1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十三年六月二十五日(金曜日)
午前十時二十六分開会
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本日の会議に付した事件
○青年補導法案(鬼丸義齊君業議)
○判事補の職権の特例等に関する法律
案(内閣送付)
○裁判所職員の定員に関する法律の一
部を改正する法律案(内閣送付)
○日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法
の應急的措置に関する法律の一部を
改正する法律案(内閣送付)
○民事訴訟用印紙法及び商事非訟事件
印紙法の一部を改正する法律案(内
閣送付)
○少年法を改正する法律案(内閣送
付)
○少年院法案(内閣送付)
○賣春等処罰法案(内閣送付)
○民事訴訟法の一部を改正する法律案
(内閣送付、衆議院送付)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/0
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001・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) 司法委員会を開会いたします。青年補導法案の逐條の説明を伺います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/1
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002・泉芳政
○專門調査員(泉芳政君) 青年補導法案の逐條について簡單に御説明申上げます。
全文二十六ヶ條よりなる簡單なるものでありますが、主眼とするところは現在の刑事裁判手続におきましては、犯罪者に対して刑を科するという、実刑を科する手続、それから情状によつて一定年限以下の懲役又は禁錮に処する者に対しては執行猶予という制度があるのであります。一面初犯が軽微な者につきましては、裁判手続によらずして、これを現行の少年審判所に送致いたしまして保護処分に処する、その場合には保護團体に委託するなり、或いは少年院に收容するということに相成つておるのでありまするが、青年犯罪者に対して刑を科することは適当でない場合、さりとて又これを執行猶予まで野放しにするということも適当でないという者について、その中間を狙つて青年補導所入所ということを本案で考えたわけであります。
第一條は、その目的を掲げ、第二條はその適用を受くる青年の年の範囲を規定したわけであります。これは少年法とも睨み合せまして、年齢十八歳未満の者は少年法の適用を受けまするので、年齢の最低限を十八と限り、又年の上の者も二十六歳未満ということに限定して、その十八から二十六までの者に対して本法を適用する。ただ本法の適用によつて補導所に入所を命ぜられた者につきましては、二十六歳未満の者が入所した場合に五年間はここに置くことができるわけでありまするから、三十一までということに相成るわけであります。
第三條は、その主要な刑の言渡しに代えて青年補導所に入所を命ずる裁判手続を掲げたものであります。これは檢察官が犯罪の謙疑ありとして起訴した者について、裁判所が判決で以て有罪の言渡しをする、そうして刑を科する、そのことに代えまして、青年補導所に入所を命ずるという判決をするのであります。入所の期間は最長五年といたしまして、その判決においては具体的に何年間入所を命ずるというふうな言渡をする規定になつております。
第四條は、この判決をする前に調査のため必要があると認めるときには、裁判所が補導所に仮入所を命ずる。そして補導所に入れることが適当であるかどうかということを調査するわけであります。その仮入所中の行状その他については、補導所長から裁判所に参考となる意見を提出しなければならないことになつておりますので、それによつて入所を命ずることが適当であるかどうか、或いは実刑を科することが適当か、又執行猶予にすることが適当かということを鑑別して本法の適用に資するということに相成つております。仮入所の処分は裁判所の言渡した判決の確定によつてその効力を失うことになつております。
第五條は、上訴審における不利益変更禁止の規定との権衝を考えた規定でありまして、御承知のごとく、刑事訴訟法の第四百三條、これは上訴審における不利益変更の禁止、又は四百五十二條は、これは上告審による不利益変更禁止の規定でありまするが、上訴審においては原審より重い刑を科してはならないという制限がありまするので、本法では補導所入所の処分というものは前審の言渡と刑との軽重はどういうことになるかということを規定したものであります。罰金よりも重く、金錮、懲役よりも軽く、そうして執行猶予とは重い軽いがないというふうに規定いたしまして、一審で補導所入所を命じた判決に対して上訴があつた場合に、これに対して執行猶予を言渡すこともできる。又補導所入所を命ずることもできる。つまり補導所入所の一審判決があつても執行猶予はなし得る。併しこれを変更して懲役又は禁錮の実刑を科することはできないという制限も附けたわけであります。尚本法による裁判の執行につきましては、刑事訴訟法の五百四十七條乃至五百五十二條、これは刑の執行に関する規定でありまするが、檢事の刑の執行によつて本法の処分も執行される。任意に出頭しない場合にはこの処分の執行のために逮捕状も出せるという刑事訴訟法の規定を準用しておるのであります。
第六條の刑法の期間の計算に関する規定の準用でありまするが、刑の時効に関する規定を全面的に本法の処分に準用いたしまして、その時効期間は五年ということにいたしました。
第七條は本法の処分によつて入所しておる者が、その後禁錮以上の刑の執行を受けるようなことになつた場合には、本法の手続或いはその処分はその時を以て終了するということにしたわけであります。刑の言渡の判決と本法との関係は、いわゆる累犯関係にはならないのでありまして、第七條の予定する者は、本法の処分を受けた後にその前に犯した犯罪などが発覚して、それによつてこの処分の後に実刑が科せられるようなことがある。そうした場合には、その実刑の執行をするために本法による処分は終了するということになつておるのであります。この点は刑を科した場合に、又更に刑が科せられるという時には、併合して執行するということに相成るのでありまするが、本法の処分と、後に科された刑とは、併合しない。後の刑だけを執行する。本法の処分は消滅するというふうに規定したわけであります。
第八條は、本法によつて收容されておる者が逃走した場合は、刑法の逃走罪によつて処断される。但しその補導導の所長の請求を待つてこれを論ずるということにしたのであります。
第二章は青年補導所の機構を書いたものでありますが、補導所は、この法律の三條、四條の規定その他の法律の規定で入所を命ぜられた身を收容する所として、その他の法律というものは未だ予定されておりませんが、將來この法律が活用される場合には、成る程補導所入所はいい制度であるということで、他の法律で又補導所入所を命ずる規定が現れるようなことを予定いたしまして、幅のあることを規定したのであります。補導所は國立でありまして、主務大臣、只今のところ法務総裁がこれを管理するというように考えております。この補導所は御案内のごとく、只今は一つもないのでありますが、目下ありまする少年院などを利用することも考えられないものではないのですが、併し少年院に收容するのは虞犯少年、つまり犯罪を犯す虞れのある少年、或いは全然刑罰を科することが尚早であると考えられる青少年に対して、純然たる保護処分として、收容する施設でありますから、これと本法による処分を受けた者とを一緒に收容するということが、職務上面白くないというところから、どうしても新らしく補導設備を設けなければならんと考えておりますので、國家財政とも睨み合せまして、直ちに沢山の補導所を作るということは不可能かも知れませんが、差当り全國高等裁判所所在地の八ケ所ぐらいに置きたい。止むを得ざるときには、全國四ケ所ぐらいでも作つて、本法の処分を受けた者を收容したいというふうに考えておる次第であります。補導所には所長以下必要の職員があつて、それらの事務については、細かくは政令で定めることになつております。補導所の運営の必要な事項を審議するために、補導所毎に青年補導所運営委員会というものを作りまして、所長一人の專断では事を運ばない。重要なことはすべて運営委員会の審議に掛けてこれを運営して行くというふうにしております。運営委員会の委員は五人で、それは主務大臣がこれを命ずることになつております。尚その他委員会の必要な事項は政令で定めるということにしております。
