1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十九年三月十二日(金曜日)
議事日程 第十七号
午後一時開議
一 防衛庁設置法案(内閣提出)及び自衛隊法案(内閣提出)の趣旨説明
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第一 水産業協同組合法の一部を改正する法律案(参議院提出)
第二 清掃法案(内閣提出)
第三 学校教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第四 公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案(内閣提出)
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●本日の会議に付した事件
日程第一 水産業協同組合法の一部を改正する法律案(参議院提出)
日程第二 清掃法案(内閣提出)
日程第三 学校教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第四 公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案(内閣提出)
農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案(内閣提出)
開拓融資保証法の一部を改正する法律案(内閣提出)
肥料取締法の一部を改正する法律案(綱島正興君外二十四名提出)
木村国務大臣の防衛庁設置法案(内閣提出)及び自衛隊法案(内閣提出)の趣旨説明及びこれに対する質疑
午後四時五分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/0
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001・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これより会議を開きます。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/1
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002・荒舩清十郎
○荒舩清十郎君 日程第一ないし第四を繰上げ逐次上程されんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/2
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003・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 荒船君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/3
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004・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程の順序は変更せられました。
日程第一、水産業協同組合法の一部を改正する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。水産委員長田口長治郎君。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/4
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005・田口長治郎
○田口長治郎君 ただいま議題となりました水産業協同組合法の一部を改正する法律案につきまして、水産委員会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。
まず本案の要旨を御説明いたします。水産業協同組合の経営の安定及び改善をはかるため、去る昭和二十五年水産業協同組合法を改正いたしまして、災害によつて受けることのある損害を相互いに救済することを目的として水産業協同組合共済会制度を設立し、爾来加入会員の数も漸次ふえまして、この事業は発展の一途をたどつておるのでございますが、共済事業の特殊性からいたしまして、現在行つておる剰余金の一部積立て制度のほかに、異常災害の発生等に備える目的をもちまして、いわゆる責任準備金の制度を設け、事業年度末において当然に必要な経費として計上することにいたし、さらに事業の健全なる発達をはかることが必要であると存ずる次第でございます。
そこで、水産業協同組合法を改正いたしまして、同法第百条の八といたしまして、共済会は毎事業年度の終りにおいて責任準備金を積み立てなければならないとの規定を設け、これに伴うて罰則その他関係条文の整備を行うことといたしたのであります。なお、責任準備金の算定基準等につきましては、技術的事項にわたりますために、省令に譲ることにいたしました。
以上が本案の要旨でありますが、水産委員会におきましては、昨日提案者から詳細なる説明を聴取いたしました。格別質疑もないので、討論を省略して採決いたしましたところ、全会一致をもつて参議院提出案通り可決すべきものと決定いたした次第でございます。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/5
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006・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 採決いたします。本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/6
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007・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/7
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008・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 日程第二、清掃法案を議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長小島徹三君。
〔小島徹三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/8
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009・小島徹三
○小島徹三君 ただいま議題となりました清掃法案につきまして、厚生委員会における審査の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
