1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十八年七月六日(月曜日)
午後一時三十九分開会
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出席者は左の通り。
委員長 郡 祐一君
理事
加藤 武徳君
宮城タマヨ君
亀田 得治君
委員
小野 義夫君
赤松 常子君
棚橋 小虎君
一松 定吉君
政府委員
法務政務次官 三浦寅之助君
法務省刑事局長 岡原 昌男君
法務省保護局長 斎藤 三郎君
事務局側
常任委員会専門
員 西村 高兄君
常任委員会専門
員 堀 真道君
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本日の会議に付した事件
○刑事訴訟法の一部を改正する法律案
(内閣送付)
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001・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 只今より委員会を開きます。
刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、政府の提案理由の御説明を願います。三浦政務次官。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101615206X00719530706/1
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002・三浦寅之助
○政府委員(三浦寅之助君) 只今議題に上りました刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、御説明いたします。
先ず、立案の趣旨について申上げます。現行刑事訴訟法は、実施以来四年半を経過いたしました。この法律は、御承知の通り、旧刑事訴訟法に対し根本的な改正を加えたものであり、而も、制定当時の特殊な事情から、比較的短時日の間に立案せられ、且つ、実施せられたものでありましたため、当初は相当の混乱も見られたのでありますが、四年半に亙る朝野法曹の努力により、今日ではその運用もほぼ軌道に乗つて参つたと申すことができると思うのであります。併しながら、他面、時の経過と共に、当初から法律自体に内在していた問題のうち、運用によつては解決することのできない点が次第に明瞭となつて参りますと共に、社会情勢の変化に伴い、当初予想しなかつたような問題も現われて参りまして、これを改正すべしとする意見が漸く各方面に高くなつて参りました。
併し、刑事訴訟法は、刑事手続の基本法でありますので、その改正には慎重な考慮を払わなければなりません。そこで、政府は、一昨年法制審議会に対し、刑事訴訟法運用の実情に鑑み早急に改正を加えるべき点の有無について諮問いたし、各方面の有識者を以て構成される同審議会の慎重な審議に基く答申を待つて、改正案を作成することといたしました。同審議会は、現行法の基本的な諸規定についての検討はとりわけ慎重を要するというので、これを後日に譲り、現行法の基本的な性格を維持しながら、運用上現実に障害のある点を、差し当り除去するのに必要な改正を行うという根本方針の下に、今日まで三回に亙つて答申をいたして参つたのであります。
そこで、政府といたしましては、答申のありました部分について逐次改正案を作成し、これを国会に提出したのでありますが、国会の解散その他の事情により、今日まで成立を見なかつたのであります。
そこで、今回、従来の案に最近の答申に基く改正を加え、ここに改めて御審議を煩わすことといたした次第であります。
改正の内容は、六十数箇条の多岐に亙つておりますが、その多くは、現行法の規定の部分的な修正にとどまるのでありまして、基本的な制度自体に改正を加えるものはなく、また各改正規定の間に特に一貫した関連はないのであります。
次に、改正案の内容について、申上げます。第一は、被疑者及び被告人に対する身体の拘束に関する規定の改正であります。現行法は、起訴前の勾留期間を一応十日以内とし、止むを得ない事由のある場合に限り、裁判官の裁量により最大限十日の延長を認めているのでありますが、終戦以来現在までの犯罪の動向について考えますと、事件の規模はいよいよ大きく且つ複雑となつて参いり、捜査機関が如何に努力いたしましても、現行法の認める勾留期間を以てしては、起訴不起訴を決定するため必要な資料を集めることすら至難な場合が少くないのであります。そこで、これに対処するため、特別の事情のある場合に限つて、厳重な要件の制約の下に、さらに五日だけ延長し得ることといたしたのであります。
起訴後の勾留期間につきましても、現行法はその更新を原則として一回に限つておりますため、起訴から上訴を経て判決の確定に至るまでの勾留期間が原則として三カ月に限られる結果となり、いろいろの支障を来たしているのであります。そこで、このような実情を考慮し、本案においては、禁錮以上の実刑の宣告があつた後の勾留期間の更新は、これを形式的に制限せず、裁判所の裁量に委ねることといたしました。
次に、いわゆる権利保釈につきましては、その除外事由が狭きに失し、訴訟の進行に支障を来たしておりますばかりでなく、世の一部に非難の声も聞かれるのであります。よつて、今回この除外事由を一部拡張することといたしたのであります。その一は、従来除外事由として被告人が死刑又は無期の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯した場合を挙げていたのをいわゆる重罪、即ち短期一年以上の刑にあたる罪を犯した場合にまで拡張したこと、その二は、被告人が多衆共同して罪を犯した場合及び保釈されるといわゆるお礼廻りなどをして脅迫がましい態度をとる危険が多分にある場合を加えたことであります。なお、このお礼廻りにつきましては、これを保釈の取消事由にも加えることといたしました。
更に、いわゆる勾留理由開示の手続が、実際においては殆んど例外なくと申してもよいくらい濫用され、その適正な運用を妨げられている実情に鑑み、これを匡正するために、関係人の意見の陳述は、書面によつて行うべきことといたしましたが、これは勿論裁判所が適当と認める場合に、口頭の陳述を許すことを禁ずるものではありません。
第二は、犯罪の捜査に関する検察官と司法警察職員との関係に関する規定の改正であります。これは、二点に分れ、
その一は、検察官のいわゆる一般的指示権の及ぶ範囲を明確にした点でもり、
その二は、司法警察員の逮捕状の請求につき、原則としてこれを検察官の同意にかからしめた点であります。
前の点は、現行法が公訴を実行するため必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則を定める場合にのみ、一般的指示をなし得ることとしているため、捜査自体の適正を期するためには一般的指示をなし得ないものでないかとの疑を持つ向もあり、解釈上明確を欠いているのであります。併し、捜査が適正に行われてはじめて公訴の実行が可能になるのでありますから、検察官の一般的指示は、捜査の適正を図るためにも行われなければならないと存ずるのであります。そこで、この点の明確を期したのであります。
後の点は、最近逮捕状濫用の非難が高く、有力な法曹の間にも本案のような規定の創設を希望する声が高いので、これを改正案に取り入れたのであります。
第三は、被告人が公判廷において有罪である旨を自認した場合には、簡易な公判手続による審理を進めることができることとした点であります。
公判において審理を受ける被告事件の約八割までが、犯罪事実について争わない場合であるという実情に鑑み、この簡易公判手続により審理の促進と事件の重点的処理を期することといたしたのであります。英米法では、被告人が公判廷で、有罪の答弁をした場合には、それのみで直ちに被告人を有罪とすることができることとなつておりますが、かような制度は、我が国の憲法上その採用に疑義のある向もありますので、本案では有罪の答弁があつても、なお従来通り補強証拠を要することとしつつ、その証拠能力に関する制限を多少緩和し、且つ、証拠調についてもその方法を裁判所の適当と認めるところによることといたしたのであります。更に、漸進的にこれを実施する意味におきまして、この手続は、差当り、いわゆる重罪以外の比較的軽い罪の事件につき当事者の意見を聴いて行うべきものとすると共に、裁判所は、一旦簡易公判手続による旨の決定をした後でも、この手続によることが相当でないと認めるときは、いつでもその決定を取り消し、通常の手続により審判をすることができることといたしました。
