1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十四年五月十九日(木曜日)
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本日の会議に付した事件
○兒童福祉法の一部を改正する法律案
(内閣提出衆議院送付)
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午前十一時三十八分開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/0
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001・塚本重藏
○委員長(塚本重藏君) 只今より厚生委員会を開会いたします。兒童福祉法の一部を改正する法律案について質疑を続行いたします。速記を止めて……
午前十時五十六分速記中止
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午前十一時三十八分速記開始発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/1
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002・塚本重藏
○委員長(塚本重藏君) 速記を始めて……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/2
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003・山下義信
○山下義信君 総理の出席を求めましたのは、現下最も悲慘なる境遇に陷つて居ります未亡人並びに兒童の救済につきまして、とかく從來これらの問題が閑却され、軽視されて、捨て置かれてありましたことは総理も御承知のことと思います。これは誠に遺憾なことでありまして我々としても相済まぬことと思い、今回我々これを重大に取上げましていろいろ努力いたして居ります。先日本院におきまして「未亡人及び遺族の救済に関する決議案」を可決いたし、豊々要望事項を添えて、内閣に送つて置きましたから、いずれ総理は御覽下され、御考慮下さるとは存じますが、この席におきましてこれらの哀れなる多くの子供をかかえて窟迫のどん底に喘ぎつつある人達に対し、これらの保護を強力にやつて行くということを総理は如何にお考え下さるか。この際私は御参考に申上げますが、保護を要すべき未亡人は約三百五十万人あります。そのうち約五〇%即ち百七十余万の人々は生活窮迫の状態でありまして、全く一刻の急を要する有樣であります。尚、戰死、戰災によつて寡婦となれるものは總数の二四%と推算され、八十四万の寡婦はいわゆる遺族の人々である、これらの未亡人、しかも子供を抱えた有子未亡人の多くが、すでに危險な立場におかれて居る、彼女達は子供のために一身を投げ出して居ります。これらの母の姿、過日決議案の賛成演説をいたした宮城議員は、賣春婦の六〇%は子供をもつ母であると調査の結果を発表し聞く人々の胸打をつたのであります。總理はこの母の姿をどう考えられるか、母を救わねばならぬ、尊い母を救わねばなりません。政府のお考を承わりましよう。更に本日特に總理の出席を要請し、この總理の出席には林厚生大臣も配慮せられ、その点多とするものでありますが、總理の答弁を得たいと存じます点は実に子供の問題であります、たまたまこの委員会の開かれます今朝の毎日新聞は、悲慘なる兒童の問題を取り上げて指摘して居りす。親の手を離れて賣られて行く可哀そうな子供らを救い上げねばなりませぬ、本員等は、かの兒童身賣問題の実情を調査いたしたのでありますが、涙なくしては申上げられません。只今兒童福祉法の改正案を審議中である政府の改正案は、この点に相当の手を延ばそうとするものであつて、我々全面的に賛成いたして居るのでありますが、これがいよいよ調査されると、恐らく全國で少年奴隷のごとき悲境に置かれ、温かい親の愛の手を離れて不幸の境遇にあるものは十万を超えるのではないかと思う。