清掃事業の能率的な運営によつて生活環境を清潔に保つことは文化国家の不可欠の要件でありますが、現在清掃事業の根拠法規たる汚物掃除法は明治三十三年に制定され、現在まで五十数年間施行されて参つたものであります。この間、人口の増加、産業の著しい発達等のため、ごみ、屎尿等は激増し、ことに都市においては科学的高度の処理方法によらなければ汚物の処分ができなくなつたので、今日においては現行法はもはや十分なる機能を果すことはできなくなつたのであります。かかる事情にかんがみ、清掃事業の効率的な運営をはかるため新たに清掃法を制定しようとするのが、政府の本法案提出の理由であります。
本法案のおもなる内容を申し上げますれば、まず第一に、清掃事業における市町村、都道府県及び国の責務を明らかにするとともに、国民の積極的な協力についても規定を設けたことであります。
第二は、清掃の対象となる汚物を実態に即応して規定いたしたことであります。
第三は、特別清掃地域の制度を設けるとともに、観光地、キヤンプ場、スキー場、海水浴場等、季節的に多数人の集合する地域については、期間を限つて季節的清掃地域とする制度を設けたことであります。
第四は、特別清掃地域及び季節的清掃地域においては、みだりに汚物を投棄することを禁止し、糞尿は、一定の方法によらなければ肥料として使用してはならないこととしたことであります。
第五は、清掃施設に関し、屎尿浄化槽、屎尿消化槽の維持管理の基準を定めるとともに、これらによる糞尿の処理が不完全であると認めるときは、都道府県知事が必要な措置命令を出すことができることとしたことであります。
第六は、特別清掃地域内においては、市町村の作業の計画的運営に支障なからしめるために、汚物取扱業は市町村長の許可を要することとしたことであります。
第七は、全国的に生活環境の清潔保持をはかるため、公共の水域、一定の海域には、みだりに糞尿を捨てることを禁止し、大掃除の施行について規定したこと等であります。
本法案は一月二十八日本委員会に付託せられ、二月一日厚生大臣より提案理由の説明を聴取した後審議に入つたのでありますが、審査の都合上、二月三日清掃事業に関する小委員会を設置し、本法の審査は小委員会に付託したのであります。
小委員会は、数回にわたり、技術的及び財政的援助、糞尿の使用方法の制限による農家への影響、汚物取扱業に対する許可制、特殊汚物の処理、清掃施設に対する補助並びに融資等について、きわめて綿密なる審査を行つた結果、去る九日修正案の成案を得、修正案と修正部分を除く原案を全会一致で可決すべきものと議決したのであります。
修正案の要旨は
一、国の責務として汚物の処理方法等に関する科学技術の向上をはかるべきことを加えたこと。
二、特別清掃地域または季節約清掃地域にあつては、業務上その他の事由で多量の汚物を排出する場合は、当該経営者その他に対し、市町村長がその汚物を処分することを命じ得るようにしたこと。
三、前項の場合にその命令に従わなかつたときは三万円以下の罰金とし、右の罰則との均衡上、特殊な汚物の排出者に対しても、命令に従わなかつたときは同様の罰則を適用し得ることとしたこと。
四、特別清掃地域内の河川、運河等に他地域よりのごみの流入を防ぐため、河川、運河等には糞尿のほかごみも捨ててはならないこととしたこと。
五、特別清掃地域または季節的清掃地域においては、市町村長が農業経営に支障のないように必要な施設を設置するよう責務規定を設けたこと。
六、汚物の運搬または処分を業とする者も、収集を業とする者と同様に、許可を要することとしたこと。
七、清掃施設の近代的整備をはかり、かつ災害時等における清掃事業の徹底をはかるため“国庫補助の規定を設けたこととともに、清掃施設の設置に要する資金を融通あつせんすべき国の責務を明らかにしたこと。等であります。
なお、詳細につきましては会議録により御承知願います。
かくて、十一日の委員会で小委員長の報告を聴取した後、討論を省略して採決に入りましたところ、清掃事業に関する小委員会の議決通り、修正案と修正部分を除く他の原案はともに全会一致で可決すべきものと議決した次第であります。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/9
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010・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 採決いたします。本案の委員長の報告は修正であります。本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/10
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011・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて本案は委員長報告の通り決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/11
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012・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 日程第三、学校教育法の一部を改正する法律案、日程第四、公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案、右両案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。文部委員会理事竹尾弌君。
〔竹尾弌君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/12
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013・竹尾弌
○竹尾弌君 ただいま上程せられました学校教育法の一部を改正する法律案及び公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案の二法案につきまして、その内容の要点と審議の結果を御報告いたします。
まず、学校教育法の一部を改正する法律案につきまして申し上げます。
その第一の要点は、現在医学または歯学の課程を修めるには六年以上を要することになつておりますが、そのうち専門課程は四年だけでありまして、その入学資格は、医学または歯学以外の学部に二年以上在学し所定の単位を修めた者でなければならぬことになつております。ところが、その実施後の実情を見ますると、総合大学の方では、医学または歯学の学部に進学する希望を持ちながら他の学部に入学する者が相当多いために、その学部への進学者が少くなるという現象が出て参つたのでございます。一方、単科大学では、大学が希望するような入学者を確保し得ないというような事情が起つております。そこで、この障害を調整するために、昭和三十年度から、修業年限は現在同様六年以上といたしまして、これを四年の専門課程と二年以上の進学課程とにわけることといたし、また特別の必要があるときは専門の課程だけを置くことができるようにしようとするのであります。
