在価値すら疑わざるを得ないということになるのではないかと思います。そこで私は社会保障制度審議会の方では月額三千円程度の定額制を主張したわけでございますが、この金額は実は昭和二十五年に社会保障制度に関する勧告を同審議会が行いました場合に採用しました月額二千円程度と定めた年金額を、当時から今日に至りますところの賃金の上昇率をかりに五割と考えまして、そうして計算したところのものでございます。それから、二十五年の月額二千円というのは、当時の標準報酬を八千円と見まして一応計算されているのでございますが、これは個人として二千円でございますので、これに扶養加算とかあるいは勤続年数加算等を加えますと、大体四千円見当になるという当時の計算で、標準報酬の、つまり賃金の半額ぐらいのものを年金にすればいいのじやないかという考え方から出ておつたものでございますが、これは現在のイギリスの場合におきましても、大体三人世帯において月の平均の収入が三万円である、これに対して年金が一万五千円というふうになつておりますのと大体調子が合うのではないかと思うのでございます。そこで今回の場合におきましては、二千円を三千円といたしますとともに、扶養加算の面におきましてもそれぞれ五割増しとして計算いたしますと、妻の場合には一千五百円、子供の場合に七百五十円が加算されます。そこで三人世帯となりますと、月額は五千二百五十円となるのでございます。先ほど末高先生はILOの基準を問題にされたのでございますが、あの場合の四〇%というのは妻を含めての場合でございますので、妻を含めて四〇%というILOの基準を末高先生が例にとられましたところの月額一万円という計算で参りますと、月に四千円以上あればいいということになります。私の申し上げました本人三千円、妻一千五百円の計算で行きますと、四千五百円ということになります。こういうような形のものが大体妥当であるのじやないかと思うのでございますが、さらに私はそのほかに年数加算をつけるべきだと考えるものでございます。従いまして、十六年以上被保険者であつた方につきしましては一年につき三千円の三十分の一の加算を行うといたしますと、二十年間被保険者であつた者の月額年金額は三千五百円、三十年間被保険者であつた者の月額年金額は四千五百円、これに扶養加算を加えますと五千七百五十円あるいは六千七百五十円となりまして、年金額としてはまず妥当に近いところのものになるのではないかと思います。もつともこういうような数字をお示しいたしますと、現在三千円とか四千円とかいう低賃金をとつている者と一体どうバランスがとれるのかという御意見もあるいは出るかと思うのでございますが、そういう賃金をとつておられる労働者があるとするならば、問題はむしろそういう低い賃金が存在しておるということにあるわけでございますから、厚生年金の改正法案を考えます場合におきましては、今申し上げましたような計算で行つても何らさしつかえないというふうに私は考えるものでございます。
それから改正法案が保険給付及び保険料の計算の基礎となる標準報酬の最低を月額三千円ときめておられるのでございますが、そういたしますと、年金額もやはり三千円を最低とするものでなければ生活保障の趣旨は貫徹されないのではないかと思うのであります。なお、年金額を定額とせずに報酬比例分を加味するというこの御意見につきましては、私個人といたしましては報酬比例を加味することに対して絶対に反対というわけではございません。しかしながら建前として社会保障制度の観点から申しますならば、むしろ報酬比例分は退職金制度でもつてまかなうべきが本筋ではないか。恩給、共済組合の例を先ほど小西さんはお出しになつておられますが、恩給あるいは共済組合の場合におきましては退職金的なものが含まれておるということを見のがしてはならないと私は思うのであります。そこでむしろ私どもとしては中小企業にも退職金制度が確立されるような何らかの措置が必要だと思うのでございますが、そういうものができ得ないから報酬比例を加味せよ、こういう御意見は確かに一つの筋は立つておるのでございますが、そのために退職金制度というものをかえつてつくらなくせしめる、そうしてそれによつて大企業と中小企業とのアンバランスをますますそういう面において高めて行くということになりはしないかということを逆に懸念せざるを得ないのでございます。
それからアメリカの社会保障制度は報酬比例だというような御意見もあるようでありますが、アメリカではそういう方法をとつておりますために、逆に低いところの年金をもらう人に対しましては雇主の方は相当の附加給付をする、そういう附加給付をせよというふうに労働組合が要求して、労働協約によつてそういう制度をつくり上げているという面もあるのでございまして、こういつたことも私は参考になるのではないかと思います。しかしながら現実の問題として考えれば、退職金制度の確立は中小企業の場合においてはなかなかむずかしい。また報酬比例でやるためには労使双方が保険料の負担を納得する、こう言われましたならば、報酬比例附加ということに絶対に反対するというのではございません。しかし少くとも今日の段階におきましては、負担の増加に対しましては標準報酬のわくを八千円から一万八千円に上げる以外に納得しておられないのでありますから、私は今回の改正におきましては絶対的な金額を引上げる意味においてフラット制を主張したいのでございます。もしフラット制を実施しないということになれば、おのずから定額制は低くなりまして、低賃金の労働者の人々に対しましては不幸なところの結果が出て来るのではないかと考えるからでございます。それから現実の問題として老齢年金を受取られる方はここ数年聞きわめて少数であるということをこの際考えておく必要があるのではないかと思いまする。
それから保険料を報酬比例で出しているから年金も当然報酬比例でなければならないという御意見があるのでございますが、しかしながら二十年間という長期にわたつて保険料を払う場合を考えますと、普通の労働者の方は二十年間に賃金が上るわけなんです。だから二十年間というものを平均的に考えてみますならば、大体労働者の賃金と同じようなものになるのではないか。ただ違つておるとするならば、産業別の賃金較差、それから初任給がたとえば大学を出ているから、出ていないからということによつて差等が設けられておる、それが引続いてずつと尾を引いて将来の賃金の大い差をかかえておる、こういう点にあるのかと思うのでございますが、この点は産業別賃金較差、それから学歴による賃金較差というものは、社会保障制度によつて所得の再分配を行い、全労働者階級としての立場から問題を考えるのが妥当ではないかというふうにむしろ私は考えますとともに、さらに今日の恩給、共済組合等の制度とにらみ合されますならば、この報酬比例なるものは、平均の標準報酬で行くべきでなく、最終の報酬というものを基礎にし、少くとも最終五年間といつたようなものをとらえまして、その間の報酬を前提にお考えになりませんと筋が合わないと思うのでございます。その上報酬比例制をとりますときには、積立金の運営の困難、さらには事務量の上におきまして相当の手間がかかるのではないかと思います。またそういう形で積立金をいたしました場合のインフレーシヨンへの影響は、フラット制の場合よりもはなはだしく大になるのではないかと思うのでございます。むしろ労働者の立場から言いますならば、そういう問題よりは、この年金を物価にいかにしてスライドさすかということを考えるべきでございますが、今回の法案におきましては、この物価にスライドさせて年金に幅を持たすというお考えがはたしてあるのかどうか、私は疑わざるを得ないのでございます。もつとも報酬比例分を附加することを主張されます方の中には、労使負担をふやさずとも、国庫でそれを負担すればよい、こういうような主張をされる方もあるようでございます。これは確かに一つのりくつでございます。率直に申し上げまして防衛費あるいは軍人恩給といつたものにどれだけの予算が注がれておるかということを考えます場合に、国庫からそういつた財源を厚生年金の方に出していただくということは筋が合つておるとも思うのでございます。しかしながら私は、現在の年金制度は賃金労働者のみを対象にいたしておりまして、広く国民を対象にいたしておりません。そういう場合にあまりにも多くの国庫負担を求めるのは問題があると思います。先ほどから主張されておられます皆さん方の御意見にありますように、大体三分の一、三割といつたところでとどめるべきだと思うのでございますが、さしあたつてはいろいろな事情もございますし、今回の法案の御審議にあたりましては、三割とか三分の一とか申しましても、すでにそれは予算的にきまつておる以上出つこはないのでございますから、私は二割という線をここに強調いたしますとともに、給付金の二割国庫負担は積立金の利子の操作によつて出て来るのではないか、こういうふうに実は考える次第でございます。この点ひとつ御審議の際に御参考にしていただきたいと思います。
第三に、改正法案では、障害年金や、遺族年金につきましては、その金額が現行法で計算されました場合よりも下まわることがあるという点でございます。そのために法案ではそれぞれ特例が設けられております。現行法における期待権を尊重するという建前がとられておりますこのこと自体すでに年金額が現行制度よりも悪くなるということを証明しておる次第でございまして、この点を解決しますためには、私が主張いたしました三千円フラット制というものをとる必要がどうしても起つて来るのではないかと思います。ことに遺族年金の年金額を老齢年金の二分の一としておられますが、これは私どもどうも納得ができません。遺族年金も老齢年金と同額にするか、少くとも三分の二程度にすべきものであると考えるのであります。また障害年金も第一級につきましては月額四千円、第二級につきましては三千円、こういつたようなものにはどうしてもしなければならないと思うのでございます。
第四に、脱退手当金の問題でございますが、これは先ほどから皆さん方が言つておられます意見の中にもございますように、年金制度が国民全般に及んだ場合においては理論上存在の余地を認めることができません。しかしながら現在のような厚生年金保険法の建前から申しますならば、脱退手当金というものは、やはり何らかの形において残すべきだと思うのでございますが、すでに御承知のように、現行法におきましても本人の死亡の場合、それから五十才以上の老齢に達した場合にのみ脱退手当金は認められておるのでございますから、先ほどからの公述人の方の中にお考え違いがあるのではなかろうかと思われますが、本来の意味の脱退手当金というものは、実は現行法でも認められてないのではないかと私は思います。今度の改正法におきましては遺族年金の形がかわりましたので、死亡に対する現行法の脱退手当金は必要がなくなつたのです。それから老齢者に対する脱退手当金は、五十才が五十五才に上つておるのでございますが、老齢年金をカバーする意味の脱退手当金が残つておるのでございますから、そういう意味において、脱退手当金という言葉が妥当であるかどうか、私は実は疑問を持つております。この点女子の場合につきましては、厚生当局は最初お考えが大分違つておつたのでございますが、最後のところでは二年以上の者に脱退手当金を支給するというふうに改正されて御提案になつておりますが、私はこれは、できましたならば一年以上くらいのところまで持つて行つたらどうかと思うのでございますが、この一年にするか二年にするかという問題よりは、むしろ脱退手当金の金額が問題でございます。これを本来の脱退手当金として保険料を返すのだという考え方で行きますと、金額は非常に少くなるのですが、女子の場合においては、大体やめる人は結婚をするのだというふうに考えますならば、一々結婚をするとかせぬとかいうことを調べずに、結婚をするという前提でこれを一つの給付というふうに考えますならばそういつた保険料を返すという考え方を前提において計算した金額でなしに、もう少し大きな金額になるのではないか、こういうふうに考える次第でございます。しかしいずれにいたしましても、脱退手当金につきましては、二つの審議会の意見を政府が尊重されましたことは非常にうれしい点だと存じます。
