1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十七年二月十八日(月曜日)
午前十時二十六分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第十三号
昭和二十七年二月十八日
午前十時開議
第一 財政法、会計法等の財政関係法律の一部を改正する等の法律案(第十二回国会内閣提出、同衆議院送付)(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/0
-
001・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 諸般の報告は朗読を省略いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/1
-
002・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。
この際お諮りいたします。曾祢益君から海外旅行のため二十日間、川上嘉市君から病気のため会期中、それぞれ請暇の申出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/2
-
003・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつていずれも許可することに決しました。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/3
-
004・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 日程第一、財政法、会計法等の財政関係法律の一部を改正する等の法律案(第十二回国会内閣提出、同衆議院送付)を議題といたします。
先ず委員長の報告を求めます。大蔵委員長平沼彌太郎君。
〔「議長、所管大臣の出席を望みます」「登壇するのを待て」「所管大臣はどうした」「大臣がいなくてやるという不見識なことがあるか、そんな不見識やめい」「大臣が来るまでやるなよ」「やれやれ」と呼ぶ者あり、笑声、拍手〕
〔平沼彌太郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/4
-
005・平沼彌太郎
○平沼彌太郎君 只今上程されました財政法、会計法等の財政関係法律の一部を改正する等の法律案の大蔵委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。
改正案の主なる点を申上げますと、第一は、新たに継続費制度を設け、国の工事、製造その他の事業等重要な継続事業について、数年度に亘る支出権限を確保し得るようにしようとするものであります。第二は、現行の繰越制度のほかに新たに予算成立後の理由に基く繰越を認め、現行の明許繰越と共に繰越明許費として国会の議決を要するものとするよう繰越制度を改正しようとするものであります。第三は、支出負担行為について公共事業費その他大蔵大臣の指定する経費に係る予算のみ、その実施計画について大蔵大臣の承認を要することとし、認証についても、原則として認証官を置かず、支出官にその支出負担行為が示達された予算を超過するか否かという確認を行わせることとし、なお各省各庁において、予算の適正な執行上望ましい場合には、認証官による認証を行うことができるよう、支出負担行為制度を簡素化しようとするものであります。なお、このほか、歳出予算における部、款の区分の廃止、会計職員の任命及び契約手続の簡素化、その他若干の改正をしようとするものであります。
本案は、憲法との関連上、又予算制度上、重要な改正を含むものでありまして、第十二国会以降継続審査をなし、その間、参考人より意見を聴取し、又委員を地方に派遣して調査する等、愼重に審議いたしたのであります。今、継続費制度新設について参考人の意見を申上げますると、各参考人とも継続費を設けることの必要なことは十分に認めると共に、この制度を設けることが憲法違反でないということに意見が一致しているようでありました。併しながら、この制度の濫用を防止するため如何なる程度の制限を如何なる方法においてなすべきかについては、明確な一致した意見はないようでありました。
