1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和三十一年二月六日(月曜日)
午前十一時十五分開議
出席委員
委員長 高橋 禎一君
理事 高瀬 傳君 理事 福井 盛太君
理事 三田村武夫君 理事 佐竹 晴記君
犬養 健君 小島 徹三君
世耕 弘一君 古島 義英君
松永 東君 宮澤 胤勇君
横川 重次君 神近 市子君
武藤運十郎君 志賀 義雄君
出席政府委員
法務政務次官 松原 一彦君
検 事
(民事局長) 村上 朝一君
委員外の出席者
判 事
(最高裁判所事
務総局家庭局
長) 宇田川潤四郎君
専 門 員 小木 貞一君
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昭和三十年十二月二十三日
委員神田大作君、坂本泰良君、田中幾三郎君、
中村高一君、原彪君、古屋貞雄君及び細田綱吉
君辞任につき、その補欠として神近市子君、片
山哲君、菊地養之輔君、淺沼稻次郎君、風見章
君、武藤運十郎君及び勝間田清一君が議長の指
名で委員に選任された。
昭和三十一年一月二十日
委員池田清志君辞任につき、その補欠として田
村元君が議長の指名で委員に選任された。
同月二十五日
委員田村元君辞任につき、その補欠として池田
清志君が議長の指名で委員に選任された。
二月二日
委員草野一郎平君辞任につき、その補欠として
田中伊三次君が議長の指名で委員に選任された。
同月三日
委員佐竹晴記君辞任につき、その補欠として細
田綱吉君が議長の指名で委員に選任された。
同月四日
委員細田綱吉君辞任につき、その補欠として佐
竹清記君が議長の指名で委員に選任された。
同月六日
理事田中幾三郎君及び古屋貞雄君去る十二月二
十三日委員辞任につき、その補欠として猪俣浩
三君及び佐竹晴記君が理事に当選した。
同日
理事池田清志君一月二十日委員辞任につき、そ
の補欠として同君が理事に当選した。
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一月三十一日
家事審判法の一部を改正する法律案(内閣提出
第二号)
同月二十七日
人権擁護に関する予算増額の請願(徳田與吉郎
君紹介)(第一六号)
同(佐伯宗義君紹介)(第一七号)
同(川村継義君紹介)(第三八号)
同(吉田重延君紹介)(第三九号)
同(關谷勝利君紹介)(第四〇号)
同(石坂繁君紹介)(第四七号)
同(藤本捨助君紹介)(第四八号)
同(木村文男君紹介)(第四九号)
同(植村武一君紹介)(第五〇号)
同(古井喜實君紹介)(第六九号)
同(臼井莊一君紹介)(第七〇号)
同(植木庚子郎君紹介)(第七一号)
同(西村彰一君紹介)(第七二号)
同(大平正芳君紹介)(第七三号)
同(薄田美朝君紹介)(第一〇三号)
同(野田卯一君紹介)(第一〇四号)
同(山本正一君紹介)(第一二六号)
徳島法務局川島支局舎改築の請願(小笠公韶君
紹介)(第一〇五号)
宇部市に山口地方、家庭裁判所宇部支部設置の
請願(田中龍夫君紹介)(第一〇六号)
同月三十一日
人権擁護に関する予算増額の請願(楯兼次郎君
紹介)(第一五八号)
同(小川半次君紹介)(第一八二号)
同(滝井義高君紹介)(第一八三号)
同(菊地養之輔君紹介)(第一八四号)
同(加賀田進君紹介)(第一八五号)
日本調停協会連合会に対する国庫補助の請願(
池田清志君紹介)(第一八六号)
鹿児島地方裁判所川内支部庁舎等改築の請願(
池田清志君紹介)(第一八七号)
二月三日
人権擁護に関する予算増額の請願(坂田道太君
紹介)(第二二四号)
同(楢橋渡君紹介)(第二二五号)
不法行為に基く不動産損害に関する臨時措置法
制定の請願(池田清志君紹介)(第二二六号)
の審査を本委員会に付託された。
一月三十日
高知地方法務局の赤岡支局改築に関する陳情書
(第六号)
売春等処罰法制定促進に関する陳情書
(第七号)
人権擁護に関する予算増額の陳情書
(第八号)
最高裁判所の機構改革に関する陳情書
(第四八号)
二月四日
手形訴訟制度復活に関する陳情書
(第一一八号)
監獄法の一部改正等に関する陳情書
(第一一九号)
都島区に大阪拘置所設置反対の陳情書
(第一二〇号)
高松法務局観音寺支局舎改築に関する陳情書
(第一九四号)
を本委員会に参考送付された。
―――――――――――――
本日の会議に付した案件
理事の互選
参考人出頭に関する件
連合審査会開会申入れに関する件
家事審判法の一部を改正する法律案(内閣提出
第二号)
―――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/0
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001・高橋禎一
○高橋委員長 これより法務委員会を開会いたします。
