1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十七年三月二十二日(木曜日)
午前十時三十六分開議
出席委員
委員長 河本 敏夫君
理事 稻葉 修君 理事 田中伊三次君
理事 林 博君 理事 牧野 寛索君
理事 坪野 米男君
池田 清志君 一萬田尚登君
上村千一郎君 岸本 義廣君
小金 義照君 馬場 元治君
猪俣 浩三君 河野 密君
田中幾三郎君 志賀 義雄君
出席国務大臣
法 務 大 臣 植木庚子郎君
出席政府委員
検 事
(訟務局長) 浜本 一夫君
委員外の出席者
専 門 員 小林 貞一君
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三月十六日
委員田中幾三郎君辞任につき、その
補欠として片山哲君が議長の指名で
委員に選任された。
同月二十二日
委員千葉三郎君及び片山哲君辞任に
つき、その補欠として森山欽司君及
び田中幾三郎君が議長の指名で委員
に選任された。
同日
委員田中幾三郎君辞任につき、その
補欠として片山哲君が議長の指名で
委員に選任された。
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三月十九日
行政事件訴訟法の施行に伴う関係法
律の整理等に関する法律案(内閣提
出第一三五号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
行政事件訴訟法案(内閣提出第四三
号)
行政事件訴訟法の施行に伴う関係法
律の整理等に関する法律案(内閣提
出第一三五号)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/0
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001・河本敏夫
○河本委員長 これより会議を開きます。
行政事件訴訟法案及び行政事件訴訟法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案の両案を一括議題として審査を行ないます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/1
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002・河本敏夫
○河本委員長 まず、行政事件訴訟法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案について、提案理由の説明を聴取いたします。浜本訟務局長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/2
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003・浜本一夫
○浜本政府委員 きょうは大臣がちょっとおくれておりますので、かわって私、行政事件訴訟法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案の提案理由を御説明申し上げます。
現行の各種行政法規における訴訟に関する規定は、その基本法たる行政事件訴訟特例法が何分にも早々の際に制定されました関係上、その当時、各種行政法規との関連を十分に考慮して、これら諸法規における訴訟に関する規定を整備する余裕がなかったため、現在、これらの規定には不備、不統一の点が少なくないのであります。今回、行政事件訴訟特例法を全面的に改正し、新たに行政事件訴訟法を制定する必要があるため、さきにこれについての法案を提案いたした次第でありますが、その制定に伴い各種行政法規における訴訟に関する規定を整理する必要があることはもちろん、この際、これらの規定における不備、不統一を是正し、その整備をはかる必要があるのであります。これが本法律案を提案いたします趣旨でございます。
次に、この法律案の要点について少し申し上げます。
第一に、現行の各種行政法規における訴訟に関する規定について、右に述べたところにより所要の整備をいたしております。すなわち、行政事件訴訟法案の趣旨にのっとり、これとの関連において、独占禁止法、公職選挙法等における訴訟に関する規定に所要の改正を加え、また、河川法等における不必要な規定を削除するとともに、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律にも所要の整備をいたすことにしたのであります。
第二に、各種行政法規に規定する処分のうち、特定のものについては訴願を前置する旨の規定を設けることといたしております。すなわち、さきに提案いたしました行政事件訴訟法案においては、原則として訴願前置主義を廃止するとともに、必要に応じて各特別法で訴願を前置する旨の規定が設けられることを前提といたしているのであります。従いまして、本法律案におきまして、特にその必要のある特定の処分に限り、その旨の規定を設けることといたした次第でありますが、これを選定いたしますには、おおむね、大量的に行なわれる処分であって、訴願の裁決により行政の統一をはかる必要があるもの、専門技術的性質を有する処分、訴願に対する裁決が第三者的機関によってなされることになっている処分の三種のいずれかに該当するかどうかを基準とすることが妥当と考えまして、この基準に基づき各種行政法規に規定する処分を検討いたしました上、健康保険法その他法律に規定する特定の処分については訴願を前置する規定を設けることにいたしたわけであります。
第三に、各種行政法規に規定する処分のうちには、原処分でなく、訴願の裁決を訴訟の対象とするのを適当とするものがあり、現行法でも海難審判法、特許法等におきましては、このいわゆる裁決主義が採用されておりますが、その他にも農産物検査法等におけるように、再検査の結果を訴訟で争うこととするのが妥当と考えられるものがありますので、同法その他若干の法律につきそのための改正をいたしております。
第四に、各種行政法規における損失補償の額等を争う訴訟についての規定を整備いたしております。すなわち、損失補償の額等を不服とする訴訟は、さきに提案いたしました行政事件訴訟法案における当事者訴訟とすることがその訴訟の性質に適合し、かつまた、国民にとり便宜であると存じまして、農地法等の諸法規において補償額を争う訴訟を当事者訴訟といたす規定を置くことといたしております。
以上をもって本法案の提案理由の説明を終わります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに可決されますようお願い申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/3
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004・河本敏夫
○河本委員長 次に逐条説明を聴取いたします。浜本訟務局長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/4
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005・浜本一夫
○浜本政府委員 それでは行政事件訴訟法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案の逐条説明を申し上げます。
本日議題になっております行政事件訴訟法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案について、すでにその提案理由の説明がございましたので、以下さらにそれを敷衍して御説明申し上げたいと存じます。
初めにお断わりいたしておきたいと存じますが、本整理法案は、数多くの行政法規を諸種の角度から改正し、さらにこれを法案としての形式を整えるため各省別に配列いたしております関係上、これを逐条的に条文の順序で説明いたしますと、改正理由の説明が重複して、わずらわしいばかりでなく、かえってその趣旨が明確を欠くこととなるおそれがございますので、改正趣旨の種類に応じてこれを提案理由の説明にありましたように四分類いたしまして、その種類別に改正条項を取り上げそれについての説明をいたすことにさせていただきたいと存じます。
まず第一に、現行の各種行政法規における訴訟に関する規定について、行政事件訴訟法案の趣旨にのっとり、それとの関連における所要の整備をいたしておりますが、これにつきましては、さらにその内容を四つに分けて御説明申し上げます。その一は、独占禁止法、公職選挙法等における訴訟に関する規定に所要の改正を加えております。すなわち、まず、第三条の独占禁止法の改正におきましては、同法第八十二条第二項が裁判所に審決の違法のほかに当、不当についての判断権またはその変更権を与えているかのように規定していますのは、裁判の性格にかんがみ適当でないと考えられますので、これを削除するとともに、これに伴って、同法第八十三条中の字句を整理いたしております。
次に、第七条の土地調整委員会設置法の改正におきましては、同法第五十五条及び第五十六条の規定を改め、委員会は、申請を認容した裁定を取り消す判決が確定したときは、判決の趣旨に従い、あらためて申請に対する裁定をしなければならないとしておりますが、この趣旨は、かような実質証拠の有無が裁判所の判断の対象となるものにつきましては、取り消し判決の拘束力が行政事件訴訟法案第三十三条第三項の規定だけでは、明らかでないばかりでなく、従来、この点については、解釈上疑義があったところでもありますので、特にこれを明らかにすることにいたしたものであります。なお現行の同法第五十五条第一項を削りましたのは、先ほど申し上げました独占禁止法第八十二条第二項を削除したのと同趣旨でありますし、さらに第五十三条第三項を改めましたのは、独占禁止法の建前と同様に新証拠の取り調べの必要があるときは、裁判所は、事件を委員会に差し戻すこととするためのものであります。
