1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十五年三月十五日(水曜日)
午前十時五十一分開議
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議事日程 第二十六号
昭和二十五年三月十五日
午前十時開議
第一 積雪寒冷地帶に対する負担の妥当公正化に関する決議案(田村文吉君外十四名発議)(委員会審査省略要求事件)
第二 公立大学に置かれた文部事務官等の身分上の措置に関する法律案(内閣提出)(委員長報告)
第三 自由討議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/0
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001・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 諸般の報告は朗読を省略いたします。
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002・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。
この際お諮りいたします。法務委員長より、商法の一部を改正する法律案の審議に当り、地方主要経済都市の現地各界の代表者等よりその特殊事情に基く意見を聽取するため、並びに検察及び裁判の運営等に関する実地調査のため、福岡県及び大分県に鬼丸義齊君、鈴木安孝君を、三月中十日間、大阪府に伊藤修君、松村眞一郎君を、三月中五日間、愛知県に大野幸一君、松井道夫君を、三月中四日間の日程を以て、それぞれ派遣いたしたい旨の申出がございました。委員長申出の通りこれら六名の議員を派遣することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/2
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003・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつて議員派遣の件は決定いたしました。
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004・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 日程第一、積雪寒冷地帶に対する負担の妥当公正化に関する決議案(田村文吉君外十四名発議)(委員会審査省略要求事件)を議題といたします。本件につきましては田村文吉君外十四名より委員会審査省略の要求書が提出されております。発議者要求の通り委員会審査を省略し、直ちに本決議案の審議に入ることに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/4
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005・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつてこれより発議者に対し趣旨説明の発言を許します。田村文吉君。
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〔田村文吉君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/5
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006・田村文吉
○田村文吉君 只今上程となりました決議案の趣旨説明を試みたいと思います。
先ず決議案を朗読いたします。
積雪寒冷地帶に対する負担の妥当公正化に関する決議案
国土の約六〇%を占める北海道、東北、信越、北陸地方及びその他の積雪寒冷地帶は、人口密度も低く、住民は窮乏を極め、産業の開発、文化の普及が甚だしく遅れている。
その原因は自然的悪條件によることもとよりながら、政治の分野においてこれら地帶の住民に対する歴代政府の施策がその当を得なかつたによることも大であると言わなければならない。
平和的新日本建設のためにも、人口及び失業問題解決のためにも、この地域に住む住民の上に公平な考慮を拂い、その生業に安んぜしめる必要がある。
今回税財政制度の画期的改正に当り、これら積雪寒冷地帶に対して国税並びに地方税負担の公平適正化と平衡交付金の合理的配分を図るために、次の諸事項に留意せられんことを要望する。
一、本地方二千四百万全住民の積雪寒冷による不可避な生活損耗並びに中小商工業者の事業経費の増嵩等に対しては、その実態を基礎として税制並びにその運用に際して適正な軽減の施策を講じられたい。
二、地方財政平衡交付金の測定標準及び政令によつて定められる補正係数の算定に当つては、特に恒年的なるが故に等閑視された積雪寒冷による行政費用の損耗及び増嵩等を考慮し、各地域の実態の充分な認識に基き、貧困な自治体に対する財源附與の公正を期せられたい。
右決議する。
以上であります。雪の多い所、寒さの嚴しい所が温暖地方に比べてその生活費が著しく増加しておりますことは、誰人も常識的に了解できることであります。先ず被服の点におきまして、綿入の重ね着をするとか、下着の毛織製品を二枚も重ねるとか、或いは真綿或いは毛皮の必要も起つて来るのであります。その他、寢具類、外套、ゴム長の類にいたしましても、温暖地では到底想像も付かない多額の出費を必要とするのであります。ちよつと気の付かないことで、赤ん坊が生れますと、暖国では十枚もあれば済むおむつが、雪国になりますると三十枚も四十枚も必要でありまして、その上これを火力で乾燥する裝置ぐらいは必要であるのであります。
次に住宅の問題でありまするが、無雪地で三寸の柱で済むものなら、雪国では四寸以上でないと家が潰れてしまうのであります。無雪地では雨板一枚張りで済むところでも、雪国では厚い壁を付けなければ氷雪に耐えないのであります。又半年の食糧や燃料の貯蔵のためには、毎戸必ず三坪乃至六坪ぐらいの物置が必要であるのであります。しかのみならず、いよいよ冬を迎える前になりますると、積雪、吹雪を避けまするために、家々には柱とか、板割、菰等による冬囲いが必要となりまして、その冬囲いした家の中は真暗となりまするので、晝も電灯をつけねばならず、且つ保温と洗濯物乾燥のために、どんな家庭でも二十俵乃至三十俵ぐらいの木炭と二棚ぐらいの薪を必要とするのであります。
食物におきましても、働いている限り、体温保持のために脂肪その他のカロリーの多量攝取が必要となることは自明の理でありまして、防寒上多分にアルコール攝取の習慣を持つことになつたのも敢えて咎むべきことではないのであります。況んや冬季間の莫大の野菜貯蔵のため、一時に多額の出費を必要とするのみならず、これらの野菜のビタミンCは、その貯蔵中に七〇%を失い、キヤベツのごときはいの九二%を喪失するという文献さえあるのであります。
直接の衣食住費の増加の外に、屋根の雪下し、通路の除雪に使用する労力及びこれが費用も実に相当なものでありまして、市街地の相当建坪の住宅が一冬に三百人の手間を使つた例は少しも珍らしいことではないのであります。
以上は積雪寒冷地方における個人生活費の莫大な増加の実際を若干説明したに過ぎませんが、これらの生活損耗が来る年も来る年も、過去未来永劫逃れ難き被害であるに拘わらず、個人所得の算定上厘毫の考慮も拂われておらないのであります。即ち十万円の所得者は飽くまでも十万円の所得者として、暖国も雪国も全く区別されておらないのであります。尤も事業所得の算定に当りましては、これが中央の指示によりますか、はた又税務署長の良心的判断によるか分りませんが、事業経費の算定上若干の手心を加えた形跡がないではありませんが、これは極めて僅少な、誠に言いわけ的なものであります。私の調べました正確な資料の一つ、即ち昭和二十三年度の或る豪雪地における税務署に見られました或る味噌屋の実例で申しますと、税務署は、私共から見ますれば頗る不満足ながら雪害による事業経費の増加を一応二万五千円と基準計算いたしましたが、漸くその二割五分に過ぎない六千五百円だけを計上することに決定いたしたのであります。ところがこれも結局総括的徴税額の水増しの必要が起りましたので、僅かな六千五百円の経費増加の承認も水の泡のように消え去つたのであります。これは一例に過ぎませんので、尚、他に沢山の実例を持つておるのであります。私共が本決議の提出を必要といたしますゆえんのものは、このような税務署長の神秘的な手加減でどうにでもなるような不明朗な不公正を止めて、法律によつてはつきりと雪害、寒害による事業経費の増加を認めると同時に、個人の所得算定にも生活費の増加を考慮して適正公平な課税率を定めることが絶対必要であると信ずるからであります。
次に地方財政平衡交付金につきまして一言いたしたいと思います。昭和十五年以降二十年に至る地方歳出の経費は、一道十一県を除く他の都府県では人口一人当り二百五十一円であり、一道十一県の雪寒地方では百七十四円となつております。而も積雪寒冷地方は頻発いたしまする風水害や積雪寒冷による経常的経費を負担いたしておりまするため、住民の公共施設や生活水準が極めて乏しい環境と相成らざるを得ないのであります。一例を申上げますると、半年近く雪氷に苦しめらるるこの地方の学校の屋内運動場は本校舍と全く不可分の関係のものであるに拘わりませず、殆んど考慮されておらないのであります。又積雪加重に対する建築費の増嵩も考えられず、窓は破れ、甍が飛んでも、その修繕費の増嵩も全く考えられておらぬのであります。現在の地方自治体はあらゆる行政面で最低の行政標準経費を要請されておりまするが、この負担は全国画一的に負担せねばならない結果、積雪寒冷に基く需要の増加と共に、少い地方経費が更に重圧を受けて、これら地方自治体の財政をいよいよ貧困ならしめておるのであります。平衡資金配分に当り、篤とこの辺の事情を勘案して適切公正なる措置のとられんことを切望するものであります。
北海道、東北、北陸信、即ち一道十一県の面積は日本積の六割を占めておりまするが、(「簡單」と呼ぶ者あり)人口は日本全人口の三割にしか達しておりません。即ち人口密度は他の温暖地方に比べて三分の一にも達しておりません。今仮に一道十一県の人口密度をその他の地方と同率まで引上げたといたしますと、日本は尚六千万人の新たな人口を收容できることになります。仮にその半分といたしましても優に三千万人の人口増加を吸收できることになるのであります。日本の人口問題は立ちどころに解決されることになるのであります。このためには、自然の地理的悪條件を止むを得ないといたしましても、これに代るべき政治的の考察がなされることが必要であるに拘わらず、過去八十年の政治、殊に近年の政治はこの点につきまして少しの思いやりも考察もなされておりません。事業費に計上されることのない多額の自己労力を加えて、孜々営々辛苦の米も、秋田の水車小屋に配給される値段と銀座の真中で配給される値段は同一であります。つい先頃までは、吹雪の北海道で堀り出した石炭の値段は山元でも京浜地方でも同一値段であつたのであります。半歳の積雪によつて起し来たつた水力電気は、都会を明るくし暖かにしながら、電源地方には暗さと、寒さと、雪崩と、洪水とを残すのみならず、その料金は都会地である京浜地方と電源地である新潟、福島とは殆んど同一となつておるのであります。又これ程はつきりした生活費及び生産費の増嵩にも拘わらず、所得算定上にも税率の設定上にも何らの考慮が拂われておらぬ。即ち全国同一であるということは、畢竟雪寒地方は特に重税を課せられておると同一の結果となるのであります。