本日の日程に入るに先だち、理事の補欠選任についてお諮りいたします。すなわち、委員の異動に伴い理事が三名欠員となっております。理事に池田清志君、猪俣浩三君及び佐竹晴記君を委員長から指名するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/1
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002・高橋禎一
○高橋委員長 御異議なしと認め、以上の三君を理事に御指名申し上げます。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/2
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003・高橋禎一
○高橋委員長 次に、連合審査会開会についてお諮りいたします。すなわち、ただいま内閣委員会に付託されております総理府設置法の一部を改正する法律案についてでありますが、本法律案は、去る第二十二国会における当委員会の売春に関する決議の趣旨に基くものでありまして、総理府に売春対策審議会を設けんとするものであります。従いまして、当委員会に重大なる関係を持つ法律案でありますので、内閣委員会と連合審査会を開会いたしたいと思いますが、これに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/3
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004・高橋禎一
○高橋委員長 御異議なければ、さよう決定いたします。
なお、連合審査会開会の日取り等については内閣委員長と打ち合せの上決定いたしたいと思いますが、これらについては委員長に御一任を願います。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/4
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005・高橋禎一
○高橋委員長 それでは、日程に入りまして、家事審判法の一部を改正する法律案を議題といたします。
まず政府当局より本案の提案理由の説明を聴取いたします。松原法務政務次官。
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家事審判法の一部を改正する法律案
家事審判法の一部を改正する法律家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の一部を次のように改正する。
第十五条の次に次の三条を加える。
第十五条の二 家庭裁判所は、審判で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対して、その義務の履行を勧告することができる。
第十五条の三 家庭裁判所は、審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立により、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をなすべきことを命ずることができる。
第十五条の四 家庭裁判所は、審判で定められた金銭の支払を目的とする義務の履行について、義務者の申出があるときは、最高裁判所の定めるところにより、権利者のために金銭の寄託を受けることができる。
第二十五条の次に次の一条を加える。
第二十五条の二 家庭裁判所は、調停又は第二十四条第一項の規定による審判で定められた義務の履行について、第十五条の二から第十五条の四までの規定の例により、これらの規定に掲げる措置をすることができる。第二十六条第二項中「前条」を「第二十五条」に改める。
第二十八条を次のように改める。
第二十八条 第十五条の三又は第二十五条の二の規定により義務の履行を命ぜられた当事者又は参加入が正当な事由がなくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、これを五千円以下の過料に処する。
調停委員会又は家庭裁判所により調停前の措置として必要な事項を命ぜられた当事者又は参加入が正当な事由がなくその措置に従わないときも、前項と同様である。
附 則
1 この法律は、昭和三十一年七月一日から施行する。
2 この法律による改正後の家事審判法は、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/5
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006・松原一彦
○松原政府委員 家事審判法の一部を改正する法律案について提案の理由を説明いたします。
家事審判法施行この方、家庭裁判所が家庭の平和と健全な親族共同生活の維持のために大きな成果をあげつつあることは、周知の通りであります。しかしながら、家庭裁判所において審判がなされ、あるいは調停が成立いたしましても、これらの審判または調停で定められました義務の履行が十分に保障されないといたしますならば、家庭裁判所に救済を求める当事者の紛争が終局的に解決されたとは言えないことはもとよりでありまして、家事審判法制定の趣旨の完全な実現にはまだほど遠いものがあると申さねばなりません。
