1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十七年五月十四日(水曜日)
午前十時四十七分開議
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議事日程 第三十八号
昭和二十七年五月十四日
午前十時開議
第一 公共事業令の一部を改正する法律案(衆議院提出)(委員長報告)
第二 簡易生命保険險法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/0
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001・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 諸般の報告は朗読を省略いたします。
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/1
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002・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。
内閣総理大臣から留保されておる答弁をいたしたいとの申出がございました。この際発言を許します。吉田内閣総理大臣。
〔国務大臣吉田茂君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/2
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003・吉田茂
○国務大臣(吉田茂君) 私に対する質問で答弁の留保されたものに対してお答えをいたします。
兼岩議員の質問は、破壊活動防止法案の代りに戰争防止の法案を提出すべきではないかというお尋ねであつたそうでありますが、これは過日木村法務総裁から十分お答えをいたしてあるそうでありまして、又私からこれに対して特に附け加えるべきものはないと存じます。
木下議員から人事院の問題についてのお尋ねであつたそうでありますが、過日も政府委員からお答えをいたしました通り、政府としては、公務員の待遇につき、機構の上におきましても、将来ともに万全の措置を講じて参りたいと存じております。政府の考えております機構改革は、独立回復後において我が国の国力にふさわしい行政機構を整えるということを目的といたすものでありまして、御指摘のような問題は單に杞憂であろうかと存じます。
又破壊活動防止法案に関する木村法務総裁の説明に対して、山花君、岩木君、羽仁君、堀君及び須藤君から私への質問があつてこれに対するお答えは留保されてあつたそうでありますが、第一に、この破壊活動防止法案が憲法に違反するものではないかとのお尋ねであつたそうであります。この法案の立案に当りましては、嚴に憲法の定める枠内において必要な規定をすることに注意いたしたのであります。いずれの條項も憲法違反の個所はないと確信いたします。次に、この法律案の運用に際して拡張解釈により不当に国民の権利を侵害するがごとき虞れはないかとの質問でありますが、法案の対象とするところは、暴力主義的破壊活動を行なつた団体であつて、継続又は反覆して将来更に同様な活動を行う団体に限られており、運用上不当に拡大されることは考えられないところであります。第三に、本案が曾つての治安維持法と同様なものではないかというお尋ねであつたそうでありますが、本案は根本的に治安維持法と異なるものであります。その他の問題につきましては過日所管大臣からお答えをいたした通りであります。
メーデー当日の騒擾事件に関する重盛、兼岩両議員の質問に対してお答えをいたします。メーデー当日の騒擾は政府が皇居前広場を使用せしめなかつたことによつて惹起されたものであり、その責任を如何に処理するかとのお尋ねでありますが、先に所管大臣からお答えいたした通り、皇居前広場を清楚な場所として保つという政府の方針は不変であり、又騒擾を惹起した者については政府は法の示すところに従つて断固たる処置をとる方針であります。更に、行政協定の破棄、破壊活動防止法案の撤回の措置をとるべきではないかとのお尋ねであつたそうでありますが、政府としてはさような考えはいたしておりません。
吉田議員の質問の趣意は、政府は最近の事態に鑑みて平和的な民主主義政治を一擲して弾圧的専制政治を採用するものであるかという点であるそうでありますが、かねて明らかにいたしております通り、政府は日本国憲法の諸條項を厳格に遵守して、民主主義に基く公明正大な施策を遂行いたさんとするものであります。この政府のとつております施策を妨害し民主主義を破壊せんとするものに対しましては、政府の責任としてこれを排除することは勿論必要でありますが、そのために弾圧をするというようなことは断じてないことをここに確言いたします。