次に、第十五条の弁護士法の改正におきましては、同法第十六条または第六十二条の規定が処分の違法または不当を理由として訴えを提起することができるといたしておりますうち、当、不当を理由とする点は、さきに申し上げましたように不適当でありますので、これを削るとともに、所要の字句の整理をいたしております。
次に、第四十三条の性病予防法の改正は、同法第二十五条を行政事件訴訟法案第三条の規定に応じてその表現を改めましたもので、その実質には何ら変更はございません。
次に、第百四条の労働組合法の改正におきましては、同法第二十七条第八項の規定の趣旨が、行政事件訴訟法案第十条第二項との関連において従来以上に明確を欠くことになりますので、これを削除いたしまして、そのかわりに新たに使用者は、中央労働委員会に再審査の申し立てをしたときは、その申し立てに対する中央労働委員会の命令に対してのみ、取り消しの訴えを提起することができるといたしますとともに、この訴えについて行政事件訴訟法案第十二条第三項の規定の適用がない旨を念のため明らかにすることにいたしております。また、同法同条第十一項の規定につきましては、従来から解釈上の疑義が少なくありませんでしたので、この際、この訴えに準用または適用される規定の範囲を明確にいたすことにしたものであります。
次に、第百十八条の地方自治法の改正におきましては、同法第七十四条の二における署名の効力を争う訴訟については、その性質上これを専属管轄とするのを適当といたしますので、その旨の規定を置くとともに、この訴訟についての行政事件訴訟法案の規定の適用関係を明確にする規定を置くことといたしております。
次に、第百二十一条の公職選挙法の改正におきましては、まず同法第二百十九条の選挙訴訟または当選訴訟に関する訴訟法規の適用について、行政事件訴訟法案第五条及び第四十三条との関連において、規定の整備をいたすことといたし、同法案の諸規定の準用において、この種訴訟の迅速処理の必要から関連請求の併合等を所要の場合以外は制限し、また、この訴訟の性質上準用するのを不適当とする規定を除外することといたしております。また、このような訴訟法規の適用についての規定の整備は、第二十四条の選挙人名簿に関する訴訟についても同様の趣旨に基づきこれを行なっております。次に同法第二十四条、第二百三条、第二百四条、第二百七条及び第二百八条の訴訟における被告適格についての規定が不備、不統一でありましたのを改め、いずれも選挙管理委員会または中央選挙管理会を被告とすることに統一し、また、第二十四条の選挙人名簿に関する訴訟の管轄を専属管轄とするを適当と考え、その旨の規定を設けることといたしております。
その二は、第十九条における国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律を一部改正いたしました点であります。その改正点の一つは、同法第五条に一項を加え、下級行政庁が当事者または参加人となる訴訟についてその上級行政庁の職員を指定代理人となし得る道を開いた点でありまして、これは、行政事件訴訟法案がその第十条第二項に規定しておりますように、いわゆる原処分中心主義を採用いたし、下級行政庁を当事者または参加人とする訴訟の増大が予想されますので、現行租税法規のとっている建前を一般化して、これに対処することとしたものであります。第二の改正点は、同法第七条として一条を新たに加え、地方公共団体その他政令で定める公法人の事務に関する訴訟について、これら公法人の求めがあるときは、法務大臣においてその所部の職員を指定代理人とすることができることにいたした点でありますが、このうち地方公共団体の事務に関する訴訟につきましては、地方自治の本旨を考慮しこれとの調整をはかった規定を置くことといたしております。なお、現行法規におきましては、各種公法人の訴訟につき法務大臣が監督する旨の規定が多々ございますが、これらの訴訟につきましては右第二点の改正によりまかなうことといたし、法務大臣の監督規定は削除することといたしました。第八条、第二十三条、第三十三条、第四十六条、第五十七条、第八十二条、第八十三条、第百十六条、第百二十二条による改正がそれであります。なお、現行の職業安定法第六十条の規定も不要の規定でありますので、第百七条による改正でこれを削除いたしております。次にその三は、取消訴訟の出訴期間に関する特別規定を整備いたした点であります。この出訴期間が短期に過ぎることは望ましくありませんので、第十五条、第四十二条、第百二十四条における弁護士法等の改正により短期の出訴期間を調整いたし、また、取消訴訟についての特別の出訴期間が現行法上不変期間であるかどうか必ずしも明確でありませんので、第三条、第七条、第六十七条、第百四条、第百二十四条における諸法規の改正により、これを不変期間とすることを明らかにいたしております。
次にその四は、現行諸法規における訴訟に関する規定のうち不必要なものを整理することにした点であります。まず、河川法等若干の法規におきましては、旧行政裁判所時代の訴訟に関する規定が未整理のまま現行法として残存し、そのため解釈上無用の疑義を生じておりましたので、第百十条ないし第百十二条、第百十五条における改正によりこれらの規定を削除することといたしております。また、行政処分に対し裁判所に出訴することができる旨の規定を置いている法規が少なくありませんが、これは当然のことを規定しているにすぎませんので、基本法たる行政事件訴訟についての法律が整備されるこの際、これら不要の規定を第五条、第六条、第二十条、第二十一条、第二十九、第三十条、第九十四条等における改正により削除いたすこととしております。さらにまた独占禁止法、海難審判法においては執行停止に関する規定を特に設けておりますが、行政事件訴訟法案において、執行停止制度が整備されることになっているのに関連して、不必要なばかりでなく、かえって疑義の生ずる余地を残すことともなりますので、第三条、第九十七条における改正によりこれを削除いたすことにしております。
次に改正項目の第二といたしまして、特定の処分につき訴願を前置する規定を設けることにいたしました点について申し上げます。この趣旨並びにその選定基準につきましては、すでに提案理由の説明において明らかにされたところでございますが、さらに若干これを敷衍して御説明いたしますと、現行法上訴願ができる処分は、訴願法によるものと特別法によるものとを合わせて、約三百に達する法律に規定されており、また、行政不服審査法案によりさらに広く概括的に認められることとなるわけでありますが、そのなかから特に訴願を前置する必要のある処分に限ってこれを前置する規定を置くこととし、その選定にあたりましては、提案理由の説明にありました三つの基準に照し、これに合致するもののみを認める方針のもとに各種行政法規に規定されています処分をしさいに検討し、その結果、五十数個の法律のみを取り上げることといたし、さらにこれらの法律において規定される処分についても、できるだけ特定の処分に限定してこれを認めることといたした次第であります。これを本法律案の条文別に申し上げますと、第一条ないし第三条、第九条、第十二、十三条、第十六条ないし第十八条、第二十二条、第二十七、二十八条、第三十二条、第三十四、三十五条、第三十七条、第三十九条、第四十七条ないし第五十五条、第五十九、六十条、第六十二条、第六十七、六十八条、第七十条ないし第七十四条、第七十八条ないし第八十一条、第九十二条、第百二条、第百五、百六条、第百八条、第百十条、第百十七条ないし第百十九条、第百二十三条、第百二十五条による改正でありまして、これを選定基準との比較において申し上げますと、大量的処分としては恩給法、生活保護法、健康保険法、農地法、鉱業法、地方税法等が、専門技術的処分としては核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、外国為替及び外国貿易管理法、外資に関する法律、計量法等がこれに当たり、さらに第三者的機関によって裁決がなされる処分としては、犯罪者予防更生法、関税法、文化財保護法、道路運送法、建築基準法、国家公務員法等がこれに当たるものと考えたわけでございます。
次に改正項目の第三として、各種行政法規に規定する処分のうち若干のものについて、いわゆる裁決主議を規定いたすことにしております。行政事件訴訟法案第十条第二項は、取消訴訟において原処分の取り消しの訴えをもって本則とする建前をとっておりますが、特定の処分につきましては、その処分の性質、裁決の手続及び性質等を勘案いたしますと、原処分でなく訴願の裁決のみを訴訟の対象とするのを適当とするものがあるわけでありまして、現行法上も海難審判法、特許法、土地調整委員会設置法等において、その趣旨の規定が見受けられるのであります。本法律案におきましても、かような見地から諸種の法律に規定する処分を検討し、現行法の規定するもののほかにも、若干のものについては、その性質上、裁決主義をとることを適当と認め、その旨の規定を置くことといたしております。その一は、農産物、船舶、計器等が所定の基準に合致するかどうか等の技術的検査につきましては、検査についての不服申し立てに対して行なわれる再検査の結果のみを訴訟で争うこととするのが妥当と考えられますので、第二十四条、第二十五条、第六十一条、第六十三条、第六十九条、第七十二条、第八十五条においてその旨の改正を行ない、また、その二として、土地改良法におけるように訴願の裁決が実質的には最終処分に当たると考えられるものにつきましても、これのみを争うこととするのが妥当でございますので、第四十二、第五十八条、第百二十三条による改正によりその旨の規定を置くことといたしました。
