1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十二年三月二十五日(月曜日)
午前十時四十四分開議
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議事日程 第十七号
昭和三十二年三月二十五日
午前十時開議
第一 最低賃金法案及び家内労働
法案(趣旨説明)
第二 国立国会図書館法の規定に
より行政各部門に置かれる支部
図書館及びその職員に関する法
律の一部を改正する法律案(衆
議院提出) (委員長報告)
第三 輸出保険法の一部を改正す
る法律案(内閣提出)
(委員長報告)
第四 雇用審議会設置法案(内閣
提出) (委員長報告)
第五 労働省設置法の一部を改正
する法律案(内閣提出、衆議院
送付) (委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/0
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001・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/1
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002・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。
日程第一、最低賃金法案及び家内労働法案(趣旨説明)
両案について、国会法第五十六条の二の規定により、衆議院の発議者から、その趣旨説明を求めます。衆議院議員多賀谷真稔君。
〔衆議院議員多賀谷真稔君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/2
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003・多賀谷真稔
○衆議院議員(多賀谷真稔君) ただいま議題になりました最低賃金法案につきまして、その提案理由及び内容の概要について御説明申し上げます。
労働保護につきましては、すでに労働基準法の制定を見、労働時間の制限、女子年少者の保護、安全、衛生の管理、災害補償等の法的措置がなされておることは御存じの通りであります。労働基準法はその冒頭において、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とうたっております。しかして労働時間と賃金は、労働条件における二つの柱となっており、天井と床の関係にありまして、いかに労働時間の規制が行われても、賃金について何らかの最低保障がなければ、労働保護立法も、その意義の大半は失われ、労働者の生活の安定は期し得られないのであります。ここに、労働時間がそれ以上に上り得ないように天井を設けたと同様、賃金がそれ以下に低下しないように床板を設ける必要があると思うのであります。労働基準法が制定されてすでに十年、この法律の眼目たる最低賃金制度が日の目を見ないことは、まことに遺憾であり、本法案は、労働基準法をして保護立法として本来の使命を達成せしめるために、その補完的立法として提出いたした次第であります。
最低賃金制度は、前世紀の末、ニュージーランドに実施されて以来、オーストラリア、イギリス、 フランス、アメリカ、オランダ、カナダ等において行われ、第二次世界大戦後の今日においては、インド、ビルマ、フィリピンのアジアの後進国及び中南米諸国に至るまで、われわれの調査によりますと、実に四十九カ国が法の制定を見、ILOにおいても一九二八年、第十一回総会において、最低賃金制度の創設に関する条約並びに最低賃金決定制度の実施に関する条約が採択されているのであります。
わが国の労働者の賃金は、諸外国に比べて著しく低く、ことに中小企業の賃金は、まことに劣悪なのであります。日本の資本主義は、農村の貧困と中小企業労働者の低賃金を土台として発展し、現在においても独占資本は、中小企業をその隷属下に置き、その基盤の上にそびえ立っているのであり、独占資本は経営の危険をほとんど下請の中小資本に転嫁し、中小資本は、またその労働者に低賃金と長時間労働を強制して、全く中小企業の労働者は、独占資本と中小資本との二重の圧迫を受けているような状態であります。しかも、最近における神武以来の好景気も、これらの低賃金労働者には潤わず、企業別労働者の賃金較差はますます拡大し、このままでは看過できない状態を現出しております。また神武以来の好況は、大企業においては臨時工、社外工という形の労働者を大量に発生せしめ、本工員と同じ作業をさせながら、きわめて低い賃金で使用し、社会問題を惹起しつつあるのであります。
さらに、わが国の賃金構造の特質に、男女別賃金較差の大きいことをあげることができるのであります。同一労働同一賃金の原則は、賃金決定における大憲章であり、労働基準法の制定と同時に、その条章にもうたわれたところでありますが、婦人労働者は依然として低賃金に押えられ、工場では、永年勤めている婦人労働者が、男子見習工員よりも安い賃金をもらっているという事実を、幾多も指摘することができるのであります。この事実の中に、婦人に対する不平等、差別的考え方の封建性の残存を知ることができるのであります。(拍手)これは全く非人道的、非社会的考え方であると言わざるを得ません。男女平等を真に叫ぶならば、わが国のこの慣習的賃金構成を打破して、近代的賃金構成にし、婦人の経済的向上をはかることが肝要であると思うのであります。(拍手)賃金は労働力の再生産を可能にするものでなくてはなりません。しかるに、現在の低賃金階層の人々は、労働力の再生産どころか、自己の労働力を消耗し続けておるような状態であります。このことは、まず人道的問題であり、最低生活水準も維持できないような賃金で人を使用することは、社会正義上許されないものであると思うのであります。(拍手)
現在、生活保護法により保護を行なっておるのでありますが、その被保護世帯の約四割程度が、実は世帯主が就職をして働いておるのであります。就職している者に、生活保護法の保護をしなければならないというこの現実は、わが国の賃金のいかに低いかを雄弁に物語るものであり、かかる低賃金は排除すべきであると考えるのであります。かような人格をも認めない低賃金の労働者に資質の向上も能率の増進も望み得ません。中小企業もいつまでも劣悪なる労働条件に依存し、企業間でお互いに価格の引き下げ、コストの引き下げ、賃金の引き下げという形の過当競争を行なっていたのでは、ついにはかえって中小企業崩壊の結果を招来すると思うのであります。本法案は、いずれの企業にも賃金の最低線を画することによって、過度の不当競争をなくし、わが党がさきに提出いたしました中小企業組織法案、中小企業の産業分野の確保に関する法律案、商業調整法案及び今後提出することになっております中小企業官公需の確保に関する法律案、その他税制、金融等の改正案とともに、中小企業の製品の高度化と量産の推進をはかり、わが国の後進的産業構造の近代化を行わんとするものであります。(拍手)
他方、対外的見地よりいたしましても、本法案は必要欠くべからざるものであります。戦前におきまして、わが国の輸出品、特に繊維製品に対しましては、ソーシャル・ダンピングの非難があり、戦後においても依然として、その復活の危惧が払拭されておりません。ガット加入に際しまして、イギリスを初め十四カ国が第三十五条を援用し、また、最近アメリカにおいての綿製品輸入禁止の法的措置が問題になったことは御存じの通りであります。かかる国際情勢下において、政府は、労働基準法に最低賃金条項があるにもかかわらず、何ら実現に努力せず、賃金審議会が四業種についての最低賃金制定の答申を行なってすでに三年、全然放置されており、わが国の資本家が、かつての低賃金と労働強化にその輸出の源泉を求めた夢の再現を企図し、最低賃金制度の実施を遷延するならば、全く逆にわが国は、国際市場における信用を失墜し、貿易への道は遮断されることは火を見るよりも明らかであります。(拍手)政府は、最近輸出産業について、最低賃金の業者間の協定の締結を勧める計画を持っておるようでありますが、かような糊塗的な対策で、
この重大な目的が達せられるかどうか、きわめて疑問に感ずるのであります。本法案は、わが国製品に対する諸外国のソーシャル・ダンピングのおそれを解消し、わが国の貿易の正常な発展に寄与せんとするものであります。
さらに、本法案は完全雇用への道に通ずるものであります。わが国の雇用問題は、完全失業者の問題ではありません。むしろ一千万と数えられておる見えざる失業、半失業、潜在失業という名で呼ばれておる不完全就労者の問題であります。完全雇用とは、単に量の問題だけではなく質の問題であります。単に職につけばよいというのではなくて、少くとも職についた以上は、労働力を償う賃金が支払われなければなりません。雇用の質的転換をはからなければならないのであります。また雇用の質が向上されるならば、家計補助のために労働市場に現われております多くの者が姿を消し、労働力化率が健全化し、雇用事情が改善されるとわれわれは確信をしておるのであります。最低賃金の設定は、労働時間の短縮、社会保障制度の確立とともに、わが国の非近代的雇用関係を解消し、完全雇用の達成に資するものであると思うのであります。
以下、内容の概要について述べます。第一に、本法案は、付則において労働基準法の最低賃金の条項を一部改正し、その改正した労働基準法の規定に基いて定めたものであります。そこで、本法の適用労働者からは、雇用労働者でありましても、労働基準法の適用を受けない船員労働者、家事使用人、公共企業体等関係労働法以外の国家公務員は除外いたしたのであります。