總理は兒童問題についていかなる考えを持つて居られるか、私は總理のお耳に入れて置いて是非御考慮を願いたいと思うことは、これらの不幸兒は大部分が親の無い子であるということです。總理よ親の無い子が今我が國に何人あると思われますか、実に意外にも驚くべき多数であります。一例を申上げますと、廣島縣豊田郡竹仁村の戸数五百戸の農村に参りまして試みにこの村に親のない子が何人あるかということを聞きまして、小学校の講堂に本員は集めました。そういたしますと僅か五百戸の農村で親のない子と申しますのは百名以上おるのでございます。そう半数は両親がございません。残りの半数は母親がないとか、父親がないとかで片親が無いのでございまして、而も父親のない子が大部分でございます。如何にこのいわゆる孤兒、両親のない、若しくは父親のない者が、僅か五百戸の農村に百名以上ということの数字から類推いたしますと、私はかような両親若しくは父親のないような、いわゆる孤兒と申しますみなし兒が、全國にこれ亦百万以上に及んでおるという推察をいたしたのでございます。如何に戰爭の被害がこれらの少年達か父らを奪い、そういう境遇にいたしておりますかということでございますが、これらの親のない子供達に向いまして、是非とも政府は國の力を持ちまして、御援助の手を延ばして頂きたい、ただ小さい施設、或いは不完全なる收容所などに止めて置くべきではないのでありまして、國の力で何とかこの悲慘なる子供達に光明を與えて頂き、暖かい援助の手を差延ばして頂きたい、かように感じますので、首相のこれに対しまするお考えを承わりたいと存ずるのでございす。
而して尚總理のお胸に止めて置いて頂きたいのは、これらの人達が、未亡人達が自分達のそういう悲慘なる身の上は忘れまして、ただ子供の教育、子供さえ教育を與えることがでたならば自分は死んでもいいという考えを彼女達が持つておりまする点につきまして、これらの遺兒、或いは孤兒の教育の上に一段の御配慮が願いたい、かように考えるのでございます。これらにつきまして政府といたしまして、政府の政策として大きくお採り上げを下さいまして、十分な御考慮が頂けまするかどうか、この点を伺いたいのでございます。
最後に私は總理から承わりたい言葉がございます。それは只今申上げましたこれらの母子の保護につきましては、いわゆる行政上の処置、或いは政治のやり方、そういうもので特段の御配慮が願われますかどうかということを伺つたのでございますが、特に私が總理からこの席で承わりたいと思いまするのは、今日の我が國の青少年、この子供達が戰爭前後を通じましてこの十ヶ年の間、如何に憐れむべき状態に置かれたかということは、最早申上げる必要はございませんが、更に余りに可哀想に存じまするのは、この少年達が將來何の希望、如何なる光明を持つておりましようかということでございます。で彼等の生活から救い上げるということも大切でございますが、私が一番大切なのはこれらの少年達、子供達に將來明るい希望を持たせてやりたいという点でございます。總理は我が國のこの少年達に、我が國の將來に向いまして如何なる希望を繋がせ、如何なる光明を望ませることができるとお考え下さいまするか。これらの少年達に將來の大きな希望を持たせるように、我が國の將來につきまして總理として確信のある希望につきまして少年達へ対する言葉を拜承いたしたい、かように存ずるのでございます。私が總理の御所見を承わりたいと存じまするのは以上の諸点でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/3
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004・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) お話は誠に御尤もなお話で、社会政策としても、亦國家政策としても、お話の社会状態は如何にしても救済しなければならんことと私もお話を承わつて深く同情に堪えません。ただ、今年としてはこの議会に提出した予算は、均衝予算の面から種々の施設において我々も誠に不満足なところがありまするが、將來社会政策として、又政府の國策として十分研究いたします。これは私が自分に関係したことでありますが、実はこれは一昨年……第一次吉田内閣のときでありますが、街に随分浮浪と申しますか、家のない乞食のような状態になつておる少年が沢山見えるので、これをどうかしなきやならんと考えて、その方法について子供の世話をする宗教團体とか、或いはその他の團体の樣子を調べたことがあり、又着手したことがあるのです。名前は忘れましたが、何とか言う西洋人の旧教に属する宗教家と思いますが、その人は自分で以て孤兒を收容して、そうして何人か忘れましたが百名以下でありました。自分で以て孤兒の世話をしておる人の経驗談を聞いたのでありますが、これは誠に世話をするのに世話甲斐がないと言いますか、孤兒の世話をするということは誠にむずかしいことで、例えばよそから、いろいろ慈善家等に頼んで着物を集め、その婦人がみずから遠く田舍に行つて、食糧を貰つたり、衣料を貰つたりして自分で以て各地を歩いて、そうして金持ちの慈善心に訴えて、自分でいろいろな食糧、衣料等を集めている人であります。その人の経驗談でありますが、折角着物を拵えて集めると、自分の世話をしている家に長くいることを好まなくて、やはり放浪生活の方がいいと見えて、先ず一應逃げ出す者が多い。