1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十三年三月二十六日(金曜日)
午後二時三十三分開會
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本日の會議に付した事件
○輕犯罪法案(内閣送付)
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001・伊藤修
○委員長(伊藤修君) これより司法委員會を開會いたします。輕犯罪法を議題に供します。昨日に引續き質疑を繼續いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/1
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002・中村正雄
○中村正雄君 政府の方でも御承知と思いますが、各勞働組合その他から本法に對して反對が相當起つております。その理由とするところは、組合運動の彈壓のために本法が利用され得るという懸念からだろうと思うわけですが、その點につきまして組合運動としての團體交渉、或いは、デモ、そういう關係の行爲が本法に觸れ得るという場合を第一に懸念したらうと思うのですが、そういう點を第一條で捨つてみましよう。この一條の十四號、二十六號、二十八號、三十一號、こういう程度だらうと思ますが、本法に關しましてはすべて刑法總則が適用になると思いますので、組合運動と本法とは全然別なものである、こういうふうに思いますが、そういう國民が非常に懸念を持つておることにつきまして、政府の方といたしまして、全然これは關係ないのだと、組合を彈壓するために使うものじやないのだという點につきまして、どういうふうにお考えになつておるかという點が第一と、第二の點はそれに關連しまして本法は殆んどはこれ現行犯となると思うわけです。從いまして逮捕状その他がなくして直ちに警察官が逮捕でき得るという關係で、現在の警察官の教養程度その他から行きまして、感情的に組合運動を抑壓するという點に利用され得るという懸念があるのだろうと思うわけです。從いましてそういう點についての教育なり、或いは防止という點についてどういうふうにお考えになるか。この二點についてお伺いしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/2
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003・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) お答えいたします。本法の立案の趣旨につきましては提案理由で御説明申上げた通りでありまして、本法の目的とするところは、日常生活におきまする卑近な道徳律に反する輕い犯罪を處罰しようとするものでありまして、そういたしまして、この亂れ勝ちな、禮儀に欠くるようなこの社會の秩序を正しくしようというだけのことでありまして、勿論勞働運動とか或いは大衆運動というものを目標といたしまして本法を制定したのではないのでございます。ただ併しながら本法の前身でありましたところの、警察犯處罰令の實際上の運用におきまして、今日まで勞働運動或いは大衆運動に對しまして、その法律の趣旨とするところと相反して、これを彈壓するような傾向に使われた嫌いがあつたことも否むことができないと存ずるのでありますが、本法はかような點の運用につきましては、十分の注意をいたしたいと考えております。ただ本法がさような趣旨でできておりまして、而も勞働運動につきましては、勞働組合法の第一條の第二項の規定がやはり本法にもはつきりと冠つて參りますので、大體或いは絶無と申してもいいくらい、本法の適用は勞働運動に對しましては、排除されると、かように考えております。のみならず勞働運動それ自體の目的行動から申しまして、大衆運動が企圖しておりますところの一つの行動から申しまして、多くの場合におきまして、本法に規定しておりますところの「正當の理由が、ある」場合にも歸著いたしますし、又「みだりでない」という場合にも歸著いたします。從いまして刑法總則の規定によりまして、多くの場合違法と阻却されるものと考えております。
更に第二の御質問でございますが本法は大體現行犯の場合に限られるだろうとの御見解でありますが、正にその通りでありまして、さような場合におきまして、直ちに逮捕するというような事態が惹き起りはしないかという御心配でございますが、この點につきましても、現行の刑事訴訟法におきましは、多少の制限をいたしておりまして、五百圓以下の罰金又は拘留、科料に當る罪にさきましては、全面的に現行犯の規定を適用いたしておらないのであります。住居が不明である。或いは氏名が分明でない。或いは逃走の虞れのある。かような制限のある場合にのみ現行犯處分を許しておる次第でありまして、かような點から申しましても、現行犯といたしまして、これを直ちに逮捕するという場合は先ず少かろうと存ずるのでありますが、併し、これは逃走の虞れがある場合には逮捕できることに明成つておりますので、運用の如何によりましては、又認定の如何によりましては、この點につきましての心配も相當あるかと私も考えております。從いましてこの法律案が成立いたしまして、實施に移る場合におきましては、この法律の趣旨とするところを、十分にこの法を運用いたします警察官に周知せしめますと共に、更にこの法の運用の基準、指針というものをはつきりした具體的な形におきまして通知をいたしたい、かように考えております。そういたしまして御懸念のような點を全然ないように防止いたしたいと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/3
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004・中村正雄
○中村正雄君 只今の御説明で大體明瞭になつたのでありますが、例を取つて一つ御質問いたしますと、第一條の第十四號「公務員の制止を狭きかずに、人聲、樂器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」、この條項で行きますと、假に大衆運動としてデモ行進をやるときに、やはり相當大きな聲を出して歩くわけですから、公務員が制止しても聞かない場合、やはりこういう條項が取締規定とは別に適用されるかどうかということを、例を引いてお聞きしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/4
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005・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) デモ行進の場合に大聲を擧げて通る。そういう場合におきまして、そのデモ行進が當然にさような聲を擧げて歌を唄つて通るということは、この社會の通念上當然許される場合におきましては、公務員の制止をすること自體がすでに間違つておるのであります。その場合、「公務員の制止をきかず」ということがありましても、これは當然に違法を阻却いたしまして、本法の適用はないものと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/5
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006・中村正雄