第二に、最低賃金の額は、十八才以上一カ月八千円といたしたのであります。十五才以上十七才未満の者につきましては、別に政令によって決定することといたしました。最低賃金額決定の基準は、各国において種々でございますが、われわれは主として厚生省社会局委託による労働科学研究所の最低生活費の研究の結果によったのであります。これによりますと、昭和二十七年八月から十月間の調査で、住生活及び公租公課、社会保険料を除きまして、家族と共同生活をしておる軽作業従事の成年男子の労働力の再生産に必要な最低限度の消費単位が七千円でありますので、これに独身者たるの条件を加え、さらにその後のCPIの上昇率、地域差等により修正し、八千円といたしたのであります。しかしながら、この画期的法律を実施するに当り、賃金の階層別分布、企業の支払い能力、その他諸般の社会的、経済的情勢を勘案いたしまして、その経過措置として、施行後二カ年間は六千円を実施することといたしたのであります。
第三に、右の金額に達しなくとも使用できるものといたしまして、技能者養成者、精神または身体の障害等により著しく労働能力の低位な者、労働者の都合により所定労働時間に満たない労働をした者、所定労働時間の特に短かい者、十五才に満たない労働者の除外例を設けたのであります。
第四に、中央賃金審議会は、物価の変動その他により、その金額を百分の五以上増減する必要があると認めたときは、労働大臣に報告しなければならないという規定を設け、労働大臣は、その勧告に基き、その必要な措置を講じなければならないといたしたのであります。
以上が、本法案の概要でありますが、なお、本法案の円滑なる運営をはかるため、一カ年間の調査期間を設け、実態の把握に努め、本法案施行に万遺憾なきを期する次第であります。
次に、家内労働法案について、その提案理由及び内容の概要について御説明いたします。
わが国の労働基準法は、雇用関係にある労働者を対象とするものでありまして、商社、工場または問屋等の業者から委託を受け、その物の製造等を自宅で行う家内労働者に対しましては、法の適用がないのであります。家内労働者には、陶磁器、漆器の製造業、西陣織を初めとする織物業の伝統的技術による手工業的生産の専業的なものと、竹製品、わら工品等の農家の余剰労働力を利用しての副業として発達しました副業的なもの、さらに、主として未亡人、半失業者、低賃金労働者の家族等によって行われております被服、手袋、造花、玩具等の製造に見られる家計補助としての内職的なものがありますが、これは資本制工場生産の時代になっても、社会の最下層労働として依然として沈澱を見ておるのであります。家内労働者は、労働保護法はもちろん、社会保険立法の恩恵の外にありまして、報酬は業者の恣意にまかされ、作業の繁閑、景気変動の危険も全部負担せしめられておる現状であります。その労働報酬の劣悪なることは、中小企業の工場労働者のそれに比較いたしましても、なお格段の相違があり、しかも作業環境も、衛生上きわめて不良にして、これら健康上必要な最低水準にも、はるかに達しない劣悪な労働条件をこのままに放置いたしますことは、全く社会問題であり、これが解決は緊要なりと考え、ここに本法案を提出した次第であります。
外国におきましても、このような実情にかんがみ、家内労働者を保護するために、最低賃金法の中で規定し、あるいは単独に家内労働法として制定し、あるいは若干の業種の家内労働を禁止する等、その労働条件の改善に努めてきておるのであります。
また、本法律の制定は、最低賃金法との関連において必要性を有するのであります。最低賃金法のみを実施いたしますと、同法は前述いたしましたごとく、雇用関係のある労働者を適用の対象といたします関係上、一般中小企業の労働者と家内労働者との労働条件の較差は、ますます拡大され、そのことは企業間の競争をきわめて不公正にいたしまして、かつ、経営者は工場を解体し、機械器具を分散して、労働者の自宅に持ち帰らせ、家内労働に逃避する危険なしといたしません。最低賃金制度の実効を上げるためにも、企業間の公正競争を期する見地からも、本法案は必要なりと考えるのであります。本法案は、大企業労働者、中小企業労働者、零細企業労働者、家内労働者と並ぶわが国の低賃金構造の最底部にあるこれらの労働者の最低報酬を保障するものでありまして、最低賃金法と相待って、わが国労働者の生活水準を引き上げ、労働者の生活の安定と資質の向上をはかり、もってわが国経済秩序の確立をはからんとするものであります。
以下、本法案の概要について申し上げます。
第一に、家内労働者とは、委託を受けて物品等の製造等に従事し、これに対し報酬を支払われる者をいうと規定いたしまして、その最低労働報酬額は都道府県労働基準局長が物品ごとに決定することにいたしたのであります。
第二に、最低報酬額決定の基準は、最低賃金法に定める時間労働賃金に当該物品等の製造等に要する標準所要労働時間を乗じて得た額とすることといたしました。
第三に、労働時間の制限その他作業環境の規制等の問題がございますが、労働の実態から規制することは、事実上きわめて困難でございますので、これは今後の研究に待つことにいたしました。
第四といたしまして、機構でございますが、最低報酬額その他を審議するため、中央駅内労働審議会、地方家内労働審議会を設け、監督組織といたしまして、家内労働監督官を置くことにいたしたのであります。本法の施行は、最低賃金法と同じく、一カ年後でございますが、調査の必要上、家内労働審議会のみは、公布と同時に発足することにいたしたのであります。
これらの二法案は、わが国の労働階級が長年にわたって熱望して参りました重要な法案でありますとともに、日本経済の正常な発展の見地からいたしましても、緊要欠くべからざるものでありますので、何とぞ慎重御審議の上、本法案に御賛同賜わらんことを望みます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/3
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004・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。竹中恒夫君。
〔竹中恒夫君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/4
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005・竹中恒夫
○竹中恒夫君 私はただいまの社会党から提出されました最低賃金法案並びに家内労働法案について、無所属クラブを代表いたしまして御質問を申し上げます。
ただいまの提案理由の説明の中で御指摘の通り、最低賃金法は、すでに世界各国において広く実施されており、また、各国の労働問題の調整機関でありまするILOにおいても、今から約三十年前に、この問題を取り上げて採択をいたしております。こうした中にあって、わが国のみがこの問題について、今日まで何らの対策も講じてこなかったということは、きわめて遺憾に考える一人であります。私はこうした法案は、本来であるならば、政府の責任において早急に提出してしかるべきであったと思うのであります。(拍手)私は、その問題はともかくといたしまして、この最低賃金法案並びに家内労働法案について、私なりの見解を持っており、両法案の内容及びその実施の方法については、若干の疑問を持つものでありまして、その提出の意義並びに御努力については、深く敬意を表するものであります。(拍手)
私は、まず最低賃金法について御質問を申し上げたいと思いまするが、最低賃金法の制定ないしは最低賃金制度の確立の必要については、社会党のみならず政府、日経連等においてすら、広く認めておるところでございまして、同時に私自身においても、それを否定するものではございません。しかしながら、私は最低賃金法の内容いかん、あるいはその実施方法いかんによっては、わが国の経済並びに産業界に重大なる影響を与えることを心配する一人であります。御承知の通りわが国においては、中小企業は全企業の九〇%以上を占め、かつこれらの中小企業の中には、零細企業、弱小企業が数多く存在していることは、周知の事実であります。そしてこれらの中小企業は、その生産力を主として労働力に依存し、それによって設備、商品、資金等の不備不足をカバーしながら、細々と経営しておるというのが実情でございます。従って中小企業の場合において、労働賃金の高低は、敏感に経営の面にはね返ってくるのであります。ところで、そうした労働力に依存度の高い現在の中小企業、零細企業をささえている基盤は、何といっても低賃金労働、長時間労働であります。もちろん中小企業とても、そうした低賃金労働ないしは長時間労働が、決して好ましいものであるとは考えておりませんが、しかし、好むと好まざるとにかかわりませず、低賃金労働、長時間労働を余儀なくされておるところに、わが国の中小企業の実態があり、日本経済の各国と異なった特殊性があると考えるものであります。もちろん、こうした哀れなる姿は、政府の永年にわたる政策の貧困無為無能の結果であることは申すまでもありませんが、そうした実態は、否定することができない現実の姿であります。最低賃金制度の確立を今日まで拒んできた理由の一つは、実は、そうしたわが国の特殊性に由来していることも事実であります。
ところで、社会党の最低賃金法案は一年の準備期間を置いて、一律に六千円の最低賃金を保障し、これに違反する者には罰則を課そうとしておるのでありまして、前述のごとき、わが国の中小企業の実態から考えて、果して同法案が中小企業に重大なる圧迫を加えることにならないでしょうか。なかんずく、現在の中小企業における最低賃金の負担力をどの程度に評価されておるか、さらには、最低賃金法実施に伴うところの企業の賃金負担が増大することによって、雇用減少という重大事態を引き起す結果とならないかどうか、それらの点につきまして、提案者の御見解をただしたいと思うのであります。
第二に私がお伺いしたいことは、最低賃金額及びその定め方並びに実施の方法の問題についてであります。本案によれば、最低賃金額を本文で八千円とし、経過措置において六千円としておりますが、八千円というものに何らかの根拠があるのかどうか。また、経過措置として六千円とした理由はなぜか、さらには、二年間を経過した後に必ずしも八千円に自動的に切りかえない場合も一応想定しておるのかどうか、これらの点について御説明を願いたいと思うのであります。
