1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十一年五月二十一日(月曜日)
午後一時十二分開議
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議事日程 第五十一号
昭和三十一年五月二十一日
午前十時開議
第一 売春防止法案(内閣提出、衆
議院送付) (委員長報告)
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001・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。
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002・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。
この際、日程に追加して、土地調整委員会委員長及び同委員会委員の任命に関する件を議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/2
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003・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
内閣総理大臣から、土地調整委員会設置法第七条第一項の規定により、大池眞君を土地調整委員会委員長に、青沼亜喜三君を同委員会委員に任命することについて本院の同意を得たい旨の申し出がございました。本件に同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/3
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004・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 過半数と認めます。よって本件は同意することに決しました。
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005・佐多忠隆
○佐多忠隆君 私はこの際、日ソ漁業協定に関する緊急質問の動議を提出します。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/5
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006・剱木亨弘
○剱木亨弘君 私は、ただいまの佐多君の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/6
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007・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐多君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/7
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008・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。よってこれより発言を許します。佐多忠隆君。
〔佐多忠隆君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/8
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009・佐多忠隆
○佐多忠隆君 私は日本社会党を代表して、去る五月十五日に調印された日ソ漁業条約について、鳩山総理大臣と重光外務大臣に対し、若干の質問をいたします。
日ソ漁業条約、海難救助協定、本年度暫定取りきめが結ばれて、一応北洋における安全操業が確保され、日ソ国交回復の糸口が開かれたことをわれわれは歓迎します。これをきっかけとして日ソ交渉がすみやかに再開され、国交が回復し、抑留邦人全部が一日も早く帰国し、経済、文化、技術、人間の交流が行われ、日ソ両国の友好関係が進み、平和への傾向が推進されることを切望するからであります。しかし私たちは、この条約の締結に関連をして、ただすべきたくさんの問題を持っております。ここに取り急ぎその二、三についてお尋ねをいたします。
第一は、この日ソ漁業交渉の当初の予期と、現在の結果との間に、大きな食い違いがあり、ここに重大な政治的責任があると思うがどうかという点であります。重光外務大臣は、河野代表の出発に際して、この交渉は、漁業問題に限られて国交回復問題には入らない。のみならず、将来にまで及ぶ一般的な漁業協定を結ぶことは避け、平和条約のもとに新たに漁業協定が結ばれるまでの間の暫定取りきめを結ぶにとどめる。だから河野農相は全権でなくて代表にすぎないと言明をされました。重光外務大臣が河野代表に与えた訓令もそうだったと思うのですが、どうだったのか。ところが河野代表は、交渉の結果、漁業に関する暫定協定どころか、恒久的な漁業条約を結びました。交渉の主要目的であった本年度暫定取りきめは、何ら公式の文書もなく、単に口約束にすぎず、公表できぬ性質のものとして、いまだに発表をされておりません。なぜ発表をしないのか。なぜ公表をしないのか。すみやかに発表すべきであると思うがどうか。のみならず、結ばれた条約と協定は、国交交渉の再開を条件といたしております。この条約と協定は、単なる漁業条約ではなくて、むしろ国交回復約束条約とも言うべきものであります。重光外務大臣の意図、訓令が正しかったとすれば、河野代表の行為は越権であり、秩序を乱るものであります。河野代表のクーデターとも言えましょう。重光外務大臣はこれをどう処置されるつもりか。
河野代表は、日本を出発するに際して、この事あるを予期し、鳩山首相とは、そのことをすでに打ち合せ済みだったとも言われております。その真相はどうだったのか。河野代表の行為を是認するとするならば、鳩山総理、河野代表の交渉方針と、重光外相のそれとは全く食い違ってしまいます。この二律背反の政治的責任は一体だれが負うのか。重光外務大臣の見通しの悪さ、不明は、おおうべくもありません。また、この主張を初めから明確に指示し、命令をすべき鳩山総理大臣が、それを何らなし得なかった政治的無為無能力は絶対に看過できません。これらに対する鳩山総理大臣の明確な答弁を求めます。
