1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十九年二月十六日(火曜日)
議事日程 第八号
午後一時開議
一 警察法案(内閣提出)警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明
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●本日の会議に付した事件
公正取引委員会委員任命につき同意の件
九十九里浜における米軍発砲事件に関する緊急質問(杉村沖治郎君提出)
警察法案(内閣提出)、警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明及びこれに対する質疑
午後一時二十九分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/0
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001・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これより会議を開きます。
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002・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) お諮りいたします。内閣から、公正取引委員会委員に吉田晴二君を任命するため本院の同意を得たいとの申出がありました。右申出の通り同意するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/2
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003・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて同意するに決しました。
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004・荒舩清十郎
○荒舩清十郎君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわちこの際、杉村沖治郎君提出、九十九里浜における米軍発砲事件に関する緊急質問を許可せられんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/4
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005・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 荒船君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/5
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006・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
九十九里浜における米軍発砲事件に関する緊急質問を許可いたします。杉村沖治郎君。
〔杉村沖治郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/6
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007・杉村沖治郎
○杉村沖治郎君 私は、日本社会党を代表して、アメリカ軍の実弾射撃事件に関連いたしまして、総理大臣、外務大臣、保安庁長官、大蔵大臣、農林大臣等に質問をいたします。
一昨十四日私が現地に参りまして、漁民並びに各関係者に面談して実情を調査、聴取いたしましたところによりますると、去る二月十一日午後一時ごろから同五時ごろまでの間に、千葉県九十九里浜白里、豊海沿岸にありますところのアメリカ軍の実弾射撃演習基地から、海上の危険区域内に漁船が数十そうあることをアメリカ軍はレーダーによつて認識しておるにもかかわらず、百二十ミリ口径の高射砲八門及び機関砲から猛烈なる実弾射撃演習を行つたのであります。
九十九里浜は、日本三大漁場の一つといたしまして、いわしの水揚げ量は年間六千万貫を示しておるのであります。この漁場は、単にこの地方の住民のみならず、日本国民大衆の栄養保持の上におきましてきわめて重要なる漁場でありまするが、アメリカ軍が進駐いたしますると、ここを実弾射撃演習場として使用いたしまして、以来引続き使つておりまして、日本政府とアメリカ政府との間におきましても、大なる問題もなくスムーズに演習基地として行政協定が成立して、アメリカ軍が使用して今日に至つておるのでありますが、これがために漁民のこうむる不利益に対し、わずかに二億三百万円の補償があるだけであるのでありまして、住民の経済はきわめて逼迫いたしておりまして、過去七年間にわたるところの使用のために、その生活状態は窮乏のどん底に陥つておるのであります。これがために、この射撃場の禁止区域に入るのは悪いということは知つておりまするけれども、生きなければならないという生活苦から、この危険を冒してここに入らなければならないという事情にあつたのであります。去る十一日、四十隻の船がここに入つたというのも、この事情からであるのであります。かようなわけでありまして、当局は、この発砲につきまして、威嚇射撃であるというようなことを発表いたしておりますけれども、それはそうではありません。事実はこれと全然反対であります。
また、ここにふかしぎきわまることは、海上保安庁の船がこの危険区域内にアメリカ軍と相呼応して行動しておつた事実であります。いかなる目的によつてアメリカ政府との間に協定がなされておるか知りませんが、海上保安庁の船がアメリカの実弾射撃演習に参画いたしておるということはどういうことでありましようか。われわれは、はなはだふかしぎであると思うのであります。それのみではありません。アメリカ軍がレーダーで見たときに、漁船が四十隻もあるので、これに対してアメリカ軍は、これの避難というよりも、海上保安庁の「なみちどり」という船に対しまして、アメリカ軍の射撃時間は十二時からであるから、どうか「なみちどり」は早く区域外に退去してもらいたいということを無電をいたしたのであります。そこで「なみちどり」がその区域外に退場いたしますと、ただいま申し上げましたところの八門の高射砲及び機関砲から猛烈なる実弾射撃が行われまして、こう然たる砲声とともに、漁船近くに不発弾さえ落下するのを目撃するというような実情に相なりたのであります。
諸君、私はここで総理大臣に伺いたいことは、総理大臣は国民に対して耐乏生活を要望せられておるのでありまするけれども、勤労大衆は、かくのごとく命を的にかけても危険なところに入つて行かなければならない、生活のかてを得るためには命をかけてやつておるという状態であります。形こそ違いますけれども、日本の勤労大衆はみなこの状態にあるのであります。しかるにもかかわらず、総理大臣は、憲法を空文視して、巧妙に再軍備をやつておりまするけれども、国民をこのような苦難のどん底に追い込んでおいて再軍備をやつてみたところで、それこそだれかが言うように、まつたく戦力もないでありましよう。こんな軍隊が幾らできたところで、決して共産主義のたてとはなりますまい。(拍手)それよりも、かかる勤労大衆が自己の生活を死守せんがために、その最後の一線に踏みとどまつたときの憤激こそは、諸君恐るべきものがあるのであろうと思うが、総理大臣の御所見はいかがでありますか。
さらに外務大臣に対しまして尋ねるのでありますが、先ほど申しましたように、いかなる目的のために、保安庁の船が、アメリカの実弾射撃演習をやることについて、海陸相呼応してここに行動しておるかということを伺いたいのであります。
さらに保安庁長官に対して伺いたいことは、いかなる必要からこの「なみちどり」号がアメリカの軍隊と呼応してここに行動しておつたか、それが一つ。その必要の理由は別といたしましても、アメリカ軍の基地から、「なみちどり」号に対して、区域外に退避してもらいたい、「なみちどり」号が退避するなればただちに射撃を開始するからという無電を受けたそのときに、「なみちどり」号だけ自分が退避して、数十隻の漁船があるのをそのままにして退避しておるということは、はなはだ不都合である。いやしくも日本の保安庁の船でありまするなれば、もしそういう無電がアメリカ軍から来たなれば、ここに漁船がおるけれども、どうかこの漁船が退避するまで射撃することをやめてもらいたいということをアメリカ軍に懇請するのが当然ではありますまいか。それをなさないということは、きわめて不都合千万と言わなければなりません。(拍手)
さらに、私は、千葉県から派遣されておりまする出先官憲であるところの須藤という渉外部員にこの点について伺いました。「なみちどり」だけを退避さしたなれば射撃を開始するということははなはだ穏やかでない、それであるから、どうかあの漁船が退避するしまで射撃をやめてもらいたい、ということをなぜあなたは言わなかつたかと言うたところが、それはアメリカ軍の圧力のために言うことができなかつたと言うのであります。何たることでありましよう。これを私は保安庁長官に伺いたいのであります。(「時間だ」と呼ぶ者あり)まだ時間にならない。
次には大蔵大臣に伺いたいのでありまするが、今一日にこの漁夫がとるところの漁は八百万貫であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/7
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008・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 杉村君に申し上げます。申合せの時間が過ぎましたから簡単に願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/8
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009・杉村沖治郎
○杉村沖治郎君(続) わかりました。——これに対するところの損害補償金がわずかに二億三百万円であるが、それでは漁夫の一戸当りにいたしまするとわずかに三千ないし七千円であります。かようなことのために、漁夫が生命を冒して入つて行くというようなことに相なつておるのでありまするけれども、大蔵大臣はこれに対して御検討になられたことがあるか、将来いかになさろうという考えであるか、それが伺いたいのであります。
農林大臣につきまして最後にお伺いいたしておきまするが、農林大臣はこの日本の三大漁場を基地としておくということをどう考えられるか。不毛の地にこの基地を移動するということについて交渉をするお考えはないか。米軍はここが絶対の条件とは申しておりません。ただ、あそこを移動するとすれば、重いところの器物を運搬するのに、それがために橋梁、道路等の関係上動かすことができないのであると言うておるのでありまするから、必ずしもここは絶対の条件ではないのであります。これをよく考え、他の不毛の地に移動することを懇請する考えがあるかないかを農林大臣に伺いたいのであります。
以上であります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/9
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010・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。政府は国民生活の充実安定ということには最も心を注いでおりまして、政治の基調を常にここに置いているつもりであります。いわゆる防衛力の増強につきましても、政府がきわめて慎重な態度をとつておりまするのはこのゆえにほかならないのでございます。今お話の九十九里におきまする不幸なできごとの補償につきましては、実情を調査の上に、できるだけのことをいたしたいと考えております。
〔国務大臣岡崎勝男君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/10
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011・岡崎勝男
○国務大臣(岡崎勝男君) 米軍の射撃は警告する意味でありまして、警告によつて退去を求める意味でやつたのであります。しかしながら、警告射撃といえどもおもしろくないことでありますので、これはできるだけ避けるようにいたしたいと考えております。今後は、たとえば監視船による連絡とか、あるいは無線による連絡とか、その他飛行機を飛ばして連絡するとか、いろいろの方法をとるつもりで今やつております。現に監視船はすでに現地に参つているはずであります。
なお、元来この米軍は、日米安全保障条約に基きまして、日本の安全を守るために国内におるのでありまして、そのためには必要な訓練をし演習をすることは当然のことであります。従いまして、その演習や訓練のために漁業に損害を与えておりますので、漁業補償をいたしておるようなわけであります。これが増額の要求もたびたび聞いておりますので、これは調達庁の所管ではありますが、外務省といたしましてもできるだけ協力して善処するつもりでおります。
さらに、問題の漁船は十二時に退去するはずでありましたけれども、これが退去いたしませんので、何か連絡に不十分なところがあるであろうと考えまして、県当局の依頼に応じて海上保安庁の船が現地におもむいたということであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/11
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012・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 大蔵大臣及び農林大臣に関する答弁は適当な機会に願うことにいたします。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/12
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013・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 警察法案、警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案の趣旨説明を求めます。国務大臣犬養健君。