積雪寒冷地帶の公務員諸君に対しましては、昨年すでにその程度に応じそれぞれ特別手当を支給する法律案が同僚議員諸兄の同情と理解によつて決議され、実施に移されたことは感謝に堪えません。私は同僚議員諸兄の御同情と御理解を更に一歩進めて、一道十一県並びにその他の積雪寒冷地帶における農業人、一般勤労者、中小企業者その他の個人所得者の全部に拡張されまして、これら地方住民に対する税負担の適正公平化に関する本決議に満場の御賛成をお願いする次第であります。これただにこれら地方住民に対する前途の光明となるだけでなく、他面刻下の人口問題、都会集中人口の分散問題、並びに国土計画問題解決の一環となり、やがてこれが平和的新日本建設の要目であると堅く信ずるものであります。
何とぞ満場諸兄の御同情と御理解とによりまして本決議案に御賛成あらんことを熱望する次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/6
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007・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 別に御発言もなければ、これより本決議案の採決をいたします。本決議案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/7
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008・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 総員起立と認めます。よつて本決議案は全会一致を以て可決せられました。(拍手)
只今の決議に対し本多国務大臣より発言を求められました。
〔国務大臣本多市郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/8
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009・本多市郎
○国務大臣(本多市郎君) 只今御決議になりました積雪寒冷地帶に対する負担の妥当公正化に関する御決議に対しまして、政府の所信を明らかにいたしたいと存じます。
その御決議の一貫いたしておりまする御趣旨に対しましては、全面的に政府も同感でございます。これに対しまして、課税の面におきましては更に経費の算定等に特段の考慮を拂いまして御趣旨に副いたいと存じます。又政府の交付金につきましては、今回平衡交付金の制度が確立されることでございますので、この機会に平衡交付金の中に特に規定を設け、積雪寒冷度に応じて財政需要額というものを高めまして、これに伴つて交付金が増額されて行くという、そういう処置を講じまして御決議に副いたいと考えております。(拍手)
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010・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 日程第二、公立大学に置かれた文部事務官等の身分上の措置に関する法律案(内閣提出)を議題といたします。先ず委員長の報告を求めます。文部委員長山本勇造君。
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〔山本勇造君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/10
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011・山本勇造
○山本勇造君 只今議題となりました公立大学に置かれた文部事務官等の身分上の措置に関する法律案につきまして、文部委員会における審議の経過並びにその結果について御報告を申上げます。
本案は大変長い題目でございますけれども、その條文は至つて短かいものでございまして、内容も又簡單なものでございます。即ち公立大学の事務職員及び技術職員を国家公務員から地方公務員にその身分の切り換えをしようとするものでございます。御承知のように、すでに公立大学の教員及び高等学校以下の公立学校の職員につきましては国家公務員から地方公務員に身分の切り換えが終つておるのであります。ところが、この公立大学の文部事務官等につきましては、まだこの切り換えができていないのであります。そこで、この法律によりまして、その切り換えを完了したいというのがこの法案の趣意でございます。
文部委員会といたしましては、この趣旨、内容等につきまして十分に検討を行い、愼重審議を重ねて、討論、採決をいたしましたところ、これは適切なものであると認めまして、全員一致可決すべきものと決定いたしたわけでございます。
以上を以ちまして本法案に対する文部委員会の報告を終ります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/11
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012・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 別に御発言もなければ、これより本案の採決をいたします。本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔総員起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/12
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013・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て可決せられました。
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〔羽生三七君発言の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/13
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014・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 羽生三七君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/14
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015・羽生三七
○羽生三七君 私はこの際、食糧政策に関して緊急質問をすることの動議を提出いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/15
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016・鈴木直人
○鈴木直人君 本員は只今の羽生三七君の動議に賛成いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/16
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017・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 羽生君の動議に御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/17
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018・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつてこれより発言を許します。羽生三七君。
〔羽生三七君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/18
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019・羽生三七
○羽生三七君 私の質問の要旨は、吉田内閣に食糧政策或いは広義にいいましての農業政策が存在するかどうかという問題でございます。
吉田首相は今日まで、日本の今日のような状態の下におきましては何ケ年計画というものは立てられないということをしばしば発言されております。我々自身もそのことの困難性はもとよりこれを認めますが、併し世界各国それぞれ何ケ年計画かを立てまして戰後経済の復興を図つていることは御承知の通りであります。我が国経済の現状を見まするに、政府がこれについての一応の計画性を持たなければ、各産業とも当面の問題に忙殺されて一貫した方策を持ち得ないというのがその現状であります。私のここで言う計画性というのは、いわゆる統制経済を意味するものではないのでありまして、日本再建の前途に一応の目標を置きまして、その計画性に個々の政策をマツチさせて行くことを指すものであります。そういう意味の政策の中で特に混迷を極めているものは農業政策であります。端的に言うならば吉田内閣に農政ありや否やということを質したいのであります。
今日、農村は我々が指摘するまでもなく明白に農業恐慌に入りつつありますが、政府はしばしば農業恐慌は来ないという意味のことを言われております。併し今日農民は低米価政策或いは過重な税金の負担等によつて、農業再生産への資金投下が不可能な状態に陷つております。一方農業協同組合は又報奬物資の滯貨や資金難で、農業協同組合に課せられたその本来の任務の遂行が不可能であるのみならず、組合の存立自体が危機に瀕しているのがその実情でございます。農民は今日まで極めて苛酷な且つ困難な條件の下で食糧供出を果して参りましたし、そうして今日も又乏しい生活の中で生産への努力を怠つておりません。然るに食確法まで作つてあれ程強制して来ました食糧問題も、その後情勢の変化によりまして、二十五年度におきましては「いも」類の買入れも四億貫という微々たるもので、残余の部分は統制を解除し、且つ又雑穀については供出後の自由販売すら考慮されているのがその現状でございます。生産が過剩になれば、統制方式の改善や或いは撤廃は当年のことでありまして、そのこと自体に私共は何らの異議はございません。ただ農民の納得の行くような善後処置を何ら政府が講じていないこと、今後の農業の向うべき方向についても少しも明白な意思表示を行わないということが極めて遺憾な問題なのでございます。 昭和二十五年度の食糧の輸入量は、予算の上におきましては大豆を含めまして三百七十四万トンが予定されております。而も実際の見通しといたしましては、タイ米が約九十万トン、韓国米が約十万トン、小麦が二百五十万トン、雑穀、これは主として大豆でありますが、これが約四十万トン、計三百九十万トンの輸入が可能とされているのであります。これで参りますというと、本年の端境期におきましては三百数十万トンの持越米が予定されまして、現在の配給基準量二合七勺に必要な持越量を遥かに上廻るという計算になります。この外近く国際小麦協定への参加も予想せられ、更に輸入食糧については永久に無税ということが伝えられております。尤もこれにつきましては政府当局が必ずしも同意しているものでないということは明白になつたようでありますけれども、とにかくいずれにいたしましても、今日までの食糧政策は経済九原則において示されましたいわゆる食糧供出計画の能率を向上するという方向に重点が置かれ、従つてその指向するところは食糧国内自給度の増進にあつたと考えることができると思うのであります。又そういう理解の下に、今日まで日本の農民は毎年指示されました食糧の割当計画に基きまして、立地條件や或いはその他採算上極めて不利な場合をも忍んで、農業生産力の増強に努力して来たのであります。併し私が先に申しましたように、多量の輸入食糧と相俟つて、今回の食糧管理制度の再検討、即ち「いも」類の買入制限や、雑穀の供出後の自由販売或いは輸入食糧の永久無税案等が実行されることになれば、今後の食糧政策は国内自給度の増進より逆に輸入食糧は依存するという政策に転換されることに相成ると存じます。もとより原則的に言いますならば、どのように安価な食糧が将来輸入せられましても、それに対応できるだけの生産コストで我が国の農産物が生産されることが望ましいのでありまして、いわゆる世界農業の一環としての我が国農業を確立することが基本的問題ではございますが、併し残念ながら今日の場合、我が国にはまだそういう意味での客観的條件は成熟していないのであります。若し吉田内閣の農政が国内自給度の向上を目指すならば、日本農業の拡大再生産への物的基礎を與えなければなりません。又反対に輸入食糧に依存するにいたしましても、国際農業競争に対応し得るだけの條件を日本農業が持たなければならないと思うのであります。ここで言う物的基礎とは、農業の近代化或いは高度化、或いはそれに必要な農業改革の諸方策、土地改良、農地改革の徹底等を指すのであります。併しそれがどのように不十分であるかは特にここで指摘するまでもなく明瞭だと存じます。
