1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和三十六年二月二十八日(火曜日)
午後一時二十七分開議
出席委員
委員長 坂田 英一君
理事 秋山 利恭君 理事 大野 市郎君
理事 小山 長規君 理事 石田 宥全君
理事 角屋堅次郎君 理事 芳賀 貢君
安倍晋太郎君 飯塚 定輔君
倉成 正君 田口長治郎君
舘林三喜男君 谷垣 專一君
中馬 辰猪君 綱島 正興君
内藤 隆君 野原 正勝君
藤田 義光君 本名 武君
森田重次郎君 北山 愛郎君
東海林 稔君 中澤 茂一君
西村 関一君 山田 長司君
湯山 勇君
出席国務大臣
農 林 大 臣 周東 英雄君
出席政府委員
農林政務次官 井原 岸高君
農林事務官
(大臣官房長) 昌谷 孝君
農林事務官
(大臣官房審議
官) 大澤 融君
委員外の出席者
議 員 北山 愛郎君
農林事務官
(大臣官房総務
課長) 東辻 正夫君
専 門 員 岩隈 博君
―――――――――――――
二月二十五日
委員足鹿覺君辞任につき、その補欠として永井
勝次郎君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員永井勝次郎君辞任につき、その補欠として
足鹿覺君が議長の指名で委員に選任された。
同月二十七日
委員西村関一君辞任につき、その補欠として野
原覺君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員野原覺君辞任につき、その補欠として西村
関一君が議長の指名で委員に選任された。
同月二十八日
委員西村関一君及び湯山勇君辞任につき、その
補欠として永井勝次郎君及び田中織之進君が議
長の指名で委員に選任された。
同日
委員永井勝次郎君辞任につき、その補欠として
西村関一君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員楢崎弥之助君辞任につき、その補欠として
河野密君が議長の指名で委員に選任された。
二月二十三日
農業基本法案(内閣提出第四四号)
農業基本法案(北山愛郎君外十一名提出、衆法
第二号)
同月二十四日
魚価安定基金法案(内閣提出第七四号)
漁業生産調整組合法案(内閣提出第七五号)
同月二十四日
農業災害補償制度改正に関する請願外三件(草
野一郎平君外一名紹介)(第八三〇号)
同外二件(堤康次郎君外一名紹介)(第八三一
号)
同外二件(大久保武雄君紹介)(第九一〇号)
同(廣瀬正雄君紹介)(第九一一号)
同外五件(伊藤郷一君紹介)(第九五六号)
同外二件(松浦周太郎君紹介)(第九五七号)
同(小坂善太郎君紹介)(第一〇〇三号)
同外七十二件(兒玉末男君紹介)(第一〇〇四
号)
同(中村寅太君紹介)(第一〇〇五号)
同(八木徹雄君紹介)(第一〇〇六号)
同外十件(足鹿覺君紹介)(第一〇〇七号)
同外二十六件(稲富稜人君紹介)(第一〇二六
号)
農村計画推進対策の確立に関する請願外四件(
笹本一雄君紹介)(第九一二号)
同(長谷川四郎君紹介)(第九一三号)
同(長谷川四郎君外一名紹介)(第九一四号)
同(瀬戸山三男君紹介)(第九一五号)
同外一件(大橋武夫君紹介)(第九五八号)
同(綱島正興君外三名紹介)(第九五九号)
宮崎県北郷町の国有林払下げに関する請願(瀬
戸山三男君紹介)(第九一六号)
甘しよ糖業の振興措置に関する請願(山中貞則
君紹介)(第九六一号)
果樹農業振興特別措置法の制定促進に関する請
願(小坂善太郎君紹介)(第一〇〇二号)
益田市周辺老朽農道吊橋の復旧、改良事業費国
庫補助に関する請願(櫻内義雄君紹介)(第一
〇一一号)
農業委員会委員に土地仲介業者の就任禁止に関
する請願(浦野幸男君外二名紹介)(第一〇二
四号)
農地法の一部改正に関する請願(浦野幸男君外
二名紹介)(第一〇二五号)
農地法の厳正施行等に関する請願外一件(稻富
稜人君紹介)(第一〇二七号)
同外一件(玉置一徳君紹介)(第一〇二八号)
は本委員会に付託された。
―――――――――――――
二月二十四日
農村計画推進対策確立に関する陳情書
(第
二五四号)
新農村建設事業に対する補助率引上げに関する
陳情書
(第二五六号)
同
(第三八二号)
畜産会組織の法制化等に関する陳情書
(第
二五七号)
農業の機械化に関する陳情書
(第二
五八号)
高知県西南農業未開発地域の開発事業継続実施
に関する陳情書(第
二五九号)
農業災害補償制度改正に関する陳情書
(第二八七号)
同
(第二八
八号)
同
(第三三四号)
同
(第
三三五号)
同
(
第三三六号)
林業基本政策確立に関する陳情書
(第二八九号)
農村計画推進対策確立に関する陳情書
(第二九〇号)
急傾斜地帯農業振興臨時措置法の期限延長に関
する陳情書
(第三三七号)
急傾斜地帯農業臨時措置法の期限延長等に関す
る陳情書
(第三三八号)
農業計画推進対策確立に関する陳情
書
(第三三九号)
開拓団地の飲料水施設費国庫負担に関する陳情
書(第三四
〇号)
農業基本法に関する陳情書
(第三四一号)
国有林野内の開拓適地所属替えに関する陳情書
(第三四
二号)
土地改良資金の融資条件緩和に関する陳情書
(第三五七
号)
福島県営林道小檜沢線を二級国道宇都宮米沢線
接続に関する陳情書
(第三六一号)
大野平野総合かんがい排水事業予算削減に関す
る陳情書
(第三八四号)
急傾斜地帯農業振興臨時措置法等の期限延長に
関する陳情書(
第四一〇号)
老朽農道橋改修費国庫補助に関する陳情書
(第四一一号)
麦の価格対策に関する陳情書
(第四一二号)
漁業補償制度確立に関する陳情書
(第四一三号)
木材業者及び製材業者登録の立法措置に関する
陳情書(第四一
四号)
農業倉庫に低温貯蔵施設促進に関する陳情書
(第四一五号)
開拓事業推進に関する陳情書
(第四一六号)
農地開発改良制度改定に関する陳情書
(第四一七号)
は本委員会に参考送付された。
―――――――――――――
本日の会議に付した案件
農業基本法案(内閣提出第四四号)
農業基本法案(北山愛郎君外十一名提出、衆法
第二号)
魚価安定基金法案(内閣提出第七四号)
漁業生産調整組合法案(内閣提出第七五号)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/0
-
001・坂田英一
○坂田委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、農業基本法案を議題とし、政府に提案理由の説明を求めます。周東農林大臣。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/1
-
002・周東英雄
○周東国務大臣 農業基本法案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。
申し上げるまでもなく、わが国の農業は、過去幾世代にわたりまして、国民食糧その他の農産物の供給、資源の有効利用、国土の保全、国内市場の拡大等、国民経済の発展と国民生活の安定に寄与して参りました。また、農業従事者は、この農業のにない手として多くの困苦にたえながらその務めを果たし、国家社会の重要な形成者として他の産業従事者とともに国民の勤勉な能力と創造的精神の源泉たる使命を全うしてきたのであります。
しかるに、わが国経済の発展の過程におきまして、農業は自然的・経済的・社会的制約のため他産業と比較いたしますると生産性において著しい格差を生じておりまする上に、また、近時産業経済の著しい発展に伴いまして農業従事者と他産業従事者との間において生活水準の格差が拡大してきております。他方、国民生活の向上とともに農産物に対する需要にも変化が生じ、澱粉質食糧の消費が減って蛋白脂肪質食糧等の消費が増大する傾向が現われてきたことや、農業から他産業への労働力移動の現象が見られ、農業就業人口が減少し始めてきたこと等、農業と農業を取り巻く条件の変化はまことに著しいものがあります。
このようにいわば農業が曲がりかどに来ているという事情を背景にして、産業、経済の重要な一部門として農業も国経済の成長発民展に即応して他産業におくれをとらないように生産性を向上し得るようにするとともに、農業従事者も他産業従事者と均衡する生活を営み得るようにすることが強く要請されております。
それゆえ、農業及び農業を取り巻く条件の変化と農業ないし農業従事者のあり方を考え、その調和をはかって、この際農業の向かうべき新たな道を明らかにし、農業に関する政策の目標を示し、これに基づいて諸般の施策を進めて参りますことは、農業及び農業従事者の重要な使命にこえると同時に、公共の福祉を念願する国民の期待にこたえるゆえんであると考えるものでございます。これがこの法案を提出いたしました趣旨でございます。
次に、法案の主要点につきまして御説明いたします。
まず前文におきまして以上申し述べましたような趣旨を明らかにしておるのでございますが、第一章総則におきましては、第一に、国の農業に関する政策の目標は、農業の自然的・経済的・社会的制約による不利を補正し、他産業との生産性の格差が是正されるように農業の生産性が向上すること、及び農業従事者が所得を増大して他産業従事者と均衡する生活を営み得るようにすることを目途として、農業の発展と農業従事者の地位の向上をはかることにあるものとしております。