〔国務大臣犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/13
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014・犬養健
○国務大臣(犬養健君) 今般提出いたしました警察法案につきまして、提案の理由並びにその内容の概略を御説明いたします。
現行の警察法は、戦後早々にして占領政策の一環として施行せられたものでありまして、戦前のわが警察制度を根本的に改革して民主警察の理想を高揚した点においては確かに画期的な意義を有してはおりますが、何分にも忽忙の間に当時の国際事情を反映しつつ制定せられましたために、わが国情にいささか適しないところが多く、その運用の結果に徴しましても非能率にして不経済の欠陥を免れず、しこうして、かかる欠陥を是正するために早晩抜本的な改正の必要であることは、つとに世人の広く認めるところでありました。すなわち、現在の警察制度は国家地方警察と市町村自治体警察との二本建になつておりますが、町村を管轄する国家地方警察は国家的性格に過ぎて自治的要素を欠除し、都市を管轄する自治体警察は完全自治に過ぎて国家的性格に欠くるところがあり、これを要するに、都市と町村において性格の相異なる警察が存在するという結果になつているのであります。しこうして、このことは、元来国家的性格と地方的性格とを兼ね有すべき近代警察事務の運営にとつて、それ自体適合せざるものを内在している結果となつているのであります。さらに、市町村自治体警察は、治安の対象地域が近時とみに広くなりつつあるにかかわらず、おのおのの市町村単位において独立しているのでありまして、この細分化された警察組織のもとにおいては、警察運営の責任もまた多数に分割され、従つてその有機的活動は著しく阻害されているのであります。もちろん、従来といえども、これらの警察相互間におきましては、あるいは人事の交流によつて意思の疏通をはかり、あるいは援助の協定を行つて連絡調整を密にする等、それぞれ努めては参つたのでありますけれども、何と申しましても、制度自体が内蔵する欠陥の前には、運用の妙にも限界があるのでありまして、ために、警察単位の分割により生ずる盲点の存在が警察の効率的運用をみずから傷つけて参つた次第であります。かつ、この欠陥は国の治安に対する責任の不明確という点にも大きく影響しておりますことは、近来頻発する種々の事件に関連して国民の記憶の新たなところであると存じます。さらに、一方、行財政改革の見地に立ちまするならば、国家地方警察と市町村自治体警察との施設及び人員が互いに重複していることは、国民にとつてはいたずらに複雑かつ不経済な負担となつているのでありまして、この面よりするも、制度の根本的刷新の要は今や社会の輿論であると申しても過言ではないと思うのであります。(拍手)しかしながら、現行制度における叙上の弊を改めるにあたり、警察の民主的な運営、言いかえれば、国民が警察運営に対してする関与は、これを依然として保障すべきはもちろんのことでありまして、この民主的な保障の基盤の上に治安任務遂行の能率化と責任の明確化との二つの懸案の解決をはかつたものが今般のこの法律案の骨子となつている次第であります。(拍手)
まず、この法律案の内容について主要な点を申し上げますならば、第一に、公安委員会制度を存置したことでございます。すなわち、警察の管理と運営の民主的保障を確保するため、中央地方を通じて公安委員会制度を置きまして警察を管理せしめることにいかしたのでございます。すなわち、中央においては内閣総理大臣の所轄のもとに国家公安委員会を、また地方においては都道府県知事の所轄のもとに都道府県公安委員会を置きまして、それぞれ国民を代表する委員からなる会議体の機関によつて警察庁または都道府県警察を管理せしめることといたしまして、もつて警察の民主的な管理運営を確保し、かつ警察の政治的中立性を維持せんといたしたのであります。なお、この際公安委員に広く有為の人材を得るため、その資格の制限を大幅に緩和し、その制限は警察と検察の職業的前歴者のみに限ることといたしたのであります。
第二には、警察を府県警察に一本化したことであります。すなわち、警察の能率的運営を保持するため、現在の国家地方警察及び市町村自治体警察はともにこれを廃止いたしまして、新たに都道府県警察を置くことといたしたのであります。この理由につきましては冒頭に詳しく述べましたので省略いたすことといたしますが、ここに一言申し加えたいのは大都市の警察についての措置であります。大都市警察につきましては従来種々議論の存するところでありますが、結論において、これを府県と併立させることは、大都市とその周辺地区とを遮断せしめまして、このために、警察対象としての両地区の一体性を阻害し、警察運営の有機的活動に著しき障害を来すのみならず、財政的にもきわめて不経済な結果となりますので、これを都道府県警察に一元化する必要を認めた次第であります。
第三に、府県警察の内容でございます。すなわち、都道府県警察につきましては、国家的要請に基く最小限度の制約を除きまして、あとう限りこれに自治体警察としての性格を具備せしめることといたしたのであります。すなわち、都道府県警察の性格は、申すまでもなく、地方公共団体たる都道府県の機関としての警察でありまして、言いかえれば、これは都道府県自治体警察でありまして、知事の所轄のもとにある都道府県公安委員会が全面的にこれを管理いたし、その管理のもとに警察本部長が職務を行うのであります。従つて、その職員は原則として地方公務員の身分を有するものでありまして、かつ、警察に要する経費については、一定の国家的な警察活動に必要なる経費を国が支弁するほかは、原則として府県の負担といたしたのであります。また、都道府県警察の諸般の組織や職員の人事管理その他の行政管理事項はいずれも都道府県の条例で定めることといたし、これらの警察行政は、都道府県議会における審議を通じて常に住民の公然たる批判の前に置かれ、従つて住民の批判に制約される次第でありまして、この作用によつて自治体警察の特長と美点とをあわせて具備せしめたのであります。従つて、この精神に立脚いたしまして、都道府県警察は国家的な警察事務に限つて中央の警察庁の指揮監督を受けるものといたし、その事項は法律に明記いたしまして、もつて警察の中央集権化の事なきよう十分な配慮をいたした次第であります。しこうして、これがため、警察本部長とごく少数の警視正以上の首脳職員はこれを国家公務員といたし、これらは警察庁長官が国家公安委員会の意見を聞いて任免することとし、他面、この任免に対して管理者たる都道府県公安委員会は懲戒罷免に関する勧告権を行使し得ることといたし、もつて両者の権能について均衡あらしめた次第であります。なお、都の警視総監の任命は、ことにその地位の重要性にかんがみまして、内閣総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いて任命することといたし、これに対する罷免懲戒の勧告権の所在は他の都道府県の場合と同様にいたしたのであります。
第四には、中央の警察機構のことでございます。すなわち、中央の警察管理機関たる国家公安委員会の委員長は国務大臣をもつて充てることといたし、国家公安委員会は、その管理のもとに警察庁を置いて、国の公安にかかわる警察運営をつかさどり、警察の教養、通信、鑑識、統計及び装備に関する事項を統轄いたし、並びに警察行政に関する調整を行わしめることにいたしたのであります。さらに、国家公安委員会は委員長及び五人の委員をもつて組織することといたしましたが、委員長は国務大臣をもつてこれに充てることといたしましたけれども、この委員長は会議に際して表決には加わらず、従つて国家公安委員会が政治的中立性を保つところの会議機関である現在の性格は今般の改正によつてもこれを一貫して保持することといたしておるのでございます。
〔議長退席、副議長着席〕
同時に、委員長として新たに国務大臣が加わることにより、政府の治安に対する国家的の考え方が国家公安委員会の中正な判断によつて濾過せられた上警察運営の上に具現されるようにいたしました。かくのごとくにして、政府の治安責任と警察の政治的中立性との調和をはかつたものでございます。また、警察庁は、国家公安委員会の管理のもとにきわめて特定の国家的な警察事務を所掌し、しこうしてこれに関しては都道府県警察を指揮監督することといたしましたが、その事務の範囲は上述のごとく最小限度の列挙事項にのみ限定いたしたのであります。従つて、個個の一般犯罪の捜査のごときはこれを中央の権限より除去いたしたのであります。なお、警察庁長官は、政府の治安責任を明確にするため、内閣総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いて任免することといたしましたが、他面、これに対しては国家公安委員会が長官の懲戒罷免に関する勧告権を行使し得ることは、道府県公安委員会の権限の場合と同様でございます。
なお、この改正が実施せられます場合は、機構の簡素化により、警察職員の数において三万人、経費において約九十億円を減少し得る予定であります。また、この改正の実施に伴い、国家地方警察職員も市町村自治体警察職員もともにその身分に変更を生ずる結果となりますが、この場合も、努めて新機構への受入れの円滑を期するため、職員の身分を保障するとともに、俸給の減額となる者についてはその差額について調整の措置を講じ、かつ恩給、退職手当についても従来の在職年数はすべて通算することといたし、これら誠実な職員の生活に不安を与えざるよう万全の配盧をいたしたのであります。しこうして、従来の国家地方警察と自治体警察とがその用に供しておりました財産の移転につきましても、制度の切りかえに伴い支障を来すことのないよう、すべて国と都道府県、市町村との当事者相互間の協議によつて譲渡を行うものといたしまして、特別の事情あるものについては債務を承継しまたはこれを有償とする等の措置を講じておる次第であります。
なお、本法案が幸いに成立いたしました上は、これを来る七月一日に施行する所存であります。
以上、本法案提出の理由及びその内容を申し上げた次第であります。何とぞ慎重御審議の上すみやかに可決せられんことをお願い申し上げる次第であります。(拍手)
次に、今般提案いたしました警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律案の提案理由を御説明申し上げます。
本法律案の提案の理由は、今般提案いたしました警察法案と関連いたしまして、関係法令の規定を整理し、これに伴い所要の経過措置を定める必要があるためであります。
この整理の方針といたしましては、関係法令中の関係事項について警察法案の規定上当然に整理改正を要するものを改めることといたしました。経過措置につきましては、警察法案の規定及び本法律案による整理に対応して必要な規定を設けることといたした次第であります。
何とぞ御審議の上すみやかに御可決あらんことをお願いいたします。(拍手)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/14
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015・原彪
○副議長(原彪君) これよりただいまの趣旨説明に対する質疑に入ります。高橋禎一君。
〔高橋禎一君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/15
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016・高橋禎一
○高橋禎一君 ただいま犬養法務大臣より警察法案提出の理由の説明を承りましたが、法案を一読して得た表面的、形式的の所感を一歩も出ず、国民の真に疑問といたしております点についてはほとんど解明がなされなかつたのでございまして、私は、この際、改進党を代表いたしまして、国民の重大関心事である警察法案について、吉田内閣総理大臣並びに犬養法務大臣に対して若干の質問をいたさんとするものでございます。(拍手)
現行警察法はマツカーサー時代の産物でありまして、日本警察の地方分権化と民主化のためには大いに役立ち、その思想的傾向といたしましてもまことに当然のあり方でありましたが、しかし反面、技術的に日本の実情に即さない、いわば若干の行き過ぎのありましたことから、国家警察と自治体警察との間の連絡協力が思わしくなかつたり、自治体警察がいわゆるボス化したり、警察全体の活動能率の点から治安維持上不安の感を抱かしめる等、制度といたしましてこれが是正を要する点のあることは認めざるを得ないのでございまして、現行警察法の改正については、われわれといえども必ずしも消極的であるというわけではないのであります。要はその改正の内容いかんにかかることでございまして、改正が改悪となり、日本をして再び戦前のごとき警察国家たらしめることは断じて許されないのでございます。(拍手)
今政府の警察法案を検討いたしますと、最も重大な問題は、警察組織の中央集権化であり、公安委員会を骨抜きにし、憲法の理想とする地方自治の精神と蹂躪するとまでは行かないといたしましても、これをはなはだしく軽視するの傾向の顕著であることであります。すなわち、政府案によりますと、国家警察の中心機構として内閣総理大臣の所轄のもとにある国家公安委員会の委員長は、内閣総理大臣に生殺与奪の権を掌握せられておるところの国務大臣をもつてこれに充て、国家公安委員会に設置され、国家警察運営の実行者、すなわち直接国民に対し警察権行使の衝に当るいわば実力機関であり、かつ全国的に都道府県警察を指揮監督する権限を有する警察庁の長官は内閣総理大臣が任命する。もつとも、この場合国家公安委員会の意見を聞くことになつているけれども、その意見は承認、同意とは異なり、それに拘束されるものではないこともちろんであります。中央、すなわち内閣総理大臣が任命した警察庁長官の指揮監督を受けて行動する都道府県警察の長、すなわち都警察の警視総監は内閣総理大臣が任免し、道府県警察本部長は内閣総理大臣の任命した中央の警察庁長官が任免することとなり、しかも、この場合、地方公共団体の都道府県公安委員会の意思はいささかも介入することを許さないのであります。これを総合的に通観いたしますと、国家公安委員会、警察庁、警視庁、都道府県警察本部の重要なる人事権は完全に内閣総理大臣が掌握し、国家公安委員会の委員長たる国務大臣は最近流行の内閣総理大臣の特使として暗躍するというのが、政府案の示す国家警察の明らかなる態勢であります。(拍手)もつとも、政府は、これら警察庁長官以下の人事に関しては、公安委員会に懲戒または罷免の勧告権を認めていると説明されるのでありますが、せつかくの勧告制度も円滑に運用されず、無用の長物視されていることは、吉田内閣の政治史に明々白々なるところでございます。(拍手)政府はまた、中央からの指揮監督は法により一定の基準を設けてあつて、そこにおのずから限界があると言うかもしれませんが、警察の責務が、単に保護や犯罪発生後の処置だけでなく、犯罪の予防が大きな任務であることに注目いたしますとき、これには限界がきわめて不明確であり、これこそ、りくつは何とでもつく性質のものでありますから、越境の危険がきわめて大きく、すでに今日においてさえ随所に物議が起つておる実情でございますから、政府案は専制国と同意語である警察国の出現の危険を多分に包蔵しているものであるということでございます。(拍手)