次に、社会党案は、法律において全国一律に八千円あるいは六千円という限定の仕方をとっておられますが、私の知る範囲内においては、各国において最低賃金をきめる場合に、法律においてその額を一本に定めているところはきわめて少く、アメリカ、ニュージーランド、豪州の州法等に見られる以外には、他にその多くを見ないのでございます。委員会とか、審議会による決定その他の方法がとられておるというのが一般的な傾向でございます。特にわが国の場合、大企業と中小企業間におきまする企業の較差、さらには、そこに働く労働者の賃金較差のひどいところで、社会党案のごとき全国一律一本の最低賃金を法律できめるというやり方は、何か無理なような感じを抱くのでございます。この点について、去る一九五三年五月に出された四業種に対する中央賃金審議会の答申案も、その点を明瞭に指摘いたしております。さらに、最近の労働者の考え方も一律一本の最低賃金は実情に即さないとして、業種別ないしは地域別の最低賃金を準備しておるやに聞いております。また、全労組合も業種別、職種別、最低賃金を最近発表しておりまするが、そうした一連の考え方がある中におきまして、社会党がなぜ全国一律一本の最低賃金を考えたのか、その点について提案者の御説明をお願い申し上げたいと思うのであります。さらにあわせて、業種別、地域別、職種別最低賃金についての御見解を質問したいのであります。
私は前に述べた通り、最低賃金制度の確立が早急に行われることを願ってやまない一人でありまするが、これが法案という形で提出される以上は、その法案が、具体的にわが国の実情に即し、かつ実施可能なものであることが必要欠くべからざる要件であると考えるわけであります。今までにおける私の質問は、そうした点を考慮した上からの質問であったことは申すまでもありませんが、さらに、別の面からこの最低賃金法は、他の諸政策、諸制度の上にも実際問題として相当の影響を及ぼすことを考慮しなければなりません。と申しますことは、この法案がかりに成立するといたしますならば、現在の生活保護費、さらには日雇労務者の賃金といった工合に、国家財政と密接な関係を持つ諸種の点に影響がはねかえって参ることでございます。国家財政を相当膨張しなければならない結果を引き起すことも十分考えるわけであります。こうした点を提案者はどのように考えておられるのか、まことに重要な問題でありますので、明瞭に御説明を願いたい。
最低賃金法の問題については、なおこまかい部分について種々の問題があると存じまするが、ごく基本的な質問だけにとどめまして、最後に、家内労働法の問題につきまして簡単にお尋ねをいたしたいと思います。
提案理由の説明の中で御指摘の通りに、家内労働者は、各種の労働立法が現存しながら、今日まで常に法適用のワク外におかれて、法の盲点的な存在として放置されてきたことは周知の事実であります。そこで社会党が、こうした最も労働者としても下層に位し、かつ労働法上の保護を早急に差し伸べる必要のある家内労働者のために、家内労働法を制定するという意図は、私としてある程度納得できるものでありますが、これら家内労働者の性格を分析いたしますと、彼らは副業的なもの、あるいは内職的なものとしての性格を持っているというのが、わが国、家内労働者の実態であります。そうした点を考えるときに、これら家内労働者本来の救済策としては、副業ないしは内職をしなくても、りっぱに生活をし得る基盤を国家が与えるというのが、基本的にとらるべき政策ではないかと考えるのでございます。すなわち、家内労働者に多い個人業種、農業経営者等に副業を必要としない一定所得を確保いたしまして、賃金労働者には内職を必要としない賃金を保障するための政策が確立され、実施されることが必要なわけであります。その意味におきましては、社会党のごとく、積極的に家内労働者を認め、かつこれに一定の保護を加えんとする立法は、政策的にはきわめて消極的な感じを私は持たざるを得ないのであります。この点についての提案者の御見解を承わりたいと思うものであります。
次に、法律実効の面で、私は多少の疑問を持つものでありまするが、労働基準法も満足に実施されていない現在の行政実態の中で、かりに家内労働法が制定されたとしても、果して十分にその施行ができるかどうか、はなはだ危惧の念にたえないと思うのであります。せっかく法律ができたといたしましても、それが運営面で実効が上らない場合、法律としての意義は全く無意味なものとなることは申すまでもありません。この点について、果して提案者は十分なる自信があるかどうか、そのお考えを伺いたいと思うのであります。
私の最後の質問として、社会党は、最低賃金法と家内労働法とを同時に提出されておりまするが、両法案は何か関連性があるものかどうか、その点についても御意見を伺いたいと思うのであります。
以上で、私の質問を全部終了するわけでございまするが、私は、社会党が提出されましたこの最低賃金法及び家内労働法が、わが国の低賃金労働保護、不完全就労者の解消、さらには産業の発展に重大な影響を与える画期的な法律であると信じますので、私はこの種の法案が、一日も早く成立することを念願して質問を終ります。(拍手)
〔衆議院議員赤松勇君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/5
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006・赤松勇
○衆議院議員(赤松勇君) ただいまの御質問にお答えをしたいと思います。
まず第一に、賃金の中小企業における本法実施後、賃金の増加がどの程度であるか、こういう御質問でございます。そこで十八才六千円を実施いたしました場合に、適用人員の全体に対する割合を申しますと、一人から九人までは五・四%、それから十人から二十九人までは三%、それから三十人から九十九人までは一・九%、百人から四百九十九人までは一・一%、五百人以上は〇・一八%、この平均が一・七%、大した数字を示してはいません。そこで、どれくらいな金額になるかと申しますならば、月間約三十一億円、年間約三百七十二億円、この程度であると思うのでございます。
これに対しまして、ただいま御質問がございましたように、この点は非常に重要でございまして、中小企業対策をどうするか。私どもは二つ考えておるわけです。それは消極的な対策と積極的な対策と二つ考えております。その消極的な対策というのは何か。これは御指摘のように、もし六千円の最低賃金の支払えない中小企業があるということになりまするならば、当然私どもは国家の金融機関にこのためのワクを設けまして、融資の方法を考えて行かなければならぬ、こういうように考えております。しかし、これはあくまで消極的な対策でございまして、積極的には、私どもはただいま提案理由の説明の中で申しましたように、たとえば中小企業組織法を作る、あるいは中小企業の官公需要に関する法律をば作るとか、あるいは中小企業の生産分野確保に関する法律を作るとか、こういった諸般の中小企業対策をば推進して行く。政府は中小企業団体法をば出す、これに伴って中小企業助成法をば出すという構想であったようでございますけれども、聞くところによれば、中小企業助成法、これはお出しにならぬように相なっておるようでございますが、中小企業助成法は、御承知のように中小企業の産業分野確保に関する法律でございます。今日、中小企業が一番困っておりまする点は、私は六千円の賃金が払える支払い能力があるとかないとかいう問題ではなくて、むしろ独占資本によって中小企業が圧迫をされておる、この点が私は一番大きな問題であると思う。従って独占資本の圧迫から中小企業をいかにして守って行くか、この点に重点を置きまして、社会党は、これらの中小企業対策をば促進して行きたい、かように考えております。(拍手)なお、減税あるいは機械の改良、中共貿易によるところの輸出の増大、設備の改善のための資金の融資、こういうことをばどんどんやりまして、その支払いの能力をばこれを強化して行きたい、こんなふうに考えておるのでございます。
なお、ここで一言申し上げておきたいことは、この最低賃金法を実施すれば、雇用は減少するんじゃないか、こういう御心配があると思います。確かに国民の中には、そういう心配をされておる方があると思うのです。そこで私は、決して雇用減少をば招くものではない、これは一つの例でございますけれども、最近の例を一つお示ししまして、参議院の皆さんの深い御理解をばいただきたい、こう思います。
それは世田谷の池尻商報会という、百二十五の商店が作っておりまするグループがあります。この池尻商報会でもって、この四月から最低賃金制をやるというのです。これは基準賃金、基準外賃金と合わせまして六千二百円、満十五歳から半年ごとに年令給として百円増して行く、経験給として二百円をふやして行く、従って十八歳で七千七百円になるわけです。なぜこの池尻商報会がこのような最低賃金制をば作ったかと申しますと、これは優良な店員がみな転職してしまう。しかもデパートの圧迫によりまして、こういう中小商店会というものがたんだん圧迫されてくる。これではいけない。どうしてもこれらの店員に対しまして、将来希望をもって働けるところの給与規定と退職金制度をば設けなければならぬ。すなわち商店会の近代化をはからなければ、大資本に対抗し得ない。こういう見地から、つまり経営者の立場から最低賃金制をば必要とする。こういう情勢が、今日、日本各地において起きつつあるということは、ぜひ一つ御理解願いたいと思うのであります。従ってこの要求は、労働者の中からも起きておりますが、こういう自覚した中小企業の中からも起きておる。そのため政府においても、もはやこの情勢をば棄てておけないというので、近く中央賃金審議会においてこの問題を取り上げる、あるいは自由民主党の内部において、最低賃金に関する対策委員会を設けられる。だんだん世間の関心が高まりつつあるということは、まことに社会党といたしましては欣快にたえないところであります。(拍手)
