1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十八年三月三日(火曜日)
議事日程 第三十五号
午後一時開議
一 恩給法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
二 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
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第一 生活保護法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第二 児童福祉法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第三 民生委員法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第四 司法試験法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第五 千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にへーグで、及び千九百三十四年六月二日にロンドンで修正された貨物の原産地虚偽表示の防止に関する千八百九十一年四月十四日のマドリッド協定への加入について承認を求めるの件
第六 国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第七 開拓者資金融通特別会計において貸付金の財源に充てるための一般会計からする繰入金に関する法律案(内閣提出)
第八 漁船再保険特別会計における漁船再保険事業について生じた損失を補てんするための一般会計からする繰入金に関する法律案(内閣提出)
第九 製造たばこの定価の決定又は改定に関する法律の一部を改正する法律案く内閣提出)
第十 解散団体財産収入金特別会計法を廃止する法律案(内閣提出)
第十一 アルコール専売事業特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第十二 製塩施設法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第十三 法務省設置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第十四 統計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
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●本日の会議に付した事件
恩給法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
建設委員長辞任の件
日程第一 生活保護法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第二 児童福祉法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第三 民生委員法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第四 司法試験法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第五 千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にへーグで、及び千九百三十四年六月二日にロンドンで修正された貨物の原産地虚偽表示の防止に関する千八百九十一年四月十四日のマドリツド協定への加入について承認を求めるの件
日程第六 国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第七 開拓者資金融通特別会計において貸付金の財源に充てるための一般会計からする繰入金に関する法律案(内閣提出)
日程第八 漁船再保険特別会計における漁船再保険事業について生じた損失を補てんするための一般会計からする繰入金に関する法律案(内閣提出)
日程第九 製造たばこの定価の決定又は改定に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第十 解散団体財産収入金特別会計法を廃止する法律案(内閣提出)
日程第十一 アルコール専売事業特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第十二 製塩施設法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第十三 法務省設置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第十四 統計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
午後一時二十六分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/0
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001・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) これより会議を開きます。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/1
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002・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 恩給法の一部を改正する法律案の趣旨説明に対する質疑に入ります。野澤清人君。
〔野澤清人君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/2
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003・野澤清人
○野澤清人君 今回上程されました恩給法一部改正の法律案に対しまして、自由党を代表し、質疑をいたしたいと存じます。
恩給法の改正と申しましても、旧軍人、軍属及びその遺族の恩給の復活でありまして、国家も国民もきわめて重大な関心を寄せているのであります。この軍人恩給は、昭和二十一年二月一日以来、連合国最高司令官の覚書によりまして一時停止せられておつたのでありますが、独立後の国会において、国家が、使用者としての立場から、かつて法律によつて定められた国家の義務を果すために、本法案が上程されたのでありまして、まことに時宜に適したものであり、過ぐる大戦に対する戦後処理の一環といたしまして、最も忠実な国家補償を実際法律の上に示されたことは、独立国家り名のもとに、まことに意義深きものと存ずるのであります。ことに、自由党吉田内閣として、一般社会のしごく誤れる悪宣伝に抗しながら、最も忠実に、最も勇敢に本法案を提案せられましたことに対し、国民とともに感謝の意を表する次第であります。(拍手)
過般、緒方官房長官は、本法案の提案理由の説明をされました際に、本法案の骨子は昨秋の恩給法特例審議会の建議の趣旨を尊重いたし、国家財政の許す範囲内においてと言われておるのでありますが、これらの点を中心といたしまして、重要な部分について致点質疑をいたしたいと存じます。
第一の質疑は、国民感情の動向についてであります。あの建議の趣旨を見ますと、恩給制度は一つの国家の制度であるから、その内容は、国民感情の動向及び国家諸制度の現状をも考慮して定められなければならないとあり、さらにまた、軍人に対する恩給制度は、今日の国民感情及び国家諸制度の現状にかんがみ、当然改められるべきものも決して少くないものと思われる、と建議せられておるのでありますが、私は、この建議の趣旨にあります国民感情の動向とはいかなるものであるか、また国民感情の現況とはいかなるものをさのであるかについて申し上げたいと存ずるのであります。
そもそも、今回の旧軍人、旧軍属及びその遺族に対する恩給を中心といたしました国民感情には、根本的な問題が二つあると思いま。その一つは、過ぐる大戦における敗戦の責任についてであります。日本が敗戦にまで追い込まれた原因はいろいろあるにもかかわらず、ひとり軍人にのみその責任をなすりつけ、日本の敗戦は単に軍人が弱かつたからであると断定されておるのが一つであります。次には、恩給復活に際しまして、多額の国民の税金のうちから、旧軍隊の階級差によりまして、大将、中将、少将以下等兵に至るまで支給する恩給給与の方法についてであります。この恩給給与に関しましては、大将以下、盛んに新聞紙等に報道せられましたために、建議の内容はあたかも四百五十億円が全部生存者の恩給であるがごとき感を国民に与えたのであります。しかるに、これが内容は、生存者が受取るべき金額は総領のわずかに七%でありまして、その金額も二十九億二千万円であります。そして、大部分は傷病者の増加恩給と戦死者の遺族に対する扶助料でありまして、総金額の約九〇%に当るわけであります。この点より見ましても、あの過ぐる大戦に、一片の赤紙とともに、はるかな孤島や海上において恨みをのんで死んで行つた多くの英霊の遺族に対しまして、国家が最大の誠意を披瀝し、本法案を提出したのであつて、国民はこの法案に対し悪感情を抱く理由は毛頭ないと思うのであります。(拍手)政府は、国民感情に対しまして、この建議の趣旨にありますこの点に関しまして、いかなる認識と見解とを持つておられるか、官房長官より、はつきりとお答えを願いたいと存ずるのであります。
第二は、国家財政と軍人恩給との関係についてであります。建議の趣旨を拝見いたしまと、「恩給給与のいかんは国家の財政に大きな影響を及ぼし、給せらるべき恩給の内容は、国家の経済力に左右されるものといわなければならない。従つて十分な恩給を給するためには、国家の経済カが充実し、国家の財政にこれをまかない得るだけの余裕がなければならない。」とあります。さらに緒方官房長官は「国家財政の許す範囲内で」と説明されておるのであります。もとより、本法案の提出には時間的な余裕もなく、独立国としての財源の足りないことはよく了承しておるわけでありますので、単に軍人恩給にのみ言及せられたものと信じますが、わが国の恩給法の沿革よりいたしましても、また独立国としての権威から申しましても、ひとり軍人恩給に対してのみ脆弱な国家財政であると指摘せられることは、まことに当を得ないものであると思うのであります。この点に関しまして、政府はなぜ、軍人恩給と従来の文官恩給とを並べまして、恩給全体に対し脆弱な国家財政であると考えなかつたかという点であります。いわゆる脆弱な国家財政であるべき対象を軍人恩給にのみしわ寄せせられたことは、国民の良識に訴えてみましても、とうてい了解に苦しむ点であります。この点、官房長官より御所見を伺いたいと思います。
第三には、恩給金額についてであります。去る二月四日の予算総会における河野政府委員の説明によりますと、建議にありては、仮定俸給の算出の基礎は一万円べースを採用しておりましたけれども、改正案では、それよりも四等級程度を下げて提案されたと述べられておるのであります。確かに、現在の国家財政の立場から判断すれば、まことにやむを得ないものと了承いたす次第でありますが、四百五十億円で昭和二十八年度の軍人恩給をまかなうということは、政府は本年度に限り暫定処置としてこの金額を算出したのであるかどうかを伺いたいのであります。万一今年度だけということでありますならば、政府はさらに昭和二十九年度よりは一般公務員の恩給と同一の基準で支給せらるる考えであるかどうか、この点、大蔵大臣にお尋ねいたしたいと存ずるのであります。なお、一万円ベースより四等級を下げました根拠について、はつきりとお答えを願いたいと存じます。
第四には、傷病者中の七項症以下四款症までについてであります。普通文官恩給においては年金の対象としておるにもかかわらず、建議も改正案も一時恩給としてこれを取扱つておるのであります。いかなる理由で傷痍軍人だけを一時金にせられたのであるか、この点、お伺いいたしたいと存じます。
なお、この点に関しましては、仄聞するに、文官恩給もやがて軍人恩給と同じように年金を一時金に改めるというようなうわさも聞き及んでおります。しかしながら、もし文官恩給を一時金に切りかえますとするならば、おそらく政府は、新たに発生する傷演者に対してのみこれを適用して、既得権者に対してはそのまま認めて行くのではなかろうかと想像されるのであります。万一さようなことでありますならば、過去における適用者に対して既得権を認め——しかも軍人軍属はすでに七箇年前においてその事実が発生いたしておるのでありますからして、当然軍人軍属に対しても、この既得権を認めて年金を施行するのが妥当ではなかろうかと思うであります。せつかく独立後の国家的義務を果すべき恩給法の改正に際しまして、かかる片手落ちの査定をせらるるということは、まことに遺憾しごくでありまして、建議の内容にかかわらず、この傷病者の権利をはたして政府は認める方針であるかどうか、緒方官房長官に、この点はつきりとお答えを願いたいと存じます。
なお、これに関連いたしまして、皆様も御承知の通り、現在傷痍軍人の中で、白衣を着て、いまだに列車の中や町のちまたを往行しておる者があります。これらに対して、戦後政府はいかなる処置をとられたか、また今後いかなる処置をとつて行こうとされるのか、この二項目についてお伺いいたします。いわゆる適切な職業補導等をせらるる意思があるかどうか。もう一つは、民間あるいは官庁等に対して強制雇用等の方策を立てる考えがあるかどうか。これは厚生大臣、労働大臣にお尋ねを申したいと存ずるのであります。
第五には、戦犯死刑者の遺族についてであります。今次大戦において、戦犯死刑者となられた方々の遺族に対しまして、政府はすみやかに対策を講ずべきであるにもかかわらず、今日までほとんど顧みられなかつたのであります。そのために、戦犯者の遺族は、あたかも国家の重大犯人であるかのごとく冷眼視され、しかもきわめて不遇な立場に放任されておつたのであります。しかしながら、平和条約第十一条は、戦犯者そのものに対する制約規定でありまして、その遺族の援護に対しては何ら言及されていないのであります。われわれ日本人は、すでに世界に対して独立を宣言いたしました今日、独立国の名誉と権威のために、何ら晴賭することなく、戦犯死刑者の遺族援護のために、明らかに公務に準ずる者として恩給法の対象とせられるよう望んでやまないのであります。(拍手)この点に関し、政府は、今回の改正とともに、いかなる御所見をお持ちなのか、官房長官にお尋ねをいたしたいと存じます。
第六には、公務員のベース・アップと恩給に関する問題で、本改正案に関連して二点ばかりお伺いいたしたいと存じます。昨年末に一般公務員のペース・アップが行われたので、文官恩給も当然是正せらるべきであつたにもかかわらず、政府はこれをすえ置きにいたしまして、約十三億円を切り捨ててしまつたのであります。行政整理による不良公務員の首の切捨てならいざしらず、長年国家のために働いた退職文官人の恩給の切捨てはまことに不都合千万でありまして、政府はこれに対しかに考え、今後いかなる処置をとられるのか、その決意をはつきりと伺いたいと存じます。