次に、第二の要点は、盲学校及び聾学校の小学部の義務制は昭和二十三年度から始められ、毎年一学年ずつ進行し、二十八年度に完成しましたが、なお引続いて中学部も義務制を進行させようとするものであります。
次に、審議の結果を申し上げます。本案は付託以来慎重な審議をいたしましたが、十一日の委員会におきまして、討論を省略、採決の結果、起立総員をもつて原案の通り可決すべきものと決しました。
次に、公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案につきまして、その大要と審議の結果を御報告申し上げます。
御承知の通り、義務教育の年限延長に伴う公立学校施設の建設に要する経費の国庫負担は、公立学校施設費国庫負担法第五条第二項におきまして、その教育を行うのに必要な最低限度の児童及び生徒一人当りの坪数を基準として算定するもので、その一人当りの実施坪数は、同法附則第三項におきまして、当分の間中学校については生徒一人当り〇・七坪と規定されております。この〇・七坪というのは応急最低基準でありますから、近き将来において、いわゆる一・二六坪、すなわち第五条第二項の一人当りの坪数を目標に引上げなければならないものでありましたので、政府は、昭和二十九年度からこの〇・七坪を一・〇八坪に引上げることにいたし、予算も約十四億円を計上いたしたのであります。従つて、従来の法律の一部を改正する必要が生じましたので、政府はこの改正案を提出したのであります。
この改正案では、まず附則第三項、すなわち義務教育の年限延長に伴う公立学校の施設の建設に要する経費の実施上の暫定的算定基準の全部を削除して、従来の〇・七坪を一・〇八坪に引上げた内容をもつて、この実施上の暫定的算定基準を全部政令において定めることとして、そのために第五条第二項に所要の改正をいたしたものであります。具体的な算定基準を政令に譲つた理由は、この公立学校施設費国庫負担法に規定されている災害復旧や戦災復旧の場合の経費の算定基準となる実施上の算定基準はすべて政令に譲つておりますので、義務教育の年限延長の場合に伴う経費の算定基準についても、この際それらと歩調を合せたいということであります。
本法律案は、去る二月十一日文部委員会に付託となり、爾来慎重に審議が進められました。本法律案は特に国及び地方の財政に密接な関連を持つている重要な問題でありますので、委員全員が非常に熱心に検討を加えたのであります。三月十一日に至りまして質疑を終了し、各派共同提案による公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案に対する修正案が自由党原田憲君から提出せられました。
この修正案は、現在施行しておりますところの公立学校施設費国庫負担法中、本件に関する規定の仕組みについては、改正案の提案理由において申し述べましたように、第五条第二項においては、その教育を行うに必要な最低限度の児童及び生徒一人当りの坪数という基準目標を定め、これに対し暫定的な実施基準をすべて附則第三項において規定しているのでありますが、これは、第十六回国会において、この法律の政府原案を審議した結果、特に国会において修正してつくつたものでございます。しかるに、今回の改正案の内容は、一人当りの基準は従来の〇・七坪から一・〇八坪に引上げられたとはいいながら、従来国会で決議しております最低基準としての一・二六坪には満たないものであり、その性質からいえば依然として中間的暫定基準であり、従つて、この一人当り基準坪数に乗ずる生徒数のとり方なども、すべて従来のように当分の間の規定と見るべきものでありますので、そのように修正したのであります。従つて、第五条第二項は現行法のまま存置し、附則第三項は、同項の表中〇・七坪を一・〇八坪に改め、これに乗ずる生徒数のとり方などは現行法の場合のようにすべて政令に譲ることとし、またこのたびの改正によつて、本件の実施基準はこの法律に規定している災害復旧や戦災復旧の実施基準と同等まで引上げられたので、事務的にそれらと取扱いを同一にするため所要の改正をいたしたのであります。
さらに、本修正案の提案理由としてきわめて重要な事項であり、強く主張せられ、本委員会において総員賛成を得た点を申し上げます。
政府が、政令を定めるにあたり、生徒数のとり方は、とりあえず昭和三十一年度までは、生徒数は全国的に毎年度急激に増加するので、毎年その年度の生徒数を負担法の対象とすべきであり、またそれらの学校で国の予算等の都合で建築を後年度に延ばさなければならなくなつたものについては、建築する年度の生徒数の増減にかかわらず、昭和三十一年度の生徒数によつて本法を適用すべきであり、昭和三十二年度以降において著しい生徒の増加があつたために教育上支障を来すがごとき学校があれば、政令においてはこれを緩和する特例規定も設けるべきであるということであります。
かくて、修正案を含めた公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案について討論が行われ、各党よりそれぞれ
一、本法施行にあたつては特に予算の増額には一段の努力を払われたい。
二、戦災復旧、災害復旧もともに六・三制校舎と同様にすみやかに法律に明記すべきである。
三、一・〇八坪以上に基準を引上げる。
などの旨を附帯して強く要望せられ、採決の結果、修正案及び修正部分を除く原案は総員起立をもつて可決せられました。
次いで、改進党町村金五君から
一、義務教育年限の延長に伴う中学校の施設の建設に要する経費の算定の場合における一・〇八坪の基準坪数に乗ずる生徒数を政令において規定するに当つては、国会修正の趣旨に基き、将来の生徒数の増加に対処できるよう措置すること。
二、中学校の中間的暫定的基準である一・〇八坪を速かに最低基準(従来の国会決議の線としては補
正付一・二六坪)に引上げること。
三、学校教育の重要性と、今後全国的に生ずる児童生徒の急激異常増加に伴う学校施設の大量不足の難局突破の必要性に鑑み、公立学校施設の基準までの建築(復旧及び改築を含む。)はおそくとも数カ年後において現われる児童生徒の大量増加前にこれを完了するよう年次計画を明かにし、その建築が学校毎にそれぞれの実情に即し合理的に、計画的に遂行しうるよう所要の方策を講ずること。
四、積雪寒冷湿潤地帯における学校教育及び地方財政の特殊性に鑑み、屋内運動場の建設費については、中学校のほかに盲学校及びろう学校は勿論小学校についても速やかに国庫負担の対象とするよう予算措置を講ずるとともに、その他の地域における学校についても漸次屋内運動場を建設しうるよう予算措置を考慮すること。
五、学校建築は防火地域以外にも鉄筋造(鉄骨造を含む。)の建築ができるよう速やかに予算措置を講ずること。
の各派共同提案によります公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案に関する附帯決議案が提出せられ、採決の結果、総員起立をもつて可決せられました。
