1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十三年二月二十日(金曜日)
午後一時四十二分開會
—————————————
委員の異動
二月六日委員阿竹齋次郎君辭任につ
き、その補缺として星野芳樹君を議長
において選定した。
—————————————
本日の會議に付した事件
○人身保護法案(伊藤修君發議)
○證人喚問の件
○行刑問題の調査に關する議員派遣期
間變更の件
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00419480220/0
-
001・伊藤修
○委員長(伊藤修君) それではこれより司法委員會を開會いたします。本日は人身保護法を議題に供します。まずこの法案に對する提案理由を私から説明さして頂きたいと存じます。
人身保護の法律は、米英法系に固有の法律であつて、我々日本國民には未だ經驗のない全く新らしい法律であります。かような法律を立案して、ここに提案することになつた理由竝びにその内容について簡單に御説明申上げます。
日本國新憲法は、民主主義憲法として、基本的人權の尊重、保護をその中核といたしております。殊に人の身體の自由を保護することを極めて重要視して、これに對する侵害を排除し、被害者を餘すところなく救濟することを目途として、第十三條、第三十一條、第三十三條及び第三十四條等の規定を設けておるのであります。新憲法の實施と共に、これらの規定の趣旨を十分に發揮し得るような立法を必要とすることは申すまでもありません。殊に第三十四條後段には、「何人も正當な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及び辯護人の出席する公開の法廷で示さなければならない。」と規定されておりまして、身體の自由、即ち人身の保護の方法を如實に指示しておるのでありますから、この規定の趣旨を實現し得るような法律を速かに制定しなければならないのであります。國會は唯一の立法機關として、政府の提案を待たないで、かような憲法上の重要な法律を立案する責任を負うものと存ずるのであります。これがこの法律の提案されることになつた根本的な理由であります。
現在において、法律上正當な手續によらないで、不法に身體の自由を奪われて、拘束されておる者を、その不法拘束から現實に免れしめて、迅速に自由を囘復させることは、刑事訴訟の普通手續によつては、その適用の範圍と時間を要する等の關係から、到底所期の目的を達することができない場合があるのであります。殊に刑事事件とは關係なしに、國家の公權力によらないで、私人又は私人團體の力によつて、不法に自由を拘束された場合、例えば精神病者であるとして、法規の手續によらないで監置されたり、或いは政爭關係、選擧關係、勞働爭議の關係等から、反對側の暴力又は強制によつて、抑留若しくは拘禁されたりした場合等に、これら不法の拘束を現實に排除して、迅速に身體の自由を取りもどすために適切な法律上の手段方法は缺けておるのであります。人身の尊重保護を特に重要視しておる新憲法の下においては、到底放任して置くわけには行かないのでありまして、このような事態に備えて、非常例外的な措置として、不法な自由侵害に對して裁判所に救濟を求める途を拓く必要から、この法律の制定が要請されて、先に司法法制審議會の議を經て、臨時法制調査會に答申された基本的人權保護法律要綱試案を參酌して、立案の運びになつたのであります。
この法律は、刑事事件に關すると否と、又公權力によると、私人又は私的團體の力によるとを問わず、法律上の正當の手續によらないで、苟くも身體の自由が不法に奪われ、又は制限された場合に、この現實の自由侵害から被害者を救濟して、簡便且つ迅速にその自由を取りもどすことを目的とするものでありまして、刑事訴訟法による手續以外に、急場を救う非常措置を講じたものであります。即ちこの法律による救濟手續は、刑事訴訟とは異つて、私人の請求によつて裁判所の手で行われることが特色であります。
この身體の自由侵害に對する救濟を求める人身保護の請求は、地方裁判所又は高等裁判所の管轄に屬するものとし、身體の自由を拘束された者の親族、友人その他の關係者、何人にも請求權を與えたのでありますが、この請求の濫用を防ぐ趣旨から、原則として責任ある辯護士を代理人として請求し得るものとしたのであります。
まず手續の第一段としまして、この人身保護の請求をなすには、書面又は口頭を以て、請求の趣旨及びその理由、殊に拘束しておる者、拘束の場所が知れておるときは、これを裁判所に申立てることが要件でありまして、且つこの要件を疏明するに必要な人的又は物的の懲憑乃至證據を裁判所に提供しなければならないのであります。若し右の請求の要件又は疏明を缺くときには、不適式なものとして請求は却下されるのであります。尚右の請求を受けた裁判所は、申立によつて又は職權を以て適當な他の管轄裁判所に事件を移送することもできることになつております。
第二段の手續として、右の請求を受け又は移送を受けた裁判所は、請求が一應適式であると認めたときには、直ちに拘束者、請求代理人、その他の關係者を呼出して、拘束が法律上正當な手續によるか否か、その他拘束の事由について後日行う審問手續の準備として調査するのであります。この準備調査の結果、請求の理由がないことが明白となつたときには、裁判所は、第三段の審問手續に移らないで、決定をもつて、請求を棄却して、被拘束者を拘束者の手に引渡すことになるのであります。併し請求が一應理由あるものと認められ、その疏明資料も整つているときには、裁判所はひの自由裁量で、右の準備調査はこれを省略して、直ちに第三段の審問手續をすることにしてもよいのであります。
