1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十三年五月二十一日(金曜日)
午前十一時四十四分開議
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議事日程 第三十七号
昭和二十三年五月二十三日
午前十時開議
第一 参議院全國選出議員選挙管理委員の選挙
第二 地方自治法百五十六條第四項の規定に基き、海上保安廰法第十二條の規定による海上保安廰の事務所の設置に関し承認を求めるの件(内閣提出、衆議院送付)(委員長報告)
第三 戸籍手数料の額を定める法律案(内閣提出、衆議院送付)(委員長報告)
第四 在外同胞引揚促進に関する請願(委員長報告)
第五 樺太引揚歯科医師の内地開業許可に関する請願(三件)(委員長報告)
第六 満州引揚げ開拓民の入植に関する請願(二件)(委員長報告)
第七 在外同胞引揚促進に関する陳情(二件)(委員長報告)
第八 昭和二十三年度四月以降の外地引揚者受入対策に関する陳情(委員長報告)
第九 自由討議(前会の続)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/0
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001・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 諸般の報告は御異議がなければ朗読を省略いたします。
――――――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/1
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002・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) これより本日の会議を開きます。この際お諮りいたします。板野勝次君より病氣のため十六日間、波田野林一君より海外旅行のため会期中、それぞれ請暇の申出がございました。いずれも許可をいたして御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/2
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003・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。
――――――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/3
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004・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 日程第一、参議院全國選出議員選挙管理委員の選挙管理委員の数は十人でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/4
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005・鈴木直人
○鈴木直人君 只今議題となりました参議院全國選出議員選挙管理委員の選挙は、成規の手続を省略して、その指名を議長に一任するの動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/5
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006・羽生三七
○羽生三七君 只今の鈴木議員の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/6
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007・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 鈴木君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/7
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008・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。つきましては参議院全國選出議員選挙管理委員に、
白根 竹介君 大谷 正男君
田村 幸策君 池田 清秋君
保々 隆矣君 大濱 信泉君
鷲見兼五郎君 山浦 貫一君
佐佐木吉良君 土橋 一吉君
を指名いたします。
――――――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/8
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009・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 日程第二、地方自治法第百五十六條第四項の規定に基き、海上保安廰法湾十二條の規定による海上保安廰の事務所の設置に関し承認を求めるの件(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。先ず委員長の報告を求めます。治安及び地方制度委員長吉川末次郎君。
〔吉川末次郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/9
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010・吉川末次郎
○吉川末次郎君 只今議題となりました地方自治法第百五十六條第四項の規定に基き、海上保安廰法第十二條の規定による海上保安廰の事務所の設置に関し承認を求めるの件につきまして、治安及び地方制度委員会の審議経過について御報告申上げたいと存じます。