それから第五に標準報酬の引上げ、老齢年金支給開始年齢の引上げの点でございますが、これは私大体において賛成でございます。標準報酬は三万六千円あるいは二万四千円まで引上げるべきだという議論も成り立つのでございますが、現在の場合、ことにフラット制を主張する私といたしましては、一万八千円の標準報酬でいいのではないかと思います。老齢年金支給開始年齢は五十五才を六十才に引上げるのでございますが、これは先ほど小西さんも言われたように、確かにいろいろ問題がございます。私は坑内夫五十五才というのを五十才ぐらいにしてもいいのじやないかというようにも考えるものであると同時に、実は坑内夫以外の重労働者に対しましても、坑内夫と同じような取扱いをすべきではないか、こういうふうに考えております。
退職の年齢、つまり停年制という問題に関連いたしましては、年金の方を六十才に引上げることによつて停年制の五十才とか五十五才とかいうようなものを打破する方向にむしろ労働者側としては持つて行くべきではないか。現在はなるほど失業問題等がございますので、そういう考え方は現実に合わないというふうにおつしやるかもわかりませんが、いつまでも日本は失業が続くという前提でものを考えることには私は反対でございます。失業がなくなるということを前提にものを考えるべきであり、そのためには厚生省が今回六十才に引上げられる場合、二十年の間に六十才に引上げられるという措置をとつておられるのでありまして、これはまことに賢明なやり方であると思うのでございます。それから遺族年金を本来の姿にもどされたこともしごく賛成でございます。
しかし最後に私何としても納得できないのは、国庫負担の一般年金について一割五分にとどめておられる点と、それから積立金の運用について何ら法律的な規定を設けておられないという点でございます。軍人恩給に対しては六百三十八億円という厖大な予算を立てておられる政府が、厚生年金保険には八億八千八百万円という予算しか出しておられない、こういう点はどうしても納得ができないのでございますし、かりに一側五分の国庫負担を二割に引上げたとしても、その財源は二億五千万円でございます。これは利子の操作において出て来るのではないかというふうに私は大ざつぱに考えておりますが、その点ひとつぜひ御研究をお願いいたしたいと思います。もつとも大蔵省は今年度は二億五千万円だが、だんだんこれがふえて行くだろうということを言われるでしよう。しかし国庫負担がだんだんふえて行くという問題につきましては、積立金をどういうふうにつくり上げて行くかという問題と関連をするのでございまして、積立金運用の問題、積立金をどういう方式できめるかということとつき合せて問題を解決すべきでありまして、ただ単に二億五千万円がだんだんふえて行くからいけないのだというような見方では結論は出て来ないと思います。いずれにいたしましても、今回の改正案につきましては、いろいろ問題があるようでございますが、たとえば五人未満の事業場の労働者の人たちにこれを適用するかせぬかという問題がまずさしあたつて問題になると思うのでありますが、これは厚生年金保険だけでなく、健康保険についても同じ問題があるのでありまして、それをただちに実施するというのは私はちよつと無理ではないかと思いますので、実施する方向に進むべきであるけれども、今回の改正案におきましてはこの点はやむを得ない、こういうふうに考えるわけでございます。
そこで私といたしましては、先ほど申し上げましたように、年金額を引上げていただくこと、遺族年金の金額をかえていただくこと、障害年金につきましても同じような考え方、それから積立金の運用につきましてはもういろいろお話が出ておりますので、私は大体皆さんと同じような考え方でございまして、この積立金をまず第一に厚生福祉の面におきまして使うということで一定のわくをきめて、それ以上に余裕があるならば、それは一般産業資金として使つてもいいというような何らかの法的な措置をとり、審議会等を設けて民主的に運営していただきたいものだと思うのでありましてこういうような積立金の運用に関する規定を新しく設けていただくこと、それから先ほども申し上げましたように、公務員に対しましても、この法律を適用するような修正がしていただけないものかという点、そのことによつて将来の国民年金制度確立べの道を一歩開いていただく、こういうことができますならば非常な飛躍だと思うのでありまして、それこそ賃金労働者のみならず、それ以外の年金には何らの縁も現在ないところの農民の方々におきましても非常に切望せられるところであろうと確信してやまない次第でございます。
以上簡単でございましたが、私の意見を述べさせていただきました次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/39
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040・青柳一郎
○青柳委員長代理 次に今井公述人の御発言を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/40
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041・今井一男
○今井公述人 なるべく今までの公述人の申されたことと重複しないようにして申し上げたいと思つておるのでありますが、私は昨年の十二月社会保険審議会にひつぱり出されて、今回の厚生年金法の改正にあたりましては、厚生年金の方の部会長を仰せつかりまして、労使の話合いのとりまとめに若干微力を尽しましたが、実は私の率直な感想といたしましてこの問題はいま少し両者の意見の合致が得られてしかるべき問題ではないか。ところが合致いたしました点は、国庫負担をふやせというくらいな点であります。それから保険料を上げてはいかぬというような点は合致いたしましたが、あとはほとんど食い違いが多かつた、こういつたように大ざつぱに申し上げられるのでありまして、この点ははなはだ遺憾に存じたのであります。しかしながらこれを今一歩下つて考えますと、現在のこの段階におきまして、厚生年金法の全面改正が必要であるということにつきましてはだれも異論がなかろうかと思うのでありますが、その改正をどの程度に行うかということにつきましては、これはいろいろ意見がわかれるのがむしろ当然かと思います。その間今回の政府原案はいろいろ苦心をされた跡も見えないわけではございませんが、何と申しましても、いわゆる中間、結論的に申せば中間的措置という以上には出ないように考えられる次第でありまして、結局二、三年後にはどうしてもまた大手直しをしなければならないようなふうにお見受けする次第であります。
特に私ども感じます点は、結局日本の社会保障というものをどういう方向へ持つて行くかという点につきまして、まだまだ国民全般にもまた政府当局その他関係者の間にもかなりな認識の食い違いがある。日本のようなこういう国民経済の貧弱な国におきましては、とうていそういう絵に描いたような社会保障はでき得ない、こういう御意見が一方にありますと同時に、そういつた国であるからこそかえつてより緊要性があるんだ、またかえつてアメリカのような国の方がむしろ社会保障におきましては制度的に不完備であるというような意見もございますが、その間にありまして、現在の社会保障関係の諸制度はそれぞればらばらに、各省と申しますよりは、むしろ各局別に食い違いを示しておりまして、それからいろいろの不公平、不調和を来しておることはすでに御承知の通りであります。特にこれに対しまして、一方におきましては、さつそく一元統合という意見があり、またそれは無理だという意見が出ておりますが、少くともわれわれはこの段階におきまして将来の構想のもとに一歩を進めるという考え方を常に持たなければならぬのじやなかろうか。社会保障というものは、今の民主主義の初歩の段階におきましては、いずれかと申しますと、ここに社会的に救わなければならぬ人間を個別的にとにかく強調され過ぎる。いま少しこれを全国民経済的な、全国家的な、社会的な視野におきまして最も公正に、最もバランスがとれて組織的にこれを最低生活の面で拾い上げて行く、こういう観点が一般に抜けていてまだ不十分なる時代に、厚生年金だけに非常な理想を求めることも困難であろうというふうに私ども感ずるのであります。
特に厚生年金におきましては、その中心をなしますところの老齢年金の受給者がまだ発生しておりませんので、率直に申しまして労使ともにこの問題に関する具体的な身近な体験がございませんから、それがまたさらにこの意見の統一に困難な前提をなしておるようにお身受けしたのであります。しかしながらさらに一歩下つて考えますと、この問題は決して厚生省の一保険局あたりで解決するようなそういうなまやさしい問題でもないかと存じます。日本の人口が将来いかようになつて行くか、さらにその雇用体制がどうなるか、産業構造がどうなるか、また人間の寿命がどこまで延びるか、あるいは先ほどやかましかつたところの停年制の問題等がどうなるか、中小企業はいかように相なるか、さらに賃金体系がどうなるか、いろいろの問題を総合勘案いたしまして、そうしてその具体的な数字につきまして確固たる基礎を置いた結論を出さなければ本格的な厚生年金というものは打立たない。
ところが今回出されました政府の原案は、厚生省の一部局で、単に一、二年苦労されたというだけのぜいもありましようが、至つて資料が不足であります。早い話が、石炭関係で本年から三千人ばかりの受給者が出るはずである。ところがすでに昨年の石炭の企業整備におきまして首になつた諸君が相当おるのであります。従つてはたして何人出るのかわからぬ、また日本全体の余命年数はわかりますが、勤労者の余命年数、ことに厚生年金の受給者の余命年数というものは全然つかんでおらない。また女子にいたしましても、一つの企業体におきましての勤続年数はわかりましても、女子全体の勤続年数というものは全然つかまれておらないのであります。いわんや先ほど小西君の言つたように、廃疾者の余命年数などというものはもちろん全然つかめませんで、よく生命保険で使いますように、十九世紀のドイツの数字をそのまま使わなければならぬというような基礎で出されておるのであります。もちろん今のいろいろの年金制度は、大体その程度の資料でやつておるのでありますから、厚生年金だけを責めるわけには行かないかと思いますけれども、それにいたしましても、そういつた問題につきまして事前にもつと大規模な調査会等を持ちまして、官民の協力のもとにいま少し議論というものを重ねましたならば、死児のよわいを繰返すようでありますが、もつとりつぱな、もつと労使の意見の合致したものが得られたのではなかろうか。私はおそらくこの案は二、三年後には必ず改正を要すると考えますので、むしろ今からこの欠陥は調べてほしい。特に御承知の通りアクチユアリイな専門家の計算と申しますものは、いずれにいたしましても、過去の数字というものをそのまま引伸ばした計算以上はできないというのが原則でございます。ところが日本の経済、日本の人口、日本の衛生環境というものは、今や変転期にございます。特に長期の計算をいたします場合には、こういつた問題はやはりわれわれしろうとの考えとしてはどうしてもある程度織り込まなければならぬ、特に最盛時には五十年後に二兆何千億というような巨額に上るところの積立金というものは、国民経済にどういうような影響を与えるかというところまで掘り下げなければ、ほんとうの改正にはならないかと思うのでありまして、その意味で今回の改正というのは、悪く申せば間に合せの改正以上に出ない、かような感じを一般的に持ちます。しかしそれでも現在の段階がやる必要のある段階である点におきまして、私は別に異論をさしはさもうというものではございません。しかしながらその内容に関しましては若干の問題点を私も前公述人と同じように持つておるのであります。
