1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十二年三月七日(木曜日)
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昭和三十二年三月七日
午後一時 本会議
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●本日の会議に付した案件
坂本泰良君の故議員大麻唯男君に対する追悼演
説
売春対策審議会委員任命につき国会法第三十九
条但書の規定により議決を求めるの件
租税特別措置法案(内閣提出)の趣旨説明及び
これに対する質疑
午後一時十三分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/0
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001・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) これより会議を開きます。
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002・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) 御報告いたすことがあります。議員大麻唯男君は去る二月二十日逝去せられました。まことに痛惜哀悼の至りにたえません。大麻君に対する弔詞は議長においてすでに贈呈いたしました。
この際、弔意を表するため、坂本泰良君から発言を求められております。これを許します。坂本泰良君。
〔坂本泰良君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/2
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003・坂本泰良
○坂本泰良君 ただいま議長から御報告のありました通り、本院議員従二位勲一等大麻唯男君は、去る十日、郷里熊本において、君が郷土のため建設された由緒深い大麻文化会館における講演の途上、病のため倒れ、去る二十日逝去いたされたのであります。まことに哀悼の至りにたえません。私は、ここに、諸君の御同意を得て、議員一同を代表し、つつしんで追悼の言葉を申し述べる機会を得ましたことは、君を、郷党の先輩として、また近来まれに見る大政治家として、敬慕している私にとりましては、まことに光栄に存ずる次第であります。(拍手)
君は、明治二十二年七月、熊本県三名市大字梅林に生まれられました。幼少より聡明利発でありまして、文字通りの神童といわれました。小学校時代は、すでに、教師にも解けなかった数学問題を解いたという逸話が、今に至るまで残っておるのであります。熊本中学から第五高等学校に学ばれ、さらに進んで東京帝国大学に学び、大正三年同大学法学部政治科を卒業、高等試験行政科試験に合格、直ちに内務省に入り、山梨、山形、神奈川県等の地方警視を経て、大正九年内務事務官となられました。
そのころ、旧熊本藩主細川邸における宴会で、偶然にも郷土の先輩である清浦奎吾伯にその才能を認められ、その知遇を得て、大正十三年清浦内閣成るや、総理大臣秘書官に任ぜられたのであります。
その年の五月、郷里熊本より推されて第十五回の総選挙に出馬し、若冠三十四才にして本院議員に当選されたのであります。その後引き続き当選すること十回、在職年限は実に二十六年一ヵ月の長きに及んでおるのであります。昨年一月には、永年在職議員として、本院において栄誉ある表彰を受けられたのであります。
その間、濱口内閣の文部参与官となり、また、若くして民政党の幹事長たること前後三回、また、党の総務として、よく若槻総裁、町田総裁を助けて、困難なる党務の運営に敏腕をふるわれたのであります。
昭和十八年には東條内閣の国務大臣となり、閣僚中ただ一人の政党人として、孤立無援の中に、よく民主政治のために努力をいたされたのであります。当時、東條首相を説いて中野正剛氏を釈放せしめたことは、今日なお語り伝えられておる逸話であります。さらに、東條軍閥内閣は、文部大臣岡部長景氏をして大学の整備統合案を作成せしめ、多数の私立大学を専門学校に格下げせんとする無謀な計画に出たのであります。これはあたかも秦の始皇帝の焚書坑儒にも比すべき暴挙でありまして、全国の私学側は、学問の自由を弾圧するものとして、敢然反対運動を起したのであります。不肖私も当時青年教授といたしましてこの運動に参加しましたが、この運動はついに流血の惨を見るに至らんとしたのであります。このときに当り、君は、東條内閣の閣員として事の重大性を警告し、東條首相をして閣議をもってこの案を中止せしむるに至りました。これがために、私立大学が最高学府として今日その使命を全うし、学問の自由と私学振興の基礎を確立した次第であります。(拍手)私立大学の関係者は、なお今日に至り、君の徳を深く感じておる次第であります。
