1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十七年二月二十三日(金曜日)
午前十時四十分開議
出席委員
委員長 河本 敏夫君
理事 小島 徹三君 理事 林 博君
理事 井伊 誠一君 理事 坪野 米男君
有田 喜一君 井村 重雄君
池田 清志君 上村千一郎君
唐澤 俊樹君 小金 義照君
千葉 三郎君 阿部 五郎君
赤松 勇君 田中織之進君
田中幾三郎君
出席国務大臣
法 務 大 臣 植木庚子郎君
出席政府委員
検 事
(大臣官房司法
法制調査部長) 津田 實君
検 事
(民事局長) 平賀 健太君
検 事
(訟務局長) 濱本 一夫君
委員外の出席者
検 事
(民事局第二課
長) 阿川 清道君
検 事 杉本 良吉君
判 事
(最高裁判所事
務総局総務局
長) 桑原 正憲君
専 門 員 小木 貞一君
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二月二十三日
委員片山哲君辞任につき、その補欠として田中
幾三郎君が議長の指名で委員に選任された。
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二月二十日
皇室の尊厳をおかす者を処罰する法律の制定に
関する請願外五件(伊藤幟君紹介)(第一二八
三号)
同外一件(小川半次君紹介)(第一二八四号)
同(倉成正君紹介)(第一二八五号)
同外二十二件(坂田道太君紹介)(第一二八六
号)
同(野田卯一君紹介)(第一二八七号)
同(福田篤泰君紹介)(第一二八八号)
同外四件(増田甲子七君紹介)(第一二八九
号)
同外一件(古川丈吉君紹介)(第一二九〇号)
同外十件(細田義安君紹介)(第一二九一号)
同外七件(生田宏一君紹介)(第一三四二号)
同(上林山榮吉君紹介)(第一三四三号)
同(櫻内義雄君紹介)(第一三四四号)
同(千葉三郎君紹介)(第一三四五号)
同(内藤隆君紹介)(第一三四六号)
同(綾部健太郎君紹介)(第一三九六号)
同(上村千一郎君紹介)(第一三九七号)
同外七件(川野芳滿君紹介)(第一三九八号)
同外七件(岸本義廣君紹介)(第一三九九号)
同外六件(瀬戸山三男君紹介)(第一四〇〇
号)
同外七件(長谷川峻君紹介)(第一四〇一号)
同外八件(藤本捨助君紹介)(第一四〇二号)
同外二件(保科善四郎君紹介)(第一四〇三
号)
同外七件(細田義安君紹介)(第一四〇四号)
同(山崎巖君紹介)(第一四〇五号)
同外四件(逢澤寛君紹介)(第一四八七号)
同(荒舩清十郎君紹介)(第一四八八号)
同外十件(菅野和太郎君紹介)(第一四八九
号)
同外六件(細田吉藏君紹介)(第一四九〇号)
同(細田義安君紹介)(第一四九一号)
同外六件(竹下登君紹介)(第一四九二号)
同(藤井勝志君紹介)(第一五二七号)
同(毛利松平君紹介)(第一五二八号)
同外九件(簡牛凡夫君紹介)(第一五二九号)
同外七件(遠藤三郎君紹介)(第一五六三号)
同外三件(徳安實藏君紹介)(第一五六四号)
同(森田重次郎君紹介)(第一五六五号)
同外一件(山崎巖君紹介)(第一五六六号)
同外七十九件(高橋清一郎君紹介)(第一六〇
六号)
同外四件(賀屋興宣君紹介)(第一六二六号)
同(加藤鐐五郎君紹介)(第一六二七号)
同外三件(簡牛凡夫君紹介)(第一六二八号)
同外二十九件(坂田道太君紹介)(第一六二九
号)
同(田中龍夫君紹介)(第一六三〇号)
同(野田卯一君紹介)(第一六三一号)
同(細田義安君紹介)(第一六三二号)
同外五件(三浦一雄君紹介)(第一六三三号)
同(安倍晋太郎君紹介)(第一六七二号)
同(天野公義君紹介)(第一六七三号)
同外五件(簡牛凡夫君紹介)(第一六七四号)
同外二件(河本敏夫君紹介)(第一六七五号)
同外二十七件(富田健治君紹介)(第一六七六
号)
同(谷垣專一君紹介)(第一六七七号)
同外十一件(坊秀男君紹介)(第一六七八号)
同外二件(山崎巖君紹介)(第一六七九号)
政治的暴力行為防止法案反対に関する請願(緒
方孝男君紹介)(第一四〇六号)
同(田原春次君紹介)(第一五六七号)
は本委員会に付託された。
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本日の会
議に付した案件
参考人出頭要求に関する件
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内
閣提出第二三号)
行政事件訴訟法案(内閣提出第四三号)
民法の一部を改正する法律案(内閣提出第九四
号)
建物の区分所有等に関する法律案(内閣提出第
九八号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/0
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001・河本敏夫
○河本委員長 これより会議を開きます。
裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本案に対する質疑は前回の委員会で終了いたしておりますので、これより討論に入る順序でありますが、別に討論の申し出もございませんので、直ちに採決に入りたいと思います。
これより裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について採決いたします。
本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/1
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002・河本敏夫
○河本委員長 起立総員。よって、本案は原案の通り可決すべきものと決しました。
なお、ただいま議決いたしました本案の委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/2
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003・河本敏夫
○河本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/3
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004・河本敏夫
○河本委員長 次に、行政事件訴訟法案を議題とし、審査を進めます。
質疑の通告がありますので、これを許します。坪野米男君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/4
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005・坪野米男
○坪野委員 私は行政事件訴訟法案について、法務大臣並びに訟務局長にお尋ねをしたいと思うわけですが、本法案は、非常に重要な、条文こそ四十五カ条で、そう大部の条文ではございませんけれども、行政事件訴訟手続に関する一般法と申しますか、基本法という、非常に重大な法案でもございますし、また行政事件訴訟法の性格は、単なる訴訟技術の法律案ということでなしに、憲法との関連、また現行の行政訴訟制度と、従来から行なわれております通常の司法裁判制度との関連、そういった非常に政治的にも重大な意義のある法案だと考えまして、逐条的な御質問をする前に、総括的な点について大臣並びに当局にお尋ねをして、見解をただしたいと考えておるわけでございます。
まず最初に、この行政事件訴訟法案は、現行の行政事件訴訟特例法が非常に不備であるから、この不備を整備をして、できるだけ簡単な基本法案に作り上げたいということで、法制審議会でも六年がかりで非常に慎重に審議をされたと聞いております。そうしてその後、これが学界等でも研究され、また種々の論文が発表されておるわけでありますが、この審議会で得た成案についても、その後、政府部内特に行政各部において相当異論が出て、この法案が最終的に国会に提案されることが非常におくれたということを聞いておるわけですが、法制審議会で結論が出ておりながら、国会への提案が非常におくれたその理由として、行政各部の中で相当の異論が続出して、その調整に手間どっておったという事情を伺っておるわけでありますが、その点について、どういう異論が出ておったのかという点について、大臣から簡単に御答弁願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/5
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006・植木庚子郎
○植木国務大臣 いろいろ部内において研究しております途上におきまして、やや難航いたした時期がないことはなかったのであります。その点は御指摘の通りでありますが、それは主としましていわゆる訴願前置主義というものをどういうふうに扱うかという問題であります。今回提案いたしました法案におきましても、説明の際にも申し上げました通り、行政処分によりましては、やはり訴願前置というものを必要とする事案もございます。それを、そういうものについてはなるべく残していきたいという各省の主張もあり、しかし、なるべくならばこれを最小限にしてしまいたいという考え方もございましたので、その間の調整に相当ひまをとりました。この点につきましては、なお事実の経過の詳しいことは政府委員の方からお答えさしていただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/6
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007・坪野米男
○坪野委員 その点はその程度でけっこうでございます。また要すれば事務当局から詳しい御答弁を願いたいと思いますが、相当政府の各省の間で異論があったということを聞いておりますが、それは今の訴願前置主義の原則をやめて、並行主義と申しますか、直接出訴できる制度に改めようというこの原案に対して、行政部内に相当異論があったということを聞いておるわけですが、私はそれだけでなしに、この法案の本質が、行政庁の違法な処分あるいは行政庁の処分を争うという国民の権利救済の訴訟制度の特例といいますか、訴訟制度を規定する法案でありますから、いわば行政庁にとってはあまり好ましくない訴訟であり、好ましくない訴訟の手続として、なるべく行政庁の方に有利な手続を規定してほしい、これは人情としても当然であろうと思うのでありますが、そういう立場からのブレーキが相当この法案の原案確定の中に私は働いておるというふうに感じておるわけであります。
そこで次にお尋ねしたい点は、この行政事件訴訟法案は、もちろん行政訴訟に関する手続規定でありますが、現在の憲法のもとにおける行政裁判というものは、その本質は、民事訴訟と同じく、最高裁判所を中心とした司法裁判所のもとで終局的には争いが解決される、本質的には司法裁判なのだということに変わりがない。若干の行政訴訟としての特質から特例を規定する必要があると言いましても、本質は民事訴訟あるいは司法裁判と何ら変わりがないと見ておるわけでありますが、現在の憲法下における行政訴訟の本質をこのように理解していいのかどうか、立案者政府の立場においても、行政訴訟の本質をそのように理解しておられるのかどうかという点を、最初にお尋ねいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/7
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008・植木庚子郎
○植木国務大臣 ただいまの御意見につきましては、御指摘の通りとわれわれも考えまして、立案に際しましては極力その態度で臨んで参った次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/8
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009・坪野米男
○坪野委員 そういたしますと、この法案は、現行の特例法よりも憲法の趣旨に沿った改正の方向への新法案だ、国民の権利救済という立場から、また本質的には司法裁判と、あるいは民事裁判とほとんど同質の司法裁判としての本質からして、前向きの、憲法の趣旨に沿った改正だ、このように考えておられるかどうか、その点お尋ねします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/9
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010・植木庚子郎
○植木国務大臣 その通りでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/10
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011・坪野米男
