1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和五十九年七月十六日(月曜日)
午後一時二分開議
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○議事日程 第二十三号
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昭和五十九年七月十六日
午後一時 本会議
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第一 健康保険法等の一部を改正する法律案
(趣旨説明)
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○本日の会議に付した案件
議事日程のとおり
―――――・―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/0
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001・木村睦男
○議長(木村睦男君) これより会議を開きます。
日程第一 健康保険法等の一部を改正する法律案(趣旨説明)
本案について提出者の趣旨説明を求めます。渡部厚生大臣。
〔国務大臣渡部恒三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/1
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002・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) ただいま議題となりました健康保険法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
我が国の医療費は、人口の急速な高齢化、疾病構造の変化、医学医術の高度化等により、根強い増加傾向を示す一方、経済成長は鈍化し、今後、医療費と国民の負担能力との間の乖離が拡大していくおそれがあります。
また、厳しい国家財政の状況下で、国庫による各医療保険制度間の不均衡の調整機能を維持することが困難となってきております。このような状況に的確に対応し、本格的な高齢化社会に備え、中長期の観点に立った医療保険制度の改革を行うことは緊要の課題となっております。
今回の改正は、このような情勢を踏まえ、医療保険の揺るぎない基盤づくりを進め、すべての国民が適正な負担で公平によい医療を受けることができるよう、医療費の適正化、保険給付の見直し、負担の公平化を三本の柱とした制度全般にわたる改革を目指したものであります。
改正案の主要事項について、概略を御説明いたします。
第一は、医療費の適正化のための改正であります。
保険医療機関等の不正、不当を排除するため、診療内容が適切を欠くおそれがあるとして、重ねて厚生大臣等の指導を受けている保険医療機関等については、その再指定を行わないことができることとし、また不正請求による処分を逃れるために保険医の登録を取り下げる等の場合については、再登録等を行わないことができることとしております。
さらに、社会保険診療報酬支払基金の主たる事務所に特別審査委員会を新設し、極めて高額の診療報酬請求書等について重点的な審査を行うこととしております。
第二は、医療保険における給付の見直しであります。
まず、被用者保険本人の給付率を改定することとしております。
現在、被用者保険本人の給付率は十割、その家族は入院八割、外来七割であり、また国民健康保険の給付率は、世帯主、家族とも入院、外来七割となっております。このような給付率の格差を漸次縮小し、全国民を通じて公平化を図っていくとともに、かかった医療費の額がわかりやすくなること等により医療費の効率化が促進されるという見地から、被用者保険本人の給付率を昭和六十年度までは定率九割、昭和六十一年度からは定率八割に改めることとしております。なお、これに伴い現行の初診時一部負担金及び入院時一部負担金は廃止することとしております。
また、受診時の自己負担額が過大とならないよう、被用者保険本人についてもその家族や国民健康保険の被保険者と同様の高額療養費支給制度を設けることとしております。
次に、療養費の支給に関する改正であります。
新しい医療技術の出現や患者の欲求の多様化等に対応し、高度医療や特別のサービス等について保険給付との調整を図るため、療養費制度を改正するものであります。これは、高度の医療を提供すると認められる特定承認保険医療機関において療養を受けた場合や保険医療機関において特別の病室の提供等厚生大臣の定める療養を受けた場合に特定療養費を支給するものであります。なお、この療養費については、被保険者への支給にかえて、直接医療機関に支払いを行うことができることとしているほか、被保険者が支払った費用については、領収証の交付を義務づけることとしております。
第三は、医療保険制度の合理化等による負担の公平化であります。
まず、退職者医療制度を創設することとしております。
事業所の退職者は、退職後国民健康保険の加入者となるため給付水準が低下し、またその医療費の負担は、主として国庫と自営業者や農業者等他の国民健康保険加入者に依存することとなるという不合理と不公平が生じておりますので、これを是正するため退職者医療制度を創設することとしたものであります。
すなわち、これらの退職者及びその家族を対象に、市町村が国民健康保険事業の一部として事業を行い、給付率は退職者本人は入院、外来八割、家族は入院八割、外来七割とし、また高額療養費支給制度を適用することとしております。この医療給付に要する費用の負担は、退職者及びその家族の支払う国民健康保険の保険料と現役の被用者及び事業主が負担する拠出金により賄うこととしております。
次に、国民健康保険の国庫補助に関する改正であります。
退職者医療制度の創設等による市町村国民健康保険への財政影響等を考慮し、市町村に対する国庫補助を現行の医療費の百分の四十五から医療給付費の百分の五十へと変更するとともに、国庫補助の財政調整機能を強化することとしております。さらに国民健康保険組合に対する国庫補助についても、補助対象を医療費から医療給付費に改める等所要の改正を行うこととしております。
第四に、日雇い労働者の健康保険の体系への取り入れに関する改正であります。
日雇労働者健康保険制度を廃止し、日雇い労働者を健康保険の日雇い特例被保険者とするとともに、その給付内容及び保険料については、就労の特性を考慮し、一般の被保険者と実質的に均衡のとれたものとなるよう定めております。
また、国庫は政府管掌健康保険の事業所の日雇い特例被保険者に係る給付費等について、一般の被保険者についてと同一の補助率により補助を行うこととしております。
なお、廃止前の日雇労働者健康保険事業に係る累積収支不足については借り入れをすることがで
きることとし、その償還を一般会計からの繰り入れにより行うことができることとしております。
以上のほか、保険料負担の適正を図るため標準報酬等級について所要の調整を行うこと、船員保険法、国家公務員等共済組合法等の共済組合法についても健康保険法に準じた改正を行うこと等の改正を行うこととしております。
なお、この法律の施行期日は本年七月一日からとしておりますが、退職者医療の拠出金等に関する重要事項について社会保険審議会の意見を聞くこと等については公布の日から、また標準報酬等級の改定については本年十月一日からとしております。
政府といたしましては、以上を内容とする法律案を提出した次第でありますが、衆議院におきまして次のとおり修正が行われております。
その第一は、被用者保険本人の一部負担金について、昭和六十一年四月一日以後も国会で承認を受け厚生大臣が告示する日まで一割とするとともに、都道府県知事に届け出た保険医療機関等における医療費の額が千五百円以下のときは百円、千五百円を超え二千五百円以下のときは二百円、二千五百円を超え三千五百円以下のときは三百円とすること、第二は、任意継続被保険者制度について、五十五歳以上で退職した者は、退職者医療の対象となるまでの間その資格を継続できること、第三は、退職者医療制度について、健康保険組合等がみずから給付を実施できること、第四は、政府管掌健康保険の被保険者本人の一部負担金について付加的な給付を行うことができること、第五は、政府はこの法律施行後の状況を勘案し、健康保険制度の全般に関する検討に基づいて被扶養者及び国民健康保険の被保険者の給付割合を八割とするよう必要な措置を講ずるものとすること、第六は、日雇い特例被保険者の給付に関し、所要の改善を行うこと、第七は、施行期日について、昭和五十九年七月一日からとされていた部分については、公布の日から起算して三カ月を超えない範囲内において政令で定める日からとすること等であります。
以上が、この法律案の趣旨であります。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/2
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003・木村睦男
○議長(木村睦男君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。浜本万三君。
〔浜本万三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/3
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004・浜本万三
○浜本万三君 私は、日本社会党を代表して、ただいま提案理由の説明がございました健康保険法等の一部を改正する法律案につきまして、総理並びに関係閣僚に対し質問を行おうとするものであります。
まず、内容に入ります前に、本法律案の取り扱いに関連してただしておきたいと思います。特に、冒頭、警告の意味を込めて反省を促しておきたいと思います。
その第一は、本案が、中曽根総理の秋の再選に絡んで一部に議論されていることであります。本案が一党内の権力争いの政争の具とされるなら、それこそ国民不在の議論であり、遺憾のきわみであります。
第二は、本日から参議院段階での審議が始まろうとしておるのでありますが、会期は余すところ二十四日間にすぎず、重要法案の参議院段階での審議期間として、かねて要望しております四十日間の確保となっておらず、参議院軽視のそしりは免れないのであります。この審議期間では十分な審議を尽くすことは到底できないと思います。
また、本案をめぐっては、衆議院段階で与党内部から、今国会において本案の成立が難しければ衆議院解散も辞さないとの報道もありましたが、総理は本気でそのようなことを考えておられるのか、審議に先立ちまして明確にお答えをいただきたいと思います。
さて、現在我々に課せられておる問題は、国会における審議を通じて、二十一世紀の高齢化社会にふさわしい我が国の医療保険制度をいかにして安定した確固たるものとして打ち立てるのか、またそのための国民的な基盤をどのようにつくり上げるのかということが非常に重大な課題であると思います。しかし、残念ながら、衆議院段階における修正をめぐっての政府・与党の態度は、医師会などに殊さら気を使い、三次にわたる修正案の提示、さらには異例の附帯決議項目まで示すなど終始ぶざまな態度をとり、国民から厳しい批判を受けているところであります。
本来ならば、法案を提出する前に関係団体との調整を十分行うべきでありますのに、この段階においてかかる醜態を露呈し、いたずらに時間を空費していることは、国会における審議軽視と言われても仕方がないではありませんか。さらに重大なことは、これから本院で審議を始めようとしておるのに、日本医師会に対して、医療保険の統合一元化については国会終了後その時期を明らかにするという約束をしたり、また参議院での法案修正はしないとの発言をするに至っては、参議院軽視も甚だしいものであります。この点、しかとお答えをいただきたいと思います。
一方、我が党や国民の強い要望である給付率十割の堅持には耳をかそうとしないばかりか、当面九割、将来は八割給付をかたくなに固執するとともに、衆議院における修正も主に医療機関の費用徴収の便宜を考えたものが中心で、長期の病気に苦しむ患者や低所得者に対する新たな負担増を強要する点は何ら解決されていないのであります。
