1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十九年三月三十一日(水曜日)
議事日程 第二十八号
午後一時開議
第一 日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定の批准について承認を求めるの件
第二 農産物の購入に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件
第三 経済的措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件
第四 投資の保証に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件
第五 租税特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第六 補助金等の臨時特例等に関する法律案(内閣提出)
第七 行政機関職員定員法の一部を改正する法律案(内閣提出)
—————————————
●本日の会議に付した事件
日程第五 租税特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第六 補助金等の臨時特例等に関する法律案(内閣提出)
日程第七 行政機関職員定員法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第一 日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定の批准について承認を求めるの件
日程第二 農産物の購入に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件
日程第三 経済的措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件
日程第四 投資の保証に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件
母子福祉資金の貸付等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院回付)
骨牌税法の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院回付)
午後一時四十六分開議発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/0
-
001・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これより会議を開きます。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/1
-
002・荒舩清十郎
○荒舩清十郎君 議事日程順序変更の緊急動議を提出いたします。すなわち、日程第五ないし第七を繰上げ逐次上程せられんことを望みます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/2
-
003・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 荒船君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/3
-
004・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程の順序は変更せられました。
日程第五、租税特別措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。大蔵委員会理事内藤友明君。
〔内藤友明君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/4
-
005・内藤友明
○内藤友明君 ただいま議題となりました租税特別措置法の一部を改正する法律案につきまして、大蔵委員会における審議の経過並びにその結果について御報告申し上げます。
本法律案の内容は次の諸点であります。まず第一に、今次税制改正の一環として、資本蓄積の促進に資するため、個人の長期性預貯金などについて受ける利子所得については他の所得と分離して五%の税率で所得税を課することとし、また今後一年間のうちに支払いを受ける配当所得については、その源泉徴収税率を現行二〇%から一五%に引下げることであります。次に、価格変動準備金について、これを積み立て得る余地を多くして、価格変動に対処することができるようにしようというのであります。次に、法人の過小資本の是正などに資するため、法人が増資を行つた場合における配当につきまして一定額を限度として法人税を免除しようというのであります。また法人の濫費を抑制するため、資本金五百万円以上の法人の支出する交際費などについて課税上の特例を設けようというのであります。次に、プラント輸出の促進及び輸出商社の強化に資するため、輸出所得の特別控除制度の拡充合理化をはかろうというのであります。最後に、鉱山業の特殊性にかんがみまして、探鉱用の機械設備などについて特別償却の制度を設けようというのであります。以上が本法律案の内容であります。
大蔵委員会におきましては、去る二月二十五日政府委員より提案理由の説明を聽取し、爾来審議を続けて参り、昨日質疑を打切りましたところ、改進党の私から、また自由党の黒金委員から、それぞれ修正の動議が提出されました。私の修正案の内容は、本法案の第七条の六及び同条の七の輸出促進奨励のための減税の適用範囲の中に、陶磁器の輸出のためにする上給付を行う者への、自己の生産した陶磁器の素地の販売を加えようとするものであります。二は、消費生活協同組合及び同連合会の所得留保に対しまして、一定積立てが行われみまで法人税を免除しようとするものであります。次に、黒金委員の修正案の内容は、本法五条の十一の、増資分の配当についての免税規定の免除を受ける法人としての条件中、第四号の配当率二割以下たるを要する旨の制限を削除しようとするなどであります。
次いで、討論を省略いたしまして採決に入りましたところ、内藤の提出いたしました修正案に対しましては起立総員で可決せられ、黒金委員提出の修正案につきましては起立多数をもつて可決いたされました。次に、修正部分を除く原案に対して採決いたしましたところ、起立多数をもつて可決されました。よつて本法律案は修正議決されました。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/5
-
006・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 採決いたします。本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/6
-
007・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り決しました。(拍手)
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/7
-
008・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 日程第六、補助金等の臨時特例等に関する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。補助金等の臨時特例等に関する法律案特別委員長葉梨新五郎君。
〔葉梨新五郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/8
-
009・葉梨新五郎
○葉梨新五郎君 ただいま議題と相なりました補助金等の臨時特例等に関する法律案の委員会における審査の経過及び結果につきまして御報告申し上げます。
本案は、地方公共団体に対する国の補助金等のうち、全額を地方財源に織り込むかあるいは低減することが妥当と認められるもの、並びに民間団体等に対する補助金等で、その交付を停止あるいは低減することが妥当と認められるもの等について、所要の改正措置を講じようとするものであります。
委員会は去る二月二十四日院議をもつて設置せられ、三月五日委員長、理事の互選を行い、私が委員長に当選いたしました。三月八日政府より提案理由の説明を聽取し、三月十日さらに詳細なる補足説明を聽取いたしました後に、本案の質疑に入つた次第であります。
本案審査にあたりましてまず問題となりました点は、本法律案と予算との関係であります。すなわち、本来予算は法律に基いて作成提出さるべきにかかわらず、いまだ制定されていない法律案を基礎として予算を作成して提出することは違法ではないかという点でありました。この点は従来しばしば論議があり、すでに先例も確立いたしておる問題でありますが、政府から、まず法律案を提出して、それが成立してから予算を作成して提出することも一つの方法ではあるが、実際面からは予算の作成に相当の時間を要すること、及び政府の施政方針の具体的な計画である予算がきまつて後、それに対応する法律案の内容がきまるという現在の事務の運営上、それはやむを得ないことであつて、そのために現在まで予算とそれに対応する法律案を並行して提出して、国会の審査に付するという建前がとられて来ておるのであつて、その運営についての批判はあつても、違法であるとは考えないという答弁がありました。
第二に問題となりました点は、本法案による補助金等の停止または軽減の地方財政に及ぼす影響及びその善後措置いかんという点であります。この点に関しまして、政府より、政府が今回補助金等の整理の方針を取上げた理由としては、地方制度調査会においても批判があつたように、中央からのひもつきの補助金は地方自治確立の面からできるだけやめて、自由な財源を地方公共団体に与えるという趣旨からであつて、文部省関係の教科書の関係、農林省関係の漁船保險の関係、運輸省関係の外航船舶建造の利子補給の関係、地方鉄道整備の関係等の支出は民間団体等に向けられるものでありまするが、その他の地方財政に関係あるものについては、全額落したものはその全額、補助金の負担の率を引下げたものについてはその引下げた金額を交付税にまわしてある、ただ建設省の公営住宅の関係については、交付税でなくて起債にまわすことにしておるという答弁がありました。なお、運輸省関係の小型自動車競技及び競輪関係等の納付金については、地方の財源として収入に織り込んであるとの答弁がございました。
第三に、本法案によつて停止される競輪、モーターボート等の国庫納付金につきましては、競馬だけに国庫納付金を認める理由はいかんという質問に対しまして、今日日本が真に経済再建をなすべき異常なる場合において、弊害の多い競輪等から国が俗に言うてら銭のごときものをとるべきではないという考えから停止したのであるが、競馬は世界の文明国いずれにおいても行われておるものであつて、これとは同一視することができないという答弁がございました。
第四に、民間に対する補助金等のうち特に漁船保險につきましては、国から政治上の恩恵を受けることが非常に少い漁業に対しわずかに与えられておる漁船損害保險の保険料の補助について、本法案により二十トンから百トンまでの中型漁船をはずすことは補助の目的を達しないのみならず、本年四月から実施される予定であつた法律を一回も実施しないうちに、これに反する法律改正を提案して来ることは、昨年百トンまで補助するように改正した国会の意思を無視するものと言うべきである、これはどう考えるか、こういう質問に対しまして、政府から、二十トン以上のものは、現在民間の保険等とあわせて考えると、ある程度加入が行われておるから、今後の行政指導によりさらに向上する点も期待して、やむを得ずとつた措置であるから、できるだけ近い機会にそのように措置をいたしたいとの答弁がございました。また、日本国有鉄道法第五十八条において、国庫は日本国有鉄道に設けられた共済組合に対し国家公務員共済組合法第六十九条第一項第三号に規定する費用を負担することになつておるが、二十九年度予算は別としても、二十八年度予算に全然計上していないのは法律違反ではないかとの質問に対しまして、政府より、国家公務員共済組合法には毎年度予算をもつて定めるという規定があるから、予算上全然計上していないことの妥当であるか妥当でないかの話は別として、法律上は必ずしも違法ではないと考えるとの答弁がございました。
その他、母子相談員、農業改良普及員及び専門技術員等の地方における実態、造船利子補給の問題並びに特に本法案が二十三件のうち十三件に及ぶ議員立法の法律の改正を提案しておる点などについて種々活発なる論議がかわされたのでありまするが、詳細は速記録に譲ることといたします。
かようにいたしまして、二十四日質疑を終了いたしましたが、本案に含まれる内容につきましては各党とも異論がありましたので、数日間にわたつて種々意見の調整に努めたのでありましたが、遂に意見の一致を見るに至りません。昨三十日に至りまして、自由党及び改進党共同提案として、福田赳夫君外十五名より、本法案が臨時的措置であることを明確にし、将来さらに検討を要すべきことを明らかにするために、国鉄の共済組合に対する国庫負担の条文を除いて一年間の時限立法とすること、及び昭和二十九年度予算の本院修正に対応する法的措置として保健所関係の条文を整理すること、以上二点を内容とする修正案が提出されました。また、両派社会党共同提案として、井手以誠君外七名より、小型自動車競走、自転車競技及びモーターボート競走関係の国庫納付金制度の停止及び外航船舶建造融資利子補給の一部停止の条文を除いてはすべて削除し、現行法通りの補助金等を認むべしとする内容の修正案が提出されましたので、福田赳夫君及び井手以誠君よりそれぞれ趣旨弁明を聴取した後、一括討論に入りましたが、自由党福田赳夫君より、一兆円緊縮予算の建前から補助金等の整理には賛成であるが、ただ画一的な整理には一考を要するものがあるので、将来検討のため一年間の時限立法とする自改両党の修正案及び修正部分を除く原案に賛成の意見の開陳があり、改進党の吉川久衛君より、一兆円緊縮予算同調の建前から補助金整理の方針については賛成であるが、個々の問題についてはさらに検討を要するものがあるので、漁船保険及び農業改良普及員の問題については附帯決議を付して、自改両党の修正案及び修正部分を除く原案に賛成の旨の意見が述べられ、社会党川俣清音君よりは、補助金を何らかの形で整理することには必ずしも反対ではないが、本案のごとき画一的な方式による整理には反対であり、両社会党提出の修正案に賛成、自改両党提出の修正案及び原案に反対の意見が開陳されました。
かくして、討論を終り、採決いたしました結果、本案は福田赳夫君外十五名提出の修正案の通り修正議決した次第であります。
なお、漁船保険の問題及び農業改良普及員等の問題につきましては、各党間の意見の調整にあたりまして最も検討を要すべき問題として異論のありました点でありますので、本案議決にあたりまして附帯決議を付することに決定いたしたのであります。これを朗読いたします。
附帯決議
一、政府は、第十五条の規定については、本法の有効期限に拘らず、可及的速かに予算措置を講じ、二十トン以上百トンまでの漁船に対しても二十トン未満一トン以上の動力漁船と同一の取扱いを為すよう政令を改正実施すべきである。
二、政府は、農業改良助長法の精神に基き普及事業の発展に支障なきよう万全の措置を講ずべきである。というのでございます。
以上をもつて御報告を終ります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/9
-
010・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 本案に対しては井手以誠君外七名から成規により修正案が提出されております。この際修正案の趣旨弁明を許します。井手以誠君。
〔井手以誠君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/10
-
011・井手以誠
○井手以誠君 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題となつておりまする補助金等の臨時特例等に関する法律案に対し、自改両党の修正案を含む委員長の報告に反対を表明し、社会党両派から提出した修正案の説明を行うものであります。(拍手)
この法律案は、提案理由において、国の補助金、負担金等を整理する必要を認め、二十九年度予算に所要の措置を講じ、このうち法律に基いて交付する補助金等につき右に即応して法的措置を講ずる必要があると露骨に述べておりまするように、かつてに予算を削つた跡始末を国会に押しつけようとするものでありまして、私どもは、国会の権威にかけて断固反対し、立法機関を軽視する吉田内閣と大蔵官僚に猛省を促すものであります。(拍手)
わが憲法は、第四章の冒頭において国会の権威と民主憲法の基本的性格をうたい、立法権独占の原則を明らかにするとともに、行政に対する広汎な監督権を与え、そのために国会法に両院法規委員会の規定を設けて、唯一の立法機関たる体制を整えておるのであります。従つて、内閣の法律案提出には大きな疑問を持つものであります。かりに百歩を譲つて、内閣に法律案提出の権利ありといたしましても、内閣は法律を誠実に執行する義務が憲法によつて課せられておるのであります、従つて、予算案の提出には当然現行法によらねばならないことは明々白々であります。もし予算作成に法律改正の必要があるといたしまするならば、まず法律の改正を行い、それに基いて予算案を提出しなければなりません。しかるに、政府は、現行の法律を無視して予算を作成し、一箇月後に至つてようやく改正の法律案を提出するがごとき、本末転倒もはなはだしく、まさに十二才の頭脳にも劣る行為である。明らかに憲法違反と言わねばなりません。もし国会がこれを容認するといたしまするならば、国会の権威をみずから失墜することになりましよう。これが原案反対の基本的理由であります。(拍手)
この法律案は、二十三の単独法に盛られた補助金、負担金の削減または停止を行うものでありますが、文教、厚生、農林、水産、通産、運輸、建設の各方面にわたり、国家財政多端にもかかわらず、特に国費助成の必要を認め、政府は麗々しく公約し、国会が慎重に審議して成立いたしました比較的新しい法律が多く、しかも、ほとんど国庫助成を骨子としたものであります。しかるに、政府は、それぞれ重要性を持つこれらの諸法律を束にして一刀のもとにぶつた切るがごとき、言語道断の措置と言わなければなりません。一体、政府は法律を何と心得ているのか。真にその必要があるといたしまするならば、何ゆえに各個の法律を改正しなかつたか。これを一本にしたのは、おそらく特別委員会で押し切ろうとする作戦であろうと思うのであります。しかも、漁船損害補償法など二、三の法律はこの四月から実施されるものでありまして、いまだ一日も日の目を見ておりません。一箇月の実績もない法律に、どうして改正せねばならぬ理由がありましよう。実施を予定して保険契約まで結んだ中小漁民の損害を、政府はいかに補償しようとするのか。
