1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十三年三月二十日(土曜日)
午後四時二十八分開議
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議事日程 第十七号
昭和二十三年三月二十日
午後一時開議
第一 参議院全國選出議員選挙管理委員の選挙
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/0
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001・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 報告をいたさせます。
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〔青木参事朗読〕
昨十九日衆議院から左の内閣提出案を受領した。
昭和二十二年度一般会計予算補正
(第十五号)
昭和二十二年度特別会計予算補正
(特第九号)
昭和二十二年度特別会計予算補正
(特第十号)
政府職員の俸給等に関する法律案
政府職員の俸給等の支給に関する措置等に伴う大藏省預金部外三特別会計に対する一般会計の繰入金に関する法律案
同日議長は、衆議院送付の左の内閣提出案を委員会に付託した。
昭和二十二年度一般会計予算補正
(第十五号)
昭和二十二年度特別会計予算補正
(特第九号)
昭和二十二年度特別会計予算補正
(特第十号) 予算委員会に付託
政府職員の俸給等に関する法律案
政府職員の俸給等の支給に関する措置等に伴う大藏省預金部外三特別会計に対する一般会計の繰入金に関する法律案
財務及び金融委員会に付託
同日議長は、左の予備審査のための内閣送付案を決算委員会に付託した。
中小企業廳設置法案
同日議員から左の質問主意書を提出した。
薬品の内容公示に関する質問主意書
(小川友三君提出)
薬局営業税廃止に関する質問主意書
(小川友三君提出)
茶増産に関する質問主意書(小川友三君提出)
國鉄輸送途中貨物抜取に関する質問主意書(油井賢太郎君提出)
同日左の質問主意書を内閣に轉送した。
魚類の統制廃止に関する質問主意書
(小川友三君提出)
國会職員病院に関する質問主意書
(小川友三君提出)
戰時補償特別税法改正に関する質問主意書(小川友三君提出)
同日内閣から左の答弁書を受領した。
参議院議員小川友三君提出國立病院に関する質問に対する答弁書
参議院議員小川友三君提出公務員地域別俸給加算に関する質問に対する答弁書
参議院議員小川友三君提出河川工事に関する質問に対する答弁書
参議院議員小川友三君提出小、中学校職員に関する質問に対する答弁書
参議院議員小川友三君提出政府印刷局ストに関する質問に対する答弁書
本日委員長から左の報告書を提出した。
昭和二十二年度一般会計予算補正
(第十五号)、昭和二十二年度特別会計予算補正(特第九号)、昭和二十二年度特別会計予算補正(特第十号)可決報告書
政府職員の俸給等に関する法律案可決報告書
政府職員の俸給等の支給に関する措置等に伴う大藏省預金部外三特別会計に対する一般会計の繰入金に関する法律案可決報告書
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國立病院に関する質問主意書
右の質問主意書を國会法第七十四條によつて提出する。
昭和二十三年二月五日
小川 友三
参議院議長松平恒雄殿
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國立病院に関する質問主意書
一、伊豆の某國立病院は不便なる地域の元海軍病院で病人が少なく病室もベッドも一箇年以來五〇%以上が空いておる、建物も空いて(くも)の巣である、建物も半分不充分である、この地は東海岸であと西海岸にこの半分を移轉すべき善政を致すべきであるが、現在西海岸より東海岸の国立病院まで病人を運ぶ列車もないとき、極めて不便なるこの奥伊豆地区は今日まで片山内閣の大臣で一人も視察した大臣がない程、この地は見すてられておる、衰亡する西海岸の病院に慈悲の愛すべき政策の実現を希望し政府の御所見を問う。
右質問に対し速かなる答弁を要求する。
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内閣参甲第二十九号
昭和二十三年三月十九日
内閣総理大臣 芦田 均
参議院議長松平恒雄殿
参議院議員小川友三君提出國立病院に関する質問に対し別紙答弁書を送付する。
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参議院議員小川友三君提出國立病院に関する質問に対する答弁書
伊豆の某國立病院とは國立療養所湊病院のことと思料されますが、右は元海軍病院であつたのを終戰とともに厚生省に引きつぎ國立病院として一般診療に当りましたが、立地條件及びその環境から見て、寧ろ療養所として結核疾患の長期療養施設とし、併せて地元の方々の一般診療を行うのが最も適した施策と考えましたので、現在は國立療養所として所内の整備を着々行つております。又、近く優秀な院長が赴任されますので、優れた環境のもと優秀な技術と権威ある治療とともに、最も信頼されるサナトリウムになるものと確信いたしております。
從つて、過渡的に一時は患者も少なかつた次期もあり所内の整備も不充分であつたと思いますが、今後は名実共に完備するこの良き環境の療養所に、西海岸といわず山間部といわずすぐれた治療を受けぢつくりと落ちついて療養に専念するために、続々多数の患者が入院を希望され全施設が十二分に活用されると信じます。
從つて、この施設を分離し地域的に分散して各機能を半減するよりも、大所高所に立つて現在のまま名実ともに充実し機能を十二分に発揮することが緊要のことと存じ、目下努力中であります。
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公務員地域別俸給加算に関する質問主意書右の質問主意書を國会法第七十四條によつて提出する。
昭和二十三年二月五日
小川 友三
参議院議長松平恒雄殿
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公務員地域別俸給加算に関する質問主意書
公務員の地域別俸給加算に修正すべき点が多い、例えば國鉄関係だけにても大都会が特甲地にて参割の加俸であり関東地域の市が甲地にて弐割の加俸である、之の関東地域の市と東京都で壱割の差があるが、物價は同一であるので甲地の人々は差別待遇に生活苦で苦しんでおる。関西にても中京地区にても然りであるから政府は特甲地としてこれ等大都市近くの市の公務員を待遇すべきであるが処見を問う。
又、乙地域の待遇の人々はこの甲地たる市区域外の町の人である、市と物價の差は全くないばかりか、かえつて町の方が商人が、一、二割の利益を得て物品を賣るので、物價は高いのに乙地域として壱割しか手当がないのは甲地域として待遇すべきであるが政府の公平なる処見と政策の変更を問う。
右質問に対し速かなる答弁を要求する。
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内閣参甲第二十五号
昭和二十三年三月十九日
内閣総理大臣 芦田 均
参議院議長松平恒雄殿参議院議員小川友三君提出公務員地域別俸給加算に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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参議院議員小川友三君提出公務員地域別俸給加算に関する答弁書
公務員地域別俸給加算につきましては、これが公務員にとりまして極めて重要な事柄でございますので、政府と致しましてはこれを官廳職員労働組合側と協議して処理致そうと昨年組合側に提案したのでございますが、本件の処理が極めて困難繁雑でございますため、組合側がこの提案を拒否致しましたので、巳むを得ず政府側におきましてこれを一方的に処理致し現在に至つております。
これ迄全國の市町村を特別甲、乙及丙のどの地域に指定するかは、当該市町村に居住する公務員の標準世帯の数ヶ月にわたる生計費、当該市町村の人口、戸数、人口密度、地目別面積、農家戸数、主食副食の配給状況自由物價、総理廳統計局の調査による全國二十八都市の生計費等等を考慮致し、関係各省協議の上決定しておるのでございますが、就中当該市町村の物價を重視すべきは当然でございます。然しながら各市町村における物價を把えること自身が極めて困難なのでございまして、同一地におきましても物の品質、その購入時期、購入場所、物價の調査方法、その他の事情により、調査に表れました物價は極めて区々で同一でございませず、現に同一地における各機関の物價調には著しい相違があるのでございます。從つて各地の物價を比較致しまして某市を高いと致し、某々市を低いと致しますことは、なかなか愼重を要するのでございまして、その調査、比較には十分の注意を沸い、その公正妥当な資料の募集に鋭意努力しておる次第でございます。