補導所における補導の実際及びその職務につきまして、十四條以下に規定したのでありますが、その理念といたしましては、正当な社会人として再生させるというところに主眼があるのでありますけれども、その方法といたしまして、職業補導について書いております。それには勤勉で、規律のある生活の下に、主としてその適性に應じた職業の補導をするというところに狙いがあるのであります。そうして男と女とはそれぞれ收容所を別にしたいというふうに考えております。その他十六條は、この所長以下職員の執務についての規定であります。十七條は補導所を作つても、やはり十七條のように三月に一回は必ず査察して、運営、補導の状況を主務大臣に報告するという義務的な規定を置いたのでありまして、ただ委員会を置くというだけでは、委員会がややもすると一つも開かないで、その職務をとることができないことがあることを憂えまして、十七條に義務的な規定を置いたわけであります。委員会は又運営及び補導に関して必要な事項については随時所長に勧告しなければならないということにいたしました。この入所を命ぜられた者はそれぞれ所定の作業に從事しなければならないことになつております。そうしてこれに対して給與金も支給することができるようにしております。所長は又在所者の面会、通信、金品の授受、図書の閲覽等については適当な制限を加えることもできる。そうして又在所者の持つておる金品等は預りまして適当に保管して、その保管については善良なる管理者の注意を以てこれを管理するということにしております。又所長は成績優良な者に対しては賞遇を與えることができる。その種類や方法はこれ又命令で決めることにしております。又所長は紀律に違犯した者に対して懲戒を行うことができる、これは委員会の議決を終ることになつております。この懲戒も憲法の基本的人権等の規定と睨み合せまして、具体的に殊に一乃至三の事項を列記いたしまして、訓戒を加える、或いは一定期間賞遇の授與を減じ又は停止、一定期間独居して謹愼させること。但し三十日を超えてはいかんというようなことになつておりまして、これ以上の懲戒はやつてはいかんということにしております。入所者が逃走した場合には、先き申上げたように刑法の逃走罪を以て律せられるのでありますが、これを発見したときは在所者はもとより、所員はいつでもこれを連れ戻すことができるということに規定いたしました。そうして場合によつては裁判所の逮捕状も求めることができる。その他、在所者の処遇について必要な事項は命令で以て決めることにいたしております。又所長は委員会の議決を経まして、法務総裁の認可を受けて在所者の処遇に関する細かい規定を決めなければならんというふうに規定いたしました。要するに從來と著しく異つておりまする点は、裁判所の判決、刑を科さないで、補導所に入所を命ずるというところに主眼があり、その処遇については刑務所でもない、又少年院でもない、そういう職業補導を主とした再生の途を講じて、再び罪を犯すことのないように、眞人間にしてやりたい、こういうところに狙いがあるのであります、愼重御審議を願いたいと思います。
尚一言附加して申上げておきますが、この法律の施行期日は実は昨年の第一國会に提出いたしました際には國家財政とも睨み会せまして、二十三年の十二月三十一日くらいまでには施行したいというふうに考えておつたのでありまするが、いろいろな事情の変更から、第一國会では審議未了になりまして、第二國会に改めて提出したわけであります。而も尚財政の状態は必ずしも豊かではありませんので、この原案に書いてありまする二十三年十二月三十一日までには施行しなければならないという規定は、尚半年くらいは延ばした方がよくはないかということで、提案者といたしましても、これは二十四年七月十五日までに施行しなければならないというふうに、訂正したいと考えておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/2
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003・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) 御質疑がなければ、次に判事補の職権の特例等に関する法律案、これを議題といたします。政府委員の提案理由の説明を求めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/3
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004・岡咲恕一
○政府委員(岡咲恕一君) 只今議題となりました判事補の職権の特例等に関する法律案の提案理由を申上げます。
新憲法の施行によりまして我が司法制度が画期的な改正が行われ、司法の職責の極めて重大となりましたことは、今更申上げるまでもないところでありまして、政府といたしましても、この重責を担う裁判官の機構の整備、充実にできる限りの力をいたして参つたのであります。併しながら終戰後のこの深刻多難な社会情勢の下におきましては、裁判所の機構の整備は容易ならんことでありまして、裁判所の廳舍その他諸種の物的設備が十分に整わないことは勿論、人員の整備、充実の点につきましても困難を感じておるのでありまして、今年三月末日現在の裁判官の欠員は三百六名に達し、特に判事の欠員は百八十二名の多きに達しておるのであります。この裁判官不足の原因につきましては、いろいろ考えられるのでありますが、その原因となるものとしては裁判官の待遇が必ずしも十分でなかつたことと、その負担が余りに過重であることが挙げられるのでありまして、このため裁判官の献身的な努力にも拘わらず未済事件は増加の一途を辿り、現状のままに推移するときは司法の運営に重大なる支障を來たす虞れなしとしないのであります。このような事態に処する対策としては、裁判官の待遇を改善し、廣く有爲の人材を吸收して、欠員の補充を図ることと、裁判官を増員してその負担を軽くすることであります。裁判官の待遇につきましては先きに提出した法律案が幸いにして成立いたしますれば相当の改善を見ることになるのでありますが、これとて決して十分のものでなく、これのみでは今日直ちに裁判官不足の悩みを解消することは困難と存じますので、当面の措置といたしましては現在活用し得る人材を最も有効に活用いたしたく、その方策として次の二つのことが考えられるのであります。
第一は判事補の活用であります。裁判所法によりまして判事の地位は著しく高められ、判事に任命せられるには司法修習生の修習を終え、考試に合格した後、裁判官、檢察官又は弁護士等として十年以上の経驗を積まねばならず、それまでは判事補又は簡易裁判所判事としてのみ裁判官の職務を行い得るに過ぎないのでありまして、判事補としては、原則としては一人で裁判をしない、同時に二人以上会議体に加わり又は裁判長となることができないというような職権の制限を受けておるのでありますが、判事補の中には実質上判事たるにふさわしい十分なる力量と経驗とを有しながら、形式上の資格要件を欠くために判事たり得ないものが少くなく、今日の状況にありましては、これらの人々を十分活用して然るべきと存ずるのでありまして、判事補の中、裁判官、檢察官又は弁護士等として五年以上にもなり最高裁判所が判事としての職務を行わしめるに適するものと認めた者には、判事としての職権を行わせるようにすることが、この際極めて適切であり、且つ必要であると信ずるのであります。
次に、第二の方策としては、裁判所法に規定せられておりまする裁判官の任命資格に関する経過規定の改正であります。現在これに関する規定としては、裁判所法施行令の第八條乃至第十條及び第一回國会を通過成立した裁判所法の一部を改正する法律の附則第二項乃至第四項等がありまして、裁判所構成法による判事若しくは檢事の職に就く資格を有する者等の朝鮮、台湾、関東州、南洋廳及び満州國における裁判官の在職、これらの外地若しくは満州國における檢察官の在職、又は行政裁判所評定官、司法研修所指導官、司法書記官等の在職年数は、これを裁判所法による判事、判事補、檢察官、司法研修所教官、又は法務廳事務官等の在職年数とみなすこと等が定められておりますが、この際これらの規定を更に拡張して、内地、朝鮮、台湾、満州國又は蒙古等で実質上右に述べた諸官職と同樣な法律的な事務を取扱う職にあつた者についても、一定の條件の下に、その在職年数をこれに算入することとし、尚朝鮮、台湾及び関東州の弁護士の在職年数をも弁護士法による弁護士の在職年数とみなすこととして、実質上十分なる知識と、経驗を有しながら、形式上の資格要件を欠くために判事、簡易裁判所判事又は判事補等となり得なかつた者について、それぞれその資格を與えて、これを十分に活用することが必要であり、且つ又適当であると存ずるのであります。
この法律案は以上申上げましたような趣旨で立案いたしたものでありまして、第一條は、判事補で、裁判所法第四十二條第一項各号に掲げる判事補、簡易裁判所判事、檢察官又は弁護士等の職の一乃至二以上にあつて、その年数を通算して五年以上になる者の中、最高裁判所の指名する者は、当分の間、判事補としての職権の制限を受けないものとし、又その属する地方裁判所の裁判官会議の構成員となり、管内の簡易裁判所の裁判官の職務を行う権限を有することを定め、第二條は、裁判所構成法による判事又は檢事たる資格を有する者が、同條に掲げる内地、朝鮮、台湾、満州國及び蒙古連合自治政府等における各種の職にあつたときは、その在職年数は、裁判官の任命資格に関する裁判所法第四十一條、第四十二條及び第四十四條の規定の適用については、これを判事、判事補、檢察官、法務廳事務官又は法務廳教官の在職年数とみなすこととし、第三條は、弁護士たる資格を有する者が朝鮮、台湾、関東州等の外地弁護士の職に在つたときは、裁判所法第四十一條乃至第四十四條の規定の適用については、その在職の年数はこれを弁護士の在職年数とみなし、外地弁護士の在職年数が三年以上になるもの、若しくは外地弁護士及び弁護士の在職の年数が通じて三年に達した者、又は朝鮮弁護士令による弁護士試補として実務修習を終え、考試を経た者は司法修習生の修習を終えたものとみなされることを定め、更に附則では、この法律施行に必要な規定を設けたものでありまして、その第四條は、この法律の施行期日を定め、第五條は、第一條に定める判事補の裁判官、檢察官又は弁護士等としての経驗年数の計算についての経過規定を定めたものでありまして、その内容は、一應前に申しました裁判官の任命資格に関する経過規定に倣つたものであります。又第六條は、先きに述べた裁判所法の一部を改正する法律の附則第二項乃至第四項が、この法案の成立によりまして、その存在の理由を失うことになりますので、これを削除することを定めたものであります。
以上この法案について概略の説明を申上げましたが、尚詳細につきましては、御質問に應じてお答えいたしたいと存じます。何とぞ愼重御審議の上御可決あらんことをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/4
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005・前之園喜一郎
