1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十四年三月二十五日(水曜日)
午前十時三十九分開議
出席委員
委員長 長谷川四郎君
理事 小川 平二君 理事 小平 久雄君
理事 中村 幸八君 理事 南 好雄君
理事 田中 武夫君 理事 松平 忠久君
新井 京太君 岡本 茂君
坂田 英一君 關谷 勝利君
中井 一夫君 野田 武夫君
山手 滿男君 板川 正吾君
今村 等君 内海 清君
大矢 省三君 勝澤 芳雄君
小林 正美君 鈴木 一君
堂森 芳夫君
出席政府委員
特許庁長官 井上 尚一君
委員外の出席者
参 考 人
(海野工業技術
研究所所長) 海野 幸保君
参 考 人
(弁理士) 大條 正義君
参 考 人
(発明協会理事
長) 齋藤 肇君
参 考 人
(婦人発明家連
盟顧問) 竹内 壽恵君
参 考 人
(株式会社高北
農機製作所顧
問) 高北新治郎君
参 考 人
(株式会社日本
水産機械公社代
表取締役日本水
産機械工業協同
組合請願委員
長) 林 壽君
参 考 人
(日本特許協会
特許委員会委員
長) 井上 一男君
参 考 人
(元法制局長
官) 村瀬 直養君
専 門 員 越田 清七君
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三月二十四日
日中貿易促進等に関する陳情書
(第四五四号)
横浜市に輸出雑貨センター共同検査場設置に関
する陳情書
(第四六一号)
小売関係法案に関する陳情書
(第四六三号)
中国産生漆輸入に関する陳情書
(第四六四号)
同(第五七八号)
日中貿易再開による漆輸入に関する陳情書
(第五〇四
号)
中小企業の育成振興に関する陳情書
(第五〇七号)
日伯貿易に関する陳情書
(第五二四号)
百貨店法の一部改正に関する陳情書
(第五八三号)
石炭産業の振興等に関する陳情書
(第五八四号)
電灯及び区電力料金に対する特別措置存続に関
する陳情書(第五
八五号)
は本委員会に参考送付された。
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本日の会議に付した案件
特許法案(内閣提出第一〇八号)(参議院送
付)
特許法施行法案(内閣提出第一〇九号)(参議
院送付)
実用新案法案(内閣提出第一一〇号)(参議院
送付)
実用新案法施行法案(内閣提出第一一号)(参
議院送付)
意匠法案(内閣提出第二三号)(参議院送付)
意匠法施行法案(内閣提出第一二二号)(参議
院送付)
商標法案(内閣提出第一五八号)(参議院送
付)
商標法施行法案(内閣提出第一五九号)(参議
院送付)
特許法等の施行に伴う関係法令の整理に関する
法律案(内閣提出第一六〇号)(参議院送付)
特許法等の一部を改正する法律案(内閣提出第
一五七号)(参議院送付)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/0
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001・長谷川四郎
○長谷川委員長 これより会議を開きます。
特許法案、特許法施行法案、実用新案法案、実用新案法施行法案、意匠法案、意匠法施行法案、商標法案、商標法施行法案、特許法等の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案及び特許法等の一部を改正する法律案、以上十法案を一括して議題とし、審査を進めます。
本日は、これから以上の十法案の審査のため、参考人として日本特許協会特許委員会委員長井上一男君、海野工業技術研究所所長の海野幸保君、弁理士の大條正義君、発明協会理事長の齋藤肇君、株式会社高北農機製作所顧問の高北新治郎君、婦人発明家連盟顧問の竹内壽恵君、株式会社日本水産機械公社代表取締役の林壽君、元法制局長官の村瀬直養君、以上八名が出席されることになっております。現在村瀬直養君を除く各参考人が出席されておりますので、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日はきわめて御多忙中にもかかわらず、当委員会に御出席下さいまして、まことにありがとう存じました。議題となっております十法案につきましては、申し上げるまでもなく大正十年以来の全面改正であり、今国会当委員会の審査案件中最も重要な案件の一つでありまして、政府に対する質疑のみならず、本日これからの問題に関係の最も深い方々の御意見をお聞きすべく、大へん急ではありましたが、わざわざ御出席をわずらわした次第であります。どうぞ忌憚のない御意見をお述べ下さいますようお願いを申し上げます。ただ、時間の都合がございますので、最初に御意見をお述べ願う時間は大体一人十五分程度にしていただいて、後刻委員から質疑もあると存じますので、その際に十分お答え下さいますようお願いを申し上げます。
なお、念のために申し添えておきますが、規則の定めるところによりまして、参考人の方が発言なさいます際には委員長の許可が必要でありますし、また、委員が参考人の方に質疑することはできますが、参考人の方が委員に質疑することはできないことになっておりますから、以上お含み置き願いたいと存じます。
それでは、これから順次参考人の方方に御意見をお述べいただくことにいたします。
なお、発言の順位は、勝手ではございますが、委員長においてきめさせていただきます。まず海野参考人にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/1
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002・海野幸保
○海野参考人 私は海野幸保であります。このたびの特許法の改正案につきまして、一、三申し上げさしていただきます。
特許法の今度上程した新議案は、最初から六年間かかっているというお話ですが、六年の後に再び法案を出す前に審議会にかけたかどうか。かけずにそのまましても法律上は差しつかえないという話ですが、どうも審議会にかけないでそのまま上程したように思われるのです。そういうことはまことに遺憾なことでないかと思いますので、ここに「特許管理」という本がございます。これを読みまして申し上げます。ごく簡単なところを一部だけ読みますから、どうぞそのおつもりでお聞き下さい。「特許法改正案について」吉原隆次、はしがき「今回の特許法の改正案は改善された点が多いけれども、改悪された点も多い。」そこに何々と書いてありまして、そのあとで、「法案は個人の作文や論文ではない。よき古き伝統を破壊することが進歩ではない。よき古き伝統を尊重し、後人は先人の研究を基とし、研究に研究を壷ねてこそ、進歩も改善もあり得る。」ということがこの第十一号に書いてあります。第十二号「特許法改正案について(その二)と吉原隆次、はしがき「私は特許法改正案について(その三)として、改正案第二条第一項、第二十九条、第三十条の規定の説明を書く為に、繰り返して読み、特に比較して考える為に、商標法改正案第二条の商標の定義及び商標の使用の項を読んで、まことにおどろいたのである。立案者や法制局の方々はその法律の特有の理念、根本精神、よき伝統的の解釈、取扱を研究し、理解し、立案したのであろうか、自己を空しくして静かに考えて立案したのであろうか、よき伝統をも破壊することを進歩と考えたのではなかろうか。若し、今の改正案が、軽い審議で、公布され、実施されたなら、大変なことである。改正案は、改めて、専門的知識がある各界の一人、二人の代表者(従来の審議会委員中の専門家でもよい)の審議を経て、国会に提出するのがよい。改悪し、「悪法も亦法なり」などと、いわれるような法律を、制定してはならない。」と書いてあります。
それで、この審議過程で、審議についてはまだいろいろ不十分な点があると思うのです。それですから、これはいま一年くらい練ってそれから出してもらってもおそくはないじゃないか、こんな百年の大計をするためにあまり軽率にやってはいけない、こう私は思うのでございます。中松特許法といって中松さんのやった特許法は非常にいいといって、外国人にもほめられたんだそうでございます。それで、もう四十年間やっておりますのに、きょうあすといって、あわてて上程々々といっていきり立つ必要はないと僕は思います。きょうこちらにおいでの方々はみな中小工業家あるいは発明者の一人でございまして、ほんとうに今までまだお呼び出しを受けたことのない方々です。ここで工業所有権制度改正審議会の委員の名簿を拝見したのでございますが、この中にはほんとうの町の発明者は入っておりません。代表者として発明家が入っておりますが、これは発明協会の方はまた別問題であります。そういう点で、町の発明者といい、PR運動もしておらないのです。私が聞いたのは去年の十二月です。それからあわててこんなことでは、日本の国民の状況においてこういう法案はまだ無理じゃないか、そう思いましたので、急いでわれわれ民間の団体に申し上げて、きょうは皆さんが出たわけでございます。
第二、除斥期間の廃止、これはまことに困ったことでございまして、これはどうぞ廃止をしないでもらいたい。それはどういう理由かといいますと、除斥期間が廃止されますと、たとえば実用新案十カ年といたしますと、十カ年間特許権が不安定にされておるということでございます。特許権が不安定ということは、銀行では担保に取らないということです。特許庁の方々もだいぶおいでですが、日本の状況を見ると、イギリスのような、アングロサクソンのような民族のやっているのと日本は違う。米国のように資源がうんとある国ならこれは別だが、日本のように資源がなくて、そして何でやっていくかというときには知的工業以外にない。その知的工業というものは、科学文明なんだ、科学行政なんだ。諸君たちは文化行政じゃない。よほどその点は考えてもらわなくちゃ困る。ここに日刊工業に新しい産業構造方式というものを石田制一という人が書いておる。その終りにどういうことが書いてあるかというと、「以上の結論としては経済行政は常に科学技術の本質にもとらないようにあるべきだ」ということを結論に書いてあります。日本は科学行政をこれから振興させなければならない状況にあるのです。そのときに当りまして、除斥期間があって、除斥期間の後にそれが工業所有権というものになった場合には、日本のような貧乏な国ではなかなか担保にどこの銀行でもとってくれない。私はわざわざ自分で個人事業をやっております。海野工業技術研究所でございます。私は個人の生活が日本で成り立つか成り立たぬか、自分でこの研究所を作ってみている。どこへ行ったって金は一銭も貸さない。私はかなりの財産を担保に入れて借りている。物件担保以外には、日本ではどの銀行でも貸さない。日本の銀行は商業銀行なんです。日本のはいわゆる投資銀行ではない。その商業金融の金を使っているのだから工業が発達するはずは絶対にない。それを工業金融になぜ切りかえないか。そして工業金融に切りかえた中小金融公庫なんかに行くと、六カ月の後から払えという。これから新しい事業をして六カ月の後から払っていけるもんかというのです。払ってごらんなさい、絶対にできない。私は個人で何とかして日本のために立ってみたい、そしてみんなに知らせていきたいと思って、個人でわざわざやっている。生活することがとてもむずかしいのだ。そして特許権というものは全然担保にはならないんだ。それが除斥期間が廃止されて十カ年間不安定だったら、特許権でなくて特許不安定権なんです。どうぞその点をよく間違わないでもらいたい。これはごく簡単な時間で申し上げる。
それから確認審判制度を存置するかどうか。この確認審判制度はまことにけっこうな制度なんです。こういう制度が特許庁にあることが特許庁の権威である、また日本のいわゆる工業技術権の権威なんです。これは決して私は地方裁判所にどうのこうのとか、あるいは司法裁判官をどうのこうのということではない。特許庁の中で確認審判をやる場合には、司法の方もオブザーバーとしてお入れすべきであって、特許庁だけでやる場合には法文の解釈に往々間違いがあるために僕は申し上げる。それをもしもこれが地方裁判に行った場合に、たとえば北海道の山の中で特許権を争うことになったとすると、地方裁判所の方には法文や技術の書いたものだけでは今の日本ではわかりません。必ずこれは物を持っていって見せなければならぬ。貧乏人がこのぐらいの物を持っていって裁判所に見本を提出する場合はいいけれども、トラックのようなものを持ってきて、これでは悪いからあと五台持ってこいと言われたら、日本ではとてもできない審判制度です。そういう審判制度をあえてするということは、僕は少し求めることが無理だと思う。
そういうことを僕は申し上げまして、どうぞこの法案はしばらく時をかしてもらって、まず第一に特許庁の予算を組んでもらいたい。それでここに私は特許庁にうんと予算を下さいという案を、やっとけさタイプライターで打って持って参りました。これもあとでお許しがあれば皆さんに差し上げます。そして特許庁にうんと予算を組んでもらう、そして特許庁をまずりっぱなものにして、それから一つやってもらいたいということをお願いしまして、私の意見にかえます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/2
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003・長谷川四郎
○長谷川委員長 次に、大條正義君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/3
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004・大條正義