本件は先に成立いたしました海上保安廰法第十二條に、「運輸大臣は必要と認める地に事務所を置き、海上保安廰の事務を分掌させることができる。」という規定がございますが、この規定によりまして、今日横濱市、外八ケ所の主要都市に海上保安本部を、又清水市、外四ヶ所に海上保安部を設置いたしまして、海上保安廰の充実を図り、海上保安の万全を期せんとする趣旨に基いて、そうした地方の事務所が置かれるのでございます。その制定の形式は、運輸省の告示を以てするものでございますが、これはいわゆる地方出先機関の一でございますので、地方自治法の第百五十六條第四項に「國の地方行政機関は、國会の承認を経なければ、これを設けてはならない。」云という規定がございますので、特にここに國会の承認を求めんとするものである旨の政府の説明がこの議案についてあつたのであります。
我々の委員会におきましては、この案の付託を受けまして以來、愼重審議を重ねまして、その詳細のことにつきましては、委員会の会議録によつて御承知を頂くことといたしまして、その審議中質疑應答の主なものにつきまして、若干御紹介申上げたいと存ずるのであります。即ち一委員から、海上保安廰の地方機構の業務内容並びにその事務所相互間における関係はどうであるかというところの質問がございましたのに対しまして、政府委員の方からは、地方の海上保安本部及び保安部がするところの業務としては、海上におけるところの治安の維持、航海の安全という二つの大きな目的に從つて、保安本部においては、法律の執行に関する業務、更に掃海、沈船引揚その他航路障害の除去に関する事項、更に船員の航海の安全に必要なる資格の檢定試験に関する業務、その他航海標識に関する業務を取扱うのであつて、海上保安部の方は、海上保安本部の隷属下に從うものである。尚別に、海上保安部の尚その下部機構としては、全國十五ヶ所に海上保安署というものを設ける予定となつておるが、これは主として海上保安関係の船舶の補給基地という意味合のものであつて、何ら地方におけるところの行政的な業務は持たないものである。尚それについては別途目下我我の委員会において審議中でありまするところの、海上保安廰の設置に伴い地方自治法の一部を改正する等の法律案というものが我々に付託せられておるのでありますが、その法律案によつて措置せんとするものであるというところの答弁が行われたのであります。
更に海上保安廰のこれら地方機構の管轄区域については、警察の管轄区域及び権限調整等との関連においていろいろの問題があると思うが、これら機関の管轄区域設定に当つてどのような考慮を拂つたかというところの趣旨の質問がございましたが、これに対しましては政府当局側からは、この問題についてはその重要性と必要性とを痛感するものであつて、海上保安廰としては中央、地方に設置予定の海上保安委員会、その委員会の適切なる運営によつて警察との連絡調整を図りたいと思つておる。即ち警察の方からもこの委員会の委員として参加を願い、重要問題の協力を完全にしたいと考えておる。で管轄区域の制定に当つては、第一には專ら海上の取締り対象地区を、第二には從來の地方海運局の管轄区域を、第三には国家地方警察の管轄区域を考慮して、その間の調整を図つて、本案の如き管轄区域を立案したものであるというところの答弁があつたのでございます。
次いで又一委員から、出先機関の整理等が今日唱えられておる折から、このような出先機関の設置を地方にするに当つては、相当の考慮を拂つたものであると思うが、この点はどうであるかというところの質問がございました。これにつきまして政府の方からは、御趣旨は十分体すべきであるが、現在の警察機構の改革と関連して、海上保官廰の地方機構は、それぞれ國の治安を分担する重要な使命を持つておるのであつて、而も海上保安の特異性というものは、全國を一丸として一つの統制隷下に機動性のある行動をなさしめることが要望せられる。この意味合からしても、海上保安廰の機関を地方に設置した次第であるというところの答弁があつたのでございます。
以上がその質疑應答の主なものでございました。我々の委員会にあきましては、大体におきまして、各委員とも本件に関しまして了解するところがあつたのでございます。
次いで討論に入つたのでございますが、別段の御意見の開陳もなく、採決の結果、全会一致を以て本件は承認すべきものと決定いたしました次第でございます。以上御報告申上げる次第でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/10
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011・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 別に御発言もなければ、これより本件の採決を行います。委員長報告の通り、本件に承認を與えることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/11
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012・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。まつて本件は、承認を與えることに決しました。
――――――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/12
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013・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 日程第三、戸籍手数料の額を定める法律案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。先ず委員長の報告を求めます。司法委員会理事岡部常君。
〔岡部常君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/13
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014・岡部常
○岡部常君 只今上程せられました戸籍手数料の額に関する法律案についての委員会の経過並びに結果を御報告申上げます。
本年一月一日施行を見ましたところの戸籍法を改正する法律におきましては、その第五條第二項によりまして、「手数料の額は、別に法律でこれを定めるとされております。ただ同法第百四十三條には、「この額は財政法第三條の規定の適用あるまでは、政令の定めるところによることを妨げない。」とされており、同條は、財政法第三條の特例に関する法律により、現在のところ一般には適用がないことになつておりますので、現行の戸籍手数料規則は現在その効力を認められておりまするが、成るべく速かに戸籍手数料規則を法律に切替える必要があるのであります。これが本法案を提案する理由なのであります。