○前之園喜一郎君 この法案には、裁判所法であるとか、裁判所構成法であるとか、その他いろいろの関係の法規があるようですが、これを参考に、何か拔萃して頂きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/5
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006・岡咲恕一
○政府委員(岡咲恕一君) 参考資料として作りましてお配りする予定になつておりますから御覽願いたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/6
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007・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) 次に裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたしまして、政府委員の説明を求めます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/7
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008・岡咲恕一
○政府委員(岡咲恕一君) 只今議題となりました裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案の提案理由を御説明申上げます。
本法律案におきましては、判事補の定員を、現在より五十五人増加し、同法研修所教官は、現在一級一人、二級五人と定められておりまするのを、一級十人に改め、更に裁判所職務官の定員を、現在より二級において四十八人、三級において二百四十一人、それぞれ増加しようとするものであります。その理由は、最近地方裁判所における令状関係事務の激増に伴いまして、その迅速適正なる処理をするためには、新たに判事補五十五人を増員することが緊急止むを得ざることと認めた次第でありまして、又家事審判所におむる事務は繁忙を極めておるのでありまして、右事務の迅速、適正な処置を図り、以て一般の要望に副うためには、新たに裁判所事務官を二級において四十八人、三級において二百三十六人増員することが止むを得ざる必要と存ずるのであります。
次に、裁判官及びその他の裁判所職員の研修制度の重要であることにつきましては、今更申上げるまでもないことでありますが、司法研修所の重き使命を達成するためには、この際その機構の強化を図ることが適切且つ肝要でありまして、これがためには現在司法研修所教官は一級一人、二級五人とあるのを一級教官十人に改め、尚三級の裁判所事務官五人を増員することは、これ亦眞に止むを得ざる最少限度の必要と存ずるのであります。
何とぞ本法律案につき愼重御審議の上速かに御可決あらんことをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/8
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009・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) この質疑も後廻しにいたしまして、次に日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/9
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010・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 只今上程に相成りました日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律の一部を改正する法律案の提案理由を申上げます。
刑事訴訟法の應急的措置に関する法律は、日本國憲法の施行せらるるに当り、現行刑事訴訟法に新憲法の要求する最少限度の應急的措置を講ずることを目的として制定せられ、一應昨年末を以てその効力を失うこととなつていたのでありますが、その後諸般の事情により刑事訴訟法の改正が遅延しておりました結果、再度に亘り有効期間の延長を見まして、現在では本年七月十五日からその効力を失うこととなつているのであります。然るに只今当委員会におきまして御審議を願つておりまする刑事訴訟法を改正する法律案は、刑事手続の全般に亘り可なり根本的な改正を加えるものでありますから、幸いにして本國会において可決せられましても、その実施準備のためには少くとも約六ケ月の期間を必要とするのであります。よつて同法の附則において、同法は昭和二十四年一月一日から施行することといたしておるのであります。これに伴いまして、刑事訴訟法の應急的措置に関する法律も、その附則を改正し、本年末までその効力を延長する必要があるのであります。以上がこの法律案を提出する理由であります。
何とぞ愼重御審議の上、速かに御可決あらんことを希望いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/10
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011・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) この案の具体的質疑は後廻しにいたしまして、次に民事訴訟用印紙法及び商事非訟事件印紙法に一部を改正する法律案の方の議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/11
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012・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 只今上程になりました民事訴訟用印紙法及び商事非訟事件印紙法の一部を改正する法律案について提案理由を御説明いたします。
民事訴訟用印紙法及び商事非訟事件印紙法によりまして、訴状等に貼用すべき印紙の額につきましては、明治四十三年法律の改正によりまして、極く少額の増価を見ました外は、何らの変更を加えられることなくして今日に及んでおるのであります。今更申上げるまでもなく最近の物價の昂騰は、日に日に著しいものがあり、これを東京小賣物價指数によつて見ましても、本年三月の物価指数は、終戰前の昭和十八年当時に比較しまして、約五十六倍の多きに達している状態であります。御承知のごとくこの物價事情に対應いたしまして、公証人の手数料等は数次に亘つて増額せられたのでありますが、司法制度の理想といたしまして、当事者の経済的負担は最少限度に止むべきでありますので、前述の印紙額の増額は努めてこれを避けて参つた次第であります。併しながら現下の物價事情並びに財政状態に照して考えますならば、現行の印紙額乃至その定め方については極めて不合理なものとなつた点が多々あると言わざるを得ないのであります。かような見地から、この印紙額に適当な改正を加え、実情に即し得るようにすることを主眼といたしまして、この法律案を提出して次第であります。
以下本改正の要点を申上げます。先ず民事訴訟用印紙法につきましては、第一に現行法は訴状に貼用すべき印紙の額を、訴額に應じて定めているのでありますが、現在基準となるべき訴額が極めて少額を以て区分してあり、これがため実情に副わない憾みがありますので、五十円以下の訴額を三段階に大きく区分いたしました。又、物價の騰貴により訴額が名目的に増加いたしますならば、印紙額も亦名目的に増加するわけでありますが、その増加率は訴額の増加率に比し漸次逓減しておりますために、実質的には印紙額の減少を來す結果となるのであります。この不合理を是正いたしますために、物價騰貴前の一定の訴額と、これに対する印紙額との比率を、物價騰貴後の一定の訴額に移行させて、その印紙額を定め、これを基準として訴額の高低に應じ、それぞれの印紙額を定めました。第二條の改正が、即ちこれであります。
第二に、現行法は、非財産権上の請求については、その訴額を百円とみなしておりますが、現行民事訴訟法によりますと、非財産権上の請求は地方裁判所の管轄に属することとなつておりますので、貼用印紙額の関係において、その訴額を地方裁判所事件の最低の訴額のものと同様に取扱うことといたしました。第三條の改正が、その趣旨によるものであります。
第三に、支拂命令の申立につきましては、訴額十円以下のものに対する貼用印紙額を二十銭とし、その他の支拂命令の場合を区別しておりますが、現在の物價事情に鑑み、かかる差別を設けることは全く無意義と考えられますので、この差別を撤廃して、支拂命令の申立には、一律に第一審訴状の貼用印紙額の半額の印紙を貼用することといたしました。第六條の改正がこれに当ります。
第四に、現行法は、訴額又は請求額二十円を限界としまして、申立等に対する貼用印紙額に差別を設けておりますが、かかる差別を設けることが現在の物價事情に即しないことは、前述の場合と同様でありますので、この差別を一應廃すると同時に、簡易裁判所事件については特に当事者の負担を軽減すべきであるという新らしい観点に立ちまして、訴額又は請求額五千円を限界として印紙額に差等を設けました。その印紙額につきましては、物價の昇騰程度、公証人執行吏の手数料の増額程度及び司法制度の特質等を考慮いたしまして、現在の印紙額の二十倍乃至二十五倍程度に止めた次第であります。第六條ノ二以下の改正が、即ちこれであります。尚第六條ノ三につきましては、現行民事訴訟法により、すでに廃止された制度に関する若干の規定を削除して整理いたしました。
最後に商事非訟事件印紙法中の印紙額につきましても、前述の第四において申上げましたのと、同一の理由によりまして適当な改正を加えた次第であります。以上がこの法律案の提案理由であります。何とぞ愼重御審議の上、速かに可決せられんことをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/12