第四は、控訴審における事実の取調べの範囲を拡張いたした点であります。
御承知のごとく、現行法は、旧法のような覆審の制度を廃し、控訴審を第一審の判決の当否を批判するいわゆる事後審とし、第一審判決後に生じた新たな事実は控訴審においてはこれを考慮することができない建前をとつているのであります。併しながら、運用の実際は、規定の不備もあつて、必ずしもこの建前通りではなく、裁判所によつてその取扱いが区々になつているのみならず、少くとも刑の量定に関する事実については、この建前を緩和すべきであるという意見が各方面に強いのであります。よつてこの要望に応えるべく、第一審判決後の被害の弁償その他の情状に関する事実については控訴審においてもこれを考慮することができることとすると共に、第一審の当時から存在しながら止むを得ない事由によつて公判審理の過程において法廷に顕出されなかつた事実も、控訴趣意書に記載して控訴申立の理由を裏付ける資料とすることを認め、裁判所の調査義務の範囲を拡張することといたしたのであります。
以上で主な改正点の説明を終りますが、なお、現行法の不備を補うため改正案に採り入れました点として、捜査機関のいわゆる供述拒否権告知について、運用の実情に鑑み、その内容に修正を加えたこと、勾留中の被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な現出がなく出頭を拒否し、監獄官吏による引致を著しく困難にした場合に、被告人の出頭なくしてその期日の公判手続を行うことができることといたしたこと、訴訟促進の要請に応えるため、死刑以外の判決に対しては、書面によつて上訴権の抛棄をすることができるものとしたこと、起訴状謄本の送達不能の場合にはその法律関係を明確にするため、公訴棄却の裁判によつて訴訟を終結すべきものとしたこと、更に、略式手続に関する規定を一部改正して、その適正迅速な進行を図つたことなどがあるのであります。何とぞ慎重な御審議の上、速かに御可決あらんことをお願いいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101615206X00719530706/2
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003・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 次に、この法律案につき、逐条に御説明を願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101615206X00719530706/3
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004・岡原昌男
○政府委員(岡原昌男君) 今回御審議を煩わすことにいたしました刑事訴訟法の一部を改正する法律案にきましては、御審議の便宜上私のほうで一応考えました逐条の説明をプリントにいたしまして、お手許まで配つてございます。で只今から逐条の御説明を申上げるにつきまして、大体そのプリントを中心にいたしまして、条文と照らし合わせして行きたいと思います。
今回の改正は、全文約六十数カ条いじつてございますので、その或るものは非常に技術的な細かい面もあり、或るものは従来の字句の整理等にとどまるものもございますので、さようなものの説明は極めて簡単にいたし、問題の存する点を中心にいたしまして御説明を続けます。
最初は、第六十条の第二項但書の改正でございます。これは現行法第六十条第二項但書におきまして、いわゆる勾留期間更新の制限の除外事由が規定してございます。ところがあとで述べます八十九条に改正がございましたので、その改正と睨み合わせてこちらも動いて来た、そうしてかような関係になるわけでございます。この改正を必要とする理由は、説明書の第二ページの(三)というところにございますが、従来刑事訴訟法運用の実績に鑑みますと、第一審における審理期間が三箇月を超えるものが、簡易裁判所において一五%、地方裁判所においては約四〇%に及ぶ始末でございます。而も審理に長期間を要するものは重要な或いは重い複雑な事件てございますので、さようなものを勾留期間の更新ができないということでは困りますので、この際これを是正するという趣旨でございます。
次の第七十一条、第七十二条、第七十三条、これは勾引状、勾留状等の手続につきまして、従来不備とせられた若干の点を改正したにとどまるものでございます。
次は第八十三条第一項、第八十四条第二項、第八十五条及び第八十六条の改正でございます。解説書の四ページのおしまいの行からでございますが、これはいわゆる勾留の理由の開示手続における手続の改正でございます。改正の重な点は、勾留開示の手続をする際に、意見の陳述を従来口頭でやらしておきましたのを、書面によつてこれをするということに書き改めたわけでございます。これが八十四条の第二項中の、「書面で陳述する」というふうに改正した趣旨でございます。それに伴つて字句の訂正を八十三条、八十五条、八十六条にいたした。かようなことになるわけでございます。
五ページの(二)のところに、現行法の運用の状況が書いてございますが、被告人、弁護人及びこれらの者以外の開示の請求者には、勾留理由開示の法廷で、口頭で意見を述べる権利が与えられております。これが八十四条の第二項でございます。ところがこの口頭による意見陳述の権利が、いわゆる法廷闘争のため極度に濫用される結果になつておりまして、法廷の混乱が極めて顕著に現われて参りました。刑事手続も極めて運用が阻害されて参つておりますので、この際この点についての改正をしようということでございます。この勾留理由開示の手続規定の憲法との関係につきましては、(三)のところに、若干従来等問題があつたことを述べてございますが、その点については、取りあえず触れませんで、取りあえず憲法の問題はそのままにいたしまして、現在の最も困つている点だけを改正しよう、かような趣旨でございます。(四)に書いております通り、勾留理由開示の機会に、意見を口頭で述べさせるという、口頭のみならず意見を述べさせるということは、憲法自体には書いてございません。そこでこの点につきましては、むしろ全然要らんのだという意見もあるくらいでございますが、現行法をさように急激に改変するのも如何かと思いまして、書面でこれをやらせるということに改正をしようとするものでございます。尤もこの場合におきましても、裁判所が、その判断によつて、口頭による意見の陳述をさせることも勿論できるのであります。
次は、八十九条の改正でございます。八十九条は権利保釈の規定でございまして、その除外事由に一号、二号、三号と並べてあるのでございますが、この運用の実績に鑑み、特に改正すべき数点を織込んだわけでございます。第七ページの(一)ところに、いわゆる権利保釈の除外事由たる現行法第八十九条第一号及び第五号に修正を施すと共に、同条に、新たに権利保釈の除外事由として、多衆共同にかかるいわゆる集団犯罪の場合と被害者その他参考人や証人となり得べき者を畏怖させるに足る行為に出る危険性のある場合を附加しておる。これをやや砕いて申上げますと、第八頁の(二)にその必要な理由が書いてございます。
先ず、第一号の改正は、現行法におきましては、「被告人が死刑又は無期の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したものであるとき。」という極めて重い極悪の罪だけを権利保釈の除外としておるわけでございます。ところが実際にこれを運用してみますと、例えば強姦であるとか、強盗であるとか、人身売買、営利誘拐といつたような、我々の常識でも重いと思われるような犯罪が、結局権利保釈になつてしまうというふうなことでは、運用上極めて不都合がございます。これらを救済しようというのが第一号の改正でございます。