改正項目の第四といたしまして、各種行政法規における損失補償の額等を争う訴訟についての規定を整備いたしております。これらの訴訟につきましては、土地収用法、特許法等最近の立法にかかるものでは、起業者等実質上の当事者を被告とする旨を定め、当事者訴訟といたしておりますが、数多くの行政法規においては、いまだに行政庁が損失補償の額等を決定する旨の規定をされているのみでありまして、そのためこれを争いますには、当該決定をした行政庁を被告とする抗告訴訟の形式によらざるを得ないこととなるわけであります。しかし、それでは額そのものが直接に判決で決定されないため、これを争う国民にとって不便であるばかりでなく、その争訟の性質にも適合しないと思われますので、行政事件訴訟法案により当事者訴訟の規定が整備されるこの際、それらの損失補償等の額についての行政庁の決定を争う訴訟は、これをすべて当事者訴訟といたすことにしたのであります。本法案における第二十六条、第三十六条、第三十九条ないし第四十一条、第四十四、四十五条、第五十六条、第五十九条、第六十一条、第六十四条ないし第六十六条、第七十三条、第八十四条、第八十六条ないし第八十九条、第九十五、九十六条、第九十八条、第百一条、第百十一条ないし第百十五条による改正がそれであります。また、これらの訴訟についての出訴期間の規定が不備、不統一でありますので、第九、十条、第九十六条、第九十八条による改正により新たに出訴期間を定め、また、第三十八条、第七十三条、第七十五条ないし第八十条、第九十三条、第九十九条、第百一条、第百九条による改正により、あまりに短い出訴期間を適当な期間に延長するとともに、第三十九、四十条、第九十二条による改正により、あまりに長い出訴期間はこれを適当の期間に短縮することといたしました。なお、補償額の決定につき行政上の不服の申し立てを許し、これに対する決定が実質的な処分と認められますものについては、不服の申し立てに対する決定に対して当事者訴訟を認めるのが適当でございますので、第九条ないし第十一条による改正によりその旨の規定を設けることといたしており、また、補償額について行政庁の決定を介在させることの要がないものについて、第三十一条により所要の改正を行なっております。
以上が本法律案における本則の大要でございますが、これまで言及いたしませんでした第四条、第十四条、第九十、九十一条、第百条、第百三条、第百二十条による改正は、いずれも単に行政事件訴訟法案または本法律案の他の規定との関連等における字句の修正または準用条文の変動による整理をいたしておるものにすぎません。
最後に、附則について、申し上げます。
附則第一項は、本法案の施行期日につき、行政事件訴訟法案と同様、今年十月一日から施行いたすことにしております。附則第二項は、経過措置に関する一般原則を規定したものでありまして、通常の例にならったものであります。附則第三項は、本則においてすでに申し上げましたように、新たに若干の処分について裁決主義を採用いたしましたが、本法施行の際現に係属している原処分についての訴訟については、なお従前の例によることにいたしたのであります。附則第四項は、本則において若干の裁判管轄を専属管轄といたしましたので、本法施行の際現に係属している訴訟については、なお従前の例によることとして無用の混乱を防ぐことにいたしております。附則第五項は、本法案で取消訴訟及び当事者訴訟の出訴期間を整備いたしておりますが、中には出訴期間を短縮したものが若干ありますので、本法施行前の処分についてのかかる出訴期間は、なお従前の例によることとし、逆に出訴期間を延長したものについては、本法施行前の処分で本法施行の際その出訴期間が満了していないものについては本改正法を適用いたすこととしております。附則第六項は、すでに申し上げましたように、損失補償の額等を不服とする訟訴について新たに出訴期間を定めたものがありますので、本法施行前の処分についての出訴期間を本法施行の日から起算いたすこととしたものであります。附則第七項は、本法案において損失補償の額等を不服とする訴訟を当事者訴訟といたしたものが数多くございますが、本法施行の際抗告訴訟として係属いたしておるものについては引き続き従前の例によるといたしますとともに、当事者の便宜をおもんぱかって当該訴訟を当事者訴訟に変更する道を開いたものであります。附則第八項は、右の訴えの変更につき所要の規定を準用いたすことにしております。附則第九項は、本法案で公職選挙法における訴訟に関する規定を改正いたしておりますが、同一の選挙等については、同一の法律が適用されるのが望ましいわけでございますので、改正規定は、その施行後に行われる選挙等についてのみ適用することといたしたわけであります。
以上、簡単でありますが、本法案の説明を終わります。説明の不十分な点につきましては、御指摘により、なお補足申し上げることにいたしたいと存じます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/5
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006・河本敏夫
○河本委員長 次に両案について質疑を行ないます。
質疑の通告がありますので、これを許します。猪俣浩三君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/6
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007・猪俣浩三
○猪俣委員 行政事件訴訟法案についてお尋ねいたしたいと思います。
今回の法案は現行法よりもすぐれた点もあると思います。現行法が行政権優位の思想から立案されておるのに対しまして、改正法は人民の権利、自由の尊重の民事訴訟法的色彩を濃厚にしました立案でありまして、その点におきましては進歩の跡があると思うのであります。ただ単に行政の自己簡素化や自己統制を尊重するという色彩から民事訴訟的な色彩にしたということは進歩だと思いますが、ただ、これを全体通観いたしまして、なぜその進歩思想を貫くことができなかったのであるか、どうもそういう建前でありながら、条文個々の間にはやはり昔の行政権尊重のよろいの袖が見える、これがはなはだ遺憾だと思うわけであります。全部的に質問する時間がございませんが、その一つの現われといたしまして、第八条、これに訴願前置主義排除の趣旨に対しまして非常な例外を設けておる。それは第八条のただし書きに「法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。」こういうような規定、そうすると、いろいろな法律にかような趣旨を規定しますと、やはり現行法のような訴願前置主義と同じことになりはせぬかと思うのですが、訴願前置主義を排除するという建前からかような例外規定、しかも法律に規定があれば全部それが例外になるような包括的な規定になった。これは一体どういうわけであるか、それを御説明願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/7
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008・浜本一夫
○浜本政府委員 お答えを申し上げます。訴願前置の主義がいいか、あるいは訴願前置を廃して、申し上げますならば訴願と行政訴訟との並行を認める、つまり並行主義とでも申す主義がよろしいのか、これは現在においても定説を見ないと言ってもいいような状態であります。ただ、どちらかと申しますと、実務をとる側では並行主義の方がいいという主張が多いように見受けられます。ただしかし、学者の間にも必ずしも一説に固まっておるわけではございませんので、御承知いただきましたように、前回参考人として意見を聴取されました方々の学者の側の多くは、むしろ訴願前置の方が望ましいというように述べられておったとろでございます。
そこで私どもも、いずれをとりますかにつきましては、本法案の改正のために審議をいたしました法制審議会の段階におきまして、実に長い期間にわたって、また広い資料にわたって、各方面の意見を徴したわけであります。その結果としてできましたのが、本法案にありますように、原則は並行主義、すなわち行政処分があれば、それに対して訴願が許される場合におきましても、直ちに訴願とあわせて、もしくは訴願することなく行政訴訟を起こせるということを原則といたし、必要があれば若干のものについては例外として訴願前置を認めるということを根本といたした次第でございます。また、例外として訴願前置を認めるものにつきましても、法制審議会の段階におきまして、先ほど提案理由並びに逐条説明で申し上げました、大量的に年々繰り返しなされるような行政処分、あるいはその行政処分の内容が専門技術的な事項にわたるような処分、それからまた訴願の裁決が行政権から独立をした——独立をしたと申しましても、普通、裁判所が行政権から独立をしたというふうな完全なものとは認められないにいたしましても、処分をする行政庁から第三者的構成で比較的客観的、公平に裁決をなされるような構成をとっておるものについて、この三種類のものについては例外として訴願前置を認めてよろしかろうという答申を——それは答申の形ではないのでありますが、答申をする理由としてそういったものが根本理由になっておったわけであります。
そこで私ども、本法案並びに整理法案を作ります際に、各省各庁別にわれわれの方で原案を作り、また担当行政庁の説明をよく聞きまして、はたしてそれらの処分がこの三つの例外基準に該当するものと考えてよろしいかどうかということを厳密に調査研究いたしまして、各省との間に意見の調整をはかり、ただいま提案申し上げました整理法案に盛られておるような五十数個の行政処分につきましてのみ訴願前置を要件とすることといたしておるものでございます。諸外国の立法例を見ましても、むしろ、諸外国の方では訴願前置を前提としておるものが多いような様子でありまして、前置を全面的にはずす、あるいは原則的にはずすというのは、わが国の本法案がむしろ唯一と言ってもいいかと思われるような状態であるように私ども承知いたしておるのであります。もちろん、その二つの建前による功罪は、それぞれ説明あるいは争われはいたしましょうけれども、私どもは、現在まで六年の長きにわたって研究した結果、結局この結論に到達したわけでございますので、何とぞ御了承いただきたいと存ずる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/8