さらに奇怪なことは、これらの多くは議員立法であります。かねて議員立法を白眼視している政府、大蔵官僚は、この臨時特例によつて議員立法を拒否したものと言えましよう。最近、財政処理の権力を握る大蔵官僚が、あたかも自分らが予算を支配し、予算によつて政治を左右し得るかのごとき優越感をもつて各省を押え、財源の立場から法律の完全執行を渋り、予算をもつて法律を規制しようとする独善的態度は、この法律案においてまさにきわまれりと言わねばならぬのであります。世に大蔵フアツシヨと言われるゆえんであります。もしこの際国会の権威によつてこれを改めない限り、行政優位、国会軽視、官僚独善の弊をますます増長させるでありましよう。
さらに私が指摘したいことは、現に政府が法律に違反している事実であります。今回の臨時特例によつて削除される日本国有鉄道法の国庫負担規定は、国庫は国家公務員共済組合の事務に要する費用の全額を負担する義務があり、その費用は毎年度予算をもつて定める旨を付記しており、何ら疑義をはさむところがない明文であります。しかるに、ここ数年、運輸省の要求にかかわらず、一銭の予算も計上いたしておりません。今の大蔵官僚の態度から推して、このような違法行為は、調べれば調べるほど、最近の疑獄と同様に出て参るでありましよう。予算を定めることが本体である——ただいまも委員長の報告がありましたが、そのような答弁をする佐藤法制局長官のその答えは牽強附会もはなはだしく、いやしくも一国の法制を預かる長官が三百代言式の言辞を弄することはもつてのほかであります。ここに法律違反が指摘されました以上、少くとも二十八年度分についてはすみやかに第四次補正予算を提出すべきことを強く要求するものであります。さらに、委員会において、各法律中国庫負担が明記されながら地方財政平衡交付金に盛つているといわれるものが、厚生省関係だけで五件指摘されたのであります。平衡交付金が法的な拘束力なく、また交付金によつて単独法による国庫負担の目的を達することは、地方財政の現状においてはとうてい望み得ないところであります。しかるに、単独法を改正することなく、また交付金に法的措置を講ずることなく押し通そうとしていることは、法律を軽んずる行政の専横と言わねばならぬのであります。従つて、このような乱脈きわまる法の秩序をさらに混乱せしむるようなこの法律案はとうてい許しがたいところであります。吉田政府は、緊縮予算によつて、理不尽にも、その致百件に及び、六十四億円に上る各種補助金を軒並に切り落し、その大部分を赤字にあえぐ地方財政に押しつけております。しかも、この法律案による節約額は、競輪等の国庫納付金二十二億五千万円、さらに保守三党協定の分を除けばわずか六億六千万円にすぎないのであります。それにもかかわらず、抵抗力の弱い母子福祉等の社会保障費、社会教育費や入学児童に贈る教科書、農業改良並びに漁業振興費あるいは勤労大衆の住宅建設等に大なたを振つていることは、何という血も涙もない政府ではありませんか。これが再軍備のしわ寄せであることは申すまでもありません。しかし、無慈悲にも、せつかくの若芽をつみとり、種をおろしたまま踏みつぶす政府のやり方、自由党の公約いずこにありやと言いたいのであります。おそらく、与党の諸君も義憤を感じ、内心本案の流産を願つておられることと思うのであります。一方では、法律を平然と無視して、国庫負担はびた一文も交付せず、他方では、法律があるからと称して造船利子補給を強行する政府の態度は、常軌を逸して、私どもの常識では考えられないのであります。(拍手)
このような本案に対し、日本社会党は断固反対し、国庫納付金三件及び問題の造船利子補給を除く補助金等は一切現在の通りとする根本的修正案を提出した次第であります。私は、この際特に保守党の諸君の良識に訴えあげて社会党の修正案に賛成せられんことを強く要望して、趣旨弁明を終る次第であります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/11
-
012・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 討論の通告があります。これを許します。杉山元治郎君。
〔杉山元治郎君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/12
-
013・杉山元治郎
○杉山元治郎君 私は、ただいま上程になりました補助金等の臨時特例等に関する法律案に対しまして、両派社会党の修正案に賛成し、自由党、改進党両派の修正案並びにこれを除く原案に反対の意思を表明するものであります。(拍手)本法律案は、御承知のように、文部、厚生、農林、通産、運輸、建設の六省関係の二十三箇の補助を停止しあるいは削減せんとするもので、かつて唯一の立法機関たる国会が慎重審議決定いたしましたものを、わずかの年月、あるいは一年たつかたたないうちに、行政府たる内閣が一括して変更せんとするがごときは、民主主義の立場より見るも非常なる暴挙と言わねばなりません。(拍手)
第一に、憲法の各条は、法典の一条として法規範であることを知らねばなりません。しからば、現行憲法第四十一条には「国会は、国憲の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」と明記されておりますが、立法作用とは、御承知のように、立案、提案、審議、討論、表決、公布等の立法過程をさすものであつて、国会が唯一の立法機関である限り、これらの立法作用のすべてを持つておるはずであります。しかるに、国の他の機関が大幅にこれに関与することは、憲法第四十一条に対しまする侵犯であり、明らかに違憲であると申さねばなりません。(拍手)法制局の人々の説明によりますれば、内閣が法律を立案し提案したとしても、最終決定は国会がやるのであるから、国会が唯一の立法機関たることにいささかも抵触するものでないと申しまするが、原案というものは法律作成のうちで大きな役割を持つものであつて、でき上りました法律を見まするならば、原案の気配並びにそのかおりというものが高く残つておることを見まするならば、私どもは原案が非常に重い役割を持つておることを知るのであります。だから、国の他の機関が立案し提案することは、国会が唯一の立法機関たる職能に非常な制約を与えるもので、厳密な意味において違憲であると断ぜねばなりません。(拍手)しかるに、すでに国会において議員自身が立案し、提案し、審議決定した、すなわち議員立法である補助に関する多くの法律を、内閣が独断にも蹂躪するがごとき本法律案を提出することは憲法違反でありまするから、われわれは断々固として反対するものであります。(拍手)
第二に、従来国会におきまして法律を改廃いたしまする場合は、それぞれの法律一つずつを改廃して来たのが慣習であると言うべきでありましよう。しかるに、本法案のごとく二十三個の法律を一括して改廃せんとするがごときは、異例でありますとともに独裁的なやり方で、左右全体主義政治のあり方に相通ずるものであつて、吉田内閣のフアツシヨ的露呈であると申さねばなりません。(拍手)
第三に、予算と法律との関係であります。財政処理は内閣にありまするが、国会はそれを監督する上位の機関でありまして、国会の意思に反して財政処理をしてはならないのであります。ところが、吉田内閣が今回一兆円という予算のわくを定め、その結果国の補助金等の減額の必要に迫られ、本法律案の提出になつたと見るべきで、予算は法律に優先しているものであります。これは大いなる誤りで、われわれはどこまでも法律が予算に優先すべきものと考えます。(拍手)だから、もし補助金等に関し減額しようと思いますならば、まず改正法律案を提出し、決定の後予算を組むのが正しい行き方であると考えるのであります。しかるに、吉田内閣は、財政処理のためまず予算をつくり、これに合すべく改正法律案を提出し、上位機関たる国会を奴隷のごとく駆使せんとしているのであります。かくのごときは入場税についても言えることでございまして、もし入場税が否決されるかあるいは審議未了になりまするならば、予算上牧十億円の穴が明き、哀れにも一兆円予算というもののわくが壊滅するでありましよう。われわれは、予算と法律とに関しさか立ちしておりまするやり方に対して賛成することはできないのであります。(拍手)第四に、本法律案の取扱い方は国会法第四十二条にも抵触するものであると考えます。終戦後の国会は常任委員会制になり、二十二の部門におかれ、それぞれ所属する事項を付議することになつておるのは御承知の通りであります。そうして、それらに属しない特定の事件は特別委員会に付託されることになつております。補助金等の臨時特例等に関する法律案の内容を見まするならば、いずれも常任委員会に属するもののみであつて、決して特定のものではないのであります。だから、文部省に関係する補助金等の問題は文部委員会にかけ、厚生省に関係する補助金等の問題は厚生委員会に付託すべきものであつたのであります。しかるに、一括して特別委員会に付託いたしましたことは、国会法第四十二条の規定に違反するものと信ずるのであります。(拍手)
かくのごとく、本法律案は、国民の法規範とすべき憲法に違反するのみならず、また議員の服従しなければならぬ国会法にも抵触するものであります。そのほか、内容についても、私どもは、先ほど修正案説明の井手議員も申しましたように、全体的に容認しないものでございまするが、そのうち、私は時間の関係上二、三の点について反対の根拠を明らかにいたしたいと存ずるのであります。
その一は、本法律案の第一章第六条、すなわち新たに入学する児童に対する教科用図書の給与に関する補助の停止についてであります。少くとも義務教育と呼称いたしまする以上、国家がすべての費用を負担すべきが当然であります。原法律はそこまで要求していない。わずかに小学校、盲学校、聾学校、養護学校等の新入学生に国語、算術等の教科書を給与し、児童に国民としての自覚を与えんとの意図にすぎないのであります。金額にいたしましてわずかに三億八千九百余万円であります。防衛費のために一千三百七十億円を消費し、旧軍人遺家族の恩給のために六百三十八億余円を消費しまする吉田内閣は、第二の国民たる児童の新入学の祝いにかかる少額の金を惜しむのは、まつたく、ことわざに言うところの一文惜しみの百銭知らずの愚人のさたではないかと思うのであります。(拍手)
その二は、第三章第十二条、すなわち農業改良助長に関する補助金についての問題であります。特にその第三項についてでありますが、本法律案の通り従来の三分の二の補助率を二分の一に減ぜんか、財政の貧困をきわめておりまするところの地方団体は、普及員の減少となつて来ることは火を見るよりも明らかであります。食糧の増産と維持確保は国家の至上命令ども解すべきものでありまして、農業改良普及員は日夜このために一生懸命に取組み、昨年のごとき災害の多い凶作時には一名で米約八百石を減産から救い、平年時におきましても二百石も減産を防止しておるといわれておるのであります。かくのごとく、一人の普及員の失われますことによつて米二百石が減産されまするならば、外貨で六百入ドル二十四セント、日本の金にいたしまして約二百二十万円と、約七十万円の価格補給金が必要になります。年間約二十万円で活躍し得る普及員の代償としては、あまりに高過ぎるのであります。農業改良普及事業費はいわゆる食糧増産費とも言うべきものでありまして、他の補助金と同一視すべきものではございません。われわれは、経済の自立、民生安定の立場から、この補助金の削減には絶対的に反対を唱えるものであります。(拍手)
その三は、第三章第十六条、すなわち漁船損害補償法についての問題であります。漁船損害補償法では、昭和二十七年法律第二十八号により、保険につける義務の発生する指定漁船は「一年を通じて六十日以上漁業に従事する総トン数百トン未満一トン以上の動力漁船であつて当該地区内に主たる根拠地を有する漁船をいう。」ということになつており、本法律案の改正によりまして「政令で指定する漁船」となりますが、具体的に申しまするならば、二十トン未満一トン以上の動力漁船となりまして、二十トン以上百トン未満の漁船は対象外に置かれることに相なるのであります。近時沿岸漁業の不漁によりまして遠海へ遠海へと進むまねばならぬ傾向に相なつておりまするときに、この当該漁船はすでに損害保険に加入しているものも多く、またこの法律を見て新造しつつある漁船も多々あるのであります。本法案のごとく、二十トン以上百トン未満の動力漁船に補償を打切られることに相なりまするならば、大なる打撃を与えることに相なるのであります。吉田内閣は、汚職の根源となつておりますところの外航船舶の建造利子補給に対しましては約三十七億円の金を依然として予算に組んでおりますにかかわらず、三億円余りの漁船損害補償を打切るがごときは、実は大産業を保護し、資本主義を保護する政党の性格を露呈するものと存ずるのでありまして、(拍手)私どもは、少くもこういうような小企業あるいは小漁業家のために、断々固としてこれに対しても反対せなければならぬと思うのであります。
なお多くの言うべきことがございまするが、時間の関係もございまするので、以上をもつて私の反対討論を終ることにいたします。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/13
-
014・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これにて討論は終局いたしました。
これより採決に入ります。
まず本案に対する井手以誠君外七名提出の修正案につき採決いたします。井手以誠君外七名提出の修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/14
-
015・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立少数。よつて修正案は否決されました。
次に、本案につき採決いたします。本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/15
-
016・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/16
-
017・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 日程第七、行政機関職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。委員長の報告を求めます。内閣委員長稻村順三君。
〔稻村順三君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/17
-
018・稻村順三
○稻村順三君 ただいま議題となりました行政機関職員定員法の一部を改正する法律案について、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
政府の説明によりますと、でき得る限り行政費を節約するとともに、行政機構を改革し事務を簡素合理化することによつて、国力にふさわしい行政機構となし、事務能率の向上をはかるため、昨年来内閣に臨時行政機構改革本部を設け検討したが、行政機構改革の方は本議会までに成果を得られなかつたので、実情に応じて主として人員だけを大幅に縮減することとし、本案を提出するに至つたというのであります。右の趣旨によりまして、本案は、いわゆる行政事務の簡素合理化なるものによつて、また警察制度の改正等によつて、人員をできるだけ縮減するとともに、昭和二十九年度における事業予定計画に伴う増員は必要最小限度にとどめ、人事院の改組に伴う職員の定員をも合せて、差引約六万人を行政機関職員の定員表から削除しています。しかして、人員整理促進のため臨時待命制度を設け、各官庁の事務実情に応じて整理期間を与えておるのであります。すなわち、一般官庁の職員は十五箇月、調達庁及び文部省、国立学校の職員は三年、厚生省引揚援護庁関係及び警察関係の職員は四年にわたつて整理するのであります。
法案内容の概要を申し上げますならば、第二条第一項の表中、国家地方警察を警察庁、保安庁を防衛庁と改称するほか、人事院を改組して新たに総理府に設けられた国家人事委員会を加えて、行政機関職員の定員合計を六十三万三千四十九人とし、六万一千二百九十八人減としております。
次に、この増減の内訳は、減においては、機構改革らしきものの一つである警察制度の改正、すなわち国家地方警察から都道府県警察への移管に伴う六万百九十六人、政府のいわゆる行政事務の簡素合理化等と言つているものに伴う二万九千百二十九人、在外公館在勤職員の振りかえに伴う十人、施設の廃止等に伴う三十一人、国立病院の地方移譲に伴う三百八十七人、電信電話公社への設備移管に伴う四百八十人等であります。増員においては、外務省の在外公館の新設等に伴う五十六人、大蔵省の入場税の国税移管及びしやし繊維品消費税の新設に伴う千百五十人、文部省の学年進行及び学部学科の新設等に伴う五百七十三人、厚生省の癩療養所及び精神頭部療養所のベツド千二百増設に伴う百六十一人、農林省の民有保安林整備対策に伴う百人、運輸省の海上保安大学校の学年進行に伴う八十人、郵政省の郵便及び電気通信業務量の増加に伴う三千九百九十二人、建設省営繕関係百三十人等、計六千五百七十四人が純然たる増員となつておりますが、このほか警察制度の改正に伴い自治体警察から通信関係職員九百七十二人を警察庁へ振りかえることにいたしております。なお、大蔵省の職員のうち保税倉庫等特殊な場所に派遣せられる税関特派職員につきましては、その特殊性にかんがみ、第二条第一項の表からはずし、その定員は政令で定めることとし、今回の改正においてはその定員を千五百人と予定しております。
附則におきましては、この法律は本年四月一日から施行し、警察庁に関する部分は改正された警察法の施行の日から施行することを定めるのほか、人員整理に関する経過措置、臨時待命制度その他法制局及び会計検査院等における人員整理に関して所要の規定を設けております。
臨時待命制度について申し上げますならば、各行政機関においては、改正後の定員またはこれに基く配置定数を越える員数の職員で配置転換が困難な事情にあるものについては、政令によつて本年六月三十日までの間、警察庁については警察法施行の日から三月を経過する日までの間におきまして、職員に対し、その意に反しまたは申出に基いて臨時待命を命じまたは承認することができることとし、これらに関する手続は国家人事委員会規則で定めることといたしております。臨時待命期間は動統期間に応じて一箇月ないし十箇月とし、臨時待命中の職員は、定員外として職務には従事しないで、国家公務員としての俸給、家族扶養手当及び勤務地手当を支給されるが、その期間は恩給法及び国家公務員等退職手当暫定措置法上実際に職務に従事したものとして取扱われ、期間満了の翌日当然退職することになつております。