第二にお尋ねしたいのは、今後の日ソ交渉についてであります。今度の条約と協定の発効条項には、平和条約発効の日、または外交関係回復の日と明記されております。また、日ソ漁業交渉の結果に関するコミュニケでは、両国代表は日ソ関係正常化の問題について意見をまじえ、条約と協定をすみやかに実施するため、一番近い時期に、おそくとも本年七月三十一日までに、両国の関係正常化について交渉を再開する必要があることに同意をいたしております。従って今度の条約調印によって、国交交渉のすみやかな再開と、国交回復の実現、早期妥結を約束したと了解すべきと思うがどうなのか。鳩山総理大臣と重光外務大臣は、交渉再開と妥結との時期をいつごろと見通しておられるのか。河野農相は、交渉はすみやかに再開し、交渉を再開する風上、今度は交渉を長引かすわけにはいかない、十日もあれば片づくと言っております。政府は、六月中旬までには交渉を始め、七月八日の参議院選挙日までには妥結する予想だとも伝えられております。これらの時期はどう想定をされているのか、交渉の場所をどう考えておられるのか。河野農相は、交渉を早く妥結するには、ロンドンは不便だから、モスクワか、東京でなければいかぬ、むしろ東京がいいと言っております。また鳩山総理は、必要とあればモスクワに行くことも辞さないと言われたと報ぜられております。交渉の場所の点をどう考えておられるか。今度の交渉は、非常に重要なものとなると思うのでありますが、全権をだれにするのか、鳩山総理みずから当られるおつもりかどうか、または河野農相が言うように重光外相か、芦田氏をあけられるのか、それとも従来通り松本全権をもって当てられるのか、今度の条約や協定にいう平和条約、または外交関係の回復とは、内容的に言ってどんなことを意味しておるのか。交渉妥結の方式に平和条約方式と、いわゆるアデナウアー方式とあると言われておりますが、これをどう考えられるのか。松本全権はロンドン交渉の結果、また、河野農相はモスクワにおけるブルガーニン首相との会談の結果、ソ連は、歯舞、色丹の返還以上は絶対に譲らないことが明瞭になったと一言っておりますが、鳩山総理、重光外相は、この点をどう考えられるのか。自由民主党の岸幹事長は、妥結の方式はあくまでも平和条約方式だと言っております。外務省は、従って重光外務大臣も、次のような考えだと伝えられております。すなわち平和条約締結の際の焦点である領土問題について、南千島の返還をあきらめ、歯舞、色丹の返還だけというソ連側の変らざる主張の大筋に沿って、すみやかに交渉の妥結を決意すべき時だと、こう考えておられると伝えられております。果してそうなのかどうか。他方、河野農相は、ロンドン交渉で懸案となっておる領土条項、南千島等の問題はあと回しにして、まず戦争終結宣言をやり、大使を交換し、国交を回復する、いわゆるアデナウアー方式をとるべきだと主張しております。そして鳩山総理もこの考えだと報ぜられております。これらの点を鳩山総理はどう考えておられるか。今度調印された条約と協定を閣議で承認される場合は、交渉妥結の方式を平和条約方式にするか、アデナウアー方式にするかを決意しなければならないでしょう。今はその決意の時であります。少くともそれの方式について、どんな考慮をめぐらしているかを具体的に表明し得るし、またせねばならぬ段階であります。詳細な、そうして明確な答弁を鳩山総理大臣と重光外務大臣に求めます。
第三に、河野農相のワシントンもうでについてお尋ねをいたします。外国電報によりますと、河野農相はアメリカに飛び、五月十九日にはダレス、マーフィー、ロバートソン等の国務省首脳部と会談をいたしております。一体この河野農相のアメリカ訪問は、鳩山総理の命令によるものか、重光外務大臣の同意に基くものか、または河野農相の一人ぎめによるものか、まずその間の事情を明らかにされたい。また、どんな目的を持って行ったのか。アメリカ国務省の声明によりますと、河野農相は、日ソ漁業協定を説明をし、北太平洋漁業問題に関する意見を述べた。また、河野農相とダレス長官は、日ソ交渉を中心とする国際情勢、日米関係の強化に関する意見を交換したと明らかにいたしております。果してそうなのかどうか、非常に重要な条約と協定を結んだ全権が、直ちに帰国して、自国の政府に、国会に、国民にまず報告をし、承認を求めることをしないで、鞠躬如としてまずワシントンに飛ぶとは何事ですか。河野代表は、日本をアメリカの従属国に陥れるかいらい大臣ではないか。鳩山総理大臣は、重光外務大臣は、日本の政府は、このアメリカのかいらい大臣、河野農相に最大の侮辱を与えられたと思わないのかどうか。われわれ国会は、わが日本国民は、この国内に対しては傍若無人、無礼千万な、そうしてアメリカに対しては卑屈きわまりない河野農相の所業を断固として糾弾せざるを得ません。(拍手)
以上、三点の質問に対して明確な答弁を要求をいたします。(拍手)
〔「国会開会中何をぶらぶらしてい
るか」と呼ぶ者あり〕
〔国務大臣鳩山一郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/9
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010・鳩山一郎
○国務大臣(鳩山一郎君) 日ソ交渉の内容につきましては、河野代表からまだ詳細な報告を受けておりません。河野代表は出発の際、政府と打ち合せた基本の方針にのっとりまして、ソ連当局と交渉を行なったものであります。お説のような食い違いがあったとは考えておりません。
第二の御質問に関して……。漁業交渉の結果に関するコミュニケ中に、おそくとも本年七月三十一日までに、国交正常化に関する交渉を再開することが必要であることに同意をした旨述べられております。政府は、右によって、日ソ間の国交正常化のための交渉を再開する準備を進めておりますが、国民の要望に従いまして、主張すべきことは主張し、交渉の妥結のために努力をいたしたいと考えております。お説のような食い違いはございません。(「いつやる」「アメリカに行ったのはどういうわけだ」を呼ぶ者あり)アメリカに参りましたのは、今次の漁業協定は、その対象たる海域から見まして、アメリカ、カナダ等の漁場に関係が深く、従って右両国の十分なる了解を求めることが、本協定の実施上必要であるからであります。
それから日ソ間の協定妥結について御質問がございました。それは、国交回復等に関する日ソ交渉の場所いかんとの御質問がございましたが、これらの点につきましては、十分研究の上に決定いたしたいと考えております。
なお、日ソ交渉の全権はだれにするかというようなお話もありましたが、これらの点については十分慎重な態度で研究をいたしたいと思います。
日ソ交渉に当りまして、領土条項についてどう考えているかというような御質問もございました。十分研究をいたしまして、情勢に応じ、わが国として最善と信ずる方法をとるよりほかありません。
右、御答弁いたします。(拍手)
〔国務大臣重光葵君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/10
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011・重光葵
○国務大臣(重光葵君) お答えいたします。
御質問の三点につきましては、ただいま総理大臣からお答えしたことに尽きておると思います。ただし私の考え方を答弁しろということでございますから、私からも申し上げます。