戦後は一時閑につき、鎌倉に隠棲して政治の圏外に立ち、その間広く社会各層の人士と交わりを結ばれたのであります。
追放解除後、昭和二十七年二月、改進党の結成に参画せられ、その総裁に重光葵君を推戴すべく、その主役を演じ、ついにこれを実現し、同年十月の第二十五回総選挙において本院議員に返り咲かれ、翌二十八年二月には改進党顧問になられたのであります。
昭和二十九年には、鳩山、重光の両氏らとともに日本民主党を結成し、その最高委員となり、同年十二月第一次鳩山内閣に国務大臣として入閣し、国家公安委員長となられたのであります。その後引き続いて第二次、第三次鳩山内閣に及んでおるのであります。鳩山内閣の総辞職の後は、自由民主党の顧問の重職についておられたのであります。
かくのごとく、君が、多年政党政治家として、戦前戦後を通じわが民主政治、政党政治の発展のため努力いたされました功績は、実に偉大なるものがあるのであります。(拍手)
君の性格は明朗闊達の一語に尽きております。しかも、事に当りては大胆にして細心、その用意の周到さに至っては、何人といえども敬服せざるを得ません、加うるに、非常な努力家であります。いかなる細事でも全身全霊を打ち込んで、微に入り細をうがって研究し、万全の策を講ぜられたのであります。君の見通しの正確さは定評があったところであります。これもすべてその用意の周到さと異常な努力の結晶であります。
君は、はなはだ人情に厚く、よく子弟を訓育せられるとともに、他人のめんどうを見られました。いわゆる世話好きであります。戦時中から戦後にかけて、わが国の相撲が衰微その極に達し、相撲協会が経営困難の苦況に立ったとき、終始これが復活のために努力せられ、現在見るがごとき相撲の隆盛を来たしましたことは、君の功績であると言っても過言ではないのであります。(拍手)
君は、また、郷里の三名市に広大なる大麻文化会館を独力をもって建設し、地方青年会、婦人会、農村問題研究会、農産物品評会などの利用に資し、郷土文化の向上と発展をはかられました。昭和二十九年、この文化会館の落成式に当りまして、君の年来の知己である高浜虚子翁が次のような俳句を寄せているのであります。「一滴の男の涙大桜」今この句が大麻文化会館の前の句碑に刻まれていますが、この一句こそが、まことに君の全貌をほうふつたらしめているのであります。(拍手)
今や戦後の混沌としたわが政治経済がようやく落ちつきを見、これからいよいよ新しい進歩的な政治経済が計画的に綿密に打ち立てられ、国民大衆の向うところを指導誘抜すべき重大なる時期に達しておる際に、最も高い知性と綿密な計画性を有することにおいて保守政党にその人ありといわれている君のごとき政治家を失ったことは、まことに国家の損失と申さねばなりません。(拍手)しかしながら、君が政界にまたその郷土の後進者に残されました遺徳は、必ずや、まかれた大麻の実のごとく、すくすくと伸びるでありましょう。(拍手)そうして、必ずや、今後の憲政の発展のために、ま地方文化興隆のために、偉大なる収獲を見ることでありましょう。(拍手)
いささか生前の事績を回顧し、その功績をたたえ、その人となりをしのび、つつしんで追悼の言葉といたす次第でございます。(拍手)
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売春対策審議会委員任命につき国会法第三十九条但書の規定により議決を求めるの件発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/3
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004・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) お諮りいたします。内閣から、売春対策審議会委員に本院議員世耕弘一君及び参議院議員佐野廣君を任命するため、国会法第三十九条ただし書きの規定により本院の議決を得たいとの申し出があります。右申し出の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/4
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005・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) 御異議なしと認めます、よって、その通り決しました。