以上が本案の大要でありますが、政府は、今回の定員改正によつて、平年度において概算百五十一億円の経費節約が可能であると申しております。本委員会においては、かねてから、行政機構並びに運営について、各行政機関についてしばしば現地出張等により調査研究を進め、政府当局に対して幾回となく質疑を行つて来たところでありますが、去る三月十日本案が付託されましたので、政府の説明を聞き、爾来連日委員会を開いて熱心質疑を重ねるとともに、人事、郵政、電気通信、経済安定及び農林の各委員会ともそれぞれ連合審査会を開くなど、きわめて慎重に審査を行つたのでありますが、ただ労働、通産両委員会の連合審査の申入れに対し、種々なる事情によつて実現し得なかつたことを、きわめて遺憾とするものであります。
なお、その詳細については会議録に譲り、多くの委員が指摘して政府の反省を強く要望したおもなる問題について申し上げますと、一、機構改革の伴わない人員整理はきわめて無理である。二、今回の人員整理案は不徹底な調査に基くずさんな机上案とも言うべく、実情を無視したものである。三、行政事務の簡素合理化または能率の向上をはかるといつても、その具体的方策を何ら示しておらない。四、本案では機構を改革していないので、役所の高級公務員は地位が廃せられない限り当然整理をされないで済むのであるが、その反面、必然的に下級公務員にしわ寄せされている。五、従つて下級公務員に対して労働強化をしいるおそれが大である。しかも、従来の超過勤務手当の支給は実動に対してきわめて少額であつた。六、臨時待命制度は、今回の改正案に基く整理が完了するまで実施するのでなければ、一貫性を欠き不当である。七、人員整理に逆比例して常勤労務者が増加しておる事実は、定員縮減に無理があることを物語つておる。またこれらの常勤労務者の勤務実態に徴して、はたまた法令の適正なる執行上からしても、その待遇を急速に改善すべきである。八、国家財源の確保あるいは国費の節約をはかるためには、公務員を刺激して長期にわたり事務能率を低下せしめる人員整理によるよりは、むしろ徴税機構の整備、徴税技術の向上あるいは国有財産の管理運営等の改善により収入の増加をはかるとともに、自動車、官舎その他備品等主として高級公務員にかかる各経費の節約をはかるべきである、等等でございました。
また、質疑の最後にあたつて、特に辻、高瀬、松前、平井、田中の各委員より、塚田行政管理庁長官に対して概要次のような質問をしたのであります。すなわち、一、昭和三十年度以降における被整理者、特に本人の意思に反し官庁事務の都合で残される者に対して臨時待命を適用しないことは差別的取扱いとなり、法律上も矛盾がある。二、現業官庁及び第一線に整理の重圧がかかつており、業務に支障を生ずる心配があるから、これらの整理については画一的に流れることなく、大臣の誠意と政治的手腕をもつて善処されたい。三、郵政省職員の整理には非常に無理があるから、必ず労働過重となり、サービスの低下することば明らかである。サービスを低下させない範囲では整理を実行することが困難であるという見通しがもし生じた場合には、いかなる処置をとられるか。四、六万人以上の人員整理を実施することによつて、現業関係等における職員の業務負担が過重となり、整理を実施することが実際に困難となつた場合には、物品費あるいは予備金等の運用によつて従業員の整理を最小限度にとどめ、事業運営に支障なからしめられたい。五、郵政業務量の増加に逆比例する人員整理の結果、日曜日における郵便物の集配を廃止するのやむなき事態も発生すると思わないか。もしかかる事態が発生した場合にはいかなる責任をとられるか。以上の質問に対して、塚田長官より、臨時待命については取扱い上公平を失しないように考慮する、また人員整理は見通しの問題であるから、もしはなはだしく労働過重となり、サービスの低下を来すような事態が生ずる場合には、二十九年度内においては予算のわく内そり他許される範囲内で善処するとともに、三十年度予算において増員するなど、できるだけ善処する考えである旨の答弁がなされました。
なお、本案の審査に関しまして、大蔵委員会よりは、大蔵省関係出先機関の定員を確保されたき旨、郵政委員会よりは、郵政業務の著しい増加に対応する定員措置がはなはだ不十分なるをもつて、郵政事業の公共性と特殊性にかんがみ、他の官庁に比して特段なる考慮を払われたき旨、電気通信委員会よりは、電波監理行政の国際的、国内的重要性にかんがみ、むしろ増員を必要とする現況なるがゆえに、全会一致の決議をもつて特別なる配慮を強く要望する旨、また厚生委員会よりは、国立療養所の病床増設に伴う要員を確保するため、整理人員の中から四百人を復活するとともに、四年にわたつて整理される引揚げ援護関係の職員についても臨時待命の制度が適用されるよう修正されたい旨の申入れがそれぞれ文書をもつてなされたのであります。
かくて、三月三十日質疑を終え、討論に入りましたところ、平井委員は、自由党を代表して、行政機構改革を伴わない定員は遺憾であるが、経費を節減し国民の負担軽減をはかることはその要望にこたえるゆえんであるとし、なお現業関係機関における職員の整理については政府において善処ざれたいとの要望を述べて賛成の意見、高瀬委員は、改進党を代表して、本法案は各省の定員に重大なる影響のある予算と並行して提出されなかつたこと、行政機構改革と関連がないこと、重要な使命を有する人事院の改組を明らかにしておらないで、しかもこれを定員法に組み入れたこと、臨時待命制度に一貫性がないことは遺憾であり、特に現業職員に対する整理はサービスを低下せしめるおそれがあり、これについては政府の誠意と責任のある善処方を要望し、緊縮予算に賛成した建前から賛成し、中村梅吉委員は、日本自由党を代表して、本案は行政機構改革を伴わないから整理は画一主義に陥り、従つて各方面で無理の生ずるおそれが多分にあるが、行政整理の必要はこれを認めるものであるから、一応政府の言明を信頼するとし、希望条件付で賛成いたしましたが、ここで三委員ともに、事のいきさつの上からやむを得ず本案に賛成するが、内容については必ずしも心からなる賛意を表していないことを表明している点は注目すべきものであります。(拍手)他方、飛鳥田委員は、日本社会党を代表して、本件は防衛予算の厖大化並びに汚職による国費濫費を人件費にしわ寄せた結果のものである、従つて行政機構の改革も伴わなければ、また行政事務の簡素合理化を呼号するも、その具体的方策を欠いているのみならず、下級公務員のみを整理の対象とし、従つて第一線における公務員に労働強化をしいるものである、現に従来見られなかつたほど多くの各種委員会から、むしろその所管官庁の定員を増加すべしとの申入れのあつたことは、このことを証して余りあるものであるとして反対上、中村高一委員もまた、日本社会党を代表して、本案が行政機構の改革に手をつけず、いたずらに下級公務員に整理のしわ寄せをする結果、労働強化となり、事務は渋滞し、能率は低下するのみで、益するところはさらにないが、かかる定員法をつくつたこと自体行政管理庁並びにその所管大臣の無能を表明するものであると反対の意見を強く表明いたしました。そして、採決の結果、多数をもつて原案の通り可決いたしたのであります。
以上御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/18
-
019・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 討論の通告があります。順次これを許します。飛鳥田一雄君。
〔飛鳥田一雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/19
-
020・飛鳥田一雄
○飛鳥田一雄君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程されました行政機関職員定員法の一部を改正する法律案に対し反対の意を表さんとするものであります。(拍手)
まず第一の理由は、本法案が日本の急速なる軍事体制を確立しようとする吉田政府の行う行政整理だということであります。すなわち、吉田政府は、昨年まで再軍備はいたしません、自衛力は経済の許す範囲でいたしますと、ばかの一つ覚えのように繰返して来たのでありまするが、昨年秋以来アメリカからの防衛軍要請に対し、遂にその口頭禅をなげうたなければならなくなつたのであります。すなわち、池田特使をワシントンに派遣し、MSA交渉を進め、これを事前に何ら国会にはかることなく締結したのでありまするが、あらためて申し上げるまでもなく、MSA協定そのものは、戦力を放棄し平和を誓つた日本国憲法を蹂躪するものであり、再び軍国日本をつくろうとするものでありまして、それは国是の方向転換を意味し、国民の意思を無視し国会を軽視して行うべきものでないことは申し上げるまでもないのであります。防衛力を増強するためには耐乏予算が必要である。耐乏予算、ここに、生活諸物資の騰貴にもかかわらず、公務員の給与引上げを犠牲にし、あまつさえ首切りを行わなければならない根拠が発生して参ります。(拍手)吉田政府の対米イエスマン外交の当然の帰結であります。すなわち、この法案は、かかる米国の安全保障のための一環としての日本軍国主義化の過程に立つものとして観察をすることができるのでありまして、われわれは断じて賛成し得ざることは当然であります。
第二の反対理由といたしまして、われわれ勤労者は今まで常に重税によつて苦しめられて参りました。政府の口にいたします減税は単なる税法上の減税にすぎず、現実には年々国民一人当りの税負担はふえるばかりであります。賃金や所得は物価の上昇に追いつくことができない。今や国民はほんとうに食うや食わずの状態にあります。ところが、この点を何ら顧みることかくして、国民が食うべきものを食わずに納入した税金は、造船疑獄を初めといたしまして、保守党諸君や政府の高官のふところに流れ込んでおるのであります。(拍手)湯水のごとく使われておる現状であります。今や、この現状に対し、国民は、保守と革新とを問わず、はげしい怒りを爆発させております。政府は、この素朴なる国民の要求に対し、定員法を改正して公務員の整理を断行し、これにこたえようとするおつもりなのでありましよう。私たちはこんなにも自粛いたしております、こう主張したいのでありましよう。しかし、それならば、なぜ政府はもつと大きな国民の声に耳をかさないのか。戦争はこめんだ、再軍備は反対だ、こう言つて、ビキ二の死の灰に恐れおののいておる国民の声に全然耳をかさない。歳出予算額の四分の一にも当る費用を防衛関係費として計上して、国民生活の向上に資する経費を実質的には何ら計上して行かないのであります。それはなぜでありましよう。その上、これはあとで詳しく申し述べるつもりでありまするが、今回の定員法の改正は、一口に申し上げれば、下級公務員のみの整理であり、第一線官吏の労働強化になるのであります。自己の浪費、自己の失政を再び労働者に転嫁し、もつて一般善良なる国民を欺瞞せんとするものでありまして、結局するところ、かかる吉田政府の行政整理こそ、化けそこねたたぬきとまつたく同様であります。(拍手)
今その一つの証拠をあげてみましよう。すなわち行政整理を真に誠実に行わんと欲しまするならば、それは必ず徹底した行政機構改革を伴わなければならないことは、いまさら申し上げる主でもないところでございます。このことは、本案審議の過程において、保守党の委員諸君すらもが十分主張をせられたところでありまして、あらためて論証を必要としないところであります。官僚のセクト主義、なわ張り主義、封建主義がいたずらに行政機構を厖大化させている事実、これは吉田さんといえども先刻御承知のはずであります。政府がもし日本国民の真の公僕としての心構えで行政に携わつておられるとするならば、なぜこの根元にメスを加えようとしないか。なすべきことはたくさんあります。なぜ各省の機構を再検討し、局部課の整理をしないのか。複雑化する法令を整理して認可、許可事項を簡素にしないのか。なぜ行政事務が二省以上にわたるものを再検討しないのか。なぜ事務の重複を避けないのか。われわれはこれを問わなければならないのであります。それとも、吉田内閣は、自己のいすを保持し、自分の子分のために局部課長のいすが多い方が便利だと言われるのでありましようか。(拍手)すなわち、今回の行政整理が行政機構の改革を伴わないところに、この整理が真に国民の素朴な要求に沿つたものでないところの証拠があるのであります。化けそこねたたぬきのしつぽは、ここに歴然と現われています。(拍手)われわれの断じて賛成し得ないところであります。
第三の点といたしまして、私たちは本法案の内容を検討してみなければならないのであります。本整理によつて最も出血の多いものの一つは郵政省であります。すなわち、同省の定員は昭和二十八年度において二十五万五千二百五十五名、それが本法案によりますると二十五万二千百十一名、差出三千百四十四名の減員となつているのでありまするが、これに反して事務量は、内国引受の第一種郵便物だけを例にとつてみましても、昨年度の増加は四千三百六十三万四千通の増加と相なつているのであります。また東京中央郵便局は定員数約二千五百人、常時雇上げの非常勤職員約百名で業務を遂行いたしておりまするが、郵便物は昭和二十六年度から昭和二十八年度までに約五割の増加を来しているのであります。一方、定員の面はと申し上げれば、すでに数百名を減らされている始末であります。その上にまた本整理法が現われまするならば、一体これで事務の処理が完全に行えるというのでありましようか。郵便配達員は午前七時半に出勤し、自己の受持ち区域を配達完了して帰局するのは普通午後五時半から七時ごろに相なつているのであります。何と驚くなかれ、一日平均九時間ないし十一時間の勤務を行つている。それも一日だけではないのであります。毎日々々繰返しそのような勤務をいたしておるのであります。このような状態の上に、さらに本法案が通過いたしまするならば、一体いかなる事態が発生するでありましようか。郵便物の日曜配達停止、こういつたことは当然起るべくして起つて来るのであります。国民の声にこたえようとするはずの本法案が、国民に対するサービスの低下となつて現われて参ります。
また、大蔵省財務局の例を見てみましよう。同局の整理人員は五百七十五名に相なつております。ところが、この財務局の事務はどうなつておるか。驚くなかれ、同局はいまだに、税として物納せられました財産約四万件のうち約半分しか整理し終つていないのであります。税として物納された財産は国家のものであります。一刻も早く処分して、これを有効に使用すべきことは、国家の義務であります。当然定員をふやしてこれを処理しなければならないにも心かわらず、ここで五百何十名の減員となるのであります。さらに、国税庁の減員を見て参りますと一千九百五十二名の減と相なつております。このことについては、私がいまさら喋々と申し上げるまでもありますまい。納得の行く納税どころか、ますます国民の意思に反した押しつけ税金となりますことば火を見るより明らかであります。(拍手)以上、私は数例をあげたにすぎないのでありますが、この事態を直視せられました各委員会は、内閣委員会に対して、ただいま委員長御報告の通り、いろいろの申入れをせられて参つたのであります。大蔵郵政、電通、厚生、これらの諸委員会の各委員は、全会一致で、この定員法に反対する申入れをして来られたのであります。全会一致と申しますれば、当然各委員会の中におられる保守党の皆様方を含むのであります。(拍手)委員会における意思表示、一委員会から他委員会に対する申入れ、これは当然公式の意思表示であります。この公式の意思表示において本法案に反対をせられる自由党、改進党の委員諸君、内閣委員会において本法案に賛成をせられる自由党、改進党の諸君、いずれを真なりと見なければならないのか、私たちは迷わざるを得ないのであります。自由党、改進党の中においてこのような分裂が現われて参りますことは当然であります。事実を直視せらるる限りにおいては、いかなる方々といえども、本法案に反対をせざるを得ない結果になるのであります。(拍手)私たちは、このような意味においても、この法案に賛成をすることのできないことは当然であります。
次に、第四点の理由といたしまして、本法案が行政職員の労働強化をもたらすものであることを指摘しないわけには参りません。すなわち、各行政機関の事務量の増加は、何人も争うことのできない事実であります。さすがに政府もこの事実を認めておられるのでありまして、答弁において、事務の簡素化、合理化によつて能率を上げると説明せざるを得なかつたのであります。しかし、簡素化、合理化というものにも限度があります。先ほど申し上げましたように、機構改革を伴わない簡素化、合理化ということは、一体何を意味するのでありましようか。帰するところは、労働者の労働強化、あるいは定員を定時的に配置される非常勤労務者に振りかえること以外には意味はないはずであります。現に、委員会においても、自由党の一委員から、事務の簡素化、合理化の具体策を示しなさい、こういう質問に対し、政府は何ら答うるところを知らなかつたという事実がこのことを示しております。その他、郵政省職員の年次休暇保有日数がすでに四十数日に及んでいるという事実も、これを端的に示しているものであります。結核罹病率の増加その他をあげて参りますならば、本法案が労働強化をもたらすものであることは明白であります。むしろこの際定員を増加することこそかえつて賢明な策ではないか、このように私たちは言わざるを得ないのであります。
汚職に流れる金、再軍備に使われる金、それらは、今こそ国民に対するサービスに使うべきでありましよう。(拍手)また、公務員と何らかわらない仕事に従事しながら、何ら公務員としての恩典に浴しない非常勤労務者の定員化に使わるべきことは当然であります。定期的に配置される非常勤という複雑怪奇なる言葉、しかもそれらの非常勤労務者に対する支払いが物件費や需品費というようなところから支払われている、こういう非人間的な制度こそ、一刻も早く解消せられるべきものであるにもかかわらず、今回の改正法は、逆にかかる旧時代的な官僚機構を強化し、労働者の非人間的な搾取を内容といたしておるのであります。何で私たちが、このような、表に国民の素朴な声にこたえているかのごとく装いつつ、実は逆に官僚機構を強め、フアツシヨ化への道を驀進する本法案に賛成することができるでありましようか。
以上、私は数点のきわめて基本的な理由をあげて反対の理由を開陳いたしたものでありまするが、これを要するに、本法案の真の目的とするところは、日本の再軍備を強行的に推し進め、伝統ある日本民族を対米隷属に陥らしめんとするための、ほんのわずか国民の声に阿片的にこたえようとするもの、すなわち、日本国民を愚弄することはなはだしいものがあると言わなければならない、こう思うのであります。このようなことは、やがて日本国民の厳正なる批判の前に立たされるであろう、このようなことを私は予言をいたしまして討論を終る次第でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/20
-