然るに今日の客観的條件は、日本農業が国際農業競争に対応できるどころか、その反対にいよいよ困難と窮乏の一途を辿らざるを得ない方向に進んでおります。日本農業が政府からは何らの保護を受けず、裸で国際競争にさらされた場合、それがどのような結果になるかは多言を要しないでありましよう。それ程我が国の農業の基礎構造は極めて脆弱なものでございます。世界の主たる小麦の生産国たる米国、濠洲、カナダ、アルゼンチン等の先年の生産数量は約二十億ブツシエルに近いものでございまして、これは戰前に比して数億ブツシエルの生産増になつております。尚その価格は日本の現在の公定価格に比較して相当上廻つておりますが、種々の制約が解除されて全くの自由価格制になつた場合の我が国の対外競争力は太刀打ちのできない貧弱なものだということが予想されるのであります。細かい数字は省略をいたしますが、タイ国やビルマの米についても同樣なことが言い得られるのであります。
第六回国会において、いわゆる食確法は当参議院におきまして審議未了となりましたが、政府は直ちにボ政令の公布を以てこれに応えたのであります。一面においてはそのような政策をとりながら、他面においてはこれを全く相反する政策が進められ、且つ又客観的條件がかくも急テンポで変化しておる下で、どうして日本農業を発展させることができましようか。又どうして日本の農民が安んじて働くことができましようか。答えは言うまでもなく否であります。これを要するに、現内閣は一貫した農業政策を持つておらないという外はありません。政府は恐らく食糧はできるだけ自給し、不足分は輸入すると答えるでありましようが、併し実際には矛盾した政策がとられつつあることは私が只今申述べた通りであります。現内閣は農村を窮乏から救い、日本農業を発展せしめ、且つ農民が安心して働けるために、速かに確乎たる農業政策を確立する必要があると存じますが、これに対する政府の所信を質したいと存じます。附加えて申上げますが、それは又日本経済の自立の重要な條件でもあると考えるのであります。吉田首相は、私が先にも申しましたように、一年以上の経済計画は立てられないということをしばしば発言されましたが、インフレ高進当時ならとにかく、首相が今国会の施政方針演説におきまして我が国経済の安定を謳われた今日においても尚さように考えておられるのか、この点も私の伺いたい点であります。よく、本の好きな人が本を買つて、書棚に並べるには並べるが、併しそれを格別読むわけでもなく、ただインテリ的自己満足に耽つている風景は間々見られるのでありますが、吉田首相は以前から進歩的な教授グループを周囲に集められて、よく話を聞かされているようでありますし、又最近では農村問題に関する相談相手の意味で、知名の士を委嘱せられ、その中には私共の尊敬措く能わざる人物もおるようでありますが、どうか本の好きな人が本を書棚にただ並べて置くと同じように、何らこれを活用しないということのないように、人材を十分に活用せられまして新農業政策の確立を図られることを切に切望して止まないものであります。
農林大臣に対しましては、当面の農政の責任者として、只今私が申述べました諸点についてどのようなことをお考えになつているか、先ずその点を第一にお尋ねいたします。
第二には、先に私が申述べた数字で行きますならば、今日の主食配給基準量二合七勺では或る時期に相当過剩な持越米ができる勘定になりますが、近い機会に配給基準量二合七勺を増加する意思があるかどうか、この点をお尋ねいたします。
農民は労働者と違つてその職場が分散している関係上、労働階級のような組織的抵抗力を持つておりません。即ちストライキもやれまいし、或いは又労働組合のように、国会共闘というような組織も持つておりません。この弱い抵抗力の故に農村問題はややともすれば等閑に付せられ、且つ農民の生活問題は忘れられがちであります。いわゆる恐慌の場合においても農村には彈力性があるように言われているが、これは農村経済の強靱さを物語るものではなく、農民が際限なく自分の生活を切下げることによつてのみ支えられている経済なのであります。
結論をいたしまするが、どの道、一貫した農業政策、即ち食糧は自給に重点を置くのか、それとも安い食糧は無限に入れて我が国を工業国家として再建されて行くのか、この点、完全に二つに割切れないにいたしましても、重点の所在を明確にすることが、この際吉田内閣にとりましても、森農相にとりましても、更に又日本の農民階級にとりましても重要なことであると存じます。この際、政府は国内農業保護の立場に重点を置き、積極的に国家資本を投下し、我が国農業の発展とその確立のために必要な予算的措置を講ずべきであると思います。私は農業生産力の発展と農民生活の向上なくして我が国経済の安定と自立はあり得ないと深く信ずるものでありますが、政府は食糧政策に関する日本政府の自主性を強く堅持すると共に、確乎たる農業政策を樹立いたしまして、その実現のために信念と決意を持つて進むべきであることを強く要望いたしまして、私の緊急質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣吉田茂君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/19
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020・吉田茂
○国務大臣(吉田茂君) お答えをいたします。
政府としては今日既往の苦い経験に鑑みまして、国民の食糧を確保するということを先ず第一に考えております。日本の食糧問題は御承知の通り従前と雖も日本の国民を養うだけの食糧がない以上は、これを輸入に持つより外ないのであります。その輸入を確保するということが国民生活の上から言つて見て政府として先ず第一に考えなければならぬところであります。故に輸入も止むを得ない。不足の分は輸入するより外ないのであります。故に輸入食糧、国民の生活に必要な食糧を確保するということを政府としては第一に考えざるを得ない、第二に、然らば日本の農業をどういうふうに保護するか。日本の農業、現内閣においては農業政策は矛盾し、確乎たる農業政策はないというお話でありますが、これは予算について御覽下されば、この内閣の農業政策、農業に対する如何なる政策を持つておるかということは予算面の現われておると考えます。又主管大臣から絶えず説明いたしておるところで御承知を願いたいと思う。それから長期経済政策が樹立ができないか、これはできることもあるでありましようが、今日においてはまだ時期早いと私は考えるのであります。故に長期計画よりは先ず差当つて近年の政策、差当つての政策を樹立して、これを有効に実施するということが努むべきものであると私は考うるのであります。(「よし」「お先真暗」と呼ぶ者あり)長期経済政策は、国外の状況、国際の状況、或いは国内の生産と相見合つて考うべきものであつて、されには余りに変化が多いこの時勢においては、徒らに長期経済政策を作つて、実行もできないような政策を作つて国民を迷わすということは、政府としていたすべきことでないと考えますから、(拍手)長期経済政策よりも差当つての問題を有効に解決する政策を先ず勘案すべきものであると私は信ずるのであります。(「偉いぞ」「その通りだ」と呼ぶ者あり)
又、板野勝次君の御質問に対してお答えをいたします。
食糧の輸入が多過ぎはしないか。これはお考えようでありますが、政府といたしましては必要以上の食糧の輸入することは考えておらないのみならず、又蓄蔵もいたしておりません。(「やつているじやないか」と呼ぶ者あり)農業の保護並びに食糧の増産の施策が不十分ではないかという御質問でありましたが、政府は主食の確保なり、農法の改善なり、耕地の改良、災害復旧等に相当努力いたして、その適正なる保護、食糧の増産を図つているつもりであります。又食糧の輸入を永久に無税にするかという御質問でありますが、そういう考えは持つておりませんことをここに言明いたします。(拍手)
〔国務大臣森幸太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/20
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021・森幸太郎
○国務大臣(森幸太郎君) 羽生さんにお答ういたします。
農業政策の問題についとは今総理よりお答えになつた通りであります、長期政策を持ち合せがないではないか、又一貫性を持つておらないではないか、こういう御質問でありましたが、今日の食糧事情をどうかして緩和いたしたいということが当面の問題でありまして、幾度もお答えいたしました通り、国内の生産を高めまして、できるだけ外国食糧に依存しないでという方針の下にあらゆる農業施策を以て臨んでおるのでありまして、決して一貫性を欠き、又長期農業政策を持つておらないという意味ではないのでありまして、今日の場合、五ケ年計画或いは七ケ年計画というものを立てましても、今日の客観情勢から申しまして、変転を急速にいたす今日の食糧事情に対しましては、増産ということに対しましては恒久的或いは緊急的な施策を以て進んでおるのでありまするが、例の蚕糸五ケ年計画というものを曾て立てておるのであります。併しながら、この五ケ年計画にごときも食糧事情という勃発した問題によりまして、この計画が途中において更に変更せなければならないような情勢も御承知の通りであります。従つて今日の場合といたしましては、日本の食糧を如何にして増産するか、又この食糧増産に農業経営の方面から如何に農家が協力して呉れるか、又そうして農家の経営をできるだけ有利に指導して行くということを、農業政策の主要点といたしておるのであります。農村をこのままに捨てて置きますならば、恐慌ということも考えられます。決して私は恐慌が絶対来ないとは考えておりません。(「来ている」と呼ぶ者あり)政策よろしき得まして、そうしてこの恐慌が来ないように努力することが政治の方針と私は考えております。
尚、農業協同組合に対しまして御批判がありましたが、農業協同組合は生れましてまだ二年余りであります。この新らしき農業協同組合は過去における農業会と全くその性質を異にいたしております。農業会はいわゆる政府の施策をこの農業会の手を通じてやらしめる、従つて強制加入であります。この農業協同組合は自由の立場に置かれるのでありまして、集合離散、組合員の自由意思でありまして、必ずこれを強制的に組織せしむべきものではないのであります。従つて農業協同組合を組織されておる組合員が農業協同組合の本来の性質を自覚せられまして、そうして農業協同組合は農業を営んでおる者の自体の力によつて経営するものであるという、この本然の気持に立帰つて貰うならば、必ず農業協同組合としてこの創設の目的に副うような発達ができると考えておりまして、政府も又農業協同組合をさように指導して行きたいと考えておるのであります。