問題は、一番大きな議論の点はこの額の問題、それから定額と報酬比例の問題、国庫負担の問題、あるいは積立金の運用の問題等であろうかと思うのでありますが、この額につきまして私は一番この問題に関係いたしまして感じました点は、まだ日本には最低賃金というものが、すでに労働省におきまして五年間勉強されておりますが、全然結論が出ておりません。こういつた際に本格的なものをつくれといつてもこれは若干無理という感じはいたしました。特に私どもとして驚きましたことは、先ほどもお話に出ましたILOの国際最低基準の問題であります。すでに条約に参加しましてから足かけ三年、この際に前から未熟練工の賃金の四〇%ということははつきり出されておる数字であります。私どもは今回のこの定額額が妥当であるかどうかということを判断いたしますために、公式に労働省に対しまして、日本の未熟練工の賃金を幾らと考えておるか、もしも一本の数字でなければ最高最低でもよろしい、そういつた説明を求めたのでありますが、遂にこれは答弁できないという御返事しか得られませんでした。標準賃金まで勉強されようという労働省が、すでにILOには責任者として出席されておられるのにかかわらず、こういつた非協力的な政府部内の不統一というものは非常に遺憾に感じた次第であります。従いましてそういう角度から幾らがよろしいかはわかりませんが、とにかく生活保護等の関連から申しましても、現在の額が相当に低きに失する。特にいろいろの面におきまして特例を設けまして、いわゆるレベル・ダウンを防ぐような計画性が入つておるということから見ましても、額全体の低いことは確かであります。しかしながら労使ともにこの際負担の増加は困るということをはつきりおつしやつておられるのです。私は問題点はそこにあろうと思います。先ほど近藤教授のお話にもありましたように、これが国民年金でありますならば、国庫負担に関しても全然文句ないと思います。いかようにふやすこともけつこうだと思いますが、しかしながら現在国民の一部でありますところの勤労者並びにその事業主の負担というものに対しまして出す国庫負担ということになりますと、これはおのずから限度が出て来ることは理の当然だと思います。もちろん中に非常に特殊なグループもないわけではなかろうと思いますが、そういつた賃金問題は別途最低賃金法等によつて解決さるべきでありまして、少くとも現在職を得ている人並びに人を雇つている人、そういつた諸君がもしも日本の国内において負担能力がない、この中にはしかも大会社も、何十万という所得の人も入つておるのですが、そういう人も負担力がないということになりますと、どこに負担力を求められるか、もちろんこういう制度によりまして、生活保護法の額も減るでありましよう、さらにまた資本蓄積にも大いに貢献するでありましよう。その他また現在のこの予算中におけるいろいろの国民各層における税負担の権衡からいたしましたならば、もちろん相当の国庫負担はいたしてしかるべしというりくつは権衡上立つでありましようが、しかしながら団長全体を強制するものではない意味におきまして、そこに限度がある。その限度は幾らかということは、これは非常にむずかしい問題でございますが、私の見方では、先ほどの近藤教授のおつしやつた線あたりがまずあらゆるバランスからいつて常識的でなかろうかと感ずる次第でございます。
定額と報酬比例制につきましては、私は労使の意見を拝聴いたしまして、むしろ意外に思つたのでありますが、普段フラットを要求される労働者が報酬比例を要求され、普段能率給的なことをおつしやる経営者の方が定額制をおつしやる。普段とはあべこべであります。もしこれが社会保障というものと賃金というものは全然違うんだという観点からおつしやつておるならば、これはまた話は別でありますが、この考え方も率直な感想を申し上げますと、どうも徹底しておらないような感想を持ちました。すなわち一つの企業にずつと長く勤続するという人のもらうものと、転々と企業を移つて最後に年をとつてもらう人と、むしろ救われるべきものは後者であります。重点を置くべきものは、そういう職場を追われて行く人であります。ところが経営者側のおつしやるお話の底には、私口から伺つたのではありませんが、私が断片的に賃金問題等で各大企業の経営者の諸君とお話申し上げておる間に感じますことは、自分の企業に長期勤続してやめて行く功労者には、相当莫大な退職金を惜しむものではない。企業の経営に参画したのであるから、そういう人には大きな退職金をやつてむしろ鼓舞したい。しかしそれを社会連帯の形においてよそへ出すことはごめんだ、こういつた思想がどうも含まれているように、これは邪推でないようにお見受けいたしますし、現にはつきり私の耳で伺つた例も一、二にしてとどまらないのであります。これは賃金の思想であります。しかし社会保障は決して賃金問題ではないと思うのです。いわゆる社会連帯によりまして、少くともお互いに最低生活をカバーし合おうという建前であります以上は、これは得をする企業もあれば、損をする企業もある。もちろんそのほかにその企業が退職金を出されることは、少しもさしつかえないことでありますが、そういつた面を削つてでも、こちらの方へ出すという考え方が乏しいように実はお見受けしたのを遺憾とするのであります。すなわち中小企業の負担力がないというお話でありますけれども、中小企業の方はおおむね賃金ベースが低うございまして、従つてその負担増というものも、それほど大したものではありません。いずれにいたしましても賃金に対する一・五%、あるいはそれ以下の負担でありまするがゆえに、遅欠配などが起るような中小企業では賃金そのものが問題でありますけれども、少くとも賃金が払えますところでは、これくらいな点はそれほど問題ではないのではないか、もちろん現在は非常な不況であります。財界は非常な混乱に陥つているようであります。しかしながらこういう厚生年金のような何十年、まさに国民の百年の大計という場合におきましてそう一朝一夕の好況、不況ということによつてこの問題が左右されるのは不合理ではなかろうかと感じます。報酬比例があつたからといつて、必ずしも社会保障でないとは言えないという近藤教授の考え方に私も賛成申し上げるものでございますが、ただしかしながら、もし現在負担力がなくて出せないとするならば、これをフラットでやる方が、より妥当ではないか、こういう議論もまた一つのりくつだとは思います。しかしこの問題のように、労使の意見をもつぱら中心にして、その配分関係という立場でものを判断いたしますと、私個人の意見といたしましては、やはり若干の報酬比例を認める方がこの際としては妥当じやないか、これもきわめて常識的な理論でありますが、そういう感想は持つものであります。それにいたしましても、今の一万八千円、月千五百円という定額は困りものだと思います。少くともこれは最小限度二千円、これはほんとうに何と言われても二千円までは私は引上げていただかないと、かつこうがつかないのじやないかという見方を持つております。そうなれば生活保護法との云々という非難はかなりチエツクされましようし、レベル・ダウンの非難もある程度避けられると存じます。さらにまたここで、これも先ほど近藤教授のお言葉にありましたように、通算関係の問題がございます。すなわち公務員が持つております恩給、共済という関係、特に恩給という関係は、その人がどれだけの貢献を国家にしたか、政府にしたかということを中心にしてものを考えておる制度でありまして、従つて社会保障とは全然別な観点でございます。先だつてこの厚生委員会のお骨折によりまして解決されましたところの、例の引揚援護法の関係におきましても、私援護審査会の方に出ておりまして、公務死の問題においてたびたび苦労したのでありますが、遺族の立場といたしまして、国の命令で応召した本人が、いかなる状態で死のうと、遺族の立場はまつたく同じであります。しかしこれを恩給的な観念といたしますと、どうして死んだか、死んだ場所がどこか、病気はどういう原因で起つたかというようなことを深く追究しないと、かつこうがつかないという建前になつております。そういう意味から、これは今や人事院の退職年金法も出ておりますので、今年は政府も公務員の制度を全体の問題とからみ合わして再検討をされるやに伺つておりますが、そういつた際にお考えを願わなければならぬことは、恩給のもらえる普通の公務員というものは、大体一〇%ないし一五%、それまでの人はやはり民間に出てしまうのであります。いわんや、これが五十五才とかいうことになりますと、おそらく数パーセントしかそういうものの該当者はないでありましよう。そういう人たちが、厚生年金に入りまして、またイロハから始める、両方とも宙ぶらりんなことになるという問題が当然起つて参ります。こういつた通算関係につきまして、これも先ほど近藤教授の指摘された通りでありますが、何らかの措置が公務員関係の結論とともに出なければならぬかと思うのであります。そういつた際にも、定額の、ある程度のものがございますと、この問題の解決は非常に容易になろうかと考えるのであります。
報酬比例につきましては事務量の問題があるのでありますが、この事務量の問題につきましては、政府当局におきまして大したことはないといわれております。大したことがないのかどうか、これは実際を調べてみないとわからないのでありますが、少くとも給付費の一割も二割も事務費にかかるようでしたら、これはよほど再検討をする余地がありはしないか。あまりに経費が高くかかることは問題であります。しかし政府の見方ではこれは大したことでないというふうにおつしやつておられます。今のところそれを御信用申し上げる以外にないかと思うのであります。
あと一言積立金等の関係だけ申し添えさせていただきます。今のように国庫負担がほしい、負担力がないという段階においては、この積立金を福祉本位に充てることは、これはむしろ筋違いじやないか。これを一番有利に使つてもらいまして、そのかわり有利な利益を全部労使に還元する、こういつた方法こそ、給付内容を上げるゆえんではなかろうか。申すまでもなく、この積立金は一番長期に使えるものであります。資金運用部資金の中に入れまして、五年以上の一番高い——五年でも十年でも使えるものであります。もしかりに五年といたしましたならば、今の一般の経済市場におきましては、少くとも年九分は間違いございません。ところが他の短い資金とごつちやになりまして、その短い資金と同じ割合の利率しか厚生年金はもらつておらないのであります。そこで五分五厘というような率に下つてしまう。あるいはこれを政府が別の見地から一本で運用することが必要であるといたしましても、少くともその利益配当というか、運用の関係におきましては、これは切り離して一番長期の資金をもらつた以上は、一番長期のものの利益がこの厚生年金に還元されるということは、これは理の当然であり、またこういう線ならば、やろうと思えば、いつでも簡単に実現できる問題ではなかろうかと思います。理想は、もちろん切り離すことにございます。しかし切り離さなくても、形式的には資金運用部資金の中に入れておきましても、五年の金融債にまわしさえすれば、九分は完全に確保されまして、これによりましていろいろの給付内容の向上がはかり得られることは明瞭であります。なおこういう問題並びに給付措置の問題等につきまして、現在のような際には、政府が直接おやりになつても別に問題はないかと思うのでありますが、その将来につきましては、社会保障制度審議会が勧告いたしましたように、私もその末席に連なつているものでありますが、政府が直接やることがいいかどうか。由来政府の行政機関というものは、監督の方は非常にお上手であります。やかまし過ぎるほどよく調べられますが、御自分でおやりになることはあまり上手でないようであります。しかも御自分でやられますと、どうも他の人間がいろいろと文句をつけるという機会が非常に少くなります。それがまたいろいろ間違いを起すもとでもございますので、少くとも将来におきましてはこれを別に機関化するという問題は、これは取上げていい問題ではなかろうかと思います。