第二に、この目標を達成するため、国は、農業政策のみならず、政策全般にわたって必要な施策を総合的に講じなければならないこととしておりますが、その際重点的に配憲すべき方向づけとして、(1)農業生産の選択的拡大、(2)農業生産性の向上と農業総生産の増大、(3)農業構造の改善、(4)農産物の流通の合理化、加工の増進及び需要の増進、(5)農産物の価格の安定及び農業所得の確保、(6)農業資材の生産及び流通の合理化並びに価格の安定(7)近代的な農業経営の担当者たるにふさわしい者の養成及び確保と農業従事者及びその家族がその希望と能力に従って適当な職業につき得るようにすること、(8)農村の環境整備等による農業従事者の福祉の向上の八項目を明らかにしております。これとともに、これらについての施策が画一的でなく、地域的に自然的・経済的・社会的諸条件を十分考慮して行なわれるべきものとしております。
第三に、政府は、諸施策を実施するため必要な法制上、財政上の措置を講じ、また、農業従事者が必要とする資金の適正円滑な融通をはからなければならないこととしております。
なお、施策を講ずるにあたっては、農業従事者等の自主的な努力を助長することを旨とするものであることを明らかにしております。
第四に、政府は毎年国会に、農業の生産性及び農業従事者の生活水準の動向と、これらについての政府の所見を含む農業の動向に関する年次報告を提出し、また、この報告にかかる動向を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を提出しなければならないこととしております。
以上が総則のおもなる内容でございますが、第二章ないし第四章におきましては、農業生産、農産物等の価格及び流通、農業構造の改善等に関し必要な施策の方針をそれぞれ明らかにすることといたしております。
すなわち、農業生産に関する第二章におきましては、農産物の需要及び生産の長期見通しを立てて公表すること、農業生産の選択的拡大、農業生産性の向上及び農業総生産の増大をはかるため、右の長期見通しを参酌して生産に関する施策を講ずること、農業災害に関する必要な施策を講ずることについてそれぞれその方針を明らかにしております。
農産物等の価格及び流通に関する第三章におきましては、まず、重要な農産物について、農業の生産条件、交易条件等に関する不利を補正する施策の重要な一環として、その価格の安定をはかるため必要な施策を講ずることとし、さらに、価格安定の施策の実施の結果を総合的に検討して施策の万全を期してゆくこととしたほか、農産物の流通の合理化等についての施策、輸入農産物との関係の調整、農産物の輸出の振興について必要な施策を講ずることとしておるのであります。
農業構造の改善等に関する第四章におきましては、家族農業経営の健全な発展、協業の助長、兼業農家の安定などに重点を置いております。まず、わが国農業のにない手としての家族農業経営の近代化をはかってその健全な発展をはかるとともに、できるだけ多くの家族農業経営が自立経営になるように育成するため必要な施策を講じ、また、協業を助長して家族農業経営の発展、農業の生産性の向上、農業所得の確保等に資するため、農業協同組合組織のほか新たに農業生産法人の道を開くなどの施策を講ずることによって、家族農業経営とその協業組織が相並び相補いながら農業経営の近代化に資するようにしたいと存じております。そのため、農地についての権利の設定または移転の円滑化のため、農業協同組合が農地の信託を引き受けることができるようにし、また、近代的な農業経営の担当者たるにふさわしい者の養成、確保等のため、教育、研究、普及の事業の充実等をはかることとしております。さらに、わが国家族農業経営の過半はいわゆる兼業によって家計を維持安定させている実態にかんがみまして、その家計の一そうの安定に資するとともに、農業従事者及びその家族が、その希望と能力に従って適当な職業につき得るよう、就業機会の増大その他の施策を講ずることといたしております。
なお、農業構造の改善は、土地条件等の整備を基盤として、農地保有の合理化、農業経営の近代化等を総合的に行なって初めて実効を期し得ることも多いと思われますので、そのため必要な施策を講ずることといたしております。
次に、第五章におきましては、農業行政に関する組織の整備及び運営の改善と農業団体の整備についての方針を述べております。
最後に、第六章におきまして、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、内閣総理大臣または関係各大臣の諮問に応じ、この法律の施行に関する重要事項を調査審議するための機関として、総理府に農政審議会を設置することとし、その組織等について必要な規定を定めております。
農業基本法案の内容はおおむね以上の通りでございまして、この法律は、今後の農業の向かうべき道、農業従事者の進むべき目標を示すにありますので、これに基づく具体的な施策は、基本法の趣旨により今後にわたって法制上、予算上等の措置をとる覚悟でございます。とりあえず三十六年度につきましては予算案にすでにその趣旨を取り入れておりますが、また、関係法律案につきましては、当面措置すべきものについてすみやかに提案いたしたい所存であります。
何とぞ慎重御審議の上この農業基本法案をすみやかに御可決下さいますようお願い申し上げます。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/2
-
003・坂田英一
○坂田委員長 次に、北山愛郎君外十一名提出、農業基本法案を議題とし、提出者に提案理由の説明を求めます。北山愛郎君。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/3
-
004・北山愛郎
○北山議員 私は、提案者を代表して、社会党の農業基本法案について提案の趣旨及び内容の概要を御説明いたしたいと存じます。
なお、お手元に配付しましたプリントには若干ミス・プリントがございますので、説明の途中でこれを訂正いたします。
わが党が農業基本法の検討を始めたのは昭和三十三年であり、その後三回にわたって草案要綱を発表し、広く各方面の意見を聞いて検討を重ね、いよいよこの国会に提案する運びとなったのであります。
従って、この基本法案は社会党の農業に対する基本政策を整理し体系化したものであり、この原則を具体化するための多数の関連法案とともに一体として社会党の農業政策の集大成をなすものであります。
わが党の農業基本法案と同時に政府からも基本法案が提出せられました。政府案は、農業を資本主義自由経済の中に組み入れ、独占資本中心の経済成長計画に農業及び農民を従属せしめようとする基本法であり、われわれの案は、農民の立場に立って、その利益を守り、強力な農業発展政策を行なわんとするものであって、両者の相違は明白であります。
農業の行き詰まりと農政大転換が叫ばれつつある今日、いずれの基本法が真に農民のためのものであるか、いずれの農業政策が明るい民主的な社会を作ることができるかということを十分に御審議を願い、国民もまた真剣に検討されるように切望するものであります。
以下、わが党の農業基本法案について、内容の主要な点を御説明申し上げます。
まず前文の中に本法案作成の根本的態度を打ち出しておりますが、第一に、わが国の農業が今日なお過小経営の形で、土地利用その他の生産条件が立ちおくれ、農村の生活文化が前近代的な状態にあるのは、農民の責任ではなくして、昔から時代の支配層によって搾取され抑圧され続けた結果であるという認識に立って、これらの歴史的な悪条件を除去して、農民の所得と生活を豊かにし、都市と農村の文化的格差を解消することは国の政治の責任だと考えるのであります。
この点は、政府案の前文にあるように、農民の果たしてきた任務と使命が今後においても変わることなく続けられることを期待する態度とは異なり、農業と農民の過去における被抑圧者としての試練と困難を再び繰り返してはならないとの決意に基づいているのであります。
第二に、戦後において、農地改革や農村民主化によって一時向上した農民の地位が低下し、他産業との所得格差が開いてきたのは、大資本の支配力の復活によって、生産、価格、流通などの経済上の圧迫を受けたからであり、それゆえ、農業を自由経済に組み入れ、貿易の自由化によって国際競争にさらすことは、比較的大きな農家の自立をも困難にするものであり、農業の発展はこれによって阻害されると考えるのであります。この点は、政府案が、他産業の高度成長に即応し、依存しつつ、農業の部面にも資本主義経済の合理性を浸透させ、農業経営を企業として自立し得る経営形態に再編しようとし、保護農政の後退を示していることに対し、対照的な考え方に立っているのであります。
われわれは、以上の見地から、国が従来より一そうの積極的態度をもって計画的に、農用地の拡大、土地条件の整備を行ない、共同化による経営の拡大と近代化を進め、農畜産物及び農業用資材の価格流通面の適切な施策を行なって、農業の発展と農民の地位と生活向上をかたく期待しているのであります。
