1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十七年二月八日(木曜日)
午前十時三十六分開議
出席委員
委員長 河本 敏夫君
理事 稻葉 修君 理事 田中伊三次君
理事 牧野 寛索君 理事 井伊 誠一君
理事 坪野 米男君 理事 松井 誠君
池田 清志君 上村千一郎君
唐澤 俊樹君 岸本 義廣君
松本 一郎君 阿部 五郎君
猪俣 浩三君 河野 密君
田中織之進君 志賀 義雄君
出席政府委員
法務政務次官 尾関 義一君
検 事
(大臣官房司法
法制調査部長) 津田 實君
検 事
(訟務局長) 濱本 一夫君
委員外の出席者
判 事
(最高裁判所事
務総局総務局
長) 桑原 正憲君
判 事
(最高裁判所事
務総局総務局第
一課長) 長井 澄君
専 門 員 小木 貞一君
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二月三日
委員岸本義廣君辞任につき、その補欠として今
松治郎君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員今松治郎君辞任につき、その補欠として岸
本義廣君が議長の指名で委員に選任された。
同月五日
委員岸本義廣君辞任につき、その補欠として山
本猛夫君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員山本猛夫君辞任につき、その補欠として岸
本義廣君が議長の指名で委員に選任された。
同月六日
委員井村重雄君辞任につき、その補欠として石
田博英君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員石田博英君辞任につき、その補欠として井
村重雄君が議長の指名で委員に選任された。
―――――――――――――
二月六日
行政事件訴訟法案(内閣提出第四三号)
は本委員会に付託された。
―――――――――――――
二月五日
皇室の尊厳をおかす者を処罰する法律の制定に
関する陳情書
(第三三二号)
同(第三三
三号)
政治的暴力行為防止法案反対に関する陳情書
(第三三四号)
同(第三三五号)
は本委員会に参考送付された。
―――――――――――――
本日の会議に付した案件
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内
閣提出第二三号)
行政事件訴訟法案(内閣提出第四三号)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/0
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001・河本敏夫
○河本委員長 これより会議を開きます。
行政事件訴訟法案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/1
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002・河本敏夫
○河本委員長 まず提案理由の説明を聴取いたします。尾関法務政務次官。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/2
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003・尾関義一
○尾関政府委員 行政事件訴訟法案の提案理由を御説明申し上げます。
御承知の通り、行政事件訴訟は、日本国憲法の施行に伴いまして、司法裁判所の管轄に属することになりましたため、とりあえず応急措置を講じますとともに、早急に所要の規定を設けることとなりまして、昭和二十三年七月、現行の行政事件訴訟特例法が制定施行されるに至ったのであります。しかし、この特例法は、何分にもそうそうの際に制定されました法律でありますので、各般の事項にわたっての検討が必ずしも十分でなかったうらみがあります。そのため、解釈上幾多の疑義を残すのみならず、各種の行政法規との関連につきましても現在不統一多岐にわたっておりまして、その結果、その後の運用の面におきましても、幾多の困難な問題に逢着いたし、国民の権利の伸長及び行政の運営に少なからざる支障を来たしている次第であります。
よって、この際政府といたしましては、行政事件訴訟に関する法令の全般にわたりまして再検討を加え、従来の欠陥、疑義をできるだけ除去する必要を痛感いたしまして、去る昭和三十年三月、法務大臣より法制審議会に本件に関する諮問を発しました。自来同審議会は慎重審議の後、昨年五月ようやくその改正要綱を答申するに至りました。この答申は、現行法令の改正を必要とする諸要請をおおむね十分に満たしておりまして、現時点におきましては最も妥当な案と考えられますので、この際これをすみやかに立法化する必要があると存ずる次第であります。
次に、この法律案のおもな要点を申し上げます。
第一に、現行法と異なりまして、訴訟の種類を類型化し、これに適用される法規を明確にいたしております。すなわち、行政事件訴訟を抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟の四種類に分け、さらに抗告訴訟の態様としては、処分の取り消しの訴え、裁決の取り消しの訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴えを例示いたしまして、それぞれについての定義規定を設けまするとともに、適用もしくは準用する規定の範囲を明らかにしまして、よってもって現行法上生ずる解釈上の疑義を取り除こうといたしております。
第二に、国民の権利救済の面より従来とかくの批判があった訴願前置主義、すなわち、訴訟を起こす前に必ず行政上の不服申し立てを経ねばならないとする方式を原則として廃止することとしております。ただ、訴願を前置する必要のある行政処分も少くないことは否定できませんので、そのような行政処分については個々的にそれぞれの特別法で所要の規定を置くことといたしました。
第三に、現行の専属管轄の制度を廃止しますとともに、一般管轄のほかに特別管轄を認めることといたしております。これは管轄裁判所の範囲を拡げまして、国民の権利救済の便宜をはかろうとするものであります。
第四に、訴えの提起があった場合における行政処分についての執行停止の制度を整備することといたしております。また、現行の執行停止に対する内閣総理大臣の異議の制度につきましては、これによって国民の権利の救済が不当に阻害されることのないよう、その政治的責任を明らかにしますための規定を設けることといたしました。
第五に、行政処分の取り消しの判決は、公法上の法秩序安定のため第三者に対してもその効力が及ぶものとするとともに、これと関連して、現行の訴訟参加の制度を改め、また、第三者保護のために再審の訴えを認めることといたしております。
第六に、行政処分の無効等確認の訴えは、現在の法律関係に関する訴えによっては目的を達することができない場合に限って許されることを明らかにしますとともに、これと関連して、行政処分の効力等を争点とする私法上の法律関係に関する民事訴訟についても所要の規定を設けることとしております。
右のほか、出訴期間、当事者適格、関連請求の併合、処分の取り消しの訴えと裁決の取り消しの訴えとの関係、事情判決その他各般の事項にわたって、現行法の規定を改正し、あるいは新たに規定を設けることといたしております。これらもすべて前同様に現行法の欠陥を是正し、また解釈上の疑義を除去するための所要の措置であります。
なお、この法律案による改正に伴い、他の多数の法律における訴訟に関する規定を整備する必要があるわけでありますが、これに関する法律案は、本法案とは別途に後刻提出いたす所存であります。
以上をもって、本法案の提出理由の説明を終わります。何とぞ慎重ご審議の上すみやかに可決されますようお願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/3
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004・河本敏夫
○河本委員長 次に、法案に対する逐条説明を聴取することにいたします。浜本訟務局長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/4
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005・濱本一夫
○濱本政府委員 あらかじめ御配付してあります逐条説明という資料に一カ所だけささいなミス・プリントがございますので御訂正を願っておきたいと思います。四十四ページの八行目であります。この八行目の関係上、この法律の施行前に訴訟期間を」とありますが、これは「訴願期間」の誤りでございますので御訂正願っておきます。
それではさっそく逐条にわたって一応の御説明を申し上げたいと存じます。
まず、第一章総則におきまして、本法と他の法律との関係における基本的適用の問題を第一条及び第七条において規定しております。すなわち、この行政事件訴訟法案は、行政事件訴訟についての一般法たる性格を持つものであることを明らかにいたしますとともに、行政事件訴訟が一般の民事訴訟と基本的には性格を異にする面があることにかんがみまして、現行の行政事件訴訟特例法におけるがごとく、単に民事訴訟の特例を規定するということにとどまるべきものではないと考えまして、従来の考え方を改めまして、行政事件訴訟についての統一的な法律としてこれに関する規定を設けようとしているのであります。本法を題名において行政事件訴訟法といたしました趣旨もここにあるのであります。
次に、総則における第二の問題といたしましては、第三柔ないし第六条において定義規定を設けることにいたしましたことであります。すなわち、現行の特例法は単に行政事件を行政庁の違法な処分の取り消しまたは変更を求める訴訟その他公法上の権利関係の訴訟といたしてあるにすぎないため、行政事件たる性質を持つ訴訟の範囲並びに各種の形態の訴訟についていかなる範囲でどの法規が適用されるかが明確を欠いておりましたが、本法案は、行政事件訴訟を第二条ないし第六条に規定しておりますように、その訴訟の形態を類型化して明確にすると同時に、筋二章以下の規定によってそれぞれの訴訟に適用される規定の範囲を明らかにし、従前の疑義を明らかにしておるのであります。
以上二つが総則の規定における根本的趣旨であります。以下、総則の各条についてまず御説明申し上げることといたします。
「第一条 行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」この第一条は、ただ今申しましたこの法律が行政事件訴訟についての一般法であることを明らかにしたものであります。従いまして、行政事件訴訟について私的独占禁止法その他各種の行政法規に訴訟に関する特別の定めがあります場合には、まずそれらの規定が適用され、その他の事項についてこの法律が適用されることとなるのであります。
次に、「第二条 この法律において「行政事件訴訟」とは、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟及び機関訴訟をいう。」この第二条は、先ほど申し上げました趣旨の訴訟の類型化といたしまして、行政事件訴訟をこの四つの訴訟に大別いたしたものであります。これらの訴訟の定義につきましては、次の第三条以下においてこれを明らかにすることといたしております。
「第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求、異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。」この第三条は、そのうちまず抗告訴訟に関し規定することといたしたものであります。
まず第一項に抗告訴訟の一般的意義を明らかにしております。この抗告訴訟のうちには、さらに各種の類型の訴訟が考えられますので、第二項ないし第五項において四つの訴訟を取り上げ、その意義を明らかにいたしておりますが、抗告訴訟を単にこれら四つの訴訟に限定する趣旨ではなく、そのために第一項の抗告訴訟の定義はきわめて包括的に規定いたしてある次第であります。そして第二項以下の四つの訴訟以外に公権力の行使に関する不服の性質を持つ訴訟が認められるかどうか、認められるとすればどのような訴訟が考えられるか、につきましては現在判例学説上一定いたしていないところでございますが、もしこのような訴訟が認められるといたしますれば、その訴訟は、これを抗告訴訟といたす趣旨なのであります。
