1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十四年五月十日(火曜日)
議事日程 第二十四号
午後一時開議
第一 スポーツ振興に関する決議案(河野謙三君外三十六名提出)(委員会審査省略要求事件)
第二 弁護士法案(法務委員長提出)
第三 文部省著作教科書の出版権等に関する法律案(内閣提出)
第四 公判前の証人等に対する旅費、日当、宿泊料等支給法案(内閣提出、参議院送付)
第五 司法警察職員等指定應急措置等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)
第六 農業協同組合自治監査法を廃止する法律案(内閣提出、参議院送付)
第七 農業協同組合法の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)
第八 簡易生命保險法案(内閣提出)
第九 郵便年金法案(内閣提出)
第十 船舶公團法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第十一 日本國有鉄道法施行法案(内閣提出)
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●本日の会議に付した事件
廣島平和記念都市建設法案(山本久雄君外十四名提出)
長崎國際文化都市建設法案(若松虎雄君外十六名提出)
日程第一 スポーツ振興に関する決議案(河野謙三君外三十六名提出)
日程第二 弁護士法案(法務委員長提出)
日程第三 文部省著作教科書の出版権等に関する法律案(内閣提出)
日程第四 公判前の証人等に対する旅費、日当、宿泊料等支給法案(内閣提出、参議院送付)
日程第五 司法警察職員等指定應急措置法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)
日程第六 農業協同組合自治監査法を廃止する法律案(内閣提出、参議院送付)
日程第七 農業協同組合法の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)
日程第八 簡易生命保險法案(内閣提出)
日程第九 郵便年金法案(内閣提出)
日程第十 船舶公團法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第十一 日本國有鉄道法施行法案(内閣提出)
兒童福祉法の一部を改正する法律案(内閣提出)
船員保險法の一部を改正する法律案(内閣提出)
午後一時四十一分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/0
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001・岩本信行
○副議長(岩本信行君) これより会議を開きます。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/1
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002・山本猛夫
○山本猛夫君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわち、山本久雄君外十四名提出、廣島平和記念都市建設法案、及び若松虎雄君外十六名提出、長崎國際文化都市建設法案は、両案とも提出者の要求の通り委員会の審査を省略してこの際一括上程し、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/2
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003・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 山本君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/3
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004・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
廣島平和記念都市建設法案、長崎國際文化都市建設法案、右両案を一括して議題といたします。提出者の趣旨弁明を許します。山本久雄君。
〔山本久雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/4
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005・山本久雄
○山本久雄君 ただいま議題となりました廣島平和記念都市建設法案について、その提案理由の概略を御説明申し上げます。以下四つの理由をあげて、廣島市を平和記念都市として建設しなければならないゆえんを申し述べたいと存じます。
理由の第一は、廣島市の戰災は世界史的意義をもつているのであるから、これに対して國家の國際的措置が必要であるということであります。回顧いたしますれば、三年九箇月前、すなわち昭和二十年八月六日午前八時十五分でありました。突如として閃光一閃、大爆音とともに爆風が廣島市をのんだのであります。これこそ人類史上最初の原子爆彈の炸烈であつたのであります。かつては六大都市に次ぐ中國の雄都たりし廣島市は一瞬にして吹き飛ばされ、破壊されたのであります。
当時廣島市の人口は、疎開により約三十万に減少しておりましたが、戰災による被害状況は、同年十一月三十日付の調査による廣島縣警察部の発表によりますと、即死七万八千百五十人、重傷九千四百二十八人、軽傷二万七千九百九十七人、行方不明一万三千九百八十三人、罹災者十七万六千九百八十七人、合計三十万六千五百四十五人の被害者を出したのであります。しかして、このうち行方不明は全部死亡したと推定せられます。重傷者の大部分もその後死亡いたしました。また軽傷ないし何ら外傷を受けなかつた者といえども、爆心地より一キロないし一キロ半くらいのところにいた者は、その後数箇月にして、いわゆる原子爆彈症にかかり、死亡した者が多いのであります。さらにこのほかに、市内に駐屯していた軍隊が推定五万人にして、このうち大部分の者は即死あるいは負傷したのであります。次に建物の被害状況についてみますと、全焼四万七千九百六十九戸、半焼二百五十三戸、全壊三千八百十八戸、半壊一万八千百七戸、合計七万百四十七戸の被害を生じたのであります。まさにこれがただ一発の原子爆彈の威力でありました。当時、「七十五箇年間不毛の地」、あるいはまた「生物の生存を許されざるの地」という恐怖の流言が傳えられるほどの惨状を呈したのであります。その後アメリカの専門家の情報によりますと、原子爆彈の一個は、B二九、二千機が搭載した普通爆彈と同等の威力を発揮するとのことでありました。
この大きな悲惨な戰災が第二次世界大戰を終結に導く直接の動因となつたことは否む事のできない事実なのであります。しかして、二年後の八月六日には、ささやかながら平和塔を建立し、この下において平和式典をおごそかに執行いたしたいのであります。平和の祈りを告げる鐘を打ち鳴らし、平和宣言が朗々と読まれたのであります。「この地上より戰爭の恐怖と罪悪とを抹殺して、眞実の平和を確立しよう。永遠に戰爭を放棄して、世界平和の理想を地上に建設しよう。」、かくのごとく廣島市民は平和の宣言をしたのであります。この平和宣言に続いて、マツカーサー元帥から次の感銘深いメツセージが寄せられたのであります。このメツセージは、一廣島市民に対するものではなくして、全世界のあらゆる民族に対するきわめて示唆深いものでありますから、特にここに全文を御披露いたしたいと存ずる次第であります。
二年前、次第に高まりつつある暴虐の暗影が世界をおおうていた。人人も、民族も、各大陸も、戰いの結着をつけようと必死になつてもがいた。その時廣島の上に、今までにない強力な武器が投下されたのである。かくて戰爭は、それが致命的であり、破壊的である点において、そうしてまた戰爭が人間の理性や、論理や、目的、理想などに対する挑戰である点において、新たな意味をもつことになつた。すなわち、あの運命の日のもろもろの苦悩は、すべての民族の、すべての人々に対する警告として役立つ。それは戰爭の破壊性を助長するために、自然力を使用することはますます進歩して、遂には人類を絶滅し、現代世界の物質的構造物を破壊するような手段が手近かに得られるまで発達するだろうという警告である。これが廣島の教訓である。この教訓が等閑に付せられないよう、神よ、みそなわせ給え。
と述べられたのであります。まことに廣島市の戰災は、世界歴史に一つのエポツクを画したものでありまして、長く後世に記録されるべき歴史的事件となつたのであります。すなわち廣島市の戰災は一般に戰爭は悲惨なものであり、人間性を破壊する罪悪であるという反省を全世界各國民族に対して求めたのであります。もし將來戰爭が再び繰返されるとしたら、その時は今日まで人類が築きあげて來たものはすべて破壊し盡されるばかりでなく、人類そのものをも絶滅するであろうという警告を與えたのであります。しかもこれを契機として、世界人類が過去の戰爭に傾注した偉大な科学の力をあげて平和文化あるいは平和産業に使用するならば、世界恒久平和の確立は決して不可能ではないということを強く示唆したのであります。しかも、世界恒久平和の確立こそ過去の戰爭犠牲者に対する唯一の最大の償いであるのであります。またそれは人類文化の向上に貢献するゆえんとなるのであります。
以上の事実を深く体驗した廣島市民は、このことを廣く全世界の人々に知らせなければならぬ義務と責任を感じたのであります。ここにおいて廣島市民は、昨年の三周年記念日に当つては、世界各國の百六十六の主要都市に対して廣く平和宣言と平和のメツセージを送つたのであります。(拍手)ここにおいて廣島市は、新しい時代の到來を最初に世界に告げた地として、世界恒久平和の確立に対する歴史的使命を担うに至つたのであります。
以上は理由の第一でありますが、これだけでも世界の平和記念都市として廣島市を指定しなければならぬゆえんがあると存ずる次第であります。
理由の第二は、世界の各地において、廣島市の建設に多大の関心を寄せ、これを世界平和の発祥地として築きあげようという熱烈なる輿論が澎湃として起つているということであります。すなわち、昨年の六月十七日附米國加州オークランドの世界平和デー委員会から廣島市に送られた書簡によりますと、当初米國の北部バプテスト連盟によつて提唱せられた、廣島戰災の日、八月六日を「世界平和デー」として、「反省と祈りの日」にしようという運動が、すでに世界二十六箇國にわたる発起人によつて世界平和デー委員会を組織し、「ノー・モーア・ヒロシマズ」のスローガンのもとに展開されております。そして、廣島こそ世界の平和記念都市になるふさわしいと主張しております。
昨年の八月六日、印度の二ユー・デリーにおいては、印度キヤラバンのあつせんにより、印度政府の高官や外交團の列席のもとに、ビルマ、セイロン、パキスタン、バチカン、イタリア、スイス、イギリス、フランス、ベルギー、チエコスロバキア、カナダ、オーストラリア等の大使、総督、代理大使等により、世界平和デーに関するメツセージが朗読されました。
同年十二月六日の書翰によりますと、スエーデンの國際平和運動の指導者アケンソン夫人は、北ヨーロツパ各國に働きかけて、八月六日を世界平和デーとする署名運動を起し、國際連合へ提出する準備を進めております。またスエーデンのみにおいては、すでに三百万人が署名し、これを國際連合へ提出いたしております。その他各班にわたつて世界平和デー委員会の活動が進められております。
次にニユーヨークにおいては、前駐日大使グルー氏、パール・バツク女史、また廣島の災害に関する記録「ヒロシマ」の著者ジヨン・ハーシー氏をはじめ、文化人、宗教家等により、廣島ピース・センター建設委員会が組織されております。同委員会の構想は、記念塔、平和記念館、図書館、科学研究所、音樂堂、劇場、兒童文化会館、体育場、ホテルその他各種模範社会事業施設等を、でき得るならば廣島市の爆心地附近に設置しようという計画であります。同委員会は、これを実現するために一つの財産を設立すべく計画を進めております。
また、ワシントンにおける都市計画の専門家であるタム・デーリング氏の廣島市建設計画報告書には「絶好の機会と重責を課せられた廣島の將來に対する概観」という見出しがつけられており、その報告書の中で、「廣島は、全世界の注目をひいたという事実を認識せよ。すなわち、廣島は、建設的にせよ、破壊的にせよ、新原子力時代の到來を最初に世界に告げた地として、永久に訪問者の興味をひくであらう。」云々と言つております。
さらに詳細にわたつて、平和記念塔、原始時代記念館、廣島大学、厚生施設、公園設備等について、廣島市が國際的模範都市として十分な條件を備えていることを強調しておるのであります。
またアメリカの原子爆彈災害調査委員会においては、廣島市内に原子爆彈災害研究所の建設が決定されまして、目下着工されております。また各宗教團体の手により、学校、病院、図書館、各種社会事業施設やその他の文化的都市施設の建設が進められております。その他廣島市に対する激励と忠告は数百通にのぼつております。その國籍は、遠くはブラジルやアイスランド、アフリカに及んでおります。さらに外國の新聞、雑誌、機関紙、又直接廣島を訪れる多数の外國人の情報によつて見ましても、世界宗教会議や各種の平和運動会議は、ぜひとも廣島で開催すべきであるという要望が数多くあるのであります。
今や世界平和愛好者の輿論は、廣島の戰災に対する恐怖や同情を超えて、廣島を世界平和の発祥地として、また聖地として、それにふさわしい都市を建設し、もつて廣島を永遠に記念しなければならないという声が高くなつているのであります。(拍手)かかる世界の輿論にこたえることは、一廣島市民のみならず、戰爭を永久に放棄したわれわれ日本国民全体の義務であり、また同時に世界人類に対する最大の貢献でもあります。これが廣島を平和記念都市として建設しなければならぬ第二の重要なる理由であります。
なお、去る本年三月二十二日、英京ロンドンのチヤーチル氏より賀川賢彦氏に、世界連邦の首都の候補地として廣島を選定したいが貴意いかにとの電報も参つておるのであります。
理由の第三は、憲法により、戰爭を放棄したわが国が、その記念事業として、戰爭により破壊した廃墟の上に、世界恒久平和のシンボルとして、全然性格のかわつた、新しい平和記念都市を建設することは、きわめて意義深い事業であり、それによつて國際信義を高揚すること多大なるものがあると考えられることであります。
理由の第四は、廣島市を平和記念都市として建設するためには、國家の特別の指導と監督のもとにこれが実施されなければならないということであります。
以上述べましたごとき國際的意義を持つ都市の建設は、單に一地方都市にまかすべきではなく、当然國家的問題として、國家の特別の指導と監督のもとに実施されるべきであります。ここにおいて、國家は少くとも特別の法的措置を講じ、責任の分担を明らかにしなければならないと存ずる次第であります。
以上をもちまして本法案理由の概要を申し述べた次第であります。何とぞ各員におかれましても、この理由を御賛成賜わらんことを切望いたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/5
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006・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 次は若松虎雄君。
〔若松虎雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/6
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007・若松虎雄
○若松虎雄君 私は、ただいま上程されました長崎國際文化都市建設法案に関し、提案者を代表して本案提出の趣旨を弁明し、かつ満堂の御賛成を得たいと存ずるのであります。長崎市は、終戰の五日前、すなわち昭和二十年の八月九日に、原子爆彈の投下によりまして筆紙に盡しがたい莫大な損害を受けたのであります。その被害状況につきましては、ここに贅言を要しないのであります。
原始兵器の出現は世界史上に一新紀元を画しまして、すべての人類は將來の戰爭の性格を深刻に認識せしめられたのでありまして、私どもは、いち早く神の與えられた世界平和確立へののろしに目ざめ、相呼應してピース・フロム・ナガサキ、すなわち「平和は長崎より」の標語を高らかに絶叫して、國際平和の中心都市としての形態を整え、人類文化に寄與するに十分な施設を具備する聖都長崎を建設する一大責務を負わされたのであります。
由來長崎の地は、東西文化の融合地として、かつ東洋におけるキリスト教傳導の基地、ことに日本二十六聖人殉教の聖地として、あまねく世界に宣傳せられ、欧米人の憧憬の的となつておつたのであります。從つて、戰後、出島オランダ館、ピエル・ロチ、マダム・バタフライ等のいわゆるエキゾチツクな遺跡に関する世界人の関心はきわめて高いものがあるのであります。かかる意味から、長崎市の復興再建につきましては、長崎の持つ傳統的な國際文化を中心として計画を打立てて、強力に推進して参つたのであります。しかるに、原子爆彈の被害甚大なるに反しまして、物資の不足等において所期の目的を達し得なかつたのは、まことに遺憾であります。終戰以來、國の内外から長崎に寄せられた同情並びに援助は、まことに涙ぐましいものがあるのであります。この内外の同情または支援に対しましても、われわれは一日も早く長崎市の復興をはかる義務があるのであります。これが今回の法案を提出したゆえんでありまして、長崎市復興に対しまして、國または公共團体の援助、特別の助成をお願いする次第であります。
法案は、御承知の通り七條と附則とから成つておりまするが、第一條、第二條は長崎市の國際文化都市としての特色をうたいまして、第三、第四の二條は、この事業に対する援助、特別の助成を規定したのであります。こういうわけからいたしまして、当然われわれは國会等に報告の義務がありますので、第五條にはこの点を明記しております。第六條には、長崎市長の、かかる殊遇に対して忠実にこれを実施する義務を明記しておるのであります。第七條におきましては、この法律の適用に関して、この條文に漏れております点は、特別都市計画法並びに都市計画法の適用があるものとしておるのであります。この法律は、皆様も御承知の通り、一公共團体に適用するのでありまするから、憲法第九十五條の規定によりまして住民の投票を要するのでありますが、この点にかんがみまして、もしこの両院を通過いたしますれば、公布に先だつて、わが長崎市におきましても住民の投票を行う所存であります。
