1. 会議録本文
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000・会議録情報
平成十八年五月二十五日(木曜日)
午前十時開会
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委員の異動
五月二十四日
辞任 補欠選任
喜納 昌吉君 白 眞勲君
藤原 正司君 下田 敦子君
白浜 一良君 魚住裕一郎君
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出席者は左のとおり。
委員長 工藤堅太郎君
理 事
西銘順志郎君
山内 俊夫君
芝 博一君
柳澤 光美君
委 員
秋元 司君
鴻池 祥肇君
佐藤 泰三君
鈴木 政二君
竹山 裕君
中曽根弘文君
山谷えり子君
黒岩 宇洋君
下田 敦子君
白 眞勲君
松井 孝治君
魚住裕一郎君
風間 昶君
近藤 正道君
木俣 佳丈君
事務局側
常任委員会専門
員 鴫谷 潤君
参考人
京都大学大学院
法学研究科教授 山本 豊君
松下電器産業株
式会社法務本部
理事 齋藤 憲道君
全国消費者団体
連絡会事務局長 神田 敏子君
日本弁護士連合
会消費者問題対
策委員会委員長 山口 廣君
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本日の会議に付した案件
○消費者契約法の一部を改正する法律案(内閣提
出、衆議院送付)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/0
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001・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) ただいまから内閣委員会を開会をいたします。
委員の異動について御報告いたします。
昨二十四日、藤原正司君、喜納昌吉君及び白浜一良君が委員を辞任され、その補欠として下田敦子君、白眞勲君及び魚住裕一郎君が選任されました。
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/1
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002・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) 消費者契約法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、参考人の方々から御意見を聴取し、質疑を行います。
参考人を御紹介いたします。
京都大学大学院法学研究科教授山本豊君、松下電器産業株式会社法務本部理事齋藤憲道君、全国消費者団体連絡会事務局長神田敏子君及び日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員長山口廣君、以上四名の方々でございます。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多忙のところを本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございました。
参考人の方々から忌憚のない御意見を承りまして、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。
それでは、本日の議事の進め方について申し上げます。
まず、山本参考人、齋藤参考人、神田参考人、山口参考人の順序で、お一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、各委員の質疑にお答え願いたいと存じます。
なお、御発言は着席のままで、その都度、委員長の指名を受けてからお願いをいたします。
それでは、まず山本参考人からお願いいたします。山本参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/2
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003・山本豊
○参考人(山本豊君) 山本でございます。
本日は、消費者契約法の一部を改正する法律案に意見を述べる機会をちょうだいしまして、大変光栄に存じております。
消費者団体の差止請求権につきましては、いささか勉強するところがございまして、また国民生活審議会の消費者団体訴訟制度検討委員会におきまして委員長として報告書の取りまとめに当たらせていただきました。
この報告書は消費者、事業者、学識経験者等々の国民各層から任命された委員の一年以上にわたる熱心な審議を経て取りまとめられたものでございます。このたびの法案はこの報告書の内容を最大限尊重して策定されたものと認識しておりまして、提出されているとおりの内容でこの法案を通していただくことを希望するものでございます。
初めに、この法案に賛成の理由を概括的に述べさせていただきます。
消費者契約法は、不当な契約条項を無効とするルールや、事業者の不当な勧誘行為によって結んだ契約を取り消すことができるというルールを設けております。しかし、契約を結んでしまった後からその条項を無効としたり、契約を結んでしまった後から取り消せるというだけでは、消費者の保護は十分とは言えません。むしろ、消費者が初めから不当条項や不当勧誘に遭わないようにそれらの行為を差し止めることが肝心です。
そこで、消費者の立場を一番よく分かり、また消費者のために一番親身になることのできる適格消費者団体に差止請求権を与え、消費者被害の防止という目的を達成しようというのがこの法律案の趣旨でありまして、我が国の消費者法体系の中で非常に重要な意義を有する制度になると確信しております。
次に、消費者団体の差止請求権制度の特色について、三点にわたり指摘いたしたいと思います。
第一に、この制度の最大の特色は、潜在的な被害者は消費者一般あるいは国民一般であるのに対して、差止請求権は別の主体である適格消費者団体に認められるという点にございます。つまり、被害者と権利者が別々になるという異色の制度であります。
このような異色の制度は、それがどうしても必要な場面に限定して導入するということがまず考えられるところでありまして、余りこの異色の制度を乱発するということについては慎重に考えなければなりません。
差止請求に関しましては、個々の消費者には差止請求権は認められません。また、消費者全体というのも、消費者全体という法的人格があるわけではありませんので、消費者全体が裁判所に出掛けていって差止請求権を行使するということはこれはできませんので、そうしますと、消費者個人も消費者全体もどっちも差止請求権の主体になり得ない。だから、最後の手段として、異例ではあるけれども適格消費者団体に差止請求権を付与するということが正当化されるわけでございます。
これに対して、いったん被害に遭ってしまった後の損害の回復に関しましては、個々の消費者に損害賠償請求権があるわけですから、個々の消費者が単独で、あるいは団結して集団になって被害の回復に努めるというのが大原則でございますし、それが最も民主主義的な方法であるというふうに考えます。
消費者が単独であるいは団結して被害の回復を求める場面で消費者団体が側面支援をしたり、弁護士、司法書士などの専門家が助力するということはもちろん大いになされるべきですし、さらに、司法制度の面でも消費者の権利実現を支援するための様々な改善が図られるべきであるというふうに考えます。
このたびの法案は、差止請求を認める一方、消費者団体の損害賠償請求権については規定を置いておりません。これは、以上に述べました基本的なスタンス、つまり被害者と権利者が別々になる異色の制度だから、そうすることがどうしても必要な場面から消費者団体訴権を導入しようという考え方に基づくものでございまして、誠に理にかない、また着実な考え方であって、妥当であるというふうに考えるものであります。
第二に、この制度の実験的性格ということについて申し述べたいと思います。
御承知のとおり、団体訴権の先進国はドイツやフランスなどのヨーロッパ大陸諸国でありまして、それらの諸国では消費者団体の差止請求権制度がすっかり定着しております。最も長い歴史を持つドイツにおきましては、訴権団体は既に四十年以上にわたる訴権行使の実績を誇っておりまして、社会の中において確固たる存在感と盤石の信頼、信用を得ております。他方、それらの国々とは異なる法文化を持つ我が国の土壌にこの制度がどのように定着していくかということにつきましては、実際に実施してみないと分からないところが多いのであります。
このことと、第一の特色として指摘いたしました法制度的に異例な構造を取っているという両面から、今回の立法は実験的な性格を持つものであるということが言えます。実験的な立法でありますから、国民各層の委員から成る検討委員会で幅広いコンセンサスが得られた部分からスタートするのが適切であります。
この意味におきまして、法案が検討委員会でかなり意見の分かれました論点、例えば推奨行為の撤回請求の問題、民法上の規定に基づく差止めの問題等々について規定を置いていないということも理論的には両論あり得るところでありますが、堅実なステップ・バイ・ステップの立法の在り方としては十分理解できるものであるというふうに考えております。
第三に、この制度が適切に実施されるためには、運用上の工夫が非常に大事だということを強調したいというふうに考えます。
この制度の運用にかかわる適格消費者団体、裁判所、弁護士、司法書士などの法律専門家、そして、行政、消費者センターなど、関係当事者の制度運営上の工夫や努力に負うところが非常に大きい制度でございます。
先ほど申し上げましたように、被害者は消費者全体だけれども権利者は訴権団体という、言うなれば実質と形式にずれがある、際どいバランスに立っている制度でございますので、実際に問題のある事項をすべて法律で規定するということは不可能であります。法律で規定している内容は最低限のことでありまして、あとは運用でカバーするしかありません。その際に、実質と形式にずれがある制度だということを十分踏まえた対応が必要だというふうに考えます。
各適格消費者団体はそれぞれ別個の法人格を持ちますので、一応独立の権利として差止請求権が認められます。しかし、それは決して各団体が銘々ばらばらに訴権を行使してくださいという意味でそうしているのではありません。仮に各適格消費者団体の御近所に迷惑施設がありまして、その団体の業務に大きな支障が生じているという場合であれば、各団体はその迷惑施設の稼働を差し止めるという差止請求権を持ちますけれども、その場合の差止請求権は各団体固有の利益を守るためのものですから、各団体の差止請求権は名実ともに別個独立でありまして、ある団体が訴訟で負けたからほかの団体の差止請求権の行使は許されないとか、そういうようなことはたとえ事業者が同一事業者であったといたしましてもおよそ考えられないことでございます。
しかしながら、本法律案で導入しようとしている差止請求権は、それとは制度趣旨の異なるものでございます。差止請求権は一応各訴権団体に認められますし、その結果、各団体がばらばらに訴訟を提起することも法律上はやろうと思えば可能であるわけですが、それは法律上は禁止されていないというだけでありまして、制度の運用の適正性という観点からしますと、そういうことはしてほしくはないというふうに思うわけでございます。
法案の内容でこの点と関係いたしますのは、後ほどもいろいろ御議論があるとは思いますけれども、他の適格消費者団体による確定判決等が存する場合、同一事件の請求は原則としてできないという規定でございます。
比較法的には、このような規定を持つ国は多くはございません。例えばドイツでも、特に十二条の五項二号に当たるような規定はないわけでございます。しかし、それはいわゆる同時複数提訴や同一事件の蒸し返しをどしどし行うべきだとドイツで考えているからではなくて、文献などでは同時複数提訴や同一事件の蒸し返しが本当に起こってしまったら困ったことになるというふうに書かれております。ただ、それに続けて、我が国、すなわちドイツの訴権団体は連携して最も訴権を行使するにふさわしい団体が事に当たるのであって、同時複数提訴や同一事件の蒸し返しはしないから心配には及ばないと述べられるのが通例であります。
また、ある文献は、もしそれでも万々一同時複数提訴が起こって矛盾する確定判決が出たらどうするかという問題に触れています。そこで記述されている内容にはさすがにびっくりさせられます。すなわち、その場合も心配は要らないと。我が国、すなわちドイツの訴権団体は、矛盾する確定判決を得た場合には、判例が統一されるまで勝訴判決の強制執行申立てを差し控える、決して勝訴判決だけを振りかざして行動することはしないというふうに書かれているわけです。つまり、訴権団体のそこまでの成熟度、団体訴権制度の信用を大切に守るというそこまでの責任感というものが暗黙の前提となって、言わば予定調和的に制度が設計されているということを知るわけでございます。
日本におきましても予定調和的な考え方で制度設計をするということは論理的には可能な選択肢でございます。しかし、この問題をめぐる国会内外の議論におきましては、例えば各地の適格消費者団体が同じ事業者に対して差止請求訴訟を複数起こしている場合に、そのうちの一つの適格消費者団体と事業者との間で和解が成立すると、他の訴訟を起こしている適格消費者団体の請求は一斉に棄却されて不都合であるというようなことが語られております。このような議論に接しますと、やはり日本では予定調和的制度設計をするのはリスクが伴うのであって、一定の制度的手当てが必要であるという印象をかえって強く受けてしまうわけであります。
また、衆議院で加えられた修正によって、裁判管轄につき行為地管轄が認められ、不当条項の使用差止めに関しましては、商品が全国的に流通している企業や全国から学生を受け入れている大学は、全国どこの裁判所で訴訟を提起されても不思議でないという状況が生じ得ることになるわけですから、この同時複数提訴、同一事件の蒸し返しの問題についても制度的手当ての必要性は一層高まったというふうに言えると思われます。
さらに、この問題に関しましては、差止請求は元々将来志向の制度でございますので、十二条五項二号の影響を過大視すべきではないということも指摘したいと思います。これが損害賠償請求ですと過去の一回的事実について争うしかないわけですから、他団体による後訴が許されるかどうかということは、訴える原告団体にとっても、訴えられる被告事業者にとっても熾烈に利害が対立する問題になるわけですけれども、差止めにつきましては、口頭弁論終結時の事由に基づいて新たに訴訟を提起することは当然に可能ですし、その運用は、差止請求訴訟の訴訟物は何かということに関する司法判断の積み重ねによっておのずと合理的な運用が達成されると考えますので、法案は全体としてバランスの取れた制度設計になっているのではないかというふうに考えます。
いずれにせよ、このような十二条五項二号の下では、適格消費者団体がばらばらに同時複数提訴を行うなどということをしたら正に相手方事業者の思うつぼなわけでありまして、事業者としては、一番弱そうな団体との訴訟に全力を集中して有利な判決や和解をかち取ればそれで他の団体は一網打尽にできるわけであります。そこで、適格消費者団体としては、おのずから定期的に全国会同を開くとか、日常的な情報交換、意見交換に努めるなどして結束して事に当たることが強く期待されます。このような連携の動きを間接的に促すという意味でも、法案の仕組みは適切な内容になっているのではないかというふうに考えます。