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009・猪俣浩三
○猪俣委員 諸外国にはかえって訴願前置主義が多いというような御説明でありますが、あるいはまた、諸外国を見ますと、執行停止についての詳細な規定、あるいは公の仮処分の申請の権利さえ与えられておるような場合もあるわけでありますが、そういう点については、今度の法案には、諸外国から見ますと、この権利尊重に対して欠くるところがある規定が多々あるわけであります。その辺にどうも均衡がとれておらないと思われるわけでありますが、これは聞くところによると、各省の行政庁から法務省に対して訴願前置主義を認めるよう強い働きかけがあった。そこでその妥協の産物としてこういう規定が置かれたように聞いておるのでありますが、ただこの第八条の精神をお聞きしただけでありますから、その点は省略いたしまして、次に、この改正法案のいうがごとき進歩的精神、すなわち人民の権利、自由の尊重、基本的人権の尊重、そのことが基本となって立案されたという趣旨と相いれないような規定だと思われますのが他にもありますけれども、その最たるものは内閣総理大臣の異議を認めた二十七条ではないかと思うわけであります。そこでこれには実は幾つかの疑義があるわけでありまして、第一は、この規定を見ますと、内閣総理大臣は裁判所に対して異議を述べることができる、異議は執行停止の決定があった後でもできる、こういうことになっておる。そうしてこの異議には理由をつけなければならない。ところが、お聞きすることは内閣総理大臣のこの理由です。「内閣総理大臣は、処分の効力の存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとする。」そういう理由をつけなければならぬ。それはわかるのですが、内閣総理大臣の認定したような、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるのかないのかということに対して、一体はたして裁判所に審査権があるのかないのか、それはどういうふうに解釈なさるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/9
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010・浜本一夫
○浜本政府委員 事柄は最後の御質問の趣旨が一番肝心かと思うのでありますが、公共の福祉に重大な影響があるかどうかという審査権は、実は理由が付してあれば裁判所にはないものと私ども考えておるのであります。全般的にこの規定については、今猪俣委員からおっしゃられるように、賛否両論が強く戦わされまして、この法案を作ります基礎になった法制審議会の過程におきましても、慎重に考慮をした次第でございます。おっしゃるように、この規定は、人民の権利を保護するという抽象的な建前からは、あるいは非難を受けるおそれのある、またその非難には十分の理由がある現定ではございますが、具体的事案によりましては、やはりかような制度を存置する必要があるというのが法制審議会における結論でもあったわけであります。一例を申し上げますと、選挙を行なおうというときに際しまして、市町村の配置分合あるいは境界の変更などがございまして、その行政処分について行政訴訟が起き執行を停止されますと、実は選挙というものが事実上行なえないような事態が発生する例も、従来においてわれわれ経験いたしたのでございます。もちろんさような場合には裁判所で十分御考慮願えるものと私どもは期待いたすのでございますが、何分にも行政訴訟は、提起するとたんに簡単な疎明に基づいて裁判所は決定をされます。しかもまた、それについて行政庁側の意見を求めるに際しましては、長くて一週間、あるいは急ぐときには電話で三日の間に意見を述べよというように催告を受けますので、事柄が中央行政庁に近い近辺でありますれば、それでも十分なのでありますが、何分僻遠の地方裁判所に事件が起きております際には、行政庁側の準備は十分間に合わないような事態がございまして、行政事件訴訟特例法施行中におけるわれわれの経験からいたしましても、実にあわてたような事態がございましたので、法制審議会でさような結論を得ましたことを、私どもも実はその方がいいと考えまして、その結論に従いましてこういった制度を準備いたしたのでございます。先ほど申し上げましたように、なるほど抽象的には、人民の権利を保護するという建前からすれば、あるいは非難を受ける、あるいはその非難には十分な理由が考えられはするのでありますが、内容の事柄は行政と裁判との調整の微妙なところでございますので、もちろんこれは伝家の宝刀として、めったにとるべき措置ではございませんが、制度といたしましては、私どもやはり、今でもこういった制度が必要であると確信いたしておる次第でございますので、何とぞ御了承願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/10
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011・猪俣浩三
○猪俣委員 一体こういうふうな、行政庁の長が裁判所の決定に対して異議を申し述べると、裁判所はその決定を取り消さなければならぬといったような規定が、諸外国の例にあるかどうか、それをお聞かせ下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/11
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012・浜本一夫
○浜本政府委員 猪俣委員のおっしゃいましたように、実はこの制度は外国には例を見ないところでございます。しかしながら、行政訴訟におきます裁判所のなす執行停止の決定と申しますのは、なるほど形式的には訴訟事項とされておりますが、その実質的な内容は、それ自身が一種の行政的なものであることは、これまた学者の説の一致するところでございますので、これに対して行政の最高責任をもつ内閣総理大臣が異議を述べることによって、その執行停止の効力を滅却するようにはかるということは、必ずしも純粋には行政の司法に対する違法なる侵害である、あるいは干渉であるというふうに解する必要はないものと私どもは考えておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/12
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013・猪俣浩三
○猪俣委員 諸外国には例がない、しかるに日本だけが現在の特例法にはある。どういうところからきているか、沿革があるわけだ。これはアメリカの占領政策からきている。つまりアメリカの間接統制からきているわけです。だから日本だけにそういう規定があるわけです。ですから私どもは、今日特例法を改めるとするならば、ほかの方はいざ知らず、総理大臣の異議だけは削除するであろうと思っておったのです。私のところへ朝日新聞の記者が来て、今度行政事件訴訟法案というものができたが、これは非常に進歩的なものである、社会党でも反対しないでいいようなものである、訴願前置主義はやめたし、総理大臣の異議もやめたのだというようなことを言うてきましたから、それならよかろう、社会党も反対せんがための反対をするわけではないのだからということを言いましたら、それは朝日新聞に出ている。どういうものだか、新聞記者には草案やそういうものはさっさと配りますが、われわれのところには配ってくれない。これは刑法の改正準備草案についても、私は法務大臣に言ったことがある。ところが新聞記者やその他の人たちは、衆議院の法務委員をやっている以上は、自分たちのところに内示がある以上、もう法務委員には内示があるものだと思い込んで、われわれに意見を聞いてくる。われわれ材料は何にもないのです。これは私本末転倒しているのではないかと思うのだ。今回のこれについても、新聞社はちゃんと知っておるが、われわれは知らない。しかるに新聞記者はさっさと意見をとりにくる。だから彼らから材料を出してもらって、それに対して意見を言うというようなことなんです。ところが、この国民の権利義務の尊重、国民の自由の尊重を貫いたと称しまするこの法案を見まするのに、内閣総理大臣の異議というものは、なお装いを新たにして出現しておる。これははなはだ私どもは奇怪だと思う。世界に前例のないようなものを挿入してきている。第一、筋が通らない。裁判所が、公共の福祉に何も重大な影響があるものではないとして執行停止の決定をしているにかかわらず、内閣総理大臣が異議を申し立てれば、それを取り消さなければならぬ。これはいわゆる司法的判断と行政的判断との衝突であって、すでに裁判制度に乗せているものについて、行政的判断を優位せしめるという、まことに筋の通らぬ問題であります。どうしてこの筋が通るのです。裁判所が公共の福祉に差しつかえないと判断を下す、そこで執行停止をしている。それに対して行政庁が異議を申し立てると、裁判所は取り消さなければならぬ。これは私は裁判所に対する侮辱であると思う。こういうことが一体筋の通ることであるかないか。これは憲法の七十六条の精神に違反していると思う。憲法の七十六条は、あらゆる特別の裁判所を否認しています。司法裁判所だけに裁判を集中して、特別の裁判所を否認している。「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」とも書いてある。「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立して職権を行ひ、」とも書いてある。裁判所が独立して良心に従って、公共の福祉に差しつかえないとして執行を停止したものを、行政機関である内閣総理大臣が異議を申し立てれば取り消さなければならぬ。こういうことがわが国の裁判機構として許されることであるかどうか、これに対する御意見を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/13