現行法のもとにおきまして、扶養、離婚に伴う財産分与その他いわゆる家事債務につきまして、家事審判法による審判または調停がなされました場合、これらの審判または調停で定められました義務の履行を保障する手段は強制執行であります。しかるに、これら家事債務の従来における履行状況を見まするに、権利者が強制執行の手段によって権利を実行する例はきわめて少く、大部分は義務者の任意の履行に待つのが実情でありまして、そのためせっかく審判または調停によって義務が確定しましても、これが不履行に終る場合が少くないのであります。これは、強制執行が近親者またはかつて近親の関係にあった者相互間における権利の実現の方法としては少しく強力に過ぎるため、当事者は感情上強制執行の手段に訴えることを回避する傾向にあり、また、家事債務においてはその額も僅少である場合が多く、強制執行がこれら少額債権の実行方法としては、必ずしも実際的でないことに基因するところが少くないと考えられるのであります。
右に述べましたような家事債務履行の現状にかんがみまして、従来、家庭裁判所の実務家の間においてはもとより、日本調停協会その他各方面において、強制執行以外に家事債務の履行を確保する制度の創設を要望する声が強く、現に、家庭裁判所におきましても、事実上義務者に対し義務の履行を勧告するなどの措置を講ずることによって義務履行の促進について相当の成績をあげているのであります。
この法律案は、右に述べましたような各方面の要望にこたえるため、従来における家庭裁判所の実務上の経験を基礎といたしまして、家事審判法による審判または調停で定められました家事債務の任意の履行を促進し確保するための新たな手続を同法中に規定しようとするものでありまして、その骨子は次の三点であります。
第一、家庭裁判所は、家事債務の履行状況を調査し、義務者に対し義務の履行を勧告することができること。第二、家庭裁判所は、財産上の給付を目的とする家事債務を履行しない者に対し、その履行を命ずることができ、この命令に従わない者には過料の制裁を課すること。第三、家庭裁判所は、金銭の支払いを目的とする家事債務の履行について、義務者の申し出により、権利者に支払うべき金銭の寄託を受けることができること。
以上がこの法律案の提案理由の大要であります。何とぞ慎重御審議の上すみやかに可決されるよう希望いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/6
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007・高橋禎一
○高橋委員長 次に、本案の詳細の説明を求めます。村上民事局長。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/7
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008・村上朝一
○村上政府委員 この法律案につきまして逐条的に御説明申し上げます。
まず、十五条の二でありますが、本条は、家庭裁判所の審判で定められました義務の履行状況の調査及び義務の履行の勧告を家庭裁判所がすることができる旨を定めたものでございまして、従来におきましても、多くの家庭裁判所においては事実上これと同様の措置をすることによって相当の成績をおさめておりますので、これを正式に制度化しようとするものであります。本条に言う審判で定められた義務という中には、扶養あるいは離婚の場合の財産分与のような財産上の給付義務の場合が多いと思われますけれども、こればかりでなく、子の監護に関する処分としての未青年の子の引き渡し義務のような義務も含まれることになります。義務の履行状況の調査は、家庭裁判所の裁判官が適当と認める方法で行われるわけでありまして、たとえば書面によって照会しあるいは調査官を使って調査をさせる等のことができるわけでありますが、強制手段を用いることは許されないのでありまして、それは予期していないのであります。次に、義務の履行の勧告も、書面あるいは口頭でやることができるわけであります。
次に、十五条の三でありますが、本条は、金銭の支払いその他財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った義務者に対して、家庭裁判所が履行命令を発することができる旨を定めたものであります。義務履行の能力がありながら十五条の二の規定による勧告に応ぜず、また勧告だけによっては任意の履行を期待することができないような義務者に対しまして、本条の規定による履行命令が発せられるわけであります。この履行命令は、家庭裁判所の決定でなされ、義務者に告知されることによって効力を生ずるわけでありますけれども、この命令は、審判で定められた義務の内容に影響を持つものではなく、もっぱらその義務の履行を確保するための手段として発せられるわけであります。
