1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十二年三月二十九日(金曜日)
午前十時四十三分開議
出席委員
委員長 藤本 捨助君
理事 大坪 保雄君 理事 大橋 武夫君
理事 亀山 孝一君 理事 野澤 清人君
理事 吉川 兼光君
植村 武一君 小川 半次君
加藤鐐五郎君 小島 徹三君
小林 郁君 田子 一民君
田中 正巳君 高瀬 傳君
古川 丈吉君 山下 春江君
赤松 勇君 井堀 繁雄君
岡本 隆一君 滝井 義高君
堂森 芳夫君 中原 健次君
山花 秀雄君
出席国務大臣
厚 生 大 臣 神田 博君
出席政府委員
厚生事務官
(引揚援護局
長) 田邊 繁雄君
委員外の出席者
厚生事務官
(引揚援護局援
護課長) 小池 欣一君
専 門 員 川井 章知君
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本日の会議に付した案件
引揚者給付金等支給法案(内閣提出第一一五
号)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/0
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001・藤本捨助
○藤本委員長 これより会議を開きます。
引揚者給付金等支給法案を議題とし、審議を進めます。質疑の通告がありますので、これを許します。野澤清人君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/1
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002・野澤清人
○野澤委員 本来なら大臣にお尋ねしたいのですが、時間の関係もありますので、局長に大要を伺いたいと思うのです。今回この引揚者給付金等支給法案を御提出になられました。かなり長い間の懸案だと存じますが、一体この法律を立案するに至りました動機あるいはその経過の大要について、簡潔でけっこうでございますが、お示し願えたら大へんけっこうだと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/2
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003・田邊繁雄
○田邊政府委員 今回引揚者給付金等支給法案を提案するに至りました経過につきましては、かなり複雑な事情があるのでございます。一々申し上げておりますと時間がかかりますが、ごく簡単にかいつまんで申し上げたいと思います。
私どもの考えによりますと、引揚者側の要望の中には、二つの内面的な気持があるようでございます。一つは、在外財産の補償という主張でございます。私有財産権は不可侵である、どこまでも尊重しなければならないということは国際的な大原則である、これが国家間の賠償の肩がわりに使われたということが、彼らの主張の一点であります。もう一つは、引揚者が終戦に伴って母国の保護を離れ、ほとんど無一物となって強制的に内地に移住せしめられた。この点について国は上陸の際にほとんど何らの援護措置もしてくれなかった。自分たちは非常に大きな戦争犠牲者であるにかかわらず、国家からほとんど何らの処遇を受けなかった。この二つがからみ合って主張されているようであります。それが在外財産の補償という主張に一元化されまして、今日まで主張されて参ったのでございますが、最初、引揚者団体は、政府、与党並びに国会に強く働きかけたようでございます。自民党におきましても、党においていろいろと引揚者団体の要望を聞いておったようでございます。それから一昨年の二十二国会でございましたか、衆参両院におきまして在外財産に対する決議がなされたのであります。
そこで政府におきましては、在外財産問題審議会に昨年の六月改組いたしまして、拡充強化し、委員の数を多くし、引揚者の代表、国会議員等も加えまして、二十三名の委員にいたしました。引揚者のための措置方策いかん、在外財産問題処理のため引揚者に対する措置方策いかんという諮問がなされまして、そこで慎重に検討され、在外財産に対して補償をなす法律上の義務ありやいなやということを検討しました結果、いずれとも断定するに至らなかったのでございます。従って審議会におきましては、国家が法律上の義務ありという観点から施策をなすべしという結論には到達しなかったのでありますが、ひるがえって引揚者がどういう状態であったかということを詳細に検討すると、引揚者が長い間の生活の基盤を失なって、内地に強制的に移住せしめられたという点が、戦災その他の戦争犠牲者と違った事情が考えられるという点において、大方の委員の方々の意見の一致を見たのでございます。そういった観点から、引揚者に対しては政策的な特別な措置を講ずることが適当であるという結論になったのであります。その措置といたしましては、引揚者に対する給付金の支給あるいは生業資金の貸付、あるいは住宅の供与等の道を講ずるということでありまして、これが全会一致の、最大公約数としての審議会としての一致した結論であったわけであります。
政府におきましては、この答申案を慎重に検討いたしました結果、答申の趣旨を尊重し、その趣旨にのっとって措置をするということに決定いたしました。以来、引揚者給付金の支給につきまして種々慎重に配慮いたしました結果、先般ようやく調整が終りまして、閣議決定となり、今回の法案提出と相なった次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/3
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004・野澤清人
○野澤委員 大体の経過はそれでわかるのですが、冒頭に局長が、この問題は非常に複雑だとこう指摘されていますが、複雑だということは、原因探究が複雑なのか、処置を講ずるのに複雑なのか、どういう点が複雑だとあなたの方で断定されているのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/4
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005・田邊繁雄
○田邊政府委員 御案内の通り引揚者団体におきましては、引揚者在外財産暫定補償法という法案を作りまして、この実現について政府及び国会議員その他について働きかけておったわけでございます。この法案の内容を詳細に検討いたしますると、先ほど申し上げましたような二つの主張が複雑に交錯し合っているわけであります。しかし一方の理念と申しますか、そういうものが在外財産の補償であるのかあるいは引揚者に対する一つの政策的な施策であったのかという点は明確でなければならぬと思いますが、その点が非常に入り込んで不明確である。しかも長い間引揚者団体は在外財産の補償をなすべきであるという主張をなしてきておる。極端に申しますと、なべかまも在外財産である、こういう主張をしておるわけであります。その結果非常に入り組んでおりますので、それをどちらかに整理をいたす必要があるのではないかと私どもは考えておりまして、審議会におきましては在外財産に対する国家の補償の責任という観点から、先ほど申し上げましたようにいずれとも断定するに至らないが、しかし一方政策的措置を講ずべきであるという一つのはっきりした線をお出しになりましたので、政府におきましてはその線に沿うて今回の措置を講ずるようになった、こういうことでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/5
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006・野澤清人
○野澤委員 そうしますと、政府の方としては、この在外財産の国家補償というような線が複雑であって結論が出にくかった、その結果審議会の答申の趣旨を中心にしてやった、こういう意味でございますね。そうしますと国家補償ということが結論に至らなかったということは、あくまでも法律的に解釈してそういう根拠がない、審議会でいろいろ論議されたような経過でおそらくそういう結論に到達したのだと思うのです。そこでこの在外資産の問題については、憲法の建前から言うても当然これは国民から要求さるべき事態だと思うのです。今回の措置は国家補償でもなし社会保障制度式の考え方でもない。単なる一つの政策的な措置として行うという結論に到達すると思うのですが、もしそういう結論で参りますと、やがて国力が充実した際に国家補償という問題が再燃する憂いがあるのではないか、こういう心配が起るのですが、この点に対する政府の見解はいかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/6
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007・田邊繁雄
○田邊政府委員 在外財産に対して国が補償する法律上の義務ありやいなやという問題は非常に大事な問題でございます。審議会におきましても非常に慎重に検討をなされたのでございます。これは実は厚生省の所管ではございませんので私とやかく意見を申し上げる筋合いではございませんが、経過だけを申し上げますと、慎重に議論をされましたが、法律上の責任ありという議論と法律上補償責任なしという議論と両論ございまして、いずれとも断定するに至らなかったのでございます。さらに詳細に申し上げますれば、在外財産のうち講和条約が締結になった地域にあった在外財産は全体の約五%程度。この地域の在外財産についての法律上の責任の有無の問題、それからいまだ講和条約等が締結されないために在外財産の法律的帰属がまだ明確でない地域の在外財産がございます。この後者につきましては法律的な帰属が未確定でございますので、補償の有無を論議する段階にまだ至らない事態でございます。前者の講和条約が締結になった地域につきましては、当該財産が国家賠償の肩がわりに使われたかどうかという点を中心にしまして、条約上及び憲法上国に補償責任があるかないかということが検討されたわけでございますが、その点につきましては先ほど申し上げましたように、委員の中にありとする議論と、なしとする議論と両方ありまして結論に至らなかったのでございます。従って総体的に申しまして、在外財産に対して国が補償の責任ありやいなやということは、何べんも申し上げるようでありますが結論が出なかったというのが実情でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/7
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008・野澤清人