以上、本法案で導入されようとしております消費者団体の差止請求権の特色について述べまして、それとの関連で差止めと損害賠償の違い、後訴の遮断の問題など、個別の論点についての私の評価について述べ、全体として法案の内容に賛成であるという旨を申し述べました。
以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/3
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004・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) ありがとうございました。
次に、齋藤参考人にお願いいたします。齋藤参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/4
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005・齋藤憲道
○参考人(齋藤憲道君) 松下電器産業の齋藤憲道でございます。
私は、平成十六年から十七年にかけて、国民生活審議会・消費者政策部会に設置された消費者団体訴訟制度検討委員会の委員としてこの制度の検討に参画させていただきました。本日は、このような発言をする機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
まず初めに、結論から申し上げますと、政府提出法案がおおむね妥当であると、こう思っていましたが、衆議院において修正されました第四十三条第二項につきましては運用の面で十分な配慮をしていただきたいと、こう考えております。この点につきましては後ほど申し上げます。
本日は四つの点について私の考えを申し上げます。
第一は、お客様本位が企業の根幹を成すべき理念であるということです。
多くの企業が社是、社訓にお客様第一を掲げております。お客様相談窓口を設置して、事故やトラブルが発生した場合の迅速かつ誠実な対応に努める企業も数多くあります。窓口の対応は直接企業の信用にかかわります。企業経営には消費者の視点が不可欠で、本来、消費者と企業、経済界は対立する関係にはございません。
例えば、日本経済団体連合会は、企業行動憲章の第一番目に、社会的に有用な製品、サービスを安全性や個人情報、顧客情報の保護に十分配慮して開発、提供し、消費者、顧客の満足と信頼を獲得すると規定をしておりますし、また社会経済生産性本部が主催する日本経営品質賞は、その基本理念の一つに顧客本位を掲げております。
本日の主題である消費者団体訴訟制度の対象になるような一部の悪徳業者のために、業界全体が信用を失うことがあってはならないと考えております。近年、悪徳業者による架空請求や不正請求などの犯罪行為が社会問題になっております。これらについては行政機関や警察等による徹底した取締りが必要であるということで、それを強く望みます。明らかに不当な事案のみがこの制度の対象になり、適切に措置されるのであれば、本制度の導入には異論はないと思います。
第二でありますが、しかしながら、消費者団体訴訟制度には懸念事項もあるということです。
主なものは、制度の濫用、悪用と適格消費者団体の認定であります。制度の濫用、悪用により良心的な企業がいたずらに疲弊することは決してあってはなりません。
平成八年のO157カイワレダイコンの事件では、あたかも集団下痢症の感染源であるように報道された育成業者が、世間に説得的な説明をすることもできないまま深刻な経営不振に陥りました。消費者契約法の場合、複数の適格団体から同時期に、かつ広域にわたって差止請求権が行使されてマスコミざたになった場合、たとえ善良な企業であっても、このカイワレダイコン業者と同様、いわゆる風評被害により打撃を受ける可能性があります。裁判で勝ったとしても、事業の方が壊滅的な打撃を受けるという事態が生じてはなりません。
次に、適格消費者団体をいかに認定するかという問題があります。
団体訴権の担い手である適格消費者団体は、一般消費者のために法律により特別に強力な差止請求権を付与されます。それだけに、責任ある団体として適格性が持続して維持されることを制度面で厳格に担保しなければなりません。そのためには、第一、内部統制の確立、それから第二に必要な情報の開示、第三に監査、監視の実行、この三点が不可欠です。今日、社会は企業に自由な活動の場を提供する一方で、公正性と透明性を強く求めております。適格消費者団体の場合、適格要件を形式的に満足することはもちろん、例えば特定の有力者の支配を受けるなどして実質的に適格要件を欠くことがあってはなりません。
第三は、政府提出案は、消費者、事業者、適格団体の三者の立場に十分に配慮されており、適切に制度設計されていたということであります。
消費者団体訴訟制度は、被害者ではない適格団体に消費者全体の利益のために差止請求権という強力な権限を与えるもので、これまでの民事訴訟制度にない、全く新しい制度です。それだけに、弊害の除去を法律上で担保する必要があります。濫訴の回避措置の導入、適格団体の厳格な認定、対象を差止請求に限定したことなど、政府提出案では一定の適切な配慮がなされておりました。
ただ、冒頭に申し上げましたように、衆議院で、差止請求に係る訴えは、事業者等の行為があった地を管轄する裁判所にも提起することができるという規定が追加されました。政府提出案では、消費者、事業者、それから適格団体の間のバランスが取れておりました。そこにこの条文が追加された分だけ事業者側に厳しくなっていると考えております。
本来、消費者契約法は、消費者と事業者の間には情報の質と量及び交渉力において格差があることから、消費者に生じる不利益を取り除くねらいがあったはずです。今回、この消費者団体訴訟制度が導入されますと、消費者の立場が強化されることになります。まず、新たに設置される適格消費者団体がこれまでなかった差止請求権という強力な武器を行使することができます。そして、国民生活センターと地方公共団体は適格消費者団体に情報を提供いたします。さらに、裁判管轄が事業者の本店所在地に限らず行為地にまで拡大します。この結果、消費者と事業者の間のバランスが逆に消費者有利の方向に大きく傾くケースが生じることがあり得ることを懸念します。各地に営業の拠点を持たない、特に中小の事業者に過大な負担が掛かることのないように御配慮いただきたいと思います。
そのような観点から申しますと、政府提出案で規定されております同一事件の請求に係る制限につきましても、同時複数提訴や訴訟の蒸し返しが起これば、相手方事業者や税金で運営されている裁判所に過大なコストや手間を生じさせることになります。したがって、原案にありますように、適格消費者団体が消費者全体の利益の観点から適正に差止請求権を行使し、確定判決等が出された場合、それ以上他の適格消費者団体による提訴を認める必要は乏しいと考えております。
欧州では、消費者団体訴訟制度について濫用の事例は余り聞かれないという指摘が一部にございますが、ドイツでは、ドイツ消費者センター総連盟という一つの全国団体に訴権の行使が実質的にゆだねられた形になっております。このような制度であれば、同時複数提訴や蒸し返し訴訟等は起こりにくいと思います。これに対して、我が国の制度設計では、適格団体の数は絞らず、理論上は要件さえ満たせば全国の多種多様な団体に訴権が認められることになります。そのため、個々の適格団体に悪意のある場合はもちろん、複数の団体が訴権を同じ企業に対して行使することを通じ、結果として制度が濫用されることがあり得るわけで、この事態を防止する措置は必要不可欠です。
第四でありますが、適格消費者団体に損害賠償請求権を与えるという議論がありますが、この制度については導入すべきではないと考えております。被害者の範囲と被害の総額はどうするかと、どうやって決めるかということ、それからまた、だれにどのような公平な方法でどれだけの金額を分配するのかなどという技術的な問題にはとどまりません。被害を受けた個々の消費者が被害を与えた事業者に損害の賠償を求めるという我が国の民事訴訟法の根本原則を変えることになるのです。今回、同種の被害の発生や拡大を防ぐために適格消費者団体を認定して差止請求権を与えるのには理由があると思いますが、事後的な救済措置である損害賠償請求権については、民事訴訟法上の重要な変更と位置付け、導入する必要はないと考えております。
なお、犯罪収益吐き出し法案というのが話題になりますが、これは暴力団などが怖くて権利を主張できない者がいるなどという特殊な事情が背景にあるようであります。一方、消費者団体訴訟では、裁判所が適格団体の差止請求権を認めれば、一般消費者はこの勝訴判決を根拠として訴訟を提起し、損害賠償を請求しやすくなるのであります。我が国では、既に共同の利益を有する者の中から全員のために原告となるべき者を選定し、当事者として損害賠償を求める等の訴訟を行う選定当事者制度が民事訴訟法で定められております。このほかにも、司法制度改革において、司法ネットの整備、ADRの活性化など、司法インフラの充実が図られております。さらに、少額訴訟制度の改善、簡易裁判所機能の充実など、司法アクセスの改善も進んでいるところであります。これらの制度を整備し、運用の充実を図るべきです。
最後に、一つ申し上げます。
私は、今回の団体訴権のモデルになっているEUで団体訴権がどのように認識されているかを知るため、EUで販売活動を行っている日本の現地会社に、消費者団体訴訟制度を知っているか、会社への影響はあるかと聞きました。欧州では濫用しにくい制度の下で適切に運用されていることもあって、その回答はいずれも、制度があることは知っていると、しかし通常のビジネスを行っている限り自分たちが被告になるとは思わないというものでした。我が国もこのような状況に至ることを望みます。消費者と企業の間に適度で適切な緊張関係が存在することが、健全な市場を形成し、維持するための必須の条件であると思います。
御清聴ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/5
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006・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) ありがとうございました。
次に、神田参考人にお願いいたします。神田参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/6
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007・神田敏子
○参考人(神田敏子君) 全国消団連の神田と申します。よろしくお願いいたします。
本日は、このような機会をいただきまして、本当にありがとうございます。早速意見を述べさせていただきます。
全国消団連は一九五六年に結成いたしまして、今年で五十周年を迎えます。消費者の権利の確立と、暮らしを守り向上を目指すため、全国の消費者組織の協力と連携を図り、消費者運動を促進することを目的に活動しています。
会員には、消費者組織の中央団体二十三団体、それから地方の消費者連絡組織二十団体が加入しております。設立以来、消費生活にかかわる諸問題に取り組みまして、法律や制度の整備、実現に向けて、調査研究や情報交換、活動交流を行いながら活動してまいりました。
消費者被害が急増し、特に契約に関する消費者被害が増加している中、消費者被害の拡大防止、それから被害救済に役立つ制度として、消費者契約法の制定当時からこの制度の導入を要望してまいりました。
具体的な要求案を作成するため研究会を設置し、弁護士、司法書士、消費生活相談員など専門家とともに検討を行い、二〇〇四年九月には要求書と要綱試案をまとめ、提言いたしました。制度設計の議論に積極的に参加してきております。
また、私どもの会員団体が構成員となって、団体訴権を担う消費者団体を結成し、適格消費者団体として活動していこうと準備をしております。消費者基本法第八条、消費者団体の役割にありますように、消費者団体自ら消費者被害の防止及び救済のために活動を進めているところでございます。
それでは、まず政府案及び衆議院の審議についての評価を申し上げたいと思います。
今回審議されております政府案につきましては、消費者被害の拡大防止、未然防止のために、消費者契約法に抵触する約款とともに不当な勧誘行為についても差止めの対象とし、被害当事者ではない適格消費者団体に差止請求権を認めるという我が国で初めての画期的な制度です。また、適格消費者団体への被害情報の提供を位置付けたことについても評価しています。消費者団体が長年要望してきた制度であり、是非とも今通常国会で実現されることを願っております。
衆議院の審議では、裁判管轄に行為地を加えるよう法案が修正されました。私たちは当初から、不当な契約条項が使用され、不当な勧誘行為が行われる地域を管轄する裁判所とするよう要望をしてきました。事業者が遠隔地であったりインターネットを使った被害も増えております。証人や証拠が存在する行為地の裁判所で提訴することが合理的です。現在、各地で団体訴権を担う消費者団体の結成を願う声や、ネットワークづくりが始まっている中で、大変意味のあることであり、有り難く思っております。
次に、消費者契約法一部改正案の課題について申し上げます。
今回の改正案につきましては、基本的に評価できる内容であり、今国会での成立を強く希望するものです。同時に、適格消費者団体が活用する場合に次のような課題が残されています。
第一は、ある適格消費者団体による確定判決等が存する場合に、他の適格消費者団体は、同一事業者を対象とした同一内容の請求はできない旨定められている点です。第二点は、適格消費者団体への情報面、財政面での支援の充実が必要という点です。
また、本制度実現後の次のステップに実現を図るべき課題として次のようなものがあります。
一つ目は、不当な約款の推奨行為や、民法の詐欺、強迫に当たる行為などへの差止め対象の拡大です。二つ目は、独占禁止法、景表法、特商法といった他の消費者関連法への制度の導入です。そして三つ目は、損害賠償の導入です。
これらの課題について、その内容と理由を次に申し述べます。
まず、政府案第十二条五項の問題と今後の課題についてですけれども、他の適格消費者団体による差止請求に係る訴訟等につき既に確定判決等が存する場合において、請求内容及び相手方である事業者等が同一である場合には、差止請求をすることができないとしています。
適格消費者団体は、自身で収集した幾つかの消費者被害情報から約款や勧誘行為の不当性を検討するとともに、国民生活センターや消費生活センターから提供される情報を参考にしながら申入れを行い、申入れの結果が不調であれば提訴を検討いたします。事業者との情報格差があり、適格消費者団体は立入調査権を有しているわけではなく、事業者に対して資料提供を強制することもできませんので、証拠収集には困難さが伴います。
また、勝訴が確実と思われる事案においても、判決がどのようなものになるのか予断を許さないのが裁判ではないでしょうか。
そのような実情を考えた場合、第十二条五項の規定は適格消費者団体に対して提訴を萎縮させる強い効果を持つものと言わざるを得ません。