○坪野委員 説明はそのようになっておるわけでありますが、私は、この新法案をつぶさに検討いたしまして、その根本に流れる趣旨は、必ずしも今大臣が御答弁になったような改正の方向に進んでおるものとは考えられないのであります。むしろ逆に現行特例法の方が新憲法の趣旨に沿った法律——ただ、非常に条文が整備されておらないために若干の疑義があるということは認めるわけでありますが、本質的には現行法の方がむしろ憲法の趣旨に沿った規定ではないか、そして新法案は、この憲法の趣旨からやや後退をして、行政庁の権限をむしろ擁護する、そういう規定が随所に見受けられるわけであります。立場によりますけれども、今私のお尋ねは、国民の権利救済のための行政訴訟制度、手続法、そういう立場からして、改正の点もございますけれども、むしろ逆に憲法の趣旨から後退している面があるというように私は考えますが、そういう個所は一カ所もないのだ、すべて国民の権利が伸張される面の改正のみだ、こういうふうに言い切れるかどうか、その点、まず大臣にお答え願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/11
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012・植木庚子郎
○植木国務大臣 われわれ立案者の当局としての趣旨は、先ほど来お答え申し上げ、また御指摘になりました通りでありますが、しかし、ただいまのお話の、部分によってはそうじゃない部分がたくさんあるじゃないか、行政庁の処分に対する訴訟の場合に、むしろ従来の方があるいは権利が伸張されているように思えるという御指摘でありますが、その点につきましては、場合によっては、なるほど当該行政処分の性質、種類によりまして、必ずしも最初の理想とするところよりは遠ざかっておるところがあるかもしれません。しかしながら、われわれとしましては、その点に十分留意をいたしまして、極力これを明らかにし、従来の現行法におきましては非常にあいまいであり、解釈の仕方によってはいずれにもとれるような、またいずれの方法にもよれるような、はっきりしない部分等もございましたから、これを整備して、そして権利を阻害されたりとする人たちのために、なるべくはっきり手続その他希望が達せられるようなことにいたして参りたい、こういう考えでおるのでございまして、場合によっては、ては、当該事項の具体的な部分について御質問をいただきますれば、政府委員からお答え申し上げたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/12
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013・坪野米男
○坪野委員 大臣も部分的には行政庁の権限をむしろ守る立場の、憲法の趣旨に沿わない立場の改正点も含まれておるかもしれないということをお認めになっているようでありますから、私はさらに具体的に、もう少し、むしろ憲法の精神に逆行しておるという立場からの質問をしてみたいと思うわけであります。
最初に私申し上げたように、行政訴訟も本質的には民事訴訟と変わるべきものではない。行政が民主化されてきて、行政庁も国民と対等の立場で権利関係を争う、そして司法権の審判を受ける、こういう建前からすれば、私は行政訴訟も本質的に民事訴訟と変わるべきでないと思うわけでありまして、現行の特例油はまさにそういう立場をとっておるわけであります。もちろん憲法によって行政裁判所その他の特別裁判所は廃止されまして、行政訴訟も司法権に服しておるわけですけれども、特例法もその精神にのっとって、その第一条にその点がはっきりうたってございますが、「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟」等については、「この法律によるの外、民事訴訟法の定めるところによる。」この特例法によるのほかは民訴の定めるところによるのだ、基本は民事訴訟法であって、特例法はあくまでも特例なんだこういう考え方に立っておるわけでございます。これは私は正しい、憲法の精神に沿った規定だと思うわけであります。従って、その特例は必要最小限度の特例にとどめるべきだということで、条文の数も非常に少ないわけであります。もちろん非常に急いで立案制定されたという経緯もございますけれども、非常に条文の少ない、わずかに十二カ条かの条文にとどまっておるわけでありまして、民事訴訟と本質的に異なるべきでないという考え方からすれば、特例はなるべく少ない方がいいのではないか、こういう建前に立たなければならない。そしてこの規定に不備な点があれば、これは判例の積み重ねによって解釈を統一していく、問題を解決していくという方法もあるわけでありますから、必ずしも事こまかに明文を設けて、その疑義を立法でもって補っていく必要はないのではないか、裁判所の判例で実情に合うように補っていくことの方がむしろいいのじゃないかということも考えられるわけでありまして、そういう意味で現行法が、「民事訴訟法の定めるところによる。」民訴が基本法だという原則をとっておられる。ところが、今度の新法案では、第一条で「行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」この法律が行政事件訴訟の基本法だという原則をまずうたっておるわけであります。そして同じく第七条には「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」ということで、行政事件訴訟法が基本法だ、そして例外的に、新法案に規定のない事項については民事訴訟の例による、こういう規定の仕方がしてあるわけであります。「民事訴訟法の定めるところによる。」という現行の規定から「民事訴訟の例による。」というように、字句も変わってきておるわけでありますが、「定めるところによる。」というのと、「民事訴訟の例による。」というように言葉の使い分けがしてあることは、私は無意味ではないと思う。法律家が立案した法律案文として、このように使い分けがしてあるということは、決して無意味ではないと私は考えるわけであります。さきに申したように、現行法は憲法の精神に沿って民訴によるのだ、民訴がやはり基本法だという考え方に立っているのに反して、新法では、この法が根本法で、それ以外は民訴の例による、民訴を準用するという考え方に後退をしてきている。このように考えられるわけですが、この新法の一条、七条の、民事訴訟と本法との関連において、現行法より憲法の趣旨に対してむしろ後退しておるんではないかという私の見解、これは私個人の見解というよりも、そういった見解を持っておる学者もあるわけでございますが、そういう考え方に対して、大臣おわかりであれば大臣に、これは憲法の問題でございますから、後退しているんじゃないかという私の質問に対するお答えを、大臣でもあるいは訟務局長でもけっこうですから伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/13
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014・植木庚子郎
○植木国務大臣 詳細につきましては、政府委員からまた考え方を申し上げますが、われわれの立場といたしましては、現行の特例法が施行されまして十三、四年になりますか、その間における実際の便、不便——便、不便と申しましても、単に行政庁側の便、不便だけを指摘するのではございません。一般権利救済を受けんとする国民の側から考えましても同様でありまして、その際におけるいろいろな実情が十有余年の経過によって相当明らかになりました。そこで考え方としましては、憲法の精神にのっとって一般民事訴訟の原則を極力尊重して参りますことは申すまでもありませんけれども、しかし、この間における経験、さらにもっと古い時代の経験もあわせて、そうして行政訴訟に関する限りは、一つりっぱな基本法英式のものを作りたいという考えで臨んでおったわけであります。従いまして、今回の新法案におきましては、これらのものの内容、機構等について十分な研究を遂げたつもりであります。何と申しましても、行政訴訟に関しましては、国民の権利を伸張するという一つの大事な面がありますと同時に、また行政の運用の面からもこれは考えなければならぬ。行政運用の面において大きな支障があって、そのために困るという場合には、やはりこれにはある程度の、いわゆる前段の国民の権利伸張に対すそ制限的な場合も起こるかと思いますが、いわゆる行政運用の面からと、権利伸張の面からと、やはり両方の要請にこたえる意味で変えておるのであります。
一条、七条の関係がどうなりますか等のことにつきましては、政府委員からお答えを申し上げたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/14
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015・濱本一夫
○濱本政府委員 御指摘のように、本法案の構造から申しますと、この法律が行政事件訴訟に関する根本的な基準法、統一法、普通法であって、本法に規定していない事項については民事訴訟の例によるのだ、そういった、本法を一つの統一法と考え、民事訴訟を準用するという形を、構造においてとっておることは御指摘の通りであります。しかしながら、第二章以下の実質規定をごらんいただけばわかりますように、今大臣から御答弁がありましたように、あくまで本法では権利伸張という面と行政の円滑なる運用という面とから、現行特例法に不足するあるいは不備な点をきわめて合理的に調整をはかるという建前をとっておりますので、構造が今御指摘のような構造になっておるからと申しまして、必ずしも憲法の根本的な立場から一歩後退したという非難を受けるような点はないのではないかと私どもは考えておるのであります。いかにも構造は御指摘のように、本法を一つの大きな基本法にして、民事訴訟の建前を軽くあしらっておるという見方も、あるいは形においてはできないこともないかと思いますが、実質は、やはり現行の特例法と少しも変わらないのでありまして、個々の行政訴訟に関する法規がありますれば、それをまず一番に優先的に適用し、そうして本法を一般的に適用し、そしてさらに本法に規定のない事項については民事訴訟法を適用するのだという実質は少しも変わっておりませんので、形式はともあれ、憲法の建前から一歩も二歩も後退しておるのだという非難は当たらないように私どもは考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/15
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016・坪野米男
○坪野委員 形式論としてはそういう見解も成り立つかと思うわけでありますが、第二章以下の実質規定の中で、国民の権利伸張という面、少なくともその面からすれば現行法より後退しておるという個所が相当重要な個所であるがゆえに、そういう第一条、第七条という原則も、形式的にはいかようにも理解できますが、やはり憲法の精神から後退する、そうして行政権を強く押し出すという立場からの訴訟制度への改悪の方向に方向としては進んでおるのではないかという、解釈というか見解が導き出されてきておるわけであります。一条、七条の、ただ抽象的な民訴を準用するか民訴を適用するかという論議は、必ずしも本質的に重要な議論でもないようでありますから、この程度で次の問題に移りたいと思います。
時間もありませんし、そうしてまだほかに質問者が社会党の立場からございますので、大ざっぱに若干の問題をお尋ねしたいと思うのであります。
第八条のいわゆる訴願前置主義の原則を廃して、原則として並行主義と申しますか、行政訴訟も訴願もいずれでもできるのだ、こういう規定に改めたということでございますが、この規定自身は確かに国民の権利伸張という立場からすれば改正だと私たちも認めるわけでございます。ただ、それにいたしましても、例外があるわけでありまして、特別法で審査請求に対する裁決を経た後でなければ訴えを提起できないというそういう明文規定がある場合は、やはり訴願前置でなければいけないのだということになるわけでありますが、この特別法がむやみやたらに数多くできてくれば、結局、特例の方が多くなり過ぎると、原則と例外とが逆になってしまうというおそれがあるわけであります。そういう意味で、現行法の中に相当規定がありますが、現行法で訴願ができる、あるいは不服審査の申し立てができるというのを、改正されるといたしまして、できるという規定から、裁決を経なければ出訴できない、提訴できないとはっきりと明文でそこまで規定をしなければ、訴願前置主義に逆戻りするということはないのだ、このように理解してよろしゅうございましょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/16
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017・濱本一夫
○濱本政府委員 訴願前置を要件とするものと訴願前置を必要としないものとの振り分けは、今御指摘の通りに私ども考えております。特に条例や政令などではいけないので、法律で明らかに裁決を経た後でなければ出訴できない、こういう形で明文を置いている場合に限って、訴願前置を要件とする建前をとっております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/17
