1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十七年十二月十三日(土曜日)
午前十一時三十六分開議
出席委員
委員長 逢澤 寛君
理事 尾崎 末吉君 理事 關谷 勝利君
理事 田原 春次君 理事 正木 清君
荒舩清十郎君 岡田 五郎君
菅家 喜六君 佐々木秀世君
玉置 信一君 徳安 實藏君
中野 武雄君 永田 良吉君
松岡 俊三君 山崎 岩男君
山田 彌一君 伊東 岩男君
臼井 莊一君 河本 敏夫君
松浦周太郎君 吉川 大介君
熊本 虎三君 竹谷源太郎君
楯 兼次郎君 松原喜之次君
武知 勇記君
出席国務大臣
運 輸 大 臣 石井光次郎君
出席政府委員
運輸事務官
(鉄道監督局
長) 植田 純一君
委員外の出席者
日本国有鉄道総
裁 長崎惣之助君
専 門 員 岩村 勝君
専 門 員 堤 正威君
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十二月十三日
委員佐々木秀世君辞任につき、その補欠として
荒舩清十郎君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員荒舩清十郎君辞任につき、その補欠として
佐々木秀世君が議長の指名で委員に選任された。
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本日の会議に付した事件
国有鉄道運賃法の一部を改正する法律案(内閣
提出、第一五号)
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001・逢澤寛
○逢澤委員長 これより開会いたします。
国有鉄道運賃法の一部を改正する法律案を議題といたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/1
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002・田原春次
○田原委員 議事進行について——委員外の方が委員席についておるようですが、これはどういうことになつておりますか、調べてもらいたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/2
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003・逢澤寛
○逢澤委員長 暫時休憩いたします。
午前十一時四十二分休憩
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午後二時十九分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/3
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004・逢澤寛
○逢澤委員長 休憩前に引続き、会議を開きます。
これより討論に入ります。通告がありますので、これを許します。河本君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/4
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005・河本敏夫
○河本委員 私は改進党を代表し、今回の運賃値上げ法案に反対をするものであります。
その反対理由の第一は、運賃の値上げが経済の再建に重大なる脅威を与えることにあります。すなわち昨年の十一月貨物三割、旅客二割五分の値上げに引続き行われる今回の運賃引上げは、約一割、すなわち年間約二百十五億の増収を計画しておりますがゆえに、実質は一割以上の値上げとなり、かつ、同時に貨物の等級制度の改正をもあわせ企図するがゆえに、主要物質の中には、実際上の運賃値上げが三割ないし六割に達するものが多いのであります。かくては産業界に対する影響も甚大なるものがあり、当然それが諸物価の値上りを惹起することが予想せられるのであります。
さらにまた、現在の国民生活の水準は、全国平均九二%に回復しておりますが、都市においては逆に低下気味であつて、最近は八〇%を割つておるのであります。従つて今回の値上げは、特に都市の勤労生活者に対する影響は甚大なるものがあり、その生活に重大なる脅威を与えるものといわなければなりません。わが国当面の経済政策の根本は、現行為替レートの線に沿つて、物価の安定をはかることに置かなければならぬことは当然であります。このために国際物価水準より二、三割も高いわが国の物価を、設備の近代化、企業の合理化、一部産業に対する国家の補助政策、あるいは二重価格制度を採用することによつて引下げるべく全努力を傾けなければならぬのであります。かかる観点より、われわれは大幅の減税、主食の二重価格制度による消費者価格のすえ置きを強く主張すると同時に、今回の運賃値上げに対し、根本的に反対の意見を有するものであります。