第三段の手續としては、裁判所が右の準備調査の結果、請求を棄却しないとき、又は準備調査を省略すべきものとしたときに、裁判所において、審問期日を定めて、請求者、その代理人、被拘束者及び拘束者を召喚するのであるが、これと同時に拘束者に對しては、被拘束者を審問期日に出頭させることを命ずると共に、右期日までに、拘束の日時場所及びその事由について答辯書を提出することを命ずるのであります。この命令が即ち人身保護命令(人身保護令状)でありまして、この命令に服從しないときには、勾引、勾留又は過料の制裁が科せられるのであります。
右の審問期日における取調は、被拘束者及び辯護人の出席する公開の法廷で行われるのであつて、裁判所は請求の趣旨、その理由、拘束者の答辯を聽いた上で、その證據の取調をするのであります。その結果請求を理由なしとするときは、判決を以て請求を棄却して、被拘束者を拘束者の手に引渡すこととなり、又請求を理由ありとするときには、判決を以て被拘束者を直ちに釋放することになるのであります。
人身保護の請求事件については、最高裁判所が監督權を有する建前からして、右の下級裁判所の判決に對しては、最高裁判所に上訴することができるのであります。又最高裁判所は、事件の性質又は社會的影響等に鑑みて、特に必要あるものとするときには、下級裁判所に係屬する事件が、如何なる階段にあつても、これを引き取つて、下級裁判所のなした處分、裁判を取消して、みずから自由に處理することができることになつております。
最高裁判所は、右のような特殊の權限を有していますが、初審として、事件を受理する管轄權はないことになつています。これは事件の處理を一般的に簡便且つ迅速に處理する趣旨からでありますが、事件が社會的に重要性を有する場合には、必要に應じて事件を引取ることができるのでありますから、この機能を發揮することができるために、最高裁判所に對して初審の裁判所は、受理した事件の通知、その處理の經過竝びにその結果について、報告する義務を負うものとしたのであります。
尚、最高裁判所は、人身保護の請求事件について、監督權を有しておる建前から、この法律を運用するについて必要な手續に關する規則を定め得ることを明らかにしたのであります。最後に、この法律の運用を圓滑にするために、身體の自由を侵害された者を救濟する方法、手段を妨げるような行爲をした者に對して、相當嚴重な刑罰を科することにしたのであります。
以上がこの法律案の骨子であります。民主主義憲法の附屬法として、一日も缺くことのできない本法案について、何とぞ愼重御審議の上、速やかに可決せられんことをお願いする次第であります。
この法案に對しまして、御承知の通り、イギリスにおきましては、慣例法時代から發達しており、且つ成文法時代になりまして、一六七九年竝びに一八一六年、この兩度に亙るところの人身保護法が制定されておりますが、いずれもこれを範といたしますて、アメリカに採られ、現在においてはアメリカの連邦竝びに各州憲法において、これが基本的に定められておるような状態であります。これを範といたしまして定められた日本の憲法の上におきましても、亦この法案が必要であることは、今日言うまでもないことと存ずるのであります。かような沿革もある次第でありますから、この際、この法案に對するところの現在日本における權利者たる高柳賢三氏及び小林一郎氏、この兩氏を證人として喚問いたしまして、この法案に對する沿革竝びに法案の狙い、こういう點について先ず聽取いたしたいと存じますが、兩氏を喚問することに御異議ありませんでしようか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00419480220/1
-
002・伊藤修
○委員長(伊藤修君) ではそういうことに決定いたします。では質疑は兩氏の證言を聽いてからにいたしたいと思います。
次に、本委員會で先に決定になりましたといろの行刑問題調査につきまして、第一班といたしまして九州地方に視察に赴くことになつておりますが、時局のかような關係上、今日直ちに出發することも不可能なような状態にありますから、第一班の日取に三月の十五日から向う十二日間ということに改めることに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00419480220/2
-
003・伊藤修
○委員長(伊藤修君) ではさように變更することに決定いたします。
他に何か御意見ありませんですか……。では本日はこれを以て散會いたします。
午後一時五十八分散會
出席者は左の通り。
委員長 伊藤 修君
理事 岡部 常君
委員
大野 幸一君
齋 武雄君
中村 正雄君
大野木秀次郎君
水久保甚作君
鬼丸 義齊君
前之園喜一郎君
宇都宮 登君
松村眞一郎君
宮城タマヨ君
星野 芳樹君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00419480220/3
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。