021・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 池田禎治君。
〔池田禎治君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/21
-
022・池田禎治
○池田禎治君 私は、ただいま議題となりました行政機関職員定員法の一部を改正する法律案につき、日本社会党を代表いたしまして反対の討論を試みんとするものでございます。審議の内容につき、自由党、改進党の諸君といえども、この法案に大なる欠陥があるとしておることは、すでに委員長報告におきましてこれを詳細に述べられ、かつまた飛鳥田君よりも、保守三党の諸君もこの法案の矛盾を大いに感じている旨を述べられたのでありまするから、私は、それらの点の重複するところを避けて、以下簡単に、反対の意見を数点にわたつて開陳せん上するものでございます。
今日の行政機構は、確かに、明治時代からの伝統的機構と、アメリカ占領治下において示唆されたるアメリカ式機構との混合であつて、必ずしもわが国情に適したものとは言えないことは、言うまでもないところであります。もちろん、わが党としては、行政機構は、根本的に、かつ科学的に、また能率的に総合して改革をしなければならないと考えておるのであります。
しかしながら、今回政府の提案したる定員法の改正は、端的に申しまするならば六万数千名の公務員の首切り案でありまして、当然その前提となるべき行政機構の合理的改正を企てることなく、あらかじめ天引きの数字をきめて、各省庁に提出数字を割当てて首切り整理を企図するものでありまして、その結果、数字だけを合せようとするために、整理は企画官庁に少く、現業官庁に多い、高級官吏が非常に少い、きわめて末端の官吏に非常に多い、こういうしわ寄せと犠牲をしいているものでありまして、もつと端的に言いますれば、弱い者いじめというものであります。(拍手)あたかも、それは、わずかの税金を滞納すると、税務官吏は情容赦なく家のなべ、かまを競売にしてでも取上げるけれども、数億、数千億の国費を投入した造船関係の利子は一文も払わなくても、国法はこれを許しているのであります。(拍手)これは保守政党政府の本性を遺憾なく暴露しているものでありまして、われわれのとうてい賛成することのできない第一点でございます。(拍手)
本来、各省設置法の改正案を先に提出して、その審議をまつて、しかる後定員数を自然に伸縮すべきものでありますのに、政府は、最初行政機構の大規模なる改革を呼号しながら、それがあらゆる反対におうて容易にできないということを知るや一行政機構の合理的改革は、忘れたような顔をしてしまつて、これをたな上げをしまして、何ら合理的根拠のない大量首切り案だけを出して来たのであります。これは無責任もはなはだしいものと言わなければなりません。(拍手)
現に、大蔵省においても最も労働量の多い税務関係に整理をしわ寄せし、厚生省におきましては、厚生行政における中心勢力ともいうべき医官、技官等の整理に重点を置き、農林関係においても、生産の第一線を指導する方面の整理にのみ専念しているのであります。いわゆる抵抗の弱いところに整理を集中してしまつた。これは、きわめて非人道的な、残酷な政治の現われと言わなければならないのであります、(拍手)政府は、口を開けば、人口に比例して公務員が多過ぎると言うのでありますが、統計数字の示すところだけならば、われわれもそれは認めるにやぶさかではありません。しかし、今日の不況下において失業者を生ぜしめるということは、完全なる失業対策が伴わない限り、政治と言うべきものではないと信ずるのであります。かの待命制度というがごときものをもつてこれを糊塗せんとするがごときは、ただ被整理者の寿命を半年、一年延ばすというだけの意味しかないのでありまして、それは二階から目薬というたとえがありますが、富士山の上からコツプの水を一ぱい投げるようなものでありまして、地上に参つたときには、これは霧になつて、何らの効果を示しておらないと言わなければなりません。(拍手)われわれはこれに対して修正案を提出せんとしたのでありまするが、修正するとするならば、あまりにも修正点か限りなくあるのであります。これは根本からかえてしまわなければならないのであります。のみならず、自由党、改進党の同調を得がたいことも明らかになりましたので、しばらくこれを見合せたのであります。他日を期して根本的改革案を提案せんとするものでありまするが、この法案の陰に私どもが看過してならないことは、各省におきましても、非常勤という名前のもとに、隠されたる多くの人員を扱つていることであります。たとえば、郵政省におきましては、七千名の非常勤が、これを需品費、物件費としてひそかに扱われておるのであります。農林省におきましても、大蔵省におきましても、明らかに隠されたるものがあるのであります。これらはすべて品物として扱われ、一人前の人間としてでなく、一人前の公務員としてでない処遇を受けて何らはばからざるところの制度がわが国に行われているということは、これは断じて許すべからざるところでありまして、断固わが党はこの法案に反対を表明するものでございます。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/22
-
023・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これにて討論は終局いたしました。
採決いたします。本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/23
-
024・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/24
-
025・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 日程第一、日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定の批准について承認を求めるの件、日程第二、農産物の購入に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件、日程第三、経済的措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件、日程第四、投資の保証に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件、右四件を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。外務委員長上塚司君。
〔「総理を呼べ」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/25
-
026・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 副総理には出席されるよう要求いたしております。
〔上塚司君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/26
-
027・上塚司
○上塚司君 ただいま議題となりました日米相互防衛援助協定、農産物の購入に関する協定、経済的措置に関する協定及び投資の保証に関する協定の批准または締結について承認を求めるの件につきまして、外務委員会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。
右四件は三月十一日内閣から国会に提出され、同日本会議において岡崎外務大臣から提案理由の説明が行われ、ただちに本委員会に付託されましたので、翌十二日から三十日まで十六回にわたり、日曜を除き連日午前午後外務委員会を開き、最も慎重に審議を重ねました。この間外務、内閣、農林、通産委員会連合審査会を開き、また二日にわたり公聴会を催し、広く憲法、国際法学者、産業家、評論家、婦人等の代表者等から忌憚なき意見を聴取いたしました。まず四協定の交渉経過並びに内容について政府当局から詳細なる説明が行われました。
初めに、日米相互防衛援助協定につきまして御説明申し上げます。政府は昨年六月米国議会において成立いたしました相互安全保障法、すなわちMSAの改正法によりまして、すでに西欧その他の多数国に供与されて来た防衛援助がわが国にもひとしく供与され得ることが明らかとなりましたので、わが自衛力漸増の既定方針に従い、保安隊や海上警備隊を増強すべき装備その他の援助を同法に基き受けることを希望いたしましたが、わが国の特殊事情、すなわち戦力の保持を禁ずるわが憲法との関係において、またわが国経済力との関係において、十分に米国政府の意向を前もつて確かめておくことを適当と考え、米国政府の意向をただしました結果、昨年六月の日米往復書簡において双方の意見は大筋において一致することが明瞭となりました。よつて七月十五日交渉が開始されまして、約八箇月にわたる交渉の結果、両国政府間で最後的に意見の一致を見るに至り、本年三月八日に東京においてこの相互防衛援助協定の署名を了した次第であります。
この協定は前文、本文十一箇条及び附属書七項からなつており、さらに援助された装備の返還に関するとりきめがこれに付属しており、その内容は、おおむね米国が英仏その他の諸国との間に締結しております同種の協定とほぼ同様でありますが、ただわが国の特殊事情にかんがみ、諸外国の先例に見られない特異な規定、すなわち、わが国が条約上負つておる軍事的義務が日米安全保障条約に基く義務以外にないこと、協定の実施が憲法上の規定に従うべきこと、わが国の防衛力の増大にとつて経済の安定が欠くべからざる要素であること等の規定が設けられております。時間節約のため、その内容を事項別にあげますれば、一、援助の供与及びこれに関連する免税その他の措置、二、わが国生産物の譲渡、三、秘密の保持及び弘報活動、四、産業上の技術的情報の交換、五、軍事顧問団及び行政事務費、六、MSA第五百十一条(a)項のいわゆる六条件、七、憲法及び日米安全保障条約との関係等であります。次に、米国相互安全保障法第五百五十条に基く余剰農産物の円貨による購入及びその円貨の使用につきましては、農産物の購入に関する協定及び経済的措置に関する協定の二つの協定が作成され、三月八日東京においてこれが署名を了しました。前者は前文と七箇条、後者は前文と五箇条からなつております。この二協定締結の結果、農産物の購入代金たる五千万ドルに相当する円貨のうち、二〇%すなわち一千万ドル相当分は、わが国の工業の援助のため及び経済力の増強に資する他の目的のため贈与としてわが国に供与され、残余の四千万ドル相当分は米国の軍事援助計画に基くわが国における域外買付のために使用されることとなり、これは防衛産業の強化とわが国経済の発展に役立つものであります。購入すべき農産物としては、さしあたり小麦五十万トン、大麦十万トンを予定しておりますが、これは外貨を使用せず円で購入し得る点、並びにその価格が国際小麦協定の価格と同様の廉価なる点において、わが国食糧事情の緩和に寄与するものと考えられます。
最後に、投資保証協定は同じく三月八日東京において署名を了しましたが、その内容は前文と三箇条からなつており、わが国の外貨事情等により米国民間投資の元本及び収益のドル交換が不可能となつた場合、並びに当該投資財産が国内で収用された場合に、米国政府は投資家にドルによる補償を与えると同時に、その債権を継承することを定めております。これは民間投資者が米国政府の保証により安心してわが国に資本を投下し得る道を開かんとするものであります。
これを要するに、今回署名せられました相互安全保障関係の四協定は、わが国の防衛力の増強とわが国の産業の助長発展に資することを目標とするものでありまして、これがわが国の自立自衛の達成に貢献し、またこれにより日米両国の協力を一層強固にいたし、ひいては自由諸国の安全保障と世界平和の維持に寄与せんとするものであるとのことでありました。
続いて、外務委員と緒方国務大臣、岡崎外務大臣、木村国務大臣及び政府委員との間に活発なる質疑応答が行われましたが、その詳細は会議録に譲ることとし、そのうち最も注目すべきものをあげますれば、まずこの協定第八条には、いわゆる軍事的義務の履行を定めておるが、憲法第九条において戦力の保持を禁止しておるわが国としては憲法違反ではないかどの委員の質疑に対しましては、いわゆる軍事的義務と申すのは、米国相互安全保障法第五百十一条(a)項に掲げられておる援助を受け得る国の資格六条件の一つでありまして、いずれの国との協定にもこの六条件を列挙しており、特にわが国の場合は、日米安全保障条約に基く義務にほかならぬことを明文に明確にいたしております。すなわち安保条約に基く義務とは、米国陸海空軍の駐留を認めること、日本の基地を無断で第三国に許与しないこととの二つであります。またこの六条件のうちには、憲法との関連においてとかくの議論をされる向きもあるので、念のため協定第九条において、この協定の実施が日米両国それぞれの憲法の条章に従つて行われる旨を規定し、解釈上疑義の余地なきを崩しました。さらに日本国憲法は、わが国が自衛力を持つことを否定していたいことは明らかでありますが、憲法第九条では「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と規定しており、このいわゆる戦力をいかに解するかが問題でありまして、政府としては、戦力とは近代戦を有効に遂行し得る総合実力組織であると解し、従つて現在の保安隊、海上警備隊はいわゆる戦力には達しないものであるとの政府側の答弁がありました。
また、この協定によつて海外派兵の義務ないし可能性を生ずるのではないかとの委員の質疑に対しましては、海外派兵のごときはMSA援助とは何ら関係のないことで、もつばらわが国が独自に決定すべき問題であるが、この点についても国内で懸念する向きもあるので、昨年六月末交渉に入るに先だち交換された公文においても十分にこの点を確かめ、さらに署名の際の両国代表者間のあいさつにおいても、この協定はいかなる意味でも海外派遣を含むものではないとの趣旨を述べた次第である。そもそも海外派兵のような重要な問題は、協定のうちに義務として明文を設けぬ限り、絶対に考えられぬことである。また自衛権の発動として海外へ兵を出すということは、理論的にはあり得るかもしれぬが、自衛権には大きな制約がある。すなわち、第一に急迫した危害が国家に加えられること、第二に必要な限度を越えないこと、第三には危害を除去するに他にとるべき手段がないことが絶対に必要であり、実際問題としてはほとんど起り得ないことであろうとの政府側の答弁がありました。
また、MSA協定による援助物資の数量についての委員の質疑に対しましては、援助物資の数量は協定成立の上両国間の交渉で決定されることで明確ではないが、陸上関係においては、二管区分の武器その他の装備品、海上関係において駆逐艦等を含めて十七隻、航空関係において練習機を主とし約百十三機ばかりで、金額に見積つて合計五百五十億円、すなわち約一億五千万ドルに上るであろうとの政府側の答弁がありました。
また、顧問団の人数、任務、経費その他顧問団が内政に干渉するおそれなきやとの委員の質疑に対しましては、顧問団の人数は大体六百五十人くらいの予定で、今年末までに半減するくらいまでにいたしたい。またその構成員は、主として援助計画の実施等に当る者で、多くは技術の指導者等であり、また日本政府の負担すべき行政事務費は、必要の最小限度に制限することに合意ができ、昭和二十九年度において金銭以外のものによる負担を考慮に入れて三億五千七百三十万円を越えないことになつておる。顧問団が内政干渉をするがごときことは、英仏等の例を見ても、またその本来の任務からいつても、まつたくあり得ないとの政府側の答弁がありました。
また、平和を脅威する国との貿易の統制につき、今後中共、ソ連等の諸国との貿易がこの協定により圧迫あるいは縮小されるようなことはないかとの委員の質疑に対しましては、米国と他の国とのMSA協定では、本文にこれをあげておる先例にかんがみ、かつわが国の国連協力の方針に照し、これを約束してさしつかえないと認めたが、さきに衆議院の決議もあり、本文から落して附属書Dにおいて、わが国は米国その他の平和愛好国とこの目的のため協力する趣旨を掲げるにとどめたその政府側の答弁がありました。
また、MSA関係協定に伴うわが国に対する経済的利益いかんとの委員の質疑に対しましては、日本はその自立のためには防衛力の漸増はやらなければならぬ、よし米国の援助がないとしても、独力でもやらなければならぬ、その場合兵器等に対する費用が当然必要であるから、この面の経済的利益は相当である。さらに完成兵器の受注、すなわち域外買付では、米国の会計年度中、すなわち本年六月末日までに合計一億ドルの発注が期待される。その他小麦の購入では、日本の食糧事情緩和に寄与するばかりでなく、円貨で決済できること、また一千万ドル、すなわち三十六億円の贈与があり、これは日本の産業の振興に役立つことはもちろんであるとの政府側の答弁がありました。また、農産物購入から生れる円貨の使用によつて、従来のドル買付が減るような結果にならないかとの委員の質疑に対しましては、大体さようには考えられぬ、すなわち、四千万ドル相当分だけ域外買付は加えられると思われる、これは米当局が発表した数字によつてほぼ推定ができるとの政府側の答弁がありました。質疑終了の後、討論に入りましたが、日本社会党細迫兼光君及び日本社会党河野密君がらそれぞれ反対の意見陳述があり、また自由党富田健治君及び改進党喜多壯一郎君からそれぞれ賛成の意見が述べられました。続いて採決の結果、相互防衛援助協定外三協定は多数をもつてこれを承認すべきものと議決いたした次第であります。右御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/27
-
028・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これより討論に入ります。穗積七郎君。
〔穗積七郎君登壇〕
〔「副総理はどうした」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/28
-
029・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 副総理は参議院に出席されるため退席されました。——穂積君。討論をお進めください。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/29
-
030・穗積七郎
