1. 会議録本文
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000・会議録情報
令和四年五月二十日(金曜日)
午前十時一分開議
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○議事日程 第二十四号
令和四年五月二十日
午前十時開議
第一 所得に対する租税に関する二重課税の回
避のための日本国とスイスとの間の条約を改
正する議定書の締結について承認を求めるの
件(衆議院送付)
第二 二千二十五年日本国際博覧会に関する特
権及び免除に関する日本国政府と博覧会国際
事務局との間の協定の締結について承認を求
めるの件(衆議院送付)
第三 万国郵便連合憲章の第十追加議定書、万
国郵便連合憲章の第十一追加議定書、万国郵
便連合一般規則の第二追加議定書、万国郵便
連合一般規則の第三追加議定書及び万国郵便
条約の締結について承認を求めるの件(衆議
院送付)
第四 福島復興再生特別措置法の一部を改正す
る法律案(内閣提出、衆議院送付)
第五 宅地造成等規制法の一部を改正する法律
案(内閣提出、衆議院送付)
第六 農業経営基盤強化促進法等の一部を改正
する法律案(内閣提出、衆議院送付)
第七 農山漁村の活性化のための定住等及び地
域間交流の促進に関する法律の一部を改正す
る法律案(内閣提出、衆議院送付)
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○本日の会議に付した案件
一、刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等
の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律
の整理等に関する法律案(趣旨説明)
以下 議事日程のとおり
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/0
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001・山東昭子
○議長(山東昭子君) これより会議を開きます。
この際、日程に追加して、
刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案について、提出者の趣旨説明を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/1
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002・山東昭子
○議長(山東昭子君) 御異議ないと認めます。古川禎久法務大臣。
〔国務大臣古川禎久君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/2
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003・古川禎久
○国務大臣(古川禎久君) まず、刑法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
新たな被害者を生まない安全、安心な社会を実現するためには、罪を犯した者の改善更生及び再犯防止を図ることが重要です。これまで国、地方公共団体、民間協力者が一体となって様々な取組を進めてきたこともあり、再犯者の人員は減少傾向にありますが、依然として刑法犯の検挙人員のうち五割近くを再犯者が占めています。
こうした状況を踏まえますと、罪を犯した者について、その特性に応じたきめ細やかな指導、支援を行うことができるようにするなど、その改善更生及び再犯防止に向けた処遇の充実を更に推進することが必要であると考えられます。
また、近時、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化していることを契機として、誹謗中傷に対する非難が高まるとともに、これを抑止すべきとの国民の意識も高まっていることに鑑みますと、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止することが必要であると考えられます。
そこで、この法律案は、罪を犯した者の施設内・社会内処遇をより一層充実させるため、刑法、刑事訴訟法、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律、更生保護法その他の法律を改正し、所要の法整備を行うとともに、刑法を改正して侮辱罪の法定刑を引き上げようとするものであります。
この法律案の要点を申し上げます。
第一は、懲役及び禁錮を廃止し、これらに代わるものとして拘禁刑を創設し、拘禁刑は、刑事施設に拘置し、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができることとするとともに、再度の刑の全部の執行猶予の言渡しをすることができる対象者の範囲を拡大し、あわせて、猶予の期間内に更に犯した罪について公訴の提起がされている場合には、当該罪についての有罪判決の確定が猶予の期間の経過後となったときにおいても、猶予された当初の刑を執行することができることとするものであります。
第二は、資質及び環境の調査の結果に基づき受刑者ごとに定めるものとされている処遇要領について、入所後できる限り速やかに、矯正処遇の目標並びに作業、指導ごとの内容及び方法をできる限り具体的に記載して定めることとするほか、再び保護観察付全部執行猶予を言い渡された者については、少年鑑別所による鑑別を行うなどして再犯の要因を的確に把握し、保護観察を実施することとするものであります。
第三は、刑事施設の長や保護観察所の長は、被害者等から申出があったときは、その心情等を聴取することとし、これを矯正処遇や保護観察に生かすこととするほか、被害者等から申出があったときに保護観察対象者に対して被害者等の心情等を伝達する現行法上の措置に加えて、受刑者に対しても被害者等の心情等を伝達することとするものであります。
第四は、侮辱罪の法定刑について、現行の拘留又は科料から一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に引き上げるものであります。
このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。
なお、刑法等の一部を改正する法律案は、衆議院において一部修正されており、その内容は、政府は、第一条の規定の施行後三年を経過したときは、同条の規定による改正後の刑法第二百三十一条の規定の施行の状況について、同条の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているかどうか、表現の自由その他の自由に対する不当な制約になっていないかどうか等の観点から外部有識者を交えて検証を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすることであります。
続いて、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
この法律案は、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、爆発物取締罰則等の関係法律の懲役及び禁錮を拘禁刑に改めるなど所要の整理等を加えるとともに、所要の経過措置を定めようとするものであります。
以上が、これら法律案の趣旨であります。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/3
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004・山東昭子
○議長(山東昭子君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。真山勇一さん。
〔真山勇一君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/4
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005・真山勇一
○真山勇一君 立憲民主・社民会派の真山勇一です。
会派を代表して、刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案について質問をさせていただきます。
まず初めに、ロシアによるウクライナへの侵攻を強く非難します。他国の領土に武力をもって攻め入り、一方的に命、権利、財産などを奪い、民主的な体制を破壊する行為は絶対に許されるものではありません。
私は、記者時代に三度の戦争取材を経験しました。一度目はイラン・イラク戦争、二度目はカンボジア内戦、そして九・一一後のアフガニスタンに対するテロとの戦いです。私が歩いたどの戦場でも、犠牲を強いられるのは一般市民であり、子供たちでした。戦場では、銃を肩に掛けた少年兵、また遺書を内ポケットに忍ばせた兵士たちにも会いました。私自身も命の危機を何度か感じました。戦争はどんな理由にせよあってはならない、私のその思いはそこから生まれました。戦争が終わるまで声を上げ続けていかなければならないと思います。
さて、今回の改正案を読みながら、私は冷戦時代の旧共産圏で広く知られたジョークを思い出しました。ある独裁国家の国民が広場で最高指導者はばかだと叫んだところ、すぐさま逮捕されました。逮捕の理由は、指導者を侮辱した罪かと思いきや、国家機密漏えい罪だったそうです。しかし、しばらくして、その指導者が国連総会で演説をしたら、その国民はすぐに釈放されました。彼が、なぜ私は釈放されたのですかと聞いたところ、看守は、あの発言はもう国家機密ではなくなったからだと答えたということです。
指導者に向かって投げた言葉が侮辱罪どころかとんでもない罪になったわけですけれども、落ちまで付いた風刺、ウイットに富んだこれは笑い話です。しかし、権力者を侮辱したと受け取られたら最後、問答無用で逮捕されるというのではとても笑えません。言いたいことは言えなくなり、どんな不正や悪もまかり通ることになります。そんな社会にしてはならないからこそ、我が国には日本国憲法があり、刑法を始めとする法体系が整備されてきたはずです。しかし、本法案にはそれを破壊しかねない重大な疑念があるのです。
本改正案の中身について、古川法務大臣に具体的にお尋ねいたします。
まず、今回の立法の趣旨についてです。受刑者の処遇を充実させ更生を支援することと、侮辱罪の法定刑の引上げは全く個別、別個の内容であり、別々に諮問されてきたはずです。しかし、なぜ、今回、同時に改正するのでしょうか。国会の日程は限られています。どの法案も抱き合わせで提出されるのでは、充実した審議は望めません。
本改正案では、懲役と禁錮を一つにまとめ、拘禁刑が創設されます。我が国の刑事法制の根幹に関わる明治以来の大改正ですが、不明な点ばかりです。拘禁刑は受刑者の改善更生を図るためとされ、作業と指導が挙げられていますが、それらは刑の内容として義務化されたのでしょうか。拘禁刑により、改善と更生が可能になるという根拠は何でしょうか。実効性のある改善更生を図るためには、受刑者一人一人の生育歴や精神状態などを把握した専門家がきめ細かく対応する必要がありますが、そうした人材をどう確保し、養成するのでしょうか。また、刑務官に対して今回の法改正の趣旨をどのように徹底し、人的体制を整備するのでしょうか。高齢の受刑者、障害のある受刑者は福祉的支援が必要であり、出所後の就労は考えづらい場合もありますが、それでも作業と指導を課すのでしょうか。法務大臣、これら拘禁刑についての疑問にお答えください。これほど大切な法改正を、理由や根拠も示さずに、見切り発車で実施することは大変に危険なことであると考えます。
法務大臣にお尋ねしたいことはまだたくさんあります。受刑者の処遇要領の策定に当たっては、被害者等の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況、被害者等から聴取した心情等を考慮するものとされます。どのような形で処遇要領に反映させ、どのように受刑者に伝達し、何を達成しようとするのでしょうか。さらに、受刑者の社会復帰を支援するために、本人の意向も踏まえて刑事施設の外で支援を行うこともあるといいます。それは、どのような場所や施設を想定しているのでしょうか。
出所者を受け入れる側の社会の準備、意識改革も必要ですが、どのようにしてそれを行うのでしょうか。更生緊急保護の対象者を処分保留釈放者まで拡大しますが、その理由は何でしょうか。また、更生緊急保護の期間延長に関して、金品の供与又は貸与及び宿泊場所の供与は現行と同じく六か月を超えない範囲とあり、その他のものは一年六か月を超えない範囲とあります。延長幅に差がある理由は何でしょうか。答弁をお願いします。