また、今回提出されております医療保険改革案は、法律案として提案されましたのは本年二月二十五日でありますが、改革案自体は昨年八月末の予算の概算要求の中で示されていたのであります。しかし、中曽根内閣は、昨年末の総選挙を前に、この医療保険改革が争点となることを嫌って、選挙中は、白紙に戻し再検討すると見直しを約束していたのではありませんか。ところが、総選挙後決定された政府案は、国庫負担削減幅ではほとんど変わらない内容で、総理の選挙公約というべき言明が全くその場限りのものであったことをみずから裏書きしておると思うのであります。こういった国民の批判にどのようにおこたえになるのか、納得のいく御回答を求めたいと思います。
次に、我が国予算の中での社会保障関係予算の位置づけについてお尋ねをいたします。
昭和四十年度以降五十五年度まで、防衛費の伸び率が社会保障予算を上回ったことは一度もなかったのであります。それは福祉国家建設の国民的合意があり、福祉重視の考え方が予算編成の基本にあったためであります。それが昭和五十六年度から破られたのであります。特に、総理、あなたの内閣になって、五十八年度予算では、社会保障の伸び率〇・六%に対しまして防衛費は六・五%と、防衛費優位が定着をいたしたのであります。さらに本年度は、大蔵原案の五・一%から復活折衝で六・五%へと伸ばし、社会保障費の二%を大きく上回り、中曽根軍拡内閣の性格が端的にあらわれているのであります。
総理、あなたは、このような政策に対し福祉切り捨ての反動内閣と国民から酷評がありますが、これに対してどのような御見解をお持ちか、お伺いをいたしたいと思います。
また、急速な高齢化に伴い、毎年、社会保障費において一割程度の当然増は避けて通れないことが予測されております。したがって、ここ数年来予算編成で見られるように、厚生年金、国民年金の国庫負担の一部繰り延べ、国庫負担減らしの国民健康保険の十一カ月予算など、もうごまかしは限界に来ておると思うのであります。今後の社会保障財源の確保対策をどのように考えておられるのか、将来の展望を含めて総理並びに大蔵大臣に明確にお答え願いたいと思います。
次に、法案の内容について若干質問をいたします。
もともと今回の改革案は、厚生省が、当然増を含めて六千二百億円もの医療費国庫補助削減予算を作成したところから端を発したのであります。したがって、政府の真のねらいは、被用者の健康
保険給付率を九割に引き下げて生み出した財源を被用者保険から拠出させ、年金受給者とその家族四百六万人の医療給付に要する費用の大部分を賄うことによりまして、国民健康保険に対する国庫負担三千九百億円を削減しようとするものであります。
これはまさに、国の負担を国民に転嫁する悪質なからくりと言わなければなりません。別な表現をいたしますと、保険による給付率を下げ、その部分を自己負担としながら、保険料率が引き下げられないわけでありますから、被用者に対する実質的な増税とも言うことができるのであります。この負担増は、本年度行われた所得減税を相殺するばかりでなく、さらに低所得家庭をも巻き込み、外来、入院の苦しい療養生活を送っている患者及びその家族をねらい撃ちにしているとさえ言われるのであります。
政府は、保険による給付率を下げることによって診療を受けた場合の窓口負担が大きくなるとか、診療抑制につながるとかいった国民批判に対しまして、医療費の増加額は平均すると年間で七千五百円、月額わずか六百二十五円程度であるから家計への影響は問題にならないし、また受診が妨げられるものではないと説明をしておるわけでありますが、果たして、政府が言うように医療費の負担は各家庭の家計に平均的にあらわれるものでしょうか。私は決してそうではないと思います。自己負担の増加は、結局、入院を余儀なくされた患者を抱えた家計、低所得者層に集中的に打撃を与えることは言うまでもないと思います。こうした点からも、今回の改革案が社会保障の機能である所得再配分に相反するものであると言わざるを得ませんが、いかがでございましょうか。
自己負担の増加に対応して、衆議院段階で高額療養費自己負担限度額の据え置きが約束されましたことは一応評価いたしますが、現行制度にはその医療費算出の要件として、同一医療機関、受益者、同一月に限るなど、制度自体に極めて不合理な点があるわけでございます。これでは、高額負担を保険によってカバーし、家計の破綻を防止しようとする目的に沿わないと思います。この際、給付率引き下げの真のねらいはどこにあるのか、また過重な負担となる家計への影響に対してどのような対策が用意されているのか、さらに高額療養費制度の支給要件について検討する用意があるのかどうか、明確にお答えを願いたいと思います。
次に、退職者医療制度の創設に関してお尋ねをいたします。
高齢、退職者の医療保障を整備することは多年の懸案でありました。これは特に老人医療費無料化制度の確立以来、具体化が強く求められていたところであります。本院社会労働委員会におきましても、老人保健法の成立に際して、五十七年秋を目途に社会保険審議会に諮問するよう決議がなされていたところであります。しかし、厚生大臣はこの諮問を行うに当たって、具体案を示すことなく慎重な検討をする姿勢をとり続けておりましたが、昨年の八月末、突如として本案に見られるような制度創設が提示されたのであります。
本案は、退職者医療制度による保険給付に要する額を、国保加入者の保険料分以外は被用者保険の加入者にそれぞれの所得に応じて負担してもらおうとするものであります。その結果、被用者保険に肩がわりさせることによって国庫補助額二千三百五十五億円を削減し、いわゆる制度間調整を老人保健法に続いて拡大しようとしたものであります。
さらに、今回の案では、こういった措置により国民健康保険が四百六万人の高齢加入者とその家族に対する給付を免れることから、さらに一千億円の負担軽減になるとして、従来の医療費に対する四五%の国庫補助制度を改めて、実質三八・五%に切り下げ、ここでも千五百四十四億円の国庫補助の削減を図ろうとしておるのであります。
この補助率の削減によって、当面保険料の引き上げは要しないと説明をしておられるようでありますが、早晩、保険料の引き上げにつながることは明らかであります。私どもは、この退職者医療制度の創設に当たって、従来の各制度運営の経緯から応分の国庫負担の導入は当然のこととして強く求めてきたところであり、この際、政府の再考を強く求める次第であります。
また、国民健康保険に対する国庫補助率の引き下げについても、将来とも保険料引き上げにつながらないことを納得のいくように御説明いただきたいと思います。
次に、今回、新たに「高度な医療」と「特定承認保険医療機関」で受給した場合、保険で認められる一部負担金以外に、患者から保険対象外の技術料を差額徴収する制度を導入しておりますが、これはかえって、日進月歩で発展する医療、医学の成果を国民がひとしく享受することに厳しい枠がはめられることになるのではありませんか。また、その適用が受けられるのは一部の高額所得者に限られることになるのではありませんか。さらに、保険未承認であった高度医療が曲がりなりにも保険制度を介して国民に提供できるのは、特定承認保険医療機関の指定を受けた一部の医療機関であるところから、むしろ高度医療が実用化する道さえ閉ざすのではないかと懸念されるものであります。したがって、制度の運用に当たっては、そういった国民の不安が払拭されることが強く望まれますが、どのような配慮のもとに運用基準を作成し、運営に当たられるお考えであるのか、明確にお答えをいただきたいと思います。
また、今回の改正で日雇労働者健康保険法を廃止し、政府管掌健康保険へと統合しておりますが、日雇い勘定には五十八年度末の見込みで七千四百五億円もの累積赤字が計上されております。かつて四十八年度に政府管掌の健康保険勘定において三千三十三億円の累積赤字について棚上げがなされました。その後、年々借り入れ利息が上積みされ、その累積額は五十八年度末の見込みで五千六百八十二億円となっておるのであります。この棚上げ分については、将来保険料をもって返済に充てないことが約束をされておりますが、政府はその後何らの手だても実施しようとしてはおりません。今回の日雇い勘定の累積赤字についても保険料をもって解消を図らない取り扱いが行われるものと理解をしておりますが、いかがでございましょうか。また、これらの累積赤字の処理方法についてもあわせて明快な御答弁をいただきたいと思います。
次に、医師の養成に関連して伺います。
厚生省内に、将来の医師需給に関する検討委員会を発足させ、改めて医師の養成について見直しを始めております。これは、かねて目標としてきた人口十万人当たり百五十人の医師数が昭和六十年を待たずに突破し、七十五年には二百十人に上ってしまうということから、一部に医師の供給過剰論があり、また一方では、医師の急増がかえって医療費を高騰させる原因になっておるということを指摘しておる点にあると思います。
そもそも、目標となった人口十万人対医師百五十人が確固たる理論的根拠があって決められたものではないと思います。現に、公的病院、保健所等の医師の充足率は極めて低く、僻地、無医地区での医師の確保も千大百人を超える外国人医師に頼っておる実態では、先進国として極めて恥ずかしいことではありませんか。この際、医療機関、診療科目の偏在解消のための適正配置とあわせてこの問題を検討すべき時期であると思うのでございますが、政府の考え方をお尋ねいたしたいと思います。
最後に、今日、医療は一つの転機にあると言われております。治療という受け身なものから健康増進へと転換しつつあります。また、新しい医療は一層医師の人間性による患者との信頼関係を強く要請されておるところであります。したがって、そこでは患者の権利が十分守られるのは当然として、医師には高い倫理性が要求されておりま
す。荒廃した医療をそのままにして、医療保険の改革を策するのは砂上の楼閣のそしりを免れ得ないと思うのであります。政府の医療の適正化対策においても、医師の自浄作用を求めているところでありますが、そういった認識の必要性、重要性についてどのように判断されているのか、この点についても明らかにしていただきたいと思います。
確かに、高齢化社会での医療費をどのように賄っていくかを考えるときであるということは申すまでもありません。しかし、だからといって医療保険に対する国庫負担を大幅に削減して、取りやすいところへ転嫁するといった態度には到底承服することはできないのであります。今回の改革案は、その背景として医療保険の財政問題を基本的なテーマとしながら、その中心は支出面の技術論に終始し、収入面について、特にこれからの財源対策の論議は全く欠如しているところであります。少なくとも、単年度予算編成のつじつま合わせのためだけに医療保険制度の根幹に触れる改革を強行するといった態度は、到底納得できません。
したがって、本案の撤回を強く求めまして質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/4
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005・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 浜本議員にお答えいたします。
まず第一は、今回の健保改正法案は政略の道具にされているのではないかという御質問でございますが、そういうことは全くございません。医療制度の改革及び行政改革の一環として、まじめに真剣に本案の御審議を願っておる次第でございます。
次に、会期の少なさに比べて審議期間が確保されていない、参議院軽視ではないかという御質問でございますが、本法案は医療保険制度の長期的安定、公平化、効率化を図る上で極めて重要なる法案でありまして、会期の許す範囲内におきまして濃密な御審議をぜひともお願いし、会期内の処理を重ねてお願い申し上げる次第でございます。
次に、衆議院解散も辞さないとの意見があると聞いたがいかんということでございますが、本法案の成立を念願いたしましてひたすら努力するあるのみでございます。
関係団体との意見調整は前に行うべきであり、拙速ではないかという御質問でございますが、今回の改正案の提出に当たりましては、医療保険の抜本改正に関する昭和四十年代以来の論議を踏まえるとともに、関係審議会を初め各方面の御意見を幅広く聞き、慎重に検討したものであります。
なお、法案提出後は、国会審議の過程におきまして種々の御示唆に富む御意見が出されました。野党の御意見も踏まえ、また関係団体の御意見にも耳を傾けまして修正が行われたものでありまして、国会審議を軽視したものではございません。
さらに、日本医師会に対して医療保険の統合一元化の時期を国会終了後に示す旨を約束したり、あるいは参議院では法案修正を行わない旨等の発言があるが、これも軽視ではないかという御質問でございますが、統合一元化の時期及び参議院における修正に関する先般の報道は、正確に事実を伝えているものではございません。統合一元化については、今後、各党初め関係方面の御意見を聞いて鋭意検討し、できるだけ早くその方針を明らかにしたいと思っております。参議院における法案の取り扱いにつきましては、参議院の自主性のもとに今後の御審議を踏まえ、適切に対処してまいりたいと考えております。