先般開かれました臨時給與委員会におきましては、本件の処理につきまして、各府縣に官廳職員労働組合を中心と致しまする地区区分委員会を、中央に地域委員会を設置することを決定して政府に答申しております。政府と致しましては、同委員会のこの答申に從いまして、かような委員会を近く設備しまして、今後は本件を、より民主的に、より合理的に処理致す所存でございます。
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河川工事に関する質問主意書右の質問主意書を國会法第七十四條によつて提出する。
昭和二十三年二月五日
小川 友三
参議院議長松平恒雄殿
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河川工事に関する質問主意書一、現在の農民は一年中一番時間的に暇の時である、夏季の大水害に具えて農民三千万人は政府に労務協力を叫んでおるが、このとき、河川工事を盛んにし夏季の水害防止に全力を傾注すべきであるが、政府は政争の最中にて誠に氣の毒であるが、御所見を問う。
右質問に対し速かなる答弁を要求する。
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内閣参甲第二十七号
昭和二十三年三月十九日
内閣総理大臣 芦田 均
参議院議長松平恒雄殿参議院議員小川友三君提出河川工事に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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参議院議員小川友三君提出河川工事に関する質問に対する答弁書
昨年七月及九月両度に亘り関東、東北両地方に來襲した颱風は各河川に大出水を來し、各地に甚大なる被害を惹起し建設途上の國民生活に更に不安を増加した事は洵に遺憾であります。
政府は此度の災害の特異性を充分調査研究致しまして、之が対策を樹立し重要河川については既定計画に再檢討を加え地方における学識経験者より成る治水調査会等の協力をも得て審議を進め積極的復旧の促進を図ると共に危殆に頻する脆弱なる河川の堤防増強工事を重点的に実施している次第であります。
河川工事の促進を図るには渇水時において農閉期の余剰労力を利用する事が最も大切な要件でありますので政府におきましても融雪出水期を目途に出來る限りの努力を致し既に相当の成果を挙げている次第であります。
然し乍ら河川工事は何分にも巨額の工費を要しますので今後におきましても國庫財政等の許します限り積極的に之が促進を図りたいと考えております。
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小、中学校職員に関する質問主意書右の質問主意書を國会法第七十四條によつて提出する。
昭和二十三年二月六日
小川 友三
参議院議長松平恒雄殿
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小、中学校職員に関する質問主意書一、本年四月一日迄に全國の小、中学校の教員が相当数辞職する風聞があるが政府は調査したか。五十%以上の小学校、中学校が相当ある。生活に足らない半額以下の俸給が主因しており今の二倍半程度の俸給が必要であるが、教員が辞職して教育上、非常に欠ける処が多く困ると信ずるが今直に解決すべき寛大なる俸給引上げ手段に出るべきであるが政府の処見を問う。
右質問に対し速かなる答弁を要求する。
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内閣参甲第二十六号
昭和二十三年三月十九日
内閣総理大臣 芦田 均
参議院議長松平恒雄殿参議院議員小川友三君提出小、中学校職員に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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参議院議員小川友三君提出小、中学校職員に関する質問に対する答弁書
教職員の給與は従来一般官公吏に比して著しく低位にあつたのであるが、一昨年七月に一廳官吏並の引上げが行われ、その後においても地方廳の努力によつて教職員の給與は大いに改善せられており、現在一八〇〇円ベースにおける地方教職員の一人当平均月額は政府の資格別、年齢別の給與基準から検討して見るとき一般官公吏に比して相当上廻つておるものと見られておる。しかし現在の給與水準そのものが官公吏一般の最低生活を補い得ない実情や教職員の貧弱な現物給與面等から考えて生活苦に基く教職離脱ということも予想しなければならぬので新給與水準の実施を急ぐとともに教職員に対する特殊手当の支給などその待遇改善に極力努力しておる次第である。
なお教職員の教職離脱の風聞については一般的傾向を把握することは困難であるが具体性のある風聞については局部的に実情の調査を関係都道府縣に依頼中である。
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政府印刷局ストに関する質問主意書右の質問主意書を國会法第七十四條によつて提出する。
昭和二十三年二月六日
小川 友三
参議院議長松平恒雄殿
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政府印刷局ストに関する質問主意書
文化の中心作業は印刷であり、又印刷部には人材が少ない様で事実は哲人的人材が多いのである、ストに入り國会公報までが中止の状態は全く見る影もない惨状である。ストする人々の氣持ちは生活が出來ない収入にあるのである。政府は我が子を思う親心で政治を取れば速かに解決すると信ずるが政府の所見を問う。
右質問に対し速かなる答弁を要求する。
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内閣参甲第二十八号
昭和二十三年三月十九日
内閣総理大臣 芦田 均
参議院議長松平恒雄殿参議院議員小川友三君提出政府印刷局ストに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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参議院議員小川友三君提出政府印刷局ストに関する質問に対する答弁書
御質問の趣旨は、まことに御尤もである。政府においても現下における印刷局の重要性に鑑み深甚の考慮を拂つて來たのであるが、一月二十九日全印刷局労組がストに入り國会公報まで一時中止するに至つたのは誠に遺憾である。政府は、これが円満なる解決を速急に図るべく、スト開始以來日夜肝胆をくだき、労組代表と膝を交えて幾多の会合を行い組合の意見を十分に尊重する態度に出た。又、客観的にして公正な第三者の判断に俟つため、中労委の協力をも得たが、スト開始以來九日にして二月六日協定成立し、次いで二月七日協定書の木調印を見るに至り、スト行為が中止されるに至つたのは政府として非常に喜びに堪えない所であつた。右協定書により、今回のストの主要なる誘因と見られる時間外手当の増額については遡及支給の困難なることを認め、別途今後における印刷局の生産増強と睨み合せ生産契励金制を確立することになり、目下この制度につき各方面と折衡中である。從つて今後の印刷局員の生活は、一般政府職員に比較して敢えて遜色のないものになると期待されるから、目下スト発生の虞れはなく、御質問の趣旨にも十分に副いうるものと確信しているものである。
右簡単ながら今回の印刷局ストに対する政府の所信を明かにして、御質問の答弁としたい。
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002・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) これより本日の会議を開きます。この際日程に追加して、一、昭和二十二年度一般会計予算補正(第十五号)、一、昭和二十二年度特別会計予算補正(特第九号)、一、昭和二十二年度特別会計予算補正(特第十号)以上三案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/2
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003・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。予算委員長櫻内辰郎君。
〔櫻内辰郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/3
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004・櫻内辰郎