法案の趣旨は、皆様お手元にある資料においておわかりでありましようが、私はこの機会におきまして、長崎の復興、ことに今回國際文化都市として再建、いたしますにつきまして、一言永井隆博士のことについて付言させていただきたいと思います。永井氏は、御承知の通り原爆被害当時の長崎医大のレントゲン科の部長であつたのでありまするが、すでに原子病で悩んでおられたのに、初めての原子爆彈において、また二重の原子症に悩まされたのであります。すでに余命いくばくもない非常な重態にもかかわらず、病床にあつて、原子力がいかに人類に対して脅威を與えるということを身をもつて体驗され、またそのデータにつきましては非常な研究を続けられております。なお皆様も御承知でありましようが、「この子を残して」とか、あるいは「長崎の鐘」というような著述によつて、いかに原子爆彈が人類に脅威を與えるか、これによつて世界の最終の戰爭に必ずすべきだという点にかんがみまして、最終戰爭を強調せられておるのであります。そうして、あの賣上げた印税等もこれを私することなく、全部を公共事業に寄付されまして、長崎の復興再建に充てていただいたようなのであります。
以上のような次第で、この法案が皆様の御協賛を経まして通過いたしましたならば、長崎市民の喜びはこれに越すことはないと思うのであります。どうか皆様御審議の上、満堂の御賛成を得たいと思います。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/7
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008・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 討論の通告があります。これを許します。坂本實君
〔坂本實君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/8
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009・坂本實
○坂本實君 私は、民主自由党を代表して、ただいま上程に相なりました廣島平和記念都市建設法案並びに長崎國際文化都市建設法案に対しまして賛成の意見を申し述べたいと存じます。
顧みるに、太平洋戦争の末期、すなわち昭和二十年八月六日早暁、廣島市に突如として原子爆弾が投下されたのであります。その被害の状況は、すでに提案者の趣旨弁明にも明らかでありまする通り、人類史上にかつてない、まことに言語に絶する悲惨事でありました。長崎市は、廣島市に遅れること三日、すなわち八月九日、同様原子爆弾の洗礼を受けまして多大の被害をこうむりましたことは、諸君の記憶に新たなところであります。われわれ同胞は、両市の羅災民に対しまして衷心より同情を禁じ得なかつたのであります。特に、アメリカ当局におかれましても常に非常なる関心を寄せられまして、物心両面にわたる援助を示されつつあるのであります。
今回、國際平和記念都市として、雄大なる構想のもとに、この両法案がここに上程をみましたことは、われわれの感慨無量とするところであります。この法案の趣旨に基きまして、恒久の平和を誠実に実現しようとする理想の象徴を両市民各位の自覚と全國民の強力により、政府の施策と相まつて強力に推進せられ、廣島、長崎の再起に関する世界的なる輿論にこたえることを衷心よりこいねがうものであります。
以上、簡単でありますが、両法案に賛成意見を申し述べた次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/9
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010・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 佐竹新市君。
〔佐竹新市君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/10
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011・佐竹新市
○佐竹新市君 私は、ただいま上程されておりまするところの廣島平和記念都市建設法案と長崎國際文化都市建設法案に対しまして、社会党を代表して賛成の意見を申し述べるものでございます。
御承知のごとく、戰爭によりまして、わが廣島市はまことに悲惨なる損害をこうむつたのでございます。この法案が國会に上程され、今や通過を見んとすることは、ただにわが廣島市のみならず、國際的に対しましても、わが日本が憲法によりまして平和國家として立つて行くという大きな意義を持つものであると私は考えるものでございます。
靜かに今目をつむつて考えますると、原子爆彈によりまして戰爭の犠牲となりました二十幾万の廣島市民が、地下におきまして、この平和法のできることをどんなに喜んでおるであろうかと、私は心から感じます。この衆議院におきまして、各党の皆様が心からなる平和法をつくつていただきますことは、これら地下に眠つておるところのわれわれ廣島市民の兄弟が心から皆様に御礼を申し上げておることだと私は信ずるのでございます。
御承知のごとく、去る臨時國会におきまして都市計画特別法案がつくられましたときに、廣島市はこの法案の附帶條件として特別に認める、廣島市の將來の建設に対しては特別に認めるということでありましたが、いまだに日本の財政の困難な状態から実施に至つておりません。しかしながら、現在の日本の経済状態から言うならば、この法案ができましたことによつて、廣島市が一挙にしてりつぱな都市に復興することは、われわれは考えておりません。廣島が軍都として、日清戰爭、日露戰爭から、廣島を通して軍隊が出動し、大きな犠牲を拂つて今日のような日本になつた。ここの土地に対して、この國会において平和法が通過いたしますれば、國際的に持たれるところの同情がやがてはこの平和を念願する日本國民に対するところの大きな力となつて、廣島市が建設されると私は考えるのであります。
かような意味におきまして、私は満堂の皆様に対しまして、廣島市民を代表いたしまして心から御礼を申し上げますると同時に、長崎、廣島のこの両法案に対しまして、社会党を代表いたしまして賛成の意見を申し述べたのでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/11
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012・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 北村徳太郎君。
〔北村徳太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/12
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013・北村徳太郎
○北村徳太郎君 私は、ただいま上程せられました廣島平和記念都市建設並びに長崎國際文化都市建設の両法案に対しまして賛成の意を表するものでございます。
廣島、長崎が、世界史上かつてない原子兵器によつて、まことに惨澹たる破壊を受けたということは、いまさらあらためて申し上げるまでもないのでありまして、のことに関しましては、両法案それぞれの提案者から詳細の御説明がございましたから、省略したいと思うのでございます。
ただ長崎市は、西洋文化の門戸として、一五四九年以來、すなわちイスパニアの貴公子であるフランシスコ・ザビエルが日本へ來朝いたしましてから、本年はちようど四百年になるのでございますが、この四百年間、ヨーロツパ、ことに西ヨーロツパの文化の通路として、あるいは門戸として、オランダ、イギリスその他の諸國との関係が密接に続きました國際都市としての長崎は、またその後安政六年にすでに西洋医学の医学校ができ、西洋樂草園が開かれて、これまた世界の文化史上に特別な跡を残しておるのであります。あるいはまた二十六聖人の殉教によりまして、特異な光彩を世界の人類史上並びに宗教史上に残しておることも、皆様御承知の通りであります。
今思い起しますことは、塙保己一が編纂いたしました群書類從によりますと、初めて九州にフランシスコ・ザビエルが上陸したときの驚異を当時の人々が描いておる。その鼻はさざえのからのごとく大きい、その歯は馬の歯のごとく大きい、その声はふくろうの鳴くに似たりと、初めてヨーロツパの人を見た日本人の脅威が表されておるのでありますが、そのとき以來四百年にわたる日本文化との交渉を考え、廣島が特別に平和都市の理想を実現すべき象徴として建てられると同時に、エキゾチツクな、長い間にわたる西洋文化の通路であり門戸であつた長崎が、恒久文化都市として、ともに憲法においてわれわれは文化を熱愛し平和を熱愛する國民であるという表徴が、人類史上かつてない、ことにたつた二つの原子力によつて破壊されたその都市に新たに設けられようとすることの意義を考えますと、実にそのことは重大であると申さねばならぬのであります。(拍手)
先ほどもお話がございましたが、長崎医大の教授永井隆氏は、今瀕死の病床にあつて、みずから原子病と戰いながら、この原子病のもたらすところの人類へ惨禍と、これに対する科学者としての見解を五後に殘すために、瀕死の病床でなお筆をとり続けつつある。かような事実もございまするし、また先ほど申し上げました、このジエスウイツト一派のフランシスコ・ザビエルの來朝四百年の記念には、西洋諸國より多数の人々が今月末には來朝することに相なつておるのでございます。かような、多年にわたり國際都市として港長崎の名が非常に早くから喧傳せられておるところのその長崎が恒久文化都市として、皆様のお力によつて新しく門出をすることができるといたしますならば、このことの持つ科学的な、あるいは人類史的な、世界史的な大きな意義は、まことに誇るべきものであると考えるのでございます。どうか皆様の御賛同を得まして、これが法文としての、法律としての効果が一日も早く発生いたしますように願いたいと存ずる次第であります。
私は以上のことを申し述べまして、両案に対して心より賛成の意を表するものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/13
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014・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 江崎一治君。
〔江崎一治君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/14
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015・江崎一治
○江崎一治君 私は、日本共産党を代表いたしまして、本両案に希望を付して賛成の意を表する次第であります。
近時、原子核物理学の長足なる進歩発展は、かつて人類が経驗したことのない驚くべき能力をその應用分野に発見するに至つたのであります。この巨大な原子エネルギーが人類の幸福のために使われるか、または人類の破壊のために使われるかは、やがて世界の人民大衆によつて決定れるものと私は信じております。かし、多くの科学者、また原子核物理学者の知能を集めてつくつたところのこの原子力の最初の應用が、人類の幸福のためにではなく、廣島、長崎両市民の犠牲において開始されたことを、自分は一科学者として非常に残念に思う次第であります。
さてこの法案は、特別の地方公共團体にのみ適用される特別法でありますから憲法第九十五條の規定によりまして、廣島、長崎両市の住民の投票において、その過半数の同意を得なければならないという、この手続上の問題を十分に考慮していただきたいと存ずる次第であります。
その次に平和記念都市または國際文化都市なる美名のもとに人民解放の諸運動が圧殺されるがごとき事態に陥らないように特に希望する次第であります。このことにつきましては、議院運営委員会においても、各党とも御了承のことと存ずる次第であります。わが党といたしましては、將來のために、さらにここに要望する次第であります。
本案は五箇年計画で実施されるのでありますが、この予算処置が明確を欠いております。特に、この資金を外國から理由なしに惠んでもらうというようなことであつては、はなはだ困ると思うのであります。將來この廣島、長崎が近代的生産都市として発展するための一段階としての法案でなければならないと思うのであります。そのことを両市の住民は熱烈に希望していると思うのであります。(「賛成か反対か」と呼ぶ者あり)その意味におきまして、この法案に対して賛成する次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/15
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016・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 逢澤寛君。
〔逢澤寛君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/16
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017・逢澤寛
○逢澤寛君 私は民主党を代表いたしまして、ただいま提案いたされました廣島、長崎両記念都市建設法案に賛成をいたすものであります。
戰爭の被害と犠牲は廣い範囲にわたるものでありまするが、なかんずく都市の戰爭の犠牲は最も悲惨なものであります。特に今回提案いたされましたところの廣島市、長崎市の犠牲は、人類史上かつて見ないところの悲惨な出來事であります。科学の限りない進歩と発達は、ただいま、どなたかお話しになりましたように、惡い方面でこの両都市に初めて試みられたのであります。しかして、世界の耳目はこの両都市に集中したのであります。また太平洋戰爭の終焉のポイントも、この出來事によつて初めて一時期を画したのであります。
この被害をこうむりました廣島市や長崎市は、特に廣島市は、一瞬にいたしまして十数万の犠牲者を出し、しかもそれが執務時間中でありましたために、都市中心部におりましたところの主要な人並びに物を失つてしまつたのであります。私は、終戰直後本院を代表いたしまして、同都市の被害の状況と復興の問題について派遣されたことがあります。從いまして、まのあたりその実情を拜見いたしまして、しみじみその被害の状況が非常に悲惨なものであるということの印象が今なお残つておるのであります。その被害があまりにも甚大なために、復興状況も今日なお遅々としておるのであります。
特にこの際私どもが注意しなければならないことは、世界の各國からこの両都市に対して寄せられたるところの関心と同情であります。われわれ日本人は、この両都市の惨害に対しまして深い同情を寄せておるのでありますが、幸いにいたしまして、本院がただいま上程になりましたところのこの法案によつて、この問題を解決いたしたいと思うのであります。私どもは、戰爭を憎惡し、永遠の平和を祈念するために本案に賛成をいたすものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/17
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018・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 小平忠君。
〔小平忠君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/18
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019・小平忠
○小平忠君 私はただいま上程になりました廣島平和記念都市、長崎國際文化都市の両建設法案に対しまして、全面的に賛成の意を表する次第であります。(拍手)
戰爭は文化を破壊し、ひいては人類の破壊を來すものであるということが言われるのでありますが、世界史をひもときますれば、幾千年の歴史の中に数えられるところの多くの戰爭によつて幾多の文化が破壊され、また幾多の人類の悲惨な状態が繰廣げられておるのであります。今次の戰爭によつて廣島、長崎両市に投下された原子力こそ、人類史上にいまだかつてなき悲惨なる状態を現出いたしたのであります。
私は、当時終戰直前、まつたく音信その他の通信が杜絶された南海の弧島ラバウルにありまして、この両都市の原子爆彈投下の実情を耳にしたのであります。日本本土においてさえもいろいろなデマが飛んだことは、復員いたしましてから聞いたのでありますが、ましてや遠く離れたラバウルの弧島におつて、いかなる情報がもたらされたか、当時われわれが耳にしたの実情は、次のようなことでございました。すなわち、長崎、廣島両都市は永遠に生物が生存し得ない、あるいは七十年間はこの両都市に立入りが不可能であるというようなデマが飛んだのであります。私は、翌二十一年に廣島に上陸をいたしまして、この実情を見たときに、当時のデマはデマとして、この廣島と長崎が一日も早く文化都市として復興することを、私は上陸第一歩に念願したのであります。(拍手)
今回、本國会におきまして両法案が上程され、一日も早く両都市が平和都市あるいは國際文化都市として復興し、人類史上に初めて現出した原子力によつて破壊されたこの両都市をして、恨みの都市ではなく、平和都市として、國際文化都市として、記念すべき方向に日本民族それ自体がここに一致して努力し、また世界各國、世界民族においてもこれに対し大いなる関心を持つということに、私はこの両法案の可決と同時にすみやかにその方向に向つて進むことが、すなわち廣島市、長崎市の原子力によつてこの世を去つた両市民の土の下での心中を考えますときに、せめても十数万のこの世の去つたわれらが同胞に報いる道ではないかと私は思うのであります。(拍手)
いろいろ意見が出ましたので、私は率直に結論を申し上げます。この法案は、どうか各位の絶大なる賛意をもつて可決されんことを望みますと同時に、これが可決されましたならば、眞に國家みずからの手によつて、一日も早くこの法案の趣旨に從つて平和都市あるいは國際文化都市としての目的を達成されることにわれわれは盡力することを、ここに誓いたいと思うのであります。
以上、簡單でありますが申し述べまして賛成の意見にかえます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/19
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020・岩本信行
○副議長(岩本信行君) これにて討論は終局いたしました。
両案を一括して採決いたします。両案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/20
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021・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 起立総員。よつて両案は全会一致をもつて可決いたしました。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/21
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022・岩本信行
○副議長(岩本信行君) この際お諮りいたします。廣島平和記念都市建設法案及び長崎國際文化都市建設法案の両案については、参議院に対して委員会の審議省略の要求をいたしたいと思います。これに御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/22