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013・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) 次に少年のを改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/13
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014・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 只今上程になりました少年法を改正する法律案の提案理由について御説明申上げます。
最近少年の犯罪が激増し、且つその質がますます悪化しつつあることは、すでに御承知のことと存じます。これは主として戰時中における教育の不十分と戰後の社会的混乱によるものでありますが、新日本の建設に寄與すべき少年の重要性に鑑みて、これは單なる一時的現象として看過することは許されないのでありまして、この際少年に対する刑事政策的見地から、構想を新たにして、少年法の全面的改正を企て、以て少年の健全な育成を期しなければならないのであります。
今回の改正の重要性は、第一に、少年に対する保護処分は裁判所がこれを行うようにしたこと、第二に、少年の年齢を二十歳に引上げたこと、第三に、少年に対して保護処分を科するか、刑事処分を科するかを裁判所自身が判断するようにしたこと、第四に、兒童福祉法とに関連に留意したこと、第五に、保護処分の内容を整備したこと、第六に、抗告を認めたこと、第七に、少年の福祉を害する成人の刑事事件に対する裁判権について特別の措置を認めたこと、等であります。以下順次御説明申上げます。
第一は、家庭裁判所の設置章あります。新憲法の下においては、その人権尊重の精神と裁判所の特殊な地位に鑑み、自由を拘束するような強制的処分は原則として、裁判所でなくてはこれを行うことができないものと解されますので、從つて行政官廳たる少年審判所が矯正院送致その他の強制的な処分を行うことは、憲法の精神に適合しないものと言わなければなりません。從つて、少年審判所を裁判所に改め、これを最高裁判所を頂点とする裁判所組織の中に組み入れるのは当然のことでありまして、このことは法務廳設置法制定の際、政府の方針としてすでに確定していたところであります。尚当時は少年裁判所の設置を予定していたのでありますが、その後種々研究をし、又関係方面の意向をも参酌しつつ、これを現在の家事審判所と併せて家庭裁判所とすることにいたしたので、あります。これは少年の犯罪、不良化が家庭的原因に由來すること多く、少年事件と家事事件との間に密接な関連が存することを考慮したためであります。そうして、この家庭裁判所は地方裁判所と同一レベルにある独立の下級裁判所ということになつているのでありますが、この裁判所の組織の関する点は、裁判所法の中に規定されるところがありますから、詳しいことは、裁判所法の改正法律を提案する際に御説明申上げることにいたします。
第二は年齢引上の点であります。最近における犯罪の傾向を見ますと、二十歳ぐらいまでの者に特に増加と惡質化が顯著でありまして、この程度の年齢の者は、末だ心身の発育が十分でなく環境その他外部的條件の影響を受け易いことを示しているのでありますが、このことは、彼等の犯罪が深い惡性に根ざしたものではなく、從つてこれに対して刑罰を科するよりは、むしろ保護処分によつてその教化を図る方が適切である場合の極めて多いことを意味しているわけであります。政府はかかる点を考慮し、この際思い切つて少年の年齢を二十歳に引上げたのでありますが、この改正は極めて重要にして、且つ適切な措置であると存じます。尚少年の年令を二十歳にまで引上げるとなると少年の事件が非常に増加する結果となりますので、裁判官の充員や、少年観護所の増設等、人的、物的、機構の整備するまで一年間即ち來年一ぱいは從來通り十八歳を少年年齢とするような暫定的措置が講じてあります。
第三は、保護処分と刑事処分との関係であります。現行少年法においては、原則として檢察官が刑事処分を不必要として起訴猶予した者を少年審判所に廻して、これに保護処分を加えておるのでありますが、今回の改正においては、少年犯罪の特殊性に鑑み、この関係を全然顧倒し、一切の少年の犯罪事件が警察又は檢察廳から家庭裁判所に來て、家庭裁判所が訴追を必要と認めるときは、これを檢察官に送致するようになつているのであります。而もこの檢察官への送致は、十六歳末満の少年については絶対に認められません。そうして送致を受けた檢察官は、送致された事件について犯罪の嫌疑があれば、原則としてこれを起訴しなければならないのであります。尚事件が家庭裁判所に送致されるまでの過程において檢察官の手を経るか、それとも警察から直接に送致されるかは、大体においてそれが禁錮以上の刑にあたる罪の事件であるかどうかによるのであります。この点は、今回の改正中最も重要なものの一つでありまして、少年に対する刑事政策上、正に画期的な立法と申すべきであります。
第四は、兒童福祉法との関係であります。昨年兒童福祉法が制定公布され、これが今年の四月一日から全面的に施行されることになりました。この法律は兒童の福祉に関する基本的法律でありますが、この法律で行う福祉の措置は犯罪少年と虞犯少年には及ばず、又それが行政機関によつて行われれ結果、強制力を用いることができないのは当然でありますから、これらの点については、家庭裁判所が関與し、少年保護の各機関が相互に協力しつつ少年の福祉を図り、その健全な育成を期そうというわけであります。今回の改正ではこの点についていろいろと意を用いているのであります。
第五は、保護処分の内容であります。從來少年審判所は或る程度において保護処分の執行に関與したのでありますが、これが裁判所となつた以上、むしろ決定機関として留まるべきであり、執行の面に関與するのは適当でないとの見地から、今回の改正においては、決定と執行とを分離し、一度裁判所が保護処分の決定をしたら、その代り決定に愼重を期するため、從來軽い処分として規定されたものを、多少内容を修正して決定前の措置に切替えたのであります。更に前述の兒童福祉法との関係がこの保護処分の内容としても考慮されており、又いわゆる環境の調整に関する措置も講ぜられております。尚この保護処分の中に地方少年保護委員会に補導を委託するというのがありますが、これは別に提出する予定になつております法律の中に出て來る委員会のことでありまして、少年法との関係においては、委託を受けた少年について主として観察を司るのであります。
第六は上訴の制度であります。現行の少年法は保護処分に対しては、本來の不服申立の方法がありますが、今回は人権尊重の趣旨に則り、特に高等裁判所に対して抗告を認めたのであります。その抗告の理由は、決定に影響を及ぼすべき法令の違反、事実の重大な誤認及び処分の著しい不当の三つに限られておるのでありますが、これは改正刑事訴訟法案における控訴の理由と睨み合せて規定したものであります。そうして高等裁判所においては、單に原決定の当否を審査するだけで、自ら保護処分の決定を行わず、原決定を不当と認めるときは、事件を原裁判所に差戻し、又は他の家庭裁判所に移送するわけであります。又違憲問題等を理由として、最高裁判所に再抗告をする道も開かれております。
第七は少年の福祉を害するような成人の刑事事件を家庭裁判所が取扱うことであります。少年不良化への背後には、成人の無理解や、不当な処遇が潜んでおることが極めて多いのでありますが、このような成人の行爲が犯罪を構成する場合には、その刑事事件は、少年事件のエキスパートであり、又少年に理解のある家庭裁判所がこれを取扱うのが適当である。又かかる成人の事件は、少年事件の取調によつて発覚することが多く、証拠関係も、大体において共通でありますから、この点から申しましても、この種の事件は家庭裁判所がこれを取扱うのが便利なのであります。尚家庭裁判所は、これらの成人に対して、禁錮以上の刑を科することができず、禁錮以上の刑を科すべきときは、これを地方裁判所に移送するわけでありますが、これは本來少年事件を取扱うべき家庭裁判所が、成人に対して余り重い刑を科することは適当でないとの趣旨によるものであります。以上は改正の要点でありますが、尚この外にも例えば十八歳末満で罪を犯した少年に対しては、絶対に死刑を科さないとか、その他重要な改正が少くないのであります。この法律案は量的には必ずしも大法典とは申せないのでありますが、少年不良化の問題が刻下の切実な関心事となつております今日、この問題解決のため、必要な幾多の根本的改正を含んでおる点において、質的には極めて重要な法律であると申さねばなりません。何とぞ愼重御審議の上、速かに可決せられんことを希望いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/14
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015・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) この質疑は後廻しにいたしまして、次に少年院法案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/15