そこで吉田内閣総理大臣に質問いたしたいのでありますが、第一に、政府は、かかる重要法案の立案について軽率であつたのではないかということであります。研究が足りなかつたのではないかということであります。警察法は実に国家の性格を左右する重要なる内容を持つものであることは申し上げるまでもございません。いわゆる警察国家は、警察が広汎なる国民生活に関連を持つ関係上、その組織の強靱と警察手段の強力とから生れて来るものでありまして、この組織と手段の異常なる強力は、警察能率には満点でありますが、一方それを誇つておる間に、他方、国民は常にその重圧に苦しむことと相なるのであります。明治憲法時代、ことに終戦時までの間、中央集権的な強大なる警察組織と鋭利なる警察手段により、しばしば悲しむべき人権蹂躪の歴史が繰返されたことは、吉田総理初め犬養法務大臣も身をもつて体験され、警察国の恐るべきことを痛感されたところであると信ずるのでございます。自治体警察の制度は、実に、憲法の精神にのつとり、かつ世界先進民主主義諸国家の近代の傾向に従つて打立てられたもので、近々数年間の実施の実績を過小評価して軽々にこれを捨て去るべき安価なるものでは断じてないのでございます。(拍手)現行警察法の改正は、かかる重要なる、いわば国家国民の将来の運命に関する問題でありますから、きわめて慎重なる態度をもつて臨まなければならないことは当然でありまして、天下の学識経験者、人物を網羅して、権威ある警察法改正審議会のごときものをつくり、その熟議を経て立案さるべきものであつたと思うのでありまするが、政府は、現行警察法のもとにおいては国家警察よりも比重の重い自治警察側の意見さえもほとんど聞かず、国警中心に、机の上で鉛筆をなめながら、おのれの立場のみを考えてつくつたような案を国会に提出するの態度は、警察法の重要性をわきまえざる、はなはだ軽卒なる態度であつて、それゆえにこの案に対する自信がなく、政府の気魄の認むべきものがないのであります。吉田総理に、この点を反省されるところがあるかないか、将来に向つていかなる考えを持つておられるかをお尋ねいたしたいのでございます。
第二にお尋ねいたしたい点は、吉田内閣の政治の貧困が生んだ国内不安、ことに社会治安上の不安を主として警察力に依存して解決しようとする意図があるのではないかという点でございます。過去約六年にわたる吉田内閣の誤れる経済政策、その他失政の累積によつて、この狭隘なる国土に日本歴史始まつて以来の八千七百万という厖大なる人口を擁しながら、貿易は不振に陥り、国民の貧富の差はいよいよますますはなはだしく、失業者はちまたに満ち、住むに家なく、着るに衣なく、食うに食なき者さえ少からず、中小企業者も農漁民も前途にいささかの希望も持ち得ず、児童、生徒、学生約二千万をかかえる学校教育もいまだ軌道に乗らず、産業平和の道も確立されず、政界、官界の綱紀は弛緩し、目に触れるところ耳に聞えるものことごとく暗黒にして、国家の前途を思うときまことに憂慮にたえざるものがありますが、これらの国内不安が原因してかもし出された、すなわち生活不安から来る思想的動揺と自暴自棄的傾向は、国内治安維持の立場から見れば、政府をして焦慮せしめるものがあると思うのであります。しかしながら、かかる事態であればこそ、おちついて冷静にこの問題を考えなければならないのであります。それは何かと申しますと、かかる社会不安から来る動揺、思想の尖鋭激化、秩序の紊乱は、警察力ないし刑罰権のみに依存しては断じて解決できるものではないということであります。(拍手)警察力ないし刑罰権の効果には限界があるという点であります。過度にこれに依存することは、これはとりもなおさず警察国家への歩みであります。要は現下の諸政の貧困をいかにして救うかにあるのでありますが、吉田総理は、これら根本問題を解決することに思い及ばずして、警察能率のみをお考えになつて、憲法の精神に反し、世界の大勢に逆行し、地方自治の長所を忘れ、警察組織を中央集権的に強化することに専念し、警察力をもつて国民を威圧しておのれに追随せしめ、吉田内閣延命の僥倖を夢見ておられるのではないかどうか。吉田総理としては言いにくいところであるとは存じますけれども、今や国家の運命に関するところ、何とぞ率直にして国民の前に宣誓した気持を持つて良心的な御答弁を望むものであります。(拍手)
第三に吉田総理に質問いたしたい点は、国家公安委員会の委員長たる国務大臣の政治的責任の問題でございます。政府案を支配するところの思想は国家警察の思想であります。しかるに、都道府県単位制をとるため、警察全体に対する責任の帰属がはなはだ不明確でございます。特に国家公安委員会の委員長たる国務大臣は、法律的には国家公安委員会の責任を負うにとどまるのであるかいなか、内閣閣僚として政治的責任を負うのであるかどうか、内閣総理大臣の責任はいかなる立場に立つものであるか、これを解明されたいのでございます。(拍手)
次に犬養法務大臣に質問いたしたいのでありますが、時間の関係もありますので、要項を列挙する程度にとどめたいと思います。問題の性質はきわめて奥行きの深いものであるということをあらかじめ御了解を願つておきたいのであります。
第一、国内に警察力行使の間に幾多の行き過ぎがあり、人権蹂躪の弊は跡を断たない状態でありますが、政府案のごとくんば、警察が中央集権化せられ、政府の政治的意図の反映する面が非常に広くなることは国民の常識であります。しからば、従来よりも一層人権蹂躪問題を引起しやすくなることを憂えられ、日本国民の悲劇が予感せられるのでありますが、犬養法務大臣は責任をもつてこれを防止せられる意図がおありになるかどうか、またその自信がおありになるかどうかを承りたいのでございます。(拍手)
第二に、自治警察の弊の一つとして警察のボス化があげられ、確かにこれが警察を毒することの危険も十分認められるのでございますが、さらに恐るべきは中央における国家的警察のボス化であります。法務大臣はこの点を考えられたことがあるかどうか、これを防止する方法あらぱお示しを願いたいのでございます。
第三に、強大なる力による擾乱等に備えるためには、政府案による警察組織制の整備のみをもつてしては解決のつかないこともちろんでございますが、法務大臣は、現在認識せられておるところの国内治安状況を基礎として、具体的にどの程度の警察実勢力を必要と考えておられるか。また警察力を考えるとき看過することのできない問題は、警察官の素質と警察職務執行の手段の問題でありますが、警察官の素質の向上、良心の培養、綱紀の振粛等につきどうお考えであるか。警察官の職務執行法のごとき警察手段法を改正する等の意図がおありになるかどうか。これを承りたいのであります。
第四に、恩給法の関係あるいは給与の問題等に関連いたしまして、自治警察の幹部初め多数の老練なる職員が三月末限り退職をしようという傾向があり、はなはだ動揺をいたしておるのでございます。給与待遇の点はどうなるか。また、本法案は七月一日から実施されるわけでございますから、その間の間隙がございます。自治体警察の弱体化に思いをいたして、現下重大なる治安状況に対応すべき対策を犬養法務大臣はすでにお持ちであるかどうかをお伺いいたしたいのでございます。
第五は、犯罪捜査についての指揮監督に関連し検事と警察庁長官との競合が生ずることが法文上考えられるのでございますが、これをいかに調整されるのでございますか。この点については、新聞の報道するところによりますと、閣議の了解事項として、検事の犯罪捜査に関する指揮が一般的にも具体、的にも優先するものであるというような申合せができたように相なつておりますが、はたしてそういうことがあるのかどうか。もしも閣議でそういう了解事項が成立しておるのであれば、これは将来にいろいろ問題を起さないようにするために、この際法律にはつきりと規定しておくことが賢明ではないかと思うのでございますが、その点についての犬養法務大臣の所見を承りたいのでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/16
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017・原彪
○副議長(原彪君) 高橋君に申し上げますが、申合せの時間が過ぎましたから簡単に願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/17
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018・高橋禎一
○高橋禎一君(続) 以上が両大臣に対する質問の要点でありますが、警察は能率的であり、民主的であり、現下最も強く要請せられておるものは、これは犬養法務大臣も触れられましたが、まさに政治の中立性の確保でございます。しかも、その警察は、国家まかせのものでなく、国民協力の警察、地方自治体住民をしてわれわれの警察たる観念を持たせ、国家国民全体をしてわれわれ国民の警察たるの考えを持たさしむるものであることを必要とするのであります。政府は、犬養法務大臣のよく口にせられるところのあの謙虚な気持をもつて、原案にとらわれるところなく、国家とともに、また国民とともに、政府に奉仕する警察でなく、国民に奉仕するところの警察建設のために協力し善処されんことを要望して、私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/18
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019・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
警察法のような非常な重要な法案を何ゆえ法制審議会等にあらかじめ諮らなかつたかという御質問のように承りましたが、政府は、現行制度六年の実績に徴し、民主警察の長所を尊重しつつその不備欠陥を是正するため、各方面の意見を傾聴いたしまして、慎重に検討を重ねて来たのでありまするが、特に地方制度調査会の答申や昨年提案の警察法案についても世論の存するところを十分にしんしやくいたしまして、慎重な配慮のもとにこの成案を得たものであります。
次に、この改正は、政府の政治の貧困が生んだもので、国民の言動を弾圧するためではないかという意味の御質問のように承りましたが、政府といたしましては、この改正により警察の組織を民主的かつ能率的なものに改めんとするものでありまして、警察権の執行の制限を変更したり拡大したりしようとするものでは絶対にございません。この改正によりまして、警察官が職権を濫用して人権が蹂躪されるという心配は毛頭ないはずでございます。
次に、今回の改正は、憲法の精神に反し、中央集権的な警察になるのではないかという御質問でありまするが、今回の改正にあたりましては、あくまで民主警察の理念を基調といたしまして、警察の管理と運営の民主的な保障を基盤として、治安任務の遂行の能率化と責任の明確化をはかつておるのであります。すなわち、中央、地方にそれぞれ国家公安委員と都道府県公安委員を存置いたしまして、国民を代表して警察を管理するものとしておるのでありまして、また中央の警察庁の権限を国の関与すべき最小限の事項に限定しておるのでありまして、決して権力の集中というようなものではないのでございます。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/19
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020・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答え申し上げます。たくさんの御質問でございまして、もし落すようなことが、ございましたら、またあらためて御答弁をいたしますし、委員会でも御答弁をいたしたいと思います。
これは総理大臣の御質問にもかかつていたようでございますが、政治の貧困が生んだ国民の不平不満に基く言動を警察力で弾圧するのではないか、そういう考えではないか。このことは、つい先日、本会議でほかの御質問にお答えしたのでありますが、当時総理大臣もお答えしたように記憶しておりますが、治安情勢、社会不安をただ取締り法規で事が済むと思うのは末の末でありまして、社会政策と相まつて、よい政治の行われる社会をつくるという努力と取締り法規と両方成り立たなければならぬということをお答えいたしまして、たしか高橋さんの方でも御賛同を願つたように覚えております。その精神で依然おりますから御承知を願いたいと思います。
それから、順序が違いましたらごめんをこうむりたいと思います。警察官が行き過ぎやしないか、そのために警察の執行法と警察手段法を改正する意思があるかどうか、こういうことでございます。なるほど、戦争前は治安警察法や行政執行法というものがありまして、御承知のように、治安警察法は、集会や言論の取締りについて、いささか濫用のときもあつたように聞いております。また行政執行法も、検束で、俗に言うたらいまわしというようなことも、これによつて行われたようでありますが、このたび憲法の保障に基いてつくりました警察法においては、刑事訴訟法や警察官等職務執行法を基礎といたしまして、必ず人権を擁護する、人権の擁護についての観念の薄い警察官は、その科目を試験して、絶対に昇給させないという厳格な規定を設けてやつておりますから、ただいま御指摘のように、あらためて職権行使の新しい改正をやるという必要はないように思つております。しかし、御心配の点はこの上とも気をつけたいと思つております。
