1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十九年五月十八日(火曜日)
午前十時四十九分開議
出席委員
委員長 井出一太郎君
理事 小枝 一雄君 理事 佐藤洋之助君
理事 綱島 正興君 理事 金子與重郎君
理事 川俣 清音君
秋山 利恭君 足立 篤郎君
佐藤善一郎君 寺島隆太郎君
松岡 俊三君 松山 義雄君
加藤 高藏君 足鹿 覺君
井谷 正吉君 稲富 稜人君
中澤 茂一君 河野 一郎君
山村新治郎君
出席政府委員
農林政務次官 平野 三郎君
農林事務官
(農林経済局
長) 小倉 武一君
委員外の出席者
参 考 人
(元産業組合中
央会主事) 辻 誠君
参 考 人
(中央農業会議
事務局長) 中村吉次郎君
参 考 人
(京都大学農学
部教授) 大槻 正男君
専 門 員 灘波 理平君
専 門 員 藤井 信君
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本日の会議に付した事件
農民組合法案(足鹿覺君外十二名提出、衆法第
二五号)
農業委員会法の一部を改正する法律案(小枝一
雄君外十六名提出、衆法第二九号)
農業協同組合法の一部を改正する法律案(金子
與重郎君外十六名提出、衆法第三〇号)
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/0
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001・井出一太郎
○井出委員長 これより会議を開きます。
農民組合法案、農業委員会法の一部を改正する法律案及び農業協同組合法の一部を改正する法律案、以上三案を一括して議題となし、審査を進めます。
本日はここに御出席をいただきました参考人各位より、農業団体の再編成の問題について御意見を承ることにいたします。
この際参考人各位にごあいさつ申し上げます。農業団体の再編或といわれる問題が巷間の論議に上りまして以来、相当の時間を経過しておりますが、その間第十五国会及び第十六国会には内閣より関係法案が提出せられ、一方これに対して第十六国会には両派社会党より農民組合法案が提出せられましたが、諸般の事情によりましていずれも審議未了に終つた次第につきましては、各位御承知の通りでございます。しかるところ、今国会にあらためて議員提出として農業委員会法及び農業協同組合法の一部を改正する法律案として、さきに内閣提出の法案の趣旨に若干の修正を加えたものが提出せられ、また両派社会党よりは再び農民組合法案が提出いたされたのであります。
申すまでもなく農業団体の組織運営のあり方いかんは、わが国農業の発展に至大な影響を与えるものであり、これら法案の重要性はまことに大きいと考えられますので、ここに学識経験ゆたかな各位の忌憚なき御意見を承り、法案の審査に貴重な参考に資したいと思う次第であります。
それではこれより逐次御意見を承りますが、時間の都合もありますのでお一人当り約二、三十分程度におまとめを願いたいと思います。
最初に元産業組合中央会主事辻誠君を御紹介申し上げます。辻参考人。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/1
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002・辻誠
○辻参考人 私御紹介にあずかりました辻でございます。突然お呼び出しにあずかりまして、三法案をちようだいいたしたので、一応拝見いたしたのでありますけれども、私、ただいま実際には携わつておりませんし、こまかい点につきましては、もうすでに議員の方とかあるいは官庁の方々が十分御審議なさいまして、これがおできになつたと思いますので、事こまかく申し上げる必要もないかと思つておるのであります。
委員長のおつしやいましたようにこの団体再編成の問題は、すでに長い間論議されておりますことで、私の記憶いたしますところによりますれば、この法案に直接関係したことにつきましては、すでに昨二十八年に議会で二度否決になり、その前の一年間というものは、団体が非常に数知れない会合をやりまして、地方、中央を通じまして議論したことなんであります。しかもこの問題は、ただ単に二十七年ばかりでなくて、その前の二十六年の中ごろから、すでに起つている問題だと思うのであります。この成案は三年間もかかりましてできていると私は考えておるのであります。これだけ長く法律案が審議され、また討論されておりますならば、もうできてもいいはずじやないかという感じが私はいたすのであります。いくら審議いたしましても、こまかい点をあまりつつついていましたならば、おそらく私は異論が多過ぎる問題ではないかと思つておるのであります。私事で話したことをここで申し上げることはよろしくないかと思いますけれども、私がここに参りました節もある議員の方が、この法案はまだ議会では審議されていないということを私ちよつと伺いまして、非常に奇異に感じたくらいであります。一般では、別に理由もなくてあれだけの人を動員し、議論もし、陳情もしてはおらないと私は考えております。従つてその議員の方のお話は、一応一つの言葉のきつかけだとは思うのでありますけれども、これだけ長い間問題になつていることは少いので、私としては、あまりこまかい議論はしないで、会期も切迫しておるのでおそらく困難かとも思いますが、何らかの方法でこれを出していただくという結論を初めに下して、申し上げてみたいと思つておるのであります。
元来農業代表団体と協同組合の問題というものは占領下からずつと議論されて参りまして、一番初めに出ました二十年のあの農地改革の指令の中にありました協同運動の問題が数箇年間議論されまして、農地改革が終つたあとで、二十二年にそれが法律として出て、そして農業会が解体され、一面二十年から非常に御活動になつていらつしやいました農民組合、この二つの団体が農業協同組合の初期におきましては相当御活動になつたと思うのでありますが、一面全体の団体の中心になつておりました各種の意見をまとめまする農業復興会議というものも二十二年からできておつたと思うのであります。これらのいろいろな代表機関というものが非常に錯雑して存在しておる状態、これは占領下としてやむを得なかつたと思うのであります。しかしその後GHQからも農業協同組合法と同時につくるべき農民団体法案あるいは農民組合法案でありますか、日本の事情としてはかなりわかりにくいものであつたと思うのでありますが、それを日本に実施しようという意見も出して来ましたが、結局農業委員会法が同時に議論されまして、むしろそれの方が代表的な機能を果すものとして現われて参つたのだと思うのであります。それに応じまして今までの農業復興会議のようなものは逐次勢力を失つて参りますし、農民団体の方の御関係も、農地改革の終りますると同時に、以前のような動員力というものはなくなつたのではないか——私実際は知りませんので、あるいは誤りかもしれませんが、そう思われるのであります。その関係もまた農業復興会議に非常に影響をして来ていたと思うのであります。その後農業復興会議も解体になりまして地方組織がなくなつて、ここにいらつしやる中村さんが事務の方をやつていらつしやるのでありますが、中央農業会議が生れて来た。ところがその中央農業会議というものは、私見まするに、農業委員会の団体も農業代表機関としてあるいは団体といたしまして相当な力を持つていらつしやると思うのでありますけれども、どういうわけか中央農業会議と農業委員会とは同一の組織になつておらないようであります。もちろん具体的な問題ではいろいろな協同活動をやつていらつしやるようではあります。従つてその点のあるいは御了解のし合いがないわけではないと思いますが、両者の間になぜ組織的な一致ができないか。組織的な一致ができないということは、一応何かそこに意見の相違があるに違いないのでありますが、少くともそういうような代表組織の状態がかなり食い違つているというような感じがいたすのであります。これはあとでおそらく中村さんからお話があると思うのでありますが、この点は私は団体問題としてあるいは農業代表機能を強化する面から見まして、十分考えてよく必要があることではないかと思つておるのであります。
いろいろあと先いたしますけれども、農業の代表機能というものを一つのものにまとめるということは非常に大事なことで、しかもそれが国でもつて認めて、それによつて政策の方向をきめていただくというふうにしていただかなければならないと思うのでありますけれども、まだ確たるものが出ていないということ、また農村の中における農業代表機能が統一されておらないような感じを持つということ、これは私は農業のためにやはり一つの不幸ではないかと考えておるのであります。
第二番目に、私、元産業組合中央会主事という十五年前の資格で今日お呼び出しを受けたわけで、非常に古老になつているわけであります。だから私が申しますことは古い考えであるかもしれないのでありますけれども、協同組合法そのものの性格につきまして、現在の農業協同組合の関係者の方、それからまた議員の方々におかれましても、もう少し明確にしていただきたいというような感じを持つておるわけであります。その一つの重要な問題は、政治活動の問題であると思うのであります。農業協同組合の法律を見ますと、事業として政治活動がはつきり現われてはおりません。これは皆様御承知の通りでありまして、本来ならやはり経営体としての性格が中心になつて、従として準経営体の活動をするというようになつておると理解する方がいいのではないかと思います。しかしながら占領下におきまして農業協同組合ができて、農業代表機能の関係の団体、あるいは機関の整備が行われておらなかつたという関係からいたしまして、農業協同組合がその機能を果そうとしたということにつきましては、私は一応了解できると思うのであります。しかしなが漸次事態がかわつて参りまして、世の中もおちついて参りますし、農民の気持もおちついて参りますれば、やはり代表機関というものを法定いたしまして、そうして明確にいたしまして、協同組合の任務をやはり正道にもどして行く必要があるのではないかと考えておるのであります。もちろん私は農業協同組合の政治活動すべてを否定するものではないのでありますけれども、少くとも一般農政治活動の中心を別に定めまして、そうしてそれに協力するような立場で行くのが農業協同組合としては当然のことではないかと思うのであります。しかしながら初期における状態をまだ依然として続けなければならないというふうに考えておられる役員の方も地方に相当ございます。従つてそれが全国機関に反映するということは当然のことであります。しかしながらこの点はよく農業協同組合の方々がお考えくだされば、おそらく私は全体としての統一ができて行くのではないかと考えております。そういう考え方から申しますと、もう三年前からいろいろな案が出て参りまして、あるいは農事会法案であるとか、これに対しまして農業委員会が反対するとかあるいは農業協同組合が反対するとか、いろいろな意見が錯雑して出て参りまして、最後の結果としてこの二つの法案が出て参つたわけでありますが、もちろんこれは各派の方々よつていろいろご意見がおありになるのだと私は思うのでありますけれども、たとえば、農業委員会の場合におきまして、地方の会議所の構成の問題とか、あるいはまた中央における役員の構成であるとかいうような問題について農業委員会と他の団体と半半にする、この考え方は相当御議論になつたと思いますが、本来ならば農業委員会を中心に考えて行くという方が正しいのではないかと私は考えておるのであります。しかしながら現在の政治的な情勢から考えて参りまして、ここに折合いをおつけになつたということであれば、多少欠点がありましても——その理論の通らないことがあつても、もし実行して行く間に必ず通らないところには欠陥が出て来ると思います。それは先のことでありまして、今ただちに現われるかどうかはこれは両方で水かけ論になりますので、一応やはりこの方式でやつてみて、そして事態の進展するにつれて、農業委員会の方も成長し、農協の方も改められて行き、そして新たな態勢に持つて行くというふうにいたしますれば、団体の育成ということも十分やつて行けるのじやないかと考えるのであります。そういう意味から申しますと、この非常に議論になりました問題につきましても、おそらく私は時間が解決してくれるのではないかと思います。ことに農業委員会の中央の団体の構成におきまして、たとえば全国的な農業協同組合連合会なら加入の資格があるというようなことが出ておりますけれども、その点につきましても——私農業協同組合のことを一番たくさん見ておるせいもございますけれども、かなりおかしいような感じさえするのであります。全国連合会と申しましても、きわめて仕事の範囲の狭いものもございますし、それからまた職員の数も少い、つまり経済力も小さいようなものもありまして、それを皆地方の十万とか十五万とかいうような農家を代表した機関と、同一に扱つて行くというようなことがはたしていいことかどうか、私はここに疑問があるのであります。しかし先ほど申しました役員とかあるいは地方の会議員の構成という問題で、やがては時間が解決づけるだろうし、あるいは運用の面で適当にやつて行けるだろうと思いますので、非常に焦点となつておるこの問題につきましては、私はあまり問題にしないでもいいのではないかと考えておるのであります。
なお農業協同組合の関係のことをつけ加えておきますが、中央会という組織にするという意見が出て参りましたが、農業協同組合の方の状態をお伺いいたしますと、法律で通ろうと通るまいと、この中央会をつくるのだというような御意見がかなり支配的であつたようにも伺つておるのであります。しかしながらこの点は私はかなり疑問だと思います。せつかく農協法の中に指導連という形式があるにもかかわらず、それを越えて中央会の制度をするということ、地方の全体の組織がそれに従つて来るかどうかというような点につきましても疑問があるのであります。もちろん全国中央会はすぐできると思うのでありますが、他のものはそれに従わないということになりますると、非常にちぐはぐな組織になつて参ります。
