1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十七年四月二十二日(火曜日)
午前十一時三十五分開議
出席委員
委員長 佐瀬 昌三君
安部 俊吾君 角田 幸吉君
鍛冶 良作君 花村 四郎君
松木 弘君 眞鍋 勝君
山口 好一君 山崎 岩男君
龍野喜一郎君 大西 正男君
石川金次郎君 加藤 充君
田中 堯平君 猪俣 浩三君
出席政府委員
刑 政 長 官 清原 邦一君
検 事
(検務局長) 岡原 昌男君
委員外の出席者
専 門 員 村 教三君
専 門 員 小木 貞一君
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四月二十二日
委員古島義英君及び田万廣文君辞任につき、そ
の補欠として山崎岩男君及び石川金次郎君が議
長の指名で委員に選任された。
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本日の会議に付した事件
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約
第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案(内
閣提出第一四一号)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/0
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001・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 これより会議を開きます。
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案を議題といたします。本案を討論に付します。討論の通告がありますので順次これを許します。鍛冶良作君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/1
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002・鍛冶良作
○鍛冶委員 私は自由党を代表いたしまして、本法案に賛成いたすものであります。いろいろの御議論を承りましたが、まず第一に、かような特別刑法なるものはなかつたらいいという議論でありますが、われわれもない方を希望いたします。しかしながらこれはただで出て来たのではなくて、安全保障條約並びにこれに基く行政協定がもととなつて出ておるのでありますから、この條約がありこの協定があります以上は、かようなものはなくてはならないのであります。いろいろこれに対する反対論を承りましたが、反対論を唱えられる人の頭は、かような條約はない方がよかつたのだ、その頭から出るから、従つてこういうものもない方がいいという、こういう議論なのであります。これは見方の相違でありますが、われわれは今日の日本の現状、国際情勢から見まして、安全保障條約というものはどうしてもなくてはいかぬものだと確信いたしております。従いましてこれに伴う行政協定もなくてはならぬものだといわざるを得ない。これがあるならばこの刑法を設定すべきものであることも当然の議論でありまして、根本的に日本の現状に対する認識を異にする人の議論は、われわれのとるべからざるところと考えるものであります。
その次は法案の内容についてでありますが、内容に関してもいろいろの議論があり、また傾聽すべき点もございますけれども、要するにかような法律ができてこれを実施する者に誤りがあるならばはなはだ困る、こういう議論が反対の根本のように承るのであります。さようであるとするならば、法案そのものの反対でなくて、今後の適用及びその衝に当る人の指導いかんが問題になるわけでございます。この点はわれわれといえども十分注意しなければならぬ点でありますし、またその衝に当る各関係者においても十分注意していただかなければならぬ点でありますが、数日来の論議の結果、これらに関して十分の御注意を与えられるという言責を得ました以上は、本法案の根本的反対の理由にはならぬものと心得るものであります。その意味におきまして、本法案は、今日のわが国の立場上なくてはならないやむを得ざるものとしてこれに賛成をし、そのかわりこれが実施にあたつては、その当局において国民の自由を侵害し、もしくは基本的人権の侵害にわたらざるよう特段の注意をお願いすることを條件といたしまして本案に賛成するものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/2
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003・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 大西正男君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/3