なお最後に一点、今まで出なかつたこの種の問題として、私の日ごろの持論でありますが、なるべく民間に手数をかけないようなくふうが望ましい。行政整理の声が高くて、そのために公務員の首切りが行われておりますがうそれもけつこうかもしれませんけれども、そのために民間の手数がよけいかかるようでは、これは国民経済的に意味をなさないと思うのであります。なるべく民間に手数のかからないような技術的な配慮が常になされなければならぬ。この点は決してひとり厚生省だけの問題ではございません。早い話が失業保険、労災保険という同じ労働者にからまる保険の保険料のとり方が、計算の基礎が、同じ賃金から差引くにかかわらず全然違うのであります。そのために毎月々々会計課ではそろばんのけいこをしなければならない。こういうむだが堂々と何年間もいまだに行われております。こういう点のあらを探しますと切りがないからやめますが、とにかくそういう面もこの種の問題につきましては決して忘れてはならない一つのポイントだろうと考える次第であります。その他の細目につきましては、おおむね前の公述人と大差ございません。あえて申し上げれば遺族年金の二分の一等は、この際二分の一という恩給法のまねをしなくてもよいのではないかということをつけ加えて私の公述を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/41
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042・青柳一郎
○青柳委員長代理 ただいま御意見を述べられました波多野公述人、小西公述人、近藤公述人、今井公述人の四氏に対する御質疑がありますれば許可いたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/42
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043・萩元たけ子
○萩元委員 波多野さんにお尋ねしたいと存じます。女子の脱退手当金についてお尋ねしますが、日本製糸協会の退職者の勤続年数のお調べを見ますと、二年に満たないのが全体の人数の二六%になつております。二十六年から二十七年三月までの調査でございますが、今度六箇月から二年に延長されます。脱退手当金の場合どういうお考えでいらつしやいましようか。今度の改正につきましての御意見を承りたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/43
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044・波多野則三郎
○波多野公述人 政府がお出しになりました資料は製糸業者の資料をお出しになつたのですが、私ども紡績業者から別の資料を出しましたのですが、これは先ほど今井公述人も申されたように、日本全体の女子の勤続年数その他がはつきりつかまれていないのであります。私ども繊維業界、特に紡績業者としましてこの勤続年数は、大体戦後非常に伸びまして、現在約二年八箇月あるいは三年でございます。製糸の方はそれよりも低くなつております。女子の教員とかあるいはほかにも相当長期の勤続をされる方があるでしようが、女子勤労者の数的におきまして大きいのは繊維工業に従事している女子だと思います。それらの女子は非常に勤続年数が短いものですから、老齢年金の給付を受ける資格はほとんどないといつてもいいのではないか。私どもの繊維関係では約十社三十七、八万の数を調べたのですが、ほとんど老齢年金を受けるものが二人か三人くらいしかない。こうした事実から、むしろ女子は強制加入でなく任意加入にしてもらいたいということを最初に陳情いたしたのであります。しかし厚生年金保険の社会性あるいは社会保障の一環としての考え方からいたしまして任意加入にするということはあまりに近視眼流だというので、大きな立場からそれを撤回いたしたのであります。さらにそれができなければ今の退脱手当を存続してもらいたいということもあつたのですが、それも陳情の際いろいろ政府当局からの説明を聞きますと、やはり社会保障の一環として、そうした脱退手当を置くことは、これもまたおもしろくないという大局から、私どもはそれも引下りまして、女子のみに対して一時金の救済を最後的に認めたのであります。これは政府当局が脱退手当金を非常な勇断をもつて廃止をされながら、途中でいろいろ——先ほど近藤教授からもお話がございましたが、特に労働者側の代表から強い存続の意見もありましたし、われわれも最初はこれを存続していただきたいと思つたのですが、社会保険の立場から、大きい面から実情多少無理をしても、この際これをいさぎよく廃止すべきだということに終局的に賛意を表した次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/44
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045・長谷川保
○長谷川(保)委員 波多野さんにもう一度伺いたいのですが、お説のように女子の方たちで老齢年金を給付されるものが非常に少い。紡績関係でも二年数箇月の方が多いようであります。それから製糸業などに至つては、ただいま波多野さんからお話のように六箇月以上一年未満が一六・三四形、二年未満の期間しか勤続いたしませんものが二六%からあるという数字になつておるのであります。今回の改正法案を見ますと、なるほど幾分女子の方が脱退手当金の計算につきましては男子よりも割がよくなつておるようであります。しかしいずれにいたしましても二年以下ではこれが給付をされないということは婦人労働者の利益ということを考えまするにいかがであろうかということが第一点。
第二には、今度のような改正法案によりますような程度の計算の仕方でもつてしては婦人は著しく不利益ではないか。言いかえますならば老齢年金をもらいますものにとりましては、ほとんどが男子であるといたしまするならば——今日脱退手当金をもらいますときに、女子の場合でも男子の場合でもそうですが、大体私の記憶がもし間違つていませんならば、女子の場合には支払いました保険料にわずかの利子だけがつく。多分三分というような利子ではなかつたかと思います。老齢年金をもらいますときには、これに被用者、資本家がかけました金ももらいましよう。あるいは国庫の負担も入るわけでありましよう。しかし女子はこういう老齢年金をほとんどもらわない、むしろもらうのが例外だというような場合には、自分のかけた金にわずかの利子、こういうことになります。一般的に申しまして、老齢年金をもらう男子に対する厚生年金のいわば保護と申しましようか、それと、この老齢年金をほとんどもらわない女子の場合とでは、待遇が著しく違うのであります。でありますから、もしこの待遇を公平の原則に従つてするとすれば、女子に対しては当然今日私どもがいただいております政府提出の改正案以上の優遇の道を講じなければならぬのじやないかと考えられるわけでありますけれども、富士紡の方の御関係の方でありますから、婦人労働者に対するお考えが相当あると思いますので、この点を第二点として伺いたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/45
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046・波多野則三郎
○波多野公述人 ただいまの先生の御質問、その通りでございまして、女子の場合は厚生年金の余沢を受ける面が著しく少い、だからこれは強制加入にすべきでなくて任意加入にすべきだというのが、われわれ繊維業界の根本的な考え方であつたのであります。しかし厚生年金保険は、将来の社会保障制度の一環として、あるいは国民年金保険の方へ進展すべき性格を持つている、そうした意味合いから、女子をこの被保険者から除くということは保険制度の根本方針にもとるわけであります。もちろん女子の利益の点は無視はできませんが、しかし今は掛金に何がしかの利息をつけた程度にしておいて、将来の国民年金保険への進展の礎石として、こういうことは大局から考えるべきだということで、最初はわれわれ繊維業界も特に女子の利益を代表した意見を数回にわたつて陳情いたしたのでありますが、いろいろ他の委員、労働者側の委員、あるいは清水先生、近藤先生、その他の識者の御意見を聞きまして、われわれは大局からそれを譲つたのであります。脱退手当金という考えも同じことでありまして、ただ繊維業者の女子の利益を端的に主張するならばやはり先生のおつしやる通りを願いたいのでありますが、国民年金保険の本旨からそれは一時後退いたしまして、それに同調いたしたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/46
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047・長谷川保
○長谷川(保)委員 今の点でありますが、私どももこれが国民年金保険制度にまで発展しなければならぬということは深く考えるのでありますが、それができましてから後ならば一応今回の改正案をのめるのでありますけれども、それができない今日におきまして、女子が公平の原則からいたしまして、著しく不公平な扱いを受けておるということになりますれば、国民年金保険制度ができますまでは、この改正案ではよくないのではないか。もつと女子に有利なものをつくらなければならぬのではないか。ことに紡績関係では、大体平均の勤続年数が二年数箇月ということになつておるかもしれませんが、もつと著しく低いものもある。もちろん婦人の教員諸君などにおいては長いものもありましようが、しかし数から申しますれば、女子の方が短かい。今の期間の問題でも、現行二年を六箇月にしたのではより不公平だ。それから今の脱退手当金の計算方式にいたしましても、単に自分のかけたものにわずか三分の利子がつくというようなことでは変ではないかと思うのであります。つまり国民年金保険制度ができてから後ならば、一応この案は考えられます。これである程度よろしいと思います。しかしそれができておらない今日におきまして——しかもいつできるかわからぬ。われわれは強く主張いたしますけれども、政府当局は今のところそういう見込みはとうていないようでありまして、現内閣におきましては、絶対にそういう見込みはないわけであります。これは私どもが今の政府当局に何回その意向を聞きましても、全然その見込みはありません。そういう場合におきまして、このように女子に著しく不公平な扱いをいたすようなものではいけないと思うのでありますが、この点重要な問題でありますから、重ねて御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/47
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048・波多野則三郎
○波多野公述人 お答えいたします。まさに女子の利益を代表して申すならば、先生のおつしやる通りでありますが、実は女子の脱退手当については、これは裏話になるのでありますが、戦争中から終戦後にかけて、この点はつきり言いますと、実際には相当もらい過ぎがあつて、女子が大分得をしていたということも一つの考慮に入れますと同時に、もう一つは男子と女子との保険料率に等差をつけるべきだ、この点を主張したのであります。政府の御答弁は、今後五箇年ごとに保険料の算定については修正をして行く、その場合において男子の料率を上げる場合があるが、女子は上げなくて済むことができる、まあしばらくがまんしてくれということでありました。こういうことで、女子の利益のためには相当主張はいたしたのであります。全体のなにからいつて著しいなにだと申されますが、決してかけ損というようなことはございません。大局からいたしまして、はなはだ消極的ではありますが、この程度で納得したような次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/48