簡單に法律案の内容を申上げますが、本法律案の内容は、現行の戸籍手数料規則に定めるところと全く同一でありまして、即ち戸籍簿等の閲覧は一回につき五円、戸籍等の謄抄本は一枚につき五円、戸籍の記載事項その他の証明も一件につき五円となつておるのであります。この額は、昨年政令第二百号で、從來各一円であつたのを増額いたしましたような次第で、これは十月一日より実施しておるものであります。これが本法案の内容でございます。
本法案につきましては質問はございませんでしたし、又討論もお申出がございませんで、採決の結果、全会一致を以て可決すべきものと決定せられたのであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/14
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015・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 別に御発言もなければ、これより本案の採決といたします。本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を請います。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/15
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016・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て可決せられました。
――――――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/16
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017・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) この歳、日程第四より第六までの請願及び日程第七、第八の陳情を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/17
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018・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。在外同胞引揚問題に関する特別委員長中平常太郎君。
〔中平常太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/18
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019・中平常太郎
○中平常太郎君 只今議題になりました在外同胞引揚促進に関する請願並びに陳情につきまして、特別委員会の審議の状況並びにその結果を御報告申上げたいと存じます。
在外同胞引揚促進に関する陳情第十八号は前橋市神明町二十六、北川光雄君外十五名提出でございます。それから請願第四十七号は、岩手縣気仙郡吉濱村字上野百十一の岡崎七三郎君外千三百五十六名の提出でございます。次に陳情第百五十二号、大分縣廰内海外残留者引揚促進連盟首藤定君提出でございます。終戰三年を経たる今日今尚外地に抑留されている元郡人軍属の家族の生活は最近困難を極めているから、速かに復員できるよう取計らわれたいとの趣旨でございます。
次に請願第二百七十二号東京都杉並区井荻町一ノ百二十九、木村信行君方、北條壽夫君提出、第二百九十七号、北海道枝幸郡枝幸町長、齊藤保君外一名提出、第三百二十五号北海道天塩郡遠別村東町三丁目黒田方、南山芳雄君提出、樺太引揚歯科医師の内地開業許可に関する請願、この趣旨は元樺太廰の歯科医師は樺太において長年に亘り医療に從事献身して、設備技術共に内地の内務省免許医師に何ら遜色なく、患者より信頼せられていたのであるが、敗戰のために施設の一切をソ連に接収された上無一物となつて引揚げ、現在食糧危機と悪性インフレのために悩まされて、失業と飢餓の苦しみを図けている状態である。これらの者の唯一の更生の道は、歯科医師として各地せめて無医村においてでも開業いたすことであるから、右につき適当の措置を講ぜられたいとの請願でございます。現在この歯科医師は樺太から三十三名帰つておりまして、一般医師が七十七名でございまして、百名余りであります。附言いたしますが、大体この種の海外にあつた医師は千百余名でございますのであります。その中で樺太が百名余りでございます。
次に請願第三百二十八号、東京都中央区日本橋江戸橋三、財團法人満蒙同胞援護会長平島敏夫君の提出、第三百三十号東京都中央区築地三ノ一、本願寺内引揚者團体全國連合会田中孫平君外二名提出、これは満州引揚開拓民の入植に関する請願でございます。政府は二十三年度新規國内開拓計画を中止するやの方針と仄聞するが、これは継続実施せられたい。而して満州引揚開拓民を優先的に入植せしめられたいとの趣旨でございます。
陳情第六十四号は昭和二十三年度四月以降の外地引揚者受入対策に関する陳情、北海道知事田中敏文君の提出でございます。これの趣旨は、終戰後北海道に定着した引揚者は現在までに三十六万人に及ぶが、本道の住宅事情は深刻を極めておる。昭和二十三年四月からソ連地区の引揚が再開せられ、九万八千人が本道に定着することと予想をせられるが、現在の施設ではこれ等引揚者を受入れることは困難である。