次に第二項の処分の取り消しの訴えにつきましては、現行法では行政庁の違法な処分の取り消しまたは変更を求める訴訟としておりますが、その変更の意味はすでに学説判例上一部取り消しの趣旨に解されておりますので、ここでの定義としては単に処分の取り消しの訴えといたしたのであります。さらに第二項におきまして、現行法と異なり、「その他公権力の行使に当たる行為」の文字を付加いたしましたのは、精神病患者の即時強制収容等、いわゆる事実行為をこれに含める趣旨であります。
次に第三項で、現行法と異なり特に裁決の取り消しの訴えを別の類型といたしましたのは、第八条、第十条第二項等において処分の取り消しの訴えと裁決の取り消しの訴えとを分けて規定する必要があるからであります。この第八条、第十条第二項につきましては、もちろん後の方に触れることにいたします。
次に第四項の無効等確認の訴えに関する規定は、従来この種の訴訟が抗告訴訟か当事者訴訟か学説判例上疑義がありましたので、この点を抗告訴訟といたすことを明確にしたものであります。なお、この無効等確認の訴えがいかなる場合に提起することができるるかにつきまして、第二章第二節第三三十六条においてこれを明らかにしております。
第五項の不作為の違法確認の訴えにつきましては、行政庁が、法令に基づく申請に対して相当の期間内に何らかの処分または裁決をすべきにかかわらず、これをしないときには、それは法律上の争訟として違法の問題と考えられるのでありますが、現行法上はこの種の訴訟がはたして認められるべきものかいなかが必ずしも明らかではありません。そこで、この訴えが許さるべき要件を明らかにするために、ここに明記することにいたしたのであります。でありますから、この訴えは何らかの処分をなすべきであるにかかわらず、これをしないことが違法であるというのでありまして、具体的にある特定の処分をなすべきことを請求することを許す趣旨のものではなく、処分をしないことが違法であるということが判決によって確認されますと、何らかの処分をなさなければならないという行政庁に対する拘束力が生ずるのであります。
さらにこの訴えの要件について若干補足いたしますと、法令に基づく申請権がある場合に限られるのでありまして、しかもこの訴えは、第三十七条で規定しておりますように、申請をした者だけに許されるのでございます。また、ここに相当の期間内といたしましたのは、各種の行政処分について一律に期間を本法で定めることが適当ではないからでありまして、結局は裁判所が事案々々の性質等を個々的に判断してこれをきめることにするほかはないからであります。なお、行政庁が申請を拒否したり、あるいはまた特定の行政法規にありますように一定期間内に処分しないときは、これを拒否または承認したものとみなす規定があります場合には、この訴えによるのではなくして、第二項の処分取り消しの訴えの形で不服の訴訟を提起いたすことになります。
次に、「第四条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりこの法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する訴訟をいう。」この第四条は、当事者訴訟として二つの形態の訴訟を規定いたしております。まず、前段の訴訟につきまして、たとえば行政庁が決定いたしました損失補償や買収対価等の額の増減を求める訴訟のように、行政処分を不服としてこれを争う性質の訴訟でありましても、多くの行政法規で規定いたしておりますように、行政庁を被告とせずに、それに直接の利害関係がある起業者その他の実質上の当事者を被告といたしておりますものは、訴訟の型態として抗告訴訟と異なるものでありますので、これを当事者訴訟として規定いたした次第であります。従いまして、この訴訟に当たるものと認められるためには特に法令において実質的当事者を被告とする旨が定められておる場合に限られるものであります。後段の訴訟は、たとえば俸給の請求が争われる訴訟のように、実質上の当事者間において公法上の法律関係が争われる訴訟を規定したものであります。
次に節五条に移ります。「第五条この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。」この第五条で民衆訴訟に関する規定を置いております。これは選挙訴訟のように自己の法律上の利益に直接かかわりのない者から提起される訴訟でありまして、従いまして、この訴訟は第四十二条に規定いたしております通り、法律で特に認められている場合に限って許されるのでありまして、また、どの範囲の者がかような訴訟を提起することができるかも法律で定めることといたしておるのでございます。
次に「第六条 この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。」この第六条の機関訴訟につきましては、地方自治法等に規定されている職務執行命令訴訟のように、機関相互の間の訴訟でありまして、それには国または地方公共団体その他の公共団体の内部における機関相互の権限争訟及び国の機関と公共団体との機関との間の権限訴訟を含む趣旨であります。この訴訟は、その性質に照らし、第四十二条で規定しておりますように、特に法律の明文がある場合においてのみ許される訴訟であります。
次に、「第七条 行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」この第七条につきましては、すでに冒頭において述べましたところでありますが、本法は行政事件訴訟についての統一的な一般法といたす趣旨でありますが、民事訴訟法に規定されておるすべての訴訟事項を本法で重ねて規定いたしますのは、かえって無用の繁雑を来たしますので、本法に規定してない事項については、民事訴訟法の規定を準用してこれをまかなうことにいたしたのであります。
次に、第二章において抗告訴訟に関する規定を設け、そのうち第一節で取り消し訴訟に適用さるべき事項を規定いたしております。
「第八条 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直にち提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。2 前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。一審査請求があった日から三箇月を経過しても裁決がないとき。二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。3第一項本文の場合において、当該処分につき審査請求がされているときは、裁判所は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があった日から三箇月を経過しても裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。」この第八条におきまして、現行の特例法のとっております訴願前置主義を原則として廃止することにいたしております。従来、訴願前置主義に対しましては、国民の権利の伸長に支障を与える面が少なくないとの見地から、種々の批判があったわけでございます。もちろん、その批判は別途本国会に提案いたされておりまする行政不服審査法により取り除かれる部分も多々ございますが、しかし、なお国民が訴訟によって権利救済を求めようとする際に、訴願を経てからでなければ出訴できないとして、訴願をすることを強制いたしますのは妥当でないと考えられるのであります。もちろん、訴願前置を必要とするについてそれ相応の理由のある場合もございますので、それについてはそれぞれ例外を認むべきではありますが、一般的には、今申しましたように、訴願前置を必要要件とすることは、国民の権利伸長の見地からこれを廃止することといたしたのであります。従いまして、この結果、国民において行政処分に対し不服がある場合に行政不服審査法による不服申し立てをするか、本法の取り消し訴訟を直ちに提起するか、いずれの途を選ぶかを国民が自由に決定することができることになるわけであります。また、これら二つの申し立てを同時にいたすことも可能に相なるわけであります。
第一項は、右に申し上げましたように、原則として訴願前置主義を廃止し、特に訴願前置を必要とするような処分につきましてはその旨をそれぞれ特別法で定めることにしたものでございます。なお、その訴願前置主義を規定するのを法律に限定いたしましたのは、命令、条例などでかかる事項を規定するのは適当でないからであります。すなわちこれで法律と申しますのは狭い意味の法律をさしているわけであります。
第二項は、訴願前置主義をとる場合でも、それによって生ずる弊害を取り除く必要があるのでありまして、しかも、このことは各特別法で訴願前置を規定する場合に共通する事柄でありますので、ここに一定の事由がある場合には訴願を経なくてもよい旨を定めたのであります。この趣旨は現行の特例法第二条ただし書きとほぼ同じであります。
次に、第三項は、原則として訴願前置を廃止しました結果、訴願と訴訟が同時に並行する場合が多くなることが予想されますので、これら二つの手続の調整をはかったものであります。すなわち、裁判所において、さきに訴願に対する裁決をなさしめるのが相当と考える場合には、その裁量により訴訟手続を一時中止することができるといたしたのであります。
次に、第九条であります。「第九条処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。」この第九条の原告一適格の規定につきましては、現行の特例法にはこれに関する規定はなく一般の民事訴訟の原則によっておるのでありまして、本条もその原則を明らかにしたにとどまるものでありますが、ただ、本法においては、民衆訴訟及び機関訴訟に規定しておりますので、それとの関係において、このことを特に明記したものであります。
カッコ書きの個所は、従来、たとえば免職や除名などの処分の効果が、任期の満了その他の理由でなくなった場合に取消訴訟の利益が失なわれるかいなかにつきまして解釈上疑義がございますので、その場合でも、俸給や歳費請求権の行使などなお回復すべき法律上の利益がある場合には利益がある趣旨を特に明らかにしたものであります。なお、当該処分によりこうむった損害の賠償は、別途訴訟において解決せらるべき問題でありまして、これがあるからといって、ここにいう回復すべき法律上の利益あることとはならないのは解釈上当然と考えられます。
次に、第十条であります。「第十条 取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。2 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」この第十条の第一項は、取消訴訟においては、自己の法律上の利益に全く関係のない手続法規違反等の違法事由はこれを主張することができないことといたしております。かかる主張はそのことにより排斥できることといたしたのでありまして、このことは、従来の学説判例の考えに沿ったにすぎないものであります。
第二項は、処分の取り消しの訴えと裁決の取り消しの訴えとの関係を、前者を中心として、つまり処分の取り消しを中心として調整を規定したものであります。現行法上はこの点について何らの規定がございませんので、裁判所の取り扱いが区々になっておりまして、処分を維持した裁決の取り消しの訴えにおいて原処分の違法をも主張する場合が少なくなく、訴訟経済の上からいかがかと存ぜられますし、また、原処分の取り消しの訴えと裁決の取り消しの訴えとが別々の裁判所に並行して提訴され、しかも、実質上同じ違法事由が主張され審議されて、裁判所の判断がお互いに抵触する場合も生じまして、これら両訴の取り扱いについて現在困難な事態になっております。それで、原処分の取り消しの訴えと原処分を維持した裁決の取り消しの訴えとを提起することができる場合には、原処分の違法は処分の取り消しの訴えにおいてのみ主張することができるものとし、裁決の取り消しの訴えにおいては裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法のみを主張することができることにいたしたのであります。なお、海難審判法等の特別法におきまして、原処分については取り消しの訴えを許さず、裁決についてのみ取り消しの訴えを許すことになっているものについては、本項の規定の適用はないことは申すまでもございません。