折角世話してもなかなかこれを育てるのにむずかしい、それも二度、三度連れ帰つて世話をすると漸くそこでなつく、一ぺんの世話ぐらいではなかなか行屆くものではない、又政府とか或いは教会とかというような團体で世話をするということは非常にむずかしいことです。やはり個人の熱心な慈愛によつて、母となつた氣持で以て世話しないというと、なかなかなつかないという苦心談を聞かされたのですが、そのときの私の考えでは、これは單に政府事業とか、お役人で以てする慈善團体、孤兒院の養育とか教育ということはむずかしい話で、個人の熱心な、眞劍に世話をする人に頼むより他仕方がないと、こう私は考えて、各地の孤兒院、特に岡山の孤兒院と言いますか、あそこに行つたのでありますが、そのときの何とかという有名な院長の話を聞いて見ましても、結論は同じことです。教会とか國会で以て世話をするだけでは足りない、余程熱心な人を得るのでなければ、單に金を使うだけでは成績は挙らないということをくれぐれも言つておりましたが、これは実際そうだろうと思います。それで國家で世話をするとしても、さてその中心になる人を得るということが大事であり、これは宗教家の宗教心に訴えるということにもなるでありましようが、子供を可愛がる、眞に孤兒の状態に同情を以て世話をする人を得るということが大事であつて、その人がただ学校を卒業したとか学校の先生とかというだけでは、なかなかその人が得にくいので、これは國家としても何でありますが、個人の心から世話をする人間を得るということが必要で、その人間を中心として教育なり何なりというものをするのでないと、決して樂なことじやない、ただ政府が補助をしただけではこの仕事はでき上らないものだということをつくづく考えるのであります。政府としても考えますが、併しながら同時にすでに永年の間、この仕事に当つて孤兒の世話をしている人を得るということが肝心であると私はつくづく考えるのであります。こういう人がある、ああいう人がある、こういう人を助ける方がいい、こういう人を援助する方がいいというところまでお考え下さらないと、單に政府が國費を出しただけでは目的を達しないと思います。尚お話は私も御同感であります。政府として余裕があつてもなくても、何とかいたしたいと私も考えます。以上お答えいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/4
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005・山下義信
○山下義信君 総理のお話の通りであります。ただ國の力だけでは行きません。民間の篤志家が奮起をいたさなければなりませんことは、私共も民間人の奮起につきましては十分努力をいたしたいと、かように考えます。
最後にお伺いいたしたいのは、將來の我が國の明るい見通しにつきまして総理はどうお考え下さいますか、これは少年達は一つの、理想、一つの発憤の動機というものを持たなければなりません。日本の再建につきまして少年達に是非激励をいたして、希望ある生活を持たせなければならんと思いますが、我が國の將來の明るい見通しにつきまして、少年達に希望を持たせるためにどうお考え下さいますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/5
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006・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) その点は洩らしましたが、これは單に少年ばかりでなく、國民全体として將來の見通しが明らかになつて、そうしてそれが自然子供の方にも反映するという全体の問題であろうと思いますが、さて日本の將來はどうかと申せば、これは私は決して悲観いたしてはおらないのであります。とにかく今日の状態は戰後の混乱から生じた状態でありまして、この混乱は御承知のごとく、漸やく回復の緒につきつつあるように考えられるのでありますが、更に講和條約もできるとか、或いは國際の関係がもつとよくなつて行くということになれば、國民全体としての考え方なり、見通しもついて参るであろうと思います。然らば今のところ見通しはどうかと言われれば、從來は日本に対して或いは戰を好む國である、平和に害のある國であるというような誤解も随分ありましたが、最近においてはこの点は緩和して來たように思われます。殊にアメリカ方面においては、日本人に対する観方が大分直つて來たと言いますが、これはいわゆるアメリカの二世がヨーロッパの戰爭等において勇敢に鬪かつた、或いはアメリカの何とかいう師團を救済した、非常に困難な殆んど窮地に陷つた師團を自分の身の危險も顧みずして救い出したとかいろいろな美談が傳わつておる。そのためであろうということでありますが、在留日本人、二世に対する考え方は余程変つて來ましたし、又日本から帰つたアメリカの兵隊が日本における國民による親切な取扱に動かされて、日本に対する考え方が大分改まつて來た。