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004・大西正男
○大西(正)委員 私は改進党を代表いたしまして本案に反対の意思を表明するものであります。
そもそも、この前民事特別法について申し上げました通りでありますが、アメリカとの間における安保條約、これは正当に成立をしておることは異議はございません。しかしその安保條約に基いて、両国政府間の協定にゆだねられてできて参りました行政協定というものは、その安保條約第三條に規定されておるものを逸脱しておる部分が非常に多くあるのであります。国民の権利義務を制限し、あるいは国の主権を放棄し、制限をしておる面が多分にあるのであります。政府はかような行政協定をもつて有効である、国会の承認を経る必要がない、かように今日まで主張して参つておつたのでございます。しかしながらわれわれの見解によるならば、安保條約の第三條には、單に日本国内及びその周囲におけるところの合衆国兵力の配備を支配する條件は、両政府間の行政協定によつて定めるというきわめて漠然たることになつておるのでありまして、この批准を経ました安保條約に基いて行政協定に委任をされておる部分というものは、たとえば日本はアメリカ軍及びその構成員に、言葉はあるいは議論があるかわかりませんが、治外法権を与え、その細目は両政府間の協定によつて定めるというふうな具体的な委任があるならば、これは両政府間によつてこういう協定がなされましてもあるいは妥当であるかもわかりません。しかしながらそういうことは全然なかつたのでありまして、われわれはかような漠然たる安保條約第三條に基いて政府がなしたる行政協定というものは、憲法に違反をしたまことにかつてなものであるといわなければならぬのであります。もちろん行政協定の中には、安保條約を実施するについてのきわめて事務的なとりきめも含まれております。しかしそうでないところの実体的な国の主権やあるいはまた国民の権利義務に重大な関係のある部分については、これはきような事務的な行政協定とは根本的に異なるのでありまして、こういつた安保條約の第三條を逸脱しておる部分についてまでこの行政協定が有効であるということは、どうしても納得のできないことといわなければならぬのであります。ただいま自由党の討論者は、かようなものがないことが望ましいのであるけれども、しかし行政協定ができているのだからしかたがないというふうな意味合いの御討論でありましたが、われわれはその逆でありまして、その基礎となるべき行政協定そのものが無効であると考えるのでありまして、まつたくこの法案はその基礎を欠くものといわなければなりません。
またこの内容を検討いたしてみますと、いわゆる治外法権という言葉はいろいろ議論がございましようが、そういう言葉を今かりに使うといたしますならば、これに関連する問題に関しましては、いろいろこれ類似するところのあるいは米英の協定、あるいは米比の協定、あるいはまた北大西洋條約に基く協定、そういつた国際間のとりきめにおきましては、この日米間になされた行政協定におけるがごとく、国の裁判権その他をかように制限をした規定はないのであります。この日米の行政協定は前例を見ないところの、非常な治外法権を認めておる規定といわなければならぬのであります。また刑罰規定に関します問題についても、あるいは二條あるいは六條以下でありますが、そういつた面の詳細はこれを省略いたしますけれども、安保條約より出て来ておるところの行政協定を見ましても、かような二條あるいは六條以下に規定されておるようなことを、かりに行政協定が有効だといたしましても、要求しておるものではないと私は思うのであります。行政協定の目的を達成するために、この刑事特別法は今申し上げました部分において非常な行き過ぎがある、国民の権利義務を行き過ぎて制限をしておるものと思うのであります。
諸般の事情を考慮いたしまして、私はこの特別法に賛成をするわけには行かないのでありまして、改進党は反対の意思を表明する次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/4
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005・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 田中堯平君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/5
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006・田中堯平