次に新たに加わります第四号、これはいわゆる集団犯罪事件を権利保釈の除外事由としようとするものであります。これらの集団犯罪と申しますのは、犯罪自体がその性質上集団である場合、例えば騒擾、内乱のほか、集団強盗などというふうなものも入ろうと思います。かような犯罪は、従来の経験上一般に通謀乃至は証拠隠滅の危険が極めて高いので、これに権利保釈というりも如何であろうかというので、除外事由に加えようとするものであります。
新たに加わります第六号は、例えば恐喝事件等のように、被告人が保釈になりますと、早速被害者その他関係人を歴訪しまして、お礼廻り、お陰様で未決に入つて参りましたというような嫌がらせを言つて、結局、あとで証人として公判に出る際に、真実を述べると何かまずいことになるだろうというふうな危惧の念を与えさせるような場合、かようなのを防止する趣旨でございます。
従来の第五号、今度の七号の改正は、従来は「被告人の氏名及び住居が判らないとき。」というふうにございまして、「及び」と両方ともわからんことを必要とするのでございますが、今回はいずれか一方でもこれでよろしいというふうに改正しようというのでございます。
かように権利保釈の除外事由を修正乃至は附加いたしましたけれども、裁量保釈をやる分は、勿論裁判所の自由でございます。現在の統計によりましても、簡易裁判所では、二二%前後、地方裁判所で三一%前後の裁量保釈が許されております。
次は九十二条の改正でございます。第九十二条におきましては、「保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。」という規定がございますが、勾留執行停止について刑事訴訟規則の八十八条に、やはり「検察官の意見を聴かなければならない。」という規定が現にございます。勾留の取消しについても問題は全く同様であるべきであるのに、これについて現行法にも、訴訟規則にも、かような規定がないわけでございまして、これでは首尾一貫いたしませんので、その体裁を整える、かようなことになるわけでございます。これが九十二条の改正でございます。
次の九十六条でございますが、これは従来の保釈の取消保証金の没取等の手続でございますが、今までの規定がだらだらと書きつ放しに書いてあつてわかりにくいのと、それから若干問題がございますので、それを整理しつつ加えたのがこの九十六条一項の改正でございます。即ちこの整理した一号から五号までを読んでみますと、「被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。」これは従前通りでございます。二号が「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」これも従来通りでございます。三が、「被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」従来はこの「罪証を隠滅し」というのがなかつたわけでございますが、これはすでに逃亡したと同じように、すでに罪証を隠滅したというふうな場合も同じであろうというので、一緒にできるというわけでございます。第四号は、先ほどのお礼廻りの丁度裏腹になる規定でございます。「被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。」今度は、現実にその行為をしたときには保釈を取消す、かようなことになるわけでございます。第五は、「被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。」これも従来通りでございます。
次に十二ページの九十八条関係でございます。現行法九十八条におきまして、保釈又は勾留の執行停止の取消の場合の収監手続が書いてございます。これによりますと、かなりいろんな書面を用意して持つて来なければならないことになるわけでございます。「保釈若しくは勾留の執行停止を取消す決定があつたとき、又は勾留の執行停止の期間が満了したときは、検察事務官、司法警察職員又は監獄官吏は、検察官の指揮により、勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを収監しなければならない。」かようになつておるのでございますが、急場に間に合わない、すでに保釈の取消がある、ところが現にその人間も目の前におる、ところがその謄本が取れないという場合には、逃げてしまうわけでございますが、これに類する規定といたしまして、現在勾引状若しくは勾留状の執行について、七十三条の三項という規定、或いは通常逮捕状による逮捕について、二百一条第二項という……ここはミス・プリントでございますので、ちよつと御訂正願いたいのですが……十三ページ一行目の、括弧して二百一条第三項とありますのは、第二項の間違いでございます。御訂正願います。この二項の場合と同じく、緊急の収監の手続を定めようとするものでございます。その他新らしい第三項の七十一条の規定というのは、管轄区域外執行の規定を準用するという趣旨でございます。
次は百五十三条の二の関係でございます。「勾引状の執行を受けた証人を護送する場合又は引致した場合において必要があるときは、一時最寄の警察署その他の適当な場所にこれを留置することができる。」従来召喚に応じない証人を勾引することができることは、現行法百五十二条に規定がございますが、証人の勾引については、被告人の勾引の場合とは違いまして、途中でもよりの留置の場所についての規定がないわけでございます。で、どういうことになるかと申しますと、丁度公判開廷の時刻に間に合うような汽車のあるところはよろしうございますが、名古屋とか、丁度時刻の悪いところは、真夜中に向うを発つてこちらの午前十時の開廷に間に合うといつたようなことをしませんと、途中の手配ができないわけでございます。大変被告人、証人に対して不利益な扱いになる場合もございましよう。そこでこれらの手続を是正するために、かような規定を置いたのでございます。それで場所といたしましては警察署その他適当の場所というのは、要するに被告人を引致したというような感じを与えない場所、例えば保護室といつたようなところを予定しておるわけでございます。
次は、百六十四条の旅費、宿泊料等の支給に関する規定でございます。第百六十四条に一項を加えまして、「証人は、あらかじめ旅費、日当又は宿泊料の支給を受けた場合において、正当な理由がなく、出頭せず又は宣誓若しくは証言を拒んだときは、その支給を受けた費用を返納しなければならない。」という規定を置いたのでございます。これは従来でも、費用は前払いできるというのが会計法の第二十二条、及び予算決算会計令の五十八条の規定によつて一応解釈ができるわけでございますが、若干疑いがあつたためか、各地の取扱がまちまちでございまして、そこでこの際、あらかじめ支給を受けたという表現を以て、それは当然できるのだということを謳うと同時に、今度は出て参りませんが、或いは正当の事由なく宣誓、証言を拒んだときの返納の規定をここに明らかにした。従来この点の根拠規定がはつきりしないたために、いろいろ疑問が生じましたので、これで解決しよう、かような趣旨でございます。
次は、百六十七条第二項以下の改正でございます。これはいわゆる鑑定留置に関する規定の改正でございます。「第百六十七条第二項中「留置状」を「鑑定留置状」に改め、同条第二項の次に次の二項を加える。」「第一項の留置につき必要があるときは、裁判所は、被告人を収容すべき病院その他の場所の管理者の申出により、又は職権で、司法警察職員に被告人の看守を命ずることができる。」「裁判所は、必要があるときは、留置の期間を延長し又は短縮することができる。」「第百六十七条に第六項として次の一項を加える。第一項の留置は、未決勾留日数の算入については、これを勾留とみなす。」現行法上鑑定、留置の制度に関しましては極めて簡単に、勾留に関する規定を準用するという程度にとどまりまして、非常に実際の運用上疑義が生じて参つたわけでございます。先ず本条では、鑑定留置に関する規定を整備する関係上、令状の名前を、ただの留置状でなくて「鑑定留置状」という、新らしい特殊の名前に変えようというのでございます。で、この鑑定、留置によつて入れます場所は、大体病院等でございまして、精神病院等でございまして、監獄ではないために、逃げようと思えば逃げられる。戒護の面で非常に不備の点が多いのでございます。又自殺その他も警戒しなければならない。ところが、病院の職員、その他はなかなかそこまで目が届かないいというのでございまして、これらの手当といたしまして、病院の管理をしておる、身柄を預つておる病院の長の申出がありますと、さような場所に警察官を派遣しておいて身体を守らせる、かようなように改正しようと、それで足りない場合には、職権で裁判所がこれを命ずることもできるというふうな補助的な規定も置いたわけでございます。