反対理由の第二点は、国鉄運賃の一般物価水準よりも低位にあることは、当然の理由に基くということであります。すなわち、政府は今回の値上げの基本的な理由として、昭和十一年の物価に比べ、一般物価は三百二十倍であるにかかわらず、国鉄運賃中、旅客は約百十倍、貨物は約百六十倍で著しく低いことをあげておられますが、われわれの考えによれば、国鉄運賃が安いリは、昭和二十四年五月国鉄が発足したとき、政府が国鉄の全資産を、当時の簿価約八百億というきわめて安い価格で出資したことに、根本の理由があるのであります。もし、現在新たに建設するものとすれば、実に二兆一千二円億を必要とし、これを復成価格で計算しても、一兆八十億余に達するのでのります。従つて、政府が時価で出資しおれば、その運賃も、当然一般物価と同程度に、あるいはそれ以上にも達しておつたはずであります。運賃騰貴半の低い根本の理由はここにあるので、政府のいう理由は、その根本を忘れた暴論といわなければならないのであります。
第三の理由は、工事費は、原則としし借入金または建設公債によるべきで、一般収益よりは、余裕があつたとさまわすべきであると確信いたしております。すなわち国鉄の本年度工事勘定は約四百三十億でありますが、これか財源を政府借入金百三十億と一般収血約三百億に求めておられます。一般収益約三百億は、償却三十七億と、特別補充取替費二百六十七億にわかれているが、このうち特別補充取替費も、美質上の償却であることは、国鉄の説明から明らかであります。三十七億の償却費を計上することは、現在の簿価より当然でありますが、資産再評価をやつておらない国鉄が、資産再評価をしたものと仮定し、その仮定から、二日六十七億という償却を計上することは、名目は別になつておつても、企業の経理原則上、まつたく納得が行かないのであります。一つの仮定をつくり、その仮定から国民負担を重くするよううな運賃値上げを実施せんとする政府の態度は、われわれの断じて承服しがたいところであります。かりに一歩を譲つて、再評価が実施せられておるものとしても、国鉄のように著しく公共性の強い場合は、償却年限内に償却を完了すればよいのであつて、すなわち経済が再建せられ、国民生活が安定したときに大幅の償却をやり、現在のとき経済が再建途上にあり、国民生活水準の低いときは、その償却は最小限度にとどむべきものであります。国鉄運賃法に、運賃の原価計算に関し明確に規定せず、幅を持たせてあるのもまたこのためであると確信するのであります。従つて、特別補充取替費のここき仮定の上から計算した償却は、これを工事勘定に充当すべきものではなく、営業費の不足する国鉄の現状からは、これをまず営業費の方にまわすべきであります。本年度はこの特別補充取替費二百六十七億より約百億これに充当すれば、運賃値上げをしないで、しかも国鉄裁定を八月一日に遡及して完全に実施し得るはずであります。これによつて生ずる新規工事勘定の不足は、その財源を鉄道建設公債または政府借入金に求むべきであります。本月八日政府の発表によれば、資金運用部貸金を別にして、約二千八百二十七億円の財政蓄積資金があり、しかもこのうち約千九百億はインヴエントリー・フアイナンスによる蓄積であります。従つて、借入れ財源がないという運輸省並びに国鉄の言は、まつたく虚構であつて、われわれは運輸当局の政治力の貧困を、安易な運賃値上げによる国民負担の増加に求めておるものと断ぜざるを得ないのであります。
さらに、この際一言強調しておきたいことは、国鉄の経理を詳細検討いたしまするとき、なお各種増収対策により、収入の増加をはかり得る道が相当あります。また企業合理化によつて、経費の節減をはかり得る余地も存することを幾多発見するのであります。従つて、かかる面においても、今後一段の努力をすべきである。かくてこそ、初めて国鉄の公共性と独立採算制の調和を保ち得るものと確信するのであります。呈三つの理由により、われわれは今回の国鉄運賃値上げに反対せんとするものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/5
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006・逢澤寛
○逢澤委員長 次に關谷君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/6
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007・關谷勝利
○關谷委員 私は自由党を代表いたしまして、この運賃値上げに賛成の討論をいたすものであります。独立採算制を堅持しております国有鉄道が、ベース・アップあるいは石炭の価格の高騰等によつて生じますところの赤字を補填するための最小限度の値上げをいたしますることは、当然であつてやむを得ないことであります。この運賃の値上げが、経済上に及ぼす影響が非常に多いということで、もとより運賃値上げをせずして済むものでありましたならば、それに越したことはないのでありますが、ただいま申し上げましたようなベース・アツプあるいは石炭代の高騰による赤字補填のためでありますので、これは石井運輸大臣も説明をせられておりましたように、必要最小限度にとどめておるのでありまして、私たちといたしましては、やむを得ざる値上げであると考えておるのであります。