次に、衆議院の修正も主に医療機関の事務の便宜を優先して、新たなる負担を低所得者層に強いるものではないかという御質問でございますが、被用者本人の定率負担導入は、高齢化社会に備え、医療保険制度の揺るぎなき基盤づくりのために必要なのでございます。なお、一部定額導入いたしておりますが、これは事務の簡素化上適切な措置であると考えております。また、長期療養者や低所得者等につきましては、高額療養費制度の改善等により負担が過重にならないように検討していく所存でございます。
なお、自民党の修正は、第一線の医療担当者等の切実な要望を踏まえて行われたものであると理解しております。
次に、本改正案は私が白紙に戻すと発言した昨年の暮れの厚生省原案とほとんど同じではないかという御質問でございますが、今回の改正案は、厚生省原案に対する国民の意見をよく聞いて幅広い観点から再検討し、調整した上で決定されたものでございまして、厚生省の素案の当時から見れば、いろいろな点で多くの変更が示されておるのでございます。そして、これまでも国民の理解を得るように努力してまいりましたが、国会審議等を通じ、国民の間に理解が深まってきたものと認識いたしております。
次に、予算上、福祉切り捨て、防衛費優位の予算編成ではないかという御質問でございますが、昭和五十九年度予算におきましては、歳出面において行財政の守備範囲を見直す等の見地から制度の根本に踏み込んだ見直しを行うなど、あらゆる分野において聖域を設けることなくその節減合理化に取り組み、いわゆる一般歳出を前年度から三百三十八億円減額したところでございます。
国民生活に関連の深い福祉や文教予算等につきましては、いろいろ注意も払っておりまして、今後高齢化社会の進展等社会経済の変化に対応して各種の施策を安定的に維持する等のため、今度の制度改正を行うなど合理化、効率化を図るとともに、真に恵まれない方々に対する施策の充実等に努めているところでございます。
また、防衛費につきましては、他の諸施策との調和も考えつつ、かつ大綱の水準達成に努力していくという内外の言明を実行するという意味もありまして防衛力の整備を行ったところであり、必要やむを得ざる限度にとどめたつもりでございます。
急速な高齢化に伴い、社会保障費は毎年一割程度増していくと予測されているが、今後の社会保険あるいは社会保障財源確保をどうするかという御質問でございます。
社会保障関係予算につきましては、今後における高齢化の進展等を展望し、将来に向けて安定した制度をつくるための改革を行うとともに、真に恵まれない人々に対する施策の充実等に努めてまいる所存でございます。財源確保につきましては、予算編成ごとに収支を総合的に点検、検討いたしまして、必要なものにつきましてはぜひとも確保していくように今後とも努力してまいります。
次に、医療機関の数の問題、あるいは僻地における医師の確保の問題について御質問がありました。また、医師数の検討についても御所見をいただきました。
国民医療の確保のために、医療機関等の適正配置や僻地における医師の確保は重要でございます。現在、医師の数が約十八万人でございますが、毎年八千人ぐらいずつこれがふえていくという数字になっております。したがいまして、将来の医師の数を検討するに当たりましては、この僻地等の問題も十分考慮に入れて行わなければならないと思いますし、そのほか、巡回診療システムその他についてもいろいろ考慮すべき点があると思っております。
次に、医師の倫理の問題について御質問をいただきました。
医師は、病む者をいやし、そして病む者に対する支える者としての職業倫理を求められているものであり、国民の医療に対する信頼を確保するためにも医の倫理の確立は極めて重要であると考えます。政府といたしましても、関係団体の自主的努力に加え、医学教育の充実、特に大学教育におきましては、単に技術のみならず、医師としての職業倫理を教える必要もあると思っております。さらに、医師の研さん活動に対する支援などを通
じて、医の倫理の確立に努力いたします。・最後に、本法案を撤回すべきではないかという御質問でございますが、本法案は医療保険制度の基盤を揺るぎなきものとするために必要であり、長期的に見て必ず国民の福祉につながるものであり、単なる財政対策ではございません。撤回する意思はございません。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/5
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006・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 定率負担導入の問題が第一でありますが、これはすべての国民の給付を八割程度で統一するという方針の第一段階となるものであり、さらに、これによってコスト意識の喚起による医療費の効率化が期待されるとともに、保険料を引き上げずに退職者医療制度の創設が可能となる等今回改革の柱であり、その趣旨は国民の皆さんに広く御理解をいただいておると考えております。
長期療養者や低所得者については、高額療養費制度の改善などにより、その負担が過重とならないように御意見を拝聴しつつ検討してまいりたいと思います。
なお、一部負担金に関する衆議院修正は、これまでの国民各層や第一線の医療担当者の切実な要望にこたえたものであり、総理御答弁のとおりでございます。
次に、改正案は国の負担を国民に転嫁するという御指摘でございますが、医療費は保険料負担、国庫負担及び患者負担で賄われており、そのいずれにしても国民の負担であるということを御理解いただきたいと思います。今回の改正案は、二十一世紀に備え、医療費を適正な水準のものとし、現在の保険料水準を維持し、給付と負担の公平化を図るという趣旨から定率の一部負担をお願いするものであり、国民への負担の転嫁というものではございません。
今回の医療保険改革案は実質的な増税ではないかとの御指摘でございますが、今回の改革案は、医療費の規模を適正なものとしつつ、給付と負担の公平化を目指すものであり、このような観点に立って本人定率一部負担の導入、退職者医療制度の創設等を行っております。退職者医療のための費用は、現役の被用者と事業主かもの拠出により賄うこととしておりますが、その費用は本人負担の導入等により節減される保険料をもって充てることとしており、保険料の引き上げは行わないで済むようになっておりますから、実質的な増税との御指摘は当たらないと考えております。
今回の改正案により、患者負担は御指摘のように確かに増加いたしますが、しかし、本年度の所得税減税効果を相殺するほどの規模ではございません。また、長期療養者や低所得者については、高額療養費制度や公費負担医療などによりこれまでも配慮しておるところでございますが、今後ともこれらの方々の負担が決して過重にならないように検討してまいりたいと思います。
被用者本人定率負担に伴う負担緩和等については、家族と同様の高額療養費制度を設けることとしているほか、家計負担の軽減という制度の趣旨が生かされるよう、高額療養費制度の仕組みの改善についても検討してまいりたいと考えております。
国保保険料についてのお尋ねでありますが、今回の国保国庫補助制度の改正は、退職者医療制度の創設や医療費適正化対策の推進等により、市町村国保の財政負担が軽減されることを勘案したものであり、保険料は全体として予測される水準以上に上昇するものとは考えておりません。
なお、今後の保険料水準につきましては、確実に見通すことは困難でありますが、医療費適正化の推進等により適正な負担となるよう努力してまいりたいと思います。
特定療養費制度についてのお尋ねでありますが、今回の療養費制度の改正は、医療技術の高度化や患者ニーズの多様化等との調整を図ろうとするものであり、保険給付として必要かつ適切な医療は今後とも確保していく所存であります。その具体的な運用に当たっては、御指摘も賜りましたので、御心配のようなことがないように、中医協の審議を踏まえて適切に対処してまいる所存でございます。
日雇労働者健康保険の累積債務につきましては、政府管掌健康保険の累積債務のうち損失に見合う分と同様に、引き続き借り入れができることとするとともに、その償還を一般会計からの繰り込れにより行う方途を開くこととしたところであり、保険料をもってこれを償還することは考えておりません。なお、これら累積債務に対する一般会計からの繰り込れにつきましては、今後、国の財政事情その他諸情勢を総合的に勘案しつつ適切に対処してまいる所存でございます。
僻地医師の確保と医の倫理の問題については、総理から懇切に答弁がございまして、そのとおりでございます。
また、予算のつじつま合わせのためにできた改正案は撤回すべきであるというお話でございましたが、これも総理から御答弁がございましたが、今回の改正案は、二十一世紀に備え、医療保険制度の基盤を揺るぎないものとするためのものであり、長期的に見ていただきますれば必ず国民の福祉につながるものでございますので、どうぞ御了承を賜りたいと思います。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣竹下登君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/6
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007・竹下登
○国務大臣(竹下登君) 私に対するお尋ねは、今後の社会保障財源確保のための方策いかん、こういうことになろうかと思います。
今後の高齢化社会、国際社会の進展に対応するために、財政改革を推進しましてその対応力の回復を図ることは、我が国の将来の安定と発展にとってまことに緊要な国民的課題であるという事実認識に立っております。そこで、六十五年度までに特例公債依存体質からの脱却に努める、この目標に向けて、毎年度最大限の努力を積み重ねていく必要があると信じております。
そこで、このためには、毎年度の予算編成に当たりましては、制度の根本にまで踏み込んで改革を行うなど、まさに歳出歳入両面にわたりぎりぎりの努力を行ってまいる所存でございます。
社会保障関係費につきましては、今後における高齢化の進展等を展望いたしまして、将来に向け安定した制度をつくるため改革を行いますとともに、真に恵まれない方々に対する施策の充実に努めてまいる所存であります。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/7
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008・木村睦男
○議長(木村睦男君) 高桑栄松君。
〔高桑栄松君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/8
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009・高桑栄松
○高桑栄松君 私は、公明党・国民会議を代表し、国民会議の立場から健康保険法等の一部を改正する法律案について私の見解を述べ、総理大臣並びに関係大臣に質問をさせていただきたいと存じます。
まず健康、これは戦前、人口に膾炙した標語でございます。まず健康でありたい、これはすべての人の願望するところでありましょう。この健康について、健康とは何か、どういうことか、これは恐らく御存じの方が多いとは思いますけれども、WHOの憲章を引用させていただきます。健康とはただ単に病気ではない、虚弱ではないというだけではなくも、精神的、肉体的並びに社会的に良好な状態、ウエルビーイングであると定義されております。これは我々の目指す健康の目標であろうかと思うのです。
ここで福祉ということでありますが、私は、亡くなられた武見太郎先生の言葉を思い出すのであります。武見先生は、貧しい人のために正しい福祉を推進する大臣とはけんかはいたしません、こういうふうに言われたということが昨年十二月二十一日の新聞に載っております。私は感銘深く拝見いたしました。肝に銘じております。
そこで、福祉ということを広辞苑を引いてみますと、①「公的扶助による生活の安定、充足」、
②「消極的には生命の危急からの救い」、こういうふうに書いてあります。そこで総理大臣にお伺いしたいのでありますが、本人一割負担という新しい制度は、この福祉の定義といいますか、①と②いずれにも反すると私は思います。つまり、福祉の後退であると言わざるを得ない。これについて総理のお考えを承りたいと思います。