その次には、北緯二十九度以南におきます南西諸島における官公署所属職員に対する身分と恩給に関する質疑であります。たとえば、あの奄美大島のごとく、旧日本領土であつて、戦争のために日本より分離せられました島々におります旧日本政府の公務員は、その島がすみやかに祖国へ復帰するであろう熱情を持つて、いまだに該地において勤務抵抗中であります。これらの人人は、万一昭和二十一年一月あるいは昭和二十七年四月二十八日という特定の日をもつて日本政府公務員としての勤続年数を打切られるようになつてしまうと、行政分離という天くだり的な処分のゆえをもつて、この身分を喪失してしまうのであります。さすれば、彼らばまことに致命的な打撃を受けることになりますので、これら北緯二十九度以南の南西諸島における官公署所属職員の身分と恩給に対し、政府はいかに考えられるか、この点、官房長官よりお伺いしたいと存じます。
最後に伺いたいことは、以上申し上げました幾多の問題を整理勘案いたしまして、国家百年の大計を立てる意味において、かつて叫ばれた恩給亡国の声を再び聞くことなきよう念願すると同時に、すみやかに政府は、文官恩給と軍人恩給全般に対しまして、恩給法の大改正を実施し、普遍妥当なる給与体係を確立し、脆弱な国家財政にマッチする進歩的な年金制度を確立してほしいと思うのであります。この点に関しまして、政府はいかなる所見をお持ちなのか、お伺いいたします。ことに、第二次世界大戦後における世界の思潮は、その国家形態やイデオロギーのいかんにかかわらず、ほとんど大部分は社会保障制度の確立に邁進しております。この新しい世界的な傾向を十分取入れ、全面的な恩給法の改正に着手する勇気と準備を持つてもらいたいと思いますので、この点、政府の所信を明らかにしていたただきたい。
以上、各項目にわたりまして質疑をいたしたのでありますが、ややもすれば、本法案は一般国民に誤解を受けやすい法案でありまして、ことに、ある政党のごときは、悪意をもつてこの旧軍人恩給の復活に反対しておるのであります。しかも、その理由として、これを再軍備に結びつけ、いかにも第三次世界大戦に巻き込まれる再軍備り前提であるがごとく宣伝いたしておるのでありますが、前に述べましたように、法律に基き公約せられた国家の義務を果すための唯一の改正法律案であり、戦後処理の重大な分岐点となつておる法律でありますので、これらに対し、悪意に解し、あるいは故意に侵略戦争と結びつけた再軍備論を引合いに出して宣伝するがごときやからは、いたずらに国民を惑わし、国家の威信を失墜する重大なる過失でありまして、独立後の今日、国民にその罪科を陳謝すべきであると思うのであります。(拍手)こうした謀略、逆宣伝に乗ぜられることなく、しかも、一切の誤解にひとしきものを完全に明確化するためにも、政府のきわめて懇切丁寧な御答弁をお願いいたしまして、私の質疑を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/3
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004・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。今回軍人恩給を復活いたすにつきまして、国民感情の動向、あるいはまたこの軍人恩給を判断いたす要素となりまする戦争の責任というようなものについての野澤君の御意見は、政府といたしましても、まつたく同感の意を表するところであります。特に、今回の恩給復活に関しまして、これが何か再軍備の準備であるかのごとく、または職業軍人に特に厚いように宣伝せられておりまするのは、ためにする宣伝とは言いながら、政府のはなはだ遺憾とするところでありまして、今お話のありましたように、今度の恩給総額の中の職業軍人の恩給というものは、わずかに六、七パーセントにすぎない。また、恩給とは申しながら、実際に支給されまするものは、軍人そのものよりも、ほとんど九〇%以上が遺家族に渡る扶助料なのでありまして、私は、戦争責任を今日になつてなお軍人にのみしわ寄せておくということは、社会正義の上からも、はなはだ正しくないと考えるのであります。
それから、軍人恩給の額が文官恩給に比較してはなはだ平等的に扱われていないというお話でありましたが、これは単に国家財政の現状からやむを得ないのでありまして、実は軍人恩給というものを旧恩給法によつて復活いたしますると、千三百六十七億という巨額に上るのでありまして、文官恩給は百二十億そこそこのもので、比べものにならない。そこで、恩給特例審議会におきましても、一つの特例といたしまして六百五十何億ということに査定いたしたのでありまするが、政府といたしましては、財政の現状等にらみ合せまして、さらにそれをしも下げまして、年額五百七十七億という程度に下げざるを得なかつたのであります。
それから、次に七項症についてのお尋ねでありまするが、第七項症から第七款症までの傷病者に対しましては、昭和八年九月までは一時金たる恩給が支給されておつたものであり、その後一時、年金制度にかわりましたが、現行の他の法律におきましても、また厚生年金保険法あるいは国家公務員共済組合法等これに類似のものにおきましても、この程度の傷病者に対しましては一時金を給付しております実情に照し、かつ現下の国家財政から見ましても、この程度でさしあたりしんぼうしていただく以外にはしようがないという考えから、恩給法特例審議会の建議を尊重してこのようにしたのでありますが、これにつきましては、ただいま御質問の御趣旨もありますので、さらに慎重に研究することにいたしたいと存じます。
昨年のベース・アップに伴い、文官恩給のスライド・アツプする十三億を切り捨てたのは不都合ではないかという御質問であります。これもまことに御趣旨ごもつともでありまするが、ただいま申し上げましたように、軍人恩給というものが、もし文官と平等に考えられまするならば、むしろ当を得ないほど少いものであります。この際に、国家財政、特に二十八年度予算の切盛りをいたしますのに、財源の関係上、実はやむを得ぬ、これにつきましては、なるべく早い機会に善処をいたしたいと思つております。これは原則的にスライド・アップをやめたということではないのでありまして、一時の措置であつたということを御了承願いたいのであります。
それから、南西諸島の人々の未払いの俸給また恩給等についての御質問でありましたが、これは、今国会におきまして別な法律案を提出して御審議をお願いするつもりでおります。
さらに、新しい恩給法の考え方について御質問がありましたが、これは目下人事院におきまして慎重に研究いたしております。いずれ成案を得て御検討を煩わす時期があろうかと考えております。
〔国務大臣向井忠晴君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/4
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005・向井忠晴
○国務大臣(向井忠晴君) 二十九年度の恩給は別に考えがあるかという御質問でございましたが、十分研究はいたしますが、ただいまのところ、これを増額するという見当はつけにくいと存じております。
それから、四級下げましたことにつきましては、まつたく財政上の必要やむを得ないことから起つたのでございます。
〔政府委員福田一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/5
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006・福田一
○政府委員(福田一君) お答えをいたします。
傷痍軍人の数は二十二万六千人でございまして、その中で職業を持つておる者が大体十五万七千人でございます。従つて、職業を持つておらない者は六万九千人でございますが、これらの人々の中で、就職を希望して職業紹介所に参つておるのは六千五百人ほどございます。うち、十箇月間に就職をさせ得ました者は千八百九十人となつております。政府といたしましては、この気の毒な人たちのために、就職をできるだけあつせんすると同時に、就職をさせますためには、どうしても残存しておる労働力に一つの技能をうえなければなりませんので、職業の補導にも十分努めて参つておるのでございますが、今後なお一層大いにこの点は努力をいたしたい。さらにまた雇用主に対しましても、これは十分に認識を深めていただくように、十分宣伝をいたしておるわけでございますが、今後もそういう意味合いにおいて一段と努力をいたしたいと考えております。
なお強制雇用の問題でございますが、雇用という関係から考えてみますれば、雇う人と雇おれる人との合意というのが一応の建前であるべきはずでございます。しかしながら、傷痍軍人という特殊の事情から考えてみますならば、この強制雇用の面について、また一段と考慮してみたい、かように考えておる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/6
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007・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 山下春江君。
〔山下春江君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/7
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008・山下春江
○山下春江君 百数十万の、声なき帰還をなされました英霊に対しまして、まためぐり来る八回の花咲く春にそむきながら、窮乏のどん底にとざされている、若い戦争未亡人と子らのために、あるいはまた、戦死した一人むすこの墓石だけは建てて死にたいと、老いの目を涙に曇らせる人々のために、これらの心を心といたしまして、軍人恩給復活に関する問題を内閣総理大臣及び関係者大臣にお尋ねいたしたいと存ずるものであります。
昨年六月、恩給法特例審議会の発足いたしまして以来、やかましい賛否両論の中に注視を浴びて参りました軍人恩給法案が、いよいよ国会に提出されました。国破れた日本の山河は青々と元の姿に復しましたにもかかわらず、人の心のみは今もなお寒々と敗戦の痛苦に悩み苦しんでおります。戦争の犠牲者に対しては当然国が厚く償うべきであると考えますので、わが党におきましては、つとに本問題を取上げて主張して参つたのであります。軍人恩給は、終戦の年の十一月、総司令部の覚書によつて停止されたのであります。
私がこの問題に対して第一に政府にお尋ねいたしたいことは、この停止されました軍人恩給復活にあたつて、日本が独立して国権を回復したことに伴う既得権の回復であるとお考えになつたのであるか、あるいはまた戦争犠牲者に対する国家補償として実施することにいたされたのであるか、この点を伺いたいのであります。もし既得権の復活といわれるのであるならば、まことにごもつともなことだと考えます。なぜならば、恩給に関する法律は現存しておりまして、これに基く文官恩給制度が存続いたしている以上、軍人だけが恩給制度から除外される理由は発見できないからであります。政府が恩給法の一部を改正する法律案として御提出になつたのは、この間の事情を物語るものであろうと思われるのでありますが、それならば、これに要する国庫負担は一千三百致億円を必要とするにもかかわらず、これを約三分の一の四百五十億円に切り下げられたことは、どういう理由によるものでございましようか。この結果といたしまして、当然恩給権のある者で権利を奪われた者が百万人をはるかに上まわつております。これでは、既得権を尊重すると言いながら、受給権者の大半が失権することになりまして、実質的には恩給の復活とは言いがたいように思うのであります。あるいはそうでなく、戦争犠牲者対策だと仰せられるならば、戦争犠牲者は国民の各層にわたつておりまして、家を焼かれた者は防空壕の中で、引揚者はリユツクサック一つのまま、戦災によつて一家離散した者は孤独のまま、孤児のまま、政府の救済措置はいまだはなはだ不十分でありまして、窮乏のどん底にあえぐ者がちまたにあふれているとき、ひとり旧軍人恩給のみを復活させるということは、片手落ちの感を免れないと思うのであります。(拍手)わけても、徴用工、動員学徒、女子挺身隊、義勇隊等との均衡をどう考えればよいか。今回の軍人恩給復活に対する根本的な考え方について、総理大臣の御所見を承りたいと思うのであります。(拍手)
本案が既得権の回復であるならば、第一にあげなければならないことは、加算の停止、あるいは七項症、四款症までのこの既得権の打切りの問題であります。戦時加算の廃止によりまして、紙一枚の召集令状によつて徴募されました応召者は、その受給の資格を失い、何ら国家の恩恵に浴することができず、今回の受給者の大半は職業軍人のみとなつております。職業軍人も、応召兵も、軍人たることにかわりはありません。しかも、戦争責任を論ずるならば、むしろ職業軍人の方がより責任が重大であると言えましよう。しかるに、職業軍人の方が応召者よりも特権的待遇を与えられることについては、私どもの首肯いたしかねるところであります。いまなお街頭や車中に、同胞のあたたかい同情にすがつている白衣の人々を見まして、まことに心の痛むのを禁じ得ません。かくては、国民の思想を悪化させるおそれなしといたしません。加算停止による悲劇はちまたにあふれておりますが、その一例をあげますと、昭和十二年八月に召集を受けまして、同年十月から中支で戦地勤務について、十五年十一月帰国、召集解除され、その年の末に恩給証書を受取つた、すなわち、たつた三年三箇月勤務して、年令三十八才の生活力旺盛な若者であるにもかかわらず既裁定者でありまして、今回は恩給法の該当者であります。翌十三年三月召集され、五月から中支で戦地勤務につき、二十年八月終戦、翌二十一年三月ビルマより帰還、宇品港に上陸し、兵籍、軍歴書等、必要証明書を所持し、しかもこれは、満八箇年の苦しい勤務と、敗戦後外地で栄養失調などのたたりで、四十九才とはいいながら、生活能力も衰えておりますが、負傷をしないため、今日まで国家の恩恵は少しも受けておりません。かつては、妻を、子を、一家を忘れて、一意身を戦場にさらして転戦の後、かろうじて生き帰つたその者が、留守中には農地改革によつて土地を取上げられ、頼みの綱はただ一筋、軍人恩給復活の日でありました。軍人恩給の話をするたびに、うれしそうなえみを浮べていたあの人は、今この法案を見て、どんな悲しい絶望的な顔をしているであろうかということを感ずるのでありますが、政治はこんな人々にあたたかい手を差延べるものでなければなりません。私は、恩給審議会の委員に、このせつなさを訴えたことがありますが、この委員は、火事は隣まで焼けて来たが、私の家だけは焼け残つたといろ気持でがまんをしてもらいたいという答えでありました。こうした恩給局の気持に、私はむしろ憤りを感ずるのであります。(拍手)今回の恩給法の示す措置をどのように説明し、この不平不満の国民をどち納得させようとなさるのでありましようか。