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租税特別措置法案(内閣提出)の趣旨説明発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/5
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006・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) この際、租税特別措置法案の趣旨の説明を求めます。大蔵大臣池田勇人君。
〔国務大臣池田勇人君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/6
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007・池田勇人
○国務大臣(池田勇人君) 租税特別措置注案について、その趣旨を御説明いたします。
現在の税制では、貯蓄の奨励、内部留保の充実、輸出の振興、設備近代化の促進等、各種の政策的配慮に基いて種々の特例が設けられているのでありますが、その多くは租税特別措置法に規定されているのであります。これらの特別措置は、そのときそのときの経済事情等に応じて創設されたものでありまするが、最近におけるわが国経済の発展には目ざましいものがあり、制度創設当時とはかなり情勢が変化しているのでありまして、これらの特別措置を最近の経済情勢に照らして全面的に再検討する必要があると認められるのであります。現在、これら特別措置は主要なもののみで約三十項目に及び、これによる租税の減収額は一千億円をこえると見込まれるのでありまして、一般納税者が重い租税を負担していることを考えあわせ、現在の経済情勢から見て必要性の乏しくなった特例は、これを整理縮小する方針をとると同時に、反面、貯蓄の奨励、輸出の振興、設備の近代化等、今日重要な経済施策につきましては、積極的にその内容の充実をはかることといたしました。
法案の内容について申し上げますると、第一に、貯蓄の奨励のために、今後二年間長期預貯金等の利子所得を非課税とし、配当所得に対する源泉徴収税率の軽減の措置をなお継続することといたしております。すなわち、利子所得非課税の現行措置は、本年三月末をもってその適用期限が終了することになっているのでありまするが、一年以上の長期預貯金等については、なお二年間その利子所得に所得税を課さないこととし、その他の利子所得につきましても、百分の十の税率により、他の所得と分離して課税することとしております。また、配当所得に対する源泉徴収税率も、今後二年間現行通り百分の十の軽減税率を適用することとしているのでありまして、別途御審議を願っておりまする所得税法の一部を改正する法律案における生命保険料控除の引き上げと相待って、今後貯蓄が順調に伸張し、安定した経済発展の裏づけとなることが期待されるのであります。
第二に、輸出を振興するために、現行の輸出所得の特別控除の制度につきまして、その適用期限を昭和三十四年末まで二年間延長し、プラントの範囲を拡大する等の改正を行うことといたしております。
第三に、設備の合理化、近代化を促進するため、現在の特別償却制度の範囲を拡大し、特に鉱業及び造林業につきましては、その特殊性に応じた償却を認めることといたしております。
一方、増資新株の配当に対する法人税の免除、増資の登録税の税率の軽減、概算所得控除等の制度はこれを廃止することとし、配当控除の率を、昭和三十年分及び三十一年分の所得税について特に百分の三十に増加する措置を廃止し、別途御審議を願っておりまする所得税法の一部を改正する法律案により、配当控除の率は、課税所得一千万円までの配当所得については百分の二十、一千万円をこえる課税所得に該当する配当所得につきましては百分の十とすることといたしております。
また、価格変動準備金につきましては、その毎期の繰り入れ限度額を二割引き下げるとともに、欠損を生じてまでも積み立てをすることができないことといたし、いわゆる交際費課税制度につきましても若干制度の強化を行なって、なお二年間これを存続することといたしております。
以上のほか、航空機乗客に対する通行税の軽減措置を一年間延長し、協同組合課税を適正化し、外航船旅客の消費する酒類に対しては酒税を免除する等、制度の整備合理化を行うほか、法文の全体をわかりやすく書き改めることといたしておるのであります。
以上申し上げました措置による増収は、所得税法、法人税法等に規定されておる租税上の各種特別措置の改正によるものと合せて、初年度約二百億円、平年度約三百五十五億円見込まれるのであります。
以上が租税特別措置法案の趣旨でございます。(拍手)