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023・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 御異議なしと認めます。よつてその通り決しました。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/23
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024・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 日程第一は提出者より委員会の審議省略の申出があります。右申出の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/24
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025・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 御異議なしと認めます。
日程第一、スポーツ振興に関する決議案を議題といたします。提出者の趣旨弁明を許します。河野謙三君。
〔河野謙三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/25
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026・河野謙三
○河野謙三君 ただいま議題となりましたスポーツ振興に関する決議案の趣旨を説明いたします。まず決議案文を朗読いたします。
スポーツ振興に関する決議
スポーツの振興は、わが國民をして日本再建の氣力と体力とを振起し、且つ、國際市民としての教養と品格を高めるものと確信する。
本院は、さきに國際オリンピツク実行委員会が日本のオリンピツク大会復帰をI・O・Cに勧告したことを深く感謝するとともに、政府はこの機会に一段とスポーツ振興についてその施策を進め、スポーツの民主的発展と育成のため速かに適切なる措置を講ずべきもとの認める。
右決議する。
スポーツの持つ國家的重要性については、あえて今さら喋々するまでもありません。戰後の混乱した世相に國民をして希望と明朗さを持たせ、また國家再建に要する國民の旺盛なる氣力と体力とを養成するためにも、スポーツを大いに奬励しなければなりません。ことに、國家の原動力して將來の文化國家建設の中心的役割を果す青少年を善導する意味からも、スポーツの振興は一日もゆるがせにすることのできないものであります。
戰後におけるスポーツの興隆は、まことに見るべきものがあります。特に昨年度においては、水泳の古橋選手が樹立した八つの世界新記録を初めとして、同じく橋爪選手のこれに劣らないような活躍、さらに陸上競技においては、ロンドン・オリンピツク大会の優勝記録よりも優秀なる記録を残した三段跳びの長谷川選手、また女子走幅跳の山内選手の目ざましい健闘は、われわれ日本國民に明るい感じを抱かせたものであります。本年に入りましては、シーズン半ばでありますので、まだこのような朗報を聞いてはおりませんが、四月末にローマで開催された國際オリンピツク委員会においては、日本のオリンピック参加に明るい希望を投げかけるような決議がなされたことは、すでに新聞紙上を通じて十分御承知のことと思います。すなわち、オリンピツク実行委員会が、IOC総会に対し、日本の各競技團体を國際競技團体へ復帰させるべきであると勧告したことであります。この事実は、來るべき一九五二年のオリンピツク大会にわが國が代表選手團を送ることが間違いなくできるようになり、國際市民としての與えられることがほぼ確実となり、御同慶にたえぬものであります。(拍手)
かくのごとく、内には世界的記録の樹立、外においてはこれに呼應するがごとき力強いオリンピツク参加への大きな示唆があり、いかばかり若人の耳朶を刺戟したことかわかりません。しかしながら、他の客観的情勢が今日までスポーツ界をして健全な歩みをたどらせて参つたでしようか。われわれは、これを考えてみなければならないのであります。
スポーツ振興の必要條件としては、施設、資材がまずあげられるのでありますが、これらに対する施策は、從來ほとんど見るべきものがありません。ここ両三年、スポーツの盛り上る力や、國民体育大会の地方開催に刺戟されて、わずかながら総合運動場計画が始められつつある現状でありまして、これはおひざもとの東京にも満足に使用できる施設がない事実を見てもわかることであります。いまさら運動場施設を数字的に羅列する要もありませんが、これら施設が、米國では人口一人について十三平方メートル、英國は十平方メートルなのに対して、わが國はわずかに〇・三九平方メートルという数字が示すように、米英先進國の三十分の一にも及ばない貧弱さなのであります。資材の面を見ましても、昭和二十三年度においては、ゴムの割当は百八十トンで、スポーツ界全体の需要の約四分の一、皮革は二百トンで、需要量の約五分の一、繊維製品のごときは、スポーツ用としての配給は昨年まではなかつたのでありまして、しかもこれらの物品には五割の税金がかけられていたのであります。
以上のように、資材、施設の面はスポーツを助成するに何らふさわしい姿を具現していないのでありまして、純眞な少年の欲求する最低の用具でさえもこれを満たすことのできぬ現状では、必然的に一部有産階級の専有物化して、とうていスポーツの民主的発展は望むべくもありません。
次に、スポーツに対する國の政策はどうなつているか、これを檢討して見なければなりません。文部省が、知・徳・体一致の観点からスポーツ行政にあたつておるのでありますが、昭和二十四年度における体育関係の予算はわずかに五千百九十一万円であり、地方においても、ほとんど中央と同様に、わずかの予算をもつて運営されている実情でありまする。もちろん体育は國の予算によつてのみ行われるものではありませんが、いましばらくは官民ともに正しいスポーツの育成に努力を傾注しなければならないのであり、國の保護のもとに國民に日本再建の氣力と体力とを培わせるためのスポーツ興隆になお一層の考慮が拂われてしかるべきであると信じます。
スポーツのあり方は、從來のような選手制度の上に立脚した方向には大いに議論の余地が残されているわけでありまして、國民大衆にレクリエーシヨンとしての樂しさを感得させるような方向にスポーツ施策の根本方針を持つて行き、そのうちから生れる古橋であり、橋爪でなければならないということは、いまさらここに喋々するまでもありません。終戰後のすさんだ國民氣持を正しい軌道に乗せて、國際市民としての教養と品格を高め、かおり高い道義日本を再建するためには、スポーツ精神を強烈に会得した國民を育成することが刻下の急務であると確信いたします。(拍手)
スポーツ精神はすべてフエア・プレーに帰一しますが、このフエア・プレーの精神の養成は、一朝一夕にして成るものではありません。米國のそれのごとく、強力なるクラブ組織と官民合同の経営にかかる説を活用して初めて生活にしみ込んだスポーツ精神が会得されるのでありますが、この際ただちに大いなる飛躍は、わが國情からして望むべくもありませんが、地味にしてゆるぎないスポーツ施策の推進と北欧諸國のそれのごとく、オリンピツクのような國際的行事には國家が進んで強力なる保護政策をとるようなスポーツ施策の確立こそ、刻下の喫緊事だと信ずるものであります。古橋、橋爪の世界記録を先頭に、その組織もようやく民主化の軌道に乗つて参りつつあるわがスポーツ界に対して、本院は深い愛撫のまなざしをもつてこれを見つめると同時に、國民残らずをレクリエーシヨンとしてのスポーツに樂しませ、その盛り上る結集が國際場裡にも進出できるような強力なるスポーツ施策を展開すべきであると信ずるものであります。政府はよろしく以上の趣旨を体して、國民の深い理解と積極的なる協力を得て、すみやかにスポーツ振興に関する具体的な措置を講ぜられるよう強く要望いたします。
何とぞ満場の諸君の御賛成を願う次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/26
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027・岩本信行
○副議長(岩本信行君) これより討論に入ります。福井勇君。
〔福井勇君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/27
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028・福井勇
○福井勇君 私は、民主自由党を代表いたしまして、ただいま上程されましたスポーツ振興に関する決議案に双手を上げて賛成するものであります。(拍手)
わが帝國議会のころから、また新しくは民主國会が発足いたしましてからも、スポーツに関連いたしまして決議案が上程せられましたことは、今回が初めてでございます。ただ関連するものといたしましては、昭和十年二月二十三日の第六十七帝國議会におきまして、鳩山一郎氏外九名の提案にかかる第十二回國際オリンピツクに対する経費補助の決議案が提出されております。当時これに対しては、安藤正純氏並びに牧山耕藏氏、岸衞氏たちが全面的な賛成演説をいたしまして、総員起立の採決をしておるのでございます。その後第七十四議会前後には、川崎克氏がヘルシンキのオリンピツクに対し選手派遣の発言を委員会でなしており、また八十八議会におきましては、福田繁芳氏が、派遣に対する見通しについての質問をしております。その他新しい國会では、鈴木明良氏が記録についての発言をなしております。
かように考えて参りますと、明治、大正、昭和を通じまして、体育スポーツに関しての発言は議会に寥々たるものでございます。私は、この決議案が、去る四月二十九日にローマで開かれました國際オリンピツク委員会において、十三年間日本がオリンピツク出場を禁止されまして新たに復帰を許され、一九五二年のヘルシンキ大会に出場ができるという喜びを含んで提案されましたことを思いあわせ、まことに時宜を得た決議案なりと感謝する次第でございます。われわれ長年体育スポーツ界に関係して参りました者にとりましては深い感激を覚えるものでございます。
今回、オリンピツク実行委員会オツト・メーヤー氏はいわく、実行委員会は各國の競技團体に対し日本を認めたから、その國内のスポーツ團体を承認するよう勧告しております。これは、古代オリンピツク競技がギリシヤに創始されまして以來、平和を愛し、隣人と親しむという崇高なる精神をもつて行われ、また世界中の若人たちがより強く、より高く、より早くという理想を掲げてオリンピツクに参加しました事実は、平和文化を愛する日本人にとりまして重大なる関心事でなければなりません。
このオリンピツクが一八九六年かのクーベルタン男爵によつて提唱されまして、由緒深きギリシヤのアテネに第一回が開催されまして以來、日本は一九一二年のストツクホルムの大会に初めて参加いたしました。以後順次日本の成績は上りましたが、一九二四年のパリ大会、越えてロサンゼルスの大会、ベルリンの大会を最高潮といたしまして優秀なる記録を残したことは、皆さん御承知の通りであります。(拍手)しかしながら、第十四回のロンドンにおいて開かれました大会には、遺憾ながらこの出場を禁止されておりましたが、戰後諸般の立ち直りが遅々たる状態にありますこの日本におきまして、最近水上競技を初め陸上競技におきましても非常なる活氣を呈して参りまして、かのスエーデンのアルネ・ボルグが、千五百メートル十九分七秒二という記録は人類ある限り破れまいと豪語いたしましたものを、天野が破り、古橋が破り、橋爪が破りましたことは、われわれ日本人として、まことに感激深いものがございます。(拍手)
政治家が健全なるスポーツ界の民主的発展のために指導的役割を果すことは重大なる意義が存在いたしますが、平時の理想といたしましては、スポーツの発展は民主的に盛り上る輿論を背景に興隆さるべきものでありましよう。しかし、戰後あらゆる面に道義の頽廃あるいは設備の破壊したこの痛手の多い中に、現下のスポーツ界は政治的にも考慮が拂われなければ、急速な立ち直りはけだしできにくいものでございます。(拍手)今回、院内のスポーツ議員連盟といたしましても率先相諮り、先般來体協の関係者とも相談し、日本スポーツ界の民主的発展を遂げますために、いかなる方針で國内の諸機関を大改革すべきかについて、民間情報教育局ともたびたび折衝して來たのでございますが、新たにつくられるスポーツ界の構成團体は、從來ややもすれば非難のありましたボスを徹底的に排除することに心がけまして、その構成は数十團体、あらゆる階層を網羅いたして、近々スポーツ振興会議を開催することになつております。これについても議員各位の絶大なる御支援を希望する次第でございます。(拍手)またわれわれといたしましては、從來ややもすれば選手第一主義に陷りがちの弊風を是正いたしまして、一般國民の体育向上をはかることに重点をおき、スポーツを通じ明朗なる國民性を付與するところのスポーツ振興政策を樹立するべきで、この強き基盤に立つて初めて選手が養成せられ、外にはヘルシンキの大会に多数の選手を派遣し、内には國内におきまして國民全般の体育向上を特に画策すべきことが緊要でございます。
以上、簡單ながら所感を述べて、本決議案に賛成の意を表する次第でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/28
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029・岩本信行
○副議長(岩本信行君) この際あらかじめ申し上げておきますが、本決議案に対する討論は一人五分以内となつておりますので、さよう御了承を願います。受田新吉君。
〔受田新吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/29
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030・受田新吉
○受田新吉君 私は、ただいま上程せられておりますところのスポーツ振興に関する決議案に対しまして、日本社会党を代表いたしまして、いささか所見を申し述べまして賛成を表する次第であります。
由來わが國のスポーツはまことにこれが等閑に付せられ、スポーツ精神の振興は沒却せられていた観があるのでありまするが、最近に至りまして、ようやくその振興の萠芽が見えそめたころにおいて、幸いに東京においては國際オリンピツク大会が九年前に開かれる段取りにまでなつておりましたときに、悲しくも誤まられたる戰爭の遂行のために、遂にこれをむなしゆういたしましたことは、千載の痛恨事であるのであります。
そもそもスポーツそのものは、ただ一部興味を有する國民のみがこれを享受すべきものではありません。要するに國民すべてのものがスポーツに親しみ、スポーツを愛すべきであります。從つて、山野に働く勤労者にも、職場に働く人たちにも、あるいは農村、漁村にその日々を営々として働かれつつあるこれらの人たちにも、すべてスポーツの恩惠が與えられなければならないのであります。從つて、スポーツ精神が勤労大衆によつて打立てられるときに、勤労者によるところの生産能率が増進し、祖國再建の重大な基盤となることは、火を見るより明らかなのであります。
またスポーツは、若き人たちの將來を祝福し、その青年たちに希望を與えるものであります。幸いにして、昨年國会を通過いたしましたるところの國民の祝日法におきまして、成人の日、文化の日、あるいは子供の日等におきまして、あのはつらつとして將來を有する若人のためにこれを祝福し、おとなもまたこぞつて若人と恩惠を受くるという好ましい祝日行事の中に幾多スポーツ行事が盛り込まれて、現にこれが盛んに実施されんとしつつあることは同慶の至りにたえませず、さらに近く第四回國民体育大会も開催せられんとしておることは、終戰後このスポーツ精神の振興を如実に物語るものとして喜びにたえない次第でございます。
今やわが國は、あらゆる武器を放棄して、ひたすらに平和を希望する國民となつておるのでありまするが、過去誤まられた軍備充実の手段として、あるいは強兵政策の手先として誤まり用いられたこのスポーツをして、眞に平和の根幹をつちかうところの正しいスポーツ精神にこれを戻し、よつてもつた平和國家建設の基盤となすとともに、國際社会においてスポーツを通じてその親善をはかるところの、堂々たる國際人たらしめるところの基盤を養わねばならぬと感ずるのであります。
私はこの機会において、政府はすみやかにこの決議案の趣旨にのつとりましてスポーツ振興政策を具体化するとともに、農村において、漁村において、職場において、若人の將來を祝福するいろいろな計画を具体的に打立て、よつてもつて國の経済的再建をはかるとともに、その重大なる基盤となるところの人的生産の面に重点的施策を講ぜられんことをひたすら希求いたしまして、私の演説を終る次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/30
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031・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 次は川崎秀二君。
〔川崎秀二君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/31
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032・川崎秀二
○川崎秀二君 民主党としての簡單なる賛成の意思を表明いたします。
今日スポーツの振興について特に強調しなければならない問題に二つあると思うのであります。その一つは、スポーツの真髄でありますところの、先ほど以來御強調にはなりましたが、フエア・プレーの精神というものは、ひとり青少年のみでなく國民一般に浸潤をする、これが一番かんじんなスポーツ振興の眼目でなければならぬと考えるのであります。競技はもちろん勝敗がございます。しかしながら、勝ちさえすればいかなる手段を用いてもいいというような考え方は、戰後の日本からは拂拭されて行かなければならぬと、私は強く考えるのでります。オリンピツク大会の始祖でありますところのクーベルタンという男爵の宣言によりますると、オリンピツクにおいて最も重要なことは勝つことではなくして参加することであるということを申しておりまするが、このフエア・プレーの精神は、ひとり職域のみでなく、あらゆる会合においても、さらに民主國会の神聖なる議場においても、この精神が最も高く正確に表現されてしかるべきではなかろうかと考えるのであります。(拍手)この精神を把握したときに、わが國民は初めて國際社会に伍して世界の民主國家から尊敬される一員となると私は考えるのであります。
第二の問題といたしましては、勤労者のスポーツの振興ということが終戰後の一つの大きな目標にならなければならぬと思います。先ほど以來、河野謙三君その他の方々から御指摘になりましたように、終戰前とは違いまして、今やスポーツはひとりの学生層あるいは有閑階級の対象物ではないのでありまするが、労働組合運動が伸長いたしまして以來、漸次このスポーツの氣風があらゆる組合に浸潤いたしておりますることは喜ぶべき現象でありまするが、先ほど以來御指摘のように、施設あるいはその他の面におきまして非常な難関がありますので、これについては政府は特に留意されまして、その向上に努めていただきたいと考えるのであります。よくスポーツは思想の阿片であるというようなことを指摘されることがあります。私は、スポーツは断じて思想の阿片ではなくして、健全なる身体にこそ健全なる思想は宿る、かような観点から、労働者あるいは学生が、労働と勉学の余暇にスポーツに樂しみ、自分の生活をレクリエートするという観点に立つてスポーツの振興が望ましいと考えるのであります。(拍手)