且つ北海道廰のみでは解決し得ないので、國家において住宅だけは先ず整備せられたい。この趣旨であります。特別委員会におきましては、請願、陳情に関する小委員会におきまして愼重審議いたしました結果、この意見といたしましては、御承知の如く北海道は現在三百余万人の人口であつて、今後の收容力は八百万まで可能と稱せられておるのであります。然るに住宅問題がそれに伴わなければ、一万の人口も入植が困難であります。この増加が除々に行われればともかく、昨今のように引揚者が一時に多数定着する予想の下においては、政府はよろしく積極的にその必要量の住宅を整備せられねばならんのであります。而も政時が以前発表の予想に反しまして、今度の引揚者の中には、無縁故者が非常に多数でございます。特に住宅問題については政府は急速に整備せなければならんと思うのでございます。又引揚促進についても特別委員会において絶えず取上げ政府に要望し、又要路に懇請し続けておりますところの極めて重要痛切なる國民の要望であります。幸い本五月から引揚が再開されまして、目下舞鶴、函館両港で一切の準備を整えて、懐しの組國へ、既に一万七千百七十一人、中、陸軍が七千八百三十八名、海軍が二百四十三名、又一般人が九千九十各、これらが合計一万七千百七十一名でありますが、それが五月十八日までに今度引揚が再開されてから、実際帰られた実数でございます。併しながら只今の状況では、結氷期までに一切を引揚完了するということは、誠に如何やと懸念いたしておる次第でございます。今後強力にその筋に懇請する必要があるのでございます。
右各件とも小委員会において愼重審議いたしまして、採択と決し、本委員会亦全会一致を以てこれを採択して、院議に付して、内閣に送付すべきものといたしました。誠に簡單でありまするが、御報告を申上げます。よろしく御賛成あらんことをお願い申上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/19
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020・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 別に御発言もなければこれより採決をいたします。これらの請願及び陳情は委員長報告の通り採択し、内閣に送付することに賛成の諸君の起立を請います。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/20
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021・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 総員起立と認めます。よつてこれらの請願及び陳情は、全会一致を以て採択し、内閣に送付することに決定せられました。
――――――――――――――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/21
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022・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 日程第九、自由討議、本日の自由討議は前会の続きでございます。発言者は発言時間を遵守せられんことを望みます。これより発言を許します。
〔北條秀一君発言者指名の許を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/22
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023・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 北條秀一君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/23
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024・北條秀一
○北條秀一君 緑風会は來馬琢道君を指名いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/24
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025・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 來馬琢道君の発言を許します。
〔來馬琢道君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/25
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026・來馬琢道
○來馬琢道君 國語整理の急務について発言いたします。今や我が國は文化国家としての特色を発揮すべき絶好の機会に直面している。江戸時代において我が國は鎖国政策を取り、そのため世界の進運に後れたと歎く者もあるが、この休養機関に戰國時代に散逸せる文献を復原し、日本文化の特色を発揮したことは、我が國民の大なる幸福である。國立博物館の最近催した北斎百年祭記念浮世絵展覧会を見ても、当時如何に文化に関係深き木版の印刷術が進んでいたかが分る。否、それより二百年も前に天海僧正が木材で作つた活字、いわゆる木活で、佛教の大聖典たる大藏経を出版したことを思えば、鎖國と日本文化との関係も再檢討さるべきである。平和の日本はこの例に倣い、徒らに悲観せず、大いに文化方面の進出を企画すべきである。國語、國字の整理の如きもその一つと信ずる。我が國が文化國家として発足したのは、聖徳太子の十七憲法制定の前後であると言われるが、当時は漢文が常用國語であつた。國語が國宇を以て写されたのは空海即ち弘法大師の頃からであろう。仮名文字は盡く弘法大師の創作とは言われなくても、その大胆なる構想、熱烈なる宣布は、大師の如き宗教的偉人の信仰と共にするにあらざればできないことである。即ち國語と國宇との連繋は弘法大師の功であり、又日本沸教の手柄である。かくて國語は國字で写されることになつたが、我が國語学者の弊として、時には漢字のために國語を粗末にすることがある。試みに新潟縣の高田駅は「たかた」か、「たかだ」かと尋ねると、十人の中七人までが「どちらでも同じだ」と答える。即ち言葉よりも漢字に重きを置くからである。こういう関係もあるので、我が國には発音記号もまだ完全にできていない。金田一京助博士が明解國語辞典に用いたものによつて、私は僅かに自身の発言の正否を判ずるくらいである。この調子だから私は國語整理の急務を感ずる。以下簡單に項を逐うて述べます。