次に、検事と警察の競合をどう調整するか、閣議了解事項があるそうであるが、それは法律でない了解事項があるくらいならば法律の表面に出すべきではなかつたろうか、こういうお話でございます。なるほど、お話のような閣議了解事項はございます。と申しますのは、警察庁長官は、個々の犯罪捜査の指揮はこの職務に含まれていないという了解事項が一つと、それから警察庁長官が犯罪捜査に関して一般指示を行う場合は、あらかじめ検事総長と連絡すること、この場合にも刑事訴訟法第百九十三条の適用があるとすること、文章は少し違いますが、こういう了解事項がございます。そこで、なぜこれを法律に入れないかと申しますと、今読み上げました事項はいずれも当然過ぎるほど当然なことでありますが、数多い第一線の末端に対して心得のためにとりきめた事項でございますから、当然過ぎる意味をもつて、あらためて法律に入れるのは、かえつておかしいのではなかろうか、こういう意味で了解事項にとどめた次第でございます。
それから、給与待遇、人員整理、これは実は非常に大きな問題でございまして、自治体警察方面の反対のいろいろのお話のうち、この給与待遇がかわるのではないか、人員整理の場合、自治体警察の方をなしくずしにだんだん数多く整理して行くのではないかという心配が、反対御意見の底に流れている主要な御心配であるように思つております。これに関しまして、御承知のように、今度国家地方警察と地方自治体警察とが一本化して、これは両方なくなりまして都道府県警察になりまして、都道府県職員の水準による給与ということになりますと、実際のお話が、今の自治体警察の給与よりこの水準は下まわると思います。その差額は全額調整金をもつて償うことにいたしまして、しかも本俸が下つたからといつて、先ほど提案理由の中で申し上げましたように、恩給その他は通算して元と同じということにいたしましたから、御安心を願いたいと思います。
警察官の素質、とかく治安のことばかりに気をとられて、人民の生命、人民の安全ということ、言いかえれば人民のための警察という観念が薄いのではないかという問題でございます。この点が戦後の警察の問題で実は一番重要な問題の一つであると存じます。それで、警察関係の諸学校におきましては、広く社会の名士あるいは社会学が素養できるような講師に来ていただきまして、人間としてまず出発する——警察官としてまず出発するのではなくて、社会と折合いのいい人間として出発して、その社会と折合いのいい人間の職務の次に警察官、こういう順序になるように観念を植えつけておりますから、この点も御了承を願いたいと思います。
最後に、厖大な暴力に対して十分責任をとるためには警察組織法のみでは足らないが、政府はこの組織のもとにいかなる程度の具体的警察力をもつて秩序維持ができると思つているか、この問題でございますが、これはいずれ委員会でも詳しく申し上げたいと思いますが、今度の機構改革の中心は、警察力の増強でなく、その能率化でございます。従つて、その能率化を目的といたしますならば、三万人の職員を減らしても十分に国内の治安確保はやつて行ける、こういうふうな考えをもつてやつておる次第でございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/20
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021・原彪
○副議長(原彪君) 西村力弥君。
〔西村力弥君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/21
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022・西村力弥
○西村力弥君 私は、日本社会党を代表して、提案になりました警察法について、吉田総理大臣並びに関係各大臣に重要な点について質問を行わんとするものでございます。
近来、政府は、口を開けば占領政策の行き過ぎを是正すると称して、民主主義的諸制度を改廃し、基本的人権の侵害をあえてなし、民主的な諸権利を圧縮し、これを剥奪しつつあることは、日本国民と国家にとつてまことに不幸であり、かつまた悲しむべき現実であると申さなければならないのであります。(拍手)破壊活動防止法は、われわれの思想、言論の自由を不断の恐怖のもとにさらし、労働法規の改悪は、働く者の諸権利を次々と強奪してしまつたのでございます。今や、この警察法の改正と、また近く上程を見るであろう教育の中立性の維持に関する法律によつて、保守反動独裁はまさに頂点に達せんとしておるのでございます。(拍手)もちろん、われわれとしましても、占領政策の中でわが国の実情にそぐわないものは、これを改めるにやぶさかであるはずはないのでございまするが、事いやしくも国家の基本性格にかかわる警察制度とか教育制度とかについては、ゆめ軽々しくこれは扱われてはならないのであります。この点につきまして総理大臣の御見解をただしたいのでございまするが、このたびの警察法の制定にあたりましては、まことに軽卒であつたというそしりを免れないものであると私は思うのでございます。(拍手)
ただいま提案になりました新警察制度は、自治体警察の存置によつてせつかく民主的に仕組まれて来た権力相互の牽制均衡というものを一挙に解体して、警察権力の一切をあげて中央に集権化し、恐るべき警察政治、能率至上主義を目標とする弾圧警察に復元せんとするものであつて、われわれの断じてこれは許容し得ないものであります。一月十四日閣議決定の警察法改正要綱を見、今また犬養法務大臣の提案理由の説明を拝聴いたしまして、それがいかに言葉巧みにつづられ、また語られましても、われわれの不安と疑点はいささかもぬぐい去るわけには参らないのでございます。
現行警察法は、日本国憲法及び教育基本法とともに前文を付してある最も重要な法律でありますが、その前文には、地方自治の推進と人間の尊厳の確保、個人の権利と自由を保護するために、国民に属する民主的権威を組織する目的をもつてこの法律を制定すると、まことにすつきりと言い切つておるのでありまして、この精神をもつて現行警察法は一貫されておるのでございます。しかるにかかわらず、新警察法は、その目的として「個人の権利と自由を保護し、」「民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、」と述べていながらも、「且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。」と規定しておるのであります。前段は確かに民主警察の理念に立つものであつて、現行警察法の前文に相当するものであると思うのでありまするが、「且つ」という一語でもつて展開される後段に至つては、人間の尊厳を極端に無視する能率至上主義に転化しておるのでありまして、現行警察制度の百八十度の転換を如実に示しておるものであるといわたければならないのでございます。いかに反動政策を強行する吉田政府としましても、今ただちに民主主義の旗をおろす勇気を持ち合せてはおりますまい。反動政策の正体をいかにして見せまいかと、民主的ヴエールをもつて擬装することに腐心しておる姿は、この警察法の第一条に明らかに看取されるのでございます。(拍手)現行警察法の前文をはぎとつて、形式的に新警察法の目的の前段に載せ、いかにも民主的保障と警察の能率化の調和をはかつており、その調和をもつて新警察法の基本性格としているかのごとく見せかけておるのでございますが、このことは、法案をしさいに逐次検討するときにあたつて、まことにそれは見せかけだけのものであるということが明瞭になつて参るのでございます。
まず公安委員会でありますが、強大な権力である警察が政治から独立して、国民の直接意思を反映する公安委員である限り、その資格制限は厳重になされなければならないにかかわらず、今回はそれを大幅に緩和されておるのでございます。絶対服従を生命とした旧職業軍人も、またボタン一つで全国津々浦々の警察網を一瞬にして動員したことに対して郷愁やみがたい旧内務官僚もこのポストを占めることを認められ、国家公安委員会を代表する委員長には政党人である国務大臣をもつて充てられておるのであります。しかも、人事に関する権限は、警察庁長官及び警視総監の任命にあたつては内閣総理大臣に意見を述べるにとどまり、懲戒罷免の勧告権を持つのみでございまして、曲りなりにも住民の意思を守り、政治権力から独立していた本来の公安委員会の姿は、まさに見るべくもなく消え去つておるのでございます。内閣総理大臣に任命される警察庁長官は、全国七管区の警察局長、道府県警察本部長及びその他の警視正を任免し、道府県警察本部長並びに警視総監は地方警察官を任命するという、人事権の系統をもつて全警察機能は中央集権化し、政治警察化は避け得ない事実となつて来るのでございます。公安委員会に懲戒罷免の勧告権があるからとか、公安委員にその人を得ることによつてと犬養法務大臣は期待しておるのでございますが、官僚機構を決定的に左右するものは人事権の帰属であつて、人の善意にたよつて事を処することは、決して手がたい安全な道ではないのであります。
かくのごとく考えて参りますときに、新警察法は民主的保障と能率化の調和を性格とするものでなくて、法第一条目的の前段は、今までの警察はこうだつた、これからの警察は目的の後段に示されている通り、明らかに能率至上主義に百八十度の転換を行つたといわざるを得ないのでございます。(拍手)また、自由党の某議員の話によれば、法務大臣は今次の警察法改正は革命だと申されたということであります。まさにその通りだと私は見るのでありますが、法務大臣の見解を承りたいのでございます。
次に私のお尋ぬいたしたいことは、内閣の責任と権力の帰属という問題についてでございます。民主主義社会において、権力の配置は互いに牽制し、均衡を保つようにあらなければならないことは、さきにもちよつと触れたのでございますが、吉田総理はワン・マンと呼ばれておるのであつて、今やあらゆる権力をその手中に収めて、絶大なる独裁的権力の権化となりつつあるのであります。直接侵略に対抗する自衛軍を統帥し、秘密思想スパイである公安調査庁を握り、今や警察庁長官及び警視総監の任命、国家公安委員長に国務大臣を充てることによつて全警察権を掌握せんとし、教育の中立性保持に名をかりて教育を吉田政府の欲する方向に規制し、また行政府首班として全官僚を押え、思うことならざるはない権力者の地位に鎮座ましまさんとしておるのでございます。臣茂は今や元首茂になつたのかと疑われるのでございます。それかあらぬか、総理の福岡入りは、国歌君が代と軍艦マーチをもつてこれを迎え、六メートル間隔に護衛されたと新聞は報じておるのであります。越えて自由党大会においても、国歌と軍艦マーチに迎えられてわが世の春を謳歌したということであります。(拍手)しかしながら、福岡からの帰り道、大阪飛行場に着陸せんとした吉田総理が、アメリカ側の許可を待つて、四十分間飛行場の上空を旋回して待機したということは、あまりにも悲しい日本の現実と言わなければならないのでございます。(拍手)
とにかく、民主主義を理念とするわが国の政治が権力の集中のもとに置かれることは、正しいことと言えるでありましようか。党内ワン・マンなら、われわれは関知するところではございませんが、国家権力を一身に集中した権力者は、民主主義の前進のためにわれわれは断固として認めるわけには参らないのであります。(拍手)このことは、いずれこのままでは済まされない。必然的な方向をたどつて、何らか権力分散の方向をたどるであろうと思うのでございます。しからば、いかにして権力分散がなされるか。まさか天皇制の復活を考えるわけではでございますまい。しからば憲法改正による共和政体に切りかえるのか、または現在の憲法下において権力の分散、均衡をはかるという方式をとられるか。吉田総理は、この権力の均衡という問題について、いかなる方針を持たれておりまするか、御答弁をお願いしたいと思うのでございます。
次に私のお尋ねする点は、現行警察法はわが国情に適しないので、これをわが国情に即応する組織に改めなければならないとする理由についてであります。わが国の自然環境では民主警察は育たないというのならばいざ知らず、またわが国の市町村財政が貧弱そのものであつて、自治警察の育成は不可能である、これが日本の国情であると申すのでありましようか。確かに、発足当時の四分の一にその数を減少した自治体警察は、これらのすべてが警察維持の財政負担に耐え切れないために国警編入を余儀なくされたものであるということを考えるときに、市町村にこの責めは帰せらるべきではなくて、自治体の財政を貧窮そのままに放置した政府の責めにかかるものであります。無用有害の非生産的な軍事支出を削つて、この幾分かを地方財政に投入してあつたならば、自治警は住民の警察として完全に守られたはずなのであります。(拍手)政府は、もらい子殺しのそれのごとく、十分な財政的カロリーを自治体に補給せず、栄養失調の自然死に自治警を追い込んでしまつたというのが実情でございます。(拍手)
しからば、日本民族は民主的運営や建設というその能力は全然持ち合せていないのでありましようか。この件に関して犬養法務大臣に質問したいのでございます。法務大臣は、昨年の三月十四日、地方行政、法務両委員会連合審査の際において、時の田嶋法務委員長の質問に答えて、次のごとく答弁しておるのでございます。「日本人はいろいろ美点がございますが、命令が二つのところから出て、しかも似たような仕事をする場合が一番うまく行かない。幾多の美点があるにかかわらず、これが一番日本人に向かないやり方である。これは私の信念でありまして、その民族の本性に向かない点は改めなければならぬのじやないかということで、今度組織の一本化をはかつたのであります。」云々と答えておるのでございます。これは大臣の信念としてはまことに重大であると私は思うのでございます。このことは、日本人は本来的に民主主義の建設能力に欠けておるのだということを断定しておる言葉だと認めざるを得ないのでございます。この点に関して、大臣は今でもそのようにお考えでございまするか、御答弁をお願いしたいと思うのでございます。
政治警察、弾圧警察に切りかえることを正当化するために政府の言わんとするところは、この警察法の改正を必要とする国の事情というものが、内外の情勢の緊迫と、猛虎のごとく恐れをなしている共産党の蜂起の危険ありとする二点にあると思うのでございます。しかし、東西の緊張は、吉田総理も認めておる通り、一応緩和しておるのであり、猛虎のごとく恐れをなしておる共産党の排除は、警察綱の整備強化、あるいは保安隊による武力弾圧もよくなし得るものではないのであります。治安確保の要諦は民生の安定を期するよい政治にあることを銘記すべきであります。国民が政治を信頼し、政府また国民を信頼するところにこそ治安確保の道は存するのであります。国民を敵視する政治のもとには、断じて静謐は求められないのであります。(拍手)この点に関し吉田総理の答弁を求めるものでございます。