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049・長谷川保
○長谷川(保)委員 小西さんにお伺いいたしたいのでありますが、御承知の今度の基本年金額の計算の特例でありますが、三千円未満の標準報酬月額があるときには、基本年金を計算する場合に三千円に引上げるという問題であります。御承知のように戦時中、戦争末期及び戦後のあのインフレのために通貨価値が著しく違いまして、昭和十六年に現行法がつくられまして昭和二十何年かに一応の改正がありましたが、いずれにいたしましても昭和十六年、十七年からと申しますと約十年。その間かけました保険料は、当時の給料に対しまして、たとえば千分の百二十四というような大きなものであります。従つて当時の賃金に比較いたしますと非常に大きなものをかけておるにかかわらず、今日それが結局全部三千円までにしか考えられないということでは、これは物価指数と比べまして、労働者に対しまして非常な損害を与えるものと私は思うのであります。当時の賃金の標準報酬というものを考えますと、今日の三千円というようなことは絶対にない。これはおそらくどんなに下に見積つても、八千円くらいに見積らなければならぬと私は思う。それを三千円にされるということ、先ほどあなたの御意見を伺いましても、その点はどうもはつきりしないようでありました。さらに船員保険と一つにしまして、標準報酬の最低を四千円までにすべきだというお話がありましたが、私は四千円はもちろんでありますが、四千円でももしこの基本年金額の計算の特例といたしましてこれを考えます場合には、非常に労働者が損をする。だからこれは具体的に物価指数、賃金指数等を科学的に計算いたしまして、少くともこれを八千円なり一万円なりに引上げるべきだと思うのであります。そうしなければ、労働者は不当な損害を負わせられる。こういうものは国家が負わべきものだ、労働者が負うべきものでないと私は思うのであります。この点につきまして、今度基本年金額の計算の特例が三千円ということに改正になつていますが、これについてどうお考えになりますか。またどの程度を大体妥当だとお考えになりますか。腰だめでもけつこうでございますからお伺いいたしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/49
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050・小西昌二
○小西公述人 ただいま長谷川先生から御質問のありましたように、三千円から一万八千円というのは、昨年の十月十六日に総同盟、総評、中立、全部の労働者側委員が寄りまして、案画したものでございます。これは、その当時考えましたのには、健康保険がやはり三千円から三万六千円ということになつているので、一応三千円から三万六千円がいいのではないかという線を出したわけでございますが、私個人なりに考えますと、やはり標準比例制とフラット額の旧内容から見まして、やはり船員法とのからみ合いというものを一応考えなければいけないということで、船員法が四千円から三万六千円ということになつておりますと、やはりそれと同調せざるを得ないのではないかということ、また人員的にみましても、現在男子と女子と坑内夫を入れましても、三千円の人は三万匹千九百五十二名、これは昨年の十月の統計でありますが、五百七十二万のうちの三万人でございますので、このくらいの人数だつたら、たとえばこれを四千円に引上げましても、われわれの負担増というものは一口について十五円でございますので、このくらいの引上げでできれば、船員法と同じように、三千円の打ちどめをやはり四千円まで持つて来るというような方式が正しいのではないか、最近はそのように考えております。それは私一個人の考えでございますが、労働者といたしましては、国民年金に肩がわりする場合には、その方が一番正しい線が出て来るのではないかということを考えております。
それで第一点の昭和十七年からの問題でございますが、この問題につきましては、三千円といいますのは、昭和二十八年の十一月から初めて最低が三千円になつた。二十八年一月までは最低が二千円であつたということで、三千円という線は、一番最低の線というのは三万幾らであるというようなことから、やはり全期間に通算する場合には、標準比例制のこの旧額については難点が出て来るので、四十円に持つて来ることにしたい。フラット額とか標準比例制とか二千円がいけない、三千円がいけないとかいうことでなくて、こういう正しい方式をもつてやる方が一番われわれは望ましい、こう考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/50
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051・長谷川保
○長谷川(保)委員 ちよつと私の質問がこんがらがつてたいへん失礼したと思うのでありますが、今の標準報酬の最低を四千円とすることは、これは労働者側は全体的に申しまして納得なさる、あるいはこれを希望なさる数字でございましようかどうか。
それから基本年金額の計算の特例、これは別個の問題でございまして、これがからみましたのはたいへん失礼いたしました。年金額の計算の特例につきましては、三千円という数字は著しく不当だと私は思うのであります。つまり昭和二十七年からずつとかけておられました方々は、なるほど金額では少いものをかけたに違いありませんし、標準報酬としましてももつと低かつたに違いありませんが、今三千円というと、形の上では高いようでありますが、物価指数、賃金指数から見ますと、非常にこれはひどい数字だ。これを単に保険財政という金の面だけから、厚生省はこういうふうに数字をはじいて来られたかとも思うのでありますが、実際問題として労働者の非常な損害だと思う。
今質問がからみまして恐縮しましたが、第一点は、標準報酬の最低を四千円になさるということにつきましては、労働者側として皆さんが希望なさるお考えと伺つてよろしいのかどうか。確かに保険料から申しますと、十五円で四千円に上げる、それを希望されているのは、船員保険と同じに四千円まで持つて行くということだと思いますが、今日この改正の考え方からすると、全賃金の期間を通算されるということになりまして、そうして平均標準報酬とされると、四千円と三千円では将来非常に大きな差が出て来る。この標準報酬の最低を四千円に置くという点は、あなたのお考えでは、大体全労働者が御希望なんでしようか。
それから基本年金額の計算の特例で、今まで入つておられた方の三千円未満を三千円に引上げるということは不当で、もつとずつと上に持つて行くべきではないか。それは最初からあるいは五年、七年と入つておられる方、インフレのひどい影響を受けた人は三千円の数字は不当だと考えると思いますが、それについて率直な御意見を伺います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/51
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052・小西昌二
○小西公述人 特例の三千円未満の問題は、できればわれわれも四千円に持つて行きたい。先ほど申し上げましたように、標準比例制とフラット額を加味する場合、標準比例制の額は大きくなるということになりまするので、それについてはわれわれとしては異議はありません。そういう方向で考えておりますが、まず当面する問題といたしましては、やはり先ほどから言われましたように、フラット額一本でやるか、それとも標準比例制でやるかという問題がからみ合つておりますので、その点私たちといたしましては、できれば先生方の御尽力によりまして四千円に引上げてもらうということにいたしますと、われわれは皆さん方に感謝したいと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/52
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053・長谷川保
○長谷川(保)委員 基本年金額の問題はどうでしようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/53
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054・小西昌二
○小西公述人 過去の三千円未満を三千円に引上げていただきたいということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/54
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055・長谷川保
○長谷川(保)委員 三千円を四千円に引上げてもらうということは……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/55
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056・小西昌二
○小西公述人 それは昭和十七年、二十四年、二十八年十月までは二千円でございます。それを四千円に引上げてもらうということについては、標準比例制の問題を加味するために、ちよつとむずかしいのではないかと考えておりますが、先生方の御尽力で上げていただければ、われわれとして感謝いたしますということです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/56
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057・長谷川保
○長谷川(保)委員 近藤先生に学者としての立場から、基本年金額の計算の特例に関する問題はどうお考えでございましようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/57
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058・近藤文二
○近藤公述人 ただいまの問題は、二つやり方があると思います。過去インフレにならなかつた前の貨幣価値とそれ以後の貨幣価値に換算して計算するやり方、それから過去の方は切り捨ててしまつて、今お話のあつたように、それ以後のものを引延ばして、それで計算するやり方と、二つあると思うのであります。これはどちらもちよつと問題があるのであります。たとえば過去のものをどういう数字で直すかということの問題もございますし、また過去の標準報酬全部のカードが残つているかどうかということも私ちよつと疑問を持ちます。それからあとの部分だけで引延ばす。引延ばすということは、過去の報酬を正確に示すということになりません。そこで折衷的に、先ほどの三千円とか四千円という案が出るのですが、三千円、四千円ということが現在の賃金の状況から申しますと、少しまだ低過ぎるように思います。そういう問題がありますから、報酬比例をつけては、表面も、報酬比例をつけたかのようになつておるが、過去十年間の三千円という低いものがあるから、結局報酬比例にならないじやないか。だからこの際フラットでやつてそういうことがはつきりした事態において報酬比例をつけた方がいいのじやないか。もしつけるならば、最終の五年なら五年のものをつかんでやるというやり方でないと、今おつしやつたような事の解決ができないのじやないかというふうに考えるのでありますが、財源等の問題がありますので、さしあたつてはフラットという結論が出ておるのであります。そのように御了承願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/58