今回の改正案には少年院法、少年鑑別所法も含まれます。罪を犯した少年の社会復帰支援に当たって、矯正教育の実施状況、被害者等から聴取した心情等その他の被害者等に関する事情、在院者が社会復帰をするに際し支援を必要とする事情を考慮するとされていますが、具体的にどのような形で支援に反映されるのか。また、鑑別対象となる受刑者の年齢の上限が撤廃されますが、その理由は何でしょうか。
少年鑑別所職員の仕事の量と内容は大きく変化すると思われますが、それらに対応した人的整備について具体的な計画はあるのか、法務大臣、お答えください。一人一人の人生を左右する問題であり、社会に対する影響も大きい以上、こうしたことが見切り発車では、やはり困ります。
そして、今回の最大の懸念は侮辱罪についてです。本改正案では、侮辱罪の法定刑が引き上げられることに伴い、侮辱罪に認められてきた条文上の制限を失わせることになります。刑法第六十四条の教唆及び幇助の制限、刑事訴訟法第百九十九条第一項の逮捕の要件、同第六十条第三項の勾留の要件などがそれに当たりますが、これによって言論の自由が大幅に制限されかねないという指摘があります。これによって言論の自由が大幅に制限されかねないという指摘があり、これについて法務大臣はどう考えるのでしょうか。
名誉毀損罪については、指摘した内容に公共性や公益性があり、内容が真実だと証明されるか、真実と信じる相当の理由があるときには処罰されないことになっています。しかし、侮辱罪にはそうした明文規定はありません。これでは、政治家や公務員を批判しづらくなるという指摘もあります。侮辱罪についてそうした制限を設けない理由は何でしょうか。
制限がないというのは怖いことです。特に、公権力の側を批判したら侮辱だといって逮捕されるようになっては、どこかの独裁国家と同じですが、本改正案ではその可能性が排除されなくなります。気に入らない者の言葉尻を捉えて市民やジャーナリストを逮捕できるというのは権力者にとってはとても都合がいい話ですが、社会全体は闇に包まれてしまいます。そんな社会には決してなってはなりません。
これほど重要な改正であるにもかかわらず、深い論議が行われた形跡は見当たりません。侮辱罪の法定刑引上げについては、法務大臣の諮問から答申が行われるまでたった一か月余り、しかも、侮辱罪関係部会の開催は二回だけでした。これでは余りにも拙速過ぎないでしょうか。法務大臣、十分な議論が行われたとする根拠をお示しください。
侮辱罪の法定刑の引上げは、インターネット上の表現活動を大きく萎縮されるとの指摘もあります。先ほども述べましたが、侮辱罪には公共の利害に関する場合の特例などがないため、今回の厳罰化によって公益的な論評についても処罰の対象となる可能性が排除されません。実際には有罪とならず、処罰されないとしても、公権力の側が難癖を付けて逮捕し、収監されるおそれがあるのでは、よほど腹の据わった人でない限り、政治家や公務員の批判はできなくなるでしょう。繰り返し言いますが、そんな世の中は闇です。憲法上で保障される表現の自由に萎縮効果をもたらすおそれについては、法制審議会でもはっきり指摘されているのです。法務大臣、言論の萎縮を招かないと断言できますか。その根拠は何でしょうか。
そもそも、侮辱罪や名誉毀損罪といったものは、世界的には非犯罪化の流れがあるという指摘もあります。表現の自由に関する国連の自由権規約第十九条に関し、規約委員会が二〇一一年に採択した一般的意見三十四の四十七項では名誉毀損罪について、締約国は犯罪の対象から外し、どのような場合でも刑法の適用は最も重大な事件にのみ容認されなければならないとし、殊に拘禁刑は適切な刑罰ではないと明記しています。今回の侮辱罪の厳罰化は、こうした世界的潮流に完全に逆行するものですが、法務大臣の考えはいかがでしょうか。
今、インターネット上の誹謗中傷などが社会問題化しており、深刻な人権侵害が多発していることに対しては、迅速で実効性のある対応が必要であるのは言うまでもありません。痛ましい自殺事件なども発生しており、一刻の猶予も許されません。法務大臣、侮辱罪を厳罰化すればこうした事案が減少するという具体的な根拠はあるのでしょうか。
残念ながら、インターネット上の誹謗中傷は余りにも数が多過ぎて、よほど重大な事案でなければ広く知られることなく、多くの場合が泣き寝入りになっています。また、相当に重大な誹謗中傷があったのに、警察が適切に動かなかったため悲劇につながった事例も多々あります。そもそも、侮辱、名誉毀損といった行為は、現行法でも犯罪に当たります。罰則が軽いとか重いとかではなくて、警察が動くか動かないかの問題であるという指摘があるのです。
国家公安委員会委員長にお尋ねします。
事実として犯罪が行われているのに、罰則の軽重によって警察の対応が変わるということはあり得るのでしょうか。厳罰化されたならば、インターネット上などの侮辱について、適切に対処していただく人的体制の整備はできているのでしょうか。
法務大臣にもお尋ねしますが、法務省人権擁護局などで、インターネット上の誹謗中傷といった人権侵害について、その全てを救済する体制はでき上がっているのか。そうした体制のないままに罰則だけを引き上げても、全ては絵に描いた餅です。きちんとした捜査体制、救済体制ができ上がってもなお誹謗中傷の事案が減らないため罰則を引き上げるというのなら分かりますが、そうしたことには手を付けず、ただただ罰則化を、厳罰化を推し進めるというのは理解できません。
一般国民の人権擁護などが目的ではなく、公権力にとって都合の良い武器を手に入れることが真の目的なのではないかと勘ぐられても、これでは仕方がないでしょうか。こうした様々な懸念があるからこそ、衆議院では本改正案に修正が付されたと聞きます。
法務大臣にお尋ねします。新たに加えられた附則において、侮辱罪に関わる改正がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処できるのか、表現の自由その他の自由に対する不当な制約にならないかということが明記されています。これについて、具体的にどのような懸念が衆議院において議論されたのか、御説明ください。
また、こうした懸念について、外部有識者を交えて検証を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずることも明記されていますが、どのような有識者が、いつ、どのような頻度で、どのような会議体等において検証を行うのが適当か、また、それについて政府はどのような措置を講ずるつもりか、具体的に御説明ください。
以上、本改正案について質問をさせていただきました。
与党の皆さん、考えてみてください。安倍元総理は度々、悪夢の民主党政権とおっしゃっています。これは、見方によっては侮辱ではないでしょうか。将来的な政治状況のいかんによっては、皆さんや皆さんの関係者が逮捕されるおそれもあるような法律を成立させてしまってよいのでしょうか。権力者が侮辱だと感じたら最後、逮捕され、処罰できるというのでは、この世は闇ではないでしょうか。
権力を持つ者を批判するのは国民の権利であり、公共性、公益性のある論評は当然許されるべきです。私たち政治家同士も、堂々とちょうちょうはっしのやり取りをしていきましょう。我が国の健全な民主主義を守り抜くためにも、本改正案の充実した深い審議が何より必要であることを申し上げまして、私の代表質問を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
〔国務大臣古川禎久君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/5
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006・古川禎久
○国務大臣(古川禎久君) 真山勇一議員にお答え申し上げます。
まず、処遇の充実化のための法整備と侮辱罪の法定刑の引上げを一つの法律案で行う理由についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、罪を犯した者の改善更生、再犯防止に向けた施設内・社会内処遇をより一層充実させるため、所要の法整備を行うとともに、インターネット上のものを始めとする侮辱行為を抑止し、また、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対する厳正な対処を可能とするため、侮辱罪の法定刑を引き上げるものであります。これらはいずれも、刑事法に関する現下の課題に対処するため刑法を改正するという点で共通していることから、一つの法律案で改正するものです。
次に、拘禁刑の内容及び拘禁刑の創設により改善更生が可能となる根拠についてお尋ねがありました。
お尋ねの刑の内容という概念については、講学上様々な理解があり得るところですが、いずれにしても、拘禁刑においては、作業と指導について、いずれも罪を犯した者の改善更生という特別予防のために課すものとして位置付けることとし、刑法において、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしたものであります。
拘禁刑の創設により、個々の受刑者の特性に応じ、作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことが可能となることによって、一層効果的に、罪を犯した者の改善更生、再犯防止を図ることができるようになると考えています。
次に、刑事施設の人材確保及び人的体制の整備についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、受刑者の特性を的確に把握し、処遇への動機付けを適切に行うとともに、個々の受刑者の問題性に応じた処遇を進め、受刑早期から、円滑な社会復帰を見据えた指導や支援について、これまで以上にきめ細やかに対応していく必要があります。
そのためには、御指摘のとおり、専門スタッフの確保が重要と認識しており、順次、社会福祉士等の配置を拡大してきたところであり、今後も人材確保の取組を進めてまいりたいと考えています。
また、刑務官に対し、法改正の趣旨を踏まえ、受刑者の特性や問題性に応じた適切な処遇対応力を向上させるための研修を更に実施するとともに、受刑者の改善更生の実現に向けて、施設内処遇のために必要な人的体制の整備に引き続き努めてまいりたいと考えております。
次に、福祉的支援が必要な受刑者に対する作業や指導についてお尋ねがありました。
今回の法改正により、個々の受刑者の特性に応じ、作業、指導、社会復帰支援を組み合わせた柔軟な処遇が可能となります。その上で、高齢受刑者等に対してもその特性に応じた矯正処遇は必要だと考えており、円滑な社会復帰のため、例えば、社会適応に必要な知識、能力を付与する改善指導や、認知機能や身体機能の維持向上を図る作業などを組み合わせるなどして柔軟な処遇の実施に努めてまいります。
次に、受刑者の処遇に関して、被害者等の被害に関する心情等の反映の在り方や、刑事施設の外での社会復帰支援についてお尋ねがありました。
被害者等の被害に関する心情等については、個々の受刑者の矯正処遇の目標等に反映させ、受刑期間中、適時適切に受刑者に伝達するなどして、被害者等の心情等を具体的に理解させ、真の反省につながるよう改善指導に努めてまいります。刑事施設の外で社会復帰支援を行う場合としては、例えば、出所後の就労先等や帰住予定の福祉施設などで行うことが考えられます。
次に、出所者を受け入れる側の社会の準備、意識改革についてお尋ねがありました。
法務省では、保護司、更生保護施設や協力雇用主等の民間協力者や地方公共団体と連携して、刑務所出所者等に対し、住居や就労、必要な福祉サービスなどを確保し、出所者等が社会で受け入れられるよう取り組んでいます。
これらの取組を推進するためには、国民の皆様に、罪を犯した人たちの更生について理解を深めていただくことが肝要であり、法務省では、保護司を始めとする民間協力者の方々とともに、社会を明るくする運動を実施しております。
今後も、地方公共団体や民間協力者等への支援、広報啓発活動の推進に努め、出所者を受け入れる社会の準備、意識改革に取り組んでまいります。
次に、更生緊急保護の対象拡大と期間延長ができる幅に差異がある理由についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、更生緊急保護の対象に、検察官が罪を犯したと認めた者のうち、いわゆる処分保留で釈放された者を追加することとしています。釈放された被疑者の中には、貧困や住居がないなどの事情により緊急的な保護を必要としているものの、現行では、公訴を提起しない処分を要件としており、このため適時適切に保護することができない場合があることから、この要件を外すこととしたものです。