次に、第十一条であります。「第十一条処分の取消しの訴えは、処分をした行政庁を、裁決の取消しの訴えは、裁決をした行政庁を被告として提起しなければならない。ただし、処分又は裁決があった後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、その行政庁を被告として提起しなければならない。2 前項の規定により被告とすべき行政庁がない場合には、取消訴訟は、当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告として提起しなければならない。」この第十一条は、現行の特例法第三条の建前を維持することにしたものでありまして、ただ、従来解釈上疑義がありましたので一項ただし書き及び第二項等を新設してこれを明らかにしたものであります。
次に、第十二条であります。「第十二条行政庁を被告とする取消訴訟は、その行政庁の所在地の裁判所の管轄に属する。2 土地の収用、鉱業権の設定その他不動産又は特定の場所に係る処分又は裁決についての取消訴訟は、その不動産又は場所の所在地の裁判所にも、提起することができる。3 取消訴訟は、当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所にも、提起することができる。」取消訴訟は、一般管轄としては被告行政庁の所在地の裁判所の管轄に属するとしたものであります。現行の特例法第四条は、被告行政庁の所在地の裁判所の専属管轄となっておりまして、訴えを提起する者にとって不便をじておりましたので、この管轄の専属を廃止することにしたのであります。従って、この結果、民事訴訟法の応訴管轄、合意管轄その他移送等の規定が適用されることになるわけであります。
次に、第二項及び第三項において、国民の権利救済を容易にするため二つの特別管轄を認めることといたしております。第二項の不動産または場所の所在地にしても、また、事案の処理に当たった下級行政機関の所在地にしましても、これらにかかる処分の取り消しの訴えと密接な関連を持つものでありますから、その他の裁判所に管轄を認めるのが相当と思われるのであります。なお、第二項の特定の場所にかかる処分とは、たとえば四国におけるバス路線にかかる運輸大臣の不許可処分のごときをいうのでありまして、この不許可処分の取り消しの訴えは、第一項によって東京の地方裁判所の管轄に属すると同時に、本項の規定により四国のその地の地方裁判所の管轄にも属することになります。また、第三項の事案の処理に当たった下級行政機関とは、たとえば九州のある省の出先機関が大臣の免職処分について必要な調査をし、これを具申したような事案の場合におけるその出先機関をいうのでありまして、この場合には、東京の地方裁判所のほか、当該機関の所在地の地方裁判所にもその処分の取り消しの訴えを提起することができることになるのであります。
次に、第十三条であります。「第十三条取消訴訟と次の各号の一に該当する請求(以下「関連請求」という。)に係る訴訟とが各別の裁判所に係属する場合において、相当と認めるときは、関連請求に係る訴訟の係属する裁判所は、申立てにより又は職権で、その訴訟を取消訴訟の係属する裁判所に移送することができる。ただし、取消訴訟又は関連請求に係る訴訟の係属する裁判所が高等裁判所であるときは、この限りでない。一 当該処分又は裁決に関連する原状回復又は損害賠償の請求二 当該処分とともに一個の手続を構成する他の処分の取消しの請求三当該処分に係る裁決の取消しの請求四 当該裁決に係る処分の取消しの請求 五 当該処分又は裁決の取消しを求める他の請求 六 その他当該処分又は裁決の取消しの請求と関連する請求」この第十三条は、取消訴訟とそれに関連する請求とが別々の裁判所に係属しているような場合に、訴訟の経済と事件の迅速処理との観点から、関連請求の係属する裁判所から取消訴訟の係属する裁判所に事件の移送を認め、一つの裁判所においてこれを審理することができるようにしたものであります。この移送は、右の趣旨に基づくものでありますから、関連請求が取消訴訟の係属する裁判所に管轄がない場合においても特にこれを認めたものであります。また、関連請求事件が簡易裁判所に係属する場合に取消訴訟の係属する地方裁判所に移送することを認める趣旨でもあります。しかし、ただし書きにありますように、取消訴訟または関連請求訴訟が一審または控訴審として高等裁判所に係属するという場合には、審級の利益を奪うことにもなりますので、右の移送はこれを認めないことにいたしております。
次に、本条において関連請求の範囲を各号に掲げて、できるだけ明確にしておりますが、これは現行の特例法第六条が単に原状回復または損害賠償その他関連する請求と規定しておりまして、解釈上の疑義があったからであります。さて、第一号は、現行法の表現と同じでありますので別段補足説明を要しないと考えます。第二号は、滞納処分や土地収用の手続のように一連の段階を追って数個の処分がなされるというような場合には、その手続中の個々の処分の取り消しの訴えは相互に関連請求となるとの趣旨であります。第三号は、原処分の取り消しの請求に対し、その訴願裁決の取り消しの請求が関連請求であること、また第四号は、逆に訴願裁決の取り消しの請求に対し原処分の取り消しの請求が関連請求になることを明らかにしたものであります。第五号は、一つの処分または訴願裁決に対し数人の者から提起される処分または裁決の取り消しの請求は互いに関連請求であることを明らかにしたものであります。第六号は、関連請求は右の各号には限られないので、概括的に規定したものであります。
次に第十四条であります。「第十四条取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならない。2 前項の期間は、不変期間とする。3 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。4 第一項及び前項の期間は、処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があったときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日又は裁決の日から起算する。」この第十四条は、第一項において、現行の出訴期間六カ月を三カ月に短縮しております。その趣旨は、出訴期間が長期に過ぎることは行政上の法律関係の安定に支障を来たすことも少なくありませんし、また諸種の立法例においても六カ月のごとき長期の出訴期間を認めておるものはなく、また、一般法たる本法において出訴期間が長期に定められますと、かえって各種特別法規においてより短期の出訴期間を定める傾向を生みまして、その間不統一を生ずる弊害があるわけであります。他方、従来の現実の出訴の状況に照らしましても、また、この出訴期間は、原告が処分を知った日から起算されるものであり、かっこれを不変期間といたしておるのでありますから、現行の出訴期間をこのように短縮いたしましても出訴権を制約するような支障は生じないものと考えられます。このような諸種の事情を勘案いたしまして、その出訴期間を本法におきましては三カ月とするのが適当と考えた次第であります。
次に第三項におきまして、現行規定における疎明を落としましたのは、出訴期間が訴訟要件である点にかんがみますと、正当理由があることを疎明することにしている現行の規定は適当ではないからでありまして、一般の訴訟要件と同様にこの点は証明することにしたのであります。
次に第四項で行政庁が誤って審査請求をできる旨を教示した場合の出訴期間の起算日について新たに規定を設けましたのは、現行法の解釈として審査請求が不適法であるときには、この出訴期間の延長の利益を受けることができないとされているのでございましたが、行政不服審査法案において教示の規定が設けられ、行政庁が誤って教示した場合について、特に救済の規定を設けることにいたしております趣旨に従いまして、出訴期間についても特段の考慮をいたすことにしたものであります。
次に、第十五条であります。「第十五条取消訴訟において、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもつて、被告を変更することを許すことができる。2 前項の決定は、書面でするものとし、その正本を新たな被告に送達しなければならない。3 第一項の決定があったときは、出訴期間の遵守については、新たな被告に対する訴えは、最初に訴えを提起した時に提起されたものとみなす。4 第一項の決定があったときは、従前の被告に対しては、訴えの取下げがあったものとみなす。5 第一項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。6 第一項の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。7上訴審において第一項の決定をしたときは、裁判所は、その訴訟を管轄裁判所に移送しなければならない。」この第十五条は、原告が被告とすべき者を誤った場合の救済を定めたものでありまして、その趣旨においては、現行の特例法第七条と同じであります。ただ、現行法におきましては、単に被告を変更することができるとのみ規定しているにすぎませんので、変更後の被告は正当かどうかに関連して訴訟当事者の地位が不明確となり訴訟手続の安定を害していますので、本条におきましては、裁判所が被告変更の許否を決定するという建前をとってこれを明確にすることとしたわけであります。この許否の決定のうち、被告の変更を許す決定に対しましては、その性質上新旧両被告は不服を申し立てることができないこととし、その決定によって直ちに被告は従前の者から新被告に変わることとなるのであります。なお、第六項において、被告変更の申し立てを却下する決定に対しては即時抗告ができることとし、また、第七項において、上訴審で被告変更の決定をしたときは、その訴訟を管轄裁判所に移送しなければならない旨を明らかにしたのであります。
次に、第十六条であります。「第十六条 取消訴訟には、関連請求に係る訴えを併合することができる。2 前項の規定により訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければならない。被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は準備手続において申述をしたときは、同意したものとみなす。」この第十六条ないし第十九条に各種の併合について規定をいたしおりますが、これは現行の特例法第六条が簡に失して解釈上疑義がございますので、これをそれぞれの場合において分けて規定することにいたしたものであります。
第十六条の請求伊客観的併合の規定は、取消訴訟には、関連請求に限り、訴えを併合することを認めたものであります。
次に、第十七条であります。「第十七条数人は、その数人の請求又はその数人に対する請求が処分又は裁決の取消しの請求と関連請求とである場合に限り、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。2 前項の場合には、前条第二項の規定を準用する。」この第十七条の共同訴訟の規定は、関連請求に限って共同訴訟を認めることを明らかにしたものであります。
次に、第十八条及び第十九条であります。「第十八条第三者は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、その訴訟の当事者の一方を被告として、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができる。この場合において、当該取消訴訟が高等裁判所に係属しているときは、第十六条第二項の規定を準用する。」「第十九条 原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができる。この場合において、当該取消訴訟が高等裁判所に係属しているときは、第十六条第二項の規定を準用する。2 前項の規定は、取消訴訟について民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)第二百三十二条の規定の例によることを妨げない。」第十八条及び第十九条は、原告または第三者が取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に限ってその取消訴訟に併合して提起することを認めた規定であります。もちろん、これらの追加的併合におきまして、追加される請求が出訴期間の経過等により本来不適法であるものを併合することによって適法な請求となることを認める趣旨ではございません。なお、第十九条に第二項の規定を置きました趣旨は、第一項による追加的併合が認めらるかどうかにかかわらず、民事訴訟法の規定による訴えの変更の要件を満たしておる場合には、それが許されることを念のため明らかにしたものであります。すなわち、民事訴訟法の二百三十二条には「原告ハ請求ノ基礎ニ変更ナキ限り」云々とありまして、この民事訴訟の一般的な訴えの併合の規定は、行政訴訟法においても適用のあることを念のために明らかにしたものにすぎないものであります。