尚、持越米の多い場合において、或いは二合八勺に増配をすることができないかというお話でありますが、今日は二合七勺という基準量によりまして集荷需給の途を立てておるのであります。今後七月以後になりまして海外食糧の将来に対する見通しが付いた場合におきましては、或いはこれを修正するような時期が来るかとも存じておりますが、今日の場合におきましては二合七勺の基準量を持続いたしまして、その質の改善に一層の努力をいたしたいと考えておるわけであります。
尚、日本の食糧が自給か、然らずんば外国食糧に依存するか、どちらかはつきりしろというお話でありましたが、日本の食糧の生産には限度が今日認められておるのでありますが、併しながらこの自給度を高めるということはまだまだ残されておる点がかるのでありまして、これを今総理からもお話がありましたようにあらゆる農業政策の下にこの自給度を高めて行く。そうしてこの増加する人口に対してはどうしても不足をするのでありまするから、この不足をするものは海外に依存せなければなりません。併しながら海外に依存することも、我が国民の力によつてこれを輸入するということの立行によつて進んで行きたいと考えておるのであります。
尚、この機会に、十三日の板野議員の質問に私の答弁が保留されておりました。この機会を得てお答えいたしたいと存じます。
板野さんの御質問の全豹を伺つたのでありますが、これはたびたび承わりました御意見であり、これは御意見としての拜聽をいたして置く次第であります。輸入食糧の問題につきまして、或いは肥料の問題につき、或いは関税等の問題につきましては、大蔵大臣、安本長官からお答があつたようでありまするから、これは重複を避けたいと存じます。国内食糧の供給が若しもできなんだ場合には出さないでもよろしい、外国の食糧を買うから供出が厭ならしないでもいいというふうに私がどこかで申したという御質問であまりしたが、決してさようなことは申しておりません。私が今羽生さんの御質問にお答えいたしました通り、日本のこの食糧を二合七勺の基準によつて配給せんとする場合におきましては、これこれだけの量が必ず要る、それであるからこれだけのどうか供出をして頂きたい、生産計画を立ててこれだけは供出して頂きたい、どうしてもこれができなければ海外に依存せなければいけないのだ、輸入せなければならないのである、こういう意味を申上げたので、出すのが厭なら出しなさんな、外国の食糧で間に合うというような、さような乱暴なことを私は言つたのではないのでありますから、この点は十分御承知置きを願いたいと思います。
尚、今日の供出制度は決して理想ではありません。これはたびたび板野さんの御意見も承わり、私も御質問にお答えいたしたと存じておりますが、決して完全なものとは考えておりません。修正をせなければならないと思つておりますが、御承知の通り明年の三月三十一日を以て今日の制度はその法制が打切られることになるわけであります。従つて本年の九月までには、麦の播付けまでには、日本の将来の供出制度をどういうふうに改正するか、改善するかということについては、目下折角研究を進めておるのでありまして、明年の三月三十一日の新らしき制度に向つては更に検討を加えてその方針を定めたらと、かように考えております。
尚飯米の配給辞退について、米の投売とか何とか、新聞の記事についての御質問があつたようでありますが、配給をいたします食糧につきましては、災害の結果であるとか、或いは保管中の損害であるとかいうような場合におきまして、又配給辞退等の事情によりまして、地方に廻しておりまする食糧を処分せなければならない場合が起つて来るのであります。その場合におきましては地方長官の責任において、そうしてこれを政府の所轄いたしておるものは食糧事務所長に、公団の所有のものは都道府県知事に委任いたしまして、適当な処置をとつておるのでありまして、この処分の結果におきましては、総合的なマージンの上においてこれを処理いたしておるのであります。右のようなことは、当然この食糧が全般に亙つての配給をいたしておりまする以上、そういうことも出ざるを得ないのでありまして、そういう出たものに対しましては、できるだけ政府の損失のないようにこれを処置することは当然であります。さように御承知をお願いいたしたいと存じます。(拍手)
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/21
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022・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 日程第三、自由討議。本日の自由討議は渡米議員の視察に関する意見の開陳といたします。一人の発言時間は二十分間といたします。各発言者はそれぞれ発言時間を遵守せられんことを望みます。これより発言を許します。
〔左藤義詮君発言者指名の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/22
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023・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 左藤義詮君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/23
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024・左藤義詮
○左藤義詮君 自由党は大野木秀次郎君を指名いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/24
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025・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 大野木秀次郎君。
〔大野木秀次郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/25
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026・大野木秀次郎
○大野木秀次郎君 マツカーサ元帥の御厚意によりまして、我々議員団一行はアメリカの民主議会見学のため、去る一月十四日懷しい故国を離れ、一路米本土へと羽田空港を飛び立つたのであります。(「それは知つているよ、内容だ」と呼ぶ者あり)出発に先立ちまして元帥より、「アメリカの民主主義にも長所もあるが又短所もある。短所は捨て長所を採つて、広くアメリカ全般を見て、アメリカ民主主義の真髄を体得して、日本を立派な民主国家として再建を図られたい」と申されたのであります。出発に当りましては、公私御多端の御中を多数の皆様がわざわざ羽田空港までお見送り下さいましたことは誠に有難う存じました。然るに事故のため出発が翌日に延期されるなどのことがありまして、(「分つているよ」と呼ぶ者あり)御迷惑をおかけ申しましたことを、ここに謹んでお詑び申上げると共に、厚くお礼を申上げる次第であります。
一行は各会派より選ばれましたので、文字通り党派的には呉越同舟ではありましたが、一度海を渡りまするや、お互いは今回の使命の重大さを痛感し、堅く握手を交したのであります。山崎団長統率の下、(「時間がないぞ」と呼ぶ者あり)一糸乱れざる団結によつて使命達成を誓い合つたのであります。この二ケ月間の滯在中におきまして、政治、経済、文化、教育、特に民主政治の運営等、あらゆる方面において見学することができたのであります。只今本議場においてその報告をいたす次第でありますが、重複を避けるために、高田君は議会の運営の実情を櫻内君は視察の総括的観察を、波多野君は政治経済の情勢につき分担することといたしたのであります。
私はアメリカが我々の渡米に当りまして如何に上下を挙げて優遇をせられたかにつきまして簡單に御報告を申上げ、諸君と共にアメリカ国民に対し深甚なる感謝の意を表したいと存ずる次第であります。(「同感々々」と呼ぶ者あり)
アメリカ政府並びにアメリカ国民が何が故に我々をかくのごとく厚遇せられたか。私はこれに対し四つの理由を数えたいと存じます。第一にはキリスト教的精神、つまり人類愛の精神が全国民に漲つておるということであります。第二は民主主義の一つの根本原理となつておるところの寛容の精神が確立されておることであります。即ち寛容の精神なくしては民主主義は偏狹な利己主義に堕落することは皆さん御存じの通りでございます。(拍手)第三は日本国民は本来平和を愛する国民であることをアメリカの人がはつきりと認識して来たことであります。(拍手)第四は国際政局における日本の地位の重要性が高まつて来たことであります。今回の米国視察において、我々は米国国民及び米国政府の心からなる歓待を受け、計画的、能率的な視察をすることができました。旅行において最も厄介な宿舍及び交通機関については、アメリカ軍部の全面的な御協力によりまして一切の煩雑を省くことができ得たのであります。例えば大洋航空にはパン・アメリカン及びノース・ウエスタンを利用いたしましたが、その配慮は全部軍の方でいたされ、内地の旅行においてはノース・ウエスタンの一機を特別に配置して下さつたのであります。又自動車は全部軍の自動車か或いは行く先々の市長又は大会社から提供せられたのであります。どこの土地に着いても必ず市長知事及び軍司令官の出迎えを受けたのであります。(「議員として何を見て来たのか」と呼ぶ者あり)殊にサンフランシスコに着いたときのごときは、ヴオルヒーズ次官の代理としてマグルーダー将軍がわざわざワシントンから出迎えて下さいまして、アメリカ全土に亘る案内役といたしましてはリンチ大佐が首班となり、それに士官、通訳、写真班、映画班が一行に随行されました。民間代表としては曾てハル国務長官の下に極東局長を勤めておられましたヴアレンタイン博士及びギユリツク博士が随伴せられて、巧みな日本語で一行の面倒を見て下さつたのであります。飛行場からホテルまでは多くの場合憲兵又は警官が先導し、警笛を鳴らし特別行進するのが通例であつたのであります。ニユーヨーク市におきましても又同様でありました。ただ日本国旗を立てて進むことのできなかつたのは遺憾であります。その一点を除けば誠に国民使節を遇するに十分の礼を以てせられたのであります。州及び市政府がかくのごとく待遇せられたのみではありません。商業会議所その他民間の団体も至る所で温かい心で我々を迎え、午餐会、晩餐会或いはカクテル・パーテイ等応接に遑のない程でありました。特に又個人として我我を自邸に招待して、米国家庭の温かい雰囲気に浸らせて下さつたことも少くはありません。案内役リンチ大佐の語られるところでは、どうしても時間的に都合が付かないために止むなくお断わりした招待の数は幾倍に上るかも分らない数に上つておつたと言われておりました。記者団会見は目的地に到着することに行われ、殊にワシントンでは世界各国からの記者団に招かれまして、その数実に三百名に及ぶ盛況であつたのであります。質疑応答はいずれも写真入りで大きく報道せられまして、そのうち最も頻繁に出た質問は、日本における共産党の実情、中共政権の日本に及ぼす影響等、共産主義に関するものでありました。次に日本の経済自立の問題、特に食糧事情、貿易事情等が取上げられました。マツカーサー元帥の日本占領政策を日本国民はどう思つておるかという問題も又重要視されておつたのであります。私の受けた印象は、記者諸君の質問は我が国に対し同情的であつたように考えられます。州議会として最初に訪問したサウス・カロライナ州議会は、決議を以て我々を歡迎し、上下両院から接待委員を選任して至れり盡せりの便宜を與えられたのであります。ボストン市会では多少の問題があつたことは、すでに皆さんの御承知のことと思いますがこれはまだ唯一の例外で、他の議会ではいずれも熱烈なる歓迎を受け、団長は議長席に着いて挨拶するという異例の待遇まで受けたのであります。我々は議場に入り、議員達と同じ席に着くか、或いは議席の横又は議席の後方に席を占めて傍聽いたしたのであります。尚カナダ議会及び同政府に招かれました節もアメリカと同様の歓迎を受けたことを特に附言いたします。アメリカ連邦議会においては、例えば一委員会を傍聽に入つたときのごとき、わざわざ議事を中止して委員長から歓迎の辞が述べられ、順次委員長席に上つて握手を交し、殊に上院におきましては、全議員が一齊に起立をいたしまして熱烈なる拍手を以て我々の入場を迎えられたのであります。議長に次いで十余名の議員が代る代る心の籠つた歓迎の辞を述べられ、引続いて議長は二十分間の休憩を宜し、その間に全議員と我々の間に握手交歓の機会を與えられたのであります。かくのごときはアメリカ議会始まつて以来特例のことでありまして、我々は衷心感謝に堪えない次第であります。振返つて彼の地の議員団が来訪の際我々が如何なる歓迎をいたしたか、深く顧みざるを得ないのであります。