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059・長谷川保
○長谷川(保)委員 小西さんにもう一つ伺いたいのでありますが、これはほかの方からもお話がございましたが、今の坑内夫とほぼ同様な不健康業務について、どういうような業務をこれに入れるべきであるか。あるいは急にこういうことをお伺いするのは御無理かと思いますが、何と何という業務をこれに入れるべきであるか、こういうことの御意見がございましたら伺いたい、発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/59
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060・小西昌二
○小西公述人 ただいまの御質問につきましては、坑内夫と申しますとまず船員保険法とのにらみ合いから申しまして漁船関係はやはりこういう特例がございます。そうするならばやはり熱処理工と申しますか、鋳物もございましようが、製罐関係、特にこの労働作業が一〇〇%以上労力を消耗するというような熱処理工、それから労力を消耗するものに、リベツト工というのもございます。これは坑内が鉄砲を打つてやるものです。そのときのドリルの重さなどで相当の労力を消耗しております。それで何と何ということになりますと、鉄鋼関係、精錬所こういうものにも関連がございます。おもに熱処理工というそれだけを入れてやられた方が、ただいまのところは無難ではないかということを労働者の立場から申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/60
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061・長谷川保
○長谷川(保)委員 今井先生に伺いたいのでありますが、今の積立金の運用の問題でございます。非常に重大な問題だと私ども考えておるのでございますが、金融債というようなお話も出ましたが、労働金庫の方は先生御専門のようでありますが、これと労働金庫と結ぶということは非常に意義があるのではないかと私は思う。この具体的な方法は金融債で行く方がいいのでしようか。そのほかの適当な方法がありましようか。あるいは積立金のいろいろな運用につきまして、こういうように運用したら安全でかつ相当高利まわりになるというような何かお考えがありましようか。その他積立金の運用につきまして、お考えになつておることが平素いろいろおありだろうと思いますが、お教えをいただきたいのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/61
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062・今井一男
○今井公述人 あまり掘り下げてまで検討はいたしておりませんが、労働金庫との関係は、おつしやる通り厚生年金積立金には非常にふさわしい用途とは考えます。しかし現在の労働金庫法におきましては債券発行の力がございませんから、直接労働金庫の債券を運用部が引受けるというような方式はとれません。しかしそれは預託金等の形式によりまして、やろうと思えばやれる方法はもちろんございます。そうなりますと期間が短かいというような問題が起るのでありますが、その点は運用で解決し得ると思います。理想はもちろん厚生年金の積立金を別に立てるという考え方だろうと思うのでありますけれども、もしも特に労使の御意見が、自分たちの利益に福利的に還元することが重点であつて、金利は安くてよろしい、こういつた御意見なら私はまた考えは別になると思いますけれども、住宅だとか病院だとか福利施設になりましたら、四分や五分でもなかなかそろばんがとれないのであります。やはり一番考えられるのは、負担を安くするため、給付をよくするためにうんとかせぐということであるならば、資金運用部にそのまま置いておきましても、金融債によつて八分五厘の利まわりが来るという道が残されておりますし、さらにもつと申し上げますと、貸付先を探しますならば九分五厘にも上げられよう。但し運用部の建前として、直接運用部からある事業に投資する道は慎まされておりますから、結局金融債を通じて、金融機関がさらに産業資金として、現在の情勢下で国家的に一番緊要な道の方に融資されて行く。その限りにおきまして産業資金に使われましても、その産業資金がさらに雇用の数をふやすような用途に使われますならば——これがいわゆる首切り本位に使われるようでは困りますが、雇用の機会を多くするような道に使われますならば、労働者側として大いに歓迎してしかるべきであろうと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/62
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063・長谷川保
○長谷川(保)委員 近藤先生に伺いたいのですが、年金給付を物価にスライドさせてやるようにというお話もございましたが、これは具体的に申しますと、やはり五年間なら五年に期限を切つて計算をし直す。もちろん臨時にはなはだしく物価に変動のあつたときは臨時に処置するということでしようが、今度の法律もいろいろな保険料の計算などを、一番長くても五年に一回やるというようなことが書いてあるようでありますか、やはり具体的に申しますと、そういうような行き方でいいことになりましようか。あるいはまた別の方法がありましようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/63
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064・近藤文二
○近藤公述人 スライドさせるという問題につきましては、やはり一般的なスライドの場合は、五年なら五年と期間を区切りまして、給付金額を国会でかえるという方法しかないと思います。しかしこれは今度の法案の場合は、保険料の計算についてはそういうことがうたつておりますが、年金額の方にはそういうことがうたつてありません。臨時に非常なインフレというようなことがありました場合には、これはやはり一、二年でも適正な措置をおとりになる必要があろうと思います。その財源等につきましては、結局積立金等の問題に関係を持つて来るわけなのでございまして最初からスライド制を前提にして給付金額をきめておく、たとえば物価が二割以上上つたときは自動的に年金額も二割上るのだというきめ方もあり得ると思うのです。これはすべて積立金をどうしてつくるかという問題にからまして考えなければなりませんので、本来のスライドを法的にやると申しますれば、今申しますように、二割以上物価が上つたときには年金額もその割合に応じて上げるというふうに最初からきめておくやり方これが一番合理的じやないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/64
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065・山口シヅエ
○山口(シ)委員 大体長谷川委員によつて質問されたようでございますが、一点、この改正によりまして老齢年金における特別措置廃止の件がございます。且体的に申し上げますと、継続した十五年間に坑内夫である期間十二年以上の者に対する特別措置廃止に関する改正であります。この部分に対する各公述人の方々の御意見を承りたいと存じますが、いかがでございましようか。もし何でしたら近藤先生あたりから御意見を承らしていただきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/65
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066・小西昌二
○小西公述人 ただいまの特別の処置の問題でございますが、それは先ほど私が申し上げました鉱内夫の問題でございます。鉱内夫は十一年七箇月で効力を発するが、それを今度は取下げるということなのです。だから十五年にならないとお前たちは効力を発しないぞということにして、特別期間の、昭和十七年にできました三分の四がなくなるということであります。私はそれに対しては反対でありますということを最初に申し上げました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/66
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067・山口シヅエ
○山口(シ)委員 私それを聞いておりませんでした。近藤先生、それに対する御意見をひとつ……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/67
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068・近藤文二
○近藤公述人 今おつしやつた問題は、こまかい点はちよつとわかりかねますが、これは既得権と期待権の問題だと思います。それで既得権は認めておりますし、これまでにすでにそういう法の適用のあつた期待権も認めて行く建前になつておりますので、既得権と期待権が認められておつたならば一応いいじやないか。しかし制度そのものとして考えます場合には、別の考え方が出て参ると思いますが、今までのものを前提にして考えたら、それでいいじやないかと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/68
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069・小西昌二
○小西公述人 ただいまの近藤先生の言われるのは、既得権は認めておる、だけれどもそれは今度の新法ができるまでのものでございます。それ以後に鉱内夫であつて、十一年七箇月で効力を発しておつた者、新たに二十九年に入つて来る人にはそういう特例を設けないということであります。つまり二十九年までは効力を発する、既得権は認める。そのあとは既得権がないわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/69
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070・山口シヅエ
○山口(シ)委員 わかりました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/70
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071・滝井義高