次に質疑応答の主なるものを申上げますると、「継続費制度を設けることは憲法上疑義があるが、憲法第八十六條との関連においてその理論的根拠如何」との質疑に対しては、大蔵大臣から、「憲法に規定がないから、継続費制度を設けることは違憲であるとは考えない。憲法第八十六條の「毎会計年度」は原則的規定であつて、必ずしも一年と限定しているものではない。明許繰越、国庫債務負担行為の例もあり、例外的な継続費を財政法に規定するも違憲ではない」との答弁があり、又、「予算の本質は年次制であり、継続費は英国、米国のごとく單独法で制定すべきではないか」との質疑に対しては、大蔵大臣から、「総予算主義の建前から單独法によつて支出権限を確保することは適当ではない」との答弁があり、又、「国会が一旦議決した継続費年割額を国会で修正できるか」との質疑に対しては、大蔵大臣から、「国会が増額又は減額することは差支えない。但し増額修正をなす場合は、予算の提出権は政府にあるのであるから、既設の項についてのみ可能であると考える。又減額修正する場合は、翌年度以降の年割額をも合せて審議がなさるべきである」との答弁があり、更に、「継続費として計上し得る事業の種類、継続年限等について明確な制限を設けるべきではないか」との質疑に対しては、大蔵大臣から、「継続費はできる限り少額にとどむべきものであると思うが、これが決定については、具体的に個々の事業の内容を検討した上、最も経済的に事業が遂行でき得るようにすればよいと思う」等の質疑応答がなされたのであります。その他詳細は速記録によつて御承知願いたいと存じます。
質疑を終了し、討論に入りましたところ、波多野委員より、「継続費制度は必要であると思うが、濫用防止のために年限を一応五ヵ年度以内とし、国軍債務負担行為と同様に、必要を生じた場合には、予算を以て更に延長することができることにすべきである。又、旧憲法下においては、一旦議決された継続費はその後において議会が審議し又は修正することができないと解釈され、又、実際にその通り運用されていたが、新憲法下においては、国会の審議権を尊重し、国会が一旦議決した継続費の総額及び年割額も、重ねて審議の対象として、増額及び減額修正ができる規定を挿入すべきである」との修正意見が述べられ、又、大矢委員より、「原案の施行期日は昭和二十七年一月一日となつているが、愼重審議のため長時日を要し、すでに一月一日を経過しているので、施行期日を「公布の日から」とすべきである」との修正意見が述べられました。次に油井委員より両修正案に対する賛成意見が述べられ、又、木村委員より、「大矢委員の修正案に賛成する。継続費制度を設けることについては、憲法上、予算制度上、私としては種々意見があるが、継続費は実際上必要であり、波多野委員の修正案は、原案よりは濫用を防止し得るものと考えられるので、これに賛成する」との賛成意見が述べられ、更に菊川委員より、「両修正案並びに修正個所を除く原案に賛成する。なお、認証制度を廃止するからには、公務員の汚職防止のための措置を十分講じられたい。又、法文の字句の使い方が乱脈であるから速かに改正されるよう希望する」等の賛成意見がそれぞれ述べられました。
かくて討論を終局し、波多野委員並びに大矢委員の修正案は、それぞれ採決の結果全会一致を以て可決せられ、択に修正個所を除く原案について採決の結果、全会一致を以て可決すべきものと決定し、本案を修正議決いたしました次第であります。
右御報告を申上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/5
-
006・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 討論の通告がございます。順次発言を許します。
〔菊川孝夫君発言の許可を求む〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/6
-
007・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 菊川孝夫君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/7
-
008・菊川孝夫
○菊川孝夫君 議事進行について。私はこの際、本法案は先国会から引続いて当院において相当問題になつた法案であります。将来運営に当りましても大蔵大臣に十分愼重な取扱をしてもらわなければならんと思います。従いまして、この討論には大蔵大臣の出席を求める次第であります。それで、大蔵大臣が出席せられるまで暫らく本会議を休憩されんことの動議を提出いたします。
〔「賛成」「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/8
-
009・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 只今菊川君から、大蔵大臣の出席まで休憩の動議が出て、これに対して賛成の声がありました。よつてこれを採決に付します。過半数の賛成者があれば、菊川君の動議は採択されるわけであります。
菊川君の動議による休憩に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
〔「少数」「多数」「当り前のことじやないか、そんなことを審議してよいのか」「記名投票だ」「わからなければ記名にしなさい」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/9
-