かくて、公立学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案に対する修正案及び修正部分を除く原案は附帯決議を付して議決せられました。
右御報告いたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/13
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014・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 両案を一括して採決いたします。両案中、日程第三の委員長の報告は可決でありまして、日程第四の委員長の報告は修正であります。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/14
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015・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて両案は委員長報告の通り決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/15
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016・荒舩清十郎
○荒舩清十郎君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわち、内閣提出、農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案、開拓融資保証法の一部を改正する法律案、及び綱島正興君外二十四名提出、肥料取締法の一部を改正する法律案の三案を一括議題となし、この際委員長の報告を求め、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/16
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017・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 荒船君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/17
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018・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案、開拓融資保証法の一部を改正する法律案、肥料取締法の一部を改正する法律案、右三案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。農林委員長井出一太郎君。
〔井出一太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/18
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019・井出一太郎
○井出一太郎君 ただいま議題となりました三案に関して、その審議経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
まず、内閣提出、農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案について申し上げます。
農林漁業金融公庫が、農業、林業及で漁業に対する長期低利の国策的投資機関といたしまして昨年四月より事業を開始いたしましたことは、各位の御承知の通りでございます。本年度における公庫の資金は、総計二百六十五億九千六百万円に達しております。うち、一般会計出資金は百五億九千三百万円であります。しこうして、明年度におきまする資金は、過般衆議院を通過いたしました予算案によれば、一般会計よりの繰入額及び資金運用部よりの借入額その他を合計いたしまして二百二十五億円でありまするが、このうち一般会計繰入額は九十五億円と相なつております。なお、この公庫が農林漁業資金融通特別会計より継承いたしました資産、負債の差額は、最近百五十五億一千四百万円と確定したわけであります。よつて、以上の三件を合計いたしました額が、明年度における政府よりの出資額の合計額と相なるわけであります。すなわち、政府は、今回同公庫法を改正いたしまして、政府よりの出資金を四百五十六億七百万円とするために、この法律案を提出されたのであります。
委員会といたしましては、三回にわたつて審議を重ねた結果、次の附帯決議を付して、本案はこれを可決すべきものと議決した次第であります。
附帯決議につきまして、参考のためこれを朗読いたします。
農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
一、農林漁業金融公庫に対する資金需要に備えて、資金運用部からの借入等により、相当額の資金源の増額を図ること。
二、農林漁業金融公庫の業務を、都道府県信用農業協同組合連合会に委託する場合、共同利用施設に関して信用農業協同組合連合会の行う資金貸付業務の対象を拡大すること。
三、農林漁業金融公庫、農林中央金庫の資金の貸付に関連して、農林漁業組合、同連合会の人事、業務等に対し不当に干渉するが如きことを排除し、運用の適正を期すること。
以上の通りでございます。
次に、開拓融資保証法の一部を改正する法律案について申し上げます。
全国十五万の開拓者に対する肥料、飼料等の購入に要する短期営農資金の融通につきましては、昨昭和二十八年開拓融資保証法を施行し、同法に基き国より保証基金一億円を中央開拓融資保証協会に出資し、営農資金の円滑な導入をはかり、これにより開拓者の営農資金の融通に多大の効果をあげて参りました。この融資保証制度に対しましては、開拓者並びに都道府県もまた多大の熱意と関心を示し、開拓営農資金の需要増大に伴い、開拓者及び都道府県の出資も漸次増加いたして参りましたので、政府としましても、明二十九年度一般会計からさらに五千万円を追加出資いたし、本制度の拡充をはからんとするものであります。
本法案は、去る二月二十二日本委員会付託となり、同二十四日平野農林政務次官より提案理由の説明を聽取の上、引続き審査に入り、本日をもつて質疑を終了いたしたので、討論を省略、採決を行いましたるところ、全会一致をもつて可決すべきものと議決いたしました。
次に、綱島正興君外二十四名提出、肥料取締法の一部を改正する法律案について申し上げます。
この法律案は、単位農業協同組合等の行いまする小規模の肥料配合事業を奨励する意味をもちまして、事業手続を簡素化するために、現行法による農林大臣登録を都道府県知事登録に切りかえんとする趣旨のものであります。
本案は、去る十日提案者より提案理由の説明を聞きましたが、本日内容の審査を行いましたところ、全員一致の賛成により可決すべきものと決定いたした次第であります。
以上をもつて、簡単ながら御報告を終ることといたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/19