第一点は、漁業交渉が始まったときの、どうして漁業交渉が始まったかということに関連することでございます。御承知の通りに、日ソ国交回復の交渉はロンドンで進めておりました。これが遺憾ながら中止する状況になりましたので、そのときに、わが方の最も利害関係を有しまする北洋漁業の問題が急を要します。そこで漁業問題につきまして、ソ連との間の関係を調整するために、この交渉が始まりたことは御承知の通りでございます。そのために、−わが代表は、全力を尽して努力をいたした一わけでございます。そこで、その結果といたしまして、漁業協定等がお話の通りにできました。そうして私は、それを正確に、報告を受けましたものを順次に発表して、御批判を仰いでおるわけでございます。その間において食い違い等はないつもりでございます。十分に御研究を願いたいと思います。
なお次に、この漁業協定と海難救助の協定に、国交の回復ということが条件になっておる。しかして共同コミュニケにおいては、国交回復のための交渉を七月三十一日までに再開するということになっておる、これも時期が迫っておるが、一体どう考えておるかと、こういう質問でございます。私は、まことにごもっともな御質問と思います。しかし、これは外務委員会等で繰り返して申し上げておる通りに、河野代表が帰って来た上で、十分に向うの状況をも聞きまして、そうして慎重審議をいたしたいと思います。そこで、この交渉に応ずるといたしましても、その場所や全権や、またはこちらの主張をこの上どうするかというようなことにつきましては、今、総理の御答弁の通りに、十分にこれは検討した上でなければ、この席ではお答えはできませんことを御了承願いたいと思います。
それから、河野代表が米国に回った。米国に行って、太平洋の漁業問題について利害関係を持っておる米国当局に、日ソの話し合いのことを十分説明をしたい、こういうことを申して参ったのでございますが、時日もそう長くは要するわけでもございません。帰途寄るということでございますから、適当なこれは考え方だと思って、私も同意を表しました。決してこれがために国会を、国民をあとにしたというわけではございません。できるだけすみやかに帰る、その帰る途中を利用したわけでございます。どうかその点、御了承をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/11
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012・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 佐多忠隆君。
〔佐多忠隆君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/12
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013・佐多忠隆
○佐多忠隆君 私は鳩山総理大臣に、河野代表の考え方、態度と、重光外務大臣の態度が、二律背反している点を十分具体的に、明瞭に提示しながら、そうではないかということをお聞きをしている。従ってそれの答弁としては、それに照応する具体的な説明のもとに、そう二律背反していないということを明瞭に、明示しなければならないにかかわらず、それを何らやっておられない。しかも確固たる方針もなければ、毅然たる態度もない。それではわれわれは、あなたは政治的に無為であり、無能力であり、その政治責任をとらなければならないじゃないかと追及をしなければならないゆえんなんです。その点をもう少し明瞭に、具体的にお答えを願いたい。しかもアメリカに回ってくるのは当然じゃないかと言われます。しかしアメリカで話し合われることが、今、外務大臣がお話のような末梢的な問題であるならば、何も急いで行く必要は毛頭ありません。国内において非常に、早く報告を受けなければ、日々の行政措置にまで困っておる、行政事務のブランク状態すら引き起しておるという最近の実情であります、それらを無視して、のこのこと向うに出かけるごときは、何としてもわれわれは許せない、その点を総理大臣、外務大臣は、ともに責任を持たれるのかどうか、明瞭にお答えを願いたいのであります。(「領土問題」と呼ぶ者あり)
もう一つ、領土の問題についても、非常に発言は、松本全権もあるいは河野代表も明瞭に提示をいたしております。しかも平和条約方式にしろ、アデナウアー方式にしろ、その内容は、非常に具体的に煮詰まって参っております。そのいずれをとるか等々の最後的な決定はできないにしても、それらのおのおのの考え方その他について、どういう考え方を持ち、どういう検討をしておるかというようなことについては、具体的に御説明ができるはずである。その説明を明示をしていただきた、(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/13
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014・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 内閣総理大臣は自席において答弁することを許可いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/14
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015・鳩山一郎
○国務大臣(鳩山一郎君) アメリカを回っで帰ることにつきましては、先刻答弁をいたしました。
領土問題については、先刻申し上げました通りに、河野君が婦ってきましてからよく聞きましてきめたいと考えております。(「答弁になっておらぬ」「領土問題はどうなっているのだ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)
〔国務大臣重光葵君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/15
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016・重光葵
○国務大臣(重光葵君) お答え申し上げます。
最初申し上げました通りに、国交回復に関する交渉とは離れてこの交渉が始まったのであるということは御説明を申し上げました。しかし漁業問題の調整をはかる目的を達するために国交の問題にも話し合いが進んで行ったわけでございます。さようにして漁業問題をも調整ができたと信じておる次第でございます。
それから領土の問題に、特に御質問がございました。領土問題について、これまでソ連側の主張と日本側の主張とが離れて、合わなかったことは御承知の通りであります。これは私は詳細にわたって御報告を申し上げた通りであります。そうでありますから、この問題については、さらにこれを検証をして、新しい状態のもとにこれを検討して、そうしてこの国交回復の交渉に入るとするならば、その検討のもとに入らなければならぬと、こう考えておるのでございます。これで御承知おきを願います。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/16