○大條参考人 私は弁理士の大條正義でございます。私は、今弁理士として公述したいと存じますが、私の出身は発明家でございまして、油脂加工に関する特許数件を持って、終戦後みずから事業を経営して参りました。昭和二十七年には鉱工業技術研究補助金も七十万円いただいております。そのほか立体映画の特許、そのほか実用新案など数件を持っております。しかし残念ながら私としては発明家として完成することはできませんでした。これは種々の事情がございますが、第一の点は資金の不足でございました。立地条件が悪いという点もございました。しかし何にも増して私が経験したことは、発明家というものは、いかに辛酸をなめるものであるかということを七、八年の間、つぶさに経験した次第でございます。私の父が弁理士をやっておりましたので、その跡を継いで弁理士に登録いたしまして、いまだ二年十一カ月でございます。従って私ごとき者が正面を切って特許庁に刃向うということは、実に無謀である、貴様はそれだけの理論を持っておるかというようなことを先輩の方々からも強く言われたものでございます。しかしながらこれは私の経験しました発明者として、あるいは事業家としての辛酸と弁理七として発明家を擁護しなければならないという立場から思い余りましてやりましたものでございまして、幸い私と同様な考えの方々ももちろん発明家の間には多数と申しますよりは絶対多数ございます。また弁理士会におきましても私が今申し上げることは、弁理士会を代表した意見では決してございませんでしょうけれども、弁理士の間には私の申し上げる意見に賛同される方がきわめて多数おられます。そういう見地から私の説明をさしていただきます。
まず結論を申し上げますと、これはお礼を申し上げなければなりませんが、大へん長時日を費しまして、工業所有権制度の改正審議会をやられ、さらにそれを特許庁において御検討下すって、りっぱな法案にしようという御苦心の跡はよくわかる次第でございまして、その点についてはお礼を申し上げます。しかしながら私の考えによりますと、今度の法案はいろいろいい点がございますが、結論的には非常に未熟である。このまま今次国会において成立することがいいかどうかということは私は非常に疑う。というよりは、むしろ成立することを私は望みません。
なぜならば次に述べるようなことでございますが、第一に非常に未熟であって、その内容が十分に検討されておらない。少くとも大正十年以来約四十年になる期間の後になされる改正でございますから、これは修正ではなくて根本的な改正でございます。従ってその内容については十分の上にも十分な検討を重ねられ、そうして最終にでき上った法案については十分にたなざらしをして、各方面の非常に痛い意見でも聞き、そうしてその各方面の反対やら賛成やらのすべてに耐えるだけの十分な法案にした上で国会に提出していただきたいと私は思うのであります。なぜならば国会は、国民の審議機関でございますが、何分にも多数の法案が出ておりまして、逐条審議なんというものは思いも寄らないということは、議員の方々からも聞いております。従って国会に出す場合には、もうほんの一部の修正でせいぜいとどまる程度の十分に練りに練った法案を出さなければいけないのじゃないかと私は考えるのですが、今回の国会提出を見ますと、六年やって審議会で出された結論をそのままやっておるのではない。人によれば八十%もそれを改訂しておるなどという方もございます。人によれば三分の二も改訂していると言っております。私ほそれほどには思いませんが、しかし非常に重大な点において、改正審議会の答申を骨抜きにしておるという点が多々あるということを、私は認めないわけにいかないと思います。それでそれならばそれをさらに改正審議会の委員に諮って承諾を求めたかというと、必ずしもそうではないように承わっております。たとえば改正審議会の一般部会長をやっておられました兼子一さんが、この三月十五日ごろジュリストにはっきりと書いておられますが、非常に首尾一貫しない妙なものになってしまった。なぜならばそれはあとの手の入れ方によるのだ、実務に押されてその精神が骨抜きになっておるというような趣旨のことを述べておられます。これなどは改正審議会の委員のごく一部の意見と私は申せないと思います。またその審議会の委員であった吉原さんについても、先ほど思い余って書いたと言っておられましたが、特許管理という日本特許協会の雑誌に、先ほど海野さんが述べられたような非常にこっぴどい苦言を呈しておられる。これなんかを見ますと、改正審議会の方針そのままを基礎にしたということは決して申せないと思います。また改正審議会そのものが私どもにとっては非常に不満足でございます。なぜならば私は弁理士でございまして、その扱うところは私としては多数の中小企業でございます。従って私は中小企業の擁護者として僣越ながら自任しております。従って私の申すことは中小企業に傾きがちでありますが、国民機会均等という立場から見ても決して均等ではなかったというふうに考えます。それでこの改正審議会の委員は先ほどちょっと海野さんがお話しになったように、中小企業の代表者が入っておらぬ。特許庁の方に、入ってないじゃないかと私は言って行ったことがあります。そうすると、いや日本商工会議所の会頭も入っておるだろう、あるいは発明協会の会長も入っておると言われますが、その方々が果して中小企業の立場を実質的の意味において代表しておられたかどうか、これは全く私は疑います。多数の発明者とともに疑うものでございます。なぜならばその日本商工会議所あるいは発明協会におかれまして、今次法案について十分な審議が重ねられたかどうか。これは私の聞くところによれば全く行われていなかったという方が適切ではないかというふうに、各会員から聞いております。東京商工会議所の方などはこれは極端にも、委員の方であるにかかわらず、いやそれは実用新案が六年になったという話だけは聞いたぞ、あとは全部いいという話だという程度のずさんさでございます。あるいは九州の福岡の発明協会の支部でありますか、彼らの話を聞いてみますと、全く聞いていない、審議なんかもちろんしたことがないというような極論を聞いております。そのように各会員が審議してないものを、いかに会長であり、あるいは会頭であっても、勝手に自分の意見でもって言われることはかまいませんが、それは会員の方の意見を代表したものということは私は考えられないと思います。従って中小企業が入っていなかったものと私は認めざるを得ません。従ってその結論になるところは、中小企業の意見がこの法案に現われてこなかったというふうに考えるものでございます。またその審議過程が、もちろん改正審議会中も相当に秘密が守られておったようでございまして、内容について一々聞くことに、私弁理士としてもなかなか困難でございました。しかしながらその答申書が出たときに、その答申書の説明書が特許庁から刊行されましたが、それが出た直後に、またどんどん変っていくという話だと聞いて、それでは変ってでき上った法案について検討するより仕方がないなと思った次第です。ところがその渡されたものを私ここに持っておりますが、私はこれを弁理士会からもらいました。これは第五読会案でございます。この四月三日の第五読会案が、八月八日に弁理士会で印刷されまして、手元に八月の末にいただきました。九月三日に初めて内容についての織田事務官からの御説明をいただいた次第です。そういうわけで通読いたしてみますと、これはとんでもないことだ。前の答申案でも中小企業の意見もさっぱり入っておらぬし、機会均等でもないと思っておりましたが、さらにこの法案を読みますと、それがまたさんざんくずされて、重要な点が骨抜きになっておる。これではどうしてもこれを修正しなければいかぬというので、弁理士会としてもいろいろ意見が出まして、弁理士会の意見としては、わずか二点の修正案を出したわけでございます。それというのも今になって修正するのは困難だ。皆さんしゃくにさわるだろうけれども、仕方がないからその二点だけについて修正してもらうというふうにすれば、それだけはできるだろうということで、みな了承したような次第でございます。もちろん賛否両論ごうごうとしまして、決して満場一致でもございませんし、反対者と賛成者とが相半ばしたような次第でございます。
そのような次第で、その答申書のあとにおいて、これは全くの秘密裡に作業が行われたものと私は思います。また各方面の方がそう言っておられます。いろいろの読会案などをもらいに行ってもなかなか渡してもらえません。ようやく渡してもらったら、それはまだ秘密だからみなに言ってはいけないというようなことを、われわれのような職業の弁理士にさえ言われるくらいですから、非常に秘密が厳守されていたものであるというふうに考えます。なぜそのように秘密にされるかということはなかなかわかりませんでしたが、今度提出されてみて初めて了解がついたような次第であります。このような大改正をやるならば、そういう秘密のようなことをなさらぬで、公平にたなざらしにいたしまして、ガラス張りの中でやっていただきたいと思います。
次にこの内容をよく拝見いたしますと、この大改正に対しまして立法の方針がさっぱり明確でない。もちろん法文作成上のいろいろな技術的の欠点もございましょうが、非常にわかりにくい。これは各方面の方が言っておられる。今の特許法よりもっとわからないと言っておられる。つまり立法の精神がつかめないのです。いろいろな個々の条文については、ああかこうかということはわかりますが、その全般を貫く精神というものがはっきりしない、というよりはむしろ見当らないのです。これは私が考えますのにこの改正審議会の当初において、国家の産業政策というものはこうこうであるぞ、それに基いてこういうような方針で特許法案を審議していかなければならないと思うが、皆さんどうか。方々から意見を出して、その立法精神について十分審議した上でやらなければいけないと思います。たとえば大企業と中小企業の調整をいかにはかるか。むろん大企業も中小企業も日本の産業の中核をなす焦点になるものでありますから、これは機会均等の意味もあり、共存共栄をはかるべきものでございます。物によっては大企業でなければできぬものもあり、中小企業でなければできないものもある。あるいは中小企業といっておっても、あすは大企業になるかもしれない性質を持っておるようなものもある。そういうわけで大企業と中小企業ということは十分調整をはからなければならない。しかし今度の法案を見ますと、これは発明家の方々は大企業擁護だと言っておられますが、必ずしもそうでない部分もあります。しかし部分、部分にわたって見まして、結論的に申しますと結局大企業擁護じゃないかというような疑いを持たせる点がたくさんある。あとに述べますが、たとえば独禁法による処罰規定を軽減しておるというような点もございます。あるいは創意工夫の保護の範囲のきめ方を考えていない。たとえば小さいような発明は切る、あるいは大発明だけは保護するのだとか、いやそうではなくて小さい発明の保護まで入れるというように、どの辺まで入れるかという点がきめられなければならない、そういう方法がとられていないと思います。あるいは外国技術を導入するか、国内技術を育成するか、どっちを重点とするかという点もどうも明らかでない。具体的に申し上げたいのですけれども、とうてい時間がありませんから項目的に申し上げます。
先発明あるいは先使用主義か先願主義かというような点になりますとやや専門的にわたりますが、そういうような点も思想が一貫してない。アメリカの特許法などは非常に完全な先発明主義であり、ドイツは相当徹底した先願主義でございますが、そういう点についても非常にあいまい模糊としており、場合によっては先発明主義であっても先願主義をとらなければならない場合もあります。しかしそれはあくまでも例外であり、どっちがどっちを例外としているのかさっぱりわからない。つまり全体として思想が一貫していないというふうに考えます。今の先発明主義と先願主義の点について一つ実例を申し上げましょう。たとえば冒認特許、盗んだ特許というのがあります。人の発明を盗んで特許にする、これはいけないことでありますが、現在の特許法の十一条によりますと、出願日の遡及の特例というのがございます。これは盗まれた人が正当な権利者であれば、後に出願すればそのあとの出願日は盗んだ人の出願日にさかのぼるという規定でございますが、これが廃止されました。これは長官の御説明によりますと、新聞に出されましたので長官の説明と思いますが、先願主義のためだというふうな話でございます。しかし意匠法の第五条に、「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」ということがありますが、それは登録しないということが書いてあります。これは結局先使用主義でございます。たとえば山の中で、ある人がある物品について、たとえば灰皿のようなものを作って近所の町に売っていたとすると、東京の人がこれと似たようなものを出願いたします。そうすると先願主義ならばこれは登録されるわけです。ところがこれは拒絶されることになるわけです。これが公知公用のものならばいいのです。公知公用というのは至るところでだれでも知っているということですからいい。そうでなくて、山の中のごく一部分のところでしか知らないものでも、この条文によれば拒絶されることになる。これは先願主義でなくて先使用主義以外の何ものでもない。こういうふうに一貫してない。たとえば第五読会案では物品の誤認混同を生ずる場合には登録しないとあったのが、今度の提出法案によると、これがまた直されているという次第で、くるりくるりと変って最後の案が出ておる。この最後の案だって一カ月たてばまた変ってしまうだろう。こういう法案でございまして、現行法では世人を欺瞞するものは登録しないということになっております。この世の中の人をだますということはいろいろな意味がございますが、これはいけない、こういうふうにはっきりしておればいいのですけれども、物品の誤認混同というのも変なものです。誤認混同といえば一つのものが他のものに似ていて、たとえばこういう万年筆のようなライターは登録しないということです。そんなばかなことはない。それに気がついたのであわてて今度「他人の業務に係る物品」と直されたと思いますが、こういうような次第では困る。法案はもっと完全にこの点では練ってもらわなければならぬ。