少し時間がかかり過ぎまずので、以下条文の朗読は省略さしていただきます。
第二十条は、第十炎節二項で御説明申し上げました通り、原処分を維持する裁決の取り消しの訴えにおいては、その原処分の違法を理由として取り消しを求めることができないことにいたしておりますので、この制限によって原告に不測の不利益を与えないように、裁決の取り消しの訴えが控訴審に係属いたしております場合においても、処分の取り消しの訴えの被告の同意を得ることなくして裁決の取り消しの訴えにこれを追加的に併合することができるようにいたしますとともに、また出訴期間の順守につきましても初めに裁決の取り消しの訴えを提起したときに処分の取り消しの訴えの提起があったものとみなすことにしたものであります。
次に第二十一条は、取消訴訟の請求を国または公共団体に対する損害賠償その他の請求に交代的に変更することを認めたものであります。現行法にはこれに関する何らの規定がありませんので、判例も区々にわたり解釈上一定いたしておりません。と申しますのは、行政事件を民事事件に変更することは、その訴訟手続を異にするものに変更するわけでありますので、民事訴訟法の建前からは許されないことであり、また、この変更により被告は行政庁より国または公共団体に変えられることは、通常、当時者の任意的変更を認めない民訴の建前に反し、しかも訴えの変更となりますと、旧被告の当該訴訟における訴訟状態を承継し、これに拘束される関係にあるからであります。しかし、かかる訴えの変更を認めないことは、原告の保護に欠くるところがあるとのそしりを免れませんので、本条によりこれを容認することとしたわけであります。なお、本条におきまして、この訴えの変更は、先ほど申しましたような性質のものである関係上、第三項においてあらかじめ裁判所が当事者及び新被告の意見を聞くこととし、また、第四項により訴えの変更を許す決定に対しましては即時抗告を認めますが、これを許さない決定に対しては不服申し立てを許さないことにした次第であります。
次に、第二十二条と第二十三条の訴訟参加につきましては、現行の特例法第八条が第三者の訴訟参加と行政庁の訴訟参加とを区別することなく規定しておりまして、それぞれの参加人の訴訟法上の地位が明らかでありませんので、それら二つの訴訟参加に対応して規定を分けてその趣旨を明らかにすることにしたものであります。
まず、第二十二条の訴訟参加は、第三十二条において取消判決の効力は第三者にも及ぶといたしております関係上、その訴訟に参加した第三者については、民事訴訟法第六十二条を準用して、必要的共同被告の地位に準ずるものといたしております。また、かような性質の訴訟参加でありますので、当事者またはその第三者の申し立てによる参加の道を開くことにしたのであり、さらにその第三者は、訴訟参加の申し立てを却下する決定に対して即時抗告をすることができることにしたのであります。なお、その訴訟参加前の事項につき民訴六十八条の規定を準用して所要の調整をはかることにしております。
次に、第二十三条の行政庁の訴訟参加につきましては、その参加の趣旨にかんがみ、その訴訟上の地位につき民事訴訟法第六十九条の補助参加に準ずるものといたしたのであります。なお、この訴訟参加につきましても現行法と異なり、職権のほか、当事者またはその行政庁の申し立てによる訴訟参加の道を開くことといたしております。
次に、第二十四条は、現行の特例法第九条の規定と同じ趣旨であります。ただ、「公共の福祉を維持するため」という表現は、不適当かつ不必要でありますので、これを削除いたしました。
次に、第二十五条の規定は、いわゆる執行不停止の原則、裁判所による執行停止の要件、執行停止決定の手続並びに執行停止決定に対する不服申し立てを定めたものであります。
まず第一項は、現行の特例法第十条第一項の執行不停止の原則を維持することにしたものであります。ところで、この執行停止につきましては、現行法はただ単に執行の停止という用語を用いているにすぎませんが、その意義につき従来疑義が少なくなかったのであります。それで、本条におきましては、これを処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部又は一部の停止ということにその概念を明確にいたしますとともに、裁判所の行なう執行停止決定においては、処分の効力の停止はその効果が広く、かつ、強いものでありますので、本条第二項ただし書きにおいて処分の執行または手続の続行によって目的を達することができない場合にのみ許されることにいたしました。
次に、現行法は執行停止の要件として償うべからざる損害を避けるためと規定しておりまするが、これを「回復の困難な損害を避けるため」と改めることにいたしましたが、これはこの制度の本来の趣旨からいたしまして、金銭をもって償うことができないというのよりは広く、回復の困難な損害を避けるためという趣旨であると考えられますし、判例でもそのように解釈されてきましたので、本制度の趣旨に沿って、その字句を修正いたすことにしたのであります。さらに第三項において執行停止の要件として公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、執行停止ができないことにいたしておりますのは現行法通りでありますが、従来の判例学説が認めているところにのっとり、本案訴訟について理由がないと見えるときにも同様に執行停止ができないことにいたしております。なお、現行法においては職権による停止決定を認めておりますが、従来その実例もなく、事の性質上不必要なものでありますので、この際この点は削除いたすことにいたしました。
次に、執行停止の手続におきまして、要件事実が疎明に基づいてなされることにつきまして現行法はその規定を欠いておりましたので、第四項においてこのことを明記することにいたしました。
最後に、執行停止の申し立てを却下する決定に対しては判例上、不服申し立てをすることが許されると解釈されております。しかるに執行停止をする決定に対しましては、現行の特例法第十条第五項において不服を申し立てることができないとされておるのでありますが、これは両者の均衡を失するのみならず、執行停止をする決定に対し不服を申し立てることができないとするのは妥当を欠くものと考えられますので、本条第六項にお手ましては、右のいずれの決定に対しても即時抗告をすることができる道を開きました。ただし、執行を停止する規定に対する即時抗告に対し、民事訴訟法の一般原則により原決定の執行を停止することは執行停止の実効性を奪うことともなりますので、この即時抗告につきましては、本条第七項により原決定の執行を停止する効力を有しないものとしたのであります。
次に、第二十六条は、現行法では裁判所はいつで職権で執行停止の決定を取り消すことができることになっておりますが、先ほど申し上げましたように、この法律では執行停止の決定に対して不服の道を開くことにいたしましたので、職権取り消しの規定は、これをやめて民事訴訟の仮処分制度の事情変更における取り消しの申し立てと同じ建前を採用いたすことにしたのであります。そして、この申し立てに対する決定及びこれに対する不服について本条第二項において所要の規定を設けております。
次に、第二十七条におきまして、内閣総理大臣の執行停止に対する異議を存置し、その異議は執行停止の前後を問わずにこれを述べることができるとするとともに、この異議が不当に行使されないよう配慮した規定を設けることといたしました。
この執行停止の裁判は、本案の訴訟における終結判決と異なり、判決前の暫定措置としてなされる行政処分的性質のものでありますから、これに対して制約を加えても、差しつかえのないことは、純然たる司法作用に対する場合におけるそれとは異なるのであります。他面、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすにおいては、行政府として無関心たり得ないのでありますから、その首長たる内閣総理大臣においてその政治的、行政的責任にかんがみ、裁判所に対し異議を述べる道を開く必要があるのであります。しかも、この異議は執行停止の裁判の前後を問わずその道を開く必要があるわけでありまして、このことは執行停止決定後になって公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかになることがあり得ることに徴しても当然のことであると思われるのであります。
現行法におきましては内閣総理大臣が異議を述べた場合の裁判所の処置について規定を欠いておりますが、これは従来一般に解釈されておりました通り、本条第四項において、決定前に異議があれば、裁判所は執行停止をすることができず、また、停止決定後に異議があれば、裁判所はその決定を取り消さなければならないことといたしました。なお、停止決定後の異議を述べるべき裁判所については本条第五項により、これを明らかにすることといたしております。
しかし、もとより、この異議の制度が国民の権利救済を不当に阻害するようなことが万一にもあってはなりませんので、まず第一に異議を述べるについては理由を附さねばならぬこととし、しかもその異議の理由においては処分の執行をしなければ公共の福祉に重大な影響が及ぶおそれのある事情を具体的に示すものといたしております。そして前者の異議の理由が付されていないときにはその異議の効力はないわけであります。後者の事情の明示をかりに欠くことがあっても異議の効力には影響ないものとする趣旨において規定いたしております。さらに本条第六項におきまして、内閣総理大臣は、真にやむを得ない場合でなければ、この異議を述べてはならないこと、及び異議を述べたときには、次の常会において国会にこれを報告しなければならないことといたしました。かような処置により内閣総理大臣の異議がいやしくも乱用にわたることのないことを期し、かつ、異議を述べることについての政治的責任を明らかにすることといたした次第であります。
次に、第二十八条は、現行法上執行停止またはその決定の取り消しを申し立てる裁判所がどこであるか明らかでありませんので、これを明らかにいたしたものであります。
次に、第二十九条は、裁決の取り消しの訴えの提起があった場合の執行停止に関し、前四条を準用することにいたしたものであります。この規定は、裁決の内容によってはその裁決の執行停止を必要とする場合もありますし、また、特別法でいわゆる裁決主義をとっているものにつきましては、裁決の取り消しの訴えの提起があった場合において、原処分の執行を停止し得る道を開いておく必要がありますので、これらの必要に応じて設けることにいたしたものであります。
次に第三十条は、いわゆる裁量処分につきましては、行政事件訴訟の裁判の特質にかんがみ、行政庁にその裁量権の範囲を逸脱しまたは乱用があった場合に限り、裁判所は、これを取り消すことができるとしたものでありまして、このことは、学説判例を通じ、一般に現在においても認められているところであります。
次に第三十一条のいわゆる事情判決を定めた規定について申し上げます。現行の特例法第十一条は、本来、たとえば河川の使用許可に基づき大規模なダムが建設せられた後に、その許可が違法であるとして取り消された結果、公の利益に著しい障害を生ずる場合など特別の場合に対処する処置として規定されたものでありますが、その要件の表現が必ずしも適切ではないため、従来の判決例のうちには、この制度の趣旨に沿わないと思われるものも見出されるのであります。それで、まず第一項において、その要件の趣旨をできるだけ明らかにし、誤解を生じないように改めることといたしました。
次に本条第一項に基づいて、違法であるが請求を棄却する場合、現行の特例法第十一条第二項では処分が違法であることを判決で示さなければならないことを規定するにとどまりますが、判決の効力を明確にするために主文において違法であることを宣言しなければならないこととしました。