なお、もう一言触れておきまするが、いわゆる私どもの考えておりまする最低賃金制と、政府の言っておりまする業出直協定とは、根本的にその理念もあるいは内容も異するのでございます。労働大臣はしばしばこの業者協定をもって、あたかも最低賃金制のごとく言っておりまするけれども、先般も社会党に当初が参りました。労働大臣があげまする例は、静岡のマグロ・カン詰業者の賃金協定なんです。これを一つだけとりまして、まるで鬼の首でも取ったように盛んに宣伝しておりまするけれども、その当初、われわれが調べたところによりまするというと、この静岡におけるマグロ・カン詰工場の調理士、満十五才で女子の初任給は、皆さん驚くなかれ百六十円、毎年どれくらい昇給しておるかと言えば、毎年五円ずつ昇給する。五円です、五円ずつ昇給しておる。そういう不満が、今カン詰工場で高まっておりますけれども、しかも一方業者は、輸出でもって利益が増加しておるから、これは明らかに業者間の最高賃金制、すなわち賃金ストップのための協定であって、労働者を保護するところの賃金協定ではない。従って私どもの言うところの最低賃金制あるいは最低賃金法とは、その考え方を根本的に異にするものだということをば、この際一言しておきたいと思うのでございます。
なお、日雇労務者の問題でございますが、御承知のように本年度の予算の中に盛られておりまする予算単価は三百二円になっております。この六千円を割ってみまするというと、一日二百四十円でございまして、予算単価は三百二円になっておりますから、従ってその予算単価が上回っておりますから、実施は可能である。もし地域差によって二百四十円を下回るような場合におきましては、むろん政府の責任において、行政措置をばしなければならぬ、こういうふうに考えておるのでございます。
以上、御答弁申し上げます。(拍手)
〔衆議院議員井堀繁雄君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/6
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007・井堀繁雄
○衆議院議員(井堀繁雄君) 提案者の責任をそれぞれ分担する意味で、私からも、ただいまの竹中議員のお尋ねにお答えをいたして責めをふさぎたいと思うのであります。詳細なことはいずれ委員会で、準備をいたしておりますので、詳しくお尋ねをいただき、お答えいたし、また徹底をいたしたいと思うのであります。今お尋ねになりました中で、この法案にとって死命を制せられるような重要な点を二、三点指摘されましたので、この点にしぼってお答えをいたして参りたいと思います。
それは、この最低賃金法が、日本の産業構造なり、企業の実態に合わないようなものではないかという疑いを差しはさむものに対する基本的なお尋ねであったと思いまするから、この点を明らかにいたして、われわれの責任を明確にしておきたいと思います。
まず第一に、現在の日本の産業構造なり、ことに中小企業に依存する国民経済というものの実態に、果して一律一体の六千円なり、二年後に八千円なりという最低賃金がフラットで実施できるか、このことが一番重要だと思うのであります。私どもは確実に実施できるという、それぞれの資料をそろえて本案を作成したことを、まずお答えしておきたいと思うのであります。この資料については、広範囲にわたりまするので委員会に譲りたいと思います。私どもがここに大胆にお答えできますることは、最低賃金法を考える場合に、日本の場合は、労働保護法として考えると同時に、いな、それ以上のウエートを、中小企業対策としてこの法案に期待をかけておる点に御注意いただきたいのであります。日本の中小企業の存在が、資本主義経済を是認する立場におきましてこれを許しますならば、それは日本の自殺を意味するのであります。日本の経済が鎖国を許さないことは今さら申すまでもありません。国際貿易の中において、一体日本の生産というものが、今日のような経済ベースを割るような低賃金、長時間、これが一体正常なる経済であると考えますならば、おのずから問題は別であります。このきわめて不自然な、そして資本主義経済ベースを破壊するようなきわめて非近代的な、そしてこういう不公正な競争の中に日本の経済が依存しておる限りにおきましては、私はあらゆるものが、ここからこわれてくると思うのでありまして、これに基本的な一つの政策を通すところに最低賃金法の精神のあることを十分御理解願い、この点に重点を入れて御討議いただきたいと思うのであります。従いましてわれわれは、これについては十分な資料を用意し、いかなる角度からに対しても、お答え申し上げるだけの確信を持っておることを、この機会に、口はばったいのでありますが、申し上げておきたいのであります。(拍手)
第二に御指摘になりましたところの、段階的な措置をとったらどうか、ごもっともなお説であります。ことに中央賃金審議会が答申したものの中にも、四業種を通して段階的にこれを行えと答申しておるのであります。また、日本の労働組合の代表的な総同盟なり新産別なり、これらの団体も、それぞれ最賃法に対しては具体的な案を出し、総評も、もちろん全労会議も、それぞれ新しい成案をわれわれに示しておるのであります。この中にも、その主張の多少の相違はありますけれども、一貫して流れるものは、最低賃金は、理想ではない、現実の問題として、これが実施の段階に入るべきことを指摘しておる点は共通しておるのであります。これをどうして実行に移すかという方法論になりまするというと、労働組合と政党の立場の違いは申すまでもありません。労働組合の立場においてこれを行う場合においては、団体交渉の場において、あるいは労働組織を持たないところにおいてはどうするかといったような問題がございまするが、労働組合が考えまする場合と、われわれのように政治的な立場において判断する場合におきましては、おのずから違うのでありますが、この点の違いを取り除きまするならば、いずれも矛盾はありません。全く共通した見解の上に立っておるのであります。たとえて申し上げますると、全労会議が業種別にという、かつて賃金審議会の答申した段階的な措置を採用したらどうかという考え方は、十分取り入れなければならないと思うのであります。しかし、この際にわれわれは強調いたしたいことは、前段に申し上げましたように、日本の最低賃金制度というものは、各国の前例に見習うのにはあまりにも異質なものであります。その背景がはなはだしく違うのであります。この点を留意いたします場合に、皆さんも直ちに御理解できることは、地域的に、あるいは業種別にこれを考えるということは、実態の把握にもズレがあります。四年以前におきまして実態調査をしたときには、業種別による賃金較差というものは非常に大きかったのであります。その後四年間、だんだんと賃金較差というものは、業種別でなくて、規模別較差にもその極端な事例が現われてきたのであります。でありまするから、むしろ業種別よりは、規模別に考える方が実際的になってきた。ここに、四年間の答申案の背景がくずれて参りました。それどころでなく、今後の動きというものを詳細にわれわれが検討を加えて参りますると、どこに結論を求めたらよいかということになりますと、それは、冒頭に申し上げましたように、経済ベースを踏みはずした不公正な競争が依然として許されるところに問題があるのでありますから、これを是正する道は、全国一律一体に施行するという、すなわち、各国で幾つかとられておりまするような、全国一般に一律一体の基礎の上に立つ考え方に立案すべきであるという点に到達しておるのでありまして、これを動かしますると、日本の最低賃金法というものはできるべく見えて、実は急がばまわれというわれわれの考え方に到達するであろうことを確信しておるのであります。この点についても、われわれは具体的事実と資料とをもって、納得していただける確信をもって臨んでおることを御了解願いたいのであります。
なお、いろいろお尋ねがありましたが、時間の制約がございますから、多くを申し上げることはどうかと思いますが、最後に、家内労働法の問題とこの法案についての重要なお尋ねがございました。それは、竹中さんのおっしゃられるように、日本の家内労働、この状態は、私が以上申し上げた中小企業、零細企業に比較いたしますると、お話になりません。この日本の家内労働の実態は、これはもう経済問題ではありません。人道問題であり、社会問題の中においても、この問題は解決を迫られておることは申すまでもありません。こういうものを放任して福祉国家などということはナンセンスで、この問題を解決することができなければ、あらゆる政策はもう成り立たぬのであります。この問題を解決することは、私は竹中さんのおっしゃられるように、最低賃金法で考えるということは矛盾ではないか、その通りであります。しかし、以上申し上げたことで御理解できまするように、日本の実態というものが、こういうものを、これはこれ、あれはあれといって、観念的に整理して問題を処理することができない実態をここに表わしておるのでありまして、一方に最低賃金のような理想を行なおうとすれば、それが家内労働から家庭労働、そして今言うように、底なしの泥沼に落ち込んでしまうことでありましては、一方にいいことをしましても、他方に弊害を残すということで、最低賃金法に底を入れるという意味で、われわれは家内労働法というものを考えたのでありまして、これを一言にして申し上げますならば、過渡的な政策として、一番弱い部分に通して、てこ入れをして行くという点に、われわれの考え方が至っていることを御了解願いたいのであります。こう申し上げまするならば、一番混乱し、一番日本の秩序をくずしておるところに、秩序を通したい、こういうふうに御理解いただきまするならば、ただいまの御質問の方の一切は解消するのではないかと思うのであります。詳細はいずれ……。(拍手)
〔衆議院議員多賀谷真稔君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/7
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008・多賀谷真稔
○衆議院議員(多賀谷真稔君) 答弁の残りました点について御答弁申し上げます。
労働基準法も十分守られていないのに、家内労働法なんか守られないじゃないか、こういう御質問であったのでありますが、労働基準法がよく順守できない一つの原因は、何を申しましても、政府が監督行政をサボっているからであります。現在、全国に事業所が九十五万ございます。監督官は何人いるかと言いますると、千百人しかおりません。これでは、毎日各事業所を回りましても、三年に一回しか回れないような状態でございます。