一方、この規定には、口頭弁論終結後に生じた事由に基づいて差止請求を行うことを妨げないとのただし書が加えられています。この事由がどのようなものを含み得るのか、参議院の審議において、より明確にしていただきたいと思います。
そもそも、裁判所の判断は、その案件の被害拡大状況や社会的評価の状況によっても変わり得るものです。単純な蒸し返し訴訟は論外ですけれども、新たな証拠等を得たり、被害拡大を把握したりした他の適格消費者団体が改めて提訴できるよう、事由をできる限り広く考えていただきたいと思っております。
次に、適格消費者団体への支援について、三点ほど申し上げます。
まず、情報面の支援についてですが、法四十条において、国民生活センターと地方公共団体は、適格消費者団体が差止請求権を適切に行使するために必要な限度において、当該適格消費者団体に対し、消費生活相談に関する情報で内閣府令で定めるものを提供できる旨、定めています。消費者行政からの情報支援は、消費者団体訴訟制度を実効あるものにするため、大切なポイントだと思います。
情報提供は事案検討の初期の段階から必要です。
適格消費者団体が自ら入手した事例だけでは、その被害がどの程度拡大しているのか、勧誘行為については組織的に行われているのかどうか、判別が付きません。適格団体が具体的な事案について申入れを実行するかどうかを検討する初期の段階から、消費生活相談に関する情報を提供いただくことが必要だと思います。
また、PIO—NETに入力された情報だけではなく、契約書や勧誘時の資料などが必要です。
国民生活センターや地方公共団体の消費者センターでは、受け付けた相談の助言、あっせん等のために、相談者から契約書や勧誘時のパンフレット等の資料を入手しています。適格団体が申入れを行うに際しては、それらの資料も必要になる場合が考えられます。契約書や勧誘時資料なども必要に応じて提供されるようにしていただきたいと思います。
二つ目は、財政面での支援についてです。
消費者団体訴訟制度は公益性を有しています。適格消費者団体は、当制度を有効に活用するために臨時の電話相談、一一〇番ですね、などの相談活動やホームページでの情報提供の呼び掛けなど、消費者被害情報収集活動など、そういった収集活動を行っています。また、入手した約款や勧誘行為に関する情報の分析を専門家を交えて行います。以上の活動を経て当該事業者への申入れを実施します。申入れの結果、約款、勧誘行為が是正されればよいのですけれども、一定割合、ドイツの消費者団体の経験によりますと、申入れは、一〇%程度だそうですが、訴訟になると考えられます。つまり、日常の調査活動の費用に加えて、訴訟費用が必要になります。
多くの悪質商法が横行している現状を考えますと、一定の件数の訴訟を行うことを想定しなければなりません。そうした場合、弁護士にボランティアとしてすべての協力をお願いするわけにもいかないと考えております。訴訟に関する費用の大部分は弁護士報酬となります。例えば、訴額算定不能の事件についての弁護士報酬は、以前ですけれども、存在いたしました東京弁護士会の報酬規定というのがございましたが、それに照らしてみますと百五十万円程度というふうになります。せめて、訴訟に関する費用について何らかの援助をお願いできないかと考えております。
例えば、地方公共団体では消費者訴訟支援制度を有している県がほとんどです。これは、消費者相談の中で被害救済委員会にまでかけられた案件で救済ができなかったもののうち、今後の被害拡大などが懸念される事案について、訴訟費用や情報面での支援を地方公共団体が行うという仕組みです。消費者の個別訴訟についてもその公益性にかんがみて訴訟支援を行うという制度ですけれども、この制度を拡充して適格消費者団体の差止め訴訟についても支援を行っていただきたいと考えております。
これは、消費生活条例を見直すなどの取組が必要なことですけれども、政府からもそのような支援の在り方について、地方公共団体の検討が促進されるような情報提供等を進めていただきたくお願いしたいと思います。
三つ目は、適格消費者団体をどう増やすかという点です。
この制度を有効に活用するために、消費者団体サイドの主体的な努力が必要であることは申し上げるまでもないことです。
全国消団連として把握している範囲では、現在九つの団体が適格消費者団体を目指しております。ブロック別にいいますと、関東に三団体、東海に一団体、関西に四団体、中国に一団体となります。それぞれの団体の体制と財政基盤の強化も重要な課題ですが、北海道、東北、甲信越、四国、九州といったブロックには、まだ明確な適格消費者団体を目指すと宣言している消費者団体がありません。
しかし、この間、消費者保護基本法改正を契機に各地の消費生活条例が見直されており、その検討に際して、地域の専門家と消費者団体、生協等が共同して条例改正の検討ですとか学習会を持つなど動きが広がってきています。情報、財政、環境整備など、政府、地方公共団体の支援がタイミング良く行われれば適格消費者団体が結成される可能性もあると期待しているところです。
最後に、本制度が実現後の課題ということについて三点ほど簡単に申し上げたいと思います。
一つ目は、最初は、不当な約款の推奨行為や、民法の詐欺、脅迫に当たる行為などへの差止め対象の拡大についてです。
今回の制度では、消費者団体が要望してきた不当な約款の推奨行為や、民法の詐欺、脅迫に当たる行為は差止めの対象にはなりませんでした。推奨行為については、例えば約款に問題があることに気付かず勧められるままに使用している個人事業者に申入れを行うよりも、その約款の推奨を行っている専門的力量を有する業界団体に申入れを行った方が事業者側が約款の問題点を把握しやすく、その効果も広く及びます。また、消費者契約法で不当とされている勧誘行為よりも、詐欺、脅迫は更に悪質な行為であり、それを差し止めることができないのは矛盾だと思います。
今後の消費者団体訴訟制度の運用実態を踏まえて、同制度の見直しの際には改めて検討の俎上にのせていただきたいと思います。
二つ目は、独禁法、景表法、特商法といった他の法令への団体訴訟制度の導入についてです。
消費者基本計画において、独禁法と景表法については、消費者団体訴訟制度の導入が平成十九年度までに検討される予定になっています。この計画どおりに、広く消費者の意見を取り入れながら制度の検討を進めていただきたいと考えます。
また、特商法については、現在の執行強化をしていらっしゃるというお話であり、消費者団体としては期待するものですが、訪問販売を始めとした消費者被害が多い取引形態に関しては、具体的な規制内容を持つ特商法を消費者団体も活用できれば消費者被害の拡大防止に大変有効と考えます。是非、今後の検討をお願いします。
三つ目は、消費者団体訴訟制度における損害賠償制度の導入についてです。
消費者被害の多くが少額多数の被害であり、個々の消費者が訴訟を起こすとしても費用倒れになるため、救済をあきらめてしまう例が多いのが実情です。その結果、事業者には不当な利得が残るため、悪質な行為が繰り返されることになります。
不当な利得の吐き出しを求める制度としては、犯罪収益吐き出し法案も今国会で審議されています。法令に反する消費者契約に伴う不当利得についてもそれを吐き出させ、同様の行為を繰り返させないようにするため、消費者団体訴訟制度に損害賠償制度の導入が必要であると考えます。
今回の差止請求の制度を適格消費者団体がしっかりと活用し、消費者団体訴訟制度と適格消費者団体への社会的信頼を得ていくよう努めてまいります。同時に、損害賠償制度の在り方の議論を早急に開始していただきたく、消費者団体もその議論に積極的に参加していきたいと思っております。
以上です。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/7
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008・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) ありがとうございました。
次に、山口参考人にお願いいたします。山口参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/8
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009・山口廣
○参考人(山口廣君) この消費者団体訴訟制度につきましては、弁護士会を挙げてこの実現が必要であるということを述べてまいりまして、是非この通常国会で採択していただきたいと強く願っております。
行政府の目が届かない悪質な商法や、あるいは私たちを含む司法による救済の手が届きにくい実態について、民間の消費者団体が切り込んで被害発生や拡大の防止を図るということは大変有意義なことだと、そう思っております。消費者団体訴訟制度は、近年激増している消費者被害の拡大防止につながる画期的な制度でありますから、是非、今国会で実現されることを望んでおります。
しかし、この国会で立法されようとしている案には、この制度の実効性を損なう問題点が幾つかございますので、是非これを取り除いた形で立法されることが必要だというふうに考えます。
日弁連が内閣提出の法案の問題点として考えておりますのは以下の点にございます。
第一に、後に述べますが、後訴遮断効の問題です。この点に関しては大変大きな弊害が予想されます。消費者団体訴訟制度の実効性を危うくすることになると危惧しておりまして、是非削除を検討いただきたいと思います。
第二に、差止めの対象となる実体法に消費者契約法の四条、八条あるいは九条、十条のほかに、先ほども何人かからお話がありましたけれども、詐欺、脅迫あるいは公序良俗違反、借地借家法の強行規定なども含めるべきであると考えております。
第三に、不当条項のいわゆる推奨行為、これも差止め対象とすべきであると考えております。
第四に、消費者団体訴訟制度の実効性を確保するために、適格消費者団体に対する財政面も含めた積極的な支援をお願いしたいと思います。
第五に、消費者団体が損害賠償を請求する制度や事業者の得た不当な利益を吐き出させる制度については、これは緊急の課題でありますから今国会で制度化することが望ましいとは思いますが、それができない場合でも早急に導入に向けた検討をお願いしたいと思います。
第六に、これらの問題点の検証をするために、五年程度の年限を限った見直し措置を是非設けていただきたいと思います。
以下、まず最大の問題であります後訴遮断効の問題について述べさせていただきたいと思います。
これについては大きく三つ問題があると思っております。
第一に、実際上、消費者団体は、訴訟を起こそうかと考えるときに、この規定があるためにとても大きな重荷になるんではないか。つまり、よほど明確な事例で、もう勝訴が確実であるというような事例でないと裁判を起こすことをちゅうちょせざるを得ないというような制度になってしまっているのではないかと思います。
第二に、この後訴遮断効は、各消費者団体が個別に実体上の訴権を持っているというこの制度の前提となる法理と矛盾し、また現行民事訴訟法上の既判力を実質的にいびつな形で拡張するものでありまして、理論的な整合性が取れていないと言わざるを得ないと思います。
第三に、後訴遮断効を設ける実質上の理由は、これは矛盾した判決を避けることとか、あるいは事業者の負担軽減が挙げられると思いますが、しかし、後訴遮断効がなくとも矛盾した判決による問題は最高裁判決などでおのずから解決いたします。
また、適格消費者団体の要件などを考えますと、事業者の負担を配慮するほどにこの制度が活用されるといいますか、訴訟が活発に起こるということは残念ながら余りないと私は考えております。むしろ、後訴遮断効制度は弊害が余りに大きくて、このためにこの制度が、団体訴訟制度自体が絵にかいたもちになると。例えば、独占禁止法二十五条の独禁法違反事例に対する損害賠償が本当に今運用が難しくなっておりますが、そういう形になりはせぬかと非常に深刻に憂慮しております。
まず、この規定を適用した場合の不都合な例ですが、十二条五項二号の「確定判決等」の「等」には和解とか請求の放棄が含まれております。内閣府のこれまでの説明によりますと、例えば各地の適格消費者団体が同じ事業者に対して差止めを求める訴訟を起こしている場合に、そのうちの一つの適格消費者団体と事業者との間で和解が成立しますと、他の訴訟を起こしている適格消費者団体の請求は一斉に棄却されるということになります。
もう少し具体的に申し上げますと、例えば、九州の適格消費者団体が、全国に支店を有する住宅会社の契約条項が余りに消費者に不利益だということで差止め訴訟を起こして、一審で勝訴したとします。しかし、事業者から控訴されて福岡高裁に係属していると。そういうときに、後から同じ事業者に訴訟を起こした札幌の適格消費者団体が形勢不利だということですぐに和解をしてしまったとします。そういう場合には、せっかく一審勝訴している福岡の消費者団体はそれ以上訴訟が続けられないで、請求が棄却されるということになってしまいます。
これは実際に起こり得ることでありまして、札幌の消費者団体が、非常にこれは有利な証拠だということで被害者の、例えば年配の被害者の証言を期待して提訴したとした場合に、その被害者が急に亡くなったというような場合、あるいは札幌の消費者団体の内部事情か何かで訴訟の継続が非常に難しくなったというような場合に和解を余儀なくされるということがあり得ると思うんですね。このような場合に、他の地区の団体の成果が無に帰してしまいかねないという事態を憂慮しております。
積極的に訴訟追行している適格消費者団体が消費者に有利な結果を得ようとしても、他の消費者団体が和解や控訴の断念を行うと消費者に不利な結果が残ってしまうという問題がございます。
例えば、福岡地裁で、問題の住宅会社がその契約条項を自粛すると約束したので、あいまいな形で和解したと。ところが、北海道では、なおその条項を使って営業していたという場合、どうなるんでしょう。非常に運用上の混乱が予想されます。
この不合理さを回復するため、政府案では、適格消費者団体に、訴訟状況を他の消費者団体に通知する義務を課しております。しかし、裁判所での和解条項の詰めといいますのは、裁判官を間に挟んで大変微妙なやり取りになります。
例えば、事業者が、年末商戦の直前の今なら、今日の和解期日ならばこの条項をのんでもよいと即決を求めた場合に、これは、その条項をのむかどうかというのは、これは即断を迫られるということになります。その場合に、事前の協議をするというのは、なかなかこれは実際には難しいという状態が考えられますので、なかなかこの条項の、何といいますか、運用は難しいなと思っております。
先ほど、山本先生の方はドイツの例を言われましたけれども、日本の裁判の特徴は、これは和解が半分以上、非常に和解で解決する事例が多いわけでして、そこら辺はドイツの実情と違うところを是非御配慮をお願いしたいと思います。
政府案では、このような不合理な結果を回避するために三十四条一項四号を設けています。
この規定では、消費者団体が事業者と通謀して請求の放棄をしたり消費者の利益を害する内容の和解をした場合などには内閣総理大臣が適格認定を取り消すことができると、その場合には他の消費者団体は同一の請求ができるとしています。
しかし、事業者と通謀したなれ合い訴訟かどうかという認定は、私は実際上は不可能だと言ってよいと思っております。とりわけ、事業者との話合いで双方譲り合って和解したという和解の場合には、この通謀の認定はほとんど私は不可能だと思います。元々、裁判所の関与の下で適法に行われた訴訟活動を、訴訟に関与しておらず、その問題について十分な資料も情報もない内閣総理大臣が事後的に、消費者の利益に反する訴訟追行を行ったと判断することは到底無理だと思います。