それからもう一つのこの中央会の問題として割切れない形になつておりまするのは、やはり農業協同組合の団体の関係、一般農政団体としての機能を十分持つていたいという気持がかなり強く、大会の決議もそれによつて左右されているというような状態であると思うのであります。従つてその点は相当全国団体の方はこれに固執しなければならない立場にもあるかと思うのでありますが、大体団体の決議というものは、農協ばかりではなく、どの団体でもやはり輪をかけて決議するのが普通であります。従つておちつく先はある程度めどをつけてそれに賛成している人もありますれば、非常に極端にそれを主張している人もあるのだと思うのであります。従つて私はこの点はいかに農協の中にそうした強硬意見の方があつても、農政問題につきましては、別に中心をつくるというところにおちつきましても、やはり協同組合は全体としてその方向に行くのではないかというふうに観察をいたしておるわけであります。ことに中央会が現在できて参りまする必要は、指導連の現在の地方の実情によるのだと私は思うのであります。指導連なるものが教育連を持つて事業をして、そしてその他の仕事をやるような形で法律でできておりまするが、新たな形式で出て参りますれば、結局農協の全体の総合的な機関となつて、そして経営体としての活動を強化して行くことを中心にして、あわせて農協に必要な政治活動であるとかいうようなことをやつて行くものであると私は考えるのであります。そういうことがやはり中央会という名称をつけるというふうになつているのではないかと私は考えております。これは過去の産業組合の場合でも、国際的な機関の場合でもそうであろうかと私は考えておるわけで、ぜひこれらの中央会という議論が数年前から出て来た根拠というものを、現在の指導連の状態あるいは農協の経営的な破綻を来している状態をお考えくださいまして、この中央会の法案というものが早く出て来まするように御尽力願えれば非常に幸いだと思つております。ことにこの法律の中で中央会として新たな監査という機能が入つておるのであります。これは過去の産業組合の場合におきましてありました組織でありますが、それを新たな形で——まつたく前のものをそのまま移すというのではなくて、新たな民主的な形でやつて行こうというので、この監査という仕事が入つております。法律で中央会というものができて来なければ、この監査というものの仕事が十分やつて行けないのであります。今の中央会あるいは農協の方々が、法律がなくてもやるのだというようなお考えを持つていらつしやいましても、監査という仕事は実際としては、単位組合に対して行い得ない状況にあるということだと思うのであります。またそうしたことが法律できめられなければ、おそらく地方でも、これに対して法律的に援助をするということにはなつて参らないと思うのであります。中央会をつくるということは、単に従来の全指連あるいは地方の指導連の看板の塗りかえをするということでなく、その経営の方針につきましても、また事業の内容につきましても、かわつて来るものではないかと考えておるのであります。その点につきましては、おそらく農協の関係の方々の中には御異論があるようございますけれどもも、やはりこうしたことが現在の農協の破綻した実情、さらにまた今後起つて参ります恐慌の状態を考えて参りますと、その準備をいたさなければなりませんし、さらにまた根本的に農協の改革を行うために、農協の大合同を行つて行かなければならぬ。こういうような町村合併の問題と関連いたしまして、これはやはり農業委員会の構成にも関係し、それから農業協同組合の将来の構成にも関係して来ることであります。こういう新たな段階に入らなければならない協同組合及び農業委員会といたしまして、この際根本的に考え直して、そうして組織の整備を行い、指導方針を統一して、農村の中で統一ある行動がとれるようにしたいと思つております。私が一番疑問に思つておりますのは、農業委員会とそれから農協とが、団体問題について今まで相当意見の食い違いがあつた、最近は大分御提携になつていらつしやるようでございますから、そういうことはないのでありますが、これはきわめてふしぎなことだと私は思つているのであります。農業協同組合の役員は、農村におけるところの多数の農業協同組合も農業委員会も、ほとんど同じ農民から役員が選ばれておるのであります。しかるにもかかわらず、この団体問題になつて参りますと非常に異なつて来る、同じ基礎を持つていながらこういうふうに違つて来るということはきわめておかしなことでありまして、やはり農業協同組合と農業委員会とがもつと緊密な連絡がとれるような方向に行くのが私はよくはないかと考えておるのであります。農民組合につきましては、もちろんいろいろな特別の意見を持つていらつしやる方が多数にわかれていらつしやるのでありますから、これは簡単には統一行動をとるということは困難かと私は思いますけれども、少くとも農業協同組合と、それから農業委員会とは統一的な行動をとつて、またそれができるようにして、そうして農民の意思の統一というところにお進み願いたいと考えておるわけであります。その意味で私は漠然たることしか申し上げかねるのでありますけれども、要するにこまかな議論はしないで、できるだけ早く、この会期切迫している時期に法案をお見通し願えればというふうに考えて申し上げたわけでございます。はなはだ長談義をいたしまして申訳なかつたと思います。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/2
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003・井出一太郎
○井出委員長 次に中央農業会議事務局長中村吉次郎さんにお願いします。質疑がおありでしようから、それは最後に一括していたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/3
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004・中村吉次郎
○中村参考人 私は特に農民組合法案について申し上げるようになつておるようでございますが、その前に農協法の一部改正、農業委員会法の一部改正について少しばかり御注文を申し上げておきたいと考えます。
御承知のように農業協同組合法の一部改正では、一番大きな眼目になつておるのは農協の中央会をつくるということであろうかと思いますが、そのほかにも大きなわれわれの関心を持つておる問題が二つあるのであります。それは共済事業について監督の規定を強化したということ、それから農協の同じ区域にある他の農協あるいはその地域の一部を組織しておる農協、それから部落の団体を加入させるという第十二条の変更だと思います。
農協の中央会につきましては、第一回の全国農協大会でも、農協の総合系統機関を強化するという強力な決議がございまして、その線で今日まで農協関係の方々が、農協の指導系統組織を強化する連動を展開されておられまして、最近では法律案が出る出ないにかかわらず、自主的な指導機構として中央会をつくるという問題が推進されておつたのでありまして、こういう際にこの法案が上程されましたことは、必ず農協関係全体の歓迎することだろうと思います。ただ私どもはやはり農協の建前からいつて、理想としては自主的にやつてもらいたいのでありますが、それもなかなか困難なこともあります。やがてそういう自主的なものも法律の裏づけが必要となつて来るだろうと思いますが、この中央会の設立に対して期待をかけるわけでございます。その際にやはり農民が一様に危惧しております指導機関の官僚化といいますか、官僚的な指導に陥らないように、十分運営に御注意を願いたいと思います。
それから共済事業につきましては、これは戦前の産業組合時代にも共済事業の問題が大きな政治問題として発展したこともございますが、最近農協の共済事業は非常に急速に発展しておりまして、これはやはり長期の契約を農民と結ぶのでありまして、相当監督も厳重を期さなければならぬということは、当然起つて来ることでございますから、この機会にこういう改正法律案が出ましたことは、けつこうだと私は思います。
それから三番目の部落農業団体あるいは同一区域内にある他の協同組合も包括し得るような、いわゆる団体加入の問題でございますが、これも前の産業組合時代から、おそらく二十年くらい前から問題になつて、一応産業組合の運営の結論としてこういうことが解決されたと思いますが、この機会にこの部落の組合を団体加入させて、そして農協の運営を強力にするということは非常に必要なことじやないかと思います。特に部落にはいろいろな、一例を申し上げますれば、副業の指導などは部落単位でやつておりますが、これがやはり農協と結びつくことによつて、そういう副業が非業に強力に進められるというようなことが出て来るし、また部落の特殊性といいますか、農民は部落的に団結をしておるのでありまして、この部落の組織が農協に団体加入することによつて、農民の意思が十分農協の運営に反映するということも可能であろうということを私は信じておりますので、この点も非常にけつこうであろうと思います。
さらに私は、今度はたな上げになつているようでありますが、やはり技術指導が非常に問題になつて来るだろうと思います。私どもが地方の農民のいろいろの声を聞きましても、やはり単協の生産技術指導をぜひやつてもらいたいという要求は、ほとんど例外なく農民が一致した強い要望でありまして、全国的に見れば、相当この生産技術指導を行つている農協がありまして、そういう農協は、概して優秀な事業成績をあげております。しかしながらこの技術指導には相当負担もかかるし犠牲も払う。いわゆる単なるサービス的なことであつては、農協の弱体なところではなかなか困難でありますので、こういう技術指導に対しては、当然国家から何らかの形で助成をするようにならなければならないのじやないか。そうしますと、農民の要望している技術指導が一斉に各単協において取上げられまして、その事業を拡充することも緊密であり、また農協に対して農民たちが、これは真にわれわれの農協であるというような関係を持つし、その緊密なつながりもそこから生れて来ると思います。そういう意味で今度の農協法の一部改正は、きわめて重要な諸点を改正されるのでありまして、これは農民のみなが支持しているものとして賛成を申し上げたいと思います。
それから農業委員会法の一部改正法律案でございますが、私どもの立場から申し上げますと、その農業委員会の設立の当時にも反対しましたし、また十六国会においてこの法律案が改正されるときにも反対したのでございますが、その当時のわれわれの考え方は、農業委員会は行政機構の一部であるという考えを持つておりまして、その行政機構の一部が、その系統機構を組織して、これが農民の代表機関である、利益を代表するものであるというような考え方に対して、根本的に反対をしていたのでありますが、今回の改正によりますと、非常にそのありさまがかわつておりまして、早く申せば、前の農業協同組合法の一部改正法案は、これは農業協同組合並びに農業協同組合中央会法案と言つた方が正しいのじやないか。いわゆる中央会というものは、今までの農業協同組合の連合会と相当性質が違つているように思います。またそういう必要に迫られているわけであります。それからまたこの農業委員会法案を見ましても、これは正確に申し上げますならば、農業委員並びに農業会議所法案とも言うべき性質のものじやないかと私は思います。いわゆる十六国会に上程されましたときのように、系統農業委員会組織をつくるというような考え方から相当離れておりまして、この点は国会において両法律に対して相当御研究され、御苦心されたあとが見えるようでございますが、私どもはそういうふうに考えまして、この農業委員会法案を見ますときには、町村の農業委員会は依然としてやはり行政機構の一部であると確信いたします。それが都道府県段階になりまして、他の団体の代表者を加えまして都道府県の農業会議をつくります。こうなりますと、これは町村の農業委員会とは非常に性質が違うて参りまして、いかにも利益代表機関的な性格を持つて来ているようであります。全国におきますと、さらにそれが団体をもつて構成するということになつておりますから、これはさらに違つて来ておりまして、この三つのものを系統機関と見ることは、私は非常に困難があるのではないかということを感ずるのであります。そういう疑点が若干あるにしましても、今日の日本の農村の状態としましては、末端機構ではやはり農業委員会が必要であります。また全国都道府県段階では、農民の非常に多様にわたつております業種等を包含しまして、その総合的な意見を統一して行くということも必要であろうかと思います。ことに積極的に申しますならば、今日の農村では非常に場当りの施策が行われておりますが、やはり農村の総合計画といいますか、そういう根本的な調査に基いた総合的な農村建設の計画を立て、それを実行するということが必要になつて来るだろうと思われます。そういう際に、こういう団体が官庁と緊密に連絡をいたしまして、農村の建設計画を総合的に樹立するという段階が来ているのではないかということも考えられますし、そういう意味では、この農業委員会法の一部改正、さらににこれが発展いたしましてそういう力を持ち、機能を果せるような機構になることが必要でないかという感じもいたします。今まではこの農業委員会法一部改正には反対でございましたが、今回の法律案には賛成を申し上げまして、今国会をこれが通過するように要望する次第であります。
それから私は最後に農民組合法案について申し上げたいと思います。農民組合法案につきましては、長い間問題になつておりますが、この大きな眼目は二つございまして、健全にして民主的な農民組織の育成、それから農民の団結権の擁護、団体交渉権の確立である、こういうふうに私どもは理解しておりまして、そのことがどうしても今日の農民にとつて必要であります。この農民組合法案の提案理由の説明においても、日本の民主化の根本が農村の民主化であり、農民の解放であるというように御説明されておりますが、少くとも現在上程されております三法案をもつて、先ほど委員長も申されました通り、農業団体の再編成という名をつけられておりますが、前の二つの法律案は修正されるにしても、私どもが考える農民団体の再編成という名にふさわしいものにするためには、この農民組合法案がどうしても成立しなければ団体再編成の名にふさわしく相ならぬというように解釈をしておるのであります。
さつきの農協と農業委員の二つの組織、これは農村にとつて非常に巨大な組織でありますが、それではこれだけの二つの巨大な組織をもつて農民の解放は遂行されるかどうかということになりますと、私は疑問を持つております。卑近な最近の例を一つ申し上げましても、神奈川県に起つた問題でございますが、農地の問題につきまして——これは全国的にということは言えないかもわかりませんけれども、盛んに不当転売がされております。農業委員会が買収されたとかされないとか、いろいろ言われております。とにかく現在麦が育てられている麦畑の中に、住宅地として土地ブローカーの旗がひらめいている。そういうことが現在なされておりますが、私はやはり農地問題については、今日の農業委員会は非常に怠慢である、その機能を十分に果しておらないということが、全体的に言えると思います。そういうことを考えますときに、私どもはやはり農村において民主的な農民組織が農地を守り農地を開放する推進力とならなければ、農業委員会は農地を預かつている機能を十分に果すことができない、こういうふうに考えております。それでは農協はどうかと申しますと、さつきの場所でございますが、農協は農地の転売に対して何らの意思表示もしないどころか、その代金を農協を通じて支払うという点で妥協をいたしまして、土地ブローカーと一緒になつておる。つまり農協はみずからの金融と経営だけを考えて農民の基本的な解放について考えておらない。そういうことがやがては農民を農協から引離して行くということが言えると思います。従いまして私どもは、農協がその任務をよく果し、農業委員会がその使命をよく果すためには、やはりその村その土地に民主的な農民の組織が打立てられなければならない、かように存じます。