矢嶋議員の質問に対してお答えをいたしますが、矢嶋議員は先ず自衛力の増強と憲法第九條との関係についてのお尋ねであつたそうであります。この点については、すでにしばしば申しております通り、国内治安維持の能力を強化することは勿論でありますが、自衛のためにも戰力を保持することは憲法上認められていないとの政府の見解は不変でございます。その他のお尋ねについては、我が国の文化的向上についての御質問であつたそうでありますが、そのための施策については今後十分に努力して参りたいと考えております。
なお早稻田大学の事件については矢嶋議員及びその他の議員から質問がありましたが、それについては所管大臣からりお答えをいたした通りであります。(拍手)
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/3
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004・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 日程第一、公共事業令の一部を改正する法律案(衆議院提出)を議題といたします。
先ず委員長の報告を求めます。通商産業委員長竹中七郎君。
〔竹中七郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/4
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005・竹中七郎
○竹中七郎君 只今議題となりました公共事業令の一部を改正する法律案の委員会の審議の経過並びに結果について御報告いたします。
先ず本法律案の趣旨を申上げますと、本法律案は本年三月三十一日を以ていわゆる公納金を納付すべきものとされている期間が満了いたしますので、今後もこの公納金制度を存続しようとするものであります。公納金と申しますのは総動員法に基く昭和十六年勅令第八百三十二号配電統制令によりまして従来配電事業を公営しておりました地方公共団体が、その経営する配電事業の設備を当該地区の配電株式会社に対し出資又は譲渡させられたために、出費又は譲渡いたしました地方公共団体の出資又は譲渡後における財政上の影響を考慮し、同令第三十四條第一項の「配電會社ハ命令ノ定ムル所ニ依り其ノ成立ノ日ヨリ十年ヲ超エザル期間(中略)出資又ハ譲渡ヲ爲シタル者ニ封シ一定金額を支文拂フベシ。」と規定するところにより、当時の配電会社から、出資又は譲渡した地方公共団体に対し、その地方公共団体が毎年四月から翌年三月に至る一年間に出費又は譲渡して得た株式の配当金一対価の一部として受領した現金の利子、及び出資又は譲渡した電気設備又は事業について収納すべき公租公課の合計額が、統合前の昭和十五年度において電気供給事業のあげた利益金の九五%に達しないときに、これに達するまでの金額を納付せしめたのであります。而してこの納付すべき期間を十年と規定したのであります。この間、同條第二項におきまして「配電會社ニ封シテハ命令ノ定ムル所二依リ其ノ成立ノ日ヨリ十年ヲ起工ザル期間共ノ所得二封スル法人税ヲ軽減ス。」とあり、実質上は、会社が支拂うべき公納金は、法人税の減免措置により直接会社の負担とはならず、国家が補償していた形で、現在の電力会社に継承されて来ていたのであります。この十年の期限が本年三月三十一日を以て切れますので、本法律案は、衆議院の議員提出により、出資又は譲渡した地方公共団体に対するその出資又は譲渡にかかる電気供給事業設備又は事業の復元に関する立法措置がなされるまでの期間この制度を存続させようとするものであります。而して第三項法人税の減免措置は期間満了のままに放置されており、その結果、従来は法人税の軽減措置を通じて国家が負担していた公納金の支拂義務を新たに電力会社に負担せしめ、その期間は、電気設備を出資又は譲渡した地方公共団体に対し出資又は譲渡した施設又は事業の復元に関する立法措置が完了するまでとしようというのが本法律案の趣旨でございます。関係地方公共団体は四県十二都市ほか四十二カ町村に及んでおります。
本法律案の審議に当りましは、事の重要性に鑑み、審議に慎重を期し、証人喚問を決定し、利害関係人である地方公共団体及び電気事業者は勿論のこと、法令制定当時の関係官及び会計法学者、憲法学者等から、公納金制定当時の経過から見た本法律案の妥当性について意見を聴取いたしました。本法律案の態度決定につきましては、これらの人々の主張は極めて参考となりますので、その概要を簡単に申上げます。先ず地方公共団体として、配電統合は当時の非常事態として止むを得ざる暫定措置であつて第、七十六帝国議会における村田逓信大臣の、配電統合による地方公共団体の受ける財政的困難に対しては政府においても責任を痛感し、将来に対しても十分に考慮したい旨の発言から見ても、十年の期間は最大の意味ではなく、配電統合の実態の続く限りは公納金が地方公共団体に與えられるべきものであつて従つて復元の法的措置が完了するまで継続しようとする原案支持を強く要望されました。