最後に、今回のオリンピツク復帰につきましては、アメリカのオリンピツク委員のブランデージ氏あるいはガーランド氏、さらには國際陸上競技連盟の会長をやつておりましたエドストロームというスエーデンの会長が非常な御努力のあつたことを、この壇上を通じて深く感謝いたしまするとともに、終戰後日本民族が非常に無氣力の状態でありましたときに、日本民族ここにありという気概を示したのは、かの古橋廣之進君でありましたが、この古橋君に続くところの水陸の精鋭が、三年後ヘルシンキ大会の会場に颯爽として立つ日あることを私は深く待望いたしまして、賛成演説を終るものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/32
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033・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 井之口政雄君。
〔井之口政雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/33
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034・井之口政雄
○井之口政雄君 このスポーツ振興の決議案、これには賛成であります。けつこうな決議案であります。私たち共産党といたしましても、これはもとより賛成の問題であります。わが民族の体力を盛んにし、そうしてその体力に平和な精神を宿すということは、これは最もいいことでありまして、スポーツによつてわれわれがこの目的を達することができれば、これに越したことはないのであります。
私にも一人のせがれがおります。これは高等学校に行つておりますが、ずいぶんスポーツをやつております。ラグビーの選手をやつております。家へ帰つて來るときは、まるでへとへとになつております。そこで、こういうふうなことをお考えになつている世の中のお父さんやお母さんがたくさんおいでになると思う。スポーツけつこうだ、これはひとつ大いに振興しなければならぬ、盛んにやらなければならぬ。しかしながら、今の配給量は少くて、うまいものを食べさせることはできない、これでは、やつぱり一生懸命スポーツをやらせたくてもやらせられないという家庭がたくさんあると思うのであります。
そこで、この決議案も、どうせこれは実行に移さなければ意味がないのでありまするから、実行に移す上においては、われわれ國民の生活程度を引上げる、こういう問題と密接に結びついている。学生さん方には、あるいは夜学に行つておいでになる方もたくさんおられる。そういう人たちもスポーツをやりたい、スポーツをやりたいが、なかなか境遇が許さないというふうな事情にありまするから、議会においてそういう点も十分考えてやつて、そうして大衆がスポーツに実際楽しめるような方向へこれからやつて行きたいと思います。
また、私の近所の例の甲子園というところには大きな野球場がありまして、わんさわんさたいへん盛んなものでございます。スポーツがなかなか盛んであります。それを見るにつけて、いつも思います。これではやはり少い、もつと大きな大衆的なスポーツを日本で廣めなければいかぬのじやないか、こう考えます。そういう場合に、労働組合の方々がこれに参加していない。各工場の方々がこれに参加していない。やはりこういう方々もどんどん参加するような大きなスポーツ政策にこれが発展して行つたならば非常にけつこうだと思うのであります。その初めとして、まずこの決議がなされますることは、けつこうであります。
それからオリンピックに対しましても、もとより今度参加するような運びに立至りまするが、しかし世界に新しく興つた民主主義の國々も、これからどしどし参加するでありましよう。こういう國もどんどん参加して、從來のような單に職業的なスポーツマンによつて独占されているようなこういうスポーツが、もつともつと廣い、人民的な、全人類的な平和スポーツへ発展して行くことが願わしいと思います。
最近のスポーツのスローガンは、オリンピヤードのスポーツからさらに一歩進んだところのスパルタケヤードのスポーツへ、となつておるそうであります。私はスポーツのことは専門家ではありませんけれども、しかしながら、そういうのは勤労者のスポーツを非常に大きく取上げたものなのでありまして、これこそほんとうに平和を宿す、われわれの肉体を強めるスポーツでありますから、そういう方向へ進んで行くことを希望して、この決議案に賛成するものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/34
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035・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 大西正男君。
〔大西正男君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/35
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036・大西正男
○大西正男君 私は、ただいま議題となつております決議案に対しまして、民主党を代表いたしまして賛成の意を表するものであります。
さきに國際オリンピツク実行委員会が、わが國のオリンピツク大会復帰をIOCに勧告されまして、これに基き、新聞紙の報ずるところによりますならば、次回オリンピツクに参加し得るの公算がきわめて大と相なるに至りましたことは、すなわち言いかえますならば、わが日本がまずもつてスポーツの面より國際社会に復帰するの明るき希望を持ち得るに至りましたことを意味するものでありまして、全國民ひとしく同委員会並びに関係方面に対しまして深く感謝を捧げますとともに大いなる喜びといたすところであると確信いたすものであります。さらにこの際、さきに水泳会におきまして、先ほど來各位より申されましたが、古橋並びに橋爪両君が世界最高のレコードを樹立されまして、その記録は客観情勢のもとにおきまして、今日のわが國の國情からいたしまして、いわゆる世界の公認記録たるにいまだ至つておらないと聞いておりますけれども、しかしながら、このことによりまして、終戰後沈滞せるわが國民の精神に活を入れ、事実上世界に対しまして万丈の氣を吐きました両君等に、私は深甚の感謝の意を表しますとともに、誇りといたしたいと存ずるものであります。
そもそも新憲法の下におきまして、われわれ日本國民は平和を愛し文化を尊ぶ國民として更生し、しかして國家は健康にして文化的なる國民生活を保障せんとしつつあるのであります。スポーツはルールに從つて全力を盡し、平和的なる闘いによつてエネルギーの正しきはけ口を求め、相闘う者が更生と信義に立脚いたしまして、相憎むにあらずして相親しまんとするところにスポーツ精神の真髄が存すると確信いたすものであります。まさにスポーツこそは、國民をして平和的にして文化的なる祖國再建の氣力と体力とを振起させるものであり、ことに今日健全なる娯樂機関の乏しき現状におきまして、次代をになう青少年に対する教化育成の方策といてしまして最も適切有効なるものと言わなければなりません。さらにまた働く人々に対しまして明日の力を蓄えるべく同じく有効適切なる方策と言わなければならぬと確信いたします。
かつて國民外交という言葉がありました。今日わが國は、正常な國際社会にいまだ復帰するに至つておりませんが、およそ外交は、國民外交の正しき基盤の上に発展をいたしましてこそ眞の外交と言わなければならないと確信いたします。しこういたしまして、スポーツ外交はいわゆる國民外交の重大なる一環をなすべきものであります。スポーツによつて國際市民としての教養と品位を高めることは、これはすなわち將來わが國外交の重大なる役割を果すものと確信するのであります。
この際私は、本決議案がすみやかに議決されることを望むものであります。しかして、この際政府におかれましても、この決議案の精神を十分に尊重し、諸施策を推進されんことを期待いたすものであります。
以上をもつて、わが党は賛成の意を表する次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/36
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037・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 松本瀧藏君。
〔松本瀧藏君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/37
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038・松本瀧藏
○松本瀧藏君 私は、本決議案に対して賛成の意を表するものであります。さきの各賛成者によりまして、スポーツの有する異議ある面をるる述べられたのでありまするから、私は主として國際観点からスポーツを振興の重要性を述べてみたいと思うのであります。
先般私は、ハワイ並びに北南米在留同胞及び日系市民の対日援助に対する感謝決議案の趣旨弁明を行いました際、國際社会復帰の問題を取上げて、永井松三氏のローマにおける國際オリンピツク大会参加の説明をいたしました。申すまでもなく、今日までの國際会議へ日本人が派遣されましたのは、まつたくオブザーバーとしてであつたのでありますが、わが永井松三氏は、終戰以來初の日本人の代表として國際会議への参加が許されたのであります。同氏は発言が許されたばかりでなく、一九五六年のオスロ会場決定に対する投票すら行つているのであります。さらに日本選手のオリンピツク参加の道が開かれたことは、さきの弁士によつて何回も繰返されたところであります。日本がスポーツ界という限られた世界ではありますが、とにかく一國として認められたことは、今後の日本にとつて実に輝かしい光明と言わなければなりません。
思い浮かべるのは、戰前のわが國の國際スポーツ界におけるの地位と実績であります。オリンピツク競技において、メーン・マストにわが日章旗をへんぽんとひるがえし、われわれ目撃者をして感激の涙にむせばさせたことは別といたしまして、数々の美談を常に競技地に残しておりますことは、皆さんもよく御存じの通りであります。たとえば、一九三二年のロサンゼルス大会の五千メートルにおける竹中選手が優勝したフインランドのレーチネンに走路を譲り、レーチネン選手をして新記録を樹立せしめ、満場の慣習は総起立して破れたる竹中選手のゴール・インを拍手をもつて迎えたことは、われわれの記憶にいまだ新たなことであります。またロサンゼルス大会の総合馬術競技における城戸選手は、疲れておる馬にいま一度むちうてば、最後の障害を乗越えて優勝確実であるということになつておつたにもかかわらず、愛馬の疲労を見かねて、これ以上むちうつことの酷なることを痛感して、自分の栄誉を愛馬のために犠牲にしてレースを断念すると同時に、ただちに下馬して鞍を取りはずし、馬を愛撫したその情景は、これまた観衆を感激せしめ、大会後、その会場に同選手をたたえる像が建てられたことは、当時の世界の各新聞に発表された通りでございます。(拍手)
さらに一九三六年のベルリン大会においての西田、大江の美談もあまりにも有名であります。五時間にわたる棒高跳びの選手権競技は、最後に米國のメドウスと日本の西田、大江両選手の三人の優勝爭いとなつたのでありまするが、惜しくもメドウスに敗れたのでありました。審判は西田、大江に二位爭いを命じたのでありまするが、先輩の西田は後輩の大江に譲り、後輩の大江は先輩の西田に譲り、いかんともしがたく、遂に日本側役員の仲裁となりまして、二等の銀メダルと、三等の銅メダルをまつ二つに割りまして、これを繋ぎ合わせ、半分銀と半分銅のメダルをつくることによつて仲よく二位と三位をわかち合つたことも、オリンピツク美談として廣く世界に傳わつたところであります。ちなみに大江選手は、あくる年米國に招かれまして、ニユーヨークのマジソン・スクエア・ガーデンにおいて開催された全米選手権競技大会でメドウス選手を破り、みごと優勝して、ニユーヨーク市民から贈られた最高栄誉賞を日本に持つて帰つたのであります。(拍手)
スポーツは技であります。しかし、それを真の技たらしめるものは精神であります。どんなに技術がすぐれても、よい記録を出しても、正しい純潔なる精神がそれに伴わなければ真のスポーツとは言えません。スポーツはフエアプレーであります。スポーツ道は謙譲の真心によつて初めて見出されるものであります。スポーツは、一つのルールのもとに規律ある競技を行うものであり絵画や音樂國と同様に、民族習慣は異つても、國境を越えて、まつたくわりない精神と解釈で行われるのであります。われわれは、このすぐれた競技力と精神力の高さとを持つた多くの選手を世界に送り出し、平和國家としての眞價を示すよう努力しなければなりません。このときにあたり、われわれは、日本國内におけるスポーツ指導の方策態勢を樹立強化する要を痛感するものであります。
軍國主義のもとで、自由にして平和的なるべきスポーツが多くの制限や彈圧を受けて、まつたくゆがめられたものとなつたのでありますが、終戰直後から、食糧事情その他のハンデイキヤツプを課せられたにもかかわらず、各スポーツはよく復活し、その記録も向上したばかりでなく、何回もこの壇上から繰返されましたごとく、水泳のごときは早くも戰前の水準を越えて、世界新記録を樹立するに至つたのであります。われわれスポーツに関心を持つ者は、わが國の國際社会への完全なる復帰をまずスポーツから実現させたいと考えるものであります。
五輪のマークが示すように、スポーツ、特にオリンピツクが世界各民族、各國民の握手と親善とを象徴するものであることは申すまでもありません。戰爭を放棄した平和な國家としての日本が、いち早く國際スポーツ社会への復帰を認められるということは、わが日本にふさわしい門出であるといわなければなりません。われわれは、このスポーツを通じまして、國内的には戰後の頽廃せるわが國の道義心の向上に資し、國際的にはわが國の信義の回復と國際社会への復帰促進に資することを確信いたすものであります。よつてわれわれは、本決議案に賛成の意を表する次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/38
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039・岩本信行
○副議長(岩本信行君) これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。本案を可決するに御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/39
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040・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 御異議なしと認めます。よつて本案は可決いたしました。(拍手)
この際文部大臣より発言を求められております。これを許します。文部大臣高瀬荘太郎君。
〔國務大臣高瀬荘太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/40
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041・高瀬荘太郎
○國務大臣(高瀬荘太郎君) ただいまの御決議に対しましては、政府としてまつたく同感でありまして、全面的に賛意を表する次第であります。
スポーツの振興が単に國民の体位向上の見地から必要であるばかりでなく、新日本再建のために、あらゆる方向からきわめて重要でありますことは、御決議に示された通りであります。つきましては、政府としてこれが振興に万全の施策を講ずるつもりでおりますが、今後議員各位におかれましても一層の御支援、御鞭撻を賜りますようお願いいたします。(拍手)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/41
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042・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 日程第二、弁護士法案は委員長提出の議案でありますから、委員会の審査を省略するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/42
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043・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 御異議なしと認めます。
日程第二、弁護士法案を議題といたします。提出者の趣旨弁明を許します。法務委員長花村四郎君。
〔花村四郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/43
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044・花村四郎
○花村四郎君 ただいま議題と相なりました弁護士法を改正する法律案について、法務委員会を代表して本案の提案理由及びその要旨を説明申し上げます。
まず本案起草の経過について申し上げますと、本案は第五國会法務委員会の弁護士法起草小委員会において起草いたしまして、本委員会で可決されたものでございます。すなわち、昭和二十四年三月二十八日、弁護士法を改正する法律案を起草する小委員会が設けられまして、爾來十数回にわたり懇談協議が重ねられたのでありまするが、この間、小委員会もちろん弁護士会代表者、法務廳、裁判所等当局者の出席を求めまして、互いに胸襟を開いて協議を盡し、四月二十七日に至り小委員会の成案を得たのであります。本委員会はこの小委員会の成案を承認し、ここに法務委員全員が提出者となりまして、本日上程さるることになつたのであります。
本法案の現行法と異なりまする点を簡單に申し上げますと、第一に、現行法においては弁護士及び弁護士会に対しまする法務総裁の監督が厳重でありまするが、改正法におきましてはこれを改めまして、弁護士会自治の原則に基き自由に活動し、また同時にみずから責任を負うことといたしたのであります。これは民主主義理念の当然の要請であると存じます。すなわち、弁護士会連合会が強い推進力を持ちながらも懲戒委員会、綱紀委員会の規定を設けたのは、この建前に基くのであります。
第二に、現行法においては弁護士の懲戒裁判がありますが、これを廃止して、弁護士会内に懲戒委員会を設けました。弁護士に非行があつた場合には何人も懲戒の請求をなすことができることにして、國民に対する責任追及にこたえることとしたのであります。その反面、みだりに懲戒請求の弊を防止するため、綱紀委員会の調査の結果に基き懲戒委員会を開くことにいたしたのであります。