また、更生緊急保護の措置のうち、金品の給貸与及び宿泊場所の供与は、主に時間的、手続的な制約により地域の福祉機関から援助が得られない場合に、緊急的に保護観察所の長が行う応急的な措置であります。現行の最長期間である一年が経過しても福祉機関から援助が得られない事情が継続していることは想定し難いため、これらの措置の期間は延長しないこととしたものです。
次に、少年院在院者の社会復帰支援についてお尋ねがありました。
少年院在院者の円滑な社会復帰に当たっては、進学、就労先の具体化や、居住先の調整などの支援が重要であると認識しています。
今回の法改正では、これらの支援をより適切なものにするため、在院者本人や家族の意向を尊重しつつ、御指摘のような事情等を考慮することとしており、具体的には、例えば、適性に応じた進学又は就労先の決定、被害者等に関する事情等を考慮した帰住先の調整等といった形で反映されるものと承知しています。
引き続き、社会復帰支援の充実に努めてまいりたいと考えています。
次に、受刑者に対する鑑別及び少年鑑別所の人的整備についてお尋ねがありました。
拘禁刑の創設の趣旨を踏まえ、個々の受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を推進するためには、処遇調査において受刑者の特性をこれまで以上に的確に把握することが重要となります。今回の法改正により、鑑別対象となる受刑者の年齢の上限を撤廃し、必要に応じて二十歳以上の受刑者に鑑別を受けさせることで、専門的知識を用いた科学的調査の手法を用いて、受刑者の特性をより精緻に把握し、効果的な処遇の実施を可能とするものです。
また、少年鑑別所の職員に対し、法改正の趣旨を踏まえ、受刑者の改善更生の実現に向けて、職務執行力を向上させるための研修を実施するとともに、必要な人的体制の整備に引き続き努めてまいりたいと考えております。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げによる言論の自由への影響についてお尋ねがありました。
表現の自由は、憲法で保障された極めて重要な権利であり、これを不当に制限することがあってはならないのは当然のことです。
今回の法改正は、現行法上存在する侮辱罪について、法定刑を引き上げるものであり、もとより、構成要件は変更しておらず、処罰対象となる行為の範囲は全く変わりませんし、また、侮辱罪も教唆犯、幇助犯の対象となることとなりますが、教唆や幇助自体の意義や処罰範囲を変更するものではありませんし、そして、逮捕状による逮捕及び勾留に関して、住居不定であることなどの制限はなくなりますが、それ以外の要件に変わりはなく、恣意的な逮捕等が可能になるものでもないことから、今回の法改正により、言論の自由に不当な萎縮効果を生ずるものではないと考えています。
次に、侮辱罪に関し、名誉毀損罪と同様の公共の利害に関する場合の特例規定を設けない理由についてお尋ねがありました。
公正な論評といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられ、このことは、今回の法改正により何ら変わりません。他方、侮辱罪は、名誉毀損罪と異なり、事実の摘示を前提としておらず、名誉毀損罪における公共の利害に関する場合の特例を適用する前提を欠きます。そのため、侮辱罪について、名誉毀損罪におけるのと同様の特例規定を設けることはしていないものです。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げに関する法制審議会での議論の状況についてお尋ねがありました。
法制審議会の部会においては、表現の自由との関係を中心に、集中的な議論が行われました。具体的には、第一回会議において、侮辱罪の法定刑の引上げの相当性に関連して、正当な表現行為との関係について、各委員、幹事から様々な御意見が述べられ、第二回会議においては、これらの御意見を踏まえ、論点を整理しつつ更なる議論が行われたところであり、全体を通じて活発な議論が行われました。
このような充実した議論を経た上で、第二回会議において、本諮問に対する議論は尽くされたと認められたことから、全ての委員、幹事が同意した上で、部会としての意見の取りまとめが行われたものです。したがって、部会において十分な議論が尽くされたものと考えています。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げによる表現の自由への萎縮効果についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、処罰対象となる行為の範囲は全く変わりません。また、公正な論評といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられ、御指摘の部会における議論でも、今回の法改正により何ら変わるものではないことが確認されたところです。
したがって、侮辱罪の法定刑の引上げにより、表現の自由に不当な萎縮効果を生じさせるものではないと考えていますが、これを懸念する御指摘があることは真摯に受け止め、引き続き、法改正の趣旨等について丁寧な説明に努めてまいりたいと考えています。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げと自由権規約の一般的意見との関係についてお尋ねがありました。
御指摘の自由権規約の一般的意見は、法的拘束力を有するものではなく、それに含まれる勧告的内容は、各締約国にその実施を法的に義務付けているものではないと認識しています。名誉侵害を抑止する手段としての刑罰の要否や内容については、各国の実情に応じて検討がなされるべきであると考えられます。
そして、我が国における近時の侮辱の罪の実情等に鑑みれば、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対する厳正な対処を可能とするためには、その法定刑を名誉毀損罪に準じたものに引き上げ、懲役、禁錮を設けることが相当であると考えています。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げによる犯罪抑止効果についてお尋ねがありました。
一般に、刑罰には、犯罪を犯した者を処罰することによって、社会の一般人を威嚇し、警戒させて、犯罪から遠ざからせる一般予防の機能があるとされています。侮辱罪の法定刑を引き上げ、厳正に対処すべき犯罪であるという評価を示すことにより、その威嚇力によって、インターネット上のものを含めて侮辱罪に該当する行為を抑止する効果があると考えています。
次に、インターネット上の誹謗中傷による人権侵害を救済する体制についてお尋ねがありました。
インターネット上の誹謗中傷への対応については、国、地方公共団体、プロバイダー等が様々な取組を行っており、法務省の人権擁護機関においても、プロバイダー等に対する削除要請等の調査救済活動を行っています。こうした中、一人でも多くの方を救済するためには、関連する取組を進める関係省庁やプロバイダー等による緊密な連携体制が構築されることが不可欠であるものと考えています。
法務省としては、今後とも、関係省庁等と緊密に連携を取り、インターネット上の誹謗中傷による人権侵害の救済にしっかりと対応してまいります。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げに関して衆議院で議論がなされた懸念についてお尋ねがありました。
侮辱罪の法定刑の引上げに関し、衆議院における御審議では、例えば、侮辱罪に当たらないものの、他人を傷つける悪質な言動に適切に対処できないのではないか、処罰範囲が不明確であり、また、逮捕について住居不定であることなどの制限がなくなることから、正当な表現行為を萎縮させるのではないかなどといった御懸念が示されたところです。
政府としては、こうした御懸念を真摯に受け止め、引き続き、今回の法改正の趣旨や内容について丁寧な説明に努めてまいります。
最後に、刑法等一部改正法案の附則第三項に基づく対応についてお尋ねがありました。
御指摘の規定は、衆議院における修正により追加されたものであり、施行後三年を経過した後にどのような方法で検証を行うかや、その上でどのような点について検討し、どのような措置を講ずるかについて、現時点でお答えすることは困難ですが、本法案が成立して施行された場合には、その趣旨を踏まえ、適切に対処できるようにしてまいります。(拍手)
〔国務大臣二之湯智君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/6
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007・二之湯智
○国務大臣(二之湯智君) 真山議員より、罰則の軽重によって警察の対応が変わるのかについてお尋ねがありました。
警察においては、刑罰法令に触れる行為が認められる場合は、罰則の軽重を問わず、個別の事案の具体的な事実関係に即し、法と証拠に基づき適切に対処しているところでございます。
本改正案の施行後においては、今回の侮辱後の法定刑の引上げの趣旨を踏まえ、適切な対応を行うよう警察庁を指導してまいります。
インターネット上などの侮辱事案に対する警察の人的体制の整備についてお尋ねがありました。
改正法の施行後、被害の届出状況等に応じ必要な人員を配置し、適切に事案対応を行うよう警察庁を指導してまいります。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/7
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008・山東昭子
○議長(山東昭子君) 川合孝典さん。
〔川合孝典君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/8
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009・川合孝典
○川合孝典君 国民民主党・新緑風会の川合孝典です。
会派を代表し、ただいま議題となりました刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案について質問いたします。
本法案は、罪を犯した者の改善更生及び再犯防止のため、施設内・社会内処遇を一層充実させる法整備と、侮辱罪の法定刑の引上げを行うことをその主な目的としております。
まず、施設内・社会内処遇を一層充実させる法整備のうち、明治四十年に現行刑法が定められて以来初めて刑罰の種類が変わることとなると言われる拘禁刑を創設するその趣旨について、法務大臣にお伺いをします。
また、本改正では、懲役と禁錮を廃止し、拘禁刑を創設することとされていますが、懲役と禁錮に分かれたままではなぜ拘禁刑創設の目的を達成できないのか、併せて法務大臣に伺います。
次に、矯正プログラムについて伺います。
再犯防止の取組を進めるには、拘禁刑において受刑者の立ち直りのための作業や指導をいかに適切に行えるかが重要です。特に、各受刑者の境遇や犯罪傾向に応じた矯正プログラムの実施が求められていると思いますが、具体的に法改正後にはどのようなプログラムをどのように実施するのかを法務大臣に伺います。
次に、刑の執行猶予制度の拡充について伺います。
本法案では、再度の刑の全部執行猶予を言い渡すことのできる要件の緩和と、刑の執行猶予の猶予期間経過後の刑の執行の仕組みの導入が行われます。これらの制度の概要とその目的について、法務大臣に伺います。
次に、処遇原則の明確化について伺います。
本法案では、受刑者の処遇原則について、現行のその者の資質及び環境に加えて、年齢に応じて行うこととしています。この点、法制審議会の答申ではおおむね二十六歳未満の若年受刑者を対象としていましたが、今回その年齢上限をなくすこととされた理由を法務大臣に伺います。
次に、受刑者に対する社会復帰支援についてお伺いします。
本改正では、受刑者が社会復帰を果たすために必要な支援が刑事施設の長の責務であることを明確化しております。具体的にどのような支援を行うのか、法務大臣に伺います。また、法改正に伴い刑事施設の実務的な負担が増えることはないのでしょうか。その場合、どのように対応するのか、法務大臣にお伺いします。
更生緊急保護の充実化について伺います。
本法案では、刑務所満期出所者や起訴猶予者などが改善更生に支障を来している場合に保護観察所の長が行う措置である更生緊急保護について、対象者の拡大や期間延長など充実化が図られていますが、その趣旨について法務大臣にお伺いをします。
被害者等の心情等を踏まえた処遇について伺います。
本法案では、更生保護法の運用基準に、被害者等の被害に関する心情や、被害者等の置かれている状況を十分に考慮して行う旨の規定の追加や、様々な場面における被害者等からの申出に応じてその意見を聴取する規定を設けていますが、罪を犯してしまった者の改善更生、再犯防止に関し、被害者等の心情等をどのように考慮し、生かしていくのか、法務大臣にお伺いします。