○野澤委員 私のお尋ねしたいことは、今度の給付金等の支給法という法律の立法の趣旨については、大体先ほどの経過で了解したのですが、こういう政策的な措置を講じておいて、今もあなたが御解説になったように、法的根拠が不確定であるから両論が対立しているというままで今度の措置を講ずるという結果、今後においてたとえば講和条約の中に含まれたものが五%しかない。それが九〇%なり一〇〇%なり、将来朝鮮とか満州とか、そういう地域がはっきりと確定した場合にまた法律論が再燃して国家補償の問題が起きてくるのではないかという心配があるわけです。これに対して絶対にそういう心配はないんだ、ここで一切打ち切りにするんだという考えで今度の法案をお出しになったのか、また余韻嫋嫋としていつ再燃するかわからないというままでお出しになっているのか、そこらのところの政府の見解をお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/8
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009・田邊繁雄
○田邊政府委員 在外財産問題審議会におきしましては、この答申にも書いてありまするように政策的措置を講ずることによって多年の懸案を解決すべきであるという言葉を使っております。そこでこの給付金の支給によって先ほど申し上げましたような法律上の問題が解決したかどうかという点については、必ずしもそうだと断言し得るかどうかについては疑問があるかもしれませんが、引揚者側の要望につきましては、この措置を講ずることによっておおむねその御要望に沿うことができたのではないか、こう私どもは考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/9
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010・野澤清人
○野澤委員 そうしますと、非常にあなたの方としても答えにくいところだと思いますが、これが今度の法律のポイントだと思うのです。これをはっきりさしておきませんと、十年間も国家補償を獲得するのだ、在外財産の補償をさせるのだといって、引揚者団体というものは熱烈な運動を継続してきたのです。そうして審議会に追い込まれた結果が今度の五百億というような政策的な措置の線が出たのです。これが政府の希望的観測ということであれば別ですが、はっきりしたものを持たなければならないと思うのです。政府としてはもうこれですべてが打ち切りになる、すべてが満足するのだ、これ以外に方法はない、最上の方策として政府はこの答申案の趣旨を採択したものなのか、そういう法的根拠について、内閣直轄の審議会の趣旨が内閣に答申されたのだから、自分たちは与えられた法律だけを作ればよろしいのだという考えで今度のこの支給法案を立案したのか、そのところが非常にあいまいだと思うのです。それで政府自体としては答申の経過、結論等を勘案してみて、もう引揚者に対するところの法律的な解釈は別としても、援護措置なりあるいは政策的な措置なりとして、もうこれで完全なんだ、一応満足するだろうとあなたの方で解釈するのではなくて、満足せしめなければならないのだというお考えでこれを出されたものか、まだ多少でも余韻が残っていくものか、こういうところの割り切り方です。少くも担当局長としてはどういう腹でおられるかということです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/10
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011・田邊繁雄
○田邊政府委員 政府におきましては在外財産の補償の義務についての見解は、補償の義務なしという見解を一貫してとっておるわけです。従いまして将来どういう事態になりましても、この補償の義務はないという見解でおる以上、補償の責任ありという観点から措置をするということはないと私どもは考えております。これは関係の直接の責任者ではございませんが、従来の経過から見ておってそう解釈いたします。それからその点を離れました引揚者に対する措置といたしましては、今回の措置が最終的な措置であって、これによって引揚者にも満足してもらわなければならない、こう考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/11
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012・野澤清人
○野澤委員 そこでこれは一般に非常に誤解を招くもとだと思うのですが、引揚者自体としては、あくまでも在外財産の国家補償というような運動をしてきたために、末端まで、外地に何年おったとか、財産がどれだけあったとか、そういう一世帯の財産の有無、また生活環境、年数等を勘案して、かなり強い線で今まで運動してきておるのです。今回の給付金の内容につきましてもまだはっきりと各個人々々が認識されていないのですね。従っておれは二十五年おった、三十年おったというような観測から、一体今度の給付金というものは二万八千円もらえるが、十年おった者と二十年おった者とは当然差があるだろう、こういうふうな考え方が相当強いのです。そうしますとよほどこの趣旨を徹底しませんと、財産に対する給付金だというように一般国民が誤解していると思うのです。同時にまたそれが全然資産の状況や外地におった年数によって支給されるのでないということがはっきりしてきますと、一体憲法で保障されたものはどうだというので逆戻りする憂いがあると思うのです。これは実際は結論が出ないということですけれども、そういうことは国民一人々々がなかなか理解徹底するまでに至らないと思うのです。こういう心配があるものですからしつこく聞くわけなんですが、そこで第二条の第一号の末尾に「生活手段のそう失等のやむをえない理由により」と、こういうように書いてあるのですが、生活手段の喪失ということは一体どういうことかということなんです。これについての御見解をお聞きしたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/12
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013・田邊繁雄
○田邊政府委員 第二条第一号に書いてありますように、引揚者の範囲は、終戦に伴ってやむを得ない理由によって内地へ帰ってきた人、いわゆる強制的移住者という引揚者の観念を出そうとした条文でございます。終戦に伴って引き揚げ同胞が帰って参りました場合、シナあるいは南朝鮮の場合におきましては当該地域の外国官憲の引き揚げの命令があったわけでありますが、その命令がはっきり出ない地域におきましても、当時の周囲の情勢からそこにおったのでは生命に危険を生ずる、あるいは生命に危険を生じなくても、そこにおったのでは生活することが事実上できない、今まで商売をやっておったところが商売ができる状態ではない、あるいは自分が今まで勤務しておったところがつぶれてしまって、そこにおったのではどうしても生活することができない、こういったそこにおったのでは生命に危険を生ずるし、または事実上生活することができない、こういう状態から内地へ帰ってきた者、この点におきましては外国管憲の命令があった場合と同じように、周囲の客観情勢ないし環境が本人をして内地へ追い返したのだ、要するに終戦に基く特殊事態の結果である、こういう考えをもちまして強制的な移住者という概念をこの中に入れたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/13
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014・野澤清人
○野澤委員 そのやむを得ない理由によって本邦に引き揚げたということはわかるのですが、この文章を見ますと、外国官憲の命令ということがはっきりわかるのですね。それから生活手段の喪失となっておるのです。この生活手段の喪失というものは一体どういう意味を持っておるのかということですね。財産を失ったのか、勤め口をなくしたのか、生活の基盤を完全になくしたという解釈なのか、その解釈の仕方によって将来にまた問題が起きるのではないかという心配が起きるのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/14
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015・田邊繁雄
○田邊政府委員 生活手段の喪失という生活手段と申しますのは、生活するために必要な有形無形のいろいろの生活上の便宜、利益という広い意味に考えております。生活手段という言葉は非常に抽象的な言葉でございますが、具体的に申しますれば、家財も入りましょう、あるいは住居というものも入ろうと思います。そういうふうに生活するために必要な一切の有形無形の生活上の手段、原因、こういうふうに考えておるわけであります。お話の通り財産を失った場合も入りますが、必ずしもその財産は客観的な価値のある財産だけでなしに、主観的な財産も入ると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/15
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016・野澤清人
○野澤委員 そうしますと生活手段の喪失というのは相当広義に解釈しているというわけでございますね。たとえば生活の本拠を有していたというような解釈でなしに、とにかく住居を持っていようと持っていまいと、そこで月給をとっておって生活しておった、これも生活手段の喪失だ、家財道具もなくした、住居もなくした、こういうふうに羅列してみれば、相当のものが含まれると解釈して差しつかえないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/16
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017・田邊繁雄