そういう農民組織は、法律によらなくても任意につくればいいじやないかということも言われておりますけれども、今日の状態ではそういう段階に至つておりません。それは日本の農村が非常に遅れておるということと、農業が孤立的であつて、農民の自覚がそこまで至つておらないということにもよりますけれども、何と言いましても、農民があまりに貧乏であるからであります。貧乏であるから、自分たちの力によつて任意の民主的な農民組織をつくるだけの余力が出て来ないということが言えると思います。それからたくさんの問題が今農村にはございます。米価の問題とか、農地の問題とかあるいは税金の問題、こういう問題がたくさんございます。しかしながら農民の相手とする側の方でもたくさんございまして、農民は困惑しておることが多いのであります。
まず米価の問題にしましても、米価を農民の要求する生産費米価につり上げるために、農民組織が闘つて政府に要求いたします。そのためにはある地区の農民組織は非常な犠牲を払うわけであります。しかしながらそれによつて得られるところの農民の利益というものは、それら闘つた農民だけではなくして、全国の農民に利益を与える。そうしますと他の農民は、日本の国内の一部の農民に犠牲を払わして米価をかち得ているということになる、非常な不合理があるわけであります。さらにまたもう一つの不合理は、たとえば去年の夏に筑後川が氾濫いたしまして、流木によつて家屋が押し流される。そうしてその流木を拾つた農民は、長い間の慣例によりまして、涙金を少しばかりもらつて材木会社に持つて行きます。しかしこれは、農民が立ち上つて組織をつくり、材木会社に一箇半ばかり交渉の上要求をいたしますと、いわゆる水難救護法という法律の適用を受けて、時価の十五分の一の支払いを受けるようになつたのであります。こういうことは、すでに日本の農民は法律によつて保護された事項さえも、団結をして闘わなければその法律は適用されないという状態でありまして、われわれは日本の現在の憲法下において、非常に特殊な部落といいますか、特殊な地帯は農村ではないかと思つております。そういう農民を解放するために、私どもは、やはり全国的な農民組織をつくるように、法律によつて育成しなければならないと思います。また、それでは流木問題について、福岡の農民が団結して交渉すれば法律によつて支払われた、そういう事例があるにかかわらず、それから二、三箇月後に、紀州において有田川ですかが氾濫いたしまして、流木が出た。そのときの流木に対する材木会社の支払いは、そのようになされたかといえばなされておらない。つまり黙つておれば支払う側でも違法をして払わない、こういうことが行われた。これも農民にとつては非常に不合理な状態であつて、この二つの不合理を、やはりこういう組織の育成によつてわれわれは解決しなければならぬと思います。たとえばこの委員会において、昨年の十二月に問題にして取上げられました電柱敷地補償料の問題にしましても、これは黙つておればだれも支払つてくれない、要求したところにはどんどん払います。またその値上げにつきましても、要求の強いところだけを聞いておる。こういう状態では非常に不合理であります。この電柱敷地補償の問題につきましては、最近のことでございますが、この委員会で特に取上げられましたことが地方版の新聞に出まして、会津のある村では、この新聞記事を見て農民が立ち上つて、東北電力に対して立入り禁止の非常手段に訴えようとしておる村もございます。こういう事件が頻繁に起つて来ると私は思います。その他農民としましては、たとえば専売公社が買い上げております葉タバコの取引の状態、あるいは繭の取引の状態、牛乳の取引の状態というものは、非常に一方的な取引がかなされておりまして、農民の意見というものは何らそこに取上げられておらないのであります。私は先ほど米の問題を言いましたが、米にしましても、農民は昔から今日まで、おそらく自分が生産した米の全量を自分のものとして受取つて処理したということはないだろうと私は信じます。それほど農民の意思というものは蹂躙されて来ておるのでありまして、私どもはこういう問題は、農業委員会や農業協同組合によつては解決され得ないということを信じておるのであります。すなわち農民が自分の権利を伸張し、自由を獲得するために、やはりこれを保護して行かなければならない。戦後になりまして労働者の権利は相当伸張されましたが、これは一に労働組合法という法律によつて保護されているためであると私は信じます。すなわちやはり農民も労働者と同じようにその団結権を擁護され、そ一の団体行動は保障されなければならぬ。つまり刑法三十五条の正当行為の規定によつて農民の団体行為というものは保障されなければならぬと私は思います。
それからこの農民組合法の経過を御参考に申し上げますと、これは戦争直後でございますが、昭和二十一年の第一回日農大会で要求され、決議になつておりまして、その後研究されまして、第二回大会において農民組合法がつくられております。しかしこのときはまだ農協法もできておらないし、いわんや農業委員会法もできておらなかつたのでありまして、その後こういう二つの法律案を経まして、昭和二十五年の暮れだと思いますが、いわゆる司令部から農民組織に関する十六原則というものが出されまして、その最後の項に農民も労働者のようにその権利を主張する組織もつくつて、政治的な要求をしなければならないということがございまして、おそらくそれに基きまして、先ほど辻さんも申されました通り、占領軍の司令部から勧告が出ております。これは法律の文案になつて、その形で勧告が出ておると聞いておりますが、その勧告が出たころに、農林省では、いかにもこの勧告を受けてその代案かのようにして農業委員会法をつくられた。おそらくそうではないかと思いますけれども、われわれは農民組合法案が農業委員会法案にすりかえられたというような感じを受けました。従いまして私どもは、この農民組合法案と農業委員会法というものは時期的にもつながりが出て来たと思う。私どもは、当時農地委員会も反対でありましたが、農民組織もこの農業委員会法に反対をしておつたのであります。つまりそれは最初に申し上げました通り、農業委員会は農民の利益代表機関ではない、利益代表機関は農民の自主的な組織でなければならないという考え方に立つて反対して来たのであります。
それから最後に私は申し上げたいと思いますが、現在も農民組合がございます。しかしながらこの農民組合法案が成立いたしまして、新しい農民組合制度ができました際は、おそらく今日の農民組合の姿は相当にかわつて来るということを私は考えております。先輩の先生方を置いて言いずらいのでございますが、やはり今日の農民組織にも欠陥がございまして、非常にこれは克服されなくちやならぬ基本的な問題が残つております。それは何としましても、今日のような農民組織が非常に、つまり農民の会費によらざる財政をもつて運営されるということから来る欠陥でございまして、このような状態で進みますと、農民組織が特定人の選挙組織になつたり、特定政党の支持団体となつたりする危険性がやつて来るのでありまして、これを克服しなければ農民組織は正しい農民組織にはなり得ないのであります。これを克服するためには、やはり農民組合法が生れまして、そうして農民の代表によつてこの組織が正しく運営されるというようなことにならなければならないと私は思います。
なお農民組合の制度につきまして二、三申し上げますならば、やはり私どもは、いわゆる農民組合という名前にとらわれないで、農民のその土地土地にふさわしい名前でもかまわない、それを自由に農民に選択させ、その組織の形態も農民に選択をさせ、それから制度は協同組合と違いまして、届出制度にする、それからさつき申しました会員は、原則として農民をもつて組織して、農民以外の人をこれに加えない、但し役員は農協と同じように、四分の一を限度として農民以外からも選び得るというような道をつくられたらよいではないかと私は思います。なお農民組合法案につきましては、いろいろの問題があろうかと思いますが、先ほど申し上げました通り、農民の権利を伸張し、団結権を擁護する意味におきまして、日本の農村を画期的に民主的な状態に推進する意味におきましても、ぜひともこの農民組合法案が農協法並びに農業委員会法と一緒に通過されますことによつて、私どもは農協を強力にし、また農業委員会の機能も十分に発揮し得るようになるということを信ずるものでございまして、その意味で私は前の二つの法案も、この農民組合法案の実現を前提として賛成を申し上げることを最後に申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/4
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005・井出一太郎
○井出委員長 最後に、京都大学農学部の大槻教授にお願いをいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/5
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006・大槻正男
○大槻参考人 実は電報をいただいて、陳述人として出て来いというわけで、取急いで出て参つたわけでありますが、ここに参りまして、私がはたして陳述人として適当であつたかどうかということを疑うのでございます。
私、三年ばかり前に農業団体再編成の叫びがありましたとき、しばらくの間農業団体の問題に対して興味を持つて多少研究したことがありますが、その後なまけ者でそういう方面に対する関心はほとんど失つて現在に来ておるわけであります。それで前の国会において審議未了になつた団体法案、昨年の国会において審議未了になつた法案及び今度議員提案として出た案に対しては、全然内容を知らなかつたわけなのであります。ことに構成の問題などに入りますと、どういういきさつでこういうふうになつたのかというようなことは皆目わからない。それに対して私が、具体的な内容にまで入つて責任あるお話をするというようなことはとてもできない。ただ私は大学において農業経営学をやつており、地方にもよく出まして、農家と接触する機会がある。農家の立場においては、現在の農業団体に対して相当に欠陥があると思う。それでこれは相当改革されなくちやならぬ問題であるという考えは持つているのでございます。そういう多少原理的な方面から私の考えているところを申し上げてみたいと思うのであります。資本主義の社会において、日本のような小農が生存し繁栄して行くために、これは孤立しておつたんではどうにもならぬ。それで何とか単位を大きくするために団結し、団体をつくるということは、どうしてもやつて行かなくちやならぬことだと思う。そのうちで農業経営及び農家経済の立場から一番大切な団体は、何といつても農業協同組合である。そうして現在において大きな発展を遂げている。それで農業経営及び農家経済の立場から、一番しつかりしてもらわなくちやならぬものは農業協同組合なんです。ところが現実の農業協同組合というものが、はたしてほんとうに堅実な発達を遂げているかどうかと言いますと、ここに非常に疑問がある。協同組合の本来の職能というか任務は何かと言いますと、これはむろん経済事業が中心をなすものである。それでこういうふうな民主主義の社会に入りました場合には、できるだけ職能を単純化しまして、それに一生懸命突つ込んでもらいたい。自分の職能を完全に果し得ないのに、ほかのことにむやみに口を出したりすることは控えていただきたい。私はそう思うのでございます。本来の職能であるところの経済事業に対して、現在の協同組合が他の企業その他に比較して、相当な能率を上げているかということになると、これは非常に疑問がある。間もなく食糧の統制がはずれるということは覚悟しなくちやならぬ。それと同時にインフレが終つてデフレの時代に入る。そうなりますと、これは前の農業会のように国家行政庁の代行機関であつたとき、及びインフレの金を借りて返すときにはただのような金で返せるというような時代とは違いまして、組合の経営事業を非常に合理化しましてやつて行かなければならぬ時代に、急速に入つて来るとみなさなければならぬ。それで協同組合が農家の経済、経営を助ける部面というものは、まず一番は組合の経済事業を通して、農家の経済、経営を助成し、発達をはかつて行くべきものであると私は信ずるのであります。現実の協同組合、ことに私は町村の協同組合に接触する機会が非常に多いのでありますが、単位組合の実際の状況を見ますと、今まではどうにかやつて来たけれども、これからはどうにもならぬという部面が非常に多い。そして、経営のやり方などに理事諸公や何かがくちばしを入れて、何だかわけのわからぬものになつてしまう。そしてまた必ずしも経済主義によらずして、利益代表的な仕事をするとか、あるいは技術面に非常に力を入れるとかいうことになつて、協同組合はプリミテイヴな運営がされていないというような事実がある。そうして経営の帳簿などを見ますと——私は農業簿記をやつている関係から帳簿のことは非常に関心を持つているのですが、帳簿がどうもよくできていません。私の香川県の一友人が、最近協同組合の組合長を押しつけられた。組合長をやる限りにおいては、その組合の経済状態がどうなつているかはつきりさしてから引受けたいというので、前組合長に聞いてみるとさつぱりわからぬ。むろん貸借対照表は出していますけれども、それは形ばかりです。そこで計理士を頼んで見てもらうと、百五十万の赤字がある。これでは引受けられない。それから、ではもつと詳しくやつてくれと言つて、一週間ばかり計理士を頼んでやつてみたところが、三百万のマイナスだ。それが組合員に知れて取付騒ぎになつた。それを中金の理事の方に保証してもらつて、どうにか収支をつけたというような事実があります。これは、たまたまそういうことが起つたのですが、これは相当よく調べてみますと、こういうことはあり得ることである、私はそう信じております。それで今度つくる法案においては、中央会において、府県団体及び全国団体において、監査ということが事業の中に加わりまして、これを重要な仕事としてやるということでありますが、これはぜひ監査に力を入れていただきたいと思います。
それからこれは多少話がそれますが、簿記のことに関して申し上げますと、敗戦後これはGHQの指導によつたのでしようが、協同組合が借方、貸方の複式簿記を採用した。これは私はどういう意味かわかりません。簿記の様式それ自体としては絶対によしあしというものがあるものじやない。借方、貸方は企業簿記だとか、金融簿記だとか、専門的にやつているものには非常によろしい。しかし日本の農民の組合は農民が組織しているものです。計算の方法も何も知らぬ者が借方、貸方という式の帳簿をつけておる。これは毎日帳簿をつけているという人でなくてはなかなかわかるものじやない。それを借方、貸方の貸借帳簿にしてしまつた。そうでない昔の帳簿であつても農民にはわからない。経理を見守るべき組合の幹事諸公で、帳簿を見られる人が何人ありますか。それでは職能を果せません。組合長でわかつている人がありますか。ほとんどありません。組合員でわかつている者はない。実際の面から行くと帳簿づけ一人しかわからぬ。それで組合の民主化もくそもない。事業の民主化もくそもあつたものじやないと私は思います。できるだけ帳簿様式は百姓でもわかるようなものにしなければならぬ、組合に企業簿記の最も発達したものを用いるということに対しては非常な疑問があります。帳簿様式というものは農民の実情においてやらるべきものであつて、それ自体としてはよしあしというものはあるものじやない。そういうことは相当あると思いますが、現在これを改めることができなければ、少くとも簿記に関する知識を、むろん職員もそうですが、組合の監事諸公を第一に、組合長や理事諸公も複式簿記が十分理解できるように講習会を開いて教育すべきである。それから組合員たる農民にも複式簿記を理解して、自分たちの組合の帳簿が見られるようにしてあげなくてはならぬ。ですから簿記の講習、普及というものは、一大事業にして力を入れてやらなくてはならぬことであつて、こういうものをおいてほかのことにあまり仕事をするなどというのはつまらぬことである、農業組合本来の仕事に力を入れるべき性質のものであると私は思います。そういう点があります。