保護観察所と地域社会の関係について伺います。
本法案では、保護観察所の長は、地域住民又は関係機関等からの相談に応じ、更生保護に関する専門的知識を活用し、情報の提供、助言その他の必要な援助を行うものとする規定が設けられていますが、具体的に地域住民や関係機関からの相談に対してどのような援助を行うのか、法務大臣にお伺いします。
更生保護事業の見直しについて伺います。
本法案では、更生保護事業の類型をこれまでの継続保護事業、一時保護事業、連絡助成事業から宿泊型保護事業、通所・訪問型保護事業、地域連携・助成事業へと整理を行います。今回新たに設けようとする各事業の概要及びこうした整理を行う趣旨について、法務大臣に伺います。
家庭裁判所等の求めによる鑑別対象の拡大について伺います。
本法案では、少年鑑別所の長が受刑者に対して行う鑑別の年齢の上限をなくす措置がとられていますが、この趣旨について法務大臣に伺います。
また、この措置により少年鑑別所の役割は今後ますます重要となり、業務量の増加も予想されますが、少年鑑別所の体制整備について、法務大臣にお伺いします。
次に、侮辱罪の法定刑引上げについて質問します。
インターネット空間では自由に議論や表現をする場として、失礼、インターネット空間は、自由に議論や表現をする場として発展し、様々なSNSは現代人にとって欠かせないツールとなっております。他方、SNSなどによるコミュニケーションは、匿名性が高く、情報の拡散が容易であることなどから、その内容が過激化、先鋭化しやすく、様々な痛ましい事件などを引き起こす状況となっております。
一昨年五月、テレビに出演していた当時二十二歳のプロレスラーの女性が、ネット上で中傷された後、急逝する事件が起きましたが、その原因は、被害者のアイデンティティーを全否定するような過激な書き込みが被害者を死へと追い詰めたと見られております。ほかにも、山梨県道志村で行方不明となった子供の母親に対し、母親が犯人、母親の逮捕を待つという趣旨の、全く根拠のない中傷の書き込みが行われているとの報道もあります。これ以上被害者を出さないためにも、一刻も早い対応が必要であります。
まず、侮辱罪の対象となる行為について伺います。
インターネット上の誹謗中傷が大きな社会問題となってきたことが今回の法改正のきっかけとされていますが、定義が曖昧な侮辱罪の重罰化には否定的な意見も出ております。法改正以降の侮辱罪の要件、対象となる行為について、法務大臣には具体的に御説明をお願いします。
改正後の侮辱罪の法定刑について伺います。
現在の法定刑では、拘留又は科料とされていますが、改正後は、侮辱罪の法定刑に懲役、禁錮、罰金を加える一方で、拘留と科料についても引き続き規定しております。法定刑の引上げに当たって、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金に設定した趣旨と、拘留と科料を残した理由について、法務大臣にお伺いします。
改正後の科刑の見込み及び量刑の基準について伺います。
現在の科刑状況を見ると、ほとんどが一万円未満とされる科料の上限に近い九千円以上を科されていますが、改正後の科刑はどのようになると想定しているのでしょうか。また、侮辱罪に当たる行為について、懲役、禁錮、罰金といった重い罰を科される場合と、拘留、科料になる場合とで科刑が分かれる基準は一体何なのか、具体的な事例を示して法務大臣に説明を願います。
法改正が表現の自由に及ぼす影響について伺います。
侮辱罪の法定刑引上げによって、政治家や公務員に対する批判や論評が取締りの対象になるのではないのかとの懸念の声が多く寄せられております。改めて確認しますが、今次法改正によって侮辱罪の範囲が変わるものではなく、正当な批判や意見については、これまでどおり刑法第三十五条の解釈により違法性阻却されるということでよろしいのでしょうか。法務大臣、明確な答弁をお願いします。
最後に、誹謗中傷の抑止に向けた対策について伺います。
今回の法改正による法定刑の引上げによって一定の抑止効果は期待できるでしょうが、それだけではインターネット上の誹謗中傷や侮辱的な投稿をなくすことはできないものと考えております。法改正と併せて利用者のモラルを高める取組を推進する必要があります。子供へのSNS教育が重要であるとの指摘があるほか、SNS運営事業者等においても誹謗中傷の加害者とならないための啓発活動等を行っていくことも極めて重要であります。法務省だけでなく、総務省や文部科学省など関係各省が連携した取組が極めて重要だと考えますが、この点について文部科学大臣と総務大臣の認識を伺い、質問を終わります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
〔国務大臣古川禎久君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/9
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010・古川禎久
○国務大臣(古川禎久君) 川合孝典議員にお答え申し上げます。
まず、拘禁刑を創設する趣旨についてお尋ねがありました。
懲役において行わせる作業は、改善更生、再犯防止のための重要な処遇方法ですが、いずれの懲役受刑者に対しても、一定の時間を作業に割かなければならないことから、個々の受刑者の特性に応じた指導等の実施に必要な時間を確保することが困難な場合があります。
そのため、より一層改善更生、再犯防止を図るには、その受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を可能とすることが必要です。そして、このような個々の受刑者の特性に応じた柔軟な処遇は、禁錮受刑者の改善更生、再犯防止にも資すると考えられます。
そこで、個々の受刑者の特性に応じ、作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるよう、これまでの懲役及び禁錮に代えて拘禁刑を創設するものです。
次に、刑事施設の改善指導プログラムについてお尋ねがありました。
受刑者に対しては、処遇調査により犯罪傾向等を把握した上で、その特性や状態に応じたプログラムを受刑期間を通じて柔軟に実施することとしており、例えば、覚醒剤事犯者に対し様々な手法を用いた薬物依存離脱指導を実施するなど、実効性の高い改善指導に取り組んでまいります。
次に、刑の執行猶予制度に係る改正の概要と目的についてお尋ねがありました。
まず、再度の刑の全部の執行猶予の言渡しの対象者の範囲の拡大は、再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限を現行の一年から二年に引き上げるとともに、保護観察付執行猶予の期間内に再犯に及んだ場合にも、再度の保護観察付執行猶予を言い渡すことができることとするものです。
これらは、裁判所による処分の選択肢を広げて、より適切な処遇を可能とする観点から、保護観察付執行猶予の一層の活用を図ろうとするものです。
また、刑の執行猶予期間の経過後にもその刑の執行ができるようにする仕組みの導入は、猶予の期間内の再犯についての有罪判決の確定が執行猶予期間の経過後となっても、執行猶予の言渡しを取り消して、刑の執行ができるようにするものです。
これは、猶予の全期間を通じて、執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制により改善更生、再犯防止を図るという執行猶予の機能が十全に発揮されるようにするものです。
次に、受刑者の処遇原則についてお尋ねがありました。
法制審議会においては、若年受刑者に対する処遇原則を設けるべき旨が答申されたものと承知しています。この答申を踏まえ、若年受刑者に対する処遇原則について検討する過程において、若年以外の受刑者についても、その年齢に応じた配慮が類型的に必要となる場合が想定されたことから、今回の法改正では、年齢一般を考慮要素とし、その上限を設けることとはしなかったものです。年齢に応じた処遇を行うに当たり、若年であることに焦点を当てた処遇の充実のための取組についても推進をしてまいります。
次に、受刑者に対する社会復帰支援の具体的内容や支援実施に向けた刑事施設の対応についてお尋ねがありました。
社会復帰支援は、釈放後に自立した生活を営む上での困難を有する受刑者に対して、その意向を尊重した上で行うものであり、具体的には、適切な住居に帰住するための支援、釈放後に医療機関に通院等するための支援、公共職業安定所と連携した上での就業に向けた支援などを想定しております。
また、刑務官等に対し、法改正の趣旨を踏まえ、受刑者の円滑な社会復帰の実現に向けて、職務執行能力を向上させるための研修を実施するとともに、必要な人的体制の整備に引き続き努めてまいりたいと考えております。
次に、更生緊急保護の充実化の趣旨についてお尋ねがありました。
更生緊急保護は、貧困や住居がないなどの事情により緊急的な保護を必要としている者が、援助を受けられず生活を不安定化させ、再犯に至ることのないようにするものですが、今回の法改正では、いわゆる処分保留で釈放された者を対象に追加し、釈放後直ちに必要な保護を受けられるようにするための手続を整備し、保護に必要な期間を確保することとし、その充実化を図るものです。
次に、被害者等の心情等を踏まえた処遇についてお尋ねがありました。
保護観察の措置をとるに当たっては、被害者等の心情等を適切に考慮し、保護観察対象者にその心情等の理解を促すことにより、自らの犯した罪に対する反省、悔悟を深めさせ、被害の回復等に努めさせるなど、適切に指導監督を実施してまいります。
次に、保護観察所の長が地域住民等からの相談に応じて行う援助の具体的支援、失礼、具体的内容についてお尋ねがありました。
この援助の内容としては、保護観察所が地域社会における犯罪をした者及び非行のある少年の改善更生並びに犯罪の予防に寄与するために、例えば、刑務所出所者の家族から犯罪に結び付くおそれのある生活上の問題について相談があった場合に、更生保護に関する専門的知識を活用し、その個別事情に即した地域の相談機関を紹介したり、家族としての接し方について助言を行うことなどを想定しています。
次に、更生保護事業の類型の改正の趣旨とその概要についてお尋ねがありました。
近年、施設を退所した被保護者を訪問して保護を行う事業が一時保護事業に該当するなど、その実態が事業の名称とそぐわないなどの問題が生じています。
そこで、各事業の内容の明確化を図るとともに、各事業の内容にふさわしい名称に改めることとし、被保護者を更生保護施設に宿泊させて保護を行うものを宿泊型保護事業、被保護者を更生保護施設等に通所させ、又は被保護者の元を訪問する等の方法により保護するものを通所・訪問型保護事業、関係機関との地域における連携協力体制の整備等を行うものを地域連携・助成事業と改正することとしています。
次に、受刑者に対する鑑別及び少年鑑別所の体制整備についてお尋ねがありました。
拘禁刑の創設の趣旨を踏まえ、個々の受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を推進するためには、処遇調査において受刑者の特性をこれまで以上に的確に把握することが重要となります。
今回の法改正により、鑑別対象となる受刑者の年齢の上限を撤廃し、必要に応じて二十歳以上の受刑者に鑑別を受けさせることで、専門的知識を用いた科学的調査の手法を用いて受刑者の特性をより精緻に把握し、効果的な処遇の実施を可能とするものです。
また、少年鑑別所の職員に対し、法改正の趣旨を踏まえ、受刑者の改善更生の実現に向けて、職務執行力を向上させるための研修を実施するとともに、必要な人的体制の整備に引き続き努めてまいりたいと考えております。
次に、侮辱罪の要件及び処罰対象となる行為についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、もとより、構成要件は変更しておらず、処罰対象となる行為の範囲は全く変わりません。そのため、侮辱罪の法定刑が引き上げられた後も、侮辱罪は、事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合、すなわち、不特定又は多数人が認識できる状態で他人に対する軽蔑の表示を行った場合に構成要件に該当することとなります。
具体的にいかなる行為が侮辱罪による処罰の対象となるかについては、個別具体的な事実関係に応じて事案ごとに判断されることとなるため、一概にお示しすることは困難ですが、近時、侮辱罪により有罪が確定した裁判例を挙げますと、例えば、被害者のツイッターアカウントに、「てか死ねやくそが」、「きもい」などと投稿した事案などがあるものと承知しています。