次に、まず出願の抑制をしておられるというふうにわれわれは考えます。今度の法案において正面切って出願を抑制するということを書いてありませんが、内容に至っては出願を抑制する以外の何ものでもない。たとえば除斥期間の廃止ということによって権利を非常に軽くして、特許料を値上げして出願を減らす、現在十七万件の出願が、昨年度ございましたが、これは年年増加するのに驚いてなされた手段であると私は思います。そういうふうな現状にとらわれてはいけない。やはり特許法は大きな法律で長年続くものでございますから、長年にわたってのことを考えていただかなければいかぬ。現在の停滞を処理するならば、別に法律を作るべきである。特許庁の予算をふやし、人員をふやし、整備しなければいけない。これについてはわれわれはこれから猛運動を開始したいと考えております。この法案はまた別問題でございます。つまりこれほど出願が多いというのは、日本の国情がそのような国情であるからです。つまり日本人は他の国民と違う点がございまして、非常にまねが多い。これは日本が非常に創意工夫が多いと同時にまねが多い。従って非常に活動力に富んだ民族であるというところに由来するのかもわかりませんが、このことは否定できないと思います。その理由というのはまあ結局競争が激しいという点からくるのでございましょう。狭い国土に多数の国民がこうやって生息しなければならないという点からくるのでございましょう。そのために日本が世界一だというので驚いては決していけません。おそらく今の二倍になっても驚く必要はないと思います。つまりこの多数の中には、もう一つ申しますと、質の低いものがあるということを、しばしば申されます。これは事実でございます。しかしながら質の低い発明は保護しないでいいか、これは別問題でございます。アメリカのような国は出願数は日本よりはるかに少い。これはそれで済むような国内事情がある。なぜならば米国民においては、たとい特許をしなくても、他人の作ったものを盗んだりまねをしたりするということを非常に恥らう気風がございます。日本においてはそうでない。もう何でもいいから一刻も早く他人のものをまねて出す、そういうような気風がある。そういう国情が違うわけでございます。従って小さな発明あるいは考案をしても、これは登録して保護してもらわないことに、隣の人からだって盗まれる、これが国情なのですから、やはり保護しなければ、そういう人は発明したかいがなくなる。アメリカの場合には発明をして、何も高い特許料を払って特許を得なくても——アメリカは非常に弁理士の利用が盛んな国ですから、弁理士を利用しなければほとんど特許しないというふうにいわれている国ですから、非常に高い、金がかかるからそういうものは出せない。日本はそうでない。国民機会均等の立場から、裁判と同様にどんどん各人が出されることがむしろ奨励されております。私はそれでけっこうだと思います。むずかしいことは弁理士がやればいいでしょう。やさしいことは発明家みずからがやって一向差しつかえないと思います。そのようなものを料金を上げ、かつ権利の価値を低くするということは出願の抑制以外の何ものでもないと私は考えます。それで特許の質の向上をはかるということは、もってのほかだと思います。まして、特許の質の向上をはかるのが国民の声だなんという御説明がありますが、特許の質の向上というのは、結局発明の内容の質の向上にほかならないとしか考えられません。その意味でなければ、特許庁に登録されている特許の平均値の向上ということかもわかりません。しかしそれはまるで意味がないでしょう。他国に対する誇示ならばいいです。国民の創意工夫を保護する特許法において、そのような種類の平均値を上げるなんということはもってのほかでございまして、特許の質の向上ということは結局発明の内容の向上は、特許法の改正なんかによってはとうてい行われない。これは他の助成策とかあるいは樹立策、国民が一生懸命発明をするように教育すること、あるいは生活の向上、そういうことによって得られるもので、特許法をいかに改良しようとも発明の質の内容を向上させることはできないものと私は思います。
次に法文上であいまいな点、あるいは矛盾する点が多々ある。たくさん申し上げたいのですけれども、とうてい時間がなさそうですから、若干についてだけ申し上げます。たとえばこれは専門的にわたってしまいますが、無効審判の請求の適格者の問題がございます。無効審判は、今度のように除斥期間がなくなったと仮定いたします。しかし除斥期間がなくなっただけにとどまりません。これは一本だれが無効審判を請求できるかという点になりますと、非常にあいまいでございまして、これは特許庁に参りまして審議室長の荒玉さんに御説明を伺っても全然納得いかない。たとえば今度の特許法におきまして、現行法の八十四条の第二項には、「利害関係人及審査官三限リ」というふうに規定されておりますが、今度はそれが何も書いてない。そうするとたとえば今度の改正商標法の五十一条にはこう書いてある。商標の取り消し審判では、何人もできないというふうに書いてある。しかし、それでは今度の場合の無効審判については、何人もではないのかと聞きますと、何人もという意味ではないとおっしゃいます。それなら利害関係人ですかと聞くと、いや必ずしもそうでもない。必ずしもといってもわかりませんけれども、そうではないということなら、それじゃ利害関係人でもなく何人でもないということがあり得るか。そのような人格は私は存在しないと思います。しかしながら、一方に利害関係人と書いてあるところもある。たとえば審判制度の参加入についての規定がございます。これははっきりと利害関係人と書いてあります。言葉は利害関係人でなくて、審判の結果について利害関係を有する者は、審判に参加し得るというふうになっております。この審判の結果について利害を有する者ということは、利害関係人にほかならないと思います。はっきりと利害関係人と規定したと思います。この点は現行法では「利害関係人」という言葉が書いてある。この場合はそうは書いてないけれども、結局審判の結果について利害を有する者ということは、審判の結果に、つまり権利の存否に利害関係がある者ということと、もう一つは審決の内容そのものが直接利害関係がある者、つまり弁理士とか弁護士とかあるいは審査官とか審判官とか、そういうものは審決の内容が今後やることにいろいろ制約を受けますから、利害関係があるとしか考えられません。従ってやはり利害関係人であるというふうに考えられる。しかし、それならなぜその規定を置かなかったかということは、どうしても説明してもらえない。こういうようなあいまいな点を残していいか。今度の法案については「登録」を「許可」というふうに直された。たった用語の一字についても、「登録」ということは意味の二重性がある。原簿に記載すること、もう一つは行政処分、この二つに解釈されるからというのですけれども、だれが見ても、現行特許法を見れば、ああこれは原簿に記載されることだ、ここは行政処分のことだ、ということは一目でわかります。それほど言葉にまでとらわれるくらい厳密にされながら、このような重大な点について、あいまいなあるいは矛盾するようなことを残されるということは、私はどうしても解することができません。
今のはあいまいな点、矛盾する点でありますが、今度は「解釈」を参議院修正で「判定」を直されました。しかしこれは行政処分であるか、あるいは単なる鑑定であるかということについては、結局疑義が残ると思います。特許庁の方では鑑定であるというふうに話しておられますが、鑑定であるという積極規定はもちろんありません。「判定上じゃなくて「鑑定」というふうに書かれれば、あるいは鑑定のようになるでしょうが、それなら審判官を三名も立てて、いろいろ省令によって除斥忌避その他を設けたいというようなお話もはなはだおかしいことだと思う。鑑定をやるならば、これは一方的な鑑定でもできるのですから、特許庁の鑑定は権威がつけたいという意味で、そういうふうにおやりになるかもしれませんけれども、そういうふうにやれば、これは行政処分ではないかと考えられるのも無理はないと思います。たとえば有名な弁理士、弁護士であらせられる和久井宗次先生などでも、これは私は行政処分であると思うと、はっきり言い切っておられる。だから、私は事件が起ったら必ず上訴、上告をやるぞと言っておられます。そのように、多年やられておる有名な弁理士、弁護士の先生でさえも、そういうような疑い——疑いじゃなく、これは確信を持っておられるようですが、そのようなくらいで、私どもは一体どっちをとっていいかわからない。つまり、鑑定なら、効力がなければ効力がないというふうに規定されればいいのじゃないですか。あるいはそうでなくて行政処分なら、そのようにはっきり規定されればいいでしょう。そういう点が結局あいまいもことして、私にはわかりません。
もう一つ、今の矛盾する点について申し上げますと、たとえば意匠を特許あるいは実用新案に出願変更できるようになりました。今度は特許が実用新案に、実用新案が特許に、特許が意匠に、意匠が実用新案に、意匠が特許にというふうに組み合せが全部でき上りまして、全部出願変更ができる。つまり出願しておいて、途中でいやになったら、特許なり実用新案なり、好きなものに変更できるというわけです。これは非常にいいように思いますけれども、たとえば意匠を実用新案あるいは特許に、出願変更するという場合について考えてみましょう。ここにたとえば一つのタイヤがあるとしましょう。そのタイヤのトレッドに線が入っております。これは特許庁の方の説明会で聞いたお話ですが、そういうようなもので意匠について出願されたものがあるとしましょう。これは審美的なものであるとしたら、意匠権が成り立ちますから、見ておもしろい、従って意匠出願をした。ところがそれを、山道で雪の上で走ってみた。スリップしないぞ、今までの線と違って、完全にすべりどめになる、これはおもしろい、それでは今度の特許法では特許に出願変更できるぞ、やりましょうというので、出願変更したとします。ところが第三者がおりまして、その人が自分でこつこつとタイヤを研究しまして、それとほぼ同じような、あるいは全く同じものを発明したとしましょう。スリップしないタイヤというもの、これは意匠と何らかかわりない、それを出願したとします。その出願が、さっきの意匠出願と、それから初めてそれを使ってやってみてスリップしないという作用効果をここで見つけて、これを出願したという、その間にはさまって出願したら、どうなりますか。あとにその作用効果を見つけた人はその作用効果を見つけることによって、初めて発明が完成されたものではないかと思います。最初の格好を作っても、これは発明者ではありません。精神が入ってない。精神を入れた人が発明家でございましょう。その人は結局あとに発明した。しかるにこの人は出願日がさかのぼって、意匠を出願したときが出願日になりますから、その人が特許権を得られるわけです。こういうのは、先願主義あるいは先発明主義いずれにしても、その原理にもとると思うのです。こういうような点をお考えになったかどうか。
それからまた、そういう意匠を特許に出願変更ができるというなら、意匠は図面が本位でありまして、説明というものはほとんど許されない。ごくわずか、これは何に使うというくらいのものです。そういう場合に図面を出せば、今度特許にするときには説明書を書かなければなりませんから、その図面の内容を説明します。それが出願変更ができて特許になるとすれば、たとえば特許を出願するときに図面だけ出しておいて、明細書を書かなくても受け付けられるかという問題になります。受け付けられて、一応特許の出願権が生じるかどうか。今後の運用の問題かもわかりませんけれども、そういうようなことは今はとうてい許されない。実用新案によっては、型の問題で許されておったこともあります。今度は実用新案は考案であって、今御説明を申し上げるひまがありませんが、発明が考案の一種のように書いてあります。そのような次第で、発明と考案とはほとんど区別がなくなっている。片方は高度のもの、程度の高いもの、片方は何も書いてないから、つまり程度の低いものから高いものも全部含まれるというようなものでございましょう。低いものとは決して書いてない。小発明とか大発明とかいっておるが、大間違いです。実用新案の方は小発明も含んでおるが、大発明も含んでおるのです。そういうような点を何も考慮されてない。今はもうできないことになっておりますが、もうしばらく前には実用新案を出願するについて、図面だけは出しておいて、あとから説明を補充するということができた。しかし今度はできなくなるかというと、それが変だ。こういうような次第で、意匠でさえ特許あるいは実用新案の変更ができるなら、図面を出しておいて特許出願ができないという理由はどこにもないはずです。そういうような非常に矛盾することが出て参ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/4
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005・長谷川四郎
○長谷川委員長 大條さんに申し上げますが、時間が倍以上経過をいたしましたが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/5
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006・大條正義
○大條参考人 ではこの辺で結論を申し上げます。
いろいろございますが、結論といたしまして、私はこの最終の法案について、もう一度十分にたなざらしにされて、ここ一年間各方面からの十分な意見を聞き特許庁も確信のあるところを反論し、そしてその結論を出していただきたい。それをもって国会に提案されることを私は希望するものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/6
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007・長谷川四郎