○田邊政府委員 この条文の趣旨は、六カ月以上外地に生活の本拠を持っておった者が、自己の意思によって自発的に帰ってきたのではなしに、終戦の事態に伴って内地にやむなく追い返された、こういうことをうたおうとしておるのでございまして、やむにやまれない理由によって帰されたという一つの例示といたしまして、「外国官憲の命令、生活手段のそう失等のやむをえない理由」というのでございます。やむを得ない理由の一つとして生活手段ということを掲げたわけであります。従って向うで商売をしておった方が終戦に伴って内地に帰った場合もありましょうし、また向うで会社、工場、事業場についておった方が、会社、工場、事業場が閉鎖になり、つぶれてしまったために内地に帰ってこざるを得なくなったという場合もありましょう。また周囲の事情がそこにとどまることを許さなくなったという場合もあって、必ずしも生活手段の喪失ばかりでなしに、その他の要素も関連しておる場合もあろうと思います。要するに客観的に見て、その土地にとどまることができなくなったという事態を考えております。従って私どもは、シナ、満州、朝鮮、樺太、台湾、その他南方諸地域等、欧米諸国を除きましては、この地域におおむね該当すると考えております。終戦直後における集団引き揚げのあった各地域ごとについての引き揚げの事情を調べてみますと、外国官憲の命令のあった地域か、しからざれば、生活手段の喪失、その他やむを得ない理由によって内地に追い返された事態に該当すると考えております。それから欧米各国につきましては一人一人について詳細に検討してみなければいかぬと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/17
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018・野澤清人
○野澤委員 そうしますと、生活手段の喪失等のところから今度は逆に、今あなたの指摘されたように、冒頭に「昭和二十年八月十五日まで引き続き六箇月以上本邦以外の地域に生活の本拠を有していた者」とありますが、今度は反対にこれをたどっていってみますと、この引揚者の定義を下す上においての成文は、全部生活の本拠ということが一項にも二項にも三項にもうたわれておる。外国官憲の命令、生活手段の喪失、こういうふうに理由がつけられておりますが、一体こういう成文でいって、引き続き六カ月以上生活の本拠を有していた者ということはどなたが認定するのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/18
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019・田邊繁雄
○田邊政府委員 第三条に引揚者給付金を受ける権利の認定は厚生大臣が行うとあります。しかし実際上の措置といたしましては、この権限の大部分を都道府県知事に委任するつもりでおります。そこで六カ月以上生活の本拠を有しておったかどうかということの認定は、都道府県知事がこれを行うわけでございますが、生活の本拠が六カ月以上あったかどうかということにつきまして、果してどういうふうにしてそれを認定するかという点についての御質問だと思います。昨年六月、御承知の通り三千万円の経費を国が出しまして、実はこれは在外財産問題審議会の審議の資料にするために厚生省が委託を受けまして実態を調査したのでございますが、その際にはこういった六カ月以上という要件はつけておらなかったのでございますが、全引揚者の世帯について申告をとったわけでございます。その後私の方では申告のあった全引揚者世帯の中から六千五百世帯ばかり抽出しまして、当該世帯につきまして引揚者であるかどうか、在外事実、生活の本拠があったかどうか、あるいは在外年数、こういう点について詳細なボーリング調査を実施いたしたのでございます。それによりますと引揚者であるかどうか、あるいは外地に生活の本拠があったかどうかという点につきましては、ほとんど九〇%程度はそれを立証するに足る何らかの書類を持っておるようでございます。そうでない方々につきましても、自己の経歴等を書かせるとか、あるいはそれを証言させるとかいう方法によってこれを確認する方法は可能であると考えております。ただしこの在外年数につきましては、正確に全員についてこれを確認するということは非常に困難でございます。ただし六カ月という期間になりますると、六カ月未満というものはきわめて少数でございまして、全体の一%程度にすぎないのでございます。満州で申しますれば、昭和二十年の二月以降ということになりますが、きわめて少数でございます。これを調査して調べるということは必ずしも困難なことではないだろうと考えておりますので、都道府県知事に一定の基準を示して委任いたしても、おそらく引揚者の大部分については認定が可能であると思います。ボーダー・ライン・ケースにつきましてはいろいろ困難なケースが出てくると思いますが、それらは慎重に検討するといたしまして、大部分のものにつきましては都道府県知事にまかして認定が可能であると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/19
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020・野澤清人
○野澤委員 大体その抽出調査や何かした実績等を聞いてみますと、生活の本拠を有していたものが九〇%というのがわかってきたのですが、一体この六カ月で線を引いたというのは、どういう意味を持っておるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/20
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021・田邊繁雄
○田邊政府委員 一般的な常識からいたしまして、いわゆる生活の基盤を作り上げるというためには、どんなに短かくても六カ月程度は必要であろうという、常識であります。これは三年であるとか一年であるとかいろいろ議論があろうと思いますが、私の方といたしましては、でき得る限り引揚者側の御要望に沿ってあげたい、こういう考慮から引揚者側の要望そのままを受け入れまして六カ月ということにいたしたわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/21
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022・野澤清人
○野澤委員 非常に理由が薄弱ですが、大体私らも満州におったので現状を知っておるのです。それは、もう終戦の年の二月ごろから以後というものは帰りたくてもなかなかこちらへ帰れなかったのです。また満州が治安がよろしいというので十二月や一月に向うへ渡満した者もおります。おりますが、帰ろうと思っても帰る船がない、汽車にも乗せてくれぬ、こういう状況で、やぬを得ず向うに滞在してしまった者も多数あるわけです。そういうものも、この法文の趣旨からいきますと、先ほど逆に質問していきました、生活手段の喪失ということから、引き続き六カ月とひっかけていきますと、ほとんど該当者になるということです。そうしますと、三年間外地に生活の本拠を有していたというものが、三年間が適切か、今の御議論のように一年間が適切か、六カ月が適切かということは、これは議論の余地があろうと思うのです。
そこでお聞きしたいことは、これは非常に大事なことで、政府の方としてなるべくこの法律の趣旨というものは広く、深く、しかもあらゆる戦争犠牲者に対して均霑するようにと考えてわざわざ六カ月としぼったのか、あくまでも生活の本拠ということを中心にして厳選していくという方針なのか、私はどうも認定するについての条件として、この引揚者というものの要件について、なるべくこの引揚者の立場を有利に解釈しようという心づかいがあったのではないかという気がするのですが、この点についてはっきりした御見解がありましたらお示しを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/22
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023・田邊繁雄
○田邊政府委員 気持としてはただいま御指摘の通りなるべく引揚者側の要望に沿っていきたい、こういう気持で立案されております。ただし実際の事務の施行に当りましては、各都道府県にまかせる関係上、各都道府県でばらばらになっては困りますので、最初は問題のないケースから早く片づけていく、問題のあるケースにつきましては都道府県が勝手にやらないで、一応中央に持って帰って、中央でさらにそれを練って、またそれを一定の基準によって実施するように地方へ流す、それからまた問題が出てきたときに中央に持って帰って、またそれを検討して地方に流す、こういうようなやり方でやるよりほかはないのではないか。最初から全部を野放図にやらせてしまいますと、その間ばらばらになってでこぼこができる、また行き過ぎができるという場合も考えられますので、実施の順序といたしましてはそういったやり方をいたしますけれども、全国ながめたやり方の気持といたしましては、ここの、六カ月というふうにできるだけ広くしておる関係からいたしましても、なるべく引揚者の御要望に沿うように広くしてあげたい、こういう気持を持っております。ただし一時的な旅行者もございましょうし、また生活の本拠を向うに持っておったとはどうしても認められないようなものもございましょうと思いますので、六カ月の前後にあるボーダー・ライン・ケースのものにつきましては特に慎重に事務を処理するようにして参りたい、こう考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/23
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024・野澤清人
○野澤委員 そこで第三条に関連してくるのですが、先ほどの御説明で、引揚者の給付金または遺族給付金を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基いて厚生大臣が行う、しかもこの事務は都道府県知事に委任しようというお考えである。これも事務処理上非常に的確な行き方だと思うのですが、在来こうした手続をする際に、たとえば軍人恩給の問題にしましても、遺族の問題にしましても、援護法等にしましても、第一回目の総合処理をするときには比較的簡易に事務が運ぶのです。そして厳選はされておっても比較的文句なしに通るのですが、一応再調査に残して、たとえば都道府県知事が確かに生活の本拠があったかないかわからぬといって書類を厚生省に送ってきますと、このものだけが非常に厳選されるという心配が起きてくるのです。そうして調査をするのかしないのかわかりませんが、これは、戦傷病者等の実態を見ましても、再審になったものは非常に厳格に審査されて大てい不許可になってしまう、取り上げられない、こういう事例が多い。この点についても、おそらく行政措置としては当局の方で手抜かりはないと思うのですが、これだけあたたかい気持で引揚者の立場を有利に解釈しつつ立法しておいて、実際に今度は運用の面について、そうした引き抜きをされた者だけが厳選されてワクからはずれる、わずかのことで、証拠書類がなかったとか、あるいはまた向うに居住していたという証明をすべき何ものもなかったから君はだめなのだ、こういうことで実際に善良な国民がこのワクから離れるということになりますと、立法の趣旨にももとると思うのですが、こうしたことに対して積極的に、そういう心配のないように御処置願えるという御決心で御出発になられたのか、それともあくまでも厚生省自体としては、都道府県知事に委任した以上はその権限において認定の基準を作るのだという厳選主義でいくのか、この点もあわせてお尋ねいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/24