從來はアメリカの東部においては日本人が職業を得るということは非常にむづかしかつたのに、今日は日本人でも職業が得られる、最も顯著な例はシカゴ方面において然りだそうでありますが、日本人に対する感謝というと話が少しかどが立ちますが、氣持が余程直つて來た。その現れは我々日本人が戰爭中西から東に移された。そのために損害を受けたから、その損害を賠償しようとか、或いは相続、土地所有権その他についての考え方が大分改まつて來つつある、すでに改まつたという話もあります。濠洲、ニュージーランド等日本を危險視しておつた國側においても、日本に対する氣持が大分違つて來たように思います。御承知のごとく最近いろいろアメリカ方面から賠償撤去を中止するとか、或いは爲替レートがどうなつたとか言つて、外資導入に便宜なような、いろいろな情報が参りますが、これによつて日本の経済が安定し、日本の貿易等が更に一層発展するようになり、日本人の生活が樂になり、インフレーシヨンが止まるということになつて、結局國民全体が日本の將來についての見据えがつくことになれば、これは自然子供の方にも反映して行つて明るい氣持になる筈であります。又私は日本の將來について決して悲観をいたしておりません。必ず明るい、今年若しくは來年に至れば一層明るい光明を得るであろうと考えられるのは、私の接触しておる極く狹い範囲においても、日本に來て仕事がしたいとか、或いは日本の貿易なり産業なりに援助を與えようと申込んで來た人が沢山あります。今朝もその人に会つておるようなわけですから、私は日本の將來について決して悲観をいたしておりませんが、倖せに日本の國民生活にいろいろな余裕を生ずるに從つて、子供の氣持も緩やかになつて來るであろうと私は思うのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/6
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007・中平常太郎
○中平常太郎君 大変お忙しい中を吉田総理大臣におかれてはおさし繰り願いまして御列席願いましたことはまず感謝いたします。厚生委員会はすでに十数回開いておりますが、初めて総理大臣を迎えまして、いろいろお尋ねしたいことが沢山ありますけれども、今日は厚生問題、特に青少年の不良化問題と、社会施設拡充問題について吉田総理大臣にお伺いしたいのでございます。政府は九原則の実施によりまして、均衡財政をお立てになりましたことは、敗戰日本の今日として、もとより國民は相当の苦痛をも甘受せなければなりませんが、その実施に当りましては、多分に総理大臣の御意向が施策の面に表現せられますことは申すまでもありません。而して復興の重点を生産増強に置かれておることも亦我々は賛成するものであります。然るにその政策を推進する上において、必然的に犠牲が多数出て参りますことは、賢明なる首相の篤と御承知のことであります。企業合理化のための失業者の氾濫、從つて生きて行くための焦せり、工場は黒煙をあげてごうごうと機械は運轉する。首になつた者達はその門前を恨めしそうに眺めて職を求めて彷徨するのであります。一面にはために生活の困窮より來る兒童育成の放任、面白からざる家庭を見限つて飛び出す子供、一度飛び出せば仲間の誘いについて廻り、無軌道な放浪者と轉落するのであります。今や一ヶ年の犯罪二十五万件のうち、二十歳未満が十万件に達しています。今後一層増加の傾向にあります。兒童福祉施設その他の社会事業施設が半減している上に、情況の変化によりその必要の度は戰前の数倍であります。保育所、乳兒院、授産場、教護院兒童厚生施設の欠乏のために、種々の悲惨な出來事が起つております。先般も大阪豊中の脳病院、又堺の脳病院、岡山の厚生寮、その他各地で浮浪兒を集團的に氣狂いでもないものを脳病院に入れ、手続上それを重病人と仮称して兒童を監禁して、一ヶ所何百人という多数の死者を出し、兒童を塵芥のごとく死期を早めしめたのであります。これは皆適当な施設がないためであります。
政府はかかることのないために「不良化の傾向は能う限り早期に発見してこれを未然に処置する」と申しておられますが、誰が明期に発見する役目を持つているのでありますか、学校職員、兒童委員などに努力せしめると言われますけれども、一々このような人が多忙の中で給與も別にないものが、猿のごとき素早い子供の尻へついて廻れるものではありません。又母親クラブ等の保護者の組織を結成して注意監督せしめると言われますが、母親クラブなんかは有閑マダムか知識階級かで、手替りのないその日の食に追われて、見めも外聞も構わず働きに出ている母親に、誰か何日何時指導者たちの有閑的な会合に尻切れ草履で帶も録に結んでいない、髪はおどろのままの貧困階級の婦人が出てくると思われますか。