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018・坪野米男
○坪野委員 そこで、具体的に現行法の中から例をお示し願いたいのですが、本法がかりに成立した後に、関連の行政法規を改正するかどうかは別といたしまして、本法が成立して直ちに現行法で訴願前置の、いわゆる並行主義の例外として、訴願前置主義がとられておる法律の例というものを一、二お示しをいただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/18
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019・濱本一夫
○濱本政府委員 実は御指摘の、訴願前置を要件とするものと要件としないものとを振り分けるというのは、個々の行政法を現在のままで放置しておいて、その中で現にすでに訴願前置を要件にしておるものだけがこれに当たるのだというふうに私ども考えておりませんので、本法の第八条に関連しまして、現行の各種の行政法規を全部洗い上げまして、これは前置とすべき必要のあるものである、これは前置とする必要のないものであるというふうに振り分けまして、新たに本法に関連しまして、整理法と名づける関係法令を今準備中なのであります。従いまして、今ここで現実に具体的に例をあけることも実はあまり必要もないじゃないかと考えますのですが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/19
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020・坪野米男
○坪野委員 もちろん関連した整備法案が準備されておるということは承知をいたしておりますが、私のお尋ねは、そのような関連法案がない現在の行政法規の中で、この八条の例外に当たるような明文規定のある行政法規が一つでも二つでもあるかどうかをお尋ねしておるのです。私も今すぐに思いつかないので、大体は審査請求ができる、訴願ができるという規定の法令が多いと思うのでありますが、審査請求その他の訴願を経なければ出訴できない、まさに八条の例外規定に書かれておるような条文が現行法令の中に一つか二つでもあるのか、あるいは一つもなくて、ここで関連整備法を作らなければ全部この原則で並行主義でいくのか、現行法の体系の中でお尋ねしておるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/20
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021・濱本一夫
○濱本政府委員 現在の特例法のもとにおきましては、御承知のように前置が原則でございますから、いやしくも訴願ができるということが実体行政法に書いてあります限りは、前置になるわけでありますが、にもかかわらず、現行法におきましても、特にそういった明文を置いておるのは所得税法、地方自治法その他にたくさん散見するのであります。たとえば所得税法の五十一条であります。「再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴は、第四十九条第六項の規定による決定(以下審査の決定という。)を経た後でなければ、これを提起することができない。」かような所得税法の規定、これは現行法の体系のもとにおいてもしばしば散見するところであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/21
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022・坪野米男
○坪野委員 そうしますと、これは一々数多くの行政法を覚えておるわけではないので、行政訴訟をやった経験から申しているわけですが、今のように科法その他の行政法規の中にやはり訴願前置をはっきり規定づけておる規定もある。しかしながら、大多数の行政法規が、ただ訴願ができるという趣旨の規定の場合が多い、あるいは何も書いてない場合もあるというそういう中で、今度本法が成立したら、それを関連して、今の訴願前置主義をあくまでもとる必要のある法律については新たに整備する、そういう準備を今進めておる、こういうように承っていいわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/22
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023・濱本一夫
○濱本政府委員 さようでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/23
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024・坪野米男
○坪野委員 そこで、私先ほどお尋ねしたように、特例がむやみやたらに多くなると、せっかくこれが前向きの改正点だと私は認めたわけでございますが、例外が多くなってしまえば、結局は例外と原則が逆になってしまう。相変わらず訴願前置でなければ出訴できないのだということになるわけでありますから、私は、行政の運用の適切化ということもありましょうけれども、本法のこの八条の趣旨からすれば、原則は並行主義でいくのだ、なるべく前置主義を少なくするのだという建前から、その関連整備法なるものも必要最小限度の特例にとどめるという方向への改正をしていただきたい、そういう整備法案にしていただきたいということを強く要望しておきたいと思うわけであります。それでなければ、せっかくの改正点がくずれてしまうということになるわけでありますから、その点は、関連整備法案の一々について、もちろん提出された場合に検討いたしますが、原則的一般論的にその点を政府当局に強く要望しておきたいと思います。
そのほかに、不作為の行政行為に対する救済の規定が明文化されたこと、これまた一応の改正点だということはわれわれも認めるわけでございますが、しかしこれとても、いわゆる差止命令と言いますか、インジャンクションと言いますか、そういった義務づけの訴訟ができるのかできぬのかという点については従来から学説上疑義があり、結局判例その他で確定されていくことになるのだと思うのであります。本法のように不作為の違法行為確認の訴えを特に明文でもつ認めるということになると、それ以外の今言ったような訴訟は許されないのかという反対解釈も出てくるわけでありまして、私は必ずしもこの不作為の違法確認の訴えが明文上許されたことが違法とばかりは受け取れないのではないかというように考えるわけですが、この点についてはどのようにお考えになりますか。これは事務当局でけっこうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/24
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025・濱本一夫
○濱本政府委員 本法案のとっておる建前といたしましては、およそ行政庁の行為、行政行為に対して不服を訴える訴訟、これを一般的に行政訴訟取り消しの訴えというふうに考えておるのでありまして、総則の第三条の抗告訴訟にあげてあります幾つかの取消訴訟は制限的に解するものではないのであります。でありますから、旧来の経験に徴しまして、あるいは民間から要望のあった、あるいは学者の説明のありましたもののうちで、特に必要と考えて、たとえば不作為に対する違法確認訴訟というふうなものは今度取り上げたのでありますが、なおこのほかにも、もしそういう行為行政に対する不服の訴えが認められるとしますれば、本法はこれを排除する趣旨ではないのでございます。ただ第三条に抗告訴訟としてあげておりますのは、主要な要件、主要な類型として考えられるものを例示したという建前をとっておるのであります。ですから御指摘のような新しい行政訴訟がもし考えられるとしますれば、それはまた、本法もこれを採用しないあるいはできない、そういった訴訟を許されないという建前をとっておるわけでは決してないのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/25
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026・坪野米男
○坪野委員 わかりました。その点、結局立法者の意思がそうであるということであれば、一応問題は解決しておるようでございますけれども、やはり法律は成立いたしますと一人歩きをする。そうでないという反対の説も出て参りまして、結局、裁判上で判例その他で混乱を来たすこともありますので、今の御解釈は大体政府当局の統一的な見解、解釈、このように伺ってよろしゅうございますね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/26
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027・濱本一夫
○濱本政府委員 私どもはそう考え、またその考えのもとに本法案を作ったのみならず、本法案を通読して当然そういう解釈になることは疑いないと私どもは考えるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/27
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028・坪野米男
○坪野委員 次の問題点ですが、出訴期間の制限の規定、第十四条であります。この規定は、国民の権利伸張という観点からすれば、改正ではなしに逆に改悪の規定だと私は思います。これは一見してわかるわけでございまして、行為の日から一年というのは現行法もそうなっておるようでありますが、処分を知った日から、現行法で六カ月以内という出訴期間を三カ月以内というように短縮をされております。もちろん行政の運用の面から、あまり長期間に出訴期間を許しておくということは、行政の安定を害するというような立場、理論から短縮されたのだと承っておりますし、また外国の立法例などから、出訴期間の長い立法例が少ない、むしろ西ドイツやフランスあたりは非常に短かいのだということから三カ月に短縮されたのだ、このように聞いておるわけですが、日本にはやはり日本の実情がある。日本の行政裁判の実情から、現行の六カ月でも必ずしも長くはないのではないか。むしろ短きに失する場合が往々にしてあるわけでありまして、そういう意味で、出訴期間を短縮するというこの改正は、国民の権利救済という点と行政の安定を確保するという点との比較調整の上から言いましても、私は短きに失すると考えるわけでありますが、最初に、六カ月じゃ長過ぎる、三カ月が相当であるという結論に到達された理由を端的にお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/28
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029・濱本一夫
○濱本政府委員 従来の行政訴訟、現実に起きております行政訴訟を例にとりまして考えましても、六カ月というようなのんびりとした行政訴訟の実例はあまりありません。また本法であまり出訴期間を長くしておきますと、むしろ個々の行政法規でそれよりも短かい出訴期間を定めるという反作用と言いますか、好ましくない事象を起こしやすいようなことになります。また、この三カ月と申しますのは、あとの一年の期間と違いまして、行政処分があったことを現実に当該国民が知った日から進行するのでありますから、必ずしも三カ月をもって短きに失すると考えられないのじゃないか。そういった三つの考慮から三カ月が合理的であろうということで三カ月にいたした次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/29
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030・坪野米男