また、政府案では、後訴遮断効の例外として、前訴の、前の訴訟の口頭弁論終結後の事情に基づいて新たな請求をすることはできるというふうに決めております。
しかし、例えば大型の消費者事件の場合で、当初は事業者の組織ぐるみの不当な行為であると分からなかったことでも、例えば刑事事件になって、強制捜査で勧誘マニュアルなどの新たな証拠が出てきてはっきりするということは間々あります。ところが、口頭弁論終結後に新たな証拠が出てきたというのは、これまでの審議の内閣府の説明を聞く限りは、原則として口頭弁論終結後の事情とは言えないということのようであります。そうしますと、政府案では、十二条五項二号の規定によって、一度消費者団体の敗訴判決あるいは和解ができてしまいますと、それを覆す証拠が出てきたとしても、悪質商法が大手を振って横行するのを、他の消費者団体は手をこまねいて眺めていなければならないということになりかねません。
このように、政府案の後訴遮断効とその例外規定では、消費者に不利益な事態が生じることを防止できず、この制度の実効性を著しく害するおそれが大きいと言わざるを得ません。
そもそも、この制度は、国民生活審議会の報告書によれば、適格消費者団体に実体法上の差止請求権を付与するというものでした。民事訴訟法の一般的な既判力の考え方からしますと、各団体に実体法の差止請求権があるのならば、一つの団体が行った訴訟の結果は他の団体には効果を及ぼしません。ところが、後訴遮断効では、あたかも既判力を他の団体に拡張するかのような効力が認められてしまっています。この点は民事訴訟法の原理原則を大きく変更させるものです。ところが、この法理の変更、矛盾について十分な検討がなされておらず、何らかの事情でとても唐突にこの提案がなされました。法案準備の審議会の討議でも、それまで全く討議されていなかったことだと確認されております。
また、これまで述べたことからも明らかなとおり、法十二条六項の規定の内容も不明確です。
十二条六項で同一事由の差止め訴訟を起こすことができるとされる確定判決などの成立後に生じた事由とは何を指すのか。政策的配慮で設けた規定と説明されてきたようですが、それでも余りに規定の運用の現場に混乱をもたらします。
ある地区で和解かあるいは敗訴したと、ところが、ほかの地区で新しい証拠が見付かり、被害も次々に出ているので訴訟を起こしたと、こんなとき、この十二条六項に該当して再度同一事業者相手の差止請求ができるのかどうか。このこと自体をめぐって裁判所で消耗な入口論争が強いられるということが予想されまして、これは弊害が大きいなと思っております。
内閣府は、十二条五項二号のような仕組みを設ける必要性について、紛争の一回的解決の要請などを理由としておりますが、これまで述べましたとおり、このためにこのような不合理な制度を設ける必要はないと思っております。おのずから最高裁判決などで明白になるはずであります。
また、濫訴の防止は、先ほど齋藤委員も言われましたけれども、様々な、事後的担保措置や行政への業務、財政の報告義務、あるいは行政監督権などが設定されておりまして、防止策が十分配慮されているかと思います。
最後に、私は、損害賠償制度についても是非早急に検討いただきたいと思います。
一昨日でしたか、国会審議の過程で、いわゆる振り込め詐欺などの不正利用の疑いでメガバンク四銀行に凍結された口座の残高が三十五億円あるということが事実として明らかになりました。私自身は、郵便局や地方銀行にプールされている資金も含めますと、振り込め詐欺の被害のお金が百億円程度は現在銀行あるいは郵便局の口座に眠っているのではないかと思います。
このような犯罪被害者、あるいは不当利益をどのような形で被害者に還付するのかということについての制度設計は早急になされるべきでありますし、これについていわゆる消費者団体の団体訴権を活用する道は大いにあるのではないかと思います。
以上、発言の時間をいただきましてありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/9
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010・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) ありがとうございました。
以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。
これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑のある方は順次御発言願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/10
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011・山内俊夫
○山内俊夫君 私は、自由民主党の山内俊夫と申します。
今回は、大変貴重な時間をいただきましてありがとうございました。私にいただいた時間は実は二十分であります。四方に是非質問をしたいと思っておりますので、やり取り、お一方五分ぐらいになろうかと思いますので、ちょっとお時間のない場合は御容赦を願いたいと思っております。
自民党は、今回のこの消費者契約法の一部改正、私、非常に前向きに基本的には取り組んでいるし、特にこの改正の中での重要なところはこの消費者団体訴訟制度このものであります。そういった意味から、自民党は昨年十二月の一日にはプロジェクトチームで議論を十分闘わしてまいりました。その中で、三つばかり論点が上がってまいりました。
この三つを申し上げますと、まず、消費者被害はこれ日々発生しているということであります。そして、被害の広がりそのものを抑止するということが大切ではないかということであります。
それで、もう一つは、この一定の条件を満たした消費者団体に差止請求権を認めるという、これは消費者団体訴訟制度を導入するということが必要であるということで今回もでき上がっていると思います。
そして、もう一つ、ドイツ、フランス等々諸国では長年にわたってかなり定着をしてきているなという、こういった三つの観点から、この消費者訴訟制度というものをいち早く導入したいなということになっております。
先ほど山本参考人からも、実験的スタートという基本的な考え方あるということでございますから、これは万全じゃないと思いますけれども、大変重要なことであると思っておりますが、まず山本参考人にお聞きしたいのは、この消費者団体訴訟制度について検討を行ったその検討委員会の委員長でもあられたということも聞いております。それで、適格消費者団体の要件、それと差止請求の対象が少し狭いのではないかなというような懸念がするわけでございます。これについて一つ。
そして、今回の法案について盛り込まれている、これは先日の二十三日の委員会でも随分議論になった、中心的な議論になったものでございますけれども、ほかの適格消費者団体は原則として請求することはできないという、今山口弁護士からも話がありました、この点。
それと、損害賠償請求もできるようにすべきではないかという、こういう意見が出されておりますが、これは検討委員会の報告書を取りまとめたお立場から山本参考人に御意見をちょうだいしたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/11
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012・山本豊
○参考人(山本豊君) 最初の御質問でございます、適格消費者団体の要件や差止請求の対象が狭いのではないかという意見があるがということでございますが、これについては、ほかの委員の先ほどの意見発表からも分かりますように、非常に広過ぎるという御意見と狭いという御意見がありまして、なかなかその意見が分かれた中で、今回の法案は、まあかなり中庸を得た、バランスの取れた案になっているのではないかというふうに思いますので、これで運用してみて、その実際の実施過程などを見て更に検討していくということが必要で、現時点においてはこの案が私はベストであるというふうに考えております。
〔委員長退席、理事芝博一君着席〕
次に、差止請求の対象でございますが、これにつきましても、先ほど私の意見陳述の中で申し上げましたように、取りあえず消費者契約法の比較的要件が明確なところからスタートするのがよいのではないかと。その上で、将来的な課題としては私は十分更に広げていくことが可能である。
例えば、推奨行為、これは当面は推奨行為まで差し止めなくても、一番その契約条項を使っていたりする、そこを差し止めればよいわけですから、取りあえず推奨行為は外すけれども、今後の実績を見て検討すればよろしいのではないか。それから、強行法規違反、こういう条項は無効であると明々白々に規定されているもの、これは次の候補であろうと。その次に、民法の詐欺、強迫とか、この辺りになりますと、詐欺の違法性とかそういうものが個別事案によっていろいろ、場合によりけりという部分がございますので、これを、具体のその紛争のない抽象的な判断でこれを差し止めるとか差し止めないとか、そういうことが可能かどうか、そういう理論的な問題がございますけれども、これも更に将来の検討課題にはなるであろうというふうに考えております。
それから、二つ目の御質問でございますが、後訴遮断の問題、これはこの後も更に議論が続くかと思いますが、私は、先ほど申しましたように、これは既判力の拡張という問題ではなく制度趣旨の問題である。適格消費者団体の御近所に迷惑施設があって、それを差し止める、その話と今ここでやっている差止請求と同じ感覚で議論しちゃいかぬという立場でございまして、むしろ、いろいろ議論されております御議論の背景に、やはりこの団体訴権による差止請求というものについての基本的な理解が、やはりまだ十分そのコンセンサスが得られていないのではないか。
御議論されております各種の消費者団体がいろいろ訴訟を起こすというのは、パターンは、むしろアメリカのクラスアクションにおける原告弁護士の行動パターンと非常に共通する面がありまして、アメリカのクラスアクションの議論がこちらに入ってきているような印象がするわけですが、私の理解では、団体訴訟における差止請求権というのはそれと対極の精神に基づく面がございまして、これはやはり消費者団体が一致結束して、大同団結して、そして統一した行動を取って、それで消費者に一番有利な解決を導き出すというものでありますから、途中であいまいな和解をしたとか、そういうことは本来あってはならないし、そういうふうにこの制度はつくっておりますし、それを目指して更に運用で努力していただけるのではないかというふうにその点は楽観的に思っておりますので、先ほどのような御懸念は当たらないというふうに考えております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/12
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013・山内俊夫
○山内俊夫君 ありがとうございました。大変時間がないので申し訳ありません。
それでは、齋藤参考人に是非お聞きをしたい。
これはもう、経営者側としての考え方は当然我々も理解をしております。その中で、先ほども随分話が出てまいりました濫用の懸念という部分がありましたね。これが、政府案についてどのように評価されておいでになるか。
確かに、今、山本参考人おっしゃいましたアメリカ型というのは大変、我々も少しなじまないところはあるんですが、どうしてもEU型というのが我々の体質に合うのかなというところがありますけれども、それにしても、濫用という観点からちょっと評価をいただけたらと思うんですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/13
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014・齋藤憲道
○参考人(齋藤憲道君) 考えを申し上げます。
今先生御指摘のとおり、差止請求権は社会的、経済的に大きな影響を持つ権利でありまして、言わば強力な武器であると認識しております。したがって、これを不当に行使されると健全な事業者の経済活動が阻害されるおそれは多分にあるというふうに考えます。事業者の信用を毀損することをねらって自己や特定の者の利益を図るような活動、これは排除する必要がある。
この点、政府案は、適格消費者団体の認定方法、それから差止請求権の行使の方法、団体のガバナンスの確保、それから訴訟手続その他の面において随所で配慮がなされておりまして、基本的に妥当であるというふうに考えております。今後、適正に運用することが肝要であると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/14
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015・山内俊夫
○山内俊夫君 ありがとうございました。
それでは、今回、神田参考人さん、お越しいただいております。消費者団体の代表という形で来ていただいておりますけれども。
今回、適格団体という規定がありまして、その適格団体に例えばなった場合想定をして、国民生活センターからもいろんな情報も提供されるかと思います。それに限らず、被害を受けた消費者から直接いろんな情報を集める、そしていろんな情報提供をいただきながら、言わば今まで泣き寝入りしていた個々の被害者というか消費者の駆け込み寺になってもらいたいし、またその期待感もかなり、消費者団体には今度責務というか大変期待がされてくると思うんですよね。
そういった観点から私も大いに頑張ってほしいし我々もサポートしたいんですが、ただ一つ気掛かりな点があります。それは、最近、個人情報保護法のこともありまして、やはり多様な中でいろんな人たちの意見が入ってきます。また、いろんな人たちが参加をしておりますから、消費者団体から個人情報が漏えいしたとか、そういったことがあった場合、監督官庁である、認定者、これは内閣総理大臣が認定をするんですけれども、例えば適格性に欠けているということでその認定を取り消されるとか大変に、表裏一体、非常に厳しいところにあるかと思うんですよね。
それをやってでも、是非我々も応援はしたいんですが、そういった情報が漏れた場合、これは予期せぬことでありますけれども、是非この辺りの考え方、また消費者団体としての覚悟というんですかね、その辺りも是非お聞かせいただけたらと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/15
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016・神田敏子
○参考人(神田敏子君) そうですね、この個人情報というのはこの問題に限らずきちっと守っていかなければなりませんし、適格団体だけではなくて一般的にも重要なことだと思っております。ましてやこういったことを扱うわけですから、そういったシステムというものはきっちりとしたものを、間違いのないような体制を取っていく必要があると思いますので、具体的にどうということはちょっとまだ、きっちりと検討していきたいと思いますけれども、非常に重要な問題として受け止めながら進めていきたいというふうに思っております。そういったことはございます。