そんな生優しい母親クラブなんかでできると思われるところに認識の不足があると思うのであります。そのような金のかからぬ他人の余技に等しいことぐらいでは到低不可能であります。やはり政府は相当予算を計上して、施設の増加により困るところに一つの打開の途を與えるようにしなければならんと思うのであります。又兒童青少年に適した遊び場所、及び娯樂の普及を図るといつておられますが、今度の兒童福祉法の一部改正案には、相変らず兒童厚生施設には補助を出さないと明記されております。東京都はたまりかねて、今度都内に五百ヶ所、一ヶ所五十坪前後の兒童遊園地を一ヶ所十万円、合計五千万円を出して実施する由であります。又勤労補導協会外二十七團体の要求である授産場をそれぞれに整備する予算を來る六月に上程する由であります。首相は生産増強のために起る各種の惡化現象に対して、最初百数十億の予算を取られていたが、僅かに二十一億となりましたが、補充の道は如何になさるお考えでありますか。世の弱者や將來を托すべき大切な小國民、数において國民の約半分もある二十歳以下の不良化の防止と、健全な育成と、又一般史業者の増加に伴う各種の欠陷は、著しく社会大衆の混乱を來しつつあります。
又二百万に近い未亡人の家庭に喘えぎ拔いている人達に、先日も決議案が通過いたしましたが如何なさるお考でありますか。強い政策で押切つて行く途上の、その足下の多数の貧困者の具体的救済と授産場、保育所などによつて、彼らをして機能に適つた生産増強にいそしましめる方策は如何なさるお考えでありますか。ただ生活保護法一本で金をやつて、厄介者のごとくかつかつに餓死線上に彷徨せしめるお考えであるか。生扶の率を至急に引上げなければならんと思いますが、お考えはどうですか。
一方大きな方針である生産増強の推進は、産業界は一應喜ぶでしよう。又資本家も株屋も喜ぶでしようが、やがて踏みつけられた大衆仲間からはどんな思想が生れて來るとお思いでありましようか。思い半ばに過ぎるものがあると心配するのであります。
政府は種々防犯のための強い諸法案を今期も提出されているが、打つべき手を打たずして、ただ押えつけるだけの方策で、思想上の好轉や、惡化の防止が得られましようか。人間は食つて行かねばなりません。無理がある点を是正しなければ、ますます惡化するのではありますまいか。厚生行政は林厚生大臣でよかろうとのお考えであるかも知れませんが、林厚生大臣は度々その実現を我々に約束していられます。予算も相当に要求されております。然るに残念ながらいつも削減されて、林厚生大臣においても非常に心配せられているのであります。ただこの上は、総理大臣の強力な政治力に信頼して、厚生行政費の復活、或いは他からの捻出をお願いいたしたいのであります。先ず首相の御同情さえ得られますれば、厚生に志ある者皆が望んでおります見返資金千七百五十億の中から割当てて頂きたい切なる希望を弱者のためにお願いいたしたいと思います。これが即ち善政と申すものと思うのであります。佛の手にも、右に降魔の利劒があれば、左には無限の慈悲の手を伸しておるのではありませんか。神は善人にも惡人にも日を照らし、雨を降らしております。善人ばかりに日は照つておりません。打つべき手を打たずして打つべき手を打てば、これが一つの安全弁になるのであります。私は首相に聽いて頂いたことは、首相のこの問題に対するお考えと御決意をお伺いいたしたいのであります。御多忙でありましようが、何とぞ御心のこもつたお答えをお願い申上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/7
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008・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) お答えいたしますが、大体先程申した私の考えで大体御了承がおでき下さると思うのでございますが、先程も申す通り、このたびの予算は均衡予算、財源の少いところにおいて、歳出入の均衡を主として拵え上げた、且つ財政の健全化、インフレーシヨンの防止ということに主眼を置いたものでありますから、政府としても、したいこと又支出の必要と認めることは沢山あるのでありますが、一應このたび提出した予算で以て施設をいたしたいと思つております。尚今後財政の余裕とそれから又必要に應じて是正し、この次の臨時議会において是正して行く、訂正して行く、補正して行くという考えを持つて処置いたしておることは議会において述べた通りでありますが、でき得る限り、厚生施設についても政府としてはその必要を決して無視しておるのではなく、又抑えつけることばかりを考えておるのではないのであります。この趣旨は先程申した通りで御了承が願えると思うのでありますが、今後の臨時議会等において十分考えたいと思います。一應お答えいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/8