次に第二項は、現行法の認めない新しい制度を導入いたしております。すなわち、裁判所は、事案の性質上、相当と認めるときは、終局判決前に、判決をもって、処分が違法であることを宣言することができることとしたのであります。かような裁判を認めました趣旨は、終局判決前に裁判所が違法の判断を示して、行政庁側において損害の除去、補てんがなされることを期待し、これを勘案して終局判決をいたすことによって事案について妥当な解決をはかろうといたしたものであります。この違法宣言の判決は、訴訟法上は、民事訴訟法の中間判決とは異なる特殊な中間的裁判でありまして、これに対しては、独立して上訴はできないものと解しております。なお、第三項の規定は、判決書の記載において無用な手数を省くためのものであります。
次に第三十二条は、取消判決の効力は、当事者以外の第三者にも及ぶことを明記いたしたものであります。これはいわゆる判決の形成的効力に関するものでありまして、判決の既判力に関するものではないのであります。ところで現行の特例法は、これについて特別に規定を設けないで、解釈理論にゆだねていたわけでございまして、取消判決の効力も通常の民事訴訟と同様に当事者間にのみ及ぶにすぎないものと解すべきであるとする説もございますが、取消判決の効果、すなわち処分が取り消された場合の効果が訴訟の当事者と第三者との間で区々になることは、法律秩序の維持の見地から適当とは思われませんので、学説、判例に従って、取消判決の効力は、訴訟の当事者以外の第三者にも及ぶことにしたわけであります。そしてこれに関連して第二十四条の第三者の訴訟参加の規定を整備いたしましたことは、すでにさきに御説明申し上げました通りであります。なお、本条第二項で、この規定を執行停止の決定またはこれを取り消す決定に準用することにしておりますが、これも右と同様の趣旨であります。
次に第三十三条は、取消判決の拘束力を定めるものでありまして、第一項は、現行の特例法第十二条と同趣旨であります。まず、第二項は、たとえば申請を却下した処分が違法であるとして判決によって取り消され、その判決が確定した場合、その申請に対する行政庁の取り扱いは、従来必ずしも一定しておりませんでしたので、第一項の拘束力を具体的に明らかにする意味で、処分行政庁は、判決の趣旨に従って、あらためて申請に対する処分をしなければならないことを特に明記することにいたしたものであります。また、第三項は、たとえば審査請求を認容した裁決をその内容の違法を理由として取り消す判決が確定いたしますれば、それによって不服申し立ては、その目的が達成されるわけでありますので、一般的にはここで取り上げる必要はありませんが、しかし認容裁決を手続上の違法を理由として取り消す判決が確定した場合については、行政庁はいかなる拘束を受けるかを明らかにしておきませんと、不服申立権の保護に欠けるおそれがありますので、前項の規定を準用して、これを明らかにすることにいたしました。なお、第四項は、執行停止の決定についても関係行政庁を拘束する必要がある場合が考えられますので、第一項を準用することにしたものであります。
次に第三十四条は、先ほど申し上げましたように、取消判決の効力は第三者にも及ぶといたしましたので、もしその第三者が自己の責めに帰することのできない理由によって訴訟に参加することができず、従って重要な攻撃防御を尽くすことができなかったような場合には、この第三者の利益を保護する道を講ずる必要がありますし、また、その道は決して閉ざされてはならないものであります。そこでかような第三者には特に、かつ例外的に、再審の訴えを提起することができる道を開いたものであります。なお、第二項で確定判決を知った日から三十日以内というのは、判決が確定したことを知った日から三十日以内の趣旨であります。
次に第三十五条は、一般に取消訴訟において訴訟費用の裁判が確定すれば、その裁判の効力は、本来、国または公共団体に帰属すべきものと考えられるのでありますが、この種の訴訟においては、形式上は行政庁が当事者または参加人となっておりますので、訴訟費用額の確定申請をだれが、また、だれに対してするか、また、強制執行法上の当事者はいずれであるかなどについて、従来、取り扱い上疑義、不便がございましたので、特にこの点につき明文を設けることとしたものであります。
次に第三十六条は、無効等確認の訴えの原告適格の特例を定めたものであります。従来、行政処分の無効等確認訴訟の性質につきましては、種々の疑義があることは、さきにも触れましたところでございますが、行政事件訴訟を類型化してその適用法規を明らかにするためには、どうしても訴訟の性格をまずもってすっきりとしたものにする必要があるわけでありまして、この訴えのごときは、その代表的なものであります。ところで、現在行政処分の無効確認訴訟の形態に属するものとして考えられておりますものの多くのもの、たとえば農地買収処分の無効確認訴訟は、その実質において、買収処分の無効であることを前提とする所有権確認訴訟にほかならないのでありますので、過去の法律関係の確認という訴訟法の理論にも反することともなるこのような行政処分の無効確認訴訟というような形態のものを維持しなければならない必要性も理論的な根拠はどこにも見出せないものであります。そこで本条は、無効等確認を求める訴えは、当該処分もしくは裁決の存否または効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによっては目的を達することができないような場合、特殊な場合において、これを提起するにつき法律上の利益を有する者のみがこの訴えを提起することができるわけでありまして、たとえば、買収計画の無効確認など一連の手続中の先行処分の無効確認の訴えとか、許可申請に対する却下処分の無効確認の訴えなどがこれであります。
次に第三十七条は、不作為の違法確認の訴えの原告適格を定めたものであります。この種の訴えはだれにでも提起できるといたしますのは不相当でありますので、申請をした者に限って提起することができるとしたものであります。
次に第三十八条は、無効等確認の訴え、不作為の違法確認など取消訴訟以外の抗告訴訟に取消訴訟に関する規定の準用する範囲を明らかにいたしたものでありまして、これらは学説、判例の趣旨に沿ったものであります。
次に第三十九条は、第四条前段の当事者訴訟が提起されたときは、裁判所は、当該処分または裁決をした行政庁に出訴の通知をするものとすることを定めたものであります。この趣旨は、裁判所が当該当事者訴訟の対象となっている法律関係に関係の深い行政庁に出訴を通知して訴訟参加の機会を与えようとするにあります。なお、本条は訓示的なものでありますから、この通知を裁判所がしなかったとしても、訴訟手続の違法を来たすものでないと解釈をすべきものであります。
次に第四十条第一項は、各種法令に出訴期間の定めがある当事者訴訟について、その出訴期間は、不変期間とすることを定めたものであり、第二項は、このような当事者訴訟に第十五条(被告を誤った訴えの変更)の規定を準用することにしたものであります。
次に第四十一条は、当事者訴訟に抗告訴訟に関する規定を準用する範囲を明らかにしたものであります。
次に第四十二条は、民衆訴訟及び機関訴訟については、その特殊性にかんがみ、法律にこれを許す旨の定めがある場合において、法律に定める者のみが提起することができることにしたものであります。
次に第四十三条は、民衆訴訟または機関訴訟の特殊性にかんがみ、単に訴訟の対象の類型に従って、たとえば選挙訴訟のように処分の取り消しを求める性質のものについは、取消訴訟に関する規定を、地方自治法第二百四十三条の二に規定する納税者訴訟のうち行政処分の無効確認を求めるものについては、無効等確認の訴えに関する規定を、また損失補償を求める納税者訴訟については、当事者訴訟に関する規定を準用するというように、抗告訴訟または当事者訴訟に関する規定を概括的に準用することにいたしたものでありまして、これらの訴訟については、他の法令においてそれぞれ必要に応じて特別の規定があることを前提とするものであります。
次に第四十四条は、現行の特例法第十条第七項と同じ趣旨でありますが、この規定の趣旨としますところは、公権力の行使を阻害するような仮処分をすることはできないというのでありますから、規定の位置を移し、補則のところに、これを規定いたすことにしたものであります。
次に第四十五条は、私法上の法律関係に関する訴訟において、行政処分の存否または効力の有無が争われている場合には、その訴訟は、性質において本法にいう行政事件訴訟ではなく、民事訴訟と解されておりますが、その争点が行政処分に関するものであることにかんがみ、かつ、無効等確認の訴えとの均衡を考慮して、行政事件訴訟に関する規定のうち、若干の条項、たとえば行政庁の訴訟参加の規定(第二十三条)、出訴の通知の規定(第三十九条)、職権証拠調べの規定(第二十四条)及び訴訟費用の裁判の効力の規定(第三十五条)を準用することにいたしたものでございます。
最後に、附則について申し上げます。
附則第一条は、この法律の施行期日を本年の十月一日といたしております。
附則第二条は、現行の行政事件訴訟特例法を全面改正して本法案を提出いたすこととなりましたので、これを廃止することにいたしたものであります。
附則第三条は、この法律の施行についての経過措置に関する一般原則を掲げたものでありまして。通常の例にならったものであります。
以下、事項毎に特別の経過措置を定めております。すなわち、附則第四条は、第八条(処分取消しの訴えと審査請求との関係)との関係上、この法律の施行前に訴訟期間を経過したものにつきましては、この法律施行後も、なお、旧法第二条の例によることにいたしております。
附則第五条は、この法律の施行の際現に係属している裁決の取り消しの訴えについては、第十条第二項の取り消しの理由の制限の規定を適用しないことにしたものであります。
附則第六条は、第十一条(被告適格)の規定との関係上、この法律の施行の際現に係属している取消訴訟の被告適格については、なお、従前の例によることにいたしました。
附則第七条は、第十四条(出訴期間)第一項、第三項、第四項に関する出訴期間の経過措置であります。
附則第八条は、取消訴訟以外の抗告訴訟に関する経過措置でありまして、第一項は、第九条(原告適格)及び被告適格(第十一条)に関するものであり、第二項は、第十条第二項(取消しの理由の制限)に関するものであります。
附則第九条は、第三十九条(出訴の通知)の規定は、この法律施行後に提起された当事者訴訟についてのみ適用することにしたもので裁判所の負担を考慮したものであります。
附則第十条は、民衆訴訟及び機関訴訟に関する経過措置でありまして、この訴訟で処分または裁決の取り消しを求めるものについては、今申し上げました取消訴訟に関する経過措置に関する規定、すなわち、附則第四条(訴願前置に関する経過措置)、附則第五条(取消しの理由の制限に関する経過措置)、附則第六条(被告適格に関する経過措置)及び附則第七条(出訴期間に関する経過措置)を準用し、また、この訴訟で処分または裁決の無効の確認を求めるものについては、無効等確認の訴えに関する経過措置、すなわち、附則第八条(取消訴訟以外の抗告訴訟に関する経過措置)を準用することにしています。
附則第十一条は、この法律施行の際現に係属している処分の効力等を争点とする訴訟については、第三十九条(出訴の通知)の規定は、この法律の施行後に新たに処分の存否または効力の有無が争われるに至った場合にのみ準用することといたしておりますが、これは附則第九条で申しましたのと同じ趣旨であります。
以上をもって本法案の逐条説明を終わりたいと思います。
なお、説明の不十分な点につきましては、御指摘により補足して御説明申し上げることにいたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/5
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006・河本敏夫
○河本委員長 これにて説明は終わりました。本案に対する質疑は後日行なうことにいたします。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/6
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007・河本敏夫
○河本委員長 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。
質疑の通告があります。これを許します。上村千一郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/7
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008・上村千一郎
○上村委員 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案につきまして、この際要点のみ二、三質問をいたしたいと思います。