以上申上げました通り、我々議員団一行が未曾有の熱誠溢るる歓迎を受けましたことは、民主日本、新生日本の代表者であつたから外ならないと信ずるのであります。(拍手)我々は何を以てこの好意に応うべきか。今後諸君と共に十分に研究実銭いたしたいと存ずる次第であります。以上簡單に私の分担事項を御報告申上げた次第であります。(拍手、「アメリカはやつぱり有難いのだよ」と呼ぶ者あり)
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〔鈴木直人君発言者指名の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/26
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027・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 鈴木直人君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/27
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028・鈴木直人
○鈴木直人君 緑風会は高田寛君を指名いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/28
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029・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 高田寛君。
〔高田寛君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/29
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030・高田寛
○高田寛君 私もこの度の渡米議員団の一員に加わりまして、二ケ月に亘りましてアメリカに参り、議会の運営等に関して視察調査して参りましたので、簡單に御報告申上げたいと存じます。一般的の御報告につきましては只今大野木君から御報告がありましたので繰返すことを避けたいと存じます。
この度はアメリカの政府の深甚な御配慮によりまして、我々の予期以上の調査も遂げられたと存じます。又アメリカ一般国民の寄せられた御厚意によつて我々の調査研究に関して得られました便宜も誠に大きなつたものがあるのでございます。尚又アメリカ滯在中カナダ政府から御招待を受けまして、カナダの議会の見学をする機会を得ましたことも誠に仕合せと存じております。
私は少し專門的に、アメリカの議会制度運営などにつきまして見て参りましたことを一二御参考までに御報告申上げたいと存じます。アメリカの制度と申しますれば、御承知の通り大統領制度の国であり、又歴史的背景を有する二院制度の国であり、又広大な土地の中に各州は強い自治制を布いておる国であります。大統領は行政の最高責任者であると共に多数党の首領であり、この四年の任期中を彈刻による外その地位を退くことはないということになつておるのは御承知の通りであります。この大統領の辞職なく、又下院の解散がないというのがアメリカの政治組織の立前であります。このアメリカの二院制は歴史的背景を持つていると考えるのであります。即ち議会制度が開かれますときに、人口比例でその代表を出すか、或いは自治制を布いております各州から同数の代表を出すかにつきましては、非常な争いがあつたと聞いております。遂いこの争いがやまず、いわゆるそのグレート・コムプロマイズー偉大な妥協をなしまして、双方の意見を容れて、ここで現在の二院制度ができ上つておるものでございます。上院は各州から平等に二名づつ選出して合計九十六名の議員があり、下院は人口約五十万について一人の代表を出して、合計四百三十五名の議員から成つておるのであります。よつてニユーヨーク州のような大きな州を見ますると、上院議員は選出は二名であるのに、下院議員は四十九名選出されておる。然るにヴアーモント州のような小さな州を見ますると、上院議員は同じく二名であるのに下院議員は一州から一名しか出ておらない。こういうような状態なのであります。而してこの上院即ちセネイトの方は任期は六年で、二年ごとに三分の一づつ改選し、下院即ちコングレスの方は二年ごとに総選挙をいたすのでありますが、この上院議長は副大統領がこの職に当り、下院議長は多数党のリーダーがこれに選挙されて、一方、選挙に敗れた少数党のリーダーは少数党の院内筆頭総務となる慣例になつております。多数党にも又多数党の院内筆頭総務を置きまして、多数党、小数党、両党の院内筆頭総務というものが議会の運営に非常に大きな役割をなしていることを見て参つたのであります。特に多数納の筆頭総務というものが議会運営に非常な重要な役割を演じております。事実上議会の事務当局というのは多数党の院内筆頭総務が動かしておるように見受けて参りました。一方又少数党にも十分の敬意を表する、尊重するという意味におきまして、小数党の筆頭総務には議会の費用を以て相当数のスタッフを專属させて運営に当つているのであります。
次に委員会の上面に目を転じますると、アメリカでは委員会は立法手続の心臟であると呼ばれておるのでありまして、法案が上程されて先ずこれを取扱うのは委員会でございます。委員会を通過して初めて本会議にかかるという制度は我が国会と同様な行き方をしております。ただ本会議において上院は発言時間の制限というものを全然いたしておりません。ただ全会一致を以て制限しようという相談がまとまつた場合のみ制限をいたしておることも、私は特に目を引いたのであります。これはつまり九十六人という誠に少い議員数でありますので、発言時間の制限をする必要がないという慣習が成立つたものと見受けられます。下院の方は人数も多いので適当に発言時間の制限をいたしておる模様でございます。法案が本会議に提出いたされますると、その討論時間というものを、従来の例といたしまして大体それを折半いたしまして、多数党と少数党が大体同じ時間を割当てられて、それぞれ討論いたしておるという慣例が成立つておるのでございます。
次に上院、下院両院の関係を見ますれば、これは上院はアメリカにおきましては優位にあるのでございまして、国際條約は上院の承諾のみを必要とする。又政府の人事の任命の承諾は上院のみがこれに当る。又予算案を見ますると、これは必ず両院の通過を必要とするというような状態になつておるのであります。而してこの法律案が両院の議が一致しない場合には実際どういうふうにいたしておるか、これを私共は深い関心を持つて見て参つたのでありますが、この場合には両院協議会を何回でも繰返して開く、話合いが付くまで開く、そうして両院協議会は上院から委員長を出しまして全会一致を以て決める、つまり話合いが付かなければ一応打切り、又改めて両院協議会にかけるというふうな方法をとつておるのであります。
会期は一年間を一会期としておりますが、通常一月三日に召集されまして七月末までに一応終るのが慣例になつております。
以上この制度の気が付きましたことを簡單に申しましたのですが、さてその運営の方法について見ますると、私共の第一に痛感いたしましたことは、議会の運営が一般国民と非常に密接な関係を持つて運営されておる、議会の動きというものが一般国民の非常に身近なものになつているという現状が特に深く私共に感じられたのであります。国民は選挙のときだけ政治に関與するのでなく、常に議会又は議員と接触してその要望を強く議会に反映させておるというのでございます。議員の大体毎日の在り方を見ますると、議員は毎日原則として議員会館に執務しております。議員会館は、下院は各議員がおのおの二部屋づつ持つております。上院の方は各議員がおのおの三部屋乃至四部屋を專用しております。それで議会の費用を以て二名乃至四名ぐらいの秘書が各議員に專属しておるのであります。併し大きな州から選出されました議員につきましては十名ぐらいの秘書を配属されておる議員もあります。これは人口の多い州を代表しておる上院議員などは、多くの選挙民を代表するために、選挙民接触する用事が非常に多いからこのようにしておるのだということであります。私も丁度カリフオルニア選出のノーランド上院議員の部屋を見せて貰いましたが、ノーランド氏は四室を占有しまして十四人の秘書を使つている。毎日平均して一日に選挙区から五十通程の手紙を受取り、これに克明に回答を書いておる樣子を見て参りました。
次に議会図書館の活用ということであります。この議会図書館には立法調査局を置きまして、百六十人ばかりのスタツフを持つて活動しておりまして、議員の要求に応じて着々と調査報告をいたしております。一年間の調査報告件数が約三万五千件に上つておるということであります。又各委員会には四人の專門員を置きまして、それぞれ專門事項の調査研究に当つておるのであります。この專門員は、或いは大学の中堅の教授を引き拔き、或いは又民間の実務者を引き拔いて来ておるのでありますが、又それに相応する俸給も拂い、立派な人材を集めておることが特に我々の関心を深めたのであります。
次に一般国民の請願の取扱ということも私共特に注目いたしたものであります。我々の方といたしましては、大体請願が出て参りますと、これを審議して、採択すべきものは採択してこれを内閣に送付するのが通例でありまするが、アメリカの議会の樣子を見ますると、一般国民は政府に対して請願を出すということよりも、むしろ主として議会、特に各議員に対してこの請願が提出されまして、この請願が出ました場合には各議員はこれをよく検討いたしまして、その理由のあるものはこれを取上げてこの立法手続をとる、法律案を作成してこれを法律化する、これを法律にしてその実行を政府をしてこれに当らしめるという方法をとつておる点も、特に関心を深めた次第でございます。