○滝井委員 波多野さんにお尋ねしますが、波多野さんの公述の中で、女子は強制加入ではなくして、勤務年限等も短かいのであるから、任意加入にすべきであるという主張をされたのであるけれども、年金の社会性にかんがみ、そういう近視眼的な主張をすべきでないという立場に立つてそれを撤回されたという御発言があつたわけなのです。ところが一方今井さんの御発言の中で、今度の改正にあたつて、労使双方が一致したところは、ともに国庫負担を増加しようという点と保険料の引上げは反対だ、それ以外は多く意見の相違を来しておつた、こういうことであつた。同時に経営者側の立場を考えてみると、自分の社員の一時退職金、あるいは退職手当金というものについては優遇をして行きたい。しかし社会連帯に立つ厚生年金等の保険についてはごめんだ、こういう立場なのです。私は厚生年金にしても、日本の社会保険の問題にしても、この問題が根本の問題だと思う。個別的な資本の自己内部の温存については熱心になるが、それが総資本の立場に立つた場合にはきわめてその立場がぼけて来る。このことなのです。たとえば現在日経連あたりで社会保険の一元化を主張されておるわけなのです。ところが現実にわれわれが健康保険を政府管掌の分と組合管掌の分を一本にしようということを考える場合には、資本力の強い、いわゆる組合の保険制度を持つておる有力なものは、いわば退職金の面においては多くいい退職金を出している、資本力も強いわけです。そういうところからむしろ保険の一本化の反対が、内部から起つて来る。そういう非常に矛盾した立場が現在出て来ておるのであります。ところが一方において社会保険を一本化しようというスローガンを出して来ている。これは非常に矛盾をした立場だと思うのであります。最前、波多野さんは日経連の理事と言われましたが、われわれは資本の立場においてこれはどうしてもお聞きしなければならぬことだと思う。最前のあなたの主張は、女子の任意加入の立場に対しては、非常に大乗的な立場に立たれたと思うのですが、そういう立場から何か日経連内で意見の調整でもされて、日経連内でそういう問題を推進しようという御意見があるのか、そういう点が私は一番焦点の問題だと思いますので、御意見を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/71
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072・波多野則三郎
○波多野公述人 私日経連の理事でありまして、ここに参りましたのはもちろん日経連の立場をも考えて来ておりますが、個人の意見も申し述べておるのであります。先ほど今井先生から、どうも経営者は退職手当制度については、自分の企業内のものには相当考えるが、社会保障の考え方が薄いというようなこともおつしやつたのであります。しかしわれわれはそうは考えないのであります。そうしたような考え方であるならば、もちろん今のフラット制一本などということは言わないのでありまして、大いに報酬比例制を言いたいのであります。その辺の考え方は、経営者なり日経連が、全体の社会保障の問題に非常に冷淡であるとかいうお考えをもしお持ちであるならば、日経連のためにもぜひ弁護しておきたいと思うのです。今の問題で、自社の従業員だけの福祉を考えるならば、今の報酬比例制を強く主張すべきだと思う。そういう面から申しまして、そういうような誤解がございましたならば、ぜひ払拭を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/72
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073・滝井義高
○滝井委員 もう一点今井先生にお尋ねしたいのですが、中小企業の点なんです。中小企業は負担力が弱いしベースが低いのだから大して問題ないだろうという意味の御発言があつたと思うのですが、現在五人以下の従業員のおる事業場には厚生年金の適用がないことになるのですが、厚生大臣の御説明では百三十万箇所、三百二十万人くらいおるのだ、こういうことだつたのです。こういう中小企業の層というものは、現在の日本の社会保険の制度を、社会保障制度の恩恵を一番受けていない層だと思うのです。現在都市における中小企業の中には、国民保険も満足にない、いわんや国民保険のないところに、それより少し高度な厚生年金などというものができるはずはないとも考えられるわけなのですが、こういうベースの低い中小企業に対する今後の厚生年金の推進と申しますか、それの具体的の御構想でもお持ちになれば御指示願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/73
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074・今井一男
○今井公述人 たいへんむずかしい問題でございまして私も中小企業というものを別の口からながめて、現在もたいへんな状態にあるということはよく承知しているのでありますけれども、こういうような本格的な厚生年金制度、社会保障制度を、もし日本に入れようと思えば、日本の経済構造というものに、ある程度の変動を与えることはやむを得ないのじやないか、その変動をいかに順序よく、摩擦を少く、犠牲を少くやつて行くかということに、ステップ・ステップの配慮を要するという問題じやないか、かように存ずるのであります。先ほど小西さんその他から言われました五十五で会社を首になるという問題も、今御指摘のような面が全部完了いたしますれば、ほとんど解決するものである、そういつた意味からもこれは時期の問題だと思うのでありますけれども現在の厚生省の行政能率では、ほとんどつかまえにくいことは、私どもかねがね伺つておりますが、負担力そのものといたしまして、もちろん負担力は大企業に比べて少いことは確かに現実でございますけれども、少くとも賃金の一・五%という程度のもの——賃金が払えない企業は別でございますけれども、一・五%というものが、結局におきましてその働いておる諸君の老後というものを約束し、さらにまた全体の労働能率の増進というものに寄与できるならば、概括的に申せば、それによつて中小企業がいよいよつぶされるとか、どうとかいう問題ではあるまい、こういつた意味で申し上げたのでありまして、私自身中小企業の育成方法等につきましてあまり口幅つたいことを申し上げる資格はございません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/74
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075・山口シヅエ
○山口(シ)委員 近藤先生に、まことにくどいようですが、もう一度特別措置の問題につきまして御質問申し上げたいと存じます。ただいま先生は、このたびの廃止に御賛成のような御意見でございまたが、私どもといたしましては、むしろこの期間十二年というのをもつと縮めてもというような意見が強いのでございますが、先生はどういう御意見をもちましてこの廃止に御賛成でいらつしやいますか。具体的に御説明をいただけましたらば……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/75
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076・近藤文二
○近藤公述人 その問題は、先ほどちよつと申し上げましたように、現在すでに適用のあります方については、既得権及び期待権を認めておりますので、問題はないわけです。この改正以後にそういう仕事に従事される方について、今御質問のような問題が起るのでありますが、実は私は二十年間ということ自体に反対なんです。十五年説をとるものなんです。先ほどちよつと申さなかつたのですが、二十年という長期にいたしましたのは、労働者の年金保険法というものが、戦争中で資本の蓄積を目標にしたがため、あの二十年という長期の期間を設けたのでございますが、私はあれは外国の例等から言えば、十年ないし十五年にすべきじやないかという考え方です。今度もなぜ十五年の説が問題にならなかつたかというふうに、実は私自身奇異に思つておるのでございますが、これはほかの共済組合とか恩給とかいつたようなものにも何か関係があるのじやないかという気もいたしますが、私自身としては、むしろ今のような特例をもつと強化したものにしてもらいたいという希望なんでございます。その点誤解のないようにお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/76
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077・山口シヅエ
○山口(シ)委員 よくわかりました。先ほどのお答えが、ちよつと何か先生のお考えに反しているようなお答えだつたものですから……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/77
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078・青柳一郎
○青柳委員長代理 先ほどの滝井君の御質問に対しまして、波多野公述人からなお補足してお答えいたしたいという申出がありますので、その御発言を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/78
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079・波多野則三郎
○波多野公述人 先ほどの御質問の要旨をさらに証明いたしたいと思いまして 一つの事実を思い出したのです。社会保険審議会におきまして労使の意見が非常に対立いたしまして、その調整をいかにいたすべきかということについて、公益委員から経営者側並びに労働者側別個に日本医師会館に招かれまして、その意見の調整をはかられた。私どもはそれに出席をしましたときに、どうも経営者側の代表者は、日経連を代表した大企業の委員が多いのだが、あなた方の利益からいつて、定額制を主張するのはおかしいじやないか、あなた方の従業員のためを思えば、報酬比例を主張すべきではないかという、非常にうがつた誘導御質問もあつたのですが、われわれはただ自社の従業員の福祉のみを念願するのではなく、大きな意味において社会福祉全体の視野に立つてそれをいたしたい、そのために定額制を主張するということを申し上げたのです。これは経営者が非常に近視眼的な何で自社の従業員の福祉のみを考えているのじやないかという御質問に対して補足の答弁をいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/79
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080・杉山元治郎
○杉山委員 小西さんに一点だけお伺いいたしたいのですが、さきのお話の中に、非常に言葉を強めて、寡婦の保護についてわれわれも何とか考えろというお話でございましたが、遺族年金をいただきますときに、妻が四十才以上でなければならない、しかも五十五才にならなければいただけない。なおかつ、この妻が一級、二級の疾病があればともかくであるが、それ以外は受けることはできない、こういう規定になつているようですが、審議会などの場合におきまして、五十五才という年齢を四十才とか、あるいは四十五才とかに下げろ、こういうようなことについて、あるいは一級、二級という疾病はたいへんなものでありますから、働けませんから、当然遺族年金を与える必要があると思う。私は三級の疾病でもこれは相当労働に困難であろうと思うのですが、そういうような問題について何か論議がございましたかどうか、その点をお教えいただければ、私ども今後審議をいたします上にいろいろ参考になろうと思いますので、ぜひその点を御教示願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/80
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081・小西昌二