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016・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 少年院法案の提案理由について御説明申上げます。先に申述べました理由によりまして、この度裁判所法と少年法を改正いたすのでありますが、少年に対して矯正教育を授ける收容設備は、これに伴つて改善されなければ、少年の保護は完璧を期することができないのであります。そこで少年に対し、收容施設における矯正教育を徹底され、且つ日本國憲法の要請する基本的人権の保障を完うするため、新らしい構想の下に收容施設即ち少年院を設け、更に少年裁判所の審判前の少年、即ち未決の少年を收容する施設、即ち観護所を矯正施設から分離独立させるため、少年院法を作ることになつたのであります。この法案によつて設けられる少年院は、家庭裁判所から保護処分として送致された者を收容し、これに矯正教育を授ける施設、即ち矯正施設でありますが、この少年院は從來の矯正施設たる矯正院に比べまして、矯正教育の徹底と基本的人権の保障において格段の進歩を遂げておるのであります。先ず少年院における保護收容の弊害を避けると共に、矯正教育を便宜にするために、少年院を初等少年院、中等少年院、特別少年院及び医療少年院の四種に分つたのであります。初等少年院は心身に著しい故障のない、概ね十四歳以上十六歳未満の者を收容するのであります。心身の発達より來る生理上の差異の第一段階を概ね十六歳で区切つたのであります。中等少年院は十六歳以上二十歳未満の者を收容するのであります。心身の発達より來る生理上の差異の第二段階を概ね二十歳で区切つたのであります。特別少年院は心身に著しい故障がないが、犯罪的傾向の進んだ者を收容するのであります。即ち心身に著しい故障はなくても、年齢が概ね十八歳以上で、犯罪的傾向の進んだ者を他の者と同一施設内に置くことは弊害が多く、又かかる者は矯正教育上特殊な方法を用いなければその目的を達することができないので、ここに特別少年院を設けて、彼等に矯正教育を授けることにしたのであります。医療矯正院は心身に著しい故障のある概ね十四歳以上二十歳未満の者を收容するのであります。心身に著しい故障のある者は、特に設けた施設で特殊の矯正教育を授けなければ矯正の目的を達することができないので、医療少年院を設け、そこで特殊な矯正教育を授けることにしたのであります。
以上のごとく少年院を四種に分つて矯正教育を授け易くしたのでありますが、矯正教育は少年をして社会生活に適應させることを目的とするものでありまして、一面には自覚に愬えて、他面には規律のある生活の下に智的教育、職業輔導訓練、即ち徳育と体育と医療を授けるのであります。そうして智的教育について申しますれば、在院者の年齢、智能程度等を参酌して、第四條各号に揚げる教科を授けることにして、義務教育の年齢にある在院者には必ず義務教育を授け、義務教育年齢を超えた者でも、中途退学者等には必ず義務教育を授け、その他の者には必要な程度に應じて更に進んだ教育を授けるのであります。少年院における矯正教育の一部は、学校教育法における教育と同一のものでありますから、常に文部大臣と密接に連絡を保つ必要があり且つその監督に從つて教育の進歩を図る。少年院の長は前述の教科を修了した者に対して証明書を発行するのでありますが、この証明書は、学校教育法によつて設置された各学校と対應する教科課程について、各学校の長が授與する卒業証書、その他の証書と同一の効力を有せしめて、学校教育法による各学校の卒業者と同一の資格を有せしめ、又轉校を可能ならしめて、少年院における教育と一般社会の教育との間に自由な交流を認めたのであります。
次に少年院に累進処遇の原則を採入れたのであります。即ち入院の当初には本人を專ら悔悟反省させるの方法を用い、漸次に処遇を向上して、社会生活に近ずかせるのでありますが、特に成績の不良に者については、その段階を低下させる手段も並行させて、本人をその自覚に愬えて発奮努力させ、成るべく早く矯正の目的を達しようとしたのであります。更に收容者の年齢の限度を一應二十歳と定め、原則として二十歳で退院させ、少年院の長が在院者の心身に著しい故障があり、又は犯罪的傾向がまだ矯正されていないため、退院させるに不適当であると認めるときは、少年を送致した裁判所に対して收容の継続を申請し、裁判所が收容継続の決定をした場合にのみ継続して收容することができるようにしたのであります。その場合に決定の期間は二十三歳を超えることができないのでありますが、特に在院者の精神に著しい故障がある場合に限つて、二十六歳まで收容することができることにいたしました。葢し人権に関わることでありますから、裁判所の愼重な手続を経るのが妥当であり、年齢その他の條件についても適当な制限を設ける必要があると認められたからであります。尚家庭裁判所の審判決定前の少年は、これを警察の留置所、矯正院の出張所、又は拘置監等に收容して置くことは弊害が多いので、この弊害を防止するため、独立した少年観護所を設け、更に医学、心理学、教育学、社会学その他の專門的知識に基いて少年の資質の鑑別を行う少年鑑別所を設置して、少年の科学的分類と矯正教育の基礎の確立を図つたのであります。
以上が今回の法案の改正の要点でありますが、この改革の精神を十分に実務に反映して少年保護の完璧を期したいと思うのであります。何とぞ愼重御審議の上、速かに御可決あらんことを希望いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/16
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017・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) この法案の質疑は後にいたしまして、次に賣春等処罰法案の提案理由の説明をお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/17
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018・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 只今上程になりました賣春等処罰法案の提案理由を御説明申上げます。
戰後におきます社会不安、道義の頽廃等の影響を受けまして、いわゆる賣春行爲が著しく増加して参つたことは、すでに御承知の通りと存じます。この種行爲は、健全な性道徳を破壊し、善良な風俗を紊乱するばかりでなく、恐るべき性病を蔓延せしめる基となるものでありますから、いわば反文明的行爲として、その絶滅を期さなければならないと考えるものであります。のみならず一九四六年一月二十一日附連合國最高司令官の日本における公娼廃止に関する覚書によりまして、表面上は一應公娼その他契約に束縛される私娼の制度は廃止を見たのでありますが、事実においては依然形を変えて娼家及びこれに隷属する私娼と認められるものが、尚跡を絶つに至らない実情にあるのであります。かかる存在は、一面、身体及び意思の自由の拘束されて、日夜醜業に從事するのを余儀なくされる女性があり、他面かかる白色奴隷ともいうべき女性に寄生し、その肉体的苦業によつて利を図る業者があることを意味するに外ならないのでありまして、これは啻に右の覚え書の趣旨に背反するばかりでなく、新憲法が基本的人権を確立し、個人の自由と尊嚴とを宣言し、その奴隷的拘束を排除しておる趣旨に全く相反するものであります。我が國は民主主義國家として、鋭意その再建に努力を拂いつつありまするとき、他面において未だかかり封建的な暗黒面の存在を許すことは、根本的に矛盾するばかりでなく、民主主義的先進國と肩を並べて國際場裡に地位を復活しようとする失先におきまして、大いなる障碍となるものと申さなければなりません。而してその対策といたしましては、もとより國民一般の民主主義的自覚と、道徳的及び衛生的観念の向上に待たなければならない点も多々あるのでありまするが、同時に賣春行爲及びこれを助長し、慫慂し、又はこれに寄生する諸行爲を処罰すべき法令を整備強化することによつて、法的措置を確立する必要も痛感される次第であります。從來の立法措置といたしましては、警察犯処罰令、昭和二十二年勅令第九号婦女に賣淫をさせた者等の処罰に関する勅令、花柳病予防法、同特例、刑法及び兒童福祉法等の諸法令が存在し又は存在したのでありまするが、これらのものは、未だ十分その法的措置を講じ得たとは申し難く、殊に賣春、その周旋及びその場所の提供等を処罰する警察犯処罰令は、本年五月二日廃止せられ、又花柳病予防法等も全面的に改正される運びとなつておりまするので、この際新たな見地に立つて、警察犯処罰令の関係規定及び婦女に賣淫をさせた者等の処罰に関する勅令を統合且つ整備し、その罰則も他の関係法令と権衡を保ちつつ、必要に應じて強化することとして、この法律の立案を行なつた次第であります。
以下規定の要点につきまして説明いたしますと、第一に賣春及び賣春の場所の提供その他賣春の周旋をした者に対する刑の引上であります、これらの拘置に止つておつたのでありまするが、かかる軽微な刑を以てしては、殆んど取締の実効を見ることが至難であつた実情を鑑みまして、その刑を六月以下の懲役若しくは五千円以下の罰金又は拘置若しくは科料とし、且つその常習者に対しては、更に加重して、二年以下の懲役又は一万円以下の罰金を以て臨むことといたしたいのであります。
第二に、賣春の相手方となつた者も、賣春者と同樣に処罰することといたしたのであります。從來のように、賣春者のみを罰し、その相手方を処罰しない建前は、公平の観念に反するばかりでなく、予防的効果も薄弱となりますので、特にかかる規定を設けることといたしたのであります。
第三に、人を欺き又は人を困惑させて賣春をさせた者及び親族、業務、雇傭その他の特殊関係を利用して賣春をさせた者につきまして、それぞれ罰則を設け、前者は二年以下の懲役又は一万円以下の罰金、後者は三年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処することとし、且つ後者の関係を利用して賣春の報酬の全部又は一部を收受したときは更に加重しまして、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処することといたしたのであります。これは若し脅迫又は暴行により賣春をさせた場合には、刑法の強要罪に当るのでありますが、か弱き女性をしてかかる醜行に陷らしめないように、これを保護するためには、それ以外の不法な手段を用いて賣春をさせた者に対しましても処罰規定を設けることが必要と思われますので、右のごとく予想せられる各種の不法手段の態樣と、これに應じ適当の罰則を規定することとし、就中右の特殊関係を利用して賣春の報酬を收受する行爲は最も悪質と認めて、特に重刑を以て臨むことといたしたのであります。尚、現存の婦女に賣淫をさせた者等の処罰に関する勅令におきましても、婦女を困惑させて賣淫をさせる行爲に対し罰則が設けられていることを申添えておきます。