○長谷川委員長 次に齋藤肇君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/7
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008・齋藤肇
○齋藤肇参考人 私、発明協会の理事長の齋藤肇でございます。
まず今度の改正案につきまして、第一点といたしまして、いわゆる国際性の問題、外国で頒布された刊行物の問題とか、原子核変換の方法によって製造された物質の発明は認めないというような事項は、実はこれは早く法律として実現していただきませんと、まごまごいたしますと、日本の産業界が外国人の特許の植民地になるおそれがあるという、産業上の重大な問題を含んでおるのでございますので、一日も早く実現を希望する次第でございます。
次に第二点といたしまして、私どもの最も問題としておりまするところは、権利の侵害があった場合に、現行法では権利者の保護がまことに不十分でございまして、まあ極端のことを申し上げれば、特許は一つのレッテルにすぎない、侵害の起った場合にその救済の道がほとんど保護されていない、裁判所に持っていってもなかなか片がつかないという実情でございまして、何のために特許があるのかわからぬというような例は、多年にわたって業界からの要望でございまして、今回その点につきまして差止請求権の問題であるとか、損害の額の推定の問題、軽過失における侵害の問題というような、相当の裁判上の改善が加えられる予定になっておりますが、これは一日も早く法律として実現していただかなければ、特許料を払って特許を何のためにとっているのかわからぬ。ことに日本人は人の特許をまねするという癖がありまして、はなはだしい話が、その侵害の救済手段が完全でないから、まあそれをまねして作った方が得だということで、どんどん侵しているという実例が非常にたくさんございまして、そういう要望が非常に強いのでございます。ですから、現行法は一日も早くこういう欠点を改正していただかなければいかぬということは、多年にわたるわれわれの熱望でございます。
その次に第三点といたしまして、審査、審判の充足化の問題でございます。審査の充足化の問題は参議院の公聴会でも申し上げましたから、本日は申し上げませんが、審判の充足化という問題も非常にこれは問題がございまして、ただいまのところでは実例としてはなはだしいのは、権利者の方とつぶそうとする方との争いで、審判を二審制度になってやっております結果、十五年の特許期間が切れてしまうのに、その審判の終結ができないというような状態のものがございまして、かりに権利者の方が最終におきまして勝ったといたしましても、ただ勝ったという名前だけをとる、あるいは幾ばくかの賠償金の請求ができるかもしれませんが、何ら特許法上の保護は受けられなかったという結果になる実例が非常に多い。こういうような現行法の欠点は一日も早く直してもらわなければ、実際完全なるその特許権の利益を特許権利者は受けられないという状態にございますので、前々からこういうものは改正していただきたいという要望が、各方面から強いのでございます。極端に率直に私どもの意見を言わしていただくならば、今回法案の提出が国会になされましたのは、昨年のリスボン国際会議というような関係も考慮されまして、政府として相当慎重にやられたのはごもっともでございますが、私どもから言わせれば、この法案の提出は、すでにその三つの点だけをあげましても、おそ過ぎるのじゃないか、何をぐずぐずしておられるのかという点を非常に強く感ずるのでございます。
次に、発明協会のあり方の問題でございますが、法案の草案の内容を周知徹底せしめるという問題につきましては、私どももずいぶん努力して参りました。もちろん努力の足らぬ点もございまして、先ほどから、徹底が欠いている、発明協会のやり方に対しての御不満もありましたのでございますが、(「あるよ、そういう点をもっと詳しく言ってくれ」と呼ぶ者あり)そういう点は十分反省をいたしまするけれども、私どもの方の組織は、全国で支部が各府県にございまして、会員は、ほぼ五千になんなんとする会員を擁しております。その会員の内容は、大会社から中小の発明者まで包含しております。ところが、大会社につきましては、別にそれぞれ発明担当の方をもちまして特許協会というものを組織していられる関係もございますので、私どもの方が意見をまとめます際には、どうしても中小の関係の方の御意見の方が強く反映するのでございます。その結果の現われの一つといたしましては、たとえば法案の草案審議中に、実用新案はやめてしまえという声が一部の大会社からあったように承わっておりますが、それには中小の関係の方は大反対でございます。それから、一時実用新案の年限を六カ年にするというようなお話もございましたが、これに対しましても中小の関係の方は大反対でございまして、それはどうしても十年にしてもらいたいという要望が非常に強かったので、私どもはそれを代弁して、当局の方にはそういうふうに申し伝えました。ことにそのほかに、発明協会は御承知のように公益法人でございまして、事業者団体とは違う関係がございますので、会員外の方々の意見も極力取り入れなければならぬ組織になっておるのでございます。これは後ほど除斥期間の問題のときにもそういう問題に触れますが、そういう関係にございますので、私どもといたしましては、あらゆる機会に草案の内容を極力皆様に周知させる点につきましては、最大限の努力を払って参りました。毎年関係の全国会議をやっておりますし、総会のときはもちろん、その他地方表彰をやる場合であるとか、あるいは各支部で講演会、座談会、講習会をやるような場合には、ほとんど毎回と申してもいいほど当局者の出席を求めまして、草案に対する非常にこまかい説明をその機会にやってもらいまして、それに対する質疑応答もやり、それに対する各界の意見も十分反映さしておると確信いたしております。
その意見で、どういう意見が従来から発明協会を通じて出ておったかということを一例として申し上げますると、ただいまも申し上げましたような、審査、審判の充足化をやってもらいたい、権利の侵害の保護をやってもらいたい、実用新案の年限を十年にしてもらいたい、それから税制の問題、これは特許料金の問題よりも、実は特許権を譲渡した場合あるいは実施権を譲渡した場合というようなときに、いろいろ税金を特別に免除してもらわなければ、その発明を成功させる上において非常な支障が起るというような問題、あるいは出願の事前調査のための公報の普及の問題、それから発明の奨励、実施化等の問題にも思い切った政策をとって、政府としても金を出してもらいたい、それから発明で成功された方々には国としても、もっと十分なる褒賞を出してもらいたい、たとえば文化勲章というようなものも出してもらいたいというような要望が出ておりますので、もちろんこのうち、当局のいるるところとなったものもございますし、またいるるところとならないものもございますが、そういうような問題は、会員及び会員外の業界の意見は相当に反映して、当局の方に要望するなり決議文として持っていっているという実情にございます。
次に、最後にもう一言除斥期間の問題について意見を述べさしていただきたいと思います。
除斥期間の問題につきまして、ただいまこれを原則としてなくすことについての反対の意見もございましたが、実は発明家の発明の権利を完全に安定させるという意味から申しますならば、五年以下の除斥期間が果して適当であるかどうかという問題は非常に疑問でございます。ということは、発明をされた方は、一日も早くその発明を事業化したいという方々が非常に多いのでございまして、五年間しまっておいて、安定してから企業者を求めるとか、あるいは銀行から金を借りるという場合は比較的少いのでございまして、むしろ出願したら同時に事業を始めて、金も借りて事業をしたいという方が大多数なんであります。それで一番困っているのは、その出願したものが特許になりますまでに、相当の年限がむだに費されるということは非常に困ることでございまして、五年間もじっと押えておるという場合は非常に少いということを御了承願いたいと思います。
しからば除斥期間は置いた方がいいか、なくした方がいいかということにつきましては、実は発明者の方の側、特許権を持っている方の側からいえば、たとい不満足でも五年のものがあれば、ないよりはましだという意見はごもっともと思いますが、会員以外の各業界の意見としましては、むしろこれは困るから除斥期間はやめてもらいたいという声が非常に多いのでございます。しかもこれが中小の業者からそういう声が非常に多い。と申しますのは、大会社は大体特別に特許にたんのうな方がみなそれぞれいられまして、自分と競争の会社がどういう出願をしてどうなっているかということはよく調査していられますから、他人の特許を見落すということはまずないのでございますが、中小の業者の関係の方は、自分の特許すらも問題でございまして、他人の特許を調べるなどということは、ほとんどふだんやっていないという状態に置かれているのでございます。それがたまたま悪意の人が出て参りまして、かりに五年間特許をとっておる、その後無効にできなくなったというときに、立ち上ってばさっと押えにかかるという例が相当ございます。そうなった場合に関係の業者は、自分は知らずに早くからやっていたのですから、当然公知公用であるから、その特許なんかはつぶすべきであったということに気がつかなかったために非常に不測の損害を受けるから、この除斥期間はやめてもらいたいという意見が非常に強い。これは私どもの方は仕事の関係上、実施あっせんのために各業界の専門家を委員または専門委員にわずらわしまして、いろいろ御相談をしておりますと、そういう方面から具体的実例をあげての御要求がございます。発明協会は、先ほど申し上げましたように、単に会員だけの利益ということばかりを考えるわけにいかないのであります。これは事業者団体でございませんから、そういうような各業界の多数の意見というものは、今日のような機会には率直に申し上げなければならぬということでございますので、全体としては除斥期間はやめた方がいいという意見が非常に多いことを申し上げます。
時間の関係もございますから、この程度で一応終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/8
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009・長谷川四郎
○長谷川委員長 次に竹内壽恵さんにお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/9
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010・竹内壽恵
○竹内参考人 竹内壽恵でございます。大條弁理士が非常にこまかな点に対して陳情をしまして説明を申し上げましたので、私は特に除斥期間の廃止、この点に焦点をしぼって皆様に意のあるところを申し上げ、御協力いただきたいと思います。
私ども発明者といたしましては、この発明の特許をとったということに対して、非常に勇躍して事業をしたいのでございますが、ただいま齋藤氏のおっしゃられるように五年間ないし二年間の除斥期間というものがあるので、このためにすぐ特許を発表して事業化できないということに対して非常に不便さがあるわけでございます。この不便さに対して、現在でもその期間中無効審判を起されたら、ことにわれわれ女性のごとき、無資本家がほとんどでございますが、無資本家が大資本家にこれを提示したときに、三年以内、五年以内にこれを提示すると、考えおくといって、大資本家がそれを取り上げて、それとひとしいいい特許をさらに出願して、それで無効審判を起された場合に、資本的無能力者は泣き寝入りをしなければならないということは、非常に罪の深いものじゃないかと思います。私どもはやむを得ず三年なり五年なりを隠忍して、その特許が確立したときに初めて社会に持ち出すというような非常に情ない状態に現在あるのでございますが、それが特許の権利のある限り常に動揺するということになりましたら、発明家の得るところというものは皆無といっていいんじゃないかと思います。それならば発明などしない方がいいのじゃないかということが、発明家の気持の中には多く出るのではないかと思います。国家はこういう発明をしなくていいならば、この法案を通していいと思いますけれども、発明家は育成しなければならないというところにあるならば、やはり発明家の夢というものを育てていくということが必要じゃないかと思います。ことに今回の審議に携わっている方を拝見いたしますと、ほとんど大企業の方と要路の方、学識経験者及び官庁関係の方が多いようでございますが、中小企業がタッチしていないということは、中小企業が無視されているということになるのではないかと思います。この除斥期間廃止を実行しましたならば、中小企業者及び無資本家が全然発明というものに対する意欲がなくなり、そして発明によって事業を興すとか何とかいうことが全然できなくなるという非常に悲しい状態に置かれるということがいえるのではないかと思います。ことにこの無効審判のごときは、先ほど齋藤さんがおっしゃられましたが、五年間の除斥期間があってさえも、なおかつ特許の寿命のある限り十五年間、その間を訴訟に費して何ら発明の価値を得なかったという場合には——今でさえそれであるものが、それが除斥期間が廃止されたならばどういうことになるか、全然その企業は成り立たないということになり、おそらくは日本人の非常に悪いところである人のまねをしたものが得をする、そういうような日本の社会に私はしたくないと思います。
どうぞ正しいものが正しく育成されるように、特にその点に重点を置いてもっと審議を十分にして、それで社会全般の人が納得するところで、この法案は通していただきたいものだと思います。