○櫻内辰郎君 只今議題となりました昭和二十二年度一般会計予算補正(第十五号)及び昭和二十二年度特別会計予算補正(特第九号)並びに(特第十号)案の予算委員会における審議の経過並びに結果を御報告いたします。
去る三月十六日より三月二十日まで愼重に審議いたしまして、質疑應答の後、三月二十日討論に入り、採決の結果、全会一致を以て原案通り可決すべきものと決定いたしたのであります。
先ず第一に、昭和二十二年度特別会計予算補正(特第九号)案について申上げます。本案は煙草「新生」の福引券附販賣等、早急に予算上の措置を必要といたします專賣局外二つの特別会計について予算の補正をなさんとするものであります。
先ず歳出の内訳を申上げますと、專賣局特別会計においては、煙草の賣上げ増進対策として、福引券の発行に必要なる経費七千四百四十万円、製塩用配電停止に伴う電気製塩業者に対する危機突破資金の貸付六千万円、厚生保険特別会計においては標準報酬月額の増加による健康保險給付費等一億五千五十万八千円、労働者災害補償保險特別会計においては、平均賃金の上昇に伴う保險金の支拂等に必要なる経費三億五十九万七千円、以上合計五億八千五百五十万五千円の追加を必要といたしますが、既定予算の予備費一億三千四百四十万円を修正減少いたしまして、差引四億五千百十万五千円の歳出増加と相成ります。これが財源といたしましては、標準報酬月額又は平均賃金の上昇に伴う保險料金の増収額を充当するものであります。尚煙草賣上促進のため発行する福引券は昭和二十二年度に発行いたしますが、これが賞金等の支拂いは昭和二十三年度となりますので、賞金等の支拂いのため六億三千九百五十三万一千円を限り國庫債務負担行為をなさんとするものであります。
次に、昭和二十二年度一般会計予算補正(第十五号)案について申上げます。本案は政府職員の給與水準を本年一月以降平均二千九百二十円に引上ぐるに必要なる経費、その他特に緊急止むを得ない予算の不足を補うため予算補正をなさんとするものであります。
先ず歳出増減の主なるものを申上げますと、政府職員の給與水準引上げに必要なる経費の総額は八十三億四千七百五十七万七千円でありまして、その内訳は政府一般職員、警察並びに教育関係職員等、直接一般会計において負担する分、二十三億五千四百六十六万六千円、鉄道、通信事業等の特別会計に繰入分、三十一億九千三百九十一万一千円、地方公共團体に対する貸付金二十七億九千九百万円であります。尚給與水準引上げの具体的措置につきましては、取敢えず平均して月額二千五百円程度の暫定措置を講じ、更にこの暫定給與と二千九百二十円水準との差額については、早急に具体的措置を決定すべきでありますが、若し年度内に支出するに至らなかつた場合は、この予算の支出残額を次年度に繰越して支出せんとするものであります。
次に、給與水準引上げを除く緊急止むを得ざる経費の総額は三十八億五千五百十九万三千円でありまして、特に金額の大きなものを申上げますと、船舶運営会補助金十四億三千七百五十三万円、農地改革に必要なる経費四億二千万円、警察官の緊急増員に必要なる経費二億八千九百六十三万四千円、政府職員に対する超過勤務手当支給に必要なる経費二億三千三百三十三万三千円等であります。
次に、歳出増加の財源に充当いたしました既定予算の修正減少額は百十八億九千七十八万八千円でありまして、その主なるものは貿易資金繰入の減少額四十七億七千万円、復興金融金庫出資金減少額四十億円、價格調整費減少額二十億円、賠償施設処理費の減少額四億円等であります。以上述べました経費の増減額を差引ますと、歳出の増加額は三億一千百九十八万二千円となり、これが財源といたしましては、宝籤等発行者納付金の増加額一億四千五百九十四万四千円、病院収入、印紙収入等の増収見込額一億六千六百三万八千円を充当するものであります。尚本案による予算補正の結果、昭和二十二年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも二千百四十二億五千六百万四千円と相成るのであります。
次に、昭和二十二年度特別会計予算補正(特第十号)案について申上げます。本補正案による歳出の増加額は二百九億四百十四万二千円となつておりますが、食糧証券等公債借換に必要なる経費百三十七億四百七十五万四千円を差引きますと、七十一億九千九百三十八万八千円の歳出増加となるのであります。その内訳を申上げますと、政府職員の給與水準引上げに必要なる経費三十七億九千四百四十二万六千円、鉄道用品保有額の増加に伴う國有鉄道事業運轉資金三十億円、政府職員に対する超過勤務手当、郵便貯金支払利子等に必要なる経費七億八千百二十一万二千円、以上合計七十五億七千五百六十三万八千円の増加となりますが、既定予算の予備費等の修正減少額三億七千六百二十五万円を差引き七十一億九千九百三十八万八千円の歳出増加となるのであります。これが財源といたしましては、主として一般会計よりの繰入金によるの外、國有鉄道事業運轉資金三十億円、鉄道及び通信事業特別会計建設勘定所属職員に対する給與水準引上に必要なる経費二億七百八十六万八千円の財源として公債金収入を充当するものであります。尚本案による予算補正の結果、昭和二十二年度特別会計予算の総額は歳入四千七百九十九億六千五百四十五万六千円、歳出四千二百九十四億八百七十四万円と相成るのであります。
さて、本案審議に当りましては、各委員より熱心なる質疑があり、政府又これに対して懇切なる答弁がありましたが、今その質疑應答の主なるものを申上げますれば、一委員より、煙草の福引券附販賣をなすことは國庫債務負担行為であり、國会の議決を要するものなるが、煙草「新生」賣出しに当り、國会の議決を経ずしてこれを実施したことは、國会を軽視した態度ではないかとの質疑に対し、政府委員より、煙草「新生」賣上不振に伴い何らかの非常対策を講じない限り、歳入に大なる欠陥を生ずる虞れがありましたので、可及的速かに國会の議決を経ることを前提として実施した次第でありますとの答弁があり、一委員より、最近各種の富籖が行われ、かくては人心を頽廃せしむる虞れなきやとの質疑に対し、大藏大臣より、富籖を利用することは決して望ましい方法ではないが、窮迫せる國家財政を救うため或る程度これを利用することは止むを得ないのではないかとの答弁があり、又一委員より、先に〇・八ヶ月の給與支給の財源が問題となつた際、政府当局は鉄道運賃、通信料金の引上以外に財源がないと主張して置きながら、今回の給與水準の引上に当り、貿易資金、價格調整費等相当多額の既定予算の剰余見込額をこれが財源として計上しておることは、極めて不可解であるとの質疑に対し、大藏大臣より、〇・八ヶ月の給與支給に対する予算編成当時においても、貿易資金等既定予算の剰余見込等につき十分檢討をしたのでありますが、諸般の事情により未だ確定財源として取上ぐることが許されなかつたのでありますが、その後納税成績の好轉等諸般の事情の変化により、今回初めて確定財源として計上し得るに至つたのであるとの答弁があり、又一委員より、二千九百二十円の賃金水準と決定した根拠如何との質疑に対し、政府委員より、二千九百二十円の給與水準は、給與委員会の答申を政府がそのまま採用したのであるから、給與委員会における本給與決定の経緯を報告するという前提の下に、大要次のような説明があつたのであります。政府職員の給與も一般民間給與と均衡を保つべきであるとの建前の下に、内閣統計局の十一月までの勤労統計により一月分を推算し、更に一般民間には統計に現われない給與がありますので、これを一五%と推定して加算した結果、一應三千二百七十七円という数字が出ましたが、更に一般民間と異る諸條件、即ち地域的分布、男女構成比率、扶養家族数、勤務時間数等を勘案して二千九百二十円と決定したのでありますとの答弁がありました。又國土計画委員長赤木正雄君より特に発言があり、國庫補助金が僅少なるため、農村における水害復旧工事進捗せざる現状に鑑み、次の暫定予算には相当思切つた金額を計上せられたいとの強い希望がありましたが、大藏大臣より、農村の災害復旧は、單に農村のみの問題でなく國民全体の問題でありますので、これが予算的措置に関しては十分努力する旨の答弁がありました。又文教委員会理事岩間正男君よりも特に発言があり、六・三制の予算に関しては、前内閣以來政府は度々予算の追加計上を言明しながら、未だこれを実行しないのは、文教政策に対する熱意を欠くものではないかと思わるるから、次の暫定予算には是非共計上せられたいとの希望がありましたが、政府委員より極力善処する旨の答弁がありました。その他重要なる質疑應答がありましたが、詳細は速記録により御承知を願います。
三月二十日討論に入り、二、三の委員より賛成の意見が述べられ、木村禧八郎氏よりは特に次のような條件を附したしとの動議が提出されました。即ち、政府職員の生計の現状に鑑み、且つ官公労組争議を刺戟し激化することを防止するため、中央労働委員会の裁定に基く二千九百二十円の新給與額の中、二千五百円の一時手当の支給に際しては、その支給期日につき差引的取扱をなすことなく、可及的速かに(昭和二十三年三月二十二日乃至三月二十五日)一斉にこれが支拂をなすよう政府は万般の措置を講ずべし。