○坪野委員 私は、必ずしもそうは思わないわけでありまして、なるほど、処分を受けてそんなにのんびり六カ月も待たずに、直ちに審査請求なりあるいは特別の場合に出訴するという例が最近多くなっておることも承知をいたしております。けれども、行政処分というものは、非常に広範な処分があるわけでありまして、書面による処分だけでなしに、口頭による処分もあり得るという中で、処分を受けた人たちが直ちに、これは不当だ、違法だということから権利救済を求めて行政訴訟なり訴願に訴えるという場合もございますけれども、受けた国民の側が法的に無知で、何だか不当に思う、けしからぬと思うけれども、それが法的に違法であるか、無効であるか、一体訴訟してその処分の取り消しを求めるのかどうかという法的判断は、しろうとの場合、必ずしもすべてがすべて適切な判断ができるわけではないのであります。従って、大きな政治的なあるいは社会的な問題になるというような事件の場合には、処分があって直ちに弁護士に相談する、関係者と相談をして訴願なり訴訟をやっておる例が多うございますけれども、それほど政治的に重大な意味もない、またそう大きな社会問題でなしに、個人の利害に関する問題にとどまるような場合に、その人が何か不当だと思うけれども、出訴の方法その他も知らないし、またそれが行政訴訟をやって必ず取り消しを得られるように違法な処分なのかどうかという判断もつかずに、じんぜん日を過ごすという場合がたくさんあるわけです。たとえば農地法の農地訴訟でも、最近は少なくなっているかもしれませんが、いわゆる農地解放当時の自作農創設特別措置時代の直後に、行政訴訟ができるのだということをよく知らずに、相当時間がたってから、行政訴訟なり訴願している例もあるわけで、そういう意味で国民はしろうとでありますから、必ずしも直ちに立ち上がって救済を求めるという場合だけではないと思うわけであります。しかも弁護士も、こういう行政事件専門の弁護士というものは今は非常に少ない。むしろないのじゃないか。ないとは言いませんけれども、非常に少ないということだけは事実であります。特に地方において行政事件をやれる専門の弁護士というのは非常に少ないのでありまして、そういった弁護士が相談を受けてもなかなか——これは私は現在の司法制度の欠陥でもあると思います。行政訴訟というものが戦後通常裁判所で行なわれるようになった関係もあり、古い弁護士先生方には、行政事件の相談を受けても十分それに対応できない人たちがたくさんあるわけであります。そういう意味で私は、弁護士が事件の相談を受けても、やはり提訴するまでの準備期間に一月や二月という短期間でなかなか処理し切れない、やはり相当準備の期間が要る、研究が要るということでありまして、私は現行の六カ月という程度の出訴期間は必ずしもそう不当に長いものじゃないと考えているわけであります。そういう意味で私は、この法案で三カ月に短縮するということは、国民の権利伸張の立場から不当な改悪だと断ぜざるを得ないわけであります。また、法律が六カ月であると、三カ月とか二カ月とか一カ月とかいう特例法がむやみやたらにできるということを言われますが、それは現に特例法ができて短期の出訴期間を定めておる例があるわけでありますから、これを今度三カ月にすれば、さらにまた特例でもっと短いのを作ろうということで一カ月になるかもしれない。ですから必ずしも、現行の六カ月という規定があるから二、三カ月という短期の出訴期間の特例法ができるのだということも言えますけれども、裏返して言えば、原則が三カ月というように短縮をされてしまうと、またそれに対する例外で一カ月というような短期の出訴期間を定める特例ができてくる、かえって多くふえてくるのじゃないかということも言えるわけでありまして、必ずしもそれを理由にして三カ月に短縮しなければならないという理由には私はならないではないかと考えるわけであります。
さらにもう一つ、私は出訴期間をなぜ現行の六カ月程度に日本の場合はしなければならないかということの理由として、行政処分が文書で出される場合に、はっきり出訴期間があるいは訴願の期間が明示されておれば、国民もある程度それに対応できるわけでありますが、今度の行政不服審査法案には、今の教示義務というものが一部規定されておって、文書による行政処分には今の不服申し立ての期間があればその期間を明示しなければならぬ云々という規定もあるようであります。しかし私は、それを義務づけておるようでありますが、訴願だけでなしに、出訴期間を告知するあるいは教示する義務を行政庁に義務づける、そういう立法化をしなければ、この行政事件訴訟法という法律を知らないために、三カ月の訴えができなくなるということにもなるわけでありますから、出訴期間を告知する義務を立法化するという作業が伴わなければ、私は六カ月を直ちに三カ月に短縮するということはやはり改悪になると思う。六カ月でそれほど現在の行政事務が支障を来たし、停滞を来たしておるとはとうてい考えられないわけでありまして、そういう意味で私は、この規定を短縮されたことに対して合理的な理由を見出すことができないのであります。しかし、今の局長の御答弁は御答弁として一応承っておきます。
次に移りますが、時間の関係でもう一点だけにしておきます。
二十五条の執行停止の問題、それに関連して二十七条に総理大臣の異議の規定がありますが、私はこの二十七条の総理大臣の異議の規定は、これは明らかに改悪だと思う。現行法よりも後退しておるということは、おそらく当局もお認めになるだろうと思うわけでありまして、なぜこのように後退をしなければならなかったかという理由をお尋ねしたいわけであります。それは二十七条の「総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があった後においても、同様とする。」この後段の場合でございます。現行特例法では、執行停止があった後には総理大臣の異議によって執行停止の決定を取り消さすことはできないという解釈がむしろ裁判所の判例にまでなっておるわけであります。最高裁判所の大法廷における判決で、決定があった後に異議が出ても執行停止の処分は取り消しができない、決定前でなければならないという趣旨が、最高裁判所の判例になっておると私たちは理解しておるわけであります。現行法では文字解釈からしてもそうでありますし、また制度の趣旨からしてもそうあるべきだと思うわけであります。それを疑義があったからこのように変えたのでなしに、むしろ執行停止の決定があった後においても総理大臣は異議申立権があるのだというように、国民の権利救済の立場からは大きく後退をした規定を特に設けられた理由をまずお伺いしたい。これは一つ大臣に最初にお答え願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/30
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031・植木庚子郎
○植木国務大臣 御指摘の二十七条に規定いたしました内閣総理大臣の異議の問題でございますが、この点につきましては、実際上行政の運営をいたします場合に、なるべくとういうような総理大臣からの異議の申し立てというととは避ける方が国民の権利伸張の上からいいことは申すまでもありません。しかしながら、行政処分の問題が、そこの第三項にも書いてございますように、ときにはどうしてもいわゆる公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるという場合におきましては、行政の最高の責任者としての総理大臣は、やはりこういうような制度をこしらえておいて、そして異議の申し立てができるようにした方が、公共の福祉が個人々々の権利に優先する場合があり得る、またなければならぬというような立場からこの制度をこしらえたのでございます。従いまして、これについては容易に発動すべき条文であるとはわれわれも考えません。従って、この条文の構成の上におきましても、最後の第六項にありますように、ほんとうにやむを得ない場合でなければならぬ、また異議を述べたときには次の常会で国会にこれを報告いたしまして、そして国会で批判を仰ぐというような慎重なまた重要な手続をきめて、これによって個々の国民の権利が救済されることのじゃまされることがないように、真に公共の福祉に重大な影響が及ぶということが十分考えられるときしか発動しないというように考えておるのであります。もちろん、こういうものがなくてすべてやれれば一番いいということになるのでありますけれども、行政の最高の責任者としては、公共の福祉に反するような場合には、二十七条のような措置ができるようになっておりませんと、やはりその責任を全うすることができないという立場から、どういうものをこしらえて御審議を仰いでおる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/31
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032・濱本一夫
○濱本政府委員 今大臣のおっしゃった通りなんでありますけれども、実は「後においても」云々というところが、解釈上であるか、あるいはまた新たに本法で後退したという御批判を受けるのか知りませんが、現行法とは文言の上では少なくとも違っております。それは従来の経験、実例から申しまして、総理大臣が真に異議を述べなければならぬという場合におきましても、その異議を述べる手続に相当の時間を要するのであります。一方裁判所の執行停止の方は、訴えの提起と同時に執行停止の申し立てをいたしますので、裁判所の方では、三日とかあるいは翌日までとか、きわめて短い時間を指定して、その間に意見を述べろといって催告されるのであります。事が東京の裁判所におけるような事案でありますれば、異議を述べる事務手続も二日、三日あれば間に合うのでありますが、地方の裁判所の事件を見ておりますと、どうしても裁判所が指定されるような期間内には、真に異議を述べなければならぬ場合におきましても、その手続が間に合わないというような実例がございます。あるいは執行停止の決定が出た後においても、やむを得なければやはり異議を述べ得るようにしておかなければ、やはり実情に沿わないというところから、そういった点を現行特例法よりも文言を明らかにいたしまして、一たん執行停止の決定の出た後においても、その異議は述べられるのだというように明文化するとともに、真にやむを得ない場合でなければこの異議は述べてはならない、あるいは述べた後においては次の常会において国会に報告して、国会の御批判を仰がなければならぬというように慎重な手続をとったのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/32
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033・坪野米男
○坪野委員 はっきりしておきたいと思いますが、私のお尋ねは、「決定があった後においても」云々というこの条項は、新立法なのか、それとも解釈の疑義を明らかにしたにすぎないのかという、この結論なのですが、これについてまず立案の当局としての答弁をお伺いしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/33
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034・濱本一夫
○濱本政府委員 現行特例法の上におきましては、御指摘のように、解釈のしようによりましては、決定前でなければいけないというふうに読める。あるいはまた解釈のしようによりましては、決定後でもこの制度の本質上できるというように解釈する余地も実はございまして、学説においても必ずしも帰趨を一にしておりません。そこで私どもは、先ほど申し上げましたような理由から、明文をもってこれを明らかにしておこうということにいたしたのでありまして、解釈上の疑義を明文をもって明らかにしたというつもりであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/34
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035・坪野米男
○坪野委員 解釈に両論があることは私も承知をいたしておりますが、との法案を提出された政府、法務省としては、そのいずれの解釈をとるかによって、これが新立法として出される場合と、そうでなしに自分たちの解釈を明文によって明らかにするという立場とあるわけですが、一体法務当局としては、新しい立法を作ったつもりなのか、あるいは単に従来からできるという解釈をここに明らかにしただけなのかということ、そこをお尋ねしておるのです。学説が二つ分かれておるということはよく知っているのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/35
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036・濱本一夫
○濱本政府委員 現行特例法のもとにおきましても、一たん停止決定が出た後においても、必要があれば異議を述べることができるという解釈を私どもとっておったのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/36
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037・坪野米男
○坪野委員 先ほど私がお尋ねいたしました最高裁判所の判決は、執行停止の決定があった後にはできないという趣旨に読めると思うのでありますが、そういう判決があったことは御承知であるかどうか。その判決に対して、どのように理解しておられるのかということをお尋ねしたい。最高裁判所の大法廷です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/37
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038・濱本一夫
○濱本政府委員 御指摘の最高裁判所の判例のあるととも私ども承知はいたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/38
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039・坪野米男