もう一つ、労働基準法がよく順守できない一つの理由は、実は、労働時間の規制はございますけれども、賃金の最低保障がない関係で、労働者は、低賃金でございますから、みずから好んで時間外作業をしなければならぬという状態にあるわけでございます。その点がやはり労働基準法が十分に順守されていない原因を作っておるのでありますから、われわれは、この際最低賃金法を設けまして、そうして労働者みずからがそういう状態でないように、十分生活の保障をすることによって、労働基準法も十分順守されると考えるのでございます。
さらに、家内労働法を作りますと、審議会を設け、さらに刑に監督官を設けることにしておりますから、なお委託者、あるいは労働者の真摯な協力を待つと同時に、政府においても十分監督行政を実施されるものであるとわれわれは確信しておるわけでございます。(拍手)
さらに、最低賃金につきまして、八千円の根拠を示せと、こういうことでございますが、詳しくは委員会で述べたいと思いますけれども、現在最低生活費の研究は、大別すると四つあります。一つは実態生計費を用いるものでございますが、実態生計費を用いますと、実は実収入によって決定的影響を受けるわけでありますので、これでは十分にあるべき姿が算出できないうらみがあるわけであります。そこで、私たちはそういう方法をとりませんでした。第二には、理論生計費、要するに組合でいうマーケット・バスケット方式でありますが、なるほどマーケット・バスケットは各国でとられたところの理論でございますけれども、日本におきましては、飲食物については、よくマーケット・バスケットが出るわけでございますが、飲食物以外の生計費、生活費につきましては、そのあるべき姿、ミニマムの基準というのが、なかなか困難でございます。さらに飲食物だけをマーケット・バスケットを用いまして、あとはエンゲル係数を用いるという方法もございますが、どのエンゲル係数を用いるかが、これまた問題でございまして、私たちは、これらは今後の研究に待ちたい、かように考えております。さらに第三には、家計費の構造を統計的に分析して、消費性向を見出し、それの法則性から最低基準を算定しようという方法がありますけれども、最近いろいろ労作はありますけれども、まだこの研究は萌芽の域を脱しておりません。そこで、私たちは採用いたしませんでした。私たちが採用いたしましたのは、労働科学研究所の調査でありまして、これは世帯員について心身の状態を調べ、最低水準と一応考えられる世帯を見出して、これらの人々が現実に支出している生活費をもって最低生活費とみなそうという考え方でございますが、私たちはいろいろ理論的に研究いたしました結果、この方法を採用したわけでございます。たとえば昭和二十七年八月から十月まで、東京におきまして夫婦、七才の児童、三才の幼児、これが標準世帯でございますが、この標準世帯で月約一万一千円、消費単位は四千円でございますが、これ以下の生活はどういう状態になっているかというのが報告書に出ておりますが、それによりますと、その世帯員の体格、体力は劣り、蛋白、特に動物性蛋白の摂取不足に基いて、全血比重、血液中のヘモグロビン量が低下いたしまして、入浴も十分できず、主婦、児童の大部分は、オーバーもコートもない、雑誌も読んでいない、こういうような状態でありまして、母の知能は高くても、その子の知能指数は非常に低く、読み書き能力も低下している。かような生活環境の劣悪が、子供の精神的能力の発展を阻害して、これらの人々の生活は、まさに危機線上にあり、人間的生存さえ十分に確保されていないと報告しているのであります。四千円をこえますと、漸次全血比重やヘモグロビンの量も増して参りまして、一応危機線上は脱するわけでございますが、なお健康保持上十分でありませんが、七千円以上になって初めて健康状態もよく、衣服もよく整って参りました。そこで、住居費を除き、文化的に生活するにおいては、一応ミニマムに達することができるのではなかろうか、かように結論づけておるのでございます。そこで、その七千円に、先ほど申しましたような物価の上昇率、単身者たるの条件、地域差等を勘案いたしまして八千円としたのであります。でありますから、この八千円は、独立して生計を営んでおる者の独身者ではございません。家族とともに同居をしておる者の独身者でございます。その点間違いのないように、十分御理解願いたいと思うわけであります。
六千円にした理由はどうか。これは別に理由はございませんけれども、現在の賃金の分布状態を見ますると、あまりに低いものでありますから、いろいろな事情を勘案して、実施可能な方法として、やむを得ず六千円にしたのでございます。しからば二年後には八千円にすることになっているけれども、自動的に八千円になるのか、こういう御質問であったと思いますけれども、私たちは、現在は二年後には自動的に八千円にいたしたいと考えております。しかし、法の円滑なる運用を期するため、その間十分な中小企業対策が行われないというような場合を想定いたしますと、やはり法の円滑を期するということが政治の要諦でございますから、その際は考慮することはございましょうとも、現在においては、そういうことはないだろう、かように考えているような次第でございます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/8
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009・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 野坂参三君。
〔野坂参三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/9
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010・野坂參三
○野坂参三君 私は日本共産党を代表して、社会党が今国会に最低賃金法案を提出されたことに対して敬意を表します。(拍手)私たちの共産党も、去る三月十四日に、最低賃金制について党の見解を発表しました。そこで私はこれに基いて、社会党が提案された本法案に対して、若干の質問を試みたいと思います。
今度のいわゆる春季闘争の大きな特徴の一つは、非常に多くの労働者が、目前の生活を改善するために、連帯的な行動をとっているだけでなく、さらに進んで最低賃金制の実施を要求し、その実現のためには、実力行動もあえて辞さないという決意を持って戦っている事実だと思います。(拍手)これはわが国の歴史の上で、最初のできごとであります。どうしてこのようなことが起ってきたのでありましょうか。わが国の独占資本家とその政府は、戦後一貫して低賃金政策と労働者の民主的権利の剥奪政策をとり続けてきました。これが戦後における資本主義の復興の主要な基礎であり、また、最近における少数大資本家の膨大な利潤の主要な源泉でもあります。そうして三十二年度予算にもはっきり示されているように、岸内閣は、アメリカ直輸入の生産性向上運動なるものをてことして、一そうこの政策を強行しようとしてやっきになっております。このような岸内閣と独占資本のやり方に対して、労働者は、賃金の引き上げと民主的権利を守るために、今立ち上らざるを得なくなってきたのであります。そうして、この戦いは必然的に、労働者全体の賃金水準を引き上げるための最低賃金制の実施を目ざす階級的な共同行動へ進んできたのであります。(拍手)
ところが政府は、この労働者の必然の要求と闘争を押え、それをごまかすために、いわゆる業者間協定というような、最低賃金制とは似ても似つかないものを持ち出してきたのであります。このような事態に面して、われわれ共産党と社会党は、どのような態度をとるべきでありましょうか。それは、この政府と独占資本の政策の欺瞞性を国民の前に徹底的に暴露することであります。そうして何よりもまず、現に労働者が当面の経済的、政治的要求を掲げて広範な闘争を行なっているとき、われわれ民主政党は、ともに手を携えてこの運動をさらに発展させるために努力することであると私は考えます。そうして、このような統一行動を土台にして、最低賃金制を法制化するための活動を具体的に進めることであると私たちは考えております。国会の内外での、このような強大な勤労者の団結と闘争を組織することこそ、この要求を実現し得る唯一の道であると私たちは信ずるのであります。
以上の見地に立ちまして、私は社会党提出の最低賃金法案に対して、次の諸点について質問いたしたいと思います。
最低賃金制を法制化するために最も大切なことは、最低賃金制とはどういうものであるか、その目的は何か、この制度が、労働者階級はもちろんのこと、すべての国民にとってどのような利益があるかということを明らかにしなければならぬと考えます。最低賃金制とは、一口で言えば、独占資本の賃金切り下げに対して最低の一線を画し、それ以下の賃金を法律で禁止することであります。ですから、最低賃金制を実現することは、当面、労働者が独占資本のひどい搾取と戦い、その基本的権利を確立するための強力な武器となるのであります。また最低賃金制の実施と賃金の引き上げは、労働時間の短縮、時間外労働の廃止を可能にします。それはまた、社会保障制度な守り、改善することと密接に結びついております。さらに重要なことは、先ほども提案者から申されましたように、最低賃金制はこのように労働者に利益になるだけではありません。農民、中小零細業者などにとっても、最低賃金と見合うその自家労賃を政府に認めさせ、これによって低米価政策や苛酷な税制による収奪をはね返して行くための武器にもなるのであります。(拍手)このように、最低賃金制は、労働者、農民、中小業者に対する独占資本の収奪からみずからを守り、わが国の低賃金労働を押え、ひいては国民全体の貧困状態を改善する政策の主要な一環となると私たちは考えます。私は、最低賃金法は、以上のような精神によって貫かるべきものだと信じます。
そこで、私はまず第一に本案提案者にお聞きしたいことは、最低賃金法案は、以上の精神を実現することを目的とすべきであると思いますが、この点について提案者の見解を伺いたいと思います。