また、憲法第二十五条には、国は国民の健康の最低限度を保障するという規定がございます。健康の最低限度とは何を指すかということでありますが、第一基準は病気の治療であります。第二基準は疾病前状態からの回復であります。第三基準というのは健康の維持増進であります。第二基準というのは、つまり早期発見、早期治療ということであります。第三基準は、今盛んに言われている健康づくりということでございましょう。今の健康保障の最低限度はこの第一と第二、つまり早期発見、早期治療までが最低限度であると私は思います。
そこで、総理に伺いたいのでありますけれども、治療を受けるという患者の行為は受益行為と言えるかどうかであります。私は病気は受難だと思います。受難に対しては相互扶助ということが大事でありまして、これが保険であります。したがいまして、健康保険というのは受益者負担という考え方は該当しないと私は思うのであります。総理大臣の御見解を承りたいと思います。
次は、予防医学の立場から若干考えを述べさせていただいて、厚生大臣に質問をさせていただきます。
第三基準で私が挙げました健康づくりというのには、二面がございます。一つは医学的側面、もう一つは体力的側面でございます。医学的側面に焦点を置きますと、先ほど私が挙げた第二基準、疾病前状態からの回復、つまり早期発見、早期治療、これに重点を置かなければならないことは当然であります。ついこの間でございますが、厚生省発表によりますと、我が国の平均寿命は世界のトップにランクされました。大変おめでたいことだと思います。この平均寿命というのは、その国の健康水準を示す主要な指標の一つでございます。これは、一国の治療医学の進歩、予防医学の発達、環境衛生の向上、栄養の改善、これらが総合されたあらわれと見ることができます。
我が国は、いまだかつて経験したことのない高齢化社会を今目前にしております。高齢化社会とは、ただ長生きをすればいいということではございません。丈夫で長生き、健康で長生きでなければなりません。その高齢化社会にどう対応したらいいのか。武見太郎先生は「健やかに老いる」ということを掲げておられました。これに対する対応策は、我が国の疾病構造を見ていただきましょう。死因の第一はがんが躍り出てまいりました。次いで心臓血管系の病気、糖尿病、肝炎、これらが重要なターゲットでございます。
私から申し上げるまでもなく、がんに対しては早期発見、早期治療、これが唯一の手段でございます。心臓血管系の病気、糖尿病は、これは調節可能な病気でございまして、うまくコントロールをいたしますと日常生活に全く差し支えなく天寿が全うできる、これがこの病気でございます。皆さんもたくさんそういう病気に近づいておられるのじゃないかと思いますけれども。これは第二基準、つまり疾病前状態からの回復というところに重点が置かれるわけです。早期発見、早期治療でございます。この対応について、厚生大臣もこれは異論がないかと思いますが、御意見を承りたいと思います。
次に、本人一割負担が今度の健保改正案で出てまいりました重要なポイントでございます。
私は、これは明らかに受診を抑制する、これにつながると思います。そして受診抑制ということは、今いろいろなことを申し上げましたが、早期発見、早期治療の重大な妨げになるということを私は申し上げたつもりであります。このことについて若干厚生大臣とは見解が違うかもしれませんが、私は札幌市の例を挙げて御説明したいと思います。
ことしの二月二十六日、北海道新聞に札幌市の老人健診と成人病対策のデータが出ております。老人保健法施行以前の年間の健康診査、成人病対策では年間五万件があった。ところが、昨年老人保健法が施行され、一部有料にすることによって健康の自覚を促すということで百円取ることになりました。ことしの二月、驚くなかれ二万四千件に減った。半分以下でございます。これは劇的な減少であろうと思うのです。札幌市では、所期の目的に沿わないということで、再び今年度無料に戻すということが報道されております。今のは新聞の見出しがおもしろいです。「百円の重み」と書いてあります。
厚生省は、五月二十六日に同じような老人保健法施行後一年のデータを出しております。これの見出しは、「老人医療費 伸び大幅鈍化」と書いてあります。これを見ますと、老人保健法施行前と施行後の各月の受診率を比較しておりますけれども、一二・五%ないし数%の間ですべての月で受診率が減っております。これは外来だけじゃなくて入院も同じだと書いてあります。そしてこの解説が「はしご受診」が減ったと書いてある。私は、はしご受診というものの定義を知りません。しかし、一人の患者が多数、複数の病院にかかったということを意味するのであれば、これは患者の不安の表明ではないのだろうか。
がんを例に挙げましょう。ある病院で、がんの疑いがあると言われた。それで満足する人がいましょうか。もう一つの病院で確かめたい、そこで大丈夫だと言われた。安心しますか。もう一回行ってみよう、複数受診であります。不安の表明であると私は思います。さらに老人の場合ですと、複合した病気をいろいろ持っておられる、必ずしも一つではありません。そうすると、それぞれの専門家に診てもらいたいというのが人間の心理であろうと思うのです。したがって、はしご受診が減ったということは、やはり有料化になったからどこかを倹約するということになったのではなかろうか、私はそういう不安をむしろ表明したいと思います。
早期発見が極めて重要であることは、がんの例をもってもう一度申し上げたいと思います。米国がん協会は、一九八四年のがん患者を八十七万人と推定しております。うち四十五万人が死亡。重要なところはその次でありますが、これを早期発見の段階で対処すれば十四万八千人が命を救われると書いてあります。早期発見がいかに大事であるかということでありまして、私は再び申し上げたいのは、本人一割負担が受診を抑制し、早期発見の重大な妨げになるということを私は申し上げたいと思うのです。
さらに、国保家族三割負担の現段階において、ゼロ負担の人は一割負担を我慢してほしいというような声が上がってまいりました。しかし、病気は我慢の対象ではないのです。そういうものではない。これはやはり健康人の発想ではなかろうかというふうに私は思います。もし大砲か健康かという問いかけがあれば、私はちゅうちょなく健康でなければならないと申し上げます。厚生大臣の御意見を、この辺もカバーしていただきたいと思います。
次に、一部負担をさせることによって健康を自覚させるという目的がある、明らかに書いてあるのですよ。大変おかしいと思いませんか。自覚というのはみずから悟るということで、認識の問題であります。健康の自覚というのは、健康全般にわたる知識のレベルアップでなければなりません。特定のことではないのです。つまりこれは、経済的なプレッシャーによって健康の自覚をさせるということは全く的外れでありまして、健康教育を通してこそ健康の自覚が高まっていくということをもう一度私は強調したいと思います。厚生大臣、御意見を伺います。
次に、大蔵大臣に伺いたいと思うのであります。
昭和五十九年度の予算はもうとっくに通過いたしました。健康保険法の改正案が上がってきまして、今やってみていますと、何だこれが通らないと四千二百億の赤字である、月々五百億だ、何とか通してくださいという、何かちらほら聞こえてきます。私は政治の一年生でございまして、このからくりがわかりません。なぜ、先に健康保険法が審議され、その予算が通過して初めて次の年の予算に組み込まないのか、私にはとてもわからないのです。どこかポケットマネーでもあるのかどうか知りませんが、これはベテラン、いや専門家である大蔵大臣に私の納得のいくような解説をしていただきたいと思います。
次に、医療政策のビジョンが、この健康保険法改正案が登場してから上がってまいりました。四月二十七日提出されました。これは大変立派な論文だと思うのです。論文審査で大学入試をやったら百二十点くらいやりたいぐらい、極めて優良な官僚、ああ大臣ですか、大臣が書かれたのだと思いますが、大変立派な論文だと思います。四つの柱から成っております。四番目は研究開発でございますからそっとしておきまして、この一番目と二番目と三番目の柱が一体になって初めて医療政策の実効が出てくるのであります。
しかるに、見てみますと、第三番目の「医療保険制度の改革」、特に保険の「給付と負担の見直し」というところだけタイムスケジュールが載っております。昭和五十九年度はこれ、六十年度はこれとあれ、六十一年度はあれ。あれっと思うのは第一と第二の柱で何にもタイムスケジュールが載っておりません。やるのかやらぬのか、さっぱりわからない。これはあたかもレストランに行きまして飯を食おうと思ったら、大変立派なメニューがいっぱいある。おいしそうなのがいっぱいある。「これは」といって注文したら「ありません」と言う。「これは」「これは来年まで待ってください」と。よく聞いてみたら、食べられるのは一品しかなかった。こういうふうなことを私は考えるのであります。これはどうも、マイナスシーリングのつじつま合わせに登場してきたものではないかと勘ぐりたくなるのであります。厚生大臣のお考えを承りたいと思います。
ところが、この二番目の柱に、「医薬分業の基盤づくり」、それから医師、歯科医師、医療従事者の養成、生涯教育、資質の向上が載っております。これは日本学術会議第七部、医学、歯学、薬学が入っております、これが勧告をいたしました医学教育会議の中で考えられていることであります。医学教育会議は、健康職業従事者につきましては、生涯教育の理念に立って、長期展望のもとに医学の進歩、疾病構造の変貌、社会のニーズに即応しなければならないということから、今のような縦割りでは医学教育の万全は期せられないから総合的な体制を確立する必要がある、こういうことを十年来の悲願といたしまして勧告をしております。これについては、総理大臣は私の質問に答えてくださいまして、学術会議の勧告は敬意を払う、厚生、文部両省に検討してもらうというふうに御返事をいただきました。厚生大臣、文部大臣にこの辺についてお伺いをしたいと思います。
次に、我が国には経済政策があって医療政策がない、こういう厳しい批判をしばしば私は耳にいたします。ちょうど患者負担新設ということで医療費を抑制しようとする考えは、まさにこのことを物語っているのではないかと思うのであります。予算の厳しい折から、厚生省には大蔵省からああせいこうせいとおっしゃるようであります。しかし厚生省は、憲法第二十五条の健康保障が人権として国の責務でありますから、大蔵省が何と言ってきてもお蔵に入れるようにしていただきたいというふうにお願いをしたいと思います。
最後に、保険というものの根本理念は相互扶助であります。健康保険の改正に当たっては、私は健保各制度の統合一元化が大前提であると思います。なぜかといえば、健保各制度にはそれぞれ黒字、赤字の健保がございます。相互扶助というのは、黒字と赤字を埋めるのが相互扶助だろうと思うのです。
武見先生がこれは私にも直接言われたことでありますが、そのお言葉を今拝借させていただきますと、本人一割負担、この新設による国庫負担減は、これは先生立なられた後の話でございますけれども、二百九十三億である、年間にならして四百三十億。しかるに黒字健保を例に挙げますと、武見先生がおっしゃっていました、組合健保は年同五十七年度が二千九百七十億の黒字であります。四百三十億の赤字と二千九百七十億の黒字、これだけを仮にドッキングいたしますと、赤字は直ちに解消いたします。これが相互扶助の保険の精神ではないかと私は思います。
したがいまして、私は健保改正に当たっては健康保険各制度の統合一元化が前提であることを主張いたしまして、これに対する厚生大臣のお答えをいただきたい。
以上をもって私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/9
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010・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 高桑議員にお答えをいたします。
今回の健保法改正案は福祉の後退ではないかというのが第一問でございます。
今回の被用者本人一割負担の導入は、本格的な高齢化社会に備えて、中長期的な観点から、公平、効率化、長期安定という考え方に立って医療保険制度の基盤を揺るぎなきものとするための制度の改革でございます。そういう意味におきまして、長期的に見れば国民の福祉につながるものでありまして、後退ではないと御理解願いたいと思うのでございます。