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017・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 日程第一、売春防止法案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。法務委員長高田なほ子君。
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〔審査報告書は都合により追録に掲載〕
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〔高田なほ子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/17
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018・高田なほ子
○高田なほ子君 ただいま上程されました売春防止法案につきまして、委員会における審議の経過及び結果について御報告を申し上げます。
終戦後の世相の混乱は、生活の困窮と相待って道義の頽廃並びに性道徳の低下を来たし、人身売買の頻発とともに売春を行う女子の数が著しく増加しましたことは、すでに御承知の通りであります。最も遺憾にたえないことは、日本国憲法は、基本的人権の尊重を確認し、かつ個人の自由と平等とを明らかにして、その奴隷的拘束を除去すべきことを宣言したにもかかわらず、売春に関連してこれに反する事態がますます増加の傾向をたどりつつあることであります。このような状況を黙過することは、善良の風俗の維持、保健衛生、特に女子の基本的人権の確保等の観点から、とうてい許されないところでありまして、すみやかにこれが対策を樹立してその実効を期さなければならないものと考えるのであります。しかしてこれが対策といたしましては、国民一般の生活の向上とともに、民主主義的自覚、道徳観念の高揚、衛生思想の普及向上が要請されることはもとよりでありますが、これと同時に、売春を助長する一切の行為等を処罰する諸規定を整備強化するとともに、社会政策的見地から、その性格、行状または環境に照らして、売春を行い、また行うおそれのある女子に対し、保護更生の措置を講ずべき総合的文化立法制定の必要が痛感される次第であります。従来のこれに対する立法措置といたしましては、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律、この法律による、婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令、刑法、児童福祉法、労働基準法、職業安定法、風俗営業取締法、性病予防法等があり、さらに地方公共団体が、各地の状況に応じそれぞれ制定した売春取締条例があって、それらの運用によってこれに対処して参ったのでありますが、けれども、これらの法令は、その制定の度期、立法目的等を異にしておりますために、これを総合的、統一的に運用することには実際上少からぬ困難があって、十分その実をあげているとは申されない状態であります。そのため、かねてから総合的立法措置が叫ばれていたのでありますが、政府は、世論にかんがみ、昭和二十三年第二回国会に売春等処罰法案を提出いたしましたが、これは成立を見ないままにその後空白の状態が続きました。この間多くの婦人たちが、売春禁止の目標を掲げて、血の出るような長く激しい運動を続けて参りましたことは、皆様も御承知の通りであります。昭和二十八年、第十五国会に日本社会党伊藤修議員ほか四名の議員提案が試みられ、自後、第十九回、第二十回、第二十一回、第二十七回の各国会と、引き続いて議員による提案がされたのでありますが)遺憾ながら、これは不幸にしていずれも審議未了または否決の運命をたどったのであります。しかしこの長い努力は、ついに昨昭和三十年、第二十二国会に提出された売春等処罰法案が衆議院法務委員会において否決された際に、「売春等に関する諸問題につき、すみやかに抜本的総合施策を樹立し、これを実施する必要があり、政府としては、内閣に強力なる審議機関を設け、その議を経て、行政措置、立法的措置、予算的措置等、総合対策を策定し、国会の審議を要するものについては、次の通常国会に提出すべきである。」との決議を見、政府の積極的行動の要請が強くなされたのであります。他方、政府といたしましては、すでに昭和二十八年十二月、閣議決定によって売春問題対策協議会を設け、諸般の研究が続けられました。さらに衆議院法務委員会の決議もありましたので、世論にこたえるために、緊急に法律案を立案する必要を認め、その作成の準備を進めるとともに、内閣総理大臣または関係各大臣の諮問に応ずるために、総理府に売春対策審議会を設け、これにより去る四月九日、売春等の防止及び処分に関する立法措置について適切な答申を得ることができました。これに基いて、関係各機関相協力して慎重に立案に当り、今回この法律案を提出する運びに至ったものでございます。
本院においては、去る五月九日提案され、自民党横山フク議員、社会党高田なほ子議員、緑風会宮城タマヨ議員、第十七控室市川房枝議員が、各党をそれぞれ代表されて質問に立たれたわけであります。
次に、この法律案の内容の要点を申し上げますと、第一は、「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」という倫理規定を設けるとともに、売春を助長する行為を処罰することを定めたものでございます。特に法の適用に当っては、国民の権利を不当に侵害しないよう留意すべきことが明記されておりますが、広範な文化政策を内容としたものでございます。すなわちこれが防止の対策としましては、売春を行うおそれのある女子に対する保護更生の措置を講じ、主として売春の周旋、困惑等による売春、売春をさせる契約、場所の提供、対償の収受、前貸、資金提供など、売春を助長する各種の行為を刑罰をもって取り締ることにしたのであります。第二に、保護更生に関する措置として、地方公共団体に婦人相談所、婦人相談員を置いて、保護を要する女子に対する相談、調査、判定、指導等を行うこととし、また必要に応じて、要保護女子を収容保護する施設を設置することができるものとして、これらの費用の一定額は国が負担または補助するものといたしてあります。第三に。売春婦の保護更生、売春業者の転廃業のため一定の猶予期間を設け、保護更生に関する規定を刑事処分に関する規定より先に施行するものといたし、また、売春に関する地方条例との関係を明確にしたことであります。
当委員会におきましては、関係当局に対し、適切かつ熱心な質疑が行われましたが、その詳細は会議録に譲ることにいたしまして、そのうち重要な二、三点を要約したいと思います。