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020・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 三案を一括して採決いたします。三案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/20
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021・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて三案は委員長報告の通り可決いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/21
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022・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 防衛庁設置法案及び自衛隊法案の趣旨説明を求めます。国務大臣木村篤太郎君。
〔国務大臣木村篤太郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/22
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023・木村篤太郎
○国務大臣(木村篤太郎君) 今回提出いたしました防衛庁設置法案及び自衛隊法案につきまして、提案の理由並びにその内容の概略を御説明申し上げます。
御承知のごとく、保安庁は、昭和二十七年八月、当時の警察予備隊及び海上警備隊を統合して創設したものでありまして、わが国の平和と秩序を維持し、人命財産を保護するため特別の必要がある場合において行動することを任務としたものであります。保安庁は、創設以来一年有七箇月、保安庁法の規定するところに従つて、その任務を遂行するため着々諸般の整備をはかり、必要なる訓練を行つて今日に参つたのであります。
しかるところ、今般、政府におきましては、現在の国際並びに国内の諸情勢にかんがみ、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、この際さらに自衛力を増強することを適当と認めるに至りました。よつた、今回、保安隊及び警備隊を陸上自衛隊、海上自衛隊に改め、自衛官等の定員を増加するとともに、新たに航空自衛隊を設けることといたし、かつ、その任務として、外部からの侵略に対するわが国の防衛を明確に規定する等の目的をもつて、保安庁法を改正して防衛庁設置法及び自衛隊法を制定せんとするに至つた次第であります。
次に両法案の内容の概略について申し述べます。まず、防衛庁設置法案について御説明いたします。
防衛庁は、総理府の外局として設置するものでありまして、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つことを目的とし、陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊を管理し、運営し、これに関する事務を行うことを任務とするものであります。
防衛庁の長は、従前の通り国務大臣をもつて充てるものでありまするが、今回、内部部局に新たに教育局を加えますとともに、防衛庁の所掌事務に関する基本的方針の策定について長官を補佐する参事官の制度を設けることといたし、他面、従来ありました内部部局の課長以上の職に対する制服職員の経歴者の任用制限は、これを設けないことにいたした次第であります。次に、幕僚監部につきましては、航空自衛隊の新設に伴い、従前の第一幕僚監部、第二幕僚監部に相当する陸上幕僚監部、海上幕僚監部のほかに、航空自衛隊についての幕僚機関として、新たに航空幕僚監部を設けることといたしました。また、自衛隊の増強に伴い、陸上、海上、航空の各自衛隊を統合した見地からの防衛計画、訓練計画の方針の作成及び調整、出動時における指揮命令の統合調整等に関して、長官を補佐することを任務といたしまする統合幕僚会議を新設して、自衛隊の総合的かつ有効なる運営をはかることを期することいたしました。なお、このほか、陸上、海上、航空各自衛隊の所要物件並びに役務の調達の可及的一元化と能率化をはかり、建設工事等につきましてもこれを統一的かつ経済的に処理せしめるため、新たに防衛庁の附属機関として調達実施本部及び建設本部を設けることといたしました。
次に、国防会議について申し述べます。国防会議は、国防に関する重要事項を審議する機関として内閣に置かれるものでありまして、国防の基本方針、国防計画の大綱、国防計画に関連する産業等の調整計画の大綱、防衛出動の可否等に関して内閣総理大臣の諮問にこたえ、国防に関する重要事項につき、必要に応じ、内閣総理大臣に対して意見を述べることを任務とするものであります。国防会議の構成、運営等は、別に法律で定めることといたしたのであります。
次に、自衛隊法案について重要なる事項を御説明申し上げます。
この法律案は、自衛隊の部隊の組織及び編成、自衛隊の行動及び権限、隊員の身分取扱い等に関し、おおむね現在の保安庁法の内容を基礎として規定したものでありまするが、次に述べる任務に即応し、必要な規定の追加、整備を行つております。
まず、自衛隊の任務といたしましては、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対してわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じて公共の秩序の維持に当るものといたしまして、その防衛の任務を規定いたしたのであります。次に、自衛隊の行動につきましては、外部からの武力攻撃に際して、わが国を防衛するため必要があるときは、内閣総理大臣は、原則として事前に、特に緊急の必要のある場合には事後に、ただちに国会の承認を得まして、自衛隊に対し防衛出動を命ずることができることといたしました。この防衛出動時における自衛隊の武力行使は、国際の法規、慣例を遵守し、かつ事態により合理的に必要な限度にとどまるべきものといたし、また、この場合には、原則として都道府県知事を通じて、一定区域において施設の管理、物資の収用、業務従事命令等を行うことができることといたしております。
このような事態に処して、自衛隊の防衛に当る実力を急速かつ計画的に確保することを目的といたしまして、この法案におきましては、新たに志願による予備自衛官制度を規定いたしました。予備自衛官は、防衛出動時に、内閣総理大臣の承認を得て発せられる長官の防衛招集命令に応じた場合には自衛官として勤務し、その他の場合においては、所定の期間、訓練招集に応じて訓練を受ける以外には勤務することのない隊員でありまして、その採用は自衛官等の退職者中よりの志願により、三年を期間として任用することといたし、その手当等について規定いたしておるのであります。