われわれは、農業生産を拡大し、自給度を高め、農民の所得と生活の水準を他産業のそれと同一の水準にまで向上させようとするものでありますが、そのためには、第一に必要なことは農用地の拡大であります。農用地をふやさずに零細経営の改善と畜産、果樹の振興は不可能であります。政府の基本法はほとんど農用地の拡大に触れず、所得倍増計画にも、十年後の農用地は依然として六百万ヘクタール、すなわち現状維持であります。
わが国の農地の全土地面積に対する比率は、耕地一五%、草地四%、計一九%にすぎず、英国の八〇%、フランスの六二・七%、イタリアの六九・四%、米国の五六・八%、インドの五一・五%、及び山国であるスイスの五二%に比してきわめて低いのであります。
社会党は、当面畑と草地三百万ヘクタールの開発を行なって、農用地の率を三〇%に引き上げようとするものであります。このため、土地利用高度化の諸原則を第八条に規定する通り、国土実測調査を推進し、土地利用計画、利用区分を定め、農用地とすべきものについては、国有地は払い下げまたは貸付けをし、民有地・公有地は買収または利用権の設定などにより農地を拡張して、農民及びその共同体に利用せしめようとするものであります。
土地利用計画については、あわせて水の利用をも考慮し、また林業との調整に留意することは申すまでもありません。
また、土地所有形態については、第九条に規定するように、これを耕作する者が所有するという原則を貫き、土地所有と農業労働の分離を排除することといたしております。
耕作者の所有も個人が持つ場合と共同で持つ場合とありますが、農民自身の自主的な意思によって農地に関する権利を共同で保有するよう漸進的にこれを指導する方針をとるものであります。
社会党は農地の地主的所有や資本家的所有は排除しますが、意味のない国有を考えていないということは、現在の国有地についても、農地に転換すべきものはこれを農民に売り渡しまたは貸し付ける方針をとっていることにも明らかであると存じます。
次に、経営形態について、われわれは、経営規模の拡大、零細経営の解決は、基本的には共同化、共同経営によるものとし、農業協同組合のもとに農民の農業生産組合を育成しようとするものであります。
言うまでもなく、われわれは、急激にまた強制的に共同化を進めようとするものではありません。経営の全部または一部の共同化を認め、共同施設や共同作業など共同組織の奨励と並行しつつ共同化の方向に進めようとするものであります。しかし、現在の条件のもとで、共同化の推進は強い国の助成なしには進めることはできません。生産条件の整備はもとより、価格流通面でも保護政策をとってその所得を確保しながら、共同経営へ前進する諸施策をとる必要がありますので、われわれは、共同化が真に農民の現実の利益をもたらすことを保証するため、別に農業生産組合法案、農業経営近代化法案等を作成し、共同化への営農設計、技術指導、各種の助成措置、低利資金の貸付、機械の貸与、税法上の特典などの措置をとるとともに、共同化に伴う農用地の造成、土地改良、農地の集団化事業は全額国費負担とするなどの措置をとろうとするものであります。
また、経営の近代化、共同化を進めるため、各都道府県内の地区に農業サービスセンターを置き、また、都道府県の中央部に国営の農業機械ステーションを置いて、ヘリコプターなどを装備し、大型農業機械の補給、修理、教育講習の基地たらしめようとするものであります。
以上については本法案第五章に規定するところであります。
次に、価格、流通、加工の問題についてでありますが、農産物の価格安定は、農民所得確保の重要な一環であります。
われわれの基本法案は、現在の食糧管理制度を維持改善し、生産費・所得補償方式のもとに農産物価の安定をはかろうとするものであります。
また、農産物需要の拡大のためには、その最大の消費者である勤労者の賃金所得を豊かにしなければなりませんので、第十五条には特に勤労階層の所得水準を高め国民食生活の改善指導を行ない国内需要を積極的に増大すると規定しているのであります。
この点、農民は労働者の賃上げ闘争の被害者ではなくして受益者であるといわなければならないと存じます。
また、農産物の生産、出荷の計画化を指導し、農協などの共販事業を強化し、公営卸売市場の整備などの流通面の合理化をはかるものであります。
同時に、農産物の輸入を抑制し自給度を高める措置をとり、また、農産物の輸出、海外市場の開拓などにも努めることといたしております。
これらの点は第十六条ないし十八条に規定するところであります。
畜産、果樹、園芸の振興に伴い加工事業の重要性は増大して参りますが、これをなるべく農民の手で行なわせることは第十二条に規定するところでありますが、このため、農産物加工振興法により、農協またはその出資による農産公社を設置し、特に農畜産物の簡易加工と農村消費への還元などを勧めあわせて農村食生活改善に資し、また、農民が単なる原料生産として他の資本からの圧迫を受けないような措置を検討し、また、農協の共販体制の強化や農民と他の資本による加工企業との団体交渉など、農民の地位と権利を高めることを考慮いたしておるのであります。
次に、農業用諸資材については、第十九条、第二十条に定める通り、肥料、農薬、農機具、家畜飼料、電力、石油などの安価な供給を確保するため、この生産、流通の規制などを行ない、必要によってこれらの生産、輸入、販売などを国営または国家管理に置くことを定めております。
次に、畑地、草地農業の振興と畜産、果樹、園芸農業の発展をはかることは当然のことでありますが、その中心は酪農であり、われわれは、米と並んで牛乳が農産物の新しい柱となるように、酪農経営の安定をはかるため昨年の総選挙前故浅沼委員長が発表した牛乳法案を準備し、牛乳の生産と消費の拡大をはかり、国民一人牛乳三合を実現せんとするものであります。
牛乳法案は、乳牛の導入、増殖、草地の改良、酪農経営の指導、消費の拡大などを規定するものでありますが、特に、牛乳の生産者価格については、農家の生産費を補償する方式をとり、必要によって国が補給金を支給するなど思い切った対策によって、米を作っても、乳をしぼっても農業経営が安定するような措置を目標とするものであります。
その次に、ちょっとその六章、七章というのは削除していただきます。
その他、第八章には、災害防除、災害復旧についての国の責任を明らかにし、災害による損失補償については、これが完全に補償されるよう十分な措置をすることを定めておるのであります。
また、第九章には、農民の権利と地位の向上には、農民組合その他農民の自主的組織を育成することとし、同時に農産物の価格決定に参加する権利を認めております。
特に社会党の基本法第十章に強調しているのは、農村の生活文化の向上であり、都市と農村の文化的格差の解消であります。衣食住の生活改善、ことにおくれている農村住宅の改造と部落生活集団化を推進し、交通、通信、電気、水道、文教、保健、社会保障の諸施設を整備するため、別に農村生活近代化法という立法措置を準備中であります。農村の前近代的な住宅様式、草ぶき屋根などの解消、不良老朽住宅の改造などは、政治の盲点ともいうべき問題であり、都市の住宅政策はあっても農村の住宅政策がなかった欠陥はすみやかに改めなければなりません。また、農業従事者の六割は婦人であり、婦人はさらに重い家事、育児の仕事を担当し、農村の婦人労働ははなはだしく過重でありますので、その軽減と婦人の地位の向上について特に強調いたしているのであります。
以上申し述べた農業の生産、需給、流通、価格、経営の改革は、いづれも国の責任と長期の農業計画に基づき実行する必要がありますので、政府は長期農業計画並びに、その年次計画を国会に提出しその承認を受けるものとし、また、計画に必要な予算、金融措置を義務づけて、計画の実行を確保することといたしておるのであります。
また、政府の諮問機関として、農政審議会を設け、農業計画の議決及び必要事項を政府に建議する機関とし、その中には農民の代表を含めることといたしております。
以上は本案の主要な内容でありますが、これは社会党の農業政策の基本と方向を示したものであり、この原則を実現するためには多数の関連法案を必要といたしますので、本法案に引き続いて、主要なものはすみやかに国会に提案し、われわれの農業政策を明らかにいたしたいと存じますので、あわせて御審議を願いたいと存じます。
今日の曲りかどに来ているといわれる農業問題を解決する道は、国が従来以上の責任をとり、前向きの施策を進めることが必要であり、政府の基本法のように、他産業の成長をたよりにして農業を弱肉強食の資本主義の競争に投げ込むことではないと信じます。ことに、最近の経済の動向は、アメリカ経済の不況、ドル防衛などの影響で、政府の高度成長政策の前途は楽観を許しません。国際収支の悪化、引き締め政策によって、所得倍増どころか、都市に移行した農村人口が再び農村に逆流しないとは、何人も保証し得ないと存じます。この情勢の中で、われわれの農業それ自体の発展によって農民の所得と生活を高めようとする社会党の農業基本法案の正しさを確信し、各位の理解ある御審議と御賛成を期待するものであります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/4
-
005・坂田英一