○坪野委員 そうすると、最高裁判所で、執行停止の決定があった後には取り消せないという解釈を現行法の解釈としてはとっておるということは承知の上で、法務省当局としては、行政官庁に都合のいいように、相当の学者が以後においてもできるという学説を述べておりますが、そういう学説に加担をするというか、自己に都合のいい学説をとって、決定後の取り消しもできるのだ、そういう見解をとっておられるわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/39
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040・濱本一夫
○濱本政府委員 先ほど来述べましたような、内閣総理大臣の異議という制度の本質から、私どもはさように解しておるわけであります。行政庁側にくみして、ことさら良心を曲げてそういうふうに解釈しているわけでは決してございませんことをお誓い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/40
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041・坪野米男
○坪野委員 結局そういうことになるのじゃないかと思うのですがね。客観的に、この制度の趣旨あるいは規定されておる文言から解釈をして、少なくとも最高裁判所は、停止決定の後にはできない、これは停止前の——いわゆる行政権の司法権に対する介入でありますね。内閣総理大臣の司法権、裁判官の裁判に対する介入行為でありますから、これはあくまでも伝家の宝刀として最後の場合でなければならないということは御承知の通りと思いますが、そのように必要悪であるわけであります。三権分立の建前からしても、司法権に対する重大な介入行為でありますから、最小限度でなければならない。そういう立場からしても、明文にない、いかようにも解釈はできますけれども、少なくとも最高裁判所は、客観的に、国民の立場あるいは行政庁の立場という片寄らない公正な立場で、決定のあった後にはできないのだ、こういう解釈を下しておる。にもかかわらず、法務当局は、行政の運用あるいは総理大臣の異議権の必要性ということから、必要があるからそのように解釈するということで、私が今、加担してそういう解釈を固執されるのかとお尋ねしたのはそこなんでありますが、必要であれば新立法でこのようにされたらいいわけであります。しかしながら、現行法の解釈として、少なくとも最高裁判所の大法廷でそのような結論が出たならば、学説としてはともかく、法務当局というものは学者じゃないのです。行政庁でありますから、やはり裁判所の有権解釈と申しますか、裁判所の解釈を尊重されて、現行法の解釈としては、以後にはできないのだ、従って、これは必要があって新立法したのだ。こういうように率直に出てこられることが望ましいのじゃないか、そういう意味で私はお尋ねをしているわけですが、今の局長の御答弁、私は、学者としては非常にりっぱな方だろうと思いますが、答弁としてあまりにも良心的でない御答弁だ、このように承っておきます。
時間がありませんので、この総理大臣の異議権についてまだもう少し突っ込んだ、本質的な問題についてのお尋ねをしたい点がございますが、もう一点、簡単なことですがお尋ねして、私の質問は留保しておきたいと思います。
それは、同じ二十七条の第三項に、前項の異議の理由においては云々事情を示すものとする、というこの規定ですね。これは単なる訓示規定にすぎないのではないか。逐条説明その他から判断して、当局は、これは単なる訓示規定なのだ、異議には理由を付さなければならないというのが第二項にありますが、理由をつけさえすれば、理由の具体的内容はできるだけこのような事情を示しなさいという単なる訓示規定にすぎないのであって、具体的理由の明示を欠いた場合でも、総理大臣が異議を述べたということの効果を左右するものでないのだ、そういう解釈をとっておられるのではないかと思うのですが、どうですか。あるいはそうでなしに、この第三項は効力規定であって、このような事情が示されなければ総理大臣の異議は無効なんだ、違法なんだ、従って裁判所の執行停止命令をとめる、あるいは取り消させる効力はないのだという解釈になるのでしょうか、そこのところを伺いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/41
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042・濱本一夫
○濱本政府委員 第二十七条第三項の理由、それからその内容をなす事情との関係は、御指摘の通りに私ども考えております。つまり、理由を付さなければ異議としての効力はないのであります。その理由中において事情がないからといって効力には影響はないというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/42
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043・坪野米男
○坪野委員 そうすると、私が最初にお尋ねした通り、単なる訓示規定で、いかなる理由であっても、理由さえ書いてあれば、理由さえ示せばいいので、理由の中身はこういうように書くことが望ましいという程度のものだ、こういう御見解ですね。そう伺っていいですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/43
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044・濱本一夫
○濱本政府委員 さようであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/44
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045・坪野米男
○坪野委員 それから第六項「内閣総理大臣は、やむを得ない場合でなければ、第一項の異議を述べてはならず、」云々という規定がありますが、「このやむをえない場合」というのも、その認定はだれがするのか。総理大臣の判断でやむを得ない場合であるという判断をするということになるのか。そのやむを得ない場合というのは、はっきり言えば必要な場合ということと同義語になってくるんじゃないか。結局、総理大臣が必要だと判断すれば、あるいはやむを得ないのだと自分で判断をすればできるし、あるいはやむを得ない場合でないのだから異議は述べない、その裁量権はすべて総理大臣にある、こういう解釈になるのであるかどうか、それも一つお聞きしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/45
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046・濱本一夫
○濱本政府委員 第六項の解釈は御指摘の通りになると思います。やむを得ない場合であるかどうかは、この制度の本質上総理大臣が判断するところによるということにならざるを得ないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/46
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047・坪野米男
○坪野委員 そういたしますと、結局、総理大臣の異議のこの制度は、伝家の宝刀で、むやみやたらに抜くべきものではないのだ、そしてまた、そのためにいろいろ制限規定があるのだと申しますけれども、ここに規定されておるようないろいろな条件といいますか、制度的な保障というものは、実質的にはほとんど無価値にひとしいではないか。要するに裁判所は、二十五条の要件に当てはまる場合に、いわゆる司法権の発動として裁判官の判断で執行停止をやろう、司法権に介入して行政府の長である総理大臣から異議を出す、そうして裁判権の行使をチェックするという働きを持っているわけであります。その場合に、こういう場合でなければというような若干の制限らしい規定はありますけれども、本質的には法的にほとんど無価値、無意味に近い。その判断はだれがするのだといえば、総理大臣がやるのだ。また、単なる訓示規定にすぎないから、理由の詳細、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情などというものは、必ずしも詳しく書かなくても何ら効力に影響がないというようなことでは、本質的に総理大臣の異議の本制度そのものにもつと根本的な検討を加える必要があると思うわけであります。ただ、時間がございませんので、この点についての質問も次の機会に留保いたしておきたいと思います。
大体私が予定しておった時間が来たようでございますから、この程度で一応終わります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/47
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048・河本敏夫
○河本委員長 この際、参考人出頭要求の件についてお諮りいたします。理事会の申し合わせによりまして、ただいま審査中の本法律案について参考人の出席を求め、その意見を聴取することとし、その日時は来たる三月二日、人数は六名、その人選につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/48
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049・河本敏夫
○河本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/49
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050・河本敏夫
○河本委員長 次に、民法の一部を改正する法律案及び建物の区分所有等に関する法律案の両案を一括議題として、審査を進めます。
質疑の通告がありますので、これを許します。上村千一郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/50
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051・上村千一郎
○上村委員 本日は時間も十分とは思えませんので、一般的な質問をさしていただきまして、こまかい点につきましては、他日質問をさしていただきたいと思います。
まず第一に、民法の一部を改正する法律案につきましてお尋ねをいたしたいのであります。
この法律案を拝見いたしますと、従来問題となったような点、あるいはいろいろな事情から不適当であるというような点につきまして検討されて、比較的よくできておるというような感じがいたすのでありますが、個々の点につきましては多少疑義もあると存じますので、その点をお尋ねいたしたいと思います。
まず第一に、従来疑義のあった点を明確にしたということと、そうして妥当な解決をはかるために新設をしたという規定につきまして、簡単にお答えを願いたいと思います。条文だけでけっこうです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/51
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052・平賀健太
○平賀政府委員 条文で申し上げますと、三十一条の危難失踪の規定、これはこの際、この機会をもって改正した方が適当ではなかろうかという事項でございます。それから三十二条ノ二の同時死亡の推定の規定、これも同様でございます。それから次は、条文の順序を追って申し上げますと、八百十一条の改正、離縁の代理者に関する規定、それから八百十五条もそうでございますが、これは現行法の解釈に疑義がございますので、これを明らかにしたいという趣旨でございます。それから八百四十五条、後見人の解任に関する規定でございますが、これは疑義をなくするというのじゃなくて、この際改正した方が望ましいという趣旨の改正でございます。それから八百八十七条、八百八十八条、八百八十九条、九百条、九百一条は、これは疑義をなくしようという趣旨の改正でございます。それから九百十九条、これも同様に疑義をなくしたいという趣旨でございます。九百三十九条も同様でございます。それから九百五十八条、九百五十八条の二、九百五十八条の三、九百五十九条、これは、この際改正したが望ましいという趣旨の改正でございます。それから九百九十四条、千四十四条は、これは疑義を明らかにしたいという趣旨の改正に伴う条文の整理でございます。
以上の通りでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/52
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053・上村千一郎
○上村委員 今度の改正案の中で、特に注目し、なお、きわめて妥当な改正だと感じられますのは、九百五十八条の三の新設をなさったことであろうと思いますので、この点につきまして、少しくお尋ねをして参りたいと思います。