それから次に委員会の模樣を見ますると、委員会におきましては法律案の審議に当つては盛んに公聽会を開いております。この公聽会には、政府当局の責任者或いは関係業者、それから一般国民を呼びまして、これから十分の意見を徴しまして、その上で議員各自が判断を下して、結論を出します場合には今度は大体において傍聽者を入れずに、議員のみで十分に討議をして結論を出すという方法をとつておるのであります。それから又このときに目を引きましたのは、その委員会の專門員というものは公聽会におきましても盛んにみずから質問も発しております。私共の傍聽いたしました委員会でも、ソーヤー商務長官に対しまして專門員が盛んに質問を発していたのも見受けられたのであります。
一方、本会議におきましては、このような雛壇というようなものは全然ありませんで、本会議はただ議員だけの審議する場所でありまして、本会議には大統領が教書を発表する場合以外は政府当局の出席というものは全くないのであります。委員会を通つて参りました法律案を議員の間において十分審議を盡すのが本会議の場所であります。それで委員会には必要に応じまして各省長官或いは関係官の出席を求めて十分の説明を聽取いたしますけれども、本会議に移りますと全く政府当局の出席というものはないのであります。 結論といたしまして私共の感じましたことは、議会というものは立法府であるということが非常にはつきりとしておるということであります。政府には法律案の提出権はなく、政府はその要望事項を各委員長或いは與党の議員に伝えまして、法律の作成を要望するに過ぎないのであります。議会は独自の立場において十分に国民の要望を取入れて立法し、この議会で作りました法律を政府をして実行させるというのが立前になつておるのであります。
又一つ、本会議や委員会などで議事の模樣を見まして感じましたことは、いろいろ議事の運営につきましても融通がきくという点であります。議事規則というものはありますけれども、余りこれに拘泥しないで、常識的に運営しているということが私共の目を引きました。定足数のごときも三分の一ということに決まつてはおりますけれども、十二時になりますと、六七人の議員が集まつているのに、きつちり十二時にさつさと議事を開いて行く。そのうちに段々と重要案件がかかる頃には議員の数も段々と殖えて来る。要するに重要問題の決を採るというような場合でなければ余り定足数というようなことには拘泥せずに、定時にはさつさと本会議でも委員会でも開いて行つております。
それから又、丁度二月二十日に上院を私共が傍聽いたしました際は、正午に開会いたされまして、それで多数党の院内筆頭総務のルーカス氏から動議が出まして、二十分間休憩して一つ日本から来た議員と、この上院議員の各位がよく顔見知りになる機会を作ろうじやないかという動議が出まして、私共も傍聽席から議場に案内されまして、議場に入つて上院議員全部と各個にそれぞれ握手を交して、見知合いになつたというような機会を作られたのであります。これなども議員でない者を議場に入れるのはどうかというような意見も出る問題とは思いますけれども、日本から来た議員団に十分好意を示して研究の便宜を與えようという場合には、このような臨機の処置をとるというようなことも、非常に融通のきく一面が現われておると感じたのであります。要するにアメリカの議会の運営を見ますると、煎じ詰めて申しますと、私の考えたことは、その運営の方法が非常にゆとりがあり常識的に運営されている点と、尚又議会の運営というものが国民の非常に身近に行われておる。又非常に国民の関心を引くような方法で行われておるという点であります。議会の本会議の開会、委員会の開会も、定時に開きますために、議会に関心を持つ一般国民は、その日の新聞により日程を知りまして、一時間でも一時間半でも、その暇を割いて議会の模樣を見に行く。余り待たされる間もなく、その時間に見たいと思う審議の模樣が見られる。これなども国民に非常に議会に親しみを持たせる一つの点であると考えたのであります。(拍手)尚又議会が公聽会を開きまして十分に国民の声を聽き、又各議員が努めて国民と接触してその声を取入れて、尤もと思うものは直ぐにこれの立法手続をとる。要するに議会というものの動きが国民の身近にある。この点が非常に私の心を打つたものでありまして、(拍手)この点などは私共といたしましても大いにこれを参考とすべきものと考えたのであります。
以上簡單でありますが、見て参りました報告を申上げ、所感の一端を申上げた次第であります。(拍手)
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〔中村正雄君発言者指名の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/30
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031・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 中村正雄君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/31
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032・中村正雄
○中村正雄君 日本社会党は波多野鼎君を指名いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/32
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033・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 波多野鼎君。
〔波多野鼎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/33
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034・波多野鼎
○波多野鼎君 私の御報告すべき事項はアメリカの経済並びに政治の重要問題についてであります。
時間が余り長くございませんので取急いで申上げますが、いろいろの問題に我々は滯在中接したのであります。尤も我々の本来の使命は民主議会の運営方法を研究するということでありましたので、アメリカ政府側の我々に対して作つて呉れる日程が大体そこに集中されておりましたために、我々がアメリカの経済の実態を把握するとか或いは政治の重要問題が一体どういう意味で取扱われているかということをはつきり掴む時間の余裕がなかつたのでありますが、そういう暇を盗んで調べたことだけを御報告申上げることになるわけであります。
先ず第一にアメリカ経済の展望の問題でありますが、御承知のように昨年の上半期に相当の不景気に見舞われましたのでありますが、下半期からアメリカの経済に徐々に回復をしまして、今年の正月になりますと更に一段と回復をして来ているようであります。一つ数字を挙げますと、一九三五—三九年を基準として、昨年の十二月に工業生産が一九七であつたのが、今年の一月末には一八二に上つておるというような状態で、大体一昨一九四八年の好景気時代に近付いておるということが言われておりました。今後はどうなるかというと、今年度の上半期中はこの上昇が続くであろうというのが異口同音の観測であつたのであります。下半期はどうか。これはいろいろ問題があるけれども、恐らく景気を後退させるような政策はとらぬだろう、人為的にでも景気を上昇させるだろうというようなことを多くの人が言つておりました。多くの人と申しますのは、私は議員から聞いたことでありますが、言つておりました。それは今年の十一月には上院の三分の一の改選と下院の総選挙がございますので、共和党も民主党もとにかく選挙に備えていろいろやらなければならぬから、不景気になるようなことは一つもしないということを申しておりました。さて、今年の上半期が上昇する理由、どういう理由で上昇するのだということを調べて見ますと、一番大きな理由として政府側が発表しておりますところでは、それは国内の市場が回復した、つまり国民の購買力が大きくなつて来ておるということが一番大きな理由だと言つております。その国内の購買力の増進の中心をなしておるものは労働賃金の上昇である。これは非常に我々として注意すべき点であると思うのであります。(「民自党分つたか」と呼ぶ者あり)戰前に比較しまして最近の賃金の上昇は二倍半乃至三倍になつておる。各業種について多少違いますが、二倍半乃至三倍になつておる。これは物価の騰貴率を遥かに上廻つておるということから、購買力が増進しておるというふうに説明されております。尤も他面において失業者が昨年から非常に出たじやないかという問題があります。現在の失業者の数は四百五十万と発表されておりますが、この四百五十万の失業者があるために労働者階級全体としての購買力にマイナスが起きておるのじやないかと言われておりますけれども、これは政府側の説明では、トルーマン内閣は社会保障制度の拡充を熱心にやつておる。失業手当なども段々増額しておる。イギリスの労働党ほどのことではないが、とにかくあの方向を指して政策をやつておるので、失業手当も殖やして来ておりますから、失業者が四百五十万あつても、そのことによつて労働者階級全体の購買力は減らないのだというふうに説明しておりました。この社会保障制度を中心とするいわゆる福祉国家の考え方、ウエルフエア・ステートの考え方、これは御承知のように民主党の一枚看板でありますが、これに対しまして共和党側からは、このウエルフエア・ステートの考え方というのはこれは一つの社会主義である。社会主義だから怪しからんというふうに反対をして、相当猛烈な反対をしておりました。このあたりが共和党と民主党との政策の大きな違いの点であろうと思います。勿論共和党は企業の自由、自由主義ということを立前にしておるのであります。かように景気は大体上昇するということを言われておりますが、但し大きな問題があると思う。それこ工業生産物の価格と農業生産物の価格の開きなんであります。いわゆる鋏状価格差が段々大きくなつて来ておるというところにアメリカ経済の一つの大きな問題があると考えたのであります。農産物は御承知の通りに一昨年からの世界的な生産過剰の影響を受けまして、アメリカでも過剰生産になつておる。価格は自然のままに放置しますれば、ぐんぐん下落する傾向が強い。そこで農務省におきましては農産物価格維持の政策をとりまして、そうして農産物の買上げを大規模に実行しておるのであります。今農務省が直接間接に支配しておるところのこの農産物買上げの資金は大体四十七億五千万ドルトいう厖大な資金を擁して買上げをやつておる。特に棉花、小麦、玉蜀黍、更に「じやがいも」、その他農産物はあらゆる種類に亙つて買上げをやつて来て、市価の維持を図つて来たのでありますが、これだけでは足りない、もう少し買上資金を殖やさなければならぬというのが、丁度我々が着いた頃の問題であつたのであります。我々がワシントンを去る頃にやつてこれが議会を通過しまして、この買上資金が二十億ドル更に増加されたのであります。現在では六十七億五千万ドル、これだけの資金を以て五〇年度の農産物の価格の維持を図ろうということをやつております。買上げたものをどうしておるのかと言いますと、現在の農務省の手持ち農産物が大体三十六億ドルに上ると発表されております。それ程厖大なものを手持ちしておる。ちよつと我々面白いと言つては語弊がありますが、日本の問題と関連さして興味深く見たのは「じやがいも」の問題であります。「じやがいも」も相当多量に買上げられておりますが、これはなかなか貯蔵ができない、腐つて来る、そこで何とか処分しなければならぬ。これを農民に売り戻したのでは市価が崩れて行くというので、これは人間が食べられないような形にして、つまり豚などにしか食べられないような形にして拂下げる。その拂下価格は殆んど只なのであります。即ち買上げるときには百ポンドについて二ドル四十セント見当で買上げておりますが、これを拂下げるときは百ポンドただの一セントで拂下げております。それでは、そういうことをしておつて消費者が高い「じやがいも」を食べさせられておるということから、消費者から不平があるのじやないかということを聞きますと、それはそうでもない、不平も勿論あるけれども、カナダから「じやがいも」が入つておるという話なんであります。カナダの方ではもつと生産費が安くでできるために、運賃から輸入税を拂つても百ポンド大体二ドル見当でアメリカへ入るそうです。これが相当入つておるから安く食べられるという話なんで、どうも我々は甚だ辻褄が合わぬように思うのですが、とにかくそういつたような相当無理な点を含んだ農産物価格維持をやらなければならぬ状態にあるというところに、大きな問題があると私は考えたのであります。