次に以上の趣旨で、私は少し具体的な問題についてお聞きしたいと思います。本法案は、労働基準法の規定に基くことを建前として立案されておりますが、私はさきに述べましたように、最低賃金制の精神を真に実現するためには、労働基準法のワクの中に縛られることなく、労働三法と同様、単独法として制定さるべきものであるように考えます。この点についての提案者の御見解を聞きたいと思います。
第三に、賃金は労働者と資本家の団体交渉によってきめられるべきものであります。そのことは労働組合法によっても定められている原則であります。従って、労働基準法に基いて労働大臣がきめるというような制度にすべきではなくて、労働者とその使用者が団体交渉を行う場を確保するような委員会を設け、その委員会の決定に政府並びに資本家を従わせるような規定にすべきであると考えるが、提案者はどのようにお考えになりますか。
第四に、最低賃金法の適用範囲についても、労働基準法をもとにしてきめるのではなく、公務員をも含む全労働者とすることが最低賃金制の以上の精神によりよく沿うものと思うが、この点はいかがでありましょう。さらに、本法案とあわせて提案されている家内労働法の対象とされる人々も、最低賃金法の中に含めるべきではないかと私たちは考えますが、いかがでありましょう。
第五に、本法案の提案理由の説明の中で、「賃金は労働力の再生産を可能にするものでなくてはならない」と言われておりますが、私もこの原則には全く賛成であります。この原則から見れば、一家の生計を維持することすらできないような低賃金の現状を打破し、最低賃金を基礎にして現在の賃金水準を大幅に引き上げるべきであります。しかるに、本法案で規定している最低賃金の額が六千円、二年後八千円というのは、以上の立場から見て、はなはだ低いのではないでしょうか、この点について提案者の御意見をお伺いしたいと思います。
また提案者は、「同一労働、同一賃金」の原則を最低賃金法の根底に置かなければならないと言われております。私はそれは当然であると考えます。従って、この原則に基いて最低賃金額を決定するに当っては、性別、年令別などの区別にとらわれてはならないし、婦人、年少者なるがゆえに不当な身分的差別を受け、家計補助的な賃金しか払われないような現状は、許さるべきではないと考えるのであります。ところが本法案には、年令給的な考え方が入っているように思われ、十五才以上十八才未満の特別措置を規定していることなどを考えると、一そうその感を強くするのであります。
以上の二点について明らかにされなければ、この最低賃金法の実質は、労働者の期待から、はずれたものになるおそれがあり、労働者もこれらの点について、大きな不安と危惧の念を持っているのであります。最後にこの点について、具体的な説明をお願いするものであります。
以上で私は質問を終りますが、この際、特に提案者である社会党の諸君に一言申し上げたいと思います。総評を中心とする労働者大衆は、最低賃金制の実施を要求して、明日ストライキを断行しようとしております。この労働者大衆の要求と戦いを成功させるためには、同じ勤労者の党である社会党と共産党とが、国会の中でも外でも、保守勢力に対抗して、緊密に提携して行動すべきではないでしょうか。このような労働者階級と、社会党、共産党の結果した力こそが、最低賃金制を実現する最大の力であり。さらに進んでは新しい日本を作る基礎になるとも考えるのであります。
私の質問はこれで終ります。(拍手)
〔衆議院議員赤松勇君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/10
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011・赤松勇
○衆議院議員(赤松勇君) ただいま野坂さんから、最低賃金法本来の目的は何か、またどうあるべきかという、最低賃金理論の根本に触れられ、問題を提起されたわけでございます。おそらくこの問題は、今後最低賃金法もしくは最低賃金斜度をめぐって、非常に大きな論争の中心になると思います。私どもはこの機会に、私どもの見解を明らかにしておきたいと思うのでございますが、御承知のように、今私どもが論議しておりまする法案、このうちに掲げておりまする最低賃金というものは、いわゆる価値貫徹論ではないのでございます。すなわち技能費や養成費等は含まれておりません。これは生活費でございます。当然技能費あるいは養成費等を含むべきであるという意見もあるのでございまするけれども、私どもといたしましては、ただいま多賀谷君から、その根拠をば説明申し上げましたように、生活費として、これを本法に、最低限度の生活すなわち労働の再生産のために、生存に必要な最小限度の賃金を、国は法律をもって支払えということを規定したものでございまして、もしその中へ、今言いましたような技能費あるいは養成費等を含みまするならば、これは最高賃金制に転化するおそれがあるのでございます。従いまして、私どもとしましては、労働力の価値をこの法律できめようとは考えておりません。それは、各労働組合の諸君がそれぞれの職場におきまして、今総評が申しておりまするような、いわゆる産業別的な賃金保障額というものをば求めている、しかしそれはあくまでも補完的な役割をするものでございまして、先ほど井堀君の説明にありましたように、私どもは、いま低賃金の底に一本大きく筋金を入れるのだ、それ以下では使ってはならないのだ、それ以下では生存できないのだ、こういう考え方で、将来はむろんこの額を、必要に応じて、あるいは社会情勢に即応して上げて行きたい、こういうふうに考えておりまするから、さよう御了承願いたいと思うのであります。
なお今、野坂さんからまた別の問題が提起されました。それは、この産業別賃金保障額というような最低賃金問題を中心といたしまして、広く統一戦線を張ったらどうか、こういうお話がございまするが、実は私どもは、そういうものは統一戦線の基礎にはならない、むしろこの最低賃金法を全体として実現することが労働者の統一行動を保障するものだ、こういうふうに考えておるのでございます。なお、団体交渉で賃金をきめるのが原則である、その通りでございます。私どもも、そう考えております。ただ賃金をスライドする場合、御指摘のように三者構成、政府、資本家、労働者、この三者構成でもって、これを団体交渉の場にして、ここでもってきまったものをば政府に実施をさせるようにしたらどうか、もっと法で強く縛ったらどうか、こういう御意見でございまして、こういう点につきましては、むろん私どもも、その意見は非常に重要な御意見である、傾聴に値する御意見であると、こう考えておりまして、今後十分研究してみたいと思います。(拍手)
〔衆議院議員井堀繁雄君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/11
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012・井堀繁雄
○衆議院議員(井堀繁雄君) 具体的な御質問がございましたけれども、前段の考え方の上に、私どもと多少相違がございますので、具体的な点についてお答えがちぐはぐになってくることはやむを得ぬと思うのであります。それは第一に、あなたが御指摘なさいました最低賃金の目的を明確にすることと、それがただ単にこの適用を受ける労働者の利益だけではなく、国民全体にどのような利益を均霑するものであるかということを明らかにすることが大切だという御趣旨については、全く御同感でありまして、この点については、われわれはかなり力を注いでおるつもりであります。ただに適用を受ける労働者の保護だというのではなくて、国民経済全体に対する基本的な政策として、この法案が重要であるということを高く掲げておるのであります。
次に、具体的な問題についてお尋ねになりました。この法案の基本的な条件の一つでありまする最低賃金が、今日の場合、六千円、八千円が問題になりますが、時間的にどういう変化をとげて行くかという見通しを、あらかじめこの法律がいたしておることは御指摘の通りであります。それをどういうふうに操作して行くか、たとえばスライドをする場合における賃金の基本要素でありまする賃金の支払い能力、あるいは賃金の基本的構成要素でありまする労働の再生産をどう見て行くか、この問題は、私は、大きなやはり政治的な背景であるとか、思想的な背景によって異なってくるものであると思うのであります。それをあらかじめ見通しをつけないで立法するということは、もちろん危険でありまするので、この点については、野坂さんの御指摘されましたように、労働組合ないしは労働者、あるいはそれに関連する人々が、一つの基準を示して、これに資本家を従わしめるという行き方は適当でない。やはり経営者に対しても納得せしめるような組織と内容をもって実行に迫ろうという考え方は、野坂さんも指摘されまするように御不満であろうと思うのでありますが、この点は残念ながら基本的に考え方が相違いたしておりまするので、満足する答弁ができないことを残念に思います。いずれこの問題は、委員会などで、激しく具体的な論議になることだと思います。この点だけ申し上げておきます。
〔衆議院議員多賀谷真稔君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/12
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013・多賀谷真稔
○衆議院議員(多賀谷真稔君) この最低賃金法をなぜ労働基準法のワク外にとどめたのか、こういう御質問、さらにまた家内労働法と最低賃金法を一本にすべきではないか、こういう質問であったと思いますが、これは関連事項でありまするので、一括して御答弁したいと思います。