もちろんそれはありますけれども、この制度をきちっと担っていける団体に、情報も自らも、例えば一一〇番のお話もいたしましたけれども、そういった情報を、隠れている情報ですね、PIO—NETなどに来ない情報がたくさんあるわけですから意識的に集めていきたいというふうに思っております。
でも、その消費者団体だけの情報ではもちろん足りませんから、そのほかのところからも情報を得て進めていきたいと思いますけれども、御指摘のとおり、そういった情報が漏れないようにする手だては非常に重要なことだと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/16
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017・山内俊夫
○山内俊夫君 もう是非、今全国で十団体ぐらい想定されておりますけれども、それがもう少し広がっていろんな角度から、内容も非常に多岐にわたっておりますので専門性も必要かと思いますけれども、是非頑張っていただきたいと思います。
そして、最後の山口参考人にお聞きいたします。
その専門性という部分については、もう当然弁護士会の皆さん方、また先生のようにこの問題に非常に熱心に取り組んでこられております先生方もおいでになろうと思いますけれども、二十三日の意見にも随分ありました、財政的な支援とか財政的なものをどうするんだろう、消費者団体が。ややもすれば、財政的なところから、下手なというか安易な妥協をしてしまうということもあり得るんじゃないかという心配もありました。
そういった意味で、弁護士会として、その専門家としての、日弁連のそのパワー、是非このサポート隊になってもらわなきゃいけませんけれども、是非、山口弁護士のお考え方、また日弁連としてどのような形で費用の掛からないサポートができるかと、その辺りを弁護士会の代表としての御意見をちょうだいしたらと思うんですが。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/17
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018・山口廣
○参考人(山口廣君) 弁護士増員の時代になっておりまして、弁護士の会員も今は急速に増えつつあるわけですけれども、そういう中で、弁護士会としてこの制度の導入につきまして積極的に提言してきた立場もあり、社会的使命として、弁護士会として適切にこの制度を運用していく制度、体制づくりについては社会的責任もあると自覚しております。
〔理事芝博一君退席、委員長着席〕
その意味で、消費者団体の横の連携ももちろんこれからなされるべきでありますけれども、それぞれの消費者団体にかかわっている弁護士も、これはやはり弁護士会なりで糾合をして、横の連携をし、かつ勉強会を継続的に持ちながら、問題のない制度の運用に努めるということがなされるべきであると思います。
私自身ももう十五年ほど前にドイツに、西ドイツに行きまして、消費者団体に、これは独禁法の調査で参ったわけですけれども、行ったときに、それぞれの消費者団体が職員の弁護士を抱えておりまして、やはり横の連携をやっていることをつぶさに見てまいりました。
その意味では、私ども消費者団体の問題に、消費者訴訟にかかわっている立場からいたしましても、これは相互の研さんを積んで、今日、今、山内先生の御質問にあったような問題についても適切に対処していく体制をつくってまいりたいと、またそうしなければならないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/18
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019・山内俊夫
○山内俊夫君 それぞれ四人から非常に貴重な御意見をちょうだいしたわけでありますけれども、いずれにいたしましても、この制度、これをいち早く導入して、それこそ泣き寝入りしている消費者、被害者というのがまだ随分おいでになります。いち早くこれをまず制度として採用しながら、ただ差止請求の対象とかそういったものはもう少し明確にしていく、そして悪用、これは濫用のないようなことも大切だろうと思っております。ですから、堅実な設計にしていかなきゃいけません。そういった意味から、しっかりとこの制度を考えていく。
ただ、山本参考人が冒頭に言いましたように、実験的スタートであるということですね。それでステップ・バイ・ステップというような考え方、私はこれも大変参考になりますし、是非、つくったときがベストじゃないんですね。よりベターに、ベストに近づくためのことを、こういう委員会もあります。法案ですから、当然国会の中で審議して手直ししていけばいいわけでありますから、いち早くスタートするということが私は今回は大切であろうと考えております。ですから、当然見直しを我々もしっかりとやっていくということも併せて、いち早くスタートできればどうかなと思っております。
以上です。
ありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/19
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020・黒岩宇洋
○黒岩宇洋君 民主党の黒岩宇洋でございます。
今日は本当に四人の参考人の先生方から大変有意義な御意見をちょうだいいたしまして、本当にありがとうございます。特に山本参考人に至りましては、このたびのこの改正案について検討委員会の委員長として取りまとめていただいたこと、本当に心から感謝をいたしております。
今日のお話聞いておりまして、特に齋藤先生がおっしゃられた、特に「法律のひろば」に載せられた論文、私も読んでおったんですけれども、最後の取りまとめに、そのEUで三か国で勤務されている御社の社員の皆さんに、こういった団体訴権についてどうだと、こういったことの被告になることは想定していないという、これは私は本当に感銘を受けて、そうだなと。私ども、どうも法律論ぎちぎち詰めてやってきましたけれども、考えてみれば、コンプライアンスを遵守して真っ当にやっている日本の企業であれば、本来はこういった訴訟であるとかいうことはあり得ないんだなと。これは本当に齋藤先生がおっしゃるとおり、私どもにとっても本来あるべき姿だと思っております。
しかるに、今回の差止請求の対象、これはまあ狭い広いの議論がありますが、少なくとも現段階では消費者契約法の四条の一項から三項、そして八条から十条という、これ見ますと、本当に通常の事業者だったらおよそ起こり得ない勧誘行為であるとか不当な条項だと思うわけです。ですから、こういったことでトラブルを起こす事業者というのはこれはかなり悪質な会社であると、そういうふうに私はとらえているんですが。
そこで、齋藤参考人にお聞きしたいんですが、経団連に加入されているところの会社はもう当然ですが、いわゆる一般の日本の企業でしたら本当にこのような消費者契約法に引っ掛かるような不当なことは本来は起こらないでありましょうし、そのことを確認したいのと、それと私が先ほど申し上げた、今回のこの法改正というのはやはりかなり悪質な業者に対しての改正であると、こう想定してよろしいのかどうか。この点についてお聞かせいただけますでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/20
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021・齋藤憲道
○参考人(齋藤憲道君) 的を射ているかどうか分かりませんが、私の考えをちょっと述べさせていただきます。
基本的に、大半の会社は、事業者は、この法律に抵触して訴訟の対象になるということはないと私は思っておりますし、信じております。ただし、この機会にやらなければならないことはあるだろうと、こう思っています、施行されるまでにですね。これは何かといいますと、やはりそれぞれのこの事業者が事業を開始した原点を一回振り返ってみること。顧客第一というのが経営の原点に必ずスタート時点ではあったはずです。企業責任とかは必ずそれが中心にあるわけです。
したがって、よく聞くことですが、最初に売上代金をいただいたお客様のことは一生忘れないということがありますけれども、この原点を忘れないということを保っていけば、この機会にこれをまた思い起こしていけば、より良い社会にまたもう一回なる大きなチャンスになるんではないかなと。
それからもう一つ、コンプライアンスの確保の取組をいろんな会社でやっております。会社法でも義務付けられたり、いろいろしております。内部統制の仕組みも取締役会で義務付けとかいうことも行われております。これを消費者契約法を機に更に徹底していくということであれば、この契約の範囲にとどまらず、日本のその姿勢、事業者の姿勢を正すという機会にもなるんじゃないかなと、こう思っています。
広い意味では企業価値向上というようなのがありますけれども、消費者を含む関係者との信頼関係が不可欠でありますし、それを取り上げるまた大きなチャンスになるんじゃないかなと、こう思っています。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/21
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022・黒岩宇洋
○黒岩宇洋君 ありがとうございます。
確かに、コンプライアンスの遵守の強化とか、あとはガバナンスの適正な強化とか、こういったことを今、日本の企業図っているわけですから、そう考えますと、そういったことに一切努力を払わないような、本当に一部の事業者がこういった抵触するような行為をやっぱり行ってしまうのかなと。その点については憂慮をいたしております。
ただ、繰り返しますけれども、やはりどうしてもそうやって漏れてしまう一部の特定の悪徳業者と一般の消費者との間にトラブルが起こる。これについて団体訴権という形で後押しをしようという、こういう今回の法改正ということを今改めて確認さしていただきまして、ありがとうございます。
このことを踏まえまして、では山本参考人にお聞きいたしますけれども、このやはり後訴の遮断効についてはいろいろな議論があるところでございます。ただ私、それこそ山本先生がおまとめになられた検討委員会の報告書を拝見しますと、やはり当初は、いわゆるこの既判力の範囲というこの概念については、やはり民事訴訟法の基本原則に整合的でなければいけないと。しかし、やはり蒸し返し等の問題が起きるわけですから、その場合、この一定の不適切な訴えの提起自体を認めない仕組みを導入しなければいけないというこの文言を見ますと、基本は民事訴訟法のルールにのっとると。
ただ、かなり一部の例外的なものとして、蒸し返し訴訟を起こさないという、こういう趣旨からすると、このどうも十二条五項二号、そして六項の条文立てというのは、この検討委員会の報告書とは若干、そごとは申しませんけれども、違いが出ているんじゃないかと思うんですが、この点について山本参考人の方から御説明いただけますでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/22
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023・山本豊
○参考人(山本豊君) 要は不適切という言葉のニュアンスでございます。これは恐らく、仮に検討委員会の委員の方に伺えば、一人一人答えが違うくらいのいろんなニュアンスを含む言葉ではないかと思われるわけです。したがって、黒岩議員のように狭く解すると若干そごがあるかなということですけれども、不適切というのがある程度広い、緩やかな意味合いだとするとカバーされているということになるかと思います。先ほど私が申し上げましたように、この制度は法律で決められる部分というのは本当に氷山の一角で、五%とか一〇%、そこから先の九〇%、九五%は運用でやっていかなきゃいけないということですね。
濫用防止という話とこの後訴遮断というのは別の問題です。濫用ではありません。これは一応それぞれ実体権が与えられているわけですから、濫用ではありませんが、さっき言ったようないろんな蒸し返しその他、判決の矛盾とか、そういう問題がもし起こったら大変だということです。そこはもう運用にゆだねると、そういうアプローチもございますけれども、やはりそこは日本の場合にはきちっとした方がよろしいのではないか。そして、十二条六項もございますので、全体としてこれで何も問題は生じないというのが政府案の考え方だと思いますし、私もそんなに心配するようなことはないのではないか。
差止めでありますから、今日の次はあしたが始まるわけでありまして、差止めというのは将来に向けてどうするかという話でありますので、全体としてこの案で特に支障があるというふうには私は考えておりませんし、この案は検討委員会の報告書のスコープの中に入っているというふうに私は認識しております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/23
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024・黒岩宇洋
○黒岩宇洋君 ありがとうございます。
その制度設計についての議論についてはいろんな考え方もあると思いますし、今、山本参考人、先生のおっしゃった論理というものを非常に私も理解し得るところでございます。
ただ、先ほど私が申し上げたように、本当にやっぱり一部のかなり悪質な業者がいるわけですよ。今回のこの差止請求の相手方というのは、基本的にかなり悪質な業者になる、まあ完全に限られるかどうか、ただ実際にはそうなると思うんですよね。そうなりますと、そことの訴訟の段階でやはり矛盾した判決、すなわち勝ったり負けたりと、これはもう判決がおのずと抱えた自明の定めですから、そうすると勝ったり負けたりがあるという、こういったことを想定すれば、先に負けちゃったと、じゃこれについて紛争の一回的解決としてすべて倣いなさいというのは若干不都合があるんじゃないかなという議論をしておるんですが。
そこで、山口参考人に改めてお伺いしたいんですけれども、この十二条五項の二号ですね、こういった後訴遮断効について、先ほども不都合事例というものをお聞きしたんですが、改めましてやはりこれが不都合であると、そういった事例も踏まえて御見解をお聞かせいただけますでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/24
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025・山口廣
○参考人(山口廣君) 私自身、これは多くの弁護士がかかわってまいりましたダンシングモニター商法事件の例を若干報告させていただきたいと思います。
この会社の場合には、昭和六十一年に寝具販売会社として設立されまして、田舎の本当に小さな会社だったんですが、いわゆるクレジット会社との販売提携が奏功しまして、平成九年八月ごろから急に拡大してまいりました。これがモニター商法という商法でございまして、ダンシングの寝具を買ってモニターになると、毎月簡単なレポートを提出するだけで三万五千円のモニター料が二年間受け取れると。寝具はこれ四十万円なんですが、クレジット代金が一万八千円毎月払っても、これが一万七千円が小遣いになるというような勧誘をされまして、全国の主婦が約二万人以上被害を被りました。