第一審における訴訟の適正、迅速な処理をはかるということは、現在国民の各階層におきまして痛切に感じておることであります。そういう点からいたしまして、どうしたならば第一審における訴訟の適正、迅速な処理をはかり得るかということは、これは単に下級裁判所の裁判官の員数及び裁判官以外の裁判所の職員の員数を増加するというだけではとうてい解決し得るものではない、こう思うのでございますが、しかし、この員数の増加をはかるということも一つの解決の方法でございまするので、この点につきましては私は心から賛意を表するものでございます。しかしながら、この点につきまして少しくお尋ねをいたしたいと思います。なお私、各面につきましてお尋ねをいたしまするが、御出席の方でそれに最も関連の深い方がお答え下さればけっこうかと、こう思います。
今回の改正案では、地裁の判事を十五名増員しようとされておる。判事の増員につきまして、ここ数年の経過を見ますと、三十二年度は判事が二十名増員された。三十四年度は判事補が二十名増員された。三十五年度は判事が五十名増員された。ただし、一方簡裁の判事が三十名減少された。そして三十六年度は判事は二十八名増員をされた。過去四年間におきましては、計百十八名増員されておることになっておる。この点につきましては間違いがあるかないか、冒頭においてお尋ねをいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/8
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009・津田實
○津田政府委員 ただいま御指摘の点でございますが、昭和三十二年以来の増員関係は、昭和三十三年に判事補が二十人、三十四年に判事補二十人、昭和三十五年に判事が五十人、昭和三十六年に判事二十八人と相なっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/9
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010・上村千一郎
○上村委員 今回十五名増員されるということでございますが、この十五名を増員するという一つ具体的な根拠などございましたら、一応御説明を賜わりたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/10
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011・津田實
○津田政府委員 ただいまの御質問の中にもございましたように、第一審における訴訟関係の事件処理の迅速、適正化をはかるということが、問題の中心に当面なっておるわけでございます。従いまして、必ずしも判事だけを増員することが適切な対策の唯一のものであると言うわけには参らないことは当然でございますけれども、やはり、何と申しましても判事の負担過重ということはおおうべくもない事実でございますので、できるだけ判事の増員をいたしたいということが、立案当局としてはむろん考えられるわけでございます。しかしながら、御承知のように判事につきましては補給源がきまっておりますので、その補給源におきますところの補給と申しますか、充員の見通し等、その他物的設備等もございますが、そういうものも考慮いたしまして、この際は十五人の増員が適当であるという判断になった次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/11
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012・上村千一郎
○上村委員 そういたしますと、十五名が三十七年度におきまして増員される員数として適切であるというふうにお考えになっておられるかどうか、お尋ねします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/12
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013・津田實
○津田政府委員 ただいま申し上げましたように、充員の見通しその他を考慮いたしますると、その程度が適当であるというふうに考えた次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/13
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014・上村千一郎
○上村委員 そういたしますと、裁判所側といたされて、大蔵省の関係については三十七年度何名増員の御要求をされたか、お尋ねをいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/14
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015・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 七十四名のはずでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/15
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016・上村千一郎
○上村委員 そういたしますと、七十四名増員の御要求をされて、十五名になった。ただいまの御説明によると、十五名が供給源からいたすと妥当だというようなお話だとすれば、七十四名御要求されたのはどういう根拠で御要求されたか、御説明を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/16
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017・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 大都会の裁判所に非常に事件が輻湊いたしておりますので、そういった大都会の裁判所に充員をはかろうということで、たとえば東京に二十五名、横浜に四名、大阪に二十二名、京都に五名、神戸に五名、名古屋七名、広島、福岡三名、こういったような具体的な数を算定いたしまして、そういった人数を増員することによって、特に事件の輻湊しておるこういう大都会の裁判所の事件の迅速な審理をはかりたいというふうに考えたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/17
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018・上村千一郎
○上村委員 そうすると、供給源のことはお考えにならなかったのですか。ただいまの御説明によりますと、供給源が不足しておるから十五名だということになる。七十四名は供給源ということを全然お考えにならなく御請求されたのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/18
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019・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 予算の要求当時でございますので、まだ供給源がどうなるかという具体的な数字は見通しが必ずしもつきかねたわけでありますけれども、予算の要求によって、こちらの要求いたしましたような人数がもし獲得できれば、その充員を十分考えたいというふうに考えたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/19
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020・上村千一郎
○上村委員 そういたしますと、予算が認められれば、予算措置ができますれば何とか七十四名について供給源を確保いたしたい、こういうふうなお考えであったのかどうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/20
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021・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 もちろん供給源につきましては、その当時において確実な数字をつかむということは、将来のことでございますので、いろいろ具体的に変遷はあると思いますけれども、そうしてまた七十四名という数を獲得いたした場合に、これの充員につきましては、従来の経過にかんがみまして相当困難はあるというふうには考えられます。十分努力をしていくということによって、何とか充員ができるのじゃないかというふうに考えたわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/21
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022・上村千一郎
○上村委員 それではこういうふうに理解していいかお尋ねをいたしたいと思います。実は供給源の問題もあるけれども、しかし、十五名以上少なくともこの目的を達するためには必要だと思うけれども、どうも予算措置ができなかった、やむを得ず十五名にとどまったのだ、こういうふうに理解してよろしいか、再度お尋ねをいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/22
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023・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 当初の予算ではそういう経過でございましたけれども、予算の折衝のその後の経過にかんがみまして、最も確実な供給源、すなわち最も確実に充員し得るという状況を考えますと、十五名ならば必ずこれは充員できるというふうに考えたわけございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/23
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024・上村千一郎
○上村委員 この点は私は十五名では不足である、また十五名以上実は供給源があるのではないか、しかしながら、大蔵省の方と十五名に結局予算措置の話し合いがついたのだ、不十分であるけれども、とにかくこの程度で本年度は話し合いがついたのだ。こういうふうに理解し、なお今後大蔵省としても、判事の増員については、特に現在の第一審の訴訟の適正、迅速な処理という点から考えて、なお現在の訴訟事件がきわめて複雑化してきている、そして裁判官の負担というものがきわめて過重になっておる現状としては、大いにこの点について目をあいてもらいたいというふうに願っておる一員であるわけですが、十分であるというふうなことになれば、われわれの考えもまた変わるわけです。また供給源というものが十五名以上はちょっとむずかしいというようなお考えであれば、また考えも変えなくちゃならないと思うし、そうであるならば、少なくとも七十四名という要求はちょっとサバを読むというようなことに相なりやしないか、こういう意味においてお尋ねをいたしておるわけです。率直な御答弁を一つ伺いたい、こう思うわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/24
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025・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 判事の増員が、今回認められましたような十五名で十分であるというふうには、裁判所当局も考えていないわけであります。先ほども申し上げましたように、当初予算におきまして七十四名の要求をいたしました。これを何とかして充員いたしたいというふうに考えたわけであります。ただ、判事の充員ということは非常に困難な事情でございまして、法曹一元というようなこともやかましく言われまして、いろいろの手を打っていかなければ非常に困難な事情にあることは御指摘の通りだと思うのであります。われわれとしては、事件の激増、複雑化、こういったような状況に対処いたしまして、毎年できる限りの努力をいたして判事の充実をはかっていきたいというふうに考えておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/25