これはもうすでに過去四十年間この法律は実行されてきております。にもかかわらず、この短時日にどうしても通過させなければならないという理由は、どこにあるだろうかと私どもは非常に不審に思うわけでございます。しかも聞くところによりますと、この膨大な改正法案が弁理士さんの方のお手元へは全然出されないで秘密になっていたというところに、何か意図があるのじゃないかと、われわれは常にそういう点に対して疑いの目を持たなければならないということは、非常に残念なことだと思います。もう少し明朗にものがやれないものだろうかという点に、特に私どもは思いをいたすのでございます。私は婦人の代表といたしましても、よくよくこういうものは吟味し、審議して、それでだれもが納得いくところで正しい法律案として上程していただきたいということを、切に望む次第でございます。今回の法案に対しては、大條さんのお話を聞いておりますと、さながら拙速という文字が使えると思います。六年間御審議なさったというけれども、民間人を加えない、中小企業を加えない、一般大衆を加えないでの審議というものは、片手落ちのものがあるのじゃないかと私は考えます。大企業を中心にして考えた場合にはそれはよい、中小企業の方の考え方としてはそれはいけない、いろいろ利益相反するものがありますので、そういう点を十分に御考慮のうちに入れて御審議していただくということが、ぜひ望ましいわけでございます。代議士の先生方、委員の先生方におかせられても、この膨大な法案を、字句の訂正などでなく、十分に審議して、これならば私ども国民が賛成する、みんなが賛成するという線に向って、私はぜひとも進んでいただきたいと思いますので、この急逝上程ということに対しては、一応見送っていただいて、よくよく審議して——四十年間継続してあったものを今すぐやらなければならないという理由はないと私は思います。一年でも一年半でもよく審議して、それから代議士の先生方も納得し、私どもも納得するところで初めて上程していただくということを特に希望する次第でございます。私はこういうことを自分として信じたくはないのでございますが、ちまたのうわさといたしましては、某財界人が某要路の高官に要請して置きみやげとして、この法案を急速上程したのだというようなことが言われておりますけれども、まことに不明朗な言葉でございまして、このようなことが実際であった場合には、私ども政治に対して信頼が置けないわけでございますので、このようなうわさがないように、特にそのようなうわさが立っているときには、一層の慎重さをもって、先生方に御審議をしていただきたいと思う次第でございます。なお弁理士の一部の方に伺いましたところ、こうなりますと私どもの事務所が繁昌してけっこうなんですよ、というようなことになりまして、トラブルの起きるのを今は望んで弁理士の先生方が待期しているというに至っては、もってのほかじゃないかと思います。もしもそういうお気持の方が一部あるという——私はないと信じておりましたけれども、大條さんが先ほど賛否両論と言われた、その賛成している方の中には、そういう弁理士さんがあるんじゃないかとうなずけるものがあると思いますので、この点などもやはり利害が一致しておりませんので、利益のある人、利益のない人、損失のある人、それぞれをよく吟味して御審議いただきたいと特にお願いしまして、私は切に切にこの法案を、もう一度御審議し、練り直して上程していただくことを、特にお願いするわけでございます。以上でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/10
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011・長谷川四郎
○長谷川委員長 次に高北新治郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/11
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012・高北新治郎
○高北参考人 私高北でございます。お恥かしい次第でございますが、私は無学でございますので、申し上げますことに御想像願わなければならぬような点が多々あるだろうと思います。御想像願いましてよろしくお聞き取りを願いたいと存じます。
特許法ほか三法改正に対する意見を申し上げます。特許法ほか三法の改正は、最も時宜に適したものであり、これが立案に当られた御当局の御努力、御苦心に対しては深甚の敬意を表するものであります。しかしながら、私ども発明に多年携わって参りました者にとりましては、今回の改正法案に対しては、申し上げねばならないこと、ぜひ聞いていただかなければならないことが多々あるのでございます。そのおもな事項につきまして、これから意見を申し述べさせていただきます。
第一に、特許法の改正はまず何より先に審査、審判事務の迅速化をお願いしたいと思います。権利の確実な保護、伸張を主眼としてなされなければならないと存じます。またこのことが何にもまさる発明奨励と存じます。しかるに改正法案は、この点において全く逆行しております。たとえば現行特許法制定の際否決されました特許請求範囲の記載について多項式を採用しておられます。この多項式は審査を複雑にし、権利範囲を不明確にするものでありまして、これが実施されるときは審査は今日以上に出来るのでなかろうかと思います。これは火を見るよりも明らかではないかと、かように考えます。また今日私どもの非常に困っていることは、実用新案等におきまして、ことにしかりでありますが、微細な法案の追加によって特許権を含む後願をどしどし許可し、せっかくの権利を得ました発明も何にもならないような感じになることが多いのでございます。改正法案はこの点を何ら改善してないのみか、発明の要件として高度性を付加し、その高度性については何らの標準を規定していません。これでは審査の適正はとうてい期待できないのではなかろうかと思います。
第二には、確認審判制度の廃止の点でありますが、権利侵害のあった場合、しろうとと申しますとちょっと言い過ぎるのでございますが、裁判官か検察官が特許範囲の判断をやっていただかなければならないのでございますが、国民は全くこれは迷惑で不安にたえません。特許庁みずからが特別技術官庁であることを自覚され、むしろ確認審判の結果に対しては、司法裁判所もこれに従わなければならないようにしていただきたいと思うのでございます。
第三には、除斥期間の廃止の点でございますが、企業家にとって権利が安定しないことが一番困るのでございます。除斥期間の問題は現行法制定の際も問題となったのでありますが、特許後五年以後はほとんど無効審判の提起がないことが明らかにされ、その結果五年という現行の除斥期間が設けられたと、私どもは聞いておるのでございます。要するに、審査を正確にやって下されば、この問題は解決することです。除斥期間を廃止することは、審査の疎漏を発明者の責任とし、権利を不安定に置くことにほかなりません。特許後十年もたってから無効審判が提起された場合、審判官が神様でない限り、十年前の技術水準に立って発明の高度性を判断するなどということはとうていできるものではございません。議員各位におかれましては、この点特に御留意をお願いいたしたいと存じます。
第四には、実用新案と意匠との区別が改正法案によっては、私どもとうてい理解ができないということでございます。実用新案と意匠法といずれかの一つでよいように思われるのでございます。両方とももっとすっきりした明瞭なものにしていただきたいと思うのでございます。
第五には、特許料金の値上げの点であります。この値上げは発明奨励に対しましてはマイナスになると思います。もし値上げをされるならば、その増収をもって特許事業実施料取得に対する課税等の減税をお願いいたしたい、かように考えるのでございます。
結論といたしまして、長々と意見を申し述べましたが、改正案はまだまだわが国の実勢にぴったりしないものがあるように見受けられますので、当局におかれましては功をあせることなく十分民意をおくみ取り下さいまして、学識経験者の御意見に耳を傾け、もう一度改正案を練り直していただくことを切望いたしまして、終りといたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/12
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013・長谷川四郎
○長谷川委員長 次に林壽君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/13
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014・林壽
○林参考人 林でございます。この印刷物に株式会社日本水産機械公社代表取締役となっております。これも事実でありますが、本日は私、通産省及び農林省のお勧めで終戦直後に創立された水産機械製造業者の全国団体である日本水産機械工業協同組合の代表といたしまして、一言述べさせていただきます。
前の参考人の方々から、特に海野、大條、今また私どもと同じ水産ではありませんが、農機具関係の方から御発言がありましたが、全く同感に存じます。時間もございませんので、なるたけ重複を避けさしていただきますが、多少重複するところもあるかもしれません。工業所有権の制度の改正について、主として次の問題に関する意見と実情を述べますが、わが国の大多数の発明者——この法律、制度の利用者である発明者、中小企業者、発明者の中には大企業も含めての意味にお聞き取りをいただきたいと思います。
従来特許貧乏ということが言われております。これは政府も国として科学技術振興並びに発明立国の実現を常に唱えておられますが、工業所有権の保護奨励、言葉は違いましても一緒でございます。目的は一緒であるが、果してその保護奨励になっておるかということは、前発言の各位におかれましても申された通りでございます。それをよりよき工業所有権制度の改正を目ざして、約四十年来の大改正をなされようとしておるわけでございます。聞くところによりますと、約六カ年間審議されたと伺っておりますが、伺うだけで、中身は私きのうこれをいただいて昨晩徹夜で拝見しました。私ども水産機械関係においては漁撈機械、これは捕鯨から大衆魚のイワシ、カツオ、マグロ、アジ、サバに至るまですべてとる方の機械を扱う、なおかまぼこ、ソーセージ等そういう加工機械といったものも扱う全国の専門メーカーの集まりであります。その間業者の発明研究の権利化したものの特許侵害事件のためにお互いがかみ合い、特許法の不備のために事件が続出しているが、これを何とか自治的に解決できないだろうかということですが、弁理士さん、弁護士さんにお願いする金もなく、めんどうさにわずらわされて研究が進まない、仕事が進まない。私は大正四、五年から研究を始めまして、研究歴四十数年になりますが、役所にも三十年近くおります。この間にあらゆる問題にぶつかっております。それで、今の組合は終戦後できましたについて、なるだけお役所に迷惑をかけないで、お互いが一つ話し合いでいこうということで、組合内で大ていのことは解決しております。ところが金融機関からはもちろん、家族離散あるいは自殺というところまで追い込まれて、初めて研究が実り、世間も認め、融資もできるというようになってから、いろいろ大企業から金が出て、弁理士さん弁護士さんを通じ、また資格もない三百代言みたいな者、果てはゆすり、たかり、これがもう実に多い。断わっておきますが、特許庁ではありませんが、国家公務員、地方公務員まで、悪徳の一部の公務員が悪徳の業者を表に立てて糸を引いてこれをじゃまし、それをまた合法的にやられるようなことになりましたら、とんでもないことになります。私もまた二十数年前に八人の暴力団に家を囲まれて、家族をけがさしてはいかぬので、代々木の練兵場に引っぱっていって、お相撲とりと子供と相撲をとっているのに、君らは男商売でいながら子供の足をとって加勢するのかと言った一言で解決いたしました。そういう暴力団ばかりはありません。最近のゆすり、たかりというものは実に軟派である、しつこい。そういった意味からこの無効審判における除斥期間の廃止は、そういう事件を続出させる。現在でも特許庁は審査に非常に骨を折っておられる、予算も少い、文献も少いところから骨を折っておられます。それに加えて事件の続出ではなおさら困るだろうと思います。そこで発明協会の齋藤理事長さんからは、法律改正には中小企業の意見も十分に聞いたというお言葉がございました。少くとも私どもの業種団体においては、全国団体でいながら、何らこういう内容はきのうまで知りませんでした。参議院の場合にも急に十一時ごろ電話がかかりまして引っぱり出された。それまでは、私は毎朝日刊工業の特許公報その他の目録も見ておりますが、新聞、雑誌に長官が書かれたものを拝見して、断片的に知っておった程度でございます。前発言者のるる申し上げたように、わが国の大多数の、八〇何%の発明者の実情と声を聞かれたでありましょうか。聞かれてないと思います。これだけ大部のものをこの国会の参議院、衆議院におけるお忙しい審議時間の中で、代議士各位もこれをこなす時間の余裕がございましょうか。おそらく特急が走り出したらとめられないということで、四十年来の大改正においてこれが通ったとするならば、あと事件が次々と起るでありましょう。この意味で十分民意を尊重されまして、国民を代表された先生方はなおさら十分練られた利害関係者の意見を聞かれて御審議を願いたいと思います。