相続人不存在の場合、現行法では清算後の相続財産は直ちに国庫に帰属するが、被相続人の内縁の妻など、相続人に準じて考えてしかるべき者、その他被相続人と特別の縁故があった者があることも少なくない。実は相続財産が国庫帰属に先だって、これらの者に分与することが実情に即するにかかわらず、従来これが何らの分与を受け得られなかったというような点につきましては、実際の実情から考えてみますると、きわめて妥当を欠く、あるいはそういうような感じが強かっただろうと思うのでありますが、従来妥当を欠くというような事例、新設に踏み切った、妥当を欠いた特別な事例につきまして御説明を賜われば幸いだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/53
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054・平賀健太
○平賀政府委員 相続人不存在の件数が一体どのくらいあるかということでございますが、家庭裁判所で取り扱っております件数々見ますと、昭和三十年ころ以降をとりますと、三百件、四百件という工合に件数が上っておるわけでございます。それからまた大蔵省の管財局の調べによりますと、相当の価値のある不動産につきまして、やはり相続人不存在でもって国庫に帰属するという件数が、わずかではございますが、年々数件ずつあるようでございます。実際に相続人不存在の事件を扱っております家庭裁判所におきましては、この事件を扱うたびに、やはり相続人と特別の縁故者がいるケースがあるものでありますので、家庭裁判所の裁判官の方から、裁判官会同のときなんかにおきまして、こういう、今度新設しましたような九百五十八条の三のような規定を設けてもらいたいという要望がかねがねあったわけでございます。その要望を取り入れまして、この規定を置くことにいたした次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/54
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055・上村千一郎
○上村委員 何か最近二、三年の間の代表的事例というようなものはございませんか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/55
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056・平賀健太
○平賀政府委員 最近の具体的事例といたしましては、民法の一部を改正する法律案関係統計資料ということでお手元に配ってあります資料の十一ページに、大蔵省の管財局で調べましたのが出ております。こういう実例があるわけでございます。ただ特別の縁故者があったかどうかというところまで実は調査されておりませんので、今度の法律案のような規定があれば、この財産の全部または一部をもらえるような特別縁故者があったかどうかということははっきりいたしておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/56
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057・上村千一郎
○上村委員 この九百五十八条の三を見ますと、特別縁故者の例としまして、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、」云々と記載されておりますが、この「特別の縁故があった者」というのは、どの範囲をお考えになっておられるか、お尋ねしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/57
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058・平賀健太
○平賀政府委員 これは抽象的に申し上げますと、被相続人と特別の関係がありまして、被相続人が、もしその機会がありましたら、遺言でもってその者に財産を与えてやろうというような、そういう関係がある者というふうにも言っていいかと思うのでございますが、ただ、ここの条文にもございます通り、特別の縁故というのは非常に抽象的でばく然といたしておるわけでございます。でありますから、これはやはり家庭裁判所の裁量によりましてきめるということになろうかと思います。例示いたしますと、ただいま仰せの内縁の妻であるとか、あるいは被相続人の息子に嫁をとった、息子は早くなくなったんだが嫁だけは残っておる。被相続人と息子の嫁だけがおるという場合に、息子の嫁にやる。一親等の姻族でございます。あるいは妻の連れ子がいる、連れ子とその夫だけが残っておる。連れ子はこれも一親等の姻族でございますが、その連れ子に財産を分けてやる、そういうケースがかなり多いだろうと思うのでございます。しかしながら、必ずしもそういうふうに血族あるいは姻族関係があるという場合に限られませんので、たとえば孤独の老人が養老院でなくなった、若干の金品を残して死んだというような場合に、長年世話になった養老院にその遺産を与えるというようなことも考えられます。それからまた、これは非常に特殊な例かとも思うのでございますが、やはり孤独の老学者が大学の研究室をわが家同然にして生活してきた。その学者が蔵書その他のものを残して死亡したというような場合に、その蔵書なんかをその大学に与えるというようなことも、これは可能かと思います。そういうふうにいろいろな場合が考えられますので、これを限定することがきわめて困難でございました。特別の縁故者という非常に抽象的なばく然とした表現にいたしまして、家庭裁判所の良識による判断にまかせようというのがこの条文の趣旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/58
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059・上村千一郎
○上村委員 だいぶお考えが具体的に判明したわけでありますが、してみますると、たとえば老後養老院におった、そして死亡した、きわめて身寄りもなかった。けれどもその養老院にはいろいろお世話になったということになりますと、養老院は、たとえば個人で経営している場合もあれば法人で経営しておる場合もある。そうすると、との縁故者というのは自然人に限らず法人をも含めてお考えになっておるかどうか、その点を明らかにしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/59
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060・平賀健太
○平賀政府委員 法人も含まれると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/60
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061・上村千一郎
○上村委員 ただいまのお話の縁故者と考えられる方々が併存しておった場合、何人もあるという場合において、たとえば一人に上げる、あるいはそれを縁故者の方々に分配して上げるというような場合、これはあげて家庭裁判所の御判断に待つというようなおつもりであるかどうか、お尋ねをいたしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/61
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062・平賀健太
○平賀政府委員 お説の通り、家庭裁判所の裁量によることになるわけでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/62
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063・上村千一郎
○上村委員 その場合、たとえば内縁の妻がある。相当巨額な選炭がある。その場合に家庭裁判所は、他に縁故者がある、そういう場合を仮定して考えてみまして、内縁の妻に全額を与えるというようなこと——これはいろいろな事情をこまかく申し上げないと御判断もむずかしいかと思いまするけれども、概略そういうような点について、家庭裁判所が巨額の遺産をある特定の人だけに全額与えてしまうというような場合もよろしいと考えられておるかどうか、お尋ねをしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/63
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064・平賀健太
○平賀政府委員 具体的事情によると思いますが、裁判所としましては、全額与える場合もございましょうし、一部与えて、その他の縁故者に他の部分を分けるということもこれはあり得ると思います。具体的事情によりまして、裁判所が健全な良識に従いまして判断をするということになると思うのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/64
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065・上村千一郎
○上村委員 そうしますと、その判断は家庭裁判所に幅広く与えてあるものである、こういうふうに受け取っておいていいわけですね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/65
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066・平賀健太
○平賀政府委員 さようでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/66
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067・上村千一郎
○上村委員 その点はその程度にしまして、次に順を追って多少問題となる点をお尋ねして参りますが、簡単でけっこうですが端的にお答えを願えれば幸いに存じます。
この三十条の第二項の改正の問題であります。危難失踪の場合の失踪期間を従来の三年から一年に短縮をした、こういうわけです。それは交通とか通信の発達を考えてのことである。もっともなことだと存じまするが、しからば普通失路の場合の失踪期間が従来通りで七年になっておるけれども、交通、通信の発達という事情から言いますれば同じことであろうと思うわけです。これに対するところの短縮のお考えがあるのかどうか。
もちろん、こういう期間を短縮することが、ある一定の法律関係を確定するには短期間で確定することがけっこうだろうと思われる点、あるいはそれによっていわゆる法益を受けるという層もあるでございましょうが、また他面においては、失踪宣告を受ける立場から言いますれば、はなはだ早く失踪宣告を受けることは、その本人についてはきわめて因るというような問題も起きるだろうと思うのです。そこで二つの相反する要請の調和という問題でなかなかむずかしい点とは思いますが、危難失踪の場合の失踪期間の短縮について、その理由が交通、通信の発達という点があげられておると見ますれば、普通の失踪の場合も同じような社会条件になっておるというふうな点を考えますれば、普通失踪の場合の失跡期間の短縮の点についてお考えになったかどうかということについてお尋ねをしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/67
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068・平賀健太
○平賀政府委員 普通失踪の場合は、失踪の原因にいろいろございまして、たとえば家出なんかがよくある例でございますが、危難失踪の場合と違いまして、死亡の危険というものが普通は考えられない。でありますから、交通、通信が発達したとは言いますものの、やはり大事をとりまして相当の期間を置いておく必要があるわけでございます。外国の立法例なんかにおきましては、日本は七年でございますけれども、十年などという立法例が相当ございます。それから、ただいま御指摘のように、失踪宣告の申し立てというのは利害関係人からできるのでありまして、その近親者などは本人の生存を信じておるというような例もございまして、現行法の七年は、やはりあのままにしておいた方が妥当ではなかろうかと考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/68
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069・上村千一郎
○上村委員 次にこの失踪の宣言で死亡とみなされるときを、危難失踪と普通失踪とで異なるように規定されている。これは普通失踪は期間満了のとき、危難失踪は危難終了のときということになっておるわけですが、どうしてこういうふうな異なる時にしたのか、その点をお尋ねいたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/69