藤原委員、赤松委員、宮城委員、市川委員、西岡委員、高田委員、一松委員、羽仁委員の方々から、売春行為自体を処罰しないことはどういう理由に基くものか」との質問に対しまして、「本法案は、売春婦に対する罰則適用が本旨ではなく、冷厳な検挙は、立証の困難性もあり、かつ人権を侵害するおそれが多分にある、しかし第五条でおおむねその趣旨は達成し得る」と答弁をされております。また、「第十一条第一、二項の、場所の提供、第十三条の、資金、土地、建物の提供の規定中、「情を知って」とあるのは、業者に対して抜け穴を作ったものではないか」との質問に対しましては、「完全な善意のものを保護すること以外に、業者に対して抜け道を与えるという意図はいささかも持っておらない」旨の答弁がなされました。「本法附則、第二章及び附則第二項の規定は、昭和三十三年四月一日から施行することになっておりますが、売春対策審議会の答申を受けて本法を立法している以上は、同審議会で定めた期日に施行すべきではないか、またその変更した理由はどうか」、この質問に対して、「保護更生施設の整備、警察職員の充実、検察庁の事務的事情等から勘案して変更されたものである」旨の答弁がありました。「現在の法律や条例でも、これを活用するならば十分に売春取締りに効果をあげられるはずであるのに、政府の態度が煮え切らないために、女性の人権がじゅうりんされたままこれを黙認している場合が少くない。また、警察と業者とのなれ合いで、取締りの手をことさら抜いておると思われるものさえ目につくのであるが、この法案が通過後も、この態度が改まらなければ、せっかくの本法の制定の意義が、はなはだ弱いものになってしまうがどうか」との質問に対しましては、「世論の支持と監視のもとに、本法の適用に十分な留意をするとともに、また、隠れた悪質なじゅうりんを行うものに対しては、刑法百七十四条以下の罰則規定を適用して、びしびし取締るのだ」という旨の答弁がありました。「また警察のあり方についても、今後十分に戒慎の上取締り等に従いたい」旨の答弁がございました。それから「施行期日を再延長する意思はないか。業者の転廃業に際して国家補償を行う意思があるかどうか」との質問に対しましては、「いずれもその意思はない一旨の牧野法務大臣以下法務当局及び厚生当局からの答弁がありました。
かくて質疑を終了して討論に入りましたところ、赤松委員から社会党を代表して、「この法律にはまだ不備な点が多くあるのでありますが、今後その不備の点を十分完備し、もって理想に近づくように努力したい」との趣旨の賛成意見が述べられ、また、一松委員から自由民主党を代表して、「単純売春問題に対する施策や本法案に織り込まれておる保護更生の問題については、政府当局において本法案の目的を達成するように十分な方策を立てられんことを特に要求するとともに、業者に対しても、合法的に彼らの将来に向って更生ができるように、これを指導誘掖する施策を十分に研究の上実施されたい」との趣旨の賛成意見が述べられ、次に、宮城委員から緑風会を代表して、「政府当局においては、ことに人の尊厳とともに性道徳に対する純潔の観念は、女性のみならず、両性に平等であって初めて善良の風俗が維持されるものであり、また、これには国民生活を安定させることが必要で、政府はこの点についても特に力を入れる施策を樹立するよう要請するとともに、さらにこの法律の不完全な点を改め、理想に向って前進してもらいたい」との趣旨の賛成意見が述べられ、次のような附帯決議が提出されました。右、附帯決議案をこの際朗読いたします。
附帯決議
本法案が人の尊厳、性道徳の純
化、社会の善良の風俗の保持のため
の画期的な立法であることと、当委
員会の審議において、なお不完全な
諸点が認められた経緯にかんがみ、
政府は、さらに、一段の努力をもっ
て、一、本法案第五条の罪を犯した
女子に対する保安処分の規定を設け
ること。二、売春行為を処罰対象と
するかいなかについては、さらに検
討を続けること。三、要保護女子に対
する保護更生の各般の施設について
徹底的充実をはかること。四、生活
保障に関する諸立法の適切な運用に
よって転落主因の防止につとめるこ
と。五、本法実施に当り、地方公共
団体への国庫負担等の予算措置に遺
憾なきを期することとし、もって本
法案の目的の達成に遺憾なきを期せ
られたい。
右決議する。という案が上程せられました。
かくて討論を終り、採決に入りましたところ、全会一致をもって可決すべきものと決定いたしました。
次に、付帯決議案について採決に入りましたところ、これまた全会一致をもって、委員会の決議とすることに決定いたしました。
右、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/18
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019・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 本案に対し討論の通告がございます。順次発言を許します。最上英子君。
〔最上英子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/19
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020・最上英子
○最上英子君 私は、ただいま上程されております売春防止法案に、自由民主党を代表いたしまして、簡単に賛成の意を表するものであります。(拍手)
終戦後の混乱による道義の廃頽と、占領軍の駐屯と、生活の困窮等の事情により、売春婦はいわゆる赤線、青線、街娼の数を含めて五十万を数えるほどに至り、これらの人々の各方面に及ぼす影響は、すでに重大な社会問題となり、これが取締り防止法の制定は、国民のひとしく熱望するところであります。政府は、今回この要望にこたえ、また第二十二国会の自由民主党の決議に基き、先般、内閣に売春問題対策審議会を設け、民間人を初め、各党から代表の参加を求め、超党派的な審議機関を作り、審議して参りました。その答申案に基き、政府は本法案を国会に提出したのであります。案の内容につきましては、多少の欠点はありますが、わが国の現状から見て、この程度でやむを得ないことと信じ、賛成するものであります。
次に、法案のうちで問題となりました条項は、売春行為自体を刑罰の対象としない点でありましたが、委員会においてもこの問題が審議の中心となりました。元来、彼女たちの多くは、好きこのんで売春する者はなく、いずれも経済上の問題とか、家庭の事情によって余儀なく行われるものであり、一つには、憲法上人権を尊重する意味からして、本法案を認めたのであります。諸外国の例を見ましても、まず業者を処罰し、漸を追うて本人に及ぶという数段階の歩みをたどっているそうです。特に注意すべきことは、本法案の実施により、全国五十万に上る売春婦の生活問題であります。貯蓄に乏しい彼女らは、親元、子供たちへの送金はもとより、その日から生活に困ることは明らかであります。もしそのままに放置しておくならば、反面において、おそるべき犯罪を起さないとはだれが保証することができましょうか。この点は委員会においても、しばしば論議され、また附帯決議案にも示されてある通りであります。もちろん彼女たちの相談相手として、各府県には相談所を設け、相談員を置くとの規定はありますが、最も必要である彼女らを保護収容し、更生させるための施設について、本年度は予算の措置さえ講じておらぬ状態です。更生施設は、売春対策とは不可分の関係にありますから、政府は、これを府県だけにまかせずに、国家も保護更生施設を拡大強化して、転業する彼らの将来に光明を与えられるよう希望するのであります。