それで私は、協同組合の事業が農家の経済、経営に一番大切だと思うがゆえに、将来に向つて繁栄する堅実な方法をとつていただきたい。そのためにはできるだけ協同組合の職域の限界をはつきりさせて、何にでも手を出すことは控えていただきたい。そして余裕があるならやつていただきたい。余裕がないのに何もかもやるということははなはだ迷惑であるということを、私は農民の立場から申し上げます。そういうふうに私は思います。
それから中央会の問題点ですが、中央会の政策活動の範囲をどのくらいにやるかということであります。そこで私が今申し上げましたように、職域を純化して一番大切なものからやつていただきたいという立場から、政策の活動も協同組合の事業に直接関係する範囲でやつていただきたい、農民一般の福祉に関することはほかの団体にしていただきたい、こういう考えを私は持ちますので、その点申し上げておきます。ことに米の統制を解除するときに私が出つくわした問題は、統制の解除に対しては、農業協同組合が農民の声として政治的にも力強く運動しましたが、そのときに私の耳に入つた声というものは、これは農民のためでなくて協同組合のためである、協同組合のために反対するのだ、統制をはずすと協同組合の仕事がなくなる、それで協同組合それ自体のために統制をはずすことに反対するのだということであつたのであります。そういうことを私は相当の要路の人からも聞いております。そういうことはないにしてもこれは誤解を受けます。だからただ協同組合だけとして、そういうような問題にあまり深入りするということじやなくて、ある程度以上やるということになりますと、これはほかの機関を通すことが必要じやないかということで、やはり直接関係する利益代表の程度にとどむるべきものであつて、あまり広げるべきものではないというふうに思います。
それから協合組合の技術の問題になりますが、協同組合の普及技術の問題も、農業協同組合の職能を純化する立場から、むやみに入ることは私は反対です。なぜかといえば、私も技術の指導も入れて総合的にやつて成績をあげておる幾つかの村も知つており、非常によくやつておりますが、それは数えるほどしかありません。あるいは百に一つとか、数百に一つとかで、そういうところは必ず村長として優秀な、技術に理解のある大きな人物のいるところである。そういう人物は村になかなかいないものなんです。これはごくまれにしかいないもので、これを一般的にそうし得るかということになると、そんなことはできません。だから組織の問題として、たまたまそういうものがあるがゆえに、総合的に技術も入れてやつていいかということになると、これは私は疑問です。むろん協同組合がやらなければならぬ技術の部面があります。たとえば出荷に関する指導だとか、そういういろいろな技術の部面はありますから、協同組合の事業に直接関係する部面のそういう技術の指導をやることはいいですけれども、農民の農業経営に関する全般の技術の指導をやり、ほかの団体はしてもらつては困るといつたような態度をとられては非常に困ります。やはり技術の指導として、これはほかの団体なり、あるいは町村なり何かそういう方面でやるということが必要であつて、だから関係する部面で必要な部面をやるというのであつて、いわゆるボーダー・ラインとしてやるのであつて、本質的にやるということに対してはよくないというのが私の見解です。
それから技術の問題になりますと、農林省の改良局との問題があるのでございます。それは農村にやつてみますと、官公吏が技術の指導できる限界というものがある。それは専門技術の範囲でございます。これを農事試験場の技術あるいは専門技術のグループとしておいて巡回するということはやらないで、農村に駐在する技術員というものはどうしても日本の農村には必要でございます。これを官公吏だけにまかしておくということはいけません。また御存じのように、GHQが技術を全部官公庁でやらなければならぬという主張をとつたのは、技術の普及指導というのは公共的なものである、ですから私の団体にまかせることができないという方針であつたと思うのであります。これはアメリカだけで採用されていることであつて、世界のどこでもこういうことはありません。アメリカは御存じのように新開国です。そうしてしかも相続制がない関係から、新しいところに入植して農業経営を始めておりますから、そこで技術を知りません。あるいは他の職業の者が始めるとか、開拓地に行つて始めるということになると、聞かなくちやできないのです。だから普及技術員がなくとも、農事試験場に自動車で乗りつけて聞いてやる、あるいは生活の仕方も、こちらから行つて指導を受けるというやり方であつて、アメリカでは官公吏でも技術の普及というのは十分できます。それからまたもう一つは大農経営である。日本のように小農で、伝統的に、主たるもの米麦だ。そうすると各家とか部落には伝統的な技術、経営があります。あるいは土地の事情を知悉しておりますから、何も指導を受けなくてもできるものであります。たまたま県の指導を受けると失敗する。だからこちらから進んで指導を受けようという態勢にはならないのでありまして、アメリカの百姓とはおよそ達つたものであります。それで技術を受入れるということになりますと、農民側の受入れ態勢というものをどうしてもつくらなければならぬ。ですから上からの技術員ではなくて、自分たちの技術員というものがどうしても必要でございます。そうしておじいさん、おばあさんとお茶飲み話ができて、お嫁の世話をしたり、あるいはどこどこの土地は酸性土壌だ、どこはどうだというように、一枚々々土地の事情まで知つているような普及技術員がいるのであります。これは専門技術員でなくて、農業の技術は常識よりも少し高い程度のものでいいのでございます。経済の頭がある、経営の頭があるという専門技術員でなくて、ただ農業技術の理解ができる経営指導者というものが村におりまして、そうして技術が上から農事試験場その他を通して来るものを受入れ態勢をする。ちようど日本の一つの村というものは、外国の一つの農場のようなものである。農場には必ず専門技術者がいるものです。それから労働者ですね。ところが日本の農村は、労働者ばかりおつて技術者がいない。それで技術の普及というものはできつこありません。日本の農村はまるで労働者ばかりである。技術員がいない。だから経営の改善というものはなかなかできない。技術の浸透の非常に困難だということはそこであります。だからたとえば前の農林省の農民指導農場というのがありましたが、郡単位々々々に専門技術員をグループとして置いて派遣してやる、しかし町村にはそれと連絡をとるあれがある。その技術員というものが、日本の実情から言うとどうしてもいるのでありまして、これを役場に置くか、農業委員会に置くか、協同組合に置くか、それはいろいろ問題がありましようけれども、協同組合はできるだけ一つのことに純化することがいいことであつて、そうでなければ単位組合が国庫の補助を受けなければならぬ。そうすると自主権を失つてしまう。これはどこまでも責任を持つてやらなければならぬ。
それから一本建と二本建ということですが、あの場合に私はできるだけ二本建を主張するゆえんは、一本建にしますとこういうことが起る。実際村に行きますと、組合の経費事業を合理化するよりは、県庁にお百度を踏む、国会にお百度を踏む、農林省にお百度を踏む、そういうずうずうしい連中が組合長になる、その方が短期的に見ると経済的に得なんです。経営を合理化して仕事をやつて健全化して行くよりも、何か特権をもらうとか、保護助成金をもらうとか、あるいは何か助けてもらうために県庁にお百度を踏む連中が組合長になるということがあつて、昔の産業組合の組合長のようなじみな人は非常に少くなつている、これでは組合の事業というものはうまく行かないと思う。そういうことがあるのであります。ですから私は、協同組合はできるだけ純化する方向に進むべきものであるというふうに考えます。それから今度できる府県団体の農業委員会中央会及び全国中央会議に対しては、利益代表機関としてはこれよりほかにないんじやないかという気がしますね。それはどういうことを言うかというと、私はこれはやはり協同組合という経済事業をやる一つの団体が、農民の利益を代表するということはおこがましい。これはあらゆる団体がやはり協同して、一緒になつてやるべきものだ。そうでないと偏しますよ。また協同組合それ自体、農業団体はそれ自身の生物的な欲求を持ちます。それで自己の利益を追うというようなことになります。ですから職能団体なら職能団体、県の職能団体がより多く集るということがいいことである。それから職能団体ばかりでなくて、地域団体を入れなくちやならぬ。下からの地域的な代表者を入れて、そうして全部網羅した農民団体連合会という地域のものも入れた組織になつているようです。私はちよつと見ただけで詳しいことは知らないのですけれども、そういうようなことになつているようですが、そういうような組織がいいんじやないか。ですから私は府県団体の農業中央会及び全国中央会議が非常にいいんじやないかと思います。
それからその他に関して、協同組合が共済事業をやるといつたことは非常にいいことである。協同組合には長期資金があります。共済事業をやるということになると長期資金が獲得できる。これは非常にいいことだと思います。それから部落の加入ということは非常にいいことだと思います。農村に行つてみますと、やはり部落というものを相当重んじて、ことに新しい事業などをしようという場合には、部落単位で仕事が始まる。部落の団体加入を許すということは非常に進んだ、実情に即した行き方じやないかと思います。それから中央会の構成には、やはりどうしても、どちらかというと地域代表というものは力が弱くなります。地域代表を相当入れないと、職能団体の理事みたいになりがちな場合があります。そういうふうに少くとも響く場合があり、誤解を受ける場合があります。これはよく注意しなくちやならぬことじやないかと思います。それから私はむろんこの農業委員会は農民から自発的に盛り上るべきものであつて、これをつくるべきものじやないと思う。その点においては農民組合が非常にいいと思います。しかしこれを現在、そういうふうに盛り上るまで待てるか。たとえば農民組合の問題でも、これは事業をただ二つの事業に限つており、農民組合の団体交渉と団体契約の手段を通して農民の福利をはかるということになつております。今農地改革した後においてこれだけの仕事を——主たる仕事がそうですが、これだけでやつて行けるか。これは会費が集まりません。会費というものは農地改革面でもなかなか集まらぬものだということを知つております。ことに今は集めることはむずかしい問題だと思います。団体交渉とか団体契約といつても、今地主に団体交渉しようとしても、ほとんど地主というものはありません。私はこれは経済面において非常にむずかしいんじやないかと思います。農業委員会のようなものは、行政機関などでなくして、自己の会費において自主的にやる団体にすべきものであつて、実情においてはそれができないということじやないかと思うのです。実情がそうなら、そういう気勢が起るまで待つたらいいじやないかということもあります。それは農業恐慌期にでも入りまして、農民がさんたんたる状態になりますと、おのずから団結しようということになる。だからそれまでこういう農業団体の改正なんというものは待つたらいいじやないかということがあります。しかしそういうようなときになつてからだとこれはまたおそいということです。やはり今は何しろ食糧が不足するとか、その他いろいろなことがあつて、農民の力は非常に強い。こういう時代にやはり相当なものをつくつて、そういう統制解除後の農業恐慌などが来たときの手段として、その準備を十分しておくべきものじやないかというふうに考えます。ですからこういうものも、今の段階としてその立法はやつた方がいいんじやないかというふうに思います。しかし私は、法案の経過や何かを知らぬもので、急にこうなつたものですから、ただ原理論だけしか言えませんから、いいとか悪いとかいうことは申し上げることはできません。たがそういう考え方を率直に申し上げる次第であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/6
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007・井出一太郎
○井出委員長 以上をもつて参考人の御公述は終りましたが、質疑の通告がありますので、通告順に従つてこれを許します。足鹿覺君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/7
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008・足鹿覺
○足鹿委員 大体三つの問題について各参考人の御意見を伺いたいのであります。あまり時間もないようでありますから、理由を省略いたしまして、端的に伺いたい点を申し上げてみたいと思います。
まず第一に、農民の利益代表機関のあり方について御所見いかん。第二は、農業技術の指導体系に関する御所見いかん。第三は、農地問題に関する処理機関のあり方いかん。この三つについて伺いたい。特にただいま大槻教授から、農業技術のあり方について、非常に真摯にしてしかもよく実情を御認識になつた御意見がありまして、私まつたく傾聴いたしたわけでありますが、大槻先生にもう一つ、その点に関連して、掘り下げて御意見を伺いたいことは、ブロツクないしは地域程度のものが官公吏の行う技術指導の限界であるという御意見、私もそのように考えておりますが、その受入れ態勢といいますか、農協に技術指導員を置くことは原則的にはよろしくないという御意見であつたように思いますが、しからばどういう体系によつてその受入れ態勢を整備することが妥当であり、適切であるか、こういつたような点についてさらに御所見がありますれば伺いたいと存ずるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/8
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009・大槻正男