○田中(堯)委員 私は日本共産党を代表いたしまして、この法案に反対するものであります。われわれは昨年九月、サンフランシスコ会議で條約が結ばれる以前から、講和に名をかりる單独講和、すなわちこれは戰争を準備することを内容とするものである。従つて講和とは名のみであつて、安全保障條約が重きをなし、またこれを実施するために日本を米国の軍事基地とし、アジア侵略の基礎を築くことになる。そういうものになつてはたいへんだというので、強くこの両條約に反対をし、その後行政協定に対しても反対をして参つたのであります。本法案が安保條約及び行政協定に基いてつくられたことは、提案理由にも明らかになつておるのでありますが、われわれはこのよう間違つた根本理念から生れて来たこの法案が正しかろうとはもちろん思わない。いろいろと條約を検討してみますと、われわれの昨年以来の主張がまつたく正しかつたことを如実に具体的に示しておる次第であります。本法案は主としてアメリカ駐留軍の安全を保護し、その機密を守つてやるということと、いわゆる治外法権ということが行政協定に規定されておる。これを実施するについての手続規定、この二つが大体おもなる内容になつておるのであります。ところでその内容、ことに軍機保護のための第六條及び七條というものを見ますると、これは日本の法律よりもまつたくアメリカのための法律であるといわなければならぬと思うのであります。第六條には、軍機を保護するために「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法で、」というような抽象的な標準を設けて、そうして何でもかでも主観的にこれは不当である、こいつは安全を害する用途に供する目的であつたのだというふうに一人ぎめによつて日本国民をふん縛ることができるようになつております。また第六條の二項、「通常不当な方法によらなければ」云々というような、いかなる法文にも例のないような用語例が表われておりますが、これはどうも日本人の頭によつて立法したとは思われない。そのような漠とした、日本の法律には前例のないような用語まで用いて、これまた主観的に何でもひつかけることができるようになつておるのであります。そしてその別表なるものを見ますと、これまたアメリカ軍に関しては機密であろうが秘密であろうが、一切合財ひつかけることになつておつて、六條本文には「公になつていないもの」というふうに縛つてある。公になつておらぬものと申しましても、別表に掲げるようなものは、ことごとく秘密には属しておつても機密ではないはずだ。機密の分はそうたくさんはないはずでありますが、米軍のためには、過去の日本の、軍機保護法により重要軍機を保護するということ以上に、軍機に当らざる秘密に至るまでこれを守つてやろうというような御丁寧なる立法措置が講ぜられておるのであります。まつたくこれは往年の東條治下におけるあの軍機保護法以上の悪法であるといわなければならぬと思います。一例を言うならば、たとえば米軍基地の中で働いておる日本労働者が、何かふとしたことで施設内の倉庫か何かに、見たことのないような兵器が蔵してあるのを発見した、奇妙なものだというので非常に印象が深い、家へ帰つて女房と寝物語りなどで、おれはこういう兵器を見たぞ、というような話をしようものなら、これは明らかに第六條二項にひつかかるわけであります。そういうようなことまでもどんどんふん縛られてしまつては、日本人は安心することができない。ことに報道陣のごときは、まつたくプレス・コードなき時代となつても、プレス・コード以上のものが現われて来て、依然検閲と同様な実効を奏することができるようになるのであります。緘口令がしかれる形になるので、言論の自由等も束縛されることになつてたいへんなことになると思います。
また治外法権方面のことを検討いたしてみましても、これは行政協定自身で、いわゆる属人主義なるものに基いて、広汎なる治外法権を認めておるのであります。これは大西委員からも発言がありましたように、米比協定においても、このようなものは認めておりません。政府は昨日、私どもに言わせれば誤解をして、盛んと米英協定を説明しておられたけれども、あれは明らかに誤解であつて、米英協定といえども決してこの行政協定が認めておるような広汎なるめちやくちやなる治外法権は認めておりません。米英協定によれば、あれは軍要員が基地外において公用のために犯した犯罪で、しかもそれが米国軍及び国に重大なる影響を及ぼすというような事案だけを例外的に米国の裁判権に属せしめておるのであつて、原則的にそれ以外のものは一切合財——ことに家族の犯したようなものはみな英国の裁判権に属しておるのであります。のみならず、この米英協定といえども、これは戰時中の協定であつて、平時におけるものではありません。今日の平時における日米の行政協定とはおよそ理由の違う條件のもとでできたものであります。