ところが、結局この商法につきましてGEキャピタルは、いったん提携したんですがすぐ撤退したんですけれども、クォーク、オリコ、ファインと順次提携してまいりまして、被害が拡大してきたわけです。これは、本当にこの制度があって途中で差止めができれば被害の拡大を防止できたのになと、本当に今思います。
この事件については、神戸地裁姫路支部で破産申立てがなされまして、ここに本社があったものですから。破産してしまったわけですけれども、姫路支部の裁判所では、多くのこれは被害者がクレジット会社から割販料金の不足分を支払請求を受けまして、一部認容される判決が出されました。また、弁護団では債務不存在の確認訴訟も起こしたんですが、これ一部認容の判決が出ました。
そういうこともありまして、大阪地裁で債務不存在の訴訟を起こした弁護団では、これは敗訴するよりも一部支払義務を認めた方が、まあ仕方がないだろうということで、クレジット代金の一部支払を認める和解をせざるを得ない状況が起こってしまいました。
ところが、そういう和解をした後に、平成十六年の四月に、大阪高裁では姫路支部の判決を覆す、これは信販会社の請求を権利濫用で支払う必要がないという、そういう判決を出しまして、結局これが平成十七年の十一月に最高裁で確定するということが起こったわけですね。
事ほどさように、やはり一つの事案をめぐって、社会常識的にはこれはやはりクレジット会社あるいはダンシングの社会的問題、法的問題があるなと思われていましても、裁判所の対応いかんではどうしてもやはり負けそうになる、あるいはそこで和解を余儀なくされるということはあり得ます。そういうことを考えますと、先ほどの山本先生の御意見とは違いまして、やはり相当この後訴遮断については深刻な問題があるんではないかと思っております。
その意味では、これは政策的な配慮でこの「確定判決等が存する場合」には後訴遮断と、こういう規定になっているわけですけれども、例えばこの確定判決等という、この「等」を取るだけでも随分違うなとつくづく思っております。そういう点も含めて是非御検討いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/25
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026・黒岩宇洋
○黒岩宇洋君 ありがとうございました。
やはり、この一つの事例のお話を聞くと、様々な問題が浮かび上がってくる。先ほど齋藤参考人は顧客第一主義とおっしゃって、大変にもう当たり前のことだと我々は思っていたんですが、このダンシングなる会社ならばそんなことは関係ないんですね。もう完全に持続できない、かなり悪質なビジネスモデルを編み出して、要するにあとはもう取って逃げるという、こういうような会社があるんだなということをつくづく感じて、やはりこれは、今回の法改正は大変重要なことだなというのを改めて認識するとともに、先ほど実務においての和解というものの意味合いというものをやっぱり感じますと、どうしても一見不利に見えるようなものでも裁判当事者にとってはできる限りのことをした和解というものも存在すると。これについては、後訴遮断効のみならず三十四条一項の四号で不利な和解で認定取消しという、こういったことについてもかなり吟味していかなければいけないのではないかという、そういう事例の御説明を承りました。
最後に、神田参考人にお聞きしたいんですが、こういったすばらしい制度を皆様のお力で、当委員会も吟味しながら今つくりつつあると。ただ、現実に、この団体訴権、そしてこの適格消費者団体というものが実効性を持って取り組みできなければ正に絵にかいたもちということになってしまうわけです。
今、私、消費者団体の皆様からお聞きしておりますと、この適格消費者団体に手を挙げると想定されている団体が九つと聞いております。まず、数的にも少ないということと、全国的に網羅性という意味でも若干以上にまだ進んでいないと。加えて、予算規模を聞くと、ある団体によっては年間三十五万円とか、こういったところがあると聞いております。このたびのこの適格消費者団体には、例えば三十条から三十三条で様々な報告義務とか監督義務課されております。そして、二十五条では守秘義務が課されて、これに違反すると罰金まであるという、こういった要件があるわけで、私の問題点は、実際に、じゃ、こういった中で、しかも財政的基盤のない、先ほどのお話ですと、一回訴訟でも百五十万円掛かるという中で、財政的支援もない中で本当に手を挙げられるんだろうかと、挙げた後にしっかりとこのような想定される団体が運営していけるのだろうかという、この二点について神田参考人の方から御意見をお聞かせいただけますでしょうか。お願いします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/26
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027・神田敏子
○参考人(神田敏子君) 今九つの団体ということで挙がっておりますけれども、当然、全国にはいずれはこういった適格団体という、こういった団体になりたいと思っていて準備を進めているというところはこれ以外にもございます。
ただ、今御指摘のように、実際に運営をしていく上では非常に、もちろん人的なものと、人と情報とお金が必要な制度だろうというふうに思いますけれども、いずれにしても、人的な問題については弁護士さんとか司法書士さんとか、現在、相談員さんだとか、そういった専門家の方が協力を今してくだすっておりますし、今後もそういった協力体制はできていくだろうというふうに思います。
ただ、問題はやはり財政的な問題で、仮にそういう団体ができても、年間に一つできるか二つできるかどうかというようなことではせっかくできた制度がそれこそ絵にかいたもちということになってしまいまして、この制度をつくった目的は、現状、消費者の被害が非常にあると、これをなくしていかなければいけないわけですから、本当にこの制度がきちっと運用できていかなければ意味がないと。
そういう言い方をしますと、やはり財政的な支援、これがなされませんと、もちろん各団体のところでは、例えば事業活動をしたりだとか、それはセミナーを開いて参加費を取ったりとか、そういったセミナーを開いたり事業活動をしたりして自力で収入を得る努力はもちろんいたしますけれども、それだけでは無理だろうというふうに思っておりますので、先ほど発言させていただいたような内容で、是非いろんな形で財政的な支援をしていただきたいと。でなければなかなか動きが取れないなというのが現状でございます。
それで、いろいろ団体のところはほとんど会費で賄っていたりというのが日本の消費者団体の特徴でもあります。外国の、ヨーロッパの例が先ほどから出ておりますけれども、EUの方の消費者団体といいましょうか、あちらの国では消費者団体が社会的な位置付けが全く違いまして、国からの支援というものが非常にもう格段に大きな費用が、社会的な位置付けをきちっとされているものですから、あるんですね。そういったことが違っております。
ですから、日本の消費者団体の社会的位置付けも消費者基本法の中できちっとされたわけですから、そういうことも踏まえまして、活動ができるような支援を、具体的に言えば財政的な支援ですね、そういったことをしていただきたいなというふうに思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/27
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028・黒岩宇洋
○黒岩宇洋君 本当に四人の参考人の先生の皆様ありがとうございました。今日の議論、大変有意義でございまして、もう参考人の方からは、不当条項の推奨行為等についても、やはりステップ・バイ・ステップである意味トライアルをしながらこの先より良いものにしていくんだという、これは私、一つのもう今日のすばらしい結論だと思っております。
そういう意味で、このすばらしい法改正をして、今後、本当に消費者にとっても事業者にとっても本来あるべきそういった契約がなされていく、このことに私どもも尽力していきますので、またこれからも様々な御指導をよろしくお願いいたします。
本日は本当にありがとうございました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/28
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029・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 公明党の魚住裕一郎でございます。四人の参考人の先生方、今日は大変にありがとうございます。
若干質問をさせていただきますが、画期的な制度として取りまとめられました山本先生には大変敬意を表するものでございます。確かに、起こってもいない被害を事前に差し止めるために、最も適格性を有する団体に一定の権限を持たせて訴訟という形で未然に防止していくというのは本当に大事な制度だなというふうに思っているわけでございますが、日弁連の山口先生が御紹介していただいた中で、複数適格消費者団体があるという中で、訴訟上の手続保障もないまま訴訟をする権利が奪われるという批判があるわけであります。
たしか民事訴訟の原則などはいろんな一定の利害関係のある方に、訴訟告知であるとかいろんな形で手続を保障しながら、だけれども自分で参加しなければ一定の効果波及されても仕方ありませんねというような、そういうかなり丁寧な手続が規定されていると思うんですね。
今回、ぱっと見て、余りそれないなという、裁判上の訴訟告知みたいなものがあったかなというふうにちょっと、通知等はあるらしいですが、裁判所としての形はどうなのかなというふうに思いますし、その辺はどういうふうに御判断されているんでしょうか。ちょっと私の理解不足もあるかもしれません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/29
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030・山本豊
○参考人(山本豊君) その件につきましては、議員から御指摘がありましたように、あらかじめ通知をするということの規定がございますし、また、これは何度も繰り返しているところでありますが、法律で規定しているのは最低限でありまして、この法律で規定、要求されている通知以外にも、やはり適格消費者団体というのはもう常に連絡を密にして、そうして様々な手段で連携して消費者利益の実現のために活動をしていただくというのがこの制度の大前提であります。法律でこれはやってください、あるいは法律でこういう仕組みをつくりますという以外にプラスアルファのところが非常に重要なんです。そういうことを構築していただく必要があるということです。
ですから、先ほど例に挙げられましたような事例が生じないように、生じないように連携してやっていただくということがそもそもこの制度を発足させる大前提でありますので、もしそれができないということになりますと非常にこれ困ったことになる。
しかし、私は、今いろいろ準備をされております団体におかれては、そこは十分やっていただけるものだというふうに思っておりますので、法律で定められているその仕組みプラスアルファの連携でそういった問題については、今いろいろ御懸念されているような問題が生じない形でうまく制度の実施がされていくのではないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/30
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031・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 先生の気持ち、すごく分かるんですね。私、立法者の立場でいろいろ議論をしますと、こうあってほしいなと思うときに、それを前提にして立法作業をする場合と、駄目かもしれないということを考えながら立法する場合、一応性悪説でも対応できるぐらいのものは私は考えておかなきゃいけないなというふうに思っております。
先ほど先生の御意見で予定調和という言葉も出てきましたけれども、本来そうであれば本当そのとおりで、こんなそもそも消費者問題なんて起きないななんて実は思っているところでございますけれども。
もし予定調和のような世界でいきますと、このドイツ法ではこの後訴遮断効の条文ないわけですから、あえて入れなくてもいいんじゃないですか。そういうふうな周りの、九五%はうまくいくという大前提で組み立てているわけですから。あるいは、今現在予定されているのは九団体だというふうに聞き、もちろんもっと増えるでしょう。だけど、これはもう一億人の世界ではないわけですから、九団体とか十とかですね。そうなってくると、あえてこの後訴遮断効の条文を入れ込む必要がないんではないのか。九団体ぐらいだったらお互いにすぐ連携取れますよ、と私は思うんですね。その点いかがですかね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/31
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032・山本豊
○参考人(山本豊君) そこは、五%まで規定するのか一〇%まで規定するのかというやはり判断のそこの差の議論でありまして、理論的には、先ほど申し上げましたように、五%ぐらいで規定しておいて、あとは予定調和という考え方もあるかと思いますけれども、他方、実験的な立法であるということと、我が国の様々な法文化の歴史、それから消費者団体のこれまでの歴史もかの国とはまた違うところもございますので、一〇%までは押さえておこうという、そういう考え方も十分理解できるものでありまして、私はそれは支持に値するというふうに考えております。
そして、議員のおっしゃった性悪説に立った場合は、これは本当にひどい場合は、その適格認定を取り消して、そして後訴遮断を再び解除するというやり方もありますし、また、先ほど来何度も申し上げているとおりでありますが、これは将来に向けて差し止めるということでありますから、それは敗訴判決とか不利な和解をした後でも同じような勧誘、あるいは不当条項の使用が続いているということが大前提であります。そうであれば、十二条六項を適切に活用することによってその他の消費者団体のアクションが不当に制約されるということはないものであるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/32
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033・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 先ほど具体的事例で分かりやすかったダンシングモニターというのが山口弁護士から紹介されましたが、齋藤参考人、こういうような過去の事例を見て、もちろんお立場上いろんな事案をごらんになっていると思いますけれども、これでも大阪地裁であるとか大津とかいろんなところで裁判やっていて、それぞれ判断が違ってきて、終結の仕方も変わってきているというわけでございますが、先ほども、もちろん、企業の立場からすれば濫用というのはやはり懸念しなきゃいけないと。もちろん、企業活動は疲れ切ってしまったら元も子もないというのは私も全く同感ではありますけれども、やはりこういうようなことを、このダンシングモニター商法のような事例を考えますと、やはりある程度、それこそいろんな判断が出て、予定調和の中で収まるところに収まるんではないのかなと。