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009・中平常太郎
○中平常太郎君 只今御言明をお願いするわけではありませんが、この賠償物資取立て中止のために、二十六億の金が使える余地ができたということを新聞で発表されておりますが、どうしてもいけない場合にはこののつぴきならん仲間に対してさまざまな社会施設も非常に急ぐのでありますが、そういう方面から一つ、ここで御言明を得る必要あるとは考えませんが、特別な御配慮をお願い申上げたいと存じます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/9
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010・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 只今のお話の賠償物資撤去を中止されたために、二十六億ですが、そういう余裕ができたかできないか、実は私よく存じません。併し今申した通り余裕ができれば、社会施設その他に振向けたいという考えをはつきり申上げて置きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/10
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011・山下義信
○山下義信君 先程総理の御答弁なり、只今の中平委員の御質疑に関連して、この際総理にお願い申上げて置きたいと思います。或いはお耳に入つておるかと思いますが、先刻の総理のお心持、私共全く同感であります。できるだけ民間人が蹶起してやれ。こういう趣旨でありますが、然るに民間の社会事業家、いろいろの篤志家がやりまするそれにつきまして、御承知の共同募金運動というのがございます。本年は十億の金が集まりまして非常に好成績でございます。それらの寄附金に対しまして実は課税がございます。税金がかかります。むしろこの寄附をするくらいなら余裕があるだろうというので、一層苛酷な課税が行われるというくらいであります。この寄附金、公共事業、さような社会事業に対しまする寄附金等につきましては、課税の問題、これを免除して頂くというようなことになりますというと、民間の社会事業が非常に勃興いたしますので、政府におきまして是非このことの御解決が願われましよか、如何でございますか。殊に近く税制改革などの全般に亘つての御研究もございますし、関係方面の使節も見えましたにつきまして、さまざまの御相談がございますれば、是非政府におきましては、多年の要望でございますこの点に御配慮が願われましよか。如何でございましようか、お願い申上げたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/11
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012・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) これは私一個の意見で、大藏大臣の代弁をするわけじやありませんが、相続税その他の関係から、贈與税に相当重い税金がかかるということについては、私共も甚だ遺憾に思つておるのであります。故にこの間の税制審議会において、この点も審議をして貰つて、贈與の金額等を引上げる必要がありはしないかといつて研究をして貰つたのであります。その答申に何とか、確か十万円以上とか、何万以上とかいう、只今一万円以下ということであります。それを十万円以上にしたらどうかと、こういう答申が、金額はちよつと記憶が確かではありませんが、相当引上げて、そうして免税点を引上げるのがよいということがこの間の税制審議会においての答申ができております。これは更に只今日本の税制について根本的に研究することになつておりますから、その結果をお待ち願いたいと思います。決してその必要を認めないわけではなく、私自身としては慈善、公共事業その他を興すためには、今の贈與税が余りに苛酷であるということは、私自身も感じておるので、又私のみならず、税制審議会等においても問題にいたしておりますから、多少或いは多少以上の引上げができ得るだろうと思います。一應お答えいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/12
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013・井上なつゑ