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026・上村千一郎
○上村委員 今の点はその程度でとどめまして、提出されました参考資料を調べて参りますと、三十三年から三十五年にかけまして、民事、刑事とも第一審の新受件数は大体において逓減の傾向を示しております。すなわち民事で、これは平均でございますが、六万八千四十件が六万五千六百三十七件、刑事事件は、七万五千三百二十件が七万三千二百九件、それぞれ約二千件近く減少しておる傾向にあります。しかも、その所要平均審理期間を資料で拝見いたしますと、これは全国平均でございますが、三十四年と三十五年の比較で、刑事事件はほぼ横ばい傾向、民事事件は審理期間が多少延長をしておる。この点につきましては、この判事の増員が行なわれておる期間です。そういう際に、事件が減少し、審理期間が延びておる、こういう状態に入っている。これは私、最近の事件が、件数によらずして、事件の内容がきわめて複雑化し、しかも社会情勢というものがきわめて複雑の様相を来たしてきておると思うのです。そうしますと、それに適用するところの実体法といたしましても、なかなか適用上苦心の要るところでもあるし、また訴訟法との関連におきまして、裁判官に対する過重が相当ある。だから統計だけでは論ずるわけにいきかねる実情の一端があるであろうというふうに思うわけですが、その間につきまして一つ御意見を承りたい、こう思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/26
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027・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 審理事件の経過につきましては、今御指摘の通りでございます。そうしてその原因につきまして、審理事件の減少について、裁判官の増員とどういう関係にあるかという点につきましても、御指摘の通りでございます。確かにそういう事情はあると思うのであります。事件の数ということのみではなく、その内容の複雑さということが大きな力を持っておるということは、御指摘の通りだと思うのであります。ただ、この間の事情につきまして、もう一点考えられますことは、新受事件のみならず、裁判所には、従来裁判官の負担過重の原因によりまして、相当古い事件が未済事件として残っておるという事情があるわけでございます。その間、増員されました裁判官を、そういう未済事件を比較的多くかかえているという裁判所に配置いたしました結果、そういう古い事件が順次解決されていった。そうして全体的な数から見れば、既済事件がだんだんふえていっているという状況が出ておるわけであります。従いまして、その既済事件の中に、そういう長期にわたって審理期間を要しておりました関係上、全体の統計の数字として現われますところによりますと、審理期間が一般的に長くなったというような印象も受けるわけでありますけれども、その中に、ただいま申し上げました長期にわたって未済となっておった事件というものが統計の中に平均として入って参りますので、そういう数字が統計上は現われてくるわけでありますけれども、そういうものを除きますと、実質上審理期間は逐次短かくなりつつあるというような状態にあると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/27
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028・上村千一郎
○上村委員 最近といいますか、三十六年における判事の退官状況につきまして、具体的な点を説明していただきたいと思います。要するに、三十六年度におきまして判事の方が定年で退官したかあるいは任意退官したか、あるいは死亡によりまして退官したか、要するに減少数ですね。その実況につきまして一つ御説明を伺っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/28
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029・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 三十六司法年度について申し上げますと、判事の退職者の数は総計五十六名というふうになっております。その内訳でございますが、任期が満了して退官した者、それから任意退官した者、合計十八名、それから定年退官者が二十九名、死亡者が九名、以上合計五十六名というふうになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/29
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030・上村千一郎
○上村委員 定年とか死亡というのは、これは原因がわかっておるわけですが、任意退官、これはどういう原因で任意退官が行なわれるのだろうか、そういう点につきまして少しく御説明を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/30
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031・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 任意退官者のほとんど大部分は、弁護士になるという方が大部分のようであります。ごく一部分には、公証人に就任されるために退職されるという方が、少数でありますけれどもあります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/31
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032・上村千一郎
○上村委員 その点につきましては、いろいろと複雑な問題もあると思うのです。そういうような点は、あわせて、司法制度調査会その他のものが設置されれば、根本的に検討されていくであろう、こう思いますので、この点はこの程度でおいておきたいと思います。
次に、判事欠員の補充及び新規採用の状況というものについて少しく御説明を賜わりたいと思います。要するに供給源ですね、それの実態につきまして少しくお尋ねをいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/32
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033・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 判事の補給源として考えられますことは、判事補及び弁護士からであるというふうに考えられるわけでございます。本年度におきましては、判事補で判事の資格を取得する者が五十七名ございます。この判事補の中には簡易裁判所判事を本官とする者も含まれておりますが、要するに判事補で判事の資格を取得する者が本年度に五十七名あるわけでございます。これによって判事に生ずる欠員全部が充員されるという見通しを持っておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/33
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034・上村千一郎
○上村委員 それに関連して少しくお尋ねをいたしておきたいと思うのですが、判事の資格をお持ちになられておって、そして裁判に関与していない立場におられる者、これはおありだと思うのです。それの人数というものは一体現在どのくらいであろうか、お尋ねをしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/34
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035・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 判事といわず判事補も含めてでございますが、裁判官の資格を持っておりながら、裁判本来の仕事に従事しないで、裁判所のほかの仕事をしておるという者は、狭い意味での司法行政事務に従事している方と、それから調査官または研修所の教官に当てられている者と大体二つに分けられると思うのでありますが、前者の司法行政事務に従事している者の数を申し上げますと、現在のところ、判事が三十二名、判事補十四名、合計四十六名、それから裁判所調査官、研修所教官に当てられておる者の数は、判事の方で二十五名、判事補の方で三名、合計二十八名ということになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/35
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036・上村千一郎
○上村委員 もちろん今の方々の地位というものにつきましては、裁判官の資格を持っておられる方がやられるの
がきわめて適任な部署であろうとは推察いたしまするが、裁判官の供給源がきわめて枯渇いたしておるというような実情から考える場合に、それは他の行政官によって、要するに裁判官の資格を持っていない方々によって補充し得る余地があるのかないのか、この点につきまして少しくお尋ねをいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/36
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037・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 まず最高裁判所の調査官、それから各種の研修機関におきましては、これは裁判官を当てるということについては、それほど大きな問題はないと思います。あとは司法行政事務の面におきまして、裁判官の資格を持たない人にだんだんそういった地位をつけていくべきじゃないかという考え方が出てくると思うのでありますけれども、少なくとも現在、最高裁判所事務総局の局課長、それからこれを直接補佐いたします何名かの直属の裁判官、それから全国の高等裁判所の事務局長、そういったものもしばらくの間はやはり裁判官の資格を持っている人によって担当させるということによって、司法行政事務の円滑な処理ができるというふうに考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/37
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038・上村千一郎
○上村委員 次に交通事件の最近の激増ということにつきましては、国民各方面におきまして、最も頭を悩ましておる事柄でございます。現在におきましては、三十七年度の予算措置としまして——現在審議中ではございますが、予算措置としましては横浜、名古屋に交通裁判所が新設されることとなっておるようであります。また、法務省においても交通事件処理機能の充実をはかるために、副検事二十名、検察事務官四十名の増員を行なうよう予算措置を折衝し、大体話し合いがついておるかのように承っております。裁判所側として、簡裁の判事あるいは書記官の増員という点——なお最近の交通事件といたしましては、業務上過失傷害、業務上過失致死というような事件が相当増加しておるだろうと思います。これが地方裁判所に起訴されておる件数が非常に最近はふえてきております。こういう点から勘案いたしますと、裁判所側といたしましても、地裁の判事の増員というような点も考えられる必要がないであろうか、こういうふうに思われるのでありますが、その点について裁判所側の御意見を承っておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/38