二番目の、この留置期間を延長し若しくは短縮することができるというのは、現行法上極めてこの点の趣旨が不明でございまして、期間の延長等は勾留期間等の延長の場合とそのまま同じに動いて来るのかというと、これはなかなか実情からしてそうも参りませんので、そこでこの際、鑑定に伴う事情の変化に応じて、裁判所において、必要に応じて、もうすでに鑑定を終つたらもう要らない、又少し鑑定の日数が延びるような場合には、若干延長するということを裁判所がきめ得ることにしたわけでございます。
「未決勾留日数の算入についてはこれを勾留とみなす」これは次の条文を読んだついでに御説明申上げます。
十七頁の最後の行に、百六十七条の二、「勾留中の被告人に対し鑑定留置状が執行されたときは、被告人が留置されている間、勾留は、その執行を停止されたものとする。」「前項の場合において、前条第一項の処分が取り消され又は留置の期間が満了したときは、第九十八条の規定を準用する。」つまり勾留中の被告人に対して鑑定留置の決定がありますると、いわば身柄の拘束が、二つの理由がダブるようなことになつて参ります。そこでその間の関係が従来非常にはつきりいたしませんので、この期間は勾留はその執行を停止されたものとするということにいたしまして、同時に未決勾留の算入については、これを勾留とみなすという二つの条文でこの間の関係を賄うわけでございます。
次に鑑定留置処分の取消又は留置期間が満了したときの九十八条の規定の準用は先ほど申上げました改正した九十八条の規定をそのまま準用して参つてその間の手続規定をはつきりさせるというのがその趣旨でございます。従来かような点が法律的に手当してなかつたために、極めてはつきりしなかつたというのを是正したわけでございます。
次は百八十一条一項に次の但書を加える。「但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。」これは現在の百八十一条には、訴訟費用の言渡の規定がございまして、「刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない」と、かようにございます。ところで非常に貧乏な者などがありまして、訴訟費用を負担させても、結局払えない場合はどうするかと申しますと、刑事訴訟法の第五百条に、訴訟費用免除の規定が別に、あるわけでございます。この五百条の規定によりますと、訴訟費用の負担を命ぜられた者は、裁判所に対して執行免除の申立をする、而もそれが確定以後十日の間にこれをしなければならんということになつておるわけでございますが、実際問題として、さような人たちは十日の間にすぐやらないという場合もございましようし、当初から刑の言渡当時に、すでにこの貧乏人に訴訟費用を払わすのは不可能であるというふうに裁判所の認定がある場合には、当初からそうしたつて同じことである、むしろそのほうが親切である、かような趣旨からこの但書を置きまして、かような場合には判決の言渡の際に、同時に訴訟費用の免除の言渡もできる、かような趣旨にしたわけでございます。
次は百八十四条、十九頁の一番末行でございますが、百八十四条の規定の改正、これは法律上の不備でございまして、正式裁判の請求の場合の規定が、費用の負担の規定がなかつたのを是正するにとどまるのでございます。
次は、二十頁のまん中辺に、百九十三条一項後段の改正がございます。先ず百九十三条の現行法の条文を読上げますると「検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。」後段は次のようになつております。「この場合における一般的指示は、公訴を実行するため必要な犯罪捜査の重要な事項に関すみ準則を定めるものに限られる。」かような規定になつております。これをこの後段を「この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。」かように改正せんとするものでございます。その趣旨はいわゆる検察官の一般的指示権の内容を明確にするという点に目的がございます。現行法の只今のような一般的指示の表現になつておりますると、如何にも捜査と公訴というものが概念的に俄然と区別し得るのではないかというふうな疑念が生じまして、従つて司法警察職員の捜査が適正に行われるように検察官が必要な指示を迅速に出すということができないのではないか。この百九十三条の一項の一般的指示権の範囲外ではないかという疑問が一部から提起されておつたのでございます。併しながら捜査と公訴というものは密接不可分の関係にありまして、捜査が最初適正に行われて、初めて公訴が適正に行われるのでございます。従つてこの関係を明白ならしめるために本条のその点の改正をいたしまして、一般的指示権は結局捜査の適正、延いては公訴の適正を期そうとするという趣旨を明らかならしめようというのがこの改正でございます。
次は、百九十八条の第二償いわゆる供述拒否権についての改正でございます。二十一ページの(二)にございますが、現行法の百九十八条第二項は、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者の「取調に際してはあらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならない。」というふうに規定がしてございます。ところがこの制度の運用の実績を見ますと、犯罪事実の内容そのものについて供述を拒むのはまだしも、中には一言も発しない。住居、氏名も勿論言わない。これが一種の独立した権利であるといつたような風潮がかなり広まつて来ております。これは我々から見まして決して正しいあり方ではないというふうに考えましたので、これを直接匡正することはできませんけれども、この風潮を馴致した原因の一つを取除こうというふうなことから、この「供述を拒むことができる旨」を積極的に供述を拒むことができる権利があるという告知の方法を改めまして、「自己の不利益な供述を強要されることがない旨」告知を変えようとするものであります。憲法の第三十八条第一項に「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」という条文がございますが、その通りのことを告げるということで足りるということにしたのでございます。従来は捜査機関におきまして、この供述拒否権を告げる。つまりお前は何も喋らんでもいいということを言つたすぐあとから、ときに聞くが、と言つてすぐ何かを聞き出す。これは非常な心理的な矛盾を感じて来るというふうなこともございまして、その点もこういうふうな告知の内容を変えることによつて変つて来るのではないかというふうに考えるものでございます。尤もこの改正によりまして、被疑者の捜査機関に対する地位というものは全然動かないのでございまして、勿論供述をしないからといつて、それがどういうふうになるということではないのでございますが、少くともさようなあり方の修正には役立つだろうというふうな趣旨でございます。なお、この点は改正いたしますけれども、裁判所における被告人に対する黙否権の告知についての二百九十一条の第二項の規定はそのままになつております。これは従前通りでございます。