010・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 少数と認めます。(拍手)順次発言を許します。(記名投票」「記名投票賛成」と呼ぶ者あり)兼岩傳一君。(議長が宣言したんじやないか」「国会無視」と呼ぶ者あり)兼岩君の御登壇を求めます。(議事進行について」「登壇しろ」と呼ぶ者あり)兼岩君の発言を許したのでありまするが、御登壇になりませんければ……(「進行の動議が出ているのだ」「進行々々」と呼ぶ者あり)兼岩君に発言を許しました。御登壇にならなければ発言を放棄されたものと認めますが、よろしうございますか。(拍手)
〔兼岩傳一君登壇〕
〔「議事進行の発言を求めている」「登壇者は発言してない」「登壇していればいいのだ」「発言しなければいいのだ」「発言者として出席を求めろ」「それまで待つてろ」「参議院を軽視するか」「大蔵大臣の出席を要求しろ」「大蔵も来ないし、吉田も来なくて議事が運営できるか」「議長が宣言した通りやれ」「記名投票にしろ」「大臣なしに審議できるか」「はつきりしているよ」「議事進行」「参議院から大臣を出すことを拒否しろ」「進行々々」「議運をやれ」「休憩々々」「進行々々」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/10
-
011・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 兼岩君の発言を求めます。
〔「前以て注意しておけ」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/11
-
012・兼岩傳一
○兼岩傳一君 私は日本共産党を代表して、財政法、会計法等の財政関係法律の一部改正案に対し反対をするものであります。
申すまでもなく、財政法は国家予算編成の基準となる法律であり、第二次大戰以前は申すまでもなく、第二次大戰後におきましては、すべて米英その他の帝国主義がこの従属国植民地を支配するために、国家予算を支配して、そうしてこの搾取を継続するという意味において、極めて重要な法律であり、かかる重要な法律に対しまして、如何に従属国の大蔵大臣とは申せ、かような重要な法律案に対し出席を怠るがごとき態度は、参議院を軽視するの甚だしき態度であり、(「その通りだ」「ノーノー」と呼ぶ者あり)まさに国会を通して全国民を侮辱するところの傲慢なる吉田茂総理大臣に最もふさわしい大蔵大臣であるということを一言申入れまして、反対の討論の内容に入りたいと思います。(「よしよし」「いいぞ」と呼ぶ者あり、笑声)
本改正案の中で最も重要な点は継続費制度を創設するということであります。政府の説明によりますと、今回の改正が、あたかも治山、治水、道路、港湾、住宅建設、農地改良等の日本国民の平和な生活を保障し発展させるための合理的の措置であるかのような口吻で説明をいたしております。若し政府の説明するように、これが、日本国民の生活を豊かにするための大計画を継続的に推し進めるという意味で、この措置が施されるのであるならば、何を好んで我々は反対しましよう。我々は反対するどころではない。今まで、我が党は、不生産的な軍事的支出を削減して、山林を保護せよ、河川を補強せよ、住宅を建設せよ、農地を改良せよ、そういう主張を推し進めて来たのであります。ところがどうか。これらの国民の要望は満足させられないばかりか、国土はますます荒廃の度を深めておる。即ち山林は濫伐に任せられ、河川は氾濫に任せられ、住宅難は解決されず、農地は荒れるに任されておるのが現状である。政府は自己の非を改めてここで急に国土の復興でも開始しようと決心したのか。全くそうではない。若しそうであるならば、予算の裏付けがこれに対して必要であり、立派な大計画が予算措置の裏付けを通して発表せらるべきである。ところが、政府の発表しておるところの予算案は、発展するものは警察予備隊であり、海上保安隊であり、特高を中心にするところの警察であり、そうして軍需工場である。新憲法第八十六條によりますと、「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。」と規定しておる。政府は、今回政府が新たに継続費を創設するというこの法律の、改正を提案しておるのは憲法に抵触しないのだと国民を欺いておる。若し然らば、政府の言うがごとくそれが正しいとするならば、旧憲法に規定されていた継続費がなぜ新らしい憲法において削られたのか、これを説明しなければならない。この点を考えれば、これが、この法律改正が憲法違反であることは明々白々ではないか。この継続費の創設は、單に財政法上の財政技術的な改正ではなくて、予算の国会審議権を奪い去るところの重大なものである。去る二月四日の本院予算委員会において大内兵衛氏は参考意見を述べておられるが、同氏はこう言つておられる。