わが党といたしましては、この問題について、加算制度を復活し、これらの人々を漏れなく一応既得権者の線まで引上げ、その支給額は実役年数によつて計算し、若年者に対する支給を停止いたしまして、これには栄典制度その他の併用をもつてすることといたしましたならば、本予算額の範囲内でも、さして困難でないという案を持つているのであります。(拍手)すなわち、加算を認めて、政府案によりますよりもはるかに多くの人を救済し得て、しかもその所要額は四億四千万円ぐらいの増加で事足りるのであります。こまかい数字はいずれ委員会等におきまして申し述べることといたしますが、聞くところによりますれば、大蔵省では、この軍人恩給に対しては相当大幅な人員の水増しを考えられておるかの由であります。人数をふやすわが党修正にはたいへん好都合でございまして、この考え方は私どもも同感でありますが、総理大臣が常に口にされます愛国心の高揚の見地からも、あるいは社会保障制度の見地からも、いずれにいたしましても、応召者と職業軍人との不均衡を是正されるべきものと考えます。これを要しまするのに、乏しいながらも、とうとい国民の血税を使うには、片手落ちになるうらみのない案をつくらなければならないと思います。加算の問題に対しまして、政府は、すなおに、率直にわが党の主張に御賛成を願いたいと考えますが、この点に関し、総理大臣の最も愛情あふれる御意見を承りたいと存ずるのであります。(拍手)
第二点は階級差の問題であります。本法案には、上に薄く下に厚くと書いてあります。現下日本の諸情勢から見て、これは、かくあらねばならぬと考えられるのであります。しかしながら、これはただ書いてある文章だけのことでありまして、実際は、大将の俸給五十六万四千円に対しまして、兵は五万八千五百円となつておりますので、その差は実に五十万五千五百円でございます。かつて祖国防衛の任に当りましたときの真心は、紙一枚の応召者も、職業軍人も絶対にかわりはありません。いま少し上をしぼつて下に広くということは、天下だれが考えても無理のないところであろうと考えられます。(拍手)この十七番目の二等兵を三階級引上げて兵長にいたしましても、その所要金額はわずか二千万円で足りるのであります。わが党案によりますれば、無理のない階級差の圧縮によりまして四億円余りを捻出することができるのであります。しかも、既得権者である七項症、四款症までの人をも含めまして、最も合理的な、国民の納得の行くわが党案をもつてして、約十七億の増加を見るだけであります。願わくは、これもすなおに賛成され、ここ一点に集中されておる全国数百万の人々のために、温情ある御答弁を要求する次第であります。(拍手)
次にお尋ねいたしたい点は、生活保護法と恩給との関係であります。敗戦の混乱と窮乏は、男子でさえ生きて来づらかつた日本の社会で、一家の支柱を奪われた、か弱い女の細腕にとりすがる幼子をかかえ、幾たびかめぐり来る春に、浮き浮きと幸福そうな世の人々の裏に、薄暗いあばら家に身も心も疲れ果てた母と子が、黒わくの夫の写真の前で、幾たびか死を決心しながらも思い直して生きて来たゆえんのものは、日本が独立するまで、夫の恩給が復活してその扶助料が来たら、子供らに長い間着せることのできなかつた新しい春衣の一枚も買つてやりたいという親心が、この母のはかない小さな夢でありました。都市の五級地で、母と子供四人、五人暮しの者が、生活保護法によつて今日まで支給されましたものは六千五百円であります。五級地のことですから、これは親子五人が最低の命をつなぐかてでしかありません。夢に見る父が、かりに一等兵だつたといたしますれば、二千七百三十一円の扶助料が渡るだけであります。これを生活保護法から差引くというようなことは、まことに血も涙もないしうちだと思うのであります。(拍手)もし、この扶助料が、こういうことで差引かれるといたしますならば、この扶助料は一年四回にまとめて参りますので、一回分を三箇月に割つて使わなければならない。この母の苦労は、もらわない方がよつぽどましだということになるのであります。(拍手)この忙しい、血みどろで働く母たちに、かような、ただ手続だけが煩瑣になるようなことは、どうしても私どもには納得が行かないものでございます。
死ぬ者貧乏のたとえがありますが、靖国神社の前で、片手のない白衣の人が、道行く人に協力を求めておりました。通りかかりました若い母と子、その母が、お気の毒だねと子供に申しましたところが、その子は、うん、おとうちやんが生きて帰つて来るならば、手も足もなく、目も見えなくてもいいから、生きて帰つてもらいたかつたと申しておりました。十ばかりの男の子にこう言われた母は、思い新たに、目に一ぱい涙を浮べて、坊や早く帰りましようと行き過ぎました。これに引きかえまして、年度末とも相なりますれば、来年度の予算に影響するから、使い残りを使つてしまつて、貸借対照表をゼロにしておかないと来年の予算が減るという公用族たちが、一等の旅費、日当の上に、運輸省から一等一箇月の臨時パスをもらつて大名視察旅行をする様子を見ては、暗然たらざるを得ないのであります。(拍手)このみじめな者からしぼりとりました予算上の余裕額は、一体何に振り向けようとなさつておるのでありましようか。またどのくらいな額を予想されておるのでありましようか。私は、これは当然あわせ給すべきものであると考えるのであります。この金を併給することに、これまた政府にぜひとも御賛成を願いたいと思うのでありますが、もし賛成ができないと仰せられるならば、併給してはならない理由があるとするならば、厚生大臣から納得の行くような御親切な御答弁をお願いいたしたいと思うのであります。
次に、軍人恩給と直接関係はありませんが、関連いたしておりますので、この際農林大臣にお尋ねをいたしておきたいのでございます。
例をあげて申し上げますると、昭和十二年までは、老夫婦、若夫婦に子供二人という六人の暮しをして、二町六反の田畑を耕しておつた農家がありました。ところが、このうちのただ一人の働き者の長男が、十四年から応召転戦いたしまして、遂に終戦直前戦死しました。これも、加算を打切られた今日の案では、恩給に該当しないのでありますが、その留守中に、病身の老夫婦と嫁とではどうにもならないので、やむを得ず、帰るまでという約束で、一反一畝を残して、あとの全部を知人に小作してもらつたのであります。戦死の報を聞くや、目前に迫る農地改革法をたてにして返還を拒み、この小作者は当時の農地委員となり、強硬な反対をいたしまして、今日まで返還をいたさないのであります。その後、遺児は成長いたしまして、長女は高等学校、長男は中学校をこの三月卒業するのであります。二人とも、進学の希望を捨てて農業に専念し、家運を挽回して、なき父の霊を慰めたいと、けなげにも決心をいたしておるのでありますが、土地を返してもらえない一家は、深い悲しみに沈んでおるのであります。これは一例にすぎないのでありますが、日本各地に同じような例がたくさんございます。私の手元にも、同様な陳情がたくさん参つております。廣川農林大臣に伺おうと思いましたが、はからざる事態により農林大臣をおやめになりました。廣川農相などは、私の隣村の草深い農村のおい立ちでありまして、農民から土地を取上げることが死の宣告と同じことであることは、よく御承知でございます、思えば、第一次吉田内閣によつて断行されましたこの農地改革の悲劇に対しまして、今政府はどのようにお考えでありましようか、御所見を承りたいのであります。
次に、大蔵大臣に一言お伺いをいたしたいのでありますが、旧軍人は概して生活困難者が多いのでありまして、この恩給証書が手に渡りましても、またぞろこれは高利貸しのえさになることが想像できるのであります。つきましては、恩給証書を担保とする公的の金融機関を——戦前には恩給金庫というものがございましたが、今回も公的な金融機関を設置されまして、困つておる受給者のためにはかつてやる御意思がおありになるかどうか、これを御設置になる意思があるかどうか、大蔵大臣の御所見をお伺いいたしておきたいのであります。
なお、戦犯者といたしまして有罪の刑に処せられた者の家族あるいは遺族の者につきましては、生活困窮に陥つておる者がすこぶる多いのでございます。これらの者に対しましては、恩給が支給されることが当然だと思うのでございますが、今度の恩給法がこの問題に触れていないのはどういう理由からなのでございましようか。戦犯といえば、軍国主義者かまたは軍閥の巨頭のように誤解をされる向きがあるようでありますが、戦犯在所者の実態は決してそんなものではありません。むしろ、平時にありましては平凡な一市民であり、また軍人としては、むしろ下級者に属する者が多いのでありまして、これらの者は、戦時中、国家の至上命令に従つて、ひたすら戦勝をこいねがいつつ、第一線に立つてその職務を遂行し、敗戦の結果は、はからずも戦犯者の悲運を招来したのであります。
爾来八年、鉄条網の中に呻吟する者、あるいはすでに処刑された者の遺族などは、いまなお就職をはばまれたり、結婚を解消されたりして、何となく世の日陰者のような人々の身の上を思いますとき、まつたく胸の詰まる思いをするのであります。自殺したり、発狂したり、一家が行方も知れず離散したりして、極度に生活の困窮している者が、巣鴨だけでも百八十人もあります。その中で、生活保護法の適用を受けておる者は六十二人しかありません。このことは、この深い心の底を察するときに、涙新たなるものを感ずるのであります。この問題に対しては、独立回復の今日、一旦停止された軍人恩給を復活いたしました今日にありましては、国家は救いの手を差延べて、これらの人々を救済すべきであるにかかわらず、依然拘禁せられて、いつ帰るかもわからないこれらの人々を深く悲しませております。かくのごとき状態が続きますことにおいて、失望落胆は今後ますます家庭悲劇の大きな根源となるおそれがあります。これら戦犯者と恩給の問題につきまして、政府から責任のある御答弁をいただきたいのであります。
このほか、全然列外にあります未復員患者、あるいは内地勤務戦病死者等に対しても、政府の御所見を承つておきたいと思います。
最後に政府にお尋ねいたしたいことは、軍人恩給復活の問題は、世上必ずしも一致いたしてはおりません。反対論者の中には、旧軍人の猛烈な陳情運動や、全国にわたる組織的促進運動などにより、これは政府の再軍備工作の一環だという議論がございます。政治的に悪用され、ゆがめられ、これが政治的反動勢力や、軍国主義への復帰につながるものだという議論などを開くのであります。本法案が職業軍人偏重の点から見ますれば、私もまた反対論に一理あるとさえ思わざるを得ないのでありますが、この問題は、今後の日本にとりまして非常に重大な問題でございますので、政府、特に総理大臣におかれましては、この根本問題について御信念ある御所見を御説明願いたいと思うのであります。
以上申し述べまして、私の質問を終る次第であります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/8
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009・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
今回の軍人恩給の復活について、政府はこれを既得権の恩給復活のつもりであるかどうかという御意見でありましたが、政府といたしましては、厳密な意味での既得権とは申しかねるかもしれませんが、一種の既得権、潜在的な既得権と心得ておるのであります。軍人、軍属及びその遺族の恩給は、連合軍最高司令官の覚書によりまして廃止され、または制限されたのでありまするが、一般文官及びその遺族に恩給が給付されておりますのに、平和条約が成立し、日本が独立を回復いたしました今日におきましても、ひとり旧軍人、軍属のみに戦争の責任を負わせたようなかつこうに放置しておることは適当でない。そういう意味から軍人恩給を復活いたしたのであります。
〔議長退席、副議長着席〕
それならば、いわゆる恩給額が非常に少きに過ぎるのではないかというお話のようでありまするが、これは先ほどから申し上げまするように、国家財政上やむを得ない。そこで、昨年来、この軍人恩給の取扱いに特例を設けることについて国会の御審議を願い、その御審議の結果に基いて恩給特例審議会というものを設け、その審議会の建議に基いて今回の立案をいたしたことは御承知の通りであります。
次に、加算の停止は既得権の侵害で不都合である、これは復活すべきものであるがどうかという御質問であります。加算は、実際はそれほど長く在職していなかつたのに対して一定の在職年を加え、あたかも長く在職していたものとして坂扱つて恩給を給する制度でございまして、敗戦後の脆弱な国家財政のもとで、この制度を残しておくことは実は困難であります。終戦後、軍人履歴に関する記録確備の状態から見ましても、公平な恩給の支給に懸念がありますので、この制度を廃止いたしたような次第であります。
それから、今回の軍人恩給に階級差を設けたことはあまり合理的でないので、階級差を押し狭める考えはないかという御質問であります。これにつきましてはいろいろ意見もありますが、現行恩給法ないしは国家公務員共済組合法その他類似の制度におきましても、一般に給付は退職時の条件に応じて支給される例となつておりまするところから、旧軍人恩給についてのみこれをかえるようなことはいかがかと思つて、階級差を設けたような次第であります。
次に戦犯者の恩給のことでありまするが、いわゆる戦犯者の中には、すでに拘禁を解かれた者、また拘禁中の者、あるいは刑死した人、獄死した人等があるのであります。戦犯者の家族の中には、その生活がまことにお気の毒で、同情にたえない方が少くないように思われます。今日拘禁中の人々の家族には、未復員者に準じて給与がされておるのでありますが、政府ほ今後もできる限りのことはいたしたいと考えておるところでありまして、これら戦犯者の恩給につきましては、特に戦犯者なるがゆえに不利な取扱いをすることは避けたいと存じまするとともに、また戦犯者なるがゆえに特に有利な取扱いをすることもいかがなものかと考えておるのでありまして、今回の法律案の中にこの結論を出しておる次第でございます。
それから、この軍人恩給の復活が再軍備の準備ではないかといろ御意見であります。昨今、ためにする宣伝とは思いまするが、これをもつてあたかも再軍備の準備であるかのごとく宣伝さるる向きがはなはだ多いのは、政府としては実に遺憾に存じておるところであります。
この恩給法案は、職業軍人に対して特に厚い、職業軍人に偏重であると言われることは、法案をよく御検討くださればわかるのでありまして、決して職業軍人に偏重でない。むしろ職業軍人はほとんど六、七分でありまして、それ以外は、職業軍人にあらざる軍人あるいはその遺族に対する扶助料がおもなものであります。その点、何とぞ御了承をお願いいたします。(拍手)
〔国務大臣山縣勝見弔登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/9
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010・山縣勝見