そういうわけで、世界的にも前例がないのみならず、日本の国の歴史を見ても、安政年間の下田條約、あれに比較してみましても、おそらく領事裁判権の條約に比較してみましても、これははるかに国辱的なるひどい行政協定であることは、私が今ここで喋々を要しないので、それに基いての本法案における手続規定でありますから、まつたく目も当てられない状態になつている。一、二の例をひつぱつてみますると、たとえば米軍の基地内では、日本官憲は許可がなければ逮捕ができぬことになつている。基地外でつかまえたらただちに米軍に引渡さなければならぬ。また米軍の要求によつて日本官憲は、日本の法令以外の刑事事件でも米軍の逮捕に協力しなければならぬことになつております。また日本官憲は、基地内外を問わず、米軍の財産等に関しては全然手をつけることができない。捜査も差押えもできない。承諾を受けて許可を受けて、ということになつているけれども、実際問題としては、向うは不本意ならば承諾はいたしません。だから実際問題としては手をつけることができぬという結論になるのであります。また行政協定におきまして、米軍の基地として日本全土至るところ、どこでも、またその数も制限なく無数に設定することができることになつており、また軍事基地の隣接区域におきましては、米軍は基地内におけると同様の警察権を持つことができ、しかもその近傍ということも、どれほどの距離が近傍であるということの制限がないので、全国至るところに無数の基地が設定され、その周辺に近傍という名目で、ほとんど全国大部分の領域が米軍の警察下に收められるという結果になりかねないのであります。そうなつて来ますと、米軍の方では、たとえば米軍の要員がどろぼうをしたというので、基地外の近傍の地域で捜査する。ところがこれがどこかの家にでも逃げ込んだということのために、日本人の住宅はどろぐつでどんどんと侵入されてもしかたがないことに、この手続規定ではなつておるのであります。しかもこれは少数の基地のごく近傍というだけではありません。基地は無数に設定ざれるし、近傍という距離も地域も制限されておらぬということになれば、ほとんど全国至るところで、理由なくしては米軍のどろぐつに荒される、人権はあくたのごとくに蹂躙される結果になるのであります。そういうようなことを思い合せますと、今度の治外法権に関する部分におきまして、この法案は有史以来未曽有の国辱立法とまで規定づけなければならぬと思うのであります。今自由党の討論者は、行政協定ができ、たまその前に安全保障條約ができておるのであるから、いまさら何と言つてもしかたがないではないかという意味のことを言われておりますが、われわれは、先ほど述べたように、最初からそういう條約にも協定にも反対しておつた。そういうふうなことをしなくても、日本はこれではやつて行けないという根本論を考えなければならぬ。日本はそういうことをしなくてもりつぱに安全を保障できるし、ひとり立ちをして行くことができる国際情勢の中にあります。盛んと外国が侵略して来る、ことに赤の侵略が切迫している、ゆえに日本を守らなければならぬ、そのためには日本の無力なる状態ではできないからアメリカの協力を得なければならぬと、まことしやかなことを宣伝しておりますけれども、それなら一体日本に対する切迫した赤の侵略の危險などがあるか。どこにもそんなものはありません。戰争の危機というものも二、三年前に比べればはるかに遠のいておるということが偽らざる実態であります。二、三年前はなるほどドイツの問題、あるいはその他の国際問題で、相当あわやと思われるような危險な状態をわれわれは見て来た。けれども、それに比較するならば、今日はわれわれの身辺には、朝鮮の事変にしましても大体片づきそうになつておるし世界にもやもやはあるにいたしましても、大戰争になるであろう、従つて日本にどこかの国が進軍して来るであろうなどというような切迫した危險はどこにもない。のみならず、こういうふうに諸條約を結び、また国内立法で米国の駐留軍を確保するということになりますれば、かえつて他日これは世界戰争の一つの行きがかりにもなりかねない。のみならず日本に駐留する、そのことが、これが実は資本主義末期にあえいでおるところの侵略陣営が、何とかして国内の経済、政治矛盾を緩和、解決すべく、勢力のない東洋諸地域に対して、勢力範囲の設定、あるいは侵略ということをやらなければ身が持てない状態になつておればこそ、ちようど占領しておつたのを奇貨として、占領を継続化し、自国兵のみを永久にここにとどめて、そうして侵略の足場としようという、こういう基本的な政策から両條約が結ばれ、また行政協定、またそれに基く本立法ということになつておるのであります。このように根本問題を考えて参る場合に、われわれは何もよその国の犠牲になるために生れて来た国家でも、国民でもない。日本民族は日本民族であり、日本は日本として独立で平和で繁栄のできる、そういう資格と権利を持つておるわけでありますから、何もそういう條約を結んだりしなくてもよろしい。従つてそういう條約に基いて、そういう協定に基いて、このような立法をする必要はないのであります。後世、史家がこのような立法に賛成し、また立法に努力した人々に対する評価をどのようにするでありましようか。私どもはこれを考える場合に心中慄然たるものを覚えるものであります。私どもは勇気を鼓してこのような売国的な立法に対しては、与党も野党も問わず全部こぞつて反対すべきである、かように確信するものであります。