次に、侮辱罪の法定刑を法案のように定める趣旨についてお尋ねがありました。
公然と名誉を侵害する行為が行われた場合、名誉毀損罪又は侮辱罪に該当し得ることになりますが、両罪は、事実を摘示するか否かによって法定刑に差が設けられています。しかし、事実の摘示がなくても名誉を侵害する程度が大きい事案が少なからず見られるなど、近年における侮辱罪の実情等に鑑みると、法定刑に大きな差を設けておくことはもはや相当とは言い難いことから、侮辱罪の法定刑について、名誉毀損罪に準じて、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金を追加するものです。これにより、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対してこれまでよりも厳正に対処することができるようになります。
一方、侮辱罪の中には、当罰性の低い事案も想定されることからすると、拘留、科料を存置しておくことが、個別具体的な事案に応じた適切な量刑に資するものと考えられることから、拘留、科料を存置することとしたものです。
次に、侮辱罪の法定刑が引き上げられた場合の科刑状況等についてお尋ねがありました。
個別具体的な事案においてどのような刑が言い渡されるかについては、裁判所において事案ごとに判断されるものであり、御指摘の点について一概にお答えすることは困難です。
その上で、一般論として申し上げれば、先ほどお答えした今回の法改正の趣旨を踏まえ、当罰性の高いものについては懲役、禁錮、罰金が言い渡され得る一方で、当罰性の低いものについては拘留、科料が言い渡され得ると考えられます。
最後に、侮辱罪の成立範囲に変更はないのかについてお尋ねがありました。
今回の法改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、もとより、構成要件は変更しておらず、処罰対象となる行為の範囲は全く変わりません。
正当な批判や意見といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられ、このことは、今回の法改正により何ら変わることはございません。(拍手)
〔国務大臣末松信介君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/10
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011・末松信介
○国務大臣(末松信介君) 川合先生にお答え申し上げます。
学校教育における取組等についてお尋ねがありました。
スマートフォンでインターネットを利用する小学生が増えるなど、子供たちもICTを日常的に活用することが当たり前の社会となる中、子供たちがSNS等におけるトラブルに巻き込まれることのないよう、ICTを適切に使いこなす力を育てることが重要でございます。
このため、学習指導要領では、小学校段階から、情報発信による他人や社会への影響について考えさせる学習活動などを通じて、情報モラルを確実に身に付けさせることとしております。また、教員の指導力向上を図る目的として、ICT活用に関する指導者研修や情報モラルセミナーの実施、教員向け指導資料やe―ラーニングのコンテンツの提供などの取組を行っております。
あわせて、文部科学省では、保護者等を対象として、関係省庁や関係事業者とも連携しながら、インターネットに関する講座やシンポジウムなどを実施し、SNSの正しい利用方法等の普及啓発に取り組んでおります。
これらの取組を通じ、情報モラルに関する教育の一層の充実に努めてまいります。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣金子恭之君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/11
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012・金子恭之
○国務大臣(金子恭之君) 川合議員からの御質問にお答えいたします。
ネット上の誹謗中傷に対する啓発活動の重要性について御質問いただきました。
議員御指摘のとおり、ネット上の誹謗中傷を減らしていくためには、利用者の情報モラルやICTリテラシーを向上させるための啓発活動も大変重要であります。
総務省では、文部科学省などと連携をし、出前講座の実施やトラブル事例集の公表などを通じて教育現場への啓発を進めているほか、SNS運営事業者などと連携をした啓発活動も行っております。
引き続き、関係省庁などと連携をし、しっかりと取組を進めてまいります。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/12
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013・山東昭子
○議長(山東昭子君) 東徹さん。
〔東徹君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/13
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014・東徹
○東徹君 日本維新の会の東徹です。
会派を代表して、刑法等の一部を改正する法律案等について、古川法務大臣に質問いたします。
まず、ウクライナ紛争への対応について伺います。
今年二月二十四日にロシアがウクライナへ侵攻を始めてから三か月がたとうとしています。この間、ウクライナから国外へ避難された方が六百万人を超え、我が国にも九百人以上の方が避難されてきていますが、避難民という難民とは異なった立場で受入れが行われております。
今国会の提出が見送られた入管法改正案には、難民に準じて保護すべき外国人を補完的保護対象者として認定し、保護することができる仕組みがありました。仮にこの法改正ができていれば、法律に基づいて仕組みを用いてウクライナから避難民に対応できたはずであります。
確かに、名古屋出入国在留管理局でのウィシュマさんの事件があり、人権意識の希薄さなど反省すべき点はあったと思いますが、この法案は、不法滞在する外国人の長期滞在問題を解消し、仮放免された外国人の犯罪を防止するためにも必要な法案であると考えます。
今国会に提出すべきであったところ、自民党は夏の参議院選挙への影響を考えて法案提出を見送ったとの報道もありましたが、参議院選挙後の臨時国会には法案を提出するのかどうか、大臣のお考えをお伺いします。
戦争犯罪について伺います。
旧ユーゴスラビア紛争やルワンダの大量虐殺を受け、二〇〇二年に常設の国際刑事裁判所が発足いたしました。条約に基づき現在百を超える国と地域が参加していますが、ロシアはこの条約に参加しておらず、ロシアに対して戦争犯罪の責任を問うことは簡単ではありません。戦争犯罪に当たる行為があったかどうか、しっかりと捜査した上で、裁判によって戦争犯罪としての責任を問うことが重要であり、今後更に悲惨な紛争を生じることを防ぐことにつながります。
国際刑事裁判所はウクライナ国内で行われた疑いのある戦争犯罪や人道に対する犯罪について捜査を始めると発表したところ、法務省は国際刑事裁判所に検察官を派遣すると報道されましたが、実際には派遣をしておりません。
我が国として、捜査をどのように支援し、戦争犯罪に対処していく考えか、答弁を求めます。
法案に関して伺います。
まず、拘禁刑の効果について伺います。
本法案では、懲役刑、禁錮刑が廃止され、拘禁刑という新たな自由刑が創設されます。国家の刑罰権は、罪を犯した者に罪を償わせ、再び罪を犯すことがないように矯正することも重要な目的の一つとして行われます。拘禁刑を導入することで再犯の防止につながると言えるのか、見解を伺います。
また、懲役という言葉が廃止されることにより、無期懲役ではなくて、無期拘禁刑という言葉に置き換わります。懲役が拘禁刑に変わることによって罪が軽くなったようなイメージが持たれないのか、答弁を求めます。
次に、執行猶予制度について伺います。
本法案には、保護観察付執行猶予中に再び罪を犯した者に対して、再度執行猶予を付けられるとする内容が含まれております。しかし、そのような者に対して、刑事施設で改善更生をしないまま、再び執行猶予を付けて一般社会へ出すことは、再犯によって新たな被害者を生み出すことにつながりかねませんか。答弁を求めます。
また、被害者の中には、執行猶予が付けられることに不満を持つ方もおられます。執行猶予中に罪を犯した以上、再び執行猶予を付けるのではなくて、刑事施設に送るべきとする被害者の立場に寄り添っていないのではないかと考えますが、見解をお伺いします。
刑事施設の収容人数に限りがあるため、できるだけ収容人数を減らしたいというのが法務省の本音ではないかと推察してしまいますが、この点についても答弁を求めます。
侮辱罪について伺います。
侮辱罪の保護法益は、人の社会的名誉とされており、人が人として生きていく上で重要なものです。
ある首相経験者が、SNSで民間人をヒトラーに例えるような侮辱的行為が行われるなど、インターネットでは膨大な数の侮辱的な書き込みや動画の配信などが行われております。
政府としては、人の社会的名誉について、憲法上どのように位置付けられ、どの程度保護が図られるべきものと考えているのか伺います。
インターネット上の誹謗中傷が社会問題化する中、木村花さんのように尊い命が奪われてしまう事態も生じており、こうした誹謗中傷を早急に抑止することが必要であります。
今回の法案では、侮辱罪の法定刑を引き上げることに抑止を図ることとしていますが、法制審議会でも指摘されたとおり、厳罰化だけで誹謗中傷を抑止できるものではなく、摘発率が低ければ期待される抑止効果が発揮されません。
現在、侮辱罪によって刑を科されている人数は、年間三十人程度にとどまっております。海外の研究では、ある犯罪が厳罰化されると、法執行機関の心理面への影響から、摘発率が上昇し、被害者への向き合い方も変わってくるとの指摘もあります。
人の名誉と命を守るため、どのようにして摘発率を引き上げ、適切な取締りを行っていくのか、答弁を求めます。
インターネット上の誹謗中傷は、容易に行うことができ、拡散しやすい一方で、完全に削除することが困難であり、被害が甚大になる特徴があります。こうした誹謗中傷による被害の程度と比べれば、我が国の民事訴訟による損害賠償金額は低く、訴訟に掛かる時間や費用も考えれば、個人で民事訴訟を起こすこと自体が現実的ではなくて、被害者の救済としては十分ではありません。
我が党は、被害者の迅速かつ確実な救済を図るための法案を提出しました。その法案では、誹謗中傷対策の基本理念を定めた上、表現の自由に配慮しつつ、国、地方公共団体、電気通信事業者が協力して対策に取り組むこと、被害者を実効的な救済を図るため給付金や損害賠償に係る制度を検討すること、その他、保健医療・福祉サービスの提供、広報、教育の推進、国会への状況報告などを定めています。
政府は、我が党の法案も参考にし、侮辱罪の法定刑の引上げ以外の対策についても進めていただきたいと考えますが、大臣のお考えをお伺いいたします。
将来の刑法改正について伺います。
本法案では、侮辱罪の法定刑引上げなどが行われておりますが、それ以外にも課題が残っております。
現在、法制審議会でも、障害者に対する性犯罪を抑止する規定の新設など、性犯罪に関する議論が行われています。障害者など、社会における弱い立場の人たちを犯罪からどのように守っていくべきと考えているか、そのために刑法はどのように整備されるべきと考えているか、伺います。
日本維新の会は、多様な価値観を認めつつ、自立する個人、自立する地域、自立する国家の実現を理念に掲げています。その前提として、国民の生命、財産、名誉などがしっかりと守られるよう、時代の変化に応じた刑事法制の確立を求め、質問を終わります。
ありがとうございました。(拍手)
〔国務大臣古川禎久君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/14
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015・古川禎久
○国務大臣(古川禎久君) 東徹議員にお答え申し上げます。
まず、入管法改正法案についてお尋ねがありました。
紛争避難民など、人道的配慮から庇護すべき外国人をより確実に保護するためには、それに適した制度を法律上設けることが望ましく、このことは入管法における重要な課題の一つと認識しています。また、現行法下で生じている送還忌避、長期収容の問題を解決するための法整備も喫緊の課題であると認識しています。
検討中の法案の具体的な内容や提出時期について、現時点で確たることを申し上げることは困難ですが、法務省としては、入管制度全体を適正に機能させるためにはこうした課題を一体的に解決する法整備を行うことが必要不可欠であると考えており、早期に実現できるよう、着実に検討を進めてまいります。