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070・平賀健太
○平賀政府委員 危難失踪の場合は、船の沈没であるとか、飛行機の墜落であるとかいうように、非常に死亡の可能性を伴う事故の場合が危難失踪でございますので、実際問題としては、やはりそのときに死亡した公算がきわめて大きい。ですから、その危難の去ったときとすることが実際に合うのではないかと思うのでございます。ところが、普通失踪の場合は、家出であるとか、そういう事由で消息がなくなるわけで、時間がたてばたつほど死亡の危険が少しずつ増していくという関係でございますので、取り扱いを異にするのが実情に合うのじゃないかというふうに考えるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/70
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071・上村千一郎
○上村委員 次に、船舶の沈没の場合ですが、これが証明は非常に困難な場合が多いであろうと思われるわけです。これについて何か推定規定というようなものもお考えになったのかどうか。たとえはドイツ民法十六条などにおきましては「航海に際し、航行中沈没したる船舶にありてその船舶沈没以来失踪したる者に対しては、沈没以来一年を経過したるときは、その死亡を宣告することを得。」、二項としまして、「船舶が指定地に到着せずまたは一定の行先地なき場合において、帰港せず、かつ発港以来に掲げたる期間を経過したるときは、沈没したるものとして推定する。」そうしてその発港後、たとえは地中海とか黒海という場合においては、発港してから二年なら二年とか、欧州外諸海の航行については三年なら三年というような具体的な規定があるようですが、少なくともかかる推定規定を置いて、船舶の沈没の証明がきわめて困難だという意味において、その立証の点について配慮されておるわけですが、この点について、民法の今回の改正の点について御考慮されたのかどうか、お尋ねしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/71
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072・平賀健太
○平賀政府委員 ドイツ民法の中におきましては、ただいま仰せのようなこまかい規定が置いてございます。こちらでは、そこまでは必要ないのではないかというふうに考えまして、こまかい規定を置かなかったのでございますが、実際問題としましては、家庭裁判所に失踪宣告の請求があるわけでございまして、家庭裁判所で調査をする。ですから、調査によりまして確実に日時をつきとめることができない場合も生じると思いますが、その場合は、やはり推定の日時というものが基準にならざるを得ないと思うのでございます。でありますから、場合によりましては、船舶でありますと、予定の日時までにある港に人らなかったというような場合でございますと、少なくともその予定日時の以前に沈没したことが推定できるというようなことで、その予定日時を沈没の日時と推定するというような場合も生ずることがあり得ると思うのでございます。いずれにしましても、これは家庭裁判所で調査いたしまして、結局は推定によらなくちゃならぬ場合が相当出てくるかと思いますが、実際問題としては、ドイツ民法のようなこまかい規定を置きませんでも、不都合を生ずることはなかろうと考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/72
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073・上村千一郎
○上村委員 実はすでに御承知と思いますが、いろいろと事件の輻湊化あるいは複雑化によりまして、家庭裁判所の裁判官も調査官もきわめてこれが処理につきまして困難を来たしておるという実情は、現在顕著であろうと思うのです。そういう際におきまして、少しでもこれが調査の煩労を少なくする意味において、かかる推定規定を置く方が妥当であろうというふうに私は考えますけれども、その点はその程度でとめておきたいと思います。
次に、同時死亡の推定の規定、三十二条ノ二の新設でございますが、これに関連をしてお尋ねをしておきたいと思いますが、父と子が同時に死亡したという事例を想定いたしてみます。子に配偶者がある、子供はない、ですから代襲相続の問題は起きない事例を考えるわけです。そういう場合に、父と子が同時に死亡した。そのときに、子に子供がある、要するに孫がありますればよろしいのですが、子供がない。その子供には配偶者はある。こういうような事例を想定した場合に、配偶者に対して代襲相続権を認める方があるいはその実情に適するというように考えられると思うのです。代襲相続の点につきましても相当の手直しが行なわれておるようですが、配偶者に対して代襲相続という点をお考えになられたかどうか、この際お尋ねをしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/73
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074・平賀健太
○平賀政府委員 ただいま仰せのような場合を考えますと、なるほど父の財産を子供の配偶者が相続できるようにしたらいいじゃないかということが考えられるわけでございます。その他被相続人の直系卑属の配偶者にも代襲相続権を認めたらどうかという意見があるのでございますが、これは現行法を大きく根本的に改めることになりますので、なお後日の問題として今後検討いたしたいというふうに考えまして、今回はこれは問題にいたしてないのでございます。今後の研究課題といたしたいと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/74
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075・上村千一郎
○上村委員 次に、養子離縁関係に対する後見人選任関係の問題についてお尋ねをしておきたいと思うのですが、要するに後見人が代諾をする場合、結局離縁をする前に後見人が選任されますね、そうしないと、あとからでは代諾にならないから……。そうすると、選任されたところの後見人と、代諾をする場合までの期間がございますね、それの後見人の法律上の性質と申しますか、それはいわゆる特別代理人的なものであるのかどうか、こういう点でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/75
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076・平賀健太
○平賀政府委員 これは仰せの通り、この後見人は家庭裁判所から離縁前にあらかじめ選任するのでありまして、まだ後見は開始しておらないので、あらかじめ選任するとは申しますが、まだほんとうの後見人ではない。ほんとうに離縁の代諾だけの権限しか持たないのでありまして、仰せのように、これは特別代理人と呼んでもいいかと思います。ほんとうに後見人になりますのは、離縁が成立いたしまして、初めて後見人になるわけでございます。それ以前は、ただ離縁の代諾をするかあるいはしないかというだけの権限、それだけの限られた権限を持った特別代理人といっていいかと思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/76
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077・上村千一郎
○上村委員 そこで非常に性質がはっきりわかって参ったのですが、次にこの八百八十七条第三項は代襲の代襲といいますか、そういうような規定になっております。孫が死亡した、そうして曾孫が代襲する、そして曾孫が死亡した場合、玄孫が代襲するというような格好になるものと考えるかどうか、お尋ねしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/77
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078・平賀健太
○平賀政府委員 玄孫が代襲する場合も三項で読むとという趣旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/78
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079・上村千一郎
○上村委員 大体の論点だけに触れていって、それであとからまた機会を見て詳細な質問をお許し賜わりたいと思うわけです。
最後に遺産の中に農地などを含んでおる、そういう場合の相続関係、しかも最近の農地は、相続を開始したとき均分相続ですからきわめて零細化する。現実の問題としましては、相続の放棄をして、長男とか、あと農業を経営するに適する者に農地を一括して相続させるような方法を講じておりますけれども、法律としまして、この農地関係の相続につきまして何かお考えになっておるのかどうか、この際お尋ねをしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/79
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080・平賀健太
○平賀政府委員 農業経営の細分化を防止するというようなことで、過去におきましても、農業資産相続特例法案というものが二回にわたりまして国会に実は提案になったことがあるのでありますが、いずれもこれは審議未了になりまして、廃案になったいきさつがございまして、この問題は現行の相続法の根本に触れる根本改正の問題でございますので、この際はこれを取り上げませんで、今後の検討の課題にいたしたいと思いまして、なお検討いたす考えでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/80
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081・上村千一郎
○上村委員 以上によりまして民法の一部を政正する法律案について概略御質問をいたしたわけでございます。
次に、建物の区分所有等に関する法律案につきまして、概略お尋ねをいたしておきたいと思います。
提案理由の御説明にもありまするように、最近都市などにおきまして、土地の高度利用の必要から、中高層建物の共同出資とか、アパートの分譲等が急増しておりますることは、顕著な事実かと思うわけであります。それに関連しまして、この建物区分所有者間の紛争もまた増加いたしておるということも当然であろうと思いますし、また今後これが予測される際におきまして、この建物の区分所有等に関する法律案が、従来いろいろと論点になっておりまする点を解決整理されまして、また新しい考え方もお入れになったということにつきましては、敬意を表すると同時に賛意を表したいと思うわけでありますが、建物区分所有に関する従来の紛争事例というものにつきまして、最近の実例がお手元でわかっておりますれば、御説明を賜りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/81
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082・平賀健太
○平賀政府委員 若干の事例を申し上げますと、たとえば共用部分の管理費用の分担につきましてなかなか折り合いがつかずにもめておるというような例がございます。現行法では、民法第二百八条で「共用部分ノ修繕費其他ノ負担ハ各自ノ所有部分ノ価格ニ応シテ之ヲ分ツ」、ところが、所有部分の価格というものは、具体的にはわかりにくい関係で、負担の関係で話がまとまらないで紛争が起こっておるというような例もございます。それから、この管理費用なんかにつきまして、区分所有者相互間で取りきめをいたしましても、区分所有権の譲渡が行なわれまして、第三者が新しい所有者として入ってくると、管理費用の取りきめなんかを認めぬ、高過ぎるじゃないかという文句を言って、またこじれるというような例もございます。それからアパートなどで、住宅として使う目的であるわけでございますが、新しく入ってきた人がそこで商売を始める、そのために他の区分所有者に迷惑をかけるというような、そういうおもに管理関係について実際紛争が少なくないのでございます。それからなお基本的な関係につきましても、共用部分と専有部分との関係において、民法では必ずしもはっきりいたしておりません。その関係で、たとえば登記なんかにおきましても、各専有の部分のアパートの部屋をそれぞれ登記をする。ほかに共有部分につきましてもやはり登記がなされる。何か独立の建物であるかのように共用部分の登記がされておりまして、共用部分だけを切り離して差し押えるというような事例、共用部分に対する固定資産税を納めていないというようなことで、滞納処分で共用部分だけの差し押えがされるというようなおかしな事例も現実には起こっておりまして、かなりあちこちで問題が起こっておるようでございます。この法律案によりまして、そういう問題は一応解決される、あるいは解決の基準がこれによって与えられることになると思うのでござます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/82