以上、共産党は本法案に対して絶対反対するゆえんを述べた次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/6
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007・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 猪俣浩三君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/7
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008・猪俣浩三
○猪俣委員 本法案の基底をなしまするものは行政協定でありまするが、この行政協定については前の討論者の意見にも出ておるのでありまするが、私どもはこの行政協定そのものは憲法違反のものであるというかたい信念を持つております。これは憲法の規定におきまして、條約であるならば、必ず国会の承認を得なければならぬはずでありますが、これは承認を得ていない。政府は安全保障條約の第三條を承認したから、これもそれに含まれるのだという説をなしておりますが、おそらくこのくらい詭弁はないと思います。あるものを承認するということは、どういうものを承認するかということであることは、幼稚園の生徒にもわかる論理であります。案も何もないものを承認したことになつたのだということは、実に不可解なる論理だと思いまするが、とにもかくにもさような論理で、この行政協定を條約でないとして、効力が発生したと称しておるのでありまするが、私どもは本案の前提をなしまするこの行政協定そのものが、まことに重大なる憲法違反のものであるという確信を持つております。従つてかような憲法違反の、行政府だけがかつてにつくりまして、国会の審議を経ないものを前提といたしまして、そうして国民に重大なる関係のありまする、権利義務に関係いたしまする本法案を出されたのでありまするが、それにつきましては、私は十二分なる審議を盡させ、行政協定を国会の審議にかけなかつたことも考え合せまして、いま少しく私は審議をしていただきたいと思つたのであります。私ども修正案を用意はいたしたのでありますけれども、これはオーケーがとれずして、もうこの討論に入るように相なつてしまつた。十二分に政府の意見を聞いた上でなければ修正案が考えられませんから、私はさような手続をしたのでありますが、本日討論に移つてしまうということで、私どもの意思も貫徹できないというはめに陷つた。元来この法案の骨子は、終戰前ありましたところの国防保安法あるいは軍機保護法の規定を相当取入れているようでありまするが、この国防保安法は昭和十六年一月三十一日は衆議院に上程されまして、二月一日から審議に入られ、この軍部はなやかにして国中が戰時熱に浮かされておりました太平洋戰争に突入する直前でありまして、政府といたしましてこういう法案を出すことはしかあるべき状態でありましたにかかわらず、当時の衆議院におきましては、前後七回委員会を開いて活発なる討論をやつております。本委員会は何回になりましたか、それに及ばないと思うのであります。なお貴族院に至りましては、重要な修正意見が擡頭して、まさに修正されんとする形勢にありましたので、時の司法大臣が、極力言論の自由を圧迫するものでないことを極論いたしまして、これは原案が通つた。しかもこの委員会には、司法大臣がほとんど毎回出席しております。今回の委員会には、一回昨日出ただけだと思うのでありますが、その政府当局におきましても、また委員会といたしましても、はなはだ国会が軍部に圧迫せられたと称せられておりまする当時の委員会よりは、なお不活発であつたのじやないかという感じをいたします。満洲事変の前後軍機保護法が制定せられたのでありまするが、この際におきましても、衆議院におきましてはわざわざ附帶決議ができておる。ここにいう軍機とは作戰用兵に関する最高度の機密であることを附帶決議として、それ以外のものに対して、いやしくも言論の圧迫がないようにという附帶決議ができておるものであることは、皆さんも御承知の通りだと思うのであります。