第三に、改正法案では弁護士の地位が一段と向上しておるのであります。すなわち弁護士は、私益の保護というよりも、むしろ憲法上の基本的人権の擁護と社会正義の実現に努力すべき、たつとき使命を負わされたのであります。と同時に、これを裏づける品位保持、信頼裏切りの禁止、不適正なる者の入会拒絶等の規定によりまして、弁護士の深い教養とそうして高い品性とを要求することとなつたのであります。ただ第十二條第三号の、判檢事がその就職地において二箇年以内に入会申出をしたときは入会拒絶ができるという案文について最も論議があつたのでありますが、裁判所側、法務廳側の意見を取入れまして、これを公務員として、さらに第三号とせず、第二項といたしましたのであります。すなわち、登録または登録がえの請求前一年以内において常時勤務を行わせることが特にその適正を欠くおそれがある者についてもまた前項と同様とすること、かように改められたのであります。
第四に、弁護士会に加入することは、現行法でも改正法案でもそのままであります。しかし、自由職業において、その属する團体に当然加入することは終戰後珍しいことであります。これには長所短所相伴うので、その弊害除去に特にくふうをしております。ことに弁護士の資格を得ながら不当に入会を拒絶されることがないように、資格審査委員会においては判檢事、学識経験者を入れて、公平を期し、一度は入会を拒絶されても、最後には裁判所に訴訟を提起して救済されるようにくふうをいたしております。
第五に、弁護士名簿、弁護士の権利義務、弁護士会、法律事務所の取扱いに関する取締り、いわゆる三百代言禁止については、おおむね現行法の通りであります。以上が本案の要旨であります。
次に小委員会及び本委員会において論議の中心と相なりました点を簡単に申し上げました第十二條についてであります。第二は、衆参両議院で三年以上法務委員たりし者に弁護士の資格を與える可否でありますが、これは與えないことに決定いたしました。第三は、裁判所の弁護士に関する規則制定権の問題であります。この点は各方面の意見を徴し憲法に抵触しないと思料したのであります。第四は、弁護士会の当然加入の問題であります。医師法に比較して、弁護士会の強制加入はいけないという議論もありました。しかし、弁護士会自治の建前上、各弁護士は当然に弁護士会に入会し、その責任の所在を明らかにすることにいたしました。
なお委員会においては、共産党を代表して梨木、上村両委員より、弁護士の不適格者の中に禁錮以上の刑に処せられた物とあるが、政治犯による場合は弁護士になれるように修正したいという要求がありました。結局採決されなかつたのでありますが、少数意見としてここに申し添えておきます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/44
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045・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 論議の通告があります。これを許します。梨木作次郎君。
〔梨木作次郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/45
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046・梨木作次郎
○梨木作次郎君 私は、日本共産党を代表いたしまして、本案に賛成の意を表するものであります。ただいま委員長の報告にもありましたように、委員会におきましては、私たちは弁護士の使命達成上重要な資格の條項につきまして一つの意見を出したのでありますが、遺憾ながらこれは少数意見として否決されたのであります。そこで、これは非常に重要な問題でありますので、近い將來これがわれわれの希望するような方向に改正せられることを期待しまして、その資料として、私たちの主張をここに披瀝いたしたいと思うのであります。
弁護士法案におきましては、第六條第一号におきまして、弁護士となる資格といたしまして、禁錮以上の刑に処せられた者は弁護士になることができないと規定してあるのであります。御案内のように、弁護士という仕事は、警察や、檢察廳や裁判所というような権力機関と対立しながら、それとの闘いを通じて人権の擁護と伸張を企図することが重要なる指名の一つとなつておるのであります。從いまして、これら権力機関との鋭い対立の中におきましては、ときにはつばぜり合いのような闘いもしばしば起り得るのであります。こういうようなはげしいつばぜり合いの場合におきましては、かすり傷のようなけがもすることがあるのであります。つまり、こういうかすり傷のようなけがにも匹敵すべき事項を原因として禁錮以上の刑に処せられたら最後永久に弁護士としての資格が剥奪されるようなことになつておつたのでは、基本的な人権の擁護を完全に達成することはできないと思うのであります。また、こういう規定がありますると、これを奇貨といたしまして、権力機関は弁護士を圧迫する道具に使うのでありまして、これは過去におきましても、その事例は少くなかつたし、現在においても、地方においてはこういう事例を見るのであります。
〔副議長退席、議長着席〕
そこで、弁護士が自由に、圧迫せられることなくその仕事ができるように保障してこそ、人権蹂躪のような忌まわしい事件を絶滅して、民主主義の健やかなる発展を期待することができるのであります。この観点から、かような欠格條項を設けておくとは不都合であるという意味合いにおきまして、われわれはこの條項の削除を主張したのであります。
しかしながら、このわれわれの意見に対しましては、民主党やその他各派の委員諸君も、私たちの趣旨には賛同せられておつたのであります。ただ医師法だとか、税務代理士法だとか、あるいは弁理士法といつたような自由職業を規定する法律において同じような欠格條項がある、これとのつり合い、また弁護士の権威のために、こういう規定を設けておいた方がよかろうというような御意見で、これを存置することになつたのであります。しかしながら、たとえばお医者さんだとか、あるいは弁理士だとか、税務代理士だとか、こういう人たちの仕事と弁護士の仕事というものは、本質的に違うのであります。これが一つ。もう一つは、現在問題になつておる弁護士法におきましては、他の自由職業には認められないような非常に大幅な自治的な規定が設けられておりまして、資格審査会だとか、あるいは懲戒の規定によつて、弁護士会内におきまして、不良弁護士だとか、あるいは悪徳弁護士をこれらの規定によつて清掃し、粛正することが十分可能なのでありますから、そのような規定の存置は全然必要がないとわれわれは確信する次第であります。こういう意味合いにおきまして、私はこの反対論も理由なきものと思うのでありますが、遺憾ながら少数意見で、否決されたのであります。
そこで私たちは、こういう不満が本案にはありまするが、今委員長から報告されましたように、一方におきましては弁護士の地位を非常に向上させ、また從來の官僚のもとにおいて弁護士が監視され統制されておつたその圧迫から解放されるという民主的な改正の方向に本案が進んでおりますので、この意味合いにおきまして、近い將來われわれの希望するような方面に本案が改正されることを期待し希望をいたしまして、本案に賛成するものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/46
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047・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。本案を可決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/47
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048・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて本案は可決いたしました。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/48
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049・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 日程第三、文部省著作教科書の出版権等に関する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。文部委員長原彪君。
〔原彪君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/49
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050・原彪
○原彪君 ただいま議題となりました文部省著作教科書の出版権等に関する法律案の、文部委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本法案の趣旨は、文部省が著作の名義を有する教科書につきまして、これまで多年数箇の出版社に独占的にその飜刻発行を許可して参りましたものを、社会情勢の変化に即應し、今後は自由競爭の方法によつて出版権を設定いたさんとするものであります。
次に本法案の内容を御説明申し上げますと、第一には、文部省著作教科書の出版権を取得しようとする者に対しまして、まずその資格審査を行うことといたしております。これは教育上支障を生じないことを期するために、これらの者が学校において教科書を必要とする時期までに製造供給するだけの事業能力と信用状態を有するかどうかを審査することを目的といたすものでありまして、これがために文部大臣の諮問機関としての教科書出版資格審査会を設けることとなつております。
第二は出版権設定の方式でありますが、これは教科書出版の資格審査に合格した者の競爭入札を行い、出版権設定契約を結ぶこととし、その入札は教科書一部当り製造原價について行い、文部大臣の予定した製造原價以内で最も低額の入札をした者に出版権を設定することといたしております。
第三は出版権料についての規定であります。すなわち、出版権者に対しまして発行の指示がありましたときは、すみやかにその部数に應じ一定基準によつて算定した額の出版料を國庫に納付する義務を課することといたしております。
なおこのほかに、出版権の設定後におきまして出版権者が教科書を発行するのに不適当と認められる特別な事由が生じた場合には文部大臣は出版権を消滅させることができることとか、またその出版権の譲渡につきましては文部大臣の認可を必要とすることなどの規定が設けられております。
本法案は、去る五月七日政府より提案理由の説明を聽取し、ただちに質疑に入りましたが、その間において、教科書は廣く検定主義を建前とし、文部省著作の教科書はできるだけ回避せらるべきこと、また出版権設定の方式は競争入札を主とし、本法案第四條但書にいわゆる審査に合格した者との随意契約は、あくまでも競争入札に付するいとまがないときに局限せらるべきことなどが明らかとなりました。
かくして質疑を終り、討論を省略し、総員の賛成をもつて原案は可決せられました。
右御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/50
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051・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 他にも御発言もないようでありますから採決いたします。本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/51
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052・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/52
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053・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 日程第四、公判前の証人等に対する旅費、日当、宿泊料等支法案、日程第五、司法検察職員等指定應急措置法等の一部を改正する法律案、右両案は同一の委員会に付託された議案でありますから、一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。法務委員長花村四郎君。
〔花村四郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/53
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054・花村四郎
○花村四郎君 ただいま上程に相なりました公判前の証人等に対する旅費、日当、宿泊料等支給法案について、その要旨及び委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、刑事訴訟法の実施に伴い、旧刑事訴訟法のもとにおいて制定されていた大正十三年司法省令第十一号、証人、鑑定人、通訳又は飜訳人等に旅費、日当及び止宿料等給與の件を改正し、かつ國費支出の根拠を明確にするため、これを法律にしようとするものであります。この大正十三年の司法省令は、刑事訴訟法に規定している場合以外で刑事手続に関して証人等に旅費などを支給し得る場合を規定し、その額について刑事訴訟費用法の相当規定を準用しているのでありまして、その場合としては、旧刑事訴訟法第二百五十五條の規定により検事の請求した強制の処分につき、裁判官の召喚した証人、鑑定人、通訳人等に対して支給する場合、犯罪捜査につき検事の呼出しに應じて出頭した者に対して支給する場合などを規定しているのであります。本案第一條はいわば右の前者の場合に相当するものであり、本案第二條は右の後者の場合に相当するものであります。
さて委員会においては、四月二十三日予備審査として付託され、四月二十六日政府より提案理由の説明を聽取し、四月二十九日に参議院より送付を受け、本審査に入りました。この間委員間において協議懇談を重ね、五月七日、討論を省略して採決の結果、この法案は全会一致で政府原案の通り可決された次第であります。
次に、司法警察職員等指定應急措置法等の一部を改正する法律案について申し上げます。
まずその要旨の第一は、司法警察職員等指定應急措置法の改正であります。すなわち、運輸事務官、鉄道手等の國有鉄道の職員につきましては、從來大正十二年勅令第五百二十八号により司法警察官吏の職務を行う者として指定されており、改正刑事訴訟法のもとにおいても、從來と同様に司法警察職員として指定されているのであります。ころが、今回日本國有鉄道法の施行に伴い、これらの職員は公法人たる日本國有鉄道の役員または職員となることと相なりましたので、これを新たに司法警察職員として指定する必要を生じ、これを司法警察職員指定應急措置法中に規定することとしたのであります。
要旨に第二は、海上保安廳法第三十一條の改正であります。すなわち、現在海上保安官につきましては、二級の海上保安官が司法警察員として、三級の海上保安官が司法巡査として職務を行うものとせられております。ところが、二級の海上保安官はその数が少く、そのために司法警察職員として捜査事件の処理をいたします際に多大の不便を感じて来たのであります。そこで本案においては、司法警察員と司法巡査の区別を海上保安廳長官の定めるところによるといたしたのであります。
委員会においては、四月二十三日予備審査として付託され、政府より提案理由の説明を聴取し、四月二十九日参議院より送付を受け、本審査に入りました。この間委員間において協議懇談を遂げ、五月七日、討論を省略して採決の結果、この法案は全会一致をもつて政府原案の通り可決された次第であります。
右、両案を一括して御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/54
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055・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) これより採決に入ります。まず日程第四につき採決いたします。本案は委員長報告の通り決する御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/55
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056・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/56
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057・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/57
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058・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 日程第六、農業協同組合自治監査法を廃止する法律案、日程第七、農業協同組合法の一部を改正する法律案、この両案は同一の委員会に付託された議案でありますから、一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。農林委員長小笠原八十美君。
〔小笠原八十美君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/58
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059・小笠原八十美
○小笠原八十美君 ただいま議題と相なりました、内閣提出、参議院送付にかかりまする農業協同組合自治監査法を廃止する法律案並びに農業協同組合法の一部を改正する法律案につきまして、農林委員会における審議の経過及び結果の大要を御報告申し上げます。
まず農業協同組合自治監査法を廃止する法律案より御報告いたします。
農業協同組合自治監査法は、昭和十三年産業組合の自治監査を行うことを目的として制定され、その後農業協同組合法が制定せられるに伴いまして農業協同組合自治監査法となつたものであります。しかるに、この法律は、行政廳が農業協同組合に対し監査連合会への加入を命ずることができ、また監査連合会は所属團体に対して一方的に監査する権限がある等強権的な趣を有しておりまして、自主を旨とする新しい農業協同組合の精神にそぐわないところがありますので、この際本法律を廃止したいというのが提案の理由であります。