次に、国際刑事裁判所への支援についてお尋ねがありました。
我が国は、戦争犯罪が行われたと考えられることを理由に、ウクライナの事態を国際刑事裁判所に付託しており、今後の捜査の進展を期待いたします。国際刑事裁判所の活動は、法の支配に基づく国際秩序の維持強化という観点から極めて重要であり、その活動への支援につきましては、日本政府として何ができるか、あらゆる選択肢を検討してまいります。
次に、拘禁刑の導入が再犯防止につながるかとのお尋ねがありました。
現行法においては、懲役か禁錮かという刑の種類によって作業を行わせるか否かが異なりますが、作業は重要な処遇方法であるため、それを行わせるか否かが刑の種類という形式的な区分によって定まるものとするのではなく、個々の受刑者の特性に応じ、作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるようにすることが重要です。
そこで、個々の受刑者の特性に応じた処遇を可能とするため、現行法の懲役及び禁錮を廃止し、これらに代えて拘禁刑を創設し、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしています。これにより、罪を犯した者の一層の改善更生、再犯防止を図ることができるようになると考えています。
次に、拘禁刑という名称のイメージについてお尋ねがありました。
拘禁刑の創設は、罪を犯した者の一層の改善更生、再犯防止を図ることができるようにするため、個々の受刑者の特性に応じ、作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるようにするものであり、刑を軽くするという趣旨ではありません。
新たな刑の名称については、刑事法研究者、弁護士、マスコミ関係者のほか被害者の御遺族にも御参加いただいて意見交換会を開催しましたが、その際、刑罰としての性格、目的に照らしてふさわしいかという観点からも御議論いただきました。その結果、拘禁刑との名称を支持する意見が多数を占め、これに対する異論はなかったと承知しています。
拘禁刑の創設の趣旨等については、引き続き、国民の皆様に御理解をいただけるよう、丁寧な説明に努めてまいります。
次に、保護観察付執行猶予中の再犯について再度の執行猶予を可能とする改正の趣旨等についてお尋ねがありました。
この改正の趣旨は、保護観察付執行猶予中に再犯に及ぶ事案には様々なものがあり、実刑に処するよりも、改めて保護観察付執行猶予を言い渡して社会内処遇を継続する方が罪を犯した者の改善更生、再犯防止に資する場合があることを踏まえ、そのような場合に限って、裁判所の判断により再度の執行猶予とすることができるようにするものであります。
これは、罪を犯した者の一層の改善更生、再犯防止を図ることを通じて、新たな被害者を生まない安全、安心な社会の実現に資するものであり、このような社会を実現することは、被害者の立場に寄り添うことにもつながると考えています。もとより、刑事収容施設の収容人数を減らすことを目的とするものではありません。
次に、人の社会的名誉の憲法上の位置付け等についてお尋ねがありました。
侮辱罪の保護法益は、一般に、社会が与える評価としての外部的名誉であると解されています。人の名誉は、一般に、憲法第十三条により人格権の一つとして保護されると解されています。もっとも、言論、出版等の表現行為により名誉侵害を来す場合には、名誉の保護と表現の自由の保障との調整を要することとなると考えられます。
次に、侮辱罪についての摘発と取締りについてお尋ねがありました。
今回の法改正は、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正に対処することを可能とするものです。
法務省においては、このような改正の趣旨を周知することとしており、捜査機関においては、法と証拠に基づき、事案の内容等に応じて、改正の趣旨、内容を踏まえ、適切な対処がなされるとともに、処罰すべき悪質な行為については厳正な処分が行われるものと承知しています。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げ以外のインターネット上の誹謗中傷対策についてお尋ねがありました。
インターネット上の誹謗中傷による被害者を救済するためには、侮辱罪の法定刑の引上げのほか、行政的な諸施策を含めた様々な取組を進めることが必要であると考えています。
これまでも、法務省においては、被害に遭われた方からの人権相談への対応、プロバイダー等に対する投稿の削除要請などの取組を進めてきたところですが、引き続き、関係省庁、関係機関とも連携し、必要な取組をしっかりと進めてまいりたいと考えております。
最後に、障害を有する方などを犯罪から守るための方法と、そのための刑法の整備の在り方についてお尋ねがありました。
障害を有する方など、社会的に弱い立場にある方々が犯罪に巻き込まれることのない社会を実現することは重要な課題であり、官民を挙げて様々な取組を推進し、そのような方々が犯罪に巻き込まれにくい社会環境を整備していくことが必要であると考えられます。
性犯罪に対処するための刑事法の整備については、現在、法制審議会の部会において調査審議が進められているところでございますが、刑法の法整備の在り方については、社会的に弱い立場にある方々を含め、様々な立場にある方々の声に耳を傾けながら、刑事法の諸原則にも留意しつつ、不断の検討を続けていくことが重要であると考えています。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/15
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016・山東昭子
○議長(山東昭子君) 山添拓さん。
〔山添拓君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/16
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017・山添拓
○山添拓君 日本共産党を代表し、刑法等改正案及び関連法案について質問します。
法案に先立ち、ウクライナからの避難者の受入れについて伺います。
入管庁は、日本への避難者に対して、住まいの提供や生活費の支援を行い、受入先の自治体へ移転した後は、医療費、日本語教育費や就労支援費を必要に応じて実費負担することとしています。かつてない対応であり重要です。
必要に応じてとはどういうことですか。とりわけ医療費は、仕事がなく収入がない中、高額の負担となりかねません。避難先、知人や身寄りの有無にかかわらず、安心して医療が受けられるよう支援すべきではありませんか。
人道的支援を必要とする外国人は、ウクライナからの避難者だけではありません。ミャンマーやシリアを始め、紛争地域の暴力や迫害から逃れてきた避難者についても、人道的な対応が求められます。法務大臣の見解を伺います。
法案について質問します。
恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演したプロレスラーの木村花さんが、SNSで誹謗中傷を受け、自ら命を絶ちました。心からお悔やみを申し上げます。
衆議院で参考人として意見を述べた母、響子さんは、花さんが自死に至った最大の要因について、番組の悪意ある編集、炎上商法で視聴率を稼ぐ在り方、出演者に一方的に誓約書を書かせ、誰にも相談できない状態に置いたことなど、メディアの責任を厳しく指摘しました。その下で、SNSでの異常な誹謗中傷を招きました。
法案は、こうした事態に侮辱罪の法定刑引上げで対応しようというものです。しかし、その出発点から疑問が出されています。
刑法二百三十一条は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処すると規定しています。侮辱とは、他人に対する軽蔑の表示であり、社会的評価を低下させる行為をいいます。一方、インターネット上の誹謗中傷で問題になるのは、必ずしも社会的評価の低下ではありません。被害者に直接、誹謗中傷、罵詈雑言が浴びせられることで自尊感情が傷つけられ、精神的に追い詰められPTSD等を発症し、自殺にまで追い込まれる危険がある、私生活の平穏を脅かす行為であることが問われるべきではありませんか。
SNSのダイレクトメッセージやLINEグループのような閉じられた空間での誹謗中傷も深刻です。これらは、公然と行われるわけではありません。侮辱罪で対応するのは、なじまないのではありませんか。大臣は衆議院で、公然性の要件を満たさない誹謗中傷について行政的な諸施策を推進すると述べていますが、それは何ですか。
以上、法務大臣に答弁を求めます。
侮辱罪は、表現内容を理由とする刑罰です。不当な制限により、本来自由に行える表現行為が萎縮することは許されません。
衆議院で政府が示した統一見解は、侮辱罪による現行犯逮捕について、表現の自由の重要性に配慮しつつ、慎重な運用がなされる、表現行為という性質上、逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は実際上は想定されないとしています。慎重な運用とは何ですか。想定されないとは、想定外もあり得るということですか。
このような懸念を抱くのは、現に心配される事態が起きているからです。
二〇一九年の参院選、安倍元首相が札幌市内で行った街頭演説で、安倍辞めろ、増税反対などと声を上げた市民二人を北海道警が排除しました。こうした政治家に対するやじが侮辱に当たるとして現行犯逮捕されることはないと断言できますか。
札幌地裁は今年三月、警察官が二人の体をつかんで移動させた行為などを違法として、国家賠償請求を認める判決を下しました。表現の自由の中でもとりわけ尊重されなければならない公共的・政治的事項に関する表現行為であったとしています。
ところが、国家公安委員長は、現場の警察官がそれぞれの状況を踏まえ、法律に基づき必要と判断した措置だ、正しかったとの答弁を繰り返しています。現場の警察官の判断次第で、こうしたやじ排除を今後も行うということですか。時の総理の街頭演説であり、官邸の指示を含め、道警の組織的な関与も疑われます。徹底的に検証すべきではありませんか。これが不当な弾圧でないと開き直るなら、侮辱罪の恣意的な運用の懸念も払拭されないではありませんか。
以上、国家公安委員長の答弁を求めます。
侮辱罪は、一八七五年、新聞、風刺画などによる為政者への批判を防ぐ狙いの下に布告された讒謗律に由来し、同じ日に布告された新聞紙条例とともに自由民権運動の弾圧に用いられました。
今日、政治的な言論活動が侮辱罪によって制約されないと言い切れるでしょうか。仮に不起訴になったとしても、現行犯逮捕等のインパクトは自由な言論、表現への脅威となり、萎縮効果を生みます。だからこそ、憲法上特に重要な権利である表現の自由との関わりは慎重な検討が必要です。
ところが、本法案を議論した法制審議会の部会は、僅か二回の会議で要綱を決定しています。憲法学者を委員に加えなかったのはなぜですか。表現の自由の制約について、どのような議論がなされたのですか。名誉毀損罪には公共の利害に関する特則があり、政治家や候補者に関する場合など一定の要件の下で違法性が否定されます。法定刑引上げに当たり、侮辱罪でも同様の規定を設けることとしなかったのはなぜですか。答弁を求めます。
法案は、懲役と禁錮を廃止し、新たな自由刑として拘禁刑を創設するものです。懲役刑が殺人、放火、強盗などに対する刑罰であるのに対し、禁錮刑は政治犯や過失犯などが対象とされてきました。特に政治犯は、通常の犯罪者と異なり、その名誉を重んじた処遇を行うべきだという考えの下に、刑務作業を強制しない禁錮刑を科すべきとされてきたものです。
戦後の刑法改正をめぐる議論でも、政治犯、国事犯の思想を強制労働で改造するようなことがあってはならないという配慮から、懲役刑と禁錮刑の区別が残されてきました。刑罰によって人の内心まで変えることは許されないと考えますが、どのような認識ですか。
一方、本法案の拘禁刑は、刑事施設に拘置するだけでなく、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるとし、全ての受刑者に刑務作業と改善指導を義務付けています。自由の剥奪に加えて、刑務作業と改善更生を刑の内容とするのですか。作業や指導を拒んだ場合、懲罰の対象となることはありますか。刑務所長などが決める処遇計画に受刑者が意見を述べることはできますか。
国連被拘禁者処遇最低基準規則、通称マンデラ・ルールズは、身体を拘束する刑罰は自由を奪うことによって犯罪者に苦痛を与えるものであり、それを超える強制を内容とすることはなるべく避けるべきだとしています。また、刑務所などでの処遇の目的は、刑期が許す限り、釈放後、法を遵守する自立した生活を営む意志と能力を持たせることを目的としなければならないとし、社会復帰の支援を国家の側に義務付け、受刑者には社会復帰のための処遇に能動的に参加する権利を保障すべきだとしています。