そこで除斥期間の廃止についての異議の適格者の問題でありますが、これも現在は利害関係者でなければその請求ができないのに、だれでもできる。しかしそれもどっちかわからぬというようなあいまいもことしたことではかりにだけでもできるとなれば、困りに困った者はゆすりたかりが法的にできる事件が連続するということになります。堂々たる事務所を張っておる弁理士さんでも、聞くところによりますと、出願の代理をする代書人的な事務よりも、図面を書いたり訂正をしたりするようなことよりも、手軽に仕事になる方法は、中小企業の権力、資力に乏しい者が苦労をしてでっち上げて、軌道に乗ったもうかりそうな発明産業を探し、その特許番号を探して、それをゆする。言いかえれば無効審判のできる種を探して、期限付で言うことを聞かした方がたやすくもうかる。今のうちに世界じゅうに情報網を張って、そういう方面の仕事をしたい、そういう方針に切りかえたという一部の弁理士さんもあるやに聞いております。この除斥期間の現行法の五年、三年の期間においても、そういう一部の弁理士さんも実際ございます。こういうことが、苦労をして軌道に乗せた——これは特許をとるだけなら比較的楽でございます。新規であって、実際に役立つものならば、これは特許になり、実用新案になるわけですが、これを営業化をして国家のお役に立て、国際収支にお役に立てるというようなところまで持っていくための苦労、そのかわりにあと十年、十五年は独占させてごほうびをやろうということだろうと思います。それがいつも手につかぬ、頭をこんがらからせるというようなことにされたのでは、発明立国も伸びないと私は思うのであります。くれぐれもこの除斥期間の廃止はやめていただきたい、こうお願いしたいものであります。これは私個人の意見ではなくて、私どもの組合、全国団体の総意であります。なお私の団体ばかりでなくて、ほかの業種の違った団体でも同様な声を聞いております。先ほど来申されたように、審議会の吉原さん、兼子さん、工業所有権の学者の染野さん、その他特許庁内、弁理士会並びに学会業界の学識経験者の中にも、審議の不十分の声が高いように聞いております。せっかくこの得がたい長官を戴いて、われわれ中小業者は工業所有権のおかげで比較的安心をし、安泰に、またなるたけお役所に御迷惑をかけぬように自主的にやっておりますが、井上長官は皆さん御承知のように非常に古く特許庁におられて、この長官の時代にりっぱな特許法改正をしていただきたいということを期待して参っておるわけであります。昭和一十五年に終戦後、最初はからずも私藍綬褒章をいただきました折に、そのときすでに総務部長でおられました。その後六カ年といわれますから、ずっとこの特許法改正に心魂を捧げられたと思います。ところが当初申し上げるように、大部分の発明者にして経営者である、自分の発明を実施化し、それを営業まで持っていき、発明を産業の発達する具体化に持っていく中小の発明者、企業者がたよりにしています特許庁が、法律改正に当ってどうもますます争いことは裁判所に持っていけというような縛許法改正になったやに見られます。これは十分にわれわれの実情と意のあるところをくんでいただきまして、りっぱな改正をお願いしたいと思います。
大へんくどくなりましたが、前申された発言者の各位の発言を含めて、くれぐれも即急の成立でなく、これが理想的にいえば発明協会の理事長さんが申されたように、なるたけ早く、いい、完全なものを成立させていただきたいのでありますが、ここまで来て、このどたんばに、われわれの申し上げるようなことが全然含まれてないとするならば、他にいろいろいい改正点がございますことも拝見できますが、いい点の改正されたと同様、悪い点、あいまいな点をはっきりさせていただいて通していただきたいと思います。そのためにはどうしても時間的に審議の時間が短かいかと思いますので、いましばらくさらに練っていただきたいと思います。終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/14
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015・田中武夫
○田中(武)委員 議事進行について。本日は特許法以下十法案につきまして、わざわざお忙しい中を八名の参考人に来ていただいて、この重要な法案について参考意見を聞いておるのです。ところがこの状態は何です。こちらにすわっておるのは全部社会党委員であります。与党がわずか二名。こういうことで真剣にこの審議が進められると思っておりますか。私はもっと人を集めて午後からあらためて再開せられんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/15
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016・長谷川四郎
○長谷川委員長 午後一時半まで休憩いたします。
午後零時二十七分休憩
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午後二時二分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/16
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017・長谷川四郎
○長谷川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
特許法案、特許法施行法案、実用新案法案、実用新案法施行法案、意匠法案、意匠法施行法案、商標法案、商標法施行法案、特許法等の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案、特許法等の一部を改正する法律案、以上十法案について、休憩前に引き続き参考人の御意見を聴取することといたします。井上一男君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/17
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018・井上尚一
○井上参考人 井上でございます。日本特許協会の法律改正に関する委員会の委員長という立場で出ましたわけでございますが、最初に申し上げておきますが、私実は東芝の方に勤務しておりますので、その経験も多少織りまぜながら、業者に直結した特許の方の担当者というふうな意味でのお話も申し上げたい、こう思っております。
この改正法全般を見ました感じといいますか、それを先に申し上げたいと思うのでございますけれども、これにつきまして私ども協会の方では先ほど齋藤さんがおっしゃいましたように、なるべく早くこれを実施していただきたいという念願が非常に濃いわけでございます。と申しますのは、現行法はすでに四十年たっておりまして、その間にいろいろ運用上不便が痛感されておりますので、前々からこういった点を考えてほしいというような希望を持っておったわけでございますが、その点について、相当程度われわれの要望に沿う、業界がこの制度を健全な形で運用して利益を得ていくにふさわしいと思われる改正点が相当に取り入れられてございますので、そういった意味で一刻も早くこの法案が実施されるということを望んでおるわけでございます。
先ほど来六年の審議というようなことがございましたが、そもそもから申し上げますと、昭和二十五年の暮れに審議会が発足いたしまして、実際は二十六年の春からだったと思いますが、それからのことでございますので、そういう準備期間から現在までと考えますと、すでに十年の期間を継続しておるわけでございます。四十年間たまりたまったあかをふるい落して、新しいものにするということのために、十年の準備期間をかけて改正法案を作ったということですと、そうあわただしくやってしまったという感じでなくて、相当慎重な審議の結果、この法案が生れたというふうに感じられるわけでございます。私自身も、実はその工業所有権の改正審議会の専門委員として、多少お手伝いをさせていただいた関係もございますが、別に自分がタッチしたからどうこうということではなしに、その間にいろいろとこうあるべきである、こういった点にわれわれ不自由を感じているのだということをるる申し上げまして、現行法を現在の法案のようにかえていただくための努力もしたわけでございますので、せっかくそういうふうに要望が少しでも多く取り入れられたというふうな法案が、じんぜんとして実施がおくれているというふうなことでございますと、焦慮の念を感ずるのは当然でございまして、そういった意味でも、なるべく早く審議を済ましていただいて、実施に移していただきたいというのが偽わらざる念願でございます。ただその間に、先ほど来いろいろある特殊の偏した層の声だけを聞いたのじゃないかというふうなお話がございましたけれども、必ずしもそうではないのではないかというふうに考えます。ということは、いろいろな層、たとえば政府の方、それから学校のこの方面を専門的に御研究になっている先生方等のほかに、民間として私ども数名は入れていただいたわけでございますが、そのほかにも発明協会であるとか、あるいは弁理士会の方であるとかいうふうなところからも委員が出ておりまして、会議の模様を今から回想してみますと、実は弁理士会からの委員の数名の万、あるいは発明協会の方、それからそうでなく古い特許庁の関係者で、現在特許庁を離れておられるその方の経験者というふうな方々からの御発言の中にも、中小企業の立場も考えてやらなければいかぬではないかということか、しばしば出たように記憶しておるわけでございます。そういう意味で、実は私大企業の立場のみを考えて意見を言ったわけではないのでございますが、自然と自分の申し上げることが大企業の立場からの発言であるというふうにとられまして、かなり食いつかれたこともあるわけでございますけれども、それほどに中小企業の状態をよく知っておいでの発明協会であるとか、あるいは弁理士会の皆さんは中小企業のためにずいぶんと弁じられたというように私の記憶にもございますし、記録を見ましてもそうなっているわけでございます。また自分自身といたしましても、正直のところ大企業だけで世の中が立っていくわけではないのは当然でございまして、自分の勤務している東芝の実情を申し上げましても、やはり相当多数の中小企業の方の御援助、御協力があって初めて会社が動いているというふうなことで、そういう方面の事情をいろいろな点から聞いてもおるわけでございますので、やはり中小企業の方々の立場というものも含めての相当に広い階層にわたっての意見といいますか、そういうふうなものが総合されてこの法案ができたといっても過言ではないと考えるわけでございまして、一例を申しますと、たとえば実用新案の問題でございますが、私は、かつては実用新案は廃止すべしという考えを持っておったわけでございます。しかしいろいろと自分の会社の関係にもございます中小企業のいろんな声を聞き、あるいはまた審議会においていろいろまた他の方の御意見も伺ってみるというふうな間において、やはり実用新案というものは、将来は知らず、現在はあるべきなんだ、特許法一本じゃ無理なんだというふうなことがわかりましたので、その後は実用新案を廃止するという意見をやめまして、むしろ実用新案がなぜやめるべしという議論が出ておるのか。それには、やはり現在の実用新案の運用の仕方では相当な弊害があるわけでございまして、それがために実用新案がきらわれものになっておるというふうな実情にありますために、むしろその弊害を除く。除いて、やはり健全な姿での実用新案というものがあった方がいいんじゃないかというふうな考え方で、その弊害を除くことには努力をいたしましたけれども、やはり実用新案を存置すべしというふうな意見で、審議会の結論にも加わったということもございますので、必ずしも審議会の審議が大企業に偏したというふうなことはこれはあり得ないんじゃないかというふうに考えるわけでございます。
そのようにいたしまして、審議会が答申を出し、その答申に基いてこの法案ができたわけでございまして、じゃ、しからば、われわれの要求が全部そこに盛り込まれて、完全無欠な法案になったかということになりますと、これは遺憾ながら私は百点は上げられません。しかし非常な膨大な法案でございまして、そのすべての点にわたってほんとに理想的な、百点を得られるというふうなものにするがためには、いろいろな意見もあり、いろいろな階層もあるわけでございまして、それを全部すべての人に満足のいくような理想的な形の、一点ウの毛で突くほどのきずもないものにするというふうなことになりすと、現在まで四十年たったものが、果して一体いつになったらば新しい法案ができるのかということを考えざるを得ないわけでございまして、相当に進歩的な、また業界の要望に沿うような改正点が取り入れられてある。そして多少そこにまだ不満足な点があるかもわからぬけれども、しかしその辺のところはむしろここで踏み切って実施に移す。そうして今度初めて投入されました非常に新しい制度なんかにつきましては、一応ここでこうあるだろうと予想しておっても、その運営の面において今後種々の弊害もあるいは不便もできるかもわからぬ。そのときはそのときでもって、また改めていくというふうにしていくのでなければ、この法案の実施というのは、結局、これから何年たつかわからないということになりまして、せっかくの業界の要望に沿うように改められたおもな点というものが、そのままたな上げになってしまって、依然として不便なり弊害なりに苦しみながら、それを待たなければならないということになってしまうわけなんでございまして、そういう意味からいって、私は、今申し上げた通り、この法案について百点というふうには決して考えてはおりませんけれども、この辺のところで、非常にプラスの面が多いんだ、またがまんのできないようなマイナスの面はないんだというふうな観点からして、一応実施に移す。移して、それをやはり運営に当る者が全部協力をしていいものに育て上げていくんだ。どうしてもそれができない場合においては、少しもちゅうちょなくその部分を変えたらいいんじゃないか、あまり現実的過ぎるかもしれませんが、私はそんなふうに考えておるので、そういう意味で、できるだけこの法案の成立を望むということを、結論として申し上げるわけでございます。
続きまして、今までの参考人の皆さんから、問題として非常に多くの方から御発言のございました、無効審判の請求に関する除斥期間の問題、これについて私の意見を申し述べさしていただきたいと思います。
結論として先に申し上げますと、私はこの際斥期間というものははずしていただきたい。現在ある除斥期間というものをはずして法案の通り——これは審議会の答申でもそうなっておりまして、この問題を討議した場合において反対者は一名もなかったと思うのでございますが、とにかく審議会の答申でもそうなり、それをまたそのまま踏襲したこの法案というものが示す通りに、除斥期間というものは今回やめていただきたいというのが、まず最初に申し上げます結論でございます。