一方においては野党の諸君は、べース・アツプはしなければならぬということを強調いたしながら、もしこの運賃値上げをしないということになつて参りますると、ベース・アツプもできないという結果になつて来るのであります。一方にベース・アップを叫びながら、一方に運賃値上げに反対するがごときは、その矛盾もはなはだしいと申さなければならないのでありまして、私たちは当然値上げをすべきものであると考えておるのであります。
なおまた、ベース・アツプあるいはその他の石炭代等の高騰によります赤字を、値上げによらずして、一般会計からこれを繰入れろというような御意見がありますが、一般会計にはいろいろの施策等がありまして、なかなかそのような財源がないということは、先般の大蔵当局の説明によつて明らかなことでありまして、他に繰入れるべき財源が豊富にあるという議論には、賛成をいたしかねるものであります。
なおまた、一説に、過去の荒廃を現在の利用者によつて負担せしめることは適当でない。しかるがゆえに、一応これを借入金によつてまかなう、そうして将来これを払つて行くべきである、こういうふうな議論もあるのでありますが、一般会計からすべてのものを求めるというようなことになつて参りますと、国鉄の堅持いたしております独立採算制というものは、くずれて参るのであります。なおまた、過去の荒廃を現在において負担すべきものではない、こういうことになつて参りますと、これは本年のみでやろうというのではないのであります。これを五箇年あるいは十箇年に復旧をいたしまして、二十箇年に払おうというのでありまして、これは当然現在におきましてもその負担を受くべきものであります。もし、このような議論をするのでありましたならば、戦犯者あるいは追放者等のあやまちによつてやりそこなつた日本の再建というものは、現在の人間が負うべきでないというような議論も出て来るのでありまして、もつてのほかといわなければならないのであります。
なおまた、いろいろと公共性の面から、運賃を値上げすべからずということで、すべてを運賃にしわ寄せをいたしておりますことは、国鉄当局といたしましては迷惑のことであろうと、私たちは考えるのであります。公共性を十分に認めておつて、あの程度の運賃にとどめておるのでありまして、なおこの上に公共性のゆえをもつて、運賃を引下げて行こう、あるいは値上げをしないというようなことに対しましては、私たちは賛意を表しかねるのであります。
なおまた、原価を割つてはならないというにもかかわらず、輸送原価を割つておるものが三百三十億あるではないか、これは公共性からするものは一般会計で負担すべきものである、こういうふうに言つておりますけれども、これは国鉄の実情を知らないものでありまして、そういうふうな運賃原価を割るものがありますがゆえに、国鉄におきましては、固定資産税あるいは事業税というようなものは、免除をせられておるのでありまして、かりに一般の企業と同じような議論をするのでありましたならば、これらの税金等が加えられて、さらに運賃が上つて来るというようなことも考えなければならぬのであります。このような議論をいたしますのは、国鉄のほんとうの姿を御存じない方の言われる議論であつて、私たちといたしましては、これに対して賛意を表しかねるものであります。
なおまた、現在野党の方々からも御希望がありまして、日本国有鉄道法を改正したらどうかというお話があるのであります。私たちもそれに対しましてはまことにごもつともである、そういう方向をたどらなければならないと考えておるのでありますが、その根拠となりますところは、国鉄の独立採算を強制する以上、国鉄の自主性を認めるということで、国鉄の自主性ということが独立採算というところから出て来ておるのであります。もしも独立採算を堅持せずして、あらゆるものはことごとく一般会計から繰入れろ、余つたものはこれをまた一般会計へ返還しろというようなことになるのでありましたならば、いつまでたちましても国鉄の自主性は望み得ないのであります。このような観点から、新線建設あるいは電化等の問題は、別途でありまして、新しい投資でありますので、これは当然鉄道公債あるいは借入金等の方法によつて、しかもこれが利子のない金でやつて行くべきものであるということにつきましては、私は賛意を表するものでありますが、この日本国有鉄道法をまさに改正しようという議論をなさる方におきまして、すべてを一般会計からの繰入れによれと言われることは、国有鉄道法の改正を一方で叫びながら、改正の根拠をみずからくつがえして行く、こういうことになつて行くのでありまして、趣旨が一貫しておらないと私は考えておるのであります。
なおまた特別補充取替費その他の工事勘定は、一般会計で持つべきもので、再評価がしてないのだから、これは資産増加と同じ形になるという御意見もありました。資産増加、出資というような形になるのであるから、これは一般会計からまかなうものであるという議論をせられるのでありますが、先ほど河本議員も、仮定のもとにという話がありましたけれども、単なる手続上の問題のみを基礎といたしまして、国有鉄道の現実を離れた運賃値上げに反対をすること、これはまさしく仮定以上のものがあると私は考えるのであります。現在の国有鉄道の実際の状態、手続上の問題等を論議いたしまして、復旧が遅れるというようなことは、とうてい許されないことであるのでありまして、私は単なる再評価という一片の形式にとらわれて、現実を無視して運賃値上げに反対するがごときは、当を得ざるものであると考えておるものであります。