なお、本法案の実施期間に対し、一年あるいは二ヵ年の準備期間を置いたため、一部では、業者に対する保護政策であるとの批判もありますが、長年経営する事業を国家が廃止させる場合は、実施期に多少の余裕を置くことは、立法上当然のことと認める次第であります。
最後に一言申し上げます。八十有余年の長きにわたる廃娼運動の歴史は、本法案の成立により、初めて実を結ぶのであります。先輩の婦人たちが、婦人参政権獲得に戦うとともに、廃娼運動を推し進めて参りましたが、その女性史を顧みまして、婦人の立場から、感慨無量のものがあり、まことに喜びにたえません。ここに至りましたのも、売春問題対策審議会委員の皆様と、衆参両院議員の御協力によることと、深く感謝いたします。
以上をもちまして、本法案に対する賛成の意見といたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/20
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021・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 藤原道子君。
〔藤原道子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/21
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022・藤原道子
○藤原道子君 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま委員長の報告されました売春防止法案に対しまして、幾多の不平と不満はありますが、最低ぎりぎりの線で賛成をいたすものでございます。(拍手)
思えば幾百年の長い日本女性の悲劇の歴史、これに対しまして、とにもかくにも終止符を打たんとする本法の討論に立ちまして、感無量のものがございます。明治五年以来、実に八十五年の長きにわたりまして叫び続けられました人身売買の禁止と白色奴隷の解放、婦人の解放への悲願が、今、ようやく日の目を見ようといたしておるのでございます。国家の意思といたしまして、売春の悪であることを規定いたしますことは、何としても大きな意義を持つものであることはいなむことはできません。終戦を境といたしまして、著しく目立って参りました売春の業態は、その原因が政治の貧困、社会保障制度の欠陥等々に基因するのでありますが、しかしながら、健全な性道徳を破壊し、善良なる風俗を乱し、性病を蔓延させまするところの原因となり、かつ、はなはだしく婦女の人権を無視するものであり、かつ、もろもろの社会悪の根源をなしておりますことは、どなたもいなむ人はございません。今日売春撲滅の叫びは、全国を風靡いたしまして盛り上り、何人といえども、これを正面から反対はできないはずでございます。しかしながら、今まで私たちは終戦以来五回にわたりまして、法案を上程いたしましたけれども、そのつど業者の強い反対の前に幾たびか廃案となり、昨年二十二国会におきましては、ついに否決と相なったのでございます。世論の憤激は頂点に達しました。かくいたしまして、衆議院法務委の決議もあって、政府は与党内になお相当強力な反対はあったけれども、世に言う抜け道だらけのザル法案と呼ばれるところの全文わずか二十二条というような、不完全な法案ではございますけれども、ここに上程と相なりました。しかしながら、この法案においてすら、最後の最後の瞬間まで、審議会は答申いたしましたが、実に二十日間は、この提出がなお困難であったことは、何を物語るものでございましょうか。しかしながら、私たちはこれに対しまして、社会党といたしましては、衆議院の決議を尊重いたしまして、全文百三条からなる法案を提出いたしました。すなわち、前国会における否決の理由が、婦女の保護更生施設が不十分であることが最大の理由でありましたから、まず転落防止、更生保護に関する規定を設け、さらに売春婦に対しまして、従来刑罰処分を課するだけであったのを改めて、売春をし、または売春の勧誘をした婦女に対しましては、選択的に保安処分を課することができるようにし、制裁というよりは、むしろ保護によってその更生をはかる道を開いたのであります。かわいそうな女を罰することは行き過ぎであるとか、あるいは罰するのでなく更生をはかるのだ、罰するかわりにその更生をはかるのだなどと、本法においても、単純売春が除去されたのでございますけれども、このことは、法の目的を弱体化し、業者に抜け道を与え、さらに金品さえ授受しなければ、不特定な相手方と性行為しても差しつかえないのだというような誤まった考え方を社会に与える結果を私たちはおそれたからでございます。また社会党案は、従来この種の刑罰が女性のみを対象として行われて来たことに対し、需要と供給の原則によって、買う者があるから売る者が出てくる。従いまして、長くつちかわれて来た、男性が、女性を遊びの相手であり、玩弄物としての考え方に根源のあることにかんがみまして、この際両罰主義をとり、相手方をも罰することといたしたのでございます。三千円以下の罰金、または拘留、科料に処することにいたしました。そんな軽い刑罰は何でもない、一晩で取り返せるし、また買う側にしても、三千円くらいの罰金は痛くもかゆくもないではないかなどという人があります。しかしながら、罰金の通知は家庭に参ります。拘留になった理由が家庭にわかることと相なりました場合を考えまするとき、売春婦の相手方の八〇%は実に妻子がある男性である現状からいたしまして、家庭の平和、社会的面子等で、おそれをなしまして、おのずから、かかる行為を慎しむこととなりますことは理の当然であると思うのでございます。私たちは、常々申し上げますように、罰するのが目的ではなくて、かかる行為の絶無を目標といたしておるのでありますから、軽い罰で効果をねらった次第でございます。
また、従来婦女の更生施設はあっても何ら拘束力がないから、入りたいときには入って、いやになればいつでも出て行ける。不規則な生活によって怠惰になった婦女は、最初の窮屈さにたえかねて、少しの間のしんぼうで更生できるものを、つい、しんぼうしかねて出て行ってしまう。そうして再び転落をするという結果になっておるのでございます。軽くてもこれを規定することによって、選択の自由において処置し、その幸福の道への復帰をさせることが愛情ある処置と思うのでございます。ところが、政府案は単純売春を除外した。従いまして、相手方を処分することができません。かかる状態におきまして、問題はこの結果がいかに相なりますかは、まことにおそるべきものがございます。この点、相手方の幼い婦女をじゅうりんして恥としない男性、これらに対して一体どうするか、そういうようなことの質問に対しまして、牧野法務大臣は、刑法百七十四条以下を適用して、びしびしと取締ると法務大臣は言明されましたが、児童福祉法三十四条六項におきましては、十年以下の懲役となっておりまするが、いまだほとんど罰金か、あるいは執行猶予、起訴猶予と相なっております。