それじゃ一体どういう理由からそういうことを言うのかということを次に御説明申し上げたいと思います。
今さら御説明申し上げるまでもなく、除斥期間というのは、要するに、特許なりあるいは新案が登録になりましてから一定年限が過ぎると、たといきずのあるものでも無効審判をもってその特許あるいは新案の無効を主張することができないというふうな、非常に特別な制度であるわけでございまして、実はこの点について考えますと、無効審判が一体何のためにあるのかというふうなことから考えなければならないわけでございますが、そもそもにおいて、特許制度というものは一体どういうものであるか。あまりこのことについて長し申し上げることはやめますが、要するに新しい着想についての保護をしようじゃないかということで尽きるかと思うのでございますが、その新規な着想についてはこれはもうできるだけ保護を徹底していこうということと同時に、今度は、それが新規でないならば、結局新規でないものが特許されたというために、一般の世間が非常に迷惑するわけでございますので、その間の調節をはからなければいかぬというので、無効審判というものがあるわけでございまして、国によって審判制度でやるところ、あるいは訴訟で無効にするというところ、いろいろございましょうが、現行法におきましては、審判制度によって、無効原因のあるものはこれを無効にすることができるという道を開いておるわけでございます。元来、この独占権が新しい着想の上にできると、それから以後においてその新しい着想そのものは、独占者つまり権利者の専有になりまして、ほかの人たちがそれを利用することができないという意味で、ある抱束を受けるわけでございますけれども、他人は決して今まで持っておったものは奪われないということが考えられるわけでございます。つまり、私が何かもう日本中のどなたも考えなかったようなものをここで新しく考えたといったときに、それについて独占権を得ましても、今までお持ちになっていたほかの方の自由というものはそこで全然阻害されないわけでございます。それがまた特許制度としてあらねばならぬ姿ではないかと思うのでございますが、しかし時として、今まで一般に持っておった技術的の自由、必要に応じてそれを使おうというその自由が奪われてしまっておるということがあるわけでございます。それは 一応審査は特許庁でなさいますけれども、しかし御承知のように、非常にたくさんの出願がなされる、特許庁の人員は不足である、あるいは資料がないというようなことになりますと、どうしてもそういう今まで普通の一般の人が自由に使い得たという技術の上に、私なら私に独占権ができてしまうということは、これはどうもやむを得ないのじゃないか。ことに、特許庁にどれだけの人をふやしましても、特許庁の中に職員がごもって、見得る資料というものは限られておるわけなので、日本全国を行脚して、どこにどういうふうな事柄がすでに行われておったかということまで知悉するということは当然できないわけでございますので、それで今まで全般の人あるいは一部の人が使っておった技術というものに対して、誤まって独占権が与えられる、特許権が与えられるということは、当然あると考えていいんじゃないかと思うわけでございますが、そういうような場合において、これをそのまま放置するということが許されていいのかといえば、これは特許法の精神からいいまして、今まで持っていた自由を奪ってしまうというようなことで、独占権がある一人の人に与えられるということは、言うまでもなく誤まった形態でありますので、それを救うために当然無効審判というものはなくちゃならぬ。もちろん異議申し立ての制度もございますけれども、それに加えて特許になってからのいわゆる公衆審査でございますか、特許庁が発見し得なかったそういう公知の事実と比較して、この特許は無効であるのだということを言い得て、そして不当に加えられたその拘束を打ち破っていくということが、当然に必要になってくるわけでございます。そういうための無効審判の制度があるわけでございますけれども、それがかりに除斥期間というものが設けてありますために、五年間はよろしいが、じゃ六年目になってその事実が発見された、しかしどうも除斥期間の関係で、無効材料がはっきりあるにかかわらずその審判を請求することができないで、みすみすこの不当な特許の存在をそのまま認めていかなければならないというふうなことがあってはおかしいわけでございます。これは聞きますところでは日本だけの独特な——独特といっても必ずしもいい独特ではなくて、かなり妙な制度であるわけでございます。ドイツでも一ぺんそういうような除斥期間の制度を作ったことがあるそうでございますけれども、弊害がたちまち現われたので、数年ならずしてそれをやめたということも聞いておるわけなので、結局今残るところは日本だけというふうになっておるのでございます。ただ五年の間に、すべての特許を、全部掃除したらよろしいじゃないかということになりますと、これは望んでできないことでございまして、とてもすべての特許の掃除はできない。実は私どもの方にいたしましても、会社は相当の人数をそろえまして、そういうふうな掃除をやっておりますり。これは特許の方に関係しておる人間だけでなく、研究所の方の人間、一場の方の人間も一緒になりまして、じゃまになるものは、当然それがまた無効であってしかるべきと思われるものはどんどん審判を請求して、いわゆるお掃除をしておるわけでありますけれども、しかしそれでもなおかつ残るわけでございます。その除斥時間があるために非常に困る事例を相当に経験するわけでございます。なぜ残るかというと、一例をもって申し上げますならば、もう年がら年じゅう同じ、たとえばテレビならテレビを作る、しかもそのテレビ以外のものを作らぬというものなら、それでも大体掃除をし尽すことができるわけでございますけれども、次から次へと新しいものを事業の中に加えていくということになった場合において、今まで調査をしなかったような分野を、その仕事を始めるについて、あらためて見るというふうなことはよくあるわけでございますが、そういたしますと、今まで見ていなかった、それは必要がないから見ていなかったわけでございますが、その分野においてやはり無効の事由を十分に持った特許がある。これが除斥期間内でありましたならば、それに対する手当をするわけでありますけれども、時すでにおそしということがしょっちゅうあるわけでございます。そういうふうな場合において、その除斥期間の弊害を非常に痛感しておるわけでございます。そういうふうに権利者の立場からいいましたら、あるいは自分のところの権利が除斥期間の制度のために確立して動かすことのできない、一指も染めることができないということになるのが望ましいわけでございますけれども、しかし、世の中は権利者だけででき上っておるものではないわけでございまして、会社の例を出して恐縮でございますけれども、東芝といえども、やはり権利者の仲間入りをさしていただきまして数千件の権利を持っておるわけでございますので、権利者の立場ということのみを考えるならば、私除斥期間の撤廃に反対いたしまして、やはり除斥期間を作っておいていただいて、東芝の権利がすべて確定するというふうなことが望ましいということを主張したいところでございますけれども、しかし、それでは元来無効にならないりっぱなものであるならば、これはもう別といたしまして、かりに無効になるべき運命を持っておる、そういうふうな原因を初めから持っておるというふうなものならば、むしろ東芝が独占しておるということの方がおかしいわけでございまして、これについて他から責められたら、いさぎよくかぶとをぬぐべきじゃないかということも考えられるわけでございますが、なお、そのほかに会社といたしましても事業をやっております。事業をやっておるからには他人様の権利にもひっかかる、ひっかからないというふうな問題ができるわけでございまして、そういう意味では権利者であると同時に今度は権利によって対抗を受けるという立場を持っておる、両方の性質を企業者としては持っておるわけでございまして、そういった場合において、他から不当な特許によって制約を受ける、当然これはもう公知の技術であるから、東芝はもちろんのこと、だれでも使えてしかるべきではないかと思うようなものが、そういう特許になっておりまして、そのために会社の企業活動が妨げられるというふうなことになりましたら、当然それに対して反発をしなければならない。しかるに、そこに除斥期間があるということになりますと、もうみすみす泣き寝入りをしなければいかぬというふうなことにもなるわけでございまして、立場を変えていえば、また自分のところの持っておる特許が、そういう瑕瑾を持っておる場合において、他人に不当な迷惑をかけるのが、決していさぎよいものではないわけでございまして、両方の意味から数千件の特許を持っておるにかかわらず、やはり除斥期間はない方がよいのだという結論をせざるを得ないわけでございます。一つのケースといたしまして、実はこれは国内のことだけでなしに、最近でもしばしば経験しておることを申し上げますと、御承知のように外国から多数の出願が日本になされております。これは残念ながらどうしても外国の方がいろいろな発明を早くしがちでございまして、むろん例外はあるはずでございますけれども、外国の方の会社の出願が、日本より先んじておるという場合が相当多く、そういうふうな関係でまだ日本ではどこもその仕事をやっておらぬという場合に、アメリカあるいは欧州ではこの発明ができて、仕事がそろそろ始まっておる、そういった場合に、日本にいち早く出願をして参りますけれども、日本の業者というものは今申し上げましたように、やはり多少後進性がございますので、その特許についての関心が薄いわけでございます。まだ自分のところでやっていないのだから、やっていないところにまで一々手間をかけて無効材料を見つけてつぶすというようなことはできませんので、つい見のがす。しばらくいたしますと、今度はそれが自分の方で仕事を始めようという場合になって調べてみますと、無効材料が十分にある、あるからつぶそうと思ったところが、除斥期間のために間に合わないというふうなことのためにみすみすその仕事をやめる、あるいは多額な実施料を外国に払って初めてやるというふうなこともあるわけでございまして、これは実例が相当にあるわけでございます。そういったような場合において、日本ではそれがそのままずっと継続するわけでございますけれども、外国ではそういうふうな無効材料を含んでおります発明でありますからすべて権利がなくなって、日本だけがいいかせぎ場になっておるというふうなことさえあるような実情でございますので、そういった意味からも除斥期間はぜひあっては困るのだというふうに考えておるわけでございます。われわれはなるべくその公報をしょっちゅう調査いたしまして、そういうことのないように気をつけてはいますけれども、すべての企業にそういうことを望むということはとうていできないことでありまして、そういう専門的な調査機関を持っておらぬところの普通の中小企業の方等においては、こういうふうなことで苦しむ場合が、むしろ大企業よりも多いということは当然に考えられるわけでございます。中小企業の立場から考えると、除斥期間というものはどうしても必要だというふうなことを聞くのでございますけれども、最近の調べでは全国で三百数十万の中小企業があるそうでございますけれども、その中小企業の全般のことを考えた場合においては、むしろ逆のことが言い得るのではないかとさえ考えるわけでございまして、困る場合、つまり権利の対抗を受けて困るという場合が中小企業の中に圧倒的に多いということも、一応考えていかなければならないのではないかというふうに考えられるわけでございます。
なおそういうふうなことを利用いたしまして悪質な人たちが除斥期間の乱用によって他人をいじめるというようなことも、これはしょっちゅう見聞きするわけでございますけれども、これもやはりその被害はだれが受けるかといえば、大企業よりもむしろ中小企業の方が受けるということもやはり当然のことで、そういう意味からいいまして、この除斥期間のために迷惑をこうむっておるというのは、決して大企業だけでなくて、大企業、中小企業すべて通じて、一致して、共通な事実であるというふうに私は考えるわけでございます。
ただ私どもとして一応考えなければならないのは、除斥期間があることによって権利が確定する、その確定したことによって金融を得るというふうな便宜があるので、金融のために苦しんでおる中小企業としては、どうしても除斥期間が必要だというふうな御説もあるわけでありまして、この点につきましては除斥期間そのものについては私反対でございますけれども、そういうふうなお立場の方が、何かして金融を受けたいというふうなお気持それ自体については、私十分に同情を申し上げておるわけでございますけれども、しかしそれは他の方法で解決すべきものではないか。そういうふうに、今まで申し上げましたように、弊害のある除斥期間を置いてそれにたよって確定するのを待って、多少傷があっても確定したからといって金融を受けるというふうなそういう行き方でなしに、ほかに方法を考えた方がいいのじゃないか。たとえばいろいろ権威ある協会なり、あるいは弁理士さんなりがありますので、そういった保証なり鑑定を得て金融を頼むとか、あるいはまた中小企業金融公庫でございますとか、そういうふうなところがもっと発明に対する金融というものを特別に扱うというふうなことをするとか、あるいはまた今度の料金値上げ等によっていろいろ増収が得られるわけでございますが、そういったものをそういうふうなお気の毒な立場の方々に発明の完成、実施化のために回すとか、ほかの方法は考えれば幾らもあるのではないかと思うのであります。ただ除斥期間というふうなものにたよって、そういう目的を達するというのではなしに、もっと正当な、ほかに迷惑のかからないそういう施策を、今後講じていくということによって、その方々の御満足を買うというのが政治としての当然な行き方ではないかというふうに私は考えるわけでございます。