○国務大臣(山縣勝見君) お答え申し上げます。生活保護法と恩給との関係についてのお尋ねでございました。気持といたしましては、ただいま山下先生の仰せられたる通り、今回恩給が復活されたのでございますから、何とかして恩給と別個に生活保護法による支給をいたしたいと考えまするが、憲法二十五条の条章から申しましても、国民に無差別に最低生活を確保するという建前から生活保護がなされておるので、いわゆる補足性の原則に立つております関係から、現在の法体系から申しますれば、どういたしましてもこれは一応別個に考えて、先生の仰せられるような困窮した家族の方々に対しましては、年々基準を上げて参つておりますが、それによつてこの点に対する是正をはかるという方向に行くのが当然であろうと思うのであります。何となれば、たとえば生活保護法によつて支給されておる方が恩給を受けまして、隣同士で非常な差別があるようなことになりましても困る点がございます。ただいま山下先生の言われた数字を拝承いたしましたが、たとえば東京都におきましては、今、標準世帯が、生活、教育あるいは住宅等を入れまして九千二百九十一円になりましたことは御承知の通り。ですから、今後は生活保護の適用に対しては万全の措置を講じて、先生の仰せられるようなことのないようにいたしたいと思います。たとえば、未亡人の方に対してほ特別の控除もありますし、従来から支給されておりまする弔慰金がもし分割されて支給されるという際におきましては、できるだけこれを控除しないように特別の措置を講じて参つております。なおまた、もしもそういう困窮の方において家屋の修繕あるいは衣類が急にいるようなときには特別の措置を講じておる。かような措置をもつて善処いたしたいと考えております。
なお徴用工、女子挺身隊あるいは開拓団等についてのお話がありましたが、これは従来援護法によつて措置いたしております。
なお未帰還者に対しての御質問がありましたが、これまた援護法によつて、三年間は療養の給付をいたし、治癒しないときにはさらに三年間国庫において療養の給付を負担しております。
〔国務大臣向井忠晴君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/10
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011・向井忠晴
○国務大臣(向井忠晴君) 恩給証書を担保にして金を融通するということは、ただいまのところ国民金融公庫に取扱わせるつもりでございます。なお、別に金融機関をつくることにつきましては、ただいま研究中でございまして、いずれ御報告できると思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/11
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012・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 吉田賢一君。
〔吉田賢一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/12
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013・吉田賢一
○吉田賢一君 私は、社会党を代表いたしまして、恩給法一部改正の法案に対して、いささか質疑を試みたいのであります。
第一は、根本的に、この法案の立法の理由と、その基本的な理念について政府の御所見を伺いたい。国家公務員法の百七条、百八条の規定によりますと、国家公務員にして長年忠実に勤務し、退職したる場合には、その本人並びに直接扶養しておる者の生活を維持するに必要なる給与をなす趣旨の恩給法を制定する必要がある、こういつた趣旨の規定があります。もし六法の立法の理由がかような根拠に基いておるものといたしますると、これは第一に、本法案を通じて給与される金額が、はたして今日の文化人たるに適当なる程度の所得たり得るや、こういつた面の検討が必要になると思います。しかしながら、こういろ点については、一向考慮の払われた余地はありません。なぜならば、四百五十億円というものは、国の財政上このぐらいなら出せる、こういつたものにすぎないので、受給されるべき人の生活状態あるいは今日の物価の関係、そういつたものが考慮され集積されて得た数字でないことは、内容を通覧しまして、たやすく見得るところであります。
しからば、この法律は、国家がその使用者の立場において、老朽した人あるいは傷病者、そういつたような人人、ないしは死者の遺族などの、生活上の必要なる経済獲得の能力を失つた人に対する国家の補償、こういうような理由が立法の根拠になつておるのか、こう考えてみますると、はたしてそうであるならば、われわれは今日の社会を広く見まして、ひとり旧軍人、軍属に国家補償をすべきことは、これはまつたくの片手落ちであります。
さらに、われわれは、その場合には、目を転じまして、あらゆる戦争の犠牲者に対しまして、犠牲者がこうむりましたところの精神的、肉体的損害、あるいは生活能力の喪失、生命の喪失、財産の喪失といつたような問題につきましても、広く戦争被害に対する補填のための国家補償の制度として打出されねばなりません。しかしながら、かかる広い見地から本法案を観察いたしてみましても、決してこれはその目的を達する二とのないのはもちろん、ただわずかに古い恩給の権利行使が停止され、権利が喪失された人々に対する回復といつたようなところが一つのねらいにすぎない。こういうふうに考えて来ますると、今世上に多く希望され、問題になつておりまする、戦争被害に対する国家補償という要望を満たすものでないことはもちろんであります。
それならば、旧恩給法の復活であるか、ポツダム宣言の指令に基きます勅令六十八号に基いて停止された、あるいはまた二十七年の法律二百五号でしたかによつて権利を回復し得なかつた戦犯諸氏といつたような方面について、過去の権利の何らかの復活を意図することが本法のねらいであつたのか、こういうふうに考えて参りますと、それは、その内容に立ち至つてみると、決してそうでないことが歴然といたしております。本会において先刻来だんだん指摘されましたことくに、たとえば七項症なども、年金あるいは恩給などが合せて給付されておりましたものが、一時金に転落して、奪われておる。こういうような点を考えてみましても、完全に過去の既得権の回復というようなことが意図された、もしくはそれが重要な目標であつた立法措置でないということを、われわれは明らかにし得ます。
それならば、この法律について、一体政府は何を意図するのであろうか、もしくは今日の日本の諸般の情勢にかんがみまして、あるいは日本の将来進んで行くべきこの無難なる世界情勢のうちにおける一種の社会立法的なものの措置について、そもそも政府は何を一体考えておるのであろうか、これについてよくお考えの上、政府は責任のある御答弁を願いたい。
私どもは、もし根本的にこの社会保障制度を拡充し、社会保障制度のりつぱに打立てられることによつてのみ期待し得るところの、今日の国民生活の実情と、日本の国民生活の将来への約束の問題を、法律措置その他によつて企図することが、まさになさねばならぬ政治責任であることを痛感いたしております。しかしながら、現在の内閣が、この措置に出ることなく、あるいは旧恩給法の一部改正という、文字通りの形と内容に終始するとするならば、そういう場合におきましてもわれわれの要望せねばならぬことは、たとえば、ほかには厚生年金保険法があります。国家公務員に対する共済組合法があります。あるいは労働基準法による災害に対する救済の規定があります等等、幾多同種類の年金、保障的なる法律制度がありますので、むしろこの際真に国民のためを思うならば、受給者の生活のためを思うならば、これらの類似の法律の共通の条項を全部取集めまして、そうしてこれを一元化し、社会保障の太い線をここに織り込みまして、いろいろな給付のでこぼこ、あるいはまた対象の調整、あるいはその他多くの経済の浪費を招く点などを一掃し、完備するということを目標にいたしまして、一本の立法化をすることが、かりに完全なる社会保障制度への大きな躍進にはならずとも、せめてこの際そこまで進むということが、国民の政府であるならば、当然にしなければならぬ責任であると、われわれは信ずるのであります。(拍手)こういう点につきまして、政府の責任のある答弁を伺いたいのであります。
次に、私は本案の内容に立ち至りまして、二、三尋ねたいと思います。ただ、問題が、内容におきましては論議することが比較的少いので、やや重複の感もありまするから、努めてそれは避けることにしたいと思います。
若年停止の点について、本法案は、これを四十五才ということにして、五才引上げております。しかしながら、われわれは、四十五才といち年齢をわれわれの生活経験に徴してみますと、まだ働き盛りであります。また一般に、今日の医学上、世界の平均生存年齢は、文明国におきましては六十才近いものになつております。そこで、今日新しい時代に発足しようというときに、われわれは、四十五才で老朽年齢として普通恩給を給与されるというようなことは、これは慎むべき立法態度と考えざるを得ないのでございます。進歩したる社会保障的な、たとえば厚生年金保険法に徴してみましても、その法律は、炭鉱の抗内夫が十五年も二十年も坑内作業をいたしまして、それは地下千尺の深坑において、まつ裸で、命がけで石炭と取組み合つている仕事を十年も二十年も継続いたしまして、しこうして通常は五十五才において養老年金を受けることになつております。この法律をとり来りますと、ただいまの恩給法の一部改正の内容をなすところの若年停止はあまりに若きに過ぐる、いま少し引上げまして、この厚生年金保険法と同列において若年停止を実施すべきではないか、政府の所見はいかがですか。
高額所得者の停止の問題でありまするが、これにつきましても、われわれは意見があります。大体標準となすべきものは、他の所得によつて生活を支え得るものというのが、いわゆる高類でなければなりません。高額の字句なるものも、法律上も解釈上も妥当ではありません。他の所得によつて生活を支え得るものは恩給を給与すべき必要がないじやないか、これは、きわめてわかりやすい常識であります。この常識を立法化してほしい。しからば、最高ほ年間三十万円ぐらい別途所得のあるものに対しましては、これは恩給を停止するというような措置に出でてはどうか。政府の御所見いかん。あるいは、そういうことをすると、それは二万五千円の別途所得というようなものは最低の生活ではないか通常の文化人の生活には足りない所得にすぎないという議論があるかもしれません。しかしながら、すべての社会保障を育成、充実、発展せしむる方途というものは、別にわれわれは講じて行かねばなりませんが、この際の普通恩給の高額所得の停止の線は、どうしても今申し述べましたような線に引くことが妥当ではないかと思います。政府の所見はいかがですか。
いわゆる仮定年俸の階級差の問題であります。これにつきましても、これまた時代錯誤の、きのうの鈴木君の言辞ではないけれども、古色蒼然たるものをわれわれは感じます。(拍手)大将、中将、大佐、少佐というような名前が出て参ります。大将、中将の軍服が古着屋の店頭に飾られてある時代であります。この際、法律の内容といたしまして、こういうような名称を用いて階級差をつけ、これを基準にして普通恩給を算定せんとする態度は、私は根本的に間違つておるものと思います。(拍手)これは、むしろ、たとえば二十一年二月当時における一般の軍人恩給の受給者は六十四万五千人ありますが、九〇%までは上等兵、兵長、伍長、曹長の人々であります。また、今次の大戦によりまして戦没いたしました人々百六十七万のうち、同じく九〇%が、ただいま申しました階級の兵の人々であります。これらの四つの階級の人々は応召兵であります。国民の兵隊さんであります。概して赤紙によつて出陣いたしました人々であります。そういたしますると、この大多数の人人、九割前後を占めますところのこの人々の俸給を標準にして仮定年俸額をきめるという考え方が妥当ではないでしようか。これが一般に要望されるところではないでしようか。私は、こういつた面について、もつとくふうがあつてしかるべきものであろうと考えます。もちろん、これにつきましては、すでに多くの給与を受けておつた人々もあるのですから、われわれの党におきましては、いろいろ審査をいたした結果、五つの段階を設けまして、今申し述べました四つの階級の人々は五万円ないしは七・八万円の程度でありまするので、それを増額すること、十五万円、二十万円という程度の人々はすえ置くこと、こういつた一つの試案も用意しておるのであります。いずれにいたしましても、国民の兵隊であつた応召兵、入営兵隊であつた人々を中心にいたしまして、われわれは仮定年俸のくふをしなければならなかつたと思います。
同時に、これは、公務扶助料の問題につきましても同一に述べることができます。もつとも、この方につきましては、むしろ四つの階級を一本にまとめまして、四つを平均しまして、軍曹級のものに一本にする、こういつたところに線を引いてはどうかという試案も持つのであります。政府は、こういうことに特段とこの際くふうもして修正するというよろな意図はございませんか。(拍手)これは、むしろ、このたびの恩給法が、いわゆる軍人恩給というのではなくして、真にたくさんな遺家族を喜ばし、多数の国民の希望に沿うという線に進んで行き得るゆえんでありまするので、政府のこれに対する御所見を伺いたい。
それから、いわゆる傷湊軍人の処遇の問題につきましてほ、この点はさきに七項症以下の点については触れましたし、また緒方国務大臣のこれに対するしばしばの答弁もありましたので、私は省略いたします。
それから加算廃止の問題であります。法第三十八条ないし四十条の廃止の問題であります。これは、辺陬、不健康の地域もしくは不健康業務に従事しておつた者が加算を受けておりましたのを、このたび廃止したのであります。これは、受給者の数は多くはないけれども、こういう取扱いをいたしましたことは、恩給法の措置のうち、最も重大なる失敗と申さねばならぬのであります。(拍手)
これは少しく具体的に例をあげて申し上げねばなりませんが、たとえば辺陳の地域としては、北海道の松前郡小島のごとき津軽海峡の一小島、静岡県の海上はるかなるところにありまする神子元島——全国でたくさんはありません、多くは絶海の孤島であります。こういつたところに燈台守がおります。この燈台守の人々ほ、農産物もない孤島で、雨降るときに足をすべらしたならば死の魔海に転落をしなければならぬし、飲むに飲料水もないのであります。こういうところで気象の観測をし、あるいはまたブイの維持のために命がけの作業をする、こういう人々は、おそらく全国で百人かそこらにすぎません。しかしながら、こういうような人々に対しまして、特別の加算制度を設けるということは当然のことであります。
また、不健康業務の例について見ましても、たとえば国有鉄道の機関車の従業員、乗務員、これは、御承知の通りに、年中八十度以上の、真夏と同じような、あの燃える石炭の前で、上下左右四方に振動する中で、煤煙をかぶりながら、視覚も聴覚も極度に緊張せしめまして、そして夜となく昼となく機関車の中で勤務するのがこの乗務員であります。これらの人々は、統計を示すところによりますと、退職しますと二年ないし十年内に死ぬそうであります。平均四年だといわれております。医学者の説明によりますと、五十五才までの勤務などは絶対に不可能だそうであります。こういうような人々が、この加算の制度から今度は漏れてしまつたのであります。加算されないことになるのであります。全国で三万人の機関車の従業員のために、われわれは声を大にして、またこれらの人々の悲痛なるその苦痛の立場を政府に向つて投げつけて、これに対するお考えを開いておかねぱならぬ。(拍手)あるいはまた、赤痢とか、腸チフスとか、癩病とか、結核とか、そういつたものの研究所、検菌作業所の部屋において看護に従事する人々、あるいはまた、その他の化学的な劇薬を扱う危険な仕事、こういうようなところに働きます人々におきましても、身体生命の危険を感じながら、やはり非常なる注意力をもつて仕事をせねばならぬのであります。こういうような不健康業務はもちろん、辺陬の地域におきまする人々に対する加算が、このたび排除されてしまつたのであります。何ゆえに排除いたしましたか、明快に御答弁を願わねばなりません。(拍手)