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014・浜本一夫
○浜本政府委員 お答えを申し上げます。先ほど私が申し上げましたように、事柄は抽象的に申し上げますれば、あくまで人民の権利保護という建前からは逆行しているという非難を受けざるを得ないことは私も認めざるを得ないと思うのでありますけれども、何分裁判所は、諸般の事情を考慮すると申しましても、事柄は裁判であります以上は、その理由を理由づけるところの資料は当事者の提出するものに限られるという、まあいわば視野が限られた場面においてのみしか判断できない性質の裁判であります。ことに執行停止と申しますのは、先ほど来私が申し上げておりますように、行政訴訟を提起すると同時に、とたんに急速に簡単な疎明だけを付しまして申請をいたします関係上、裁判所は、諸般の考慮をするという材料がきわめて限られた場面に立ち至るのでありまして、必ずしも裁判所が執行停止をなされたのが妥当であるかどうかということについては、それほど——まあ言えば、裁判所側から考えられましても、それほどかたい確信があるような事案に限っておるものではないのでございます。ことに決定が出る前に行政庁の意見を聞かれるのでありますが、その行政庁は、ただいま申し上げましたように、中央まで連絡をして、十分の措置を講ずるいとまのない早々の間になされる種類の決定でございますので、裁判の方法としてこれを争う道を講じただけでは、実は十分ではないような事態が間々予想されるところでございます。さような場合には、とりあえず内閣総理大臣の異議によってその執行停止の効力をさらにとめてもらう必要がある場合がわれわれの経験上ございますので、抽象的には、人民の権利の側からは好ましくないということも私どもは十分考慮いたしたのでございますが、そういった諸般の考慮から、なお改正法におきましてもこの制度を存置する必要があると考えたものでございますので、何分御了承を願いたいと存ずるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/14
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015・猪俣浩三
○猪俣委員 実際の運用に弊害がない、事実問題としては便利だ、私どもはそういうことを聞いているのじゃないんです。これを裁判機関に乗せた以上は、司法の優位を認めなければ筋が通らぬ。司法的判断と行政的判断がちくはぐなままに行政的判断が優位になるということは、わが国の裁判機構上大いなる問題である。実際問題としてどうというのじゃないのです。筋道の問題、建前の問題です。なお言いますならば、内閣総理大臣といえども行政庁の最高長官だ。そして今日、この行政事件訴訟法の被告は行政庁そのものであります。その行政庁のかしらが内閣総理大臣である。その訴訟の相手の被告の立場の者が、裁判所の判断さえ取り消すことのできる発言権を持つということは何ごとですか。これは現代裁判所構造に対する、全くその機能を打ち破る論理ではございませんか。当事者である以上は、国といえだも一個人の被告となって立つということが現在の民事訴訟の裁判機構の中心であります。その被告の一人が異議を申し立てることによって、裁判所の判断そのものを取り消さしてしまう。そしてしかも、その異議が適法であるかどうか、ほんとうに公共の福祉を阻害するだけの理由になっているかどうかという総理大臣の異議の申し立ての理由については何らの判断権がない。そして自分のやった執行停止の判断はこれを取り消さなければならぬ。これと現代の民事訴訟あるいはその他の訴訟形態とどう調和するのであるか。これは高度の政治問題であります。これは立法において訴願前置主義を貫き、行政庁の自己監督、自己統制を中心とするなら、それでいい。しかし、一たんこういうふうな訴訟制度に乗せて、裁判機構の運転にまかせる態度をとった以上は、その筋をくずさぬようにしなければ、わが国の裁判機構そのものに大きなひびを入らせることになる。こういう大きな命題が含まれていると思いますが、これに対して法務大臣の御所見を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/15
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016・植木庚子郎
○植木国務大臣 御指摘の裁判所の決定に対しまして、内閣総理大臣の異議の申し立ての制度を、今回も、それについては非常に固い、強い条件も付しまして存置することに御提案を申しておるわけであります。この点に関しましては、ただいま猪俣先生も御指摘の通り、あくまでも裁判権の独立という建前から考えますと、一つのりっぱな筋が通っていると思います。しかしながら、われわれがこの条項を存置いたしましたゆえんのものは、やはり裁判所の決定が、先刻来政府委員からも説明申し上げております通り、時に公共の福祉の点から考えまして、どうしても忍び得ない、行政の最高機関であります総理大臣として、これはどうしても公共の福祉上放置するわけにいかないというような判断が起きました場合に、先刻来申し上げましたような趣旨での異議の申し立てができ、それによって、執行停止になったものでもその執行停止が取り消されることになるということに相なっております。事は非常に重大であります。従いまして、この規定には条件を厳重につけ、しかもこれについては国会にこの点を御報告いたしまして、その最後の政治的の判断を仰いで、政治的責任を明らかにするというような措置を講じている次第でありまして、実際問題として、裁判所の決定と行政的見地による総理大臣の判断とが違う場合はあり得ると思います。また、理論上もあり得ます。しかしながら、実際上の問題として、これがあるからといってひんぱんに行なおれるようなことでは、それこそ御指摘の通りの裁判権に対する行政権の強い干渉ということにもなりますし、また国民の権利を尊重していく、擁護していくという建前からいきましても、これはいかがかと考えられます。従って、容易にこの条文は運用すべきものではなく、ほんとうにどうしてもこれは公共の福祉上放置できないのだという場合、すなわち伝家の宝刀として切めてこれが働く場合があり得るというふうに考えている次第であります。この点くどうございますけれども、万一の場合を想定いたしまして、やはりこういう条文も残しておく必要があるという判断のもとに御提案を申し上げて、お願いをいたしているような次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/16
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017・猪俣浩三
○猪俣委員 民主政治の発達している国、イギリスは政党内閣制をとっております。アメリカはそうではありませんけれども、いずれも民主政治のチャンピオンとされている。こういう国におきましては、行政権の抑制機能というものを厳重に制度的に樹立している。イギリスの最高裁判所長官は内閣総理大臣よりも地位が上にある。アメリカにおきましても、アメリカの連邦最高裁判所は政府の政策に対して十分なる抑制的の働きをしている。内閣総理大臣といえども政党の首領であります。池田勇人氏は自民党の総裁だ。そうして自民党は国会に多数を持っている。多数をもってすればいかなることでも、法律もでき得る立場にある。行政権と立法権を一手に政党は握っている。昔の専制政治よりもなお強力な実権を持っているのが政党政治の実際である。内閣の閣議の申し合わせにおいて、総理大臣の異議の発動は、法務大臣と当該省の長官との合議の上で内閣総理大臣に進言し、内閣総理大臣がこれに従って所信を断行するという手続になっているようでありますが、しかし、いずれもみな政党人でございます。法務大臣しかり、各省の各大臣しかり、内閣総理大臣しかり。ですからその意味において、行政権のあやまちに対し、これを是正、抑制することを裁判所にまかせ、裁判所に絶大なる権能を持たせるということは、近代の民主政治の国家ほどさような制度になっている。だから外国にはこんな内閣総理大臣の異議なんという制度はありません。これが民主政治の発達した国の姿である。日本は民主政治では十二才だといわれるが、その趣旨からこういうものを置いたといえばそうかもしれませんが、それでは私どもは、進歩的法案と称せられているこの法案の生命を失うと思う。そういう政党内閣、政党政治ということも考慮に入れなければならぬわけでありまして、これは伝家の宝刀と称する、そんなものを持っている必要はありません。裁判所にまかせてよろしい。裁判所を信用しないからこういうものを伝家の宝刀として持つことになる。結局、裁判所を信用するか、内閣総理大臣を信用するかという問題だ。今申し上げたような政党内閣制度においては、厳正中立の立場の裁判所を信用することが常識であります。こんな伝家の宝刀を持つ必要がどこにあるかと思う。裁判機構そのものに判断をまかせた以上、その裁判の機能を十分発揮せしめるよう立法することが、これが国民の権利、自由の確保のために近代の国家が制度として樹立しているところであります。私は、はなはだこれは遺憾に思う。
そこで立案者に聞きますが、これは法務省だか、これを審議した審議会だか知りませんが、全国の下級裁判所並びに弁護士会その他の法曹界の世論を問うたはずである。その結果をここで発表して下さい。この総理大臣の異議を存置すべきか、あるいは削除すべきかについて、いわゆる国民の基本的人権を守る第一線の裁判所及び弁護士会に対して、その賛否の意見を徴したはずでありますから、その結果を御発表願いたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/17