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025・田邊繁雄
○田邊政府委員 実はこの仕事をするに当りましては、事務的処理ということが一番頭を悩ました点であります。軍人恩給あるいは遺族援護の場合におきましては、残存機関におきましてそれぞれの公的資料を持っておりまして、公的資料を整備いたして参りますれば、公務で死亡したものという認定が可能であるわけでございます。今回の場合には役所側には何らそれを確認する資料がないわけでございます。そこでその点につきましていろいろ検討いたしたのでございますが、達観いたしますと、大部分のものにつきましては、先ほど申し上げました通り、処理が可能であるという見通しがつけられたわけでございます。そこで問題は、先ほど御指摘になりましたように、本人が引揚者であるかどうかについての証明書もなくしてしまった、あるいは外地に抑留されておったことを証拠立てる何らの客観的な公文書的な書面も持っておらないという場合にはどうするかということでございますが、その場合はこれからもいろいろ知恵をしぼって、証明力の不備をどうやって補わせるかということは検討を要しますが、結局本人の申告に対する証言というものが必要になって参ると思うのであります。そういう場合におきましては、私どもといたしましては、都道府県知事にやはりその認定をまかせるつもりでございますが、私の方では一定の基準を示して、その基準に該当するものにつきましては、またその基準に該当するやいなやを都道府県にまかす場合においては、都道府県にやらせるつもりでございます。しかしいろいろ具体的問題にぶつかった場合においては、私の方から示した基準に該当しないものがたくさん出てくるだろうと思うのであります。そういったものにつきましては、抽象的なことで都道府県にまかせずに、一たん中央に持ち帰りまして、全部でなくてもいいのですから、そのうちの典型的な例を持ち帰りまして、中央へそれを一集めて十分検討して、さらに地方へ流す、こういう処置をとりたい、こういう考えであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/25
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026・野澤清人
○野澤委員 なお引揚者の定義の第四号ですが、「終戦に伴って発生した事態により昭和二十年八月十五日以後引き続き外地に残留することを余儀なくされた者で、昭和二十七年四月二十九日以後本邦に引き揚げたもの」、これは中共とかソ連とかに抑留された強制抑留者等は当然入るかと思いますが、巣鴨の拘置所に二十七年四月二十九日以前に外地から送還されて、実際は日本内地なんですが、外国の捕虜としてあそこに収容されていた者、しかもそれが二十七年四月二十九日以後まで引き続きあそこに収容されていたという者は、一体入るのか入らないのかということですが、聞くところによりますと、これは含まないのだという話です。しかし内地の土を踏んでおっても、復員業務というものは完結しておらない、こういうことになってきますと、どうも中共やソ連におった者と同一に見られる点があるのではないか、また当然見るべきじゃないか、こういう感じがしますが、これに対してどういう御見解を持っておられますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/26
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027・田邊繁雄
○田邊政府委員 ただいま御指摘になりました点につきましては、政府部内においてもいろいろ議論のあったところであります。法律の解釈といたしましては、第四号にもはっきり書いてあります通り、「昭和二十七年四月二十九日以後本邦に引き揚げたもの」こうなっております。「本邦に引き揚げたもの」の中には、巣鴨から釈放になった者を含めるという特別の条文は置いてございません。本邦に引き揚げた者でございまするので、巣鴨で拘禁されておって釈放された者は「本邦に引き揚げたもの」に入らない、こう解釈しております。その点については、先ほど申し上げました通り、いろいろ議論のあったところでありますが、今回の措置は終戦という特殊の事態に基いて発生した引揚者及び遺族等に対する処置でございますので、形式的にそこで一線を画したということは、事務的な理由といたしましては、巣鴨に拘禁されておったということは、その前に外地から帰った人もありましょうが、外地に抑留されて心身ともにこうむった労苦、及びその方々が内地に引き揚げられてからの生活の環境というものとは、多少差異があるのじゃないか、こう考えまして、いろいろ議論のあったところでありますが、われわれといたしましては今回のようなことにいたしたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/27
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028・野澤清人
○野澤委員 非常に議論のあったということはわかるのですが、どうも矛盾していると思うのです。日本内地の、しかも巣鴨に拘置所があったから条件が違うという解釈は、少し当らないと思うのです。たまたま奉天に拘置所があったからそれは該当者だ、巣鴨に拘置所があったからこれは該当者じゃない、こういう考え方というものには、かなりの矛盾があると思うのです。しかも二十七年というと、終戦後七年間も拘置所に入っているわけです。その場合、復員業務を終って日本の法律で拘留されていたというのは、これは別です。外国の法律でとらわれて、しかも外国の官憲によって身柄を拘束されたまま巣鴨に置かれていたのですから、置かれていた場所が内地であろうと外地であろうと、当然含むべき筋合いのものじゃないか。そこに一線を画したというところに矛盾があるのではないかと思うのですが、これは率直にいってどうでしょう。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/28
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029・田邊繁雄
○田邊政府委員 ごもっともな御質問だと思いますが、何分にも今回の措置は引揚者であるという点に重きを置きまして、こういう処置をいたしたのでありまして、どこかに一線を画さなければならないというので、かようにいたしたわけでございます。第四号は、先ほど申し上げましたように、講和独立後もなおかつ外地に残留を余儀なくされ、戦犯として抑留されていた方々に対しましては、相当以上に苦労をかけている、こういう観点から第四号が置かれたのでございます。巣鴨は内地の拘禁所であります。やはり外国官憲によって管理をされておったところではございましょうが、外地に拘禁されておった者との間には、心身においてこうむった労苦、あるいは釈放後における生活体験という点において、いささか違う面があるのじゃないかという観点から、一線を画したのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/29
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030・野澤清人
○野澤委員 どうもそこがはっきりしないのですが、一体巣鴨に拘置されている者は、援護法や何かの適用については、今までどういう処置を講じておったのですか。たとえば遺族等に対する援護措置等についてはどういう措置を厚生省としてはとっておったのですか。内地にいるからというのでその遺族に対する手当を出さぬとか、あるいはまた給与もしていないのかどうなのか、特別扱いをしておったのか、この点はっきりさして下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/30
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031・田邊繁雄
○田邊政府委員 巣鴨拘禁者が拘禁中に死亡した場合におきましては、遺族援護法では戦没者と同じように扱っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/31
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032・野澤清人
○野澤委員 そうしますと、巣鴨に拘禁されている者の家族は、未復員者の家族としてこれを取り扱ったのでありますか、どうでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/32
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033・田邊繁雄
○田邊政府委員 未帰還者留守家族援護法におきましては、未帰還者として取り扱っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/33
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034・野澤清人
○野澤委員 そうしますと、先ほどの多少の違いがあるという認定は、一体だれが違うと認定したのですか。審議会がそう認定したのですか、厚生省自体がそう認定したのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/34
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035・田邊繁雄
○田邊政府委員 審議会ではございません。在外財産問題審議会における答申の対象は、第一号、第二号、第三号までの範囲であると思っております。それで違いがあると認定をいたしましたのは、厚生省を含めて政府全体といたしまして、外地に抑留されておった方々と、内地において拘禁されておった方々との間に、先ほど申し上げましたような違いがある。今回の措置はどこまでも外地から内地に引き揚げた方々の措置だ、こういう観点からこれを除外したのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/35