○中村正雄君 もう一つお尋ねしたいのは、大衆運動に對しまして、それぞれ取締規則がありますが、その規則と本法との關係はどういうふうになつておりますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/6
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007・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 大衆運動自體を目指しました取締規定というものは、どういうものがあるか實は私もはつきり存じませんが、主に大衆運動によく使われますのは、暴力行爲取締に關する法律などが、或いは適例じやないかと思いますが、これとても大衆運動自體の取締を目的としたものではないと考えております。ただ運用が、さような御心配と又實際の状態を現出しておると、かように考えておりますので、本法といたしましてはさような法規との關係においては、別に特別な關連を持つているのじやなく、おのずからこの法律の目的としておりますところの保護法益が違つている場合もありますし、又行為の程度の差があるに過ぎないものであると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/7
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008・中村正雄
○中村正雄君 ちよつと速記を止めて頂きたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/8
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009・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 速記を止めて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/9
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010・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 速記を始めて。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/10
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011・中村正雄
○中村正雄君 もう一つ最後にお尋ねしますが、第一條の各號を見て見ますと、「正當な理由がなく」てとか、或いは「みだり」にとか、或いはそういう違法なということを表現するという文句を順次各號に使つてありますが、使つてない號もありますが、これの關係竝びに意味の關係でありますが、そういうことを使つていない各號もあるわけですが、どういう意味なんでありますか。すべて全部に對して正當な理由があつた場合、或いはみだりにやらなければこれは當然犯罪を構成しないというのは常識であるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/11
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012・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 「正當な理由がなく」とか、「みだりに」とか書いてありますのは、これは言葉の解釋から申しますと、社會通念上不法なということで違法性を現わしておるつもりなんでございます。ただ「正當な理由がなくて」ということと、「みだりに」ということの使い分けをいたしましたのは、これは語呂の關係と、又文章の繋ぎ工合の關係でさように書き改めたのでございますが、趣旨は同じ趣旨なんでございます。いずれもこの違法性を現わしておる文句でございます。ところがこれがないものがございますが、ないのはそのこと自體で、書いてありますこと自體で以て違法性がもうすでに現われておるじやないか、だから強いて書く必要はないというので書かなかつた次第でありまして、從つていずれも正當の理由がなくやつた場合に、この本法の方に掛かる、こういう趣旨でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/12
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013・中村正雄
○中村正雄君 私の質問はこれで終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/13
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014・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 先程の十四號の政府委員の説明は、この條文の書き方で「みだりに」という趣旨が現われるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/14
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015・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) これはですね、「公務員の制止をきかずに、人聲、樂器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穩を害し近隣に迷惑をかけた者」かような大きな聲を出しまして、そうして一般社會の通念から申しまして、妥當でないような非常に大きな音を出して、そうして近隣の業務とか或いは讀書、談話、睡眠その他一切の生活に多少支障を來たすということは、やはり社念通上妥當ではないじやないかということが、この條文自體で現われておりますので、これには「みだりに」とか、「正當な理由がなくて」ということも入れなかつた次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/15
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016・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 例えば選擧の運動の場合において、擴聲器を使つて、街頭で以て非常に大きな音を立ててやつておるのを往々見る。さような場合において、いわゆる公務員の認定によつて大き過ぎるという場合においては、これに引つ掛るということになるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/16
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017・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) さような場合に、公務員が一應止めても、勿論選擧運動でございますから、やはり或る程度選擧の趣旨を徹底しなければなりませんから、或る程度の音というものは、これは當然許されるのですが、非常に大きくて全く迷惑至極だ、こういうものについてはやはり公務員というものが、この場合大體警察官と思いますが、警察官が、それは少し大きい、小さくしろということを申しました場合に、一向構わないと言つてやればやはり本法に觸れて來るものだと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/17