次は、百九十九条の一部改正でございます。現在の百九十九条はいわゆる通常逮捕の場合の要件の規定でございますが、ちよつと読んでみますと「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状に上り、これを逮捕することができる。但し、五百円以下の罰金、拘留又は科料にあたる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。」かような規定になつております。その第二項に「前項の逮捕状は、検察又は司法警察官員の請求により、これを発する。」その第二項の次に、次の二項を加えようとするものでございます。「司法警察員は、第一項の逮捕状を請求するには検察官(検察官の事務を取り扱う検察事務官を除く。以下本項において同じ。)の同意を得なければならない。但し、検察官があらかじめ一般的に同意を与えた事件については、この限りでない。」「裁判官は、逮捕状の請求が検察官の同意を要する場合において、その同意を得ていないことが明らかなときは、逮捕状を発付しないことができる。」かような二項を入れようとするものでございます。先ほど読みました通り、現行法の百九十九条の第二項に司法警察員が直接裁判官に対して逮捕状の請求をすることができることになつておるのでございますが、現在の運用の実情では逮捕状請求の際に検察官にその了解を得る地方とそうでないところとございます。運用が区々に分れておるようでございます。ところで一方におきまして逮捕状の濫用の非難が極めて高いのでございまして、殊に在野法曹からその点が強く指摘されておるのでございます。そこで通常、逮捕状の請求について原則として事前に検察官の同意を要すると改正しようとするのでございます。もとより現行犯又は緊急逮捕についてはさような事前の手続は要らないわけでございます。二十四ページの(三)検察官事務取扱検察事務官制度は検察官の足りないため当分の間を限り止むを得ず設けたものでございます。検察庁法の三十六条に規定がございます。併し何分にもその能力が本来の検察官に劣る点がございますので、この百九十九条の三項、四項の同意の点については同意権を与えないということにするわけでございます。なお副検事も除くべきであるという意見もございましたが、これは定員配置上、なかなかさようにすぐには参りませんので成るべく時期を早めてさような方向に持つて行こうという考えではおるわけでございます。
(四)の検察官があらかじめ一般的に同意を与えた事件は除くということにしてございます。その実は在野法曹のほうからはかようなものを除かずに全部検察官の同意に諮らしてくれというふうな強い要望があるわけでございます。併しながらこれは事件にもよりますけれども、一から十までさようなことをして、司法警察員の捜査を制約するのも如何かと思うし、又検察庁といたしましても、それだけの、全部の逮捕状に責任を持つて目を通すことはできないわけでございまして、この際どうも濫用が多いだろう、或いは現に今までの実績に鑑みまして濫用が多いといつたような事件に限つて同意にかからめる。その他のものは、あらかじめこれこれはよろしいというふうに、一般的に外して置こうというのがこの但書の趣旨でございます。恐らく運用の実際ということになりますと、あらかじめ一般的に同意を与える要件としては、窃盗、賭博といつたような通常の刑法事犯、まあそのほかにもいろいろ考えられるわけでございますが、逆に今度は個々に同意を要する事件というふうに考えられますのは、選挙法違反の事件、贈収賄の事件、破防法の事件、或いはこのほかに、いわゆる頼まれ事件、告訴事件、民事がかつた告訴事件というふうなものも入るだろうと思います。さて、さように一般的に同意を与えました事件は、直ちに裁判所に通知が参りますので、裁判所がこれによつてすぐこれは同意を要する事件、これは然らざる事件という区別ができます。若しも同意を要する事件について、同意が得てないということが明らかである場合には、裁判所は、それはいかんということではれることができるというふうな規定がその次に書いてあるわけでございます。
次は、二百八条の二、これはいわゆる起訴前の勾留期間の延長についての規定であります。現行法でこの勾留の期間は、御承知の通り最初十日、あとで又延ばして十日ということになつておるのでございますが、これを更に五日だけ延長することができるようにしようというのがこの趣旨でございます。それは現行法の二十日の期間を以てしても、なお且つ捜査の終局的な決定をすることができない特殊の事情のある場合、これにもう五日許そうとするものでございまして、例えば集団暴力犯罪のごとき、又は特殊の大規模の詐欺事件、若しくは偽造事犯の捜査等に用いらるべきものでございます。その他の普通の事件を予想しておるものではございません。そのためにこの濫用防止についても特に厳重な要件が定められておるわけでございます。
先ず本条は、勾留の再延長を事件の種類によつて制限しようとしております。即ち死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪の事件につき、ということで、非常に重いものだけに限つております。これは現行法の二百十条による緊急逮捕の許される場合のごとき、比較的重い罪に限るという趣旨になつておるのであります。なお、二十六ページの六行目の丁度まん中辺に「現行法第二百十条による緊急逮捕の許される範囲の罪、第二百八十九条の必要弁護事件にあたる罪と同じく、」とありますが、これはちよつとお消し願いたいのでございます。ちよつと用語が不正確になりますので恐れ入ります。
次に本条は、場合を具体的に限定しております。即ち第一には、犯罪の証明に欠くことのできない共犯その他の関係人又は証拠物が多数であることということが一つ第二にはそのために検察官が起訴前の勾留期間が第二百八条第二項によつて延長されたのにもかかわらずなおそれらの取調べを終了することができない場合であるということ、第三に、被疑者の身柄を釈放したのでは、それら関係人又は証拠物を取調べることが甚だしく国難になると認められる場合、この三つの要件が必要となつて来るわけでございます。それらの細かい説明は二十六ページから二十七ページの(五)から(八)まででございます。それから二十八ページの(10)通じて五日を超えることができない。」というのは、延長をあと二日、あと三日というふうに例えば区切ることができる。併し五日を超えることができない。かような趣旨であります。これは現行法の第二百八条第二項と同じ用語例であります。
次は、二百十九条の二、これは差押の特殊な手続でございます。「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、令状に差し押えるべき物の所在すべき場所が記載されており、且つ、その場所においてこれを発見することができない場合において、その物の所在する場所が明らかとなつたときは、急速を要する場合に限り、処分を受けるべき者にその事由及び被疑事件を告げてその場所を看守することができる。」、これは差押令状が出まして現実にその場所に行つたところが、物が移動しましてそこにはないけれども、すぐ隣りなら隣りという所にある。ところが場所が違つておりますので、新たに令状を差替えることがちよつと手間取る、その間にどうなるかわからんというふうな心配のある場合がございます。すでに物の特定はできているのでありますから、これを逃げないように一時看守するというのがこの趣旨でございます。それらの要件は(二)(三)に書いてございます。
次は三十ページのまん中辺の二百二十四条の第二項に次の後段を加える。「この場合には、第百六十七条の二の規定を準用する。」これは鑑定留置を捜査機関がやる場合の準用規定でございます。先ほど申上げました百六十七条の二という規定が出て参りますので、これを準用してその間の関係を明白ならしめようという、かような趣旨でございます。
次は、三十一ページのまん中辺の「二百五十四条第一項但書を削る。」現在の二百十四条第一項は「時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。但し第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたときは、この限りでない。」いわゆる公訴の停止並びにその進行についての規定が書いてあるわけでございます。ところで今回あとで述べます通り二百七十一条の関係を改正いたしまして、当然に遡つて無効とするのではなくて、三百三十九条の公訴棄却すべきものというふうな、これはあとで出て参りますが、改めるに伴いましてこれを改正しようとする、かような趣旨であります。
第二百五十五条中の改正、これは略式命令の告知に関する手続、略式命令が出ましてそれを従来の手続と違えた手続を新たに設けた。これもあとで申上げますが、それとの関連でこの際これもはつきりさせようというのが二百五十五条でございます。これはあとで出て参りますので、そのとき触れます。