次に、十五条の四でありますが、大条は、家庭裁判所が金銭の支払いを目的とする家事債務の履行について義務者の申し出によって、権利者に支払うべき金銭を預かることができる旨を定めたものであります。従来におきましても、金銭の支払いを命ぜられました義務者が権利者に支払うべき金銭を家庭裁判所に提出する例が少くなかったのでありますが、家庭裁判所としては、これを預かる権限がないために、裁判官個人の責任で預かるほかはなかったのでありまして、家庭裁判所の性格たり家庭裁判所における家事債務の性格から申しまして、当事者間で行われる金銭の授受について家庭裁判所が中に立つことが義務の履行を促進する上において少からず効果がありますので、本条の規定によりまして、家庭裁判所が家事債務の履行としてなされる金銭の寄託を受けることができることといたしたのであります。本条の規定によりまして寄託を受けるべき管轄家庭裁判所あるいは寄託の手続等の細目は、最高裁判所規則で定めることになっております。
次に、二十五条の二でありますが、以上に述べました三カ条は審判について規定しておりますが、これは調停によって定められました義務につきましても同様の規定を設けることが必要であるという趣旨で、調停にこれを準用することにいたしております。
二十六条の第二項の改正、これは二十五条の二の規定が新設されたことによる字句の整理でございます。
次に、第二十八条、これは、十五条の三の規定による履行命令あるいは二十五条の二の規定によって調停によって定められた債務に準用される場合を含むわけでありますが、この履行命令に従わなかった者に対し五千円までの過料の制裁を課することを定めたものでありまして、これも履行命令の効果を確保するために間接的な強制の手段としてこの制裁の規定を設けたのであります。本条の第二項は、現行法の二十八条の字句を改めたものであしまして、規定の実質には変更はございません。
なお、施行期日につきましては、この法律の施行につきまして、金銭の寄託に関する最高裁判所規則の制定その他の準備を必要といたしますので、附則第一項におきまして、この法律施行期日を本年七月一日と定めておるのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/8
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009・高橋禎一
○高橋委員長 次に、最高裁判所当局より本案について出席説明いたしたいとの申し出がありますが、国会法第七十二条の規定により、これを許可するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/9
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010・高橋禎一
○高橋委員長 御異議なければ、さよう取り計らいます。宇田川最高裁判所家庭局長の御説明を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/10
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011・宇田川潤四郎
○宇田川最高裁判所説明員 家事債務の履行確保に関する家事審判法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由あるいは法案の逐条説明は法務省の方からただいま行われましたので大体御了承になったと存じますが、補足して家庭裁判所の実情並びにかような改正案を必要とする理由を御説明申し上げたい、こう存ずる次第であります。
お手元に「家事審判法の一部を改正する法律案参考資料」という統計資料が配付してあると思いますが、これに基いて説明さしていただきたいと存じます。
第一表に家事事件既済件数表というのがございますが、これは全国家庭裁判所における昭和二十三年から二十九年までの事件の件数を掲げてございまして、これによってごらんになっていただきたいと存じます。一昨昭和二十九年度の家事事件のうち、家事審判事件の総数は三十四万三千五百五十九件となっております。このたびの家事審判法改正の対象となる事件は、この審判事件のうち主として家事審判法第九条第一項乙類の事件に該当する事件でございます。もっとも、このうち、権利の承継者の指定に関する事件とか、あるいは推定相続人の廃除及びその取り消しに関する事件というものは履行確保の対象とはならないと存じます。また、戸籍に関する事件も同様かような対象にはならないものでございます。