なおまた、参考人数名の方々を呼んで、いろいろと意見を聞かれておりますけれども、そのほとんど大部分の人が、運賃値上げはやむを得ない、こういうことになつておりますので、輿論という点から申しましても、私はこの運賃値上げに対しましては、決して反対でない、かように考えておるのであります。
なおまた今回の運賃値上げが、たまたま時を同じくして等級改正と相重なつておりますがゆえに、この値上りが何割になるということに相なつておりますけれども、運賃値上げと等級改正は画然と分離せらるべきものであります。なおまた、等級改正の面からいうと、従来の不均衡を是正いたしたのでありまして、これを本来の姿にまでもどすというのが、等級審議会の答申案になつておるのであります。従来の経済状態になぞんでおるというようなことで、その間の便法といたしましては、割引その他をもつて急激な変化を避けようとする当局の苦労も、ここにあるのであろうと私たちは存じまして、この等級改正によりますところの議論を、運賃値上げと同時にして考えるということは、私はこれは混同をいたしておるというふうな考えを持つておるのであります。従来きわめて安かつたところの、引下げられておつたところのこの産業というものは、他の産業の犠牲において非常な恩恵を受けておつたのでありまして、負担し得るような場合になつたならば、なるべく他の産業の犠牲によらずして行つて行くのが当然であろうと、私たちは考えておるのであります。
なおまた遠距離につきましては、一例をあげますと、北海道とか鹿児島というふうなところにおいては、遠距離逓減を用いておりますが、さらにその上に割引の制度を利用いたしまして、それによつてでき得る限り負担を軽くしようということは、しばしば当局も答弁をいたしておるところでありまして、青函連絡等の実キロと営業キロとに非常な差があるということにつきましても、このような割引等で緩和して行こうというふうなことで、一般の利用者に対して、はなはだしい負担を避けようといたしておりますことは、各委員もよく御承知の通りであります。そのように、遠距離等につきましても、いろいろ考慮を加えられておるのでありまして、今回の一割値上げが不当であるというふうなことは考えられないのであります。
さらに勤労大衆に及ぼす影響というふうなことから、世界に類例のない定期割引券の割引率もそのまますえ置くいうふうなことをいたしておるのでありまして、公共性、勤労大衆への影響というふうな面につきましても、よく考慮を加えられての今回の運賃値上げでありますので、私たちはこうも反対する理由なしといたしまして、賛成の討論を終えます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/7
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008・逢澤寛
○逢澤委員長 熊本虎三君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/8
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009・熊本虎三
○熊本委員 私は日本社会党を代表いたしまして、残念ながらこの案に反対の意見を述べたいと存じます。
先ほど關谷委員からいろいろと御意見が述べられましたが、これは国鉄の社会性、いわゆる公共性というものを非常に軽視されておる議論だと考えます。私どもは、まず第一に国鉄の性格を十分認識して、その上に立つて今度の値上げ問題に論及しなければならない、かように考えておるわけであります。あらためて言うまでもなく、国鉄企業というものが、一には国家の産業開発のために、進んでは国民生活の安定のために、さらに国民文化向上のための機関であるということは、何人もいなめない事実であろうと考えるのであります。従つて、この企業はあくまでも国家的見地に立脚した経営、運営の方法が樹立されなければならないと確信いたすものでございます。それだからこそ、三百線区の八〇%に当る二百六十線区が赤字の経営であるにもかかわらず、終日、しかも熱心なる努力を続けて、これが経営、運営をされておる事実があるのであります。さらに新線開発につきましても、これが建設費の回収等々は何年後に達成され得るか、何十年後になつたならば採算がとれるかいなやという見通しは明確でないにもかかわりませず、本年度の予算におきましても、百二十五億という費用を計上して新線開発のために目下工事着手中である。このことは、現在工事着手の実行線に至つておらない、いまだ予定線のままに放置されておるものも、でき得る限り早く着工して実行線に繰入るべきであるという情熱をわれわれは持つておるのでありますが、これらの観点からいたしましても、これが国家的、社会的、すなわち公共性の重要なるがためであるということを見のがしてはなりません。従つて、これらの建設費につきましては、当然国の責任においてまかなうべき方針が樹立されてしかるべきと考え、これを原則としなければならないと確信いたすものでございます。特に戦争の被害及び戦時中の国家財政の窮迫からして、保守、改善等を放置された結果、補充、改編のため緊急に要する費用として一千五百六十億を見積られておるのである。