次は、二百八十六条の二、「被告人が出頭しなければ開廷することができない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、監獄官吏による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる。」これは最近の特殊な集団事件におきまして、裁判所の定めた審理方式に真向から反対するというようなことで、公判期日に出頭を拒否する、中には監獄官吏が連れて行こうとすると、多数一斉にわめき出す、或いは足を蹴り上げる或いは裸になる或いはかみ付くというふうな乱暴を極める。結局その期日に出頭することができず開廷もできない、かような例がたくさんございます。これが一部の被告人の間で非常にはやつて参つたので、これをどうして抑えようかということで、かような際には被告人の出頭を待たずして、その日のその期日はどんどん進め得る、かような規定をここに入れようというのがこの改正の趣旨でございます。尤もそれはその日の開廷期日でございまして、その次の開廷の際には又さような事実がない限り一般の手続による。かようなことになるわけでございます。
次は三十五ページの簡易公判手続についてでございます。いわゆる簡易公判手続と申しますのは、英米法におけるアレインメントの制度ということからヒントが得られたのではございますが、制度的には全く違つておるのでございます。先ほど提案理由の中にもございました通り、この簡易公判手続は英米法では被告人が有罪答弁をすれば、すぐにもう刑の言渡しがあるといつたような割合に簡単な手続になつておりますが、それでは我が憲法との関係その他で若干問題もあろうし、被告人の人権を全うするゆえんでもないというふうな点から、我が国の簡易公判手続といたしましては、さような根本的な簡易なものではなくつて、若干妥協的ではございますが、現在の公判を簡易にしようという方向付けだけをしたわけでございます。
一般の公判手続とどういうところが違うかという点は、三十六ページに(二)第一、第二とございますが、その一つは伝聞証拠に関する証拠能力の制限が緩和されている、三百二十条の適用がないという点でございます。それから第二の点は、証拠調の手続を簡略にした、証拠調の順序、方法その他を裁判所の自由にやれるという点でございます。
それでは簡易公判手続をした場合に何か不都合な面は出ないだろうかというその消極的な抑えのために、三十七ページの第一、第二、第三というふうな配慮がしてございます。その第一は、仮に被告人が有罪である旨を陳述いたしましても、すぐに簡易公判手続に移るのではなく、あらかじめ検察官及び被告人又は弁護人の意見を聞くということにいたしまして、全部それはそれで差支がないという陳述を得て初めてこの手続に移るわけでございます。而も第二に、かような簡易手続に移りましても、調べをして行つたところがどうも事実の真相が怪しい、被告人が有罪だと言つておるけれども証拠上必ずしもはつきりしないといつたような場合には、何どきでも裁判所はその決定を取消して公判手続を更新して通常の手続に乗り代ることができるわけでございます。第三に、いわゆる重罪事件については簡易公判手続に上り得ないということにいたしましてつまり軽い事件についてのみこれができる、かようなことにしたわけでございます。なお被告人に対してはあらかじめ起訴状の謄本が送達されておりますので、自分の事件はこういう事件だということがわかつておりますが、更に公判期日において検察官が起訴状を朗読し、裁判長から黙秘権を告げた後に初めて有罪の陳述をするという段階になりますので、その間に被告人に誤解とかいうふうなことがないように更に裁判長から簡易手続の効果、意味といつたようなものを説明することになるだろうと思います。これはルールで規定されることになると思います。なお最後に、刑の量定に関する証拠調べは勿論これと別でございまして、これは言わずもがなでございます。
次は二百九十一条の二、「被告人が、前条第二項の手続に際し、起訴状に記載された訴因について有罪である旨を陳述したときは、裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、有罪である旨の陳述のあつた訴因に限り、簡易公判手続によつて審判書する旨の決定をすることができる。但し、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件については、この限りでない。」これが只今説明した趣旨でございます。
それから飛びまして四十三ページの二百九十一条の三「裁判所は、前条の法定があつた事件が簡易公判手続によることができないものであり、又はこれによることが相当でないものであると認めるときは、その決定を取り消さなければならない。」これも先ほど申上げました通り、本来重い事件であるから簡易公判手続によることができない、或いは後日に訴因の追加変更等がありまして簡易公判手続でやることが相当ではないというふうな場合には、すべて決定を取消して通常手続に乗り移る、かようなことでございます。
次は、四十五ページに三百七条の二というのがございます。これは先ほど申上げました証拠調の手続の簡易化でございまして、「第二百九十一条の二の決定があつた事件については、第二百九十六条、第二百九十七条、第三百条乃至第三百二条及び第三百四条乃至前条の規定は、これを適用せず、証拠調は、公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。」これは先ほど申上げました通り、証拠調に関する手続、これが順序が非常にはつきり普通の事件ではきまつておりまして、検察官の冒頭陳述から、証拠調の範囲、順序、方法を定める手続、或いは自白の取調請求の時期の制限、その他三百二条、三百四条と、ずつと細かい規定がございます。それらはすべて裁判所で順序の如何にかかわらず適当に調をしてよろしい、つまり証拠調の簡易化をこれに図つたわけでございます。
次は四十七ページの三百十五条の二、「第二百九十一条の二の決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、検察官及び被告人又は弁護人に異議がないときは、この限りでない。」通常の手続にかわる場合の公判手続の更新の規定でございます。このくだりでミスプリントがございます。四十八ページの二行目のしまいのほうですが、現行規則二一三条の三とございますが、これは二の誤りでございます。大変恐縮でございます。
次は、四十九ページの三百二十条の一部改正でございます。
第三百二十条に次の一項を加える。「第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。」これはいわゆる伝聞証言に関する法則の規定でございますが、これの適用が排除される、かような趣旨でございます。次は、第三百三十九条第一項中の改正、「第三百三十九条第一項中第一号を第二号とし、以下順次一号ずつ繰り下げ、同項に第一号として次の一号を加える。」一「第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。」現行法の二百七十一条によりますると起訴状の謄本が公訴の提起があつた日から二箇月以内に被告人に送達されない場合には、公訴の提起は遡つてその効力を失う、こういうことになつております。この場合には、事件は、何らの裁判を要せずしてそのまま裁判所の係属を離れることとなつているのでありますが、実際問題として一体果して起訴状の謄本が期間内に送達されなかつたのかどうかというふうな点がはつきりしない場合が出て参ります。この点が裁判所の扱いによりましてもいろいろ問題が出て参りましたので、この際裁判所の終局的な、終局的なというとあれですが、一応の判断を加えさせるということによつてこの事件としての系属をなくするというふうなことを明らかにしたいというのがこの三百三十九条の第一号の追加でございます。
次は三百四十四条中の改正、「第三百四十四条中「第八十九条」を「第六十条第二項但書及び第八十九条」に改める。」これは禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた場合の勾留の制限に関する規定でございますが、現在のように八十九条だけを、ちよつと条文を読んで見ますと、三百四十四条は「禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第八十九条の規定は、これを適用しない。」ということになつておりまして必要的保釈の、いわゆる権利保釈の規定は適用しないことになりますが、勾留期間の更新に関する制限第六十条二項の但書のほうは書いてないわけでございます。従つて現在で本非常に不便を来たしておりますので、この際これを一緒にまとめて書きまして、更に勾留の更新をすることができる旨をはつきりさせようというのがこの改正の趣旨でございます。