現行警察法におきましても、緊急非常事態に処する方途を立てられているにもかかわらず、かくも極端な中央集権警察国家への復帰を強行しなければならないその真の理由は那辺にあるのでございましようか。私は次のごとく思うのであります。日本人はもつと耐乏生活をして防衛強化の努力をなすべきであるとダレスから恫喝され、来日の世界銀行団から露骨にデフレ予算を力説せられ、さもなくばMSAも外資も望み薄であると脅迫され、一も二もなくMSA再軍備を本格的にやろうとするその地ならしを強行するところにこそこの警察法改正を必要とするものがあると思うのでございます。アメリカ製の大砲のために耐乏を押しつける吉田内閣の隷属政策が、弾圧警察を今絶対的に必要とするのでございます。経済自立のために、貿易の赤字解消のために、耐乏予算のやむなきを説く政府は、しからば何がゆえに食糧増産の計画や産業設備合理化に必要な財政投資を軒並に削減したのであるか。しかも、何がゆえに他方において防衛関係経費のみを大幅に増額しているのか。不渡り手形の激増、中小企業の倒産、失業者の激増、働く労働者の生活窮迫等等、アメリカ隷属の耐乏予算の押しつけは、やがて深刻な事態を招来するであろうことは不可避であつて、このことに備えて早急に弾圧警察に切りかえなければならないのが今次の警察法改正の真相と申すべきであります。(拍手)警察法の改正を行つて責任を明確ならしめるということは、一体だれのためにささげんとするのであるか、あまりにも明々白々たるものであります。たとい強力な権力をもつてわれわれを威圧し、硝煙のなぎさまで引きずることは可能であつても、一滴の水たりともこれを飲むことをしないという断固たるわれわれの決意を吉田総理は知るべきであります。
民主主義を建前とする現警察制度のもとにおいてさえ、その職権の濫用逸脱は頻発している現状であります。佐賀県において、福岡県において、北海道において行われた警察の組合分裂政策、あるいは平和教育弾圧のためにする警察官のいやがらせや密偵行動、これは鹿児島、愛知、静岡、群馬、茨城、長野、新潟、山形、青森等全国的に行われ、鳥取においては青年団の思想調査が警官の手で行われている。さては、国鉄公社前において罪なき労働者二名の頭を割り、深さ骨膜に達し、脊髄液圧百九十五の重傷を負わしている。また一月二日二重橋事件発生当日の国警警備方針は、斎藤国警長官の答弁によれば、警備の第一を陛下の御安泰に置いたというのであるが、天皇の警察というがごとき観念が警察精神の背骨として次第に復活しつつある。犬養法務大臣はこれをいかに見るのであるか。(拍手)警察一本化を急いで能率を求めるよりも、まずこれらの観念を、あるいはまた行き過ぎを是正してこそ真の民主警察であると言うべきであつて、このことこそ急務であるのであります。この点について法相の見解を承りたいと思います。現職の警官のほとんどが、警察一本化による政治色の濃化に対しては危惧し反対しておることを、また法務大臣はよく知るべきであります。民主警察を標榜するただいまでさえも、このような、行き過ぎがなされているのに、中央に統合されて警察国家の形態になつたあかつきにおける警察権力に対するわれわれの脅威というものには、いまさら恐れをなしておるものでございます。
次に、塚田国務大臣にお尋ねいたしたいのであります。そもそも公共の秩序の維持は市町村の固有の事務であつて、しかも数々列記されているその劈頭に掲げられているところからいたしまして、自治体の権能、機能として重要なものであります。これが完全に剥奪されて後に残る自治体は、真の自治体と申せるものなりやいなや。みずからの治安と教育に対してあらゆる努力を払つて今日に至つたのが自治体であり、またこれが真の自治体の姿であると申すべきであります。かるがゆえに、自治警を廃止しようとする場合には住民の投票に訴えるよう規定しておるのであつて、これが一片の法改正により全面的に取上げられることは自治権の侵害と思わないのであるか。(拍手)なおまた、税金と寄付金の醵出によつて粒々辛苦の末築き上げた警察の財産を無償で都道府県に譲渡せしめることは地方財政法違反であると思うが、前回と違つて有償譲渡の道も講ぜられておるけれども、原則としては無償とする法の建前は地方財政法違反と思うのでございます。また、現在普通地方公共団体は都道府県、市町村の二段階となつておるが、道府県は半官的自治体であり、しかもこれらの知事を公選制に復活しようとする吉田内閣の方針は堅持されておるのでありまして、しかも今度の警察は府県警察と呼称する国警一本に仕組まれておる等の諸点から、将来当然自治体の姿に変化を見なければならぬと思うのでございます。その構想をお示し願いたいのでございます。(拍手)なお次の一点は、現在強く推進されつつある町村合併はどうなるのであるか。市町村規模を拡大強化して自治能力を基礎づけるこの町村合併は、その最も主要な固有事務である警察事務を失つた以後はいかなる意義を持つのであるか、疑いを持たざるを得ないのであります。町村合併は単に経費節減のために行う行政整理的な意味のみを持つのであるか、自治庁長官の答弁をお願いするのでございます。(拍手)
私が結論として申し上げたいことは、今回の警察法改正は、人間の尊厳を能率主義に置きかえ、民主社会の権力の均衡を破壊してその一元集中をはかり、地方自治を侵害して中央集権制に改め、国家が個人に奉仕する政治形態を、全体のために偶人が奉仕するという恐るべき全体主義的方向に転換するのであつて、明らかに民主主義を否定するものであり、現行憲法の精神に違反するものと断定せざるを得ないのであります。
〔「時間々々」と呼び、その他発言する者多し〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/22
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023・原彪
○副議長(原彪君) 西村君、申合せの時間が来ておりますから、簡単に願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/23
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024・西村力弥
○西村力弥君(続) この警察法の改正も、また近く提案される教育の統制を意図する教育の中立性の維持の法律も、ともに憲法違反を犯しておるものであつて、即時撤回方を強くわれわれは要求せざるを得ないのでございます。しかも、全国民の顰蹙と憤激の的である汚職及び疑獄の渦中にある政府、与党の腐り切つた手で治安立法をなすがごときは、国民の絶対に納得しないところであります。(発言する者多し、拍手)政府は、政治的良心からも、この際かかる反動的治安立法は完全に撤回すべきであると私は主張するのでございます。この点につきまして、総理の所見を承りたいのでございます。(拍手)
人類不変の真理である民主主義の建設をこれから本腰にやらなければならないわが国の治安警察は、個人と社会に治安の責任を求め、住民と警察の協力を基礎とする自治警一本に徹することこそ正しいのであつて、この主張と政策を持つわが党の立場こそ正しいことを強く宣明して、私の質問を終るのでございます。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/24
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025・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたしますが、今般の警察法の改正によりまして、警察権がすべて内閣総理大臣の手中に握られてしまうというおそれは決してございません。警察行政につきましては、その中立性を維持する建前から、総理大臣の所轄のもとに会議機関としての国家公安委員を置き、警察庁を管理せしめておるのでありまして、みずから警察権を掌握するものではございません。国家公安委員の任命につきましても国会の同意を要しまするし、また警察庁長官の任命につきましても国家公安委員会の意見を聞くことを要する。長官は特定の事項につきましては国家公安委員会の管理に服して職務を行うのでありまして、緊急事態の場合を除きましては、職務上内閣総理大臣の指揮を受けるものではないのであります。要しまするに、今次の改正は、近代民主主義国家としての要請に最も適合するものでこそあれ、その精神に反したものではないと信じております。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/25
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026・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申し上げます。順序不同でございましたら、御了承願います。
まず第一に、公安委員会の委員の資格拡大というのはおかしいではないか、こういう御質問でございました。これは御承知かとも思いますが、今までの資格が非常に狭うございまして、従つて、世間で批評して、公安委員はお医者さんか坊さんだというのは、社会の声そのものが、資格が狭過ぎるという意味であろうと思います。十何年前に一ぺん官吏をやつたから絶対公安委員になれないというのは、かえつて有為の人材を集めることができませんので、今般資格を広げたわけでございます。但し、提案理由に申し上げましたように、検察官並びに警察官の前の履歴のある者はこれは遠慮した方がよかろうというのであつて、要するに、この資格拡大はごく社会常識に合つていると思う次第でございます。(拍手)
それから権力の均衡ということを十分考えなければいけない。これは趣旨においてまつたく御同感でございます。ただいま副総理が言われたことと重複いたすかもしれませんが、任命する場合にも、一人で任命をしないで、公安委員会にかけ、一方公安委員会がこれは不適当だと思うときには、いつでも懲戒罷免の勧告権を発動することができるのでありまして、その場合には新聞記事にも出ますし、社会の耳目にも触れまして、それが十分道徳的にも職務の上においても警察職員の自省の根源となると確信している次第でございます。
それから、今度の警察制度の改正は、法務大臣が革命じやないかということを言つたというお話でありますが、一度もそんなことは言つたことがございません。速記録をお調べ願いたいと思います。
それから、自治警察をだんだん栄養失調にして自然死におもむかしめて、そうして制度をかえるのじやないかというお話でございますが、たびたび申し上げますように、今度の警察法改正は、自治警察が悪いからかえるとかいうのではないのでありまして、冒頭申し上げましたように、国家地方警察は国家的性格に過ぎて自治的要素に欠けており、自治警察は自治的精神に過ぎて国家的性格を欠いているから、両方えこひいきなしに廃して府県警察をつくると、こう申し上げているのであります。もう一つ申し上げますならば、自治警察は決していわゆる栄養失調ではないのでありまして、今度府県の水準に給与をきめますと、損をするのは自治警察であつて、それを調整権で元の通り多い月給にして差上げましようというのは、言葉をかえれば、自治警察の方が栄養がおありになる、その栄養を保つ措置を調整権でやろうということになるのでありまして、自治警察だけが栄養失調とは存じておりません。
それから、これは大切なことでございますから特に申し上げたいと思います。なるほど、この前の国会でありましたか、私が警察法について、警察組織を一本にした方がよい、それは日本人にはいろいろ美点があるけれども、しいて欠点をあげれば、同じような、似たような仕事を二つの命令系統でやる場合がどうも不適当であると確かに申したのでありまして、この信念は今でもかわりません。それで、これが民主主義に適するとか適しないとかいうことは全然別問題でありまして、どんな法律をつくりますときも、これは実際実施される場合の国民に与える影響ということが実際法として価値の中心になることでございますから、どんな法律をつくつても、民族の特性を公正冷静に批判するということが政治であろうと思います。逆に、日本人は美点ばかりあると申したら、戦時中の思想傾向と同じでありまして、かえつて質問者の御趣旨にも沿わないのではないかと思う次第でございます。
もう一つ、この警察法改正では天皇を神格化するんじやないか。そういうことは全然別問題でございますが、このよい機会に国務大臣として申し上げますならば、現在の天皇と国民との関係は一番理想的でありまして、国民ほ象徴としての人間天皇に言うに言われない親愛感を持つているのでありまして、この関係を古きにさかのぼつてもう一度神格化するというような思想は現内閣は毛頭持つておらないことをはつきり申し上げたいと思います。(拍手)
〔国務大臣塚田十一郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/26
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027・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) お答え申し上げます。
第一の点は、私どもは警察行政には国家的性格を有する部分と自治的性格を有する部分と両方あるように考えておりますし、そうして自治的性格を有する部分も、過去の実績にかんがみて、やはり市町村段階よりは府県段階でやつてもらう方が適当ではないかというのが今度の改革の考え方であります。
第二に、自治体所有の治安関係財産処分は財政法違反じやないかというお尋ねがありましたが、形式的に申し上げますならば、財政法第八条違反じやないかというお尋ねだと思うのであります。法律でもつて法律に違うきめをするのでありますからさしつかえはありませんが、実質的に見ましても、御承知のように、公有財産は公用財産であり、引続いて同じ目的に使うというのでありますから一向さしつかえないのじやないか、こういう考え方をいたしております。
それから第三のお尋ねでありますが、これはおそらく将来われわれが考えております自治体の性格の変更、特に府県の性格というものの変更と、今度のこの警察制度の改正がうまくマツチするかどうかというお尋ねではないかと思うのであります。私どもは、将来のそういう制度の変更も、今度の警察制度の改正と関連して物を考えて参りたい、こういうように考えております。
第四の点は、町村合併をせつかくしても、警察行政のような大事な仕事を市町村から取上げてしまつては意味ないじやないかということでありますけれども、これは第一問にお答え申し上げましたと同じ考え方で、私どもは警察行政は市町村よりも府県の方が適当であると、こういう考え方であります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/27