憲法第二十五条にもあるように国民の健康の保障は最低限度の国の責務である、健保本人一割負担の導入は早期発見、早期治療の妨げとなって国の責務を放棄するものではないかという御質問でございますが、被用者保険本人の一割自己負担につきましては、現在定率負担である被用者保険の家族や国保加入者と被用者保険本人との間で受診状況はほとんど変わらない。例えば国保にいたしますれば、今国民の皆さんは三割自己負担していらっしゃいます。また、健保においては本人の家族は外来が二割、入院が三割負担しております。そういう場合におきましても受診状況はほとんど変わらない。こういう状況から見ましても、早期発見や早期治療の妨げにはならないものと考えております。
政府といたしましては、憲法の精神にのっとり、今後とも国民の健康の確保には十分注意してまいるつもりでおります。
治療を受益と考えているかという御質問でございます。
確かに治療を受ける状態、つまり疾病は患者にとりましては不幸なことであります。また、負担と給付という関係から見れば当たり前ではないかという議論が出るかとも思いますが、あるいは国保にせよ政管健保にせよ非常に公的助成を受けている、このような公的医療保険を利用するという意味におきましては受益と言われるものではないかと思います。今後とも、利用者と利用しない者との間の負担の公平を図ることも必要であると考えております。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/10
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011・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 最初に、早期発見、早期治療についてのお尋ねでありますが、これは御指摘のとおり、高齢化の進展とともに、がん等の成人病が主流となりつつあり、こうした情勢に対応するためには、健康増進から疾病の予防、早期発見、治療及びリハビリテーションに至るまでの包括的保健医療体制の確立を図っていくことが基本であります。これは全く先生御高説のとおりでございます。
このような観点から、先般の「今後の医療政策の基本的方向」に沿って、地域医療を確保するた
めの医療供給体制の整備を図るとともに、老人保健法に基づく保健事業を中心に、ライフサイクルに応じた各種の健康診査、健康教育、健康相談などの保健事業を総合的に実施してまいる所存でございます。
次に、被用者本人一割負担の導入が受診抑制を招くとの御指摘でございますが、これはお言葉を返して申しわけございませんが、先ほど総理から答弁がありましたように、現在定率負担となっている被用者保険の家族や国保加入者の受診状況等との比較からいっても、必要な受診の抑制を招くことはないと考えております。ただ、乱診乱療は抑制されることになるのではないかと思います。
次に、病気についてのお話でございますが、病気は我慢で克服することができるものでないことは御指摘のとおりでございます。
健康を維持するためには、病気にならないよう健康増進や疾病予防に気をつけること、早期発見、早期治療に努めることが何よりも重要であり、このため、今後とも健康づくり、疾病予防、早期治療対策等の充実に努める所存でございます。ただし、今回の健保本人一部負担導入は、こうした早期治療等に支障を生じさせるものではないと考えております。
健康教育についてのお尋ねでございますが、御指摘のように、健康に対する自覚を高めることは重要であり、健康教育も種々の方法の中で有効な方法であります。しかし、健康に対する自覚を高めるためには、いろいろな方法を総合的に講ずる必要があり、受診時において健康保持、疾病予防に対する自覚を促すことも極めて重要かつ有効であると考えております。
今回の改正案は、二十一世紀の本格的な高齢化社会に備え、中長期の観点に立って、医療費の規模を適正な水準のものとし、現在の保険医療水準を維持すること、また給付と負担の両面にわたり公平化を図ることにより、国民の健康と医療を支える医療保険制度の基盤を揺るぎないものとするためのものであり、決して単なる財政対策ではございません。
医学教育会議の設置に関する御提言は大変貴重な考え方と受けとめておりますが、新たな組織を今直ちに設けることは大変困難でございます。しかしながら、学術会議の勧告や御提言の趣旨を踏まえ、今後とも文部省や医学教育機関等の関係方面の意見を施策に反映できるような方途を講じながら、国家試験の改善、医師の臨床研修の充実などに努めてまいる所存でございます。
医療対策のあり方についての御指摘でございますが、二十一世紀を目指してのビジョンをお褒めいただきましてありがとうございます。
医療政策の基本は、国民の医療に対するニーズに的確に対応し、適切な医療をいかに確保するかという点にあります。しかし、その費用は無制限に認められるものではないため、適切な医療の提供を基本としつつ、費用負担とのバランスを考慮した取り組みが必要であります。このような考えに基づいて今後とも医療政策を推進してまいるつもりでございます。
最後に、医療保険制度の将来のあり方につきましては、公的社会保障制度として、社会的公平の観点から、全国民が給付と負担の両面において公平であることが望ましいと考えております。したがって、経済財政の状況や医療費の動向、国民負担の推移等を勘案しつつ、給付と負担の両面における公平化の措置を講じていく必要があります。
その具体的な方法については、制度間の財政調整、統合など種々の方法がありますが、いずれの方法によるかは、広く関係方面の御意見を聞き、幅広い観点から今後検討してまいる所存でございます。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣竹下登君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/11
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012・竹下登
○国務大臣(竹下登君) 高桑議員の御質問の趣旨は、このような健保法改正というような法律は、まず医療政策の上から議論がされ、そしてそれに基づいて財政事情が予算等で後追いをすべきである、こういう基本的な御認識だと思うのでございます。
それで、医療費の規模を適正な水準のものとして、現在の保険料水準を維持することと、そして給付と負担の両面にわたって公平化を図ることと、これが医療保険制度の基盤を揺るぎないものとするという観点から今度の法改正が行われたものであります。そこで政府としては、こうした制度改正を行うことを前提として五十九年度予算を編成して、そしてただいまの第百一国会において予算案と法律案と両方を御審議していただくという考え方で提出をしておるわけであります。
そこで、少し詳しくとのことでございましたので。なお、この法律と予算とは憲法上その議案としての形式、成立要件等が異なります。これは五十九条、六十条、そのとおりであります。しかし、同一の国会に法律の改正案を提出しますとともに、その改正内容を踏まえた予算を編成して国会に提出するということがむしろ通例となっております。その通例とは、これは財政法では御存じのように、予算は十二月提出するを常例とする、こう書いてありますが、明治以来これは提出された例がございません。そこで、普通どうかといいますと、十二月に編成作業を終了して、そして一月中に予算を提出申し上げ、さらに予算関連法案というのは二月の第四週、これまでに国会に提出を申し上げるというのが今日までの扱い上の通例となっております。
このことでお答えといたします。(拍手)
〔国務大臣森喜朗君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/12
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013・森喜朗
○国務大臣(森喜朗君) 高桑さんにお答えを申し上げます。
医学教育会議の設置について学術会議が勧告しているが、これに対し文部、厚生両省における取り組み状況はいかがかというお尋ねでございました。
勧告に指摘されておりますとおり、医学教育は年前、卒後を通じ一貫した方針のもとに行われなければならない。こうした見地から、文部、厚生両省とも、従来からそれぞれの関係審議会等に相互に参加する、そして緊密な連携を保ってまいっております。文部省といたしましても、今後とも勧告の趣旨に留意しつつ、医学教育の充実、改善に努力してまいる所存でございますが、御提案いただきました新たな組織機構、この設置につきましては、先ほど厚生大臣からも答弁をいたしましたが、極めて慎重に対処すべきものであるというふうに考えております。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/13
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014・木村睦男
○議長(木村睦男君) 安武洋子君。
〔安武洋子君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/14
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015・安武洋子
○安武洋子君 私は、日本共産党を代表して、健康保険法等改正案について総理並びに関係大臣に質問いたします。
〔議長退席、副議長着席〕
それに先立ち、まず私は、自民党が我が党の質疑続行要求を退け、本法案を強引に採決し、一千万を超す反対署名を寄せ連日のように請願行動を行っている多くの国民の声をじゅうりんしたことに対し、国民の怒りを代表して強く抗議するものであります。
総理、国民の生命と健康を守ることは政治に課せられた重い使命ではありませんか。ところが、本法案は、国民の生命を削り健康を脅かす許しがたい悪法であります。私はこのことを厳しく指摘するものであります。
そもそも、健康保険制度は憲法二十五条第一項の国民の生存権の保障にその立法根拠を置くものであり、憲法二十五条第二項は、すべての生活部面について、社会保障、社会福祉の向上及び増進を国の責務と定めているのであります。ところが、中曽根内閣は軍事費を異常に突出させ、大企業への補助金の増額を行いながら、一方で教育、福祉予算を冷酷に切り捨ててきました。
本法案とこれに至る一連の健康保険改悪の経過は、政府がこの憲法で課せられた責務を果たすどころか、全く逆の方向をとり続けてきたことを如実に物語っております。政府は、昭和五十二年には初診時患者負担二百円を六百円に引き上げ、そして保険料も引き上げました。五十五年には初診時負担を八百円に、入院時負担を一日二百円から五百円に引き上げ、さらに国庫負担率を一六・四%に凍結しました。五十八年二月に施行された老人保健法は、自立自助、相互連帯などというごまかしの美名に隠れて、お年寄りの医療費無料制度の廃止、病院からの追い出しを行い、老人と国民の犠牲で国の負担を減らしました。
そして、いよいよその仕上げとして、被保険者本人二割負担、国保補助金の削減、労働者保険からの拠出による退職者医療制度の創設等によって国庫負担を六千二百億円も削減するという、健康保険制度の根本を崩す大改悪を行おうといたしております。これこそ健康保険の今日までの歴史でも戦時下の東条内閣だけしかやらなかった暴挙であり、総理、あなたは今まさにこれをなそうとしているのであります。
この一連の事実は、何よりも雄弁に自民党政府が憲法二十五条で定められた社会福祉、社会保障の向上及び増進に努めるべき政府の責務を放棄し、国民の生命と健康をないがしろにしてきたことを物語っていると断ぜざるを得ません。総理の見解を求めます。
過日、労働白書が発表されました。それによると、労働者の家庭は、教育費や住宅ローンの返済の増大で経済的にますます余裕がなくなっていることが明らかになっております。本法案は、このような労働者に一割、近い将来には二割の医療費負担を課すものであります。それが労働者や庶民にとってどれだけ深刻な負担になるか、総理、あなたはおわかりですか。
政府は、外来では九一%の人が本人負担額は三千円以下なので大した負担増にならないと強弁していますが、今なら初診料八百円だけで済むのに二千円にも三千円もの負担にもなり、さらに二割負担となれば、庶民にとってはそれは耐えがたいものになるでしょう。人工透析など慢性疾患の患者は終生高額の医療費を負担し続けることになります。それが入院ともなれば、多額の現金を用意しなければなりません。例えば厚生省の試算でも、胃がんで三十日入院すると約七十万円の医療費がかかるとしています。中小企業労働者は、高額療養費制度によって後に払い戻しがあるとしても、本法案によって新たにこの全額を病院に支払わなければならなくなります。総理、今でも日々暮らしに追われている国民は、これだけのお金をどうしてつくればよいのでしょうか。まさに、お金の切れ目が命の切れ目という悲惨な事態に追いやられるではありませんか。はっきり答弁してください。