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018・伊藤修
○委員長(伊藤修君) その場合は認定ですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/18
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019・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 公務員の認定というものは一應掛かつて來るわけであります。併しこれは裁判の審判に俟つわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/19
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020・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 審判といつても證據がなくなつてしまいますから…。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/20
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021・星野芳樹
○星野芳樹君 何か入れた方がいいと思いますね。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/21
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022・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 事實上においては、數個の各派の擴聲器が置かれると他の各派を威壓するために大きな音を立てる方法を講じておる選擧運動の場合、どれが大きいか、さつぱり分らない。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/22
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023・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) そういう場合もあると思いますが、證據の問題に歸著しますけれども、それにそこで聞いておつた人が非常に大きな聲を出しておつたとの證言をすれば、それはもう何でもないが、理窟といたしますれば餘り大きくて近隣のものが生活上御迷惑を被る。それも公務員の制止を聞かずに尚續けておつたという場合にはこの法に觸れて來るというように解するより仕方がないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/23
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024・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 「みだりに」という文字が入つた方がいいというように考えますが、どうですかね。他の御質疑……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/24
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025・齋武雄
○齋武雄君 これは現行犯の場合が多いというわけでありますが、その場合に、逃走の虞れある場合においては、逮捕はできるというのでありますが、刑事訟訴法においては四十八時間以内に裁判所に持つて來なければなりませんが、その點をお伺いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/25
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026・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) その通りであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/26
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027・大野幸一
○大野幸一君 この五號と八號に、「その他の」という場合と、「その他」という場合とありますが、これは何か意味があるのですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/27
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028・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 五號に「その他」と書きましたのは、上に、公共の會堂とか、劇場とか、飲食店とかダンスホールとか竝べてありまして、「その他」といたしましたときには、單に上と繋ぐだけの意味に書いた趣旨でありまして、從いましてこの公共の會堂、娯樂場、ダンスホールとか、飲食店とか、劇場とか竝んだものでありまして、必ず上に引例してあるものに限定しておる趣旨です。ところが、この八號のように、「風水害、地震、火事、交通事故、犯罪の發生その他の變事」と、こうありますると、この變事は、風水害や地震や火事や、交通事故や犯罪等、以上緊急の事態、上に掲げてありまするそれに類するような非常事變の緊急事態のと、こういう趣旨になつておるのでありまして、「その他」といたしました場合には、上に擧げてあるものによつて限定を受ける、こういうまあ書き方をいたしましたのです。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/28
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029・伊藤修
○委員長(伊藤修君) 他の御質疑ありませんですか。星野さんどうですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/29
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030・星野芳樹
○星野芳樹君 別にありません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/30
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031・伊藤修
○委員長(伊藤修君) では本日はこの程度にして、これを以て散會いたします。
午後二時五十三分散會
出席者は左の通り。
委員長 伊藤 修君
理事 岡部 常君
委員
大野 幸一君
齋 武雄君
中村 正雄君
大野木秀次郎君
水久保甚作君
來馬 琢道君
宮城タマヨ君
星野 芳樹君
政府委員
法務廳事務官
(檢務局長) 國宗 榮君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X00719480326/31
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