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028・原彪
○副議長(原彪君) 門司亮君。
〔門司亮君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/28
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029・門司亮
○門司亮君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程されておりまする警察法案に関しまして、総理大臣並びにその他の閣僚に対しまして二、三の質問をいたしたいと思うのであります。きよう私が質問をいたしまするのは、主として法案の内容に対しましては委員会に譲ることにいたしまして、警察法改正自体の概念その他について一応大臣の所見を承りたいと思いまするので、どうか各大臣は率直にその意見を申し述べていただきたいと思うのであります。
第一に、内閣総理大臣にお伺いをしておきたいと思いますることは、仄聞いたしますると、今国会で保安庁法の改正をされて、事実上の陸海空軍の設置が行われるやに聞いておるのであります。そういたしますると、その統帥をだれがするかということもきわめて重要か問題ではございまするが、おそらく今日の日本の情勢におきましては、そのかつての統帥権にひとしいものは総理大臣が把握されるであろうことは想像にかたくないのであります。こう考えて参りまして、今回の警察法の改正を見て参りますると、明らかにこの警察法の改正は、その権力を国家に集中して——先ほどの緒方副総理の答弁では、必ずしも内閣総理大臣が警察の実権を握るのではないという、きわめて奇怪な答弁を承つたのでありまするが、法案をよく見ていただきたい。警察行政の第一線に立つて闘い、第一線においてすべての警察行政を責任をもつて遂行しようとする警察庁長官の任命は内閣総理大臣がするということに間違いはないのである。(拍手)そう考えて参りますならば、内閣総理大臣がこの警察権を掌握するものであると申し上げても決してさしつかえない。従つて、私が最も杞憂いたしまするものは、一方において陸海空軍を握り、一方においては内政の最も権力行政でありまする警察権を内閣総理大臣が把握いたしまするならば、かつての天皇以上の権限をここに総理大臣に与えることになつて参るのであります。(拍手)かくなつて参りまするならば、今日の民主憲法はまつたく否定されて、民主主義は蹂躪されて参りますと同時に、その結果は明らかに一党独裁の恐るべき暗黒政治の再来を私どもは懸念せざるを得ないのであります。(拍手)この暗黒政治を招来するということが必然的にあるということを何人が否定することができ得るでございましようか。私は、かくのごとき権力のすべてを国家に集中するというこの警察法の改正に対して、内閣総理大臣の明確なる所信を伺いたいと思うのであります。(拍手)
次に、この法案の骨子といたしますものは、すべて治安の確保を夢見ておるようでございまするが、治安の確保というものは、最も大きなその素因は民生の安定でなければなりません。今日、治安の確保は、民生の安定こそが社会秩序の保持の上において最も重要なものでなければならない。その大きな素因となりまするものは、国政と社会秩序との関連性でなければならないと思うのであります。従いまして、まず治安の確保にその重点を置こうとするならば、民主の安定のないところに断じて社会秩序も治安の維持も困難であろうということは、これまた何人といえども否定することができないと思うのであります。(拍手)
今日の世相をわれわれが見て参りまするならば、自由党が五年にわたる長い間の政権保持のために、自由気ままな経済政策を断行し、その結果として、過般の本会議において、小笠原国務大臣は、いかにもそのことが国民の罪であり、国民のなせるわざであるがごときことを申し述べられて、そうして耐乏生活を国民にしいるというような、おのれの非を国民に転嫁するごとき演説をされたことは、非常にわれわれの遺憾とするところでございます。(拍手)こう考えて参りますと、その国民大衆が、政府自身の責任を国民大衆に転嫁されてまでも今日耐乏生活をしいられて、しかも二十九年度の予算の内容では、多くの軍備費はそのまま増額を認めておきながら、民生の安定に使われまする方面だけは圧縮して国民に耐乏生活を要求いたしておりまするような今日の生活不安の状態において、権力だけを強めて治安の確保をしようといたしまするならば、そこには明らかに国民大衆はその権力の前に屈服して、あるいは政府の考えておるような政治が行われるかもしれない。しかしながら、その権力によつてしいて治安を確保しようとするならば秕政のそしりを免れないであろうということを、まず政府自身はよく考えていただきたいと思うのであります。(拍手)国民に恐怖と敬遠とを与えて参りまするならば、警察行政は遂に民衆から孤立するのやむなきに至るであろうと考えざるを得ないのであります。警察行政が民衆から孤立するところに、どうして治安の大任が果せるか。これまた総理大臣から懇切なる御説明を承つておきたいと思うのであります。
次に法務大臣にお聞きをしておきたいと思うのでございまするが、この警察法の改正にあたりまして、その提案理由の説明の中では十分伺うことができ得なかつたのでございまするが、われわれが仄聞するところによりますると、今回の警察法の改正の最も大きな要素は、警察の能率化であるということが考えられておるということであります。もしこれが事実といたしまするならば、一体いかなることがこの警察の能率化に必要であるかということ、言いかえて申しまするならば、警察権の強力化を必要とするような治安の乱れが事実上いずこにあるかということ、あるといたしまするならば、その事実をひとつ示していただきたい。私はかく考えますると同時に、この警察法の改正は、おそらく労働争議でありまするとか、あるいはデモ行進であるとか、かつての破壊活動防止法、あるいは電産、炭労のストライキの規制法、やがて実施されようとする教員の政治活動禁止法等の法案に対しまして、これらの取締りを必要以上に強行せんとする下心のもとにこの警察法の改正が行われるという、(拍手)いわゆる吉田反動内閣の露骨なる現われではないかと考えておるのでございまするが、この点に対して、いかなる事件によつて、いかなる角度から警察権の集中とその強化をはからなければならないかという、その事実を示していただきたいと考えておるのであります。(拍手)
さらに第四点としてお伺いをしておきたいと思いますることは、民主主義の社会で国民が最も強く要求しておるものは何であるかということであります。それはおそらく、人間の尊厳と、基本的人権と、自由でなければならないと思うのであります。そこには必然的に社会秩序が要求され、その社会秩序をいかに維持するかということについての一つの方法としての警察制度という社会制度であつて、この制度は、あくまで個人と社会の責任と自覚において、自治的組織であるべきであるということが当然でなければならないと私は確信をして申し上げるのであります。(拍手)従いまして、今日施行されておりまする民主的自治警察がその本質であり、建前でなければならないが、今度提案されておりまする改正案は、府県警察と申し上げましても、それは単なる名ばかりであつて、実体は完全なる中央集権的国家警察であり、反動立法と断ぜざるを得ないと思いますが、(拍手)この警察法自体に対して、これが府県自治体を単位とした自治警察であるということが法務大臣にはつきり言えるかどうか、明確なる御答弁をお願いしたいと思うのでございます。(拍手)
次に第五点としてお伺いをいたしておきたいと思いますることは、過去のわが国の警察制度があまりにも権力的であり、そうして警察国家といわれ、またあるときは政争に巻き込まれるの誤りを犯して来たということは、天下周知の事実であります。従いまして、国民により恐れられ、ことに国民が基本的人権と自由を迫害されたということは否定のできない事実であると私は思うのであります。従いまして、現行民主警察法施行以来、地方自治体及び住民は、多くの犠牲と非常なる努力によつて育成されつつある住民のための住民の警察たらしめんとして、警察当局もまたともに協力していることは、いなめない事実であります。機構の簡素化、あるいは費用の節約、あるいは能率化をはかる必要がもしあるといたしまするならば、あくまでも民主的の現行自治警察の建前のもとに改正さるべきであつて、国民の多くは警察権力の中央集権化による警察国家の再来と政党化に対しましては断じてこれを容認しないであろうと私は信じて疑わないが、(拍手)法務大臣はこれに対していかなる見解をお持ちになるか、御答弁を願いたいと思うのであります。
次に、法案の内容に少し触れておきたいと思いますが、この法律案の内容を見て参りまするならば、警察は本質的にも実際的にも政治からの中立性が確保されなければならないと同時に、政治警察や思想警察の具に利用されてはならないものであるということは、改正警察法にも書いてある。その条文には何と書いてあるか。すなわち「不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。」と、これを明記しておるのであります。ここまでは一応民主警察のような形を示しておりますが、しかしその次の内容になつて参りますと、一体何が書いてあるか。これは先ほどからもしばしば論議になつておりますように、いわゆる国家公安委員会の長を国務大臣といたしまして、そうして国家公安委員五名のほかに置いて、公安委員会の代表は委員長たる大臣がその職務を行うと書いてあるのであります。そうして、なお警察庁長官は、この公安委員会の意見を聞いて総理大臣が任免することになつておるということは、政党政治の今日、これほどはつきりした政党警察は私はないと考えるが、(拍手)一体これも政党警察でないという御確信があるかどうか、承つておきたいと思うのであります。
次には自治庁長官にお伺いをしておきたいと思うのでございますが、先ほど同僚西村君からも聞かれたのでございますが、今回の警察法の改正は、明らかにわが国民主主義の根底からの破壊であり、憲法の精神に反し、自治の本義を蹂躪するものであるとわれわれは考えるが、自治庁の長官はこれに対しいかにお考えになるか、その所見を伺つておきたいと思うのでございます。
さらに、先ほどの自治庁長官の答弁の中に、この警察法の改正については、地方自治体の性格等に対してもあるいは改正が加えられるやに私は承つたのでございますが、このことはきわめて重大である。従つて、自治庁長官は十分確信のある、間違いのない答弁をしていただきたい。私の聞きたいと思いますことは、警察権というものが中央に集権されて参りますならば、今日の自治体の中で、府県の知事の立場というものは必然的に官選にならなければ、その行政は完全に行われないだろうということは、想像にかたくないのであります。(拍手)従いまして、ただいまの自治庁長官の答弁は、明らかに次に来るものは地方長官と申し上げますか、都道府県知事の官選を断行するものであるということに考えてよろしいかどうかということについて明確なる御答弁を要求いたしまして、私の質問を終りたいと思うのであります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/29
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030・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) 先ほどの西村君に対する答弁を繰返すようなことになりまするが、今般の警察法案によつて警察権がすべて内閣総理大臣の手中に握られてしまうというおそれはまつたくないと考えております。内閣総理大臣は、憲法のもとにおいて、行政権は内閣に属するというその行政府の長である立場にあるわけでありまするが、警察行政につきましては、その中立性を堅持する建前から、総理大臣の所轄のもとに会議機関としての国家公安委員会を置き、国の公安に関する事務について警察庁を管理させているのでありまして、みずから警察権を掌握するものではございません。
それから、先ほど、この警察法が改正された後においては、総理大臣がまるで独裁君主以上のものではないかという意味の御質問でありましたが、今日の議会民主政治におきましては、憲法によりまして国家に弾劾権があります。また弾劾権が行使されなくても、四年ごとに総選挙が行われます。従いまして、独裁制における制度とは根本的に違つております。今日の制度のもとにおきましては、国会の多数の基盤の上に政府としての意思が確立し、その威令が行われなければ政治は成り立たないのであります。その意味におきまして、それらの権利と権力を政府に持つことは当然のことであると考えております。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/30
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031・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申し上げます。
まず第一に、今度の改正のほんとうの真意は能率化というところだけじやないか、こういうことでございますが、能率化だけを目的としてはおりません。そこで事情を申し上げまするならば、今警察制度を改正するにあたつて二つの大切な事情を考えなければならぬと思います。一つは、地下に流れております暴力主義的破壊活動に対処することでございます。これはたびたび申し上げますから、くどく説明は申し上げませんが、ただ市町村の自治体だけでは、自分の地域の平穏安全を守るといち念慮だけが、つい人間でありますから主になりますので、国全体からながめて、どことどことに、あるいは同時多発的な騒擾事件が起るかもしれないという国家的見解を持つということは、近代国家にとつて必要欠くべからざる問題だと私は思うのでございます。もう一つは、犯罪の地域がだんだん複雑になり、広くなつて来たということでございます。たとえば大都会で起つた犯罪、これを犯した犯罪者は農村に逃げ込む、農村で起つた犯罪は都市に逃げ込むというようなわけで、都市と農村とに分割された警察単位では、こういう複雑化した近代犯罪はなかなか能率的につかまらないのでございます。国民は、国民に親しみやすい警察をもとより望みますけれども、犯罪がつかまりにくい警察を決して望んでいないのでございます。この二つの課題、すなわち国民に親しみやすい警察と、犯罪がすぐつかまつて国民が枕を高うして眠られる警察という二つの課題を同時に解決するのが警察法の一番大事な課題であると思うのでございます。