本法律案は、四月二十日予備審査のため農林委員会付託となり、同月二十八日提案理由の説明を聽取いたし、さらに五月八日質疑を行い、民自党坂本、藥師神両委員、共産党竹村委員より、自治監査法廃止後における農業協同組合の経理面の指導をいかにするかとの質問があり、これに対し、政府側より、役職員の啓蒙指導に力をいたし、特に経理面からの指導に力を注ぎたいとの答弁がありました。次いで、九日討論を省略して表決に付しましたところ、全会一致をもつて原案通り可決すべきものと議決した次第であります。
次に、農業協同組合法の一部を改正する法律案につき御報告申し上げます。
農業協同組合法の一部を改正する法律案は、第一に、農業協同組合と実質的に競爭関係にある事業を営みまたはこれに從事している者が組合の役員や主要職員に就任することを禁止するいわゆる競業禁止の條項であり、第二は、行政廳による解散命令を廃止し、法令違反等により実際に解散を要する場合は、行政廳の申し立てによつて裁判所の裁決によることにしたものでありまして、行政廳の監督権に基く制約を可及的に縮小せんとするのが提出の理由であります。
本法律案は、四月二十三日農林委員会付託となり、同月二十八日提案理由の説明を聽取いたし、さらに五月八日質疑を行い、民自党坂本、藥師神両委員、共産党竹村委員より、競爭関係に立つ事業はいかなるものか、また農業用リンク物資は協同組合で一元的に取扱うべきであるとの質問及び意見の開陳があり、これに対し政府側より、競爭関係に立つ事業については一覧表を作成したい、また農業用リンク物資の取扱いについては御趣旨に沿いたいこの答弁がありました。次いで、翌九日討論を省略して表決に付しましたところ、全会一致をもつて原案通り可決すべきものと議決した次第であります。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/59
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060・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) ただいま議題となつております両案を一括して採決いたします。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/60
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061・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて両案は委員長報告の通り可決いたしました。
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/61
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062・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 日程第八、簡易生命保險法案、日程第九郵便年金法案、右両案は同一の委員会に付託された議案でありまするから、一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。逓信委員長辻寛一君。
〔辻寛一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/62
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063・辻寛一
○辻寛一君 ただいま議題となりました簡易生命保險並びに郵便年金法案につきまして、逓信委員会における審議の経過と結果とを御報告申し上げます。
簡易生命保險、郵便年金の両事業は、創始以來多くの難関に逢着しながらも、きわめて順調な発達を遂げ、本年三月末現在、簡易保險は契約件数九千百万件、保險金額千四百四十二億円、郵便年金は契約件数百八十四万件、年金額三億九千万円を算しておりまして、國民大衆の福祉の増進、生活の安定とインフレーシヨンの防止に多大な寄與をいたしておることは御案内の通りであります。しかるに、両事業に関する現行の法令は旧憲法の法体系に属し、幾多の点におきまして現情勢にそぐわない点がありまするので、政府は現行法を廃止し、新たに両法を制定して新憲法の要請に應ずるとともに、最近の経済事情に即應した改訂を加える意図をもつてこの両法律案を提出いたしたものであります。以下、両法案のうち現行法と異なるおもな点について御説明申し上げます。
第一に、両法案においては、冒頭に法律制定の精神を明示し、あわせて両事業が郵政省のつかさどる國営の非営利事業であることを規定しております。
第二に、保險年金契約に関する事項は從來法律の委任に基く政令と命令で規定されていたのでありますが、保險年金契約は純然たる私法上の契約でありまして、その條項を法規の形式で定めることは不適当でありまするので、今回両法案におきましては、これらの事項は、その基本的なものは法律に規定し、その他のすべてはこれを保險年金約款に譲ることとし、かつ約款の制定改廃は学識経驗者、加入者代表等よりなる簡易生命保險郵便年金事業審議会の議を経ることを要することにいたしておるのであります。
第三に、最近の経済事情に照し、現在の保險年金の最高制限額それぞれ二万五千円及び二万四千円をもつてしましては、加入者の生活安定を確保し、制度の機能を十分に発揮することができなくなりました反面、事業自体としても、つとめて経費の低減をはかる必要がありまするので、最高制限額を保險は五万円に、年金は十二万円に引上げ、両者の最低制限額についてもそれぞれ適当に引上げることにいたしております。
なおそのほか、不慮の事故その他の不可抗力または第三者の加害行為により死亡した場合の保險金倍額支拂規定及び過去の小額保險契約の高額契約への乗りかえに関する規定を新たに設くる等の改正を加えておるのでありますが、詳細は省略いたしたいと考えます。
以上、両法案の提出理由及び内容の概略につき申し述べたのでありますが、議案の付託以來委員会は数次にわたつて会議を開き、慎重に檢討を加えたのでありまして、政府との間に保險年金最高額引上げ限度の当否、災害倍額支拂の適否等につき質疑應答を重ねたのでありますが、詳細は会議録に譲ることといたしまして、ここには両法案、積立金の運用の章に関連する簡易保險、郵便年金積立金の運用管理の問題につきまして、委員会における意見を御報告申し上げるにとどめたいと存じます。
簡易保險、郵便年金の積立金は現在百三十一億円の巨額に達しているのでありますが、元來この積立金は両事業の責任準備金を本体とするものであり、事業を経営する者が直接これが運用に任し、その利益をもつて事業全般運営の方途を講ずべきものでありまして、積立金の運用と事業の経営とは不可分の一体をなすものであることは保險年金事業の本質上の要請であり、またその運用方針といたしましては、資金の地方還元、加入者階級の副利増進を本旨とすべきことも両事業の公共性よりする当然の帰結であり、現にこの両法律案におきましても、この本旨に從つて規定が設けられているのであります。
しかるに、現在は別途の措置によりまして、両事業積立金の大部分は大蔵省預金部資金に組み入れられておりまするため、一面には事業経営の自主性を害し、いわゆる独立採算の基礎を危くしております反面、地方公共團体等におきましては低利資金の融通を受けるのに多大の不便を感じ、ために各種公共事業の遂行に著しい障害を與えているのでありまして、地方より逓信省の手による從前のような運用再開の要望のすこぶる熾烈でありますることは、これに関する請願、陳情が第二國会以來総計二百六十四件を算する状況をもつてしても明瞭なのであります。逓信委員会における両法案審議に際しましても、現在のこの変則的な状況をすみやかに常態に復することを希望する意見は、各党各派を通じ、ほとんど委員全員の発表せられたところでありますることを、この際特に御報告いたしたいと存ずるのであります。
かくして委員会は、五月六日両法案に対する質疑を終了し、同九日討論を行なつたのでありますが、その際民主自由党を代表して松本善壽君、日本社会党を代表して松井政吉君、日本共産党を代表して田島ひで君よりそれぞれ原案に賛成の意見を述べられ、あわせて本法案実施の上はその運用の適実を期し、特に簡易生命保險郵便年金審査会、同事業審議会の民主的運営に意を用いるよう要望するところがありました。次いで採決の結果、全員一致原案の通り可決いたした次第でございます。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/63
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064・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 両案を一括して採決いたします。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/64
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065・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて両案は委員長報告の通り可決いたしました。(拍手)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/65
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066・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 日程第十、船舶公團法の一部を改正する法律案、日程第十一、日本國有鉄道法施行法案、右両案は同一の委員会に付託された議案でありますから、一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。運輸委員会理事關谷勝利君。
〔關谷勝利君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/66
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067・關谷勝利
○關谷勝利君 ただいま議題となりました船舶公團法の一部を改正する法律案について、運輸委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本法案は、去る四月二十五日、本委員会に付託され、二十七日政府より提案理由の説明を聽取し、慎重審議いたしたのであります。
本法案の趣旨を簡單に申し上げますと、船舶公團は昭和二十二年五月設立以来、三億円の政府出資金と復興金融金庫からの借入金とにより事業の運営を行つて参つたのでありますが、今般経済九原則の実施に伴い右金庫の貸付が停止されましたので、継続事業を遂行するに必要な資金をまかなうため、船舶公團法第三條に定められている基本金を五十六億九千七百万円に増額しようとするものであります。なお基本金増額につきましては、すでに昭和二十四年度政府関係機関予算中船舶公團分として計上されているのであります。その他改正の要点は、船舶公團は産業設備営團から船舶、船舶用機関、艤装品、船舶用資材及び造船事業用設備に関する権利義務を承継することとなつていましたが、その後造船事業用設備に関する権利義務の承継はとりやめることになりましたので、関係條文を改廃しようとするものであります。
次に質疑應答は、支拂遅延による現下切迫せる業者をいかに救済するか等についてでありますが、その詳細は会議録に譲りたいと存じます。かくて討論を省略して採決に入り、多数をもつて原案の通り可決すべきものと議決した次第であります。
次に日本國有鉄道法施行法案について、運輸委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本法案は、四月二十二日、本委員会に付託され、翌二十三日政府から提案理由の説明を聴取し、委員会を開くこと三回、慎重審議をいたしたのであります。
本法案の趣旨を簡単に申し上げますと、來る六月一日をもつて日本國有鉄道が設立され、従来國が経営していた國有鉄道事業及びこれに関連する諸種の事業等を包括的に政府から引き継いで経営することとなりますので、その発足に支障のないように必要な措置すべき事項を規定せんとするものであります。
その内容のおもなる点をあげますと、第一は日本國有鉄道の監理委員会の委員及び総裁の任命についての準備的措置でありまして、日本國有鉄道法の施行前に、将来監理委員会の委員となるべき者を正規の委員任命の方式と同一方式で指名し得ることとし、これらの者を日本國有鉄道法の施行と同時に正式の委員及び総裁に任命されたものとすることを規定しておるのであります。
第二は、職員の引継ぎ、財産その他一切の権利義務の承継、会計上の整理等政府から日本國有鉄道への引継ぎに関する事項でありまして、現に運輸省の職員であつて國有鉄道及びこれに関連する事業に関係している者は原則として全部これを日本國有鉄道が承継する、また財産についても原則として日本國有鉄道事業特別会計の資産及び負債の全部を引継ぐこと等所要の整理上の措置を規定しておるのであります。
第三は日本國有鉄道の設立に伴う関係法令の改廃でありまして、従前の官制及び國有鉄道事業特別会計等の法令を廃止するとともに、関係法律の読みかえ等を規定しておるのであります。
次に質疑応答の概略を申し述べたいと存じますが、日本國有鉄道の資本は幾ばくとなるかとの質問に対しては、政府側から四十九億円余となるとの答弁がありました。その他日本國有鉄道の資産の時價換算は幾ばくに上るか等についても質疑応答が交わされたのでありますが、その詳細は会議録に譲りたいと思います。
かくて、昨年五月九日質疑を打切り、討論を省略して、ただちに採決の結果、本法案は多数をもつて原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
以上簡單でありますが、御報告を申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/67
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068・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 本案につき討論の通告があります。その発言を許します。柄澤登志子君。
〔柄澤登志子君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/68
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069・柄澤登志子
○柄澤登志子君 日本共産党を代表いたしまして、船舶公團法の資金三億が一躍二十倍の五十九億二増資されることにつきまして、委員会におきましては討論が十分かわされたような報告がございましたけれども、ほとんどこれは質疑がかわされずに打切られたのでございます。日本共産党といたしましては、今日國家の予算に対する人民大衆の不満、租税の重圧に対する多くの不満の澎湃として起ります中に、かかる巨大の予算を十分なる審議もせずに簡単に通過させますことに対して、まず反対したのでございます。このような形で、法案が、期日がないという理由をもつて、次から次へと通過し、重大な國民の血税を――ことに船舶公團というものは、今後船舶その他の巨大な会社のもとに資金並びに経営が戻つて行く形になつているのでございまして、今後そのような独占資本家擁護のもとにこうしたことが決定されますことに対して、日本共産党は断固として反対するものでございます。簡單でございますが、船舶公團法改正の反対討論を終ります。(拍手)
続きまして、日本國有鉄道法施行法案についての反対意見を、共産党を代表して申し述べたいと思います。
本法案は、昨年総選挙を前にいたしました、十一月も押し詰まつたあの三十日に、わが党の熱心な反対にもかわらず急遽押し切られましたところの日本國有鉄道法案を施行するための法案でありますけれども、この法案が日本の明治以來の國営鉄道を根本的に改革するところの重大な法案であることは、國会の各位が最もよく知つているところであろうと思うのでございます。共産党といたしましては、日本國有鉄道法が高く主張しておるものは、その第一條に掲げてございますところの、公共の福祉を増進することを目的とするという点にあると思うのでございます。そして、その能力的な運営が保障されなければならないというのが、この施行法のまた実施されるところの趣旨であると考えるのでございます。
ところが、私ども共産党の考えといたしましては、現在資本主義の諸國におきましても、戰爭に勝ちましたところの諸國におきましても、アメリカを除きました以外の國々におきましては、資本主義の矛盾のもとに、公益性を中心とするところの鉄道事業というものは、ほとんどその國営の形態に移つているのでございます。イギリスにおいてすら國営に移つているのでございます。從つて、敗戰後の日本におきましては、能率的な、しかも公共の福祉を保障するところの、本法案が盛つておりますこの第一條の趣旨を生かしますためには、國営事業から切り離されて、独立採算制の公共企業体によつてこれが実行されるということは、そもそもそれ自体が矛盾なのでございます。從つて、その施行法もまたその矛盾が拡大される形において現われておるのでございます。
日本國有鉄道法の施行の第一條には、内閣は、日本國有鉄道法施行前に、同法第十二條の例により、監理委員会の委員となるべき者を指名することができるということが明らかになつておるのでございます。日本國有鉄道法によりますと、監理委員の資格としていかなるものがあがつているかと申しますと、運輸業者、工業、商業または金融業について廣い経驗と知識とを有する者があげられているのでございます。
先般運輸委員会におきまして、昭和二十四年の予算をもつて日本國有鉄道の運営を十分に施行しますのには、國鉄労働者の血のにじむような努力以外にはないということを認められましたのは、運輸大臣並びに事務当局の各位であります。しかるに、重要なる権限を持ちますところの監理委員並びにその監理委員を基礎として選ばれますところの総裁が、その選出されますところの金融業者、工業、商業に基本を置きまして、内閣がこれを任命するということになりますならば、これは一体どういうことになるかと申しますと、公共企業体としての日本國有鉄道というものは、こうした金融業者、商工業者、運輸業者――國鉄の現場のあらゆる崩壊と闘い、労働強化、首切りを押しつけられながらも國鉄再建のために闘おうとするところの労働者の意見をも無視したところのこれら独占資本の利益が、この企業の経営の中心になつていることになると思うのであります。政府は、その具体的な現われといたしまして、公共の利益を守り、能率を上げるところの方針をもつて公共企業体に移るという、この方針をもつて進んでおりますところの鉄道事業に対しまして、その根本的な方針を無視しました、大衆の負担においてこれを解決するところの運賃の値上げの方針を実施したのであります。これがその最も具体的な現われとして指摘することができると思うのであります。