○坂田委員長 次に内閣提出、魚価安定基金法案及び漁業生産調整組合法案を議題とし、まず政府に提案理由の説明を求めます。周東農林大臣。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/5
-
006・周東英雄
○周東国務大臣 漁業生産調整組合法案につきまして、その提案の理由を御説明申し上げます。
わが国の漁業において重要な地位を占めるサンマ、アジ、サバ、スルメイカ等の多獲性の水産物の採捕を目的とする中小漁業につきましては、その漁業の性質上、時期的に過度の漁獲が行なわれ、漁獲物が陸揚地の輸送、冷蔵、冷凍、加工等の処理能力をこえて陸揚げされるため、その価格が暴落し、その結果その漁業を営む中小漁業者等の経営の安定が阻害される事態、すなわち大漁貧乏の現象を呈することがしばしばあるのであります。
従って、これらの漁業の経営の安定をはかるためには価格流通面における諸施策が必要であることは申すまでもないところでありますが、これらの施策が十全の効果を発揮するためには、その前提として生産面における適切な調整が必要とされるのであります。
政府といたしましては、多獲性の水産物の採捕を目的とする漁業の経営安定対策について鋭意検討いたしました結果、魚価安定基金の設置等の価格流通面における施策を講ずる一方、生産面における調整として、漁業者がその漁業生産活動を自主的に調整する組織として漁業生産調整組合を設けることができるようにするとともに、必要な場合に国がその自主的調整を補完する措置を講ずることができるようにするため、この法律案を今回提出した次第であります。
次に、この法律案の内容について概略御説明申し上げます。
第一点といたしまして、組合を設立することができる漁業は、この組合制度の趣旨にかんがみ、多獲性の水産物の採捕を目的とする漁業で政令で指定するものといたしております。政令の指定は、一定の海域におけるサンマ棒受け網漁業、アジ。サバまき網漁業、イカつり漁業等を予定しております。
第二点といたしまして、組合は、政令で指定する漁業を営む者が農林大臣の認可を受けて指定漁業ごとに設立することといたしております。組合の設立の要件といたしましては、組合員資格を有する者の三分の二以上が組合員となっていること等のほか、組合の重複設立を避けるため、組合の数は指定漁業ごとに一個に限ることといたしております。
第三点といたしまして、組合の事業は調整事業とその他の事業といたしております。調整事業は二種類といたしております。一つは、一般的な制限として、休漁日の設定、積載量の制限、運搬船の隻数の制限等を予定しております。その他の一つは、特定の漁業における組合員の一部を対象とする陸揚げの制限でありまして、一定の事態において、以上の一般的な制限を行なってもなお調整事業が十分な効果をあげ得ない場合に限り行なうもので、この制限を行なう場合には、その対象となる組合員に一種の犠性をしいることにもなりますので、組合がその組合員に調整金を支払うこととするとともに、別に提案いたしております魚価安定基金法案に基づき設立される魚価安定基金からその組合に対し、それに要する経費の一部または全部を交付することといたしております。
なお、組合が調整事業を行なうにあたっては、その重要性と、一般消費者及び関連事業者に及ぼす影響を考慮して その事業の内容、方法等につきまして調整規程を設定せしめ、農林大臣の認可を受けさせることといたしております。
組合の事業としては、以上の調整事業のほか、組合員に対する情報提供事業と組合員のためにする組合協約の締結があります。
第四点といたしましては、漁業生産活動の規制に関する命令であります。
この組合制度は、組合が調整規程を定めて自主的に調整事業を行なうことを原則といたしておりますが、現実には、員外者の行為により、または組合自体の力が弱いこと等の理由によって、組合の行なう調整事業が所期の効果をあげ得ない場合も考えられますので、これらの場合には、農林大臣は、組合の申し出により、一定の要件のもとに、一般的制限につきまして、その調整規程の内容を参酌して制限を定め、その組合の組合員たる資格を有する者に対し、これに従うべきことを命ずることができるものといたしております。
第五点といたしましては、農林大臣の認可を受けた調整規程または組合協約及びこれらに基づく行為につき原則として独占禁止法の規定を適用しないことといたしますとともに、農林大臣が調整規程の認可等の処分を行なう場合には公正取引委員会と協議することといたしております。
第六点といたしましては、農林大臣は、適用漁業の指定を行なう場合または漁業生産活動の規制に関する命令を出す場合には、中央漁業調整審議会の意見を聞かなければならないこととするとともに、調整規程の認可等を行なう場合には、地元の水産業に及ぼす影響を考慮して、関係都道府県知事の意見を聞かなければならないことといたしております。
以上のほか、組合の設立、管理、解散等につきましては、この種の組合の例に準じ所要の規定を設けておりますとともに、組合の行なう調整事業の重要性にかんがみ、組合に対する監督のための規定を設けております。
以上がこの法律案の提案理由及びその内容の概略であります。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことをお願いする次第であります。
次に、魚価安定基金法案につきまして、その提案の理由を御説申し上げます。
わが国の漁業は、戦後急速に復旧し、これに伴って、漁獲量も、昭和二十七年には戦前の最高水準を突破するに至り、その後も順調な発展を続けて現在に至っております。しかしながら、このような漁獲量の増加にもかかわらず、サンマ、スルメイカ、アジ、サバ等のいわゆる多獲性の水産物につきましては、時期的に、または地域的に、水揚げ港の処理能力をこえて集中して水揚げされ、その結果、魚価が暴落し、大漁貧乏の現象を呈することがしばしばありまして、これに関係する漁業者の経営を著しく不安定なものとするとともに、関連産業の健全な発展を阻害している現状であります。
このため、政府といたしましても、鋭意その対策を検討いたしました結果、一方におきましては、漁業団体による出荷調整の機能を考慮し冷蔵庫等の施設を充実させるため所要の予算措置を講ずるとともに、その他の流通改善のための施策を推進することといたしておりますが、これらの措置にあわせまして、漁業者の自主的な生産調整組織を設けるため漁業生産調整組合法案を提出いたすとともに、これと相待って魚価の安定を目的とする組織を設けるためこの法律案を提出いたした次第であります。
次に、この法律案の内容について概略御説明申し上げます。
まず第一点といたしまして、魚価安定基金の目的、出資等に関する規定がありますが、魚価安定基金は、多獲性の水産物の価格の安定をはかるため、漁業生産調整組合、水産業協同組合等が行なう生産及ば流通の調整等の事業につき助成するための組織として設立される法人でありまして、この基金の成立の当初の資本金は一億六千万円を下るものであってはならないと法定したのでありますが、これは、政府、都道府県、漁業生産調整組合、水産業協同組合及び水産加工業を営む者が組織する中小企業等協同組合の出資によるものでありまして、このうち政府は八千万円を出資することとしております。
第二点といたしまして、この基金の業務に関する規定でありますが、基金は次の二つの業務を行なうものとしたのであります。
その第一は、出資者たる漁業生産調整組合に対する資金の交付であります。漁業生産調整組合が行なう事業につきましては、この法律案とともに御審議をお願いいたしております漁業生産調整組合法案の提案理由で御説明申し上げましたように、組合員に対する制限は、組合員全員を対象とする採捕、運搬、陸揚げに関する制限と、一部の組合員を対象とする陸揚げに関する制限の二つを考えているわけでありますが、後者につきましては、魚価の安定をはかるために一部の組合員に対し一種の犠牲をしいることになるわけでありまして、漁業生産調整組合がこれらの組合員に対して調整金を支給する場合に、基金がその支給に要する経費の全部または一部に相当する金額を交付することにより、漁業生産調整組合の事業の実施を円滑ならしめようとするものであります。
その第二は、従来実施して参りました水産物流通調整事業につきまして所要の改善を加え、この基金の事業として制度的に確立いたしたいというものであります。
この場合は、基金の業務の対象といたします製品は政令で指定することとしておりますが、昭和三十六年度はさしあたりサンマかすを指定する予定にしております。
第三点といたしまして、基金の業務を実施する場合に必要とする資金についての規定であります。基金は、金融機関への預金、国債その他の有価証券の取得等によって得られる運用益によって、その業務を実施することを原則としておりますが、いわゆる多獲性の水産物の価格変動の特殊性から、毎年の業務量にかなりの変動が予想されることにかんがみて、とくに必要があると認められる場合には、農林大臣の承認を受けて、運用益をこえて使用することができることといたしたのであります。
その他、基金の役員、評議員会、財務・会計の処理原則、所要の監督等に関する規定を設けまして、基金の運営が健全かつ円滑に行なわれるよう配慮いたした次第であります。