右動議に対し採決の結果は否定せられました。かくして本案全部を一括して採決の結果、全会一致を以て原案通り可決すべきものと決定した次第であります。ここに御報告申上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/4
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005・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 別に御発言もなければ、これより三案の採決をいたします。三案全部を問題に供します。三案に賛成の諸君の起立を請います。
〔起立者多数〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/5
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006・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 過半数と認めます。よつて三案は可決せられました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/6
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007・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) この際日程に追加し、一、政府職員の俸給等に関する法律案、一、政府職員の俸給等の支給に関する措置等に伴う大藏省預金部外三特別会計に対する一般会計の繰入金に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)、以上両案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/7
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008・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。財政及び金融委員長黒田英雄君。
〔黒田英雄君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/8
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009・黒田英雄
○黒田英雄君 只今上程されました二つの法律案につきまして、委員会におきます審議の経過並びに結果について御報告いたします。
先ず政府職員の俸給等に関する法律案でありまするが、これの提案の理由並びに内容の概要を御説明申上げます。
昨年末中央労働委員会の調停案を政府は受諾いたしまして、その調停案に基きまして新給與案を審議するために設けられました臨時給與委員会から、二回に亘つて報告書が提出せられたのであります。政府は、この報告書の内容は、現在といたしましては最も公正妥当なものであるといたしまして、これに從うことといたしたのでありまするが、この報告書に基きまする新給與を実施いたしますれば、今日の國家財政に取りまして誠に重大なる負担であるにも拘らず、政府職員の現行給與水準が特に低きに失し、その生活が極度に窮迫に陥つておる事実を素直に認めて、これに必要なる予算案と共にこの法律案を提出したということであるのであります。
この法律案の内容は、常時勤務しておりまする官吏等の職員に対しまして、新給與水準、即ち二千九百二十円を本年一月に遡つて支給することといたし、報告書に示されました俸給等を決定する方法、原則等に從いまして、俸給の額及びその支給に関する事項は別に法律を以てこれを定めることといたしておるのであります。
この新給與水準によりまする給與の内容は大体次のようであるのであります。新給與水準は本年一月一日以降二千九百二十円‥‥これは税を含めてのものでありますが‥‥といたし、又本俸及び現在の暫定加給、暫定加給の臨時増加及び臨時手当を廃止いたしまして、一本の新本俸といたし、その水準は二千円を下らないように措置する。そうして、それには各人の職務の内容とか、或いは責任の軽重、労働の程度、労働時間等その他の諸條件、並びに民間におきまする同一條件の者との権衡を勘案して決する方針であるというのであります。いわゆる職階制給與制度への一歩前進であるということであるのであります。家族手当は一人当り現在の百五十円を二百二十五円に引上げる。尚勤務地手当は、各府縣には組合側を中心といたしまする地区区分調査委員会を、中央には政府側、組合合同の地域給委員会を設けて、民主的且つ合理的な解決を図りたいというのであります。尚労働の價値に関係ありまする諸條件で、本法に取入れることが不可能か又は不適当なものにつきましては、特殊勤務手当として支給するというのであります。
この新給與水準によりまする給與でありまするが、これが実施は尚若干の時日を要するのでありまして、それまでの間の繋ぎといたしまして、本法の附則におきまして、右の二千九百二十円の中の二千五百円を暫定給與として本年一月に遡つて支給するということに相成つておるのでありまして、その要領は、
暫定給與の種類は、暫定俸給、暫定扶養手当及び暫定勤務地手当の三つといたしておるのでありまして、暫定俸給の額は、現在の俸給又は給料、暫定加給及び暫定加給臨時増給の合計額に対しまして、更に所定の勤務時間数に應じまして、十五割、十六割、十七割というような区分を設けて、これを乗じて算出した額といたしておるのであります。尚從來官吏と雇傭人との身分の別によりまする俸給、給料の区別、月給、日給の区別はこれを廃しまして、一様に月給制にするということにいたしておるのであります。尚暫定扶養手当は從來の臨時家族手当に相当するものであります。尚暫定勤務地手当は、暫定俸給及び暫定扶養手当の月額の合計額の一割以上三割以下として、生計費の高い特定の地域に在勤する職員に支給するのであります。職員が法令又は本属上司の承認なくして執務をしないようなときは、その執務しない時間に應じまして暫定俸給を減額するという規定を設けておるのであります。すでに一月一日以後に支拂つておりまする俸給等は、この暫定給與の内拂とみなすという、これが法律案の附則として規定をしておるのであります。これらに要しまする金額につきましては、先程予算委員長から御報告されましたから、これは省略することにいたしたいと思います。
次に、政府職員の俸給の支給に関する措置等に伴う大藏省預金部外三特別会計に対する一般会計の繰入金に関する法律案につきまして、御説明を申上げます。この法律案の理由は、先程申した通りに、政府職員の給與水準を引上げることになると共に、給與体系の整備を図ることになつたのでありまするから、これによりまして、大藏省預金部特別会計、國有鉄道事業特別会計、通信事業特別会計並びに簡易生命保險及郵便年金特別会計の保険勘定及び年金勘定におきましては、その収支の状況に鑑みまして、今回の措置に要しまする経費等の財源は、これを一般会計からこれらの会計に繰入れる必要があるのであります。そこでそれぞれ各会計にその金額を繰入れるのでありますが、その金額はこれは省略をいたします。そして尚この一般会計から繰入れました繰入金につきましては、各特別会計の性質に鑑みまして、これらの会計が後日健全な財政状況になりました暁には、その繰入額に相当する金額に達するまで予算に定めるところによりまして、それぞれ、一般会計に繰入れる予定で、これに関する規定を設けておるのであります。これはすでにできておりまするところの繰入の法律と同様であるのであります。