さらにこの法案によりまして重要な問題は、國鉄の厖大な資産、さらにここに働いておりますところの多くの從業員の生活権、労働権、こうしたものがこの施行法によつて決定されるのであります。運輸委員会におきまして政府当局も認めておりますように、今日の國鉄の赤字の理由というものが決して運賃の値上げにあるものでもなく、また労働者の数が多いためでもなく、まつたく戰後のインフレ政策による、独占資本の持つておるところの、國鉄の購入する資材の値上りによるものであるということを、われわれははつきりと確答を得ておるのであります。
從いまして、共産党といたしましては、今日國民のこうした疑惑の的になつておりますところの國鉄運営の方針につきまして、徹底的に國会がこれを明らかにして、そして國民にこれを納得させるために運輸委員会として國政調査を提案し、拂下げの調査あるいは請負工事の調査――また公共企業体に國営鉄道から引継がるべきところの退藏物資、これは営々明治以來國民の血税と労働者の汗とあぶらによつて築かれたものであります。これらのものが、今日少数の金融業者や運輸業者や商業者や工業者によつて事由にされようとている。ことに吉田総理大臣は、國営りの鉄道、タバコその他はこれを外國に賣り佛つてもよろしいということを、二月四日の讀賣新聞に言明されておるのであります。しかも、この二つの事業は、今日タバコも國営鉄道も同時に公共企業体、すなわちコーポレーシヨンにかわつておるのであります。
われわれといたしましては、こうした重大な時期に際しまして、委員会は委員会の決定でありますところの國政調査を十分に実施いたしまして國民の疑惑を解き、われわれに課せられましたところの責任を十分に果して、その後においてこうした重要な法案を審議することを主張したのでございます。しかるに、昨日理事会も開かずに、運輸委員会におきまして船舶公團法の改正案が提案になりました際に、日常に遅くなつた時間に、私ども野党側がおりませんときに、主として民自党の委員と民主党一名の委員をもつて、緊急動議としてこの法案が上程され、多数決をもつて押し切られたのでございます。私どもといたしましては、かかる重要な法案をかかる態度をもつて、もしこの議会がこれを通過させましたならば、これは國会の権威に関するものであると思うのであります。(拍手)明治以來傳統を保つて参りました日本の國鉄を、ただいま自主性のないところの吉田内閣の方針によりまして、日本の現状をまつたく無視されたような法案をもつて、しかもこのような状態におきまして委員会が可決いたされましたことにつきまして今日実は運営委員会にもこれを上程したのでございますけれども、私どもといたしましては断固反対して委員各位の反省をうながし、そしてこの法案の通過を阻止することを主張するものでございます。
なお私どもが憂慮いたします点は、國会の審議権がこの法案によりましてはまつたく無視されようとするところにあるのでございます。なお日本國有鉄道法施行法の第一條にも第二條にもございますけれども、ことに第一條の、内閣が日本國有鉄道法施行前に監理委員を指名し、監理委員が総裁を選出するというようなことにつきましては、これはたしか國家行政組織法の第八條にも相反するものだと思うのでございます。
さらにこの監理委員の権限でございますけれども、監理委員が非常に強大な権限を持つておりまして、「日本國有鉄道の業務運営を指導統制する権限と責任を有する」という、原案になります日本國有鉄道法の第十條のごときは、まさに國家行政組織法の第八條に矛盾しているものだと思うのでございます。
さらに日本國有鉄道法施行法の第二條のごときは、運輸大臣の指名する者を除き國有鉄道に引継がれるという條項がございます。これは職員の引継ぎに関してでございますけれども、それによりますれば、運輸大臣の指名する者は引継がれないということになるのでございまして、運輸大臣の任意によつて自由に首切りがやれるということになるのでございます。そういたしますと、基本的の人権の侵害のみではなくて、憲法の違反でありまして、このような重大な法案が、運輸省設置法も定員法も行われない以前に、かかる方法でこの本会議にかけられ、通過されるならば、このようなフアツシヨン的なやり方に対しましては、多数をたのんでむりに押し切るというやり方に対しましては、おそらくわれわれ共産党のみではなく、廣汎な労働者大衆の反撃が諸君をして思い知らしめるであろうと思うのであります。(拍手)
以上種々なる反対の観点があるのでございますけれども、運輸委員会の決定でありますところの國政調査以前にかかる法案が急遽上程されましたところのその意図がどこにあるかというような点につきましても、十分私どもといたしましては今後反対運動を続けて行かなければならないし、この席上からも強くこの点を指摘いたしまして、党としての反対討論をこれで終る次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/69
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070・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) これにて討論は終局いたしました。
これより採決に入ります。まず日程第十につき採決いたします。本案の委員長報告は可決であります。本案を委員長の報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/70
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071・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。(拍手)
次に、日程十一につき採決いたします。本案の委員長の報告の通り可決であります。本案の委員長の報告の通り可決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/71
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072・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。(拍手)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/72
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073・山本猛夫
○山本猛夫君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわち、内閣提出、兒童福祉法の一部を改正する法律案を議題となし、委員長の報告を求め、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/73
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074・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 山本君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/74
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075・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
兒童福祉法の一部を改正する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長堀川恭平君。
〔堀川恭平君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/75
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076・堀川恭平
○堀川恭平君 ただいま議題となりました兒童福祉法の一部を改正する法律案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
兒童福祉法は、廣く十八歳未満の兒童の健全な育成をはかるため、昨年一月一日より施行されておるのでありますが、施行後の経驗に徴し、兒童の保護、保全その他の福祉の徹底を期するとともに、少年法との間の調整をはかろうとするのが、政府の本改正法律案提案の理由であります。
次に本法律案のおもな内容を申し上げますれば、まず第一は少年法との調整でありまして、兒童の犯罪を予防するとともに、その不良化を防止し、これが保護指導を全うするため、刑罰法令に触れる行為をした十四才未満の兒童はこれを兒童福祉法によつて扱い、満十四才以上十八才未満の虜犯兒童はこれを兒童福祉法と少年法との双方によつて扱えるよう少年法との間に調整をはかり、兒童福祉法の適用範囲を拡げたのであります。第二は、いわゆる兒童賣買事件にかんがみ、兒童の自由、人権を保障し、その福祉をはかるため、営利を目的として他人の兒童の養育をあつせんすることを禁止するとともに、法令により兒童を委託された場合及び兒童を單に下宿させる場合のほか他人の兒童をその家庭に置く者に届出の義務を課し、その届出に基いて必要な指導監督ができるようにしたのであります。
第三は、兒童福祉を地方行政の面でさらに一段と推進するため、市町村長と兒童福祉司及び兒童委員との協力関係を明確にし、また市町村は兒童福祉審議会を置くことができることとしたのであります。
第四は、中央及び都道府県兒童福祉審議会は兒童の福祉をはかるため、藝能、出版物、玩具、遊戯等の推薦及びその製作等に対し必要な勧告をすることができることとております。
本法律案は、四月二十七日、本委員会に付託せられ、政府の提案理由を聽取したのであります。しかして本日これが審議に入り、熱心な質疑應答が行われたのでありますが、審議の経過に伴い、次の二点について修正案が各派共同提案をもつて提出せられたのであります。
すなわちその第一は、第二十四條本文を「市町村長は、保護者の労働または疾病等の事由により、その監護すべき乳兒、幼兒又は第三十九條第二項に規定する兒童を保育所に入所させて保育しなければならない。」と修正しようとするもので、すなわち改正法律案第三十九條により、保育所は特に必要がある場合は乳幼兒以外の兒童をも保育することができることになつたのでありますが、さらに市町村長も必要に應じてこれらの兒童を保育所に入所せしめて保護する措置をとり得ることとし、その費用を負担できないものについては國または公共團体がかわつて負担することといたそうとするものであります。
その二は、本文末項として、第七十一條中「第五十六條第一項」の次に「及び第二項」を加え、「第五十六條第二項」を「第五十六條第三項」に修正しようとするもので、今回の第五十六條の改正に伴う事務的修正であります。
かくて質疑を終了し、討論の後、まず修正案の部分について採決に入りましたところ、満場一致をもつて修正案通り可決すべきものと決しました。次いで、その他の部分について採決に入りましたところ、本法律案は多数をもつて政府原案通り可決すべきものと決した次第でございます。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/76
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077・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 本案について討論の通告があります。これを許します。苅田アサノ君。
〔苅田アサノ君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/77
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078・苅田アサノ
○苅田アサノ君 ただいま上程されました兒童福祉法の一部改正の法案に対しまして、日本共産党は反対の意見を持つものでございます。
第一國会におきまして兒童福祉法が制定され、また先ごろ、こどもの日も実現を見、兒童の人権につきましてやかましく主張されて、兒童に対しましてあたたかい救援の手が差し延べられることが叫ばれておるにもかかわりませず、その反面におきまして、終戰後四年目の日本の現実の中で、多くの勤労階級や兒童や、またその母親たちが、どのように悲惨な現状におるかということは、おそらく大多数の議員の皆様方におかせられても、よく御承知のところと思うのでございます。
経済の破壊と大衆の生活の困窮が直接乳幼兒あるいは学童の身体の成長に大きな悪い影響を持つておることは申すまでもございませんが、先ごろ、この壇上からも特に決議までされましたように、最近少年の犯罪や不良行為が激増いたしました点と申し、また浮浪兒や孤兒や不良兒などの収容所の設置の不備等が、こうした人たちの集団的な脱走とか、あるいはいまわしい放火事件等によりまして次々と発覚しております。こういう事実にいたしましても、また最近特に問題になりました東北地方の兒童の人身賣買の問題が、單に一地方に限らないで、今や潜在的な事実として全國的に行われる傾向等を見ましても、今日兒童の保護の上に非常に歎かわしい事件が多く現われておることにつきましても、これまた皆様方のひとしく御承知のところと思うのでございます。
これらの事件は、すべて戰爭、インフレ、経済の破壊、大衆に対する極端な收奪等、一部大資本家のために歴代の政府が行いました政策が、いかにわが國の罪なき兒童の上に目をおおわしめるような悲惨な結果をもたらしたかということを如実に物語るもの以外にはないのであります。兒童、福祉法は、こうした圧迫から弱い兒童を守る安全弁として発足したはずでございますが、施行以來一年間の実績は、実に以上のように、ほとんど見るところのない悲しむべき現状であるのであります。
その主要な原因は、本法が施行されます際にわが党がその点を強く主張いたしましたように、立法の目的が主として問題兒、つまり浮浪兒、孤兒、不良兒等の措置に向けられまして、こうした問題兒をつくり出さない前に根本的に一般の母性や兒童の保護に重点を置くことを忘れたことが一つと、次に予算がきわめて貧弱であつたということでございます。兒童局の予算でさえも、十二万と称されておる浮浪兒の一割を収容するにすぎないというような貧弱な予算でございまして、他は推して知ることができるのでございます。これでは、いかに局を設け、課を設け、声を大にいたしまして兒童の救済を叫びましても、その実情が上らないということは、事前にわかつておつたことなのでございます。ゆえに、この兒童福祉法に対して行われなければならない根本的な改正は、第一に基本的な母子保護法を制定いたしまして、十分な予算の裏づけをもつて、真に勤労階級の要求しておる産院とか保育所とか母子寮とかの施設を増設し整備することでなくてはならないのでございますが、かかる施設拡充のための費用は、今回ことごとく削除されてしまつておるのでございます。
この予算の不十分なことにつきましては、本日の委員会におきましては、賛成側の民主党におきましても同様な主張があり、また社会党におきましても、このために多くの修正條項を設けておる事実を見ましても、まず第一番に本法の改正がこの点に向けられなければならないはずであるにもかかわりませず、かような措置が全然考慮されていない。これでは、いかに部分的に法律の條文をいじくりまわしても、兒童保護の上に何ものをも加えるものではない。まして、政府が趣旨弁明の際に申されましたように、少年法と兒童福祉法の関係を整備いたしてみましても、保護収容所自体がすでに格子なき牢獄化しておる今日おきましては、実に無意味な措置と言わなければならないのでありまして、かかる点が、このたび日本共産党がこの改正に対しまして持つておりますところの根本的な批判の態度なのでございます。
次に、改正の要点について二、三批判を加えますならば、第一に、このたびの改正では、最近全國的な規模で見られるようになりました兒童の人身賣買についての対策が講ぜられておるのでありますが、兒童賣買の禁止ということは、人権擁護の立場から、きわめて厳格にこれが規定されなければならないにもかかわりませず、ただ長期に兒童を同居させる者に対しまして、府縣知事のもとに届けさせるということがごとき形式的な処置だけでは、きわめて不十分と申さねばならないのでございます。真に兒童の賣買を禁止させますためには、労働基準法の完全実施とか、あるいは生活保護法の少くとも法文通りの実施が要求されること、また農村の生活の向上ということが約束されなければ、ただ無意味な空文にすぎないのであります。
しかるに、同じ政府が、今國会におきまして労働組合法を改悪して、さらに過重労働をしい、また物価の値上や集中生産によりまして、さらに人民の生活を窮迫化しながら、しかも生活保護法のわくはかえつてこれを縮めようとするような計画を持ち、また食糧確保臨時措置令の改正等の悪法でもつて農村をさらに窮乏に陥れて、必然的に兒童賣買の道を廣げながら、こうした誠意のないごまかし的な改正を行うことで目をそらそうとしておるようなやり方に対しまして、わが党は心から憤懣を感じるものでございます。
次に今回の改正は、縣及び市町村長による不必要な官僚統制の強化を物込むものとして、わが党は反対いたしておるのであります。政府が当然なすべき母子寮や産院やまた保育所等の建設をサボつておりますときに、少くとも民間の施設に対しましてはできるだけの便宜を與えまして、これを慫慂すべきであるにもかかわりませず、あべこべの都道府縣知事の許可を要する規定を設けましたことは、この自由な活動を妨害する結果を來すものと思うのであります。問題を起す不良の施設は、官営のものもしくは官委託の施設の取締を名といたしまして民社的な労農團体の施設への彈圧が加えられることが予想されることは、單なる杞憂ではございません。すでに板橋の自由保育園等において、種々な名目のもとにこの圧迫が実際に行われていること等をあわせ考えましても、私どもは、このようなやり方に対しましてはまつたく反対の立場を表明せざるを得ないのでございます。
さらにこの改正では、出版物や、おもちや、遊戯等の廣汎な兒童文化に対する官僚統制をも企図いたしておるのでありまして、もしこれが一方的な考えをもつて行われるならば、兒童をかつての軍国主義の文化統制が毒しましたと同じように、フアツシヨ的、植民地的な文化統制が行われる危険がなしとは言えないのでございます。
私どもは、これらの点から、このたびの官僚統制強化の改正に対しましては全面的に反対の意思を表明いたしております。すなわち私どもは、このたびの本案の改正は單なる見せかけの空手形であるか、なしは民主的な兒童保護施設に対して非常な危険なる意図を持ち込むおそれがあるものと考えるのであります。と同時に、今日の独占資本の利益のために悲惨なる境遇をしいられている罪なき勤労階級の兒童、戰爭犠牲兒童及び母親が真に保障され、日本民族の未来を背負うものとして尊重されるような完全な母子保護法の制定、無料産院や、託児所施設の整つたところの母子寮の増設を含む真の兒童及び母親の福祉法が制定されることを切に望んで止まない者でございます。
以上をもちまして、日本共産党はこの改正原案に対しまして反対の意思を表明いたします。さらに、これに付されました修正文に対しましては、これが單なる事務的な措置でございまして、その意味において積極的な意図がないという点において、修正案に対しましては賛成の意見を持つものでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/78