以上がこの法律案の提案の理由及びその内容の概略であります。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことをお願いする次第であります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/6
-
007・坂田英一
○坂田委員長 次に、内閣提出の農業基本法案について補足説明を聴取することにいたします。大澤政府委員。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/7
-
008・大澤融
○大澤政府委員 農業基本法案につきまして若干補足説明を申し上げます。
まず全体の構成について申しますと、前文と総則、農業生産、農産物等の価格及び流通、農業構造の改善等、農業行政機関及び農業団体、農政審議会の六章から成っております。
まず前文ではこの法律を制定する趣旨を述べております。その趣旨といたしましては、まず、農業及び農業従事者がわが国の経済及び社会において重要な使命を果たしていること、従って、今後この使命を十分に果たし得るようにすることが必要であるが、他方、農業は自然的・経済的・社会的に不利な条件にあり、従って、他産業との間に生産性の格差が生ずるので、この不利な条件を補正することが必要であることを述べ、次いで、近時における経済の著しい発展に伴って農業従事者と他産業従事者との間に生活水準の不均衡が目立ってきていること、それとともに、いわば農業が曲がりかどに来ていると申しましょうか、農業及びこれを取り巻く諸条件が変化しつつあること、その代表的なものとして、農産物消費構造における変化と他産業への労働力移動について述べております。そうして、このような事態に対処して農業の近代化、合理化をはかり、農業従事者が他の国民各層と均衡のとれた生活を営むことができるようにすべきことを国民の責務として宣言し、そのため今後農業の向かうべき新たな道を明らかにし農業に関する政策の目標を示すべくこの法律を制定することをうたっているのであります。
次に、本文に入りまして、第一章で、国の農業に関する政策の目標とそれを達成するための国及び地方公共団体の施策について規定するとともに、これを年々具体化するため、毎年国会に農業の動向に関する年次報告及び年々の施策を明らかにした文書を提出すべきことを規定しております。第二章以下では、これを敷衍し、国が必要な施策を講ずるについて特にその方針を宣明すべきものと規定しております。そして、最後に、この法律の施行に関する重要事項を調査審議するものとして農政審議会について規定を設けております。
次に、各条項について御説明申し上げます。
まず第一条では国の農業に関する政策の目標を定めております。それは、前文で述べられておりますような農業及び農業従事者の使命にかんがみ、かつ、いわば農業の曲がりかどともいうべき事態に対処するため、農業に関する政策の目標を、国民経済の成長発展と社会生活の進歩向上に即応して農業の発展と農業従事者の地位の向上をはかることにあるものとしております。その場合、まず、農業がその固有の自然的・経済的・社会的制約から他産業に比べて不利な条件に置かれていることを考慮し、これを補正するようにすることといたしております。農業は、土地に結びついた有機的生産であることから、自然の変動の影響が大きく、また、機械等の高度な技術が入りにくいこと、生産者が零細多数であることや農産物需要の弾力性が少ないこと、社会環境が立ちおくれていることなど、自然、経済、社会の各般の面にわたって種々の制約があり、そのため他産業に比べて不利となっているのであります。そこで、このような点を補正することによって目標とする農業の発展が可能となるような条件を整えることを規定しております。次に、国民経済及び社会生活の発展に即応してどのように農業の発展と農業従事者の地位の向上をはかるかということにつきまして、他産業との生産性の格差が是正されるように農業の生産性が向上すること、及び農業従事者が所得を増大して他産業従事者と均衡する生活を営むことを期することができることを目途とすることを規定しております。近時農業と他産業との間の生産性及び生活水準の格差は拡大する傾向にあり、これが農業の基本問題としてその解決が要請されていることにかんがみまして、今後は、農業の生産性の向上が他産業のそれと少なくとも均衡し、さらにはそれを上回って現在の格差を縮めていくようにするとともに、農業従事者が他産業従事者とつり合いのとれた生活を営むことが可能となるように、農業の発展と農業従事者の地位の向上をはかろうというので、これを理念として規定したのであります。以上が第一条の内容であります。
次に、第二条におきましては、第一条の目標を達成するために国が講ずべき施策について規定しております。すなわち、目標達成のために必要な施策を講ずべきことを規定するとともに、その施策の方向づけをいたしているのであります。従来とても国は農業を発展させるためにいろいろの施策を講じてきているのでありますが、この際目標に照らして農業の進むべき新たな道に即して施策を方向づけることとしたのであります。
必要な施策といたしましては、いわゆる農業政策の範囲にとどまらず、財政、金融、労働、社会、文教等、国の各般の政策分野にわたりますので、「その政策全般にわたり」といたしますとともに、施策は総合調整されて脈絡あるものとして講ぜられなければならないので、特に「総合的に」と規定いたしました。
次に、各号について御説明いたしますと、まず第一号は、農業生産の拡大の仕方について規定し、需要の動向に即応するとともに貿易との関係をも考慮しながら農業生産を合理的に拡大していくこと、すなわち農業生産の選択的拡大をはかることを規定しております。主食の需給が緩和し、さらに生活水準が上昇を続けている近年におきましては、農産物の需要構造は変化し、農産物の中でも、所得の上昇につれて需要が大きく増加してくる農産物と、需要が停滞ないし減少する農産物とが分化して参っております。たとえば需要の動向として、所得水準の上昇に伴って蛋白質食糧や果実等の消費が増大しておりますが、他方澱粉質食糧の需要は停滞ないし減少するという傾向が現われ始めるのではないかと思われるのであります。従いまして、生産の方もこれに適合させることが必要であります。また、貿易の動向につきましては、農業においても真剣に考慮されなければならない段階となっており、外国産農産物と競合関係にある農産物の生産の合理化が要請されております。今後の農業生産の拡大は、単に総花的に数量を増加させればよいということではなく、このような需給条件に応じて選択的に拡大をはかるべきであるということ、これが第一号の趣旨であります。
第一号が生産拡大の態様を規定しているのに対しまして、次の第二号では、農業生産についての目標として、農業の生産性の向上と農業総生産の増大をはかるべきことを規定しております。農業の低所得の基本的な要因の一つが農業の生産性の低さにあることは今さら申し上げるまでもありません。また、生産性を向上し総生産を増大することは、農業に対する国民経済の要請にもこたえるゆえんであります。そこで、農業の生産性の向上と総生産の増大をあわせて規定して、農業生産を伸ばしていくべき方向を明らかにしたのであります。そして、このためには、土地及び水の有効な利用及び開発並びに農業技術の向上が重要な手段でありますから、これについて必要な施策を講ずべきこととしております。
このような農業生産についての目標、すなわち、農業生産の選択的拡大、生産性の向上及び総生産の増大は、あまりに零細で非近代的な経営では十分にこれを達成することは困難でありましょう。高慶成長経済の下で顕在化した農業の基本問題の根底には、零細土地保有と、零細経営というわが国農業の構造的特質が横たわっておりますので、そこで第三号で農業構造の改善をはかることを規定したのであります。農業経営の規模の拡大、農地の集団化、家畜の導入、機械化等、農地の所有及び使用収益のあり方を農業経営という視点から見て合理的なものとし、相当な規模を持ち機械等の資本装備を十分に備えた生産性の高い農業にしようとするのが第三号の趣旨であります。
以上申し上げましたところによって農業生産、農業構造に関する施策が講ぜられましても、生産された生産物の価値が正当に実現されなければ第一条の目標は達成されません。そこで、第四号において、生産者と消費者を結ぶ流通過程を合理化するとともに、最近における食糧消費構造の変化に即応して発展が見通される農産物加工を増進し、さらに積極的に農産物需要の増進をはかることを規定したのであります。
第一条で申し上げましたように、農業は、自然、経済、社会各般の面において不利な条件にあるのでありますが、そのような生産条件、交易条件等の不利は特に価格の面に現われ、そのため農産物価格は変動が著しいとともに適正な水準よりも低落しがちであり、その結果として農業所得も確保されないということが起りがちなのであります。そこで、第五号におきましては、特に農産物の価格及び農業所得について規定を設け、このような不利な条件を補うように農産物の価格の安定をはかるとともに、農業所得の確保につき施策を講ずべきことを規定したのであります。