電気事業代表者からは、配電統合に当り、対価の支拂は完了しており、公納金制度は地方公共団体の財政に対する影響を除くために考慮された国の暫定的な補償制度である二とを根本理念としております。従つて十年を経過した今日、これを存続すべき理由はなく、まして復元などということは当時の状況から見ても全然考えられていなかつた。それを復元の立法措置がなされるまで従来の国家補償的形態から電力会社の負担に切換えて継続することは、明らかに憲法第二十九條財産権の侵害であり、更に本法律案が成立し、公納金がスライドされるならば、電気料金の値上げを来たす等の理由で、本法案に強く反対しているのであります。公納金制度制定当時の係官の発言によれば、「配電統制令は総動員法の委任勅令として、昭和十六年八月三十日公布、即日実施された。併しながら従来相当額の利益金を一般会計に繰入れていた地方公共団体に対する電気設備の統合については、その影響するところが大きく、大蔵省、内務省、逓信省等で数次に亘つて話合いが進められた結果、第一に、出資評価については当事者間の協議によること、及び認可基準の決定及びその個々の認可に当つては内務省に協議を要すること、第二に、出資後の地方公共団体の財政に悪影響を及ぼさないような措置を講ずることを了解して、公納金制度が生れた。併しながら対価の評価が両者の協議できめられた以上、公納金を電力会社に支拂わせるのは不穏当であるとし、法人税の免税で話が付き、全く政治的に決定された国家補償の性質を持つものである。十年と区切つたのは、地方公共団体の急激な財政上の悪影響を避けるために、時を稼ぐのが主眼であつたことは、当時の主税局長が総動員審議会で、できるだけ十年の間に適当な財源を求めるようにしたいと言明したことによつても明瞭である。」と証言している。又復元については、同じく総動員審議会の席上、山田逓信次官が、「多数の発電或いは配電軍位が割拠して存在する実情は、電力事業の技術の発達に照らし、国家的に見て極めて非能率、不経済でありまして、平時においても、電気主管当局として、この因襲的状態を是正し、経営状態を電力技術の発達に照応せしむべく不断の努力を拂つて来たのであります。」と述べているごとく、事業の統合は戰時中の期間に限るとの考えはなかつたとの証言でした。次に会計法学者太田哲三氏の証言によれば、「出資物件の評一価は、公正妥当な評価基準によつて所有権の移転が行われ、地方公共団体に対してのみ低位であつたということはない。この事情の下で公納金制度が定められたのは純然たる政治的考慮に基いたものであつて、定められた期限に当然消滅すべき性質のものである。又その内容は公納金と法人税減額とは不可分の関係にある。改正案によれば、その金額を会社に負担せしめるものであつて、当初の精神に反し、全く別個の性格のものと変化している。又期限を復元に関する立法措置がなされるまでの期間延長せしめんとすることは、制度制定の当時の事情から見て考えられないことである。」と証言しています。次いで東京大学法学部長官宮沢俊義氏は、主として本法を憲法学上から観察して違憲の疑いあるや否やについて証言を求められましたところ、「公納金は国家補償の性格のものであり、法人税の免税措置とは不可分のものである。然るに今回の改正案は、免税措置をやめ、電力会社にその負担を負わせるようになつているが、地方公共団体の財政の不足は、原則として、公債、事業収入その他非権力的な収入によるほかは、もつばら租税か国家の交付金といつたようなものによつて賄われるべきである。それを一電力会社に負担させることが可能であるためには、その地方公共団体と電力会社との間に何らかの反対給付の関係といつたような特殊な理由がなくてはならないと思われる。そういう理由がないのに、法律を以て電力会社に対して、特定の地方公共団体の財政保証の義務を課することは、憲法上何ら根拠なくして財産権を侵害することになるのではないか、即ち憲法第二十九條財産権保障の規定に違反するのではないかと思われる。この意味で、この度の改正は、憲法違反の疑いが相当強いのではないか。」との発言がありました。なお、復元の問題については、法律的に考察すれば、地方公共団体としては、これを要求する根拠はないと思われるとのことでした。その他関係官庁として、地方財政委員会よりは原案支持の強い要望がなされ、公益事業委員会としては原案反対の要望がそれぞれの見解を以て述べられました。
以上のような次第で、本法案に対して利害関係者である地方公共団体及び電気事業者の対立は勿論でありますが、所管官庁の地方財政委員会と公益事業委員会との間も対立を続けて証人喚問より最終質疑に至るまで遂に一致点を見出すことができなかつたのであります。それらの詳細は速記録に譲りますが、これを要約いたしますと、配電統制令第三十四峰第一項の公納金と同條第二項の法人税軽減措置との不可分性については、地方財政委員会及び地方公共団体以外の会計法学者、憲法学者その他の意見が全く一致し、逆に第一項の公納金のみを延長することは憲法第三十九條に違反するのではないかと証言されているのであります。又原案の延長期間である事業の復元についても、新たなる立法による場合は別として既往においてこれを肯定すべき根拠は見出されなかつたのであります。かくて討論に入りましたところ、結城委員より修正動議が提出されました。修正案の内容を大略御説明いたしますと、