次に、調停事件の総数は、昭和二十九年はどのぐらいかと申しますと、三万八千六百四十九件でございます。一番事件で多いのは離婚事件の一万三千二十三件、それから婚姻予約不履行に関する事件が四千九百六十四件、それから家事審判法第二十三条に掲げる事項の事件、これは婚姻の無効というような事件、いわゆる合意にかわる審判事件でございます。それから夫婦同居その他の夫婦間の協力扶助に関する事件が千九百十四件、遺産の分割に関する事件が千七百十六件、扶養に関する事件が千六百四十五件、かようなものがおもなものでございます。履行確保の対象になる事件は審判事件よりもむしろ調停事件にあるのでありまして、これらの事件におきまして、審判または調停において義務を定めた事件、家事審判法第十五条の二で「家庭裁判所は、審判で定められた義務の履行」とございますが、この履行、あるいは二十五条の二で援用される調停で定められた義務の履行というようなものは大体年間二万件くらいに相当するじゃなかろうかと思います。この二万件のうち、従来の経緯から申しまして、不履行になるものが約五割くらいございますので、まずまずこのたびの家事審判法の一部改正によって行われるいわゆる履行確保の対象となるものは約一万件くらいではなかろうかと思うのであります。
次に、家事事件における金銭給付の決定額はどのくらいになっているかということにつきましては、第二表にございますので、第二表をごらんいただきたいと思います。財産分与事件における財産分与の額も、ここにございますように、昭和二十九年を例にとってみますと、五万円以下のものが百二件、十万円以下のものが四十七件、二十万円以下のものが二十八件、三十万円以下のものが十件、五十万円以下のものが十四件、百万円以下のものが四件、百万円をこすものが一件、こういうふうになっております。この表でごらんになってもわかりますように、比較的少額でございまして、十万円以下のものが大部分でございます。なお、離婚事件における慰謝料及び財産分与の額、及び婚約不履行事件における慰謝料の額、扶養事件における扶養料の額も、右に申したと同様に少額でございます。この少額ということがこのたびの履行確保の制度が強制執行以外の制度として必要なゆえんになるのであります。
次に、家事事件における金銭給付決定額と当事者の身分、これを第三表に表わしておりますが、この表は、ほとんどの家事事件における債権者が女性であるということであります。この表によって説明いたしたいことは、現在債権者がほとんど女性であるがために、強制執行を使うということは、経済的にもまた感情的にもふさわしくない状態にあるということを示すのであります。家事事件につきまして、債権者が家庭裁判所に参りまして、不履行で困っているということを訴えますときに、なぜ強制執行をいたさないのかというふうに尋ねますと、別れた主人でもやはり元は主人であったから強制執行の手段を講ずることはできない、ことに多くの場合、親権者が夫に指定されておるために、夫の方に子供がおるというようなことで、子供が向うにおる関係上、差し押えその他の強制執行手続ということはできないということをるる述べる場合が多いのであります。これは感情的に強制執行をすることができないというのが家事債務の特徴だと言えるのではなかろうかと思うのであります。また、何分にも金額が零細でありますので、強制執行の手続には相当の費用もかかりますし、手続も必ずしも容易ではありませんので、これを利用することはできないということなども、このたびの履行確保制度の必要な理由でございます。これにつきましては、七表をごらんいただきますと、この七表は金銭債権についての事件について、いわゆる強制執行がどう行われているかということを、普通の債務と家事債務と分けてみたのでございます。この統計は昭和二十八年の九月から十二月までの調査でございますが、(2)というところをごらんになりますと、金銭債権についての強制執行事件の件数、全国地方裁判所、これの事件名の下に執行裁判所関係として、不動産船舶及び自動車に対する強制執行事件、これが九、十、十一、十二とありまして、千百八十七件ございます。これだけの事件がございますが、しかしながら、家事審判を債務名義とする事件というものは一件もございませんし、それから家事調停を債務名義とする件数は千百八十七件のうちわずかに十七件しかないのでございます。次に、債権及び他の財産権に対する強制執行事件というのが千五百四十六件ございますが、家事審判を債務名義とする事件は七件でありまして、家事調停を債務名義とする事件は四十六件でございます。動産に関する強制執行事件、これは強制執行の中でも一番多い事件でございますが、これは二万七百九十九件ございますけれども、家事審判を債務名義とする件数というのはわずかに九件でございまして、家事調停を債務名義とするものは百三十六件でございます。かように、家事債務につきましては、ほとんど強制執行しておらないという実情でございます。これが結局このたびの履行確保制度の必要な最も大きな理由なのでございます。