「この古い財政法の持つておつた継続費の規定と同じような規定を持つて来ることは、若しこういう規定を持つて来れば、国会の予算議定権の運用が不可能になる危險が多くあり、国政の運用を不可能にする、」と指摘しておられ、中国への侵略が開始された昭和の初めから、継続費が如何に予算の多くの部分を占め、国会が如何に無視されて、独裁的な財政支出を行なつて来たかという歴史的な事実を述べておられるのであります。若し、たとえ、それが実質的に、例えば大きな建設事業その他をやるような場合に、実質的に継続事業になるといたしましても、年改まるごとに、年度ごとに国会が審議してやつて来ておるし、又国権の最高機関である国会が重要な予算を毎年審議するということは憲法の規定によつて明明白々であります。而も本改正は、昨年九月サンフランシスコ條約が調印されたあの十二回国会に提出されたのでありますが、一体これはどうしたことであるか。その理由は、まさに、日米安全保障條約によつて、日本人、日本国民に強要された再軍備の厖大な計画が非常に急がれて来ておるということを証明するものであります。事実を以て、この主張を裏付けましよう。昨年十二月ダレス氏と同行いたされましたスパークマン、スミス両上院議員は、日本に来る前に台湾に飛んでおります。この両氏が蒋介石氏と会談した直後、蒋介石氏は次のような談話を発表しておるのであります。それは、要約いたしますと、「我々はアジアの共産主義と鬪うために、日本は二十万、台湾は二十万、韓国、フイリピンを合せて二十万、合計六十万から成るアジア統一軍を結成しなければならない」ということを語つておるのであります。この発表はアメリカにおいても非常な反響を與えて、クリツプス・ハワード系の新聞には大々的に掲載されましたのは勿論、特に新聞サンはその社説に堂々とこの計画を論究し、これを支持してアメリカを盟主とするアジア統一軍を早を作れと呼びかけておるのであります。更に重要な資料がここにあります。それは、アメリカの下院の歳出委員会で空軍参謀次長ローリングス中将が証言を行なつておることであります。この証言によりますと、一九五二年、五三年の二ヵ年継続費によつて日本に陸軍三十万、海軍五万、空軍十万を急速に作り上げなければならない。これに対する日本側の負担は七千二百五十億円で、アメリカ側の負担は、厖大な武器を貸興する関係上、現金としてはこれより一桁小さな六百億円で、これは継続費になつておつて、その内訳は、一九五二年度は、日本側の負担は予備隊費を含めまして三千百億円、アメリカ側の負担は六百億円、翌一九五三年度は、日本側の負担は四千百五十億円で、アメリカ側の負担はゼロという計画である。これがローリングス中将の証言であります。このような点を心において今年度の日本の国家予算を見るとき、政府の言う計画的な支出の筆頭は、ほかならぬアメリカから要請されておるところの厖大な軍備を作る計画、これであります。サンフランシスコ條約が日本国民に贈つてくれたものは日本人青年の血の祭壇であるということを我が党は指摘して参りましたが、(「何を言つているか」と呼ぶ者あり)継続費で計画的に軍備を実現して行こうとすると、そのためには国会の審議権の重要なる予算審議権をこれによつて奪つて行こうとしておるのであります。
繰越金の問題も同じ内容であります。昨年の平和回復処理費百億円、国際復興開発銀行への出資金二百億円、予備隊経費など、アメリカ一辺倒の財政支出が今年に繰越されておるのを見ても、日本人のための改正ではない。その証拠に、現に本案が昨年の十二国会に提出されておるのでも明瞭であります。自由党のいわゆる独立第一年目の日本の予算が一体誰によつて作られたと言うのか。これは大蔵大臣に聞くまでもなく明々白々である。事前承認という形で、岡崎国務大臣以下の行政官が、勝手にきめられた通り、その通り運んで行くだけのロボツトであります。このように、外国によつてきめられ、日本の国会はそれを認めなければならないという、完全に自主性を喪失したこの国家財政を、もつと自由に管理し、もつと自由に操るために本改正がなされておるということは、以上の説明によつて何ら一点の疑問も残つていないのであります。(「こじつけ、こじつけ」と呼ぶ者あり)日本共産党は、この点から本改正に絶対反対するものであります。
同時に、各派の非常なお骨折によつて修正案がもたらされて来ておりますが、それが五ヵ年を限度にしようと言つております。併し世界の平和か戰争かにとつて、日本の独立か平和かにとつて、まさに重大なのはこの五年なのであります。而も五年、これは悠長であります。今年、来年、この二、三年こそが問題の焦点であります。
以上の理由によつて、我が党はこの修正案に対しても遺憾ながら反対するものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/12
-
013・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 菊川孝夫君。
〔菊川孝夫君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/13
-
014・菊川孝夫