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018・浜本一夫
○浜本政府委員 お答え申し上げます。法制審議会で、その審議がある程度進んだ段階におきまして、裁判所の方は、最高裁判所があるいは意見を徴せられたことが実はあるのだと私思う。また間接に聞いてはおるのであります。必ずしも下級裁判所の全部が全部異議の制度に反対であるというふうな一致した、統一された意見ではなかったように私ども聞いております。それから弁護士会の方は、実は先ほど猪俣委員は、新聞社だけ知っておって、私どもは知らぬというふうにおっしゃられたのですけれども、弁護士会の方からは法制審議会に委員が出て、その審議には絶えず参加しておられます。そこで最後の答申をなされるにあたって、そういった方々からの強い意見もございました結果、法制審議会の最終答申案が弁護士会の方からも賛成を得られまして、答申がなされたようなわけでございます。裁判所が下級裁判所に意見を徴したその結果について、私ども実は確聞はしておらぬのでありますが、全部が全部一致して反対ではなかったというふうに聞いております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/18
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019・猪俣浩三
○猪俣委員 あなたの言うことは、ちょっと違っておると思うのだ。これは最高裁の事務局で下級裁判所の意見を聞く、それから審議会だか法務省だか知りませんが、各新聞社に草案を回したような場合に、弁護士会もやったのだろうと思うのです。この日本弁護士連合会の会員であり、なおまた審議会のこの立案に当たりました委員の一人の高木右門氏の書いた論文を見ますと、この案に対して日本弁護士連合会は全面反対、最高裁事務総局の意見聴取に答えて、下級裁判所の圧倒的多数が反対、存置賛成論者は行政庁だけにすぎない、どういうことを発表しておりますが、これは違っておりますか。あなたは世論の結果はわからぬのですか。どこか統計をとっておる人はありませんか。——わからなかったならば次会に、この日本弁護士連合会あるいは全国の下級裁判所が、この総理大臣の異議に対して、存置論が何ぼで、廃止論が何ぼであるか、その統計を出していただきたい。法務大臣、よろしゅうございますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/19
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020・浜本一夫
○浜本政府委員 私からお答えを申し上げます。おっしゃられましたような高木右門氏の論文発表を私も承知いたしております。また最高裁判所事務総局が全国の下級裁判所に意見を徴されたということがあることも私聞いてはおりますが、そういった資料としては私ども得ておりません。その結論が、高木右門氏の圧倒的多数の反対というふうに言われるものかどうか、私、その資料そのものを持っておりませんので、圧倒的多数という表現が正しいかどうかは別といたしまして、下級裁判所のうちにも存置論に賛成する意見もあったように私ども聞いておるのであります。また、法制審議会の委員のうちにも、必ずしも行政庁側だけではございません。また委員の個人々々に御迷惑が及んではどうかと思いますが、必ずしも行政庁だけが賛成したものでもないと私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/20
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021・猪俣浩三
○猪俣委員 あなたの答弁はよくわからぬ。何だか弁護士会でもみんな大体賛成したようなお話があったから、私は——この高木右門君は「自由と正義」という日本弁護士連合会から出しておる機関雑誌にそういう論文を出した。これはあなたの答弁と違っておるから今質問したのです。あなたは実際は統計を見ていないのじゃないか。見ていての答弁じゃないのでしょう。それじゃわからぬじゃないか。高大君が言うのが間違っておるか、いや、そうじゃないのだ。あなたは結局弁護士会がみな賛成したのだとおっしゃるけれども、日本弁護士連合会の機関雑誌にちゃんと堂々と高木君が、しかもその審議会の委員が発表しているのだ。そこであなたにお尋ねしたのだが、審議会では弁護士会等に意見を徴したことがあるのですか、ないのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/21
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022・浜本一夫
○浜本政府委員 先ほど申し上げましたように、法制審議会の委員のうちには弁護士会から委員が出ておられますから、弁護士会の意見は審議の過程において常に表明されておりますし、最終の答申をいたします際に、当時の日本弁護士連合会の役員の方々も慎重に御協議を願いまして、実は最終の答申がなされたのでありまして、私どもは、その審議の経過におきましては、高木右門氏のおっしゃるようなことがあったと思いますが、最終の答申段階におきましては、当時の日本弁護士連合会の役員の方には御了承を願ったと私ども考えておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/22
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023・猪俣浩三
○猪俣委員 私のお尋ねしていることは、審議会の委員のだれとだれが賛成し反対したかをお尋ねしたのじゃないのです。法曹界の世論というものを聞きたいと思ってあなたにお尋ねしている。弁護士会から出た委員じゃないんです。弁護士会が何かそういう正式な回答をしたのか、弁護士会から出ている委員と弁護士会そのものとは違うのです。それから下級裁判所の判事の一人は賛成、一人は反対という場合もありましょうが、大体において、この高木君の論文によると、下級裁判所でも、内閣総理大臣の異議に対しては反対が圧倒的だ、こう書いてあるから、そういう数字があるのかないのかをお尋ねしたのだが、おわかりならなければ仕方がない。これは審議会に出ている委員が賛成したかどうかということじゃないのです。法曹界の世論の趨勢をお尋ねしているわけであります。たとえば「ジュリスト」という法律雑誌に、行政事件訴訟特例法改正要綱試案というものに対する諸問題として、一流の実務家及び学者が座談会をやっておる。その速記が出ておるわけですが、これを見ましても、新村という東京地方裁判所の判事のごときは徹底的にこの異議の制度について反対をしておる。あるいは中央大学の橋本先生も反対している。わずか数人の座談会のうちにも、この有力な人たちが反対しているわけであります。そこで私は世論がどうなっておるかをお尋ねするつもりでお尋ねしたわけでありますが、それはあなたおわかりにならなければやむを得ないわけです。
そこでなお、私どもがこれを心配いたしますのは、ここにありますところの公共の福祉、これは憲法にも規定があることでありますが、非常にあいまいな言葉であって、これを乱用いたしますならば、憲法の規定の大半は骨抜きになる。公共の福祉ということの概念というものが非常にばく然としておる。何を公共の福祉というなんということは定義ができないでしょう。ですから、アメリカの最高裁判所の判決のように、公共の福祉というものを消極的に限定するような判決が出ている。言論の自由に対して、これを押えなければならぬ場合はどういう場合であるかということで、例の具体的にして危険にして、それが差し迫っている特別の行為というふうにこの原則を認めて、消極的に公共の福祉の限界を定めておる。積極的に公共の福祉とは何ぞやということは、容易ならざる問題です。内閣総理大臣が、この公共の福祉の理解を非常に広めて考えるならば、みんな異議の申し立てができる。それに対して裁判所は判定権がないのだ。こんなことも公共の福祉だ、これも公共の福祉だと称して異議の申し立てをしても、その理由について審判権がないから、形式的に理由さえつけるならば、全部自分の執行停止の決定を取り消さなければならぬ。しかも、総理大臣といい、法務大臣といい、これはみんな政党人である。政党内閣制をとっている以上、相当そこに危険性がある。そこで、そういう政党内閣の公共の福祉の乱用の防波堤として、こういう行政事件訴訟特例法なんというものができているのであるが、その中に、かような内閣総理大臣の異議なんという、世界列国に類例のないものを持ち込んでしまったら、全くその初志が破壊されてしまう。政府はこれを削除する意思がございませんか。法務大臣の御所見を承りたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/23
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024・植木庚子郎
○植木国務大臣 政府当局といたしましては削除の意思はございません。従いまして、皆様の御理解を仰いでなるべく早く御審議をいただきたい、かように考えておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/24
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025・猪俣浩三
○猪俣委員 内閣総理大臣の異議についてはこの程度でとどめます。
今度新たに不作為確認の訴えといろのができておるのでありますが、これは不作為を確認するというだけで、要するに給付訴訟、義務づけの判決というものはこの法案でできる制度になるのかどうか。アメリカでもドイツでも、義務づけ判決というものが行なわれておると聞いているのですが、不作為を確認するというだけで給付の裁判ができるのかどうか、義務づけ裁判ができるのかどうか、その点はどういう趣旨になるわけです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/25