次に予算の問題でありますが、これは御承知のように、今年度の予算の大まかな数字は、歳出が四百二十五億ドル、歳入が三百七十五億ドル、赤字が差引五十億ドル見当、こういうようなのが大まかな数字であります。五十億の赤字を含んだ予算案が出ておるわけなんであります。その歳出の中で百三十五億ドルが軍事費になつております。ここに又いろいろ問題が出て来ておる。世界平和の問題、或いは冷たい戰争の問題と絡んで、この軍事費にいろいろ問題があるわけなんであります。丁度我々がサンフランシスコに着きましたときに、トルーマン大統領が水素爆彈の製造指令を出したということが非常に大きなセンセイシヨナルな記事として掲げられまして、初めて水素爆彈というものを知つたわけでありますが、この水素爆彈を仮に作るとすると、工場設備だけに何十億という資金が要るということが新聞などでは言われております。そういうようなことをやつて行くと、軍事費の方でもつともつと殖えて来なければならぬが、一体すでに五十億の赤字を持つておるような予算で更に軍事費を殖やすことができるのかどうか。一方では納税者の方からいうと、第二次欧州大戰中、戰時増税ですね、戰時にやつた増税、それがそのまま残つておる。戰争が済んでもまだ一度も減税をしておらない。早く戰時税だけは減らせという声が一方にあります。強くあります。そういうようなことから冷たい戰争を早く終結させなければならないという輿論が相当強く各方面から出て来るのは当然だろうと思いますが、そういう世界平和確立運動、特に原子力の国際管理を早くやれという動きが、特に水素爆彈の問題が出て以来強くなつているように感ぜられました。その先頭に立つておるのは言うまでもなく宗教団体でありますが、注目すべきことは、この原子力の問題について調査研究或いは指導的な地位にある自然科学者が大挙して、この原子力を国際管理に移さなければ大変だ、結局人間の智慧は地球さえも破壞することになるかも知れないというようなことを警告しておつたのが、特に注目すべき問題であつたと思います。
さて冷たい戰争をそれじやどうやつて終結させるかという問題につきまして、いろいろの意見が新聞雑誌にしばしば出て来ておる。その意見をまとめてみますと、大体アメリカの武力を充実することが冷たい戰争を終結させるための必要な前提條件だという議論が一方にある。それから他方には、そうじやない、武力に対して信頼を置くような考え方では平和は実現できない。人間の理性に対する信頼心を持たなければ平和の実現ができないからという反対の考え方、極端に反対した考え方がある。更に又、それじや冷たい戰争を終結させるためにどいう道筋をとるのか。どういう方法をとるのか。一方では丁度イギリスの総選挙の最中にチヤーチル氏が提案したような、大国の間の首相会議或いは外相会議を開いて、それで原子力問題の解決の糸口を作れという議論がある。併しこれに対しまして、それはいかん、そうじやなくて、国際連合という一つの国際機関があるじやないか、国際連合において原子力管理の問題は四年間取扱われて来ておる、又現に取扱いつつある、だから国際連合の手を通じてこれをやるべきだという主張が一方に対立する。今日の新聞を見るとアトリー首相がソ連と話合いするつもりはないということを言つております。そういう記事が出ておりましたが、この意味は、いわゆる大国間の話合いで原子力の問題を解決するつもりはないというだけのことで、国際連合を通じてやるということにアトリー首相が反対であるとは考えられない。まあこれは一つの私の観測ですが、そういうふうに理解されると思つております。ところが国際連合の問題になりまして、これは国際連合の本部に我々一度参りまして、リー事務総長からいろいろ説明を聞きましたが、この国際連合にとつて今最も大きな問題は御承知のように中国の代表をどうするかということであろうと思います。まだ今では国民政府の代表者が中国の代表として国際連合に来ておる。本国では中共の政権が確立されておるという、そのところに問題があるようで、この問題を解決しなければ国際連合は動かない。そのためにリー事務総長あたりは相当苦心しておることが新聞等でよく見られたのであります。とにかくそういうふうないろいろな意見が勿論ございますが、そういう意見を通じて我々が看て取り得ることは、アメリカはいろいろ言いながら世界平和の確立の方向に一生懸命進んでおるということは確かだと思うのであります。我々に対しましてよく冷たい戰争をどう思うかということを質問いたしましたが、我々は冷たい戰争なんて困る、熱い戰争などは尚困る、一番困るのは日本だ、一番世界平和を強く念願しておるのは日本であるということをいつも申しておりましたが、アメリカの全体の動きはやはり同じような方向に進んでおると考えられるのであります。
それからもう一つ、もう少し時間がありますのでもう一つ申上げますが、ヨーロツパ復興援助の問題であります。これは相当注目すべき動きが出ておることを看取したのであります。マーシヤル・プランによるヨーロツパ復興の第三年度の予算が出ておりますので、丁度その我々が傍聽いたしました上下両院の外交委員会の合同委員会、この合同委員会にアチソン長官とホフマン長官の二人が呼出されて説明させられておりました。呼出されてというのは少しおかしいが、先程高田君が言われましたように、政府側はこれは国民の公僕である、議員は国民の代表だ、だから議員が公僕を呼出して、そうして公僕がどういうふうな仕事をやろうとしておるかを確かめるという形が現われておるわけなんで、(拍手、「異議なし異議なし」と呼ぶ者あり)委員会の構造を見ますと、丁度この議場に比べて見ますと、この今大臣席になつておるのがこれは委員の席であります。委員がここに掛けております。この議員席は丁度傍聽席なんです。ここが傍聽席であり、この間は少し開いておりまして、ここの所にホフマン長官、アチソン長官が出て来て、こちらを向いて証言する。委員の方に向つて……。傍聽者はそちらにおります。こういう構造なんで、そういう構造を見て参りますと、日本へ帰つてみると甚だどうもそぐわないところが(拍手)沢山出て来るのですが、そこでアチソン長官、ホフマン長官が証言をさせられておる。で、その証言を我々は外交官席に招待せられて、外交官席から、ちよつと高い所、この横でありますが、高い所から見下して聞いておつたのでありますが、今年度の予算は大体二十九億五千万ドル、欧洲復興費、これはまあ昨年度に比べて十一億ドルくらい減らしてありますけれども、この三十億ドルの中から六億ドルを天引きして、各国に割当てる前に天引きして、そしてフリー・ダラー、自由ドルという基金を作つた。そうして欧洲の各国間の貿易尻の決済をこの六億ドルによつてやつて行こうという案が出ておつたわけなんです。その案をホフマン長官あたりが説明しておりました。これは一つ大きな意味がありまして、ヨーロツパ復興について、ヨーロツパのようなあんな狭い所に沢山の国があり、そしてその沢山の国がそれぞれの独立の経済單位としてやつておつたんじや駄目なんだ、国が独立しておつても、経済單位としては一つにしなきや駄目だという意見が前々からありましたが、その意見の現われが恐らくこれだろうと思つたのでありまして、先ず通貨面から、為替決済のその通貨面からヨーロツパを一つの経済單位として仕上げて行こうという考え方がはつきり出ておるように思つたのであります。アメリカの経済は先程申しましたような過剩生産の傾向が現われておるときでありますので、この世界経済の回復なくしてはアメリカ経済の回復はない、もうアメリカは世界経済全体に対して責任を負わなきや駄目だというような意向が非常に強く各方面にありまして、その現われが欧洲復興計画における自由ドルの考え方としてできておると思つたのであります。
以上簡單でございますが御報告申上げます。(拍手)
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〔大隈信幸君発言者指名の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/34
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035・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 大隈信幸君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/35
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036・大隈信幸
○大隈信幸君 民主党は櫻内辰郎君を指名いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/36
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037・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 櫻内辰郎君。
〔櫻内辰郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/37
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038・櫻内辰郎
○櫻内辰郎君 一月十五日には議員団一行はホノルルに到着をいたしまして、その日に真珠湾を眼下に見下す米国の太平洋艦隊司令長官の官邸におきましてラツドフオード海軍大将と一行は握手を交して、過去の問題に囚われず日米は共に手を携えなければならないと、日米の交歓をいたしたのであります。未だ真珠湾には日米勇士の骨が海底に埋まつておるのであります。私共はこの日米両国の勇士の霊を弔いつつラツドフオード提督と交歓をいたしたのであります。誠に感慨無量なるものがあつたのでございます。ラツドフオード提督は私共に対して、今や米国民は大手を拡げて諸君の渡米を待ち望んでおつたと申されたのであります。(拍手)提督の言に違わず、翌十六日大暴風雨の中をサンフランシスコの泥濘のごとき飛行場に降り立ちましたときに、第六師団の司令官であるウエデマイヤー中将以下ワシントンから出迎えられた将官佐官の人々に出迎えられたのでありまするが、その後の二月間のこの米国民の歓待振りについてはすでに大野木君から報告されておりまするので、私はこれを省略いたしたいと存じます。ただ感激を受けたことを申上げたいのでありまするが、六十日間感激に次ぐ感激であつたのでありまして、盡くこれを御報告申上ぐることはできないのであります。ただ一二の問題について申上げたいと存ずるのであります。