○菊川孝夫君 私は社会党の第四控室を代表しまして、財政法、会計法等の財政関係法律の一部を改正する等の法律案の修正案並びに修正部分を除く原案に賛成の意見を申述べます。
この法案は、継続費の制度を新たに設けることと、繰越に関する制度を整備すること、歳出予算の部款を廃して項を議決科目とすること、並びに支出負担行為の認証制度は原則として廃止することが主なる改正点でありますが、最も問題のありますのは継続費の新設であります。
それは、旧帝国憲法には、第六十八條にはつきりと、政府は特別の費目については「豫メ年限ヲ定メ繼續費トシテ帝國議會ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得」と規定いたしておりますが、新日本国憲法にはその規定はなく、第八十六條に、「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出してその審議を受け、議決を経なければならない」と規定している点であります。この点に関しまして、曾つて貴族院の帝国憲法改正特別委員会におきまして佐々木惣一氏は、新憲法では継続費の規定がないのはこれを認めないのであるかどうか、認めるとするならば、憲法に規定せずに財政法によつて規定するのは憲法上疑義があるといつた意味の質問をいたしておりますが、これに対しまして金森国務大臣は、「旧憲法のような特殊な形においては認めないけれども、或る特定の費目については、濫用をせられない限りあつてもよいと思い、禁ずる趣旨を含んでいない」と答弁し、更に附加えまして、「新憲法における予算の本体は、一年分の予算であるけれども、特殊な費目については、二年、三年という、はみ出し的な意味も考えの中にある。翌年度の予算に継続費の年割額はあつても、それはただ数字を集計する便宜上載せるのであつて、本当の意味の予算と重複しない。」こういう答弁をいたしております。これを見ても、金森氏は、旧憲法時代のような継続費を認めないと言つておきながら、年割額は計数整理上予算書に記載するのみであると、旧憲法時代の継続費と同様の概念を述べておられて、極めてこの点あいまいになつておるのであります。又現在学者の問におきましても、新憲法は継続費を認めるや否やという点については賛否両論のあることは諸君御承知の通りであります。
かくて新憲法施行以来今日まで継続費の制度は設けられなかつたのでありますが、これは過去において、陸海軍を初め各省が、予算獲得の技術として、この継続費を濫用した経験に鑑みまして、これを排除して、予算制度を民主化することと、新憲法の上にも疑義があつたためであると思うのであります。濫用の最も甚だしかつたのは陸海軍でありまして、例えば五個師団の増設であるとか、八八艦隊の建造等を行う場合に、最初は少し頭を出しておいて、予算として大した金ではないからというので議会に協賛をさしておいて、次年度以降におきまして、例えば技術が進歩したのである、物価が上昇したのであるということを理由といたしまして、逐次これを増加して行つたのであります。ところが議会といたしましても、一旦手を著けてしまつたものでありますから、これに対しまして手の加えようがなかつた。こういう恰好で継続費が惡用されておつたのであります。現在、政府は憲法の第九條の規定を無視いたしまして、新憲法の精神そのものを蹂躙して、再軍備に狂奔しております際でありますので、この継続費は将来再軍備のために惡用されますことを最も我々は恐れるものであります。(拍手)
特に継続費の目的といたしまして、「国は工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、」とありまして、これは曾つて陸海軍や官僚が惡用いたしました旧会計法の第二十八條と同様な表現になつておりますところは極めて重大であると思うのであります。バズーカ砲や戰車を以て装備されたものを軍隊でない、原爆とジエツト機のないものは軍隊でないのだと強弁する政府でありますから、監視艇を作るのだといつて軽巡洋艦や駆逐艦を作るためにこの継続費を惡用する危險があると思うのであります。従いまして、一歩讓りまして、継続費を認めるといたしましても、これは飽くまでも国土開発、災害復旧等の平和的な目的のために利用されるのが新憲法の精神であるし、将来予算審議に当りましてこの方針を我々は堅持して参りたいと思うのであります。
次に、継続費というものは官僚にとりまして極めて便利でありますので、一たびこの制度を設けますると、決して減らないのでありまして、逐次増加して参るのであります。これは明治大正の歴史を見ればよくわかるのでありまして、予算が継続費と国の経営費で大部分が縛られてしまいまして、議会の協賛権というものは極めて制約を受けておつたのであります。併し飽くまでも継続費は予算制度の例外的なものでありまして、極めて特殊なものに限定すべきであると思うのであります、我々は将来この点につきましては国会の審議権を十分に活用して戒めて参りたいと存じます。又政党もこの継続費を惡用いたしまして、政争の具に供しまして、各方面で少しずつ十ヵ年計画或いは十五ヵ年といつたような申訳的な継続費をたくさん設けまして、これを選挙に利用した歴史もございますが、我々は新らしい財政法、憲法の精神を十分に体しまして、相戒めましてこれを政争の具に供するごときことのないようにいたしたいと思うのであります。