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079・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 次に堤ルツヨ君。
〔堤ツルヨ君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/79
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080・堤ツルヨ
○堤ツルヨ君 兒童福祉法は文化的立法として、その立法の精神は、われわれは全面的にこれを多とするものであります。まさに敗戰日本を再建し、平和にして文化的な日本たらしめるためには、何と申しましても、われわれのあとを継ぐ青少年の福祉に対して重大な責任と顧慮を拂うことは理の当然であります。しかしながら、いかに法文がりつぱな目的をうたつておりましても、その実際の運営において適切なる予算と、ひいては施設の裏づけがなかつたならば、一片の死文と申さねばならないのであります。このたびの改正法を見ましても、ただ機構をつくり、あるいは取締りを強化するというような、きわめて彌縫的な改正にとどまつておりまするのは、この重大なる兒童の取扱いに対する國家の責任にかんがみ、まことに遺憾にたえないのであります。私は、日本社会党を代表いたしまして、以下四つの希望條件を付し、その実現を心から要望いたしまして、本案に賛成いたすものであります。
まず第一に、保育所、母子寮の充実と拡張をはかつてもらいたいのであります。聞くころによりますれば、これらの施設に対するところの予算は、まつたく期待はずれの結果となつているのであります。現在全國には二十万になんなんとする生活保護法の擁護を受けておるところの、乳幼兒を抱く寡婦が存在しているのでありまして、その乳幼兒の総数は四十万に達せんとしているのであります。これらの人々の現在の生活のためにも、また子供たちの將來につきましても、母子寮あるいは保育所の拡充は、緊急なる施策といたしまして全國の貧しい母親たちの共通の願いなのであります。政府は勇断をもつてこれが拡充を実施せられることを要求してやみません。
第二には、保育と授産の総合施設を実施していただきたいのであります。現下における生活の窮乏は、あるいは近い將來におけるところの失業の増大と考え合わせまするとき、夫ある場合の一般家庭婦人の授産場進出が相当推定できるのであります。かかる場合に、何と申しましても実際には子供たちが足手まといなのであります。かかる観点から、社会局と緊密なる連絡をとり、保育と授産を総合的に実施されることを切望いたしてやまないのであります。
第三点といたしましては兒童の不良化の防止であります。今日青少年の不良化は、すでに最も憂慮さるべき社会問題となつているのであります。今回の改正におきましても、不良文化財の処置に対しまして積極的な措置を講ぜられましたことは、まことに喜ばしいことでありまするが、現実に不良化の原因を檢討いたしますると、学資の欠乏、お小づかいの不足など、家庭の貧困が重要なる原因となつているのであります。しかるに、今日生活困難なる家庭の兒童に対する教育費の補給はきわめて小額であり、しかも生活保護費用が十分でないために、その方に流用される傾きが普遍的なのであります。從いまして、われわれは貧困なる家庭に対する教育費の増額並びにこれが現物給付等を通じて、あくまでも教育費として活用されるよう、具体的な措置を講じていただきたいのであります。
第四点といたしましては、中央地方を通じまして本案に準拠してつくられる各審議会に、ぜひとも労農團体の代表を参加せしめていただきたいのであります。これまでの例に徹しますと、政府その他地方のこうした審議会や協議会は、主として実際において形式的に流れるきらいが強いのであります。しかし、兒童の福祉に関する諸問題の解決は実に働く大衆の生活と最も密接な関係を持つているということを考えねばなりません。かかる意味から申しましても、私は労農團体において、ことに婦人の代表をぜひとも多く参加せしむるよう特別の配慮を要求いたす次第であります。
最後に、全國津々浦々の切なる母心を代表して政府並びに國会議員諸公に対し希望いたしたいと存じます。兒童福祉法が、廣く満十八歳未満の兒童の健全なる育成をはかるため昭和二十三年一月一日より施行せられ、國、公共団体、各兒童福祉施設関係者等の努力と協力によりまして次第に実効をあげて参りましたことは、文化國家として大きな躍進であり、御同慶にたえません。敗戦により、われわれ日本民族は窮乏のどん底に轉落いたしましたけれどもただ一つの誇るべき無限の宝は子供であります。やがて近き將來先進國に伍し、今日のわれわれのいばらの再建を完成してくれるものは子供たちであります。乏しき敗戰下の罪なき子らの顔を見るにつけましても、われわれおとなは、ひたすら感謝の念を禁じ得ないのであります。
本法案の当を得た実施を推進して行くということは、わが國文化水準のバロメーターと申しましても決して過言ではなかろうと思います。政府当局は、いたずらになわ張りにしばられることなく、文部、厚生両省の密なる提携のもとに実施促進に当てられんことを、なお議員諸氏におかれましては、政党政派のいかんを問わず、父母の代表として限りなき兒童福祉法の前進に物心両面にわたるところの援護と、愛情あるところの御協力あらんことを、切に私は母親、子供を代表してお願いいたしておきたいと思うのでございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/80
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081・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) これにて討論は終局いたしました。
これより採決に入ります。まず委員長の報告にかかる修正案について採決いたします。委員長の報告にかかる修正に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/81
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082・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて修正部分は可決せられました。次に、修正部分を除いた原案について採決いたします。修正部分を除いた原案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/82
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083・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 起立多数。よつて修正部分を除いた原案は可決いたしました。(拍手)
――――◇―――――発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/83
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084・山本猛夫
○山本猛夫君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわち、内閣提出、船員保険法等の一部を改正する法律案を議題となし、委員長の報告を求め、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/84
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085・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 山本君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/85
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086・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
船員保険法等の一部を改正する法律案議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長堀川恭平君。
〔堀川恭平君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/86
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087・堀川恭平
○堀川恭平君 ただいま議題となりました船員保險法等の一部を改正する法律案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果を申し上げます。
まず船員保險法の一部を改正する法律案について申し上げます。船員保險法は、昭和十四年制定以來数次の改正が行われておるのでありますが、本制度をして現下の実情に即應した有効適切なる施策をたらしめようとするのが政府の本改正法律案提案の理由であります。
次に本法律案のおもなる内容を申し上げますれば、まず第一は、最近の船員給與の実情にかんがみ、標準報酬を最低二千円から最高二万四千円とし、その区分を十九等級に整備し、保險経済の安定をはかつたことであります。
第二は、保險給付の内容の改善につきまして、まず漁船船員労務の特殊性にかんがみ、一般船員に相当する漁船を除き、その養老年金の受給資格期間を短縮して、十年以上十五年未満の者にも養老年金を支給することとし、なおその年金額を報酬の二月分に相当する額といたしたのであります。次に、失業保險の支給日額を、陸上の失業保險と同様に一律に報酬の百分の六十の率に改めて、失業保險金の実質的増額をはかり、さらに漁船乗組員については、失業の状態にあることがきわめて少いこと及び第二國会における審議の際の要望をも考慮して、労働者の四分の三以上の同意を得た場合はこれを失業保險から除外し得ることといたしたのであります。
第三は保險料率の改正でありますが、最近の経済情勢下において傷病給付に対する費用が著しく増高いたしたのと、船員の災害補償を完全に実施し、適正に迅速な給付を行うため、傷病給付の保險料率を若干引上げたのであります。
本法案は、五月六日の本委員会に付託せられ、政府の提案理由を聽取したのであります。次いで、七日及び十日の両日熱心な質疑應答が行われたのでありますが、最近陸上の失業保險が從來の保險料率を千分の二だけ引き下げた事実に徴し、船員生活窮乏の実情からして、その負担軽減に資するため、船員保險における失業保險の保險料率の引下げを行い陸上と均衡をとろうとする修正案が、各派共同の提案をもつて本日の委員会に提案せられたのであります。すなわち次の通りであります。
第一條中、第五十九條の改正部分において「千分の二百十六」とあるを「千分の二百十四」と改め、第六十條の改正部分において「二十六分の八十五」及び「二百十六分の百三十一」とあるを「二百十四分の八十四」及び「二百十四分の百三十」にあらためる。
第二條中、附則第四條及び第五條の改正部分において「千分の百三十二」「百三十二分の四十三」及び「百三十二分の八十九」とあるを「千分の百三十」「百三十分の四十二」及び「百三十分の八十八」に改める。
かくて質疑を終了し、討論の後、まず修正案の部分につき採決に入りましたところ、満場一致をもつて修正案通り可決すべきものと決した次第でございます。次いでその他の部分について採決に入りましたところ、本法律案は多数をもつて政府原案通り可決すべきものと決した次第であります。
以上御報告を申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/87
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088・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 討論の通告があります。これを許します。岡良一君。
〔岡良一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/88
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089・岡良一
○岡良一君 社会党を代表して、本案に遺憾ながら反対の意思を表明いたしたいと存じます。
われわれが反対いたしまする根本的な理由は、本改正法案が時代の要請である社会保障制度の実現に対するところの逆行的な措置である点にあるのであります。申し上げるまでもなく、わが國における社会保險制度は、その制度と運営の不統一、独占せる、関係のない法規の上に立つて、主務官廳を異にし、給付の不統一と不均衡を來し、あるいは事務費の増額を來し、あるいは手続の複雑重複を來す等の点において、しばしば世人より批判檢討されておるのであります。
第二点は、わが國社会保險制度の欠陥は、これがきわめて官僚的な、非民主的な、一方的な運営にゆだねられている点にあるのであります。ところが、船員保險法は昭和十六年に創設されましてから、失業の保險、健康の保險、老癈の保險その他総合的な保險制度といたしまして、まことに注目すべき、期待すべき制度として賞揚されておつたのであります。從いまして、社会保障制度の実現というわれわれの願望から見まするならば、この総合されたところの、從來の機構と運営の不統一、重複性が清算されたところの進歩的な立法が、運営においてより民主化されることを深く希望いたさざるを得ないのであります。ところが、現在の船員保險の運用におきましては、遺族年金は年約二千四百円ないし二千五百円の間を上下いたしておるのであります。これでは、現下のインフレ下におきましては、決して年金たるに値いたさないのであります。あるいはまた失業手当金にいたしましても、月額六百八十四円、その受給件数は、昨年の十一月末におきましてわずかに三百二件、利用するものがないという状況になつております。かかる状況からいたしまして、あるいは遺族年金なり失業手当金に対するところの増額は、海上労働者諸君の澎湃たる要求となつておるのであります。にもかかわらず、本改正案におきましては、かかる要望にこたえるどころか、保險料率を一割余も引上げを断行しておるのであります。
あるいはまた海上労働者諸君は、その大会その他の正式機関の決議におきまして、養老遺族年金が、現在陸上の厚生保險において、務業務上以外の傷害におきましても五倍に引上げられておる、われわれもやはり陸上の労働者並びに引上げてもらいたいということを要求いたしております。あるいはまた、海上労務の特殊性に從いまして、なかなか十五年勤めて養老年金がもらえるというようなわけにはいかない。保險料のかけ捨てが非常に多いのであるからして、陸上で勤務し、海上に勤務したところのその勤務の年月を通算して養老年金をもらいたいというのが、海上労務者諸君の一致せる熱望であります。しかるに、今度の改正におきましては、漁業労働者においては給付期間の資格を十年に短縮されましたけれども、一般海上労働者におきましては、依然として現状にとどまつておる。
このようにいたしまして、制度の上における不統一、運営における不統一が清算された本船員保險制度におきましては、運営の民主化をはかることによつて、社会保障制度を育てたいというのがわれわれの念願であるにもかかわらず、すなわちこれを民主的に運営するとするならば、船員大衆の澎湃たる輿論を実際に制度の上に実現することがその民主化の根本方針でなければならないにもかかわらず、これらの業務外におけるところの傷害年金の引上げ、あるいは、厚生年金との通算その他もろもろの船員大衆の要求を無残にも踏みにじりまして、むしろこれに対して一割余の保険料率の引上げををもつて報いる、かかる処断は、われわれはあくまでも、現下の労働者の生活状況にかんがみましても、大衆収奪の政策であると言わざるを得ないのであります。ましてや社会保險制度の運用の万全は、あくまでも被保險者たる労働階級がその制度に対して全幅の信頼を寄せることが最も重大なる要素であることは申し上げるまでもありません。しかも、本改正案を通じまして何ら海員大衆の切実なる要求が盛られることなく、むしろ保險料率の引上げをもつてこれに報いんとするがごときは、あくまでもわが党は反対せざるを得ないのであります。
しかも料率の引上げにつきましては、その理由といたしまして医療給付の増大が保險財政を窮地に陥れているということを政府当局は説明をいたしておる。この原因については多々ありまするが、先般の健康保險法の一部を改正する法案におきましても、私は具体的事例をあげて指摘いたしましたが、現在のような保險金の医療給付の請求の制度、支拂いの制度をもつてしては、どうしても濫診、濫給は避けがたい。從いまして、これが不当なる支出の過重を來し、保險財政の窮乏を導いておるのであります。あるいは現在のごとき不当なる医藥材料の價格騰貴をそのままに放置しておきましては、あくまでも医療費の支出の増大ということは避けがたいのであります。ところが、かかる支拂いあるいは請求制度に対する根本的改革をなさず、あるいはまた國民の生活必需品にも比すべき医薬材料の価格抑制に対して何ら具体的な手を打つこともなく、しかも一方において保險財政の窮乏に名をかつて被保險者の負担を増大し、実質的なるところの賃金の引下げを断行しようとする。これは自己の政治的無力、自己の行政的怠慢を、一方的に働く大衆に轉嫁せんとするところの大衆収奪の政策であることを、私は叱咤いたしたいのであります。
かかる事情におきまして、私どもは本法案に対しましては反対の意思を表明いたす次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/89
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090・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) これにて討論は終局いたしました。
これより採決に入ります。まず委員長報告にかかる修正案につき採決いたします。本案の委員長報告にかかる修正に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/90
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091・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 御異議なしと認めます。よつて修正部分は可決いたしました。次に、修正部分を除いた原案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/91
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092・幣原喜重郎
○議長(幣原喜重郎君) 起立多数。よつて修正部分を除いた原案は可決いたしました。
本日はこれにて散会いたします。
午後五時二十四分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100505254X02619490510/92
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