第四号と第五号は、流通面のうち農産物の販売の面に関しての規定でありますが、次に農業資材の面も考えなければなりません。特に、今後の農業技術の進歩、農業経営の近代化は、農業生産資材の利用を増大させ、性能の高い資材を合理的に供給することの必要の度合いを増してくると考えられますので、第六号で、農業資材の生産及び流通を合理化し、価格の安定をはかることを規定したのであります。
次の第七号は、農業の主体的側面としての人の問題について規定しております。農業の生産性の向上といい、農業経営の近代化といいましても、要は人間の問題であるとともに、また、最近国民経済の成長に伴う就業構造の変化によって人間の問題が重要となってきております。まず農業の面についてみますと、今後におきましては、農業経営の近代化に伴ってそのにない手にも高い技術的知識能力が要求されて参りますので、農業に関する教育、訓練、普及事業を充実して農業従事者の資質を向上させ、近代的な農業経営の担当者たるにふさわしい者を養成するとともに、農業を農村青年に魅力あるものとして、りっぱな人材が農業にとどまるようにその確保をはかることが必要であります。他方におきまして、他産業に就業することを望む農業従事者及びその子弟に対しまして、十分な教育と訓練を行なうとともに、広く職業選択の機会を与え、その希望と能力に応じて適当な職業につき得るようにすること、これが第七号の内容であります。
以上の七号にわたる事項について総合的に施策を講ずることによって、農業の発展と農業従事者の所得の増大、従いまして福祉の向上も期し得るのでありますが、福祉の向上にはそれだけでは尽くされない面があります。そこで、なお残された事項といたしまして、道路、上下水道、電気、電話、文化施設等、農村における生活環境的な施設の整備、あるいは家庭生活の改善、さらに婦人労働の合理化等、福祉の向上をはかることを最後の第八号に規定いたしたのであります。
以上申し述べました八つの事項によりまして、目標達成のための必要な施策を遺漏なく方向づけているのであります。
なお、以上申し述べました国の施策は、全国を対象として別段に地域的配慮なしに行なわれることもありましょうが、たとえば農業生産の選択的拡大、農業構造の改善等、施策の内容によっては、地域の自然、経済、社会の各般の面にわたる諸条件の相違を考慮して講じなければならないものが少なくありませんので、当然のことではありますが、第二項にその旨を規定しております。
次に、第三条の地方公共団体の施策について御説明しますと、第一条の農業に関する目標は、まず国の農業に関する政策の目標でありますが、同時に地方公共団体の施策の目標でもあり、両者が相協力して初めて目標を達成できるのであります。このため、第二条で施策の中心になる国について規定したその次に、第三条において、地方公共団体は国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならないことを規定したのであります。
次の第四条は、第二条を受けて財政上の措置等について規定しております。第二条第一項の施策の実施の根拠となり、あるいはその具体的内容を裏づけるものは、形式的には法令と財政に分かれます。そこで、第四条第一項では、政府はそのために必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならないことといたしております。この財政上の措置のうちには、その一環として必要な予算の計上ということも含まれております。次に、目標の達成のために必要な資金としましては、予算のほかに金融の問題がありますので、農業従事者の必要とする資金の融通についてもその適正円滑化をはかるべきことを第二項において規定いたしております。
次に、第五条は、目標を達成する上に農業従事者または農業団体の自主的な努力がきわめて重要であり、これを基調としてそれを助長するように施策を講ずべきものであることにかんがみまして、国及び地方公共団体は施策を講ずるにあたってはこれらの自主的努力を助長することを旨とすることを規定いたしました。
以上申し述べました施策は、農業の動向に即して年々具体化されなければなりません。このため、第六条で、政府は毎年国会に農業の動向及び政府が農業に関して講じた施策に関する報告を提出すべきことを規定するとともに、第七条で、この報告の結果にかんがみて次年度においていかなる施策を講ずることとするかを国会に明示すべきことを規定しております。
この年次報告の内容たる農業の動向といたしましては、農業生産の動向、価格流通事情、農業構造の変化の状況、農家経済の動向等を明らかにし、その中で第一条の目標に掲げられている農業の生産性と農業従事者の生活水準の動向を分析し、これについての政府の所見を述べることといたしております。
この年次報告は、次年度の政府の施策の基礎となるきわめて重要なものでありますので、それにおける統計の利用及びこれに基づく政府の所見につきましては、専門的事項にわたるのみならず、公正を期する要もありますので、特に農政審議会の意見を聞くこととし、その旨を第三項に規定しております。
次に、第七条では、政府は毎年国会にこの報告によって示された農業の動向を考慮して講じようとする施策を明らかにする文書を提出しなければならないこととしております。これによって農業に関する政策が目標に照らして適正に行なわれることを期しているのであります。
以上が第一章総則のおもな内容でありますが、以下第二章から第四章までにおきましては、第二条第一項各号に掲げる事項について施策を講ずるについて特にその方針を宣明すべきものについて規定してございます。
まず第二章は農業生産についてであります。
第八条は、農産物の需要及び生産の長期見通しを立てるべきことを規定しております。すなわち、今後における農業生産は、需要の動向や外国産農産物との関係を考慮しつつ選択的に拡大していかなければならないのでありますが、そのためには、各種の農産物の需要及び生産についてある程度長期間にわたる見通しを立て、これを政府や地方公共団体が施策を講ずる場合の道しるべとし、また農業経営の参考ともし得るようにすることが必要と考えますので、政府は、重要な農産物につき、需要及び生産の長期見通しを立て、これを公表しなければならないことといたしたのであります、この、長期見通しのうち、特に生産につきましては、農産物によっては全国一本では不十分な場合があろうかと思われますので、必要に応じ主要な生産地域についても長期見通しを立てることとしております。
第二項は、需給事情その他の経済事情の変動により必要があるときは、需要及び生産の長期見通しを改定するということで、いわば当然のことであります。
なお、この需要と生産の長期見通しは、今後の施策の道しるべとなり、関係する方面も多く、また、その見通しを立てるには専門的検討を要しますので、これを立て、または改定するにつきましては農政審議会の意見を聞くこととしております。
次に、第九条におきましては、農業生産に関する施策について規定しております。すなわち、農業生産につきましては、農業生産の選択的拡大、農業の生産性の向上及び農業総生産の増大をはかるべく、そのため必要な施策を講ずべきことは第二条第一項第一号及び第二号に規定しておりますが、これを敷衍いたしまして、国は、そのため必要な農業生産の基盤たる土地及び水の整備及び開発、農業技術の高度化、家畜、機械等資本装備の増大、農業生産の調整等の施策を講ずることとし、その場合、当然のことながら、前条の需要と生産の長期見通しを参酌して講ずべきことを規定いたしました。
第十条におきましては農業災害に関する施策について規定しております。わが国の農業はその自然的条件によって災害をこうむることが少なくなく、不安を免れませんので、国は、災害によって農業の再生産が阻害されたり、農業経営が不安定になったりしないよう、災害による損失の合理的な補てん等必要な施策を講ずることといたしたのであります。
以上が第二章の概要でございますが、続く第三章は、農産物及び農業資材の価格及び流通について規定しております。
まず第十一条は価格の安定についてであります。すなわち、農業がその生産条件、交易条件等に関し他産業よりも不利な制約を受けていることはすでに申し上げた通りでありますが、国はそのような不利を補正する施策の重要な一環として、重要な農産物について価格の安定をはかるため必要な施策を講ずるものとしているのであります。施策の重要な一環と申しますのは、これらの不利を補正するためには価格政策が重要な役割をになうべきこと、そうして、不利を補正する手段としましては、ほかにも生産に関する施策、流通対策があるわけでありますから、これらと相待って総合的に運営し、全体として目標の達成をはかっていくようにするという趣旨であります。このように価格安定の趣旨を明確にいたしました上で、そのための施策を講ずるにつきましては、生産事情、需給事情、物価その他の経済事情を考慮してすべきことを規定いたしました。なお、何が重要な農産物であるかは、その農産物の農業所得形成上占める地位や今後の生産の見通し等に照らして定められるべきものと考えております。