第一点は、原案で配電統制令第三十四峰第一項の電気事業者の公納金納付義務のみを延長し、同條第二項の法人税軽減措置は期間満了による打切りに任せているのを改め、第一項、第二項の双方について延長を認めることであります。その理由とするところは、本法案審議の経過より見まして、原案につきましては、宮沢証人の証言にもありましたごとく、憲法第二十九條違反の疑いもあると認められるのであり、公納金制度を引続き存続させようとするならば、少くとも従前通り法人税の軽減措置を伴つたものとすることが妥当であると考えたからであります。
修正の第二つ点は、延長の期間を、原案の事業復元に関する立法措置がなされるまでの期間とあるを、十五年、即ち五年間延長することであります。期間の延長に関しては、これを否とする意見も傾聴すべきものがあるのでありますが、配電統合後の十年間は戦時及び戰後の混乱時代が打ち続き、その間において事業又は設備を統合された地方公共団体の財政的再建のできなかつたのを、延長期間内に最終的に整理せしめるための余裕を與えるという趣旨であります。従つて現状をそのまま継続せしめるという考えであり、又今回の期間延長がその期間を満了した後も更にこれが延長を予想するという考えは毛頭ないのであります。
なお、原案の復元の立法措置ということに対しては、公納金の納付期間をかような不確定な表現にて規定することは妥当でなく、復元の必要ありとすれば、これは別途の立法措置に待つべきものと考えるのであります。
修正の第三点は施行期日に関するものでありまして配電統制令第三十四條による期間満了後、この修正を施された改正法が施行されるまでの期間についても改正法の適用がある旨を念のため明らかにしたものであります。
討論を省略いたしまして直ちに修正案の採決に入りましたところ、全会一致を以て可決、次いで修正部分を除く原案を採決いたしましたところ、全会一致を以て可決、よつて本法案は全会一致を以て修正議決すべきものと決定いたしました次第であります。
以上御報告申上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/5
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006・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 別に御発言もなければ、これより採決をいたします。本案全部を問題に供します。委員長の報告は修正議決報告でございます。委員長報告の通り修正議決することに賛つ成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/6
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007・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て委員会修正通り議決せられました。正
—————・—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/7
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008・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 日程第二、簡易生命保険法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。先ず委員長の報告を求めます。郵政委員長岩崎正三郎君。
〔岩崎正三郎君登壇、拍手〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/8
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009・岩崎正三郎
○岩崎正三郎君 只今上程されました簡易生命保険法の一部を改正する法律案につきまして、郵政委員会における審議の経過並びにその結果を御報告申上げます。
先ず本法案提出の理由を申上げまするというと、最近における経済事情の推移に鑑みまして、保険金最高制限額を引上げることと共に、事務の簡素化を図るため、昭和二十一年九月三十日以前に締結された保険契約に対する保険料の取立を停止せんとするのがその趣旨になつております。