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036・野澤清人
○野澤委員 主観の差ですから、これは政府を相手取って議論になるわけで、何もあなたをいじめるわけではないのです。しかし大体敗戦というものは、あらゆる面に不幸な事態が発生するのが実相です。そうすると外地から復員した者と、それから直接内地におって復員したからというだけの差をもって、多少の差があるという解釈は私は当らぬと思うのです。つまり七年も八年もかかって外地から引き揚げる。汽車の中におった、船の中におったと解釈して間違いないのです。巣鴨には眠っておりますけれども、実際は復員業務は終っていないのです。しかも遺族等も外地におる者と同じ扱いです。死亡した場合も同じ扱いです。そういうように、今までの法律でそれだけの措置をしておりながら、単に今度の法律だけがこれを除外するという理由は少しもないと思うのです。一体昭和二十七年を契機にしまして、巣鴨に拘置された人たちは全部で何人くらいおるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/36
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037・田邊繁雄
○田邊政府委員 昭和二十七年四月二十八日現在におきまして、巣鴨に拘禁されておった方々の総数は九百三十名でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/37
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038・野澤清人
○野澤委員 なお二十七年の四月二十九日以降に、こういうケースで本邦に引き揚げてきた数はどのくらいありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/38
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039・田邊繁雄
○田邊政府委員 二十八年の八月マヌス島から戦犯が内地へ還送になりましたが、その総数は百九十六名であります。そのうち四十九名が上陸と同時に釈放されております。百四十七名がそのまま巣鴨に入れられております。それからフィリピンのモンテンルパから内地に引き揚げました者は、昭和二十八年七月でございますが、総数百十一名でございます。上陸と同時に釈放になったのが五十五名、そのまま巣鴨に入所せしめられた者が五十六名でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/39
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040・野澤清人
○野澤委員 そうしますと総数は百九十六名ですか。二十七年以降のものは全部で幾らになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/40
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041・田邊繁雄
○田邊政府委員 二百七名であります。なおそのほかにソ連及び中共からこれと同様の状態にあって帰されたいわゆる戦犯者がございますが、その総数は約三千名程度あります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/41
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042・野澤清人
○野澤委員 そうしますとソ連、中共のは該当者だということははっきりわかるのだが、外地から引き揚げてきた者で百九十六名とか百十一名とかいう数字が出ていますが、この人たちはこの第四号に該当するわけでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/42
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043・田邊繁雄
○田邊政府委員 昭和二十七年四月二十九日以降、外地から帰って参りました先ほど申し上げましたマヌス島及びモンテンルパの戦犯は、この法律にいう引揚者に該当するわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/43
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044・野澤清人
○野澤委員 それでは昭和二十七年四月二十八日現在おりました九百三十名というのは、全部内地で拘禁された者ですか。それとも外地から送り返されてきた者なんですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/44
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045・田邊繁雄
○田邊政府委員 九百三十名のうち、一部は最初から内地に拘禁された者であり、一部は外地から逐次内地へ送還された者であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/45
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046・野澤清人
○野澤委員 九百三十名もおるのですが、一部はと表現すると、一人でも一部ですし、十人でも一部なんです。この数の根拠を示してもらいたいのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/46
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047・田邊繁雄
○田邊政府委員 最初から巣鴨に拘禁されておった者が三百二十名でございます。残余が外地から逐次巣鴨に送還された者であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/47
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048・野澤清人
○野澤委員 これはあるいは大臣にお答え願った方がいいかもしれませんが、局長でもどちらでもけっこうですけれども、約六百十名が終戦後逐次外国の捕虜として日本へ送られて、巣鴨に拘置された。この人たちはこの法律から除からて、その後に送られた者だけが適用されるというのは、どうも矛盾しているような気がするのです。まあニュアンスの差があるからということで、あるいはこれは理由になるかもしれませんけれども、今までの援護法や何かの建前から見ても、全く外地におった者と同一に扱ってきておりながら、この給付金の法律で除くという趣旨がわからない。しかもまた五百億というワクに押えられて、とうていまかない切れないからという理由ならば、あまりにも数が少な過ぎる、こういうことになるのですが、これはもう面子の問題じゃないのです。しかも第一号でお聞きしたように、生活手段の喪失ということと生活の本拠を有していたというような心づかいから六カ月と限定したということは、なるべく引揚者を有利に解釈してやろうという政府のあたたかい気持から、引揚者全体に対する心やりを十分法律に示しておいて、しり切れトンボのように、第四号にいって戦犯者だけをまるで特別扱いする。そうしますと、巣鴨で長く拘置された戦犯者だけがまるで最極悪の犯罪人のごとく国民から締め出される、政府自体も特別扱いしなければならぬ、こういうふうなそしりを受けても、政府としてはのがれることができないのです。一体このくらいの数をなぜ同様に扱えないのか。またその論拠を出してみたところが、従来の法律の慣例から見て何ら差しつかえないと思う。どういうわけでこういう特別扱いをしなければならぬのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/48
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049・田邊繁雄
○田邊政府委員 先ほどからいろいろ申し上げてありますので、繰り返すのを避けたいと思いますが、結論から申しますと、今回の措置は引揚者に対する措置である、そこで一線を画して措置をするという原則を立てまして、そしてお気の毒ではございますが、巣鴨の戦犯の方、昭和二十七年以降内地に帰った方は引き揚げではない、引き揚げではないから、これは一たん除外するのが本則である、ただし例外的に外地から引き揚げた方につきましてはこれは引揚者と扱う、こういう形式的な一線を画さざるを得なかったということが、今回の措置をとった政府の一つの理由であります。実際上の理由といたしましては、先ほど申し上げましたように、外地と内地とはやはりそこに違いがあるのではないか、こういうふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/49
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050・野澤清人
○野澤委員 どうも論理が合わないのですが、第一号は昭和二十年八月十五日まで、第二号は昭和二十年八月九日まで、第三号は昭和二十年八月十五日まで生活の本拠を有したという者が、この成文の骨子なんです。そこでこの四項にいっては、「昭和二十七年四月二十九日以後本邦に引き揚げたもの」というので戦犯等を含む意味でわざわざこれだけの緩衝地帯を作ったものだと思う。そうすると、召集されて帰って復員業務をした者ならばいざ知らず、全然復員しておらないのですから、そうするとそういう七年間も船の中や汽車の中に乗っておる者は、生活の本拠を失った者と見て差しつかえない。それをことさらにわずか六、七百の者を打ち切らなければならぬというのは、全く涙のない政策だと思う。それは理論的にはあなた方がいろいろ理屈をこねればそういうことになるだろうと思う。しかし何か手落ちがあるように感じられますが、しつこいようですけれども、これは政府自体として一考を煩わして十分価値のある問題だと思う。これ以上追及してもしようがありませんから、いずれこの法律はどうせ通るのだと思いますが、通る際に私としてはもう少し強い意思表示をしたい。一体これに対して大臣はどういうお考えですか。巣鴨に拘置されて七年間も十年間もおったという者は、復員業務も何も終っていない。ただ引き揚げた時日というものが二十七年よりも一年早いか、二年早いだけの差です。六百十名を除くという手はないのです。こういう処置は一体政府として公平妥当な行き方とお考えになっておりますか、大臣の御所見を伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/50