次に、第二項におきましては、前項の価格安定施策の実施の結果を定期的に総合検討し、その結果を公表すべきことを定めております。この総合的検討のことを特に規定いたしましたのは、価格と機能なり影響なりは農業生産、農業所得、農産物の流通及び消費等各般の面にわたり、また、各農産物の価格は相互に関連しておりますので、これを総合的に考えなければならないからであります。そこで、価格安定施策を講じております農産物全体について、農業生産の選択的拡大、農業所得の確保、農産物流通の合理化、農生物の需要の増進、国民消費生活の安定等にどう作用したかという見地から総合的に検討いたし、自後における政府の価格安定施策の運営の参考としようとするものであります。なお、この検討は専門的かつ総合的に行なわれるべきものでありますので、農政審議会の意見を聞くこととしております。
次に、第十二条におきましては、農産物の流通の合理化及び加工の増進並びに農業資材の生産及び流通の合理化に関し必要な施策を講ずべきことを規定しております。これにつきましては従来ともいろいろと施策を講じて参ったのでありますが。流通対策の重要性にかんがみまして一段とこれを強化するとともに、最近における需要の高度化や農業経営の近代化を考慮してこれに即応するように施策を講ずべきこととしたのであります。従いまして、このような考慮を払いつつ、農業協同組合または農業協同組合連合会が行なう販売、購買等の事業の発達改善、農産物取引の近代化、農業関連事業の振興等をはかるほか、最近における加工食品の需要の増加や農業経営の近代化に伴う資材の使用の増大に対応して、農産物加工や農業資材の生産の事業に農業協同組合またはその連合会が出資者となり、あるいは長期の販売、購買の契約を結ぶことによって参加することにより、その健全な発展をはかろうとするものであります。
さらに、第十三条と第十四条におきましては農産物貿易について規定してございます。
まず第十三条は輸入に関するものであります。御承知のように、わが国の重要農産物のうちには、その国際競争力が弱く、現在は輸入制限によって海外農産物の影響を遮断ないし緩和しているものが相当にあるのであります。従いまして、今後農産物貿易の動向に対処するにあたっては、特に慎重な配慮が必要なことは申すまでもありません。それゆえ、国の農産物の輸入に関する施策の方針は、まず国際競争力を強化することを本旨とすることとしておりますが、しかしながら、同時に、農産物の輸入によって価格が著しく低落し国内生産に重大な支障を与える場合には、価格安定の施策と相待ってそれのみでは十分対処し得ない場合に関税率の調整、輸入の制限その他必要な施策を講ずることとしたのであります。すなわち、緊急に必要が生ずる場合は当然輸入制限等を行なうことといたしますが、継続的な輸入制限につきましては、まずその前に第十一条の国内的な価格安定施策によることを原則とし、それをもってしても事態を克服しがたいと認められる場合に輸入制限措置によることとしているのであります。
なお、本条とガットすなわち関税及び貿易に関する一般協定との関係につきましては、本条に規定する措置をとろうとする場合においてガットの規定に定められた手続がある場合にはそれによらなければならないことは申すまでもないのでありまして、具体的に申しますと、緊急輸入制限につきましては事前あるいは事後にガットに協議すれば足りるのでありますが、継続的な輸入制限につきましては、ガット第二十五条の規定による承認を得なければならないことになっております。
次に、第十四条では、輸出の増進を規定しております。農産物の輸出につきましては、生糸、ミカンかん詰め等現在でもかなり輸出されているものもございますので、これらの輸出が一そう伸びるように、また、現在は輸出されていない農産物につきましても、その輸出をはかるようにするため、競争力を強化するようにするとともに、輸出取引秩序、マーケッティング等の面にわたって必要な施策を講ずることといたしております。
次に、第四章におきましては農業構造の改善とそれに関連する事項を規定しております。
まず第十五条におきましては、まず家族農業経営を近代化してその健全な発展をはかることといたしております。それは、わが国の農業経営のほとんどが家族経営であるという実態にかんがみ、農業構造の改善をはかるについてはまずこのような家族農業経営一般についてこれを近代化してその健全な発展をはかるべきものと考えるからであります。
次に、家族経営の望ましい姿として自立経営を考え、できるだけ多くの家族農業経営が自立経営になるように育成するため必要な施策を講ずべきこととしております。自立経営と申しますのは、家族農業経営のうち、ここに規定しておりますように、「正常な構成の家族のうちの農業従事者が正常な能率を発揮しながらほぼ完全に就業することができる規模の家族農業経営で、当該農業従事者が他産業従事者と均衡する生活を営むことができるような所得を確保することが可能なもの」であります。「正常な構成の家族」と申しますのは、夫婦と子供を中心とした近代的小家族で、平均的な人数、性別、年令別等の構成をもったものを考えておりますから、そのような家族における農業従事者は、労働単位で見ますと、現状では通常二ないし三人であろうと見られます。従いまして、自立経営と申しますのは、簡単に言えば、二ないし三人の労働単位が能率よく働けば他産業従事者と均衡する生活を営めるような家族農業経営であります。
次に、第十六条におきましては相続の場合の農業経営の細分化の防止について規定しております。戦後民法の相続編が全面改正されましてから十数年たったわけでありますが、農地等農業用資産の相続に関し何らかの措置が必要であることにつきましては、相続法改正の際から問題になっていたことは御承知の通りであります。その後の相続の実態を見てみますと、家族員相互間の権利意識の現況や農地制度の関係等により、相続によって農業経営が細分化されるという事態は必ずしも一般的でないようにも見受けられますが、しかし、今後の見通しといたしましては、農家における権利関係の意識も進み、均分相続の機運が徐々に浸透していき、それによって農業経営が分割、細分化されるということも予想しなければなりません。従いまして、相続法の均分相続の原則と調和をはかりつつ、相続によって農業経営が細分化され、不安定となることを防止するために必要な措置を講ずべき段階になりつつあると考えられますので、これに関して規定を設けることといたしました。この規定の趣旨は農業経営の細分化防止でありまして、遺産そのものの分割まで防止しなくても目的が達せられる場合もありましょうし、何分相続という基本的人権にわたる事項でございますので、具体的施策につきましては特に慎重に検討いたしたいと考えております。なお、ここで特に「自立経営たる又はこれになろうとする家族農業経営」といたしましたのは、前条で申しましたように、家族農業経営の目標を自立経営に置くことと関連しているものであります。
次に、第十七条は協業の助長について規定いたしております。ただいま申し述べましたように、わが国の農業構造は家族農業経営から成り立っておりますが、経済の発展とともに個々の家族経営のみでは正常な生産性や所得を確保することが漸次困難となってきております、それゆえ、家族経営を補うものとして、あるいはさらに家族経営と並んで共同組織あるいは協業組織が重要になって参ります。それゆえ、この第十七条は、家族農業経営の発展、農業の生産性の向上、農業所得の確保等に資するため生産行程についての協業を助長することとし、そのための方策について種々規定いたしております。これまでの農業における協業あるいは共同化事業と申しますと、主として農業協同組合等による販売、購買、信用等、流通過程に関するものであり、生産行程についての協業は、あまり比重が高くなかったように思われるのであります。しかしながら、今後において農業の生産性の向上、農業所得の増大をはかるためには、高度の生産手段や技術を中心とする生産行程の協業がぜひとも必要であり、それがまた家族農業経営を発展させるゆえんでもあると考えるのであります。すなわち、まず単独では自立経営になりがたい経営につきましては、経営規模が零細なだけにそのままで生産性を向上させることは困難であり、協業によって初めてその発展の可能性が生まれるのであります。そうして、それによって農業所得の確保に資するとともに、他方生産性の向上によって浮いた労働力を兼業に向けるなどにより、農家としての所得の増大をはかることができると考えるのであります。また、一応自立経営に達しました経営につきましても、経済成長に伴って他産業従事者の所得はさらに増大していくのでありますから、絶えず生産性の向上が必要であり、従って、経営規模も拡大し、技術も高度化していかなければならないと思われますから、自立経営の改善のためにも、トラクターのような高度の生産手段の共同利用等、生産行程の協業を必要とすると考えるのであります。