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租税特別措置法案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/7
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008・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) ただいまの趣旨の説明に対し、質疑の通告があります。これを許します。平岡忠次郎君。
〔平岡忠次郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/8
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009・平岡忠次郎
○平岡忠次郎君 ただいま上程となりました租税特別措置法案につきまして、私は、日本社会党を代表して、租税公平の原則の観点から、政府の所見をたださんとするものであります。(拍手)
現行税法は幾多の不均衡、不公平があることは、国民のあまねく知るところでありますが、その中で最も負担の公平を阻害しているものは租税の特別措置であります。勤労大衆も、農民も、はたまた中小企業者も、税負担の重圧を訴え、なぜ特別措置を整理しないのか、そうすれば少しはわれわれの暮しも楽になるはずだと叫び続けてきました。また、学者も、税について意見を求められるときは、必ず特別措置の不公平に言及せざる者はなかったのであります。
そもそも、これらの措置が急激に拡大せられたのは、かの吉田内閣の時代、政府と大企業なれ合いの露骨な補助金政策が馬脚を現わし、ようやく大衆の批判に抗し切れなくなったときに始まったのであります。(拍手)正確に言えば、朝鮮事変終了後、資本の蓄積、輸出振興等の美名のもとに増加拡大を見たものでありまして、そのいきさつは、おおむね次のごとくでございます。
シャウプ勧告に基いて、昭和二十五年、法人税は税率三五%と定められた。ところが、その年の七月朝鮮事変が起り、大特需を招来し、このブームを吸収する意味で、特需に関係のなかった中小法人も同列に、法人税率は二十六年に一律に四二%に引き上げられ、それが遠因となって、今日のような不公平な負担関係を作り上げているのであります。すなわち、法人税の引き上げは、朝鮮事変という一時的現象を事由として行われたが、二十八年に朝鮮に平和が立ち返り、特需景気が後退した後も、中小法人の怨嗟をよそに、四カ年にわたってその高率四二%を持続して、昨年やっと四〇%に引き下げられたものの、その間、資本の蓄積、輸出振興の旗じるしを振りかざす大企業の減税要求に対しては、そのつど、準備金、引当金特別償却等による個別的減税措置に出て、政府は傾斜的にこの要求に応じてきたのであります。いわく貸し倒れ準備金、いわく重要物産の免税等々、その数は二十指に余るのであります。
これら租税特別措置の創設がいかに租税負担の不公平を来たしているかを、試みに大企業別の実行税率をもって示すならば、昭和三十年度の実績において、都市銀行の平均で二二・八%、パルプにおいて二一・六、肥料において二一・七、貿易商社において一九・二、鉄鋼において一七・六、保険において一六・〇、電力会社に至っては一〇・四%、以上の七グループの平均を見ても、わずか一八・五%の法人税しか実質上払っていないのであります。大企業はかくのごとき低率課税の恩典を享受し、額に汗する中小企業者、勤労大策を眼下に見下す牢固たる特権的基盤を築き上げ、今や神武景気を謳歌しておるのであります。何たる租税制度上の不公平きわまる懸隔でございましょう。(拍手)
他方、これに並行して、金持ち階級のために、一連の特別減税の個人関係の法律も公然と作られてきたのであります。いわく利子所得の非課税、いわく配当所得課税の特例など八件、法人関係、個人関係両者合せて、おおむね三十件、その恩典免税総額を最小限に見積っても、三十二年度見込み一千五十一億円の巨額に達しておることは、さきに政府が税制調査会答申書資料において示しておる通りでございます。ここに特権階級本位の一連の傾斜減税措置を非難攻撃する火の手は院の内外に燃え上り、特権階級と結ぶ政府も、少くとも表向きほっておけず、提案をしてきたのが、従来のものを改廃するかのごとく装うこの租税特別措置法案であります。