さらに刑法百七十四条以下のその適用の状態を聞いてみましても、今日までほとんど適用されていないという答弁でございました。抜け穴だらけの本法をいかに適正に生かして、その効果を上げるかということは、取締り当局の熱意一つにかかっておるというような心細い状態でございます。私がこの点を非常に憂えますることは、政府にその熱意があるかどうか、しかも猶予期間は二年間と規定されました。ところがその間、業者を野放しにするのかという質問に対しましては、まだ条文が生きておる、地方条例が生きておると言うけれども、これはほとんど適用されていない。ただいま手元にございます資料を見ますると、これは昭和三十年の警視庁の防犯部の資料でございますけれども、吉原の業者のうち、実に二五%が明らかに人身売買であげられております。品川におきましては、三〇%の業者が人身売買を明らかに行なっておるにもかかわらず、これらが二年間の猶予期間で依然としてこの業が続けられるというようなことになりますと、法はあってなきがごとき結果になろうかと存じますので、その点も十分心せられまして、牧野大臣が言明されましたように、びしびし法の適用を心からお願い申し上げます。
ところが現在におきましてはいかがでしょうか。警官と業者の結びつきというものは想像以上に根深いのであります。一、二の例をあけますと、赤線、青線区域の警官のみならず、署長クラスの転任、就任に際しましては、はなばなしい歓送迎のうたげが催されておりまして、多額の金品が贈与されておるのでございます。あるいはまたさらに、付近の交番の増改築の場合、ほとんどといってよいくらい、業者の寄付に依存しておると言われます。過日、私は兵庫県の尼崎市へ参りました。同市におきましては、従来の歓楽街が住宅街のまん中になったために、子女に及ぼす影響が問題となり、婦人会等の反対運動の結果、転廃業ということになりました。ところが業者は、元某紡績工場の空襲による焼け跡四万六千坪を買収いたしまして、大々的に遊廓の建設を急いでおります。現に百名の女をかかえ、来年一ぱいで千六百名の女を持つ一大遊廓を作り上げるのだと豪語いたしております。私も、その規模の人なるに驚き、かつあきれたのでありますが、そういうことが現在でも許されるでございましょうか。そこで国会に売春防止法成立の公算大なるとき、かかる建設をして、法案通過のときはどうするのかと質問いたしました。ところが彼らは、ごう然といたしまして、あんな法律が通っても平気だ、幾らでも抜け道はある、すでにそれぞれの関係方面と打ち合せつつやっておるのだから心配はないと断言いたしております。しかも驚いたことに、その大門通りといわれる入口には、実にりっぱな交番が建っておりました。あとで建設の青写真を見せてもらったところ、その中に交番がある。これは業者が建てて警察へ贈ったのだと申しておりました。私は議員であることを隠して参りましたので、内容をすべて聞くことができたのでございますが、これは何たることでしょうか。業者を取り締る警官が、その供応を受けますることさえあるに、なお警察の公けの出張所であるその交番を業者から贈られているこの現状で、果して真の使命が果せるかどうか、ここに問題が内包されておるのでございます。これが見て見ぬふりどころか、陰で業者を指導し擁護する結果となるのであります。現在の青線業者や赤線業者の中に、相当数の署長上りを初め、多数の警察官が業者となっており、さらに業者の用心棒として警察に顔をきかせておる者さえ多数ございますのは、このことを最も雄弁に物語っているのではないでありましょうか。もし、当局が、真に決意を持って法を守るために忠実であるならば、現に調布のごとく、九州八幡のごとく、業者は自発的に転廃業し、みずから正業に更生し得るのであります。私はここに、五月四日の日本観光新聞を見てあぜんといたしました。大きな見出しで「ヒナ壇の料亭内閣」と題し、鳩山総理を初めといたしまして多くの閣僚諸公の名前がずらりと並んでおります。さらに「ズラリと並んだ経営者、かせぎ出す政治資金、女将すなわち愛人、寵妓」と、いろいろ書き立てております。私は信じたくございません。けれども、人身売買を禁止しようとする法案提出の内閣が、人身売買を内包する前借で自由を束縛して、しかも芸者の多くが売春をしなければならない仕組みのもとに弱い女を搾取する業態を経営し、または経営させるがごときことで、どこに綱紀の粛正、道義の高揚がありましょう。青少年の不良化を叫ぶ前に、女性の貞操を云々する前に、みずから反省し、率先して範を世に示すべきでありましょう。かくすることによって、下部取締官も初めて奮起するでありましょう。幼い婦女を、いわゆる水揚げなる名のもとに、これをじゅうりんして恥じない行為を、多数の金品をかかえ主に握らせ、料亭にまいて、そうして獣欲を満たしておる特権階級を憎みます。これが根絶をいたしますためにも、両罰規定が絶対に必要であり、刑法百七十四条以下の適用と、法務大臣の言明をそのまま、ぴしぴし行使することを進言しないではいられないのであります。今回の法のごとく不完全なものでも、なお業者は、施行期日を延期をしよう、あるいは転業の国家補償を主張して、ひもつき議員をしてこれが主張を続けておりますことは、許すべからざる問題でございます。私どもは、附帯決議が満場一致委員会で決定され、このことを広く要望していることを、この際銘記いたしまして、この信頼にこたえられるよう希望いたします。
さらに私がこの際、社会党案とあまりにも相違した不完全な本法案に賛成しなければならないのは、売春をとにもかくにも悪と規定してほしい、青線、赤線業者を断じて廃止させてほしいという全国的な世論がございますので、わが党案を固持いたしますと、本国会におきまして、あるいは通過できない危険もございますので、涙をのんで、社会党はそのまず第一歩といたしまして、社会党案を引き下げまして、修正も断念いたしまして、そうして政府提案になる本法に対しまして賛成をいたすわけでございますが、最後に業者の集団入党によりまして、うわさがまき散らされましたときに、砂田組織局長ですか、あの方から、集団入党は拒否したと発表されました。ところが、奈良県下において、大阪府下において、和歌山県下において、すでに業者は自由民主党に多数集団入党をいたしております。このことが、将来期日の延期を策する動機となりましょう。国家補償を求めるその力となりましょう。これをおそれまするとき、どうぞ本法案に御賛成いただきました皆様方とともに、売春審議会をも督励いたしまして、必ずかかる悪が滅びるような成果をあげることを心から期待いたしまして、私の討論を終りたいと思います。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/22
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023・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 須藤五郎君。
〔須藤五郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/23
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024・須藤五郎