そういう当時盛んに軍部、官僚の跳梁いたしました時代におきましても、さような意気込みで法案の審議がされておりまするし、また当時の速記録を私は戰災で焼いてしまいまして今日手元にないのでありますが、具体的な軍機保護法違反事件を弁護いたしました関係上、今も記憶に新たなことでありまするが、非常に活発な論議がされて、あらゆる観点から軍機なりやいなやが追究せられ、そうして政府の答弁は、陸軍大臣を初めといたしまして、ことごとくが作戰用兵に関する極度の高度の機密であつて、その他のことに絶対触れるのでないという証言を委員会でやつておるのであります。それがために私の取扱いました軍機保護法違反事件なりとして起訴せられ、二年間監獄に呻吟いたしました人が、裁判の際には、この委員会の速記録が証拠となりまして、軍機にあらずという判定のもとに無罪とせられたのでありまして、そういうことから見ますると、われわれこの審議をお急ぎになつたことに対しまして、はなはだ遺憾だと思うのであります。そこでなお私どもがこの法案に対しまして、こういう法案の成立を希望せざる心情の中には、日本の警察及び検察官というものに対する不信がありまするし、なお裁判官というものに対しましても、私どもはいささかの不信がある。これがアメリカの行政官、アメリカの裁判官に比して、相当この言論の自由を尊重する度合いにおいて欠くるところがある、日本の長い間の封建的な遺風のために、いわゆるお上の威厳をもつて人民の言論を圧迫するという慣習が、まだ抜け切れておりませんのみならず、最近いわゆる時勢の反動化に伴いまして、特高警察が出現するような時代に相なりまして、私ども危險がひしひしと感ぜられるのであります。アメリカにおきましては、御承知のように言論の自由というものは最高度の基本的人権とみなされておりまして、これを抑制するということについては、アメリカの最高裁判所においてほとんど判例となつて存置いたしおりまするところの、いわゆる明白にして現実的な差迫る危險、実質的な害悪が極度に重大かつ急迫な場合という場合以外は、言論の自由を圧迫するような法律はことごとくこれを違憲なりとして裁判をやつておるという、こういうことに行政官の首長でありまする大統領は、この言論圧迫の法律に対しましては、たとえばタフト・ハートレー法にいたしましても、あるいは日本の破壞活動防止法の手本となつたと思われますところの国内安全保障法につきましても、いつでもトルーマン大統領は拒否権を行使してこれを拒否しておる。いわゆる行政官の首長がさような態度でありまするから、一般の行政官もこの言論の自由というものに対しましては、極度に慎む慣習があるのでありますが、日本におきましては、内閣総理大臣が率先してさような法案を督励しておるような状態でありまするし、最高裁判所におきましても、現在の最高裁判所の長官の田中耕太郎氏が、裁判官訴追委員会へ、その反動的態度、その戰争挑発的な態度につきまして、在野法曹から訴追せられんとしているような状態であります。かような行政官及び裁判所の状態におきまして、かような法案が成立いたしまするということは、われわれの基本的人権に対しまする危險感がひしひしと迫らざる得ない。さような意味におきまして、アメリカで多少こういう法律ができてもいいような場合でも、われわれといたしましては実に危險なんであります。そういう意味におきまして、本法は、ことに言論の自由の圧迫に対しまして、重大なる危險感が私どもは感ぜられるのであります。そういう意味において私どもは反対でありまするが、本法案におきまして最も重大な問題は「合衆国軍隊の機密を侵す罪」として六條、七條に規定せられておりますこの條項であります。かような「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて」というような、抽象的な文句、法務府の説明によりますれば、これはそういう機密を探知して合衆国の敵対関係にある国か、あるいはまた近い将来敵対関係に入るべき国に通報するようなことを言うんだというような説明でありますけれども、しかしそれならば、そのような意味を條文の中に織り込むべきものでありまして、解釈でただやつておつたのでは、これは後日間違いができる。これは国防保安法の第八條と同じ文句でありますが、これに対しまして当時の戰時中の貴族院におきましては、この修正案が可決せられようとした。それはこの安全を害すべき用途に供する目的というようなことは抽象的だ、国防上の利益を害すべき用途に供すべきことを調べて外国に通報する目的をもつて、というふうに具体的にしぼつたのであります。私はそれをそういうふうになおしぼるべきものでないかということを政府委員に質問いたしましたところが、いや合衆国の軍隊の何か兵器を知り、これを襲撃して奪取するようなことを企てる目的のために、この情報を探知し、收集するものもあるから、こういうしぼり方では足りないという御答弁でありますが、それならばそのようにやはり合衆国軍隊を襲撃する目的をもつて探知し、收集したというふうに、法文上明らかに具体的にしていただければいいのであろうと思うのです。