かくて質疑に入りましたところ、各委員より活撥なる意見並びに御質問があつたのであります。その詳細は速記録に譲ることを御許しを願いたいのでありますが、その御質疑の主なるものは、法案の第二條、第四條、第七條等に対しての質疑であつたのであります。第二條の質疑は、この二千五百円を支給しまするにつきましては、二千五百円の暫定給與を遡つて「支給することができる」ということになつてをるが、これは何故に「支給する」といたさないかということの御質問であつたのであります。即ち、この「できる」ということによつて、或る者には支給し、或る者には支給しないというふうなために規定したのではないかということで、いろいろ御質問があつたのであります。これに対しましては、「支給することができる」ということは、立法の技術上の問題であつて、政府職員の中にも海外におるというような者で支給できない者もあるということであつたのでありまするが、政府はこの規定の実施の準備といたしまして、すでに暫定給與の支給について、各省の会計課長に対して給與局長が内示しておるものがあるではないか、それによりますというと、昭和二十三年三月十三日附政府通告書に対する回答を給與局において満足なものと確認した労働組合に所属する職員に対し、これを支給するというふうなことになつておつて、満足と認めないものはこれを支給しないというのではないか、如何なることを以て満足のものと確認するかというふうなことについていろいろ御質疑があつたのであります。尚この準則を出したことについても御質疑があつたのでありますが、これは政府は成るべく早くこの支給をいたしたいために、その準備として各省の統一が乱れることを防ぐためにいたしたことであるということであつたのであります。尚政府としては全体にこれを支給したいのである。ただ從來の、過去の経済の問題を離れて、今後これらの交渉をするということになることを希望するのであつて、そのために給與の上において遅れるということが生ずるというような言明もあつたのであります。尚第四條につきましては時間によつて区別をもうけることについての論議が行われたのであります。第七條につきまして、第七條は「職員が執務しないときは、その執務しないことにつき、特に承認のあつた場合を除く外、第四條第二項の規定にかかわらず、その執務しない一時間につき、一時間当りの暫定俸給を減額する。」ということになつておる点につきましていろいろ論議があつたのでありまして、これは特に承認のあつた場合というのはどういう場合であるかというような御質問があつたのであります。政府は、これは先程私も申した通り、法令等によつて休むことが許されておる場合は勿論、特に承認を受けて職務を離れるということはいいのではあるが、それ以外の場合において職務を執らなかつたような場合には、それだけの金額を減額するということで、特にこれは労調法の四十條に違反するのではないかということにつきましては、決してさような趣旨ではないということであつたのであります。特にこれらの点につきましては、委員外の労働委員長からも御発言を求められまして御質疑があつたのであります。詳細は速記録に譲ることをお許しを願いたいと思います。
かくして質疑を終りまして、討論に入りましたところ、別に御発言もなく討論を終りまして、採決に入りましたところ、全会一致を以て両案共政府原案通り可決すべきものなりと決定をいたした次第であります。これを以て御報告を終ります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/9
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010・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 別に御発言もなければ、これより両案の採決をいたします。両案全部を問題に供します。両案に賛成の諸君の起立を願います。
〔起立者多数〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/10
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011・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 過半数と認めます。よつて両案は可決せられました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/11
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012・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 内閣総理大臣及び栗栖國務大臣より発言を求められておりますから、この際発言を許します。芦田内閣総理大臣。
〔國務大臣芦田均君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/12
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013・芦田均
○國務大臣(芦田均君) 今回議会の指名によりまして、不肖私が内閣を組織することになりました。國家に対し、國民大衆に対して、誠に責任の重いことを感じます。この上は不敏ながら私の魂と肉体のすべてを捧げて、この重責を果すことに努める決心であります。
つらつら内外の情勢を察しまするに、我が國再建の前途には多くの難関が横たわつております。何とかしてこれを突破しなければ我が民族の前途は危うい。それには、我々國民が一体となつて困難を克服するより外にみずから救う途はないと信じます。我が國の現状は、嵐の中に漂う難破船のように、これを救う唯一の途は、乗組員と乗客とが船の安全のために協力することを急務とするのでありまして、この際徒らなる党派心に囚われて論議に時を空費するごときことは、断じて我々の與し得ないところであります。從つて我々は機会ある毎に各党各派の政治休戰を唱え、同胞相携えて危機突破に邁進すべきことを強く主張して來たのでありまして、片山内閣成立当時、自由党を含む四党政策協定を結んで、互助の精神を以て政治の円満なる運用に努めたのも、そのためであります。今回の組閣に当つても、私は政争の休止と國民総力の結果を目標にして、各党に協力を求めたのでありましたが、今日の危機に対する認識において異る点があつたためか、私の念願が完全に達し得られなかつたことは、深く遺憾とするところであります。併し我々は、決してこの望みを捨てる者ではありません。飽くまでも國内の総力を集結して、政局と民生の安定を図ることに努力し、そのために政府は常に謙虚な態度を以て民論に耳を傾け、飽くまで調和と融合の精神を以て進退する覚悟であります。
新内閣が達成しようとする最高の目標は、平和と自由と正義の支配する世界を建設するということであります。我々はこの理想の下に國内の再建に当り、この精神を以て諸外國に対せんことを期するものであります。一昨年制定された新憲法は、絶対の平和と自由とを確立することを明らかにしております。我々が平和と自由と正義の理想を追求し、それを実現することによつて、初めて日本民族は永久に價値あるものとなることを信ずるものであります。新憲法の制定は実にこの意味において、民族更生の一大宣言でありました。我々はこれを一片の紙上の宣言に留めることなく、國内においても、外國に対しても、これを実践する努力に全力を盡さなければならないと信じます。新内閣はこれを施政の最高目標とするのでありますから、その歩まんとする道は当然に中道であります。何となれば、左右いずれにせよ、極端な思想は平和を維持するゆえんでないと信ずるからであります。凡そ無血革命と呼ばれるような國家の変動期に際しては、人心ややもすれば右か左かの極端に流れて、中正な針路を失いがちであります。併しながら偏つた思想と極端な政治行動は、帰するところの暴力革命に導く危險を包藏するのみであつて、断じて平和に通ずる道ではないと思います。この意味において、我々は責任観の伴わない自由を排斥します。我々は飽くまでも眞の民主主義を守つて中道を歩み、勤労を尊重し、会連帯、國民協同の理念の下に、生産の増大と分配の公正とを同時に実現することを企図するものであります。
我が國が一日も早く世界の平和國家群に参加することは、國民の熱望するところであります。今の処講和会議がいつ開かれるか、はつきりとした見通しは付きませんけれども、今から講和会議に備えて、日本が世界列強の信頼を博するように、最善の努力をいたしたいと思います。世界列強の信頼を博する途は、我々が平和の愛好者として、精神的にも、物質的にも、自由を尊び、正義観に燃え、世界の文化に貢献する氣魄を示すことにあると信じます。講和條約の内容は、固より連合國の決定によるものでありますが、我々の行動が平和と自由と正義の原則に適うものであれば、講和條件は必ずや日本の独立と生存を傷つけない公平なものであることを期待し得るでありましよう。我々は今占領軍の治下に住んでおりますが、占領軍の指導が歴史に稀に見る公正、寛大なるものであることは万人の認めるところであります。これに対して我々日本國民も亦占領軍に対して極めて協力的態度を示した結果、まだ平和條約の調印は行われませんが、すでに平和生活に一歩を踏み出し得たことを幸福とするものであります。この際政府が特に注意を傾けんとする点は、現在の環境において我が内政の処理をなすにも、先ず以て世界的関連においてなすべきであるという点であります。