○大槻参考人 技術の問題だけをお答えいたします。具体的な問題としてどうしたらいいかということになりますと、これはむろん協同組合でやる部面、ボーダー・ラインとしての部面があります。だから協同組合に技術員的な人もおるということもいいことだろうと思います。しかしそれだけで十分だという考えはよくない。それで町村に置くこともよろしいでしよう。あるいは農業委員会に置くこともよろしいでしよう。それでもう少し末端の受入れ態勢としての農業技術員組織ですね。私は農業委員会ではなはだけしからぬと思うことは、農業委員会は三つの任務を持つ。一つは農地事務、一つは食糧事務です。それからもう一つは農業の総合計画、総合計画を、計画ばかりして実施しないで計画が立つかというのです。手足を持たないで計画は立つものではありません。また計画というものは、一年目の計画というものはぼんやりしたもので何もならない。一年実施してみて翌年度にほんとうの計画が立つのです。実施とともに計画が立つて行くものであつて、最初の年なんていうものはでたらめなんです。実際そんな資料になりつこありません。ですから農業委員会が総合計画を立てるばかりでなくて、やはり町村が実行主体なら少くともそれに協力する。そうして手足を持つて協力するということでなければ、農業委員会が計画を立てるなんということは、何だかわけがわかりません。やはり実施してみて悪いところがわかる。そんな立ちもしない計画を立てるなんということは、とんでもないことだと私は考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/9
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010・辻誠
○辻参考人 農民の利益代表機関の問題だけを私長いことかかつて申し上げたわけでありますが、大体農民の利益代表機関というものは、本来ならば私は自主的な機関であるべきだと思います。そして農民が自由につくつた団体でそれが果せるならばいいと思うのです。その意味ではアメリカも示していましたし、あるいはまた社会党の方が出しておられます農民団体法案というようなものができることも非常に大事だと思つております。またかつては私数年前はそれを主張していた一人の者であります。しかしその後の実情を考えてみますと、農民の団体というものが非常にかわつて来ているのじやないか。当時の私が考えておりましたときとは違つておりまして、別の方向に多数の相当の部分の人が来ているのではないかという考え方からいたしまして、やはり法的機関で行うというような方法がいいのじやないか。そうしてもちろん自主的な機関というものを法人にするかしないかは、今私が簡単に申し上げられないと思うのであります。そういうような代表機関をある程度何らかの方式で法的な機関の中に認める、その意見を出すのに認めて行くということが必要だと思うのです。ただ問題になりますることは、その認め方でありまして、やはりいろいろな法的機関の代表を出しまする関係で、非常に政党間でも問題になりましたようにむずかしい問題であるということは、私は認めるのであります。しかし基本におきましては、やはり自主的な機関というものが多数にできればいいのでありますけれども、できないような状態に日本はあるのではないかという疑念を持つておるのであります。その意味で法的機関を代表機関としてつくり上げて行くという意見に私は賛成しておるわけであります。その場合には、やはり地区的に村なり、郡なり、県なり、あるいは全国なりの数的代表を確実に現わすようにして、それを基本にして行くということがいいことではないかと思うのであります。もしかりに県あるいは全国の機関にその他の代表を入れる場合に、あまりその数が多くなつて参りますと、やはり二重代表という形になるのじやないか。その点の疑念がこの法案にあるというふうに私は感じておるのであります。しかし今はとにかくいろいろな関係が複雑になつておるのでありまして、この程度におきまして一応やつて、あまり熟慮ばかりしていてもしかたがないので、三年も熟慮した上で断行していただきたいということを私は申し上げたわけであります。
第二番目の問題でありますが、農業指導体系の問題は、今大槻先生がおつしやいましたことで大体尽きておりまするが、大槻先生は学者の立場で、なるべく問題の結論をお避けになつていらつしやるわけでありますが、現実といたしましては、農協が自分で技術員を置いてやつておられるところもあるし、やつておらないところもあるわけであります。それはやはり農家の経済力によるわけでありまして、いかに役員の方が御熱心でありましても、また組合の指導方針がいかにそこにあるといたしましても、現実に農家が負担し得なければそれができないわけであります。従つて国家とか府県とか市町村とかいうようなものにたよらざるを得ないということになるわけで、その場合には、あるいは政府あるいは町村の人々の職員をもつてこれに当てて行くということになるんだと思いますが、そこで町村に置くか、農業委員会に置くか、協同組合に置くかというふうになりますが、やはり大槻さんの言われましたように、少くとも最低の単位の、一番農協の基礎になりまする単位組合には、やはり人的な補助のようなものが来ない方がいいのじやないか。理論から申しますれば、いろいろな補助全部いらぬのじやないかということは筋が立たぬじやないかというようなことにもなりますが、少くとも人間が非常に大事なものでありまして、人的な補助まで単位組合に参ることになりますと、農協の基礎がかなりくずれるんじやないかというふうに感ずるのであります。その意味で、やはり政府の補助を受け、あるいは政府の職員というような形式が受入れやすいものに将来は持つて行つた方がいいんじやないか。これは争点になつておることでありまして、これは将来の問題として申し上げておるわけで、今のこの法案のうちにどうかという問題でなく、お考え願いたいと思うのであります。
それから第三番目の農地問題につきましては、大体この法案にありまするように、農地下部単位で取扱つておるやり方でいいのではないかと考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/10
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011・中村吉次郎
○中村参考人 簡単に申し上げます。一番目の利益代表機関としては、この法案によりますと、農業委員会法を改正いたしまして利益代表機関のように、諮問をしたり建議をさせるそうでありますが、私どもは少くとも政府から補助金をもらう、こういう機関が農民の利益を代表することはよくないと思つております。御承知のように今日の農業団体は、特に農協と農業委員会は尨大な機構を持ちまして、その中央会にしましても、農業委員会の農業会議所にしましても、これは政府から補助を得なければ立ち行かないような状態においてつくられるだろうと思うのであります。そういう機関に、大体政府が諮問をして、その意見を農民の代表的な意見とすることは、非常にずるい考え方であると思うのであります。やはりわれわれは、そのためにこそ農民組合をつくりまして、法で認められた自主的な農民組織によつて正しく農民の利益を代表してもらうということが必要じやないかということを申し上げます。
二番目の技術指導につきましては、先生方と意見が違うのでございますが、実例をあげて申し上げてもよろしいのでございますけれども、結論だけ申しますと、施設や資金を持たない機関が農民に技術を指導する際は非常な危険が伴う。かえつてそれは農民収奪の結果を招くおそれがあります。養蚕組合のごときも、これは例にあげてはよくないかわかりませんが、製糸資本の特約組合になろうとしておる。その他の、たとえば牛乳処理の問題にしましても、あるいは養豚の組合にしましても、資金と施設を持たないそういう組織は、往々にして資本家の特約組合になるおそれがあり、また農民は自分の生産したものを有利に販売しなければならぬのでありますから、農民の実益を伴う技術を指導しなければならぬ。そのためにはやはり農民が現在非常に強く要求しておりますように、農業協同組合が特に末端においては技術を指導しなければ、農協のたとえば農産物の集荷にしましても、これを伴わなければなかなかうまく行かないと思います。それからもつと危険なことは、農協が技術指導を持たない場合には、今日では政府が穀物を統制いたしまして、それによつて農協の存在意義をあるいは経営をやつておりますが、先ほど大槻先生が申された通り、自由販売になりますときには、おそらくそういう技術の指導を持たない農協から、農民が遊離する危険さえあるのじやないかと私は心配いたします。
三番目の農地の処理につきましては、今日の農地委員は、私先ほど申し上げました通り、農地処理を納得しておらぬと思います。少くとも最近において、農地委員に利権が伴うような状態に堕落しておる。私は農地の今後の処理の問題につきましては、新たにそういう機関をつくるか、少くとも政府の責任においてこの処理の問題を処置しなければならないじやないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/11
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012・足鹿覺
○足鹿委員 もう一点共通の問題でありますが、特に辻さんに伺いたい。農業技術のあり方についてでありますが、ここで私は議論をしようとは思いません。ただ御所見を承つておくだけでありますが、農業技術員を町村のごとき単位地域において設置する場合に、農業協同組合以外のものをつくることが将来においては妥当であろう、その理由としては、人件費等にまで国の補助を受入れることはその自主性その他に弊害が伴う、こういう趣旨のお話であつたように思いますが、しからば中央の団体には国が助成をしても弊害が少くて、末端の場合には弊害が伴う、その点について私どうも理解がつかないのであります。むしろ私どもの見たところでは、現在の日本の厖大な官僚行政機構は、すべてのものを中央機関が掌握し、その方針に基いて一挙手一投足末端が動いておる形になつておるが、むしろ末端においてはいろいろな自主性を農民が持つておると思う。にもかかわらず逆に末端に国の助成を行うときに弊害が現われ、中央団体においてこの弊害が認められないということは、私どもどうもその辺についての御理論の根拠が理解しがたいのでありますが、中央団体に相当額の補助金を与え、あるいは助成を与える、そのことによつて官僚支配に堕する傾向が今までの実情ではないか、むしろ私どもはそういうふうに批判をし、見ておるのでありますが、その点については御所見いかがでありますか。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/12
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013・辻誠
○辻参考人 足鹿さんのお説ごもつともであります。しかしながら私は現在の実情を見ますと、戦前の産業組合と現在の協同組合と比べますと、非常に下が強いという感じがいたします。それはいいことでありまして、アメリカがやりました十六原則にも、単位組合が基礎であるということをはつきり書いてあるのであります。そういう点で、私はむしろ喜ぶべきことで、今連合会の経済機関の方では、全利用運動というようなことまでやつていらつしやいます。それから指導連も、実はここで申し上げるのは、指導連の方が来ていらつしやるのでははなはだ申訳ないのでありますが、二段しかございませんけれども、ことに上に行くほど弱くなつて、全指連などは非常に弱い形だと私は思うのであります。そういうような形で、単協や県連は現在昔と違いまして、相当基礎が強くなつて来ているということを感じております。現に政府の再建整備を受けておりますものは県連であります。そういう点に、私は戦前の組合と戦後の組合の相違があると思います。それからもう一つの問題は、指導連の事業費に補助が参る。かりに人件費というものが来た場合でも、私はその点あまり心配しておらないのであります。過去の経験を申し上げますと、昭和七年に、あの経済更生の関係で、職員の補助が中央会に参りました。それが初めのうちはいかにも重要なものであつたのでありますが、その後それがもとになりまして、そうして中央会が拡大されて参りまして、その補助というものは、全予算の上からみれば大したものでなくなつて来たという事実を私は見るのであります。今の全指連というものが中央会の形式に改まりまして、そうして政府の補助をもらつてやつて行きますれば、いろいろな事業が拡大されて参りまして、その当時における中央会と同じように、官庁の補助というものがそれほど中央会の地位の中に重要な地位を占めなくなるというふうに私は考えているのであります。だから理論から申せば足鹿さんのおつしやる通りでありますけれども、全購、全販のようなものが別にそういうふうに支配されるわけでもございませんし、まず中央会の一部のものが、たとい人件費が補助されても、それが将来において、それほど大きな作用をなさないのじやないかというふうに考えております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/13
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014・井出一太郎
○井出委員長 川俣清音君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/14
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015・川俣清音
○川俣委員 私は御意見をお伺いする前に、一言参考人に申し上げておきたいことがあるのです。それは、私どもは参考人の御意見は尊重いたしたいと思いますが、これらの法案をすみやかに通することが必要であろうというようなふうに申されておりますが、われわれはそこまで参考人の意見を聞こうといたしているのではありません。法案の内容について賛否の意見を述べられることは必要でありますが、国会議員の審議権についていろいろ御批判を受ける——外で御批判を受けるのは別でありますが、参考人としては行き過ぎではないか。と申しますことは、何が早く解決してほしいと頼まれて参考人が陳述されたような趣があるのであります。この点については十分な御反省を願わなければならぬと思います。取消せとまでは申し上げませんが、御反省願いたいと思います。
そこで辻参考人にお伺いいたすのですが、根本問題が論議し尽されておる、こういう御意見でございますが、私どもはまだ十分根本問題も論議が尽されておるとは思つておらないのです。またもしも論議が尽されておるとするならば、どんな点が課題となつて今まで問題となつておつたか、重要な課題が何であつたかということをひとつ御説明願いたい。私どもの課題は解決されておらないのですが、辻参考人はどういう課題があつた、その課題が大体解決がついたからとこういう御意見だつたと思いますが、どんな課題があつたのか、問題の課題はどの点であつたか。私どもはそれらの課題が解決せられておらないという見解で参考人の御意見をお伺いしたのです。そこでひとつ申し上げますが、たとえば今技術員のあり方について大槻参考人からも説明されましたように、改良普及員の問題、または生活普及員の問題、または過般農業委員会ができます前は農地委員会、食糧調整委員会、技術普及員、その三つが一本になつておるわけであります。今後食糧調整の関係がどのようになるかという問題の見通しはまだついておりません。こういうときにまた養蚕指導員、畜産指導員というものがありますが、これらの問題についてどのように調整すべきかという問題が、私どもの見解では片づいておらないのです。あなたは片づいておるという見解でお述べになつておるようですが、どのような解決をすればよろしいのであるか、参考人の御意見を伺わなければならぬと思うのでありますが、まずそれらを含めたどういう課題が一番問題であつたかという点について、参考人の御意見を承つておきたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/15