前述の防衛出動のほか、公共の秩序維持のため、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつてしては治安を維持することができないと認められる場合における内閣総理大臣の命令による出動、治安維持上重大なる事態につき都道府県知事の要請があつた場合における出動、海上における警備行動、災害時における救援のための行動等、すべて現行保安庁法に認めていると同様の規定を設けておりますが、さらに外国の航空機が不法にわが領空に侵入した場合における必要な措置について規定いたしました。
この法律案中に規定するその他の事項は、前にも申しましたことく、おおむね保安庁法と同様でありますが、自衛隊の指揮監督、部隊等の組織及び編成の大綱を規定し、隊員の服務についてのよるべき明確な規定を設け、罰則を整備し、関係法律の適用について一層の整理を行う等、必要なる整備を行つております。なお、この法律の施行に伴い、現在の海上公安局法は、これを廃止することにいたしました。
以上、今回提出いたしました法律案の提案の理由並びに内容の概要でございます。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願いいたします。(拍手)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/23
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024・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これよりただいまの趣旨説明に対する質疑に入ります。木村武雄君。
〔木村武雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/24
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025・木村武雄
○木村武雄君 私は、自由党を代表して、ただいま提案されました法案に対し、内閣総理大臣と保安庁長官に主として御質問申し上げます。
およそ世の指導者、一国の総理大臣にとつて一番大切なことは、情勢判断を誤らないことであります。戦前、日本の指導者は、世界の情勢判断を誤つて戦争に突入し、さらに講和の時機を誤つて無条件降伏をいたしましたことは、忘れ得ざる国辱としてすでに国民の体験済みであります。吉田内閣は組閣して足かけ七年です。昭和二十五年六月二十五日に突如朝鮮に勃発した南北の争いが、連合軍の参加によつて風雲急を告げ、一時マッカーサー司令官は満州爆撃をにおわせたことがあります。満州爆撃は、そのまま、日本に軍事基地を持つ米軍にソ連の報復爆撃となるのであります。さすれば、戦乱は再び日本を襲う危険がありました。こうした気配が濃厚となつたときに行われました議会における質問に対して、吉田首相は、第三次大戦は起り得ない、大陸の共産勢力はさして恐れるに足りない、従つて日本共産党の内乱などもあり得ないと答弁されたことを記憶いたしておりますが、当時としては、ずいぶん大胆な答弁であると、われ人ともに驚いたものであります。だが、世界の情勢は、一触即発の間にあつた第三次大戦の気構えも一時遠のき、三年有余の朝鮮戦争も休戦して、やや小康を保つておりますが、こうした際においても、吉田首相は、去年の国会において、参議院議員中田吉雄氏の質問に対して、第三次大戦は一時遠のきつつあると、昭和二十六年における答弁とやや同様の答弁をされましたが、世界情勢はまさにその通りであります。ゆえに、ここ数年来の国際情勢に対する首相の判断は誤りなかつたと断言し得るのでありますが、(拍手)世界の情勢が険悪にして、しかも対岸に戦争の勃発した昭和二十五年八月十日に警察予備隊をつくり上げて、さらに情勢がやや静まり返つた二十七年十月十五日にこれを保安隊に切りかえ、さらに情勢が好転したと見られる昨今、これを補強して自衛隊に組織がえされんといたしております。一見国際情勢の推移とは逆行するもののごとき感なきにしもあらずでありますが、何ゆえの組織がえか、何ゆえの補強工作か、それとも、治にいて乱を忘れざるの構えか、これに対する総理大臣の御所見を承ります。
日本が世界に向つて完全なる武装放棄を宣言したのは、昭和二十年九月二日、ミズーリ号艦上であります。当時の日本は、敗れたりとはいえ、陸軍は世界一を誇り、海軍は世界三大列強の一として数えられた残滓をいまだとどめておつたのであります。そして戦線は、北は千島、樺太から、南はフイリピン、ジャワ、スマトラを経て遠くニユーギネアに及び、大陸は北満、中支、南支を経てビルマに延長して、その戦線の広大なることはまさに古今の戦史にその比を見なかつたものであります。この完全なる武装放棄はまさに神わざです。ざらに、昭和二十一年十一月三日、軍国の鬼とのろわれた日本が、戦争放棄の平和憲法を世界に先がけて宣言したのであります。これまた前人未踏の境地であります。
しかるに、世界は、戦後両立すると思つた米ソの対立が激化して、第三次大戦の気構えがきわめて濃厚となつたのであります。そして、その間大陸の情勢もまた目まぐるしく変遷して、日本に勝つて磐石の地位を固めたと思つた蒋介石政権は、国共の争いにもろくも破れて、天下は中共に移り、余勢は仏印にくすぶつて、戦乱はいまだたけなわであります。目の前の朝鮮戦争は足かけ三年余にして休戦して、一時小康を得てはおりますが、将来の予断はまた許さないものがあります。
シベリアから樺太、千島に配置されたバイカル以東のソ連兵力は五十一箇師と聞きますが、ソ連、中共、金日成と、大陸に陣した共産勢力のねらうものは、イギリスでもありません、フランス、ドイツにあらずして、ただ一つ日本なることに留意すべきであります。しかも、日本は、数多くの自由主義国家群とは平和条約を結びましたが、共産陣営とは、戦争はいまだ結んで解けない対立関係にあります。李承晩ラインにおける諸般の動きは、単なる動きとして看過すべきではありません。壱岐、対馬の周辺における日本漁船の拿捕、監禁の陰には中共の勢力ありと聞きますが、今や大陸における民族意識は燎原の火と燃えて熾烈であります。
顧みて、ソ連の参戦が北満から北鮮に及び、北鮮軍によつて三十八度線がけ破られたとき、南鮮に米軍の援助がなかつたならば、朝鮮は金日成の赤一色に塗りつぶされたに違いありません。さらに、終戦のどさくさに台頭した北鮮人の日本における横暴は言語に絶して、南鮮を席巻した共産軍を日本に誘導するなどの流言飛語が行われましたが、当時を回想して戦慄するものがあります。北鮮軍の侵入を三十八度線で食いとめたのは連合軍の軍事力でありますが、こうした際に、平和憲法が勢いに乗つた共産勢力の日本侵入を食いとめ得ると一体断言することができますかどうか。シベリアより樺太、千島に追つたソ連軍が一衣帯水の北海道に上陸しなかつたのは、間髪を入れずに米軍が北海道に進駐したがためだとも言われております。もし米軍が北海道に進駐しなかつたならば、北海道は彼らの言う解放地区となつて、津軽海峡は日本内地との三十八度線となつたかもしれません。米軍が進駐せずして、なおかつソ連が日本の完全武装放棄の誠意を認めて北海道に上陸しなかつたと断言することができますかどうか。