軍官恩給の関係について、これも一点私は論じて質疑としたいのです。昨年十一月、ベース・アツプが二割ありました。それ以前のものは一万円であります。これらの点につきまして、何か将来措置をするような答弁が先ほどありました。同時に、このたびの旧軍人、軍属につきましては四号俸の引下げでありますので、これらの全体の問題を将来相当調整しつつ行かなければならぬのではいか。たとえば、今日の物価関係から見まして、昨年来の諸般の情勢の推移からみまして、われわれは、公務員の給与問題を今扱わねばなりません、給与引上げという問題も扱わねばなりませんが、そういつたときに、それぞれの基礎算定の俸給が狂つて参ります。こういう点につきまして、何らかの用意をしておらるるかどうか、これもこの際聞いておかねばなりません。
私は、進んで関連事項につきまして、戦犯関係について少しばかり、若干角度をかえて質疑をしてみたいのであります。一体、今日の戦犯者は、内地に拘禁せられておる者のみならず、比島、マヌス島を含めまして、国内の日本の法律におきましては、これは必ずしも有罪ではございません。従つて、公職選挙法による選挙権の行使も巣鴨の人々はしております。また出所いたしました人々は、国家公務員法による制限禁止の規定にかかわらず、公務員たる就職は可能であります。こういうような立場の人々であります。そこで、私は、これらの人々に対しまして、国民が二千万の嘆願署名をいたし、わが国会は二度にわたつて、総員の意思といたしまして、釈放、減刑その他の寛大なる措置への要請の決議をいたしたのであります。こういうような諸般の点から考えまして、国民感情の一つの帰結とし、国民の意思の代表といたしまして、恩給法の扱い上何らかの措置に出るということは、政府のなさねぱならぬ一つの責任ではないかと私は思うのであります。
さつき、山下さんも、巣鴨の人々の家族の悲惨なる生活の状態についてお述べになりておりました。私も、その事実をよく存じておりまするので、非常にこの点については共感を覚えるものであります。あそこにおりまして、気がふれたり、あるいはまた自殺をしかけました人々が、ずいぶんとたくさんにあります。われわれは、これらの人々を、もつとあたたかい考え方で、感情的に国家といたしまして処遇する道はないのであろうか。ついては、いまだ戦犯の判決を受けず、抑留された後に病死その他の事故、自殺等によつて死亡いたしました人々は、これは厳密に言うならば戦犯者ではございません。これらの人及びその遺族、これは全国におきまして二百七、八十名、何千人の家族がありますることや、あるいはまた処刑をされたる人々の遺族、こういつた点につきましては、われわれは、特別の国民的なあたたかい感情の結実といたしまして、この法律案の中に積極的なる待遇の措置を講ずべきではなかつたか。重ねて、この点について緒方国務大臣の御答弁を伺いたい。
さらに転じまして、船員に対する問題であります。戦時中、国家総動員法によりまして海運の特別なる管理法令ができて、船と人間ともろともに国家管理に移されました。同時に、それらの乗組船員は、国家総動員法に基いて徴用されたのと同一になつたのであります。ところが、海上におきましてそれぞれ陸海軍の輸送船に配属されました瞬間、これらの人々は、総動員法による徴用が解除になつて、法律的には軍隊の一団に所属する身分を取得したのであります。言いかえますと、概して軍属になつたのであります。軍属になりましたにもかかわらず、これらの人人のその遺族——もう一つさかのぼつて御説明申しますと、四万五千人の船員がこれらの状態に置かれましたが、そのうちの四割五分は死没したのであります。四割五分死没いたしまして、その遺族の問題はどうなりましたでしようか。これは軍属として処遇されなかつたのであります。従つて、いわゆる遺家族援護法による軍属として処遇されることはなくして経過いたしました。今日まで、もつれたままであります。皆さん、この問題につきましては、このたびの恩給法の改正に伴つて即刻解決いたしまして、りつぱに軍属として死没した人々であり、従つて、その遺族に対しましては所定の待遇を与えるという措置が講ぜられなければならぬ。(拍手)政府の御所見いかん。
さらに、私は、大蔵大臣に一言お尋ねしたい。この文官恩給の二十八年度予算が百四億円、このたびの恩給法による予算が四百五十億円、遺家族援護法の予算が五十億円、そのうち四百五十億円は、申し上げるまでもなく四月から十二月までの分であります。従つて、来年は、軍人恩給と称しまするこのたびの恩給法の予算は、平年度におきましては、六百億円になるのでありますが、そうしますと、合計いたしましたならば七百五十億円程度のものが平年度の予算として現われて来るわけであります。そこで、政府におきましては、日本の国民所得を五兆二千億円といたしますが、これらの国民所得の割合に比較いたしまして、これらの恩給法の中に盛らるべき予算はどの程度のパーセンテージをもつて相当とお考えになるでしようか。これは、国家財政の将来、予算の編成の上におきましても、根本に投げ与えられました一つの問題であります。ことに、私どもといたしましては、二十八年度における社会保障制度的な予算は九・五%にすぎない事実にかんがみまして、また日本の将来の国民生活の安定のために社会保障制度の拡充は絶対の要件であることにかんがみまして、大蔵大臣ほ、将来どの程度の割合の予算を組むことが相当であるとお考えになつておるのであるか、この点についてお考えを聞きたいのであります。
かくして、私は、結論的に最後の質疑に移ります。要するに、かくいたしまして本法案の立法の理由をながめ探究し、立法の内容を点検し、あるいは検討いたしてみますときに、私は、このたびの提案は、やはり過去の恩給法がちよつと手をつけられた程度にすぎないものであつて、日本の将来のために深く遠くおもんばかわました意図が何ら含まれていないことを考えざるを得ないのであります。そこで、私は、むしろこれは修正するというよりも、これを合理的に、私が今申し述べましたような線に沿うて合理化して修正するか、さもなくんば、老齢軍人に対しましては、社会保障的な見地からこれを認容いたしまして、広く遺家族を十分に保護し、あるいはまた戦傷病者を十分にいたわり、こういつた線におきまして戦争の犠牲者あるいは戦没者遺家族、そういうような人々に対する一括した別な法律案をつくる、こういうことの方が適当ではないかと考えまするので、この点について最後に政府の所見をただし、私の質疑を終ることにいたします。(拍手)
〔「定足数がないぞ」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/13
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014・岩本信行
○副議長(岩本信行君) ただいま続々入場中であります。
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/14
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015・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
軍人恩給の復活を他の戦争犠牲者に先立つて行うのは片手落ちではないかという御質問でありましたが、この軍人恩給復活につきましては、ただいまの吉田君の御疑点を初め、世間でいろいろな意見があることは、お話の通りであります。そこで、政府といたしましても、この問題の取扱いにつきましては、十分慎重な態度をとつて進んで参つたのでありまして、そのために昨年恩給法の特例に関する件の措置に関する法律というものを国会に提出いたしまして、そうして国会の承認のもとに軍人恩給の取扱いの方向を定めて参りましたのでありまして、今回の法案は、一にその方向に従つてその取扱いをやつて参つた、すなわち恩給法特例に関する審議会というものをつくりまして、その答申にまつておるような次第であります。
それから、恩給の若年停止及び高額停止についての見解はどうかという御質問でありますが、恩給の若年停止につきましては、旧軍人も文官も同じような取扱いにすべきであると同時に、一般文官の円滑な人事運営を阻害しないような考慮を払いまして、今回停止年齢を五才引上げるようにしたのであります。今、軍人恩給のみを切離して考えることができますれば、私個人の意見といたしましても、若年停止をもつと引上げていいかと考えるのでありますが、旧軍人の恩給に対する希望が、一は社会保障でない恩給であること、一は文武平等であつてほしいということでありますので、その趣旨に従いますと、この若年停止が文官恩給に及ぼす影響も考えざるを得ない。先ほど吉田君のお話にもありましたが、昨年スライド・アップを従来通りにやらなかつたことについてすら、いろいろな問題が巻き起されておりまするときに、この若年停止をさらに大幅に引上げることは、一つの社会問題を起すおそれもありまするので、この若年停止の引上げをこの程度にとどめたような次第であります。
高額所得停止につきましては、公務員の給与水準の引上げに伴い、恩給の額がかわつて行くことを考慮して、停止基準額を若干引上げることにしたような次第であります。
それから加算停止のことでありまするが、これは今回加算を停止いたしまするに伴つて俸給を引上げる、それによつて埋合せをする考えでありまして、さらにそれが実情に沿わぬものがありますれば、慎重な研究を遂げてみたいと考えております。
それから戦犯のことでありまするが、今日戦争後すでに九年を経過いたしました際に、なお戦争責任を問われて巣鴨に拘禁されておりまする人々の身上、またその家庭に対しましては、吉田君と同じように深き同情を持つのでありまするが、ただ恩給の取扱いといたしましては、普通恩給より不利にならない状態と同時に、有利に扱うのもどうかと考えまして、今回の措置に出たような次第であります。
それから船員の救済につきましては、厚生当局から御答弁申し上げることと存じます。
〔国務大臣山縣勝見君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/15
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016・山縣勝見
○国務大臣(山縣勝見君) お答えを申し上げます。
まず第一点の厚生年金等との一元化をはかつてはどうかという御説でありまするが、御説はごもつともな点もございまするけれども、先ほど来お話も出ておりまする通り、純然たる社会保障的な厚生年金と、国と特別雇用関係に立つて、公務によつて経済活動能力を失いました者に対して、使用者たる国が国家補償をするというのとは、必ずしも一致しない点がありまするから、二の点に対しましては、ただいま御説のような社会保障の一元化の方向に考慮いたします二とはいたしたいと考えておりますが、恩給と厚生年金の一元化ということにつきましては、多少考慮を残しておると考えておるのであります。
第二の戦犯者の点につきましては、ただいま官房長官の御答弁の通り、ただその遺族につきましては、従来援護法によつて援護いたしております。第三の点の、いわゆる船員の処遇につきましては、これはこまかく申し上げますれば、従来甲乙丙船員、すなわち雇用人である軍属たる船員がありますのと、ただいまお話の軍属でない船員、いわゆる船舶運営会に所属する船員の場合とありますが、この点につきましては、今回遺家族等援護法を改正いたしまして、ただいま国会に提案をいたしております。これによつて、いわゆる傷病手当金といたしましては二万四千円ないし十八万一千円まで、なおまた遺族年金に対しましては、第一順位者二万五千二百円、第二順位者五千円、これらの処遇をいたしたいと考えて、ただいま改正の法律案を提出いたしておる次第であります。(拍手)
〔国務大臣向井忠晴君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/16
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017・向井忠晴
○国務大臣(向井忠晴君) 財政の状況によりまして異動があるとは存じますが、しかしながら、青田さんの言われた程度の支給はできますつもりでおります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/17
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018・岩本信行
○副議長(岩本信行君) 長谷川保君。
〔長谷川保君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/18
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019・長谷川保
○長谷川保君 私は、ただいま上程されました恩給法の一部を改正する法律案につきまして、主として旧軍人等の恩給を復活せんとする点につきまして、日本社会党を代表いたしまして質問せんとするものであります。
今回の、この恩給法の改正を見ますと、理論的にも実際的にも整わないもので、すでに予算委員会等によりまして非常に問題視されまし、学校職員の法律や、あるいは警察法と同じような、非常に行き届いていない、未熟なものであると言わなければならないのであります。私は、すでに前議員が質問されましたこととなるべく立場をかえまして、いま少しく政府の所見を伺つてみたいと思うのであります。
まず第一に、政府が何ゆえに旧軍人恩給の復活を企てたかという根本動機について伺いたいのであります。吉田総理大臣は、去る一月三十日の休会明けの施政演説におきまして、「国の再建にあたり、まず古い創痍を医するのは、思うに当然のことであり、戦争責任を長く旧軍人にのみ帰することは、社会平和をもたらすゆえんでないと考えるのであります。」と申しております。私どもも、国の再建にあたり、国民中、傷つきあるいは倒れたる同胞をまずいやし、かつ起すということの何ものにも増して大切なりとする熱心さにおきましては、決して人後に落ちるものではありません。問題は、先ほど吉田君が指摘されましたような、あの一般公務員の恩給において、今回の十三億円のスライドの停止や、あるいは辺敵地、不健康なる職業に従事いたしまする鉄道職員その他の諸君の加算を打切るの挙をいたしまする吉田首相が、何ゆえに旧軍人の傷をいやすことにのみ、かく熱心であるかという点にあります。今回の戦争において、全国民中だれか甚大な創痍を負わなかつた者がありましようか。国敗れた今日、ここには百五十万の悲しい母子家庭があります。貧苦と病苦に悩む、百万の、病院に収容し得ざる結核患者、五千の癩病患者、三百万の貧窮者、住宅に悩む一千万人、五百万の失業者等等、数え上げれば切りもありません。吉田首相が、もし真に国民の創痍をいやさんとするならば、何ゆえに、まず第一に全面的な社会保障制度を実施して、全国民の健康にして文化的な最低生活を保障せんとしないのでありますか。旧軍人にのみ古き創痍があるのではありません。国は現在創痍者で満ちておるのであります。国民の大多数は、絶えざる生活の不安におびえているりであります。社会保障制度審議会ば、すでに二回にわたりまして、その科学的な、そうしてわが国の財政を十分顧慮いたしました社会保障制度の実施を政府に勧告いたしました。当国会もまた、これを実行すべきことを満場一致決議いたしました。しかるに吉田首相ば、これに対し常にきわめて冷淡でありまして、二の勧告を受入れようとはしないのであります。三年前、厚生省が結核に対する根本的な対策を樹立いたしましたときも、首相は結核に国費を使い過ぎると非難したと伝えられております。率直に申しまして、今回政府が旧軍人恩給の復活を企図いたしました真の意図は、旧軍人を戦争責任より解放せんとするよりは、むしろこの軍人恩給の復活によつて再軍備の基盤をつくらんとするにあるものと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)