なお、このたびの家事審判法第十五条の二が「家庭裁判所は、審判で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対して、その義務の履行を勧告することができる。」としており、私どもはこれを勧告制度と申しておりますが、この勧告制度は、実は、まだ法規にはございませんけれども、どこの家庭裁判所でも行なっておるのでございます。法規がないのにかようなことを行うということは多少不都合な面もございますが、しかしながら、調停などで定まった義務を履行いたしませんと、権利者が家庭裁判所に泣きついて来まして、ぜひとも家庭裁判所の力によって支払われるようにしてほしいというふうに言って参りますものですから、それが多くか弱い女性というような場合が多いものですから、家庭裁判所といたしましても、法規にはございませんけれども、債権者を援助して履行を促進しているわけでございます。この四表に履行状況と家庭裁判所の職員の援助との関係がございますが、この援助というのはまさしく勧告制度を行なっておる実情を示すものでございまして、これは昭和二十八年七月一日から昭和二十九年六月末までの統計でございますが、援助したという方をごらんになりますと、一時払いのものが六百九件、それから分割払いのものが千二百八十九件、合計千八百九十八件ございます。これによりましても、相当数援助しておるわけでございます。大体、この統計によりましても、結論といたしまして、この最後のパーセンテージを見ますとおわかりでしょうが、五割三分ほど不履行があるわけでございます。なお、先ほどちょっと申し上げました履行状況と差し押えとの関係、差し押えが現に行われていないという関係も、この表でおわかりでございましょうが、一年間に差し押えを行なったものはわずかに四百六十七件でございまして、四千三百八十九件のうち差し押えを行なったものが四百六十七件、差し押えを行わないものは三千九百二十二件というようなことに相なっておるのであります。なお、家庭裁判所に対して、履行のために援助してほしい、こういうような希望はございますが、これは(3)の家庭裁判所に対する希望というところでございますが、履行のために援助してほしいというのが七百二件、かように、家事審判法第十五条の二は、現に現場の家庭裁判所が行なっておりますし、またこれに対する関係者の希望は非常に熾烈なるものがあるのでございます。なお、これが勧告が効を奏しなかった場合には、十五条の三のような履行を命ずる、いわゆる履行命令というものの必要も要望されております。またこれに従わなかった場合には、二十八条にございますように五千円以下の過料に処するということも、勧告を有効ならしめるために絶対に必要でございますし、この際かような制度をぜひとも持っていただきたいと関係者は熱望しておるのでございます。
次に、十五条の四の金銭寄託の制度でございますが、これも実は現在家庭裁判所でやむを得ず法律の根拠がないにもかかわらず行われている実情でございます。どこの裁判所でも債務者が債権者であるところの者に金を持って行くということは——離婚の場合が多いのでございますが、別れた妻あるいは夫のところに金を持って行くということは感情的に持って行けない。それが不履行を来たす原因になるのであります。従って、裁判所の方でぜひ仲立ちをしてほしいということで、裁判所に持って行く。そして裁判所が仲に入って相手に渡す。場合によると、裁判所で預かって、後に債権者に渡すということが行われておるわけであります。しかしながら、現在十五条の四のような法規がございませんと、裁判官個人の責任でこれを保管するというようなことに相なりまして、制度化しませんと結果的には非常に大きな不都合を来たすのでございます。さような次第で、この際ぜひこの制度化をしていただきたい、かように思うわけでございます。
はなはだ簡単でございますが、一応家庭裁判所の履行勧告等の実情を申し上げた次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/11
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012・高橋禎一
○高橋委員長 この際お諮りいたします。家事審判法の一部を改正する法律案について参考人より意見を聴取いたしたいと存じますが、その人選、日時等については委員長に御一任願いたいと存じます。これに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/12
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013・高橋禎一
○高橋委員長 なければ、さよう決定いたします。
本日はこれにて終了し、次会は明後八日の予定でございます。
これにて散会いたします。
午前十一時五十四分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102405206X00319560206/13
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