本法案で新たに設ける高度先端医療制度は、高度な医療には全面的に保険を適用しないというものです。そうなると、進んだ高度の医療を受けられるのはお金持ちだけになりかねません。医療にこのような差別を持ち込むことは断じて許せません。そもそも国民皆保険のもとでの医療は、向上する医療水準の恩恵を全国民がひとしく享受できるものでなければなりません。この原則から見ても、高度先端医療でもその有効性が確認され次第、直ちに保険を適用すべきであります。この立場に立って運用されるかどうか、基本的見解をお聞きいたします。
また、医療費の適正化を図るというのなら、国民に負担増を強いる前に政府のなすべきことは、医療費の四〇%近くを占める薬剤費、特に製薬大メーカーの薬価にメスを入れることであります。国民医療費に大きな影響を持つにもかかわらず、新薬の決定の仕組みは何ら第三者機関等の合理的な審査を経ず、大メーカーの申請を基本に決定されるものとなっております。このような現状は根本的に改善されるべきものであります。薬価の決定の基準は製薬メーカーの原価に適正な利潤を加えたものにすべきであることは、我が党がかねてから主張してきたところでございます。この点、検討されるかどうか、厚生大臣の答弁を求めます。
また、安全、有効な医薬品の開発は、医療政策上も重要な課題であります。ところが現状は、それが私企業任せになっております。医薬品をめぐる不正が多発する根源もまたここにあります。国民の健康増進と医学の進歩のために、国が責任を負って安全、有効な新薬開発を行えるよう、国立の研究機関を設置すべきであると考えますが、いかがですか。大臣の見解をお伺いいたします。
疾病の予防、早期発見、早期治療体制の充実は、最も有効な医療対策であります。しかし、この点での政府の対応は極めて不十分で、労働者の定期健康診断はその典型の一つであります。
御存じのように、労働安全衛生法ではすべての事業主に年一回、全労働者の定期健診を実施するよう義務づけております。現在、雇用労働者は約四千万人です。ところが、労働省の把握している受診結果はその四分の一、約一千万にすぎません。これは、常時五十人以上を雇用する事業所からしかその実施報告を求めていないからであります。私は、労働者定期健診は全労働者が受診できるよう徹底すべきであり、早急に三十人以上の規模の事業所からも実施報告を求めるように改めるべきだと考えますが、答弁を求めます。
さらに、労働者定期健診の項目が極めて貧弱であることも問題であります。
血液検査や心電図検査等は成人病予防と早期発見に不可欠なものであり、労働者一人当たり四千円程度で第一次検査が実施できるのであります。政府は、労働者の健康対策が重要な政策課題だと言いながら、健診項目の充実を長期間放置してきました。怠慢のきわみと言わねばなりません。私は、事業主の責任で四十歳以上の全労働者には成人病検診ができるよう、内容を早急に充実すべきであると考えますが、総理は検討するように指示されますか、お答えください。
次に、退職者医療制度についてであります。
これは、国の負担はゼロにして国民の連帯という美名で各保険者から拠出金を出させ、運用するというものです。その上、衆議院で修正された一部大企業の健康保険組合には継続給付を認め、その分、拠出金を減額する方式は、大企業の要求に沿ったものであり、各保険者間の矛盾を激化させるものであります。私は、以上のような政府の無責任な態度と大企業擁護の姿勢を厳しく批判するとともに、国民医療に一貫して国が責任を負う立場を貫いて、退職者医療制度にも国庫負担を導入すべきであると考えますが、いかがですか。答弁を求めます。
次に、国民健康保険の問題についてであります。
現在でも繰り返し増額されてきた国保料の負担は働く国民にとって耐えがたいものであり、滞納者もふえております。国保財政も深刻であります。ところが、本法案はこれを改善するどころか、退職者医療制度を創設したことを理由として国民健康保険への国庫補助率を四五%から三八・五%に引き下げようとしております。政府は医療費適正化等により国保財政への影響はないと強弁しておりますが、国保財政のプラス要因は不確定であり、住民負担の増になることは必至であります。また、今、建設国民保険組合など自主努力で給付改善を行ってきたところへの財政的打撃は大きく、給付の引き下げや保険料引き上げにつながると抗議の声が高まっております。
このように広い国民の声を反映して、地方自治体議会の半数以上が反対しているのであります。政府はこの声が聞こえないのでしょうか。この声に耳を傾ける誠意があるのなら、市町村や住民に新たな負担増を求めることは絶対にしないと断言すべきです。明確にお答えを願います。
また、低所得者に対する国保料の減額措置分の国保財政への補てん、すなわち軽減費交付金を二
割削減しようとしていますが、これは国民皆保険制度の根幹にかかわるもので、許すことはできません。厚生大臣、自治大臣の答弁を求めます。
総理、本法案に対し、これを廃案にせよというかつてなく強い国民の声が上がっております。この声は、トマホーク来るなという平和への熱い願いとともに、ますます全国に広がり、高まるでしょう。生命を守るべき医療費を削減し、生命を奪う軍事費につき込むことなど、どうして許せるでしょうか。我が党は、軍拡路線を進める犠牲で国民が貧しさがゆえに生命と健康を脅かされるという本法案は、これを断じて容認することはできません。
私は、廃案にすべきであることを強く表明して、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/15
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016・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 安武議員にお答えをいたします。
まず、老人保健法や本法案等の一連の経過は、憲法第二十五条第二項に定められた社会福祉増進に努むべき政府の責務を遂行しないのではないかという御質問でございます。
老人保健法や今回の改正案は、二十一世紀の本格的な高齢化時代においても公的医療保障制度の安定した運営が維持できるよう改正を図るものでありまして、結局は長期的には国民の福祉につながるものであると考えております。
次に、本法では貧しい国民は生命と健康を守れなくなるのではないかという御質問でございますが、今回の改正におきましては、医療費の適正化、給付の公平化、それから保険制度の長期安定化を図る上で重要なのでございます。これによって家計の負担が過大にならないように、高額療養費制度によっても負担の頭打ちを設けておるところでございます。
福祉につきましては、やはりその国の財政状況、社会条件の中で最善を尽くすのが政府の責任であると考えておるのでございます。現在、被用者保険の家族や国保は二割ないし三割の一部負担をしておりまして、これらの人々と比べても、一割負担で健康が守れなくなるとは考えておりません。
次に、高度先端医療について御質問がございました。
保険給付として必要かつ適切な医療は、今後とも確保してまいる所存でございます。高度先端医療については、それが効果的であり、かつ適当であり、一般に普及する使用度合いあるいはコストの関係等も考えてまいりたいと思っております。なお、今回の改正におきましても、この基礎的部分については保険でカバーできるようにしております。
疾病の予防、早期発見のため、労働者定期健康診断の改善を行うべきではないかという御質問でございます。
労働安全衛生法によりまして定期健康診断が義務づけられておりまして、実行しておるところでございますが、その内容については今後とも検討してまいる所存であります。また、定期健康診断については、従来より業界に対する指導等を通じてその実施の徹底を図ってまいっております。
当面、三十人以上の規模の事業者からも報告を求めよ、現在の五十人という制度を改めよという御質問でございますが、就業との関係において労働者がどのような健康状態にあるかを全般的に把握するためには、現行制度で十分ではないかと思います。小規模事業場から報告を求めるということは、事務処理能力の乏しい事業者にとってかなりの負担となるので適切ではないと思います。もちろん、報告義務はありませんが、診断実施の義務はあるわけでございます。
次に、四十歳以上の全労働者の定期健診に成人病検診を実施するよう、健診項目の充実を図るよう検討すべきではないかという御質問でございます。
成人病は主として個人の生活習慣、年齢等に起因するものであり、成人病検診は広く国民一般を対象として目下実施しているところでございます。事業場が自主的に成人病検診を行うことは望ましいが、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的として事業者に実施を義務づけている労働安全衛生法に定める定期健康診断に、成人病検診の項目を取り込むことは現段階では適当ではないと考えております。
退職者医療制度に関して国庫負担を行えという御質問でございますが、この制度は世代間の連帯を基礎とした被用者保険サイドの制度であり、また被用者保険全体として見れば、今回の改正で十分に拠出能力を有しておりまして、その必要はないものと思います。
本法案を撤回する考えはありません。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/16
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017・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 最初の高度先端医療については、ただいま総理から詳細御説明がございましたとおりでございます。
薬価基準については、新薬の薬価算定を含め、昭和五十七年の中医協答申に基づき改善を図っておるところでございます。今後ともその適正化を図っていく所存でございます。
有効かつ安全な医薬品の開発につきまして、基本的には民間の努力にまつところが大きいものでございますが、国としても極めて重要な問題であると考えております。新たに国立の研究機関を設けることは、申しわけありませんが考えておりませんが、国としては基礎的な研究開発を中心に、医薬品の研究開発については既存の国立予防衛生研究所、国立衛生試験所の機能を活用し、一層努力してまいる所存であります。
退職者医療制度への国庫負担の導入についても、今総理からお答えいたしました。この制度が世代間の連帯を基礎とした被用者保険サイドの制度であり、また被用者保険全体として見れば十分に拠出能力を有しておりますので、その必要はないと考えております。
国保国庫補助制度の改正については、退職者医療制度の創設や医療費適正化対策の推進等により市町村国保の財政負担が軽減されることを勘案したものであり、今回の改正は市町村に新たな負担を求めるものではなく、保険料は全体として予測される水準以上に上昇するものとは考えておりません。
また、国保組合に対する国庫補助につきましても、全体として現行水準を維持できるものと考えております。
軽減費交付金につきましては、今回、市町村の財政力のいかんにかかわらず補助する現在の仕組みを改め、財政力に応じた、より適正な配分が行えるようにすることとしておりますので、御理解を願います。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣田川誠一君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/17
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018・田川誠一
○国務大臣(田川誠一君) 国民健康保険の問題についてお答えをいたします。
国保におきます国庫補助負担制度の改正は、医療保険制度の改革の一環として行われます退職者医療制度の創設に伴うものでございます。この改正に伴いまして、市町村国保の財政負担が軽減されることを勘案して国庫補助負担制度の見直しがなされたものでございます。全体として国保加入者の保険料負担水準は、従来見込まれている水準以上に上昇することはないと理解をしております。