拘禁刑の下で、受刑者の自発性、自律性、尊厳を尊重せず、懲罰の威嚇の下に改善更生を強いることになれば、国際的に求められる受刑者への処遇水準からますます懸け離れてしまうのではありませんか。
以上、法務大臣の答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣古川禎久君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/17
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018・古川禎久
○国務大臣(古川禎久君) 山添拓議員にお答え申し上げます。
まず、紛争地域から逃れてきた避難民の方々の医療費等の支援についてお尋ねがありました。
身元引受先のないウクライナ避難民の方々については、その境遇に鑑み、一時滞在施設利用中、生活費や医療費を支給し、施設退所後も、原則として当面の間生活費を支給するほか、必要な医療費についても支援することとしています。
また、身元引受先の有無やウクライナ避難民であるか否かにかかわらず、本国情勢等を踏まえた人道的配慮により、特定活動の在留資格を付与した外国人の方々については、国民健康保険への加入が可能となります。
海外から我が国に避難してきた方々に対しては、本国情勢等を踏まえ、個々の置かれた状況等にも配慮しながら、政府全体として人道的な対応に努めてまいります。
次に、インターネット上の誹謗中傷に対する認識についてお尋ねがありました。
一般的に、誹謗中傷は、その内容によっては相手の自尊感情を傷つけ、精神的に追い詰め、私生活の平穏を脅かし得るものです。
加えて、インターネットを利用した誹謗中傷は、インターネットという性質上、公然と行われることが多く、その場合には、過激な書き込みが次々に誘発され、多数の者からの誹謗中傷の内容がエスカレートして非常に先鋭化することがあるという特徴を有しており、被害に遭われた方の社会的評価を大きく低下させる事態を招来します。
このような事態を見過ごすことなく、インターネット上で公然と行われる侮辱行為を抑止するとともに厳正に対処するためには、今回の法改正によって侮辱罪の法定刑を引き上げることが必要であると考えております。
次に、公然性の要件を満たさない誹謗中傷への対応についてお尋ねがありました。
今回の法改正は、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、侮辱行為を抑止するとともに、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正な対処を可能とするものであり、インターネット上の誹謗中傷対策になると考えております。
公然性の要件を満たさない場合には侮辱罪の処罰対象にはなりませんが、処罰対象とはならない事案であっても、被害に遭われた方を救済するために、行政的な諸施策を推進していくことが重要です。
法務省においては、例えば人権相談への対応や、プロバイダー等に対する投稿の削除要請などを行っていますが、引き続き、関係省庁、関係機関とも連携し、必要な取組をしっかりと進めてまいりたいと考えております。
次に、侮辱罪の法定刑の引上げに関する法制審議会の部会の構成員及び議論の状況等についてお尋ねがありました。
法制審議会の部会に属すべき委員は、法制審議会の承認を経て法制審議会の会長が指名することとされており、お尋ねの部会の委員については、法制審議会から一任を受けた会長により指名されたものです。
この部会においては、この分野に精通した刑事法研究者も交えて、侮辱罪と表現の自由との関係を中心に集中的な議論が行われ、正当な表現行為が処罰されない根拠や特例規定の要否、当否などについて、充実した議論が行われたものと承知しています。
この部会でも確認されたとおり、正当な表現行為については、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられる上、侮辱罪は、名誉毀損罪と異なり、事実の摘示を前提としておらず、御指摘の特則を適用する前提を欠くことから、侮辱罪について、これと同様の規定を設けることはしておりません。
次に、拘禁刑の創設と人の内心の関係についてお尋ねがありました。
今回の法改正で懲役、禁錮に代えて創設する拘禁刑については、刑罰としての目的、機能に変わりはなく、作業と指導を、いずれも罪を犯した者の改善更生という特別予防のために課すものと位置付けることとし、刑法において、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしています。
ここにいう改善更生とは、罪を犯すに至った要因となっている悪い点を改めるとともに再び犯罪に及ぶことなく社会生活を送ることができるようになることを意味するものですが、憲法上保障される思想及び良心の自由を侵害することが許されないのは当然であると考えています。
次に、拘禁刑に処せられた者に対する処遇についてお尋ねがありました。
お尋ねの、刑の内容という概念については、講学上様々な理解があり得るところですが、いずれにしても、拘禁刑においては、作業と指導について、いずれも罪を犯した者の改善更生という特別予防のために課すものとして位置付けることとし、刑法において、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしたものです。
刑事収容施設法では、受刑者の遵守事項として、正当な理由なく作業又は指導を拒否してはならない旨を定めており、これに違反した場合には、懲罰を科すことができることとしています。他方、受刑者に対する矯正処遇の内容や方法などを定める処遇要領は、必要に応じて受刑者の希望についてもしんしゃくして定めることとされており、引き続き、適正な運用に努めてまいります。
最後に、マンデラ・ルールと拘禁刑の関係についてお尋ねがありました。
作業又は指導については、いずれも受刑者の改善更生及び再犯防止を図る観点から重要な処遇方法であり、個々の受刑者の問題性等に応じて必要と認められる場合には実施すべきものであって、実施するか否かを専ら受刑者の意思に委ねることは適当ではないと考えています。
その上で、御指摘の国連被拘禁者処遇最低基準規則は、法的構想力、失礼、法的拘束力のある国際約束ではないと承知しておりますが、処遇の効果を高めるためには、受刑者自身に自分が受ける処遇の意義を理解させ、これを自発的に受ける気持ちを持たせることが重要であることから、実務上は本人に対する動機付けなど必要な働きかけを行っており、今後も効果的な処遇に努めてまいります。(拍手)
〔国務大臣二之湯智君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/18
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019・二之湯智
○国務大臣(二之湯智君) 山添議員より、衆議院で示した現行犯逮捕、侮辱罪の成否等に係る政府統一見解及び政治家に対するやじに係る侮辱罪での現行犯逮捕についてお尋ねがありました。
お尋ねの統一見解においては、捜査機関においては、侮辱罪による現行犯逮捕について、表現の自由の重要性に配慮しつつ、慎重な運用がなされるものと承知しているとされておりますが、この慎重な運用とは、人権に直接関連する逮捕権の運用を慎重に行うとの趣旨であります。
また、同統一見解において、侮辱罪については、表現行為という性質上、逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は、実際上は想定されないとされておりますが、これは文字どおり、実際上は想定されないものと考えております。
いずれにいたしましても、現行犯逮捕は、逮捕時に犯罪であることが明白でなければなりませんが、犯罪であることが明白というのは、違法性を阻却する事由がないことも明白ということであり、侮辱罪については、表現行為という性質上、現行犯逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は、実際上は想定されないと考えております。
街頭演説における北海道警察の措置についてお尋ねがありました。
御指摘の事案については、北海道警察からは、いずれも現場の警察官がそれぞれの状況を踏まえ、法律に基づき必要と判断した措置を講じたものであるとの報告を受けております。
警察は、不偏不党かつ公平中正を旨として職務を遂行しており、また、本件は現場の警察官がそれぞれの状況を踏まえて判断し行ったものであることから、官邸の指示を含め、道警の組織的な関与も疑われるとの御指摘は当たらないと考えています。
本件については、現在、国家賠償請求訴訟が係属中であることから、訴訟当事者ではない立場で発言することは差し控えさせていただきますが、いずれにしても、今後とも、各種法令に基づき適切に職務を遂行していくよう警察庁を指導してまいりたいと思います。
侮辱罪の恣意的な運用の懸念についてお尋ねがありました。
警察においては、刑罰法令に触れる行為が認められる場合は、個別の事案の具体的な事実関係に即し、法と証拠に基づき適切に対処することとしており、改正法の施行後においても引き続き適切な対応を行うよう警察庁を指導してまいります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/19
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020・山東昭子
○議長(山東昭子君) これにて質疑は終了いたしました。
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/20
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021・山東昭子
○議長(山東昭子君) 日程第一 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件
日程第二 二千二十五年日本国際博覧会に関する特権及び免除に関する日本国政府と博覧会国際事務局との間の協定の締結について承認を求めるの件
日程第三 万国郵便連合憲章の第十追加議定書、万国郵便連合憲章の第十一追加議定書、万国郵便連合一般規則の第二追加議定書、万国郵便連合一般規則の第三追加議定書及び万国郵便条約の締結について承認を求めるの件
(いずれも衆議院送付)
以上三件を一括して議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。外交防衛委員長馬場成志さん。
─────────────
〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
─────────────
〔馬場成志君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/21
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022・馬場成志
○馬場成志君 ただいま議題となりました条約三件につきまして、外交防衛委員会における審査の経過と結果を御報告申し上げます。
まず、スイスとの租税条約改正議定書は、現行の租税条約を改正し、支店等の恒久的施設に帰属する事業利得の算定に関する規定の新設、投資所得に対する源泉地国における課税の更なる減免、税務当局間の相互協議に係る仲裁手続の新設等の措置を講ずるものであります。
次に、二千二十五年日本国際博覧会に関する特権・免除協定は、我が国と博覧会国際事務局との間で、二千二十五年日本国際博覧会に際し、公式参加者の陳列区域代表事務所、博覧会国際事務局等が享有する特権及び免除等について定めるものであります。
最後に、万国郵便連合憲章の第十及び第十一追加議定書等は、万国郵便連合の運営等及び国際郵便業務に関する事項についての所要の変更を加えるため、万国郵便連合の憲章及び一般規則を改正し、並びに現行の万国郵便条約を更新するものであります。
委員会におきましては、三件を一括して議題とし、スイスとの租税条約改正の背景と意義、特権・免除協定に基づく免税の判断基準とその総額、国際郵便業務の課題と解決に向けた取組、到着料率の引上げによる日本の郵便事業の収支改善、万国郵便連合を始めとする国際機関への人的貢献等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。
質疑を終局し、討論に入りましたところ、日本共産党の井上理事より、スイスとの租税条約改正議定書及び二千二十五年日本国際博覧会に関する特権・免除協定に反対する旨の意見が述べられました。