○須藤五郎君 昨年の第二十二特別国会におきまして、すべての政党の議員有志の共同提案で提出されまして、また世論も強くこれを支持したにもかかわらず、ついに売春取締法案がつぶれてしまいました。これで五たび流産をしたわけであります。国民は、今日ではどんな政党が、どんな政治勢力が売春制度を維持しようとしているかということを、一そうはっきり知るようになりました。しかし、良識ある人たちは、これと戦う決意をますますかためておりますし、売春禁止法制定促進協議会に結集しました三十以上の婦人団体は、ますます決意をかためておるのであります。そうして、今日小選挙区法案、健康保険法改正法案、教育関係法案など、いわゆる反動法案を、世論を無視し、無理やりに通過させようとしておりますときに、五たび日の目を見なかった売春禁止法案が通過しょうとしておりますことは、まことに意義の深いものだと思うのであります。これは、婦人の願いが、いかに強いかということを示しておるものであります。戦後十年間におきますところの日本国民の半数以上を占める婦人の努力の結晶だと思うのであります。私はこの際、この壇上から、全婦人の努力に対し感謝すると同時に、明治のころから、あらゆる迫害の中で、この運動に全生涯を捧げ、努力を傾けてこられた人々に対し、心から敬意を表するものであります。(拍手)
一体、売春の原因というものはどこからくるか、これは封建制度と生活苦からであります。特に戦後の従属政策、また軍事基地化が、これに拍車をかけておることは確かであります。今日、日本には五十万の売春婦がおるのであります。皆さん、この売春法を効果あらしめるためにはどうしたらいいか、売春をなくすためにはどうしたらいいか。それはまず第一に、生活の保障をすることが必要であります。社会保障を徹底すること、これが必要であります力男女とも結婚適齢期になるならば、安心をして結婚のできるよう生活を保障することが私は必要だと思います。ところが、今日におきましては、日本の働く人たちは、低賃金に悩まされておる。結婚しようにも結婚できないというのが現状であります。まず、われわれはこの状態を解消する責任があると考えるものであります。
また皆さん、転落していく婦人に対しまして保護することは絶対必要な要件でありますが、政府はこれに対してどのようなことを今日やっておるのでありましょうか。
私はここで、婦人保護費について少し触れてみたいと思います。厚生省の婦人保護更生関係の全費用は、わずか六千五百万円であります。そのうち一時収容保護費が二百二十万円、八カ所で二十人ずつで百六十人の費用しか見込まれていないのであります。また婦人保護費としましては、十七カ所で二千五百万円、こればかりの金しか予算が組まれていない。皆さん、今日F86ジェット戦闘機は一機で一億六千万円です。この婦人保護費の二倍半にも達するF86ジェット戦闘機を、三十一年度におきましては百十機増強する予定になっておるではないでしょうか。また最近非常に有名になりましたところの中古エンジンの問題にいたしましても、一つがわずか七万二千円で払い下げた品物が、防衛庁が買い入れるときには一つ千二百五十万円になっておる。この中古エンジンを政府は六台買い入れておりますが、合計いたしますと七千五百万円であります。婦人を守るためには、保護するためには、わずか六千五百万円しか出さない政府が、防衛庁だけでも、中古エンジンを買うのに七千五百万円という金を湯水のごとく使っている。皆さん、これでは絶対政府は予算がないということは言えないではないでしょうか。このような、ばかけたことに使う金はあっても、ほんとうに国民のために使う金がないのであるというのが、政府の予算の性格ではないでしょうか。これが私は、はなはだ問題だと思うわけであります。
この法案を一々調べますると、内容に対しましては非常な不備が多い。一々指摘することのできないくらい不備な点があります。その点は藤原議員も指摘しておるごとくですし、私たちも全く同感です。ここで一つだけ触れておきますが、政府から提出されました説明書によりますると、売春業者、金融業者に抜け穴を教えておる結果となっております。たとえば業者が旅館、アパートに変更した場合、本法を適用しないとなっております。これでは全く仏作って魂を入れずということになります。しかも、これをわざわざ政府の説明書に入れております。世間は、こう言っております。政府は抜け穴を教えておるのであると、世間では笑っております。こういうことでは、法を忠実に実行する心がまえがあるかないか、全く疑わしいと私たちは考えるわけであります。
皆さん、中国は、かつて売春に関しては有名な国でありましたが、毛沢東主席が政権を担当した今日では、世界一りっぱな国となっております。その原因はどこにあるか。すなわち売春の原因であるところの封建制と生活の困難がなくなったからであります。人民が解放されたからだと私たちは考えます。皆さん、この法案は、本日当国会におきましてい歴史的な通過をするわけでありますが、私たちは、戦いはまさにこれからである。われわれは民族の解放に向って戦って行かなければならないという覚悟を新たにするものであります。民族の解放なくして、人民解放なくして、この法の目的を完全に達することはできないのであります。
以上、述べましたごとく、不備の点は多々ありますが、一歩前進する、この一歩前進を認めまして、私はこの法案に賛成の意を表するものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/24
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025・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これにて討論の通告者の発言は、全部終了いたしました。討論は、終局したものと認めます。
これより本案の採決をいたします。
本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/25
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026・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本案は、全会一致をもって可決せられました。(拍手)
本日の議事日程は、これにて終了いたしました。次会の議事日程は、決定次第公報をもって御通知いたします。
本日は、これにて散会いたします。
午後二時三十七分散会
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○本日の会議に付した案件
一、土地調整委員会委員長及び同委
員会委員の任命に関する件
一、日ソ漁業協定に関する緊急質
問
一、日程第一 売春防止法案発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102415254X05119560521/26
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