第一に米国民の清潔であるということである。第二に約束の嚴守ということである。第三には人類愛に浸つておるところの生活をいたしておるところの状態であります。如何に米国民が清潔であるかということは、曽て日本から商品が送られました際、その箱を開きましたときに、その箱の中から蚤が一匹飛び出した。これではいかん。こういう不潔なものはこれを取扱うことはできないと称して、その商品は返還をされたということがあるのであります。私はこの話を聞きまして、心しなければならない、日本の商人に対して更に又これ程の清潔なる状態であるということを、これを申上げたいのであります。(拍手)而して約束の嚴守、これは一旦約束したならばそれを果すという慣習、道義、これが即ち時間の励行となるのであります。(拍手)九時に面会をしたいという約束をすると、九時に面会をするためには時間の嚴守が必要であるのであります。私共は十五分間ずつの区切りを付けられたスレジユールによつて行動をしたのでありまするが、一分間も違わない。私はここに米国民が能率本位で働いている、一人の国民が一日に一分間の損失を蒙むつたならばどうなるか、これが米国民が時間の嚴守をしているところの状態であるのであります。(拍手)
更に又人類愛の生活、これは先程大野木君も申されましたが、クリスト教的の根低のあるところの人類愛の道徳に基いての行動をとつているのであります。私はコロンビアにおきまして、丁度そのとき風邪を引いて病床にあつたのでありまするが、四十三マイル隔つている所から講演を頼まれまして、それに参つたのであります。私は初めて国会議員として米国民にまみえるのでありまするから、あの戰争を惹起した、これに対しては国民として誠に申訳がないと申しました。更に終戰後の米国民が、我が日本の食糧が枯渇しているのは救済するために、一九四七年以来年々三億五千万ドル以上の供與をせられた。食糧の補給をして頂いている。これに対する感謝の言葉を述べたのであります。終戰後の当時どうであつたか。向島の更正国民学校に対して茨城県の下館国民学校の生徒が、東京の子供は食糧がなくて困つておられるということで、この下館国民学校の生徒が一合ずつの米を運んで更正国民学校に持つて参つたのであります。これを更正国民学校では校庭に生徒を集めて感謝祭を営んで、これを分け與えたのでありまするが、更正国民学校の生徒はこれを持ち帰つたのでありまするけれども、直ちにこれを食することなくして、神棚に捧げて、そうしてこれをお粥にして食べたというような実情でありました。日本の終戰後の状態はかくのごとくであつたということをそこで申上げましたときに、会衆はいつの間にか涙ぐんでハンカチをとつた。私はこの状態にあつて、汝らの敵を愛せよというキリストの教に基いてアメリカがひしひしと送つて来られるところの食糧に対して満腔の感謝の意を表すると申上げたのでありまするが、この講演を終りましたときに、会衆の中から立つて、今あなたのお話を伺つた。誠に日本の国民が戰争によつて悲惨なる状態に陷られた。御同情に堪えないのである。戰争に対しては日米両国共に責任がある。そうして終戰後のこの援助をするということは、けだし米国民としては当然でありますと叫んだのであります。その会衆の中から立つた人は申したのであります。米国は同じ戰争をやりながら一つの都会も焼かれてはおらない。日本に比べるならば誠に安泰であるのである。その安泰であるところの米国民が日本のために援助をするということは当然であります。お礼を申述べられて痛み入る次第でありますということを申されたのであります。そうして、この会衆は一人一人私に握手を求められまして、全然日本に対するところのアメリカの国民はこういう考えであるということを御承知を願いたいということであつたのであります。諸君、人類愛に立つておるところのアメリカ国民の状態はかくのごとき状態でございました。
更に私は一つ御報告申上げたい。ニユータウンの市における市庁舎の視察をいたしたときでありまするが、厚生施設を担当するところの一人の老婦人が一室に閉じ籠つて事務をとつておられたのであります。市長は、この老婦人はこの市におけるところの老人のために相談相手となつておるのであります。そうして絶対に秘密の間にこの陳情を聞いて、そうしてこの老婦人一人に処理を託しておるのであるということでありました。絶対に秘密の間に陳情を受けて、そうしてこの老婦人一人にこの処置を託しておるところの姿、これは私は、誠に民主政治の発露であると考えたのであります。更にその隣室におきましては、米国ならでは見ることのできないところの有樣でありますが、委員会が開かれておりまして、どういう問題を御審議になつておるかと尋ねましたときに、婦人の帽子が軽いのと重いのとでは心臓病に影響するのである、どういうふうに心臓に影響するかということを今日の委員会では調査研究いたしておるということでございました。(拍手)到底日本などでは考え得られないことを研究しておられるということを申上げたいのであります。(拍手)
更に又アルバニーに参りましたときに、州の議会の視察に参つたのでありますが、丁度そのときにボーイ・スカウトの拡大強化に関する案件について討議が行われておつたのでございます。ところがボーイ・スカウトの拡大強化を図らなければならないという問題を討議いたしておりまするときに、一人の少年が現われまして、演壇に立つて、ボーイ・スカウト拡大強化をせなければ米国の将来のためにならぬということを滔々と演説をし始めたのでございます。年は何歳かとあとから尋ねましたところが、十歳の少年であります。私は十歳の少年がこの壇上に立つて滔々と雄弁を以て自分の論旨を論ずるところの態度、この姿は誠に尊敬に値すると考えたのでありまするが、強大な米国が次代を担うところの少年団の拡張をしなければならない、ボーイ・スカウトの拡大をしなければならないとして、かくのごとくに重要視しておるということに対しては、私は米国の前途に対して敬意を拂わなければならぬと考えたのでございます。(拍手)
更に私はこの際御報告を申上げたい。それはワシントンにおきまして、上院議員のダグラス氏が申された言葉でございます。ダグラス氏は自髪童顔の巨大なるところの体躯の持主でありますが、彼は上院議員でありながら一兵卒として従軍をいたした。そうして沖縄の戰において負傷をした人であるのであります。ダグラス氏は申しました。私は従軍をしてペリリユー島において戰つた。丁度日本の軍隊は一万四千人と推定されておつた。米軍は二万五千の軍隊で精鋭なる兵器を以てこれに対抗したのである。勝敗はおのずから明らかである。故にできるだけ捕虜にして、そうして殺戮をするというがごときことはしたくはなかつた。ところが勇敢なるところの日本兵は断じて降伏をしない。最終において三百名だけが、捕虜となつたのである。これがペリリユー島の戰いであつた。沖縄の戰いに至つては遂に一人の捕虜をもこれを得ることができなかつた。それ程に勇敢に、そうして国に報いる精神を以て戰つておる日本軍隊に対しては、私は満腔の敬意を表するものである。こう申したのであります。そうして彼は言葉を続けました。この勇敢なるところの精神を持ち、この国に報ずるところの犠牲的精神を持つところの日本民族は、どうか今後世界の平和に貢献をし、そうして文化国家を建設するために全身全霊を挙げて努力せられんことを希望するということであつたのであります。(拍手)私はこのダグラス氏の言葉をこの壇上を通じて日本国民に伝えたいのであります。(拍手)
更に今一つ、米本土を離るるその晩におきまして、シアトル市長は我々ために歓迎会を開いて、歓迎会であり又送別会であるのでございまするが、この席上において知事の代理のネスという人が立ちまして、私は日本の議員団の諸君に一つみやげ話を申上げたいと言うて立つて参つたのであります。彼は申しました。自分は州の刑務行政を担当するものであります。今日シアトル市を中心とするところのワシントン州において監獄に投ぜられておる者が二千数百名あるのであります。この中には世界各国の人種が含まれておるのであります。ただ一つの例外がここにあります。日本人はただ一人もこの中に入つておらんのでありますということでありました。在米の邦人が如何に真劔にまじめに働いて法に服しておるかということを立証し得て余りがあるのであります。
私は最後にここに一つ、日本の国会とアメリカの国会を結ぶところの、誠に精神的に結んで行くところの事柄について申上げたいと存じます。それは我々がワシントンに滯在をいたしておりまする間に、我が国の国会の大先輩でありまする尾崎行雄先生の和歌二首が、永久に米国の国会の尊重するところの資料としてこれを保存せらるることになつたということでございます。(拍手)その尾崎行雄先生の歌を御披露申上げたい。一つは尾崎行雄先生が東京市長の時代にワシントンの河畔に移植されたところの桜の姿でございます。
とつ国の春の光を添へなんと
寄せしさくらの麗しくさく
天地は生きとし生ける人のため
神の造れるものと知らずや
これは尾崎先生がお書きになりましたそのままを、原版と同じものをニユーヨーク・タイムスは更にこれを上梓をいたしました。そうしてこの本書はアリカの国会に永久に保存せらるることとなつたのであります。日本国会と米国の国会とはかくして友好の厚きを加えたと私は申上げたいのであります。(拍手)
私は最後に申上げたい。私がアメリカへ立ちまする際に、一人の友人は、恐らく桜内さんはアメリカへ行つて悩み拔かれるであろうということでありました。成る程米国の今日の文化を見て、日本の今日の状態を考えて、悩まざるを得ないのでありまするが、併しボストンの郊外に立てるところの銅像は、その大多数が農夫の銅像でございました。農夫が銃を持つたところの銅像であつた。これは百七十年前に英国の重税に堪えられないので米国が独立戰争を始めました際に、農夫が一瞬にしてそうして兵となる、即ちミニッツメンというのでありまして、このミニッツメンなどが遂にワシントンなどを推し戴いて独立戰争を達成いたしましたのであります。百七十年前であります。アメリカの歴史を繙きまするときに、三百年前に初めて英国なり、オランダなり、フランスなりから米国に対して移民をして参つたのが今日の米国の民衆であるのであります。これが連邦十三州の合衆国を形成いたしましたのが百七十年前である。更に又私はニユーヨークへ参りまして、あの世界第一であると言われるところの、あの大きな都会が如何にして出来上つたか。ニユーヨーク州の中に、州の議会がアルバニーにあつてニユーヨークにないということを考えましたときに、これを質問いたしましたときに、当時はアルバニーの方が大きかつたのであるということでありました。諸君、八十年前には小さなニユーヨークであつた。八十年の間にあの大なるニユーヨークができ上つたということを考えまするときに、我々日本国民はこの疲弊のどん底に陷りましたけれども、百年、百五十年と切瑳琢磨をいたしまする場合に、再び世界に文化を誇るところの国家となるということは、私は期すべきものがあると思うのであります。(拍手)
どうか国会を通じて祖国再建のために私共は努力をいたしたいと考えます次第でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/38
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039・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 本日の議事日程はこれにて終了いたしました。次会の議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後一時八分散会
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○本日の会議に付した事件
一、実地調査のため議員派遣の件
一、日程第一 積雪寒冷地帶に対する負担の妥当公正化に関する決議案
一、日程第二 公立大学に置かれた文部事務官等の身分上の措置に関する法律案
一、食糧政策に関する緊急質問
一、日程第三 自由討議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/100715254X02819500315/39
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