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016・辻誠
○辻参考人 私どこの何にも頼まれておらないことだけは申し上げておきます。意見もどこからも聞いておりません。私は元産業組合中央会主事という十五年前の資格で来ておるので、また私のようなものに、だれも頼んで言つてもらおうというようなことをする人間もおらぬようであります。それほど私は隠れた人間でありまして、突然ここへ出て来たようなことで、この議事規則も存じません。またここへ参ります際にも、どこから入つて行つたらいいか知らぬような状態でありまして、世の中にうとい私なんかに頼むような人間はおりませんから、御安心願いたいと思うのであります。また私が議事規則になれないことにつきましてはおわびを申し上げます。
ただ私が今の農業団体の状態を見まして、組織が非常に混雑しているという点、これが特別私としての課題なのであります。もちろん課題と申しましても、いろいろ社会的な思想の見解からも課題の特ち方というものが違うのでありまして、簡単には言えないわけでありますが、私として焦点をごく狭めまして、代表団体の問題でありますから、代表団体の組織問題というもの、それを中心にして考えて来ておるだけのことであります。それから行きますと、代表団体が非常に錯雑しておるということは申すまでもありません。それから協同組合というものが経営体としての任務を果しておらないといつたら語弊があるかもしれませんが、十分の機能を果しておらないという点、これは大槻先生もおつしやつたことであります。こういう点につきましてて焦点をきめて話して行くことになるのだと思うのであります。その他の米の問題でありますとか、あるいは農地の問題でありますとか、あるいは技術の問題でありますとかいうような問題は、一応この法案を見ましても、それほど深くは入つておらぬようであります。その範囲内で私は申し上げたのでありまして、そんな広汎な問題ははたして私の参考人として呼ばれた範囲に入るかどうかということについて私は疑問に思つておるわけであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/16
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017・川俣清音
○川俣委員 三年もかかつた一番の問題は、技術員をどこに置くかという問題が、先般の国会できまらなかつた原因であります。もう一つは将来農業委員会がどのようにあるべきかという問題につきまして論議せられておつたのであります。それらの問題が片づかないことが今日まで延びて来た主要な原因であります。たとえば農地調整委員会というのがございます。また養蚕指導員、畜産指導員というものがある。また御承知の通り今度解決をいたしました主要な問題は提案理由によりますと、農業委員会の方は農地調整、自作農創設維持、農業の総合計画というふうになつておりますけれども、食糧調整の問題は、取扱うのか取扱わないのかという点についても、提案理由の中にはあいまいになつております。このように本来の農業委員会の性格というものをどこに置くべきかということが問題なんです。また今日すみやかに解決しなければならないということで提案されております根本の問題は、この七月に選挙がある。この選挙をどうしようかということが急がれた一つの大きな理由であります。もう一つは補助、助成をもらわなければこの団体が立つて行かない。今度補助、助成がぶらさがつておるのにこれをみすみす見のがしてはならないということが非常に拙速をとられたゆんなんです。そこで補助というものと無関係にはこの法案は審議できないのです。そういう点について、補助がなくてもいいというお考えであるのかどうかということが一つの大きな問題なんです。私は農業委員会のあり方として、ここで参考人に別に意見を述べる必要はありませんが、国の行政の末端機構として、他の法律においても農業委員会の意見を聞かなければならないというふうになつておるのはたくさんあるのであります。たとえば今度の都市計画法または土地区画整理法等につきましても、農業委員会の意見を聞かなければならない、こういたしておりますが、今までの法律では自主的な団体と認めていなかつたのです。ところがこの提案理由によりますと、自主的な団体として改正をいたして来ているのであります。従つて自主的な団体であるのか、行政の末端機構を果す任務を持つておるのかということになりますと、他の法律にも影響して来るところがすこぶる大きいのです。これらの点について御検討の上での参考人の御意見でありますか、他の法律案との関連について御検討の上の御見解でありますかどうか、またはそういうことはあまり勉強しておらないので、この面だけの御答弁でありますか、その点を辻参考人からお伺いしておきたい。
〔委員長退席、金子委員長代理着席〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/17
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018・辻誠
○辻参考人 そんなことまで言うのは少し議会の審議権に入るのではないかと思うので、どうかと思うのでありますが、いろいろな問題を取扱う機関としての組織問題がかわつているだけで、その辺の組織問題だけがここに取扱われているのだと思います。その辺のいろいろなものの制度というものがかわつて参りますれば、またそれに応じておそらくかわつて来るのだろうと思うのであります。将来は大槻先生が食糧の統制は撤廃されるだろというようなことを御警告なさつていらつしやるのだと思います。しかしそれは必ずしも何年後にそうなるとは私にはまだわからないのでありますけれども、とにかくある程度緩和されることも事実だと思うのです。あるいはまた別個の統制方法をとるということも考えられることでありまして、そうなつたらまたそうなつたときに応じまして組織を考えて行くべきで、現在行われておる各般の農政の方向に沿つて、その範囲内で組織を変化さして行こうというふうに考えておるものと、私は私なりに見ておるのであります。もちろん提出者の方に一々聞いたわけではございませんから、だからその範囲内で、これでよかろうというふうに考えておるのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/18
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019・金子與重郎
○金子委員長代理 速記をとめて。
〔速記中止〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/19
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020・金子與重郎
○金子委員長代理 速記を始めてください。
それでは簡潔に質問を願います。川俣清音君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/20
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021・川俣清音
○川俣委員 今同僚委員から討論はやるなということでありますが、私のお聞きしているのはそうではないのです。こういうものを三年間も論議し尽しておるのであるから、すみやかにやるのがほんとうだ、こういう御意見だつたから、それについて論議が尽されていないのだ、私どもはそう思つておる。参考人は論議が尽されたという議論だから、尽されたのはどこであつたかということを私はお聞きしたいと思つただけです。しかしもう辻参考人には意見を聞きません。
そこで私どもが御意見としていろいろ拝聴いたしまして、教えられる点の多かつた大槻参考人、中村参考人にお尋ねしたいのですが、土地調整委員というものがございますが、この性格と農業委員会の持つておる農地調整とは、本質的に違うとは言えないと思うのです。片方は農地調整であり、片方は広汎な土地調整であります。しかし調整のあり方としては、やはり農地調整委員会のような中立審判機関ということが望ましいのではないか。中立的な審判的な委員会であるから、そこで初めてここに国の補助、助成というものが当然加わつて来るのである。また国の事業であります自作農の創設、維持、または食糧の調整というような行政の末端機構を受持つものであるから、初めてそこに県の補助あるいは地方自治団体の補助が生れて来ておると思うのです。もし自主的な団体に補助が出るということになりますと、他の産業にも商工業の団体とか、自主的な団体がたくさんありますが、それらについてもやはり補助を出さなければならないことになつて来るのじやないか、そういう見解から、協同組合の中央会にいたしましても、農業団体の農業委員会にしても、国が補助を出すことが将来だんだん困難になるのではないか、これはやはり行政の末端機構を受持つというところに農業委員会としての使命があるのではないかと私は考えるのです。もし私の考えについて御意見がありますれば、大槻参考人並びに中村参考人から御判断を願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/21
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022・中村吉次郎
○中村参考人 私は川俣先生と大体同じであります。先ほど農地問題は現在の農業委員では処理できまいと申し上げましたが、これは言い過ぎかもしれませんけれども、すみやかに農業委員を改選するなり何なりするか、あるいは別につくるなりしなければ、現在の農業委員会には農地問題の処理はできなくなるということを申し上げたのであります。それからやはり川俣委員と同じ見解で、農業委員会は行政機構の末端である、そのために補助金が出るということは当然、であると私は考えております。従つて、また繰返しますが、そういうものは農民の利益代表機関ではないと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/22
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023・大槻正男
○大槻参考人 土地調整委員会というのは、私は知らなかつたのであります。おつしやるように、農業委員会の末端が政府の公共の仕事である農地の問題と供出の問題、そういうものをやつておるという関係で、行政機関としてやつておるのだろうと思いますが、これは漸次自主的な団体にやつて行くべきものである。そして民主的農民の自覚を促して——非常に困つたことは、私ども研究をやつてみたとき、商工業においては商工会議所があつて、商工業者がみずから会費を納めてやつておる、農民にもそういうみずから財政的なものを負財してやるというものができるべきはずだというのです。しかしそれができるかといえば、現実にはできない。それにどういうように処して行くかということで、その中間的なものが現在とられておりますけれども、理想として漸次これは自主的な団体に持つて行くべきものであると私は思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/23
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024・川俣清音
○川俣委員 農業改良普及員というものがあります。この中に生活改善普及員として女子がおるのです。今度の予算でも、この予算が削減されたが、また相当増額されております。この生活改善普及員のごときは、まつたく家庭の中に入つて、かまどの改善から飯のたき方から電燈のつけ方、消し方まで教えた、いわゆる生活改善普及員です。こういう末端の機構を改良普及事業でやつておるわけです。これは農業委員会の前身でありました技術普及員が改組されまして、農業改良普及員となつたのであります。一部が残つて、農業調整委員と、農業技術普及員の一部と、土地調整委員の一部と、農地調整委員の一部が農業委員会を形成している。これはまつたく本質的に行つた問題ではなくして、予算が削減されたので統合しなければならない——、いわゆる技術的な問題、組織の問題から一緒になつたのではなくて、まつたく予算の削減から一本にならざるを得なくなつて来た。にもかかわらず今度農業調整委員会、食糧調整委員というものがなくなつて来ると、ますます予算の削減が行われて来るわけにもなるのであります。予算だけを目標に農業委員会というものを考えることがだんだん不可能になつて来るのじやないかと思うのです。そこで大槻さんのような意見でありますと、行政の末端機構としてこれらの技術指導をするか、または自主的な団体としておのおの経費を負担をして行くか。ことに日本の場合では、経費を負担させて技術指導に当らせることはなかなかむずかしいのじやないかと思うのです。これは私の意見ですから別ですが、そういたしますと、農業改良普及員の方の予算もまた削減される。今度も大分削減されたのを、参議院で復活になつて現在こちらにまわつて来ておりますが、そのようにだんだんこういう指導員についての予算が削減されつつあるわけなのです。だから形式だけをここで残しておいても、活動できなくなる危険性が相当あるわけなのです。本来の任務、性格がはつきりしないと、予算の裏づけが非常に困難な情勢になつておるわけです。今までのようにあいまいにして、ただ元の残滓を残して、農業協同組合と一緒になつて会議所をつくれば予算がとれるのだというような安易なことではなかなか許されない財政上の事情が生まれて来ておる。そこでやはり大槻さんの言われるように、この際やはり性格をはつきりすることが必要ではないか。おのおのの任務、職能に徹底するのでなければ、予算の裏づけは考えられないのじやないか。これは私の意見なのですが、大槻さんはどのような御見解を持つておられますか、お尋ねしたい。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/24
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025・大槻正男
○大槻参考人 生活改善普及員のお話がありましたが、これは言わなくてもいいことかもしれませんが、生活改善普及員の問題を、あれだけとしてやることに対しては私は賛成でない。これはやはり農業経営と結びつけてやるべきものである、女子大学を出て農業もさつぱり知らぬ人が、生活改善ということから結局かまどしかできない、食生活の問題などではなかなか入れないというようなことで、あのやり方に対しては相当批判があると思う。しかしこれは本質的なことじやないでしよう。