中共軍の北鮮参加は義勇軍の名によつて行われたとはいえ、その軍事力は北鮮軍以上であつたことは隠れもない事実であります。何のための参加かは不明でありますが、中華民国の思想にたずねて、アジアに君臨するものはわれなりとの中華思想が朝鮮の内政に干渉した根拠なりとすれば、その驥足を壱岐、対馬より九州に延ばさないとは保証し得ないのであります。現に、中共は、かつて王侯の哲学なりとして排斥した孔孟の教えを必要のために取上げております。レーニン、スターリンが民族意識高揚のためにはピーター大帝を礼讃した実績に徴して、ぬれ手であわの日本獲得なれば、鉱工業と技術に事欠く中共の日本侵略は杞憂として蔑視するわけには参りません。だが、こうした一連の想定し得るできごとが日本に行われずに、よく九年間の平和を保ち得たのは、これら各国が日本の完全なる武装放棄の誠意を一体認めたがためでしようか。世界に先がけて平和憲法を日本が制定したためでしようか。
第一次、第二次大戦において、スイスがよく中立を緊持して平和を守り得たのは、スイスの軍事力がドイツの侵入をはばんだがためです。(笑声)ドイツの軍事力をもつてすれば、スイスの蹂躙くらいはわけなく行われますが、そのための出血は爾後の作戦に影響するのです。ソ連のフィンランド侵入また同様です。ソ連の軍事力をもつてすれば、フィンランドの侵入はものの数ではありますまいが、そのための出血は爾後の作戦に影響するのです。この事実に見ても、無防備の平和論は、平和にあこがれてなおかつ平和を求め得られないことを実証するだけでなく、(拍手)逆に、備えあればよく中立を堅持して平和を守り得ることを教えた歴史であります。
日本は、日本海峡をはさんで、南は英仏のドーヴアー海峡に数倍する朝鮮海峡です。北は千島から二時間、樺太からは一晩の北海道ですが、防衛の条件はフインランド、スイスにまさること十数倍です。防衛して、しかも政治が聡明であれば、世界にいかようの動乱あろうとも、平和を守り抜くことは決して難事ではないと思いますが、総理大臣は無防備で日本の平和を守り得るとお考えになりますかどうか。過去九年間の平和維持は、軍事力のためか、それとも平和憲法のためか、それとも日本の完全なる武装放棄の誠意がこれらの共産主義国に認められたためか、厳として侵すべからざる米軍の駐屯したためか、総理大臣の所見を承ります。
さらに、平和は万人のあこがれであります。いな、人類始まつて以来の悲願でありますが、求めて得られずに今日に及んでおります。今世界を見渡して、実力で平和を守り得るものに米ソ両国があります。米ソにして真に平和を求めるならば世界の平和は保ち得られますが、破らんとすれば、明日にでも破り得るのです。だが、ソ連にして階級主義を捨てない限りは、真の平和主義者にはなり得ますまい。(拍手)米国にして真のクリスチヤンに徹せざる限りは、平和主義者にはなり得ますまい。さすれば、米ソに依存した日本の平和維持にはおのずから限界があるのであります。やはり日本の平和は日本人の手によつて建設しなければなりません。そして、これは単に吉田内閣の課題ではありません。日本国民全般の課題であります。特に七箇年間の戦争で苦い苦しみをなめた、原子爆弾の洗礼に徹した国民全般の課題であります。だが、平和の建設は歴史に徴して破壊の戦争以上の難事です。しかるに、徒手にして空拳にして平和を守り得ると解する者がおります。運や果報と同様に、平和は寝て待てば来るものと考えている者がおります。(拍手)この思想は、かつての軍国主義以上に危険な思想です。こうした思想に対する対策を誤れば、平和維持のための防衛もうちから破れて、ちまたは戦場と化する危険があります。平和建設のための防衛思想の普及徹底は刻下の急務であると思いますが、これに対する総理大臣の御所見を承ります。
今日、世界は、米ソ対立のまま冷戦に包まれた不気味な平和が続いておりますが、爆発すれば、近代戦争は科学戦争であります。そうした科学戦争の前には一たまりもない自衛隊の建設などは国費の濫費であつた、つくらざるにしかずとなす議論があります。確かに一面の直理です。だが、米ソの対立はあくまでも米ソの対立であつて、日ソの対立ではありません。ソ連に対立するものが日本であつたならば、日本の防衛はソ連と競争すべきであつて、相手を克服し得ない防衛は無価値となりますが、ソ連に対するものは、かつては日本でありましたが、今日では米国であります。
その対立が冷戦のままで今日に持ち越したのは、一つは、科学兵器の発達がいまだ頂点に達せざるためであります。今、米ソ両国とも世界に誇る原子力を持つてはおりますが、戦えば、相手の皮を切れば肉を切られます。肉を切れば骨を切られる覚悟をしなければなりません。ゆえに、一瞬にして相手国民を殲滅するに足るだけの兵器の発達までは両国とも戦争を回避しておると見るべきです。もう一つは戦争術の発達です。戦争がいまだ幼稚な時代の勝敗は武将の勝負によつてきまりましたが、戦う部隊の勝敗が一国の興亡を決定したのはその次です。さらに、今次大戦においては、戦う部隊の戦力をまかなう補給所の強弱が勝敗を左右いたしましたが、広島、長崎に投下されました原子爆弾より将来戦を予想するとき、装備なき無辜の国民の殲滅が勝敗を決定するもののごとく思われるのであります。ゆえに、米ソ戦の将来を予想すれば、まさに民族の殲滅です。
思いをここにいたすときに、科学兵器の発達が頂点に達した瞬間、人類の偉大なる働きが求めて得られなかつた世界絶対平和の境地を確立しないとも限らないのであります。だが、それまでの世界は米ソの対立です。それにつながる世界の動揺であります。そして、ソ連の得意は熱戦よりも冷戦です。武力戦よりも平和攻勢です。それだけに階級戦は熾烈となり、内乱は潜行して軍事的となるのです。
日本の現状また看過し得ないものがあります。こうした軍事力に対する警察力のもろさは、二・二六事件の説明をまつまでもありません。やはり、未発の場合でも同時多発の場合でも、軍事力に対抗するものは軍事力ですが、自衛隊をもつてしては、よくこれに備えて日本の平和と社会の秩序を保ち得る確信がありますやいなや、保安庁長官にお尋ねいたします。(拍手)
これを要するに、日本の防衛の限界は、大陸に日本をうかがう共産勢力をして日本侵略の企図を放棄せしむるを頂点として、下辺はこれと関連して躍動する共産党の内乱工作に備え得れば足りるのでありますが、そうした観点のもとに計画されたのがこの自衛隊の改正なりやいなや、これを保安庁長官にお尋ねいたします。
アジアの平和はそのままに日本の平和でありますが、アジアの戦乱はそのままに日本の戦乱ではありません。しかるに、日本に配置された米軍の使命は米国の極東政策の一環を受持つものでありますから、そのままこれを踏襲すれば、アジアに備えた米軍の使命は果し得られますが、日本の防衛とは縁遠いものとなる危険があります。ゆえに、その配置も装備も訓練も大胆に入れかえを断行しなければならないと思いますが、それにしても、顧問団の六百名は、せつかくの自衛隊をして米国の傭兵たる感を抱かしめる危険なしとしないのであります。憂うる点は、顧問団を受けた蒋介石の軍隊が、かつての内乱に際して一番弱く、特に寝返りを打つた急先鋒であつたのであります。原因を求めれば、民族の自尊心が傷つけられたからであります。防衛について一番大事なことは民族の自尊心であります。顧問団を受けて編成される保安隊は、米国の傭兵たる感を国民に抱かせて危険でありますが、これに対して最も明確な政府の見解をお尋ねいたします。(拍手)