これはアメリカの行政官や裁判官のように、いわゆる言論の自由というものを高度に尊重いたしまする慣習のあるところにおきましては、こういう文句でもいいかも存じませんけれども、日本のいわゆる特高精神横溢いたしておりまする警察官、あるいは思想検事のような頭になりやすい検事、かような者もまだ多数現存いたしております。今の特審局長の吉河君なんか、あれは私は思想検事をやつていたんじやないかと思う。ああいう人たちが現存している現在、ことに日本の裁判官に対しましても、その進歩的思想につきましてわれわれ疑わざるを得ない。言論の尊重ということをどれだけ重んじているのであるかもわれわれは信用できないようなこの状態におきまして、法文の中にそれを明記いたしませんならば、はなはだ言論の圧迫に相なることは私どもは察知できると思うのであります。かような意味におきまして、この第六條は非常に危險である。なお第六條の二項におきましても「通常不当な方法によらなければ探知し、又は收集することができないようなものを他人に漏らした」……。漏らしただけでやはり十年以下の懲役に処せられる。しかも不当の方法であるかないかというようなことは、これはやはり取調べる人間の相当の主観が入る問題でありまして、これまた非常に抽象的である。これは通常不当な方法によらなければ探知または收集できないものであると、いわゆる検察官が認めるというと、十年以下の懲役というような、実にちよつとしやべつただけで、ふろ屋で、あるいは床屋でしやべつただけで、十年以下の懲役に処せられるというような、はなはださんたんたることが起らぬとも限らぬのであります。かような意味におきまして、これも実に私は重大である。ことに第七條の二項におきまして「前條第一項又は第二條の罪を犯すことを教唆し」とあるが、これは刑法の教唆の罪でもない。そうしてまた「せん動した者」、これも刑法にはない言葉である。かようないわゆるナチスの拡張共同正犯論のような理論構成から、かような処罰者を広めるというようなことを私どもははなはだ遺憾とするものであります。この二項、三項のごときはまつたく不要なものであつて、教唆犯は刑法の総則におきまして処罰されることになつておりまするから、それだけでいいわけなんだ。それを新たなる「教唆」という言葉をつけながら、刑法の「教唆」でもないような規定を置き、なお「せん動」というようなあいまいな文句を用い、そしてこういう言論の圧迫を非常に拡大するというような意図が隠されておると思うのでありまして、これははなはだ危險だと存じます。かような第七條二項、二項のごときはまつたく不要なものであるというふうに私どもは考えられる。公共の福祉あるいは言論の自由というようなことは、考え方によりまして、調和点をどこに置くか、非常に大問題でありまするが、私どもはアメリカの裁判所がとつておりまするような、まつたく言論の自由を最高と考えて、これを抑圧する場合におきましては、極度にこれを狭めるということが、いわゆる基本的人権を尊重する態度でなければならぬと思うのでありまするけれども、この法案におきましてはその趣旨がくみとれない。アメリカ自身がそういう態度になつておりまするにかかわらず、日本の政府がかような言論の自由を尊重する趣旨が見られないような法文を用意されることは、私ども遺憾と存ずるのであります。かような意味におきまして、私どもはこの法案に賛成することはできない。この行政協定自体がはなはだ屈辱的なものであることは私も認めるのでありますし、私どもが他のいわゆる米英、あるいは北大西洋、あるいは米比の行政協定と比較した際に、合衆国軍隊の構成員の中に、ほかの国のは家族は入つていないのじやないかという質問に対して、政府委員はあるような御答弁でありますが、これははなはだ私ども不可解であります。国際法の大家であります横田喜三郎氏の意見を聞いてみましても、家族を合衆国軍隊の構成員の中に入れることは、古今東西にわたつて今回が初めてだということを論文に書いておられるのでありまして、政府委員がどういうふうにしてそんな認識を持たれるのであるか、私ども不可解でありますが、いずれにいたしましても、行政協定そのものがはなはだ無理な、屈辱的なものである。そうして何ら国会の審議にかけないでこれがつくられたものであり、それをわくといたしましてかような法案ができて来たのであつて、根本においてわれわれは賛成するわけには行かぬ。しかもその内容におきまして、今申し上げましたような、これは基本的人権に関しまして他日必ず重大なる災いを残す條項を含んでおりまするがゆえに、かような意味におきまして、私ども憲法の精神でありまする基本的人権、ことに言論の自由を極度に尊重することが民主国家の最も基本的な立場でなければならぬという趣旨から、この法案には絶対に反対するものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/8