以上が本条を設けた趣旨でございますが、ここで「生産行程についての協業」といっておりますのは、従いまして非常に幅の広いものでありまして、数戸の農家が農機具を共同利用するようなものから、現実に事例は少ないでありましょうが、各農家が農地、家畜、農機具等を出資して共同化法人を設立し、各農家はもはや農業経営体でなくなってしまうようなものまでを含めて考えております。そうして、それらのうち、共同利用施設の設置や農作業の共同化等、生産行程の一部につきましての協業は現に農業協同組合がやれますし、また、やっておりますので、その発達改善等をはかることといたします。しかし、法人による農業経営につきましては、現在の農業協同組合は、みずから農業経営は行なえないことになっておりますし、また、現在法人による農地等の権利取得は農地法上原則として認められておりませんので、農業従事者の協同組織を整備するとともに、農業を営む法人が農地等を取得し得るようにする必要があります。このため、別途、農業協同組合法を改正いたしまして新たに農業生産協同組合の制度を設けるとともに、農地法を改正いたしまして、一定の要件を備えた法人による農地等の権利取得を認めることを考えております。なお、その場合、農業従事者が協同組合的組織によって協業することも、有限会社等の形態をとることも、いずれも選択できるように考えております。これらの施策によって協業を助長し、家族農業経営とその協業のための組織とが相並びながら農業経営の近代化に資するようにいたしたいと考えるものであります。
次に、第十八条でございますが、これは、農地の移動について、農地が農業構造の改善に資するような移動の仕方をするように国が必要な施策を講ずることを規定しております。すなわち、農業構造の改善として自立経営を育成し協業を助長するわけでありますが、この場合、経営の基盤は農地でありますので、これらの経営による農地の取得や集団化が円滑に行なわれますことが最も必要と考えるわけであります。そのためには、まず農地の流動性を高め、農地が自立経営の育成なり協業の助長なりに役立つ方向に移動するようにしなければならないのであります。その際考えられる施策といたしましては種々のものがあり得るかと思いますが、現行の農地法の規制を一挙に全面的に改めることは、耕作と所有の著しい分離となるおそれが生じ、好ましくありませんので、現行農地法の体系に即しつつ以上の目的を達成する方法として、農業協同組合による農地等の売り渡しまたは貸付を目的とする信託の引き受けの事業を特記したのであります。従いまして、このため別途農地法及び農業協同組合法の一部改正法案を準備中でございます。
次に、第十九条では、教育、研究及び普及事業の充実等に関して規定してございます。申すまでもなく、近代的農業経営はそれにふさわしい経営担当者を必要とするのでありまして、経営担当者の資質の向上なくして農業経営の近代化はあり得ないと思うのであります。従いまして、教育、研究及び普及の事業の充実等により近代的農業経営を担当するのにふさわしい者を養成確保し、かつ、これらの者の技術水準を高めることによって農業経営の近代化をはかろうとするものであります。なお、教育や研究、普及事業は、農業従事者の生活改善をはかるためにも充実する必要があると考えております。
さらに、第二十条におきましては、農業従事者やその家族の就業機会の増大のために必要な施策を講ずべきことを規定いたしております。すなわち、農業従事者に対し他産業従事者と均衡する生活を営むことができるような所得を確保し得るようにすると申します場合に、農業専業でいこうとする意思を持ち、またかなりの経営規模を持つなどその能力を備えた農業従事者につきましては、これを自立経営になるように育成し、農業所得のみで他産業従事者と均衡する生活が営まれるようにすることは申すまでもありません。また、単独では自立経営になりがたい経営でありましても、協業によってその目的を達するものもございましょう。これらについても要すれば兼業機会を考える必要がありましょうが、これら以外の経営につきましては、特に農業所得のみでは他産業従事者と均衡する生活を営むことは困難でありますので、教育、職業訓練及び職業紹介の事業の充実、農村地方における工業等の振興、社会保障の拡充等必要な施策を講じ、それによりまして兼業所得を増大して、農家単位で見た場合の家計としての安定をはかるようにし、あわせて、農業従事者やその子弟が就職の際、またその後に不利にならないように、その希望及び能力に従って適当な職業につくことができるようにいたすためにこのような規定を設けたのであります。
次に、第二十一条におきましては農業構造改善事業の助成等について規定しております。農業構造の改善と申しますのは、第二条一項第三号で申し上げましたように、農地保有の合理化と農業経営の近代化でありますが、これを具体的に推進するためには、その基盤となる事業を総合的に実施することが必要であります。農業構造の改善に関して必要な事業といたしましては、農業生産の基盤たる土地や水の整備開発、道路、水道等環境の整備、家畜、機械等農業経営の近代化のための施設の導入等でありますが、そうしてこれらの事業はそれぞれ別々に実施してもそれなりの効果があることは事実でありますが、農業構造の改善としての効果を十分発揮するためには、これら事業が一定の地域について統一的に樹立せられた計画に従い有機的連関を持って総合的に行なわれることが望ましいわけであります。今後農業構造の改善をはかるにあたりまして、国は特にこのような形で実施される事業を指導、助成しようとするのが本条を特記した趣旨でございます。
第四章の最後といたしまして、第二十二条に農業構造の改善と林業との関係を規定しております。すなわち、農業構造の改善の具体的内容といたしましては、家族農業経営一般についての近代化、自立経営の育成、協業の助長等でありますが、その場合、農業を営む者があわせて営む林業につきましては、これを単なる兼業と考えず、あるいは単なる財産所有と考えずに、農業と林業を一体として考えようとするのがこの規定の趣旨でございます。御承知のように、わが国農家の七割は山林を所有しておりますし、特に山村では山林を切り離して農業だけの面で構造改善をはかることは困難でありますし、また、林業も漸次集約化の方向に向かうべきものと思われますので、農業と林業とをあわせて考えた方がいい場合が多いと思われます。それゆえ、たとえば農業、林業を合わせた自立経営を育成するとか、農業を営む法人に対し林業の兼営を認める等を考えております。
次に、第五章について申し上げます。以上申し述べました各般の施策を積極的に推進し、その十分なる効果を期しますためには、これを担当する主体について必要な整備をいたさなければなりません。そこで、国及び地方公共団体の農業行政につきまして、その行政組織を新しい農政の方向に沿い得るように整備するとともに、行政の運営につきましても改善に努めることといたし、その趣旨を第二十三条に規定いたしたのであります。なお、同条において「国及び地方公共団体は相協力する」と規定しておりますのは、国と地方公共団体がそれぞれの任務に応じて必要な施策を講じ、両者一体となって目標を達成していくようにするという趣旨であります。
また、農業行政機関の側における組織及び運営の改善をはかることと並行しまして、農業団体の整備が必要でありますので、第二十四条でこれについて規定いたしております。第五条でも申しましたように、国または地方公共団体の施策は農業団体の自主的な活動と相待って講ぜられるべく、第一条の目標達成のためには農業団体の活動に期待すべきものがあるのであります。
最後に、第六章農政審議会について申し上げます。
本法に基づいて各般の施策を講ずるにあたりましては、政府は責任を持って事に当たるべきことは申すまでもないのでありますが、そのうちには、政府だけの判断で進めるのではなく、学識経験者の意見を徴し、その調査審議の結果を取り入れて施策を講じていくことが必要なものでありますので、そのため農政審議会を設けることといたしました。さきに申し述べました通り、第六条の農業の動向に関する年次報告に含まれるべき農業の生産性及び農業従事者の生活水準の動向についての政府の所見、第八条の重要な農産物についての需要及び生産の長期見通し、及び第十一条の重要な農産物についての価格安定施策の実施の総合的な検討につきましては、農政審議会の意見を聞かなければならないことといたしておりますが、そのほか、この法律の施行に関するその他の重要事項につきましても、必要に応じ農政審議会の調査審議を願うこととし、政府の施策にできるだけ広く学識経験者の意見を反映せしめることを期しております。また、農政審議会は、これらの事項に関しまして自主的に内閣総理大臣または関係各大臣に意見を述べることができるものとする規定を設けております。
このような農政審議会の役割にかんがみまして、これを総理府に設置することといたし、委員は内閣総理大臣が任命することといたしております。これと関連いたしまして、附則で総理府設置法の一部を改正することといたしております。
以上が農業基本法案の概要でございますが、この法律の施行は、公布の日からといたしております。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/8
-
009・坂田英一
○坂田委員長 ただいま提案理由の説明を聴取いたしました内閣提出の農業基本法案及び議員提出の農業基本法案並びに漁業関係二法案に対する質疑は後日に譲ることといたします。
次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。
午後二時五十分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/103805007X00819610228/9
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。