それから今川俣さんのおつしやるそのことは、私はまさにそうだと思う。これはやはり農業委員会が残るべきものとすれば、やがて三委員会が統合するとき、すみやかに農地の問題は片づくと思う。それから食糧も統制は残るかもしれぬけれども、供出なんというものはなくなるかもしれない。そういう仕事が減る。それで農村の総合計画という方面にずつと農業委員会が力を持つて来るべきものである。そしてさらにそれがそうなつて来ますと、これはもうちよつと自主的なものがいい。過渡期には、今の農民の立場からいつてできないものを言つてもしようがない。できるものとしてどうかというと、やはり現在の状態でやつて、だんだんに問題が片づいて行つたら、それだけの準備として今の農業委員会が眠つていてはいかぬと私は思います。農業委員会の人たちが農業調整法であるとか、あるいは食糧供出の上に将来を見ないで眠つているということはよくないと思う。農業協同組合の指導部が独立してもいいし、あるいは一緒になつてもいい。だけれども、ああいう指導部のような何かわけのわからぬものは、精神の違つたものが一緒になるのはよくない。一つは公共的な仕事ですから、指導部は指導部して独立してしまつたらいい。ほんとうの仕事をどしどしやつて行つたらいい。指導部と農業委員会が一緒になつて仕事をして、統合してしまうことも一つの方法じやないかと思う。私どもは末端に接触する機会があるのですけれども、現在の政策は末端をまつたく無視しておる。そしてからまわりしております。これを何とかしないといかぬ。それでそういうために統合の問題もぜひ御審議願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/25
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026・川俣清音
○川俣委員 もう一点。改良普及員の団体を農業団体とは言わないのです。それから農地調整委員会の団体もこれは農業団体とは言わない。そうすると、この中間にある農業委員会が農業団体だということは、どうも学者の大槻さんから見られても少しおかしいのじやないかと思うのです。これは農業団体というものではないのじやないかと思うのですが、私よくわからぬから、私は大槻さんに教えを願わなければならぬと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/26
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027・大槻正男
○大槻参考人 私も法律をやつておるものじやないものですから、この問題はわからぬ。おそらくおかしいのじやないかと私も思います。だけれども、現在の実情からいつて、こういうふうなへんな形にならざるを得なかつたのじやないかと善意に解釈しております。それ以上私は答弁できません。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/27
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028・金子與重郎
○金子委員長代理 綱島正興君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/28
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029・綱島正興
○綱島委員 要約しますと三つの点でございますが、第一点は大槻先生と辻参考人、お二人に伺いたい。第二点は大槻教授と中村参考人に伺いたい。第三点は中村参考人だけに伺いたい。第一点であります。これは大体は伺いましたが、私どもが非常に困つておることは、農協に非常に乱れが来ておる。農村の再建を考えるものには、農協を清純な形にしなければならないということが非常な関心事でございます。供出米等を出しましても、農協に赤字がありますから、みなそれを差引かれて私の家なんかはもう五年くらい一ぺんも代金をもらつたことがない。多少の余裕のあるような家はみなそうしております。私だけではありません。そういうふうな実情であります。そこでどうしたら一体農協が赤字を出さずに、そして農民の経済利益を代表するような機構になり得るかということが、ただいまでは非常な問題であります。今ほどの赤字を単位農協はたくさん持つております。連合会以上のものはいろいろ論ぜられますけれども、これは割合に持つておつても私は弊害は少いと思う。むしろ弊害が非常に起るのは、単位農協が赤字を持つておりますために、着実な人は少しも代表者に出て来ない。そして何かばくち打ちとまでは行かぬでも、非常に奇を好んだような人が代表者になつて参りまして、先ほども大槻教授のお話がございましたように、わけがわからぬ事柄で決議をされたり、あるいは帳簿等もわけがわからぬ。また実際に取扱われることも、度量衡が非常に百姓の実態に沿いませんために、実際の正邪を判断する度が非常に薄い。また自分でもわからぬ。わからないところにはどうしても自主性がございませんので、一体農民が団体機構に対してわかるようにするにはどうしたらいいか、そして何か元のようなりつぱな、割合に自主性を持つた人が出て来るにはどうしたらいいか、私はやはり農協の理事などは無限責任にしなければいけないのじやないかという考えを持つております。ただいまのような赤字のままではこれは実行できませんので、これをどうしたらいいか、こういう問題について、御意見がありましたら伺いたいと思います。
それから第二点は、大槻、中村両参考人に伺いたいのでございますが、ただいま私どもの考えでは、農業というものは国家の特殊な補助政策がなければやつて行かれない産業だと思つておる。これはアメリカでもそのようでございますが、日本などは特にそうであります。そこで国家の助成政策をいたします以上は、農業団体はこの助成に対する関心を持たなければならぬ。関連を持つことは当然経済上起つて来る。そこで農民の自主的経済で成り立つものだけに自主性があつて、国家の補助政策に関連があるものは自主制はないのだというようなことに近いような御意見のようにどうも伺えるが、これに対してどういう御意見であるか。農村というものは国家の特殊な非常な保護政策によらざればやつて行かれぬということは、資本主義の機構上から見て私は当然なことだと思うのです。ひとり日本の農村の問題だけでなくて、世界の農村が当然そうなんです。日本のような不利益形態の農村においては、特にそれが著しい。これがあるのに、いやしくも国家機構に関係がありそうなもの、もしくは助成に密着するような機構のものには自主性がないのだという考え方は、ちよつと修正を願わなければいかぬ。これについての御意見を伺いたい。それにはむしろ助成を受けようが何しようが、自主性を失わないものを確立するということを基本的な問題があるのじやないか。これに対する御意見と御批判を伺いたい。
それから第三点。これは中村参考人にお伺いしたい。農民組合法案に対する意見であります。先ほどの質問と大体関連をしておりますが、農民組合でなければ自主性がないのだというふうな御意見だつたように伺つたのであります。従来の農民組合が、土地改革前の農業実態の場合は格別でありますが、土地改革後の日本の農村、特殊な例は別でございますけれども、大体の筋から見て、自作農本位になつた農村の実情といたしまして、今まで農民組合という名前で運動されたものを見ると、どうも労働組合との関連のもとになされた運動が実際上多いと思う。たとえば米価問題をやりましても、生産米価を上げろ、同時に消費者米価は現状にせよ、こういうような条件を強くつけておる。こういう状態から見まして、国家の財政とかいろいろなところから考えれば、そういうことはなかなか不可能なことがおよそ想像されるし、上げるにしても限界があることは想像されるのであります。そこでただいまの自作農重点主義な、また大体九〇%以上自作農的形態になつた日本の実情において、この農民組合というものが実際従来の農地改革以前ほど一体重い意味を持つのか。私どもから考えれば、これは運動者のためのものではないかという考えが非常に濃厚なんです。これはおそらく綱島一人のみの考えではなく、日本の農村にみなぎつている考え方だと思う。この点に対して、一体この自主性というものは耕作農民の自主性に主としてつながるものであるか、運動者の自主性につながるものであるか。この見解を厳粛な意味において伺つておきたい。
以上の三点をひとつお尋ねいたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/29
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030・大槻正男
○大槻参考人 現状の単位協同組合をどうするか。非常に債務が多くて、経理の紊乱している協同組合をどうするかということですが、これは私にはわかりません。どうもこの問題は答弁できません。ただ私に考えられることは、これは急にやろうということになると政治的工作になりましようが、それだけで済むかというとやはりそれじやいかぬのです。成り立たしむるためには、一つは役員の心構えというか、経理その他に対する熱心性がいると思います。それから組合員の組合精神といいますか、かつてあつたような組合精神というもの、そういうものが現在は全然なくなつている。それで特に極端な方に走つてしまうわけですから、それに対する十分な教育というものがなければ、協同組合というものは成り立つものではないであろうと私は考える。私は今京都の組合学校に多少関係しておりますが、一番速急にやり得るのは、やはりこうした組合学校を盛んにしまして、それで実際に現在従事している職員が一番教育しやすいと思いますので、あの人たちをもう少し再教育することだと思います。たとえば二箇年に一回くらい冬の間二月か三月呼んで、再訓練する。そういうことをして、——昔組合人という言葉がありましたが、組合人たることを誇りとしたああいう気持ですね、そういう方向に、組合を発達させるためには向ける必要があるのじやないかと思います。その他に、組合員たる農民あるいは技術者の教育ということを言いますけれども、これは急にはなかなか行きがたいもので、まず一般の職員からやつて行くことの方が、割合早く進むのじやないかという考えを私は持つております。
それから綱島さんのおつしやるように、先進国における劣勢産業であるところの農業は、補助政策なしにやつて行けるものじやないということですが、これはしかしできるだけ農業における客観的条件としまして、たとえば農業技術をもつと高度に発達させる、今やつているのは米ばかりじやないか。今後そうした食糧の輸入がたくさんあつたとき、今度は何をやるか、さつぱりそういう方面の技術投資ということがありません。あるいは土地をよくするとか排水をよくするとかそういう条件に対して考慮が非常に少いと思うのです。あるいは協同組合に対しても、税金の免除だとかいろいろ特権を与えることがあると思います。そういうふうな日本に与えられたる農業条件の悪い点を改善するために、政治的というか政策的に、客観的にこれを直して行くといいますか、そういう修正をする方向を相当とる必要があると思います。しかしそうではなくて、何か個個の場合に運動すれば金がもらえるとか、そういうやり方は民主的精神にもとるものだ、かつて地主をたよつたと同じように、農林省に頭を下げたり、府県に頭を下げたりしまして、ああいう個々の問題で、補助助成をもらうというふうなやり方に堕するということは、非常によくない。やはり政治的解決でそういうことをやつた方がいいと思います。そういう意味で申し上げたのでありまして、むろんこれは価格問題だとか、いろいろな問題で、農業というものを保護助成しなくちや現在の日本の社会において農業の存立ということはむずかしいと思うのであります。ですからこういうことはぜひ必要ですが、そういう客観条件の改善をせられても、何か個々の問題に対して頭を下げて懇願するようなやり方は、ことに協同組合なんかにとつてはやつてもらいたくないという意味でございます。こういうふうにお答え申し上げます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/30
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031・辻誠
○辻参考人 農業協同組合の経営の問題につきまして、ただいま意見を述べろというお話でありますから申し上げますが、おつしやるように農協は今赤字に苦しんで政府から援助を得ておりますので、単位組合としては比較的健全なものがかなりあると思うのです。本日はパーセンテージの問題を申し上げておるので、三割ぐらいはどうにもならないが、そのほかのものは再建整備以後だんだん改善しているものもあるわけです。それでお宅のような場合もあるということを私は承知しておらないわけではございません。それからさらに連合会のような場合は、これはどこも問題にならぬと思います。これをどうして行つたらいいか。それでおつしやるように経営の改善をやつて農協を再建して行く、これに対しては私も十分考えて来ておるのでございまして、時間が短かいので簡単に申し上げますけれども、その一つの焦点といたしましては、私は町村合同とともに農協が合同をするということが根本的な仕事だと思います。しかしそれは三年、なり四年の間かかつてもぜひやつていただくということ。これが協同組合の再建の基礎だと私は思います。昔からいい組合というものはいつまでもいいのです。私は三十年研究して参りましたけれども、そうしたらどこの組合でも戦前に表彰されたものは戦後も表彰されておる。悪いところはいつでも悪いのです。それは基礎の条件が悪い。都市の付近とかなんとかで競争企業が多いからでありまして、そういう関係で基礎の農家の構成というものが悪いと、どうしても農協というものはうまく行かない。それは隣りの組合、地域の編入してもらつて、そうして再建して行くよりほかにほんとうは道がない。しかし農村の実情から言えばこれはむずかしいと私は存じております。そのためにはいろいろな政府の方法もいるでありましようし、教育の方法もいるでありましよう。まずいろいろな方法を考えて、そこに持つて行きますれば、倒れる組合が少くなるのじやないかと思います。つまりいい組合はいつまでもいいのですから、それに預けるということであります。現にその方法は千葉県でだんだん進んで行つております。これはごくわずかな例でありますが、隣りの村まで合併しておるところも農協としてあるようです。現に町村合併とともに、組合を合併しておるところもあります。これは一時的な例でございますが、将来伸びて行くし、またそこに持つて行くように伸ばさなければならぬ、それから農協の規模というものはわれわれも考えなければいかぬと思う。今大きいところでは百人近くの職員の単協があります。これは愛知県。静岡県は六十人ぐらいでありますが、愛知県とか滋貿県とか鹿児島県、そのあたりであります。こういう最大の組合に対しまして、ひどい組合になるとゼロ、つまり職員がいないわけです。これは農協としては問題にならないと思うわけでありますが、そのほか職員の方が熱心に五、六人でやつていらつしやるところもある。平均で申し上げますと静岡県あたりは十六人ぐらい、それから愛知県が十四人に足らぬと思います。それから三重県というのはなかなか農家としてはいいところでございますけれども、県平均の職員は七人です。こういうような七人ということになりますと、各種事業——信用、販売、購買、利用、指導とかいうことをみなやつておりますと、これは一人で一つの仕事をやつておる。これでは商人より低い能率だということも考えなければいかぬと思うが、しかし従来の慣習からどうしてもそれが伸びないでおるのです。これをやつて参りますと今までとは違つた形になつて来ると思う。そうした場合に問題になるのは、あなた様がおつしやいました教育問題だと思うのです。教育の問題をあなたがおつしやいましたように、無限責任でやつたらいいだろう、こういうことをちよつとお漏らしになりました。これはやはり一つの考え方だと思うのです。しかしそれは私どもの調べたところによりますと、大体大正時代で終つているのです。なぜかと申しますと、小組合ならできるのでございますが、今の町村規模になりますと、無限責任というような連帯観念が浮んで来ないのであります。そこで大正末期の恐慌のときにみんなつぶれてしまいました。今の町村では無理なんです。そこで今度の法律が有限責任になつているのです。そういうふうになつて参りますと、精神的な要素と経済的要素を強化する。この二つの方法で行かなければ、農協の将来の再建はできないと思うのであります。この意味で農協合同を今から計画的に、三年かかつても五年かかつてもいいから、やる必要がある。今町村が千戸以上ということになつております。八千人となりますと、普通千戸から千五百戸の農家になるのであります。そうなつて参りますと、職員が三十人から五十人になるわけであります。そのくらいになりますと、いろいろの手もふえて参りますし、教育の方法も徹底して参ります。技術指導員も三箇村まとめれば、今までないところも一人ぐらい置けることになります。それで参りますと、経営合理化の中心はやはり協同組同の基礎の強化だと思うのであります。これができますれば、今度は連合会の支部なんかが非常に少くなつて参りまして——支部に非常にたくさん職員がいるのであります。その費用が節約されまして、連合会の再建が十年もかからずに早く済む、こういう形になつて参ります。まだ方法はいくらでもあるのでございますけれども、しかしやはり中央会みたいなものができませんと、そういう方向に進んで行くことが私は困難じやないかと思うのです。政府にたよつて、今までのままで金さえもらえれば政治活動さえ可能である、こういう考え方が中心になつてしまうのでございます。私は政治活動を全部否定しておりませんけれども、やはり経営活動にもう少し基礎を置くような方向に持つて行つていただけば、かなり解決の方法がつくのではないかと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/31