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009・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 石川金次郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/9
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010・石川金次郎
○石川委員 私は日本社会党を代表いたしまして、本案に反対の表明をいたします。
わが党は、本法案の基礎をなしております日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約、並びに同條約によつて生れて参りました行政協定に対し、わが日本国は一国としての尊厳を維持し得ざるものなきやを憂えまして、また国民の権利を不当に拘束、制限せられることあるべきを憂えまして、反対したのであります。しかるに政府は反対論に耳をかすことなく行政協定を締結したのでありますが、その協定は一国として讓歩すべからざる事項も讓歩し、われわれの期待した国の独立のために承服しあたわざる協定を締結せられたのであります。その結果は本刑事特別法案を制定せざるを得ざるに至つたのでありますが、われわれは本法律案の中に独立日本の名誉に反するもの多々あるを見まするので、これに反対せざるを得ないのであります。これ第一の理由であります。
第二は、本法案は国民の権利を拘束、制限すること多大であります。法案第二條、六條、七條これであります。およそ刑罰法規を立案制定せられるにあたりましては、はたしてその制定の必要があるかどうかということについて愼重検討しなければならぬことは言うまでもありません。また国民の自由制限をできるだけ狭め、できるだけ自由を守るということに心しなければならないのであります。本法案の立案の根底の考え方を察知いたしまするのに、アメリカ軍の安全と軍機の保護を唯一最高の目的といたしまして国民の権利、自由に対する尊敬、擁護の念が第二義的に取扱われておつたということをはなはだ遺憾に存ずるものであります。これ反対の第二の理由であります。
第三は、本案の内容を見て参りまするのに、既存の刑罰法規をもつて本案の目的とする法益を守り得るにかかわらず、新たに制定して、国民にいたずらに不安を与え、また刑法本法において採用しないところの範囲にまで犯罪構成要件を拡張し、国民が自由に不安を与え、その運用もし誤らんか、本法の目的とするアメリカ軍の安全に不安をかえつて与えるのみならず、この憂い多くありまするがゆえに、これに反対するものであります。
最後に、本法案が目下審議中であるところの破壞活動防止法案とともに、わが国民の生活の自由に不安を与えるものでありまして、いかに政府が立案の当初愼重にその施行について考えておりましても、刑罰法規の性質上、また時勢の流れおもむくところは、本法施行については国民の自由の拘束に対して多大の危險と危惧不安を持つものであり、世に不安を与えるものであります。むしろ国民の生活に役立つよりも、国民生活を不安に至らしめるものという憂いのある法律案でありまするがゆえに、われわれはこれ反対するものであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/10
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011・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 以上をもつて討論は終局いたしました。
本案を表決に付します。本案に賛成の諸君の御起立を願います。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/11
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012・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 起立多数。よつて本案は可決すべきものと決しました。
この際お諮りいたします。ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと思いますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/12
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013・佐瀬昌三
○佐瀬委員長 御異議なければ、さようにとりはからいます。
本日はこれをもつて散会いたします。
午後零時二十七分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101305206X03919520422/13
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