耐用年数を越えたものは約四千億と称されておるの七ありますが、かようなものは、要するに当時の国家で当然負担をなし、これを改修すべき責任があつたにもかかわらず、これがなされておらないという事実であります。従つて、これらの問題から考えましても、終戦後の二十年から二十四年までの五箇年間におきまして、国庫支弁五百億に対して自己支弁はわずかに十八億というこの経営、運営の実態こそが、雄弁にこれを物語つておるといわなければなりません。これが二十五年に公社に切りかえられることによりまして、一切のいわば国家的負債ともいうべきものを、現在の国鉄経営に肩がわりしておるという事実であつて、そのままこれを一般経営費から支弁せしめるというがごときことは、不都合千万と断ぜざるを得ないのでございます。なお現在計画中の電化区間に対しましても、実行に移さんとするもののみによる予算を見ても、六百三十二億という数字が出ておるのでございます。従いまして、たとえて言いますならば、新線工事費、補充取替費及び電化に要するところの現在進行中のものの予算総額をもつていたしましても、二千三百十七億というものが見積られておるわけであります。かような状態の中で今後国鉄がいかにして運営するかは、神ならぬお互いの能力をもつてしては、とうてい楽観を許さざる現状にあるといわなければなりません。従つて私どもは、従来国家の責任においてなし来つたこの国家的、社会的公共性を有する国鉄の運営につきましては、将来といえども、以上申し上げましたような事由に基いて、国家は重大なる責任を持つてこれに対するところの協力態勢を整えなければならない、かように考えざるを得ないのでございます。
さらに、本年度の当初予算を見まするならば、修理費に対しまして五百四十九億円、償却費に対しまして三十七億円、特別補充取替費に対しまして二百六十六億円、合計いたしまして八百五十三億円という数字に相なつておるのでございます。今年度損益勘定予算の収入総額二千九十一億円に対しましてこの八百五十三億円は、優に四二%に相なるのであります。これらの修繕及び取替等に要しまする人件費を含めますならば、まさに総収入の五〇%を突破するといわなければなりません。かくのごとき経理予算の運営が、一体他のいかなる経営にあるでありましようか。おそらくかくのごとき困難にして無謀なる経営内容というものは、他に類例がなきものと断ぜなければならない。従つて、かような不健全なる経営をもつて独立採算制のみに比重を置いて、運賃値上げというこれら受益者にのみ負担をかけようとするがごときは、まことに不都合千万であり、重大なる問題であるといわなければならない。従つて、政府は当然国鉄自体の性格と、経営の現状とを十分考究いたしまして、そうしてこれらを一般会計等より責任を持つて支弁し、もつて不当なる運賃値上げによつて補填をさせようとすることは、改めてもらわなければならないど考えておる次第でございます。しかるに政府は、この動かすべからざる原則を無視し、さらに戦争中における負債ともいうべき復元費の問題等を、国鉄の独立採算制にこれを転嫁しててんとして恥じない。簡単にして責任を回避することのできる運賃値上げにこれをまとうとすることは、断じてわれわれの賛成せざるところといわなければなりません。もちろん、われわれといたしましても、いかに公共企業体でありましても、最終の希望といたしましては、健全なる、しかも公平なる受益者の負担による独立採算制へ到達することについて、基本的に反対をするものではない。国鉄の現状はそうしたような甘い一般的な問題とは、その基本において相違があるのでありますから、この際におきましては、どうしても政府の責任というものを回避してはならない、かように考えておる次第でございます。
なお、いま一つ申し上げておまたいことは、公共事業の受益者負担によるところの独立採算制という基本的な問題でございます。もし二十七年度の経営予算のようなものを、そのまま現実に受益者に負担せしめて行くということになりますならば、それは公平なる意味における受益者の負担を超越して、不当となるということを考えなければならない。第一には、国鉄公社になる以前の国家の負債を背負わされ、将来の日本の開発のための投資であります新線あるいは電化の費用を、現在の受益者が負担をさせられることになるのでありますから、これは公平なる受益者負担とはいえないのであります。
なお今度の値上げの一つの要因といたしまして、国鉄従業員のベース・アツプに関する問題が、その原因の一つのごとく言われておりますことは、はなはだ私どもの遺憾とするところであります。裁定に基くベース・アツプは、現在の国鉄従業員諸君の上げて参りました努力、すなわち一般産業がようやくにして戦前の二二〇%に到達したといつて喜んでおりますけれども、しかし国鉄の能率上昇の比率は、すでに皆さん御承知の通りに、旅客に対しましては三四二という数・字が現われ、貨物輸送につきましてもすでに一九〇という、他の産業に類例なき上昇率を示しておる。しかも、これに対する賃金の問題は、他の産業に比較して非常に低位にあるという観点からいたしまして、遅きに失するものである。特に裁定に基きますベースといえども、とうてい従業員諸君が喜んで満足すべきものではないと私は確信するのでありますが、それは今日の国鉄経営に関する従業員諸君の厚きしんしやくの点が、裁定でがまんしようとしているにすぎない。従つて、これらは当然国鉄が、あるいは国家が保障してベース・アツプすべきであるのでありまして、これが運賃値上げの、要因としてその責任を負わされることは、断じて不都合であるといわなければなりません。従いまして、私どもは、かような意味における運賃の改訂につきましては、その理由の一つといたしましても、断じて承服はできない次第でございます。要するに、運賃値上げの要因となるべきものは、今回の裁定に基くベース・アツプによるものにあらずして、先ほど来、るる述べましたところの、国家がなすべき義務を果さずして、独立採算制という名目によるところの責任転嫁が、すなわち運賃値上げの原因をなしておるということを断言してはばからないのでございます。