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051・神田博
○神田国務大臣 妥当、妥当でないかということはいろいろ御意見がございますが、何か法律を作って権利義務の関係を明確にするというときには、どこかで線を引かなければならぬことなので、今お述べになられましたようなことは、それだけのことでなく、どこでもあるのじゃないかと思うのです。たとえば在外生活引き続き六カ月の線を引いても、六カ月に一日足りない、それがどれだけあるから気の毒じゃないかということと、これはやっぱり相通ずる議論じゃないかと思うのです。野澤委員のお述べになられましたお気持は私はよく了承できるのでございますが、政府といたしましてもできるだけ一つ該当著を入れて、あたたかい気持で抱いていこうということには変りないのでございますが、立法いたしまして線を引きますと、たまたまそういうようなところが出てくる。一日二日の違い、一年、半年の違いが出てくるということがございまして、これはいろいろ教えていただくわけでございまして、別に私は議論を戦わそうという一思味じゃないのでございますが、何か線を一つ引こうとすると、そういうことが出て参るのでございます。それをどうしようかとなると、これは別な議論になるのでありますが、一応政府といたしましては今御審議を願っておるような線の引き方をして、今お述べになったような線が出たわけでございますが、とにかく一応線を引かないと、これは権利義務の関係の問題で大事なことでございますから、この程度が妥当であるということで線を引いたようなわけでございまして、御了承願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/51
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052・野澤清人
○野澤委員 せっかくの大臣のお話しですが、これは今のように一日の違いというような問題とは本質的に違うと思うのです。せっかくこれだけいい法律を作られるのですから、きょうのところは大臣の説明で私も了承いたしますけれども、何とかこれは省内でも一応再検討して見ようじゃないか、検討した結果がどうしても処置できないというならば、国民は納得いたすと思うのです。戦犯者なるがゆえに、しかも復員業務を終っていない、外地から引き揚げてきた時日がはっきりしておる。この人たちは実際生活手段の喪失です。そういう事態におった者に対して、きめたのだからあくまでもそれを強行突破するという態度はいかぬと思うのです。何も言質をとってどうこうというのではなくて、御再考が願えるように、もう一ぺんお考え直しを願うんだというくらいの余地を与えていただいて十分じゃないかと思うのです。どうぞお願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/52
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053・神田博
○神田国務大臣 野澤さんのあたたかみのある御意見を拝聴いたしましたので、よく一つ今ところは検討してみたい、こういうふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/53
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054・亀山孝一
○亀山委員 関連して。ただいま野澤委員から巣鴨に拘置されておりました戦犯者の取扱いについて、本法との関係についてるる御質問がありました。大臣初め田邊局長からも御答弁をいただいたのですが、どうも私も伺っておりまして納得できない。大臣はたまたま今六カ月と日の問題をおっしゃいましたけれども、その問題とこれとをどうも同じような形式論理で当てはめるのは少しおかしいと思うのです。この問題が金額の点でしぼられておる云々ということであるならば、その範囲においても十分政府でお考えを願いたいと思うし、特に大臣は今十分お考えになるということでありますから、どうかぜひお考えを願うようにしていただいて、あるいはわれわれの方でこれに関する修正案という問題も起るかもしれません。その点の御準備もお願いしたいと思います。いかがでございましょう。大臣の御所見をさらにお伺いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/54
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055・神田博
○神田国務大臣 いろいろ御意見を承わったのでありますが、まだ審議の初めのようでございますので、私どもも御趣旨でもっともと思いますから検討いたす次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/55
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056・野澤清人
○野澤委員 その問題は一応お預けしておきまして、第七条に給付金を受ける権利の問題が出ていますが、その二項の中途からですが、「その一人に対してした引揚者給付金を受ける権利の認定は、全員に対してしたものとみなす。」という規定がありますが、この認定というのは一体だれがやられるかということであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/56
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057・田邊繁雄
○田邊政府委員 引揚者給付金を受ける権利のある者は、請求前に死亡した場合、これは相続人が請求できるようにしてやらなければならぬのであります。その場合に相続人が数人ある場合には、遺族援護法の弔慰金の相続の場合にならいまして、数人からさせるということは非常に複雑でございますので、一人に申請させる。一人に申請をさせるについては、事前に他の者の同意書をとる、そういうふうにいたしまして遺族援護法の弔慰金の例にならったわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/57
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058・野澤清人
○野澤委員 時間がありませんのでまた質問をあとに譲りたいと思いますが、ただ一点だけ附則の施行期日についてお伺いします。「この法律は、公布の日から施行する。ただし、公布の日が昭和三十二年四月二日以後であるときは、同年同月一日から適用する。」「第五条第二項に規定する者については、第四条の規定にかかわらず、その者が日本の国籍を有しない場合においても、同条の規定による引揚者給付金を支給する。ただし、この法律の施行前に本邦に引き揚げた者については、その者が、この法律の施行の際、本邦に住所又は居所を有する場合に限る。」とありますのはどういう意味でありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/58
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059・田邊繁雄
○田邊政府委員 これは普通は法律施行のときから適用するというのが原則でございますが、この場合提案が若干遅れましたので、施行の日が四月一日以降におくれる場合もあると思いますが、権利の発生はどこまでも四月一日であります。遺族援護法の場合につきましても、昭和二十七年四月一日からすることにしておりまして、施行が四月二十五日だったかと思いますが、それを四月一日にさかのぼって適用したという例がございますので、できるだけ早く進めたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/59
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060・野澤清人
○野澤委員 そうしますと四月一日から適用する、権利の発生ということは四月一日現在で全部の調査の対象を作ろう、こういうわけでございますね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/60
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061・田邊繁雄
○田邊政府委員 その通りで、該当者は四月一日で引揚者給付金を受ける実質上の権利が発生するわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/61
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062・藤本捨助
○藤本委員長 堂森委員。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/62
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063・堂森芳夫
○堂森委員 引揚者給付金等支給法案に関連して、厚生大臣並びに田邊局長に質問いたします。この法律が生まれるまでの経過を見ておりますと、およそ十年くらいの陳情運動が行われてきたと思います。たとえば過去の歴史を見てみますと、第一次吉田内閣で石橋さんが大蔵大臣であった当時、百万世帯の引揚者に対する在外資産の見返りとして一万五千円の貸付金を交付するということをたしか閣議で決定したと思います。ところが連合軍司令部からそれに対する反対が出まして、これが実現を見なかったという古い歴史もあるわけであります。このたび大体五百億の予算で三百万人ほどの人に給付金を渡すということになったのでありますが、これは一体国家補償なのか、あるいは社会補償的な意味なのか、どちらが重点なのか。その点、一つ御答弁を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/63
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064・神田博