あえてこの後訴遮断効の条文を入れて一つにまとめる、裁判管轄も本当は一つにまとめてもいいんじゃないかみたいな、そういうことよりも、こういう方向性の方があるべき姿ではないんですかね。いかがですか、御意見をちょうだいしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/33
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034・齋藤憲道
○参考人(齋藤憲道君) 考え方を申し上げます。
事例がよく挙がりますが、悪い事業者のケースを見ると本当に悪い、どうにもならないというふうに思うことが多々ありますが、そのためには今回、差止請求権という強力な武器を与えると私は思っているわけです。
それだけに、実際には、そのグレーゾーンの事業者も結構いるのではないかなと。数とすれば多分そっちの方が多いだろうと。それの中で、本当に善良なものが弊害生じるというようなことがあってはならないというのもまた考えるわけです。その辺のバランスでどうやって立法していくかということになると思います。
先ほど、蒸し返し訴訟、事業者側から見れば蒸し返し訴訟とかいうことになりますけれども、この制度はやっぱり、消費者全体の利益のために直接被害を受けてない消費者適格団体に政策的に今度権限を付与するということですので、初の制度であるだけに慎重にスタートをしていただきたいなと、こう思っています。
何度も同種訴訟を行うのは、やっぱり事業者にいたずらに疲弊が生じるということで、一回的解決を図るのが望ましいと。
矛盾判決が存在したり、裁判所に負担が大きいとか、それから蒸し返しの訴訟で違法か適法か不安定な状態がずっと続くというような問題があるというような指摘がたくさんなされております。こういうのはやっぱり避けたい。
それから、訴訟においては事業者と適格消費者団体の勝ち負けというのは、これは裁判ですから、勝つか負けるかということで、何も適格団体の方が負けるばっかりでもなかろうと、こう思っています。
また一方、適格消費者団体には国民生活センター、それから地方公共団体から情報の提供があると、なされるというようなことになるわけですから、今までよりも強いポジションに立てるはずだと。で、連携も取るということであれば、適正な運用がなされるのではないかなと、こう思っております。
さらに、効率的に訴訟が行われるように弁論の併合とか裁判手続面でも工夫がなされておるということですから、こういった訴訟手続を検討しているこの原案というのは適切で、よく配慮されたものであるというふうに考えます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/34
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035・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 今は、いい企業、悪い企業、ありましたけれども、例えば神田参考人のいろいろ御相談受けたりすると、大体もう本当に悪い企業ばっかりだと思うんですよね、相手の企業はですね。だから、齋藤参考人は、本当に御自身の会社も含めてですよ、良心的な企業の利益、お客様第一の企業ということだと思いますけれども、そうじゃないのを神田さん、あるいは山口参考人も相手にしているというふうに私は思うんですね。そういう立場、やっぱりしっかり見ていかなきゃいけないなというふうに思っております。
それで、神田参考人、やはりこの制度をうまく運用していくというか、この制度を成功させるには、やはり適格消費者団体がいかに活躍できるかといいますか、その活躍できる基は情熱なんだろうなというふうに思うんですね。
ただ、先ほど支援、財政的な支援というような話もありましたけれども、かすみ食ってやってろみたいな、ボランティアにすべて任せるというのも、それはまたきつい話ではありますけれども、この情熱をどう維持していくかというようなところはどういうふうにお考えですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/35
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036・神田敏子
○参考人(神田敏子君) そうですね、情熱は消費者運動をしている者は皆さん持っておりますので、ましてやこの消費者被害が非常に多い、これを何とかしなければいけないという意味で、ずっと前から消費者団体のところでは消費者団体訴訟制度が必要だということ、消費者契約法の辺りから、見える段階ではそういう時期からずっとこの団体訴権が必要だということを取り組んできておりますし、そういった情熱というんでしょうか、どうなんでしょうね、やはり消費者、弱い立場の消費者、こういった事業者との、何というんでしょうか、差が余りにもある中では、やはり消費者団体としてその被害が起こらないような、そんな働きを消費者団体がしていかなければならないという意思を持っている方が一つは多いわけですね。
もう一方は、やはり非常にひど過ぎると、余りにも世の中に起きている、泣き寝入りをしている人たちがかなりいると、このひどい状態をやっぱり見ていられないと私は思います。ですからこういった制度が必要なんだと思いますので、もちろんこういう制度ができても、いろんな条件が整わなくて活用できなければ気持ちも沈んでいくかもしれませんけれども、でも情熱というのはなくならないなというふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/36
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037・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 それで山本先生、その情熱の基のお金の問題ですけれども、英米でできたところのクラスアクションで、やはりそういう事件の中で、いろんなアクションの中で適正な経費も出てくるというシステムだと思うんですね。このドイツとかフランスとかラインラント・モデル的な発想は、そういう公の部分を団体の方に取り上げてしまうというか、行政サイドに引っ張ってきてそこに財政支援をするような、そういう方向性になるんだろうと思うんですよ。
だけど、これだけ今、歳入歳出一体改革とか切るところは全部切っていくという方向性の中で、本当にこれが将来的に向かって維持できるんだろうか、そんなことも当然検討会の中では議論されたんだろうなと思うんですが、その辺についてちょっと御披露していただけますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/37
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038・山本豊
○参考人(山本豊君) 検討会におきまして、両論ございまして、やはりまず財政基盤あるいは消費者利益代表性その他しっかりしている、しっかりしているから、大丈夫だからこの制度を導入するんだというふうに一方で理由付けなきゃいけませんので、いやいやもうお金がなくて全然もう駄目ですというふうに余り言うと、もうそもそもこの制度が発足するだけの基盤がないのではないかということになってしまいますので、その辺りは非常にさじ加減が難しいところでございました。
もちろん消費者団体サイドからは、やはり実情を訴えて公的支援が必要だという意見が強く出されました。
ここから先は私の意見ですけれども、理想はイギリスの消費者協会のように、もう潤沢な財政的な基盤があって公的支援を謝絶すると、公的支援をしたいと言っているのにもう要りませんというところまでいっていただくのが理想ですけれども、やはり現実にはなかなかそういうことにはならないので、できるだけ寄附でありますとかそういう形で自助をしていただくというのが大原則でありますけれども、ある程度そういう公的な支援を考えていくということが将来的に望ましいというふうに考えております。
先ほど神田参考人からもございましたように、地方自治体の支援でありますとか、そういうことがあってもおかしくない。つまり、公的な差止請求業務をしていただいているわけですから、そういうことがあってもしかるべきであるし、その自助と公的支援の適切なバランスを我が国の中でどういうふうに考えていくのか。これはやはり国民的な支援がないといけませんので、寄附をやはりある程度集めていただくと。つまり、それだけ消費者の支援を得ているんだというまず実績を示していただくということも他方において必要だと思いますので、これは将来課題として重要な課題であるというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/38
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039・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 山口先生、長年にわたる消費者問題に対する取組に本当に心から敬意を表するものでございますが、先ほど、実務家としての大変具体的な事例も紹介していただきながら、現場からの御意見というふうに、貴重な意見としてお伺いをしたところでございますが、後訴遮断効を取り除けば九十八点ぐらいという評価になるんでしょうか。もしこれが残った場合、何点ぐらいになるんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/39
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040・山口廣
○参考人(山口廣君) もし残った場合は私は七十点ぐらいで、これが取れれば九十点じゃないかなと、そうは思っておりますけれども、とにかく是非実現していただきたいと、そう思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/40
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041・魚住裕一郎
○魚住裕一郎君 私も六十点以上は合格だというふうに実は考えているところでございますけれども。
じゃ、これで質問を終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/41
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042・近藤正道
○近藤正道君 社民党・護憲連合の近藤正道でございます。
今ほど、魚住先生と山口参考人の最後のやり取りを興味深く聞かさせていただきました。私も、この改正案、これから採決ということになるわけでありますが、私としてもやっぱり合格点、是非成立をさせなければならない、そういう法案だというふうには思っております。画期的なものだというふうに思っておりますが、しかし、今ほど来四名の参考人の皆さんがそれぞれの立場で出されました課題、とりわけ後訴遮断効をめぐる問題を考えますと、もう少しここを何とかならないのかなと。後訴遮断効のそれの意味は分かった上で、その範囲をできるだけ小さくする、あるいは例外の事由をできるだけ広くして、紛争の一回解決と同時におかしななれ合い訴訟を排除すると、この二つをどうやって調整するか、ぎりぎりの今せめぎ合いを自分の中でやっているところでございます。
最初に、山本先生の方にお尋ねをしたいというふうに思っています。
お取りまとめ、大変御苦労さまでございました。先生の、これが大変異色のやっぱり制度であると、実験的な性格を持つ法案なんだということは十分分かった上で、最後でありますので多少理屈っぽく御質問させていただきたいというふうに思います。
実は、今回の消費者団体訴訟制度における団体訴権の法的な性格につきまして、審議会でもいろいろ御議論がありました。私もそのまとめを読まさせてもらったわけでございますが、この審議会の整理によりますと、適格団体に実体法上の請求権を認めるということが原則的な立場に、結論になっております。こういうふうに受け止めさせてもらっておりますが、団体に実体法上の請求権があるということと、それと今回の後訴遮断効、十二条の五項二号の後訴遮断効とは理論的に果たしてどういうかかわりになるのか、整合があるのかどうか。やっぱりこの整理をきちっとまずするということが私は必要ではないかというふうに思っておりまして、理論的にもこのところの取りまとめをやられた山本先生の御意見をお聞きをしたいと、こういうふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/42
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043・山本豊
○参考人(山本豊君) この制度は、従来の民事実体法、民事訴訟法の枠組みにきちっと当てはまらない制度であります。当てはめようとするとその議論だけでも延々続いていつまでたっても法律ができないと、その中で、一応実体権は認めようと。しかし、先ほど言っておりますように、名実ともにその保護利益が団体にあり、なおかつそれをベースにして実体権が与えられているという場合ではございませんので、実際の制度設計において、言わば形式と実質がずれがあるということを十分に認識して、そこの具体の制度設計のところでバランスの良い内容を決めていくということでございます。
ですから、議員の御質問でどう整合するのかということは、その本差止請求訴訟、あるいは差止請求権の制度趣旨及び本差止請求権が行使された差止請求訴訟の訴訟物の議論によってこの制度趣旨に従って決まっていくということではないかと思います。
付け加えて申し上げますと、一回的解決というのは当該訴訟物、当該訴訟についての一回的解決でございまして、十二条六項によって提起される別訴においてはそれは別の問題である。したがって、一回的解決といっても括弧付きの一回的解決であるということ。
それから、この制度は、そもそも非常に原告に有利にできているわけであります。つまり、勝てば被告はリターンマッチはできません。負けても十二条六項によってリターンマッチはできるわけであります。そこの中で、十二条五項で少し制約が掛かったからといってだからこの制度が無になるとか、そういう議論は非常に狭いところの議論でありまして、大局を是非皆さん理解していただいて、非常にこれは消費者利益の保護に画期的な意義を持つ制度でありますので、是非この法案に御賛同いただいて、この制度の早期の実現を図っていただきたいというふうに思っております。
以上です。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/43
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044・近藤正道