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026・浜本一夫
○浜本政府委員 お答え申し上げます。現行行政事件訴訟特例法のもとにおきましても、そういった訴訟が許されるのか許されないのか、もちろん明瞭でありません。また今回御審議願っております行政事件訴訟法案のもとにおきましても、どれだけの訴訟を行政訴訟として認めるのか、そのほかのものは認めないという列挙主義と申しますか、制限主義と言いますか、そういった態度は実はとっておらないのでありまして、通常の行政訴訟として考えられますもの、そういったものを例示いたしまして、これくらいについて比較的詳細な規定を——比較的という言葉ははなはだ不十分でありますが、われわれが考えの及ぶ限りの必要な規定を盛っておけばまずよかろうという建前から、今回の行政事件訴訟法案を作成いたしましたので、そこにあげてありません型の訴訟が行政訴訟として許されるものであるかどうかということは、将来の裁判所の判例を待ってきまるものであると私ども思うのであります。逐条説明でも申し上げた次第でありますが、あくまでも本法に盛っております類型は、通常考えられる類型だけをあげておりますので、あるいは私どもの考えの及ばぬ範囲、あるいはまた将来学説、判例によって開拓される分野で、新たに行政権の行使に対する不服の訴訟としてのそれらとは別の類型の訴訟が認められるようになるということは、十分予想し得るところであります。ともあれ私どもは、不作為に関する不服訴訟としては、不作為の違法確認という訴訟がまず一般に考えられるので、その類型を一つ設けたわけでありまして、それを越えて、さらに義務づけ訴訟や、あるいは給付の訴訟であるというものが認められるかどうかということは、将来の学説の進展、またはそれを採用する裁判例の進展に待つという態度を私どもとっておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/26
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027・猪俣浩三
○猪俣委員 どうもその点が少し不可解なんです。今度の、行政事件訴訟特例法を改正して行政事件訴訟法案を作るについては、今まで学説、判例である程度議論があった、一定しなかったものを明らかにするという努力をなされて、相当そういう努力が実っている点もあるのでありますが、この義務づけ訴訟ができるかどうかも、長い間裁判所の間においても解釈上議論のあるところでありまして、もうすでに顕著な議論の対象になっておるのみならず、アメリカにおいても、ドイツにおいても、みなある制度であります。ばく然として不可解な、将来どういうことが起こるかわからぬような対象じゃないわけであります。現在の問題である。どうしてこれをはっきり法文上示さなかったか。将来の学説、判例に待つというようなばく然たる問題でない。現在の問題として相当学者間で争われ、諸外国にもその制度があるのであります。どうしてこれを今回規定しなかったのであるか。不作為の違法確認判決をしても、官庁がその判決を無視してしまえば、それで国民の権利は守れることになるのかどうか。不作為に関する確認判決が出れば、それは官庁を拘束することになるのかどうか。不作為なんですから、執行停止じゃないのだから、やはりやらぬでおったらどういうことになるのか、なぜこれを法文上明らかにしなかったか、その説明をして下さい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/27
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028・浜本一夫
○浜本政府委員 行政庁が、あくまでもずるいと言いますか、考えをとって、判決があってもなおかつ処分をしない、これは私、おそらく考えられない状態であろうと思うのです。しかし、理論的には確かにおっしゃるようなことにも相なります。でありますが、行政処分にかわるような判決を裁判所ができるかどうか、することにした方がいいかどうかというと、現在の段階において、その点に議論をしぼって考えますならば、私ども、やはりできないという論の方が現在は多いじゃないかと実は思うのであります。それでありますから、事柄を現在の段階において明らかにしろとおっしゃいますと、あるいはそういった本法に類型としてあげていないような訴訟はできないんだという立法をした方が明らかには、確かになると思います。なると思いますが、おっしゃるように、そういった違法確認があっても、なおかつ行政処分をしないということが考えられる、だから義務づけ訴訟にした方がいい、あるいは給付訴訟にした方がいいという論も一方にはありますので、そういった点については今後の裁判所の健全な判例の発達にまかせた方がよかろうというのが私どもの結論なのでありまして、本法は決してそういったものを禁圧するという態度で臨んでおるのではございません。明らかにしておらぬとおっしゃられれば、まさに明らかにはいたしておりませんが、現在の段階で明らかにしろと言われますと、あえてそういうものを禁圧するという方に立法としては傾くおそれがあったかもしれぬと思うのであります。むしろ、明らかにすることによってそういったものを禁圧するよりも、将来、これからの裁判例の健全な発達に待った方がよかろうという私どもの結論がそこにあったものでありますから、あいまいであるという御非難はあえて受けなければならぬかもしれませんが、私どもの気持はそういうところにあったわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/28
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029・猪俣浩三
○猪俣委員 法務大臣は他に御出席の必要があるようでありますので、私は一点をお聞きいたしましてから、大臣はお引き取りいただいてけっこうであります。
これは大臣への要望になるかもしれませんが、本案の三十一条に「特別の事情による請求の棄却」という規定があるのであります。これは要するに事情判決と称せられる規定でありまして、理屈としては、行政庁の裁決は違法であるけれども、その他のことを考慮して、結局、公共の福祉という見地から請求を棄却する場合があることが規定されております。私は、こういう広範な規定で裁判所の事情判決までできるという権能を与えられている以上は、総理大臣の異議の訴えなんというものは必要がないと思うわけでありますが、ただ、いずれにいたしましても、この改正立法の趣旨というものは、世界に類例のないこういう総理大臣の異議なんという規定によって画龍点睛を欠いてしまって、はなはだ私は遺憾だと思うので、法務大臣は削除する意思はないという御答弁でありますが、よく御考慮願いたい。
なお、法務大臣にお願いいたしますことは、先ほど申しましたように、この改正法案の草案というものは、新聞社や弁護士会には意見聴取のために配付される。けっこうなことだと思うのでありますが、私ども法務委員なんかに対しましても、やはり新聞記者同様に取り扱っていただけないか。われわれ意見を聞かれて困るのです。何も持っていない。ですから今後もいろいろ改正法が出る場合には、新聞記者に御発表になるときには、われわれにもやはり資料をお渡しいただけないか。その点について御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/29
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030・植木庚子郎
○植木国務大臣 第一段の総理大臣の異議申し立ての条項、その他これに関連してただいま御指摘の条項等についての問題につきましては、御意見の存するところは十分考えまして、将来の改正論あるいは立法論として研究しなければならぬときには、十二分に検討の対象にして参りたいと考えます。
第二段の各種な大事な法案等の発表の際における法務委員の皆様への資料配付等につきましては、今後でき得る限り善処させることにいたしたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/30
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031・猪俣浩三
○猪俣委員 この法案では、要するに公の仮処分ということができるのであるかということについての御意見を承りたい。たとえば、例を申しますと、現在われわれの同僚であります帆足計君が、裁判所に訴えて勝訴の判決を得たわけでありますが、帆足君がモスクワへ行こうとした際に、政府が旅券を発行しない。そのためにモスクワの世界的大会に出席することができなかった。これに対して、それは違法であるということを訴訟しまして、帆足君は勝っておるのでありますが、勝っても、一定の時間に一定の場所へ行くという目的は果たせない。こういう場合に、何か仮処分の手続ができるかどうか。あるいはまたある民間放送会社が、三カ年の年限付で放送を許可された。三カ年たって再継続を申請してもそれは却下になった。しかし膨大もない設備をしておる、営業をやっておる際に、それに対して争っても、その間放送ができなければ、実際上事業は継続できない。そこで事業継続の仮処分といったようなことができるかどうか。国民の権利を尊重するとすれば、さように決定しなければならぬと思うが、一体この行政事件訴訟法にはさような趣旨があるかないか、それをお尋ねいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/31
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032・浜本一夫