ただいま、自由党の議員は、軍人恩給を再軍備との関係において論ずることをもつて、一部のためにするものの宣伝であるというように申されました。また緒方官房長官も、かようにこの場において申されたのであります。しかし、東京新聞を初め、今日の大新聞が、この点につきまして十分心配いたしました議論をその社説においていたしておるのであります。これを、ためにするものの一部の議論としいるのは何事でありますか。(拍手)私は、かく言うことそれ自体が、ためにせんとするところの企図あるところの悪意ある宣伝であると言わざるを得ないのであります。(拍手)論より証拠、首相は、かつて保安隊に参りましての訓辞において、保安隊は新国軍の基幹たれと言うておるのであります。また、今や政府及び自由党は公然自衛力の漸増を公言しておりますが、この自衛力の中にはもちろん軍備をも含んでおるということは、予算書のはつきりと示しているところであります。政府がいかに粉飾しようとも、この軍人恩給復活が再軍備への伏線であることは、良識ある者のことごとくが指摘するところであります。もし、はたしてしからば、これ明らかにすでに憲法違反であります。政府は、自由党をも含めましたこの国会が全員一致をもつて決議いたしました社会保障制度審議会の勧告を実施せんとせずして、何ゆえ今旧軍人恩給を復活せんとするか、その真相を良心をもつて御答弁願いたいのであります。(拍手)
第二に、この軍人恩給の復活は、旧軍人の既得権を認め、これを復活するということの、はつきりした意義を承りたいのであります。ただいまも、また先般予算委員会におきましても、緒方官房長官は、これは既得権に準ずるものという意味のことを申されました。戦傷遺家族及び戦傷病者等の援護についてのことでありますれば、さきに山下議員も申されましたように、これは私は、この軍人恩給を復活するという線を行かないでも、現行援護法を強化することによつてやつて行けると思うのであります。しかるに、これを軍人の既得権に準ずるものとして復活するという点につきましては、私どもは非常な異論があるのであります。敗戦の犠牲は、すでに申し上げましたように全国民的であります。その結果として、今次敗戦は、わが国の全般にわたりまして未曽有の革命をもたらしめたのであります。国民のそれぞれの既得権は、根底よりほとんどその一切が失なわれたのであります。
すなわち、まず戦時中におきましては、中小企業や零細企業はほとんど整理統合あるいは廃業せしめられ、男も女も、その家庭と事業を捨てて、あるいは戦場に、あるいは工場に強制動員せられ、そうして、その多くの者が、既得権どころか、その一切の財産を、その生命をも失つたのであります。敗戦前後を通じまして、ただに職業軍人のみかは、全国民が家を焼かれ、産を失い、肉親を失い、生涯とりかえしのつかぬ不具者となりました。
思いを中国や満州におられました一般同胞のことにいたしますならば、彼らはその全財産を失いましたのに、いまだ政府はこれに対して一銭の補償もいたしておりません。敗戦時、あの満州においてはいかがでありましたか。昭和二十年八月十四日、終戦の前日でありました。満州におりました関東軍参謀と、高級将校と、その家族が、満鉄の一、二等車をもつてする特別列車を仕立てまして、はなはだしきはミシン、げた箱、つけものたるまで積み込んで朝鮮に逃げ帰つたとき、ソ連軍や中国軍の前にまる裸で取残されました開拓民や同胞たちはいかがなりましたか。土民や敵軍の襲撃の中に、満州の曠野を飢餓と寒さと疾病の中にさまよい歩く絶望の旅の果てに、涙もかれ果てて、何ものにもかえがたい愛するわが子をさえ一思いに川に投げ込んで殺した母たち、銃剣をもつて刺し違えて、みずから生命を断つた男たち、死ぬよりつらいはずかしめを受けました婦人たちも無数にあつたのであります。われわれ、この法案を論議しておりまするただいまも、満州に、中国に、朝鮮に、こじきをしてさまよう子供たちもおります。人買いに売られ売られて苦力の群れにいる少年たちもおります。心ならずも生きるために異国人に肉体をまかせ、故国の空に恋いこがれる多数の婦人もございます。これらのことを思えば、旧軍人諸君が何をいまさら既得権などと言えましようか。(拍手)
戦争の犠牲は、かく全国民的であります。従いまして、この軍人恩給の復活が既得権の復活という理論的根拠に立つことは許されないのであります。いわんや、この法案において、十七級の旧階級差を温存し、しかも、旧軍人本人のみならず、傷痍者遺家族までもこの身分差を付することは、根本的誤謬であります。わが党は、この身分差、階級差の撤廃を要求しなければならないと存じておるのであります。
国の再建にあたりましては、国民的公平の立場に立つて、創痍のはなはだしきところより、いやしの手を伸べねばなりません。すなわち、まず戦争遺家族や戦傷病者に対して、国家補償の立場に立つて現行援護法の適用を広くかつ厚くすべきであります。かかる意味において、わが党は、さらに竿頭一歩を進めまして、すでに戦争犠牲者国家補償法を用意いたしておるのでありますが、これによりまして、われわれは、この援護をさらに徹底し、深きものといたしまして、たとえば第七項傷より第四款傷に至るまでの方々をも傷病年金制となさんとするものであります。
さて、二十八年度予算書によりますれば、普通恩給を受けまする者二十万二千人、金額にいたしまして約三十億円があります。これは、継続七年以上軍務に服した者で、十二年以上勤務いたした者に給与されるものでありますから、最も犠牲のはなはだしかつた応召軍人は、ほとんどこの中に含まれません。幼年学校、士官学校、兵学校、大学までことごとく国費で教育された、いわゆる職業軍人のみがこの特典に浴するのであります。そもそも現制度下における恩給理論の根本観念は、長年勤続の功労金と、退職後の生活保障であります。国敗れた今日、軍人に功労金を考えることはできません。今日、老齢軍人にして、生活困難な方々のおられることは事実であります。これらの方々に対しましては、さきに述べた国民的公平の観点から、社会保障制度の一環として、他の国民とともに老齢年金制度をすみやかに創設してこれを解決すべきであります。しかるに、政府は、減額するとはいえ、四十五歳以上五十五歳未満の健康な若年職業軍人にもこの普通恩給を支給せんとするものであります。その論拠は、文官恩給との平衡というのでありますが、すでに多くの点において文官恩給とはなはだしい差異のある旧軍人恩給を、何ゆえこの点においてのみ文官恩給と合せんとするか、ここにも、再軍備への伏線としてか、あるいは逆コースとしてのフアツシヨ勢力結集の企図か、あるいはまた次期選挙の得票目当かの、まことに不法なる企図があるやにうかがわれるのであります。(拍手)政府は、この軍人恩給を既得権として認めるか、またこの階級差の温存と、この軍人恩給五十五歳未満の若年支給を、国民的公平の原則に立つものとお考えになるか、御所見を承りたいのであります。
第三は、すでにほかの諸君もちよつと触れられましたが、この軍人恩給の復活は、今や近代民主国家として脱皮するために全面的社会保障制度を実施すべきわが国の社会政策に大いなる障害をおくものとなる点であります。今日、わが国においては、健康保険、国民健康保険、共済組合、厚生年金保険、都道府県恩給条例、市町村恩給組合、失業保険、労働者災害補償保険、船員保険、国家公務員災害補償、恩給、また国家扶助としての生活保護法、児童福祉法、戦傷病者戦没者遺族等援護法等々があり、新たにまた日雇労働者健康保険法、未帰還者留守家族援護法、私立学校職員興済組合法が用意されており、その各省にわたる管理と国庫負担率、保険料率、給付内容等、複雑多岐をきわめ、むだと不公平に満ちております。これを国民的公平の観点に立つて整理統合し、社会保障制度を完成することは焦眉の急であるが、この軍人恩給の復活により、旧軍人の諸君に新たに既得権を認めることとなり、社会保障制度の推進に新たなる抜きがたき妨げをつくることになると思うのであります。この際、政府各省は、大英断をもつてそのセクショナリズムを一擲し、全国民のために各種社会保険、国家扶助を整理統一し、完全なる社会保障制度の実現に邁進し、国に一人の所を得ざる者なきようにすべきであると思うがどうか。この点につきましては、すでに社会保障制度審議会よりも勧告がなされておりますが、この勧告等に対しまして、首相、労相、厚相の御所見を承りたいのであります。
最後に、窮迫せる国庫財政との関連について承りたいと思います。向井蔵相は、過日、本国会におきまして、将来の税増収の困難を訴え、これを勤労大衆の源泉所得に期待するほかなしと申し、また一月三十日の財政演説においては、現在及び将来の財政の許容する限度において軍人恩給を復活すると申しております。申すでまもなく、この軍人恩給は、二十八年度のみの支出ではなく、その大部分は毎年継続支出し、三十年後に至り、ほぼ解消するのであります。まことに国民の長き大いなる財政負担と言わねばなりません。それゆえに、軍人恩給特例審議会の答申が一たび発表せられますや、輿論の深刻な批判を受けたのは当然なことであります。
今日までの政府の説明及び予算書を見ますると、政府は、この輿論の批判に耐えかねて、故意か、あるいはそうでないか存じませんが、数字等につき誤れる判断をなさしめる発表をいたしておるのではないかと疑わせる節がございます。
〔副議長退席、議長着席〕
すなわち、その第一は、一月三十日の首相施政演説中、この軍人恩給の総額の九二%は遺族の扶助料でありますと申しておりますが、これは大蔵省の予算書によれば、八四・六%であります。金額にいたしまして年間四十四億円余の違いが出て参ります。第二に、予算書に発表せられておりまする四百五十億円は、さきにも指摘せられましたように、一年分の予算ではなく、九箇月分の予算でありますが、このことは予算書のいずこにもしるしてございません。従つて、この軍人恩給は、年間六百億円と、一時金約十七億円、事務費三億円、計六百二十億円となり、これに現在の文官恩給及び将来の保安隊等の恩給等を考慮いたしますれば、再び恩給亡国の声を聞くときの来ることなきかを憂うるものであります。しかしながら、国民的公平の観点に立ち、国家補償あるいは社会保障的見地に立つて、支出すべきものは支出しなければなりません。支出すべからざるものは、たとい少額でありましても、われわれは断じて支出してはならないことは申すまでもありません。さきに指摘いたしましたように、この支出すベからざるもの、主として健康な旧職業軍人に支出せられる三十億円、年間四十億円がございます。
私どもは、もちろん、旧軍人諸君にのみ戦争の責任を負わせんとするものではありません。まして、彼らを敵とするものでも断じてありません。いな、彼らもわが愛する同胞であり、その人生航路において、病気、失業、老齢、その他の生活困窮に陥りますならば、ただちに立つてこれを助けんとするものであり、いな、一歩を進めまして、国家の責任において、国民的公平の見地に立つて社会保障制度を断行し、かかる窮迫せる事態に立ち至らざるよう、彼らをも含めまして、全国民に社会保障制度の徹底的施策をなさんとするものであります。しかしながら、今この健康なる旧職業軍人に支給せられんとする四十億円こそは、汗とあぶらにまみれたる勤労大衆の源泉課税によるものであり、他面、本来社会保障制度の実施により当然援護せらるべき多くの人々より奪い取つて支給せられるものであることを銘記しなければならないのであります。すなわち、この四十億円をもつてすれば、毎年結核患者十万人の入院設備を増床することができ、十年ならずして一人の危険なる家庭療養者もなくなるのであります。この四分の一をもつて、不幸のきわみなる五千人の癩恵者を全部病院に収容することができましよう。また寄るべなき老人たちを全部収容保護することもできるでありましよう。この金があれば、貧しきがゆえに義務教育を受けられない気の毒なる盲聾唖児の全寮的就学制度を完成することもできます。先般制定された、たつた七億五千万円の母子福祉貸付金に、全国百五十万の母と子がいかに涙を流して喜んだことか。
厚生大臣は先般の予算委員会において、社会保障的政策にはすでに相当十分なる施策をしているかの独善的答弁をいたしておられますが、しからば、今回政府において提出せられたる日雇労働者健康保険法案においてはいかがでありますか。最初、政府は、これを本国会に提案し、制定する意思はなかつたのでありますが、議員立法としてあくまでこれを制定せんとするわれらの決意に狼狽し、周章して提案するに至つたのであります。経済的に社会的に最も力弱き九十万の日雇い労働者の健康保険を制定するにあたり、わずか三十億円の財源がないとの理由をもつて、保険給付期間はわずかに三箇月間であり、傷病手当金も、分娩や死亡に対する給付もなく、給付に対する国庫負担ほ全然ないのでありまして、社会保障制度審議会より、かかる不徹底なる制度ははたして健康保険と言い得るや疑問なりとの辛辣なる警告を受けておるのであります。ここにも、勤労階層の犠牲においてファッショ的逆コースを前進せしめんとする現政府の実体を暴露いたしておるのであります。思いをここにいたしますれば、旧軍人諸君も、政府当局も、この恩給法の改正にいま一たび大いなる反省をせられんことを希望するのであります。
重ねて申します。われらは旧軍人諸君をわけ隔てせんとするものでは断じてありません。いな、他の国民と平等に取扱わんとするものであります。旧軍人は、われらの敵ではありません。われらの敵は、権力をもつて自由と民主主義を蹂躪せんとする者であり、少数をもつて多数を、政治的に、社会的に、経済的に弾圧搾取せんとする者であり、日本を、アジアを、世界を再び戦争に巻き込まんとする戦争挑発者どもであります。(拍手)吉田首相の言う、社会に平和を来らせんためのこの軍人恩給復活は、逆に社会に乱を来らせるものではないか、この点につきまして、政府諸公の明快なる御答弁を要求する次第であります。
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/19
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020・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
何ゆえに旧軍人恩給の復活をほかの戦争犠牲の救済に先立つて取上げるかということにつきましての御議論は、昨年恩給法の特例に関する件の措置に関する法律、すなわち二十七年の二百五号の法律が国会の論議に上つておりますときになさるべかりし御議論でありまして、私は重ねてこの点について同じような答弁を繰返しません。