実はこの点につきましては、各国の法制、いろいろ区々でございまして、労働法典の中に、最低賃金条項も家内労働条項も一緒に含めておるところもございます。これは御承知のように、フランスを初めといたしまして、パナマ、グアテマラ、コロンビア、ボリビアという中南米の国がそういうシステムをとっております。さらにまた、最低賃金の法律に家内労働法を一緒にして、そうして最低賃金法とうたっておる国もございます。アメリカは、名前は違いますが、公正労働基準法で、これは家内労働法も含めております。またイギリスでは賃金審議会法によって、これも一緒に扱っております。また最近では、アジアの諸国、あるいはインド、ビルマ等がやはり最低賃金法一本で家内労働者を含めております。こういう行き方もあるわけでございます。また単独に家内労働法を制定した国もございまして、西ドイツ、オランダ、スイス、ノルウェー、オーストラリア、ベルギーというような、いわば西欧の先進諸国がそういう形態をとっております。そこでわれわれといたしまして、どういうシステムをとるかということは、いろいろな議論をしたわけでございますが、御存じのように現在労働基準法にも最低賃金条項がございます。さらに船員法にも最低賃金条項がございまして、労働保護法として基本法が違っている、こういう形になっておるのであります。そこで私たちといたしましては、一応労働時間あるいは賃金の支払いその他についても、基本法にあるからして、その基本法にのっとるところの労働者を対象として、そうして最低賃金法を作ったらどうか、こういうことで、基本法が違っておりますから、一応補完立法の形で作ったわけでございます。御説のように、全労働者の賃金条項をあらゆる法律から引き抜いて最低賃金法を作るという考え方もありますけれども、これは現在の労働法体系をかなり変更をしなければならない、こういう実情がございまして、私たちは一応労働基準法にのっとって最低賃金法を作り、国家公務員の場合には、給与法の改正をやればけっこうですから、それを行い、さらに船員につきましては船員法の最低賃金条項の変更を加えたい、こういうことを考えておるわけでございまして、野板さんのお説と私たちがとった態度とは、最低賃金法の重要性の認識においては何ら変るところがない、ただ立法技術の問題であると考えておるわけでございます。(拍手)
それから、実は、「同一労働、同一賃金」とうたっておきながら、何か十五才から十七才の者については年令差を設けるような考えをしておる、これは不当ではないか、こういうお話でございましたが、なるほど「同一労働、同一賃金」で、性別、年令別なく、全部の労働者に適用するような最低賃金を作ればけっこうなんですけれども、実は労働基準法も、十五才から十七才までの労働者は、年少者として労働基準法上いろいろの制約を加えております。そこで労働基準法といたしましては、一応成年労働者ということになりますと、十八才でございますので、私たちは、御事情はよくわかりますけれども、一応労働基準法が年少者として、成年労働者として扱っていない十五才から十七才の者につきましては、別に設けた次第でございます。
最後に、私たちはこの法律がぜひ早急に、遷延を許さざる状態になっておるということを一言申し上げたいと思うのであります。政府が出しました経済企画庁の昭和三十一年度の年次経済報告、いわゆる経済白書にも、その点を非常に明確に書いております。と申しますのは、わが国の賃金構造の第一の特徴は、諸外国に見られない規模別賃金較差の異常な幅である。賃金の規模別較差は戦後一時縮小したが、最近再び拡大した、こういうことを言っております。そういたしまして、製造業における戦前の賃金の規模別較差を工場統計表によって見ると、千人以上の事業所を一〇〇といたしまして、五人から九人までが男子で七二・七%、女子で七一%になっておるが、昭和二十九年の個人別賃金調査によると、その較差が非常に大きくなっておる。千人以上を一〇〇といたしますと、十人から二十九人の規模別においては、男子が五三・三、女子は六一・五であると述べております。そうしてその末尾におきまして、このような就業状態の改善には、基本的には日本経済の持続的な安定的発展と、それによる完全雇用への接近及び社会保障の強化が必要であろうがさしあたっては拡大する所得較差の緩和政策がきわめて必要である。こう述べておるのであります。さらに、同じく三十一年度の厚生省大臣官房企画室が出しました厚生白書にも、その点をうたっておるのでありまして、「国民の生活はいかに守られているか」、こういう章で、「復興の背後に取り残された人々」、こういう欄に次のように述べております。「戦前にくらべると、戦後の国民生活においては、一時、上下のひらきが縮まり、所得が平均化するという傾向が見られた。」、しかし、「昭和二十七、八年頃を境目として、国民の生活水準の上下のひらきが、再び拡大する傾向が現われてきた。」と、警告しておるのでございます。でありますから、私たちは、今、神武以来の景気であると言われておる今日において、この法案の制定を見なければ、今後ますますこの賃金較差、所得較差は拡大をせられて、そうして永久に低所得者は沈澱をして行く、これは日本経済にとってきわめて重大な問題であると確信し、われわれは、すみやかなる皆さん方の御賛同を得たいと思うのであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/13
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014・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) これにて質疑の通告者の発言は、全部終了いたしました。質疑は、終了したものと認めます。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/14
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015・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 日程第二、国立国会図書館法の規定により行政各部門に置かれる支部図書館及びその職員に関する法律の一部を改正する法律案(衆議院提出)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。議院運営委員長石原幹市郎君。
〔石原幹市郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/15
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016・石原幹市郎
○石原幹市郎君 ただいま議題となりました国立国会図書館法の規定により行政各部門に置かれる支部図書館及びその職員に関する法律案の議院運営委員会における審査の経過及び結果について御報告申し上げます。
この法律は、行政各部門に置かれる国立国会図書館支部図書館の設置を確認し、これら支部図書館に専任の職員を置き、その任免及び定数に関して規定すること等を内容といたしまして制定されたものであります。その後、新しい支部図書館の設置、あるいは行政機構の改革に伴う支部図書館の名称の変更等に関して改正が行われましたが、今回は、科学技術庁に国立国会図書館支部図書館が設置され、また気象台が気象庁に変りましたので、現状に沿うよう所要の改正を行うものであります。
本委員会におきましては、慎重にこれを審議いたしました結果、全会一致をもって可決すべき亀のと決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/16
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017・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 別に御発言もなければ、これより本案の採決をいたします。
本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/17
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018・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本案は、全会一致をもって可決せられました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/18
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019・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 日程第三、輸出保険法の一部を改正する法律案(内閣提出)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。商工委員長松澤兼人君。
〔松澤兼人君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/19
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020・松澤兼人
○松澤兼人君 ただいま議題となりました輸出保険法の一部を改正する法律案について、商工委員会における審議の経過並びに結果について御報告申し上げます。
輸出保険法は、昨年一部改正をいたしまして、海外投資保険の制度を新設いたしたのでありますが、最近、中南米、東南アジア等に対する海外投資が盛んになりつつある情勢から、海外投資に伴う危険を担保する範囲を拡大し、あるいは填補率の改善を加え、一方、投資者が海外であげた利益を本邦に送金できないことによる損失をカバーするため、海外投資利益保険を新設することによって海外投資を促進し、輸出貿易その他の対外取引の健全な発達をはかろうとするものであります。
次に、本改正案の概略を御説明いたしますと、海外投資保険の改正と海外投資利益保険の創設の二点でございますが、まず、海外投資保険の方から申し上げますと、本法案で、海外投資利益保険を新設する関係上、海外投資元本保険と名称を改め、内容としましては、現行法では、戦争、革命、内乱によって、被投資法人が解散するとか、事業休止をした場合を保険事故としていましたのを、暴動、騒乱による場合を加えるとともに、設備、原材料のような物に関する権利や、鉱業権、工業所有権のような事業遂行上特に重要な権利を侵害された場合を加えたのであります。また、保険事故発生の要件としては、従来は被投資法人が解散した場合に、株式等の処分または清算の終了を要件としていたのを、解散の事実によって保険事故が発生するものと改めました。さらに、填補率を百分の六十から百分の七十五に引き上げるとともに、保険金の算定方法にも若干の改正を加えております。