次に、政府の執らんとする経済政策の具体的な問題については、他の閣僚より詳細に申述べるはずでありますから、私はその二三について所見を申述べるに止めます。現在の日本においてはどんな政府でもインフレーションの克服に重点を置くべきことは言うまでもありません。それがためにインフレーション克服の根本対策を立つて、生産の増強を図るということは、何人も異論のない点であります。生産の増加については資本と労働と経営の合理的調和を図ることが最も肝要でありますが、特に勤労大衆が嵩高なるその職責への自覚に立つて、心から協力するのでなければ生産の増加は望めないことは明瞭であります。その点から言つて、政府は労働組合の健全な発達を切に念願しておるのであつて、そのために必要な対策は十分考慮しております。併しながら自己の利益のみ主張し、社会協同生活に必要な調和の精神を欠くものは労資共に嚴に排斥しなければなりません。それは結局において國民大衆の利益と相容れないからであります。浮動購買力を吸収することはインフレーション克服のために緊急必要とする施策でありますが、この点については別に具体的の計画を準備しております。遠からず國会に提案することができると考えております。尤もこの流通面に対する施策に当つて重きを置くべきことは、通貨の信用を保持することでありまして、政府はそのために万全の注意を怠らない考えであります。
次に必要なことは資本の蓄積であります。我が國は戰争によつて國富の三分の一を失つたのでありまするから、生産を起すためには先ず以て資本を蓄積しなければなりません。然るに國民の大半が勤労階級となつた今日、資本は廣く大衆から集めることが一層必要となるのでありまして、從つて又大衆の利益を擁護するため投資の危險を少くする道を講じなければなりません。
次に、産業の健全な発達のために経営を合理化し、その能率を十分に発揮しなければ生産の増大を期することができません。今後我が國が國際市場に進出することを許された暁に、輸出貿易が発達するか否かは、これにかかつておる点から申しましても、経営の合理化は特に強調されなければならないと思います。尚これに関連して必要なことは生産技術の向上であります。我が國の生産技術が世界の水準に比べて最近著しく遅れておることは誠に遺憾なことでありまして、政府は生産技術の向上のために諸般の施策を講ずる考えであります。
尚経済施策として我々の考えておる一二の問題を附言して申上げます。我が國のように特殊の形態を持つ國においては、國土に適する産業を檢討してこれを振興しなければなりません。その点から水力電氣を開発することは、石炭の不足勝ちである我が國に取つて焦眉の急務でありまして、大規模の発電工事については、政府が特にその資金を供給することを考慮しなければならんと思います。
食糧問題については、最近米の供出が未曾有の好成績を示して、すでに一〇〇%を超えております。これは全く農民諸君の救國的精神の結晶でありまして、私はこの機会に全國の農村に対し深く感謝の意を表するものであります。併しながら食糧増産のためには尚第二次農地改革の徹底、或いは供出制度の改善等幾多の施策を必要とするのでありますから、政府はこれらの点について具体的研究に着手したいと考えております。昨年度の水害による災害の復旧は一日を緩くすることを許さない事情にありますから、目下その対策に遺漏なきを期しております。又平野地帯と山岳地帯との中間に位するいわゆる波丘地帯約三百万町歩の開発も食糧増産、失業救済のために適切な事業と認めまして、政府は具体的研究に着手したいと考えております。
今後における経済再建の基調については、各党各派の間に或いは基本的理念を異にするところがあるかも知れません。併しながら我が國が現在置かれておる環境において、当面行わるべき施策はおのずから発見せらるる筈でありまして、資本主義政党が経済の終局の目標を企業の自由に置くとしても、物資が極端に不足を告げておる現状においては或る程度の統制が絶対に必要であることは明らかであります。政府が近く発表する生産の長期計画によつて、生産が増加するに從い不必要な統制はこれを廃止し、合理的な経済態勢を立てる時期が來ることも予想し得らるるのであります。
以上は政府が企図する生産増加対策の概要でありますが、その効果が完全に現われるのは尚時間を要すると考えられます。その間にインフレが昂進して、日本経済を破局に陥れるような危險がないとは言えません。よつて当面の急務は、生産の増加に並行して不足物資を輸入に仰ぎ、一時の急を救うことであります。不足物資の輸入は專ら連合國の好意的援助による外ないのでありますが、幸いに周囲の事情は好轉しておいおい多量の物資を輸入し得る曙光が輝き始めたのは、諸君と共に欣幸とするところであります。聞くところによれば、アメリカにおいては日本の経済を一九五四年までに一九三〇年乃至三四年水準の一二五%にまで復興せしめる援助計画を考慮する向きもあると聞いております。我が國の経済は終戦後一時どん底に落ちたのでありますが、その後國民の氣力と連合國の物資補給によつて緩慢ながら徐々に回復の方向に向い、インフレの昂進に拘わらず、國民の実質的生活が向上したことは疑いないところであります。この際連合國の物質的援助があれば、インフレーションの進行は著しく鈍化し、経済の再建は強固なる基礎の上に立つことができるのでありましよう。かくして初めて我々は久しい間の耐乏生活を脱却する希望を持つことが可能となるのであります。併し連合國の好意的援助を得るためには、先ず以て輸入支拂のためにする輸出の増進を必要といたします。同時に又我々日本國民の態度が彼らの好意に値するものでなければなりません。日本國民が諸外國の信頼に背かない明らかな証拠として、ポツダム宣言を嚴格に実行することは勿論、國内の民主化を促進し、文化國家の建設に全力を傾けたいと思います。尚外國資本の導入を容易にするためには、今日までその隘路となつておつた幾多の障害を除いて、外國資本家をして安んじて我が國の産業に投資するごとき受入態勢を整えなければなりません。政府は漸を追うてこれを実現する予定であります。
終戰以來國内の治安は、敗戰國としては予想以上によく維持されて、参りました。併しながら戰争の結果として、文化と道徳を頽廢させ、今尚犯罪の減少を見ないことは、誠に遺憾に存ずるところであります。日本民族の血液から兇暴性を刈り取ることは、一つは國民生活安定の問題であり、又一つには道義の高揚を図る教育の問題に歸着すると思います。(拍手)政府は最大の関心を以てこれに善処する決心であります。
地方自治体の運用は、新憲法によつて今試練の前に立つております。我々は地方自治体が民主主義の根幹であることを思い、正しき自治精神が発揚されて、地方分権が名実共に完成されることを期待するものであります。地方に移管せられた自治警察が、今後は眞に民衆の友として十分に機能を発揮する日も遠くはないと信じますが、同時に國民諸君も亦進んで犯罪の防止に協力されんことを切望して止まないものであります。更に又國民道義の高揚については、民族の名誉にかけても、この際速かに適切の方策を講じなければなりません。我々の受け継いだ傳統は、正しきを踏んで恐れない精神と、同胞に対する愛情とでありました。(拍手)この傳統を取戻すことによつてのみ、我々の祖國は本当に住みよき國となり得るのであります。(拍手)政府はこの精神を基調として、教学の振興に今後一層努力をいたすと共に、六・三制の実施についても前内閣以來の方針を堅持する意向であります。
この際私は、國内において最も惠まれない境遇にある海外引揚同胞と戰災者に対して一言いたします。これらの人々は、多くは纒うに衣なく、住むに家なき境涯にありますが、政府としては事情の許す限り、眞心を傾け、國費を投じて救済に努めることを約束致したいと思います。(拍手)
戰災都市の復興も誠に急を要する重要問題であります。政府はこの際、その道の権威者を集め、その計画に基いて、戰災都市の復興を促進する意向でありますが、特に住宅建築につきましては、欧米の実情を酌み、学ぶべき点は十分にこれを採用して早急にその実現を図りたいと考えております。(拍手)
最後に、國際情勢に関する我々の関心について一言いたします。最近の大戰争によつて人類の受けたる惨害は、今尚我々の体驗に新しいものでありまして、世界の多くの國民は飢餓と混乱の巷にさまよつております。それにも拘わらず、世界は更に第三次大戦の幻に戰いておるというのが現在の姿であります。日本はまだ國際連合に参加する時期に達していないために、平和に対する発言権さえも持ち得ない立場におります。けれども我々の生存が密接に世界に連繋を持つ今日、我々は決して世界平和の維持に無関心ではあり得ないのであります。殊に東洋の隣邦諸國において政情の安定を見ないことは、我が國の経済再建に大いなる障害をなすものであります。我々は新憲法において一切の軍備を放棄し、一切の戰争を否認する決意を示したのであります。世界がこの崇高なる理想において日本國民と歩調を同じくせんことは、我々の熱望であると同時に、我々は今後引続いてこの理想の旗の下に、平和と自由と正義との支配する世界の建設に不断の努力をいたす決心であります。(拍手)
以上、私は新内閣が政局の現段階に対する物心両面の用意と、経済の危機突破についての構想の概要とを申述べたのであります。私は右述べましたような基本理念に立つて、廣く國内の政治力を結集し、國民大衆と力を合せて政局の安定を図り、経済再建に直進する決心であります。今日世界の國々がひとしく窮乏に喘いでおる際、我々は外からの援助のみによつて救われようとする卑屈な態度を採ろうとは考えておりません。食糧の補給も、物の生産も、先ずみずから起ち上つて、できる限り自給自足を図らなければ、外からの援助は期待し得ないと思います。民族の特質は、かかるときにおいて最も顯著に現われるものであつて、日本人が世界に比べて遜色なき國民であることを示すのは、遜境にある今日がその絶好の機会であると思います。(拍手)