それから、太平洋戦争以来の創痍をいやし、また国民生活の安定ができなければ、かりに日本が再軍備をするにいたしましても不可能であるということは事実でありますけれども、今回の旧軍人恩給復活が再軍備の伏線であるということは絶対にありません。
それから、軍人恩給の復活は既得権の復活という考えに出ておるかという御質問でございますが、旧軍人恩給及びその遺族扶助料は、ポツダム命令である恩給法の特例に関する件によつて停止ざれたものでありますから、厳格な意味で既得の権利を持つておるとは言い得ないかもしれませんが、このポツダム命令の措置は恩給法に対して特例を定めたものであり、この特例がなくなれば、制度としての軍人恩給に関することは依然として残つておるという解釈でございます。その意味で、ある種の既得的位置を持つているともいうべきで、その位置を尊重して恩給を給することにいたした次第であります。
それから、社会保障制度全般から考えて、この軍人恩給復活は制度全般の障害になるものではないかという御質問であります。これに対しましては、今回の軍人恩給の復活は、占領軍の占領政策に基いて廃止または制限されておりました旧軍人、軍属またはその遺族の恩給を、独立した今日において復活しようとする趣旨でありまして、社会保障制度全般の障害とは決してならないものと考えております。
〔国務大臣向井忠晴君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/20
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021・向井忠晴
○国務大臣(向井忠晴君) 恩給の総額は相当な額に上るのではございますが、財政の程度において、これを支弁できるものと考えております。
〔国務大臣山縣勝見君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/21
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022・山縣勝見
○国務大臣(山縣勝見君) お答えを申し上げます。
ただいまのお尋ねの点につきましては、長谷川議員から、同一問題について、予算委員会において詳細な御質問がありまして、詳細に御答弁を申し上げました。
なおその他につきましては、先ほど来申し上げておる通りであります。
〔政府委員福田一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/22
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023・福田一
○政府委員(福田一君) 社会保障制度の充実に関しましてほ、私たちも十分力をいたすつもりで考えております。
次に、この失業保険その他の保険制度を総合一括いたしまして、社会保険といいまするか、一つの総合的な保険制度をつくるというお考え、また御質問のようでございますが、労働省関係におきましてありますところの失業保険あるいは労災保険というものは、それぞれの意味があるのでございます。失業保険の場合は、職業安定行政の一環としてこれを運用いたしておるのでありまして、失業対策事業とも関連を持ち、また失業者を就職せしめるという意味合いにおいてこれを運営して行くという必要がございますので、にわかに、ただいまのお説に賛成いたすことはできません。労災保険の場合においても同様でございます。(拍手)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/23
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024・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) この際お諮りいたします。建設委員長篠田弘作君から委員長辞任の申出があります。これを許可するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/24
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025・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて許可するに決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/25
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026・山崎岩男
○山崎岩男君 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案の趣旨説明に対する質疑は延期せられんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/26
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027・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 山崎君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/27
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028・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて質疑は延期するに決しました。
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第一 生活保護法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第二 児童福祉法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第三 民生委員法の一部を改正する法律案(内閣提出)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/28
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029・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 日程第一、生活保護法の一部を改正する法律案、日程第二、児童福祉法の一部を改正する法律案、日程第三、民生委員法の一部を改正する法律案、右三案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長平野三郎君。
〔平野三郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/29
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030・平野三郎
○平野三郎君 ただいま議題となりました生活保護法、児童福祉法、民生委員法のそれぞれ一部を改正する法律案の三案につきまして、厚生委員会における審査の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
まず、生活保護法の一部を改正する法律案は、現在生活保護法による医療扶助につきましては、被保護者の医療を担当する指定医療機関に対し、都道府県、市及び福祉事務所を設置する町村が直接その診療報酬を支払つておるのでありますが、このため、医療機関は、生活保護法による医療扶助の診療報酬を、社会保険及び結核予防法による診療報酬とは別の窓口から支払われるという煩項を免れない実情であります。よつて、指定医療機関に対する診療報酬支払いの一元化と迅速化をはかり、あわせて福祉事務所においてこの支払いに関する事務に充てられている事務能力を保護の決定実施の事務に振り向け、よつて一層生活保護法による保護の実施の適正を期そうとするのが、政府の本法律案提出の理由であります。
次に、本法律案の要点を申し上げます。第一点は、生活保護法第五十三条に一項を加え、都道府県、市及び福祉事務所を設置する町村は、指定医療機関に対する診療報酬の支払いに関する事務を社会保険診療報酬支払基金またはこれと同様な支払い機関で厚生省令で定めるものに委託することができるようにしたことであります。第二点は、これに伴いまして、社会保険診療報酬支払基金法第十三条の一部を改正し、この支払いに関する事務の委託を受けたときは、基金はその業務としてこれを行うことができるようにいたしたのであります。
本法律案は、二月十八日本委員会に付託せられ、同二十日政府委員より提案理由の説明を聴取した後、ただちに審査に入り、特に生活保護法による医療扶助の診療方針及び診療報酬を国民健康保険の診療方針及び診療報酬に準ずる点を中心として、きわめて熱心なる質疑応答が行われたのであります。同二十六日質疑を終了し、討論を省略して採決に入りましたところ、本法律案は全会一致可決すべきものと議決した次第であります。
次に、民生委員法の一部を改正する法律案について申し上げます。
本案は、第一点は、民生委員の職務につきまして、福祉事務所その他の関係行政機関に対する協力関係を明確にしたことであります。すなわち、民生委員が福祉事務所その他の関係行政機関の業務に協力することについて、特に明文を設けることによりまして、両者の職務内容と責任分野との明確化をはかろうとするものであります。これと関連しまして、生活保護法第二十二条に規定する「求められたとき」の字句を削除し、民生委員が自発的に協力できるようにすることによつて、公的扶助事務の円滑適正な実施に遺憾なきを期そうとするものであります。
第二点は、民生委員推薦会の組織を改めたことであります。すなわち、推薦委員会の委員を広く社会福祉全般の代表者の中から委嘱できるように、その範囲を具体的に明示するとともに、その定数を各分野についてそれぞれ二名以内とし、民生委員推薦会の組織といたしたことであります。
第三点は、民生委員協議会の任務中に、福祉事務所その他の関係行政機関との連絡に当ることを附加するとともに、市町村の区域を単位とする社会福祉関係団体、すなわち市町村社会福祉協議会の組織に加わることができることとし、民生委員協議会が地域社会における社会福祉の積極的増進に広い視野に立つて活動することができるようにしたのであります。
第四点は、常務委員及び常務委員協議会に関する規定を削除し、すべて民生委員協議会の自主的運営にゆだねたのであります。
第五点は「民生委員事務所を廃止しようとすることであります。
本法律案は、二月二十一日本委員会に付託せられ、同二十四日厚生大臣より提案理由の説明を聴取した後、ただちに審査に入つたのでありますが、同二十六日質疑を終了し、討論を省略して採決に入りましたところ、本法律案は全会一致をもつて可決すべきものと議決いたしました。
次に、児童福祉法の一部を改正する法律案について御説明いたします。
本案は、第一は、児童措置費の負担能力に関する認定機関を調整しようとするものであります。従来は国庫または都道府県が支弁した児童措置費を、本人やその扶養義務者の負担能力に応じて徴収する場合に、その負担能力に関する認定は、すべて市町村長が当つていたのでありますが、この制度のもとでは、費用の支弁主体と認定機関が異なつていますので、その徴収事務が煩雑をきわめる等、実情に沿わない点が多々あり、また他の社会福祉立法と軌を一にしない面もありますので、今後は国庫または都道府県が支弁した児童措置費については、都道府県知事がその認定に当るように改正せんとするものであります。なお従来は、児童措置費を都道府県がかわつて負担した場合、その十分の一の額を市町村にも負担させておりましたが、右の改正に伴い、これを廃止することといたしております。
第二は、現在地方財政平衡交付金に繰入れられている都道府県児童福祉審議会に要する費用等の国庫負担に関する規定を廃止いたすとともに、新たに国庫は、都道府県が支弁する児童委員に要する費用のうち、別に定めるものについては、その一部を補助し得るようにしようとするものであります。
本法律案は、二月二十一日本委員会に付託せられ、同二十四日厚生大臣より提案理由の説明を聴取した後、ただちに審査に入り、熱心なる質疑応答が行われたのでありますが、審査の経過に伴い、自由党野澤委員より各派共同提案による修正案が提出されました。すなわち、本法案の附則に一項を加え、母子福祉資金の貸付等に関する法律第四条第六号の修学資金について、高等学校に就学する者は「月額五百円以内」とあるを「七百円以内」に改めようとするものであります。
かくて質疑を終了し、討論を省略して、まず修正案について採決いたしましたところ、全会一致可決すべきものと決し、次いで修正部分を除く原案につき採決いたしましたところ、これまた全会一致可決すべきものと議決した次第であります。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/30
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031・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 三案を一括して採決いたします。日程第二の委員長報告は修正でありまして、日程第一及び第三の委員長報告は可決であります。三案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/31
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032・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて三案は委員長報告の通り決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/32
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033・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 日程第四、司法試験法の一部を改正する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。法務委員会理事松山義雄君。
〔松山義雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/33
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034・松山義雄
○松山義雄君 ただいま議題となりました司法試験法の一部を改正する法律案につき、委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
本案は、司法試験法について試験科目の閥整と受験手数料の増額等若干の改正をいたそうとするものであります。すなわち、従来の必須科目に現在選択科目とされている商法を加え、高等試験行政科試験に合格した者についても、新たに刑法を必須科目とするとともに、民法、商法のいずれか一つ、民事訴訟法、刑事訴訟法のうちいずれか一つをそれぞれ選ぶこととしたこと、受験料は現在第一次試験二百円、第二次試験五百円となつているのを、物価事情と他の試験とのつり合いの上から、これをそれぞれ五百円と千円に改めようとすることであります。