鬼面人をおどす百七十五ページを数える膨大な法律案ではありまするが、その実体を見ると、改廃による返税、三十二年度においてわずか二百億円、これを平年度化しても三百五十五億円という、過小に失する整理内容を持つにすぎません。しかも、その中で、えりにえって斧鉞を加えられたのが、農家、商店などにとって七十九億円の手痛い増税を意味する概算所得控除の廃止であったり、また、きびしく制約を受けたのが協同組合関係の免税措置であったりして、まことに大衆に挑戦し、かつは世論をはぐらかすとしか思われない、不誠実そのものの法律案でございます。(拍手)世間体をはばかって、提案理由には、「一般納税者が重い租税を負担していることを考え合せて、これらの特別措置を全面的に再検討する必要があると認め、緩急の度合いに応じて、この際これを整理縮小する方針をとる」などと述べているのでありまするが、一言をもってこの法律案を評するならば、従来の偏向減税を一そう大企業と金持ち本位に集大成した確認通告書ともいうべきものでございます。(拍手)
そこで、質問の第一点は、現行租税特別措置による三十二年度見込み免税総額一千五十一億円という基礎数字についてでございます。この数字は、昭和三十一年十二月二十五日付税制調査会の答申書の中に、政府よりの資料として用いられており、税制調査会は、同じ答申書の中で、やはり政府の資料に基いて、三十二年度の自然増収を一千億円としているのであります。政府は、周知の通り、その後自然増収を約二千億円と改訂して、過大にあらずやとの野党の追及に対しては、大蔵大臣は、法人収益の飛躍的増加などから、これを間違いなしと断言いたしているのであります。果してしからば、現行租税特別措置による三十二年度見込み免税総額を一千五十一億円と算定したままで置くことは過小であって、一千五百億円程度が特別措置による免税総額の実体でなければならぬはずでございます。(拍手)この免税総額の中から、三十二年度にわずか二百億円だけが改廃措置によって増徴されるにすぎないというのでしたら、世間を愚弄するも一そうはなはだしいと申さなければなりますまい。こうなると、特別措置の改廃による増徴とは、単なる税法上の増徴であって、大企業に腹の痛む増徴ではなく、逆に、大企業、特定層に対する恩恵減税の絶対額は、むしろ五百億円程度ふえる計算とならないかどうか。これは、国の財政収入における租税の公平を検討する上からも、前提条件となる大切な事柄ですから、池田大蔵大臣より、この免税見込み総額について明確にお答えを願いたいのであります。(拍手)
質問の第二点は、この特別免税額の全面的取りくずしをもって、政府の企図する所得税等一千余億円の減税をまかなう原資となすことが、時期的に見ても最も妥当であり、かつ、金額の上でも可能であるのに、あえて水増し自然増収を当て込んで、租税特別措置の改廃による増徴を平年度化してもわずか三百五十億円程度にとどめた理由は何であるかをお尋ねいたします。特権階級の繁栄の犠牲となって、四カ年余にわたり不当な重税に耐えてきた一般大衆は、いわゆる神武以来の好景気を謳歌する一部特権階層のために、租税特別措置のこれ以上の存続を容認してはいないのであります。(拍手)返税わずか三百五十億円とは、勤労国民の期待からはるかにはずれた少額であり、果して政府は整理改廃に真剣に取り組んだのかどうか。
質問の第三点は、租税制度上、例外的時限立法たるべしと通念的に考えられていたこの特別措置が、実は、そのかけ声に似ず、今回改廃規模が予想外に小範囲にとどまり、かつ不徹底そのものであるところから、この偏向減税の大部分が恒久的措置として将来長く残されるのではないかとの疑念がここに生ずるのであります。たとえば、利子所得の非課税、配当所得課税の特例等の、世界にも類例のない資産所得擁護措置が廃止せらるべしと思ったのに、またまた、ぬけぬけと、二カ年間延期ということで、白昼おくめんもなく提案されてきているのであります。産業政策、経済政策等を税法上でカバーすることが例外的に許されるとしても、その総額は、平年度たかだか三百億円程度をもってとどむべきものと思うし、しかも、すべてが厳格に三カ年以内の時限立法たるべきことが常識と思えるのに、今回の合理化改廃作業にこの筋が通っていないことは、国民とともに、われわれの不満とするところであります。恩典免税の居すわり気配について国民の疑惑を払拭するためにも、大蔵大臣は所見をこの際明らかにせらるる義務があろうと存じます
質問の第四点は、大蔵大臣がその財政演説の中で言明せられている負担の公平をはかるための整理合理化が、改廃に当っての根本的指針でなければならないはずだが、この指針の示す通りに今回の改正が行われたとお考えでありまするか。まことに各項目とも疑問だらけでございます。たとえば、不公平きわまりない配当所得の特例は、負担公平の見地に立って是正せられているかどうか。現在の法人税は、法人擬制説というありがたい説をとっている関係上、配当を受ける個人の所得については、法人の経理段階で源泉課税が一〇%行われることを理由として、配当額の三〇%だけ税額控除を受けることができるのであります。従って、配当所得だけで暮している人は、標準家族、すなわち夫婦子供三人家族で、年百二十二万円まで所得があっても所得税が全然課せられなかったのでありまして、このゆえに世人から非難を浴びてきたものであります。このたびの関係税法の改正で、この三〇%の控除額を二〇%に下げたので、一見不公平は是正に向って一歩踏み出されたかに感じられまするが、所得税法の改正によって大口所得者の所得税が大幅に減るために、前と同じ家族で、逆に配当年収百四十九万円まで課税されないことになったのであります。一方に、額に汗を流して働く勤労者は、同じ標準家族で年収二十七万円を出れば課税されるのに、配当所得者は百四十九万円の不労所得があっても無税だという、この矛盾を大蔵大臣はどう説明せられますか。(拍手)