次に、海外投資利益保険について申し上げますと、この保険は、外国における為替取引の制限、禁止、戦争、革命、内乱による為替取引の途絶、外国政府等による配当金の管理、配当金の送金保証の不履行、配当金の没収等の事由によって、株式等の配当金を一定期間本邦に送金できないことにより受ける損失を填補する保険でありまして、その填補率は百分の七十五であります。その他保険金の算定方法を規定してございます。
以上が本法案の内容の概略でありますが、商工委員会におきましては、輸出保険のあり方、クレーム保険の新設等、各委員から熱心な質疑がかわされました。その詳細につきましては会議録で御了承願うことにいたします。
質疑が終了しまして、討論に入りましたところ、別に発言もございませんでしたので、直ちに採決いたしました結果、全会一致をもって原案通り可決すべきものと決定した次第であります。
以上、御報告を終ります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/20
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021・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 別に御発言もなければ、これより本案の採決をいたします。
本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/21
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022・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本案は、全会一致をもって可決せられました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/22
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023・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 日程第四、雇用審議会設置法案(内閣提出)
日程第五、労働省設置法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
以上、両案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/23
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024・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
まず、委員長の報告を求めます。内閣委員長亀田得治君。
〔亀田得治君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/24
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025・亀田得治
○亀田得治君 ただいま議題となりました雇用審議会設置法案及び労働省設置法の一部を改正する法律案につきまして、内閣委員会における審議の経過並びに結果を御報告いたします。
まず、雇用審議会設置法案について申し上げます。
政府が今回この法律案を提出して、雇用審議会を設ける理由として、政府は、完全雇用の達成を施策の重要な目標として掲げ、雇用問題の解決に努めているが、この雇用に関する問題点を的確に把握し、完全雇用達成の目標に向って諸施策を運営して行くがためには、各方面の有識者の意見を徴することがきわめて必要であると考え、従来、総理府に設置されていた失業対策審議会を改組、強化して、雇用審議会を設置することとしたというのであります。
次に、本法律案の内容の概略を申し上げますと、雇用審議会は、完全雇用の達成を目標として、政府の諸施策の運営に資するがために設けられる総理府の付属機関でありまして、雇用構造その他雇用及び失業の状態に関する事項、雇用状態の改善のための施策に関する事項、失業対策に関する事項、その他雇用及び失業に関する重要な事項について調査審議し、これらの事項に関し、内閣総理大臣または関係各大臣の諮問に応じ、かつ所要の意見を述べ、または報告することをその所掌事務としております。本審議会は、学識経験のある者のうちから内閣総理大臣が任命する非常勤の委員三十人以内をもって組織し、その任期は二年とし、会長及び副会長は委員の互選によって定めることとなっておりまして、なお、専門の事項を調査審議させるため、専門委員三十人以内と、委員及び専門委員の補佐として幹事二十人目内を置くことができることとなっております。また、審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係各行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明、その他必要な協力を求めることができることとなっております。なお本審議会の設置に要する経費として、三十二年度予算には二百三万六千円が計上されております。
内閣委員会は、委員会を四回開きまして、本法律案の審議に当りましたが、この審議におきまして、従来置かれている失業対策審議会を廃止して、新たに木審議会を設ける理由、従来、失業対策審議会の答申を政府は施策の上にいかに取り入れたか、また、今後いかに取り入れるかの点、完全雇用に関連する各種の問題、特に政府の完全雇用に対する考え方、完全雇用実現のために政府が今後実施せんとする基本施策、経済規模の拡大と雇用との関係、本審議会の今後の運営方針などの諸点につきまして、松浦労働大臣その他関係政府委員と内閣委員との間に質疑応答が重ねられましたが、その詳細は、委員会会議録に譲ることといたします。
去る二十二日の委員会におきまして、質疑も終結いたしましたので、討論に入りましたところ、秋山委員は日本社会党を代表して、また上原委員は自由民主党を代表して、それぞれ本法律案に賛成の旨の発言がありましたが、特に秋山委員より、「わが国の雇用問題は、単純な失業対策問題でなく、これを含めてのより広範な就業問題であり、一千万をこえる不完全就業者、半失業者の賃金、その他労働条件の改善にその最重点が置かれなければならない、政府のいわゆる経済拡大政策が、最低賃金法、家内労働法、雇用基本法などの法的裏づけを伴わなければ、雇用問題の解決には役立たない、本審議会は、これら雇用、就業問題につき徹底的調査を行い、遺憾なき政策の立案に努められたい、また政府は、本審議会委員の人選については、雇用問題の重要性にかんがみ、旧套にとらわれず、最適任者を得るよう十分検討されたい」旨の政府に対する要望が述べられました。最後に八木委員は、「本法律案には反対である」、その理由として、「従来、各種審議会の例を見ると、審議会の運営は、とかく形式に流れ、また政府の責任のがれのきらいがある」旨の発言がありました。
かくて討論を終り、直ちに本法律案について採決いたしましたところ、多数をもって原案通り可決すべきものと決定されました。
次に、労働省設置法の一部を改正する法律案について申し上げます。
本法律案の改正点は、労働大臣官房に官房長を置くことであります。その理由として、政府の述べるところによれば、「労働行政においては、省内各部局を通じ、総合調整を要する事項が多いのであるが、特に最近は、経済政策、社会政策などとの関連で、総合的角度から検討を要する事項が増大し、従って省内各部局にわたり調整を要する事項も量的、質的に増大し来たったのと、また、他のほとんどの省に官房長が置かれておる例に徴して、今回、労働省においても官房長を置く必要がある」というのであります。
内閣委員会は、前後三回、委員会を開き、その間、松浦労働大臣その他関係政府委員の出席を求めまして、本法律案の審議に当りましたが、その審議におきましては、今回新なに労働省に官房長を置くに至った理由、現在、官房長を置く省と置かない省とがあるが、官房長を置くのはいかなる基準によってきめるのか、官房長を置いた場合、仕事の面における事務次官と官房長との関係などの諸点につきまして質疑応答が行われましたが、その詳細は、委員会会議録に譲ることといたします。
去る二十二日の委員会におきましては、別に討論もなく、直ちに本法律案につき採決いたしましたところ、多数をもって原案通り可決すべきものと決定されました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/25
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026・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 別に御発言もなければ、これより両案の採決をいたします。
両案命部を問題に供します。両案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/26
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027・松野鶴平
○議長(松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって両案は、全会一致をもって可決せられました。
本日の議事日程は、これにて終了いたしました。
次会の議事日程は、決定次第公報をもって御通知いたします。
本日は、これにて散会いたします。
午後零時二十九分散会
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102615254X01819570325/27
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