さらに、今の保安隊の持つ欠陥のすべては、日本的なものの所産ではなくして、米国的なものの所産であることは、過般の水害その他の面で暴露されております。出動した部隊が、かつての日本の歩兵のごとくに健脚であつたなら、相当の被害を阻止し得たことや、水中に飛び込んだ保安隊員が、かつて日本の工兵隊のごとくに地下たび巻脚絆であつたならば、より以上の威力を発揮したことなどがその好例でありますが、米国への媚態が、せつかくの自衛隊をして将来に不測の災いを残さないとも言い切れないのであります。今次大戦の失敗は日本の用兵作戦の失敗ではありましたが、兵の訓練はみごとであつて、その戦闘ぶりは世界をして驚嘆せしめたものであります。だが、あつものに懲りてなますを吹くの愚を演じて、その訓練すら米国に見習うのは民族の堕落であります。特に、文民優位に名をかりて人選を誤り、非常時に際して指揮系統に混乱を招いて平和維持の大役を果し得ないとなれば一大事であります。
この法案の骨子は、日本自由党、改進党、自由党が三党折衝の結果誕生したものでありまするがゆえに、平和雄持のための防衛思想の普及徹底には、三党また責任を負うものであります。(拍手)そのための争いはあえて意に介しません。踏みにじつてごらんに入れます。ただ、運営の責任は政府にあるのでありまするが、この点に関する政府の確信を承つて、私の質問を終ります。(拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/25
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026・緒方竹虎
○国務大臣(緒方竹虎君) ただいまの木村君の防衛庁設置法並びに自衛隊法に対しまする御質疑、そのお述べになりました趣旨は、私どものまつたく同感を表するところでありまして、心から敬意を表します。世界の平和なくして日本の平和はあり得ないと考えます。しこうして、平和は、単なる主義理想のみによつて維持できるものではなく、また軍事力を背景とする武装的平和のみによることもまた危険であることは、木村君のお述べになつた通りであります。そこで、わが国といたしましては、国際連合憲章の精神にのつとりまして、平和を愛好する自由諸国との友好関係を持して行くとともに、独立国として、国力に応じた自衛力を保持し、もつて自国の平和を維持し、世界の平和の確立に応分の寄与をいたしたいと考えておるのであります。この間に無防備の方が世界の平和に寄与するゆえんであるように言う議論もありまするけれども、これは政府といたしましてはまつたくとりません。日本の現行の憲法の理想とするところはまことに高いものでありまするが、現在の世界の現実は、この理想をただちに実現するまでに参つていない。この意味におきまして、国力の許す限りにおいて防衛力を持つことは当然でありまして、今回防衛庁の設置法案並びに自衛隊法案を提出いたしましたのは、そのゆえにほかならないのであります。重ねて木村君の御発言に敬意を表します。(拍手)
〔国務大臣木村篤太郎君登壇口〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/26
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027・木村篤太郎
○国務大臣(木村篤太郎君) お答えいたします。
自衛隊は、外部からの不当な攻撃に対してこれを阻止し、また外部からの教唆、扇動による内地における大反乱、暴動等に対して処置せんとするものであります。ここに自衛隊の限界があります。決して自衛隊は外国と戦争することを目的としたものではありません。われわれはどこまでも平和を愛します。平和を愛するがために自衛隊をつくるのであります。(拍手)そこを十分に御認識願いたいと思います。
次に顧問団の性質でありますが、顧問団は、要するにアメリカから贈与を受けまするいろいろの武器の操作についてその指示を受けるのであります。御承知の通り、アメリカから持つて参りまする武器にいろいろ種類があります。新しいものもあります。これらについての操作について指示を受ける趣旨でありまして、決して自衛隊の訓練、指揮等について毛頭も干渉はありません。これは自衛隊独自の方針に基いてやることを御了承願いたいのであります。
次に、自衛隊の内容について今木村君からお話がありましたが、自衛隊は、今申しまする通り、まつたく日本独自の訓練をやつております。決してアメリカ式ではありません。去年の九州の災害におきまする出動におきましても、私は、木村君は現地の方のお話をよく聞いていただきたいと思います。まことによく働いたといつて、幾多の感謝が来ております。旧来の旧軍人と比較して決して劣りをとりません。また、最近におきまする北海道における雪中訓練を見ましても、アメリカ軍人は驚いております。八貫目の背嚢を背負つて、スキーをはいて、十五キロを一日に、一個大隊一人の故障なく突破した。この事実に対して、アメリカの軍人も非常に驚いておる。かくのごとく、わが保安隊員は十分な訓練をしつつあることを御承知を願います。
しこうして、次に、この自衛隊の運営につきましては、今申し上げまする通り、われわれといたしましては全然日本的にやるつもりであります。もつぱら外部からの不当な侵略に対してこれを阻止し、内地の大擾乱、暴動に対してこれを鎮圧し得るだけの力を持たすべく、今盛んにその訓練にいそしんでおります。どうぞ御安心を願いたいと思うのであります。(拍手)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/27
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028・荒舩清十郎
○荒舩清十郎君 両案の趣旨説明に対する残余の質疑は延期し、明十三日定刻より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/28
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029・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 荒船君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/29
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030・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
本日はこれにて散会いたします。
午後五時十六分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X01919540312/30
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