矛盾、瞞着、不公平は他にもあります。すなわち、重要物産の免税についての今回の改廃措置はいかん。重要物産に対する免税は、重要物産に指定された事業の創設ないし増設の場合、それから生ずる収益ないし増加分収益については、三カ年間は法人税も所得税もこれを賦課しないというものでありまするが、今回の改廃で、この重要物産のリストから石炭や金属の一部が除かれ、施設関係でも一定の限度が規定されまして、これは政府の大勇断かと思っていたのでありまするが、改正措置法を検討すると、一方において除外したと見せかけながら、他方では特別償却の拡充または全額損金算入という税法の改正で、むしろ今までの措置よりも優遇しているのであります。これは三十二年度予算を見ても明確なことでございます。すなわち、重要物産免税制度の改正で十四億円の増徴を予定していて、これにかわる特別償却の拡充で十五億円の減収を見込んでいるからでございます。これはまさに減税のたらい回しでございます。政府並びに自民党にとっては、たらい回しはお家芸かもしれませんが、これが税法にまで持ち込まれては、国民は迷惑しごくでございます。(拍手)
これを要するに、今回の改正の実体は、依然として大企業、大法人を利益し、かつ、利子生活者、配当生活者等の不労所得者の擁護をもって貫かれていることを指摘いたさないわけには参りません。大蔵大臣は、これをしも租税上の減免措置の整理合理化による負担の公平化と仰せられますか。改正の実体は、さようなうたい文句とは全く関係もないものでございます。今回の改正における特別措置の改廃基準を一体何に求めたのであるかを、この際、この会議を通じて、国民の前に明らかにせられたいのでございます。(拍手)世間ではもちろんのこと、大蔵省の内部においてすら、大蔵大臣のドライな割り切りぶりについて、免税の献金順位説すらもなしとしないのでございます。私は、この法律案を不満とする国民大衆の怒りを込めて質問申し上げるのでございまするから、正確に、まともに、その取捨選択の基準の何であるかを、あらためてお答えいただきたいのでございます。(拍手)
最後に、岸内閣総理大臣に御質問申し上げます。今日総理不在は最も遺憾と存じますが、総理に対する質問の御回答は後日機会を見てこの議場において承わるべきことを、あらかじめ要求いたします。私が今までるる所論を展開して質問いたしました通り、ただいま上程されました租税特別措置法案は、租税負担公平の原則から見て、かなり疑点があり、かえって租税特別措置を強化永久化する性質の強いものでございます。この意味から、総理は、内閣の最高責任者として、この租税特別措置法案を再検討し、英断をもって言葉の真実の意味において整理合理化する意思はないか、法案を撤回する意思がないかどうかについて伺います。一千億減税の裏面に隠れた租税特別措置の永久化は岸内閣の一大汚点となると思いまするので、岸首相の深い反省を求めるものであります。
以上をもって私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣池田勇人君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/9
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010・池田勇人
○国務大臣(池田勇人君) 平岡さんの御質問に対しましてお答えを申し上げます。
まず第一は、臨時税制調査会においては、当初一千億円程度の自然増収と考えておったのが、今回の政府案においては千九百億円になっておる。しかるに、特別措置法の改正によりまする増収が二百億円、あるいは平年度三百五十億円として、税制調査会に説明したのと変りなく、これについては自然増収の事績が見えないではないかとの御質問でございます。御承知の通り、特別措置法によって軽減しておりまする法人は、はっきりわかっておりまして、この計算は全体の自然増収というふうな計算のやり方でなしに、個々の会社につきまして最近の事績を調べた結果でございまするから、おのずから調査方法が違っておるのでございます。最近の実情によりまして、個々の会社を調べ上げて積み上げたのでございます。全体の自然増収とかね合うものではないと御了承願いたいと思います。