第一、漢字の誤用、片山前首相は閣下という敬語は自分には使わないで呉れと言つたという噂があるが、内閣という閣の第一人者に対し書面を差上げる時に「閣下に呈す」というのは、普通の敬語であつて諂いではない。机に倚りかかつて学問をしておる者に対し「一書を机下に呈す」というのは平凡なる敬語である、陛下というのも同様で、中國北京の紫禁城の正殿は長さ五十一尺の石材の陛が斜めに据えてある。群臣がその陛の下に集まつて皇帝に賀詞を申上げるというのも普通の礼である。然るに我が國ではこの意義を取り違え、ただ習慣的に何々下というものと必得ておる。その一例として、貴族院の貴の下に「下」の字を附けて「貴下」「あなた」と解釈している。前に言つたように何々下というのは、すべて物体の下という意味でなければならない。それを「貴い下」と言つたのでは何のことか分らないのである。東京都の一部では古くからこの文字を平氣で用い、東京裁判の記事にも、外交文書にも、時にはこの文字を用いている。大きな誤用である。又、各方面の人々が深甚なる敬意を表すという言葉を使う。深く甚だしいと書く。これを英語にすればデイープ・ベリーである。全く意味を成さない用語ではないか。佛教では昔から「甚深(ジンジン)微妙法」と言うている。即ち甚だ深い、べリー・デイープである。これなら意義が通る。「シンジン」と平気で言うのは困る。又英語のコンフエッシヨンを佛教術語の懺悔の二字に充てたのは、明治初年の英語学者の仕事である。即ち梵語のナーマから來たのだから、頭字を「サンゲ」と清んで読むのが正しい。これを「ザンゲ」と読んでおるのは誤まりである。又十分、不十分のジウの字は、十に分けたものが十個揃つた義だから、数字の十の宇である。然るに充満の充を使うのは誤まりである。屋敷の正面の入口を玄関というのは、佛敏の幽玄なる悟りに入る関門と言う義であつて、これに次ぐ小さい入口を内(ナイ)玄関と言う。この内の字は、内所と言い、内視と言うように、音で読むのである。これをウチ玄関というのは誤まりである。
第二、俗語の濫用、トテモという語は到底から変化したもので、「トテモカナイマセン」という否定の場合に用うる語である。それをいつの間にか、肯定する場合に「トテモ良く出來た」と使うようになつた。甚だしい濫用である。午後とは正午以後のことである。それを「午後から」と言う人が多い。ラジオでも使つている。何時頃のことか考えて見ると愚かな語だと分る。又「出席者の殆んどが賛成した」という語を聞くが、これは殆んど全部がと言わねばならないのである。
第三、國語輸出の問題、我が國語を外国に送るには、日本の仮名では絶体不可能である。ローマ字による外はない。我が國には多年使つていたいわゆるへボン式で英和辞典も、和英辞典もその他の字書もできて、甚だしきは日本仮名の字書を引くよりも、和英辞典で漢字を探す方が早いとまで言われていたのに、田中館博士の日本式ローマ字が唱えられ、政府もヘボン式とこれとを折衷した訓令式ローマ字を発表して、ローマ字界に混雜を來した。同博士は私も多年の交誼があり、碩学として尊敬しておるが、同博士は音韻学上から日本式ローマ字が正しいと言い、又世界中の人にヘボン式で日本語を正しく発音させることはできないのだから、むしろ日本で作つた五十音図により、日本式ローマ字を定めた方がよいと説いている。蓄音器のレコードを逆に廻すと直ぐに分ると言われたことは幾度あるか知れない。神保博士の名はドイツへ行くと、Jimboではイボンであり、Zimboではチンボと読まれ、遂にDsjimboと書いて、やつと自分の名を正しく呼んで貰えたという話もよく聞くのであるが、現在日本中には外國人の便利のために掲げてある駅名等の標示が全部ヘボン式で書かれ、東京都内にもchoチョー、shiシ、chiチ、fuフ、jiジ、juジユ等の文字が街頭に溢れている。植民地的綴り方だという非難はあるかも知れないが、言語学上からの議論はともかく、現在ローマ字を学習する者には誠に厄介なことになつておる。ヘボン式は日本語を写すに相当苦しんだものである。日本語のタ行のツの濁音ヅは日本人が放棄してしまつて、zuにしたが、この現わしにくい音をdzuと綴つて完全に写そうとしている。私は九州の一部や高知縣の人と話して、ツの濁音を確かに発音するのを聞いて、愛惜の情に堪えないものがある。その他ポルトガル人の訳した平家物語には、beiqeと綴つて平家と読ませる。オランダ人は、ハ行にvもを、ヤ行にjを用いる等、皆相当に苦心している。私は我が國が最も実用的効果のあるヘボン式ローマ字を採用して、國語輸出の便に供し、文部省にできる調査機関をこの方針で指導せられんことを望みます。
第四、読み方の整理と新造語の指導、私は今の青少年がへきへき「只今十時二十ハツプンです」と言うのを聞いて驚くことがある。標準語では二十「ハチフン」で、「ハツプン」と言えば発奮するという言葉になる。大いに意味が違う。誠に不用意の言葉である。又新らしい言葉を國民が作りかけたときに、政府は常に注意して、同じような言葉を幾つも作らないように指導すべきである。近頃大分流行している自轉車式人力車、あれを輪タクとか、厚生車とか、國民車とか、軽車とか、サイクルカーとか呼んで、地方の警察署までがこれらの区々の名称を用いているのは國民の迷惑するところである。これは一例であるが、政府一もつと親切に新造語を指導するようにしたい。國語に忠実なるゆえんであります。
用するに國語は文化国家の標識であります。國語教育の問題がすでに第三國人との間に大きな事件とならんとしておるのではないか。正しい国語を定めて外國に送り出す重大使命を考えると、國会は國語を軽視してはならない。私は文化委員の立場からこれを國会に訴えます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/26
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027・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 本日にこれにて延会いたしたいと存じます。御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/27
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028・松平恒雄
○議長(松平恒雄君) 御異議はないと認めます。次回の議事日程は決定次第公報を似て御通知いたします。本日はこれにし散会いたします。
午後零時二十三分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100215254X03919480521/28
4. 会議録のPDFを表示
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