次に憲法上の疑義についてでありますが、私は飽くまでも憲法八十六條は歳入歳出予算を指すものでありまして、予算として継続費を認めているものではないと、かように考えるのであります。併しながら国が行いますところの開発事業等の規模はますます大きくなつて参つておりますので、継続事業の必要性を認めるにやぶさかではありません。この点は憲法第八十五條の規定によつて、我々は、イギリスの国会がやつておりまするように、特別立法によつてこれを認めて行くようにすべきである、こういう考えを持つているのであります。併しながら、この点については、修正案におきまして、一旦年割額をきめてしまつてありましても、「重ねて審議することを妨げるものではない」と、従いまして旧来の継続費の考え方とは根本的に違つた一つの継続費の解釈を、ここに我々は修正案として打ち立てることによつて、実質的な解決を将来図つて行きたい。かように考える次第であります。
次に問題になりますのは認証制度の廃止でありまするが、この制度は、会計事務執行上の誤謬を是正し、不正を指摘いたしまして、国費の適正なる使用を期するための一つのチェツク・システムであります。最近公務員の汚職事件は国民批判の的になつておりまして、これが粛正は刻下の急務と言わなければなりません。かかる際に、その防止の一手段であるチエツク・システムを廃止することは重大な問題であると思うのであります。会計法におきましては、両院の議長、最高裁の長官、各省の大臣は、歳入歳出につきまして、国民に対して責を負うことになつております。ところが皆さん御覽なさい。先に海上保安庁においてあの大汚職事件を起しましたところの山崎さんは、いつの間にやら副総理格に出世しておる。又一方におきまして、今底無しの大汚職事件を起しておりまする電通省の佐藤榮作氏は、電通大臣として平然として議席を睥睨しておるではありませんか、(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)こういう規定には、一体会計法上の責任を大臣がどう感じておるか、こういう問題について私は大きな疑義を持つております。而もこういうことは責任ある政治家の態度ではなくて、まさにこういう連中はアプレ大臣の標本だと言つても私は過言ではないと思います。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)かかる内閣の下におきまして、かかる時期に認証制度を廃止することは、危險極まりないと存じます。政府は認証制度を廃止する以上は、速かに信賞必罰をみずから実践し、認証制度に代るべき適切なる処置を講ぜられんことを強く我々は要望してやまないのであります。
以上申上げました通り、我々は、本法案につきましては幾多不満な点があり、もつと適正厳格な修正意見を持つておりますけれども、大多数の御賛成は得られませんようですし、又我々はここで反対することによりまして、政府原案がそのまま通つてしまう危險もありますので、不満足ではございますけれども、この修正案並びに修正部分を除く原案に賛成をいたして、将来の運用を相戒めて行くことにいたしたいと存ずる次第であります。以上を以ちまして私の賛成討論といたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/14
-
015・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) これにて討論の通告者の発言は全部終了いたしました。討論は終局したものと認めます。
これより本案の採決をいたします。本案全部を問題に供します。委員長の報告は修正議決報告でございます。委員長報告の通り修正議決することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/15
-
016・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 過半数と認めます。よつて本案は委員会修正通り議決せられました。
本日の議事日程はこれにて終了いたしました。次会の議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午前十一時十五分散会
—————・—————
○本日の会議に付した事件
一、議員の請暇
一、日程第一 財政法、会計法等の財政関係法律の一部を改正する等の法律案発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X01419520218/16
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。