第四に、他人を娼婦とすることを直接又は間接の内容とする契約の申込、又は承諾をした者、及び娼家を経営し若しくは管理した者につきまして、それぞれ処罰規定を設け、前者は三年以下の懲役又は二万円以下の罰金、後者は五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処することとしたのであります。ここに言う娼婦及び娼家の定義につきましては、第一條に定められているところでありますが、かくのごとく他人を娼婦としようとする行爲及び娼家を経営又は管理する行爲は、前述の通り新憲法の精神及び連合國最高司令官の覚書の趣旨に反するものであり、特に峻嚴なる態度を以て臨む必要があると考えまして、かかる重刑を規定したのであります。
尚以上の罰則には、原則として情状により懲役及び罰金を併料し得ることとしまして、実情に即した科刑を行い得るよう措置いたしたのであります。
以上立法の趣旨及び規定の要点を説明いたしたのでありますが、どうか愼重御審議の上速かに可決せられんことを希望いたす次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/18
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019・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) それではこの法案に対する御質問がありましたら、伺います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/19
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020・來馬琢道
○來馬琢道君 私は曾て未成年禁酒禁煙の法律についていろいろ研究いたしたことがあります。当時法律を作ることはいいけれども、これを取締ることが困難で、日本の國法律がありながらそれが國民によつて守れられないということは甚だ遺憾であるというので、大分反対した人もありました。軍隊に入りましたいわゆる兵隊さんをどうか清く生活さして、成長さしたい。大学程度の学生も純潔を守らしたいという考えで、只今も國会に提案されております青少年禁酒法案なるものについても、相当工夫いたしておるものでありますが、これに対しましてはますます法律を作つてもこれを守らせることが困難であるという非難が諸方に起つております。この法案を通過させることが種々なる障害があるということを承つております。この賣春等処罰法案は実によい法律でありまして、今更このような法律を我が國が作らなければならないということになりましたことは、常に我々が道義の國日本とか一等國民とか言つております体面から、むしろ慚愧に堪えないような感があるのでありますが、この法案のことを新聞紙上等で見た人が直ちに私共に向つて申しましたことは、このようにして既に堕落した婦女を、これはいたし方がないものとして、社会の暗い方面に置いておけば、暗い方面の男子も亦これによつてやや満足することができる。すべての婦女に対してこのような法律を以て臨むならば、我が國の良家の子女が或ひは凌辱を受ける機会が多くなるのではないか。それから尚一つは、隠れたる賣淫行爲が行われて、娼家というもので今まで行われておつたことを各家庭において行うというような、実に予想すべからざる弊害を伴うものではないかというようなことを申しております。この点に私共も甚だ残念ながら心配しているところでありますが、この法案は單に司法委員という立場からのみ考えてよいものでありますか。社会政策という方面からも考慮すべきものではないか。只今提案の理由を聽いてその理論に満腔の賛意を表すると同時に、先程申しました少年禁酒法、少年禁煙法に類するような法律があつて、これを行われないという事象が至るところに起りましては、我々は却つて國民の不幸を増すものではないかと憂うるものであります。曾て衆議院を通過した貸座敷を取締る法律案が世の中に現れたことがありまして、これには矯風的事業に從事しておる者は、唖然として、かような法律を衆議院が提出するということは國辱という議論もいたしたことでありまして、私共もそういう法律を制定することに対しては反対でありますが、只今私の述べました点について提案の準備の間において、相当の御研究があつたのかどうか、その点を一應承知いたしておきたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/20
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021・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) お答えいたします。只今御質問になりましたことは非常に重大なことでありまして、実はこの法案を立案いたし、提案いたします際におきまして、さような点について政府といたしましては十分に愼重考慮をいたしました次第であります。いろいろ法規が出ましても、その法律が励行されなくて、單なる法規だけに終るということであつては相済まないのでありまして、本法も全くこの法規の励行ができなければ全然かような法規を出しましても意味がないということもいたし方ないのでありまするが、少くも前には警察犯処罰令におきまして賣淫行爲を処罰しておりました。これは相当に警察犯処罰令は行われておつたと思うのであります。併しながら賣淫行爲自体を絶滅いたすことは不可能でありまして、本法におきましても賣淫行爲を絶対に絶滅させるということは事実上の問題でありまするけれども、全然なくするということは私共実際申しまして自信はないのでございます。ただ只今非常に御心配になりましたところの、かような嚴格なる賣春等に関しまするところの法律案を出しますると、良家の子女を凌辱するような行爲が多く起るのではないか、或いは又普通の家におきましての賣淫行爲が多く行われるのではないかという点でございますが、私は提案理由で御説明申上げましたように、やはり國といたしまして、又民族といたしまして、人類といたしましての一つの理想というものがございまして、この理想をやはり國家といたしましては明らかにいたしておくことが必要であろうと思うのであります。この理想に向つて、これは法律ばかりでなく、この法に從う者、或いは法律を施行する者、すべてが協一致してこの態勢に向つて行く、日本の國といたしましては、この法律が出來たために良家の子女を凌辱するその行爲が非常に多くなるということは、かようなことは実は私は少くとも考えていないのであります。この点につきましてはいろいろ議論はありまするけれども、私共の檢討いたしました限りにおきましてはさような点についての心配は余りない、ただ併し或る一定の場所に集つての賣淫の形態というものがこの法律によつて許されませんので、或いは一般の散らばつた普通の家におきまして賣淫行爲が多く行われるのではないか、こういう御懸念に対しましては、この点につきましては、これは賣淫と賣春の行爲は実は隠微の間に行うものでありまして、これにつきましては十分に取締をしない以上、これが或る程度に、数を以て挙げることはできませんけれども、現状より殖える虞れがあるかないかという点につきましては、ないとも申上げられませんし、あるとも私ははつきり申上げることができないと考えておるのであります。併しながら私といたしましては、この法律案の理想といることは、これは極力國民を挙げまして私共一体となつて実現して行こうという方向に向けて行く必要上、この法律を出す必要があると考えて提出いたした次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/21
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022・中村正雄
○中村正雄君 只今來馬委員から質問された点とほぼ以ておるわけなんですが、本法が通過しましたら、いわゆる賣春行爲自体は全部あらゆる方面に亙つて禁止せられておるわけなんですが、ただ問題は、この法律が通過した場合に、この法の趣旨に從つて徹底的に取締れるかどうかという問題が最も大きな問題であろうと思います。でなければ、若しも本法が通過して賣春行爲が全部禁止されたにも拘わらず、これの徹底が期せられなければ、いわゆる法の権威自体を失墜さすということになるからでありますが、ただ実際問題について御質問いたしますと、現在いわゆる営業の公認されておる娼家が東京都内にも相当あり、これが全部駄目になるわけでありますが、若しもこれが八月一日から実施された場合に、賣淫行爲自体を絶滅させることは、これは人類の歴史からいつても不可能だろうと思いますが、表に現われておるこれ自体でも、どういう計画によつて直ちにこれを排除するかという点について、何か具体的な考えがありましたらお聽きしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/22
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023・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) その点については非常にむずかしい問題がありますが、これは実はその方を主管しております厚生省、警察関係、この方面と、この法案の立案当時からいろいろの協議をしておるのであります。いずれその具体的な案につきましては詳細御説明申上げる機会があると思いますが、今のところ、はつきり申上げるものを持つておりません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/23