それから、治安の維持、秩序の維持は警察法の改正だけではできないではないか、これは先ほど高橋議員にお答え申した通りでございまして、もちろん取締り法規だけで社会秩序と社会の平穏を保てるとは思つておりません。たとえば、均衡予算、デフレ予算を国家の大局から必要上組む場合は社会保障制度の予算をふやすとか、あるいは風水害で米の収穫高が減るという予想の場合には大口のやみ米需要者に対して取締りを強化するとか、諸般の政策をバランスをとつてやる考えでおります。
それから、国務大臣が国家公安委員長になるということは重大なことだ、たいへんな警察国家になるというお話でございますが、その点は、なぜ国家公安委員長に国務大臣をあてたかと申しますと、ただいま副総理がお話になりましたように、責任の明確化——昨年来いろいろな事件が起りましても、とかく責任が不明確で困るというのが偽らざる国民の声だと思うのであります。この解決をいたすことが一つ。但し、国務大臣が何から何まで国家公安委員会を自分の思う通りに切りまわすというのでは、これまた弊害が起りますので、さればこそ、提案理由に申し上げましたように、この国家公安委員長は、ふだんは投票権はございません。賛否同数の場合だけ採決権を持つというのは、ふだんは国民から選ばれた委員会の輿論をもつて意見の中心とするという考え方でございます。従つて、先ほどの御質問のような御心配はないものと考えております。
以上お答え申し上げます。
〔国務大臣塚田十一郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/31
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032・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) 現在の警察制度が、やつてみた結果いろいろな欠陥があるというので、それを是正しようというのが今度の改正でありますので、多少この形式的な民主制の点では、今度の制度がかわつて来ている点は私もあると思うのであります。しかし、ある国の行政機構が、民主政治の理念を基調としながらも、どんな形でやるのがいいかということは、これは、その国のその他の行政機構がどうなつているか、また財政事情はどうか、治安の状態はどうか、そういうようないろいろな事情を総合判断してきめなければならないと思うのでありまして、私は、今度の警察制度の改正が、民主主義を根底からくつがえすとか、憲法の精神に違反するとか、そういうようには考えておりません。
それから、府県知事を官選にした方がいいのではないかという考え方を持つておりますことは、先般私が予算委員会その他で申し上げた通りであります。しかし、そういう考え方の基本はこの警察制度と関連をしているのではないのでございまして、私は、行政機構全般、中央地方を通じての財政全般、それから自治団体というものの本質、そういうものから判断をして官選の形がいいのではないか、こう考えた。従つて、官選にいたしました場合に、今度の警察機構の改正とどういうぐあいに調和をとるのが適当であるかということを、私どもはそれを総合的に判断してきめたいと考えております。そのように先ほどお答えを申し上げたのであります。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/32
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033・原彪
○副議長(原彪君) 只野直三郎君。
〔只野直三郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/33
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034・只野直三郎
○只野直三郎君 私は小会派の只野直三郎でございます。総理大臣、法務大臣、それから塚田長官等に若干の御質問をいたしたいと思います。実は、今度の警察法の改正案を見まして、私はここに大きな疑問を感じたのであります。というのは、民主主義の政治の原則は徹底した地方分権をしくことにある。ところが、この法案を見ると、やはり中央集権になるけはいがある。そこで、これをどういうふうに処理するのが正しいのかと私は考えました結果、ここに二つ、三つ御質問をいたします。
まず第一に考えねばならぬことは、現状のままで真の民主政治が生れ得るかどうか。たとえば、これは余談になるようですが、私が大阪市に行つて、ある場所で講演会をしたとき、大阪の市長と大阪の府知事が非常な争いをしておるという事実を大阪市民が私に訴えた。そのとき、私は、それはあたりまえだ、大阪市の実際の実力を持つているのは市長なんだ、大阪市の実力を十分の九持つておる。そうして大阪府知事は十分の一しか持つていないのだ、そのような現状において、大阪府知事が権限の拡張を要求するのはあたりまえだ、いわば大阪市長は、まんじゆうのあんこを一ぱい持つているが、大阪府知事はまんじゆうの皮だけじやないか、それで地方行政がうまく行くと思うか、こういうことを話したときに、私はこういう結論を与えた。それは現状では解決しない、せめて兵庫県と大阪府と和歌山県と一本にしてごらんなさい、これを西近畿州と名づけて、州の知事を置いて、州知事がその州全体の行政をあずかつたならば、大阪府知事が州知事とかわつて、大阪市のことを大阪市長にまかせたからというて、だれが文句を言うか、それでもう円満に日本の地方行政が解決するんじやないか、こういうことを私は話した。
ところが、今度の警察法改正案を見るというと、地方自治警をこしらえてみたが、自治警がうまく行かぬから、もどつて来て、これを県に一本化して、中央で統一しよう。中央の統一を私は悪いとは言わない。これは国家として当然である。ところが、地方の自治警を廃止して府県に一本にしてしまうというと、これは結局官僚機構にかわる。それは大阪府に行つてみればすぐわかる。大阪府の知事が警察権の全部を握つて中央と結んだならば、これは地方自治体の団体長としての資格があるかどうか。こうなつた場合に、大阪府知事がまじめな大阪地方行政機関としての任務の遂行ができるか。こうなると、これは当然に中央政府に結びついて、地方自治体が軽視される傾向キ持つて来る。そこを私が考えた場合に、今度の法案というものの提出の時期が悪かつたのじやないか、もう一歩進んで地方自治体の全体の検討をした上で、それに適切な案を出すべきであつて、これはやや早計であつたと思うのでありますが、その点について政府はほんとうに適切な時期にこれをお出しになつたという確信をお持ちになつているかどうか、それをまずお尋ねしたいのであります。
私は、州制度をまずつくつた上でこのような警察法が出て来るならば、州知事が全権を握つておいて、自治警というものを育成する方式をとつたならば、決してこれが中央集権的な反民主的警察国家には絶対ならぬと思うのであります。それを考えずに、うつかりやるというと、いつどんなことが起つて来るかわかりません。ことに、これが選挙という問題に結びついて、政党政治が苛烈な競争をするようになれば、いわば政党間の競争がはげしくなつて、どうしてもがまんができないとなつて、背に腹はかえられないから卑劣な行動が行われたならば、一体どうなるか。これは自繩自縛になる。政治家自身も自繩自縛になり、国民も自繩自縛になる。私は、そういう意味から、今度の警察法に対しては、もつと真剣なものを、つまり抜本塞源的な態度でこれを考究すべきであるということを主張するのでありますが、これに対し政府はどういうお考えであるか、それをお尋ねしたいのであります。
ことに、先ほど塚田長官が申されましたが、府県知事の官選を考えるというに至つては、実は私もこれに対しては驚かざるを得ない。(拍手)これはなぜ驚かざるを得ないかといえば、地方分権の政治はあくまで地方自治なのだ。国民の力で政治を行うというのが原則なのだ。そういう場合に、現在の公選制度がいけないからといつて、ひつ込んで来て知事官選などにするというような考えを持つということ、そのこと自体が間違いなのだ。もしそういうことが今度の警察法の改正と結んだらどうなさいます。これを弁明する余地がない。どうしても弁明ができない。官選制度と警察法の改正とがどうしても結びつきます。これが結びついたならば、これはどんなに言葉を美しく言つても、やはり警察国家になる危険が多分にあると私は思う。(拍手)その点については、われわれは政党政派を越えて、まじめに検討すべきであると思うために、このようなことを申し上げたのであります。(拍手)
それから次に申したいことは、この警察法の改正で、地方自治警というものの存在に対して、これを警察法によつて一気に改廃しようという考え方は、これは政治としては情のないやり方である。終戦後、地方自治警が生れて、それによつて日本の警察が民衆と直結して、警察はわれわれの警察だという考え方にだんだんなつて来た。それを、一つの行き詰まりからして、ただちにこれを改廃して、県単位にするという方式をとつたならば、今までせつかく自治警をつくり上げることに努力した民衆の真心は一体どうなるか。ことに、それらのものの存在を認めながら、全体との調節をはかることのくふうをしてやつてみたが、それでもいかぬという場合であれば、これはまた考慮の余地もあるけれども、やつてみもせず、あるいは悪くなるだろうということだけの考え方で、これを一気に改廃するというやり方は、やはり政治としては親切ではないと思う。そういう意味から考えましても、私は、今度の警察法改正に関しては、時期的に、またその方法において、やはり考慮の余地があるのではなかろうか、それに対する政府の御見解をお尋ねしたいと思うのであります。(拍手)
国家の非常に重大なる性格を持つものであるので、これだけが私の問いたい点でございますが、ただ一つ最後にお話をしますことは、今、汚職事件あるいは疑獄事件、こういうものが、国会の内と外で国民の疑惑のもとに盛んに論議されておりますが、このことは少しも憂うるに足りないと私は思います。それは、そういうことが現われておるということが安全な証拠です。これが現われないで伏せられたならばどうなりましようか。あるいは相当の地位のある人でも選挙に失敗すればすぐひつかかる。選挙違反に問われる。どんな場所でも選挙違反が堂々とあがつて来る。これはりつぱな民主警察であると思います。民主国家の証拠だと思います。これがもし一つの権力によつて完全にふさがれて、疑獄も現われないようなことであつたならば、これこそ外の力で国会が破壊される危険があります。(拍手)私は、そういう意味において、今日の日本の警察はどこまで中立維持の線に立たせるように、警察が右顧左眄せず、安心して自分の信ずるところに向つて司直の手を延ばし得るような法律にしておかなければいかぬことだと思います。そういうことに対する政府の決意をお尋ねいたしまして、私の質問を終りといたします。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/34
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035・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。ただいまの只野君の御質問に対しましては、法務大臣が提案の理由を申し上げたところに尽きておると思いまするが、政府の地方自治に対する考えは、政府といたしましても決して地方自治を軽視しておるわけではございません。ただ警察を市町村に持たせるか府県に持たせるかの差異でありまして、過去六年の経験にかんがみまして、警察事務の公益的な性格から、府県を単位とすることが、警察の運営上、能率上適当と考えた結果であります。府県自治を尊重する観点から府県国家警察をも廃止いたしたのでありまして、府県警察は、府県の住民を代表する府県公安委員会に全面的に管理せしめることになつております。なお一面、警察任務遂行の国の最小限の要請を満たすために、中央の警察庁に国の公安に関する権限列挙の事項についての指揮監督を認め、きわめて少数の警視正以上の職員を国家公務員とする措置を講じたのでありまして、決して必要以上の中央集権化というようなことを行おうとしておるものではないのでありまして、地方自治を本旨といたし、あわせて国家的要請に基く調和をはかつたつもりでございます。(拍手)
〔国務大臣犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/35
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036・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申し上げます。
府県単位の警察にすると知事の警察になる危険があるのではないか、これは確かに一つの御意識でありまして、私どもも法律案準備のときに議論の的になつております。それに対しまして、たびたび申し上げまするように、公安委員会が警察を監視し、気に入らない警察隊長は罷免懲戒の勧告権を発動して新聞記事のさらしものになるというようなふうで、警察隊長の方では、俗に申します郷に入れば郷に従えというわけで、その府県の人情風俗の機微に順応しませんとよく職が勤まらない。ここに私は十分良識の制約があると思つておるのでありまして、決して中央集権に行き過ぎた警察国家にはならない。ただいまお話のありましたように、日本の国はやはり輿論が健全でありまして、ちよつと疑わしい事件が起つても、輿論の糾弾が非常に敏感なところでございますから、私は日本の国民のその輿論の敏感性というものを相当重く見ているものでございます。
それから中央集権のことでございますが、中央警察庁が治安に関係して地方に指令をいたしますのは、第五条の二項の三号のイ、ロというところによりまして、「民心に不安を生ずべき大規模な災害に係る事案」、これはめつたにございません。それから「地方の静穏を害するおそれのある騒乱に係る事案」、これも日常あるものではないのでありまして、日常地方にいろいろ連絡指令をいたしますのは、いろいろな制度の調査や企画、これは当然だと思います。それから国の予算に関係すること、これも当然だと思います。あとは教養の施設とか教養の方針を一定に指令する、通信、鑑識、犯罪統計などを一定の水準として指令するというわけでありまして、治安に関して中央が地方に指令するのは、ごく法律に限定した範囲にしているのでございまして、あとのいわゆる普通の犯罪とか交通事故というものは一切府県にまかせるのでありまして、ことに交通取締りなどは、その府県の実情によつてまちまちでもいいのでありまして、統一規格する気はないのであります。