○神田国務大臣 在外財産問題審議会の答申に基いて政府は今回の処置をとろうということにいたしたわけでございまして、先般提案理由説明の際にも申し上げたように、引揚者が外地で全生活の基盤を失って非常に悪い条件で帰っておいでになったという事実に即しまして、お見舞金と申しましょうか、いろいろな意味をこめて政府の心のこもった——お一人お一人からすれば額は少いと思いますが、総額から申し上げますとこれは巨額の金だと考えます。在外財産問題審議会の答申でも、政府に補償責任があるともないとも、またそういう意味でしろともするなとも言ってなかったのでございます。いろいろ議論のあったことは事実でございますが、結論といたしましては、今申しましたように、全生活の基盤を失って帰ってこられた戦争の犠牲者に対して何らかの処置をとるべきものである、たとえば給付金を支給することも一つの方法だ、さらに加えて生業資金の貸付とか、転業のあっせんを指導するとか、あるいは住宅難の際でございますのでこれらの救援、更生の措置をしたらどうかとかいう答申でございます。政府はこの答申を尊重いたしまして、その線に従ってこのような措置をとることにいたした次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/64
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065・堂森芳夫
○堂森委員 大臣はなかなか答弁がうまくて要領を得ないのです。これはいろいろな意味で出したのだということですが、私が御質問したのは、国家補償的な意味なのかあるいは社会保障的な意味なのかということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/65
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066・神田博
○神田国務大臣 これはいろいろ学問的になると議論があるだろうと思います。何と申しましても、政府が現実に給付金を支給するのでございますから、社会保障の面を持っておるということも言えるでありましょうし、国家補償の面があるとも言えるかもしれません。しかし政府が支給しようということに相なった事情は、ただいま申し上げたように、全生活の基盤を失ってお引き揚げになった方々に対して政府が何らかの措置をすることが当然ではないかという点に基いて、今のような措置をとったものとお考え願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/66
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067・堂森芳夫
○堂森委員 ますますはっきりしないのですがね。私は次の質問を展開していくために政府の考え方を聞きたかったわけなんです。そこで、国家補償的な意味が非常に強いということになるとまた問題が展開されていくわけでありますから、どちらに重点を置いておるのかということであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/67
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068・神田博
○神田国務大臣 そう追い詰められて参りますとはっきりしたことを申し上げなければなりませんが、先ほども含みのある答弁だと言われたのでございますが、国が財産の補償をするという考え方はなかった、これだけははっきりしておるのでございます。補償というものが財産以外にもあるということであって、そのような意味を加えておるかということでありますればこれは否定いたしませんが、少くとも在外財産に対する補償ということは政府は考えてやらなかった、これだけははっきり御了承願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/68
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069・堂森芳夫
○堂森委員 どうもはっきりしないのです。そうしますと、戦争による犠牲というものはたくさんあると思います。国家が外地に持っておった財産に対して補償する、御答弁はこういう意味もあったようですが、そうではなかったのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/69
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070・神田博
○神田国務大臣 在外財産に対する補償をするということはいたさない、こういう前提でこの問題と取っ組んでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/70
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071・堂森芳夫
○堂森委員 さっきの答弁は、生活の根拠を失ったから持っておった財産に対して補償をしてやるのだ、こういう意味もある御答弁ではなかったでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/71
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072・神田博
○神田国務大臣 そういう意味で申し上げたつもりはないのでありまして、全生活の基盤を失って帰ってきた、何と言いましょうか、長年外地におって生活なすっておられた全生活の基盤を失った——内地でいろいろ戦争被害を受けた方も多いわけでありますが、内地の場合、たとえば家屋を焼かれても土地が残ったとか、あるいは取引先が健在であったとか、親戚あるいは知り合いが多かった、こういういろいろな事情が大体においてあるわけでございます。外地に全生活を打ち込んでおった方々が、引き揚げによってその生活の基盤を失ってしまった。そこで内地で生活をする。これは戦争の犠牲であるから、政府はその人たちに何らかの措置をいたしたい、その措置が給付という面に現われたのでございまして、財産の補償ということは引揚者の団体からの非常に強い要望でございましたが、この問題につきまして、在外財産補償としては政府は考えない。もし在外財産に対する政府の補償というならば厚生大臣の担当事項でなくなってくるということまで申し上げまして、はっきりその御了解を得まして——財産上の問題はこれは改めてもらったと言いましょうか、向うも政府が取り上げないということに一応了承ができまして、そうしてこういう措置をとった、こういうことと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/72
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073・堂森芳夫
○堂森委員 そうしますと、政府といたしましては、戦争によっていろいろな面に犠牲がたくさん出ておる。こういうことについては今後一切財産補償的な考え方は持って進んでくれる意図はないということがはっきりしておるわけでございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/73
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074・神田博
○神田国務大臣 お説の通りでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/74
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075・堂森芳夫
○堂森委員 厚生大臣だけの意図でどうこうというわけには参らぬ問題もたくさんあるわけでありますから、これ以上追及はいたしません。
そこで、今度の引揚者の給付金の法律が実現化したとすると、これに関連いたしましてまた大きな政治問題あるいは社会問題を生んで参る傾向があるだろう、こう思うわけであります。たとえば学徒動員の問題であるとか、あるいはまた現に問題になっている軍人恩給の問題であるとか、文官恩給とのアンバランスを是正する問題、農地改革による旧地主の土地の補償の問題とかいろいろな問題が活発化してくるであろうということも想像できるのですが、これ以上のことを厚生大臣に質問しておっても厚生大臣からはもちろん責任ある答弁を得るということは無理だろうと思います。それといたしましても、今度の法律の適用者の問題、さっき野澤委員からも質問がございましたが、この中で戦犯の巣鴨におる人たちの問題がございました。この法律を見ておりますると、大体講和条約が発効いたしました昭和二十七年四月二十九日を限界として区切ってある点が私は非常に大きい問題でないかと思う。たとえば戦犯として外地の刑務所、拘置所に拘留されておった人、たとえばフィリピンであるとかマヌス島あたりから帰ってきた。しかも講和条約が発効後巣鴨に帰ってきた人もあると思います。こういう人たちは当然今度の法律の適用者になるわけであります。ところが戦争後たとえば香港、マレー、オランダ、仏印、中国というふうに各地の拘置所に拘留されておった人たちで、講和条約発効前に内地に帰ってきた、あるいは巣鴨におったというような人たちは今度の法律の適用外になると思いますが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/75
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076・神田博
○神田国務大臣 さっきの最初の第一点でございますが、これは答弁をしなくてもいいというお話でございましたが、大事なことなので、この給付の法律を作る在外資産の問題を解決する基本方針になったことを簡単でありますが一言申し上げて御了解願いたいと思います。政府といたしましては、在外財産問題の解決をする基本的原則として、在外財産問題等の審議会の答申を尊重しようということをきめますと同時に、在外財産問題審議会の答申以外に考慮した問題は、戦争の犠牲というものは戦死者並びに戦死者の遺家族の問題が何といっても一番大きいものでございまして、これを第一点として考えていく。それを第一として、あとは右へならえとしてこの在外財産問題の解決に当って他の問題がそれによって起らないというようなことを一つ念頭に置いてその趣旨で解決いたしたいということが基本原則になっておりまして、この問題を解決したがために他の方へ波及するというようなことのないようにということを配慮いたした次第でございます。しかしこれは政府の方針でございまして、これと共通の問題があって、その線で解決するということを別に妨げる意味でもございませんが、この問題の解決によって従来取り扱ったものが変更するようなことがあっては困るというような意味で、在外財産問題は過去十一年にわたって未解決の問題である。この問題を解決することによって、今まで解決した問題を誘発しないという考え方で処理して参ったことを一つ御了承願いたいと思います。