○穗積七郎君 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題となりましたいわゆるMSA関係諸協定に対して強い反対の意思を表明せんとするものであります。(拍手)私は、まず協定の内容検討から始めますが、何よりもまつ先に指摘いたしたいことは、この協定が明らかに憲法に違反していることでございます。(拍手)この協定条文第九条二項において、この協定はそれぞれ自国の憲法の規定に従つて実施するなどと、まつたく子供だましのような文句をアメリカ側とはからつて挿入し、これでもつて政府は本協定は違憲にあらずと言い張つていますが、頭隠してしり隠さず、本協定によつて、衣の下のよろいは遂にまる出しとなつたのでございます。(拍手)MSA本法そのものが被援助国の武力強化を目的としているものである以上、これがわが平和憲法と法の根本精神においてまつ正面から対立するものであることは言うまでもないのでありますが、この協定に伴つて、いかなることが具体化されようとしているでありましようか。MSA本法第五百五十一条を受けて、本協定第八条の義務規定の中において、遂にミリタリー・オブリゲーシヨン、すなわちもろもろの軍事的義務という言葉が初めて飛び出して参りました。進んで日本は、自国の防衛力のみならず、自由世界の防衛力の発展と維持のために、人力資源、施設及び一般的経済条件の許す限り、フル・コントリビユーシヨン、つまり全面的寄与をしなければならないという、まず兵力増強の義務を負つておるのであります。(拍手)このために、政府が従来言い張つておりました、MSA協定を受け、保安隊は増強しません、軍事予算はふやしませんという言葉は、一ぺんにふつ飛んでしまつて、これを急増しなくてはならなくなつたではありませんか。
そればかりではありません。政府は、ふやした部隊を自衛隊という軍隊に切りかえて、みずから防衛の義務まで負うことになり、ここにわが国の防衛隊はいよいよ外国の軍隊と戦争をすることを宣言することになつたのであります。(拍手)この第八条におきまして、防衛力という言葉は、米側の文章にはデイフエンシヴ・ストレングス、またはデイフエンシヴ・アームド・ストレングスと使つてありまして、これは国際法上の通念によれば軍隊でなくて何でございましようか。(拍手)わが憲法の命ずる平和、中立の精神は、一体いずこにございましようか。
さらに恐るべき問題は、このまぎれもなき軍隊が海外派兵の危険を蔵して来たことでございます。去る三月八日、本協定調印の直後、岡崎外務大臣は、さすが気がさしたと見えて、この協定によつて海外派兵の義務は生じないとあいさつをされましたが、このあいさつなどは何ら法的効力を持つものではなく、また、この一片の言葉で国民をごまかそうとしても、ごまかせるものではありません。(拍手)アメリカ側が交渉以来強調し、本協定前文にも明記されておりますのは、集団的自衛権の強化の言葉でございます。先ほどの八条四項のマンパワーをもつて寄与すべき義務のほかに、同条二項には「国際緊張の原因を除去するため相互間で合意することがある措置を執ること」の義務規定がございますが、この義務概定は、行政協定第二十四条の共同措置を協議するの義務規定とともに、われわれはここに見のがすわけには参りません。アメリカは、われわれが再三指摘したように、これらの規定を手がかりといたしまして、やがて太平洋軍事同盟にまで持つて行き、アジア人にはアジア人をもつて戦わせる方針であることはすでに明瞭でありますが、このMSA協定のみをもつてしても、すでに次のごとき危険が増大しつつあるのであります。
政府は、海外派兵の義務規定なき限り、外地派兵をなすかどうかはみずから決定すべきことであると、そのみずからの自主性を主張しておりますが、そのみずからの決定とはいかなる範囲に及ぶかと問うならば、委員会における質疑を通じましても、すでに次のごとき驚くべき解釈と方針を持つておるのであります。第一には、緊急不正の攻撃があり、やむを得ざる場合には、わが国の自衛隊等が外国領域にまで戦闘行為を及ぼすことは憲法に違反せざること、第二に、国連軍または米軍の指揮下に、自衛隊が後方勤務に服してもさしつかえなきこと、第三に、日本の自衛隊員が今日隊を脱隊いたしまして、明日国連軍または米軍の義勇兵となつて外地におもむき、そこで部隊編成をして第一線の戦闘行為を行うこと、これまた違憲にあらずというのであります。これらことごとくが、すでに実質的な海外派兵ではありませんでしようか。(拍手)われわれは、これをしも現憲法、すなわち前文において恒久の平和を念願し、第九条において自衛権の手段としての軍隊と、その方法としての交戦権をみずから放棄いたしましたこの憲法に反しないとあえて言うならば、政府の方針は、憲法条文の拡大解釈の域をはかるに越えた、憲法の本質を無視して、これをみずから蹂躪せんとするものであります。(拍手)
このたびの交渉の後、米側の諸君はシヤンペンを抜いて、してやつたりと、ほくそえんだと伝えられておりますが、さもあり得ることでございましよう。しかし、いかにアメリカの権力をもつてしても、また、いかなる多数をもつていたしましても、現に平和憲法の厳存している事実は、これを無視することはできません。アメリカの武力政策のもとに民族の運命を危うくするかかる軍事的協定が、白昼堂々と憲法を無視して行われようとしておるところに、われわれはとどめがたき憤りを感ずるのであります。(拍手)多数決の粉飾をもつて、男を女といろがごときことをあえてせんとするならば、もはや法治主義を否定する多数の暴力と言わなければなりません。(拍手)法律を無視する暴力革命を挑発するものまた吉田内閣自身と言わねばならぬのでございます。(拍手)私はここに政府に向つて猛省を促し、今からでもおそくはない、この違憲の協定を撤回されんことを要求するものでございます。(拍手)
次に、本協定に伴ういわゆる経済的ごりやくなるものの正体についてであります。政府は、初め、本協定によつて無上の経済的援助があり、行き詰まりつつあるわが国の財政、経済並びに国民生活に大いなるごりやくがあると宣伝して参りましたが、遂に経済援助は無一物であることが明瞭となりました。(拍手)MSAの援助は武器援助にすぎません。そこで、政府は、農産物の購入協定と投資保証協定のほかに、ことさらに経済措置に関する協定という、その名は経済援助協定ではなくて、援助という字が抜けていることははなはだお気の毒でありますが、このような、まやかしの協定を一本結んで、これで国民に向つて経済的援助があるかのごとき錯覚を起さしめようとし、またアメリカに対しては、これを手がかりとして、あわよくば将来経済援助を受ける呼び水のチヤネルにしようという、さもしい根性を持つているようでありますが、これら諸協定は、あけてびつくり玉手箱でありまして、中から出て来るものは、セコハンの小麦の買付協定以外には何ものもないのであります。(拍手)
その一枚看板のいわゆる小麦協定の中身は一体何でありましようか。アメリカのあり余つた中古の小麦を、しかも国際協定の最高価格で五十万トン、カナダ相場一トン当り六十ドルよりは約二〇%方高い大麦を十万トン買うという話にすぎないのであります。(拍手)この円貨をもつて買いつけ得る過剰農産物の買付に伴つて、うち一千万ドルは供与となり、あと四千万ドルの分は域外買付への追加分となります。この経済的こりやくはないとは言えません。しかしながら、ドル貨による域外買付の六千万ドルの額が、この小麦代金四千万ドルを見込んで決定されたとするならば、外貨獲得においては何らプラスになつていない勘定となるのであります。(拍手)また、ドル貨によりまする六千万ドルの域外調達のある部分は、MSA協定なくしても買いつけ得る性質のものでございます。さらに進んで、ここで最も大事なことは、小麦代金一千万ドルと、一億ドル見当の域外買付が日本経済の中に入つて来ると、非常な階級性を発揮することでございます。なるほど、これらの買付需要は、一部軍需資本家にとつては、少額ながらこたえられないごりやくでございましようが、と同時に、今後この需要が多少とも増して参るとするならば、日本経済は次のような危険に当面しなければなりません。まず第一には、アメリカ経済への従属性を増すことであり、同時に他方においては、このたびの投資保証協定並びにさきに締結いたしました通商航海条約の投資条件によりますと、将来このために資本主義経済を計画経済に移行せんとするのに、大きな障害物となつて来るのでございます。(拍手)第二には、今後この域外買付は国内の軍需予算と結びつきまして、ますます傾斜生産におもむかしむることになりましよう。みずからの礎もいまだできていない日本経済において、かかる傾斜生産を強化して行くことは、地道な自立への歩みを停滞させるだけでなく、平和産業並びに勤労大衆の生活に殖えがたき圧迫を加え続けることになるのであります。われわれは、MSAは一部の資本家にとつては不健康なえさであるかもしれないが、健全なる国民大衆にとつては、インフレと増税の悩み以外の何ものでもないことを指摘しなければなりません。供与される一億五千万ドルばかりのセコハンの武器、その武器の分だけ無理じいされて増強する軍隊の費用は、一体だれがこれをまかないますか。(拍手)まず平和産業と民生安定に必要な経費の削減から始まりました。抗いて大衆のふところから取立てる消費税の増徴でございます。(拍手)すでに二十九年度予算以来、大衆の憤りはいよいよ高まらんとしているのでございます。
さらに進んで本協定をながめますと、附属書Dによりまして、中共その他の共産諸国との貿易を制限いたしております。日本の平和的自立経済の基礎をくつがえすものでございます。かかる政策は、まさに西欧の保守主義者ですら、良識あるすべての人の批評するごとく、日本はみずから進むべき道をみずからの手でふさぎつつあり、日本の経済は破滅の道を歩むであろうということであります。また、この協定は、さらに次の二つの重大なことを決定いたしております。一つは、第三条による軍機秘密保持の義務であり、二つは、第七条による軍事顧問団の設置であります。第三条の義務規定を受けて、政府はすでに秘密保護法案なるものを本院に提出いたしております。これによつて、やがて日本国民は、戦後獲得いたしました唯一の自由、言論の自由を再び奪い去られることになるのであります。(拍手)戦前において、天皇制と私有財産制をのみ守るためにつくられた治安維持法が一たび制定されますと、次第に一人歩きをいたしまして、次々に善良なる多数の国民を悩まし、進歩的な良識を封殺し去つた過去を顧みますときに、われわれは今また慄然たる憤りを感ぜざるを得ないのでございます。(拍手)
第七条の軍事顧問団なるものは、やがて、日本の軍隊の訓練と指揮はもとより、域外買付、受注の軍需産業に対する指揮監督権を発動し、その監督権は、やがてその内部におきまする労働組合への監視と圧力にまで及ぶでありましよう。さらには、軍事予算の編成にまで容喙する危険と可能性は、現通産大臣愛知揆一氏の帰朝の際における証言をまつまでもなく、しごく明瞭なことであります。西欧の五、六十名程度の顧問団の員数に対し、六百五十名をもつて出発するわが国の顧問団については、アメリカに対してはまつたく主体性を欠く吉田内閣のもとにおきましては、今後いかなる内政干渉をしでかすかは、かつての中国における、現在の台湾におけるアメリカ顧問団が何をし、何をなしつつあるかをながめるとき、思い半ばに過ぐるものがございましよう。(拍手)
以上、かくのごとくMSA諸協定の内容をながめますならば、われわれ、いやしくも民族の将来を憂え、平和と大衆の生活を愛する者は、断固としてこれに反対せざるを得ないのであります。(拍手)政府は一体何を目的にしてかかる平和と独立を脅かす協定を結ばれようとし、いや、結ばされようとしておるのでありましようか。政府は、口を開けば、MSAの協定を結ぶ国五十余箇国ありと宣伝して参りました。しかしながら、西欧諸国がすでに一昨年来、ソ連もまた有力なる原子兵器を保持することを発見し、さらに自国の防衛の危機は、ソ連指導者が指摘したごとく、軍事的力が弱小なるにはあらずして、資本主義経済胎内の不均衡と行き詰まりにあることを自覚して以来、こぞつてその政策を、武器援助から平和貿易に転換し、国内におきましては、軍備拡張よりは軍備縮小による民生安定に力を注ぎつつある現状については、政府は国民の眼をおおつて、何ら伝うるところがないのでございます。はなはだけしからぬことであると言わなければなりません。今日ただいま、わが国におきましては、MSA協定の賛否について最後の討論が行われておりますこのとき、アジアを中心こする国際情勢は一体いかなるものがあるでありましようか。昨年のバーミユーダ会談以来、今春のベルリン会議を経て、やがてジユネーヴにおいてはアジアの平和会議が開かれようとしておるではありませんか。いかにアメリカの軍部と吉田内閣が否定しようといたしましても、話合いの中に国際平和を確保しようとする動きは、もはや歴史上の理想ではなく、現実となつて参つておるのであります。(拍手)国連を中心とする軍縮会議も、中共政権の承認も、もはや日時の問題となつて参りました。いかなる武力と金力をもつていたしましても、歴史の流れを逆行せしめることはできません。今日、日本国民のみがこの時代に逆行し、東西対立の緩和に役立つのではなく、むしろそれを刺激し、やがては全アジアの孤児となるどころか、そのすべての敵となつて、みずからを失うようなこの政策をしいられていることを、われわれは断じて黙視することはできないのであります。(拍手)吉田総理並びに保守党諸君に向つて再び猛省を要求する次第でございます。今不幸にして世界の人々に先んじて三たび原爆の被害をこうむつた日本国民が、今日世界の人々に率先して叫び、かつ行うべきことは、高度なる原子兵器の前には、竹やりにも及ばない傭兵再軍備などに狂奔することではなく、東西対立の緩和への努力以外にはないと確信するのでございます。(拍手)以上、私は法律、経済、政治の面からMSA諸協定に反対する理由を申し述べましたが、ここで最後に一言つけ加えておきたいことは、保守党の諸君の叡知と良心足らずして、不幸にしてこの協定が批准されたといたしましても、われわれはやがていずれかの日に本協定を廃棄する権限を留保するものであることを表明して、私の反対討論を終る次第でございます。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/30
-
031・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 福田篤泰君。
〔福田篤泰君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/31
-
032・福田篤泰
○福田篤泰君 私は、自由党を代表して、ただいま上程されておりまする日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定の批准について承認を求めるの件外三件に対し賛成の討論を試みんとするものであります。(拍手)
まず、本協定がアメリカの一方的意思によつてわが国に押しつけられたものであるとの議論をなす者がありますが、ただいま委員長の報告にもありました通り、昨年七月本協定の交渉が東京で開始されましてから本年三月八日の調印を見るまで、実に九箇月の期間を要したのであります。このことは、日米両国ともそれぞれ十分諸般の情勢と条件について慎重に交渉を重ねて参つたことを意味するものであります。かくのごとき交渉形式は、反対側の批判を絶対に許さないソ連並びにその衛星国家との間における交渉形式には絶対に見られない現象でございます。(拍手)しかも、交渉過程においてすら、本国会の本会議または委員会等におきまして随時政府から中間報告がなされ、かつあらゆる角度から各党との間に質疑応答が尽されて今日に至つた事実を見るならば、アメリカより押しつけられた協定であるといろ非難のごときは、まつたくいわれのない言いがかりにすぎないのであります。(拍手)
本協定の内容は、御承知のごとく、アメリカがすでに英、仏その他数十箇国の諸国との間に締結いたしました同種の協定とほぼその大綱において同様のものでありますが、先ほど委員長も報告いたしましたごとく、わが国の特殊事情から、これら諸外国の先例には見られない注目すべき特色がございます。すなわち、わが国が負ういわゆる軍事的義務なるものは、従来の日米安全保障条約に基く義務以外には出ないこと、また本協定の実施は現憲法上の規定に従うべきものであること、さらに、わが国防衛力の増大に対し経済の安定がその不可欠の要素であること等を現実に明記をした点でございます。この協定こそは、さきにサンフランシスコにおいて調印せられ、独立国日本の基本的外交政策を明確に方向づけましたところの平和条約及び安保条約の中に一貫して流れております日米両国の協力親善関係を、さらに一歩前進し、強化せしめたものでありまして、両国にとつてまことに喜ぶべきことでございます。
さらに、わが国の必要とする援助を受けることによりまして、独立国としての防衛能力が一段と強化せられるわけでありますから、わが国の独立と安全をみずからの手によつて守らんとする全国民の要望の実現に向つて、具体的にその第一歩を進めたものであると申さねばなりません。このことは、アメリカ側の外国領土から可及的すみやかに撤兵せんとするアメリカ国内の輿論にも一致し、また社会党の諸君の常に主張いたします外国軍隊撤退の議論とも合致するものでございます。保安庁の計算によりますと、MSA協定によつて援助を予想せられる装備その他は、地上軍において二管区分、邦貨に換算して約二百八十億円、海上に対しては十七隻約二百二十億円、さらに飛行機百四十三機約五十億円でありまして、以上陸海空を総計いたしますと約五百五十億程度に見積られております。この金額は、御承知のごとく、昭和二十九年度のわが国の防衛予算が自衛隊増強と防衛支出とを合せまして総額一千三百七十三億でありますから、その約四割強に相当するわけでございます、換言すれば、このことは、わが国防衛力強化のために当然国民が負担すべき防衛費のうち、五百五十億の税負担が軽減されたとも申すべきでありまして、消極的とは申せ、窮乏した国民経済に少からざる利益を与えたものと申さねばならないのであります。(拍手)次に、余剰農産物の購入に関する協定は総額五千万ドルまでの購入を定めておりますが、その特色は円をもつて買い入れることができますために、貴重なる輸入外貨を節約し、かつ積み立てられたる円資金の使途につきましてその二割、約一千万ドルが贈与としてわが国に贈られる仕組みと相なつておりますので、わが国の受ける利益は直接間接相当大なるものありと存じます。この点に関して、外務大臣は、将来わが方の輸入条件を有利にすること、及び西ドイツがアメリカとの話合いによりましてその与えられた千五百万ドルの贈与分を難民収容所の建物建設に充てました先例にもかんがみ、その使途について十分再検討する旨の言明がありましたが、積立円及び贈与分の活用については今後さらに適切なる措置を講ぜられるよう希望いたしておきます。また、経済的処置に関する協定によつてアメリカに支払われる円資金五千万ドル分のうち、一千万ドルの贈与分を除きまして、残余の四千万ドル相当分がアメリカの軍事援助計画に基くわが国内における域外買付のために使用せられることに相なつたのであります。その結果、現在予想せられておりまする六千万ドルのほかに、この分だけ域外買付の増加を見込むことができまして、わが国産業界に対し寄与すること大なるものありと存ずるのであります。(拍手)次いで、投資の保証に関する協定でありますが、もともとわが国経済を発展せしめるためには外資の導入が絶対に必要である以上は、アメリカ資本の民間投資を今日より一層促進せしめる目的をもつてとりきめられました本協定は、もとより歓迎すべきは言うまでもありません。私は、政府はこの程度で満足せず、今後外資導入に対しましてより積極的に努力すべきであると信じます。オランダは、前大戦の結果厖大なる海外植民地を失い、また昨年は大水害に見舞われまして、その経済事情はややわが国と同じくするのでありまするが、このオランダが、きわめて大胆にアメリカその他の外資導入をして国内の経済再建に努力し、最近目ざましい復興ぶりを示しておりますることは、もつて他山の石となすべきであろうと存ずるのであります。(拍手)