○近藤正道君 先生が最後におっしゃったことは私もよく分かるんです。冒頭にも言いましたように、この制度の意義をよく分かった上で、なおかつ採点の得点を高めたいと思って申し上げているわけでございまして、理論的にはなかなか整合性の付きにくい難しい問題。しかし、政策的なところで、ここでどうかということでまあ一つの整理をしたと、こういう話のようでございます。
次の質問でございますが、後訴遮断効を設けなかった場合は具体的に不都合の事態が生ずるとお考えなのか、山本先生にお尋ねしているんですが、それとも後訴遮断効を設けなくとも不都合は生じないとお考えなのか、どちらなんでしょうか。
と申しますのは、山本先生の昨年の「法律のひろば」に書かれた論文、消費者団体訴訟制度の導入に向けてという文章を読まさせていただきました。これによりますと、既判力を拡張しなくとも消費者団体が同一の請求を行うようなことはないだろうと、そんな火中のクリを拾うようなそうした団体はいないだろうと、こういうふうな見通しを立てておられると。ならば、この後訴遮断効がなくたって不都合ないではないか、こういうふうに思うんですが、先生は論文ではこういうふうにおっしゃりながら、現実の法案としては後訴遮断効をばしゃっと設けて、そして後でリターンマッチができないようにしている。
これは、少し先生の方から、この辺の不整合を説明していただく必要があるんではないかなと思ってお尋ねをしているんですが、いかがでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/44
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045・山本豊
○参考人(山本豊君) まあその論文を書いたときは予定調和的に考えていたということが一つあります。しかし、この間の議論を聞きますと、先ほど来、たくさんの消費者団体が一緒に訴訟を起こして一部が和解したときにどうなるとか、そういう予定調和的な発想を否定するような、そういう事例がたくさん語られております。だんだんやはり不安が募ってきました。やはり日本では予定調和的にはいかないのではないか。
そうしますと、やはり政府案のように十二条五項で一定の制約を設けながら、なおかつ十二条六項できちっとリターンマッチの道を残しておく、これは非常にバランスの取れた考え方ではないかというふうに思っておりまして、その「法律のひろば」の論文を書いたときは、一方において確定判決の拡張効という側面で記述しております。
それと予定調和的な発想ということがございましたけれども、私もずっと勉強し続けておりますので、その後の様々な議論を伺いますと、やはり今の政府案が非常によく考えられた案だというふうに考えておるということでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/45
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046・近藤正道
○近藤正道君 そうすると、この「法律のひろば」のころの考えと今では少し考えが変わったということになるんでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/46
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047・山本豊
○参考人(山本豊君) これは、法律というのは、ある学者の個人の研究室で書く論文と、法律を現実の様々な御意見がある中で現実の制度として発足させるということは、また実践の場で別の考慮というものが働きます。したがって、論文は学者個人として自己の見解を述べたということでございまして、今私はここで、実践の場でこの制度が現実に発足するということを願って発言しているということを是非御理解いただきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/47
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048・近藤正道
○近藤正道君 山本先生に最後の質問でございますが、裁判管轄につきましては、政府案に加えて衆議院段階で行為地、事業者の行為地というものが入りました。
その上で、行為地の解釈について審議会をリードされた先生の御意見をお伺いしたいんですが、この行為地の解釈につきましては、消費者が勧誘行為を受けた場所、そして消費者が事業者の意思表示を受けた、つまり受領した、そういう地も私は含んでいいんではないかと、こういうふうに思いますが、そういう解釈は可能とお思いでしょうか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/48
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049・山本豊
○参考人(山本豊君) まさしく可能であろうと。しかし、これは将来の司法判断にやはりゆだねられるべき問題であろうと思いますので、あくまでも現時点における私の当然個人的な見解ですけれども、意思表示の到達地によって行為地管轄が認められる可能性があるであろうと。しかし、そうしますと、先ほど申しましたように、大学などですと全国から学生が来ますので、全国どの裁判所に呼び出されても出掛けていかなきゃいけないということで、ある意味では非常に厳しい面も出てきたと。
ただ、その辺りは、消費者団体の方も十分これは適格性を認定された団体でありますので、そこは運用の中で社会の信頼を得られるような、そういう権利の行使に努めていただけると思いますので、まあ衆議院の修正は非常に消費者利益をより強く擁護する方向の修正ということで、しかも国会の場での御決定でございますので、参議院におかれましてもそういうことを十分踏まえた上で御審議いただければというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/49
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050・近藤正道
○近藤正道君 ありがとうございました。
これは裁判所が最終的に解釈で判断するところだというふうに思いますが、先日、この委員会に衆議院の修正案の提出者が来られまして、今先生がおっしゃったことと同じことをおっしゃっておられました。
ですから、立法者の意思として、消費者の行為地が含まれると、消費者の居住地が含まれるということは、これは裁判所にも非常にいい影響を与えるというふうに思っておりますので、私としては有り難いと、こういうふうに思っております。
私が齋藤委員、神田委員に質問しようと思っていたことはもう既にほかの委員が質問されましたので、重複を避けまして、山口参考人に残りの時間お聞きしたいというふうに思っております。
今回のこの改正案、最大のテーマが後訴遮断効にあると、私はそういうふうに思っております。この後訴遮断効では、基本的に差止め訴訟が一回限りとなってしまうわけでございますけれども、実際の訴訟で一回の判断で正しい判断がなされるのかどうか。私は、今ほど山口参考人が委員の質問にるる答えて、あるいは自らの冒頭の発言の中でもそういうことを申されておられましたので、これ以上聞くこともないかなと思うんですけれども、多分ここのところが一番おっしゃりたいところなんだろうというふうに思いますので、さらに加えて、一回では解決しないと、様々な苦労の積み上げの中でやっぱり勝訴に至る経過、そういう経過を見ますと、今回の後訴遮断効の持つ意味について、再度、山口参考人の発言を求めたいと、こういうふうに思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/50
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051・山口廣
○参考人(山口廣君) ありがとうございます。
私どもよく言うんですが、いわゆるチャレンジ訴訟といいますか、本当に裁判官とも、山口さんは本当に難しい訴訟ばっかり起こしてくるねと言われることがあるんですけれども。
具体的に、例えばこれは変額保険の事件で、銀行が保険会社と一緒に、お年寄りにいわゆる相続税対策で非常に有利な保険商品がありますということで推奨をされまして、それで変額保険に、一億円ぐらいの一時払いの保険を銀行から借金をして掛けるというようなケースでは、これは時々新聞に銀行が負けた、保険会社が負けたということで載ります。
しかし、あの種の訴訟は大体九勝一敗と言っていいんじゃないでしょうか。銀行が九回ぐらい勝つ。あるいは、銀行や保険会社が九回ぐらい勝って、よっぽど証人が正直にしゃべった、私どもに言わせれば銀行や保険会社の担当者が正直にしゃべったケースで例外的に勝つ。そうすると、犬が人をかんでもニュースになりませんが、人が犬をかむとニュースになるように、消費者側が、お年寄り側が銀行や保険会社に勝ちますとニュースになります。事ほどさように、なかなかおじいちゃん、おばあちゃんが引っ掛かった場合に、ネクタイを締めた事業者側の証人が、そんなこと言ってませんと、おじいちゃん、おばあちゃんが言うようなセールストークはしておりませんというようなことを言われますと、裁判所としてもなかなか消費者側に軍配を上げるのにちゅうちょをするという実態がございます。
そういう中で、悪徳商法の被害について、被害者側を救済する判決をかち取る、あるいは消費者団体の場合には、これは差止めをかち取るというのはなかなか難しいんではないかというふうに言わざるを得ないと思うんですね。
これ、私自身、田舎から出てきた二十歳前後の若者から相談を受けることございます。本当に印象深いのは、福島の山奥から出てきた女の子が、田舎に帰ったら一人住まいのおばあちゃんがもう何か借金まみれになっていたと。年金が二か月に一回四十万ぐらいあるはずだから、あの地味な生活してる場合にはそんなに借金まみれになるはずがないんだけどということで、不思議に思っておばあちゃんからいろいろ聞いてみたところ、ああいう田舎にはいわゆる健康食品、クロレラが健康にいいとか何とかが健康にいいとかいうことで、四十万、六十万、八十万という一括払いの健康食品をよく売りにセールスが今歩いているんです。そういうケースですと、若者が東京から出てきておばあちゃんから聞いてくれたから、そのおばあちゃんは間接的に私の方に相談があって、五件ほどクロレラ食品とかいろんなクレジットを組んでいましたけれども、全部解決が何とかできました。
しかし、ああいう業者が全国の、特に田舎を回っている場合に、これ、差止めの材料を集めて消費者団体が差止めをかち取るというのはなかなか難しいです。結局やり得という事態はこれからも私は出てくると思うんですね。
そういう中で消費者団体が、例えば仙台の消費者団体が福島のおばあちゃんの例を取り上げて、これはひどいと、じゃ差止めしようということで起こした場合に、そのおばあちゃんが残念ながら亡くなる、あるいはいろんな事情で訴訟が継続できなくなるということは私は憂慮されると思うんですね。そういう場合に、実はその販売会社の本店が九州だったりするんです。本当にそうなんです。そういうことを考えますと、この後訴遮断の影響というのは非常に大きいなと。
これ、消費者団体として訴訟を起こすときに、本当に勝てるんかということはやはり、そのもし消費者団体側の代理人として訴訟を起こす場合には、これは途中で和解なんかできません。この制度は非常に和解がしにくい制度づくりになっております。したがって、本当に勝てるんかと。もし途中でやばくなった場合には、まずくなった場合には和解はあり得ないんだぞということを念押しした上で訴訟を起こさざるを得ないと。そうなると、これはひどいなと思っても、証拠がよっぽどそろってない場合には、やはりこれは顧問弁護士あるいは職員弁護士としてはちゅうちょするということになると思うんですね。
その意味では、私はこの制度がより社会的に有益に運用されるためには是非この見直しをお願いしたいと、せめて附帯決議でこの再検討をするべきであると、あるいは数年後には見直しをするべきであるということを射程に入れながら御審議をお願いしたいと思っております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/51
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052・近藤正道
○近藤正道君 一つどうしても聞きたいことがあります。
今回の後訴遮断効、これ導入されることになりますと、差止め訴訟では消費者団体が敗訴して確定すれば、その後、差止請求はそれ以上できないと、こういうことになるわけでございます。しかし、個別消費者の事業者に対する訴訟は違う、これはできる。この場合、同一の論点について個別消費者が勝訴する、こういう事態だって私は出てくると思うんです。この場合は裁判実務に何か混乱が出てくるんではないか、この懸念が少しあるんですが、いかがですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/52
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053・山口廣
○参考人(山口廣君) これ、消費者団体が起こして敗訴が確定した後、しかしその被害が、次々と同じような被害が起こった場合に、あるいは被害者側が立ち上がって、ほっとけなくなって損害賠償請求訴訟を起こしたという場合に、差止めでは敗訴しているにもかかわらず、その前に起こった損害については損害賠償の認容がされるという事態は、これは考えられるわけですね。そうした場合に消費者団体としては、何といいますか、慌てて訴訟を起こしたために大変に変な迷惑を掛ける判決が確定してしまうと、それによって消費者の被害が一部勝ったり一部負けたりということで、一体その司法判断はどうなっとるんかと。
よくマスコミで、つい先日も、刑事事件では問題になってないけれども、保険会社との間の訴訟では殺人事件が間接的に認定されたようなことで混乱が起こりましたけれども、そういう司法の判断の混乱が司法に対する不信とかそういうことにつながらなければいいけれどもというふうに憂慮しております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/53
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054・近藤正道
○近藤正道君 終わります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/54
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055・工藤堅太郎
○委員長(工藤堅太郎君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々に一言お礼のごあいさつを申し上げます。
参考人の方々には、長時間にわたりまして御出席をいただきまして、大変貴重な御意見をお述べいただきまして誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
本日はこれにて散会いたします。
午後零時十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/116414889X00920060525/55
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