我が國が当面する危機は、今日只今も進行を止めてはいないのでありまして、これに打ち勝つことは容易ならん大事業であります。國会は申すに及ばず、廣く國民諸君の心からの支持を得なければ、この事業を遂行することはできません。我々は心を空しくして輿論に耳を傾け、廣く建設的意見に傾廳し、誠心誠意奉公の誠を盡したいと念願する次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/13
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014・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 栗栖國務大臣。
〔國務大臣栗栖赳夫君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/14
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015・栗栖赳夫
○國務大臣(栗栖赳夫君) 本年は、端的に申しまして我が國経済再建上誠に重大な年であり、いわば経済再建に一轉期を画する程の重大な時機に当面しておる年であると存ずる次第であります。終戰以來経済安定のための各般の努力がなされて参つたのでありますが、敗戰の創痍は余りに深く、且つ余りに廣く、今日國民の生活は尚辛うじて飢餓と疾病を免れ得た最低水準を維持するに止まり、生産の回復もその進度は緩く、産業活動の本格的回復を図ろうといたしましても、輸送力、動力等の衰弱によつて制約せられ、これを回復しようとすれば基礎的資材の生産の過少に制約されるというように、経済の基盤は未だ安定正常化の段階に到達できないのであります。又これらの経済実態の綜合的表現といたしまして、インフレーションは最近やや足踏み氣味でありますが、尚その進行は止まらず、そのために又家計や企業も依然行先不安の域を脱していない現状でありまして、所詮日本の現在の経済力においては、経済の再建を図るためには、当面経済安定のためのあらゆる努力を盡し、國内生産の増強を図るのと相俟つて、どうしても食糧や輸出品用原材料等の必要な資材はこれを輸入に仰がなければならないのであります。もとより物資の輸入につきましては、連合國の好意的援助に俟たなければならないのでありますが、本年は四囲の情勢からいたしまして、若しも我々が最善を盡して連合國の期待に副うことができますならば、從來に比し、連合國の経済援助に格別の期待を持ち得る画期的な時期にあるように思うのでありまして、幸いこの援助が実現し、これを我が國経済再建上、有効適切に活用し得ますならば、ここに経済安定の基盤を確立することができ、進んで本格的な経済再建の明るい光明を前途に認めることができるに至ると思うのであります。実に本年は重要なる年であると思う次第であります。
從いまして、一面、現実の憂うべき経済情勢に鑑みまして、経済再建のため、先ず以てその前提となる経済の安定、即ちインフレーションの克服を図ることを当面の責務といたしまして、前内閣以來の経済安定施策を踏襲し、これを民主化の線に沿いつつ強化いたしまして、その励行の徹底を図ると共に、他面、新たな情勢に対應して、連合國の経済援助を受け得る経済体制を整備し、輸入物資を最も効果的に役立てまして、生産、輸出の画期的増大に努め、又でき得る限りの國民生活の安定と向上とを図ることに最大の努力を拂うことを、本年度の経済施策の基調といたしたいと考える次第であります。
次に以上述べました趣旨に則りまして、主要経済施策の大要について逐次述べることにいたしたいと存じます。
先ず第一に、当面のインフレーションの克服のためには、これまでの経済情勢の推移に鑑みまして、國家財政及び地方財政の実質的健全化を確立いたしますと共に、健全金融の一層の徹底を図る必要にあることは申すまでもない次第であります。本年度の國家財政は、一般会計に関する限り、本予算及び追加予算共、収支均衡の原則によりまして編成されたのでありますが、現実には歳入と歳出との時期的ずれが著しく、殊に年度半ばを経過して巨額の追加予算が計上されました事情もございまして、本年二月末には大藏省証券の発行高は三百七十億円に上つた次第であります。尤もこの発行高は、二月に入りまして、歳入の大宗である租税収入の画期的増加によりまして逐次減少し、三月十日現在では五十七億円を残すに止まり、國庫金の残高を考え合せますと、只今のところは実質的に全部償還された形になつておる次第であります。併しながら特別会計につきましては、通計して五百五十億円を超える資金不足が予定せられるのでありまして、結局において政府資金の対民間撒布超過は相当巨額に達しておると思います。
以上の実情に徴しまして、昭和二十三年度予算は実質的な健全財政の実現を根本方針といたし、財政の規模を國力に合致させると共に、歳出については眞に必要且つ有効な費目のみに限定し、年間収支の均衡のみならず、財政収支の時間的調整をも図つて参る考えであります。又税制につきましても、國民の租税負担の均衡を図り、生産意欲の障害を除くため、勤労所得税の大幅値下げを中心として所得税の軽減を図りますと共に、企業の再生産活動を容易にするために、法人税について所要の改正を行う等、経済情勢の推移に即應する改革を行う意図を以ちまして、目下その準備を進めておるような次第であります。
尚歳入の確保のためには、脱税の防止はもとよりのこと、インフレ利得を徹底的に追求捕捉する措置を講じ、これによつて徴税の徹底を期したいと考える次第であります。他方産業資金面につきましては、金融機関の融資がかなりの巨額に上つたのみならず、なかんずく復興金融金庫の融資資金が大部分復興金融債券の日銀引受によつて調達されることを主因といたしまして、通貨増発の一原因と相成つておるのであります。從つて今後復興金融金庫の融資に対する監督を強化すると共に、赤字金融の抑制を継続強化する考えであります。又一般金融機関につきましては、現行の融資準則による融資規制の方法を更に改善強化する措置を講じ、他面、財政資金、復興金融債券の民間消化に一段の努力をいたす方針であります。併しながらその半面において、政府の経済計画実施に必要な産業資金は、極力その供給を確保いたしまして、その事業活動を阻害梗塞することのないように留意することは勿論であります。
次に健全金融の実現を確保するためには、資金の蓄積に俟たなければならんことは申すまでもないところであります。一昨年救國貯蓄運動が展開せられまして以來、貯蓄成績は逐次向上の一途を辿つておるのでありますが、他面、財政資金、産業資金の需要に比較いたしまして、未だ決して十分とは申されないのでありますので、政府といたしましては定期的預貯金の優遇等に一層の工夫を加えたいと思いますが、國民の一層の協力をここにも期待する次第であります。尚この際通貨の信用を維持するために、新円再封鎖、平價切下げは絶対に行わないことを確言いたす次第であります。(拍手)
以上述べましたごとく、財政金融の面からインフレーションを抑制する方策を徹底いたしますことは、経済再建上の重要な要件と存ずるのでありますが、他面、経済の復興を図るためには、このような前提の上に立ちまして生産の増大を図ることを至上命令とするのでありまして、これを達成することなくしては、終戰以來の窮乏と飢餓とから解放せられ、國民待望の経済再建の輝かしい光明を期待することは到底できないと信ずる次第であります。而もこのための努力を國民みずから盡すならば、初めに申上げました通り、本年は惠まれた環境に置かれることも期待し得るわけであります。
從いまして、政府におきましては、國民各界の協力を得まして、長期経済再建計画の完成を図るべく、目下その策案を急いでおるのでありますが、差当りその第一年度たる昭和二十三年度の計画目標といたしましては、前内閣が定めました石炭三千六百万トン、鋼鉄百万トン、硫安九十万トン等を以て仮目標といたしまして、万難を排してその実現を図るつもりであります。併しながらこの目標と雖も尋常一様の努力では達成可能とは考えられないのでありまして、格段の努力を必要とするものであります。政府は國内の経済力を以てしては達成することのできぬ物資につきましては、連合國の援助を懇請する一面、全國民の奮起協力によりその実現を堅く期待している次第であります。増産計画の眼目といたしましては、依然として石炭、電力、鉄鋼、肥料を中心とする傾斜生産方式を継続強化し、他の産業活動の規模を逐次拡大して行くための基礎的生産資材の重点的増産を図りますと共に、これに対應して今日の産業経済活動の大きな制約をなしておりますところの海陸輸送力についての損耗と破壊とを整備充実し、輸送能力の格段の増強を図るための有効なあらゆる措置を講じまして、苟くも生産された物資につきましては滯貨を生ずることのないように、万全を期する考えであります。又これら基礎的産業部門の整備と相並行いたしまして、繊維工業等の輸出産業の振興に力をいたしますと共に、これに相関連いたします中小工業の振興につきましても、技術、経営等の改善に着実な努力を拂いたい所存であります。