なお、今回の運賃値上げは、ようやくにして日本の物価が横ばいの状態をたどつて安定しようとしておるのでありますが、いやしくも公社の経営する鉄道運賃の値上げというようなことがここに行われますならば、それが一般物価に及ぼす影響は、まことに甚大であるといわなければばなりません。従いまして、われわれとしましては、単に他の理由がないといたしましても、公社のような公共的な運賃の値上げというものは、十分しんしやくしなければならない。先ほどの關谷君のお話によりますれば、参考人の意見によつても、大体は賛成であると言われましたが、私の聞くところによりますならば、高橋教授は、原則としてやむを得ないということをお認めになつた。しかし、他の参考人のことごとくは、みずからの関係する運賃に対しては上げてはならない、やむを得ない運賃値上げがあつても、これには影響があつてはならないということを主張されたのでありまして、これが運賃値上げの原則的賛成にはならないのであります。要するに、自分の関係する運賃値上げは反対であり、他はかまわないということであれば、ごとごとくが運賃値上げ反対という結論になるのであつて、これは關谷君の大いなる感違いであろうと考えます。
なお、今度の運賃値上げは、勤労階級あるいは農村の農民諸君に影響を及ぼすところの過重なる値上げである。そしてこれらの問題がそのまま行われますれば、ただちにこれらの勤労階級諸君の賃金問題と錯綜して参るのであつて、これがまた労働運動に対しても大きな刺激を与えずにはおかない。このような状態をながめまして、私どもは、せつかくの物価の安定のときであるから、こいねがわくは物価をこの程度に押えて、金額的にはより低い価格をもつてわれわれの生活が安定することこそが望ましいのである。この際にあたり、逆に国鉄自体が先端を切つて再び物価の値上りを誘発するがごときことは、断じてとつてはならない、かように考えまして、これも重大なる反対の理由であることを御了承願つておきたいと存じます。
以上のような理由によりまして、わが党といたしましては、あくまでも今回の運賃値上げは絶対反対を主張するものでございます。政府は、この際の追加予算にあたり、いわゆる財政余裕金その他の方法をもちまして、今回の国鉄の運賃値上げによらなければならない不足分を、国家の責任において支弁すべきであるということを強く主張いたしたいのでございます。なお国鉄自体といたしましては、国家治安の責任を有する公安官の国家警察等への予算の組みかえ、さらに鉄道用地の賃借料改訂あるいは高架線下の使用料の社会的な点への引上げ、あるいは不用不急の土地建物等の処分、進んでは死蔵物の処分等によりまして、数十億円の増収をはかり得ると考えておるのでありますから、これらの経営の合理化とともに、ますます経営の健全化のために留意さるべきであろうことを申し添えまして、以上の理由により、この際の運賃値上げ絶対反対を主張しまして、私の討論を打切りたいと存じます。(拍子)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/9
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010・逢澤寛
○逢澤委員長 次に永田良吉君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/10
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011・永田良吉
○永田(良)委員 さきにわが党を代表して關谷君が詳しく賛成の意を表されましたが、私もつけ加えて本案に賛成の意を表明したいと思うのであります。
その前に、私どもは長くいなかにおつた関係上、こういう法案等については、たいへん認識が薄かつた。法案が上程されて以来、各委員の方が熱心に御質問をなさり、また当局としても詳細にわたつて説明があつたのであります。われわれはその質疑応答の間露ける両方のまことに真剣な態度について、心からある意味の喜びと感謝を持つている一人でありますが、この法案がいよいよ最後の決定を見んとするにあたつて、今まで私どもが数日にわたつて討議した間に、私のごときまずい者が、誤つて委員長初め委員の皆様に御迷惑をかけた点も多々あつたろうと思つております。なお当局に対しても、熱心に質問した余り、申し上げた言辞においても、多少誤解を招いた点もありはせぬかと思うので、その点をここに釈明をしておきます。