次に三百四十五条中の改正、これは現在の三百四十五条は、「無罪、免訴、刑の免除、刑の執行猶予、公訴棄却、管轄違、罰金又は科料の判決の宣告があつたときは、勾留状は、その効力を失う。」つまり無罪、免訴とか、刑の免除、刑の執行猶予とか、或は罰金、勾留、科料といつたような場合は、勾留はその必要がないということで、その効力を失うことにしておるのでございます。ところが公訴棄却にもいろいろ種類がございまして、手続の間違によつて公訴棄却になつたという場合には、手続を補正して再起訴することが勿論考えられるわけでございます。ところがこの規定によつてそのときにはすでに身柄が出てしまうということでは、今度起訴する際に結局起訴状の謄本の送達ができないというような事態にも立至りますので、この際「公訴棄却(三百三十八条第四号による場合を除く。)、」ということにしたのが一点、それから管轄違いも同様正式な管轄のところに移送起訴するということが当然考えられますので、これもこれから除く。なお「判決の宣告」を「裁判の告知」と改めましたのは、公訴棄却の裁判には判決の決定がございますので、その両方を含めるためには裁判の告知という文字であれしたほうが正確だろうということで直したわけでございます。
次は、五十四ページのまん中からあとまで、三百五十九条、三百六十条、三百六十条の二、三百六十条の三、それから三百六十一条、三百六十七条中の改正、これらはいずれもいわゆる上訴権の放棄に関する規定であります。もとの刑事訴訟法には上訴権放棄に関する規定があつたのでございますが、新法はこれを廃止いたしました。廃止の趣旨は軽々しく上訴権を放棄するということがあつてはならないというところにあるのでありまして、これは勿論その通りでありますが、ただ判決に全く不服のない、即日執行を願いたいといつたような被告人についても、十四日の上訴期間を経過しなければ執行ができないということになりましては、一面には審理の促進を阻害し、他面には必ずしも被告人の利益にはならない、そこで今回これをもとの制度に直そう、ただ死刑の判決があつたような重大な場合、これは除外することにいたしましたし、又上訴権の放棄ということは、必ず本人が書面で出すというふうな手続にしたわけでございます。
次は五十五ページの、控訴審の事実取調べ範囲の拡張についての改正でございます。三百八十二条の二以下若干の条文について総括的に申上げる点は、第一は、第一審裁判所の審判の過程に現われなかつた資料でも、一定の条件の上に控訴趣意書にこれを援用することができるものと、さようにすることによりまして、裁判所の調査義務の範囲、事実取調べの範囲を拡張しようというのが一つ、第二点は、控訴審が第一審判決後生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状を考慮して、原判決の量定の当否を判断することができるようにしたというのが二つであります。条文を読んで見ますと、三百八十二条の二という新設の条文に、「やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。」「第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。」「前二項の場合には、控訴趣意書に、その事実を疎明する資料を添附しなければならない。第一項の場合には、やむを得ない事由によつてその証拠の取調を請求することができなかつた旨を疎明する資料をも添附しなければならない。」これが第一点の改正でございます。この三百八十二条の二の第一項は、ややちよつとお読み願つただけではおわかりにくい点があると思うのでありますが、第一審の弁論終結までに調べた証拠でございますと、当然第一審の判決にそれが斟酌されて参ります。ところがそれまでの間に何か止むを得ない事情がありまして、その調べができない、現にそれまでに発生した事実である場合もございましようし、又そのあとの場合、あとに生じた場合もございましようが、とにかくそれまでに止むを得ない事情で調べができなかつたというふうなものも現に存在しておりまして、ところがその事実を客観的に証明ができれば、やはり第一審判決というものをどこか動かして来なければならないというふうな場合があるわけでございます。さような場合において控訴趣意書の中にその事実を調いまして、実は調べはして頂けなかつたけれども、こういう事実がありました。それはこうこうこういうような資料を調べればその点がはつきりいたしますということを申して参りますとそれは控訴趣意書の中に入つて参りますから、あとで三百九十二条の中に載つて来るわけですが、取調べの範囲の中に入つて来る。従つて控訴審においてはそれを調査する、かような順序になつて来るわけでございます。
五十八ページの三百九十三条一項但書の改正、これは三百九十三条一項の但書が、前文から読みますと「控訴裁判所は、前条の調査をするについて必要があるときは、検察官、被唐人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる。但し、第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠でその事由が疎明されたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証するため欠くことができない場合に限り、これを取り調べなければならない。」ということがございますが、「第三百八十二条の二の疎明があつたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取調べなければならない。」というふうに改正して参るわけでございます。つまり三百八十二条の二が改まつて参つたのと対応してこれを整理したという趣意でございます。それから五十八ページのまん中辺に「第三百九十三条第二項中「前項」を「第二項」に改め、同条第一項の次に次の一項を加える。」「控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。」これが重要な条件でございまして従来第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状、例えば弁償があつたとか或いは示談ができたというふうなことを第二審で真向うから取上げられるかというと、なかなかこれは問題がございますが、職権でこれを取調べすることができるということを真向から謳うことによつてその点をはつきりさせようかような趣旨でございます。
次は、三百九十三条に四項として次の一項を加える。「第一項又は第二項の規定による取調をしたときは、検察官及弁護人はその結果に基いて弁論をすることができる。」これは当然の規定でございます。
さように第二審で取調べをいたしまして、五十九ページの末行の、三百九十七条に次の一項を加える。「第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。」かような順序に相成つて来るわけでございます。
次は略式手続についての一般的な御説明を申上げます。略式命令によつて処罰される者は、大体全有罪人員の七割程度でございます。従つてこの手続を合理化することによりまして事件の迅速な処理を図ることが、全部の刑事事件を適切に捌いていくことになるわけでございます。そこで現在の略式手続でどいう点が欠陥になつているかと申上げますと、その第一点は、検察官が被疑者に対して略式命令の請求をすることを告げた後に、被疑者の異議がない場合でも一週間の猶与期間がある、一週間経たなければ略式命令が出せないということになつております。その第二点は、被告人の所在が不明なため略式命令の告知ができない場合の事件の処理に関する規定の不備でございます。この二点を改正しようというのが今回の四百六十一条二項以下の規定の改正でございます。
四百六十一条第二項は、現在略式命令は、被疑者が検察官から略式命令によることを告げられた日から七日を経過した後であつて、且つ略式命令によることについて被疑者に異議がないときに限りこれをすることができる。つまり七日の経過を待つて初めてやれることになつております。ところが運用の実際に鑑みますと、今まで七日の間に異議を申立てたのは一件もございません。これは結局無意味な規定であろうということでこの点を改正することにしたわけでございます。