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024・中村正雄
○中村正雄君 只今の政府委員の御説明で了解いたしますが、できれば本法が審議を終るまでに、やはり実施の計画を立てて頂いて、本委員会で御説明願いたいということを希望いたしておきます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/24
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025・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 承知いたしました。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/25
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026・前之園喜一郎
○前之園喜一郎君 この法律案に対して各方面から相当に根強い反対運動が行われておるように聽いておるのでありますが、政府に対してもそういう反対運動がありますならば、反対しておるところの理由並びにその反対理由に対する政府の御見解を承わつておきたいのであります。
それから第一條に「不特定の相手方」とあります。この不特定というのが非常に漠然としております。例えば一定の人、住所氏名も分つておる人を相手にする場合、或いはグループだけを相手にする賣春行爲というような場合にはどうなるのでありますか、もう少しこの不特定という意義をはつきりさせておく必要があるのではないかと考ております。その点の御説明を願いたいと思います。
次は第二條の第二項と第三條の関係でありますが、第二條の第二項によりますと、常習として賣春をする者だけが主に処罰されるようになつておりますが、第三條は、賣春の相手方となつた者は、第一項の例によるいわゆる相手方となつた者が常習的にやる場合には、これを放任するというように見えております。大体賣る者があるから買うのか、買う者があるから賣るのかということは甚だむずかしいことでありましようが、私共は刑法の姦通罪などに対しても常に男の貞操を縛れということを多年論じて來た。單に賣春をする者の常習だけを嚴罰に処しても相手方を寛大な処分にするということは、これは法の建前からいつてもどうか、又効果の上からいつても相当に考えるべきことではないかと思うのでありますが、この点について御説明を願いたいと思います。次は第四條であります。この四條に「困惑させ」とありますが、これも非常に明瞭を欠くのでありますが、この御説明並びに暴行、脅迫等による場合はお考えになつていないのか、そういう場合はどうなるのか、もつと大きな問題はこの婦女の、いわゆる娼婦といいますか、これを抱えるのはどういう制度になつておるか分らないが、実際においては、やはり経営しておる者が、前借等を出して抱えておるのが相当にあるのじやないかということを私は考えるのであります。つまりその仲介をした者、いわゆる桂庵とか、仲介業とかいうものに対する制裁規定はないようでありますが、これは非常に大事なことだと思います。むしろ根本的のものだと思いますが、これをお取上げにならなかつた点についてお伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/26
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027・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) 本法案につきまして、いろいろの反対があるということを耳にいたしておりますが、私共直接この反対の陳情を受けましたのは、九州方面から一回受けたのであります。その主要なる理由は、本法案の趣旨には反対ではない。併しこの賣春行為というものは、どうしても止められない人間の要求である。從つてこれをどういうふうに一番弊害が少く許容し得るかということを考えて見たらどうか。やはり今日のような集娼制度にしておいて、そうしてそれを國家的に統制して行くことが一番よいじやないか。その意味において、この法案は逆行するものである。こういう点の反対陳情を受けたのでありますが、これも一應の議論でありまして、古くから私娼制度と公娼制度の論爭の中心になつておるのでありまして、議論としては相当もう出盡したものと思つております。ただ如何なる立場に立つてこの法律を出すかという問題でありまして、本法案は先程申上げましたように、全く人類の理想、民主主義國家におきますところの理想という観点から立つておるのでありまして、從いまして反対の理由といたしまする実利的な問題につきまして、この間においては、どうも融合する点がない、こういうふうに考えまして、その説明だけを申上げて置いたような次第であります。併しそういう理由につきましては、十分私共の方もこの方面の行政を担当しております厚生省、その他と十分な協議を逐げるつもりでおります。その他の点につきましては、まだ直接には聞いておりませんが、或いはこの行政を担当しております主管省に対しましては相當行つておるかと思います。それは後程連絡いたしまして十分御話いたしたいと思います。
それから第一條につきましては「不特定」というのは、五、六人の者を相手にするのはどうかという御質問でありましたが、この場合、私共は、やはり不特定と解しております。例を挙げて申しますれば、例えば妾を置くという場合は、社会上不道徳でありますけれども、これは特定しておりますので、賣淫に入らないというように解釈しております。
それから第二條の二項の「常習として賣春をしたものは」とありますが、これは主として女を主体と考えております。婦女が賣淫を常習として場合に刑を加重して行くのであります。
第三條の「相手方となつた者」というのは、これは男子を大体予想いたしております。この場合に男子が常習として淫賣を買うというのと同樣に見たらどうかという御議論でありましたが、そこまで相手方の男を罰する、そこまで行く必要はなかろうというふうに考えましたのであります。第二條の第一項と同じでいいということにいたしたのであります。
それから第四條の「困惑」でありますが、これは暴行、脅迫の程度に至らないで相手方を困惑させるのをいうのでありまして、暴行、脅迫の程度になつてくると強姦の刑法の罪に触れることと考えております。
それから、いわゆる娼婦を斡旋するようなものでありますが、これに対する取締規定がないというような御指摘でございましたが、第六條の賣春の周旋をする場合がその一つに当ると思います。それから更に第七條の他人を娼婦とすることを直接又は間接の内容とする契約の申込み又は承諾、この場合におきまして、その間接の内容とは、契約におきまして、娼婦を周旋するものが、契約の当事者になる場合が考えられるのであります。この両條によりまして、この取締ができ得ると考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/27
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028・前之園喜一郎
○前之園喜一郎君 第一條の「不特定の相手方」という点について重ねて御質問いたしますが、只今妾のごときものはこれに入らないというお話でありましたが、妾と雖も、一人を相手にしておる者もあるし、中には数人、日を決めてやるというようなのもあるというようなことを我々聞いております。こういうようなものは結局月決めであるとか、一回幾らとかいう報酬を取つてやつておるということを私はしばしば聞くのでありますが、そういうものは別にいたしましても、やはり妾のごときものは、日本の道徳に反する最も悪いものである。我々の家庭を破壊し、道義を紊すもので、徹底的に取締る必要があるのじやないか、こういうふうに解釈してやることがよいのじやないかと私は思うのであります。二、三人の妾になつておるという場合は、やはり一人の者の妾になつておると同様にお考えになるかどうか。又今私が申上げたように、この賣春というものをそこまで拡げて考えることが妥当であるというお氣持になれないか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/28
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029・國宗榮
○政府委員(國宗榮君) それは或いは三人、四人を相手にいたします。そうして妾といつておるのでありますが、その場合におきましては、これは第一條の「不特定の相手方」と性交する、こういう概念に入ると思います。從つてそういう場合において、やはり賣春行爲である。こういうふうに考えなければならんと思つております。ただ一人だけを囲いまして、そうしてただ一人の男子と大体夫婦関係同様の関係を結んでおるという点につきましては、道徳上面白くないのでありますけれども、賣春法の法律の一つの目的は、婦女の奴隷的な面と、もう一つは衛生的な面、こういうふうな点におきまして、多少一人だけの妾を囲つておるというのは、この法律の対象にするのには廣すぎるのではないかと、かように考えまして、その点賣春にはならないと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/29
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030・鈴木安孝
○理事(鈴木安孝君) 質疑はこの程度に止めまして、次に民事訴訟法の一部を改正する法律案の審議に入ります。
〔理事鈴木安孝君退席、理事岡部常君委員長席に著く〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/30