○井上なつゑ君 先程から吉田總理大臣の大変御懇切な御説明を伺いましたのですが、私からお尋ねすることはございませんのですが、ちよつと婦人の立場から希望を申し述べさして頂きたいと思います。この間も未亡人の証人の人が出席をいたしましたときに、その大きな声の一つでございますことは、未亡人の人達が職業に特殊の技能がない結果、パンパンガールのような仕事をしなくちやならないということは、自分の手に職がないということでございまして、この目下のこうした社会情勢で、失業が大変多い。殊に昨日の新聞を見ますと、飯田橋の職業紹介所に求職が一千以上で、求人が二、三人の状態であります。殊に私の田舎の方から出て参りまして、飯田橋の職業紹介所に來まして、住込みで二千五百円で紹介された。その住込みに参りましたときは、住込みで五百円だと言われて驚いた。立派な職のある男の人でさえ大変のこのような失業の多い時でありまして、殊に婦人の手に職業を持つていない人の就職は非常にむづかしいことでありますけれども、未亡人でありましても、手に職を持つておる者は困つておりませんことは御承知の通りでございますが、丁度この間の新聞にもありましたが、お裁縫のできる人はお裁縫の仕事をしておるのに、片一方の未亡人は技能を持つていないために、パンパンをやらなければならない。まじめな氣持を持つておつてもしなければならんというようなことも出ております。未亡人の、是非これは職業的な再教育をして頂きたい。して頂きたいが、その再教育の間に、國で以て何とかして生活の保障をして頂いて、職業の再教育をして頂きたいということであります。若しもそういうようなお考えがあつたならば、財政の上で何かその他で御配慮を頂きたいと思います。幸いにいろいろな方面から日本の婦人は向上して参りまして、家庭工業で、丁度スイスの婦人が、時計の小さな部分品の仕事をしていらつしやるように、何か日本の婦人は手先が器用だと言われているので、こうした家庭工業でもすることができますれば、こうした未亡人は非常に仕合せだと思います。この点一應御考慮をお願いたしたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/13
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014・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 御希望は承わつて置きます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/14
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015・姫井伊介
○姫井伊介君 遅く参りましたので、或いは他の方からお尋ねがあつたかと思いますが、重複するところはお略し下さつて結構でございます。私のお伺いしたいと思いますことは、厚生事業、社会福祉に関する予算関係と並びに経済、産業方面に関する予算関係でありますが、申すまでもなく厚生事業は、從來は揺籃から墓場までと言われておりましたが、今日はもうすでに受胎から墓場までを一貫したる人間を育てて、殊に生活その他において苦しんでおる不遇な人を立派な國民として育て上げようと、そこでそれらの人が一人でも自立し、働き得るようになりますれば、その方面の経費が節約されるわけで、産業、経済方面におきましても、これは目に見えるものだから、これに金を注いで、これに仕事をさせようという考えも成り立ちますけれども、併し物よりも人でございますことは御承知の通りであります。人なくして産業は興り得ない。健全なる人を多くして不遇に惱む人を少くするということに、一つの予算的措置が積極的に講じられますならば、それの今度は裏返りといたしまして、産業方面に努力貢献する人が多くなつて來ますが、そういう意味におきまして、私は單に厚生関係のことは消極的なことであつて、それに金を注いでも、國家の再建或いは経済の復興に大して役立たないといつたような目先の軽い考え方でなくして、もつと根本的な考え方からいたしまして厚生事業に積極性を持たせるために、今少し總理の方でもお考え下さいまして、早く不遇な人をなくして、さつき申しましたように、國民的幸福の恩典に浴せしむるようにするお考えはございませんか。これを先ず……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/15