○小西公述人 ただいまの第一点の方から御説明申し上げます。第一点の場合に、子供が一人ありますと遺族年金がもらえるわけです。その子が十六才以上になりますと、五十五才まで効力が取消されてしまうわけです。子供が一人十六才以上になりますと、もうその人は遺族としては認めないということになる。そういうことからそこに非常に矛盾が出て来るわけです。その点につきましてもわれわれとしては相当追究したわけです。もう一点は、一番最初言いますと、年齢をやはり現行制度ということわれわれは主張して参りました。五十五才で主張して参りましたから、原案から五才ずつ引いてもらわなければならぬ。遺族年金の場合でも全部そういう考え方でわれわれは審議して参りましたので、五十才、四十五才、四十才、三十五才それから三十才というぐあいに、各パーセンテージをつけまして、五十才を一〇〇%とする場合は、四十五才は七〇%、それからだんだん五%ずつ下げて支給するのが妥当じやないかということで相当もんだわけでございますが、それは短期給付の問題であつて、長期給付の問題も若干問題があるのではないかというようなことで、これが否決になつたような形でありますけれども、われわれといたしましてはやはりこの社会情勢を見ますと、ちよつと口が悪いようでありますが、現在問題になつております女の貞操問題、こういう問題も、年が若いからといつて、やはり普通のパンパンになるんじやないか、カフエーに行くんじやないかというようなことで、寡婦になつた場合に、これを一人おつぽり出すわけには行かぬのですから、なるたけならばそれを救い上げて行こうじやないかということで、審議いたしました結果が、先ほど申し上げたようなことになつたわけであります。
第二点の問題は、これは先ほども申し上げましたように、身体障害法というものを現行制度で押えるものだと考えたわけです。その場合に、現行制度であるという考え方から、一級、二級、三級の場合の三級は、手当金の中から、胸部疾患、機能障害を生じたものに限つてこれを引上げて行く。上から引下げて来るのじやなくて、下の手当金のものを三級に持つて行つて操作をするのだという考え方でわれわれは審議して来たわけです。その結果現われて来たのが、身体障害の等級を下げて来たということによつて現在の二級の人が三級に下つたので、これに対しては問題があるぞ、その身体障害のものをわれわれ審議会に諮問しておれば問題ありません。これは審議しておりませんということは、先ほど申し上げた通りでございます。そのためにこういう矛盾性が出て来たということでございまして、二級の人が三級に下つたら障害年金はもらえないということははつきりしております。そういうことになりますと、今杉山先生がおつしやられましたように、三級のものでも六〇%の障害で交付しているわけです。ほかの恩給法とか国家公務員法は、併給しております関係上、やはりこれはわれわれとしては百パーセントもらいたいということを考えております。それで老齢年金がもしも今までよりも下まわつたものであれば、やはりわれわれとしては老齢年金を同額にしろという線を出して来た。これも審議の過程の記録の中にも残つております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/81
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082・長谷川保
○長谷川(保)委員 今井先生にお伺いしたいのですが、例の共済組合の方はたいへん積立金を御自分たちで上手に運営していらつしやるようです。先生は大蔵省の給与局長をしていらつしやつたから上手に持つていらしたのではないかと思いますが、どういうことでそういうことになりましたか、その経緯を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/82
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083・今井一男
○今井公述人 これは決して私のせいではございません。御承知かもしれませんが、日本の社会保障制度らしいものの一番嚆矢と申してよろしい国鉄の共済組合、すなわち日本の私設鉄道が国有化いたしました明治四十年に国鉄に共済組合が勅令でできたのでありまして、これが健康保険と今の厚生年金の要するにトップを切つたわけであります。その際にこういう制度が国鉄の中で行われまして、引続いて陸海軍工廠にでき、さらに逓信に及び警察に及ぶというふうなことで、私のただいま関係しております非現業のごときは、わずか五年足らず前にできたのでありまして、そのころすでにそういつたやり方がずつと続きまして、一部は政府の御指示に従う国債等へ投資すると同時に、一部はまた職員の直接の福利厚生施設に使うといつたことで沿革的にずつと行われておつたのでありますが、それが戦争時代までは共済組合そのものの制度は、いわば国であるのかあるいは職員側であるのかわからない状態でありまして、悪く申せば政府の給与政策の一環として政府随意の意思でいろいろなことに使つたような形跡も伺われるのであります。戦後昭和二十三年の七月にこれをこしらえました男は、申し上げなくてもよろしいのでありますが、ただいま国会に議席を置いております自由党の大平君と申しますが、その際に勅令を全部廃しまして各共済組合の給付内容が非常に区々でありますのを一本にまとめました。そしてその際に従来からの沿革もあり、急に整理もできないというふうなこと、またそれは実際上別に弊害も起しておらないということから、そのままになつて来ております。そのかわりそれ以後のそういつたものに対する監督は一層厳重になりますと同時に、さらにある程度民主的に運用いたしますために審議会のようなものも若干できました。そして中間的な性格に共済組合の性格を置いたという沿革になつております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/83
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084・長谷川保
○長谷川(保)委員 運営の機関はどういう組織になつておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/84
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085・今井一男
○今井公述人 運営の機関、管理者は法律上認められておるのであります。ですから健康保険で申せば、健康保険組合の理事会というようなものです。そういつた式のものが要するに法律上ございまして、その管理者がやつておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/85
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086・長谷川保
○長谷川(保)委員 運営の機関というものは法律になつておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/86
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087・今井一男
○今井公述人 きまつております。要するに自分の資産でありますから、共済組合固有の資産でありますから、これは特別の規定で、どつかに入れろということにならない限り、むしろ自分で運用するのが建前でございます。その意味から特にお前のところは自分で運用してよろしいという規定があるわけではございません。よそへ入れろという規定がございませんから、自分で運営しておるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/87
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088・長谷川保
○長谷川(保)委員 加給金を受けます子供の年齢の制限が十六才ということになつおります。これは実に問題だと思うのです。恩給は二十才であつたと思う。共済組合の方は十八才でしたか、これについてはどなたからもこまかい問題として公述がなかつたかと思いますが、近藤先生はどういうふうにお考えになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/88
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089・近藤文二
○近藤公述人 この点は今の制度が十六の扱いと十八の扱いと両方ございまして、非常にこんがらがつておりますので、さしあたり十六才というのでいいのではないかという気持でおります。しかし学校に行つておるものにつきましては、当然在学中は引延ばさなければならない。そうでないものにつきましては、一応十六才でいいのではないかというような気がいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/89
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090・長谷川保
○長谷川(保)委員 波多野さんの方はどういうようにお考えになつておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/90
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091・波多野則三郎
○波多野公述人 近藤先生と同感でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/91
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092・長谷川保
○長谷川(保)委員 小西さんの方はどうお考えでございましようか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/92
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093・小西昌二
○小西公述人 私の方ではあくまで十八才に引上げたいという考えを持つております。と申しますのは、生活保護法は十八才であります。十六才でなければいけないというのは厚生年金一つであります。あとは国家公務員、共済組合などみな十八才であります。そういう関係から将来社会保障を一本にするのだという精神であるならば、この際十八才に引上げるべきだという考えを持つております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/93
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094・青柳一郎
○青柳委員長代理 他に御発言はございませんか——他に御発言がないようでありますので、これにて厚生年金保険法案に対する公聴会を終るのでありますが、この際委員会を代表して公述人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は御多用中にもかかわりませず長時間にわたりまして御出席いただき、しかも貴重な御意見を終始御熱心にお述べいただきまして、当委員会といたしましても、本案の審査に資するところ大なるものがありましたことを衷心より感謝するものでありまして、厚く、深くお礼を申し上げ、簡単ながらごあいさつにかえる次第でございます。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時三十分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904244X00119540409/94
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