次に、この法律案の内容について簡単に申上げます。その第一は、今日の物価情勢に鑑みるというと、現行の保険金最高制限額の五万円を以てしましては、被保険者大衆の死亡後における遺族の生活安定又は老後における生計補足の機能を発揮するには到底不十分であるので、最高制限額を八万円に引上げようとするものであります。その第二は、先に昭和二十一年九月三十日以前に締結された少額の保険契約約六千六百万件を対象として事業合理化を推進するため、これら契約の積立金を引当てとして高額契約に乗換え得る制度を開設したのでありますが、すでにその大半について整理を終りましたので、この際、乗換制度を廃止し、残余の契約約千七百万件については、その一件平均保険料も月額一円三十八銭という少額でありますので、毎月集金する労を省くため保険料の集金を停止し、将来保険金等を支拂う際に未拂分を控除し得ることにしようとするものであります。
本法律案は去る一月二十五日内閣から提出され、当委員会に予備審査を付託されて以来慎重に審査を重ねたのであります。委員の質疑は主として保険金最高制限額の引上げ限度の妥当性に集中されたのであります。即ち原案の八万円を以て、果して簡易生命保険事業の目的たる国民大衆の経済生活の安定を図り、その福祉を増進することが可能であるか否か。戦前昭和九年乃至十一年当時の保険金最高限度は四百五十円であつたが、今日の物価指数に直せば十五万円内外になるから、仮に民間生命保険との調整を考慮しても、少くとも十万円程度とすべきではないか。簡易生命保険の保険金最高額は過去八回引上げられたが、引上げによつて民間生命保険の経営を困難に陷れたような事実がないばかりではなく、引上げ後における民間保険新契約は引上げ前よりもむしろ相当増加している実績に徴して十万円程度の引上げならば民間保険への影響論は殆んど杞憂に過ぎないのではないか等の質疑があり、これに対し、政府よりそれぞれ答弁がありましたが、その詳細は速記録により御了承を願いたいと存じます。
かくて質疑を終り、討論に入りましたところ、城委員から、施行期日を一カ月遅らせ各六月一日及び七月一日に修正する動議を提出すると共に、最高制限額については、いま少し増額を必要と認めるが、諸般の情勢から止むを得ず賛成する旨の意見が述べられ、その他各委員より、最高制限額は十万円乃至十五万円が適当であると認めるから、最も近き将来改正を期待する旨の希望條件を附して賛成の意見を述べられ、更に又駒井委員よりは、最高制限の八万円は不十分であるから、近き機会に改正を期待すると共に、この際、積立金運用復元の決議に対する政府の善処に信頼して一応賛成する旨の意見が述べられたのであります。
かくて討論を終了し、採決の結果、城委員の修正案は全会一致を以て可決せられ、次いで修正部分を除く原案についても全会一致を以て可決せられ、ここに本案の修正議決を見た次第であります。
以上御報告申上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/9
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010・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 本法案に対し討論の通告がございます。発言を許します。千葉信君。
〔千葉信君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/10
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011・千葉信
○千葉信君 私は労農党を代表して本法律案に反対いたします。反対する理由は、本法律案の内容をなしておりまする簡易保険の最高制限額が八万円では少な過ぎるものであつて、この程度の改正では甚だしく現状において不適当であるからであります。御承知のごとく簡易保險は、その契約数、その金額、その規模において、今や社会保障制度の一環として何人もこれを大きく評価せざるを得ない事業でございます。而も政府事業として後進国日本が世界にも比を見ない発展を遂げんとしていることは、社会保障制度の貧弱な日本においてたつた一つの誇り得べき事業なのであります。従つて我々は、この事業をして、真に合理的に、真に社会保障制度たるの実体を具備することについては、熾烈な希望を表明せざるを得ないのであります。その意味からは八万円では余りにも少な過ぎる。戦前の制限額を今日の物価高において引直すには、只今の委員長報告にもありました通り、少くとも十五万円を下るものであつてはならないものであることは、何人も否定し得ないところであります。又この程度の、十五万円程度の引上げにいたしましても、なお且つ十分とは言い得ない。例えば養老保険における老後の生活安定、被保険者の死亡後における遺族の生活の保証等に果して貢献し得る金額であると言えましようか。それが八万円というのでは余りにも少な過ぎる。この改正は、折角の改正でありながら、その意義を喪失していると言つても過言ではないのであります。これに対し政府並びにこれに賛同する人々の意見は、民間保険への圧迫を恐れ、それとの競合を回避するために八万円を主張されるのでありまするが、これは全くいわれなき理由であります。