私が当局に対して質問する際に、大隅地方の鉄道の現状について、こんなことを言つたように記憶しております。あの地方の駅員なんかは、冬の寒いときに、ストーブにあたつて碁を打つている。これはものの聞きようによつては、いかにも鉄道当局が怠慢で、遊んでいる、ふらちだというように、何人も解釈しはせぬかと思う。そのように解釈されては、私はたいへん困る。私の申し上げたのは、そういう意味ではありません。私は終戦当時から現在まで大隅地方にいて、鉄道に従事している諸君が非常に真剣にやられていることは、よく目撃して知つております。心から感謝している。たまに列車とバスの衝突などの事故があつて、いろいろ言われているが、大体鉄道当局がまじめであつたことは知つている。決して怠慢という意味ではなかつた、私の地方では、戦前にはガソリン・カーと普通の蒸気機関車と両方運転して、一日に十一回走つていた。それが戦後には五回に減つてしまつた。だから都城から志布志を経て鹿屋市に来る聞においては発着時間の待合せが三、四時間もある。だから寒いときにはストーブにあたり、碁を打つことは当然であると思う。さようなわけですから、誤解のないようにお願いいたします。
さて、今回の国鉄運賃の改正は、石炭並びに電力料金の値上り等による経費の増加並びに仲裁裁定による国鉄職員の給与ベースの改訂から生じた国鉄財政の不均衡を救わんがための処置であつて、これは当然事情やむを得ないものと認めなければならぬと思うのであります。当初、国鉄の方は三割の値上げを考えていたのであるが、わが国の産業経済並びに国民生活等に及ぼす影響等から考えて、総体としてまず一割程度の増収ということで、そのようになつた葦と、われわれは解釈したのであります。国鉄経営の健全化、運輸の確保等のために、このたび値上げをされたのであつて、これはやむを得ない処置と思うのであります。
国鉄が正確に、また安全、迅速なる列車の運転を期して、国民経済に寄与せんとせられることは、事新しく私が申し上げるまでもなく、皆さん御承知の通りであります。これがためには人と資材と施設とが基礎をなすものであることは、昨日の本委員会においても、野党の方が更せられて、いろいろ質問があつたのでありますが、その際国鉄総裁からもいろいろ御説明があつたことは、皆さん御記憶の通りである。特に人に関する問題は、その中でも重大ではないかと思うのです。かりに他の條件が完備しておるといたしましても、これを動かし、これを利用する人の問題が最も大事であります。今回の運賃改正の及ぼす影響は、まずまず比較的軽微であると言われております。しかも職員の処遇に重点が置かれておると思うのであります。私は、今回の改正が、資材とか施設の改善に資するという点においても、また重要であると思うのでありますが、特に職員の待遇改善に関連する点に思いをいたすときには、わが国の産業経済の動脈である国鉄の運営を円滑ならしめるためにも、どうしても今回の値上げのごときはやむを得なかつた処置であるとわれわれは認めまして、あくまで本法律案に賛成する次第であります。(拍手)
先ほど、よけいなことを申し上げまして失礼いたしました。お許しください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/11
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012・逢澤寛
○逢澤委員長 次に松原君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/12
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013・松原喜之次
○松原委員 私はただいま議題と相なつております国有鉄道運賃改訂案に対して、日本社会党を代表して反対をいたすものであります。
独立採算制を建前とする企業であるところの国鉄が、その健全なる企業経営の立場から、最初三割の値上げを計画立案したことは、一応当然の処置といわなければならない。しかるに、これに対して政府は、運賃値上げの各種産業に及ぼす影響並びに直接国民生活に加える圧迫等を避ける意図をもつて、この三割案を一割にとどめしめたのであつて、その意図それ自身は、これまた正しいと私は思うのであります。しかして政府はよつて生ずるところの国鉄の償却不足、荒廃施設とりかえ等に要する経費は、別途措置するというのであります。そこで問題の第一は、一体国鉄の健全なる経営が可能な程度に、政府ははたして別途措置を講ずることができるかどうかという点にあるのであるが、政府提出の補正予算案等をもつてしては、その約束はまつたく貫かれていないのであります。さらに運輸大臣の御答弁によれば、将来といえども必ずしもその保証はできないということになるのであります。換言すれば、国鉄の健全なる経営は、まつたく犠牲と相なつて顧みられないのであります。