以上申し述べました通り、MSA協定及びその他三件は、いずれもわが国にとりまして有利かつ適切でありますることは、理論的にも実際的にも何人にも明白であるにもかかわらず、これに対して社会党の左右両派の諸君は反対の態度をとつておられますが、その反対論を伺つておりますると、その多くは疑心暗鬼に基く誤解であるか、もしくは政治的反米闘争の手段として行われているものでありまして(拍手)この際、私は、率直にこれらの反対論に対して批判を加えてみたいと存ずるのであります。
まず第一、本協定はわが国憲法に違反せざるやとのいわゆる違憲論でありますが、これは、現憲法が一国固有の権利である自衛権を容認いたしておりまする以上は、自衛のためにある程度の防衛力の強化は独立国として当然のことであり、かつ憲法の規定に従う旨を明記しておるのでありまするから、本協定が現憲法に何お違反するのでないことは明々白々なりと申さねばなりません。(拍手)そもそも現憲法は、アメリカの識者右指摘しておりまする通り、朝鮮動乱勃発以前におけるアメリカの誤つた初期占領政策の遺物とも称すべきものでありまして、制定当時のわが国の置かれたる地位並びに世界の情勢が今日においては全然一変してしまつておることを深く認識すべきにもかかわらず、社会党の諸君が、一方において吉田内閣を向米一辺倒なりと声を大にして罵倒しながら、このアメリカ的色彩のきわめて濃厚なる現憲法を擁護すべしと叫んでいるがごときは、まさにソ連の偽装的平和攻勢の一手段として現憲法を利用せんとする政策に乗ぜられたものであります。その結果においては、あわれむべし、ソ連の第五列的な任務を果しつつあるものと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)
一方、MSA協定が結ばれれば、ただちに海外派兵が行われるがごとき議論を吐きまして、輿論、ことに純真なる青年及び婦人層に対しまして間違つた観念と恐怖心を与えておる者もございます。この問題は将来において自主的に十分慎重に検討、考慮せらるべき性質の問題でありますが、本協定によつてただちに海外派兵の義務が生れて来ると言うがごときは、詭弁もはなはだしきものと申さねばならないのであります。(拍手)なぜかと申しますと、外務大臣及びアリソン大使が、わざわざ本協定調印式にあたりまして、この旨をあいさつに述べておること自体がむしろ奇妙でございまして、海外派兵というがごとき一国の主権に関する重大問題は、あくまで自主的にわが国民みずからの判断と意思によつて決定すべきものであることは、独立国である以上当然であるからであります。しかるに、いたずらに揣摩臆測をたくましゆうして、かかるわが国が独自の立場で自主的に決定すべき問題を、あたかも外国の圧迫によつて決定せられるがごとき言辞をなす者は、独立国民としての権利と誇りをみずから否定し、放棄したものでございます。(拍手)
また、ある論者は、MSA協定によつてわが国の防衛予算が増大し、民生が極度に圧迫されるだろうと宣伝いたしております。しかしながら、これは各国の実例及び経済の実態を知らない議論でございます。およそ独立国である以上は、独立と安全を守るために、自衛のため、それ相当の努力と犠牲を払うことは当然であり、かつ今日集団的共同保障防衛の立場からも、まことにやむを得ないことでございます。社会党右派がその模範とし先輩として見習つております英国労働党が、英国内におけるアメリカの軍事基地の設置に賛成し、MSA協定実施に欣然として協力しておりまする事実は、彼らが常に現実的立場に立脚して、自国の利益と政策のために、自己の歩むべき道を正しく認識しているからにほかならないのでございます。(拍手)
もとより、各国とも総予算の規模が異なつておりますので、一律には論ぜられませんけれども、かりに各国の最近における総予算の中で軍事費の占める比率を一覧いたしますると、アメリカが六八%、英国三八%、フランス三二%、西ドイツ三四%、インド三六%、スイス四一%、韓国三二%であります。またソ連及びその衛生国家は、以上の自由民主国家と違いまして、野党の存在と批判を絶対に許さない共産主義的秘密政治の建前から、正確な数字はわかりませんが、彼らの発表したソ連の三〇・八%は、ただ単に陸軍省、海軍省の維持費のみでございまして、いわゆる外国の軍事費的予算なるものは、おそらくきわめて高い率に上るであろうということは、容易に想像せられるところであります。一方、これらに対しまして、わが国はわずかに一三・七%でございまして、現憲法の特殊性と、敗戦後の底の浅いわが脆弱なる経済力のために、まことにやむを得ないこととは申しながら、他国と比較いたしまして、みずからを防衛するために十分なる努力と犠牲が払われているとは断じて申されないのであります。(拍手)
強盗を根絶できない以上は、自分は戸締りのための錠前を買うのはごめんである、自分の家の用心は他人様にお願いしておいて、飯だけは腹一ぱい食べたいというような横着にしてかつてな主張は、天国はいざ知らず、このきびしい世の中では通用するものではございません。(拍手)かかる無防備中立論、防備しないで、まる裸になつていた方が安全であるとの議論となるわけでありますが、スイスの実例は、現実の国際情勢下におきましては、いかにこの議論がばからしいものであるかを証明いたしております。御承知のごとく、ヒトラー総統がイタリア作戦のためにその機動部隊を最短距離であるスイス領内を通過せしめんといたしまして最後通牒を突きつけたときに、スイスは、これに対し、人口の約一割に当る七十万を総動員して戦線に配置し、全領土を武装化して、これを実力をもつて防ぎ、遂にその光栄ある中立を守り抜いたのであります。ことに、われわれは、最近において、わが国自身竹島問題及び李ライン問題によつて不法なる暴力の前にこれを払いのける正義の力のない祖国のみじめな姿をまざまざと見せつけられたばかりではありませんか。無防備中立論こそは、きわめて危険にして無責任なる亡国論と称すべきであります。(拍手)
さらに、世界は、各国とも軍備に努力すると同時に、国民経済に十分なる考慮を払いまして、まさに大砲とバターとを両立せしめることに努力しておりますのが現実の姿であります。これは、米ソ両陣営とも、世界各国みなしかりでございます。ひとりわが国のみが、大砲かバターか、そのいずれか一方のみを選んでよいというわけには参らないのであります。観念の上からではこの二つはわけることができますが、実際上はできない相談でありまして、自国の独立と安全はみずからの手によつて守らねばならず、しかも民生の安定が絶対に必要である以上は、いかにしてこの両者を調和両立せしめるかが今日わが国政治に課せられたる一大現実の課題でございます。(拍手)
一方、ある論者は、MSA協定で、日本は戦争に巻き込まれるきわめて危険な状態に陥つたと宣伝いたしておりますが、私は、これらの主張、宣伝に対しまして、一体MSAを拒否して日本を無防備の状態に置いておくならばわが国の平和は保てるのであるという保障は何によつてなさんとするのであるか、また一体、将来万一紛争や戦争が不幸にして起つた場合に、だれがこれをしかけるものであるかというニ点を反問いたしたいのでございます。前大戦では、わが国は主役を演じたのでありますが、今日では、侵略戦争、原爆戦争の脅威のものに戦々きようようとしておののいておる被害者の立場でございます。しかも、大切なことは、現実においてわれわれに脅威を与えておりますものは、米英その他の自由国家にあらずして、まつさにソ連及び中共、北鮮の共産武力であるということであります。
前大戦末期行われましたヤルタ会談においてスターリン首相に大譲歩したルーズヴエルト大統領のあやまちは、遂にアメリカに対してはその極東政策に大なる禍根を残し、ソ連に対しましては、ロマノフ王朝以来の多年の宿望でありました極東侵略計画の実現に絶好の機会を与えてしまつたのであります。すなわち、終戦直前にわが国との不可侵条約を弊履のごとく破り捨てて満州心侵入したソ連は、その後中共政権の樹立に成功し、北鮮もその傘下に収め、千島、樺太を奪つて強力なる軍事基地と化し、今やわが国を包囲して、虎視たんたん脅威しつつある事実は、何人も否定することができないのであります。(拍手)また、一九五〇年結ばれました中ソ軍事同盟及びその後の北鮮との間に行われました軍事同盟は、ともにその目標としてアメリカに加えてわが日本を仮装敵国として天下に公言していることは、われわれが断じて見のがすことができないのでございます。(拍手)さらに、朝鮮動乱の際、一時共産軍が優勢で国連軍が苦戦に陥つておりました当時、北京または満州からのラジオ放送によりまして、今やアメリカ兵を朝鮮から追い払う時期が近いが、彼らを一掃したあかつきには、ただちに日本占領に向うであろうと、連日のごとく放送をいたしましてわれわれを脅かした事実は、わずか三、四年前のできごとであつたということを、われわれは忘れることができないのであります。(拍手)
なるほど、現在のところ、外見上は戦争の危機は遠のき、また戦争を回避しようとする真剣な努力がなされておりますることは喜ぶべきことであり、今後も大いに期待いたしたいと存じます。しかしながら、この現象だけをもつて、もはや戦争や紛争は絶対に起らない、これで平和は保障されたと、一体だれがどのようにして保障し断言することができましようか。ソ連のマレンコフ、モロトフの現政権は、なるほどその戦術は変更いたしましたが、その戦略的基本線は断じて変更したものではございません。(拍手)二十年でも三十年でも、米英の優越をしのぐまでは冷たい戦争を続行するという、いわゆるスターリン・ラインは堅持しておりますることは、各種の国際会議または欧州、中近東及び極東におけるソ連の諸政策にこれを見ることができるのであります。われわれの心から念願するところの真の平和は、おそらく科学者の努力による超破壊的兵器の完成か、または世界連邦的組織による国際社会の再編成かのほかにはなかなか困難とは存じますが、現在のところ、米ソ両陣営の勢力の均衡によつて辛うじて平和が保たれている状態でありまして、真の平和への道は、まことに残念ながら、いまだはるかに遠く、かつ、けわしいものがあります。事実を曲げて世論を惑わし、責任を持たずして疑念論をもてあそぶがごときは、良識ある政治家としてとるべき態度にあらずと存ずるのでございます。(拍手)もし社会党の諸君にして、真にアジアの平和を考え、心から日本の平和を望むならば、わが国内の米軍基地の撤退を叫ぶとともに、わが国を取巻くアジアの天地に日々強化せられつつあるソ連の軍事基地の撤退をなぜ同時に主張しないのであるか。(拍手)共産圏の軍備と脅威には一言も触れない、いたずらに米国及びわが国の防衛措置のみを批判するがごときは、理論としても片手落ちであり、真の平和論とは申されないのであります。われわれは、独立国である以上、アメリカの植民地となることにはもとより反対でありますが、同時に、いな、それ以上にソ連の奴隷となることには反対するものであります。(拍手)今日ほど、独立国家としての矜恃と誇りを持つて、何人に対しましても主張すべきは主張し、常に現実的な立場に立つて、わが国の利益と世界の将来に思いをはせて行動する勇気と良識を必要とせられている時期はないと考えるのであります。(拍手)それにもかかわらず、ある論者は、MSA援助によつて日本はアメリカの植民地となるであろうとか、あるいはアメリカ資本の導入によつてわが国はアメリカ資本の奴隷となつたとか宣伝いたしておりますが、私は英仏その他数箇国の国がMSA協定を結んだためにアメリカの植民地となつたというような話は一度も聞いたこともなく、(拍手)またソ連から外資を仰いでおります中共並びに北鮮が、ソ連からの外資導入を仰いでいるためにソ連資本の奴隷となつたということも、いまだかつて聞いたことがないのであります。いたずらにMSAを目してわが国のアメリカへの隷属なりという宣伝ほど悪意に満ちた虚構の宣伝はございません。(拍手)
最後に、私は一言政府に要望いたしたい。今や、MSA問題をめぐつて、わが国内の情勢は、まさに宣伝が事実に勝ち、感情が真理に勝つがごとき傾向すら見られるのであります。政府は、かかる一方的なる人民戦線派のデマ宣伝の跳梁に対しまして、従来の受身の弁解的態度を一擲し、断固これを粉砕して、率直に、積極的に、国民諸君をしてその進むべき大道を誤らしめざるよう格段の努力を払われんことを強く要望いたしまして、私の賛成討論を終ります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/32
-
033・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 戸叶里子君。
〔戸叶里子君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/33
-
034・戸叶里子
○戸叶里子君 私は、ただいま上程されました日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定の批准について承認を求めるの件外三件について、日本社会党を代表して反対の意を述べんとするものであります。(拍手)
昨年六月MSA協定の交渉が日米間に始められて以来、本年三月八日調印に至るまで、実に九箇月に余る長きにわたつてその交渉が続けられたのであります。そのことは、MSA協定がいかにわが国にとつて重大な影響を与えるものであるかを物語るものであり、その交渉の長引いた理由の最大原因は、合衆国がわが国防衛力強化の度合いを見てから援助をきめんとしたからであります。(拍手)このことは、かつてダレス国務長官が海のかなたよりわが国に向つて、日本の防衛力は三十二万まで望ましいと発表したこと、あるいはまた、木村保安庁長官が二十万までの増強説を出して国民の反響を見た事実から考えても明らかであります。(拍手)従つて、いかに政府が防衛計画の提示はMSA協定交渉妥結の前提にあらずと説明してみても、わが国防衛計画とMSAとの関係は表裏一体をなすものであります。この防衛計画に対する日本政府の考え方とアメリカ政府の望むところに若干の距離があつたために、協定妥結に至るまで、かくも長引いたものであることは、国民周知の事実であります。(拍手)にもかかわらず、政府は、本年度予算に防衛力増強の線を打ち出すまで、国内には秘密に、アメリカ政府とのみ話合いをし、その計画を推し進めたのであります。一体これでも日本国民の政府であろうかと、その自主性なき秘密外交のあり方に憤慨せざるを得ないのであります。(拍手)
今回のMSA協定によつて、はつきりここで言えることは、わが国が西欧陣営への一員として明確にその一歩を踏み出したことであります。このことは、アリソン大使のあいさつの中に、日米相互に義務を負わなくてはならないと述べてあるところを見ても、また岡崎外相の、自由諸国の態勢に一歩を進めるものであることを強調したいとの言をもつてしても明らかであります。私どもは、もちろん自由世界、民主陣営との協力を惜しむものではありません。しかし、この協定の中には、アメリカ合衆国及びその他の平和愛好国の政府との協力を明確にしるし、世界には平和を愛せざる国があるごとく一方的に定義づけて、みずから二つの陣営にわけていることであります。(拍手)それはすなわち、全世界との友好を積極的に求め、民主社会主義の第三の道による世界平和の確立に向つて邁進せんとするわが党の立場から言うならば、世界的緊張緩和の時期に、何がゆえに世界平和への目標に向つて調節をとる熱意を捨てて、日本の運命を米国の世界政策に従属させつつ、反共軍事態勢を強化しなければならないかと、了解に苦しむものであります。(拍手)
今回日米両国間に締結されたMSA協定は、十一条と、附属書A項よりG項までの内容を包含したものでありますが、これらの全文を読めば読むほど疑問を生じ不安を感じるのは、私ばかりではないでありましよう。(拍手)その理由は、わが国が他国に類なき特殊な平和憲法を有しながら、MSA協定の締結によつて、軍事的義務を負い、軍事態勢への前進を事実なしつつも、国民の反撃を恐れて、言葉の上でごまかそうとするからであります。(拍手)
その最大なる欺瞞は、政府は、協定九条に、憲法上の規制に従つて実施するものとするとの条項を挿入しております。これは、MSA協定が日本憲法に違反するものであるにもかかわらず、あたかも日本憲法に違反せざるがごとく、白々しき態度で、政府が詭弁をもつてこれをごまかそうとするものであります。(拍手)政府側の答弁で示されたように、現行憲法の根本精神を蹂躪し、平和憲法の精神を空文化した政府のこの態度は、国会を侮辱し、国民を欺瞞するもはなはだしいものがあります。(拍手)もしかりにその答弁を政府みずから信じているとするならば、このような幼稚にして不純な政府に政権をゆだねておくことは国民を不幸に導くものでありまして(拍手)これ以上一日も信任することができません。
もつとも、最近吉田内閣は、汚職に次ぐ汚職で良心も麻痺し、憲法の解釈も大分朦朧として来たようであります。(拍手)従つて、最初は、アメリカの貸与武器によつて演習をする保安隊を軍隊でないと説明するのにも、ずいぶん苦しそうでありました。また、保安隊の任務はあくまでも国内の治安維持にありと言つていたにもかかわらず、最近急に保安隊を自衛隊に進級させて、直接侵略、間接侵略に対してもわが国を防衛することを主たる任務にし、長距離砲で攻撃して来る勢力に対しては、場合によつては、これをとめなければ自衛が全うできないから、領海外に出ることも自衛権の範囲であるというような、自衛のための海外派兵は何ら憲法違反にあらずとの解釈にまで発展させて来ているのであります。(拍手)このまま政府の解釈が進められて行くならば、憲法九条もあつてなきがごとく死文化され、かかる政府のもとに指導される国民は、自衛権の範囲が何であり、どこまでが戦力であり、交戦権が何であるか、自国の憲法に出て来る言葉すら正しく解釈することができなくなるでありましよう。(拍手)いな、これは国民ばかりではありません。日本の事情をよく知つて日本政府と交渉のあるごく少数のアメリカの外交官を除いては、どこの国の人からも戦力なき軍隊というような言葉をもつて説明するわが国外交官の頭が疑われ、出先機関が難儀しているということをよく聞かされるのであります。(拍手)また、一方において、狡猾な政府のことゆえ、良心に恥じつつも、憲法の意味をかつてに拡大解釈し、当然憲法違反と思われるものをも政府は憲法違反にあらずとして、再軍備の既成事実をつくり、国民に押しつけんとするものではなかろうかとの疑いを抱いている者すらあるのであります。