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039・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 交通事犯の激増の傾向にありますことは、ただいま御指摘になられました通りでございまして、裁判所側といたしましても、こういった交通事犯の迅速な処理ということについて非常な関心を持って努力を払って参っておるわけでございます。ただ交通事犯は、御承知の通り事件としては簡易裁判所にかかる事件が大部分であるわけでございます。また、その種の事件が非常に激増いたしておる状況にあるわけでございます。裁判所といたしましても、そういった激増する交通事犯の処理に対していかなる対策をとるかということについて、十分考えなければならない段階に立ち至っておるわけでございます。交通事犯の処理の方法につきまして、仄聞するところによりますと、政府部内においてもいろいろそういう面の検討がせられておるようでございます。また裁判所は裁判所といたしまして、そういったことについていかなる対策をとるべきかということを研究しておる段階にあるわけでございますが、しかし、現在の段階においては、まだ確たる結論を得ていないように考えるわけであります。先ほども申し上げましたように、こういった交通事犯の激増に対処するためには、簡易裁判所の判事をまず第一に増員しなければならないということが、当然結論として出てくるわけだと思うわけでありますが、先ほど来申し上げておりますように、裁判官の供給源の量の不足の面から、簡易裁判所の判事の充実ということもなかなか思うにまかせない状況でございます。昨年の七月一日現在で欠員を調.へてみますと、簡易裁判所の判事の欠員が三十六名あるというような状況でございまして、こういった現在の欠員を埋めるということについても、非常な努力をしなければならない状況にございますので、まず最高裁判所といたしましては、交通事犯の処理につきまして手続の合理的な簡素化を推進していくということ、一方内部関係におきまして、この方面にできる限り人員をさいていくということによって、この方面の対策を講じていきたいというふうに考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/39
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040・上村千一郎
○上村委員 本案では、家裁の調査官が三十名定員増加の計画に相なっておるかと存じます。提出資料を拝見いたしますと、三十三年から三十五年の推移を見ますると、家事審判事件、家事調停事件はいずれも全国平均で逓減いたしておる統計が出ておる。しかるに少年保護事件のみは二十五万人の急増を示しております。国家的に見ましてきわめて憂うべき傾向だと思うのでございますが、この急増傾向にある少年事件の担当の家裁の調査官を本案では三十名増員しようとしておる。これで一体足りるのかどうか、三十名の増員だけでいいのであるかどうか。また家裁の判事の増員をあわせて考えなくていいのかどうか。こういう点につきまして少しくお尋ねをしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/40
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041・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 まずお尋ねの最初の問題でございますが、調査官を三十人の増員だけでいいのかというお尋ねでございます。この点につきましては、やはり調査官に任命いたします者の供給源といったことからまず考えていかなければならないと思うのでございます。御承知の通り調査官といいますのは、調査官補に対して研修を施して、一定の研修の結果を得た者を調査官補から調査官にするというととが一番多いわけであります。そういった点から申しまして、研修の能力その他を勘案し、充員の見込み等を十分考えますと、本年度の要求は三十名で満足せざるを得ないというふうに考、えたわけでございます。ただ、そのほかに、この法律の改正には直接関連性はないのでございますが、調査官補から調査官に組みかえをする人数が六十六名あるわけでございます。合計九十六名というものが調査官として強化されるということがございますので、本年度は一応この陣容で進んでいきたいというふうに考えておるわけでございます。
もう一点お答えを申し上げます。家裁の判事を増員する必要があるかということについてのお尋ねの点でございますが、との点につきましても、事件の状況から見まして、現在の家裁の裁判官の陣容で足りるというふうに私たちは考えていないわけでありますけれども、先ほど来申し上げておりますように、地方裁判所の方において事件の激増に対して非常に裁判官の負担が重くなっておるというふうな状況もありますので、そういったかね合いから考えていきまして、まず重点的に地方裁判所の裁判官の増員をはかっていくというふうな方向に考え方を進めておるわけであります。一方家庭裁判所におきましては、調査官等の補助機構を充実することによって、事件の処理体制を進めていきたいというふうに考えておるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/41
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042・上村千一郎
○上村委員 少年保護事件とい仁のがなかなか特殊な事件であろうかと思います。そこでは家裁の調査官という立場はなかなか重要な立場である。なお、そこに保護、指導という問題がある以上は、調査官の資格としましても、あらゆる教養あるいは専門分野のものを兼ね備えていないと、十分な目的は達するわけにはいかない。だから調査官の任務、役割というものはなかなか重要な点であろう、こう思うわけでございますが、家裁調査官の待遇について、現在よりも少しくよくする、要するにその待遇改善の点について、何かお考えがあるかどうか、お尋ねをしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/42
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043・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 一般的な待遇改善の問題につきましては、単に御質問の調査官だげの問題でもございませんので、全体的な関連性から考えていかなければならないと思うわけでございますけれども、調査官の事務の重要性ということについては、最高裁判所としても非常に考えておるわけでございまして、先ほど申し上げましたように、現在定員の不足というような関係から、調査官の資格を取得しておりながらまだ調査官補のままであるというような人も、待遇改善をはかるというような一面毛考えまして、組みかえ六十六人というような数を出したわけでありまして、こういったことによって順次待遇の改善をはかることについて十分の努力を続けて参りたいというふうに考えるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/43
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044・上村千一郎
○上村委員 最後に一点お尋ねしまして私の質問を終わりたいと思います。
ただいまお話のございました代行書記官、書記官補の問題であります。今度書記官補を書記官の方へ組みかえをするという処置をお講じになられようとしておるわけですが、この書記官補の方の組みかえの人数は九百三十四名というふうに承知してよろしゅうございますか。ちょっとお尋ねしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/44
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045・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 御指摘の通りでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/45
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046・上村千一郎
○上村委員 現在、書記官補は何名あるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/46
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047・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 法務省の方からお配り申し上げましたこの参考資料の第四表でございますが、三十六年七月一日現在で、各裁判所別に定員と現在員との比較が書いてございます。たとえば最高裁判所におきましては、書記官四十七名のところ現在員が四十二名、高等裁判所は、現在員が二百五名、地方裁判所が二千六百二十三名、家庭裁判所五百八名というような数が出て一おるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/47
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048・上村千一郎
○上村委員 ただいま伺っておるのは、書記官補の現在の人数は何名かということです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/48
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049・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 失礼いたしました。やはり同じ表に書いてございますが、現在員は、三十六年七月一日現在で一千九百六十四名というふうになっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/49
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050・上村千一郎
○上村委員 書記官補の方で九百三十四名を組みかえする、そうしますと、まだ書記官補として千名近く残られるわけですね。その処置は何か特別にお考えになっておるかどうか、この点をお尋ねしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/50
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051・桑原正憲
○桑原最高裁判所長官代理者 書記官補が書記官に任用されますためには、一定の資格を持たなければならないわけでございます。裁判所におきましては、書記官研修所というもので研修の機会を与えておるわけでございますが、ここで研修の結果、一定の資格を得た場合に書記官に任用されるということになりますので、ある程度の人が書記官補のままで残るという状況になるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/51
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052・上村千一郎
○上村委員 最後に御要望申し上げながら私の質問を終わりたいと思いますが、最近いろいろな生活百般におきまして複雑になり、何とか事件の様相は次第々々に解決の困難さを加えておるだろうと思うのであります。こういう際におきまして、裁判官並びにその補助機関としての書記官の方々は、仕事量においても、質においても、非常な過重な状態に入ってくる際でございますので、これが供給源をできるだけ多く確保する、そしてこの過重負担を一刻も早く解消して、国民全般が要望しておりますところの第一審の審理の拡充、促進、適正ということの措置を一刻も早く講じられることを望みましてて、私の質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/52
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053・河本敏夫
○河本委員長 次会は明九日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後零時二十六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00319620208/53
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