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031・鈴木安孝
○鈴木安孝君 本案は先に小委員会に付託されまして、私共小委員として愼重審議をいたしました。大体政府の提案につきましては賛成をいたすのでありまするが、只今お手許に差上げてありまする通り、一部の修正をいたしたいと思うのであります。
それは第二百六十九條の改正規定を次のように改めるのであります。第二百六十九條中「五百円」とありまするのを「五千円」にめ改る。
第二百七十七條を次のように改める、「第二百七十七條 証人カ正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ之ニ因リテ生シタル訴訟費用ノ負担ヲ命シ且五千円以下ノ過料ニ処ス此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ爲スコトヲ得
次に第二百七十七條の二の中に「拘留又は科料」とあるのを「五千円以下ノ罰金又ハ拘留」に改め、同條に次の一項を加えるのであります。「前項ノ罪ヲ犯シタル者ニハ情状ニ因リ罰金及拘留ヲ併科スルコトヲ得」
第二百八十四條を次のように改めます。「証言拒絶ヲ理由ナシトスル裁判確定シタル後証人カ故ナク証言ヲ拒ムトキハ第二百七十七條及第二百七十七條ノ二ノ規定ヲ準用ス」
第二百九十三條中「第二百八十二條乃至第二百八十四條」を「第二百七十七條、第二百七十七條ノ二、第二百八十二條及第二百八十三條」に改めるのであります。
第三百十八條、第三百二十八條第二項及び第三百三十一條第一項の改正規定を次のように改めるのであります。第三百十八條、第三百二十八條第二項及び第三百三十一條第二項中「五千円」を「五千円」に改める。
第三百三十五條第二項の改正規定を次のように改めるのであります。第三百三十五條第二項中「五百円」を「五千円」に改める。
第三百三十九條第一項の改正規定を次のように改めます。第三百三十九條第一項中「五百円」を「五千円」に改めます。
次に附則第一條を次のように改めるのであります。「第一條 この法律中、附則第八條以外の規定は、昭和二十四年一月一日から、附則第八條の規定は、昭和二十三年七月十五日から、これを施行する。」附則に次の一條を加えます。
第八條 昭和二十二年法律第七十五号の一部を次のように改正する。
第八條を削る。
附則第二項中「昭和二十三年七月十五日」を「昭和二十四年一月一日」に改める。
こういう修正案を提出いたします。その理由は、附則以外の分につきまして罰則の関係でございますが、今回提案になつておりまする刑事訴訟法の規定と照し合せまして、これを罰則を強化いたしまして、そうして同じ事柄でありまするからして、罰則を吊合いをとりまして、刑事訴訟法の罰則と同様にしたというのが修正の理由であります。又附則におきまして、本年の七月十五日からこの改正規定を施行することになつておりまするのを、二十四年一月一日から施行することに改めるのでありまするが、これは小委員会におきまして裁判所からの御意見も伺いまして、又弁護士会等の意見も参酌いたしますると、この改正案を今年の七月十五日から施行することについては相当の悩みがある。いわゆる裁判所において著々この改正案の施行については考慮しておるけれども、裁判所の判事の欠員の多いこと、裁判所書記の訓練の足りないことというようなことが支障になつて、なかなかこの訴訟法の改正案を実施して行くには困難であるというような事情を委員会におきましても諒といたしまして、小委員会一致の考えでこの案を提出することにいたしたのであります。
尚附則に第八條を削除すると入れる規定は、これは同條の行政事件関係の部分についてはこれを適用しないような意味で第八條を削つた次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/31
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032・前之園喜一郎
○前之園喜一郎君 鈴木委員長の修正意見に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/32
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033・鬼丸義齊
○鬼丸義齊君 ちよつと私は只今の説明で了解し難い点であると思いまするのは、この間の修正案というのは、現に提案しておりまする民事訴訟法の一部を改正する法律案に対する修正案として、この修正案をこの程度修正をして、その他はすべて提案中の民事訴訟法中、改正法律案を承認するということになるわけですか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/33
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034・鈴木安孝
○鈴木安孝君 さようであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/34
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035・岡部常
○理事(岡部常君) 政府委員に念のために伺いますが、この改正によりまして費用の点はどうなるのでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/35
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036・奧野健一
○政府委員(奧野健一君) これは一應は、これがために特に人員増加ということを只今考えておりません。と申しますのは、すでに只今小委員長からもお話がありましたように、すでに判事において三百名程度の定員の不足欠員がありますので、これを埋めること自体が相当問題でありますので、その上にこのままで欠員を増加するということはいろいろ問題がありますので、取敢えずは定員は増加しない、予算を伴わないことになつておりますが、これの実施の上で、又特に情勢の変化に基きまして、必要があれば予算の増額ということも考えることになろうかと思いますが、現在の程度においては、現在の定員で一應出発するという考えであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/36
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037・岡部常
○理事(岡部常君) 別に討論なさる御意思もございませんようですから、これで修正案を議題といたしまして、御賛成の方の御起立をお願いいたします。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/37
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038・岡部常
○理事(岡部常君) 全会一致と認めます。
修正案以外の点につきまして御賛成の方の御起立を願います。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/38
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039・岡部常
○理事(岡部常君) 全会一致と認めます。多数意見者の署名をお願いいたします。
〔多数意見者署名〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/39
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040・岡部常
○理事(岡部常君) 報告は委員長にお委せを願いたいと思います。
本日の議題に上つておりませんが、高等裁判所設置に関する請願を議題にいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/40
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041・前之園喜一郎
○前之園喜一郎君 公報に載つておりませんから、これを議題にされることは反対いたします。準備をして來ておりません。ただ、最高裁判所からお見えになつておられるので、それに関連してお話されることは異議ありません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/41
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042・岡部常
○理事(岡部常君) その範囲で一つ御質問ありましたら‥‥丁度良い機会ですから‥‥ちよつと速記を止めて‥‥
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/42
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043・岡部常
○理事(岡部常君) 速記を始めて‥‥。この程度で散会いたします。
午後零時三十一分散会
出席者は左の通り。
理事
鈴木 安孝君
岡部 常君
委員
大野 幸一君
中村 正雄君
大野木秀次郎君
遠山 丙市君
水久保甚作君
鬼丸 義齊君
前之園喜一郎君
宇都宮 登君
來馬 琢道君
松村眞一郎君
星野 芳樹君
政府委員
法 制 長 官 佐藤 達夫君
法務廳事務官
(法務廳調査意
見第一局長) 岡咲 恕一君
法務行政長官 佐藤 藤佐君
法務廳事務官
(法務廳檢務局
長) 國宗 榮君
訟 務 長 官 奧野 健一君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100214390X04719480625/43
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