次に四百六十二条の……、ミスプリントがたびたびございまして、実は昨日の夕方できて参つたばかりでまだ全部校正が済んでおりませんので、あとで正誤表の正しいのを差上げます、どうも恐縮でございます。こちらの法文のほうはいいのでございますが、解説書のほうは……。ここは法律案の四百六十一条第二項を削り同条の次に次の一条を加えるというので、結局四百六十一条の次に次の一条、つまり四百六十一条の二ということになるわけでございます。四百六十二条の二とあるのは間違いでございます。四百六十一条の二、六十二頁の丁度まん中辺でございます。「検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。」「被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。」これが只今申上げました通り検察官から略式命令についての詳細な説明をいたしまして、それで異議がないという場合に初めて書面でその旨を出させるわけでございます。ここで初めて検察官が略式命令の請求をする、かような順序になつて参るわけでございます。
次の六十三頁のうしろから四行目に、略式命令請求の際の手続がございまして、前項の書面には、前条第二項の書面、つまり異議がないという書面を添付する。かようなことになつて参るわけてあります。
次は六十四頁に、四百六十三条に次の三項を加える。これはいわゆる略式請求をしました事件を通常の手続に引き直す、こういう手続規定でございます。「検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。」「裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。」通常の事件に引直していたしますということを検察官にその旨を通知する。「第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。」これは先ほど二百七十一条、三百三十九条の関係で申上げました事件の結末をつける際の前提といたしまして検察官に通知が参つて二箇月、こういうふうな期間を第四項にきめてあるわけでございます。起算点を明かにしてその期限をはつきりさしたというのがこの規定でございます。
それから六十六ページ、そこで四百六十三条の次に次の一を加えるということで四百六十三条の二、「前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。」「前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。」「前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。」前条の場合を除いて四箇月経つても略式命令が被告人に告知されないという場合に、公訴の提起がさかのぼつてその効力を失う。併しながら略式命令が検察官のほうにはすでに告知されているのが一般でございますので一方的にても効力はできておるのでございます。そこで第二項にさような場合には、一旦略式命令を取消した上その決定をしなければならない、というふうに規定をしたわけでございます。
それから四百六十四条及び大百六十五条第一項中の「七日以内」を「十四日以内」に改めるという六十七ページの最後の規定でございますが、これは先ほど申上げました通り略式命令の請求をする前の七日間の期間を削除した代りに、略式命令に対する正式申立の期間を七日延長した、従来七日であつたものをこちらのほうで延長した、こういうような趣旨であります。
次は、六十八ページの五行目、四百七十四条但書の改正、現在四百七十四条は「二以上の主刑の執行は、訓金及び科料を除いては、その重いものを先にする。但し、最高検察庁の検察官は検事総長の、その他の検察官は検事長の許可を得て、重い刑の執行を停止して、他の刑の執行をさせることができる。」この但書によりまして刑の執行の順序を変更させる場合は検事総長又は検事長の許可を得るということになつておるわけであります。ところがいろいろと運用して参りますと、例えば早急仮釈放しなければいかん、それには刑の執行の順序の変更をしなければ本人に不利益であるというような場合、執行停止などを早急にしたい場合に、いちいち検事総長の或いは検事長の認可を得るというようなことでは急速に事態が解決しない場合がございます。そこでそれらのやかましい規定をやめまして、検察官の判断で重い刑の執行を停止して、他の刑の執行に移ることができる、かように改正しようとするものであります。
次は六十九ページのまん中辺の四百九十九条の押収物還付に関する規定であります。現在四百九十九条は「押収物の還付を受けるべき者の所在が判らないため、又はその他の事由によつて、その物を還付することができない場合には、検察官は、その旨を官報で公告しなければならない。」「公告をしたときから六箇月以内に還付の請求がないときは、その物は、国庫に帰属する。」ということになつております。ところが実際ではこの条文に該当する還付を要する証拠品というものは実に莫大でありまして、官報公告に要する費用が年間一千万円を超えるというふうな状況でございます。ところがときどき官報公告を御覧になりますと載つておりますが、例えば闇屋が米を運ぶために使つた風呂敷だとか或いはリユツクサツクだというと多少値打ちがありますが、甚だしきは錆びたナイフだとか、下駄の片方といつたような本当に笑い話みたいなのが載つております。それではこの官報公告を見て物を受取りに来たのがあるかと申しますと、私どもの聞いておるところでは今まで一件もございません。そこでかような無意味な規定をこの際改正いたしまして、めぼしいもの、例えば価額が非常に高いと思われるようなもの、重要なもの等は従来通りやりますが、あとは例えば検察庁に関係の帳簿を備えておいて、いつでも閲覧できるといつたようなことで事を処理したら如何かと、これらを政令で定めることにしたらどうだろうかということがこの改正の趣旨でございます。
最後に第五百条の改正、これは先ほど訴訟費用の負担免除の判決言渡しの際に申上げましたが、従来裁判の確定してから十日以内にそれぞれ訴訟費用を言渡した裁判所に免除の申立をしなればならんということになつておるわけでございます。ところが十日以内というと、またたくまに過ぎてしまつて、本人が是非免除を受けたいと思つておつても、結局できなかつたという場合もございましようし、又負担を命ずる裁判を言渡した裁判所にやらなければいかんということになつておりますので、例えば一、二、三審とも証人を喚んだというような場合に、一、二、三審の裁判所にそれぞれ申立しなければならんということになつて来るわけであります。非常にこれは本人に不利益でありますので、期間を二十日に延ばすと同時に、裁判所には裁判所規則にどこか一カ所にまとめて請求すればよろしいという手続にしたいというのがこの改正の趣旨でございます。
附則はそれぞれ改正の経過に応じて経過的の規定でございます。
以上非常に急いで御説明申上げ、殊にプリントが丁度昨日の夕方できて参りまして、私全部訂正してお手許に配るまでに手配ができませんので、大変恐縮でございましたが、いずれ正誤表は成るべく早急に差上げたいと思つております。
これを以つて一応逐条説明を終ります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101615206X00719530706/4
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005・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 速記をとめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101615206X00719530706/5
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006・郡祐一
○委員長(郡祐一君) 速記を始めて。
本日はこれを以て散会いたします。
午後三時十八分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101615206X00719530706/6
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