○浜本政府委員 お答え申し上げます。私どもは行政と司法との限界ということを考えまして、裁判所が行政処分をやると同じような形の仮処分はできないものであると私ども考えておるのでありまして、その点に関連しましては、執行停止がこれにかわるものである、それが限界として裁判所に認むべき権限の行使であるというふうに考えておりますので、さような場合は執行停止でまかなうほかには、進んで公法上の仮処分というものはできないというふうに考えておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/32
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033・猪俣浩三
○猪俣委員 そうすると、あなたのお考えでは、今のような具体的の場合には救済の方法はないということになりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/33
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034・浜本一夫
○浜本政府委員 前の行政処分で認められた事業が期限付であります場合には、あるいはさような結果になることも考えられるかと思うのであります。結局は、もしその処分が違法でありますならば、執行停止でまかなえない分は、損害賠償として通常の民事の訴訟で救済される、金銭的な賠償によって救済される以外には方法のない場合も考えられるかもしれないと私は思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/34
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035・坪野米男
○坪野委員 総理大臣の異議規定について、一点だけ関連質問いたします。
先ほど浜本局長の答弁では、裁判所が、公共の福祉に重大な影響を及ぼすかどうかという判断をする資料が限られておる。すなわち疎明で足りるわけで、しかも当事者から提出された資料だけで判断をするということになるから視野が限られておるのだ、こういう理由で総理大臣の異議規定が必要だ、こういう御説明であったわけでありますが、現行のあるいは改正法案の執行停止の規定では、もちろん疎明によるわけですけれども、口頭弁論を開いて執行停止の決定をしても、あるいは判決をしてもいい、口頭弁論を経ないですることができるという規定でありますから、口頭弁論を開いてやる場合もあり得るわけであります。また、当事者の意見をあらかじめ聞かなければならないということがはっきりうたわれておるわけでありますし、実際問題として、裁判所は、行政訴訟が提起され、そして執行停止の申し立てが行なわれた場合に、必ずといっていいほど、従来も相手方の意見を審尋その他の方法で聞いておったわけでありますし、また口頭弁論を開く場合もあり得るわけでありますから、その資料が限られておって、視野が限られるということには私はとうていならないと思う。当事者の一方には行政庁があるわけでありますから、公共の福祉に重大な影響があるかどうかという判断をする場合に、行政庁側の意見なり資料を裁判所は十分徴することができるわけでありますから、視野が限られておるという御見解は、下級裁判所の裁判官あるいは司法官不信論に通ずる理由づけにすぎないと思うわけでありますが、なぜ下級裁判所の裁判官の執行停止を出すに際しての、公共の福祉に重大な影響があるかどうかの判断の資料なり視野が限られておるということになるのか、その点もう少しはっきりお答え願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/35
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036・浜本一夫
○浜本政府委員 お答え申し上げます。私は、裁判官の視野が狭いということを申し上げたのではございませんので、裁判であります以上は、手続法によって正当に現われた資料、証拠しか判断できないわけであります。でありますから、本案判決をいたしますまでには、長い口頭弁論手続を経て、あらゆる資料が双方から提出されますので、裁判官は十分自己の広い視野に立って、これらの証拠を勘案して最終的な結論を得られるわけでありますが、何分執行停止というのは、訴訟を起こしますと、直ちに、多くは原告側の疎明だけでやるのでありまして、おっしゃいますように、手続といたしましては、裁判所は口頭弁論を開くこともできますから、必ずしも視野が狭いとは言えないのじゃないかとおっしゃるのはごもっともでございますけれども、実情は、三日とか五日の短い期間内に相手方の意見書——多くは書面で述べられるのでありますが、意見書を出させて、原告側が出しております疎明だけで判断せざるを得なくなりますので、そういった建前から、運用の実情の上から視野が狭くなると申し上げたのでありまして、裁判官個人々々の視野が狭いということを私は申し上げたつもりはないのであります。もしそういうふうにおとり願ったのでありましたならば、私の御説明が不十分であったことに基づくものでありますから、御訂正願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/36
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037・坪野米男
○坪野委員 あなたの説明は、裁判官の視野が限られておる、狭いと言われたのではない。今言われた通り、裁判所の限られた資料で判断するから視野が限られておる、そういう御説明であることはよく承知しておるわけです。しかしながら、当事者から提出された資料で、公共の福祉に重大な影響があるかどうかの判断をする、期間的には確かに限られておりましょう。しかし行政庁側から、今執行停止をされては困るんだ、重大な影響を及ぼすんだという資料を提出する機会が与えられておるわけでありますから、当事者双方から出された公共の福祉に影響するかどうかという点の資料は、十分それで判断できるはずであります。結局、裁判を最後までやって、行政庁側が時間をかけて提出しなければ、公共の福祉に重大な影響があるかどうかという点の資料を出し尽くせない。そしてその少ない資料に基づいて裁判官が、特に下級裁判所の裁判官が判断をするということは、その裁判官の視野が限られておるんだ、行政庁であれば、内閣総理大臣を頂点とした広範な行政官庁の頭脳を総動員して、公共の福祉に重大な影響を与えるかどうかの判断は十分なし得るんだ。あるいはもっと言えば、行政庁の側から執行停止されては困る——もちろん行政庁がみずからなした処分の違法、適法が裁判所で争われておるわけでありますから、適法を前提とする行政庁の見解で、執行停止は困るという立場で、異議を申し立てるおけでありますけれども、私は、結局今局長の説明を聞いておると、司法官不信論にそれは通じてくると思う。訴訟手続の面で、相手方の資料なり、あるいは行政庁の提出された書類なり、あるいは口頭による説明なりで、十分公共の福祉に重大な影響があるかどうかを判断する資料は提出できるはずであります。いかに行政庁側が資料を提出しても、公正な第三者である裁判所の判断を動かすことができないから、結局司法官不信の観点に立って、行政庁の長である総理大臣が、みずから理由づけをして異議権を発動するということになる。だから説明としては、なるほど短い期間内に十分公共の福祉云々の資料が提出できないということを言っておられますけれども、結局は司法官不信のところへ通じているという意味で、司法官、下級裁判所の裁判官の視野が狭いということを言っておられるのと同じことじゃないかと私は理解して、そういうことでは理由にならない。この規定が設けられた趣旨は、やはり政治的に、司法権に対する抑制、行政権優位の思想に立って、司法権優位の現行憲法に対する重大な例外規定として設けられた政治的な規定だ。しかも本法案ではそれが一歩後退せしめられている。執行停止の決定があった後においても異議権が発動できるというように改悪されている。全く政治的な判断に基づく規定だというようにわれわれ理解しておるので、法律家の、特に先ほど猪俣委員から御指摘のあった法曹界の大多数、裁判官なりあるいは弁護士なりといった法曹人の大多数の、この異議規定は、現在の憲法の精神なり憲法の規定なり、あるいは現在の裁判制度の根本の建前から合理的にいって許さるべきでないという意見と対立する全く政治的な規定であるとわれわれは考えるわけでありますが、今の説明では合理的な説明としてわれわれは納得できない。これは局長にこれ以上お尋ねしても仕方がない、政府の政治的判断でこのような結論が、法案が提出されたというように考えておりますから……。ただ、先ほどの局長の説明は、何ら良識のある法律家を納得せしめる理由にならないということを私は指摘して、関連質問を終わります。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/37
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038・河本敏夫
○河本委員長 御報告申し上げます。
人権擁護に関する件のうち、昭和女子大学の問題について、さきに文教委員会と連合審査会を開会することに決しましたが、連合審査会開会の日時は明二十三日午前十時より開会することといたします。
また、本件について参考人より意見を聴取することに決定しておりますが、この参考人は、明二十三日の文教委員会との連合審査会においてその意見を聴取いたしたいと存じますので、さよう御了承願います。
次会は来たる二十九日午前十時より理事会、理事会散会後委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
午後零時二十五分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/104005206X01719620322/38
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