ここで私どもの最もおそれることは、このように一方的な、すなわち日米間の当事者以外世界に通用しない言葉の解釈のままでMSA協定を調印し、これを実施するならば、必ず近い将来に暗礁に乗り上げるのでありましよう。(拍手)すなわち、MSA援助を受ける国の負うべき義務条項が、MSA法五百十一条に六項目にわたつてしるされており、これとほとんど同じ条項が日米両国間のMSA協定の八条にしるされております。両者の異なつている点は第三項であります。MSA法においては、「合衆国が一方の当事国である多数国間若しくは二国間の協定又は条約に基いて自国が受諾した軍事的義務を履行すること。」というのに対し、日米間の協定においては、「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基いて負つている軍事的義務を履行することの決意を再確認する」こととなつているのであります。これを見てもわかるように、元来MSA協定というものは、集団防衛に関する条約、たとえば北大西洋同盟条約というようなものがあり、それに基いた義務を負うものであります。MSAの援助を受けたからといつて、別に新たなる軍事上の義務を負うとか防衛方式をかえるとかいうのではないのであります。ところが、日本の場合に、安全保障条約に基いて負つている軍事的義務を履行するということは、アメリカに軍事基地を提供するという消極的なものであるとの政府の答弁は、MSA協定の解釈としては甘過ぎるのであります。(拍手)
ここで軍事的義務とうたつたのは、この協定が北大西洋条約と同じく、太平洋軍事同盟条約というようなものに通ずる道を開く可能性が多分にあると言えるのであります。(拍手)すなわち、安保条約においてアメリカがわが国の防衛力漸増に対して期待するということから前進して、それが義務となり、また新たに自由世界の防衛力の発展と維持に寄与する義務を負うたことを見ても、安保条約を越脱して防衛力を増強し、新たに基本的な軍事上の義務を負うことをもつても証明できるのであります。(拍手)かかる軍事的義務を受諾することは、戦力の保持を禁じ、交戦権を否認したわが国憲法を正しく理解する者には、とうてい承服できないところであります。(拍手)そうだとするならば、吉田内閣は近い将来に憲法改正を計画しつつこの協定に署名をしたのでありましようか。それとも、現行憲法をそのままにしておいてこのMSA協定を受諾せんとするのは、その実施内容によつて現行憲法を拘束することができると考えたのでありましようか。このような疑問にはつきり回答できない政府は、もう一度白紙に返つて、国会とともに一点の疑いもない条約にしない限り、国民は断じて納得しないのであります。(拍手)
元来、外国との条約や協定にあまり興味を持たない人たちでも、また一般家庭の主婦も、今回の日米間の相互防衛援助協定に非常な関心を持つているのは、この協定を受諾することによつて、前に述べたようにわが国が軍事化し、日本の国家性格が根本的にかわらざるを得ないからであります。また、国民のおそれている点は、この協定に海外派兵の義務なしとの証明が明文化されていないからであります。この点に関しては、委員会において野党の委員のみならず、良心的な与党の委員ですら最後まで納得の行かなかつたところであり、いまなお割り切れないものを抱いているのであります。(拍手)
協定八条の二項において、国際緊張の原因を除去するために相互間で合意することのある措置をとるということは、たとえば朝鮮事変のような場合に、合意さえあれば日本の自衛隊も出動することを意味すると政府は説明したのであります。また三項には、はつきりと安保条約に負つている軍事的義務の履行を再確認することによつて、最初安保条約では単にアメリカに駐留を許し、日本国に対する外部よりの武力攻撃を阻止する役割を持つたのにすぎなかつたものが、今回は積極的にアメリカ兵に合流する義務を持つに至つたのであります。また四項においては、あいまいな文章であつて判断に苦しむものでありますが、政府の説明するところによると、自国の政治及び経済の安定と矛盾しない範囲で、また同時に人力、資源、施設の許す限り、自国の防衛力と自由世界の防衛力の発展維持に寄与する義務を負うという規定によつては、別に他国へ人力を提供することにならないと言うのでありますが、それは日本政府の解釈であります。日本国民は、MSA協定を結んでも海外派兵の義務なしとだれが一体証明してくれるでありましよう。(拍手)もし政府の言う通り決して心配する必要ないという言葉に自信があるならば、署名の日に岡崎氏とアリソン大使のあいさつの中に述べる程度のものでなく、これを裏づける条項を政府はなぜ協定の中に挿入できなかつたのでありましようか。(拍手)九条に憲法の規定に従つてMSA協定を実施すると述べてあることをもつて事足れりという政府の態度は、自信なき政府が自分にやつと言い聞かせているにすぎないとしか考えられず、なぜその際憲法の規定に従つて海外派兵の義務負えずと協定にはつきり明記できなかつたかと、政府の不徹底な態度に対して私たち国民は憤りを感ずるものであります。(拍手)この政府に対する不信が、不安を抱く国民のMSA受入れるべからずとの盛り上つた声となつて現在現われていることを御承知願いたいのであります。
MSA交渉が始まるや、政府は、軍事援助というよりは経済援助の面も多分にあるやに放送したのであります。ところが、漸次軍事援助のみと知るや、池田特使をワシントンにつかわし、何とか経済援助的内容のあるものにしたいと苦心した結果が、MSA法五百五十条によるアメリカ余剰農作物の小麦の買付となつたのであります。政府の説明によると、国際小麦価格より高からざる価格にて五千万ドルに相当する小麦、大麦を買いつけ、一千万ドル分は贈与することによつてわが国軍需産業の資金運用に利用させ、他の四千万ドルは域外調達に使わんとするものであります。経済援助の期待できなかつた政府は、この協定を二本建にすること、すなわち小麦の購入協定と経済的措置協定とわけたことは、将来多くの経済的援助に期待できるかのような印象と錯覚を国民に与えんとしたのであります。(拍手)しかし、事情を知る者をして言わしむるならば、一本で済む協定を煩わしくも二本建にしたのは、アメリカの対外援助の鉄則たる軍事援助の維持と経済援助の削減ということを、ほおかむりしてごまかそうとしたとしか考えられないのであります。(拍手)また、政府が、もしも将来それほどアメリカからの経済援助を期待するならば、協定八条の六項目に、アメリカの合衆国政府が提供するすべての援助の効果的な利用を確保するための措置という条項を、MSA本協定のごとく、経済及び軍事的援助の効果的な利用と明記し、すなわち経済という字をなぜ挿入できなかつたのでありましようか。(拍手)
さらに、今回の小麦はドルで支払うことなく、日本円にして支払うことができるので、手持ち外貨の少い日本にとつては、鬼の首でもとつたかのごとく政府が大成功したと言いふらしておりますが、私どもをして言わしむれば、まことに笑止千万なさたであります。(拍手)その理由は、小麦を買う人たちは国民一般であります。しかるに、そこに積み立てられた円貨は軍需産業の発展にのみ使用せられるのでありまして、このことは、大衆を犠牲にしてごく一部の軍需産業を助けるということで、軍事目的にのみ使われ、決して国民一般の経済的な潤いとなり得ないのであります。なぜ、西ドイツにおけるがごとく、これが住宅政策なりあるいは社会保障関係に使用されることが許されないのでありましようか。(拍手)私どもは、政府がMSAには経済的な援助もあり得ると言いながら、事実上においてそれがなく、一般国民の犠牲において軍需産業の発展をはからんとする態度には、どうしても賛成することができません。かりに経済援助が若干あり得るにしても、武器の援助を受ける結果より、これが代償としての莫大な再軍備のための経済的圧迫を考えたとき、マイナスとなることの方が多いことを見のがしにできないのであります。(拍手)社会主義計画経済のもとで、援助より貿易を、ひもつきより自主経済をと主張しつつ、経済自立体制を確立せんと念願するわが党が、かかる欺瞞と安易な援助受入れに反対することは当然であります。(拍手)
また、MSA協定締結に伴つて、わが国は顧問団なる職員六百五十名をわが国に受入れなくてはなりません。この職員の身分、人数、わが国が負担しなくてはならない行政費等で、なかなか意見の一致を見なかつたようでありますが、問題となるのは、これらの人々の活動及び権限であります。MSA法五百六条にある権限の中に、外国軍人の訓練の監督という項目があります。これはまつたく危険きわまりないのであつて、わが国の自主性は脅かされ、自衛隊の訓練の監督をするという名目で、いかようにもわが方の自衛隊は扱われるでありましよう。ことに、今回防衛二法案の改正によつてアメリカ軍との共同作戦も考えられるのであります。その際、アメリカ軍に対しては指揮権のない日本の自衛隊は、共同作戦の場合は不服ながらもアメリカ軍の指揮下に属さなければなりません。かくして、この軍事顧問団の指揮命令が共同作戦の名によつて内政干渉にまで進んで来ることは火を見るよりも明らかであつて、日本の統帥権はこれによつて喪失するものであります。(拍手)これによつて、まつたく日本の独立国家としての面目は踏みにじられてしまうのであります。
さらに、三条の規定に従つて防衛秘密保護法が制定され、この法律はMSA援助による物件、役務または情報に限つてのみ機密の漏洩を防止することを意図しているようでありますが、その中には、解釈の仕方によつてはいかようにもとれる点や、あるいはまた拡大解釈によつて、かつての軍機保護法的なものにまで発展する可能性を多分に蔵しているのであります。私どもは再び立入り禁止の立札を自分たちの国土の至るところに持たなければならない運命に置かれ、また自由なる言論が極端に封鎖されるに至り、再び過去の軍国主義国家の重苦しい空気の中に逆もどりさせられるのであります。(拍手)
以上のように、憲法に違反し、海外派兵の不安が多分にあり、また国民の求むる経済の安定からは遠ざかり、しかもアメリカ側から隷属的な指揮命令を受け、また日本の自立経済に対して何らの寄与が与えられないMSA援助を、政府が七重のひざを八重にまで折つて受けようとする意図は一体どこにあるのかと了解に苦しむものであります。(拍手)しかも、世界各国が平和に向つての努力がなされているとき、わが国が進んでアメリカより武器の援助を受けんとすることは、アメリカの要望によつて日本が再軍備を強要せられ、日本の軍隊をもつてアメリカの防波堤たらしめんとする意図によるものではなかろうかという疑問は、私たち日本国民の胸から消え去らないのであります。(拍手)この疑問は日本を取巻く国々の人々もひとしく抱くところであり、軍国日本再現に対して警戒するでありましよう。以上申し述べたような内容を包含し、その中には、いつ爆発して海外まで飛び出さなければならぬかもしれないような時限爆弾的危険性を内蔵する要注意のMSA協定は、国会の権威のためにも、これを批准すべきではありません。(拍手)国会は、かかる見地がら、ほうはいたるMSA反対の国民の意思を忠実に反映し、MSA協定の批准を拒み、平和憲法擁護の精神を内外に明らかにすべきであります。今や国会の威信が疑獄に次ぐ疑獄によつて失われております。この際MSA協定を通過させることあるならば、さらに日本憲法史上における最大の汚辱をしるすことになるでありましよう。このことは独立日本にとつて後世ぬぐうことのできない政治的悲劇としてしるされるでありましよう。(拍手)明日の日本の運命を支配する、民族興亡の一大試練に直面し、政府は決然として一大反省を行い、MSA協定に国会は批准せざる旨書き添えてアメリカに送付せられんことを要望して、私の反対討論を終らんとするものであります。(拍手)発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/34
-
035・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 並木芳雄君。
〔並木芳雄君登壇〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/35
-
036・並木芳雄
○並木芳雄君 私は、改進党を代表して本案に賛成の意を表明するものでありますが、政府の太鼓をたたくわけではございません。また、与党たる自由党とはおのずから立場を異にするものでございます。それとともに、反対論者の討論を聞いておりますと、幾多の誇張、誤解、のみならず事実の歪曲さえうかがわれますので、私は、何がゆえに改進党はMSAに賛成するかという立場をはつきりと打ち出してみたいと思うのであります。(拍手)
確かに、反対論を聞いておりますと、一応もつともに聞える点があるのであります。と申しますのは、反対論者は論旨の進め方が巧妙であつて、MSA協定そのものを取上げずに、吉田内閣の防衛方針や憲法解釈などを取上げて、つまり平和条約以来今日まで再軍備反対、こういう線を打出す方へ論旨を転向してしまつたためでございます。(拍手)私どもは、MSA援助を、こんな簡単明瞭なものはないと思つているのであります。しかるに、政府は、先般来非常に苦しい答弁やら説明をしなければならない立場に追い込まれております。これはどういうわけかと言いますと、要するに、政府は、保安隊、これからできる自衛隊というものを、いまだにこれは軍隊でないと称している。そこに原因があるのであります。MSA援助は世界六十数箇国に与えられておりますが、いずれの国も軍隊を持たない国はないのであります。従つて、アメリカにおける母法たるMSAの内容というものは、当然相手国に軍隊のあることを前提としておりますので、その母法から生れて参りました今回のMSA協定の案文というものは、今の吉田内閣をもつてしては説明がつきかねる、調節のとりかねるギヤツプがある、こういうことを指摘しなければならないのでございます。もしこれが私の方の改進党の内閣でございましたならば、われわれはつとに、保安隊、自衛隊というものは軍隊なりときめつけている。進んで自衛軍を創設すべしという態度をとつておりますので、反対論者がいかにいきり立つてみたところで、われわれは、快刀乱麻を断つがごとく、これを一刀のもとに切り捨てることができるのであります。(拍手)
MSA援助は、アメリカの対外援助の枢軸をなすものでございます。当初はECAの経済的援助に重点が置かれておりましたけれども、その後第二次大戦以後尖鋭化した二大陣営の対立を前にして、この経済援助というものはMSAの軍事的援助にかわつて参つておるのであります。反対論者は、最近の国際情勢を取上げて、平和の方向に向わんとしておる今日、何を好んでMSA援助を受けるか、こういうようなことを言つておりますけれども、これはMSA援助によつて事新しく始まるものではなくして、すでに日本の運命というものは平和条約を調印したその日に始まつておるのであります。われわれは、自由主義陣営友好国の一員としてお互いに助け合い、その防衛力を強化して今日まで参つて来ておるのであります。強化しておるからこそ、一方の共産主義陣営というものが歯が立たない。われわれは、今日辛うじて世界の平和が維持できておるということはわれわれの自由主義障営の結束が固いし、防衛力増強の方向に向つておるためであると思つておるのであります。でありますからこそ、今日共産主義陣営の方では平和攻勢をとらなければならない立場に追い込まれておる。これがわれわれを眩惑せんとしておるところでございまして、たとい国際情勢が一時緩和の方向に向わんとする傾向を見せたからといつて、それに惑わされて、ここでわれわれが防衛力をゆるめるようなことがあるならば、悔いを千載に残すことになることを私は憂うるものであります。(拍手)でありますから、私どもは、MSA援助は軍事的援助いい、こうはつきり思つております。ところが、吉田内閣は軍隊を持つておりませんと言つております。従つて、軍事的という言葉を使うことを非常にきらつておるのであります。われわれは、MSA援助の本質が、経済的援助でなくて軍事的援助であるところにむしろ価値があると思う。自衛軍を創設すると公約しております改進党にとつては、軍事的援助は大歓迎であります。それを、吉田内閣は、軍事的という言葉を避けたいばかりに、初めからMSAは経済的援助に重点を置きますと言つて来ておりますから、そこのところを反対論者にしつぽをつかまれておるのであります。ですから、この点責任の一端は政府にあると思います。
われわれは、平和条約のときにも、すでにアメリカに対してこの対外援助を受けたらどうだということを政府に申入れをしておるのでございます。例の吉田、芦田一騎打ちのときにおいても、わが芦田氏は、吉田総理に対して、自衛軍をお持ちなさい。自衛軍は持ちません、経済的にも許しませんと言いますから、芦田氏は、それならばアメリカに対外援助というものがある、この援助を受けたらいかがですかと忠告を発しておるのであります。これに引続いて、私自身も、岡崎外務大臣に対し、政府は保安隊を軍隊ではないと言つておるけれども、アメリカの方ではこれはもう軍隊だと見ている、ですからアメリカに対して保安隊でもMSA援助は受けられるかもしれないかち申入れをしたらどうかということを私は要望的に質問しておいたのであります。そのとき、岡崎外務大臣は、MSA援助は軍隊を持つておらなければ受けられないと思います。こう答弁しております。もし、あの当時、吉田内閣がわれわれの言うことを聞いておいてくれたとするならば、MSA援助は今日より少くとも一箇年半は早く実現を見ておつたであろうと、われわれはつくづく残念にたえないのでございます。
反対論者は、また、MSA協定の八条を取上げて、八条の中にある軍事的義務とは何であるか、軍事的義務を負うという以上は、もはや政府は保安隊を軍隊と認めるものであるから、憲法改正の必要が起るのではないかといつて迫つております。これも、保安隊を軍隊ならず、自衛隊も軍隊ならずと称しておる現内閣にとつては、痛いところをつかれておるわけでございます。八条には日本国政府は「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基いて負つている軍事的義務を履行することの決意を再確認する」とあります。これは、しかし、MSA法五百十一条の中に、アメリカを一方の当事国とする多数国間または二国間の協定または条約に基いて、自国が受諾した軍事的義務を履行することとあるその文章から取入れられておるのであります。反対論者は、これをひどく取上げて、行く行くは海外派兵の問題も起るのじやないか、こういう議論をいたしますので、慎重に審議をしたのでありますが、これは率直に言つて、政府の交渉の成功であつたということを認めることができるのであります。