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083・上村千一郎
○上村委員 お話のようないろいろな問題が起きてくると思いますし、現行民法二百八条だけでは処理しかねる点も出てくるだろうと思うのです。それで建物の構造とか生活様式、そういうような点から、欧米各国では、わが国よりも早くこういう問題が起きておるだろうと考えられるのであります。外国のこの種の立法関係について、諸外国はどうなっておるのか。本案との比較において御説明を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/83
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084・平賀健太
○平賀政府委員 この外国の立法関係につきましては、資料といたしまして「建物の区分所有に関する外国立法例」という中に、私どもでわかりました範囲のものを掲げておきました。これにはドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、アルゼンチン、メキシコ、こういったものがあげてございますが、まだほかにもあり得るかと思います。運用の実際はどういうふうになっておるかという点も問題になると思うのでありますが、たとえばドイツでございますと、一九五一年に、住居所有権法と略称いたしておりますが、これができておりまして、実際の問題としては、大きい会社なんかが政府の補助金と銀行からの借り受け金等でアパートを建築いたしまして、分譲をしておるということが相当行なわれておるそうでございます。それからフランスでは、ここにあげておきましたが、一九三八年に、従来民法でわずか一カ条しかございませんでしたのを、非常に詳しい単行法を制定いたしまして、それによって処理されておるようでございます。
なお、ここには英米法関係の資料がございませんが、これは御承知の通り不文法の国でございまして、特別の制定法というものは見当たらぬようでございますが、アパートの部屋の分譲ということは、英米におきましてもかなり行なわれておるようであります。実際問題といたしましては、土地の所有者がその管理者になりまして、分譲の際、こまかい点まで契約書で定めておりまして、それによって処理がされておるような実情だと私ども承知いたしております。この法律案で申しますと、規約でありますが、この規約がかなりしっかりした規約ができておりまして、これによって大体円滑に処理されておるような実情であるとのことでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/84
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085・上村千一郎
○上村委員 本案を拝見いたしますと、この区分所有者相互間の権利義務、あるいは特に共用部分をめぐって起こることを予想されておる紛争を防止しようという意図のもとにいろいろ自治的な規約を作らして、それにいろいろと法律で規定すべき点をも委任しておるような形式になっておると思うわけです。それでこれの規約というものが、会社の定款というのと同じようにきわめて重要性を持っておるし、しかも法律的に見ましても、これはきわめて根拠のある、また規制力を持っておるところのものだろうというふうに思うのです。そうしますと、現実の問題は、この規約によって相当運営され、解決されていくだろうと思うわけです。立案者とされまして、この法律が成立した場合を考慮しまして、どういう行政指導を与えようとするのか。要するに、何かこの規約についてモデルとなるようなものでも作りまして、そしてこれをできるだけ周知さしていくというお考えがあるのかどうか。
次に、会社の定款にも匹敵すべきものだという点を考えますれば、株式会社の定款などにつきましては、公証人の認証を経さしておりますが、公証人の認証というような点、これをもお考えになられる御意図があるのかどうか。もちろん法案には出てきませんが、そういうお考えはどうかという点についてお尋ねしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/85
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086・平賀健太
○平賀政府委員 まず第一の点でございますが、この法律は、基本は大体網羅いたしておりますけれども、細部の点におきましては規約に譲っておることが少なくないのでございます。そういうわけで、この法律案が法律化しました暁におきましては、法務省におきましても、この法律の趣旨のPRには大いに努力いたしたいと思いますし、また私どもの方で、現在各地で契約の実例なんかもございますので、これを参照いたしまして、模範契約例などというものも作りまして公表いたしたいと考えております。その他各地で説明会を開くとか、そういうようなこともいたしたいと考えておる次第でございます。
それから公証人の認証の問題でございますが、区分所有建物も、これはいろいろピンからキリまでございますので、公証人の認証ということを法律で強制するのは少し行き過ぎではなかろうか、それでこれは任意にいたしたわけでございまして、もちろん公証人のところに持って行って認証を受けるということも、これは可能でございます。しかし、法律ではそれを強制しない。認証を受けなければ効力を生じないとか、あるいは第三者に対抗できないというところまでは行き過ぎであると考えまして、公証人の認証は、これは任意だということにいたしております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/86
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087・上村千一郎
○上村委員 御趣旨はよくわかります。現在の株式会社でもピンからキリまでございまして、いわば個人と同様な株式会社もたくさんあるわけであります。それかといってマンモス会社もできておるというわけで、そこにきわめて大きな段階を持っておると思うのです。もちろん、本件の対象となるような建物もきわめて段階を持っておると思うのでありますが、しかし、小さいものならば、大ぜいが入るなどということはない。そういう意味から言いますれば、本件の対象となる建物は、これは相当な規模のものだということが想定されるわけであります。小さなものだったらば、何も区分所有のどうのなんといって真剣に考える程度のものではないのです。ですから、こういう点から言いましても、相当紛争の解決をし、しかもその権利義務を明白にするという意味から言いますれば、きわめて一考すべき問題ではなかろうか、こういうふうに思いまして御質問したわけでありますが、その点はその程度でとめておきたいと思います。
次に、具体的な問題としまして、区分所有権の目的となる建物の部分を占有部分として定義しておる、この部分の観念でございますが、いろいろとその建物の構造によって違うのでございましょうけれども、各部屋の壁あるいは天井、床というようなもの、これは所有権の目的となるのか、というのは、強制執行の対象などの場合、非常にこまかい問題が実際問題としてこれから起きてくるだろうと思うのです。それでどの程度具体的なものがこの区分所有権の対象となるものかという点についてお尋ねしておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/87
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088・平賀健太
○平賀政府委員 区分所有権の対象となります占有部分はどの部分かということになるわけでございますが、具体的に問題になりますのは、隣の占有部分との境をなしております壁、それから上下の境をなします天井とか床とかいうものは一体どうなるかということに帰着するかと思うのでございますが、この法律案では、その点までこまかく具体的に明らかにいたしておりませんが、たとえば壁をとってみますと、壁のしんになる部分、これは両隣の所有者の共有になるのではないか。ただその壁の上塗りの部分は、各自の専有部分の中に含まれると解釈すべきではなかろうか。それから天井、床についても、やはり同じようなことが言えると思うのでございます。ただ、この法律の解釈としては、そこまで具体的に規定いたしておりませんけれども、そういうことに持っていくべきではないかと思っておりますが、現実の問題といたしましては、現在でも会社なんかで分譲いたします場合には、こまかい契約を作っておりまして、その契約で取りきめがしてございますが、その契約によりますと、壁なら壁の中心線が境だ、共有の部分はないというようなきめ方をしてある例もございます。そういう規約ができれば、その規約によって処理されることになるわけでございます。大体そういうことになるのではないかと思う次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/88
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089・上村千一郎
○上村委員 屋根がわらや何かで、強制執行の場合に問題になることが起きてくる。屋上、屋根あるいは外壁などについて少しお尋ねいたしておきたいのですが、そういうようなものにつきまして、区分所有権は全員の共有になるのか、そこの隣接の区分所有者の一部共有になるのか、それはあげて規約できめるというふうな点をお考えになるのか、その点についてお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/89
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090・平賀健太
○平賀政府委員 屋上、屋根あるいは外壁なんかは、普通は全員の共有に属するというふうに解釈すべきじゃないかと思うのでございます。これは規約で別段の定めをすることができるわけでございますが、原則はそうだろうと思うのでございます。たとえば屋上なんか、一番階の上の人の所有だということになりますと、その屋上に何か物を乗せるという場合、屋上の人だけできめられるということになっては、建物全体の安定に影響する場合もあり得るわけでございまして、そういうことから考えましても、屋上あるいは屋根というようなものは、全員の共有と考えるのが筋ではなかろうかと思っている次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/90
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091・上村千一郎
○上村委員 この建物の区分所有等に関する法律案の成立することによりまして、私は、多くの紛争なりあるいは権利義務の明確化ということに寄与するものと存ずるわけでございます。
こまかい点については、他旦質問する機会を留保して、本日はこれをもって質問を終わります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/91
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092・河本敏夫
○河本委員長 この際、参考人出頭要求の件についてお諮りいたします。
法務行政及び人権擁護に関する件について、参考人の出頭を求め、その意見を聴取することといたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/92
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093・河本敏夫
○河本委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。
なお、日時は来たる二十七日とし、人数及び人選は委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/93
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094・河本敏夫
○河本委員長 御異議なしと認め、さよう取り計らいます。
次会は、来たる二十七日午前十時より理事会、理事会散会後委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後零時五十四分散会
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〔参照〕
裁判所職員定員法の一部を改正する
法律案(内閣提出第二三号)に関す
る報告書
〔別冊附録に掲載〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X00819620223/94
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