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016・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 先程一應私の考え方を申述べたのでありますが、この度の予算は御承知の通り均衡予算で、主として日本の経済復興のために止むを得ざる経費だけを見積つて、一應財政の立て直しをするという方面から立てたので、政府として支出したい、又必要を感じておるものは沢山あるのでありますが、それも思い切つて切り詰めてこの予算を組んだのであります。先程も亦國会の議場においても申した通り、今後財政の余裕と共に必要に應じて予算を補正して行く、こういう考えで当つておるのであります。これは先程も申述べた通りでありますが、臨時議会は成るべく早い機会に召集いたして予算の補正等も考えるつもりでございますから、どうぞ御了承置きを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/16
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017・姫井伊介
○姫井伊介君 簡單に次にお尋ねいたしますが、消費生活協同組合、これの状況は御承知の通りであります。これに対しまして我々同士が諮りまして改正案を出したのであります。それは信用事業をやれるように、全國の連合会組織ができるように、それは共に向うのオー・ケーが來たのであります。本委員会におきましても早速審議いたして頂きますが、これが衆議院に廻りましても余日がございませんけれども、國民多数の熱望しておりまするこの問題を一日も早くその要望に即し得るために、從來のようなただ他の中小工業と摩擦があるとかいつたようなそういう時代遅れの考え方でなくして、積極性をお持ちになりまして、この案を通すことに總理はどうお考え下さいますか。それもお考え一つではこれもうまく通るのではないか。その点を伺いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/17
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018・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) その問題は、私はここで初めて伺うので、どういう成行き、或いは性質のものであるか、ちよつと私はお答えする自信がありませんから、どうぞ厚生大臣からお聽き頂きたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/18
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019・林讓治
○國務大臣(林讓治君) 実は私も詳細よく存じておりませんので……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/19
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020・塚本重藏
○委員長(塚本重藏君) 実は總理大臣には零時十五分までとお約束しておりましたから、尚この外に谷口委員、黒川委員、小杉委員等御質問があるようでありますが、甚だ遺憾でございますけれどもこれで休憩いたしたいと思います。
午後零時二十七分休憩
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午後二時開会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/20
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021・塚本重藏
○委員長(塚本重藏君) 只今より休憩前に引続いて開会いたします。速記を止めて。
午後二時一分速記中止
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午後三時四分速記開始発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/21
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022・塚本重藏
○委員長(塚本重藏君) 速記を始めて……。本日は、これを以て散会いたします。
午後三時五分散会
出席者は左の通り
委員長 塚本 重藏君
理事
谷口弥三郎君
姫井 伊介君
委員
中平常太郎君
山下 義信君
黒川 武雄君
草葉 隆圓君
井上なつゑ君
小杉 イ子君
國務大臣
内閣總理大臣
外 務 大 臣 吉田 茂君
厚 生 大 臣 林 讓治君
政府委員
厚生政務次官 淺岡 信夫君
厚生事務官
(兒童局長) 小原 徳雄君発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100514237X02519490519/22
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