次いで、順次採決の結果、スイスとの租税条約改正議定書及び二千二十五年日本国際博覧会に関する特権・免除協定はいずれも多数をもって、万国郵便連合憲章の第十及び第十一追加議定書等は全会一致をもって、それぞれ承認すべきものと決定いたしました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/22
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023・山東昭子
○議長(山東昭子君) これより採決をいたします。
まず、所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件の採決をいたします。
本件を承認することに賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/23
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024・山東昭子
○議長(山東昭子君) 過半数と認めます。
よって、本件は承認することに決しました。(拍手)
次に、二千二十五年日本国際博覧会に関する特権及び免除に関する日本国政府と博覧会国際事務局との間の協定の締結について承認を求めるの件の採決をいたします。
本件を承認することに賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/24
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025・山東昭子
○議長(山東昭子君) 過半数と認めます。
よって、本件は承認することに決しました。(拍手)
次に、万国郵便連合憲章の第十追加議定書、万国郵便連合憲章の第十一追加議定書、万国郵便連合一般規則の第二追加議定書、万国郵便連合一般規則の第三追加議定書及び万国郵便条約の締結について承認を求めるの件の採決をいたします。
本件を承認することに賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/25
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026・山東昭子
○議長(山東昭子君) 総員起立と認めます。
よって、本件は全会一致をもって承認することに決しました。(拍手)
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/26
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027・山東昭子
○議長(山東昭子君) 日程第四 福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。東日本大震災復興特別委員長那谷屋正義さん。
─────────────
〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
─────────────
〔那谷屋正義君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/27
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028・那谷屋正義
○那谷屋正義君 ただいま議題となりました法律案につきまして、東日本大震災復興特別委員会における審査の経過と結果を御報告申し上げます。
本法律案は、福島の復興及び再生を一層推進するため、福島において取り組むべき新たな産業の創出等に寄与する研究開発等に関する基本的な計画を定めることとするとともに、当該計画に係る研究開発等において中核的な役割を担う福島国際研究教育機構を設立し、その目的、業務の範囲、運営の目標等に関する事項等を定めようとするものであります。
委員会におきましては、福島国際研究教育機構における研究開発の内容、機構と他の研究機関等との連携、人材確保に資する研究及び生活の環境整備、研究開発予算の安定的な確保等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。
なお、本法律案の審査に先立ち、福島県において視察を行いました。
質疑を終局し、討論に入りましたところ、日本共産党を代表して岩渕委員より反対の旨の意見が述べられました。
討論を終局し、採決の結果、本法律案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
なお、本法律案に対し十六項目から成る附帯決議が付されております。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/28
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029・山東昭子
○議長(山東昭子君) これより採決をいたします。
本案に賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/29
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030・山東昭子
○議長(山東昭子君) 過半数と認めます。
よって、本案は可決されました。(拍手)
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/30
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031・山東昭子
○議長(山東昭子君) 日程第五 宅地造成等規制法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。国土交通委員長斎藤嘉隆さん。
─────────────
〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
─────────────
〔斎藤嘉隆君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/31
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032・斎藤嘉隆
○斎藤嘉隆君 ただいま議題となりました法律案につきまして、国土交通委員会における審査の経過と結果を御報告申し上げます。
本法律案は、宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積による災害を防止し、国民の生命及び財産の保護を図るため、当該災害の防止に関する国土交通大臣及び農林水産大臣による基本方針の策定、都道府県等による当該災害の防止のための対策に必要な基礎調査の実施、宅地造成工事規制区域制度における規制対象の工事の拡大及び中間検査の新設、特定盛土等規制区域制度の創設、無許可工事等に対する罰則の強化等の措置を講じようとするものであります。
なお、衆議院において、検討条項に関し修正が行われております。
委員会におきましては、静岡県熱海市における令和三年七月一日からの大雨による被害状況等を視察するとともに、参考人から意見を聴取したほか、盛土による災害の防止に向けた取組、盛土等の規制の在り方及び国による支援の方向性、建設発生土対策の推進等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。
質疑を終局し、採決の結果、本法律案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
なお、本法律案に対し附帯決議が付されております。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/32
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033・山東昭子
○議長(山東昭子君) これより採決をいたします。
本案に賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/33
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034・山東昭子
○議長(山東昭子君) 総員起立と認めます。
よって、本案は全会一致をもって可決されました。(拍手)
─────・─────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/34
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035・山東昭子
○議長(山東昭子君) 日程第六 農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案
日程第七 農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律の一部を改正する法律案
(いずれも内閣提出、衆議院送付)
以上両案を一括して議題といたします。
まず、委員長の報告を求めます。農林水産委員長長谷川岳さん。
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〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
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〔長谷川岳君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/35
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036・長谷川岳
○長谷川岳君 ただいま議題となりました両法律案につきまして、審査の経過と結果を御報告申し上げます。
まず、農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案は、農地の集約化を進める措置等を講ずるものであります。
次に、農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律の一部を改正する法律案は、農用地の保全に関する措置等を講ずるものであります。
委員会におきましては、両法律案を一括して議題とし、現地視察のほか、参考人の意見聴取を行うとともに、地域の協議と農地の利用、保全の在り方等について質疑が行われました。
討論に入り、日本共産党を代表して紙理事より、基盤法改正案に反対、活性化法改正案に賛成の意見が述べられました。
採決の結果、基盤法改正案は多数をもって、活性化法改正案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
なお、附帯決議を行いました。
以上、御報告申し上げます。(拍手)
─────────────発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/36
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037・山東昭子
○議長(山東昭子君) これより採決をいたします。
まず、農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案の採決をいたします。
本案に賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/37
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038・山東昭子
○議長(山東昭子君) 過半数と認めます。
よって、本案は可決されました。(拍手)
次に、農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律の一部を改正する法律案の採決をいたします。
本案に賛成の皆さんの起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/38
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039・山東昭子
○議長(山東昭子君) 総員起立と認めます。
よって、本案は全会一致をもって可決されました。(拍手)
本日はこれにて散会いたします。
正午散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120815254X02420220520/39
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