第二の、今回の措置によりまして、資産所得、特に長期預貯金の利子につきまして二年間の免税をしたということでございます。これは、臨時税制調査会におきましては、そういう制度は考えていなかったのであります。その事情は、昨年の春から夏にかけましては、かなり金融は緩慢でございました。しかるに、今は相当逼迫している。日本の再建には長期預貯金を必要とすることが非常に多いのでございます。私は、この際、日本再建のため、経済拡大のため、いま一応二年間だけ一年以上の長期預貯金について免税することが至当であると考えて、免税措置をとったのであります。
なお、次に配当所得の問題についてお話がございました。これは、先般もここで申し上げましたごとく、法人の配当を個人に課税いたします場合には、昔からいろいろ例がございます。また、各国とも、おのおのそのやり方を変えておりますが、いずれにいたしましても、法人は、会社というものは、個人の延長であるという考え方か、あるいは個人より別個に存在する経済主体として考えるか、いろいろ議論の分れるところでございます。従いまして、法人からの配当を個人におきまして所得税として課する場合には、いろいろのやり方がございます。私は、今の現行税法が、シャウプ税制によりまして、法人擬制説をかなり強く入れておるのでございますが、今後はこれを徐々に改めまして、そうして各国並み、あるいは昔の税制に徐々に戻したい、こういう考え方で進んでおるのであります。これも臨時税制調査会の答申よりも私はきつくいたしておりまして、徐々に今平岡さんのお話しになりましたような線に沿っていきたいと考えておるのであります。
その次に、重要物産免税につきまして、片方では重要物産免税措置をやめておる、しこうして、片方では特別償却を拡大しておる、こういうお話でございますが、その通りでございまして、重要物産の免税をしまして、そうして、初年度増収になるのは、お話のように、十四億の増収でございます。しかし、平年度の増収は五十八億円になります。そうして、また、特別償却によります減税は、お話の通り、初年度十五億円でございますが、平年度は二十五億円でございまして、決してうらはらをなすものではないのでございます。たまたま初年度は数字が合ったというだけで、考え方は別個の考え方でおるのであります。先ほど趣旨説明で申し上げましたごとく、ずっと以前からやっておりますこの租税特別措置法は、一方では租税の公平の原則を守りながら、一方では経済発展のための経済政策を加味してやっておる措置でございまして、各国とも、こういう両建のことをやっておるのであります。しかし、趣旨説明で申し上げましたごとく、相当重税を課せられておるときでございますので、できるだけこの免税措置を縮小しようとするのが今回の措置でございます。まだ十分でないところもございましょうが、これは経済の変化に応じまして、随時これを引き締めていって、公平の原則に返りたいという考えでおるのであります。決して今回の措置は租税特別措置法を永久化するものでなしに、永久化せずに随時に変えていこうという出発点に立っているところの措置であるということを、御了承願いたいと思うのであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/10
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011・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) 内閣総理大臣はやむなき所用のため出席されておりませんので、その答弁は適当な機会に願うことといたします。
これにて質疑は終了いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/11
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012・益谷秀次
○議長(益谷秀次君) 本日はこれにて散会いたします。
午後一時五十九分散会
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出席国務大臣
大 蔵 大 臣 池田 勇人君
出席政府委員
内閣官房長官 石岡 博英君
大蔵省主税局長 原 純夫君
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102605254X01619570307/12
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