またもう一つは、公安委員会の効用のほかに、もう一つ言い落しておりますが、私は国警が民主化する好個の機会だと思います。と言いますのは、府県の予算の審議にあたりまして、府県議会が、今度こそ、公然と公衆の前で、警察の方針について、予算に関して堂々の批判をするのであります。これはなかなかめつたなことをしてはゆだんのならないことでありまして、この制約のもとに、国警は警察国家というような観念は、府県会の批判の白日の前にちようど調整されて行く、この効用を私は相当大きく見ておる次第であります。
以上お答え申し上げます。(拍手)
〔国務大臣塚田十一郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/36
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037・塚田十一郎
○国務大臣(塚田十一郎君) お答え申し上げます。民主政治には地方分権が必要であるということ、それから州制度その他につきましての御意見は非常に傾聴いたしました。私も多々同感な点があるのでありますが、ただ私が府県の知事の官選というものを考えますのは、この狭い貧しい国に、一万有余の市町村、四十有余の府県が、みな普通の公共団体としておらなければならないかどうかという点に非常な疑問がある。そういう点は検討されてしかるべきではないかというような考え方から発しておるのでありまして、これによつて地方自治の方向というものを中央集権にもどそうというような考え方は毛頭ないのであります。しかし、問題がきわめて重大でありますので、政府といたしましても、地方制度調査会に本格的な御検討をお願いしておるという状態でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/37
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038・原彪
○副議長(原彪君) 中村梅吉君。
〔中村梅吉君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/38
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039・中村梅吉
○中村梅吉君 すでに質疑の要点は大体尽された感がありますので、私は、日本自由党を代表いたしまして、きわめて簡潔に二、三の点について質疑を行いたいと思うのであります。
今度の警察制度の改革にあたりまして、世間ではいわゆる角をたわめて牛を殺すがごとき愚をあえてするなという警告を発しておるのであります。確かに従来の二本建の警察制度にいろいろな欠陥があつた。一長一短のあつたことは事実でございましようが、その改革にあたりましては、もつぱら短所の是正というところに専念をされなければならないと思うのであります。ところが、すでに議論をされましたように、今度の改革を見ますると、警察制度の中央集権化その他の諸点について、まことに重大なる疑義を包蔵いたしておるのでございます。現政府は教育の政治的中立ということを云々されまして深い関心を持つておられるようでございますが、警察制度も、おそらくそれ以上に最も国民生活に直結いたしました政治の中立性については完全に確保しなければならない重要な問題であると思うのであります。(拍手)
今までの答弁を拝聴いたしましても、これによつて警察権あるいは政治の独裁化は決して起らない、こういうように陳弁をされておるのでございますが、しかし、法案全体をながめてみますると、公安委員というものはまつたく骨抜きであつて、飾りものにすぎない感がございます。(拍手)なるほど、警察庁長官の任免、警視総監の任免あるいは地方本部長の任免について公安委員会の意見を聞くことはありますが、法制上これは拘束を何ら受けないのでございます。従つて、公安委員会というものはあつても、なるほど意見は述べても、その意見の実現を完全に期するという保証はどこにも立てられていないのでございます。(拍手)ことに、政府は、いろいろな角度から、中央の指揮監督あるいは中央の警察庁長官、警察庁が取行いますところの事務は、連絡調整あるいは施設、そういうような限定された範囲である、あるいはまた警察庁長官が指揮監督をする範囲はきわめて局限されておる、異常災害のような場合であるとか、擾乱が起つたような場合であるとか、きわめて限局されておるのである、従つて心配はない、こう言われるのでございますが、しかしながら、何と言いましても、人事権というものは目に見えない、物を言わないところの威力を持つものであるということは議論の余地はございません。この人事権を完全に内閣総理大臣が持ち、あるいは警察本部長以外の警視正以上に対しては中央の警察庁長官がその人事権を握るということになりまするならば、これは、たとい形はどう弁解されようとも、本質は総理大臣なり警察庁長官の威令が地方にまで行われる結果になるということは争えない事実であると私どもは思うのでございます。(拍手)この点を考えまするときに、今までなされた政府の弁明のみをもつてわれわれ安心をすることはとうていできないと思うのでございます。
さらに、もう一つ私が大きな矛盾をこの法案について感じておりますのは、都道府県警察は都道府県の公安委員会が管理運営をするのである、こうなつております。従つて云々と、こう言われるのでございますが、しからば何ゆえに府県本部長を任免するにあたつて府県公安委員会の意見も聞かないというめちやな制度にしたのであるか、この点を私はただしたいのでございます。(拍手)府県公安委員会は府県警察を管理運営する、その管理運営の対象である府県警察本部長を任免するにあたつて、中央の公安委員会の意見は聞くが、府県の公安委員会の意見は聞かないという、こんな矛盾撞着はあり得ないと思うのであります。(拍手)これは一局部にすぎませんけれども、明らかに警察制度を中央集権化せんとする意図を暴露しておるものであると言われても私はやむを得ぬだろうと思う。私はこの矛盾を明らかに承りたい。
さらにまた、ただいま緒方副総理の御説明を伺いますと、府県知事を尊重し、府県単位の警察を確立するのだ、こう言われるのでございますが、もしそうであるとするならば、なぜ公選知事である府県知事がその責任を負うような制度を確立しないのか。府県知事は何らの発言権がないではないか。しかも、府県の公安委員会も警察本部長の任免その他について権限がないではないか。わずかに、失態があつたとか、はなはだしい不合理があつた場合に罷免の勧告権があるというにすぎないのであります。同時に、ただしたいことは、罷免勧告権というものはどこまで尊重されるものであるか。この法案には何らその限度が見出されておりません。任免権が与えられていない公安委員会がわずかに罷免の勧告権だけを与えられておるとするならば、この罷免勧告権というものは最も尊重せられてしかるべきであるはずであります。同時に、この罷免勧告をする場合には、この本部長なりあるいは警視正なり、これこれの者はかようしかじかの不都合をあえていたしたという具体的事例をあげなければ罷免の勧告ができないのか。あるいは、世論がどうも許さない、世間の評判が悪い、あの人間ははなはだしく官僚的であつて、政治警察を行うとか、あるいは捜査にあたつて民心を圧迫するとか、どうもよくないから罷免をしてもらいたいという抽象的罷免の勧告であつても、これは十分尊重せられるのであるかどうか。この点がわずかに残された罷免勧告権の運営上きわめて重要な点であると思いますので、私はこれを明らかに承つておきたいと思うのでございます。(拍手)
最後に伺いたいことは、先ほど門司議員、只野議員の両氏から知事制度との関連について御質疑がございました。将来知事制度をどうするかということは、警察法案を審議し取扱う上において最も重要なポイントでございます。旅行先とは言いながら、少くとも吉田総理大臣が、すでに知事制度について、官選は賛成であるとか、その方向に持つて行きたいとか談話をなされておる以上は、吉田総理大臣は不在でございますが、この席上において、たといそれが間違いであろうがなかろうが、天下の大新聞に伝えられておるのでございますから、この点に対して、政府の責任ある緒方副総理から、将来の知事制度というものについて現内閣はどういう見通しを持つておるか、どういう考え方をしておるかということを明らかに承つておかなければならないと思うのでございます。多分、先刻門司、只野両議員の御質問に関して、この点について政府の態度が表明せられるものと私は期待しておりましたところが、何ら言及されておらないようであります。私は重ねてこの点について緒方副総理から明確なるお答えを承つておきたいと存じます。(拍手)
以上をもつて私の質問を終ります。
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/39
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040・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) お答えをいたします。
制度を改正し、また新たなる制度を運営する場合に、いわゆる角をためて牛を殺すというようなことのないようにという御注意は、まことに適切な御注意であると伺つたのであります。
御意見の重点は、政府が人事権を握ることによつて実質的に警察を通して中央集権を強化するものではないかという御意見でありますが、これは、国警、自警の二本建になつております現在の警察制度の六年間の経験にかんがみまして、人事権はかくのごとくするほかはない、今日治安の状況にかんがみ、また六年の経験の結果といたしまして、人事権は今回の改正案にある制度をとるほかないという結論に達したのでありまするが、地方の知事によつて選ばれました公安委員が罷免監督の権限を持つておる。この権限に対してはもちろん十分尊重するつもりでありまして、これに対して何らの保証がないではないかという仰せでありまするけれども、今日輿論の監視の非常に厳正である際、また府県議会あるいは国会等の監視のきわめて厳正なる際におきまして、これに対しまして政府がその監視を無視してやることは政治として行えない。すべて、この警察法の改正を初め、こういうふうな制度は、議院民主制度、今日の民主主義ということを対象にしてお考えをお願いいたしたい。先ほど来、政府が何か保安隊と警察を両手に持つて、いかにも独裁国以上の中央集権を意図しているかのごとき御意見もありましたけれども、私は、もし日本の議院民主制度が適正に運営されまするならば、そういうことは絶対にあり得ない、われわれはお互いにみずから日本の民主主義を尊重すべきである、かように考えております。
〔国務大臣犬養健君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/40
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041・犬養健
○国務大臣(犬養健君) お答えを申し上げます。
公安委員会が飾りものではないか、そういうおそれはないか、こういう問題でございまして、もし今度の警察法の改正において、名前だけ公安委員会というものを持ち上げておきまして、有名無実にして飾りものにするというならば、まつたく改正法案の精神が抜けてしまうと思います。国家公安委員会の意見を聞くだけで人事をやるのでは、法制上の保障がないじやないかという御意見でございますが、一応御心配はごもつともでございます。しかしながら、他方から考えますと、御承知のように国家公安委員というものは国務大臣と同等の待遇を受けておりまして、今度は特に人材の範囲を広げましたから、各界の有力者が、しかも国民を代表して国会の承認によつて選ばれるのでありまして、この意見を、横車を押して、もしも内閣が無視するようなことがありましたならば、先ほどからたびたび申し上げますように輿論の指弾を受けるのであります。警察というものは、御承知のように、犯罪捜査におきましても、治安の維持におきましても、国民が背中を向けたら大半の効力を失うのでありまして、この輿論との結びつきというものを私はもつとも大きく見ております。先ほど申し上げましたように、日本国民の輿論の敏感性というものは相当のものでありまして、私は、これに反抗する政府というものはとうてい国民の人望を得ない、そこに私は味があると思つておるのであります。
それから、府県の警察の本部長を任命するのに、都道府県の公安委員会の意見を聞かないで国家公安委員会の意見だけを聞くのはどういうわけか、これは非常に矛盾ではないかという御質問でございます。そこで、国家公安委員というものは、ただすわつていてはいけないのでありまして、国家の中央の公安委員たる職責上、絶えず各都道府県の公安委員と連絡協議をしまして、地方の実情に明るくならなければいけません。またならなければ職務が遂行できません。そこで、なぜ都道府県の公安委員だけの意見を聞くようにしないかと一言いますならば、これは率直なお話でありますが、都道府県の公安委員は、郷土愛の余り、郷土だけのことを考えられる場合もあるのでありまして、(発言する者多し)これは先ほど只野議員が御指摘になつた通りの弊害が生じ得るのでございます。もちろん、国家公安委員を通じて都道府県の公安委員の意見を十分聞きますけれども、公安委員の意向だけで十が十きめるというのでは、かえつて弊害が生ずると思うのでございます。一昨日の東京の有力な新聞が、今度の警察法改正に際して、予算にからんで各府県の議会の公然の批判を浴びることはたいへんいいけれども、一方府県の有力者が署の設置や人事のことで口をいれる点に反面弊害のきぎしがあると言つておられるのでありますが、この指摘された部分のことが、実は都道府県の公安委員会だけの意見で隊長をきめることをやめた原因の一つでございます。要は、国家本位に適材適所を各府県にそれぞれ任命すると同時に、各府県の特色も、国家公安委員を通じて府県公安委員の意向をくみながらきめるという中庸性が最も大切だと思つておる次第でございます。
大体以上でお答えといたします。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/41
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042・原彪
○副議長(原彪君) これにて質疑は終了いたしました。
次回の議事日程は公報をもつて通知いたします。
本日はこれにて散会いたします。
午後四時十六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01019540216/42
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