大体、MSA協定は、母法であるアメリカのMSA法の五百十一条の義務を、六箇条を原文のまま採用しております。その中で、ただ一つ、日本の政府は、軍事的義務を負うところの、この二国間または多数国間の協定または条約で負うところの軍事的義務というところを、安全保障条約にすりかえて来ておる。これだけは確かに非常に苦しい立場に置かれておる。政府としては窮余の一策ではあつたでありましようけれども、私は結果において成功しておる、こう思います。しかし、これとても、もし自衛軍隊というものを持つていれば、何の問題もございません。お互いに軍隊を持つて助け合う以上、安保条約のような片務的な、そうして一方が恩恵を受けて恩に着せられるような条約でなく、双務的な条約を結びたいと欲することは、独立国家としてあたりまえのことなのであります。(拍手)われわれは、安保条約を審議するときに、この点を強く指摘しておいたのでございます。政府は、いまだにそれを改めず、安保条約でもつて事足れりとしておりますために、アメリカの母法の五百十一条に出て来た軍事的義務、これをどういうふうに今度のMSA協定に織り込むかということについて非常な苦心をしたということが言えるのであります。われわれは、できればこの点も一日も早く双務条約に安保条約を改訂して行きたい、こういう念願を持つておるものでございます。
今度のMSA協定をめぐりまして最も問題となつた点は、防衛力の発展と海外派兵の問題ではなかつたかと私は思います。防衛力の増強の問題は、これまたMSA協定第八条に、人力及び資源、施設及び一般的経済条件の許す限り、自国及び自由主義国の防衛力の発展及び維持に寄与することとありまして、反対論者からはこの点を鋭くつかれておるのであります。防衛力を増強することによつて行く行くは日本は海外派兵をしいられるのではないか、これが反対論者の主張した点でございます。これも、私は、政府は消極的態度をとつておつたところをつかれておると思うのであります。政府は、MSAと防衛計画とは関係ございませんと言つております。そんなことはない、たといMSAと防衛計画とが関係がないにしても、みずからの国をみずからの手で守るという気魄があつてしかるべきである、われわれはこの点を強く政府に要望しておるものでございます。しかるに、政府は、防衛計画というものは持合せがございません。これはMSAとは関係がないと言つておるその舌の根のかわかない先に、漸次防衛計画を小出しに出して来なければならないような状態を示しております。これが、国民の間に、日本の政府というものは自分では自分を守ろうという気魄を持たないくせに、アメリカの方から言われれば、しかたなしに防衛力の増強をするために計画をつくるのではないか、そんなことをしておるならば、それこそだんだんと海外派兵に追い込まれて行くのではないか、こういう点を疑われるのも、ゆえなきにあらずでございます。(拍手)
ことに、昨年の六月、岡崎外務大臣は、アリソン大使に手紙を送つて、MSA援助を受けるによつて日本がやるべきことは、日本の国内の治安の維持とともに、その防衛をやればいいのでありましようという旨を確かめたのでありますが、それに対するアリソン大使かちの返事には、国内の治安の維持とともに、平和条約第五条(C)項に認められておるところの個別的または集団的自衛権を一層有効に行使することが必要である、こういう回答を送られておるのであります。こういう点においても事新しいことではないのであります。われわれが平和条約を調印し締結したときからきまつておるのでありますけれども、それをアメリカから指摘され、そうしてアメリカから言われて、防衛力を増強しなければならないであろうということを、今度は反対党にとつつかまつて、先ほど来の討論にありましたように、非難攻撃を受けておるのでございます。これは決してMSAを受けることによつて新たに出て来る義務でも何でもございません。(拍手)それをいまさらのように事荒立てているところに、いわゆる反対論者の巧妙なる——と申しますよりも、狡猾なる論旨の進め方があると私が申し上げた点でございます。(拍手)
今の吉田内閣のような方針をとつて行きますと、安保条約で期待されておつたところの自衛力漸増——これは安保条約では期待となつております。期待されておるところの自衛力の漸増も、MSA協定を締結することによつて今度は義務づけられて行く、こういうことを答弁せざるを得ないわけであります。私は、岡崎外務大臣に、政府はMSA協定によつて何ら新しい義務を生ずるものではないと言つておるけれども、しかしながら、安保条約で期待をされておる漸増は、今度の援助を受けることによつて義務になるのではないかと質問をいたしましたときに、岡崎外務大臣はこれを認めておるのであります。こういうところは、われわれから見れば、いかにもはがゆくてしかたがございません。もしわが改進党のように自衛軍を持つておるならば、(笑声)自衛力の増強、自衛力漸増の期待とか義務なんということは起らないのであります。人から言われて期待が義務になるというようなことではなくて、当然自分の力をもつて自分の国を守る、こういう線が強く出されますので、反対党の論拠などはわれわれは一蹴することができる。その点はまことに政府の態度をふがいなく残念に思うものでございます。(拍手)事実、吉田内閣がこれまでとつて来ましたところの防衛の方針、その足跡を振り返つてみますときに、警察予備隊から保安隊、保安隊から自衛隊へと、いわば継ぎはぎだらけの防衛方針の変化でございます。そうして、向米というよりは、むしろ従米外交をとつて来ました吉田内閣にとつてみれば、このような受身、このような消極的態度をもつてMSAの援助を受けるようになりますれば、確かに、その力に押されて海外派兵をしいられるのではないかという疑問が出るのももつともであります。ましてや、MSA協定調印の日に、岡崎、アリソン両氏の間にかわされたあいさつというものは、これは無用の心配を起させておるのであります。真に政府の言う通り海外派兵の問題はMSAと関係がない、こういう信念が政府にあるのならば、何を好んでわざわざ協定調印の式場で、海外派兵はいたしません、その必要はございませんなどというあいさつをかわしたのでありましようか。このような友好関係、助け合いの協定の調印というものは、いわばお祝いの日であります。その日には祝辞が述べられてしかるべきものであるにかかわらず、それを制限するような、条件をつけるような言葉を岡崎、アリソン両氏が持ち出さなければならなかつた。そういうところに疑心暗鬼を生ぜしめる原因があるということは、政府としては肝に銘じておいてもらわなければ困るのであります。(拍手)われわれは、政府の言う通り、海外派兵の問題とMSAとは関係がないということを認めるものだ。海外派兵には二つの場合がございます。一つは、集団安全保障体制に参加してとりきめを行い、集団自衛権の発動として他国の防衛に任ずるやり方でございます。これは、われわれとしては、憲法の交戦権に対する制約もございますし、他国を防衛するだけの力もないのでありますから、政府はやらないという決意を固めれば、やらないで済む。このことはその通りなんです。反対論者は、そうではなくして、押されて海外派兵をしいられるだろうと言いますけれども、しいられるようなことはない、これは政府がしつかりしておればしいられることがないということは、われわれも同感であります。海外派兵と言われましても、もう一方の場合、すなわち自衛権の発動として、急迫不正の侵略に対してこれに反撃に出る場合には、これは必ずしも外国の領土、領海、領空にまで及ばないということは、理論上あり得ないのであります。われわれは、今日そういうことがあり得ないということがおかしいので、独立国たる以上、急迫不正の侵害が起り、他の方法をもつてしてはいかんともしがたいときには、最悪の場合、また最小限度において、これを他国の領土、領空、領海に反撃するということはあり得るのであつて、これをしも海外派兵の中にひつくるめて、二つの種類のものを一つの海外派兵の範疇に取入れて、いずれも政府はその中に追い込まれて来るのではないかというふうに説いている反対論者の根拠というものは、これは私は理論的ではない、かように思うのであります。(拍手)わが改進党のように自主独立精神の横溢しているものにとつては、決して他国からしいられて、自己の意思に反して海外派兵のとりきめに参加するようなことは絶対にございませんので、この点は今から反対党の諸君は安心していてもらいたいと思うのであります。(拍手)
以上、私は反対討論のうち最もおもな点を取上げまして、これに反発を加えたつもりでございます。このほかにも幾つかの問題がございます。たとえばビキニにおける原子爆弾の実験を取上げて、原子力の横行しておる今日、日本のちやちな竹やりのような防衛力をつくつてみたところでどうなるか。(「その通り」と呼び、その他発言する者あり)反対論者の公式論であります。しかしながら、原子力というものはお互いに国際管理に持つて行こうというのは、反対論者も異存はないところである。自由主義陣営であろうと、共産主義陣営であろうと、原子力というようなものを使うべからずというのは、反対論者あなた方自身の主張ではありませんか。そうだとするならば、原子力が横行する今日、竹やりのようなちやちな軍備を持つことが何だということは、みずから原子力を戦術として使つてよろしいということを前提とする議論になるものであつて、皆さんとしてはみずから矛盾を暴露したと言わざるを得ないのであります。(拍手)原子力は当然管理されねばなりません。管理された後には何が起るか。原子力を除いた後には何が起るか。それを考えますれば、将来といわず、今から日本の防衛力というものを増強する糸口をつくつて行かなければ、いつの日にか日本はほんとうの完全独立国になることができるでしようか。(拍手)反対論者の方々は、この点をよく考えていただきたいと思います。
その他一々の点については、私はここに時間が参りましたから省略をいたしたいと思います。
要するに、MSA協定は、援助を受けるについてのパイプのようなものであつて、何ら新しい義務を負うものでないとの政府説明は、自衛軍創設を決意してわれわれにとつては、一応これを了とするものであります。ただ、政府のような煮え切らない態度をとつておると、新たなる義務を負わされるとの感じを抱かしめられることは、前述の通りでございます。われわれの立場からすれば、MSAは何ら神経質になる必要はございません。平和条約に賛成したときに日本の運命はきまつたのであり、いまさらMSAが国の運命を左右する重大問題だなどとわめくのは、まつたく見当はずれでございます。友好国の間で助け合うのは当然の責任であり義務である。どこが悪いか。従つて、私はMSA援助を受ける側の受入れ態勢いかんということが結局の問題になると思うのであります。
政府与党のように、自主独立精神に乏しく、自衛軍創設すらためらつているものにとつては、せつかくの援助もねこに小判のようなものであると言わざるを得ません。(拍手)たとえて言えば、政府与党は、ビタミン強壮剤の注射をしようとして、間違つてヒロポンを打つているようなものだと思います。政府与党はビタミンとヒロポンを間違えないように、われわれは切に要望したいと思うのであります。(拍手)これに反し、わが改進党は、最初からビタミン注射一本やりで来ているのであります。ビタミンとヒロポンとを間違えるようなことはいたしません。まことに天下の名医であると言わなければならないのであります。(拍手)一方、左派社会党と、それより左の政党は、平和条約に反対しているのでありますから、ビタミンなどを用いる意思は毛頭初めからないのであります。ビタミンどころか、ヒロポンを打つて日本を麻痺させようとしているのでありまして、いかに世界観を異にするものとはいえども、同じ日本人として、私はまことに残念にたえないものでございます。(拍手)同じ社会党でも、右派社会党は平和条約に賛成しております。平和条約に賛成しておるのですから、ビタミン注射をしそうなものでありますけれども、どうしたことか、おそらくこれは左派社会党の謀略に巻き込まれているためでありましよう。(発言する者多し)どうしたことか、このごろはビタミンを打たずにヒロポンを打ち始めようとしておるのであります。昨今、社会クラブだか社交クラブだか知りませんけれども、そんなものを国会内につくつて手を携えて行こうとしておりますけれども、世界観を異にして二つにわかれた社会党が、理論をもつて立つ社会党が、今日国会内で手を合せて行こうというようなことは、これはまことに矛盾撞着であつて、国民を欺くことこれに過ぎるものはないと思うのであります。拍手)さすがに、日本自由党は、いち早くこの誤りに気がついて、ヒロポンの注射器を捨てて、今やビタミン注射器をとつて立ち上りつつあります。同じ自由党でも、自由党の上に日本という字がついているだけあつて、その性質をおのずから異にするものと思います。(拍手)私は、米国製自由党と、また社会党右派の中にも、日本自由党のように、ヒロポン中毒にならないうちに、悪夢からさめて健全なる姿に立ち返り、われわれの主張に同調する憂国の同志が続々現われることを確信し、かつ期待しておるものでございます。
思えば、わが改進党の自衛軍創設は、再軍備反対、青年よ銃をとるなの逆宣伝のあおりを受け……。
〔「やめろやめろ」と呼び、その他発言する者多し〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/36
-
037・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 並木君に申し上げます。申合せの時間が参りましたから、結論をつけるように願います。なお、発言の終らない部分につきましては、議長に申出があれば会議録に掲載することにいたしますから、御承知願います。発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/37
-
038・並木芳雄
○並木芳雄君(続) 思えば、改進党の自衛軍創設は、再軍備反対、青年よ銃をとるなの逆宣伝のあおりを受けて、過去二回の総選挙において苦杯をなめましたが、このたびのMSA審議によつてまさに一陽来復、それが真の良薬口に苦しの良薬であつたということがはつきりして参つたのでございます。しかも、われわれは、MSA援助を受けるにあたつて何ら卑屈になつておりません。何となれば、日本から軍備を剥奪したのは連合国の行き過ぎであつたからであります。遠くはマツカーサー元帥が年頭の辞でこれを認め、近くはニクソン副大統領がこれを言明しておるのであります。私は、アメリカの責任者が自己の過失を認めるその率直さは買うのでありますが、ただこめんなさいでは済まされない問題だと思うのであります。少くとも連合国、特にアメリカは、日本に対して自衛軍創設のために援助する義務と責任を負うものであると断言してはばからないのであります。
————◇—————
〔参照〕
終りに臨みまして、私は、政府に対し、われわれの主張を体しましてMSA援助を有効に使用し、完全独立への一里塚を急いで築き上げるよう強く要望するものでありますが、あるいはこれはもはや無理な注文かもしれません。それよりも、これを機会に総退陣し、席をわが改進党に譲る準備をされんことを勧告いたしまして、賛成の討論を終りたいと思います。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/38
-
039・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) これにて討論は終局いたしました。
本案の採決につき記名採決にすべしとの動議(山本幸一君外六十六名提出)が提出されました。本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/39
-
040・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立少数。よつて本動議は否決されました。
四件を一括して採決いたします。四件を委員長報告の通り承認するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/40
-
041・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立多数。よつて四件はいずれも委員長報告の通り承認するに決しました。
————◇—————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/41
-
042・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) お諮りいたします。参議院から、内閣提出、母子福祉資金の貸付等に関する法律の一部を改正する法律案及び骨牌税法の一部を改正する法律案が回付されております。この際議事日程に追加して右回付案を逐次議題とするに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/42
-
043・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
まず、母子福祉資金の貸付等に関する法律の一部を改正する法律案の参議院回付案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/43
-
044・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 採決いたします。本案の参議院の修正に同意するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/44
-
045・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて参議院の修正に同意するに決しました。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/45
-
046・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 次に、骨牌税法の一部を改正する法律案の参議院回付案を議題といたします。
—————————————発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/46
-
047・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 採決いたします。本案の参議院の修正に同意の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/47
-
048・堤康次郎
○議長(堤康次郎君) 起立多数。よつて参議院の修正に同意するに決しました。(拍手)
本日はこれにて散会いたします。
午後五時四十一分散会発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101905254X03119540331/48
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。