厚生省で、調整交付金の財政調整機能強化策の一環といたしまして、保険料軽減費交付金の比率を引き下げることについても検討する意向があるやに聞いております。自治省といたしましては、この問題については保険料軽減の性格やこの軽減費交付金の役割等を踏まえまして、財政調整による健全性確保の見地から総合的に検討してまいりたいと考えております。
以上でございます。(拍手)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/18
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019・阿具根登
○副議長(阿具根登君) 柄谷道一君。
〔柄谷道一君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/19
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020・柄谷道一
○柄谷道一君 私は、民社党・国民連合を代表して、ただいま趣旨説明のありました健康保険法等の一部を改正する法律案に対し、総理及び関係大臣に質問を行うものであります。
我が国の医療保険は、昭和三十六年に既に皆保険制度が達成されましたが、その後二十余年に及ぶ歳月が経過する中で、政府は各種審議会の具体的提言や答申を軽視し、皆保険に即応した医療の
供給体制を主軸とする各種の条任整備を怠ったばかりか、疾病構造の変化や人口老齢化等の現象に対する適切な対策を欠いて、医療制度全般の矛盾、不合理を拡大させ、国民総医療費の増高と医療保険の行き詰まりを招いたことを私はまず指摘せざるを得ません。
すなわち、総理の諮問機関である社会保障制度審議会は、昭和四十二年、財政対策のみを追う政府の姿勢を厳しく批判し、抜本対策の確立はまさに天の声であり、政府がもし従来のような態度に終始するならば、それは単に医療保険の破局をもたらすばかりでなく、社会保障の均衡のある発展を阻止し、ひいては我が国社会開発全般に一大障害となることは明らかであろうと重大な警告を発し、同じ立場をとる社会保険審議会とともに長期にわたる慎重な審議を経て、四十五年と四十六年の二回にわたって、健康管理体制に対する行政機能の一貫した体系化、医療供給体制の体系的整備のための具体的長期構想と年次計画の策定、公費負担医療の拡大と保険医療の分野との再編成、診療報酬体系の適正化と医薬制度の改善、被用者保険における経営管理の単位の見直し、医療費支払い制度の改善と審査の厳正化等々について具体的方策を提言し、これら医療保険の前提諸問題の改革を国民の合意を得て実践に移すことこそ政治の要請であると答申したのであります。
しかるに政府は、自来十二年間、これにこたえる万全の努力を払うことなく、今日安易に被用者保険本人の定率負担を導入しようとしており、これはその無策を国民の負担に振りかえるものにほかなりません。
このことは、本案を審議した社会保障制度審議会が、その答申の中で、「今回の改正は」「財政対策にとらわれるあまり保険財政における収支のバランスのみにこだわった感があり、医療保険本来の趣旨に照らした検討が必ずしも十分になされたとは思われない。」と指摘し、また社会保険審議会も、「今回の改正案は、我が国の医療保険制度の根幹にかかわるものであり、慎重かつ広汎な検討を行う必要がある」と意見を述べていることでも明らかであります。
総理及び厚生大臣は、長期にわたって医療保険制度の前提諸条件の抜本的改革を怠ってきた重大な政治責任をどのように認識しているのか。また政府は、今後これらの諸課題について中長期的ビジョンと年次計画を策定し、総力を挙げて改革に取り組む熱意と用意があるのか、国民の前に明らかにすることを求めたい。
次に、医療保険の給付率についてただします。
御承知のとおり、健康保険被保険者本人の原則十割給付は、昭和二年の健保制度発足以来維持されており、特に政管健保が昭和三十七年から恒常的赤字を続け、国鉄、米とともに三K赤字の一つとして財政上の大きな問題となり、数度にわたり制度改正が行われた際も、その切り下げ案は一度として提案されたことがなく、今日まで守り続けられてきました。
しかも社会保険審議会は、昭和四十六年の答申で、高額医療疾患、長期医療疾患については、公費負担医療に移行するもののほか、被扶養者を含めて早急に十割給付とすること、健保の被扶養者については、国民保険との均衡をとりつつ給付率の改善を図ること、健保の被保険者本人については、このような改善と見合って必要な受診率を抑制しない範囲での適切な自己負担はやむを得ないことを答申しているのであります。
政管健保が五十六年度以降黒字に転じ、財政状況は極めて健全に運営されている現在、本人、家族とも入院、重症患者には厚く、低額、短期疾患の者には適切な自己負担をという審議会の理念に逆行する定率負担を、しかも家族や国保の給付率を何ら改善しないまま導入しようとすることは到底容認できるものではありません。まして、六十一年四月一日以降においても、別途国会で承認を受ける日まで引き続き給付率を九割とするとみずから衆議院段階で修正しながら、本則では八割給付に固執することについては全く理解に苦しむものであります。
三十数年間維持されてきた被用者保険本人の給付率を引き下げる政府の意図は、毎年約一兆円ずつ増加し、現在約十四兆円に達した国民総医療費を抑制することにあるのか。あるいは健保本人と家族、国保間における医療給付率の格差を是正するための抜本改正に向けての第一歩であるとすれば、さきに述べた審議会答申との整合性をどのように説明するのか、総理と厚生大臣よりその本意について明快な答弁をいただきたい。
さらに、定率負担の導入は、必然的に受診率の低下を招き、疾病の早期発見、早期治療という医療の基本理念に反して、健康の確保にも大きな問題を残すことになると思うが、受診率は低下しないのか。低下する場合、それはどの程度か、それが国民の健康にどのような影響を及ぼすと判断しているのか、厚生大臣より具体的に説明していただきたいのであります。
第三に、政府が採用しているいわゆるマイナスシーリングと称する概算要求の方式と本法案の関連について質問します。
政府は、五十八年度に引き続き、五十九年度も一部経費を除いて経常部門は一〇%削減、投資部門は五%削減という基本方針を設定し、それにのっとった概算要求に基づいて予算編成を行いました。この方式が最近までの景気低迷や税収不足の一つの要因になったことは否めず、また防衛と経済協力関係は重点施策として特別の配慮はしたものの、社会保障費関係にはそれを行わず、画一的削減の対象としたため、医療、年金等の法律補助金が大きな部分を占め、しかも老齢化社会の進展によって支出の増を余儀なくされる厚生省予算は、数字のつじつまを合わせるため被用者保険本人の負担増、受診率の抑制、国庫負担の削減という方法を採用せざるを得ない局面に立ち至ったと思うのであります。
昭和四十九年、田中内閣が福祉元年と華々しくうたいとげた福祉社会建設の構想は、今日、中曽根内閣によって福祉紀元前へと歯車を逆転させる結果を招いたと言うべきでありましょう。社会保障費を画一的マイナスシーリングの対象にしたことが本法案と深いかかわりを持っていることは、さきに述べた社会保障制度審議会及び社会保険審議会答申を見ても明らかであり、本案が財政対策にとらわれたものであることは否定できますまい。総理及び大蔵大臣の見解を明らかにしていただきたい。
さらに、六十年度概算要求の方式については、六十年度版ゼロリストを国会に提出し、不可避的に歳出増をもたらすいわゆる当然増経費の総額及び主要経費別内訳、特に社会保障関係費の明細を示して国民に検討の素材と問題点を明らかにするとともに、少なくとも本国会に法案を提出して制度の根幹に切り込んだ医療と年金については、シーリングの対象から除くことが至当であると考えるが、大蔵大臣の考えを伺いたい。
第四に、高額療養費支給制度の抜本改正について質問します。
我が党は、かねてから疾病、老後、雇用、住宅、教育という五つの不安を解消することが日本を真に活力ある福祉社会にし、そのことが同時に日本経済の安定を招来することになるという確信に立ち、それぞれについて建設的政策を提唱してきました。
しかし、歴代自民党内閣は、こうした国民の生活不安を解消するための対策を怠り、逆にその不安を増大させる姿勢をとり続けてまいりました。ゆえに、自由世界第二位という経済大国になったにもかかわらず、多くの国民は疾病への不安を募らせております。このことは、貯蓄増強中央委員会が昭和五十八年に貯蓄に関する世論調査を行った結果、貯蓄の目的の第一位に「病気や不時の災害に備えること」を挙げ、その比率が七五・一%を占めていることでも明らかであります。このような国民の不安に対応することが医療保障の目標であると言えましょう。
しかるに、本法案は、衆議院段階で政府が自己負担限度額を現行の五万一千円に据え置くとともに、家計の負担能力に適切に対応した仕組みとなるよう所要の改善を図ることを明らかにしたが、その具体的内容は示されておらず、被用者保険本人に対する定率負担の導入は、疾病への不安を増大させる結果となることは政府も否定できますまい。
このため、私が本院予算委員会で指摘したように、現行の同一医療機関ごと、本人と被扶養者ごと、暦月方式という制度がもたらしている矛盾や
不合理を根本的に改めて、世帯単位及び三十日単位にすること。血友病等の難病や長期高額医療費の疾病については、衆議院附帯決議の軽減措置にとどめず、公費負担医療の拡大を含め自己負担の免除を取り入れること。被用者保険本人の負担額は、現在初診料と入院一カ月に限り一万五千円であることと比べ、新たに各月限度額まで負担が激増し大きく家計を圧迫するという事態を配慮し、激変緩和の措置をとること。三カ月以上一世帯で限度額まで自己負担をした場合は、次月度以降その限度額を低所得者と同額にまで引き下げること。自己負担限度額は五万円、低所得者については外来二万円、入院一万五千円とすること。高額療養費については、現行の償還払い方式を改善するとともに無利子の融資制度を創設すること、という六つの改革を断行すべきであり、それが定率負担を導入しようとする政府として最低限配慮すべき事項ではないか。それなくして本案の成立を企図することは、余りにも国民生活の実態を無視した暴挙であるとの批判を招くことは避けられません。総理及び厚生大臣の誠意ある回答を求めます。
次に、退職者医療制度について伺います。
この制度は、かねて我が党が求めていたものでありますが、政府案は、制度の創設に当たって国庫負担の導入を見送り、その財源を各種被用者保険制度からの拠出金のみに依存し、国の責任を棚上げにしており、到底国民の合意を得られるものではありません。退職者医療制度も医療保険の一つであり、他の医療保険とのバランスを考慮して、ある程度の国庫負担を導入すべきではないか。仮に本年度、予算との関係で直ちに導入ができないとしても、今後国庫負担を行える法的根拠を政府案に盛り込むことについても検討する用意はないのか、厚生大臣及び大蔵大臣の見解を求めます。
最後に、医師と患者との強い信頼関係を築くために不可欠な医の倫理の確立、医療機関に対する監督監査の強化と支払基金の機能充実、官給領収書の発行等医療費適正化の具体的方策、差額ヘッド、付添看護等保険外負担の早急な解消策、特にその改善が著しくおくれている私立大学附属病院に対する行政指導の具体的方針、政管健保の付加給付に家族を認めない理由、分娩費等現金給付及び傷病手当と障害年金等との併給調整の改善に関する方針の五点について、総理及び厚生、文部両大臣の明快な答弁を求め、健康管理体制、医療供給体制、医薬制度、診療報酬、各種保険の一元化等々の問題については委員会での質問に譲って、私の質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/20
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021・中曽根康弘
○国務大臣(中曽根康弘君) 柄谷議員にお答えをいたします。
社会保険審議会や社会保障制度審議会の答申を軽視して、長年医療保険制度の前提条件の抜本改正を怠ってきた政治責任をどう考えるかという第一問でございます。
高齢化社会に向かつて我が国の国民医療の充実を図っていくためには、医療保険制度の改革のほか、御指摘の健康管理体制の確立、医療供給体制の計画的整備等が重要であります。このため、従来より老人保健制度の創設などにより、総合的な保健対策の確立に努めるとともに、地域医療体制あるいは救急制度、ホームドクター制度等、供給体制側の医療法の改正など総合的な対策に取り組んできたところでございます。今後とも関係方面の御意見を聞きながら、これらの対策の推進に積極的に取り組む考え方でございます。