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032・中村吉次郎
○中村参考人 補助政策があれば、農業団体の自主制が失われるかどうかということでございますが、私は補助政策は日本農業にとつて絶対に必要であるということは同意見であります。ただ補助のやり方が、ことに今の農協中央会にしましても、農業委員会にしましても、人件費の補助といいますか、人を対象とした補助が——その点まだ補助を目当にしなければ団体を維持できないという状態においてその団体ができるわけですから、そういう団体は農民の代表機構としましても、職員の問題になりますと、職員の生命線の問題でございますから、やはり農民の自主的意志がだんだん反映しなくなつて来る。そこで私どもは、補助政策が必要であるからこそ、補助を持たないで、自主的につくられる民農組合がますます必要になつて来るのじやないかと思います。先ほど大槻先生も申されましたが、やはり農業施設と申しますか、農民に直接利益をもたらすような補助を大いに出していただくようにされた方が、日本の農業が前進するゆえんだろうと私は思います。
そこで農民組合の問題でございますが、綱島先生のようなお考えが相当あるだろうと思いまして、最後に私は申し上げておきましたが、この法律によりますと、現在までの農民組合の姿は相当かわるということを考えなくちやならぬじやないかと思います。もちろん農地改革の波に乗りまして、農民組合は非常に勢力を獲得しまして、その後どの農民組合も方向転換を考えて、大部分の農民組合は自作農を組織の対象としているようであります。しかしながらやはり長い間の伝統あるいは農民の保守性というか、人物を見てつながるというようなことで、現在の農村では、農民組合といえば赤だというような思想を持つている者も相当あります。そういうことは現在まで農民組合がありましたところで、しかも農民組合が勢力を失つた地帯に多いのでありまして、農民組合としましても、自作農の要求を広汎に取上げて、営農資金の問題とか、あるいは価格の問題、そういう問題を闘つている地方では、農民組合は相当の勢力を持つているわけであります。そういう点からも、今後の農民組合のあり方は相当かわつて行きますし、また私どもが懸念するのは、今までに失敗した農民組合の跡を見ますと、農民組合が特定人の選挙組織になつたり、特定政党の下部組織になつたりして、農民組合はだめになつている。そういうものを克服するためには、やはり法律を制定して、農農自身の組織にこれを切りかえなければ、農民組合のほんとうの農民組織としての使命は達成できないと存じております。従いまして失敗した農民組合の過去の姿を今度の農民組合法がねらつているというふうには、私は理解しておりません。
二重米価の問題も一つの意見として出されましたが、農民が食管法の第三条に認められている再生産費を保障する米価を要求する際に、政府のコスト主義によつて消費者米価から圧迫が来るという観点から、生産費米価は上げられないのでございます。消費者の米価については、やはり食管法において明文で書かれて、消費者の生活を脅かさない米価でなければならない。これは別に特定政党を中心に提携した労農提携でもございませんし、実は食管法の趣旨に基いてなされた要求でありますので、その点綱島さんはよく御存じじだろうと思います。
それから政治的な要求は、農民の今後の運動に大きく出て来なければ、農民は解放されないという観点に立つておりまして、先ほど来農業協同組合があまり政治的に進出しちやいかぬというような意見も参考人から述べられましたが、また政府から補助金をもらつている農業委員会にしましても、その農政運動は限界があつても、その限界を突き破つて闘わなければ、今日の農民は絶対に解放されない。そういう政治的な要求は現在あります。さらにまた先ほども申し上げましたが、いろいろな農産物を中心とする取引の間においても、農民は自分の自主性を蹂躙され、しかも全国の農民は非常に不公平に取扱われております。牛乳を見ましても、同じ県においても、弱い農民は安く買いたたかれて、団結した農民は高くかわれている。全国におきましても競争の激甚な北海道において高くて、競争の激甚でない、あるいは酪農資本が一人で占めている地帯では、買いたたかれている。つまり一方の農民の犠牲によつて、他の地方の農民が利益をしているというような状態が現在あるわけでありまして、こういうものはやはり農民の権利の伸張から言いますと、平等であるべきであると思います。従いまして、私どもはやはり農民の自主的な団結を進めることによつて、こうした要求というものは実現される。しからばそういうものは農業委員会や農協があるじやないかという意見があると思いますが、農協や農業委員会は、先ほど申しました通り、その政治的な要求の闘い方については限界があり、また補助をもらつている関係から、やはり最後まで要求が貫徹できない場合がしばしばありますが、例を省略いたします。
ただ私は最後にこの農民組合をつくつて、やはり現在農民組合と申せば、革新勢力につながつておるのでありますが、そういう革新勢力だけにつながるということでなくして、やはり農民の要求の中から革新勢力につながる、あるいは保守勢力につながる、そういうことは農民の自由にしなければならない、そういう点から農民の自主的な組織というものは、そういう意味も含めて自主的であります。つまり特定人、特定の指導者を通じて、その組織の色わけをするということじやなくして、農民自身の意思によつて農民組合の性格をきめなければならない、だからそういう観点に立ちますと、だんだん今日のような農民組織の現状を見まして非常に憂慮される点は、将来このままで行きますと、農民組織がだんだん衰微堕落いたしまして、特定人の組織になつたり、特定政党の組織に依存するようなかつこうになる危険性があるのでありまして、こういうものは将来農民の意思を正しく反映する農民組織に切りかえられなければならない、そういう観点で私どもは農民組織をこの際法によつて認めていただいて、そうしてその団体交渉の権利を農民に与えていただくということが農民解放の一つの大きな仕事ではないか、こう存じております。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/32
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033・中澤茂一
○中澤委員 時間もありませんから、大槻先生に一点だけお尋ねいたします。団体の再編成という問題については、この今出ているものに対して、私は全部不満なんです。それについて基本的な問題として、一体日本の資本主義が今の発展段階から独占的な段階に今入りつつある現状です。このとき過小零細農業経営を母体とする今の農協が、これに対抗して農民防衛が可能であるかどうか、実は私は不可能だという見解を持つております。それについて先生の御見解を……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/33
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034・大槻正男
○大槻参考人 非常にむずかしい問題でありますが、一つには独占的形態に入ることをできるだけ防止しようという政策がとられてよいと思います。それから農業をこういう状態に置いて防衛することがはたして可能かどうかということでございます。しかしこれも私わかりません。だけれども可能でないとして、何かほかに手段があるとかいうことになりますと、その農民の自由を束縛しないで、民主主義社会でやつて行くやり方として、ほかに私はよい方法を発見できないのであります。国営農場にしてしまうとか何とかということがありましようけはども、そういう問題を除いても、私はその問題にまで入りません。そういうことがはたしてよいかどうか、個人の自由ということからいつてわかりません。それで今のところ私は、こういう協同組織を強化して対応するという以外によりよいベターな方法が考えられないというだけの非常に消極的な御答弁になりますが……。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/34
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035・井出一太郎
○井出委員長 午前中はこの程度にいたします。
参考人各位におかれましては、非常に御多忙なところをわざわざ御臨席をいただいて、貴重なる御公述を願いましたことに対し、厚く御礼を申し上げます。
暫時休憩いたします。
午後一時四十六分休憩
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午後三時五十三分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/35
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036・井出一太郎
○井出委員長 休憩前に引続き会議を開きます。
この際足鹿覺君より議事進行についての発言の申出があります。これを許します。足鹿君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/36
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037・足鹿覺
○足鹿委員 委員長にお尋ねを申し上げたいのでありますが、この団体関係の法案について、昨日いろいろと理事の各位がお打合せになつたそうでありますが、その結果は詳細は私は存じませんが、三案について御審議を願つたと思いますのに、大体予定に載つておるのは農協法並びに農委法の一部改正案のみについて取扱いを御決定になつておるように聞いておりますが、一番まつ先に提案をしております農民組合法に対するお打合せはどういうふうに御検討願つたのでありますか。私の考えとしましては、提案の順序に従つてやはり従来も一応は御審議を願つておるのでありますから、でき得べくんばそういうふうにしていただきたい。しかしながら全然問題にされないということであるならば、その理由は一体どこにあるのか、理事会においてどういうお取扱いになつておりますか、この点をあわせてお伺いしたい。
私のこの際議事についての希望を申し上げますが、農業委員会法の一部改正と農民組合法、この二つを審議する。いま一つは整備促進法の一部改正が足立君外自由党から提案になつております。これと農業協同組合法の一部改正案は同じ農協関係の法律でありますから、これを二つ一括して、それぞれ区切つて御審議をしていただきたいと存じます。まず協同組合関係の二法案を本日は議題にせられて御審議を進められますならば、私どもも審議に何ら躊躇するものではございませんが、関連の深い法案を三つも一括して審議をするとこういうは、かえつて審議を遅らせることになろうと思いますので、ただいま希望を申しましたような趣旨に沿つて議事の運営を進めていただきますならば、本日もこれから夜を徹してでも審議をいたしたい、かように考えておりますので、ひとつよろしくおとりはからいを願いたいと思います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/37
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038・井出一太郎
○井出委員長 足鹿委員にお答えを申し上げます。昨日の理事会におきましては、貴党におかれましては芳賀理事御欠席のため、井谷委員がおいでになられたと思います。その席上で恒例によりまして今週の審議日程を立てたわけでありますが、会期もいよいよ押し詰まつて参りましたので、委員長としましては、なるべくスピード・アツプをしていただきたいというふうな希望を申し述べたのでございます。その結果は今足鹿委員の言われるように、農民組合法については全然これに触れないなどというようなことではございません。団体関係三法案と従来呼んで参りましたものを、本日の午後とそれから明水曜日と大体の時間を当て、できる限り審議を促進したい、こういう程度に取扱つたわけでございまして、ただいまお述べになりました農協関係の再建整備を含めた二法案と、それから農業委員会法及び農民組合法という分割の仕方は、ただいまの足鹿委員の新提案でありまして、これは後ほどでも懇談をいたしまして、そういうお申出の線に沿うかどうかということをきめていただいた方が至当であろうか、かように考える次第でございます。
他に御質疑もないようでありますから、残余の部分は明水曜日にこれを繰越して継続をいたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時一分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904988X04519540518/38
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