過去の八回に及ぶ簡易保険制限額の引上げがこれを立証しております。引上げによつて民間保険が経営困難に陷つた事実もないことは、実績がこれを証明し、いろいろな統計の数字も又これを裏書きしているのであります。それにもかかわらず、簡易保険の金額を八万円以上にすると民間保険が脅威を受けるというのはなぜであろうか。民間保険がその経営に脅威を受けるとすれば、それは民間保険自体に欠陷が内在するからであります。私はこの際はその事実についてこれを詳述することを特に省きますけれども、この自己の欠陷を棚に上げて、政府事業なるが故に同一條件であつてはならないとして、民間業者諸君が騒然簡保の最高制限額引上げに反対したり、政府又これを庇護したりする態度は、実に不可解と言わざるを得ないのであります。而も現に民間保険におきましては無審査を以て三十万円までの契約を取つている現状であります。同じ審査なしの保険契約において、民間は三十万円までが可能であり、簡易生命保険は八万円以上であつてはならないという理由が、一体どこにあるか。余りにも金持本位、資本家本位、金権者流の政治だと言わざるを得ないのであります。
衆議院において本法案審議に三カ月以上も費したのは、十万円以上に修正すべきか、政府原案の通り八万円とすべきかについて問題があつたのでありまするが、八万円の政府原案を通過せしめたのは、先に本院及び衆議院が全会一致を以て可決した簡易保険積立金の運用を郵政省に復元することの含みがあつたためであると伝えられているのであります。又本院の郵政委員会におきましても、只今委員長の報告にありました通り、同様の考慮の下に止むを得ず近き将来に十万円以上にするとの希望を附して可決せられているのであります。併しながら積立金運用の復元の問題とこの最高制限額の問題とは、混同され、取引され、交換條件とせらるべき性質のものでは断じてないのであります。尤も運用権の復元をめぐつて、大蔵官僚の煽動に踊る一部の人々が、殊更に国会の決議を無視して、国家資金の一元的統制を紊るものであるとか、金融政策上混乱を招来する虞れありなどと、あられもない的外れの非難を浴びせておる者もあるようだが、事実はいささかも大蔵省の国家資金運用上の大綱に変更を加えるものではないのであります。ただ單に貸付ける場合の窓口を事業経営主体たる郵政省にして欲しいという程度のものでありまして、それなくしては事業の生成発展を期し得られないからという、極めて謙虚な主張なのであります。それ故にこそ本院の両三回に及ぶ決議があつたのでありまして、むしろ政府が荏苒今日に及ぶことなく、つとに復元の措置を講ずべきであつたはずのものであります。この復元の問題のために保険金額の改正が影響せられ、当然あるべき国民大衆の希望する金額を遥かに下廻つて決定さるべき理由は毛頭ないのであります。若し、伝え聞くがごとく、八万円を十万円にするとか十五万円にするとかいう與党議員多数の希望意見が、吉田総裁の一喝に会つて、一たまりもなく恐れ入つたということが事実であるとするならば、まさしくこれは民主主義以前、東條以前、二十世紀以前の存在だと言わなければなりません。
私は本法案に反対いたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/11
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012・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) これにて討論の通告者の発言は終了いたしました。討論は終局したものと認めます。
これより本案の採決をいたします。本案全部を問題に供します。委員長の報告は修正議決報告でございます。委員長報告の通り修正議決することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/12
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013・佐藤尚武
○議長(佐藤尚武君) 過半数と認めます。よつて本案は委員会修正通り議決せられました。
本日の議事日程はこれにて終了いたしました。次会の議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午前十一時二十八分散会
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○本日の会議に付した事件
一、日程第一 公共事業令の一部を改正する法律案
一、日程第二 簡易生命保険法の一部を改正する法律案発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101315254X03919520514/13
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