次に、公的審議会の給付率に対する理念に反して、被保険者本人の給付率を引き下げようとする本意は何かという御質問でございます。
御指摘の答申は昭和四十六年に行われまして、十割給付、定額負担が適当としておりますが、その後の社会経済の変化等を考え、医療保険制度の効率化、公平化という観点から、今回被用者保険本人についても定率負担を導入することにしたのでございます。御指摘のこの審議会の時期は、昭和四十六年といいますとちょうど高度成長花盛りの時期でございまして、それ以後、財政条件が二度の石油危機等のために急激に悪化した。これらの事態を踏まえますと、その審議会の答申どおりはいかなくなってきているということは甚だ残念な次第なのであります。
なお、今後とも関係審議会においても適正な患者負担について御答申を得ましたら努力してまいるつもりでおります。
次に、健康保険法の改正案は画一的なマイナスシーリングとの深いかかわり合いを持っておって、財政対策にとらわれた結果ではないかという御質問でございます。
今回の改正案は、二十一世紀の本格的な高齢化社会に備えて、公平、効率、長期安定化をねらった医療保険制度の基盤を揺るぎなきものにするための措置でありまして、単なる財政対策ではございません。
定率負担を導入しようとする政府としては疾病に対する不安を取り除くためにさまざまの改善措置をとり、最低限の配慮をなすべきではないかという御質問で、幾つかの重要なポイントを指摘していただきました。
これらの御指摘の中には相当程度、今回の改正その他で努力している点もあるのでございます。高額療養費制度の改善に関する種々の御提案は傾聴に値するものでもあります。家計負担の軽減という制度の趣旨が生かされるように、今後とも十分に検討してまいる考えであります。
次に、医の倫理についての御質問がございました。
医師は、病む者をいやし、支える者としての職業倫理を求められているものであり、国民の医療に対する信頼を確保するためにも医の倫理の確立は極めて重要でございます。政府としても、関係団体の自主的努力に加え、医学教育の充実、医師の研さん活動に対する支援などを通じまして医の倫理の確立に努力してまいります。
残余の答弁は関係大臣からいたします。(拍手)
〔国務大臣渡部恒三君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/21
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022・渡部恒三
○国務大臣(渡部恒三君) 第一に、医療保険制度の前提諸条件についてのお尋ねでございます。
ただいま総理からも御答弁がありましたが、二十一世紀を目指して我が国の国民医療の充実を図っていくためには、御指摘の審議会答申にもありますように、健康管理体制の確立、医療供給体制の計画的整備等が重要であります。このため、老人保健事業の推進を初め、健康づくり運動の展開等総合的な保健対策、地域医療計画の策定を盛り込んだ医療法の改正などに総合的に取り組んでいるところでございます。
医療保険制度の前提諸問題への今後の取り組みについては、関係方面の御意見を聞きながら総合的な対策の積極的な推進を図り、国民から信頼される医療及び医療保険制度を確立するために、誠意を持って頑張ってまいります。
給付率についての御指摘でありますが、昭和四十六年の答申は、確かに十割給付、定額一部負担とすることが適当であるとしております。しかし、その後の医療費の動向、医療費に対する患者、医療担当者の意識の動向、疾病構造の変化、保険料負担水準の変化などを考慮いたしまして、給付率統一の第一段階となること、かかった医療費がすぐわかることから医療費の効率化につながることなどの観点から、今回被用者本人についても定率負担を導入することが適当と考えた次第でございます。
被用者保険本人一割負担の導入が受診抑制を招くとの御指摘については、現在定率負担となっておる被用者保険の家族や国保加入者の受診状況等との比較からいっても、必要な受診の抑制を招くことはなく、このため健康の確保にも支障はないと考えております。
高額療養費制度等に関するただいまの御提案については、まことに傾聴に値するものでございますので、今後十分検討してまいりたいと存じます。
なお、世帯単位、三十日単位とすることについては、現行のレセプトに基づく医療保険のシステムから見ると実務処理上困難な面があることも事実でございますが、コンピューターの導入等医療保険に係るシステムの合理化とあわせて検討をしてまいりたいと思います。
退職者医療制度への国庫負担の導入については、この制度が世代間の連帯を基礎とした被用者保険サイドの制度であり、また被用者保険全体として見れば十分に拠出能力を有しており、その必要はないと考えております。したがって、国庫補
肋に係る法的根拠を盛り込む必要もないと考えております。
医の倫理についてのお尋ねでありますが、医師は国民の生命と健康を預かる専門職として高い資質及び職業倫理を求められております。このため、関係団体による自主的な御尽力を求めるとともに、臨床研修等を通じ医療の場における倫理の高揚に努めております。また、医師の違法行為、不正行為に対しては、今後とも厳正に対処する所存でございます。
医療費適正化対策についてのお尋ねでありますが、医療保険改革に当たっては、医療費適正化対策を強力に推進することとしており、まず指導監査担当職員の増員確保、顧問医師団の設置等指導監査の充実強化を図っております。さらに、高額レセプトについて特別審査委員会を設置するほか、領収書の発行を促進するための指導の徹底等、今後とも適正化対策を総合的に推進していく所存でございます。
差額ベッドなど保険外負担の問題については、従来から厳正に対処してきており、特に私大附属病院の三人室以上の差額ベッドについて、中医協答申を踏まえ、大幅解消を行ってきたところであります。この問題については引き続き関係者と話し合いを進めるとともに、中医協の審議を踏まえ、今回の特定療養費の適切かつ円滑な運用を図る中で解決を図ってまいる所存でございます。
次に、付加給付に関するお尋ねでありますが、政管健保の事業主等に係る付加的な給付事業は、本人定率導入による負担の緩和のためのものであり、家族については今回給付率の変更がないことから、このような措置をとる必要は乏しいものと考えております。
最後に、分娩費等の引き上げや傷病手当金と障害年金等との併給調整の問題につきましては、今後、鋭意検討してまいりたいと考えております。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣竹下登君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/22
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023・竹下登
○国務大臣(竹下登君) まず第一問でございますが、本案は画一的なマイナスシーリングと深いかかわりを持って、財政対策にとらわれた結果ではないかと、こういう御質問でありました。
概算要求枠は、各省庁が概算要求を行うに当たりましての、各省庁ごとの全体としての概算要求総額の限度額でございます。その総額としての限度額を算出いたします場合は、五十九年度に例をとりますならば、一つには、人件費、年金等については、その経費の硬直的な特別の性質に着目して例外的に増加分を加算する、二つには、生活保護、医療費、利子補給等いわゆる義務的経費については、その義務的な性格に着目して削減率を掛けない、三つには、その残余の経費について削減率を掛ける、という技術的な計算方法によって各省庁の概算要求総枠を算出しておるところでございます。したがって、概算要求枠というものは、技術的な計算によって算出される各省庁ごとの概算要求の総額の枠でありまして、あらかじめ経費ごとにその政策の優先順位を検討し、あるものには厳しく、あるものには配慮するといった手法をとるべき性格のものではございません。
そこで、今回の改革は、来るべき本格的な高齢化社会に備えまして、中長期の観点に立って、まさに医療費の規模を適正な水準のものとして、現在の保険料水準を維持する、そして負担と給付の両面にわたって公平化を図ることにより、医療保険制度を将来にわたって安定的に維持していくために行うものであって、単なる財政対策ではないというふうに御理解をいただきたいものであります。
それから次の、六十年度版ゼロリストを示す用意はないか。いわゆるゼロリストというのは五十五年の秋に、厳しい財政事情を各方面に理解していただきますため各省庁にお願いいたしまして、一般歳出経費を仮に前年同額、すなわち伸び率ゼロにしたときの問題点を説明してもらいまして、これを大蔵省において取りまとめたものでございます。
現下の財政事情は一段と厳しくなっておりますが、五十八、五十九両年度の予算において既に一般歳出の伸びはゼロないしマイナスとなっておりまして、現時点で五十五年当時と同様の作業を行う意義は当時に比べれば薄れておるではないか。しかし、財政の厳しい現状を理解していただく必要性につきましては十分認識しておりますので、そのために今後とも御意見を承りながら種々な工夫を重ねてまいりたいというふうに考えております。
それから、退職者医療制度について他保険とのバランスを考慮しての国庫負担導入、こういう考え方に対してでございます。
医療保険制度につきましては、各保険者ごとに財政力の面でかなりの相違があることから、これを調整するため国庫補助を行っておる。退職者医療につきましては、まず一つには、被用者保険サイドの問題として、被用者OBの医療費は社会的連帯と世代間の負担の公平の観点から、被用者OBの保険料のほか現役の被用者及び事業主が拠出する拠出金によって賄うという、いわば一つの哲学であると思うのであります。この拠出金額は、各保険者ごとの標準報酬総額に応じて定まるものでありますこと、各保険者においてこの拠出金を負担し得る財政力があると考えられることなどからして、被用者保険からの拠出金に対し国庫補助を行うという考え方は、これは厚生大臣からもお答えがございましたが、持っておりません。(拍手)
〔国務大臣森喜朗君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/23
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024・森喜朗
○国務大臣(森喜朗君) 柄谷さんにお答えを申し上げます。
御質問の第一点は、医学教育の立場から医の倫理の確立を文部大臣はどのように受けとめているのか、また医の倫理の確立に向けての対策はいかがとのお尋ねでございますが、大学の医学教育におきましては、医師として必要な最小限の知識や技術を体得させるとともに、すぐれた指導者のもとで厳しい訓練を通じて人間の生命の尊厳、医の倫理に対する自覚を培うことが何よりも必要であると考えております。各大学におきましても、このような考え方に立ちまして、年前教育、卒後教育の全体にわたりまして、医師としての倫理観の確立に努めているところでございます。
例えば、入学者の選抜に当たりましては、医師にふさわしい資質、適性を有する者を選抜すべく、入学試験に面接や小論文を取り入れております。教育課程につきましては、医学概論等、医の倫理の育成に関連する科目を取り入れる等いろいろな工夫改善を行っているところでございます。文部省といたしましては、このような各大学の努力をさらに支援し、適切に指導してまいりたいと存じております。
御質問の第二点は、保険外負担の解消のおくれている私立大学附属病院に対する文部省の指導方針はいかがとのことでございますが、私立医科大学におきます保険外負担の問題につきましては、各大学の努力によりましてかなりの解消が図られてきているところでございます。なお、今後どのように進めていくかについては、厚生省と十分協議して適切に対処してまいりたいと存じております。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/24
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025・阿具根登
○副議長(阿具根登君) これにて質疑は終了いたしました。
本日はこれにて散会いたします。
午後三時三十一分散会
―――――・―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/110115254X02319840716/25
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