政府といたしましては、右に述べましたような計画の実現のために、全國民的な能率増進運動を展開すると共に、資材割当の合理化、遊休資材の全面的動員活用等による生産増強態勢の整備を図る措置を実施する考えであります。又農業生産につきましても、供出責任制の実施と相俟ちまして、肥料その他の生産資材の責任配給を行う等、政府におきましてもあらゆる努力を盡しますと共に、関係方面の協力を得て、食糧の一割増産運動を強力に推進いたしまして、計画的生産の確保を図つて参る方針であります。
次に、本年は連合國の絶大の好意と理解ある援助によりまして、綿花、石炭、鉄鉱石その他の必要物資の輸入も画期的増大が期待せられまして、各種の外資も逐次導入を見ることが予想されるのでありまして、日本経済も今や戰争以來の長期間の孤立経済の状況から離脱しまして、諸外國との正常な経済交流に備うべき時間が到來したものと考えられるのであります。從いまして、かような時代に対應いたしまして、輸出振興については、その重要性に鑑み、更に一段と努力を拂う必要があることは申すまでもないところでありますが、それと同時に、我が國経済を逐次國際経済へ順應させる方途を講じまして、とりわけ國内産業及び企業経営の体制を逐次整備し、経営技術、労働生産の全般に亘りまして合理化を推進して、我が國産業の國際的水準を向上充実させることが格別重要であると思うのであります。(拍手)而してこの産業の合理化につきましては、政府といたしましても今後の價格形成、資材、資金の割当等、各方面よりこれを促進いたしますことに努める考えでありますが、各企業におきましても経済動向の推多に徴しまして労資双方相協力して必要な合理化を推進し、企業の健全化と明日の繁栄に向つて協同の努力を盡されんことを希望して止まない次第であります。
次に、國民生活の安定は、詰るところ経済安定の基盤であり、経済の復興は詰るところ國民生活水準の確保向上にあると考えられますので、飢餓と疾病を防止し、社会不安をなからしめるに必要な限度の食糧その他の生活必需物資を確保することは勿論、更に前年に比し生活水準の実質的改善を図るために努力を傾倒いたしますと共に、勤労者の生活安定、とりわけ生産増強に直接関連する重要産業に從事する勤労者に重点を置いて、その実質賃金を充実する方針であります。從いまして、これまでの生活必需物資対策を継続実施いたしますと共に、更に実施経過に徴して各般の改善措置を講じて参りたいと思うのであります。なかんずく食糧につきましては、昭和二十二年産米の供出が例年に見ぬ早期に完了いたしまして、これに連合國の好意による輸入食糧の機宜の放出によつて、從前に比べ國民の食生活に相当安定感を與えているのでありますが、更に引続き、今年こそは例年の端境期におけるがごとく食糧危機の再現を絶対に避けて、現行一般配給量の遅欠配のないよう全力を注ぎ、供出、輸送、貯藏、加工の部面について適切な改善の措置を講ずる外、重要産業労務者に対しては、現行労務者加配米制度を刷新し、配給基準を調整して、嚴に実稼動に應ずる効率的な運用を図りますと共に、食糧事情をも勘案いたしまして逐次改善強化いたしたい考えであります。(拍手)
魚類、蔬菜等の生鮮食糧につきましては、現行統制に必要な改善を加えますと共に、(拍手)特にその励行に努め、更に加工水産物等との綜合配給制を実施いたしまして、格段の配給増加を図つて参る考えであります。(「是非やつて下さい」と呼ぶ者あり)その他の衣料品、家庭燃料等の重要生活用品につきましても、一般民生の最低限維持のための配給を確保いたします外、特に重要産業労務者に対しましては、作業用品の供給力の増加によつて、増加配給を行う考えであります。以上の措置の実行を確保いたしますために、政府は配給組織につきましては、特に消費面の自主的な受配体制を育成強化するため、地域及び職域の生活協同組合の積極的活動を助成する措置を講じて参りますと共に、日用品の配給方式につきましても、これを刷新いたし、統制品目を整理して実効のある統制を確実に励行して行きたいと考えておる次第であります。(拍手)
尚國民の住生活の面につきましても、本年は乏しい資材の中から特に多くをこれに割いて、前年に比し相当大幅の住宅建設を実現しますと共に、特に勤労庶民階級に対する住宅の供給に重点を置きたいと考えておるのであります。
政府は右のような國内的努力を盡し、現行食糧配給基準量の配給確保体制を整え、その成果を待つて連合軍総司令部に対し懇請し、できるだけ速かに一般配給基準量の実質的な改善調整を実現できるように努めたい所存であります。
次に物價につきましては、以上述べました各般の経済施策の一環をなす重要な問題でありますので、その安定のために最善の努力を継続する必要のあることは申すまでもないところであります。すでに物價安定に関する一大國民運動の展開の機運にあることは、誠に喜びに堪えないところでありまして、政府といたしましても必要な支援を惜しまぬ所存であります。
以上は経済施策の大要でありますが、その施策の実施方式につきましては、現在の我が國の経済の実情におきまして、今尚経済統制を継続強化いたしますと共に、とりわけこれが適切な運営と、確実な励行とを図る以外に、如何なる政府と雖もその実効を収める途はないばかりでなく、みずから盡すべきを盡さず徒らに他に求めることは、連合國の好意的援助に報ゆる所以でないことは明らかであり、又経済再建上重要な年を無為に過す懸念もないといたされないのであります。從いまして我々は、日本経済の安定と復興とを國民みずからの手により実現すべき責任を自覚いたし、ただ一遂に國民の総力をこれに結集すべきであると思うのでありまして、祖國再建のために、全國民諸君の奮起と協力とを特に切望いたす次第であります。なかんずく全國の勤労者及び農民諸君は、すでに十分に自覚、自負せられる通りに、今日においては日本経済再建の成否は懸つて諸君の双肩にあると言い得るのであります。最近勤労者及び農民諸君の間に、健全な労働組合及び農民組合の運動が澎湃として湧き起りつつあることは、実に注目すべきことでありまして、特に労働組合が、眞にその自主性と責任制とを確立し、経営者團体と自主的に協力し、生産復興運動を推進されることは、その意義は今日極めて大きいというべきであります。政府はこれらの健全にして建設的な運動の急速活発な成長に対して、深い関心を持つものであります。(拍手)
政府は今後の施策におきましては、上述のごとくあらゆる努力を盡して、インフレーションの抑止と勤労者諸君の実質賃金の向上とを図る所存であります。勤労者諸君におきましても政府の意のあるところを諒察せられ、積極的にこれらの安定施策に協力されんことを特にお願いする次第であります。
以上政府として本年中に採るべき経済施策の重点を申述べたのでありますが、幸いにして全國民の増産と経済安定への努力が成功いたしました暁におきましては、終戰以來二年有余、漸くにして、困苦と混乱の中に、経済再建への明るい展望が開かれるに至ることは疑いないところであります。勿論、敗戰経済の現状は、我が國の自力のみを以て解決し難い幾多の点があることは事実でありますから、これらの補強について連合國の好意ある援助を得ますよう、政府としては十分の努力を盡す考えでありますが、要は全國民の祖國復興への眞摯な努力が具体的に示されることにあると思うのであります。重ねて祖國の復興再建のために國民各位の奮起と協力を切望して止まない次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/15
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016・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 只今の國務大臣の演説に対しまして質疑の通告がございますが、この質疑は明後日に譲りまして、本日はこれにて延会いたしたいと存じます。御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/16
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017・松本治一郎
○副議長(松本治一郎君) 御異議ないと認めます。明後二十二日は午前十時より開会いたします。議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。本日はこれにて散会いたします。
午後六時十二分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X01919480320/17
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