第二点でありますが、第二条第四項に書いてはございますが、対象外にしたということにつきまして先ほど来野澤委員等から御意見があったことでございまして、これは私どもも立法の際にいろいろ考慮いたしたのでございますが、結果から申し上げますと、今申し上げたような、御審議を願っておるような案になったことは、先般来政府委員からも説明があったことと思っております。一つ十分検討を加えたいと考えておりますが、これは御審議の最中でまだいろいろ問題が出るだろうと思っておりますので、その際にあわせてまた十分考慮いたしたい、こういうことに相なろうかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/76
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077・堂森芳夫
○堂森委員 大臣のさっきの答弁ですが、そういうふうな一つの境界、区切りをつけるために講和条約発効を一つの境界とした、こういう御答弁のように思うわけであります。事務当局に数字をお尋ねするわけですが、戦犯として海外、フィリピン、マヌス島におって、講和条約発効後内地に帰ってきた人がどれくらいおって、それから講和条約発効前に外地の拘置所から内地に帰ってきた人がどれくらいおるかということをお示し願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/77
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078・小池欣一
○小池説明員 講和発効前に外地から引き揚げて巣鴨に入りました者の数は六百十名でございます。平和条約成立以後マヌスあるいはモンテンルパから引き揚げて釈放になった者の数は総計は、マヌスから百九十六名、モンテンルパから百十一名でございます。なお平和条約発効後引き揚げた者の総数は、ほぼ三千名というふうに推定をいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/78
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079・堂森芳夫
○堂森委員 その三千名というのは全部巣鴨に入った人ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/79
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080・小池欣一
○小池説明員 三千名は巣鴨に入った者ではございませんので、内地に引き揚げた者の数でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/80
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081・堂森芳夫
○堂森委員 戦犯として向うにおった人ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/81
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082・小池欣一
○小池説明員 戦犯あるいは被留用者としておった者であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/82
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083・堂森芳夫
○堂森委員 そういたしますと、講和発効前に戦犯として外地におって日本に引き揚げてきた人、そして内地で逮捕されて巣鴨におった人、あるいは現在までおる人、それで幾らくらいになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/83
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084・小池欣一
○小池説明員 現在は九十八名でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/84
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085・堂森芳夫
○堂森委員 ちょっと私の質問が悪かったのですが、講和発効前に外地に抑留されておって、そして講和発効前にこちらに帰ってきた、そして巣鴨におった。そしてそれにプラスして内地で逮捕されて巣鴨におった人、これは大体累計どれくらいになりましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/85
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086・小池欣一
○小池説明員 平和条約発効時におきまして、外地から帰って参りまして収容されておる者と、内地でつかまりまして拘禁をされております者の総計は九百三十名と考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/86
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087・堂森芳夫
○堂森委員 さっき野澤委員からも質問がございましたが、未帰還者留守家族等の援護法によりますと、巣鴨に拘禁されている人はみんな未復員者の待遇になっておるわけですね。そしてやはり同じ待遇を受けておる。これは法律ができたときに、そう明記されているわけであります。ところが今度の給付金の法律ではこれが除外される、こういうことになるわけですね。それは発効後に帰った人はいいですけれども、発効前に帰った人は全部除外される。おそらく野澤さんの御質問もそこにあったのじゃないかと思うのです。この点はいろいろ議論のあったところですが、田邊君が何かさっき答弁しておられましたが、そうたくさんの人じゃないのじゃないか。さっきも九百何十名ですから、九百何十名とすれば、金額からいってもそう高額の金ではないのじゃないか。しかも講和条約発効後外地の、たとえばマヌス島だとかフィリピンにおった人というのは全部引揚者としての資格がある、発効前の人は資格がない、こういうことは非常な矛盾があると思うのですが、どういういきさつであったのでございますか。すべてそれは財政的な意味からなのか、御答弁願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/87
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088・小池欣一
○小池説明員 御指摘のように留守家族援護法におきましてそういう方々は未帰還者として扱いまして、留守家族の援護をいたしておるわけであります。今回提案をいたしました本法案につきまして、こういう措置をとっている点に疑問があるという御質疑だと思いますが、今回提案いたしました法案は、大臣、局長からるる御説明を申し上げたように、元来生活の本拠を持っている引揚者を対象とするという在外財産問題審議会の答申にのっとって立案をいたしたという点が一つと、もう一つは実際的問題といたしまして、どこかで一つ線を引かなければならないという考え方をもちまして、内地、外地の全部をとるということができなかったような次第であるわけでございます。いろいろこれは問題のあります点で、大臣も検討をしたいというような御説明をされたわけでございましょうけれども、大体そういうふうなことになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/88
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089・堂森芳夫
○堂森委員 そこでたとえば巣鴨に入っている人の中で、内地で拘禁されてそして今日までおる人、それは引揚者でないという理屈も、私はある意味ではつくと思うのです。しかも巣鴨に講和発効前に帰ってきた、向うにおって拘禁されていて、そして現在も巣鴨におるという人もある。ところが講和発効後に帰ってきた人にはそういう資格がある。これはおかしいではありませんか。どうしたって理屈に合いません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/89
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090・小池欣一
○小池説明員 この点は、元来生活の本拠を持っておった引揚者をこの法律の対象とするということでございまして、二条の四号に規定をしておりまするその生活の本拠のない引揚者につきましては、特に長期に外地に残留を余儀なくされているというものだけに限定をしたい、こういうことでどこかで線を引かなければならぬ、そういう考えで立案をいたしたわけであります。そういうわけでその線の引き方についていろいろ御議論があることと思いますけれども、例外的な措置でございますので、平和条約発効の時期ということをとった次第でございまして、その結果お気の毒な方が出てきたのでございますが、そういう例外的な措置であるということで御了解をいただければいいのではないかと考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/90
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091・堂森芳夫
○堂森委員 もうやめますけれども、これはおかしいですよ。全然理屈になっておらぬ。そうでしょう、そんなばかなことはない。生活の本拠を持つ者としたら、講和条約発効後に帰ってきた戦犯の諸君だけでないのは当りまえです。これはおかしいですよ。あなたと議論しているのではないから、一応留保しておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/91
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092・藤本捨助
○藤本委員長 暫時休憩いたします。
午後零時十七分休憩
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〔休憩後は開会に至らなかった〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102604410X03219570329/92
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