委員会におきましては、質疑の後、討論を省略、多数をもつて政府原案の通り可決した次第であります。
右御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/34
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035・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 採決いたします。本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/35
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036・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/36
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037・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 日程第五、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にへーグで、及び千九百三十四年六月二日にロンドンで修正された貨物の原産地虚偽表示の防止に関する千人百九十一年四月十四日のマドリッド協定への加入について承認を求めるの件を議題といたします。委員長の報告を求めます。外務委員長栗山長次郎君、
〔栗山長次郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/37
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038・栗山長次郎
○栗山長次郎君 原産地虚偽表示の防止に関するマドリッド協定への加入について承認を求めるの件を審議いたしました外務委員会からの報告でございます。
この協定は、締結国の一またはその中にある場所を原産地として虚偽に表示した生産物を、その輸入に際して差押えるとか、また輸入を禁止するとかいうことによつて、不正競争を防止することを目的といたしております。
平和条約調印のときに、わが国はこれに参加する意思を宣言しておりますし、わが国の国際信用を高めるために、これに加入することが得策であるとの政府の説明でございます。この質疑応答につきましては速記録に譲りたいと存じます。
討論の際、社会党左右両派から条件をつけて賛成の意見の表示がありました。全会一致をもつて承認すべきものと議決いたしたのでございます。
右御報告いたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/38
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039・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 採決いたします。本件は委員長報告の通り承認するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/39
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040・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて本件は委員長報告の通り承認するに決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/40
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041・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 日程第六、国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案、日程第七、開拓者資金融通特別会計において貸付金の財源に充てるための一般会計からする繰入金に関する法律案、日程第八、漁船再保険特別会計における漁船再保険事業について生じた損失を補てんするための一般会計からする繰入金に関する法律案、日程第九、製造たばこの定価の決定又は改定に関する法律の一部を改正する法律案、日程第十、解散団体財産収入金特別会計法を廃止する法律案、日程第十一、アルコール専売事業特別会計法の一部を改正する法律案、日程第十二、製塩施設法の一部を改正する法律案、右七案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。大蔵委員会理事淺香忠雄君。
〔淺香忠雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/41
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042・淺香忠雄
○淺香忠雄君 ただいま議題となりました国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案外六法律案につきまして、大蔵委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
まず、国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案について、その内容を申し上げます。この法律案は、従来政府直轄の民有林野の治山事業につきましては、一般会計に所属する職員がこれを行つて参つたのでありますが、この民有林野の治山事業は、国有林野における治山事業とその性質等において共通面を持つておりますので、この際これを国有林野事業として行わせることとするとともに、これに従事する職員についての給与その他の経費の財源については、一般会計から国有林野事業特別会計に繰入金をすることができることといたし、なお従来国有林野事業の附帯業務として行つて来た、公有林野官行造林地の管理及び経営の事業をも国有林野事業とすることを明定する等の措置を講じようとするものであります。
次に、開拓者資金融通特別会計において貸付金の財源に充てるための一般会計からする繰入金に関する法律案について申し上げます。この法律案は、開拓者資金融通特別会計におきましては、開拓者に対する貸付金の財源を、同会計の負担による公債の発行または借入金によつて調達することとなつておりますが、従来この貸付金の財源は、一般会計からの繰入金をもつて充てることとする措置が講じられて来たことにかんがみまして、昭和二十八年度におきましても、前年度と同様貸付金の財源に充てるため、一般会計からこの会計に十七億二千五百万円余の繰入れをいたすこととし、なおこの繰入金は将来貸付金がこの会計に償還された際に、繰入額に相当する金額に達するまで、予算の定めるところにより、この会計から一般会計へ繰りもどすことといたそうとするものであります。
次に、漁船再保険特別会計における漁船再保険事業について生じた損失を補てんするための一般会計からする繰入金に関する法律案について申し上げます。この法律案は、漁船損害補償法の規定により、拿捕、抑留等の事故を保険事故とする特別保険につきましては、昭和二十七年度において保険事故が異常に発生いたしましたため、漁船再保険特別会計の特殊保険勘定における再保険金の支払いが著しく増加し、その支払い財源に約五千万円の不足が生じましたので、その事故の性質にかんがみまして、これを一般会計からの繰入金をもつて補填することといたそうとするものであります。
次に、製造たばこの定価の決定又は改定に関する法律の一部を改正する法律案について申し上げます。この法律案は、日本専売公社の製造タバコの最高価格を定めている価格表の改正を内容とするものであります。すなわち本年四月から新たに発売することとなつている両切り紙巻タバコ富士の最高価格を決定することでありまして、外国タバコの小売価格及びピースの品質差等を考慮して、十本当り六十円といたしております。次に、朝日、ピース、光、桃山及び日光の最高価格を昭和二十六年に値下げを行つた現在の小売価格に一致させるとともに、現在製造及び販売を廃止しているいこい、ハツピー、きんし及びのぞみの最高価格を価格表から削除いたしております。
次に、解散団体財産収入金時別会計法を廃止する法律案について申し上げます。この法律案は、昨年七月団体等規正令が廃止されまして、今後は解散団体の指定も国庫に帰属する財産も生じないこととなり、従いまして、解散団体の財産の管理及び処分を一般会計と区分して処理する必要がなくなりましたので、昭和二十七年度限り解散団体財産収入金特別会計を廃止し、この会計に属する資産及び負債は一般会計に引継ぎ、その後の経理は一般会計において行うことといたそうとするものであります。
次に、アルコール専売事業特別会計法の一部を改正する法律案について申し上げます。この法律案は、従来アルコール専売事業特別会計の負担において行つて来ました醗酵研究をより総合的見地から運営して、醗酵工業の育成に資する目的をもちまして、昭和二十八年度から一般会計の負担においてこれを行うこととするとともに、同研究を行つている醗酵研究所の用に供している財産を一般会計に無償で譲渡いたそうとするものであります。
次に、製塩施設法の一部を改正する法律案について申し上げます。この法律案は、填田等の災害復旧事業を行います際に、原形復旧が著しく困難または不適当なときは、これにかわるべき施設を設ける必要がありますが、この場合原形復旧に必要な金額を超過する部分、すなわちいわゆる超過事業費についての補助率は、現在原形復旧の部分についての補助率より一割低くなつておりますのを、これについても原形復旧と同じ率を適用しようとするものであります。また、その年に発生した災害により甚大な被害を受けた地域の災害復旧事業につきまして、現行の補助率では事業施行者がその負担に耐えられない状況にありますので、事業費のうち一定の限度を越える部分についての補助率を引上げ、もつて国内製塩施設の維持の安定をはかろうとするものであります。
以上七法律案につきましては、本委員会に付託せられて以来、慎重に審議を重ねましたが、去る二月二十八日、質疑を打切り、討論を省略して採決いたしました結果、七法律案とも起立総員をもつて原案通り可決いたしました。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/42
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043・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 七案を一括して採決いたします。七案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/43
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044・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて七案は委員長報告の通り可決いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/44
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045・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 日程第十三、法務省設置法の一部を改正する法律案、日程第十四、統計法の一部を改正する法律案、右両案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。内閣委員長船田中君。
〔船田中君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/45
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046・船田中
○船田中君 ただいま議題となりました法務省設置法の一部を改正する法律案並びに統計法の一部を改正する法律案について、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
まず、法務省設置法の一部を改正する法律案について申し上げます。本法案の要旨は、少年の矯正教育施設の拡充整備をはかるため、少年院を増設し、少年院分院を本院に昇格するとともに、従来少年刑務所等の一部を区別して、特別少年院に充当して来た措置が、少年院法の規定により、本年四月以降継続することができなくなりましたので、この際、これら少年刑務所等を少年院に転用しようとするものであります。しかして、今回新たに設置される少年院は、奈良、大分、盛岡、千歳及び松山の五箇所、転用の上設置されるものは、久里浜、河内及び愛知の三箇所と新光学院、分院から本院に昇格するものは、神奈川及び和泉の二箇所であり、また転用の結果廃止される刑務所は、久里浜刑務所、愛知少年刑務所及び新光学院の三箇所であります。
次に、統計法の一部を改正する法律案について申し上げます。本法案は、法文字句の整備を目的とするものであります。すなわち、統計法は、さきに統計報告調整法の制定並びに統計委員会の廃止に伴い、それぞれ統計報告調整法並びに行政管理庁設置法の附則において関係条文の改正を行つたのでありますが、これらの法律の施行期日の関係上、あらためて整備を要するものを生じましたのと、他に一箇所整理漏れのありましたものを今回整備せんとするものであります。
両法案は、二月十七日、十八日、それぞれ本委員会に付託され、政府の説明を聞き、質疑の後、三月二日、討論省略、採決の結果、いずれも全会一致をもつて原案の通り可決いたしました。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/46
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047・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 両案を一括して採決いたします。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/47
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048・大野伴睦
○議長(大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて両案は委員長報告の通り可決いたしました。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時十六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101505254X03619530303/48
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