次に、第二の問題点は、国鉄の健全経営を犠牲にするこの一割値上げの運賃改訂案でもつて、はたして政府の意図のごとく産業及び民生に与える悪影響を避け得られるであろうかどうかという点であります。この改訂案によれば、ある種の貨物にあつては二割、三割、はなはだしきは五割を越える運賃値上げとなるものがあり、たとえば、わら、あるいはわら加工品、あるいは大衆魚たる魚類、あるいは木材その他農産物鉱産物等、主として原始産業に属する生産物の運賃に意外の影響を及ぼしまして、業界各方面に多大の不安を与えており、今やこうこうたる非難の声を聞くに至つておるのであります。また戦前の生活水準をも回復し得ないところの多くの勤労者や、あるいは学生やその他大衆に対しても、深大なる痛苦を与えることは、火を見るよりも明らかであります。すなわち、政府のせつかくの意図も、これまたまつたく水泡に帰しておるのであります。ゆえに本案は、一面においては国鉄の健全経営を切り、他面においては政府の産業政策、民主政策を切るところの両刃の剣といわなければなりません。
そもそも国鉄運賃法の第一條の運賃原則がいうところの原価を償う運賃というのは、公共企業体たる国鉄運賃の最高の基準であるとともに、最低の限度でなければなりません。公共企業体といえども、金業体であつて、独立採算を原則とせられる以上は、コストを無視して経営することはできない。健全なる立場より見たところの国鉄のコストなる三割値上げを一割に抑制したのは、国家の産業政策から来るところの要請であり、また民生政策の結果であるとするならば、これは当然国家がこれを補うべき義務があるといわなければなりません。一体国鉄の荒廃しつつあるところの施設は、ほとんどことごとく自由なる経済価格であります。統制価格であるところの電力に至つても、今や採算価格であることは周知の事実である。すなわち、国鉄のその足は自由価格の上に立つて、上体は国策運賃に縛られ、身動きもならないという姿が、現在の国鉄の姿であるといわなければなりません。しかも、その不合理とその矛盾のしわが、主として国鉄従業員四十万の上にかかつておるに至つては、まことにわれわれの納得の行かないところであります。国鉄裁定の給与ベースは最低限のものであるということを、仲裁委員長みずから過日の人事委員会、労働委員会、運輸委員会の連合審査会の席上において言明しておるし、また国鉄総裁みずから、この裁定を適当なるものであると認めておるのであるが、その最低限度の裁定ベースすら完全実施をしないというのは、われわれとしてどうしても理解しがたいところである。かかる不條理な、無謀なしわ寄せが従業員に寄せられる限り、よつて生ずるところのあらゆる事態に対して、公労法の精神をみずから蹂躙しておるところの国鉄当局は、その全責任を負われなければならないと私は思うものであります。
いずれにいたしましても、政府は失うところ、いたずらに多くして、得るところ、きわめて少い今回の値上げのごとき不徹底なるものは、一応これを中止し、そうしてそのために生ずるところの国鉄財政の欠陥は、これを一般会計の負担とすべきものであると信じます。財政上の点については、關谷委員からもいろいろ議論がありましたけれども、われわれの意見をもつていたしますならば、その財源に苦しむところはいささかもありません。しかしながら、この点に関しましては、その論議を予算委員会に譲りたいと私は存じます。
さらにこの機会に、独立採算制と政策的要請との関係、換言すれば、経済運賃と政策運賃との関係並びにその合理的処理という問題を抜本塞源的に解決し、もつて国鉄の健全なる発展を期する恒久的対策を立てられるよう、政府並びに国鉄当局に対して、私はこの際強く要請するものであります。
以上の理由によりまして、遺憾ながら今回の運賃改訂法案に対しては、絶対に反対をいたすものであります。
最後に、特につけ加えておきたいことは、物件よりも、より大事であるべきところの人件、すなわち従業員の待遇について、さらに深甚なる考慮を払い、いかなる非常手段をとるにしても、現在労組の要求のごとき最低限度の要求は、これをすみやかに全面的に受入れられるよう、国鉄総裁並びに運輸大臣に要請をいたしまして、私の反対討論を終ります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/13
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014・逢澤寛
○逢澤委員長 これにて討論は終局いたしました。
これより採決いたします。本案を原案の通り可決するに賛成の諸君の起立を願います。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/14
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015・逢澤寛
○逢澤委員長 起立多数。よつて本案は原案の通り可決いたしました。(拍手)
なお報告書に関しましては、委員長に一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/15
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016・逢澤寛
○逢澤委員長 御異議がなければ、さように決します。
本日はこれにて散会いたします。
午後三時二十三分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101503830X01319521213/16
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