以上のような理由を総合いたしまして、除斥期間の廃止には賛成で、法案の通りにきめていただきたい、こう考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/18
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019・長谷川四郎
○長谷川委員長 村瀬直養君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/19
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020・村瀬直養
○村瀬参考人 私村瀬であります。
今度の工業所有権制度の全般的な改正について一つ意見を申し述べたいと思います。
現行の工業所有権の制度、すなわち特許法、実用新案法、意匠法及び商標法というものは、御承知の通り大正十年の制定にかかりまして、その後多少の改正は行われましたが、その根幹においては先ほど井上さんからお話がございましたように、すでに数十年を経過しておるのでありまして、その後の変化せる事態にこれを対応せしめますために、これを全面的に改正をするということは、終戦以来の懸案であったのでございます。そのために政府は各方面のしかるべき人を集めて、工業所有権制度改正審議会というものを設置し、これが審議に当らしめておりましたが、その審議会は、これも先ほど井上さんがお話のございましたように、長い間慎重審議をいたしました結果、昭和三十一年の十二月に通商産業大臣に対して答申をいたしたのであります。よって政府当局はその答申の趣旨を尊重してこれに関する法律案を作成いたしたのであります。もっとも法律案作成の段階において政府部内における調整の結果、多少答申と異なるに至ったところもあるようでありまするが、答申の意図した基本的な目的は大体これを実現していると存ずるのであります。
今回の工業所有権に関する四つの法律案は、いろいろの点において現と打の法律の内容を改めておりまするが、私はそのいずれも大体において適当であると考えておるのでございます。以下その重要な点について意見を申し述べて御参考に供したいと存じます。
第一に、今度の改正正は国際的の視野に立っておるのであります。すなわち改正案は、出願前国外で頒布せられた刊行物に記載せられております発明等は、独占権の対象としないとしておりまするが、国際的な技術交流が盛んになって参りました現状におきましては、これは適当な措置であると存じます。この措置によりまして、国内では頒布されていないが、すでに外国では頒布せられておる、外国の文献に記載されておりまするものに対して、日本において特許が付与せられるというような弊害は除かれることと存じます。
なお意匠法におきましては、出願前外国で頒布せられた刊行物に記載せられた意匠のほかに、公然知られているものについては意匠権を与えない、かようにいたしておりますが、意匠は発明などと違って、刊行物に記載せられないで世人に知られているということが多いのでありますから、これも意匠の実際に合った適切な措置であると考えられるのでございます。
改正法案が国際的視野に立っておりまする次の点は一つの特許出願で二つ以上の発明について特許出願をすることができるようにしておることでございます。従来わが国においてはいわゆる一発明一出願の原則を堅持しておりまして、その例外はほとんど認められませんでしたが、今回の改正において、第三十八条でございますが、大幅にその例外が認められることになりましたので、諸外国に採用せられておりまするいわゆる特許権請求範囲の多数項、こういう原則がありますが、特許権請求範囲の多数項の主義と実質的には同様な効果を上げることができ、国際的に相互に出願するについて、非常な便益をもたらすことになりましたが、これも妥当な点であると存ずるのでございます。
第二に、今回の法律案においては最近における科学技術の現状に即応するために、原子核変換の方法により製造せられる物質の発明については三十二条でこれを特許しないことにしておりますが、これも適当であると存ずるのでございます。けだし、わが国の原子力産業はまだ発達の途上にあるのでありますから、基本的な発明である原子核変換の方法によって製造せられまする物質に対して特許を与えるということは、わが国にとって好ましくない結果がもたらされるからでございます。
第三に、改正法案は、特許権の効力を、業としての特許発明の実施、これに限定しておりまして、特許にかかるものを家庭的に使用しても、特許権侵害にならないことにしておりますが、これも適切であると考えるのであります。すなわち、家庭的な使用にまで特許権の効力を及ぼすということは、多少行き過ぎでありまして、また実際上もその必要がないと思われるからでございます。
第四に、改正案は特許権等の侵害についての民事訴訟において、権利者の利益のために、第百条以下において、種々の措置を講じておりますが、これも実際上適切なものであると考えております。従来の特許権の侵害による損害賠償の請求のための民事訴訟において不便でありましたのは、特許権者の側において侵害者に故意または過失があったことを立証いたし、また侵害によって特許権者に幾ら損害があったかを立証すべきものと、かようになっていたことでありましたが、今回の改正におきましては、侵害行為があったときは、一応過失が推定せられることになり、また侵害者の得た利益は一応特許権者の損害と推定せられ、また通常受くべき実施料の額が最低限度の損害とみなされましたので、これらの不便はすべて除去せられたわけでございます。また特許発明の実施のみに使用せられるものを特許権者以外の第三者が製造等をいたしましたときは、特許権の侵害を輔助するものでありましても、従来は特許権侵害は成立し得なかったのでありますが、今度は特許権侵害として取り扱われることになったのでございます。特許権者を厚く保護する上において、実効をあげることができるかと存じます。
第五に、改正案は、現行法の特許権等の範囲についての確認審判を特許庁によります「解釈」ということに改めまして、これによって従来確認審判の審決について存在いたしておりました疑義を除去いたしました点でございます。確認審判という大事な制度について、その審決が裁判においてどんな効力を有するかということが正不明であるということは妥当ではありませんので、今回の改正では、その効力は法律的には鑑定に類似したものであるということを明らかにいたしたものでありまして、適当であると考えるのであります。なおこの「解釈」の制度につきましては参議院においてある程度修正が加えられております。すなわち、「解釈」という言葉は多少軽く解せられるおそれがあるということで、これを「判定」という言葉に改め、またこれに当る審査官の数を改正し、また判定に関する手続を政令で定めることにして、その慎重を期することといたしておりますが、これらはいずれももっともな修正であると存ずるのでございます。
第六は、改正案は特許権の存続期間の延長制度を廃止しておりますが、これも妥当であると存じます。この制度は大正十年の改正に当っても、運用上適当でない場合が多く指摘せられまして、とかくの批判があったのでありますが、今回廃止と決定せられたのでございます。現行制度は発明が世の中に与えた便宜が大であるのに比較して、利益を上げることができなかった、そういう発明者を救済せんとする趣旨に出ておるものでありますが、この制度を具体的に公正妥当に運用することはきわめて困難でありますので、今回これを廃止と決定いたしたことと存じます。
最後に改正法案は、特許無効審判の請求についてのいわゆる除斥期間を廃止いたしておりますが、この点は先ほどからたびたび議論があった問題でございますが、これはこの除斥期間がありますと、無効理由のあるような特許について、除斥期間の経過するまでは権利の行使を差し控えておりまして、また事業も行わないで世人の耳目をそらしまして、除斥期間が経過をして他人がいかんともなしがたくなった後に、他人に対して侵害の訴訟を起すというような弊害があり得るので、これを防止いたしたものでありまして、私はこれはもっともであると考えておるのでございます。あるいはこの除斥期間を廃止することによりまして、無効審判が際限もなく請求せられまして、権利者を困らせるのではないかというような意見もあるようでございますが、この点は民事訴訟におきまする、利益なければ訴権なしという原則と同じ原則が、特許の無効審判の場合にも行われまして、利益がなければ請求をなすことはできませんので、かかる懸念はなく、乱訴の弊ということも考えられないのではないかと存ぜられるのであります。
次に実用新案法案について申し上げますと、実用新案権の対象を型から考案にいたしておりますが、これも適当なことであると存じます。型といいましても結局は技術的な効果を中心として判断することになりますと、発明とほとんど変らないことになります。それにもかかわらず、型と発明を区別する建前をとっておりまする現行制度のもとにおきましては全く同一の技術的考案が型として実用新案の出願をすれば実用新案権となり、発明として特許の出願をすれば特許権となって、実際上不都合を生じておるのであります。今回の改正によりまして、実用新案権の対象と特許権のそれとは質的な差異でなく、程度の差になったのでありますが、これも適当であると存ずるのであります。
次に意匠法案について申し上げますと、新規性喪失の例外の事由を大幅に認めましたのは、意匠の特性に合致した措置として適当なものの考案について全部出願をすることは大へん手数がかかることであり、むしろ売りに出して世人の好評を博したものについて意匠権を取られた方が、意匠考案者の利益になりますし、またそうしたからといって発明などの場合と違って弊害は見当らないからでございます。
最後に商標法案について申しますと、今回の改正案が商標権の財産的価値を高めようとしておりますのは、経済界の実情に即するものといわなければなりません。従来の商標法におきましては、商標権は営業と分れては移転することはできないし、また商標権者が他人に自分の登録商標を使用さすことも認めていませんでした。商標というのは特定の出所を表示するものでありますから、商標によって商品を買いまする公衆は、その商品が特定の出所から流出しているという信頼を持っております。商標権を営業と分離して移転することを認めたり、または他人に登録商標を使用さすことを許すことは、商標に対する公衆の信頼を裏切ることになるから、法律上禁止すべきであるというのが、従来の商標法の基本的な原則であったわけでございます。ところが経済の発展とともに、次第に商標の経済的な価値が高まり、従って一般の財産権と同様に自由に移転をしたり、または他人に使用させたりする必要性が生じてきたのであります。しからばこのような経済上の要求に応じた場合において、果して弊害があるかというのに、格別の弊害は認められないということで、今回の法律案の採用ということになったと思われますが、私もこれが適当であると考えるのでございます。けだし、今日のように大量の商品について、数多くの商標が使用されて市場にはんらんいたしておりまする現状におきましては、一般公衆は商標によって特定の出所を知ることは比較的少なく、むしろ多くの場合は、その商標の付されている商品が一定の品質を保持するものでありますれば、公衆の満足は充足される、そしてその品質の保持は譲受人の努力によって十分にこれを保障されるものと考えられます。従って商標権を商業とともにしないで、移転を認めることも、右のような公衆の信頼を裏切ることにならないと存ぜられますからでございます。他人に登録商標の使用を認めますと、その商標を付した商品が複数の出所から流出することとなり、公衆の商標に対する期待に反するのではないかとの疑いがあるかもしれませんが、商標の使用を他人に許す場合には、商標権者とその他人との間に密接な関係があるのが通常でありますので、法律の建前としては、その他人は商標権者と同様に取り扱って差しつかえないと存じます。以上の理由によりまして、商標権の経済的価値を高める方向に改正いたしますることは適当であると考えるのであります。
そのほか、今回の工業所有権に関する諸法律案は現行の諸法律のいろいろの点を改めておりますが、さきに申し述べましたように、いずれも大体妥当なものと認められまするので、私は本委員会において、ぜひこれを御可決あらんことを念願いたすものでございます。
なお参議院におきましてはこういう附帯決議がなされております。すなわち、「審査、審判の促進に努め、特に滞積せる未処分の出願を一掃するため画期的な方途を講ずること、」こういう附帯決議がなされておりまするが、これはきわめて重要な事柄でありまするので、本院におきましても、ぜひこれについて各方面の御指導を賜わりまするように、この機会にお願いを申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/20
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021・長谷川四郎
○長谷川委員長 以上で各参考人の方方の意見の開陳は終りました。
参考人の方々には、長い間にわたって貴重な御意見をお述べ下さいまして、まことにありがとうございました。本法案は、皆様方のおっしゃる通り最も重要な法案でございますので、私たち一同は慎重にこの審議を進めていく考えでございます。本日はありがとうございました。
本日は、これにて散会いたします。明日は午前十時より開会いたします。
午後二時五十五分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103104461X03519590325/21
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